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特表2024-524123触媒気相反応のための管状反応器を停止および加熱するためのプロセス
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  • 特表-触媒気相反応のための管状反応器を停止および加熱するためのプロセス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】触媒気相反応のための管状反応器を停止および加熱するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   B01J 8/06 20060101AFI20240628BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20240628BHJP
   C07C 51/25 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B01J8/06
C07C57/055 A
C07C51/25
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577776
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2022064316
(87)【国際公開番号】W WO2022263139
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】21179892.1
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ・ハモン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・レイス
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ユルゲン・バスラー
【テーマコード(参考)】
4G070
4H006
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB05
4G070BB02
4G070CA25
4G070CB02
4G070CB17
4G070DA21
4H006AA02
4H006AA04
4H006AB46
4H006BS10
(57)【要約】
本発明は、触媒気相反応のための管状反応器(1)を反応温度から停止させるプロセスであって、管状反応器(1)は、複数の鉛直に配置された反応管(2)と、反応管(2)の上端および下端に各々気密に接続された上部管シート(5)および下部管シート(6)と、複数の反応管(2)を囲んで液密の熱伝達空間(9)を形成する反応器シェル(7)と、を備え、動作モードでは、実質的に無水の液化塩溶融物(8)が熱伝達空間(9)内で循環され、水(10)を実質的に無水の液化塩溶融物(8)に加えて、水-塩混合物(11)を得るとともに、管状反応器(1)を実質的に無水の液化塩溶融物(8)の凝固温度より低い温度まで冷却し、それにより、水-塩混合物(11)は、管状反応器(1)の冷却するステップ全体の間、液化状態に保たれることを特徴とするプロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒気相反応のための管状反応器(1)を反応温度から停止させるプロセスであって、前記管状反応器(1)は、
- 複数の鉛直に配置された反応管(2)と、
- 前記反応管(2)の上端および下端に各々気密に接続された上部管シート(5)および下部管シート(6)と、
- 複数の前記反応管(2)を囲んで液密の熱伝達空間(9)を形成する反応器シェル(7)と、を備え、
動作モードでは、実質的に無水の液化塩溶融物(8)が前記熱伝達空間(9)内で循環され、
- 水(10)を前記実質的に無水の液化塩溶融物(8)に加えて、水-塩混合物(11)を得るとともに、前記管状反応器(1)を前記実質的に無水の液化塩溶融物(8)の凝固温度より低い温度まで冷却し、それにより、
- 前記水-塩混合物(11)は、前記管状反応器(1)の前記冷却するステップ全体の間、液化状態に保たれることを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記水-塩混合物(11)は、80℃から10℃、好ましくは60℃から20℃、より好ましくは室温の範囲の温度に冷却される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記水(10)を加えて、80:20から40:60、好ましくは60:40から40:60の水(10)対液化塩溶融物(8)の重量比を得る、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記液化塩溶融物(8)は、100℃から450℃、好ましくは140℃から155℃の範囲の溶融温度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記液化塩溶融物(8)は、1kgの液化塩溶融物(8)が20℃で6L未満、好ましくは3L未満の水(10)に可溶であるような溶解度を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記液化塩溶融物(8)は、硝酸塩部分、好ましくは、硝酸アルカリ、亜硝酸アルカリおよび炭酸アルカリから選択される少なくとも2つの塩の混合物、好ましくは、硝酸カリウム、硝酸ナトリウムおよび亜硝酸ナトリウムの前記塩のうちの2つまたは3つの混合物を含む共融混合物である、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記液化塩溶融物(8)は、45:65から65:45、好ましくは50:50から60:40の硝酸カリウム対亜硝酸ナトリウムの重量比の硝酸カリウムおよび亜硝酸ナトリウムの前記塩の混合物からなる、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記水-塩混合物(11)の少なくとも一部は、前記管状反応器(1)の内側に保持される、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記管状反応器(1)の内側に保持された前記水-塩混合物(11)は、前記管状反応器(1)の中を連続的に循環される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記水-塩混合物(11)の少なくとも一部は、前記管状反応器(1)の外側に貯蔵され、好ましくは、前記水-塩混合物(11)は、排出管(13)を介して非加熱リザーバ(12)に導入される、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の冷却するステップ後に、前記管状反応器(1)を前記液化塩溶融物(8)の前記凝固温度より低い温度以下の温度から前記反応温度まで加熱するプロセスであって、水蒸気(21)を得る熱交換器(15)を介して熱を供給することによって、前記水(10)の少なくとも一部が前記液化塩溶融物(8)の前記凝固温度より高い温度で前記水-塩混合物(11)から沸騰し、前記水-塩混合物(11)の体積減少をもたらす、プロセス。
【請求項12】
前記水蒸気(21)は、好ましくはベントライン(22)を介して前記管状反応器(1)から放出される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記水-塩混合物(11)の前記体積減少は、前記管状反応器(1)の外側に貯蔵された前記水-塩混合物(11)の少なくとも一部を加えることによって補償される、請求項11または12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記管状反応器(1)を冷却し、前記反応管(2)の内側に存在する触媒を交換し、次いで前記管状反応器(1)を加熱する、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記気相反応は、酸化、水素化、脱水素化、ニトロ化およびアルキル化反応、好ましくは酸化反応、特にアクロレイン(19)のアクリル酸(20)への酸化反応から選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒気相反応のための管状反応器を反応温度から停止させるプロセスであって、管状反応器は、鉛直に配置された複数の反応管と、反応管の上端および下端に各々気密に接続された上部管シートおよび下部管シートと、複数の反応管を囲んで液密の熱伝達空間を形成する反応器シェルと、を備え、動作モードでは、実質的に無水の液化塩溶融物が熱伝達空間内を循環する、プロセスに関する。本発明はさらに、冷却ステップ後に管状反応器を液化塩溶融物の凝固温度より低い温度以下の温度から反応温度まで加熱するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化、水素化、脱水素化、ニトロ化、アルキル化などの化学工業における触媒気相反応は、通常、等温固定床を有する管状反応器を使用して行われる。管状反応器で行われるそのような反応は、吸熱性または発熱性のいずれかであり得る。固定床、通常は粒状触媒は、管状反応器の反応管に配置される。今日、一般的に使用される管状反応器は、少なくとも5,000から最大45,000の反応管を有することができる。この複数の反応管は、反応管束と呼ばれ、一般に環状であり、鉛直に配置され、反応器シェルによって囲まれている。前記反応管束の両端は、管シートに封止されている。供給ガス混合物は、通常、フードを介して管状反応器の上部に導入され、管シートを介して反応管に供給される。得られた生成ガス混合物は、反対側の管シートおよびフードを介して管状反応器の底部に排出される。あるいは、供給ガスは、管状反応器の底部に導入され、上部管シートおよびフードを介して管状反応器を出る。
【0003】
安定した反応条件、すなわち均一なプロセス熱放散および良好な熱交換で反応を実施することは、通常、ポンプを使用して一定温度で反応管束と反応器シェルとの間の空間に熱伝達媒体を循環させることによって達成される。そうすることにより、反応管の冷却または加熱、続いて熱交換器内の熱伝達媒体の冷却または加熱が可能になる。熱伝達媒体は、通常、反応器管束を蛇行して流れる。すべての反応管について同様の反応条件を得るために、熱伝達媒体は可能な限り均一に分配されるべきである。例えば、例えば硝酸カリウムおよび亜硝酸ナトリウムを含む共融塩混合物などの塩混合物を熱伝達媒体として使用することができる。
【0004】
上記のように管状反応器内で反応を実施することの主要な課題は、例えば触媒交換のための反応器のメンテナンスに依存する。そのような触媒交換は、触媒を含む固定床にアクセスできるようにするために、管状反応器の完全な停止および冷却、ならびにメンテナンス終了後の再加熱を必要とする。言い換えれば、反応のそのような停止、それぞれ管状反応器の停止は、スタンバイとも呼ばれ得る。通常、熱伝達媒体、すなわち液化塩溶融物は、液化塩溶融物の凝固温度より低い温度、例えば室温まで冷却され、塩溶融物の凝固をもたらす。その結果、反応を再開すること、すなわち加熱することは、凝固した塩溶融物をその融点を超えて、通常は少なくとも150℃まで再加熱することを必要とし、これは複雑で時間およびリソースを消費する。
【0005】
特許文献1は、始動および停止時に触媒気相反応のための管束反応器の温度を変化させるプロセスを記載している。管束反応器は、鉛直に配置された反応管の束と、反応管の上端および下端にそれぞれしっかりと接続された上部管シートおよび下部管シートと、管束を囲む反応器シェルと、を含む主要反応器部分を備える。100℃から450℃の範囲の溶融温度を有する熱伝達媒体は、通常動作中に反応管の外面の周りを流れ、主反応器部分を通って少なくとも1つの回路に循環される。本プロセスは、(a)熱伝達媒体の循環中に熱交換器によって熱伝達媒体温度を変化させるステップと、(b)少なくとも熱伝達媒体がまだ循環されていないか、またはもはや循環されていないときに、温度ガスを反応管に通すステップと、を含む。本プロセスは、反応管に入るときの温度ガスの温度が、始動中に上方に制限され、停止中に下方に制限され、かつ/または温度ガスの体積流量が上方に制限されて、温度ガスの最初の導入から始まる任意の期間、反応管を出るときの温度ガスの温度の時間平均変化率が30℃/hを超えないことを特徴とする。しかしながら、前記プロセスは、温度ガスの温度の時間平均変化率が最大で30℃/hに制限されるという欠点を有する。したがって、管束反応器のそのような始動および停止は、冷却および加熱に時間がかかるために長い耐用年数が必要とされるため、時間およびリソースを消費するプロセスであり、効率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第1882518号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102014103691号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、より簡単で迅速なプロセスが得られるように管状反応器を停止および加熱するためのプロセスであって、構造上の労力が少なく、メンテナンスが少なく、コストがあまりかからない、プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、請求項1の特徴を有するプロセスおよび/または請求項11の特徴を有するプロセスによって達成される。有利な構成および展開は、従属請求項から明らかである。
【0009】
したがって、本発明は、触媒気相反応のための管状反応器を反応温度から停止させるプロセスであって、管状反応器は、鉛直に配置された複数の反応管と、反応管の上端および下端に各々気密に接続された上部管シートおよび下部管シートと、複数の反応管を囲んで液密の熱伝達空間を形成する反応器シェルと、を備え、動作モードでは、実質的に無水の液化塩溶融物が熱伝達空間内を循環する、プロセスに関する。このプロセスは、水が実質的に無水の液化塩溶融物に加えられ、水-塩混合物が得られるとともに、実質的に無水の液化塩溶融物の凝固温度より低い温度まで管状反応器を冷却し、それにより、水-塩混合物が、管状反応器の冷却ステップ全体の間、液化状態に維持されることを特徴とする。
【0010】
本発明のプロセスは、管状反応器内で実施される。そのような管状反応器の特徴的な設計は、それ自体当業者に知られている。完全を期すために、そのような管状反応器の構成要素を以下に要約する。管状反応器は、適切には円筒形本体である「反応器シェル」によって、かつ前記反応器シェルの上端および下端において、「上部フード」および「下部フード」によって制限され、上部フードおよび下部フードは反応器シェルに気密に接続されている。適切には、上部フードおよび下部フードの内径は、反応器シェルの内径に等しい。管状反応器の内側には、反応器シェルが複数の反応管を囲むように、鉛直に配置された複数の「反応管」が存在する。一般に、「複数の」反応管という用語は、管状反応器の内側に存在する膨大な数の反応管、例えば少なくとも5,000本から最大45,000本の反応管を示す。適切には、前記反応管は、20mmから30mmの内径、2mから4mの長さ、および1mmから3mmの壁厚を有する。反応管の上端は「上部管シート」に接続され、反応管の下端は「下部管シート」にそれぞれ気密に接続されている。すなわち、反応管の両端は、管シート内に封止されている。これにより、上部フードと上部管シートとの間、反応管の内側、および下部管シートと下部フードとの間によって気密な「反応空間」が形成される。前記反応空間において、供給ガス混合物は管状反応器に導入され、反応管の内側で管状反応器において想定される化学反応に供され、その後管状反応器から除去される。
【0011】
「熱伝達空間」とも呼ばれる第2の空間は、管状反応器の内側で上部管シートと下部管シートとの間、および反応管の外側に形成される。前記熱伝達空間は、適切に液密に設計される。言い換えると、熱伝達空間は、反応空間の外側および反応器シェルの内側に位置する独立した空間である。
【0012】
上述のように、反応管の目的は、管状反応器において想定される反応、例えば反応管の内側での触媒気相酸化などの「触媒気相反応」を実行することを可能にすることである。したがって、管状反応器の鉛直に配置された反応管の内側には、粒状触媒が、例えば固定床の形態で存在し、これは管状反応器において想定される反応を行うのに適している。
【0013】
管状反応器の「動作モード」中に、管状反応器において想定される反応が行われる。反応は、一般に高温である反応温度で行われる。管状反応器において想定される反応が触媒気相酸化、例えば2つの連続する反応器でのアクリル酸を生じるアクロレインを介したプロピレンの触媒気相酸化である場合、プロピレンのアクロレインへの変換の第1段階の反応温度は300℃から400℃、好ましくは320℃から380℃の範囲であり、アクロレインのアクリル酸への変換の第2段階の反応温度は240℃から310℃、好ましくは260℃から300℃の範囲である。
【0014】
適切には、動作モード中に前記反応を行うために、例えばプロピレンまたはアクロレインを含む供給ガス混合物が管状反応器の入口部分、すなわち上部フードに導入される。続いて、供給ガス混合物は、反応管の上端で上部管シートを介して反応管に入り、反応管の上端から反応管の下端に向かう方向に、すなわち下部管シートに向かう方向に反応管を通って流れる。したがって、例えばアクリル酸を含む生成ガス混合物は、下部管シートを介して反応管の下端を出て、次いで下部フードを介して管状反応器の底部に排出され得る。
【0015】
一般に、管状反応器内で反応を行うために必要な高温レベルは、熱伝達媒体によって提供される。安定した反応条件を提供すること、すなわち一定の温度レベルで反応を実施することが非常に重要である。そのような安定した反応条件を提供するために、熱伝達媒体は、ポンプを使用して反応管と反応器シェルとの間の熱伝達空間を所望の温度で長手方向全体に適切に循環される。そうすることにより、反応管の冷却または加熱、続いて熱交換器、例えば外部に配置された熱交換器内の熱伝達媒体の冷却または加熱が可能になる。一般に、この目的のために、反応管は、互いに等距離になるように管状反応器内に配置される。適切には、2つの隣接する反応管の中心内軸間の距離は、35mmから45mmの範囲内である。
【0016】
例えば、適切な熱伝達媒体は、「実質的に無水の液化塩溶融物」などの流体熱伝達媒体、またはナトリウム、水銀、もしくは異なる金属の合金などの低融点金属である。適切な実質的に無水の液化塩溶融物は、例えば、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウムおよび/または亜硝酸カリウムを含む共融塩混合物であってもよい。
【0017】
一般に、管状反応器の上記のすべての構成要素は、反応器内において想定される反応、例えば、アクロレインを介したプロピレンのアクリル酸への酸化反応などの触媒気相酸化を行うのに適した材料で製造される。
【0018】
本明細書において、管状反応器の「停止」という用語は、動作モードが中断される反応器の状態を指す。例えば、メンテナンス作業を行うために停止が行われる。繰り返しの必要なメンテナンス作業の一般的な例は、反応管の内側に配置された触媒がその寿命を超えた後の触媒交換である。そのような場合、使用済み触媒を除去し、反応管に新しい触媒を補充することができるように、管状反応器を開く必要がある。管状反応器は、反応を中断し、例えば熱交換器を用いて熱伝達媒体によって熱を除去することによって、管状反応器を室温付近の温度に冷却した後にのみ開けられてもよい。既に上述したように、現在まで、停止のための室温への管状反応器のそのような冷却ステップは、時間およびリソース消費の観点からメンテナンスプロセスのボトルネックである。これは、液化塩溶融物が室温まで冷却されると凝固するためである。その結果、亀裂などの損傷をもたらす可能性がある反応器内の張力を回避するために、熱伝達媒体の冷却および加熱速度に制限が生じる。さらに、凝固した塩溶融物をその溶融温度までゆっくりと再加熱するために、膨大な量のエネルギーが必要とされる。
【0019】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明によるプロセスがこれらの欠点を克服することを見出した。停止の開始時に、水は、水管を介して実質的に無水の液化塩溶融物に、すなわち熱伝達媒体に加えられ、こうして水-塩混合物が得られる。次いで、前記水-塩混合物を、冷却速度を制限することなく、例えば室温まで冷却し、その後、やはり加熱速度を制限することなく、反応温度まで再加熱することができる。言い換えれば、管状反応器は、液化塩溶融物に水を加えた後に、実質的に無水の液化塩溶融物の凝固温度より低い温度、例えば室温まで非常に迅速に冷却することができる。これにより、停止プロセスがもたらされ、これは、より単純で高速なプロセスであり、メンテナンスが少なくなる。さらに、水-塩混合物は、水の粘度と同様の粘度、すなわち、液化塩溶融物の粘度と比較して低い粘度を示す。これは、水-塩混合物のより容易なポンプ輸送性の観点から有利である。したがって、あまり強力でないポンプが必要とされ、前記あまり強力でないポンプによって消費されるエネルギーが少なくなり、より効率的なプロセスがもたらされる。水を加える別の利点は、水の高い溶解熱に依存する。これは、液化塩溶融物に水を加えると、熱伝達媒体、すなわち液化塩溶融物に含まれる熱の少なくとも一部が水によって吸収されることを意味する。これは、有利には、冷却ステップを単純化および加速し、時間およびリソースをあまり消費しないプロセスをもたらす。
【0020】
上述したように、従来の停止プロセスは、通常、液化塩溶融物自体をその液化状態に保つ。したがって、液化塩溶融物は、管状反応器の外側、例えば加熱されたリザーバ内に貯蔵される必要がある。これは、管状反応器を液化塩溶融物の凝固温度未満に冷却する必要があり、液化塩溶融物が管状反応器内に留まる場合、それは凝固するからである。この手法は、液化塩溶融物を管状反応器から加熱されたリザーバに移送するための大容量および加熱された管を提供する加熱されたリザーバの設置の形態で、多大な構造的労力を必要とする。これらはすべて、設置および動作中の両方において非常にコストがかかる。本発明によるプロセスでは、液化塩溶融物に水を加えた後、水-塩混合物は、室温であっても、管状反応器の冷却ステップ全体の間、液化状態に維持される。上述の従来の停止プロセスと比較して、この手法は、加熱リザーバおよび/または管が不要であるため、はるかに少ない構造的労力しか必要としない。また、水-塩混合物の大部分は、停止中に反応器自体の内側に維持され得る。さらに、上記のような従来の停止プロセスでは、液化塩溶融物をその液化状態に保つために、加熱されたリザーバに貯蔵された液化塩溶融物は、メンテナンスプロセス全体の間加熱される必要がある。これと比較して、本発明によるプロセスでは、水-塩混合物が室温であっても液化状態にあって加熱する必要がないため、このステップは省略される。これは、エネルギー要件が少ないという観点、または言い換えれば、リソース消費量が少なく、プロセスコストが低いという観点から有利である。
【0021】
要約すると、本発明によるプロセスは、塩溶融物の凝固を伴う前記液化塩溶融物自体の室温への冷却および少なくとも凝固した塩溶融物の融点への再加熱を必要としない。また、水-塩混合物は、室温であっても液化状態にあるため、停止中に加熱する必要はない。したがって、より少ないメンテナンスをもたらすより単純でより迅速な停止プロセスが得られ、これは、より少ないエネルギー要件の観点、または言い換えれば、より少ないリソース消費およびより少ないプロセスコストの観点から特に有利である。水-塩混合物は、液化塩溶融物の粘度と比較して低い粘度を有し、これは、より単純なプロセスをもたらす水-塩混合物のポンプ輸送性の観点から有利である。熱伝達媒体の冷却速度を考慮して制限される従来の停止プロセスとは対照的に、本発明によるプロセスは、冷却速度に関してそのような制限を有さない。本発明によるプロセスの別の利点は、水の溶解熱が高いことに依存する。前記液化塩溶融物に水を加えると、前記液化塩溶融物に含まれる熱の少なくとも一部は水によって吸収される。これは、有利には、停止プロセスの単純化および加速をもたらし、時間およびリソースをあまり消費しないプロセスをもたらす。さらに有利には、停止中に水-塩混合物の大部分を反応器自体の内側に保持することができ、したがって、本発明によるプロセスを実施するために追加の投資を必要としないので、液化塩溶融物を貯蔵するための加熱リザーバの設置などの構造的労力があまり必要とされない。
【0022】
一実施形態において、水-塩混合物は、80℃から10℃、好ましくは60℃から20℃、より好ましくは室温の範囲の温度に冷却される。これは、そのような低下した温度レベルでの停止中のより容易で危険性の低いメンテナンスプロセスに起因して、さらにより有利な停止プロセスをもたらす。
【0023】
一実施形態では、80:20から40:60、好ましくは60:40から40:60の水対液化塩溶融物の重量比を得るために水が加えられる。これに関連して、「重量比」という用語は、液化塩溶融物の重量に対する水の重量の比を示す。このようにして得られた前記好ましい含水量を示す水-塩混合物は、水の溶液の熱および水-塩混合物の粘度に関して特に好ましい条件を提供するので、これはさらにより有利な停止プロセスをもたらす。さらに、上記の水対液化塩溶融物の比を有する水-塩混合物は、停止プロセス全体の間に溶液であり、すなわち、水-塩混合物中の固体塩結晶の析出が回避される。これは、冷却ステップの単純化および加速、ならびに時間およびリソースをあまり消費しないプロセスをもたらし、メンテナンスを少なくする。
【0024】
一実施形態では、液化塩溶融物は、100℃から450℃、好ましくは140℃から155℃の範囲の溶融温度を有する。これにより、上述のような利点を有するさらにより有利な停止プロセスがもたらされる。
【0025】
一実施形態では、液化塩溶融物は、1kgの液化塩溶融物が20℃で6L未満、好ましくは3L未満の水に可溶であるような溶解度を有する。これは、液化塩溶融物と水との十分な混和性が確保されるので、さらにより有利な停止プロセスをもたらし、したがって上述のような利点を有するプロセスが得られることを確実にする。
【0026】
一実施形態では、液化塩溶融物は、硝酸塩部分、好ましくは硝酸アルカリ、亜硝酸アルカリおよび炭酸アルカリから選択される少なくとも2つの塩の混合物、好ましくは硝酸カリウム、硝酸ナトリウムおよび亜硝酸ナトリウムの塩のうちの2つまたは3つの混合物を含む共融混合物である。
【0027】
一般に、本特許出願の文脈において、「共融混合物」という用語は、成分のいずれかの融点よりも低い単一の温度で溶融または凝固する物質の均質な混合物を示す。
【0028】
上述の共融混合物を液化塩溶融物として使用することにより、上述の利点を有するさらにより有利な停止プロセスが得られる。
【0029】
一実施形態では、液化塩溶融物は、45:65から65:45、好ましくは50:50から60:40の硝酸カリウム対亜硝酸ナトリウムの重量比の硝酸カリウムおよび亜硝酸ナトリウムの塩の混合物からなる。これに関連して、「重量比」という用語は、亜硝酸ナトリウムの重量に対する硝酸カリウムの重量の比を示す。そのような混合物を液化塩溶融物として使用することにより、上記のような利点を有するさらにより有利な停止プロセスがもたらされる。
【0030】
一実施形態において、水-塩混合物の少なくとも一部は、管状反応器の内側に保持される。言い換えれば、水-塩混合物の残りは、管状反応器の外側に貯蔵されてもよい。さらに、これは、水-塩混合物の全体積を貯蔵するのに十分な大きさのリザーバを設ける必要がなく、管状反応器の外側に貯蔵される水-塩混合物の一部のみを貯蔵すればいいので、有利である。塩水混合物は、加熱のような貯蔵のための追加の要件を必要としないので、貯蔵容積は、容器のような一時的な設備を介して提供することができる。
【0031】
本出願の文脈では、「リザーバ」という用語は、例えば、既存のリザーバ、例えば塩溶融物リザーバと呼ばれることがある。
【0032】
これは、必要とされる構造的労力がより少ないので、さらにより有利な停止プロセスをもたらし、既存のリザーバを使用することができる場合、プロセスはより単純で、より迅速で、より低コストである。
【0033】
一実施形態では、管状反応器内に保持された水-塩混合物は、管状反応器の中を連続的に循環される。これにより、冷却時の放熱をより効率的に行うことができる。したがって、水-塩混合物および管状反応器自体の加熱速度および/または冷却速度に関して制限はない。これにより、より単純かつ迅速であり、メンテナンスが少なくなり、したがって時間およびリソースをあまり消費しないプロセスをもたらす、さらにより有利な停止プロセスがもたらされる。
【0034】
一実施形態では、水-塩混合物の少なくとも一部は、管状反応器の外側に貯蔵され、好ましくは、水-塩混合物は、排出管を介して非加熱リザーバに導入される。
【0035】
本明細書において、「排出管」という用語は、水-塩混合物の少なくとも一部を管状反応器から例えば非加熱リザーバ内に排出することを可能にする非加熱ホースを指す。液化塩溶融物に水を加えることは、液化塩溶融物と比較して、水-塩混合物の体積の増加をもたらす。したがって、水-塩混合物の総体積が管状反応器内で利用可能な体積よりも大きい場合には、水-塩混合物の少なくとも一部を排出する必要があり得る。したがって、排出管は、適切な体積の水-塩混合物が外部、例えば上述の非加熱リザーバに排出され得るように、管状反応器の位置に適切に配置される。
【0036】
これは、水-塩混合物の全体積を貯蔵するのに十分な大きさのリザーバを設ける必要がなく、管状反応器の外側に貯蔵される水-塩混合物の一部のみを貯蔵すればいいので、有利である。これは、従来の停止プロセスと比較してほんの小さいリザーバのみを提供するために必要な構造的労力がより少ないので、さらにより有利な停止プロセスをもたらす。さらに、前記リザーバは、加熱可能である必要はない。したがって、プロセスは、より単純で、より迅速で、より低コストである。
【0037】
本発明はさらに、上述の冷却ステップ後に、管状反応器を液化塩溶融物の凝固温度より低い温度以下の温度から反応温度まで加熱するプロセスであって、水蒸気を得る熱交換器を介して熱を供給することによって、水の少なくとも一部が液化塩溶融物の凝固温度より高い温度で水-塩混合物から沸騰し、水-塩混合物の体積減少をもたらすプロセスに関する。熱は、加熱中に熱交換器管を通って送られる電気エネルギーおよび/または蒸気および/または焼き戻しガス(tempering gas)を使用することによって供給されて、塩循環システムのベントラインから蒸気ベントを得て、水-塩混合物の体積減少をもたらす。
【0038】
本明細書において、管状反応器全体の「加熱」という用語は、冷却ステップの逆転を指す。言い換えれば、加熱中、管状反応器は、冷却後に待機状態から動作モードに戻され、その結果、動作モードはもはや中断されない。例えば、触媒交換などのメンテナンス作業が終了し、反応器の運転が再開された後に、加熱ステップが実行されてもよい。
【0039】
上述の冷却ステップを「逆転させる」ためには、a)液化塩溶融物の凝固温度よりも高い温度に上昇させて、最終的に反応温度を回復させること、およびb)水-塩混合物の体積を減少させること、すなわち、停止前の熱伝達媒体の元の組成に戻すために、すなわち、実質的に無水の液化塩溶融物に戻すために、水-塩混合物から水を除去することが必要である。
【0040】
ここで、ステップa)とステップb)とは相関している。昇温ステップa)を実施すると、上述のように、少なくとも100℃の温度に達した後に水-塩混合物の水を沸騰させることによって、水の除去のステップb)が自動的にもたらされる。その結果、水の沸騰は、水-塩混合物の体積減少をもたらす。
【0041】
適切には、温度は、上述のように、管状反応器内に既に存在する熱交換器を介して熱を供給することによって上昇する。熱交換器は、焼き戻しガスを使用して動作させることができる。本出願の文脈では、焼き戻しガスは、反応ガス、空気、煙ガス、蒸気、不活性ガスなどから適切に選択することができ、好ましくは蒸気である。
【0042】
本発明による加熱プロセスは、以下の理由により特に有利である。停止プロセス中に水を加えた後、液化塩溶融物自体が冷却されたのではなく、水-塩混合物のみが冷却されているため、凝固した塩溶融物を少なくとも塩溶融物の融点まで再加熱する必要はない。塩溶融物とは対照的に、水-塩混合物は冷却時に凝固しない。したがって、メンテナンスが少なくなる、より簡単でより迅速な停止プロセスが得られる。熱伝達媒体の加熱速度を考慮して制限される従来の停止プロセスとは対照的に、本発明によるプロセスは、加熱速度に関してそのような制限を有さない。したがって、本発明によるプロセスは、反応条件に迅速に到達する点で特に有利である。これにより、従来のプロセスと比較して、前記プロセスの時間およびメンテナンス要件が大幅に低減され、例えば数日から数時間になる。
【0043】
一実施形態では、水蒸気は、好ましくは特許文献2の図1および図2(参照番号17、19、および/または33)に記載されているように、塩溶融循環システムのベントまたは緊急放出ラインを介して管状反応器から放出される。
【0044】
これは、一方では、そのような設置により、反応器の設計限界を超える圧力という形で有害な反応条件に到達し得ないことが確実になるため、さらにより有利な停止プロセスをもたらす。一方、圧力開放弁の設置は、水-塩混合物の水を沸騰させて管状反応器を出ることを可能にする非常に簡単で安価な方法である。
【0045】
一実施形態では、水-塩混合物の体積減少は、管状反応器の外側に貯蔵された水-塩混合物の少なくとも一部を加えることによって補償される。実際には、水-塩混合物の一定量の水が沸騰した後、同様の量の外側に貯蔵された水-塩混合物が管状反応器にポンプで戻される。その後、別の量の水が沸騰し、前のステップが繰り返される。これは、外側に貯蔵された水-塩混合物が、外側に貯蔵された水-塩混合物を連続的にリサイクルすることによって再使用され得るので、さらにより有利な停止プロセスをもたらす。そうでなければ、新たな塩を加える必要があり、プロセスコストやリソース消費の観点から不利になる。
【0046】
一実施形態では、管状反応器を冷却し、反応管の内側に存在する触媒を交換し、次いで管状反応器を加熱する。このような手順は、一般に「触媒交換停止」と呼ばれる。このような触媒交換停止は、管状反応器の反応管の内側に配置された触媒がその寿命を超えた場合に必要となる。この場合、触媒はもはや活性ではなく、意図した反応を行うことができない。触媒交換停止のための従来の停止プロセスは、上記で詳細に説明したような欠点を有する。本発明による停止プロセスを実行することにより、上記のような利点を有する触媒交換のためのより有利な停止プロセスが得られる。
【0047】
一実施形態では、気相反応は、酸化、水素化、脱水素化、ニトロ化、およびアルキル化反応、好ましくは酸化反応、特にアクロレインを介したプロピレンのアクリル酸への酸化反応から選択される。そのようなプロセスは、一般に適切な触媒の存在下で行われるため、共通の特徴を有する。したがって、それらは、使用される触媒がその寿命を超え、したがって意図した反応を行うためにもはや活性ではない場合、触媒交換停止を必要とする。触媒交換停止のための従来の停止プロセスは、上記で詳細に説明したような欠点を有する。本発明による停止プロセスを実行することにより、上記のような利点を有する触媒交換のためのより有利な停止プロセスが得られる。
【0048】
以下、添付図面および実施例を参照して、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】この図は、本発明の実施例における管状反応器の概略鉛直断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
実施例
60重量%のKNOと40重量%NaNOとを含む共晶塩混合物が、停止中の管状反応器の冷却に使用できるかどうかを調べるため、実験室規模で2つの予備実験を行った。言い換えれば、これらの予備実験の目的は、得られた水-塩混合物が固体塩結晶を生成することなく高温から室温に冷却され得るように水濃度を制御しながら、上記共融塩混合物が水と混合され得るかどうかを見出すことであった。このような固体結晶が存在しないことが重要である。これは、工業規模では、凝固した塩溶融物を再加熱するには反応制御に特定のパラメータが必要であるため、固体結晶の形成を回避しなければならないからである。例えば、凝固した塩溶融物の加熱速度は、加熱が速すぎると反応器内に張力が発生し、亀裂などの損傷をもたらす可能性があるため、制限される。
【0051】
実施例1
実施例1の文脈において、60重量%のKNOと40重量%NaNOとを含む共晶塩混合物および水1重量%からなる水-塩混合物を調製した。この水-塩混合物について、前記水-塩混合物の水部分が沸騰し始める上記の高温が決定されている。以下の手順に従って温度を決定した。コンデンサおよび温度計を備えた250mLの三口フラスコに、60重量%のKNOと40重量%NaNOとを含む塩混合物100gを入れ、180℃に加熱した。1mLの水を塩混合物に加えて、水-塩混合物を得た。次いで、水-塩混合物中の水部分の沸点は、還流で182℃であると決定された。182℃で目視検査したところ、固体結晶は確認されなかった。
【0052】
実施例2
次に、60重量%のKNOと40重量%NaNOとを含む塩混合物100gを溶解するのに必要な水または水蒸気の理論量を計算した。温度20℃におけるKNOおよびNaNOの水溶解度値を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
KNOはNaNOよりも低い水溶解度を示すので、KNOとNaNOとの混合物中のKNOの含有量は、前記混合物の水への全体的な溶解度を決定する。
【0055】
KNOの飽和水溶液は、1164g/Lの密度を示す。したがって、1LのKNOの前記飽和水溶液は、316gのKNOおよび848gの水からなる。その結果、60重量%のKNOおよび40重量%のNaNOを含む100gの塩混合物を溶解するのに必要な水の量は、以下のように計算することができる。
m(水)=m(KNO)・・・848g/316g=60g・・・848/316=161g
【0056】
これらのデータを利用して、60重量%のKNOおよび40重量%のNaNOを含む塩混合物を、塩混合物を182℃に加熱し、特定量の水を加え、得られた水-塩混合物を182℃から室温に冷却した後の固体結晶の発生について調査した。表2に示すように、3つの異なる量の水を水蒸気の形態で前記塩混合物に加えた。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示す結果は、上記の計算された物質データ、すなわち、水-塩混合物を182℃から室温に冷却する際に60重量%のKNOおよび40重量%のNaNO(上記参照、161g)を含む100gの塩混合物を溶解するのに必要な水の理論量と一致した。
【0059】
最初に挙げた疑問は、得られた水-塩混合物が固体塩結晶を生成することなく182℃から室温に冷却され得るように水濃度を制御しながら、上記の塩混合物が水と混合し得るかどうかについて「はい」と回答され得る。
【0060】
実施例1および2で得られた結果は、前記反応器の停止プロセスにおける調査のために、大規模工業プラント、すなわち管状反応器に移されている。実施例3を参照されたい。
【0061】
実施例3
以下に説明する実施例3は、空気の酸素を用いたアクロレイン19のアクリル酸20への不均一触媒気相酸化を行う管状反応器1に関する。しかしながら、本明細書に記載のプロセスは、上記の酸化反応に限定されるものではない。実施例3の反応器は、30mmの外径および3200mmの管長を有する28,000本の反応管2を含む。反応器の塩側の体積は合計約110mになる。
【0062】
本発明のプロセスの管状反応器1は、反応器シェル7の上端の上部フード3および反応器シェル7の下端の下部フード4で封止された円筒形本体の形態の反応器シェル7を備え、上部フード3および下部フード4は、反応器シェル7に気密に接続されている。管状反応器1の内側には、反応器シェル7が反応管2を囲むように、鉛直に配置された反応管2が存在する。反応管2の上端は上部管シート5に接続され、反応管2の下端は下部管シート6にそれぞれ気密に接続されている。さらに、上部管シート5および下部管シート6は、各々気密に管状反応器1に接続されている。これにより、管状反応器1の内側において、上部フード3と上部管シート5との間、反応管2の内側、下部管シート6と下部フード4との間に気密な反応空間が形成される。
【0063】
管状反応器1の内側の上部管シート5と下部管シート6との間、および反応管2の外側には液密の熱伝達空間9が形成され、すなわち熱伝達空間9は、上述の反応空間の外側と管状反応器1の反応器シェル7の内側とに位置する独立した空間である。
【0064】
反応管2は、互いに等距離になるように管状反応器1内に配置される。管状反応器1の反応管2は、空気の酸素を使用してアクロレイン19のアクリル酸20への上述の不均一に触媒反応された気相酸化を実施するための粒状モリブデン触媒を含む。この粒状モリブデン触媒は、モリブデンを含む多量体酸化物触媒であり、反応管2の内側に固定床の形態で存在する。このような粒状モリブデン触媒はそれ自体公知であるため、本明細書ではこれ以上詳細に説明しない。
【0065】
動作モード中、すなわち上述の気相酸化を実施する間、管状反応器1内の温度を265℃から300℃の範囲内の反応温度まで上昇させる必要がある。前記反応温度は、共融塩混合物である熱伝達媒体を使用して提供される。具体的には、55重量%のKNOと45重量%のNaNOとからなる実質的に無水の液化塩溶融物8が熱媒体として使用される。前記液化塩溶融物8は、142℃の溶融温度と、1kgの液化塩溶融物8が1.55Lの水に20℃で可溶性であるような溶解度と、を有する。液化塩溶融物8は、上記反応温度に加熱された後、ポンプケーシング31を有する循環ポンプ23を使用して、反応管2と反応器シェル7との間の熱伝達空間9を長手方向に循環する。前記循環により、安定した反応条件、すなわち管状反応器1の全容積にわたる一定の温度分布が、特に酸化反応が起こる反応管2において保証される。液化塩溶融物8は、水10によって作動される熱交換器15を使用して反応温度に調整され、25バールの圧力で水蒸気17を生成する。すなわち、液化塩溶融物8は、熱交換器15で冷却され、反応管2で発生した反応エンタルピーを熱交換器15に伝達する。
【0066】
動作モード中にアクロレイン19のアクリル酸20への上述の気相酸化反応を実施するために、供給ガス、すなわちアクロレイン19は、上部フード3の管状反応器1の入口部を介して管状反応器1の反応空間に導入される。続いて、アクロレイン19は、上部管シート5を介して反応管2の上端で反応管2に入り、反応管2の上端から反応管2の下端に向かう方向に、すなわち下部管シート6に向かう方向に反応管2を通って流れる。反応管2の内側で、アクロレイン19は、空気の酸素および再循環ガスを希釈剤として使用して、粒状モリブデン触媒で不均一に触媒された気相酸化反応を受け、アクリル酸20を生じる。アクリル酸20は、下部管シート6を介して反応管2の下端を出て、次いで下部フード4を介して管状反応器1の底部に排出される。
【0067】
管状反応器1の反応管2の内側に存在する上述の粒状モリブデン触媒は、数年の範囲内の一定の寿命を有する。寿命を超えた後、使用済みの粒状モリブデン触媒は、酸化反応においてもはや活性ではない。したがって、使用済みの粒状モリブデン触媒を反応管2から取り出し、新しい粒状モリブデン触媒と交換しなければならない。このプロセスは、触媒交換停止と呼ばれる。この停止中、管状反応器1の動作モードは、反応管2を空にして補充することができるようにするために開かれなければならないので中断される。これは、管状反応器1の圧力および温度を低下させる必要があることを意味する。本実施例3の文脈では、管状反応器1を周囲圧力および室温にする。
【0068】
管状反応器1を反応温度から室温に冷却するための本発明の停止プロセスを、以下に記載する。管状反応器1を反応温度から室温に冷却する前に、アクロレイン19のガス流を遮断し、熱交換器15の水蒸気出口18を周囲に導き、ボイラー供給水の形態の水10を熱交換器15に供給し、ほぼ周囲圧力で水蒸気17を形成する。
【0069】
冷却の第1の段階では、管状反応器1の温度は、熱交換器15内のボイラー供給水の形態の水10の蒸発によって295℃の反応温度から約180℃に低下する。
【0070】
冷却の第2の段階、すなわち約180℃からのさらなる冷却では、追加の脱塩水24が脱塩水供給源30を介して循環ポンプ23の吸引側にゆっくりと供給され、すなわち脱塩水24が管状反応器1の熱伝達空間9に供給され、水-塩混合物11が得られる。第2の段階の開始時に、少量の水蒸気21および水蒸気26が生成され、これらはそれぞれ熱交換器15のベントライン22およびポンプケーシング31のベントライン25を介してシステムから放出される。
【0071】
冷却の第3の段階では、ベントライン22を介して水蒸気21がほとんど排出されず、ベントライン25を介して水蒸気26がほとんど排出されなくなるとすぐに、脱塩水供給源30が完全に開かれ、より多くの脱塩水24が管状反応器1の熱伝達空間9に流入することを可能にする。さらに、熱交換器15への水管14は、さらなる冷却のために冷たい脱塩水に切り替えられる。
【0072】
脱塩水24を脱塩水供給源30を介して加えることにより、水-塩混合物11の体積は、管状反応器1の内側で増加する。超過水-塩混合物27は、ポンプケーシング31のオーバーフローライン28を介してオーバーフローし、リザーバ12に送られる。
【0073】
冷却中にオーバーフローライン28で超過水-塩混合物27からサンプルを採取し、オーバーフローライン28における超過水-塩混合物27の密度が温度20℃で1240g/Lを下回るとすぐに脱塩水供給源30を停止する。熱交換器15を介した冷却は、水-塩混合物11の温度が40℃を下回るとすぐに停止される。冷却手順の間、さらにその後、循環ポンプ23は作動し続けている。
【0074】
管状反応器1の冷却ステップ全体の間、水-塩混合物11は液化状態に保たれる。水-塩混合物11を液化状態に保つことは、水-塩混合物11が室温であっても液体であるため、加熱する必要がない。したがって、水-塩混合物11は、管状反応器1の停止プロセス中のどの時点でも加熱する必要はない。
【0075】
一般に、水-塩混合物11の第1の部分は管状反応器1の内側に保たれ、水-塩混合物11の第2の部分は管状反応器1の外側に貯蔵される。これは、非加熱排出管13を介して、またはオーバーフローライン28を介して、外部リザーバ12内に水-塩混合物11の第2の部分を排出することによって達成される。リザーバ12は、加熱される必要がなく、水-塩混合物11の第2の部分を引き受けるのに十分な容積を有する既存の塩溶融物リザーバである。冷却中、約120mの水-塩混合物11が放出される。
【0076】
動作モードを中断し、管状反応器1を反応温度295℃から40℃に冷却した後、管状反応器1を開き、粒状モリブデン触媒を反応管2から交換する。触媒交換中、反応器の温度は40℃から室温に低下した。
【0077】
動作モードに戻るためには、触媒交換が終了し、管状反応器1が閉じられた後に加熱ステップを行わなければならず、その結果、動作モードはもはや中断されない。
【0078】
管状反応器1の昇温ステップでは、熱交換器15を介して熱を供給することにより、管状反応器1の温度を上昇させる。熱交換器15には、通常動作中に水蒸気出口18を介して25バールの圧力の水蒸気が逆流として供給される。水蒸気は、熱交換器15において凝縮する。凝縮物は、ブローダウンラインを介して熱交換器15から周囲(図示せず)に放出される。
【0079】
室温から開始して、温度を190℃まで連続的に上昇させる。約120℃の温度に達した後、水-塩混合物11中に存在する水は沸騰し始める。水-塩混合物11の沸騰した水は、ベントライン22を介して水蒸気21の形態で、およびベントライン25を介して水蒸気26の形態で管状反応器1から放出される。
【0080】
これにより、加熱ステップ中に水-塩混合物11から水蒸気21および水蒸気26の形態の水10が連続的に除去され、水-塩混合物11の体積が減少する。水-塩混合物11から水10を連続的に除去しながら、管状反応器1の停止前の実質的に無水の液化塩溶融物8の元の組成が回復する。
【0081】
水-塩混合物11の体積減少は、管状反応器1の外側のリザーバ12内に貯蔵された水-塩混合物11、すなわち、水-塩混合物11の上述の第2の部分を連続的に加えることによって補償される。実際には、水-塩混合物11の一定量の水10が沸騰した後、同様の量の外側に貯蔵された水-塩混合物11、すなわち水-塩混合物11の第2の部分が、ポンプを使用して排出管13を介してリザーバ12から管状反応器1にポンプで戻される。その後、別の量の水10が沸騰し、前のステップが繰り返される。
【0082】
水-塩混合物11から水10を除去する間、190℃の温度に戻るまで温度を連続的に上昇させる。190℃に達した後、さらなる加熱は、295℃の反応温度に達するまで管状反応器1の電気ヒータ29を始動させることによって支援される。前記反応温度に達した後にのみ、アクロレイン19のアクリル酸20への酸化反応は、アクロレイン19の供給を再開することによって継続され得る。
【0083】
注目すべきことに、管状反応器1内に保持された水-塩混合物11、すなわち、水-塩混合物11の上述の第1の部分は、停止プロセス全体の間にポンプを使用して管状反応器1の中を連続的に循環される。これは、水-塩混合物11、ひいては管状反応器1自体の加熱速度および/または冷却速度に関して制限が生じないという事実をもたらす。言い換えれば、本実施例3の文脈では、管状反応器1を可能な限り迅速に冷却することができる。
【0084】
実施例3における冷却および加熱の所要時間を以下に示す。
【0085】
段階1:ボイラー供給水で反応温度から180℃まで冷却する:4時間。
【0086】
段階2:ユニットに追加の水を供給することによって180℃から40℃に冷却する:26時間。
【0087】
段階3:熱交換器15の蒸気によって室温から190℃まで加熱する:29時間。
【0088】
段階4:電気ヒータによって190℃から265℃まで加熱する:19時間。
【0089】
冷却および加熱の総所要時間:78時間。
【0090】
比較例
様々な温度でガスを供給し、装置全体にわたる最大温度差を保護することによって、特許文献1に記載されている方法を適用して、実施例3の反応器ユニットを冷却し、加熱した。この方法を適用することにより、以下の所要時間が必要となる。
【0091】
段階1:ボイラー供給水で反応温度から180℃まで冷却する:4時間。
【0092】
段階2:完成した塩溶融物の塩溶融ドラムへの放出:23時間。
【0093】
段階3:温度を下げたガスを反応管を通して供給することによって180℃から40℃に冷却する:36時間。
【0094】
段階4:温度を上げたガスを用いて室温から190℃まで加熱する:72時間。
【0095】
段階5:塩溶融ドラムから塩を充填する:6時間。
【0096】
段階5:塩溶融物を190℃から反応温度まで加熱する:17時間。
【0097】
冷却および加熱の総所要時間:158時間。
【符号の説明】
【0098】
1 管状反応器
2 反応管
3 上部フード
4 下部フード
5 上部管シート
6 下部管シート
7 反応器シェル
8 液化塩溶融物
9 熱伝達空間
10 水
11 水-塩混合物
12 リザーバ
13 排出管
14 水管
15 熱交換器
16 熱交換管
17 水蒸気
18 水蒸気出口
19 アクロレイン
20 アクリル酸
21 水蒸気
22 ベントライン
23 循環ポンプ
24 脱塩水
25 ベントライン
26 水蒸気
27 超過水-塩混合物
28 オーバーフローライン
29 電気ヒータ
30 脱塩水供給部
31 ポンプケーシング
図1
【国際調査報告】