(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】コーティングスラリー、コーティングセパレータ、セパレータの製造方法及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/403 20210101AFI20240628BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20240628BHJP
H01M 50/411 20210101ALI20240628BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240628BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20240628BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20240628BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240628BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240628BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20240628BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240628BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240628BHJP
【FI】
H01M50/403 D
H01M50/426
H01M50/411
H01M50/414
H01M50/42
H01M50/457
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/489
H01M50/403 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577864
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 CN2022095781
(87)【国際公開番号】W WO2022262556
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】202110665849.0
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518279484
【氏名又は名称】シェンチェン シニア テクノロジー マテリアル カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】523471840
【氏名又は名称】江蘇星源新材料科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU SENIOR NEW MATERIAL TECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】NO. 888 Xingdong Road, Wujin District, Changzhou, Jiangsu 213100, China
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】楊丹丹
(72)【発明者】
【氏名】平翔
(72)【発明者】
【氏名】黄慧▲じぇん▼
(72)【発明者】
【氏名】林于琳
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB12
5H021BB15
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE01
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE06
5H021EE10
5H021EE21
5H021HH00
5H021HH01
(57)【要約】
本発明は、コーティングスラリー、コーティングセパレータ、それらの製造方法及び電池を提供する。前記コーティングスラリーは、溶媒、バインダポリマー樹脂及び光開始剤を主成分として含み、スラリー中の光開始剤の重量比は0.08~1.0wt%であり、バインダポリマー樹脂は、PVDF系バインダ樹脂ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリメタクリル酸メチルのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む。スラリー中の光開始剤の重量比を0.08~1.0wt%とすることにより、この重量比の範囲では、スラリーをベースフィルムにコーティングした後、光開始剤は、基材層に確実に浸透し、ベースフィルム、セラミック層及びその結合界面層内に十分な活性ラジカルを発生させることを確保し、光開始効率と架橋度を十分にし、セパレータ全体の完全な架橋効果を確保し、製品の破膜温度を大きく上昇させることができ、また、接着剤層中に残存する光開始剤の含有量が多くないので、セパレータのシート抵抗に影響を与えず、電池の界面インピーダンスに影響を与えない。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒、バインダポリマー樹脂及び光開始剤を主成分として含み、
スラリー中の前記光開始剤の重量比は0.08~1.0wt%であり、前記バインダポリマー樹脂は、PVDF系バインダ樹脂ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリメタクリル酸メチルのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とするコーティングスラリー。
【請求項2】
前記PVDF系バインダ樹脂ポリマーは、PVDFホモポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元コポリマー、ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン三元コポリマーのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項3】
前記光開始剤は、ITX、ベンゾフェノンのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項4】
ベースフィルムと、セラミック層と、接着剤層と、を含み、
前記セラミック層は、前記ベースフィルムの片面又は両面にコーティングされ、前記接着剤層は、前記セラミック層上にコーティングされ、前記接着剤層は、請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティングスラリーをコーティングすることにより形成される、ことを特徴とするコーティングセパレータ。
【請求項5】
前記接着剤層中の前記光開始剤の重量比は0.05~0.3wt%である、ことを特徴とする請求項4に記載のコーティングセパレータ。
【請求項6】
前記接着剤層は前記セラミック層上に間隔をおいて分布している、ことを特徴とする請求項5に記載のコーティングセパレータ。
【請求項7】
接着剤層とギャップとの面積比が1:1~5:1であり、前記ギャップは、隣接する2つの接着剤層の間のギャップである、ことを特徴とする請求項7に記載のコーティングセパレータ。
【請求項8】
前記セラミックス層は無機材料を含み、前記無機材料はシリカ、アルミナ、ベーマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、及びナノファイバーのいずれか1種又はそれらの組み合わせである、ことを特徴とする請求項4に記載のコーティングセパレータ。
【請求項9】
ベースフィルムと、セラミック層と、接着剤層と、を含み、前記セラミック層は前記ベースフィルムの片面又は両面にコーティングされ、前記接着剤層は、前記セラミック層上にコーティングされ、
接着強度が15gf/25mm以上、破膜温度が180℃よりも高く、シート抵抗が1.4Ω・cm
2以下である、ことを特徴とするコーティングセパレータ。
【請求項10】
(1)片面又は両面にセラミック層がコーティングされたベースフィルムを提供するステップと、
(2)スラリーの製造:バインダポリマー樹脂5~30wt%以下、光開始剤0.08~1.0wt%を溶媒に加え、十分に溶解して、コーティングスラリーを得るステップと、
(3)コーティング:上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層上にコーティングし、前記セラミック層上に接着剤層を形成するステップと、
(4)紫外線架橋:コーティング後のベースフィルムを紫外線照射により架橋反応させ、対応するコーティングセパレータを得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項4~8のいずれか1項又は請求項9に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項11】
前記ステップ(3)におけるコーティングは、具体的には、上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層の全面にコーティングし、前記セラミック層の全面に接着剤層を形成する全面コーティングである、ことを特徴とする請求項10に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項12】
前記ステップ(3)におけるコーティングは、具体的には、上記で製造されたコーティングスラリーを、接着剤層が間隔をおいて形成された前記セラミック層上にギャップコーティングするギャップコーティングである、ことを特徴とする請求項10に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項13】
使用される紫外線の波長が210nm~420nmの範囲であり、紫外線架橋時間が0.001s~10sであり、照射光強度が50mj/cm
2以上である、ことを特徴とする請求項10に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項14】
請求項4~8のいずれか1項又は請求項9に記載のコーティングセパレータと、正極と、負極と、電解液とを含む、ことを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池のセパレータの技術分野に関し、特に、電池のセパレータをコーティングするためのコーティングスラリー、上記スラリーでコーティングされたセパレータ、セパレータの製造方法、及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のセパレータはリチウムイオン電池の4つの重要な部品の1つで、リチウムイオン電池で、正極と負極を仕切り、リチウムイオンを通過させ、電子を絶縁するという役割を果たす。セパレータの性能の優劣はリチウムイオン電池の性能に直接影響し、リチウムイオン電池の発展を制限する重要技術の1つである。
【0003】
ハイブリッド自動車(HEVHybrid Electric Vehicle、)、電気自動車(EV:Electric Vehicle、)、エネルギー貯蔵分野に応用されるリチウムイオン電池のセパレータは、高耐熱性、低インピーダンス、高接着性などの性能を持つ必要がある。
【0004】
しかし、現在のセパレータの耐熱性はまだ理想的ではないため、セパレータの耐熱性をどのように効果的に高めるかは、業界で解決すべき技術的問題になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電池のセパレータの耐熱性を向上させるコーティングスラリー、コーティングセパレータ、それらの製造方法及び電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様によれば、溶媒、バインダポリマー樹脂及び光開始剤を主成分として含み、スラリー中の前記光開始剤の重量比は0.08~1.0wt%であり、前記バインダポリマー樹脂は、PVDF系バインダ樹脂ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリメタクリル酸メチルのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む、コーティングスラリーを提供する。
【0007】
いくつかの実施例では、前記PVDF系バインダ樹脂ポリマーは、PVDFホモポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元コポリマー、ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン三元コポリマーのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む。
【0008】
いくつかの実施例では、前記光開始剤は、ITX、ベンゾフェノンのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む。
【0009】
本発明の第2態様によれば、ベースフィルムと、セラミック層と、接着剤層と、を含み、
前記セラミック層は、前記ベースフィルムの片面又は両面にコーティングされ、前記接着剤層は、前記セラミック層上にコーティングされ、前記接着剤層は、第1態様及びその可能な形態に記載のコーティングスラリーをコーティングすることにより形成される、コーティングセパレータを提供する。
【0010】
いくつかの実施例では、前記接着剤層中の前記光開始剤の重量比は0.05~0.3wt%である。
【0011】
いくつかの実施例では、前記セラミック層の全面に前記接着剤層がコーティングされている。
【0012】
いくつかの実施例では、前記接着剤層は前記セラミック層上に間隔をおいて分布している。
【0013】
いくつかの実施例では、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:1~5:1であり、前記ギャップは、隣接する2つの接着剤層の間のギャップである。
【0014】
いくつかの実施例では、前記セラミック層の材料は、無機材料、アクリル酸エステル系接着剤、ポリアクリル酸系接着剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤、消泡剤を含む。
【0015】
いくつかの実施例では、前記無機材料は、シリカ、アルミナ、ベーマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、及びナノファイバーの1種又は複数種であってもよい。
【0016】
いくつかの実施例では、前記ベースフィルムは、PPベースフィルム又はPEベースフィルム、又はPP/PE/PP複合ベースフィルムである。本発明の第3態様によれば、ベースフィルムと、セラミック層と、接着剤層と、を含み、前記セラミック層は前記ベースフィルムの片面又は両面にコーティングされ、前記接着剤層は、前記セラミック層上にコーティングされ、接着強度が15gf/25mm以上、破膜温度が180℃よりも高く、シート抵抗が1.4Ω・cm2以下である、コーティングセパレータを提供する。
【0017】
本発明の第4態様によれば、
(1)片面又は両面にセラミック層がコーティングされたベースフィルムを提供するステップと、
(2)スラリーの製造:バインダポリマー樹脂5~50wt%以下、光開始剤0.08~1.0wt%を溶媒に加え、十分に溶解して、コーティングスラリーを得るステップと、
(3)コーティング:上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層上にコーティングし、前記セラミック層上に接着剤層を形成するステップと、
(4)紫外線架橋:コーティング後のベースフィルムを紫外線照射により架橋反応させ、対応するコーティングセパレータを得るステップと、を含む、上記の第2態様及びその可能な形態、又は第3態様に係るコーティングセパレータの製造方法を提供する。
【0018】
いくつかの実施例では、前記ステップ(3)におけるコーティングは、具体的には、上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層の全面にコーティングし、前記セラミック層の全面に接着剤層を形成する全面コーティングである。
【0019】
いくつかの実施例では、前記ステップ(3)におけるコーティングは、具体的には、上記で製造されたコーティングスラリーを、接着剤層が間隔をおいて形成された前記セラミック層上にギャップコーティングするギャップコーティングである。
【0020】
いくつかの実施例では、使用される紫外線の波長が210nm~420nmの範囲であり、紫外線架橋時間が0.001s~10sであり、照射光強度が50mj/cm2以上である。
【0021】
本発明の第5態様によれば、上記第2態様及びその可能な態様又は第3態様に係るコーティングセパレータと、正極と、負極と、電解質と、を含む、電池を提供する。
【発明の効果】
【0022】
従来技術と比較して、本発明は少なくとも以下の技術的効果を有する。
【0023】
本発明によるコーティングスラリー及びコーティングセパレータでは、スラリー中の光開始剤の重量比を0.08~1.0wt%とすることにより、この重量比の範囲では、スラリーをベースフィルムにコーティングした後、光開始剤は、基材層(セラミックス層及びベースフィルム)に確実に浸透し、それによって、ベースフィルム、セラミック層及びその結合界面層内に十分な活性ラジカルを光開始剤が生成することを確保し、光開始効率と架橋度を十分にし、セパレータ全体の完全な架橋効果を確保し、製品の破膜温度を大きく上昇させる一方、接着剤層中に残存する光開始剤の含有量が多くないので、セパレータのシート抵抗に影響を与えず、電池の界面インピーダンスに影響を与えない。
【0024】
さらに好ましい態様では、本発明は、前記接着剤層中の光開始剤の重量比が0.05~0.3wt%であることによって、製品が破膜温度を上昇させても、セパレータのシート抵抗にほとんど影響を及ぼさないようにする、コーティングセパレータを提供する。
【0025】
さらに好ましい態様では、本発明によるコーティングセパレータ、及びコーティングセパレータの製造方法において、接着剤層はセラミック層上にギャップコーティングされている、すなわち接着剤層はセラミック層上に長尺状に間隔を置いて分布している。ギャップコーティングは、全面コーティングと比較して、毛細管現象を利用してより良好な浸透効果を達成し、スラリーをベースフィルムにコーティングした後、光開始剤が基材層(セラミック層及びベースフィルム)内により確実に浸透することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
以下では、図面及び特定の実施形態を参照して本発明をさらに説明する、
【
図1】本発明の一実施例によるコーティングセパレータの一例構造概略
図1である。
【
図2】本発明の一実施例によるコーティングセパレータの構造概略
図2である。
【
図3】本発明の一実施例によるコーティングセパレータの構造概略
図3である。
【
図4】本発明の一実施例によるコーティングセパレータの構造概略
図4である。
【
図5】本発明の一実施例によるコーティングセパレータの製造方法のフローチャートである。
【
図6A】本発明の一実施例によるコーティングセパレータの製造方法によって得られるコーティングセパレータのSEMトポグラフィー1である。
【
図6B】
図6Aの接着剤層の局所SEMトポグラフィーである、
【
図6C】本発明の一実施例によるコーティングセパレータの製造方法により得られるコーティングセパレータのSEMトポグラフィー2である、
【
図7】セパレータのシート抵抗試験のフィッティング曲線の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施例における技術的解決手段を明確かつ完全に説明するが、説明される実施例は本発明の一部の実施例にすぎず、全ての実施例ではないことは明らかである。当業者が本発明の実施例に基づいて創造的な労働を行わずに得る他のすべての実施例は本発明の保護の範囲に属する。
【0028】
出願人は、本願を提出する前に、既存のセパレータについて一連の研究及び実験を行う。
【0029】
ここで、耐熱性を確保するために、まずPP、PEまたはPP/PE/PPベースフィルムの両面または片面にセラミック層をコーティングすることで耐熱性を確保し、次に、接着性を満足するようにセラミック層上にバインダ樹脂をコーティングするCCS+NIPS積層コーティングによる製造プロセスを採用する。しかし、得られた製品の破膜温度は依然として限られている。
【0030】
また、高耐熱性バインダ樹脂(例えば、ポリエーテルイミド)と光開始剤をベースフィルム上にコーティングし、UV架橋する油性混合コーティングは別の方法である。しかし、従来の油性混合コーティングプロセスでは、製品の総合的性能は良くない。
【0031】
セパレータの耐熱性が劣るという問題を解決するために、出願人は、従来の高耐熱性バインダ樹脂を超高耐熱性バインダ樹脂(例えばポリエーテルイミド)に変更するなど、一連の理論的研究と実験的検証を行ったが、耐熱性の向上はあまり見られなかった。
【0032】
更なる研究手段として、バインダポリマー樹脂の含有量の変更を試みたが、耐熱性の向上はあまり見られなかった。
【0033】
したがって、本願の技術的解決手段は、積層コーティング製造プロセスと油性混合コーティングプロセスに存在する上記の問題を研究し、一連の研究と実験を経て得られたものであり、セパレータの耐熱性をいかに高めるかの問題を解決することを目的としている。
【0034】
出願人は、実験による検証と分析を経て、CCS+NIPS積層コーティング製造プロセスと油性混合コーティングプロセスの利点を組み合わせた結果、まず、PP、PE又はPP/PE/PPベースフィルムの両面又は片面にセラミック層をコーティングし、その後、光開始剤を添加したバインダポリマー樹脂スラリーをセラミック層上にコーティングし、紫外線照射により架橋反応を開始させ、対応するコーティングセパレータを得る、コーティングセパレータの新しい製造プロセスを革新的に見出した。このプロセスは、CCS+NIPS積層コーティング製造プロセスと油性混合コーティングプロセスの利点を組み合わせ、セパレータの耐熱性と破膜温度を改善する。しかし、このプロセスでも、セパレータの耐熱性の向上はあまり見られなかった。出願人は、さらに研究開発と試験を行った結果、光開始剤の添加量が製品の性能に与える影響が極めて重要であり、光開始剤の添加量が多すぎると、得られたセパレータの作動中に副反応が発生して、製品の性能に影響し、光開始剤の添加量が少なすぎると、セラミック層に浸透する光開始剤の量が十分でなく、架橋反応が不十分であり、耐熱性に影響を与える。一方、バインダポリマー樹脂スラリーのコーティング方式(全面コーティング、ギャップコーティングなど)も生産コストや製品の総合的性能に影響を与えることを見出した。
【0035】
このことから、出願人は、CCS+NIPS積層コーティング製造プロセスと油性混合コーティングプロセスの利点を組み合わせた上で、光開始剤の含有量及びコーティング方式を最適化した。なお、上記の技術的課題の発見及び研究の過程も、発明の進歩性を有する要素の1つとすべきである。
【0036】
以下、本発明の技術的解決手段態様について、具体的な実施例を用いて詳細に説明する。以下のいくつかの具体的な実施例は、互いに組み合わされてもよく、いくつかの実施例では、同じ又は同様の概念又はプロセスについては、もはや説明しないことがある。
【0037】
本発明の実施例では、溶媒、バインダポリマー樹脂及び光開始剤を主成分として含み、
スラリー中の前記光開始剤の重量比は0.08~1.0wt%であり、前記バインダポリマー樹脂は、PVDF系バインダ樹脂ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリメタクリル酸メチルのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む、コーティングスラリーを提供する。
【0038】
ここで、前記PVDF系バインダ樹脂ポリマーは、PVDFホモポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元コポリマー、ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン三元コポリマーのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む。
【0039】
前記バインダポリマー樹脂の添加量は5~50wt%である。例えば、前記バインダポリマー樹脂の添加量は、5wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%、28wt%、30wt%、40wt%、50wt%のうちの任意の点値、及び任意の2つの点値の間の範囲であってもよい。もちろん、本発明はこれに限定されるものではなく、他のバインダポリマー樹脂の添加量も本発明の保護範囲内であり、スラリー中の光開始剤の重量比が0.08~1.0wt%であればよい。
【0040】
なお、本願の前記バインダポリマー樹脂は、従来のPVDF系バインダ樹脂ポリマーに加えて、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリメタクリル酸メチル等のポリマーをバインダポリマー樹脂として選択しており、これらのポリマーは、極めて強力な接着性を有し、しかも、超高耐熱性、良好な電気化学的性能を有し、製品の総合的な性能改善に役立つ。
【0041】
前記光開始剤は、ITX、ベンゾフェノンのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む。光開始剤の添加量は、セパレータの性能と密接に関連しており、光開始剤の添加量が少なすぎると、架橋硬化の程度が不十分で、破膜温度の改善は予期通りにならず、光開始剤の添加量が多すぎると、光開始剤がセパレータに過剰に残存してしまい、コストアップにつながる。既存のプロセスでは、光開始剤の実際の添加量は通常1.0wt%以上である。本発明は、光開始剤のメカニズムを研究し、製品の性能と組み合わせた結果、スラリー中の光開始剤の重量比が0.08~1.0wt%の範囲内である場合、このようなスラリーをコーティングして得られる接着剤層中の光開始剤の接着剤層中の重量比が0.05~0.3wt%であり、この場合、製品の性能が最適であることを明らかにした。
【0042】
例えば、前記光開始剤のスラリーへの添加量は、0.08wt%、0.1wt%、0.2wt%、0.3wt%、0.4wt%、0.5wt%、0.6wt%、0.7wt%、0.8wt%、0.9wt%、1.0wt%のうちの任意の点値、及び任意の2点値の間の範囲である。
【0043】
いくつかの実施例では、前記溶媒はNMP溶媒である。
【0044】
図1~
図4に示すように、本発明は、また、ベースフィルム10と、セラミック層20と、接着剤層30と、を含み、前記セラミック層20は、ベースフィルムの片面(
図1、
図3に示す)又は両面(
図2、
図4に示す)にコーティングされ、前記接着剤層30は、前記セラミック層20の上にコーティングされ、前記接着剤層30は、上記第1態様及びその可能な態様におけるコーティングスラリーをコーティングすることにより形成される、コーティングセパレータを提供する。
【0045】
ここで、前記接着剤層30中の前記光開始剤の重量比は0.05~0.3wt%である。光開始剤は、スラリーをセラミック層にコーティングする瞬間に溶媒とともに基材層(セラミック層20及びベースフィルム10)に迅速かつ均一に浸透することができ、それによって、光開始剤がベースフィルム層、セラミック層、及びそれらの結合界面層内で十分な活性ラジカルを発生させることを確保し、光開始効率と架橋度を十分にし、セパレータ全体の完全な架橋効果を確保し、製品の破膜温度を最大限向上させる。また、接着剤層全体中の光開始剤量は0.05~0.3wt%の範囲に維持される(例えば、接着剤層中の光開始剤の含有量は0.05%、0.15%、0.18%、0.25%、0.29%、0.3%の任意の点値及び任意の2つの点値の間の範囲であってもよい)。出願人は、研究した結果、この範囲内の割合の光開始剤では、十分なラジカルを生成し、光開始効率及び架橋度を高め、製品の破膜温度を最大限に向上させることができるだけではなく、セパレータのシート抵抗に影響を及ぼさず、この使用量の範囲を超えると、セパレータのシート抵抗が明らかに上昇して、電池の界面インピーダンスに影響を与え、この範囲を下回ると、製品の架橋度が十分になり、破膜温度が改善されないことを見出した。
【0046】
また、出願人は、前記接着剤層30中の光開始剤の重量比が0.05~0.3wt%である場合、接着剤層の被覆率と製品の物性とは密接な関係にあり、被覆率が高いほど製品の表層の接着強度が高くなり、導入される光開始剤量も多くなり、被覆率が高いほど空隙率が低く、通気増分が大きく、電解液の浸潤速度が遅くなるため、スラリーのコーティング方法がもたらす影響も非常に重要であることにも留意している。製品の個々の物性や開始剤導入量の制御を総合的に考慮する必要がある。
【0047】
これに基づいて、1つの特定実施例では、
図1及び
図2に示すように、前記セラミック層20の全面に亘って前記接着剤層30がコーティングされている。
【0048】
1つの特定実施例では、
図3及び
図4に示すように、前記セラミック層20上に長尺状に間隔をおいて分布している前記接着剤層30は前記セラミック層20上にギャップコーティングされている。
【0049】
1つの特定実施例としては、長尺状接着剤層とギャップとの面積比は1:1~5:1であり、前記ギャップは、隣接する2つの長尺状接着剤層の間のギャップである。具体的には、長尺状接着剤層とギャップとの面積比は、例えば、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1としてもよい。前記セラミック層20上に接着剤層30を長尺状に間隔をおいて分布させることにより、毛細管現象を十分に利用して、溶媒の浸潤性を高めて、基材層への溶媒の浸透性を向上させることができる。また、コーティング原料の使用量を減らし、生産コストを下げる。接着力は、接着強度が15gf/25mm以上であるなど、設計上の要件を満たす。
【0050】
前記セラミック層20の材料は、無機材料、アクリル酸エステル系接着剤、ポリアクリル酸系接着剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤と消泡剤を含む。具体的には、無機材料は、シリカ、アルミナ、ベーマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、及びナノファイバーのいずれか1種又はそれらの組み合わせである。
【0051】
前記ベースフィルムは、PPベースフィルム、PEベースフィルム、又はPP/PE/PP複合ベースフィルムである。前記基材の厚さは5~20μmであり、1つの可能な実施形態として、前記セラミック層20の厚さは、例えば1~6μmであり、前記接着剤層30の厚さは、例えば0.5~3μmであり、かつ、接着剤層30が前記セラミック層20上に長尺状に間隔をおいて分布している場合、前記接着剤層30の厚さは0.5~2μmであることが好ましく、これにより、基材層中に浸透する光開始剤が相当量となる。
【0052】
もちろん、ギャップコーティングの場合、接着剤層が前記セラミック層上に長尺状に間隔を置いて分布しているのは、本発明の一実施例に過ぎず、ギャップコーティングは、長尺状のギャップコーティングに限らず、他の実施例では、ドット状のギャップコーティングであってもよく、すなわち、接着剤層30はセラミック層20上にドット状に分布していてもよく、ドット状のギャップコーティングにより得られたセパレータの表面のSEMトポグラフィーは
図6Cに示されている。
【0053】
本発明によるコーティングスラリー及びコーティングセパレータでは、スラリー中の光開始剤の重量比を0.08~1.0wt%とすることにより、この重量比の範囲では、スラリーをベースフィルムにコーティングした後、光開始剤は、基材層(セラミックス層及びベースフィルム)に確実に浸透し、それによって、ベースフィルム、セラミック層及びその結合界面層内に十分な活性ラジカルを光開始剤が生成することを確保し、光開始効率と架橋度を十分にし、セパレータ全体の完全な架橋効果を確保し、製品の破膜温度を大きく上昇させる一方、接着剤層中に残存する光開始剤の含有量が多くないので、セパレータのシート抵抗に影響を与えず、電池の界面インピーダンスに影響を与えない。
【0054】
図5に示すように、本発明は、また、以下のステップを含む、前述のコーティングセパレータの製造方法を提供する。
S1:片面又は両面にセラミック層がコーティングされたベースフィルムを提供する。
S2:スラリーの製造:バインダポリマー樹脂5~30wt%以下、光開始剤0.08~1.0wt%を溶媒に加え、十分に溶解して、コーティングスラリーを得る。
S3:コーティング:上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層上にコーティングし、前記セラミック層上に接着剤層を形成する。
S4:紫外線架橋:コーティング後のベースフィルムを紫外線照射により架橋反応させ、対応するコーティングセパレータを得る。
【0055】
いくつかの実施例では、前記ステップ(3)におけるコーティングは、具体的には、上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層の全面にコーティングし、前記セラミック層の全面に接着剤層を形成する全面コーティングである。
【0056】
いくつかの実施例では、前記ステップ(3)におけるコーティングは、具体的には、上記で製造されたコーティングスラリーを、長尺状接着剤層又はドット状接着剤層が間隔をおいて形成された前記セラミック層上にギャップコーティングするギャップコーティングである。接着剤層をセラミック層上にギャップコーティングすることにより、すなわち、接着剤層がセラミック層上に長尺状の間隔又はドット状の間隔を置いて分布していることによって、ギャップコーティングは、全面コーティングと比較して、毛細管現象を利用してより良好な浸透効果を達成し、ベースフィルムにコーティングした後、光開始剤が基材層(セラミック層及びベースフィルム)内により良好に浸透することを可能にする。
【0057】
本発明におけるギャップコーティングによるリチウムイオン電池の紫外線架橋セパレータは、150℃*30minの熱収縮率が5%未満の超高耐熱性、及び180℃を超える超高破膜温度を有し、製品の安全性をさらに向上させる。
【0058】
いくつかの実施例では、使用される紫外線の波長が210nm~420nmの範囲であり、紫外線架橋時間が0.001s~10sであり、照射光強度が50mj/cm2以上である。光開始剤又はその組み合わせ光開始剤は、紫外線励起下でラジカルを速やかに発生させ、ラジカルによって、ベースフィルム層、セラミック層、バインダポリマー樹脂層及びそれらを結合した界面層中の活性基が反応基、懸垂結合、ラジカルを発生させ、グラフト反応、架橋反応を開始させ、高分子網目構造を生成する。架橋反応により生成されたグラフトと高分子網目は、セパレータにより強固な支持フレームを与え、より高い破膜温度や耐熱性を持たせる。
【0059】
紫外線の波長は一定の範囲内で変動するため、他の実施例では、紫外線は210~310nm、250~390nm、280~420nmなどの範囲値であってもよく、波長範囲値が一定の場合、紫外線架橋時間及び照射光強度が架橋効果に与える影響が大きく、紫外線に対して一定の遮蔽作用がある無機粒子が処方に含まれているため、紫外線の強度が50mj/cm2を下回る場合、架橋効果が劣る。
【0060】
図6A~
図6Bには、本発明の実施例におけるコーティングセパレータの製造方法を用いて、ギャップコーティングにより得られたセパレータの表面のSEMトポグラフィーが示されており、
図6Aから明らかなように、接着剤層30はセラミック層20上に長尺状に間隔を置いて分布している。
図6Bから明らかなように、接着剤層は表面に亘って穴が存在する表面接着剤層であり、このようにして、電解液の吸液率を増加させ、通気度を減少させ、電解液の透過性及びリチウムイオンの通過率を向上させることができる。
【0061】
さらに、本発明は、前記コーティングセパレータと、正極と、負極と、電解液と、を含む電池を提供する。
【0062】
以下、本発明のいくつかの実施例の製品の性能を実験的に分析する。
【0063】
実施例1
S1:片面又は両面にセラミック層がコーティングされたベースフィルムを提供し、具体的には、セラミックス材料を溶媒に加え、十分に溶解して、セラミックスラリーを得、次に、セラミックラリーをベースフィルムの片面又は両面にコーティングする。
S2:スラリーの製造:バインダポリマー樹脂5~30wt%以下、光開始剤0.4wt%を溶媒に加え、十分に溶解して、コーティングスラリーを得る。
S3:コーティング:上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層上にギャップコーティングし、間隔を置いて分布している長尺状の接着剤層を前記セラミック層上に形成する。接着剤層中の光開始剤の含有量は0.25wt%であり、長尺状接着剤層とギャップとの面積比は5:1である。
S4:紫外線架橋:コーティング後のベースフィルムを紫外線照射により架橋反応させ、対応するコーティングセパレータを得る。
本実施例では、使用されるベースフィルムは、厚さ10.4μmのPPベースフィルムであり、使用されるセラミック材料はアルミナであり、ベースフィルムの両面にはセラミック層がコーティングされている。前記光開始剤としてITXは使用される。
【0064】
実施例2
実施例1と比べて、実施例2では、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が4:1である点、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.18wt%である点は相違する。実施例2の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0065】
実施例3
実施例1と比べて、実施例3では、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が3:1である点、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.11wt%である点は相違する。実施例3の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0066】
実施例4
実施例1と比べて、実施例4では、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が2:1である点、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.1wt%である点は相違する。実施例4の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0067】
実施例5
実施例1と比べて、実施例5では、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:1である点、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.06wt%である点は相違する。実施例5の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0068】
実施例6
実施例1と比べて、実施例6では、前記スラリー中の光開始剤の含有量が0.8wt%であり、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.29wt%である点は相違する。実施例6の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0069】
実施例7
実施例1と比べて、実施例7では、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:1である点、前記スラリー中の光開始剤の含有量が0.9wt%であり、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.12wt%である点は相違する。実施例7の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0070】
実施例8
実施例1と比べて、実施例8では ギャップコーティングを全面コーティングに変更し、すなわち、接着剤層がセラミック層の全面を覆っており、すなわち、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:0である点、前記スラリー中の光開始剤の含有量が0.10wt%であり、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.08wt%である点は相違する。実施例8の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0071】
実施例9
実施例1と比べて、実施例9では、ギャップコーティングを全面コーティングに変更し、すなわち、接着剤層がセラミック層の全面を覆っており、すなわち、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:0である点、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.39wt%である点は相違する。実施例9の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0072】
実施例10
実施例6と比べて、実施例10では、ギャップコーティングを全面コーティングに変更し、すなわち、接着剤層がセラミック層の全面を覆っており、すなわち、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:0である点、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.78wt%である点は相違する。実施例10の他の態様は実施例6と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0073】
実施例11
実施例7と比べて、実施例11では、ギャップコーティングを全面コーティングに変更し、すなわち、接着剤層がセラミック層の全面を覆っており、すなわち、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:0である点、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.85wt%である点は相違する。実施例11の他の態様は実施例7と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0074】
比較例1
実施例1と比べて、比較例1では、ギャップコーティングを全面コーティングに変更し、すなわち、接着剤層がセラミック層の全面を覆っており、すなわち、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:0である点、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.38wt%である点は相違する。比較例1の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0075】
比較例2
実施例1と比べて、比較例2では、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:1である点、前記スラリー中の光開始剤の含有量が0.04wt%であり、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が0.03wt%である点は相違する。比較例2の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0076】
比較例3
実施例1と比べて、比較例3では、長尺状接着剤層とギャップとの面積比が1:1である点、前記スラリー中の光開始剤の含有量が3.0wt%であり、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が2.80wt%である点は相違する。比較例3の他の態様は実施例1と同じであるので、ここではこれ以上言及しない。
【0077】
表1には、上記の実施例1~11及び比較例1~3で得られた対応するセパレータの性能が示されている。
その中で、担持量の試験方法は、具体的には、電子天秤による担持量試験を行うことである。具体的には、
まず、セラミック層がコーティングされたセパレータの面密度を試験し、すなわち、コーティングセラミック膜を297mm*幅210mmのサイズの試験片に裁断し、試験片フィルムを丸めてボールにしてから、計量台に置いて計量し、重量m1を記録し、面密度M1(単位g/m2)を、式Ps=M/(長さ*幅*10-6)により計算し、上記同様の方法により、コーティング後のセパレータの面密度M2を測定した。
担持量の計算:M2-M1。
【0078】
150℃*30minの熱収縮率の試験方法は、具体的には、以下の通りである。まず、セパレータの横方向及び縦方向に沿って、セパレータを50mm*50mmのサイズの試験サンプルに裁断し、次に、裁断したサンプルをA4用紙の間に挟み、上下にA4用紙を5枚ずつ敷いた。続いて、オーブン温度を150℃に設定して、温度を設定温度まで上昇し、十分に予熱して、その内部温度を安定して設定温度に維持した。さらに、サンプルがオーブンの上層の真ん中に置かれるが、下層に置かないように、A4用紙の間に挟み込まれたサンプルをA4用紙と一緒にオーブンに素早く入れた直後、オーブンドアを閉めた。オーブンドアを閉めた後、試験要求に従って試験時間30minを設定し、時間が切ると、オーブンからサンプルフィルムを取り出し、室温まで冷却した後、フィルムを軽く平らにし、横方向/縦方向のセパレータのエッジ間の距離を計量し、データを記録し、熱収縮率を計算した。熱収縮率の計算式:熱収縮率%=(標記間の初期長さ-標記間の加熱後長さ)/標記間の初期長さ×100%。
吸液はセパレータの電解液への吸着量の性能を表す。吸液試験方法:150mm*150mm(s=0.0225m2)のサイズの測定対象セパレータサンプルを裁断し、重量m1を計量して記録した。測定対象セパレータサンプルを電解液に1時間浸した。電解液を浸したセパレータを取り出して、ペーパータオルで余分な電解液を拭き取った。拭き取った後のセパレータサンプルを計量して重量m2を記録し、吸液率(単位g/m2)を計算した。吸液率=(m2-m1)/s。
【0079】
接着力の試験方法は以下の通りである。測定対象コーティングフィルムのサンプルを標準試験片(コーティングフィルム(25mm*180mm)、極板(20mm*150mm))にして、熱プレス成形機でセパレータのコーティング面と極板を一定の圧力、60℃の温度で接着させ、次に、極板とサンプルの他端を治具でクランプして、引張機のストロークが終わるまで引張力を加えた。引張機のパラメータ設定:定位移動:150mm、試験速度:300mm/min。
【0080】
破膜温度は、一定の力でセパレータを緊張させた(電池内部にある場合の状態を模擬)後、破膜まで徐々に昇温するTMA試験により測定された。
【0081】
セパレータのシート抵抗の試験方法では、電気化学ワークステーションを用いてセパレータのシート抵抗試験を行い、具体的には、以下のステップを含む。
1 サンプル作製:測定対象セパレータサンプルをきれいに折り畳んで、直径47mmの円形シートを4枚裁断する。
2 円形シートを電解液に入れ、密封して1h浸す。
3 試験モジュールを電気化学ワークステーションと接続して、電気化学ワークステーションのインピーダンススペクトル試験ソフトウェアを開いて、インピーダンス試験R1を行い、第1層のインピーダンスを得る。
4 第2層、第3層、第4層を順に入れて、そのインピーダンススペクトルを測定し、それぞれ抵抗値R2、R3、R4を得る。
5 横軸を層数、縦軸を各層数に対応する抵抗値としてプロットし、曲線の傾きAとリニアフィッティング度を求め、リニアフィッティング度が0.999より大きい場合、試験結果を有効とし、そうでない場合、再試験を行う。適合曲線の例を
図7に示す。
ここで、セパレータのシート抵抗値Rの計算式は、R=A.Sである。
【0082】
式中、Rは試験片のシート抵抗(Ω.cm2であり、Aは曲線の傾きであり、Sはセパレータの試験面積(cm2)であり、セパレータの試験面積は有効電極面積=9.616cm2である。
【0083】
イオン伝導率σの計算式はσ=d/Rである。
【0084】
式中、σはイオン伝導率(S/cm)であり、dはセパレータの厚さ(cm)である。
【0085】
【0086】
表1から分かるように、本願は、セパレータ全体の耐熱性を大幅に向上させ、実施例1~実施例8では、150℃*30minの熱収縮率は4%未満であり、また、破膜温度はすべて200℃以上である。そのため、製品は全体として性能が優れている。
【0087】
また、実施例1~7と実施例8~11とを比較すると、前記スラリー中の光開始剤の含有量が本願の含有量の範囲内である場合、全面コーティングにより得られたセパレータは、ほとんど吸液性(浸潤性)が6.2g/m2~6.5g/m2であり、かつシート抵抗が1.2Ω.cm2~2.3g/m2であり、一方、ギャップコーティングにより得られたセパレータは、ほとんど吸液性(浸潤性)が6.3g/m2~7.0g/m2であり、シート抵抗が1.0Ω.cm2~1.4g/m2である。特に、実施例6、と実施例10及び実施例7と実施例11の比較から、ギャップコーティングは、全面コーティングと比較して、より低い生産コストで、高い吸液性(浸潤性)を示し、セパレータのシート抵抗が明らかに低下すると同時に、より優れた接着性を示し、その製品の総合的な性能がより優れていることが分かった。
【0088】
また、実施例1~8と比較例2とを比較すると、前記スラリー中の光開始剤の含有量が本願の最低含有量の範囲を下回り、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が本願の最低含有量の範囲を下回ると、セパレータの破膜温度は著しく低下し、例えば比較例2では、破膜温度は約150℃程度に低下した。一方、実施例1~8及び比較例3の比較から、前記スラリー中の光開始剤の含有量が本願の最高含有量の範囲を上回り、前記接着剤層中の光開始剤の含有量が本願の最高含有量の範囲を上回る場合、接着力が著しく低下し、セパレータのシート抵抗が明らかに増加し、例えば比較例2では、A面の接着強度は30gf/25mm以下に低下し、B面の接着強度は20.1gf/25mmまで低下し、セパレータのシート抵抗は2.4Ω・cm2に達した。したがって、本願のスラリー中の光開始剤の含有量の範囲及び接着剤層中の光開始剤の含有量の範囲では、セパレータ製品の性能は最適である。
【0089】
本明細書の説明において、用語「一実施形態」、「一実施例」、「具体的な実施プロセス」、「一例」などを参照した説明は、当該実施例又は例を参照して説明される特定の特徴、構造、材料、又は特性が本発明の少なくとも1つの実施例又は例に含まれることを意味する。本明細書において、上記の用語の概略的な表現は、必ずしも同じ実施例又は例を指すものではない。さらに、記載された特定の特徴、構造、材料、又は特性は、任意の1つ又は複数の実施例又は例において、適切な方法で組み合わされてもよい。
【0090】
なお、上記の各実施例は、本発明の技術的解決手段を説明するためにのみ使用されており、これらを限定するものではない。前述の各実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者は、前述の各実施例に記載された技術的解決手段を修正したり、その一部若しくは全部の技術的特徴を均等に置換したりすることができることを理解すべきである。これらの修正又は置換は、対応する技術的解決手段の趣旨を本発明の各実施例の技術的解決手段の範囲から逸脱させるものではない。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒、バインダポリマー樹脂及び光開始剤を主成分として含み、
スラリー中の前記光開始剤の重量比は0.08~1.0wt%であり、前記バインダポリマー樹脂は、PVDF系バインダ樹脂ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリメタクリル酸メチルのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とするコーティングスラリー。
【請求項2】
前記PVDF系バインダ樹脂ポリマーは、PVDFホモポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元コポリマー、ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン三元コポリマーのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項3】
前記光開始剤は、ITX、ベンゾフェノンのいずれか1種又はそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項4】
ベースフィルムと、セラミック層と、接着剤層と、を含み、
前記セラミック層は、前記ベースフィルムの片面又は両面にコーティングされ、前記接着剤層は、前記セラミック層上にコーティングされ、前記接着剤層は、請求項
1に記載のコーティングスラリーをコーティングすることにより形成される、ことを特徴とするコーティングセパレータ。
【請求項5】
前記接着剤層中の前記光開始剤の重量比は0.05~0.3wt%である、ことを特徴とする請求項4に記載のコーティングセパレータ。
【請求項6】
前記接着剤層は前記セラミック層上に間隔をおいて分布している、ことを特徴とする請求項5に記載のコーティングセパレータ。
【請求項7】
接着剤層とギャップとの面積比が1:1~5:1であり、前記ギャップは、隣接する2つの接着剤層の間のギャップである、ことを特徴とする請求項
6に記載のコーティングセパレータ。
【請求項8】
前記セラミックス層は無機材料を含み、前記無機材料はシリカ、アルミナ、ベーマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、及びナノファイバーのいずれか1種又はそれらの組み合わせである、ことを特徴とする請求項4に記載のコーティングセパレータ。
【請求項9】
ベースフィルムと、セラミック層と、接着剤層と、を含み、前記セラミック層は前記ベースフィルムの片面又は両面にコーティングされ、前記接着剤層は、前記セラミック層上にコーティングされ、
接着強度が15gf/25mm以上、破膜温度が180℃よりも高く、シート抵抗が1.4Ω・cm
2以下である、ことを特徴とするコーティングセパレータ。
【請求項10】
(1)片面又は両面にセラミック層がコーティングされたベースフィルムを提供するステップと、
(2)スラリーの製造:バインダポリマー樹脂5~30wt%以下、光開始剤0.08~1.0wt%を溶媒に加え、十分に溶解して、コーティングスラリーを得るステップと、
(3)コーティング:上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層上にコーティングし、前記セラミック層上に接着剤層を形成するステップと、
(4)紫外線架橋:コーティング後のベースフィルムを紫外線照射により架橋反応させ、対応するコーティングセパレータを得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項
4に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項11】
前記ステップ(3)におけるコーティングは、具体的には、上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層の全面にコーティングし、前記セラミック層の全面に接着剤層を形成する全面コーティングである、ことを特徴とする請求項10に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項12】
前記ステップ(3)におけるコーティングは、具体的には、上記で製造されたコーティングスラリーを、接着剤層が間隔をおいて形成された前記セラミック層上にギャップコーティングするギャップコーティングである、ことを特徴とする請求項10に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項13】
使用される紫外線の波長が210nm~420nmの範囲であり、紫外線架橋時間が0.001s~10sであり、照射光強度が50mj/cm
2以上である、ことを特徴とする請求項10に記載のコーティングセパレータの製造方法。
【請求項14】
請求項
4に記載のコーティングセパレータと、正極と、負極と、電解液とを含む、ことを特徴とする電池。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
本発明の第4態様によれば、
(1)片面又は両面にセラミック層がコーティングされたベースフィルムを提供するステップと、
(2)スラリーの製造:バインダポリマー樹脂5~30wt%以下、光開始剤0.08~1.0wt%を溶媒に加え、十分に溶解して、コーティングスラリーを得るステップと、
(3)コーティング:上記で製造されたコーティングスラリーを前記セラミック層上にコーティングし、前記セラミック層上に接着剤層を形成するステップと、
(4)紫外線架橋:コーティング後のベースフィルムを紫外線照射により架橋反応させ、対応するコーティングセパレータを得るステップと、を含む、上記の第2態様及びその可能な形態、又は第3態様に係るコーティングセパレータの製造方法を提供する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
前記バインダポリマー樹脂の添加量は5~30wt%である。例えば、前記バインダポリマー樹脂の添加量は、5wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%、28wt%、30wt%のうちの任意の点値、及び任意の2つの点値の間の範囲であってもよい。もちろん、本発明はこれに限定されるものではなく、他のバインダポリマー樹脂の添加量も本発明の保護範囲内であり、スラリー中の光開始剤の重量比が0.08~1.0wt%であればよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0087
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0087】
また、実施例1~7と実施例8~11とを比較すると、前記スラリー中の光開始剤の含有量が本願の含有量の範囲内である場合、全面コーティングにより得られたセパレータは、ほとんど吸液性(浸潤性)が6.2g/m2~6.5g/m2であり、かつシート抵抗が1.2Ω.cm2~2.3Ω.cm
2であり、一方、ギャップコーティングにより得られたセパレータは、ほとんど吸液性(浸潤性)が6.3g/m2~7.0g/m2であり、シート抵抗が1.0Ω.cm2~1.4Ω.cm
2である。特に、実施例6、と実施例10及び実施例7と実施例11の比較から、ギャップコーティングは、全面コーティングと比較して、より低い生産コストで、高い吸液性(浸潤性)を示し、セパレータのシート抵抗が明らかに低下すると同時に、より優れた接着性を示し、その製品の総合的な性能がより優れていることが分かった。
【国際調査報告】