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特表2024-524157車両のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法並びに装置およびコンピュータプログラム
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  • 特表-車両のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法並びに装置およびコンピュータプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】車両のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法並びに装置およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20240628BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20240628BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
G01M17/007 J
B60T17/22 Z
F16D66/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578066
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2022066143
(87)【国際公開番号】W WO2023274714
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】102021206661.5
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】サンカラ,デヴィ ラジ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイセンバッハー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】シェーア,ミルコ
(72)【発明者】
【氏名】ツェヒリン,ハネス-セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】レーナー,シュテファン-ゲオルグ
【テーマコード(参考)】
3D049
3J058
【Fターム(参考)】
3D049BB28
3D049HH47
3D049HH48
3D049HH51
3D049QQ04
3D049RR01
3D049RR02
3D049RR04
3D049RR06
3J058BA60
3J058DB02
3J058DB20
3J058DB21
3J058DB25
(57)【要約】
車両(F)のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法において、以下のステップを含み、すなわち時系列データ(Dt)を受信するステップ(S10)であって、前記時系列データ(Dt)が前記車両(F)のブレーキシステムに関わるデータの時系列を含んでいる前記受信するステップ(S10)と、前記時系列データ(Dt)内で少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を識別するステップ(S20)であって、前記時系列データ(Dt)内で識別される各ブレーキイベント(B1,B2)が前記時系列データのブレーキイベントデータ(Db)の時間的データウィンドウに対応し、前記データウィンドウが前記車両(F)の現実のブレーキイベントに関連している前記識別するステップ(S20)と、識別される各ブレーキイベント(B1,B2)に対し予め決定されている演算子を使用して、前記ブレーキイベントデータ(Db)から特徴(M)を決定するステップ(S30)と、前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を、そのために決定された前記特徴(M)を使用して分類するステップ(S40)であって、分類(K)が前記車両(F)の前記ブレーキライニングの摩耗状態に割り当てられている前記分類するステップ(S40)とを含んでいる方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法において、以下のステップを含み、すなわち
時系列データ(Dt)を受信するステップ(S10)であって、前記時系列データ(Dt)が前記車両(F)のブレーキシステムに関わるデータの時系列を含んでいる前記受信するステップ(S10)と、
前記時系列データ(Dt)内で少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を識別するステップ(S20)であって、前記時系列データ(Dt)内で識別される各ブレーキイベント(B1,B2)が前記時系列データのブレーキイベントデータ(Db)の時間的データウィンドウに対応し、前記データウィンドウが前記車両(F)の現実のブレーキイベントに関連している前記識別するステップ(S20)と、
識別される各ブレーキイベント(B1,B2)に対し予め決定されている演算子を使用して、前記ブレーキイベントデータ(Db)から特徴(M)を決定するステップ(S30)と、
前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を、そのために決定された前記特徴(M)を使用して分類するステップ(S40)であって、分類(K)が前記車両(F)の前記ブレーキライニングの摩耗状態に割り当てられている前記分類するステップ(S40)と、
を含んでいる方法。
【請求項2】
前記ブレーキシステムに関わるデータが、前記車両(F)のセンサデータ、制御器データおよび/またはブレーキシステムデータを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記センサデータを、ブレーキマスタシリンダ圧力センサ、タイヤ回転数センサ、車両慣性センサおよび/またはブレーキシステムセンサから提供する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ブレーキシステムデータが、ブレーキシステムステータスおよび/またはブレーキシステムフラグを含んでいる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのブレーキイベントを識別するステップが、
少なくとも1つのブレーキトリガー(T)の受信であって、前記ブレーキトリガー(T)が前記車両(F)の現実のブレーキイベントに関連している前記受信と、
受信した前記少なくとも1つのブレーキトリガー(T)を使用しての前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)の識別と、
を含んでいる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのブレーキトリガー(T)が、制動灯スイッチの状態、前記車両の縦方向加速度および/または原動機状態を含んでいる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ブレーキイベント(B1,B2)に関係づけることができない余計な時系列データ(Dt)の排除を含んでいる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記特徴(M)の決定に適していない時系列データ(Dt)の排除を含んでいる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
決定した前記特徴(M)のそれぞれに対する適合性の関係付けと、
前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を分類するために、最も高い適合性を持つ、事前に設定した数量の前記特徴(M)を使用することと、
を含んでいる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
時系列データ(Dt)を受信するステップが、
受信した前記時系列データ(Dt)のメモリ(20)内への記録を含み、
前記メモリ(20)が使い果たされていない限り、または、対応する前記時系列データ(Dt)の前記特徴が決定されていない限り、前記時系列データ(Dt)をメモリ内で保持する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記車両(F)のブレーキヒストリーを考慮して、前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を分類する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
温度データ(Dtemp)の受信であって、前記温度データ(Dtemp)が、前記ブレーキライニングの温度、前記車両のブレーキディスクの温度および/または前記車両の周囲温度を含んでいる前記温度データ(Dtemp)の受信と、
前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を、そのために決定された前記特徴(M)と、対応する前記温度データ(Dtemp)とを使用して分類することと、
を含んでいる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実施するために設置されている、車両(F)のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための装置(100)。
【請求項14】
コンピュータによってコンピュータプログラムを実施する際に、前記コンピュータをして請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実施させる命令を含んでいる前記コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための、特に連続的に観察するための方法並びにこのための装置およびコンピュータプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば乗用車または商用車のような車両で使用される液圧式ブレーキシステムは、摩擦によって発生させたトルクで車輪を減速させるように設計されている。ブレーキキャリパーは、通常、ブレーキライニングを回転しているロータに向かって、特に車輪と固定結合されているブレーキディスクに向かって移動させる。したがって、ブレーキライニングとブレーキディスクとの間に摩擦による表面接触が形成される。熱伝導性のブレーキライニングは、長寿命のブレーキシステムを保証するために、摩耗を前提として設計されている。車両安全性、エラー回避、ブレーキキャリパー・ロータシステムの寿命の最大化、車両監視および保守、並びに、フリートマネジメントおよびサプライチェーンマネジメントに対する要求を満たすには、ブレーキライニングの摩耗を監視することが必要である。
【0003】
ブレーキライニングの摩耗認定は、実質的に直接的認定アプローチと間接的認定アプローチとの組み合わせに基づいている。ライニング材の厚さは、ハードウェアセンサで直接的に測定または監視できる(直接走査)。間接的な測定方法は、ライニング厚またはライニングの摩耗状態を、事前に設定したシステムパラメータおよび周辺センサのデータから導出する。
【0004】
慣用のブレーキライニング摩耗センサ、BPWSは、ライニングの摩耗方向に対し垂直にブレーキライニングの摩擦材の中に埋設されている電気回路を含んでいる。センサは、通常のようにブレーキライニングの背板上に、または、そのすぐ近くに取り付けられている。BPWSは、ライニングの摩耗状態を分類するために、複数の段階を持つことができ、これらの段階は、ブレーキライニングの摩耗によって電気回路が破壊されたときに階段状の抵抗変化から生じる。これらのセンサ自体がライニング摩耗の進行中に破壊される(破壊式走査)。
【0005】
非破壊走査のアプローチは、ライニング厚の直接的測定または間接的測定とは異なる方式を利用するセンサシステムを含んでいる。たとえば、超音波技術をベースにした位置センサまたは距離センサがある。
【0006】
センサ信号の評価を、比較的複雑なソフトウェアアルゴリズムと組み合わせることがある。実際のアルゴリズムは、通常、補助的なハードウェアセンサか、或いは、他のセンサからの測定量およびブレーキシステムから提供される量に依拠するソフトウェアルゴリズムかのいずれか一方によるブレーキディスクの表面温度に関わる。ブレーキディスク温度モデル、BTMは、ブレーキライニングによってもたらされる物理学的仕事量およびディスク放射冷却からディスク温度を導出するために使用される。BTMのメインパラメータは、車輪特性、ライニング特性、ブレーキシステム特性に関わる係数を除く、押圧力、車輪速度、周囲温度である。
【0007】
ブレーキライニング摩耗ΔWzは、物理学的モデリングから導出される。第一次近似では、ΔWzは、ブレーキイベント中に分散されるエネルギーEbに線形的に依存しており、すなわち各ブレーキングに対しΔWz∝Ebである。このモデルの比例定数Kは、通常は圧力、車輪回転数、ディスク温度に依存しており(BTMによって与えられる)、普通は多項式で近似される。現在の時点t0での1つのブレーキライニングの全摩耗は、それ以前に実施されたすべてのブレーキイベントのΔWz評価の総和によって導出される(積分アプローチ)。多段のBPWSは、かなりの不確実性を孕んでいるモデル予測を段階的に再校正するためにも、ブレーキライニングが完全に摩耗したときの安全ユニット(ドライバー警告)としても使用される。
【0008】
ただし、ブレーキライニングの全摩耗を算出するための積分アプローチは、ブレーキライニングを同じタイプ(銘柄、型式)の新しいブレーキライニングと交換するという仮定に基づいている。他のタイプの既に摩耗したブレーキライニングを使用すれば、取り付けた型式を最初に新たに校正することが必要であろうし、このことは現今の実装装置に克服できる対処法ではない。第2に、モデル予測のいくつかのシステム上の不確実性またはモデル化されていないブレーキライニング挙動が組み合わされ、このことは測定不確実性をBPWS測定によるモデル再校正にまで連続的に増大させる。加えて、現今のBTM実装装置は、評価されるブレーキディスク温度に対し高い不確実性(≦100k)を有している。それ故、BTM実装装置は、ASIL-A-Standard(Automotive Safety Integration Level:自動車安全性要求レベル)を満たすにすぎない。その代わり、BTMの代わりにブレーキディスク温度用のハードウェアセンサを使用すると、生産コストが高く上昇する。最後に、ブレーキライニングのライニング材の中に組み込まれている内部のBPWSは、ブレーキライニングの摩耗とともに消耗する。それ故、ライニングを交換すればセンサを交換せねばならず、これは結果的に生じる保守コストを上昇させる。
【発明の概要】
【0009】
本発明の1つの観点によれば、車両のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法は以下のステップを含んでいる。1つのステップで、時系列データを受信し、この場合時系列データは車両のブレーキシステムに関わるデータの時系列を含んでいる。更なるステップで、時系列データ内で少なくとも1つのブレーキイベントを識別し、この場合時系列データ内で識別される各ブレーキイベントは、時系列データのブレーキイベントデータの時間的データウィンドウに対応し、その際データウィンドウは車両の現実のブレーキイベントに関連している。更なるステップで、識別される各ブレーキイベントに対し予め決定されている演算子を使用して、ブレーキイベントデータから特徴を決定する。更なるステップで、前記少なくとも1つのブレーキイベントを、そのために決定された特徴を使用して分類し、この場合分類は車両のブレーキライニングの摩耗状態に割り当てられている。
【0010】
ここで使用するような「ブレーキライニングの摩耗状態」という概念は、特にブレーキライニングの厚さを含んでいる。
【0011】
このように、時系列データは、複数のタイムステップにわたって1つのソースの多数のデータセットを含んでいる。
【0012】
換言すれば、決定した特徴は、1つのブレーキイベントの間における車両の、特にブレーキシステムのシステム挙動を記述している。決定した特徴に基づいて、分析したブレーキイベントを分類することができ、或いは、換言すれば、ブレーキイベントの特質に関しステートメントを表明することができる。ブレーキイベントの特質はブレーキライニングの摩耗状態に直接関連しているという仮定の下に、ブレーキイベントの分類に基づいて、ブレーキディスクの摩耗状態に関するステートメントを表明する。
【0013】
好ましくは、少なくとも1つのブレーキイベントの分類は、そのために決定した特徴を利用した、マシーン・ラーニング・モデルによる、特に予めトレーニングしたマシーン・ラーニング・モデルによる少なくとも1つのブレーキイベントの分類を含んでおり、この場合マシーン・ラーニング・モデルは、少なくとも1つのブレーキイベントの各分類に対し確率を特定し、特定した確率を使用して少なくとも1つのブレーキイベントにランクを割り当てる。
【0014】
好ましくは、マシーン・ラーニング・モデルを、初期の乗り始めの段階の間に、たとえば最初の10000kmの間に、自動的にトレーニングする。さらに好ましくは、マシーン・ラーニング・モデルを、ブレーキライニングの交換後に、たとえばブレーキライニング交換後の最初の10000kmの間に、自動的にトレーニングする。
【0015】
マシーン・ラーニング・モデルのマシーン・ラーニング・アルゴリズムは、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク、ランダムフォレストなどの方式を使用することができる。車両のアクティブなブレーキライニング状態監視システム内に実装されているモデルは、車両システムを市場供給する前に予めトレーニングしてよく、または、車両の乗り始めの段階の間に自己学習してよい。
【0016】
時系列データ、すなわち入力データは、時系列Sk(t)によって、個々に異なる走査を用いて表される。インデックスk∈Nは、k番目の信号源またはデータ源を示している。変数tは時間を示している。時系列データのすべてのデータタイプは、ブレーキシステムに関わるハードウェアまたは制御ソフトウェアによって提供され、これにはたとえば慣性測定ユニットのような標準的な車両状態データ源または周辺データ源が含まれている。
【0017】
好ましくは、1つのブレーキイベントは10秒以下の長さを有し、さらに好ましくは5秒以下の長さを有する。
【0018】
時系列データは、各データウィンドウ内のすべての時系列データに対し導出される統計学的特徴によって特徴づけられる。特徴を決定するために考慮される統計学的評価または数学的演算子は、たとえば分位数、標準偏差、平均値、最小値および/または最大値を含んでいる。
【0019】
各ブレーキイベントに対して、すなわちデータウィンドウに対して、特徴、或いは、特に最適化した特徴のセットを、イベント分類のために予めトレーニングされたマシーン・ラーニング・モデルに提供する。マシーン・ラーニング・モデルは、好ましくは、分類問題のための標準方式である、監視されるロジスティック回帰クラシファイアーを使用する。トレーニングしたロジスティック回帰モデルは数値的複雑性および演算的複雑性が少ないため、このようにして、制御器に埋設して実装することが容易になる。分類アルゴリズムの択一的バージョンは、他の監視されるマシーン・ラーニング・分類器を使用してよく、たとえば車両内部の実装でも、外部の、たとえばクラウドをベースにした実装でもランダムフォレストを使用してよい。分類器の一般的な事前トレーニングを避けるため、すなわちブレーキイベントの分類の事前トレーニングを避けるため、または、車両特有のトレーニングを避けるため、監視されないマシーン・ラーニング・モデルを使用してよい。
【0020】
マシーン・ラーニング・モデルは、さらに、好ましくはロジスティック回帰を使用する。ロジスティック回帰は、分類のための線形的確率的判別モデルである。判別的とは、モデルが、一般に判別関数と呼ばれて入力データをクラスにマッピングするマッピング関数を学習することを意味する。確率的とは、統計学的に配分された入力データとそれらのそれぞれのクラスとに基づいて判別関数を学習することを意味する。
【0021】
イベント分類は、すなわち1つのブレーキライニング摩耗状態クラスを1つの与えられたブレーキイベントに形式的に割り当てることは、確率的アプローチに基づいている。基本的アプローチでは、個々のイベントを最大の確率をもってクラスに格付けする。たとえば2つの摩耗状態クラス、C∈{良、悪}の事例では、分類限界は0.5の確率によって与えられている。これよりも多いクラスは、たとえばロジスティック回帰を2つ以上の摩耗状態クラスへ一般化することによって対応的に処理し得る。
【0022】
したがって上記のアプローチは、車両センサおよびブレーキシステムセンサ、または、データおよび状態によって示される個々の独立したブレーキイベントに基づく分類を可能にし、よってブレーキライニングのライニング厚の測定をも可能にさせる。すなわちここでは、背景技術の欄で述べた積分アプローチに比べて、ブレーキライニングの摩耗状態を査定するために微分アプローチが選定される。したがって、比較的長い時間にわたってブレーキライニングの摩耗状態を積分法で観察する必要はない。
【0023】
個々のブレーキイベントと、それぞれに割り当てられている時系列データの特徴発生とを観察することにより、ブレーキシステムおよび車両の全挙動の観察が行われ、それをベースにしてブレーキライニングの摩耗の査定が実施される。
【0024】
このようにして、ブレーキライニングの摩耗状態を決定するためのより正確な方法が提供される。積分方式に比べて不確実性は著しく減少する。したがって、加えて、(たとえばライニングを交換する場合)製造業者以外の代替ライニングを使用し、監視することもできる。
【0025】
純粋に、または、少なくとも主としてモデルをベースにしたアプローチにより、補助的なダイレクトなセンサをブレーキライニングに設ける必要がなくなり、これらのセンサはたとえばブレーキライニングの厚さをダイレクトに測定し、通常は比較的手間がかかり、費用がかさむ。
【0026】
このようにして、ブレーキライニングの摩耗状態を決定するための改善された方法が提供される。
【0027】
有利な実施形態によれば、ブレーキシステムに関わるデータは、車両のセンサデータ、制御器データおよび/またはブレーキシステムデータを含んでいる。
【0028】
時系列データは、好ましくは、経時的にブレーキに関わる多数のデータ、特に生データを含んでいる。
【0029】
有利な実施形態によれば、センサデータはブレーキマスタシリンダ圧力センサ、タイヤ回転数センサ、車両慣性センサおよび/またはブレーキシステムセンサから提供される。
【0030】
好ましくは、センサデータは時間に依存する物理学的量の測定を含んでいる。さらに好ましくは、センサ測定を決定するための車両のセンサの測定は、予め決められている周波数で実施する。換言すれば、サンプリングとも呼ばれる信号走査を行う。
【0031】
好ましくは、ブレーキシステムセンサは、ブレーキシステムによって変位せしめられたブレーキ液体積を決定するためのセンサを含んでいる。
【0032】
好ましくは、制御データは、センサデータから生成したデータを含んでいる。
【0033】
好ましくは、制御器データは、センサデータ、システムデータまたはソフトウェアデータから導出される種々の量、特に物理学的量を検知する。これらのデータは、特に走査された時間の関数として提供される。
【0034】
有利な実施形態によれば、ブレーキシステムデータは、ブレーキシステムステータスおよび/またはブレーキシステムフラグを含んでいる。
【0035】
好ましくは、ブレーキシステムデータは、ブレーキシステム条件、ブレーキシステム設定およびブレーキシステムの機能作動状態または作動モードを時間の関数として含んでいる。
【0036】
有利な実施形態によれば、少なくとも1つのブレーキイベントの識別は以下のステップを含んでいる。少なくとも1つのブレーキトリガーの受信であって、ブレーキトリガーが車両の現実のブレーキイベントに関連している前記受信と、受信した少なくとも1つのブレーキトリガーを使用しての少なくとも1つのブレーキイベントの識別とを含んでいる。
【0037】
好ましくは、少なくとも1つのブレーキイベントの識別は、たとえばメモリ内にファイルされている時系列データの選定を含んでおり、この場合選定した時系列データは1つのブレーキイベントに割り当てる。
【0038】
好ましくは、ブレーキトリガーは外部から受信する。
【0039】
基本的には、ブレーキライニングの摩耗状態はブレーキイベントをベースにして評価する。それ故、時系列データは、データウィンドウとも呼ばれるタイムインターバルに配分される。このタイムインターバルの長さは、個々の別個のブレーキイベントを完全にカバーするように、したがってブレーキイベントの分析のための一義的なデータセットを提供するように選定する。
【0040】
たとえば、ブレーキトリガーは、制動灯切換え信号の状態、すなわち制動灯が作動しているか否かを示す信号、速度信号、すなわち車両がどのような速度で移動しているかを示す信号、および/または、原動機状態信号、すなわち原動機がどのような状態にあるかを示す信号を含んでいる。
【0041】
好ましくは、1つのブレーキイベントの開始は、制動灯信号が「作動」を示し、速度信号が予め決められた値、たとえば0.1m/sを越えており、原動機状態信号が「作動」を示していれば、決定する。
【0042】
各ブレーキイベントに対する制動時間は変わるので、1つのブレーキイベントの、分類のために意義のある情報を提供する部分を、選定することが重要である。たとえば、すべてのブレーキイベントに適用され、マシーン・ラーニング・モデルのトレーニング中に最適化されるウィンドウ固定量を設定する。タイムウィンドウはタプル(ts,Δtw)によって特徴づけられ、ここでtsはウィンドウの相対起動時間、Δtwはウィンドウ長さである。インターバル[ts,ts+Δtw]外の時系列データのすべてのデータポイントは切り取る。与えられたウィンドウの最低要件に十分でないブレーキイベント、たとえば短いイベントは、分析のために考慮しない。択一的に、イベント正規化方法で数学的に処理される種々のタイムウィンドウを定義してよい。
【0043】
択一的に、ブレーキイベントはバッファリングタイムを含んでいる。換言すれば、ブレーキイベントは本来のブレーキイベントの前後の時系列データを含んでいる。したがって、事前に設定したバッファリングタイムを持つ時系列データを、ブレーキトリガーの前および/後にそれぞれのブレーキイベントに割り当てる。
【0044】
有利な実施形態によれば、少なくとも1つのブレーキトリガーは、制動灯スイッチの状態、車両の速度および/または原動機状態を含んでいる。
【0045】
有利な実施形態によれば、ブレーキイベントに関係づけることができない余計な時系列データを排除する。
【0046】
換言すれば、連続する2つのブレーキイベントの間の隙間内で記録されたデータのみを含んでいる時系列データのインターバルを排除する。
【0047】
有利な実施形態によれば、特徴の決定に適していない時系列データを排除する。
【0048】
すべてのブレーキイベントがブレーキライニングの摩耗に関するデータの分析に適格であるわけではない。特に、有効でないと格付けされる時系列データは特徴を決定するために適していない。たとえば、時系列データのうち完全でないデータまたは正確でないデータは有効でないと格付けする。加えて、信号パラメータの判断基準に基づいて、たとえば車両運動、ブレーキングの強さおよび長さのパラメータ、その他のパラメータの判断基準に基づいて、データ選定を行ってよい。さらに、感度、系統学またはモデル内部の限定事項に関して分類の制限をすると、すなわち特に分類アルゴリズムを制限すると、個々のデータパケットがデータ分析から除外されることになり得る。
【0049】
したがって、イベント選定はデータ選定の際に制限を課す。
【0050】
有利な実施形態によれば、本方法は、決定した特徴のそれぞれに対する適合性の関係付けと、少なくとも1つのブレーキイベントを分類するために、最も高い適合性を持つ、事前に設定した数量の特徴を使用することとを含んでいる。
【0051】
マシーン・ラーニング・モデルのトレーニング中に、まず多数の特徴を考慮し、適合性に従って、すなわち分類器によって導出された分類の確率への影響に従って前記多数の特徴を反復的に配列する。全部でたとえば15個の最も重要な特徴を分類アルゴリズムに課し、すなわち帰納的特徴消去の方式に従って特徴の選定と特徴の最適化を行う。更なる最適化基準は、ほぼ一定の信号を回避するための、相関のない時系列の優先権、それから生じる、統計学的相関関係に対する上限および時系列の分散に対する下限の設定である。択一的なアルゴリズムによれば、より少ないまたはより多くの特徴をモデル最適化の結果と見なすことができる。
【0052】
有利な実施形態によれば、時系列データの受信は以下のステップを含んでいる。受信した時系列データのメモリ内への記録、この場合メモリが使い果たされていない限り、または、対応する時系列データの特徴が決定されていない限り、時系列データをメモリ内で保持する。
【0053】
有利な実施形態によれば、車両のブレーキヒストリーを考慮して、少なくとも1つのブレーキイベントを分類する。
【0054】
好ましくは、ブレーキヒストリーは、連続的な摩耗プロセスを想定して取り入れるという仮定を含んでいる。さらに好ましくは、ブレーキヒストリーは、互いに連続する複数のブレーキイベントの特徴を含んでいる。さらに好ましくは、ブレーキヒストリーは、以前のブレーキイベントで認定された潜在的なブレーキ異常を含んでいる。
【0055】
有利な実施形態によれば、本方法は温度データの受信であって、温度データが、ブレーキライニングの温度、車両のブレーキディスクの温度、特にブレーキライニングが固定されているブレーキディスクの温度、および/または車両の周囲温度を含んでいる前記温度データの受信と、少なくとも1つのブレーキイベントを、そのために決定された特徴と、対応する温度データとを使用して分類することとを含んでいる。
【0056】
好ましくは、ブレーキライニングの温度データは、ブレーキライニングの、ブレーキディスクとは逆の側での、ブレーキライニングの温度を含んでいる。ブレーキディスクとは逆の側での温度に基づいて、ブレーキライニングの熱伝導性を推察でき、それ故とりわけブレーキライニングの厚さを推察できる。
【0057】
好ましくは、温度データは、さらに、車両の周囲温度、さらに有利にはブレーキディスクの周囲温度を含んでいる。
【0058】
加熱過程および冷却過程は、温度データの精度の理由から、車両の周囲温度の関連で考慮すべきである。
【0059】
好ましくは、温度データは特徴に比べて特に高い重要性を有し、すなわちブレーキライニングの状態に対し相関関係にある。
【0060】
温度データを用いると、決定した特徴と協働して、マシーン・ラーニング・モデルによる特に正確な分類を行うことができる。
【0061】
本発明の他の観点によれば、ここで述べているようなブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法を実施するために設置されている装置が提案される。
【0062】
本発明の他の観点によれば、コンピュータによってコンピュータプログラムを実施する際に、コンピュータをしてここで述べているような方法を実施させる命令を含んでいるコンピュータプログラムが提案される。
【0063】
次に、本発明を改善する更なる処置を、本発明の有利な実施形態の説明とともに図を用いてより詳細に示す。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】ブレーキライニングの摩耗状態を決定するための装置を示す図である。
図2】ブレーキライニングの摩耗状態を決定するための装置を備えた車両を示す図である。
図3】ブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法を示す図である。
図4】データメモリ内の時系列データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1は、車両Fのブレーキライニングの摩耗状態を決定するための装置100、特に電子制御ユニットを示している。好ましくは、装置は車両Fのブレーキシステムのための通常の制御器内で使用できる構成要素を含んでいるが、しかし車両Fの摩耗状態の決定を実施するために十分な機能を備えている。装置100は、電子プロセッサ30、たとえばプログラミング可能なマイクロプロセッサ、マイクロコントローラまたは他のプロセッサユニットと、メモリ20、たとえば非一過性の、機械読み取り可能なメモリと、通信インターフェース10とを含んでいる。プロセッサ30は、車両Fのブレーキライニングの摩耗状態の決定に関わるソフトウェア命令を実施するために設置されている。補助的に、プロセッサ30は他のブレーキシステムプロセスを実施することができる。プロセッサ30はメモリ20を読み取って、記述することができる。通信インターフェース10は、装置100と、車両内部の他のシステムと結合されている車両Fの車両通信バスとの間の接続部を形成している。特に、車両通信バスは、車両コンピュータ200または車両通信ユニット300とのデータ交換のために使用できる。車両通信ユニット300は、車両Fと外部のエンティティとの接続を可能にする。装置100は、たとえばブレーキマスタシリンダ圧力センサ、車輪回転数センサ、車両慣性センサ、および車両Fのブレーキシステムの種々の内部センサと接続されている。択一的に、たとえば車両通信バスを介して、システム外部のセンサも接続してよい。
【0066】
通信インターフェース10は、車両Fの種々のセンサ、ブレーキシステム自体、または車両通信バスの時系列データDtを受信するために設置され、この場合時系列データは、車両のブレーキに関わるデータの時系列を含んでいる。メモリ20は、通信インターフェース10によって受信した時系列データDtを記憶するために設置されている。プロセッサ30はデータ検知ユニット31を含み、データ検知ユニットは、時系列データDt内の少なくとも1つのブレーキイベントB1,B2を識別するために設置されている。時系列データDt内で識別された各ブレーキイベントB1,B2は、時系列データDtのブレーキイベントデータDbの時間的データウィンドウに対応しており、この場合データウィンドウは車両Fの1つの現実のブレーキイベントに関連している。プロセッサ30は予処理ユニット32を含み、予処理ユニットは、予め定義した判断基準をベースにしてブレーキイベントを選定し、識別した各ブレーキイベントB1,B2に対して予め決定した演算子を使用して、ブレーキイベントデータDbから特徴Mを決定するために設置されている。ブレーキイベントデータDbは、タイムフィルタリングと、たとえば最小値、最大値、平均値、標準偏差、絶対量および/または分位数のような更なる処理のために予め決定した演算子による信号特徴の算出とによって予め処理される生データである。プロセッサ30はマシーン・ラーニング・モデル・ユニット33を含み、マシーン・ラーニング・モデル・ユニットは、少なくとも1つのブレーキイベントを、そのために決定した特徴Mを使用して分類するために設置されている。分類Kは、車両Fのブレーキライニングの摩耗状態に割り当てられている。
【0067】
装置は、センサ信号とブレーキシステムソフトウェアの信号とを時系列データDtの形態で検知する。時系列データDtは、メモリ20内に中間記憶されている。時系列データDtを受信するための走査周波数は事前に設定され、特にブレーキシステムのデフォルト設定に従ってよい。
【0068】
データ検知ユニット31は、時系列データDtの時間的データウィンドウに対応するブレーキイベントデータDbを検知する。換言すれば、ブレーキイベントデータDbは、車両Fの1つのブレーキイベントに関連する時系列データDtに関わる。データ検知ユニット31は、車両FのブレーキイベントB1,B2を識別し、時系列データDtから、識別したブレーキイベントB1,B2の対応するブレーキイベントデータDbを検知する。
【0069】
ブレーキイベントB1,B2の識別は、ブレーキトリガーTを使用してデータ検知ユニット31によって実施する。ブレーキトリガーTは、たとえば車両Fのドライバー、ブレーキシステム、または、車両Fの自律車両コンピュータ200によって発生させる。ブレーキ要求が満たされ、ブレーキイベントが終了すれば、データ検知は終了する。択一的に、データ検知はバッファリングタイムも含んでいてよく、すなわち識別したブレーキイベントB1,B2前後のデータの検知をも含んでいてよい。この限りでは、ブレーキイベントデータDbは、メモリ20が使い果たされておらず、且つブレーキイベントデータDbのデータ予処理がまだ終了していない限り、メモリ20内で保持される。択一的に、ブレーキイベントデータDbは、装置100の通信インターフェース10を介して他のシステムへ、特に車両接続ユニット300へ伝達してよい。
【0070】
ブレーキライニング摩耗状態の検知と監視は、個々のブレーキイベントB1,B2をベースにして行い、この場合対応する時系列データDtを分析する。純粋にモデルをベースにしたブレーキライニング摩耗検知(BPWDとも記す)の場合、ブレーキライニングの摩耗状態を分類するためにマシーン・ラーニング・モデル33を使用する。摩耗状態は、残っているブレーキライニング材料厚の区間を介して定義することができる。簡単な具体化は、2組または3組の状態を分類基礎として観察し、すなわち特に(良、悪)または(新、中古、損耗)として観察する。択一的に、3つ以上または他の状態を定義してもよい。
【0071】
BPWDは、ブレーキシステムに関わる生データを使用し、すなわち特に、通常設けられていて別個に付加する必要のない車両ソフトウェアのデータを使用する。センサ入力信号として特別なBPWDアルゴリズムを使用し、すなわちブレーキマスタシリンダ圧力、車輪速度、車両加速度、ブレーキシステム内部のセンサ、特にロッドストロークおよびタペット運動を使用する。ブレーキシステムのソフトウェアは、生センサデータ、車両特性、ブレーキ要求特性から導出される補助的な量、特に車輪トルクおよびブレーキ要求に関わる特性を提供する。択一的に、同様に車両通信バスによって呼び出される他の特性データも考慮してよい。
【0072】
モデルをベースにしたアプローチの代わりに、ブレーキライニングの背板に設けた温度センサStをマシーン・ラーニング・ユニット33に対する入力として補助的に使用してよい。択一的に、ブレーキディスク温度センサのデータも考慮してよい。ブレーキライニング温度測定の影響で、マシーン・ラーニング・モデル33は、ブレーキライニング強度を、よってブレーキライニング状態をより高精度に測定することができる。
【0073】
ブレーキイベントデータDbに対する一連の分析は、以下のメインタスクを含んでいる。第1に、イベント選定。すべてのブレーキイベントB1,B2を分析の対象とするのではない。データ選定は、データ妥当性、車両慣性、ブレーキ強度などの判断基準を基礎にして行うことができる。第2に、データ予処理。生データは、予め決められたタイムフィルタリングのような演算子と、特徴M(最小、最大、平均、標準偏差、モジュール、分位数など)の算出とによって分析のために予処理する。第3にデータ分析。予処理した特徴Mを、マシーン・ラーニング・モデル33を用いて分析する。第4に分類。分析結果に基づいて、たとえばマシーン・ラーニング・モデル33によって割り振られた摩耗状態に基づいてブレーキイベントB1,B2を分類する。摩耗状態ラベル(分類Kとも記す)は、ブレーキライニングの摩耗状態の査定に対応している。
【0074】
図2は、ブレーキライニングの摩耗状態を決定するための装置100を備えた車両Fを示している。
【0075】
車両Fは、電子制御ユニット100の形態の、車両のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための装置100以外に、車両コンピュータ200と車両通信ユニット300とを含んでいる。必要な時系列データDtは、ダイレクトなセンサ接続を介して、車両通信バス???を介して、または車両コンピュータ200を介して、電子制御ユニット100に提供する。車両コンピュータ200は、ブレーキライニングの摩耗状態の決定の結果へのアクセスを車両ドライバーに可能にするためにも、或いは、前記結果を提示するためにも利用できる。この事例では、各ブレーキライニングは温度センサStを有し、温度センサは電気制御ユニット100に温度データDtempを提供する。さらに、車両Fは車両通信ユニット300を有し、車両通信ユニットは、電子制御ユニット100のブレーキイベントデータDbを外部のクラウドまたはデータバンク400へ送信するために設置されている。クラウド400は、この事例では、特に、提供されたブレーキイベントデータからブレーキライニングの摩耗状態を検出するために設置されたマシーン・ラーニング・モデルを有している。電気制御ユニット100内のマシーン・ラーニング・モデルに比べると、外部クラウド400内には、より複雑な前処理アルゴリズムまたは後処理アルゴリズムを含む比較的複雑なマシーン・ラーニング・モデルを用意することができる。このとき、その結果得られる、ブレーキイベントデータに割り当てられている対応するブレーキイベントの分類は、クラウド400から車両通信ユニット300を介して電子制御ユニット100へ戻される。
【0076】
図3は、ブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法を示している。
【0077】
第1のステップS10で、時系列データDtを検知し、この場合時系列データDtは、車両Fのブレーキに関わるデータの時系列を含んでいる。第2のステップS20で、時系列データDt内で少なくとも1つのブレーキイベントB1,B2を識別し、この場合時系列データDt内で識別された各ブレーキイベントB1,B2は、時系列データのブレーキイベントデータDbの時間的データウィンドウに対応しており、この場合データウィンドウは車両Fの現実のブレーキイベントに関連している。第3のステップS30で、識別された各ブレーキイベントB1,B2に対し予め決められている演算子を使用して、ブレーキイベントデータDbから特徴Mを決定する。第4のステップS40で、少なくとも1つのブレーキイベントB1,B2を、そのために決定した特徴Mを使用して査定し、この場合分類Kは、車両Fのブレーキライニングの摩耗状態に割り当てられている。
【0078】
図4は、一時的にデータメモリ内にファイルされている時系列データDtを示している。この事例では、時系列データDtは車両速度Vvehと、制動灯スイッチ状態Swlと、ブレーキマスタシリンダ圧力データDpと、タイヤ回転数データDdとを含んでいる。時系列データDtは、示したメモリ部分内に場所を持っている9つのタイムステップt0-t8にわたってデータを含んでいる。換言すれば、ブレーキマスタシリンダ圧力データDpは、この時間にわたって複数のデータセットDp0,Dp1,Dp2,Dp3,Dp4,Dp5,Dp6,Dp7,Dp8を含んでいる。同様に、タイヤ回転数データDdは、この時間にわたって複数のデータセットDd0,Dd1,Dd2,Dd3,Dd4,Dd5,Dd6,Dd7,Dd8を含んでいる。ブレーキマスタシリンダデータDpとタイヤ回転数データDdとの個々のデータセットは、ここではワイルドカードとして図示されている。というのは、それらの正確な値はここでは重要でないからである。同様に、車両速度は車両のその都度の速度を前記時間にわたって含んでいる(ここでは1秒につきメートルで)。制動灯スイッチ状態Swlは、それぞれのタイムステップにおいて車両の制動灯が作動しているか否かについて、Aで作動を、Dで非作動を示している。
【0079】
図4を用いて、時系列データDtから第1のブレーキイベントB1と第2のブレーキイベントB2を識別する方法について説明する。一方では、制動灯スイッチ状態Swlを考慮に入れる。値Aが通知される各タイムステップで1つのブレーキイベントから出発し、すなわちここではタイムステップt0-t2,t4,t6-t7で出発する。ただし、タイムステップt4では、車両速度Vvehは1秒につき3mにすぎず、したがって1つのブレーキイベントに対して事前に設定されている制限値以下である。この限りでは、タイムステップt0-t2が第1のブレーキイベントB1として、タイムステップt6-t7が第2のブレーキイベントB2として識別されるにすぎない。その結果、それぞれのデータセットDp0,Dp1,Dp2およびDd0,Dd1,Dd2は第1のブレーキイベントB1のブレーキイベントデータDbとして識別され、そしてデータセットDp6,Dp7およびDd6,Dd7は第2のブレーキイベントB2のブレーキイベントデータDbとして識別される。ブレーキイベントデータDbは、それらからマシーン・ラーニング・モデル33に対する特徴Mが決定されるまでの間、メモリ内に留まる。他のデータセットは排除され、したがってメモリ内に新たな時系列データのためのスペースが得られる。
【符号の説明】
【0080】
20 メモリ
100 装置
B1,B2 ブレーキイベント
Db ブレーキイベントデータ
Dt 時系列データ
Dtemp 温度データ
F 車両
K 分類
M 特徴
S10 時系列データを受信するステップ
S20 ブレーキイベントを識別するステップ
S30 特徴を決定するステップ
S40 ブレーキイベントを分類するステップ
T ブレーキトリガー
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-12-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための方法において、以下のステップを含み、すなわち
時系列データ(Dt)を受信するステップ(S10)であって、前記時系列データ(Dt)が前記車両(F)のブレーキシステムに関わるデータの時系列を含んでいる前記受信するステップ(S10)と、
前記時系列データ(Dt)内で少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を識別するステップ(S20)であって、前記時系列データ(Dt)内で識別される各ブレーキイベント(B1,B2)が前記時系列データのブレーキイベントデータ(Db)の時間的データウィンドウに対応し、前記データウィンドウが前記車両(F)の現実のブレーキイベントに関連している前記識別するステップ(S20)と、
識別される各ブレーキイベント(B1,B2)に対し予め決定されている演算子を使用して、前記ブレーキイベントデータ(Db)から特徴(M)を決定するステップ(S30)と、
前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を、そのために決定された前記特徴(M)を使用して分類するステップ(S40)であって、分類(K)が前記車両(F)の前記ブレーキライニングの摩耗状態に割り当てられている前記分類するステップ(S40)と、
を含んでいる方法。
【請求項2】
前記ブレーキシステムに関わるデータが、前記車両(F)のセンサデータ、制御器データおよび/またはブレーキシステムデータを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記センサデータを、ブレーキマスタシリンダ圧力センサ、タイヤ回転数センサ、車両慣性センサおよび/またはブレーキシステムセンサから提供する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ブレーキシステムデータが、ブレーキシステムステータスおよび/またはブレーキシステムフラグを含んでいる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのブレーキイベントを識別するステップが、
少なくとも1つのブレーキトリガー(T)の受信であって、前記ブレーキトリガー(T)が前記車両(F)の現実のブレーキイベントに関連している前記受信と、
受信した前記少なくとも1つのブレーキトリガー(T)を使用しての前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)の識別と、
を含んでいる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのブレーキトリガー(T)が、制動灯スイッチの状態、前記車両の縦方向加速度および/または原動機状態を含んでいる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ブレーキイベント(B1,B2)に関係づけることができない余計な時系列データ(Dt)の排除を含んでいる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記特徴(M)の決定に適していない時系列データ(Dt)の排除を含んでいる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
決定した前記特徴(M)のそれぞれに対する適合性の関係付けと、
前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を分類するために、最も高い適合性を持つ、事前に設定した数量の前記特徴(M)を使用することと、
を含んでいる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
時系列データ(Dt)を受信するステップが、
受信した前記時系列データ(Dt)のメモリ(20)内への記録を含み、
前記メモリ(20)が使い果たされていない限り、または、対応する前記時系列データ(Dt)の前記特徴が決定されていない限り、前記時系列データ(Dt)をメモリ内で保持する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記車両(F)のブレーキヒストリーを考慮して、前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を分類する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
温度データ(Dtemp)の受信であって、前記温度データ(Dtemp)が、前記ブレーキライニングの温度、前記車両のブレーキディスクの温度および/または前記車両の周囲温度を含んでいる前記温度データ(Dtemp)の受信と、
前記少なくとも1つのブレーキイベント(B1,B2)を、そのために決定された前記特徴(M)と、対応する前記温度データ(Dtemp)とを使用して分類することと、
を含んでいる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一項に記載の方法を実施するために設置されている、車両(F)のブレーキライニングの摩耗状態を決定するための装置(100)。
【請求項14】
コンピュータによってコンピュータプログラムを実施する際に、前記コンピュータをして請求項1~のいずれか一項に記載の方法を実施させる命令を含んでいる前記コンピュータプログラム。
【国際調査報告】