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特表2024-524159代謝障害の治療における使用のためのGLP-1経路活性化剤と組み合わせたミオスタチン経路阻害剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】代謝障害の治療における使用のためのGLP-1経路活性化剤と組み合わせたミオスタチン経路阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20240628BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240628BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P3/10
A61P3/04
A61P3/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K39/395 N
C07K16/18 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578073
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(85)【翻訳文提出日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 US2022034588
(87)【国際公開番号】W WO2022271867
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】63/214,234
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/260,136
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/260,254
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/266,348
(32)【優先日】2022-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/269,702
(32)【優先日】2022-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515120006
【氏名又は名称】スカラー ロック インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SCHOLAR ROCK,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】ロング キンバリー
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ノミコス ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】フライヤー ジェフリー エス.
(72)【発明者】
【氏名】ウェブスター ミカ ティー.
(72)【発明者】
【氏名】チャプロン クリストファー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084MA02
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZA70
4C084ZC21
4C084ZC35
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE03
4C085GG02
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
(57)【要約】
本開示は、メタボリックシンドローム、肥満及び2型糖尿病などの代謝障害の治療に関する。GLP-1経路活性化剤と併せて使用される、ミオスタチン経路阻害剤を含む補助療法及び組合せ療法が開示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の代謝障害の治療における使用のためのミオスタチン経路阻害剤であって、前記治療は、GLP-1経路活性化剤と併せた前記対象への前記ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)の投与を含み、前記ミオスタチン経路阻害剤及び前記GLP-1経路活性化剤は、前記代謝障害を治療するのに十分な量で投与され;任意選択で、前記代謝障害は、2型真性糖尿病(T2D)、肥満、T2Dに関連する肥満又はメタボリックシンドロームである、ミオスタチン経路阻害剤。
【請求項2】
GLP-1経路活性化剤を受けている対象の代謝率低下を予防することにおける使用のためのミオスタチン経路阻害剤であって、前記使用は、前記対象に、代謝率低下の予防に有効な量で前記ミオスタチン経路阻害剤を投与することを含む、ミオスタチン経路阻害剤。
【請求項3】
GLP-1経路活性化剤を受けている対象の脂肪代謝を増加させることにおける使用のためのミオスタチン経路阻害剤であって、前記使用は、前記対象に、脂肪代謝の増加に有効な量で前記ミオスタチン阻害剤を投与することを含む、ミオスタチン経路阻害剤。
【請求項4】
GLP-1経路活性化剤を受けている対象の筋喪失の治療又は予防における使用のためのミオスタチン経路阻害剤であって、前記使用は、前記ミオスタチン阻害剤又は前記GLP-1経路活性化剤単独での治療と比較して除脂肪筋喪失を低減し、除脂肪筋量を安定化させ、且つ/又は除脂肪筋量を増加させるのに有効な量での前記対象への前記ミオスタチン阻害剤の投与を含む、ミオスタチン経路阻害剤。
【請求項5】
前記GLP-1経路活性化剤は、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤、環状アデノシン一リン酸(cAMP)活性化剤、プロテインキナーゼA(PKA)、cAMPによって活性化される交換タンパク質(EPAC)活性化剤、cAMP応答エレメント結合(CREB)活性化剤又はEGFRアゴニストである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項6】
前記GLP-1経路活性化剤は、GLP-1受容体アゴニストであり、任意選択で、前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1類似体、スルホニル尿素又はメトホルミンであり;更に、任意選択で、前記GLP-1類似体は、セマグルチド、エクセナチドER、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382、デュラグルチド又はアルビグルチドである、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項7】
前記対象は、カロリー制限ダイエット及び/又は運動レジメン中である、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項8】
ミオスタチン選択的抗体又はその抗原結合断片である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項9】
前記ミオスタチン選択的阻害剤は、トレボグルマブ、GYM329、MST1032、アピテグロマブ若しくはその変異体又はトレボグルマブ、GYM329、MST1032、アピテグロマブ若しくはその変異体と競合若しくは交差競合する抗体若しくは抗原結合断片である、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項10】
前記ミオスタチン選択的阻害剤は、FcRnに対する結合親和性を増加させる少なくとも1つのアミノ酸突然変異を含む、請求項8又は9に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項11】
KALDEN(配列番号118)及び/又はFVQILRLIKPMKDGTRYTGIRSLK(配列番号57)の1つ以上のアミノ酸残基を含むエピトープに結合する抗体又はその抗原結合断片であり;任意選択で、前記ミオスタチン阻害剤は、配列番号118及び/又は配列番号57のアミノ酸残基の全てを含むエピトープに結合する抗体又はその抗原結合断片である、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項12】
プロ及び/又は潜在型ミオスタチンに選択的に結合する抗体又はその抗原結合断片であり;任意選択で、前記抗体又はその抗原結合断片は、成熟ミオスタチンに結合しない、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項13】
抗原結合についてアピテグロマブと競合する抗体又はその抗原結合断片である、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項14】
非選択的ミオスタチン阻害剤であり;任意選択で、前記非選択的ミオスタチン阻害剤は、リガンドトラップ(例えば、ACE-031、ACE-083及びBIIB-110/ALG-801);抗ActRIIb抗体(例えば、ビマグルマブ);中和抗ミオスタチン抗体(例えば、スタムルマブ(MYO-029)、ドマグロズマブ(PF-06252616)又はランドグロズマブ(LY2495655))、ミオスタチンペプチボディ(例えば、AMG-745/PINTA-745)又は抗ミオスタチンアドネクチン(例えば、RG6206又はBMS-986089(タルデフグロベプアルファとしても知られる))であり;更に、任意選択で、前記非選択的ミオスタチン阻害剤は、アクチビンA及び/又はGDF11も阻害する、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項15】
前記対象は、25以上のBMIを有する成人対象又はCDC成長曲線上で85パーセンタイル値以上のBMIを有する、年齢2~19歳(例えば、12歳以上、例えば12~17歳)の小児若しくは青年である、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項16】
前記対象は、肥満、過体重又は体重関連病態に対する少なくとも1つの療法を受けたことがあるが、意図される臨床アウトカムを達成できておらず、前記意図される臨床アウトカムは、前記少なくとも1つの療法の開始前のベースライン体重と比較して少なくとも5%又は10%の体重の減少であり、任意選択で、前記対象は、体重管理の一部としてのダイエットレジメン及び/又は運動レジメンを実施又は継続できなかった、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項17】
前記ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、並行投与、同時投与又は逐次投与され;任意選択で、前記ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、単一の製剤、単一の分子構築物の一部又は個別の製剤として製剤化される、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項18】
前記対象は、中心性脂肪蓄積、心血管疾患、腎疾患、脂肪性肝疾患、睡眠時無呼吸、高血圧、血中トリグリセリド高値、血中コレステロール高値、高密度リポタンパク質(HDL)低値及び6%以上(例えば、6.5%~10%)のヘモグロビンA1c(HbA1c)レベルの1つ以上を有し、任意選択で、前記対象は、25より大きいボディマスインデックス(BMI)を有し、更に、任意選択で、前記対象は、端点を含めて28~40のBMIを有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路。
【請求項19】
皮下投与又は静脈内投与される、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項20】
前記治療は、前記治療の開始前に測定されたベースラインレベルと比べてトリグリセリド、総コレステロール、LDLコレステロール及び/又は非絶食時グルコースレベルを減少させ、任意選択で、前記治療は、GLP-1経路活性化剤単独での治療と比べてトリグリセリド、総コレステロール、LDLコレステロール及び/又は非絶食時グルコースレベルを減少させる、請求項1~19のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤。
【請求項21】
前記治療は、前記治療の開始前に測定されたベースラインレベルと比べて体脂肪量を減少させるか、除脂肪体重を維持するか、又はインスリン感受性及び/若しくはインスリン分泌を改善し、任意選択で、前記治療は、GLP-1経路活性化剤単独での治療と比べてインスリン感受性及び/又はインスリン分泌を改善する、請求項1~20のいずれか一項に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤又はGLP-1経路活性化剤。
【請求項22】
ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む組成物であって、任意選択で、前記ミオスタチン経路阻害剤は、ミオスタチン選択的阻害剤であり、及び前記GLP-1経路活性化剤は、メトホルミン、スルホニル尿素、セマグルチド、エクセナチドER、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382、デュラグルチド又はアルビグルチドである、組成物。
【請求項23】
前記ミオスタチン選択的阻害剤は、KALDEN(配列番号118)及び/又はFVQILRLIKPMKDGTRYTGIRSLK(配列番号57)の1つ以上のアミノ酸残基を含むエピトープに結合する抗体又はその抗原結合断片であり;任意選択で、前記抗体又は抗原結合断片は、配列番号118及び/又は配列番号57のアミノ酸残基の全てに結合する、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記抗体又は抗原結合断片は、抗原結合についてアピテグロマブと競合又は交差競合し;任意選択で、前記抗体又は抗原結合断片は、配列番号10と比較して最大で2つのアミノ酸置換を含むHCDR3パラトープを含み;更に、任意選択で、前記抗体又は抗原結合断片は、配列番号52に従って番号付けされて、アミノ酸残基F147、Q149、L151、Y186、S168、K170、K205及び/又はL207の1つ以上を含むエピトープに結合する、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
対象の肥満又は過体重の治療における体重管理の補助療法としての使用のためのミオスタチン経路阻害剤であって、前記療法は、肥満又は過体重を治療するのに有効な量における、請求項1~21のいずれか一項に記載のミオスタチン経路阻害剤の投与を含み、前記対象の肥満又は過体重の前記治療は、投与することを含み、対象は、GLP-1経路活性化剤で治療され;任意選択で、前記対象は、少なくとも1つの体重関連病態を有し;更に、任意選択で、前記対象は、少なくとも3ヵ月間にわたって前記GLP-1経路活性化剤で治療されたことがある、ミオスタチン経路阻害剤。
【請求項26】
対象の肥満又は過体重の治療における体重管理の補助療法としての使用のためのGLP-1経路活性化剤であって、前記治療は、肥満又は過体重を治療するための有効量の前記GLP-1経路活性化剤の投与を含み、前記対象は、請求項1~21のいずれか一項に記載のミオスタチン経路阻害剤で治療され;任意選択で、前記対象は、少なくとも1つの体重関連病態を有し;更に、任意選択で、前記対象は、少なくとも3ヵ月間にわたって前記ミオスタチン経路阻害剤で治療されたことがある、GLP-1経路活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、この配列表は、全体として参照により本明細書に援用される。2022年6月16日に作成された前記ASCIIコピーは、15094_0048-00304_SL.txtという名称であり、サイズが111,218バイトである。
【0002】
関連出願
本願は、「COMBINATION THERAPIES FOR WEIGHT MANAGEMENT AND RELATED METABOLIC CONDITIONS」という名称の、2021年6月23日に出願された米国仮特許出願第63/214,234号明細書;並びにそれぞれ「THERAPIES FOR WEIGHT MANAGEMENT AND RELATED METABOLIC CONDITIONS」という名称の、2021年8月10日に出願された同第63/260,136号明細書;2021年8月13日に出願された同第63/260,254号明細書;2022年1月3日に出願された同第63/266,348号明細書;及び2022年3月21日に出願された同第63/269,702号明細書の利益及びそれに対する優先権を主張するものであり、それらの内容は、全体として参照により本明細書に明示的に援用される。
【0003】
本願は、肥満、メタボリックシンドローム及び2型真性糖尿病を含む代謝障害を治療及び管理するためのミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
代謝疾患の中でも特に、肥満は、米国のみでも3人に1人より多くの成人並びに小児及び青年の約17パーセントが罹患している慢性病態である。3人に1人より多くの成人が過体重である。過体重又は肥満であることにより、2型糖尿病、心疾患、脳卒中、脂肪性肝疾患、腎疾患及び他の健康問題のリスクが高くなる。
【0005】
減量の試みは、困難に直面することが多い。例えば、超低カロリー制限などの極端なダイエットは、ほとんどの患者にとって、実現不可能でないにしても、実際的でない。例えば、肥満症候群を抱える人がダイエットをする場合、10%の減量によって全体的なエネルギー消費量が約20~30%低下することになり、付随して基礎代謝率が減少し、レプチン濃度が減少し、且つ除脂肪量が減少し得る。食事/カロリー制限による減量は、脂肪(adipose)(脂肪(fat))組織量の減少を引き起こすのみならず、骨格筋量も失われる結果になることが周知である。体がエネルギー供給の低さに適応することによって恒常性を維持しようとする自然の特性と相まって、骨格筋の減少が代謝率の低下を引き起こし、エネルギー消費量が下がる。実際、総体重の10%が失われると、身体活動中に安静時エネルギー消費量を上回って消費されるエネルギーが30~40%減少することになる。
【0006】
胃バイパス術などのより侵襲的な手技に加えて、幾つかの減量薬物療法は、規制当局(例えば、FDA)により過体重及び肥満の治療に承認されている(例えば、Williams.Diabetes Ther(2020)11:1199-1216を参照されたい)。これには、オルリスタット(XENICAL(登録商標)、ALLI(登録商標))、フェンテルミン及びトピラマート(QSYMIA(登録商標))、ナルトレキソン、HCl/ブプロピオン、HCl(CONTRAVE(登録商標))、リラグルチド(SAXENDA)、セマグルチド(WEGOVY(登録商標)、OZEMPIC(登録商標)、RYBELSUS(登録商標))、デュラグルチド(TRULICITY(登録商標))及びセトメラノチド(IMCIVREE(登録商標))が含まれる。食欲を抑えることを目標とする他の薬物療法には、フェンテルミン、ベンズフェタミン、ジエチルプロピオン及びフェンジメトラジンが含まれる。以上に挙げた薬物療法の使用に関して多くの副作用が報告されており、その幾つかには、重度の肝傷害、出生時欠損、自殺念慮、膵炎及び甲状腺腫瘍などの警告が付いている。
【0007】
近年、米国食品医薬品局(FDA)により、セマグルチド(WEGOVY(登録商標)として利用可能、2.4mg週1回皮下注射)は、肥満の成人又は少なくとも1つの体重関連病態(高血圧、2型糖尿病及び高コレステロールなど)を伴う過体重である成人における慢性的な体重管理のために、低カロリーダイエット及び身体活動量の増加に加えて使用されるものとして承認された。WEGOVYの処方情報には、数あるリスクの中でも特に、甲状腺C細胞腫瘍、膵炎の潜在的リスクに関して医療従事者及び患者に知らせる枠囲み警告が含まれている。
【0008】
成長分化因子8又はGDF-8としても知られるミオスタチンは、形質転換成長因子-β(TGF-β)スーパーファミリーのメンバーである。ミオスタチンは、骨格筋成長の負の制御因子であるが、霊長類では筋量の制御においてミオスタチンよりもアクチビンAが顕著な役割を果たし得るという示唆もある(Latres et al.,2017,Nature Communications,8:15153)。Garito et al.(Diabetes Obes Metab.2018 Jan;20(1):94-102.Epub 2017)及びHeymsfield et al.(JAMA Network Open.2021;4(1):e2033457)は、アクチビン受容体IIB型に結合し、それによりリガンド結合を妨げる抗体であるビマグルマブが体重の改善、脂肪蓄積の低減及び除脂肪量の維持において臨床的に有益な効果を示したことを報告した。複数のリガンド(アクチビン、ミオスタチン、GDF11などを含む)がこの受容体を通してシグナルを送るため、ビマグルマブは、恐らくこれらの成長因子の全ての活性を阻害し、安全性に懸念が生じる。実際、臨床試験では、プラセボと比べてビマグルマブ治療の患者において重篤有害事象が増加していることが明らかになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、肥満、2型糖尿病又は2型糖尿病に関連する肥満などの代謝疾患に罹患している対象に対する療法が必要とされているが、依然として対処されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、代謝病態を改善する新規療法を提供し、対象の肥満/過体重の治療又は体重管理にミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びインスリン分泌促進剤(例えば、詳細にはグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)シグナル伝達経路の活性化剤)が併せて使用される。本開示に関連して、体重管理とは、全体的な減量のみならず、体組成の改善、例えば体脂肪量(脂肪)に対する除脂肪量(筋肉)の亢進を包含する。本明細書では、組合せ療法並びにアドオン/補助療法が企図される。
【0011】
本明細書に開示されるデータは、GLP-1受容体アゴニスト(例えば、GLP-1類似体)と併せて使用するとき、ミオスタチン阻害剤が全体的な減量を亢進させ得ることを示している。有利には、食餌誘発性肥満げっ歯類モデルにおいて実質的に除脂肪量(例えば、筋肉)を維持するか又は亢進させながら減量が実現することから、筋組織と比べて体脂肪組織が優先的に代謝され、体組成の改善(例えば、除脂肪量対体脂肪量比の増加)につながることが実証される。意外にも、これらの相乗効果は、使用されるミオスタチン阻害剤の選択性に起因したミオスタチン阻害単独に帰することができ、GDF11及びアクチビン類など、同じ受容体を通してシグナルを送る他の構造的に関連性のある成長因子の寄与はない。これは、GLP-1経路活性化剤が、ミオスタチン経路阻害剤と併せて使用するとき、全体的な減量を亢進させ、筋肉対脂肪比の増加によって体組成を改変し、且つ/又は他の点で肥満又は過体重患者の治療を改善し得ることを示唆している。加えて、本開示は、ミオスタチン阻害剤による治療が肥満又は過体重の対象における減量に関連する代謝変化に及ぼす効果について調べる。ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)による治療は、減量に関連する代謝変化を好転させ得ると共に、肥満又は過体重の対象において、例えば食事及び/又は運動レジメンの単独での又は他の治療介入と組み合わせた変更後に減量を維持することを促進し得ることが企図される。
【0012】
一部の実施形態では、本開示は、単剤療法としての対象の肥満又は過体重の治療における使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を提供する。一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、補助療法として使用され、対象は、GLP-1シグナル伝達経路の活性化剤の投与を受けたことがあるか又はそれにより治療される。一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、GLP-1シグナル伝達経路の活性化剤と併せて使用される。一部の実施形態では、本開示は、肥満の対象を治療するためのミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)の使用を包含する。一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤は、アピテグロマブ、GYM-329、トレボグルマブ又はPCT/JP2015/006323号明細書に記載されるとおりのMST1032変異体などのミオスタチン選択的阻害剤である。一部の実施形態では、ミオスタチン選択的阻害剤の使用は、非選択的ミオスタチン阻害剤(例えば、GDF11及び/又はアクチビンAも阻害するミオスタチン阻害剤)と比較してより安全性の高い治療選択肢(例えば、毒性の低下、安全性プロファイルの向上、副作用の低下及び/又は患者の忍容性の向上)を提供し得る。一部の実施形態では、ミオスタチン選択的阻害剤の使用は、非選択的ミオスタチン阻害剤(例えば、GDF11及び/又はアクチビンAも阻害するミオスタチン阻害剤)と比較して優れた治療有効性を提供し得る(Muramatsu et al.Sci Rep.2021 Jan 25;11(1):2160)。
【0013】
一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤は、静脈内投与又は皮下投与される。一部の実施形態では、対象は、2型糖尿病を伴う肥満を有する。一部の実施形態では、本開示は、肥満の対象を治療するためのアピテグロマブの使用を包含し、対象は、任意選択で、2型糖尿病を伴う肥満を有する。一部の実施形態では、本開示は、肥満の対象を治療するための、GLP-1経路活性化剤と併せたアピテグロマブの使用を包含し、対象は、任意選択で、2型糖尿病を伴う肥満を有する。一部の実施形態では、本開示は、肥満の対象を治療するためのGYM-329の使用を包含し、対象は、任意選択で、2型糖尿病を伴う肥満を有する。一部の実施形態では、本開示は、肥満の対象を治療するための、GLP-1経路活性化剤と併せたGYM-329の使用を包含し、対象は、任意選択で、2型糖尿病を伴う肥満を有する。一部の実施形態では、本開示は、肥満の対象を治療するためのMST1032変異体の使用を包含し、対象は、任意選択で、2型糖尿病を伴う肥満を有する。一部の実施形態では、本開示は、肥満の対象を治療するための、GLP-1経路活性化剤と併せたMST1032変異体の使用を包含し、対象は、任意選択で、2型糖尿病を伴う肥満を有する。
【0014】
一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤が与えられる対象は、過去にGLP-1経路活性化剤(GLP-1類似体など)の投与を受けたことがあるが、24週間にわたるGLP-1経路活性化剤を含む治療後にベースライン体重の少なくとも5%の減量を達成できず、且つ/又は治療用量のGLP-1経路活性化剤を忍容不能であった。一部の実施形態では、対象は、GLP-1経路活性化剤(GLP-1類似体など)の投与を受けたが、24週間にわたるGLP-1経路活性化剤を含む治療後にベースライン体重の少なくとも10%の減量を達成できなかった。「ベースライン体重」とは、治療の直前又は開始時点での(例えば、24週間にわたる治療前の)対象の体重であって、治療に反応した体重の変化を判定する際に比べる体重を指す。
【0015】
本明細書に提供されるデータによれば、GLP-1経路活性化剤を含む治療によって5~10%の減量目標を達成できない患者など、GLP-1経路活性化剤に十分に反応しない患者又はGLP-1経路活性化剤の所要用量を忍容できない患者は、GLP-1経路活性化剤と併せて使用されるミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)から利益を受け得る可能性が高まる。特定の理論によって拘束されるものではないが、本明細書では、並行してミオスタチン経路を阻害することにより、GLP-1経路活性化の効果が亢進して治療アウトカムが向上し得るか、又は低い用量若しくは少ない頻度のGLP-1経路活性化剤投与で治療アウトカムが可能となり得ることが企図される。従って、GLP-1活性化療法に対する反応が乏しい患者は、ミオスタチン経路阻害剤を組合せ療法又は補助療法のいずれかとして併せることから利益を受け得る。本開示に関連して、表現「GLP-1活性化療法に対する反応が乏しい患者」とは、GLP-1経路活性化剤を含む治療(3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月及び12ヵ月の治療など)後、少なくとも5%又は少なくとも10%の減量など、意図した体重管理目標を達成できない患者又は意図した体重管理目標に到達するために必要な治療レジメンを忍容不能な患者を指す。好ましい実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、ミオスタチンに選択的に結合する抗体又は抗原結合断片など、ミオスタチン選択的阻害剤、例えばアピテグロマブ、GYM329(RO7204239としても知られる)、トレボグルマブ又はこれらの任意の変異体である。別の好ましい実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、PCT/JP2015/006323号明細書に開示されるとおりのMST1032変異体である。特定の実施形態では、GLP-1経路活性化剤は、セマグルチド、エクセナチドER、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、デュラグルチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382及びアルビグルチドなどのGLP-1類似体である。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤は、数ある活性の中でも特に、GLP-1経路に影響を及ぼす薬剤、例えばメトホルミンなどの薬剤である。
【0016】
一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤を含む治療は、治療の一部としてカロリー制限レジメン(例えば、低カロリーダイエット)及び/又は運動レジメン(例えば、身体活動量の増加)を更に含む。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤治療を受けたことがあるか又はそれで治療中の対象は、GLP-1経路活性化剤治療の一部としてのカロリー制限レジメン及び/又は運動レジメンを実施不能であるか又は遵守不能である。併せて使用されるミオスタチン経路阻害剤は、カロリー制限レジメン及び/又は運動レジメンがないとき又はそれが完全には遵守されないときでもGLP-1経路活性化剤の効果を亢進させ得る。好ましい実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、ミオスタチンに選択的に結合する抗体又は抗原結合断片など、ミオスタチン選択的阻害剤、例えばアピテグロマブ、GYM329、トレボグルマブ、MST1032又はこれらの任意の変異体である。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤は、セマグルチド、エクセナチドER、リラグルチド、チルゼパチド、リキシセナチド、デュラグルチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382及びアルビグルチドなどのGLP-1類似体である。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤は、小分子GLP-1受容体アゴニストである。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤は、長時間作用型の小分子GLP-1受容体アゴニストである。
【0017】
本開示は、補助療法としての対象の肥満又は過体重の治療における使用のためのGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤も提供し、対象は、ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤で治療される。
【0018】
本開示は、対象の肥満又は過体重の治療における使用のための組合せ療法としてのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤を更に提供する。本開示は、対象の肥満又は過体重の治療における使用のためのGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤と併せたミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤も提供する。ミオスタチンシグナル伝達阻害剤及びGLP-1シグナル伝達活性化剤は、単一の医薬組成物に製剤化することができるか、又は別個の医薬組成物に製剤化することができ、且つ体重管理として肥満又は過体重を治療するのに十分な量で使用される。
【0019】
様々な実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤の使用は、任意選択で、効果が更に亢進するようにカロリー制限(例えば、ダイエット)及び/又は適度な運動と併用され得る。一部の実施形態では、肥満又は過体重の治療に承認済みのGLP-1アゴニスト(セマグルチドなど)のカロリー制限及び/又は身体活動要件は、その承認済みのGLP-1アゴニストと併せて使用されるミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤)に置き換えられ得る。一部の実施形態では、承認済みのGLP-1アゴニストのカロリー制限及び身体活動要件の度合い(量)は、ミオスタチン経路阻害剤の使用に伴って低減され得、均等な減量利益を実現するためにそれほど厳しくないカロリー制限及び/又はそれほど厳しくない身体活動が要求されることになり得る。
【0020】
一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤の使用に伴って全体的な減量が実現する一方、同じ使用継続期間中に除脂肪量が増加する。一部の実施形態では、除脂肪量(例えば、除脂肪量の%変化率)は、超音波、定量的核磁気共鳴(qNMR)、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)、磁気共鳴画像法(MRI)によって得られる肝脂肪率、ヒドロデンシトメトリー、空気置換プレチスモグラフィー(ADP)、生体電気インピーダンス解析(BIA)、生体インピーダンス分光法(BIS)、電気インピーダンスミオグラフィー(EIM)、3次元生体スキャナ及び多コンパートメントモデル(例えば、3コンパートメント及び4コンパートメントモデル)などの好適な技法を使用して測定される。このように、ミオスタチン経路阻害剤をGLP-1経路活性化剤と併せて使用することにより、全体的な減量を実現する一方で筋喪失を防止し得る。
【0021】
一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤の使用は、後者単独と比較して体脂肪量の増大を低減するか又は遅らせることができる。一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)の使用は、過去に減量を実現した対象において減量を維持することを促進し得る。一部の実施形態では、体脂肪量(例えば、体脂肪量の%変化率)は、超音波、定量的核磁気共鳴(qNMR)、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)、磁気共鳴画像法(MRI)によって得られる肝脂肪率、ヒドロデンシトメトリー、空気置換プレチスモグラフィー(ADP)、生体電気インピーダンス解析(BIA)、生体インピーダンス分光法(BIS)、電気インピーダンスミオグラフィー(EIM)、3次元生体スキャナ及び多コンパートメントモデル(例えば、3コンパートメント及び4コンパートメントモデル)などの好適な技法を使用して測定される。
【0022】
一部の実施形態では、本開示は、肥満又は過体重の対象における減量を維持するためのミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)の使用を包含する。理論によって拘束されることを望むものではないが、ミオスタチン阻害は、本来体重が再増加しがちな対象における減量に関連するある種の代謝変化の好転につながり得ることが企図される。かかる代謝変化としては、治療前の対象、即ちミオスタチン阻害剤がないときの対象に見られるレベルと比べたエネルギー消費量の低下、除脂肪筋量の低下、骨格筋の機械効率の低下、インスリン感受性の低下、循環レプチンレベルの低下及び/又は循環アディポネクチンレベルの低下が挙げられるが、これらに限定されない。このように、特定の実施形態では、本開示は、肥満又は過体重の対象における減量に関連する代謝変化を好転させるためのミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)の使用を包含する。かかる使用の効果としては、ベースライン、即ちミオスタチン阻害剤がないときと比較したエネルギー消費量の増加、除脂肪筋量の増加、全体的な骨格筋機能の増加、インスリン感受性の増加、循環レプチンレベルの増加及び/又は循環アディポネクチンレベルの増加を挙げることができる。特定の実施形態では、本開示は、肥満又は過体重の対象における減量を維持するためのミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)の使用を包含する。特定の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤は、ミオスタチンに選択的に結合する抗体又は抗原結合断片などのミオスタチン選択的阻害剤、例えばアピテグロマブ、GYM-329、トレボグルマブ又はMST1032変異体である。特定の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤は、静脈内投与又は皮下投与される。特定の実施形態では、対象は、過去に少なくとも1用量のGLP-1経路活性化剤の投与を受けたことがある。特定の実施形態では、対象は、GLP-1経路活性化剤の投与を受けている。特定の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、GLP-1経路活性化剤と併せて使用される。
【0023】
一部の実施形態では、本開示は、肥満又は過体重の対象における減量を維持するためのアピテグロマブの使用を包含し、肥満又は過体重の対象は、任意選択で、2型糖尿病を有する。一部の実施形態では、アピテグロマブは、GLP-1経路活性化剤と併せて又はそれを補足して投与される。一部の実施形態では、本開示は、肥満又は過体重の対象における減量を維持するためのGYM-329の使用を包含し、肥満又は過体重の対象は、任意選択で、2型糖尿病を有する。一部の実施形態では、GYM-329は、GLP-1経路活性化剤と併せて又はそれを補足して投与される。一部の実施形態では、本開示は、肥満又は過体重の対象における減量を維持するためのトレボグルマブの使用を包含し、肥満又は過体重の対象は、任意選択で、2型糖尿病を有する。一部の実施形態では、トレボグルマブは、GLP-1経路活性化剤と併せて投与される。一部の実施形態では、本開示は、肥満又は過体重の対象における減量を維持するためのMST1032変異体の使用を包含し、肥満又は過体重の対象は、任意選択で、2型糖尿病を有する。一部の実施形態では、MST1032変異体は、GLP-1経路活性化剤と併せて投与される。
【0024】
一部の実施形態では、本開示は、レプチン欠乏のある対象におけるある種の代謝表現型を治療するためのミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)の使用を包含する。かかる対象は、正常レプチンレベルの個体と比較した低いエネルギー消費量、低い除脂肪筋量、低い骨格筋の機械効率、低いインスリン感受性、低い循環レプチンレベル及び/又は低い循環アディポネクチンレベルが挙げられるが、これらに限定されない代謝表現型を呈し得る(Rosenbaum et al.J Clin Invest.2005 Dec;115(12):3579-86)。このように、特定の実施形態では、本開示は、対象におけるレプチン欠乏に関連する代謝変化を好転させるためのミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)の使用を包含する。かかる使用の効果としては、ベースラインと比較したエネルギー消費量の増加、除脂肪筋量の増加、全体的な骨格筋機能の増加、インスリン感受性の増加及び/又は循環アディポネクチンレベルの増加を挙げることができる。特定の実施形態では、レプチン欠乏のある対象は、肥満又は過体重である。特定の実施形態では、本開示は、レプチン欠乏のある肥満又は過体重の対象における減量のためのミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)の使用を包含する。特定の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤の使用により、レプチン欠乏のある対象の減量が維持される。特定の実施形態では、対象は、過去に少なくとも1用量のGLP-1経路活性化剤の投与を受けたことがある。特定の実施形態では、対象は、GLP-1経路活性化剤の投与を受けている。特定の実施形態では、そのミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤、あるミオスタチンシグナル伝達経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、GLP-1経路活性化剤と併せて使用される。
【0025】
本開示によれば、ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤を単剤療法として又はGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤と併せて使用して、対象の肥満(例えば、過剰な脂肪蓄積、過体重)が治療される。ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤は、ミオスタチンシグナル伝達を抑制する能力を有する任意の薬剤であり得る。一部の実施形態では、本発明を実施するのに有用なミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤は、ミオスタチン選択的阻害剤であり得る。一部の実施形態では、本発明を実施するのに有用なミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤は、ミオスタチン非選択的阻害剤であり得る。様々な実施形態では、本発明を実施するのに有用なミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤としては、この経路を阻害する低分子量化合物(即ち小分子)並びに抗体又はその抗原結合断片などの生物製剤及びリガンド結合ドメインを含む操作されたタンパク質構築物(可溶性受容体リガンドトラップ、フォリスタチンベースの操作された構築物及びアドネクチンなど)を挙げることができる。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、成熟ミオスタチン(GDF-8又はGDF8としても知られる)と結合する抗体(例えば、その抗原結合断片又はかかる断片を含む操作された構築物)である。かかる抗体は、それが成長因子と結合して、それによりシグナル伝達経路を活性化させるため内因性受容体に結合するその能力を遮断するため、典型的には中和抗体と称される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、ミオスタチン受容体と結合して、それによりリガンド結合に干渉する。そうしたものとしては、受容体の1つ又は複数の細胞外部分と結合する抗体が挙げられる。かかる抗体の非限定的な例としては、ActRIIBと結合するビマグルマブ(BYM338)が挙げられる。好ましい実施形態では、本発明を実施するのに有用なミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤は、ミオスタチン選択的阻害剤である。一部の実施形態では、ミオスタチン選択的阻害剤は、成熟ミオスタチンと選択的に結合する(しかし、GDF11又はアクチビンAなどの他の成長因子と結合しない)中和抗体である。かかるミオスタチン選択的抗体の一例は、REGN1033としても知られるトレボグルマブである。一部の実施形態では、ミオスタチン選択的阻害剤は、プロ/潜在型ミオスタチン複合体と結合して、それにより成熟ミオスタチンの活性化(例えば、放出)を阻害する抗体又はその抗原結合断片である。かかる抗体又は抗原結合断片は、ミオスタチンの「活性化阻害剤」と称される。ミオスタチン選択的活性化阻害剤の非限定的な例としては、アピテグロマブ(SRK-015としても知られる)及びその変異体、GYM329及びその変異体又はPCT/JP2015/006323号明細書に記載されるとおりのMST1032変異体が挙げられる。
【0026】
本開示によれば、GLP-1シグナル伝達経路の活性化剤をミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤と併せて使用して、対象の肥満(例えば、過剰な脂肪蓄積、過体重)が治療される。GLP-1シグナル伝達経路の活性化剤としては、GLP-1シグナル伝達を亢進させる能力を有する任意の薬剤を挙げることができる。一部の実施形態では、本発明を実施するのに有用なGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤は、GLP-1類似体などのGLP-1受容体アゴニストである。内因性GLP-1は、ペプチダーゼによって分解され易く、半減期が短い。従って、その活性時間を延ばすか又は活性を安定化させることを目標として、ある種の修飾をペプチドホルモンに導入してGLP-1類似体を作成することができる。一部の実施形態では、GLP-1類似体は、アミノ酸配列EGTFTSD(配列番号116)を含み得る。一部の実施形態では、GLP-1類似体は、アミノ酸配列HXXGXFTXD(配列番号117)(式中、Xは、任意のアミノ酸残基である)を含む。GLP-1類似体の非限定的な例としては、セマグルチド、エクセナチドER、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、デュラグルチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382及びアルビグルチドが挙げられる。一部の実施形態では、本発明を実施するのに有用なGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤は、GLP-1の分解に関与するペプチダーゼの阻害剤である。一部の実施形態では、ペプチダーゼ阻害剤は、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)及び/又は中性エンドペプチダーゼ(NEP)を阻害する。一部の実施形態では、本発明を実施するのに有用なGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤は、GLP-1受容体輸送を調節する能力を有する薬剤(例えば、受容体のインターナリゼーションの減速を生じさせる薬剤);細胞表面GLP-1受容体の発現を増加させる薬剤;リガンド誘導性のGLP-1受容体活性化を亢進させる薬剤;GLP-1受容体の下流にあるcAMPシグナル伝達などの経路を亢進させる薬剤及び/又はGLP-1受容体の脱リン酸化に関与するホスファターゼに拮抗する薬剤である。
【0027】
本明細書に開示される治療方法は、体重管理レジメンの改善を提供することを目標とする。このように、ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤が単剤療法として又はGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤と併せて使用されることにより、体重管理、例えば慢性的な体重管理のため、それを必要としている対象において肥満又は過体重が治療される。
【0028】
一部の実施形態では、肥満及び過体重の判定は、ボディマスインデックス(BMI)に基づく。BMIは、成人及び小児における過体重及び肥満の推定及びスクリーニングに最もよく用いられているツールである。一部の実施形態では、本開示に係る組合せ療法又は補助療法で治療される成人対象のBMIは、25kg/m以上(過体重)である。一部の実施形態では、成人対象は、25~29.9kg/m(過体重)のBMIを有する。一部の実施形態では、本開示の組合せ療法又は補助療法で治療される成人対象のBMIは、30kg/m以上(肥満)である。一部の実施形態では、本開示の組合せ療法又は補助療法で治療される成人対象のBMIは、30~40である。一部の実施形態では、本開示の組合せ療法又は補助療法で治療される成人対象のBMIは、40以上(極度の肥満)である。一部の実施形態では、本開示に係る組合せ療法又は補助療法で治療される年齢2~19歳の小児又は青年対象のBMIは、同じ性別及び年齢の小児又は若年成人の85パーセンタイル値以上(例えば、CDC成長曲線上で85パーセンタイル値以上のBMI)である。一部の実施形態では、本開示に係る組合せ療法又は補助療法で治療される年齢2~19歳の対象のBMIは、同じ性別及び年齢の小児又は若年成人の95パーセンタイル値以上(例えば、CDC成長曲線上で95パーセンタイル値以上のBMI)である。一部の実施形態では、本開示に係る組合せ療法又は補助療法で治療される年齢2~19歳の対象のBMIは、同じ性別及び年齢の小児又は若年成人の95パーセンタイル値の120パーセント以上である(例えば、CDC成長曲線上で95パーセンタイル値の120パーセント以上のBMI)。
【0029】
一部の実施形態では、対象は、1つ以上の体重関連病態(高血圧、2型糖尿病、心疾患、脳卒中、脂肪性肝疾患、腎疾患又は高コレステロールなど)にも罹患しているか又はそれを発症するリスクがある。一部の実施形態では、対象は、成人対象である。一部の実施形態では、対象は、年齢2~19歳の小児又は青年対象である。一部の実施形態では、成人対象は、少なくとも1つの体重に関係する病気を伴う27kg/m以上のボディマスインデックス(BMI)を有するか、又は成人対象は、30kg/m以上BMIを有する。一部の実施形態では、成人対象は、28~40kg/mの範囲のBMIを有し、任意選択で、対象は、6.5~10%のHbA1cを有する。一部の実施形態では、年齢2~19歳の対象は、同じ性別及び年齢の小児又は若年成人の85パーセンタイル値以上であるBMI(例えば、CDC成長曲線上で85パーセンタイル値以上のBMI)を有する。一部の実施形態では、年齢2~19歳の対象は、同じ性別及び年齢の小児又は若年成人の95パーセンタイル値以上であるBMI(例えば、CDC成長曲線上で95パーセンタイル値以上のBMI)を有する。一部の実施形態では、年齢2~19歳の対象は、同じ性別及び年齢の小児又は若年成人の95パーセンタイル値の120パーセント以上であるBMI(例えば、CDC成長曲線上で95パーセンタイル値の120パーセント以上のBMI)を有する。一部の実施形態では、対象は、ダイエット中(例えば、カロリー制限中)である。一部の実施形態では、対象は、運動レジメン中である。
【0030】
このように、本明細書に開示される治療方法は、肥満の対象であって、任意選択で肥満に関連する2型糖尿病を有するか又はそれを発症するリスクがある対象の過剰な脂肪蓄積及び代謝の乱れを治療する一方、対象の体組成(例えば、除脂肪量対体脂肪量比)を維持又は改善することを目標とする慢性的な体重管理に有用であり得る。
【0031】
本開示は、対象の体組成を改善するためミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤が単剤療法として又はGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤と併せて投与される治療的使用の様々な実施形態も包含する。一部の実施形態では、対象は、肥満又は過体重であり得る。一部の実施形態では、対象は、2型糖尿病又はメタボリックシンドロームなどの1つ又は複数の代謝病態を有し得るか又はそれを発症するリスクがあり得る。一部の実施形態では、本明細書に開示される治療的使用によれば、対象にたとえ全体的な減量がないとしても(例えば、体重に対する中立的効果)又はたとえ全体的な増量があったとしても、体組成を改善することができる。一部の実施形態では、治療的使用により除脂肪量が増加する。一部の実施形態では、治療的使用により体脂肪量が減少する。一部の実施形態では、治療的使用により除脂肪量対体脂肪量比が増加する。一部の実施形態では、治療的使用は、体重に中立的効果を及ぼす。一部の実施形態では、治療的使用は、対象において全体的な減量を実現する。一部の実施形態では、治療的使用は、過去に減量を実現した対象における減量を維持する。体組成は、qNMR、二重エネルギーX線吸収法(DXA)、磁気共鳴画像法(MRI)によって得られる肝脂肪率、ヒドロデンシトメトリー、空気置換プレチスモグラフィー(ADP)、生体電気インピーダンス解析(BIA)、生体インピーダンス分光法(BIS)、電気インピーダンスミオグラフィー(EIM)、3次元生体スキャナ及び多コンパートメントモデル(例えば、3コンパートメント及び4コンパートメントモデル)などの好適な技法を使用して判定又は測定され得る。
【0032】
有利には、好ましい実施形態では、ミオスタチンの非選択的阻害剤と比較して安全性プロファイルの改善を提供するミオスタチン選択的阻害剤が使用される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1A】ミオスタチン選択的阻害剤Ab2又は対照抗体のいずれかで治療した20%又は30%カロリー制限(CR)中の群における全体的な(全身の)減量を示す。左側のパネルは、本研究の全経過にわたる動物の体重を示し、右側のパネルは、体重のパーセント変化率を示す。
図1B】qNMRにより測定された、ミオスタチン選択的阻害剤Ab2又は対照抗体のいずれかで治療した20%又は30%カロリー制限(CR)中の群における除脂肪筋肉重量のパーセント変化率を示す。
図1C】44日目に測定した本研究中の除脂肪量重量のベースラインと比較したパーセント変化率の比較を示す。
図1D】研究終了時に採取した左右腓腹筋試料の平均の重量ミリグラム数を示す。
図1E】高脂肪食をアドリブ給餌された対照マウスの腓腹筋重量と比較した、図1Dに示される腓腹筋からの重量の百分率差を示す。
図1F】高脂肪食をアドリブ給餌された対照マウスによる体脂肪量の減量率と比較した体脂肪量の減少率を示す。
図1G】Ab2により、20%カロリー制限した動物における体脂肪量の減量率が有意に増加したことを示す。
図1H】研究終了時に集めた鼠径脂肪パッドの重量(左右両方の脂肪パッドの平均)を示す。Ab2により、20%カロリー制限した動物における鼠径脂肪パッド重量が有意に減少した。
図1I】(左側のパネル)高脂肪食をアドリブ給餌したマウスと比較した、20%カロリー制限したマウスにおける血清レプチンレベルを示す。(右側のパネル)脂肪の割合で正規化したレプチンレベルを示す。
図2A】C57BL/6NTac DIOマウスモデルにおけるリラグルチドについての初期用量決定研究の結果を示す。
図2B】対照IgG1単独、Ab2単独又は0.03、0.06若しくは0.10mg/kgのリラグルチドと併せたIgG1若しくはAb2の投与を受けたマウスにおける30日間の研究終了時のベースラインからの%体重変化率を示す。リラグルチドが体重の用量比例的減少を誘導し、0.1mg/kgリラグルチド群ではIgG対照と比べてAb2が減量を亢進させた。
図2C】qNMRにより測定された、ベースラインと比較した除脂肪量の変化率を示す。
図2D】腓腹筋量のパーセント変化率を示す。
図2E】qNMRにより測定された、ベースラインと比較した体脂肪量の全身変化率を示す。
図2F】鼠径脂肪パッドの重量のパーセント変化率を示す。
図2G】組織学により測定された、研究終了時のマウスからの肝臓における全脂質数を示す。
図3A】ミオスタチン阻害抗体Ab2により、30%カロリー制限した動物におけるVOが増加したことを示す。
図3B】減量体重で正規化したとき、ミオスタチン阻害抗体Ab2により、30%カロリー制限した動物におけるVOが増加したことを示す。
図3C】除脂肪量で正規化したとき、ミオスタチン阻害抗体Ab2は、30%カロリー制限した動物におけるVOに何ら効果を及ぼさなかったことを示す。
図3D】ミオスタチン阻害抗体Ab2により、30%カロリー制限した動物におけるエネルギー消費量が増加したことを示す。
図3E】ミオスタチン阻害抗体Ab2が、30%カロリー制限した動物における呼吸交換比(RER)に影響を及ぼさなかったことを示す。
図4】抗体Ab2で治療した、20%カロリー制限を行っているマウスの時間の経過に伴う体重を示す。左側のパネルは、44日間の研究にわたる全体重を示し、右側のパネルは、パーセント変化率を示す。
図5A】ミオスタチン阻害抗体Ab2により、20%カロリー制限した動物における除脂肪体重が維持されたことを示す。
図5B】抗ミオスタチン抗体Ab2で治療した動物は、対照抗体で治療した動物と比べて除脂肪体重の喪失が有意に少なかったことを示す。
図5C】ミオスタチン阻害剤Ab2により、20%カロリー制限した動物における腓腹筋重量が増加したことを示す。
図5D】対照抗体で治療したカロリー制限動物では腓腹筋重量が失われた一方、Ab2で治療したカロリー制限動物では有意な大きさの腓腹筋重量が増大したことを示す。
図5E】ミオスタチン阻害剤Ab2により、20%カロリー制限した動物における対照抗体で治療したマウスと比較したO消費量及びCO排出量の両方が減少したことを示す。
図5F】マウスが代謝ケージで過ごした72時間の全経過にわたる時間の関数としての平均呼吸交換比を示す
図5G】20%カロリー制限し、且つ抗体Ab2で治療したマウスの身体活動レベルを示す
図6】Ab2及び/又は20%カロリー制限で治療したマウスにおける体脂肪量の低下を示す。
図7】Ab2及び/又は20%カロリー制限で治療したマウスにおける酸素及びエネルギー消費量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、少なくとも一部には、代謝疾患、例えば肥満及び/又は2型真性糖尿病(T2DM)を有する対象においてミオスタチン経路阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤などのミオスタチン阻害剤を投与すると、罹患している対象(例えば、哺乳類対象)の生理学的特性及び機能的特性の両方が有意に改善する(例えば、体組成、耐糖能等の改善)という発見に基づく。詳細には、本発明者らは、意外にも、ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤との組合せを投与すると、かかる対象において除脂肪量を維持することを促進し得ること、体脂肪量の増大を予防又は低減し得ること、筋肉対脂肪比の増加により体組成を改善し得ること並びに/又はカロリー制限及び/若しくは運動の増加の必要性をなくす若しくは低減し得ること或いはそれと併せた付加的な利益を提供し得ることを発見した。
【0035】
定義
冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、本明細書では、その冠詞の文法上の指示対象の1つ又は複数(即ち少なくとも1つ)を指して使用される。例として、「要素」は、1つの要素又は複数の要素を意味する。
【0036】
実施例において又は他に指示される場合以外では、本明細書において使用される原料又は反応条件の分量を表す全ての数値は、全ての例において用語「約」によって修飾されていると理解されなければならない。用語「約」は、パーセンテージに関連して使用されるとき、±1%を意味し得る。更に、用語「約」は、ある値から±1%以内を意味し得る。
【0037】
GLP-1シグナル伝達経路の活性化剤:用語「GLP-1シグナル伝達経路の活性化剤」及び「GLP-1経路活性化剤」は、本明細書では同義的に使用され、作用機序に関係なく、GLP-1シグナル伝達経路の活性を増加させる又は亢進させる任意の薬剤を包含する。GLP-1シグナル伝達経路の活性の増加又は亢進は、例えば、より高度な活性、より長い活性持続時間、シグナル伝達経路の1つ以上の成分のアベイラビリティの増加等の結果であり得る。
【0038】
補助療法:用語「補助療法」及び「アドオン」療法は、本明細書では同義的に使用され、第1の薬剤(例えば、バックグラウンド療法)を服用中であるか、その投与を受けたことがあるか、又はそれで治療される対象に第2の薬剤(補助療法として使用される)が投与される治療レジメンを指すことが意図される。用語「~と併せた」及び「~に補足的な」は、本明細書では同義的に使用され、時間的に並行するか又は部分的に重複するかにかかわらず、一緒に使用される療法を指すことが意図される。
【0039】
投与する/投与:用語「投与する」、「投与すること」又は「投与」には、意図される対象、例えば患者への薬理学的薬剤(例えば、医薬品)の送達の任意の方法又は行為が含まれる。薬理学的薬剤とは、抗体又はその抗原結合断片(例えば、かかる抗体又は抗原結合断片を含む医薬組成物、ホルモン及びその修飾又は合成類似体などのペプチド薬剤又は低分子量薬剤(即ち構造的に限定された小分子又は化学的実体)など、対象の全身への又は対象の身体における若しくは身体上に特定の領域に対する(それぞれ全身投与及び局所投与)生物製剤であり得る。
【0040】
成人:本明細書で使用されるとき、体重管理に関連して、「成人」患者とは、特に指定されない限り19歳より年齢の高い(即ち20歳以上である)個体を指す。
【0041】
抗体:本明細書で使用されるとき用語「抗体」とは、完全長免疫グロブリン、その1つ又は複数の抗原結合部分/1つ又は複数の断片及び標的抗原に結合する能力を保持しているこれらの任意の変異体を包含する。抗体には、ヒト抗体及びヒト化抗体が含まれる。
【0042】
バックグラウンド療法:アドオン又は補助療法に関連して、用語「バックグラウンド療法」は、特定の適応疾患又はその適応疾患に関連する病態に対して患者又は患者集団が利用可能な、同じ適応疾患に対する補助療法として付け加えられることになる第2の療法前(例えば、ミオスタチン経路阻害剤の補助投与前)に患者が受けたことがあるか又はそれを受けている、承認済みの治療を指す。典型的には、バックグラウンド療法は、その病態に対する標準治療である。例えば、2型糖尿病患者は、メトホルミン(例えば、Fortamet、Glucophage、Glucophage XR、Glumetza、Riomet、Obimet、Gluformin、Dianben、Diabex、Diaformin、Metsol、Siofor、Metforgamma及びGlifor)又は1つ以上の追加的な活性薬剤(例えば、チアゾリジンジオン類(グリタゾン類)及びロシグリタゾン)を含むメトホルミン含有薬物療法など、ビグアナイドをバックグラウンド療法として服用中であり得る。例えば、2型糖尿病患者は、スルホニル尿素(例えば、グリメピリド、グリピジド、グリブリド、グリパラミド又はクロルプロパミドを服用中であり得る。例として、2型糖尿病患者は、チアゾリジンジオン、例えばピオグリタゾンを服用中でもあり得る。
【0043】
ベースライン:用語「ベースライン」及び「ベースライン測定値」は、特定の測定基準の測定値であって、その測定基準を改変しようとする行為が行われる前、例えば研究開始時(用量投与前)の対象又は対象の集団における測定値を指す。例えば、代謝疾患又は障害の治療を研究するにおいて、ベースライン又はベースライン測定値とは、数ある測定値の中でも特に、レプチンレベル、グレリンレベル、アディポネクチンレベル、体重、体脂肪量(例えば、全脂肪量又は内臓脂肪量)、除脂肪量(例えば、筋量)、インスリンレベル(絶食時又は非絶食時)、インスリン感受性、グルコースレベル(絶食時又は非絶食時)、胃排出速度、代謝率(例えば、定義された期間の中で消費される酸素及び排出される二酸化炭素により測定される)、HbA1cレベル、血圧及び脈拍、リポタンパク脂質の測定値及び/又は胴囲の測定値を指し得る。
【0044】
体組成:用語「体組成」は、体脂肪量、筋肉(除脂肪)量、骨及び水等を含め、体を構成する相対的構成成分を指す。詳細には、体重管理に関連して、体組成とは、身体の除脂肪量と脂肪量の比を指す。明示的に述べられない限り、本明細書で使用されるときこの用語は、全身(体全体)の体組成を指す。体組成は、身体密度、二重エネルギーX線吸収法(DEXA)、空気置換プレチスモグラフィー(ADP)、生体電気インピーダンス解析(BIA)、身体容積指標(BVI)、皮下脂肪(測定用ノギスで)、超音波、定量的磁気共鳴(QMR)、周囲長(例えば、胴回りで測定される)及び他の測定値を含め、様々な好適な方法及び技法により測定することができる。
【0045】
ボディマスインデックス(BMI):用語「ボディマスインデックス」又は「BMI」は、人の質量及び身長から導き出される数値であり、キログラム単位の体重をメートル単位の身長の二乗で除したものとして定義される(kg/mの単位で表される)。BMIは、身長に対する組織量(筋肉、脂肪及び骨)に基づいて人を体重不足、正常体重、過体重、肥満又は極度の肥満に分類するために用いることができる一般的な体重-身長の関係を提供する。
【0046】
カロリー制限(calorie restriction)/カロリー制限(caloric restriction):この用語は、全体的なカロリー摂取量の低減が要求される一形態のダイエットを指す。
【0047】
組合せ療法:本明細書で使用されるとき、「組合せ療法」は、所定の適応疾患及び/又はそれに関連する病態を治療することを意図した2つ以上の活性薬剤(例えば、2つ以上の薬理学的薬剤)の投与が関わる治療レジメンを指す。2つ以上の薬剤は、別個の組成物(例えば、製剤)として製剤化され得るか、又は単一の組成物(製剤)として製剤化され得る。「組合せ療法」とは、互いに併せて且つ互いを補足して使用される療法を包含する。
【0048】
用語「低下させる」又は「低減する」は、本明細書で使用されるとき、疾患症状に関連して、かかるレベルの統計的に有意な低下を指す。低下は、例えば、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%若しくは95%又は検出方法の検出レベルより下であり得る。低下は、例えば、約1~10%、10~20%、1~30%、20~50%、30~60%、40~70%、50~80%又は60~90%でもあり得る。特定の実施形態では、障害を有する個体における低減により、かかる障害のない個体についての正常範囲内として許容されるレベルが実現し得る。
【0049】
ダイエット/ダイエットレジメン:本開示に関連して、体重管理、例えば薬理学的介入を含む肥満治療の一部として、ある種のダイエットが取り入れられ得る。ダイエットとしては、カロリー制限(caloric restriction)/カロリー制限(calorie restriction)(即ちカロリー摂取量の低減又はカロリーの吸収の低減)並びに摂取する食物の種類に関する選択肢の変更(例えば、高タンパク質、低脂肪又は低炭水化物レジメン)を挙げることができる。このように、患者が全体的な治療レジメンの中に例えば体重管理の一部としてダイエットを取り入れるか、又はそれを取り入れるように医師又は同等の者の指示を受けるとき、患者は「ダイエット中又は低カロリーレジメン中」である。
【0050】
有効量:本明細書で使用されるとき、用語「有効量」及び「有効用量」とは、許容可能なリスク対効果比で組織又は対象においてその意図した1つ又は複数の目的、即ち所望の生物学的又は医学的反応を果たすのに十分な化合物又は組成物の任意の量又は用量を指す。例えば、本発明の特定の実施形態では、意図した目的とは、インビボでミオスタチンの活性化を阻害すること、ミオスタチン阻害に関連する臨床的に有意味なアウトカムを達成することであり得る。
【0051】
一部の実施形態では、有効量とは、特定のレジメンに従って投与されたとき、合理的に許容可能なレベルの有害作用(例えば、毒性)で肯定的な臨床アウトカムをもたらす量であって、従って存在する場合に有害作用が、患者にとって治療レジメンを継続するのに十分忍容可能なものであり、療法の利益が毒性のリスクに勝るような量である。当業者は、本発明の一部の実施形態では、単位投薬量とは、それが肯定的なアウトカムと相関のある投薬量レジメンに関連して投与に適切な量を含有する場合、有効量を含有すると見なし得ることを理解するであろう。
【0052】
治療有効量は、複数の単位用量を含み得る用量設定レジメンで投与されることが多く見られる。任意の特定の医薬品について、治療有効量(及び/又は有効な用量設定レジメンの範囲内にある適切な単位用量)は、例えば、投与経路、他の医薬品との組合せに応じて様々であり得る。一部の実施形態では、任意の特定の患者に対する具体的な治療有効量(及び/又は単位用量)は、治療下の障害及び障害の重症度;用いられる具体的な医薬品の活性;用いられる具体的な組成物;患者の年齢、体重、全般的な健康、性別及び食事;用いられる具体的な医薬品の投与タイミング、投与経路及び/又は排泄若しくは代謝速度;治療継続期間;及び医学の技術分野で周知のとおりの同様の要因を含め、様々な要因に依存し得る。
【0053】
本明細書で使用されるとき「有効量」とは、単独又は1つ以上の他の活性薬剤との組合せのいずれかで対象に治療効果を付与するために要求される各活性薬剤の量も指し得る。例えば、有効量とは、生物学的効果、例えば筋量又は筋線維直径の増加、筋線維型の転換、筋肉によって発生する力の大きさの増加、対象における筋組織の量及び/又は機能の増加;対象の代謝率の増加;対象のインスリン感受性の増加;対象における褐色脂肪組織レベルの増加;対象におけるベージュ脂肪組織レベルの増加;対象における白色脂肪組織レベルの低下;対象における内臓脂肪組織レベルの低下;対象における脂肪対筋組織比の低下;対象における褐色脂肪組織、ベージュ脂肪組織又は筋組織によるグルコース取込みの増加;白色脂肪組織又は肝組織によるグルコース取込みの低下;対象における筋肉タンパク質異化及び/又は筋肉アミノ酸放出の低下;対象におけるインスリン依存性血糖コントロールの増加;対象における筋肉内脂肪浸潤の低下;又は対象における臨床的に重要なアウトカム、例えばインスリン抵抗性、過体重若しくは血糖コントロールの部分的及び完全な好転又は筋喪失若しくは筋萎縮の予防;及び/又は対象における代謝疾患の発症の予防を実現するのに十分な本開示のミオスタチン阻害剤、例えば抗体又はその抗原結合断片の量を指す。
【0054】
有効量は、当業者により認識されるとおり、治療下の詳細な病態、病態の重症度、年齢、健康状態、サイズ、性別及び体重を含めた個々の患者パラメータ、治療継続期間、並行して行う療法(存在する場合)の性質、具体的な投与経路並びに健康関連の従事者の知識及び専門的知見の範囲内にある同様の要因に応じて様々である。これらの要因は、当業者に周知であり、ルーチン程度に過ぎない実験で対処することができる。
【0055】
有効性:用語「有効性」は、ある療法をその意図した1つ又は複数の目的を果たすのに十分な量で投与した結果としての対象において測定可能な生物学的又は医学的反応を指す。例えば、本発明の特定の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤の有効性とは、阻害剤の使用に関連する任意の所望の臨床的に有意味なアウトカムを指し得る。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤の有効性とは、GLP-1経路活性化剤の使用に関連する任意の所望の臨床的に有意味なアウトカムを指し得る。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤と併せて使用されるミオスタチン経路阻害剤の有効性は、患者又は患者集団で測定される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む組合せ療法の有効性は、その組合せで治療される患者又は患者集団で測定される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤を含む補助療法の有効性は、GLP-1経路活性化剤で治療される患者又は患者集団で測定される。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤を含む補助療法の有効性は、ミオスタチン経路阻害剤で治療される患者又は患者集団で測定される。組合せ療法又は補助療法において、測定される有効性は、好ましくはいずれか一方の単剤療法よりも高い(それよりも臨床的に有意味である)。一部の実施形態では、治療有効性とは、ミオスタチン経路阻害剤をGLP-1経路活性化剤と併せて受ける対象における代謝障害の1つ以上の症状の軽減、低減、遅延又は予防など、代謝障害を有する対象(例えば、哺乳類対象)にとっての臨床的に有意味なアウトカムを指す。一部の実施形態では、かかる有効性は、研究又は治療レジメン終了時の体組成の変化(例えば、筋肉対脂肪比の変化)を例えばDXA、qNMR等により測定することによって評価される。一部の実施形態では、治療有効性は、血糖コントロール/インスリン感受性(例えば、HbA1c測定値、空腹時血糖及びインスリン等)、人体計測値(体重、BMI、胴囲、体重対ヒップ比、脂肪又は筋肉の喪失、安定又は増大)をそれぞれベースラインと比較して測定することによって判定される。一部の実施形態では、PK/PDマーカー、例えば血清潜在型ミオスタチンの測定値を有効性の測定値として使用することができる。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤による治療の治療上有効なアウトカムは、ベースラインに対する体重などの他の特性の変化に関係なく、筋肉対脂肪比の増加である。一部の実施形態では、治療上有効なアウトカムは、ベースラインと比べた体重の低下、体脂肪量の減少又は安定化及び/又は筋量の増加を含む。
【0056】
運動/運動レジメン:本明細書で使用されるとき、用語「運動」には、任意の身体的活動が含まれる。患者が全体的な治療レジメンの中に例えば体重管理の一部として身体活動量の増加を取り入れるか、又はそれを取り入れるように医師又は同等の者の指示を受けるとき、患者は「運動レジメン」中である。
【0057】
Fc変異体:用語「Fc変異体」とは、典型的にはその由来である親(参照)抗体と同じCDR配列を有する、そのFc領域内に1つ以上の突然変異を含む抗体(免疫グロブリン)を指す。Fc変異体は、FcRnなど、FcRに対する親和性の変化(例えば、増加)を有するように作成することができる。一部の実施形態では、FcRnに対する親和性が変化する結果、1つ又は複数のFc突然変異のないその親抗体と比較して、Fc変異体のより長い血清半減期など、インビボでの生物学的活性に変化が生じる。
【0058】
用語「胃排出」とは、胃の内容物が小腸(即ち十二指腸)に入る過程を指す。用語「食後の胃排出」は、食後に胃排出が起こる速度を指す。胃排出は、シンチグラフィー、磁気共鳴画像法(MRI)及びリアルタイム超音波検査など、当技術分野における任意の公知の方法により測定され得る。
【0059】
GLP-1類似体:本明細書で使用されるとき、用語「GLP-1類似体」は、天然に存在するGLP-1と構造的及び機能的類似性を有するペプチド又は修飾ペプチドを指し、GLP-1受容体に結合してそれを活性化させる能力を有する。GLP-1類似体の非限定的な例としては、セマグルチド、エクセナチドER、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、デュラグルチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382及びアルビグルチドが挙げられる。GLP-1類似体には、アミノ酸配列EGTFTSD(配列番号116)を含むペプチド又は修飾ペプチドが含まれるものとする。GLP-1類似体には、アミノ酸配列HXXGXFTXD(配列番号117)(式中、Xは、任意のアミノ酸残基である)を含むペプチド又は修飾ペプチドが含まれるものとする。
【0060】
GLP-1受容体アゴニスト:用語「GLP-1受容体アゴニスト」は、GLP-1受容体に結合してそれを活性化させる能力を有する薬剤を意味する。GLP-1は、GLP-1受容体の天然に存在するアゴニストである。GLP-1受容体アゴニストには、GLP-1類似体が包含される。GLP-1受容体アゴニストは、小分子GLP-1受容体アゴニストであり得る。一部の実施形態では、GLP-1受容体アゴニストは、長時間作用型の小分子GLP-1受容体アゴニストである。
【0061】
GLP-1経路活性化剤:用語「GLP-1経路活性化剤」及び「GLP-1シグナル伝達経路の活性化剤」は、本明細書では同義的に使用され、作用機序に関係なく、GLP-1シグナル伝達経路の活性を増加又は亢進させる任意の薬を包含する。GLP-1シグナル伝達経路の活性の増加又は亢進は、例えば、活性の程度が高くなる、活性の持続期間が長くなる、シグナル伝達経路の1つ以上の成分のアベイラビリティが増加する等の結果であり得る。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤としては、GLP-1の上流制御因子を調節する薬剤(例えば、ジペプチジルペプチダーゼ(DPP-IV)阻害剤)が挙げられる。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤としては、GLP-1の量又は活性を制御する薬剤(例えば、GLP-1の産生又は分泌を増加させる薬剤;GLP-1安定剤)が挙げられる。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤としては、GLP-1受容体(GLP-1R)の活性化を増加させる薬剤が挙げられる。一部の実施形態では、GLP-1Rの活性化を増加させる薬剤としては、GLP-1類似体を含むGLP-1アゴニストが挙げられる。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤としては、GLP-1Rの下流のシグナル伝達を活性化させる薬剤(例えば、PI3K、PKC、cAMP等の活性化剤)が挙げられる。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤としては、受容体GLP-1R発現及び/又は輸送を調節する薬剤を挙げることができる(例えば、GLP-1Rインターナリゼーションの阻害剤;例えば、Jones et al.,Nat.Comm.(2018)9:1602を参照されたい)。GLP-1経路活性化剤には、GLP-1Rの活性化剤が包含される。好ましい実施形態では、GLP-1経路活性化剤は、GLP-1受容体アゴニストである。GLP-1経路活性化剤としては、限定されないが、抗体及びその抗原結合断片、操作されたタンパク質構築物(GLP-1類似体を含むFcコンジュゲート及び多機能分子など)、ペプチド及び小分子が挙げられる。GLP-1経路活性化剤(GLP-1類似体など)を含む治療レジメンには、治療の一部としてダイエット(例えば、低カロリーダイエット又はカロリー制限)及び/又は運動(例えば、身体活動量の増加)が更に含まれ得る。一部の実施形態では、患者には、ダイエット及び/又は運動に関するカウンセリングが提供される。
【0062】
ヒト抗体/ヒト化抗体:用語「ヒト抗体」には、本明細書で使用されるとき、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列及びその断片に由来する可変領域と定常領域とを有する抗体が含まれることが意図される。本開示のヒト抗体は、例えばCDR及び詳細にはCDR3に、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでランダム突然変異誘発若しくは部位特異的突然変異誘発又はインビボで体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含み得る。用語「ヒト化抗体」は、本明細書で使用されるとき、ヒトにおいて産生される抗体とのその類似性が増加するようにタンパク質配列が修飾されている非ヒト種からの抗体を指す。「ヒト化抗体」は、マウスなど、別の哺乳類種の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされている抗体を指し得る。
【0063】
用語「増加する」は、例えば、疾患に関連する機能の喪失又は量、例えば筋量の喪失が症状であるような疾患に関連して、かかるレベルの統計的に有意な増加を指す。増加は、例えば、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%若しくは95%又は検出方法の検出レベルより上であり得る。増加は、例えば、約1~10%、10~20%、1~30%、20~50%、30~60%、40~70%、50~80%又は60~90%でもあり得る。特定の実施形態では、増加は、最大で、かかる障害のない個体についての正常範囲内として許容されるレベルまでであり、これはレベルの正常化と称することができる。特定の実施形態では、増加は、疾患の徴候又は症状のレベルの正常化、疾患の徴候の対象レベルと疾患の徴候の正常レベルとの間の差の増加である。特定の実施形態では、本方法は、プロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合する抗体で対象を治療した後の筋組織の量及び/又は機能の増加を含む。特定の実施形態では、本方法は、対照プロミオスタチンレベルと比較した標的筋肉におけるプロミオスタチンレベルの増加を含む。
【0064】
ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤:用語「ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤」及び「ミオスタチン経路阻害剤」は、本明細書では同義的に使用され、作用機序に関係なく、ミオスタチンシグナル伝達経路の活性を低下させる(低減する)又は抑制する任意の薬剤を包含する。ミオスタチンシグナル伝達経路の活性の低下又は抑制は、例えば、活性の程度の低減、活性の持続期間の短縮、シグナル伝達経路の1つ以上の成分のアベイラビリティの低減等の結果であり得る。
【0065】
インスリン感受性;インスリン抵抗性:用語「インスリン感受性」は、対象の身体においてインスリンがグルコース処理を促進する代謝作用を指す。対象は、その対象が血中グルコースレベルを下げるのに必要なインスリンの量がヒト集団における平均と比較して少ない場合、インスリン感受性の増加を呈すると言われる。対照的に、対象は、その対象が血中グルコースレベルを下げるのに必要な量のインスリンが多い場合、インスリン感受性の低下を呈すると言われる。対象は、対象のグルコース取込み及び利用を増加させるために必要な外因性又は内因性インスリンの分量が健常対象よりも有意に高い場合、「インスリン抵抗性」を呈すると言われる。例えば、対象は、対象のグルコース取込み及び利用を増加させるために必要な外因性又は内因性インスリンの分量が健常対象と比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%又はそれを超える場合、「インスリン抵抗性」と言われる。
【0066】
除脂肪/除脂肪量:本明細書で使用されるとき、「除脂肪」量又は組織は、概して、体脂肪量又は組織(例えば、脂肪)に対立するものとしての、筋量又は組織に対応する。典型的には、身体において体脂肪量と比べた除脂肪量の比が大きくなるほど、一層望ましい体組成であることを示している。
【0067】
リガンドトラップ:本明細書で使用されるとき、用語「リガンドトラップ」は、リガンド(成長因子など)を封鎖し、それによりリガンドが内因性受容体に結合してそれを活性化させるのを防ぐような「トラップ」としての役割を果たすリガンド結合断片/部分を含む分子又は分子クラスを指す。リガンドトラップは、リガンドの天然に存在する受容体から、そのリガンド結合部分を取り込むことによって誘導され得る。ミオスタチンリガンドトラップの例としては、限定なしに、可溶性受容体ベースのリガンドトラップ、フォリスタチンベースのリガンドトラップ等が挙げられる。ミオスタチンリガンドトラップは、ミオスタチンに選択的でなくてもよく、GDF11及びアクチビンAなどの追加的なリガンドにも結合して、それを阻害し得る。
【0068】
成熟ミオスタチン:用語「成熟ミオスタチン」は、GDF8としても知られる二量体成長因子を指し、潜在型ミオスタチン複合体から放出される。成熟ミオスタチンは、その受容体に結合してそれを活性化させる能力を有する可溶性の生物学的に活性なリガンドである。特に明記しない限り、用語「成熟ミオスタチン」は、完全にプロセシングされた、生物学的に活性な形態のミオスタチンを指す。成熟ミオスタチンの野生型配列は、配列番号56として提供される。ある場合には、成熟ミオスタチンは1つ以上の突然変異を含有し得、これは、構造/機能又は安定性の変化を呈し得る。
【0069】
配列番号56
DFGLDCDEHSTESRCCRYPLTVDFEAFGWDWIIAPKRYKANYCSGECEFVFLQKYPHTHLVHQANPRGSAGPCCTPTKMSPINMLYFNGKEQIIYGKIPAMVVDRCGCS
【0070】
代謝障害:用語「代謝障害」は、代謝疾患又は代謝病態とも称され得、身体の代謝機能の調節異常が関わる結果、代謝(同化及び/又は異化)の変化に起因した恒常性の正常な生理学的状態に乱れが生じる任意の病態を包含する。代謝障害は、遺伝性又は後天性であり得る。代謝障害の非限定的な例としては、肥満/過体重、2型真性糖尿病、肥満に関連する2型真性糖尿病及びメタボリックシンドロームが挙げられる。
【0071】
代謝率:用語「代謝率」は、特定の期間中に費やされるエネルギーの量を指す。これは典型的には、カロリー、キロカロリー又はジュール単位で測定される。代謝率は、単位時間当たりに消費される酸素又は産生される二酸化炭素として表され得る。
【0072】
代謝:用語「代謝」は、脂肪(例えば、体脂肪組織)、筋肉及び骨など、身体を構成する成分の生合成及び分解に関与する過程を指す。従って「脂肪代謝」とは、脂肪の生合成及び分解過程を意味する。
【0073】
ミオスタチン:本開示に関連して、特に明示的に定義しない限り、用語「ミオスタチン」は、それぞれインビボでは二量体で存在するプロミオスタチン、潜在型ミオスタチン及び成熟ミオスタチンなど、任意の形態のミオスタチンタンパク質を指すことができる。
【0074】
ミオスタチン阻害剤:本明細書で使用されるとき、用語「ミオスタチン阻害剤」は、1つ以上の形態のミオスタチン(例えば、プロミオスタチン、潜在型ミオスタチン及び/又は成熟ミオスタチン)を阻害する任意の薬剤を指し、ミオスタチンの選択的阻害剤及びミオスタチンの非選択的阻害剤の両方を包含する。ミオスタチンの選択的阻害剤(即ちミオスタチン選択的阻害剤)は、所与の濃度でTGFβスーパーファミリーの他の構造的に関係のあるメンバーと比べてミオスタチンに対して実質的に特異的であり、且つそれに向けた効力がある。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、TGFβスーパーファミリーの別のメンバー(例えば、GDF11又はアクチビンA)と比較して、それが2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍又はそれを超える親和性でミオスタチンに結合する場合に選択的である。当技術分野で公知のミオスタチン選択的阻害剤の例としては、アピテグロマブ、トレボグルマブ及びGYM329が挙げられる。対照的に、ミオスタチンの非選択的阻害剤は、所与の濃度でミオスタチン並びにGDF11、アクチビンA、アクチビンB、BMP等など、TGFβスーパーファミリーの1つ以上の追加的なメンバーを阻害する。文献中のほとんどのミオスタチン阻害剤は、非選択的の分類に入る。用語のミオスタチン阻害剤とは、巨大分子(抗体及び操作されたタンパク質構築物などの、生物製剤)及び小分子(構造的に定義された低分子量化学的実体など)など、任意の分子モダリティを包含する。ミオスタチン阻害剤は、抗ミオスタチン抗体又はプロ及び/若しくは潜在型ミオスタチン及び/若しくは成熟ミオスタチンと結合するその抗原結合断片であり得る。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又は成熟ミオスタチンと比べてプロ及び/又は潜在型ミオスタチンと優先的に(例えば、選択的に)結合するその抗原結合断片であり得る。様々な実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、抗体(中和抗体などの)、活性化阻害剤(例えば、プロ及び/又は潜在型ミオスタチンの活性化を阻害する抗体)、アドネクチン、ペプチボディ、受容体トラップ又はリガンドトラップであり得る。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、小分子阻害剤である。他の実施形態では、ミオスタチン阻害剤とは、遺伝子療法を指す。
【0075】
ミオスタチン経路阻害剤:用語「ミオスタチン経路阻害剤」及び「ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤」は、本明細書では同義的に使用され、作用機序に関係なく、ミオスタチンシグナル伝達経路の活性を低下させる(低減する)又は抑制する任意の薬剤を包含する。ミオスタチンシグナル伝達経路の活性の低下又は抑制は、例えば、活性の程度の低減、活性の持続期間の短縮、シグナル伝達経路の1つ以上の成分のアベイラビリティの低減等の結果であり得る。かかる阻害は、ミオスタチンそれ自体に選択的であり得るか、又はGDF11及びアクチビンAなど、少なくとも1つの追加的な成長因子もそれが阻害するように非選択的であり得る。かかる薬剤は、ミオスタチン誘導性シグナル伝達カスケードのメンバーを介してミオスタチンの上流、ミオスタチン上又はミオスタチンの下流に作用してミオスタチン経路のシグナル伝達機能を変化させることにより、ミオスタチンに関係するシグナル伝達を低減し得る。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤には、ミオスタチンの上流の分子に作用して、例えばプロ及び/又は潜在型ミオスタチンをその活性形態となるように切断するプロテアーゼの活性化を妨げる阻害剤が包含される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤には、ミオスタチン選択的阻害剤を含め、ミオスタチンそのものに作用してその活性化を妨げるか、又は受容体とのその相互作用を妨げるミオスタチン阻害剤が包含される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤には、ミオスタチン受容体又は下流に作用してミオスタチンシグナル伝達カスケードの1つ以上の効果を妨げる抗体及び他の阻害剤が包含される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤としては、限定されないが、抗体又はその抗原結合断片、小分子、受容体トラップ、アドネクチン、アフィボディ、DARPin、アンチカリン(Anticalin)、アビマー(Avimer)、ベルサボディ(Versabody)、受容体阻害剤(受容体抗体又は受容体キナーゼ阻害剤など)又は遺伝子療法が挙げられる。
【0076】
ミオスタチン選択的阻害剤:用語「ミオスタチン選択的阻害剤」は、ミオスタチンに選択的であるが、GDF11、アクチビンA又は他のTGFβファミリーメンバーに選択的でないミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤(即ちミオスタチン経路阻害剤)を指す。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤は、TGFβスーパーファミリーの別のメンバー(例えば、GDF11又はアクチビンA)と比較して、それが2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍又はそれを超える親和性でミオスタチンに結合する場合、選択的である。好ましい実施形態では、選択的ミオスタチン阻害剤は、他のTGFβファミリーメンバーに対しては検出可能な結合又は効力を呈しない。一部の実施形態では、ミオスタチン選択的阻害剤は、成熟ミオスタチンに結合し、それによりその活性を阻害する中和抗体である。一部の実施形態では、ミオスタチン選択的阻害剤は、プロ及び/又は潜在型ミオスタチンに結合し、それによりミオスタチンの活性化工程を阻害する抗体である。一部の実施形態では、ミオスタチン選択的阻害剤は、Ab2、アピテグロマブ、トレボグルマブ、GYM329又は前述のいずれか1つの変異体である。
【0077】
過体重/肥満:身長に関して調整した正常体重と見なされるものよりも重い体重の人は、過体重であるか又は肥満を有すると記載される。BMIベースの分類を用いると、ヒト成人(年齢20歳以上)について、18.5~24.9のBMIは正常体重と見なされ;25~29.9のBMIは、過体重と見なされ;30以上のBMIは、肥満(極度の肥満を含む)と見なされ;及び40以上のBMIは、極度の肥満と見なされる。小児及び青年(年齢2~19歳)について、CDC成長曲線上で85パーセンタイル値以上のBMIは、過体重又は肥満と見なされ;CDC成長曲線上で95パーセンタイル値以上のBMIは、肥満(極度の肥満を含む)と見なされ;及びCDC成長曲線上で95パーセンタイル値の120パーセント以上のBMIは、極度の肥満と見なされる。
【0078】
プロ/潜在型ミオスタチン:本明細書で使用されるとき、用語「プロ/潜在型ミオスタチン」は、プロミオスタチン、潜在型ミオスタチン又は両方(即ちミオスタチンのプロ型又は前駆体)を指すが、成熟ミオスタチンは除外する。プロ及び潜在型形態のミオスタチンはプロドメイン(例えば、LAP)と会合したままであり、それらが細胞性ミオスタチン受容体に結合不能である点で不活性である。
【0079】
「特異的」及び「特異性」は、特異的結合対(例えば、リガンドと結合部位、抗体と抗原、ビオチンとアビジン)のメンバー間における相互作用に関連して、相互作用の選択的な反応性を指す。語句「~に特異的に結合する」及び類似の語句は、抗体に関連して、抗体(又は抗原反応性のあるその断片)が抗原(又はその断片)に特異的に結合し、且つ他の実体には特異的に結合しない能力を指す。特異的結合は、ある種の抗原、エピトープ、受容体リガンド又は結合パートナーに対して、例えば対照の非特異的抗原、エピトープ、受容体リガンド又は結合パートナーと比べて少なくとも2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、200倍、500倍又は1,000倍の優先傾向で結合する優先傾向と理解される。「特異的結合」は、本明細書で使用されるとき、Kon、Koff及びKなど、結合反応速度論に基づく結合対も指すことができる。例えば、リガンドは、例えば、ELISA及びOctetにより測定したとき、それが10-2sec-1以下、10-3sec-1以下、10-4sec-1以下、10-5sec-1以下又は10-6sec-1以下のKoff;及び/又は10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、又は10-11M以下、又は10-12M以下のKを有する場合、その標的部位に特異的に結合すると理解することができる。様々なタンパク質は、共通のエピトープ又は他の結合部位(例えば、キナーゼ反応部位)を共有し得ることが理解される。特定の実施形態では、結合部位は2つ以上のリガンドに結合し得るが、非特異的抗原と比較した結合優先傾向に基づいて且つ/又はある種の結合反応速度パラメータを有することをもって、なおも特異性を有すると見なすことができる。適切な非特異的対照を選択する方法は、当業者の能力の範囲内にある。結合アッセイは、典型的には生理条件下で実施される。一部の実施形態では、抗体はまた、それが、その標的と、他の抗原に対して示される結合の強度よりも比較的大きい強度で結合する、例えば標的抗原(例えば、プロ/潜在型ミオスタチン)に対して、非標的抗原(例えば、GDF11、アクチビンA又は他のTGFβスーパーファミリーメンバー)に対するよりも比較して2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍又はそれを超える親和性で結合する場合、標的抗原と「選択的に」(即ち「優先的に」)結合し得る。好ましい実施形態では、選択的ミオスタチン阻害剤は、他のTGFβファミリーメンバーに対しては検出可能な結合又は効力を呈しない。
【0080】
対象:本明細書で使用されるとき、用語「対象」は、本明細書に記載される1つ又は複数の療法が投与され得る標的である。臨床に関連して、用語「対象」(例えば、ヒト対象)及び「患者」は同義的に使用され得る。一部の実施形態では、対象は、治療を必要としている脊椎動物、詳細には哺乳類、例えば伴侶動物(例えば、イヌ、ネコなど)、農業動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、家禽など)及び実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモットなど)である。一部の実施形態では、対象は、治療から利益を受けるか又は治療を必要とするであろうヒトである。一部の実施形態では、対象はヒト対象である。一部の実施形態では、対象は、年齢2~19歳の小児又は青年対象である。一部の実施形態では、対象は、年齢12歳以上の対象である。一部の実施形態では、対象は、年齢12~17歳の対象である。一部の実施形態では、対象は、年齢20歳以上の成人対象である。一部の実施形態では、対象は、過体重、肥満又は極度の肥満のヒトである。一部の実施形態では、対象は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病又は肥満に関連する2型糖尿病を有する。
【0081】
用語「全脂肪量」は、対象の身体における累積的脂肪含有量を指す。全脂肪量には、白色脂肪、褐色脂肪及びベージュ脂肪など、各種の脂肪細胞で構成される脂肪が含まれ、且つ必須脂肪、皮下脂肪及び内臓脂肪など、種々の身体コンパートメントにおける脂肪貯蔵が含まれる。全脂肪量は、皮脂厚計を使用した皮脂厚測定によるもの、ある種の身体部位の周囲長を測定すること、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)、静水力学的計量法、空気置換プレチスモグラフィー、生体電気インピーダンス分析、生体インピーダンス分光法、電気インピーダンスミオグラフィー、三次元ボディースキャナ、多コンパートメントモデル又は磁気共鳴画像法を含め、当技術分野で公知の任意の方法により測定又は推定され得る。用語「体脂肪量増大」又は「体脂肪量喪失」は、ベースライン測定値と比較した、測定される体脂肪量の大きさの変化を指す。例えば、代謝障害を有する対象は、代謝障害に対する治療(例えば、ミオスタチン経路阻害剤による、例えばGLP-1経路活性化剤と併せた治療)後に体脂肪量喪失又は内臓脂肪量喪失を呈し得る。用語「内臓脂肪」は、白色脂肪細胞で優勢に構成された、対象の身体の腹部並びに肝臓、腎臓、膵臓、腸及び心臓など、対象の主要臓器の周囲に主に見られる脂肪含有量を指す。
【0082】
治療する/治療すること/治療:対象における病態又は疾患の治療とは、医学的病態を軽減、予防又は改善することを目標とする治療レジメンを提供する行為を指す。従って、治療すること又は治療という用語は、必ずしも疾患又は障害の完全な治療又は予防を必要とするわけではない。一実施形態では、疾患又は障害の症状は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%軽減される。
【0083】
減量:減量とは、1つ又は複数の特定の組織が失われるかに関係なく、体重の減少を指す。例えば、減量それ自体は、体脂肪量の喪失と筋量の喪失との間を区別しない。総体重の全体的な喪失が、必ずしも体組成の改善を反映するわけではない。
【0084】
体重管理:本明細書で使用されるとき、用語「体重管理」とは、体重を減らし、体重を維持し、且つ体脂肪組織を低減するか、除脂肪量を増加させるか又は他の場合に体組成を改善するか若しくは持続させるために取られる対策を包含する。臨床的に有意味な体重管理の成功は、全体的な減量を伴うことも又は伴わないこともある。従って、体重管理には、対象の総体重の大きさを低減し、全脂肪量の大きさを低減し、内臓脂肪量の大きさを低減し、代謝率を増加させ、除脂肪量の大きさを増加させ、且つ/若しくは筋肉対脂肪比を増加させるか又は他の点で体組成を改善するための、ダイエット(例えば、カロリー制限ダイエット、例えばカロリー摂取量の低減又はカロリーの吸収の低減)、運動レジメン及び/又は薬物療法(例えば、ミオスタチン経路阻害剤及び/又はGLP-1経路活性化剤)が含まれ得る。
【0085】
体重関連病態:用語「体重関連病態」又は「体重関連問題」は、本明細書で使用されるとき、対象の過剰な体脂肪量が寄与因子であるような、過剰な体脂肪量に関連する(即ち過体重又は肥満であることに加えた)1つ以上の医学的病態を指す。体重関連病態の非限定的な例としては、2型真性糖尿病、高血圧、トリグリセリド又はコレステロール高値、心疾患、脳卒中、腎疾患、脂肪肝(例えば、NAFLD及びNASH)及び睡眠時無呼吸が挙げられる。
【0086】
グルカゴン様ペプチド1受容体(GLP-1R)
様々な実施形態では、本発明を実施するのに有用な薬剤には、GLP-1シグナル伝達経路を亢進させる薬剤が含まれる。GLP-1は、その内因性受容体であるGLP-1受容体(GLP-1R)を通してシグナルを送る。ヒトGLP-1R(UniProt受託番号P43220)は、8つの疎水性ドメインによって形成される463アミノ酸のGタンパク質共役受容体であり、主に膵島に発現する。細胞表面で機能するこの受容体は、ペプチドホルモングルカゴン様ペプチド1(GLP-1)及びGLP-1類似体による結合を受けてインターナライズされるようになり、これはインスリン分泌につながるシグナル伝達カスケードにおいて重要な役割を果たす。
【0087】
GLP-1Rは特に膵β細胞に豊富にあり、そこでGLP-1Rはグルコース依存性インスリン分泌を駆動しているが、膵α細胞にも存在し、そこで、GLP-1Rは、グルカゴン分泌の阻害を媒介し、且つ腸、肺、腎臓、心臓、血管、リンパ球及び末梢及び中枢神経系にも存在する。心血管系では、GLP-1Rは、血管系、主に動脈及び細動脈に豊富にあり、そこで、GLP-1は、血管拡張効果を発揮する一方、心臓では、GLP-1R発現は、心室筋細胞と比べて心房筋細胞に約6倍多い。
【0088】
野生型グルカゴン様ペプチド-1(7-36)アミド(GLP-1)は、胃排出を遅らせ、膵インスリン分泌を亢進させ、且つ膵グルカゴン分泌を抑制するその能力のため、血中グルコース恒常性の鍵となる決定因子としての役割を果たす分泌型ペプチドである(例えば、Prog Mol Biol Transl Sci.2014;121:23-65.を参照されたい)。GLP-1は、食物摂取に反応して胃腸粘膜のL細胞から分泌され、血中グルコースを下げる役割を果たす。野生型GLP-1は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)によるその酵素分解に起因して急速に不活性化する。放出されたGLP-1は、腸内及び自律神経反射を活性化させる一方、インクレチンホルモンとしても循環して膵内分泌機能を制御する。GLP-1Rは、リガンド(GLP-1)が結合すると、膜結合型アデニルシクラーゼの活性化及び結果としての環状アデノシン一リン酸(cAMP)の産生が関わるカスケードを惹起する。cAMP形成の下流では、幾つかのシグナル伝達経路が惹起され得るが、それらには概して、細胞性cAMPエフェクターであるプロテインキナーゼA(PKA)及びcAMPによって直接活性化される交換タンパク質(EPAC)のいずれか一方又は両方の活性化が必要である。下流シグナル伝達カスケードは、β細胞におけるグルコース刺激性インスリン分泌(GSIS)並びにα細胞グルカゴン放出の阻害を誘導することができる。加えて、GLP-1RがGLP-1及びその類似体による結合を受けると、限定されないが、胃排出の減少、満腹感の増加及び食品動機付け行動の阻害、インスリン貯蔵庫の補充並びにβ細胞に対する細胞保護及び抗炎症作用を含め、種々の抗糖尿効果も惹起される。
【0089】
GLP-1経路活性化剤
本開示は、体重管理及び体組成の改善のための、GLP-1シグナル伝達経路を活性化させる又は亢進させる薬剤のミオスタチン経路阻害剤と併せた使用を提供する。併せた使用には、組合せ療法又は補助療法が関わり得る。GLP-1シグナル伝達経路は、主としてβ細胞の量、機能及び生存能のその調節を通してグルコース恒常性に有益な効果を及ぼす可能性があるため、GLP-1/GLP-1R及び関連するシグナル伝達経路の活性化剤を(限定されないが)含む治療など、代謝障害の治療の開発に魅力的な治療標的である。例えば、GLP-1経路活性化剤の使用は、適切な膵β細胞(インスリン及びアミリン)分泌の亢進、膵α細胞(グルカゴン)抑制、肝グルコース産生の低下、中枢神経系を通した満腹感の増加、胃排出時間の減速及び減量を介した末梢組織におけるインスリン取込みの増加など、2型真性糖尿病(T2DM)を有する対象(例えば、哺乳類)に幾つもの利益を提供することができ、制限としては、並行してダイエット及び身体活動量の増加が必要であること並びに安全性への懸念が挙げられる。本明細書に開示される新規の体重管理手法は、臨床的有益性を亢進させるため、このGLP-1経路活性化剤の利益をミオスタチン経路阻害剤と組み合わせる。理論によって制約されることは望まないが、GLP1Rアゴニストの減量効果の少なくとも一部は、CNS GLP1Rに対する直接的な作用又は求心性ニューロンGLP1Rの下流活性化の結果によって媒介されることが企図される。
【0090】
本開示によれば、「GLP-1経路の活性化剤」又は「GLP-1経路活性化剤」には、(限定されないが)インスリン産生経路活性化剤(例えば、cAMP、EPAC、CREB又はEGFRシグナル伝達経路の活性化剤)及びメトホルミンなど、インスリン産生に及ぼす効果を含む複数の経路に作用する薬剤が含まれる。GLP-1促進剤(例えば、GLP-1の産生又は分泌を増加させる薬剤、GLP-1安定剤);GLP-1R輸送の調節剤(例えば、受容体膜局在化の促進剤、受容体インターナリゼーションの阻害剤)、GLP-1分解阻害剤(例えば、DPP-IV阻害剤);GLP-1分泌促進物質及びGLP-1受容体アゴニストも含まれる。
【0091】
「インスリン分泌」は、膵臓によって放出されるインスリンのレベルを指す。対象のインスリン分泌レベルは、代理で空腹時及び/又は非空腹時血中グルコース濃度の測定値を用いて推定し得る。例えば、ヒトにおける正常な空腹時血中グルコース濃度は80mg/100mL~90mg/100mLであり、これは極めて低いインスリン分泌レベルに関連付けられる。血清インスリンレベルは、酵素結合免疫測定法(ELISA)によるなど、当技術分野における任意の公知の方法を用いても測定され得る。GLP-1シグナル伝達経路を亢進させる薬剤は、GLP-1(及びGLP-1類似体)及び胃抑制腸ポリペプチド(GIP)を含め、インスリン分泌を促進/刺激し得る。
【0092】
一部の実施形態では、GLP-1シグナル伝達経路の有用な活性化剤としては、GLP-1類似体などのGLP-1受容体アゴニストが挙げられる。GLP-1類似体は、GLP-1ペプチドとある種の構造的類似性を共有し、GLP-1受容体に結合してそれを活性化させる能力を保持している修飾されたペプチドを含む。一部の実施形態では、GLP-1類似体は、アミノ酸配列EGTFTSD(配列番号116)を含む。一部の実施形態では、GLP-1類似体は、アミノ酸配列HXXGXFTXD(式中、Xは、任意のアミノ酸残基である)(配列番号117)を含む。本開示によれば、GLP-1シグナル伝達経路活性化剤をミオスタチン経路阻害剤と併せて使用し得る。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤及びミオスタチン経路阻害剤は、対象の肥満などの代謝障害の治療における組合せ療法又は補助(又はアドオン)療法として使用され得る。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤及びミオスタチン経路阻害剤は、対象の体重管理レジメンにおいて、組合せ療法又は補助(又はアドオン)療法として、又はそれと併せて、又はそれを補足して使用され得る。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤及びミオスタチン経路阻害剤は、対象の体組成を改善するための代謝障害の治療において、組合せ療法又は補助(又はアドオン)療法として、又はそれと併せて、又はそれを補足して使用され得る。
【0093】
GLP-1類似体の非限定的な例としては、アルビグルチド、タスポグルチド、セマグルチド、エクセナチド、BPI-3016、GW002、グルタズマブ、エキセンディン-4、エクセナチド、GLP-1(7-36)NH2、エベレストマブ、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382及びデュラグルチドが挙げられる。一実施形態では、GLP-1類似体は、現在2型糖尿病及び肥満に承認されているリラグルチドである。
【0094】
リラグルチド(Victoza(登録商標)、Saxenda(登録商標)、CAS番号204656-20-2)は、GLP-1(7-37)から誘導されるアシル化GLP-1アゴニストである。野生型GLP-1は、酵素ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-IV)及び/又は中性エンドペプチダーゼによる分解に起因して1.5~2分の血漿半減期を有するが、リラグルチドは、対象への投与時にアルブミンに結合するように操作されたアシル化された形態のGLP-1であり、従ってその半減期がGLP-1(7-37)と比較して大幅に延長され、血漿半減期は13時間である。リラグルチドは、商品名Xultophy(登録商標)としてインスリンデグルデクと組み合わせても利用可能であり、セマグルチド(Ozempic(登録商標)、Rybelsus(登録商標)、Wegovy(登録商標)、CAS番号910463-68-2)は、2-アミノイソ酪酸が8位のアラニン部分を置き換え、且つアルギニンが34位のリジン部分を置き換えるという2つのアミノ酸置換を含む修飾されたGLP-1ペプチドである。8位の置換が酵素DPP-IVによる分解を防ぐ。セマグルチドは、米国FDAにより2017年に承認された。例えば、Novo Nordisk A/S.Ozempic(semaglutide)injection,for subcutaneous use;prescribing information;2020を参照されたい。
【0095】
デュラグルチド(Trulicity(登録商標)、CAS番号923950-08-7)は、ヒトIgG4のFc断片に共有結合的に連結されたGLP-1(7-37)を含む。デュラグルチドは、2型真性糖尿病の成人に(ダイエット及び運動と組み合わせて)承認されている。例えば、Meece J.,Adv Ther.2017;34:638-657を参照されたい。
【0096】
エクセナチド(Byetta(登録商標)、Bydureon(登録商標)、CAS番号141758-74-9)は、ダイエット及び運動と組合せた真性糖尿病2型の治療のために米国FDAによって2005年に承認された合成形態のGLP-1模倣薬エキセンディン-4(アメリカドクトカゲ唾液ホルモン)である。
【0097】
グルタズマブは、ヒトGLP-1誘導体を、ペプチドリンカーを介してヒト化GLP-1R抗体に連結することによって操作された抗体融合タンパク質である。Li et al.,Biochem Pharmacol.2018 Apr;150:46-53。
【0098】
リキシセナチド(Lyxumia(登録商標)、Adlyxin(登録商標)、CAS番号320367-13-3)は、ダイエット及び運動と併せた真性糖尿病2型の治療に承認されているGLP-1模倣薬である。例えば、Sanofi-Aventis US.Adlyxin(lixisenatide),prescribing information,2016を参照されたい。リキシセナチドは、商品名Soliqua(登録商標)/Suliqua(登録商標)としてインスリングラルギンと組み合わせても利用可能である。
【0099】
エベレストマブは、真性糖尿病2型の治療のために設計されたタンデム二重特異性ヒト化GLP-1Rターゲティング及びアルブミン結合ナノボディに融合している突然変異型GLP-1(A8G)を含む長時間作用型GLP-1/抗GLP1R融合タンパク質である。Pan et al.,ARTIFICIAL CELLS,NANOMEDICINE及びBIOTECHNOLOGY 2020,VOL.48,NO.1,854-866。
【0100】
アルビグルチド(Eperzan(登録商標)、Tanzeum(登録商標)、CAS番号782500-75-8)は、2型真性糖尿病に承認されたGLP-1Rアゴニストである。その製造は売上不足のため2018年に中止された。例えば、GlaxoSmithKline LLC.Tanzeum(登録商標)(albiglutide)for injection,for subcutaneous use prescribing information;2017を参照されたい。
【0101】
タスポグルチドは、以前は真性糖尿病2型の治療に関する臨床試験中であったGLP-1Rアゴニストである。
【0102】
チルゼパチド(LY3298176)は、2型糖尿病の治療に関して臨床試験中である二重グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド、GIP及びGLP-1受容体アゴニストである。これは、GIP配列中にGLP-1活性を操作することにより作られたものであり、血糖コントロールを改善し、且つ体重を低減することが示されている(Rosenstock et al.,Lancet(2020)398:143-155)。
【0103】
BP3016は、DPP-IV切断に対する抵抗性が操作されたヒトGLP-1(7-37)を含む長時間作用型hGLP-1類似体である。例えば、Pharmacol Res.2017 Aug;122:130-139を参照されたい。
【0104】
XW003は、初期臨床試験で用量依存的体重減少を誘導することが示されているアシル化ヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)類似体である。この薬物は、現在、肥満の治療に対する開発の第2相段階にある。例えば、ClinicalTrials.gov identifier NCT05111912を参照されたい。
【0105】
ノイイグルチドは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニストとしての役割を果たす40merのエクセナチド類似体である。この薬物は、Jiangsu Hansoh Pharmaceuticalによって肥満の治療のために開発されているものである。現在、第2相臨床開発中である。例えば、Cabri et al.Front Mol Biosci.2021;8:697586を参照されたい。
【0106】
MEDI0382は、標的化したGLP-1及びグルカゴン受容体活性を有するオキシントモジュリン様ペプチドである。現在、肥満の治療に対する臨床開発の第2相段階にある。例えば、Ambery et al.Lancet.2018 Jun 30;391(10140):2607-2618を参照されたい。
【0107】
本開示によれば、GLP-1経路活性化剤としては、ダヌグリプロン(Pfizer)、AMG 133(Amgen)などのGLP-1受容体アゴニスト/GIP受容体アンタゴニストの組合せ、mas受容体活性化剤、例えばサルコネオス(Sarconeos)、チルゼパチド(Eli Lilly)などのGLP-1/GIPの組合せ、カグリリンチド/セマグルチドの組合せ(Novo Nordisk)などのアミリン/GLP-1の組合せ、DD01(Neuraly)などのGLP-1/グルカゴンの組合せ、ALT-801(Altimmune)などのGLP-1/グルカゴンの組合せ、CT-388(Carmot)などのGLP-1/GIP、IBI362(マズデュチド(mazdutide)(LY-330567(Innovent/Eli Lilly)などのGLP-1/グルカゴン二重アゴニスト、ダヌグリプロン(PF-06882961)(Pfizer)、セトメラノチド(Rhythm)、LY3437943(Eli Lilly)などのGLP-1/GIP/グルカゴン三重受容体アゴニスト及びLY3298176(Eli Lilly)などの二重GIP/GLP-1受容体アゴニストが挙げられる。
【0108】
GLP-1経路活性化剤には、メトホルミン及びその誘導体など、GLP-1経路を含めた複数の経路に作用する薬剤が更に包含される。Rena et al.,Diabetologia 60:1577-85(2017)。メトホルミンの非限定的な例としては、Fortamet、Glucophage、Glucophage XR、Glumetza、Riomet、Obimet、Gluformin、Dianben、Diabex、Diaformin、Metsol、Siofor、Metforgamma及びGliforが挙げられる。GLP-1経路活性化剤としては、追加的な活性薬剤を含むメトホルミン含有薬物療法も挙げられる。例としては、限定されないが、チアゾリジンジオン類(グリタゾン類)及びロシグリタゾンが挙げられる。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤は、FGF-2又はそれから誘導されるペプチドである
【0109】
ミオスタチン
GDF8(又はGDF-8)としても知られるミオスタチンは、TGFβスーパーファミリーのメンバーであり、2つのメンバー:ミオスタチン及びGDF11を含むサブファミリーに属する。TGFβスーパーファミリーの他のメンバーと同様に、ミオスタチン及びGDF11は、両方とも初めに不活性な前駆体ポリペプチドとして発現する(それぞれプロミオスタチン及びプロGDF11と称される)。プロミオスタチンの全体的な構造において、成熟した成長因子は、「潜在の投げ縄(latency lasso)」と称されるループによって結び付いた2つのαヘリックスを含むケージにロックされて保持されている。ヒトミオスタチンは、UniProt受託番号O14793に対応し;マウスミオスタチンは、UniProt受託番号O08689に対応する。
【0110】
ミオスタチンは、自己抑制的N末端プロドメインから2つの別個のプロテアーゼ切断段階によって放出される骨格筋量の十分に特徴付けられた負の制御因子である。これらの切断イベントは、例えば筋線維微小環境内におけるものであり、超細胞レベルの活性化と称することができる。活性化後、成熟ミオスタチンは、I型及びII型細胞表面受容体(Alk4/5及びActRIIB)の複合体に結合することによってシグナルを送り、その下流シグナル伝達が筋破壊及び筋萎縮を誘発する。ミオスタチンは、筋消耗の治療の潜在的標的として長らく関心が持たれてきた。しかしながら、現在までのところほぼ全ての臨床プログラムが失敗に終わり、中止されているため、その潜在的可能性に関して疑いが投げかけられている。実際、一部の報告では、幾つもの筋障害においてミオスタチン発現レベルは減少しているように見えることが示唆されており、治療標的としてのミオスタチンに懐疑的な見方が増えることにつながっている(例えば、Mariot et al.(2017)Nat.Com.8:1859;Burch et al.(2017)J.Neurolを参照されたい)。その上、Latres et al.が2017年の論文において、ミオスタチンでなく、アクチビンAが骨格筋成長の顕著な制御因子であるように見えることを示唆した。前述にもかかわらず、本明細書に提示するデータは、ミオスタチン阻害が体重管理に有効な手法であり得ると共に、GLP-1シグナル伝達経路が並行して活性化するときその効果が亢進し得るという考えを裏付けている。従って、本開示は、本明細書に記載されるとおりのGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤と併せて使用される、ミオスタチンシグナル伝達経路を阻害又は抑制する任意の薬剤の使用を含む。
【0111】
成熟ミオスタチンの活性化及び放出は、幾つかの個別的なプロテアーゼ切断イベントによって達成される。プロミオスタチン及びプロGDF11の第1の切断段階はプロタンパク質転換酵素によって行われ、この酵素は、プロドメインと成熟成長因子との間の保存されているRXXR部位で切る。この切断により、成熟ミオスタチンがプロドメインによってその受容体への結合から遮蔽されている「潜在型ミオスタチン」が産生される。成熟した活性なミオスタチン成長因子の活性化及び放出は、mTLL-2など、BMP/トロイドファミリーからの追加的なプロテアーゼによる潜在型ミオスタチンの切断後に達成される。本明細書で使用されるとき、用語「成熟ミオスタチン」とは、完全長成熟ミオスタチン並びに生物学的活性を保持している完全長成熟ミオスタチンの断片の両方を指すことができる。
【0112】
「プロGDF8」としても知られる用語「プロミオスタチン」は、ジスルフィド結合したホモ二量体であって、その各分子が、カルボキシル末端成熟ミオスタチンドメインに共有結合的に結合したアミノ末端プロドメインを含むホモ二量体を含むような成熟ミオスタチンの不活性な前駆体を指す。一実施形態では、「プロミオスタチン」は、プロタンパク質転換酵素又はBMP/トロイドファミリーからのプロテアーゼのいずれによっても依然として切断されていない。例示的プロミオスタチン配列、その変異体及びプロミオスタチンの生成方法は、当技術分野で周知であり、本明細書に更に詳細に記載される。
【0113】
本明細書で使用されるとき用語「潜在型ミオスタチン」は、ジスルフィド結合したホモ二量体であって、その各分子が、カルボキシル末端成熟ミオスタチンドメインに非共有結合的に結合したアミノ末端プロドメインを含むホモ二量体を含むような成熟ミオスタチンの不活性な前駆体を指す。一実施形態では、「潜在型ミオスタチン」は、プロタンパク質転換酵素によって切断されているが、BMP/トロイドファミリーからのプロテアーゼによって依然として切断されていないプロミオスタチンから生成される。別の実施形態では、「潜在型ミオスタチン」は、プロドメインとカルボキシ末端成熟ミオスタチンドメインとをインビトロで組合せ、それらを適切に折り畳ませることにより生成され得る。例えば、Sengle et al.,J.Biol.Chem.,286(7):5087-5099,2011を参照されたい。例示的潜在型ミオスタチン配列、その変異体及び潜在型ミオスタチンの生成方法は、当技術分野で周知であり、本明細書に更に詳細に記載される。
【0114】
プロGDF8(ヒト):
【化1】
【0115】
プロGDF8(ラット):
【化2】
【0116】
プロGDF8(マウス):
【化3】
【0117】
プロGDF8(カニクイザル):
【化4】
【0118】
ヒト、ラット、マウス及びカニクイザルの例示的プロGDF8配列は、上記に提供される。これらのプロGDF8配列において、プロタンパク質転換酵素切断部位は太字で指示され、トロイドプロテアーゼ部位は下線で指示される。一部の実施形態では、プロタンパク質転換酵素切断部位は、配列番号52~55のアミノ酸残基240~243を含む。一部の実施形態では、トロイドプロテアーゼ部位は、配列番号52~55のアミノ酸残基74~75を含む。本明細書に提供される例示的プロGDF8配列は、限定することを意図するものではなく、他の種からの追加的なプロGDF8配列が、そのいずれかのアイソフォームを含め、本開示の範囲内にあることが理解されなければならない。
【0119】
ミオスタチンポリペプチドのプロドメインは、以前記載されているとおり(国際公開第2014/182676号パンフレット)、幾つかの構造ドメインを含む。それらとしては、例えば、ストレートジャケット(Straight Jacket)領域、ファスナー領域、アーム領域、フィンガー領域1、フィンガー領域2、潜在のループ、α-1ヘリックス領域及び蝶ネクタイ(Bowtie)領域が挙げられる。一部の実施形態では、好ましい抗体又はその断片は、ミオスタチンプロドメインのアーム領域内のエピトープに結合する。一部の実施形態では、エピトープは、プロドメインのアーム領域内にある「KALDEN」(配列番号118)ポリペプチドストレッチからの少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。一部の実施形態では、抗原への結合時に抗体と接触をなすプロドメインのアーム領域内にあるアミノ酸残基は、ミオスタチンとGDF11との間で保存されていない残基である。一部の実施形態では、かかる1つ又は複数の残基は、このポリペプチドストレッチのK、E及び/又はNである(上記にて太字で示される)。一部の実施形態では、エピトープは、プロドメインのアーム領域内にある「FVQILRLIKPMKDGTRYTGIRSLK」(配列番号57)ポリペプチドストレッチからの少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。一部の実施形態では、かかる1つ又は複数の残基は、このポリペプチドストレッチのF、Q、L、Y、R、S及び/又はKである(上記にて太字で示される)。Dagbay et al.(J.Biol.Chem.(2020)295(16):5404-5418)(この内容は、全体として本明細書に援用される)を参照されたい。一部の実施形態では、かかるエピトープに結合する抗体又はその抗原結合断片はアピテグロマブ又はその変異体であり、任意選択で、変異体は、Fc変異体である。他の実施形態では、かかるエピトープに結合する抗体又はその抗原結合断片は、アピテグロマブ又はその変異体ではない。
【0120】
ミオスタチン経路阻害剤
小分子、抗体又はその抗原結合部分及び遺伝子療法など、筋肉に関係する病態の治療に向けて様々な臨床開発段階にあるミオスタチン経路阻害剤が幾つかある。シグナル伝達経路のかかる阻害剤は、成熟成長因子又はそのII型受容体のいずれかを標的とする。注目すべきことに、これらのアンタゴニストの多くはミオスタチン特異的でなく、従ってこれらは複数のTGFβファミリーメンバーのシグナル伝達に拮抗する。例えば、幾つもの現在の臨床候補薬が、アクチビンA、GDF11並びにBMP9及び10など、更なる成長因子を遮断し、これらは、それぞれ生殖生物学、創傷治癒、赤血球新生及び血管形成の制御因子である。
【0121】
一部の実施形態では、本明細書に開示されるとおり、抗ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片などのミオスタチン経路阻害剤は、プロミオスタチン及び/又は潜在型ミオスタチンに結合し、例えば選択的に結合し、それによりミオスタチン活性化を阻害する。一部の実施形態では、循環中の潜在型複合体の保有率を所与とすれば、本明細書には、成熟した成長因子よりむしろ、より豊富にある、より寿命の長いミオスタチン前駆体、例えばプロミオスタチン及び潜在型ミオスタチンを特異的に標的化する治療が提供される。一部の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片など、本明細書に提供されるミオスタチン阻害剤は、プロミオスタチン及び/又は潜在型ミオスタチンがタンパク質分解活性により、ミオスタチンの「活性」形態と見なされる、ミオスタチン経路を例えばI型(ALK4/5)及びII型(ACTRIIA/B)受容体との結合により活性化させる能力を有する成熟ミオスタチンになることを防止し得る。
【0122】
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、ミオスタチン阻害剤である。一部の実施形態では、本明細書で使用されるミオスタチン阻害剤は、抗体(例えば、米国特許第6,291,158号明細書;同第6,582,915号明細書;同第6,593,081号明細書;同第6,172,197号明細書;及び同第6,696,245号明細書に記載されるとおりのドメイン抗体(dAb)など、その断片を含む)、小分子阻害剤、アドネクチン(Adnectin)、アフィボディ(Affibody)、DARPin、アンチカリン(Anticalin)、アビマー(Avimer)、ベルサボディ(Versabody)又は遺伝子療法であり得る。
【0123】
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、非選択的ミオスタチン阻害剤、例えばアクチビンA及び/又はGDF11も阻害する阻害剤である。一部の実施形態では、非選択的ミオスタチン阻害剤は、リガンドトラップ(例えば、ACE-031、ACE-083及びBIIB-110/ALG-801);抗ActRIIb抗体(例えば、ビマグルマブ);成熟ミオスタチンに結合する中和抗体(例えば、スタムルマブ(MYO-029)、ドマグロズマブ(PF-06252616)、ランドグロズマブ(LY2495655)、AMG-745/PINTA-745(ミオスタチンペプチボディ)、RG6206(フィブロネクチンの一本鎖融合タンパク質含有ドメインである抗ミオスタチンアドネクチン)、BMS-986089(タルデフグロベプアルファとしても公知の抗ミオスタチンアドネクチン)である。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、受容体アンタゴニスト(例えば、Alk4/5阻害剤)である。
【0124】
様々な実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、スタムルマブ、トレボグルマブ、LY2495655、AMG 745、ビマグルマブ、BIIB-110、ドマグロズマブ(PF-06252616)、アピテグロマブ、GYM329、タルデフグロベプアルファ(BMS-986089としても知られる)又はエフミテルマントアルファを含む。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、GYM329又は国際公開第2016/098357号パンフレット(本明細書において参照により援用される)に開示されるとおりの別のMST1032変異体など、pH依存性抗潜在型ミオスタチン抗体を含む。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、国際特許出願PCT/JP2015/006323号明細書(この内容は、全体として本明細書に援用される)に開示されるとおりのMST1032変異体を含む。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、例えば、国際公開第2018/129395号パンフレット;同第2017/218592号パンフレット;同第2017/120523号パンフレット;同第2017/049011号パンフレット;同第2016073853号パンフレット;又は同第2014182676号パンフレット(これらの内容は、全体として参照により本明細書に援用される)に見られる追加的な配列を含む抗体又は抗原結合断片を含む。
【0125】
「MST1032変異体」は、本明細書で使用されるとき、PCT/JP2015/006323号明細書に開示される配列、限定されないが、MS1032LO01-SG1、MS1032LO06-SG1、MS1032LO11-SG1、MS1032LO18-SG1、MS1032LO19-SG1、MS1032LO21-SG1、MS1032LO25-SG1の配列を含めたもの並びにPCT/JP2015/006323号明細書の表2a、表11a、表11b又は表13に提供される配列のいずれかを含む抗体又は抗原結合断片を指す。特定の実施形態では、MST1032変異体は、HCDR1、HCDR2及びHCDR3の3つのCDR配列を含む重鎖可変ドメインと、LCDR1、LCDR2及びLCDR3の3つのCDR配列を含む軽鎖可変ドメインとを含む抗体又は抗原結合断片を含み、重鎖CDRは、それぞれX1X2DIS(HCDR1;配列番号17);IISYAGSTYYASWAKG(HCDR2;配列番号18);GVPAYSX3GGDL(HCDR3;配列番号19)のアミノ酸配列を含み;及び軽鎖CDRは、それぞれX4X5SQSVYX6X7NWLS(LCDR1;配列番号20);WASTLAX8(LCDR2;配列番号21);及びAGGYGGGX9YA(LCDR3;配列番号22)のアミノ酸配列を含む(式中、X1~X9の各々は、任意のアミノ酸残基である)。特定の実施形態では、X1は、S又はHであり;X2は、Y、T又はDであり;X3は、T又はHであり;X4は、Q又はTであり;X5は、S又はTであり;X6は、D又はHであり;X7は、N又はEであり;X8は、S又はYであり;X9は、L又はRである。特定の実施形態では、MST1032変異体は、配列番号18、66、67、68~70;配列番号119、18、120、68、121、122;又は配列番号123、18、120、124、121、122の6つのCDR配列を含む。特定の実施形態では、MST1032変異体は、配列番号125~128のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む。特定の実施形態では、MST1032変異体は、配列番号129、126、127及び130のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。特定の実施形態では、MST1032変異体は、以下の表に一覧が示されるものからの一組の6つのCDR(例えば、同じMST1032変異体抗体からのもの)又は対をなすVH/VL(例えば、同じMST1032変異体抗体からのもの)を含む。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】
【0130】
【表5】
【0131】
【表6】
【0132】
一部の実施形態では、ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、抗体の半減期の延長を生じさせる突然変異又は修飾を含み得るか、又はそれを含むように操作され得る。一部の実施形態では、かかる突然変異又は修飾は、例えば、循環半減期又は他のPK特性を促進するように、抗体のFcドメインの範囲内にあり得る(例えば、Fc修飾抗体)。一部の実施形態では、突然変異はYTE突然変異である(例えば、Saunders,KO(2019)“Conceptual Approaches to Modulating Antibody Effector Functions and Circulation Half-Life,”Frontiers in Immunology 10:1296及び米国特許第7,083,784号明細書(これらの各々は、本明細書において参照により援用される)を参照されたい)。
【0133】
一部の実施形態では、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、潜在型ミオスタチンに特異的に結合する。一部の実施形態では、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、潜在型ミオスタチン及びプロミオスタチンの両方に特異的に結合する。好ましい実施形態では、プロミオスタチン及び/又は潜在型ミオスタチンに特異的に結合する抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、成熟ミオスタチンに結合しない。好ましい実施形態では、プロミオスタチン及び/又は潜在型ミオスタチンに特異的に結合する抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、プロ/潜在型GDF11又は成熟GDF11に結合しない。
【0134】
抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体及びその抗原結合断片
一部の実施形態では、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、プロ/潜在型ミオスタチンに結合する能力を有し、それによりプロ/潜在型ミオスタチンがタンパク質分解活性により成熟ミオスタチンになるのを阻害する。一部の例では、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、プロ/潜在型ミオスタチンのタンパク質分解活性を少なくとも20%、例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又はそれを超えて阻害することができる。一部の例では、本明細書に記載される抗体は、プロタンパク質転換酵素(例えば、フューリン)によるプロミオスタチンのタンパク質分解切断を少なくとも20%、例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又はそれを超えて阻害することができる。一部の例では、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、トロイドプロテアーゼ(例えば、mTLL2)によるプロミオスタチン又は潜在型ミオスタチンのタンパク質分解切断を少なくとも20%、例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又はそれを超えて阻害することができる。
【0135】
一部の実施形態では、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、プロ/潜在型ミオスタチンに結合する能力を有し、それによりミオスタチン活性を阻害する。一部の例では、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、ミオスタチンシグナル伝達を少なくとも20%、例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又はそれを超えて阻害することができる。一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達の阻害は、常法どおりの方法により、例えば国際公開第2016/073853号パンフレット(この内容は、全て参照により本明細書に明示的に援用される)に開示される実施例1に記載されるとおりのミオスタチン活性化アッセイを用いて測定することができる。しかしながら、ミオスタチンシグナル伝達活性の測定には、更なる方法を用い得ることが理解されなければならない。
【0136】
ミオスタチンの、例えばプロタンパク質転換酵素及び/又はトロイドプロテアーゼによるタンパク質分解切断の程度は、任意の好適な方法を用いて測定及び/又は定量化し得ることが理解されなければならない。一部の実施形態では、ミオスタチンのタンパク質分解切断の程度は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて測定及び/又は定量化される。例えば、ELISAを用いると、放出された成長因子(例えば、成熟ミオスタチン)のレベルを測定し得る。別の例として、プロミオスタチン、潜在型ミオスタチン及び/又は成熟ミオスタチンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片をELISAにおいて使用して、特異的形態のミオスタチン(例えば、プロ/潜在型/成熟ミオスタチン)のレベルを測定し、ミオスタチンのタンパク質分解切断の程度を定量化することができる。一部の実施形態では、ミオスタチンのタンパク質分解切断の程度は、免疫沈降と、続くSDS-PAGE又はトリプシンペプチドの質量分析、蛍光異方性測定に基づく技法、FRETアッセイ、水素重水素交換質量分析法及び/又はNMR分光法を用いて測定及び/又は定量化される。
【0137】
本発明の方法における使用に好適な抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片には、国際特許出願第PCT/US15/59468号明細書及び同第PCT/US16/52014号明細書に記載されるものが含まれる。前述の出願の各々の内容の全ては、全体として参照により本明細書に援用される。
【0138】
本開示によれば、ヒトプロ/潜在型ミオスタチンに結合する抗体又は抗原結合断片を使用して、本明細書に開示される様々な実施形態を実施し得る。一部の実施形態では、かかる抗体及び抗原結合断片は、プロドメインの範囲内にあるエピトープに結合し、エピトープは、配列番号52に従って番号付けされて、1つ以上のアミノ酸残基F147、Q149、L151、Y186、S168、K170、K205及び/又はL207を含む(Dagbay et al.J Biol Chem.2020 Apr 17;295(16):5404-5418)。
【0139】
一部の実施形態では、本開示の抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片及びそのような抗体又はその抗原結合断片をコードする本開示の核酸分子は、表1G-1~表1G-3に示されるCDRアミノ酸配列を含む。
【0140】
【表7】
【0141】
表1では、CDRH3及びCDRL3の単一の配列はKabat及びIMGTを反映している。
【0142】
【表8】
【0143】
【表9】
【0144】
【表10】
【0145】
【表11】
【0146】
【表12】
【0147】
【表13】
【0148】
【表14】
【0149】
一部の実施形態では、本開示の抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分には、表1G-1~表1G-3に示される抗体のいずれか1つに提供されるとおりのCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2若しくはCDRL3又はこれらの組合せを含む任意の抗体又はその抗原結合断片が含まれる。一部の実施形態では、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、表1G-1~表1G-3に示される抗体のいずれか1つのCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む。本開示は、表1G-1~表1G-3に示される抗体のいずれか1つに提供されるとおりのCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2又はCDRL3を含む分子をコードする任意の核酸配列も含む。抗体重鎖及び軽鎖CDR3ドメインは、抗原に対する抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし得る。それに応じて、本開示の抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分又はその核酸分子は、表1G-1~表1G-3に示すとおりの抗体の少なくとも重鎖及び/又は軽鎖CDR3を含み得る。
【0150】
本開示の態様は、プロ/潜在型ミオスタチンタンパク質に結合し、且つ6つの相補性決定領域(CDR):CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を含むモノクローナル抗体又は抗原結合断片に関する。
【0151】
一部の実施形態では、CDRH1は、配列番号1~3のいずれか1つに示されるとおりの配列を含む。一部の実施形態では、CDRH2は、配列番号4~9のいずれか1つに示されるとおりの配列を含む。一部の実施形態では、CDRH3は、配列番号10~11、66、71、76、81、86、91、96、101、106及び111のいずれか1つに示されるとおりの配列を含む。CDRL1は、配列番号12~16及び59のいずれか1つに示されるとおりの配列を含む。一部の実施形態では、CDRL2は、配列番号60、61、131及び64のいずれか1つに示されるとおりの配列を含む。一部の実施形態では、CDRL3は、配列番号65、23、67、72、77、82、87、92、97、102、107及び112のいずれか1つに示されるとおりの配列を含む。
【0152】
一部の実施形態において(例えば、表1Gに示される抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体Ab1又はその抗原結合部分に関して)、CDRH1は、配列番号1又は2に示されるとおりの配列を含み、CDRH2は、配列番号4又は5に示されるとおりの配列を含み、CDRH3は、配列番号10に示されるとおりの配列を含み、CDRL1は、配列番号12又は13に示されるとおりの配列を含み、CDRL2は、配列番号60又は61に示されるとおりの配列を含み、CDRL3は、配列番号65に示されるとおりの配列を含み、抗体又はその抗原結合部分は、プロ/潜在型ミオスタチンに結合する。
【0153】
一部の実施形態において(例えば、表1Gに示される抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体Ab2又はその抗原結合部分に関して)、CDRH1は、配列番号1又は2に示されるとおりの配列を含み、CDRH2は、配列番号4又は5に示されるとおりの配列を含み、CDRH3は、配列番号66に示されるとおりの配列を含み、CDRL1は、配列番号12又は13に示されるとおりの配列を含み、CDRL2は、配列番号60又は61に示されるとおりの配列を含み、CDRL3は、配列番号67に示されるとおりの配列を含み、抗体又はその抗原結合部分は、プロ/潜在型ミオスタチンに結合する。
【0154】
一部の実施形態において(例えば、表1Gに示される抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体Ab3又はその抗原結合部分に関して)、CDRH1は、配列番号1又は3に示されるとおりの配列を含み、CDRH2は、配列番号6又は7に示されるとおりの配列を含み、CDRH3は、配列番号11に示されるとおりの配列を含み、CDRL1は、配列番号14又は15に示されるとおりの配列を含み、CDRL2は、配列番号131又は64に示されるとおりの配列を含み、CDRL3は、配列番号23に示されるとおりの配列を含み、抗体又はその抗原結合部分は、プロ/潜在型ミオスタチンに結合する。
【0155】
一部の実施形態において(例えば、表1Gに示される抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体Ab5又はその抗原結合部分に関して)、CDRH1は、配列番号1又は3に示されるとおりの配列を含み、CDRH2は、配列番号8又は9に示されるとおりの配列を含み、CDRH3は、配列番号11に示されるとおりの配列を含み、CDRL1は、配列番号16又は59に示されるとおりの配列を含み、CDRL2は、配列番号131又は64に示されるとおりの配列を含み、CDRL3は、配列番号23に示されるとおりの配列を含み、抗体又はその抗原結合部分は、プロ/潜在型ミオスタチンに結合する。
【0156】
一部の例において、本開示の抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分のいずれかには、CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及び/又はCDRL3と実質的に同様の1つ以上のCDR(例えば、CDRH又はCDRL)配列を有する任意の抗体又は抗原結合断片が含まれる。例えば、抗体は、表1A~表1G-3に示される配列番号(1~16、18、23、59~61、64~72、76、77、81、82、86、87、91、92、96、97、101、102、106、107、111、112及び119~124)のいずれか1つにおける対応するCDR領域と比較して最大で5、4、3、2又は1つまでのアミノ酸残基変異を有する、表1A~表1G-3に示すとおりの1つ以上のCDR配列(配列番号1~16、18、23、59~61、64~72、76、77、81、82、86、87、91、92、96、97、101、102、106、107、111、112及び119~124)を含み得る。
【0157】
一部の実施形態では、本明細書に記載される抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、Kabat番号付け方式により定義したとき、配列番号1(HCDR1)、配列番号4(HCDR2)及び配列番号10(HCDR3)のアミノ酸配列を含む3つの重鎖相補性決定領域(HCDR);並びに配列番号12(LCDR1)、配列番号60(LCDR2)及び配列番号65(LCDR3)のアミノ酸配列を含む3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR)を含む。
【0158】
一部の実施形態では、本明細書に記載される抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、IMGT番号付け方式により定義したとき、配列番号2(HCDR1)、配列番号5(HCDR2)及び配列番号10(HCDR3)のアミノ酸配列を含む3つの重鎖相補性決定領域(HCDR);並びに配列番号13(LCDR1)、配列番号61(LCDR2)及び配列番号65(LCDR3)のアミノ酸配列を含む3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR)を含む。
【0159】
様々な実施形態では、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、配列番号25のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び/又は配列番号31のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0160】
様々な実施形態では、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、配列番号50のアミノ酸配列を含む重鎖領域及び/又は配列番号51のアミノ酸配列を含む軽鎖領域を含む。
【0161】
一部の実施形態では、本開示の抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分には、配列番号24~29、73、78、83、88、93、98、103、108、113、125~128のいずれか1つの重鎖可変ドメイン又は配列番号30~35、74、79、84、89、94、99、104、109、114、129~130、132、133のいずれか1つの軽鎖可変ドメインを含む任意の抗体が含まれる。一部の実施形態では、本開示の抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分には、配列番号24及び30;25及び31;26及び32;27及び33;28及び34;29及び35;125及び129;126及び132;127及び133;128及び130)の重鎖可変及び軽鎖可変対を含む任意の抗体が含まれる。
【0162】
本開示の態様は、本明細書に記載されるもののいずれかと相同な重鎖可変及び/又は軽鎖可変アミノ酸配列を有する抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分を提供する。一部の実施形態では、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、配列番号24~29、73、78、83、88、93、98、103、108、113、125~128のいずれかの重鎖可変配列又は配列番号30~35、74、79、84、89、94、99、104、109、114、129~130、132、133のいずれか1つの軽鎖可変配列と少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、98%又は99%)同一の重鎖可変配列又は軽鎖可変配列を含む。一部の実施形態では、相同な重鎖可変及び/又は軽鎖可変アミノ酸配列は、本明細書に提供されるCDR配列のいずれの範囲内においても変わらない。例えば、一部の実施形態では、配列変異の程度(例えば、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%)は、本明細書に提供されるCDR配列のいずれをも除いた重鎖可変及び/又は軽鎖可変配列の範囲内に現れ得る。
【0163】
2つのアミノ酸配列の「同一性パーセント」は、Karlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-77,1993の場合のように修正されたKarlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-68,1990のアルゴリズムを使用して決定される。そのようなアルゴリズムは、Altschul,et al.J.Mol.Biol.215:403-10,1990のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれる。BLASTによるタンパク質探索を、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実施して、目的のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列間にギャップが存在する場合、ギャップ入りBLASTが、Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402,1997に記載されるとおりに利用され得る。BLAST及びギャップ入りBLASTプログラムを利用する場合、各プログラムのデフォルトパラメーター(例えば、XBLAST及びNBLAST)が使用され得る。
【0164】
一部の実施形態では、結晶構造に基づいて決定したときプロ/潜在型ミオスタチンとの相互作用にその残基が関与しないものと見込まれるCDR又はフレームワーク配列に保存的突然変異が導入され得る。本明細書で使用する場合、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸置換がなされるタンパク質の相対的な電荷又はサイズの特徴を変えないアミノ酸置換を指す。バリアントは、そのような方法をまとめた参考文献、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook,et al.,eds.,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1989又はCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkに見出されるような、当業者に知られるポリペプチド配列を改変するための方法に従って作製され得る。アミノ酸の保存的置換は、以下の群内のアミノ酸の中でなされる置換を含む:(a)M、I、L、V;(b)F、Y、W;(c)K、R、H;(d)A、G;(e)S、T;(f)Q、N;及び(g)E、D。
【0165】
幾つかの実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片は、抗体又はその抗原結合断片に望ましい特性を付与する変異を含む。例えば、天然のIgG4 mAbで発生することが知られるFab-アーム交換に起因する潜在的な複雑化を回避するために、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片は、安定化「Adair」変異を含み得(Angal S.,et al.,“A single amino acid substitution abolishes the heterogeneity of chimeric mouse/human(IgG4)antibody,”Mol Immunol 30,105-108;1993)、セリン228(EU付番;残基241 Kabat付番)は、IgG1様(CPPCP(配列番号58))ヒンジ配列をもたらすプロリンに変換される。従って、抗体のいずれかは、安定化「Adair」変異又はアミノ酸配列(CPPCP(配列番号58))を含み得る。
【0166】
この開示の抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、任意選択で、抗体定常領域又はその一部を含み得る。例えば、VLドメインは、そのC末端で軽鎖定常ドメイン様Cκ又はCλに結合され得る。同様に、VHドメイン又はその部分は、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM並びに任意のアイソタイプサブクラスのような重鎖の全て又は一部に結合され得る。抗体は、好適な定常領域を含み得る(例えば、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,No.91-3242,National Institutes of Health Publications,Bethesda,Md.(1991)を参照されたい)。従って、本開示の範囲内の抗体は、任意の好適な定常領域と組み合わせられたVH及びVLドメイン又はその抗原結合部分を含み得る。
【0167】
特定の実施形態では、VH及び/又はVLドメインは、生殖系列配列に復帰され得、例えばこれらのドメインのFRを、生殖系列細胞によって産生されるものに対応するように、従来の分子生物学技法を用いて突然変異させる。例えば、VH及び/又はVLドメインをそれぞれIgHV3-30(配列番号36)及び/又はIgLV1-44(配列番号37)の生殖系列配列に復帰させ得る。VH及び/又はVLドメインのいずれも、任意の好適な生殖系列配列に復帰させ得ることが理解されなければならない。他の実施形態では、FR配列は、コンセンサス生殖系列配列から逸脱したままである。
【0168】
IgHV3-30
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSSYGMHWVRQAPGKGLEWVAVISYDGSNKYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAR(配列番号36)
【0169】
IgLV1-44
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGSNTVNWYQQLPGTAPKLLIYSNNQRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLQSEDEADYYCAAWDDSLNG(配列番号37)
【0170】
一部の実施形態では、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又は抗原結合断片は、配列番号24~35に示される抗体のフレームワーク領域を含むことも又は含まないこともある。一部の実施形態では、抗プロ潜在型ミオスタチン抗体はマウス抗体であり、マウスフレームワーク領域配列を含む。
【0171】
一部の実施形態では、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、プロ/潜在型ミオスタチンに比較的高い親和性、例えば10-8M、10-9M、10-10M、10-11M未満又はそれより低いKで結合することができる。例えば、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、プロ/潜在型ミオスタチンに5pM~500nM、例えば50pM~100nM、例えば500pM~50nMの親和性で結合することができる。本発明は、プロ/潜在型ミオスタチンとの結合に関して本明細書に記載される抗体のいずれかと競合し、且つ50nM以下(例えば、20nM以下、10nM以下、500pM以下、50pM以下又は5pM以下)の親和性を有する抗体又は抗原結合断片も含む。抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体の親和性及び結合反応速度は、限定されないが、バイオセンサー技術(例えば、OCTET又はBIACORE)を含め、任意の好適な方法を用いて試験することができる。OCTET又はBIACOREの使用によって結合プロファイルが測定されるとき、アッセイは、特に指定されない限り、典型的には製造者の指示に従って実施される。
【0172】
一部の実施形態では、本明細書には、プロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片が開示される。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、プロ/潜在型ミオスタチンのトロイド切断部位若しくはその近傍に結合するか、又はトロイドドッキング部位若しくはその近傍に結合する。一部の実施形態では、抗体は、それがトロイド切断部位又はトロイドドッキング部位から15アミノ酸残基以下の範囲内に結合する場合、トロイド切断部位の近傍に結合するか、又はトロイドドッキング部位の近傍に結合する。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、トロイド切断部位又はトロイドドッキング部位から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15アミノ酸残基の範囲内に結合する。一部の実施形態では、抗体は、GDF8のトロイド切断部位又はその近傍に結合する。例えば、抗体は、配列番号62に示されるとおりのアミノ酸配列PKAPPLRELIDQYDVQRDDSSDGSLEDDDYHAT(配列番号62)に結合し得る。他の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、プロ/潜在型ミオスタチンのプロタンパク質転換酵素切断部位若しくはその近傍に結合するか、又はプロタンパク質転換酵素ドッキング部位若しくはその近傍に結合する。一部の実施形態では、抗体は、それがプロタンパク質転換酵素切断部位又はプロタンパク質転換酵素ドッキング部位から15アミノ酸残基以下の範囲内に結合する場合、プロタンパク質転換酵素切断部位の近傍に結合するか、又はプロタンパク質転換酵素ドッキング部位の近傍に結合する。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、プロタンパク質転換酵素切断部位又はプロタンパク質転換酵素ドッキング部位から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15アミノ酸残基の範囲内に結合する。一部の実施形態では、抗体は、GDF8のプロタンパク質転換酵素切断部位又はその近傍に結合する。例えば、抗体は、配列番号63に示されるとおりのアミノ酸配列(GLNPFLEVKVTDTPKRSRRDFGLDCDEHSTESRC)に結合し得る。
【0173】
一部の実施形態では、本開示に係るミオスタチン選択的阻害剤は、抗体又はその抗原結合断片であり、これは、任意選択で、「KALDEN」(配列番号118)及び/又は「FVQILRLIKPMKDGTRYTGIRSLK」(配列番号57)の少なくとも1つのアミノ酸残基を含むエピトープに結合するミオスタチン選択的阻害剤である。一部の実施形態では、抗体はアピテグロマブ又はその変異体であり、任意選択で、変異体は、Fc変異体である。一部の実施形態では、抗体は、アピテグロマブ又はその変異体ではない。
【0174】
一部の実施形態では、本開示に係るミオスタチン選択的阻害剤は、抗体又はその抗原結合断片であり、これは、任意選択で、F147、Q149、L151、Y163、R167、S168、K170、K205、L207、E209及びN210(配列番号52に示されるとおりのヒトプロGDF8配列の番号付けに基づくものであり、これらは、Dagbay et al.J.Biol.Chem.(2020),295(16):5404-5418の番号付けに基づいてそれぞれF170、Q172、L174、Y186、R190、S191、K193、K228、L230、E232及びN233に対応する)の1つ以上のアミノ酸残基を含むエピトープに結合するミオスタチン選択的阻害剤である。好ましい実施形態では、かかる抗体は、上記に示されるアミノ酸残基の10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下又は3個以下を含むエピトープに結合する。一部の実施形態では、抗体は、アピテグロマブ又はその変異体であり、任意選択で、変異体は、Fc変異体である。一部の実施形態では、抗体は、アピテグロマブ又はその変異体ではない。
【0175】
一例において、本明細書に記載される抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、他の形態のミオスタチン及び/又はTGFβ成長因子ファミリーの他のメンバーと比較してプロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合する。TGFβ成長因子ファミリーのメンバーとしては、限定なしに、AMH、ARTN、BMP10、BMP15、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8A、BMP8B、GDF1、GDF10、GDF11、GDF15、GDF2、GDF3、GDF3A、GDF5、GDF6、GDF7、GDF8、GDF9、GDNF、INHA、INHBA、INHBB、INHBC、INHBE、LEFTY1、LEFTY2、NODAL、NRTN、PSPN、TGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3タンパク質が挙げられる。かかる抗体又はその抗原結合断片は、TGFβ成長因子ファミリーの他のメンバーと比較してはるかに高い(例えば、少なくとも2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、200倍、500倍又は1,000倍高い)親和性でプロ/潜在型ミオスタチンに結合し得る。一部の実施形態では、かかる抗体又はその抗原結合断片は、TGFβ成長因子ファミリーの他のメンバーと比較して少なくとも1000倍高い親和性でプロ/潜在型ミオスタチンに結合し得る。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片は、GDF11の1つ以上の形態又は成熟ミオスタチンと比較してはるかに高い(例えば、少なくとも2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、200倍、500倍又は1,000倍高い)親和性でプロ/潜在型ミオスタチンに結合し得る。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片は、GDF11の1つ以上の形態(例えば、プロGDF11、潜在型GDF11又は成熟GDF11)又は成熟ミオスタチンと比較して少なくとも1,000倍高い親和性でプロ/潜在型ミオスタチンに結合し得る。代わりに又は加えて、抗体又はその抗原結合断片は、プロ/潜在型GDF11など、TGFβファミリーの他のメンバーと比較して、プロ/潜在型ミオスタチンの(例えば、プロタンパク質転換酵素又はトロイドプロテアーゼによる)タンパク質分解切断に対してはるかに高い(例えば、少なくとも2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍高い)阻害活性を呈し得る。別の実施形態では、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片はGDF11に結合しない。これにより、ミオスタチン及びGDF11の両方と交差反応する抗体に関連する潜在的毒性の問題が回避される。1つのかかる潜在的毒性の例は、Suh et al.Proceedings of the National Academy of Sciences Mar 2020,117(9)4910-4920(この内容は、全体として本明細書に援用される)に最近報告されたとおりの、GDF11阻害に関連して骨の強度が損なわれることに関する。
【0176】
一部の実施形態では、抗体は抗原に結合するが、事実上血漿から抗原を除去することができない。従って、一部の実施形態では、血漿中の抗原の濃度は、抗原のクリアランスが減少することによって増加し得る。しかしながら、一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体(例えば、スイーピング抗体)は、pHに感受性を示す抗原に対して親和性を有する。かかるpH感受性抗体は、中性pHの血漿中の抗原に結合し、酸性エンドソームにある抗原から解離し得るため、ひいては抗体媒介性抗原蓄積が低減されることになり、且つ/又は血漿からの抗原クリアランスが促進されることになる。
【0177】
本開示の態様は、スイーピング抗体に関する。本明細書で使用されるとき「スイーピング抗体」又はその抗原結合断片とは、pH感受性抗原結合及び中性又は生理的pHで細胞表面新生児Fc受容体(FcRn)への少なくとも閾値レベルの結合の両方を有する抗体又はその抗原結合断片を指す。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、中性pHで新生児Fc受容体FcRnに結合する。例えば、スイーピング抗体は、7.0~7.6の範囲のpHでFcRnに結合し得る。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は抗原結合部位で抗原に結合し、抗体のFc部分を介して細胞性FcRnに結合することができる。一部の実施形態では、次にスイーピング抗体又はその抗原結合部分はインターナライズされ、酸性エンドソームにおいて抗原を放出することができ、これは分解され得る。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分はもはや抗原に結合せず、次には細胞によって(例えば、エキソサイトーシスにより)放出されて、血清に戻り得る。
【0178】
一部の実施形態では、血管内皮(例えば、対象の)のFcRnにより、スイーピング抗体又はその抗原結合部分の半減期が延びる。一部の実施形態では、血管内皮細胞はスイーピング抗体又はその抗原結合部分をインターナライズし、それが一部の実施形態においてミオスタチン(例えば、プロミオスタチン、潜在型ミオスタチン又はプライミングされたミオスタチン)などの抗原に結合する。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は再循環して血流中に戻る。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、その従来の対応物と比較した半減期(例えば、対象の血清中における)の増加を示す。一部の実施形態では、スイーピング抗体の従来の対応物とは、スイーピング抗体又はその抗原結合部分の由来となった元の抗体又はその抗原結合部分(例えば、pH7でより高い親和性でFcRnに結合するように従来の抗体のFc部分を操作する前)を指す。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、対象の血清中において、その従来の対応物と比較して少なくとも1%、5%、10%、15%、20%、25%、35%、50%、75%、100%、150%、200%又は250%長い半減期を示す。
【0179】
一部の実施形態では、スイーピング抗体のFc部分はFcRnに結合する。一部の実施形態では、スイーピング抗体のFc部分は7.4のpHで10-3M~10-8Mの範囲のKでFcRnに結合する。一部の実施形態では、スイーピング抗体は7.4のpHで10-3M~10-7M、10-3M~10-6M、10-3M~10-5M、10-3M~10-4M、10-4M~10-8M、10-4M~10-7M、10-4M~10-6M、10-4M~10-5M、10-5M~10-8M、10-5M~10-7M、10-5M~10-6M、10-6M~10-8M、10-6M~10-7M又は10-7M~10-8Mの範囲のKでFcRnに結合する。一部の実施形態では、FcRnは、スイーピング抗体のCH2-CH3ヒンジ領域に結合する。一部の実施形態では、FcRnはプロテインA又はプロテインGと同じ領域に結合する。一部の実施形態では、FcRnはFcγRと異なる結合部位に結合する。一部の実施形態では、FcRnへの結合には、スイーピング抗体Fc領域のアミノ酸残基AAが必要である。一部の実施形態では、スイーピング抗体Fc領域のアミノ酸残基AAは、FcRnへの結合に影響を及ぼす。
【0180】
一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、FcRnとより高い親和性で結合するように操作される。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、FcRnとpH7.4でより高い親和性で結合するように操作される。一部の実施形態では、FcRnに対する抗体又はその抗原結合断片の親和性が増加すると、その従来の対応物と比較してその薬物動態(PK)特性が延びる。例えば、一部の実施形態では、スイーピング抗体は、それがより低い用量でも有効であることに起因して、誘発される有害反応が少ない。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、より低い頻度で投与される。一部の実施形態では、ある種の組織型へのスイーピング抗体又はその抗原結合部分のトランスサイトーシスが増加する。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、経胎盤送達効率を亢進させる。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、生産費用があまりかからない。
【0181】
一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、より低い親和性でFcRnに結合するように操作される。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、pH7.4でより低い親和性でFcRnと結合するように操作される。一部の実施形態では、FcRnに対するスイーピング抗体又はその抗原結合部分の親和性が低下すると、その従来の対応物と比較してその薬物動態(PK)特性が短くなる。例えば、一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、イメージング及び/又は放射免疫療法のため、より速やかにクリアランスされる。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、自己免疫疾患の治療としての内因性病原性抗体のクリアランスを促進する。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、母児特異抗体の経胎盤輸送によって引き起こされ得る有害な妊娠アウトカムのリスクを低減する。
【0182】
一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、中性又は生理的pH(例えば、pH7.4)と比較した、低pHで抗原に対する親和性の低下を示す。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、生理的pH(例えば、pH7.4)と比較した、酸性pH(例えば、5.5~6.5の範囲のpH)で抗原に対する親和性の低下を示す。
【0183】
本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、pHの変化に応じて抗原から解離するように操作し得ることが理解されなければならない(例えば、pH感受性抗体)。一部の実施形態では、本明細書に提供されるスイーピング抗体又はその抗原結合部分は、抗原にpH依存的に結合するように操作される。一部の実施形態では、本明細書に提供されるスイーピング抗体又はその抗原結合部分は、FcRnにpH依存的に結合するように操作される。一部の実施形態では、本明細書に提供されるスイーピング抗体又はその抗原結合部分は、エンドサイトーシスによってインターナライズされる。一部の実施形態では、本明細書に提供されるスイーピング抗体又はその抗原結合部分は、FcRn結合によってインターナライズされる。一部の実施形態では、エンドサイトーシスによって取り込まれたスイーピング抗体又はその抗原結合部分は、エンドソームにおいて抗原を放出する。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、再循環して細胞表面に戻る。一部の実施形態では、スイーピング抗体は細胞に結び付いたまま残る。一部の実施形態では、エンドサイトーシスによって取り込まれたスイーピング抗体又はその抗原結合部分は、再循環して血漿に戻る。本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれのFc部分も、異なるFcRn結合活性を有するように操作し得ることが理解されなければならない。一部の実施形態では、FcRn結合活性は、スイーピング抗体による抗原のクリアランス時間に影響を及ぼす。一部の実施形態では、スイーピング抗体は、長時間作用型であり得るか、又は速効型スイーピング抗体であり得る。
【0184】
一部の実施形態では、従来の治療用抗体又はその抗原結合部分をスイーピング抗体又はその抗原結合部分に変換すると、有効用量が減少する。一部の実施形態では、従来の治療用抗体又はその抗原結合部分をスイーピング抗体又はその抗原結合部分に変換すると、有効用量が少なくとも1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%減少する。一部の実施形態では、従来の治療用抗体又はその抗原結合部分をスイーピング抗体又はその抗原結合部分に変換すると、有効用量が少なくとも1.5分の1、2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、6分の1、8分の1、10分の1、15分の1、20分の1、50分の1又は100分の1に減少する。
【0185】
一部の実施形態では、療法に対するスイーピング抗体又はその抗原結合部分の適切な用量の選択は、経験的に実施され得る。一部の実施形態では、高用量のスイーピング抗体又はその抗原結合部分はFcRnを飽和させるため、抗体はインターナライズされることなく血清中の抗原を安定化させ得る。一部の実施形態では、低用量のスイーピング抗体又はその抗原結合部分は治療上有効でないこともあり得る。一部の実施形態では、スイーピング抗体又はその抗原結合部分は、1日1回、週1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、6週間に1回、8週間に1回、10週間に1回、12週間に1回、16週間に1回、20週間に1回又は24週間に1回投与される。
【0186】
一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、スイーピング抗体となるように修飾又は操作され得る。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、任意の好適な方法を用いてスイーピング抗体に変換し得る。例えば、スイーピング抗体又はその抗原結合部分を作成するのに好適な方法は、以前、Igawa et al.,(2013)“Engineered Monoclonal Antibody with Novel Antigen-Sweeping Activity In vivo,”PLoS ONE 8(5):e63236;及びIgawa et al.,“pH-dependent antigen-binding antibodies as a novel therapeutic modality,”Biochimica et Biophysica Acta 1844(2014)1943-1950(これらの各々の内容は、参照により本明細書に援用される)に記載されている。しかしながら、本明細書に提供されるとおりのスイーピング抗体又はその抗原結合部分の作成方法は、限定するよう意図するものではないことが理解されなければならない。従って、スイーピング抗体又はその抗原結合部分の更なる作成方法が本開示の範囲内にある。
【0187】
本開示の一部の態様は、本明細書に提供される抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片のいずれも、親和性(例えば、Kとして表されるとおりの)がpHの変化に感受性を示すという認識に基づいている。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片は、比較的高いpH(例えば、7.0~7.4の範囲のpH)と比較して、比較的低いpH(例えば、4.0~6.5の範囲のpH)でプロ/潜在型ミオスタチンへの結合のKの増加を示す。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片は、pHが4.0~6.5であるとき、10-3M、10-4M、10-5M、10-6M、10-7M、10-8Mの範囲のプロ/潜在型ミオスタチンへの結合のKを有する。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片は、pHが7.0~7.4であるとき、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11Mの範囲のプロ/潜在型ミオスタチンへの結合のKを有する。一部の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片は、pH7.0~7.4と比較して、pH4.0~6.5で少なくとも2倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍、少なくとも5000倍又は少なくとも10000倍の高さのプロ/潜在型ミオスタチンへの結合のKを有する。
【0188】
一部の実施形態では、本明細書には、2016年6月23日に公開され、且つ2015年12月18日に出願された国際特許出願第PCT/JP2015/006323号明細書を基礎とする国際公開第2016/098357号パンフレットの表2a、表11a、表11b又は表13に記載される抗体と同じエピトープに特異的に結合するプロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片が提供される。一部の実施形態では、本明細書には、かかる抗体と結合に関して競合するプロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片が提供される。
【0189】
一部の実施形態では、本明細書に提供されるプロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、2016年6月23日に公開され、且つ2015年12月18日に出願された国際特許出願第PCT/JP2015/006323号明細書を基礎とする国際公開第2016/098357号パンフレットの表2a、表11a、表11b又は表13に記載される抗体と同じエピトープに特異的に結合しない。一部の実施形態では、本明細書に提供されるプロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、2016年6月23日に公開され、且つ2015年12月18日に出願された国際特許出願第PCT/JP2015/006323号明細書を基礎とする国際公開第2016/098357号パンフレットの表2a、表11a、表11b又は表13に記載される抗体と同じエピトープへの結合に関して競合又は交差競合しない。一部の実施形態では、本明細書に提供されるプロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、2016年6月23日に公開され、且つ2015年12月18日に出願された国際特許出願第PCT/JP2015/006323号明細書を基礎とする国際公開第2016/098357号パンフレットの表2a、表11a、表11b又は表13に記載されるVH及びVL対を含む抗体と同じエピトープに特異的に結合しない。一部の実施形態では、本明細書に提供されるプロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片は、2016年6月23日に公開され、且つ2015年12月18日に出願された国際特許出願第PCT/JP2015/006323号明細書を基礎とする国際公開第2016/098357号パンフレットの表2a、表11a、表11b又は表13に記載されるVH及びVL対を含む抗体と同じエピトープへの結合に関して競合又は交差競合しない。
【0190】
抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片と競合する抗体及び抗原結合断片
本開示の態様は、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれかと競合又は交差競合する抗体及びその抗原結合断片に関する。本明細書で使用する場合、抗体に関する「競合する」という用語は、第1の抗体が、第2の抗体の結合と十分に類似している様式でタンパク質(例えば、潜在型ミオスタチン)のエピトープに結合することを意味し、そのため、そのエピトープと第1の抗体の結合の結果は、第2の抗体の非存在下での第1の抗体の結合と比較して、第2の抗体の存在下で検出できるほどに減少される。代わりに、そのエピトープへの第2の抗体の結合も第1の抗体の存在下で検出できるほどに減少される場合があるが、そうである必要はない。即ち、第1の抗体は、第2の抗体が第1の抗体のそれぞれのエピトープへの結合を阻害することなく、そのエピトープへの第2の抗体の結合を阻害することができる。しかしながら、各抗体が他の抗体のエピトープ又はリガンドとの結合を、同じ程度であるか、より大きいか又はより小さいかにかかわらず、検出できるほどに阻害する場合、抗体は、それぞれのエピトープの結合について互いに「交差競合」すると言われる。競合抗体及び交差競合抗体の両方が本開示の範囲内である。そのような競合又は交差競合が起こる機構(例えば、立体障害、立体構造変化又は共通のエピトープ若しくはその部分への結合)に関係なく、当業者であれば、そのような競合抗体及び/又は交差競合抗体が、本明細書で提供される方法及び/又は組成物に包含され且つ有用であり得ることを認めるであろう。
【0191】
本開示の態様は、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれかと競合するか又は交差競合する抗体又はその抗原結合断片に関する。幾つかの実施形態では、抗体又はその抗原結合部分は、本明細書で提供される抗体のいずれかと同じエピトープ又はその近傍で結合する。幾つかの実施形態では、抗体又はその抗原結合部分は、それがエピトープの15以下のアミノ酸残基内で結合する場合、エピトープの近傍に結合する。幾つかの実施形態では、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれかは、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれかによって結合されるエピトープの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15アミノ酸残基以内に結合する。好ましい実施形態では、かかる抗体又は抗原結合断片は、ヒトプロ/潜在型ミオスタチンへの結合に関してアピテグロマブと交差競合する。一部の実施形態では、かかる抗体又は抗原結合断片は、ヒトミオスタチンのプロドメインの範囲内にあるエピトープに結合し、エピトープは、1つ以上のアミノ酸残基F147、Q149、L151、Y186、S168、K170、K205及び/又はL207(本明細書に開示される配列番号52に基づいて番号付けしたとき)を含む。一部の実施形態では、かかる抗体又は抗原結合断片は、ヒトミオスタチンのプロドメインの範囲内にあるエピトープに結合し、エピトープは、配列番号52に従って番号付けされて、1つ以上のアミノ酸残基F147、Q149、L151、Y186、R167、S168、K170、K205、L207、E209及び/又はN210を含む。一部の実施形態では、かかる抗体又は抗原結合断片は、配列番号10の変異体であるHCDR3パラトープを含み、この変異体は、配列番号10と比較して最大で2つのアミノ酸置換を含む。一部の実施形態では、かかる抗体又は抗原結合断片は、アミノ酸位置3位にロイシン及びアミノ酸位置9位にトリプトファン(配列番号10に基づいて番号付けしたとき)を含むHCDR3配列を含む。一部の実施形態では、かかる抗体又は抗原結合断片は、アミノ酸位置3位にロイシン、アミノ酸位置4位にバリン、アミノ酸位置7位にロイシン、アミノ酸位置8位にチロシン及び/又はアミノ酸位置9位にトリプトファン(配列番号10に基づいて番号付けしたとき)を含むHCDR3配列を含む。
【0192】
別の実施形態では、抗体又はその抗原結合部分は、本明細書に提供される抗原のいずれか(例えば、プロ/潜在型ミオスタチン)への結合に関して、10-8M未満の抗体とタンパク質との間の平衡解離定数Kで競合又は交差競合する。他の実施形態では、抗体又はその抗原結合部分は、本明細書に提供される抗原のいずれかへの結合に関して、10-11M~10-8Mの範囲のKで競合又は交差競合する。
【0193】
本開示の態様は、プロ/潜在型ミオスタチンへの結合に関して本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれかと競合する抗体又はその抗原結合部分に関する。一部の実施形態では、抗体又はその抗原結合部分は、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合部分のいずれかと同じエピトープでプロ/潜在型ミオスタチンに結合する。例えば、一部の実施形態において本明細書に提供される抗体のいずれも、プロ/潜在型ミオスタチンのトロイド切断部位若しくはその近傍に結合するか、又はトロイドドッキング部位若しくはその近傍に結合する。他の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれも、プロ/潜在型ミオスタチンのプロタンパク質転換酵素切断部位若しくはその近傍に結合するか、又はプロタンパク質転換酵素ドッキング部位若しくはその近傍に結合する。別の実施形態では、抗体又はその抗原結合部分は、プロ/潜在型ミオスタチンへの結合に関して、10-6M未満の抗体又はその抗原結合部分とプロ/潜在型ミオスタチンとの間の平衡解離定数Kで競合する。他の実施形態では、本明細書に提供される抗体又はその抗原結合部分のいずれかと競合する抗体又はその抗原結合部分は、10-11M~10-8Mの範囲のKでプロ/潜在型ミオスタチンに結合する。
【0194】
本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片のいずれかは、任意の好適な方法を使用して特徴付けられ得る。例えば、1つの方法は、抗原が結合するエピトープを同定すること又は「エピトープマッピング」である。例えば、Harlow and Lane,Using Antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1999の第11章において記載されるとおりの抗体-抗原複合体の結晶構造を解くこと、競合アッセイ、遺伝子断片発現アッセイ及び合成ペプチドに基づくアッセイを含む、タンパク質上のエピトープの位置をマッピングし、特徴付けるための多くの好適な方法がある。追加の例において、エピトープマッピングを使用して、抗体又はその抗原結合断片が結合する配列を決定することができる。エピトープは線状エピトープであり得る、即ち一続きのアミノ酸に含有され得るか、又は必ずしも一続きの(一次構造線状配列)に含有されない場合があるアミノ酸の三次元相互作用によって形成される立体構造エピトープであり得る。様々な長さ(例えば、少なくとも4~6つのアミノ酸長)のペプチドが単離されるか又は合成され得(例えば、組換え的に)、抗体との結合アッセイのために使用され得る。別の例では、抗体又はその抗原結合断片が結合するエピトープは、標的抗原配列に由来する重複ペプチドを使用すること及び抗体又はその抗原結合断片による結合を決定することによる体系的な選別において決定され得る。遺伝子断片発現アッセイによれば、標的抗原をコードするオープンリーディングフレームは、無作為に又は特定の遺伝的構成毎に断片化され、抗原の発現された断片と試験されることになる抗体の反応性が決定される。遺伝子断片は、例えば、PCRによって生成され得、続いて放射性アミノ酸の存在下にてインビトロで転写され、タンパク質に翻訳され得る。次に、抗体又はその抗原結合断片の放射性標識された抗原断片への結合は、免疫沈降及びゲル電気泳動によって決定される。特定のエピトープも、ファージ粒子の表面に表示される無作為のペプチド配列の大規模なライブラリー(ファージライブラリー)を使用することによって同定され得る。代わりに、重複するペプチド断片の規定されたライブラリーが、単純な結合アッセイにおいて試験抗体又はその抗原結合断片への結合について試験され得る。追加の例において、抗原結合ドメインの変異誘発、ドメインスワッピング実験及びアラニンスキャニング変異誘発を実施して、エピトープ結合に要求される、十分な及び/又は必要な残基を同定することができる。例えば、ドメインスワッピング実験は、プロ/潜在型ミオスタチンポリペプチドの様々な断片が、TGFβファミリーの別のメンバー(例えば、GDF11)などの密接に関係するが抗原性において異なるタンパク質からの配列と置き換えられている(交換されている)標的抗原の変異体を使用して実施され得る。抗体又はその抗原結合部分による突然変異体プロ/潜在型ミオスタチンへの結合を判定することにより、特定の抗原断片による抗体又はその抗原結合部分への結合の重要性を判定することができる。
【0195】
代わりに、同じ抗原に結合することが公知の他の抗体を使用して、抗体又はその抗原結合部分がその他の抗体又はその抗原結合部分と同じエピトープに結合するかどうかを決定するための競合アッセイを実施し得る。競合アッセイは、当業者に周知である。
【0196】
好適な方法のいずれか、例えば本明細書に記載されるとおりのエピトープマッピング方法を適用することにより、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分が、本明細書に記載されるとおりのプロ/潜在型ミオスタチンにおける具体的な残基/セグメントの1つ以上に結合するかどうかを決定することができる。更に、抗体又はその抗原結合部分と、プロ/潜在型ミオスタチンにおけるそれらの定義付けられた残基の1つ以上との相互作用について、常法の技術により決定することができる。例えば、結晶構造を決定し得、それに応じてプロ/潜在型ミオスタチンにおける残基と抗体又はその抗原結合部分における1つ以上の残基との間の距離を決定することができる。かかる距離に基づき、プロ/潜在型ミオスタチンにおけるある具体的な残基が抗体又はその抗原結合部分における1つ以上の残基と相互作用するかどうかを決定することができる。更に、競合アッセイ及び標的突然変異誘発アッセイなどの好適な方法を適用することにより、突然変異体プロ/潜在型ミオスタチンなどの別の標的と比較したプロ/潜在型ミオスタチンへの候補抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分の優先的な結合を決定することができる。
【0197】
抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片の作製
多数の方法が、本開示の抗体又はその抗原結合断片を得るために使用され得る。例えば、抗体及びその抗原結合断片は、組換えDNA法を使用して生成され得る。モノクローナル抗体及びその抗原結合断片は、既知の方法に従うハイブリドーマの作製(例えば、Kohler and Milstein(1975)Nature,256:495-499)によっても生成され得る。次に、この様式で形成されるハイブリドーマを、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及び表面プラズモン共鳴(例えば、OCTET又はBIACORE)分析などの標準的な方法を使用してスクリーニングして、指定の抗原に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を産生する1つ以上のハイブリドーマを同定する。指定の抗原の任意の形態は、免疫原、例えば組換え抗原、天然に存在する形態、その任意のバリアント又は断片並びにその抗原性ペプチド(例えば、線状エピトープとしての本明細書に記載されるエピトープ又は立体構造エピトープとしての骨格内の本明細書に記載されるエピトープのいずれか)として使用され得る。抗体及びその抗原結合断片を作製する1つの例示的な方法は、抗体又はその断片(例えば、scFv)を発現するスクリーニングタンパク質発現ライブラリー、例えばファージ又はリボソームディスプレイライブラリーを含む。ファージディスプレイは、例えば、Ladner et al.,米国特許第5,223,409号明細書;Smith(1985)Science 228:1315-1317;Clackson et al.(1991)Nature,352:624-628;Marks et al.(1991)J.Mol.Biol.,222:581-597;国際公開第92/18619号パンフレット;国際公開第91/17271号パンフレット;国際公開第92/20791号パンフレット;国際公開第92/15679号パンフレット;国際公開第93/01288号パンフレット;国際公開第92/01047号パンフレット;国際公開第92/09690号パンフレット;及び国際公開第90/02809号パンフレットに記載される。
【0198】
ディスプレイライブラリーの使用に加えて、特異的抗原(例えば、プロミオスタチン)を使用して非ヒト動物、例えばげっ歯類、例えばマウス、ハムスター又はラットを免疫することができる。一実施形態では、非ヒト動物はマウスである。
【0199】
別の実施形態では、モノクローナル抗体は、非ヒト動物から得られ、続いて改変され、例えば好適な組換えDNA手法を使用するキメラである。キメラ抗体を作製するための様々な手法が記載されている。例えば、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81:6851,1985;Takeda et al.,Nature 314:452,1985、Cabilly et al.,米国特許第4,816,567号明細書;Boss et al.,米国特許第4,816,397号明細書;Tanaguchi et al.,欧州特許出願公開第171496号明細書;欧州特許出願公開第0173494号明細書、英国特許第2177096B号明細書を参照されたい。
【0200】
追加の抗体生成技術に関しては、Antibodies:A Laboratory Manual,eds.Harlow et al.,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照されたい。本開示は、必ずしも任意の特定の供給源、生成の方法又は抗体の他の特別な特徴に限定されない。
【0201】
本開示の幾つかの態様は、ポリヌクレオチド又はベクターで形質転換される宿主細胞に関する。宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞であり得る。宿主細胞中に存在するポリヌクレオチド又はベクターは、宿主細胞のゲノムに組み込まれ得るか又はそれは、染色体外で維持され得る。宿主細胞は、細菌、昆虫、真菌、植物、動物又はヒト細胞などの任意の原核細胞又は真核細胞であり得る。幾つかの実施形態では、真核細胞は、例えば、サッカロマイセス属(Saccharomyces)のもの、特にS.セレビシエ(S.cerevisiae)種のものである。「原核」という用語は、抗体又は対応する免疫グロブリン鎖の発現のためにDNA又はRNA分子で形質転換され得るか又はトランスフェクトされ得る全ての細菌を含む。原核宿主は、例えば、E.コリ(E.coli)、S.チフィリウム(S.typhimurium)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)及びバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)などのグラム陰性並びにグラム陽性細菌を含み得る。「真核」という用語は、酵母、高等植物、昆虫及び脊椎動物細胞、例えばNSO及びCHO細胞などの哺乳動物細胞を含む。組換え生成手順において利用される宿主に応じて、ポリヌクレオチドによってコードされる抗体又は免疫グロブリン鎖は、グリコシル化されても又はされなくてもよい。抗体又は対応する免疫グロブリン鎖は、開始メチオニンアミノ酸残基も含み得る。
【0202】
幾つかの実施形態では、ベクターが適切な宿主に組み込まれると、宿主は、ヌクレオチド配列の高レベルの発現に好適な条件下で維持され得、必要に応じて免疫グロブリン軽鎖、重鎖、軽/重鎖二量体又はインタクトな抗体、抗原結合断片又は他の免疫グロブリン形態の回収及び精製が続き得;Beychok,Cells of Immunoglobulin Synthesis,Academic Press,N.Y.(1979)を参照されたい。従って、ポリヌクレオチド又はベクターは、続いて、抗体又は抗原結合断片を生成する細胞に導入される。更に、前述の宿主細胞を含むトランスジェニック動物、好ましくは哺乳類は、抗体又は抗体断片の大規模生産に用いることもできる。大規模生産とは、典型的には、250リットル以上のバイオリアクター(例えば、細胞培養)、例えば250L、500L、1000L、1500L、2000L、3000L、4000L、5000L、6000L又はそれを超えるものを指す。
【0203】
形質転換された宿主細胞は、発酵槽において増殖され得、最適な細胞増殖を達成するための任意の好適な手法を使用して培養され得る。発現されてから、完全抗体、それらの二量体、個々の軽鎖及び重鎖、他の免疫グロブリン形態又は抗原結合断片は、硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などを含む当技術分野の標準的な手段に従って精製され得;Scopes,“Protein Purification”,Springer Verlag,N.Y.(1982)を参照されたい。次に、抗体又は抗原結合断片は、増殖培地、細胞ライセート又は細胞膜画分から単離され得る。例えば、微生物で発現された抗体又は抗原結合断片の単離及び精製は、例えば、分取クロマトグラフィー分離及び例えば、抗体の定常領域に対して向けられるモノクローナル又はポリクローナル抗体の使用を含むものなどの免疫学的分離などの任意の従来の手段によるものであり得る。
【0204】
本開示の態様は、ハイブリドーマに関し、これはモノクローナル抗体の無期限に延ばされた供給源を提供する。ハイブリドーマの培養物から直接的に免疫グロブリンを得る代わりに、不死化ハイブリドーマ細胞が、その後の発現及び/又は遺伝子操作のための再構成された重鎖及び軽鎖部位の供給源として使用され得る。再構成された抗体遺伝子は、cDNAを生成するために適切なmRNAから逆転写され得る。幾つかの実施形態では、重鎖定常領域は、異なるアイソタイプのものと交換され得るか又は全体的に除去され得る。可変領域は、一本鎖Fv領域をコードするように連結され得る。複数のFv領域は、2つ以上の標的に対する結合能を与えるように連結され得るか又はキメラ重鎖及び軽鎖の組み合わせが利用され得る。任意の適切な方法が、抗体可変領域のクローニング及び組換え抗体及びその抗原結合部分の作製のために使用され得る。
【0205】
幾つかの実施形態では、重鎖及び/又は軽鎖の可変領域をコードする適切な核酸が得られ、標準的な組換え宿主細胞にトランスフェクトされ得る発現ベクターに挿入される。様々なそのような宿主細胞が使用され得る。幾つかの実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、効率的なプロセシング及び生成に有利であり得る。この目的に有用な典型的な哺乳動物細胞株としては、CHO細胞、293細胞又はNSO細胞が挙げられる。抗体又は抗原結合断片の生成は、宿主細胞の増殖及びコード配列の発現に適した培養条件下で改変された組換え宿主を培養することによって行われ得る。抗体又は抗原結合断片は、培養物からそれを単離することによって回収され得る。発現系は、得られる抗体が培地に分泌されるようにシグナルペプチドを含むように設計され得るが;細胞内生成も可能である。
【0206】
本開示は、本明細書に記載される抗体の免疫グロブリン鎖の少なくとも可変領域をコードするポリヌクレオチドも含む。幾つかの実施形態では、ポリヌクレオチドによってコードされる可変領域は、上記のハイブリドーマのいずれか1つによって生成される抗体の可変領域のV及び/又はVの少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む。
【0207】
抗体又は抗原結合断片をコードするポリヌクレオチドは、例えば、DNA、cDNA、RNA又は合成的に生成されたDNA若しくはRNA又は単独で若しくは組み合わせてそれらのポリヌクレオチドのいずれかを含む組換えにより生成されたキメラ核酸分子であり得る。幾つかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、ベクターの部分である。そのようなベクターは、好適な宿主細胞において好適な条件下でベクターの選択を可能にするマーカー遺伝子などの遺伝子を更に含み得る。
【0208】
幾つかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、原核又は真核細胞において発現を可能にする発現制御配列に作動可能に連結される。ポリヌクレオチドの発現は、ポリヌクレオチドの翻訳可能なmRNAへの転写を含む。真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞において発現を確実にする調節エレメントは、当業者によく知られている。それらは、転写の開始を促進する調節配列並びに任意選択で転写の終結及び転写物の安定化を促進するポリ-Aシグナルを含み得る。追加の調節エレメントは、転写及び翻訳エンハンサー並びに/又は天然に結合される領域若しくは異種プロモーター領域を含み得る。原核宿主細胞における発現を可能にする適切な調節エレメントとしては、例えば、E.コリ(E.coli)におけるPL、Lac、Trp又はTacプロモーターが挙げられ、真核宿主細胞における発現を可能にする調節エレメントの例は、酵母におけるAOX1若しくはGAL1プロモーター又は哺乳動物及び他の動物細胞におけるCMV-プロモーター、SV40-プロモーター、RSV-プロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMV-エンハンサー、SV40-エンハンサー若しくはグロビンイントロンである。
【0209】
転写の開始に関与するエレメントに加えて、そのような調節エレメントは、転写終結シグナル、例えばポリヌクレオチドの下流のSV40-ポリ-A部位又はtk-ポリ-A部位も含み得る。更に、利用される発現系に応じて、ポリペプチドを細胞内区画に方向付けることができるか又はそれを培地に分泌させることができるリーダー配列が、ポリヌクレオチドのコード配列に加えられ得、以前に記載されている。リーダー配列は、翻訳、開始及び終結配列並びに好ましくは翻訳されたタンパク質又はその部分の分泌を例えば細胞外培地に方向付けることができるリーダー配列と共に適切な時期に集合される。任意選択で、所望の特徴、例えば安定化又は発現される組換え産物の単純化された精製をもたらすC末端又はN末端識別ペプチドを含む融合タンパク質をコードする異種ポリヌクレオチド配列が使用され得る。
【0210】
幾つかの実施形態では、軽鎖及び/又は重鎖の少なくとも可変ドメインをコードするポリヌクレオチドは、免疫グロブリン鎖の両方又は一方のみの可変ドメインをコードし得る。同様に、ポリヌクレオチドは、同じプロモーターの制御下であり得、発現のために別々に制御され得る。更に、幾つかの態様は、抗体又は抗原結合断片の免疫グロブリン鎖の可変ドメインをコードするポリヌクレオチド含む;任意選択で抗体の他の免疫グロブリン鎖の可変ドメインをコードするポリヌクレオチドと組み合わせた遺伝子操作において慣習的に使用されるベクター、特にプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージに関する。
【0211】
幾つかの実施形態では、発現制御配列は、真核宿主細胞を形質転換するか又はトランスフェクトできるベクターにおける真核プロモーター系として提供されるが、原核宿主のための制御配列も使用され得る。レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス又はウシパピローマウイルスなどのウイルスに由来する発現ベクターは、標的化される細胞集団にポリヌクレオチド又はベクターの送達のために使用され得る(例えば、抗体又は抗原結合断片を発現する細胞を操作するため)。様々な適切な方法を使用して、組換えウイルスベクターを構築することができる。幾つかの実施形態では、ポリヌクレオチド及びベクターは、標的細胞への送達のためにリポソーム中に再構成され得る。ポリヌクレオチド(例えば、免疫グロブリン鎖の重及び/又は軽可変ドメインをコードする配列及び発現制御配列)を含有するベクターは、細胞宿主の型に応じて変化する好適な方法によって宿主細胞に導入され得る。
【0212】
修飾
本開示の抗体及び抗原結合断片は、プロ/潜在型ミオスタチンの検出及び単離のための酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、放射性材料、陽電子放出金属、非放射性常磁性金属イオン及びアフィニティーラベルを含むが、これらに限定されない検出可能な標識で修飾され得る。検出可能な物質は、本開示のポリペプチドに直接的に又は好適な手法を使用して、中間部(例えば、リンカーなど)を介して間接的に結合され得るか又はコンジュゲートされ得る。好適な酵素の非限定的な例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ又はアセチルコリンエステラーゼが挙げられ;好適な補欠分子族複合体の非限定的な例としては、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ、好適な蛍光材料の非限定的な例としては、ビオチン、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセイン、イソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル又はフィコエリトリンが挙げられ;発光材料の例としては、ルミノールが挙げられ;生物発光材料の非限定的な例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン及びエクオリンが挙げられ;且つ好適な放射性材料の例としては、放射性金属イオン、例えばアルファ-放射体又は例えばヨウ素(131I、125I、123I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(115mIn、113mIn、112In、111In)及びテクネチウム(99Tc、99mTc)、タリウム(201Ti)、ガリウム(68Ga、67Ga)、パラジウム(103Pd)、モリブデン(99Mo)、キセノン(133Xe)、フッ素(18F)、153Sm、Lu、159Gd、149Pm、140La、175Yb、166Ho、90Y、47Sc、86R、188Re、142Pr、105Rh、97Ru、68Ge、57Co、65Zn、85Sr、32P、153Gd、169Yb、51Cr、54Mn、75Se及びスズ(113Sn、117Sn)などの他の放射性同位体が挙げられる。検出可能な物質は、本開示の抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分に直接又は間接的に中間体(例えば、リンカーなど)を通してのいずれでも、好適な技法を用いてカップリング又はコンジュゲートし得る。検出可能な物質にコンジュゲートした抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、本明細書に記載されるとおりの診断アッセイに用いられ得る。
【0213】
ミオスタチン経路阻害剤をGLP-1経路活性化剤と併せた組合せの生物学的効果
ミオスタチン経路阻害剤(ミオスタチン抗体など)をGLP-1経路活性化剤と併せて投与することを含む方法又は治療は、本開示に包含され、各々が対象に有効量で投与されるとき対象に有益な効果(例えば、治療効果)が生じるような医薬品として使用することができる。例示的なかかる生物学的に有益な効果については、本明細書に提供される。対象における有益な生物学的効果は、ミオスタチン経路阻害剤、例えばプロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合する本明細書に記載されるとおりの抗体又はその抗原結合断片の投与によって実現し得る。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、並行投与、同時投与又は逐次投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、以下に記載する生物学的効果の2つ以上を引き起こすのに有効な量で投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、以下に記載する生物学的効果の3つ以上を引き起こすのに有効な量で投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、以下に記載する生物学的効果の4つ以上を引き起こすのに有効な量で投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、以下に記載する生物学的効果の5つ以上を引き起こすのに有効な量で投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、以下に記載する生物学的効果の6つ以上を引き起こすのに有効な量で投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、以下に記載する生物学的効果の7つ以上を引き起こすのに有効な量で投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、以下に記載する生物学的効果の8、9、10、11、12、13、14、15又は16を引き起こすのに有効な量で投与される。
【0214】
ヒト対象における筋組織の量及び/又は機能への効果
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤をGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象における筋組織の量及び/又は機能が増加する。一部の実施形態では、筋組織は、平滑筋組織、骨格筋組織及び心筋組織からなる群から選択される。平滑筋組織は、先細の長い細胞で構成され、概して不随意性であり、横紋筋と比べると、アクチン/ミオシン比がはるかに高い、顕著なサルコメアがなく、且つその静止時の長さのはるかに小さい割合にまで収縮する能力がある点が異なる。平滑筋細胞は特に、血管壁、腸の周囲及び子宮に見られる。心筋組織は、横紋があるが、不随意の組織であり、脊椎動物心臓のポンプ活性に関与する。個々の心筋細胞は、それが横紋筋組織にあるとおりに、一体に融合して多核構造をなしているわけではない。骨格筋組織は、随意調節下にある。この筋線維は合胞体であり、筋原線維、タンデムに並んだサルコメアを有する。骨格筋線維の一般的な種類としては、その詳細なミオシン重鎖(MHC)アイソフォームの発現に基づいて遅筋線維(I型)及び速筋線維(II型)の2つがある。遅筋は、有酸素運動により適した作りであり、長距離走など、持久力を要する芸当を可能にすることを促進する一方、速筋は、疲労が速いが、無酸素運動により適した作りであり、短距離走のような力強い瞬発的な動きに使用される。遅筋線維と速筋線維との間の識別は、ミオシンアデノシン-トリホスファターゼ(ATPアーゼ)の組織化学染色及びミオシン重鎖の種類に基づく。遅筋線維(I型線維)はMHCアイソフォームIであり、3つの速筋アイソフォーム(II型線維)は、MHCアイソフォームIIa、MHCアイソフォームIId及びMHCアイソフォームIIbである(S.Schiaffino,J.Muscle Res.Cell.Motil.,10(1989),pp.197-205)。
【0215】
一部の実施形態では、ヒト対象における速筋組織の量及び/又は機能を増加させる。他の実施形態では、ヒト対象における遅筋組織の量及び/又は機能を増加させる。筋量の管理は、肥満の治療に関連して、例えばレジスタンストレーニングによって観察されるとおり、減量を支持することが公知である。本発明に係るミオスタチン阻害は、速筋線維を優先的に維持する。
【0216】
有効量の本明細書に提供される医薬組成物及び治療方法の生物学的効果は、線維型転換と称される過程である、筋線維型の表現型変化に関連付けられ得る。一部の実施形態では、線維型転換は、傷害及び飢餓など、イベントによって惹起される。
【0217】
一態様において、本開示は、対象における線維型転換を促進する方法を提供する。この方法は、ミオスタチン経路阻害剤、例えばプロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合して成熟ミオスタチンの放出を遮断する抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を、線維型転換を促進するのに有効な量で対象に投与することを含み、それにより対象における線維型転換を促進する。
【0218】
別の態様において、本開示は、対象においてI型又は遅筋線維よりもII型又は速筋線維を優先的に増加させる方法を提供する。この方法は、ミオスタチン経路阻害剤、例えばプロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合して成熟ミオスタチンの放出を遮断する抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を、I型又は遅筋線維よりもII型又は速筋線維を優先的に増加させる線維型転換に有効な量で対象に投与することを含み、それにより対象においてI型又は遅筋線維よりもII型又は速筋線維を優先的に増加させる。
【0219】
一部の実施形態では、本明細書に記載されるとおりのミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の各々の有効量を対象に投与すると、筋量及び/又は筋機能の増加を引き起こすことができる。好ましくは、筋量のかかる増加は、対象の健康状態に利益を与えるか、又は他の点でそれを改善するのに臨床的に有意味である。例えば、筋量が臨床的に有意味に変化すると、患者の運動能力、セルフケア、代謝等が改善し得る。一部の実施形態では、筋量の増加は、1つ又は複数の除脂肪筋肉の増加である。一部の実施形態では、筋量のかかる増加は、全身又は実質的に全身の筋肉が測定可能な効果を示すような全身効果である。一部の実施形態では、除脂肪筋肉は、収縮組織が高密度に詰まった、脂肪及び結合組織含有分が低い筋肉である。他の実施形態では、効果は、ある種の群/種類の筋肉に限局的である。一部の実施形態では、筋組織量、例えば除脂肪筋組織量は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、筋組織量、例えば除脂肪筋組織量は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。筋量のかかる増加は、MRIによる断面積の測定(例えば、前腕断面)、周囲長、横隔膜幅(例えば、超音波による)、qNMR、DXA等を含め、任意の好適な公知の方法によって推定又は測定し得る。
【0220】
一部の実施形態では、有効量のミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤との組合せを対象に投与すると、筋機能の亢進を引き起こすことができる。筋機能は、限定なしに、力発生、握力(例えば、最大握力)、持久力、筋酸化容量、動的握力持久力等を含め、種々の尺度によって判定し得る。一部の実施形態では、血清クレアチニンレベルが、感度は限られているものの、筋量の指標となるバリデートされたバイオマーカーとして使用される。
【0221】
一部の実施形態では、筋組織の機能は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、筋組織の機能は、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。一部の実施形態では、筋機能の増加は、例えば、1から2への、2から3への、3から4への、4から5への、5から6への、6から7への、7から8への、8から9への又は9から10への評点の改善を含む。
【0222】
一部の実施形態では、本発明の方法においてミオスタチン経路阻害剤を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて使用すると、例えば脊髄損傷に起因した病変を患っている対象において筋組織の量及び/又は機能が増加し得る。一部の実施形態では、対象は、損傷直後の脊髄損傷急性期にあり、完全損傷と不全損傷との間の診断が概して困難である。他の実施形態では、対象は、脊髄損傷亜急性期にあり、完全脊髄損傷と不全脊髄損傷との間に特徴的な差異があり、継続的なリハビリテーションを通した回復が可能である。更に別の実施形態では、対象は、脊髄損傷慢性期にある。SCI慢性期は、受傷日から約4~6ヵ月経って、患者が回復速度の実質的な低下を示す頃に起こるか、又は標準治療努力が継続中であるにもかかわらず、リハビリテーション努力がプラトーに達したときに起こる。
【0223】
一部の実施形態では、病変の下にある筋組織の量及び/又は機能が、病変、例えば脊髄損傷を患っている対象において増加する。他の実施形態では、病変の上にある筋組織の量及び/又は機能が、病変、例えば脊髄損傷を患っている対象において増加する。一部の実施形態では、筋肉は、ヒラメ筋、腓腹筋、二頭筋及び三頭筋からなる群から選択される。一部の実施形態では、筋組織の量は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、筋組織の量は、少なくとも約1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。一部の実施形態では、筋組織の機能は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、筋組織の機能は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。
【0224】
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤、例えばプロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象、例えば病変を患っている対象において歩行運動機能が増加する。一部の実施形態では、ヒト対象の歩行運動機能は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、ヒト対象の歩行運動機能は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。
【0225】
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤、例えばプロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象、例えば病変を患っている対象において運動協調性及び平衡が増加する。一部の実施形態では、ヒト対象の運動協調性及び平衡は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、ヒト対象の運動協調性及び平衡は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。
【0226】
別の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象、例えば病変を患っている対象において筋力が増加する。一部の実施形態では、ヒト対象の筋力は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、ヒト対象の筋力は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。
【0227】
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、患者の機能性の亢進に対応する筋機能の臨床的に有意味な変化が生じ得る。一部の実施形態では、機能性の亢進には、患者の運動能力、セルフケア、代謝等の改善が含まれる。一部の実施形態では、有効量のミオスタチン経路阻害剤、例えばプロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を投与すると、損傷、手術及び他の医療手技など、病態からの回復が促進されるか又は加速する。好適なかかる病態には、神経損傷(損傷又は手術又は他の臨床手技のいずれによって生じるものかにかかわらず)に関連する病態が関わり得る。
【0228】
例えば、好適な対象には、i)筋機能に影響を及ぼす神経損傷が関わる急性損傷が持続している;ii)意図せぬ神経損傷(例えば、運動ニューロン損傷)を引き起こし得る手術手技(治療のための又は矯正のための)を受ける予定がある;iii)手術手技を受け、それが意図せぬ筋機能不全を引き起こした;iv)特定の筋肉又は筋群の固定化(例えば、ギプス等)が関わる治療を受ける;v)人工呼吸器を(例えば、急性損傷の結果として)付けている患者など、概して健常な個体が含まれる。本明細書に記載されるミオスタチン経路阻害剤を投与すると、かかる患者の回復が加速し得る。一部の実施形態では、かかる投与は予防的であり得る。例えば、神経損傷及び関連する筋機能不全を引き起こし得る手術手技を受ける前又はその直後に筋機能不全を予防するために抗体が投与され得る。予防には、かかる機能不全の重症度の軽減又は緩和が含まれる。これらの実施形態では、投与は、罹患している範囲、例えば損傷、手術等の部位又はその近傍への局所投与であり得る。
【0229】
ヒト対象における筋肉タンパク質異化及び/又は筋肉アミノ酸放出への効果
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象において筋肉タンパク質異化及び/又は筋肉アミノ酸放出が低下する。一部の実施形態では、筋肉タンパク質異化及び/又は筋肉アミノ酸放出は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%低下する。他の実施形態では、筋肉タンパク質異化及び/又は筋肉アミノ酸放出は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%低下する。
【0230】
ヒト対象における筋喪失又は筋萎縮の予防への効果
一部の実施形態では、有効量の組合せのミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、筋喪失及び/又は筋萎縮を発症するリスクがあるヒト対象において筋喪失又は筋萎縮が予防される。一部の実施形態では、筋喪失又は筋萎縮は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%低下するか又は予防される。他の実施形態では、筋喪失又は筋萎縮は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%低下するか又は予防される。一部の実施形態では、治療の結果として例えば体脂肪量が失われる一方、筋量が保持される(即ち筋量の増大又は喪失なし)。一部の実施形態では、組合せ療法を受ける対象は、筋量の増大を呈し得る。一部の実施形態では、組合せ療法による治療は、治療前の筋量と比較した筋量の増大を維持する。
【0231】
一部の実施形態では、好適な対象は、萎縮を依然として発症していないが、萎縮を発症するリスクがあると見なされる対象である。一部の実施形態では、対象は、食事制限及び/又は運動レジメンを含むプログラムなど、減量プログラム中である。一部の実施形態では、対象は、少なくとも20%、例えば少なくとも30%、35%、40%、45%又は50%のカロリー低減の食事制限レジメンを含む減量プログラム中である。一部の実施形態では、対象は2型糖尿病を有する。一部の実施形態では、対象は心血管疾患を有する。一部の実施形態では、対象は、運動ニューロン機能を損なう神経学的欠陥に関連する疾患又は病態を有する。一部の実施形態では、かかる病態は、筋ジストロフィー又は筋萎縮によって引き起こされる。一部の実施形態では、神経学的欠陥は、神経損傷によって引き起こされる。一部の実施形態では、神経損傷には、罹患している筋肉に部分的機能障害を引き起こす運動ニューロンの部分的除神経が関わる。一部の実施形態では、かかる病態は、SCIによって引き起こされる。一部の実施形態では、SCIを有する対象は、SCIの急性期又は亜急性期にある(例えば、依然として慢性期に達していない)。
【0232】
一部の実施形態では、有効量のミオスタチンシグナル伝達阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を含む組成物が、運動ニューロンの部分的除神経に関連する筋萎縮を発症するリスクがある患者集団に投与されるとき、この組成物は、i)患者集団の統計的に有意な割合において筋萎縮の症状発現又は増悪を予防するか;又はii)患者集団の統計的に有意な割合において筋萎縮の重症度を緩和する。一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達阻害剤は、本明細書に記載されるとおりGLP-1経路活性化剤と併せて投与される。
【0233】
ミオスタチンシグナル伝達阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又は本明細書に記載されるとおりGLP-1経路活性化剤と併せて使用することによる筋喪失又は筋萎縮の予防については、罹患している筋肉に関わる筋量又は運動機能を評価するための任意の好適な方法により容易にモニタ又は判定することができる。
【0234】
一部の実施形態では、有効量のミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を投与すると、ニューロパチー、例えば糖尿病性ニューロパチー又は患肢における早期発症軸索型多発ニューロパチーも予防又は緩和される。
【0235】
ヒト対象における筋肉内脂肪浸潤への効果
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象において筋肉内脂肪浸潤が低下する。一部の実施形態では、筋肉内脂肪浸潤は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%低下する。他の実施形態では、筋肉内脂肪浸潤は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%低下する。
【0236】
ヒト対象における体脂肪組織レベルへの効果
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象において体脂肪組織レベルが影響を受ける。本明細書で使用されるとき、用語「体脂肪組織」とは、脂肪を貯える結合組織を含めた脂肪を指す。体脂肪組織は、前脂肪細胞に由来する。その主な役割は、エネルギーを脂質の形態で貯えることであるが、それは、緩衝材となって身体を防護もする。2種類の体脂肪組織は、エネルギーを貯える白色脂肪組織(WAT)及び体熱を生じさせる褐色脂肪組織(BAT)である。
【0237】
褐色脂肪組織(BAT)は、低温の又は過剰な摂食に反応した化学エネルギーの散逸において機能することが公知であり、エネルギー平衡を調節する能力も有する。褐色脂肪組織の活性化は、ヒトにおいてグルコース恒常性及びインスリン感受性を改善することが示されており、インスリン機能が損なわれた者であれば誰もがBAT活性化から利益を受ける可能性があることが示唆される(Stanford et al.,J Clin Invest.2013,123(1):215-223)。
【0238】
ベージュ脂肪組織は、ベージュ化としても知られる、WATが褐変する結果として生成される。これは、WAT貯蔵庫内の脂肪細胞にBATの特徴が発達すると起こる。ベージュ脂肪細胞は多房性の外観を帯び(幾つかの脂肪滴を含有する)、脱共役タンパク質1(UCP1)の発現を増加させる。そうすることで、これらの正常なエネルギー貯蔵型の白色脂肪細胞がエネルギー放出型の脂肪細胞になる(Harms et al.Nature Medicine.2013,19(10):1252-63)。
【0239】
内臓脂肪又は腹部脂肪(臓器脂肪又は腹腔内脂肪としても知られる)は、腹腔の内部に位置し、臓器(胃、肝臓、腸、腎臓等)間に詰まっている。内臓脂肪は、皮膚の下にある皮下脂肪及び骨格筋に散在する筋肉内脂肪とは異なる。大腿部及び殿部にあるような、下半身の脂肪は皮下脂肪であって、間隔に一貫性のない組織である一方、腹部の脂肪は、ほとんどが内臓脂肪であり、半流動性である。過剰量の内臓脂肪は、腹部が過剰に突き出ている中心性肥満、「中心性脂肪蓄積」又は「腹部のぜい肉」として公知であり、ボディボリュームインデックス(BVI)などの新しい開発が、腹部の体積及び腹部脂肪を測定するため特別に設計されている。過剰な内臓脂肪は、2型糖尿病、インスリン抵抗性、炎症性疾患及び他の肥満に関係する疾患とも関連付けられている(Mokdad et al.,JAMA:The Journal of the American Medical Association.2001,289(1):76-9)。
【0240】
体脂肪組織量は、当業者に公知の任意の方法により決定することができる。例えば、体脂肪組織は、qNMR、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)及び当技術分野で公知の他の方法により測定し得る。
【0241】
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を投与すると、ヒト対象において褐色脂肪組織レベル及び/又はベージュ脂肪組織レベルが増加する。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤、例えば抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分を投与すると、ヒト対象の白色脂肪組織及び内臓脂肪組織レベルが低下する。一部の実施形態では、投与は、GLP-1経路活性化剤をミオスタチン阻害剤と併せて投与することを含む。
【0242】
一部の実施形態では、褐色又はベージュ脂肪組織レベルは、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、褐色又はベージュ脂肪組織レベルは、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。
【0243】
一部の実施形態では、白色又は内臓脂肪組織レベルは、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%低下する。他の実施形態では、白色又は内臓脂肪組織レベルは、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%低下する。
【0244】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害は、減量期中、体重維持期と比較して異なる効果を有する。一部の実施形態では、ミオスタチン経路を阻害すると、積極的な減量期における体脂肪量の喪失と比較して、体重維持期の体脂肪量の喪失がより大きく促進される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路を阻害すると、極端なカロリー制限(例えば、30%以上のカロリー制限)と比較して、中程度のカロリー制限下(例えば、30%以下のカロリー制限、例えば20%のカロリー制限下)において体脂肪量の喪失がより大きく促進される。
【0245】
一部の実施形態では、脂肪増加速度は、治療前の速度と比べて減速するか又は止まる。一部の実施形態では、本治療では、治療前のより速い脂肪増加速度と比べて低減した脂肪増加速度が維持される。
【0246】
ヒト対象における脂肪対筋組織比への効果
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象において脂肪対筋組織比が低下する。一部の実施形態では、脂肪対筋組織比は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%低下する。他の実施形態では、脂肪対筋組織比は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%低下する。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、脂肪対筋組織比の低減を以前に実現したヒト対象において筋組織に対する体脂肪組織間の比の低減が維持される。
【0247】
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象において筋組織対脂肪比が増加する。一部の実施形態では、筋組織対脂肪比は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、筋組織対脂肪比は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、かかる比の増加を以前に実現したヒト対象において筋組織対脂肪比の増加が維持される。
【0248】
ホルモンコントロール
レプチンは、体脂肪組織によって産生及び分泌されるホルモンであり、食物摂取の調節及びエネルギー消費の刺激において役割を果たす。レプチン産生の欠陥は、げっ歯類及びヒトにおいて重度の遺伝性肥満を引き起こすことが報告されている。レプチンは、体重に対するその効果に加えて、造血の調節、血管新生、創傷治癒並びに免疫及び炎症反応を含む種々の他の機能も有する。レプチンは、サイトカイン受容体ファミリーの1回膜貫通型ドメイン受容体であるレプチン受容体を通して作用し、この受容体は、多くの組織に選択的スプライシングを受けた幾つかの形態で見られる。LEP遺伝子は、マウス「肥満」表現型における遺伝子(ob)突然変異体のヒトホモログである。対象におけるレプチンレベルは、対象、例えば哺乳類対象の体内にある循環レプチンの量を指し、レプチンレベルの低減は、ベースライン測定値と比較した、例えば治療の結果としての循環レプチンの量の低減を指す。
【0249】
一部の実施形態では、対象(例えば、哺乳類対象)をミオスタチン経路阻害剤で(例えば、単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて)治療する治療有効性は、ミオスタチン阻害剤を投与した後、投与前と比較した対象の血中のレプチンレベルの低減を測定することによって決定し得る。一部の実施形態では、治療有効性は、(i)ミオスタチン阻害剤を投与する前に対象の血中レプチンレベルを決定すること;(ii)ミオスタチン阻害剤を投与すること;及び(iii)ミオスタチン阻害剤を投与した後に対象の血中レプチンレベルを決定することによって決定し得;血中レプチンレベルの低減が治療有効性を指示している。
【0250】
アディポネクチンは、直接的な抗糖尿、抗動脈硬化及び抗炎症活性を伴う脂肪代謝及びインスリン感受性のコントロールに関わるアディポカインである。アディポネクチンは、肝臓及び骨格筋におけるAMPKリン酸化及び活性化を刺激してグルコース利用及び脂肪酸燃焼を亢進させると共に、cAMP依存性経路を通した内皮NFκ-Bシグナル伝達を阻害する。アディポネクチンは、褐色脂肪細胞分化に関わり得る。本明細書で使用されるとき、用語「アディポネクチンレベル」は、循環アディポネクチン、例えば全アディポネクチン又はグリコシル化されたアディポネクチンの量を指す。対象、例えば哺乳類対象の血漿アディポネクチンレベルは、例えば、全アディポネクチンアッセイ(ELISAキットEZHADP-61K、Millipore、St.Charles、Missouri、USA)により測定し得、これは、あらゆる形態の循環アディポネクチンを0.78ng/mLの感度及びそれぞれ1.8%及び6.2%のバッチ内及びバッチ間変動係数で捕捉するものである。アディポネクチンレベルの増加又は低下は、対象において検出された循環アディポネクチンの量がベースライン測定値と比較して(例えば、代謝疾患又は障害の治療後に)多くなる又は少なくなることを指す。
【0251】
グレリンは、食欲調節ホルモンであって、食欲刺激効果を有し、脂肪蓄積を誘発し、且つ胃液分泌を刺激するものである。血漿グレリン濃度は空腹状態で増加し、習慣的な摂食後に減少する。ヒトにおける血漿試料の正常なグレリン濃度は、n-オクタノイルグレリンについて10~20fmol/mlであり、アシル修飾グレリン及び脱アシルグレリンの両方を含めた全グレリンについて100~150fmol/mlである。グレリンレベルは、例えば、グレリンヒトELISA kid、カタログ番号BMS2192(Invitrogen)を使用して測定し得る。
【0252】
ヒト対象の代謝率への効果
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象の代謝率が増加する。一部の実施形態では、投与により、対象の基礎代謝率が増加し得る。代謝率は、当技術分野で公知の任意の方法により、例えば酸素入力及び二酸化炭素出力を調べることによるか又は間接的な熱量測定法により計算することができる。一部の実施形態では、代謝率は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、代謝率は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。
【0253】
ヒト対象におけるグルコース取込みへの効果
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象の組織によるグルコース取込みが影響を受ける。一部の実施形態では、筋組織によるグルコース取込みが増加する。一部の実施形態では、筋組織によるグルコース取込みは、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。一部の実施形態では、筋組織によるグルコース取込みは、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。
【0254】
他の実施形態では、白色脂肪組織、肝組織及び/又は血管組織によるグルコース取込みが減少する。一部の実施形態では、白色脂肪組織、肝組織及び/又は血管組織によるグルコース取込みは、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%減少する。他の実施形態では、白色脂肪組織、肝組織及び/又は血管組織によるグルコース取込みは、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%減少する。
【0255】
一部の実施形態では、対象をミオスタチン経路阻害剤によって単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて治療すると、対象の血清中の非絶食時グルコースレベルが治療前のベースラインと比べて減少する。
【0256】
用語「非絶食時グルコースレベル」とは、絶食する必要なしに又は飲食を長時間、例えば8時間控えることなく測定された対象の血中のグルコース含有量を指す。血中グルコースは、A1C、HbA1C、糖化ヘモグロビン又はグリコシル化ヘモグロビン検査としても知られるヘモグロビンA1C検査を用いて測定することができる。従来のホモグルコースモニタリングも血糖の測定に用いることができる。用語「食後インスリンレベル」とは、食べた直後(例えば、食後2時間)における対象の血中のインスリン濃度を指す。用語「食後グルコースレベル」は、食べた直後(例えば、食後2時間)における対象の血中のグルコース濃度を指す。食後インスリン及びグルコースレベルは、炭水化物吸収、インスリン及びグルカゴン分泌及びそれらが肝組織及び末梢組織のグルコース代謝に及ぼす協調的効果の影響を受け得る。ピーク血漿インスリン又はグルコース濃度の大きさ及び時間は、食事のタイミング、分量及び組成を含めた種々の要因に依存する。非糖尿病のヒト対象では、血漿グルコース濃度は食事開始から約60分後にピークに達し、2~3時間以内に食前レベルに戻る。食後インスリンレベルは、食後2時間のインスリン検査など、食後のインスリン検査を用いて測定し得る。食後グルコースレベルは、食後2時間の血中グルコース検査など、食後血中グルコース検査を用いて測定し得る。
【0257】
ヒト対象のインスリン感受性への効果
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象のインスリン感受性が増加する。インスリン感受性を測定する方法は、当技術分野で公知であり、例えばブドウ糖負荷試験及び空腹時インスリン又はグルコース検査である。ブドウ糖負荷試験では、空腹時の患者が75グラム経口用量のグルコースを摂取し、次に以降の2時間にわたって血中グルコースレベルが測定される。血糖レベルが7.8mmol/L(140mg/dl)より低ければ、正常と見なされ、血糖レベルが7.8~11.0mmol/L(140~197mg/dl)であれば、耐糖能異常(IGT)と見なされ、血糖レベルが11.1mmol/L(200mg/dl)以上であれば、真性糖尿病と見なされる。空腹時インスリン検査について、空腹時血清インスリンレベルが25mIU/L又は174pmol/Lより高ければ、インスリン抵抗性と見なされる。食後インスリンレベルを測定するためには、対象は2週間にわたり、1日少なくとも150gの炭水化物を含む食事に従い得る。一晩、10時間より長く絶食した後、患者は経口ブドウ糖負荷試験を行い、ベースライン時並びに30、60、120及び180分に再び試料が採取される。2時間目及び3時間目のインスリンの合計が60μU/mLより低ければ、正常範囲内と見なされる。2時間目及び3時間目のインスリンの合計が60以上100未満であるとき、境界型の高インスリン血症又は境界型のインスリン抵抗性が指示される。2時間目及び3時間目のインスリンの合計が100以上であるとき、2又は3時間目に遅れたインスリンピークがあるとき又は空腹時インスリンが50を上回るとき、高インスリン血症が指示され得る(例えば、DiNicolantonio,JJ,et.al.Postprandial insulin assay as the earliest biomarker for diagnosing pre-diabetes,type 2 diabetes and increased cardiovascular risk.Published online November 27. Available at:http://openheart.bmj.com/content/openhrt/4/2/e000656.full.pdf Accessed November 28,2017.を参照されたい)。
【0258】
ヒト対象におけるインスリン依存性血糖コントロールへの効果
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又はGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ヒト対象におけるインスリン依存性血糖コントロールが増加する。一部の実施形態では、インスリン依存性血糖コントロールは、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%増加する。他の実施形態では、インスリン依存性血糖コントロールは、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%増加する。
【0259】
対象における代謝障害の発症予防への効果
一部の実施形態では、有効量のミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を単独で又は本明細書に記載されるとおりGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、対象、例えばヒト対象において代謝障害の発症を予防し得る。一部の実施形態では、代謝障害の発症は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%低下する。他の実施形態では、代謝障害の発症は、少なくとも1~5%、5~10%、10~20%、1~30%、1~40%、1~50%、10~50%、20~30%、20~60%、30~80%、40~90%又は50~100%低下する。
【0260】
一部の実施形態では、有効量のミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を投与すると、例えばコレステロールレベル及び/又はLDL/HDL比が減少することにより、心血管疾患のリスクが減少する。コレステロールには、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール及び高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールの両方が包含される。全コレステロールレベルとは、対象から採取した血液試料中におけるコレステロール(例えば、LDL及びHDL)の総量の尺度を指す。LDLコレステロールは、身体に見られるコレステロールのほとんどを構成する低密度リポタンパク質を含有している。高いLDLレベルは、動脈における脂質沈着(例えば、プラーク)を引き起こし得ると共に、これは心疾患及び脳卒中などの心血管病態のリスク増加に関連し得るか又はそれとつながりがあり得る。対照的に、HDLコレステロールは高密度リポタンパク質を含有しており、これはコレステロールを吸収し、それを肝臓に運び戻す。概して、高いHDLコレステロールレベルは、低い心疾患及び脳卒中リスクに関連する。コレステロールレベルは、完全コレステロール検査、脂質パネル又は脂質プロファイルとして一般に公知の血液検査を含め、血液検査を用いて測定することができる。
【0261】
一部の実施形態では、好適な対象は、代謝疾患を完全には発症していないが、かかる病態を発症するリスクがあると見なされる対象である。一部の実施形態では、対象は、筋機能不全に関連する疾患又は病態を有する。一部の実施形態では、筋機能不全は、罹患している筋肉において部分的機能障害を引き起こす運動ニューロンの部分的除神経に関連する。一部の実施形態では、かかる病態は、筋ジストロフィー又は筋萎縮によって引き起こされる。一部の実施形態では、かかる病態は、SCIによって引き起こされる。一部の実施形態では、SCIを有する対象は、SCIの急性期又は亜急性期にある(例えば、依然として慢性期に達していない)。
【0262】
一部の実施形態では、有効量の本明細書に記載されるミオスタチンシグナル伝達阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を含む組成物が、筋機能不全に関連する代謝障害を発症するリスクがある患者集団に投与されるとき、その組成物は、i)患者集団の統計的に有意な割合において代謝障害の症状発現又は増悪を予防するか;又はii)患者集団の統計的に有意な割合において代謝障害の重症度を緩和する。一部の実施形態では、ミオスタチンシグナル伝達の阻害剤は、GLP-1経路活性化剤と併せて投与される。
【0263】
一部の実施形態では、代謝への効果は、インスリン抵抗性、脂質パネル/マーカー(例えば、レプチン、アディポネクチン、グレリン)、炎症マーカー及び酸化的ストレスマーカー、限定されないが、IL-6、TNF、CRP、血漿全抗酸化剤状態、脂質酸化及び赤血球グルタチオンペルオキシダーゼ活性を含めたものによりモニタ又は測定し得る。
【0264】
医薬組成物
本明細書に記載されるミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、ヒト又は非ヒト対象における投与に好適な1つ以上の医薬組成物に製剤化し得る。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤とは、1つの組成物に共製剤化される。例えば、ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤とは、静脈内(i.v.)又は皮下(s.c.)投与のために共製剤化され得る。他の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤とは、ヒト又は非ヒト対象(例えば、哺乳類)への個別投与のために製剤化される。例えば、ミオスタチン経路阻害剤をi.v.投与のために製剤化し得、GLP-1経路活性化剤をs.c.又は経口投与のために製剤化し得る。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、s.c.投与のために製剤化される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の投薬スケジュールは、異なる日又は異なる時点で投与する必要があり得る。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤とは、並行投与、個別投与又は同時投与され得る。
【0265】
かかる医薬組成物は、治療的使用又は予防的使用が意図され得る。ミオスタチン経路阻害剤及び/又はGLP-1経路活性化剤の1つ以上を、緩衝剤を含め、薬学的に許容可能な担体(賦形剤)と混合して、インビボでのミオスタチンシグナル伝達及びGLP-1経路活性化の低減から利益を受け得る患者への投与のための医薬組成物を形成することができる。「薬学的に許容可能」とは、担体が組成物の活性成分と適合性を有しなければならず(及び好ましくは活性成分を安定化させる能力を有する)、且つ治療しようとする対象にとって有害であってはならないことを意味する。緩衝剤を含め、薬学的に許容可能な賦形剤(担体)の例は、当業者には明らかであろうと共に、以前記載されている。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.(2000)Lippincott Williams and Wilkins,Ed.K.E.Hooverを参照されたい。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、用いられる投薬量及び濃度で被投与者にとって非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含めた抗酸化剤;保存剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン類;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストラン類を含め、単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含み得る。薬学的に許容可能な賦形剤については、本明細書に更に記載される。
【0266】
一部の例において、本明細書に記載される医薬組成物は、ミオスタチン阻害剤及び/又はGLP-1経路活性化剤を含有するリポソームなど、エマルションベース又は脂質ベースの製剤を含み、これらは、Epstein,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688(1985);Hwang,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4030(1980);及び米国特許第4,485,045号明細書及び同第4,544,545号明細書に記載されるなどの任意の好適な方法によって調製し得る。循環時間が亢進したリポソームが、米国特許第5,013,556号明細書に開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成で逆相蒸発法により作成することができる。定義付けられた細孔径のフィルタを通してリポソームを押し出すことにより、所望の直径のリポソームがもたらされる。
【0267】
ミオスタチン阻害剤及び/又はGLP-1経路活性化剤はまた、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションにある、例えばコアセルベーション技法又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセルに捕捉され得る。例示的技法については、以前に記載されており、例えばRemington,The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.Mack Publishing(2000)を参照されたい。
【0268】
他の例では、本明細書に記載される医薬組成物は、徐放フォーマットで製剤化することができる。徐放製剤の好適な例には、ミオスタチン阻害剤及び/又はGLP-1経路活性化剤を含有する固形疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、こうしたマトリックスは、成形物品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-メタクリル酸ヒドロキシエチル)又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書)、L-グルタミン酸と7エチル-L-グルタミン酸塩との共重合体、非分解性エチレン酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸共重合体及びロイプロリド酢酸塩で構成される注射用マイクロスフェア)などの分解性乳酸-グリコール酸共重合体、イソ酪酸酢酸スクロース及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0269】
生体内投与のために使用されることになる医薬組成物は、無菌でなければならない。これは、例えば、滅菌ろ過膜に通すろ過により、容易に達成される。治療用抗体組成物は、概して、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば皮下注射針によって穿孔可能な栓を有する静脈内注射液バッグ又はバイアルに入れられる。
【0270】
ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む本明細書に記載される医薬組成物は、経口、非経口若しくは直腸投与又は吸入若しくは吹送による投与のための、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、顆粒、溶液若しくは懸濁液又は坐薬などの単位投薬量形態(個別又は一緒のいずれでも)であり得る。
【0271】
錠剤などの固形組成物を調製するには、活性主成分を医薬担体、例えばコーンスターチ、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム又はゴムなど、従来の錠剤化成分及び他の薬学的希釈剤、例えば水と混合して、本開示の化合物又はその薬学的に許容可能な非毒性塩の均一混合物を含有する固形予備製剤化組成物を形成することができる。これらの予備製剤化組成物を均一と称するとき、それは、活性成分が組成物全体にわたって一様に分散しているため、組成物を等しく有効な単位投薬量形態、例えば錠剤、丸薬及びカプセルなどに容易に細かく分割し得ることを意味する。この固形予備製剤化組成物は、次には0.1mg~約500mgの本開示の活性成分を含有する上記に記載される種類の単位投薬量形態に細かく分割される。新規組成物の錠剤又は丸薬をコーティングするか、又は他の方法で化合物化することにより、持続作用の利点をもたらす投薬量を提供することができる。例えば、錠剤又は丸薬は、内側投薬量及び外側投薬量成分を含むことができ、後者は前者を覆う外被の形態である。これら2つの成分は、胃内での崩壊に抵抗する役割を果たす腸溶性の層で分けることができ、内側成分がインタクトなまま十二指腸に通過すること又は遅れて放出されることを可能にする。かかる腸溶性の層又はコーティングには、種々の材料を使用することができ、かかる材料としては、幾つものポリマー酸及びポリマー酸と、シェラック、セチルアルコール及び酢酸セルロースのような材料との混合物が挙げられる。
【0272】
好適な表面活性剤には、詳細には、非イオン性薬剤、例えばポリオキシエチレンソルビタン類(例えば、Tween(商標)20、40、60、80又は85)及び他のソルビタン(例えば、Span(商標)20、40、60、80又は85)などが含まれる。界面活性剤を含む組成物は、好都合には界面活性剤を0.05~5%含み得、0.1~2.5%であり得る。他の原料、例えばマンニトール又は他の薬学的に許容可能な媒体が必要に応じて加えられ得ることが理解されるであろう。
【0273】
好適なエマルションは、Intralipid(商標)、Liposyn(商標)、Infonutrol(商標)、Lipofundin(商標)及びLipiphysan(商標)など、市販の脂肪乳剤を使用して調製し得る。活性成分は、予め混合されたエマルション組成物に溶解され得るか、又は代わりに、それは、油(例えば、ダイズ油、ベニバナ油、綿実油、ゴマ油、コーン油又は扁桃油)並びにリン脂質(例えば、卵リン脂質、大豆リン脂質又は大豆レシチン)及び水と混合すると形成されるエマルションに溶解され得るかのいずれかであり得る。他の原料、例えばグリセロール又はグルコースを加えてエマルションの張性を調整し得ることが理解されるであろう。好適なエマルションは、典型的には最大で20%の油、例えば5~20%を含有することになる。
【0274】
エマルション組成物は、抗プロミオスタチン抗体をIntralipid(商標)又はその成分(ダイズ油、卵リン脂質、グリセロール及び水)と混合することにより調製したものであり得る。
【0275】
吸入又は吹送のための医薬組成物には、薬学的に許容可能な水性若しくは有機溶媒又はこれらの混合物中の溶液及び懸濁液並びに粉末が含まれる。液体又は固体組成物は、上記に示したとおり好適な薬学的に許容可能な賦形剤を含有し得る。一部の実施形態では、組成物は、局所又は全身効果のため経口又は経鼻呼吸器経路によって投与される。
【0276】
好ましくは無菌の薬学的に許容可能な溶媒中の組成物は、ガスの使用によってネブライザー化され得る。ネブライザー化した溶液は、ネブライザー装置から直接吸い込まれ得るか、又はネブライザー装置は、フェイスマスク、テント又は中間にある陽圧呼吸機械に取り付けられ得る。溶液、懸濁液又は粉末組成物は、製剤を適切な方法で送達する装置から好ましくは経口的又は経鼻的に投与され得る。
【0277】
キット
本開示は、代謝障害に関連する疾患/障害の軽減における使用のためのキット(ディスポーザブル及び/又は自己投与用キットを含む)も提供する。かかるキットは、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)とGLP-1経路活性化剤、例えば本明細書に記載されるもののいずれかとを含む1つ以上の容器を含み得る。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、同じ容器に提供される。一部の実施形態では、容器はシリンジである。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤とは、別個の容器に提供される。
【0278】
一部の実施形態では、キットは、本明細書に記載される方法のいずれかに従う使用に関する説明書を含み得る。含められる説明書は、本明細書に記載されるもののような標的疾患を治療するか、その発生を遅延させるか又は軽減するためのミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の投与についての記載を含み得る。キットは、個体が標的疾患を有するかどうかを同定することに基づいた、治療に好適な個体の選択についての記載を更に含み得る。なおも他の実施形態では、説明書は、標的疾患のリスクがある個体への抗体及びGLP-1経路活性化剤(例えば、ペプチドホルモン模倣薬)の投与についての記載を含む。
【0279】
ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及びGLP-1経路活性化剤の使用に関する説明書は、概して、意図される治療についての投薬量、投薬スケジュール及び投与経路に関する情報を含む。容器は、単位用量、バルク包装(例えば、複数回用量包装)又はサブ単位用量であり得る。本開示のキットに供給される説明書は、典型的には、表示又は添付文書にある文書による説明書(例えば、キットに含まれる紙)であるが、機械可読形式の説明書(例えば、磁気的又は光学的ストレージディスク上に担持された説明書)も許容可能である。
【0280】
表示又は添付文書には、本組成物が、メタボリックシンドローム、糖尿病又は肥満に関連する疾患又は障害の治療、その発症の遅延及び/又はその軽減のために使用されることが指示される。説明書は、本明細書に記載される方法のいずれかを実施するために提供され得る。
【0281】
本開示のキットは、好適な包装内にある。好適な包装には、限定されないが、バイアル、ボトル、ジャー、軟包装(例えば、密封されたMylar(登録商標)又はプラスチックバッグ)などが含まれる。インへラー、経鼻投与装置(例えば、アトマイザー)又はミニポンプなどの輸液用装置など、特別な装置と組み合わせた使用のための包装も企図される。キットは、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針によって穿孔可能な栓を有する静脈内注射液バッグ又はバイアルであり得る)。容器は、滅菌アクセスポートも有し得る(例えば、容器は、皮下注射針によって穿孔可能な栓を有する静脈内注射液バッグ又はバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1つの活性薬剤は、本明細書に記載されるもののような抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片である。
【0282】
キットは、任意選択で、緩衝剤及び解釈上の情報など、追加の構成要素を提供し得る。通常、キットは、容器及び容器上にある又は容器に関連付けられた1つ又は複数の表示又は添付文書を含む。一部の実施形態では、本開示は、上記に記載されるキットの内容を含む製品を提供する。
【0283】
対象
本明細書に記載される医薬組成物及び治療レジメンは、ヒト又は非ヒト対象、例えば哺乳類対象における投与に好適である。それに応じて、ミオスタチン阻害剤をGLP-1経路活性化剤(例えば、リラグルチドなどのGLP-1類似体)と併せて含む治療レジメンは、ミオスタチンシグナル伝達の低減及びインスリン産生の増加から利益を受けるものと見込まれる対象への投与に有用である。一部の実施形態では、好適な対象には、健常な個体であって、それにもかかわらず筋量/筋機能の亢進並びに代謝の改善から利益を受け得る個体が含まれる。一部の実施形態では、好適な対象は、既存の筋病態及び/又は関連する代謝機能不全を有する。一部の実施形態では、好適な対象は、かかる1つ又は複数の病態を発症するリスクがある。一部の実施形態では、好適な対象は、筋肉/代謝病態を治療するための、但し有害な効果又は毒性に関連する別の治療用薬剤を含む療法で治療中の者である。一部の実施形態では、対象は、出生時~18歳未満のヒト患者である。一部の実施形態では、対象は、年齢2歳以上19歳以下のヒト対象(小児又は青年)である。一部の実施形態では、対象は、12歳以上(例えば、12歳以上17歳以下)のヒト対象である。
【0284】
一部の実施形態では、好ましい対象には、肥満の対象(例えば、哺乳類対象)又は過体重である対象、例えばボディマスインデックス(BMI)が27kg/m以上の過体重の対象を含めた、少なくとも1つの体重関連病態(真性糖尿病2型、高血圧、心血管疾患又は高コレステロールなど)を有する対象が含まれる。一部の実施形態では、肥満を有する対象は、BMIが、端点を含めて28~40である。一部の実施形態では、肥満を有する対象は、BMIが30kg/m以上である。一部の実施形態では、体重管理に用いられる医薬品の臨床評価に関する欧州医薬品庁ガイドライン(European Medicines Agency Guideline on Clinical Evaluation of Medicinal Products Used in Weight Management)に基づいて、27kg/m以上のBMIを有する対象は過体重と見なされ、30kg/m2以上のBMIを有する対象は肥満と見なされる。一部の実施形態では、対象は、低カロリーダイエット及び/又は運動レジメン中である。一部の実施形態では、対象は代謝障害を有する。一部の実施形態では、対象は過剰な腹部脂肪を有する。
【0285】
以下の表4及び表5は、過体重及び肥満に用いられ得るBMI範囲を示す。成人のBMIの計測用オンラインツールについては、https://www.cdc.govを参照することができる。
【0286】
【表15】
【0287】
より若齢の個体(例えば、小児及び青年)は、異なる時期に異なる速度で成長するため、小児が過体重であるかどうかを見分けるのは必ずしも容易ではない。CDC BMI成長曲線を使用して、小児又は青年のBMIを同じ性別及び年齢の他の小児又は青年と比較し得る。小児及び10代の若年者のBMIの計測用オンラインツールについては、https://www.cdc.gov/healthyweight/bmi/calculator.htmlを参照することができる。
【0288】
【表16】
【0289】
一部の実施形態では、肥満を有する対象は肥満で且つ元気であり、対象は、過剰な体重を抱えているが、いかなる併存症又は併存病態に関するリスク要因もなく、その日常の感覚又は機能にいかなる障害も見られない。他の実施形態では、肥満を有する対象はリスク要因を伴う肥満であり、対象は、過剰な体重を抱えており、依然としていかなる併存症も有しないが、対象は、併存病態に関する測定可能なリスク要因及び/又はその日常の感覚又は機能の障害を有する。例えば、対象は、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高血圧症、心血管疾患、脂質異常症、高尿酸血症、2型糖尿病、脳卒中、脂肪性肝疾患、腎疾患及び他の健康問題に関するリスクがあり得る。他の実施形態では、肥満を有する対象は肥満で且つ病気であり、対象は、過剰な体重を抱えており、且つ肥満に原因を帰することのできる1つ以上の併存症及びその日常の感覚又は機能の障害を有する。
【0290】
一部の実施形態では、肥満を有する対象は、表6に示されるとおりの、併存症及び機能状態を考慮する5点満点で順位付けする分類システムであるエドモントン肥満病期分類システム(EOSS)を用いて評価される。
【0291】
【表17】
【0292】
一部の実施形態では、本明細書に開示される医薬品は、小児集団、成人集団及び/又は高齢者集団における投与に好適である。
【0293】
一部の実施形態では、かかる医薬品は、年齢2歳以上19歳以下の対象における投与に好適である。
【0294】
一部の実施形態では、かかる医薬品は、年齢12歳以上(例えば、12歳以上17歳以下)の対象における投与に好適である。
【0295】
本明細書に記載されるとおりのGLP-1経路アゴニストと組み合わせたミオスタチン阻害剤を必要としている集団は、生後0~6ヵ月、生後0~12ヵ月、生後0~18ヵ月、生後0~24ヵ月、生後0~36ヵ月、生後0~72ヵ月、生後6~36ヵ月、生後6~36ヵ月、生後6~72ヵ月、生後12~36ヵ月、生後12~72ヵ月の範囲であり得る。一部の実施形態では、本明細書に記載されるミオスタチン阻害剤、例えば抗体又は抗原結合断片の投与を受けるのに好適な、かかる治療から利益を受けるものと見込まれる小児集団は、0~6歳、0~12歳、3~12歳、0~17歳の範囲であり得る。一部の実施形態では、集団は、年齢が少なくとも5歳、例えば6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16又は17歳である。一部の実施形態では、小児集団は、年齢が18歳未満であり得る。一部の実施形態では、小児集団は、(a)少なくとも5歳、及び(b)18歳未満であり得る。
【0296】
本明細書に記載されるとおりのミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む療法を必要としている成人集団は、年齢が少なくとも20歳、例えば少なくとも20、25、30、35、40、45、50、55、60又は65歳であり得る。一部の実施形態では、成人集団は65歳未満であり得る。一部の実施形態では、成人集団は75歳未満であり得る。
【0297】
本明細書に記載されるとおりのミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む療法を必要としている高齢者集団は、65歳以上(即ち≧65歳)、例えば少なくとも70、75又は80歳の年齢であり得る。
【0298】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む治療から利益を受けるものと見込まれるヒト対象は、代謝疾患/障害を有する、それを発症するリスクがあるか又はそれを有する疑いがあるヒト患者であり得る。代謝疾患又は障害(例えば、肥満、2型真性糖尿病(T2DM)等)を有する対象は、日常の診察、例えば臨床検査、臓器機能検査、CTスキャン又は超音波により同定することができる。かかる疾患/障害のいずれかを有する疑いがある対象は、代謝疾患/障害の1つ以上の症状を示す可能性がある。代謝疾患/障害のリスクがある対象は、その代謝疾患/障害に関するリスク要因の1つ以上を有する対象であり得る。
【0299】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む治療から利益を受けるものと見込まれるヒト対象は、ヘモグロビンA1c(HbA1c)が5%~15%(例えば、6.5%以上10%以下)のT2DMを有するヒト対象であり得る。
【0300】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む治療から利益を受けるものと見込まれるヒト対象は、少なくとも3ヵ月間にわたって抗糖尿病治療を継続中であるT2DMを有するヒト対象であり得る。一部の実施形態では、対象は約3ヵ月間にわたって抗糖尿病治療を継続中である。一部の実施形態では、対象は少なくとも6ヵ月間にわたって抗糖尿病治療を継続中である。
【0301】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む治療から利益を受けるものと見込まれるヒト対象は、少なくとも70kgの体重を有するヒト対象であり得る。一部の実施形態では、対象は、少なくとも80kgの体重を有する。一部の実施形態では、対象は、80kg以上140kg以下の体重を有する。一部の実施形態では、対象は、140kgを超える体重を有する。
【0302】
本明細書に記載されるとおりの対照対象とは、試験対象又は対象の特定の治療又は介入の効果を評価するのに適切な参照を提供する対象である。対照対象は、試験対象と同様の年齢、人種、性別、体重、身長及び/若しくは他の特徴又はこれらの任意の組合せの対象であり得る。
【0303】
一部の実施形態では、ミオスタチンアッセイ(例えば、ミオスタチンELISA)を用いて、ミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の治療が必要な対象が同定される。ミオスタチンのアッセイ方法については、Lakshman et al.Molecular and Cell Endocrinology(2009)302:26-32(ミオスタチンELISA)及びBergen et al.Skeletal Muscle(2015)5:21(液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析法(これらの両方は、参照により本明細書に援用される)を参照することができる。
【0304】
一部の実施形態では、GLP-1アッセイ(例えば、循環GLP-1の測定)を用いて、ミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の治療が必要な対象が同定される。GLP-1及び他のインクレチンホルモンの循環レベルは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及び/又は当技術分野で公知の他の方法により決定され得る。GLP-1レベルの循環レベルは、例えば、市販の定量法を用いることにより決定され得る。
【0305】
Total ELISAキット(EMD Millipore、Billerica、MA、USA)、マイクロプレート吸光度リーダー(Bio-Rad)は450nmに設定。一部の実施形態では、対象の筋肉性能を改善するための方法が提供される。対象は、筋量低下及び/又は筋機能低下に関連する病態を有するか又はそれを有するリスクがあっても又はなくてもよい。本明細書で使用されるとき、用語「筋肉性能」は、概して、筋肉が収縮する能力及び/又は(例えば、外部の物体に)力を加える能力を指す。一部の実施形態では、筋肉性能は、筋肉がエネルギーを消費する能力に関し得る。例えば、一部の実施形態では、筋肉性能は、筋収縮が容易となるように筋肉がアデノシン三リン酸(ATP)分子を産生する及び/又は消費する能力に関し得る。一部の実施形態では、筋肉性能とは、特定の継続期間にわたって筋肉が繰り返し収縮する能力を指す。一部の実施形態では、筋肉性能とは、筋肉が物体に対して、例えばその物体を測定可能な距離にわたって動かすために力を加える能力を指す。一部の実施形態では、筋肉性能とは、筋肉が特定の継続時間にわたって物体に対し(例えば、特定の継続時間に測定可能な距離にわたってその物体を動かすため)力を加える能力を指す。
【0306】
一部の実施形態では、本明細書に記載される、ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤との組合せは、治療を必要としている対象に、インビボでプロ/潜在型ミオスタチンから活性ミオスタチンへのタンパク質分解活性を少なくとも20%(例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれを超えて)阻害するのに十分な量で投与される。他の実施形態では、ミオスタチン阻害剤、例えば抗体又はその抗原結合部分は、プロ/潜在型ミオスタチン又は潜在型ミオスタチンレベルを少なくとも20%(例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれを超えて)低減するのに有効な量で投与される。
【0307】
一部の実施形態では、本明細書に記載される、ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤との組合せは、治療を必要としている対象に、インビボでプロ/潜在型ミオスタチンから活性ミオスタチンへのタンパク質分解活性を少なくとも20%(例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれを超えて)阻害するのに十分な量において且つ/又は少なくとも0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5又は10.0倍にインスリン分泌を亢進させるか又はグルカゴン分泌を阻害するのに十分な量において投与される。
【0308】
一部の実施形態では、本明細書に記載されるミオスタチン阻害剤、例えば抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、筋量の増加から利益を受けるであろう対象に投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤との組合せは、筋肉対脂肪比の増加から利益を受けるであろう対象に投与される。一部の実施形態では、本明細書に記載される組合せは、筋機能の増加から利益を受けるであろう対象に投与される。一部の実施形態では、対象は、筋量低下及び/又は筋機能低下に関連する病態を有するか又はそれを有するリスクがあっても又はなくてもよい。一部の実施形態では、対象は、筋量低下及び/又は筋機能低下に関連する病態を有するか又はそれを有するリスクがある。
【0309】
本発明の方法は、本明細書に記載される組合せ又は補助(アドオン)療法から利益を受けるものと見込まれる患者(対象)又は患者集団を選択することを更に含む。
【0310】
一部の実施形態では、対象は筋肉病態又は障害に罹患しているか又はそれを発症するリスクがある。一部の実施形態では、対象は代謝障害に罹患しているか又はそれを発症するリスクがある。一部の実施形態では、対象は、神経学的シグナル伝達障害に関連する疾患又は障害に罹患しているか又はそれを発症するリスクがある。
【0311】
患者の選択は、肥満又は2型糖尿病などの代謝疾患を治療することを目標とする別の療法に対する患者の反応性に基づき得る。かかる療法に対する反応が乏しい患者は、ミオスタチン経路阻害剤と併せて使用されるか、それを補足して使用されるか、その補助療法として使用されるか又はそのアドオン療法として使用されるとき、その療法に対する反応の亢進を示し得る。このように、一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、患者の代謝疾患の治療において使用され、治療は、代謝疾患を治療することを目標とする別の療法を受けたが、意図される治療目標又は期待される治療アウトカムの実現に失敗した患者へのミオスタチン経路阻害剤の投与を含み、任意選択で、ミオスタチン経路阻害剤は、ミオスタチン選択的阻害剤であり、更に、任意選択で、代謝疾患は、肥満/過体重及び/又は2型糖尿病である。一部の実施形態では、前記「代謝疾患を治療することを目標とする別の療法」は、GLP-1受容体アゴニストであるか又はそれを含む。GLP-1受容体アゴニストを含むものを含めた、他の療法の例としては、限定なしに、アルビグルチド、タスポグルチド、セマグルチド、エクセナチド、BPI-3016、GW002、グルタズマブ、エキセンディン-4、エクセナチド、GLP-1(7-36)NH2、エベレストマブ、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、デュラグルチド、ダヌグリプロン(Pfizer)が挙げられる。一部の実施形態では、GLP-1受容体アゴニストを含む他の療法としては、限定されないが、AMG 133(Amgen)などのGLP-1受容体アゴニスト/GIP受容体アンタゴニストの組合せ;チルゼパチド(LY3298176;Eli Lilly)及びCT-388などのGLP-1/GIPデュアルアゴニスト;カグリリンチド/セマグルチドの組合せ(Novo Nordisk)などのアミリン/GLP-1の組合せ;DD01(Neuraly)などのGLP-1/グルカゴンの組合せ;ALT-801(Altimmune)などのGLP-1/グルカゴンの組合せ、CT-388(Carmot)などのGLP-1/GIP;IBI362(LY-330567(Innovent/Eli Lilly)、ダヌグリプロン(PF-06882961)(Pfizer)、セトメラノチド(Rhythm)、MEDI0382などのGLP-1/グルカゴンデュアルアゴニスト;及びLY3437943(Eli Lilly)などのGLP-1/GIP/グルカゴントリプル受容体アゴニストが挙げられる。一部の実施形態では、意図される治療目標又は期待される治療アウトカムは、少なくとも5%又は少なくとも10%の体重の減少(ベースラインからのパーセント変化率)、BMIの減少、胴囲の減少、脂肪量の減少、除脂肪量対脂肪量比の増加及び/又はインスリン感受性の改善である。
【0312】
患者の選択は、患者が体重管理治療の治療レジメンを実施する又は遵守する能力に基づき得る。一部の実施形態では、患者の代謝疾患の治療にミオスタチン経路阻害剤が使用され、治療は、GLP-1経路活性化剤などの体重管理療法中である、且つGLP-1経路活性化剤療法の一部として意図される低カロリーレジメン及び/又は運動レジメンを実施又は継続できないか又はそれに失敗する患者へのミオスタチン経路阻害剤の投与を含む。
【0313】
患者の選択は、患者が投与を受けている1つ又は複数のバックグラウンド療法に基づき得る。バックグラウンド療法は、体重管理及び/又は糖尿病の標準ケア薬物療法であり得る。一部の実施形態では、患者の肥満/過体重の治療にミオスタチン選択的阻害剤が使用され、治療は、メトホルミン又はその誘導体などのビグアナイドを含有するバックグラウンド療法中である患者へのミオスタチン選択的阻害剤の投与を含む。メトホルミンの非限定的な例としては、Fortamet、Glucophage、Glucophage XR、Glumetza、Riomet、Obimet、Gluformin、Dianben、Diabex、Diaformin、Metsol、Siofor、Metforgamma及びGlifor並びに追加的な有効分を含むメトホルミン含有薬物療法が挙げられる。例としては、限定されないが、チアゾリジンジオン類(グリタゾン類)及びロシグリタゾンが挙げられる。
【0314】
一部の実施形態では、過体重又は肥満患者の治療にミオスタチン選択的阻害剤が使用され、治療は、2型糖尿病に対する薬物療法中の患者にミオスタチン選択的阻害剤を投与することを含む。抗糖尿病薬物療法は、α-グルコシダーゼ阻害剤;アログリプチン、リナグリプチン、サキサグリプチン又はシタグリプチンなどのジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤;ダパグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン又はエルツグリフロジンなどのナトリウム-グルコース共輸送体-2(SGLT-2)阻害剤;スルホニル尿素;又はチアゾリジンジオンであり得る。
【0315】
投与経路
本明細書に開示される方法を実施するために、上記の医薬組成物の有効量を、治療を必要としている対象(例えば、哺乳類対象)に、好適な経路、例えば静脈内投与により、例えばボーラスとして若しくはある時間にわたる持続注入により、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節腔内、関節滑液嚢内、髄腔内、経口、吸入又は局所経路により投与することができる。一部の実施形態では、投与は皮下である。ジェットネブライザー及び超音波ネブライザーを含む液体製剤のための市販のネブライザーも投与に有用であり得る。液体製剤は直接霧化することができ、凍結乾燥粉末は、再構成後に霧化することができる。代わりに、抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体は、フルオロカーボン製剤及び定量吸入器を使用してエアロゾル化するか、又は凍結乾燥粉砕粉末として吸入することができる。
【0316】
治療しようとする疾患の種類又は疾患の部位に応じて、医薬分野の当業者に公知の従来の方法を用いて医薬組成物を対象に投与することができる。本組成物は、他の従来経路によっても投与することができ、例えば経口的に、非経口的に、吸入スプレーにより、局所的に、経直腸的に、鼻腔的に、頬側的に、経膣的に又は植え込まれたリザーバから投与することができる。用語「非経口」は、本明細書で使用されるとき、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内及び頭蓋内注射又は注入技法を含む。加えてこれは、1ヵ月、3ヵ月又は6ヵ月デポー注射用又は生分解性材料及び方法を用いるなど、注射用デポー投与経路から対象に投与することができる。
【0317】
好ましい実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(ミオスタチン阻害剤など)を含む組成物は、皮下投与のために製剤化される。一部の実施形態では、本組成物は、ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤との両方を同じ製剤中に含有する。一部の実施形態では、例えば補助療法のため、別個の製剤が使用され得る。
【0318】
注射用組成物は、植物油、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、炭酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール及びポリオール類(グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)など、様々な担体を含有し得る。静脈内注射について、水溶性抗体を点滴法により投与することができ、それにより抗体と生理的に許容可能な賦形剤とを含有する医薬製剤が注入される。生理的に許容可能な賦形剤としては、例えば、5%デキストロース、0.9%生理食塩水、リンゲル溶液又は他の好適な賦形剤を挙げることができる。筋肉内調製剤、例えば好適な可溶性塩形態の抗体の無菌製剤は、注射用水、0.9%生理食塩水又は5%グルコース溶液などの医薬賦形剤中に溶解させて投与することができる。
【0319】
一実施形態では、ミオスタチン阻害剤、例えば抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分は、部位特異的な又は標的化した局所送達技法で投与される。部位特異的な又は標的化した局所送達技法の例としては、ミオスタチン阻害剤、例えば抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合部分の様々な植込み型デポー供給源又は注入カテーテル、留置カテーテル若しくは針カテーテルなどの局所送達カテーテル、合成グラフト、外膜の巻き付け、シャント及びステント又は他の植込み型デバイス、部位特異的担体、直接の注射又は直接の塗布が挙げられる。例えば、国際公開第00/53211号パンフレット及び米国特許第5,981,568号明細書を参照されたい。
【0320】
本明細書に記載される方法において用いられる詳細な投薬量レジメン、例えば用量、タイミング及び反復は、詳細な対象及びその対象の病歴並びに投与される各薬物、例えばミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の製剤及び薬物動態特性に依存することになる。
【0321】
メタボリックシンドロームに関連する疾患/障害に対する治療有効性は、任意の好適な方法を用いて判定することができる。
【0322】
一部の実施形態では、標的筋肉中のプロミオスタチンレベルの増加に関連して、増加は、対照プロミオスタチンレベルと比較して少なくとも1倍、1.2倍、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍若しくは10倍又はそれを超えるもの(又はこれらの値のいずれかによって挟まれる任意の範囲)である。一実施形態では、標的筋肉中のプロミオスタチンレベルの増加は、対照プロミオスタチンレベルと比較して1倍~3倍、1.2倍~10倍、2倍~9倍、3倍~8倍、4倍~7倍、2倍~7倍等の範囲の増加である。
【0323】
用語「対照レベル」とは、一般に認められているか又は予め決められた生物学的マーカーレベル、例えば治療前若しくは疾患発症前又は薬物、例えば抗体若しくはその抗原結合部分の投与前に入手されたマーカーレベルを指す。この生物学的マーカーレベルは、1つ以上の特定の特徴、例えば特定の疾患又は病態の有無を呈する対象又は対象集団に見られる。
【0324】
一部の実施形態では、投与工程後の標的筋肉における潜在型ミオスタチンの増加に関連して、増加は、投与工程後4時間、24時間、48時間、7日、14日、21日、28日又は30日以内(又は挙げられている継続時間のいずれかに挟まれる任意の時間範囲内)に検出可能である。一実施形態では、投与工程後の標的筋肉における潜在型ミオスタチンの増加は、投与工程後少なくとも5日間、7日間、14日間、21日間、28日間又は30日間(又は挙げられている継続時間のいずれかに挟まれる任意の時間範囲)にわたって検出可能である。一実施形態では、投与工程後の標的筋肉における潜在型ミオスタチンレベルの増加は、投与工程前の標的筋肉における潜在型ミオスタチンレベルと比較して少なくとも1倍、1.2倍、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍若しくは10倍又はそれを超えるもの(又はこれらの値のいずれかによって挟まれる任意の範囲)である。一実施形態では、投与工程後の標的筋肉における潜在型ミオスタチンレベルの増加は、投与工程前の標的筋肉における潜在型ミオスタチンレベルと比較して1倍~3倍、1.2倍~10倍、2倍~9倍、3倍~8倍、4倍~7倍、2倍~7倍等の範囲の増加である。
【0325】
一部の実施形態では、投与工程後の循環中の潜在型ミオスタチンの増加に関連して、増加は、投与工程後4時間、24時間、48時間、7日、14日、21日、28日又は30日以内(又は挙げられている継続時間のいずれかに挟まれる任意の時間範囲内)に検出可能である。一実施形態では、投与工程後の循環中の潜在型ミオスタチンの増加は、投与工程後少なくとも5日間、7日間、14日間、21日間、28日間又は30日間(又は挙げられている継続時間のいずれかに挟まれる任意の時間範囲)にわたって検出可能である。一実施形態では、投与工程後の循環中の潜在型ミオスタチンレベルの増加は、投与工程前の循環中の潜在型ミオスタチンレベルと比較して少なくとも1倍、2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍若しくは50倍又はそれを超えるもの(又はこれらの値のいずれかによって挟まれる任意の範囲)である。一実施形態では、投与工程後の標的筋肉における潜在型ミオスタチンレベルの増加は、投与工程前の標的筋肉における潜在型ミオスタチンレベルと比較して1倍~3倍、1.2倍~10倍、2倍~9倍、3倍~8倍、4倍~7倍、2倍~7倍等の範囲の増加である。
【0326】
一部の実施形態では、循環中の潜在型ミオスタチンレベルの減少に関連して、減少は、潜在型ミオスタチンの対照レベルと比較して少なくとも1倍、1.2倍、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍若しくは10倍又はそれを超えるもの(又はこれらの値のいずれかによって挟まれる任意の範囲)である。一実施形態では、循環中の潜在型ミオスタチンレベルの減少は、対照潜在型ミオスタチンレベルと比較して1倍~3倍、1.2倍~10倍、2倍~9倍、3倍~8倍、4倍~7倍、2倍~7倍等の範囲の減少である。ミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の投与に関連して、ミオスタチン阻害剤は、GLP-1経路活性化剤と組み合わせて使用されるか又はそれを補足するものである補助療法、アドオン療法であり得る。
【0327】
一部の実施形態では、対象(例えば、哺乳類対象)へのミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む組合せ療法の投与に関連して、有効量とは、対象の標的筋肉の量を対照筋量と比較して増加させるのに有効な量である。一部の実施形態では、有効量の組合せ療法で治療した筋肉の量は、有効量の組合せで治療していない対照筋肉と比較して少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%等増加する。一部の実施形態では、かかる筋量の増加は、対象における選択の筋群又は筋種で実現する。一部の実施形態では、有効量とは、ミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤による治療全体を通して対象(例えば、哺乳類)の筋量を維持するのに有効な量である。例えば、組合せ治療を受ける対象は、体脂肪量が減少しつつ筋量は保持し得る。一部の実施形態では、有効量とは、組合せ療法による治療中及び/又はその後、対象における標的筋肉の量の損失を対照筋量と比較して低減するのに有効な量である。
【0328】
対照試料に関して用語「対照」とは、例えば、健常対象からの試料、ある種の疾患若しくは病態を引き起こし得るか又は対象がそれに罹り易くなり得る欠乏を有する対象からの試料、目的の疾患又は病態を有する対象、医薬担体で治療した対象からの試料、治療前の対象からの試料、シャム又は緩衝剤で治療した対象又は試料、未治療の対象又は試料などを含め、任意の臨床的又は科学的に関連性のある比較となる試料又は対応物を指す。
【0329】
一部の実施形態では、対象へのミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の投与に関連して、有効量とは、全体的な体重を低減するのに有効な量である。一部の実施形態では、有効量の組合せ療法で治療した対象の体重は、GLP-1経路活性化剤を単独で受ける対象と比較して少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%等低下する。一部の実施形態では、有効量の組合せ療法で治療した対象の体重の低減は、qNMRにより決定したときの体脂肪量の低減に主に起因する。
【0330】
一部の実施形態では、対象へのミオスタチン阻害剤をGLP-1経路活性化剤と併せた組合せの投与に関連して、有効量とは、対象の線維型を転換させるのに有効な量である。一部の実施形態では、有効量の組合せ療法は、I型からII型への線維型転換を促進し得る。一部の実施形態では、有効量の組合せ療法は、I型からIIB型への線維型転換を促進し得る。一部の実施形態では、有効量の組合せ療法は、他の線維型と比べると、II型線維を促進し得る。一部の実施形態では、有効量の組合せ療法は、他の線維型と比べると、IIB型線維を促進し得る。一部の実施形態では、かかる線維表現型転換は、全体的な筋量の大幅な変化なしに起こり得る。他の実施形態では、かかる線維表現型転換は、全体的な筋量の増加と同時に起こり得る。
【0331】
一部の実施形態では、対象へのミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤との組合せの投与に関連して、有効量とは、対象の筋線維の直径を対照筋線維と比較して増加させるのに有効な量である。一部の実施形態では、筋線維の直径の増加は、対照筋線維と比較して少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍又はそれを超える増加である。一部の実施形態では、筋線維の直径の増加は、対照筋線維と比較して1倍~5倍、2倍~10倍、1倍~1.5倍、1倍~2倍等の範囲の増加である。
【0332】
一部の実施形態では、対象へのミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤(例えば、GLP-1Rアゴニスト)との組合せの投与に関連して、有効量とは、対象の筋肉対脂肪比を対照筋量と比較して増加させるのに有効な量である。一部の実施形態では、筋肉対脂肪比の増加は、対照対象と比較して少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍又はそれを超える増加である。一部の実施形態では、筋肉対脂肪比の増加は、対照対象と比較して1倍~5倍、2倍~10倍、1倍~1.5倍、1倍~2倍等の範囲の増加である。
【0333】
一部の実施形態では、対象へのミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の投与に関連して、有効量とは、対象の筋肉内脂肪浸潤を対照筋量と比較して低下させるのに有効な量である。一部の実施形態では、筋肉内脂肪浸潤の低下は、対照対象と比較して少なくとも1.1分の1、少なくとも1.2分の1、少なくとも1.3分の1、少なくとも1.4分の1、少なくとも1.5分の1、少なくとも1.6分の1、少なくとも1.7分の1、少なくとも1.8分の1、少なくとも1.9分の1、少なくとも2分の1、少なくとも4分の1、少なくとも5分の1又はそれを超える低下である。一部の実施形態では、筋肉内脂肪浸潤の低下は、対照対象と比較して1分の1~5分の1、2分の1~10分の1、1分の1~1.5分の1、1分の1~2分の1等の範囲の低下である。
【0334】
一部の実施形態では、ヒト対象における筋量の減少を予防する方法及び/又は筋量を増加させる方法は、対象にミオスタチン阻害剤をGLP-1経路活性化剤と併せて投与することを含み、この組合せ療法は、トロイドプロテアーゼによるタンパク質分解を受けた成熟ミオスタチンの形成を阻害する。一実施形態では、トロイドプロテアーゼによるタンパク質分解を受けたプロミオスタチン又は潜在型ミオスタチンの切断が阻害されることにより、筋量が漸進的又は持続的に増加することになる。一実施形態では、対象は、少なくとも2週間、4週間、6週間、8週間、10週間、12週間、14週間、16週間、18週間又は20週間(又はこれらの値のいずれかによって挟まれる任意の範囲)にわたって筋量の漸進的増加を呈する。一部の実施形態では、ヒト対象における筋量の減少を予防する方法及び/又は筋量を増加させる方法は、ミオスタチン阻害剤、例えばプロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片を、2用量より多く含んで対象に投与することを含む。一実施形態では、組合せ療法を投与することは、少なくとも第1の用量と第2の用量とを含み、第1の用量及び第2の用量は、少なくとも約1週間、2週間、4週間、6週間、8週間又は12週間空けて対象に投与される。
【0335】
本明細書で使用されるとき、用語「対照筋量」は、病態(例えば、ミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤による治療が対象の標的筋肉の量に及ぼす効果を評価するのに有用な参照標準品を指す。一部の実施形態では、標的筋肉は腓腹筋である。一部の実施形態では、対照筋量は所定の値である。一部の実施形態では、対照筋量は実験的に決定される。一部の実施形態では、対照筋量は、ミオスタチン阻害剤、例えばプロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片を投与されていない対象における標的筋肉の量である。一部の実施形態では、対照筋量は、組合せ療法を投与されていない対象の集団における標的筋肉の量(例えば、平均の量)である。一部の実施形態では、対照筋量は、組合せ療法を投与される前(例えば、投与される直前)の対象における標的筋肉の量である。一部の実施形態では、対照筋量は、ミオスタチン阻害剤(例えば、抗ミオスタチン抗体)に代えて、抗ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片が仕向けられる抗原に曝露されたことのない動物から入手された通常の抗体(例えば、抗ミオスタチン抗体と同じアイソタイプのもの)を投与された対象における標的筋肉の量である。一部の実施形態では、対照筋量は、ミオスタチン阻害剤、例えばプロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片に代えて、媒体、例えば生理食塩水を投与された対象における標的筋肉の量である。
【0336】
投薬量
投薬量の決定には、概して、半減期など、経験的考察が寄与することになる。例えば、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体など、ヒト免疫系と適合性のある抗体及びその抗原結合部分を使用して、抗体の半減期を延長させ得、且つ抗体が宿主の免疫系による攻撃を受けるのを防止し得る。小型ペプチド、例えばインクレチンなどのペプチドホルモンの薬物動態特性は、ペプチドをバルク性の高い分子(BSAなど)にテザー係留することによるか、又はDPP-IVなどのペプチダーゼの認識部位を例えばアシル化又はアミノ酸置換によって修飾することにより改善し得る。投与頻度は、療法の全経過にわたって決定及び調整され得、必須ではないが、概して、肥満、糖尿病又はメタボリックシンドロームなど、代謝障害に関連する疾患/障害の治療及び/又は抑制及び/又は向上及び/又は遅延に基づく。代わりに、ミオスタチン阻害剤及び/又はGLP-1経路活性化剤の持続的な連続放出製剤が適切であり得る。当業者には、持続的放出を実現するための様々な製剤及び装置が明らかであろうと共に、本開示の範囲内にある。
【0337】
GLP-1模倣薬などのGLP-1経路活性化剤の投薬量レジメンは、一部には投与様式に依存し、加えて、特定の原薬の薬物動態に依存し得る。例えば、エクセナチド(エキセンディン-4をベースとする)は、哺乳類(例えば、ヒト)に5μgの初期用量で1日2回皮下投与され得、維持用量は5~10μgを1日2回、朝食前及び夕食前の1時間以内に、約6時間以上空けるものとする。持続放出性エクセナチド(エクセナチドER)は、哺乳類(例えば、ヒト)に2mgの用量で1日1回、食物と共に又は食物なしで皮下投与され得る。リキシセナチド(エキセンディン-4をベースとする)は、哺乳類(例えば、ヒト)に10μgの初期用量で1日1回皮下され得、維持用量は20μgを1日1回、その日の最初の食事前の1時間以内とする。リラグルチド(修飾されたヒトGLP-1)は、哺乳類(例えば、ヒト)に、0.6mgの開始用量及び1.2又は1.8mgの維持用量を1日1回、食物と共に又は食物なしで与えて皮下投与され得る。デュラグルチド(修飾されたヒトGLP-1)は、0.75mgの開始用量及び0.75又は1.5mgの維持用量で1日1回(食物と共に又は食物なしで)皮下投与され得る。セマグルチド(修飾されたヒトGLP-1)は、0.25mgの開始用量及び0.5又は1.0mgの維持用量で1日1回(食物と共に又は食物なしで)皮下投与され得る。幾つかの臨床承認済みのGLP-1Rアゴニストが、Cornell,J Clin Pharm Ther.2020;45(Suppl 1):17-27にレビューされている。
【0338】
一実施形態では、ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む治療レジメンの一部として、肥満又は過体重の対象には、GLP-1模倣薬が皮下注射によって1日1回与えられる。別の例において、GLP-1経路活性化剤(例えば、GLP-1模倣薬)は週1回与えられる。一部の例において、GLP-1模倣薬の開始用量はGLP-1模倣薬の維持用量よりも少ない。一部の例において、組合せ療法で投与されるGLP-1模倣薬(又は他のGLP-1経路活性化剤)の用量(開始用量又は維持用量の一方又は両方)は、FDA承認済みの用量よりも少ない。
【0339】
一実施形態では、本明細書に記載されるとおりのミオスタチン阻害剤、例えば抗プロ/潜在型ミオスタチン抗体又はその抗原結合断片の投薬量は、ミオスタチン阻害剤、例えば抗体又はその抗原結合断片の1回以上の投与が与えられた個体において経験的に決定され得る。個体には、漸増投薬量のアンタゴニストが与えられる。アンタゴニストの有効性を判定するため、疾患/障害の指標を追跡することができる。
【0340】
概して、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片のいずれかの投与について、初期投薬量候補は約2mg/kgであり得る。本開示の目的上、典型的な1日投薬量は、上述の要因に応じて約0.1μg/kg~3μg/kg~30μg/kg~300μg/kgのいずれかから、3mg/kg~30mg/kg~100mg/kg又はそれを超えるものに及ぶ範囲である可能性がある。病態に応じた、数日間又はそれより長くにわたる反復投与については、症状の所望の抑制が起こるまで又はプロ/潜在型ミオスタチン若しくはその症状に関連する疾患又は障害を軽減するのに十分な治療レベルが実現するまで治療が持続される。例示的用量設定レジメンは、約2mg/kgの初期用量と、続いて毎週の約1mg/kgの維持用量の抗体又はその抗原結合断片を投与するか、又は続いて約1mg/kgの維持用量を隔週で投与することを含む。しかしながら、従事者が実現したいと望む薬物動態学的減衰パターン次第では、他の投薬量レジメンが有用であり得る。例えば、週に1~4回の投与が企図される。一部の実施形態では、約3μg/kg~約2mg/kgの範囲の投与(約3μg/kg、約10μg/kg、約30μg/kg、約100μg/kg、約300μg/kg、約1mg/kg及び約2mg/kgなど)が用いられ得る。一部の実施形態では、投与頻度は、毎週、2週間毎、4週間毎、5週間毎、6週間毎、7週間毎、8週間毎、9週間毎若しくは10週間毎に1回;又は毎月、2ヵ月毎若しくは3ヵ月毎、4ヵ月毎、5ヵ月毎、6ヵ月毎、8ヵ月毎、10ヵ月毎、毎年又はそれより長くに1回である。この療法の経過は、従来の技法及びアッセイにより容易にモニタされる。用量設定レジメンは(使用される抗体を含め)、時間の経過に伴って変わり得る。
【0341】
一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤のいずれか、例えば本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片の投与は、単一用量を含む。一部の実施形態では、ミオスタチン阻害剤のいずれか、例えば本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片の投与は、複数用量(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10用量)を含む。投与することは、2用量より多くを含み得る。一部の実施形態では、投与は、治療有効量のミオスタチン阻害剤、例えば抗体又はその抗原結合部分の少なくとも第1の用量と第2の用量とを含む。一実施形態では、第1の用量と第2の用量とは、少なくとも約4週間、6週間、8週間又は12週間空けて対象に投与される。
【0342】
本開示の目的上、ミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の適切な投薬量は、用いられる具体的なミオスタチン阻害剤(又はその組成物)及びGLP-1経路活性化剤、疾患/障害の種類及び重症度、組合せ療法の投与が予防目的であるか又は治療目的であるか、過去の療法、患者の現在の薬物療法プロファイル、患者の病歴及び組合せ療法に対する反応、薬物の組合せの相乗作用の可能性及び主治医の裁量に依存することになる。一部の実施形態では、臨床医は、組合せ又は各薬物が、個別に所望の結果を実現する投薬量に到達するまで組合せ療法を投与する(一緒に投与するか又は各薬物を個別に投与するかのいずれか)ことになる。組合せ療法の投与は、例えば、レシピエントの生理的条件、投与の目的が治療であるか又は予防であるか、及び当業者に公知の他の要因に応じて連続投与又は間欠投与であり得る。ミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の投与は、予め選択された期間にわたって本質的に連続的であり得るか、又は例えば代謝疾患若しくは障害の発症前、発症しているか若しくは発症した後のいずれにせよ、間隔を置いた一連の用量であり得る。
【0343】
本明細書で使用されるとき、用語「治療する」とは、障害、疾患の症状又は疾患/障害に対する素因を根治するか、治癒するか、軽減するか、緩和するか、改変するか、修復するか、向上させるか、改善するか又は影響を及ぼすことを目的とした、ミオパチーに関連する疾患/障害、その疾患/障害の症状又はその疾患/障害への素因を有する対象への1つ以上の活性薬剤を含む組成物の適用又は投与を指す。
【0344】
代謝疾患/障害を軽減するとは、疾患の発症又は進行を遅らせること又は疾患重症度を低減することを含む。疾患の緩和には、必ずしも治癒的結果を必要としない。本明細書で使用される場合、代謝疾患/障害の発症を「遅延させる」とは、疾患の進行を遅延させ、妨げ、遅らせ、遅延させ、安定させ、且つ/又は先に延ばすことを意味する。この遅延は、疾患の履歴及び/又は治療されている個体に応じて、様々な長さの時間であり得る。疾患の進行を「遅延させる」若しくは緩和するか又は疾患の発症を遅延させる方法は、本方法を使用しない場合と比較して、所与の時間枠内で疾患の1つ又は複数の症状が進行する確率を低下させ、且つ/又は所与の時間枠内で症状の程度を低減する方法である。このような比較は、通常、統計学的に有意な結果を得るのに十分な数の対象を用いた臨床試験に基づく。代謝疾患又は障害に関連する病態の改善の測定は、例えば、循環代謝バイオマーカーのqNMRによる評価により定量化し得る(かかるバイオマーカーの例については、例えば、Robberecht et al.,Metab Syndr Relat Disord.2016 Mar;14(2):47-93及びBelhayara et al.,Nutrients.2020 Mar;12(3):727(これらの各々は、全体として参照により本明細書に援用される)に考察されている)。疾患の「発症」又は「進行」は、疾患の初期の症状発現及び/又は続く進行を意味する。疾患の発症は、標準的な臨床技法を用いて検出可能であり、判定することができる。しかしながら、発症は、検出不能であり得る進行も指す。本開示の目的上、発症又は進行とは、症状の生物学的経過を指す。「発症」には、発生、再発及び発病が含まれる。本明細書で使用されるとき、代謝障害に関連する疾患/障害の「発病」又は「発生」には、初期発病及び/又は再発が含まれる。
【0345】
組合せ療法
本発明は、インビボでミオスタチン阻害及びGLP-1経路活性化から利益を受け得る対象を治療するための組合せ療法として使用される医薬組成物及び関連する方法を包含する。これらの実施形態のいずれにおいても、かかる対象は、少なくとも1つのミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)を含む第1の組成物を、同じ又は重複する疾患又は臨床病態を治療することを意図した少なくとも1つの追加的な治療薬を含む第2の組成物と併せて含む組合せ療法を受け得る。第1及び第2の組成物は、両方とも同じ細胞標的に作用し得るか又は別々の細胞標的に作用し得る。一部の実施形態では、第1及び第2の組成物は、疾患又は臨床病態の同じ又は重複する一組の症状又は側面を治療又は軽減し得る。一部の実施形態では、第1及び第2の組成物は、疾患又は臨床病態の個別の一組の症状又は側面を治療又は軽減し得る。かかる組合せ療法は、互いと併せて投与され得る。語句「~と併せて」は、組合せ療法に関連して、組合せ療法を受けている対象において第1の療法の治療効果が第2の療法の治療効果と時間的及び/又は空間的に重複することを意味する。従って、組合せ療法は、並行投与のために単一の製剤として製剤化され得るか、又は療法の同時投与若しくは逐次投与のために個別の製剤として製剤化され得る。用語「並行投与」には、本明細書で使用されるとき、共製剤化された治療薬が一緒に投与されること又は別々に製剤化された治療薬が同じ時点で、例えば同時に又は一部の実施形態では同じ日に投与されることが含まれ得る。用語「逐次投与」には、本明細書で使用されるとき、治療薬が個別の時点で投与される治療レジメンが含まれる。一部の実施形態では、対象は、治療レジメンの開始時に対象が1つ以上の第1の治療薬による療法下にあり、治療中の特定の時点でそのレジメンに1つ以上の第2の治療薬が加えられるとき、2つ以上の療法の並行投与を受ける。
【0346】
一部の実施形態では、組合せ療法は、疾患の治療において相乗効果をもたらす。用語「相乗」は、各単剤療法の総計での相加効果よりも大きい効果(例えば、大きい有効性)を指す。一部の実施形態では、組合せ療法は、疾患の治療において相加効果をもたらす。
【0347】
一部の実施形態では、本明細書に記載される方法(例えば、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及びGLP-1経路活性化剤の投与)を含む組合せ療法は、別の療法(追加的な薬剤の単剤療法など)によってもたらされる有効性と全体的に等しい有効性をもたらすが、第2の薬剤の単剤療法と比較して、第2の薬剤に関連する望ましくない有害効果が少ない又は毒性の重症度が低いことに関連する。一部の実施形態では、かかる組合せ療法によれば、第2の薬剤の投薬量を減らすことが可能になるが、全体的な有効性が維持される。かかる組合せ療法は、長期治療が必要となる患者集団及び/又は小児患者、年齢2~19歳の患者又は年齢12歳以上(例えば、12歳以上17歳以下)の患者が関わる患者集団に特に好適であり得る。
【0348】
従って、本発明は、除脂肪量対脂肪量比の増加並びに代謝疾患又はメタボリックシンドローム、糖尿病(例えば、T2DM)、肥満及び脊髄損傷を含め、神経学的シグナル伝達障害に関連する疾患の治療又は予防のための組合せ療法における使用のための医薬組成物及び方法を提供する。一部の実施形態では、使用のための方法又は医薬組成物は、第1の療法を含む。一部の実施形態では、使用のための方法又は医薬組成物は、第2の療法を更に含む。一部の実施形態では、第1の療法は、除脂肪量対脂肪量比を増加させるのに有用であり得る。一部の実施形態では、第2の療法は、代謝疾患又は神経学的シグナル伝達障害に関連する疾患の治療又は予防に有用であり得る。一部の実施形態では、第2の療法は、標的化された疾患に関連する少なくとも1つの症状を減退させるか又は治療し得る。第1及び第2の療法は、同様の又は無関係な作用機序によりその生物学的効果を発揮し得る。一部の実施形態では、第1及び第2の療法のいずれか一方又は両方は、多くの作用機序によりその生物学的効果を発揮し得る。
【0349】
一部の実施形態では、第1の療法はGLP-1経路活性化剤であり、第2の療法はミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)である。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤は、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)と併せて投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、GLP-1経路活性化剤療法を受けている対象に投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、過去にGLP-1経路活性化剤療法の投与を受けたことがない対象に投与される。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤及びミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、並行投与される。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤及びミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、逐次投与される。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤及び投与されるミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、個別投与される。
【0350】
本明細書に記載される医薬組成物は、記載される各実施形態について、第1及び第2の療法を同じ薬学的に許容可能な担体中又は異なる薬学的に許容可能な担体中に有し得ることが理解されなければならない。更に、記載される実施形態の中で第1及び第2の療法は同時投与されても又は逐次投与され得ることが理解されなければならない。
【0351】
本明細書に開示される方法に係る、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)とGLP-1経路活性化剤との組合せは、追加的な治療用薬剤の1つ以上と組み合わせて使用され得る。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、ミオスタチン選択的阻害剤である。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、プロ/潜在型ミオスタチンを阻害する。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤は、GDF11を阻害しない。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤はミオスタチンを阻害し、且つTGFβスーパーファミリーの他のいずれのメンバーも阻害しない。組合せ療法と共に使用し得る追加的な治療用薬剤の例としては、限定されないが、追加的な糖尿病治療剤、糖尿病性合併症治療剤、心血管疾患治療剤、抗高脂血症剤、血圧降下剤又は降圧剤、抗肥満剤、化学療法剤、免疫療法剤、免疫抑制剤などが挙げられる。かかる組合せ療法は、有利には、投与される治療用薬剤の投薬量についてより低量を利用し得るため、様々な単剤療法に関連する毒性又は合併症の可能性を回避し得る。一部の実施形態では、追加的な治療用薬剤は、ミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む組合せ療法と同じ治療レジメンで投与される。他の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及びGLP-1経路活性化剤は、上記に記載されるものなど、1つ以上の治療用薬剤を既に受けている対象に投与される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)によるGLP-1経路活性化剤と併せた治療により、2型糖尿病の症状が低減されることになる。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)によるGLP-1経路活性化剤と併せた治療により、T2DMの寛解が誘導されることになる。一部の実施形態では、T2DMの寛解とは、血糖値が正常又は健常なレベル、例えば糖尿病非罹患者の血糖値、例えば6.5%未満のA1Cレベルに戻ることを指す。
【0352】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法に係る、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)とGLP-1経路活性化剤との組合せは、1つ以上のダイエット及び/又は運動治療レジメンと組み合わせて使用され得る。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及びGLP-1経路活性化剤は、減量又は1つ以上の代謝疾患若しくはメタボリックシンドローム、糖尿病(例えば、T2DM)、肥満及び脊髄損傷を含めた、神経学的シグナル伝達障害に関連する疾患の症状の改善若しくは軽減のためのダイエット及び/又は運動レジメン中の対象に投与される。一部の実施形態では、ダイエットレジメンには、限定されないが、カロリー制限(例えば、カロリー摂取量の低減又はカロリーの吸収の低減)、栄養内容の変更(例えば、高タンパク質、低脂肪、低炭水化物、ケト、パレオ等)又は食物摂取タイミングの変更(例えば、断続的断食、摂食頻度の増加等)又はタイミング、一人前の分量及び栄養内容の変更の組合せ(例えば、高タンパク質、低脂肪及び/又は他の栄養内容制限を含むより少ない分量の食事をより高頻度にとる)によるダイエットが含まれる。
【0353】
真性糖尿病(例えば、T2DM)の治療用薬剤の例としては、インスリン製剤(例えば、ウシ又はブタの膵臓から抽出された動物インスリン製剤;微生物又は方法を用いた遺伝子操作技術によって合成されたヒトインスリン製剤)、インスリン感受性を亢進させる薬剤、その薬学的に許容可能な塩、水和物又は溶媒和物(例えば、ピオグリタゾン、トログリタゾン、ロシグリタゾン、ネトグリタゾン、バラグリタゾン、リボグリタゾン、テサグリタザル、ファルグリタザル、CLX-0921、R-483、NIP-221、NIP-223、DRF-2189、GW-7282TAK-559、T-131、RG-12525、LY-510929、LY-519818、BMS-298585、DRF-2725、GW-1536、GI-262570、KRP-297、TZD18(Merck)、DRF-2655、など)、α-グリコシダーゼ阻害剤(例えば、ボグリボース、アカルボース、ミグリトール、エミグリテートなど)、ビグアナイド類(例えば、フェンホルミン、メトホルミン、ブホルミンなど)又はスルホニル尿素類(例えば、トルブタミド、グリベンクラミド、グリクラジド、クロルプロパミド、トラザミド、アセトヘキサミド、グリクロピラミド、グリメピリドなど)並びに他のインスリン分泌促進剤(例えば、レパグリニド、セナグリニド、ナテグリニド、ミチグリニド、GLP-1経路活性化剤など)、アミリンアゴニスト(例えば、プラムリンタイドなど)、ホスホチロシンホスファターゼ阻害剤(例えば、バナジン酸など)などが挙げられる。
【0354】
GLP1-R経路活性化剤の例としては、限定されないが、アルビグルチド、タスポグルチド、セマグルチド、エクセナチド、BPI-3016、GW002(半減期を延長させるアルブミン部分を有するGLP1模倣薬;GLP-1の半減期延長の考察については、例えば、Eur J Pharmacol.2021 Jan 5;890:173650を参照されたい)、グルタズマブ、エキセンディン-4、エクセナチド、GLP-1(7-36)NH2、エベレストマブ、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382又はデュラグルチドなどのインクレチン模倣薬が挙げられる。
【0355】
GLP1R経路活性化剤の更なる例としては、DPPIV阻害剤が挙げられ、その非限定的な例は、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、オマリグリプチン、エボグリプチン、ゴソグリプチン、デュトグリプチン及びベルベリンである。糖尿病性合併症の治療用薬剤の例としては、限定されないが、アルドースレダクターゼ阻害剤(例えば、トルレスタット、エパルレスタット、ゼナレスタット、ゾポルレスタット、ミナルレスタット、フィダレスタット、SK-860、CT-112など)、神経栄養因子(例えば、NGF、NT-3、BDNFなど)、PKC阻害剤(例えば、LY-333531など)、最終糖化産物(AGE)阻害剤(例えば、ALT946、ピマゲジン、ピリドキサミン、フェナシルチアゾリウムブロミド(ALT766)など)、活性酸素クエンチ剤(例えば、チオクト酸又はその誘導体、ビオフラボノイドであって、以下を含むもの、フラボン類、イソフラボン類、フラボノン類、プロシアニジン類、アントシアニジン類、ピクノジェノール、ルテイン、リコペン、ビタミンE、補酵素Qなど)、脳血管拡張剤(例えば、チアプリド、メキシレチンなど)が挙げられる。
【0356】
一実施形態では、糖尿病の寛解は、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)をGLP-1経路活性化剤と組み合わせて投与し、任意選択でカロリー制限ダイエット又は他のダイエットと組み合わせることにより誘導し得る。一部の実施形態では、対象の身体能力に応じて運動ルーチンが含まれる。一部の実施形態では、寛解期にあるT2DMを有する対象は、他の糖尿病薬物療法を低減するか又はなくすことが可能であり得る。
【0357】
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)とGLP-1経路活性化剤との組合せは、本明細書に開示される方法に従い、高脂質血症剤、免疫療法剤、抗肥満剤、化学療法剤、免疫療法剤、免疫抑制剤又は悪液質を改善する薬剤の1つ以上と組み合わせて使用され得る。
【0358】
抗高脂血症剤としては、例えば、コレステロール合成阻害剤であるスタチン系化合物(例えば、プラバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチンなど)、トリグリセリド降下効果を有するスクアレンシンテターゼ阻害剤又はフィブラート化合物(例えば、フェノフィブラート、ゲムフィブロジル、ベザフィブラート、クロフィブラート、シンフィブラート、クリノフィブラートなど)、ナイアシン、PCSK9阻害剤、トリグリセリド降下剤又はコレステロール金属イオン封鎖剤が挙げられる。
【0359】
血圧降下剤としては、例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(例えば、カプトプリル、エナラプリル、デラプリル、ベナゼプリル、シラザプリル、エナラプリル、エナラプリラト、ホシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリルなど)又はアンジオテンシンIIアンタゴニスト(例えば、ロサルタン、カンデサルタンシレキセチル、オルメサルタンメドキソミル、エプロサルタン、バルサルタン、テルミサルタン、イルベサルタン、タソサルタン、ポミサルタン、リピサルタン フォラサルタンなど)又はカルシウムチャネル遮断薬(例えば、アムロジピン)又はアスピリンが挙げられる。
【0360】
抗肥満剤としては、例えば、エネルギー消費量及び/又は脂肪代謝量を増加させる薬剤並びに神経的及び化学的調節による減量が挙げられる。抗肥満剤としては、生物製剤薬剤、例えば抗体、融合タンパク質、ナノボディなど、並びに小分子薬剤が挙げられる。薬剤としては、GLP-1及びGLP-1Rアゴニスト又は他のGLP-1経路活性化剤を含めたその受容体(GLP-1R)を標的化するもの、グルタズマブ、エベレストマブ、エクセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、アルビグルチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382及びデュラグルチドなどの生物製剤並びにトピラマート、デクスフェンフルラミン、フェンフルラミン、フェンテルミン、フェンメトラジン、シブトラミン、アンフェプラモン、デキサンフェタミン、マジンドール、ジエチルプロピオン、オルリスタット、カチン、オレオイルエストロン、ペルフルブロン、ベンフルオレックス、セトメラノチド、アクリモスタット、セチリスタット、アムリンチド、リモナバン、フェニルプロパノールアミン、クロベンゾレックスなどの小分子を含めたものが挙げられる。薬剤としては、インスリン及びインスリン分泌促進剤、胃腸リパーゼ阻害剤(例えば、オルリスタットなど)、ナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害剤、β3-アドレナリン受容体アゴニスト(例えば、CL-316243、SR-58611-A、UL-TG-307、SB-226552、AJ-9677、BMS-196085など)、ペプチドベースの食欲抑制剤(例えば、レプチン、CNTFなど)、コレシストキニンアゴニスト(例えば、リンチトリプト、FPL-15849など)、オキシトシン及びオキシトシン類似体(カルベトシンなど)なども挙げられる。
【0361】
化学療法剤としては、例えば、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド、イホスファミドなど)、代謝アンタゴニスト(例えば、メトトレキサート、5-フルオロウラシルなど)、抗癌抗生物質(例えば、マイトマイシン、アドリアマイシンなど)、植物由来の抗癌剤(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソールなど)、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシドなどが挙げられる。これらの物質の中でも特に、フルツロン及びネオフルツロンなどの5-フルオロウラシル誘導体が好ましい。
【0362】
免疫療法剤としては、例えば、微生物又は細菌成分(例えば、ムラミルジペプチド誘導体、ピシバニールなど)、免疫増強活性を有する多糖類(例えば、レンチナン、シゾフィラン、クレスチンなど)、遺伝子操作技術によって入手されるサイトカイン(例えば、インターフェロン、インターロイキン(IL)など)、コロニー刺激因子(例えば、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチンなど)などが挙げられ、これらの物質の中でも特に、好ましいものは、IL-1、IL-2、IL-12などである。
【0363】
免疫抑制剤としては、例えば、シクロスポリン(Sandimmune、Gengraf、Neoral)、タクロリムス(Prograf、FK506)、ASM 981、シロリムス(RAPA、ラパマイシン、Rapamune)又はその誘導体SDZ-RAD、グルココルチコイド類(プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾンなど)、プリン合成阻害剤(ミコフェノール酸モフェチル、MMF、CellCept(登録商標)、アザチオプリン、シクロホスファミド)、インターロイキンアンタゴニスト(バシリキシマブ、ダクリズマブ、デオキシスパガリン)、抗胸腺細胞グロブリンなどのリンパ球枯渇剤(Thymoglobulin、Lymphoglobuline)、抗CD3抗体(OKT3)などが挙げられる。
【0364】
加えて、動物モデルにおいて又は臨床段階で悪液質改善効果が確立されている薬剤も、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(例えば、インドメタシンなど)、プロゲステロン誘導体(例えば、酢酸メゲストロール)、グルコステロイド(例えば、デキサメタゾンなど)、メトクロプラミド系薬剤、テトラヒドロカンナビノール系薬剤、脂質代謝改善薬剤(例えば、エイコサペンタエン酸など)、成長ホルモン、IGF-1、TNF-αに対する抗体、LIF、IL-6及びオンコスタチンMなど、本発明に係る抗ミオスタチン抗体と併用され得る。代謝障害及び/又は神経学的シグナル伝達障害に関する疾患又は病態の治療における使用のための追加的な治療用薬剤は、当業者に明らかであろうと共に、本開示の範囲内にある。
【0365】
一部の実施形態では、本明細書に記載されるミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)/GLP-1経路活性化剤の組合せと併せた組合せ療法としての投与に好適な追加的な薬剤としては、TGFβ1阻害剤など、抗線維剤が挙げられる。一部の実施形態では、本明細書に記載される抗体と併せた組合せ療法としての投与に好適な第2の薬剤は、BMP6、BMP7、GDF11、TGFβ2、TGFβ3等など、TGFβ成長因子スーパーファミリーのある種のメンバーの調節剤(例えば、アゴニスト及びアンタゴニスト)である。一部の実施形態では、追加的な療法は、抗RGMc抗体など、RGMcの阻害剤を含む。
【0366】
上述の薬剤のいずれも、代謝疾患又は障害、例えばメタボリックシンドローム、肥満、T2DM又は肥満に関連するT2DMを治療するため、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)/GLP-1経路活性化剤と組み合わせて投与することができる。一部の実施形態では、上述の薬剤のいずれも、代謝疾患又は障害、例えばメタボリックシンドローム、肥満、T2DM又は肥満に関連するT2DMを治療するため、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及び/又はGLP-1経路活性化剤と組み合わせて投与され得、これらの薬剤は、ダイエット及び/又は運動レジメンと併せて投与される。ダイエットレジメンの例としては、限定されないが、カロリー制限(例えば、カロリー摂取量の低減又はカロリーの吸収の低減)、栄養内容の変更(例えば、高タンパク質、低脂肪、低炭水化物、ケト、パレオ等)又は食物摂取タイミングの変更(例えば、断続的断食、摂食頻度の増加等)又はタイミング、一人前の分量及び栄養内容の変更の組合せ(例えば、高タンパク質、低脂肪及び/又は他の栄養内容制限を含むより少ない分量の食事をより高頻度にとる)によるダイエットが挙げられる。
【0367】
代謝疾患/障害の治療のためのミオスタチン経路阻害剤とGLP-1経路活性化剤との組合せの使用
本明細書に記載される医薬組成物は、ミオスタチンシグナル伝達の低減及びインスリン産生の増加が望ましい疾患及び病態の治療又は予防のためのヒト患者への投与に好適である。かかる疾患及び病態としては、限定されないが、メタボリックシンドローム、肥満、2型真性糖尿病(T2DM)及び肥満に関連するT2DMが挙げられる。本発明の組成物及び方法が有用であり得る例示的病態について、以下に更に記載する。
【0368】
A.代謝障害及び疾患
本明細書には、対象の代謝疾患を治療又は予防する方法が開示される。代謝疾患(代謝障害とも称される)は、概して、グルコース、脂質/脂肪及び/又はタンパク質/窒素代謝の異常又は浸透圧調節不全に関連し、かかる病態によって生じる病理学的帰結を有する。本発明の幾つもの代謝障害は、ある種の特徴を共有し、例えば、それらは、無脂肪量又は除脂肪筋量の喪失、過剰な体脂肪量、低い代謝率、インスリン抵抗性、血糖調節能力の欠如、体重の増量及び/又はボディマスインデックスの増加に関連する。ある場合には、かかる代謝病態は、患者が受ける薬物療法によって惹起されるか又は増悪し得る。本明細書で更に詳細に考察されるとおり、代謝障害は、筋肉病態又は障害に続いて二次的に起こり得るか又はその結果として起こり得る。
【0369】
本明細書に提供される方法に係る治療向けの代謝障害及び疾患としては、限定されないが、メタボリックシンドローム、肥満、少なくとも1つの併存症を伴う過体重、2型真性糖尿病及び肥満に関連する2型真性糖尿病が挙げられる。一実施形態では、代謝障害はT2DMである。別の実施形態では、代謝障害は肥満である。
【0370】
本発明は、少なくとも一部には、代謝疾患を有する対象にミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)とGLP-1経路活性化剤との組合せを投与すると、損傷を受けた対象の生理的特性及び機能的特性の両方が有意に改善するという発見に基づく。詳細には、本発明者らは、意外にも、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及びGLP-1経路活性化剤を投与すると、代謝疾患を有する対象の代謝率又はエネルギー消費量が有意に増加することを発見した。組合せ療法の投与により、脊髄損傷(SCI)によって誘発された病変下筋量及び全体的ボディマスの減少も有意に減弱される一方、同時に白色及び内臓脂肪組織などの望ましくない体脂肪組織量が減少する。この組合せ療法で治療した対象は、その歩行運動機能、筋力並びに運動協調性及び平衡技能の有意な改善も呈し得る。
【0371】
従って、本発明は、ヒト対象の代謝疾患を治療又は予防する方法を提供する。この方法は、代謝疾患に罹患しているヒト対象を選択すること及びヒト対象に有効量のミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)とGLP-1経路活性化剤との組合せを投与することを含み、それによりヒト対象の代謝疾患を治療又は予防する。好ましくは、ミオスタチン経路阻害剤は、ミオスタチン選択的阻害剤である。より好ましくは、ミオスタチン選択的阻害剤は、プロ/潜在型ミオスタチンに特異的に結合するが、GDF11には結合しない抗体又はその抗原結合断片である。プロ/潜在型ミオスタチンを特異的に認識するが、GDF11を認識しない抗体は有益であり、対象におけるGDF11への抗体のオフターゲット結合によって引き起こされる望ましくない毒性を回避する。一実施形態では、対象は小児対象である。一実施形態では、対象は年齢2歳以上19歳以下の対象である。一実施形態では、対象は、年齢12歳以上(例えば、12歳以上17歳以下)の対象である。
【0372】
本発明の方法によって治療又は予防し得る代謝疾患の例としては、限定されないが、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、前糖尿病、肥満、心血管疾患(うっ血性心不全など)、脊髄損傷(SCI)(例えば、完全又は不完全/部分的SCI)、低代謝状態、二重糖尿病、クッシング病(クッシング症候群とも称される)、肥満症候群(例えば、食事関連肥満又は食事誘発性肥満)、インスリン抵抗性、インスリン不足、高インスリン血症、耐糖能異常(IGT)、グリコーゲン代謝異常、高脂血症、低アルブミン血症、高トリグリセリド血症、腎疾患、シンドロームX、脂肪性肝疾患及び代謝性骨疾患が挙げられる。一部の実施形態では、代謝疾患としては、神経学的シグナル伝達障害又は部分的除神経に関連する疾患が挙げられる。一部の実施形態では、代謝疾患としては、ある種の薬物療法によって惹起されるか又はそれに関連する病態(例えば、副作用)が挙げられる。
【0373】
当業者には明らかであろうと共に、本開示の範囲内にある代謝障害及び/又は体組成に関係する更なる疾患又は病態。体組成は、二重エネルギーX線吸収法(DEXA)を含め、種々の方法により測定し得る。DEXAを用いた全身スキャンは、骨塩量、骨塩密度、除脂肪組織量、体脂肪組織量及び脂肪寄与率を含め、概して体組成の正確で精密な測定を提供する。
【0374】
糖尿病とは、インスリン分泌若しくは作用又は両方に欠陥があることが原因で生じる高い血糖値(グルコースレベル)によって特徴付けられる一群の代謝疾患を指す。2つの最も一般的な種類の糖尿病、即ち1型糖尿病及び2型糖尿病があり、これらの両方は、身体がインスリンを調節できないことが原因で生じる。インスリンは、血中の血糖値(グルコースレベル)の上昇に応じて膵臓から放出されるホルモンである。
【0375】
2型真性糖尿病(T2DM、非インスリン依存性真性糖尿病、NDDMとも呼ばれる)では、膵臓はインスリンを製造し続け、それは時に正常値より高いレベルであることさえある。しかしながら、体がその効果に抵抗を生じるため、相対的なインスリン欠乏が起こることになる。2型糖尿病は小児及び青年に起こり得るが、通常は30歳以降の年齢で始まり、年齢と共に次第に多く見られるようになる。70歳を超える人の約15パーセントがII型糖尿病を有する。肥満が2型糖尿病のリスク要因であり、この障害を有する人の80~90パーセントが肥満である。
【0376】
一部の実施形態では、糖尿病には前糖尿病が含まれる。「前糖尿病」は、グルコース利用障害、空腹時グルコースレベルの異常又は障害、耐糖能異常、インスリン感受性及びインスリン抵抗性障害を含め、1つ以上の初期糖尿病病態を指す。前糖尿病は、2型真性糖尿病、心血管疾患の発症及び死亡の主要なリスク要因である。前糖尿病を有効に治療することによって2型糖尿病の発症を防ぐ治療介入の開発に多くの関心が集まっている。
【0377】
一部の実施形態では、糖尿病には二重糖尿病が含まれ、これは、インスリン抵抗性の特徴を伴う1型糖尿病と2型糖尿病との組合せである。
【0378】
糖尿病は、ブドウ糖負荷試験の投与により診断することができる。臨床的には、糖尿病は幾つかの基本的なカテゴリーに分類されることが多い。そうしたカテゴリーの一次的な例としては、自己免疫性真性糖尿病、インスリン非依存性真性糖尿病(1型NDDM)、インスリン依存性真性糖尿病(2型IDDM)、非自己免疫性真性糖尿病、インスリン非依存性真性糖尿病(2型NIDDM)及び若年発症成人型糖尿病(MODY)が挙げられる。二次と称されることの多い更なるカテゴリーは、糖尿病症候群の発症を引き起こす又はそれを可能にする一部の識別可能な病態によってもたらされる糖尿病を指す。二次カテゴリーの例としては、膵疾患、ホルモン異常によって引き起こされる糖尿病、薬物誘発性又は化学物質誘発性糖尿病、インスリン受容体異常によって引き起こされる糖尿病、遺伝的症候群に関連する糖尿病及び他の原因の糖尿病が挙げられる(例えば、Harrison’s(1996)14th ed.,New York,McGraw-Hillを参照されたい)。
【0379】
肥満は、本発明の方法により治療又は予防することのできる有病率が高い別の代謝疾患である。「肥満」は、過剰量の体脂肪によって定義される慢性病態を指す。正常な体脂肪量(体重に占めるパーセンテージとして表される)は、女性で25~30%及び男性で18~23%である。体脂肪が30%を超える女性及び体脂肪が25%を超える男性は、肥満と見なされる。肥満は、任意の臨床的に関連性のある定義を用いて定義することができる。例えば、成人では、過体重及び肥満の尺度としてボディマスインデックス(BMI、kg/m2)がよく使用され、過体重が25~29.9kg/m2のBMIとして定義され、肥満が30kg/m2以上のBMI及び病的肥満が40kg/m2を超えるBMIとして定義される。肥満は、成人では、胴囲により測定された中心性脂肪蓄積としても定義することができ、胴囲の膨らんでいるところが男性で102cm以上及び女性で88cm以上として定義される。肥満の対象は、空腹時血漿グルコースの上昇、空腹時血漿トリグリセリドの上昇、空腹時高密度リポタンパク質(HDL)レベルの低下及び血圧の上昇など、他の症状を呈し得る。肥満は、様々な整形外科的問題、皮膚障害並びに足及び足首の腫脹も引き起こし得る。肥満の重篤な合併症としては、冠動脈障害及びその主要なリスク要因であるII型糖尿病、高脂血症及び高血圧症のリスクがはるかに高いことが挙げられる。糖尿病のコントロール不良及び肥満が、合わせてシンドロームX又はメタボリックシンドロームとして知られる一連の症状につながるとおり、肥満に関連する病的状態のほとんどはII型糖尿病に関連している。一部の実施形態では、肥満は、サルコペニック肥満である。一部の実施形態では、肥満を有する対象は、カロリー制限レジメン中である。
【0380】
本発明の方法は、メタボリックシンドロームなどの代謝疾患の治療又は予防にも好適である。本明細書で使用されるとき、「メタボリックシンドローム」は、単一の個体において一まとまりとなり、且つ糖尿病及び/又は心血管疾患の高い発症リスクにつながる代謝リスク要因の集合の概念を指す。メタボリックシンドロームの主な特徴には、インスリン抵抗性、高血圧症(血圧上昇)、コレステロール異常、脂質異常、トリグリセリド異常、血栓リスクの増加及び過剰な、特に腹部における体重又は肥満が含まれる。一部の実施形態では、メタボリックシンドロームは、以下の構成要素の3つ以上があることによって診断され得る:(1)胴囲の増大(男性、40インチ(102cm)以上;女性、35インチ(88cm)以上);(2)トリグリセリド上昇(150mg/dL以上);(3)高密度リポタンパク質コレステロール又はHDL低下(男性、40mg/dL未満;女性、50mg/dL未満);(4)血圧上昇(130/85mmHg以上);及び(5)空腹時血糖上昇(100mg/dL以上)である。
【0381】
別の態様において、本発明の方法は、肥満症候群などの代謝疾患の治療又は予防に好適である。用語「肥満症候群」は、対象を著しく太らせる又は過体重に陥らせる任意の障害又は病態を指す。他の代謝疾患と同様に、肥満症候群の人は、通常、無脂肪量又は除脂肪筋量の喪失、過剰な体脂肪量、低い代謝率、インスリン抵抗性、血糖調節能力の欠如、体重の増量及びボディマスインデックスの増加に関連する。一部の実施形態では、肥満症候群は、プラダー・ウィリー、遺伝的障害に関連する肥満症候群及び視床下部障害に関連する肥満症候群からなる群から選択される。
【0382】
本発明の方法は、低代謝状態に関連する代謝疾患の治療又は予防にも好適である。用語「低代謝状態」とは、体重が十分なエネルギーをもたらさないような、代謝又は代謝活性が低下した状態を指す。低代謝状態の患者は、概して、低い代謝率、無脂肪量又は除脂肪筋量の喪失、体脂肪量の過剰な増量、インスリン抵抗性、血糖調節能力の欠如、体重の増量及びボディマスインデックスの増加を有する。一部の実施形態では、低代謝状態は、長期にわたる固定に関連する状態、床上安静に関連する状態、ギプス包帯に関連する状態、脳卒中に関連する状態、切断に関連する状態及び術後状態からなる群から選択される。一部の実施形態では、低代謝状態は、術後状態、例えば腰椎手術後の傍脊柱筋群の萎縮である。一実施形態では、傍脊柱筋群の萎縮は、神経損傷依存性筋萎縮である。一実施形態では、手術は脊髄手術である。一実施形態では、脊髄手術は、腰椎手術又は腰椎手技、例えば腰椎固定手技、腰椎非固定手技、腰椎後方固定手技、腰椎前方固定手技、最小侵襲性(MIS)腰椎後方除圧手技、最小侵襲性(MIS)腰椎後方固定手技、非MISの均等な手技等である。
【0383】
別の態様において、本発明の方法は、クッシング症候群又はクッシング症候群とも称されるクッシング病などの代謝疾患の治療又は予防に好適である。用語「クッシング病」は、コルチゾールへの長期曝露に起因する一群の徴候及び症状を指す。これは、下垂体が過剰量の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を放出する病態など、内因性の原因又は経口コルチコステロイド薬物療法の使用など、外因性の原因から生じ得る。クッシング病の顕著な特徴となる徴候及び症状の一部としては、体重の増量及び体脂肪組織沈着など、特に中央部及び上背の辺り並びに肩間(野牛肩)の進行性の肥満(腰より上の上体肥満);痩せた手足、丸く赤い肥大した顔(満月様顔貌);皮膚の変化、例えば腹部、大腿、乳房及び腕の皮膚に出る淡紅色又は紫色の伸展線(皮膚線条)、あざができ易い非薄化した脆弱な皮膚、切り傷、虫刺され及び感染の治癒が遅いこと並びにざ瘡を挙げることができる。クッシング病の患者には、重度の疲労、筋脱力、抑欝、不安及び被刺激性、感情のコントロールの喪失、認知的困難、新規の又は悪化した高血圧、頭痛、2型糖尿病及び/又は時間が経つと骨折につながり得る骨量減少も見られ得る。小児では、クッシング病は、成長障害(低成長率)を引き起こし得る。一部の実施形態では、クッシング病は、コルチコステロイド誘発性クッシング病及び腫瘍誘発性クッシング病からなる群から選択される。
【0384】
現在のところ、クッシング病の標準治療は、発生源が内因性のホルモン過剰産生であるか又は薬物療法に起因するかにかかわらず、体内の高いコルチゾールレベルを下げるように設計されている。特定の患者に対する最良の治療は、症候群の原因に依存する。現在利用可能な治療選択肢としては、例えば、コルチコステロイド使用の低減、手術、放射線療法及び薬物療法が挙げられる。
【0385】
このように、本明細書に記載される組合せ療法の使用は、クッシング病に罹患している患者にとっての代替的な又は付加的な治療選択肢を提示する。
【0386】
クッシング病の原因がコルチコステロイド薬物療法の長期使用である場合、薬物投与の理由である基礎となる疾患又は病態をなおも適切に管理する一方でのある期間にわたる薬物の制御された投薬量低減が考慮され得る。従って、一部の実施形態では、コルチコステロイド療法中の患者は、関節リウマチ、ループス及び喘息など、1つ以上の自己免疫性又は炎症性疾患を有する。コルチコステロイドは、体の免疫を抑制することにより、移植器官又は組織など、同種移植片の拒絶から身体を保護するためにも患者に処方され得る。
【0387】
一部の実施形態では、コルチコステロイド療法の投与を受けている患者には、非コルチコステロイド薬物療法などの他の治療選択肢を良好に忍容しない、それに対する反応が乏しい又は反応しない個体のサブ集団が含まれる。かかる状況では、医師は、引き続きコルチコステロイド薬物療法を処方し得る。一部の実施形態では、代替的選択肢として手術が検討され得る。
【0388】
クッシング症候群の原因が腫瘍である場合、外科的完全切除及び/又は放射線療法が検討され得る。一部の実施形態では、患者は、下垂体、副腎、肺又は膵臓に腫瘍を有する。術後、身体に正しい量の副腎ホルモン産生をもたらすため、典型的にはコルチゾール補充療法が投与される。
【0389】
一部の実施形態では、クッシング症候群の患者に正常な副腎機能の回復が見られることは決してなく、従って補充療法を一生涯続ける必要があり得る。本明細書に記載されるミオスタチン活性化の阻害剤は、かかる患者の治療に好適であり得る。
【0390】
一部の実施形態では、手術及び/又は放射線療法が効かないときは、薬物療法を用いてコルチゾール産生を制御することができる。薬物療法は、クッシング症候群によって健康状態が非常に悪くなった患者では手術前にも用いられ得る。本開示に包含されるミオスタチン活性化の阻害剤は、徴候及び症状を改善し、且つ手術の危険性を最小限に抑えるため、手術前のかかる患者の治療に使用し得る。
【0391】
副腎におけるコルチゾールの過剰産生の制御に現在使用されている薬物療法としては、ケトコナゾール(Nizoral)、ミトタン(Lysodren)及びメチラポン(Metopirone))が挙げられる。ミフェプリストン(Korlym)は、2型糖尿病又はグルコース不耐性を有するクッシング症候群の患者に承認されている。ミフェプリストンによってコルチゾール産生は低下しないが、これはコルチゾールが組織に及ぼす効果を遮断する。このような薬物療法からの副作用としては、疲労、悪心、嘔吐、頭痛、筋肉痛、高血圧、低カリウム及び腫脹を挙げることができる。一部には神経学的副作用及び肝毒性など、より重篤な副作用を有するものもある。本開示に包含されるミオスタチン活性化の阻害剤は、単独で(代わりに)使用され得るか、又はこれらの治療薬のいずれかと組み合わせて使用され得る。
【0392】
最近になって、パシレオチド(Signifor)がクッシング病の治療に利用可能になっており、これは、下垂体腫瘍からのACTH産生を低下させることによって機能する。この薬物療法は、注射として1日2回与えられる。これは典型的には、下垂体手術が不成功に終わるか又はそれを行うことができないときに推奨される。この薬物療法に関連する副作用はかなり多く見られ、下痢、悪心、高血糖、頭痛、腹痛及び疲労を挙げることができる。本開示に包含されるミオスタチン活性化の阻害剤は、単独で(代わりに)使用され得るか、又はかかる治療薬のいずれかと組み合わせて使用され得る。
【0393】
一部の実施形態では、腫瘍又はその治療は、下垂体又は副腎によって産生される他のホルモンが欠乏した状態を引き起こすことになり、そのためホルモン補充療法が必要となり得る。一部の実施形態では、これらの現在利用可能な治療選択肢はいずれも適切又は有効ではなく、副腎の外科的切除(両側性副腎摘出術)が検討され得るが、これは一生涯補充薬物療法を必要とすることになる。かかる選択肢の候補である患者は、副腎摘出術前及び/又はその後、本明細書に記載されるミオスタチン阻害療法から利益を受け得る。
【0394】
更に別の態様において、本発明の方法は、心血管疾患、例えばメタボリックシンドロームを伴う心血管疾患などの代謝疾患の治療又は予防に好適である。用語「心血管疾患」は、心臓又は血管の任意の疾患を指す。心血管疾患又は心疾患としては、限定されないが、例えばアンギナ、不整脈、冠動脈疾患(CAD)、冠動脈心疾患、心筋症(拡張型心筋症、拘束型心筋症、不整脈源性右室心筋症及び糖尿病性心筋症を含む)、心臓発作(心筋梗塞)、心不全(例えば、急性心不全(AHF)又は慢性心不全(CHF))、肥大型心筋症、僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁逸脱、肺動脈弁狭窄症等が挙げられる。血管疾患としては、限定されないが、例えば末梢血管疾患、動脈疾患、頸動脈疾患、深部静脈血栓症、静脈疾患及びアテローム性動脈硬化症が挙げられる。一部の実施形態では、心不全を有する対象は、利尿薬療法に抵抗性である。別の実施形態では、心不全を有する対象は、利尿薬療法にほとんど反応しない。
【0395】
肥満は、心血管疾患発症のリスク要因である。肥満の個体は、低年齢で心血管疾患イベントが見られ、その生涯の大部分を、心血管疾患を抱えて生き、正常体重の個体よりも平均寿命が短い。肥満は、脂質異常症、2型糖尿病、高血圧症及び睡眠障害を含め、心血管リスク要因に直接寄与する。肥満は、インスリン抵抗性及び炎症を含め、複数の機序を通してアテローム硬化性変化を加速させる。肥満は、他の心血管リスク要因と無関係な心血管疾患の発症及び心血管疾患死亡にもつながる。内臓脂肪症は全身及び血管炎症を促進し、これはアテローム硬化過程の基礎となるものである。肥満によって誘発される炎症により、LDL酸化の可能性が増加し、それが次にはアテローム発生を促進する。インスリン抵抗性は、脂質異常症及びメタボリックシンドロームに関連し、これらはアテローム性動脈硬化症に結び付けられている。肥満における内皮機能も、例えば、炎症及び酸化的状況下での一酸化窒素のバイオアベイラビリティの低下に起因して、アテローム性動脈硬化症の進行に寄与する。肥満は、冠動脈微小血管系における及び心外膜冠動脈血管上にある異常にも結び付けられている。本開示の別の態様は、加齢に関連する代謝疾患又は病態を有する対象を治療する方法を含む。加齢に関係する例示的疾患及び病態は、限定なしに、サルコペニア(加齢性筋喪失)、虚弱及びアンドロゲン欠乏が挙げられる。
【0396】
ミオスタチン並びに追加の経路に影響を及ぼす非特異的薬剤と異なり、一部の実施形態では、本明細書に開示される方法における使用のためのミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)は、ミオスタチンに選択的なモノクローナル抗体である。一実施形態では、モノクローナル抗体は、ミオスタチン/GDF8に特異的に結合して、その活性化工程を阻害する。一部の実施形態では、かかる抗体はプロミオスタチン及び/又は潜在型ミオスタチンに結合し、それにより活性化が阻害され、続いて成熟ミオスタチンを放出するが、潜在型(不活性な)複合体に関連しない成熟ミオスタチンには結合しない。一部の実施形態では、抗体又はその断片はテザー係留形態の(例えば、筋肉内にある)不活性ミオスタチン(例えば、プロミオスタチン)に結合し、これは、疾患ニッチ内の組織関連ミオスタチンに局所的に作用する能力を有する。一部の実施形態では、抗体又はその断片は可溶性形態の(例えば、循環中にある)不活性ミオスタチン(例えば、潜在型ミオスタチン)に結合し、これは、内分泌効果又は全身的効果を有し得る循環潜在型ミオスタチンに作用する能力を有する。かかる実施形態のいずれにおいても、本発明の方法を実施するのに好ましいミオスタチン阻害剤は、GDF11など、TGFβ成長因子/サイトカインスーパーファミリーの他のメンバーに拮抗しない、ミオスタチンに選択的なものである。かかる選択性は、GDF11などの他の経路を阻害すれば、害を及ぼす又は望ましくない副作用又は有害事象が生じ得るような、小児患者集団及び/又は長期ケア(例えば、慢性療法)を必要とする患者集団で特に有利である。
【0397】
減量
本発明は、健常対象、例えばボディービルダー又は肥満、例えば食事性肥満、メタボリックシンドローム及び/又は2型真性糖尿病(T2DM)など、代謝疾患を有する対象の両方においてロバストな減量(例えば、除脂肪筋量を同時に失うことのない体脂肪量(即ち身体における脂肪の重量)の減量)を促進する方法を更に提供する。ダイエット中に蓄積脂肪及び筋肉の両方で減量が起こるような、ダイエット単独(例えば、カロリー制限によるダイエット、低炭水化物ダイエット、ケトダイエット、ビーガンダイエット等)と比較して、本明細書に開示されるミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)をGLP-1経路活性化剤(例えば、インスリン分泌促進剤、例えばリラグルチド)と組み合わせて投与すると、蓄積脂肪の減量につながる一方で筋肉が温存される。一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤を投与すると、治療の経過中に対象の体脂肪量の約5%、約10%、約15%若しくは約20%又はそれを超える減量が生じる
【0398】
男性及び女性の両方で、中年期を通して体脂肪量は年齢と共に増加する。腹部脂肪は詳細には、腹部肥満のない個体におけるリスクと比較した対象における心血管疾患、メタボリックシンドローム、高血圧症、糖尿病、脂質異常症の高いリスクに関連する。体脂肪量又は腹部体脂肪量は、二重エネルギーX線吸収法、超音波、コンピュータ断層撮影法又は磁気共鳴画像法(例えば、qNMR)により直接測定し得る。臨床的には、腹部肥満は、胴囲が男性で102cm以上及び女性で88cm以上と定義される。
【0399】
一部の実施形態では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)をGLP-1経路活性化剤と併せて投与すると、ダイエットと比較した又はミオスタチン経路阻害剤又はGLP-1経路活性化剤単独の投与と比較したより高い代謝率の維持;心血管代謝利益(脂質プロファイル、グルコース代謝、心血管リスク等など)の改善;及び脂肪(例えば、全脂肪又は内臓脂肪及び/又は他の有害な脂肪レベル)のより大きい低減に起因したよりロバストな減量が生じ得る。加えて、本明細書に開示される組合せ療法を投与すると、ダイエット、例えばカロリー制限ダイエット、低炭水化物ダイエット、ケトダイエット等に付随して起こり得る筋萎縮及び/又は骨量減少を予防又は低減し得る。全体的に見て、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及びGLP-1経路活性化剤を、任意選択でダイエットと組み合わせて投与すると、対象における筋肉対脂肪比が増加し得る。一部の実施形態では、GLP-1経路活性化剤を投与すると、カロリー制限と同様の薬理効果がもたらされる。一部の実施形態では、GLP-1経路阻害剤をミオスタチン経路阻害剤と併せて投与すると、いずれかの薬剤の単独での投与と比較して、体重の減量及び体脂肪量の減量に更なる利益がもたらされる。
【0400】
代謝疾患、例えば肥満、メタボリックシンドローム及び/又は糖尿病、例えばT2DMを有する対象では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)をGLP-1経路活性化剤と組み合わせると、対象における代謝率の低下の予防又は軽減及び除脂肪筋喪失の予防又は低減が可能となる。ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)とGLP-1経路活性化剤との組合せは、任意選択で、ダイエット、例えばカロリー制限ダイエットと組み合わされ得る。一部の実施形態では、中等度のカロリー制限ダイエットが推奨され、これは、対象が厳格で挑戦的なダイエット、例えば挑戦的なカロリー制限ダイエットを忠実に守る必要がないため、それがより良好な患者コンプライアンス及びより良好な長期アウトカムをもたらすことに伴うものである。
【0401】
かかる治療は、身体活動に制限がある対象、例えば整形外科的損傷、脊髄損傷、筋骨格疾患、肺障害、心血管障害、神経学的障害、重度の肥満等を有する対象に特に有用である。かかる対象では、ミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)をGLP-1経路活性化剤及び任意選択でダイエット、例えばカロリー制限ダイエットと組み合わせて投与すると、これらの対象においてその身体活動の制限に起因して一層顕著である筋萎縮及び/又は骨量減少が予防される。一部の実施形態では、かかる治療により、身体活動に制限のある対象がよりロバストなダイエット、例えばカロリー制限ダイエットを行うことが可能となり、なぜなら、そうした対象が、ミオスタチン経路阻害剤の投与に起因した筋喪失又は骨量減少に関する懸念にもはや制限を受けないためである。この組合せ療法は、GLP-1経路活性化剤が中枢神経系に作用することに起因して、患者における空腹感及び不健康な食品消費行動の低減にも寄与し得る。
【0402】
一部の実施形態では、対象はダイエットレジメン中であるが、運動レジメン中ではない。一部の実施形態では、対象は運動レジメン中であるが、ダイエットレジメン中ではない。一部の実施形態では、対象はダイエットレジメン中であり、且つ運動レジメン中である。ダイエットレジメンの例としては、限定されないが、カロリー制限(例えば、カロリー摂取量の低減又はカロリーの吸収の低減)、栄養内容の変更(例えば、高タンパク質、低脂肪、低炭水化物、ケト、パレオ等)又は食物摂取タイミングの変更(例えば、断続的断食、摂食頻度の増加等)又はタイミング、一人前の分量及び栄養内容の変更の組合せ(例えば、高タンパク質、低脂肪及び/又は他の栄養内容制限を含むより少ない分量の食事をより高頻度にとる)によるダイエットが挙げられる。
【0403】
体組成の判定及び測定
過剰な脂肪蓄積及び付随する代謝の乱れの薬理的管理に対する利益を判定するため、本明細書に記載される組合せ療法及び補助療法の臨床効果を任意の好適な方法又は基準により測定し得る(Heymsfield et al.J Biol Chem.2020 Apr 17;295(16):5404-5418.)。
【0404】
一部の実施形態では、全脂肪量、除脂肪量、胴囲、HbA1cレベル及び体重の変化など、様々な体組成パラメータを測定することができる。限定なしに、qNMR、二重エネルギーX線吸収法(DXA)、磁気共鳴画像法(MRI)によって得られる肝脂肪率、ヒドロデンシトメトリー、空気置換プレチスモグラフィー(ADP)、生体電気インピーダンス解析(BIA)、生体インピーダンス分光法(BIS)、電気インピーダンスミオグラフィー(EIM)、3次元生体スキャナ及び多コンパートメントモデル(例えば、3コンパートメント及び4コンパートメントモデル)を含め、任意の好適な技術を利用して体組成を判定することができる。
【0405】
一部の実施形態では、本明細書に記載される組合せ療法及び補助療法は、ベースラインと比較した対象における全脂肪量の変化をもたらし得る。一部の実施形態では、全脂肪量は、二重エネルギーX線吸収法(DXA)により測定される(Garito et al.Diabetes Obes Metab.2018;20(1):94-102)。一部の実施形態では、本明細書に記載される組合せ療法及び補助療法は、ベースラインと比較した対象における糖尿病状態の変化をもたらし得る。一部の実施形態では、糖尿病状態は、対象のHbA1cレベル、恒常性モデル評価、定量的インスリン感受性チェック、松田インデックスを測定することによって決定し得る(Yokoyama et al.J Clin Endocrinol Metab.2004;89(3):1481-1484;Hrebicek et al.J Clin Endocrinol Metab.2002;87(1):144-147;Matsuda et al.Diabetes Care.1999;22(9):1462-1470)。一部の実施形態では、本明細書に記載される組合せ療法及び補助療法は、対象の体重、BMI、胴囲及び/又はウエスト・ヒップ比の変化をもたらし得る。一部の実施形態では、本明細書に記載される組合せ療法及び補助療法は、対象の体組成の変化をもたらし得る。一部の実施形態では、対象の体組成は、除脂肪除骨塩量のDXA測定、磁気共鳴画像法(MRI)によって得られる肝脂肪率(Mashood et al.J Magn Reson Imaging.2013;37(6):1359-1370)及び/又は皮下及び腹部内臓脂肪組織(Fallah et al.MAGMA.2017;30(2):139-151)によって判定され得る。一部の実施形態では、本明細書に記載される組合せ療法及び補助療法は、対象の代謝状態の変化をもたらし得る(Garito et al.Diabetes Obes Metab.2018;20(1):94-102;Goyal et al.N Am J Med Sci.2012;4(4):180-184;Rossi et al.Obesity(Silver Spring).2011;19(9):1747-1754)。一部の実施形態では、対象の代謝状態は、代謝バイオマーカーを使用して判定され得、かかるマーカーの非限定的な例については、例えば、Robberecht et al.,Metab Syndr Relat Disord.2016 Mar;14(2):47-93及びBelhayara et al.,Nutrients.2020 Mar;12(3):727(これらの各々は、全体として参照により本明細書に援用される)に考察されている。一部の実施形態では、対象の代謝状態は、血清脂質レベル、高感度C反応性タンパク質レベル、インターロイキン6レベル、レプチンレベル、アディポネクチンレベル及び血圧を含め、対象の心血管リスク要因に基づいて判定され得る。一部の実施形態では、本明細書に記載される組合せ療法及び補助療法は、対象の身体能力の変化をもたらし得る。一部の実施形態では、対象の身体能力は、ダイナモメトリーにより握力を測定することによって判定され得る(Rooks et al.J AmGeriatr Soc.2017;65(9):1988-1995)。
【0406】
以下の例によって本発明を更に説明するが、これらの例は、決して限定することを意図するものではない。本願全体を通して引用される全ての参考文献、特許及び公開特許出願の内容の全て並びに図及び配列表は、参照により本明細書に援用される。
【実施例
【0407】
本明細書において、本開示の幾つかの実施形態を記載し、説明したが、当業者は、本明細書に記載される結果及び/又は利点の1つ以上の達成のために、他の種々の手段及び/又は構造を容易に想定するであろうと共に、かかる変形形態及び/又は改良形態は、それぞれ本開示の範囲内にあると見なされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載されるパラメータ、寸法、材料及び構成が全て例示的であるものと意図され、実際のパラメータ、寸法、材料及び/又は構成が、本開示の教示が使用される具体的な1つ又は複数の適用に依存するであろうことを容易に理解するであろう。当業者は、本明細書に記載される本開示の具体的な実施形態の多くの均等物を認識するか、又はルーチン程度に過ぎない実験を用いて確かめることができるであろう。従って、前述の実施形態が単に例として提示されていること及び添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内において、具体的に記載され、特許請求されるのと別様に本開示を実施し得ることが理解されるべきである。本開示は、本明細書に記載される各個別の特徴、システム、物品、材料及び/又は方法に関する。加えて、2つ以上のかかる特徴、システム、物品、材料及び/又は方法の任意の組合せは、かかる特徴、システム、物品、材料及び/又は方法が互いに矛盾しない場合、本開示の範囲内に包含される。
【0408】
実施例1:食餌誘発性肥満モデルにおけるカロリー制限と組み合わせたミオスタチン阻害の効果
肥満及び糖尿病などの代謝障害は、その症状の重症度に低減が認められ得る点でカロリー消費量の低減から利益を受け得る。しかしながら、超低カロリーダイエットは実際的でなく、患者が管理するのは困難である。その上、減量の実質的な部分は脂肪よりむしろ除脂肪筋肉であり、減量分の約25%が筋肉であるとの推定を示すものもあるが、これは、一層急激な減量に関連して、身体の代謝的適応によって更に複雑化して、33%もの高さに上り得る。基礎代謝率は典型的には、身体のカロリー不足を償うため減退する。このように基礎代謝率が下がることに伴い、個体はカロリー収支を中立に留めるため、カロリー摂取量の低減及び身体活動量の増加を継続する必要があり得る。
【0409】
ミオスタチン阻害の筋肉増強効果及び/又は筋肉保全効果が減量中の筋肉の喪失をなくし得る又は低減し得るかどうかを決定するため、食餌誘発性肥満(DIO)を有するマウス高脂肪食を給餌しておいた後、マウスにカロリー低減ダイエットと共にAb2を投与するという研究を実施した。
【0410】
雄C57BL/6 DIOマウス(n=55)を、60%脂肪を含む高脂肪食(HFD)で12週間管理した。研究-2日目に全ての動物を秤量し、J Body Compos Res.2009;7(2):67-72に記載される方法に従ってqNMR技法を用いて全身除脂肪量を判定した。体重及び除脂肪体重に関して有意差のないコホートが生成されるような方法で個々の動物を治療群に割り付けた。12週間の高脂肪食後、動物を5群に分け、本研究期間中、表7に示されるとおりに給餌した。群1、対照群には、高脂肪食を給餌した;本研究中、これらのマウスは自由に食べることが許され、抗体の投与は受けなかった。群2及び3には、群1の量の70%を与え(30%のカロリー低減(CR))、且つ群4~5には群1の量の80%を与えた(20%のCR)。食物消費量を毎日定量的に測定した。群2及び4には陰性対照抗体(「IgG」)を投与し、群3及び5にはミオスタチン阻害剤Ab2を投与した。それぞれ腹腔内(i.p.)注射で週1回投与した。投与初日を1日目に指定した。
【0411】
【表18】
【0412】
個々の動物の体重を、研究-2日目に開始して週3回測定した。-2、14、29及び44日目に体組成分析を実施した。予定日に動物をそのホームケージから取り出し、体組成分析機(Bruker NMR LF90II)と適合するプラスチック製の拘束具に入れた。拘束具をBruker NMRに入れ、体組成を判定し、且つ動物をそのホームケージに戻した。動物を拘束具に維持するのは、5分以内とした。
【0413】
研究42日目、動物は、一晩の絶食を開始した。43日目、全ての動物で血糖値測定器(Abbott Alpha Trak)によって空腹時血中グルコースレベルを確かめ、全ての動物で市販のHbA1cリーダーによって空腹時HbA1cレベルを確かめた。
【0414】
研究終了時(44日目)に全血試料(終末相の入手可能な最大容積)を心内穿刺によるか又は血清分離管内に採取した。血液試料は、採取後に周囲温度に30分間維持し、次に採取から90分以内に血清に処理した。試料を冷却遠心機(4℃の温度を維持するように設定した)にて1200×gで10分間遠心した。得られた血清を分離し、トリグリセリド、コレステロール及びインスリンに関して分析した。各動物の全体重を収集し、肝臓、鼠径脂肪パッド(両側)及びふくらはぎの筋肉(腓腹筋及びヒラメ筋、両側)を採取し、分析のために凍結した。
【0415】
結果を図1に示す。全身測定によれば、高脂肪食をアドリブ給餌した動物を除き、全動物中全てが本研究で減量した。最も高い減量率は、群2(30%CR、陰性対照抗体)及び群3(30%CR、Ab2)で観察された(図1A)。qNMRによる除脂肪量単独から判断すると、最も高い筋喪失率が群2(30%CR、陰性対照抗体)及び群4(20%CR、陰性対照抗体)で観測されたことから、ミオスタチン阻害剤Ab2を投与すると、対照と比較して、時間が経過しても一部の除脂肪筋量が保たれたことが示される(図1B)。20%CR及び30%CRの両方のコホートとも、Ab2を投与すると、対照IgGの投与と比較して筋喪失率が低くなった。図1Aの右側のパネルを図1Bと比較すると、カロリー制限ダイエット中にあるとき、抗ミオスタチン治療により、筋量の喪失が対照と比較して少なくなったことが示される。
【0416】
図1Cは、ベースラインと比較した、44日目の除脂肪量重量のパーセント変化率の比較を示す。20%又は30%カロリー制限のいずれの条件下においても、除脂肪量の喪失率はAb2によって高度に有意に小さくなった(p<0.0001)。図1D(腓腹筋重量、左右腓腹筋の平均(「腓腹筋」)は、30%CRコホートにおいてさえ、時間が経っても腓腹筋量が減少しなかったことを示している。これは、ミオスタチン阻害がカロリー制限中の筋喪失を防ぐものであるという更なるエビデンスを提供する。図1Eは、これらの同じ腓腹筋についての、カロリー制限中だがIgG対照の投与を受ける対照マウスの腓腹筋重量と比較した差のパーセントを示す。同様に、抗ミオスタチン抗体で治療すると、IgG対照と比較して腓腹筋重量が高度に有意に保たれた(群5(20%CR+Ab2)についてp<0.0001;群3(30%CR+Ab2)についてp=0.0002)。
【0417】
注目すべきことに、20%カロリー制限してAb2で治療した動物(群5)は、IgG対照の投与を受けた動物(群4)と比較して、qNMRにより測定した、時間の経過に伴う体脂肪量の減少率の有意な増加を示した(図1F及び図1G)。左右鼠径脂肪パッドの平均重量を測定することにより、同様の結果が得られた(図1H)。興味深いことに、Ab2は、両方のCRコホートで除脂肪量を維持することを促進した一方、時間の経過に伴う体脂肪量の減少率について30%コホートにおいて群2と群3との間で有意差は見られなかったが、これは、恐らく、このコホートでは減量が急速であったため、Ab2が30%のカロリー低減との相加効果を及ぼすことができなかったことが理由である。
【0418】
血中グルコース、インスリン又はHbA1Cについて、群間の差は観察されなかった。加えて、Ab2は肝重量、トリグリセリドレベル又はコレステロールレベルに影響を及ぼさなかった(図示せず)。
【0419】
研究終了時、20%コホートのマウスにおいて、ある種の代謝マーカーの血清レベルを測定した。群1、群4及び群5からの10マイクロリットルの血清試料について、摂食を受けて空腹感を低減するために放出されるもの(レプチン、ペプチドYY、コレシストキニン、GLP-1)及び胃排出時に増加するもの(グレリン)並びにアミリン、GIP、インスリン及び膵ペプチドなど、減量に伴う食欲変化のホルモン制御因子を測定するMilliplex(登録商標)マウス消化管ホルモン磁気ビーズパネル(カタログ番号MGTMAG-78K、EMD Millipore)を使用してデュプリケートで分析した。
【0420】
図1Iに示されるとおり(左側のパネル)、レプチンレベルは、群5(20%CR+Ab2)の動物において群4(20%CR+IgG)及び群1(高脂肪食アドリブ)の動物と比較して22%減少した。レプチンは脂肪細胞によって産生されるため、これは、群5の動物における対照群と比較した体脂肪量の減少によりレプチン産生細胞数が少なくなったことに起因し得るか、及び/又は群5の動物では対照群と比較して増えた筋量からの代謝要求が高くなったことに起因し得る。結果を脂肪の割合で正規化すると、Ab2はレプチンに何ら効果を及ぼさなかった 図1I(右側のパネル)。
【0421】
この研究では、ミオスタチン阻害剤を低カロリーダイエットと併せると、筋萎縮及び筋喪失を防ぎ、より多くの体脂肪量を喪失させることによる有益な効果がある可能性が実証された。
【0422】
実施例2:食餌誘発性肥満モデルにおいてミオスタチン阻害剤及びGLP-1類似体が体重、体組成及び肝脂質含有量に及ぼす効果
エビデンスから、GLP-1経路活性化により、血中グルコース調節、膵β細胞機能、減量及びインスリン感受性が改善し得ることが示唆される(例えば、Drugs Context.2015;4:212283を参照されたい)。体脂肪量が失われる一方でミオスタチン阻害剤(Ab2)が除脂肪筋肉を保つ能力を更に評価するため、ミオスタチン阻害剤をGLP-1経路活性化剤リラグルチド(GLP-1類似体)と併せて投与する研究を設計した。初めに、体重の%変化率に関するとおりの、18日間用量決定研究をC57BL/6NTac DIOマウスにおいて実施して、表8に示されるとおりの、このマウスモデルにおけるリラグルチドについての有用な治療用量ウィンドウを決定した。図2Aは、18日間研究で観察された用量比例的な体重変化を示している。
【0423】
この研究には、それがコリン欠乏性L-アミノ酸限定高脂肪食(CD-HFD)誘発性非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の非臨床薬理学試験に一般に認められているげっ歯類種であることに伴い、C57BL/6NTac DIO(食餌誘発性肥満)マウスモデルを選択した。80匹の16週齢雄マウスに、そのカロリーの60%が脂肪由来である食餌を与えた。この食餌を6~8週間継続した後、研究を開始した;及び動物は、体重、トリグリセリド、インスリン抵抗性及びグルコース不耐性の増加を実証した。
【0424】
本研究全体を通して全てのマウスについて高脂肪食を継続し、対照抗体mIgG1又はAb2のいずれかを与えた。-2日目、動物を秤量し、-2日目に記録されたとおりの体重に関して有意差がない群が生成されるような方法で治療群に割り付けた(群1~8)。
【0425】
治療群1~8(各5匹のマウス)を表8に示す。
【0426】
【表19】
【0427】
マウスには、対照抗体mIgG1又はAb2を腹腔内注射によって週1回与えた。リラグルチドは毎日皮下投与した。
【0428】
1日目(用量投与前)、qNMRにより体組成を測定した。体組成分析機Bruker NMR LF90IIに適合するプラスチック製の拘束具にマウスを入れ、体組成を判定した。体組成分析は、研究15日目及び28日目にも実施した。研究28日目におけるリラグルチドの用量投与前、全ての動物について非絶食時血中グルコースを調べた。約5~10μLの血液を採取し、手持ち式血糖値測定器(Abbot Alpha Trak)を使用して血中グルコースレベルを測定した。研究終了時、心穿刺によって血液を採取した。全ての群について左右腓腹筋(ヒラメ筋まるごと)を採取し、秤量した。左鼠径脂肪パッドを採取し、秤量した。肝臓全体を採取、ブロット及び秤量し、右側葉を組織学的分析のために3mm厚さの切片に切り出した。
【0429】
図2B図2Gに結果を示す。図2Bは、ベースラインからの体重変化率を示す。0.1mg/kgリラグルチド+Ab2の投与を受けた群8の動物では、対照抗体の投与を受けた群7の動物と比較して有意な量の体重が失われた(p=0.0065;図2B)。Ab2及び0.06mg/kgのリラグルチドの投与を受けた群6の動物は、Ab2の代わりにIgGの投与を受けた対照群5の動物と比較して増量率が大きかった(図2B)。これらの動物で観察される増量は、筋量の増加に起因した可能性がある。実際、図2Cに見られるとおり、Ab2で治療した全てのマウスが、IgG対照で治療したマウスと比較して除脂肪量の変化率の有意な増加を示しており、従ってAb2がリラグルチド単独よりも良好に除脂肪量を維持したことが実証される。
【0430】
図2Dは、動物をAb2及びリラグルチドの両方で治療することによる腓腹筋への効果を実証している。予想どおり、単独で投与したとき、Ab2により筋量が有意に増加した(p<0.0001)。0.06mg/kgの用量のリラグルチドで治療したマウスでは、対照IgG抗体を投与したとき腓腹筋量が失われた。しかしながら、Ab2で治療したとき、それらのマウスが筋量の増加を示した。Ab2治療マウスと対照マウスとの間の腓腹筋量の差は、高度に有意であった(p<0.006)。
【0431】
除脂肪量増加の観察によれば、Ab2及びリラグルチドの両方の投与を受けた動物(群4、6及び8)は、対照抗体の投与を受けた動物と比較して体脂肪量の増量が少なかった。リラグルチドの最も高い試験用量では、ミオスタチン阻害剤Ab2をGLP-1Rアゴニストリラグルチドと併せて治療した動物は、高脂肪食をなおも継続中ながら、本研究の全経過にわたって実に減量した。この効果は、qNMRにより測定された、全体的な体脂肪量のベースラインからのパーセント変化率(図2E)及び鼠径脂肪パッドの重量のパーセント変化率(図2F)の両方で観察された。IgG対照による治療と比較して、Ab2による治療によって体脂肪量が有意に低下し(p<0.0001)、鼠径脂肪パッド重量が有意に低下した(p<0.04)。
【0432】
要約すれば、ミオスタチン経路の阻害剤及びGLP-1経路の活性化剤を投与すると、肥満に対する強力で有益な効果がもたらされた。GLP-1経路活性化剤で治療した高脂肪食を継続中の動物において、ミオスタチン阻害剤により減量が亢進した。ミオスタチン阻害剤により、試験したGLP-1経路活性化剤の全用量範囲で、腓腹筋量を含めた除脂肪筋量も維持されるか又は増加した。ミオスタチン阻害剤は、漸増用量のGLP-1経路活性化剤による体脂肪量の減量を補助した。
【0433】
マウスの肝臓を組織学のために切片化し、ヘマトキシリン・エオシンで染色し、且つNakano et al.,J Clin Exp Hepatol.2015 Sep;5(3):190-8に記載される方法に従って脂質組成を決定した(ここでは組織切片の未染色の部分が肝臓の脂肪滴に対応する)。結果を図2Gに示す。mIgG1と組み合わせたか又はAb2と組み合わせたかに関係なく、リラグルチドで治療したマウスにおいて肝臓の脂肪滴の用量依存的減少が見られた。これらの結果は、DIOマウスモデルでは、肝臓の脂肪滴を減少させるにはリラグルチド単独が十分であり、Ab2には、脂肪滴数を更に減少させる相加効果はなかったことを示唆している。理論によって拘束されることを望むものではないが、これらの効果はモデル依存的又は種依存的である可能性がある。
【0434】
実施例3:食餌誘発性肥満モデルにおいてミオスタチン阻害剤がエネルギー消費量に及ぼす効果
実験1
体重約42gのC57BL6/J DIOマウスで60%脂肪を含む高脂肪食を10週間継続した後、本研究を開始し、次に、(1)高脂肪食で治療なし;(2)カロリーを30%低減した高脂肪食;及び(3)カロリーを30%低減した高脂肪食及び20mg/kgのミオスタチン阻害抗体Ab2で週1回治療、の3群に分割した。エネルギー消費量は、Oxymax for Windowsを使用して計算した。24時間周期で25~40分毎にO2及びCO2測定値を取り、未加工のデータ測定値を使用してAUC値を計算した。
【0435】
本研究全体を通してマウスの体重を記録した(n=10)。ベースライン時及び本研究全体を通した複数の時点で除脂肪筋量及び体脂肪量をqNMRにより測定した。研究終了時、即ち44日目に鼠径脂肪パッド重量を記録した。
【0436】
群3の動物では、その体脂肪量の約50%及びその除脂肪量の約15%が失われ、本研究中は積極的な減量期にあった。上記に示した結果と一致して、カロリー制限した動物では、体脂肪量及び除脂肪量の両方が失われた。エネルギー消費量は熱として測定され、熱と消費された酸素容積との間の関係である「発熱量」(CV)として表すことができる。これは経験的な値から導き出され、The Elements of the Science of Nutrition,Grahm Luskの式11、CV=3.815+1.232+RERに基づく。次に、小型~中型の非反芻動物に標準的な式:熱=CV+VO2に従い、対象の酸素消費速度を使用してエネルギー消費速度を計算した。
【0437】
代謝ケージにおいて24時間の時点で酸素消費量(VO)を測定することにより、全エネルギー消費量(TEE)を決定した。TEEは、VOを体重で除すことにより計算することができる。しかしながら、除脂肪量の方が、代謝的に活性が高いため、除脂肪量及び体脂肪量がTEEに等しく寄与するわけではない。
【0438】
図3Aは、ml/分で表した30%カロリー制限した動物のVOを示す(データは体重又は除脂肪量で正規化していない)。このカロリー低減により、カロリー制限しなかった高脂肪食の動物と比較してVOが下がった(p=0.0003)。Ab2による治療により、カロリー制限した動物において、対照抗体を与えたカロリー制限動物と比較してVOが増加した(p=0.0121)。図3Aに示されるデータを体重で正規化すると、カロリー低減単独によってVOが増加することが見て分かり(p=0.004)、Ab2で治療すると、高脂肪食の動物と比較してVOは、更に増加する(p<0.0001)(図3B)。図3Aに示されるデータを除脂肪量で正規化したとき(図3C)、結果からは、Ab2で治療した動物で体重の劇的な減量(約50%の減量)があったにもかかわらず、VOレベルが維持されたことが示された。同様の変化は、マウスで測定したVCOレベルでも観察された(データは示さず)。
【0439】
図3Dに示されるとおり、Ab2による治療により、30%カロリー制限した動物において、未治療のカロリー制限動物と比較して(p=0.0121)、曲線下面積(AUC)として測定されるエネルギー消費量が増加した。エネルギー消費量は、Oxymax for Windowsを使用して計算した。24時間周期で25~40分毎にO及びCO測定値を取り、未加工のデータ測定値を使用してAUC値を計算した。ミオスタチン阻害剤によるエネルギー消費量の増加は、恐らくはミオスタチン阻害が除脂肪量を保つ作用に起因した、酸素消費量の増加に起因するものであった。
【0440】
呼吸交換比(RER)は、代謝によるCO産生量とO取込み量との間の比である。低いRERは、脂肪が主な燃料源であることを示しており、高いRERは、炭水化物が主な燃料源であることを示している。図3Eは、カロリー制限によりRERが下がり、これは、カロリー制限により燃料源としての脂質酸化が増加したことを示している一方、ミオスタチン阻害によりRERは変化しないままであり、即ちVOとVCOとの等しい変化が観察されたことを示している。
【0441】
要約すれば、30%カロリー制限したマウスでは、Ab2ミオスタチン阻害剤によってVO消費量、VCO排出量及び全エネルギー消費量が増加した。除脂肪量で正規化したときVO又はVCOの変化は観察されなかったが、これは、観察された増加が、筋量の多さによる代謝要求量の増加に起因することを示している。カロリー制限したマウスでは、抗体治療によってRERは変化しなかったが、これは、燃料種別の利用能、即ち脂質又は炭水化物に特異的なミオスタチン阻害による影響がなかったことを示している。
【0442】
実験2
体重約36gのC57BL/6/DIOマウスで60%脂肪を含む高脂肪食を14週間継続した後、本研究を開始し、次に(1)高脂肪食をアドリブ給餌;(2)20%カロリーを低減した高脂肪食を給餌及び週1回20mg/kgのプラセボ対照モノクローナルIgGで治療;及び(3)20%カロリーを低減した高脂肪食を給餌及び週1回20mg/kgのミオスタチン阻害抗体Ab2で治療、の各10匹のマウスの3群に分割した。マウスは対照IgG抗体又はAb2で6週間治療した。体重を週3回測定し、0週目及び2、4及び6週目の投与前に体組成をqNMRにより測定した。研究終了時、動物を代謝ケージに72時間入れた。最初の24時間は動物を代謝ケージに順化させておき、それに続いて次の48時間に代謝ケージデータを収集した。次に左右腓腹筋を秤量し、左腓腹筋を急速凍結した。鼠径脂肪パッドを秤量し、左鼠径脂肪パッドを急速凍結した。
【0443】
1日の摂取カロリーが20%少なかったマウスでは、体重、脂肪及び除脂肪量が失われた。減量の大きさ又は体重変化率について、カロリー制限マウスにおけるAb2による治療と対照IgGによる治療との間に有意差はなかった。実験2のマウスは実験1と比較して軽い体重で開始し、実験2のこれらのマウスの体重は速くプラトーに達した(図4)。従って、実験2は、減量がプラトーに達した段階又は平衡した段階で行われた。
【0444】
20%カロリー制限した動物では、ミオスタチン阻害剤Ab2により、qNMRによって測定した除脂肪体重が保たれた。図5Aに示されるとおり、高脂肪食をアドリブ給餌した動物では除脂肪体重が増加し、カロリー制限した動物では低下した。上記に提示した結果と一致して、抗ミオスタチン抗体により除脂肪体重が保たれた。図5Bは、ベースライン量からの変化として表した同じデータを示す。抗ミオスタチン抗体Ab2で治療した動物は、対照抗体で治療した動物よりも除脂肪量の喪失が有意に少なかった。
【0445】
ミオスタチン阻害剤Ab2によっては、20%カロリー制限した動物において腓腹筋重量も増加した。図5Cに示されるとおり、Ab2で治療した動物では、対照抗体で治療したものと比較して腓腹筋重量が増加した。図5Dは、ベースライン量からの変化として表した同じデータを示す。対照抗体で治療したカロリー制限動物では腓腹筋重量が失われた一方、Ab2で治療したカロリー制限動物では腓腹筋重量が増大した。
【0446】
20%カロリー制限した動物において、ミオスタチン阻害剤Ab2により、対照抗体で治療したマウスと比較して酸素消費量及び二酸化炭素排出量により測定されるエネルギー消費量が低下した。対照抗体は、カロリー制限しなかった動物と比較して、O消費量又はCO排出量のいずれにも影響を及ぼさなかった。図5Eは、曲線下面積により測定して除脂肪量で正規化したときのそれらの低下を示す。
【0447】
曲線下面積データは、Ab2によりエネルギー排出量が低下したことを示しているが、詳細な時間分析によれば、エネルギー消費量はカロリー制限動物におけるAb2による治療と対照抗体による治療との間で同様であったことが示唆された。図5Fは、マウスが代謝ケージで過ごした72時間の全経過にわたる時間の関数としての平均呼吸交換比を示す。カロリー制限しなかったマウスと比較して、カロリー制限したマウスは、夜間と昼間との間で周期性を示す顕著な概日リズムを呈した。Ab2で治療したマウスと対照抗体を投与したマウスとの間で差は検出されなかった。
【0448】
マウスが代謝ケージ内の赤外線ビームを通り越えた回数を測定することにより、マウスの身体活動レベルを決定した。72時間の期間中、Ab2で治療したマウスの身体活動量は、対照抗体で治療したマウスの身体活動量と比較して、全72時間にわたってケージ内での活動量の増加傾向を示した。この身体活動量の増加傾向は、カロリー制限しなかったマウスと比較したときにも明らかであった(図5G)。Ab2治療マウスのこの活動量増加傾向は、夜間及び昼間の両方で観察された。
【0449】
予想どおり、20%のカロリー制限は、体脂肪量の有意な低減につながった。ベースラインからのパーセント体脂肪量変化率、脂肪パッド重量及び鼠径脂肪パッドのパーセント変化率として測定したとき(図6)、Ab2で治療した動物は、対照抗体で治療した動物と比較して、の体脂肪量の減量傾向を示した。
【0450】
図7は、20%カロリー制限して、ミオスタチン阻害剤抗体Ab2又は対照抗体のいずれかで治療したマウスのエネルギー消費パラメータを示す。Ab2により、20%カロリー制限マウスのエネルギー消費量が低下し、呼吸交換比への効果はほとんど又は全くなかった。
【0451】
要約すれば、実験2は、ミオスタチン阻害抗体Ab2が除脂肪量を維持する能力を実証した。中程度に(20%)カロリー制限した動物では、ミオスタチン阻害は除脂肪量の維持を補助したが、対照抗体と比較して体重を劇的に低減させないが、体脂肪量の低減傾向が観察された。治療した動物は、活動量が高くなる傾向を示した。実験1と実験2との間の1つの違いは、実験1の動物が30%カロリー制限に供され、実験2の動物が20%カロリー制限に供されたことである。実験2と実験1との間のもう1つの違いは、実験2が体重の安定した(即ち積極的な減量期でない)動物を使用した一方、実験1は、積極的な減量中である動物を使用した。従って、実験2で測定されたパラメータ、例えばエネルギー消費量は、積極的な減量中に測定された実験1で測定されたパラメータとは対照的に、体重維持中に測定された。
【0452】
ミオスタチン阻害抗体による治療では、20%及び30%カロリー制限した動物において除脂肪量が保たれた。ミオスタチン阻害抗体による治療により、20%カロリー制限した動物では体脂肪量の減量が増加したが、30%カロリー制限した動物では増加せず、このうちの後者は、積極的減量段階にあり、極端なカロリー制限下に置かれていた。これらの結果は、ミオスタチン阻害がカロリー制限下での除脂肪量の維持を補助し、中程度のカロリー制限下での追加的な脂肪減量を補助することを実証している。
【0453】
ミオスタチン阻害剤は、ダイエット中の筋喪失を予防することにより、基礎代謝率の代償的な下落を筋量の維持によって阻止することを促進した。結論として、ミオスタチン阻害剤による治療では、DIOマウスにおいて中程度のダイエットと組み合わせたとき筋肉が保たれる。
【0454】
本発明の特定の実施形態
1.対象の肥満又は過体重の治療における体重管理のための組合せ療法としての使用のためのミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤であって、この治療は、肥満又は過体重を治療するための対象への有効量のミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤の投与を含み、任意選択で、対象は、少なくとも1つの体重関連病態を有する、ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤。
【0455】
2.ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、単一の製剤中に製剤化されるか、又はミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、単一の分子構築物の一部である、実施形態1に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤。
【0456】
3.ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、個別の製剤中に製剤化される、実施形態1に記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤。
【0457】
4.対象は、カロリー制限ダイエット中である、実施形態1~3のいずれか1つに記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0458】
5.対象は、運動レジメン中である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0459】
6.ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤は、ミオスタチン選択的阻害剤であり、任意選択で、ミオスタチン選択的阻害剤は、アピテグロマブ、トレボグルマブ、GYM329又はMST1032変異体であり、更に、任意選択で、変異体は、FcRnに対する親和性を増加させる1つ以上の突然変異を含むFc変異体である、実施形態1~5のいずれか1つに記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0460】
7.ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤は、アピテグロマブ、トレボグルマブ、GYM329又はMST1032変異体と競合又は交差競合するミオスタチン選択的阻害剤である、実施形態1~5のいずれか1つに記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0461】
8.ミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤は、非選択的ミオスタチン阻害剤であり、任意選択で、非選択的ミオスタチン阻害剤は、アクチビンA及び/又はGDF11も阻害する、実施形態1~7のいずれか1つに記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0462】
9.非選択的ミオスタチン阻害剤は、リガンドトラップ(例えば、ACE-031、ACE-083及びBIIB-110/ALG-801);抗ActRIIb(例えば、ビマグルマブ);成熟ミオスタチンに結合する中和抗体(例えば、スタムルマブ(MYO-029)、ドマグロズマブ(PF-06252616)、ランドグロズマブ(LY2495655)、AMG-745/PINTA-745(ミオスタチンペプチボディ)、RG6206(抗ミオスタチンアドネクチン、これはフィブロネクチンの一本鎖融合タンパク質含有ドメインである)又はBMS-986089(タルデフグロベプアルファとしても知られる抗ミオスタチンアドネクチン)である、実施形態8に記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0463】
10.GLP-1シグナル伝達経路の活性化剤は、GLP-1受容体アゴニストであり、任意選択で、GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1類似体であり、更に、任意選択で、GLP-1類似体は、セマグルチド、エクセナチドER、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382、デュラグルチド又はアルビグルチドである、実施形態1~9のいずれか1つに記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0464】
11.対象は、25以上のBMIを有する成人対象であり、任意選択で、対象は、CDC成長曲線上で85パーセンタイル値以上のBMIを有する、年齢2~19歳(例えば、12歳以上、例えば12~17歳)の小児若しくは青年である、実施形態1~10のいずれか1つに記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0465】
12.対象は、肥満、過体重又は体重関連病態に対する別の療法を受けたが、意図される臨床アウトカムを達成できなかった、実施形態1~11のいずれか1つに記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0466】
13.前記別の療法は、GLP-1経路活性化剤であり、任意選択で、GLP-1経路活性化剤は、GLP-1類似体、メトホルミン、スルホニル尿素又はFGF2又はそれから誘導されるペプチドである、実施形態12に記載の使用のためのミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及びGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0467】
14.意図される臨床アウトカムは、前記別の療法による治療前のベースライン体重と比較して少なくとも5%又は10%の体重の減少であり、任意選択で、対象は、体重管理の一部としてのダイエットレジメン及び/又は運動レジメンを実施又は継続できなかった、実施形態12又は13に記載のミオスタチンシグナル伝達経路の阻害剤及び/又はGLP-1シグナル伝達経路の活性化剤。
【0468】
15.ミオスタチン経路阻害剤は、KALDEN(配列番号118)及び/又はFVQILRLIKPMKDGTRYTGIRSLK(配列番号57)の1つ以上のアミノ酸残基を含むエピトープに結合する抗体又はその抗原結合断片であり、この抗体又は抗原結合断片は、抗原結合に関してアピテグロマブと交差競合し;任意選択で、抗体又は抗原結合断片は、配列番号10と比較して最大で2つのアミノ酸配列を有するHCDR3配列を含み、更に、任意選択で、抗体又は抗原結合断片は、アミノ酸位置3位にロイシン及びアミノ酸位置9位にトリプトファン(配列番号10に基づいて番号付けしたとき)を含むHCDR3配列を含む、実施形態1~14のいずれか1つに記載の使用のためのミオスタチン経路阻害剤及び/又はGLP-1経路活性化剤。
【0469】
16.対象の肥満又は過体重の治療における体重管理の補助療法としての使用のためのミオスタチン経路阻害剤であって、この治療は、肥満又は過体重を治療するための有効量のミオスタチン経路阻害剤の投与を含み、対象は、GLP-1経路活性化剤で治療され、任意選択で、対象は、少なくとも1つの体重関連病態を有する、ミオスタチン経路阻害剤。
【0470】
17.対象の肥満又は過体重の治療における体重管理の補助療法としての使用のためのGLP-1経路活性化剤であって、この治療は、肥満又は過体重を治療するための有効量のGLP-1経路活性化剤の投与を含み、対象は、ミオスタチン経路阻害剤で治療され、任意選択で、対象は、少なくとも1つの体重関連病態を有する、GLP-1経路活性化剤。
【0471】
18.対象の肥満又は過体重の治療における使用のためのミオスタチン経路阻害剤であって、この治療は、肥満又は過体重を治療するための有効量のミオスタチン経路阻害剤の投与を含む、ミオスタチン経路阻害剤。
【0472】
19.対象の肥満に関連する2型真性糖尿病の治療における使用のためのミオスタチン経路阻害剤であって、この治療は、肥満に関連する2型真性糖尿病を治療するための有効量のミオスタチン経路阻害剤の投与を含む、ミオスタチン経路阻害剤。
【0473】
20.代謝障害を有する哺乳類対象の治療方法であって、対象にミオスタチン経路阻害剤(例えば、ミオスタチン阻害剤、例えばミオスタチン選択的阻害剤)及びGLP-1経路活性化剤を投与することを含む方法において、ミオスタチン阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、代謝障害を治療するのに十分な量で投与される、方法。
【0474】
21.ミオスタチン経路阻害剤及びGLP-1経路活性化剤は、逐次投与、並行投与又は同時投与される、実施形態20に記載の方法。
【0475】
22.代謝障害を有し、GLP-1経路活性化剤の投与を受けている哺乳類対象を治療する方法であって、代謝障害を治療するのに十分な量のミオスタチン経路阻害剤を対象に投与することを含む方法。
【0476】
23.代謝障害は、肥満、2型真性糖尿病又は肥満に関連する2型真性糖尿病であるか又はそれを含む、実施形態20~22のいずれか1つに記載の方法。
【0477】
24.代謝障害は、肥満である、実施形態20~23のいずれか1つに記載の方法。
【0478】
25.代謝障害は、2型糖尿病、任意選択で肥満に関連する2型糖尿病である、実施形態20~24のいずれか1つに記載の方法。
【0479】
26.糖尿病は、インスリン抵抗性である、実施形態20~25のいずれか1つに記載の方法。
【0480】
27.対象は、2型糖尿病を発症するリスクがある、実施形態20~26のいずれか1つに記載の方法。
【0481】
28.対象は、25より大きいボディマスインデックス(BMI)を有する、実施形態20~27のいずれか1つに記載の方法。
【0482】
29.対象は、端点を含めて28~40のボディマスインデックス(BMI)を有する、実施形態20~28のいずれか1つに記載の方法。
【0483】
30.対象は、中心性脂肪蓄積、血中トリグリセリド高値、高血圧、腹部の多量のぜい肉、高血糖、6%以上(例えば、6.5%~10%)のヘモグロビンA1c(HbA1c)及び高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール低値の1つ以上を有する、実施形態20~29のいずれか1つに記載の方法。
【0484】
31.ミオスタチン阻害剤は、スタムルマブ、トレボグルマブ、LY2495655、AMG 745、ビマグルマブ、BIIB-110;ドマグロズマブ、アピテグロマブ、MS1032LO19、GYM329、タルデフグロベプアルファ又はエフミテルマントアルファを含む、実施形態20~30のいずれか1つに記載の方法。
【0485】
32.ミオスタチン阻害剤は、選択的ミオスタチン阻害剤である、実施形態20~31のいずれか1つに記載の方法。
【0486】
33.ミオスタチン阻害剤は、プロ及び/又は潜在型ミオスタチンに結合する抗体又はその抗原結合断片であり、任意選択で、抗体は、アピテグロマブ、GYM329又はMST1032変異体である、実施形態1~30又は32のいずれか1つに記載の方法。
【0487】
34.ミオスタチン阻害剤は、成熟ミオスタチンに結合しない抗体又はその抗原結合断片である、実施形態31又は32に記載の方法。
【0488】
35.ミオスタチン阻害剤は、成熟ミオスタチンに結合する抗体又はその抗原結合断片であり、任意選択で、抗体は、トレボグルマブ、その断片又は変異体である、実施形態31又は32に記載の方法。
【0489】
36.抗体又はその抗原結合断片は、GDF11、アクチビンA又は他のTGFβファミリーメンバーに結合しない、実施形態31又は32に記載の方法。
【0490】
37.GLP-1経路活性化剤は、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤である、実施形態20~36のいずれか1つに記載の方法。
【0491】
38.GLP-1経路活性化剤は、環状アデノシン一リン酸(cAMP)活性化剤である、実施形態20~36のいずれか1つに記載の方法。
【0492】
39.GLP-1経路活性化剤は、プロテインキナーゼA(PKA)又はcAMPによって活性化される交換タンパク質(EPAC)活性化剤である、実施形態20~36のいずれか1つに記載の方法。
【0493】
40.GLP-1経路活性化剤は、cAMP応答エレメント結合(CREB)活性化剤である、実施形態20~36のいずれか1つに記載の方法。
【0494】
41.GLP-1経路活性化剤は、EGFRアゴニストである、実施形態20~36のいずれか1つに記載の方法。
【0495】
42.GLP-1経路活性化剤は、GLP-1受容体アゴニストである、実施形態20~36のいずれか1つに記載の方法。
【0496】
43.GLP-1受容体アゴニストは、アルビグルチド、タスポグルチド、セマグルチド、エクセナチド、BPI-3016、GW002、グルタズマブ、エキセンディン-4、エクセナチド、GLP-1(7-36)NH2、エベレストマブ、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382又はデュラグルチドを含む、実施形態42に記載の方法。
【0497】
44.GLP-1受容体アゴニストは、リラグルチドである、実施形態42又は43に記載の方法。
【0498】
45.ミオスタチン阻害剤は、静脈内投与される、実施形態20~44のいずれか1つに記載の方法。
【0499】
46.ミオスタチン阻害剤は、皮下投与される、実施形態20~44のいずれか1つに記載の方法。
【0500】
47.ミオスタチン阻害剤の単独投与と比べて体脂肪量増大を予防又は低減する、実施形態20~46のいずれか1つに記載の方法。
【0501】
48.ミオスタチン阻害剤の単独投与と比べて対象の除脂肪量を安定化させるか、又は除脂肪量を増大させる、実施形態20~47のいずれか1つに記載の方法。
【0502】
49.治療前のベースライン体重と比べて体重の減少、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%の減少をもたらす、実施形態20~48のいずれか1つに記載の方法。
【0503】
50.治療前のベースラインと比べて血圧及び脈拍、リポタンパク脂質、空腹時グルコース及びインスリン(例えば、100~125mg/dLを下回る)、HbA1c(例えば、5.7%を下回る)及び/又は胴囲の1つ以上の減少をもたらす、実施形態20~49のいずれか1つに記載の方法。
【0504】
51.除脂肪筋量は、GLP-1経路活性化剤単独での治療と比べて増加する、実施形態20~50のいずれか1つに記載の方法。
【0505】
52.全脂肪量は、GLP-1経路活性化剤単独での治療と比べて減少する、実施形態20~51のいずれか1つに記載の方法。
【0506】
53.治療後の内臓脂肪量は、GLP-1経路活性化剤単独での治療と比べて減少する、実施形態20~52のいずれか1つに記載の方法。
【0507】
54.対象の血清中のトリグリセリドレベルは、治療前のベースラインと比べて減少する、実施形態20~53のいずれか1つに記載の方法。
【0508】
55.総コレステロール及び/又はLDLコレステロールは、治療前のベースラインと比べて減少する、実施形態20~54のいずれか1つに記載の方法。
【0509】
56.対象の血清中の非絶食時グルコースレベルは、治療前のベースラインと比べて減少する、実施形態20~55のいずれか1つに記載の方法。
【0510】
57.対象の血清中のインスリン感受性は、治療前のベースラインと比べて改善する、実施形態20~56のいずれか1つに記載の方法。
【0511】
58.インスリン分泌は、治療前のベースラインと比べて増加する、実施形態20~57のいずれか1つに記載の方法。
【0512】
59.対象の血清中の食後インスリンレベルは、治療前のベースラインと比べて低下する、実施形態20~58のいずれか1つに記載の方法。
【0513】
60.対象の血清中の食後グルコースレベルは、治療前のベースラインと比べて低下する、実施形態20~59のいずれか1つに記載の方法。
【0514】
61.対象の血清中の空腹時及び食後グルカゴンレベルは、治療前のベースラインと比べて低下する、実施形態20~60のいずれか1つに記載の方法。
【0515】
62.食後の胃排出は、治療前のベースラインと比べて遅延する、実施形態20~61のいずれか1つに記載の方法。
【0516】
63.心イベント、心筋梗塞、脳卒中及び心血管死亡のリスクは、減少する、実施形態20~62のいずれか1つに記載の方法。
【0517】
64.対象は、少なくとも3ヵ月間にわたってGLP-1経路活性化剤を服用中である、実施形態20~63のいずれか1つに記載の方法。
【0518】
65.対象は、少なくとも6ヵ月間にわたってGLP-1経路活性化剤を服用中である、実施形態20~64のいずれか1つに記載の方法。
【0519】
66.カロリー制限ダイエット及び/又は運動レジメンの増加を更に含む、実施形態20~65のいずれか1つに記載の方法。
【0520】
67.現在GLP-1受容体アゴニストで治療されている、任意選択でカロリー制限ダイエット中である哺乳類対象において筋喪失を治療又は予防する方法であって、対象にミオスタチン阻害剤を投与することを含む方法において、ミオスタチン阻害剤の投与により除脂肪筋喪失が低減される、方法。
【0521】
68.現在GLP-1受容体アゴニストで治療されている、任意選択でカロリー制限ダイエット中である哺乳類対象において代謝率の減少を予防する方法であって、対象にミオスタチン阻害剤を投与することを含む方法において、ミオスタチン阻害剤の投与により代謝率の減少が予防される、方法。
【0522】
69.現在GLP-1受容体アゴニストで治療されている、任意選択でカロリー制限ダイエット中である哺乳類対象において脂肪代謝を増加させる方法であって、対象にミオスタチン阻害剤を投与することを含む方法において、ミオスタチン阻害剤の投与により代謝率の減少が予防される、方法。
【0523】
70.ミオスタチン阻害剤は、スタムルマブ、トレボグルマブ、LY2495655、AMG 745、ビマグルマブ、BIIB-110;ドマグロズマブ、アピテグロマブ、MS1032LO19、GYM329、タルデフグロベプアルファ又はエフミテルマントアルファを含む、実施形態67~69のいずれか1つに記載の方法。
【0524】
71.GLP-1受容体アゴニストは、アルビグルチド、タスポグルチド、セマグルチド、エクセナチド、BPI-3016、GW002、グルタズマブ、エキセンディン-4、エクセナチド、GLP-1(7-36)NH2、エベレストマブ、リラグルチド、リキシセナチド、チルゼパチド、XW003、ノイイグルチド、MEDI0382又はデュラグルチドを含む、実施形態67~70のいずれか1つに記載の方法。
【0525】
72.GLP-1受容体アゴニストは、リラグルチドを含む、実施形態71に記載の方法。
【0526】
73.ミオスタチン阻害剤とGLP-1経路活性化剤とを含む組成物。
【0527】
74.対象の減量治療後の体重が減少した状態を維持する方法であって、選択的ミオスタチン阻害剤及びGLP-1受容体アゴニストを対象に投与することを含む方法において、投与は、対象の体重の減少を維持するか、又は体重の増加を遅らせるために減量治療に続いて行われる、方法。
【0528】
75.減量治療は、ダイエット、運動及び減量剤による治療の1つ以上を含む、実施形態74に記載の方法。
【0529】
76.減量治療は、リパーゼ阻害剤、カンナビノイド受容体1アゴニスト、メラノコルチン-4受容体アゴニスト、ニューロペプチドY2受容体アンタゴニスト、5-ヒドロキシトリプタミン2C受容体アゴニスト、グレリンアンタゴニスト、膵ペプチドYY3-36、レプチン、ジアシルグリセロールO-トランスフェラーゼ1阻害剤、ノルアドレナリン-ドーパミン-5HT再取り込み阻害剤、ブプロピオン/ナルトレキソン、ブプロピオン/ゾニサミド、トピラマート/フェンテルミン、プラムリンタイド/メトレレプチン、メラニン濃縮ホルモンアンタゴニスト、コレシストキニン阻害剤、脂肪酸シンターゼ阻害剤、アセチルCo-Aカルボキシラーゼ阻害剤、ステアロイル-CoAデサチュラーゼ阻害剤、β3アドレナリン受容体アゴニスト、ミクロゾームトリグリセリド転移タンパク質阻害剤並びにアミリン又はダバリンチド及びプラムリンタイドから選択されるアミリンアナログの1つ以上を含む、実施形態74に記載の方法。
【0530】
77.対象は、減量治療前に過体重又は肥満である、実施形態74~76のいずれか1つに記載の方法。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6
図7
【配列表】
2024524159000001.app
【国際調査報告】