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特表2024-524161室温での微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】室温での微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/72 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
G01N27/72
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578077
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2022065559
(87)【国際公開番号】W WO2022268507
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】21180597.3
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502385850
【氏名又は名称】エンベー ベカルト ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】NV Bekaert SA
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ メスプロント
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA09
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA14
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CA17
2G053CB24
2G053DA02
2G053DA09
(57)【要約】
100℃未満の温度における、熱処理された鋼線の微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイス(100)は、- 磁気センサ(102)、- 基準ユニット(104)、- 計算ユニット(106)を含む。磁気センサ(102)は、熱処理された鋼線の周囲に配置されるように適合され、且つ電磁信号を生成する第1の誘導コイル(110)と、現在の測定値として電磁信号を受信する第2の誘導コイル(112)とを含む。基準ユニット(104)は、十分に識別された室温微細構造を有する熱処理された基準鋼線サンプルの基準測定値のセットを含むか又は生成する。計算ユニット(106)は、基準鋼線からの微細構造のずれのタイプ及び大きさを返すために、現在の測定値と基準測定値との間の差をもたらすことが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃未満の温度における、熱処理された鋼線の微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイスであって、
- 磁気センサ、
- 基準ユニット、
- 計算ユニット
を含み、
前記磁気センサは、前記熱処理された鋼線の周囲に配置されるように適合され、且つ電磁信号を生成する第1の誘導コイルと、現在の測定値として電磁信号を受信する第2の誘導コイルとを含み、
前記基準ユニットは、十分に識別された室温微細構造を有する熱処理された基準鋼線サンプルの基準測定値のセットを含むか又は生成し、
計算ユニットは、前記基準鋼線からの微細構造のずれのタイプ及び大きさを返すために、前記現在の測定値と前記基準測定値との間の差をもたらすことが可能である、デバイス。
【請求項2】
前記鋼線は、強磁性微細成分のみを含有するか、又は前記鋼線は、オーステナイトを含有しない、請求項1に記載の熱処理された鋼線の微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイス。
【請求項3】
前記基準ユニットは、基準電磁信号を生成する第3の誘導コイルと、既知の微細構造の非可動基準サンプルが配置される、前記基準磁気信号を受信する第4の誘導コイルとを含む第2の磁気センサである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記基準ユニットは、データベースである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記計算ユニットは、前記現在の測定値と前記基準測定値との間の前記差から任意の微細構造のばらつきの前記大きさ及びタイプを予測するコンピュータ支援モデルである、請求項1~4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記コンピュータ支援モデルは、前記現在の測定値と前記基準測定値との間の前記差から引張強度のばらつきを予測することも可能である、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
熱処理された鋼線の微細構造のばらつきをインライン監視する方法であって、
- 熱処理されている鋼線によって生成された磁気信号を測定するステップ、
- 既知の微細構造の非可動鋼線の磁気信号を測定するステップ、
- 前記処理された線と前記非可動基準サンプルとの間の磁気信号のばらつきを比較するステップ、
- 既知の微細構造を有する線サンプルについて、磁気センサを用いて得られた測定値のセットを含むデータベースから構築されたコンピュータ支援モデルにより、微細構造のばらつきのタイプ及び大きさを計算するステップ
を含む方法。
【請求項8】
パテンティングプロセス中、パーライト鋼線におけるベイナイト及び/又はマルテンサイトの存在を検出するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項9】
パテンティングプロセス中、パーライトにおける層間隔を測定するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項10】
線焼入及び焼戻プロセスにおける焼戻中、カーバイド析出段階を測定するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項11】
線アニーリングプロセスにおいて、フェライト又はパーライトの再結晶率を監視するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理された鋼線の室温での微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼線の製造サイクル中、1つ又は複数の熱処理が必要である。各熱処理工程は、鋼線に機械的性質を与える特定の微細構造を得るように設計される。
【0003】
一例として、均質な微細パーライト微細構造は、更なる伸線工程中に最良の変形能を提供することから、この特定の微細構造を得るためにパテンティング処理が適用される。
【0004】
別の例として、焼戻マルテンサイトは、高降伏応力を例えば動的用途のためのバネ線に提供することから、この微細構造を得るために焼入及び焼戻処理が適用される。
【0005】
熱処理された鋼線の機械的性質は、通常、破壊的引張試験によって熱処理工程の開始時及び終了時に測定される。測定前に、製造されたコイルからサンプルを切り出す必要がある。したがって、測定値は、熱処理された全長の鋼線を表すものではない。
【0006】
サンプルの準備には時間がかかるため、最終的な微細構造は、鋼線が熱処理されてから長時間が経過した後にのみチェックすることができる。更に、熱処理された線の長さ内で生じ得る微細構造のばらつきは、検出することができない。
【0007】
従来技術は、オーステナイトからの相変態中に鋼板及び圧延鋼板の微細構造を監視する幾つかの技法を提供している。
【0008】
欧州特許出願公開第0177626A1号明細書は、鋼又は磁性材料の変態値及び/又は平坦度をオンライン検出するシステムを記載している。鋼がガンマ相からアルファ相に変態し始め、常磁性アルファ相が生じるとき、アルファ相は、磁化され、鋼の磁場強度にばらつきが生じる。
【0009】
英国特許出願公開第2490393A号明細書は、各センサのマルチ周波数波形を形成する複数の周波数の各々における出力磁場と、結果として生じる磁場との間の相変化を特定し、相変化に基づいて複数の電磁センサにおける金属標的の微細構造を特定するように配置された複数の電磁センサを含む、金属標的の微細構造をモニタするシステムを記載している。
【0010】
米国特許出願公開第20190292624A1号明細書は、X線を使用して金属製品のマイクロ構造を特定するデバイス及び方法を記載している。金属製品の冶金製造中に金属製品の微細構造を確実に特定できるようにするために、デバイスは、収容室を能動的に冷却する少なくとも1つの冷却装置を含む。
【0011】
それらのシステムの全ては、磁気信号又はX線信号の有意な変化を検出するために、磁気変態が生じる位置に設置される必要がある1つ又は複数のセンサを必要とする。常磁性から強磁性への変態が始まる温度は、通常、冷却中にオーステナイトの分解が始まる温度である。相変態が生じる温度範囲(微細構造に応じて250℃~700℃)により、測定デバイスの冷却が必要になる。
【0012】
鋼線の多くの熱処理プロセスでは、空間制約又は異なる相変態温度を有する異なる化学組成及び直径の線を製造する場合の複雑性に起因して、上記のシステムのいずれも適さない。既存のデバイスのいずれも機能しない典型的な事例は、鉛を用いた線パテンティングであり、なぜなら、相変態が鉛浴内で行われるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の全般的な目的は、熱処理された鋼線の室温での微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイスを提供することである。微細構造は、異なる微細成分の含有量変動によって記述され得る。熱処理された鋼線において、微細成分は、オーステナイト、フェライト、ベイナイト及びマルテンサイトであり得る。
【課題を解決するための手段】
【0014】
キューリー温度未満では、オーステナイトは、常磁性であり、他の微細成分は、強磁性であるため、最終的な微細構造における非変態又は残留オーステナイトの体積分率を測定することが比較的容易であるが、本発明のデバイスは、全ての微細成分が強磁性である場合、例えばオーステナイトが存在しない場合でも、多くの種類の微細構造的特徴を検出することができる。
【0015】
微細構造の詳細な説明は、光学顕微鏡法及び走査型電子顕微鏡法によって鋼で観測される全ての通常の特徴を含み得る。これは、限定されないが、パーライトにおけるセメンタイトラメラ間の平均距離(ラメラ間隔)、旧オーステナイト粒径(残留オーステナイトが存在しない場合でも)、フェライト粒径、パーライトノジュール又はコロニーサイズ、フェライト再結晶率、ベイナイトのタイプ(上部、下部、粒状)、マルテンサイトの状態(ラス、板状、非焼戻、焼戻)を含む。
【0016】
本発明のデバイスに起因する精密な微細構造の説明により、例えば、マルテンサイトのような不要な相又は更に説明するようにパテンティング熱処理後に得られる全パーライト微細構造におけるベイナイトのような微細成分の存在を検出することができる。
【0017】
本発明のデバイスを用いて、アニーリング中のフェライト又はパーライト再結晶率を監視することもできる。
【0018】
別の例は、マルテンサイトへの焼入後の焼戻の制御である。本発明のデバイスを用いて、カーバイドのタイプ及びサイズを監視することができる。
【0019】
別の実施形態では、本発明のデバイスは、熱処理された鋼線の室温機械的性質のばらつきを監視する。機械的性質とは、標準方法(DIN EN ISO6892-1、ASTM E8 - 室温での金属に対する引張試験)による引張試験中に測定される値、即ち降伏応力、引張強度、一様伸び及び全伸びを指す。別の機械的性質は、標準(ASTM E384材料の微小押し込み硬度の標準試験方法)又はEN ISO18265によるその変換に記載される等の硬度若しくは微小硬度であり得る。
【0020】
本発明の主な利点は、全製造時間中、即ち熱処理された鋼線の全長にわたり、標的と比べた微細構造及び機械的性質のばらつきを瞬時に与えることである。現在、微細構造の特徴付け及び機械的試験は、製造の開始時及び終了時にのみ行われ、製造中の標的からのいかなるずれも検出できないことを意味する。
【0021】
本発明の主題は、好ましくは、相変態が生じていない、100℃未満の温度における、熱処理された鋼線の微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイスである。
【0022】
本デバイスは、3つの部品:
- 磁気センサ、
- 基準ユニット、
- 計算ユニット
を含む。
【0023】
磁気センサは、熱処理された鋼線の周囲に配置されるように適合され、且つ電磁信号を生成する第1の誘導コイルと、現在の測定値として電磁信号を受信する第2の誘導コイルとを含む。
【0024】
基準ユニットは、十分に識別された室温微細構造を有する熱処理された基準鋼線サンプルの基準測定値のセットを含むか又は生成する。
【0025】
計算ユニットは、基準鋼線からの微細構造のずれのタイプ及び大きさを返すために、現在の測定値と基準測定値との間の差を計算するために使用される。
【0026】
磁気センサは、磁気バルクハウゼンノイズ解析(MBN)、磁気アコースティックエミッション(MAE)及び渦電流試験等の非破壊技法デバイスで使用される任意のタイプであり得る。
【0027】
好ましくは、磁気センサは、渦電流試験(ECT)に使用されるタイプのものである。磁気センサは、磁気信号を生成する第1の誘導コイルと、現在の測定値として電磁信号を受信する第2の誘導コイルとを含む。電磁信号を生成する第1の誘導コイル及び現在の測定値として電磁信号を受信する第2の誘導コイルは、分離される必要がなく、同じ部品、例えば二重誘導コイルに組み込むことができる。磁気センサは、熱処理される鋼線の周囲に配置されるように適合される。好ましくは、磁気センサは、熱処理された線が100℃未満に冷却される、即ち相変態が完了する熱処理ラインの終わりに位置する。磁気センサは、データ取得デバイスに接続され得る。現在の測定値としての電磁信号は、データ取得デバイスを介して計算ユニットに送信することができる。
【0028】
基準ユニットは、十分に識別された室温微細構造を有する熱処理された基準鋼線サンプルの基準測定値のセットを含むか又は生成している。したがって、基準ユニットは、好ましくは、標的微細構造及び測定された製造線と比較される標的機械的性質を含む。基準ユニットは、基準電磁信号を生成する第3の誘導コイルと、既知の微細構造の非可動基準サンプルが配置される、基準磁気信号を受信する第4の誘導コイルとを含む第2の磁気センサであり得る。基準ユニットは、既知の微細構造の基準サンプルで事前に測定された電磁信号の値を含むデータベースであり得る。
【0029】
計算ユニットは、基準鋼線からの微細構造のずれのタイプ及び大きさを返すために、現在の測定値と基準測定値との間の差をもたらすことが可能である。好ましくは、計算ユニットは、現在の測定値と基準測定値との間の差から任意の微細構造のばらつきの大きさ及びタイプを予測することが可能なコンピュータ支援モデルである。
【0030】
コンピュータ支援モデルは、現在の測定値と基準測定値との間の差から機械的性質のばらつきを予測することも可能である。機械的性質は、N/mm単位の降伏応力、N/mm単位の引張強度、一様伸び、全伸び又は硬度であり得る。
【0031】
本発明の第2の態様は、熱処理された鋼線の微細構造のばらつきをインライン監視する方法を提供することである。本方法は、
- 熱処理されている鋼線によって生成された磁気信号を測定するステップ、
- 既知の微細構造の非可動鋼線の磁気信号を測定するステップ、
- 処理された線と非可動基準サンプルとの間の磁気信号のばらつきを比較するステップ、
- 既知の微細構造を有する線サンプルについて、磁気センサを用いて得られた測定値のセットを含むデータベースから構築されたコンピュータ支援モデルにより、微細構造のばらつきのタイプ及び大きさを計算するステップ
を含む。
【0032】
本方法は、残留オーステナイトが存在しない場合でも任意の種類の微細構造に適する。幾つかの例を更に以下与える。
【0033】
本デバイスは、線パテンティングプロセスにおいて室温での微細構造及び/又は開会的性質のばらつきを監視するために使用することができる。ベイナイト及び/又はマルテンサイトのような不要な相の存在を検出することができ、パーライトにおける層間隔を測定することができる。機械的性質のばらつきは、微細構造の監視から導出することができる。
【0034】
本デバイスは、線焼入及び焼戻プロセスにおいて室温での微細構造及び/又は機械的性質のばらつきを監視するために使用することもできる。線焼入及び焼戻プロセスにおける焼戻中のカーバイド析出段階(カーバイドのサイズ、タイプ)を測定することができる。機械的性質のばらつきは、微細構造監視から導出することができる。
【0035】
本デバイスは、線アニーリングプロセスにおける室温での微細構造及び/又は機械的性質のばらつきを監視するために使用することもできる。特に、パーライトのフェライトの再結晶率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の概略図である。
図2】鋼線熱処理中の標的からの微細構造又は引張強度のずれを示すグラフである。
図3】4mm直径を有するAISI 1080鋼線を異なる条件で熱処理することによって得られた幾つかの微細構造の正規化された構造の関数としての正規化されたリアクタンスのプロットである。
図4】異なる温度の溶融鉛において、4mm直径を有するAISI 1080鋼線をパテンティングすることによって得られた異なるパーライト層間隔(ILS)の正規化された抵抗の関数としての正規化されたリアクタンスのプロットである。
図5】機械的性質(降伏応力、引張強度、全伸び及びヴィッカース硬度)と、測定された磁気信号の総電圧との間の関係を示す一連のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の概略図を図1に示す。熱処理された鋼線の室温での微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイス100が表され、デバイスは、
- 磁気センサ102、
- 基準ユニット104、106、
- 計算ユニット106
を含む。
【0038】
磁気センサ102は、熱処理された鋼線108の周囲に配置されるように適合され(前記線は、本発明の一部ではない)、且つ電磁信号を生成する第1の誘導コイル110と、現在の測定値として電磁信号を受信する第2の誘導コイル112とを含む。
【0039】
十分に識別された室温微細構造を有する熱処理された基準鋼線サンプルの基準測定値のセットを含むか又は生成する基準ユニットは、コンピュータ106に記憶されたデータベースであり得る。代替的に、基準ユニットは、基準電磁信号を生成する第3の誘導コイル116と、既知の微細構造の非可動基準サンプル114が配置される、基準磁気信号を受信する第4の誘導コイル118とを含む第2の磁気センサ104である。
【0040】
計算ユニット、例えばコンピュータ支援モデル106は、基準鋼線からの微細構造のずれのタイプ及び大きさを返すために、現在の測定値と基準測定値との間の差をもたらすことが可能である。
【0041】
図2は、本発明によって解決される問題を示すグラフである。熱処理ラインでの鋼線の標準製造中、微細構造及び機械的性質は、製造ロットの開始時及び終了時に収集されるサンプルでのみ測定することができる。線長が短くなり、更なる処理にとって短すぎることになるため、製造中又は製造後でも、ロットの完全性に影響を及ぼすことなくサンプルを収集することが可能ではない。その結果、管理下限(LCL)を下回るか又は管理上限(UCL)を上回る任意の微細構造又は引張性のばらつきを検出することができない。図2では、時間(t)の関数としての引張強度(TS)のばらつきが示されている。本発明の目的は、tに伴うTSのばらつきを監視することである。更に、ばらつきが図2において点線として表される管理限界を超える場合、アラームをトリガーすることができる。以下の例は、3つの異なる事例でこの問題を解決するために本発明がどのように使用されるかを示す。
【0042】
以下の例では、磁気センサは、渦電流センサである。渦電流試験方法は、時変磁場を受けたときに試験片の電流の生成によって生じる試験片の周囲に配置されるコイルのインピーダンス変化の解析に基づく。この技法は、微細構造変化及び機械的性質の非破壊的評価に鋼の本質的な電磁性室を利用する。図1を参照すると、電磁信号を生成する第1の誘導コイル110及び現在の測定値としての電磁信号を受信する第2の誘導コイル112は、貫通コイルと線セクションとの間のフィルファクタが少なくとも50%、例えば少なくとも70%であるように設計される。周波数は、線への渦電流の侵入度、即ち侵入深さが線直径の1%~50%、例えば10%~40%であるように選択される。標準侵入深さδ又は侵入度は、渦電流密度がe-1(即ち36.8%)に低下する深さとして定義される。それは、以下:
【数1】
のように、材料の導電率及び透磁率と試験周波数とに依存し、σの単位は、S.mm-1であり、ρの単位は、Ω.mmであり、μの単位は、H.mm-1であり、fの単位は、Hzである。表1は、以下の例に使用される渦電流デバイスの幾つかの計算結果を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
なおも図1を参照すると、第2の誘導コイル112によって測定される信号は、例えば、インピーダンスZであり、これは、抵抗R及び誘導リアクタンスXに分解することができる。総電圧Vもインピーダンスから得られる。
【数2】
抵抗は
【数3】
であり、誘導リアクタンスは、
=2πfL (4)
である。
【0045】
抵抗は、電気抵抗率と関連する:
【数4】
ため、測定される線の電気的性質による影響を受ける一方、誘導リアクタンスインダクタンスは、インダクタンスと関連する:
【数5】
ため、測定される線の磁気的性質による影響を受ける。N、A、lは、コイル設計に関連し、巻き数、面積及び長さをそれぞれ表す。
【0046】
以下の例では、炭素含有率が0.65wt%~0.85wt%(AISI 1065/AISI 1080/AISI 1085)の範囲の4mm径鋼線が異なる熱処理を受けた。しかしながら、本発明は、0.3mm~20mm、例えば1mm~13mmの任意の直径の鋼線に適する。
【0047】
熱処理に応じて、異なる鋼組成を使用することができる。例えば、パテンティングは、一般に、普通炭素鋼に適用される。普通炭素組成は、以下の通りである(全てのパーセントは、重量パーセントである):
0.60%~1.20%、例えば0.80%~1.1%の範囲の炭素含有率(%C);
0.10%~1.0%、例えば0.20%~0.80%の範囲のマンガン含有率(%Mn);
0.10%~1.50%、例えば0.15%~0.70%の範囲のケイ素含有率(%Si);
0.03%未満、例えば0.01%未満の硫黄含有率(%S);
0.03%可未満、例えば0.01%未満のリン含有率(%P)。
【0048】
アニーリングは、好ましくは、低炭素鋼に適用される。低炭素鋼の組成は、0.03%~0.20%、例えば0.04%~0.1%の範囲の炭素含有率を有する。
【0049】
熱処理の焼入及び焼戻の場合、鋼線は、0.20%~0.80%の範囲の炭素含有率を有し、Cr、Si、又はV等のマイクロアロイ元素を使用して焼入性を上げ、即ちマルテンサイト変態を優遇する。
【0050】
例えば、クロム又はバナジウムが追加された他の鋼組成の場合、同じ組成物からの基準データでデータベース又はコンピュータ支援モデルを完成すること又は同じ組成を有する基準サンプルを第3及び第4のコイルに置くことで十分である。
【実施例
【0051】
例1.パーライト鋼線におけるマルテンサイト及びベイナイト検出
既知の微細構造を有する基準鋼線が渦電流型の磁気センサによって測定される場合、その磁気特性は、抵抗の関数として誘導リアクタンスをプロットすることによって複素インピーダンス計画で報告することができる。所与の化学組成及び直径の鋼線の場合、熱処理によって得られる各微細構造は、複素インピーダンス計画における(R,X)点を特徴とすることがわかった。図3は、異なる微細構造を有する4mm径AISI 1080鋼線で測定された、正規化されたリアクタンス(X/XL0)及び抵抗(R/R)を示す。正規化された値は、渦電流誘導コイル112によって測定された信号の値を、線なしで(空コイル)渦電流誘導コイル112によって測定された信号の値で除することによって得られた。
【0052】
4mm径AISI 1080鋼線を950℃又は1050℃まで75%H2/25%N2保護雰囲気下で電気炉内において再加熱して、全オーステナイト化を保証し、次いで異なる冷却パスに従って冷却して、異なる微細構造を得た。540℃~700℃の温度の溶融鉛浴中での等温冷却によってフェライト-パーライト微細構造を得、380℃~500℃の温度の溶融鉛浴中での等温冷却によってベイナイト微細構造を得、冷水中で室温に急冷することによってマルテンサイト微細構造を得た。光学顕微鏡法によって微細構造の特徴付けを行い、相の体積分率を、ASTM E1245 - 自動画像解析による金属含有又は第2相成分含有量を決定するための標準プラクティスに従って測定した。ASTM E112に従って旧オーステナイト粒径を測定した。
【0053】
図3では、フェライト/パーライト微細構造(フェライト及びパーライトの体積分率が様々である)は、白抜きの丸で表され、異なる温度で得られたベイナイトは、白抜きの三角形で表され、マルテンサイトは、塗りつぶされた四角形で表される。
【0054】
図3は、4mm AISI 1080鋼線の電磁的性質が微細構造に直接関連することを示す。4mm AISI 1080鋼線のパテンティングプロセス中、望まれる微細構造は、パーライトのみである。既知の微細構造を有する4mm AISI 1080パーライト線を基準として使用すると、本発明は、測定信号と基準信号とを比較することにより、この基準微細構造からの微細構造のばらつきを監視することが可能である。計算ユニットは、本発明のユーザに微細構造のばらつきの大きさ及び方向についての情報を提供する。本発明の直接的な適用は、パテンティングプロセス中の微細構造におけるベイナイト又はマルテンサイトの存在の検出である。
【0055】
例2:パーライトにおける層間隔の制御
4mm径のAISI 1080鋼線を950℃又は1050℃に加熱し、次いで540℃~640℃の温度の溶融鉛中で等温冷却した。微細構造は、全パーライト化された。走査型電子顕微鏡法(SEM)によって得られた画像を解析することにより、層間隔、即ち2つのセメンタイト層間の距離を測定した。SEM画像は、7500X(スケール=80ピクセル/μm)で撮影した。画像解析ソフトウェア(ImageJ)を使用して画像を処理した。画像を2値化(白黒)し、スケルトン化(全ての物体が1ピクセル厚になる)した。3つの円を描き、強度プロファイルにおける最大を使用して交差量をカウントした。円周長をカウントで除して、平均ランダム間隔を得た。最後に、平均ランダム間隔を2で除して、真の平均間隔又は層間隔(ILS)を得た。ILS測定値の結果を表2に報告する。各サンプルは、磁気センサ3(オフライン)によって測定した。層間隔と渦電流信号との間の定量的相関を得た。図4は、nm単位で報告されたILS値を有する、塗りつぶされた正方形で表された各サンプルが複素インピーダンス計画における別個の(R/R0,/XL0)点を生成したことを示す。4mmのAISI 1080の製造中、既知のILSの基準サンプルは、基準センサ104に配置される。パテンティングされた線108は、測定センサ102を通して連続して延びる。測定信号と基準信号との間の差が計算ユニット106によって解析され、製造線の全長にわたる層間隔のばらつきが計算される。
【0056】
【表2】
【0057】
例3:引張性のばらつきのオンライン監視
950℃でオーステナイト化し、鉛浴中で数秒間、4mm径及び0.03wt%C~0.90wt%Cの範囲の異なる炭素含有率を有する幾つかの鋼線を540℃、560℃、580℃、600℃及び640℃の一定温度で冷却することにより、パテンティング処理を実行した。結果として、種々のパーライト分率、層間隔及び強度を有するフェライト-パーライト鋼が生成された。磁気測定をin-situ及びオフラインで実行し、平均総電圧Vと、機械的性質、即ちN/mm単位の降伏応力(YS)、%単位の全伸び(At)、N/mm単位の最大引張強度(UTS)及びヴィッカース硬度(HV)との間の相関がそれぞれ図5に与えられる。
【0058】
収集された情報をデータベースに記憶し、重回帰解析を採用した経験モデルの構築に使用した。炭素鋼の最大引張強度を予測するために、以下の主要な入力パラメータを考慮した:炭素含有率(C)及び渦電流応答、抵抗電圧(V)、誘導電圧(V)並びに総電圧(V)。炭素濃度は、鋼の相平衡及びモルフォロジ、したがって機械的性質を決める主要な微細構造パラメータを構成する。
【0059】
直径4mmのフェライト-パーライト鋼線の最大引張強度(σUTS)を予測する数学モデルは、
σUTS=a+aC+a+a-a+a-a (7)
として構築され、式中、最大引張強度は、N/mm単位であり、炭素含有率は、重量%単位であり、渦電流出力は、ボルト単位である。モデル変数a~aは、重回帰によって得られ、鋼線の直径及び組成に依存する。強度とモデル変数との間の関係は、統計的に有意であり(p<0.001)、決定係数Rは、モデルが99.73%の強度のばらつきを説明できることを示す。
【0060】
次に、経験モデルを使用して、4mm径のAISI 1065、1080及び1085鋼の追加のパテンティングされた線の渦電流によって強度を直接推定した。サンプルも収集して、ASTM E8に従って従来の引張強度試験を実行した。平均実験及び予測σUTS値を表3に提示する。引張性、例えば引張強度のオンライン予測を得るために、本発明を以下のように実行した:
- データベース106において、基準として、標的性質に対応する前に測定された渦電流値を選択し、
- 磁気センサ102を用いて、パテンティングされた線の磁気的性質をオンラインで測定し、
- 測定信号を基準と比較し、計算ユニット106を使用して引張強度を予測する。計算ユニットは、コンピュータ支援モデルである。
【0061】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-01-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃未満の温度における、熱処理された鋼線の微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイスであって、
- 磁気センサ、
- 基準ユニット、
- 計算ユニット
を含み、
前記磁気センサは、前記熱処理された鋼線の周囲に配置されるように適合され、且つ電磁信号を生成する第1の誘導コイルと、現在の測定値として電磁信号を受信する第2の誘導コイルとを含み、
前記基準ユニットは、十分に識別された室温微細構造を有する熱処理された基準鋼線サンプルの基準測定値のセットを含むか又は生成し、
計算ユニットは、前記基準鋼線からの微細構造のずれのタイプ及び大きさを返すために、前記現在の測定値と前記基準測定値との間の差をもたらすことが可能である、デバイス。
【請求項2】
前記鋼線は、強磁性微細成分のみを含有するか、又は前記鋼線は、オーステナイトを含有しない、請求項1に記載の熱処理された鋼線の微細構造のばらつきをインライン監視するためのデバイス。
【請求項3】
前記基準ユニットは、基準電磁信号を生成する第3の誘導コイルと、既知の微細構造の非可動基準サンプルが配置される、前記基準磁気信号を受信する第4の誘導コイルとを含む第2の磁気センサである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記基準ユニットは、データベースである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記計算ユニットは、前記現在の測定値と前記基準測定値との間の前記差から任意の微細構造のばらつきの前記大きさ及びタイプを予測するコンピュータ支援モデルである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記コンピュータ支援モデルは、前記現在の測定値と前記基準測定値との間の前記差から引張強度のばらつきを予測することも可能である、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
熱処理された鋼線の微細構造のばらつきをインライン監視する方法であって、
- 熱処理されている鋼線によって生成された磁気信号を測定するステップ、
- 既知の微細構造の非可動鋼線の磁気信号を測定するステップ、
- 前記処理された線と前記非可動基準サンプルとの間の磁気信号のばらつきを比較するステップ、
- 既知の微細構造を有する線サンプルについて、磁気センサを用いて得られた測定値のセットを含むデータベースから構築されたコンピュータ支援モデルにより、微細構造のばらつきのタイプ及び大きさを計算するステップ
を含む方法。
【請求項8】
パテンティングプロセス中、パーライト鋼線におけるベイナイト及び/又はマルテンサイトの存在を検出するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項9】
パテンティングプロセス中、パーライトにおける層間隔を測定するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項10】
線焼入及び焼戻プロセスにおける焼戻中、カーバイド析出段階を測定するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項11】
線アニーリングプロセスにおいて、フェライト又はパーライトの再結晶率を監視するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイスの使用。

【国際調査報告】