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特表2024-524175作業ロールバランス力設定方法、および圧延機の運転方法、圧延機の運転切り替え方法、並びに圧延機
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】作業ロールバランス力設定方法、および圧延機の運転方法、圧延機の運転切り替え方法、並びに圧延機
(51)【国際特許分類】
   B21B 31/20 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
B21B31/20 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578175
(86)(22)【出願日】2021-11-01
(85)【翻訳文提出日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2021040290
(87)【国際公開番号】W WO2023073998
(87)【国際公開日】2023-05-04
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515153152
【氏名又は名称】プライメタルズ・テクノロジーズ・オーストリア・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】堀井 健治
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達則
(72)【発明者】
【氏名】村戸 俊介
(72)【発明者】
【氏名】マンフレッド・ハックル
(72)【発明者】
【氏名】アロイス・ザイリンガー
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス・ピヒラー
(57)【要約】
【課題】
圧延機の作業ロールバランス力の設定方法で、ミル縦剛性係数Kおよび圧延条件を用いて、圧延材5の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で圧延材5の先端位置の作業ロール角度θxに対する作業ロール610,611のキスロール荷重Pk、圧延荷重Pr、および圧延トルクTrを求める。その後、仮定の作業ロールバランス力Pbを付与した状態において、圧延材5の噛み込み開始時から噛み込み完了までのPk、Pr、Pbの合計PとTrとから、θxに対する作業ロール610,611と中間ロール620,621との間のトラクション係数μrt、およびμrtの最大値μrtmaxを求める。その後、μrtの許容値μrtcrをμrtmaxと比較し、μrtcrがμrtmax以上となる場合に、圧延材5の噛み込み開始時の作業ロールバランス力を、μrtの最大値μrtmaxを示す時の値以上、圧延機の強度上の制約により限界となる値以下の値に設定し直す。
【選択図】 図32
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対の作業ロールと、前記作業ロールの圧延材の反対側に設けられた上下一対以上のロールと、を備え、
前記ロールから圧延トルクTrを前記作業ロールに供給して前記作業ロールを駆動する圧延機の作業ロールバランス力の設定方法であって、
前記圧延機のミル縦剛性係数Kを得る工程と、
得た前記ミル縦剛性係数Kおよび圧延条件を用いて、前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で前記圧延材の先端位置の作業ロール角度θxに対する前記作業ロールのキスロール荷重Pkを求める工程と、
前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で前記圧延材の先端位置の作業ロール角度θxに対する圧延荷重Pr、および前記圧延トルクTrを求める工程と、
仮定の作業ロールバランス力Pbを付与した状態において、前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの前記キスロール荷重Pk、前記圧延荷重Pr、および前記仮定の作業ロールバランス力Pbの合計Pと前記圧延トルクTrとから、前記先端位置の作業ロール角度θxに対する前記作業ロールと前記ロールとの間のトラクション係数μrt、および前記トラクション係数の最大値μrtmaxを求める工程と、
前記圧延機の持つ前記トラクション係数μrtの許容値μrtcrを得る工程と、
前記トラクション係数μrtを求める工程で求められた前記最大値μrtmaxと前記許容値μrtcrとを比較する工程と、
前記許容値μrtcrが前記最大値μrtmax以上となる場合に、前記圧延材の噛み込み開始時の作業ロールバランス力を、前記トラクション係数μrtが前記最大値μrtmaxを示す時の前記作業ロールバランス力以上、前記圧延機の強度上の制約により限界となる前記作業ロールバランス力以下の値に設定し直す工程と、を備える
ことを特徴とする作業ロールバランス力設定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の作業ロールバランス力設定方法において、
前記ミル縦剛性係数Kを得る工程は、前記圧延機に対して2回以上前記ミル縦剛性係数Kが得られている場合は、最新の前記ミル縦剛性係数Kを用いる
ことを特徴とする作業ロールバランス力設定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の作業ロールバランス力設定方法において、
前記トラクション係数μrtを求める工程では、前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で前記キスロール荷重Pkが0となる時の前記トラクション係数μrtを前記最大値μrtmaxとする
ことを特徴とする作業ロールバランス力設定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の作業ロールバランス力設定方法を用いて前記作業ロールバランス力を設定する工程と、
前記作業ロールバランス力の設定後に前記圧延機の運転を開始する工程と、
前記圧延材が前記作業ロールに噛み込む前に、前記作業ロールの各々の軸受を前記圧延機のハウジングに押し付ける工程と、を備える
ことを特徴とする圧延機の運転方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の作業ロールバランス力設定方法を用いて前記作業ロールバランス力を設定する工程と、
前記許容値μrtcrが前記最大値μrtmax以上となるか否かを判定する工程と、
前記許容値μrtcrが前記最大値μrtmax未満と判定されるときは前記作業ロールよりも径の大きい上下一対の第2作業ロール自身を駆動する直接駆動方式を選択し、前記許容値μrtcrが前記最大値μrtmax以上と判定されるときは前記ロールから圧延トルクTrを前記作業ロールに供給して前記作業ロールを駆動する間接駆動方式を選択する工程と、を備える
ことを特徴とする圧延機の運転切り替え方法。
【請求項6】
上下一対の作業ロールと、前記作業ロールの圧延材の反対側に設けられた上下一対以上のロールと、前記ロールから圧延トルクTrを前記作業ロールに供給して前記作業ロールを駆動するよう前記ロールの駆動制御を行う制御装置と、を備える圧延機であって、
前記制御装置は、
前記圧延機のミル縦剛性係数Kを得る第1取得部と、
取得した前記ミル縦剛性係数Kおよび圧延条件を用いて、前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で前記圧延材の先端位置の作業ロール角度θxに対する前記作業ロールのキスロール荷重Pkを求める第1計算部と、
前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で前記圧延材の先端位置の作業ロール角度θxに対する圧延荷重Pr、および前記圧延トルクTrを求める第2計算部と、
仮定の作業ロールバランス力Pbを付与した状態において、前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの前記キスロール荷重Pk、前記圧延荷重Pr、および前記仮定の作業ロールバランス力Pbの合計Pと前記圧延トルクTrとから、前記先端位置の作業ロール角度θxに対する前記作業ロールと前記ロールとの間のトラクション係数μrt、および前記トラクション係数の最大値μrtmaxを求めるトラクション係数計算部と、
前記圧延機の持つ前記トラクション係数μrtの許容値μrtcrを得る第2取得部と、
前記トラクション係数計算部で求められた前記最大値μrtmaxと前記許容値μrtcrとを比較する工程比較部と、
前記許容値μrtcrが前記最大値μrtmax以上となる場合に、前記圧延材の噛み込み開始時の作業ロールバランス力を、前記トラクション係数μrtが前記最大値μrtmaxを示す時の前記作業ロールバランス力以上、前記圧延機の強度上の制約により限界となる前記作業ロールバランス力以下の値に設定し直す設定部と、を有する
ことを特徴とする圧延機。
【請求項7】
請求項6に記載の圧延機において、
前記作業ロールの各々を支持する軸受と、
前記作業ロールと前記軸受とを内部に有するハウジングと、
前記軸受を前記ハウジングに押し付ける押し付け装置と、を更に備え、
前記制御装置は、前記圧延材が前記作業ロールに噛み込む前に、前記軸受を前記ハウジングに押し付ける
ことを特徴とする圧延機。
【請求項8】
請求項6または7に記載の圧延機において、
前記制御装置は、
前記許容値μrtcrが前記最大値μrtmax以上となるか否かを判定する判定部と、
前記許容値μrtcrが前記最大値μrtmax未満と判定されるときは前記作業ロールよりも径の大きい上下一対の第2作業ロール自身を駆動する直接駆動方式を選択し、前記許容値μrtcrが前記最大値μrtmax以上と判定されるときは前記ロールから圧延トルクTrを前記作業ロールに供給して前記作業ロールを駆動する間接駆動方式を選択する選択部と、を更に備える
ことを特徴とする圧延機。
【請求項9】
請求項8に記載の圧延機において、
前記ロールまたは前記第2作業ロールの軸端部に連結されるユニバーサルジョイントのロール側カップリングと、
前記第2作業ロールの軸端部よりも外径が小さい前記ロールの軸端部と、を備え、
前記ロール側カップリングと前記ロールの軸端部とがはまり合う部分に着脱可能に構成された空隙埋め込み部材を備える
ことを特徴とする圧延機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業ロールバランス力設定方法、および圧延機の運転方法、圧延機の運転切り替え方法、並びに圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
小径の作業ロールでの板材の噛み込み不良を防止する熱間圧延設備の一例として、特許文献1には、以下のような技術が記載されている。圧延機の入側,出側に熱間板材を作業ロールに案内する入側通板ガイド,出側通板ガイドを配置する。進行してきた熱間板材は反力により上方に撓むので、この板材が浮き上がらないように昇降可能な抑えロールにより板材を抑えることにより、板材は作業ロールより受ける反力よりも大きい押し込み力を有することになり作業ロールでは熱間板材を確実に噛み込む。また、作業ロールに必要なトルクを伝達するために、圧延材を噛み込むときに作業ロールのロールバランス力又はロールベンディング力を制御し、中間ロールとのロール間接触力を大きくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3067589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より薄い板厚に圧延するためには作業ロール半径を小さくすることが有効だが、それに伴い作業ロールの駆動スピンドルの負荷能力が小さくなる。そこで、より負荷能力の大きい中間ロール、又はバックアップロールの駆動スピンドルを用いた中間ロール駆動、又はバックアップロール駆動とすることがある。
【0005】
ここで、中間ロール駆動やバックアップロール駆動の場合、ロール間の接触部で圧延トルクを作業ロールに伝えるため、ロール間で大きな滑りが生じると、必要な圧延トルクを伝えることができなくなる。
【0006】
例えば特許文献1には、噛み込み時にロールバランス力あるいはベンディング力をロールネックの強度が許す範囲で大きくとり、噛み込み不良を防止することが開示されている。
【0007】
しかし、上記の技術では、薄い板厚に圧延する際にキスロールが生じた場合、ロールバランス力が過剰になることが考慮されておらず、改善の余地がある。
【0008】
本発明は、噛み込み時にキスロールが生じても軸受等の部品を破損することなくロール間のスリップを抑制することが可能な作業ロールバランス力設定方法、および圧延機の運転方法、圧延機の運転切り替え方法、並びに圧延機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、上下一対の作業ロールと、前記作業ロールの圧延材の反対側に設けられた上下一対以上のロールと、を備え、前記ロールから圧延トルクTrを前記作業ロールに供給して前記作業ロールを駆動する圧延機の作業ロールバランス力の設定方法であって、前記圧延機のミル縦剛性係数Kを得る工程と、得た前記ミル縦剛性係数Kおよび圧延条件を用いて、前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で前記圧延材の先端位置の作業ロール角度θxに対する前記作業ロールのキスロール荷重Pkを求める工程と、前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で前記圧延材の先端位置の作業ロール角度θxに対する圧延荷重Pr、および前記圧延トルクTrを求める工程と、仮定の作業ロールバランス力Pbを付与した状態において、前記圧延材の噛み込み開始時から噛み込み完了までの前記キスロール荷重Pk、前記圧延荷重Pr、および前記仮定の作業ロールバランス力Pbの合計Pと前記圧延トルクTrとから、前記先端位置の作業ロール角度θxに対する前記作業ロールと前記ロールとの間のトラクション係数μrt、および前記トラクション係数の最大値μrtmaxを求める工程と、前記圧延機の持つ前記トラクション係数μrtの許容値μrtcrを得る工程と、前記トラクション係数μrtを求める工程で求められた前記最大値μrtmaxと前記許容値μrtcrとを比較する工程と、前記許容値μrtcrが前記最大値μrtmax以上となる場合に、前記圧延材の噛み込み開始時の作業ロールバランス力を、前記トラクション係数μrtが最大値μrtmaxを示す時の前記作業ロールバランス力以上、前記圧延機の強度上の制約により限界となる前記作業ロールバランス力以下の値に設定し直す工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、噛み込み時にキスロールが生じても軸受等の部品を破損することなくロール間のスリップを抑制することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】先端噛み込み時のスピンドルトルクの変化の一例を示す図。
図2】中間ロール駆動において、噛み込み時に各ロールに作用する水平力の一例を示す図。
図3】中間ロール駆動において、噛み込み時に各ロールに作用する水平力の一例を示す図。
図4】駆動ロールを変え、トルク増幅率=3のときの噛み込み時に各ロールに作用する水平力の合計の比較の一例を示す図。
図5】噛み込み過程における作業ロール間ギャップの変化過程を示す図。
図6】キスロールの定義を示す図。
図7】キスロールの定義を示す図。
図8】圧延開始前に設定されるキスロール荷重の関係を示す図。
図9】圧延開始前に設定されるキスロール荷重の関係を示す図。
図10】ロールバイト内の板先端位置と中間ロールと作業ロール間のトラクション係数との関係を示す図。
図11】ロールバイト内の板先端位置と中間ロールと作業ロール間のトラクション係数との関係を示す図。
図12】ロールバイト内の板先端位置と中間ロールと作業ロール間の荷重との関係を示す図。
図13】ロールバイト内の板先端位置と中間ロールと作業ロール間のトラクション係数との関係を示す図。
図14】ロールバイト内の板先端位置と中間ロールと作業ロール間のトラクション係数の最大値との関係を示す図。
図15】ロールバイト内の板の出側の厚さと作業ロールバランス力との関係を示す図。
図16】本発明の圧延機が適用された仕上圧延機の概要を示す図。
図17】本発明の圧延機が適用された仕上圧延機の他の概要を示す図。
図18】本発明の圧延機が適用された仕上圧延機の他の概要を示す図。
図19】本発明の圧延機が適用された仕上圧延機の他の概要を示す図。
図20】本発明の圧延機の一例の正面図。
図21図20の入側固定部材および出側固定部材の変形例を示す図。
図22】本発明の圧延機の他の例の正面図。
図23図22の入側固定部材および出側固定部材の変形例を示す図。
図24図20のA-A’矢視図。
図25図20のB-B’矢視図。
図26図22のC-C’矢視図。
図27図22のD-D’矢視図。
図28】本発明の圧延機における駆動スピンドルを共用した状態を示す図。
図29】本発明の圧延機における駆動スピンドルを共用した状態を示す図。
図30】本発明の圧延機における駆動スピンドルを共用した状態を示す図。
図31】本発明の圧延機における駆動スピンドルを共用した状態を示す図。
図32】本発明の設定作業ロールバランス力Pbactの決定の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の作業ロールバランス力設定方法、および圧延機の運転方法、圧延機の運転切り替え方法、並びに圧延機の実施例について図1乃至図32を用いて説明する。
【0013】
以下、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0014】
まず、本発明における作業ロールバランス力設定方法、および圧延機の運転方法、圧延機の運転切り替え方法、並びに圧延機の構成を導くに至った背景について図1乃至図15を用いて説明する。
【0015】
図1は、中間軸のある仕上圧延機の先端噛み込み時のスピンドルトルクの変化の実測結果の一例を示す図である。この図1に示すように、スピンドルトルクは、ねじりの固有振動数の周期で変動する。この図1からすると、圧延トルクTrの立ち上がり時間Δt1は0.01[sec]程度と予想される。
【0016】
圧延トルクTrが立ち上がったΔt1において、まだスピンドルトルクはTsしか作用していないので、圧延トルクTrに対する不足分のTr1はロールの慣性力の変化が供給する。主には、バックアップロールのわずかな減速にともなう慣性変化が圧延トルクTrに対する不足分のTr1を供給する。
【0017】
その後、Δt2のときに、最大スピンドルトルクが作用している。このときは、圧延トルクTrよりもTr2だけ大きなトルクがスピンドルに作用している。Tr2は、ロールの慣性力の変化に釣り合うもので、主には、バックアップロールのわずかな増速にともなう慣性変化に釣り合う。
【0018】
図2は、中間ロール駆動のとき、噛み込み時に各ロールに作用する水平力の一例を示す図であり、(a)は圧延材の噛込み前、(b)はTr1作用時、(c)はTr2作用時、(d)は噛込み初期のスピンドルトルク変動がなくなった通常圧延時とする。図3は、中間ロール駆動のときの、噛み込み時に各ロールに作用する水平力の合計を示す図である。ここで、圧延方向の力を+、反圧延方向の力を-とする。
【0019】
図2中、δiwは中間ロールと作業ロール間のオフセット量、δbiはバックアップロールと中間ロール間のオフセット量、Fobiはバックアップロールと中間ロールとの間に作用する圧延荷重Prのオフセット分力、Foiwは中間ロールと作業ロールとの間に作用する圧延荷重Prのオフセット分力、Fbiはバックアップロールと中間ロールとの間に作用する接線力、Fiwは中間ロールと作業ロールとの間に作用する接線力、Fbtはバックアップロールに作用する水平力の合計、Fitは中間ロールに作用する水平力の合計、Fwtは作業ロールに作用する水平力の合計、をそれぞれ示すものとする。また、Frは圧延トルク/作業ロール半径、Fbbはバックアップロール軸受部の抵抗、Fiiは中間ロール軸受部の抵抗、Fwwは作業ロール軸受部の抵抗、Fbb,Fii,Fwwは、Frに比べて小さい値なので≒0として扱う。
【0020】
また、図3中、通常圧延時のオフセット分力Foiwが駆動接線力Fiwと等しくなるようにし、ミル空転時のキスロール荷重は圧延荷重Pr×0.7作用したとし、Tr1作用時はTr1のタイミングではバックアップロールの慣性変化によって生じる接線力がほとんどを占め、Tr2作用時はTr2のタイミングで駆動スピンドルに生じるオーバートルク=(TAF-1)Trは、主にバックアップロールの慣性増加と釣り合う、ものとする。なお、「TAF」はトルク増幅率のことを意味し、最大軸トルクと定常圧延トルクの比であり、図1においてTAFは7.5kNm/3.3kNm=2.27として求められる。
【0021】
図2(a)と図2(b)、および図3に示すように、圧延材の噛み込み時におけるバックアップロールの慣性の変化が、スピンドルトルクが立ち上がるまでの圧延トルクを補償する。その後、図2(c)に示すように、作業ロールの駆動スピンドルのオーバートルクが、バックアップロールの慣性の変化とバランスを取る。更に、図2(d)に示すように、噛込み初期のスピンドルトルク変動がなくなったときは、ここではバックアップロールの摩擦抵抗を0として取り扱っているためバックアップロールと中間ロールとの間に作用する接線力Fbiは0となる。中間ロールと作業ロールとの間に作用する接線力FiwはFrとなる。
【0022】
図4は、トルク増幅率=3のときの噛み込み時に各ロールに作用する水平力の合計の比較の一例を示す図である。この図4では、噛込み初期のスピンドルトルク変動がなくなったとき((d)通常圧延に相当)、各ロールに作用する水平力の合計(圧延荷重Prのオフセット分力とロール間接線力の合計)がほぼ0となるようにオフセット分力を調整した条件で、ミル空転から噛込み初期にスピンドルトルクが変動しTr1やTr2が作用した時に各ロールに作用する水平力の合計を示すものとする。
【0023】
図4に示すように、トルク増幅率=3としたときには、作業ロール駆動ではTr2作用時に中間ロールに作用する水平力の合計Fitが-4Frになり、中間ロールを圧延方向で支持する力が大きくなってしまう問題がある。
【0024】
また、バックアップロール駆動の場合は、キスロール荷重が作用していると、噛込み前のミル空転中に中間ロールに作用する水平力の合計Fitが-1.4Frとなり、やや大きな値となる。なお、Tr1やTr2のタイミングでは、バックアップロールに作用する水平力の合計Fbt,中間ロールに作用する水平力の合計Fit,作業ロールに作用する水平力の合計Fwtが小さくなる。
【0025】
これに対し、中間ロール駆動のときは、Tr2作用時の中間ロールに作用する水平力の合計Fitは作業ロール駆動のときの半分の-2Frの水平力が作用する。また、作業ロールに作用する水平力の合計Fwtは、Tr1作用時、Tr2作用時、いずれにおいても作業ロール駆動に比べて小さくなる。
【0026】
ここで、トルク増幅率の特徴について説明する。トルク増幅率は、(Tr2+Tr)/Trと表現されるものであり、圧延トルクTrが大きいほど小さくなる傾向がある。また、ピークトルクの最大値は、定格トルクのときに生じる傾向があり、トルク増幅率×定格トルクとなる。この場合、定格トルクのときのトルク増幅率は2.0程度である。更に、圧延トルクTrが定格トルクより小さいときは、トルク増幅率は大きな値となる。例えば、圧延トルクTrが定格トルクの50%のときは、トルク増幅率は2.0~4.0程度の値となる。ここで、定格トルクとは駆動モータ出力100%のときの圧延トルクを意味する。
【0027】
”川崎製鉄技報 Vol. 33 (2001) No. 1, P. 37-42, 圧延プロセスの非定常負荷発生機構の解明と抑制策”によると、ロールがロール胴部で水平力Fを受けロールの軸受箱とハウジングが衝突するとき、該衝突部に圧延方向に作用する合力PtはPt=水平力F+衝撃力P(=(2KhFδ)0.5)となる。ここで、Khはハウジングの圧延方向変形の弾性係数、δは水平力F作用中にロール軸受箱が移動する距離でありロール軸受箱とハウジング間の距離に相当する。F=80トンのときはP=220~280トンとなり、Pt=300~360=(3.8~4.5)×F、F=20トンのときはP=90~100トンとなるため、Pt=110~120=(5.5~6.0)×Fとなることが報告されている。
【0028】
ロールが圧延方向に動き、軸受箱がハウジングに衝突すると、ハウジングと軸受箱とのギャップにもよるが、PtはFの3.8~6.0倍もの大きな値となってしまう。
【0029】
がた取りシリンダは、ハウジングと軸受箱とのギャップをなくすことができるので、Pを小さくすることができ、PtをFに近づける効果がある。
【0030】
なお、軸受内部には、軸受そのもののラジアル隙間やロール軸と軸受内径とのわずかなギャップがあるため、軸受箱が動かない場合であっても、わずかな衝撃力は作用する。
【0031】
次いで、中間ロール駆動における中間ロールと作業ロールとの間のトラクション係数μrtについて説明する。図5はキスロールがあるときとないときの噛み込み過程の上下作業ロール間ギャップの変化と各部に作用する力を示す。
【0032】
図5に示すように、キスロールがあるときは中間ロールと作業ロールとの間の垂直方向の押し力Pは圧延荷重Pr+キスロール荷重Pk+作業ロールバランス力Pb、キスロールがないときは中間ロールと作業ロールとの間の垂直方向の押し力PはPr+Pbとなる。
【0033】
ここで、トラクション係数μrtは、作業ロールと中間ロールとの間の必要摩擦係数を意味し、必要摩擦係数が小さいということは大きな滑りを生じにくくすることを意味する。トラクション係数μrt=F/Pと表されるため、Pが大ならばトラクション係数μrtは小さくなる。キスロールがあるときは、キスロールがないときに比べて、Pがキスロール荷重Pk分大きくなるのでトラクション係数μrtは小さくなる。
【0034】
図5中、角度θiは噛み込み角、角度θxは圧延材の先端位置の角度、角度θnは中立点の角度、出側板厚hoaは噛み込み時の上下作業ロール間間隙であり、キスロールがあるときは0とする。hiは入側板厚、hoは出側板厚、μmは噛込み過程の作業ロールと板の間の摩擦係数とすると、角度θnの位置では、圧延材の進行速度とロールの周速が等しい。また、角度θi~θnの範囲では、板の進行速度がロール周速よりも遅く、角度θn~θxの範囲では、板の進行速度がロール周速よりも速い。
【0035】
図6はキスロールがあるとき、図7はキスロールがないときの噛み込み過程の作業ロール間ギャップの変化と各部に作用する力を示している。
【0036】
通常、ロールギャップは通板前にあらかじめ希望の板厚より圧延荷重Prによる弾性変形分だけ締め込まれる。そして板を噛み込むことにより、ロール荷重が発生し、ロールギャップを拡大させ、希望の板厚を得ることができる。
【0037】
Prは圧延荷重、Kは圧延機のバネ常数であり、以後はミル縦剛性係数Kとし、Rは作業ロール半径とする。
【0038】
Pr/Kは、圧延荷重Prの弾性変形分だけ締めこむ量に相当する。ここで、最大圧下量が負になってしまうときは、通板前に上下作業ロールが接触した状態になることを意味し、この状態をキスロールと表現する。キスロールのときの上下作業ロール間に作用する荷重をキスロール荷重とする。
【0039】
板厚をh、圧延前のロール間隙をhog、Mを塑性係数とすると、弾性特性曲線を直線で近似するとPr=K(出側板厚ho-hog)、材料の塑性特性曲線を直線で近似するとPr=M(ho-入側板厚hi)と表せる。
【0040】
ここで、圧延前のロール間隙hogは、上下の作業ロールがちょうど接触を開始し、まだキスロール荷重Pkが0であって弾性変形が生じていないときの状態から、さらに押し込んでキスロール荷重Pkが作用したときの圧延機の弾性変形量を、差し引いたときの値を示す。なお、上下作業ロールはそれぞれが弾性変形して軸心が近づいているが、上下作業ロール間のギャップは0のまま(噛み込み時の上下作業ロール間間隙hoa=0)であり、マイナスの値となっているわけではない。
【0041】
図5および図6に示すように、キスロールがあるときは、噛み込み開始時、中間ロールと作業ロールとの間の垂直方向の押し力PはPr+Pk+Pbとなる。噛み込み開始とともに、Prは上昇してPkは減少していき、上下作業ロール間にギャップが生じたときにPkは0となる。θx=0となるときは噛み込み完了を意味し、板先端の板厚は出側板厚hoとなる。
【0042】
これに対し、図5および図7に示すように、キスロールがないときは、噛み込み開始時、噛み込み途中、噛み込み完了、のいずれもP=Pr+Pbであり、Prは噛み込み完了のときに最大となる。
【0043】
図8および図9に圧延開始前に設定される、仕上圧延機の最終スタンドの仕上がり板厚と単位幅キスロール荷重との関係を示す。図8はミル縦剛性係数Kが4000[kN/mm]、図9はミル縦剛性係数Kが6000[kN/mm]のときであり、図8および図9内の数字は板幅[mm]を示しており、当該仕上圧延機で想定されたいくつかの圧延条件のもとで単位幅キスロール荷重を求めたものである。
【0044】
図8および図9に示すように、単位幅キスロール荷重は、想定された入側板厚と出側板厚や圧延材の幅や硬さなどの圧延条件によって変化するので、ある範囲に分布する。
【0045】
また、図8に示すようにミル縦剛性係数Kが相対的に小さいときは、図9の大きいときに比べて単位幅キスロール荷重が大きな値となる。また、ミル縦剛性係数Kが4000[kN/mm]のときは仕上がり出側板厚hoが2.6[mm]くらいからPkが発生するのに対して、図9に示すようにミル縦剛性係数Kが6000[kN/mm]のときは出側板厚hoが2.2[mm]くらいからPkが発生するので、ミル縦剛性係数Kが小さいほど、出側板厚hoが厚いときからキスロール荷重Pkが発生する傾向がある。
【0046】
このように、ミル縦剛性係数Kが変わると任意の圧延における圧延開始前のキスロールの状態が変わる。すなわち、ミル縦剛性係数Kの値によって変わる圧延開始前のキスロールの状態と作業ロールバランス力Pbによって、トラクション係数μrt(必要とするロール間の摩擦係数)が変わる、ということである。
【0047】
図10は、ロールバイト内の圧延材の先端位置の作業ロール角度θxと中間ロールと作業ロール間のトラクション係数μrtとの関係を示す図であり、出側板厚1.2[mm]×幅1300[mm]の条件で、ロールに潤滑油がなく、ロールに冷却水がかかった状態でシミュレーションしたものである。図10中、△はミル縦剛性係数K=6000[kN/mm]、◇はミル縦剛性係数K=4000[kN/mm]、○はミル縦剛性係数K=3000[kN/mm]のときを示す。
【0048】
図10では、θx=0.11[ラジアン]あたりが板先端が噛み込むときの角度に相当し、これは噛み込み角θiに相当する。θx=0.00[ラジアン]は板先端が作業ロール出口に至ったときを示す。
【0049】
図10に示すように、噛み込み初期からθx=0.020~0.040[ラジアン]あたりまではキスロール荷重が存在し、トラクション係数μrtはキスロール荷重の存在によって低い値に抑えられている。
【0050】
また、板先端が噛み込まれたあとに作業ロール出側まで進む過程でトラクション係数μrtは変化していくが、板先端がロールバイト内にあるときのトラクション係数μrtの最大値μrtmaxは、ミル縦剛性係数K=6000[kN/mm]のときは0.070程度、ミル縦剛性係数K=4000[kN/mm]のときは0.060程度、ミル縦剛性係数K=3000[kN/mm]のときは0.060程度となる。
【0051】
そして、作業ロールバランス力Pbが大きくなるとトラクション係数μrtは小さくなる傾向を示しているが、図10の条件である出側板厚ho=1.2[mm]のときは作業ロールバランス力Pbの最大値μrtmaxへの影響は小さい。
【0052】
図11は、ロールバイト内の圧延材の先端位置の作業ロール角度θxと中間ロールと作業ロール間のトラクション係数μrtとの関係を示す図であり、出側板厚2.0[mm]×幅1250[mm]の条件とした図である。図11では、θx=0.135[ラジアン]あたりが噛み込み角θiに相当する。
【0053】
図11に示すように、ミル縦剛性係数K=6000[kN/mm]のときは、噛み込み初期からθx=0.120[ラジアン]あたりまではキスロール荷重が存在するが,トラクション係数μrtは急増し、キスロール荷重がなくなるθx=0.120[ラジアン]あたりで最大値μrtmaxは0.120程度をしめす。
【0054】
また、ミル縦剛性係数K=4000[kN/mm]のときは、噛み込み初期からθx=0.080[ラジアン]あたりまではキスロール荷重が存在し、このキスロール荷重の存在によってトラクション係数μrtは低い値に抑えられている。トラクション係数μrtの最大値μrtmaxは0.105程度であり、θx=0.080[ラジアン]あたりで生じている。
【0055】
ミル縦剛性係数K=3000[kN/mm]のときは、噛み込み初期からθx=0.050[ラジアン]あたりまではキスロール荷重が存在し、このキスロール荷重の存在によってトラクション係数μrtは低い値に抑えられている。トラクション係数μrtの最大値μrtmaxは0.090程度であり、θx=0.050[ラジアン]あたりで生じている。
【0056】
このように、ミル縦剛性係数Kが小さいほどキスロール荷重が存在する範囲が広くなる。また、作業ロールバランス力Pbによって最大値μrtmaxを小さくすることが可能であり、出側板厚ho=1.2[mm]に比べて出側板厚ho=2.0[mm]の場合は作業ロールバランス力Pbの影響が大きくなっていることが判る。
【0057】
図12は、θxと各荷重との関係を示す図であり、圧延材の厚さ2.0[mm]×幅1250[mm]、ミル縦剛性係数K=4000[kN/mm]の条件とし、作業ロールバランス力Pbは0[kN/ロール]としたものである。
【0058】
図12に示すように、キスロールが存在する場合は、板先端が作業ロールに噛み込んだときにすでにキスロ-ル荷重が作用しており、そのキスロール荷重は板先端がロールバイトに侵入していくと小さくなっていく。一方、圧延荷重Prは板先端がロールバイトに侵入していくと徐々に増加していく。
【0059】
従って、キスロール荷重作用範囲では、圧延荷重Prが比較的小さな値であっても、中間ロールと作業ロールとの間の荷重P(≒Pr+Pk+Pb)を高い状態で維持できるので、トラクション係数μrtを小さくすることが可能となることが判る。
【0060】
図13は、ロールバイト内の圧延材の先端位置の作業ロール角度θxと中間ロールと作業ロール間のトラクション係数μrtとの関係を示す図であり、出側板厚3.0[mm]×幅1600[mm]の条件とした図である。
【0061】
図13に示すように、ミル縦剛性係数K=6000[kN/mm]のときは、θx=0.133[ラジアン]あたりが噛み込み角θiに相当する。キスロール荷重は噛み込み初期から存在しない。トラクション係数μrtの最大値μrtmaxは0.130程度であり、噛み込みのθx=0.133[ラジアン]あたりで生じている。
【0062】
また、ミル縦剛性係数K=4000[kN/mm]のときは、θx=0.155[[ラジアン]]あたりが噛み込み角θiに相当する。キスロール荷重は噛み込み初期にのみわずかに存在し、トラクション係数μrtの最大値μrtmaxは0.150程度であり、噛み込みのθx=0.151[ラジアン]あたりで生じている。
【0063】
ミル縦剛性係数K=3000[kN/mm]のときθx=0.155[ラジアン]あたりが噛み込み角に相当する。θx=0.090[ラジアン]あたりまではキスロール荷重が存在し、トラクション係数μrtの最大値μrtmaxは0.110程度であり、噛み込みのθx=0.090[ラジアン]あたりで生じている。
【0064】
また、作業ロールバランス力Pbによって最大値μrtmaxを小さくすることが可能である。出側板厚ho=3.0[mm]の場合は出側板厚ho=1.2[mm]や出側板厚ho=2.0[mm]に比べて作業ロールバランス力Pbの影響がより大きくなっている。
【0065】
図14は作業ロールバランス力Pbと中間ロールと作業ロールとの間のトラクション係数の最大値μrtmaxとの関係を示す図である。この図14に示すように、作業ロールバランス力Pbの最大値μrtmaxへの影響は次のようになる。
【0066】
出側板厚hoが厚い3.0[mm]のときは、作業ロールバランス力Pbを大きくすると最大値μrtmaxをより下げることが可能となる。一方で、出側板厚hoが薄い1.2[mm]のときは、作業ロールバランス力Pbの最大値μrtmaxへの影響は小さい。
【0067】
また、ミル縦剛性係数Kの最大値μrtmaxへの影響は次のようになる。出側板厚hoによりミル縦剛性係数Kの最大値μrtmaxへの影響具合いが異なり、出側板厚hoが薄い1.2[mm]のときはミル縦剛性係数Kが小さいほど最大値μrtmaxは小さくなるが、出側板厚hoが厚い3.0[mm]のときはミル縦剛性係数Kと最大値μrtmaxの関係は複雑になる。
【0068】
このように、作業ロールバランス力Pbとミル縦剛性係数Kの両方が最大値μrtmaxに対し影響し合うことが判る。
【0069】
ここで、最大値μrtmaxの限界値μrtcrは、接する2つのロール間の状態によって異なる。トラクション係数μrtが0.10以下であれば大きな滑りをともなわない場合がほとんどと考えられる。ここで、最大値μrtmaxのときの作業ロールバランス力をPbcr1とする。最大値μrtmaxの限界値μrtcrを0.10とすると、最大値μrtmaxが限界値μrtcr0.10となるときの作業ロールバランス力をPbcr1crとする。Pbcr1crを必要とする限界作業ロールバランス力とする。Pbcr1をPbcr1cr以上とすることで最大値μrtmaxは限界値μrtcr0.10以下となる。
【0070】
図15は、出側板厚hoと必要とする限界作業ロールバランス力Pbcr1crとの関係を示す図であり、最大値μrtmaxの限界値μrtcrが0.10となるときの限界作業ロールバランス力Pbcr1crを示す。Pbcr1crよりも大きな作業ロールバランス力Pbとすることで最大値μrtmax≦限界値μrtcrとなり、大きな滑りを生じることなく圧延を継続できる。
【0071】
図15に示すように、出側板厚hoと限界作業ロールバランス力Pbcr1crとの関係は、ミル縦剛性係数Kによって傾向が異なり、限界作業ロールバランス力Pbcr1crはミル縦剛性係数Kの影響を受ける。
【0072】
例えば、ミル縦剛性係数Kが3000[kN/mm]のときは、出側板厚hoが1.2[mm]から2.0[mm]では限界作業ロールバランス力Pbcr1crは0[kN/ロール]であるが、出側板厚hoが2.0[mm]から3.0[mm]へ増加したときに限界作業ロールバランス力Pbcr1crが急激に上昇する。
【0073】
また、ミル縦剛性係数Kが4000[kN/mm]のときは、出側板厚hoが1.2[mm]から2.0[mm]に変化したときでは限界作業ロールバランス力Pbcr1crが徐々に上昇するのに対し、出側板厚hoが2.0[mm]から3.0[mm]へ増加したとき限界作業ロールバランス力Pbcr1crが急激に上昇する。
【0074】
更に、ミル縦剛性係数Kが6000[kN/mm]のときは、出側板厚hoが2.0[mm]から3.0[mm]へ増加したときに限界作業ロールバランス力Pbcr1crが横ばいとなる。
【0075】
限界作業ロールバランス力Pbcr1crの他に作業ロールバランス力の限界が存在する。作業ロール径が小さいときは軸受やロールネックの強度から作業ロールバランス力Pbを大きくすることができないため、該強度上の制約による限界作業ロールバランス力Pbcr2が存在する。
【0076】
必要とする限界作業ロールバランス力Pbcr1crが強度上の制約による限界作業ロールバランス力Pbcr2よりも大きな値となる場合は、比較的大径の作業ロールで作業ロール駆動の状態とすることが好ましい。
【0077】
これに対し、比較的大径の作業ロールとし該作業ロールを直接駆動する場合は大きな圧延トルクTrを伝達可能である。例えば、出側板厚hoが3.0[mm]以上では、Kが3000[kN/mm]や4000[kN/mm]では必要とする限界作業ロールバランス力Pbcr1crが大きくなっていくが、比較的大径の作業ロールとして作業ロール駆動の条件とすることでロール間の圧延トルクTr伝達がなくなるのでトラクション係数μrtおよび最大値μrtmaxの制約をなくすことができる。
【0078】
ここで、ミル縦剛性係数Kについて説明する。ミル縦剛性係数Kは、圧延荷重PrをP、Pが作用したときの圧延機の各部位の弾性変形量δとしたときに、P/δと表現される。
【0079】
このミル縦剛性係数Kは、圧延機を構成しているロール群、ハウジングや圧下装置や各ロールの軸受箱などの剛性によって決まる。稼働初期のミル縦剛性係数Kは任意の値であり、使用していくとミル縦剛性係数Kは下がっていく。これは、使用していく過程でハウジングや圧下装置や軸受箱などの装置が摩耗し、各部位の当接具合いに変化が生じ、ミル縦剛性係数Kが下がっていくためと考えられている。
【0080】
ミル縦剛性係数Kが下がると同時に作業側と駆動側との弾性変形量に差が生じてきて圧延が不安定になるため補修が行われる。この補修によって、稼働初期のミル縦剛性係数Kに近い値に復帰する。ただし、稼働初期のミル縦剛性係数Kまでに復旧することはない。
【0081】
このように、ミル縦剛性係数Kは使用とともに変化するものであり、安定した圧延を継続するためにミル縦剛性係数Kを所定の間隔ごとに監視し、状況によって補修が行われている。なお、ミル縦剛性係数Kは一般的には調整できるものではない。
【0082】
また、ミル縦剛性係数Kは設備によって異なる。例えば、4段圧延機のミル縦剛性係数Kは6段圧延機のミル縦剛性係数Kよりも大きな値となり、ロールの本数が多いとミル縦剛性係数Kは小さな値になる。
【0083】
一方で、中間ロール駆動やバックアップロール駆動としたときは、ミル縦剛性係数Kによって最大値μrtmaxが変化する。最大値μrtmaxが限界値μrtcrを超え大きくなってしまいロール間で大きな滑りを生じてしまう場合は、圧延を継続できなくなる。
【0084】
そこで、本発明者らは、ミル縦剛性係数Kを確認して、ミル縦剛性係数Kと圧延条件から必要とする限界作業ロールバランス力Pbcr1crを求めて、作業ロールバランス力PbをPbcr1cr以上に設定して板先端の噛み込みを行うようにして、ロール間の大きな滑りを抑制することが可能となることを発想した。これによって、作業ロールを小径にして、作業ロールそれ自体を駆動ロールにできない場合であっても、中間ロール駆動あるいはバックアップロール駆動で圧延が可能となることを発想した。
【0085】
本発明はこのような知見により成されたものである。
【0086】
次いで、本実施例の圧延機を備えた圧延設備の概要について図16乃至図19を用いて説明する。図16乃至図19は、本発明の圧延機が適用された仕上圧延機の概要を示す図である。
【0087】
図16に示す圧延設備1は、圧延材5をストリップに熱間圧延する圧延機を複数備えており、制御装置80と、圧延材5の入側から、F1スタンド10、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50、F6スタンド60の6つのスタンドと、を有している。
【0088】
このうち、F1スタンド10、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50、F6スタンド60の各々と、制御装置80のうち各スタンドを制御する部分と、が本発明でいう圧延機に相当するが、ここでは上述の知見が適用されているのはF6スタンド60のみとしている。
【0089】
図16では、F1スタンド10、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、およびF5スタンド50は4段の圧延機であり、最終段のF6スタンド60のみが、小径の作業ロールが装着された6段の圧延機となっている。
【0090】
図17に示す圧延設備1Aは、F1スタンド10、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、およびF5スタンド50に加えて、大径の作業ロールを装着したF6スタンド60Aも4段の圧延機となっている。
【0091】
更に、図18に示す圧延設備1Bは、F1スタンド10、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、およびF5スタンド50は4段の圧延機であり、最終段のF6スタンド60Bのみが、大径の作業ロールが装着された6段の圧延機となっている。この図18では、F6スタンド60Bに上述の知見が適用されている。
【0092】
図19に示す圧延設備1Cでは、F1スタンド10、F2スタンド20、F3スタンド30、およびF4スタンド40は4段の圧延機であるのに対し、F5スタンド50C、およびF6スタンド60Cの2スタンドが小径の作業ロールが装着された6段の圧延機となっている。この図19では、F5スタンド50CおよびF6スタンド60Cに上述の知見が適用されている。
【0093】
なお、圧延設備1,1A,1B,1Cについては、図16乃至図19に示すような6スタンドに限られず、最低2スタンド以上からなるものとすることができる。
【0094】
また、上述の図16乃至図19では、作業ロールの圧延材の反対側に設けられた上下一対以上のロールとして後述するバックアップロールのみが用いられる4段圧延機、あるいは中間ロールおよびバックアップロールが用いられる6段圧延機の場合を説明したが、本発明の作業ロールバランス力設定方法、および圧延機の運転方法、圧延機の運転切り替え方法が対象とする圧延機は、上述のような4段圧延機あるいは6段圧延機に限定されず、直接作業ロールに接する、サイドサポートロールを備えた圧延機なども、好適な適用対象である。
【0095】
また、実施例では、噛み込み工程のある熱間圧延機を例に説明するが、これに限定されるものではない。
【0096】
次に、本発明の圧延機の概要について図20乃至図29を用いて説明する。図20図16に示した圧延設備中の圧延機の一例の正面図、図21図20の入側固定部材および出側固定部材の変形例を示す図、図22図17に示した圧延設備中の圧延機の他の例の正面図、図23図22の入側固定部材および出側固定部材の変形例を示す図、図24図20のA-A’矢視図、図25図20のB-B’矢視図、図26図22のC-C’矢視図、図27図22のD-D’矢視図である。図28および図29は駆動スピンドルを共用した状態を示す図である。
【0097】
なお、図20乃至図29では、図16に示した圧延設備1、あるいは図17に示した圧延設備1Aのうち、F6スタンド60,60Aを例に説明するが、本発明の圧延機は、図16等に示すF1スタンド10や、F2スタンド20、F3スタンド30、F4スタンド40、F5スタンド50,50C、F6スタンド60B,60Cのうちいずれのスタンド、更には他のスタンドにも適用することができる。
【0098】
また、中間ロール駆動の場合について説明するが、本発明はバックアップロール駆動に対しても適用できる。
【0099】
図20および図21に示すように、本実施例の圧延機の一例であるF6スタンド60は、圧延材5を圧延する6段の圧延機であって、ハウジング600と、制御装置80と、図示はされていないが油圧装置90とを有している。
【0100】
ハウジング600は、上下一対の上作業ロール610および下作業ロール611、これら上作業ロール610および下作業ロール611の圧延材5の反対側に設けられており、それぞれ接触することで支持する上下一対の上中間ロール620,下中間ロール621を備えている。更に、上中間ロール620、下中間ロール621にそれぞれ接触することで支持する上下一対の上バックアップロール630、下バックアップロール631を備えている。
【0101】
これに対し、図22および図23に示す本実施例の圧延機の他の一例であるF6スタンド60Aでは、圧延材5を圧延する4段の圧延機である。
【0102】
図22に示すように、F6スタンド60Aでは、作業ロール610,611よりも径の大きい、上下一対の上作業ロール610Aおよび下作業ロール611A、これら上作業ロール610Aおよび下作業ロール611Aの圧延材5の反対側に設けられており、それぞれ接触することで支持する上下一対の上バックアップロール630,下バックアップロール631を備えている。
【0103】
作業ロール610,611および中間ロール620,621と、作業ロール610A,611Aとは、入れ替え可能に構成されており、図20の作業ロール610,611および中間ロール620,621と関連する機器を作業ロール610A,611Aと関連する機器に入れ替えると図22に示すF6スタンド60Aになり、図22の作業ロール610A,611Aと関連する機器を作業ロール610,611および中間ロール620,621と関連する機器に入れ替えると図20に示すF6スタンド60となる。
【0104】
図22に示すF6スタンド60Aでは、作業ロール610A,611A自身を駆動する直接駆動方式が好適に用いられ、図20に示すF6スタンド60では、上中間ロール620、下中間ロール621の圧延トルクTrを上作業ロール610、下作業ロール611に供給して上作業ロール610、下作業ロール611を駆動する間接駆動方式が好適に用いられるため、運転切り替えの際には、入れ替えが行われる。
【0105】
これによって、上バックアップロール630や下バックアップロール631の位置は上下方向に大きな移動をともなわないので、上バックアップロール630や下バックアップロール631の上下にある油圧圧下装置やパスライン調整装置などを変更することなしに小径の作業ロール610,611と大径の作業ロール610A,611Aとを切替可能としている。
【0106】
図20に戻り、各ロールのうち、上作業ロール610の軸方向の端部の操作側には、上作業ロール610と共にロールの軸方向にシフトし、ロールからの荷重を受ける軸受610A1(図25参照)が設けられており、これら軸受610A1を作業側の上作業ロール軸受箱612により支持している。同様に、駆動側にも、上作業ロール610と共にロールの軸方向にシフトし、ロールからの荷重を受ける軸受610A1(図25参照)が設けられており、この軸受610A1を駆動側の上作業ロール軸受箱612により支持している。
【0107】
下作業ロール611も、同様に、軸方向の端部に軸受611A1が駆動側および操作側のいずれにも設けられており、これらの軸受を作業側および駆動側の下作業ロール軸受箱613によりそれぞれ支持している。
【0108】
本実施例では、上作業ロール610は、操作側の上作業ロール軸受箱612を介して、図25に示すようなシフトシリンダ615によりロール軸方向にシフト可能に構成されている。同様に、下作業ロール611も、操作側の下作業ロール軸受箱613Aを介して、図25に示すようなシフトシリンダ616によりロール軸方向にシフト可能に構成されている。
【0109】
また、図24および図25に示すように、上中間ロール620では駆動側の端部に、下中間ロール621では操作側の端部に先細り部が設けられており、上中間ロール620と下中間ロール621とで上下で点対称になっている。また、上中間ロール620は図25に示すようなシフトシリンダ617により、下中間ロール621は図25に示すようなシフトシリンダ618により、ロール軸方向にシフト可能に構成されている。
【0110】
図20に戻り、出側固定部材602は圧延材5の出側のハウジング600に固定されている。圧延材5の入側のハウジング600には、この出側固定部材602に対向するように入側固定部材603が固定されている。
【0111】
F6スタンド60では、図20および図24に示すように、操作側および駆動側のいずれにおいても、出側固定部材602のロールの軸方向に2つ設けられた上作業ロールベンディングシリンダ640と、入側固定部材603のロールの軸方向に2つ設けられた上作業ロールベンディングシリンダ641とにより上作業ロール軸受箱612を支持している。適宜これらのシリンダを駆動することで上作業ロール610の軸受610A1に対して鉛直方向にベンディング力を与えるようになっている。
【0112】
同様に、操作側および駆動側のいずれにおいても、出側固定部材602に設けられた下作業ロールベンディングシリンダ644と入側固定部材603に設けられた下作業ロールベンディングシリンダ645とにより下作業ロール軸受箱613を支持しており、適宜これらのシリンダを駆動することで下作業ロール611の軸受に対して鉛直方向にベンディング力を与えるようになっている。
【0113】
更に、図20および図24に示すように、がた取りを目的として、圧延材5の入側の入側固定部材603に、上作業ロール軸受箱612のライナ(図示省略)を介して上作業ロール610に水平方向の力、具体的には圧延方向に押圧力を加えて軸受610A1をハウジング600に押し付ける上作業ロール軸受箱がた取りシリンダ660がロールの軸方向に1台設けられている。
【0114】
同様に、入側固定部材603には、下作業ロール軸受箱613のライナを介して下作業ロール611に圧延方向に押圧力を加えて軸受611A1をハウジング600に押し付ける下作業ロール軸受箱がた取りシリンダ662が1台設けられている。
【0115】
これらのシリンダにより、ロール軸方向に対して直交する方向で上作業ロール610等に所望の力を加えることができる。
【0116】
図20図24、および図25に示すように、上中間ロール620の軸方向の端部に軸受620A1が駆動側および操作側のいずれにも設けられており、これらの軸受を上中間ロール軸受箱622により支持している。下中間ロール621も、同様に、軸方向の端部に軸受621A1が駆動側および操作側のいずれにも設けられており、これらの軸受を下中間ロール軸受箱623により支持している。
【0117】
上中間ロール620は、操作側および駆動側のいずれにおいても、出側固定部材602に設けられた上中間ロールベンディングシリンダ650と入側固定部材603に設けられた上中間ロールベンディングシリンダ651とにより上中間ロール軸受箱622を支持しており、適宜これらのシリンダを駆動することで軸受に対して鉛直方向インクリース側にベンディング力を与えるようになっている。
【0118】
下中間ロール621も、操作側および駆動側のいずれにおいても、出側固定部材602に設けられた下中間ロールベンディングシリンダ652と入側固定部材603に設けられた下中間ロールベンディングシリンダ653とにより下中間ロール軸受箱623を支持しており、適宜これらのシリンダを駆動することで軸受に対して鉛直方向インクリース側にベンディング力を与えるようになっている。
【0119】
これらの各ベンディングシリンダ640,641,644,645により、作業ロール610,611へ作業ロールバランス力Pbが印加される。
【0120】
また、図20および図24に示すように、入側固定部材603に、上中間ロール軸受箱622を介して上中間ロール620に水平方向の力を加えるように上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ672が、出側固定部材602に、上中間ロール軸受箱622を介して上中間ロール620に水平方向の力を加えるように上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ671が、それぞれ設けられている。
【0121】
同様に、入側固定部材603に、下中間ロール軸受箱623を介して下中間ロール621に水平方向の力を加えるように下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ674が、出側固定部材602に、下中間ロール軸受箱623を介して下中間ロール621に水平方向の力を加えるように下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ673が、それぞれ設けられている。
【0122】
ここで、中間ロール620,621を駆動する間接駆動では、中間ロール620,621に対しオーバトルク作用時に入側方向に最大の荷重が作用する。そのときは、ハウジング600の入側でその荷重を受けて、出側の上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ671、下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ673にトルク増幅率の過負荷が作用しないようにしている。図20では、上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ672と下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ674は使っていないが、上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ672や下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ674を上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ671や下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ673のかわりに用いることもできる。図4はトルク増幅率が3のときについて述べたがトルク増幅率が2以下のときは(b)Tr1作用時の水平力の合計が(c)Tr2作用時の水平力の合計よりも大きくなることがあり、そのような場合は、上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ672や下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ674を用いることで中間ロール軸受箱がた取りシリンダの出力をより小さくすることが可能となるので、Tr1やTr2の大小を考慮して上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ671と下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ673を用いるか上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ672と下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ674を用いるかいずれかを選択することも可能なようになっている。
【0123】
また、小径の作業ロール610,611のそれぞれの軸受箱612,613を上作業ロール軸受箱がた取りシリンダ660、下作業ロール軸受箱がた取りシリンダ662が押すように作用し、小径の作業ロール610,611が圧延方向に動かないように支えている。図4では(d)通常圧延のときに圧延荷重Prのオフセット分力とロール間接線力の合計(水平力の合計)がほぼ0になるようにオフセット量を設定した条件で(b)Tr1作用時(c)Tr2作用時の各ロールに作用する水平力の合計を示している。中間ロール駆動のときは作業ロールに作用する水平力の合計は(b)(c)(d)はいずれも0となっているが、オフセット分力とロール間接線力を全て同じにすることは実際の操業および設備では困難であり、また、トルク増幅率も圧延条件によってある範囲で変動することから水平力の合計は0ではない値となる。このように圧延条件の変化などで生じる水平力の合計が作用したときでも小径の作業ロール610,611が圧延方向に動かないようにすることができる。なお、ここでは、上作業ロール軸受箱がた取りシリンダ660、下作業ロール軸受箱がた取りシリンダ662を圧延方向の入側に設置したが、出側に設置することも可能である。さらに、入側の中間ロール軸受箱がた取りシリンダ672,674は、上作業ロール軸受箱がた取りシリンダ660や下作業ロール軸受箱がた取りシリンダ662とともに、大径作業ロール軸受箱がた取りシリンダとして大径の作業ロール610A,611A用として用いることもできる。
【0124】
大径の作業ロール610A,611Aでは、圧延トルクTrが小径の作業ロール610,611の時よりも大きくなることがあり、また、図4に示すように作業ロール駆動では(b)Tr1作用時(c)Tr2作用時の水平力の合計が中間ロール駆動のときに比べて大きくなることもあるため、小径用のがた取りシリンダより大きながた取りシリンダの出力を必要とする場合がある。また、がた取りシリンダは上下方向のロール中心近くを支えることが好ましい。そこで、作業ロール軸受箱がた取りシリンダ660や下作業ロール軸受箱がた取りシリンダ662では支えきれないときのために、上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ(上大径作業ロール軸受箱がた取りシリンダ)672、下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ(下大径作業ロール軸受箱がた取りシリンダ)674についても、大径の作業ロール610A,611A用のがた取りシリンダとして用いることができる。さらに、図18に示す圧延設備1Bで大径の作業ロールが装着された6段の圧延機が示されているが、その場合も図20に示す中間ロール軸受箱がた取りシリンダおよび作業ロール軸受箱がた取りシリンダを用いることが可能であり、小径の作業ロールと大径の作業ロールの両方に使える設備としてある。
【0125】
更に、上バックアップロール630の軸方向の端部に軸受(図示省略)が駆動側および操作側のいずれにも設けられており、これらの軸受を上バックアップロール軸受箱632により支持している。下バックアップロール631も、同様に、軸方向の端部に軸受(図示省略)が駆動側および操作側のいずれにも設けられており、これらの軸受を下バックアップロール軸受箱633により支持している。
【0126】
また、図20に示すように、出側のハウジング600に、上バックアップロール軸受箱632を介して上バックアップロール630に水平方向の力を加えるように上バックアップロール軸受箱がた取りシリンダ680が設けられている。同様に、出側のハウジング600には、下バックアップロール軸受箱633を介して下バックアップロール631に水平方向の力を加えるように下バックアップロール軸受箱がた取りシリンダ682が設けられている。
【0127】
油圧装置90は、上述した各ベンディングシリンダやがた取りシリンダ、シフトシリンダ615,617、あるいは圧延材5を圧延するための圧下力を上作業ロール610および下作業ロール611に加える圧下装置(図示省略)等の各油圧シリンダに接続されており、この油圧装置90は制御装置80に接続されている。
【0128】
これに対し、図22に示す4段圧延機では、各ロールのうち、上作業ロール610Aの軸方向の端部の操作側には、上作業ロール610Aと共にロールの軸方向にシフトし、ロールからの荷重を受ける軸受610A2(図27参照)が設けられており、これら軸受610A2を作業側の上作業ロール軸受箱612Aにより支持している。同様に、駆動側にも、上作業ロール610Aと共にロールの軸方向にシフトし、ロールからの荷重を受ける軸受610A2(図27参照)が設けられており、この軸受610A2を駆動側の上作業ロール軸受箱612Aにより支持している。
【0129】
下作業ロール611Aも、同様に、軸方向の端部に軸受611A2が駆動側および操作側のいずれにも設けられており、これらの軸受を作業側および駆動側の下作業ロール軸受箱613Aによりそれぞれ支持している。
【0130】
本実施例では、上作業ロール610Aは、操作側の上作業ロール軸受箱612Aを介して、図27に示すようなシフトシリンダ615によりロール軸方向にシフト可能に構成されている。同様に、下作業ロール611Aも、操作側の下作業ロール軸受箱613Aを介して、図27に示すようなシフトシリンダ616によりロール軸方向にシフト可能に構成されている。
【0131】
F6スタンド60Aでは、図22および図26に示すように、操作側および駆動側のいずれにおいても、出側固定部材602のロールの軸方向に2つ設けられた上中間ロールベンディングシリンダ650と、入側固定部材603のロールの軸方向に2つ設けられた上中間ロールベンディングシリンダ651とにより上作業ロール軸受箱612Aを支持している。適宜これらのシリンダを駆動することで上作業ロール610Aの軸受610A2に対して鉛直方向にベンディング力を与えるようになっている。
【0132】
同様に、操作側および駆動側のいずれにおいても、出側固定部材602に設けられた下中間ロールベンディングシリンダ652と入側固定部材603に設けられた下中間ロールベンディングシリンダ653とにより下作業ロール軸受箱613Aを支持しており、適宜これらのシリンダを駆動することで下作業ロール611Aの軸受に対して鉛直方向にベンディング力を与えるようになっている。
【0133】
これらの各ベンディングシリンダ650,651,652,653により、作業ロール610A,611Aへロールバランス力が印加される。
【0134】
更に、図22および図26に示すように、がた取りを目的として、上作業ロール軸受箱がた取りシリンダ660および上大径作業ロール軸受箱がた取りシリンダ672により、上作業ロール軸受箱612Aのライナ(図示省略)を介して上作業ロール610Aに水平方向の力、具体的には圧延方向に押圧力を加えて軸受610A2をハウジング600に押し付けるようになっている。
【0135】
同様に、下作業ロール軸受箱がた取りシリンダ662および下大径作業ロール軸受箱がた取りシリンダ674により、下作業ロール軸受箱613Aのライナを介して下作業ロール611Aに圧延方向に押圧力を加えて軸受611A2をハウジング600に押し付けるようになっている。
【0136】
また、本実施例の圧延機では、図28および図29に示すように、大径の作業ロール610A,611Aの作業ロール駆動と小径の作業ロール610,611の駆動用の中間ロール620,621駆動の駆動スピンドルとを共用することが望ましい。
【0137】
図28に示すように、駆動スピンドルは、中間ロール620,621と連結し、中間ロール620,621駆動とする。このように中間ロール620,621駆動とすることで、駆動スピンドルの直径を中間ロール620,621径よりも大径にすることもできるので、中間ロール620,621が小径であっても強度の大きな駆動スピンドルを用いることができる。
【0138】
特に、仕上圧延機の後段では圧延速度が速くなり、ロールの回転数が大きくなる。駆動スピンドルの直径を大きくすることができると、駆動スピンドルのたわみ振動の固有振動数を大きくすることができ、ロールの回転数が大きくなったとしても該ロールの回転数よりもたわみ振動の固有振動数を大きくすることができ、たわみ振動との共振を抑制できる。
【0139】
また、図29に示すように、駆動スピンドルを大径の作業ロール610A,611Aと連結し、作業ロール610A,611A駆動も可能としている。大径の作業ロール610A,611Aの場合、駆動スピンドルの直径も大径にすることができ、負荷能力が高い。中間ロール620,621駆動ではロール間スリップの懸念がある場合は、作業ロール610A,611A駆動とすることでより大きな圧延トルクTrで圧延が可能となる。
【0140】
ここで、大径の作業ロール610A,611Aの4段圧延機と、小径の作業ロール610,611+中間ロール620,621の6段圧延機と、を切替可能とするとき、中間ロール620,621の直径Di2は、作業ロール610,611の直径Dw2よりも大きくなるようにすることが望ましい。
【0141】
中間ロール620,621に作用する水平力は作業ロール610,611に作用する水平力よりも大きくなる。この水平力によってロールが水平方向にたわんでしまい、初期に設定したロール間のオフセット量がたわみによって大きくなり、さらに水平力が増して圧延荷重Prのオフセット分力と水平力の合力がロールに作用し強度上の問題が生じることを避けるためである。
【0142】
また過渡期に水平力の方向が変化しロールが圧延方向に動くことで、作業ロール610,611と中間ロール620,621との間で局部的な滑りが生じてロールを痛める問題が生じる。
【0143】
そこで、中間ロール620,621の直径Di2を作業ロール610,611の直径Dw2よりも大きくして、中間ロール620,621のたわみを小さくすることが望ましい。
【0144】
図28図29に示す駆動スピンドルはユニバーサルジョイント760を有している。一般的な作業ロール駆動のときは使用する作業ロール自身の径変化に対応してユニバーサルジョイント760の角度が変化するが、本実施例のように大径の作業ロール610A,611Aの作業ロール駆動と小径の作業ロール610,611の中間ロール620,621駆動とで、ユニバーサルジョイント760を共用するときも、ユニバーサルジョイント760の角度を変更する。
【0145】
ユニバーサルジョイント760の角度としては3°以下が好ましい。2か所のユニバーサルジョイント760間の距離をL1とすると、Di2max=2(2L1min×tan3°+Dw1min/2-Dw2max))の関係が成立する。ここで、L1minはL1として取り得る最小値とする。
【0146】
中間ロール620,621の直径Di2が中間ロール620,621の取りうる最大直径Di2maxを超えない設定とする場合は、大径の作業ロール610A,611Aを駆動するスピンドルと小径の作業ロール610,611のときに中間ロール620,621を駆動するスピンドルとのユニバーサルジョイント760の角度を駆動スピンドルの反ロール側の位置をずらすことなく、3°以内にすることができ、シンプルな駆動装置750を実現できる。
【0147】
なお、中間ロール620,621の直径Di2が中間ロール620,621の取りうる最大直径Di2maxを超える設定とする場合は、駆動スピンドルの反ロール側の上下方向位置をずらすことでユニバーサルジョイント760の角度を3°以下にすることが可能となる。この場合、駆動装置750の構造がやや複雑になるが駆動スピンドルを共用できる。
【0148】
ユニバーサルジョイント760はクロスピン方式やギヤ方式などその種類を限定するものではない。
【0149】
ロール軸端部の外径は、軸受箱と軸受が一緒にロールに組込みできるように少なくとも軸受内径よりも小さくなっている。
【0150】
図28図29のようにユニバーサルジョイント760のロール側カップリングに連結されるロール軸端部の内径は、上中間ロール620、下中間ロール621が上作業ロール610A、下作業ロール611Aよりも径小である場合は上中間ロール620、下中間ロール621のロール軸端部の外径によって決まる。上中間ロール620、下中間ロール621のロール軸端部外径を極力大きくしたとしても、上作業ロール610A、下作業ロール611Aのロール軸端部の外径は該上下作業ロールの軸受内径に比べて小さな径となってしまう。そのため、作業ロール駆動としたときに伝達できる圧延トルクが強度の低いロール軸端部の制約を受ける。
【0151】
これを解決するため、図31では、上作業ロール610A’、下作業ロール611A’のロール軸端部の外径を該軸受の内径よりも小さくなる範囲で図29よりも大きくした。これによって、駆動装置751に連結されるユニバーサルジョイント761、ロール側カップリング761aおよび駆動装置側カップリング761bの径を大きくすることができ、伝達できる圧延トルクを大きくすることができる。
【0152】
図30は、上中間ロール620’、下中間ロール621’が図31の上作業ロール610A’、下作業ロール611A’よりも径が小さい場合を示すもので、上中間ロール620’、下中間ロール621’のロール軸端部の外径は上作業ロール610A’、下作業ロール611A’のロール軸端部の外径よりも径小となっているが、図30では、上中間ロール620’、下中間ロール621’の軸端部がロール側カップリング761aとはまり合う部分に、着脱可能な空隙埋め込み部材800を設けることで、図31のユニバーサルジョイント761を兼用できるようにしている。
【0153】
作業ロール駆動のとき、ユニバーサルジョイント761のロール側カップリング761aの外径は、上下の干渉を避けるため作業ロール胴部の直径よりも大きくすることはできない。一方、中間ロール駆動のときは、ユニバーサルジョイント761のロール側カップリング761aの外径は中間ロール胴部の直径よりも大きくすることが可能であることから、中間ロール胴部の直径がユニバーサルジョイント761のロール側カップリング761aの外径を制約することはない。
【0154】
空隙埋め込み部材800は、軸受箱と軸受が一緒にロールに組込まれたあとに上中間ロール620’、下中間ロール621’のロール軸端部に装着される。図31の圧延から図30の圧延に切り替えるときは、上作業ロール610A’、下作業ロール611A’を圧延機外に引き出したあと空隙埋め込み部材800が装着された上中間ロール620’、下中間ロール621’と上作業ロール610、下作業ロール611が圧延機に挿入される。ロール側カップリング761aを変更することなく大径の上作業ロール610A’、下作業ロール611A’の駆動と小径の上中間ロール620’、下中間ロール621’の切替を可能とすることができる。
【0155】
ここで、空隙埋め込み部材800をロール側カップリング761a側に取り付けることも可能であり、同様の効果を有する。圧延機内で、空隙埋め込み部材800をロール側カップリング761a側に取り付けることが比較的容易な場合はこの方式を選択することも可能である。
【0156】
図30の圧延から図31の圧延に切り替えるときは、上中間ロール620’、下中間ロール621’と上作業ロール610、下作業ロール611を圧延機外に引き出したあと、空隙埋め込み部材800がロール側カップリング761a側に取り付けられている場合は、空隙埋め込み部材800を取り外してから上作業ロール610A’、下作業ロール611A’が圧延機に挿入される。
【0157】
制御装置80は、圧延設備1,1A,1B,1C内の各機器の動作を制御する装置であり、好適には、CPUや記憶媒体、表示装置などを備えたコンピュータなどで構成される。
【0158】
例えば、制御装置80は、油圧装置90を作動制御して、上述した各ベンディングシリンダ等に圧油を給排することでそれらの各シリンダを駆動制御している。
【0159】
また、制御装置80は、直接駆動時には、上作業ロール610A、下作業ロール611Aの駆動制御を行い、間接駆動時には、上中間ロール620、下中間ロール621の駆動トルクTrを上作業ロール610、下作業ロール611に供給して上作業ロール610、下作業ロール611を駆動するよう上中間ロール620、下中間ロール621の駆動制御を行う。
【0160】
この制御装置80は、図16に示すように、第1取得部80a、第1計算部80b、第2計算部80c、トラクション係数計算部80d、第2取得部80e、工程比較部80f、設定部80g、記憶部80hなどを有している。
【0161】
第1取得部80aは、圧延機のミル縦剛性係数Kを得る部分であり、好適には、記憶部80h等に予め記録されている該当の圧延機のミル縦剛性係数Kのうち、最新の値を取得する部分である。
【0162】
第1計算部80bは、取得したミル縦剛性係数Kおよび圧延条件を用いて、圧延材5の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で圧延材5の先端位置の上作業ロール610、下作業ロール611の角度θxにおける上作業ロール610、下作業ロール611のキスロール荷重Pkを求める部分である。
【0163】
第2計算部80cは、圧延材5の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間で圧延材5の先端位置の上作業ロール610、下作業ロール611角度θxに対する圧延荷重Pr、および駆動トルクTrを求める部分である。
【0164】
トラクション係数計算部80dは、仮定の作業ロールバランス力Pbを付与した状態において、圧延材5の噛み込み開始時から噛み込み完了までのキスロール荷重Pk、圧延荷重Pr、および仮定の作業ロールバランス力Pbの合計Pと駆動トルクTrとから、先端位置の上作業ロール610、下作業ロール611角度θxに対する上作業ロール610、下作業ロール611と上中間ロール620、下中間ロール621との間のトラクション係数μrtを求める部分である。
【0165】
第2取得部80eは、圧延機の持つトラクション係数μrtの許容値μrtcrを得る部分である。
【0166】
ここで、許容値μrtcrは、トラクション係数μrtの許容最大値であり、この値以上のトラクション係数を必要とするときは中間ロールと作業ロールとの間で大きな滑りをともなうことになり、圧延が難しくなる値のこととする。
【0167】
工程比較部80fは、トラクション係数計算部80dで求められたトラクション係数μrtの最大値μrtmaxとトラクション係数μrtの許容値μrtcrとを比較する部分である。
【0168】
設定部80gは、トラクション係数μrtの許容値μrtcrがトラクション係数μrtの最大値μrtmax以上となる場合に、圧延材5の噛み込み開始時の作業ロールバランス力を、トラクション係数μrtの最大値μrtmaxを示す時の必要とする限界作業ロールバランス力Pbcr1cr以上、圧延機の強度上の制約による限界作業ロールバランス力Pbcr2以下の値に設定し直す部分である。
【0169】
記憶部80hは、制御装置80を構成するコンピュータの記憶装置であり、好適にはSSDやHDDで構成される。
【0170】
制御装置80による各機器の動作の制御や、第1取得部80a、第1計算部80b、第2計算部80c、トラクション係数計算部80d、第2取得部80e、工程比較部80f、設定部80g等の動作の制御は、記憶部80hに記録された各種プログラムに基づき実行される。
【0171】
なお、制御装置80で実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに別れていてもよく、それらの組み合わせでもよい。また、プログラムの一部または全ては専用ハードウェアで実現してもよく、モジュール化されていても良い。
【0172】
次いで、本実施例に係る圧延機の作業ロールバランス力の設定方法や圧延機の運転切り替え方法について図32を参照して説明する。図32は設定作業ロールバランス力Pbactの決定の流れを示すフローチャートである。
【0173】
まず、図32に示すように、ミル縦剛性係数Kを継続的に監視し、当該圧延におけるミル縦剛性係数Kを特定する(ステップS101)。このステップS101が、ミル縦剛性係数Kを得る工程に相当する。
【0174】
より具体的には、作業ロールバランス力設定のために計算しても、記憶部80h等に記録されている既存の数値(圧延機納入時の値、稼働後何年後の値等)を読み込んでもよい。既存の数値は、圧延機を実際に稼働させているメーカーが圧延機の管理のために、圧延機納入時、1年後、2年後・・・等のように所定のタイミング毎に測定、演算しているものをそのまま使用することができる。
【0175】
ここで、ミル縦剛性係数Kを得る工程では、圧延機に対して2回以上ミル縦剛性係数Kが得られている場合は、最新のミル縦剛性係数Kを用いることが望ましい。
【0176】
次いで、圧延条件から圧延荷重Prと圧延トルクTrを計算する(ステップS102)。このステップS102が、圧延荷重Pr、および圧延トルクTrを求める工程に相当する。
【0177】
本工程では、噛み込む瞬間とは開始直前であり噛み込み開始時を意味し、噛み込み完了とは、先端位置の角度θx=0となるときのこととする。開始前と開始直前でキスロール荷重Pkが変わるような場合もあり得るため、少なくとも噛み込む瞬間からのキスロール荷重Pkのデータがあればよく、圧延材がロールから離れている「開始前」のキスロール荷重Pkを用いる必要は小さいため、噛み込み開始時からの圧延荷重Pr、および圧延トルクTrを求めるものとすることが望ましい。
【0178】
ここで、圧延条件とは、該当圧延機での入側厚さ、出側厚さ、圧延材幅、圧延材硬さ等の情報とし、圧延トルクについては公知の演算方法を用いて求めるものとする。
【0179】
次いで、ロールバイトでの板先端位置における圧延荷重Pr、キスロール荷重をミル縦剛性係数Kを用いて計算する(ステップS103)。このステップS103が、キスロール荷重Pkを求める工程に相当する。
【0180】
次いで、作業ロールバランス力Pb=上限作業ロールバランス力Pbcr2と仮定したときの最大値μrtmaxを求め、最大値μrtmaxと許容値μrtcrを比較する(ステップS104)。この工程が、トラクション係数μrt、およびトラクション係数の最大値μrtmaxを求める工程や、圧延機の持つトラクション係数μrtの許容値μrtcrを得る工程、最大値μrtmaxと許容値μrtcrとを比較する工程に相当する。
【0181】
ここで、仮定の作業ロールバランス力を付与した状態、例えば作業ロールバランス力Pb=0,350,700[kN/ロール]とし、トラクション係数の許容値μrtcrは計測しにくいことから、冷却材として水を用いる場合は0.15、オイルを用いる場合は0.10等の定数を使うこととする。
【0182】
また、このステップS104では、圧延材5の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間でキスロール荷重Pkが0となる時、すなわち図10図11、および図13に示す極大値のトラクション係数μrtをトラクション係数μrtの最大値μrtmaxとする。
【0183】
次いで、先のステップS104において最大値μrtmax≦許容値μrtcrであったと判定されたときは、最大値μrtmaxとなる作業ロールバランス力Pbを求める。この作業ロールバランス力Pbを下限作業ロールバランス力Pbcr1と設定する(ステップS105)。
【0184】
ここで、下限作業ロールバランス力Pbcr1は、スリップしないための作業ロールバランス力Pbの下限値であり、作業ロールバランス力Pbが下限作業ロールバランス力Pbcr1以上であれば、最大値μrtmaxは許容値μrtcrを超えることはないので、中間ロールと作業ロールとの間で大きな滑りが生じることなく圧延を継続できる。
【0185】
その後、設定作業ロールバランス力Pbactを下限作業ロールバランス力Pbcr1≦設定作業ロールバランス力Pbact≦上限作業ロールバランス力Pbcr2の条件を満たす範囲の値に設定する(ステップS106)。このステップS106が、トラクション係数μrtの許容値μrtcrがトラクション係数μrtの最大値μrtmax以上となる(すなわち、間接駆動方式が選択される)場合に、圧延材5の噛み込み開始時の作業ロールバランス力を、トラクション係数μrtの最大値μrtmaxを示す時の作業ロールバランス力Pbcr1以上、圧延機の強度上の制約による限界作業ロールバランス力Pbcr2以下の値に設定し直す工程に相当する。
【0186】
ここで、上限作業ロールバランス力Pbcr2は、圧延機の強度上の制約による限界作業ロールバランス力であり、部品破損させないためにこれ以上に大きくできない作業ロールバランス力Pbの最大値とする。この上限作業ロールバランス力Pbcr2は、基本的には、作業ロール軸受強度や作業ロールネック強度により定まる。
【0187】
設定作業ロールバランス力Pbactは、実際に圧延時に設定する作業ロールバランス力Pbの値であり、下限作業ロールバランス力Pbcr1と上限作業ロールバランス力Pbcr2の間の任意の設定値とし、他の要因も考慮されるものとする。
【0188】
これに対し、先のステップS104において最大値μrtmax>許容値μrtcrであったと判定されたときは、大径の作業ロール610A,611Aを用い、且つ作業ロール610A,611A駆動での圧延に切り替える(ステップS107)。
【0189】
圧延機の運転方法では、上述の図32に示した各フローにより作業ロールバランス力が設定された後、作業ロールバランス力の設定後に圧延機の運転を開始する。その後、圧延材5が上作業ロール610、下作業ロール611に噛み込む前に、制御装置80は、上作業ロール610、下作業ロール611の各々の軸受610A1,611A1を圧延機のハウジング600に押し付ける。なお、上作業ロール610、下作業ロール611の各々の軸受610A1,611A1を圧延機のハウジング600に押し付け始めるタイミングは、ミル空転の前(図2中(a)より前)とすることが望ましい。
【0190】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0191】
上述した本実施例の圧延機の作業ロールバランス力の設定方法によれば、キスロール荷重Pkも考慮して作業ロールバランス力Pbを設定するため、噛み込み時にキスロールが生じても、軸受等の部品を破損することなく、ロール間のスリップを防止することができる。
【0192】
更に、圧延機の運転切り替え方法では、トラクション係数μrtの許容値μrtcrがトラクション係数μrtの最大値μrtmax未満と判定されるときは直接駆動方式を選択し、トラクション係数μrtの許容値μrtcrがトラクション係数μrtの最大値μrtmax以上と判定されるときは間接駆動方式を選択することで、キスロール荷重も考慮して作業ロールバランス力Pbを設定するため、軸受等の部品を破損することなく、ロール間のスリップを防止することができる。また、トラクション係数が大きすぎる場合は、間接駆動ではなく直接駆動に切り替えることで、トルク伝達の問題を解消することができる。なお、μrtmaxがμrtcrよりも大きいか、あるいは、小さいかにかかわらず、大径作業ロールで圧延できる場合は、大径作業ロール直接駆動方式を選択することは可能である。
【0193】
また、ミル縦剛性係数Kを得る工程は、圧延機に対して2回以上ミル縦剛性係数Kが得られている場合は、最新のミル縦剛性係数Kを用いる。圧延機を使用していく過程でミル縦剛性係数Kは小さくなり、これによりキスロール荷重が大きくなる傾向にあるため、経時変化によるミル縦剛性係数Kの影響が最も小さい最新のミル縦剛性係数Kの値を用いることで、キスロール荷重もより精度良く求められ、作業ロールバランス力も精度良く求めることができる。
【0194】
更に、トラクション係数μrtを求める工程では、圧延材5の噛み込み開始時から噛み込み完了までの間でキスロール荷重Pkが0となる時のトラクション係数μrtをトラクション係数μrtの最大値μrtmaxとする。トラクション係数μrt=F/P=F/(Pr+Pk+Pb)なので、Pk=0のときのトラクション係数μrtを最大値μrtmaxとすることで最大値μrtmaxの導出を簡素にすることができる。
【0195】
また、圧延機の運転方法では、作業ロールバランス力を設定した後に、作業ロールバランス力の設定後に圧延機の運転を開始する工程と、圧延材5が上作業ロール610、下作業ロール611に噛み込む前に、上作業ロール610、下作業ロール611の各々の軸受610A1,611A1を圧延機のハウジング600に押し付ける工程と、を備える。ロールの軸心が本来の軸方向に対し傾斜している状態でキスロール荷重が作用すると、例えば上作業ロール610と上中間ロール620間、上下の作業ロール610,611間等にスラスト力が発生し、小径の作業ロールの場合は軸受等が破損するおそれがある。しかし、このように作業ロール610,611の軸受610A1,611A1をハウジング600に押し付け、軸心を傾斜させないことで、スラスト力を発生しにくくすることができ、作業ロール610,611間にキスロール荷重が生じても軸受等を破損しにくくすることができる。
【0196】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0197】
1,1A,1B,1C…圧延設備
5…圧延材
10…F1スタンド(圧延機)
20…F2スタンド(圧延機)
30…F3スタンド(圧延機)
40…F4スタンド(圧延機)
50,50C…F5スタンド(圧延機)
60,60A,60B,60C…F6スタンド(圧延機)
80…制御装置
80a…第1取得部
80b…第1計算部
80c…第2計算部
80d…トラクション係数計算部
80e…第2取得部
80f…工程比較部
80g…設定部
80h…記憶部
90…油圧装置
600…ハウジング
602…出側固定部材
603…入側固定部材
610…上作業ロール(第1作業ロール)
610A,610A’…上作業ロール(第2作業ロール)
610A1,610A2,611A1,611A2,620A1,621A1…軸受
611…下作業ロール(第1作業ロール)
611A,611A’…下作業ロール(第2作業ロール)
612,612A…上作業ロール軸受箱
613,613A…下作業ロール軸受箱
615,616,617,618…シフトシリンダ
620,620’…上中間ロール
621,621’…下中間ロール
622…上中間ロール軸受箱
623…下中間ロール軸受箱
630…上バックアップロール
631…下バックアップロール
632…上バックアップロール軸受箱
633…下バックアップロール軸受箱
640,641…上作業ロールベンディングシリンダ
644,645…下作業ロールベンディングシリンダ
650,651…上中間ロールベンディングシリンダ
652,653…下中間ロールベンディングシリンダ
660…上作業ロール軸受箱がた取りシリンダ(押し付け装置)
662…下作業ロール軸受箱がた取りシリンダ(押し付け装置)
671…上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ(押し付け装置)
672…上中間ロール軸受箱がた取りシリンダ(上大径作業ロール軸受箱がた取りシリンダ、押し付け装置)
673…下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ(押し付け装置)
674…下中間ロール軸受箱がた取りシリンダ(下大径作業ロール軸受箱がた取りシリンダ、押し付け装置)
680…上バックアップロール軸受箱がた取りシリンダ
682…下バックアップロール軸受箱がた取りシリンダ
750,751…駆動装置
760,761…ユニバーサルジョイント
761a…ロール側カップリング
761b…駆動装置側カップリング
800…空隙埋め込み部材
図1
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【国際調査報告】