(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】海中係留チェーンを腐食から保護するための装置、システム、及び方法
(51)【国際特許分類】
B63B 21/20 20060101AFI20240628BHJP
B63B 59/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B63B21/20 A
B63B59/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578689
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 NO2022050096
(87)【国際公開番号】W WO2022265512
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523475642
【氏名又は名称】イメンコ コロージョン テクノロジー エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ディグル ニル-オラフ
(57)【要約】
海中係留チェーン(2)を腐食から保護するための装置(3)、システム(1)、及び方法が、本明細書に開示されている。システム(1)は、装置(3)を備えるとともに、取付具(4)と、装置(3)をチェーン(2)に接近させるためのマニピュレータアーム(5)を有するROVとを備える。装置(3)は、少なくとも1つの犠牲陽極(31)と、少なくとも1つの犠牲陽極(31)を支持するためのクランプ(32)とを備え、クランプ(32)は、犠牲陽極(31)を係留チェーン(2)に離脱可能に接続するための顎部(321)を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中係留チェーン(2)を腐食から保護するための装置(3)であって、少なくとも1つの犠牲陽極(31)を備える装置(3)において、
前記装置は、前記少なくとも1つの犠牲陽極(31)を支持するためのクランプ(32)をさらに備え、前記クランプ(32)は、前記犠牲陽極(31)を前記係留チェーン(2)のチェーンリンク(21)に離脱可能に接続し、前記犠牲陽極(31)と前記チェーンリンク(21)との間で電気的接触を確立するための、顎部(321)を有することを特徴とする、装置(3)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの犠牲陽極(31)は、複数の犠牲陽極(31)である、請求項1に記載の装置(3)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの犠牲陽極(31)は、前記クランプ(32)と離脱可能に接続される、請求項1又は請求項2に記載の装置(3)。
【請求項4】
前記装置(3)は、ROV操作用に構成されている、先行する請求項のいずれか1項に記載の装置(3)。
【請求項5】
海中係留チェーン(2)を腐食から保護するためのシステム(1)であって、該システム(1)は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の前記装置(3)と、取付具(4)と、ROVとを備える、システム(1)。
【請求項6】
海中係留チェーン(2)を腐食から保護するための方法であって、該方法は、
ROVに接続された取付具(4)に、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の前記装置(3)を配置することと、
前記ROVを前記海中係留チェーン(2)に接近させることと、
前記装置(3)を前記係留チェーン(2)の第1のリンク(21)に接続することと、
前記取付具(4)を前記装置(3)から離脱させて、前記装置(3)を前記チェーンリンク(21)に接続したままとすることとを含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記取付具(4)にさらなる装置(3)を配置することと、
前記さらなる装置(3)を前記係留チェーン(2)の第2のリンク(22)に接続することとをさらに含む、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記第2のリンク(22)は、前記第1のリンク(21)から少なくとも1つのチェーンリンク分だけ離れている、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
水の腐食性及び導電率の少なくとも1つに基づき、前記第1のリンク(21)と前記第2のリンク(22)の間にあるチェーンリンクの最適な数を推定することをさらに含む、方法。
【請求項10】
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の方法であって、
前記装置(3)を前記チェーンリンク(21、22)から取り外すために、前記取付具(4)を前記装置(3)に再接続することをさらに含む、方法。
【請求項11】
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の方法であって、
前記ROVを用いて、前記少なくとも1つの犠牲陽極(31)を新たな犠牲陽極(31)と交換することをさらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中係留チェーンを腐食から保護するための装置、システム、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景は、係留破損の2つの主な理由である腐食及び腐食疲労という周知の問題である。この問題が特に関連するのは、長期間にわたり1か所への係留が意図される浮遊式設備及び船舶の場合である。
【0003】
先行技術は、この問題を解決するための様々な試みを提示している。最も一般的な方法であって、種々の係留基準で認識されている解決策は、チェーンの厚みを増すことである。これは、それ自体が問題の解決策ではなく、むしろ、係留チェーンの交換が必要となるまでの長期にわたる腐食の進行を腐食許容度が許容しているだけであることにおいて、問題を容認しているに過ぎない。別の先行技術による方法は、係留破損を回避するために、係留システムを予防的に交換することである。
【0004】
また、陰極防食法を用いて腐食速度を遅延させることによって、この問題を解決する先行技術の試みもある。これは、例えば、既に1963年及び1969年に本件に関する一連の実験を実施した、米国「海軍土木技術研究所」によって説明されている。同研究所は2つの方法を説明しているが、その2つの方法とは、チェーンリンクの周囲に鋳造された陽極群を設けること、あるいは、犠牲陽極をチェーンにボルトで固定することであって、当該チェーンは、この目的専用に作製されたチェーン、つまり、一般的なチェーンではない、チェーンである。これらの方法は、港湾における恒久的な係留の標準作業手順にて実施されている。この専用に作製された係留チェーンには制限がいくつかあり、例えば、浅瀬のみでの使用が実用的であると考えられること、また、陸上で作製される必要があることである。
【0005】
韓国実用新案公開公報第2017-0000815号は、スタッドレスリンク本体と、スタッドレスリンク本体の外周に着脱可能に連結された締付式防食アノード部材とを備える、スタッドレスチェーンを開示している。
【0006】
ノルウェー国特許公報第134528号は、電解防食装置を開示している。当該装置は、金属体の一方側を被覆するアノード材が設けられた、金属体を備える。
【0007】
日本国公開特許公報第2000-273666号は、電気防食の一例を開示しており、2つの半楕円球からなる犠牲陽極が、1つ又は複数のチェーンリンクの周りにボルト及びナットで固定されている。
【0008】
本発明の目的は、先行技術における欠点の少なくとも1つを改善する若しくは低減すること、又は、少なくとも先行技術に対する有益な代替案を提供することである。
【0009】
上記目的は、以下の詳細の説明及びそれに続く特許請求の範囲に特定される特徴によって達成される。
【0010】
第1の局面において、本発明は、より具体的には、海中係留チェーンを腐食から保護するための装置であって、該装置は、少なくとも1つの犠牲陽極と、少なくとも1つの犠牲陽極を支持するためのクランプとを備え、クランプは、犠牲陽極を係留チェーンのチェーンリンクに離脱可能に接続し、犠牲陽極とチェーンリンクとの間で電気的接触を確立するための顎部を有する、装置に関する。
【0011】
本発明の第1の局面による装置の主な利点の1つは、クランプの顎部によって、装置をチェーンリンクに容易かつ確実に設置可能であることである。加えて、本装置は、単純な作業で容易に移動又は交換し得る。本装置は、ROVを用いて、より具体的には、ROVに接続された取付具を用いて、チェーンリンクに設置され得る。
【0012】
本装置は、少なくとも1つの犠牲陽極が設けられる。複数の犠牲陽極が同一のクランプに設けられてもよいし、それら犠牲陽極は寸法及び形状が異なっていてもよい。犠牲陽極がチェーン自体の腐食を抑制し、それゆえ本装置は、様々な係留基準で認識された保護戦略である、チェーンの厚みを増す、すなわち腐食許容度を確保する、必要があるという問題の解決策を提供する。
【0013】
さらに、顎部は、チェーンリンク上のいかなる付着物、腐食物、及び/又は被膜をも貫通して電気的接触とチェーンリンクの確実な把持とを確立する、少なくとも1つの、好ましくは2つ以上の、鋭利な要素が設けられ得る。鋭利な要素は、ナイフ状の長尺要素、先の尖った要素、歯、あるいは同様のものであってもよい。本装置の一実施形態では、顎部は歯付顎部である。クランプの顎部は、チェーンリンクの形状と相補的となるように丸みを帯びていてもよい。その寸法及び形状は、様々なチェーンの種類に、すなわち、スタッド付き及びスタッド無しのものに、適合させてもよく、また、任意の供給者からのものに適合させてもよい。
【0014】
本装置の別の利点は、既に使用中の係留チェーンに対して容易に設置されることである。このことが意味するのは、既存の沖合施設の係留チェーンに対して、当該係留チェーンを回収することなく又はそのようなチェーンを交換することなく、装置を後付けで設置し得ることである。さらに、本装置は、環境に応じてより離して又はより近づけてチェーンリンク上に配置され得ることから、係留チェーンの保護は、その係留チェーンを取り巻く水の局所的な腐食性に応じて調整し得る。本装置は、あらゆる水深において使用され得る。
【0015】
本装置は、個々のチェーンリンクに対して確実に接続されることから、本装置は、係留チェーンの動的運動に対して頑強である。また、仮に本装置のいくつかが脱落したとしてもチェーンは依然として保護され、システムは、新たな保護装置を用いて補完され得る。これもまた、例えば、微生物や他の環境要因に起因して、実際の腐食速度が場所によって異なり、標準的な予測よりも数倍速くなり得るという問題を解決する。本装置の数は、容易に増やすことが可能であり、本装置は、チェーンに沿って互いにより近づけて配置することも可能であり、また、本装置は、係留システムそのものを交換することなく、個別に交換可能である。
【0016】
少なくとも1つの犠牲陽極は、重量の最適化及び抗力の最小化のためにクランプに分散配置され得る、複数の犠牲陽極であってもよい。本装置の一実施形態において、少なくとも1つの犠牲陽極は、水中の運動抵抗を、すなわち抗力を、最小限に抑えるために形状が円形の、又は少なくとも丸みを帯びた、実際に1つの陽極である。
【0017】
少なくとも1つの犠牲陽極は、典型的にはアルミニウムで構成されるのに対して、少なくとも1つの犠牲陽極用のクランプや任意のブラケット又はその他付属品は、アルミニウムより重質の鋼で構成される。したがって、複数の小型陽極ではなく、1つの大型陽極を有することによって、より軽量な装置を達成可能である。
【0018】
少なくとも1つの犠牲陽極は、装置そのものを交換することなく犠牲陽極を交換するために、クランプと離脱可能に接続され得る。
【0019】
本装置は、ROV操作用に構成されてもよい。好適な設置方法はROVを用いることであると、本明細書中、上記に開示されてきた。しかしながら、潜水士による設置も可能であることが理解されるに違いない。本装置は、ROV操作用に構成された装置を必要としないことも有り得る陸上で又は水面近くで、チェーンに設置され得ることが想起される。
【0020】
第2の局面において、本発明は、より具体的には、海中係留チェーンを腐食から保護するためのシステムであって、本発明の第1の局面による装置と、取付具と、ROVとを備えるシステムに関する。
【0021】
第3の局面において、本発明は、より具体的には、海中係留チェーンを腐食から保護するための方法であって、該方法は、ROVに接続された取付具に、本発明の第1の局面による装置を配置することと、ROVを海中係留チェーンに接近させることと、装置を係留チェーンの第1のリンクに接続することと、取付具を装置から離脱させて、装置をチェーンリンクに接続したままとすることとを含む、方法に関する。
【0022】
本方法は、取付具にさらなる装置を配置することと、さらなる装置を係留チェーンの第2のリンクに接続することとをさらに含んでもよい。
【0023】
第2のリンクは、第1のリンクから少なくとも1つのチェーンリンク分だけ離れていてもよい。
【0024】
本方法は、水の腐食性及び導電率の少なくとも1つに基づき、装置間にあるチェーンリンクの最適な数を推定することをさらに含んでもよい。
【0025】
犠牲陽極による陰極防食は、陽極から、保護対象のチェーンの部分へ流れる電流に左右される。電流は、本明細書に開示されるように装置が設けられたチェーンリンク間にあるチェーン自体と、周囲の海水との両方で流れる。犠牲陽極を有する装置が接続されたチェーンリンク間の最適な距離や、1つの装置によって保護されるチェーンリンクの数は、例えば、支配的な海水温、海流、海水の塩分濃度などの、局所的な環境データに特に基づいて推定され得る。好ましくは、そのような推定は、局所的な環境データを入力データの少なくとも一部として利用する、コンピュータモデルを用いて実施される。
【0026】
この工程の利点は、標準的な数の装置を用いるのではなく、より正確な数の装置を利用可能であることである。
【0027】
本方法は、チェーンリンクから装置を取り外すために、取付具を装置に再接続することをさらに含んでもよい。
【0028】
この工程は、装置を交換する必要がある場合に有益である。
【0029】
本方法は、ROVを用いて、少なくとも1つの犠牲陽極を新たな犠牲陽極と交換することをさらに含んでもよい。
【0030】
最も簡略な形態における本方法は、本発明の第1の局面による1つの装置を、ROVを用いてチェーンリンクに設置することである。本方法は、その後に、所望数のチェーンリンクに好適な数の装置を設置するために必要な回数で繰り返されてもよい。そして、本方法は、所望に応じて、多数個の又は数個の任意選択的なステップを含むように拡張されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
以下、添付の図面に図示された好適な実施形態の例を説明する。
【
図1】水中のチェーンと、取付具に接続されて、ROVマニピュレータアームに操作される本装置の第1実施形態とを図示する。
【
図2】
図1と同じであるが、本装置は、上記チェーンのリンクのうちの、1つのリンクに接続されていることを示す。
【
図3】
図2と同じであるが、取付具が取り外された後を示す。
【
図4】互いに距離を隔てた2つのチェーンリンクに設置された本発明による装置を有する、水中のチェーンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
最初に
図1を参照し、
図1は、海中係留チェーン2を腐食から保護するためのシステム1を示す。システム1は、少なくとも1つの犠牲陽極31が設けられた装置3を備える。本図において、装置3は、3つの犠牲陽極31を備えるものが示されている。さらに、装置3は、犠牲陽極31が配置されたクランプ32を備える。クランプ32は、チェーン2のチェーンリンク21に接続するための顎部321が設けられており、本図では歯付顎部321として図示されている。
図1は、装置3が取付具4に接続され、さらに取付具4はROVのマニピュレータアーム5に配置されていることを図示する。取付具4及びROVもまたシステム1の一部であって、
図1は、歯付顎部321がチェーンリンク21を受け入れ、把持するように配置されるように、どのようにROVのマニピュレータアーム5が、取付具4を、ひいては装置3を、チェーンリンク21に向かって移動させるかを図示している。この次の工程が
図2に示されており、
図2では、顎部321が、チェーンリンク21の一部分を「噛み」、装置3とチェーンリンク21との間に電気的接続を確立する。
図3では、取付具4が取り外された後の、チェーンリンク21に接続された装置3が示されている。
図4は、さらなる装置3が、第1のチェーンリンク21から距離を隔てた第2のチェーンリンク22にどのように配置され得るかという一例を示す。
図4における丸囲みは、装置3が設けられたチェーン21及びチェーン22を強調するためのみにあることに留意されたい。チェーン2は、チェーン2に沿って規則的に又は不規則に間隔をあけて配置された、複数の装置3が設けられてもよい。これら装置3間の距離は、実際の環境要因に基づき推定されてもよく、あるいは、例えば、関連地域から得た経験に基づき、推定されてもよい。
【0033】
図5a及び
図5bは、装置3の第2実施形態を図示しており、犠牲陽極31は、本目的専用に作製されたものである。1つの大型犠牲陽極31は、クランプ32に分散配置された複数の犠牲陽極31を示す第1実施形態と比較して、好適な実施形態である。
【0034】
上述の実施形態は、本発明を限定するのではなく説明するものであること、また、当業者は、添付の特許請求の範囲の範囲から逸脱することなく、多くの代替実施例を設計可能であることが留意されるべきである。特許請求の範囲において、括弧内に配置された参照符号はいずれも、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。動詞「備える」(“comprise”)及びその活用形の使用は、特許請求の範囲に記載されている要素又は工程以外の、要素又は工程の存在を排除するものではない。要素に先行する冠詞「1つの」(“a”又は“an”)は、当該要素が複数存在することを排除するものではない。
【国際調査報告】