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特表2024-524186硫化水素含有ガスを連続的に処理するプロセス及び硫黄再生設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】硫化水素含有ガスを連続的に処理するプロセス及び硫黄再生設備
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240628BHJP
   C01B 17/05 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240628BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B01D53/14 210
C01B17/05 B
C01B17/05 Z
B01D53/14 220
C12N1/20 Z
C12M1/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578740
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 NL2022050345
(87)【国際公開番号】W WO2022271011
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】2028503
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513005305
【氏名又は名称】パクス アイ.ピー. ビー.ヴィ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】クロック, ヨハネス ベルナルドゥス マリア
(72)【発明者】
【氏名】メータ, ダヴァル
(72)【発明者】
【氏名】ダイクマン, ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】モル, アンネメレル ロゼマライン
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル ヴェイデン, レナータ ドロテア
(72)【発明者】
【氏名】バイスマン, シース ヤン ニコ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4D020
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB02
4B029CC01
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BD21
4B065CA15
4B065CA60
4D020AA04
4D020BA01
4D020BA10
4D020BA30
4D020BB03
4D020BC05
4D020CB08
4D020CC12
4D020DA03
4D020DB06
4D020DB07
4D020DB08
(57)【要約】
硫化水素含有ガスを連続的に処理するプロセスは、(a)硫化水素含有ガスを硫化物酸化細菌及び元素硫黄粒子を含む水性アルカリ性液体と接触させそれにより溶存硫化物、ポリスルフィド化合物、硫化物酸化細菌及び元素硫黄粒子を含む負荷水性液体と、より低い含有量の硫化水素を有するガスとを生成し、且つ負荷水性液体を1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含むポリスルフィド反応器ゾーンに通すステップと、(b)負荷水性液体を酸化剤と接触させて硫化物酸化細菌が硫化物を元素硫黄に酸化することを可能にしそれにより増加した量の元素硫黄粒子を含む濃縮水性液体を生成するステップと、(c)濃縮水性液体から元素硫黄粒子を分離するステップとを含み、負荷水性液体のステップ(a)におけるその調製とステップ(b)へのその供給との間の滞留時間は3~45分であり、ステップ(b)に供給される負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[Sx2’’j中sは0.7mMを超える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素含有ガスを連続的に処理するプロセスであって、
(a)前記硫化水素含有ガスを、硫化物酸化細菌及び元素硫黄粒子を含む水性アルカリ性液体と接触させ、それにより溶存硫化物、ポリスルフィド化合物、硫化物酸化細菌及び元素硫黄粒子を含む負荷水性液体と、より低い含有量の硫化水素を有するガスとを生成し、且つ前記負荷水性液体を、1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含むポリスルフィド反応器ゾーンに通すステップと、
(b)前記負荷水性液体を酸化剤と接触させて、前記硫化物酸化細菌が硫化物を元素硫黄に酸化することを可能にし、それにより増加した量の元素硫黄粒子を含む濃縮水性液体を生成するステップと、
(c)前記濃縮水性液体から元素硫黄粒子を分離するステップと
を含み、
前記負荷水性液体の、ステップ(a)におけるその調製と、ステップ(b)へのその供給との間の滞留時間は、3~45分であり、
ステップ(b)に供給される前記負荷水性液体中の前記ポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[S 2-中S]は、0.7mMを超える、プロセス。
【請求項2】
ステップ(b)に供給される前記負荷水性液体中の前記ポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[S 2-中S]は、1mMを超える、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
少なくとも1週間の期間にわたり、ステップ(b)に供給される前記負荷水性液体中の前記ポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の1日平均含有量[S 2-中S]は、0.7mMを超える、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記負荷水性液体中の前記ポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量は、以下の条件:
[S 2-中S]≧1.7*[HS]*10(-9.17+pH)
を満たし、式中、[S 2-中S]は、mMで表される、ステップ(b)に供給される前記負荷水性液体中の前記ポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量であり、[HS]は、ステップ(b)に供給される前記負荷水性液体の、mMで表される硫化物濃度であり、pHは、ステップ(b)に供給される前記負荷水性液体のpHである、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
[S 2-中S]≧2.8*[HS]*10(-9.17+pH)である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記硫化水素含有ガスは、0.1~3体積%の硫化水素含有量及び20体積%を超える二酸化炭素含有量を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記水性アルカリ性液体は、前記負荷水性液体及び/又は外部熱源との間接的な熱交換によって昇温され、それによりステップ(a)で使用される加熱された水性アルカリ性液体を得る、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
ステップ(a)は、前記負荷水性液体を、1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含むポリスルフィド反応器ゾーンに通すことを含み、前記ポリスルフィド反応器ゾーンは、上流領域及び下流領域を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
硫化物酸化細菌を含む前記水性アルカリ性液体の一部は、前記ポリスルフィド反応器ゾーンの前記上流領域に直接供給される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記ポリスルフィド反応器ゾーンにおいて、前記負荷水性液体の一部は、前記ポリスルフィド反応器ゾーン内の前記下流領域から前記上流領域に再循環される、請求項8又は9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記負荷水性液体の前記一部は、前記下流領域から分離されたとき、且つそれが前記ポリスルフィド反応器ゾーン内の前記上流領域に再循環される前に、5~45分の滞留時間を有するゾーンを介して流れる、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記下流領域から再循環される前記負荷水性液体の前記一部は、前記ポリスルフィド反応器ゾーン内の前記上流領域に再循環される前に昇温される、請求項10又は11に記載のプロセス。
【請求項13】
ステップ(a)は、垂直カラム内で実施され、前記硫化水素含有ガスは、前記カラムのより低い位置で前記カラムに連続的に供給され、及び前記硫化物酸化細菌を含む水性液体は、前記カラムのより高い位置に連続的に供給され、それにより、実質的に上方に流れるガス流は、実質的に下方に流れる水性流と接触する、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記硫化物酸化細菌を含む水性液体の一部は、前記カラムのより高い位置に連続的に供給されて、中間負荷水性液体を生成する第1の接触ゾーンにおいて、前記上昇するガス流と接触し、及び前記硫化物酸化細菌を含む水性液体の一部は、前記カラムの中間位置に連続的に供給されて、第2の接触ゾーンにおいて、前記中間負荷水性液体と共に、前記上昇するガス流と接触する、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
ステップ(a)の一部として、ステップ(a1)において、前記硫化物酸化細菌を含む水性液体の一部は、前記硫化水素含有ガスと連続的に接触されて、第1の中間負荷水性液体及びより低い中間含有量の硫化水素を有する中間ガスを得、
ステップ(a)の一部として、ステップ(a2)において、前記硫化物酸化細菌を含む水性液体の別の部分は、より低い中間含有量の硫化水素を有する前記中間ガスと連続的に接触されて、第2の中間負荷水性液体及びより低い含有量の硫化水素を有する前記ガスを得、
前記第1の中間負荷水性液体は、前記第2の中間負荷水性液体と組み合わされて、前記負荷水性液体を得る、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
それぞれの第1及び第2の中間負荷水性液体は、それぞれ別個の第1及び第2のポリスルフィド反応器ゾーンを通して流れ、前記ポリスルフィド反応器ゾーンにおいて、ポリスルフィド化合物は、前記溶存硫化物と前記元素硫黄との反応によって形成される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記第1及び第2のポリスルフィド反応器ゾーンは、それぞれ1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
ポリスルフィドが豊富な前記第1の中間負荷水性液体の一部は、前記第2のポリスルフィド反応器ゾーンに供給されて、前記第2の中間負荷水性液体中のポリスルフィド含有量を増加させる、請求項16又は17に記載のプロセス。
【請求項19】
ポリスルフィドが豊富な前記第1の中間負荷水性液体の前記一部は、前記第2のポリスルフィド反応器ゾーンの上流領域に供給されて、前記第2の中間負荷水性液体中のポリスルフィド含有量を増加させる、請求項17又は18に記載のプロセス。
【請求項20】
ステップ(b)の前記濃縮水性液体の少なくとも一部は、ステップ(a)に再循環される、請求項1~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
硫黄再生プロセス設備(1)であって、
- 吸収カラム(2)であって、硫化水素含有ガス(4)のための入口(3)と、その上端における、より低い含有量の硫化水素を有するガス(6)のための出口(5)と、硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ性液体(8)のための入口(7)と、より低い高さにおける負荷水性液体(10)のための第1の出口(9)とを備える吸収カラム(2)、
- 前記吸収カラム(2)の一部としての、且つ前記吸収カラム(2)の下端(2a)に配置され、及び/又は別個の容器の一部としてのポリスルフィド反応器ゾーン(11)
を含み、
前記ポリスルフィド反応器ゾーン(11)は、1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含み、前記ポリスルフィド反応器ゾーン(11)は、上流端(13)及び下流端(14)を含み、
前記ポリスルフィド反応器ゾーン(11)の前記上流端(13)は、負荷水性液体(10)のための前記第1の出口(9)に流体接続され、
前記ポリスルフィド反応器ゾーン(11)の前記下流端(14)は、前記負荷水性液体(17)のための第2の出口(16)と、前記ポリスルフィド反応器ゾーン(11)の前記上流端(13)への前記負荷水性液体の一部のための再循環流(18)とを備え、
前記負荷水性液体(17)のための前記第2の出口(16)は、硫化物を元素硫黄に酸化するための好気性バイオリアクター(19)に流体接続され、
前記好気性バイオリアクター(19)は、前記吸収カラム(2)の、水性アルカリ性液体(8)のための前記入口(7)に流体接続され、及び
前記硫黄再生プロセス設備(1)は、前記好気性バイオリアクター(19)に流体接続された入口を備え、且つ元素硫黄のための出口(24)及び元素硫黄が乏しい液体排出物のための出口(25)を備える元素硫黄回収ユニット(22)を含む、硫黄再生プロセス設備(1)。
【請求項22】
前記再循環流は、再循環における滞留時間を増加させるための容器を含む、請求項21に記載の硫黄再生プロセス設備。
【請求項23】
硫黄再生プロセス設備(1a)であって、
- 第1の吸収カラム(35)であって、硫化水素含有ガス(4)のための入口(36)と、その上端(39)における、より低い含有量の硫化水素を有する中間ガス(38)のための出口(37)と、硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ性液体(8)の一部(8c)のための入口(40)と、より低い高さにおける第1の中間負荷水性液体のための出口(41)とを備える第1の吸収カラム(35)、
- 第2の吸収カラム(55)であって、より低い含有量の硫化水素を有する前記中間ガス(38)のための入口(56)と、その上端(58)における、より低い含有量の硫化水素を有するガス(6)のための出口(57)と、硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ性液体(8)の一部(8a)のための入口(59)と、より低い高さにおける第2の中間負荷水性液体のための出口(60)とを備える第2の吸収カラム(55)、
- 前記第1の吸収カラム(35)の一部としての、且つ前記第1の吸収カラム(35)の下端(43)に配置され、及び/又は別個の容器の一部としてのポリスルフィド反応器ゾーン(42)、
- 前記第2の吸収カラム(55)の一部としての、且つ前記第2の吸収カラム(55)の下端(63)に配置され、及び/又は別個の容器の一部としてのポリスルフィド反応器ゾーン(62)
を含み、
前記ポリスルフィド反応器ゾーン(42、62)は、プラグフローゾーンを含み、前記硫化物反応器ゾーン(42、62)は、上流端(44、64)及び下流端(45、65)を含み、
前記第1の吸収カラム(35)の前記ポリスルフィド反応器ゾーン(42)の前記上流端(44)は、前記第1の中間負荷水性液体のための前記出口(41)に流体接続され、及び前記第2の吸収カラム(55)の前記ポリスルフィド反応器ゾーン(62)の前記上流端(64)は、前記第2の中間負荷水性液体のための前記出口(60)に流体接続され、
前記第1の吸収カラム(35)の前記ポリスルフィド反応器ゾーン(42)の前記下流端(45)は、前記第2の吸収カラム(55)の前記ポリスルフィド反応器ゾーン(62)の前記上流端(64)に流体接続され、
前記第2の吸収カラム(55)の前記ポリスルフィド反応器ゾーン(62)の前記下流端(65)は、硫化物を元素硫黄に酸化するための好気性バイオリアクター(19)に流体接続され、
前記好気性バイオリアクター(19)は、前記第1の吸収カラムの、前記水性アルカリ性液体(8)の一部(8a)のための前記入口(59)に流体接続され、且つ前記第2の吸収カラムの、前記水性アルカリ性液体(8)の一部(8c)のための前記入口(40)に流体接続され、及び
硫黄再生プロセス設備(1a)は、前記好気性バイオリアクター(19)に流体接続された入口を備え、且つ元素硫黄のための出口(24)及び元素硫黄が乏しい液体排出物のための出口(25)を備える元素硫黄回収ユニット(22)を含む、硫黄再生プロセス設備(1a)。
【請求項24】
前記ポリスルフィド反応器ゾーン(11、42、62)は、前記ポリスルフィド反応器ゾーン(11、42、62)の液体内容物の温度を上昇させるための手段を備える、請求項21~23のいずれか一項に記載の硫黄再生プロセス設備。
【請求項25】
硫化物酸化細菌を含む、請求項21~14のいずれか一項に記載の硫黄再生プロセス設備。
【請求項26】
請求項21に記載の硫黄再生プロセス設備において実施される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項27】
請求項23に記載の硫黄再生プロセス設備において実施される、請求項15に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素含有ガスを連続的に処理するプロセスであって、(a)硫化水素含有ガスを、硫化物酸化細菌及び元素硫黄粒子をさらに含む水性アルカリ性液体と接触させ、それにより負荷水性液体を生成するステップと、(b)負荷水性液体を酸化剤と接触させるステップであって、硫化物は、硫化物酸化細菌によって元素硫黄に酸化され、それにより増加した量の元素硫黄粒子を含む濃縮水性液体を生成する、ステップと、(c)濃縮水性液体から元素硫黄粒子を分離するステップとを含むプロセスに関する。本発明は、硫黄再生プロセス設備にも関する。
【背景技術】
【0002】
このような生物学的脱硫プロセスは、国際公開第92/10270号パンフレットに記載されている。この公報に記載されているようなプロセスは、世界中で既に250を超える商用設備に適用されている。しかしながら、硫黄粒子の分離は、依然として課題であり;硫黄粒子の割合は、従来の分離技術による液体-固体分離には小さすぎることが多い。
【0003】
硫黄は、宇宙で10番目に豊富に存在する元素であり、(バイオ)化学的硫黄サイクルを通して地球の生態系で重要な役割を果たす。これは、最も還元された状態(-2)である硫化水素(HS)から、最も酸化された状態(+6)の硫酸塩(SO 2-)まで様々な酸化状態で存在し得る。元素硫黄(酸化状態が0のS)は、国際公開第92/10270号パンフレットに記載されているプロセスを使用して、硫化水素含有ガスから回収することができる。化学的及び物理的代替物と比較したこのプロセスの主な利点は、周囲圧力及び温度において有毒な化学物質なしに動作することである。国際公開第92/10270号パンフレットのプロセスでは、HSは、中程度にアルカリ性の溶液に吸収され、そこで可溶性のビスルフィドに反応し、続いて硫化物酸化細菌の混合培養物によって酸化されて元素硫黄になる。元素硫黄は、主に斜方晶α-Sの形態で存在する。元素硫黄の形成に続いて、溶存酸素への過剰曝露により硫酸塩及びチオ硫酸塩などの酸化副生成物が形成され、硫酸塩は、生物学的に形成され、チオ硫酸塩は、非生物的に形成される。これらの化合物は、酸性化をもたらし、その結果、プロセス溶液を中和するために化学物質の添加が必要であるために望ましくない。
【0004】
上記の生物学的脱硫プロセスは、集中的に研究されてきたが、硫黄沈降性は、依然として大きい課題である。硫黄は、沈降が不十分であることが明らかになっており、商業プロセスで生成された硫黄の沈降性は、経時的に変動する。沈降性の低い硫黄は、系内に蓄積するため、プロセス操作の妨げにつながる可能性がある。硫黄が蓄積すると、ポンプ及びパイプの詰まりなどの問題を引き起こす可能性があり、高濃度では発泡も起こる。さらに、小さい硫黄粒子は、相対表面積が大きいため、酸化などの副反応を起こしやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、硫黄沈降性の低さ及び変動に関する前述の問題を有しないプロセス及び硫黄再生設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これは、以下のプロセスで提供される。硫化水素含有ガスを連続的に処理するプロセスであって、
(a)硫化水素含有ガスを、硫化物酸化細菌及び元素硫黄粒子をさらに含む水性アルカリ性液体と接触させ、それにより溶存硫化物、ポリスルフィド化合物、硫化物酸化細菌及び元素硫黄粒子を含む負荷水性液体と、より低い含有量の硫化水素を有するガスとを生成し、且つ負荷水性液体を、1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含むポリスルフィド反応器ゾーンに通すステップと、
(b)負荷水性液体を酸化剤と接触させて、硫化物酸化細菌が硫化物を元素硫黄に酸化することを可能にし、それにより増加した量の元素硫黄粒子を含む濃縮水性液体を生成するステップと、
(c)濃縮水性液体から元素硫黄粒子を分離するステップと
を含み、
負荷水性液体の、ステップ(a)におけるその調製と、ステップ(b)へのその供給との間の滞留時間は、3~45分であり、ステップ(b)に供給される負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[S 2-中S]は、0.7mMを超える、プロセスである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例を示す。
図2】実験中に微好気性反応器から採取した硫黄粒子サンプルの典型的な粒径分布(PSD)を示す。
図3】凝集物の形成に対するポリスルフィド反応器ゾーンの影響を示す。
図4】実施例を示す。
図5】本発明によるプロセスを実施することができる硫黄再生プロセス設備を示す。
図6図5と同様の硫黄再生プロセス設備を示す。
図7】第1の吸収カラム(35)であって、硫化水素含有ガス(4)のための入口(36)と、その上端(39)における、より低い含有量の硫化水素を有する中間ガス(38)のための出口(37)と、硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ性液体(8)の一部(8c)のための入口(40)と、より低い高さにおける第1の中間負荷水性液体のための出口(41)とを備える第1の吸収カラム(35)を含む硫黄再生プロセス設備(1a)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本出願人らは、請求項に記載のプロセスを実施すると、元素硫黄の沈降性が著しく改善されることを見出した。結果は、硫黄粒子の凝集が促進されるが、非常に小さい単一粒子の存在が従来技術のプロセス条件と比較して低いことを示している。ステップ(b)のバイオリアクター内でのポリスルフィド形成が望ましくないと考えられ、これは、動作条件が悪いことを示すため、負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の含有量が高いことが有益であることは、驚くべきことである。さらに、ポリスルフィドは、硫化物よりも過酸化に対して感受性が高いことが知られており、望ましくない腐食剤の元素硫黄形成/再生の効率が低下する。本出願人は、元素硫黄の定着に関する改善が、ステップ(a)及びステップ(b)を実行する前に、ポリスルフィドの存在の結果として非常に小さい硫黄粒子が除去されるという事実に起因すると考えている。ポリスルフィド形成のため、液体中の残りの最小粒子は、凝集する傾向が高く、元素硫黄の定着が改善されると考えられる。
【0009】
以下の理論に拘束されることを望むものではないが、本出願人は、元素硫黄の改善された定着がポリスルフィドとS8環との間の以下の平衡によって説明され得ると考えている:
HS+(x-1)/8S<->S 2-+H (1)。
【0010】
ポリスルフィドの含有量[S 2-]が高い場合、溶解したS8環の形成も促進され、溶解したS8環のいわゆる過飽和が生じ、次いでいわゆるポリスルフィド条件下で所望の凝集体が形成される。これらのポリスルフィド条件は、以下の式(2):
[S 2-中S]≧1.7*[HS]*10(-9.17+pH) (2)
によって表され、式中、[S 2-中S]は、ステップ(b)に供給された負荷水性液体中のポリスルフィド化合物[S 2-]の一部としての元素硫黄の含有量であり、[S 2-中S]は、mM Sで表される、ステップ(b)に供給された負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量であり、[HS]は、ステップ(b)に供給された負荷水性液体の、mMで表される硫化物濃度であり、pHは、ステップ(b)に供給された負荷水性液体のpHである。
【0011】
さらにより好ましくは、ポリスルフィド条件は、以下の式(3)によって表される:
[S 2-中S]≧2.8*[HS]*10(-9.17+pH) (3)。
【0012】
典型的には、[S 2-中S]≦6.0*[HS]*10(-9.17+pH) (4)である。
【0013】
ステップ(b)に供給される負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[S 2-中S]は、0.7mMを超え、好ましくは1mMを超え、さらにより好ましくは1.5mMを超える。
【0014】
負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[S 2-中S]は、ポリスルフィドの含有量[S 2-]及び以下の式による平均鎖長xに依存する:
[S 2-中S]=(x-1)*[S 2-] (3)。
【0015】
例えば、以下の式S-S-S-S-に従ってx=4であり、1.5mMの[S 2-]濃度で存在するポリスルフィドの場合、ポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[S 2-中S]は、
(4-1)x1.5mM=4.5mM
である。
【0016】
ポリスルフィドは、ビスルフィドと元素硫黄との反応によって形成される。ポリスルフィド自体も元素硫黄と反応し得る。非常に小さい元素硫黄粒子の高い表面対体積比のため、これらの粒子は、選択的に消費されると考えられる。この化学反応は、明らかに従来技術のプロセスでも起こる。しかしながら、従来技術のプロセスでは、ポリスルフィドの濃度は、本プロセスで達成され、改善された硫黄沈殿をもたらすレベルに達しない。この理由から、本発明によるプロセスを、少なくとも1週間の期間にわたり、ステップ(b)に供給される負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の1日平均含有量[S 2-中S]が0.7mMを超える、好ましくは1mMを超える、さらにより好ましくは1.5mMを超えるように操作することが好ましい。より好ましくは、上記の式(2)によって表されるポリスルフィド条件下で少なくとも1週間の期間にわたって本発明によるプロセスを操作する。
【0017】
硫化水素含有ガスは、そのような化合物を含む任意のガスであり得る。硫化水素含有ガスは、二酸化炭素、窒素、水素、少量の酸素、水蒸気及び気体炭化水素、例えばメタン、エタン、プロパン及び/又は高沸点炭化水素並びにメルカプタン及び/又は他の硫黄化合物、例えば硫化カルボニルも含み得る。そのようなガスは、天然ガス、例えば嫌気性廃水処理ユニットからのバイオガス、精製オフガス、合成ガス、地熱ガス、埋立地ガス又はアミンガス処理プロセスで得られる酸性ガスであり得る。本発明は、20体積%を超える二酸化炭素含有量及び0.1~3体積%の硫化水素含有量を有するガスに特に適している。このようなガスが従来技術のプロセスによって処理される場合、硫黄沈降性が特に課題である。後知恵により、得られたより低いpH及びより低いビスルフィド含有量でのポリスルフィドの一部としての低含有量の硫黄は、実施例Bにも示されるように元素硫黄の不十分な定着を引き起こすと考えられる。そのようなガスが本発明のプロセスによって処理されると、元素硫黄の改善された沈降性が観察される。
【0018】
ステップ(a)において、硫化水素含有ガスを、硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ液体と好ましくは15~48℃、より好ましくは35~45℃の温度で接触させる。このようなプロセスは、吸収プロセスとも呼ばれ、典型的には気体及び液体が向流で流れる吸収又は接触カラムで行われる。好適には、ステップ(a)は、垂直カラム内で実施され、実質的に上方に流れる気体流が、実質的に下方に流れる水性流と接触するように、硫化水素含有ガスは、カラムのより低い位置でカラムに連続的に供給され、硫化物酸化細菌を含む水性液体は、カラムのより高い位置に連続的に供給される。カラムは、その下端における、負荷水性液体のための出口及びその上端における、処理されたガスのための出口をさらに備える。
【0019】
水性アルカリ性液体は、硫化水素の吸収に適していることが知られている任意の液体アルカリ性吸収剤であり得る。適切な液体アルカリ吸収剤の例は、炭酸塩、重炭酸塩及び/又はリン酸塩溶液であり、より好ましくは、水性液体は、炭酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム及び重炭酸カリウム又はその混合物をさらに含む緩衝液である。液体水性アルカリ液のpHは、好ましくは、7~10、より好ましくは7.5~9.5の範囲である。カラムの下方向において、吸収液のpHは、硫化水素及び二酸化炭素の吸収により低下することが理解されるであろう。ステップ(a)で生成された負荷水性液体のpHは、典型的には、吸収カラムに供給される水性液体のpHよりも低い。ステップ(a)で生成された負荷水性液体のpHは、6.5程度の低さであり得、好ましくは6.5~9.0の範囲である。
【0020】
ステップ(a)の圧力は、最大100bara、好ましくは大気圧~80baraであり得る。
【0021】
ステップ(a)では、酸素、特に溶存酸素の濃度が低い。ステップ(a)で生成された負荷水性液体中の分子状酸素の濃度は、最大10μM、好ましくは最大1μM、より好ましくは最大0.1μMである。これらの低い酸素含有量を達成するために、硫化水素含有ガス中の酸素含有量は、適切には3体積%未満、好ましくは1体積%未満である。
【0022】
ステップ(a)に存在する硫化物酸化細菌は、任意の硫化物酸化細菌、好ましくはハロチオバチルス属(Halothiobacillus)、チオアルカリミクロビウム属(Thioalkalimicrobium)、チオアルカリスピラ属(Thioalkalispira)、チオアルカリバクター属(Thioalkalibacter)、チオアルカリビブリオ属(Thioalkalivibrio)、アルカリリムニコラ属(Alkalilimnicola)及び関連細菌の硫化物酸化細菌であり得る。ステップ(a)に存在するような硫化物酸化細菌は、ステップ(b)からの濃縮水性液体を再循環させ、且つ/又はステップ(c)における元素硫黄粒子の除去後に得られた水性液体を再循環させることによって提供され得る。そのような硫化物酸化細菌が上記の条件下で水性アルカリ性液体中に存在する場合、硫化水素の非常に効果的な吸収が生じることが分かった。ステップ(a)における水性アルカリ性液体中の窒素含有量に基づく硫化物酸化細菌の含有量は、好ましくは、5mg N/L超1000mg N/L未満、より好ましくは25~200mg N/Lである。
【0023】
ステップ(a)で生成された負荷水性液体は、溶解したビスルフィド、元素硫黄粒子及び硫化物酸化細菌を含む。ステップ(a)で生成された負荷水性液体中のビスルフィド、ポリスルフィド化合物、硫化物酸化細菌中の硫黄及び元素硫黄の合計濃度(硫黄として表される)は、最大20グラム/リットルであり得る。好ましくは、負荷水性液体中のこの合わせた濃度は、100mg/L~15g/L、より好ましくは150mg/L~10g/Lの範囲である。水性液体は、硫化物酸化細菌の栄養素として、例えば鉄、銅又は亜鉛などの微量化合物を含み得る。
【0024】
ステップ(a)の水性アルカリ性液体中の元素硫黄粒子は、ステップ(b)の濃縮水性液体の少なくとも一部をステップ(a)に再循環させることによって適切に提供することができる。特に好ましい実施形態では、ステップ(a)で提供される水性アルカリ性液体の大部分は、ステップ(b)からの再循環された濃縮水性液体からなる。より好ましくは、ステップ(a)で提供されるアルカリ性液体の少なくとも90体積%は、ステップ(b)からの再循環された濃縮水性液体からなる。
【0025】
ステップ(b)において、ステップ(a)の負荷水性液体を酸化剤と接触させ、硫化物は、硫化物酸化細菌によって元素硫黄に酸化される。好ましくは、ステップ(b)を実行することができるバイオリアクターに供給される酸化剤の量は、少なくともステップ(a)及び/又は(b)の硫化物を元素硫黄に酸化するのに必要な化学量論量程度である。このようにして、元素硫黄を形成するときに細菌によって生成されたプロトンが消費され、それにより細菌が再生される。したがって、このステップは、苛性再生とも呼ばれる。このようにして得られた再生硫化物酸化細菌は、その後、ステップ(a)で再使用され得る。任意の適切な酸化剤、例えば硝酸塩又は分子状酸素、好ましくは分子状酸素を使用し得る。酸化剤は、任意の適切な方法において、好ましくは分子状酸素を含むガス流をバイオリアクターに供給することによって供給され得る。分子状酸素を含むガス流は、酸素、好ましくは空気を含む任意の適切な気体であり得る。
【0026】
好ましくは、ステップ(b)の温度は、10~48℃、より好ましくは35~45℃の範囲であり、圧力は、0bara~10bara、より好ましくは大気圧~5bara、さらにより好ましくは大気圧である。
【0027】
ステップ(b)で形成された濃縮水性液体中の元素硫黄粒子は、ステップ(c)で分離される。そのような分離は、ステップ(b)が完了した後に実施され得、且つ/又はステップ(b)と同時に実施され得る。元素硫黄のこの分離は、例えば、沈降又は固液分離のための他の手段など、当技術分野で公知の任意の手段によって実施することができる。好ましくは、元素硫黄は、ステップ(b)で得られた水溶液の一部を採取し、その部分から元素硫黄を分離して硫黄枯渇排出物を得ることによって回収される。硫黄が枯渇した排出物の一部は、ステップ(b)に再循環され得、硫黄が枯渇した排出物の一部は、パージされ得る。ステップ(b)で得られた水溶液の別の一部をステップ(a)のアルカリ水溶液として使用し得る。
【0028】
負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[S 2-中S]は、以下の方法に従って測定される。最初に、Kleinjan,W.E.;De Keizer,A.;Janssen,A.J.H.,Equilibrium of the reaction between dissolved sodium sulphide and biologically produced sulphur.Colloids and Surfaces B:Biointerfaces 2005,43,(3-4),228-237によって記載されているように、ポリスルフィドの全濃度を波長285nmで分光光度的に測定する。続いて、Alexey Kamyshny,Jenny Gun,Dan Rizkov,Tamara Voitsekovski,and Ovadia Lev in Environ.Sci.Technol.2007,41,7,2395-2400によって記載されているように、熱力学によって平均鎖長を決定する。ここで、測定されたポリスルフィド含有量及び決定された平均鎖長を使用して、ポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[S 2-中S]を計算することができる。
【0029】
負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の必要な含有量[S 2-中S]又はポリスルフィド条件は、温度、滞留時間及びpH又はこれらの手段の組合せに影響を及ぼすことによってプロセスにおいて達成され得る。より高い硫化物濃度、より高い温度、より長い滞留時間及びより高いpHは、ポリスルフィドの形成に有利である。ポリスルフィド及び小さい元素硫黄粒子の局所的な高含有量はまた、自己触媒効果により、同様の反応時間でより高いポリスルフィド含有量をさらにもたらし得る。したがって、当業者は、良好で安定した硫黄沈殿を有するプロセスを実施するために、本発明のプロセス条件を達成するための様々な手段を選択することができる。
【0030】
温度に影響を与える1つの方法は、水性アルカリ性液体を、負荷水性液体及び/又は外部熱源との間接的な熱交換によって温度を上昇させ、それによりステップ(a)で使用される加熱水性アルカリ性液体を得ることである。負荷水性液体は、例えば、ステップ(b)で使用される直前に、適切にはステップ(a)に供給される負荷水性液体よりも高い温度を有する。適切には、負荷水性液体は、35~50℃の温度を有し得る。ステップ(a)で使用される水性アルカリ性液体の温度を上昇させるためにこの比較的温かい流れを使用することにより、本発明による負荷水性液体又はポリスルフィド条件中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の必要な含有量[S 2-中S]を達成することができる。
【0031】
ステップ(b)に供給される負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部として高含有量の元素硫黄を達成するために、負荷水性液体に十分な滞留時間を与える必要がある。負荷水性液体の、ステップ(a)におけるその調製と、ステップ(b)へのその供給との間の滞留時間を増加させることにより、負荷水性液体又はポリスルフィド条件におけるポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄[S 2-中S]の形成が促進される。この滞留時間は、硫化物保持時間(SuRT)とも呼ばれる。好ましくは、滞留時間SuRTは、3~45分、より好ましくは5~15分である。
【0032】
所望の滞留時間は、ステップ(a)が、負荷水性液体流をポリスルフィド反応器ゾーンに通すことを含むプロセスによって達成される。このポリスルフィド反応器ゾーンでは、溶存硫化物と元素硫黄粒子との反応によってポリスルフィド化合物が形成される。ポリスルフィド反応器ゾーンは、1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含む。これらのプラグフロー反応器ゾーンでは、逆混合が最小限に抑えられる。ポリスルフィド反応器ゾーンは、結果として、ポリスルフィド反応器ゾーンの異なる領域に異なる含有量のポリスルフィドを有する。反応の自己触媒性の結果として、ポリスルフィド反応器ゾーンの流出物中のより高い平均ポリスルフィド濃度及びより高いポリスルフィド濃度が達成されため、これは、有益である。本明細書で使用される「プラグフロー反応器ゾーン」という用語は、管の内壁に隣接する境界層がないと仮定して、管の軸に垂直な管の任意の断面にわたって流体の速度が実質的に一定である、流体が通して流れる管内のゾーンを指す。
【0033】
ポリスルフィド反応器ゾーンは、例えば、液体が容器を通してジグザグ流パターンで流れる内部を有する垂直又は水平に延在する容器であり得る。したがって、そのようなポリスルフィド反応器ゾーンは、上流領域及び下流領域を有する。さらに、負荷水性液体は、上流領域と比較して下流領域でより高いポリスルフィド含有量を有する。
【0034】
負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の必要な含有量[S 2-中S]又はポリスルフィド条件は、ポリスルフィド反応器ゾーンにおいて、より高いポリスルフィド含有量を有する負荷水性液体の一部を、ポリスルフィド反応器ゾーンの下流領域から、上流領域のポリスルフィド含有量を増加させる目的で負荷水性液体がより低いポリスルフィド含有量を有するポリスルフィド反応器ゾーンの上流領域に再循環することによって達成され得る。ポリスルフィド化合物の存在は、より多くのポリスルフィド化合物の形成速度を高めることが見出されている。したがって、このように再循環することにより、この自己触媒効果が向上し、本発明の条件がさらに達成される。適切には、下流領域で排出されたときの負荷水性液体の5~50重量%が上流領域に再循環される。
【0035】
好ましくは、再循環されるより高いポリスルフィド含有量を有する負荷水性液体の部分は、導管及びポンプなどにより、ポリスルフィド反応器ゾーンの上流領域に直ちに添加されない。この部分を直ちに添加しないことにより、この部分の追加の滞留時間が生成され、それによりこの部分でさらに多くのポリスルフィドが形成されることが可能になる。このポリスルフィド濃縮部分をポリスルフィド反応器ゾーンの上流領域に添加することにより、さらに大きい自己触媒効果が存在する。適切には、下流領域から分離された負荷水性液体の一部は、それがポリスルフィド反応器ゾーン内の上流領域に再循環される前に、5~45分の滞留時間を有するゾーンを介して流れる。好ましくは、このゾーンにおける滞留時間は、5~15分である。
【0036】
負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の必要な含有量[S 2-中S]又はポリスルフィド条件は、硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ性液体の一部をポリスルフィド反応器ゾーンに直接供給することによって達成され得る。したがって、この部分は、吸収、すなわちステップ(a)の接触部分を迂回し、ポリスルフィド反応器ゾーン内の負荷水性液体と直接混合される。好ましくは、水性アルカリ性液体の一部は、ポリスルフィド反応器ゾーンの上流領域に添加される。適切には、5~20重量%の水性アルカリ性液体がポリスルフィド反応器ゾーンに直接供給され、残りの部分は硫化水素含有ガスと接触するために使用される。
【0037】
ポリスルフィド反応器ゾーン内の上流領域に再循環される負荷水性液体の部分のポリスルフィド含有量を増加させることは、この部分の温度を上昇させることによっても達成され得る。好ましくは、より高いポリスルフィド含有量を有する負荷水性液体の一部は、ポリスルフィド反応器ゾーンの上流領域に再循環される前に昇温される。好ましくは、温度は、35~50℃まで上昇される。
【0038】
同様に上述したように、ステップ(a)は、好ましくは、垂直カラムで行われ、この場合、実質的に上方に流れるガス流が実質的に下方に流れる水性流と接触するように、硫化水素含有ガスは、カラムのより低い位置でカラムに連続的に供給され、硫化物酸化細菌を含む水性液体は、カラムのより高い位置に連続的に供給される。好ましくは、硫化物酸化細菌を含む水性液体の一部は、中間負荷水性液体を生成する第1の接触ゾーンにおいて上昇するガス流と接触するために、カラムのより高い位置に連続的に供給される。第1の接触ゾーンにおいて、ガスは、その必要とされる低レベルの硫化水素まで研磨される。硫化物酸化細菌を含む水性液体の一部は、カラムの中間位置に連続的に供給されて中間負荷水性液体と接触し、上昇するガス流は、第2の接触ゾーンにある。この第2の接触ゾーンでは、硫化物酸化細菌を含む水性液体の一部が新鮮な供給ガスと接触し、合わせて負荷水性液体中のより高いポリスルフィド濃度をもたらす。この負荷水性液体を中間負荷水性液体と混合することにより、中間負荷水性液体中に存在するいかなる小さい硫黄粒子もポリスルフィドによって反応除去される。好ましくは、硫化物酸化細菌を含む全水性液体の5~50重量%がこの第2の接触ゾーンに供給される。この実施形態は、単一の吸収容器内で実施され得る。
【0039】
ステップ(a)において、別の好ましい実施形態では、硫化物酸化細菌を含む水性液体の一部をステップ(a1)において硫化水素含有ガスと連続的に接触させて、第1の中間負荷水性液体及びより低い中間含有量の硫化水素を有する中間ガスを得、硫化物酸化細菌を含む水性液体の別の部分を、ステップ(a2)において、より低い中間含有量の硫化水素を有する中間ガスと連続的に接触させて、第2の中間負荷水性液体及びより低い含有量の硫化水素を有するガスを得る。ステップ(a2)は、必要な低レベルの硫化水素が達成される研磨ステップであると考えられ得る。ステップ(a1)において、硫化物酸化細菌を含む水性液体の一部は、新鮮な供給ガスと接触し、第1の中間負荷水性液体中のより高いポリスルフィド濃度をもたらす。第1の中間負荷水性液体を第2の中間負荷水性液体と組み合わせることにより、第2の中間負荷水性液体中に存在するいかなる小さい硫黄粒子もポリスルフィドによって反応除去される。好ましくは、スルフィド酸化細菌を含む全水性液体の5~50重量%がステップ(a1)に供給される。第1の中間負荷水性液体を第2の中間負荷水性液体と合わせて、負荷水性液体を得る。ステップ(a)とステップ(b)との間の第1及び第2の中間負荷水性液体の滞留時間は、適切には5~45分、好ましくは5~15分である。
【0040】
好ましくは、ステップ(a1)及び(a2)で製造された各第1及び第2の中間負荷水性液体は、それぞれ別個の第1及び第2のポリスルフィド反応器ゾーンを通して流れる。ポリスルフィド反応器ゾーンでは、溶存硫化物と元素硫黄との反応によってポリスルフィド化合物が形成される。好ましくは、ポリスルフィド反応器ゾーンは、上述のように逆混合を回避する1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含む。好ましくは、第2の中間負荷水性液体中のポリスルフィド含有量を増加させるために、ポリスルフィドが豊富な第1の中間負荷水性液体の一部が第2のポリスルフィド反応器ゾーンに供給される。ポリスルフィド反応器ゾーンが上流及び下流領域を有する場合、ポリスルフィドが豊富な第1の中間負荷水性液体の一部を第2のポリスルフィド反応器ゾーンの上流領域に供給して、第2の中間負荷水性液体中のポリスルフィド含有量を増加させることが好ましい。
【0041】
ステップ(a1)及びステップ(a2)は、同じ又は好ましくは別個の吸収カラムで実施され得る。より好ましくは、ステップ(a1)及びステップ(a2)は、それぞれ各ポリスルフィド反応器ゾーンが存在する下端部を含む別個の吸収カラムで実施される。
【0042】
このプロセスは、負荷水性液体中のポリスルフィド化合物の一部としての元素硫黄の含有量[S 2-中S]又はステップ(b)に供給された負荷水性液体中のポリスルフィド条件が測定される測定及び制御を利用することによって適切に行われ、測定された含有量が閾値を下回る場合、再循環に影響を及ぼすことにより、温度及び/又は滞留時間は、上述のように前記含有量を増加させるために対象に適合される。
【0043】
本発明を図1図7によって説明する。図1~4は、実施例に関する。
【0044】
図5は、本発明によるプロセスを実施することができる硫黄再生プロセス設備を示す。本発明は、この硫黄再生プロセス設備にも関する。硫黄再生プロセス設備(1)は、吸収カラム(2)であって、硫化水素含有ガス(4)のための入口(3)と、その上端における、より低い含有量の硫化水素を有するガス(6)のための出口(5)と、硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ性液体(8)のための入口(7)と、より低い高さにおける負荷水性液体(10)のための第1の出口(9)とを備える吸収カラム(2)を備える。さらに、ポリスルフィド反応器ゾーン(11)が示されている。このポリスルフィド反応器ゾーン(11)は、別個の容器(12)の一部である。代わりに、ポリスルフィド反応器ゾーン(11)は、吸収カラム(2)の下端(2a)にも配置され得るか、又はこれらの2つの実施形態の組合せであり得る。ポリスルフィド反応器ゾーン(11)は、プラグフロー反応器ゾーンを含み、前記ポリスルフィド反応器ゾーン(11)は、上流端(13)及び下流端(14)を含む。ポリスルフィド反応器ゾーン(11)の上流端(13)は、負荷水性液体(10)のための第1の出口(9)に流体接続される。ポリスルフィド反応器ゾーン(11)の下流端(14)には、負荷水性液体(17)のための第2の出口(16)と、ポリスルフィド反応器ゾーン(11)の上流端(13)への負荷水性液体の一部のための再循環流(18)とが設けられる。この再循環流(18)は、ポリスルフィドの一部としての元素硫黄の含有量が、好気性運転バイオリアクター(19)に供給されるにつれて、負荷水性液体中で増加することを達成する。この含有量は、再循環される画分を増加又は減少させることによって増加又は減少させることができる。ポリスルフィドの一部としての元素硫黄の含有量は、再循環流(18)の温度を上昇させ、吸収カラム(2)の下端(2a)の温度を上昇させ、別個の容器(12)内の温度を上昇させ、且つ/又は下流領域(14)から負荷された水性留分の一部を分離し、この部分を上流領域(13)に供給する間の時間を増加させることによっても増加させることができる。
【0045】
負荷水性液体(17)のための第2の出口(16)は、プロセスのステップ(c)を実行するために好気性運転バイオリアクター(19)に流体接続される。好気性運転バイオリアクター(19)には、空気(20)が供給され、使用済み空気(21)が排出される。好気性運転バイオリアクター(19)は、導管(23)を介して、吸収カラム(2)の水性アルカリ性液体(8)の入口(7)及び元素硫黄回収ユニット(22)に流体接続される。代わりに、回収ユニット(22)は、バイオリアクター(19)の一部であり得る。元素硫黄回収ユニット(22)には、元素硫黄のための出口(24)と、元素硫黄が乏しい液体排出物(26)のための出口(25)とが設けられる。この液体排出物は、示されるように、部分的にパージされ、部分的に好気性運転バイオリアクター(19)に戻される。
【0046】
図6は、以下の相違点を有する、図5と同様の硫黄再生プロセス設備を示す。別個の容器(12)の代わりに、ポリスルフィド反応器ゾーン(11)は、いわゆるサンプ(30)として吸収カラム(2)の底部(2b)に配置される。サンプ(30)は、その上端で液位(31)によって画定される負荷水性液体(17)の体積である。この液位(31)は、図示のように、好気性運転バイオリアクター(19)内の液位(32)及び元素硫黄回収ユニット(22)内の液位(33)と同じ高さ又は異なる高さであり得る。硫化水素含有ガス(4)のための入口(3)は、サンプ(30)の液位(31)の上方に位置する。ポリスルフィド反応器ゾーン(11)としてのサンプ(30)は、1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含み、前記ポリスルフィド反応器ゾーンは、上流端(13)及び下流端を含む。負荷水性液体(17)の一部は、再循環流(18a)を介してサンプ(30)の上流領域(13)に再循環される。示されるように、この部分は、再循環流(18a)としてサンプ(30)の液位(31)より上の位置(34)で吸収カラム(2)にも供給され得る。この再循環流(18a)は、水性アルカリ性液体(8)の一部(8b)と組み合わせることができる。水性アルカリ性液体(8)の別の一部(8a)は、カラム(2)の上端の入口(7)に提供される。
【0047】
この再循環流(18a)は、ポリスルフィドの一部としての元素硫黄の含有量が、好気性運転バイオリアクター(19)に供給される前に、負荷水性液体(17)中で増加することを達成する。この含有量は、再循環される画分(18a)を増加又は減少させることによって増加又は減少させることができる。ポリスルフィドの一部としての元素硫黄の含有量は、再循環流(18a)の温度を上昇させ、サンプ(30)内の温度を上昇させ、且つ/又は負荷水性留分の一部を下流領域(14)から分離し、この部分を上流領域(13)又は位置(34)に供給する間の時間を増加させることによっても増加させ得る。
【0048】
図7は、第1の吸収カラム(35)であって、硫化水素含有ガス(4)のための入口(36)と、その上端(39)における、より低い含有量の硫化水素を有する中間ガス(38)のための出口(37)と、硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ性液体(8)の一部(8c)のための入口(40)と、より低い高さにおける第1の中間負荷水性液体のための出口(41)とを備える第1の吸収カラム(35)を含む硫黄再生プロセス設備(1a)を示す。第2の吸収カラム(55)はまた、より低い含有量の硫化水素を有する中間ガス(38)のための入口(56)と、その上端(58)により低い含有量の硫化水素を有するガス(6)のための出口(57)と、硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ性液体(8)の一部(8a)のための入口(59)と、より低い高さの第2の中間負荷水性液体のための出口(60)とを備えて示されている。
【0049】
ポリスルフィド反応器ゾーン(42)は、第1の吸収カラム(35)の一部であり、第1の吸収カラム(35)の下端(43)に配置されている。ポリスルフィド反応器ゾーン(62)は、第2の吸収カラム(55)の一部であり、第2の吸収カラム(55)の下端(63)に配置されている。ポリスルフィド反応器ゾーン(42、62)は、1つ以上のプラグフロー反応器ゾーンを含み、前記硫化物反応器ゾーン(42、62)は、上流端(44、64)及び下流端(45、65)を含む。
【0050】
第1の吸収カラム(35)のポリスルフィド反応器ゾーン(42)の上流端(44)は、第1の中間負荷水性液体の出口(41)に流体接続され、第2の吸収カラム(55)のポリスルフィド反応器ゾーン(62)の上流端(64)は、第2の中間負荷水性液体の出口(60)に流体接続される。第1の吸収カラム(35)のポリスルフィド反応器ゾーン(42)の下流端(45)は、流れ(66)を介して第2の吸収カラム(55)のポリスルフィド反応器ゾーン(62)の上流端(64)に流体接続される。このようにして、高含有量のポリスルフィドを含む画分がポリスルフィド反応器ゾーン(62)に添加される。結果として得られる負荷水性液体(17)は、特許請求される特性を有する。この負荷水性液体(17)は、硫化物の元素硫黄への酸化のために好気性運転バイオリアクター(19)に供給される。このために、第2の吸収カラム(55)のポリスルフィド反応器ゾーン(62)の下流端(65)は、硫化物酸化細菌の再生のために好気性運転バイオリアクター(19)に流体接続される。
【0051】
第1の吸収カラム(35)のポリスルフィド反応器ゾーン(42)の内容物の一部は、バイオリアクター(19)(図示せず)に直接供給され得る。硫化物酸化細菌をさらに含む水性アルカリ性液体(8)の一部(8b)は、第1及び第2の吸収カラム(35、55)に添加されて、ポリスルフィドの形成をさらに促進する。第1の吸収カラムは、必ずしも接触内部を備えていなくてもよい単純な設計を有することができる。上記のステップ(a1)は、第1の吸収カラム(35)において行われ得る。第2の吸収カラム(55)には、硫化水素の最適な吸収を達成するように気液接触を最適化するように接触内部構造が適切に設けられる。上記のステップ(a2)は、第2の吸収カラム(55)において行われ得る。
【0052】
好気性運転バイオリアクター(19)は、第2の吸収カラムの水性アルカリ性液体(8)の一部(8a)のための入口(59)に流体接続され、第1の吸収カラムの水性アルカリ性液体(8)の一部(8c)のための入口(40)に流体接続される。元素硫黄回収ユニット(22)には、好気性運転バイオリアクター(19)に流体接続された入口と、元素硫黄のための出口(24)と、元素硫黄が乏しい液体排出物のための出口(25)とが設けられる。
【0053】
図5図7のポリスルフィド反応器ゾーン(11、2b、42、62)は、ポリスルフィド反応器ゾーン(11、2a、42、62)の液体内容物の温度を上昇させるための手段を備え得る。これは、例えば、高温の熱媒体がポリスルフィド反応器ゾーン(11、2b、42、62)に存在するように管を通して流れ、それによりこれらのゾーンの液体内容物を加熱する間接的な熱交換によるものであり得る。
【0054】
本発明を以下の非限定的な実験によって説明する。
【実施例
【0055】
ここで、本発明者らは、従来のプロセス設定に挿入された新規な硫化反応器の効果を報告する。硫化反応器は、溶存酸素が1μM O未満であり、硫化物が0.5mMを超える条件として定義される。本発明者らは、様々な硫化物濃度及び硫化物保持時間の下で、連続的な長期実験室規模の反応器実験で生成された硫黄粒子を分析した。分析は、レーザー回折粒径分析及び光学顕微鏡を用いて行った。
【0056】
2つの同一の実験室規模の反応器設定を、0.4Lの液体体積を有する吸収器(A)及び3.7Lの液体体積を有する微好気性ガスリフト反応器(C)(図1に示すように)と共に使用した。吸収器(A)と微好気性ガスリフト反応器(C)との間に3.5Lの液体体積を有するポリスルフィド反応器ゾーン(B)と、微好気性ガスリフト反応器の後に1.5Lの液体体積を有するセトラー(D)の2つの追加の反応器コンパートメントを追加することができる。
【0057】
システム内の硫黄蓄積を防止するために、すなわち硫黄蓄積による発泡及び目詰まりなどの動作上の問題を回避するために、最高のHS負荷速度を有するセトラーを実験に含めた。特定の実験条件下で製造されたすべての粒子が存在するサンプルを収集するために、沈降剤を用いて粒子を除去することなく、より低いHS負荷速度での実験を沈降剤なしで行った。ポリスルフィド反応器ゾーン(B)は、嫌気性(ポリ)スルフィド圧力下での反応器内容物(培地、微生物及び硫黄粒子)の保持時間を有するゾーンである。ポリスルフィド反応器ゾーン(B)の存在は、硫化物の保持時間(SuRT)を増加させる。
【0058】
様々な条件で行われた実験は、実施例1~3及び比較実験Aと番号付けされている。実験ごとの動作条件の概要を表1に記載する。ガス流は、HSガスの放出を防止し、低酸素濃度に達するために、真空ポンプを備えた微好気性ガスリフト反応器のヘッドスペース上で再循環された。適切な酸素移動及び混合を確実にするために、微好気性ガスリフト反応器(C)の内側カラムの底部に多孔質石を用いてガスを導入した。純粋なHSガス及び酸素をマスフローコントローラによって供給した。圧力上昇の場合、過剰なガスは、潜在的に存在するHSを捕捉するために酢酸亜鉛で飽和したウォーターロックを介して排出された。反応器を、サーモスタット浴及び気候制御キャビネットを使用して35℃で操作した。
【0059】
【表1】
【0060】
媒体は、pH8.5の脱塩水中の6.6gのL-1 NaCO及び69.3gのL-1 NaHCOを含む緩衝剤からなっていた。システム内で十分なアルカリ度を維持するために、新鮮な緩衝剤を一定の流量で供給した。さらに、生物学的増殖のために、(脱塩水1Lあたりgで):KHPO、0.1;MgCl 6HO、0.0203;NaCl、0.6;CHO、0.06及び2mL L-1のPfennig,N.,Lippert,K.D.,1966.Uber das Vitamin B12-bedurfnis phototropher Schwefelbacterien.Arch.Microbiol.55,245-256と同様の微量元素溶液を含む栄養ストックを供給した。
【0061】
比較実験Aは、これらの実験で適用された条件と同様の連続条件下で操作された実験室規模の硫黄産生ガスリフトバイオリアクターから遠心分離された微生物(過剰な硫黄を除去するため)を接種した。この反応器の元の接種材料は、本出願人のよく特徴付けられた工業規模のThiopaqプロセスから得た。硫黄を除去するために、反応器の内容物を4500RPMで20分間遠心分離した(FirLabO(Froilabo,Paris,France)を使用)。ペレットを2つの層:元素硫黄の底部層及び上部に微生物を有するペレットで形成した。微生物を含むペレットを慎重に洗い流した。実施例3に、上記のThiopaqプロセスから直接採取した遠心分離した微生物を接種した。実験1及び2に、比較実験A及び実施例3からの微生物に富むプロセス溶液を接種した。
【0062】
反応器(B、C)に媒体を充填し、接種した。すべての実験において、セットアップは中断することなく連続モードで操作された。すべての実験を通して、HS負荷をその実験について一定に保った。HS負荷を使用して、ポリスルフィド反応器ゾーンの全硫化物濃度を設定した。硫化物から硫黄への変換効率を高く保つために、酸化還元電位(ORP)を、工業用反応器の代表的な設定点であるAg/AgClに対して-360mVに設定した。ORP設定点は比例積分(PI)コントローラによって制御した。PIコントローラは、酸素供給量を調整した。ポリスルフィド反応器ゾーン(B)(実験2及び3)及び微好気性ガスリフト反応器(C)の中央のサンプリングポートで分析のためにサンプル(硫黄粒子、培地及び微生物を含む十分に混合された反応器内容物)を採取した(すべての実験)。反応器からのサンプリングチューブをサンプリング前に3回フラッシングして、代表的なサンプルを得た。
【0063】
反応器には、温度及びORPのためのセンサ(三重接合、白金ロッド、内部Ag/AgCl参照電極を備えたガラス電極(ProSense,Oosterhout,The Netherlands))を装備した。粒径分布(PSD)は、体積測定的及び数値的の両方で表される。体積基準の粒径分布では、より大きい粒子は、それらのサイズに起因して、しばしば全固体体積のより大きい割合を構成するため、より重い重量を有する。数値ベースの分布では、各粒子は、粒径とは無関係に等しい重量を有する。一般的な慣例によれば、PSDが単一の値によって表されなければならない場合、PSDの中央値(D50)は、経時的な粒径の発達を示すと報告された。中央値は、平均よりも非正規分布でデータの中心位置を表すより良い方法を有する。
【0064】
元素硫黄のプロセス選択性は、HS供給及び形成された溶存硫黄生成物の測定に基づく質量バランスによって計算した。「HS」という用語は、溶存硫化物の大部分がpH8.5でHSとして存在するため、全溶存硫化物(HS、HS及びS2-)の合計を指すために使用される。
【0065】
実験A並びに実施例1、2及び3では、硫化物が元素硫黄に問題なく変換され、反応器溶液中に硫黄粒子が存在した。これらの実験中に微好気性反応器から採取した硫黄粒子サンプルの典型的な粒径分布(PSD)を図2に示す。
【0066】
様々な実験条件下で形成された硫黄粒子は、図3に示すように光学顕微鏡で観察されるように、明確に異なる形態を有していた。硫黄粒子は、光学顕微鏡写真において、光、放射粒子(単一粒子)又は光、放射エッジを有するより暗いパッチ(凝集粒子)として区別することができる。バックグラウンド中の黒点は微生物である。
【0067】
比較実験Aの写真では、多くの小さい個々の(サブ)ミクロンサイズの硫黄粒子が見え、これは、図2に示す粒径分布とよく一致している。比較実験Aでは、大きい凝集物(約20μm)も見かけ上低濃度で存在する。濃度は低すぎて、数ベースの粒径分布では見ることができなかった。比較実験Aでは、粒子は主に球状(粗く滑らか)であり、約1μmのサイズであるように見える。
【0068】
しかし、実施例1では、小さい(サブ)ミクロン粒子は、ほとんど見えない(図3(b))。また、実施例2では、これらの粒子は、多く存在しないようであり、少なくとも比較実験A(図3(c))ほど多く存在しない。実施例1及び2の写真では、より大きい凝集した硫黄粒子を観察することができる。両方の例において、20~30μmの大きい凝集物が見えるが、5~10μmの小さい凝集物も見える。凝集物の中心は、サンプルの厚さのために暗く見え、顕微鏡をフォーカスしながら観察することができた。凝集体に付着した微生物は、サンプル中の約1μmの小さい黒点として容易に識別できたため、観察されなかった。PSD測定中の混合により、より大きい凝集体がわずかに破壊され、したがって測定されなかった可能性がある。加えて、PSDは数ベースであるため、小さい粒子は大きい粒子と同程度に分布において重量があり、数に関して大きい粒子よりも明らかに大きい粒子が存在する。しかしながら、より大きいものは、顕微鏡写真においてより視認可能である。凝集物の粗い塊状のエッジから、それらが多くの小さい構成結晶で構成されていることを観察することができる。
【0069】
図3は、凝集物の形成に対するポリスルフィド反応器ゾーンの影響を示す。さらに、光学顕微鏡写真は、最小粒子が実施例1にほとんど存在せず、実施例2及び3にある程度のみ存在したことを示す。
【0070】
実施例1、2及び3における最小粒子の除去は、ポリスルフィド反応器ゾーンにおけるポリスルフィドの形成に関連する。ポリスルフィドは黄色から橙色であり、硫化反応器の黄色により、実際にポリスルフィドが形成されたと推定することができた。
【0071】
ビスルフィド含有量、ポリスルフィド含有量、平均鎖長及びポリスルフィドの一部としての元素硫黄の含有量を、本発明の方法に従って測定した。これらの測定値は数学的モデルによく適合することが分かった。モデル入力は、4つの実験の体積ベースの平均PSD及びこれらの粒子が製造された操作条件である。これらのPSDから、直径1μm未満の粒子の体積分率を計算した。この体積分率を実験における元素硫黄の平均測定濃度と乗算することにより、1μm未満の粒子の総濃度を計算した。次に、3つの出力:mMで表される、ポリスルフィド(S 2-)に変換され得る元素硫黄(S)の割合、平衡割合S 2-及びポリスルフィドの一部としての元素硫黄の絶対含有量(S 2-中S)を計算した。
【0072】
本発明者らのモデリング結果は、条件が許容する程度までのポリスルフィド形成のために、最小の硫黄粒子がポリスルフィド反応器ゾーンに溶解するという実験的に得られた知見を裏付けている。実施例1、2及び3では、硫黄、硫化物及びポリスルフィド間の平衡S 2-に達した(図4を参照されたい)。比較実験Aでは、対応する実験室実験で見出された大量のサブミクロン粒子と一致する短いSuRTのために、わずかなポリスルフィド形成が予想された。モデリング結果はこれを裏付けている。これらの粒子は、その高い表面対体積比のために、ポリスルフィドと反応する傾向が最も高い粒子であった。
【0073】
これらの実験及びモデルからのこれらの結果は、本発明を説明し、硫黄吸収カラムに正しい混合度及び滞留時間を促進する反応器が設けられる場合及び/又はより高い出発硫化物濃度を有する場合、ポリスルフィドとスルフィドとの間で達成されるより高い(又は総)平衡は、硫化物チャンバーに供給されてポリスルフィドを形成する小さい元素硫黄粒子の反応除去を可能にする。系内で得られた定常状態(例えば、バイオリアクターで測定した場合)は、より小さい硫黄粒子(1μm未満)が存在せず、且つ/又はより大きい粒子に濃縮される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】