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特表2024-524251上皮細胞接着分子(EPCAM)阻害剤および肝細胞増殖因子受容体(HGFR)阻害剤の併用癌治療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】上皮細胞接着分子(EPCAM)阻害剤および肝細胞増殖因子受容体(HGFR)阻害剤の併用癌治療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20240628BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240628BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/5377
A61K31/4545
A61K31/47
A61P35/02
C07K16/18 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579192
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 US2022034882
(87)【国際公開番号】W WO2022272047
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】63/215,016
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ハン-チュン
(72)【発明者】
【氏名】リー,チー-チウ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB271
4C084ZC022
4C084ZC202
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086BC36
4C086BC73
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、上皮細胞接着分子(EpCAM)阻害剤および肝細胞増殖因子受容体(HGFR)阻害剤を用いた癌の併用療法に関する。具体的には、EpCAM阻害剤は、EpCAMの細胞外ドメイン(EpEX)に対する抗体である。この併用療法は、癌細胞のアポトーシスを誘導し、癌細胞の遊走/浸潤を阻害し、腫瘍サイズを縮小させ、および/または癌患者の生存を延長させるのに有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 上皮細胞接着分子(EpCAM)シグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第1の阻害剤;および
(ii) HGFRシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第2の阻害剤
を、それを必要とする対象に投与することを含む、癌を処置するための方法。
【請求項2】
第1の阻害剤が、EpCAMの細胞外ドメイン(EpEX)の産生(または放出)を減少させ、EpEXのHGFRへの結合を阻止し、および/またはEpEX誘導性HGFRリン酸化を阻害する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第2の阻害剤が、HGFのHGFRへの結合を阻止する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
第1の阻害剤が、EpEXに対する抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項1から3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
抗体が、上皮増殖因子(EGF)様ドメインIおよびIIに特異的に結合する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
EGF様ドメインIに位置するCVCENYKLAVN(aa 27~37)(配列番号20)およびEGF様ドメインIIに位置するKPEGALQNNDGLYDPDCD(aa 83~100)(配列番号19)の配列内のエピトープに対して特異的な結合親和性を有する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
抗体または抗原結合フラグメントが、
(a) 配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む重鎖可変領域(VH);ならびに
(b) 配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)、および配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)、
を含む、請求項4から6のいずれか一項記載の方法、
【請求項8】
第1の阻害剤が、TACEおよびPS2のリン酸化のシグナル伝達を阻害するのに有効である、請求項1から7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
第2の阻害剤が、フォレチニブ、クリゾチニブおよびカボザンチニブからなる群より選択される、請求項1から8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
癌細胞のアポトーシスを誘導するのに有効である、請求項1から9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
癌細胞の遊走/浸潤を阻害すること、および/または腫瘍サイズを減少させるのに有効である、請求項1から10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
対象の生存を延長するのに有効である、請求項1から11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
癌が、肺癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌および精巣癌からなる群より選択される、請求項1から12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
(i) EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する第1の阻害剤;および
(ii) HGFRシグナル伝達の活性化を阻害する第2の阻害剤
を含む、キットまたは医薬組成物。
【請求項15】
第1の阻害剤が、請求項1、2および4から8のいずれか一項記載のものであり、かつ/または第2の阻害剤が、請求項3または9に記載のものである、請求項14記載のキットまたは医薬組成物。
【請求項16】
癌を処置するための薬剤またはキットを製造するための、(i) EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する第1の阻害剤、および(ii) HGFRシグナル伝達の活性化を阻害する第2の阻害剤、の組合せの使用。
【請求項17】
第1の阻害剤が、請求項1、2および4から6のいずれか一項記載のものであり、かつ/または第2の阻害剤が、請求項3または7に記載のものである、請求項16記載の使用。
【請求項18】
薬剤またはキットが、癌細胞のアポトーシスを誘導するのに有効である、請求項16または17記載の使用。
【請求項19】
薬剤またはキットが、癌細胞の遊走/浸潤を阻害すること、および/または腫瘍サイズを減少させるのに有効である、請求項16から18のいずれか一項記載の使用。
【請求項20】
薬剤またはキットが、対象の生存を延長するのに有効である、請求項16から19のいずれか一項記載の使用。
【請求項21】
癌が、肺癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、および精巣癌からなる群より選択される、請求項16から20のいずれか一項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条に基づいて2021年6月25日に提出された米国仮出願番号第63/215,016号について優先権の利益を主張し、その内容全体を引用により本明細書に包含される。
【0002】
技術分野
本発明は、上皮細胞接着分子(EpCAM)阻害剤および肝細胞増殖因子受容体(HGFR)阻害剤を用いた癌の併用療法に関する。具体的には、EpCAM阻害剤は、EpCAMの細胞外ドメイン(EpEX)に対する抗体である。この併用療法は、癌細胞のアポトーシスを誘導し、癌細胞の遊走/浸潤を阻害し、腫瘍サイズを縮小させ、および/または癌患者の生存期間を延長させるのに有効である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
EpCAMは314個のアミノ酸を有するI型膜貫通タンパク質であり、細胞外ドメイン(EpEX、265アミノ酸)、単一の膜貫通ドメイン、および短い細胞内ドメイン(EpICD、26アミノ酸)を含む。よく知られた腫瘍関連抗原として、EpCAMは様々な癌腫に豊富に存在し、正常上皮における同型細胞間接着にも関与していることが知られている(Dolle et al, 2015)。EpCAMは大多数の健康な上皮の扁平上皮細胞には存在しないかまたは弱く発現しているが、扁平上皮癌では強く発現している(Balzar et al, 1999)。さらに、扁平上皮癌におけるEpCAMの発現は細胞増殖の増加および分化の低減と相関している(Litvinov et al, 1996)。本発明者らのグループは以前にEpCAMに対する中和抗体EpAb2.6を開発しており、これは結腸直腸癌(CRC)の処置に用いられ得る可能性が高い(Chen et al, 2020;Liang et al, 2018;Liao et al, 2015)。CRCの治療標的として有望であるにもかかわらず、EpCAMが腫瘍形成および転移に寄与する機序はまだ完全には分かっていない。
【0004】
HGFR(c-MET)は、肝細胞増殖因子(HGF、Scatter Factorとしても公知)によって活性化され、MET遺伝子(Lai et al, 2009; Peschard & Park, 2007)によってコードされる高親和性受容体チロシンキナーゼ(RTK)である。HGFRのチロシンキナーゼドメインには1234位および1235位の2つのチロシン残基があり、HGFR受容体の活性化にはこの2つの部位のリン酸化が必須である(Koch et al, 2020; Ponzetto et al, 1994)。多くの報告が、腫瘍形成、細胞増殖、生存および転移におけるHGFRの重要な役割を実証している(Cao et al, 2019; Li et al, 2018; Mazzone & Comoglio, 2006)。正常組織では、HGFRは上皮細胞に発現しており、周囲の間葉系細胞由来あるいは循環中のHGFによって活性化される(Birchmeier et al, 2003)。HGFによってHGFRが活性化されると、細胞の遊走および浸潤を促進する形態形成プログラムが開始される。その既知の機能に基づき、HGFRは通常、胚発生、成体組織の恒常性維持および再生に関与する癌原遺伝子であると考えられている。注目すべきは、HGFRに関する初期の研究から、それが成長因子受容体およびRTKファミリーの両方と相同性を有することが示されたことである(Dean et al, 1985)。その後、HGFRがHGFの同族RTKであり、肝細胞増殖因子(scatter factor)と呼ばれるHGFRリガンドと同一であることが証明された(Koch et al., 2020;Naldini et al., 1991)。
【0005】
上皮間葉転換(EMT)は、癌の進行および転移に関連している(Iwatsuki et al, 2010)。EMTの過程には、上皮細胞接着の喪失および細胞の間葉系表現型の誘導につながる一連の複雑な可逆的事象が含まれる。EMTを受けた癌細胞はまた、間葉系の性質の誘導および上皮細胞接着の喪失を通じて、細胞の運動性および浸潤の亢進を示す。EMTの指標としては、ビメンチン(Vimentin)、スネイル(Snail)、スラグ(Slug)などの間葉系マーカーの発現の増加と共に、E-カドヘリンなどの上皮系マーカーの発現の減少が挙げられる(Singh & Settleman, 2010)。多くの報告が、HGFRシグナルがEMTプログラムを促進し、それによって癌細胞の浸潤性および転移性を高めることを示した(Gumustekin et al, 2012; Jiao et al, 2016)。
【0006】
EpEXは2つの上皮増殖因子(EGF)様ドメインを含み、局所腫瘍微小環境における可溶性増殖因子として機能し得る。これまでの報告では、EGF受容体(EGFR)の活性化がEpCAMの制御された膜内タンパク質分解(RIP)を引き起こし、EMTを誘導することが示された(Hsu et al, 2016)。特記すべきは、EGFRが種々の腫瘍で過剰発現されていることから、多くの種類の癌に関連性の高いRTKであることである(Normanno et al, 2006)。EGFRの作用と同様に、HGFRの過剰な活性化は、AKT、細胞外シグナル関連キナーゼ(ERK)、ホスホイノシチド3-キナーゼ、RASおよびSRC(Comoglio et al, 2008; Ortiz-Zapater et al, 2017)などの多くの下流エフェクターを介して作用し、癌細胞の増殖、生存および遊走を促進する(Kim et al, 2014; Simiczyjew et al, 2018)。興味深いことに、基底型乳癌ではHGFR発現はEGFR発現と正の相関があり(Mueller et al, 2010)、癌細胞ではHGFRファミリー受容体およびEGFファミリー受容体がしばしば共発現する(Shattuck et al, 2008)。さらに、表皮癌細胞をEGFRリガンドで刺激すると、EGFR依存性のHGFRのリン酸化および活性化が起こることが報告されている(Jo et al, 2000)。EGFRシグナルが上昇した細胞におけるHGFRのこのような交差活性化は、いくつかのタイプの腫瘍でも観察されている(Tang et al, 2008)。しかしながら、重要なことに、この交差活性化効果の根底にあるメカニズムは、これまで特定されていなかった。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本明細書では、上皮細胞接着分子(EpCAM)阻害剤およびHGFR阻害剤を併用した癌治療法を記載している。具体的には、EpCAM阻害剤はEpCAMの細胞外ドメイン(EpEX)に対する抗体である。併用療法は、癌細胞のアポトーシス誘導、癌細胞の遊走/浸潤の抑制、腫瘍サイズの縮小、および/または癌患者の生存期間の延長に有効である。
【0008】
一局面において、本発明は、癌を処置するための方法であって、それを必要とする対象に、
(i) EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第1の阻害剤;および
(ii) HGFRシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第2の阻害剤
を投与することを含む方法を提供する。
【0009】
ある態様において、第1の阻害剤は、EpEXの産生(または放出)を減少させ、EpEXのHGFRへの結合を阻害し、および/またはEpEX誘導性HGFRリン酸化を阻害する。
【0010】
ある態様において、第2の阻害剤はHGFのHGFRへの結合を阻害する。
【0011】
ある態様において、第1の阻害剤は、EpEXに対する抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0012】
ある態様において、本明細書に記載の抗EpEX抗体は、上皮増殖因子(EGF)様ドメインIおよびIIに特異的に結合する。特定の例では、本明細書に記載の抗EpEX抗体は、EGF様ドメインIに位置するCVCENYKLAVN(aa 27~37)(配列番号20)、およびEGF様ドメインIIに位置するKPEGALQNNDGLYDPDCD(aa 83~100)(配列番号19)の配列内のエピトープに特異的結合親和性を有する。
【0013】
いくつかの態様において、抗体または抗原結合フラグメントは、
(a) 配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む重鎖可変領域(VH);ならびに、
(b) 配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域(LC CDR2)、および配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む軽鎖可変領域(VL)、
を含む。
【0014】
いくつかの態様において、VHは配列番号15のアミノ酸配列を含み、および/またはVLは配列番号16のアミノ酸配列を含む。
【0015】
いくつかの態様において、第1の阻害剤は、TACEおよびPS2シグナルのリン酸化を阻害するのに有効である。
【0016】
いくつかの態様において、第2の阻害剤は、フォレチニブ、クリゾチニブおよびカボザンチニブからなる群より選択される。
【0017】
いくつかの態様において、本発明の方法は、癌細胞のアポトーシスを誘導するのに有効である。
【0018】
いくつかの態様において、本発明の方法は、癌細胞の遊走/浸潤を阻害すること、および/または腫瘍サイズを縮小することに有効である。
【0019】
いくつかの態様において、本発明の方法は、対象の生存期間の延長に有効である。
【0020】
いくつかの態様において、癌は、肺癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌および精巣癌からなる群より選択される。
【0021】
別の態様において、本発明は、
(i) EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第1の阻害剤;および
(ii) HGFRシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第2の阻害剤、
を含む医薬組成物のキットを提供する。
【0022】
また、本発明では、癌を処置するための医薬品またはキットを製造するための、(i) EpCAMシグナルの活性化を阻害する第1の阻害剤;および、(ii) HGFRシグナルの活性化を阻害する第2の阻害剤、の組合せの使用も提供する。
【0023】
本発明の1以上の態様の詳細は、以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴または利点は、以下のいくつかの態様の詳細な説明、および添付の特許請求の範囲から明らかになり得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図面の簡単な説明
上記のまとめおよび以下の発明の詳細な説明は、添付の図面と合わせて読むと、よりよく理解され得る。本発明を説明するために、現時点で好ましい態様を図面に示す。しかしながら、本発明は、図示された正確な配置性および機能性に限定されるものではないことを理解されたい。
【0025】
図1図1Aから1J。EpEXはHGFRと相互作用し、HGFRのリン酸化を誘導する。(図1A)HCT116細胞およびHT29細胞における、HGFRに結合した内因性EpCAMの免疫沈降(IP)。(図1B)HEK293 T細胞にHGFRECD-c-MycおよびEpCAM-V5をトランスフェクトした。IPは対照IgG、抗V5抗体または抗c-Myc抗体で行い、その後ウェスタンブロッティングを行った。(図1C)EpEX-FcおよびHGFR-His組換えタンパク質(2.5μg/ml)の相互作用は、Dynabeads プロテインGを用いたIPおよび抗6X Hisタグ抗体を用いたウェスタンブロッティングにより調べた。(図1D)飢餓状態のHCT116細胞およびHT29細胞を、異なる用量のEpEX-Hisで15分間処理し、飢餓状態のHCT116細胞およびHT29細胞を50nM EpEX-Hisを用いて示された時間処理した。HGFRのリン酸化をウェスタンブロッティングで調べた。(図1E)野生型(WT)またはEpCAMノックアウト(KO) HCT116細胞およびH29細胞を16時間飢餓状態にした後、EpEX-His(50nM)で15分間処理した。リン酸化HGFRのレベルは、ELISAキット(ab126451)を用いてアッセイした。(図1F)HEK293 T細胞に、HGFRECD-c-Mycおよび全長またはEGF様ドメイン欠失変異体EpCAM-V5をトランスフェクトした。タンパク質の相互作用は、抗V5抗体または抗c-Myc抗体によるIP、ならびに抗V5抗体または抗c-Myc抗体によるウェスタンブロッティングによってプローブした。(図1G)HEK293 T細胞にc-MycまたはHGFRECD-c-Mycおよび全長またはEGF様ドメイン欠失変異体EpEX-Hisをトランスフェクトした。タンパク質相互作用は、抗c-Myc抗体によるIP、ならびに抗c-Myc抗体および抗His抗体によるウェスタンブロッティングによってプローブした。(図1H)HGFR-His組換えタンパク質(2μg/ml)を、EGF様ドメイン欠失変異体-Fcコート(1μg/ml)ELISAプレートに添加し、TMB比色ペルオキシダーゼアッセイで検出した。HCT116細胞を飢餓状態にし、野生型またはEGFドメイン欠失変異型EpEXで処理し、リン酸化HGFRを(図1I)ウェスタンブロッティングおよび(図1J)ELISAキット(ab126451)で分析した。すべてのデータは平均値±SEMで示した。*, p<0.05。
図2図2Aから2K。EpEXはHGFRシグナル伝達を介して腫瘍の進行を促進する。(図2A)HGF(0.5nM)で15分間処理したWTまたはEpCAMノックアウト(KO)HCT116細胞およびHT29細胞。HGFR、AKTおよびERKのリン酸化をウェスタンブロッティングで調べた。(図2B)WTまたはKO HCT116細胞およびHT29細胞を、2%FBSを含むHGF(0.5nM)で示された時間処理した。細胞増殖をWST-1アッセイで調べた。(図2C)飢餓状態のHCT116細胞をHGFR阻害剤SU11274(SU、10μM)で1時間処理した後、50nMのEpEX-Hisで15分間処理した。リン酸化されたHGFR、EGFR、AKTおよびERKのレベルを、ウェスタンブロッティングにより調べた。HCT116細胞およびHT29細胞を50nMのEpEXおよびSU(10μM)で処理した。(図2D)細胞増殖をWST-1アッセイにより示された時間処理した後に調べた。(図2E)HCT116細胞をshLucまたはHGFR shRNAで処理した後、50nMのEpEX-Hisで15分間処理した。HGFRノックダウンHCT116細胞において、リン酸化HGFR、EGFR、ERKおよびAKTのレベルをウェスタンブロッティングにより調べた。(図2F)リン酸化されたADAM17およびプレセニリン2のレベルをウェスタンブロッティングで調べた。(図2G)活性型β-カテニンの核内移行を、ウェスタンブロッティングを用いてアッセイした。(図2H)HCT116細胞をshLucまたはHGFR shRNAで処理した後、50nMのEpEX-Hisで示した時間処理した。細胞増殖をWST-1アッセイで調べた。(図2I)shLucおよびshHGFR処理後のHCT116細胞を、2%FBSを含む50nMのEpEX-Hisで7日間処理した。コロニー形成をクリスタルバイオレット染色で調べた。下のパネルにおける核内β-カテニンの定量。(図2J)HCT116細胞をHGF(0.5nM)で指定時間処理し、培養液中のEpEXタンパク質レベルを免疫沈降およびウェスタンブロッティングで調べた。(図2K)HCT116細胞をHGF(0.5nM)で15分間処理した。細胞溶解液中のリン酸化HGFR、プレセニリン2、ADAM17タンパク質量をウェスタンブロット法で解析し、培養液中のEpEXタンパク質レベルを免疫沈降法およびウェスタンブロット法で調べた。すべてのデータは平均値±SEMで示した。*, p<0.05; **, p<0.01。
図3図3Aから3H。EpEXはERKおよびFAK-ACTシグナル伝達経路の活性化を誘導する。EpEX-His処理後の野生型(WT)またはEpCAMノックアウト(KO)HCT116細胞。(図3A)リン酸化されたHGFR、AKT、FAK、GSK3β、ERK、ADAM17およびプレセニリン2のレベルを、ウェスタンブロッティングで測定した。(図3B)コロニー形成をクリスタルバイオレット染色で調べた。(図3C)HCT116細胞をTAPI(ADAM17阻害剤)またはDAPT(γ-セクレターゼ阻害剤)で24時間処理し、HGFR、AKTおよびERKのリン酸化をウェスタンブロッティングで解析し、そして培養液中のEpEXタンパク質レベルを免疫沈降およびウェスタンブロッティングにより調べた。(図3D)HCT116細胞およびHT29細胞を16時間飢餓状態にした後、EpEX-His(50nM)およびHGF(0.5nM)で15分間処理した。リン酸化されたHGFR、AKTおよびERKのレベルをウェスタンブロッティングにより調べた。(図3E)HCT116細胞を16時間飢餓状態にした後、50nM EpEX-Hisで15分間処理した。HGFR阻害剤であるSU11274(SU、10μM)、AKT阻害剤であるLY294002(LY、25μM)、ERK阻害剤であるU0126(U0、20μM)、またはFAK阻害剤であるPF-562271(PF、10μM)を、EpEX処理の1時間前に適用した。AKT、ERKおよびFAKのリン酸化をウェスタンブロッティングにより調べた。(図3F)HCT116細胞を16時間飢餓状態にした後、50nMのEpEX、およびSU(10μM)、LY(25μM)、U0(20μM)またはPF(10μM)で処理した。コロニー形成を、7日間処理した後、クリスタルバイオレット染色で調べた。相対的なコロニー密度を示す。遊走能を(図3G)創傷治癒アッセイにより示された時間で調べた。(図3H)24時間処理後、遊走細胞数をトランスウェルで評価した。*, p<0.05。
【0026】
図4図4Aから4L。EpEXは、GSK3β活性を低下させることによってβ-カテニンおよびSnailを安定化させ、EMTおよび浸潤を誘導する。(図4A)EpEX処理後の野生型(WT)またはEpCAMノックアウト(KO)HCT116細胞において、EMTマーカーおよび調節因子(regulator)のタンパク質発現をウェスタンブロット法で検出した。(図4B)細胞の浸潤は、マトリゲルを用いたトランスウェルチャンバーアッセイで調べた。(図4C)WTまたはKO HCT116細胞およびHT29細胞を16時間飢餓状態にした後、2%FBSを含む0.5nMのHGFで24時間処理した。EMT関連タンパク質発現(E-カドヘリン、ビメンチンおよびスネイル)をウェスタンブロット法で調べた。(図4D)WTまたはKO HCT116細胞およびHT29細胞をHGF(0.5nM)で24時間処理した。HCT116細胞およびHT29細胞による浸潤は、マトリゲルを用いたトランスウェルチャンバーアッセイで調べた。(図4E)HCT116細胞およびHT29細胞を16時間飢餓状態にした後、2%FBSを加えた0.5 nMのHGFで24時間処理し、EMT関連タンパク質(E-カドヘリン、ビメンチンおよびスネイル)の発現をウェスタンブロッティングで調べた。(図4F)HCT116細胞およびHT29細胞を16時間飢餓状態にした後、2%FBSを加えた0.5nMのHGFで24時間処理し、マトリゲルを用いたトランスウェルアッセイで細胞浸潤を評価した。(図4G)shLucおよびshHGFR処理後のHCT116細胞を、50nMのEpEX-Hisで処理した。shLucおよびshHGFR処理後のHCT116細胞を、2%FBSを加えた50nMのEpEX-Hisで24時間処理し、EMT関連タンパク質(E-カドヘリン、ビメンチンおよびスネイル)の発現をウェスタンブロッティングで調べた。(図4H)細胞の浸潤を、マトリゲルを用いたトランスウェルチャンバーアッセイで調べた。(図4I)飢餓状態のHCT116細胞をSU(10μM)で1時間処理した後、EpEX-His(50nM)で24時間処理した。リン酸化GSK3β、活性型β-カテニンおよびスネイルをウェスタンブロッティングで検出した。(図4J)HCT116細胞を16時間飢餓状態にした後、50nMのEpEX-Hisで24分間処理した。AKT阻害剤であるLY294002(25μM)、ERK阻害剤であるU0126(20μM)、またはPF-562271(10μM)を、EpEX処理の1時間前に適用した。リン酸化GSK3βおよびスネイルのタンパク質発現をウェスタンブロッティングで調べた。(図4K)HCT116細胞を16時間飢餓状態にした後、50nMのEpEX、およびSU(10μM)、LY(25μM)、U0(20μM)またはPF(10μM)で処理した。細胞浸潤を、マトリゲルを用いたトランスウェルチャンバーアッセイで調べた。(図4L)EpEX-His(50nM)処理したHCT116細胞を、2μMのGSK3β阻害剤(BIO)で24時間処理した後、ウェスタンブロットでタンパク質発現を解析した。すべてのデータは平均値±SEMで示した。*, p<0.05;**, p<0.01。
【0027】
図5図5Aから図5I。EpEXは、ユビキチン化を介したプロテアソーム分解を阻害することにより、スネイル(Snail)タンパク質の安定性を促進する。(図5A)HCT116細胞およびHT29細胞の野生型(WT)またはEpCAMノックアウト(KO)におけるEMTマーカーおよび調節因子の遺伝子発現をqRT-PCRで検出した。(図5B)HCT116細胞のWTまたはKOにおけるSnailタンパク質の安定性。細胞をシクロヘキサミド(CHX)100μg/mlで示された時間間隔で処理し、ウェスタンブロッティングした。(図5C)Snailタンパク質発現は、WTまたはKO HCT116細胞を10mM MG132(プロテアソーム阻害剤)で6時間処理または処理せずに、ウェスタンブロッティングで解析した。(図5D)WTまたはKO HCT116細胞を、細胞回収前に10μM MG132で6時間処理した。細部溶解物を、抗Snail抗体およびInputを用いて免疫沈降した。ユビキチン化されたSnailタンパク質を検出するために、指定の抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。(図5E)EpEX(50nM)で24時間処理後のHCT116細胞におけるSnailタンパク質の安定性。細胞をシクロヘキサミド(CHX;100μg/ml)で示された時間間隔で処理した後、ウェスタンブロッティングを行った。(図5F)SNAILをコードする遺伝子の発現を、EpEX(50nM)で24時間処理後のHCT116細胞においてqRT-PCRにより検出した。(図5G)HCT116細胞におけるSnailタンパク質発現は、EpEX(50nM)で24時間処理後、および10μM MG132(プロテアソーム阻害剤)で6時間処理または処理なしで、ウェスタンブロッティングにより解析した。(図5H)Snailリン酸化モチーフ内の変異体の位置を模式的に示す。(図5I)HCT116細胞をSnail-WT、2SA、4SAおよび6SAで24時間トランスフェクトし、さらにEpEX(50nM)で24時間処理した。すべてのデータは平均値±SEMで示した。*, p<0.05; **, p<0.01。
図6図6Aから図6J。EpAb2-6はEpCAMおよびHGFRシグナル伝達を阻害し、GSK3βの活性化を介して活性型β-カテニンおよびSnailタンパク質の分解を促進する。(図6A)HCT116細胞を、10μg/mlの対照IgG(正常マウスIgG、NMIgG)またはマウスEpAb2-6(EpAb2-6)で16時間処理し、その後、EpEX-His(50nM)で15分間処理した。リン酸化HGFR、AKT、FAK、GSK3β、ERK、ADAM17およびプレセニリン2のレベルをウェスタンブロッティングにより調べた。(図6B)HCT116細胞を10μg/mlの対照IgGまたはマウスEpAb2-6で16時間処理した後、HGF(0.5nM)を添加しないか、または添加した状態で15分間処理した。リン酸化されたHGFR、AKTおよびERKのレベルをウェスタンブロッティングで調べた。HCT116細胞をマウスEpAb2-6(10μg/ml)およびHGF(0.5nM)で処理した。(図6C)細胞遊走は創傷治癒アッセイにより、示された時間毎に調べた。(図6E)HCT116細胞をNMIgGまたはEpAb2-6で6時間処理した後、抗EpCAM(IP:EpCAM)抗体または抗HGFR(IP:HGFR)抗体で免疫沈降させ、ウェスタンブロッティングを行った。(図6F)1μgのIgGまたはEpAb2-6と共処理したEpEX-His(2μg/ml)を、HGFR-Fcコート(1μg/ml)したELISAプレートに添加し、TMB比色ペルオキシダーゼアッセイにより検出した。(図6G)NMIgGまたはEpAb2-6で24時間処理したHCT116細胞において、EMT関連タンパク質レベルをウェスタンブロッティングにより検出した。(図6H)EpAb2-6および2μM GSK3β阻害剤(BIO)で24時間処理したHCT116細胞において、タンパク質発現をウェスタンブロッティングにより検出した。(図6I)HCT116細胞を10μM MG132およびEpAb2-6で6時間処理した後、細胞を回収し、ウェスタンブロッティングを行った。(図6J)NMIgGまたはEpAb2-6で処理したHCT116細胞におけるSnailタンパク質の安定性。細胞をシクロヘキサミド(CHX)100μg/mlで示された時間間隔で処理し、ウェスタンブロッティングした。下のグラフは、示したグループにおけるSnailの半減期の定量を示す。すべてのデータは平均値±SEMで示した。*, p< 0.05; **, p < 0.01。
図7図7Aから7G。EpAb2-6はEpEXと結合し、F(ab’)によってアポトーシスを誘導し、制御された膜内タンパク質分解(RIP)の活性化およびHGFRシグナル伝達を阻害する。(図7A)一晩コートしたEpEX-His(1μg/ml)に対するIgG EpAb2-6(マウス)およびF(ab’)の結合親和性を、ELISAを用いて検査した(OD450)。(図7B)HCT116細胞を100μg/mlの対照IgG、FcまたはEpAb2-6のF(ab’)で24時間処理し、アポトーシス細胞およびネクローシス細胞をフルオレセイン・アネキシンV‐FITC/PI二重標識で定量化した。(図7C)HCT116細胞およびHT29細胞を、10μg/mlの対照IgG、MT201、ヒト化EpAb2-6(hEpAb2-6)またはマウスハイブリドーマEbAb2-6(mEpAb2-6)で24時間処理した。アポトーシス細胞およびネクローシス細胞を、フルオレセイン・アネキシンV-FITC/PI二重標識により定量化した。(図7D)HCT116細胞を10μg/mlの対照IgG、MT201、hEpAb2-6またはmEpAb2-6で16時間処理し、その後EpEX-His(50nM)で15分間処理した。リン酸化されたHGFR、AKTおよびERK、ならびに(図7E)RIPタンパク質ADAM17およびプレセニリン2のレベルをウェスタンブロッティングにより調べた。抗EpCAM抗体およびクリゾチニブは結腸癌細胞において協調的にアポトーシスを誘導する。(図7F)HCT116細胞およびHT29細胞を、10μg/mlのNMIgGまたはEpAb2-6および4μMのHGFR阻害剤であるクリゾチニブで24時間処理した。アポトーシス細胞およびネクローシス細胞を、フルオレセイン・アネキシンV-FITC/PI二重標識によって定量化した。(図7G)HCT116細胞およびHT29細胞を、10μg/mlのNMIgGまたはEpAb2-6および10μMのHGFR阻害剤クリゾチニブで処理した。すべてのデータは平均値±SEMで示した。*, p<0.05。
【0028】
図8図8Aから8G。EpAb2-6はEpCAMのEGF様ドメインIおよびIIの両方に結合する。HEK293T細胞に全長またはEGF様ドメイン欠失変異型EpCAM-V5をトランスフェクトした。抗体結合を、(図8A)ウェスタンブロッティング、(図8B)フローサイトメトリー、および(図8C)免疫蛍光法で評価した。(図8D)EGF-I(Y32A)およびEGF-II(L94A、Y95AまたはD96A)ドメインのアミノ酸を置換したEpCAM変異体を構築した。EpCAM野生型および変異型タンパク質をHEK293T細胞で発現させた。MT201、EpAb2-6およびEpAb23-1のEpCAM野生型および変異体への結合を、(図8E)免疫蛍光法、(図8F)フローサイトメトリー、および(図8G)細胞ELISAで評価した。すべてのデータは平均値±SEMで示した。*, p<0.05; **, p<0.01。
図9図9Aから9K。EpAb2-6およびクリゾチニブは協調的に腫瘍の進行および転移を抑制する。(図9A)転移モデル動物におけるEpAb2-6および/またはクリゾチニブの効果を評価する試験のタイムライン。(図9B)NOD/SCIDマウスに5×10 HCT116細胞を静脈内注射し、その後対照IgG、EpAb2-6および/またはクリゾチニブで処理した(n=5)。生存曲線、生存日数の中央値、および転移モデル動物における肺組織の代表的なH&E染色。(図9C)EpAb2-6および/またはクリゾチニブを同所性動物モデルで評価する実験のタイムライン。(図9D)NOD/SCIDマウスにHCT116-Luc細胞を同所移植し、腫瘍接種3日後から対照IgG(正常マウスIgG、NMIgG)、クリゾチニブ、EpAb2-6またはクリゾチニブとEpAb2-6の併用投与を行った(n=5)。腫瘍増殖を、IVIS 200イメージングシステムで生物発光を調べることにより測定した。(図9E)生物発光定量法で測定したHCT116-Luc腫瘍細胞。(図9F)HCT116同所性動物モデルにおける各処置群の体重。(図9G)HCT116同所性動物モデルにおける各処置群の生存曲線および生存日数中央値。(図9H)NOD/SCIDマウスにHT29-Luc細胞を定位移植し、腫瘍接種3日後から対照IgG、クリゾチニブ、EpAb2-6またはクリゾチニブとEpAb2-6の併用投与を行った(n=5)。腫瘍増殖を、IVIS 200イメージングシステムで生物発光を調べることにより測定した。(図9I)生物発光定量法で測定したHT29-Luc腫瘍細胞。(図9J)HT29同所性動物モデルにおける、各処置群の示された処置後のマウス体重。(図9K)HT29同所性動物モデルにおける各処置群の生存曲線および生存日数中央値。すべてのデータは平均値±SEMで示した。*, p<0.05; **, p<0.01。
図10図10Aから図10B。ヒトEpCAMの配列の特徴およびドメイン。(図10A)314アミノ酸残基を含むヒトEpCAMの全長(配列番号17)。(図10B)EpEXドメインがVGAQNTVIC(aa51から59、配列番号18)を含むEGF Iドメイン(aa 27-59)と、LYDモチーフ(aa 94-96)を含むKPEGALQNNDGLYDPDCDE(aa83から100、配列番号19)を含むEGF IIドメイン(aa 66-135)とを含むEpCAMのドメインの同定。
図11図11。EpAb2-6のアミノ酸配列。配列番号2のHC CDR1、配列番号4のHC CDR2、および配列番号6のHC CDR3を含むV(配列番号15);ならびに、配列番号9のLC CDR1、配列番号11のLC CDR2、および配列番号13のLC CDR3を含むV (配列番号16)を含む。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
以下の説明は、単に本発明の種々の態様を説明するためのものである。そのため、本明細書で説明する特定の態様または改変は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。当業者であれば、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更または均等態様が実施され得ることは理解し得る。
【0030】
本発明を明確かつ容易に理解するために、まず特定の用語を定義する。その他の定義は、詳細な説明の中に記載されている。別段の定義がない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0031】
本明細書で用いる、単数形“a”、“an”、および“the”は、文脈で別段の明確な記載がない限り、複数の対象を含む。よって、例えば、“構成要素(a component)”への言及には、複数のそのような構成要素および当業者に既知のそれらの均等物が含まれる。
【0032】
用語“含む(comprise)”または“含むこと(comprising)”とは、一般的に、1以上の特徴、成分または構成要素の存在を許容することを意味する、含む(include)/含むこと(including)という意味で用いられる。用語“含む”または“含むこと”は、用語“~からなる(consist)”または“~からなる(consisting of)”を包含する。
【0033】
本明細書で用いる用語“ポリペプチド”とは、ペプチド結合を介して結合したアミノ酸残基からなるポリマーを意味する。用語“タンパク質”とは、通常、比較的大きなポリペプチドを意味する。用語“ペプチド”とは、通常、比較的短いポリペプチド(例えば、最大100アミノ酸残基、90アミノ酸残基、70アミノ酸残基、50アミノ酸残基、30アミノ酸残基、20アミノ酸残基または10アミノ酸残基を含む)を意味する。
【0034】
本明細書で用いる用語“約(approximately)”または“約(about)”は、当業者に理解され得る許容可能な逸脱の程度を意味し、それが用いられる文脈によってある程度変化し得る。具体的には、“約”とは、指示される数値の±10%または±5%または±3%の範囲を有する数値を意味し得る。
【0035】
本明細書で用いる用語“実質的に同一”とは、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性(homology)を有する2つの配列を意味する。
【0036】
本明細書で用いる用語“抗体”(複数形が互換的に用いられる)は、特定の標的抗原性分子に特異的に結合する能力を有する免疫グロブリン分子を意味する。本明細書で用いる用語“抗体”には、インタクトな(すなわち全長の)抗体分子だけでなく、抗原結合能を保持するその抗原結合フラグメント、例えばFab、Fab’、F(ab’)およびFvも含まれる。かかるフラグメントも当技術分野ではよく知られており、インビトロでもインビボでも常用されている。用語“抗体”には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および必要な特異性の抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子のその他の修飾構成(抗体のアミノ酸配列変異体、抗体のグリコシル化変異体、および共有結合的に修飾された抗体を含む)も含まれる。
【0037】
インタクトなまたは完全な抗体は、2本の重鎖および2本の軽鎖を含む。各重鎖は可変領域(V)および第1、第2および第3の定常領域(C1、C2およびC3)を含み、各軽鎖は可変領域(V)および定常領域(C)を含む。抗体は“Y”字型をしており、Yの軸はジスルフィド結合を介して結合した2本の重鎖の第2および第3の定常領域からなる。Yの各アームは、1本の軽鎖の可変領域および定常領域に結合した1本の重鎖の可変領域および第1の定常領域を含む。軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域が抗原結合を担っている。両鎖の可変領域は、一般的に、抗原結合を担っており、各々3つの高度に可変の領域、すなわち、HC CDR1、HC CDR2、HC CDR3を含む重(H)鎖CDR、ならびにLC CDR1、LC CDR2、LC CDR3を含む軽(L)鎖CDRを含む。3つのCDRはフレームワーク領域(FR1、FR2、FR3およびFR4)に隣接しており、これらの領域はCDRよりも高度に保存されており、超可変領域を支える足場を形成している。重鎖および軽鎖の定常領域は抗原結合には関与していないが、種々のエフェクター機能に関与している。重鎖の定常ドメインの抗体アミノ酸配列によって、免疫グロブリンは異なるクラスに分類される。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMの5つの主要なクラスがある。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマおよびミューと呼ばれる。
【0038】
本明細書では、用語“抗原結合フラグメント”または“抗原結合ドメイン”とは、抗原結合を担うインタクトな抗体分子の一部または領域を意味する。抗原結合フラグメントは、親抗体が結合するのと同じ抗原に結合できる。抗原結合フラグメントの例としては、(i) V-C1鎖およびV-C鎖からなる一価フラグメントであり得るFabフラグメント;(ii) ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントからなる二価フラグメントであり得るF(ab’)フラグメント;(iii) 抗体分子のVドメインおよびVドメインが非共有結合で結合したFvフラグメント;(iv) ペプチドリンカーを介してVドメインおよびVドメインから構成される一本鎖ポリペプチド鎖であり得る単鎖Fv(scFv);(v) ペプチドリンカーによって連結された2つのVドメインおよびジスルフィド橋を介して2つのVドメインと結合している2つのVドメインを含み得る(scFv)、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本明細書で用いる用語“キメラ抗体”とは、異なる供給源、例えば異なる種由来のポリペプチドを含む抗体を意味する。ある態様において、キメラ抗体において、軽鎖および重鎖の両方の可変領域は、ある種の哺乳動物(例えば、マウス、ウサギおよびラットなどの非ヒト哺乳動物)由来の抗体の可変領域を模倣し得るが、一方で定常領域は、ヒトなどの別の哺乳動物由来の抗体の配列と相同であってもよい。
【0040】
本明細書で用いる用語“ヒト化抗体”とは、ヒト抗体由来のフレームワーク領域および非ヒト(通常はマウスまたはラット)免疫グロブリン由来の1以上のCDRを含む抗体を意味する。
【0041】
本明細書で用いる用語“ヒト抗体”とは、相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖および重鎖の配列の本質的に全体がヒト遺伝子由来の抗体を意味する。ある場合には、ヒト抗体は、例えば、可能性のある免疫原性を減少させ、親和性を増加させ、望ましくない折り畳み(フォールディング)を引き起こし得るシステインを除去するなどのために、1以上のCDR、または1以上のFRに変異を加えるなどして、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされていない1以上のアミノ酸残基を含んでいてもよい。
【0042】
本明細書で用いる用語“特異的に結合する(specific binds, specifically binding)”とは、標的抗原のエピトープへの抗体の結合など、2分子間の非ランダムな結合反応を意味する。標的抗原またはエピトープに“特異的に結合する”抗体は、当技術分野でよく理解されている用語であり、そのような特異的結合を決定する方法も当技術分野でよく知られている。抗体が標的抗原と“特異的に結合”するのは、他の物質と結合するよりも高い親和性/結合力(avidity)で、より容易に、および/またはより長時間結合するときである。換言すれば、この定義を読めば、例えば、第1の標的抗原に特異的に結合する抗体は、第2の標的抗原に特異的または優先的に結合しても、または結合しなくてもよいことも理解される。そのため、“特異的結合”または“優先的結合”は、必ずしも排他的結合を必要としない(含めることはできる)。一般的に、結合の親和性は解離定数(K)で定義され得る。一般的には、抗体に関して用いられるとき、特異的に結合するとは、約10M未満、約10M未満、約10M未満、約1010M未満、約1011M未満、約1012M未満、またはそれ以下などのKD値でその標的に特異的に結合(認識)し、かつ非特異的抗原(BSAまたはカゼインなど)への結合に対する親和性よりも少なくとも100倍低い、例えば、少なくとも1,000倍低い、または少なくとも10,000倍低いKに対応する親和性で特異的標的に結合する抗体を意味し得る。
【0043】
本明細書で用いる用語“核酸”または“ポリヌクレオチド”とは、ヌクレオチド単位からなるポリマーを意味し得る。ポリヌクレオチドには、デオキシリボ核酸(“DNA”)およびリボ核酸(“RNA”)のような天然核酸、ならびに天然に存在しないヌクレオチドを有する核酸類縁体が含まれる。ポリヌクレオチドは、例えば自動DNA合成機を用いて合成できる。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわち、A、T、G、C)で表されるとき、“U”が“T”に置き換わるRNA配列(すなわち、A、U、G、C)も含まれることが理解され得る。用語“cDNA”とは、一本鎖または二本鎖の形態で、mRNAと相補的または同一のDNAを意味する。
【0044】
本明細書で用いる用語“相補的”とは、2つのポリヌクレオチドの相互作用する表面の位相的な互換性または一致を意味する。第1のポリヌクレオチドは、そのヌクレオチド配列が第2のポリヌクレオチドのポリヌクレオチド結合パートナーのヌクレオチド配列と同一であるとき、第2のポリヌクレオチドと相補的である。したがって、配列が5’-ATATC-3’であるポリヌクレオチドは、配列が5’-GATAT-3’であるポリヌクレオチドと相補的である。
【0045】
本明細書で用いる用語“をコードする”とは、ポリヌクレオチド(例えば、遺伝子、cDNAまたはmRNA)中のヌクレオチドの特定の配列が、RNA転写物(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNAである)の所定の配列またはアミノ酸の所定の配列のいずれかを有する生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として機能する天然特性、およびそこから生じる生物学的特性を意味する。したがって、遺伝子は、その遺伝子によって産生されたmRNAの転写および翻訳によって、細胞またはその他の生物学的システムでタンパク質が産生されるとき、タンパク質をコードしている。遺伝子コードの縮重の結果、多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸が同じポリペプチドをコードし得ることは、当業者に理解される。また、当業者は、常套技術を用いて、ポリペプチドが発現される特定の宿主生物のコドン利用を反映させるために、そこに記載されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を与えないヌクレオチド置換を行ってもよいことが理解される。したがって、別段の定めがない限り、“アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列”とは、互いに縮重バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を包含する。
【0046】
本明細書で用いる用語“組換え核酸”とは、天然には互いに結合していない配列を有するポリヌクレオチドまたは核酸を意味する。組換え核酸はベクターの形態で存在してもよい。“ベクター”は、目的のヌクレオチド配列および調節配列を含み得る。ベクターは、所定のヌクレオチド配列を発現させるため(発現ベクター)、または所定のヌクレオチド配列を複製、操作または異なる場所間(例えば、異なる生物間)で移動させるために維持するために使用できる。ベクターは、上記の目的のために適当な宿主細胞に導入できる。“組換え細胞”とは、組換え核酸が導入された宿主細胞を意味する。“形質転換された細胞”とは、組換えDNA技術によって、目的のタンパク質をコードするDNA分子が導入された細胞を意味する。
【0047】
ベクターは、プラスミド、コスミド、エピソーム、フォスミド、人工染色体、ファージ、ウイルスベクターなどを含む種々のタイプのものであってよい。一般的には、ベクターにおいて、所定のヌクレオチド配列は、ベクターが宿主細胞に導入されるとき、所定のヌクレオチド配列が調節配列の制御下で宿主細胞において発現され得るように、調節配列に作動可能に連結されている。調節配列としては、例えば、これらに限定されないが、プロモーター配列(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、T7プロモーターおよびアルコールオキシダーゼ遺伝子(AOX1)プロモーター)、開始コドン、複製起点、エンハンサー、分泌シグナル配列(例えば、α-交配因子(mating factor)シグナル)、停止コドン、および他の制御配列(例えば、シャイン・ダルガーノ配列、終止配列)が挙げられ得る。好ましくは、ベクターは、その後のスクリーニング/選択手順のためのマーカー配列(例えば、抗生物質耐性マーカー配列)をさらに含み得る。タンパク質産生の目的のために、ベクターでは、目的の所定のヌクレオチド配列は、融合ポリペプチドが産生され、その後の精製手順に有益となるように、上記の調節配列以外の別のヌクレオチド配列に連結され得る。前記融合ポリペプチドは、精製を目的としたタグ、例えばHisタグを含む。
【0048】
本明細書で用いる用語“処置”とは、障害、障害の症状もしくは状態、または障害の進行をケア、治癒、緩和、寛解、変更、救済、軽減、改善または影響を及ぼす目的で、前記障害に罹患している、障害の症状もしくは状態、障害によって誘発される障害、または障害の進行を有する対象への1以上の活性薬剤の適用または投与を意味する。
【0049】
本発明は、少なくとも部分的には、上皮細胞接着分子(EpCAM)阻害剤およびHGFR阻害剤を用いた併用癌治療法の開発に基づく。
【0050】
EpCAMの細胞外ドメインであるEpEXは、2つの上皮増殖因子(EGF)様ドメインを含み、腫瘍局所微小環境における可溶性増殖因子として機能し得る。EGF受容体(EGFR)の活性化は、EpCAMの制御された膜内タンパク質分解(RIP)を誘発し、上皮間葉転換(EMT)を誘導できる(Hsu et al., 2016)。EGFRはRTKの1つであり、種々の腫瘍で過剰発現していることから、多くの種類の癌に深く関係している(Normanno et al, 2006)。HGFRの過剰な活性化は、AKT、細胞外シグナル関連キナーゼ(ERK)、ホスホイノシチド3-キナーゼ、RASおよびSRCなどの多くの下流エフェクターを介して、癌細胞の増殖、生存および遊走を促進する(Normanno et al, 2006)(Comoglio et al, 2008; Ortiz-Zapater et al, 2017)。HGFR発現は、基底型乳癌ではEGFR発現と正の相関があり(Comoglio et al, 2008; Ortiz-Zapater et al, 2017)、HGFRおよびEGFファミリー受容体はしばしば癌細胞で共発現する(Comoglio et al, 2008; Ortiz-Zapater et al, 2017)。さらに、表皮がん細胞をEGFRリガンドで刺激すると、EGFR依存的なリン酸化およびHGFRの活性化が生じる(Comoglio et al, 2008; Ortiz-Zapater et al, 2017)。EGFRシグナルが上昇した細胞におけるHGFRのこのような交差活性化は、いくつかの腫瘍タイプでも観察されている(Tang et al, 2008)。
【0051】
本発明において、驚くべきことに、EpEXがHGFRに結合し、その下流のシグナル伝達を活性化して、細胞の増殖、遊走および浸潤を促進することが見出された。また、EpCAM中和抗体であるEpAb2-6がHGFRのリン酸化を抑制し、癌細胞の転移を阻害することもわかった。したがって、本発明の結果は、癌転移に対抗するためにEpCAMおよびHGFRシグナル伝達を同時に標的とすることの機序的根拠を提供するものである。
【0052】
本明細書で用いる“併用療法”とは、2以上の治療薬またはアプローチを組み合わせた治療を意味する。“併用”とは、2以上の治療薬または治療アプローチが、同じ対象に、同時にまたは順番に投与されることを意味する。好ましくは、併用療法は相乗効果をもたらす。
【0053】
本明細書で用いる用語“相乗効果”とは、2以上の活性物質の組合せにおいて、2以上の活性物質の組み合わせ活性が各活性物質単独の活性の合計を超えるような組み合わせ作用を意味し、またそれを含む。また、用語“相乗効果”とは、2以上の活性物質を併用したとき、単一物質を用いたときと比較して、同等の活性または増強された活性を達成するために、それぞれのより低用量を用い得るような併用活性を提供することも意味し得る。
【0054】
したがって、本発明は、癌を処置するための併用療法であって、(i)EpCAMシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第1の阻害剤(EpCAM阻害剤);および、(ii)HGFRシグナル伝達の活性化を阻害する有効量の第2の阻害剤(HGFR阻害剤)を含む組み合わせを、それを必要とする対象に投与することを含む、併用療法を提供する。
【0055】
いくつかの態様において、本明細書で用いる抗EpEX抗体は、EpCAMのEGF様ドメインI(EpCAMのaa27~59)およびEpCAMのEGF様ドメインII(EpCAMのaa66~135)に特異的に結合する。具体的には、本明細書で用いる抗EpEX抗体は、EGF様ドメインIに位置するCVCENYKLAVN(aa27~37)(配列番号20)、およびEGF様ドメインIIに位置するKPEGALQNNDGLYDPDCD(aa 83~100)(配列番号19)の配列内のエピトープに特異的結合親和性を有する。より具体的には、本明細書で用いる抗EpEX抗体は、EpCAMのドメインI内のNYKモチーフ(aa 31-33)およびドメインII内のLYDモチーフ(aa 94-96)を認識する。対照的に、他の多くの抗体(例えば、MT201、M97、323/A3およびエドレコロマブ)は、EpCAMのよく知られているEGF Iドメインのみを標的としている。本発明の抗EpEX抗体の、他の抗体とは異なる特徴を以下に述べる。

【0056】
本明細書で用いる抗EpEX抗体の1つは、以下の実施例に示すEpAb2-6である。EpAb2-6の重鎖可変領域(V)および軽鎖可変領域(V)、ならびにそれらの相補性決定領域(HC CDR1、HC CDR2およびHC CDR3)(LC CDR1、LC CDR2およびLC CDR3)のアミノ酸配列を、以下の表1に示す。本発明の抗EpEX抗体には、EpAb2-6およびその機能変異体が含まれる。
【0057】
【表1】
【0058】
いくつかの態様において、本発明の抗EpEX抗体は、(a) 配列番号2のHC CDR1、配列番号4のHC CDR2、および配列番号6のHC CDR3を含むV;ならびに、(b) 配列番号9のLC CDR1、配列番号11のLC CDR2、および配列番号13のLC CDR3を含むVを含むことを特徴とするEpAb2-6の機能的変異体、またはその抗原結合フラグメントである。
【0059】
いくつかの態様において、(a) 配列番号2のHC CDR1、配列番号4のHC CDR2、および配列番号6のHC CDR3を含むV;ならびに、(b) 配列番号9のLC CDR1、配列番号11のLC CDR2、および配列番号13のLC CDR3を含むVを有する、本発明の抗EpEX抗体は、配列番号15またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むV、および配列番号16またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むVを含み得る。具体的には、本発明の抗EpEX抗体、配列番号15と少なくとも80%(例えば、82%、84%、85%、86%、88%、90%、92%、94%、95%、96%、98%または99%)の同一性を有するアミノ酸配列を含むV、および配列番号16と少なくとも80%(例えば、82%、84%、85%、86%、88%、90%、92%、94%、95%、96%、98%または99%)の同一性を有するアミノ酸配列を含むVを含む。本発明の抗EpEX抗体には、本明細書に記載の関連するVまたはVアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列によってコードされる、遺伝子組換え(engineered)由来の抗体も含まれる。
【0060】
用語“実質的に同一”とは、変異体の関連アミノ酸配列(例えば、FR、CDR、V、またはVにおいて)が参照(reference)抗体と比較して実質的に差異がなく、変異体が参照抗体に対して実質的に同等の結合活性(例えば、親和性、特異性またはその両方)および生物活性を有することを意味し得る。このような変異体には、わずかなアミノ酸の変化が含まれ得る。ポリペプチドは、その活性または機能とは無関係に、ポリペプチドのある部分内でなされ得る限られた数の変化または修飾を有していてもよく、それでもなお、同等または類似の生物学的活性または機能の許容可能なレベルを有する変異体が得られることが理解され得る。いくつかの例では、アミノ酸残基の変化は保存的アミノ酸置換であり、これは別のアミノ酸残基と類似の化学構造のアミノ酸残基を意味し、ポリペプチドの機能、活性または特性に対する他の生物学的影響は小さいか、実質的に影響しない。通常、FR領域では、CDR領域とは対照的に、抗体の結合機能および生物活性に悪影響を与えない限り(例えば、元の抗体と比較して結合親和性を50%以上低下させるなど)、比較的多くの置換を行うことができる。ある態様において、配列同一性は、参照抗体と変異体との間で、約80%、82%、84%、85%、86%、88%、90%、92%、94%、95%、96%、98%、または99%、またはそれ以上であり得る。変異体は、当業者に公知のポリペプチド配列を変更するための方法に従って調製され得、例えば、そのような方法をまとめた文献、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook, et al., eds., Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載されている。例えば、アミノ酸の保存的置換には、以下のグループ内のアミノ酸間で行われる置換が含まれる:(i)A、G;(ii)S、T;(iii)Q、N;(iv)E、D;(v)M、I、L、V;(vi)F、Y、W;および、(vii)K、R、H。
【0061】
本明細書に記載の抗体は、動物抗体(例えば、マウス由来抗体)、キメラ抗体(例えば、マウス-ヒトキメラ抗体)、ヒト化抗体、またはヒト抗体であってもよい。本明細書に記載の抗体は、抗原結合フラグメント、例えばFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメント、単鎖Fv(scFv)、(scFv)も含み得る。抗体またはその抗原結合フラグメントは、当技術分野で公知の方法により調製できる。
【0062】
本明細書で用いる抗EpEX抗体の詳細は、米国特許第9,187,558号に記載されている通りであり、それぞれの関連する記載は、本明細書で言及される目的または主題について、引用により本明細書に包含させる。
【0063】
抗体またはその抗原結合フラグメントを得るためには、この技術分野で従来から用いられている数多くの方法が利用可能である。
【0064】
ある態様において、本明細書で提供される抗体は、従来のハイブリドーマ技術によって作製できる。一般に、標的抗原、例えば腫瘍抗原を、要すれば担体タンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と結合させ、および/またはアジュバント、例えば完全フロイントアジュバントと混合し、その抗原に結合する抗体を生成するために宿主動物を免疫するために使用できる。モノクローナル抗体を分泌するリンパ球を採取し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを作製する。このようにして形成されたハイブリドーマクローンをスクリーニングし、目的のモノクローナル抗体を分泌するものを同定し選択する。
【0065】
ある態様において、本明細書で提供される抗体は組換え技術によって調製できる。関連する局面において、開示されたアミノ酸配列をコードする単離された核酸もまた、そのような核酸を含むベクターおよびその核酸で形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞とともに、提供される。
【0066】
例えば、このような抗体の重鎖および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、常套技術により発現ベクター(例えば、大腸菌ベクターのような細菌ベクター、酵母ベクター、ウイルスベクター、または哺乳動物ベクター)にクローニングでき、抗体の発現のために、いずれかのベクターを適切な細胞(例えば、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞、哺乳動物細胞)に導入できる。本明細書に記載の抗体の重鎖および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列の例を表1に示す。哺乳動物宿主細胞株の例としては、ヒト胚性腎臓株(293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO細胞)、およびヒト肝臓細胞(Hep G2細胞)が挙げられる。本明細書に記載の抗体を発現させるための組換えベクターは、通常、構成性または誘導性のいずれかのプロモーターに作動可能に連結された抗体アミノ酸配列をコードする核酸を含む。一般的なベクターは、抗体をコードする核酸の発現制御に有用な転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列ならびにプロモーターを含む。ベクターは、要すれば、原核生物系および真核生物系の両方の選択マーカーを含み得る。いくつかの例では、重鎖および軽鎖の両方のコーディング配列が同じ発現ベクターに含まれている。他の例では、抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれを個別のベクターにクローニングし、別々に作製した後、抗体の組み立てに適した条件下でインキュベートできる。
【0067】
本明細書に記載の抗体を発現させるための組換えベクターは、通常、構成性または誘導性のいずれかのプロモーターに作動可能に連結された抗体アミノ酸配列をコードする核酸を含む。組換え抗体は、細菌、酵母、昆虫、哺乳動物細胞などの原核生物または真核生物の発現系で生産できる。一般的なベクターは、抗体をコードする核酸の発現制御に有用な転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列ならびにプロモーターを含む。ベクターは、要すれば、原核生物系と真核生物系の両方の選択マーカーを含み得る。産生された抗体タンパク質は、さらに単離または精製して、さらなるアッセイおよび適用のために実質的に均質な調製物を得ることができる。適切な精製手順としては、例えば、免疫親和性カラムまたはイオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、硫酸アンモニウム沈殿、およびゲルろ過が挙げられる。
【0068】
完全長抗体が望まれるとき、本明細書に記載のV鎖およびV鎖の何れかのコーディング配列を免疫グロブリンのFc領域のコーディング配列に連結でき、完全長抗体重鎖および軽鎖をコードする得られた遺伝子を適当な宿主細胞、例えば植物細胞、哺乳動物細胞、酵母細胞、または昆虫細胞で発現させ、組み立てることができる。
【0069】
抗原結合フラグメントは常套法で調製できる。例えば、F(ab’)フラグメントは全長抗体分子のペプシン消化によって生成でき、FabフラグメントはF(ab’)フラグメントのジスルフィド結合を還元することによって作製することができる。あるいは、このようなフラグメントは、適切な宿主細胞で重鎖フラグメントおよび軽鎖フラグメントを発現させ、インビボまたはインビトロのいずれかで所望の抗原結合フラグメントを形成するように集合させることにより、組換え技術によって調製することもできる。1本鎖抗体は、重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を連結することにより、組換え技術によって調製できる。好ましくは、フレキシブルリンカーが2つの可変領域の間に組み込まれている。
【0070】
抗体のN末端および/またはC末端に、別のタンパク質および/または薬物もしくは担体など、1以上の追加の要素を結合させるために、1つの抗体をさらに修飾できる。好ましくは、追加の要素を結合させた抗体は、所望の結合特異性および治療効果を保持する一方で、例えば、溶解性、保存または他の取り扱い特性、細胞透過性、半減期、過敏症の軽減、送達および/または分布の制御を補助する追加の要素に起因する追加の特性を提供する。他の態様には、アッセイ、検出、追跡などのための色素または蛍光色素などの標識の結合が含まれる。ある態様では、抗体をペプチド、色素、フルオロフォア、炭水化物、抗癌剤、脂質などの追加の要素に結合させ得る。さらに、抗体は、例えば、免疫リポソームを形成するために、Fc領域を介してリポソームの表面に直接結合させることができる。
【0071】
ある態様において、第2の阻害剤(HGFR阻害剤)は、HGFのHGFRへの結合を阻害する。
【0072】
ある態様において、第2の阻害剤(HGFR阻害剤)は、HGFRの低分子チロシンキナーゼ受容体阻害化合物である。表2に、低分子HGFR阻害化合物の例をいくつか示す。
【0073】
【表2-1】

【表2-2】
【0074】
本発明に有用なHGFR阻害化合物のさらなる例としては、AMEP(Bioalliance)、EMD-1204831(Merck KgaA/EMD Serono)、INCB-028060(Incyte/Novartis)、ARQ197(ArQule)、AMG102(Amgen)およびRG-3638(Roche/Genentech)などが挙げられるが、これらに限定されない。詳細は、例えばWO2012042421A1に記載されており、引用によりその内容全体が本明細書に包含される。
【0075】
本明細書で用いる用語“低分子HGFR阻害化合物”または“低分子HGFR阻害剤”としては、HGFRを阻害する、またはHGFRに結合する低分子化合物が含まれる。別段に他の記載がない限り、本明細書において低分子HGFR阻害剤に言及する場合、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物および複合体、ならびにその薬学的に許容される塩(その多形、立体異性体、同位体標識体を含む)の溶媒和物、水和物および複合体への言及を含む。
【0076】
本明細書で用いる用語“薬学的に許容される塩”には酸付加塩が含まれる。“薬学的に許容される酸付加塩”とは、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、ならびに酢酸、プロピオン酸、ピルビン酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸を用いて形成される、遊離塩基の生物学的効果および特性を保持する塩を意味する。用語“薬学的に許容される塩”には塩基塩も含まれる。適切な塩基性塩は、無毒性の塩を形成する塩基から形成される。例えば、アルミニウム塩、アルギニン塩、ベンザチン塩、カルシウム塩、コリン塩、ジエチルアミン塩、ジオラミン塩、グリシン塩、リジン塩、マグネシウム塩、メグルミン塩、オラミン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、トロメタミン塩、亜鉛塩などが挙げられる。
【0077】
本明細書で用いる用語“有効量”とは、処置された対象または細胞に所望の生物学的効果を付与するための有効成分の量を意味する。有効量は、投与経路および投与頻度、当該医薬を投与される個体の体重および種類、投与目的などの種々の理由により変化し得る。当業者は、本明細書の記載、確立された方法、および自身の経験に基づいて、それぞれの場合の投与量を決定できる。
【0078】
本明細書に記載の処置方法によって処置される対象は、哺乳動物、より好ましくはヒトであり得る。哺乳類動物には、家畜、スポーツ動物、ペット、霊長動物、馬、犬、猫、マウス、ラットなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
本明細書で用いる“薬学的に許容される担体”とは、担体が組成物中の有効成分と適合性があり、好ましくは当該有効成分を安定化させることができ、受容する個体に対して安全であることを意味する。前記担体は、有効成分に対する希釈剤、ビークル、賦形剤またはマトリックスであってもよい。一般に、有効成分、例えばEpCAM阻害剤、HGFR阻害剤、またはそれらの組合せを含む組成物は、水溶液、例えば生理食塩水のような溶液の形態で製剤化することもでき、粉末の形態で提供することもできる。適切な賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デキストロース、ソルボース、マンノース、デンプン、アラビアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカントガム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップおよびメチルセルロースが挙げられる。組成物は、生理学的条件に近似させるために必要な薬学的に許容される補助物質、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどのpH調整剤および緩衝剤をさらに含んでいてもよい。組成物の形態は、錠剤、丸薬、粉末、ロゼンジ、分包、トローチ、エリキシル剤、懸濁液、ローション、溶液、シロップ、ソフトおよびハードゼラチンカプセル、坐剤、滅菌注射液、および包装粉末であり得る。本発明の組成物は、経口法、経腸法(筋肉内、静脈内、皮下および腹腔内など)、経皮法、座薬法、経鼻法など、生理学的に許容される何れかの経路で送達できる。特定の態様において、本発明の組成物は、即時使用可能な剤形として、または再構成可能な安定粉末として提供され得る液体注射剤形として投与される。
【0080】
いくつかの態様において、本発明で用いる2つの活性成分、EpCAM阻害剤およびHGFR阻害剤は、対象への同時投与、個別投与または逐次投与のために、混合物として、または独立して、キットの形態で製剤化できる。各成分は、適切な投与経路のために、適切な薬学的に許容される担体と共に製剤化できる。ある態様において、EpCAM阻害剤およびHGFR阻害剤は、EpCAM阻害剤またはそれを含む組成物およびHGFR阻害剤またはそれを含む組成物が別個の包装単位内に存在する適切な包装単位で提供され得る。
【0081】
本発明によれば、EpCAM阻害剤およびHGFR阻害剤の併用は、EpCAM阻害剤またはHGFR阻害剤単独と比較して、癌の治療、特に癌細胞の遊走/浸潤の阻害、腫瘍サイズの縮小、腫瘍の進行、転移の軽減または抑制、および/または癌患者の生存期間の延長において相乗効果をもたらす。特に、実施例(例えば、実施例2.8)に示す、転移性および同所性動物モデルにおいて、対照IgGおよびHGFR阻害剤(クリゾチニブ)投与群では全ての動物が有意な腫瘍および不良な生存期間を示すが、EpCAM阻害剤としてEpCAM中和抗体(EpAb2-6)を投与した群では腫瘍の進行が遅く、生存期間中央値が高い、そして驚くべきことに、EpCAM阻害剤としてのEpCAM中和抗体(EpAb2-6)およびHGFR阻害剤(クリゾチニブ)を用いた併用療法は、腫瘍進行の抑制において相乗的な顕著な効果をもたらすことが示されている。
【0082】
いくつかの態様において、EpCAM阻害剤およびHGFR阻害剤は、相乗的な抗癌作用または抗転移効果を提供するために、同時に、別個にまたは逐次的に投与され、特に、癌は相乗的な組み合わせに対して感受性である。
【0083】
いくつかの態様において、癌は、肺癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌および精巣癌からなる群より選択される。
【0084】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは限定ではなく実証の目的で提供される。当業者であれば、本明細書の記載に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、記載されている特定の態様に多くの変更を加えても、同様または類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【実施例
【0085】
EpCAMシグナル伝達は結腸癌の進行および転移を促進することが知られている。転移は癌処置の失敗の主な原因の1つであるが、転移過程におけるEpCAMシグナル伝達の関与は不明である。本発明は、EpCAMの可溶性細胞外ドメイン(EpEX)がHGFRに結合し、大腸癌細胞において下流のシグナル伝達を誘導することを示す。本発明者らはまた、HGF処置によりEpEX産生が上昇し、EpEXおよびHGFがHGFRシグナル伝達を協調的に制御することも示す。さらに、EpEXは、ERKおよびFAK-ACTシグナル伝達経路を活性化することによって結腸癌細胞の転移能を増強させ、GSK3β活性を低下させることによって活性化β-カテニンおよびスネイルタンパク質をさらに安定化させる。最後に、抗EpCAM中和抗体(EpAb2-6)およびHGFR阻害剤(クリゾチニブ)の併用療法が、大腸癌の転移性および同所性動物モデルにおいて、腫瘍の進行を有意に抑制し、生存期間を延長することを示す。この知見は、EpCAMシグナル伝達による大腸癌転移促進の分子メカニズムを明らかにし、EpAb2-6およびクリゾチニブの併用が大腸癌治療の有効な戦略となり得ることをさらに示唆するものである。
【0086】
1.材料および方法
1.1 化合物および抗体
抗α-チューブリン抗体およびGAPDH抗体はSigma-Aldrichから入手した。ヒトEpCAM、全ERKおよびThr202/Tyr204-リン酸化ERK、全AKT、Ser473-リン酸化AKT、全HGFR、Tyr1234/1235-リン酸化HGFR、非リン酸化(活性型)β-カテニン(Ser45)、β-カテニン、E-カドヘリン、ビメンチン、スネイル、スラグおよびツイストに対する抗体は、Cell Signaling Technology社から入手した。LY294002(AKT阻害剤)もCell Signaling Technology社から入手した。フォレチニブ(HGFR阻害剤)、SU11274(HGFR阻害剤)、U0126(MEK阻害剤)、PF-562271(FAK阻害剤)およびBIO(GSK3β阻害剤)は、Selleck Chemicalsから入手した。クリゾチニブ(HGFR阻害剤)は、Med Chem Expressから入手した。全GSK3β、リン酸化GSK3β(ホスホS9)、リン酸化ADAM17(ホスホT735)、全ADAM17、リン酸化プレセニリン2/AD5(ホスホS327)、全プレセニリン2/AD5、V5タグ、6x Hisタグ、c-Mycタグに対する抗体、ならびにMet(pY1234/pY1235)+全Met ELISA キット(ab126451)はAbcamから入手した。ヒトHGFR(c-MET)およびHGF組換えタンパク質はSino Biological社から入手した。
【0087】
1.2 細胞株および培養
以下のヒト細胞株を用いた:HEK293T、大腸癌細胞株HCT116(ATCC:CCL-247)、HT29。細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco)および100μg/mlペニシリン/ストレプトマイシン(P/S; Gibco)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Gibco)で、37℃、5% COの加湿インキュベーター中で培養した。
【0088】
1.3 哺乳動物レンチウイルスshRNA
ノックダウン実験のために、pLKOベクター中のヒトEpCAM shRNAを中央研究院のRNAiコア施設から入手した。レンチウイルスは標準プロトコルに従って作製し、若干の修正を加えた。簡単に説明すると、293T細胞を100mmディッシュに70%の密度で播種し、パッケージングベクター(すなわち、pCMV-ΔR8.91(gag遺伝子、pol遺伝子およびrev遺伝子を含む))、エンベロープベクター(すなわち、pMD2.G;VSV-G発現プラスミド)、および個々のshRNAベクターでトランスフェクトした。ポリジェットトランスフェクション試薬(SignaGen Laboratories)を用いて、shRNAプラスミドを293T細胞にトランスフェクトした。一晩培養後、培地をBSA含有培地に変えた。HCT116細胞を、ポリブレン(8μg/ml)を含むウイルス上清で24時間感染させ、感染手順を繰り返した後、細胞をピューロマイシン(2μg/ml)中で7日間インキュベートし、安定したshRNA発現を有する細胞を選択した。
【0089】
1.4 EpCAM遺伝子ノックアウト
EpCAMノックアウトのために、CRISPR/cas9 gRNAコンストラクトをGenescriptから購入した。レンチウイルスを産生するために、293T細胞にCRISPR/cas9 gRNAプラスミド、EpCAM gRNA(標的配列:GTGCACCAACTGAAGTACAC、配列番号21)、パッケージングプラスミド(pCMV-ΔR8.91)およびエンベロープ発現プラスミド(pMD.G)を一過性にトランスフェクトした。HCT116細胞またはHT29細胞をレンチウイルス含有培地で培養し、2μg/mlのピューロマイシンで選択した。選択したプールから単一細胞クローンを単離し、ウェスタンブロッティングでEpCAMの発現を調べた。
【0090】
1.5 EpEX-His組換えタンパク質の産生および精製
組換えタンパク質はExpi293発現系を用いて発現させ、精製した。細胞はExpi293発現培地で培養し、エンハンサー試薬の添加によりタンパク質発現を誘導した。遠心分離により上清を回収し、8000gで20分間、4℃で遠心後、上清をニッケルキレートアフィニティー樹脂(Ni-NTA、Qiagen)を用いて4℃で2時間インキュベートした。樹脂を50mM Tris-HCl(pH 8.0)、500mM NaCl、20mMイミダゾールを含む洗浄バッファーで洗浄し、タンパク質を50mM Tris-HCl (pH8.0)、500mM NaCl、250mMイミダゾールを含む溶出バッファーで溶出した。
【0091】
1.6 EpCAM EGF様ドメイン欠失変異体の構築
EpCAMの細胞外ドメインには、アミノ酸27-59(第1EGF様ドメイン)およびアミノ酸66-135(第2EGF様ドメイン)の2つのEGF様ドメイン、ならびにシステイン不含有モチーフが含まれる(Schnell et al., 2013)。EpCAM EGF様ドメイン欠失変異体は、第1の順方向変異誘発欠失プライマー(5’-GCAGCTCAGGAAGAATCAAAGCTGGCTGCC-3’、配列番号22)、第1の逆方向変異誘発欠失プライマー(5’-GGCAGCCAGCTTTGATTCTTCCTGAGCTGC-3’、配列番号23)、第2の順方向プライマー(5’-AAGCTGGCTGCCAAATCTGAGCGAGTGAGA-3’、配列番号24)および第2の逆方向プライマー(5’-TCTCACTCGCTCAGATTTGGCAGCCAGCTT-3’、配列番号25)を用いた標準的なQuikChange(商標)欠失変異システムを用いて作製した。PCR増幅はKAPA HiFi Hot Start DNAポリメラーゼ(Kapa Biosystems)を用いて行い、生成物は制限酵素DpnI(Thermo Scientific)で処理してメチル化された親DNAを消化した。
【0092】
1.7 免疫沈降アッセイ
プロテアーゼ阻害剤(Roche)を添加した溶解バッファー(50mM Tris-HCl、pH7.4、150mM NaClおよび1% NP-40)で細胞を溶解した。免疫沈降では、細胞溶解液を抗体とともに4℃で6時間インキュベートした。その後、20μLのDynabeads Protein Gを加え、4℃で2時間インキュベートし、抗体結合タンパク質をプルダウンした。免疫沈降サンプルをPBSで3回洗浄し、サンプルバッファーで変性させ、ウェスタンブロッティングで分析した。
【0093】
1.8 モノクローナル抗体の作製およびIgGの精製
EpAb2-6および対照IgGの生成は、上記(Liao et al., 2015)の通りに行った。実験プロトコルは、中央研究院動物実験倫理委員会の承認を得た(AS IACUC: 11-04-166)。
【0094】
1.9 タンパク質の抽出および免疫ブロッティング
全細胞抽出液をRIPA緩衝液(50mM Tris-HCl pH7.4、1% NP-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、150mM NaCl、2mM EDTA、50mM NaF)で調製した。細胞溶解液のタンパク質濃度はブラッドフォードアッセイで測定した。溶解液を10%ポリアクリルアミドゲルで分離し、PVDF膜に移した。膜をPBST中3%BSAで1時間ブロックした。その後、膜を一次抗体と共に一晩インキュベートした。適切な西洋ワサビペルオキシダーゼ関連二次抗体(Millipore)を適用し、膜を室温(RT)で1時間インキュベートした。その後、タンパク質バンドを化学発光試薬(Millipore)で可視化し、BioSpectrum 600 Imaging system(UVP)で検出した。タンパク質レベルを、Gel-Pro analyzer 3.1(Media Cybernetics)を用いてバンド強度から定量した。
【0095】
1.10 細胞生存率アッセイ
細胞生存率は、WST-1(4-[3-(4-ヨードフェニル)-2-(4-ニトロフェニル)-2 H-5-テトラゾリオ]-1, 3-ベンジンジスルホン酸)アッセイでミトコンドリア脱水素酵素活性を測定することによりアッセイした。細胞を96ウェルプレートに10細胞/ウェルの密度で播種し、24時間培養した。EGF、EpEXまたはdeglycan-EpEXを示した濃度で添加した新しい培地を細胞に添加した。処理期間終了後、各ウェルに10μlのWST-1増殖試薬(5μg/ml)を添加し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、分光光度計マイクロプレートリーダーを用いて、各ウェルの吸光度を450nmで検出した。
【0096】
1.11 コロニー形成アッセイ
細胞を24ウェルプレートに播種し(1×10細胞/ウェル)、7日間培養した。その後、細胞を4%のホルムアルデヒドで固定し、クリスタルバイオレット溶液で染色した。プレートの画像を撮影した後、0.5% SDS溶液を各ウェルに加え、プレートを室温で2時間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーを用いて570nmの吸光度を測定し、細胞の相対密度を決定した。試験はトリプリケートで行った。
【0097】
1.12 トランスウェル遊走および浸潤アッセイ
細胞の遊走および浸潤を、8μm孔径のトランスウェル遊走チャンバー(Millicell社製)を用いて、10%マトリゲルなし、または10%マトリゲルありで、アッセイした。細胞(1×10)を500μlの無血清DMEM中の上部チャンバーに加えた。次に、10%FBSを含む700μlのDMEMを化学誘引物質として下部チャンバーに加えた。遊走および浸潤は、標準的な細胞培養インキュベーター中、37℃で16時間進行させた。その後、綿棒で膜の上面から細胞を取り除き、下面に移動した細胞を4%パラホルムアルデヒド(1×PBS中)中の0.05%(w/v)クリスタルバイオレットで15分間染色し、水で洗浄した。膜を15-20分間乾燥させた後、高倍率で観察した膜上の少なくとも4つのランダムフィールドを、各実験条件についてカウントした。
【0098】
1.13 アポトーシスアッセイ
細胞を播種し、10μg/mlのmAbまたは阻害剤で6時間処理した。適切な希釈率で用いた無関係のマウス骨髄腫免疫グロブリンを、IgG2a(Invitrogen #02-6200)のアイソタイプ対照として用いた。アポトーシス細胞はアネキシンV-FITCおよびPIを用いて検出し、フローサイトメーター(BD Immmunocytometry Systems)を用いて分析した。初期アポトーシスは、アネキシンV-FITCアポトーシス検出キットII(BD Pharmingen)を用いて測定した。後期アポトーシス核はヨウ化プロピジウム(PI)染色で検出した。
【0099】
1.14 RNA抽出、cDNA合成、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)
全RNA抽出、一本鎖cDNA合成、SYBR-greenベースのリアルタイムPCRは、製造元の説明書に記載されている通りに行った。全RNAを抽出するため、TRIzol試薬(Invitrogen)を用いて細胞を溶解し、クロロホルムを用いてTRIzolからタンパク質およびフェノールを除去した。遠心分離後、上部の無色層を集め、イソプロパノールと混合してRNAペレットを沈殿させた。その後、RNAペレットを70%エタノールで洗浄し、室温で風乾した後、RNase不含有水に溶解した。第一鎖cDNA合成には、5μgの全RNAを用い、オリゴ(dT)プライマーおよびSuperScriptIII逆転写酵素(Invitrogen)を用いて、50℃で60分間逆転写を行った。標的遺伝子レベルは、LightCycler 480 SYBR Green I Master Mix(Roche)およびLightCycler480 System(Roche)を用いた定量的PCR(qPCR)により評価した。すべてのq-PCR反応を標準化するために、内因性ハウスキーピング対照としてGAPDH mRNA発現を測定した。qPCR反応は95℃で5分間、その後95℃で10秒間の変性、60℃で10秒間のアニーリング、および72℃で30秒間の伸長を40サイクル行った。目的遺伝子のmRNA発現を検出するために用いたプライマー配列を表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
1.15 結腸癌転移動物モデル
PBS中の結腸癌HCT116またはHT29(5×10細胞/マウス)を4-6週齢の雌性NOD/SCIDマウスに尾静脈から注射した。その後、マウスを体重別に異なる処置群に無作為に振り割けた。3日後、抗体を尾静脈注射で週2回、4週連続で投与した。クリゾチニブは週5日、毎日経口投与された(治療期間は4週間)。治療試験では、担癌マウスにアイソタイプ対照IgG1(15mg/kg)、クリゾチニブ(20mg/kg)、EpAb2-6(15mg/kg)、またはクリゾチニブ(20mg/kg)とEpAb2-6(15mg/kg)との併用を投与した。マウスの生存率を測定した。動物飼育は台湾中央研究院のガイドラインに従って行われた。プロトコルは中央研究院動物実験倫理委員会(AS IACUC: 20-05-1468)の承認を得た。
【0102】
1.16 同所移植および治療試験
同所性腫瘍モデルは既報のように作成した(Chen et al., 2020)。簡単に説明すると、NSCIDマウスを用いて、あらかじめLenti-lucウイルス(ルシフェラーゼ遺伝子を含むレンチウイルス)に感染させたHCT116細胞を同所移植した。マウスは、アベルチン、2,2,2-トリブロモ-エタノール(Sigma-Aldrich)を250mg/kgの用量で腹腔内注射(i.p.)して麻酔した。腫瘍成長は、生物発光イメージングによって測定した。治療試験では、担癌マウスにアイソタイプ対照IgG1(15mg/kg)、クリゾチニブ(20mg/kg)、EpAb2-6(15mg/kg)、またはクリゾチニブ(20mg/kg)とEpAb2-6(15 mg/kg)の併用を投与した。腫瘍の進行は、生物発光の定量化によって測定した。マウスの生存率も測定した。動物飼育は中央研究院のガイドラインに従って行われた。プロトコルは中央研究院動物実験倫理委員会(AS IACUC: 20-05-1468)の承認を得た。
【0103】
1.17 統計分析
すべてのデータは、表示された試験回数の平均値±SEMで示される。実験培養 対 対照培養における発現パーセンテージの解析には、対にならないスチューデントのt検定を用いた。p値が0.05未満を統計的に有意とした。
【0104】
2.結果
2.1 EpEXはHGFRとの相互作用を通じてHGFRのリン酸化を誘導する
本発明者らの以前の研究では、Human Phospho-RTK Array Kit(R&D Systems)アッセイを実施し、EpEXがHCT116細胞においてEGFRおよびHGFRの両方のリン酸化を誘導することを見出した(Liang et al., 2018)。HCT116およびHT29結腸癌細胞株において、内在性のEpCAMがHGFRと直接相互作用するかどうかを調べるため、架橋剤であるDTSSPを用いて、推定上のEpCAM-HGFR複合体を安定化させた。予想通り、EpCAMとHGFRの相互作用は免疫沈降(IP)およびウェスタンブロッティングで確認された(図1A)。さらに、膜結合型EpCAMがHGFRの細胞外ドメイン(HGFRECD)と結合できるかどうかを調べるため、EpCAM-V5およびHGFRECD-c-Myc-tagの両方を過剰発現させたHEK293T細胞を用いてco-IP試験を行った。その結果、外因性EpCAMおよびHGFRの相互作用が確認された(図1B)。次に、組換えEpEX-FcとHGFRECD-His組換えタンパク質との直接相互作用を調べるためにIPを行った。(図1C)。大腸癌細胞におけるHGFRのリン酸化に対するEpEXの効果を調べるため、HCT116細胞およびHT29細胞におけるリン酸化HGFRのレベルを分析した。ウェスタンブロッティングおよびELISAの結果から、EpCAMおよびEpEXの両方が、両細胞型においてHGFRのリン酸化を誘導することが示された。実際、EpCAM不存在下でHGFRのリン酸化を誘導できたのはEpEXだけであった(図1D図1E)。
【0105】
EpEXは2つのEGF様ドメインから構成されている(Schnell et al, 2013)ため、どのドメインがHGFRと相互作用するのかを明らかにしようとした。そのために、様々なEGF様ドメイン欠失変異体(EpCAMΔEGFI+II、EpCAMΔEGFI、EpCAMΔEGFII)プラスミドを構築した。驚くことに、EGF様ドメインの欠失を1つだけ有する変異体(EpCAMΔEGFIおよびEpCAMΔEGFII)はHGFRと相互作用できたが、両方のドメインを欠失した変異体(EpCAMΔEGFI+II)はそのような結果を示さなかった(図1F)。同様の結果は、HGFRECDと可溶性EpEX野生型または変異型タンパク質との結合を評価した場合にも観察された(図1G)。全体として、これらの知見は、膜結合型EpCAMおよび分泌型EpEXの両方が、EpCAM/EpEXのEGFドメインIまたはIIのいずれかを介してHGFRと結合できることを示している。
【0106】
次に、EpEX-FcのEGF様ドメイン欠失変異体のいくつかの変異体とHGFR-Hisタンパク質との潜在的相互作用を調べるためにELISAを行った。その結果、EpEXΔEGFI+II変異タンパク質へのHGFR結合が完全に消失したことから、EpEXはその両ドメインを介してHGFRに結合することが確認された(図1H)。野生型EpEXのリン酸化結果(図1DおよびE)と同様に、EpEXΔEGFIおよびEpEXΔEGFIIの両方がHGFRのリン酸化を誘導し、EpEXΔEGFI+IIタンパク質のリン酸化は誘導できなかった(図1Iおよび図1J)。これらの結果から、EpEXはHGFRに結合し、その結果リン酸化を誘導できると結論づけた。
【0107】
2.2 EpEXはHGFRシグナルを介して腫瘍の進行を促進する
EpCAMがHGFRのリン酸化を誘導することから、この経路が結腸癌細胞の腫瘍形成に部分的に関与している可能性が示唆された。EpCAMおよびHGFRの活性化が協同して癌の進行および転移を制御しているかどうかを調べるため、HGF処置の有無にかかわらず、EpCAMノックアウト細胞におけるリン酸化ERKおよびAKTのレベルを調べた。ウェスタンブロッティングの結果、EpCAMノックアウトHCT116細胞およびHT29細胞では、HGFR、AKTおよびERKのリン酸化はHGF処置によって影響を受けないことが示された(図2A)。さらに、細胞増殖アッセイの結果、EpCAMノックアウト細胞は野生型HCT116細胞およびHT29細胞よりも増殖が遅かったが、EpCAMノックアウトHCT116細胞およびHT29細胞をHGFで処理することにより、細胞増殖の軌跡を回復させることができた(図2B)。
【0108】
EpEXがHGFRシグナルを介して癌の進行および浸潤を誘導できるかどうかを調べるため、EpEX-HisおよびHGFRのチロシンキナーゼ阻害剤であるSU11274を組み合わせて処理した後の結腸癌細胞におけるEGFR、ERK、AKTのリン酸化を解析した。その結果、SU11274は、HCT116細胞およびHT29細胞において、EpEXを介したERKおよびAKTのリン酸化を抑制できることがわかった(図2C)。このような阻害が細胞増殖に及ぼす影響をさらに理解するため、EpEX処置単独ではHCT116細胞およびHT29細胞の増殖が促進される一方、SU11274は結腸癌細胞におけるEpEX誘導性の細胞生存率および増殖の増加を消失させることを見出した(図2D)。
【0109】
さらに、HGFRノックダウンにより、HGFR、EGFR、AKT、ERKのリン酸化レベルが低下した。興味深いことに、HGFRノックダウンはEGFRリン酸化レベルも低下させた(図2E)。さらに、HGFRノックダウンは、EpEX誘発RIP(リン酸化ADAM17とプレセニリン2)(図2F)および活性型β-カテニンの核内翻訳(図2G)を減少させた。加えて、HCT116細胞では、HGFRノックダウンにより、EpEX誘発細胞増殖およびコロニー形成の両方が有意に減少した(図2Hおよび図2I)。実際、IPアッセイを用いて、HCT116細胞のHGF処理後にEpEX産生が上昇することを見出した(図2J)。また、HGF処理によって、HCT116細胞におけるADAM17のリン酸化、プレセニリン2のリン酸化、およびEpEX産生が増加することも見出した(図2K)。
【0110】
2.3 EpEXはERKおよびFAK-ACTシグナルを活性化する
EpCAMは、その下流のエフェクターを介してがん細胞の増殖、生存および転移に影響を及ぼすことが知られている。そのシグナル伝達の過程で、EpCAMのタンパク質分解はEpEXを産生し、EpEXはさらにRIPを刺激してEpICDを放出し、それがEpCAMシグナルを伝達すると考えられる(Lin et al, 2012)。さらに、HCT116細胞へのEpEX処置は、TACEおよびγセクレターゼの触媒サブユニットであるプレセニリン2のリン酸化を介してRIPを増加させ得ることが以前に示されている(Liang et al., 2018)。そのため、本発明者らは、EpCAMノックアウトHCT116細胞をEpEXで処理したところ、AKT、FAKおよびERKのリン酸化、ならびにRIPタンパク質(ADAM17およびプレセニリン2)のリン酸化などのHGFR下流シグナル伝達が部分的に回復した(図3A)。以前の研究では、GSK3βアンタゴニストがAKTを介してEMTを刺激することが示された(An et al, 2020)。このメカニズムに沿って、EpEXは、EpCAMノックアウト細胞において、GSK3βの抑制的リン酸化(S9、不活性GSK3β)をレスキューし、同時にGSK3βの活性化リン酸化(Y216、活性GSK3β)を低下させることを見出した(図3A)。また、EpCAMノックアウトHCT116細胞において、EpEXがコロニー形成を増加させることも見出し(図3B)、またEpICDではなく、内因性EpEXの脱落を阻害すると、HGFR、AKTおよびERKのリン酸化が低下することから、内因性EpEXがHGFRシグナル活性化に重要であることも示唆された(図3C)。
【0111】
次に、本発明者らは、EpEXがHGF誘導HGFRシグナル伝達を増強するかどうかを試験した。可溶性EpEXとHGFを併用したHCT116細胞およびHT29細胞のインキュベーションにより、EpEXまたはHGF単独処理と比較して、HGFRのリン酸化、およびそれに続くAKTおよびERKを含む下流のリン酸化が上昇した(図3D)。EpEXはHGFR活性化を誘発するため、HGFRシグナル伝達のメディエーターに対するEpEXの影響をさらに調べた。本明細書中、AKTシグナル伝達およびERKシグナル伝達は、EMT、細胞周期、生存および癌の進行の制御において種々の生理学的役割を果たすため、癌関連シグナル伝達経路の中でも最も重要な2つの経路である(Chang et al, 2013; Sun et al, 2015)。それゆえ、本発明者らは、HGFR阻害剤(SU11274)、AKT阻害剤(LY294002)、ERK阻害剤(U0126)およびFAK阻害剤(PF-562271)が、HCT116細胞におけるEpEX誘導シグナル伝達に影響を与えるかどうかを試験した。EpEXは、AKT、ERKおよびFAKのリン酸化レベル(図3E)、コロニー形成能(図3F)、創傷治癒能(図3G)および遊走能(図3H)を上昇させた。これらの結果から、EpEXは結腸癌細胞においてHGFRの活性化を誘導することにより、ERKおよびFAK-ACTシグナル伝達経路を増加させることが示された。
【0112】
2.4 EpEXはGSK3β活性の下方制御を介して活性型β-カテニンおよびスネイルの発現を誘導し、EMTおよび浸潤を促進する
本発明者らは、EpCAMをノックアウトすると、HCT116細胞ではE-カドヘリンの発現が増強される一方で、間葉系マーカーであるビメンチンの発現ならびにEMT制御因子であるスネイルタンパク質レベルが抑制されることを見出した(図4A)。EpEXはまた、EpCAMノックアウトHCT116細胞にも細胞浸潤を誘導した(図4B)。
【0113】
EpCAMおよびHGFRの活性化が協同して癌細胞の浸潤を制御しているかどうかを調べるため、EpCAMノックアウト細胞をHGF処理の有無にかかわらず試験した。本発明者らは、EpCAMノックアウトHCT116細胞およびHT29細胞では、EMT関連タンパク質の発現ならびに細胞浸潤特性が、野生型細胞に比べて有意に低下したことを見出した。HGF誘導性のEMTおよび浸潤活性もまた、EpCAMノックアウト細胞で減少した(図4Cおよび図4D)。HCT116細胞およびHT29細胞をEpEXとHGFの併用と共にインキュベートすると、EpEXまたはHGFの単独処理と比較して、EMTおよび細胞浸潤のレベルが上昇した(図4Eおよび図4F)。さらに、HGFRのノックダウンにより、EpEXによるEMT関連タンパク質の発現および細胞浸潤が阻止された(図4Gおよび図4H)。これらの結果は、EpEXがHGFRの活性化を促進し、結腸癌細胞のEMTおよび転移を誘導することを示唆している。
【0114】
これまでの報告では、GSK3βアンタゴニストがAKTシグナルによってEMTを刺激し、その結果、リン酸化およびユビキチンを介したタンパク質分解を介してスネイルタンパク質のターンオーバーに影響を与えることが示されていた(An et al., 2020)。このメカニズムに関連して、本発明者らは、EpEXがGSK3βの抑制的リン酸化(S9、不活性GSK3β)を誘導し、一方で、タンパク質の活性化リン酸化(Y216、活性GSK3β)を減少させることを見出した。これらの変化は、HCT116細胞におけるスネイルタンパク質の発現増加と一致していた。しかしながら、SU11274は、EpEX介在性GSK3β活性を減弱させ、HCT116細胞におけるEpEX誘導性の活性型β-カテニンおよびスネイルタンパク質の発現を消失させることができた(図4I)。また、HGFR下流メディエーターの阻害剤(すなわち、LY294002、U0126およびPF-562271)は、EpEX介在性のGSK3β活性およびスネイルタンパク質の発現を減弱させることを見出した(図4J)。EpEX誘導性浸潤は、LY294002、U0126およびPF-562271によっても抑制された(図4K)。注目すべきは、活性型β-カテニンおよびスネイルタンパク質の発現が、GSK3β阻害剤であるBIOで処理した後、対照およびEpEX処理細胞の両方で上昇したことである(図4L)。これらの結果は、EpEXがGSK3β活性の下方制御を介して活性型β-カテニンおよびスネイルタンパク質の発現を誘導することにより、EMTおよび浸潤を促進することを示唆している。
【0115】
2.5 EpEXはユビキチン化を介したプロテアソーム分解を阻害することで、スネイルタンパク質の安定性を促進する
本発明者らは、Cas9およびEpCAMを標的とするsgRNAを発現するレンチウイルスを用いて大腸癌細胞をトランスフェクトすることにより、EpCAMがEMT関連遺伝子発現に及ぼす影響を分析した。その結果、EpCAMノックアウトはE-カドヘリンの遺伝子発現を増加させ、VIMの遺伝子発現を減少させた。しかしながら、EpCAMノックアウトはSNAIL遺伝子発現レベルには影響を与えなかった(図5A)。実際、シクロヘキサミド処理によって、EpCAMをノックアウトしたスネイルタンパク質の半減期が短くなることがわかった(図5B)。一方、MG132(26Sプロテアソームの阻害剤)で処理すると、スネイル(Snail)の定常状態のタンパク質レベルが増加し、タンパク質レベルがプロテアソーム分解によって大きく制御されていることが示された(図5C)。EpCAMノックアウトによって、ユビキチン化されたスネイルのレベルも、対照細胞に比べて上昇した(図5D)。さらに、シクロヘキサミド処理によって、EpEXがスネイルタンパク質の半減期を延長することがさらに確認された(図5E)。EpEXは、Snail遺伝子の発現レベルには影響を与えなかったが(図5F)、MG132は、EpEX処理の有無にかかわらず、HCT116細胞におけるスネイル定常状態タンパク質レベルを増加させた(図5G)。
【0116】
この点に関して、スネイルのセリンリッチ領域にある2つのコンセンサスモチーフ(モチーフ1:S97、S101;モチーフ2:S108、S112、S116、S120)は、転写後の制御およびユビキチン化を介したプロテアソーム分解に極めて重要である(Zhou et al, 2004)。HCT116細胞に、野生型(Snail-WT)および3種の変異型(Snail-2SA、-4SA、および-6SA)のスネイル構築物をトランスフェクトした(図5H)。EpEXでトランスフェクトした細胞を処理すると、Snail-WTおよび-2SAの発現は有意に増加したが、Snail-4SAおよび-6SA変異体の発現にはそのような効果は見られなかった(図5I)。これらのデータは、癌細胞においてEpEXが、セリンに富んだスネイルのコンセンサスモチーフ2を介して、スネイルのタンパク質安定性を制御していることを示唆している。以上の試験結果から、EpEXは大腸癌細胞においてスネイルタンパク質の安定性を促進することにより、EMTの制御に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
【0117】
2.6 EpAb2-6はEpCAMおよびHGFRのシグナル伝達を阻害し、GSK3βの活性化を介して活性型β-カテニンおよびスネイルタンパク質の分解を促進する
【0118】
以前、本発明者らはEpEXを標的とし、癌細胞のアポトーシスを誘導する中和抗体EpAb2-6を開発した(Liang et al., 2018;Liao et al., 2015)。そこで、本発明者らは、EpAb2-6を用いて大腸癌細胞におけるEpEXの機能を阻止し、HCT116細胞におけるHGFR、AKT、FAK、GSK3β、ERK、ADAM17およびプレセニリン2のリン酸化レベルを分析した。EpAb2-6処理により、対照IgG処理と比較して、HGFR、AKT、ERKおよびFAKのリン酸化が減少した(図6A)。HGF処理により、HCT116細胞においてHGFR、AKTおよびERKのリン酸化レベルが増加した。一方、EpAb2-6で処理した細胞では、これらのリン酸化タンパク質のレベルは有意に減少した。さらに、HCT116細胞の浸潤および遊走活性も、EpAb2-6処理によって有意に低下した(図6B)。HCT116細胞をEpAb2-6の後にHGFで処理すると、浸潤および遊走に対するEpAb2-6の効果は部分的に鈍化した(図6Cおよび6D)。
【0119】
興味深いことに、EpAb2-6は、HCT116細胞における内因性タンパク質のIPによって検出されるように、EpCAMとHGFRの結合を減少させた(図6E)。組換えEpEXがHGFRに直接結合するかどうかを評価するため、本発明者らはELISAを行い、精製EpEX-HisとHGFR-Fcタンパク質との相互作用を調べた。EpEXのHGFRへの結合活性をELISAによりさらに確認し、抗EpCAMモノクローナル抗体EpAb2-6がEpEXのHGFRへの結合を阻害することも示した(図6F)。
【0120】
これらの試験に続いて、本発明者らは、対照IgGまたはEpAb2-6で処理したHCT116細胞におけるEMTタンパク質の発現レベルを分析した。その結果、EpAb2-6はE-カドヘリンのレベルを増加させ、スネイルおよび活性型β-カテニンを減少させたことが示された(図6G)。さらに、EpAb2-6はGSK3βのS9での抑制的リン酸化(不活性GSK3β)を減少させ、同時にY216での活性化リン酸化(活性GSK3β)を増加させた。これらの変化はGSK3β活性を増加させると予期され、観察された活性型β-カテニンおよびスネイルタンパク質の減少と一致していた。これに対応して、活性型β-カテニンおよびスネイルタンパク質は、GSK3β阻害剤であるBIOで処理すると増加した(図6H)。活性型β-カテニンおよびスネイルの定常状態のタンパク質レベルはEpAb2-6で処理すると減少したが、プロテアソーム阻害剤(MG132)で処理すると活性型β-カテニンおよびスネイルの定常状態のタンパク質レベルが増加した(図6I)。さらに、シクロヘキサミド処理アッセイで示されたように、EpAb2-6はスネイルタンパク質の半減期を短縮した(図6J)。これらの結果は、EpAb2-6がHGFRシグナル伝達を下方制御することによって転移プロセスを阻害し、GSK3β活性の増加を介して活性β-カテニンおよびスネイルタンパク質の分解を可能にすることを示唆している。
【0121】
本発明者らはさらに、EpAb2-6の二価抗体フラグメントF(ab’)がEpEXと結合し、アポトーシスを誘導できるかどうかを試験した。その結果、EpAb2-6のF(ab’)は実際にEpEXと結合し(図7A)、結腸癌細胞にアポトーシスを誘導することが示された(図7B)。また、アポトーシスアッセイを用いて、ヒト化EpAb2-6(hEpAb2-6)およびヒト抗EpCAM抗体アデカツムマブ(MT201)が同様の活性を有するかどうかを評価した。EpAb2-6およびhEpAb2-6は、アポトーシスを誘導するという点で同様の機能特性を示したが、MT201はHCT116癌細胞またはHT29癌細胞でそのような効果を示さなかった(図7C)。本発明者らはまた、EpAb2-6およびhEpAb2-6は両方とも、HGFR、AKTおよびERKのリン酸化を阻害したが、MT201は阻害しなかったことを見出した(図7D)。リン酸化されたADAM17およびプレセニリン2のレベルも、EpAb2-6またはhEpAb2-6処理後に低下したが、MT201抗体にはそのような効果はなかった(図7E)。本発明者らのデータは、EpEXおよびHGFRが協調して下流のHGFRシグナルを刺激し、腫瘍の進行および細胞浸潤を促進することを示唆した。そこで本発明者らは、EpCAMシグナル伝達およびHGFRシグナル伝達の両方を同時に遮断することによって、抗腫瘍効果をさらに試験したいと考えた。さらに、本発明者らは、HGFR阻害剤クリゾチニブが、HCT116癌細胞およびHT29癌細胞に対するEpAb2-6のアポトーシス効果を増強することも見いだした(図7F)。細胞浸潤アッセイでは、クリゾチニブは対照IgGと比較して、HCT116細胞およびHT29細胞の浸潤に対するEpAb2-6の阻害効果を増強した(図7G)。
【0122】
2.7 EpAb2-6はEpCAMのEGF様ドメインIおよびIIに結合する
以前の研究では、EpAb2-6抗体の結合エピトープがEpCAMのLYDモチーフであることが同定されており、これはアミノ酸残基94-96に相当する。特に残基95(Y95)がEpAb2-6の結合において主要な役割を果たしている(Liao et al, 2015)。ここで、本発明者らは、EpEXはEGF様ドメインIおよびIIを介してHGFRに結合すること(図1Fおよび図1G)、EpAb2-6はEpEXのHGFRへの結合を阻害できることを見出した(図6Eおよび図6F)。そこで、本発明者らは、この抗体がEpEXのEGF様ドメインの両方でEpCAMと結合するかどうかを調べたいと考えた(図8A、8Bおよび8C)。EpAb2-6がEpCAMのLYDモチーフを認識することを確認するため、本発明者らは、EpCAMの第1のEGF様反復配列(aa 27-59;EGF-Iドメイン)および第2のEGF様反復配列(aa 66-135;EGF-II/TYドメイン)をコードするcDNA配列を構築した。次いで、PCRを用いた部位特異的変異導入法を用いて、各ドメインに変異を導入した(図8D)。これらのEpCAM変異体に対するEpAb2-6抗体の反応性を、免疫蛍光法(図8E)、フローサイトメトリー法(図8F)、および細胞ELISA法(図8G)で評価した。EpCAMのY32位(EGF-Iドメイン)またはY95位(EGF-IIドメイン)のアミノ酸変異は、EpAb2-6結合の顕著な減少を引き起こしたが、MT201結合には影響を与えなかった。したがって、本発明者らは、EpAb2-6はEpEXのEGF-IドメインおよびEGF-IIドメインに結合し、それぞれアミノ酸残基Y32およびY95を標的とすると結論した。
【0123】
2.8 EpAb2-6は結腸癌動物モデルにおけるクリゾチニブ治療の有効性を改善する
動物モデルでは、移植72時間後に処置を開始した(図9A)。まず、本発明者らは、大腸癌細胞HCT116の転移に対するクリゾチニブおよびEpAb2-6の効果を調べた。NOD/SCIDマウスにHCT116細胞を静脈注射し、細胞注射の3日後にクリゾチニブおよびEpAb2-6を共投与するか、または同量の対照IgGを投与した。EpAb2-6およびクリゾチニブの併用投与を受けたHCT116細胞を移植したマウスの生存期間中央値および全生存期間は、対照IgG群と比較して延長され(図9B)、このことは、EpAb2-6がインビボでクリゾチニブの抗転移作用を改善できるという考えを支持した。
【0124】
次に、本発明者らは、大腸癌の同所性マウスモデルにおいて、治療戦略としてのEpAb2-6およびクリゾチニブの併用効果を試験した。図9Cに示すように、ホタルルシフェラーゼを安定的に発現するHT29-Luc細胞およびHCT116-Luc細胞のインビボモニタリングによって腫瘍増殖を評価した。治療開始前(腫瘍細胞移植3日後)には、すべてのマウスで腫瘍増殖が観察された。治療後、EpAb2-6またはEpAb2-6とクリゾチニブの併用投与を受けたマウスの生物発光強度は、対照IgGまたはクリゾチニブ単独投与群に比べて、有意に低下した。同様の効果は、HCT116細胞(図9Dおよび図9E)またはHT29細胞(図9Hおよびず9I)を移植した同所モデルでも観察された。さらに、HCT116細胞(図9F)またはHT29細胞(図9J)の同所移植モデルでは、体重は治療群間で有意差はなかった。EpAb2-6およびクリゾチニブの併用投与を受けたHCT116細胞(図9G)またはHT29細胞(図9K)を移植したマウスの生存期間中央値および全生存期間は、対照IgG群と比較して、有意に延長された。全体として、転移モデルおよび同所モデル動物を用いた実験の結果、対照IgG群およびクリゾチニブ群では、全ての動物に顕著な腫瘍が発生し、生存率も悪かった。一方、EpAb2-6処置群は、対照IgG処置群またはクリゾチニブ処置群に比べ、腫瘍の進行が顕著に遅く、生存期間中央値も高かった。重要なことは、腫瘍進行の抑制は併用処置群で最も顕著であったことである。
【0125】
3. 考察
EpCAMの発現は、多くの癌において腫瘍形成および転移と相関しているため、本発明者らは、この試験ではその基礎となるメカニズムの解明を目指した。ここではさらに、EpEXが誘導する腫瘍の進行および転移がHGFRシグナル伝達に介在することを示す。
【0126】
多くの研究が、HGFRの高発現または活性化と癌患者の予後不良との関連性を明らかにしている(Birchmeier et al., 2003)。HGFRの高発現は、甲状腺がんおよび非小細胞肺癌(NSCLC)における予後不良を示し、結腸癌では腫瘍浸潤およびリンパ節転移の予測因子となる(Al-Saad et al, 2017; Takeuchi et al, 2003)。これまでの報告でも、胃癌およびCRCのモデルにおいて、HGFRシグナル伝達を遮断することで、インビトロおよびインビボでの腫瘍細胞の増殖および転移を抑制できることが示されている(Smolen et al, 2006; Toiyama et al, 2012; Zou et al, 2007)。
【0127】
HGFは上皮細胞の増殖を調節するサイトカインであり、主に間葉系細胞から発現および分泌される(Lassus et al, 2006; Taher et al, 2002)。HGFシグナル伝達の主要なコーディネーターはHGFRであり、このシグナル伝達経路によって誘導される複合プログラムは、増殖、生存、マトリックス分解および遊走を促進する。HGFRおよびHGFは共に、創傷の閉鎖および血管新生に必要な、上皮および間葉の重要な相互作用の基盤を形成している(Comoglio & Trusolino, 2002)。本発明者らの結果は、EpCAMノックアウトが結腸癌細胞におけるHGFRのリン酸化を抑制し、EpCAMノックアウトHCT116細胞の細胞増殖能および遊走能が野生型細胞に比べて有意に低下したことを示す。EpCAMノックアウトHCT16細胞にHGF処理を戻すと、EpCAMによる細胞増殖および遊走への影響は部分的に逆転した。HGFRのリン酸化を制御するEpCAMの能力は、この経路が結腸癌細胞において重要な役割を果たしている可能性を強く示唆している。
【0128】
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、キナーゼドメインのATP結合ポケットにATPが到達しないようにすることで、リガンドの存在に関係なく活性化RTKを標的とできる低分子薬剤である(Pasquini & Giaccone, 2018)。通常、薬剤耐性は、TKIの効果を消失させるRTKの変異の獲得、またはHGFRのような同様のシグナル伝達を刺激する別のRTKの増幅によって生じる(Sacher et al, 2014)。以前、本発明者らのグループは、ヒトホスホ-RTKアレイキットを用いて、EpEX-Fc処理したHCT116結腸癌細胞およびFc処理したHCT116結腸癌細胞におけるRTKのリン酸化をスクリーニングした。その結果、HGFR(MET)-チロシンリン酸化がEpEX処理によって刺激されることが示された(Liang et al., 2018)。本試験では、HCT116結腸癌細胞を可溶性EpEX-Hisタンパク質と共にインキュベートすることで、HGFRリン酸化が誘導されることを見出した。興味深いことに、HGFRチロシンキナーゼ阻害剤(SU11274)は、EpEX介在性のERKおよびAKTのリン酸化を抑制した。さらに、本発明者らは、HGFRの枯渇が、HGFR阻害剤の効果と一致するように、EpEX誘発細胞の増殖および浸潤を抑制できることを確認した。
【0129】
多くの研究が、EMTが癌の進行および転移に関連していることを示している(Iwatsuki et al., 2010)。EMTの過程には、上皮細胞との接着が失われ、かつ細胞に間葉系表現型が誘導される一連の複雑な可逆的事象が含まれる。EMTは、間葉系の特徴を獲得するのに必要な幹細胞のような可塑的特徴を腫瘍に与え、腫瘍細胞の播種および浸潤を可能にする(Sacchetti et al, 2021; Thiery & Sleeman, 2006)。EMTを受けた癌細胞は、上皮細胞との接着が失われ、かつ間葉系の性質が誘導されるとともに、細胞の運動性および浸潤性が増強された。EMTの指標としては、ビメンチン、スネイルおよびスラッグなどの間葉系マーカーの発現の増加と、細胞間結合を破壊するE-カドヘリンなどの上皮系マーカーの発現の減少が挙げられる(Meng et al, 2012)。さらに、EMTを経た細胞はアポトーシスに対しても抵抗性を示す。種々の癌種におけるEMTが、様々なタイプの治療薬に対する耐性を促進し得ることが、多くの報告で示されている(Singh & Settleman, 2010)。治療目的でEMTを阻害することは、腫瘍細胞におけるEMTプログラムの活性化に寄与する腫瘍微小環境の構成要素を標的とすることで達成され得る(Shibue & Weinberg, 2017)。例えば、HGFはHGFRシグナル伝達を介してEMTプログラムを誘導し、それによって癌細胞の浸潤および転移能を高め、細胞が固定されない状態で血流中で生存できるようにする。これまでの報告では、FAK-PI3K/AKTおよびMAPKシグナル伝達経路が、結腸癌および神経膠芽腫における遊走および転移を促進することが示されていた(Golubovskaya, 2014; Song et al, 2016)。本発明者らのデータは、これらの分子の阻害剤(すなわち、SU11274、LY294002、U0126およびPF-562271)が、HCT116細胞におけるEpEX誘導性の遊走および浸潤を減弱できることを示した。
【0130】
EpEXシグナル伝達によるGSK3βの阻害は、β-カテニンおよびスネイルの両方を安定化させ、EMTに関連した細胞遊走および浸潤を協調的に誘導する。注目すべきは、EMTは非リン酸化(活性化)β-カテニンの高発現およびβ-カテニンの核内移行と相関しているが、β-カテニンの過剰発現だけでは必ずしもEMT関連プロセスを促進しないことである(Kim et al, 2000; Zhou et al, 2004)。さらに、スネイルは亜鉛フィンガー転写因子であり、E-カドヘリン発現を抑制することによってEMTを誘発する。PI3K/AKT、MAPKおよびWntなど多くの発癌性シグナルがGSK3βを阻害し、スネイルの安定化とその後のEMTを引き起こすことが示されている(Zhou et al., 2004)。本発明者らのデータは、EpEXがGSK3β活性の低下を介して活性型β-カテニンおよびスネイルを安定化させることにより、EMTおよび浸潤を誘導することを示した。さらに、本発明者らの抗EpCAM抗体は、GSK3β活性を上昇させ、活性型β-カテニンおよびスネイルの分解を導くことによって、EMTおよび浸潤を阻害する。
【0131】
HGFRシグナル伝達は抗癌剤治療の重要な標的であり、この経路のアンタゴニストを開発するために多大な努力が払われてきた。現在、HGFRチロシンキナーゼドメインに対する多くの低分子阻害剤が臨床治験で評価されている。HGFRの過剰発現は、多くの癌細胞で薬剤耐性を促進することが知られており、その結果、治療効果が乏しくなり、患者の生存期間が短くなる(Yang et al, 2021; Zhao et al, 2020)。例えば、HGFRシグナル伝達経路が多発性骨髄腫患者における多剤耐性の主要な駆動因子であることを示す強力な前臨床および臨床証拠がある(Moschetta et al, 2013)。HGFR活性化の主な機序がリガンド非依存性のHGFR過剰発現であるため、HGFR阻害剤の多くは、HGFリガンドではなく、そのRTK活性を直接標的としている(Koch et al., 2020;Liang et al., 2020)。現在、2種の非選択的HGFR TKIが承認されている:ALKおよびROS1陽性NSCLCに対するクリゾチニブ(2011年に初承認)、甲状腺癌および腎臓癌に対するカボザンチニブ(2016年に初承認)(Kobayashi et al, 2016; Shaw et al, 2014)。HGFR阻害の妥当性については、クリゾチニブに関するいくつかの臨床治験が進行中であり、精力的に評価が行われている。あるクリゾチニブの治験結果は、HGFRエクソン14スキップ変異を有するNSCLCの治療にある程度の見込みがあることが示唆された(Paik et al, 2015)。第I相MErCuRIC1治験は、増幅HGFRおよび野生型または変異RASを有するCRC患者コホートにおいて、クリゾチニブとMEK阻害剤の併用を評価している(NCT02510001)(Van Schaeybroeck et al, 2015)。以前の報告では、クリゾチニブがHGF/STAT3/SOX13/HGFRのフィードバックループを阻害し、SOX13が介在するCRCの遊走、浸潤および転移を抑制し得ることが示された(Du et al, 2020)。
【0132】
本発明者らのグループは、EpEXの機能を阻害するために用いられ得るEpEX中和抗体EpAb2-6を作製した。EpAb2-6処置は、EpCAM切断を促進し、次いでEpEXおよびEpICD産生を増加させる正のフィードバックループを含むEpEX/EGFR/ADAM17を軸とするシグナル伝達を破壊することが知られている(Liang et al., 2018;Liao et al., 2015)。注目すべきは、EpAb2-6処理後にリン酸化HGFRレベルの低下が観察されたことである。さらに、EpAb2-6はHCT116細胞の浸潤能および遊走能を減弱させたが、HGF処理後は部分的に回復した。これまでの報告では、EpAb2-6がアポトーシスを誘導し得ることが示されており、本発明者らは、クリゾチニブ処理後、HCT116細胞がヒト化-EpAb2-6およびEpAb2-6誘導アポトーシスに感作されることを確認した。同所結腸癌動物モデルの結果からも、EpAb2-6およびクリゾチニブの併用投与により腫瘍増殖が有意に抑制されることが示された。
【0133】
NSCLCに対する潜在的な治療法の中で、クリゾチニブおよび他のHGFR標的療法は、最も有益な治療法のひとつである。この事実は、HGFR活性化を阻害するために使用できるメカニズムを深く理解することの重要性を強調している。本発明者らは、EpCAMまたはEpEXがHGFR-ERK-ACTシグナル軸を誘導することを見出した。これらの知見によれば、EpCAMはクリゾチニブとの併用療法の優れた標的となり得る。実際、本発明者らの試験では、EpAb2-6はリン酸化HGFRのレベルを低下させ、動物モデルにおけるクリゾチニブの治療効果を改善した。従って、本発明者らの発見は、HGFRシグナル伝達の制御におけるEpCAMの新規作用を明らかにし、EpCAM/HGFR標的併用療法の新たな戦略を示唆するものである。
【0134】
本発明において、本発明者らは、EpCAM/EpEXが結腸癌細胞において、HGFR活性化、GSK3β-スネイルおよびβ-カテニンシグナル伝達を誘導することにより、ERKおよびFAK-ACTを介して腫瘍の進行および転移を誘導することを見出した。本発明者らはさらに、EpCAMシグナル伝達の阻害または枯渇が、HGFR活性化とその下流シグナル伝達の減少につながることを示した。抗EpCAM mAb EpAb2-6による処置は、結腸癌の進行および転移を抑制し、重要なことに、同所性腫瘍および転移モデルマウスの生存率を改善した。したがって、本発明者らのデータは、EpCAMを標的とする治療用抗体とHGFR阻害剤の併用が、結腸癌治療に大きな可能性を有することを示唆している。これらの知見から得られた知見は、転移を抑制し、患者の予後を改善する、新規の抗癌剤の開発に役立つ有用であり得る。
【0135】
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【国際調査報告】