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特表2024-524265顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)の治療方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20240628BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K31/519 ZNA
A61P43/00 111
A61P21/04
A61K31/216
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579283
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 US2022034872
(87)【国際公開番号】W WO2022272043
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】63/214,587
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ハーパー、スコット クエントン
(72)【発明者】
【氏名】アイダル、ジョスリン
(72)【発明者】
【氏名】ウォレス、リンジー
(72)【発明者】
【氏名】ノックス、レナッタ
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086GA13
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZC20
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB20
4C206DB46
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA17
4C206NA14
4C206ZA94
4C206ZC20
(57)【要約】
顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)又は肉腫を含むが、これらに限定されない、筋ジストロフィー又はがんを治療、改善、進行を遅延、及び/又は予防するための方法及び使用が本明細書に開示される。より具体的には、二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質におけるアミノ酸、例えば、アルギニンのメチル化を阻害するために、小分子タンパク質アルギニンメチル化(PRMT)阻害剤を使用する方法、及びこれらの阻害剤の使用が本明細書に開示される。更により具体的には、本開示は、DUX4活性化筋細胞死の減少を含むDUX4活性化細胞死の減少及び/又はDUX4標的遺伝子活性化の減少をもたらす、DUX4タンパク質のメチル化を阻害するための、かかるメチル化阻害剤又はアルギニンメチル化阻害剤を使用する方法を提供する。本開示は、いくつかの態様において、細胞内でインビトロで、エクスビボで、あるいはDUX4過剰発現に関連する筋ジストロフィー若しくはがんのリスクがある又はそれに罹患している対象の細胞内においてインビボで、DUX4タンパク質のアルギニン残基のメチル化を阻害するために、サルビアノール酸A(SAA)若しくはその誘導体、又はアデノシンジアルデヒド(ADOX)若しくはその誘導体を含むが、これらに限定されない、タンパク質メチル化阻害剤を使用する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質のアルギニンメチル化を阻害する方法であって、前記細胞を、有効量のタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)の少なくとも1つの阻害剤と接触させることを含み、前記PRMTの阻害剤が、化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体であり、
【化1】

式中、Rが、H又はC~Cアルキルであり、Xが、CH又はNである、方法。
【請求項2】
細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)関連アポトーシス細胞死を減少させる、及び/又はDUX4標的遺伝子活性化を減少させる方法であって、前記細胞を、有効量の化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体と接触させることを含み、
【化2】

式中、Rが、H又はC~Cアルキルであり、Xが、CH又はNである、方法。
【請求項3】
タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)障害の治療を必要としている患者におけるタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ障害を治療する方法であって、前記患者に、治療的に有効な量の化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物若しくは立体異性体を投与することを含み、
【化3】

式中、Rが、H又はC~Cアルキルであり、Xが、CH又はNである、方法。
【請求項4】
前記細胞が、筋ジストロフィーのリスクがある、又は筋ジストロフィーに罹患している対象内にある、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記PRMT障害が、筋ジストロフィーである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記筋ジストロフィーが、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
化合物Iが、化合物Ia、
【化4】

又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
化合物Iaが、以下の式の水和物であり、
【化5】

xが、0.5~10である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
化合物IIが、化合物IIa、
【化6】

又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体の使用であって、
【化7】

式中、Rが、H又はC~Cアルキルであり、Xが、CH又はNである、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質のタンパク質アルギニンメチル化を阻害するための医薬品の調製のための、使用。
【請求項11】
化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体の使用であって、
【化8】

式中、Rが、H又はC~Cアルキルであり、Xが、CH又はNである、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)関連アポトーシス細胞死を減少させる、及び/又はDUX4標的遺伝子活性化を減少させるための医薬品の調製のための、使用。
【請求項12】
化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体の使用であって、
【化9】

式中、Rが、H又はC~Cアルキルであり、Xが、CH又はNである、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)障害の治療を必要としている患者におけるタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ障害を治療するための医薬品の調製のための、使用。
【請求項13】
前記細胞が、筋ジストロフィーのリスクがある、又は筋ジストロフィーに罹患している対象内にある、請求項10又は11に記載の使用。
【請求項14】
前記PRMT障害が、筋ジストロフィーである、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記筋ジストロフィーが、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)である、請求項13又は14に記載の使用。
【請求項16】
化合物Iが、化合物Ia、
【化10】

又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である、請求項10~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
化合物Iaが、以下の式の水和物であり、
【化11】

xが、0.5~10である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
化合物IIが、化合物IIa、
【化12】

又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である、請求項10~15のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照による組み込み
本出願は、開示の別個の部分として、コンピュータに読み込み可能な形態の配列表(ファイル名:56936_Seqlisting.txt、サイズ:6,005バイト、作成日:2022年6月22日)を含み、その全体が本明細書に参照によって組み込まれる。
【0002】
本開示は、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)又は肉腫を含むが、これらに限定されない筋ジストロフィー又はがんの治療の分野に関する。より具体的には、本開示は、FSHD又は肉腫を含むが、これらに限定されない筋ジストロフィー又はがんを治療、改善、進行を遅延、及び/又は予防するための方法を提供する。具体的には、本開示は、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)の小分子阻害剤を投与することによって、二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質のアルギニン残基のメチル化を阻害するための方法を提供する。より具体的には、本開示は、DUX4誘導性細胞死及び/又はDUX4誘導性遺伝子活性化を減少させるためのPRMT阻害剤、並びに当該PRMT阻害剤を使用して、DUX4過剰発現に関連する筋ジストロフィー若しくはがんに罹患している又は罹患のリスクがある対象を治療する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
筋ジストロフィー(MD)は、遺伝性疾患のグループである。このグループは、動作を制御する骨格筋の進行性の衰弱及び変性を特徴とする。MDのいくつかの形態は乳児期又は小児期に発症するが、他は中年以降まで出現し得ない。障害は、筋力低下の分布及び程度(MDのいくつかの形態は心筋にも影響を及ぼす)、発病年齢、進行速度、並びに遺伝形式の点で異なる。
【0004】
顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)は、筋ジストロフィーの最も一般的な形態の1つであり、世界中で推定87万人に影響を与えている。これは、消耗性の痛み、疲労、及び進行性の非対称的な筋力低下を経験している多くの患者を伴う罹患の重要な原因である。現在、疾患を修飾する治療法はなく、療法の開発は依然として満たされていない重大な要求である。FSHDは、転写因子DUX4の脱抑制によって引き起こされ、これは、通常、初期の胚発生中及び精巣で発現されるものであり、ほとんどの体細胞組織ではエピジェネティックにサイレント化にされている2、3。DUX4の異常な発現は、インビトロ及びインビボで筋肉に有毒である。DUX4は、酸化ストレス、免疫活性化、及びアポトーシスを含む、筋線維毒性に寄与し得る多数の経路を活性化する。DUX4の機能を毒性に関連付けることにおいて重要な進歩がなされてきたが、FSHDの病理に対するDUX4調節の寄与は不明である。FSHD分野における進歩にもかかわらず、FSHDのために承認された治療法はまだなく、治療開発はこの分野で依然として重大な要求であり続けている。FSHDを含むが、これに限定されない筋ジストロフィーを治療するための方法に対する当該技術分野での要求が依然として存在する。
【0005】
翻訳後修飾(PTM)は、タンパク質の調節及び機能において重要な役割を果たす。アルギニンメチル化は、転写、プレmRNAスプライシング、並びに筋形成及び骨格筋再生に関与するタンパク質の調節に関与しているPTMである6,。タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)の小分子阻害剤は、がんにおいて探索されている6,8が、アルギニンメチル化阻害剤がFSHD疾患モデルにおいて保護的であり得るかどうかは不明である。本開示は、翻訳後修飾のレベルでのDUX4調節のための方法、及びFSHD疾患におけるアルギニンメチル化阻害の治療的適用のための方法を提供する。本開示は、PRMTの阻害剤を使用して、筋細胞において並びにMD及びFSHDを有する対象において、DUX4誘導性細胞死及びDUX4誘導性遺伝子標的活性化を阻害する方法を提供する。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、筋ジストロフィー(MD)を治療、改善、進行を遅延、及び/又は予防するために、DUX4標的遺伝子発現(又は標的遺伝子トランス活性化)を阻害するための、及び減少したDUX4誘導性アポトーシス細胞死のための方法及び使用を提供する。いくつかの態様において、筋ジストロフィーは、顔面肩甲上腕ジストロフィー(FSHD)である。より具体的には、本開示は、細胞内又はDUX4過剰発現に関連する筋ジストロフィーに罹患している対象の細胞内における二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質のアルギニン残基のメチル化を阻害するために、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT又はRMT)の小分子阻害剤を提供する。本開示は、DUX4媒介性毒性を調節するための手段として、及びFSHDを含むが、これに限定されない筋ジストロフィーの治療のための手段として、かかるアルギニンメチル化阻害剤を提供する。
【0007】
本開示は、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質のアルギニンメチル化を阻害する方法であって、細胞を、有効量のタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)の少なくとも1つの阻害剤と接触させることを含み、PRMTの阻害剤は、化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体であり、
【0008】
【化1】
【0009】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNである、方法を提供する。
本開示は、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)関連アポトーシス細胞死を減少させる、及び/又はDUX4標的遺伝子活性化を減少させる方法であって、細胞を、有効量の化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体と接触させることを含み、
【0010】
【化2】
【0011】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNである、方法を提供する。
本開示は、アルギニンメチルトランスフェラーゼ(RMT)障害の治療を必要としている患者におけるアルギニンメチルトランスフェラーゼ障害を治療する方法であって、患者に、治療的に有効な量の化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物若しくは立体異性体を投与することを含み、
【0012】
【化3】
【0013】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNである、方法を提供する。
いくつかの態様において、細胞は、筋ジストロフィーのリスクがある、又は筋ジストロフィーに罹患している対象内にある。いくつかの態様において、対象は、ヒト対象である。
【0014】
いくつかの態様において、PRMT障害は、筋ジストロフィーである。いくつかの態様において、筋ジストロフィーは、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)である。
いくつかの態様において、化合物Iは、化合物Ia、
【0015】
【化4】
【0016】
又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である。
いくつかの態様において、化合物Iaは、以下の式の水和物であり、
【0017】
【化5】
【0018】
xは、0.5~10である。
いくつかの態様において、化合物IIは、化合物IIa、
【0019】
【化6】
【0020】
又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である。
本開示は、化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物若しくは立体異性体の使用であって、
【0021】
【化7】
【0022】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNである、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質のアルギニンメチル化を阻害するための医薬品の調製のための、使用を提供する。
【0023】
本開示は、化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物若しくは立体異性体の使用であって、
【0024】
【化8】
【0025】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNであり、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)関連アポトーシス細胞死を減少させる、及び/又はDUX4標的遺伝子活性化を減少させるための医薬品の調製のための、使用を提供する。
【0026】
本開示は、化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物若しくは立体異性体の使用であって、
【0027】
【化9】
【0028】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNである、アルギニンメチルトランスフェラーゼ(RMT)障害の治療を必要としている患者におけるアルギニンメチルトランスフェラーゼ障害を治療するための医薬品の調製のための医薬品の調製のための、使用を提供する。
【0029】
いくつかの態様において、細胞は、筋ジストロフィーのリスクがある、又は筋ジストロフィーに罹患している対象内にある。いくつかの態様において、対象は、ヒト対象である。
【0030】
いくつかの態様において、PRMT障害は、筋ジストロフィーである。いくつかの態様において、筋ジストロフィーは、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)である。
いくつかの態様において、DUX4標的遺伝子活性化の減少は、PRAMEファミリーメンバー12(PRAMEF12)、ジンクフィンガー及びSCANドメイン含有タンパク質4(ZSCAN4)、トライパータイトモチーフ含有43(TRIM43)、並びにロイシントゥエンティホメオボックス(LEUTX)を含むが、これらに限定されない、DUX4標的遺伝子の発現の減少によって示される。
【0031】
いくつかの態様において、化合物Iは、化合物Ia、
【0032】
【化10】
【0033】
又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である。
いくつかの態様において、化合物Iaは、以下の式の水和物であり、
【0034】
【化11】
【0035】
xは、0.5~10である。
いくつかの態様において、化合物IIは、化合物IIa、
【0036】
【化12】
【0037】
又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である。
本開示は、PRMTの小分子阻害剤が、化合物A又はその塩、水和物、若しくは立体異性体及び/又は化合物B又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である、本明細書に記載される方法及び用途を提供する。
【0038】
本開示はまた、PRMTの小分子阻害剤、又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物、又はPRMTの小分子阻害剤を含む医薬品が、筋肉内注射、経皮輸送又は血流への注射のために製剤化される、方法及び使用を提供する。
【0039】
本開示の更なる態様及び利点は、図面と併せて得られる、以下の詳細な説明のレビューから、当業者には明らかであろう。しかしながら、詳細な説明(図面及び特定の実施例を含む)は、開示される主題の実施形態を示すが、例示としてのみ与えられ、それは本開示の趣旨及び範囲内の様々な変更及び修正が、この詳細な説明から当業者に明らかになるためである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1A】DUX4アルギニンメチル化部位(図1A)及び変異誘発戦略(図1B)を示す。図1Aは、質量分析によって特定されたDUX4アルギニンメチル化PTM部位の概略図を提供する。図1Bは、変異誘発の概要を提供する。
図1B】同上。
図2】DUX4 PTM R71A変異体が、細胞死から保護することを示す。HEK293細胞を野生型又はDUX4 R71A変異体でトランスフェクトし、48時間後にカスパーゼアッセイを実施して、細胞死を評価した。
図3A】R71A PTM変異体におけるDUX4標的遺伝子発現の減少を示す。図3Aは、HEK293細胞を示し、図3Bは、野生型DUX4、空のベクター(pClneo)又はDUX4 R71Aでトランスフェクトされた筋芽細胞を示す。DUX4標的遺伝子PRAMF12、ZSCAN4、TRIM43及びLEUTXについて、24時間後に定量的RT-PCRを実施し、R71A PTM変異体でDUX4標的遺伝子発現のレベルが減少したことを示した。
図3B】同上。
図4A】DUX4 R71A変異体でトランス活性化が減少したことを示す。図4Aは、DNAを有するDUX4の結晶構造におけるR71の局在を示す。図4Bは、HEK293細胞をDUX4活性化蛍光レポーター(DRE)と野生型DUX4、DUX4 R71A又は空のベクターとで共トランスフェクトした24時間後に視覚化されたGFP発現を示す。DUX4 R71A変異体は、対照と比較して、トランス活性化の減少を示した。
図4B】同上。
図5A】PRMT1が、DUX4複合体メンバーであることを示す。図5Aは、RIMEアッセイの概略図を提供する。図5Bは、HEK293細胞におけるDUX4及びPRMT1の免疫共沈降を示す。
図5B】同上。
図6A】アルギニンメチル化阻害剤が筋芽細胞における細胞死から保護することを示す。筋芽細胞を、増加する濃度のSAA(図6A)又はAdOX(図6B)の存在下又は不在下で、DNAなし又はDUX4でトランスフェクトし、48時間後にカスパーゼアッセイを実施した。
図6B】同上。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本開示は、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)又は肉腫を含むが、これらに限定されない、筋ジストロフィー又はがんを治療、改善、進行を遅延、及び/又は予防するための方法及び使用を提供する。より具体的には、二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質におけるアルギニンのメチル化を阻害するためのタンパク質アルギニンメチル化阻害剤の方法及び使用が本明細書に開示される。更により具体的には、本開示は、DUX4活性化筋細胞死の減少を含むDUX4活性化細胞死の減少をもたらす、DUX4タンパク質のメチル化を阻害するための、タンパク質アルギニンメチル化阻害剤を使用する方法を提供する。
【0042】
したがって、本開示は、細胞内において、及び、いくつかの例では、筋ジストロフィーのリスクがある又はそれに罹患している対象の細胞内において、DUX4タンパク質内のアルギニン残基のメチル化を阻害するために、サルビアノール酸A(SAA)若しくはその誘導体、又はアデノシンジアルデヒド(ADOX)若しくはその誘導体を含むが、これらに限定されない、タンパク質アルギニンメチル化阻害剤を使用する方法を提供する。いくつかの態様において、かかる筋ジストロフィーは、DUX4タンパク質の過剰発現と関連する。いくつかの態様において、かかる筋ジストロフィーは、FSHDである。
【0043】
本開示は、DUX4タンパク質におけるアルギニンアミノ酸のメチル化を抑制又は阻害するための方法を提供するが、その理由は、筋細胞におけるDUX4メチル化のかかる阻害が、DUX4誘導性細胞死の減少と関連するからである。したがって、いくつかの態様において、本明細書に記載される生成物及び方法は、FSHDを含むが、これに限定されない、DUX4タンパク質のレベルの上昇に関連する筋ジストロフィーを治療、改善、進行を遅延、及び/又は予防するのに使用される。
【0044】
DUX4遺伝子は、約45kDAのタンパク質をコードする(UniProtKB-Q9UBX2(DUX4_HUMAN)を参照)。DUX4遺伝子の脱抑制は、FSHDの疾患発症に関与する。脱抑圧は、2つの既知の機構:D4Z4反復収縮、又はクロマチン変更遺伝子であるSMCHD1若しくはDNMT3Bにおける変異、を通して発生し得る。前者では、非罹患対象では、D4Z4配列は11~100反復で構成されるが、FSHD1患者では、配列は1~10反復に減少する(PubMed:19320656)。いずれの状態も、染色体4q35でDNA低メチル化を引き起こし得、それによって、DUX4発現を許す染色体環境を生じる。
【0045】
DUX4は、体細胞組織においてエピジェネティックに抑制されるD4Z4マクロサテライト反復に位置する。FSHD1におけるD4Z4クロマチン弛緩は、DUX4の非効率的なエピジェネティック抑制及び骨格筋核のサブセットにおけるDUX4タンパク質発現の多様化パターンをもたらす。骨格筋におけるDUX4の異所性発現は、幹細胞及び生殖細胞遺伝子の発現を活性化し、体細胞で過剰発現すると、DUX4は最終的に細胞死をもたらし得る。
【0046】
各D4Z4反復単位は、2つのホメオボックスをコードするオープンリーディングフレーム(DUX4と名付けられた)を有し、反復配列及びORFは他の哺乳動物で保存されている。コードされたタンパク質は、ZSCAN4、PRAMEF12、TRIM43、及びMBD3L2を含むFSHD疾患バイオマーカーであると考えられるいくつかを含む、多くの遺伝子の転写活性化因子として機能することが報告されている(PMID:24861551)。マクロサテライト反復の収縮は、常染色体優性FSHDを引き起こす。代替的スプライシングは、複数の転写バリアントをもたらす。
【0047】
本開示のいくつかの実施形態において、DUX4核酸及びタンパク質が提供される。いくつかの態様において、ヒトDUX4をコードする核酸は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列で示される。いくつかの態様において、ヒトDUX4のアミノ酸配列は、配列番号2に示されるアミノ酸配列で示される。様々な態様において、本開示の方法はまた、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むDUX4ポリペプチドのアイソフォーム及びバリアントも標的とする。いくつかの態様において、本開示の方法は、配列番号2に示されるアミノ酸配列で示されるヒトDUX4のアイソフォーム及びバリアントを標的とする。いくつかの態様において、バリアントは、配列番号2に示されるアミノ酸配列と99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、及び70%の同一性を含む。
【0048】
【表1】
【0049】
現在、FSHDのための治療はなく、筋ジストロフィーの中でのその相対的多数にもかかわらず、FSHD標的化翻訳の試験はほとんど公表されてきていない。いくつかのFSHD候補遺伝子が特定されているが、最近の多くの試験は、FSHD発症の主な寄与因子が、転写因子をコードするアポトーシス促進性DUX4遺伝子であることを裏付けている。したがって、ごく簡単にいうと、DUX4過剰発現が、FSHDの根底にある主要な病原性損傷である(Chen et al.,(2016)Mol Ther 24,1405-1411、Ansseau et al.(2017)Genes(Basel)8、Lek et al.(2020)Sci Transl Med 12、Himeda et al.(2016)Mol Ther 24,527-535、DeSimone et al.(2019)Sci Adv 5,12、Lim et al.(2020)Proc Natl Acad Sci USA 117,16509-16515、Wallace et al.(2018)、上記、Rojas et al.(2020)J Pharmacol Exp Ther.Sep;374(3):489-498)。
【0050】
いくつかの実施形態において、本開示は、DUX4誘導性細胞死の阻害若しくは下方調節に使用するための、及び/又はFSHDなどのDUX4誘導性細胞死に関連する筋ジストロフィーを治療するための、アルギニンメチル化の小分子阻害剤を提供する。アルギニンメチル化は、細胞の状況に応じて、遺伝子発現を活性化又は抑制できるタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)のファミリーによって酵素的に触媒される。PRMTと病態生理学との強い相関を考慮すると、疾患におけるPRMTの分子機構の理解及び強力なPRMT阻害剤の開発に大きな関心が見られる。
【0051】
本開示は、FSHDを含むが、これに限定されない筋ジストロフィーに関連するDUX4媒介性細胞死及びDUX4媒介性遺伝子活性化を減少させるために、DUX4のアルギニンメチル化を阻害するための、アルギニンメチル化の小分子阻害剤(PRMT阻害剤又はRMT阻害剤)を提供する。本明細書で使用されるとき、「タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)阻害剤」又は「PRMTの阻害剤」という用語及び「アルギニンメチルトランスフェラーゼ(RMT)阻害剤」又は「RMTの阻害剤」という用語は、互換的に使用される。いくつかの態様において、かかる小分子PRMT阻害剤は、サルビアノール酸若しくはその誘導体、又はアデノシンジアルデヒド(ADOX)若しくはその誘導体である。
【0052】
いくつかの態様において、アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)の小分子阻害剤は、化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体であり、
【0053】
【化13】
【0054】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNである。
好適なC~Cアルキル基には、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、ヘキシル、イソプロピル、イソブチル、イソペンチル、イソヘキシル、sec-ブチル、sec-ペンチル、3-ペンチル、sec-イソペンチル、sec-ヘキシル、ネオ-ペンチル、tert-ブチル、tert-ペンチル、及びtert-ヘキシルを含むが、これらに限定されない、直鎖状及び分岐状のC~Cアルキル基が含まれる。
【0055】
いくつかの態様において、化合物Iは、化合物Ia、
【0056】
【化14】
【0057】
又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である。
いくつかの態様において、化合物Iaは、以下の式の水和物であり、
【0058】
【化15】
【0059】
xは、0.5~10である。
いくつかの態様において、化合物I又はIaは、サルビアノール酸又はその誘導体である。
【0060】
いくつかの態様において、化合物IIは、化合物IIa、
【0061】
【化16】
【0062】
又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である。
いくつかの態様において、化合物II又はIIaは、アデノシンジアルデヒド(ADOX)又はその誘導体である。
【0063】
Salvia miltiorrhiza(SM)は、心血管疾患及び肝臓疾患の治療のために伝統的な中国医学で長い間使用されてきた。この植物からの抽出物は、インビトロ及びインビボの両方で強力な肝臓保護活性を付与する。Hase et al.,Planta Med.63:22-6(1997)。マグネシウムリソスペルメートBは、肝臓を保護するSMの主要な活性成分のうちの1つであり得る(Liu et al.,Chung Kuo Chung Hsi I Chih Ho Tsa Chih 13:352-3,326(1993))。SMはまた、ウイルス性心筋炎を治療する際に膜損傷修復を明らかに助ける抗酸化物質を含有する(Meng et al.,Chung Kuo Chung Hsi I Chieh Ho Tsa Chih 12:345-7,324-5(1992))。慢性B型肝炎に罹患している患者は、SM及び/又はPolyporus Umbellatus polysaccharidc(PUP)による治療に応答している(Xiong,Chung Kuo Chung Hsi I Chieh Ho Tsa Chih 13:33-5,516-7(1993))。SMからのハーブ抽出物はまた、抗HIV活性(米国特許第5,178,865号)及び抗肝炎活性(国際PCT出願第98/24460号、中国特許出願第1,192,922号及び中国特許出願第1,192,918号)を示した。ヘルペス、ポリオ、麻疹、水痘帯状疱疹、サイトメガロウイルス、DNAウイルス及びRNAウイルスに対して活性な抗ウイルス剤が記載されており、これらは、Salvia miltiorrhiza Bungeの根からの少なくとも1つの生薬を含有する(欧州特許第568,001号)。サルビア抽出物はまた、抗ヘルペスウイルス剤(米国特許第5,411,733号)として調製されてきた。
【0064】
いくつかの形態のサルビアノール酸(例えば、サルビアノール酸A及びアセチルサルビアノール酸)は、抗酸化特性を有すると記載されている(Lin et al.,J Biochem.Pharmacol.51:1237-1241(1996)。サルビアノール酸はまた、その抗脂質過酸化作用に関連する肝臓損傷及び線維症の予防のために(Hu et al.,Acta Pharmacol.Sin.18:478-480(1997))及び冠状動脈疾患の治療における使用(日本国特許第2,131,423号)のためにも示されている。文献に記載されているサルビアノール酸の追加の形態には、Salvia cavalerieiの水性抽出物から単離されたもの(例えば、サルビアノール酸A、B、C H及びI)(Zhang et al.,Planta Med.60:70-72(1994))又はS.miltiorrhizaから単離されたもの(例えば、サルビアノール酸K、カフェイン酸三量体)(Kasimu et al.,Chem.Pharm.Bull.46:500-504(1998)及びTezuka et al.,Chem Pharm.Bull.46:107-112(1998))が含まれる。サルビアノール酸F2及びF3は、Dalla et al.,Tetrahedron 55:6923-6930(1999)及びDalla et al.,Tetrahedron Lett.39:8285-8286(1998)で記載されているように合成的に調製できる。Salviaファミリーの追加のメンバーは、S.bowleyana、S.deserta、S.miltiorhiza var.miltiorhiza f.alba、S.paramiltiorhiza、S.paramiltiorhiza f.purpureo-rubra、S.przewalskii、S.prsewalskii var.mandarinorum、S.sinica f.purpurea、及びS.trijuga)(Kasiumu et al.,1998)を含む、タンジンを得るための供給源として使用され得る。サルビアノール酸などの化合物の二次代謝物レベルが上昇した植物を生産する方法も記載された。米国特許第5,869,340号(1999)を参照されたい。様々な態様において、サルビアノール酸A及びその誘導体は、PRMTの阻害剤として本開示の方法で使用される。
【0065】
アデノシンジアルデヒド(ADOX又はAdOx)は、タンパク質メチル化分析のために低メチル化状態でメチル受容タンパク質を蓄積するために広く使用される間接メチルトランスフェラーゼ阻害剤である。ADOXは、アデノシン類似体及びS-アデノシルメチオニン依存性メチルトランスフェラーゼ阻害剤である。ADOXは、S-アデノシル-L-ホモシステインヒドロラーゼを阻害し、メチル基ドナーとしてS-アデノシル-L-メチオニン(AdoMet)を利用するメチルトランスフェラーゼの生成物阻害剤である、S-アデノシル-L-ホモシステイン(Adoicy)の蓄積をもたらす。ADOXは、Tax活性化NF-κB経路を阻害し、p53の再活性化及びp53標的遺伝子の誘導をもたらした。NF-κB経路の分析は、ADOX処理が、NF-κB阻害剤IκBαの安定化を通して、IκBキナーゼ複合体の分解及びNF-κBの阻害をもたらしたことを示した。ADOXは、対照リンパ球ではなく、HTLV-1形質転換リンパ球において、G2/M細胞周期停止及び細胞死を誘導した(Dasgupta,et al.J Virol.2008,82(1):49-59)。様々な態様において、ADOX及びその誘導体は、PRMTの阻害剤として本開示の方法で使用される。
【0066】
いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載されるPRMTの小分子阻害剤を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含む組成物を含む。様々な態様において、かかる組成物は、希釈剤、賦形剤、及び/又はアジュバントなどの他の成分を含む、又は更に含む。許容される担体、希釈剤、賦形剤、及びアジュバントは、レシピエントに非毒性であり、好ましくは、用いられる投与量及び濃度で不活性であり、リン酸、クエン酸、若しくは他の有機酸などの緩衝剤、アスコルビン酸などの抗酸化剤、低分子量ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギニン、アルギニン、若しくはリシンなどのアミノ酸、グルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物、EDTAなどのキレート剤、マンニトール若しくはソルビトールなどの糖アルコール、ナトリウムなどの塩形成対イオン、並びに/又はツイーン(登録商標)、プルロニック(登録商標)、若しくはポリエチルグリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0067】
本開示はまた、本明細書に記載の任意のPRMTの小分子阻害剤を、単独で、又は別のPRMTの小分子阻害剤と組み合わせて、又はFSHDを含むがこれに限定されないMDを治療するための既知の別の療法と組み合わせて含む、本明細書に記載の組成物を含む。
【0068】
滅菌注射可能溶液は、必要に応じて上に列挙された他の様々な成分とともに、PRMTの小分子阻害剤を必要量で適切な溶媒に組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散剤は滅菌した活性成分を、基礎的な分散媒及び上に列挙されるものからの必要とされる他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射可能溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製の好ましい方法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、それは、活性成分プラス予め滅菌濾過したそれらの溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末をもたらす。
【0069】
本開示は、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質のアルギニンメチル化を阻害する方法であって、細胞を、有効量のタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)の少なくとも1つの阻害剤と接触させることを含み、PRMTの阻害剤は、化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体であり、
【0070】
【化17】
【0071】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNである、方法を提供する。
本開示は、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)関連アポトーシス細胞死を減少させる、及び/又はDUX4標的遺伝子活性化を減少させる方法であって、細胞を、有効量の化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体と接触させることを含み、
【0072】
【化18】
【0073】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNである、方法を提供する。
本開示は、アルギニンメチルトランスフェラーゼ(RMT)障害の治療を必要としている患者におけるアルギニンメチルトランスフェラーゼ障害を治療する方法であって、患者に、治療的に有効な量の化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物若しくは立体異性体を投与することを含み、
【0074】
【化19】
【0075】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルであり、Xは、CH又はNである、方法を提供する。
いくつかの態様において、細胞は、筋ジストロフィーのリスクがある、又は筋ジストロフィーに罹患している対象内にある。いくつかの態様において、対象は、ヒト対象である。
【0076】
いくつかの態様において、PRMT障害は、筋ジストロフィーである。いくつかの態様において、筋ジストロフィーは、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)である。
いくつかの態様において、化合物Iは、化合物Ia、
【0077】
【化20】
【0078】
又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である。
いくつかの態様において、化合物Iaは、以下の式の水和物であり、
【0079】
【化21】
【0080】
xは、0.5~10である。
いくつかの態様において、化合物IIは、化合物IIa、
【0081】
【化22】
【0082】
又はその塩、水和物、若しくは立体異性体である。
いくつかの実施形態において、本開示は、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)タンパク質のタンパク質アルギニンメチル化を阻害する方法、細胞における二重ホメオボックス4(DUX4)関連アポトーシス細胞死を減少させる及び/又はDUX4標的遺伝子活性化を減少させる方法、アルギニンメチルトランスフェラーゼ障害を治療する方法、又はサルビア属植物(例えば、Salvia miltiorrhiza)の抽出物から得られる化合物を使用することを含む、筋ジストロフィー若しくはがんを治療する方法を提供する。
【0083】
いくつかの実施形態において、化合物は、化合物A又はその塩、水和物、若しくは立体異性体、及び/又は化合物B又はその塩、水和物、若しくは立体異性体を含み、
【0084】
【化23】
【0085】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルである。
いくつかの実施形態において、化合物は、サルビアノール酸又はその誘導体である。例えば、いくつかの実施形態において、化合物は、化合物I又はその塩、水和物、若しくは立体異性体であり、
【0086】
【化24】
【0087】
式中、Rは、H又はC~Cアルキルである。いくつかの実施形態において、Rは、Hである。
本明細書に記載される化合物は、遊離形態で、又は必要に応じて塩として存在し得る。薬学的に許容されるそれらの塩は、医学的目的のために以下に記載される化合物を投与するのに有用であるため、特に関心のあるものである。薬学的に許容されない塩は、製造プロセスにおいて、単離及び精製の目的のために、及びいくつかの例では、本明細書に記載の化合物又はそれらの中間体の立体異性体形態の分離における使用のために有用である。
【0088】
本明細書で使用されるとき、「薬学的に許容される塩」という用語は、妥当な医学的判断の範囲内で、毒性、刺激、アレルギー応答などの過度の副作用なしに、ヒト及び下等動物の組織と接触して使用するのに好適であり、合理的なベネフィット/リスク比に見合う化合物の塩を指す。
【0089】
薬学的に許容される塩は、当該技術分野において周知である。例えば、S.M.Bergeらは、参照により本明細書に組み込まれるJ.Pharmaceutical Sciences,1977,66,1-19において、薬学的に許容される塩を詳細に説明している。本明細書に記載される化合物の薬学的に許容される塩には、好適な無機及び有機の酸及び塩基に由来するものが含まれる。これらの塩は、化合物の最終的な単離及び精製中に、その場で調製することができる。
【0090】
本明細書に記載される化合物が塩基性基、又は十分に塩基性の生物学的等価体を含む場合、酸付加塩は、1)遊離塩基形態の精製化合物を好適な有機又は無機の酸と反応させること、及び2)そのようにして形成された塩を単離することによって調製できる。実施において、酸付加塩は、使用に便利な形態であってもよく、塩の使用は、遊離塩基性形態の使用に相当する。
【0091】
薬学的に許容される非毒性の酸付加塩の例は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、及び過塩素酸などの無機酸で、又は酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、若しくはマロン酸などの有機酸で、又はイオン交換などの当該技術分野で使用される他の方法を使用することによって、形成されるアミノ基の塩である。他の薬学的に許容される塩としては、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコール酸塩、グルコン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩などが挙げられる。
【0092】
本明細書に記載される化合物がカルボキシ基、又は十分に酸性の生物学的等価体を含む場合、塩基付加塩は、1)酸形態の精製化合物を好適な有機又は無機の塩基と反応させること、及び2)そのようにして形成された塩を単離することによって調製できる。実施において、塩基付加塩の使用は、より便利であり得、塩形態の使用は、遊離酸形態の使用に相当する。適切な塩基に由来する塩には、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、リチウム、及びカリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム及びカルシウム)、アンモニウム及びN(Cアルキル)塩が含まれる。本開示はまた、本明細書に開示される化合物の任意の塩基性窒素含有基の四級化を想定している。水又は油に可溶性の又は分散性の生成物は、そのような四級化によって得ることができる。
【0093】
塩基性付加塩には、薬学的に許容される金属塩及びアミン塩が含まれる。好適な金属塩には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、マグネシウム、及びアルミニウムが含まれる。ナトリウム塩及びカリウム塩が通常好ましい。更に薬学的に許容される塩には、適切な場合、非毒性アンモニウム、四級アンモニウム、並びにハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩及びアリールスルホン酸塩などの対イオンを使用して形成されるアミンカチオンが含まれる。好適な無機塩基付加塩は、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などを含む金属塩基から調製される。好適なアミン塩基付加塩は、低い毒性及び医学的使用に対する許容性の理由から医薬化学において頻繁に使用されるアミンから調製される。アンモニア、エチレンジアミン、N-メチル-グルカミン、リシン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、ジベンジルアミン、エフェナミン、デヒドロアビエチルアミン、N-エチルピペリジン、ベンジルアミン、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、塩基性アミノ酸、ジシクロヘキシルアミンなど。
【0094】
他の酸及び塩基は、それら自体は薬学的に許容されないが、本明細書に記載される化合物及びそれらの薬学的に許容される酸又は塩基付加塩を得る際の中間体として有用な塩の調製に用いられてもよい。
【0095】
本開示は、異なる薬学的に許容される塩の混合物/組み合わせ、並びに遊離形態の化合物及び薬学的に許容される塩の混合物/組み合わせを含むことを理解されたい。
いくつかの実施形態において、化合物は、化合物Ia(すなわち、サルビアノール酸A(SAA))である。
【0096】
【化25】
【0097】
いくつかの実施形態において、化合物は、以下の式の化合物Iaの水和物であり、
【0098】
【化26】
【0099】
式中、xは、0.5~10である。
本明細書で使用されるとき、「水和物」という用語は、例えば、半水和物、一水和物、二水和物、三水和物等を含む、水と化合物との相互作用によって形成される化学物質を指す。
【0100】
いくつかの実施形態において、化合物は、化合物II又はその塩、水和物、若しくは立体異性体であり、
【0101】
【化27】
【0102】
式中、Xは、CH又はNである。いくつかの実施形態において、化合物IIが、化合物IIa又はその塩、水和物、若しくは立体異性体であるように、Xは、Nである。
【0103】
【化28】
【0104】
いくつかの実施形態において、本開示は、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT又はRMT)を阻害する方法であって、PRMTを、有効量の化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体と接触させることを含む、方法を提供する。
【0105】
いくつかの実施形態において、本開示は、DUX4誘導性アポトーシス若しくは細胞死、及び/又はDUX4誘導性トランス活性化若しくは遺伝子発現を減少させる方法であって、DUX4タンパク質を、有効量の化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体と接触させることを含む、方法を提供する。いくつかの態様において、DUX4タンパク質は、細胞内にある。いくつかの態様において、DUX4タンパク質は、対象の細胞内にある。いくつかの態様において、細胞は、ヒト対象内にある。いくつかの態様において、ヒト対象は、筋ジストロフィーに罹患している又は罹患のリスクがある。いくつかの態様において、筋ジストロフィーは、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)である。
【0106】
いくつかの実施形態において、本開示は、患者におけるタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT又はRMT)障害を治療する方法であって、患者に、治療的に有効な量の化合物I及び化合物IIのうちの少なくとも1つ、又はその塩、水和物、若しくは立体異性体を投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、PRMT障害は、FSHDを含むが、これに限定されない筋ジストロフィーである。
【0107】
いくつかの実施形態において、上記又は下記の他の実施形態と併せて、開示される方法は、化合物Ia又はその塩、水和物、若しくは立体異性体を使用することを含む。いくつかの実施形態において、開示される方法は、化合物Iaの水和物を使用することを含む。
【0108】
いくつかの実施形態において、上記又は下記の他の実施形態と併せて、開示される方法は、化合物II又はその塩、水和物、若しくは立体異性体を使用することを含む。いくつかの実施形態において、開示される方法は、化合物IIa又はその塩、水和物、若しくは立体異性体を使用することを含む。
【0109】
いくつかの態様において、DUX4誘導性アポトーシス若しくは細胞死及び/又はDUX4誘導性トラン活性化は、本明細書に提供される方法によって、細胞又は対象において、少なくとも又は約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約55、約60、約65、約70、約75、約80、約85、約90、約95、約96、約97、約98、約99、又は100パーセント減少する。
【0110】
本方法は、有効用量又は有効複数用量の本開示のPRMTの小分子阻害剤を含む組成物を、それを必要としている動物(ヒトなど)を含む対象に投与するステップを含む。用量が筋ジストロフィーの発症前に投与される場合、投与は予防的である。用量が筋ジストロフィーの発症後に投与される場合、投与は治療的である。本開示の実施形態において、有効用量は、治療される筋ジストロフィーに関連する少なくとも1つの症状を緩和(排除又は低減)し、筋ジストロフィーの進行を遅延若しくは予防し、筋ジストロフィーの進行を遅延若しくは予防し、疾患の程度を軽減し、筋ジストロフィーの寛解(部分若しくは完全)をもたらし、かつ/又は生存を延長する用量である。いくつかの態様において、筋ジストロフィーは、FSHDである。
【0111】
併用療法も本開示によって企図される。本明細書に使用される併用は、同時治療又は連続治療を含む。本開示の方法と、標準的な医学的治療(例えば、コルチコステロイド及び/又は免疫抑制剤)、又は他の阻害性RNA構築物との組み合わせは、その全体が本明細書に参照により組み込まれる、国際公開第2013/016352号に開示されるものなどの他の療法との組み合わせと同様に、具体的に企図される。
【0112】
有効用量のPRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物の投与は、筋肉内、非経口、血管内、静脈内、経口、頬側、鼻腔、経肺、頭蓋内、脳室内、髄腔内、骨内、眼内、直腸、又は膣を含むが、これらに限定されない、当該技術分野で標準的な経路によるものであり得る。投与の経路は、治療されている疾患状態、及びDUX4を発現する細胞などの標的細胞/組織を考慮して、当業者によって選択及び/又は適合され得る。いくつかの実施形態において、投与経路は、筋肉内である。いくつかの実施形態において、投与経路は、静脈内である。いくつかの態様において、有効用量は、全身投与経路、すなわち、全身投与によって送達される。全身投与は、体全体が影響を受けるような循環系への投与の経路である。かかる全身投与は、様々な態様において、経腸投与(胃腸管を通した薬物の吸収)又は非経口投与(一般に、注射、注入、又は移植を介して)を介して行われる。様々な態様において、有効用量は、経路の組み合わせによって送達される。例えば、様々な態様において、有効用量は、静脈内及び/若しくは筋肉内、又は静脈内及び脳室内などで送達される。いくつかの態様において、有効用量は、順番に、又は連続して送達される。いくつかの態様において、有効用量は、同時に送達される。様々な態様において、投与の経路は、治療されている疾患又は障害の状況又は状態、対象の状況、状態、又は年齢、並びにPRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物によって標的とされている標的細胞/組織を考慮して、当業者によって選択及び/又は適合される。
【0113】
いくつかの態様において、本開示のPRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物の実際の投与は、PRMTの小分子阻害剤を対象、すなわち、ヒト対象又は動物対象の標的組織に輸送するであろう任意の物理的方法を使用することによって達成され得る。本開示による投与には、筋肉、血流、中枢神経系への注射、及び/又は脳、肝臓若しくは他の器官への直接的な注射が含まれるが、これらに限定されない。リン酸緩衝化生理食塩水中にPRMTの小分子阻害剤を単に再懸濁させることが、筋肉組織発現に有用なビヒクルを提供するのに十分であることが示されており、PRMTの小分子阻害剤と同時投与できる担体又は他の成分について既知の制限はない。医薬組成物は、注射可能な製剤として、又は経皮輸送によって筋肉に送達される局所製剤として調製することができる。筋肉内注射及び経皮輸送の両方のための多数の製剤が既に開発されており、本開示を実施に使用することができる。PRMTの小分子阻害剤は、投与及び取り扱いを容易にするために、任意の薬学的に許容される担体とともに使用することができる。
【0114】
筋肉内注射を目的のために、セサミ油若しくはピーナッツ油などのアジュバント溶液、又は水性プロピレングリコール溶液、並びに滅菌水溶液を用いることができる。かかる水溶液は、必要に応じて緩衝化することができ、液体希釈剤は最初に生理食塩水又はグルコースで等張にすることができる。PRMTの小分子阻害剤又は薬理学的に許容される塩の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と好適に混合した水中で調製することができる。PRMTの小分子阻害剤の分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物中で、並びに油中で調製することができる。通常の保存状態及び使用下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防止する保存剤を含有する。これに関連して、用いられる滅菌水性媒体は全て、当業者に周知の標準的な技術によって容易に得ることができる。
【0115】
注射可能な使用に好適な薬学的形態には、滅菌水溶液又は分散液、及び滅菌注射可能な溶液又は分散液の即時調製用の滅菌粉末が含まれる。全ての場合において、形態は無菌でなければならず、容易に注射器での使用が可能性である程度に流動性でなければならない。製造及び保存の条件下で安定していなければならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒体であることができる。いくつかの態様において、適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合に必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持される。微生物の作用の防止は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖又は塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射可能な組成物の長時間の吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によってもたらすことができる。
【0116】
いくつかの態様において、製剤は、安定剤を含む。「安定剤」という用語は、加熱又は凍結中に生じるものなどの有害な条件から製剤を保護し、かつ/又は安定状態で製剤の安定性若しくは有効期間を延長させる物質又は賦形剤を指す。安定剤の例としては、スクロース、ラクトース、及びマンノースなどの糖、マンニトールなどの糖アルコール、グリシン又はグルタミン酸などのアミノ酸、並びにヒト血清アルブミン又はゼラチンなどのタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
いくつかの態様において、製剤は、抗微生物保存剤を含む。「抗微生物保存剤」という用語は、使用されるバイアル又は容器の反復穿刺時に導入され得る微生物の増殖を阻害する組成物に添加される任意の物質を指す。抗微生物保存剤の例としては、チメロサール、2-フェノキシエタノール、塩化ベンゼトニウム、及びフェノールなどの物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
滅菌注射可能溶液は、必要に応じて上に列挙された他の様々な成分とともに、PRMTの小分子阻害剤を必要量で適切な溶媒に組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散剤は滅菌した活性成分を、基礎的な分散媒及び上に列挙されるものからの必要とされる他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射可能溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製の好ましい方法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、それは、活性成分プラス予め滅菌濾過したそれらの溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末をもたらす。
【0119】
本開示は、DUX4誘導性アポトーシス若しくは細胞死及び/又はDUX4活性化遺伝子発現(又はDUX4標的遺伝子活性化若しくはトランス活性化)を減少させるように設計された、有効用量(又は本質的に同時に投与される用量若しくは間隔をおいて与えられる用量)のPRMTの小分子阻害剤を、細胞に又はそれを必要としている対象に投与する方法を提供する。いくつかの態様において、有効用量は、したがって、治療的に有効な用量である。治療的に有効な用量は、対象の年齢、性別、身長、体重、及び状況に応じて、臨床医又は臨床医のチームによって決定される。
【0120】
いくつかの態様において、初回用量の後に、第2のより多い用量が続く。いくつかの態様において、初回用量の後に、第2の同じ用量が続く。いくつかの態様において、初回用量の後に、1つ以上のより少ない用量が続く。いくつかの態様において、初回用量の後に、同じ用量又はより多い用量である複数の用量が続く。
【0121】
インビボ方法は、有効用量又は有効複数用量の本開示のPRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物を、それを必要としている対象(ヒト対象を含む)に投与するステップを含む。そのため、有効用量(又は本質的に同時に投与される用量若しくは間隔をおいて与えられる用量)の本明細書に記載されるPRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物を、それを必要としている対象に投与する方法が提供される。用量又は複数用量が、障害/疾患の発症前に投与される場合、投与は予防的である。用量又は複数用量が、障害/疾患の発症後に投与される場合、投与は治療的である。有効用量は、治療される障害/疾患状態に関連する少なくとも1つの症状を緩和(排除又は低減)し、障害/疾患状態への進行を遅延若しくは防止し、障害/疾患状態の進行を遅延若しくは予防し、疾患の程度を軽減し、障害/疾患状態の寛解(部分若しくは完全)をもたらし、かつ/又は生存を延長する用量である。
【0122】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物及び方法は、筋ジストロフィー(MD)などの疾患を治療、改善、又は予防する際に使用される。様々な態様において、かかるMDは、FSHDである。FSHDは、なかでも最も一般的に遺伝する筋ジストロフィーであり、87万人にも影響を及ぼすと推定されている。FSHDの症状の古典的な説明には、顔、肩帯、及び腕における進行性の筋力低下が含まれるが、疾患は、胴体及び下肢の筋肉を含む、より広範囲に現れ得る。可変性はまた個人内に一般的に認められ、非対称的な衰弱が一般的である。発症年齢は幼児期から成人期までの範囲であり得、通常は疾患の重症度に関連しており、より早い発症は、多くの場合より重度の筋力低下に関連する。FSHDを有するほとんどの患者は、通常の寿命を有するが、呼吸不全が発生する可能性があり、疾患が衰弱させ得、罹患した個人の約25%がその50歳代までに車椅子に依存することになり得、より重症な疾患形態では更に早いが、一方、他は生涯歩行を維持する。
【0123】
FSHDは、二重ホメオボックス4遺伝子(DUX4)の異常な発現によって引き起こされ、骨格筋にとって有毒な転写因子を産生する。DUX4は、通常、ヒトの発達の2細胞期の期間中に機能するが、その後、おそらく精巣を除いて、基本的に他の全ての組織で抑制される。FSHDを有する人々の骨格筋では、特定の遺伝的及びエピジェネティック因子が同時にDUX4脱抑制を可能にし、次いでそれが、分化異常、酸化ストレス、炎症性浸潤、細胞死、及び筋萎縮に関与するものを含む、いくつかの異常な遺伝子発現カスケードを開始する。
【0124】
病理学的FSHDを有することが知られている家族では、本開示の方法は、様々な態様において、疾患を予防する方法であり、それらは疾患の発症前に実行される。他の様々な態様において、本開示の方法は、診断後に実行され、したがって、疾患を治療又は改善する方法である。したがって、本明細書に記載されるPRMTの小分子阻害剤、及び本明細書に記載されるPRMTの小分子阻害剤を含む組成物は、FSHDなどのDUX4過剰発現に関連する筋ジストロフィーの治療、改善、又は予防において、DUX4誘導性細胞死及びDUX4誘導性標的遺伝子発現並びにアルギニンメチル化によって活性化されるDUX4シグナル伝達を阻害するのに使用される。
【0125】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物及び方法は、がんなどの疾患を治療、改善、又は予防する際に使用される。DUX4は、いくつかのがんタイプで活性化されることが示されており、それは腫瘍細胞を免疫系からマスキングするように機能する(Chew et al.,Dev.Cell 2019 Sep 9;50(5):658-71)。例えば、DUX4タンパク質融合は、横紋筋肉腫及びユーイング肉腫などのがんを引き起こすことが知られている。CIC-DUX4遺伝子融合は、肉腫を誘導し、肉腫転移を推進する(Yoshimoto et al.,Cancer Res.2017 Jun 1;77(11):2927-2937、Okimoto et al.,J Clin Invest.2019;129(8):3401-3406)。したがって、本明細書に記載されるPRMTの小分子阻害剤、及び本明細書に記載されるPRMTの小分子阻害剤を含む組成物は、がんの治療、改善、又は予防において、DUX4誘導性細胞死及びDUX4誘導性遺伝子発現並びにアルギニンメチル化によって活性化されるDUX4シグナル伝達を阻害するのに使用される。
【0126】
分子的、生化学的、組織学的、及び機能的な転帰尺度は、(1)アポトーシス又は細胞死を減少させることについて、(2)DUX4タンパク質のアルギニンメチル化後のDUX4誘導性遺伝子発現又はトラン活性化を減少させることについて、及び(3)FSHDなどの筋ジストロフィーを治療することについて、本明細書に開示される生成物及び方法の治療有効性を示す。転帰尺度は、例えば、Dyck and Thomas,Peripheral Neuropathy,Elsevier Saunders,Philadelphia,PA,4th Edition,Volume 1(2005)のチャプター32、35、及び43、並びにBurgess et al.,Methods Mol.Biol.,602:347-393(2010)に記載されている。転帰尺度には、罹患した細胞及び組織におけるDUX4誘導性細胞死又は遺伝子活性化の減少又は排除が含まれるが、これらに限定されない。細胞におけるDUX4のアルギニンメチル化の阻害は、改善を決定するために、PRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物の投与前及び投与後に、実施例を含む本明細書に記載される方法を含むがこれらに限定されない当該技術分野において既知の方法によって検出される。
【0127】
いくつかの実施形態において、対象の細胞におけるDUX4タンパク質のメチル化は、PRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物の投与前のDUX4タンパク質のメチル化と比較して、PRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物の投与後に減少する。いくつかの態様において、DUX4タンパク質のメチル化は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約100%、又は少なくとも約100%超減少する。様々な態様において、改善した筋力、改善した筋機能、及び/又は改善した可動性及びスタミナは、少なくとも約2%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約100%、又は少なくとも約100%超改善を示す。
【0128】
いくつかの実施形態において、対象の細胞のアポトーシス又は細胞死は、PRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物の投与前の対象の細胞のアポトーシス又は細胞死と比較して、PRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物の投与後に減少する。いくつかの態様において、対象の細胞のアポトーシス又は細胞死は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約100%、又は少なくとも約100%超減少する。様々な態様において、改善した筋力、改善した筋機能、及び/又は改善した可動性及びスタミナは、少なくとも約2%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約100%、又は少なくとも約100%超改善を示す。
【0129】
他の転帰尺度には、治療の前及び後の対象における血清クレアチニンキナーゼ(CK)のレベルを測定することが含まれる。増加したCKレベルは、筋肉損傷の特徴である。筋ジストロフィー患者では、CKレベルは正常範囲(出生以来、正常レベルの10~100倍)を超えて有意に増加する。上昇したCKレベルが血液試料中に認められる場合、それは通常、筋肉が筋ジストロフィー又は炎症などのいくつかの異常なプロセスによって崩壊されていることを意味する。したがって、本開示の方法による治療の肯定的な治療転帰は、PRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物の投与後の血清クレアチニンキナーゼのレベルが、PRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物の投与前の血清クレアチニンキナーゼのレベルと比較して、減少することである。
【0130】
他の転帰尺度には、治療後の対象において、筋力の改善、筋機能の改善、可動性の改善、スタミナの改善、又はそれらの2つ以上の組み合わせが存在するかを決定するために測定することが含まれる。かかる転帰尺度は、対象における筋ジストロフィーの進行を決定する上で重要であり、当該技術分野で既知の様々な検査によって測定される。これらの検査のいくつかには、6分間歩行検査、立ち上がり時間検査、昇り4ステップ検査、昇り降り4ステップ検査、ノーススター歩行評価(NSAA)検査、10メートル時限検査、100メートル時限検査、ハンドヘルド筋力測定(HHD)検査、時限アップアンドゴー検査、粗大運動サブ検査スケール(Bayley-III)スコア、最大随意等尺性収縮検査(MVICT)、又はそれらの2つ以上の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0131】
併用療法も本開示に含まれる。本明細書に使用される併用は、同時治療及び連続治療の両方を含む。本明細書に記載の方法と標準的な医学的治療及び支持療法との組み合わせは、グルココルチコイドなどの療法との組み合わせと同様に、具体的に企図される。全てのタイプのグルココルチコイドが、本明細書に開示の併用療法における使用のために含まれる。かかるグルココルチコイドには、プレドニゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、デフラザコート、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、及びトリアムシノロンが含まれるが、これらに限定されない。
【0132】
本開示に含まれる他の併用療法は、本明細書に記載されるPRMTの小分子阻害剤又はPRMTの小分子阻害剤を含む組成物と、U7-snRNA、miRNAベースの遺伝子療法、DUX4発現の小分子阻害剤、RNAi若しくはRNAse H若しくはエクソンスキッピング機構を介してDUX4を阻害するオリゴヌクレオチド、又はU7-snRNAプラス理論的CRISPRベースの遺伝子療法アプローチとの組み合わせである。
【0133】
「治療すること」は、筋肉消耗、筋力低下、筋緊張症、骨格筋の問題、網膜の異常、股関節の脱力、顔の脱力、腹部筋力低下、関節及び脊髄の異常、下肢の脱力、肩の脱力、聴力喪失、筋肉炎症、及び非対称的な衰弱を含むが、これらに限定されない、筋ジストロフィーの1つ以上の症状を改善又は阻害することを含む。
【0134】
本開示はまた、PRMTの阻害剤を含むキット、又は本開示のPRMTの阻害剤を含む組成物を提供する。本開示の文脈において、「キット」という用語は、2つ以上の構成要素を意味し、そのうちの1つは、本開示のPRMTの阻害剤又はPRMTの阻害剤を含む組成物に対応し、他は、容器、レシピエント、説明書、又は他のものに対応する。したがって、キットは、様々な態様において、特定の目標を達成するのに十分な一連の製品であり、単一のユニットとして販売することができる。
【0135】
キットは、本開示のPRMTの阻害剤又はPRMTの阻害剤を含む組成物を投与のための適切な投与量(上記参照)で含有する、任意の適切な形状、サイズ、及び材料の1つ以上のレシピエント(バイアル、アンプル、容器、注射器、ボトル、バッグなど)を含み得る。キットは追加的に、使用のための指示書若しくは説明書(例えば、リーフレット又は取扱説明書の形態で)、例えば、注射器、ポンプ、注入器などのPRMTの阻害剤若しくはPRMTの阻害剤を含む組成物を投与するための手段、PRMTの阻害剤若しくはPRMTの阻害剤を含む組成物を再構成するための手段、及び/又はPRMTの阻害剤若しくはPRMTの阻害剤を含む組成物を希釈するための手段を含み得る。
【0136】
いくつかの態様において、キットは、キットに提供される試薬の使用を説明するラベル及び/又は説明書を含む。キットはまた、本明細書に記載の方法で使用される組成物のうちの1つ以上を送達するためのカテーテル、注射器、又は他の送達デバイスを任意選択的に含む。
【0137】
本発明はまた、単回用量の投与単位のための、又は複数回用量のためのキットを提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、単一チャンバ型及び複数チャンバ型のプレフィルドシリンジを含むキットを提供する。
【0138】
本文書全体は、統一された開示として関連することが意図されており、特徴の組み合わせが本文書の同じ文章、又は段落、又はセクションで一緒に認められない場合でも、本明細書に記載される特徴の全ての組み合わせが企図されることを理解されたい。本開示はまた、例えば、上記で具体的に言及される変形よりもいくらか範囲が狭い本開示の全ての実施形態を含む。属として記載される本開示の態様に関して、全ての個々の種は、本開示の別個の態様とみなされる。「a」又は「an」で記載又は特許請求される本開示の態様に関して、これらの用語は、文脈がより限定された意味を明確に必要としない限り、「1つ以上」を意味することを理解されたい。
【0139】
特に明記しない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、一連における全ての要素を指すと理解されるべきである。当業者であれば、本明細書に記載の本開示の特定の実施形態に対する多くの等価物を、認識するか、又は定型的な実験を超えることなく使用して確認することができるであろう。かかる等価物は、本開示によって包含されることが意図される。
【0140】
本明細書で使用される「及び/又は」という用語はいつでも、「及び」、「又は」、及び「当該用語によって接続された要素の全て又は任意の他の組み合わせ」の意味を含む。
本明細書で使用される「約」又は「およそ」という用語は、所与の値又は範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。しかしながら、それはまた、具体的な数字を含み、例えば、約10は10を含む。
【0141】
本明細書及びその後の特許請求の範囲全体を通して、文脈で別段の要求がない限り、「comprise(含む)」という単語、並びに「comprises(含む)」及び「comprising(含む)」などの変形は、記載された整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を含めることを意味するが、任意の他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外することを意味しないと理解されたい。本明細書で使用される場合、「comprising(含む)」という用語は、「containing(含有する)」若しくは「including(含む)」という用語で、又は本明細書でときどき使用される場合、「having(有する)」という用語で置き換えることができる。
【0142】
本明細書で使用される場合、「からなる」は、特許請求の範囲の要素に指定されていないいかなる要素、ステップ、又は成分も除外する。本明細書で使用される場合、「から本質的になる」は、特許請求の範囲の基本的及び新規の特徴に実質的に影響を与えない材料又はステップを除外しない。
【0143】
本明細書の各例では、「含む(comprising)」、「から本質的になる(consisting essentially of)」、及び「からなる(consisting of)」という用語のいずれかは、他の2つの用語のいずれで置き換えられ得る。
【0144】
本開示は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、材料、試薬、及び物質などに限定されず、そのため変化することができることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、特許請求の範囲によってのみ定義される、本開示の主題の範囲を限定することを意図するものではない。
【0145】
本明細書の本文全体で引用されている全ての刊行物及び特許(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様、説明書などを含む)は、上記又は下記にかかわらず、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれた材料が本明細書と一致しないか、又は矛盾する範囲では、本明細書は、いかなるかかる材料にも優先する。
【0146】
本開示及びその利点のより良い理解は、例示的な目的のためのみに提供される以下の実施例から得られるであろう。実施例は、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書に記載の実施例及び実施形態は、例示的な目的のみのためのものであり、それらの観点から様々な修正又は変更が当業者に示唆されるが、本出願の趣旨及び範囲、並びに添付の特許請求の範囲内に含まれることを理解されたい。
【実施例
【0147】
本開示の追加の態様及び詳細は、限定するのではなく例示的であることが意図されている以下の実施例から明らかであろう。
実施例1
材料及び方法
変異誘発
DUX4修飾変異体プラスミド(単一、二重、三重、HOX1_メチルヌル、塩基性及びHOX1_メチル模倣変異体構築物)を、組換えPCR法を使用して構築した。変異は、CMV駆動野生型DUX4プラスミド(AAV.DUX4.V5)をテンプレートとして使用して、変異部位を含有するプライマーで、PCRを使用してDUX4 ORFを増幅して構築した。配列検証の前に、変異体DUX4 ORF全体を増幅し、ゲル精製し、PCR-blunt II-topoにクローニングした。次いで、DUX4変異体ORFをAAV.CMV.DUX4又はAAV.CMV.eGFPにクローニングして、それぞれ、野生型DUX4又はeGFPのいずれかを置き換えた。AAV.CMV.eGFPを塩基ベクターとして使用して、DUX4 ORFに隣接するN末端NheI及びC末端Acc65I制限酵素部位を有するGenscriptによって、ホスホヌル、ホスホ模倣、メチルヌル、塩基性及びメチル模倣変異体を合成した。
【0148】
細胞培養
ヒト胎児腎臓細胞(HEK293)及びヒト不死化筋芽細胞(WS236、15V、二頭筋、非罹患の対照細胞)を、前述のように維持した。簡潔には、HEK293細胞を、10%ウシ胎児血清、L-グルタミン、及びペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM中で、5%CO中37℃で培養した。ヒト不死化筋芽細胞を、16%Medium 199、15%ウシ胎児血清、30ng/ml硫酸亜鉛、1.4μg/mlビタミンB12、55ng/mlデキサメタゾン、2.5ng/mlヒト成長因子、10ng/ml線維芽細胞成長因子、20mM HEPES、及びペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEMを含有するLHCN培地中で培養した。
【0149】
タンパク質免疫沈降
Lipofectamine 2000を使用して、HEK293細胞を合計4μgのAAV.CMV.DUX4.V5、PRMT1-GFP、又はPRKACA-Flag(1x10細胞/ウェル)で懸濁液中でトランスフェクトし、冷たい1xPBSを使用して16時間後に採取した。細胞をペレット化し、137mMのNaCl、50mMのTris、pH7.5、1%のNP-40、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)、並びにピロリン酸ナトリウム、β-グリセロールリン酸、フッ化ナトリウム、及びオルトバナジウム酸ナトリウムを含むホスファターゼ阻害剤を含有する緩衝液A中で溶解した。全てのステップは、4℃又は氷上で実施した。溶解物を、回転させながら、プロテインアガロースGで1時間インキュベートした。その後、上清を、回転させながら、アガロース樹脂にコンジュゲートされた抗V5抗体で一晩インキュベートした。樹脂を、緩衝液Aで5回洗浄し、次いで、1mMのDTT及び1xLDS-PAGE(Invitrogen)試料緩衝液を補充した緩衝液A中に再懸濁した。DUX4複合体は、95℃で10分間沸騰することによって溶出した。
【0150】
高分解能質量分析試料の調製及びペプチド消化
免疫沈降されたタンパク質試料を、TGX 4~15%プレキャストゲル(Bio-Rad)にロードし、分離し、Bio-Safe Coomassie(Bio-Rad)で染色した。DUX4に対応するバンドを切除した。潜在的なジスルフィド結合を還元し、アルキル化した。ゲル片を、100mMの重炭酸アンモニウム(Sigma)中の800ngのトリプシン(Promega)及び/又はキモトリプシン(Promega)による37℃での一晩の消化に供した。ペプチドを、ゲルマトリックスから抽出し、真空遠心分離によって乾燥させ、ローディング緩衝液(2%アセトニトリル、0.1%ギ酸)中で再懸濁した。
【0151】
液体クロマトグラフィー及び質量分析(LC-MS/MS)
ペプチドを、Thermo Orbitrap Fusion Tribrid質量分析計に接続されたThermo Dionex UltiMate 3000 RSLC HPLCシステムで分離した。ペプチドを、PepMap100 C18マイクロカラム(5μm、100Å、0.3x50mm)にロードし、2%アセトニトリル中の0.5%TFAで4分間脱塩した。移動相溶媒は、緩衝液A:水中0.1%ギ酸及び緩衝液B:アセトニトリル中0.1%ギ酸であった。ペプチドを、140分間にわたって300nL/分の流量で、緩衝液Bの線形勾配(5~30%)に沿って溶出し、続いてカラム洗浄及び平衡化を行った。ペプチド分離を、275℃及び1.7kVのスプレー電圧で操作したThermo EASY-Spray PepMap C18カラム(3μm、100Å、0.75x150mm)で実施した。
【0152】
MS/MSデータは、3秒のサイクル時間でトップスピードモードで操作したOrbitrap Fusionで収集した。MS1スキャンを、27%の正規化された衝突エネルギーで、HCD断片化の前に、Orbitrapにおいて60Kの分解能で収集した。断片イオンを、1.6m/zの単離ウィンドウを有する四重極で単離し、Orbitrapにおいて15Kの分解能で検出した。AGC標的を、MS1スキャンについては4E5又は50msの最大注入時間、MS2スキャンについては5E4又は500msの最大注入時間に設定して、イオン系列カバレッジを最大化した。動的排除を30秒間で±10ppmに設定した。
【0153】
質量分析データ分析
RAWデータを、ProteoWizard(v3.0.4624)のMSConvertツールを使用してmxXML形式に変換し、MassMatrix検索エンジンv2.4.2を使用して、C末端V5エピトープタグ(GKPIPNPLLGLDST(配列番号3))及び一般的な汚染タンパク質(2015年6月22日にダウンロード、合計234エントリ)とともに、UniProt(アクセッションQ9UBX2)からダウンロードしたDUX4配列を含むデータベースに対して検索した10-14。0.02Daの断片質量許容値とともに、ペプチド質量許容値を20ppmに設定した。データはまた、C末端V5エピトープタグ(GKPIPNPLLGLDST(配列番号3))とともに、UniProt(アクセッションQ9UBX2)からダウンロードしたDUX4配列を含むuniprotヒトデータベースに対して、MASCOT(バージョン2.6.0、Matrix Science)上で検索した。0.05Daの断片質量許容値とともに、ペプチド質量許容値を10ppmに設定した。両方の検索エンジンについて、可変修飾には、Kのアセチル化、Kのモノメチル化、ジメチル化又はトリメチル化、Rのモノメチル化又はジメチル化、Mの酸化、及びS、T、Yのリン酸化が含まれた。Cのカルバミドメチル化は、固定修飾として含めた。最大4つの切断ミスを有するトリプシン及びキモトリプシンについて酵素特異性を設定した。手動検証にも合格した検索生成されたペプチドは、配列カバレッジの計算に含めた。
【0154】
RAWデータを、ProteoWizard(v3.0.4624)のMSConvertツールを使用してmxXML形式に変換し、MassMatrix検索エンジンv2.4.2を使用して、C末端V5エピトープタグ(GKPIPNPLLGLDST(配列番号3))及び一般的な汚染タンパク質(2015年6月22日にダウンロード、合計234エントリ)とともに、UniProt(アクセッションQ9UBX2)からダウンロードしたDUX4配列を含むデータベースに対して検索した。0.02Daの断片質量許容値とともに、ペプチド質量許容値を20ppmに設定した。可変修飾には、Kのアセチル化、Kのモノメチル化、ジメチル化又はトリメチル化、Rのモノメチル化又はジメチル化、Mの酸化、及びS、T、Yのリン酸化が含まれた。Cのカルバミドメチル化は、固定修飾として含めた。最大4つの切断ミスを有するトリプシン及びキモトリプシンについて酵素特異性を設定した。手動検証にも合格した検索生成されたペプチドは、配列カバレッジの計算に含めた。
【0155】
定量的PCR
Lipofectamine 2000(Thermo Scientific)を使用して、HEK293細胞及びヒト筋芽細胞(5x105細胞/ウェル)を2μgのAAV.DUX4.V5(野生型又は変異体構築物)でトランスフェクトした。細胞は、TRIzol RNA単離試薬(Life Technologies)中でトランスフェクションの24時間後に採取した。RNAを単離し、DNase処理し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)を使用してcDNAに逆転写した。TaqMan遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)を使用して、ヒトRPL13A(Hs01494366_g1)、ヒトZSCAN4(Hs00537549_m1)、及びヒトPRAMEF12(Hs04193637_mH)を定量した。効率は、全てのプローブ間で同等であった。正規化のための参照遺伝子としてRPL13Aを使用した。対照pClNeoトランスフェクト細胞と比較して、正規化発現(ΔΔCq)を計算した。
【0156】
カスパーゼ-3/7活性化アッセイ
Lipofectamine 2000を使用して、HEK293細胞を100ngのプラスミドDNA(65,000細胞/ウェル)でトランスフェクトし、48時間後に、Apo-ONE Homogeneous Caspase-3/7 Assay(Promega)を使用して、アッセイを行った。プロトコルは、製造元の指示に準じて従った。簡潔には、100μlの試薬を各ウェルに添加し、96-ウェルプレートを20分間穏やかに回転させた。相対蛍光を4~6時間にわたって1時間毎に監視した。
【0157】
Lipofectamine 2000を用いて100ngのDUX4 DNA(65,000細胞/ウェル)でトランスフェクトしたヒト筋芽細胞において阻害剤研究を行った。阻害剤であるアデノシンジアルデヒド又はサルビアノール酸Aを1.5時間後に添加し、上記のように48時間後にカスパーゼアッセイを実施した。
【0158】
細胞内のDUX4活性化レポーター
HEK293細胞(65,000細胞/ウェル)を、Lipofectamine 2000(Thermo Scientific)を使用して、(参照文献)で以前に報告された、100ngのプラスミドDNA(AAV.CMV.DUX4.V5又は変異体)及び100ngのpLenti.DUX4活性化GFPで懸濁液中でトランスフェクトし、96-ウェルプレートに同時にプレーティングした。GFP発現は、SPECTRAmax M2機器(Molecular Devices)を使用して、トランスフェクションの24及び48時間後に定量した。GFP発現は、蛍光実体顕微鏡(Leica M165 FC顕微鏡、Leica Microsystems)で視覚的に監視した。
【0159】
内因性タンパク質の高速免疫沈降質量分析(RIME)
細胞を、1%ホルムアルデヒドで8分間固定し、0.125Mのグリシンでクエンチした。クロマチンは、溶解緩衝液の添加、続いてDounceホモジナイザーによる破壊によって単離した。溶解物を超音波処理し、DNAを300~500塩基対の平均長にせん断した。ゲノムDNA(インプット)は、クロマチンのアリコートをRNase、プロテイナーゼK、及び脱架橋のための熱で処理し、続いてエタノール沈降によって、調製した。ペレットを再懸濁し、得られたDNAをNanoDrop分光光度計で定量した。元のクロマチン体積への外挿により、総クロマチン収率の定量が可能になった。
【0160】
クロマチンのアリコート(100μg)をプロテインGアガロースビーズ(Invitrogen)でプレクリアした。目的のタンパク質を、10μgのV5に対する抗体(Abcam、ab15828)及びプロテインG磁性ビーズを使用して免疫沈降させた。タンパク質複合体を洗浄し、次にトリプシンを使用して、ビーズ及び消化されたタンパク質試料から免疫沈降物を除去した。タンパク質消化物は、ビーズから分離し、C18スピンカラム(Harvard Apparatus)を使用して精製した。ペプチドは、speedvacを使用して真空乾燥した。
【0161】
消化されたペプチドを、Proxeon Easy-nLC II HPLC(Thermo Scientific)及びProxeonナノスプレーソースと併せたThermo Scientific Q Exactive Orbitrap質量分析計でLC-MS/MSによって分析した。消化されたペプチドを、100ミクロンx25mmのMagic C18 100Å 5U逆相トラップにロードし、ここでそれらをオンラインで脱塩した後、75ミクロンx150mmのMagic C18 200Å 3U逆相カラムを使用して分離した。ペプチドは、300nl/分の流量で、90分間の勾配を使用して溶出した。MS調査スキャンをm/z範囲300~1600で取得し、MS/MSスペクトルを、MSスペクトルの上位15個のイオンがHCD(高エネルギー衝突解離)に供された、上位15法を使用して取得した。前駆体イオン選択には1.6m/zの分離質量ウィンドウを、断片化には27%の正規化された衝突エネルギーを使用した。動的排除には、5秒の持続時間を使用した。タンデム質量スペクトルを抽出した。荷電状態デコンボリューション及びデイソトーピングは実施されなかった。全てのMS/MS試料をX!Tandem(The GPM,thegpm.org;version CYCLONE(2013.02.01.1))を使用して分析した。X!Tandemは、消化酵素トリプシンを想定して、uniprot-_20160718_rlT5G3データベース(不明なバージョン、141320エントリ)を検索するために設定した。X!Tandemを、断片イオン質量許容値20PPM及び親イオン許容値20PPMで検索した。システインのカルバミドメチルを固定修飾としてX!Tandemで指定した。n末端のGlu->pyro-Glu、n末端のアンモニア損失、n末端のgln->pyro-Glu、アスパラギン及びグルタミンの脱アミド化、メチオニン及びトリプトファンの酸化、メチオニン及びトリプトファンの二酸化、並びにn末端のアセチルは、可変修飾としてX!Tandemで指定した。
【0162】
Scaffold(バージョンScaffold_4.6.1、Proteome Software Inc.、Portland、OR)を使用して、MS/MSベースのペプチド及びタンパク質の同定を検証した。ペプチド同定は、特定のデータベース検索エンジン閾値を超えた場合に受け入れられた。X!Tandem同定には、少なくとも1.5超の-Log(Expect Scores)スコアが必要であった。タンパク質同定は、少なくとも1つの同定されたペプチドを含有する場合に受け入れられた。類似のペプチドを含有し、MS/MS分析のみに基づいて区別できなかったタンパク質は、節約原理を満たすようにグループ化した。重要なペプチドの証拠を共有するタンパク質は、クラスターにグループ化した。
【0163】
最終的なリスト生成は、各複製反応からスペクトルカウントが5以上の全てのタンパク質を取得し、それらをIgG対照複製に対してベン図で比較することによって行われた。
実施例2
アルギニンメチル化阻害は、アポトーシス細胞死の減少及びDUX4標的遺伝子活性化の減少と関連する
DUX4翻訳後修飾(PTM)は、HEK293細胞においてDUX4を過剰発現させ、DUX4を免疫沈降させ、質量分析を行うことによって検出した。この方法を使用して、いくつかのDUX4アルギニンメチル化PTMを特定し(図1A)、メチル化模倣及び欠損変異体を生成して、それらを更に特徴付けた(図1B)。アルギニンメチル化ヌル変異体であるDUX4 R71Aを特定した。DUX4 R71A変異体は、カスパーゼ切断の減少によって示されるように、DUX4媒介性アポトーシス細胞死から保護する(図2)。
【0164】
次に、実験を行い、アルギニンメチル化ヌル変異体が、標的遺伝子を活性化するDUX4の能力に影響を与えるかどうかを決定した。野生型又はDUX4 R71Aを、HEK293細胞及びヒト筋芽細胞において発現させた。DUX4標的遺伝子発現は、定量的RT-PCRによって調べた。DUX4 R71Aは、DUX4標的遺伝子、すなわち、PRAMEファミリーメンバー12(PRAMEF12)、ジンクフィンガー及びSCANドメイン含有タンパク質4(ZSCAN4)、トライパータイトモチーフ含有43(TRIM43)、並びにロイシントゥエンティホメオボックス(LEUTX)の発現の減少をもたらした(図3A~B)。興味深いことに、R71は、DUX4がDNAに結合する場所に近接している(図3A)。DUX4 R71Aは、DNAに結合するDUX4の能力を妨害する可能性があると仮定され、したがって、DUX4活性化蛍光レポーター(DRE)アッセイを使用して、これを更に調査した。仮定された仮説と一致して、DUX4 R71Aは、レポーター遺伝子発現の減少と関連する(図4B)。これらの結果は、アルギニンメチル化阻害が、アポトーシス細胞死の減少及びDUX4標的遺伝子活性化の減少と関連することを示す。
【0165】
実施例3
アルギニンメチル化阻害は、筋芽細胞におけるDUX4媒介性細胞死から保護する
DUX4複合体に関連するアルギニンメチルトランスフェラーゼを単離するために、プロテオミクスアプローチを実施した。内因性タンパク質の高速免疫沈降質量分析(RIME)は、架橋、免疫沈降及び質量分析を組み合わせて、一過性又は遠隔の相互作用を特定する16。RIMEは、野生型DUX4とDUX4複合体の構成要素として特定されたタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ1(PRMT1)とを発現するヒト筋芽細胞において実施した(図5A)。更に、DUX4とPRMT1とは、HEK293細胞において過剰発現する場合に相互作用する(図5B)。
【0166】
DUX4アルギニンメチル化ヌル変異体が細胞死から保護し、DUX4がアルギニンメチルトランスフェラーゼと相互作用するという観察は、FSHD疾患モデルにおける保護としてのアルギニンメチル化阻害剤の役割を示している。したがって、グローバルなメチル化阻害剤であるアデノシンジアルデヒド(AdOx)17及びPRMT1阻害剤であるサルビアノール酸A(SAA)18を、DUX4媒介性細胞死から保護するそれらの能力について試験した。カスパーゼアッセイは、AdOx又はSAAの存在下又は不在下で、DUX4を発現するヒト筋芽細胞において実施した。SAA及びAdOxは、用量応答式でカスパーゼ切断の減少をもたらし(図6A~B)、アルギニンメチル化阻害剤が筋芽細胞におけるDUX4媒介性細胞死から保護することを示す。
【0167】
この研究は、アルギニンメチル化をDUX4媒介性毒性の重要な調節因子として特定している。アルギニンメチル化ヌル変異体DUX4 R71Aは、アポトーシス細胞死の減少及びDUX4標的遺伝子発現の減少をもたらす。DUX4は、アルギニンメチルトランスフェラーゼPRMT1と複合体を形成し、アルギニンメチル化阻害剤は、ヒト筋芽細胞におけるDUX4媒介性毒性から保護する。総合すると、これらの結果は、アルギニンメチル化の阻害がFSHD療法の標的であることを示している。
【0168】
実施例4
SAA及び/又はAdOxは、FSHDのマウスモデルにおけるDUX4活性化バイオマーカー発現を減少させる
本明細書に記載のSAA及びAdOx又はそれらの誘導体を、それぞれ、FSHDマウスモデル(TIC-DUX4)又はFSHDマウスの任意の他のマウスモデルに筋肉内(IM)又は静脈内(IV)で注入する。4、8、12、16、20、及び24週後、Wfdc3又はTrim36などのDUX4バイオマーカー、DUX4の発現レベル、及びDUX4標的遺伝子発現を、qRT-PCR、RNAscope、又はddPCRによって測定する。
【0169】
DUX4バイオマーカー発現のレベルの減少は、未治療マウスの筋肉のレベルと比較して、SAA又はAdOxで治療したマウスの筋肉で観察される。SAA若しくはその誘導体又はAdOx若しくはその誘導体による治療はまた、未治療マウスと比較して、治療されたマウスにおいてDUX4標的遺伝子、すなわち、PRAMEF12、ZSCAN4、TRIM43、及びLEUTXの発現の減少を引き起こす。これらの発現のレベルの減少又は発現の減少は、筋力、形態、並びに全体的な歩行及び運動機能の改善と関連している。
【0170】
実施例5
SAA及び/又はAdOxは、筋肉におけるDUX4活性化細胞死を減少させる
本明細書に記載のSAA及びAdOx又はそれらの誘導体を、FSHDに罹患している患者に、筋肉内(IM)又は静脈内(IV)で注入する。治療前並びに4、8、12、16、20、24、28、32、36 40、44、48、及び52週後、患者の筋肉内のDUX4活性化バイオマーカー及び/又はDUX4標的遺伝子を、本明細書に記載のように生検筋肉において測定する。
【0171】
DUX4活性化バイオマーカー及び/又はDUX4標的遺伝子、すなわち、PRAMEF12、ZSCAN4、TRIM43、及びLEUTXの発現レベルの減少は、治療前の同じ患者のDUX4活性化バイオマーカー及び/又はDUX4標的遺伝子のレベルと比較して、SAA及びAdOx又はそれらの誘導体で治療した患者の筋肉又は筋細胞において観察される。FSHD疾患症状の改善も観察される。かかる改善の尺度には、線維症の減少、並びに到達可能な作業空間及び患者報告転帰によって測定される改善された機能が含まれるが、これらに限定されない。
【0172】
前述の説明は、理解の明確さのためだけに与えられ、本発明の範囲内の修正は、当業者には明らかであり得るため、不必要な制限がそこから理解されるべきではない。
本明細書及びその後の特許請求の範囲全体を通して、文脈で別段の要求がない限り、「comprise(含む)」という単語、並びに「comprises(含む)」及び「comprising(含む)」などの変形は、記載された整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を含めることを意味するが、任意の他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外することを意味しないと理解されたい。
【0173】
本明細書全体にわたって、組成物が成分又は材料を含むと記載される場合、別段の記載がない限り、組成物は、列挙された成分又は材料の任意の組み合わせから本質的になるか、又はそれらからなることもできることが企図される。同様に、方法が特定のステップを含むと記載される場合、別途記載されない限り、方法はまた、列挙されたステップの任意の組み合わせから本質的になるか、又はそれらからなることができることが企図される。本明細書に例示的に開示される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素又はステップが存在せずに適切に行われ得る。
【0174】
本明細書に開示される方法の実施、及びその個々のステップは、マニュアルで、かつ/又は電子装置の支援若しくはそれによって提供される自動化を用いて、行うことができる。プロセスが特定の実施形態を参照して記載されているが、当業者であれば、方法に関連する行為を行う他の方法を使用し得ることを容易に理解するであろう。例えば、ステップの様々な順序は、別途記載されていない限り、本方法の範囲又は趣旨から逸脱することなく変更され得る。加えて、個々のステップのうちのいくつかは、組み合わせるか、省略するか、又は更に追加のステップに細分化することができる。
【0175】
本明細書に引用される全ての特許、刊行物、及び参考文献は、参照により完全に組み込まれる。本開示と組み込まれた特許、刊行物、及び参考文献との間に矛盾がある場合、本開示が優先されるべきである。付番を伴う本明細書に言及される参考文献は、本明細書に以下に示されるように、全引用文献とともに提供される。
【0176】
参考文献
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本開示は、本開示の実施のための特定の方式を含むように見出されるか、又は提案される特定の実施形態に関して記載されている。本開示の様々な修正及び変形は、本開示の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本開示は、特定の実施形態に関連して記載されているが、特許請求される本開示の方法は、かかる特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、関連分野の当業者には明らかである方法を実行するための記載された方式の様々な修正は、以下の特許請求の範囲内であることが意図されている。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
【配列表】
2024524265000001.app
【国際調査報告】