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特表2024-524276コンタクトレンズ不快感及びドライアイを治療する薬物の製造における葉酸誘導体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】コンタクトレンズ不快感及びドライアイを治療する薬物の製造における葉酸誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4985 20060101AFI20240628BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240628BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K31/4985
A61P27/04
A61P29/00
A61P25/02
A23L33/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579360
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 CN2022100814
(87)【国際公開番号】W WO2022268167
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】202110704056.5
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514259750
【氏名又は名称】▲連雲▼港金康和信▲薬業▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】LIANYUNGANG JINKANG HEXIN PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Jinqiao Road South, Yunqiao Road East, Economic and Technological Development Zone, Lianyungang, Jiangsu China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヨンチー
(72)【発明者】
【氏名】クー ルイ
(72)【発明者】
【氏名】リエン ツォンリン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD02
4B018MD04
4B018MD18
4B018MD19
4B018MD23
4B018MD27
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB09
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZA20
4C086ZA21
4C086ZA33
4C086ZB11
(57)【要約】
本発明はドライアイ治療用薬品に関し、また、本発明はコンタクトレンズの装用に不快感がある装用者の装用体験を改善する方法に関し、さらに治療用点眼剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライアイ又はコンタクトレンズ装用時の不快症状を治療する薬物又は保健食品の製造における、一般式Iに記載の化合物の使用。
【化1】
式中、Rはメチル基又はホルミル基から選択され、Xは、5-メチルテトラヒドロ葉酸又はフォリン酸と薬学的に許容可能な塩を形成できる物質であり、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、有機アミン、グルコサミン等を含む。
【請求項2】
前記ドライアイは蒸発性ドライアイである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記薬物はドライアイ治療用点眼剤を含む、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記点眼剤はアルギニンをさらに含む、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記点眼剤は、眼表面炎症性因子の発現による炎症を抑え、眼の三叉神経節のメタロプロテアーゼMMP-2、TNF-αの発現による神経炎及び神経痛を抑えるために用いることができる、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記コンタクトレンズ装用時の不快症状は、目の乾燥、痛み、異物感、及び痒みを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記薬物又は保健食品は、眼表面炎症性因子の発現による炎症を抑え、眼の三叉神経節のメタロプロテアーゼMMP-2、TNF-αの発現による神経炎及び神経痛を抑えることができる、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記治療用点眼剤は、薬学的に使用可能な添加剤をさらに含む、請求項4から7のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイ治療用の薬品又は保健食品に関し、また、本発明は、コンタクトレンズ装用時に不快感がある装用者のコンタクトレンズ装用体験を改善する方法に関し、さらに、本発明はドライアイを治療する点眼剤及びコンタクトレンズ不快感の症状を治療する点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズ装用時、コンタクトレンズは、眼の表面及び上下眼瞼の内側領域と直接相互作用することがあり、これらの領域に三叉神経の感覚線維が密集して分布している。毎年、コンタクトレンズの装用を断念するコンタクトレンズ装用者がいるが、その主な理由は装用による不快感である。コンタクトレンズ不快感の特徴は、コンタクトレンズ装用に関連する一時的又は持続的な不快な眼の感覚であり、現在、このような不快感反応の病因のメカニズムについての研究証拠は限られているが、注目に値するのは、症状を経験したコンタクトレンズ装用者からの症状説明(例えば、目の刺激、灼熱感、チクチク感及び痛み)は、炎症反応及び神経障害性疼痛を伴うドライアイに関連する症状と非常に類似している点である。
【0003】
ドライアイは慢性炎症性疾患であり、涙液浸透圧の増加を伴う涙液の不安定により、眼表面上皮の常在免疫細胞内のストレスシグナルが活性化され、自然炎症性分子の産生が誘発される。さらに発現したTh1サイトカインであるインターフェロンγ(IFN-γ)が結膜杯細胞の機能障害と死亡を促進し、涙液層の不安定を悪化させ、炎症を悪化させて悪循環を形成する[Pflugfelder SC,de Paiva CS.The Pathophysiology of Dry Eye Disease:What We Know and Future Directions for Research.Ophthalmology.2017;124(11S):S4‐S13.]。ドライアイの病態生理学に関する人々の知識は大きく進歩したが、ドライアイ疾患の病理学的メカニズムを単純に単一の原因に帰結することができず、既存の治療方法は全ての患者の不快感及び角膜上皮疾患を効果的に改善できるわけではないのが現実である。
【0004】
「ドライアイ」という用語は、正確に言えば、目の感覚を表すものである。眼表面疾患指数表(OSDI)はドライアイの臨床診断に最もよく使われるアンケートであり、主にドライアイの診断及び病状の重症度の評価に用いられる。OSDIは主に、光と風による目の刺激、読み書き及びテレビ視聴が目の快適さに及ぼす影響等を含む目の感覚について質問する。これらの質問は全て目の不快な感覚と感情的な経験に関するものであり、炎症性因子等の診断的バイオマーカーがない状況において、ドライアイは、実は疼痛性疾患に帰結することができる。疼痛性疾患は、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の2つに大きく分類することができ、どちらもドライアイに関連している可能性がある。侵害受容性疼痛は、通常、持続時間が短く、組織損傷と炎症によるものであるが、神経障害性疼痛は、身体感覚システムに直接影響を及ぼす病変又は疾患によって引き起こされる痛みであり、より慢性に近い。ドライアイでは、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の誘因は同じである可能性があるが、これらの誘因の刺激は、感覚ニューロン表現型の一時的又は持続的な変化をもたらし得る[Galor A,Levitt RC,Felix ER,Martin ER,Sarantopoulos CD.Neuropathic ocular pain:an important yet underevaluated feature of dry eye.Eye(Lond).2015;29(3):301‐312.]。
【0005】
ドライアイの診断上の定義は範囲が広く、実際には眼科クリニックを訪れる患者は、涙腺欠損又は涙道閉塞を含む、より重度のドライアイ症状を有する水性涙液欠乏性ドライアイを患っていることが多い。ドライアイ患者の中には、涙液欠乏の現象がない蒸発性ドライアイの患者もいるが、このような患者は風と光に対してより敏感である[Chhadva P,Lee T,Sarantopoulos CD,et al.Human Tear Serotonin Levels Correlate with Symptoms and Signs of Dry Eye.Ophthalmology.2015;122(8):1675‐1680.]。上記の涙液分泌が正常なドライアイ患者と症状のあるコンタクトレンズ装用者は非常に類似している症状を示し、その病理学的メカニズムも非常に類似している可能性がある。どちらも暑さや寒さの刺激に非常に敏感であり[Situ P,Simpson T,Begley C.Hypersensitivity to Cold Stimuli in Symptomatic Contact Lens Wearers.Optom Vis Sci.2016;93(8):909‐916.]、一定の「季節的な影響」がある。コンタクトレンズ関連の結膜炎の発症は季節の影響を受けることが一般に認められ、冬に角膜浸潤が発症するリスクが2~4倍高くなる。
【0006】
涙液分泌が正常なドライアイ患者と症状のあるコンタクトレンズ装用者は、眼の症状が感染又は組織損傷によるものではなく、炎症と正常状態の間にある。Ruslan Medzhitovは「擬似炎症(parainflammation)」という概念を導入した。コンタクトレンズによる微細な組織の障害は、組織のストレスや機能不全を引き起こし、基礎状態に近い擬似炎症状態を引き起こすことがある。このような条件では、常在する免疫細胞は、問題の重症度に応じて、他の白血球と血漿タンパク質を小範囲で送達する必要があるが、炎症の典型的な特徴は示さない[Medzhitov R.Origin and physiological roles of inflammation[J].Nature,2008,454(7203):428-435.]。症状のあるコンタクトレンズ患者と涙液分泌が正常なドライアイ患者は、コンタクトレンズの装用を中止したり、又は光・風の環境から離れたりすると、不快感が緩和又は解消されるが、それでも患者にとっては非常に大きな苦痛を伴う。それは、眼部の神経密度が非常に高く、且つ二次神経が三叉神経節に位置しているため、関連する疼痛が発生した患者は偏頭痛又は抑うつを伴うことがあり、社交的、身体的及び心理的機能に悪影響を及ぼすことがあるからである。
【0007】
現在、ドライアイに対する治療方法は、例えば、慢性ドライアイを引き起こす病態生理学的に重要な因子であるT細胞を標的とするシクロスポリン及びLifitegrast等、主に炎症を対象としたものである。Lifitegrastは、T細胞上の白血球関連抗原1(LFA-1)と、抗原提示細胞、上皮細胞及び血管内皮細胞上のリガンド細胞間接着分子1(ICAM1)との結合を阻害することができる小分子であり、これらの分子は臨床試験ではドライアイの症状を改善したが、これらの治療法は、眼表面に対するドライアイの急性の影響には対処できず、特に光と風による急性の刺激がある場合の目の刺激を効果的に緩和することができない。コルチコステロイドは、急性の刺激に有効であることが示されているが、コルチコステロイドの長期使用には白内障や緑内障のリスクが伴う。
【0008】
炎症を対象とした療法は、神経障害性疼痛と中枢性感作の傾向がある全ての患者、特に涙液分泌が正常なドライアイ患者及びコンタクトレンズの不快感を伴う患者の不快感と角膜上皮疾患を効果的に改善することができない。神経を対象とした療法も現在非常に議論が多く、γ-アミノ酪酸類似体であるガバペンチン及びプレガバリンは、眼の異常な感覚を抑えるために使用されてきたが、現在、重度の目の痛みを伴う疾患の緩和にのみ使用される。これらの抗てんかん薬は中等度の眼不快感を有する患者に役立つ可能性があるが、臨床データが不足しており、且つ明らかな悪影響が存在する恐れがある。神経成長因子(NGF)は、軸索の伸長と再生に有効な刺激剤であり、持続性上皮欠損の癒合に寄与することが実証されていたが、神経損傷時には、NGFの放出により、ニューロンの興奮性が向上し、疼痛閾値が低下する。NGFが痛みの媒介と増大に非常に重要であることを示す証拠は数多くあり、これは潜在的な鎮痛薬及び抗痛覚過敏薬としてのNGFアンタゴニストの発展につながる。したがって、NGFアンタゴニスト又はNGFによる治療の使用がドライアイ患者に有益であるか否かについては、さらなる研究が必要である。
【0009】
5-メチルテトラヒドロ葉酸は人体内の葉酸の一形態であり、研究によると、葉酸は加齢黄斑変性症の重要なリスク因子であるホモシステインのレベルを低下させることができる。また、研究によると、葉酸、ビタミンB6及びビタミンB12を併用した治療は、加齢黄斑変性症のリスクを低減することができる。他方では、葉酸はまた、神経成長因子の分泌を促進することにより、神経損傷の回復を促すこともできる。ドライアイ患者にとって、NGFの分泌は、痛みを増大させ、神経の感作を促進する可能性があり、特に、NGFは、損傷した感覚線維における非選択的カチオンチャネルTRPV1の感作を促進することがあり[Stratiievska A,Nelson S,Senning EN,Lautz JD,Smith SE,Gordon SE.Reciprocal regulation among TRPV1 channels and phosphoinositide 3-kinase in response to nerve growth factor.Elife.2018;7:e38869.]、TRPV1発現の変化は熱痛覚過敏及び痛覚過敏の進行に関連している。フォリン酸も同様に葉酸の誘導体であり、体内で5-メチルテトラヒドロ葉酸に形質転換することができる。現在、ドライアイ患者又はコンタクトレンズの不快感のある患者に対する葉酸の有益な効果に関する研究報告はない。
【0010】
現在、ドライアイに対する新しい治療方法が多く開発されているが、医薬品規制当局によって承認された治療薬は依然として不足している。ドライアイに対する治療介入試験が失敗する主な原因は、適切な疾患指標及び適切な前臨床病理モデルがないことである。
【0011】
コンタクトレンズ不快感の症状がある動物モデルの難点は、動物に適したコンタクトレンズの設計がなく、動物用コンタクトレンズの製造が困難であり、そして動物のコンプライアンスが保証しにくいことである。本発明者は、コンタクトレンズ不快感の症状の表現が一部のドライアイの表現と非常に類似しており、特に、涙液分泌が正常であるが、目の乾燥という不快感がある患者は、通常、コンタクトレンズにも同様に不快感があることを発見した。最近の研究では、コンタクトレンズとドライアイとの間に顕著な関連性があることが判明し[Tan L L,Morgan P,Cai Z Q,et al.Prevalence of and risk factors for symptomatic dry eye disease in S ingapore[J].Clinical and Experimental Optometry,2015,98(1):45-53.]、よって、コンタクトレンズ不快感の動物モデルの代わりに、ドライアイモデルを使用することを試みることは可能である。
【発明の概要】
【0012】
本発明の技術的解決手段は、葉酸誘導体の新しい使用を提供し、本発明の別の技術的解決手段は、該化合物を含有するドライアイ及びコンタクトレンズ不快感の症状を治療する薬物又は保健食品を提供し、また、ドライアイ及びコンタクトレンズ不快感の症状を治療するための点眼剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、一般式Iに記載の化合物の、ドライアイを治療する又はコンタクトレンズ装用時の不快を緩和する薬物又は保健食品の製造における使用を提供する。
【化1】
式中、Rはメチル基又はホルミル基から選択され、Xは、5-メチルテトラヒドロ葉酸又はフォリン酸と薬学的に許容可能な塩を形成できる物質であり、Xは、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、有機アミン、グルコサミン等を含む。
【0014】
ここで、ドライアイは、涙腺分泌が正常であるが、外部刺激に敏感である蒸発性ドライアイを指し、特に風恐怖、羞明、目の乾燥、灼熱感の症状がある。コンタクトレンズ不快感の症状は、目の乾燥、痛み、異物感、及び痒み等の症状を含む。
【0015】
本発明は、5-メチルテトラヒドロ葉酸又はその薬学的に許容可能な塩を含み、光や風による眼部の不快感を抑えるためのドライアイ治療用点眼剤をさらに提供する。好ましくは、本発明が提供するドライアイ治療用点眼剤は、アルギニンをさらに含む。
【0016】
好ましくは、0.01~10%重量/容量%の濃度で5-メチルテトラヒドロ葉酸又はその薬学的に許容可能な塩を含む。
【0017】
本発明は、5-メチルテトラヒドロ葉酸又はその薬学的に許容可能な塩を含み、乾燥、ザラザラ感、痒み等の症状を緩和するためのコンタクトレンズ不快感患者用の薬物又は保健食品をさらに提供する。コンタクトレンズ不快感患者用の薬物又は保健食品は、経口剤、点眼剤を含む。
【0018】
本明細書に開示されるように、本発明は、5-メチルテトラヒドロ葉酸が症状のあるコンタクトレンズ装用者のコンタクトレンズ装用体験を改善できるという知見に基づき、これらの患者のコンタクトレンズ装用体験を改善するために自発的措置を取る方法を提供する。また、症状のあるコンタクトレンズ装用者は、一部のドライアイ患者、特に、ドライアイではあるが、涙腺分泌が正常な患者と病理学的メカニズムが類似しており、5-メチルテトラヒドロ葉酸はこのタイプの患者の目の体験を改善することもできる。5-メチルテトラヒドロ葉酸は、眼表面組織の一部の炎症性因子、特にIL-17の発現を低減することができ、且つ眼の同一側の三叉神経節におけるMMP-2の発現を抑制することができる。
【0019】
本発明の研究によると、慢性ドライアイ、特に涙腺分泌が正常であるが、ドライアイ症状を示すドライアイのメカニズムは、重度のドライアイとは異なる可能性がある。本発明では、激しい、乾燥した風で刺激したマウスが、正常な環境で3ヶ月飼育されても、マウスの眼部角膜に依然として損傷が存在する。しかし、眼表面組織における炎症性因子の発現は多くの先行研究とは異なることが見いだされた。炎症性因子及びMMP-9の高レベル発現は観察されておらず、慢性ドライアイにはTh17反応に関連する眼表面の持続性炎症が関与しており、おそらく、主にTh17細胞によって、又はTh17細胞のみによって媒介される。炎症発生後のT細胞のさらなる表現型において、Th17は、顕著な効果持続型エフェクターメモリー細胞の特性を示す。本発明は、慢性ドライアイが眼表面の炎症だけでなく、慢性神経炎症も伴うことを発見した。本発明は、眼の神経、特にMMP-2に対する慢性ドライアイのいくつかの特定の影響を初めて明らかにした。
【0020】
最近の研究では、涙液層における尿素のレベルが潜在的なドライアイ診断用マーカーとなり得る可能性が示され、ドライアイ患者は、健康な人に比べて涙液層における尿素のレベルが顕著に低下する。尿素はいくつかのアミノ酸、特にアルギニンの代謝過程で形成されるものである。本発明は、アルギニンの単独使用は、モデルマウスの眼表面損傷を有意に改善できなかったが、フォリン酸と併用すると有意な改善効果があることを発見した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】様々なコンタクトレンズ装用者の涙中のIL-17の含有量である(*は、C群と比較して、pが0.05未満であることを示し、#は、B群と比較して、pが0.05未満であることを示す)。
図2】ドライアイモデルマウスの涙分泌試験である(*は、対照群と比較して、pが0.05未満であることを示す)。
図3】ドライアイモデルマウスの角膜染色試験である(*は、対照群と比較して、pが0.05未満であることを示す)。
図4】マウスの涙液分泌に対する5-メチルテトラヒドロ葉酸点眼剤の影響の調査である。
図5】マウスの眼表面損傷に対する5-メチルテトラヒドロ葉酸点眼剤の影響の調査である(*は、対照群と比較して、pが0.05未満であることを示す)。
図6】マウスの眼表面炎症性因子に対する5-メチルテトラヒドロ葉酸点眼剤の影響の調査である(*は、対照群と比較して、pが0.05未満であることを示す)。
図7】マウスの眼の三叉神経節におけるメタロプロテアーゼ、炎症性因子の発現に対する5-メチルテトラヒドロ葉酸点眼剤の影響の調査である(*は、対照群と比較して、pが0.05未満であることを示す)。
図8】マウスの涙液分泌に対するフォリン酸、フォリン酸とアルギニンとの組成物、及び5-メチルテトラヒドロ葉酸の点眼剤の影響の調査である。
図9】マウスの眼表面損傷に対するフォリン酸、フォリン酸とアルギニンとの組成物、及び5-メチルテトラヒドロ葉酸の点眼剤の影響の調査である(*は、対照群と比較して、pが0.05未満であることを示す)。
【実施例
【0022】
実施例1 コンタクトレンズ不快感の症状改善についての初期調査
コンタクトレンズの装用に不快感がある成人計10人が研究に参加し、そのうち、8人はコンタクトレンズ装用に不快感を感じていると述べ、2人は無症状のコンタクトレンズ装用者であった。参加者が装用したコンタクトレンズはいずれもシリコーンハイドロゲル型のコンタクトレンズである。参加者全員の健康状態が良好であり、眼部の不快感の症状及び重症度は眼表面疾患指数(OSDI)によって評価され、眼部に炎症等の症状があるか否かは検眼医によって検診された。
【0023】
研究参加者の平均年齢は33歳、標準偏差SDは11歳、男性3名、女性7名であり、検査した結果、参加者の中に典型的な眼部炎症状態にある者はいなかった。無症状のコンタクトレンズ装用者と比較して、症状のある装用者は光と風に敏感であるとフィードバックした(n=6,75%)。
【0024】
症状のあるコンタクトレンズ装用者をA群(n=4)とB群(n=4)の2群に分け、無症状のコンタクトレンズ装用者をC群にし、各群は24時間コンタクトレンズを装用せず、次いで、涙を収集した後、A群は、6S-5-メチルテトラヒドロ葉酸カルシウム5mg/錠を含むサプリメントを毎日服用し始めた。3日後、各群はコンタクトレンズを装用し始め、6時間後、各群の涙を収集し、IL-2、IL-6、IL-17、TNF-αの含有量を検出した(ELISA法)。各群を往診して、コンタクトレンズ装用時の不快程度を回答させた。
【0025】
統計分析の結果、A群では3人がコンタクトレンズ不快感がほとんど消えたと報告し、効果が顕著でないと報告した人は1人だけであった。炎症性因子に関しては、異なる群間の差異を検出して定量化することは困難であるが、IL-17はコンタクトレンズの不快感がある人と正常な人との間で差異が示されており、5-メチルテトラヒドロ葉酸は涙液中のIL-17のレベルを低減することができる(図1を参照)。
【0026】
実施例2 慢性ドライアイのマウスモデリング
ドライアイは、房水欠乏性ドライアイと蒸発性ドライアイに分類され、[Bron AJ,Yokoi N,Gafney E,Tiffany JM.Predicted phenotypes of dry eye:proposed consequences of its natural history.Ocul Surf.2009;7(2):78‐92.]には、典型的なドライアイの異なる進行が記載されている。蒸発性ドライアイの進行歴では、涙液層の脂質層の完全性が低下し、涙液の蒸発が増加し、これにより、浸透圧が上昇し、角膜神経終末が刺激され、ドライアイの症状が発症する。その結果、まばたきが多くなり、涙液分泌が代償的に増加する。眼表面の変化が涙液機能に影響を与える正確なメカニズムはまだ明確になっていないが、一部のドライアイ患者の進行過程において、涙液分泌が減少しないだけでなく増加し、人間の臨床観察においても明らかに矛盾した同様の結果が実証された。
【0027】
上述したように、ドライアイに適した動物モデルは非常に重要であり、涙腺破壊、又は高浸透塩水のみでモデリングすれば、ドライアイ又はコンタクトレンズ装用時の不快感の実際の状態を反映することはできない。特定の環境条件でドライアイのマウスモデルを作製することが、実際の状況に最も近い。
【0028】
8~12週齢のメスのBALB/cマウス120匹を、上部が開孔した隔離密閉ケージに入れ、無水CaSOで乾燥した空気をエアポンプを使用してケージ内にポッピングし、空気湿度をRH=19.5%±5%、流量を15L/分、温度を21~23℃にした。乾燥した風のある環境にいるマウスをそれぞれ5日目、15日目及び30日目に取り出し、フェノールレッド綿糸試験で産生した涙液を測り、正常な環境にある標準ケージに飼育されたマウスと比較する。同時に、マウスに対して角膜のフルオレセイン染色を行い、角膜を検査して点状染色を記録した。
【0029】
その結果、乾燥した環境ではマウスの涙液分泌が5日目に低下したが、30日目に涙液分泌が増加し、涙液が代償的に増加している可能性が示された。30日後、乾燥環境下のマウスを標準飼育ボックス(温度20℃程度、湿度40~60%)に移し、3ヶ月間飼育を続けた後、マウスを取り出し、涙液分泌の測定と角膜のフルオレセイン染色試験を行った。その結果、涙液分泌は正常に戻るか、又はそれ以上のマウスもいた(図2を参照)。
【0030】
角膜染色試験によると、涙液の分泌が回復してもマウスの角膜損傷は消失せず、マウスは持続的に低いレベルの角膜損傷を示した(図3を参照)。
【0031】
実施例3 慢性ドライアイモデルマウスに対する5-メチルテトラヒドロ葉酸の影響
【0032】
5-メチルテトラヒドロ葉酸点眼剤を調製するために、6S-5-メチルテトラヒドロ葉酸アルギニン塩の凍結乾燥粉末を精製水と混合し、0.5%濃度の5-メチルテトラヒドロ葉酸点眼剤として調製した。アルギニン塩酸塩を精製水と混合し、0.5%濃度に調製した。
【0033】
実験は3群に分けて行われ、実施例2の慢性ドライアイモデルマウス20匹を5-メチルテトラヒドロ葉酸群(A群,n=10)、アルギニン群(B群,n=10)に分け、正常マウス4匹を対照群とした。A群のマウスには毎日両眼それぞれに5-メチルテトラヒドロ葉酸点眼剤5μLを点眼し、B群のマウスには毎日両眼それぞれに0.5%アルギニン点眼剤5μLを点眼し、C群には毎日両眼それぞれにリン酸塩緩衝液5μLを点眼した。治療後の3、5、7及び10日目に、それぞれ涙液を収集し、涙液分泌を検出し、治療後の10日目に、各群のマウスに対して角膜のフルオレセイン染色を行った。
【0034】
治療終了後、動物を安楽死させ、角膜、涙腺及びマイボーム腺等の眼部組織を摘出し、PBSで洗浄し、角膜、結膜及び流入領域リンパ節を収集し、-80℃の冷滅菌PBSに保存し、試料を氷上で均質化して遠心分離し、上清中のIFN-γ、IL-17、IL-6のレベルをELISAキット(Raybiotech)を使用して測定した。
【0035】
マウスの眼の同一側の三叉神経節及び三叉神経幹を取って氷上で迅速に解剖した後、直ちに液体窒素で凍結させ、-80℃で保存し、NucleoSpin RNA Purification II キット(NucleoSpin RNA S,ドイツ)を使用して同一側の三叉神経節及び三叉神経幹からRNAを抽出し、マトリックスメタロプロテアーゼMMP-9、MMP-2、TNF-αを標的とするマウスの特異的cDNAでPCR増幅した。PCR産物が増幅曲線の線形範囲内にあるように、各プライマーについて、24、28、32、36及び40サイクルの間隔後で反応を終了し、関連遺伝子の発現の半定量的RT-PCRを実現する。
【0036】
その結果、各群のマウスの眼の涙液分泌に有意な差がないことが示されたが(図4を参照)、フルオレセイン染色を行った結果、5-メチルテトラヒドロ葉酸は角膜の損傷を改善できることが示され、ベースライン状態と比較して有意な差がみられた(図5を参照)。眼表面及びリンパ節の結果から、当該モデルの慢性ドライアイの炎症性因子の発現が誘導されていないことが示され、それはおそらく、眼表面に常在する免疫細胞が刺激を受けた後でのみ有意な差が示されるからである。しかし、IL-17は大きな差を示し(図6を参照)、それはおそらくIL-17を発現するTh17細胞が慢性ドライアイの眼表面に常在するからである。本発明は、5-メチルテトラヒドロ葉酸点眼剤がIL-17炎症性因子を有意に低減できることを発見し、これは上記実験結果と一致する。
【0037】
本発明はさらに、ドライアイの三叉神経に関連する炎症性遺伝子の発現を調査した(図7を参照)。その結果、5-メチルテトラヒドロ葉酸点眼剤はMMP-2の遺伝子発現を有意に抑制することができ、TNF-αに対しても一定の抑制効果を示したが、MMP-9の抑制が顕著ではないことを発見した。神経細胞におけるメタロプロテアーゼの発現が神経痛を媒介することは既に報告されており、MMP-9は損傷時の初期の痛みを媒介するのに対し、MMP-2はより慢性痛に関係しているという予想外の結果が得られた。それはおそらく、5-メチルテトラヒドロ葉酸には房水循環バリアを通って神経システムに直接作用する機能があるからである。
【0038】
実施例4 慢性ドライアイモデルマウスに対するフォリン酸の影響
5-メチルテトラヒドロ葉酸アルギニン塩は水溶液での安定性が非常に低い。このため、ドライアイモデルマウスに対するレボフォリン酸の治療可能性を検証する必要がある。レボホリナートカルシウム100mgを精製水20mLに溶解し、ホリナートカルシウム点眼剤として調製した。6S-5-メチルテトラヒドロ葉酸アルギニン塩の凍結乾燥粉末を精製水と混合し、0.5%の点眼剤として調製した。レボホリナートカルシウム100mg、アルギニン塩酸塩80mg、及び精製水20mlを複合型点眼剤として調製した。
【0039】
実験は4群に分けて行われ、実施例2の慢性ドライアイモデルマウス40匹を、レボフォリン酸群(A群,n=10)、5-メチルテトラヒドロ葉酸群(B群,n=10)、レボホリナートカルシウムとアルギニンの併用群(C群,n=10)、対照群のリン酸塩緩衝液群(D群,n=10)に分けた。治療後の3、5、7及び10日目に、それぞれ涙液を収集し、涙液分泌を検出し、治療後の10日目に、各群のマウスに対して角膜のフルオレセイン染色を行った。その結果、各群のマウスの眼の涙液分泌に有意な差がないことが示された(図8参照)。フルオレセイン染色を行った結果、レボホリナートカルシウムとアルギニンとの組成物、及び5-メチルテトラヒドロ葉酸アルギニン塩が角膜の損傷を有意に改善できることが示され、ベースライン状態と比較して有意な差がみられた(図9を参照)。データは、レボフォリン酸とアルギニンの併用がドライアイを緩和する新しい方法となり得る可能性を示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-03-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライアイ又はコンタクトレンズ装用時の不快症状を治療する薬物又は保健食品の製造における、一般式Iに記載の化合物の使用。
【化1】
式中、Rはメチル基又はホルミル基から選択され、Xは、6S-5-メチルテトラヒドロ葉酸又はレボフォリン酸と薬学的に許容可能な塩を形成できる物質であり、前記Xはカルシウムイオン、ナトリウムイオン、有機アミン、又はグルコサミンである
【請求項2】
前記Xは有機アミンであり、前記有機アミンはアルギニンイオンである、請求項1に記載の使用
【請求項3】
前記ドライアイは蒸発性ドライアイである、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記ドライアイは蒸発性ドライアイである、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
前記薬物はドライアイ治療用点眼剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記点眼剤は、薬学的に使用可能な添加剤を含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記点眼剤はアルギニンを含む請求項5に記載の使用。
【請求項8】
前記点眼剤は、眼表面炎症性因子の発現による炎症を抑え、眼の三叉神経節のメタロプロテアーゼMMP-2、TNF-αの発現による神経炎及び神経痛を抑えるために用いることができる、請求項5に記載の使用。
【請求項9】
前記コンタクトレンズ装用時の不快症状は、目の乾燥、痛み、異物感、及び痒みを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記薬物又は保健食品は、眼表面炎症性因子の発現による炎症を抑え、眼の三叉神経節のメタロプロテアーゼMMP-2、TNF-αの発現による神経炎及び神経痛を抑えることができる、請求項8に記載の使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
本発明は、一般式Iに記載の化合物の、ドライアイを治療する又はコンタクトレンズ装用時の不快を緩和する薬物又は保健食品の製造における使用を提供する。
【化1】
式中、Rはメチル基又はホルミル基から選択され、Xは、6S-5-メチルテトラヒドロ葉酸又はレボフォリン酸と薬学的に許容可能な塩を形成できる物質であり、Xは、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、有機アミン、又はグルコサミンであり、Xは好ましくはアルギニンイオンである
【国際調査報告】