(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】凝固性をベースとする個別化処置(CPT)システム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/86 20060101AFI20240628BHJP
G16H 10/40 20180101ALI20240628BHJP
【FI】
G01N33/86
G16H10/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579403
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2022068005
(87)【国際公開番号】W WO2023275213
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523480912
【氏名又は名称】パン、サン
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パン、サン
【テーマコード(参考)】
2G045
5L099
【Fターム(参考)】
2G045AA10
2G045CA27
2G045DA20
2G045DA40
2G045DA41
2G045JA01
5L099AA03
(57)【要約】
本発明は、血液試料の凝固性をモデル化するための方法であって、凝固性に対する免疫系および血液凝固系の生物学的活性の直接的効果によって、血液試料の凝固性を決定する工程または既知の凝固性を有する血液試料を準備する工程と;健康状態ならびに血栓症および/または出血の危険因子を決定し、前記それぞれの試料を提供したドナーに帰属させる工程と;炎症ならびに/または血栓症および/もしくは出血のリスクを軽減するために、前記血液試料に対する抗炎症薬、抗凝固薬を含む1つまたは複数の薬物の薬力学的効果および対応する治療域を決定する工程と;抗凝固薬を含む薬物を伴う最も効果的な治療戦略を前記血液試料に投与した後の血液試料の凝固性をモデル化する工程とを含む、方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を分類するための方法であって、
a)入力データを決定または検索する工程であって、前記入力データは、
i)凝固性バイオマーカーであって、前記凝固性バイオマーカーは少なくとも2つの異なるアッセイによって対象の血液試料において決定される、凝固性バイオマーカーと;
ii)患者/患畜背景情報と
を含む、工程と;
b)前記入力データをリスクおよび/または状態基準パターンと比較する工程であって、前記リスクおよび/または状態基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、以前に炎症事象および/または凝固調節不全事象を有していたことがある、工程と;
c)b)において得られた比較に基づいて、炎症事象および/または凝固調節不全事象についての前記対象の前記リスクおよび/または状態を分類する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記アッセイが、血餅ベースのフィブリノーゲン試験と酵素ベースのフィブリノーゲン試験との組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酵素ベースのフィブリノーゲン試験が、血餅非依存性の、酵素ベースのフィブリノーゲン試験である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記血餅ベースのフィブリノーゲン試験が、プロトロンビン時間(PT)の決定、部分トロンボプラスチン時間(PTT)の決定およびクラウス試験から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素ベースのフィブリノーゲン試験がセリンエンドペプチダーゼによる触媒的切断を伴う、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素ベースのフィブリノーゲン試験が、ヘビ毒セリンエンドペプチダーゼによる、好ましくはベノンビンAによるフィブリノーゲンの触媒的切断を伴う、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料中の前記フィブリノーゲンのレベルに反比例するセリンエンドペプチダーゼのタンパク質分解活性を測定することを含む、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記患者/患畜背景情報が、体重、性別、年齢および腎機能を含むか、または体重、性別、年齢および腎機能からなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記リスクおよび/または状態基準パターンが、基準対象のデータセットに対して訓練することによって得られた機械学習モデルであり、前記入力データをリスクおよび/または状態基準パターンと比較する工程が、前記入力データを前記機械学習モデルに入力することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
炎症事象および/または凝固調節不全事象に関して前記対象のリスクおよび/または状態を分類する工程が、血栓症および/または出血についての対象のリスクおよび/または状態を分類することである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を予測するための方法であって、
a)i)第1の時点で、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法に従って炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を分類する工程と;
ii)第2の時点で前記対象の血液試料の凝固性バイオマーカーを決定または検索する工程であって、前記凝固性バイオマーカーは、少なくとも2つの異なるアッセイによって前記対象の前記血液試料において決定される、工程と
によって、リスクおよび/または状態進行指標を決定する工程と;
b)前記リスクおよび/または状態進行指標を予測基準パターンと比較する工程であって、前記予測基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、炎症事象および/または凝固調節不全事象を以前に有していたことがあり、ならびに前記基準対象の前記リスクおよび/または状態進行は既知である、工程と;
c)(b)において得られた比較に基づいて対象の前記リスクおよび/または状態を予測する工程と
を含む、方法。
【請求項12】
前記予測基準パターンが、基準対象のデータセットに対して訓練することによって得られた機械学習モデルであり、ならびに前記リスクおよび/または状態進行指標を予測基準パターンと比較する工程が、前記入力データを前記機械学習モデルに入力することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
処置中の炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象の処置応答を監視するための方法であって、
a)i)第1の時点で、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法に従って、炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を分類する工程と;
ii)少なくとも1つの第2の時点で、前記対象の血液試料の凝固性バイオマーカーを決定または検索する工程であって、前記凝固性バイオマーカーは、少なくとも2つの異なるアッセイによって前記対象の前記血液試料において決定される、工程と;
iii)1.)抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物および/または抗凝固化合物の投与時点であって、前記投与時点は前記第1の時点と前記第2の時点との間にある、投与時点;好ましくは、前記抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物および/または抗凝固化合物の前記投与時点および投与された量と;
2.)薬力学的応答であって、前記薬力学的応答は、少なくとも、前記第1の時点での前記凝固性バイオマーカー、前記第2の時点での前記凝固性バイオマーカーおよび前記投与時点に基づいて計算され、前記薬力学的応答は、少なくとも、前記第1の時点での前記凝固性バイオマーカー、前記第2の時点での前記凝固性バイオマーカー、前記投与時点および前記投与された量に基づいて計算される、薬力学的応答と;
によって処置進行指標を決定する工程と;
b)前記処置進行指標を処置応答基準パターンと比較する工程であって、前記予測基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物による処置を以前に受け、ならびに前記基準対象の前記処置応答が既知である、工程と;
c)(b)において得られた比較に基づいて対象の処置応答を監視する工程と
を含む、方法。
【請求項14】
前記処置応答基準パターンが、基準対象のデータセットに対して訓練することによって得られた機械学習モデルであり、および前記処置進行指標を処置応答基準パターンと比較することが、前記機械学習モデルに前記処置進行指標を入力することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法に従って炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクおよび/もしくは状態があると分類された、ならびに/または請求項11もしくは12に記載の方法に従って炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクおよび/または状態を生じると予測された対象の処置において使用するための抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物。
【請求項16】
炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクを軽減させることならびに/または炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象の状態を改善することを必要としている対象において、炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクを軽減させるためのならびに/または炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象の状態を改善するための処置の方法であって、
a)請求項13~14のいずれか一項に記載の方法に従った前記処置応答の監視の間に、治療有効量の第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物を投与することを必要としている対象に、治療有効量の第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物を投与する工程と;
b)前記第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物に対する前記処置応答が請求項13~14のいずれか一項に記載の方法に従って不十分である場合、第2の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物を投与することを必要とする対象に、第2の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物を投与し、前記第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物に対する前記処置応答が、炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクを軽減させることならびに/または炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象の状態を改善することを必要としている前記対象において、請求項13~14のいずれか一項に記載の方法に従って、炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクを軽減させるためにならびに/または炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象の状態を改善するために十分である場合、前記第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物での治療を進める工程と
を含む、方法。
【請求項17】
前記化合物が、ビタミンK拮抗薬、特にフルインジオン、ワルファリンまたはクマリン、直接トロンビン阻害剤、特にダビガトラン、アルガトロバンまたはヒルジンおよび直接FXa阻害剤、特にリバーロキサバン、エドキサバン、アピキサバン、ヘパリンまたはヘパリン様薬物からなる群から選択される化合物である、請求項13~14のいずれか一項に記載の方法、請求項15に記載の使用のための化合物または請求項16に記載の処置の方法。
【請求項18】
前記化合物が、非ステロイド性抗炎症薬、コルチコステロイド、ラパマイシン、高密度リポタンパク質、HDL-コレステロールを上昇させる化合物、rho-キナーゼ阻害剤、抗マラリア剤、アセトアミノフェン、グルココルチコイド、ステロイド、β-アゴニスト、抗コリン剤、キサンチン誘導体、スルファサラジン、ペニシラミン、抗血管新生剤、ダプソン、ソラレン、抗TNF剤、抗IL-1剤およびスタチンからなる群から選択される化合物である、請求項13~14のいずれか一項に記載の方法、請求項15に記載の使用のための化合物または請求項16に記載の処置の方法。
【請求項19】
前記化合物が、不可逆的シクロオキシゲナーゼ阻害剤、アデノシン二リン酸(ADP)受容体阻害剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロテアーゼ活性化受容体-1(PAR-1)遮断薬、糖タンパク質IIB/IIIA阻害剤、アデノシン再取り込み阻害剤、ジピリダモール、トロンボキサン阻害剤およびトロンボキサン受容体遮断薬からなる群から選択される化合物である、請求項13~14のいずれか一項に記載の方法、請求項15に記載の使用のための化合物または請求項16に記載の処置の方法。
【請求項20】
前記化合物が、凝固を促進するおよび/または出血を低下させる凝固因子、好ましくは、FVIII濃縮物、アルファネート(Alphanate)、フメート(Humate)-P、ノボセブン、イロクテイト、ファイバ、プロトロンビン複合体、ヘムライブラおよびトラネキサム酸からなる群から選択される化合物である、請求項13~14のいずれか一項に記載の方法、請求項15に記載の使用のための化合物または請求項16に記載の処置の方法。
【請求項21】
請求項1~14、17~20のいずれか一項に記載の方法を実行するためのコンピュータ可読プログラム命令を備える記憶装置。
【請求項22】
請求項21に記載の記憶装置と、前記コンピュータ可読プログラム命令を実行するための少なくとも1つの処理装置と、前記入力データを受け取るためのネットワーク接続とを備える、サーバ。
【請求項23】
処置応答を分類、予測および/または監視するためのシステムであって、
a)血液試料を受け取るための容器と、凝固性バイオマーカーを決定するための試薬とを備える測定装置であって、前記凝固性バイオマーカーは、少なくとも2つの異なるアッセイによって前記血液試料において決定される、測定装置と;
b)請求項21に記載の記憶装置および/またはサーバへのネットワーク接続を備える、前記コンピュータ可読プログラム命令を実行するための処理装置であって、前記サーバは、請求項22に記載のサーバである、処理装置と;
c)入力および/または検索可能性であって、前記入力および/または検索可能性は、前記サーバおよび/または前記処理装置が前記患者/患畜背景情報にアクセスすることを可能にする、入力および/または検索可能性と
を備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液試料の凝固性をモデル化するための方法であって、凝固性に対する免疫系および血液凝固系の生物学的活性の直接的効果によって、血液試料の凝固性を決定する工程または既知の凝固性を有する血液試料を準備する工程と;健康状態ならびに血栓症および/または出血の危険因子を決定し、前記それぞれの試料を提供したドナーに帰属させる工程と;炎症ならびに/または血栓症および/もしくは出血のリスクを軽減するために、抗炎症薬、抗凝固薬を含む薬物の薬力学的効果および対応する治療域を決定する工程と;抗凝固薬を含む薬物を伴う最も効果的な治療戦略を投与した後の血液試料の凝固性をモデル化する工程とを含む、方法を提供する。本発明は、免疫系および/または血液凝固系の望ましくない活性に起因する病的炎症ならびに/または血栓症および/もしくは出血の増加したリスクを有する患者/患畜の個別化薬物処置レジメンを提供するための方法であって、前記患者/患畜の血液試料の凝固性を決定する工程または前記患者/患畜についての既知の凝固性値を提供する工程と;本明細書で提供される凝固性のモデルに基づいて個別化薬物処置レジメンを提供する工程とを含む方法も提供する。この個人的健康状態評価および個別化処置システムは、他のパラメータからの寄与を除外することなく、主要パラメータの1つとして凝固性を利用する。
【背景技術】
【0002】
血栓症の処置および/または予防のための薬理学的治療薬は、世界中で最も頻繁に処方される医薬品の一部である。これらの医薬品は抗凝固薬と呼ばれ、凝固時間を延長することによって血液の凝固を防止および/または低減する抗血栓薬である。これらの薬物は、心血管症状、癌、脳卒中、敗血症などの状況で使用される。
【0003】
ビタミンK拮抗薬は、一例として、最も一般的に処方される抗血栓薬の群に属し、50年超にわたって使用されている(Zirlik and Bode 2016)。このような薬物は、例えば、フルインジオン、ワルファリンまたはクマリンである。これらの薬物の投与量は、通常、PT/INR(プロトロンビン時間/国際標準化比)凝固アッセイに基づく。PT/INRは、しばらく薬物を与えられた患者の血漿中で決定される。このアッセイは、ビタミンK拮抗薬の投与量を一般化し、個体レベルでの差、インビボの生化学的および生理学的特性、または正確な投与量要件に関する出力を一切提供しない。
【0004】
他のタイプの抗凝固薬は、直接トロンビン阻害剤(DTI)であり、経口(例えば、ダビガトラン)または静脈内注入/注射(例えば、アルガトロバン、ヒルジン)を介して投与することができる。直接トロンビン阻害剤は、十分な親和性および特異性で凝固因子トロンビンを標的とする小さな化学物質、より大きなペプチドまたはペプチド様化合物であり得る。DTIの阻害効果は、薬物濃度が増加し、薬物摂取直後にピークに達するように、吸収、分布、代謝および排泄のために日々変動している。血漿中の薬物濃度は、腎臓および他の経路を通じた薬物排出によって減少する。さらに、リバーロキサバン、エドキサバン、アピキサバン、ヘパリンまたはヘパリン様薬物などの経口投与される直接FXa阻害剤(DXaI)は、凝固因子FXaを標的とする小さな化学化合物である。しかしながら、凝固を遅延させることに対するビタミンK拮抗薬の阻害効果は、DTIおよびDXaIより持続性があるか、またはより長く持続する。たとえ、血漿中での延長された凝固プロセスが処方された薬物投与量を使用して減速されたとしても、依然として血栓症が生じるので、処置はむしろ偶然的である。さらに、抗血栓薬の過剰使用の場合には、出血事象が増加する。
【0005】
さらに、多くの患者は、単一の抗凝固処置のみで処置されているわけではない。ほとんどの患者は、抗血小板薬、抗炎症薬、薬物メタボライザー調節薬、抗高血圧薬、細胞トランスポーター調節薬などの多くの他の薬物タイプを処方されている。これらの薬物-薬物相互作用は全て一般的であり、多剤処置の薬物動態中の各時点における正味の効果はブラックボックスである。例えば、抗血小板処置および抗凝固処置の組み合わせは、単剤処置と比較して出血の増加したリスクを有し、他方、単剤処置は、ある種の個体に対して血栓症のリスクを増加させる。一般的な抗血栓処置レジメンの一例として、抗血小板/抗炎症薬(例えば、アスピリン)を抗凝固薬と組み合わせて使用すると、大出血のリスクが少なくとも2倍増加する。
【0006】
したがって、血栓症の処置および/または予防のために現在使用されている抗凝固薬の処方の問題は、抗凝固薬の管理が経験的であり、集団研究から推定されることである。さらに、一般的に処方されるレジメンを受けている患者は、抗凝固処置が行われている間に、生命を脅かす血栓症または軽度から生命を脅かす性質までの出血になお苦しんでいる。
【0007】
精密医療は、患者の生物学、環境および生活様式の個人差を含む、疾患の予防、診断、処置および監視のためのアプローチである。患者のバイオマーカーデータおよび診断アッセイは、医師が患者に対する適切な処置を特定し、患者の疾患を監視するのを助けることによってヘルスケアの意思決定を推進する。その上、精密医療におけるバイオマーカーおよび付随する診断法は、臨床試験の設計および実行を促進し、薬物開発を加速し、初期パイプライン選択の設計について情報を与えることによって、製薬会社のパイプラインを支援する。重要な問題は、信頼できるバイオマーカーの診断法を利用できることである。
【0008】
免疫系および血液凝固系は互いに緊密に結び付いており、例えば、血液凝固系の活性化において自己免疫による慢性炎症の活性化を観察することができるので、凝固性バイオマーカーは、免疫系および血液凝固系の両方の状態を示すことができる新規なバイオマーカーである。本特許に記載されている主要な薬物処置類型の1つとして抗凝固薬を例示し得、免疫系および血液凝固系が関与する多くの疾患は、個別化された健康評価を考案するために、したがって、単一および/または併用抗血栓処置の場合の出血および血栓症などの副作用が軽減され、処置の有効性が増大した個別化処置レジメンを考案するために、他のパラメータと組み合わせて、このようなバイオマーカーをパラメータとして利用することができる。
【0009】
したがって、当技術分野では、抗血栓処置の例におけるように、血栓症および/または出血のリスクを軽減するための患者特異的処置選択肢を提供することが必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を分類するための方法であって、
a)入力データを決定または検索する工程であって、前記入力データは、
i)凝固性バイオマーカーであって、前記凝固性バイオマーカーは少なくとも2つの異なるアッセイによって対象の血液試料において決定される、凝固性バイオマーカーと;
ii)患者/患畜背景情報と
を含む、工程と;
b)前記入力データをリスクおよび/または状態基準パターンと比較する工程であって、前記リスクおよび/または状態基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、以前に炎症事象および/または凝固調節不全事象を有していたことがある、工程と;
c)(b)において得られた比較に基づいて、炎症事象および/または凝固調節不全事象についての前記対象の前記リスクおよび/または状態を分類する工程と
を含む、方法に関する。
【0011】
本発明者らは、驚くべきことに、抗凝固処置の前および後に、凝固またはトロンビン活性を追跡するために新規バイオマーカーである凝固性を使用すること、およびこのバイオマーカーを測定することによって、血栓症および/または出血のリスクを軽減させる患者/患畜特異的抗凝固および抗出血処置を提供する可能性がもたらされることを見出した。前のセクションで既に示したように、疾患中に免疫および凝固系がどの程度活性であるかの指標であるこのバイオマーカーは、いずれかまたは両方の系に対して効果を有する薬学的処置に応答する。本特許は、主に、抗凝固薬の使用およびこのバイオマーカーに対するその薬力学的効果を例示する。したがって、本発明は、抗凝固薬の個別化された正確な投与量を処方し、これにより投薬レジメンを改善することによって、新規バイオマーカーに基づく個別化された計算解を提供する。さらに、驚くべきことに、この診断試験は自動化された血液学機器によって採用され得るので、患者/患畜の個別化された処置を導くために凝固性の測定を容易に適用することができることが見出された。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、患者/患畜の個別化された抗凝固および抗出血処置レジメンを提供するための方法であって、
(a)前記患者/患畜の血液試料の凝固性を決定する工程または前記患者/患畜についての既知の凝固性値を提供する工程と;
(b)本発明の方法によって得られた凝固性のモデルに基づいて個別化された抗凝固および抗出血処置レジメンを提供する工程と
を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載されている方法および材料と類似または同等の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により組み入れられる。本明細書において論じられている刊行物および出願は、本出願の出願日より前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明によってそのような刊行物に先行する権利がないことの承認として解釈されるべきではない。さらに、材料、方法および例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0014】
矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先する。特許請求の範囲において、「を含む」という語は他の要素または工程を除外せず、不定冠詞「a」または「an」は複数を除外しない。単一のユニットが、特許請求の範囲に記載されているいくつかの特徴の機能を果たし得る。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書で使用される場合、「および/または」は、いずれか一方または両方の選択肢を意味すると理解されるべきである。
【0015】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本明細書の主題が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、以下の定義は、特定の態様を説明する目的でのみ本明細書に提供されており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0016】
したがって、本発明は、とりわけ、以下の態様に関する。
1.炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を分類するための方法であって、
a)入力データを決定または検索する工程であって、前記入力データは、
i)凝固性バイオマーカーであって、前記凝固性バイオマーカーは少なくとも2つの異なるアッセイによって対象の血液試料において決定される、凝固性バイオマーカーと;
ii)患者/患畜背景情報と
を含む、工程と;
b)前記入力データをリスクおよび/または状態基準パターンと比較する工程であって、前記リスクおよび/または状態基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、以前に炎症事象および/または凝固調節不全事象を有していたことがある、工程と;
c)(b)において得られた比較に基づいて、炎症事象および/または凝固調節不全事象についての前記対象の前記リスクおよび/または状態を分類する工程と
を含む、方法。
2.前記アッセイが、血餅ベースのフィブリノーゲン試験と酵素ベースのフィブリノーゲン試験との組み合わせである、態様1に記載の方法。
3.前記酵素ベースのフィブリノーゲン試験が、血餅非依存性の、酵素ベースのフィブリノーゲン試験である、態様2に記載の方法。
4.前記血餅ベースのフィブリノーゲン試験が、プロトロンビン時間(PT)の決定、部分トロンボプラスチン時間(PTT)の決定およびクラウス試験から選択される、態様2に記載の方法。
5.前記酵素ベースのフィブリノーゲン試験がセリンエンドペプチダーゼによる触媒的切断を伴う、態様2~4のいずれか1つに記載の方法。
6.前記酵素ベースのフィブリノーゲン試験が、ヘビ毒セリンエンドペプチダーゼによる、好ましくはベノンビンAによるフィブリノーゲンの触媒的切断を伴う、態様2~5のいずれか1つに記載の方法。
7.前記試料中のフィブリノーゲンレベルに反比例するセリンエンドペプチダーゼのタンパク質分解活性を測定することを含む、態様2~6のいずれか1つに記載の方法。
8.前記患者/患畜背景情報が、体重、性別、年齢および腎機能を含むか、または体重、性別、年齢および腎機能からなる、態様1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.前記リスクおよび/または状態基準パターンが、基準対象のデータセットに対して訓練することによって得られた機械学習モデルであり、前記入力データをリスクおよび/または状態基準パターンと比較する工程が、前記入力データを前記機械学習モデルに入力することを含む、態様1~8のいずれか1つに記載の方法。
10.炎症事象および/または凝固調節不全事象に関して前記対象のリスクおよび/または状態を分類する工程が、血栓症および/または出血についての対象のリスクおよび/または状態を分類することである、態様1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を予測するための方法であって、
a)i)第1の時点で、態様1~10のいずれか1つに記載の方法に従って炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を分類する工程と;
ii)第2の時点で前記対象の血液試料の凝固性バイオマーカーを決定または検索する工程であって、前記凝固性バイオマーカーは、少なくとも2つの異なるアッセイによって前記対象の前記血液試料において決定される、工程と
によって、リスクおよび/または状態進行指標を決定する工程と;
b)前記リスクおよび/または状態進行指標を予測基準パターンと比較する工程であって、前記予測基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、炎症事象および/または凝固調節不全事象を以前に有していたことがあり、ならびに前記基準対象の前記リスクおよび/または状態進行は既知である、工程と;
c)(b)において得られた比較に基づいて対象の前記リスクおよび/または状態を予測する工程と
を含む、方法。
12.前記予測基準パターンが、基準対象のデータセットに対して訓練することによって得られた機械学習モデルであり、ならびに前記リスクおよび/または状態進行指標を予測基準パターンと比較する工程が、前記入力データを前記機械学習モデルに入力することを含む、態様11に記載の方法。
13.処置中の炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象の処置応答を監視するための方法であって、
a)i)第1の時点で、態様1~10のいずれか1つの方法に従って、炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を分類する工程と;
ii)少なくとも1つの第2の時点で、前記対象の血液試料の凝固性バイオマーカーを決定または検索する工程であって、前記凝固性バイオマーカーは、少なくとも2つの異なるアッセイによって前記対象の前記血液試料において決定される、工程と;
iii)1.)前記抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物および/または抗凝固化合物の投与時点であって、前記投与時点は前記第1の時点と前記第2の時点との間にある、投与時点;好ましくは、前記抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物および/または抗凝固化合物の前記投与時点および投与された量と;
2.)薬力学的応答であって、前記薬力学的応答は、少なくとも、前記第1の時点での前記凝固性バイオマーカー、前記第2の時点での前記凝固性バイオマーカーおよび前記投与時点に基づいて計算され、前記薬力学的応答は、少なくとも、前記第1の時点での前記凝固性バイオマーカー、前記第2の時点での前記凝固性バイオマーカー、前記投与時点および前記投与された量に基づいて計算される、薬力学的応答と;
によって処置進行指標を決定する工程と;
b)前記処置進行指標を処置応答基準パターンと比較する工程であって、前記予測基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物による処置を以前に受け、ならびに前記基準対象の前記処置応答が既知である、工程と;
c)(b)において得られた比較に基づいて対象の処置応答を監視する工程と
を含む、方法。
14.前記処置応答基準パターンが、基準対象のデータセットに対して訓練することによって得られた機械学習モデルであり、および前記処置進行指標を処置応答基準パターンと比較することが、前記機械学習モデルに前記処置進行指標を入力することを含む、態様13に記載の方法。
15.態様1~10のいずれか1つに記載の方法に従って炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクおよび/もしくは状態があると分類された、ならびに/または態様11もしくは12に記載の方法に従って炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクおよび/または状態を生じると予測された対象の処置において使用するための抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物。
16.炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクを軽減させることならびに/または炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象の状態を改善することを必要としている対象において、炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクを軽減させるためのならびに/または炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象の状態を改善するための処置の方法であって、
a)態様13~14のいずれか1つに記載の方法に従った前記処置応答の監視の間に、治療有効量の第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物を投与することを必要としている対象に、治療有効量の第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物を投与する工程と;
b)前記第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物に対する前記処置応答が態様13~14のいずれか1つに記載の方法に従って不十分である場合、第2の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物を投与することを必要とする対象に、第2の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物を投与し、前記第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物に対する前記処置応答が、炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクを軽減させることならびに/または炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象の状態を改善することを必要としている前記対象において、態様13~14のいずれか1つに記載の方法に従って、炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象のリスクを軽減させるためにならびに/または炎症事象および/もしくは凝固調節不全事象の状態を改善するために十分である場合、前記第1の抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物での治療を進める工程と
を含む、方法。
17.前記化合物が、ビタミンK拮抗薬、特にフルインジオン、ワルファリンまたはクマリン、直接トロンビン阻害剤、特にダビガトラン、アルガトロバンまたはヒルジンおよび直接FXa阻害剤、特にリバーロキサバン、エドキサバン、アピキサバン、ヘパリンまたはヘパリン様薬物からなる群から選択される化合物である、態様13~14のいずれか1つに記載の方法、態様15に記載の使用のための化合物または態様16に記載の処置の方法。
18.前記化合物が、非ステロイド性抗炎症薬、コルチコステロイド、ラパマイシン、高密度リポタンパク質、HDL-コレステロールを上昇させる化合物、rho-キナーゼ阻害剤、抗マラリア剤、アセトアミノフェン、グルココルチコイド、ステロイド、β-アゴニスト、抗コリン剤、キサンチン誘導体、スルファサラジン、ペニシラミン、抗血管新生剤、ダプソン、ソラレン、抗TNF剤、抗IL-1剤およびスタチンからなる群から選択される化合物である、態様13~14のいずれか1つに記載の方法、態様15に記載の使用のための化合物または態様16に記載の処置の方法。
19.前記化合物が、不可逆的シクロオキシゲナーゼ阻害剤、アデノシン二リン酸(ADP)受容体阻害剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロテアーゼ活性化受容体-1(PAR-1)遮断薬、糖タンパク質IIB/IIIA阻害剤、アデノシン再取り込み阻害剤、ジピリダモール、トロンボキサン阻害剤およびトロンボキサン受容体遮断薬からなる群から選択される化合物である、態様13~14のいずれか1つに記載の方法、態様15に記載の使用のための化合物または態様16に記載の処置の方法。
20.前記化合物が、凝固を促進するおよび/または出血を低下させる凝固因子、好ましくは、FVIII濃縮物、アルファネート(Alphanate)、フメート(Humate)-P、ノボセブン、イロクテイト、ファイバ、プロトロンビン複合体、ヘムライブラおよびトラネキサム酸からなる群から選択される化合物である、態様13~14のいずれか1つに記載の方法、態様15に記載の使用のための化合物または態様16に記載の処置の方法。
21.態様1~14、17~20のいずれか1つに記載の方法を実行するためのコンピュータ可読プログラム命令を備える記憶装置。
22.態様21の記憶装置と、前記コンピュータ可読プログラム命令を実行するための少なくとも1つの処理装置と、前記入力データを受け取るためのネットワーク接続とを備える、サーバ。
23.処置応答を分類、予測および/または監視するためのシステムであって、
a)血液試料を受け取るための容器と、凝固性バイオマーカーを決定するための試薬とを備える測定装置であって、前記凝固性バイオマーカーは、少なくとも2つの異なるアッセイによって前記血液試料において決定される、測定装置と;
b)態様21の記憶装置および/またはサーバへのネットワーク接続を備える、前記コンピュータ可読プログラム命令を実行するための処理装置であって、前記サーバは、態様22に記載のサーバである、処理装置と;
c)入力および/または検索可能性であって、前記入力および/または検索可能性は、前記サーバおよび/または前記処理装置が前記患者/患畜背景情報にアクセスすることを可能にする、入力および/または検索可能性と
を備える、システム。
【0017】
したがって、一態様において、本発明は、炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を分類するための方法であって、
a)入力データを決定または検索する工程であって、前記入力データは、i)凝固性バイオマーカーであって、前記凝固性バイオマーカーは少なくとも2つの異なるアッセイによって対象の血液試料において決定される、凝固性バイオマーカーと;ii)患者/患畜背景情報とを含む、工程と;
b)前記入力データをリスクおよび/または状態基準パターンと比較する工程であって、前記リスクおよび/または状態基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、以前に炎症事象および/または凝固調節不全事象を有していたことがある、工程と;
c)(b)において得られた比較に基づいて、炎症事象および/または凝固調節不全事象についての前記対象の前記リスクおよび/または状態を分類する工程と
を含む、方法に関する。
【0018】
本明細書で使用される「炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態」という用語は、免疫系、血小板系および/または凝固系の調節不全に際して起こる事象を示す任意の尺度またはカテゴリーを指す。いくつかの態様において、本明細書中に記載されている炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態は、急性炎症、慢性低悪性度炎症、心血管事象および出血からなる群から選択される少なくとも1つのリスクおよび/または状態を示すカテゴリーまたは尺度である。いくつかの態様において、本明細書に記載されている炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態は、血栓症、脳卒中、狭心症、心筋梗塞出血からなる群から選択される少なくとも1つのリスクおよび/または状態を示すカテゴリーまたは尺度である。いくつかの態様において、本明細書に記載されている血栓症は、血栓塞栓性疾患または静脈血栓症である。
【0019】
本明細書で使用される「凝固性バイオマーカー」という用語は、少なくとも2つの異なるアッセイによって決定され、凝固性を示すバイオマーカーを指す。いくつかの態様において、本明細書に記載されている凝固性バイオマーカーを決定するためのアッセイの少なくとも1つは、酵素ベースのフィブリノーゲン試験であり、好ましくは酵素ベースのフィブリノーゲン試験は、セリンエンドペプチダーゼによる触媒的切断および/またはヘビ毒セリンエンドペプチダーゼによる、好ましくはベノンビンAによるフィブリノーゲンの触媒的切断を伴う。
【0020】
本明細書で使用される「患者/患畜背景情報」という用語は、凝固性バイオマーカーではない任意の患者情報を指す。いくつかの態様において、患者/患畜背景情報は、病歴、ワクチン接種状態、肝機能、身長、BMI、感染状態、処置歴、遺伝子型、メタボライザーの種類、現在の処置、体重、性別、年齢、血圧および腎機能からなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つまたは少なくとも4つである。いくつかの態様において、患者/患畜背景情報は、性別、年齢および腎機能である。本明細書で使用される「健康状態」という用語も、患者/患畜背景情報として理解され得る。
【0021】
本明細書で使用される「基準パターン」という用語は、基準対象から取得可能な入力データの分類のために有用である基準を指す。したがって、基準パターンは、少なくとも閾値、分類関数、モデルまたは重みのセットとすることができる。いくつかの態様において、本明細書に記載されている基準パターンは、訓練された機械学習モデルである。
【0022】
本明細書で使用される「基準対象」という用語は、それらが基準としての役割を果たすパラメータが既知である複数の対象を指す。いくつかの態様において、本明細書に記載される基準対象は、健康な対象および疾患を有する対象を含む。いくつかの態様において、本明細書に記載されている基準対象は、疾患を有する対象からなる。いくつかの態様において、本明細書に記載されている基準対象は、集団研究などの臨床研究の一部である。
【0023】
本発明者らは、患者/患畜背景情報と組み合わせた凝固性バイオマーカーが、対象における状態および/またはリスクを分類するための効率的な方法を提供し、診断、監視および/または処置を改善し、個別化できることを見出した。
【0024】
ある態様において、本発明は、血液試料の凝固性をモデル化するための方法であって、血液試料の凝固性を決定する工程または既知の凝固性を有する血液試料を提供する工程であって、前記凝固性は、少なくとも2つの異なるアッセイによって決定され、および/または少なくとも2つの異なるアッセイから提供される工程と;健康状態ならびに血栓症および/または出血の危険因子を決定し、それぞれの血液試料を提供したドナーに帰属させる工程と;1つもしくは複数の薬物および/または複数薬物投与の薬力学的効果を決定する工程であって、前記薬物および/または複数薬物投与は、抗炎症処置、抗血小板処置および/もしくは抗凝固処置を含むか、または抗炎症処置、抗血小板処置および/もしくは抗凝固処置からなる、工程と;リスクを軽減するための血液試料に対する対応する治療域と;前記血液試料に最も効果的な薬物を投与した後の血液試料の凝固性をモデル化する工程とを含む、方法に関する。
【0025】
本明細書で使用される「血栓症」という用語は、血管の内部に血餅が形成され、血液の流れを妨げることを指す。血栓症は、静脈(静脈血栓症)および動脈(動脈血栓症)において起こり得る。本明細書で使用される「出血」という用語は、循環系の血管からの血液の血管外漏出を指す。出血は、通常、血液凝固によって所定の時間後に停止される。しかしながら、本明細書で使用される場合、「出血」は、血餅形成障害による、特に低下したフィブリノーゲン濃度および/または凝固を阻害する因子の過剰な存在による過剰な出血に関する。
【0026】
本明細書で使用される場合、「凝固性」という用語は、好ましくは所定の時間内に、好ましくは特定の条件下で、血液が凝固する能力を示す、定量的(数値的)または定性的な値に関する。
【0027】
血餅は、フィブリノーゲンの活性化されたおよび重合された形態であるフィブリンによって、血小板とともに形成される。活性化は、フィブリノーゲンから繊維状の非球状タンパク質であるフィブリンを形成するプロテアーゼであるトロンビンを介して起こる。凝固経路の活性は、血液中の非細胞および細胞成分の関与を伴って、内因性および外因性経路を介して活性化されるトロンビンの活性によって示され得る。このトロンビン活性は、条件に応じて、フィブリノーゲンをフィブリンおよびフィブリン由来分子に変換することによってその印を残す。このプロセス中に、様々なサイズおよび複雑さの小さな可溶性および不溶性ポリマーが形成される。これらの複合体および様々なフィブリン由来分子または複合体は、インビボでのトロンビン生成の指標であり、血液中でのそれらの存在は血液の凝固性または凝固能を増大させるため、凝固促進因子と呼ばれている。可溶性フィブリンを含むこのような凝固促進因子の現在の検出方法は、実施が困難であり、満足のいく結果をもたらさない。より高い濃度のこのような凝固促進因子を有する血漿は、このような凝固促進因子を有さない同じ血漿と比較して、より高い速度で凝固することができる。したがって、無視できるインビボトロンビン活性化または生成を有する対象から採取された血漿試料は、無視できる凝固促進因子を含有し、これは現実にはめったに起こらない理想的な条件である。試料採取の数時間前に急性炎症(例えば、エンドトキシン中毒)を経験している同じ対象から血漿が採取されると、総フィブリノーゲンの一部がこれらの凝固促進因子に変換され、血漿の凝固性が増加する。
【0028】
一旦形成されると、これらの分子および複合体は、線維素溶解と呼ばれるタンパク質分解プロセスによってさらに処理される。線維素溶解により、これらのフィブリン誘導体がさらに処理されて、フィブリン分解産物(FDP)と呼ばれる様々な完全さの分解産物が生成される。これらのFDPは、フィブリン重合または血餅形成効率に対して異なる効果を示す。線維素溶解の初期から後期にかけて、これらのFDPは、それぞれ、凝固に対する高度な阻害効果から極めてわずかな阻害効果までを生成する。様々な形態のD-ダイマーが、このような後期の線維素溶解の産物である。フィブリン重合を阻害するこれらの因子は、抗凝固因子と呼ばれ、凝固反応におけるそれらの存在は、凝固速度を遅くすることができる。トロンビン活性が低下すると、線維素溶解活性がより顕著になる。
【0029】
本明細書で使用される「凝固性」という用語は、血漿中のこれらの凝固促進因子および抗凝固因子の測定値である。凝固性は、フィブリン(ノーゲン)に対するトロンビンの最新のまたは新鮮な活性のためにこれらの因子のインビボでの存在を反映することができる1つまたは複数のインビトロ試験に基づく。当業者は、任意の形態およびサイズおよび修飾のフィブリンおよびフィブリノーゲンの両方を表すこの用語をよく知っている。血餅ベースのアッセイ(例えば、クラウスまたは他のCCT)におけるこれらの因子の一般的な影響は、異なる程度の加速(高い凝固性)または減速(低い凝固性)である。
【0030】
当業者は、漏出を防止するために創傷部位に血餅が自然に生じることを知っている。しかしながら、当業者は、その生理学的必要性が存在しない状況において凝固が起こり得、潜在的に血液の低下した流動性、したがって血栓症をもたらし得ることも知っている。しかしながら、凝固は、低下するか、または存在しなくなることもあり得、血管の破裂の場合に継続的な出血をもたらす。したがって、当業者は、血液凝固の生理学的に重要なプロセスが患者/患畜において良い方向にまたは悪い方向に変化し得ることを知っている。
【0031】
本明細書で使用される「凝固性をモデル化する」という用語は、以下に定義される1つまたは複数の生化学的アッセイの使用によって凝固性が決定されていない血液試料について、上で定義される凝固性が計算/推定されるプロセスを指す。したがって、例えば抗凝固薬で処理した際に血液試料の予想される凝固性を予測するために、モデル化された凝固性を使用することができる。したがって、凝固能が生理学的に許容され得る状態と比べて低下したまたは増加した凝固能に起因して血餅が生じる事例において血栓症および出血の上で定義された影響のリスクを軽減するために、モデル化された凝固性を使用して、抗凝固処置を必要とする患者/患畜に対する最適な治療を決定することができる。
【0032】
第1の工程において、本発明の方法は、血液試料の凝固性を決定する工程または既知の凝固性を有する試料を準備する工程を含む。凝固性は、上で定義したように、血液試料を使用して、または凝固性が既知の試料に基づいて決定することができる。本明細書で使用される「血液試料」は、ヒトなどの哺乳動物から取得され得るが、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、霊長類、イヌまたはマウスからも取得され得る。
【0033】
凝固性ならびに出血および血栓症などのその心血管結果は、炎症および凝固(血小板を含む)系を伴うことが十分に確立されている。したがって、抗炎症性化合物、抗凝固化合物および抗血小板化合物に影響を及ぼす薬物の影響は、本明細書に記載されているようにモデル化され得る。
【0034】
本明細書で使用される「抗炎症処置」という用語は、炎症性疾患または炎症性疾患に関連する症候を処置するための治療剤を指す。いくつかの態様において、本明細書に記載される抗炎症化合物は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID;例えば、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、サリチル酸メチル、ジフルニサル、インドメタシン、スリンダク、ジクロフェナク、ケトプロフェン、ケトロラク、カルプロフェン、フェノプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、メトトレキサート、セレコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、エトリコキシブおよびニメスリド)、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、トラムシノロンおよびフルチカゾン)、ラパマイシン、高密度リポタンパク質(HDL)およびHDL-コレステロールを上昇させる化合物、rho-キナーゼ阻害剤、抗マラリア剤(例えば、ヒドロキシクロロキンおよびクロロキン)、アセトアミノフェン、グルココルチコイド、ステロイド、βアゴニスト、抗コリン剤、キサンチン誘導体(例えば、メチルキサンチン類)、スルファサラジン、ペニシラミン、抗血管新生剤、ダプソン、ソラレン、抗TNF剤、抗IL-1剤およびスタチン、好ましくはインフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴール、ゴリムマブ、エタネルセプト、クルクミン、IL-1RA、カナキヌマブ、アロプリノール、コルヒチン、ペントキシフィリンおよびオキシプリノールからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。ある態様において、抗炎症処置は、炎症性疾患またはこれに関連する症候を処置するための治療剤であり、抗炎症効果は、血小板の機能を阻害および/または低下させることによって達成される。
【0035】
本明細書で使用される「抗血小板処置」という用語は、血小板凝集を低下させるか、または阻害する治療剤を指す。いくつかの態様において、本明細書に記載されている抗血小板処置は、不可逆的シクロオキシゲナーゼ阻害剤、アデノシン二リン酸(ADP)受容体阻害剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロテアーゼ活性化受容体-1(PAR-1)遮断薬、糖タンパク質IIB/IIIA阻害剤、アデノシン再取り込み阻害剤、ジピリダモール、トロンボキサン阻害剤およびトロンボキサン受容体遮断薬からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。いくつかの態様において、本明細書に記載されている抗血小板処置は、テルトロバン、ボラパキサール、シロスタゾール、アスピリン、トリフルサル、カングレロル、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロル、チクロピジン、アブシキシマブ、エプチフィバチドおよびチロフィバンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。
【0036】
本明細書で使用される「抗凝固処置」という用語は、任意の抗凝固化合物を含むか、または任意の抗凝固化合物からなる薬物を指す。いくつかの態様において、本明細書に記載されている抗炎症化合物は、ビタミンK拮抗薬、クマリン、直接トロンビン阻害剤、直接FXa阻害剤、ヘパリンおよびヘパリン様薬物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。いくつかの態様において、本明細書に記載されている抗炎症化合物は、フルインジオン、ワルファリン、ダビガトラン、アルガトロバン、ヒルジン、リバーロキサバン、エドキサバンおよびアピキサバンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。
【0037】
本明細書に記載されている「薬力学的効果」または「薬力学的応答」という用語は、凝固系または免疫系および凝固系に対する薬物処置の測定可能な効果ならびにこのような効果の生理学的結果を指す。このような薬物によって誘発される効果の例は、例5、6、7および8に見出すことができる。いくつかの態様において、「薬力学的効果」または「薬力学的応答」は、本明細書に記載されている凝固性バイオマーカーまたは凝固性バイオマーカーの変化に由来する。
【0038】
ある態様において、本発明は、血液試料の凝固性をモデル化するための方法であって、血液試料の凝固性を決定する工程または既知の凝固性を有する血液試料を準備する工程と;健康状態ならびに血栓症および/または出血の危険因子を決定し、それぞれの試料を提供したドナーに帰属させる工程と;リスクを軽減するために、前記血液試料に対する1つまたは複数の抗凝固薬の薬力学的効果および対応する治療域を決定する工程と;前記血液試料に最も効果的な抗凝固薬を投与した後の前記血液試料の凝固性をモデル化する工程とを含む、方法に関する。
【0039】
凝固性を決定する1つの方法は、血液試料中のフィブリノーゲン濃度に基づく。決定されたフィブリノーゲン濃度は、血液試料が正常凝固性、高凝固性または低凝固性であるかどうかを決定するために、既知のフィブリノーゲン濃度に関連付けることができる。本発明において、「凝固性を決定する」ための1つの方法は、フィブリノーゲン濃度を決定するために少なくとも2つのアッセイを使用し、少なくとも2つのアッセイ結果の間の差を決定することを含む。これに関して、驚くべきことに、上記から生じる凝固性は、それぞれ高凝固性状態または低凝固性状態に応じて、健康状態評価および血栓症または出血に罹患するドナーのリスクの指標としての役割を果たすことができることが本発明者によって見出された。これに関して、驚くべきことに、健康なドナーについては、好ましくは異なる時点で少なくとも2つのアッセイによって決定されるフィブリノーゲン濃度の差としての得られる凝固性は、-0.5以上0.5以下であり得ることが見出された。そのため、一般集団では、2つ以上の試験が類似するフィブリノーゲン濃度、すなわち低い分散をもたらす場合には、血栓症または出血を発症するリスクが低く、したがってドナーは免疫系および凝固系の活性化が低下しており健康であることが見出された。他方、少なくとも2つのアッセイの結果が、決定されたフィブリノーゲン濃度の差が0.5をはるかに超えて維持される程度まで異なる場合には、添付の例および
図1に示されているように、血栓症を発症するリスクが増加する。凝固性が安全区間より下に留まると、出血発生のリスクが増加する。
【0040】
凝固性値は変化することがあり得、したがって、生理学的プロセスおよび/または投薬によって動的である。したがって、凝固性は定期的に監視されるべきである。本発明は、処置前に凝固性をモデル化するための方法を提供し、したがって、処置前および後での凝固性の経験的な監視を軽減させ得る。同時に、本発明の方法は、より迅速かつ正確な処置決定をもたらし得、したがって血栓症および/または出血のリスクを軽減させ得る。
【0041】
本発明の方法は、免疫系および血液凝固系の活性または活性化を反映する凝固性モデル化に基づいて健康状態を決定し、ドナーに帰属させる工程をさらに含む。免疫系の慢性的な活性化は、癌および他の非伝染性疾患などの疾患、ならびにHIV感染などの感染症に関連することが知られている。
【0042】
さらに、本発明の方法は、血栓症および/または出血のリスクを軽減するために、1つまたは複数の抗凝固薬の薬力学的効果および対応する治療域を決定する工程を含む。血栓症および/または出血のリスクを軽減するために、1つまたは複数の抗凝固薬の薬力学的効果が決定される。例として、トロンビン活性化を低下させ、したがって、例えば、高凝固性から正常な凝固性状態へ凝固性も低下させることは、血栓症のリスクを最小化させる。出血のリスク増加の一例は、これに関連して、抗凝固薬の過剰投与であり、ある程度は、抗凝固因子の過剰産生である。
【0043】
本発明において、好ましい抗凝固薬は、ビタミンK拮抗薬、特にフルインジオン、ワルファリンまたは他のクマリン、直接トロンビン阻害剤、特にダビガトラン、アルガトロバンまたはヒルジンおよび直接FXa阻害剤、特にリバーロキサバン、エドキサバン、アピキサバン、ヘパリンまたはヘパリン様薬物からなる群から選択され得る。抗凝固薬は、特に心房細動、心臓弁膜症および/または人工心臓弁を有する個体における血栓症、肺塞栓症、脳卒中を予防するために、血餅のリスクを軽減するために使用される薬物である。抗凝固薬は、例えば、経口、静脈内、皮下、非経口、動脈内または局所的に投与され得る。好ましくは、抗凝固薬は、経口投与または静脈内投与され得る。血餅形成をもたらす生理学的プロセスの異なる部分に対して作用する異なるタイプの抗凝固薬が存在する。特に、「ビタミンK拮抗薬」は、酵素ビタミンKエポキシド還元酵素を阻害し、したがって血液凝固カスケードにおける重要な補因子であるビタミンKの再生を阻害する天然または合成の化合物、その類似体または誘導体である。さらに、「直接トロンビン阻害剤」は、血液凝固を担う酵素トロンビンを直接阻害することによって抗凝固薬として作用する。例えば、ダビガトランは、共通凝固経路中のトロンビンを阻害し、フィブリノーゲンからのフィブリン形成を妨げる。「直接FXa阻害剤」は、第Xa因子に直接結合し、血液凝固におけるその作用を阻害する。しかしながら、本発明で用いられる抗凝固薬の種類は特に限定されない。
【0044】
本発明の方法は、最も効果的な抗凝固薬を投与した後に凝固性をモデル化する工程をさらに包含する。本明細書で使用される「投与した後」という用語は、患者/患畜に投与されたときに最も効果的であることが決定された抗凝固薬の理論的効果を指す。本発明において、「最も効果的」とは、最も有利な生理学的効果をもたらすと決定された抗凝固薬または抗凝固薬の組み合わせを指す。最も有利な生理学的効果は、凝固性の低下または増加に関するものであり得るが、安全性および/または多剤使用などの要因も含み得る。例としては、最も効果的な抗凝固薬の投与後に、凝固性が低下されていれば、患者/患畜は、もはや高凝固性の状態ではないことがあり得、または凝固性が増加されていれば、患者/患畜は、もはや低凝固性の状態ではないことがあり得る。
【0045】
さらなる態様において、本発明は、凝固性を決定することが、血餅ベースのフィブリノーゲン試験と酵素ベースのフィブリノーゲン試験との組み合わせを含む、本発明の方法に関する。
【0046】
ある態様において、本発明は、アッセイが、血餅ベースのフィブリノーゲン試験と酵素ベースのフィブリノーゲン試験との組み合わせである、本発明の方法に関する。
【0047】
両試験の例は、国際公開第2019/068940号に開示されている。本明細書で使用される「血餅ベースのフィブリノーゲン試験」という用語は、フィブリノーゲンがフィブリンに変換される凝固プロセスを評価することによって血餅形成に要する時間に基づいた、フィブリノーゲン活性の特異的な決定を指す。
【0048】
本発明において、「血餅ベースのフィブリノーゲン試験」という用語は、フィブリノーゲン濃度に関する内挿をもたらすことができる凝固反応に関する全ての試験を含む。本明細書で使用される血餅ベースのフィブリノーゲン試験の例としては、プロトロンビン時間試験(PT)、部分トロンボプラスチン時間試験(PTT)およびクラウス試験(CCT)が挙げられる。本明細書で使用される「酵素ベースのフィブリノーゲン試験」という用語は、酵素および人工基質を利用することにより、競合的速度論データに基づいて血液中のフィブリノーゲン濃度を決定する試験を指す。「酵素」は、ペプチダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ペクチナーゼ、アミラーゼまたはイソメラーゼから選択され得る。好ましくは、本発明の酵素ベースのフィブリノーゲン試験において使用される酵素はプロテアーゼである。酵素ベースのフィブリノーゲン試験の例は、フィブリノーゲンを選択的に切断するプロテアーゼを利用する真のフィブリノーゲン試験(TFT(true fibrinogen test))である。
【0049】
これに関して、本発明は、血液試料の凝固性を決定するために、血餅ベースのフィブリノーゲン試験および酵素ベースのフィブリノーゲン試験を含むアッセイの併用が、凝固性を効果的に決定するための基礎となり得るという知見に少なくとも部分的に基づく。例として、
図3は、異なる時点での血餅ベースのフィブリノーゲン試験および酵素ベースのフィブリノーゲン試験から得られた血漿フィブリノーゲン濃度と、急性炎症を有する健康な個体における導出された凝固性との関係を示す。
【0050】
本発明において、酵素ベースのフィブリノーゲン試験は、血餅非依存性の酵素ベースのフィブリノーゲン試験であり得る。
【0051】
ある態様において、本発明は、酵素ベースのフィブリノーゲン試験が、血餅非依存性の酵素ベースのフィブリノーゲン試験である、本発明の方法に関する。
【0052】
「血餅非依存性」という用語は、凝固促進因子および/または抗凝固因子を検出しない酵素ベースのフィブリノーゲン試験を指す。本明細書で使用される「凝固促進因子」という用語は、凝固効率を高める、凝固カスケード内の物質を指す。特に、凝固促進因子は、主に、可溶性フィブリン誘導体またはトロンビンによって生成されたフィブリノーゲンからの中間体、および初期段階での線維素溶解によって生成されたいくつかのフィブリン分解産物(FDP)である。「抗凝固因子」は、血餅形成の効率を低下させることによって反対の効果を有する凝固カスケード内の物質を指す。特に、抗凝固因子は、大部分が後半段階のFDPである。
【0053】
本発明において、血餅ベースのフィブリノーゲン試験は、プロトロンビン時間(PT)の決定、部分トロンボプラスチン時間(PTT)の決定およびクラウス試験から選択されることがさらに好ましい。
【0054】
特に、PT試験は、プロトロンビン時間由来のフィブリノーゲンを秒単位で間接的に測定する。較正は、一連の既知のフィブリノーゲン濃度標準を含有する血漿に対してプロトロンビン時間を計算し、フィブリノーゲン値に対して光学的変化をプロットすることによって行われる。光学的変化は、フィブリノーゲン値に変換される(Mackieら、2003)。
【0055】
PTは、しばしば、凝固因子の量および機能を評価することができるaPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)試験と組み合わせて使用される。「部分トロンボプラスチン時間」または「PTT」という用語は、血液が凝固するのに要する時間を決定する血液試験を指す。これらの試験は、原因不明の出血または血餅を診断するために使用される。
【0056】
血漿中のフィブリノーゲンは、クラウス試験を行うことによっても測定することができる(Undas A,2017)。本明細書で使用される「クラウス試験」または「CCT」という用語は、高濃度のトロンビンでの凝固に供される希釈された血漿試料の診断試験を指す。
【0057】
さらなる態様において、本発明は、酵素ベースのフィブリノーゲン試験がセリンエンドペプチダーゼによる触媒的切断を伴う方法に関する。本明細書で使用される「触媒的切断」という用語は、タンパク質をペプチドに分解するセリンエンドペプチダーゼの添加によって、タンパク質分解の化学反応の速度を変化させることを指す。「セリンエンドペプチダーゼ」は、セリンがこのエンドペプチダーゼの活性部位において求核性アミノ酸としての役割を果たす酵素である。「活性部位」は、基質分子が結合して化学反応を受ける酵素の領域である。本発明はさらに、酵素ベースのフィブリノーゲン試験が、ヘビ毒セリンエンドペプチダーゼによる、好ましくはベノンビンAによるフィブリノーゲンの触媒的切断を伴う方法に関する。本発明は、前記試料中のフィブリノーゲン濃度に反比例するセリンエンドペプチダーゼのタンパク質分解活性を測定することを含む、本発明の方法にも関する。セリンエンドペプチダーゼは、トロンビンと同様に、すなわちフィブリノーゲンを活性化し、血液凝固の過程を誘導することによって作用する。したがって、反応は、フィブリノーゲンのフィブリンへの変換を伴う。本発明において、「反比例」とは、ある変数の減少および別の変数の増加を引き起こすことを指す。変数は、セリンエンドペプチダーゼの存在下でのタンパク質分解活性値またはフィブリノーゲンレベルを指す。
【0058】
特に、本発明は、血餅非依存性である酵素ベースのフィブリノーゲン試験の使用に少なくとも部分的に基づいており、使用される酵素ベノンビンAは、タンパク質分解活性によってフィブリノーゲンを切断して、フィブリンを形成し、フィブリノペプチドAの放出を引き起こす。同じ反応において、ベノンビンAは合成基質も切断している。したがって、血餅非依存性フィブリノーゲン試験は、ベノンビンAによる切断に対する基質競合に基づいてフィブリノーゲンの濃度を決定する。
【0059】
ある態様において、本発明は、患者/患畜背景情報が体重、性別、年齢および腎機能を含むかまたは体重、性別、年齢および腎機能からなる本発明の方法に関する。
【0060】
本発明者らは、体重、性別、年齢および腎機能が、凝固性マーカーの情報を補完するのに特に有用であり、本明細書に記載されている分類、予測、監視および/または処置において使用され得ることを見出した。
【0061】
ある態様において、本発明は、リスクおよび/または状態基準パターンが、基準対象のデータセットに対して訓練することによって得られた機械学習モデルであり、入力データをリスクおよび/または状態基準パターンと比較する工程が、入力データを機械学習モデルに入力することを含む、本発明の方法に関する。
【0062】
ある態様において、本発明は、炎症事象および/または凝固調節不全事象に関して対象のリスクおよび/または状態を分類する工程が、血栓症および/または出血についての対象のリスクおよび/または状態を分類することである、本発明の方法に関する。
【0063】
本発明者らは、本明細書に記載されている分類、予測、監視および/または処置のための方法が、血栓症および/または出血の状況において特に有用であることを見出した。
【0064】
ある態様において、本発明は、炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を予測するための方法であって、a)i)第1の時点での間に、本発明の方法に従って炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象のリスクおよび/または状態を分類する工程と;ii)第2の時点で前記対象の血液試料の凝固性バイオマーカーを決定または検索する工程であって、前記凝固性バイオマーカーは、少なくとも2つの異なるアッセイによって前記対象の前記血液試料において決定される、工程とによって、リスクおよび/または状態進行指標を決定する工程と;b)前記リスクおよび/または状態進行指標を予測基準パターンと比較する工程であって、前記予測基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、炎症事象および/または凝固調節不全事象を以前に有していたことがあり、ならびに前記基準対象の前記リスクおよび/または状態進行は既知である、工程と;c)(b)において得られた比較に基づいて対象の前記リスクおよび/または状態を予測する工程とを含む、方法に関する。
【0065】
本発明者らは、集団研究からの基準パターンとの、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、または少なくとも6つの時点での凝固性バイオマーカーの比較によって、血栓症および/または出血などの炎症事象および/または凝固調節不全事象のリスクおよび/または状態の将来の発生を予測するために、経時的な凝固性バイオマーカー、特にCCTおよびTFTを含むかまたはCCTおよびTFTからなる凝固性バイオマーカーの進行を使用することができることを見出した。
【0066】
ある態様において、本発明は、予測基準パターンが、基準対象のデータセットに対して訓練することによって得られた機械学習モデルであり、リスクおよび/または状態進行指標を予測基準パターンと比較する工程が、入力データを機械学習モデルに入力することを含む、本発明の方法に関する。
【0067】
ある態様において、本発明は、処置中の炎症事象および/または凝固調節不全事象についての対象の処置応答を監視するための方法であって、a)i)第1の時点で、本発明の方法に従って、血栓症および/または出血についての対象のリスクおよび/または状態を分類する工程と;ii)少なくとも1つの第2の時点で、前記対象の血液試料の凝固性バイオマーカーを決定または検索する工程であって、前記凝固性バイオマーカーは、少なくとも2つの異なるアッセイによって前記対象の前記血液試料において決定される、工程と;
iii)1.)前記抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物および/または抗凝固化合物の投与時点であって、前記投与時点は前記第1の時点と前記第2の時点との間にある、投与時点;好ましくは、前記抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物および/または抗凝固化合物の前記投与時点および投与された量と;2.)薬力学的応答であって、前記薬力学的応答は、少なくとも、前記第1の時点での前記凝固性バイオマーカー、前記第2の時点での前記凝固性バイオマーカーおよび前記投与時点に基づいて計算され、前記薬力学的応答は、少なくとも、前記第1の時点での前記凝固性バイオマーカー、前記第2の時点での前記凝固性バイオマーカー、前記投与時点および前記投与された量に基づいて計算される、薬力学的応答とによって処置進行指標を決定する工程と;b)前記処置進行指標を処置応答基準パターンと比較する工程であって、前記予測基準パターンは、少なくとも2つの基準対象から得られ、前記基準対象の少なくとも1つは、抗炎症性化合物、抗血小板化合物、抗凝固化合物および/または凝固促進化合物による処置を以前に受け、ならびに前記基準対象の前記処置応答が既知である、工程と;c)(b)において得られた比較に基づいて対象の処置応答を監視する工程とを含む、方法に関する。
【0068】
したがって、本明細書に記載されている方法は、処置応答を監視する上で有用である。この監視は、処置レジーム、処置用量および/または処置化合物を補正するために使用され得る。さらに、監視は、薬物-薬物相互作用ならびに個々の薬物動態および薬力学を決定するために使用され得る。
【0069】
したがって、本明細書に記載されている監視のための方法は、個別化された処置決定を支援し得る。
【0070】
ある態様において、本発明は、前記処置応答基準パターンが、基準対象のデータセットに対して訓練することによって得られた機械学習モデルであり、および前記処置進行指標を処置応答基準パターンと比較することが、前記機械学習モデルに前記処置進行指標を入力することを含む、本発明の方法に関する。
【0071】
別の態様において、本発明は、患者/患畜の個別化抗凝固処置レジメンを提供するための方法であって、(a)前記患者/患畜の試料の凝固性を決定する工程または前記患者/患畜についての既知の凝固性値を提供する工程と;(b)本発明の方法によって得られた凝固性のモデルに基づいて個別化抗凝固処置レジメンを提供する工程とを含む方法に関する。本明細書で使用される場合、「個別化抗凝固処置レジメン」という用語は、典型的には期間によって隔てられた、対象に個別に投与される1組の単位用量を適用する臨床的介入の投与量、スケジュールおよび/または期間を指定する計画を指す。本明細書で使用される「処置」という用語は、処置されている個体の自然経過を変化させるための試みでの臨床的介入を指し、予防のためにまたは臨床病理の経過中に行うことができる。処置の望ましい効果には、症候の緩和、血栓症によって生じる任意の直接的もしくは間接的な病理学的結果の減退または血栓症、心血管疾患、癌、脳卒中もしくは敗血症などの疾患の少なくとも1つの発生もしくは再発の予防が含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用される「患者/患畜」という用語は、抗凝固処置または変更された抗凝固薬処置から利益を得る可能性が高い、哺乳動物対象、特に疾患、好ましくは血栓症および/または出血に罹患しているヒト対象を指す。個別化抗凝固処置は、生理学的パラメータおよび状態、患者/患畜の薬理学的および臨床的処置情報ならびにバイオマーカー情報を含み、バイオマーカーという用語は凝固性を指す。生理学的パラメータおよび状態の例は、患者/患畜の年齢、体重および性別である。
【0072】
本発明の好ましい態様において、患者/患畜の個別化抗凝固処置レジメンは、前記対象の進行中の抗凝固処置が、血栓症および/または出血の帰属された危険因子を軽減するのに十分でない場合に、本発明で決定された最も効果的な抗凝固薬がさらなる処置のために使用されるような処置レジメンである。
【0073】
本発明の好ましい態様において、患者/患畜の個別化抗凝固処置レジメンは、前記対象の進行中の抗凝固処置が本発明において決定された凝固性を、予め定義された凝固性間隔を下回って低下させている場合に、本発明において決定された最も効果的な抗凝固薬がさらなる処置のために使用されるような処置レジメンである。好ましくは、「予め定義された凝固性間隔」は、血栓症および/または出血のリスクが最小になる程度まで、疾患によるインビボでのトロンビン生成が低減されている凝固性状態を指す。本発明の方法を用いてモデル化された凝固性に基づいて、したがって最も効果的な抗凝固処置に基づいて、現在の処置は、このような効果を緩和するために変更され得る(例3)。
【0074】
ある態様において、本発明は、化合物が、ビタミンK拮抗薬、特にフルインジオン、ワルファリンまたはクマリン、直接トロンビン阻害剤、特にダビガトラン、アルガトロバンまたはヒルジンおよび直接FXa阻害剤、特にリバーロキサバン、エドキサバン、アピキサバン、ヘパリンまたはヘパリン様薬物からなる群から選択される化合物である、本発明の方法、本発明の使用のための化合物または本発明の処置の方法に関する。
【0075】
ある態様において、本発明は、化合物が、非ステロイド性抗炎症薬、コルチコステロイド、ラパマイシン、高密度リポタンパク質、HDL-コレステロールを上昇させる化合物、rho-キナーゼ阻害剤、抗マラリア剤、アセトアミノフェン、グルココルチコイド、ステロイド、β-アゴニスト、抗コリン剤、キサンチン誘導体、スルファサラジン、ペニシラミン、抗血管新生剤、ダプソン、ソラレン、抗TNF剤、抗IL-1剤およびスタチンからなる群から選択される化合物である、本発明の方法、本発明の使用のための化合物または本発明の処置の方法に関する。
【0076】
ある態様において、本発明は、化合物が、不可逆的シクロオキシゲナーゼ阻害剤、アデノシン二リン酸(ADP)受容体阻害剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロテアーゼ活性化受容体-1(PAR-1)遮断薬、糖タンパク質IIB/IIIA阻害剤、アデノシン再取り込み阻害剤、ジピリダモール、トロンボキサン阻害剤およびトロンボキサン受容体遮断薬からなる群から選択される化合物である、本発明の方法、本発明の使用のための化合物または本発明の処置の方法に関する。
【0077】
ある態様において、本発明は、化合物が、凝固を促進するおよび/または出血を低下させる凝固因子、好ましくは、FVIII濃縮物、アルファネート(Alphanate)、フメート(Humate)-P、ノボセブン、イロクテイト、ファイバ、プロトロンビン複合体、ヘムライブラおよびトラネキサム酸からなる群から選択される化合物である、本発明の方法、本発明の使用のための化合物または本発明の処置の方法に関する。
【0078】
ある態様において、本発明は、本発明による方法を実行するためのコンピュータ可読プログラム命令を備える記憶装置に関する。
【0079】
本明細書で使用される「記憶装置」という用語は、命令実行装置によって使用されるための命令を保持および保存することができる任意の有形の装置を指す。
【0080】
いくつかの態様において、本明細書に記載されている記憶装置は、電子記憶装置、磁気記憶装置、光記憶装置、電磁記憶装置、半導体記憶装置、これらの任意の適切な組み合わせの群から選択される少なくとも1つである。
【0081】
記憶装置のより具体的な例の非網羅的なリストは、以下のもの:ポータブルコンピュータディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EPROMまたはフラッシュメモリ)、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、ポータブルコンパクトディスク読み出し専用メモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、メモリスティック、フロッピーディスク、命令がその上に記録されたパンチカードまたは溝の中の隆起構造などの機械的に符号化された装置、および上記の任意の適切な組み合わせを含む。本明細書で使用される記憶装置は、電波もしくは他の自由に伝搬する電磁波、導波路もしくは他の伝送媒体を介して伝搬する電磁波(例えば、光ファイバケーブルを通過する光パルス)、またはワイヤを介して伝送される電気信号などの一時的な信号それ自体であると解釈されるべきではない。
【0082】
本明細書に記載されているコンピュータ可読命令は、コンピュータ可読記憶媒体からそれぞれの計算/処理装置に、またはネットワークを介して外部コンピュータもしくは外部記憶装置にダウンロードされ得る。
【0083】
本発明の動作を実行するためのコンピュータ可読プログラム命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、機械語命令、機械依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、またはSmalltalk、C++などのオブジェクト指向プログラミング言語、および「C」プログラミング言語または類似のプログラミング言語などの従来の手続き型プログラミング言語を含む、1つまたは複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコードまたはオブジェクトコードのいずれかであり得る。
【0084】
コンピュータ可読命令は、完全にユーザのコンピュータ上で、部分的にユーザのコンピュータ上で、スタンドアロンソフトウェアパッケージとして、部分的にユーザのコンピュータ上でおよび部分的にリモートコンピュータ上で、または完全にリモートコンピュータもしくはサーバ上で実行し得る。
【0085】
ある態様において、本発明は、本発明の記憶装置と、コンピュータ可読プログラム命令を実行するための少なくとも1つの処理装置と、入力データを受け取るためのネットワーク接続とを備える、サーバに関する。
【0086】
本明細書で使用される「ネットワーク接続」という用語は、データネットワークの通信チャネルを指す。通信チャネルは、少なくとも2つのコンピューティングシステムが互いにデータを通信することを可能にすることができる。いくつかの態様において、データネットワークは、インターネット、ローカルエリアネットワーク、ワイドエリアネットワークおよび無線ネットワークの群から選択される。ネットワークは、銅伝送ケーブル、光伝送ファイバ、無線伝送、ルータ、ファイアウォール、スイッチ、ゲートウェイコンピュータおよび/またはエッジサーバを含み得る。各コンピューティング/処理装置内のネットワークアダプタカードまたはネットワークインターフェースは、ネットワークからコンピュータ可読プログラム命令を受け取り、それぞれのコンピューティング/処理装置内のコンピュータ可読記憶媒体中に保存するためにコンピュータ可読プログラム命令を転送する。
【0087】
サーバは、ローカルエリアネットワーク(LAN)もしくはワイドエリアネットワーク(WAN)を含む任意の種類のネットワークを介して血管画像を取得するための装置に接続され得、または接続は、(例えば、インターネットサービスプロバイダを使用してインターネットを介して)外部コンピュータに為され得る。いくつかの態様において、例えば、プログラマブル論理回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、またはプログラマブルロジックアレイ(PLA)を含む電子回路は、本発明の態様を実行するために、コンピュータ可読プログラム命令の状態情報を利用して電子回路を個別化することによってコンピュータ可読命令を実行し得る。
【0088】
ある態様において、本発明は、処置応答を分類、予測および/または監視するためのシステムであって、a)血液試料を受け取るための容器と、凝固性バイオマーカーを決定するための試薬とを備える測定装置であって、前記凝固性バイオマーカーは、少なくとも2つの異なるアッセイによって前記血液試料において決定される、測定装置と;b)本発明の記憶装置および/またはサーバへのネットワーク接続を備える、コンピュータ可読プログラム命令を実行するための処理装置であって、サーバは、本発明によるサーバである、処理装置と;c)入力および/または検索可能性であって、前記入力および/または検索可能性は、前記サーバおよび/または前記処理装置が患者/患畜背景情報にアクセスすることを可能にする、入力および/または検索可能性と
を備える、システムに関する。
【0089】
さらなる態様において、本発明は、本発明の方法によって得られた凝固性のモデルまたはその一部および入力データとしての凝固性値に基づいて個別化抗凝固処置レジメンを提供することができるソフトウェアがインストールされたコンピュータシステムに関し、好ましくは、コンピュータシステムは、個別化された薬力学値を計算することを含む。本明細書で使用される「コンピュータシステム」は、本明細書において、全て一般的に回路、エンジン、モジュールまたはシステムと呼ばれることがある、ハードウェアの態様、ソフトウェアの態様(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどを含む)またはソフトウェアとハードウェアの側面を組み合わせた態様の形態を取り得る。さらに、本開示の局面は、コンピュータ可読プログラムコードがその上に具現化された1つまたは複数のコンピュータ可読媒体において具現化されたコンピュータプログラム製品の形態を取り得る。プログラムソースコードは、完全にユーザのコンピュータ上で、部分的にユーザのコンピュータ上で、スタンドアロンソフトウェアパッケージとして、部分的にユーザのコンピュータ上でおよび部分的にリモートコンピュータ上で、または完全にリモートコンピュータもしくはサーバ上で実行され得る。後者のシナリオでは、リモートコンピュータは、ローカルエリアネットワーク(LAN)もしくはワイドエリアネットワーク(WAN)を含む任意の種類のネットワークを介してユーザのコンピュータに接続され得、または接続は、インターネットを介して外部コンピュータに為され得る。本発明の計算またはモデル化の一部は、モノのインターネット(IoT)の形態で実行することもできる。
【0090】
「インストールされたソフトウェア」は、コンピュータシステムによって実行され得、本明細書のソフトウェアは、NONMEM(商標)、Certara Phoenix(商標)PK/PDソフトウェア、DoseMe、TDMx、InsightRx、BIOiSIM、Tucuxiなどからなる群から選択され得る。本明細書で使用される場合、「入力データ」という用語は、本発明の方法を使用する凝固性を指す。したがって、「入力データ」という用語は、単独でまたは患者/患畜の背景データなどのさらなるデータと組み合わせてバイオマーカーの診断法から得られた凝固性情報を指す。例3は、個別化抗凝固処置システムの設計のための3つのモジュールを記載しており、モジュール1は、手動または自動で取得された入力を必要とする、患者/患畜のための情報システムである。モジュール2は、フィブリノーゲンレベル、凝固性状態、トロンビンおよび/または線維素溶解活性についての統計的推定を生成するために、CCTおよびTFT試験を使用してフィブリノーゲンレベルを決定する。モジュール3は、薬物-薬物相互作用に関する警告を発し、個別化抗凝固処置レジメンを提供し得る。コンピュータシステムまたはソフトウェアが、本発明の方法の全部または一部を実行し得る。一般に、本明細書に記載されたモジュールは、それらの物理的な構成または保存にもかかわらず、他のモジュールと組み合わされ得るか、またはサブモジュールに分割され得る論理モジュールを指す。
【0091】
したがって、本発明は、コンピュータシステムが、凝固性のモデルおよび入力データとしての凝固性値に基づいて個別化抗凝固処置レジメンを提供することが可能であり得るという驚くべき発見に少なくとも部分的に基づいている。決定された個別化抗凝固処置レジメンは、血栓症および/または出血のリスクおよび発生を軽減するための正確で個別化された抗凝固薬投与量に関する管理の手引きを提供する出力データであり得る。
【0092】
本明細書に記載されている一般的な方法および技術は、特に明記しない限り、当技術分野で周知の従来の方法に従って、ならびに本明細書全体を通して引用および議論されている様々な一般的およびより具体的な参考文献に記載されているように実施され得る。例えば、国際公開第2019/068940号、Mackie et al.2002、Mackie et al.2003、Undas A.2017、Zirlik and Bonde 2016、Kajy and Ramappa 2009、Adeboyeje et al.2017、Ordi-Ros et al.2019、Harter et al.2015、Hempenius et al.2021、Brown et al.2020、Hori et al.2013、Koverech et al.2018を参照されたい。
【0093】
本発明の局面が、図面および前述の説明において詳細に例示および説明されているが、そのような例示および説明は、実例または例示的であり、限定的ではないと考えられるべきである。以下の特許請求の範囲の範囲および精神内で当業者によって変更および修正が行われ得ることが理解されよう。特に、本発明は、上記および下記の異なる態様からの特徴の任意の組み合わせを有するさらなる態様を包含する。本発明は、図面に個別的に示されている全てのさらなる特徴も包含するが、それらは前述または後述の説明において記載されていない場合がある。また、図面および説明に記載されている態様の単一の代替およびその特徴の単一の代替は、本発明の他の局面の主題から除外され得る。
【0094】
本明細書全体を通して、文脈上別段の要求がない限り、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」および「含む(comprising)」という語は、記載された1つの工程もしくは要素または複数の工程もしくは要素の群を含むが、任意の他の工程もしくは要素または工程もしくは要素の群を除外しないことを意味すると理解される。
【0095】
「含む(include)」および「含む(comprise)」という用語は同義的に使用される。「好ましくは」は、他の選択肢を排除しない一連の選択肢のうちの1つの選択肢を意味する。「例えば」は、言及された例に限定されない1つの例を意味する。「からなる」とは、「からなる」という語句に続くものを全て含み、それらに限定されることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1】CCT(四角)およびTFT(三角)試験から得られた異なる時点での決定された血漿フィブリノーゲン濃度と、健康な対象(A)および慢性的な高凝固性を患っている患者(B)における導出された凝固性(丸と実線)との比較。健康な対象(A)は、0~0.3の間で変動する正常な凝固性を有するのに対して、患者(B)は、その期間内に1.7~2.5の間で変動する高い凝固性(高凝固性)を示す。
【
図2】新規経口抗凝固薬(例えば、リバーロキサバン)の典型的なPK(薬物動態)モデルの例。Y軸は薬物濃度を表し、X軸は時間の進行を示す。抗凝固薬のピーク血漿濃度は、経口抗凝固薬の摂取直後にピークレベルに達する。それぞれの「ピーク」から「トラフ」相までは、3つの括弧によって境界が定められた3つの相(上部、中央および下部)に等しく分割される。
【
図3】異なる時点でのCCT(四角)およびTFT(三角)試験から得られた血漿フィブリノーゲン濃度と、0日目より前に急性炎症を発症した健康な対象における導出された凝固性(丸と実線)との比較。4日以内の凝固性は、1.2~-0.6の間の範囲である。凝固性は2日以内に低下しており、トロンビンの不活性および高濃度の、FDPなどの抗凝固因子を生成する線維素溶解のその後の増加した活性化を意味し、これはCCT試験を妨げる。
【
図4】投与量調整前(X軸の下の水平な矢印バーによって表示されている)の抗凝固薬のPKプロフィールを示す薬物動態モデルの例。Y軸は薬物濃度を表し、X軸は時間の進行を表す。凝固性試験に基づくと、凝固経路は正常よりさらに活性が高く、高凝固性を示す。高凝固性を低下させるために、モジュール2は、薬力学(PD)モデルに基づいて、必要とされる低下および新しい治療域を計算する。PDモデルは、理想的な凝固性を達成するために治療域(2つの点線「最大」および「最小」によって定められる)の調整を提案する。「最大」と「最小」の間にある新しい治療域がシミュレートされたPKプロファイルに重ね合わされ、新たに調整された処置レジメンが指示された時間(垂直の黒塗り矢印は新しいレジメンの開始を示す)に採用される。
【
図5】2つの異なる集団内でCCTおよびTFTを介して決定されたフィブリン(フィブリノーゲン):対照健康対肝疾患患者。
【0097】
以下は、本発明の方法および組成物の例である。上記の一般的な説明を前提として、様々な他の態様が実施され得ることが理解される。
【0098】
本発明の局面は、本発明の態様およびその多くの利点のより良い理解を提供する以下の例示的な非限定的な例によってさらに説明される。以下の例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれている。以下の例に開示される技術は、本発明の実施において良好に機能するために本発明で使用される技術を表し、したがって、その実施のための好ましい形態を構成すると考えることができることが当業者によって理解されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様に多くの変更を加えることができ、依然として同様または類似の結果を得ることができることを理解すべきである。特許出願、製造業者のマニュアルおよび科学刊行物を含むいくつかの文献が本明細書に引用されている。これらの文献の開示は、本発明の特許性に関連するとは考えられないが、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。より具体的には、全ての参考文献は、あたかもそれぞれの個々の文献が具体的かつ個別に参照により組み入れられることが示されているのと同程度に参照により組み入れられる。
【0099】
例
例1
血液の凝固性を決定するために、(a)血餅ベースのおよび(b)酵素ベースのフィブリノーゲン試験を使用して、複合凝固性アッセイを実施した。アッセイによって提供される情報は、血漿中のフィブリノーゲン濃度を測定することによって、血液が正常凝固性、高凝固性または低凝固性であるかどうかである。
【0100】
凝固動態を推定するために、酵素ベースのフィブリノーゲンアッセイによって得られた濃度から、血餅ベースのアッセイによって得られたフィブリノーゲン濃度を差し引いた。このように、TFT(真のフィブリノーゲン試験)値からCCT(血餅ベースのクラウスフィブリノーゲン試験)値を差し引くことによって、凝固性を決定する(凝固性=CCT-TFT)。例として、試験の得られた濃度を差し引いた後の高い値は、凝固促進因子の量が多く、したがって増加したトロンビン活性を示す。したがって、インビボトロンビン活性化が大きいほど、凝固性試験から得られる値は高くなる。これは、高い値は増加した凝固性に関連するという知見をもたらす。
【0101】
a)血餅ベースのフィブリノーゲン試験
血餅ベースのフィブリノーゲン試験は、Mackieら(2002)によって記載されている。本発明によれば、フィブリノーゲンレベルを得るために、様々な試験からの以下の試験のいずれも、すなわちCCT(血餅ベースのクラウスフィブリノーゲン試験)、PT(プロトロンビン時間由来フィブリノーゲン試験)またはPTT(部分トロンボプラスチン時間の決定)または任意の他の血餅ベースの試験を実施することができる。
【0102】
当業者は、CCT試験を実施する方法を知っている。したがって、一例として、SiemensのMultifibren-Uおよび/またはIL/WerfenのHemosIL Fibrinogen-Cを使用することができる。さらに、CCT試験は、トロンビン活性を原因とする凝固促進因子による増強された凝固効率のために、実際の濃度よりも高いフィブリノーゲン濃度を示し得ることが知られている。
【0103】
個体の血漿の使用に加えて、CCT試験のための必須の試薬は以下のものであり得る。
-セリンプロテアーゼ(例えば、トロンビン)、
-重合時間を延長する作用物質(例えば、Gly-Pro-Arg-ProまたはGly-Pro-Arg-Pro-Alaまたは同様のもの)、
-ヘパリン中和剤(例えば、ポリブレン)。
【0104】
一例として、本発明の範囲内で使用することができる別の血餅ベースのフィブリノーゲン試験は、PT試験(例えば、IL/WerfenのPT-フィブリノーゲン試験)またはPTT試験である。PT試験は、散乱光または光学密度の変化に基づいており、選択された試薬の商業的入手可能性および組成ならびにアッセイを実施するためのプロトコルは、可変であり得、調整可能であり得る。
【0105】
個体の血漿の使用に加えて、PTまたはPTT試験のための必須の試薬は、以下のものであり得る。
-トロンボプラスチン試薬(例えば、ウサギ脳トロンボプラスチン)、
-ヘパリン中和剤(例えば、ポリブレン)。
【0106】
b)血餅非依存性の、酵素ベースのフィブリノーゲン試験
血餅非依存性の、酵素ベースのフィブリノーゲン試験は、国際公開第2019/068940号に記載されている。フィブリノーゲン試験は、天然および生理学的な妨害因子の存在下であってもフィブリノーゲン濃度を特異的に決定し、因子は凝固促進性および/または抗凝固性であり得る。アッセイは、TFT試験、例えばPentapharmのPefakitフィブリノーゲン試験を使用して行った。
【0107】
個体の血漿の使用に加えて、必須の試薬は以下のものであり得る。
-セリンエンドペプチダーゼ(ベノンビンA、例えばバトロキソビン)、
-ペプチド基質(例えば、Pefachrom TH Tos-Gly-Pro-Arg-pNA)、
-重合阻害剤(例えば、Pefabloc FG Gly-Pro-Arg-Pro)、
-非特異的プロテイナーゼ活性の阻害剤(例えば、Pefabloc SC AEBSF、アプロチニン)、
-キレート剤(例えば、EDTA)。
【0108】
フィブリノーゲンは、ヘビ毒由来のトロンビン様酵素セリンエンドペプチダーゼによるその触媒的切断を通じて活性化され得る。このアッセイは、競合的酵素速度論によって血漿試料中のフィブリノーゲン濃度を決定する。
【0109】
例2
凝固性試験は、トロンビン産生の指標を提供することができる。患者のデータおよび新規バイオマーカーを組み込んだ方法を採用することは、抗凝固処置の管理に役立ち得る。健康な個体および抗凝固処置を受けている患者に対して、3つの臨床研究を行った。
【0110】
a)臨床研究A:低下した炎症レベルを有する健康な集団の凝固性値の計算
臨床研究Aは、健康な個体(n=9)において実施された。凝固性を測定し、CRP(C反応性タンパク質)レベルを決定するために血漿試料を収集した。これらの個体の健康状態は、凝固経路の活性と間接的に相関し得る炎症レベルの低下を示す低いレベルのCRPを得て確認された。しかしながら、高いレベルのCRPは急性炎症を示す。
【0111】
CRP(C反応性タンパク質)アッセイ
CRPアッセイは抗体-抗原結合を利用しており、CRPは一般的な炎症バイオマーカーであり、ELISAによって測定することができる。免疫応答時に、バイオマーカーは、凝固カスケードをさらに活性化することができる組織因子(TF)の発現を誘導することができる。このアッセイは、臨床研究において使用されるように、個体の健康状態を調べることもできる。健康な個体は、-0.5~0.5の範囲の正常な凝固性を有する。これらの低い値は、低下した炎症と相関する低い凝固経路活性を示す(
図1A)。
【0112】
結果
例として、臨床研究Aでは、測定されたCRPレベルは21ng/mL~300ng/mLの間で変動した。これらの値は、5,000ng/mLの参照レベルよりも低かった。決定された凝固性値(n=9)は-0.3~0.3の範囲であり、低下した炎症を示した。これに対して、7,000 ng/mLを超えるCRP値を有する血漿は1.7の凝固性を示し、増加した炎症を示す対照として使用された。
【0113】
この研究は、健康な集団の凝固性範囲が主に-0.5~0.5の間に存在することを示している(0.2の拡張は、起こり得る誤差の包含である)。この凝固性の範囲は、正常な凝固性、すなわち-0.5以上かつ0.5以下の値を表し、概ね「0」(ゼロ)の低い変動は、低い凝固経路活性を意味し、低下した炎症と相関する(
図1A)。
【0114】
b)臨床研究B:健康な集団の凝固性値を計算する
健康な集団の凝固性値をさらに確認するために、臨床研究Bを実施した。したがって、臨床研究のために、凝固性値を測定し、凝固状態(高凝固性、低凝固性または正常凝固性)を決定するために、自称による健康な個体の無作為集団(n=36)およびそれらの血漿試料を含めた。
【0115】
結果
臨床研究の試験された個体の決定された凝固性は、-1.1~1.5の間で変動した。調査した集団の半分(50%)は、-0.5以上0.5以下の範囲の正常な凝固性値を有し、残りの半分は-0.5および0.5の範囲外の値を包含した。これに対して、集団の28%は-1.5~-0.5の範囲の凝固性値を有し、集団の22%は0.5~1.5の値を有していた。
【0116】
負の凝固性(値>-1.5かつ<-0.5)または低凝固性(集団の28%に相当)は、線維素溶解によって誘導されるフィブリン分解産物(FDP)またはフィブリン由来抗凝固因子の産生を明らかにし、これらは血餅形成を阻害しているこれは、より早い時点での凝固経路の活性化も示している。これらの抗凝固因子は、その後の段階へさらに処理されると、凝固プロセスにおけるそれらの負の効果を失い得る。
【0117】
他方、正の凝固性(値>0.5かつ<1.5)または高凝固性(集団の22%に相当)は、凝固経路の活性化によって著しく増加した凝固促進因子を示す。本研究は、健康な集団に対する初期の基準範囲を提供する。個体内の凝固性は数時間以内に変化しているためである。したがって、個体のより正確な計算モデルを作成し、このモデルをデータベース内の集団モデルと比較することができるようにするために、凝固性試験を異なる時点で複数回実行することができる。
【0118】
c)臨床研究C:
抗凝固処置を受けている患者の凝固性値を計算する
血栓症に対する現代の抗凝固処置を調査するために、およびこれにより凝固経路の活性を測定することによって処置の効率を評価するために、臨床研究Cを開始した。凝固性試験(CCTおよびTFT)およびDダイマー試験を使用して凝固経路活性を調べるために、19人の患者からの血漿試料を試験した。これらの患者は、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ダビガトランまたはアルガトロバンなどの様々な抗凝固薬を与えられており、各個体の薬物濃度を決定した。本研究の目的は、凝固性試験およびDダイマー試験の両方によって、血漿中の決定された薬物濃度との関連で、凝固経路の活性を調べることであった。
【0119】
凝固因子アッセイ:D-ダイマー(DD)アッセイ
Dダイマーアッセイは、抗体-抗原結合技術に基づくイムノアッセイである。D-ダイマーは、フィブリンのタンパク質分解に由来する抗原である。このアッセイは、トロンビンまたは凝固経路の活性化を間接的に示すインビトロ診断試験である。線維素溶解の間、血餅はタンパク質分解的に分解され、フィブリン分解産物(FDP)およびD-ダイマー(DD)などのフィブリン由来中間体の形成をもたらす。DD濃度は、数時間から数日早く生じ得るインビボトロンビン活性を間接的に示し得る。D-ダイマーアッセイによって、ヒト抗マウス抗体およびFDPのような様々な血漿成分が干渉する。血栓症または高いインビボトロンビン活性は、高いDD値をもたらす。したがって、DDアッセイは、患者が血栓症を経験しているかどうかを確認するために主に使用される。
【0120】
結果
血漿中の抗凝固薬の薬物動態(PK)は、通常、ピークレベルに達する薬物濃度の極めて急激な上昇を示し、したがって、抗凝固薬摂取後短期間内にピーク濃度を示す。血漿中の薬物濃度は、ピーク(最高)濃度からゆっくり減退し、検出可能な最低濃度に極めて近いトラフ(最低)濃度に達する(
図2)。薬物動態(PK)プロファイルは、薬物濃度に相関し、薬物濃度は、ピーク濃度からトラフ濃度までを等しく3つの部分に細分することによって、3つのレベル(上部、中央、下部)に分類される(
図2、表1)。
【0121】
DD試験は、陰性および陽性の値を示すことができ、500未満の値は陰性に分類され、500を超える値は陽性に分類される。501~1,500の範囲の値は「+」と表記され、弱い陽性を示す。これに対して、中程度の陽性(「++」と表記される)は1,501~2,500の値を有し、強い陽性(「+++」と表記される)は2,501より大きい値を有する(表1)。
【0122】
さらに、凝固性試験およびDD試験の結果の間には、それらが異なる分析物を検出しているにもかかわらず、相関関係が存在する。抗凝固薬で処置されると、患者の約60%が陽性のDD値を示し、凝固経路の活性化を示した。さらに、採血時間がDDピーク相でなかったかまたは適切な時間でなかった場合、測定は陰性の所見をもたらすので、DD試験結果の陰性値は、凝固経路の不活性を示さなかった。実際、ID NO:11、12、13、16、18および19の患者は、凝固性試験に基づいて凝固経路活性化を示したが、DD試験の値は陰性であった。これは、凝固経路の活性化後のより遅い時点でD-ダイマーが形成されるために起こることが示唆される。DDと同様に、凝固性バイオマーカーは、健康状態および抗凝固処置に従って異なる期間にわたって個体内で動的である。DDとは対照的に、凝固性はより早期の時点で測定することができ、より速い結果を与える。患者が単一の時点で抗凝固薬で処置された場合のDD試験と直接比較して凝固性試験を評価するために、臨床研究Cを実施した。本研究は、無効な処置のリスクを軽減するために抗凝固薬投与量の最適化が個別的に必要とされることを確認した。したがって、凝固性試験は、個別化された監視および処置調整を可能にし、したがって効果的な処置を可能にするために使用することができる。
【表1】
【0123】
表1に基づくと、試験された全ての試料の約60%が1.5を超える凝固性を示し、これらの試料の約40%が臨床試験Bの健康な集団の範囲内の凝固性を有していた。PKプロファイルが高い(上部)ほど、したがって薬物濃度が高いほど、凝固経路の阻害は大きくなる。下部のPKプロファイルは、血漿中の薬物濃度がほぼ最低点にあり、このような状態は凝固経路の活性化を阻害する能力がより低いことを意味する。凝固性値が高いことは、凝固経路の活性化が高いことを意味する。例として、アピキサバンを与えられたID NO:3および4を有する患者の血漿試料は、下部にPKプロファイルを有し、凝固性値は1.5を超えており、したがって、血漿は健康な集団の血漿と比較して高凝固性であった。これは、これら2人の患者については、凝固経路が活性化されたことを意味する。これらの患者の高いDDレベルは、凝固経路の活性化およびそれに続く線維素溶解を確認した。例に示されているように、特にこれらの2人の患者については凝固経路の活性化を低下させる必要があるので、これは、投与量を調整するための個別化薬物処置の重要性を示している。
【0124】
別の例では、患者群に抗凝固薬リバーロキサバンを与えた。ID NO:15、16および19を有する患者の血液試料は、上部および下部相のPKプロフィールにおいて高凝固性(凝固性>1.5)を示し、これは高い凝固経路活性を示した。ID NO:17および18を有する患者の血漿試料は、正常凝固性であり(臨床試験Aを参照)、採血および抗凝固処置レジメンの時点でのインビボ凝固経路活性のレベルが低いことを示していた。エドキサバン、ダビガトランおよびアルガトロバンで処置された患者では一貫した観察が見られた。
【0125】
例3
CPTシステムの概念
CPT(凝固性をベースとする個別化処置)システムは、新規な凝固性バイオマーカーによって誘導される抗凝固薬管理システムである。このようなCPTシステムの例は、以下のとおりである。
1.システムに手動で入力し、計算結果のリストを生成する情報(凝固性データを含む)を受け付けるウェブベースのアプリケーション。
2.情報(凝固性データを含む)を受け入れるIoTなどの任意のオペレーティングシステムのコンピューティングデバイスにインストールされたアプリケーションであって、前記情報は、システムに手動で入力され、計算結果のリストを生成し得る、アプリケーション。
3.IoTなどの、血液試料を使用して凝固性および他のバイオマーカーを測定することができるデバイスと結合されたシステム。デバイスによって生成されたデータは、内蔵コンピューティングシステムに自動的に転送されるか、または有線もしくは無線接続を介してコンピュータシステムに送信される。個別化および最適化された抗凝固処置レジメンを提供することによって、医師および医療従事者に指針を与えるために結果のリストが作成される。
4.3.に記載されているような機能を部分的にまたは完全に有するコンピュータシステムであって、その機能はUSBスティックに送信され得る、コンピュータシステム。
【0126】
健康およびリスク評価を行うために、薬力学(PD)および薬物動態(PK)モデルを使用したシミュレーションおよび計算が必要とされる。パラメータおよび情報のそのような例は、以下のとおりである。
1.凝固性試験から得られたバイオマーカー情報ならびに別々に、各試験、CCTおよびTFTの情報、
2.年齢、性別、生理学的状態(例えば、血圧、腎機能)または病気などの患者/患畜の生理学的パラメータ、
3.抗凝固薬、抗血小板薬、抗癌薬および抗炎症薬に関する薬理学的および臨床的処置情報。
【0127】
CPTコンピュータシステムは、3つの内蔵モジュールからなり得る。さらに、このようなCPTシステムを拡張するための区画の例は、例えば血圧データ送信または重要なパラメータのその他のデータの転送のためのパラメータを可能にする患者/患畜用の遠隔装置(例えばIoTデバイス)であり得る。このシステムは、患者/患畜の異常な健康事象について医師に知らせ得る。このような遠隔システムはまた、凝固性試験を行い、健康状態およびリスクの試験分析、PD/PKモデルまたは抗凝固処置レジメンを提供する内蔵区画も有し得る。次いで、結果は、サーバに送信され得る。
【0128】
さらに、CPTシステム内蔵計算モデルは、機械学習アプローチ、またはベイジアンベースのシステムおよび/または当業者に周知の任意の統計的PKモデル化プログラムなどの従来のアプローチによって作成され得る。
【0129】
モジュール1
モジュール1は、患者/患畜のための情報システムとして記載されており、手動または自動で取得された入力を必要とする。したがって、このモジュールは、他のコンピュータシステム、例えばLOINC(R)Mappingシステムによって、生成された患者/患畜情報または記録された情報を自動的に取得することによって情報の入口となるように設計されている。モジュール1はまた、患者/患畜の情報記憶システムとして機能するように設計されており、この情報ならびにモジュール2および3から得られた計算およびモデルは、このモジュール1内に保存される。このように、モジュールは協働し、モジュールと電子医療記録システムとの間で情報を交換している。モジュール1はまた、患者/患畜由来の情報が安全に交換され得るように、アクセスされ、または既存の電子健康/医療記録システムとやり取りするように設計される。モジュール1の別の重要な機能は、通院、診察または採血などのための予約のスケジュールを立てることなどの患者データベースのその管理システムである。これにより、薬物の服用および医師の診察の予約について患者に思い出させることができる。
【0130】
モジュール2
モジュール2は、モジュール1から情報を取得し、計算分析によってモデル化された凝固性データを生成し、計算モデルによって個別化された治療域を生成する。このモジュールは、ある期間にわたる個々の凝固性情報に基づいて凝固性モデルをシミュレートし得る。健康およびリスク評価のための数学的モデルを生成するために、個々の凝固性データは、集団のプロファイルに従って統計的に格付けされ、モデル化される。薬力学的効果の個々の基礎値、個体内および個体間変動は、少なくとも2つの異なる凝固性アッセイの凝固性読み取りの組み合わせ(例えば、減算または除算)に基づいて決定され得る(例9参照)。
【0131】
凝固性状態は、凝固経路および免疫応答に関する任意の活性を示し、したがって健康状態ならびに血栓症および出血に対するリスク評価をもたらすことができる。健康状態およびリスク評価は、集団研究に基づいて統計的に計算することができる。健康状態に関する情報を与えることができる患者/患畜からの取得されたデータは、例えば、
-変動するトロンビンおよび線維素溶解活性、
-凝固性試験から取得された凝固性状態
であり得る。
【0132】
血栓症および/または出血に関するリスク評価研究における計算分析ならびに統計解析は、モジュール2内で実行され得る。モジュール1からの取得されたデータは、例えば、以下のような情報を使用することによって個体の健康状態を調査するために、モジュール2において分析され得る。
-トロンビンおよび線維素溶解活性、
-凝固性試験から取得される凝固性状態、
-集団研究
-CCTおよびTFT試験から得られる決定されたフィブリノーゲンレベル、
-抗凝固薬(単独でまたは他の薬物と一緒に)服用中のPKおよびPDプロファイルのシミュレーションおよびアラインメント
計算された血漿薬物濃度。
【0133】
例えば、患者/患畜がただ1つの抗凝固薬を処方されている場合、モジュール2は、処方された濃度でのこの抗凝固薬およびレジメンが凝固性の状態を改善したかどうかを計算することができる。患者/患畜が抗血小板薬、抗炎症薬および/または抗凝固薬などの複数の薬物を一度に処方されている場合、モジュール2は、新しい薬物処方のために、高凝固性の段階的な低減および抗凝固薬濃度の調整を推奨することが可能であり得る。このモジュール内では、進行中の処置の有効性を保証するために複数の投薬スキームが生成され得る。次いで、以下の抗凝固薬投与量レベルを計算するために、追加の凝固性データが必要とされる。別の例は、患者が抗凝固薬による治療中に凝固因子欠乏(後天性または遺伝性)に苦しんでいる場合、システムはユーザに警告し、治療域を縮小することを推奨するか、または症例に応じて段階的アプローチを使用し得る。
【0134】
結果
図3は、2日目より前に減退する急性炎症および上昇したトロンビン活性を0日目より前に発症する健康な個体を示す。これに対して、主にプラスミン活性によって媒介される線維素溶解活性は、2日目より前に増加している。したがって、FDPなどの抗凝固因子の優勢な存在は、CCT試験の凝固プロセスに影響を及ぼす。したがって、モジュール2の1つの特徴は、凝固性データに基づいてインビボ線維素溶解活性のモデルを生成することである。
【0135】
モジュール2は、許容可能なレベルへの凝固性の調整を達成することが予測される抗凝固薬または一連の抗凝固薬の血漿濃度を計算する。最小および最大薬物濃度、または個々の薬物曝露と凝固性調整との間の関係を記述するのに適切な他のPKパラメータを含有するこの濃度範囲は、抗凝固薬で処置された患者の臨床データから生成された数学的および/または統計的モデルに基づいて計算される。この濃度範囲内で、患者は安全かつ極めて効果的な処置を受ける。この方法は、抗凝固処置を既に受けている患者に適用可能である。臨床研究によれば、リバーロキサバンを服用しているID NO:15、16および19を有する患者は、PKがそれぞれ上部レベルおよび下部レベルにあるときに高凝固性を示している。しかしながら、ID NO:17および18を有する患者の凝固性データは、同じ投与量のリバーロキサバンの服用後に、効果的な処置および正常な凝固性値を示している。
図4の例に示されているように、リバーロキサバン処置レジメンおよび投与量は、ID NO:15、16および19を有する患者に対して個別に調整され得る。これらの患者(ID NO:15、16および19)の処置調整が達成された後には、ID NO:17および18を有する患者によって例示されるように、凝固性は改善されるはずである。アピキサバンを処方された患者(表1、ID NO:1~4)または任意の他の抗凝固薬を処方された患者にも同じ原理が適用され得る。
【0136】
各抗凝固薬の安全性閾値は、CPTシステム中に含有されている。モジュール2は、モジュール1に保存された患者/患畜の詳細を取得し、有害事象のリスクに関して、他の処方された薬物、例えば抗血小板薬との相互作用を分析し、抗凝固薬レジメン調整に対する段階的なアプローチを推奨する。安全性の特徴の1つを例示するために、抗凝固処置のみを必要とする患者/患畜は、この抗凝固薬の安全性閾値に近い薬物処置濃度を受けることが推奨される。このシステムは、ユーザに警告し、炎症または抗炎症の調節剤などの他の薬剤と組み合わせて、より低いより安全な投与量を推奨することができる。したがって、CPTシステムは、複数の薬剤がより安全で効果的な処置を達成することを可能にする。
【0137】
モジュール3
PKモデル化は、モジュール3の重要な特徴であり、モジュール3は、モジュール2によって実施された計算および統計解析の結果と、ある個体にとって最良の抗凝固処置レジメンをカスタマイズし、シミュレートされた処置レジメンを提供することによってPKシミュレーションモデルを個別化することに適したパラメータとを統合する。疾患および薬剤に関するデータを提供するために、PKならびに個別化された投薬量および処置レジメンをモデル化するための幅広い既存のソフトウェアが既に存在する。しかしながら、本CPTシステムは、抗凝固薬の標的処置効果をPKにおけるその濃度に変換し、モジュール1中に含有されるパラメータに従って、個別化された薬物投与量およびレジメンを推奨することができる。モジュール3の別の特徴は、個別化された薬量学と標準的な汎用的薬量学との間のギャップを分析する能力である。モジュール3は、これらのギャップに起因するリスクを計算することもでき、ユーザが起こり得るリスクを理解し、管理することを可能にする。さらに、モジュール3は、患者が例えばP-糖タンパク質阻害剤または誘導因子を与えられている場合に、薬物-薬物相互作用に関する警告を発し、個別化されたPKの修正シミュレーションを生成することができる。CPTシステムは、個々の抗凝固薬のPKに影響を及ぼす代謝酵素中の起こり得る遺伝的変動を考慮してPKをシミュレートすることができる。
【0138】
結果
例として、PKモデルは薬物-薬物相互作用によって影響され得る。経口投与された抗凝固薬の薬物吸収は、P-糖タンパク質誘導因子(例えば、リファンピシン)および阻害剤(例えば、ベラパミル)によって影響を受け、薬物PKプロフィールに影響を及ぼし得る。リファンピシンと抗凝固薬のダビガトランとを同時投与する場合、ダビガトランの最大血漿濃度は約67%減少し得、抗凝固処置の有効性に著しく影響を及ぼし得る。薬物-薬物相互作用の別の例は、シトクロムP450阻害剤と経口抗凝固薬の同時投与である。PKモデルは薬物-薬物相互作用および多くの他のパラメータによって影響を受けるので、モジュール3はこれら全てを考慮し、血栓症および/または出血のリスクの軽減を達成するために、薬物投与量および処置レジメン、薬物-薬物相互作用の警告およびリスク、ならびに凝固性を目標区間に低下させるための段階的アプローチの可能性を推奨する。
【0139】
例4:
肝臓は凝固促進因子および抗凝固因子の両方ならびに線維素溶解を伴う他のタンパク質を含むほとんどの凝固因子を産生するという事実のために、肝疾患は、凝固系の興味深い研究モデルである。肝疾患が進行するにつれて、凝固系はこれらの因子のバランスを取り直すことによる著しい変化を経ており、したがって、典型的な凝固検査パラメータは凝固系に洞察を与えることができない。これらの現在の検査パラメータは、このような患者/患畜の血栓症および/または出血リスクを予測することができない。したがって、このような予測のための新しい診断法が必要とされている。本例は、血栓症および出血のリスクを評価する上での凝固性パラメータの使用を実証する。
【0140】
この新しいバイオマーカーである凝固性は、いくつかの重要な要素、CCT、TFTおよびCCT:TFTから構成される。診断方法TFTは、血液試料中の真のフィブリノーゲンレベルを測定するので重要である。TFTは極めて特異的であるため、トロンビンの作用、いわゆるインビボトロンビン生成によってフィブリノーゲンからフィブリノペプチドAaを除去することによって生成された新鮮なフィブリン誘導体などの、フィブリノーゲンに極めて類似した分子を一切測定しない。
【0141】
他方、CCTは、採血時点での患者/患畜に関する指標が混在したものを与える。これらの指標には、フィブリノーゲンおよびフィブリン誘導体の量が含まれる。これらのフィブリン誘導体は、外傷または疾患によって誘導されたインビボトロンビン生成によって、血液中に存在する。フィブリノーゲンに対するトロンビンの最初の作用および線維素溶解系を介したその後の修飾および分解以降、異なる種が異なる時点で生成され、発達し、転換され、分解されるので、これらの誘導体は様々な動的様式で存在する。これらの誘導体は、CCTが依存する凝固反応に対して異なる効果を発揮し、凝固を増強するか(例えば、可溶性フィブリン複合体)、凝固を阻害するか(例えば、いくつかのFDP)、または中性の効果(例えば、DD)のいずれかである。したがって、CCTは、フィブリノーゲンおよびフィブリン誘導体を測定する方法である。CCTは、DDが応答することができない速いインビボトロンビン生成に応答することができる。さらに、CCTによって検出可能なフィブリン誘導体は、DDの不適切に長い半減期と比較して、非常に適切な半減期を有する。
【0142】
これらの誘導体の総合効果は、CCTとTFT間の関係を決定することによって容易に測定される。簡単化のために、本特許は、TFTを差し引かれたCCTなどの単純な演算との関係性を主に例示している。CCTがTFTより大きい値を有する場合(例えば、
図1B)、これは、これらの誘導体によって及ぼされる総合効果が凝固反応を強化しており、主な誘導体が例えば可溶性フィブリン複合体であることを意味する。したがって、インビボトロンビン生成に関する最も重要な情報は、CCT中に組み込まれている。したがって、CCTの値は健康状態を示す。
【表2】
【0143】
慢性肝疾患血漿試料を収集し、第V因子およびDDについて分析した。試料は、CCTおよびTFTによっても測定された。肝臓機能レベルを推定するために、凝固促進因子である第V因子を決定した。これらの患者は、標準的なCCTによって決定された異常な標準的凝固検査パラメータ、例えば、正常なフィブリン(フィブリノーゲン)レベルであるが、延長したPTおよびaPTTを示した。これらの患者が正常と比較して平均で約50%の第V因子を有するという事実により、患者は肝疾患の進行した段階にあった。これらの患者は平均で約2のTFTを有し、統計的におよび有意に、2.8の平均より低い(
図5)。このような疾患状態では、血栓症および出血のリスクは、肝臓の問題を有さず、凝固促進因子および抗凝固因子の両方のレベルが低下していない患者と同じカテゴリーには入れられない。このような肝臓患者の血栓リスクはより高い。例えば、肝疾患患者、4のCCTおよび2のTFTを有し、したがって、+2の凝固性(またはCCT:TFT)を有する。この患者は、5のCCT、3のTFTおよび+2のCCT:TFTを有する肝疾患を有さない患者よりも高い血栓リスクを有する。したがって、TFTは、ここでは肝疾患によって例示されているように、真のフィブリノーゲンレベル以外に、凝固促進因子および抗凝固因子がどのようにそれら自体のバランスを取り直すかの強固な指標を与えることができる。リスクを予測することができるアルゴリズムは、多くの臨床症例の機械学習または他の数学的手段のいずれかを通じて作成される。
【0144】
健康な集団のTFTフィブリノーゲンレベルは2.3~3.4に分布し、平均2.7であった(
図5の対照群)。重度の肝疾患集団においてのみ、TFTフィブリノーゲンが正常レベルを下回り得る(
図5の肝臓群)。したがって、疾患状況および病的インビボトロンビン生成を反映するCCTとは異なり、健康または病気のいずれかの任意の個体のTFT値は、
図5に表されているこれらの2つの集団内に分布するであろう。これは、抗凝固薬で処置された患者の群でさらに確認され(表1)、そのTFT値は1.9~3.2であった。TFTは、個体に対して速い動的インビボトロンビン生成を示す機能を欠いているので、さらなる例は、明確さおよび単純さのために、CCT値のみの変化によって、高凝固性の逆転または低下に対する薬物処置効果を示す。別の重要な点として、50%未満の肝機能を有する個体(ID6)は、正常レベルを上回る、例えば4g/Lを超えるフィブリノーゲンを産生することができない(表2)。したがって、CCTはフィブリノーゲンレベルより多くを反映しており、CCTはインビボトロンビン生成によって産生されるフィブリン誘導体の指標である。
【0145】
バイオマーカーである凝固性、特にCCT成分の使用は、基礎疾患状態および薬理学的介入の効果を明らかにするためにとりわけ重要である。CCTはフィブリン誘導体の生成を検出することができるので、成分CCTは、多くの疾患における高凝固性または高凝固能の根本原因である病的なインビボトロンビン生成を明らかにする唯一のバイオマーカー成分である。したがって、臨床研究が、凝固系に干渉することが知られている薬理学的介入後のCCTの一般的傾向を測定するように設計されている場合、この研究は、凝固性バイオマーカーの動的成分であるCCTが、疾患および薬物処置の進行を監視するためのバイオマーカーとしてのその有用性において一般化され得るかどうかを実証することができる。
【0146】
例5:
CCTに対する抗凝固薬の効果を研究するために臨床研究を実施し、薬理学的介入による凝固系の減衰を示す上でのCCTの臨床的有用性を示すために臨床データを収集し、分析した。医学研究倫理基準に従って行われたいくつかの研究は、疾患によって引き起こされる高凝固能または高凝固性を調節する上でのCCTのこのような臨床的有用性について結論を出すために行われた。
【0147】
第1に、健康な個体はフィブリン誘導体をほとんど有していないかまたは高凝固性が存在せず、正常なCCT値を有すること、および健康な個体におけるフィブリン誘導体を低下させる抗凝固処置はCCT値を有意に変化させないことを示すために、健康な集団に対して抗凝固研究を行った。このような研究では、リバーロキサバン研究が18~50歳の年齢の6人の健康なボランティアに対して行われた。彼らは、正常なバイタルサインならびに感染、血液学および凝固についての臨床検査スクリーニング試験の基準を満たし、身体検査で異常はなかった。彼らには、2.5日間、1日2回、15mgのリバーロキサバンが与えられた。急性静脈血栓塞栓症(VTE)の初期処置に対して承認された最高の投与量であるので、1日2回15mgの投与量が選択された。アピキサバン研究は、リバーロキサバン研究と同じ健康プロファイル要件で、別の6人の健康なボランティアに対して実施された。これらの6人のボランティアには、10mgのアピキサバンが3.5日間、1日2回与えられた。抗凝固薬服用の直前および最後の服用の3時間後に血液試料を採取した。フィブリノーゲンの測定は2つ組で行った。
【0148】
リバーロキサバン研究では、CCTはリバーロキサバン処置前の2.75の平均(標準偏差0.92)から処置後の2.64の平均(標準偏差0.93)に変化した。-0.11の差は統計学的に有意ではない。アピキサバン処置前および後のCCTの変化は、2.56の平均(標準偏差0.36)から2.38の平均(標準偏差0.25)であった。-0.18の差も統計学的に有意ではない。これらの個体は一般に、健康値範囲付近のCCT値を有し、彼らには、例えば重度のCOVID-19患者が6.0を超えるCCT値および血栓症を有し得るなど、高凝固性を引き起こす病的インビボトロンビン生成によって生成される異常な量のフィブリン誘導体が一般に存在しないことを示している。換言すれば、これらのボランティアは健康であり、彼らの正常なCCT値の故に、高凝固性を有していなかった。さらに、彼らの凝固系が高度に阻害された場合でさえ、彼らのCCT値は有意に変化しなかった。これらの研究は、病的インビボトロンビン生成は健康な個体には一般に存在せず、このような健康な個体における凝固系の高用量の薬理学的阻害は、CCTによって明らかにされるようなわずかな凝固性変化をもたらすことを明確に示す。
【0149】
第2に、高いフィブリン誘導体または高凝固性を有する患者には凝固系の阻害が有効であり、CCTによって明らかにされるフィブリン誘導体の低下を同時に伴うことを示すために、血栓症に罹患した患者に対して抗凝固研究を実施した。この研究は、CCT値の低下と生理学的機能の改善との相関を通じて処置有効性を明らかにした。
【0150】
完全な臨床記録を有し、急性脳梗塞(ACI)と診断され、CTまたはMRIによって確認された70人の患者を本研究に含めた。彼らはACIを初めて発症した患者でなければならず、疾患の発症は72時間未満でなければならず、脳梗塞の原因は心臓起源であり、彼らは異常な腎機能もなく、出血歴および止血異常はなかった。
【0151】
これらの70人の患者を2つの群に分け、対照群を35人、観察群を残りの35人とした。対照群の患者はリバーロキサバン(抗凝固薬)で処置され、観察群の患者はリバーロキサバンとオザグレルナトリウム(抗血小板薬)の組み合わせで処置した。オザグレルナトリウムは、トロンボキサン(TX)合成酵素の特異的阻害を通じて血小板の活性化および凝集を阻害する。血小板活性化に対するオザグレルの阻害効果のために、血小板はトロンビン生成の主要な脂質表面となることを停止する。
【0152】
濃縮酸素供給などの標準的な処置に加えて、70人の患者全員がアスピリン100mg/錠剤/日で処置された。さらに、対照群および観察群には、リバーロキサバン15mg/錠剤/日を与えた。リバーロキサバンに加えて、観察群には、500 mLのグルコース(5%)溶液中の80mgのオザグレルナトリウムを静脈内に毎日投与した。全員2週間処置された。両群は、極めて類似した平均年齢および範囲(40~70歳)を有する。
【0153】
2週間の処置後、2つの群の臨床的有効性(神経学的評価)、凝固検査(CCTのみが示されている)およびGCSスコアを比較した。NIH脳卒中スケール(NIHSS)に従って神経学的評価を行った。NIHSSスコアが90%以上低下する場合、障害分類はグレード0であり、処置は非常に有効である。NIHSSスコアが46%~89%に低下する場合、障害分類はグレード1~3であり、処置は有効であると考えられる。スコアが46%未満である場合、処置は有効ではない。神経学的評価結果を表3に要約する。
【表3】
【0154】
15を最高のスコアとするグラスゴー昏睡スコア(GCS)スコアリングシステムに基づいて、全ての対象に対して、昏睡評価を処置前および後に行った。昏睡の程度はより軽度であり、より高いスコアに反映される。GCSに基づく回復をCCT結果とともに表4に要約する。
【表4】
【0155】
CCT値は、2つの異なる処置後に有意に低下した。観察群は、対照群と比較して有意な低下を有し、P値<0.01である。CCT値の低下の程度は、処置の方法と強く相関する。抗凝固薬(リバーロキサバン)と抗血小板薬(オザグレル)との組み合わせによって例示されるように、いずれの処置方法も患者の転帰を改善したとしても、凝固系がより阻害されるほど、高凝固性の制御がより優れており、したがって、脳卒中後の患者の機能的回復がより良好である。CCT値の一般的な大きな低下は、脳卒中の前および後の近くの期間で活性化されたインビボトロンビン生成プロセスの低下を意味する。薬物処置の影響によりインビボトロンビン生成が阻害されるので、凝固促進性フィブリン誘導体の生成がより少なくなり、線維素溶解系を介した凝固促進性フィブリン誘導体の抗凝固性フィブリン誘導体への変換がより多くなる。これらの抗凝固性フィブリン誘導体は、初期のFDPによって例示されるように、CCTなどの全ての血餅ベースのアッセイならびにPT、aPTTおよびTTなどの他のアッセイに対してそれらの抗凝固活性を及ぼす。実際、CCT値の変化は本研究に反映されており、全てのこれらの血餅ベースのアッセイも同様であり、血餅ベースのアッセイは、これらの抗凝固因子の抗凝固性活性のために、処置後に著しく延長される。これらの血餅ベースのアッセイの延長は、処置の種類とよく相関し、観察群は、対照群と比較してより長い平均結果を有する(P<0.01)。
【0156】
健康なボランティアおよび脳卒中患者において行われた上記2つの臨床研究は、新規バイオマーカーであるCCTがインビボトロンビン生成と相関し、高凝固性疾患および薬理学的介入による凝固性変化を監視するためのCCTの適用が有効であることを示すために行われた。CCT値は、心血管疾患、脳卒中、癌、炎症性疾患などの多くの疾患において活性である病的なインビボトロンビン生成によって生成されたフィブリン誘導体の種類および量によって大きく影響を受ける。CCTによって主に反映される凝固性は、健康および価値に基づくデジタルヘルスケアに重要な用途を有する強力で新規なバイオマーカーである。
【0157】
脳卒中患者を用いた研究は、抗血小板処置と抗凝固処置の併用治療が凝固系の過剰抑制のために出血リスクを増加させた公開された臨床研究と一致している。
【0158】
例6:
この例では、VKA-抗凝固処置中の血液学的パラメータの変化を研究するためにその血液が採取された35~86歳(平均年齢60.5±25.5)の合計42人の患者。これらの患者は、血栓症のリスクを軽減するためにVKA抗凝固処置を受けた。これらの患者は、VKA抗凝固薬投与量の変化の変化およびCCT値を含む凝固パラメータに対するこのような変化の効果を研究するために募集された。投与量変更の前および後に、凝固パラメータ評価のために患者の血液試料を採取した。投与量の変更または調整は、血液を採取し、さらなる医学的診察を受けるために戻るように求められる前の少なくとも1ヶ月間、各患者において安定に維持された。個体のPT-INR(前、T0)およびPT-INR(後、T1)の変化に基づいて、基本的に2つの群、「減少」(n=20、表5)および「増加」(n=22、表6)群が存在した。彼らの凝固系の活性に対する洞察を得るために、CCT、DDおよび可溶性フィブリンモノマー(FM、インビボトロンビン生成を示すアッセイ)などのいくつかのパラメータを測定した。
【表5】
【表6】
【表7】
【0159】
表7のデータは、CCT、DDおよびFMによって明らかにされるように、PT-INR値が低いほど、インビボトロンビン生成が高いことを示す。
【0160】
例7:
これもまた、抗凝固処置が、CCTによって検出可能なフィブリン誘導体の低下を同時に伴って、病的なインビボトロンビン生成をどのようにして低下させるかについての別の例である。この例は、非常に広まっている(>10%)進行性慢性疾患であり、免疫系および凝固系の強い臨床兆候を有する。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、高い血栓症リスクを同時に伴って呼吸機能を冒す炎症性肺疾患である。この例では、研究対象は、COPDと診断され、COPDの急性増悪型(AECOPD)を発症した70人の患者であった。標準的なAECOPD処置、例えば感染予防、気管支拡張、痰の除去および酸素処置などの他に、これらのAECOPD患者の32人は追加の処置を受けず、残りの38人は低分子量ヘパリンカルシウム(LMWH、4100IU抗FXa/注射、12時間毎、10日間)で処置された。
【0161】
いくつかのパラメータ:肺機能、血液ガス分析および凝固パラメータに基づいて処置有効性を評価した。この情報は全て、LMWH抗凝固処置の前および後に得られ、対照群についても同じであった。FEV1(気管支拡張薬を吸入した後の1秒量の測定)およびFVC(努力肺活量、および呼吸能力の臨床徴候としての%で表したFEV/FVCの比)などのいくつかの方法で、肺機能を測定した。血液ガス分析は、血液の酸素飽和度(SO2)、酸素分圧(PO2)および二酸化炭素分圧(PCO2)を測定することによって得られた。いくつかの血液凝固パラメータが測定され、それらは、CCT、DD、PT-INRである。
【0162】
前の例と同様に、本研究は、インビボトロンビン生成の強力で応答性のバイオマーカーである凝固性バイオマーカーCCTの動的部分に焦点を当てた。本研究は、トロンビン活性の補完指標としてDDを含んでいたが、CCTほど特異的かつ高感度ではなかった。
【0163】
処置の開始前に、処置群および非処置群の患者は、これら2つの臨床指標、肺機能および血液ガス飽和度に有意な差を示していなかった(全てP>0.05、表8)。処置後、両群は両指標に有意な改善を示した(P<0.01、表8)。抗凝固処置は、非処置対照と比較して、臨床的回復指標をさらに有意に改善した(P<0.01、表8)。これは、AECOPDを処置する上での、凝固系を標的とする抗凝固薬の利点を強く示している。抗凝固薬の使用は、表9に要約されるように、凝固パラメータの変化をもたらした。
【表8】
【0164】
抗凝固薬LMWHの使用は凝固系に対して強い影響を及ぼし、その効果はバイオマーカーCCTによって明らかに認められる(表9)。処置前に、両群は凝固パラメータ、特にCCTおよびDDに有意な差を示さなかった(全てP>0.05、表9)。処置の前および後で、これらのパラメータには、LMWH処置群内でのみ有意な差が見られた(全てP<0.01、表9)。これは、処置の前および後で、全てのパラメータが統計学的に有意でないままである(全てP>0.05、表9)対照群とは対照的である。これらの凝固パラメータは、凝固因子FXaの強力な阻害が、一般に、これらの38人のAECOPD患者の凝固系を阻害したことを示している。脳卒中(例5)と同様に、抗血栓薬によって病的インビボトロンビン生成を低下させると、処置された患者の臨床的回復がより良好になった。このような阻害の効果は、インビボトロンビン生成の低下をもたらし、線維素溶解プロセスを促進し、これは、PTおよびPT-INRの増加によって示されるように、CCTの低下および凝固速度の低下によって示される。したがって、この例では、CCTと病的インビボトロンビン生成間の強い相関が実証されている。多くの高凝固能疾患におけるCCT/凝固性バイオマーカーの適用がさらに実証されている。AECOPDに対するAECOPD標準処置は有効であったが(表8、対照処置)、凝固経路の活性化またはインビボトロンビン生成を停止させること、およびLMWHまたは抗凝固薬の補充的処置によって線維素溶解などの抗凝固経路の活性化を促すことは、臨床的回復を大きく改善する。
【表9】
【0165】
aPTT凝固試験は凝固試験パネル中に含まれていたが、aPTTアッセイに対するLMWHの阻害効果のために有用性は限定的である。aPTTデータ、特にLMWH処置患者から得られたaPTTデータに対して悪化効果を有する可能性があるため、aPTTの結果は表9に含められていない。簡潔に記せば、対照処置もaPTT結果を有意に変化させなかった。
【0166】
本研究は、例5における脳卒中の抗血栓処置とは異なり、抗凝固薬ありおよびなしの標準的なAECOPD処置との間で比較研究を行った。さらに、AECOPD患者を用いた本研究は、抗血小板処置なしで実施された。
【0167】
健康な対照、安定なCOPD対照およびAECOPD個体を含む異なる集団の、CCTおよびDDレベルに関する比較研究は、活発な疾患期または再発に屈したAECOPD集団がCCTの有意な増加を示しており、免疫系および凝固系の活性化を示していることを示している(表8)
【0168】
これらの例は集団研究を表しており、これらの研究はヒト集団についての結論を一般的に引き出すように設計されていることを意味する。
【0169】
例8:
血友病患者に対する血液凝固薬の標準的な使用に加えて、後天性因子欠乏症の増加のために、凝固因子などの血液凝固薬の使用がより頻繁になっている。抗凝固処置を受けている患者が出血に苦しんでいる状況も存在し、出血を止めるために、血液凝固薬および/またはバイパス剤(BPA)が投与される。FVIIIのような特定の欠乏した凝固因子を補充する凝固薬またはヘムライブラおよびノボセブンなどの、血液凝固の効率を増加させる薬剤(BPA)など、これらの血液凝固薬は血栓症のリスクを高めている。血友病患者の生活の質は、利用可能な処置によって改善されているが、多くは頻繁な出血によって引き起こされる出血および慢性疾患に依然として苦しんでいる。
【0170】
これらの血液凝固薬の過剰または過少投与は、処置失敗の主な原因である。このような血液凝固薬の個別化された投与戦略は、処置を最適化するために必要とされる。これらの血液凝固薬の全ての現在の疑似薬力学(PD)応答は、PTおよびaPTTなどの古典的な凝固試験によって主に監視されるが、それらは多くの現在および将来の処置薬には適していない。これらのインビトロ診断試験は、処置剤の薬物動態(PK)を提供することができるにすぎない。これらのインビトロ診断試験は、患者が処置剤または処置薬を過剰にまたは過少に与えられている場合に洞察を与えることができず、これらのインビトロ診断試験は、汎用的処置の有効性を示すのに十分ではない。さらに、これらの試験は、トロンビンのベースラインインビボ活性に関するいかなる洞察も与えることができない。さらに、これらのアッセイのほとんどは、細胞成分および細胞内成分のような多くの他の全血成分の非存在下で行われる。このような条件では、これらのアッセイにおける凝固効率をチェックするために、凝固反応は人工的に刺激される。血液凝固には血液の一部の画分だけではなく全血が関与するので、このようなインビトロデータがインビボ状況を反映するという仮定は成り立たない。処置有効性を評価するための良い方法がないので、最も一般的に受容されている臨床エンドポイントは、出血および他の有害事象のスコアリングである。
【0171】
別の問題は、異なる個体におけるBPA処置の薬物動態(PK)の変動性である。同じ用量のBPAを与えられている個体が異なるPKを有しており、したがって、個体間の差のために、一部の個体は、他の個体よりも頻繁なBPA投与を必要とするであろう。
【0172】
遺伝子治療を含むこれらの処置に伴うさらなる問題は、レシピエントがこれらの薬剤または薬物に対する阻害剤または抗体(中和または非中和のいずれか)を頻繁に生成し、個体において異なってPKおよびPDに影響を及ぼすことである。先天性血友病A(CHA)の例では、患者の約30%に中和抗体が出現し、これらの抗体は依然として最も代表的な処置である第VIII因子(FVIII)処置の有効性を低下させ、中和活性に応じて、外因性FVIIIはPK濃度範囲に沿って完全な治療活性をもたらすことができない。残りの約70%の中和抗体のないCHA患者は、FVIII補充療法中のFVIIIのPKおよび利用可能性に大きく影響し得る非中和抗体を有し得る。高用量のFVIIIを投与し、一般に、ITIの間にFVII、rFVIIaおよび活性化プロトロンビン複合体濃縮物(aPCC)などの他のBPAを含めることによる免疫寛容誘導(ITI)の方法が開発され、これらの阻害剤を克服する上で高い有効性を達成した。ヘムライブラおよびその他を含むこれらのBPAの使用は、増加した血栓リスクのために有害事象を伴い、この処置プロセスおよび有害作用を監視するために利用可能な試験またはツールはない。ITI処置の前から後まで、患者が阻害剤の問題を抱えているかどうか、およびどの程度重症であるかを知るために、決定的な監視方法が必要とされている。出血および血栓症のリスクが最小限に抑えられるように、ITI処置中に、処置レジメンに関する手引きを個別に提供するために監視が必要とされる。阻害剤の再発が知られているので、患者が処置後に安定した状態を保っているかどうかの長期決定のために、ITI後に監視がなお必要とされる。このような監視診断法は、非中和抗体については不足しており、感度が高くない。非中和阻害剤のみを有するCHAの患者は、特定の時点でごくわずかな阻害剤を有するCHA患者と比較して、FVIIIの半減期がより短いために極めて異なるPKを有する。さらに、これらの患者がトラフレベル付近で十分な保護を有するかどうかは不明である。したがって、全体の薬物PKとともにFVIII処置の有効性を個別に示すために、既存の利用可能な試験に加えて、革新的な監視試験システムが必要とされている。
【0173】
フォン・ヴィルブランド因子(VWF)のレベルは個別に変動し、この因子がFVIIIの安定性に影響を及ぼすことが実証されたので、外因性FVIIIのPKは、採血時のPD決定に加えて、個別に決定されなければならない。上記の因子に加えて、この因子は、適切な機能のためにFVIIIを利用することをさらに厄介にする。B型およびC型のような他の血友病患者に加えて、個別のCHAに対して多くの異なる試験および測定を実施することは、資源を必要とするであろう。
【0174】
最後であるが劣らず重要なこととして、血友病患者は、フィブリン塊上のトロンビン活性化線溶阻害因子(TAFI)が少ないために、調節不全の線維素溶解も抱えている。したがって、PKまたはPKのみに基づく治療域に依存する個別化処置は、出血を完全に根絶するのに十分ではない。
【0175】
血友病患者における出血の問題は、ここでは薬物と総称される血液凝固薬またはBPAのこれらの処置によって完全には克服されないので、処置を最適化し、出血の発生を低減するための個別化された投薬レジメンが必要である。出血の場合に、これらの薬物のいくつかで処置されたこれらの患者は血栓性合併症に直面した。カスタマイズされた処置を達成するために、生活の質がさらに改善され、入院および医療費を大幅に減らすことができるように、個人が、人生の異なる段階で決定された彼らの最適化された治療方法および治療域を有する必要がある。
【0176】
aPTTなどの血餅ベースのアッセイおよび発色試験など、これらの血液凝固薬またはBPAの薬物動態(PK)を決定する既存の方法が広く採用されている。この情報は薬物濃度のみを反映し、そのPKの全ての時点でのこの薬物処置が患者を出血から保護するのにまたは血栓症を誘発するのに十分であるかどうかについて情報を与えることができないので、この個別のPK決定は十分ではない。例えば、トラフ濃度での薬物濃度は、異なる血友病患者に対して極めて異なる有効性を有し得る。さらに、FVIII阻害剤に対する既存の試験は標準化されておらず、薬物処置に対する阻害剤の効果、特に試験を妨害しない非中和阻害剤の効果について情報を与えるのに十分でない。
【0177】
現在利用可能な診断法が不十分であるため、血友病に対する現在の処置は、全ての血友病患者に対しては未だ最適化されていない。現在、破綻出血およびその他の出血が起こる前に血友病の処置を個別に最適化することができるように、処置のPD効果を監視するためのバイオマーカーは存在しない。壊滅的な事象の出現まで待つことなく、個別に最適化された治療方法および特定の単一または混合処置の範囲を測定し、それに応じて調整することができれば、これらの痛みおよび苦痛は全て回避され得る。
【0178】
新規なバイオマーカーが、異なる処置方法中に個々のPKを決定してまたは決定せずに、薬物処置中の血友病患者の個々の患者での血栓症および出血のリスクを計算することができる計算アルゴリズムと組み合わされる、上述のジレンマに対する解決策が本発明において見出される。
【0179】
凝固経路の活性は、血液中の非細胞および細胞成分の関与を伴って、内因性および外因性経路を介して活性化されるトロンビンの活性によって示され得る。このトロンビン活性は、条件に応じて、フィブリノーゲンをフィブリンおよびフィブリン由来分子に変換することによってその印を残し、様々なサイズおよび複雑さの小さな可溶性および不溶性ポリマーを形成することができる。これらの複合体および様々なフィブリン由来分子または誘導体は、インビボでのトロンビン生成の指標であり、可溶性フィブリンなどの凝固促進因子および抗凝固因子であり得る(説明については他のセクションを参照されたい)。凝固性バイオマーカーの一部であるCCTは、これらの誘導体およびフィブリノーゲンレベルの強力な指標である。CCTの動的変化は、凝固系がある種の誘導因子または処置、例えばBPAなどの薬物にどのように応答しているかを反映する。誘導剤は、例えば免疫原、病原体、涙液および傷害であり得、免疫系と凝固系の両方を活性化することができる。これらの誘導因子の例は、ウイルス感染、組織剥離および心血管疾患である。フィブリノーゲンに対するこれらのフィブリン誘導体の出現および相対存在量を追跡および計算することにより、血栓症および出血のリスクの予測を計算することができる。これは、薬物またはITI処置中に行うことができる。このアプローチに基づいて、それぞれの血友病患者は、カスタマイズされたおよび最適化された処置を受け、医療提供者は直感に依存しない。
【0180】
血友病患者は、正常な凝固機能を回復させるために頻繁な薬物処置に依存している。処置頻度は、通常、その個体の理論的薬物PKまたは実際の測定されたPKに依存する。PKは、薬物の種類に応じて、1週間~1年の範囲であり得る。ここでは、この組み合わされたバイオマーカーと計算システムがより良い情報および意思決定を医療提供者および患者にどのようにして提供することができるかを簡単に説明するために、本特許に記載されているシステムで監視される薬物処置の一例が示されている。
【0181】
ここでは一例として標準的な用量のFVIII(1週間のPK)を使用して、薬物処置の前および後に血液試料を試験する。処置前に2つの測定を行い、多くの測定値は薬物PKに沿って分布される。各時点に対して、凝固性バイオマーカーを計算する。本発明が血友病処置における現在の問題をどのようにして解決することができるかを説明するために、上記と同じ処置下で、FVIII阻害剤なし(S1)、中和FVIII阻害剤あり(S2)および非中和FVIII阻害剤あり(S3)の3つの異なる患者を表す3つの状況。S1では、凝固性は、処理前に、0付近からわずかにゼロの下までを上下に変動している。処置直後に、凝固性は増加し、1日間および2日間同じレベル付近で変動し、0に向かってゆっくり変動する。処置直後に、患者S1の凝固系は回復する。免疫系および凝固系の基礎活性のために、凝固促進性フィブリン誘導体が動的に生成および退化され、したがって凝固性が変動する。PKの終わりに近づくにつれて、外因性経路の活性化が存在しなければ、薬物は、S1では、ゆっくりと消費または代謝され、凝固性は減少していき、0付近で変動している。S1での凝固性の変化は、血栓症および出血の閾値から遠く離れている。
【0182】
S2が処置を受ける前には、S1と同様に、凝固性は0付近で変動する。処置直後に、高い免疫活性化誘導性の凝固促進性フィブリン誘導体および凝固系の短時間の回復のために、凝固性は急上昇するか、または急激に増加する。中和抗体のために、薬物はすぐに無効になり、フィブリノーゲンと比較してFDPなどの抗凝固因子の比率がはるかに高いため、その後、凝固性は大きく低下する。正常と比較して、凝固性がこのように負のゾーンへ比較的速く戻るのは、フィブリン誘導体上のTAFIのレベルが低いためである。加速された線維素溶解のために、これらのフィブリン誘導体は完成に分解され、外因性経路の活性化が存在しなければ、凝固性は、(S2の場合)3日目から理論上7日目までゼロ付近およびゼロより下に戻り、ゼロ付近およびゼロより下を単調に変動する。したがって、このような発明を用いて、医療提供者は、S2に対するこの処置についての洞察を容易に得ることができ、例えばヘムライブラまたはノボセブンを使用する代替処置を容易に決定することができる。
【0183】
S3の症例は、S2よりもはるかに軽度である。非中和抗体は、このような処置のPKを5日目まで短縮するが、FVIII薬物は依然として凝固経路に関与し得る。したがって、患者S3は、5日目から7日目までの自己の系内に十分なFVIIIを有しておらず、外因性経路の活性化が存在しなければ、凝固性は、この期間中、ゼロ付近およびゼロより下を単調に変動する。
【0184】
これらの全ての症例S1~S3は、集団的PKの過程で外因性経路の活性化が無視できると仮定している。実際には、これはほとんど当てはまらない。日々の生理学的および身体的活動のために、感染、炎症、組織傷害などの内因性経路および外因性経路の両方のトリガーまたは誘導因子が、通常、全ての人に存在する。FVIIIが枯渇した時点でこのような誘導因子がかなり存在すると、外因性経路を介してトロンビンがインビボで生成され、これはほとんどの凝固促進性フィブリン誘導体が抗凝固性フィブリン誘導体に迅速に変換される状態をもたらす。この現象は、さらにゼロを下回って変動する凝固性曲線に反映されており、患者にとって出血のより高いリスクをもたらす状況であり、表10の例に示されている。
【表10】
【0185】
表10に列記されている全ての血友病患者は重症の血友病患者である。B型血友病は、A型血友病よりもはるかに稀であり、この表は、凝固パラメータにおいて、血友病集団を代表する。ここでの全ての症例は、正常な外因性経路を有するが(FVII処置のため、症例2を除く)、彼らの内因性経路は、機能的FVIIIおよびFIX(凝固因子9)の欠乏のために機能障害を示す。高血圧症を有する症例4は、出血の問題のために入院した。この稀な遺伝性疾患から得たこの単一のCCTデータは、2.7の平均TFT値を下回る(例4参照)。したがって、必要とされる凝固因子が枯渇すると、これらの患者は、0を下回ってまたはさらに0を下回って変動する凝固性曲線を有する可能性が非常に高い。以前の研究は、凝固系の継続的な活性化をシミュレートする低用量トロンビンの持続的注入が出血表現型をもたらすことを示した。したがって、非効率的な内因性経路(FVIIIレベル<0.1%および長いAPTT時間)、亢進した線維素溶解および負の凝固性を有するこの患者(症例4)は、出血リスクが高い段階にある。高いFDP値(16.33ug/mL;基準範囲0~5ug/mL)は、負の凝固性(1.66-2.7=-1)の理由を裏付ける。
【0186】
したがって、凝固性バイオマーカーに基づくこの革新的な計算方法は、血栓症および出血リスクの推定に加えて、全ての血友病タイプの患者に対する薬物処置の有益かつ容易な監視を提供している。主に凝固性バイオマーカーに基づいており、表10に列挙されているようなその他の測定値(血友病患者の場合、他の疾患は異なり得る)によって支援されるこの計算アプローチは、血栓症および出血傾向を評価する新規な方法である。抗凝固薬のような抗血栓薬が凝固経路(例えば、FXaおよびFIIa)を阻害し、阻害がさらに強く、凝固性がさらに負に留まる場合、これは高い出血リスクに対する条件を設定するので、これは、上記の例および本文によって示される抗血栓処置に確実に適用可能である。
【0187】
例9:
ほとんどの現在のバイオマーカーは、個体内での定量的変動という特徴を有しており、異なる個体との比較を困難にする。例えば、人物Aに見られるバイオマーカーAは、免疫系のバイオマーカーである。バイオマーカーAは、1日または1週間の内に定量的に異なることが見出されるが、人物Aは完全に健康で正常である。しかし、免疫系の関与を伴う慢性疾患を有する人物Bの場合、バイオマーカーAは異なる時間において広い定量範囲で存在することが見出される。人物Bは人物Aと同じレベルのバイオマーカーAを有する場合もあり、同じでない場合もある。量の広い変動性のために、バイオマーカーは通常、二元的に、例えば、真/偽、健康/病気などに分類される。
【0188】
データ定量化に対するこの数学的アプローチにより、免疫系に関する多くの情報が失われる。完全に健康で正常な人物Aは、いくらかのわずかな免疫活性を有し得るが、定量的変化が依然として健康/病気を定義するカットオフ値内にあるために、この情報は失われる。さらに、互いに極めて異なる可能性が高い、人物AおよびBについてのバイオマーカーAの基礎レベルを決定する方法は存在しない。基礎値がなければ、人物AおよびBに対して値の変動の生物学的意味を測定または定義することは不可能である。一般的な実務では、人物Aの状態を表す可能な限り多くの人々を取得し、それらのバイオマーカーAレベルを測定する。統計的に意味のある平均値を得ることによって、この値は、全ての人に対する基礎値と仮定され、人物Bに対する基礎値とさえ仮定される。これは正しい仮定ではなく、全ての個体における免疫系の活性を推定するために使用することはできない。
【0189】
生物医学研究におけるこのような問題を回避するための数学的アプローチが、この例に見出される。既存のバイオマーカーに伴う問題を克服するための方法が少なくとも2つ存在する。ここでの主な目標は、凝固および/または免疫系についての、主に凝固および/または免疫系がいつおよびどの程度活性および不活性であるかについての情報を得ることである。これらの2つの方法は、系の活性を示すための2つの異なる方法に相当する。凝固系が活性化されると、産生されている重要な酵素はトロンビンである。トロンビンは、フィブリノーゲンをフィブリン塊の形成に関与するフィブリン誘導体に変換する。トロンビンはまた、多くの免疫細胞、内皮細胞、血小板などを含む多くの細胞を活性化する。また、免疫系が活性化されると、免疫細胞および血小板が凝固経路を活性化し、より多くのトロンビンが産生される。CCTは、フィブリノーゲンおよびフィブリン誘導体の定量的表現であるが、TFTはフィブリノーゲンのみの定量的表現である。第1の方法は、TFTでのCCTの減算であり、この得られた値(凝固性)は、凝固促進性および抗凝固性の性質であり得るフィブリン誘導体の定量的表示である。大部分のフィブリン誘導体が凝固促進性である場合、これは最近のトロンビン生成を意味し、ほとんどの新鮮な凝固促進性フィブリン誘導体は線維素溶解的に処理されていない。数時間後、トロンビンがさらに産生または維持されていなければ、これらのフィブリン誘導体の大部分は短時間で抗凝固性になり、中性になる。複数の凝固性が1つの個体に対して入手可能であり、時間に対してプロットされるとき、それは経時的な免疫系および凝固系の単純な視覚化である。
【0190】
第2の方法は、CCT/TFT-1である。この値は、フィブリン誘導体とフィブリノーゲンとの比を表す。これらの2つの例示的な計算は、バイオマーカーを臨床的および生物学的意味に変換する際の基礎値、個体内変動および個体間変動の問題を解決する。
【0191】
診断、予後診断および監視においてはるかに改善された性能を提供するために、凝固性バイオマーカーを他の既存のマーカー(およびモジュール1に含まれるまたは入力される他の臨床分類、例えば、心疾患または高血圧または糖尿病)と組み合わせることができる。これらのパラメータは、機械学習またはAIを強化するために組み合わせることができる。
【0192】
これらの2つの例示的な算術計算から得られた凝固性バイオマーカーの数値表示は、インビボトロンビン生成および線維素溶解の強力な指標である。言い換えると、凝固性バイオマーカーの値が大きいほど、インビボトロンビンがより多く生成される。通常、トロンビンは、身体的傷害または免疫活性化のいずれかが存在する場合に、インビボで一過性に生成される。しかし、肥満、糖尿病などの特定の状態では、トロンビンが慢性的に生成され、これは凝固性の長期測定に反映される。値が高いほど、および値が高い値を維持している期間が長いほど、健康状態はより悪い。健康状態および血栓症のリスクの評点は、適切な集団を反映する統計モデルに基づく。一例として、インビボトロンビン生成の活性がある個体で慢性的に病因的に高い場合、アルゴリズムは、このデータを血栓症の既知のリスクを有する適切な代表的集団に一致させる。健康状態は、この個体が血栓症のリスクならびに凝固性の振幅および頻度からどれだけ離れているかに反映され、評点を与えられる(
図1および
図3)。線維素溶解の活性化およびプロセスは凝固性データに反映され、血栓症のリスクにモデル化される重要なパラメータである。凝固性の増加後により活発な線維素溶解が開始されるほど、血栓症のリスクがより低くなる。出血リスクの計算例は例8に与えられている。
【0193】
本発明はさらに、以下の態様に関する。
1.血液試料の凝固性をモデル化するための方法であって、
(a)血液試料の凝固性を決定する工程または既知の凝固性を有する血液試料を準備する工程と;(b)健康状態ならびに血栓症および/または出血の危険因子を決定し、それぞれの試料を提供したドナーに帰属させる工程と;
(c)工程(b)において決定されたリスクを軽減するために、前記血液試料に対する1つもしくは複数の抗凝固薬および/または抗凝固処置を含有する多剤投与の薬力学的効果および対応する治療域を決定する工程と;
(d)前記血液試料に工程(c)において決定された最も効果的な抗凝固薬を投与した後の前記血液試料の凝固性をモデル化する工程と
を含む、方法。
2.凝固性を決定する工程が、血餅ベースのフィブリノーゲン試験と酵素ベースのフィブリノーゲン試験との組み合わせを含む、態様1に記載の方法。
3.前記酵素ベースのフィブリノーゲン試験が、血餅非依存性の、酵素ベースのフィブリノーゲン試験である、態様2に記載の方法。
4.前記血餅ベースのフィブリノーゲン試験が、プロトロンビン時間(PT)の決定、部分トロンボプラスチン時間(PTT)の決定およびクラウス試験から選択される、態様2に記載の方法。
5.前記酵素ベースのフィブリノーゲン試験がセリンエンドペプチダーゼによる触媒的切断を伴う、態様2~4のいずれか1つに記載の方法。
6.前記酵素ベースのフィブリノーゲン試験が、ヘビ毒セリンエンドペプチダーゼによる、好ましくはベノンビンAによるフィブリノーゲンの触媒的切断を伴う、態様2~5のいずれか1つに記載の方法。
7.前記試料中のフィブリノーゲンレベルに反比例するセリンエンドペプチダーゼのタンパク質分解活性を測定することを含む、態様2~6のいずれか1つに記載の方法。
8.患者/患畜の個別化抗凝固処置レジメンを提供するための方法であって、
(a)前記患者/患畜の血液試料の凝固性を決定する工程または前記患者/患畜についての既知の凝固性値を提供する工程と;
(b)態様1の方法によって得られた凝固性のモデルに基づいて個別化抗凝固処置レジメンを提供する工程と
を含む、方法。
9.前記患者/患畜の進行中の抗凝固処置が、血栓症および/または出血の帰属された危険因子を軽減するのに十分でない場合に、態様1の最も効果的な抗凝固薬がさらなる処置のために使用される、態様8に記載の方法。
10.前記患者/患畜の進行中の抗凝固処置が、態様1においてモデル化された凝固性を、所定の閾値を下回って低下させている場合に、態様1の最も効果的な抗凝固薬がさらなる処置のために使用される、態様8に記載の方法。
11.前記抗凝固薬が、ビタミンK拮抗薬、特にフルインジオン、ワルファリンまたはクマリン、直接トロンビン阻害剤、特にダビガトラン、アルガトロバンまたはヒルジンおよび直接FXa阻害剤、特にリバーロキサバン、エドキサバン、アピキサバン、ヘパリンまたはヘパリン様薬物からなる群から選択される、態様1~10のいずれか1つに記載の方法。
12.態様1の方法によって得られた凝固性のモデルおよび入力データとしての凝固性値に基づいて個別化抗凝固処置レジメンを提供することができるコンピュータシステムまたはソフトウェアであって、前記コンピュータシステムは、健康状態、リスク評価および/または個別化抗凝固処置レジメンを提供する、コンピュータシステムまたはソフトウェア。
参考資料
【国際調査報告】