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特表2024-524283生体器官を血管グラフトに接続するためのシステム及び生体器官を血管グラフトに接続する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】生体器官を血管グラフトに接続するためのシステム及び生体器官を血管グラフトに接続する方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/966 20130101AFI20240628BHJP
   A61F 2/97 20130101ALI20240628BHJP
   A61F 2/07 20130101ALI20240628BHJP
【FI】
A61F2/966
A61F2/97
A61F2/07
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579406
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 PL2021050050
(87)【国際公開番号】W WO2023277714
(87)【国際公開日】2023-01-05
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523480934
【氏名又は名称】ポルビオニカ スポルカ ジー オグラニクゾナ オドパウイエドジアルノシア
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】ウツォラ,ミヒャル
(72)【発明者】
【氏名】クラック,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】バーマン,アンドレフ
(72)【発明者】
【氏名】ブリニアルスキー,トマス
(72)【発明者】
【氏名】ドブランスキー,トマス
【テーマコード(参考)】
4C097
4C267
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097BB01
4C097CC01
4C267AA54
4C267AA56
4C267BB02
4C267BB05
4C267BB11
4C267BB12
4C267CC08
(57)【要約】
本発明は、生体外条件下で、生体器官を血管グラフトに接続するためのシステム、及び、生体器官を血管グラフトに接続するための方法に関する。接続されると、血管グラフトは生体器官内に配置され、ステントが血管グラフト及び生体器官の内部に配置される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体器官を血管グラフトに接続するためのシステムであって、自己拡張型ステント(2)と、ケーシング(3)と、破断可能な先端を有するマンドレル(1)と、を具備し、前記システムが組み立てられた状態では、圧縮状態の前記ステント(2)が前記ケーシング(3)内に配置され、前記ケーシング(3)は、前記ステント(2)が取り外されるまで、前記ステント(2)を圧縮状態に保持し、前記マンドレル(1)は、前記ステント(2)を前記ケーシング(3)から取り外すために前記ステント(2)の内側に配置され、前記組み立てられた状態で、前記ケーシング(3)及び前記マンドレル(1)の長さは20~40cmの範囲内であり、前記ステント(2)の長さは10~40mmの範囲内であり、前記ステント(2)の直径は、前記圧縮状態において、前記ステント(2)の直径が血管グラフト(4)の直径よりも小さくなるように選択され、前記ステント(2)の直径は、拡張されると、生体器官(8)の血管ポート(7)の直径以上となる、
ことを特徴とする、システム。
【請求項2】
拡張状態において、前記ステント(2)の直径は、0.2mm~50mmの範囲内、好ましくは1~20mmの範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記組み立てられた状態で、前記ケーシング(3)及び前記マンドレル(1)の長さが30cmであり、前記ステント(2)の長さが20mmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記マンドレル(1)が、前記マンドレル(1)の前記破断可能な先端を折ることを可能にする周方向ノッチを備えていることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記マンドレル(1)の前記破断可能な先端は、丸みを帯びた端部を有する円錐形状を有することを特徴とする、請求項1乃至4の何れか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記ステント(2)は、少なくとも1つの固定ループ(6)、好ましくはステント(2)の各端に1つずつの2つの固定ループ(6)を備えていることを特徴とする、請求項1乃至5の何れか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記ケーシング(3)は、深さインジケータ(5)を備えていることを特徴とする、請求項1乃至6の何れか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記血管ポート(7)の直径に一致するように前記ステント(2)の直径を選択することを可能にする少なくとも2つのサンプラーのセットを備えており、前記サンプラーは、0.2mm~50mm、好ましくは1mm~20mmの範囲内の異なるサイズの直径を有している、ことを特徴とする、請求項1乃至7の何れか1項に記載のシステム。
【請求項9】
生体器官をex vivo条件下で血管グラフトに接続するための方法であって、前記接続は、請求項1乃至8の何れか1項に記載のシステムによって達成され、前記方法は、
a)前記組み立てられた状態のシステムを前記血管グラフト(4)に挿入する工程と;
b)前記ステント(2)を前記ケーシング(3)から部分的に取り外し、好ましくはループ(6)を用いて前記ステント(2)を前記血管グラフト(4)に取り付ける工程と;
c)前記マンドレル(1)の前記先端を、好ましくは円周方向のノッチ部分で切断する工程と;
d)前記ケーシング(3)内の前記ステント(2)が取り付けられた前記血管グラフト(4)を前記生体器官(8)の前記血管ポート(7)に挿入する工程と;
e)前記マンドレル(1*)を使用して、前記ステント(2)を前記ケーシング(3)から取り外す工程と;
f)前記生体器官(8)の前記血管ポート(7)から前記ケーシング(3)及び前記マンドレル(1*)を取り外す工程と、
を含んでいることを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記血管グラフト(4)として、以下のものを使用することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
-動物由来の脱細胞化若しくは再細胞化血管、又は、
-動物由来の保存血管、又は、
-自家血管、好ましくは伏在静脈、又は、
-死亡したドナーから採取され保存された血管、又は、
-死亡したドナーから採取された非保存の血管、又は、
-人工血管、好ましくはEPTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)製のもの。
【請求項11】
前記工程a)を実行する前に、前記血管グラフト(4)を脱細胞化し、次いで内皮細胞が移植されることを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記生体器官(8)は、3Dバイオプリンティング技術を使用して調製されることを特徴とする、請求項9乃至11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記工程d)における挿入深さが、深さインジケータ(5)によって制御され、使用される前記ステント(2)の長さに対応していることを特徴とする、請求項9乃至12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記工程d)において、前記ステント(2)が10~40mmの深さまで、より好ましくは15~30mmの深さまで、最も好ましくは20mmの深さまで挿入されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程a)からf)のシーケンスが、前記生体器官(8)の前記血管ポート(7)の各々に対して実行されることを特徴とする、請求項9乃至14の何れか1項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体外(ex vivo)条件下で、生体器官(bionic organ)を血管グラフト(vascular graft)に接続するためのシステム、及び、生体器官を血管グラフトに接続するための方法に関する。接続されると、血管グラフトは生体器官内に配置され、ステントが血管グラフト及び生体器官の内部に配置される。
【背景技術】
【0002】
様々なタイプのステントが従来技術から知られている。医療用途のステントは、主に、血管の狭窄後に拡張するように設計されている。このようなステントの一例は、欧州特許EP1608299に記載されており、ステントが完全に拡張するまで血管内でステントの両端から同時に拡張することができる自己拡張型又はバルーン拡張型ステントを提示している。本明細書に記載のステントには、作動部分にマーカ(markers)が更に設けられており、これにより、装置を人体内に配置することが可能になる。ステントの先端は損傷しないものとされている。
【0003】
ステントに関する別の文書である欧州特許出願EP3160400は、標的部位への挿入を容易にする柔軟な先端、ステントを確実に固定するための連結部分におけるループ、及び、ステントの位置を評価するために使用されるX線マーカを含む、人体で使用するためのステントを提示している。このステントは、ステントが挿入されたレシピエントの身体部位とステントの他端との間で流体が流れることを可能にする接続部を提供する。このようなステントは自己拡張型ではなく、体に液体を供給したり、体から液体を排出したりするためにカテーテルに接続される。その人体での使用は一時的なものである。
【0004】
欧州特許出願EP2146674には、特殊なマンドレルを使用して血管に挿入される自己拡張型ステントが記載されている。そのようなマンドレルは、尖った先端を有しており、その先端が標的部位に挿入されると、ステントが前記先端を通って出ることを可能にするために破断(breaks open)する。次いで、マンドレルが引き抜かれ、ステントが拡張されて、標的部位に留まる。
【0005】
同様の解決策が別の特許JP4857125に提示されており、ここでも、ステントが、長手方向に破断する先端を備えたマンドレル内の標的部位に送達される。挿入されると、先端が破断し、ステントが通過するのに十分な内腔を提供する。その後、ステントは自己拡張し、標的部位に留まる。
【0006】
例えば米国特許US9241782に示されているように、ステントを用いて血管を連結する先行技術においても、ある可能性が記載されている。この文書には、2つの血管を接続するための自己拡張型又はバルーン拡張型ステントの使用法が記載されている。このような接続は、血管をステントにしっかりと固定するように設計されたステントの両端で拡張リング及びクランプを使用することを更に含んでいてもよい。ステントは、血管の外側に存在してもよいし、血管の内側に存在してもよい。ステントと血管との接続は、次のように行われる(血管の外側にあるステントの場合):1)圧縮状態のステントを、ステントが接続する予定の離間した血管の間に配置し、ステントの直径が血管の直径よりも大きくなるように拡張させる。2)血管がステント内に配置される。3)ステントが、その直径が拡張したステントの直径よりも小さいが圧縮状態のステントの直径よりも大きくなるように収縮される。4)ステントは、血管がステントとステントの両端のリングとの間にクランプされるように、拡張リング又はマイクロクランプステント(血管内に配置される)を使用して血管上に固定され得る。複数のそのようなリング又は他の対応する固定具(フランジ、クランプなど)を使用してもよいが、必ずしも使用する必要はない。ステントが血管の内側で使用される場合、アセンブリプロセスは同様であり、リング(クランプ)が血管の外側に配置される。ステントの一端が第1の血管内に位置し、ステントの他端が第2の血管を取り囲む混合構成も可能である。
【0007】
別の米国特許であるUS6336937には、血管の塞栓断片(ambolic fragment)をバイパスするために自己拡張型ステントを使用する可能性が記載されている。このようなバイパスでは、2つの拡張可能なステント先端が血管の閉塞部位の上流及び下流にそれぞれ配置され、可撓性チューブ(例えばポリマー製)で接続される。チューブの長さは、バイパスを提供するために必要に応じて選択される。デバイスを血管内に配置するには、血管を必要に応じて切開し、ステントの先端を血管内に挿入する。先端が拡張し、容器内で固定された状態になる。血液はチューブを通ってバイパス接続のもう一方の端に流れ、閉塞箇所の後ろの部位の血管に同様の方法で配置される。
【0008】
米国特許出願US20200360126A1は、吻合後の血管狭窄を防止するために2つの血管の接合部位で使用される自己拡張型又はバルーン拡張可能なステントについて記載している。吻合を行うために、血管は、血管を接続するために使用される縫合糸、クリップ、又は別の要素によって接続される。このソリューションでは、ステントが構造をサポートし、血管が相互に適切に固定されるようにしている。ステントは血管の再狭窄を更に防ぐ。接続される血管の直径が異なる場合があるため、そこに挿入されるステントも両端で拡張した後の直径が異なる必要がある。直径の変化は、ステントの長さに沿って徐々に変化する場合もあれば、ステントの特定の点で急激に変化する場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、生体器官と血管グラフトとを、ex vivo条件下、生体の外部で確実且つ永久的に接続する方法を開発することである。上記目的は、この用途に適した設計のシステムを採用することによって達成された。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、生体器官を血管グラフトに接続するためのシステムであって、自己拡張型ステントと、ケーシングと、破断可能な先端(a breakable tip)を有するマンドレルと、を具備し、前記システムが組み立てられた状態では、圧縮状態の前記ステントが前記ケーシング内に配置され、前記ケーシングは、前記ステントが取り外されるまで、前記ステントを圧縮状態に保持し、前記マンドレルは、前記ステントを前記ケーシングから取り外すために前記ステントの内側に配置され、前記組み立てられた状態で、前記ケーシング及び前記マンドレルの長さは20~40cmの範囲内であり、前記ステントの長さは10~40mmの範囲内であり、前記ステントの直径は、前記圧縮状態において、前記ステントの直径が血管グラフトの直径よりも小さくなるように選択され、前記ステントの直径は、拡張されると、生体器官の血管ポートの直径以上となる、システムに関する。好ましくは、拡張状態において、前記ステントの直径は、0.2mm~50mmの範囲内、好ましくは1~20mmの範囲内である。
【0011】
組み立てられた状態では、前記ケーシング及び前記マンドレルは30cmの長さを有し、前記ステントは20mmの長さを有していてもよい。
【0012】
好ましくは、前記マンドレルは、前記マンドレルの破断可能な先端が折れることを可能にする周方向ノッチを備えている。
【0013】
前記マンドレルの破断可能な先端は、丸い端を備えた円錐形であってもよい。
【0014】
好ましくは、前記ステントは、少なくとも1つの固定ループを備え、好ましくは、前記ステントの各端に1つずつ、2つの固定ループを備えている。
【0015】
好ましくは、ケーシングは、深さインジケータを備えている。
【0016】
任意選択的に、システムは、前記血管ポートの直径に一致するように前記ステントの直径を選択することを可能にする少なくとも2つのサンプラーのセットを備えており、前記サンプラーは、0.2mm~50mm、好ましくは1mm~20mmの範囲内の異なるサイズの直径を有している。
【0017】
本発明は、生体器官を血管グラフトに接続するための方法であって、前記接続は、本発明のシステムによって達成され、前記方法は、
a)前記組み立てられた状態のシステムを前記血管グラフトに挿入する工程と、
b)前記ステントを前記ケーシングから部分的に取り外し、好ましくはループを用いて前記ステントを前記血管グラフトに取り付ける工程と、
c)前記マンドレルの前記先端を、好ましくは円周方向のノッチ部分で切断する工程と;
d)前記ケーシング内の前記ステントが取り付けられた前記血管グラフトを前記生体器官の前記血管ポートに挿入する工程と;
e)前記マンドレルを使用して、前記ステントを前記ケーシングから取り外す工程と;
f)前記生体器官の前記血管ポートから前記ケーシング(3)及び前記マンドレルを取り外す工程と、
を含んでいる方法にも関する。
【0018】
以下のものを血管グラフトとして使用してもよい。
-動物由来の脱細胞化若しくは再細胞化血管、又は、
-動物由来の保存血管、又は、
-自家血管、好ましくは伏在静脈、又は、
-死亡したドナーから採取され保存された血管、又は、
-死亡したドナーから採取された非保存の血管、又は、
-人工血管、好ましくはEPTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)製のもの。
【0019】
工程a)を実行する前に、血管グラフトを脱細胞化し、次いで内皮細胞を移植してもよい。
【0020】
生体器官は、3Dバイオプリンティング技術を使用して作製されてもよい。
【0021】
好ましくは、工程d)における挿入深さは、深さインジケータによって調節され、上記の深さは、使用されるステントの長さに対応する。
【0022】
好ましくは、前記工程d)において、前記ステントは、10~40mmの深さまで、より好ましくは15~30mmの深さまで、最も好ましくは20mmの深さまで挿入される。
【0023】
最も好ましくは、一連の工程a)~f)は、生体器官の血管ポートの各々に対して実行される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本実施形態における本発明の目的は、下記の図面に示されている。
【0025】
図1は、血管グラフト4に挿入する前の圧縮状態にあるステント2を示しており、1はステントのマンドレル、3はステントのケーシングである。
【0026】
図2は、血管グラフト4に固定された後、生体器官8内の血管ポート7に設置される前のステント2を示しており、1*は先端が折り取られた後のマンドレルであり、5は深さインジケータであり、6は固定ループである。
【0027】
図3は、血管ポート7に設置された後の血管グラフト4に接続されたステント2を示している。
【0028】
図4は、血管グラフト4用のステント2の直径を選択するための、異なる直径を有する一組のサンプラーを示している。
【0029】
図5は、ステント2によって血管ポート7を介して血管グラフト4に接続された人工膵臓である生体器官8と、生体器官8を横切る造影剤の流れと、を示している。
【0030】
本発明の目的において、血管グラフトは、動物由来の血管、例えば、ブタ、ウシ、ヒツジ、及び他の動物から採取された血管、又は、ヒト由来の血管であって、本発明による方法の実施の一部として、ヒト又は動物の身体から以前に採取され、ヒト又は動物の身体に連結されていないものと定義される。
【0031】
好ましくは、このような血管は、予め脱細胞化されており、即ち、潜在的なレシピエントとの組織不適合の可能性を排除するために、細胞及び外来DNAが除去されている。更により好ましくは、脱細胞化に続いて、そのような血管にレシピエント細胞が充填される。脱細胞化は、例えばフロー法、又は、血管がシェーカー上に置かれた血管内の洗剤溶液中にある静的システムを使用するなど、当該技術分野で公知の任意の方法を使用して達成することができる。
【0032】
「生体器官(bionic organ)」又は「人工器官(artificial organ)」という用語は、膵臓、肺、心臓、肝臓などの臓器を模倣して人工的に得られた三次元構造を指している。好ましくは、生体器官は、3Dバイオプリンティングを使用して取得される。生体器官は、血管ポートで終端する血管系を備えている。
【0033】
本発明による方法は、生体器官と血管グラフトとの迅速、緊密、且つ永続的な接続を提供する。
【0034】
このようにして生体器官と共に接続された血管グラフトは、その後、例えば血管縫合糸(血管グラフトを使用した間接的な接続)によってレシピエントの血管系に接続され得る。
【0035】
本発明による接続方法は、生体内ステントを使用して器官をレシピエントの血管に直接接続することによって、生体器官をレシピエントの血管系に直接接続するために使用することもできる。より具体的には、このような接続は、生体器官との接続点の上流でレシピエントの血管を切開し、そこにステントを挿入して拡張して接続を確保することによって行われる。生体器官をレシピエントの血管系にその場で(in situ)接続するには、次のオプションが可能である。
-レシピエントのin situ分離された動脈及び静脈血管
-ここで、本発明による方法の工程a)~c)が以下のように置き換えられる。少なくとも30mmの距離にわたって隔離されたレシピエントの末端血管(一端が切断されている)(例えば、上腹部静脈及び動脈、内腸骨静脈及び動脈)は、好ましくは血管クランプを用いて一時的に閉じられ、切断端に向かって設けられた開口部を通して本発明によるシステムを導入するために、閉鎖部位の近くで切開が行われる。
【0036】
容器を生体器官の血管ポートに接続する更なる工程は、本発明によるex vivo方法と同様である。マンドレルが取り外されると、血管の開口部が血管縫合糸で閉じられる。
-レシピエントのin situ分離された動脈及び静脈血管
-ここで、本発明による方法の工程a)~c)が以下のように置き換えられる。少なくとも30mmの距離にわたって隔離されたレシピエントの末端血管(例えば、上腹部静脈及び動脈、内腸骨静脈及び動脈)は、好ましくは血管クランプを用いて一時的に閉じられ、中央に切り込み(incision)が入れられる。次いで、切断端に向かって得られた開口部を通して本発明によるシステムを導入するために、血管に対して、好ましくは両方のクランプの近傍において、切開が行われる。血管を生体器官の血管ポート(ここでは、両端に配置された血管ポートを有する)に接続する更なる工程は、本発明によるex vivo方法と同様である。マンドレルが取り外されると、血管の開口部が血管縫合糸で閉じられる。
【0037】
生体器官を血管グラフトに接続するためのシステムは、本発明による方法で使用できるようにするために、市販のステントに関して、様々な修正を受けている。
【0038】
本出願に記載されるステントは、ケーシングから取り外されるまで圧縮(収縮)状態を維持するケーシング内に収容され、ケーシングからの取り外しを可能にするマンドレルを備えている。ステントがケーシングから取り外されると、ステントは拡張し、拡張状態になる。
【0039】
このようなステントは、挿入中、特に生体器官の血管系への挿入中に正確な位置決めを可能にするために、そのケーシング上に深さインジケータを更に備えていてもよい。この深さインジケータは、挿入を最適化するために、生体器官の入口/出口開口部(血管ポート)内での血管グラフトを有するステントの正確な埋め込みを可能にする。
【0040】
本出願に記載されているステントには、ステントのケーシングを越えて延びるループがその各端部に設けられていてもよい。これらのループは、外科用糸を使用してステントを血管グラフトに固定するために使用される。市販のシステムと比較して、本出願で開示されるシステムは、組み立てられた状態のケーシング及びマンドレルの長さが短縮されていることを特徴とする。その長さは20~40cmの範囲であり、好ましくは30cmに等しい。このように短縮された長さにより、層状チャンバ(laminar chamber)条件下でのステントの取り扱いが容易になる。
【0041】
ステントはまた、ステント自体の様々な直径範囲及び長さで利用可能である。完全に拡張したときのステントの直径(完全拡張とは、血管グラフト及び血管ポートの外側でのステントの最大拡張を意味する)は、0.2~50mm、好ましくは1~20mmの範囲にあり、拡張前のステントの直径が血管グラフトの直径より小さく、ステントが血管ポートの直径以上の直径に拡張するように、適切に選択される。好ましくは、拡張後のステントの直径は、血管ポートの直径の100%~150%の間である。さまざまな直径のステントの例を図4に示す。ステントの長さは、10~40mmの範囲であり、好ましくは20mmに等しい。このような利用可能なステントの直径及び長さの範囲は、移植される器官の種類並びに血管グラフト及び血管ポートの直径に応じて広範な適応の可能性を提供する。
【0042】
更に、本発明によるシステムは、破断可能な先端(a breakable tip)を有したマンドレルを備えている。このマンドレルには、ステントの外端のレベルでその周囲に沿ってノッチを設けることができ、これにより、マンドレルの先端が所定の場所で折れるようにできる。破断可能なマンドレルの先端は、ステントと共に生体器官又は血管ポートに血管グラフトを挿入する際の生体器官又は血管ポートへの損傷を抑止する。この解決策により、生体器官の血管を血管ポートに対して直線的に設計する必要もなくなる。先端が折れることにより、ステントが押し出される際にマンドレルが生体器官の血管壁に当接することがなくなり、マンドレルが血管壁を圧迫することがなくなる。
【0043】
上記のような既存の解決策の改変により、本発明によるシステムは、移植の分野、特に生体臓器の移植の場合に重要な役割を果たし得る、ユニーク且つ現在は入手不可能な製品となる。
【0044】
好ましくは、本発明によるシステムは、ステントの直径を血管グラフトに正確に合わせることができる一組のサンプラーを備えている。このようなサンプラーのセットは、0.2~50mm、好ましくは1~20mmの直径を有する下記のサンプラーを含むことができ、このセットは、0.5mm増分で1~20mmの直径の全範囲のサンプラーを含むことが好ましい。
【実施例
【0045】
実施例1-市販のステントに基づいた、本発明による方法で使用するためのステントの調製
【0046】
本発明による方法での使用に適したステント(2)を得るために、6mm×20mmのサイズを有する市販のステントに対して以下の修正が加えられた。
-ステント(2)のマンドレル(1)及びケーシング(3)のセットを30cmの長さに短縮し、層流チャンバ内においてex vivoで取り扱うことができるようにする。比較のために、市販のマンドレル及びケーシングのセットの長さは、例えば125cmである。
-ステント(2)のケーシング(3)に長さ約5mmの切り込みを入れ、ステントを開かずにステントの最初のループに外科用糸を配置できるようにする。
-ステント(2)の各端に1つずつ、ステント(2)の外縁に2つの固定ループ(6)を作成する。
-マンドレル(1)がケーシング(3)内に後退する点の近傍において、マンドレル(1)に円周方向のノッチを作成し、その後の破断又はねじり(breaking or twisting)を容易にする。
-ステント(2)のケーシング(3)上に深さインジケータ(5)を作成する。
【0047】
実施例2-血管グラフトと人工膵臓との接続の実施(人工膵臓移植のex vivo段階)
【0048】
1)血管グラフトの作製
【0049】
地元の食肉処理場から入手したブタの脾動脈を使用してグラフト(4)を作製した。ゲージを使用して、直径3.5~4mm、長さ約60mmの血管を選択した。次いで、血管を閉鎖系内で40mL/分の一定流量で流動脱細胞化した。脱細胞化プロセスは、次の工程で構成される:
-1xPBS中の1%TritonX-100+0.1%NHOH溶液を4°Cの温度で48時間フローさせ、
-0.01%ストレプトマイシンを含む1xPBS溶液を4℃の温度で48時間フローさせ、
-0.0002%DNaseI、0.12mMCa2+及びMg2+を含む1xPBS溶液を37℃で8時間フローさせ、
-0.01%ストレプトマイシンを含む1xPBS溶液を4℃の温度で48時間フローさせる。
【0050】
次いで、血管を、0.01%ストレプトマイシンを含む1xPBS溶液中に保存し、25kGyの放射線量で放射線滅菌を行った。最後に、血管にレシピエントの細胞を再移植した(レシピエントの内皮細胞を使用)。
【0051】
2)ステントの選択
【0052】
実施例1で説明したようにして得た、直径6mm及び長さ20mmの自己拡張型ステント(2)を実験に使用した。
【0053】
3)血管グラフトに接続される人工膵臓
【0054】
実験には、バイオプリント臓器である人工膵臓(8)が使用された。器官(8)は、バイオインクを使用する押出バイオプリンティング技術によって得られ、これは同じ出願人による別の特許出願EP19218191.5の主題であり、本出願の出願日においてまだ係属中である。器官ハウジングコンポーネント(8)は、光硬化性ポリマーを使用したSLAテクノロジーを使用して印刷された。人工膵臓(8)の入口及び出口の血管ポート(7)は、同一の直径4mmを有していた。
【0055】
4)実験の流れ
【0056】
この方法を図1~3に概略的に示す。図1は、血管グラフト(4)に挿入する前の圧縮状態のステント(2)を示している。ステント(2)は圧縮された形状で、ケーシング(3)の内側に位置していた。ケーシングにはマンドレル(1)が装着されており、その丸みを帯びた先細りの先端のおかげで、ステント(2)を血管グラフト(4)に簡単且つ損傷なく挿入することができた。
【0057】
図2に示すように、生体器官(8)を血管グラフト(4)に接続する第1の工程では、ケーシング(3)に配置された圧縮形状のステント(2)を血管グラフト(4)に適切な深さまで挿入した。ケーシング(3)内のステントが完全にグラフトの内側に位置するように、グラフトに挿入された。
【0058】
ステント(2)をケーシング(3)と共に血管グラフト(4)に挿入した後、ステント(2)をステント(2)の両端の固定ループ(6)を介して血管グラフト(4)に固定できるように、ステント(2)が完全には開かないようにして、ステント(2)をケーシング(3)から緩やかに取り外した。これは、グラフト(4)内でステント(2)を固定する目的で、ループ(6)を外科用糸で血管グラフト(4)に縫合することによって達成された。ステント(2)の両端で単一の血管縫合糸(Prolen 4-0)を使用して、ステント(2)を血管グラフト(4)に縫合した。適切な円周方向の切り欠き点(notched point)において、ケーシング(3)の輪郭を越えて突き出ているマンドレル(1)の先端を折り取った。この工程では、先端部は既にその機能を満了しており、即ち、それにより、血管グラフト(4)がケーシング(3)の上を滑ることを可能にしている。この先端部は、もはや必要ではない以上に、方法の後続の工程の実行を妨げることさえあった。血管グラフト(4)をステント(2)に接続する2つのそのような構造を準備した。
【0059】
図3に示す次の工程では、ケーシング(3)内でステント(2)が縫合された血管グラフト(4)が、血管ポート(7)に挿入された。作製した血管グラフト(4)とステント(2)とを接続する構造体を、人工膵臓(8)の動脈血管ポート(7)及び静脈血管ポート(7)に、それぞれ深さ20mmまで挿入した。この深さは、使用されるステント(2)の長さにも対応している。後者の値は、器官全体を過度に拡大することなく適切な固定を保証するため、特に重要であった。血管グラフト(4)の内径は、血管ポート(7)の内径よりも0.0~0.5mm大きくなるように選択された。この工程では、挿入深さは、深さインジケータ(5)を用いて制御された。
【0060】
次の工程では、それぞれ2つの自己拡張可能なステント(2)がマンドレル(1*)を用いてケーシング(3)から取り外され、ステント(2)が拡張状態に拡張された。
【0061】
次いで、ステント(2)のケーシング(3)及びマンドレル(1*)を人工膵臓(8)の両方の血管ポート(7)から除去し、その結果、ステント(2)は拡張状態、即ち人工膵臓(8)の入口及び出口の直径、即ち4mmに拡張し、その結果、血管グラフト(4)が拡張し、ステント(2)が血管グラフト(4)と共に各々の血管ポート(7)の内腔に固定された。この工程では、接続手段はステント(2)の拡張力であり、これにより、接続だけでなく、血管ポート(7)内での血管グラフト(4)の固定も確保され、同時に、ステント(2)の長さに沿った狭窄が防止された。ステント(2)を開くと、ステント(2)の近位部分が、移植される血管グラフト(4)の輪郭をわずかに(約2mmの長さに亘って)超えて拡張した。グラフト(4)の外側に位置するステント(2)の露出部分が、人工膵臓(8)を血管ポート(7)に固定し、更に漏斗状の先細部分が、血管ポート(7)を密閉した。
【0062】
5)結果
【0063】
この実験で得られた人工膵臓(8)を図5に示す。この図は、入口(inlet)血管グラフトから出口(outlet)血管グラフトまで、膵臓(8)を通る造影剤の流れを示している。ステント(2)による血管グラフト(4)の固定は、黒でマークされている。
【0064】
実施されたEx vivoテストでは、最大180mmHgの圧力で、接続が堅固であることが実証された。この値を超えると、人工膵臓(8)で緊密性の欠損が観察されたが、血管ポート(7)ではなく、人工膵臓(8)の機能部分の切開のみが関与していた。
【0065】
実施例2のようにして得られた血管グラフト(4)に連結された人工膵臓(8)を、それぞれのブタ腸骨血管を切開し、人工膵臓(8)の静脈及び動脈の血管ポート(7)にそれぞれ位置する血管グラフト(4)に端側カレル縫合糸を用いて連結することにより、生きたブタの体内に移植した。14日後、人工膵臓(8)を再び取り出し、視覚検査のために解剖した。
【0066】
in vivo実験の結果、得られた血管グラフト(4)と人工臓器(8)との接続は耐久性があり、強固であることが確認された。

図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】