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特表2024-524288アデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物および認知機能に対する使用方法
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  • 特表-アデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物および認知機能に対する使用方法 図1
  • 特表-アデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物および認知機能に対する使用方法 図2
  • 特表-アデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物および認知機能に対する使用方法 図3
  • 特表-アデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物および認知機能に対する使用方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】アデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物および認知機能に対する使用方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240628BHJP
   A61K 31/665 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/665
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579443
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 US2022034510
(87)【国際公開番号】W WO2022271813
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】63/213,378
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523481160
【氏名又は名称】ティエスアイ ユーエスエイ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】TSI USA,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ラスメイチャー、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】コルブ、ラリー
(72)【発明者】
【氏名】ベイヤー、ショーン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD05
4B018MD09
4B018MD18
4B018MD29
4B018MD36
4B018MD37
4B018ME14
4B018MF02
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA37
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA15
(57)【要約】
アデノシン-5’-三リン酸(ATP)の源を含む組成物と使用方法を提供する。記載した組成物の投与により、認知機能、反応時間、集中力、気分、神経筋反応性などが改善したり精神的パフォーマンスが最適化される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人にアデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物を有効量で投与することを含む前記人の認知機能改善方法であって、前記組成物の投与が認知機能を改善させる、前記方法。
【請求項2】
前記人にATPが約100mgから約1600mgまでの1日分の総用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物は1日あたり1回投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物は1日あたり3回まで投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
人にアデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物を有効量で投与することを含む前記人の集中力改善方法であって、前記組成物の投与が集中力を改善させる、前記方法。
【請求項6】
前記人にATPが約100mgから約1600mgまでの1日分の総用量で投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物は1日あたり1回投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物は1日あたり3回まで投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
人にアデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物を有効量で投与することを含む前記人の精神的パフォーマンス最適化方法であって、前記組成物の投与が精神的パフォーマンスを最適化する、前記方法。
【請求項10】
前記人にATPが約100mgから約1600mgまでの1日分の総用量で投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物は1日あたり1回投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物は1日あたり3回まで投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
人にアデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物を有効量で投与することを含む前記人の反応時間改善方法であって、前記組成物の投与が反応時間を改善させる、前記方法。
【請求項14】
前記人にATPが約100mgから約1600mgまでの1日分の総用量で投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物は1日あたり1回投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物は1日あたり3回まで投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
アデノシン三リン酸(ATP)源および薬学的に受容可能な担体を含む、個人の認知機能改善用の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2021年6月22日に提出された、発明の名称がアデノシン三リン酸(ATP)を含む組成物および認知機能に対する使用方法である米国特許仮出願番号63/213,378に関連するとともにその優先権を主張するものである。その出願の明細書、特許請求の範囲、要約、図、表または図面を含めた全ての内容を、参照により本願に明示的に援用する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、認知機能、反応時間、集中力(focus)、気分、神経筋反応性を改善させるために、および/または精神的パフォーマンスを最適化するために、アデノシン-5’-三リン酸(ATP)を含む組成物およびATPを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
アデノシン-5’-三リン酸(ATP)は、筋肉を含めた組織の化学エネルギー源として昔から知られている。細胞内ATP濃度(1~10ミリモル)は、細胞外濃度(10~100ナノモル)とは対照的に非常に高く、したがって赤血球などの細胞や筋肉からのATPの放出は厳格に制御されている。ほとんどの細胞型に見られるプリン作動性受容体を介して作用するATPの細胞外効果が最近明らかにされた。ATPの細胞外生理学的機能のいくつかは、血管拡張、疼痛知覚低下を含んでおり、神経伝達の共同伝達物質として説明されている。重要なことに、筋肉での血管ATPのわずかで短時間の増加は、血管拡張および当該筋肉への血流増加を引き起こすことができる。
【0004】
反復的な高強度運動における疲労耐性は、運動競技に強く求められる特性である。このことは、トレーニング量の増強に対してもホッケーなどの断続的なスポーツにおける持続力とパワー出力に対しても当てはまる。疲労性収縮中には、血流に対する急激な適応が起こることで、パワー発生能力の低下を食い止めようとする。骨格筋での酸素需要と血流増加との間には密接な関連がある。研究によれば、「酸素センサー」として働いてこの応答を調整するのは赤血球であるとされている。ATPが赤血球に運ばれ、そして、活動中の筋肉領域の酸素が低下すると、その赤血球は変形しそれに続く一連の事象を経てATPの放出および平滑筋内皮細胞への結合がもたらされる。結合の結果、平滑筋の弛緩が起こり、血流、栄養、酸素の供給の増加がそれに続く。具体的には、細胞外ATPの増加は、骨格筋内での一酸化窒素(NO)およびプロスタサイクリン(PGI2)の合成および放出を直接に促進し、したがって組織血管拡張および血流に直接影響を与える。これは、ATPの動脈内投与および外因性投与に応答する血管拡張および血流の増加を示唆する研究によって支持されている。結果は、疲労収縮下の細胞におけるエネルギーステータスの維持である。
【0005】
ATPのこの生理学的効果が研究者をATPの経口栄養補助の有効性研究へと導いている。Jordanらは、1日あたり225mgで15日間にわたる腸溶性ATPの栄養補助(supplementation)が、ベンチプレスの総リフト量(すなわち、セット数×反復回数×負荷)の増加と、失敗するまでのグループ内セットワン反復回数の増加を示した。最近、Rathmacherらは、400mgのATPを15日間にわたって栄養補助することにより、膝伸筋運動のセット2における最小ピークトルクが増加したことを発見した。ATP栄養補助には、筋力、パワー、体組成の改善といった以前から示されている有益な効果がある。本発明前には、ATP栄養補助が処理速度などの認知測定結果に及ぼす影響は研究されていなかった。
【発明の概要】
【0006】
ATP栄養補助によって、認知機能、集中力、精神的パフォーマンス、認知パフォーマンス、気分、神経筋反応性、および反応時間(RT)が改善されることが思いがけずそして驚くべきことに発見された。加えて、ATP栄養補助は精神的パフォーマンスを最適化する。ATPを栄養補助しても、特に本願に記載した量では、ATPの体内総プールを増加させることはないようである。その代わり、こうした量のATPは、信号伝達と、脳への血流を含めた血流および/または栄養供給を増加させる。
【0007】
本開示の他の目的、利点、および特徴は、添付図と併せて考慮される以下の明細書から明らかとなる。
本発明の一つの目的は、認知機能改善に使用するための組成物およびその使用方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、集中力改善用の組成物およびその使用方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、神経筋活動改善用の組成物およびその使用方法を提供することである。
【0009】
本発明の追加の目的は、気分改善用の組成物およびその使用方法を提供することである。
本発明の別の目的は、反応時間改善用の組成物およびその使用方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、精神的パフォーマンス最適化用の組成物およびその使用方法を提供することである。
複数の実施形態を開示するが、当業者には本開示の例示的実施形態を示すとともに記載している後述の詳細な説明から本開示の他の実施形態が明白であろう。したがって、図表と詳細な説明は例示的な性格のものであり限定的なものではないと見なされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】DynavisionのモードAヒット試験の結果を示すグラフ。A=経時的治療内変化(平均±95%信頼区間);B=時間ポイント間の治療内変化の95%信頼区間;C=60Pでの治療間差異(平均±標準偏差)。
図2】DynavisionのモードA平均反応時間(RT)の結果を示すグラフ。A=経時的治療内変化(平均±95%信頼区間);B=時間ポイント間の治療内変化の95%信頼区間;C=60Pでの治療間差異(平均±標準偏差)。
図3】DynavisionのモードB平均反応時間(RT)の結果を示すグラフ。A=経時的治療内変化(平均±95%信頼区間);B=時間ポイント間の治療内変化の95%信頼区間。
図4】DynavisionのモードBミスの結果を示すグラフ。A=経時的治療内変化(平均±95%信頼区間);B=時間ポイント間の治療内変化の95%信頼区間。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
本開示は、アデノシン-5’-三リン酸(ATP)の栄養補助が認知機能、反応時間、気分、神経筋活動、および/または集中力に及ぼす影響に関連する。本発明の組成物および方法は、認知機能、反応時間、気分、神経筋活動、および/または集中力に顕著な改善をもたらす。当該組成物および方法は、精神的パフォーマンスの最適化に有用である。
【0013】
本開示のより容易な理解のためにまず特定の用語を定義する。他に定義されていない限り、本願で使用するすべての技術用語および科学用語は、本開示の実施形態に関する当業者が通常理解する通りの意味を持つ。本願に記載した方法および材料と同様のまたは修正したまたは等価である多くの方法および材料が、過度の実験を必要とせずに本開示の実施形態の実施に使用することができ、ここでは好ましい材料と方法を説明する。本開示の実施形態の説明および特許請求に際し、以下の定義に従って以下の用語が使用される。
【0014】
本願で使用する用語「約」は、例えば質量、体積、時間、距離、波長、周波数、電圧、電流、電磁場を含むがこれらに限定されない任意の定量化可能な変数に関して、典型的な測定技術や機器を通じて発生することのある数値量のばらつきを指す。さらに、実際の世界で使用される固体および液体の取り扱い手順を考慮すると、本願の組成物を製造するためまたは本願の方法を実施するために使用される成分の製造、供給源または純度などの違いによって起こりうる不注意な誤差やばらつきがある。用語「約」にはこれらのバリエーションも含まれる。用語「約」による修飾の有無にかかわらず、その数量に対する等価物が特許請求の範囲に含まれる。
【0015】
本願で使用される場合、用語「アデノシン三リン酸」、アデノシン-5’-三リン酸、およびATPは、特に指示がない限り、アデノシン三リン酸、アデノシン三リン酸の誘導体、アデノシン三リン酸のアナログ、およびアデノシン三リン酸の代謝物を指すと理解される。
【0016】
本開示の実施形態は、様々に変化し得、当業者によって理解される特定の方法および組成物に限定されない。さらに、本願で使用されるすべての用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、いかなる方法または範囲においても限定することを意図するものではないことを理解されたい。例えば、単数形の「a」「an」「the」は、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、その内容が明確にそうでないことを示さない限り、複数形の参照語を含むことができる。さらに、すべての単位、接頭辞、および記号は、SIに認められている形式で示すことができる。
【0017】
本願で言及される数値範囲は、その範囲を定義する両数値を含み、定義された範囲内の各整数を含む。本開示を通じて本開示の様々な側面が範囲形式で示されている。範囲形式の記述は、単に便宜と簡潔さのためのものであり、本開示の範囲に対する融通の利かない限定として解釈されるべきではないと理解される。したがって、ある範囲の記述は、その範囲内のすべての可能な小範囲、分数、および個々の数値を具体的に開示したものと見なされる。例えば、1から6までの範囲の記述は、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6などの小範囲や、1、2、3、4、5、および6などのその範囲内の個々の数値、および1.2、3.8、1(1/2)、および4(3/4)といった小数や分数を具体的に開示していると見なされる。これは範囲の広さに関係なく適用される。
【0018】
本開示の方法および組成物は、開示した構成要素および成分を、本願に記載した以外の構成要素および成分とともに、含むか、または本質的にそれらからなるか、またはそれらからなることができる。本願で使用される「本質的にからなる」は、方法、システム、装置および組成物が追加の工程、構成要素または成分を含んでもよいが、その追加の工程、構成要素または成分は特許請求される方法および組成物の基本的でかつ新規な特性を大きく(materially)変更しないものに限ることを意味する。
【0019】
ATPの経口投与は通常、アデノシン-5’-三リン酸二ナトリウムの形である。本発明では、アデノシン-5’-三リン酸二ナトリウムまたは経口投与に適した任意の形態のATPまたはアデノシンを、粒状形態で腸溶性を付与するのに適した公知のコーティングのいずれかと組み合わせることができる。
【0020】
当業者は、ATPが、約10ミリグラム~約80グラムといった標準的用量範囲となるように送達および/または投与形態に組み込むことができ、用途および他の成分によってはより多い量のまたはより少ない量であることが望ましい場合があることを認識する。特に、本発明には、1日あたり200mgから500mgの範囲が含まれ、1日あたり200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、および500mgおよびこの範囲内のすべての量が含まれる。
【0021】
ATP組成物は、任意の適切な方法で動物に投与される。許容される形態としては、錠剤またはカプセルのような固体、および経腸溶液のような液体が挙げられるが、これらに限定されない。また、組成物は任意の薬学的に受容可能な担体を利用して投与され得る。薬学的に受容可能な担体は当技術分野で公知であり、そのような担体の例としては、種々のデンプンや生理食塩水が挙げられる。好ましい実施形態では、組成物は食用形態で投与される。さらに、有効な用量の範囲は、1日あたりに2~3回などの、分割された複数の用量で投与されることがある。
【0022】
本発明は、栄養物質や薬剤を送達する経腸栄養チューブを用いて実施することができる。このような経腸栄養チューブは、栄養物質や薬剤を胃、小腸、空腸領域に送達するために使用することができる。経腸栄養チューブは、経鼻的、経口的、経皮的に挿入することができる。経腸栄養は、例えば持続的に、周期的に、ボーラスで、間欠的にといったさまざまな方法で投与することができる。
【0023】
ATPは、組成物中に任意の形態で存在する。本発明におけるATPの治療上有効な範囲は、ATPを約10ミリグラムから約80グラムの量で含む。好ましい実施形態では、ATPの治療上有効な範囲は、約100ミリグラムから約1.6グラムである。より具体的には、1日あたり100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mg、1000mg、1100mg、1200mg、1300mg、1400mg、1500mgおよび1600mgならびにこの範囲内のあらゆる量を含め、1日あたり100mgから1600mgの範囲が本発明に含まれる。
【0024】
組成物が食用形態で経口投与される場合、組成物は栄養補助食品、食品または医薬媒体の形態であることが好ましく、より好ましくは栄養補助食品または食品の形態である。組成物を含む任意の適切な栄養補助食品または食品を、本発明の文脈内で利用することができる。当業者であれば、組成物は、その形態(栄養補助食品、食品、医薬媒体など)にかかわらず、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂肪、糖、ビタミン、植物化学物質、ミネラルおよび/または微量元素を含み得ると理解する。
【0025】
組成物を栄養補助食品または食品として調製するために、通常、組成物は栄養補助食品または食品中に実質的に均一に分布するように配合または混合される。あるいは、組成物は、水などの液体に溶解させるか、または液体中で乳化させることができる。
【0026】
栄養補助食品の組成物は、粉末、ゲル、液体であってよく、錠剤化またはカプセル化されてよい。
組成物を含む任意の適切な医薬媒体を本発明の文脈において利用可能であるが、好ましくは、組成物は、デキストロースまたはスクロースなどの適切な医薬担体と組み合わされる。
【0027】
組成物が投与される頻度を計算する方法は、当該技術分野において周知であり、任意の適切な投与頻度(例えば、1日あたり400mg用量を1回、または1日あたり200mg用量を2回)が本発明の文脈内で使用され得、任意の適切な期間にわたって(例えば、1回分の用量が5分間の期間にわたってまたは1時間の期間にわたって投与され得、あるいは、複数回分の用量が、延長された期間にわたって投与され得る)。ATPと栄養物質(栄養素、タンパク質、ペプチド、ビタミン、植物化学物質、ミネラル、脂肪酸、およびアミノ酸を含む)および/または薬剤との組み合わせは、数週間、数ヶ月、または数年などの長期間にわたって投与され得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、組成物は、約3日間~約365日間、約5日間~約365日間、約10日間~約365日間、約14日間~約365日間、約21日間~約365日間、約3日間~約100日間、約5日間~約60日間、約7日間~約30日間、約14日間~約30日間、又は約21日間~約28日間といったある期間にわたって送達され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、少なくとも21日間の期間にわたって送達され得る。さらに、本発明に従って限定されるものではないが、記載した全ての範囲は、範囲を定義する両数値を含み、定義された範囲内の各整数を含む。
【0029】
治療上有効な用量のATPを本発明の文脈において使用することができる。適切な用量を計算する方法は、当該分野で周知である。特定の実施形態において、組成物は、追加の治療剤と共投与され得る。
【0030】
本発明の方法および組成物は、健康な人、老人、高齢者、認知機能低下を経験している人、外傷性脳損傷から回復した人を含めたあらゆる年齢のあらゆる人に投与することができる。さらに、本発明の組成物および方法は、通常の日常活動を行うことにより疲労している個人の疲労といった、疲労によって損なわれている認知機能を改善するために使用することができる。非限定的な例として、高齢者は通常の日常活動を行うだけで認知機能に影響を及ぼす疲労を経験することがある。
【0031】
本発明の方法および組成物は、精神的パフォーマンスの最適化を求める個人が使用することができ、これには、限定ではないが、人のe-ゲームに対する精神的パフォーマンス、アスリートのより速い反応能力、または個人の仕事中の集中力維持が含まれる。
【0032】
(実験例)
認知機能、集中力、気分、反応時間に対するATPの効果を、運動介入モデルで調べた。運動介入は、気分障害を増加させ、気分、反応時間および認知機能の欠損を誘発する。ATPを投与すると、プラセボと比べて、気分障害、反応時間の低下、認知能力の低下が調節/緩和される。この減衰は運動前と運動後に起こる。運動は疲労を誘発し、認知能力、気分、集中力、反応時間の低下をもたらす。ATPは認知能力、気分、反応時間を改善する。反応時間が、健康な人、高齢者、脳損傷者、認知機能低下者を含むあらゆる個人における認知機能の指標であることは周知である。本発明は、特定のタイプの個人に限定されるものではなく、また、運動する個人に限定されるものでもない。実験例は非限定的なものであり、当業者であれば、認知機能および認知パフォーマンスの測定が、あらゆる年齢およびフィットネスレベルの個人に適用可能であることを認識する。本願に記載した実施例は、認知機能の低下および/または認知機能の障害をもたらす疲労のモデルを用いている。本願に記載した結果は、年齢、運動状態または健康状態にかかわらず、あらゆる個人に適用可能である。
【0033】
(研究デザイン)
本研究は二重盲検無作為クロスオーバーデザインに従った。参加者は、無作為にPeakATPまたはプラセボのいずれかに割り付けられ、割り付けられたサプリメントを14日間にわたって栄養補助した。参加者は、無作為化された平衡クロスオーバー方式で行われる、2つの実験のうちの第1の実験を行うために、サプリメントの栄養補助後24時間以内に研究室に戻った。実験的試験1(T1)では、参加者は、試験前の評価(DynavisionD2)を行う30分前に、指定されたサプリメントの急性用量を栄養補助し、その後、サイクルエルゴメーターで3分間の全力高強度努力(3MT)を行った。参加者は、3MTの終了直後(IP)と60分後(60P)に、試験前評価を繰り返した。T1終了後、参加者は2週間の休薬期間を経て、第1の実験(100または666)において栄養補助しなかったサプリメントを14日間にわたって栄養補助した。参加者は、最後の栄養補助から24時間以内に研究場所に戻り、実験的試験2(T2)を行った。実験的試験2はT1と同一様式で行われ、研究室到着時(事前試験の30分前)に第1の実験的試験で栄養補助しなかったサプリメントの急性栄養補助が行われた。
【0034】
(参加者)
健康でレクリエーションに積極的な個人の便宜的サンプルを募集した。35人の参加者がこの研究に登録されたが、そのうち3人は募集基準を満たさなかったため除外され、2人はコンプライアンス違反のため除外され、10人は追跡不能となった。最終的には年齢が18歳から40歳まで(22.3±4.4歳、169.9±9.5cm、78.7±14.6kg、27.0±9.5%脂肪)の20名(男性10名、女性10名)であった。本試験に参加するための参加者には、身体活動準備度質問票(Par-Q+)および医療歴アンケート(MHQ)により決定される健康で活動準備が整っていること、レクリエーション活動(週150分以上の運動)に分類されること、クレアチンまたはβ-アラニンのサプリメントを栄養補助しておらず栄養補助を控える意思があること、あるいはクレアチンまたはβ-アラニンを栄養補助している場合は登録前に4週間の洗浄期間を完了する意思があること、試験期間中はどちらかのサプリメントの栄養補助を控える意思があることが要求された。
【0035】
(ウォームアップ)
VO2peakおよび3MTプロトコルの前に、参加者には、標準化ダイナミックウォームアップを完了することが要求された。参加者は、サイクルエルゴメーターで5分間のペダリングを50ワットの抵抗で行い、その後、自重スクワット10回、自重ウォーキングランジ10回、ダイナミックストレートレッグキック10回、ダイナミックウォーキングクワドリセップストレッチ10回を行った。
【0036】
(VO2peakテスト)
すべての参加者は、サイクルエルゴメーター(Lode社,ExcaliburSport、オランダ国グローニンゲン)で自発的限界までランププロトコルを行い、VO2peak、ピークパワーアウトプット(PPO)、ガス交換閾値(GET)におけるパワー出力を測定した。参加者は、初期負荷100ワット(W)で70~80回転/分(RPM)のペダリングケイデンスを維持するよう指示された。参加者が言葉による励ましにもかかわらずまたは自発的な疲労により、70RPM以上のケイデンスを10秒間維持できなくなるまで、負荷を2分ごとに30ワットずつ増加(2秒ごとに1ワット増加)させた。呼気ガスは、開回路スパイロメトリー(TrueOne2400(登録商標)MetabolicMeasurementSystem,Parvo-Medics社)を使用して分析した。VO2peak(L・min-1)は、以下の3つのパラメータのうち少なくとも2つと一致し、試験の最終段階で達成された最高VO2値として決定された:心拍数(HR)が年齢予測最大HRの10%以内、呼吸交換比(RER)が1.15以上、運動強度が増加したにもかかわらず酸素消費量がプラトー。達成された最高出力は、ワット(W)単位のピーク出力(PPO)として記録された。GETは、CO2取り込み量(VCO2)対O2取り込み量(VO2)の傾きをコンピュータで回帰分析することにより決定された。GET時のパワーが記録された。
【0037】
(3分間テスト(3MT))
3MTは、サイクルエルゴメーター(Lode社,ExcaliburSport、オランダ国グローニンゲン)で3分間の全力高強度努力である。本研究のためのパイロットテストでは、このプロトコルが認知能力の欠損を引き起こし得ることが示された。標準化ウォームアップの完了後に、参加者は、60秒間のサイクリング(50ワット、70~80rpm)を完了させ、その後すぐに3MTを完了させた。この試験中の抵抗は、設定ケイデンス(70rpm)での出力が、GET時の出力とVO2peak試験で評価されたピーク出力との差の50%に等しいことに基づくスケーリング係数を用いて、ペダリング速度に応じて設定された。参加者には、ペース配分を防ぐため、経過時間を通知しなかった。3MTは、実験的試験1および実験的試験2の両方のPRE評価の後に完了した。
【0038】
(評価)
(Dynavision反応時間評価)
反応時間は、DynavisionD2視覚運動トレーニング装置を用いて評価した。DynavisionD2は、視覚系を通して感覚運動統合を訓練するために開発された新しい反応時間装置である。これは、4フィート×4フィート(約122cm×約122cm)のコンピュータ内蔵ボードで構成されており、64個の触覚発光ターゲットが5つの同心円状に配置されている。試験中、点灯したターゲットが視覚刺激となり、消灯させるには物理的な手打撃が必要である。このD2装置は、ヒット数とともに視覚運動RTを測定する、可変的な頻度、継続時間、および複雑さでの多くのRT評価を生成するようにプログラムすることができる。これは、中心視と周辺視の両方に対する課題である、大きな標的視野を利用する。反応時間は、DynavisionD2視覚運動の2つのタスクによって評価された。DynavisionD2システムは、あらゆる年齢、段階、状態に対して、視覚機能、認知機能、運動機能を評価および訓練するのに使用される。これは、視覚運動反応時間、周辺視覚認識、実行機能、能動的可動域、動的バランスを含めた、視覚、認知、および運動の根本的な障害に対処するために使用することができる。DynavisionD2システムは、脳損傷、脳卒中、その他の神経学的病態後の視覚および認知機能障害を特定するのにも使用することができる。
【0039】
モードA:モードA(積極的)のタスクでは、Dynavision装置のターゲット領域全体にランダムに順次現れる刺激をできるだけ速く認識しそれに反応することが参加者に要求される。ボードのT字スコープ上での5秒間の視覚的カウントダウン後に、D2ボード上のランダムな位置に初期刺激が出現する。この刺激は、参加者がボタンを打つまで点灯し続ける。その後、刺激は別のランダムな位置に変更される。60秒以内に両手でできるだけ多くの刺激を正しく識別し打つように参加者に指示した。各時間ポイントでの3つの個別のテストの平均を求めた。ヒット数(ヒット)と1ヒットあたりの平均反応時間(avgRT)を評価した。
【0040】
モードB:モードB(反応的)の評価はモードAに類似している。Dynavision装置のターゲット領域全体にランダムに順次現れる刺激にできるだけ速く反応することが各参加者に要求される。ただし、モードB評価では、刺激を1秒以内に打たなければ、刺激はDynavisionのターゲット領域内の別のランダムな位置に変更される。さらに、参加者は、各評価中にD2の中央画面(Tスコープ)に表示されるランダムな5桁の数字を口頭で復唱するように要求された。ランダムに生成された5桁の数字は、60秒のテスト中に合計で11回、0.75秒間表示される。各時間ポイントでの3つの個別のテストの平均を求めた。ヒット数(ヒット)、ミス数(ミス)、および1ヒットあたりの平均反応時間(avgRT)を評価した。
【0041】
(栄養補助)
参加者は、無作為クロスオーバー方式で行われる実験的試験1および実験的試験2を完了する前の14日間の期間に、PeakATP(処方100)またはプラセボ(処方666)のいずれかを栄養補助するよう割り当てられた。参加者はまた、実験室に到着し実験的試験1および2を開始するときに、割り当てられたサプリメントの急性用量を栄養補助した。PeakATPおよびプラセボはTSI社(アメリカ合衆国モンタナ州ミズーラ)から入手した。サプリメントとプラセボは、味と見た目がよく似ている風味の粉末であり、あらかじめ分包された1回分のスティックパックで提供された。各参加者は、慣らしセッションと実験的試験1の後に、指定された処方(PeakATPまたはプラセボ)を14日分与えられた。参加者は、割り当てられた処方を8オンス(約227グラム)の水に混ぜ、朝食の30分前の空腹時に栄養補助するよう指示された。
【0042】
参加者は、各用量を栄養補助した日付と時間を詳細に記録した日誌をつけることが求められた。参加者は、実験的試験の開始前に、全ての空のパケットを返却することが求められた。残ったサプリメントを数えて記録した。実験的試験1、2中、サプリメントは、事前試験の30分前に研究室に到着してすぐに栄養補助された。サプリメントの栄養補助遵守率は、プラセボ(処方666)について96.9%、PeakATP(処方100)について98.6%であった。
【0043】
PeakATPの配合:400mgのPeakATP(アデノシン5’-三リン酸二ナトリウム)、マルトデキストリン、無水コロイド状シリカ、無水クエン酸、スクラロース、グアガム。
【0044】
プラセボの配合:マルトデキストリン、無水コロイド状シリカ、無水クエン酸、スクラロース、グアガム。
(統計分析)
時間にわたる治療間のすべての従属変数を比較するために二元配置反復測定分散分析ANOVA(治療[666対100]×時間[PRE対IP対60P])を実施した。球面性仮定を満たさない場合には、Greenhouse-Geisser補正を適用した。有意な相互作用がある場合には、最小有意差(LSD)のペア比較とともに別々の一元配置反復測定ANOVAを行うことで、各治療に対する時間にわたる従属変数の変化を評価し、各時間ポイントでの治療間比較のフォローアップも行った。統計処理はすべて、有意水準をp≦0.05に設定し、SPSS統計ソフトウェア(v.28.0.1.1)を使用して行われる。
【0045】
(結果)
(DynavisionモードA)
<ヒット数>
ヒット数について、時間×治療の有意な相互作用が認められた(p=0.006)。プラセボでは有意な時間効果が認められたが(p=0.002)、ATPでは認められなかった(p=0.187)。プラセボでは、ヒット数はPREに比べてIP(p=0.019)および60P(p<0.001)で有意に低かったが、PeakATPではヒット数は維持された。PREでもIPでも、治療間の差は認められなかった(p’>0.05)。ヒット数は、プラセボと比べて60PのATPで有意に多かった(p=0.028)。図1を参照。
【0046】
<AvgRT>
AvgRTについて、時間×治療の有意な相互作用が認められた(p=0.006)。プラセボでは有意な時間効果が認められたが(p=0.004)、PeakATPでは認められなかった(p=0.211)。プラセボでは、avgRTはPREに比べてIP(p=0.027)および60P(p=0.002)で有意に遅かったが、PeakATPではavgRTは維持された。PREまたはIPでの治療間に差は認められなかった(p’s>0.05)。avgRTは、プラセボと比べて60PのPeakATPで有意に速かった(p=0.015)。図2を参照。
【0047】
(DynavisionモードB)
<AvgRT>
avgRTについて、時間×治療の有意な相互作用が認められた(p=0.039)。ATPでは有意な時間効果が認められたが(p=0.002)、プラセボでは認められなかった(p=0.925)。ATPでは、avgRTはPREに比べてIP(p=0.015)および60P(p=0.001)で有意に速かった。しかし、avgRTはどの時間ポイントでもプラセボと有意差はなかった(p’s>0.05)。図3を参照。
【0048】
<ミス>
モードBのミス数については、時間×治療の有意な相互作用は認められなかった。時間による有意な主効果が認められた(p=0.048)、治療にかかわらず、ミス数はPREに比べIPで増加した。プラセボと比べた場合にPeakATPではミス数が全体的に有意に少なかったことを示す有意な治療効果も認められた(p=.005)。図4を参照。
【0049】
【表1】
【0050】
(考察)
ATP栄養補助は、プラセボと比べて、DynavisionモードA(積極的)反応時間評価におけるヒット数および1ヒットあたりの平均反応時間の低下を有意に抑制した。1ヒットあたりの平均反応時間は、PREに比べてプラセボでは、運動直後(IP)と60分後(60P)に有意に遅くなり、ヒット数も有意に減少したが、ATPでは有意な減少は認められなかった。60PのATPにおいて、ヒット数と1ヒットあたりの平均反応時間の両方がプラセボに比べて有意に良好であった。ATP栄養補助は、全力の高強度運動後の積極的な視覚運動反応時間の低下を抑制する。
【0051】
ATPは、DynavisionモードB(反応性)の反応時間評価において、1ヒットあたりの平均反応時間(RT)を有意に改善したが、プラセボでは有意な変化は認められなかった。ATPでは1ヒットあたりの平均反応時間が、運動直後(IP)と60分後(60P)で、PREと比較して有意に速かった。ATP栄養補助は、全力の高強度運動後の認知ストレッサーを伴う視覚運動課題中の反応的な視覚運動反応時間を改善する。
【0052】
ATPは、プラセボと比べて、すべての時間ポイントにおいて、DynavisionモードB(反応性)反応時間評価におけるミスの数を有意に減少させた。ATP栄養補助は、全力の高強度運動の前後で、認知的ストレッサーを伴う反応性視覚運動課題中のエラー数を減少させる。
【0053】
ATP栄養補助は、積極的視運動RTの低下を抑制し、反応性視運動RTを改善し、反応性視運動課題中のミス数を減少させた。
結果は、本願に記載した方法および組成物が、認知機能、反応時間、気分、神経筋活動、および/または集中力の改善を提供することを示す。さらに、本願に記載した方法および組成物は、個人の精神的パフォーマンスの改善をもたらす。
【0054】
前述の説明および図面は、本発明の例示的な実施形態を構成する。前述の実施形態および本明細書に記載された方法は、当業者の能力、経験、好みに応じて変更され得る。方法の工程をある順序で列挙したことだけで当該方法の工程の順序を制限することにはならない。上述した説明と図面は単に本発明を説明および例示するものであって、本発明は、特許請求の範囲がそのように限定されている場合を除き、それに限定されるものではない。本開示を触れた当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、修正および変更を行うことができるであろう。対象および動物という用語は、本願では互換的に使用され、どちらか一方にまたは他方に限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】