(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】行-列アドレス指定で超音波画像化を行うための方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240628BHJP
H04R 19/00 20060101ALI20240628BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61B8/14
H04R19/00 330
H04R17/00 332B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579616
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2022065642
(87)【国際公開番号】W WO2022268512
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519242942
【氏名又は名称】モジューレウス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ブルーム,オドレ
(72)【発明者】
【氏名】シャタン,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ブレビオン,ステファン
【テーマコード(参考)】
4C601
5D019
【Fターム(参考)】
4C601BB03
4C601EE04
4C601EE12
4C601GB06
4C601GB18
4C601GB41
4C601GB42
5D019AA21
5D019AA26
5D019BB19
5D019DD01
5D019FF04
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、行及び列に接続されている超音波トランスデューサのアレイを用いて身体の画像を取得するための方法に関し、この方法では、身体の方向に同一の超音波をN回連続して放射し(TX)、ここでNは2以上の整数であり、夫々の放射後、身体で反射する戻り超音波を受信する受信段階(RX)を行い、各受信段階(RX)では、受信した超音波を表す電気可変量をデバイスの各行電極(Ri)で読み取り、N回の受信段階(RX)の内のいずれか2つの受信段階の間にアレイの少なくとも1つの基本超音波トランスデューサの個々の寄与(eij) の符号を変更する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイス(100) を用いて身体の画像を取得する方法であって、
前記マトリクス超音波画像化デバイス(100) は、行電極(R
i)及び列電極(C
j)によって行及び列の形態に夫々接続されている基本超音波トランスデューサ(101) のアレイを備えており、
身体に向かって同一の超音波をN回連続して放射し(TX1, ... TXN)、ここでNは2以上の整数であり、
夫々の放射後、前記身体で反射する戻り超音波を、前記マトリクス超音波画像化デバイスを用いて受信する受信段階(RX1, ... RXN)を行い、
各受信段階(RX1, ... RXN)中、受信した戻り超音波を表す可変電気量を、前記マトリクス超音波画像化デバイスの各行電極(R
i)で読み取り、
N回の受信段階(RX1, ... RXN)のいずれか2つの間に、前記アレイの少なくとも1つの基本超音波トランスデューサ(101) の個々の寄与(e
ij) の符号を変更し、
前記方法は、前記アレイの基本超音波トランスデューサ(101) の各々の個々の寄与(e
ij) を、N回の受信段階(RX1, ... RXN)中に前記マトリクス超音波画像化デバイスの行電極(R
i)で読み取られる電気可変量(V
Ri) の線形結合により電子処理デバイスを用いて計算するステップを有する、方法。
【請求項2】
前記アレイの基本超音波トランスデューサ(101) の個々の寄与(e
ij) を計算する際、N回の受信段階(RX1, ... RXN)中に前記マトリクス超音波画像化デバイスの行電極(R
i)で読み取られる電気可変量(V
Ri) に、特徴付け又はシミュレーションの段階中に予め決定されて前記電子処理デバイスのメモリに記憶されている行列[A]の係数を掛ける、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
N回の受信段階(RX1, ... RXN)の各々の間、前記アレイの各列電極(C
j)をDCバイアス電圧(V
bias, -V
bias)に維持し、
N回の受信段階(RX1, ... RXN)のいずれか2つの間に、前記マトリクス超音波画像化デバイスの列電極(C
j)の少なくとも1つに印加されるDCバイアス電圧(V
bias, -V
bias)の符号を変更する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
N回の受信段階(RX1, ... RXN)中に前記マトリクス超音波画像化デバイスの列電極(C
j)に夫々印加されるDCバイアス電圧(V
bias, -V
bias)の符号を、直交行列、例えばアダマール行列のベクトルによって符号化する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
行-列でアドレス指定される前記マトリクス超音波画像化デバイス(100) を用いて、N回連続して放射し(TX1, ... TXN)、
N回の放射(TX1, ... TXN)の各々の間、前記アレイの各列電極(C
j)をDCバイアス電圧(V
bias, -V
bias)に維持し、前記DCバイアス電圧に重畳したAC励起電圧(V
exc)を前記列電極(C
j)に印加し、
夫々の放射中、前記アレイの列電極(C
j)に夫々印加されるDCバイアス電圧の符号は、その後の受信段階で前記列電極(C
j)に夫々印加されるDCバイアス電圧の符号と同一である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
N回の受信段階(RX1, ... RXN)のいずれか2つの間に、前記行電極(R
i)及び前記列電極(C
j)間の少なくとも1つの基本超音波トランスデューサ(101) の電気接続を、前記アレイの少なくとも1つの基本超音波トランスデューサ(101) の個々の寄与(e
ij) の符号を変更するようにスイッチのシステムを用いて逆にする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基本超音波トランスデューサ(101) は、CMUTトランスデューサ又はPMUTトランスデューサである、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記アレイは、N行N列の基本超音波トランスデューサ(101) を有している、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記マトリクス超音波画像化デバイスの各行電極(R
i)で読み取られる電気可変量(V
Ri) は電圧値である、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイス(100) であって、
行電極(R
i)及び列電極(C
j)によって行及び列の形態に夫々接続されている基本超音波トランスデューサ(101) のアレイと、
請求項1~9のいずれか1つに記載の方法を実行するように構成されている制御回路と
を備えている、マトリクス超音波画像化デバイス。
【請求項11】
前記基本超音波トランスデューサ(101) は、CMUTトランスデューサ又はPMUTトランスデューサである、請求項10に記載のマトリクス超音波画像化デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、超音波画像化の分野に関し、より具体的には行-列でアドレス指定される超音波トランスデューサのアレイを備えたデバイス、及びこのようなデバイスを用いて身体の画像を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像化デバイスは通常、複数の超音波トランスデューサ、及び超音波トランスデューサに接続されている電子制御回路を備えている。動作中、全てのトランスデューサが画像取得対象の身体に向いている。電子制御回路は、トランスデューサに超音波を分析対象の身体又は対象物の方向に放射させるように、電気励起信号をトランスデューサに与えるように構成されている。トランスデューサによって放射される超音波は、分析対象の身体(身体の内部構造及び/又は表面構造)で反射し、その後、トランスデューサに戻り、トランスデューサはこの超音波を電気信号に変換し戻す。これらの電気応答信号を電子制御回路によって読み取り、分析対象の身体に関する情報を導き出すために記憶して分析することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
超音波トランスデューサは、二次元画像取得デバイスの場合には細片状に配置されることができ、三次元画像取得デバイスの場合にはアレイ状に配置されることができる。二次元の画像取得デバイスの場合、取得する画像は、一方では細片状のトランスデューサの整列軸芯によって、他方ではトランスデューサの放射方向によって定められる面での分析対象の身体の断面を表す。三次元の画像取得デバイスの場合、取得する画像は、トランスデューサのアレイの2つの整列方向とトランスデューサの放射方向とによって定められる体積を表す。
【0004】
三次元の画像取得デバイスは、アレイの各トランスデューサが個別にアドレス指定可能な「フル実装」デバイスと、アレイのトランスデューサが行及び列でアドレス指定可能な「行-列アドレス指定」(RCA) デバイスとに分類され得る。
【0005】
フル実装デバイスは、送信及び受信の際に超音波ビームの成形でより高い適応性を提供する。しかしながら、アレイの制御電子回路は複雑であり、M行×N列のアレイの場合、必要な送信/受信チャネルの数はM×Nである。更に、超音波に対する各トランスデューサの露出表面積が小さいため、信号対雑音比は一般に比較的低い。
【0006】
RCA タイプのデバイスには、様々な超音波ビーム成形アルゴリズムが使用される。ビームを成形するオプションが、フル実装デバイスと比較して少ない場合がある。しかしながら、M行×N列のアレイの場合、必要な送信/受信チャネルの数はM+Nに減少するため、アレイの制御電子回路はかなり簡略化される。更に、送信段階及び受信段階中にトランスデューサを行又は列に相互接続することにより、信号対雑音比が向上する。
【0007】
本明細書では、行-列アドレス指定(RCA) を使用して三次元画像を取得するためのデバイス及び処理に焦点を当てる。
【0008】
行-列アドレス指定で三次元超音波画像を取得するためのデバイス及び処理の少なくとも一部の態様を改善することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このために、一実施形態は、行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを用いて身体の画像を取得する方法であって、
前記マトリクス超音波画像化デバイスは、行電極及び列電極によって行及び列の形態に夫々接続されている基本超音波トランスデューサのアレイを備えており、
身体に向かって同一の超音波をN回連続して放射し、ここでNは2以上の整数であり、
夫々の放射後、前記身体で反射する戻り超音波を、前記マトリクス超音波画像化デバイスを用いて受信する受信段階を行い、
各受信段階中、受信した戻り超音波を表す可変電気量を、前記マトリクス超音波画像化デバイスの各行電極で読み取り、
N回の受信段階のいずれか2つの間に、前記アレイの少なくとも1つの基本超音波トランスデューサの個々の寄与の符号を変更する、方法を提供する。
【0010】
一実施形態によれば、N回の受信段階の各々の間、前記アレイの各列電極をDCバイアス電圧に維持し、N回の受信段階のいずれか2つの間に、前記マトリクス超音波画像化デバイスの列電極の少なくとも1つに印加されるDCバイアス電圧の符号を変更する。
【0011】
一実施形態では、N回の受信段階中に前記マトリクス超音波画像化デバイスの列電極に夫々印加されるDCバイアス電圧の符号を、直交行列、例えばアダマール行列のベクトルによって符号化する。
【0012】
一実施形態によれば、行-列でアドレス指定される前記マトリクス超音波画像化デバイスを用いて、N回連続して放射し、N回の放射の各々の間、前記アレイの各列電極をDCバイアス電圧に維持し、前記DCバイアス電圧に重畳したAC励起電圧を前記列電極に印加し、夫々の放射中、前記アレイの列電極に夫々印加されるDCバイアス電圧の符号は、その後の受信段階中に前記列電極に夫々印加されるDCバイアス電圧の符号と同一である。
【0013】
一実施形態では、N回の受信段階のいずれか2つの間に、前記行電極及び前記列電極間の少なくとも1つの基本超音波トランスデューサの電気接続を、前記アレイの少なくとも1つの基本超音波トランスデューサの個々の寄与の符号を変更するようにスイッチシステムを用いて逆にする。
【0014】
一実施形態では、前記基本超音波トランスデューサは、CMUTトランスデューサ又はPMUTトランスデューサである。
【0015】
一実施形態では、前記アレイは、N行N列の基本超音波トランスデューサを有している。
【0016】
一実施形態によれば、前記方法は、前記アレイの基本超音波トランスデューサの各々の個々の寄与を、N回の受信段階中に前記マトリクス超音波画像化デバイスの行電極で読み取られる電気可変量の線形結合により電子処理デバイスを用いて計算するステップを有する。
【0017】
一実施形態では、前記マトリクス超音波画像化デバイスの各行電極で読み取られる電気可変量は電圧値である。
【0018】
更なる実施形態は、行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスであって、行電極及び列電極によって行及び列の形態に夫々接続されている基本超音波トランスデューサのアレイと、上記のように定められている方法を実行するように構成されている制御回路とを備えている、マトリクス超音波画像化デバイスを提供する。
【0019】
一実施形態では、前記基本超音波トランスデューサは、CMUTトランスデューサ又はPMUTトランスデューサである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
これら及び他の特徴及び利点を、添付図面に関連して本発明を限定するものではない特定の実施形態について以下に詳細に説明する。
【0021】
【
図1】行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスの例を概略的且つ部分的に示す平面図である。
【
図2】
図1に示されているマトリクス超音波画像化デバイスの例を更に詳細に示す、
図1の面A-Aに沿った断面図及び
図1の面B-Bに沿った断面図である。
【
図3】受信モードで動作している2×2の行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを示す等価電気回路図である。
【
図4】受信モードで動作しているN×Nの大きさの行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを示す等価電気回路図である。
【
図5】放射中の超音波トランスデューサの例の挙動を概略的に示す図である。
【
図6】受信中の超音波トランスデューサの例の挙動を概略的に示す図である。
【
図7】N×Nの大きさの行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを用いて身体の画像を取得するための方法の送信ステップTX及び受信ステップRXを概略的に示す図である。
【
図8】2×2の行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを使用して身体の画像を取得するための処理のステップを概略的に示す図である。
【
図9】4×4の行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを使用して身体の画像を取得するための処理のステップを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
同一の要素は様々な図面で同一の参照番号で示されている。特に、様々な実施形態に共通する構造的要素及び/又は機能的要素は同一の参照符号を有してもよく、同一の構造特性、寸法特性及び材料特性を有してもよい。
【0023】
明瞭化のために、記載されている実施形態の理解に有用なステップ及び要素のみが示されて詳細に記載されている。特に、記載されている実施形態は超音波画像化の解決策のための通常の用途と適合するため、記載されている画像化デバイス及び処理が有してもよい様々な用途は詳述されていない。特に、超音波トランスデューサに与えられる電気励起信号の特性(周波数、形状、振幅など)は詳述されておらず、記載されている実施形態は、対象とする用途、特に分析対象の身体の性質及び取得しようとする情報のタイプに応じて選択され得る、超音波画像化システムで通常使用される励起信号と適合する。同様に、記載されている実施形態は、超音波画像化システムで通常行われている処理と適合するので、分析対象の身体に関する有用な情報を取り出すために、超音波トランスデューサによって与えられる電気信号に適用される様々な処理は詳述されていない。更に、記載されている画像化デバイスの超音波トランスデューサを駆動するための回路についても詳述されておらず、実施形態のモードは、行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスの超音波トランスデューサを駆動するための全ての又は最も知られている回路と適合する。つまり、本明細書を読むと、このような回路の実現は当業者の技能の範囲内である。更に、記載されている画像化デバイスの超音波トランスデューサの実現は詳述されておらず、記載されている実施形態は、全ての又は最も知られている超音波トランスデューサ構造と適合する。
【0024】
特に指定されていない場合、互いに接続された2つの要素を参照するとき、これは、導体以外のいかなる中間要素も無しの直接接続を意味し、互いに「連結」された2つの要素を参照するとき、これは、これら2つの要素が接続されてもよいか、又は一若しくは複数の他の要素を介して接続されてもよいことを意味する。
【0025】
以下の記載では、「前」、「後ろ」、「最上部」、「底部」、「左」、「右」などの絶対位置、若しくは「最上部」、「底部」、「上側」、「下側」などの相対位置を限定する文言、又は「水平方向」、「垂直方向」などの向きを限定する文言を参照するとき、特に指定されていない場合、この文言は図面の向きを指す。
【0026】
「約」、「略」、「実質的に」及び「程度」という表現は、特に指定されていない場合、該当する値の10%の範囲内、好ましくは5%の範囲内を意味する。
【0027】
図1は、行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイス100 の例を概略的且つ部分的に示す平面図である。
【0028】
図2は、
図1の面A-A及び面B-Bに夫々沿った
図1に示されているデバイス100 の2つの断面図(A)及び断面図(B)である。
【0029】
デバイス100 は、M行Ri及びN列Cjのアレイに配置されている複数の超音波トランスデューサ101 を備えており、M及びNは2以上の整数であり、iは1~Mの範囲の整数であり、jは1~Nの範囲の整数である。
【0030】
図1では、4つの行R
1, R
2, R
3, R
4、及び4つの列C
1, C
2, C
3, C
4が示されている。実際には言うまでもなく、デバイス100 の行数M及び列数Nを4とは異なる数にすることができる。
【0031】
デバイス100 の各トランスデューサ101 は、下部電極E1及び上部電極E2を有している(
図2A及び
図2B)。適切な励起電圧が下部電極E1及び上部電極E2間に印加されると、トランスデューサは超音波を放射する。トランスデューサが特定の周波数範囲の超音波を受けると、その下部電極E1及び上部電極E2間に受けた超音波を表す電圧を供給する。
【0032】
この例では、トランスデューサ101 は、CMUTトランスデューサ(容量性微細加工超音波トランスデューサ)としても知られている容量性膜トランスデューサである。
【0033】
トランスデューサのアレイの各列Cjでは、列内のトランスデューサ101 の夫々の下部電極E1は互いに接続されている。他方では、異なる列のトランスデューサ101 の下部電極E1は互いに接続されていない。更に、トランスデューサのアレイの各行Riでは、行内のトランスデューサ101 の夫々の上部電極E2は互いに接続されている。しかしながら、異なる行のトランスデューサ101 の上部電極E2は互いに接続されていない。
【0034】
デバイス100 の各列C
jでは、列内のトランスデューサ101 の下部電極E1は、列の実質的に長さ全体に沿って延びている連続的な導電性細片又は半導体細片103 を形成している。或いは、下部電極E1の各細片103 は、列の実質的に長さ全体に沿って夫々延びている半導体細片及び導電性細片の垂直積層体を有している。更に、デバイス100 の各行R
iでは、行内のトランスデューサ101 の上部電極E2は、行の実質的に長さ全体に沿って延びている連続的な導電性細片又は半導体細片105 を形成している。或いは、上部電極E2の各細片105 は、行の実質的に長さ全体に沿って夫々延びている半導体細片及び導電性細片の垂直積層体を有している。簡略化のために、
図1には下部電極103 及び上部電極105 の細片のみが示されている。
【0035】
図示されている例では、列電極を形成する細片103 は、ドープされた半導体材料、例えばドープされたシリコンで形成されている。更に、この例では、行電極を形成する細片105 は金属で形成されている。例として、上から見ると、下側の細片103 は互いに平行であり、上側の細片105 は互いに平行であり、細片103 に垂直である。
【0036】
図1に示されている例では、デバイス100 は、例えばシリコンなどの半導体材料で形成されている支持基板110 を備えている。超音波トランスデューサ101 のアレイは支持基板110 の上側に配置されている。より具体的には、この例では、誘電体層112 、例えば酸化シリコン層が、支持基板110 と超音波トランスデューサ101 のアレイとの間の界面を形成している。誘電体層112 は、例えば支持基板110 の上面全体に亘って連続的に延びている。例として、誘電体層112 の下側が、支持基板110 の実質的に上面全体に亘って支持基板110 の上面と接している。
【0037】
下部電極の細片103 は、例えば誘電体層112 の上側と接して誘電体層112 の上側に配置されている。細片103 は、例えば酸化シリコンで形成されて細片103 と平行に延び、細片103 の厚さと実質的に同一の厚さを有する誘電体細片121 によって互いに横方向に分離され得る。
【0038】
各トランスデューサ101 は、剛性支持層127 に形成されているキャビティ125 、及びキャビティ125 の上側に懸架されている可撓性膜123 を有している。剛性支持層127 は、例えば酸化シリコン層である。剛性支持層127 は、交互に配置された細片103 及び細片121 によって形成されている集合体の、例えば実質的に平坦な上面に配置されている。各トランスデューサ101 では、キャビティ125 は、トランスデューサの下部電極E1に対向している。
【0039】
図示されている例では、各トランスデューサ101 は、下部電極E1に対向している1つのキャビティ125 を有している。或いは、各トランスデューサ101 では、キャビティ125 は、例えば平面視で行及び列のアレイに配置されて、剛性支持層127 の一部によって形成されている側壁によって互いに横方向に分離されている複数の基本キャビティに分割されてもよい。
【0040】
図示されている例では、トランスデューサの可撓性膜123 と下部電極E1とのあらゆる電気接触を防止するように、各キャビティ125 の底部で、例えば酸化シリコンで形成されている誘電体層129 がトランスデューサの下部電極E1を覆っている。或いは、この電気絶縁機能を保証するために、誘電体層(不図示)が可撓性膜123 の下側を覆うことができる。この場合、誘電体層129 は省略されてもよい。
【0041】
各トランスデューサ101 では、トランスデューサのキャビティ125 と整列する可撓性膜123 が、例えばシリコンなどのドープ又は非ドープの半導体材料で形成されている。
【0042】
各トランスデューサ101 では、トランスデューサの上部電極E2が、トランスデューサのキャビティ125 及び下部電極E1と一列にトランスデューサの可撓性膜123 の上面に可撓性膜123 の上面と接して配置されている。或いは、半導体膜の場合、各トランスデューサ101 の上部電極E2は膜自体によって形成されてもよく、その場合、層105 は省略されてもよい。
【0043】
例として、デバイス100 の各行Riでは、行内のトランスデューサ101 の可撓性膜123 は、隣り合う行の膜細片から誘電体領域によって横方向に分離されて行の実質的に長さ全体に沿って延びている連続的な膜細片を形成している。各行Riでは、行の膜細片123 は、例えば上から見ると行の上部電極の細片105 と一致している。
【0044】
トランスデューサ101 のアレイの行Ri毎に、デバイス100 は、送信回路、受信回路及び制御可能なスイッチを備えてもよく、スイッチは、第1の構成では行のトランスデューサの電極E2を行の送信回路の出力端子に接続して、第2の構成では行のトランスデューサの電極E2を行の受信回路の入力端子に接続するように構成されている。
【0045】
更に、トランスデューサ101 のアレイの列Cj毎に、デバイス100 は、送信回路、受信回路及び制御可能なスイッチを備えてもよく、スイッチは、第1の構成では列のトランスデューサの電極E1を列の送信回路の出力端子に接続して、第2の構成では列のトランスデューサの電極E1を列の受信回路の入力端子に接続するように構成されている。
【0046】
簡略化のために、デバイス100 の送信/受信回路及びスイッチは図面には示されていない。更に、これらの要素の実施形態は詳述されておらず、記載されている実施形態は、行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスの送信/受信回路の通常の実施形態と適合する。非制限例として、送信/受信回路は、2019年6月18日に本出願人によって出願された仏国特許出願第19/06515 号に記載されている送信/受信回路と同一又は同様であってもよい。
【0047】
例えば
図1及び
図2に関連して記載されているタイプの行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを用いて身体の超音波画像を取得する方法は、超音波を送信する段階、その後、身体で反射する戻り超音波を受信する段階を有してもよい。
【0048】
例えば、放射段階中、(
図1及び
図2の例では電極105 に相当する)トランスデューサのアレイの行電極は、一定の基準電位、例えば接地で維持され、DCバイアス電位V
biasが、(
図1及び
図2の例では電極103 に相当する)アレイの列電極の各々に印加される。AC励起電圧V
excが、アレイの列電極の各々に更に印加される。従って、アレイの各トランスデューサ101 では、電極E1及び電極E2間にDCバイアス電圧V
bias に重畳したAC励起電圧V
excが印加される。このため、トランスデューサの膜が振動し、超音波が放射される。
【0049】
受信段階中、列電極がDCバイアス電位Vbias に維持され得る。次に、DCバイアス電圧Vbias に重畳したAC電圧が、戻り音波の影響下で各トランスデューサ101 の電極E1及び電極E2間に生じる。個々の基本トランスデューサの寄与とも称されるアレイの基本トランスデューサによって個々に生成される交流電圧がアレイの行電極及び列電極で結合し、その結果生じる電圧が、前記行電極及び列電極で読み取られ得る。
【0050】
一実施形態の目的は、画像解像度の観点からのフル実装デバイスの利点、及び電子的な複雑さの観点からの行-列アドレス指定デバイスの利点の両方による恩恵を受けるように、アレイの基本トランスデューサの個々の寄与を決定することができる、行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを用いて超音波画像を取得する方法を提供することである。
【0051】
図3は、超音波を受信する段階中の2行2列の行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスの等価回路図である。
【0052】
各基本トランスデューサは、(
図1及び
図2の実装例では電極105 に相当する)行電極R
i及び(
図1及び
図2の実装例では電極103 に相当する)列電極C
j間のインピーダンスZ
th と直列の電圧発生器e
ij によってモデル化され得る。各電圧値e
ij は、受信した超音波の影響下でのアレイの座標i, jの基本トランスデューサの振動を表し、デバイスの行電極及び/又は列電極で測定される電圧に対する基本トランスデューサの個々の寄与に対応する。更に、アレイの行毎に行電極R
i及び接地間の電荷インピーダンスZ
Rが示され、アレイの列毎に列電極C
j及び接地間の電荷インピーダンスZ
Cが示されている。アレイの様々な基本トランスデューサのインピーダンスZ
th は、例えば全て同一であるか又は実質的に同一である。アレイの様々な行電極R
iに接続されている負荷インピーダンスZ
Rは、例えば全て同一であるか又は実質的に同一である。アレイの様々な列電極C
jに接続されている負荷インピーダンスZ
Cは、例えば全て同一であるか又は実質的に同一である。ここで、V
Ri は、超音波の受信段階中に行R
iに生じる交流電圧を指し、V
Cj は、超音波の受信段階中に列C
jに生じる交流電圧を指す。
【0053】
重ね合わせの原理を適用することにより、以下の方程式系が記述され得る。
【0054】
【0055】
ここで、各係数aijRkは、行Rkの電圧VRk に対する電圧発生器eij の寄与の重みを表し、kは1~Nの範囲内の整数であり、各係数aijCk は列Ckの電圧VCk に対する電圧発生器eij の寄与の重みを表す。
【0056】
図4は、N行N列の行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスの等価回路図である。
図4の等価回路図は、
図3の等価回路図と同様である。簡略化のために、行に接続されている負荷インピーダンスZ
R及び列に接続されている負荷インピーダンスZ
Cは
図4には示されていない。
【0057】
先の表記を使用すると、上記の方程式系(式1)は、[A]×[e]=[V]のように行列の形態に書き換えられ得る。
【0058】
【0059】
行列[A]の2N×(N×N)個の係数は、デバイスの特徴付け又はシミュレーションの段階中に予め決定されて、電子処理デバイスのメモリに記憶され得る。行列[A]の2N×(N×N)個の係数は、例えば(絶対値で)非ゼロ及び非単位である。
【0060】
ベクトル[V]の2N個の電圧は、アレイの行電極及び列電極で読み取られ得る。
【0061】
このため、2N個の方程式及びN×N個の未知数(N×N個の電圧値eij )を有する系が得られる。
【0062】
現状では、独立方程式の数が未知数の数より少ないため、この系を解くことができない。
【0063】
一実施形態の一態様によれば、以下により詳細に説明するように、同一の超音波(つまり、同一の特性のビーム)を分析対象の身体の方向に連続して複数回放射して、戻り波の受信段階中に少なくとも1つの発生器eij の符号を毎回変更することによって、系の判別式の数を増やすように構成されている。
【0064】
好ましい実施形態では、放射毎に、戻り波の受信段階中にアレイの列電極の少なくとも1つに印加されるバイアス電圧の符号が、前記少なくとも1つの列内の全ての発生器e
ij の符号を反転するように変更される。このために、CMUTトランスデューサの電圧対称的な挙動が利用されており、
図5及び
図6に関連して以下に記載される。より一般的には、以下に記載される好ましい実施形態は、PMUTトランスデューサ(圧電微小機械加工超音波トランスデューサ)などの、特に受信中に対称的な挙動を有するあらゆるタイプのトランスデューサに適用される。受信中の対称的な挙動とは、超音波の受信段階中にトランスデューサによって生成されるAC電圧の符号が、この同一の受信段階中にトランスデューサに印加されるDCバイアス電圧の符号が逆になるときに逆になることを意味する。
【0065】
図5は、放射中のCMUTトランスデューサの例の挙動を概略的に示す。
【0066】
図5は、送信段階中にトランスデューサの電極間に印加され得る電圧V
cMUT の例を表す図(a)を示す。この例では、電圧V
cMUT は、正のDCバイアス電圧V
bias及びAC励起電圧V
excの重ね合わせ(つまり合計)に相当する正電圧である。この例では、AC励起電圧は、高状態、低状態、高状態及び低状態を連続的に有する方形波電圧である。
【0067】
トランスデューサに電圧V
cMUTを印加すると、
図5の図(b)に示されているようにトランスデューサのダイヤフラムに直交するz軸に沿ってダイヤフラムの振動変位が生じる。この図では、位置0が、あらゆる電気的なバイアスがない場合の膜の機械的平衡位置に相当する。
【0068】
膜のこの振動変位により、
図5の図(c)に示されているように音波が放射される。
【0069】
図5は、送信段階中にトランスデューサの電極間に印加され得る電圧V
cMUT の別の例を表す図(a’)を更に示す。この例では、電圧V
cMUT は、図(a)の電圧V
cMUT の逆に対応する負の電圧である。従って、この例では、電圧V
cMUT は、負のDCバイアス電圧V
bias及びAC励起電圧V
excの重ね合わせに相当する。図(a’)のDCバイアス電圧V
bias は、図(a)のDCバイアス電圧V
bias の逆に対応し、図(a’)のAC励起電圧V
excは図(a)のAC励起電圧V
excの逆に対応する。従って、この例では、AC励起電圧は、低状態、高状態、低状態及び高状態を連続的に有する方形波電圧である。
【0070】
図5に示されているように、図(a’)の電圧V
cMUT をトランスデューサの端子に印加すると、図(a)の電圧V
cMUT の印加で得られた振動変位と同一の振動変位が生じ、その結果、図(a)の電圧V
cMUT の印加で得られる音波と同一の音波が放射される。従って、トランスデューサに印加される電圧の符号を逆にしても、トランスデューサの放射挙動は変わらない。
【0071】
図6は、受信中のCMUTトランスデューサの例の挙動を概略的に示す。
【0072】
図6は、CMUTトランスデューサによって受信される音波の例を表す図(a)を示す。
【0073】
図6には、トランスデューサがDC電圧V
bias でバイアスされているときの、受信した音波の影響下でのトランスデューサのダイヤフラムの振動変位を示す図(b)が更に含まれている。尚、この変位は、DC電圧V
bias の符号、正又は負とは無関係であることに留意されたい。
【0074】
図6は、受信段階中のトランスデューサの電圧V
cMUT を表す図(c)を更に示す。この例では、トランスデューサに印加されるDCバイアス電圧V
biasは正電圧である。そのため、電圧V
cMUTは、DCバイアス電圧V
bias 及びダイヤフラムの振動によって生じるAC電圧V
recの重ね合わせ、つまり合計に相当する正電圧である。
【0075】
図6は、受信段階中のトランスデューサの電圧V
cMUT を表す図(c’)を更に示す。この例では、トランスデューサに印加されるDCバイアス電圧V
biasは負電圧である。より具体的には、この例では、トランスデューサに印加されるDCバイアス電圧V
biasは、図(c)の例で印加されるDCバイアス電圧の逆である。そのため、電圧V
cMUT は、DCバイアス電圧V
bias 及びダイヤフラムの振動によって生じるAC電圧V
recの重ね合わせに相当する負電圧である。
図6に示されているように、図(c’)の電圧V
recは、図(c)の電圧V
recの逆である。従って、受けたDCバイアス電圧V
bias の符号を逆にすると、受信した音波の影響下でトランスデューサで生成されるAC電圧V
recの符号が逆になる。
【0076】
先の表記を使用して、行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスの基本トランスデューサを考慮すると、受信した音波の影響下でトランスデューサに生じる交流電圧Vrecは、デバイスの行電極Ri又は列電極Cjで読み取られる電圧信号に対するトランスデューサの寄与eij に対応する。
【0077】
従って、受信する列のDCバイアス電圧Vbias を反転させることにより、列のトランスデューサの寄与eij の符号が反転する。以下でより詳細に記載されるように、このため、アレイの基本トランスデューサの個々の寄与を決定し得る追加の判別式を得ることが可能になる。
【0078】
トランスデューサの応答が線形である限り、DCバイアス電圧Vbias及び/又はAC励起電圧Vexcに同一の重み付け係数が適用されることができ、この重み付け係数は、処理の2つの連続した放射間又は2つの連続した受信段階間で変更され得ることに注目すべきである。個々のトランスデューサの寄与を再構成するとき、この重み付けを考慮して補正が適用され得る。
【0079】
図7は、N×Nの大きさの行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを使用して身体の画像を取得するための処理の送信ステップTX及び受信ステップRXを概略的に示す。
【0080】
この例では、放射段階TX中、DCバイアス電圧V
bias 及びAC励起電圧V
excが奇数列C
jの電極に印加され、逆のDCバイアス電圧-V
bias 及び逆のAC励起電圧-V
excが偶数列C
jの電極に印加される。
図7では各基本トランスデューサは、送信段階TX中、インピーダンスZ
th で表されている。受信段階RX中、奇数列C
jの電極及び偶数列C
jの電極に夫々印加されるDCバイアス電圧V
bias及びDCバイアス電圧-V
bias は変化しない。
【0081】
図5に関連して上記に説明されているように、偶数列の電圧V
bias 及び電圧V
excの符号を逆にしても、列のトランスデューサによって放射される音波に影響を及ぼさない。言い換えれば、放射される超音波は、電圧V
bias 及び電圧V
excの符号が全ての列で同一であるかのように同一である。
【0082】
他方では、受信側では、偶数列のDCバイアス電圧の符号を逆にすると、
図6に関連して上記に説明されているように、前記列の基本トランスデューサの寄与e
ij の符号が逆になる。
【0083】
同一の超音波を連続して数回放射して、その度に受信段階で特定の列に印加されるバイアス電圧の符号を変更し、行電極Riで測定される電圧の線形結合を行うことにより、アレイの各基本トランスデューサの個々の寄与eij を決定することが可能である。
【0084】
図8は、2×2の行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを使用して身体の画像を取得するための方法の例を概略的に示す。
【0085】
図8に示されている手順では、分析対象の身体の方向に同一の超音波を連続して2回放射する。
【0086】
より具体的には、この方法は、超音波を送信する第1のステップTX1 (第1の放射)、次に、分析対象の身体で反射する戻り波を受信する第1のステップRX1 、その後、第1のステップTX1 で送信された超音波と同一の超音波を送信する第2のステップTX2 (第2の放射)、その後、分析対象の身体で反射する戻り波を受信する第2のステップRX2 を有する。
【0087】
放射ステップTX1 中、列電極C1及び列電極C2は、同一のDC電圧Vbias でバイアスをかけられて、DC電圧Vbiasに重畳した同一のAC励起電圧Vexcを受ける。
【0088】
【0089】
そのため、以下の方程式系が記述され得る。
【0090】
【0091】
放射ステップTX2 中、列電極C1及び列電極C2は、電圧Vbias 及び電圧-Vbias で夫々バイアスをかけられて、AC励起電圧Vexc及び逆のAC励起電圧-Vexcを夫々受ける。
【0092】
【0093】
そのため、以下の方程式系が記述され得る。
【0094】
【0095】
上記の2つの方程式系(式5)及び(式6)を合計すると、2つの方程式及び2つの未知数を有する系が得られ、これは、[A]×[e]=[V]のように行列の形態で書き換えられ得る。
【0096】
【0097】
行列Aが可逆であるため、系を解くことができ、ランクj=1の列のランクi=1及びランクi=2の基本トランスデューサの夫々の寄与e11 及び寄与e21 を決定することが可能である。
【0098】
同様に、上記の2つの方程式系(式5)及び(式6)を引くことにより、2つの方程式及び2つの未知数を有する系が得られ、これは、[A]×[e]=[V]のように行列の形態で書き換えられ得る。
【0099】
【0100】
ここでも、行列Aが可逆であるため、系を解くことができ、ランクj=2の列のランクi=1及びランクi=2の基本トランスデューサの夫々の寄与e12 及び寄与e22 を決定することが可能である。
【0101】
従って、同一の超音波を2回放射し、対応する2つの受信段階の間に列の内の1つのバイアス電圧Vbias の符号を逆にして、電極で受信する際に測定されるAC電圧の線形結合を行うことにより、アレイの4つの基本トランスデューサ各々の個々の寄与eij を決定することが可能である。
【0102】
図5に関連して上記に説明されているように、送信段階中にバイアス電圧V
bias 及び励起電圧V
excの符号を逆にしても、送信される超音波には影響を及ぼさないことに注目すべきである。例えば、同一のバイアス電圧及び励起電圧で両方の放射を行い、受信段階RX2 中にのみ列の内の1つのバイアス電圧の符号を変更することが構想され得る。しかしながら、実際には、同一の超音波の送信段階及び受信段階の間に列のバイアス電圧の符号を逆にするのは難しい場合があり得る。従って、送信段階TX2 の早い段階で列電極C
2のバイアス電圧の符号を変更することが好ましい。
【0103】
この動作モードは、アレイの行及び列の数Nに関係なく一般化され得る。
【0104】
N×Nの大きさのアレイでは、少なくともN回の連続した放射TX1, ... TXNを行い、その度に夫々のその後の受信段階RX1, ... RXN中にアレイの列電極の少なくとも1つに印加されるバイアス電圧の符号を変更する。
【0105】
N回の受信段階RX1, ... RXN中にN個の列電極C1, ... CNに夫々印加されるバイアス電圧の符号を、アダマール行列などの直交行列のベクトルによって符号化することが好ましい。アレイの行電極Riで測定される電圧のN回の線形結合を使用して、[A]×[e]=[V]タイプの行列方程式のN個の部分系が得られ、部分系毎にN×Nの大きさの可逆行列Aがある。このため、デバイスのN×N個の基本トランスデューサの個々の寄与eij を追跡することが可能になる。
【0106】
図9は、4×4の行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイスを使用して身体の画像を取得するための方法を実例として概略的に示す。当業者は、デバイスの行及び列の数Nに関係なく、記載されている手順を適合させることができる。
【0107】
特に、
図9は、処理の4つの連続した受信段階RX1, RX2, RX3, RX4中にアレイの列電極C
jに印加されるバイアス電圧の符号を示す。
図9では、列に印加されるバイアス電圧がV
bias に等しい場合、列の最上部に+の符号が示されており、列に印加されるバイアス電圧が-V
bias に等しい場合、列の最上部に-の符号が示されている。
【0108】
1回目の放射後の受信段階RX1 では、列電極C1, C2, C3, C4は全て正にバイアスをかけられている(++++)。2回目の放射後の受信段階RX2 中、列電極C1, C2, C3, C4は夫々正、負、正及び負にバイアスをかけられている(+-+-)。3回目の放射後の受信段階RX3 中、列電極C1, C2, C3, C4は夫々正、正、負及び負にバイアスをかけられている(++--)。4回目の放射後の受信段階RX4 では、列電極C1, C2, C3, C4は夫々正、負、負及び正にバイアスをかけられている(+--+)。
【0109】
受信段階RX1, RX2, RX3, RX4毎に、上記の方程式系(式5)及び(式6)と同一のタイプの方程式系を記述することができ、毎回方程式系毎にN個の方程式があり、方程式毎にN×N個の項aijRi ×eij がある。
【0110】
対応するN=4の方程式系は、以下にT1、T2、T3及びT4と称される。
【0111】
方程式系T1、T2、T3及びT4のN=4の線形結合を行うことにより、[A]×[e]=[V]タイプの行列方程式のN=4の部分系が得られ、部分系毎にN×N=16の大きさの可逆行列Aがある。このため、デバイスのN×N=16の基本トランスデューサの個々の寄与eij を決定することが可能になる。
【0112】
例えば、方程式系T1、T2、T3及びT4のNの線形結合は、N回の受信段階RXi 中にアレイの列に印加されるバイアス電圧の符号を符号化するために使用されるベクトルと同一のベクトルによって符号化される。
【0113】
T1+T2+T3+T4の合計により、[A]×[e]=[V]タイプの第1の部分系が得られる。
【0114】
【0115】
行列Aは可逆であるため、方程式系を解くことができ、ランクj=1の列の基本トランスデューサの夫々の寄与ei1 を決定することが可能である。
【0116】
T1-T2+T3-T4の合計により、ランクj=2の列の基本トランスデューサの夫々の寄与ei2を同様に決定することができる。
【0117】
T1+T2-T3-T4の合計により、ランクj=3の列の基本トランスデューサの夫々の寄与ei3を同様に決定することができる。
【0118】
T1-T2-T3+T4の合計により、ランクj=4の列の基本トランスデューサの夫々の寄与ei4を同様に決定することができる。
【0119】
従って、デバイスのN回の放射の各々の終わりにN個の行電極Riで測定されるN×Nの電圧のN×Nの線形結合を行って、その結果のN×Nの大きさのベクトルにN×(N×N)個の所定の係数aijRi の行列を掛けることにより、デバイスのN×N個の基本トランスデューサの夫々の寄与eij が直接得られる。
【0120】
提案された取得処理の利点は、画像解像度の観点からのフル実装デバイスの利点、及び電子的な複雑さの観点からの行-列アドレス指定デバイスの利点の両方による恩恵を受け得るということである。
【0121】
様々な実施形態及び変形例が記載されている。当業者は、これらの様々な実施形態及び変形例のある特徴を組み合わせることができると理解し、他の変形例が当業者には明らかである。特に、記載されている実施形態は、
図1及び
図2に関連して記載されている基本トランスデューサアレイの実施形態の特定の例に限定されない。
【0122】
更に、上記の例では、デバイスの様々な列電極Cjに印加されるDCバイアス電圧Vbias及びDCバイアス電圧-Vbias は、絶対値で全て同一の振幅であるが、記載されている実施形態は、この特定の場合に限定されない。或いは、送信及び/又は受信で様々な列電極Cjに印加されるDCバイアス電圧の振幅レベルを区別することが可能である。同様に、放射中に列電極Cjに印加される交流励起電圧Vexcを、列毎に区別することが可能である。
【0123】
更に、記載されている実施モードは、列の基本トランスデューサの寄与eij の符号の反転を、この列に印加されるDCバイアス電圧Vbias の符号を反転させることにより行う上記の例に限定されない。より一般的には、同一の超音波の2回の連続した放射間に一又は複数の基本トランスデューサの寄与eij の符号を反転させるあらゆる他の手段が提供され得る。例として、アレイ内の位置(i,j) の各基本トランスデューサは、スイッチ、例えば電気機械スイッチのシステムと関連付けられ、トランスデューサの電極の接続方向をアレイの行電極Ri及び列電極Cj間で逆にすることが可能である。言い換えれば、スイッチシステムの第1の構成では、トランスデューサは、電極Riに接続されている第1の電極、及び電極Cjに接続されている第2の電極を有しており、スイッチシステムの第2の構成では、トランスデューサは、電極Cjに接続されている第1の電極、及び電極Riに接続されている第2の電極を有している。従って、同一の超音波の連続した2回の放射間に、位置(i,j) の基本トランスデューサに関連付けられているスイッチシステムの構成を変更することにより、このトランスデューサの寄与eij の符号を逆にする。このため、系の判別式の数を増やして、アレイ内の全ての基本トランスデューサの個々の寄与eij を決定することが可能になる。この実施形態では、個々のトランスデューサに関連付けられているスイッチシステムをトランスデューサ毎に個別に又は列毎に同時的に制御することができる。この構成は、対称的な電圧挙動を示さないトランスデューサを含むあらゆるタイプの超音波トランスデューサと適合することに注目すべきである。特に、超音波トランスデューサはCMUTトランスデューサ及びPMUTトランスデューサに限定されない。
【0124】
更に、デバイスの電極で測定される電圧に基づく実施例が上述されているが、記載されている実施モードは、この特定の場合に限定されない。或いは、記載されている実施形態は、デバイスの電極で測定される別の可変電気量、例えば電流、電荷又はインピーダンスから基本トランスデューサの個々の寄与を決定するように適合され得る。
【0125】
更に、提案されている取得処理の上記の詳細な例はN行×N列の正方形状のトランスデューサアレイに関して述べられているが、記載されている実施形態は、この特定の場合に限定されない。本明細書を読むと、当業者は、提案されている処理をM行×N列のマトリクスデバイスに適合させる方法を理解する。ここで、MはNとは異なる。
【0126】
更に上記の例では、超音波が放射される毎に、戻り波を受信するために使用されるマトリクスデバイスと同一のマトリクスデバイスによって超音波が生成される。しかしながら、記載されている実施形態は、この特定の場合に限定されない。或いは、トランスデューサのアレイは、分析対象の身体から戻る超音波を受信するために受信デバイスとしてのみ使用され、(詳述されていない)別個の送信デバイスが、分析対象の身体に向かって超音波を送信するために使用される。そのため、送信デバイス及び受信デバイスを、交互に生じるN回の送信段階TX及びN回の受信段階RXを実施するために同期させる。
【0127】
更に、記載されている実施形態及び変形例の実際の実施は、上述した機能的な表示に基づく当業者の技能の範囲内である。特に、提案されている処理を実行するために送信デバイス及び受信デバイスを制御する電子回路の構成については詳述されておらず、本明細書を読むと、これらの回路の構成は当業者の技能の範囲内である。更に、デバイスの電極で測定される量から基本トランスデューサの個々の寄与を決定し得る電子処理デバイスの構成は詳述されておらず、このようなデバイスの構成は、本明細書の教示に基づく当業者の技能の範囲内である。
【0128】
上記の例では、行及び列の指定は任意であり、言うまでもなく逆にされ得ることに更に注目すべきである。
【0129】
本願は、2021年6月25日に出願された「Procede et dispositif d'imagerie ultrasonore a adressage ligne-colonne」という題名の仏国特許出願第2106871 号明細書に基づいて優先権を主張しており、この明細書は、特許法で許容可能な最大限に至るまで参照によって本明細書に組み込まれている。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイ
スを用いて身体の画像を取得する方法であって、
前記マトリクス超音波画像化デバイ
スは、行電
極及び列電
極によって行及び列の形態に夫々接続されている基本超音波トランスデュー
サのアレイを備えており、
身体に向かって同一の超音波をN回連続して放射
し、ここでNは2以上の整数であり、
夫々の放射後、前記身体で反射する戻り超音波を、前記マトリクス超音波画像化デバイスを用いて受信する受信段
階を行い、
各受信段
階中、受信した戻り超音波を表す可変電気量を、前記マトリクス超音波画像化デバイスの各行電
極で読み取り、
N回の受信段
階のいずれか2つの間に、前記アレイの少なくとも1つの基本超音波トランスデュー
サの個々の寄
与の符号を変更し、
前記方法は、前記アレイの基本超音波トランスデュー
サの各々の個々の寄
与を、N回の受信段
階中に前記マトリクス超音波画像化デバイスの行電
極で読み取られる電気可変
量の線形結合により電子処理デバイスを用いて計算するステップを有する、方法。
【請求項2】
前記アレイの基本超音波トランスデュー
サの個々の寄
与を計算する際、N回の受信段
階中に前記マトリクス超音波画像化デバイスの行電
極で読み取られる電気可変
量に、特徴付け又はシミュレーションの段階中に予め決定されて前記電子処理デバイスのメモリに記憶されている行列[A]の係数を掛ける、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
N回の受信段
階の各々の間、前記アレイの各列電
極をDCバイアス電
圧に維持し、
N回の受信段
階のいずれか2つの間に、前記マトリクス超音波画像化デバイスの列電
極の少なくとも1つに印加されるDCバイアス電
圧の符号を変更する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
N回の受信段
階中に前記マトリクス超音波画像化デバイスの列電
極に夫々印加されるDCバイアス電
圧の符号を、直交行列、例えばアダマール行列のベクトルによって符号化する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
行-列でアドレス指定される前記マトリクス超音波画像化デバイ
スを用いて、N回連続して放射
し、
N回の放
射の各々の間、前記アレイの各列電
極をDCバイアス電
圧に維持し、前記DCバイアス電圧に重畳したAC励起電
圧を前記列電
極に印加し、
夫々の放射中、前記アレイの列電
極に夫々印加されるDCバイアス電圧の符号は、その後の受信段階で前記列電
極に夫々印加されるDCバイアス電圧の符号と同一である、請求項
3に記載の方法。
【請求項6】
N回の受信段
階のいずれか2つの間に、前記行電
極及び前記列電
極間の少なくとも1つの基本超音波トランスデュー
サの電気接続を、前記アレイの少なくとも1つの基本超音波トランスデュー
サの個々の寄
与の符号を変更するようにスイッチのシステムを用いて逆にする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基本超音波トランスデュー
サは、CMUTトランスデューサ又はPMUTトランスデューサである、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記アレイは、N行N列の基本超音波トランスデュー
サを有している、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記マトリクス超音波画像化デバイスの各行電
極で読み取られる電気可変
量は電圧値である、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項10】
行-列でアドレス指定されるマトリクス超音波画像化デバイ
スであって、
行電
極及び列電
極によって行及び列の形態に夫々接続されている基本超音波トランスデュー
サのアレイと、
請求項1
又は2に記載の方法を実行するように構成されている制御回路と
を備えている、マトリクス超音波画像化デバイス。
【請求項11】
前記基本超音波トランスデュー
サは、CMUTトランスデューサ又はPMUTトランスデューサである、請求項10に記載のマトリクス超音波画像化デバイス。
【国際調査報告】