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特表2024-524365時間多重化と単一光子検出器アレイによる同時マルチスピーシーズ超解像イメージング
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  • 特表-時間多重化と単一光子検出器アレイによる同時マルチスピーシーズ超解像イメージング 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】時間多重化と単一光子検出器アレイによる同時マルチスピーシーズ超解像イメージング
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
G01N21/64 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580409
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 IB2022056046
(87)【国際公開番号】W WO2023275777
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】102021000017018
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510121547
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ・イスティトゥート・イタリアーノ・ディ・テクノロジャ
【氏名又は名称原語表記】FONDAZIONE ISTITUTO ITALIANO DI TECNOLOGIA
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【弁理士】
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】ヴィチドーミニ,ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】トルタローロ,ジョルジョ
(72)【発明者】
【氏名】カステッロ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ピアッツァ,シモンルカ
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキーニ,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】ディアスプロ,アルベルト
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA05
2G043EA01
2G043FA02
2G043FA03
2G043FA06
2G043HA02
2G043HA09
2G043KA02
2G043KA09
2G043NA01
(57)【要約】
異なる励起スペクトル成分(B1、B2)からなる複数のパルス励起光ビームでサンプルを照射するように構成されたレーザ走査型マイクロスコープは、サンプルによって発光される蛍光信号を検出するように構成された単一光子検出器(40)であって、蛍光信号は異なるスペクトル成分を含む、単一光子検出器(40)と、各励起スペクトル成分にそれぞれの時間遅延を課すように構成された励起スペクトルエンコーダ(50)と、各発光スペクトル成分にそれぞれの時間遅延を課すように構成された発光スペクトルエンコーダ(60)と、サンプルに含まれる蛍光スピーシーズの励起スペクトル、発光スペクトル、蛍光減衰曲線をデコードするように構成されたスピーシーズデコーダ(70)と、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なるスペクトル成分(B1、B2)(以下、励起スペクトル成分)を含む複数のパルス励起光ビームでサンプルを照射するように構成されたレーザ走査型のマイクロスコープであって、前記サンプルは複数の蛍光スピーシーズを含み、
マイクロスコープは、
サンプルによって放出される蛍光信号を検出するように構成された単一光子検出器アレイ(40)であって、前記蛍光信号は、異なるスペクトル成分(以下、放出スペクトル成分)を含む、単一光子検出器アレイ(40)と、
各励起スペクトル成分が他の励起スペクトル成分に対して異なる時間にサンプルを照射するように、各励起スペクトル成分に夫々の時間的遅延を課すように構成された励起スペクトルエンコーダ(50)と、
各発光スペクトル成分が他の発光スペクトル成分に対して異なる時間に単一光子検出器アレイ(40)に到達するように、各発光スペクトル成分に夫々の時間的遅延を課すように構成された発光スペクトルエンコーダ(60)と、
単一光子検出器アレイ(40)によって提供される測定信号を収集し、サンプルの時間分解画像を提供するように構成されたデータ取得システムであって、前記時間分解画像は、画像内の各画素又はボクセルについて、単一光子検出器アレイ(40)への発光スペクトル成分の光子到着時間のヒストグラムを含む、データ収集システムと、
サンプルの前記時間分解画像に基づいて、蛍光スピーシーズの各々についての励起スペクトル、発光スペクトル、及び蛍光減衰曲線をデコードするように構成されたマルチスピーシーズデコーダ(70)と
を含む、マイクロスコープ。
【請求項2】
前記単一光子検出器アレイが、サンプルによって放出される蛍光信号に応答する素子のアレイを含み、前記応答する素子の各々が、サンプルの夫々の時間分解画像を提供でき、前記データ収集システムが、前記応答する素子によって提供される時間分解画像を、復元アルゴリズムによって融合して、サンプルの超分解画像を生成するように構成される、
請求項1に記載のマイクロスコープ。
【請求項3】
前記データ収集システムは、前記パルス励起光ビームと同期している、
請求項1又は2に記載のマイクロスコープ。
【請求項4】
前記励起スペクトルエンコーダ(50)は、所定の周波数で周期的に繰り返される励起パルスのシーケンスを実行するように構成され、前記励起パルスの各々は、前記励起スペクトル成分の1つに対応する、
請求項1~3のいずれか一に記載のマイクロスコープ。
【請求項5】
前記発光スペクトルエンコーダ(60)が、
前記蛍光信号を複数のスペクトルウィンドウに分割するように構成された分割手段であって、前記スペクトルウィンドウの各々は、前記発光スペクトル成分の1つを含む、分割手段と、
前記発光スペクトル成分の各々に、夫々の時間的遅延を課すように構成された遅延手段と、
前記発光スペクトル成分を再結合して前記単一光子検出器アレイ(40)に再送するように構成された再結合手段と
を含む、請求項4に記載のマイクロスコープ。
【請求項6】
前記発光スペクトルエンコーダ(60)が、
前記蛍光信号から発光スペクトル成分を空間的に分離し、前記発光スペクトル成分の各々に夫々の時間的遅延を課するように構成された分割手段と、
前記発光スペクトル成分を再結合して前記単一光子検出器アレイ(40)に再送するように構成された再結合手段と、
を含む、請求項4記載のマイクロスコープ。
【請求項7】
レーザ走査型マイクロスコープ検査方法であって、
異なるスペクトル成分(B1、B2)(以下、励起スペクトル成分)を含む複数のパルス励起光ビームでサンプルを照射するステップであって、前記サンプルは複数の蛍光スピーシーズを含む、サンプルを照射するステップ
を含み、
前記サンプルを照射するステップは、
各励起スペクトル成分が他の励起スペクトル成分に対して異なる時間にサンプルを照射するように、各励起スペクトル成分に夫々の時間的遅延を課すステップ
を含み、
前記レーザ走査型マイクロスコープ検査方法は、更に、
単一光子検出器アレイ(40)により、サンプルによって放出される蛍光信号を検出するステップであって、前記蛍光信号は、異なるスペクトル成分(以下、放出スペクトル成分)を含む、蛍光信号を検出するステップと、
前記蛍光信号を検出するステップは、
各発光スペクトル成分が他の発光スペクトル成分に対して異なる時間に単一光子検出器アレイ(40)に到達するように、各発光スペクトル成分に夫々の時間的遅延を課すステップ
を含み、
前記レーザ走査型マイクロスコープ検査方法は、更に、
単一光子検出器アレイ(40)によって提供される測定信号を収集して、サンプルの時間分解画像を提供するステップであって、前記時間分解画像は、画像内の各画素又はボクセルについて、単一光子検出器アレイ(40)への発光スペクトル成分の光子到着時間のヒストグラムを含む、測定信号を収集して時間分解画像を提供するステップと、
サンプルの前記時間分解画像に基づいて、前記蛍光スピーシーズの各々についての励起スペクトル、発光スペクトル、及び蛍光減衰曲線をデコードするステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概略、マルチスピーシーズの蛍光マイクロスコープ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光を用いた共焦点レーザ走査型マイクロスコープ(CLSM)は、細胞生物学や分子生物学で広く使われているイメージングツールである。この技術は、3次元イメージング、ディープイメージング、ライブセルイメージング、定量的イメージングの可能性を提供する。現在、多種多様な蛍光色素(合成色素分子、蛍光タンパク質、無機ナノ粒子など)が、多くのカップリング戦略によって高い特異性で生物学的標的に結合し、観察されるサンプルの完全なポートレートを提供する可能性がある。いわゆるマルチスピーシーズ(またはマルチラベル)蛍光イメージングは、複数のターゲットを検出することで、異なる細胞構造間の相互作用や相対的な空間構成を、特異的な分子コントラストで観察することを可能にする。さらに、最近の(MHz帯の)高速検出器アレイの導入により、画像走査型マイクロスコープ(ISM)の透過的で多用途な実現が可能になり、CLSMは超解像技術のひとつに数えられるようになった。このようなISMの実装(例えば、WO2019/145889A1に記載)では、検出器アレイ(サンプル面における投影サイズは1~1.5エアリーユニット(AU))が、CLSMで一般的に使用されるピンホール検出器と単一素子検出器に取って代わり、蛍光体積の画像を提供する。検出器アレイが提供するこの付加的な空間情報は、従来のマイクロスコープ検査の2倍の解像度と、より高い信号対雑音比(SNR)を持つ超解像画像を再構成するために使用できる。検出器アレイの各エレメントは、超分解能だが低SNRの一連の画像を生成する1つの物理的ピンホールとして機能する。蛍光信号の大部分は検出器素子から並列に取得されるため、画素の再割り当てまたは複数画像のデコンボリューションによって収集されたすべての画像を組み合わせることにより、高SNR画像を得ることができる。
【0003】
従来のCLSMでは、それぞれのプローブの光物理学的特性に基づいて、異なるプローブ(というより異なる蛍光信号)を分離することによって、同時マルチスピーシーズイメージングを実現している。特に、励起スペクトル、発光スペクトル、平均蛍光寿命の3つの異なる特性が一般的に使用される(図1)。これらの特性のうちの1つだけに頼る戦略には、強みと限界がある。このため、複合的なアプローチが好まれる。しかし、結果として得られる実装は、システムの複雑さ、分離可能なスピーシーズの数、同時イメージングの能力、コストの間で常にトレードオフの関係にある。検出器のアレイに基づくISMの実装(以下、単にISM)、これまでに実証されたマルチスピーシーズ戦略は、励起スペクトルと発光スペクトルのみを探索し、基本的なCLSMアプローチのコピーで構成されている。事実、より洗練されたマルチスピーシーズCLSMアプローチの実装には、分離可能なスピーシーズの数という点で、高価で拡張性に乏しいアーキテクチャが必要であるか、あるいは実装すらできないかもしれない。
【0004】
マルチスピーシーズCLSM
【0005】
同時マルチスピーシーズCLSMイメージングに最も広く用いられている方法は、異なるプローブの発光スペクトルのシグネチャを探索することによって、異なるプローブの信号を分離するものである。すべてのプローブは、1本以上の単色レーザービーム(λexc)で同時に励起される。蛍光信号は励起光から分離され、フィルタ、ダイクロイックミラー、調整可能な音響光学フィルタを組み合わせることによって、プローブごとに1つずつ、一連のスペクトルウィンドウ(λdet、λdetはスペクトル帯域の中心値を示す)に分割される。最後に、各スペクトルバンド用の検出器、すなわちプローブが蛍光信号を記録する。前記マルチ検出器スペクトルの実装には、2つの主要な制限が存在する。すなわち、プローブの数が増えるにつれて要求される検出器の数が増えることと、異なるプローブの発光スペクトル間のクロストークが画像を劣化させることである。
【0006】
第2の問題は、プローブの励起スペクトルの情報を追加するために、励起の同時性を壊すことによって部分的に解決できる。この場合、励起レーザームは順次活性化/変調され、一連の画像:検出器バンドと励起ビーム波長(λexc、λdet)とに関連する値の組ごとに1つずつ、が記録される。それぞれのプローブについて、最適な励起波長と発光波長によって形成される像が選択される。その後、線形アンミキシングアルゴリズムを使用して、残りのクロストークを除去できる。レーザ励起ビームを順次活性化するため、同時イメージングを効果的に行うには、高速変調を採用することが極めて重要である。例えば、フレーム単位やライン単位の変調は、動的な構造のイメージングを行うには遅すぎるかもしれない。高速の生物学的プロセスはミリ秒以下の時間スケールで発生し(タンパク質の形状の変化はマイクロ秒までのもっと小さなスケールで発生するが、イメージングは全てのケースでそのようなプロセスを観察するためのオプションではない)、画素の典型的な滞留時間は数十マイクロ秒以下の範囲であるため、画素ごとにレーザビームを変調することで、同時にマルチスピーシーズイメージングが保証される。
【0007】
最近では、画素の滞留時間によって与えられる周波数よりも大きな周波数で励起ビームを変調することが提案されている(US9231575B2)。前記マルチスピーシーズCLSMの実装は、周波数領域で励起ビームを多重化する。従って、復調は周波数領域でのフィルタリングによって達成される。さらに、前記実装では、分離するプローブの数に関係なく単一の検出器を使用するため、実装コストを大幅に削減できる。対照的に、単一の検出器を使用すると、プローブの励起および発光スペクトルを調べることができない。
【0008】
単一の検出器を使用するが、発光スペクトルを探索するマルチスピーシーズCLSMは、リニア検出器アレイを使用して実装できる(US2019/0361213A1)。ここで、1つ又は複数の励起ビームによって誘導される蛍光信号は、プリズム(またはグレーティング)を用いて空間的にスペクトル分解され、各波長はリニア検出器の特定の位置/要素にマッピングされる。3次元(x、y、λ)画像、いわゆる発光スペクトル画像は、(ブラインド)スペクトルアンミキシングアルゴリズムによって処理され、信号のクロストークに起因するアーチファクトが潜在的にない最終的なマルチスピーシーズ画像を形成する。ハイパースペクトル実装と呼ばれる、このクラスのCLSM実装では、上述のように励起ビームを変調することで励起スペクトルを探索することも可能である。ハイパースペクトルCLSMの実装は、発光スペクトルを逐次記録することによっても達成できる。すなわち、蛍光信号を空間にスペクトル分散させ、調整可能な二重スリットでスペクトルの一部のみを選択的にフィルタし、単一素子センサーで選択された信号を記録する。とはいえ、スペクトルを逐次記録することは、同時マルチスピーシーズイメージングを(規定上)妨げる。
【0009】
上述した全てのマルチスピーシーズCLSMの実装では、異なるプローブを分離するために、発光シグネチャおよび/または励起シグネチャを使用する。探索すべきもう一つのプローブシグネチャは、平均蛍光寿命であり、より一般的には時間減衰分布である。励起スペクトルや発光スペクトルと同様に、プローブも時間スペクトルf(t)によって特徴づけられ得、時間スペクトルf(t)は、励起された分子/プローブが、励起イベント後の所定の時間tに自発光子(蛍光光子)を放出する確率を表す。分子が励起状態で過ごす平均時間は、平均蛍光寿命τと呼ばれる。純粋な有機蛍光体の場合、この分布は単一の指数
【数1】
で記述できるが、多くの実用的なケースでは、より複雑なモデルが必要となる。
【0010】
CLSMでは、蛍光プローブの平均寿命減衰分布は、時間相関単一光子計数(TCSPC)実験を実施することによって得られる。パルスレーザビーム(通常、数十ピコ秒のパルス長)が特定の時間(t=0)にプローブを励起し、タイミングジッタの小さい単一光子検出器(数十ピコ秒から数百ピコ秒)がプローブから放出された蛍光光子を記録し、時間デジタル変換器(TDC)または高周波デジタイザが励起と記録の時間差を測定する。光子の到着時間のヒストグラムは、実験を繰り返すことによって測定される(通常、パルスレーザーの繰り返し周波数は数十MHzのオーダである)。
【0011】
TCSPCベースのCLSMでは、各ピクセルの光子到着ヒストグラムを記録し、フィッティング、デコンボリューション、フェイザー分解、または線形アンミキシングに基づく異なる計算アルゴリズムを使用して、(異なるプローブの減衰分布に従って)前記ヒストグラムを分解することにより、マルチスピーシーズイメージングを実施できる。前記実装の興味深い特性は、非常に類似した励起スペクトルと発光スペクトルを有するスピーシーズを分離する可能性であり、したがって、単一の励起ビームと単一の検出帯域、すなわち単一の検出器を使用することで、複雑さの点で利点をもたらすだけでなく、色収差によるイメージングアーチファクトを回避することもできる。同じTCSPCベースのCLSMシステムを用いて、上記の励起レーザ変調をパルスバイパルスモードで実施することも可能であり、その結果、マルチスピーシーズイメージングのための励起スペクトルシグネチャの探索が可能になる。一連の単色レーザからのパルスは、(平均蛍光寿命よりも長い遅延で)インターリーブされ、光子の到着時間のヒストグラムは、時間ゲート検出を実装し、各プローブに関連する信号を分離するために使用される。前記パルスインタリーブアプローチは、分離されるプローブの数を増やすために、発光スペクトル分離アプローチと組み合わせることもできるが、より多くの検出器が必要となる。
【0012】
マルチスピーシーズISM
【0013】
高速検出器アレイに基づくISM実装の最も注目すべき利点のひとつは、蛍光CLSMに実装されている多くのラベリング法、技術、プロトコル(上述のマルチスピーシーズイメージング技術の多くを含む)との互換性である。
【0014】
ISMは、スペクトルマルチ検出器アプローチ、変調マルチエクスキューテーションアプローチ、およびそれらの組み合わせと完全に互換性がある。その結果、当業者であれば、このような同時マルチスピーシーズアプローチをISMに容易に組み込むことができるだろう。しかし、現在までのところ、遅いフレームごとに変調されたマルチ励振ISMの実装しか実証されていない。この場合、1つの検出器アレイを使って、電動フィルターレンズを通して異なる励起波長とスペクトルウィンドウを交互に切り替える。しかし、CLSMで実証されるような真の同時イメージングを行うことはできない。
【0015】
逆に、ハイパースペクトル法はISMと完全には互換性がない。ハイパースペクトル法の基本原理は、スペクトル情報を空間的に解読すること、すなわち発光スペクトルを空間的に分解することである。このような空間分解はISMを妨害する。ISMでは空間情報チャンネルがすでに検出ボリュームの画像転送に使われているからである。空間情報とスペクトル情報は同じチャネルとスケールで融合されるため、それらの分解は自明ではない。完全を期すため、ハイパースペクトルISMの実装が提案され、2スピーシーズISM画像の再構成に使用されている。しかし、上述したのと同じ理由で、この実装は空間分解能とスピーシーズ分離の両方で大きなアーチファクトを伴う。
【0016】
最近導入された単一光子検出器アレイ(単一光子アバランシェダイオードアレイ検出器(SPAD)など)は、平均蛍光寿命シグネチャに基づくマルチスピーシーズイメージング法の実現も可能にした。事実上、SPADアレイベースのISMがTCSPC測定を実施できることが完全に実証された。しかしこの場合、平均蛍光寿命に基づくマルチスピーシーズISMの実証は報告されていない。
【0017】
非同期SPADアレイ検出器の導入により、CLSMで実証された多くの同時マルチスピーシーズイメージング法は、ハイパースペクトルアプローチに関するいくつかの実質的な制限はあるものの、原理的にはISMに拡張できる可能性がある。しかし、CLSMと同様に、励起スペクトル、発光スペクトル、平均蛍光寿命シグネチャを同時に探索できる単一の方法は存在しない。この制約がさらに重要になるのは、1つの検出器しか使用できない場合である。
【0018】
本発明の一つの目的は、同時イメージングが可能で、スピーシーズの数の点で高い拡張性があり、低コストな、マルチスピーシーズISMイメージングのための新しいアーキテクチャを提案することである。本発明のもう一つの目的は、CLSM、より一般的にはレーザ走査型マイクロスコープ(LSM)に基づくあらゆる蛍光技術、例えば誘導発光減弱マイクロスコープ(STED)、二光子励起マイクロスコープ(TPE)、蛍光ゆらぎ分光法(FFS)にも同様の利点を提供する新しいアーキテクチャを提案することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
これらの目的に鑑みて、本発明の主題は、異なるスペクトル成分(以下、励起スペクトル成分)を含む複数のパルス励起光ビームでサンプルを照射するように構成されたレーザ走査型マイクロスコープである。サンプルは複数の蛍光スピーシーズを含み、前記マイクロスコープは、
サンプルから放出される蛍光信号を検出するように構成された単一光子検出器アレイであって、前記蛍光信号は異なるスペクトル成分(以下、発光スペクトル成分)を含む、単一光子検出器アレイと、
各励起スペクトル成分が他の励起スペクトル成分に対して異なる時間にサンプルを照射するように、各励起スペクトル成分に夫々の時間的遅延を課すように構成された励起スペクトルエンコーダと、
各発光スペクトル成分が他の発光スペクトル成分に対して異なる時間に単一光子検出器アレイに到達するように、各発光スペクトル成分に夫々の時間的遅延を課すように構成された発光スペクトルエンコーダと、
単一光子検出器アレイによって提供される測定信号を収集し、サンプルの時間分解画像を提供するように構成されたデータ収集システムと、
サンプルの前記時間分解画像に基づいて、前記蛍光スピーシーズの各々についての、励起スペクトル、発光スペクトル、及び蛍光減衰曲線をデコードするように構成されたマルチスピーシーズデコーダと、を含む。
【0020】
本発明の別の主題は、レーザ走査型マイクロスコープ検査方法である。
レーザ走査型マイクロスコープ検査方法は、
異なるスペクトル成分(以下、励起スペクトル成分)を含む複数のパルス励起光ビームでサンプルを照射するステップであって、前記サンプルは複数の蛍光スピーシーズを含む、サンプルを照射するステップを含み、
前記サンプルを照射するステップは、
各励起スペクトル成分が他の励起スペクトル成分に対して異なる時間にサンプルを照射するように、各励起スペクトル成分に夫々の時間的遅延を課すステップを、含む。
前記レーザ走査型マイクロスコープ検査方法は、更に、
単一光子検出器アレイで、サンプル中の蛍光スピーシーズによって放出される蛍光信号を検出するステップであって、前記蛍光信号は、異なるスペクトル成分(以下、放出スペクトル成分)を含む、蛍光信号を検出するステップを含み、
前記蛍光信号を検出するステップは、
各発光スペクトル成分が他の発光スペクトル成分に対して異なる時間に単一光子検出器アレイに到達するように、各発光スペクトル成分に夫々の時間的遅延を課すステップを、含む。
前記レーザ走査型マイクロスコープ検査方法は、更に、
単一光子検出器アレイによって提供される測定信号を収集して、サンプルの時間分解画像を提供するステップと、
サンプルの前記時間分解画像に基づいて、前記蛍光スピーシーズの各々についての励起スペクトル、発光スペクトル、及び蛍光減衰曲線をデコードするステップと、を含む。
【0021】
単一光子検出器は、光子のタイミングジッタが低く(検出器アレイの素子が光子を受け取ると、最大200psの精度で信号がアクティブになる)、待機時間が短く(50MHzまで、即ち、光子が収集された後、素子は20nsの間、ブラインド状態を保つ)、非同期読み出しが可能(すなわち、各検出器アレイ素子は他の素子から完全に独立している)であるため、(唯一の下限がサブナノ秒スケールである)幅広い時間スケールへのアクセスが可能である。
【0022】
平均蛍光寿命情報がサブナノ秒/ナノ秒の時間スケールであるのに対し、最速の生物学的プロセスとレーザ走査プロセスはマイクロ秒領域で発生する。したがって、マイクロ秒までの時間スケールしかカバーできない検出器を用いても、同時マルチスピーシーズLSMは実現可能であるが、プローブの平均蛍光寿命に基づくマルチスピーシーズISMを実現するには、ナノ秒の時間スケールを利用する必要がある。要するに、数十ナノ秒からマイクロ秒までの時間スケールはほとんど使われておらず、追加情報を転送するために採用される可能性がある(実際にはLSMで、SNRを向上させるために使われる)。
【0023】
したがって、本発明の背後にある思想は、この利用可能な帯域を使用して、同時マルチスピーシーズISMの別々のプローブに有用な情報を転送することである。ここでは特に、プローブの励起および発光スペクトルのシグネチャを符号化するために、利用可能な帯域が使用される。この考え方は、TCSPCに基づくISM測定に反映され、光子到着時間ヒストグラムが、以下をエンコードするのに用いられる:(i)典型的なTCSPC実験と同様に、プローブの平均蛍光寿命シグネチャ、(ii)異なる励起ビームの位相多重化によるプローブの励起スペクトルシグネチャ、(iii)蛍光信号の異なるスペクトル成分を時間的に分離することによるプローブの発光スペクトルシグネチャ。
【0024】
ハイパースペクトル法は、蛍光シグナルのスペクトル成分を時間的ではなく空間的に分離することに留意されたい。光子到着時間ヒストグラムが記録されると、(ブラインド)線形アンミキシング、フェーサーベースのアンミキシング、フィッティング、デコンボリューション、機械学習などの確立された計算手法が、プローブシグネチャをデコードするために使用され、マルチスピーシーズISM画像を得ることができる。すべての符号化演算は時間チャネルを使用して実行されるため、提案されたアプローチは単一の検出器を使用できる。さらに、符号化にはサブマイクロ秒の時間スケールを使用するため、同時マルチスピーシーズアプローチが保証される。典型的な単一素子単一光子検出器を用いたCLSMにも同じ戦略が適用できるが、この場合、超分解像は得られないことに注意されたい。
【0025】
提案されるソリューションが、既存のマルチスピーシーズイメージングアプローチと比較して提供する主な利点は以下の通りである:
-標準的なCLSMとの互換性があり、セットアップを大幅に変更する必要はない。単一光子検出器アレイとデータ収集システムは、標準的CLSMアーキテクチャと比較して必要な唯一の変更またはアップグレードである;
-ISMのアプローチとの互換性。このソリューションは、ISMが提供する向上した空間分解能を維持しながら、マルチスピーシーズイメージングを可能にする;
-このソリューションでは、3つの主要なプローブシグネチャ(励起スペクトル、発光スペクトル、蛍光寿命)を単独で、あるいは組み合わせて(色時間シグネチャ)完全に探索でき、スケーラブルでシンプルな方法でマルチスピーシーズイメージングを実現できる;
-既知のスペクトルアンミキシング、デコンボリューション、位相ベクトル、フィッティング、機械学習アルゴリズムとの互換性。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明のさらなる特徴および利点は、非限定的な例としてのみ提供される添付図面を参照した以下の詳細な説明において提示される。
【0027】
図1図1は、Merck KGaA社製のATTO488及びATTO565蛍光プローブの吸収スペクトル(I)、発光スペクトル(II)、及び蛍光寿命減衰をプロットしたものである。
図2図2は、本発明に係る装置の機能図解である。
図3図3は、(I)パルスインタリーブ励起パターン、(II-III) ATTO488及びATTO565プローブの色時間シグネチャ、(IV)ボックスIIとIIIのシグネチャの組み合わせによって与えられる色時間シグネチャ、を示す。
図4図4は、本発明に係るマイクロスコープの実験的プロトタイプを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る方法は、スターティングマイクロスコープアーキテクチャとして、(M. Castelloら“A robust and versatile platform for image scanning microscopy enabling super-resolution FLIM”[1]に記載されているような)TCSPCベースのISM構成、又は、デジタルヘテロダインをベースとして、実装できる。
【0029】
要するに、スターティングマイクロスコープは、ピンホールが完全に開いているマルチビームパルスレーザ蛍光共焦点マイクロスコープであり、CLSMで一般的に使用されている従来の単一素子検出器は、図では40と示されている単一光子検出器アレイ(例えば、SPADアレイ検出器)に置き換えられている。励起ビームによって規定される異なるスペクトル成分は、図2及び図4ではB1及びB2と表記され、蛍光シグナルはFと表記される。システムの光学分割能力を維持するため、テレスコープ(または拡大レンズ)によって、1~1.5エアリーユニット(AU)の投影検出器アレイサイズが確保される。時間分解測定を実施するために、検出器アレイの各素子は、レーザビームパルスに同期した、マルチチャンネル時間ラベルDAQカード(またはマルチチャネル周波数領域の平均蛍光寿命デジタルシステム、またはマルチチャネル高速デジタイザ)に接続される。本発明による方法を実施するためには、上述のアーキテクチャに3つの主要な更新を導入する必要がある(図2および図4参照):
-図では50と示されている、励起スペクトルエンコーダ。これは、蛍光プローブ/スピーシーズの励起スペクトルのシグネチャをマイクロスコープシステムの時間チャネルにエンコードするシステムである。このシステムは、レーザ励起ビームの異なるパルスの時間分布に作用する。以下では、パルスインタリーブに基づいて、励起スペクトルエンコーダの技術的実施形態について説明する;
-図では60と示されている、発光スペクトルエンコーダ。これは、蛍光プローブ/スピーシーズの発光スペクトルのシグネチャをマイクロスコープの時間チャネルにエンコードするシステムである。このシステムは、スペクトロメータと同様に、蛍光信号をスペクトル成分に分解する。しかし、空間的に分離する(すなわち、各成分は検出器のリニアアレイの異なる位置に投影される)のではなく、時間的に分解できる(つまり、各成分は検出器アレイに到達するまでに異なる遅延を受ける)。以下では、光ディレイラインに基づく技術的実施形態について説明する;
-図では70と示されている、マルチスピーシーズデコーダ。これは、各蛍光プローブ/スピーシーズの励起スペクトル、発光スペクトル、平均蛍光寿命減衰を、サンプル中の、(パイプライン全体が、レーザビームを使用してサンプルをスキャンすることにより、ピクセルごと/位置ごとに、実装されるため、むしろ各サンプルの位置における、)プローブ濃度とともに、デコードするシステムである。
【0030】
2つのエンコーダとパルス励起方式により、各プローブは特定の時間シグネチャによって特徴付けられ、これは以下では色時間シグネチャと称される。単一光子検出器アレイ40は、前記シグネチャの線形結合を記録し、その係数はプローブ濃度に比例する。したがって、デコーダ70の主なタスクは、前記線形結合の係数を(及び、場合によっては色時間シグネチャも)計算的に検索することである。実際には、デコーダ70は、スペクトル(ブラインド)アンミキシング、(ブラインド)デコンボリューション、位相分解、フィッティング(シグネチャモデルが提供される場合)、または機械学習アルゴリズムを使用して実装される。以下では、(ブラインド)スペクトルアンミキシングアプローチについて詳しく説明する。
【0031】
一般理論
【0032】
提案する方法の実用的な実施形態において満たされるべき最も重要な特性および条件は、サンプルの位置x(即ち、画像ピクセル)及び時間tにおいて時間分解測定f_x(t)(即ち、光子到着時間のヒストグラム)によって生成される蛍光信号が、異なるプローブの、色時間シグネチャsl(t)及び相対的寄与/濃度cl,xの、線形合成であることである。
【数2】
ここで、Xはサンプルの空間的位置(画像ピクセル)の数であり、Lは分離されるプローブの数である。プローブの数は、マルチスピーシーズ蛍光イメージング実験では通常既知である。上に示したように、色時間シグネチャsl(t)は、プローブの平均蛍光寿命τ(t)、励起スペクトルシグネチャe(λ)、及び発光スペクトルシグネチャm(λ)のシグネチャの関数である。τ(t)、e(λ)、m(λ)の関数としての色時間シグネチャs(t)の2つの例を、それぞれ蛍光色素ATTO488とATTO565を参照して、図3のボックスIIとIIIに示す。
【0033】
図3は、励起ビームが、励起1及び励起2として示される、2つの励起スペクトル成分から構成される例を示しており、それらのパルスは12.5ns間隔(励起.遅延)で交互にサンプルを照射する。蛍光プローブATTO488とATTO565のそれぞれが発する信号は、2つの発光スペクトル成分、具体的には第1のスペクトル成分(励起1)と第2のスペクトル成分(励起2)と分解され、第1のスペクトル成分の波長はダイクロイックフィルタによって決定される識別波長よりも短く、第2のスペクトル成分の波長は前述の識別波長よりも長く、第1の発光スペクトル成分を6.25ナノ秒遅延したもの(発光.遅延)である。したがって、ATTO488プローブとATTO565プローブでは、それぞれ励起パルスと発光遅延によって決まる4つのウィンドウa、b、c、d、e、f、g、hが、ボックスIIとIIIの各時間グラフで識別できる。例えば、シグネチャ1のウィンドウaは、励起1によって励起されるATTO488の第1の発光スペクトル成分に関連し、ウィンドウbでは、前記成分は、励起1で励起されるATTO488の第2の発光スペクトル成分に加えられる。(励起成分 励起2によるサンプルの照射に続く)ウィンドウc及びdでは、これらの成分は、励起2により励起されることなく、減衰する。同様に、シグネチャ2のウィンドウeは、励起1によって励起されるATTO565の第1の発光スペクトル成分に関連し、前記成分のウィンドウ1では、励起1により励起されるATTO565の第2の発光スペクトル成分に加えられる。前記成分は小さいが、励起1の波長がATTO565の吸収スペクトルにわずかに含まれるので、ゼロではない。励起2によって励起される第1のスペクトル成分と第2のスペクトル成分の寄与が、(励起成分 励起2によるサンプルの照射に続く)ウィンドウg、hに加えられている。
【0034】
マルチスピーシーズブラインドイメージングを実施するために、デコーダ70の目的は、サンプルの各位置xについて、濃度cl,x及び色時間シグネチャs(t)を、それらの「ミクスチャ」fx(t)から開始して、推定することである(図3のボックスIVを参照されたい。ここで、上述の例の4つの時間窓において、ATTO488及びATTO565の寄与の合計が存在する:a+b、b+f、c+g、d+h)。
【0035】
時間離散化後の時間分解測定と、光子到着時間の時間サンプリングウィンドウ
【数3】
を考慮すると、式1はベクトル表記で次のように書くことができる:
【数4】
ここで、
【数5】
はx番目の画素で測定された光子の到着時間のヒストグラムであり、
【数6】
はl番目のスピーシーズの色時間シグネチャである。よって、ベクトル表記に切り替える:
【数7】
ここで、
【数8】
【数9】
【数10】
とする。最後に、すべての空間サンプル(つまりすべてのピクセル)を取り込むことで、ミクスチャのモデル(式1)は3つの行列で記述できる:
【数11】
ここで、
【数12】
は全体的な時間分解測定行列であり、
【数13】
である。
【数14】
はサンプル中の利用可能な各位置における各スピーシーズの濃度であり、
【数15】
である。
【0036】
蛍光マイクロスコープ法では、サンプルは通常人工的にラベル付けされるため、スピーシーズの数Lが既知であるだけでなく、色時間シグネチャs(t)も個別に較正され、事前に推定され得る。しかし、較正されたシグネチャは、撮像条件やラベリングプロトコルに大きく依存する場合がある(したがって、サンプルごとに変化する可能性がある)ことに留意すべきである。
【0037】
したがって、色時間シグネチャs(t)が既知でない最も困難な状況と、色時間シグネチャs(t)が既知である最も単純な場合の両方が考慮される。色時間スペクトルSが既知であれば、Cは線形アンミキシングによってFから計算することができ、そうでなければ問題は線形ブラインドアンミキシング問題となる。
【0038】
ここで、ブラインド問題の解き方の例を説明する。ノンブラインド問題は、より一般的な問題を単純化したものであることは明らかであり、式4の代わりに式3を用いて(ピクセルごとに)逐次的に解かれるのが一般的である。式4の行列表記を用いて、デコーディング操作、すなわちアンミキシング問題は、測定される「ミクスチャ」Fとモデル化/予測される「ミクスチャ」SCとの差を最小化する問題として書くことができる。前記最小化問題の異なる定式化は、測定値を汚染するノイズの確率分布(例えば、ガウシアンノイズまたはポアソニアンノイズ)のような、代替的な仮定、および一般的に最小化問題における正則化項を通じて導入される色時間シグネチャおよび濃度値に関する他の仮定に基づいて得ることができる。ここでは、フロベニウスノルムを用いた定式化を行う[2]:
【数16】
【0039】
最小化問題に導入される典型的な制約は、色時間シグネチャの正規化と非負性である:
【数17】
【数18】
及び係数の非負性である:
【数19】
さらに、ブラインド問題では、すべてのサンプル位置を一緒に考えることで最小化が達成されるため、各サンプル位置(画像ピクセル)で測定されるデータに強度の正規化、すなわち、
【数20】
を課すのが一般的であり、その結果、係数に以下の制約が生じる:
【数21】
【0040】
各スピーシーズlと各画素xの絶対強度は、測定される非正規化初期強度の合計
【数22】
によって得られる対応する係数cl,xを乗算することによって得られる。
【0041】
線形ブラインドアンミキシング問題の典型的な解は、測定されるミクスチャとモデル化/予測されるミクスチャとの差を最小化する逆最小二乗法によって得られる[3]。測定されるミクスチャ中のポアソンノイズを考慮することで、ブラインドと非ブラインドのアンミキシング問題をどのように変換するかの別の例が、[4](参考文献)にある。ここで説明される最小化アプローチは、式4と式5のアンミキシング問題を変換するいくつかの方法のひとつに過ぎないことに注意されたい。例えば、アンミキシング問題は、位相変換、フィッティング、機械学習など、他の計算アプローチを用いて解くことができる。また、上記の例はすべて、CLSMの文脈でアンミキシング問題を解決するために使用され、典型的なハイパースペクトル測定値または平均蛍光寿命ヒストグラム測定値が使用される場合にのみ使用されることに留意されたい。
【0042】
本発明によるアプローチでは、特別に定義されるシグネチャを測定する。色時間シグネチャとは、時間分解測定における蛍光プローブのすべての光物理学的特徴をエンコードしたものである。したがって、従来のアンミキシングアルゴリズムは、測定される色時間シグネチャからプローブ係数/濃度を計算するために使用される。
【0043】
離散発光スペクトルエンコーダを備えた実施形態
【0044】
上述したように、プローブの励起スペクトルおよび発光スペクトルを光子到着時間ヒストグラムに効果的に符号化するための第1の実用的な実施形態を次に説明する。励起スペクトルエンコーダ50では、励起スペクトルをエンコードするためにパルスインタリーブが使用される。即ち、異なる波長のJ個の励起パルスのシーケンス(λj exc、j=1,...,J)が実行され、これは所定の周波数で周期的に繰り返される(図3のI参照)。このように、サンプル中の異なるスピーシーズ/プローブは、その励起スペクトルに依存する、異なる確率で励起される(e(λ)、l=1、...、L)。
【0045】
電子部品のみに依存するパルスインタリーブの効果的な実装は、トリガー可能なパルスダイオードのセットを使用することによって達成することができ、そのパルスは、特定の遅延で互いに電子的に同期させることができる。励起ビームはサンプルに集光され、蛍光信号は対物レンズによって収集され、発光スペクトルエンコーダ60に供給される。そこで、蛍光信号は一連のダイクロイックミラーによってスペクトルウィンドウK([λj emj+1 em]、j=1,...,K+1)に分割される。各ウィンドウは、プローブの発光スペクトル(ml(λ)、l=1,...,L)に応じて、プローブの蛍光の異なる部分を含むことができる。その後、特定の時間遅延を導入するために、異なる成分を異なる長さの光路(例えば、光遅延線)を通して導く。最後に、全ての成分が第2のセットのダイクロイックミラーによって再結合され、単一光子検出器アレイ40に送り返される(このプロセスによって達成されることの簡略化された例が、図3のボックスII-IVに示されている。)。その特定のエンコーダにより、l番目のプローブの色時間シグネチャは次式で与えられる:
【数23】
【数24】
【数25】
ここで、*は畳み込み演算子を表し、τ(t)はl番目のプローブの平均蛍光寿命シグネチャであり、t excはj番目のレーザ励起ビームの遅延であり、t emはk番目の検出スペクトルウィンドウの遅延である。要するに、αl,jはj番目のレーザビームでl番目のプローブを励起する確率であり、βl,kはl番目のプローブからの発光がk番目の時間ウィンドウに入る確率である。簡単な計算により、色時間シグネチャの式は次のようになる:
【数26】
【0046】
実際には、パルスシーケンスは周波数1/Tで繰り返されるので、Tは測定される光子到着時間の最大値である;t exc<T,∀j;tk em<T,∀j。さらに、平均蛍光寿命のシグネチャコピーが重ならないようにすべく、励起遅延と発光遅延は、全プローブの平均寿命τ flより長い時間だけ離される。
【0047】
励起パルスのシーケンスは、測定のSNRを改善するためにハダマードコーディングを実施するように配置されることがあり、ここで遅延t excも等しくなることがあることに留意されたい。
【0048】
連続発光スペクトルエンコーダを備えた実施形態
【0049】
この実用的な代替実施形態では、発光スペクトルのエンコーダ60は変化するが、励起スペクトルのエンコーダ50は変化しない。前記連続エンコーダでは、発光スペクトルは離散的なウィンドウに分離されず、プリズム、グレーティング、または他の同様の装置によって空間的に分離される。発光スペクトル(連続)の各成分は、波長の関数として異なる遅延を導入するように、(直線的に長くなる)異なる経路をたどる。その後、すべての成分が空間的に再結合され、単一光子検出器アレイ40に送られる。
【0050】
この場合、発光スペクトルを時定数aの関数として時間的に直線的に遅らせる座標変動m(t)=m(λ/a)を定義すると、色時間シグネチャは次式で与えられる:
【数27】
【0051】
簡単な計算で次のようになる:
【数28】
【0052】
ステップごとの説明
1.励起スペクトルエンコーダ50は、励起ビームの各スペクトル成分に正確かつ周知の時間遅延を与える。
2.マルチカラー励起ビームは、対物レンズによって特定のサンプル位置に集光される。このサンプル位置は、正確な部分構造をターゲットとするために、予め一連の異なる蛍光プローブでラベル付けされている。
3.サンプルから放出される蛍光は、同じ対物レンズで集光され、蛍光ビームは、蛍光ビームの各スペクトル成分に特定の時間遅延を与えるエンコーダの発光スペクトル60に送られる。
4.蛍光信号は励起光によってフィルタにかけられ、拡大レンズによって単一光子検出器アレイ40上に投影される。
5.単一光子検出器アレイ40からの出力信号は、単一光子検出器アレイ40の各要素について1つずつ、P個の画像を生成する時間分解収集システム(TCSPCカードなど)によって取得される。画像はT×Xのサイズを有し、ここでXは空間位置の総数(即ち、3Dイメージングの場合にはピクセル又はボクセル)であり、Tは光子到着時間ヒストグラムのチャネル数である。
6.ピクセル再割り当て(または他の復元アルゴリズム)によりP個の画像を融合し、T×Xの、時分割及び高SNRの、超解像ISM画像fを生成する。
7.マルチスピーシーズデコーダ70は、式3の線形システムを順次(ピクセルごとに)、または式4の線形系をグローバルに反転することにより、線形アンミキシング問題を解く。具体的には、異なる濃度係数cl,xが時間分解ISM画像fから抽出され、最終的なマルチスピーシーズ超分解ISM画像を構築するのに用いられる。
【0053】
マイクロスコープのプロトタイプ(図4)が発明者たちによって作られた。数値は例として図4に示したものであり、本発明を限定するものではない。
【0054】
光学ベンチに設置された従来の共焦点レーザ走査型マイクロスコープ(CLSM)の検出器を改造した。従来の装置は、485nm(LDH-P-C-485B、PicoQuant)と560nm(LDH-D-TA-560、PicoQuant)のそれぞれの波長を持つ2つの励起レーザ光源を備えている。
【0055】
パルスインタリーブ励起方式(励起スペクトルエンコーダ50)は、FPGAコントロールシステムからTTL信号でレーザを指令することで実装される(40MHzの繰り返しレート(レーザ周期25ns)、各パルス間の遅延12.5ns)。
【0056】
サンプルは、一対のガルバノミラー(6215HM40B、CTI-Cambridge)と対物レンズ(CFI Plan Apo VC60xオイル、Nikon)を通してレーザビームで走査される。蛍光光子は同じ対物レンズから集められ、デスキャンされ、マルチバンドダイクロイックミラー(ZT-488-561-640-775、AHF Analysentechnik)でフィルタされる。蛍光信号は次に発光スペクトルエンコーダ60に送られるが、該発光スペクトルエンコーダ60は、ダイクロイックミラー(ローパスフィルター575nm、Edmund Optics社製)と、575nmを超える波長の蛍光に対して6.25nsの遅延ライン(光路長は約1.87mに相当する)を定義する4つのミラーから構成される。
【0057】
最後に、ビームは拡大され、SPAD検出器のアレイ40に投影される。検出器アレイは25素子が5×5のアレイ状に配置され、3軸のファインアライメント用にマイクロメータスクリューを備えた市販のスタンドに取り付けられる。検出器アレイの空間的時間的性能が評価され、時間分解能は200ps、時間的ジッターは活性領域で110~160psであった。
【0058】
検出器アレイは、電源を供給し、電気信号コンディショニングを行う従来の専用操作ボードによって制御される。このボードは、25のデジタル出力チャンネル(各チャンネルは、検出器アレイの特定の素子への光子の到達に関連する)を提供し、これらはデータ収集システムに供給される。
【0059】
データ収集システムは、Kintex7 FPGAプロセッサを搭載し、パーソナルコンピュータに接続された市販のFPGA開発ボード(National Instruments USB-7856R)を用いて開発された。標準的なデジタルピクセル/ライン/フレームクロックラインは、撮影システムとマイクロスコープ制御システムの同期に使用される。
【0060】
光子到着時間のヒストグラムを計算するために、周波数領域のデジタルヘテロダインがFPGA制御システムに実装されている。
【0061】
参考文献
[1] M. Castello et al. A robust and versatile platform for image scanning microscopy enabling super-resolution FLIM. Nat. Methods, 16 (2): 175-178, 2019.
[2] O. Gutierrez-Navarro et al. Blind end-member and abundance extraction for multispectral fluorescence lifetime imaging microscopy data. IEEE Journal of Biomedical and Health Informatics, 18 (2): 606-617, Mar 2014.
[3] M. Dickinson et al. Multispectral imaging and linear unmixing add a whole new dimension to laser scanning fluorescence microscopy. BioTechniques, 31 (6): 1272-1278, Dec 2001.
[4] R. A. Neher et al. Blind source separation techniques for the decomposition of multiply labeled fluorescence images. Biophysical Journal, 96 (9): 3791-3800, May 2009.
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】