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特表2024-524383ナノ構造を含む電気化学セル用のセパレータエレメント装置
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  • 特表-ナノ構造を含む電気化学セル用のセパレータエレメント装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ナノ構造を含む電気化学セル用のセパレータエレメント装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0245 20160101AFI20240628BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20240628BHJP
   H01M 8/0234 20160101ALI20240628BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20240628BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240628BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240628BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20240628BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20240628BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240628BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240628BHJP
【FI】
H01M8/0245
H01M8/0228
H01M8/0234
H01M8/0258
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/19
C25B9/77
H01M8/10 101
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580511
(86)(22)【出願日】2022-06-27
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2022067600
(87)【国際公開番号】W WO2023280619
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】2130192-4
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513091308
【氏名又は名称】スモルテク アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100126848
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】リキャルド アンデション
(72)【発明者】
【氏名】マリア ビルンド
(72)【発明者】
【氏名】ビンセント デスマリス
(72)【発明者】
【氏名】チー リー
(72)【発明者】
【氏名】ビクトル マルクネス
(72)【発明者】
【氏名】エリサ パッサラクア
(72)【発明者】
【氏名】ムハンマド アミン サレーム
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ベンエル
(72)【発明者】
【氏名】シミン サレ
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC03
5H126AA08
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD14
5H126FF02
5H126FF05
5H126GG05
5H126JJ03
(57)【要約】
電気化学セル用のセパレータエレメント装置(300)が提供される。セパレータエレメント装置は、セパレータエレメント(310)と、セパレータエレメント(310)に隣接して配置された拡散層(320)とを含む。セパレータエレメントは複数の細長ナノ構造(311)を含む。細長ナノ構造の少なくともいくつかは、拡散層内へ延びることにより、セパレータエレメント(310)を拡散層(320)に結合するように配置されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セル用のセパレータエレメント装置(300)であって、前記セパレータエレメント装置が、セパレータエレメント(310)と、前記セパレータエレメント(310)に隣接して配置された拡散層(320)とを含み、前記セパレータエレメントが複数の細長ナノ構造(311)を含み、前記細長ナノ構造の少なくともいくつかが、前記拡散層内へ延びることにより、前記セパレータエレメント(310)を前記拡散層(320)に結合するように配置されている、電気化学セル用のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項2】
前記セパレータエレメント(310)が平面状のエレメントである、請求項1に記載のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項3】
前記複数の細長ナノ構造(311)が細長炭素ナノ構造を含む、請求項1又は2に記載のセパレータエレメント装置。
【請求項4】
前記細長炭素ナノ構造(311)が、炭素ナノ繊維、炭素ナノワイヤ、及び炭素ナノチューブのいずれかを含む、請求項3に記載のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項5】
前記複数の細長ナノ構造(311)が細長金属ナノ構造を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項6】
前記細長ナノ構造(311)の少なくともいくつかが、互いに平行に配向され、そして前記セパレータエレメント(310)の延在平面に対して垂直の方向に沿って延びている、請求項1から5のいずれか1項に記載のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項7】
前記セパレータエレメント(310)の延在平面に対して垂直に延びる軸線に沿って測定された前記細長ナノ構造の少なくとも1つの構造の長さが、10~20マイクロメートルである、請求項6に記載のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項8】
前記セパレータエレメントが流れ場装置(400)を含み、前記流れ場装置(400)が、前記セパレータエレメント(310)の、前記拡散層(320)に面する表面上に配置されており、前記流れ場装置が、複数の流路支持体(420)によって分離された複数の流路(410)を含み、前記流路(410)が、前記流れ場装置(400)全体にわたるガス及び/又は液体の均一な分布を促進するように配置されている、請求項1から7のいずれか1項に記載のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項9】
前記複数の細長ナノ構造が、前記流れ場装置(400)の前記流路支持体(420)のうちの少なくとも1つの支持体の表面に結合されており、前記表面が前記拡散層(320)に面している、請求項8に記載のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項10】
前記セパレータエレメント(310)が、耐腐食性を増大させるように配置された保護被膜を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項11】
前記拡散層(320)が多孔質炭素材料を含む、請求項1から10のいずれか1項に記載のセパレータエレメント装置(300)。
【請求項12】
前記多孔質炭素材料が複数の炭素繊維を含み、前記複数の炭素繊維が前記セパレータエレメント(310)の延在平面に対して概ね平行に、且つ/又は前記複数の細長ナノ構造(311)に対して概ね垂直に延びている、請求項11に記載のセパレータエレメント装置。
【請求項13】
セパレータエレメント装置(300)を製造する方法であって、前記セパレータエレメント装置が、セパレータエレメント(310)と、前記セパレータエレメント(310)に隣接して配置された拡散層(320)とを含み、前記方法が、
複数の細長ナノ構造(311)を生成し(S1)、前記細長ナノ構造(311)が前記セパレータエレメント(310)の表面に結合すること、
前記細長ナノ構造(311)が前記拡散層(320)内へ延びることによりセパレータエレメント(310)を前記拡散層(320)に結合するように、前記セパレータエレメント(310)に隣接して前記拡散層(320)を配置すること(S2)、
を含む、セパレータエレメント装置(300)を製造する方法。
【請求項14】
複数の細長ナノ構造(311)を生成すること(S1)が、前記細長ナノ構造(311)を基体上で成長させること(S11)を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細長ナノ構造(311)を基体上で成長させること(S11)が、前記基体の表面上に成長触媒層を堆積し、前記成長触媒層上に前記細長ナノ構造(311)を成長させることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
成長触媒層を堆積することが、均一な成長触媒層を堆積し、前記堆積された均一な成長触媒層上へパターンを導入することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記基体の表面上に導電層を堆積することを含む、請求項14から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
耐腐食性を増大させるように配置された保護被膜で、前記セパレータエレメント(310)を少なくとも部分的に被覆すること(S12)を含む、請求項13から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
イオン交換膜(130)と、第1電極触媒層(111)と、第2電極触媒層(121)とを含む燃料電池(100)であって、前記第1電極触媒層及び第2電極触媒層が前記イオン交換膜のいずれかの側で、前記イオン交換膜に隣接して配置されており、前記燃料電池が、前記各電極触媒層の、前記イオン交換膜(130)に背を向ける側で、それぞれ前記第1電極触媒層及び第2電極触媒層(111,121)に隣接して配置された第1セパレータエレメント装置(110)と第2セパレータエレメント装置(120)とをさらに含み、それぞれのセパレータエレメント装置が、セパレータエレメント(310)と、前記セパレータエレメントに隣接して配置された拡散層(320)とを含み、前記セパレータエレメント装置(110,120)の少なくとも1つが、請求項1から12のいずれか1項に記載のセパレータエレメント装置である、燃料電池(100)。
【請求項20】
請求項19に記載の燃料電池(100)を少なくとも1つ含む燃料電池スタック(500)。
【請求項21】
イオン交換膜(230)と、第1電極触媒層(211)と、第2電極触媒層(221)とを含む電解槽(200)であって、前記第1電極触媒層及び第2電極触媒層が前記イオン交換膜のいずれかの側で、前記イオン交換膜(230)に隣接して配置されており、前記電解槽が、前記第1電極触媒層及び第2電極触媒層(211,221)のそれぞれの、前記イオン交換膜(230)に背を向ける側で、前記各電極触媒層に隣接して配置された第1セパレータエレメント装置(210)と第2セパレータエレメント装置(220)とをさらに含み、それぞれのセパレータエレメント装置が、セパレータエレメント(310)と、前記セパレータエレメントに隣接して配置された拡散層(320)とを含み、前記セパレータエレメント装置(210,220)の少なくとも1つが、請求項1から12のいずれか1項に記載のセパレータエレメント装置である、電解槽(200)。
【請求項22】
請求項21に記載の電解槽を少なくとも1つ含む電解槽スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学セル、例えば燃料電池及び電解槽に適したセパレータエレメント及びセパレータエレメント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セル、例えばバッテリー、燃料電池、及び電解槽は、現代のエネルギーシステムにおいて幅広く使用されつつある。水の電解による水素ガスの製造は、化石燃料から水素ガスの製造に取って代わるための有望な技術であり、そしてまた間欠的エネルギー源、例えば太陽光発電及び風力発電からの余剰の電気エネルギーを、貯蔵のために化学エネルギーに変換する手段として有望な技術でもある。同時に、燃料電池は、一部は例えば内燃機関と比較して効率が高いこと、そして一部は環境に優しい燃料、例えば持続可能に製造される水素ガスを容易に使用し得ることに起因して、化学エネルギーを電気エネルギーへ変換するための魅力的な技術である。
【0003】
しかしながら、既存の電気化学セルは相異なるセル構成部分間で高い接触抵抗を被り、このことは効率を低下させる。この問題は、セルの化学的環境に起因して、いくつかの構成部分上に非導電性表面層が形成されることにより、さらに深刻化するおそれがある。
【0004】
特許文献1には、接触抵抗が低減された電気化学セル用の構成部分が開示されている。
【0005】
依然として、より低い接触抵抗を示す構成部分を有する電気化学セルが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/186047号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の課題は、とりわけ、セパレータエレメントと拡散層との間に接触抵抗の低減をもたらす、電気化学セル用の改善されたセパレータエレメント装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、電気化学セル用のセパレータエレメント装置によって、少なくとも一部は達成される。セパレータエレメント装置は、セパレータエレメントと、前記セパレータエレメントに隣接して配置された拡散層とを含む。前記セパレータエレメントは複数の細長ナノ構造を含み、前記細長ナノ構造の少なくともいくつかが、前記拡散層内へ延びることにより、前記セパレータエレメントを前記拡散層に結合するように配置されている。
【発明の効果】
【0009】
前記細長ナノ構造の少なくともいくつかが前記拡散層内へ延びることは、ナノ構造のいくつかが、例えば拡散層の表面上に設けられた穴内又は溝内へ延びることにより、拡散層の前記セパレータエレメントに面する表面を超えることを意味する。細長ナノ構造はこのように拡散層と直接に接触する状態で配置され、それによって、拡散層とセパレータエレメントとの機械的且つ電気的な接触を改善する。このことは特に、細長ナノ構造が導電性材料、すなわち、金属又は半導体のものと同様の導電率を有する材料を含む場合に当てはまる。
【0010】
換言すれば、セパレータエレメント装置は、セパレータエレメントと、セパレータエレメントに隣接して配置された拡散層とを含む。セパレータエレメント装置は、また、セパレータエレメントの、拡散層に面する表面に取り付けられている複数の細長ナノ構造を含む。細長ナノ構造の少なくともいくつかが、拡散層内へ延びることにより、セパレータエレメントを拡散層に結合するように配置されている。
【0011】
セパレータエレメントは平面状のエレメント又はセパレータプレートであってよい。同様に、拡散層も平面状のエレメント又は平面状の構造であってよい。このことは、セパレータエレメント装置の組立てと、セパレータエレメント装置の電気化学セル内への組み込みを容易にする。
【0012】
前記複数の細長ナノ構造は細長炭素ナノ構造を含んでよい。炭素ナノ構造は、多くの電気化学セルにおける使用に際して、良好な導電性と十分な化学的安定性とを呈するので有利である。具体的には、細長炭素ナノ構造は、炭素ナノ繊維、炭素ナノワイヤ、及び炭素ナノチューブのいずれかを含んでよい。炭素ナノ繊維、炭素ナノワイヤ、及び炭素ナノチューブの特性、例えば密度及び形状は、ナノ繊維、ナノワイヤ、及びナノチューブが製造される際の条件に変更を加えることによって、容易に調節することができる。炭素ナノ繊維、及び炭素ナノワイヤはまた機械的に剛性であり、セパレータエレメント装置の組立て中に、セパレータエレメントに対するこれらの配向を維持するのをより容易にする。
【0013】
前記複数の細長ナノ構造は細長金属ナノ構造を含んでもよい。金属ナノ構造はまた、高い導電性と、良好な機械的な安定性及び剛性とを呈する。
【0014】
態様によれば、細長ナノ構造の少なくともいくつかは、互いに平行に配向され、そしてセパレータエレメントの延在平面に対して垂直方向に沿って延びていてよい。このことは、これらの細長ナノ構造が同様の配向を有し、ナノ構造フォレストを形成して、セパレータエレメントの延在平面から概ね垂直に延びることを意味する。細長ナノ構造のほぼ均一な配向は、セパレータエレメント装置の組立てを容易にする。ナノ構造がセパレータエレメントの延在平面に対して概ね垂直に配向されていることにより、ナノ構造が実際に拡散層内へ確実に延び、そして拡散層内へナノ構造がどの程度延びるかを制御するのが容易になる。
【0015】
他の態様によれば、細長ナノ構造の少なくともいくつかは、セパレータエレメントの延在平面に対して10~80度の角度で配向されてよい。
【0016】
細長ナノ構造の所期長さは、とりわけ拡散層の特性に依存してよい。具体的には、拡散層が多孔質材料を含むときには、細長ナノ構造の所期長さは、前記多孔質材料の構造に依存してよく、態様によれば、前記セパレータエレメントの延在平面に対して垂直に延びる軸線に沿って測定された前記細長ナノ構造の少なくとも1つの構造の長さが、10~20マイクロメートルであってよい。他の態様によれば、細長ナノ構造の少なくとも1つの構造の、最大寸法の長さは、10~20マイクロメートルであってよい。
【0017】
セパレータエレメントは流れ場装置を含んでよく、流れ場装置は、セパレータエレメントの、拡散層に面する表面上に配置されており、流れ場装置は、複数の流路支持体によって分離された複数の流路を含む。流路は、流れ場装置全体にわたるガス及び/又は液体の均一な分布を促進するように配置されていてよい。流れ場装置全体にわたるガス及び/又は液体の均一な分布は、電気化学セル内の反応物質の均一な分布をもたらし、セルの全域のより効率的な利用につながるので有利である。
【0018】
セパレータエレメントが流れ場装置を含む場合、前記複数の細長ナノ構造は、流れ場装置の流路支持体のうちの少なくとも1つの支持体の表面に結合されてよく、前記表面は拡散層に面している。流路支持体は、セパレータエレメント表面上に隆起隆起部を形成しており、このことは、流路支持体が拡散層とより密接な接触状態となることを意味する。したがって、ナノ構造が流路支持体上にのみ、そして好ましくは流路支持体の上部にのみ配置されていることは、有利である。
【0019】
セパレータエレメントは、耐腐食性を増大させるように配置された保護被膜を含んでもよい。保護被膜は、電気化学セルの化学的環境からセパレータエレメントの材料を遮蔽し、劣化を防止することができる。
【0020】
態様によれば、拡散層は多孔質炭素材料を含む。多孔質炭素材料は多孔質炭素材料を含んでよく、そして複数の炭素繊維はセパレータエレメントの延在平面に対して概ね平行に、且つ/又は前記複数の細長ナノ構造に対して概ね垂直に延びていてよい。炭素材料は、これらの導電性及び化学的安定性に基づき、拡散層内に使用するのに適している。多孔質炭素材料はまた、電気化学セルを通した反応物質及び生成物の効率的な輸送を可能にし得るので有利である。
【0021】
目的は少なくとも一部は、セパレータエレメント装置を製造する方法によっても達成される。セパレータエレメント装置は、セパレータエレメントと、セパレータエレメントに隣接して配置された拡散層とを含む。方法は、複数の細長ナノ構造を生成することを含み、細長ナノ構造はセパレータエレメントの表面に結合される。方法はまた、細長ナノ構造が拡散層内へ延びることによりセパレータエレメントを拡散層に結合するように、セパレータエレメントに隣接して拡散層を配置することを含む。
【0022】
拡散層内へ延びることにより、細長ナノ構造は拡散層と直接に接触する状態で配置されるので、これによって、拡散層とセパレータエレメントとの機械的且つ電気的な接触が改善される。このことは特に、細長ナノ構造が導電性材料、すなわち、金属又は半導体のものと同様の導電率を有する材料を含む場合に当てはまる。
【0023】
複数の細長ナノ構造の生成が、細長ナノ構造を基体上に成長させることを含んでよい。細長ナノ構造を基体上に成長させると、例えばナノ構造と拡散層との機械的且つ電気的な接触状態を改善できる等、ナノ構造が成長させられる際の条件を調整することによって、ナノ構造の特性及び形状に調整することが可能になるので有利である。例えば、構造安定性を改善するために、細長ナノ構造の厚さを調整することができる。
【0024】
ナノ構造がセパレータエレメント上で成長させられるように配置されたセパレータエレメントを基体が含むと、これによって、ナノ構造と表面との化学結合を確立し、そして細長ナノ構造とセパレータエレメントとの間の良好な電気的接触、及び低い接触抵抗に貢献するので有利である。
【0025】
細長ナノ構造を基体上に成長させることは、基体の表面上に成長触媒層を堆積し、そして成長触媒層上に細長ナノ構造を成長させることを含んでよい。成長触媒層は細長ナノ構造の成長を促進する。成長触媒層の特性に変更を加えることにより、セパレータエレメント装置の機能を改善するために、成長させられる細長ナノ構造の特性を調整することができる。
【0026】
成長触媒層を堆積することが、均一な成長触媒層を堆積し、そして堆積された均一な成長触媒層上へパターンを導入することを含んでよい。堆積された均一な成長触媒層上へのパターンの導入の利点は、これにより基体の表面積当たりのナノ構造数の制御が可能になることである。表面積当たりのナノ構造数は例えば、ナノ構造と拡散層との電気的且つ機械的な接触状態を改善するように、拡散層の構造に適合させてよい。
【0027】
方法は、基体の表面上に導電層を堆積することを含んでもよい。基体の表面上に導電層を堆積することにより、基体を電気的に接地する効果を生じさせ得るので有利である。基体の電気的接地は、ある特定のナノ構造成長法にとって有利であり得る。導電層が基体の表面上に堆積され、成長触媒層が導電層の上部に堆積されると、導電層は触媒層と基体との間で原子及び/又は分子がクロス拡散(cross-diffusion)するのを妨げることもできる。
【0028】
この方法は、耐腐食性を増大させるように配置された保護被膜で、前記セパレータエレメントを少なくとも部分的に被覆することをさらに含んでよい。保護被膜は、電気化学セルの化学的環境からセパレータエレメントの材料を遮蔽し、劣化を防止することができる。
【0029】
イオン交換膜と、第1電極触媒層と、第2電極触媒層とを含む燃料電池もここに開示される。第1電極触媒層及び第2電極触媒層がイオン交換膜のいずれかの側で、イオン交換膜に隣接して配置されている。燃料電池は、各電極触媒層の、イオン交換膜から外側に向く側で、それぞれ第1電極触媒層及び第2電極触媒層に隣接して配置された第1セパレータエレメント装置と第2セパレータエレメント装置とをさらに含む。それぞれのセパレータエレメント装置は、セパレータエレメントと、セパレータエレメントに隣接して配置された拡散層とを含む。
【0030】
セパレータエレメント装置の少なくとも1つが、前述のセパレータエレメント装置である。すなわち、セパレータエレメント装置は、セパレータエレメントの表面に取り付けられた複数の細長ナノ構造を含む。表面は、拡散層に面する表面である。細長ナノ構造の少なくともいくつかは、拡散層内へ延びることにより、セパレータエレメントを拡散層に結合するように配置されている。このセパレータエレメント装置は、上記のすべての利点と関連する。セパレータエレメント装置が燃料電池内に配置されると、セパレータエレメント装置のセパレータエレメントと拡散層との間の接触抵抗がより低い燃料電池を提供するという付加的な利点があり、このことは燃料電池効率を改善する。
【0031】
さらに、本明細書中に記載された燃料電池を少なくとも1つ含む燃料電池スタックが開示される。
【0032】
イオン交換膜と、第1電極触媒層と、第2電極触媒層とを含む電解槽であって、第1電極触媒層及び第2電極触媒層が前記イオン交換膜のいずれかの側で、イオン交換膜に隣接して配置されている、電解槽も開示される。電解槽は、各電極触媒層の、イオン交換膜から外側に向く側で、それぞれ第1電極触媒層及び第2電極触媒層に隣接して配置された第1セパレータエレメント装置と第2セパレータエレメント装置とをさらに含む。それぞれのセパレータエレメント装置は、セパレータエレメントと、セパレータエレメントに隣接して配置された拡散層とを含む。
【0033】
セパレータエレメント装置の少なくとも1つは、本明細書中に記載されたセパレータエレメント装置である。すなわち、セパレータエレメント装置は、セパレータエレメントに取り付けられた複数の細長ナノ構造を含み、細長ナノ構造の少なくともいくつかは、拡散層内へ延びることにより、セパレータエレメントを拡散層に結合するように配置されている。このセパレータエレメント装置は、上記のすべての利点と関連する。セパレータエレメント装置が電解槽内に配置されると、セパレータエレメント装置のセパレータエレメントと拡散層との間の接触抵抗がより低い電解槽を提供するという付加的な利点があり、これによって電解槽の効率が改善する。
【0034】
また、上記少なくとも1つの電解槽を含む電解槽スタックも開示される。
【0035】
大まかに言えば、クレーム中に使用されるすべての用語は、本明細書中に明示的に別段の定義がない限り、当該技術分野における通常の意味に従って解釈されるべきである。「ある/その(a/an/the)エレメント、装置、構成部分、手段、工程など」へのあらゆる言及は、明示的に別段の定めがない限り、そのエレメント、装置、構成部分、手段、工程などの少なくとも1つの事例を意味するものとしてオープンに解釈されるべきである。本明細書中に開示されたいかなる方法の工程も、明示的に定めのない限り、開示されたそのままの順序で実施される必要はない。添付のクレーム及び下記の説明を検討すると、本発明のさらなる特徴、及び利点が明らかになる。当業者には明らかなように、本発明の種々異なる特徴を組み合わせて、本発明の範囲を逸脱することなしに、下記のものとは異なる実施態様を形成してよい。
【0036】
添付の図面を参照しながら、本開示をここで詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、燃料電池を示す概略図である。
図2図2は、電解槽を示す概略図である。
図3図3は、セパレータエレメント装置を示す概略図である。
図4図4A、B及びCは、流れ場装置を示す概略図である。
図5図5は、燃料電池スタックを示す図である。
図6図6は、方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
添付の図面を参照しながら本開示の態様を以下に詳述する。しかしながら、本明細書中に開示された種々異なるデバイス及び方法は、多くの異なる形態で実現することができ、本明細書中に示された態様に限定するものと解釈されるべきではない。図面の同様の符号は、図面全体を通して同様のエレメントを示す。
【0039】
本明細書中に使用される用語は、開示の態様の説明を目的とするにすぎず、本発明を限定しようとするものではない。本明細書中に使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に別段の指示をするのでない限り、複数形をも含むものとする。
【0040】
下記説明は、2つのタイプの電気化学セル、つまり燃料電池及び電解槽に焦点を当てる。具体的には、下記説明は、プロトン交換膜を含み、そして水素ガスを燃料として使用するか、又は水から水素ガスを製造する、それぞれ燃料電池及び電解槽を論じる。しかしながら、当業者には明らかなように、本明細書中に記載されたデバイス及び方法は、他のタイプの電気化学セルに使用することもできる。本開示は、他のタイプの燃料電池、例えばメタノールを燃料として使用する燃料電池、及び他のタイプの電解槽に適用することもできる。具体的には、本開示は、別のタイプの固体電解質、例えばアニオン交換膜がプロトン交換膜の代わりに使用される、燃料電池及び電解槽に適用することができる。
【0041】
燃料電池の場合、燃料からの化学エネルギーが、還元反応及び酸化反応を通して電気エネルギーへ変換される。燃料電池は2つの電極と、イオンが電極間で移動するのを可能にする電解質とを含む。電極はまた電気負荷に電気的に接続されており、この電気負荷において、発生した電気エネルギーが使用される。
【0042】
燃料電池電解質は良イオン伝導体であり、すなわちイオンを輸送できなければならないと同時に、不良電子伝導体であり、すなわち電子の輸送を阻害しなければならない。燃料電池電解質は液体、例えばアルカリ塩又は溶融炭酸塩化合物の溶液、又は固体、例えばポリマー膜又は金属酸化物であってよい。ポリマー膜材料の例は、ナフィオン(Nafion)としても知られるスルホン化テトラフルオロエチレン、及びポリスルホン又はポリフェノールオキシドを基剤とするポリマーである。イオン伝導性金属酸化物は、例えばドープ型ジルコン酸バリウム、ドープ型セリウム酸バリウム、ドープ型ランタンガレート、又は安定化ジルコニアであってよい。種々異なる電解質が、異なるタイプのイオンを伝導するのに適し得る。例えば、スルホン化テトラフルオロエチレン系の膜、例えばナフィオンは、水素イオン、すなわちプロトンを伝導することができ、したがってプロトン交換膜又はPEMとして知られている。数多くの金属酸化物が、酸素イオンを伝導するのに適している。
【0043】
イオン交換膜、例えばナフィオンを使用する燃料電池は、膜がプロトンを伝導するため、しばしばプロトン交換膜燃料電池又はPEMFCと呼ばれる。PEMFCの場合、水素含有燃料、例えば水素ガスが第1電極であるアノードにおいて導入されるのに対して、酸素含有ガスが第2電極であるカソードにおいて導入される。アノードでは、水素は電極触媒の補助によってプロトンと電子とに分解される。これは水素酸化反応と呼ばれる。プロトンはイオン交換膜を通過してカソードに達する一方、電子はアノードとカソードとの間の電気接続部を通過し、そこで発生した電気エネルギーを利用することができる。カソードにおいて、プロトン及び電子は、酸素還元反応を介して酸素と反応することにより、水を形成する。この反応は電極触媒によって補助される。
【0044】
触媒は、例えば化学反応を開始するために必要となるエネルギー量を低減することにより、化学反応を容易にする材料又は化合物である。電極触媒は、燃料電池内で行われる電気化学反応、例えば水素酸化反応及び酸素還元反応において使用される触媒である。燃料電池の電極触媒は貴金属、例えば白金、ルテニウム、又はパラジウムをしばしば含む。
【0045】
PEMFC、及び固体イオン伝導体を使用する他の燃料電池の場合、アノード及びカソードの触媒は、イオン交換膜の互いに対向する表面上に電極触媒層としてしばしば配置される。特にPEMFCに関しては、電極触媒層は多くの場合、ナノ粒子、すなわち1マイクロメートルを大幅に下回る、主として1~100nmの直径を有する粒子の形態を成す白金のような電極触媒材料を含む。電極触媒層は一般的には、炭素ナノ材料、例えば炭素ナノ粒子又はナノチューブ、又はカーボンブラックをしばしば含む触媒バインダー又は触媒担体をも含む。電極触媒層は、イオン交換膜への水素イオンの輸送を容易にするために配置されたイオン伝導性ポリマーと、疎水性材料、例えばテフロン(登録商標)とを含んでもよい。態様によれば、触媒層は5~50nm厚であってよい。他の態様によれば、触媒層の厚さは、使用される触媒のタイプに依存してよい。
【0046】
アノード電極触媒層とカソード電極触媒層とが互いに対向する表面上に配置されたイオン交換膜は、膜電極接合体(membrane electrode assembly)と呼ばれることがある。
【0047】
燃料電池が動作するためには、イオン及び電子がアノード側電極触媒から、それぞれイオン交換膜及び電気負荷を通って移動し、そしてカソード側電極触媒に到達できなければならない。加えて、反応ガス、例えば水素ガス及び酸素ガスは電極触媒層へ到達できなければならず、その一方で、生成物である水は電池から連続的に取り出されなければならない。大抵のPEMFCでは、このことは、導電性材料を含む多孔質拡散層をそれぞれの電極触媒層の隣に配置し、そしてやはり導電性材料を含むセパレータエレメントをそれぞれの拡散層の隣に配置することによって達成される。本明細書中では、多孔質拡散層とセパレータエレメントとの組み合わせをセパレータエレメント装置と呼ぶ。
【0048】
導電性の材料、エレメント、又は構成部分はここでは、高い導電率を有する材料、エレメント、又は構成部分であると考えられる。高い導電率は、通常、金属材料又は半導体材料、又は100Sm-1超の導電率のことである。
【0049】
図1は、イオン交換膜130と、第1電極触媒層111と、第2電極触媒層121とを含む燃料電池100を示している。第1電極触媒層111及び第2電極触媒層121は、イオン交換膜のいずれかの側で、イオン交換膜に隣接して配置されている。電極触媒層の、イオン交換膜130に背を向ける側に、それぞれ第1電極触媒層及び第2電極触媒層に隣接して、第1セパレータエレメント装置110と第2セパレータエレメント装置120とが配置されている。それぞれのセパレータエレメント装置は、拡散層とセパレータエレメントとを含む。燃料電池内では、それぞれのセパレータエレメント装置は、拡散層が各電極触媒層と、セパレータエレメント装置内に含まれるセパレータエレメントとの間にサンドイッチされるように配置されている。2つのセパレータエレメント装置は負荷140を通して電気的に接続されている。
【0050】
電流コレクタ又は物質輸送層と呼ばれることもある多孔質拡散層は、電極触媒層とセパレータエレメントとの電気的接触をなおも維持しながら、反応物質及び生成物、例えば水素ガス、酸素ガス、及び水が拡散層の孔を通って輸送されるのを可能にするように配置されている。多孔質拡散層は、多孔質の導電性材料、例えば金属発泡体、多孔質炭素、又は炭素紙をしばしば含む。拡散層は電極触媒層111,121及びイオン交換膜130に構造的な支持を提供することもできる。
【0051】
セパレータエレメントは金属材料、例えば鋼、及び/又は他の導電性材料、例えば炭素複合体をしばしば含む。これは電気負荷に接続され、燃料電池をその周囲から分離する構成部分である。燃料電池が燃料電池スタックの部分を形成する場合、セパレータエレメントは1つの燃料電池のカソード側の部分と、隣接する燃料電池のアノード側の部分とを形成してよく、この場合には、セパレータエレメントはバイポーラプレートと呼ばれることがある。他の使用可能な用語は、セパレータプレート又はフロープレートである。
【0052】
効率的な燃料電池動作のためには、燃料電池のエレメント間の電気的接触抵抗、すなわち、例えばセパレータエレメント及び隣接する拡散層との間、又は拡散層及び隣接する電極触媒層との間の界面と関係する電気抵抗を最小化することが重要である。しかしながら、例えば2つの構成部分間の物理的接触が不十分である結果、セパレータエレメント及び隣接する拡散層との間の接触抵抗が高くなることがある。この問題は、導電性ではない化合物、例えば金属酸化物がセパレータエレメントの表面上に形成されることによって深刻になり得る。
【0053】
水電解槽はその一方で、電気エネルギーを使用して水を酸素ガスと水素ガスとに分解する。電解槽は通常は、燃料電池に関して上述したものと同じ構成部分を含んでよい。具体的には、電解槽はイオン伝導性電解質と、カソード及びアノードの2つの電極と、を含む。カソード及びアノードは電源に電気的に接続されている。プロトン交換膜、例えばナフィオンは、他の上述のポリマー膜及び固体酸化物イオン伝導体と同様に、電解槽内並びに燃料電池内の電解質として使用することができる。アルカリ溶液を含む液体電解質を使用してもよい。
【0054】
プロトン伝導性電解質、例えばPEMを含む電解槽内では、アノード側で水が導入され、水は酸素と水素とに分解される。これは酸素発生反応として知られている。酸素は酸素ガスを形成する一方で、水素は続いてイオン交換膜を通過してカソードに到達するプロトンと、電源を介してカソードへ移動する電子とに分解される。カソードでは、プロトンと電子とが、水素発生反応を介して水素ガスを形成する。
【0055】
電解槽内の電極触媒は、燃料電池に使用されたものとは異なっていてよい。PEM電解質を使用する電解槽内で、アノード側の電極触媒は多くの場合、酸化イリジウムを含むのに対して、カソード側の電極触媒は概ね白金又は他の白金族の金属を含む。アニオン交換膜AEMの電解質を使用する電解槽内では、両電極触媒はその代わりに、ニッケル又はコバルトのような材料を含んでよい。
【0056】
固体電解質、例えばPEM及びAEMを含む電解槽内では、アノード及びカソードの電極触媒は多くの場合、燃料電池に関して前述したように、膜電極接合体を形成するように、電解質膜の互いに対向する側で電極触媒層内に配置される。一方又は両方の電極触媒はナノ粒子の形態を成していてよい。電極触媒自体に加えて、電極触媒層は触媒担体、例えばカーボンブラック、炭素ナノチューブ、又は金属発泡体を含んでよい。電極触媒層は、イオン伝導性ポリマーと、疎水性材料、例えばテフロン(登録商標)とを含んでもよい。
【0057】
電解質を通したイオン輸送、電極触媒へのそして電極触媒からの反応物質及び生成物の物質輸送、及びセル内のエレメント間の良好な電気的接触に対する要件は、電解槽において、燃料電池におけるものと同じである。したがって、電解槽も多くの場合、それぞれの電極触媒層に隣接して配置された多孔質拡散層と、それぞれの拡散層に隣接して配置されたセパレータエレメントとを備えている。拡散層は、しばしばチタンを含む多孔質炭素材料、金属発泡体、又は金属メッシュを含んでよい。セパレータプレートは、例えば金属材料、例えば鋼又はチタン、又は導電性炭素複合体を含んでよい。
【0058】
図2は、イオン交換膜230と、第1電極触媒層211と、第2電極触媒層221とを含む電解槽200を示している。第1電極触媒層及び第2電極触媒層は、イオン交換膜のいずれかの側で、イオン交換膜230に隣接して配置されている。電極触媒層の、イオン交換膜230に背を向ける側で、第1電極触媒層及び第2電極触媒層に隣接して、第1セパレータエレメント装置210と第2セパレータエレメント装置220とが配置されている。それぞれのセパレータエレメント装置は、拡散層とセパレータエレメントとを含む。電解槽内に配置されるときには、それぞれのセパレータエレメント装置は、拡散層がセパレータエレメントと各電極触媒層との間にサンドイッチされるように設けられる。両セパレータエレメント装置は電源240に接続されている。
【0059】
燃料電池及び電解槽の両方において、構成部分間のより良好な機械的接触が確立されるならば、構成部分間の接触抵抗を低減することができる。図3は、電気化学セル用のセパレータエレメント装置300を、セパレータエレメントと拡散層との間の機械的接触が改善され、且つ接触抵抗が低減された状態で示している。セパレータエレメント装置300は、セパレータエレメント310と、セパレータエレメント310に隣接して配置された拡散層320とを含む。セパレータエレメントは複数の細長ナノ構造311を含んでおり、細長ナノ構造の少なくともいくつかは、拡散層内へ延びることにより、セパレータエレメント310を拡散層320に結合するように配置されている。
【0060】
ナノ構造は、少なくとも1つの次元において、1マイクロメートルを大幅に下回る、好ましくは1~100nmのサイズを有する構造である。本明細書中では、細長ナノ構造は、少なくとも1つの次元、例えば長さが、別の次元、例えば幅又は深さと比較して著しく大きいナノ構造である。一例として、長さと直径とによって特徴づけられるほぼ円筒形のナノ構造を考えることにする。ナノ構造は、長さが直径よりも著しく大きい場合、例えば長さが直径の2倍よりも大きい場合に、細長いと考えられる。実質的に円錐形、円錐台状、方形、又は任意の形状であるナノ構造にも、同様の推論を当てはめ得る。
【0061】
細長ナノ構造311は例えば真直ぐ、螺旋状、分枝状、波状、又は傾斜状であってよい。任意には、細長ナノ構造は、ナノワイヤ、ナノホーン、ナノチューブ、ナノウォール、結晶性ナノ構造、又は非晶質ナノ構造として分類可能である。
【0062】
好ましくは、細長ナノ構造311は導電性材料を含む。
【0063】
大まかに言えば、セパレータエレメント310内に含まれる細長ナノ構造311は、セパレータエレメント310の、拡散層320に面する表面に取り付けられている。細長ナノ構造311は、例えば化学結合によって、接着剤によって、又は何らかの他の取り付け手段によって、セパレータエレメント310の表面に取り付けられてよい。態様によれば、細長ナノ構造311はセパレータエレメント310の表面上に成長させられていてよい。この事例では、細長ナノ構造は表面に対する強力な化学結合を有してよい。好ましくは、細長ナノ構造は、ナノ構造と表面との間に低い接触抵抗をもたらすように、表面に取り付けられるべきである。
【0064】
複数の細長ナノ構造311における少なくともいくつかのナノ構造が拡散層320内へ延びることは、複数の細長ナノ構造の少なくともいくつかが、拡散層の、セパレータエレメント310に面する表面を超えることを意味すると考えられる。図3では、この表面は破線330によって示されている。表面が平面状でない場合、例えば表面が湾曲するか又は凹凸を有する場合には、表面がナノ構造に最も近い地点でナノ構造が表面の接線を超えるならば、ナノ構造は拡散層内へ延びると考えてよい。
【0065】
換言すれば、セパレータエレメント装置300は、セパレータエレメント310と、セパレータエレメント310に隣接して配置された拡散層320とを含む。セパレータエレメント装置300はまた複数の細長ナノ構造311を含み、細長ナノ構造は、セパレータエレメント310の、拡散層320に面する表面に取り付けられた状態で配置されている。細長ナノ構造の少なくともいくつかは、拡散層内へ延びることにより、セパレータエレメント310を拡散層320に結合するように配置されている。
【0066】
拡散層320は概ね多孔質材料、すなわち複数のボイド、穴、又は孔を含む材料を含む。いくつかの孔が材料の表面と交差し、前記表面内にピット又は溝を形成する。この場合、セパレータエレメント内に含まれる細長ナノ構造が、表面の、セパレータエレメントに面するこのようなピット又は溝内に延びることによって、拡散層内へ延びることができる。このことは、拡散層内に少なくとも部分的に埋め込まれている細長ナノ構造311として見ることもできる。
【0067】
一例としては、ナノ構造は、それらの長さの50%超だけ、拡散層内へ延びてよい。別の例としては、ナノ構造は、それらの長さの90%超だけ、拡散層内へ延びてよい。
【0068】
多孔質材料は、これらのボイド比率、すなわち材料の総体積に対するボイド又は孔の容積の比によって特徴づけることができる。拡散層320内に含まれる多孔質材料のボイド比率は例えば0.3以上であってよく、又はボイド比率は0.5を上回ってもよい。
【0069】
複数の細長ナノ構造はセパレータエレメントと拡散層との密接な機械的接触を形成する。密接な機械的接触は、特に細長ナノ構造が導電性材料を含む場合には、電気的接触状態を改善し、そして接触抵抗を低減する。この場合、細長ナノ構造と拡散層との物理的接触はまた、細長ナノ構造311と拡散層320との間の接触抵抗が低い電気的接続を確立する。細長ナノ構造311はセパレータエレメント310に結合されているので、これは結果として、セパレータエレメント310と拡散層320との間の接触抵抗を低減することになる。好ましくは、細長ナノ構造311は、これらの表面積の大部分にわたって、拡散層の材料と接触状態にあるように配置されるべきである。細長ナノ構造の表面積の大部分は、前記表面積の50%超であってよい。
【0070】
態様によれば、セパレータエレメント310は平面状のエレメント又はプレートである。他の態様によれば、拡散層も平面状のエレメントである。プレート又は平面状のエレメントは2つの次元において長く延びており、第3の次元において比較的薄い。このようなエレメントが長く延びているこれら2つの次元は、エレメントが延在する平面を画定する。
【0071】
それぞれの平面状のエレメントは概ね2つの広い境界表面を含んでおり、これらの境界表面は延在平面に対してほとんど平行であり、そして一般的にはエレメントの最も広い境界表面である。これらの境界表面は、平面状のエレメントの第1側及び第2側と呼ぶことができる。セパレータエレメント310及び拡散層320は、セパレータエレメント310の第1側が拡散層320の第1側に隣接するように配置されており、そしてセパレータエレメント及び拡散層の延在平面は概ね平行であってよい。細長ナノ構造311はこの場合、セパレータエレメント310の第1側に取り付けられ、拡散層320の第1側の表面を超えて通過してよい。
【0072】
複数の細長ナノ構造311は細長炭素ナノ構造を含んでよい。細長炭素ナノ構造は、例えば炭素ナノ繊維、炭素ナノワイヤ、及び炭素ナノチューブのいずれであってもよい。
【0073】
炭素材料は、これらの良好な導電性及び化学的安定性に因り、多くの場合電気化学セル内で、例えば触媒担体及び拡散層の材料として使用される。具体的には、炭素材料は燃料電池内のアノード側及びカソード側の両方に、そして電解槽内のカソード側に使用される。細長炭素ナノ構造はそれらの化学的安定性に基づき、非導電性化合物が表面上に形成されにくいという利点を有しており、低い電気接触抵抗を維持するのに有利である。セパレータエレメント310の表面上の炭素ナノ構造の存在は、セルの化学的環境から表面を遮蔽することによって、セパレータエレメント自体の化学的劣化を防止することもできる。
【0074】
細長炭素ナノ構造の形状及び構造は、例えばナノ構造の所期の密度又は形状、ナノ構造の所期の厚さ又は長さ、又は表面積当たりの所期ナノ構造数を得るように、ナノ構造が成長させられる条件を調節することによって変更することができる。炭素ナノ繊維及びナノワイヤの具体的な利点は剛性(スティフネス及びリジディティ)が高いことであり、これにより、構成部分を押し合わせるような方法によって燃料電池が組み立てられる場合に、炭素ナノ繊維及びナノワイヤがより変形されにくくなり、またセパレータエレメント310に対してそれらの所望の向きを維持しやすい。
【0075】
複数の細長ナノ構造311は、銅、アルミニウム、銀、ヒ化ガリウム、酸化亜鉛、リン酸インジウム、窒化ガリウム、窒化インジウムガリウム、ヒ化インジウムガリウム、ケイ素、又は他の材料のいずれかを含む、細長い金属ナノ構造又はナノ構造を含んでもよい。
【0076】
前述のように、細長ナノ構造は1つの次元が、他の次元よりも大きい。この次元に沿った軸線を細長ナノ構造の長さ軸と、そしてこの次元におけるナノ構造のサイズをナノ構造長さと考えることにする。他の次元におけるナノ構造のサイズは、ナノ構造幅と呼ぶことができ、又は略円筒形のナノ構造に対しては、ナノ構造直径と呼ぶことができる。
【0077】
細長ナノ構造の長さ軸線はまたナノ構造の配向を示している。例えば、長さ軸線がセパレータエレメント310の延在平面に対して垂直又はほぼ垂直に延びる場合、又は同様に長さ軸線が延在平面の法線ベクトルに対して平行又はほぼ平行である場合、細長ナノ構造はセパレータエレメント310に対して垂直に配向していると言うことができる。
【0078】
セパレータエレメントとそれぞれの拡散層とを接続するために、均一な方向に配向された細長ナノ構造を有することが有利である。したがって、細長ナノ構造311の少なくともいくつかは互いに平行に配向し、セパレータエレメント310の延在平面に対して垂直又はほぼ垂直な方向に沿って延びてよい。
【0079】
このことは、ナノ構造が完全に真直ぐに、又はセパレータエレメント310の延在平面に対して完全に垂直であることを意味すると考えるべきではない。ナノ構造は概ね延在平面に対して垂直な方向に沿って延びてよく、このことは、ナノ構造が延在平面の法線ベクトルに対して多少傾斜していてよいこと、あるいはナノ構造が前後に湾曲して螺旋形状又は波形状を形成してよいこと、を意味すると考えることができる。むしろ、ナノ構造は法線ベクトルの大まかな方向で延びている。この文脈において、多少の傾斜とは、細長ナノ構造の長さ軸線と延在平面の法線ベクトルとの間の角度が45度未満であり、好ましくは30度未満であってよいことを意味し得る。
【0080】
別の実施態様としては、細長ナノ構造311の少なくともいくつかが、セパレータエレメント310の延在平面の法線に対して所定の角度を成して延びていてよい。細長ナノ構造の長さ軸線と延在平面の法線との間の角度は例えば10~80度であってよい。角度は例えば拡散層の特性、例えばボイド比率及び孔径、あるいはセパレータエレメント装置300を組立てるために用いられる製造法に依存してよい。
【0081】
態様によれば、個々のナノ構造の長さ軸線は、法線ベクトルに対して種々異なる角度を有してよく、したがって複数の細長ナノ構造におけるすべての細長ナノ構造が互いに完全に平行であるわけではない。一例としては、2つの細長ナノ構造の長さ軸線間の角度は45度未満、好ましくは30度未満であってよい。別の例としては、2つの細長ナノ構造の長さ軸線間の角度は45度以上であってよい。
【0082】
細長ナノ構造の長さ及び幅は、例えば拡散層320の特性に応じて調節されてよい。一例としては、細長ナノ構造の幅は、拡散層内に含まれる多孔質材料の孔径よりも小さくなるように調節されてよい。別の例としては、ナノ構造長さは、細長ナノ構造と拡散層材料との接触を促進するように調節されてよく、例えばナノ構造長さは拡散層材料の孔径と同様又は孔径よりも大きくてよい。
【0083】
態様によれば、セパレータエレメント310の延在平面に対して垂直に延びる軸線に沿って測定された細長ナノ構造の少なくとも1つの構造の長さは、10~20マイクロメートルであってよい。
【0084】
具体的には、拡散層320は、複数の繊維を含む多孔質材料を含んでよい。繊維は1つの次元が他の次元よりも大きい概ね細長い構造である。これらの形状はしたがって、繊維が細長く延びる次元における長さと、この細長く延びる次元に対して垂直の次元のそれぞれにおける厚さとによって特徴づけられてよい。ほぼ円筒形の繊維の場合、厚さは繊維直径であってよい。厚さが繊維の長さに沿って一定でない場合には、厚さは平均厚であってよい。細長ナノ構造の長さは、繊維と細長ナノ構造との機械的且つ電気的な接触を増大させるために、多孔質材料内に含まれる繊維の厚さに適合させてよい。一例としては、細長ナノ構造の長さは繊維の平均厚と同様であるか、又は平均厚よりも大きくてよい。
【0085】
複数の細長ナノ構造311における細長ナノ構造間の間隔は、拡散層320内に含まれる多孔質材料の構造に適合させてもよい。例えば、この間隔は、多孔質材料内の孔間の平均間隔に適合させてよい。多孔質材料が繊維を含む場合、間隔は前記繊維の厚さと少なくとも同じ大きさであってよい。
【0086】
繊維の配向は、その細長く延びる次元の方向と概ね考えられる。一例によれば、拡散層320内に含まれる多孔質材料が繊維を含む場合、これらの繊維は、例えば炭素フェルト又はグラファイトフェルト等、フェルト化材料又は紙様材料を形成するように、ランダムに配向されてよい。別の例によれば、繊維は、織布におけるように、互いにほぼ直交する2つの主な配向方向に従ってもよい。
【0087】
多孔質材料中に含まれる複数の繊維は、セパレータエレメント310の延在平面に対して概ね平行に配向されてよい。このことは、繊維の大部分が延在平面に対して45度未満の角度を成して配向され、そして好ましくは延在平面に対して30度未満の角度を成して配向されることを意味すると考えることができる。セパレータエレメント310内に含まれる細長ナノ構造が、延在平面に対して概ね垂直に配向される場合には、細長ナノ構造と、多孔質材料中に含まれる繊維とは互いに概ね垂直であってよい。細長ナノ構造はこの場合、多孔質材料中に含まれる繊維間の間隔内へより容易に延び、また細長ナノ構造の長さに沿って、多孔質材料中に含まれる繊維との接触を維持することもできる。このことは、セパレータエレメント310と拡散層320との機械的且つ電気的接触を改善し得る。
【0088】
一例としては、多孔質材料中に含まれる複数の繊維の厚さは1~10マイクロメートルであってよい。別の例としては、複数の繊維はナノ繊維又はナノチューブであってよい。
【0089】
態様によれば、拡散層320は多孔質炭素材料を含んでよい。多孔質炭素材料は複数の炭素繊維を含んでよく、これらの炭素繊維は、セパレータエレメント310の延在平面に対して概ね平行に、且つ/又は複数の細長ナノ構造311に対して概ね垂直に延びていてよい。
【0090】
電気化学セル内に使用されるセパレータエレメントは多くの場合、流れ場装置(flow field arrangement)を含む。流れ場装置はセパレータエレメント全体にわたる反応物質の均一な分布を促進し、また反応生成物の取り出しを容易にするために使用される。流れ場装置の一例の概略図が図4A及びBに示されている。流れ場装置400は、流路410として知られる複数の溝を含み、これらの溝はリブ又は流路支持体420として知られる隆起部によって分離されている。ガス及び液体は流路410に沿って流れ、ひいてはセパレータエレメント全体にわたって広がることができる。一例としては、流路410を形成するようにセパレータエレメント310内に刻み目を付けることによって、流れ場装置が形成されてよい。別の例としては、流れ場装置は、流路支持体420を形成するようにセパレータエレメント310の表面上に材料を堆積することによって、流れ場装置は形成されてよい。
【0091】
セパレータエレメントが平面状のエレメントであるときには、流れ場装置は上記第1側及び第2側に、すなわちエレメントの延在平面に対して平行であるエレメントの表面上に概ね配置される。本明細書中に記載されたセパレータエレメント装置内では、流れ場はセパレータエレメントの、拡散層に面する表面上に配置されてよい。セパレータエレメントが電気化学セルのスタック内に使用されるバイポーラプレートである場合、セパレータエレメントの互いに対向する側に、2つの流れ場装置が配置されてよい。
【0092】
図4A及び4Bに示された流れ場装置400のタイプは、リブの配置が、互いに隣接する流路を通るガス及び/又は液体の平行流を促進するため、直線的で平行な流れ場装置として知られている。他の流れ場装置のデザイン、例えば蛇行式、相互嵌合式、又はピンタイプの流れ場装置が使用されてもよい。
【0093】
このように、セパレータエレメントの少なくとも1つは流れ場装置400を含んでよい。流れ場装置400は、セパレータエレメント310の、拡散層320に面する表面上に配置されてよい。流れ場装置は、複数の流路支持体420によって分離された複数の流路410を含むことができ、流路410は、流れ場装置400全体にわたるガス/液体の均一な分布を促進するように配置されている。
【0094】
流路支持体420は、セパレータエレメントの表面内に隆起セクション、隆起部、又はバンプを形成するので、これらは隣接する拡散層とより密接に接触することになる。したがって、複数の細長ナノ構造311は、流れ場装置400の流路支持体420のうちの少なくとも1つの流路支持体の表面に結合されてよい。細長ナノ構造311が結合される表面はこの場合、拡散層320に面する表面となる。これは図4Cに示されている。
【0095】
電気化学セル内の化学的環境は、何らかの材料の腐食及び/又は劣化を引き起こすおそれがある。炭素材料は燃料電池内で、そして電解槽内のカソード側で使用するのに概ね十分に化学的に安定ではあるものの、これらは、例えば電解槽内のアノード側で使用するためには付加的な表面処理を必要とすることがある。セパレータエレメント内に使用される他の材料、例えばステンレス鋼も、電気化学セル内の環境に耐えるために付加的な処理を必要とすることがある。したがって、セパレータエレメント310は、耐腐食性を増大させるために配置された保護被膜を含んでよい。一例としては、保護被膜は白金、金、又はチタン、又はこれらの組み合わせを含んでよい。別の例としては、保護被膜はセラミック材料又は金属酸化物、例えば酸化アルミニウム、酸化セリウム、及び酸化ジルコニウムを含んでよい。保護被膜は炭素系材料を含んでもよい。保護被膜は、セパレータエレメント310のすべて又は一部を覆ってよい。
【0096】
図6及び図3を参照して、セパレータエレメント310と、前記セパレータエレメント310に隣接して配置された拡散層320とを含むセパレータエレメント装置300を製造する方法も開示される。この方法は、複数の細長ナノ構造311を生成すること(S1)を含み、前記細長ナノ構造311がセパレータエレメント310の表面に取り付けられる。この方法はまた、細長ナノ構造311が拡散層320内へ延びることによりセパレータエレメント310を前記拡散層320に結合するように、セパレータエレメント310に隣接して前記拡散層320を配置すること(S2)を含む。
【0097】
複数の細長ナノ構造311が、数ある方法の中で、リソグラフィック法、例えばコロイダル・リソグラフィ又はナノスフィア・リソグラフィ、集束イオンビーム機械加工、及びレーザー機械加工を通して生成されてよい。炭素又は有機化合物を含むナノ繊維のためには、炭化物、例えば炭化チタン、又は金属有機化合物、例えばフェロセンのエレクトロスピニング又は塩素化のような方法が用いられてもよい。
【0098】
複数の細長ナノ構造311を生成すること(S1)は、細長ナノ構造311を基体上で成長させること(S11)を含んでよい。細長ナノ構造311を基体上で成長させること(S11)ことは、ナノ構造の高さを含むナノ構造の特性、並びにナノ構造間の間隔に広範にわたって調整することができる。態様によれば、細長ナノ構造はプラズマ化学気相成長法によって成長させてよい。
【0099】
基体は、ケイ素、ガラス、ステンレス鋼、セラミック、炭化ケイ素、又は任意の他の適宜の基体材料を含んでよい。基体は高温ポリマー、例えばポリイミドを含んでもよい。任意には、基体は電気化学セルの構成部分、好ましくはセパレータエレメント310であってよい。
【0100】
細長ナノ構造311を基体上で成長させること(S11)は、基体の表面上に成長触媒層を堆積し、そして成長触媒層上に細長ナノ構造311を成長させることを含んでよい。
【0101】
本明細書中では、成長触媒は触媒活性であり、且つナノ構造の形成に含まれる化学反応を促進する物質である。
【0102】
成長触媒は、ニッケル、鉄、白金、パラジウム、ケイ化ニッケル、コバルト、モリブデン、金、又はこれらの合金のような材料を含んでよい。一例としては、成長触媒層は1~100nm厚であってよい。別の例としては、成長触媒層は複数の成長触媒粒子を含んでよい。
【0103】
成長触媒層上に細長ナノ構造311を成長させること(S11)は、ナノ構造が形成され得る温度まで成長触媒層を加熱し、そして反応物質を含むガスを、この反応物質が成長触媒層と接触するように提供することを含んでよい。ここで、反応物質は、ナノ構造を形成するために使用される化学元素を含む化合物、又は化合物の混合物である。炭素ナノ構造のためには、反応物質は炭化水素、例えばメタン又はアセチレンを含んでよく、あるいは反応物質は一酸化炭素を含んでもよい。
【0104】
成長触媒層を堆積することは、均一な成長触媒層を堆積し、そして堆積された均一な成長触媒層上へパターンを導入することを含んでよい。堆積された均一な成長触媒層上へパターンを導入することは、パターンに基づいて成長触媒層の厚さを変更すること、又は成長触媒層をいくつかの場所で選択的に除去することを含むこともできる。成長触媒層上へパターンを導入することは、例えば、リソグラフィック法、例えばコロイダル・リソグラフィ又はナノスフィア・リソグラフィによって達成されてよい。成長触媒層をパターン化することにより、基体上の表面積当たりのナノ構造数を制御するのが可能になる。
【0105】
この方法は、基体の表面上に導電層を堆積することを含んでもよい。成長触媒層はこの場合、導電層の上部に堆積されてよい。細長ナノ構造を成長させた後、導電層の、細長ナノ構造の間又は周りに延びる部分が選択的に除去されてよい。この除去は、例えばエッチング、例えばプラズマエッチング、熱分解エッチング、又は電気化学エッチングによって達成されてよい。
【0106】
導電層は基体を電気的に接地する。このことはある特定のナノ構造成長法、例えばプラズマ中の成長法にとって有利である。導電層は、成長触媒層と基体との間の原子の拡散を防止することもできる。
【0107】
態様によれば、導電層は1~100ミクロン厚であってよい。他の態様によれば、導電層は1~100nm厚であってよい。
【0108】
態様によれば、基体、成長触媒層、及び導電層に加えて、付加的な層が存在してよい。付加的な層内に含まれる材料は、成長させられるナノ構造の特性を調整し、鉛直方向に配向される成長を容易にし、又は成長プロセスの結果を改善するように選択されてよい。付加的な層は、電気化学セル用のセパレータエレメント310を含んでもよい。
【0109】
態様によれば、導電層と成長触媒層とを含む任意の層を堆積することは、蒸発、メッキ、スパッタリング、分子線エピタキシー、パルスレーザー堆積、化学蒸着、スピン塗布、スプレー塗布のような方法、又は他の適宜の方法によって行われてよい。
【0110】
態様によれば、細長ナノ構造は、電気化学セルの構成部分、好ましくはセパレータエレメント310を含む基体上で成長させられてよい。他の態様によれば、細長ナノ構造は何らかの他の基体上で成長させられ、続いてセパレータエレメント310上へ移されてよい。
【0111】
任意には、成長後の細長ナノ構造上に、付加的な表面処理又はコンディショニングを用いてもよい。表面処理は例えば耐腐食性を改善し、ナノ構造の表面の湿潤性を改善し、ナノ構造の表面抵抗性を低減し、又は何らかの他の有利な効果を達成することを目的としてよい。表面処理は、例えば蒸発、メッキ、スパッタリング、分子線エピタキシー、パルスレーザー堆積、化学蒸着、スピン塗布、スプレー塗布、又は他の適宜の方法によって、ナノ構造の表面上に物質を堆積することを含んでよい。表面処理は化学処理、例えばエッチング又は官能化を含んでもよい。
【0112】
この方法は、耐腐食性を増大させるように配置された保護被膜で、前記セパレータエレメントの少なくとも1つを少なくとも部分的に被覆すること(S12)を含んでもよい。保護被膜は、例えば金、白金、又はチタンのような材料を含んでよく、そして蒸発、メッキ、スパッタリング、分子線エピタキシー、パルスレーザー堆積、化学蒸着、スピン塗布、スプレー塗布、又は他の適宜の方法によって、堆積されてよい。
【0113】
図1及び3を参照して、イオン交換膜130と、第1電極触媒層111と、第2電極触媒層121とを含む燃料電池100も本明細書中に開示される。第1電極触媒層111及び第2電極触媒層121はイオン交換膜のいずれかの側で、イオン交換膜に隣接して配置されている。燃料電池は、各電極触媒層の、イオン交換膜130に背を向ける側で、それぞれ第1電極触媒層111及び第2電極触媒層121に隣接して配置された第1セパレータエレメント装置110と第2セパレータエレメント装置120とをさらに含む。それぞれのセパレータエレメント装置が、セパレータエレメント310と、セパレータエレメントに隣接して配置された拡散層320とを含む。セパレータエレメント装置110,120の少なくとも1つが、本明細書中で前述したセパレータエレメント装置である。すなわち、セパレータエレメント装置が、前述のように、やはりセパレータエレメント310の表面に取り付けられた複数の細長ナノ構造311を含み、細長ナノ構造の少なくともいくつかが、拡散層320内へ延びることにより、セパレータエレメント310を拡散層320に結合するように配置されている。燃料電池内では、それぞれのセパレータエレメント装置は、拡散層320がセパレータエレメント及び隣接する電極触媒層との間にサンドイッチされるように配置されている。
【0114】
イオン交換膜130と、電極触媒層111,121と、拡散層320と、セパレータエレメント310とは前述のように、ほとんど平面状のエレメントであってよい。したがって、第1電極触媒層111と第2電極触媒層121とがイオン交換膜130のいずれかの側に配置されている場合には、これは、第1電極触媒層111がイオン交換膜の第1側の近くに設けられ、そして第2電極触媒層121がイオン交換膜の第2側の近くに設けられているので、2つの電極触媒層はイオン交換膜130によって分離され、イオン交換膜130、第1電極触媒層111、及び第2電極触媒層121の延在平面は互いにほぼ平行である。
【0115】
換言すれば、燃料電池はほとんど平面状のエレメントから成る積み重ね(stack)であって、この積み重ねは、第1セパレータエレメント、第1拡散層、第1電極触媒層111、イオン交換膜130、第2電極触媒層121、第2拡散層、及び第2セパレータエレメントを順番に含む、積み重ねであると言うことができる。第1セパレータエレメントと第1拡散層とは一緒に第1セパレータエレメント装置110を形成し、そして第2セパレータエレメントと第2拡散層とは第2セパレータエレメント装置120を形成する。
【0116】
燃料電池は、図5に示されているように、直列に接続されたいくつかのセルを有する積み重ねの形でしばしば配置されている。したがって、上記少なくとも1つの燃料電池100を含む燃料電池スタック500も、本明細書中に開示されている。燃料電池スタック500は、本明細書に記載されたセパレータエレメント装置を含まない1つ又は2つ以上の燃料電池を含んでもよく、又は上記複数の燃料電池100を含んでもよい。
【0117】
また、図2及び3を参照して、イオン交換膜230と、第1電極触媒層211と、第2電極触媒層221とを含む電解槽200が本明細書中に開示されている。第1電極触媒層211及び第2電極触媒層221は、イオン交換膜のいずれかの側で、前記イオン交換膜230に隣接して配置されている。電解槽は、第1電極触媒層211及び第2電極触媒層221のそれぞれの、イオン交換膜230に背を向ける側で、第1電極触媒層211及び第2電極触媒層221に隣接して配置された第1セパレータエレメント装置210と第2セパレータエレメント装置220とをさらに含む。それぞれのセパレータエレメント装置は、セパレータエレメント310と、セパレータエレメントに隣接して配置された拡散層320とを含む。
【0118】
セパレータエレメント装置210,220の少なくとも1つが、本明細書中で前述したセパレータエレメント装置である。すなわち、セパレータエレメント装置が複数の細長ナノ構造311を含み、複数の細長ナノ構造は、セパレータエレメント310の表面に取り付けられており、細長ナノ構造の少なくともいくつかが、拡散層320内へ延びることにより、セパレータエレメント310をそれぞれの拡散層320に結合するように配置されている。電解槽内では、それぞれのセパレータエレメント装置は、拡散層320がセパレータエレメント310及び隣接する電極触媒層との間にサンドイッチされるように配置されている。
【0119】
イオン交換膜230、電極触媒層211,221、拡散層320、及びセパレータエレメント310は、前述のようなほとんど平面状のエレメントであってよい。したがって、第1電極触媒層211と第2電極触媒層221とがイオン交換膜230のいずれかの側に配置されている場合には、これは、第1電極触媒層211がイオン交換膜230の第1側の近くに配置され、そして第2電極触媒層221がイオン交換膜230の第2側の近くに配置されているので、2つの電極触媒層はイオン交換膜230によって分離され、イオン交換膜230、第1電極触媒層211、及び第2電極触媒層221の延在平面は互いにほぼ平行である。
【0120】
換言すれば、燃料電池はほとんど平面状のエレメントから成る積み重ねであって、この積み重ねは、第1セパレータエレメント、第1拡散層、第1電極触媒層211、イオン交換膜230、第2電極触媒層221、第2拡散層、及び第2セパレータエレメントを順番に含む、積み重ねであると言うことができる。第1セパレータエレメントと第1拡散層とは一緒に第1セパレータエレメント装置210を形成し、そして第2セパレータエレメントと第2拡散層とは第2セパレータエレメント装置220を形成する。
【0121】
上記少なくとも1つの電解槽を含む電解槽スタックも開示されている。電解槽スタックは、本明細書に記載されたセパレータエレメント装置を含まない1つ又は2つ以上の電解槽を含んでもよく、又は上記複数の電解槽100を含んでもよい。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
【国際調査報告】