(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】瘢痕診断試薬及びその応用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240628BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240628BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240628BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240628BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240628BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240628BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C12Q1/68
C07K16/28
C12N15/113 Z
A61K45/00
A61K39/395 N
A61P17/02
G01N33/53 Y
G01N33/53 M
G01N33/53 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580630
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2022104807
(87)【国際公開番号】W WO2023284660
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】202110789312.5
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521460077
【氏名又は名称】上海交通大学医学院附属第九人民医院
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI NINTH PEOPLE‘S HOSPITAL AFFILIATED TO SHANGHAI JIAOTONG UNIVERSITY SCHOOL OF MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】100207561
【氏名又は名称】柳元 八大
(72)【発明者】
【氏名】章 一新
(72)【発明者】
【氏名】許 恒
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS33
4B063QS34
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本願は、診断試薬の分野に関し、具体的には、瘢痕診断試薬及びその応用に関する。本願では、初めてケロイド患者の末梢血内のCD3+CD8+細胞傷害性T細胞の顕著な減少を発見し、初めて免疫微小環境のケロイドの発病において重要な役割を果たすことを発見した。また、初めてsHLA-Eの健常者の体内での発現が肥厚性瘢痕患者とケロイド患者に比べていずれも顕著な差があったことを発見した。sHLA-Eを診断マーカーとし、同じ病理学的瘢痕に属すると考えられる肥厚性瘢痕とケロイドとを同定する同定診断に用い、そしてケロイドの治療効果を判断するために用いることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、KLRC1又は可溶性ヒト白血球抗原Eの検出試薬の、ケロイドの検出及び/又は予後試薬又はキットの製造における応用。
【請求項2】
CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、KLRC1又は可溶性ヒト白血球抗原Eの検出試薬の、肥厚性瘢痕及びケロイドを同定する検出試薬又はキットの製造における応用。
【請求項3】
可溶性ヒト白血球抗原Eの検出試薬の、ケロイド及び悪性隆起性皮膚線維肉腫を同定する検出試薬又はキットの製造における応用。
【請求項4】
CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、KLRC1遺伝子、又は可溶性ヒト白血球抗原Eの検出試薬の、ケロイドの治療効果を予測するキットの製造における応用であって、
好ましくは、治療は、手術、放射線療法、レーザー療法、ホルモン療法から選択された少なくとも1種であり、
好ましくは、前記治療は、手術、ホルモン療法、手術と放射線療法との併用療法、又はホルモンとレーザーとの併用療法から選択された少なくとも1種であり、
好ましくは、前記治療は、ホルモン療法から選択され、
好ましくは、前記ホルモン療法は、糖質コルチコイド+5-フルオロウラシル療法から選択される、
応用。
【請求項5】
a)、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、可溶性ヒト白血球抗原E又は
KLRC1を対象とする検出部材と、
b)、前記検出部材が検出する検出対象試料のCD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、可溶性ヒト白血球抗原E又はKLRC1と、対照試料のCD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、可溶性ヒト白血球抗原E又はKLRC1との偏差に基づいて、病理学的瘢痕の疾病リスク又は予後効果を判断する結果判断部材と、を含む、
ことを特徴とするケロイドの診断及び/又は予後判断システム。
【請求項6】
検出部材で可溶性ヒト白血球抗原Eを検出する場合、可溶性ヒト白血球抗原Eの含有量>3ng/mlであると、ケロイドであると判断し、
好ましくは、可溶性ヒト白血球抗原Eの含有量<3ng/mlであると、非ケロイドであると判断し、
好ましくは、前記非ケロイドは、肥厚性瘢痕又は正常から選択され、
好ましくは、治療後に可溶性ヒト白血球抗原Eの含有量<3ng/mlであると、ケロイドが再発しなかったと判断する、
ことを特徴とする請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
治療標的としてのKLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの、ケロイド治療薬の製造における応用。
【請求項8】
KLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの阻害剤の、ケロイド治療薬の製造における応用。
【請求項9】
a)、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、可溶性ヒト白血球抗原E又はKLRC1を対象とする検出システムと、
b)、投薬システムと、を含み、
好ましくは、前記投薬システムは、KLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの阻害剤を含む、
ことを特徴とするケロイド治療システム。
【請求項10】
前記阻害剤は、KLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの発現を減少させ、KLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eを分解させ、或いはKLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eを拮抗する機能を有する物質から選択され、
好ましくは、前記KLRC1遺伝子の阻害剤は、核酸エフェクター分子を含み、
好ましくは、前記核酸エフェクター分子は、DNA、RNA、PNA又はDNA-RNA-ヘテロ接合体を含み、
好ましくは、前記核酸エフェクター分子は、KLRC1遺伝子の全体又は一部の発現を阻害し、
好ましくは、前記核酸エフェクター分子は、siRNA、dsRNA、miRNA、リボザイム及びshRNAから選択された少なくとも1種であり、
好ましくは、前記NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの阻害剤は、抗体及びその機能性断片、又は小分子化合物から選択された少なくとも1種であり、
好ましくは、前記抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ナノ抗体、Fab抗体、Fv抗体、又は一本鎖抗体から選択された少なくとも1種であり、
好ましくは、前記抗体は、モノクローナル抗体から選択され、
好ましくは、前記抗体は、monalizumabから選択される、
ことを特徴とする請求項8に記載の応用又は請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
検出された検出試料は、血液から選択され、
好ましくは、前記検出試料は、末梢血の血液から選択され、
好ましくは、前記検出試料は、末梢血の血清から選択される、
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の応用又はシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断試薬の分野に関し、具体的には、瘢痕診断試薬及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ケロイド(Keloid)は、皮膚の傷口が癒着するか又は不明な原因による皮膚の損傷が癒着した後に形成された過剰成長による異常瘢痕組織であり、前胸、耳たぶ、下顎及び背部は、ケロイドが発症するリスクの高い領域である。病変は、単一部位で発症する可能があり、全身が多発する可能性もあり、非自己制限的な成長状態であり、痒み、痛みなどの不快感を伴うことが多い。ケロイドの病理学的挙動は、組織内の線維芽細胞が過度に増殖して細胞外マトリックスを分泌することであり、TGF-βはこの過程で重要な役割を果たす。しかしながら、この疾患の発病メカニズムが明らかではなく、病変組織を切除した後にケロイドの再発率が100%に近く、TGF-β拮抗剤などの方法を用いてもケロイドの成長を抑制することができないため、ケロイドの発病メカニズムを探求し、更に効果的な治療方法を開発することは臨床的な痛点である。現在、古典的な治療方法は、組織内に糖質コルチコイドを注射することであり、治療の再発率が高くて30~50%であるが、病変成長を制御して徐々に小さくすることができる。糖質コルチコイドは、古典的な免疫阻害剤として、例えばCD8+T細胞を抑制し、調節性T細胞の機能を増強するという免疫細胞の増殖、機能を調整するという作用を有する。
【0003】
ケロイドの発病メカニズム及び確実かつ有効な診断方法については、現在報告されていない。
【発明の概要】
【0004】
一態様によれば、本願は、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、KLRC1又は可溶性ヒト白血球抗原Eの検出試薬の、ケロイドの検出及び/又は予後試薬又はキットの製造における応用を提供する。
【0005】
本願において、KLRC1遺伝子の検出は、KLRC1遺伝子が発現する中間生成物の検出を含み、いくつかの実施形態では、NKG2A/KLRC1の検出を含み、具体的には、CD3、CD8、T-bet、CD94、NKG2Aという5つのタンパク質からなるpanelによって検出された特定の細胞群のNKG2A発現に差があることを含む。
【0006】
本願において、単細胞分析方法を用いて初めてケロイド患者の末梢血内のCD3+CD8+細胞傷害性T細胞の顕著な減少を発見し、フローサイトメトリーで検証したところ、当該細胞群の病原蛋白がいずれも顕著に減少することを提示した。相関転写因子、分化関連タンパク質、増殖タンパク質がいずれも減少したが、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞のアポトーシス状況が明らかに変化しなかった。
【0007】
単細胞分析においてCD3+CD8+細胞傷害性T細胞を抽出して更に分析し、dotplot分析技術を用いて健常者と患者の試料間で差次的に発現している上位11位になる遺伝子を選別し、KLRC1遺伝子が患者の試料において高発現していることを発見した(
図3A)。
【0008】
フローサイトメトリーを用いてCD3+CD8+T-bet+細胞傷害性T細胞内のCD94+NKG2A+細胞の割合を検出したところ、結果として、ケロイド患者の末梢血内のCD3+CD8+T-bet+細胞傷害性T細胞内のCD94+NKG2A+細胞の割合が健常者より顕著に高いことが示唆されたため(
図3B、p<0.0001)、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞の減少は、CD94/NKG2A免疫チェックポイントの媒介によるものである可能性がある。
【0009】
本願の検出結果は、ケロイド患者の体内のsHLA-Eが健常者より顕著に高いことを提示し、ケロイド患者の体内で高発現しているsHLA-EがCD3+CD8+細胞傷害性T細胞の高発現しているCD94/NKG2A免疫チェックポイントと結合した後にCD94+NKG2A+細胞の割合及び機能を阻害したことを直接的に証明した。
【0010】
一態様によれば、本願は、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、KLRC1又は可溶性ヒト白血球抗原Eの検出試薬の、肥厚性瘢痕及びケロイドを同定する検出試薬又はキットの製造における応用を提供する。
【0011】
一態様によれば、本願は、可溶性ヒト白血球抗原Eの検出試薬の、ケロイド及び悪性隆起性皮膚線維肉腫を同定する検出試薬又はキットの製造における応用を提供する。
【0012】
一態様によれば、本願は、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、KLRC1又は可溶性ヒト白血球抗原Eの検出試薬の、ケロイドの治療効果を予測するキットの製造における応用を提供する。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記治療は、手術、放射線療法、レーザー療法、ホルモン療法から選択された少なくとも1種であり、いくつかの実施形態では、前記治療は、手術、ホルモン療法、手術と放射線療法との併用療法、又はホルモンとレーザーとの併用療法から選択された少なくとも1種であり、いくつかの実施形態では、前記治療は、ホルモン療法から選択され、いくつかの実施形態では、前記ホルモン療法は、糖質コルチコイド+5-フルオロウラシル療法から選択される。
【0014】
一態様によれば、本願は、
a)、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、可溶性ヒト白血球抗原E又はKLRC1を対象とする検出部材と、
b)、前記検出部材が検出する検出対象試料のCD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、可溶性ヒト白血球抗原E又はKLRC1と、対照試料のCD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、可溶性ヒト白血球抗原E又はKLRC1遺伝子の発現との偏差に基づいて、病理学的瘢痕の疾病リスク又は予後効果を判断する結果判断部材と、を含むケロイドの診断及び/又は予後判断システムを提供する。
【0015】
いくつかの実施形態では、検出部材が可溶性ヒト白血球抗原Eを検出する場合、可溶性ヒト白血球抗原Eの含有量>3ng/mlであると、ケロイドであると判断し、
いくつかの実施形態では、可溶性ヒト白血球抗原Eの含有量<3ng/mlであると、非ケロイドであると判断し、いくつかの実施形態では、前記非ケロイドは、肥厚性瘢痕又は正常から選択され、いくつかの実施形態では、治療後に可溶性ヒト白血球抗原Eの含有量<3ng/mlであると、ケロイドが再発しなかったと判断する。
【0016】
一態様によれば、本願は、治療標的としてのKLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの、ケロイド治療薬の製造における応用を提供する。
【0017】
一態様によれば、本願は、KLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの阻害剤の、ケロイド治療薬の製造における応用を提供する。
【0018】
一態様によれば、本願は、
a)、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞、NKG2A、可溶性ヒト白血球抗原E又はKLRC1を対象とする検出システムと、
b)、投薬システムと、を含む、ケロイド治療システムを提供する。
【0019】
いくつかの実施形態では、投薬システムは、KLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの阻害剤を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記阻害剤は、KLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの発現を減少させ、KLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eを分解させ、或いはKLRC1遺伝子、NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eを拮抗する機能を有する物質から選択される。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記KLRC1遺伝子阻害剤は、核酸エフェクター分子を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記核酸エフェクター分子は、DNA、RNA、PNA又はDNA-RNA-ヘテロ接合体を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記核酸エフェクター分子は、KLRC1遺伝子の全体又は一部の発現を阻害する。
【0024】
いくつかの実施形態では、前記核酸エフェクター分子は、siRNA、dsRNA、miRNA、リボザイム及びshRNAから選択された少なくとも1種である。
【0025】
いくつかの実施形態では、前記NKG2A又は可溶性ヒト白血球抗原Eの阻害剤は、抗体及びその機能性断片、又は小分子化合物から選択された少なくとも1種である。
【0026】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ナノ抗体、Fab抗体、Fv抗体、又は一本鎖抗体から選択された少なくとも1種である。
【0027】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、モノクローナル抗体から選択される。
【0028】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、monalizumabから選択される。
【0029】
いくつかの実施形態では、検出された検出試料は、血液から選択され、いくつかの実施形態では、検出された検出試料は、末梢血の血液から選択され、いくつかの実施形態では、検出された検出試料は、末梢血の血清から選択される。
【0030】
本願における「検出」は、診断と同じであり、病理学的瘢痕の早期(例えば、病歴1年以内)の診断に加え、病理学的瘢痕の中期及び後期の診断も含み、病理学的瘢痕のスクリーニング、リスク評価、予後、疾患認識、病症段階の診断及び治療性標的の選択も含む。
【0031】
本願において発見されたケロイド患者の末梢血管内でCD3+CD8+細胞傷害性T細胞が顕著に減少したことは、ケロイド疾患に全身免疫系異常が存在することを提示し、系統的な治療方法、例えば、抗原刺激、細胞のインビトロ増殖後の養子、細胞の薬物による増殖、及びCD3+CD8+細胞傷害性T細胞に対して拮抗する作用を有するサイトカイン、細胞などの作用の阻害を応用することができることを提示する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】末梢血内の異なる種類の単核細胞の変化に対する単細胞シーケンシングと分析を示す。(A)、単細胞シーケンシング概略図であり、2名の健常者及び2名の患者から末梢血を抽出した後、単核細胞行を単離して10×単細胞シーケンシングと分析を行った。表1は、図(A)で用いた患者情報である。(B)、単細胞シーケンシングと分析を示し、t-sne分析で見られた全ての試料の末梢血単核細胞を11個の群に分けることができる。(C)、trackplot分析方法を用いて、異なる細胞群内の細胞種類関連タンパク質の発現を調べた。(D)、t-sneを用いて、4つの試料における11個の細胞群の数をそれぞれ分析した。(E)、図(C)及び図(D)を組み合わせて4つの試料の棒グラフを作成して11個の細胞群の割合を分析してそれらを定義し、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞(即ちCD8+cytotoxicity T cell)が患者の試料において顕著に減少した。(F)、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞(即ちCD8+cytotoxicity T cell)に対して、その標識タンパク質の遺伝子発現であるCD3E、CD8A、CD8B、GZMB、IFNG、TBX21を更に分析した。それらの発現が顕著であり、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞(即ちCD8+cytotoxicity T cell)の生物学的定義に適合することを発見した。
【
図2】フローサイトメトリーによる単細胞分析の結果への検証を示す。(A)、CD3+CD8+T細胞は、健常者と患者との間に顕著な差がなかった。(B)、CD3+CD8+T細胞をゲーティングして選択した後、Granzyme B、Granulysin及びIFN-γ陽性の細胞を検出し、その結果、ケロイド患者のCD3+CD8+T細胞の細胞傷害性機能関連タンパク質が減少した。(C)、CD3+CD8+T細胞をゲーティングして選択した後、細胞傷害性に関連する転写因子T-betを検出し、ケロイド試料内において低下したことを提示した。(D)、CD3+CD8+T細胞をゲーティングして選択した後、Granzyme B+Ki67+(細胞傷害性細胞の増殖機能)、Bcl2(細胞傷害性細胞のアポトーシス)及びGranzyme B+KLRG1+(細胞傷害性細胞の分化転写)を検出し、その結果、ケロイド患者のCD3+CD8+T細胞の細胞傷害性細胞の増殖及び分化転写能力が低下したが、アポトーシスが明らかに変化しなかった。(E)、CD3+CD8+Granzyme B T細胞傷害性細胞をゲーティングして選択した後、枯渇関連タンパク質であるPD-1、Lag3陽性細胞を検出し、健常者と患者に顕著な差がなかった。注:HDは、健常者であり、NTKは、ケロイド患者である。
【
図3】10×単細胞シーケンシングと分析を行ったところ、KLRC1でコード化されたNKG2AがCD3+CD8+細胞傷害性T細胞の割合が低下した原因である可能性があることを示す。(A)、単細胞シーケンシングでCD3+CD8+細胞傷害性T細胞を選別した後、dotplotを用いて、差次的に発現している上位11位の遺伝子を分析した。(B)、フローサイトメトリーを用いて、CD3+CD8+T-bet+細胞傷害性T細胞内のCD94+NKG2A+細胞の発現割合がケロイド患者の体内で顕著に上昇したことを検証した。注:HDは、健常者であり、NTKは、ケロイド患者である。
【
図4】CD94/NKG2A免疫チェックポイントリガンドHLA-Eが末梢血内にあり、即ちsHLA-Eが顕著に増加した。(A)、sHLA-Eの標準値曲線に対して線形フィッティング分析を行い、機械で読み取られたOD値とsHLA-E濃度(ng/ml)の換算方法を取得することを示す。(B)、健常者及び治療を受けていないケロイド患者の末梢血sHLA-Eの発現をt検定で分析した。
【
図5】sHLA-Eの診断効力を示す。(A)、健常者、肥厚性瘢痕患者及び治療を受けていないケロイド患者の末梢血sHLA-Eの発現を分散分析した。(B)、健常者、治療を受けていないケロイド患者及び糖質コルチコイド療法を受けた患者の末梢血sHLA-Eの発現を分析した。
【発明を実施するための形態】
【0033】
汎用実験手順
【0034】
材料及び方法
【0035】
1)病人及び試料情報
凝血促進チューブを用いて患者から血液を抽出して取得した。患者の記録及び診断情報は、病院記録システム及び電話で定期的に病人を訪問観察することにより取得された。本研究は、上海交通大学医学院付属第九人民病院倫理委員会の同意を得て、そして血液を抽出する前に患者の同意を得た。
【0036】
治療を受けた患者は、古典的な糖質コルチコイド+5-FU病巣局所注射による治療を受け、具体的な配合は、(糖質コルチコイド(トリアムシノロンアセトニド)1ml+5-FU0.5ml+リドカイン4ml)であり、リドカインは、局所麻酔薬である。患者が治療を受けた6ヵ月後に血液を抽出して検出した。
【0037】
2)末梢血単核細胞と血清の単離
末梢血単核細胞を取得する際に抗凝固チューブを用いて採血した後、10mlのficoll溶媒を加え、十分に均一に混合させた後、遠心分離機に入れて800gで15min遠心分離して成層した後、中間白色層を取り出した。赤血球溶解液を用いて残留の赤血球を溶解させた後、遠心分離機に入れて800gで15min遠心分離し、上清を捨て、1×PBSを加えて細胞を再懸濁した。70μmの濾網で細胞を濾過し、再び遠心分離機に入れて800gで15min遠心分離した後、上清を捨て、細胞を2mlの1×PBS内に再懸濁し、それぞれ2つの2mlのEPチューブ内に置いて-80℃の冷蔵庫に凍結させた。
【0038】
末梢血の血清を取得する際に凝血促進チューブを用いて末梢血を2ml収集し、4℃で静置して血液を完全に凝固させた。その後に凝血試料を2500~3000回転/分間で遠心分離し、凝血チューブ中のゲル上層の上清をEPチューブに抽出し、-80℃の冷蔵庫に保存し、次の試験に用いた。
【0039】
3)単細胞シーケンシングと分析
病歴が10年以上で、最近3年間内にいずれの治療も受けず、ケロイドが持続的に成長し、半年に風邪/創傷の病歴がなく、基礎疾患がなく、薬物を服用せず、ケロイドに関する合併症(例えば、潰瘍、感染、出血)がないケロイド患者を2名選択し、半年に風邪/創傷の病歴がなく、基礎疾患がなく、薬物を服用しない健常者を2名選択した。末梢血の単核細胞行10×単細胞シーケンシング+分析を行った(この部分は北京ノボジーンテクノロジー株式会社によって行われた)。
【0040】
4)フローサイトメトリーによる分析
フローサイト抗体であるCD3、CD8、Granzyme B、IFN-γ、Granulysin、T-bet、Ki67、Bcl2、KLRG1、PD-1、Lag3を用意した。末梢血単核細胞の膜タンパク質+核内染色を行い、その後、フローサイトメトリー検出を行った(この部分は上海ユナイブバイオテクノロジ株式会社によって行われた)。
【0041】
5)ELISA検出
a)ELISA検出を開始する前にELISAキットにおける各試薬を取り出し、試薬を室温まで平衡化し、-80℃で保存された患者の血清を取り出し、室温に回復させる。
【0042】
b)標準品作動液の調製では、標準品を10000×gで1分間遠心分離し、標準品と試料希釈液1.0mlを凍結乾燥標準品に入れ、チューブ蓋を締め付け、10分間静置し、数回上下ひっくり返し、十分に均一に混合させて溶解させ、20ng/mlの標準品作動液に調製し、調製過程で十分に均一に混合させ、泡立ちをできるだけ回避する。その後、必要に応じて倍加希釈を行った。調製濃度を20、10、5、2.5、1.25、0.63、0.31、0ng/mlとした。倍加希釈方法では、7本のEPチューブを取って、各チューブに標準品&試料希釈液を500μl加え、20ng/mlの標準品作動液から500μlを吸い取ってそのうちの1本のEPチューブに入れて均一に混合させて10ng/mlの標準品作動液に調製し、以降この手順で順に吸い取って均一に混合させた。
【0043】
c)試料の加えでは、ブランクウェル、標準ウェル、検出対象試料ウェルをそれぞれ設けた。ブランクウェルに試料希釈液100μlを加え、残りのウェルに標準品又は検出対象試料100μlをそれぞれ加えた。ELISA用プレートに被膜し、37℃で90分間インキュベートした。
【0044】
d)ビオチン化抗体作動液の調製では、次の試験を開始する前の15分間ビオチン化抗体希釈液を調製し、試験前に等級試験に必要な使用量(100μl/ウェルで計算)を計算し、実際に調製する場合に100~200μlを多く調製すべきである。使用前の15分間に、濃縮ビオチン化抗体を800×gで1分間遠心分離し、ビオチン化抗体希釈液で100×濃縮ビオチン化抗体を1×作動濃度に希釈した。
【0045】
e)液体を捨て、振り切り乾燥させ、洗浄せず、各ウェルにビオチン化抗体の作動液を100μl加え(使用前の15分間に調製した)、ELISA用プレートに被膜を加え、37℃で1時間インキュベートした。
【0046】
f)洗浄液の調製では、濃縮洗浄液を二重蒸留水で希釈した(1:24)。
【0047】
g)ウェル内の液体を捨て、振り切り乾燥させ、洗浄液でプレートを3回洗浄し、毎回1~2分間浸漬し、約350μl/ウェルとし、振り切り乾燥させ、ティッシュペーパーに軽く叩いてウェル内の液体を完全に除去した。
【0048】
h)酵素結合物作動液の調製では、使用前の15分間から調製を開始し、試験前に等級試験に必要な使用量(100μl/ウェルで計算)を計算し、実際に調製する場合に100~200μlを多く調製すべきである。使用前の15分間に、濃縮HRP酵素結合物を800×gで1分間遠心分離し、酵素結合物希釈液で100×濃縮HRP酵素結合物を1×作動濃度に希釈した。
【0049】
i)各ウェルにHRP酵素結合物作動液(使用前の15分間に調製した)100μlを加え、被膜を加え、37℃で30分間インキュベートした。
【0050】
j)ウェル内の液体を捨て、振り切り乾燥させ、ステップgと同じ方法でプレートを5回洗浄した。
【0051】
k)各ウェルに基質溶液90μlを加え、ELISA用プレートに被膜を加え、37℃で15分間遮光インキュベートした。
【0052】
l)各ウェルに停止液50μlを加え、反応を停止し、この時、青色が直ちに黄色に変化した。
【0053】
m)直ちに又は半時間内にELISAリーダーで450nm波長で各ウェルの光学濃度(OD値)を測定した。事前にELISAリーダーの電源をオンにし、機器を予熱し、検出プログラムを設定すべきである。
【0054】
6)sHLA-E濃度の計算
標準濃度及び対応するOD値に基づいてSPSSソフトウェア(version 16.0、SPSS Inc、Chicago、IL)を用いて線形フィッティング分析を行い、線形曲線及び濃度とOD値の換算方法を取得した。その後に、健常者、肥厚性瘢痕患者及びケロイド患者のsHLA-E濃度を計算した。
【0055】
7)データ分析
SPSSソフトウェア(version 16.0、SPSS Inc、Chicago、IL)を用いて統計学的分析を行い、2つの変数間の差異について対応のあるt検定を用いた。3つ以上の試料を比較して、一元配置分散分析(ANOVA、F分布を用いた)を用いた。 データがガウス分布に従わない場合、Wilcoxonペアリング符号平均順位和検定とMann-Whitney検定を2種類のノンパラメータ検定とした。全ての測定データをいずれもmean±SDで表した。P<0.05は、統計学的に有意であるとみなした。
【0056】
(実施例1)
末梢血内の異なる種類の単核細胞の変化に対する10×単細胞シーケンシングと分析
【0057】
病人及び試料情報について
2名の健常者及び2名のケロイド患者から末梢血を抽出した後、単核細胞行を単離して10×単細胞シーケンシングと分析を行った。4人は、いずれも他の基礎疾患がなく、長期薬物服用歴がなく、1年間内に風邪及び創傷などの病歴がなく、2名の患者は、病歴がそれぞれ14年と10年であり、最近3年間内にいずれの治療も受けず、かつ局所感染、潰瘍等の合併症がない(
図1A及び表1)。
【0058】
【0059】
t-sne分析で見られた全ての試料の末梢血単核細胞を0~10という11個の細胞サブセットに分けることができる(
図1B)。trackplot分析方法を用いて、異なる細胞群内の細胞種類関連タンパク質の発現を調べた後に細胞を定義した(
図1C)。t-sneを用いて、4つの試料における11個の細胞群の数をそれぞれ分析した(
図1D)。その後に、図(C)及び図(D)を組み合わせて4つの試料の棒グラフを作成して11個の細胞群の割合を分析してそれらを定義し、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞(即ちCD8+cytotoxicity T cell、CTL)が患者の試料において顕著に減少したことを発見した(
図1E)。患者の試料において減少した細胞群がCD3+CD8+細胞傷害性T細胞(即ちCD8+cytotoxicity T cell)であることを更に確定するために、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞の標識タンパク質の遺伝子発現であるCD3E、CD8A、CD8B、GZMB、IFNG、TBX21を更に分析した。それらの発現が顕著であり、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞(即ちCD8+cytotoxicity T cell)の生物学的定義に適合することを発見した(
図1F)。
【0060】
(実施例2)
フローサイトメトリーによる単細胞分析の結果への検証
【0061】
病人及び試料情報について
上海交通大学医学院付属第九人民病院で治療を受けているケロイド患者(34名)及び健常者(36名)を組み入れた。
【0062】
CD3+CD8+T細胞は、健常者と患者との間に顕著な差がなかった(
図2A)。CD3+CD8+T細胞をゲーティングして選択した後、Granzyme B、Granulysin及びIFN-γ陽性の細胞、即ち細胞傷害性に関連するサイトカインを検出し、その結果、ケロイド患者のCD3+CD8+T細胞の細胞傷害性機能関連タンパク質が減少したことを示している(
図2B)。CD3+CD8+T細胞をゲーティングして選択した後、細胞傷害性に関連する転写因子T-betを検出し、ケロイド試料内において低下したことを提示した(
図2C)。細胞群の一般的な機能を分析し、CD3+CD8+T細胞をゲーティングして選択した後、Granzyme B+Ki67+(細胞傷害性細胞の増殖機能)、Granzyme B+Bcl2(細胞傷害性細胞のアポトーシス)及びGranzyme B+KLRG1+(細胞傷害性細胞の分化転写)を検出し、その結果、ケロイド患者のCD3+CD8+T細胞の細胞傷害性細胞の増殖及び分化転写能力が低下したが、アポトーシスが明らかに変化しなかった(
図2D)。CD3+CD8+細胞傷害性T細胞の減少が細胞機能枯渇に関与する可能性があると推測したため、CD3+CD8+Granzyme B T細胞傷害性細胞をゲーティングして選択した後、枯渇関連タンパク質であるPD-1、Lag3陽性細胞を検出し、健常者と患者に顕著な差がなかったことを発見した(
図2E)。
【0063】
(実施例3)
単細胞シーケンシングと分析でCD3+CD8+細胞傷害性T細胞の減少の可能性がある原因を掘り出す
【0064】
病人及び試料情報は、実施例1と同じであった。
【0065】
単細胞分析においてCD3+CD8+細胞傷害性T細胞を抽出して更に分析し、dotplot分析技術を用いて健常者と患者の試料間で差次的に発現している上位11位になる遺伝子を選別し、KLRC1遺伝子が患者の試料において高発現していることを発見し、例えば
図3Aに示されるケロイドが対応するKLRC1の丸がより大きい(丸の大きさが発現の割合を示し、色が発現の強度を示す)。
【0066】
KLRC1でコード化されたタンパク質はNKG2Aであり、NKG2Aは一般的にCD94と組み合わされて免疫チェックポイントとして作動する。この免疫チェックポイントが作動すると、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞が阻害される。このメカニズムは、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞がケロイド患者の体内で低下したことを解釈することができる。したがって、フローサイトメトリーを用いてCD3+CD8+T-bet+細胞傷害性T細胞内のCD94+NKG2A+細胞の割合を検出したところ、結果として、ケロイド患者の末梢血内のCD3+CD8+T-bet+細胞傷害性T細胞内のCD94+NKG2A+細胞の割合が健常者より顕著に高いことが示唆されたため(
図3B、p<0.0001)、CD3+CD8+細胞傷害性T細胞の減少は、CD94/NKG2A免疫チェックポイントの媒介によるものである可能性がある。
【0067】
(実施例4)
CD94/NKG2A免疫チェックポイントリガンドの検出
【0068】
病人及び試料情報は、実施例2と同じであった。
【0069】
CD94/NKG2A免疫チェックポイントの特異的リガンドは、ヒト白血球抗原E(Human lymphocyte antigen E、HLA-E)であり、当該タンパク質は、末梢血内で遊離の形態で存在する(soluble HLA-E、sHLA-E)。CD3+CD8+細胞傷害性T細胞の減少がCD94/NKG2A免疫チェックポイントによって調節されているため、sHLA-Eがそれに応じて変化し、即ち患者の体内で顕著に増加すると仮定した。
【0070】
まず、標準濃度試料とそれに対応するOD値に基づいて線形フィッティング分析を行って、標準曲線及び濃度とOD値との間の換算方法を取得し(
図4A)、換算式はY=0.1916×X+0.08524(YがOD値であり、Xが濃度(ng/ml)である)であり、R2=0.9948であり、線形フィッティング強度が高く、次にこの換算方法を用いて全ての試料の濃度値を計算した。
【0071】
この換算方法によれば、健常者と治療を受けていないケロイド患者とを対比すると、治療を受けていないケロイド患者の発現量は5.61±1.54ng/mlであり、健常者の0.50±0.46ng/mlよりも顕著に高くなった(p<0.0001、
図4B)。
【0072】
sHLA-EがCD94/NKG2Aの特異的リガンドであるため、両者が結合した後、CD94/NKG2Aを発現するCD3+CD8+細胞傷害性T細胞を顕著に阻害することができる。本実施例の検出結果は、ケロイド患者の体内のsHLA-Eが健常者より顕著に高いことを提示し、ケロイド患者の体内で高発現しているsHLA-EがCD3+CD8+細胞傷害性T細胞の高発現しているCD94/NKG2A免疫チェックポイントと結合した後にCD94+NKG2A+細胞の割合及び機能を阻害したことを直接的に証明した。
【0073】
(実施例5)
sHLA-E値を用いて健常者、肥厚性瘢痕及びケロイドの患者を同定することができる
【0074】
病人及び試料情報について
上海交通大学医学院付属第九人民病院で収容治療されたが治療を受けていないケロイド患者(34名)、健常者(36名)及び肥厚性瘢痕患者(27名)を組み入れた。
【0075】
健常者と、肥厚性瘢痕患者と治療を受けていないケロイド患者とを対比するとき、肥厚性瘢痕患者の末梢血内のsHLA-Eは、健常者に比べて顕著に増加し(1.49±0.65vs.0.50±0.46ng/ml、p<0.0001)、治療を受けていないケロイド患者の発現量は5.61±1.54ng/mlであり、健常者及び肥厚性瘢痕患者に比べていずれも顕著な差があった(p<0.0001、
図5A)。
【0076】
本実施例によれば、従来の分類において、同じ病理学的瘢痕に属する、肥厚性瘢痕患者のsHLA-E発現は、ケロイド患者に比べて明らかに減少したが、健常者よりも高いことを証明した。
【0077】
(実施例6)
sHLA-E値を用いてケロイド患者が糖質コルチコイド療法を受けた後の状況を判断することができる
【0078】
病人及び試料情報は、実施例2と同じであった。
【0079】
健常者と、治療を受けていないケロイド患者と、糖質コルチコイド療法を受けた患者とを対比すると、治療を受けていないケロイド患者の発現量は、5.61±1.54ng/mlであり、健常者の0.50±0.46ng/mlよりも顕著に高く(p<0.0001)、古典的な糖質コルチコイド療法を受けたケロイド患者のsHLA-Eの発現は、2.15±1.73ng/mlであり、治療を受けていない患者(p<0.0001、
図5B)よりも顕著に低いが、健常者よりも高かった。
【0080】
実施例5、6の結果は、sHLA-Eが病理学的瘢痕の発生と顕著な関連性があり、そして異なる種類の病理学的瘢痕、即ち肥厚性瘢痕とケロイドとの間の発現が異なることを証明した。この結果は、2種類の瘢痕が発病メカニズムに同じ点を有するが、病原因子の強度に明らかな差があることを示唆している。これは、両者の臨床的な表現が異なる原因であり、即ち肥厚性瘢痕の成長が自己制限的であり、元の傷口の境界を超えず、ケロイドの成長が非自己制限であり、既存の傷口の境界を超えて周囲の正常組織に絶えず進展することができる。ケロイド治療後、sHLA-Eが明らかに減少したことは、糖質コルチコイド+5-FUの治療有効性が末梢血の血清中で反応し得ることを示唆している。
【0081】
(実施例7)
集団試料においてsHLA-Eの同定効果を検証する
【0082】
病人及び試料情報は、512名の健常なドナー、100名の干渉症例患者(他の疾患(即ち、非ケロイド)と診断された患者)及び104名のケロイド患者(治療を受けていない)である。
【0083】
血清sHLA-Eについて、健常なドナーの場合、1.26±1.00ng/mlであり、干渉症例患者の場合、2.05±2.41ng/mlであり、いずれもケロイド患者より顕著に低かった(6.34±2.58、P<0.0001、表2)。本発明者らは、sHLA-Eの臨界値を3ng/mlに設定して、感受性(82.69%)と特異性(非ケロイド(健常なドナー+干渉症例)vsケロイド=92.16%、健常なドナー(非ケロイド)vsケロイド=94.73%(特異性)、干渉症例(非ケロイド)vsケロイド症例=79.00%(特異性)があるsHLA-E診断ケロイドを評価した(表2)。本発明者ら、61名のケロイド患者を追跡し、それらは>3回の病巣内治療(トリアムシノロンアセトニド+5-FU)を受けた。治療を停止した後、13名の患者(21.31%)のケロイドが<6ヵ月に再発した。これら13名の患者は、最後の治療を受けた後に血清sHLA-Eが4.06±1.70ng/mlであり、他の患者よりも顕著に高かった(1.73±1.07、P<0.0002、表2)。
【0084】
健常なドナー、干渉病例患者及びケロイド患者体内の可溶性ヒト白血球抗原E(sHLA-E)のレベル
【表2】
【0085】
(実施例8)
悪性隆起性皮膚線維肉腫の検出効果
【0086】
悪性隆起性皮膚線維肉腫は、皮膚軟部組織肉腫のうちの一般的な種類であり、治療では手術を主とするが、手術の切除範囲が大きく、再発率が高いため、組織構造、形態破壊が大きい。特に、面部頸部の悪性隆起性皮膚線維肉腫は、顔器官、構造の奇形、ひいては失いをもたらすことが多い。患者への心理的な影響が大きく、社会に戻すことができないことが多い。悪性隆起性皮膚線維肉腫が発病原因、発展形態及び外観においてケロイドと高度に類似するため、しばしば治療誤診を引き起こし、治療のタイミングを遅延させて、肉腫組織が大きすぎて成長し、範囲が拡大してしまい、続いて手術の切除範囲が拡大して大きな軟部組織の破壊を引き起こす。現在、局所生検を行うか又は切除してから病理検査を行うことのほか、簡単な実行可能な同定診断方法に乏しいことに鑑み、本実施例は、臨床で診断マーカーで診断を補助することを提出し、以上の臨床応用シーンに対して大きな臨床応用価値がある。
【0087】
病人及び試料情報について
512名の健常なドナー、14名の悪性隆起性皮膚線維肉腫患者及び104名のケロイド患者(治療を受けていない)であった。
【0088】
検出したところ、血清sHLA-Eについて、健常なドナーの場合、1.26±1.00ng/mlであり、ケロイド患者の場合、6.34±2.58であった(表3)。結果は、実施例5と一致した。更に対比したところ、悪性隆起性皮膚線維肉腫患者は、血清sHLA-Eが1.24±0.59ng/mlであり、ケロイド患者より顕著に低いことを発見した(P<0.0001、表3)。sHLA-Eは、悪性隆起性皮膚線維肉腫患者及びケロイド患者の体内に顕著な差があり、悪性隆起性皮膚線維肉腫の診断に新しい構想を提供した。
【0089】
【表3】
開示された発明の原理を応用できる多くの可能な実施例に鑑み、示された実施例は、本願の好適な例に過ぎず、本願の範囲を制限するものと見なされるべきではないことを認識すべきである。むしろ、本願の範囲は、添付の特許請求の範囲によって限定される。したがって、これらの請求項の範囲及び精神から逸脱しない全ての発明の保護を求めている。
【国際調査報告】