(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】修飾ヌクレオチドの検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240628BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580649
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 EP2022068096
(87)【国際公開番号】W WO2023275268
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508311226
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】バラスブラマニアン,シャンカー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,タオ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ42
4B063QR90
(57)【要約】
本発明は、ヌクレオチド配列中の5-メチルシトシンまたは5-ヒドロキシメチルシトシンでありうる修飾シトシン残基を同定するための方法を提供する。本方法は、修飾シトシン残基を非酵素的な一電子プロセスで酸化し、5-ホルミルシトシンを形成するステップを含む。5-ホルミルシトシンの存在は、この残基を標識および同定することにより確立されうる。本発明はまた、5-メチルシトシン残基および/または5-ヒドロキシメチルシトシン残基を含むポリヌクレオチドを修飾する方法、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、5-メチルシトシン残基または5-ヒドロキシメチルシトシン残基を酸化する方法、5-メチルシトシン残基または5-ヒドロキシメチルシトシン残基を酸化するための非酵素ラジカル開始剤の使用、ならびにこれらの方法に使用するためのキットも提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基を同定する方法であって、
(i)試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの集団を提供するステップ;
(ii)非酵素的な一電子プロセスにより、集団中の修飾シトシン残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップ;
(iii)5-ホルミルシトシン(5fC)残基を標識するステップ;および
(iv)集団内の標識された残基を同定するステップ
を含み、
修飾シトシン残基が5-メチルシトシン(5mC)残基および5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基から選択される、方法。
【請求項2】
ステップ(ii)が、ラジカル開始剤の存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ラジカル開始剤が金属オキソ種である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(ii)において、ポリヌクレオチドの集団が光触媒および水の存在下で光を照射される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
光触媒が300nmから600nmの範囲に吸光度極大を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
光触媒がポリオキソメタレートである、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ポリオキソメタレートがタングステンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
光触媒がデカタングステン酸、リンタングステン酸、およびそれらの塩から選択される、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(ii)が一電子酸化剤の存在下で行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
一電子酸化剤が有機一電子酸化剤である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
一電子酸化剤が、N-フルオロベンゼンスルホンイミド、5-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウムテトラフルオロボレート、およびN-クロロサッカリンから選択される、請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(iii)が、求核剤との反応などにより5-ホルミルシトシン(5fC)残基をウラシルアナログへと変換するステップを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(iii)が、検出タグまたは単離タグにより5-ホルミルシトシン(5fC)残基を標識するステップを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(iii)が、ビオチンを含む単離タグなどの単離タグにより5-ホルミルシトシン(5fC)残基を標識するステップを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(iii)が、C4位の5-ホルミルシトシン(5fC)残基を脱アミノ化するステップ、および場合により、ピリミジン環を還元するステップなどの、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を還元するステップを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(iv)が、
(a)ステップ(iii)に続いて、集団中のポリヌクレオチドをシークエンシングして、処理されたヌクレオチド配列を生成するステップ;および
(b)試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基に対応する、処理されたヌクレオチド配列中の残基を同定するステップ
を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
修飾シトシン残基が5-メチルシトシン(5mC)残基である、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基を酸化する方法であって、
(i)試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの集団を提供するステップ、
(ii)集団中の修飾シトシン残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップであって、5-ホルミルシトシン(5fC)残基と修飾シトシン残基の生成物モル比が10:90以上である、ステップ、
(iii)場合により、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を標識するステップ、および
(iv)場合により、集団内の標識された5-ホルミルシトシン(5fC)残基を同定するステップ
を含み、
修飾シトシン残基が5-メチルシトシン(5mC)残基または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基である、方法。
【請求項19】
5-ホルミルシトシン(5fC)残基と5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基および/または5-カルボキシルシトシン(5caC)残基の生成物モル比が2:1以上である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ポリヌクレオチドを修飾する方法であって、非酵素的な一電子プロセスにより、ポリヌクレオチド中の5-メチルシトシン(5mC)残基および/または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップを含む、方法。
【請求項21】
5-メチルシトシン(5mC)または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)を酸化する方法であって、非酵素的な一電子プロセスにより、5-メチルシトシン(5mC)または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)を形成するステップを含む、方法。
【請求項22】
非酵素的な一電子プロセスにより、ヌクレオシド、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチド中の5-メチルシトシン(5mC)残基または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成する方法。
【請求項23】
ポリヌクレオチド中の5-メチルシトシン(5mC)残基または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するための、非酵素的なラジカル開始剤の使用。
【請求項24】
(a)ポリオキソメタレートなどの光触媒などのラジカル開始剤;
(b)ポリメラーゼ;ならびに場合により
(c)N-フルオロベンゼンスルホンイミド、5-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウムテトラフルオロボレート、およびN-クロロサッカリンから選択される化合物などの、有機一電子酸化剤などの一電子酸化剤
を含む、請求項1から17のいずれかに記載の方法において使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本件は、その内容が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2021年6月30日(30.06.2021)に出願されたGB2109469.3に関連し、その利益を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、修飾シトシン残基の検出、特に修飾シトシン残基を含む核酸のシークエンシングに関する。本発明は、5-メチルシトシン(5mC)または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)を含むヌクレオシドまたはヌクレオチド配列を検出する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
標準的な核酸塩基は生体内で、DNA中にエピジェネティックな情報を保存するために、化学的官能性を導入する共有結合性の修飾を受ける(Bilyardら)。ヒトDNAのシトシン(C)塩基の約4%は、5-メチルシトシン(5mC)にメチル化されており、これはヒトゲノムの「第5の塩基」と呼ばれている(Breilingら)。ゲノムDNAにおけるDNAメチル化パターンは、遺伝子発現、ゲノムインプリンティング、およびX染色体不活性化を制御する上で重要な役割を担っている(Schubelerら)。5mCはまた、脳のシグナル伝達(Listerら)および老化(Bellら)に重要な役割を果たすことも最近になって判明している。
【0004】
後生動物では、5mCはTET(ten-eleven translocation)ファミリーの酵素によって5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)へと酸化されうる(Tahilianiら;Itoら)。5hmCは、例えば、脱アミノ化による、またはTET酵素による5hmCの5-ホルミルシトシン(5fC)および5-カルボキシルシトシン(5caC)へのさらなる酸化と、その後のチミン-DNAグリコシラーゼ(TDG)が関与する塩基除去修復もしくは複製中におけるマークの維持の失敗を通した、アクティブなDNA脱メチル化における中間体として提案されている(Brancoら)。5hmC塩基はまた、エピジェネティックマークそのものも構成しうる。
【0005】
ゲノムDNA中の5mCおよび5hmCをマッピングすることは、DNAメチル化の生物学的役割を理解する上で極めて重要である。特に、バイサルファイトシークエンシングを含む分析法によって、全ゲノムDNA中に存在する5mCおよび5hmCのレベルを検出および定量することが可能である(Frommerら)。ここでは、増幅およびシークエンシングのステップでの特定の残基における検出可能な変化を可能とするために、5mCおよび5hmCに対する非メチル化Cの活性の違いが利用される(Boothら;Raiberら参照)。TET補助バイサルファイトシークエンシング(TAB-Seq)および酸化的バイサルファイトシークエンシング(oxBS)アプローチ内で使用されるバイサルファイトシークエンシング化学は、5mCおよび5hmCを検出するための方法における重要な発展である。バイサルファイトシークエンシングだけでは5mCと5hmCとの間を区別できないため、これら2つの修飾残基間の識別を達成するために、TAB-seqおよびoxBS-seqといった代替戦略が用いられる。
【0006】
シークエンシングによるDNAメチル化(すなわち5mC)を同定するための標準的なアプローチは、Cからウラシル(U)への変化がヌクレオチド配列中に生じるバイサルファイト変換を使用するものであり、この変化は、次いで、その後のDNA増幅およびシークエンシングにおいてチミン(T)として読み取られる。
【0007】
このアプローチの限界としては、各DNA鎖の遺伝子配列が4文字から実質的に3文字に減少するため、遺伝子バリアントの検出が困難になることが挙げられる:例えば、シークエンシングにおいて全てのCがTに変換されるため、CからTへの遺伝子バリアント(最も一般的な変異)を検出することが不可能となる。また、バイサルファイト変換は、配列の複雑性を減少させるため、シークエンシングされた読み取りを参照ゲノムに正確に再整列させることが計算的に困難となる。最後に、バイサルファイトはDNAのC残基におけるある程度の切断を引き起こすことが知られており、これは、シークエンシング可能な物質の喪失を引き起こしうる。
【0008】
5mCをCから区別する別の方法は、5mCの5-メチル基を酸化により標的化することである。これは酵素の使用によって達成されており、TET酵素はin vitroで5mCを認識し、5hmC、5fCおよび5caCへと酸化することがわかっている(Tahilianiら;Itoら;Heら)。
【0009】
バイサルファイトを使わずに5mCをin vitroで検出する現在の方法は、5mCを5caCへと酸化するTET酵素に依存している。5caCは、バイサルファイト処理(Yuら)またはピリジンボラン還元(Liuら、およびWO2019/136413)によってウラシルアナログへと変換されうるが、これはその後、次世代シークエンシングの際にチミジン(T)として読み取られうる。
【0010】
しかしながら、5mCの酵素的な検出はいくつか欠点と関連している。5mCを5caCに選択的に酸化するためには、in vitroにおけるその無差別的な反応性のために、化学量論的量の数倍のTET酵素が必要となる(DeNizioら)。また、TET酵素は容易に分解されるため、シークエンシング用途には複雑なワークフローが必要となる。さらに、TET酵素は、配列依存的な強いバイアスを有するため、非CpGのコンテキストにおける5mCに対しては非常に弱いin vitro活性を示す(Huら)。したがって、TET酵素を利用した検出方法は、偏ったものとなる可能性が高い。最後に、TET酵素はin vitroでTを5-ホルミルウラシル(5fU)に酸化することにより交差活性を示すことが報告されており(Paisら)、したがって、5mCに対して選択的ではない。
【0011】
Jonassonらは、生体模倣型のFe(IV)-オキソ錯体を用いて5-メチルシトシン核酸塩基を酸化する方法について記述している。これは、5hmC、5fC、および5caCという酸化生成物の混合物を生成することが見出された。この異なる反応性を有する生成物の混合物は、下流の官能基化またはシークエンシング解析に容易に使用できない。
【0012】
Jinらによる最近の研究は、光触媒経路を通した単量体5-メチルデオキシシチジン(5mdC)の5-ホルミルデオキシシチジン(5fdC)への変換を実証した。酸化反応はDMSOの存在下で行われ、また、酸素雰囲気も必要であった。これらの反応条件は、DNAおよびRNAなどのポリヌクレオチドへの応用には適合しない。
【0013】
本発明者らは、ポリヌクレオチド中の5mCおよび/または5hmCを検出するための代替的な方法を確立した。
【発明の概要】
【0014】
一般的な態様において、本発明は、5-メチルシトシン(5mC)残基および/または5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hmC)残基を含むポリヌクレオチドを酸化するための方法を提供する。酸化生成物は5-ホルミルシトシン(5fC)残基を含む。
【0015】
本発明の酸化法は非酵素的であり、TET酵素などの酵素の非存在下で実施される。ポリヌクレオチド中の修飾シトシン残基を変換する酵素的な方法は、TET酵素の使用などを通じて、配列特異的な偏り、特にCpGコンテキストにおける修飾シトシン残基への偏りを導きうる。さらに、TET酵素はポリヌクレオチド中の5mCまたは5hmC残基を酸化して主要な酸化生成物として5caCを形成しうるため、5fCなどの他の酸化生成物を含むポリヌクレオチドは、この方法を用いてうることができない。
【0016】
本発明者らは、修飾シトシン残基である5mCおよび5hmCを標準的なシトシン残基から区別することを可能とする方法を考案した。本方法は、核酸塩基、あるいは5mCおよび/もしくは5hmC残基を含むヌクレオシド、ヌクレオチド、またはポリヌクレオチドに対して実施されうる。
【0017】
第1の態様において、本発明は、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基を同定する方法であって、
(i)試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの集団を提供するステップ;
(ii)非酵素的な一電子プロセスにより、集団中の修飾シトシン残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップ;
(iii)5-ホルミルシトシン(5fC)残基を標識するステップ;および
(iv)集団内の標識された残基を同定するステップ
を含み、
修飾シトシン残基が、5-メチルシトシン(5mC)残基および5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基から選択される、方法を提供する。
【0018】
ステップ(ii)の間に、修飾シトシン残基は、ピリミジン環のC5位に結合した炭素において酸化される。酸化プロセスは、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成する。
【0019】
いくつかの実施形態において、修飾シトシン残基は、5-メチルシトシン(5mC)残基である。他の実施形態において、修飾シトシン残基は、5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基である。
【0020】
一電子プロセスはラジカルプロセスを含み、ラジカルの生成を伴う。一電子プロセスは、水素原子移動(HAT)または一電子移動(SET)を含みうる。
5fCのアルデヒド基は、ステップ(iii)における標識のための反応性ハンドルを提供する。アルデヒド基を介して5fCを官能基化する方法は当技術分野で知られており、これはRaiberら、McInroyら、およびUS2020/165661に記載される方法を含む。
【0021】
有利なことに、修飾シトシンを酸化するための条件は、ポリヌクレオチドでの使用に適している。酸化反応は、ポリヌクレオチドが溶解する溶媒系で進行する。反応温度およびpHを含む反応条件は、酸化後、下流の分析のために実質的な量のポリヌクレオチドが回収されうるように、ポリヌクレオチドに適合するものであり、ポリヌクレオチドの分解を最小限に抑えるように選択される。これは以下の実施例においてモデル的なオリゴデオキシリボヌクレオチドで実証される。
【0022】
したがって、本発明者らは、ポリヌクレオチド内の標準的な核酸塩基の存在下で、5mCおよび5hmCを選択的に標的化することを可能とする方法を考案した。酸化生成物は5fCを含み、これは次に、ステップ(iii)において標識される。その後、ポリヌクレオチドの集団内の修飾シトシン残基を同定するために、ステップ(iv)において標識された残基が検出されうる。標識は、検出タグまたは単離タグの導入によるものであってもよい。標識は、5fCをウラシルまたはチミンアナログなど、シトシンとは異なる塩基対形成パターンを有する残基へと変換してもよく、これは、その後、ポリヌクレオチドを増幅および/またはシークエンシングすることによって検出されうる。
【0023】
ステップ(ii)の酸化は、TET酵素の非存在下、例えば、TET1、TET2およびTET3から選択される酵素の非存在下で行われうる。
ステップ(ii)は、ラジカル開始剤の存在下における修飾シトシン残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC残基)を形成することを含んでいてもよい。ラジカル開始剤は、金属オキソ種であってもよい。いくつかの実施形態において、ステップ(ii)における酸化は、光触媒であるラジカル開始剤、照射光、および水、ならびに場合により、一電子酸化剤の存在下で実施されうる。
【0024】
光触媒は、300nmから600nmの範囲に吸光度極大を有していてもよい。つまり、光触媒はこの範囲の光を吸収して励起状態を形成しうる。このようにして、酸化反応は近紫外線(UV)または可視光線領域の存在下で進行してもよく、ポリヌクレオチドを損傷しうる短波長のUV光(例えば300nm未満)の使用は要求されない。
【0025】
光触媒は有機光触媒または遷移金属光触媒でありうる。好ましくは、光触媒は遷移金属光触媒であり、より好ましくは、光触媒は金属オキソ基を含む。
光触媒の例は、タングステンポリオキソメタレートなどのポリオキソメタレートを含む。好ましくは、光触媒はデカタングステン酸、リンタングステン酸およびそれらの塩から選択され、より好ましくは、光触媒はデカタングステン酸またはその塩である。
【0026】
本方法のステップ(ii)は、一電子酸化剤の存在下で行われうる。これは、特に光触媒の存在下で酸化が行われる場合、ポリヌクレオチドの実質的な分解が起こり始める前に5fCの良好な収率が得られるように、酸化反応を加速するのを助ける。好ましくは、一電子酸化剤は、N-フルオロベンゼンスルホンイミド、5-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウムテトラフルオロボレート、およびN-クロロサッカリンなどの有機一電子酸化剤である。
【0027】
ステップ(iii)は、5fC残基を検出タグまたは単離タグで標識するステップを含んでいてもよい。検出タグは、発色団、蛍光標識、燐光標識、または放射性標識を含みうる。単離タグは、結合剤に結合する部位を含んでいてもよい。結合剤に結合する部位は、ビオチンであってもよい。このようにして5fC残基を標識することにより、当技術分野で周知の方法により、修飾シトシンを含むポリヌクレオチドをポリヌクレオチドの集団内で同定することが可能となる。
【0028】
好ましくは、ステップ(iii)は、5fCのワトソン・クリック塩基対パターンを変化させるために5fC残基を標識するステップを含む。例えば、シトシンとは異なる塩基対合パターンを有する誘導体化残基を形成するために、求核プローブが5fC残基に導入されうる。好ましくは、標識される残基はウラシルアナログである。この標識に適した求核プローブの例は、1,3-インダンジオンおよびマロノニトリルを含む。塩基対パターンを変化させるために、このようにして5fC残基が標識される場合、ポリヌクレオチド集団のシークエンシングによって5fC残基の位置が同定されうる。
【0029】
ステップ(iii)における5fC残基の標識は、C4位で酸化された残基を脱アミノ化するステップを含んでいてもよい。5fCの脱アミノ化は5-ホルミルウラシル(5fU)を形成する。よって、脱アミノ化された残基はウラシルアナログであり、塩基対形成パターンはシトシンのものから変化している。この塩基対形成パターンの変化は、修飾シトシン残基の位置を、シークエンシングなどによって集団内で同定することを可能とする。
【0030】
ステップ(iii)の脱アミノ化は、ピリミジン環の還元など、残基の還元も伴いうる。脱アミノ化は還元後に行われてもよい。例えば、5fC残基は還元された後、脱アミノ化されて、ジヒドロウラシル(DHU)を形成しうる。この変換のための方法はWO2019/136413に記載されている。
【0031】
ステップ(iv)は、
(a)処理されたヌクレオチド配列を生成するために、ステップ(iii)に続いて、集団中のポリヌクレオチドをシークエンシングするステップ;および
(b)試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基に対応する、処理されたヌクレオチド配列中の残基を同定するステップ
を含みうる。
【0032】
これは、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基の位置を、次世代シークエンシングなどのシークエンシングによって検出することを可能とする。
ポリヌクレオチドはDNAもしくはRNA、またはそれらの混合物でありうる。
【0033】
5mCまたは5hmC残基を酸化する方法は、5fCを良好な収率で提供する。よって、本方法はTET酵素が関与する酸化法よりも有利である。典型的には、TET酵素はポリヌクレオチド中の5mC残基を酸化して、5hmC、5fCおよび5caC残基の混合物を生成する。酸化が基質に対して大過剰のTET酵素を用いて行われる場合、主要な酸化生成物として5caCが形成される。例えば、Liuらは、NgTET1(Naegleria TET-like oxygenase)を用いたポリヌクレオチド中の5mCの酸化生成物は、ほぼ全体が5caCであり、5fCの収率はわずか3%であると報告している。よって、本発明の方法は、良好な収率で5fC残基を形成するために、ポリヌクレオチド中の5-メチルシトシン(5mC)または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基を酸化する方法にも組み込まれうる。
【0034】
第2の態様において、本発明は、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基を酸化する方法であって、
(i)試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの集団を提供するステップ、
(ii)集団中の修飾シトシン残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップであって、5-ホルミルシトシン(5fC)残基と修飾シトシン残基の生成物モル比が10:90以上である、ステップ、
(iii)場合により、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を標識するステップ、および
(iv)場合により、集団内の標識された5-ホルミルシトシン(5fC)残基を同定するステップ
を含み、
修飾シトシン残基が、5-メチルシトシン(5mC)残基または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基である、方法を提供する。
【0035】
第1の態様の好ましい特徴は、第2の態様にも同様に当てはまる。
好ましくは、ステップ(ii)における5fCと修飾シトシン残基(すなわち、5mC残基または5hmC残基のいずれか)との生成物モル比は、20:80以上、例えば30:70以上である。
【0036】
ステップ(ii)の反応生成物は、5hmCおよび5caCなど、5fC以外の酸化生成物を実質的に含まないものでありうる。集団中に提供される修飾シトシン残基が5mC残基である場合、ステップ(ii)で形成される5fC生成物と5hmCおよび/または5caCのモル比は2:1以上、例えば5:1以上、例えば10:1以上、例えば50:1以上、例えば100:1以上でありうる。集団中に提供される修飾シトシン残基が5hmC残基である場合、ステップ(ii)で形成される5fC生成物の5caCに対するモル比は、2:1以上、例えば5:1以上、例えば10:1以上、例えば50:1以上、例えば100:1以上でありうる。
【0037】
第3の態様において、本発明は、ポリヌクレオチドを修飾する方法であって、非酵素的な一電子プロセスにより、ポリヌクレオチド中の5-メチルシトシン(5mC)残基および/または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップを含む、方法を提供する。
【0038】
第1の態様の好ましい特徴は、第3の態様にも同様に当てはまる。
第4の態様において、本発明は、5-メチルシトシン(5mC)または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)を酸化する方法であって、非酵素的な一電子プロセスにより、5-メチルシトシン(5mC)または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)を形成するステップを含む、方法を提供する。
【0039】
第1の態様の好ましい特徴は、第4の態様にも同様に当てはまる。
第5の態様において、本発明は、非酵素的な一電子プロセスにより、ヌクレオシド、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチド中の5-メチルシトシン(5mC)残基または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成する方法を提供する。
【0040】
第1の態様の好ましい特徴は、第5の態様にも同様に当てはまる。
第6の態様において、本発明は、ポリヌクレオチド中の5-メチルシトシン(5mC)残基または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基を酸化するための非酵素的ラジカル開始剤の使用を提供する。ラジカル開始剤は光触媒であってもよく、これは、照射光、水、および場合により、一電子酸化剤の存在下で使用されうる。
【0041】
第1の態様の好ましい特徴は、第6の態様にも同様に当てはまる。
第7の態様において、本発明は、本明細書に記載の方法において使用するためのキットであって、
(a)ポリオキソメタレートなどの光触媒などのラジカル開始剤;
(b)ポリメラーゼ、および場合により、
(c)N-フルオロベンゼンスルホンイミド、5-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウムテトラフルオロボレート、およびN-クロロサッカリンから選択される化合物などの、有機一電子酸化剤などの一電子酸化剤
を含むキットを提供する。
【0042】
本発明のこれらおよびその他の態様および実施形態が、以下にさらに詳しく説明される。
本発明は、以下に記載の図を参照して、本明細書で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】等モル量の5-メチルデオキシシチジン、デオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、およびデオキシチミジンを含む試料を酸化する速度論的試験の結果を示すグラフである。DMSOおよび水の1:9混合溶液中、5mol%のNa
4W
10O
32および4mMのNFSIの存在下で溶液が酸化された。試料は365nmで照射され、3時間の反応時間にわたってLCMSで反応が追跡された。
【
図2】本発明の方法を用いた100merの一本鎖DNAモデル(5mC-100mer)のシークエンシング結果を示すグラフである。5mC-100merの5mCおよびCの位置で得られたシグナルが示されている。5mCに対応する28位では、32%の読み取りがチミンとして観察され、すなわち5mCからTへの変換は32%であった。残りの位置では、基本的に全ての読み取りがCとして観測された。
【
図3】本発明の方法を用いて100merのssDNA(5mC-100mer)について観察された非特異的な変異率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の詳細な説明
本発明は、5-メチルシトシン(5mC)残基および/または5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hmC)残基を含むポリヌクレオチドを酸化する方法を提供する。酸化生成物は5-ホルミルシトシン残基を含む。
【0045】
Osbergerらは、鉄錯体を使用して、in situでFe(IV)-オキソ種を生成することにより、アミノ酸およびペプチド中のC-H結合をカルボニル基へと選択的に酸化する方法を記述しており、これは、Whiteらにおいても概説されている。この系が5-メチルシトシンなどのヌクレオシドに適用されうることは開示されていない。また、Fe(IV)-オキソ種を生成するためのH2O2などの強力な酸化剤の使用が記載されており、これは、脱プリン化などによってヌクレオシドおよびポリヌクレオチドを分解することができる。
【0046】
Jonassonらは、5mCの試料を5hmC、5fCおよび5caCを含む混合物へと酸化する方法を記載している。5mCがポリヌクレオチド中の残基として存在する場合、本方法がそれに対する使用に適していることは開示されていない。さらに、この方法によって形成される生成物の混合物は異なる官能性を有するため、検出法における下流の分析のために一様に標識することができない。
【0047】
Jinらは、5mdCヌクレオシドを5fdCヌクレオシドへと変換する方法を記載している。酸化は、90%のDMSOと1バールの酸素の存在下で、18時間かけて行われる。よって、この反応は、典型的には大部分水性の溶媒を必要とするDNAなどのポリヌクレオチドに対して実施するのには適さない。
【0048】
Liuらは、5mCを同定する方法(TAPS)について記載しており、この方法は、バイサルファイトを含まず、塩基レベルの解像度を提供すると言われている。ここでは、5mCと5hmCとが反応して、5caCが形成される。本方法は2段階のプロセスである。第1のステップでは、5mCを含むオリゴマーがTET(ten-eleven translocation)ジオキシゲナーゼで処理されて、対応する5caCが形成される。第2のステップでは、5caCを含むオリゴマーモノマーがボランで処理されて、5caC残基が対応するジヒドロウラシル(DHU)へと変換される。その後のオリゴマーのいずれのシークエンシングでも、DHU残基はTとして読み取られる一方、元の5mC残基はCとして読み取られる。
【0049】
5caC残基を生成するためのTAPS法は、5mCを含むヌクレオチド配列をTET酵素で処理することを含み、実施例は37℃で80分間、試料ヌクレオチド配列と共にインキュベートしたmTet1CDの使用を実証している。その後、混合物がプロテイナーゼKと組み合わせられ、さらに50℃で、60分間のインキュベーションと精製が行われて、酸化生成物が得られる。著者らは、「より完全」な酸化のためには、この酸化手順が繰り返されるべきであると指摘している。既知のTET酵素はTET1、TET2およびTET3である。
【0050】
TET酵素は、CpGのコンテキストにおいてメチル化またはヒドロキシメチル化されたシトシン残基を酸化する方向への偏りを示すことが知られている。Liuらは、非CpGコンテキストの残基の酸化はCpGコンテキストのものよりも11.4%低いと報告している。したがって、TET酵素に依存する検出法は、非CpGコンテキストの修飾シトシン残基からのシグナルを抑制しうる。
【0051】
Liuらに記載されるもののようなTET酵素による酸化は、典型的には5mCおよび/または5hmCを5caCへと変換する。TET酵素によって5fCが形成されうるものの、これは通常微量であり、シークエンシング法で高い信頼性をもって検出されるには不十分である。例えば、Liuらでは、TETを介した酸化後に得られた5fCの収率は3%である。
【0052】
さらに、TETジオキシゲナーゼは大きなタンパク質であるため、不安定で精製が困難でありうる。
本発明者らは、5mCおよび/または5hmCを酸化して5fCを形成する方法を考案した。酸化反応は、非酵素的な一電子プロセスによって行われる。よって、酸化反応は酵素の使用を要求せず、特にTET酵素の使用を必要としない。
【0053】
酸化反応は、良好な収率で5fCを生成し、標準的なシトシン、チミン、アデニンまたはグアニン残基ではいかなる実質的な交差反応性も観察されない。酸化生成物は5fCを含み、反応の生成物は5hmCおよび5caCなどの他の酸化生成物を実質的に含まないものでありうる。5fCのアルデヒド基は、標識反応のために容易に標的化されうる反応性ハンドルを提供する。一般に、ポリヌクレオチドを含む生体分子にはアルデヒド基が存在しないため、本発明の方法によって得られる5fCは、化学的方法によって選択的に検出されうる。
【0054】
反応は、核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチドに対して行われうる。本方法は、ポリヌクレオチドの集団中の修飾シトシン残基を、シークエンシングなどによって検出するのに特に有用である。
【0055】
ラジカル開始剤
本発明の方法は、ピリミジン環のC5位に結合した炭素における5mCおよび/または5hmCの酸化を含む。本発明の方法は、例えばラジカル開始剤を用いて、一電子プロセスにおいて生成されるラジカル中間体を介して進行すると考えられる。
【0056】
したがって、本発明の方法は、5mCおよび/または5hmCの反応のためのラジカル反応性種を生成するためのラジカル開始剤の使用を提供する。
ラジカル開始剤は化学量論的量で存在してもよく、またはラジカル開始剤は化学量論的量よりも少ない量で存在してもよい。また、ラジカル開始剤は、ラジカル反応中に再生される触媒としても使用されうる。ここで、触媒は典型的には、化学量論的量未満で存在する。
【0057】
ラジカル開始剤は、金属オキソ種であってもよく、および/または光触媒であってもよい。
ラジカル開始剤は、金属オキソ種であってもよい。金属オキソ種は、酸素原子に結合した金属原子を有する化合物である。金属は、第一遷移金属などの遷移金属であってもよい。例は、Osbergerらに記載されているようなFe-oxo化合物のような、Fe-oxo化合物およびMn-oxo化合物を含む。金属オキソ種はさらに、ピリジン、ピリミジン、またはアミンを含むキレート配位子などの1つまたは複数の配位子を含みうる。また、配位子は上記のものから選択されてもよい。
【0058】
ラジカル開始剤は酵素でなくてもよい。例えば、ラジカル開始剤はTET酵素ではなく、例えば、ラジカル開始剤はTET1、TET2またはTET3から選択される酵素ではない。
【0059】
一電子プロセスは、水素原子移動(HAT)、または一電子移動(SET)を含みうる。
ラジカル開始剤は光触媒であってもよい。これらの実施形態では、ステップ(ii)の一電子酸化プロセスは、光触媒、水および入射光の存在下で行われる。光触媒は場合により、一電子酸化剤と共に使用されてもよく、好ましくはそのように使用される。
【0060】
「光触媒」とは、光開始型のラジカル開始剤を意味する。光触媒は、光を吸収して電子と正孔の対(励起状態)を生成することができる種である。理論に束縛されることを望まないが、修飾シトシンはC5メチル位で光触媒により水素原子の除去を受けて、修飾シトシンラジカルを生成すると考えられる。光触媒は、5mC上の5-メチル基から、または5hmC上の5-ヒドロキシメチル基から、選択的に水素原子を除去すると考えられている。
【0061】
光触媒は近紫外線または可視領域の光を吸収しうる。好ましくは、光触媒は300nm以上、例えば300nmと600nmとの間に吸収極大を有する。300nm以下などの短波長の紫外線などをポリヌクレオチドに照射すると、DNAなどのポリヌクレオチドをDNAの架橋により損傷させることができる。
【0062】
好ましくは、光触媒は300から600nmの範囲に、より好ましくは300から500nm、さらに好ましくは300から400nmの範囲に吸収極大を有する。
ステップ(ii)が光触媒の存在下で行われる場合、酸化は反応混合物に光を照射するステップを含みうる。典型的には、光の波長は、酸化プロセスで使用される光触媒に基づいて選択される。反応混合物の少なくとも一部を照射するために、適切な光源が使用されうる。
【0063】
光触媒は有機光触媒または遷移金属光触媒でありうる。
有機光触媒の例は、ケトン、もしくはアクリジニウム、ピリリウム、フェノチアジン、フェノキサジン、フェナジン、フタロニトリル、またはフラビン環系に基づくものである。具体的な例は、ベンゾフェノン、2,3-ブタンジオン、トリフェニルピリリウム、9-メシチル-10-メチルアクリジニウム(Mes-Acr)、エオシンY、フルオレセイン、リボフラビン、四酪酸リボフラビン、リボフラビン一リン酸、およびフラビンアデニンジヌクレオチドを含む。
【0064】
好ましくは、光触媒は遷移金属光触媒である。
遷移金属光触媒の例は、金属酸化物および金属酸化物クラスターを含む。金属酸化物は、WO3、TiO2、ZnO、ZrO2を含み、金属酸化物クラスターは、TiO2クラスターを含む。
【0065】
金属酸化物を含む遷移金属光触媒は、典型的には1つまたは複数の配位子も含む。配位子は、遷移金属光触媒中の金属を安定化させるのに適した任意の配位子でありうる。2つ以上の配位子が存在する場合、配位子は同一なもの(ホモレプティック)または異なるもの(ヘテロレプティック)でありうる。
【0066】
遷移金属光触媒の配位子の例は、ビピリジン環系、フェニルピリジン環系、ビピリミジン環系、ビピラジン環系、フェナントロリン環系、およびトリフェニレン環系に基づくものを含む。配位子は、場合により1つまたは複数のヘテロ原子を含む炭素ベースの共役系を含んでいてもよい。遷移金属触媒は、コバルトバイオレット(Co3(PO4)2)、マンガンバイオレット(NH4MnP2O7)またはハンパープル(BaCuSi2O6)を含みうる。
【0067】
好ましくは、遷移金属光触媒は金属酸化物クラスターを含む。より好ましくは、光触媒はポリオキソメタレートである。
ポリオキソメタレート(POM)は、遷移金属および酸素原子を含むアニオン性クラスターである。POM中の遷移金属は、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、およびタングステンなどの早期遷移金属でありうる。これらのうち、モリブデンおよびタングステンが好ましく、タングステンが特に好ましい。
【0068】
POMは、1種類の金属と酸化物とを含むもの(イソポリメタレート)であってもよいし、またはPOMはさらに典型元素オキシアニオンを含むもの(ヘテロポリメタレート)であってもよい。光触媒には、金属または、ホウ素、リンもしくはシリコーンなどの典型元素がドープされうる。
【0069】
好ましくは、POMは、デカタングステン酸(W10O32
4-)およびリンタングステン酸(PW12O40
3-)、ならびにそれらの塩形態から選択される。
POMは、塩の形態で、または遊離酸として、本方法の酸化反応に提供されうる。塩の対イオンの例は、ナトリウム、カリウム、およびテトラブチルアンモニウムを含む。
【0070】
理論に束縛されることを望まないが、タングステンベースのポリオキソメタレートが関与する酸化反応の可能な触媒サイクルがスキーム1に示される。スキーム2および3には、5mCの5fCへの酸化のための2つの可能な経路が示される。5-メチルデオキシシチジン(5mdC)が例示的な出発物質として示されているが、5-ヒドロキシメチルデオキシシチジン(5hmdC)の酸化に対応する経路も同様に妥当であると考えられる。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
一電子酸化剤
本発明の方法における酸化ステップは、一電子酸化剤の存在下で実施されうる。
一電子酸化剤は、一電子移動によって1つの種から1つの電子を受け取ることができるものでありうる。この場合、一電子酸化剤は、励起状態のラジカル開始剤を再生させるなどによって、酸化に関与しうる。
【0075】
一電子酸化剤は、有機種であってもよいし、または金属種であってもよく、これは場合により、1つまたは複数の配位子を含む。好ましくは、一電子酸化剤は有機一電子酸化剤である。
【0076】
適切な一電子酸化剤は、ポリヌクレオチドの取り扱いに最も便利な水性条件下で使用されうるものを含む。しかしながら、有機共溶媒を含む溶媒系で酸化反応を行うことによるなど、有機溶媒中での使用に適した一電子酸化剤もまた使用されうる。
【0077】
好ましくは、一電子酸化剤は、
フッ化物、塩化物または臭化物ラジカルなどのハロゲンラジカル;
過酸化物ラジカルなどの酸素中心ラジカル;
トリフルオロメチルラジカルなどの炭素中心ラジカル;
窒素中心ラジカル;および
硫黄中心ラジカル
から選択される1つまたは複数のラジカルを生成することができる。
【0078】
本発明での使用に適した一電子酸化剤の例は、スキーム4に示される化合物O1、O4、O5、O6、O8からO13を含む。
【0079】
【0080】
特に好ましい一電子酸化剤は、N-フルオロベンゼンスルホンイミド(NFSI)、5-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウムテトラフルオロボレート(O9)、およびN-クロロサッカリン(O11)を含む。これらの一電子酸化剤は、ポリヌクレオチドの分解のレベルを低減しつつ、酸化反応を加速する。
【0081】
一電子酸化剤は、特に酸化反応が光触媒であるラジカル開始剤の存在下で実施される場合、修飾シトシン残基の酸化反応に関与しうる。一電子酸化剤は酸化反応を加速しうる。理論に束縛されることは望まないが、光触媒は、その励起状態において、C5メチル位の5mCまたは5hmC残基からラジカル種を生成すると考えられている。スキーム1に示されているように、一電子酸化剤は光触媒の基底状態の再生に関与しうる。以下の実施例における同位体標識試験は、修飾シトシン残基に組み込まれた酸素原子が、水に由来する可能性が高いことを示している。組み込まれる酸素原子は、分子状酸素に由来してもよい。
【0082】
反応混合物および溶媒
本件の方法は、溶液中で実施されてもよく、これは場合により1つまたは複数の有機溶媒を含む水溶液であってもよい。
【0083】
本方法は、水性溶媒などの溶媒中で行われうる。水性溶媒は、水と、水と混和する1つまたは複数の有機溶媒との混合物でありうる。
ステップ(ii)の酸化反応は、水の存在下で実施されてもよく、好ましくはそのようにされる。水は水性溶媒によって提供されうる。
【0084】
一実施形態では、水性溶媒は、共溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)またはアセトニトリルを含む。
水性溶媒系は酸性溶媒系であってもよい。混合物は、pH3からpH7未満、例えばpH4からpH7未満、例えばpH4からpH6、例えばpH4からpH5の範囲のpHを有しうる。
【0085】
この場合、使用のための好ましい溶媒系は水とDMSOとの混合溶媒であり、pH4からpH5の間である。
pHを所望のレベルに維持するために、バッファーが提供されてもよい。バッファーは、酢酸バッファー、リン酸バッファー、またはアスコルビン酸バッファーでありうる。バッファーは、当業者には明らかなように、適切なレベルで提供される。
【0086】
核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、適切な量および濃度で反応溶媒中に提供されうる。これらは、例えば1nMから1Mで存在しうる。
ヌクレオシドは、1μMから1,000mM、例えば0.1mMから100mM、例えば1mMから100mMの範囲の濃度で存在してもよい。
【0087】
ポリヌクレオチドは、1nMから100mM、例えば100nMから1mM、例えば1μMから100μMの範囲の濃度で存在してもよい。
光触媒などのラジカル開始剤と、場合により一電子酸化剤とが、それぞれ適切な量および濃度で使用されうる。
【0088】
ラジカル開始剤は、1μMから100mMの範囲、例えば10μMから10mMの濃度で存在してもよい。
一電子酸化剤は、存在する場合、100μMから5M、例えば1mMから1M、例えば1mMから100mMの範囲の濃度で存在してもよい。
【0089】
本方法は周囲温度(または室温)で行われうる。例えば、反応は10から25℃の範囲の温度で行われうる。
必要に応じて、反応は0から10℃未満の範囲などの低温で、または25から80℃を超える範囲などの高温で行われてもよい。
【0090】
本発明の方法は、適切な波長の光によるポリヌクレオチドの集団の照射を含みうる。集団の少なくとも一部が光で照射されうる。この光は、必要に応じて、反応を通して連続的に、最初のみ、または反応を通してパルス的に、混合物の全部または一部に入射されうる。上述したように、光の波長は光触媒に基づいて選択される。任意の適切な光源が、入射光を提供するために使用されうる。
【0091】
試料ヌクレオチド配列内に存在するものなどのヌクレオシドまたはポリヌクレオチドが、5mCおよび/または5hmCの5fCへの変換を可能とするのに十分な時間、ラジカル開始剤と共に処理されうる。
【0092】
ラジカル開始剤、任意の一電子酸化剤、およびステップ(ii)の間の反応条件は、主要反応生成物として5fCを形成するように選択されうる。5mC残基の変換を増加させるために、ポリヌクレオチドを単離し、本方法のステップ(ii)を繰り返すなどによって、反応が繰り返されてもよい。
【0093】
酸化生成物は5fCを含む。反応終了時に得られる5fCの収率は、10%以上、例えば20%以上、例えば30%以上でありうる。
酸化反応の進行は、例えば、出発物質のヌクレオシドもしくはポリヌクレオチドの消費をモニターすること、および/または反応生成物の形成をモニターすることによって、分析的に判断されうる。実質的に全ての出発物質が消費されたとき、および/または生成物の形成が接触の極限に達したとみなされたときに、反応は停止されうる。この場合の反応モニタリングに適した分析技術は、UV vis分光法、LC-MSおよびNMR分光法を含む。
【0094】
修飾シトシンをラジカル開始剤で酸化するための反応は、多くて24時間、例えば多くて18時間、例えば多くて12時間、例えば多くて6時間、例えば多くて2時間、例えば多くて1時間でありうる。修飾シトシンを酸化するための反応は、少なくとも5分、例えば少なくとも10分、例えば少なくとも30分でありうる。
【0095】
反応時間は、例えば、ラジカル開始剤濃度を増加させ、存在する場合には一電子酸化剤濃度を増加させ、核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチド濃度を減少させることにより、短縮されうる。
【0096】
ステップ(ii)における酸化の際の反応条件は、ポリヌクレオチドの分解を最小化にするように選択される。ポリヌクレオチドの50%以下、例えば40%以下、例えば30%以下など、ポリヌクレオチドのある程度の分解は許容されうる。これらの実施形態では、下流の分析のために十分な生成物がステップ(ii)の後に得られるように、使用される出発物質の量が増やされてもよい。
【0097】
処理後、処理した核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、少なくとも部分的に精製されうる。ここで、生成物は、ラジカル開始剤および、存在する場合には一電子酸化剤から分離されうる。ヌクレオシド、ヌクレオチドおよびポリヌクレオチドの精密検査および単離のための技術は、当技術分野で周知である。
【0098】
本発明の方法が5mCまたは5hmCから酸化された残基を生成するためのステップを含む場合、そのステップはワンポットで実施されうる。よって、反応はいかなる中間体も単離または精製することなく行われる。ここで、ポットとは、ヌクレオシドの調製ならびにポリヌクレオチドの増幅およびシークエンシングの分野で一般的に使用される反応フラスコ、バイアル、またはウェルプレート内のウェルを広く指しうる。
【0099】
また、試料が精製された後、ラジカル開始剤と、場合により一電子酸化剤とが再導入されてもよい。このようにして、5mCの変換率は、酸化の連続するラウンドにおいて改善されうる。
【0100】
方法
本発明の方法は、5mCまたは5hmCを酸化するために使用されうる。本方法は、ヌクレオシド、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチド中の5mCまたは5hmC残基を酸化するためにも使用されうる。
【0101】
本発明は、5-メチルシトシン(5mC)および/または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)を酸化して、非酵素的な一電子プロセスにより5-ホルミルシトシン(5fC)を形成する方法を提供する。
【0102】
本発明の方法における5mCまたは5hmCの酸化は、ピリミジン環のC5位に結合している炭素におけるものである。このように、本方法はメチル基またはヒドロキシメチル基の酸化を伴う。
【0103】
酸化プロセスにおける反応条件は、ポリヌクレオチドに対して行われる反応に適している。よって、本方法は、ポリヌクレオチドを修飾するための方法に組み込まれてもよく、本方法は、ポリヌクレオチド中の5-メチルシトシン(5mC)残基および/または5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基を変換して、非酵素的な一電子プロセスによって5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップを含みうる。
【0104】
非酵素的な一電子酸化プロセスは、ラジカル開始剤の存在下で行われうる。光触媒などのラジカル開始剤は、光開始されてもよい。スキーム5には、光触媒を伴う例示的な変換が示されており、ここでは、ポリヌクレオチド中の5mC残基が酸化されて、5fC残基を形成する。酸化は水と光との存在下で実施される。反応は空気中、周囲温度で行うことができ、そのため、ポリヌクレオチド基質に対して都合よく実施される。
【0105】
【0106】
5mCまたは5hmCを酸化する方法は、試料ヌクレオチド配列内の修飾シトシン残基を同定するための方法に組み込まれうる。よって、本発明は、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基を同定する方法であって、
(i)試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの集団を提供するステップ;
(ii)非酵素的な一電子プロセスにより、集団中の修飾シトシン残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップ;
(iii)5-ホルミルシトシン(5fC)残基を標識するステップ;および
(iv)集団内の標識された残基を同定するステップ
を含み、
修飾シトシン残基が、5-メチルシトシン(5mC)残基および5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基から選択される、方法を提供する。
【0107】
上記(i)から(iv)のステップが順に実行される。
本発明の方法は、5mCまたは5hmC残基を5fC残基に変換するのに適している。したがって、本発明の方法は、例えばWO2019/136413を含む先行技術に記載されている方法に対して、この変換のための代替的な反応条件を提供する。
【0108】
ポリヌクレオチドの集団中のポリヌクレオチド内の5fC残基を同定する方法は、当技術分野で公知である。これらは以下にさらに詳しく記載されており、上記の方法のステップ(iii)および(iv)で使用されうる。
【0109】
ステップ(ii)で形成される酸化生成物は、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を含む。好ましくは、ステップ(ii)における主要な酸化生成物は5fCである。例えば、ステップ(ii)で形成される5fC残基と、形成される5hmCおよび/または5caC残基とのモル比は、2:1以上、例えば5:1以上、例えば10:1以上、例えば50:1以上、例えば100:1以上でありうる。
【0110】
5mCを酸化する方法は、試料ヌクレオチド配列中の5-メチルシトシン(5mC)残基を同定する方法に組み込まれてもよく、本方法は、
(i)試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの集団を提供するステップ、
(ii)集団中の5-メチルシトシン(5mC)残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップであって、5-ホルミルシトシン(5fC)残基と5-メチルシトシン(5mC)残基との生成物モル比が10:90以上である、ステップ、
(iii)場合により、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を標識するステップ、および
(iv)場合により、集団内の標識された5-ホルミルシトシン(5fC)残基を同定するステップ
を含む。
【0111】
上記(i)から(iv)のステップが順に実行される。
好ましくは、ステップ(ii)における酸化は、TET酵素などの酵素の使用を伴わない。本発明の方法は、有利には、ステップ(ii)の後に形成される5-ホルミルシトシン(5fC)残基生成物と5-メチルシトシン(5mC)残基とのモル比が20:80以上、例えば30:70以上であるような、良好な収率で5fCを提供するために使用されうる。
【0112】
「生成物モル比」とは、酸化反応終了時などの酸化反応生成物中の5-ホルミルシトシン(5fC)残基と修飾シトシン残基、例えば5-メチルシトシン(5mC)残基とのモル比を意味する。
【0113】
ステップ(ii)は場合により、ポリヌクレオチドを酸化剤から分離するなど、酸化後のポリヌクレオチドの集団を精製するステップを含みうる。これらの実施形態において、精製された集団中の5-ホルミルシトシン(5fC)残基と5-メチルシトシン(5mC)残基とのモル比は10:90以上、または上記で特定されたとおりでありうる。
【0114】
ステップ(ii)の反応生成物は、5hmCおよび5caCなど、代替的な酸化生成物を本質的に含まないものでありうる。よって、5fCと集団中において形成される5hmCおよび/または5caC残基の生成物モル比は、2:1以上、例えば5:1以上、例えば10:1以上、例えば50:1以上、例えば100:1以上でありうる。すなわち、5fC残基と5hmC残基と、5caC残基と、または5hmCと5caCとの比の合計の生成物モル比は、上記のとおりである。
【0115】
5fCと5hmCおよび/または5caCの比は、例えば、NMRおよびLCスペクトルにおけるそれぞれのピークの比較によって決定されうる。
光触媒などのラジカル開始剤と、場合により一電子酸化剤を含みうる酸化反応の好ましい特徴、および本方法の他のステップの好ましい特徴は、本明細書に記載されるとおりである。
【0116】
5hmCを酸化する方法は、試料ヌクレオチド配列中の5hmC残基を同定する方法に組み込まれてもよく、本方法は、
(i)試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの集団を提供するステップ、
(ii)集団中の5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基を酸化して、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を形成するステップであって、5-ホルミルシトシン(5fC)残基と5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)残基との比が10:90以上である、ステップ、
(iii)場合により、5-ホルミルシトシン(5fC)残基を標識するステップ、および
(iv)場合により、集団内の標識された5-ホルミルシトシン(5fC)残基を同定するステップ
を含む。
【0117】
ここで、ステップ(ii)における5fC残基と5hmC残基の生成物モル比は、20:80以上、例えば30:70以上でありうる。ステップ(ii)で形成される5fCと5caCとの比は、2:1以上、例えば5:1以上、例えば10:1以上、例えば50:1以上、例えば100:1以上でありうる。ステップ(ii)は、上記のように、ポリヌクレオチドの集団を精製するステップを含んでいてもよい。
【0118】
本明細書に記載の方法におけるステップ(iv)は、
(a)ステップ(iii)に続いて、集団中のポリヌクレオチドをシークエンシングして、処理されたヌクレオチド配列を生成するステップ;および
(b)試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基に対応する、処理されたヌクレオチド配列中の残基を同定するステップ
を含みうる。これらの実施形態において、修飾シトシンを同定する方法は、修飾シトシンをシークエンシングする方法であってもよい。
【0119】
ヌクレオシドは核酸塩基と糖とからなる。5mCと5hmCとは修飾された、または非標準的な核酸塩基の例である。糖はリボースまたはデオキシリボースでありうる。
ヌクレオチドはヌクレオシドとリン酸基とからなる。ヌクレオシドは上記のとおりでありうる。
【0120】
ポリヌクレオチドまたは核酸は、ヌクレオチド単位を含むポリマーである。ポリヌクレオチドは、DNAもしくはRNAなどの天然核酸であってもよく、またはペプチド核酸(PNA)、ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)、ロックド核酸(LNA)、グリコール核酸(GNA)、もしくはスレオース核酸(TNA)などの核酸アナログであってもよい。修飾シトシン残基は、これらの要素のいずれかを含む混合核酸中に含まれていてもよい。
【0121】
修飾シトシン残基を含むポリヌクレオチドは、1つまたは複数の修飾シトシン残基、すなわち少なくとも1つの核酸塩基が5mCまたは5hmCであるものを含みうる。例えば、核酸は1、2、3、4、5またはそれ以上の修飾シトシン残基を含みうる。ポリヌクレオチド内の1つまたは複数の修飾シトシン残基は、本明細書に記載の方法を用いて標識されてもよい。
【0122】
本発明の方法は、試料ヌクレオチド配列の分析における使用に適している。この試料は、ポリヌクレオチド集団などのポリヌクレオチドを含み、それはポリヌクレオチドの混合物を含みうる。
【0123】
任意の試料ヌクレオチド配列は、増幅された試料であってもよい。1つまたは複数の集団が試料から作製されてもよく、各集団が異なるシークエンシングおよび同定プロセスにかけられてもよい。よって、本発明の方法は、5mCおよび/または5hmCを同定するために、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基を同定するために、1つの集団に関して使用されうる。
【0124】
本発明の方法において、修飾ポリヌクレオチドは、5mCおよび/または5hmCを、5fCを含む酸化された残基に変換することによって調製される。その後、酸化された残基が標識され、続いて標識が検出される。
【0125】
試料ヌクレオチド配列は、ゲノム配列であってもよい。例えば、配列はエクソン、イントロン、または上流もしくは下流の調節エレメントを含む遺伝子の配列の全部または一部を含んでいてもよく、あるいは配列は遺伝子に関連しないゲノム配列を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、試料ヌクレオチド配列は1つまたは複数のCpGアイランドを含みうる。
【0126】
適切なポリヌクレオチドはDNA、好ましくはゲノムDNA、および/またはRNA、例えばゲノムRNA(例えば哺乳動物、植物またはウイルスゲノムRNA)、mRNA、tRNA、rRNAおよびノンコーディングRNAを含む。
【0127】
試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドは、細胞の試料、例えば哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞から入手または単離されうる。
適切な試料は、単離された細胞および生検などの組織試料、ならびに血液試料を含む。
【0128】
5mCを含む修飾シトシン残基は、胚性幹細胞(ESCS)および神経細胞を含む様々な細胞型で検出されている(Tahilianiら;Itohら;Kriaucionisら;Liら;Pfaffenederら)。
【0129】
適切な細胞は体細胞および生殖系細胞を含む。
適切な細胞は、成体もしくは体性幹細胞、胎児幹細胞または胚性幹細胞などの幹細胞を含む、完全もしくは部分的に分化した細胞または非分化細胞または多能性細胞を含む、任意の発生段階にある細胞でありうる。
【0130】
また、適切な細胞は、標準的な技術に従って任意のタイプの体細胞から誘導されうる人工多能性幹細胞(iPSC)も含む。
例えば、試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドは、ニューロンおよびグリア細胞を含む神経細胞、収縮性筋肉細胞、平滑筋細胞、肝細胞、ホルモン合成細胞、皮脂細胞、膵島細胞、副腎皮質細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、内皮細胞および尿路上皮細胞、骨細胞、および軟骨細胞から入手または単離されうる。
【0131】
適切な細胞は、疾患関連細胞、例えばがん細胞、例えば癌腫、肉腫、リンパ腫、胚芽腫、または生殖細胞系腫瘍細胞を含む。
適切な細胞は、ハンチントン病、嚢胞性線維症、鎌状赤血球症、フェニルケトン尿症、ダウン症候群、またはマルファン症候群などの遺伝性疾患の遺伝子型を有する細胞を含む。
【0132】
細胞の試料からゲノムDNAおよびRNAを抽出および単離する方法は、当技術分野で周知である。例えば、ゲノムDNAまたはRNAは、フェノール/クロロホルム抽出およびアルコール沈殿、塩化セシウム密度勾配遠心、固相アニオン交換クロマトグラフィーおよびシリカゲルベースの技術などの任意の便利な単離技術を用いて単離されうる。
【0133】
いくつかの実施形態において、細胞から単離された全ゲノムDNAおよび/またはRNAは、単離後、本明細書に記載のポリヌクレオチドの集団として直接使用されうる。他の実施形態において、単離されたゲノムDNAおよび/またはRNAは、さらなる調製ステップに供されうる。
【0134】
また、試料は血液試料であってもよく、そこから循環遊離DNA(cfDNA)または循環腫瘍DNA(ctDNA)が抽出されうる。
ゲノムDNAおよび/またはRNAは、ゲノムDNA断片を生成するために、例えば超音波処理、剪断またはエンドヌクレアーゼ消化によって断片化されうる。ゲノムDNAおよび/またはRNAの画分は、本明細書に記載のようにして使用されうる。ゲノムDNAおよび/またはRNAの適切な画分は、サイズまたは他の基準に基づくものでありうる。いくつかの実施形態では、CpGアイランド(CGI)が濃縮されたゲノムDNAおよび/またはRNA断片の画分が、本明細書に記載のようにして使用されうる。
【0135】
ゲノムDNAおよび/またはRNAは、例えば加熱または変性剤による処理によって変性されてもよい。ゲノムDNAおよびRNAの変性に適した方法は、当技術分野で周知である。
【0136】
いくつかの実施形態では、ゲノムDNAおよび/またはRNAは、処理の前、例えば、修飾シトシンを酸化および標識する処理の前など、修飾シトシンを酸化する処理の前にシークエンシングに適合させてもよい。適合の性質は、採用されるシークエンシング方法に依存する。例えば、いくつかのシークエンシング方法では、断片化後のゲノムDNAおよび/またはRNA断片の遊離末端にプライマーがライゲーションされうる。他の実施形態において、ゲノムDNAおよび/またはRNAは、本明細書に記載のようにして、処理後にシークエンシングのために適合されうる。
【0137】
画分、変性、適合、および/または他の調製ステップの後、ゲノムDNAおよび/またはRNAは、任意の簡便な技術によって精製されうる。
調製後、ポリヌクレオチドの集団は、本明細書に記載されるような、さらなる処理のために適切な形態で提供されうる。例えば、ポリヌクレオチドの集団は、本明細書に記載の処理の前に、バッファーの非存在下で水溶液中にありうる。
【0138】
本明細書に記載の使用のためのポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖でありうる。
ポリヌクレオチドの集団は、その各々が試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含有している2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の別々の部分に分割されてもよい。これらの部分は、本明細書に記載されているようにして、独立して処理され、シークエンシングされてもよい。
【0139】
好ましくは、ポリヌクレオチドの部分は、処理前、例えば修飾シトシンを酸化するための処理の前に、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基に標識または置換基を付加するために処理されない。
【0140】
標識
本方法のステップ(iii)は、ステップ(ii)で形成される5fC残基を標識するステップを含む。
【0141】
標識するステップは、5fC残基に検出タグを導入しうる。検出タグは、発色団、蛍光もしくは燐光標識などの光感受性基;または放射性標識を含みうる。そのようなタグは、分光法などの標準的な実験技術によって検出可能である。
【0142】
標識するステップは、5fC残基に単離標識を導入することでありうる。単離タグは、ビオチンなどの結合剤に結合する部位を含んでいてもよい。
ポリヌクレオチド中の5fC残基にタグを導入する方法は当技術分野で公知である。タグは、求核プローブとの反応によって5fCのホルミル基に導入されうる。求核プローブは、アミン、ヒドロキシルアミン、またはヒドラジン反応性基を含みうる。求核プローブはまた、タグへのリンカーを含んでいてもよい。5fCに単離タグを導入する例は、Raiberら、McInroyら、およびHardistyらに記載されている。
【0143】
5fC残基が単離タグで標識されている場合、修飾シトシン残基を含むポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの集団から抽出されうる。これらのポリヌクレオチドは、修飾シトシン残基を介して標識され、ポリヌクレオチドの集団を固定化された結合剤などの結合剤と接触させることによって単離されうる。標識されたポリヌクレオチドが結合した固定化された結合剤は、ポリヌクレオチドの集団から抽出されうる。
【0144】
抽出後、固定化された結合剤は洗浄されてもよい。洗浄は、結合剤と結合していない試料成分、例えば標識された残基を持たないポリヌクレオチドを除去する。典型的には、洗浄手順は、水性バッファーなどの核酸を除去できる溶媒による洗浄を含む。
【0145】
単離後、標識された残基を含むポリヌクレオチドは、固定化された結合剤から放出されうる。結合した基質を放出させる方法は、当技術分野で周知である。
標識するステップは、ステップ(ii)で形成される5fC残基に変異を導入することでありうる。「変異」とは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)中に修飾シトシン残基がグアニン以外の核酸塩基と塩基対形成するような、シトシン残基に典型的に観察される水素結合パターンとは異なる修飾シトシン残基のワトソン・クリック(N3-C4)面の水素結合パターンを意味する。典型的には、変異はCからTへの変異であり、PCR増幅の間に、ポリヌクレオチド内の修飾シトシン残基がチミン残基に置き換えられたポリヌクレオチドのコピーが生成される。5fC残基に変異を導入する方法は既知である。例は、US2020/0165661およびXiaらに記載されているように、5fCをニトリル化合物または1,3-インダンジオン化合物と反応させること、ならびにLiuらに記載されているように、ボランなどによって5fCを還元してDHUを形成させることを含む。
【0146】
好ましくは、ステップ(iii)の標識するステップは、5fC残基をウラシルアナログに変換することを含む。これは、ポリヌクレオチドのPCR増幅中にアデニンと塩基対を形成する二環式核酸塩基残基を形成させるために、5fCをマロノニトリルなどのニトリル化合物と反応させることによってもよい。その後、修飾シトシン残基の位置は、シークエンシングによってCからTへの変異として同定されうる。
【0147】
試料ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの集団は、本発明の方法では、まず2つ以上の部分へと分割されうる。ステップ(i)から(iv)を含む本方法が、第1の部分に対して実施されてもよく、ここで、ステップ(iii)は、5fC残基をウラシルアナログに変換するステップを含む。その後、第1の部分は従来的な方法でシークエンシングされる。ステップ(ii)および/または(iii)を実行することなく、第2の部分もまたシークエンシングされる。その後、ポリペプチド内の修飾シトシン残基の位置は、CからTへの変異の検出など、シークエンシングの読み取りを比較することによって同定されうる。よって、検出は、集団中のポリヌクレオチドをシークエンシングして、処理ヌクレオチド配列を生成し、次いで、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基に対応する処理ヌクレオチド配列中の残基を同定することによるものでありうる。
【0148】
シークエンシング
ポリヌクレオチドは、シークエンシング技術またはプラットフォームに適合するように、処理後に適合されうる。適合の性質は、シークエンシング技術またはプラットフォームに依存する。例えばSolexa-Illuminaシークエンシングでは、処理ポリヌクレオチドは、例えば超音波処理または制限エンドヌクレアーゼ処理によって断片化され、必要に応じてポリヌクレオチドの遊離末端が修復され、末端にプライマーがライゲーションされうる。
【0149】
ポリヌクレオチドは、Sangerシークエンシング、Solexa-Illuminaシークエンシング、ライゲーションベースのシークエンシング(SOLiD(商標))、パイロシークエンシング;ストローブシークエンシング(SMRT(商標));半導体アレイシークエンシング(Ion Torrent(商標));およびナノポアシークエンシング(ION)を含む、任意の簡便な低スループットまたは高スループットシークエンシング技術またはプラットフォームを使用してシークエンシングされうる。
【0150】
ポリヌクレオチドのシークエンシングのための適切なプロトコール、試薬および装置は、当技術分野で周知であり、市販されている。
試料ヌクレオチド配列中のシトシンに対応する第1の配列および他の配列の位置の残基が同定されうる。
【0151】
単離タグを導入する方法のステップ(iii)において5fC残基が標識される場合、元の修飾シトシン残基のアイデンティティは、ポリヌクレオチドの集団から単離タグを含むポリヌクレオチドを抽出し、次いで抽出したポリヌクレオチドのシークエンシングを行うことによって決定されうる。好ましくは、ポリヌクレオチドの集団は少なくとも2つの部分へと分割される。本発明の方法のステップ(i)から(iv)は、第1の部分(濃縮部分)に対して行われ、第2の部分は未処理のままである(対照部分)。2つの部分のシークエンシングとシークエンシングの読み取りの比較は、元の修飾シトシン残基を含むポリヌクレオチドのアイデンティティを同定することを可能とする。このようにして濃縮シークエンシングを実施する方法は、RaiberらおよびHardistyらなど、当該技術分野において記載されている。
【0152】
上記のように、ステップ(iii)で5fC残基がウラシルアナログに変換される場合、ポリヌクレオチド内の修飾シトシン残基の位置は、ポリヌクレオチド試料のシークエンシングによって決定されうる。ポリヌクレオチドの配列が既知の場合、試料ヌクレオチド配列内の修飾シトシン残基の位置は、既知の配列との比較によって同定されうる。ポリヌクレオチドの配列が未知の場合、シークエンシングの読み取りは、酸化(すなわち、ステップ(ii))および/または標識するステップ(すなわち、ステップ(iii))を受けていないポリヌクレオチドの部分について得られたものと比較されうる。よって、本発明の方法は、修飾シトシン残基が増幅中などにCからTへの転移を受けることを可能にし、これは、従来的なシークエンシング法によって検出されうる。
【0153】
試料ヌクレオチド配列中におけるシトシン修飾の程度または量が決定されてもよい。例えば、未修飾のシトシンと比較した試料ヌクレオチド配列中の5mCまたは5hmCの割合または量が決定されうる。
【0154】
本明細書に記載のポリヌクレオチドは、固体支持体上に固定化されうる。
固体支持体は、ポリヌクレオチドが固定化されうる表面を提示する不溶性の非ゼラチン状物体である。
【0155】
適切な支持体の例は、スライドガラス、マイクロウェル、膜、またはマイクロビーズを含む。支持体は、例えばプレート、試験管、ビーズ、ボール、フィルター、織物、ポリマー、または膜を含む、粒子状または固体形態でありうる。ポリヌクレオチドは、例えば、核酸シークエンシングまたは他の調査の文脈で使用される不活性ポリマー、96ウェルプレート、他のデバイス、器具または材料に固定されうる。ポリヌクレオチドの固体支持体表面への固定化は、当技術分野で周知である。いくつかの実施形態では、固体支持体自体が固定化されうる。例えば、マイクロビーズが第2の固体表面上に固定化されていてもよい。
【0156】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドの集団の第1および/または第2の部分は、シークエンシングの前に増幅されうる。好ましくは、ポリヌクレオチドの部分は、酸化および標識の後に増幅される。
【0157】
ポリヌクレオチドの増幅に適した方法は、当技術分野で周知である。
増幅後、ポリヌクレオチドの集団の増幅部分は、シークエンシングされうる。
ヌクレオチド配列が比較されて、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシンに対応する第1および第2のヌクレオチド配列中の位置の残基が、コンピュータベースの配列解析を用いて同定されうる。
【0158】
閾値より多いシトシン修飾を持つCpGアイランドなどのヌクレオチド配列が同定されうる。例えば、1%より多い、2%より多い、3%より多い、4%より多い、または5%より多いシトシンが5-メチル化および/または5-ヒドロキシメチル化されている、1つまたは複数のヌクレオチド配列が同定されうる。
【0159】
コンピュータベースの配列解析は、任意の簡便なコンピュータシステムとソフトウェアとを用いて行われうる。典型的なコンピュータシステムは、中央処理装置(CPU)、入力手段、出力手段およびデータ記憶手段(RAMなど)を含む。好ましくは、モニターまたは他の画像ディスプレイが提供される。コンピュータシステムは、DNAおよび/またはRNAシークエンサーと作動可能に連結されうる。
【0160】
本発明の方法は、この修飾されたポリヌクレオチドを未処理のポリヌクレオチド配列と比較することを可能とする。これらの配列の比較は、処理によってCからTに変化した場所を示すことができる。このようにして、5mCおよび/または5hmCの存在が決定されうる。
【0161】
よって、試料ヌクレオチド配列は、未処理の部分と処理された部分とを含みうる。各部分のポリヌクレオチドは、シークエンシングされ、互いに比較されて、処理された部分における修飾の同定が可能となる。
【0162】
本件の方法において、試料中の修飾シトシンを同定する任意のステップは、ポリヌクレオチド内の5mCおよび/または5hmC残基が5fC残基に変換されるように、ヌクレオチド試料の集団を処理するステップを含む。処理したポリヌクレオチドは、シークエンシングされ、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基に対応する、処理されたヌクレオチド配列中の残基が同定されうる。ここで、同定は、試料と処理ポリヌクレオチドとの間のシークエンシングされた残基の変化に従いうる。よって、Cとして読まれる5mCおよび5hmCは、処理された配列ではTとして読まれる。よって、処理されたヌクレオチド配列中のチミン残基の存在は、試料ヌクレオチド配列中の修飾シトシン残基が5mCまたは5hmCであることを指し示す。
【0163】
よって、本発明の一実施形態では、試料ヌクレオチド配列が2つまたは3つの集団とされうる。第1の集団は、本発明の方法を用いて分析されうる。よって、ポリヌクレオチド中の5mCまたは5hmC残基は、5fC残基へと酸化されうる。次いで、結果として生じるポリヌクレオチドは、シークエンシングされて、修飾シトシン残基が通常の方法で同定されうる。この方法は、第2の集団については、以下に述べる方法と組み合わせられうる。
【0164】
第2の集団は、例えば、グルコース保護5-ヒドロキシメチルシトシン(5gmC)のように、ポリヌクレオチド中の5hmC残基を保護するために、保護剤で処理されてもよい。次いで、処理された集団は、その後、ポリヌクレオチド中の5mC残基を5fC残基に変換し、それから、この5fC残基を標識残基に変換するために、さらに処理されうる。次いで、結果として生じるポリヌクレオチドは、シークエンシングされて、修飾シトシン残基が通常の方法で同定されうる。
【0165】
第3の集団は、ポリヌクレオチド中の既存の5fC残基をステップ(iii)の標識反応に反応しない種へと変換するために、ブロッキング剤で処理されうる。ブロック剤は、ヒドロキシルアミンまたはヒドラジンなどの求核剤であってもよい。次いで、結果として生じるポリヌクレオチドは、シークエンシングされて、修飾シトシン残基が通常の方法で同定されうる。
【0166】
複数の集団を有する試料ヌクレオチド配列の分析は、例えば、LiuらおよびWO2019/136413により記載されている。これらの文献に開示されている5mC、5hmC、および5fCを変換するための方法、ならびに付随する分析方法は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0167】
使用
さらなる一般的な態様において、本発明は、ポリヌクレオチド中の5mC残基および/または5hmC残基を酸化するための非酵素的ラジカル開始剤の使用を提供する。酸化は一電子プロセスを含む。
【0168】
よって、本発明は、ポリヌクレオチド中の5mC残基および/または5hmC残基を変換して、5fC残基を形成するための、ラジカル開始剤の使用を提供する。ラジカル開始剤は光触媒であってもよく、使用は光、水、および場合により、一電子酸化剤の存在下でありうる。
【0169】
ラジカル開始剤、反応条件および反応生成物の好ましい特徴は、本明細書に記載のとおりである。
キット
さらなる態様において、本発明は、
(a)本明細書に記載のラジカル開始剤;
(b)ポリメラーゼ;および場合により
(c)本明細書に記載の一電子酸化剤
を含むキットを提供する。
【0170】
キットは適切な容器および/または適切な包装で提供されうる。
ポリメラーゼはDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼでありうる。ポリメラーゼは、耐熱性ポリメラーゼ、例えば高識別ポリメラーゼでありうる。好ましくは、ポリメラーゼはウラシル認容性のポリメラーゼであり、標識されたシトシン残基を越えたDNA合成が可能である。
【0171】
場合により、キットは使用のための説明書、例えばポリヌクレオチド試料中の5mCを検出する方法におけるキットの使用方法に関する文書による指示を含んでいてもよい。
キットは、1つまたは複数の修飾シトシン残基、例えばシトシン(C)、5-メチルシトシン(5mC)、5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)または5-ホルミルシトシン(5fC)を含む対照ポリヌクレオチドの集団をさらに含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、対照ポリヌクレオチドの集団は、1つまたは複数の部分に分割されてもよく、各部分は、異なる修飾シトシン残基を含む。
【0172】
キットは、上記の修飾シトシン残基を同定する方法における使用のための説明書を含んでいてもよい。
キットは、バッファー溶液、シークエンシングおよび他の試薬など、方法に必要な1つまたは複数の他の試薬を含みうる。修飾シトシンの同定にける使用のためのキットは、DNAおよび/またはRNAの単離と精製の試薬とを含む、試験試料自体を提供するための手段、ならびに試料取扱容器(そのような成分は一般に滅菌されている)など、方法の実施のための1つもしくは複数の物品および/または試薬を含みうる。
【0173】
キットは、シークエンシングアダプター、および単離された核酸の末端にシークエンシングアダプターを結合するための1つまたは複数の試薬、例えばT4リガーゼを含んでいてもよい。
【0174】
キットは、増幅プライマーを用いて核酸の集団を増幅するための1つまたは複数の試薬を含んでいてもよい。適切な試薬は、dNTPおよび適切なバッファーを含みうる。
他の実施形態
上述した実施形態の各々のあらゆる適合性のある組合せは、あたかも各々のあらゆる組合せが個別に明示的に記載されているかのように、本明細書において明示的に開示される。本発明の様々なさらなる態様および実施形態は、本開示の観点から当業者には明らかであろう。
【0175】
本明細書で使用される「および/または」は、2つの指定された特徴または成分の各々について、他方を伴うか伴わないかにかかわらず、具体的な開示とみなされる。例えば、「Aおよび/またはB」は、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)AおよびBの各々の具体的な開示とみなされ、あたかも各々が本明細書に個別に記載されているかのように解釈される。
【0176】
文脈により別段の指示がない限り、上記の特徴の説明および定義は、本発明の任意の特定の態様または実施形態に限定されるものではなく、記載されているあらゆる態様および実施形態に等しく適用される。
【0177】
ここでは、本発明のある特定の態様および実施形態が、例として、上述の図を参照して説明される。
【0178】
結果および考察
本発明の方法は、ヌクレオシドおよびオリゴデオキシリボヌクレオチド(ODN)の両方について例示された。
【0179】
材料および方法
試薬はSigma-Aldrich、Acros、またはAlfa Aesarから入手し、さらに精製せずに使用した。酵素溶液はZymo、New England BioLabs、またはSigma-Aldrichから入手し、直接使用した。Na4W10O32は文献の手順(Sarverら)に基づいて合成した。
【0180】
反応用の短いオリゴデオキシリボヌクレオチド(ODN)を含むODN、100merのss-DNA鎖、および鋳型ならびにプライマーは、ATDBioまたはSigma-Aldrichによりカスタム合成およびHPLC精製され、超純水H2O(Milli-Q H2O、MerckのMilli-Q Type 1 Ultrapure Water Systemsにより精製)に溶解後、さらに精製せずに使用した。
【0181】
モデルODNの配列を表1に示す。
【0182】
【0183】
LC-MSスペクトルは、Ultimate 3000 LC(Dionex)に接続したAmazon X ESI-MS(Bruker)で記録した。単一のデオキシリボヌクレオチドをWaters Acquity premier HSS T3カラム(1.8μm、2.1×100mm、パーツ番号186009471)で分析した(方法:溶離液A、5mMのNaHCO3水溶液;溶離液B、MeCN;流速、0.5mL/分;2%溶離液Bで12分間予備洗浄;8分間、2%溶離液B;1分、2~60%溶離液Bの勾配;5分、60%溶離液b;1分、60~5%溶離液Bの勾配)。
【0184】
ODNは、Waters XBridge Oligonucleotide BEH C18カラム(130Å、2.5μm、2.1×50mm)またはAcquity Premier Oligonucleotide BEH C18カラム(130Å、1.7μm、2.1×50mm)において、10mMトリエチルアミンおよび100mMヘキサフルオロ-2-プロパノールの水溶液に対して、5~30%または5~40%メタノールの勾配を用いて分析した(流速0.5mL/分で10~15分間)。示されている質量クロマトグラムは、ベースピーククロマトグラムであり、UV吸収は260nmで記録した。
【0185】
ODNの高分解能質量分析(HRMS)は、TMSエンドキャッピングを施したXTerra MS C18カラム(125Å、2.5μm、2.1×50mm)において、10mMトリエチルアミンおよび100mMヘキサフルオロ-2-プロパノールの水溶液に対して5~30%メタノールの勾配を用いて、Shimadzu LC-MS 9030 QToFにおいて行った。
【0186】
反応は、特に断りのない限り、大気下で実施した。反応は、LC-MSによりモニタリングした。
フォトリアクター(HCK1006-01-016)およびランプ(HCK1012-01-006、365nm、30W)は、HepatoChem(Beverly MA01915米国)から購入した。
【0187】
光触媒反応は全て2mLのガラスバイアル中で行った。O2を含まない反応は20mLのシュレンク管中で行った。
自動ゲル電気泳動は、Agilent Technologies 2200 Tapestation、D1000 ScreenTapesおよび試料バッファーを用いて行った。
【0188】
オリゴはZymo Oligo Clean & Concentrator Kits(D4060)によって、サプライヤーのプロトコールを用いて精製した(EtOHの代わりにiPrOHを使用)。
【0189】
PCRの試料は、Thermo Fisher GeneJET PCR Purification Kitによって、サプライヤーのプロトコールに従って精製した。
DNAシークエンシング試料ライブラリーをNEBNext Ultra II DNA Library Prep Kit for Illumina(E7645S)を用いて調製し、NEBNext Multiplex Oligos for Illumina(E6609S)を用いてインデックスを付け、Illumina MiSeq Reagent Nano Kit v2(300サイクル)(MS-103-1001)を用いて、Illumina MiSeqシークエンサーでシークエンシングした。
【0190】
一般的な方法
一般的手順A:5mdCから5fdCへの選択的酸化
2mLの透明ガラスバイアルに、モノデオキシヌクレオシドのストック溶液、Na4W10O32および指定された他の試薬を加えた。H2Oおよび指定された有機溶媒で混合物を目的とする濃度および容量にまで希釈した。バイアルに空気下で蓋をした。それを次に、指定された時間、フォトリアクター内で365nmの照射下に置いた。反応の終わりに、混合物を水で希釈し、LC-MSで分析した。
【0191】
一般的手順B:5mdCから5fdCへのO2フリーの選択的酸化(凍結-ポンプ-融解)
20mLのシュレンク管に、単一のデオキシリボヌクレオチドのストック溶液、Na4W10O32および指定されたその他の試薬を加えた。H2Oおよび指定された有機溶媒で混合物を目的とする濃度および容量にまで希釈した。シュレンク管に蓋をし、液体窒素中に入れた。溶液が完全に凍結した後、シュレンク二重路を通して高真空にシュレンク管を接続した。溶液が室温で融解する前に、真空アルゴンサイクルを3回行った。凍結-ポンプ-融解の手順を繰り返した。次に、シュレンク管を指定された時間、フォトリアクター内で365nmの照射下に置いた。反応の終わりに、混合物を水で希釈し、LC-MSで分析した。
【0192】
一般的手順C:オリゴデオキシリボヌクレオチド中の5mCから5fCへの選択的酸化
2mLの透明ガラスバイアルに、ODNのストック溶液、Na4W10O32、NFSIおよび指定されたその他の試薬を加えた。H2Oおよび指定された有機溶媒で混合物を目的とする濃度および容量にまで希釈した。バイアルに空気下で蓋をした。次に、それを指定された時間、フォトリアクター内で365nmの照射下に置いた。反応の終わりに、反応物をZymoオリゴ濃縮器により精製し、ODNをLC-MSで分析した。
【0193】
一般的手順D:変換したオリゴと(+)-ビオチンアミドヘキサン酸ヒドラジドのコンジュゲーション
光化学的に変換したオリゴを精製し、水で70μLに希釈した。この溶液に、DMSO中100mMのヒドラジド10μL、MeOH中1Mのp-アニシジン10μL、および400mMのNH4OAc(pH=5)10μLを加えた。混合物を25℃で20時間撹拌した後、Zymoオリゴ濃縮器を用いて精製した。精製したオリゴをLC-MSで分析した。
【0194】
一般的手順E:変換したオリゴとマロノニトリルのコンジュゲーション
光化学的に変換したオリゴを精製し、水で60μLに希釈した。この溶液に、水中1Mのマロノニトリル40μLを加えた。混合物を25℃で20~24時間撹拌した後、Zymoオリゴ濃縮器により精製した。精製したオリゴをLC-MSで分析した。
【0195】
光触媒による5mC-13merの変換とその後の酵素消化
2mLガラスバイアル中、10μMの5mC-13mer、50μMのNa4W10O32および10mMのNFSIを含む100μLの溶液(VDMSO/VH2O=1/9)を365nm照射(30W)下、20~25℃で30分間撹拌した。反応の終わりに、それを直ちにZymoオリゴ濃縮器および精製キットにより精製した。精製したODNを超高純度H2Oに溶解し、LC-MSで分析した。ODNの試料(90%)をZymo DNAデグラダーゼプラスによる酵素消化に供した。50μLのODNの溶液を、サプライヤーにより提供されたDNAデグラダーゼバッファーと10UのDNAデグラダーゼと共に37℃で5時間インキュベートした。消化した試料を、予備洗浄した(400μLの超高純度H2O)Amicon Ultra-0.5ml 10K遠心フィルター(Merck)により精製し、フィルター上でさらに40μLの超高純度H2Oで洗浄した。精製した溶液をLC-MSで分析した。
【0196】
NGSによる5mC-100merの5mC部位のシークエンシング
2mLガラスバイアル中、5μMの5mC-100mer、20μMのNa4W10O32および10mMのNFSIを含む100μLの溶液(VDMSO/VH2O=1/9)を365nm照射(30W)下、20~25℃で1~2時間撹拌した。反応の終わりに、それを直ちにオリゴ精製キットにより精製した(この反応は5mCの変換を増やすために繰り返されうる)。精製したオリゴを100μLの400mMマロノニトリル水溶液中、25℃で24時間撹拌した後、Zymoオリゴ濃縮器および精製キットにより精製した。精製したオリゴのごく一部をTaq Hot Startポリメラーゼ(NEB)を用いてPCRにより増幅した。PCR産物はD1000 ScreenTapeを用いてAgilent 2200 TapeStationで検証した。その後、それをThermo Fisher GeneJET PCR精製キットにより精製した。精製したPCR産物を用いて、NEBNext Ultra II DNA Library Prepキットを用いてシークエンシングライブラリーを調製し、NEBNext Multiplex Oligosによりインデックス付けした。NaOH(aq.)で変性させたライブラリーに、等モル量の変性PhiX溶液を加え、(サプライヤーのプロトコールに従って)終濃度6pMのライブラリーのを準備した。ライブラリーは、社内のIllumina MiSeqシークエンサーとMiSeq Reagent Nano Kit v2を用いてシークエンシングした。データはカスタマイズしたパイプラインによって分析した。
【0197】
PCRの条件を表2に示す。
【0198】
【0199】
400μLの溶液を50μLずつ8本のチューブに分けた。
PCR反応はT100 Thermocycler(BioRad)で行った。方法:蓋、105℃;ステップ1、95℃、2分;ステップ2、95℃、30秒;ステップ3、62℃、30秒;ステップ4、72℃、1分;ステップ5、ステップ2に進み、40回繰り返す;ステップ6、72℃、1分;ステップ7、12℃で無限にホールド。
【0200】
ヌクレオシドの酸化
タングステン酸ベースのポリオキソメタレート、リンタングステン酸ナトリウム(Na3PW12O40)は、5mdCから5fdCへの効率的な変換を促進することが見出された。100μMの濃度において、水中100μMのNa3PW12O40、20%DMSO、18時間の365nmの光照射下において、5mdCは95%を越える選択性で5fdCへと完全に変換されうる(スキーム6)。
【0201】
【0202】
ポリオキソメタレートと一電子酸化剤の組合せについても調査した。異なるタイプの酸化剤をリンタングステン酸ナトリウムと共に試しても、有意な改善は見られなかった。
驚くべきことに、デカタングステン酸ナトリウム(Na4W10O32)を触媒として使用した場合(Sarverら)、一電子酸化剤と組み合わせると、有意な促進が観察された(スキーム7)。酸化剤のN-フルオロベンゼンスルホンイミド(NFSI)、5-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウムテトラフルオロボレート(O9)、およびN-クロロサッカリン(O11)はそれぞれ、2時間で5mdCの53~70%の変換をもたらした。対照的に、H2O2を代わりに使用した場合、不十分な変換が観察された。化合物O1からO13から選択される一電子酸化剤を使用した反応の結果を表3に示す。反応は、特に断りのない限り、一般的手順Aに従い、水中10%のDMSO中5mMの5mdCを用いて、および5mol%デカタングステン酸ナトリウムを光触媒として2時間行った。
【0203】
【0204】
【0205】
デカタングステン酸ナトリウムとNFSIとの反応について、速度論的試験を行った(スキーム8)。DNAの分子官能性を模倣するため、5mdC、デオキシアデノシン(dA)、デオキシシチジン(dC)、デオキシグアノシン(dG)、およびデオキシチミジン(dT)の等モル混合物をこの試験に使用した。2時間後、70%の5mdCが70%を越える選択性で5fdCに変換された(
図1)。dA、dC、dGおよびdTの濃度は、2時間の反応にわたって非常に安定していた。反応を長時間実行すると、交差活性なC-Hの酸化および脱プリン化を含む副反応の量の増加が観察された。
【0206】
【0207】
反応をよりよく理解するために、いくつかの対照実験を行った。反応をアルゴン中で行った場合、結果は空気中と同等であった(スキーム9)。3時間後、5mdCの71%が変換され、5fdCの収率は58%であった。18Oが濃縮されたH2O中で反応を行った場合、18Oで標識された5-ヒドロキシメチルデオキシシチジン(5hmdC)が中間体として検出された。これは、酸化における酸素源がH2Oであることを示唆する。Hongらもまた、酸素源としてH2Oを使用すると考えられる光触媒C-H酸化プロセスを開示する。
【0208】
【0209】
化合物5hmdCも同じ条件下で5fdCへと酸化されることが見出された(スキーム10)。3時間で、5hmdCの77%が変換され、5fdCの収率は60%であった。
【0210】
【0211】
オリゴデオキシリボヌクレオチドの酸化
次に、ODN中の5mC残基を酸化した(スキーム11)。5mC残基を1つ含む13merのODN(5mC-13mer)を使用した。
【0212】
ODNの文脈において、リンタングステン酸ナトリウムを用いると、5mC残基の5fC残基への10%の変換が観察された(スキーム10)。しかしながら、リンタングステン酸ナトリウムは、5mC残基の有意な変換の前にODNを大幅に分解することが見出された。これは、ホスホジエステル骨格の切断のためである可能性が高い(Hanら)。したがって、このラジカル開始剤を用いて有用な量の酸化生成物を回収するためには、大量の出発物質が必要となる。
【0213】
【0214】
酸化をデカタングステン酸ナトリウムとNFSI(O1)との存在下で行った場合、15~30分の反応後に5mCから5fCへの20~40%の変換が観察された(精製ODNの質量変化に基づく)(スキーム12)。ODN出発物質の約30mol%の損失もUV分光法に基づいて観察された。有意な量の脱プリンは観察されなかった。
【0215】
酸化をデカタングステン酸ナトリウムと(O6)またはN-クロロサッカリン(O11)のいずれかの存在下で行った場合、15~30分以内に約10%の5mCから5fCへの変換が観察された。
【0216】
反応が行われた後に、5mC-13mer ODNと酸化ODNとがLC-MSで検出できたことから、ODNは反応の過程でほとんど分解されず、回収できることが確認された。
【0217】
【0218】
ゲノム中の5fCの最初の発見は、Pfaffenederらに記載された方法に従った消化DNAの質量分析試験によるものであった。本研究では、5mC残基の光化学的な酸化後に5fC残基が得られたことを確認するため、変換したODNを精製し、単一のヌクレオシドにまで消化した。5fCの痕跡が消化混合物中に確かに観察され、よって、この残基の形成が確認された。消化混合物中に5-ホルミルデオキシウリジン(5fdU)の痕跡は観察されなかった。自己相補的な24mer ODN(5mC-24mer)も反応について調査した。5mC-24merの濃度を10μM、10%水性DMSO、100μM Na4W10O24とした場合、15分の365nm照射下において、5mC残基の最大40%が5fCへと変換されうる。
【0219】
標識
ODN中の5mC残基が5fCに変換された後、ODNはビオチンを含むオキシアミンまたはヒドラジドとのホルミル基でのバイオコンジュゲーション反応によって容易に濃縮されうる(Raiberら;Hardistyら)。これは、得られた混合物をビオチンアミドヘキサン酸ヒドラジド(10mM)と反応させることで実証された。5mC-13merの光触媒酸化で得られた13mer ODN混合物をバイオコンジュゲーション反応に供した。反応は、p-アニシジン(100mM)およびNH4OAc(pH=5.0、40mM)の存在下、22℃で20時間行った。LC-MSで確認したところ、反応混合物の約30%が1当量のプローブとコンジュゲートしていたことが見出された。検出可能な量の脱塩基(AP)部位でのコンジュゲーションは観察されず、この反応が選択的であることが示唆された。
【0220】
DNA中に生成された5fC残基は、代替的に1,3-インダンジオン、マロノニトリルまたはピリジンボランによって変換され(Xiaら;Zhuら;Liuら)、次いでポリメラーゼ連鎖反応(PCR)中に5fCからTへの変異を導入するために使用されうる。(i)DNA中の5mC残基を光化学的に5fCに酸化し、その後マロノニトリル変換を行い、(ii)PCRで全体的な5mCからTへの変異を作り出す、2段階の化学処理を適用した(スキーム13)。
【0221】
内因性の5fCは、哺乳動物ゲノムを含む多くのゲノムにおいて、5mCと比較して非常に低いレベルで存在し(Zhuら)、したがって、本方法により得られるCからTへの変異は、内因性の5fC残基による偽陽性に由来するものではないと期待されることに留意すべきである。さらに、5fCは5hmCへと還元し(Boothら)、グルコースによって保護することで(Songら)、5mCシークエンシングワークフロー中の偽陽性を防ぐことができる。
【0222】
【0223】
5mC-13merを使用して、2ステップの化学反応を試験した。酸化した5mC-13merを400mMのマロノニトリル水溶液中、22℃で20時間撹拌した。精製したODN混合物のLC-MS分析において、対応するマロノニトリル付加物の質量が観察された。
【0224】
シークエンシング
本発明の方法を5mC-シークエンシングに適用できることを実証するために、概念実証実験を行った。
【0225】
この研究の標的として、5mC残基を1つ有する100merの一本鎖DNA(ss-DNA)(5mC-100mer)を選択した。5mC-100merを光触媒酸化化学で処理した後、マロノニトリル共役反応を行った。得られたODN混合物をPCRにより増幅した。陰性対照は光触媒なしで行った。5mCの代わりに5fC残基を含む100merのss DNA(5fC-100mer)を陽性対照として用いて、マロノニトリルと直接反応させた。増幅された試料をシークエンシングした。
【0226】
シークエンシングデータは、標的部位における最大32%の5mCからTへの変換を示した(
図2)。陰性対照は0.5%未満の5mCからTへの変換を示した。陽性対照は81%の5fCからTへの変換を示し、これは、5fCからTへの変換が非常に効率的であることを指し示している。非特異的な変異の割合は全て0.5%未満であることが見出され、これは、本方法が5mC部位に特異的であることを指し示している(
図3)。
【0227】
参考文献
本発明および本発明が属する技術の現状をより完全に説明し、開示するために、いくつかの刊行物が上記において引用されている。これらの文献の完全な引用を以下に記す。これらの各文献の全体が本明細書に組み込まれる。
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