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特表2024-524410フラジェリンを肺送達するためのエアロゾル組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】フラジェリンを肺送達するためのエアロゾル組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20240628BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240628BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240628BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P31/00
A61P37/04
A61K9/72
A61K47/12
A61K47/04
A61K47/10
C12N15/31 ZNA
C07K14/195
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580669
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2022068149
(87)【国際公開番号】W WO2023275292
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】21182877.7
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513246469
【氏名又は名称】インサーム(インスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】512215048
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・トゥール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE TOURS
(71)【出願人】
【識別番号】518057608
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リール
(71)【出願人】
【識別番号】513027318
【氏名又は名称】アンスティテュ パストゥール ドゥ リール
(71)【出願人】
【識別番号】523167611
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ ユニベルシテール ドゥ リール
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE LILLE
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【弁理士】
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】ウーゼ ヴルシュ,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】マイヨール,アレクシ
(72)【発明者】
【氏名】シラール,ジャン-クロード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076BB27
4C076CC07
4C076CC31
4C076DD09E
4C076DD09F
4C076DD26Z
4C076DD41Z
4C076FF15
4C076FF16
4C076FF61
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA04
4C084DC50
4C084MA13
4C084MA56
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB321
4C084ZB322
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、メッシュ式噴霧時にフラジェリンを安定化させるための、緩衝液、界面活性剤、糖、およびアミノ酸を含む最適な賦形剤を定めるための製剤研究に起因している。タンパク質の安定化における重要な要素の1つは、適切な溶解性および安定性を提供し、エアロゾル化プロセス時の凝集体形成を回避するために、最適なpHおよび緩衝系を決定することである。フラジェリンポリペプチドを含む安定かつ可溶性のエアロゾル組成物を得るために、エアロゾル化プロセス後にフラジェリンの活性を維持するようにフラジェリンポリペプチドを含む液体製剤の緩衝剤、界面活性剤、およびpHの選択を考慮して、様々な製剤が試験された。本発明は、液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物であって、該液体製剤がフラジェリンポリペプチド、緩衝液、ならびに界面活性剤を含む、エアロゾル組成物に関する。本発明のエアロゾル組成物は、肺細菌感染症の処置に適している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物であって、前記液体製剤が、
(i)フラジェリンポリペプチド、
(ii)アセテート、ホスフェート、およびそれらの組合せからなる群より選択される緩衝剤、ならびに、
(iii)ポリソルベートからなる界面活性剤、ならびに、
(iv)水性媒体を含み、
前記液体製剤が、約8以下であるpHを有する、エアロゾル組成物。
【請求項2】
前記界面活性剤はポリソルベート80である、請求項1に記載のエアロゾル組成物。
【請求項3】
前記緩衝剤はアセテートであり、前記液体製剤は、約5.8未満、または約5.5未満であるpHを有する、請求項1または2に記載のエアロゾル組成物。
【請求項4】
前記緩衝剤はホスフェートであり、前記液体製剤は、約6.8未満、または約6.5未満であるpHを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のエアロゾル組成物。
【請求項5】
前記液体製剤における前記界面活性剤の濃度は、約0.1%(w/v)以下、または約0.02%(w/v)以下、または約0.005%(w/v)以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のエアロゾル組成物。
【請求項6】
前記フラジェリンポリペプチドは、(a)配列番号3の1番目に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号3の99番目~173番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するN末端ペプチド、および、(b)配列番号3の401番目~406番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号3の494番目に位置するアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するC末端ペプチドを含み、前記N末端ペプチドは、前記C末端ペプチドに直接連結されているか、または、前記N末端ペプチドおよび前記C末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のエアロゾル組成物。
【請求項7】
前記N末端ペプチドおよび前記C末端ペプチドはそれぞれ、配列番号3のアミノ酸配列1~173および401~494からなる、請求項6に記載のエアロゾル組成物。
【請求項8】
前記N末端ペプチドおよび前記C末端ペプチドは、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOH(配列番号4)ペプチド配列からなる中間スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている、請求項6または7に記載のエアロゾル組成物。
【請求項9】
前記フラジェリンポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列を有するポリペプチドである、請求項8に記載のエアロゾル組成物。
【請求項10】
液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物を調製する方法であって、
(i)請求項1~9のいずれか1項に規定される液体製剤を提供するステップと、
(ii)ステップ(i)において提供された前記液体製剤をネブライザーによって噴霧し、それによりエアロゾルを調製するステップとを含む方法。
【請求項11】
前記方法は、任意で、ステップ(i)とステップ(ii)との間に、
(ia)ステップ(i)において提供された前記液体製剤を凍結乾燥し、それにより凍結乾燥粉末を提供するステップと、
(ib)ステップ(ia)において提供された前記凍結乾燥粉末に適切な量の水性媒体を添加することによって、ステップ(i)において提供された前記液体製剤を再構成するステップとをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
対象の肺にフラジェリンポリペプチドを送達する方法における使用のための、請求項1~9のいずれか1項に記載のエアロゾル組成物または請求項1~9のいずれか1項に規定される液体製剤であって、前記エアロゾル組成物は吸入によって前記対象に投与される、または、前記液体製剤はネブライザーを介して吸入によって前記対象に投与される、請求項1~9のいずれか1項に記載のエアロゾル組成物または請求項1~9のいずれか1項に規定される液体製剤。
【請求項13】
対象の肺感染疾患を処置または予防する方法における使用のための、任意で少なくとも1つの抗生物質と組み合わせた、請求項1~9のいずれか1項に記載のエアロゾル組成物または請求項1~9のいずれか1項に規定される液体製剤であって、前記エアロゾル組成物は吸入によって前記対象に投与される、または、前記液体製剤はネブライザーを介して吸入によって前記対象に投与される、請求項1~9のいずれか1項に記載のエアロゾル組成物または請求項1~9のいずれか1項に規定される液体製剤。
【請求項14】
(i)請求項1~9のいずれか1項に規定される液体製剤、または前記液体製剤の凍結乾燥によって得られる粉末を含む容器、および、
(ii)ネブライザーを含む、キット。
【請求項15】
ネブライザーによる噴霧によってエアロゾル組成物を調製するための、請求項1~9のいずれか1項に規定される液体製剤の使用。
【請求項16】
フラジェリンポリペプチドを含む液体製剤をネブライザーによって噴霧する際に前記フラジェリンポリペプチドの安定性を高めるための、アセテート、ホスフェート、およびそれらの組合せからなる群より選択される緩衝剤、ならびにポリソルベートからなる界面活性剤の使用であって、前記緩衝剤は、噴霧の前に前記液体製剤に含まれる、使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物であって、該液体製剤がフラジェリンポリペプチド、緩衝液(アセテートまたはホスフェート)、および界面活性剤(ポリソルベート)を含む、エアロゾル組成物に関する。本発明のエアロゾル組成物は、肺細菌感染症の処置に適している。
【背景技術】
【0002】
治療用タンパク質の肺送達は、注目される非侵襲的な非経口送達の代替形態に相当し得る。肺投与経路は、肺疾患、特に肺細菌感染症を処置するため、様々な薬剤やバイオ医薬品の局所送達および全身送達に有効であると分かっている。
【0003】
しかしながら、ポリペプチドなどのタンパク質を肺に投与することは、例えば、凝集や、場合によって生物学的/治療的活性の喪失、および/または安全性の問題につながる強い分子間/粒子間の相互作用および物理化学的分解を克服するためにポリペプチドを適切に製剤化する必要性などの、多くの課題を伴う。例えば、タンパク質は、エアロゾル化に伴うせん断ストレスおよび/もしくは温度上昇に対して感受性があり得、ならびに/またはエアロゾルの気液界面において安定性の低下を示し得る。
【0004】
フラジェリンは、肺炎の場合に免疫調節剤として使用される28kDの生物学的薬剤である。したがって、フラジェリンの噴霧吸入による肺投与によって、細菌感染の部位を直接的に標的とすることができ得る。しかしながら、フラジェリンなどの治療用タンパク質は、特にエアロゾル化のプロセスによって生じるストレスに感受性があることが多い。実際に、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)中で製剤化したフラジェリンのメッシュ式噴霧は、タンパク質の高い凝集をもたらした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、フラジェリンの肺送達に適し、エアロゾル化/噴霧の際のフラジェリンポリペプチドの安定性および活性の維持を支援する製剤系を特定することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物であって、該液体製剤がフラジェリンポリペプチド、緩衝液(アセテートまたはホスフェート)、および界面活性剤(ポリソルベート)を含む、エアロゾル組成物に関する。特に、本発明は特許請求の範囲によって規定される。
【0007】
第1の態様において、本発明は、液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物に関し、該液体製剤が、
(i)フラジェリンポリペプチド、
(ii)アセテート、ホスフェート、およびそれらの組合せからなる群より選択される緩衝剤、ならびに、
(iii)ポリソルベートからなる界面活性剤、ならびに、
(iv)水性媒体を含み、
液体製剤が、約8以下であるpHを有する。
【0008】
第2の態様において、本発明は、液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物を調製する方法に関し、該方法が、
(i)上述で規定される液体製剤を提供するステップと、
(ii)ステップ(i)において提供された液体製剤をネブライザーによって噴霧し、それによりエアロゾルを調製するステップとを含む。
【0009】
第3の態様において、本発明は、対象の肺にフラジェリンポリペプチドを送達する方法における使用のための、本発明のエアロゾル組成物または上述で規定される液体製剤に関し、エアロゾル組成物は吸入によって対象に投与される、または、液体製剤はネブライザーを介して吸入によって対象に投与される。
【0010】
他の態様において、本発明は、対象の肺細菌感染症を処置または予防する方法における使用のための、任意で少なくとも1つの抗生物質と組み合わせた、本発明のエアロゾル組成物または上述で規定される液体製剤に関し、エアロゾル組成物は吸入によって対象に投与される、または、液体製剤はネブライザーを介して吸入によって対象に投与される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、メッシュ式噴霧時にフラジェリンを安定化させるための、緩衝液、界面活性剤、糖、およびアミノ酸を含む最適な賦形剤を定めるための製剤研究に起因している。タンパク質の安定化における重要な要素の1つは、適切な溶解性および安定性を提供し、エアロゾル化プロセス時の凝集体形成を回避するために、最適なpHおよび緩衝系を決定することである。
【0012】
本明細書において、製剤の様々な成分は無作為に選ばれたのではなく、食品に添加される化学物質または物質がその意図された使用条件下で専門家によって安全とみなされるという、米国食品医薬品局(FDA)の指定である一般的に安全と認められる(Generally recognized as safe(GRAS))リストに基づいて選択された。(https://en.wikipedia.org/wiki/Generally_recognized_as_safe)。
【0013】
実際に、様々な成分は、すでに市販の吸入可能な製品(肺)に使用されていたか、または第2相臨床試験において試験されている治療用タンパク質の製剤に使用されていたか(したがって、すでに許容される耐性を示している)のいずれかであった。
【0014】
このように、フラジェリンポリペプチドを含む安定かつ可溶性のエアロゾル組成物を得るために、特に、エアロゾル化プロセス後にフラジェリンの活性を維持するようにフラジェリンポリペプチドを含む液体製剤の緩衝剤、界面活性剤、およびpHの選択を考慮して、様々な製剤が試験された。したがって、TLR5活性化におけるフラジェリンの効力は、本発明におけるエアロゾル製剤の噴霧後に維持された(実施例の項を参照)。
【0015】
第1の態様において、本発明は、液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物に関し、該液体製剤が、
(i)フラジェリンポリペプチド、
(ii)アセテート、ホスフェート、およびそれらの組合せからなる群より選択される緩衝剤、ならびに、
(iii)ポリソルベートからなる界面活性剤、ならびに、
(iv)水性媒体を含み、
液体製剤が、約8以下であるpHを有する。
【0016】
本明細書において使用するように、「フラジェリン」という用語は当該技術におけるその一般的な意味を有し、様々なグラム陽性細菌種またはグラム陰性細菌種に含まれるフラジェリンを指す。フラジェリンの非限定的な供給源は、エシェリキア、例えばE.coli、エンテロバクター、エルウィニア、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばSalmonella enterica serovar Typhimurium、セラチア、例えばSerratia marcescans、およびシゲラ、ならびに、バチルス、例えばB.subtilisおよびB.licheniformis、シュードモナス、例えばP.aeruginosa、およびストレプトマイセスを含むがこれらに限定されない。これらの例は限定的なものではなく、例示的なものである。フラジェリンのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列はNCBI Genbankにおいて公開されており、例えば、受託番号AAL20871、NP_310689、BAB58984、AAO85383、AAA27090、NP_461698、AAK58560、YP_001217666、YP_002151351、YP_001250079、AAA99807、CAL35450、AAN74969、およびBAC44986を参照されたい。これらの種および他の種のフラジェリン配列は、本明細書において使用するようなフラジェリンという用語に包含されることが意図される。したがって、種間の配列の違いは、この用語の意味内に含まれる。
【0017】
「フラジェリンポリペプチド」という用語は、TLR5に結合して活性化させる能力を保持するフラジェリンまたはその断片を意図している。本明細書において使用するように、「Toll様受容体5」または「TLR5」という用語は当該技術におけるその一般的な意味を有し、任意の種のToll様受容体5だが、好ましくはヒトToll様受容体5を意味することを意図している。TLR5は、活性化されると、細胞表面から核へと一連のシグナリング分子を介して伝播される細胞内シグナルを伝達することで、細胞応答を誘導する。典型的に、TLR5の細胞内ドメインは、アダプタータンパク質であるMyD88を動員し、これがセリン/スレオニンキナーゼIRAK(IRAK-1およびIRAK-4)を動員する。IRAKはTRAF6と複合体を形成し、これが、その後、TLRシグナルの伝達に関与する様々な分子と相互作用する。これらの分子および他のTLR5シグナル伝達経路成分は、fos、jun、およびNF-kBなどの転写因子の活性を刺激し、例えばIL-6、TNF-α、CXCL1、CXCL2、およびCCL20などの、fos、jun、およびNF-kBが調節する遺伝子の遺伝子産物の対応する誘導を刺激する。典型的に、本発明のフラジェリンポリペプチドは、TLR5シグナリングに関与するフラジェリンのドメインを含む。「フラジェリンのドメイン」という用語は、自然起源のフラジェリンのドメインおよびその機能保存的変異体を含む。「機能保存的変異体」は、タンパク質または酵素の所定のアミノ酸残基が、ポリペプチドの全体的なコンフォメーションおよび機能を変えることなく変化したものであり、これには、アミノ酸が類似の特性(例えば、極性、水素結合電位、酸性、塩基性、疎水性、芳香族性等)を有するものと置換されることを含むが、これらに限定されない。タンパク質において、保存されているとして示されたもの以外のアミノ酸は、類似の機能をもつ任意の2つのタンパク質間のタンパク質またはアミノ酸配列の同一性パーセントが変わり得る、例えば70%~99%となり得るように、異なり得る。したがって、「機能保存的変異体」はまた、フラジェリンまたはその断片の自然の配列と少なくとも70%のアミノ酸同一性を有するポリペプチドも含む。本発明において、第1のアミノ酸配列が第2のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有することは、第1の配列が、第2のアミノ酸配列と70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99、または100%の同一性を有するということを意味する。同様に、第1のアミノ酸配列が第2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有することは、第1の配列が、第2のアミノ酸配列と90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99、または100%の同一性を有するということを意味する。アミノ酸の配列同一性は、好ましくは、BLAST P(Karlin and Altschul,1990)などの適切な配列アライメントアルゴリズムおよび初期パラメーターを用いて決定される。TLR5シグナリングに関与するフラジェリンのドメインは当該技術において周知であり、例えば、Smithら(2003)Nat.Immunol.4:1247-1253(例えば、S.typhimuriumのフラジェリンまたはそのホモログもしくは改変形態のアミノ酸78~129、135~173、および394~444)を参照されたい。
【0018】
フラジェリンポリペプチドの例は、参照することによって援用される、米国特許第6,585,980号明細書、第6,130,082号明細書、第5,888,810号明細書、第5,618,533号明細書、および第4,886,748号明細書、米国特許出願公開第2003/0044429号、ならびに国際公開第2008/097016号および第2009/156405号に記載されているものを含むがこれらに限定されない。例のE.coIi O157:H7のフラジェリンは配列番号1である。例のS.typhimuriumのフラジェリンは、配列番号2または配列番号3である。
【0019】
ポリペプチドの番号付けは、典型的に、以下に示すように細菌宿主細胞においてメチオニンアミノペプチダーゼによって切除される最終的なN末端メチオニン(配列番号3には示さず)の後の、最初のアミノ酸から開始される。
【0020】
一部の実施形態において、配列番号1、配列番号2、または配列番号3と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列は、本発明におけるフラジェリンポリペプチドとして使用することができる。一部の実施形態において、配列番号1、配列番号2、または配列番号3と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列は、本発明におけるフラジェリンポリペプチドとして使用することができる。一部の実施形態において、配列番号3と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列は、残基89~96(すなわちTLR5検出に関与する残基)が突然変異していない(すなわち置換または欠失していない)場合に、本発明におけるフラジェリンポリペプチドとして使用することができる。一部の実施形態において、配列番号1、配列番号2、または配列番号3と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列は、残基89~96(すなわちTLR5検出に関与する残基)が突然変異していない(すなわち置換または欠失していない)場合に、本発明におけるフラジェリンポリペプチドとして使用することができる。
【0021】
一部の実施形態において、本発明は、参照することによってそれらの全体が援用される、国際公開第2009/156405号および第2016/102536号に記載されるフラジェリン組換えポリペプチドの使用を包含する。
【0022】
一部の実施形態において、本発明のフラジェリンポリペプチドは、(a)配列番号3の1番目に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号3の99番目~173番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するN末端ペプチド、および、(b)配列番号3の401番目~406番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号3の494番目に位置するアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するC末端ペプチドを含み、上述のN末端ペプチドは、上述のC末端ペプチドに直接連結されているか、または、上述のN末端ペプチドおよび上述のC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている。
【0023】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列1~99、1~137、1~160、および1~173からなる群より選択される。
【0024】
一部の実施形態において、上述のC末端ペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列401~494、および406~494からなる群より選択される。
【0025】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよびC末端ペプチドはそれぞれ、配列番号3のアミノ酸配列1~173および401~494からなる。
【0026】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよびC末端ペプチドはそれぞれ、配列番号3のアミノ酸配列1~160および406~494からなる。
【0027】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよびC末端ペプチドはそれぞれ、配列番号3のアミノ酸配列1~137および406~494からなる。
【0028】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよび上述のC末端ペプチドは、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOH(配列番号4)ペプチド配列からなる中間スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている。
【0029】
一部の実施形態において、配列番号3の488番目に位置するアスパラギンアミノ酸残基は、セリンによって置換されている。
【0030】
一部の実施形態において、上記のようなフラジェリンポリペプチドは、N末端において付加的なメチオニン残基を含む(配列番号3のフラジェリンポリペプチドに関して)。
【0031】
一部の実施形態において、上記のようなフラジェリンポリペプチドは、N末端において1つの付加的なメチオニン残基(M)および1つの付加的なリシン残基(L)(アミノ酸残基ML)を含む(配列番号3のフラジェリンポリペプチドに関して)。
【0032】
したがって、改変組換えフラジェリンに対応するフラジェリンポリペプチドの例(FLAMOD、配列番号5参照)において、N末端ペプチドおよびC末端ペプチドは配列番号3のアミノ酸配列1~173および401~494からなり、上述のN末端ペプチドおよび上述のC末端ペプチドは、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOH(配列番号4)ペプチド配列からなる中間スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されており、上記のポリペプチドは、N末端において1つの付加的なメチオニン残基(M)および1つの付加的なリシン残基(L)を含む。
【0033】
一実施形態において、フラジェリンポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列を有する組換えポリペプチドである。
【0034】
本発明のフラジェリンポリペプチドは、当該技術において周知である任意の方法によって作製される。一部の実施形態において、本発明のフラジェリンポリペプチドは、典型的に、そのアミノ酸配列をコードし、遺伝子導入された細胞内でのその効果的な産生を可能にする核酸を遺伝子導入した組換え細胞によって組換えを用いて作製される。本発明のフラジェリンポリペプチドをコードする核酸配列は、クローニング(DNAの増幅)または発現のために複製可能なベクターに挿入することができる。様々なベクターが公開されている。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、またはファージの形態であってもよい。適切な核酸配列は、様々な手順でベクターに挿入することができる。一般に、DNAは、当該技術において知られている技術を用いて、適切な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入される。ベクター構成要素は、一般に、配列が分泌される場合にはシグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサー成分、プロモーター、および転写終結配列の1つ以上を含むが、これらに限定されない。これらの構成要素の1つ以上を含む適切なベクターの構築には、当業者に知られている標準的なライゲーション技術が用いられる。発現ベクターおよびクローニングベクターは、典型的に、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含み得る。典型的な選択遺伝子は、(a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、もしくはテトラサイクリンなどの抗生物質もしくは他の毒素に耐性を与え、(b)栄養要求性欠陥を補い、または(c)複合培地から得られない重要な栄養素、例えばバチルスのためのD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子を供給するタンパク質をコードする。哺乳動物細胞に適した選択マーカーの例は、DHFRまたはチミジンキナーゼなど、本発明のフラジェリンポリペプチドをコードする核酸を取り込む能力のある細胞を同定できるものである。野生型DHFRを使用したときの適切な宿主細胞は、DHFR活性に欠陥のあるCHO細胞株である。発現およびクローニングベクターは、通常、mRNA合成を誘導するためにフラジェリンポリペプチをコードする核酸配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む。可能性のある様々な宿主細胞によって認識されるプロモーターは周知である。原核生物宿主での使用に適したプロモーターは、β-ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、ならびにハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーターを含む。また、細菌系において使用されるプロモーターは、本発明のフラジェリンポリペプチドをコードするDNAと作動可能に連結されたシャイン-ダルガーノ(S.D.)配列を含み得る。宿主細胞を、フラジェリンポリペプチド産生のために本明細書に記載する発現またはクローニングベクターで遺伝子導入または形質転換して、プロモーターを誘導する、形質転換体を選択する、または所望の配列をコードする遺伝子を増幅することに適するように改変された従来の栄養培地において培養する。培養条件、例えば培地、温度、pH等は、過度の実験をすることなく当業者が選択することができる。一般に、細胞培養の生産性を最大にするための原理、プロトコール、および実用技術は、Mammalian Cell Biotechnology:A Practical Approach、M.Butler編(IRL Press,1991)に見出すことができる。本明細書においてベクターにDNAをクローニングまたは発現するために適する宿主細胞は、原核生物、酵母、または高等真核生物の細胞を含む。適切な原核生物は、真正細菌、例えばグラム陰性またはグラム陽性生物体、例えばE.coliなどの腸内細菌科を含むが、これらに限定されない。様々なE.coli株が公開されており、例えば、E.coli K12株MM294(ATCC31,446)、E.coli X1776(ATCC31,537)、E.coli株W3110(ATCC27,325)、およびK5772(ATCC53,635)である。他の適切な原核生物宿主細胞は、腸内細菌科、例えばエシェリキア、例えばE.coli、エンテロバクター、エルウィニア、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばSalmonella typhimurium、セラチア、例えばSerratia marcescans、およびシゲラ、ならびに、バチルス、例えばB.subtilisおよびB.licheniformis(例えば、1989年4月12日に発行されたDD266,710に公開のB.licheniformis 41P)、シュードモナス、例えばP.aeruginosa、およびストレプトマイセスを含む。これらの例は限定的なものではなく、例示的なものである。Salmonella typhimuriumのSIN41株(fliC fljB)は、これらの原核生物宿主細胞がいずれのフラジェリンも分泌しないことから、特に本発明のフラジェリンポリペプチドの産生の興味の対象となる(Proc Natl Acad Sci USA.2001;98:13722-7)。しかしながら、フラジェリンは、特殊な分泌装置、つまりいわゆる「III型分泌装置」を介して分泌される。興味深い点として、SIN41株は、最適なフラジェリン分泌に必要なIII型分泌装置のすべての成分を産生する。fliCプロモーターのもとで新しいフラジェリンペプチドをコードするクローニング配列により、SIN41株において大量の目的のフラジェリンポリペプチドを分泌することができる。また、W3110株は、組換えDNA産生物発酵のための一般的な宿主株であるので、興味の対象となる。好ましくは、宿主細胞は、最小量のタンパク質分解酵素を分泌する。例えば、W3110株は、宿主に内在するタンパク質をコードする遺伝子に遺伝子突然変異をもたらすように改変されてもよく、そのような宿主の例としては、完全遺伝子型tonAを有するE.coliのW3110株1A2、完全遺伝子型tonA ptr3を有するE.coliのW3110株9E4、完全遺伝子型tonA ptr3 phoA E15(argF-lac)169 degP ompT kan.sup.rを有するE.coliのW3110株27C7(ATCC55,244)、完全遺伝子型tona ptr3 phoA E15(algF-lac)169 degP ompT rbs7 ilvG kan.sup.rを有するE.coliのW3110株37D6、非カナマイシン耐性degP欠失突然変異を有する37D6株であるE.coliのW3110株40B4、および1990年8月7日発行の米国特許第4,946,783号明細書に開示された突然変異ペリプラズムプロテアーゼを有するE.coli株を含む。E.coli株MG1655、MG1655 AfimA-HまたはMKS12、fliD-および-f/m>A-/-/-欠失MG1655株もまた、分泌タンパク質として組換えフラジェリンを産生するための興味深い候補である(Nat Biotechnol.2005;(4):475-81)。あるいは、クローニングのin vitroの方法、例えば、PCRまたは他の核酸ポリメラーゼ反応が適切である。本発明のフラジェリンペプチドを、培地または宿主細胞ライセートから回収することができる。膜結合している場合には、適切な界面活性剤溶液(例えば、TRITON-XTM.100)を用いて、または酵素的切断によって、膜から放出させることができる。一部の実施形態において、フラジェリンポリペプチドは、Nempontらが開示したように、組換えS.TyphimuriumのSIN41(fliC fljB)の上清から精製される(Nempont,C.C.,D.;Rumbo,M.;Bompard,C.;Villeret,V.;Sirard,J.C.2008,Deletion of flagellin’s hypervariable region abrogates antibody-mediated neutralization and systemic activation of TLR5-dependent immunity.J Immunol 181:2036-2043)。特に、サルモネラをルリア-ベルタニ(LB)ブロスにおいて37℃で6~18時間かく拌しながら増殖させた。上清をろ過し、60%硫酸アンモニウム(Sigma Aldrich,USA)で飽和させた。沈殿物質を、遠心分離、20mMのTris/HCl pH7.5への溶解、およびその後のダイアリシスによって回収した。ヒドロキシアパタイト、アニオン交換、およびサイズ排除クロマトグラフィー(Bio-Rad Laboratories,USA;GE Healthcare,Sweden)を連続的に繰り返すことによって、タンパク質をさらに精製した。最後に、ポリミキシンBカラム(Pierce,USA)を用いて、タンパク質からリポ多糖(LPS)を枯渇させた。リムルスアッセイ(Associates of Cape Cod Inc.,USA)を用いて、残留LPS濃度を測定したところ、組換えフラジェリン1μgあたり30pg未満のLPSであった。フラジェリンをコードするコンストラクトを、PCRによって生成し、発現ベクターpET22b+にクローニングしてもよいプラスミドを、Escherichia coliのBL21(DE3)に導入することができ、1mMのIPTGを添加することによってタンパク質産生を誘導することができる。可溶性画分は、フレンチプレスにて崩壊させた後、Triton X-114抽出を用いてリポ多糖(LPS)を枯渇させた。フレンチプレス後、フラジェリンが不溶性画分に見受けられる場合、8Mの尿素の存在下で封入体を変性させ、続いて、ダイアリシスおよびTriton X-114抽出を行う。その後、アニオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過によって、タンパク質を精製することができる。最後に、タンパク質はここでもまた、ポリミキシンBカラム(Pierce,USA)を用いてLPSを枯渇させることができる。
【0035】
・緩衝剤
緩衝剤という用語は、物質のpHを一定に保つ化学物質を意味する。緩衝系は、液体製剤においてpH変動を抑える酸塩基共役からなる。
【0036】
緩衝剤がアセテートである一実施形態において、液体製剤におけるアセテートの濃度は、約1mM~約200mM、例えば、約5mM~約150mM、または約5mM~約100mM、または約5mM~約50mMの範囲である。一実施形態において、液体製剤におけるアセテートの濃度は、約5mM~約25mM、例えば、約5mM~約20mM、または約5mM~約15mM、または約7.5mM~約12.5mMの範囲である。一実施形態において、液体製剤におけるアセテートの濃度は約10mMである。
【0037】
緩衝剤がホスフェートである一実施形態において、液体製剤におけるホスフェートの濃度は、約1mM~約200mM、例えば、約5mM~約150mM、または約5mM~約100mM、または約5mM~約50mMの範囲である。一実施形態において、液体製剤におけるホスフェートの濃度は、約5mM~約25mM、例えば、約5mM~約20mM、または約5mM~約15mM、または約7.5mM~約12.5mMの範囲である。一実施形態において、液体製剤におけるホスフェートの濃度は約10mMである。一実施形態において、液体製剤におけるホスフェートの濃度は約20mMである。
【0038】
一実施形態において、緩衝剤として作用するアセテートは、例えば、酢酸と組み合わせた、酢酸ナトリウム(または他の適切な酢酸塩、例えば、酢酸カリウム)(すなわち、アセテート緩衝液の形態)である。適切なアセテート緩衝液を調製する方法は、当業者には周知である。
【0039】
医薬品グレードの緩衝剤アセテートの例は、
酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa.3HO)
酢酸(CHCOOH)である。
【0040】
一実施形態において、緩衝剤として作用するホスフェートは、例えば、ホスフェート緩衝液の形態の、リン酸ナトリウム(または他の適切なリン酸塩)である。適切なホスフェート緩衝液を調製する方法は、当業者には周知である。
【0041】
医薬品グレードの緩衝剤ホスフェートの例は、
無水二塩基性ホスフェートNaHPO
無水一塩基性ホスフェートNaHPOである。
【0042】
一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてシトレートおよびヒスチジンを含まない。
【0043】
本明細書において使用するように「水性媒体」(または「水性溶液」)という用語は、水が溶媒である液体媒体または溶液を指す。一実施形態において、水性媒体は、水、特に精製水または注射用水(WFI)である/からなる。一実施形態において、水性媒体は滅菌されている。一実施形態において、液体製剤は滅菌されている。
【0044】
一実施形態において、液体製剤は、約3.5~約8の範囲のpHを有する。
【0045】
一実施形態において、緩衝剤はアセテートであり、液体製剤は、約5.8未満、または約5.5未満であるpHを有する。一実施形態において、緩衝剤はアセテートであり、液体製剤は、約3.5~約5.8未満、または約4.0~約5.8、または4.5~約5.8、または4.5~約5.5の範囲であるpHを有する。一実施形態において、液体製剤は約5.5のpHを有する。
【0046】
一実施形態において、緩衝剤は、10mMの濃度のアセテートであり、液体製剤は、約5.8未満、または約5.5未満であるpHを有する。一実施形態において、緩衝剤は、10mMの濃度のアセテートであり、液体製剤は、約3.5~約5.8未満、または約4.0~約5.8、または4.5~約5.8、または4.5~約5.5の範囲であるpHを有する。一実施形態において、液体製剤は約5.5のpHを有し、緩衝剤は10mMの濃度のアセテートである。
【0047】
一実施形態において、緩衝剤はホスフェートであり、液体製剤は、約8以下、または約6.5未満であるpHを有する。一実施形態において、緩衝剤はホスフェートであり、液体製剤は、約7.5未満、または約7未満であるpHを有する。一実施形態において、緩衝剤はホスフェートであり、液体製剤は、約8.0~約6.2、または約7.5~約6.2、または約7.3~約6.5、または約7.0~約6.3、または約6.8~約6.0の範囲であるpHを有する。一実施形態において、液体製剤は約6.5のpHを有する。
【0048】
一実施形態において、緩衝剤は、10mMの濃度のホスフェートであり、液体製剤は、約8以下、または約6.5未満であるpHを有する。一実施形態において、緩衝剤は、10mMの濃度のホスフェートであり、液体製剤は、約7.5未満、または約7未満であるpHを有する。一実施形態において、緩衝剤は、10mMの濃度のホスフェートであり、液体製剤は、約8.0~約6.2、または約7.5~約6.2、または約7.3~約6.5、または約7.0~約6.3、または約6.8~約6.0の範囲であるpHを有する。一実施形態において、液体製剤は約6.5のpHを有し、緩衝剤は10mMの濃度のホスフェートである。
【0049】
液体製剤は、薬学的に許容され、吸入、特にネブライザーを介した吸入による投与における液体製剤の適合性を損なわない限り、1つ以上の他の賦形剤を含んでもよい。適切な賦形剤は、薬局方、または、例えば、REMINGTON’s PHARMACEUTICAL SCIENCES(18th Ed.,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company 1990)およびその続版)に列挙されている。本明細書において使用するように「薬学的に許容される」という用語は、一実施形態において、液体製剤の活性剤の作用と相互作用することはない、物質の非毒性を指す。
【0050】
・界面活性剤
本発明における液体製剤はまた、ポリソルベートからなる界面活性剤も含む。
【0051】
「界面活性剤」(または「表面活性剤」)という用語は、本明細書において使用するように、2つの液体の間、気体と液体との間、または液体と固体との間の表面張力(または界面張力)を低下させる化合物を指す。化合物が気体(例えば空気)と液体との間の表面張力(または界面張力)を低下させる。界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。より具体的には、界面活性剤はポリソルベートからなる。一実施形態において、ポリソルベートは、ポリソルベート20またはポリソルベート80からなる群より選択される。
【0052】
一実施形態において、界面活性剤はポリソルベート80(PS80)である。
【0053】
一実施形態において、液体製剤におけるポリソルベートの濃度は、約0.1%(w/v)以下、または約0.05%(w/v)以下、例えば、約0.04%(w/v)以下、または約0.03%(w/v)以下、または約0.02%(w/v)以下、または約0.01%(w/v)以下、または約0.005%(w/v)以下である。一実施形態において、液体製剤におけるポリソルベート界面活性剤の濃度は約0.02%(w/v)未満である。
【0054】
一実施形態において、液体製剤におけるPS80の濃度は、約0.1%(w/v)以下、または約0.05%(w/v)以下、例えば、約0.04%(w/v)以下、または約0.03%(w/v)以下、または約0.02%(w/v)以下、または約0.01%(w/v)以下、または約0.005%(w/v)以下である。一実施形態において、液体製剤におけるPS80の濃度は約0.02%(w/v)未満である。
【0055】
一実施形態において、液体製剤は1つの界面活性剤のみを含む。一実施形態において、この界面活性剤はPS80である。
【0056】
一般に、エアロゾルは、空気または他の気体中における固体微粒子または液滴の懸濁液である。本発明において、「エアロゾル」または「エアロゾル組成物」という用語は、気体、例えば空気中における、上述で規定するような液体製剤の液滴の懸濁液を指す。
【0057】
一実施形態において、液滴は5μmより小さい平均径を有する。一実施形態において、液滴は4.5μmより小さい平均径を有する。一実施形態において、液滴は4.0μmより小さい平均径を有する。一実施形態において、液滴は3.5μmより小さい平均径を有する。
【0058】
一実施形態において、液滴は約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する。一実施形態において、液滴は約0.5μm~約4.5μmの範囲の平均径を有する。一実施形態において、液滴は約0.5μm~約4μmの範囲の平均径を有する。一実施形態において、液滴は約0.5μm~約3.5μmの範囲の平均径を有する。一実施形態において、平均径は体積中位径(VMD、Dv50値とも呼ばれる)である。一実施形態において、VMDは、例えば、米国薬局方(USP)429に記載されるように、レーザー回折によって決定される。また、液滴サイズは、例えば干渉レーザーイメージング(interferometric laser imaging)によって測定することもできる。結果は、用いる測定方法によって変わることもあり得る。
【0059】
一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約5.8、または約5.5未満のpHを有し、5.0μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約5.8、または約5.5未満のpHを有し、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約3.5~約5.8未満の範囲のpHを有し、5μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約3.5~約5.8未満の範囲のpHを有し、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約3.5~約5.8の、または約3.5~約5.8のうちのpHを有し、5μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約3.5~約5.8の、または約3.5~約5.8のうちのpHを有し、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約4.0~約5.8の、または約4.0~約5.8のうちのpHを有し、5μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約4.0~約5.8の、または約4.0~約5.8のうちのpHを有し、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約4.5~約5.8の、または約4.5~約5.8のうちのpHを有し、5μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてアセテート緩衝液を含み、約4.5~約5.8の、または約4.5~約5.8のうちのpHを有し、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。他の実施形態において、液体製剤は1つの界面活性剤のみを含む。一実施形態において、この界面活性剤はPS80である。
【0060】
一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約8.0未満、または約6.5未満のpHを有し、5μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約8.0~約6.2の範囲であり、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約7.5~約7未満の範囲のpHを有し、5μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約7.5~約7未満の範囲のpHを有し、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約7.5~約6.2の、または約7.5~約6.2のうちのpHを有し、5μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約7.5~約6.2の、または約7.5~約6.2のうちのpHを有し、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約7.3~約6.5の、または約7.3~約6.5のうちのpHを有し、5μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約7.3~約6.5の、または約7.3~約6.5のうちのpHを有し、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約7.0~約6.3の、または約7.0~約6.3のうちのpHを有し、5μmより小さい平均径を有する液滴を含む。一実施形態において、液体製剤は、緩衝剤としてホスフェート緩衝液を含み、約7.0~約6.3の、または約7.0~約6.3のうちのpHを有し、約0.5μm~約5μmの範囲の平均径を有する液滴を含む。他の実施形態において、液体製剤は1つの界面活性剤のみを含む。一実施形態において、この界面活性剤はPS80である。
【0061】
本発明において、本明細書に記載するエアロゾルまたは液体製剤に存在するフラジェリンポリペプチドは、例えばシトレートまたはヒスチジンを含む製剤において製剤化した同じフラジェリンポリペプチドと比較して、低い凝集性によって特徴づけられる。
【0062】
一実施形態において、本明細書に記載するエアロゾルまたは液体製剤に存在するフラジェリンポリペプチドは、以下の特性の1つ以上を有する。
-本明細書に記載するエアロゾルまたは液体製剤に存在するフラジェリンポリペプチドの多分散指数(PDI)は、例えば、DLSによって決定されるように(例えば、実質的に実施例の項に記載されるように)、0.4以下、または0.3以下、または0.2以下、または0.15以下、または0.1以下である。
-本明細書に記載するエアロゾルまたは液体製剤に存在するフラジェリンポリペプチドにおけるモノマーの多分散性のパーセンテージは、例えば、DLSによって決定されるように(例えば、実質的に実施例1の項に記載されるように)、30%以下、または25%以下、または20%以下、または15%以下である。
-本明細書に記載するエアロゾルまたは液体製剤に存在するフラジェリンポリペプチドにおけるモノマーの質量パーセンテージは、例えば、DLSによって決定されるように(例えば、実質的に実施例の項に記載されるように)、99.7%以上、または99.8%以上、または99.9%以上である。
-例えば、FCMによって決定されるように(例えば、実質的に実施例の項に記載されるように)、
総粒子の数は、1mLあたり50000未満、または1mLあたり30000未満、または1mLあたり10000未満、または1mLあたり5000未満であり、
>2μmの粒子の数は、1mLあたり4000未満、または1mLあたり3000未満、または1mLあたり2000未満、または1mLあたり1000未満であり、
>10μmの粒子の数は、1mLあたり250未満、または1mLあたり150未満、または1mLあたり100未満であり、
>25μmの粒子の数は、1mLあたり100未満、または1mLあたり50未満、または1mLあたり40未満、または1mLあたり30未満である。
【0063】
・エアロゾル組成物を調製する方法
他の態様において、本発明は、液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物を調製する方法に関し、該方法が、
(i)上述で規定される液体製剤を提供するステップと、
(ii)ステップ(i)において提供された液体製剤をネブライザーによって噴霧し、それによりエアロゾルを調製するステップとを含む。
【0064】
一実施形態において、ネブライザーはメッシュネブライザーである。
【0065】
ネブライザーにより、液体製剤をエアロゾルにエアロゾル化し、対象の気道に吸入させるために、気体中に液体を分散させることができる。ネブライザーの例は、ソフトミストネブライザー、メッシュネブライザー(例えば、振動メッシュネブライザー)、ジェットネブライザーおよび超音波ネブライザーを含む。適切なネブライザー装置は、Aerogen(登録商標)Solo(Aerogen)、Pari eFlow(登録商標)(Pari GmbH)、Philips I-neb(登録商標)(Philips)、Pari LC Sprint(Pari GmbH)、AERxRTM Pulmonary Delivery System(Aradigm Corp.)、およびPari LC Plus Reusable Nebulizer(Pari GmbH)を含む。一実施形態において、ネブライザーは、メッシュネブライザー、振動メッシュネブライザーである。ネブライザーは、典型的に、約1mL~約200mL、より典型的には1mL~20mLの液体製剤を含む。
【0066】
一実施形態において、方法は、ステップ(i)とステップ(ii)との間に、
(ia)ステップ(i)において提供された液体製剤を凍結乾燥し、それにより凍結乾燥粉末を提供するステップと、
(ib)ステップ(ia)において提供された凍結乾燥粉末に適切な量の水性媒体を添加することによって、ステップ(i)において提供された液体製剤を再構成するステップとをさらに含む。
【0067】
他の態様において、本発明は、液体製剤を含む液滴を含むエアロゾル組成物に関し、該エアロゾルは、上述で規定されるような方法によって入手可能である。一実施形態において、液滴は、約0.5μm~約5μm、または約0.5μm~約3.5μmの範囲の平均径を有する。
【0068】
・フラジェリンポリペプチドを送達する方法
他の態様において、本発明は、対象の肺にフラジェリンポリペプチドを送達する方法における使用のための、上述で規定される液体製剤または上述で規定されるエアロゾル組成物に関し、エアロゾルは吸入によって対象に投与される、または、液体製剤はネブライザーを介して吸入によって対象に投与される。
【0069】
一実施形態において、フラジェリンポリペプチドは、(a)配列番号3の1番目に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号3の99番目~173番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するN末端ペプチド、および、(b)配列番号3の401番目~406番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号3の494番目に位置するアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するC末端ペプチドを含み、上述のN末端ペプチドは、上述のC末端ペプチドに直接連結されているか、または、上述のN末端ペプチドおよび上述のC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている。
【0070】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよびC末端ペプチドはそれぞれ、配列番号3のアミノ酸配列1~173および401~494からなる。
【0071】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよび上述のC末端ペプチドは、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOH(配列番号4)ペプチド配列からなる中間スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている。
【0072】
一部の実施形態において、上記のようなフラジェリンポリペプチドは、N末端において1つの付加的なメチオニン残基(M)および1つの付加的なリシン残基(L)(アミノ酸残基ML)を含む(配列番号3のフラジェリンポリペプチドに関して)。
【0073】
一実施形態において、フラジェリンポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列を有する組換えポリペプチドである。
【0074】
一実施形態において、ネブライザーはメッシュネブライザーである。
【0075】
「対象」という用語は、本発明において、処置のための対象、特に病気の対象(「患者」とも呼ばれる)を意味し、ヒト、非ヒト霊長類または他の動物、特に哺乳動物、例えばウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、またはげっ歯動物、例えばマウス、ラット、モルモット、およびハムスターを含む。一実施形態において、対象/患者はヒトである。
【0076】
他の態様において、本発明は、対象の肺疾患を処置または予防する方法における使用のための、任意で少なくとも1つの抗生物質と組み合わせた、本発明のエアロゾル組成物または上述で規定される液体製剤に関し、エアロゾルは吸入によって対象に投与される、または、液体製剤はネブライザーを介して吸入によって対象に投与される。
【0077】
一実施形態において、肺疾患は肺感染疾患(すなわち肺細菌感染症)である。
【0078】
一実施形態において、ネブライザーはメッシュネブライザーである。
【0079】
「肺((lung)感染疾患」(本明細書において「肺の(pulmonary)感染疾患」とも呼ばれる)という用語は、個体から個体へ、または生物体から生物体へと伝染し得る任意の疾患を指し、対象の肺に影響を及ぼす微生物病原体(例えば、感冒)によって引き起こされる。感染疾患の例は、ウイルス感染疾患、例えばインフルエンザウイルス、呼吸合胞体ウイルス(RSV)、および重症急性呼吸器症候群(SARS)、細菌感染疾患、例えばレジオネラ症(レジオネラ)、結核、E.coli、スタフィロコッカス、サルモネラ、もしくはストレプトコッカス(破傷風)による感染症、寄生虫感染疾患、例えば呼吸器クリプトスポリジウム症、または真菌感染症、例えばアスペルギルス症によって引き起こされるものを含む。
【0080】
肺感染疾患はまた、肺炎であり得る。
【0081】
また、「肺炎」(本明細書において「下気道感染症」(LRTI)とも呼ばれる)という用語は、肺膿瘍および急性気管支炎を含む他の種類の感染症に適用することができる。症状は、息切れ、虚弱、発熱、咳、および倦怠感を含む。下気道感染症症状を有する人に、胸部単純X線検査が常に必要なわけではない。インフルエンザは上気道および下気道の両方に影響を及ぼす。抗生物質は肺炎の第一選択処置であるが、寄生虫感染症またはウイルス感染症には有効ではなく、それに対して指定されてもいない。急性気管支炎は、典型的に経時において自身で回復する。
【0082】
肺炎の最も多い原因は肺炎球菌であり、Streptococcus pneumoniaeが菌血症を伴う肺炎の3分の2を占める。これは、危険をはらむ種類の肺感染症であり、死亡率は約25%である。肺炎患者の最適な管理のために、肺炎の重症度(処置の場所、例えば自宅、病院、または集中治療室などを含む)、原因となる生物体の特定、胸痛が無いこと、補助酸素の必要性、理学療法、水分補給、気管支拡張剤、および肺気腫または肺膿瘍の合併の可能性を評価する必要がある。
【0083】
肺炎の主な原因は、典型的な細菌感染症(Haemophilus influenzae、Staphylococcus aureus、Klebsiella pneumoniae)、および非定型細菌感染症(Legionella pneumophila、Mycoplasma pneumoniae、Chlamydophila pneumoniae、Chlamydia psittaci)、寄生虫感染症(呼吸器クリプトスポリジウム症)、およびウイルス感染症(アデノウイルス、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、ヒト呼吸器合胞体ウイルス、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2))である。
【0084】
他の態様において、本発明は、対象の肺にフラジェリンポリペプチドを送達する方法に関し、上述の方法は、有効量の上述で規定されるエアロゾルを吸入によって対象に投与すること、または、有効量の上述で規定される液体製剤を、ネブライザーを介して吸入によって対象に投与することを含む。
【0085】
一実施形態において、フラジェリンポリペプチドは、(a)配列番号3の1番目に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号3の99番目~173番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するN末端ペプチド、および、(b)配列番号3の401番目~406番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号3の494番目に位置するアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するC末端ペプチドを含み、上述のN末端ペプチドは、上述のC末端ペプチドに直接連結されているか、または、上述のN末端ペプチドおよび上述のC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている。
【0086】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよびC末端ペプチドはそれぞれ、配列番号3のアミノ酸配列1~173および401~494からなる。
【0087】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよび上述のC末端ペプチドは、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOH(配列番号4)ペプチド配列からなる中間スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている。
【0088】
一部の実施形態において、上記のようなフラジェリンポリペプチドは、N末端において1つの付加的なメチオニン残基(M)および1つの付加的なリシン残基(L)(アミノ酸残基ML)を含む(配列番号3のフラジェリンポリペプチドに関して)。
【0089】
一実施形態において、フラジェリンポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列を有する組換えポリペプチドである。
【0090】
一実施形態において、ネブライザーはメッシュネブライザーである。
【0091】
「有効量」という用語は、本明細書において使用するように、特に「治療有効量」を指し、これは、特に許容できない副作用を引き起こすことなく、単独でまたはさらなる用量とともに、所望の治療反応または所望の治療効果を達成する量である。特定の疾患または特定の状態の処置の場合、所望の反応は、特に疾患の経過の阻止に関する。これは、疾患の進行を遅らせること、特に、疾患の進行を遮ること、または覆すことを含む。また、疾患または状態の治療における所望の反応は、上述の疾患または上述の状態の発症の遅延または発症の予防であってもよい。本明細書に記載するエアロゾルまたは液体製剤、したがって、そこに含まれるフラジェリンポリペプチドの有効量は、処置される状態、疾患の重症度や、年齢、生理学的状態、大きさ、および体重を含む対象の個々のパラメーター、処置の期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定の投与経路、ならびに類似の要素によって決まることになる。したがって、本明細書に記載するエアロゾルまたは液体製剤が投与される用量は、このようなパラメーターのいくつかによって決まり得る。対象の反応が初期用量で不十分な場合、より多い用量を使用してもよい。
【0092】
他の態様において、本発明は、対象における肺感染疾患を処置または予防する方法に関し、上述の方法は、有効量の上述で規定されるエアロゾルを吸入によって対象に投与すること、または、有効量の上述で規定される液体製剤を、任意で少なくとも1つの抗生物質と組み合わせて、ネブライザーを介して吸入によって対象に投与することを含む。
【0093】
一実施形態において、肺感染疾患は肺細菌感染症である。
【0094】
一実施形態において、ネブライザーはメッシュネブライザーである。
【0095】
他の態様において、本発明は、上術で規定される液体製剤を含むにネブライザーに関する。
【0096】
一実施形態において、ネブライザーはメッシュネブライザーである。
【0097】
・キット
他の態様において、本発明はキットに関し、該キットは、
(i)上述で規定される液体製剤、または液体製剤の凍結乾燥によって得られる粉末を含む容器、および、
(ii)ネブライザーを含む。
【0098】
一実施形態において、ネブライザーはメッシュネブライザーである。
【0099】
本明細書において使用するように、「部品のキット(略称:キット)」という用語は、1つ以上の容器、ネブライザー(例えば、メッシュネブライザー)、および任意でデータキャリアを含む製造品を指す。上述の1つ以上の容器は、上述で規定される液体製剤、または液体製剤の凍結乾燥によって得られる粉末で充填される。例えば、本明細書において規定するような希釈剤(例えば、水性媒体)、緩衝液、およびさらなる試薬を含むさらなる容器がキットに含まれ得る。上述のデータキャリアは、非電子データキャリア、例えば、情報リーフレット、情報シート、バーコード、もしくはアクセスコードなどのグラフィックデータキャリア、または、コンパクトディスク(CD)、デジタル多用途ディスク(DVD)、マイクロチップ、もしくは他の半導体ベースの電子データキャリアなどの電子データキャリアであってもよい。アクセスコードは、データベース、例えば、インターネットデータベース、集中型データベース、または分散型データベースへのアクセスを可能にし得る。上述のデータキャリアは、本明細書に記載するような方法および用途におけるキットの使用についての指示を含むことができる。
【0100】
・液体製剤の使用
他の態様において、本発明は、ネブライザーによる噴霧によってエアロゾルを調製するための、上述で規定される液体製剤の使用に関する。
【0101】
一実施形態において、ネブライザーはメッシュネブライザーである。
【0102】
他の態様において、本発明は、フラジェリンポリペプチドを含む液体製剤をネブライザーによって噴霧する際にフラジェリンポリペプチドの安定性を高めるための、アセテート、ホスフェート、およびそれらの組合せからなる群より選択される緩衝剤、ならびにポリソルベートからなる界面活性剤の使用に関し、緩衝剤は、噴霧の前に液体製剤に含まれる。
【0103】
一実施形態において、フラジェリンポリペプチドは、(a)配列番号3の1番目に位置するアミノ酸残基から開始し、配列番号3の99番目~173番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するN末端ペプチド、および、(b)配列番号3の401番目~406番目に位置するアミノ酸残基のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸残基から開始し、配列番号3の494番目に位置するアミノ酸残基において終端するアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するC末端ペプチドを含み、上述のN末端ペプチドは、上述のC末端ペプチドに直接連結されているか、または、上述のN末端ペプチドおよび上述のC末端ペプチドは、スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている。
【0104】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよびC末端ペプチドはそれぞれ、配列番号3のアミノ酸配列1~173および401~494からなる。
【0105】
一部の実施形態において、上述のN末端ペプチドおよび上述のC末端ペプチドは、NH2-Gly-Ala-Ala-Gly-COOH(配列番号4)ペプチド配列からなる中間スペーサー鎖を介して、一方が他方に間接的に連結されている。
【0106】
一部の実施形態において、上記のようなフラジェリンポリペプチドは、N末端において1つの付加的なメチオニン残基(M)および1つの付加的なリシン残基(L)(アミノ酸残基ML)を含む(配列番号3のフラジェリンポリペプチドに関して)。
【0107】
一実施形態において、フラジェリンポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0108】
一実施形態において、ネブライザーはメッシュネブライザーである。
【0109】
一実施形態において、「安定性を高める」という用語は、フラジェリンポリペプチドの凝集を防止する、またはその程度を低減することを指す。
【0110】
一実施形態において、生物学的および/または物理化学的安定性は、10μg/mL~2.5μg/mLのフラジェリン濃度によって確保される。
【0111】
一実施形態において、液体製剤は約8以下であるpHを有する。
【0112】
一実施形態において、液体製剤はシトレーまたはヒスチジンを含まない。
【0113】
一実施形態において、液体製剤は、約3.5~約8の範囲のpHを有する。
【0114】
一実施形態において、緩衝剤はアセテートであり、液体製剤は、約5.8未満、または約5.5未満であるpHを有する。一実施形態において、緩衝剤はアセテートであり、液体製剤は、約3.5~約5.8未満、または約4.0~約5.8、または4.5~約5.8、または4.5~約5.5の範囲であるpHを有する。一実施形態において、液体製剤は約5.5のpHを有する。
【0115】
液体製剤は、ポリソルベートからなる界面活性剤をさらに含む。
【0116】
一実施形態において、界面活性剤はポリソルベート80である。
【0117】
一実施形態において、液体製剤における界面活性剤の濃度は、約0.1%(w/v)以下、または約0.02%(w/v)以下、または約0.005%(w/v)以下である。
【0118】
ビーズリーの研究(Beasley R,Rafferty P,Holgate ST(1988)Adverse reactions to the non-drug constituents of nebuliser solutions.Br J Clin Pharmacol 25:283-287)によると、吸入を意図した製剤は、150~549mOsmol/Kgである必要がある浸透圧を有する必要があり、等浸透圧(280~300mOsmol/Kg)に近いことが推奨される。NaClが一般に製剤の浸透圧を調整するために使用される。
【0119】
一実施形態において、液体製剤はNaClを含む。
【0120】
一実施形態において、液体製剤は非緩衝塩を含む。「非緩衝塩」という用語は、本明細書において使用するように、酸または塩基の添加の際に液体製剤のpHを保持することに寄与しない、または実質的に寄与しない塩を指す。一実施形態において、非緩衝塩はハロゲン塩(例えば、Cl-またはBr-を含む)である。一実施形態において、非緩衝塩は、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、カルシウム(Ca2+)、またはマグネシウム(Mg2+)の1つ以上のカチオンを含むハロゲン塩である。一実施形態において、非緩衝塩は、ナトリウム(Na+)またはカリウム(K+)の1つ以上のカチオンを含むハロゲン塩である。さらに他の実施形態において、非緩衝塩は、NaCl、KCl、CaCl2、およびMgCl2からなる群より選択される。
【0121】
・処置の方法
本発明は、処置を必要とする対象における肺細菌感染症を処置する方法に関し、該方法が、任意で少なくとも1つの抗生物質と組み合わせて、治療有効量の本発明のエアロゾル組成物または上述で規定される液体製剤を対象に投与することを含む。
【0122】
対象は、肺細菌感染症に感受性のあるヒトまたは他の任意の動物(例えば、鳥類および哺乳動物類)(例えば、ネコおよびイヌなどの飼育動物、ウマ、ウシ、ブタ、ニワトリ等の家畜および農場動物)であり得る。典型的には、上述の対象は、非霊長類(例えば、ラクダ、ロバ、シマウマ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ネズミ、およびマウス)ならびに霊長類(例えば、サル、チンパンジー、およびヒト)を含む哺乳動物である。一部の実施形態において、対象はヒトである。
【0123】
本明細書において使用するように、「肺細菌感染症」という用語は当該技術におけるその一般的な意味を有し、対象に生じる細菌感染症(例えば、細菌性肺炎)を指す。本発明の方法は、下気道感染症(例えば肺炎)、中耳感染症(例えば中耳炎)、および細菌性副鼻腔炎などだが、これらに限定されない、細菌感染症の処置に特に適している。細菌感染症は数多くの細菌病原体によって引き起こされ得る。例えば、これは、Streptococcus pneumoniae、Staphylococcus aureus、Haemophilus influenza、マイコプラズマ種、およびMoraxella catarrhalisからなる群より選択される少なくとも1つの生物体によって媒介され得る。
【0124】
本明細書において使用するように、「処置」または「処置する」という用語は、疾患にかかるリスクを有するまたは疾患にかかったと疑われる患者、および病気であるまたは疾患もしくは医学的状態に罹患していると診断された患者の処置を含む、予防または抑止処置、および根治または疾患修飾処置の両方を指し、臨床における再発の抑制を含む。処置は、障害もしくは再発の障害を予防する、治癒する、その発症を遅延する、その重篤度を軽くする、もしくはその1つ以上の症状を改善するため、または、そうした処置が存在しない場合に予想される生存期間を超えて対象の生存期間を延長するため、医学的障害を有するまたは最終的にそうした障害に罹患し得る対象に行うことができる。「治療レジメン」は、病気の処置のパターン、例えば治療時に使用する投薬のパターンを意味する。治療レジメンは、誘導レジメンおよび維持レジメンを含むことができる。「誘導レジメン」または「誘導期間」という表現は、疾患の初期の処置に使用する治療レジメン(または治療レジメンの一部)を指す。誘導レジメンの全体的な目的は、処置レジメンの初期期間に高レベルの薬剤を患者に提供することである。誘導レジメンは、「負荷レジメン」を(部分的または全体的に)使用することができ、これは、医師が維持レジメン時に使用し得るものより多い用量の薬剤を投与すること、医師が維持レジメン時に薬剤を投与し得るより頻回で薬剤を投与すること、またはその両方を含むことができる。「維持レジメン」または「維持期間」という表現は、例えば患者を長期間(数か月または数年)寛解の状態に維持するため、病気の処置時に患者のメンテナンスに使用される治療レジメン(または治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、持続的治療(例えば、薬剤を一定の間隔で、例えば毎週、毎月、毎年等投与すること)、または断続的治療(例えば、中断を含む処置、断続的処置、再発における処置、もしくは所定の特定の条件[例えば、疾患の徴候等]を満たした上での処置)を用いることができる。
【0125】
本発明の方法は、少なくとも50歳である対象、長期介護施設に居住する対象、肺系または心血管系の慢性障害を有する対象、慢性代謝疾患(糖尿病を含む)、腎機能障害、ヘモグロビン異常症、または免疫抑制(薬剤またはヒト免疫不全[HIV]ウイルスによる免疫抑制を含む)のため、過去1年間に定期的な医学的経過観察または入院を必要とした対象、14歳未満の小児、長期のアスピリン治療を受けている6か月~18歳の患者、および、インフルエンザの時期に妊娠第2期または第3期に入る予定の女性を含む、細菌感染症を発症するリスクが高いとして特定される対象に、特に適している。より具体的には、本発明の方法が、1歳を超えて14歳未満の対象(すなわち、小児)、50歳~65歳の対象、および65歳を超えた成人における、インフルエンザ後の細菌重複感染の処置に適していることが考慮される。
【0126】
一部の実施形態において、抗生物質は、アミノグリコシド、βラクタム、キノロンまたはフルオロキノロン、マクロライド、スルホンアミド、スルファメトキサゾール(sulfamethaxozole)、テトラサイクリン、ストレプトグラミン、オキサゾリジノン(リネゾリドなど)、リファマイシン、グリコペプチド、ポリミキシン、リポペプチド抗生物質からなる群より選択される。
【0127】
テトラサイクリンは、融合された4つの6員(ヘキサ環状)環から構成される4員環構造を共有するクラスに属している。テトラサイクリンは、感受性のある細菌における30SリボソームサブユニットへのアミノアシルtRNAの結合を阻害することによってその活性を示す。本発明における使用のためのテトラサイクリンは、クロルテトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、メタサイクリン、メコサイクリン(mecocycline)、チゲサイクリン、リメサイクリン(limecycline)、およびテトラサイクリンを含む。テトラサイクリンは、溶血性ストレプトコッカス、非溶血性ストレプトコッカス、グラム陰性バチルス、リケッチア、スピロヘータ、マイコプラズマ、およびクラミジアを含む多くの既知の生物体に対して有効である。
【0128】
アミノグリコシドは、ストレプトマイセスまたはミコモノスポラ(Micomonospora)細菌種に由来する化合物であり、主にグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症の処置に用いられる。このクラスに属する薬剤はすべて、同じ基本化学構造、すなわち、グリコシド結合によって2つ以上のアミノ糖が結合した中心のヘキソースまたはジアミノヘキソース分子を保有している。アミノグリコシドは、30Sリボソームに結合して、細菌のタンパク質合成を阻害する殺菌性抗生物質である。これらは、主に好気性のグラム陰性バチルスおよびスタフィロコッカスに対して活性である。本発明における使用のためのアミノグリコシド抗生物質は、アミカシン(Amikin)、ゲンタマイシン(Garamycin)、カナマイシン(Kantrex)、ネオマイシン(Mycifradin)、ネチルマイシン(Netromycin)、パロモマイシン(Humatin)、ストレプトマイシン、およびトブラマイシン(TOBI Solution(登録商標)、TobraDex)を含む。
【0129】
マクロライドはポリケタイド抗生物質の一群であり、その活性は、1つ以上のデオキシ糖、通常はクラジノースおよびデソサミンが結合したマクロライド環(14員、15員、または16員の大きなラクトン環)の存在に由来する。マクロライドは、主に静菌性であり、リボソームの50Sサブユニットに結合して、これにより細菌合成を阻害する。マクロライドは、好気性および嫌気性のグラム陽性球菌(エンテロコッカスは例外)に対して、ならびにグラム陰性の嫌気性生物に対して活性である。本発明における使用のためのマクロライドは、アジスロマイシン(Zithromax)、クラリスロマイシン(Biaxin)、ジリスロマイシン(Dynabac)、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ジョサマイシン、ロキシスロマイシン、およびリンコマイシンを含む。
【0130】
ケトライドは、エリスロマイシンマクロラクトン環構造および5位に結合するD-デソサミン糖が保持されるが、L-クラジノース5部分および3位のヒドロキシル基を置換するのが3-ケト官能基である、半合成14員環マクロライドのクラスに属する。ケトライドは、23S rRNAに結合し、それらの作用機序はマクロライドのものと類似している(Zhanel,G.G.,et al.,Drugs,2001;61(4):443-98)。ケトライドは、グラム陽性好気性菌、およびいくつかのグラム陰性好気性菌に対して良好な活性を示し、mefAおよびermBを産生するStreptococcus pneumoniaeを含むストレプトコッカス菌種、およびHaemophilus influenzaeに対して優れた活性を有する。本発明における使用のための代表的なケトライドは、テリスロマイシン(以前にHMR-3647として既知)、HMR3004、HMR3647、セスロマイシン、EDP-420、およびABT-773を含む。
【0131】
構造的に、キノロンは、3位に必須のカルボキシル基を持つ1,4ジヒドロ-4-オキソ-キノリニル部分を保有している。機能的に、キノロンは、細菌染色体への直接結合を介して、原核生物のII型トポイソメラーゼ、すなわちDNAギラーゼ、および稀には、トポイソメラーゼIVを阻害する。本発明における使用のためのキノロンは、フルオロキノロンを含む、第1、第2、第3、および第4世代キノロンにわたる。このような化合物は、ナリジクス酸、シノキサシン、オキソリニン酸、フルメキン、ピペミド酸、ロソクサシン、ノルフロキサシン、ロメフロキサシン、オフロキサシン、エンロフロキサシン、シプロフロキサシン、エノキサシン、アミフロキサシン、フレロキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、クリナフロキサシン、シタフロキサシン、ペフロキサシン、ルフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、トスフロキサシン、グレパフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、およびトロバフロキサシンを含む。本発明における使用に適するさらなるキノロンは、Hooper,D.、およびRubinstein,E.、「Quinolone Antimicrobial Agents,Vd Edition」、American Society of Microbiology Press、Washington D.C.(2004)に記載されているものを含む。
【0132】
スルホンアミドクラスに属する薬剤はすべて、スルホンアミド部分、つまりSO2NH2、または窒素上の水素の1つが有機置換基で置換されている置換スルホンアミド部分を保有している。例のN-置換基は、置換もしくは非置換のチアゾール、ピリミジン、イソキサゾール、および他の官能基を含む。スルホンアミド抗生物質はすべて共通の構造的特徴を有し、すなわち、それらはすべてベンゼンスルホンアミドであって、スルホンアミド官能基がベンゼン環に直接結合していることを意味している。スルホンアミド抗生物質の構造は、p-アミノ安息香酸(PABA)と類似しており、これは、テトラヒドロ-葉酸の合成のためのジヒドロプテロアートシンテターゼという酵素の基質として細菌に必要とされる化合物である。スルホンアミドは、PABAを必要とする細菌の代謝プロセスに干渉し、これにより細菌の増殖および活性を阻害することによって、抗生物質として機能する。本発明における使用のためのスルホンアミド抗生物質は、マフェニド、フタリルスルファチアゾール、スクシニルスルファチアゾール、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファドキシン、スルファマゾン、スルファメタジン、スルファメトキサゾール、スルファメトピラジン(sulfametopirazine)、スルファメトキシピリダジン(sulfametoxypiridazine)、スルファメトロール(sulfametrol)、スルファモノメトキシン、スルファマイロン、スルファニルアミド、スルファキノキサリン、スルファサラジン、スルファチアゾール、スルフィソキサゾール、スルフィソキサゾールジオールアミン、およびスルファグアニジンを含む。
【0133】
β-ラクタムのすべてのメンバーが、β-ラクタム環およびカルボキシル基を保有しており、それらの薬物動態および作用機序の両方における類似性がもたらされる。臨床において有用なβ-ラクタムの大多数は、ペニシリン群またはセファロスポリン群のいずれかに属し、これにはセファマイシンおよびオキサセフェムを含む。また、β-ラクタムは、カルバペネムおよびモノバクタムも含む。一般的に言えば、β-ラクタムは細菌細胞壁合成を阻害する。より具体的には、これらの抗生物質は、細胞壁のペプチドグリカン網に「切れ目」を生じさせ、細菌の原形質を、その保護網から周囲の低浸透圧媒体へと流入させる。その後、液体がネイキッドな原形質体(その壁のない細胞)内にたまり、やがて破裂して生物体の死をもたらす。β-ラクタムは、機構的には、酵素標的部位のヒドロキシル基に結合している開環ラクタム環のカルボキシルと安定なエステルを形成することによってD-アラニル-D-アラニントランスペプチダーゼ活性を阻害することによって作用する。β-ラクタムは極めて有効であり、典型的に低毒性である。これらの薬剤は、群として、多くのグラム陽性、グラム陰性、および嫌気性の生物体に対して活性である。このカテゴリーに該当する薬剤は、2-(3-アラニル)クラバム、2-ヒドロキシメチルクラバム、7-メトキシセファロスポリン、エピ-チエナマイシン、アセチル-チエナマイシン、アモキシシリン、アパルシリン、アスポキシシリン、アジドシリン、アズロシリン、アズトレオナム、バカンピシリン、ビアペネム(blapenem)、カルベニシリン、カルフェシリン、カリンダシリン、カルペチマイシンAおよびB、セファセトリル、セファクロール、セファドロキシル、セファレキシン、セファログリシン、セファロリジン、セファロチン、セファマンドール、セファピリン、セファトリジン、セファゼドン、セファゾリン、セフブペラゾン、セフカペン、セフジニル、セフジトレン、セフェピム、セフェタメト、セフィキシム、セフィネノキシム、セフィネタゾール、セフミノクス、セフモレキシン、セフォジジム、セフォニシド、セフォペラゾン、セフォラミド、セフォセリス、セフォタキシム、セフォテタン、セフォチアム、セフォキシチン、セフォゾプラン、セフピラミド、セフピロム、セフポドキシム、セフプロジル、セフキノム、セフラジン、セフロキサジン、セフスロジン、セフタジジム、セフテラム、セフテゾール、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフロキシム、セファロスポリンC、セファマイシンA、セファマイシンC、セファロチン、キチノボリンA、キチノボリンB、キチノボリンC、シクラシリン、クロメトシリン、クロキサシリン、サイクロセリン、デオキシプルラシドマイシンBおよびC、ジクロキサシリン、ジヒドロプルラシドマイシンC、エピシリン、エピチエナマイシンD、EおよびF、エルタペネム、ファロペネム、フロモキセフ、フルクロキサシリン、ヘタシリン、イミペネム、レナンピシリン、ロラカルベフ、メシリナム、メロペネム、メタンピシリン、メチシリン(meticillin)(メチシリン(methicillin)とも呼ばれる)、メズロシリン、モキサラクタム、ナフシリン、ノルチエナマイシン、オキサシリン、パニペネム、ペナメシリン、ペニシリンG、NおよびV、フェネチシリン、ピペラシリン、ポバンピシリン、ピブセファレキシン、ポブメシリナム、ピブメシリナム、プルラシドマイシンB、CおよびD、プロピシリン、サルモキシシリン、スルバクタム、スルタミシリン、タランピシリン、テモシリン、テルコナゾール、チエナマイシン、ならびにチカルシリンを含む。
【0134】
400を超える天然の抗菌性ペプチドが単離されており、その特徴が記述されている。これらのペプチドは、化学構造に基づき、2つの主群、つまり鎖状および環状に分類され得る(R.E.Hancock et al,Adv.Microb.Physiol.,1995,37:135-137;H.Kleinkauf et al.,Criti.Rev.Biotechnol.,198,8:1-32;D.Perlman and M.Bodansky,Annu.Rev.Biochem.,1971,40:449-464.)これらのペプチド(鎖状および環状の両方)の大多数における作用様式は、細胞漏出をもたらす膜崩壊に関与すると考えられている(A.Mor,Drug Develop.Res.,2000,50:440-447)。マガイニンおよびメリチン(melitting)などの鎖状ペプチドは、主に、α-ヘリックス両親媒性構造(分離した疎水性部分と親水性部分とを含む)として、またはグラミシジンA(GA)に見受けられるようなβ-ヘリックスとして存在する。環状ペプチドは、主に両親媒性β-シート構造を採用しており、2つの亜群、つまり、タキプレシンなどの、ジスルフィド結合を含むものと、グラミシジンSなどの、ジスルフィド結合を含まないものとにさらに分けることができる(D.Audreu and L.Rivas,Biopolymers,1998,47:415-433)。また、ペプチド抗生物質は、2つのクラス、つまり、グラミシジン(gramicicin)、ポリミキシン、バシトラシン、グリコペプチド等の、リボソームによらずに合成されたペプチド、およびリボソームにより合成された(天然)ペプチドにも該当する。前者は、多くの場合、大幅に修飾され、主として細菌によって産生される一方、後者はあらゆる種の生体(細菌を含む)によって、これらの種の天然宿主防御分子の主要成分として産生される。特定の実施形態において、ペプチド抗生物質は、コリスチン、ダプトマイシン、サーファクチン、フリウリミシン、アクレアシンA、イツリンA、およびツシマイシンなどのリポペプチド抗生物質である。[00162]コリスチン(コリマイシンとも呼ばれる)は、50年より前に発見されたポリミキシン抗生物質である。これは、二価イオンキレート形成による自己誘導機構によってグラム陰性細菌の細胞壁を貫通する環状リポペプチド抗生物質である。コリスチンは、壁を不安定化させてその内部に入り込むことができる。コリスチンは、基本的に、細胞壁に穴をあけ、その構造を変形させて細胞内構成成分を放出させる。グラム陰性細菌、特にPseudomonas aeruginosa、Acinetobacter baumannii、およびKlebsiella pneumoniaeにおける多剤耐性の増加は、重大な問題となっている。治療法の限られた選択肢から、感染疾患の臨床医および微生物学者は、コリスチンの臨床における適用の再評価を強いられている。コリスチンは、神経毒性および腎毒性に関与する。この毒性の問題に対処するために、投薬レジメンおよび新しい製剤が答えとなるかもしれない。
【0135】
一部の実施形態において、フラジェリンポリペプチドを含むエアロゾル組成物または液体製剤はアモキシシリンと組み合わせて使用される。
【0136】
一部の実施形態において、フラジェリンポリペプチドを含むエアロゾル組成物または液体製剤は、スルファメトキサゾールとトリメトプリムとの両方を含むbactrimと組み合わせて使用される。
【0137】
一部の実施形態において、フラジェリンポリペプチドおよび抗生物質は、同時に、または所与の時間内で連続的に使用されるべきである。抗生物質は、いずれの順序でも適用可能であり、例えば、抗生物質を最初に適用し、その後フラジェリンポリペプチドを適用することができ、またはその逆も同様である。抗生物質およびフラジェリンポリペプチドの両方を含む組成物を用いるとき、両方の成分は、同時に、同じ投与経路または異なる投与経路によって適用されることになるということは明らかである。例えば、抗生物質は対象に経口経路を介して投与され得、フラジェリンポリペプチドは対象に静脈内経路を介してまたは鼻腔内経路を介して投与される。
【0138】
「治療有効量」によって、任意の医学的処置に適用可能である妥当なベネフィット/リスク比における、インフルエンザ後の細菌重感染の処置のための、フラジェリンポリペプチドおよび/または抗生物質の十分な量を意味する。本発明の化合物および組成物の1日あたりの総使用量は、適切な医学的判断の範囲内で担当医によって決定されることが理解されよう。いずれの特定の対象に対する特定の治療有効用量レベルも、対象の年齢、体重、一般的健康状態、性別、および食事や、使用する特定の化合物の投与時間、投与経路、および排泄速度や、処置期間、使用する特定のポリペプチドと組み合わせてまたは同時に使用される薬剤、ならびに医学技術分野において周知の同様の要因を含む多様な要因によって決まり得る。例えば、化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために必要とされるものよりも低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を次第に増加させることが当該技術において周知である。しかしながら、製品の1日あたりの投与量は、成人1人につき1日あたり0.01~1,000mg、特に0.01~0.5mgの広い範囲で変わり得る。好ましくは、組成物は、処置する対象において、投与量を症状に対して調整するために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250、および500mgの有効成分を含む。薬剤は、典型的に、約0.01mg~約500mgの有効成分を含み、好ましくは1mg~約100mgの有効成分を含む。薬剤の有効量は、通常、1日あたり0.0002mg/kg体重~約20mg/kg体重、特に1日あたり約0.001mg/kg体重~7mg/kg体重の投与レベルにおいて供給される。
【0139】
典型的に、本発明の有効成分(すなわちフラジェリンポリペプチドおよび/または抗生物質)は、薬学的に許容される賦形剤、および任意で徐放性基剤と組み合わせられて、医薬組成物を形成する。「薬学的に」または「薬学的に許容される」という用語は、適切な場合に、動物、特にヒトに投与するとき、有害な、アレルギー性の、または他の不適当な反応を生じない分子実体および組成物を指す。
【0140】
微生物活動は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によって防ぐことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注入可能な組成物は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチンを組成物に使用することによって持続的に吸収させることができる。
【0141】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、経局所で(すなわち対象の気道に)投与される。したがって、組成物は、噴霧剤、エアロゾル、溶液、乳剤、または当業者に周知の他の形態で製剤化することができる。本発明の方法が組成物の鼻腔内投与を含む場合、組成物は、エアロゾル形態、噴霧剤、ミスト、または液滴の形態で製剤化することができる。特に、本発明における使用のための有効成分は、適切な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切な気体)の使用を伴って、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー噴出(presentation)の形態で、簡便に送達することができる。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、一定量を送達するためのバルブを設けることによって決定され得る。吸入器または吹送器における使用のための(例えばゼラチンから構成される)カプセルおよびカートリッジを、化合物と、ラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基材との粉末混合物を含有するように製剤化することができる。
【0142】
本発明を以下の図面および実施例によってさらに例示する。しかしながら、これらの実施例および図面は、本発明の範囲を限定するようにいかようにも解釈されるべきでない。
【実施例
【0143】
材料および方法
フラジェリン
フラジェリンを、pH7.4のPBS緩衝液中に1.2g/Lまたは2.5g/Lで供給した。研究における異なる製剤について、フラジェリンを、ダイアリシスによって緩衝液を変えて再製剤化し、その後、濃度を調整し、必要に応じて賦形剤を添加した。等浸透圧を維持するために、すべての製剤に145mMのNaClを含ませた。
【0144】
凝集を評価する分析方法
・動的光散乱法(DLS)
ミクロン以下の範囲で粒子サイズ分布を決定するために、動的光散乱法(DLS)を使用した。DynaPro NanoStar(Wyatt Technology)機器によって、663nmのレーザー波長を用いて、測定を行った。100μLの各試料を使い捨てキュベットUVette(Eppendorf)に入れ、7秒の10回の取得によって測定を行った。Dynamics7.9.0.5ソフトウエア(Wyatt Technology)によって、データを分析した。
【0145】
結果を、多分散指数(PDI)、Z平均、モノマー半径(nm)、モノマーピーク(pic)の多分散性のパーセント(%pd)、モノマーの質量におけるパーセントとして示す。
【0146】
・フローセル顕微鏡法
可視以下の粒子を分析するために、フローセル顕微鏡法(FCM)を使用した。Flowcell FC200-IPAC(Occhio)機器によって、測定を行った。250μLの各試料を使い捨てコーンに入れ、200μLにおいて分析を行った。Callisto3Dソフトウエア(Occhio)によって、データを分析した。
【0147】
結果を、総粒子、>2μm、>10μm、および>25μmの粒子の濃度(particles/mL)として示す。各製剤について、噴霧前および噴霧後の値を示す。フラジェリンの噴霧後に生成した粒子の濃度から、賦形剤を含む対応する緩衝液(フラジェリンなし)の噴霧後に生成した粒子の濃度を減算することによって、噴霧後の値を得た。マイナス値の場合、0の値を採用した。
【0148】
エアロゾル特性評価
垂直吸入セルを備えたSpraytec機器(Malvern)使用して、レーザー回折によって、エアロゾルを特性評価した。エアロゾルを、約30L/minの流速において、真空ポンプを有する吸入セルに吸引した。1mLの試料を充填したネブライザーを、吸入セルの上部に配置した。測定時間は少なくとも1分であった。
【0149】
結果を、体積中位径(VMD)、ならびに、5μmより小さい直径、および0.5~3.0μmの直径を有する液滴のパーセンテージとして示す。
【0150】
活性アッセイ
フラジェリン標的であるTLR5受容体を特異的に発現するHEK-Dual hTLR5(NF/IL8)レポーター細胞によって、フラジェリンの生物学的活性を評価した。IL-8経路の活性化、より具体的にはルシフェラーゼのインターロイキン8(IL-8)依存発現の検出によって、TLR5の刺激を測定した。この目的のため、5×10HEK-Dual hTLR5(NF/IL8)細胞を、96ウェルプレートにおいて、2×10-6~2×10-13g/Lの範囲の8つの異なる濃度における噴霧前および噴霧後のフラジェリンとともにインキュベートした。37℃、5%CO2において18時間のインキュベーションの後、10μLの上清を、新しい96ウェルプレートに添加して、50μLのQuantiLUC試薬と混合した。直後に、ルミノメーターCentro XS3 LB960(Berthold)を使用して、ルシフェラーゼ反応を測定した。フラジェリン濃度に対する相対発光量の用量反応曲線を用いて、フラジェリンのEC50を測定した。
【0151】
結果を、μg/mLにおいてEC50として示す。
【0152】
結果
実施例1
ステップ1:メッシュ式噴霧時のフラジェリン安定性における緩衝液の影響を測定する
これに関して、界面活性剤ありまたはなしの異なる緩衝液において製剤化したフラジェリンに、噴霧ストレスを加えた。
【0153】
フラジェリンを0.5g/Lの濃度で調製した。ヒスチジンpH5.5、シトレートpH5.5、アセテートpH5.5、およびホスフェートpH6.5の緩衝液を使用した。まず、界面活性剤なしで、緩衝液を試験した。第2段階において、界面活性剤である、0.1%の濃度のポリソルベート80(PS80)ありで、緩衝液を試験した。
【0154】
様々な緩衝液中において製剤化した1mLのフラジェリンを、振動メッシュネブライザーであるSolo(Aerogen)によって噴霧した。
【0155】
フローセル顕微鏡法(FCM)および動的光散乱法(DLS)を用いて、凝集の程度を測定した。結果を以下の表にまとめる。
【表1】
【0156】
噴霧の前に、可視以下の粒子の数は、特にシトレートおよびアセテートにおいて少ない。噴霧の後、高凝集がFCMによって観察され、これは、総粒子の数がすべての緩衝液において5百万より大きく、さほど顕著ではない凝集を示すホスフェート緩衝液を除いて、2μm/mLを超える粒子が百万を上回って観察されたことによるものであった。DLS分析はこれらの観察を裏付けた。噴霧の前に、PDIはすべての緩衝液において多峰性であるが、モノマーの質量のパーセンテージが高く、低凝集を示す。また、DLSの結果は、噴霧後にすべての緩衝液において高凝集(ミクロン以下の粒子)を示し、これは、フラジェリンモノマーがなく、Z平均が顕著に増加することによるものであった。
【表2】
【表3】
【0157】
噴霧の前に、可視以下の粒子の数は、特にシトレートにおいて少ない。噴霧の後、FCMによって観察された可視以下の粒子の量は、PS80を配合したフラジェリンにおいて、PS80を含まない緩衝液と比較して、少なかった。アセテートおよびホスフェートは、最も低い総粒子濃度を示し、>2μmの粒子の数は、シトレート緩衝液を除いて、すべての緩衝液において少なかった。
【表4】
【0158】
DLS分析は、特にPS80を含むアセテートにおいて低凝集(ミクロン以下の粒子)を示し、これについて、PDIが多峰性ではなく、強度および質量におけるモノマーのパーセンテージは高かった。噴霧前のPS80を含むヒスチジンの結果は、おそらく試料に複数のミクロン以下の粒子があったため、分析できなかった。ヒスチジン中のフラジェリンの噴霧後に、モノマーの質量および強度におけるパーセンテージは最も小さかった。
【0159】
結果は、界面活性剤を含まないすべての緩衝液において、メッシュ式噴霧後のフラジェリンの凝集が高いことを示した。PS80の添加によって、すべての緩衝液においてフラジェリン凝集が低下する。アセテートおよびホスフェート緩衝液は、メッシュ式噴霧時のフラジェリン安定性の維持に最も適合していると認められた。製剤をさらに最適化するために、これらの緩衝液を選択した。
【0160】
ステップ2:メッシュ式噴霧時にフラジェリンを安定化する最適な界面活性剤およびその最小濃度を決定する
これに関して、様々な種類の界面活性剤および様々な濃度の界面活性剤ありの緩衝液において製剤化したフラジェリンに、噴霧ストレスを加えた。
【0161】
フラジェリンを0.5g/Lの濃度で調製した。アセテートpH5.5、およびホスフェートpH6.5の緩衝液を使用した。まず、0.02%、0.05%、0.1%の濃度のポリソルベート80(PS80)ありで、緩衝液を試験した。ホスフェート緩衝液において、新しいバッチのフラジェリンによって、0.01%および0.05%を含むより低い濃度のPS80もまた試験した。アセテート緩衝液において、ポリソルベート80(PS80)、ポリソルベート20(PS80)、およびポロクサマー188を含む様々な界面活性剤を試験した。
【0162】
様々な製剤中の1mLのフラジェリンに、Solo(Aerogen)振動メッシュネブライザーによって、噴霧ストレスを加えた。
【0163】
フローセル顕微鏡法(FCM)および動的光散乱法(DLS)を用いて、凝集の程度を測定した。結果を以下の表にまとめる。
【0164】
・界面活性剤の濃度
アセテート緩衝液において、FCMによって分析したときに、噴霧後の総粒子の濃度が最も低かったことから、0.1%の濃度のPS80がフラジェリンの安定化により適合していた。しかしながら、>2μmの粒子の数は、PS80の存在下ですべての製剤において少なかった。0.1%のPS80を配合したフラジェリンでは、PDIが噴霧前には低く、噴霧後にわずかに増加した。低い濃度のPS80では、PDIが多峰性であったが、質量におけるパーセンテージは高く留まり、噴霧前と噴霧後とに顕著な違いはなかった。
【表5】
【表6】
【0165】
ホスフェート緩衝液において、FCMによって観察されるように、0.1%の濃度のPS80がフラジェリンの安定化により適合していた。より低い濃度のPS80では、噴霧前の総粒子の数が15000より多かったことが見てとれる。しかし、噴霧前と噴霧後とで0.02%のPS80では総粒子の有意な増加はなかった。>2μmの粒子の数は、噴霧前と噴霧後とですべてのPS80濃度において類似していた。すべてのPS80濃度において、フラジェリン試料は多峰性であった(DLS)。モノマーの質量におけるパーセンテージは、0.1%のPS80においてより高かった。すべての濃度において、0.1%のPS80を配合した製剤を除いて、噴霧後に、質量におけるモノマーのパーセンテージのわずかな減少と、Z平均の増加とを観察した。したがって、PS80の濃度を0.1%より低くしたとき、中程度の凝集が観察された。
【表7】
【表8】
【0166】
・ホスフェート緩衝液におけるPS80濃度減少
この新しいバッチでは、噴霧後のPS80なしのホスフェート中におけるフラジェリンの凝集を、FCMおよびDLS分析によって確認した。実際に、数百万の可視以下の粒子がFCMにおいて見受けられ、DLSによって検出可能なフラジェリンモノマーはなかった。また、噴霧後の粒子の増加も、噴霧後のモノマーのパーセンテージの低下もないことから、0.02%のPS80の添加によって凝集を実質的に低下させることができることが確認された。興味深い点として、この新しいバッチでは、0.02%のPS80を含むホスフェート中において、この製剤における以前の実験よりも、フラジェリンが少なく凝集することが認められた。
【0167】
PS80濃度を低下させることによって、極めて低い濃度のPS80(0.01または0.005%)の事象では、FCMによって分析した粒子が、噴霧後に、0.02%のPS80を含む製剤と類似の濃度において、一定に留まることを観察した。また、モノマー損失がなく、噴霧後のZ平均が噴霧前のZ平均に近く留まったことから、DLSの結果は低凝集を示した。すべてのPDIは多峰性であるか、または高かった。
【表9】
【表10】
【0168】
・界面活性剤の種類
FCM分析に関して、噴霧後の総粒子の数(可視以下)は、PS80よりもPS20およびポロクサマーにおいて高かった。>2μmの粒子では、ポロクサマーにおいて高凝集もまた観察された。
【0169】
噴霧後のフラジェリンのDLS分析は、おそらくミクロン以下の粒子の存在が多すぎるため、ポロクサマーにおいては使用できず、PS20に限られた(n=1/3)。
【表11】
【表12】
【0170】
結果は、0.1%の濃度のPS80が、フラジェリンの凝集の抑制に、より適合し得ることを示した。しかしながら、ホスフェートとアセテートとの両方において、0.02%のPS80が、界面活性剤を含まない緩衝液と比較して、可視以下およびミクロン以下の粒子の数を有意に少なくした。極めて低い濃度のPS80(0.05%)がメッシュ式噴霧時のホスフェート中のフラジェリンの安定化に十分であることが認められた。界面活性剤の比較は、PS80がメッシュ式噴霧時にフラジェリンを安定化させるためにPS20およびポロクサマーよりも良好であることを示した。
【0171】
ステップ3:メッシュ式噴霧時のフラジェリンの安定性におけるフラジェリン濃度の影響
これに関して、4つの異なる濃度で製剤化したフラジェリンに、噴霧ストレスを加えた。
【0172】
0.02%のPS80を含むホスフェートpH6.5緩衝液中において、0.1g/L、0.5g/L、1g/L、および3g/Lの濃度でフラジェリンを調整した。
【0173】
様々な製剤中の1mLのフラジェリンに、Solo(Aerogen)振動メッシュネブライザーによって、噴霧ストレスを加えた。
【0174】
フローセル顕微鏡法(FCM)および動的光散乱法(DLS)を用いて、凝集の程度を測定した。結果を以下の表にまとめる。
【表13】
【0175】
全体として、FCM分析は、異なる濃度で製剤化したときのフラジェリンの低程度の凝集(可視以下の粒子)を示した。1mLあたりの総粒子の数は、0.1g/Lおよび3g/Lと比較して、0.5g/Lおよび1g/Lにおいてわずかに多かった。>2μm粒子/mLに関して、1g/Lの濃度においてのみ、噴霧後の増加を観察した。
【0176】
DLSによって分析したすべての試料において、PDIは多峰性であった。フラジェリンモノマーの質量におけるパーセンテージの低下はなかった。
【表14】
【0177】
結果は、フラジェリンの濃度がメッシュ式噴霧時のフラジェリンの安定性に大きな影響を与えないことを示した。
【0178】
選択した製剤の捕捉的分析
製剤研究に基づいて、メッシュ式噴霧時のフラジェリンの安定性を維持する能力および肺環境に対する適合性について、2つの製剤、つまり0.02%のPS80を含むアセテートpH5.5と0.02%のPS80を含むホスフェートpH6.5を選択した。
【0179】
これらの製剤において、エアロゾル特性およびフラジェリンの活性における製剤の影響を分析するためのさらなるアッセイを行った。
【0180】
アセテートまたはホスフェート中で噴霧したフラジェリンの液滴サイズ分布を、0.9%NaCl単独と比較して得るためのレーザー回折によって、エアロゾルを特性評価した。
【0181】
噴霧前および噴霧後に様々な製剤におけるフラジェリンのEC50を計算することによって、フラジェリンの活性を評価した。
【0182】
結果を以下の表にまとめる。
【0183】
・エアロゾル特性
【表15】
製剤は、エアロゾル特性に影響を与えず、肺送達への適合を保った。微粒子の画分(<5μmの粒子)は約60%であり、高い割合のエアロゾルが肺に到達することを意味する。
【0184】
・活性
【表16】
フラジェリン噴霧後にEC50の有意な変化はなく、アセテート緩衝液とホスフェート緩衝液との間でEC50は同等であった。したがって、TLR5活性化におけるフラジェリンの効力は、両方の製剤において噴霧後に維持された。
【0185】
実施例2
実施例1のステップ3:メッシュ式噴霧時のフラジェリンの安定性におけるフラジェリン濃度の影響を捕捉する。
【0186】
メッシュ式噴霧後において、最適な製剤における異なる濃度のフラジェリンの生物学的活性を特性評価する
-ヒトへの適用に適合させるため、肺において0.01~0.5mgの有効成分を用いる。
-選択した緩衝液中において希釈した後の噴霧時のFLAMODの安定性。
生物学的活性
-10mMのホスフェートpH6.5+145mMのNaCl+0.02%のPS80中における、10μg/mL~500μg/mLのフラジェリンの生物活性の評価。
〇(各濃度あたり10回の噴霧、トリプリケートで分析)
〇細胞レポーターアッセイ(HEK-Dual hTLR5)を用いる
【0187】
結果
10μg/mL~500μg/mLのフラジェリンの生物活性の評価(各濃度あたり10回の噴霧、トリプリケートで分析)
【表17】
フラジェリンの活性は、最適な製剤におけるいずれのフラジェリン濃度においても、噴霧後に有意に変化しなかった。
【配列表】
2024524410000001.app
【国際調査報告】