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特表2024-524473電気アーク炉内で泡立ちスラグを形成するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】電気アーク炉内で泡立ちスラグを形成するための方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
C21C5/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580971
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 IB2022056111
(87)【国際公開番号】W WO2023275817
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】102021000017366
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524001592
【氏名又は名称】ピペックス エナジー エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オレフィーチ、ルカ
(72)【発明者】
【氏名】マペッリ、カルロ
【テーマコード(参考)】
4K014
【Fターム(参考)】
4K014CC07
(57)【要約】
本発明は、鉄系合金の製造中に電気アーク溶解炉内で泡立ちスラグを形成するための方法であって、a.前記電気アーク炉内で金属装入材を溶融して、浮遊スラグ層を含む溶融金属浴を得る工程と、b.泡立ちスラグ形成剤を前記炉内に導入して、前記浮遊スラグを泡立てる工程と、を含み、前記泡立ちスラグ形成剤が、少なくとも1種の熱可塑性ポリマー材料と少なくとも1種の生物由来炭素質材料とを含む顆粒状複合材料である、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系合金の製造中に電気アーク溶解炉内で泡立ちスラグ(foamy slag)を形成する方法であって、
a.前記電気アーク炉内で金属装入材を溶融して、浮遊スラグ層を含む溶融金属浴を得る工程と、
b.前記炉内に泡立ちスラグ形成剤を導入して、前記浮遊スラグを泡立てる工程と、
を含み、
前記泡立ちスラグ形成剤が、少なくとも1種の熱可塑性ポリマー材料及び少なくとも1種の生物由来炭素質材料を含む顆粒状複合材料である、方法。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマー材料が、ポリマー材料を含む消費財廃棄物及び/又は産業プロセス廃棄物の回収から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマー材料が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン及びそれらの混合物を含む、請求項1~請求項2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記生物由来炭素質材料がチャー、好ましくはバイオチャーである、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記チャー又はバイオチャーが、ガス化、熱分解、半炭化、水熱炭化又は水蒸気爆発のプロセス、好ましくは半炭化又は水蒸気爆発のプロセスによって得られる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリマー材料が、前記複合材料の重量に対して10%~90重量%の範囲内の量で存在する、より好ましくは30%~70%の範囲内の量で存在する、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記炭素質材料が、前記複合材料の重量に対して10%~90重量%の範囲内の量で存在する、好ましくは30%~70%の範囲内の量で存在する、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記生物由来炭素質材料の炭素含有量が、50重量%以上である、好ましくは60重量%以上である、より好ましくは75重量%以上である、さらにより好ましくは50%~95%の範囲内にある、さらにより好ましくは60%~95%の範囲内にある、さらにより好ましくは75%~90%の範囲内にある、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生物由来炭素質材料が、以下の特徴:
・総炭素(乾燥基準):50~70%;
・固定炭素(乾燥基準):18~65%;
・揮発性画分(乾燥基準):30~80%;
・発熱量:19~30MJ/kg
のうちの1又は複数を有する、
請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
生物由来炭素質材料対ポリマー材料の重量比が、0.1~9の範囲内にある、好ましくは0.4~2.4の範囲内にある、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記熱可塑性ポリマー材料の炭素含有量が、50重量%以上である、好ましくは65重量%以上である、より好ましくは70%~90%の範囲内にある、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記泡立ちスラグ形成剤の顆粒の最大サイズが15mm以下である、好ましくは10mm以下である、より好ましくは5mm以下である、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記泡立ちスラグ形成剤の顆粒の最大サイズが、1mm以上である、好ましくは2mm以上である、より好ましくは3mm以上である、さらにより好ましくは1mm~15mmの範囲内にある、請求項1~請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記工程bが、浮遊スラグ層中及び/又は浮遊スラグ層近傍の溶融金属浴中に、前記顆粒状複合材料を分散させることを含む、請求項1~請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気アーク炉内で泡立ちスラグ(foamy slag)を形成するための方法に関する。特に、本発明による方法により、環境負荷を低減しつつ、泡立ちスラグを得ることが可能になる。
【背景技術】
【0002】
鉄系合金、特に鋼を製造するための主要技術の一つは、電気アーク炉(EAF)技術である。この技術は、新たに鉄系合金製品を製造するための原料として、ライフサイクルの終わりに達した多種多様な鋼材からの鉄スクラップ、並びに/又は、他の金属材料、例えば、DRI(直接還元鉄)、HBI(熱間成形還元鉄)、鋳鉄及び合金鉄、及び場合によっては他の金属材料(鉱石若しくは金属酸化物)などの金属装入材を使用する。
【0003】
電気アーク炉では、金属装入材と装入材の近くに設置されている1又は複数のグラファイト電極との間で火花放電する電気アークが発生する熱によって、金属装入材がるつぼの内部で溶融される。別の技術によれば、金属装入材は、加熱された後、電気アーク炉のるつぼに連続的に供給され、溶融金属浴との接触及び電気アークの両方の結果として溶融する。
【0004】
溶融が完結すると、溶融金属浴は、所望の化学組成に達するように、るつぼ内で精錬処理され、最終的に、完成品を得るまでの後続処理を開始するためにるつぼから取鍋に出鋼される。
【0005】
溶融プロセスを促進するために、通常、酸素及び他の燃料、例えば化石炭及び/又はコークスを、炉に導入して化学エネルギーを系に供給し、炉で大量に消費される電力を削減する。無煙炭及びコークスは、粗いサイズで、溶融される金属スクラップ装入材に添加されるか、又はより細かいサイズで、電気アーク炉に多くの場合設置されている周辺注入システムを通して注入される。一方、ガス状酸素は、金属浴の脱リン及び脱炭を促進するために溶融金属浴に吹き込まれる。実際に、ガス状酸素は、存在する元素、特に鉄、アルミニウム、ケイ素、マンガン及びリンと反応して、対応する酸化物を生成し、酸化物は浴の表面に向かって移動し、そこで浮遊スラグ層を形成する。スラグは、鉄系合金において望ましくない元素を捕捉することに加えて、泡立ちを起こし、プロセスのエネルギー効率を高め、電極消費を制限し、炉の耐火物及び強制水循環によって冷却されるパネルを電気アークの直接放射から保護する。さらに、泡立ちスラグは、電気アークと空気との相互作用により生成された窒素が溶融金属浴に混入するリスクを防止する。また、泡立ちスラグは、電極と金属浴との間でアーク放電したときに発生する騒音の害を低減する。
【0006】
スラグのフォーミング(foaming of the slag)は、スラグにガスが取り込まれることによって達成され、スラグの見掛容積が増加する。ガスは、泡立ちスラグ形成剤、例えば化石炭やコークスをスラグやスラグと接触する表面付近の溶融金属浴に注入することによってその場で生成される。ガス状酸素の吹込みの結果生成された酸化鉄、特にFeOは、化石炭やコークスの炭素と反応して、液相状態の金属鉄と、泡立ちスラグを形成するガス状一酸化炭素とを生成する。また、こうして、さもなければスラグと一緒に酸化物の形態で炉から逸出していたであろう金属鉄を回収する。泡立ちスラグ形成剤は、微粉の形態で、泡立ちスラグ形成剤の媒体としてガス流体(通常は圧縮空気)を使用する1又は複数のランス(lances)を通して注入される。
【0007】
スラグ・フォーミング技術(slag foaming technique)、より一般的には電気アーク炉における鉄系合金製造が受ける大きな制約は、大気中に大量の二酸化炭素を排出する石炭及びコークス等の化石原料の使用から生じる環境影響によるものである。
【0008】
二酸化炭素排出による環境負荷を抑制するために、石炭及びコークスの部分置換又は完全置換として、プラスチックやゴムなど廃棄物回収から得られるポリマー材料を、燃料及び泡立ちスラグ形成剤の両方として使用することが、最新技術で公知である。しかるに、これらの材料の使用には、工業プロセスや消費財からの廃棄物やスクラップを大切にするという利点があるものの、鉄系合金製造プロセスからの二酸化炭素及び他の気候変動ガスの排出量の総合収支の改善は限定的である。
【0009】
最新技術では、同様の目的で、生物由来の材料、例えば、バイオマスの熱分解又はガス化によって得られた木炭又は他の製品(生物由来の材料から得られかつ環境に配慮した持続可能な方法で調達及び処理された場合、「チャー」又は「バイオチャー」と総称される)を、少なくとも部分的に化石起源材料の代替として使用することも公知である。再生可能資源に由来するバイオチャーは、EAFにおける鉄系合金の製造プロセスの排出量の総合収支を実際に改善するが、これはバイオチャーが生物由来であり、したがってバイオマスの持続可能な開発から得られる場合、全体的に気候変動ガスの正味の排出量がゼロであるという事実に基づく二酸化炭素排出量の中立化(すなわち、カーボンニュートラル)によるものである。
【0010】
しかしながら、泡立ちスラグ形成剤として使用する場合、バイオチャーにはいくつか欠点がある。第一に、バイオチャーの有効性は化石炭及びコークスの有効性よりも低い。これは、バイオチャーは比較的低密度であることに起因して、スラグや溶融金属浴に浸透及び分散する能力に限界があるためである。また、バイオチャーは、スラグ及び溶融金属による表面濡れ性が限定的であるため、化石起源の材料よりも反応性が低い。さらに、バイオチャーは、機械的緻密性が低いため、微粉に崩壊する可能性があり、このことは、材料を貯蔵場所から取り出して炉近傍に設置されたランスに輸送する空気圧搬送システムに目詰まりの問題を引き起こす可能性がある。さらに、バイオチャーはスラグに浸透する能力が低く、また低密度で、反応性が乏しいこととも相まって、スラグや溶融金属浴と反応できないうちに、炉中に存在するヒュームに混入しやすい。また、バイオチャーは、取扱い及び貯蔵中に、やはり機械的緻密性が低いため、粉々に砕ける傾向があり、さらなる微細な軽質粉末が形成され、これが作業環境に容易に拡散する結果、オペレータの安全上の問題をもたらす。最後に、バイオチャーは吸湿性材料であるため、大気中の水分を吸収する傾向がある。このことから、サプライチェーン全体に適切な貯蔵手段を講じる必要が生じる。これは、エネルギー効率やプラント安全性の理由、そして金属浴に水素を混入させないために、過剰な水分量を炉に導入するのを回避すべきであるためである。
【0011】
EAF炉(電気アーク炉)での冶金プロセスにおける廃棄物回収からの材料及び化石由来の炭素に代わる炭素供給源の使用は、例えば米国特許第8021458号明細書に記載されている。米国特許第8021458号明細書は、電気アーク炉でスラグを泡立たせる方法を記載し、泡立ちスラグ形成剤として、炭素含有ポリマーを、場合によっては第2の炭素供給源(例えば、グラファイト又はコークス)との物理的混合物の形態で使用している。米国特許第8021458号明細書では、上述の物理的混合物の有効性の試験が、実験室で2つの成分を滴下管炉内で反応させ、得られた炭素質残留物を分析することによって行われた。残留物とスラグとの相互作用の評価は、上述の機械的にプレスされた残留物のサンプルをスラグの溶融温度でスラグと接触させることによって行われた。
【0012】
米国特許出願公開第2011/0239822号明細書は、EAFにおいて鉄系合金を製造する方法を記載している。炭素含有ポリマー(例えば回収タイヤゴム)の物理的混合物が第2の炭素供給源(例えばコークス)と一緒に使用されている。2種類の材料の物理的混合物は、補助燃料としての機能及び泡立ちスラグ形成剤としての機能の両方を有して炉に注入されている。
【0013】
米国特許第5554207号明細書は、酸素転炉鋼又はEAF製造プロセスにおける非水溶性熱可塑性ポリマーと微細金属粒子状物質との併用を記載している。熱可塑性ポリマーは、好ましくは、使用済廃棄物の回収に由来するポリマーであり、一方金属粒子状物質は、溶融炉の燃焼ヒュームの濾過によって得られている。これら2つの材料は、加熱下、例えば押出機内で一緒に混合され、熱可塑性ポリマーが金属粒子の結合剤の役割を果たす弱凝集(agglomerated)生成物を形成する。弱凝集生成物は、使用済み鉄スクラップ装入材に添加された後、溶融炉内の有用金属を回収し、熱可塑性材料を燃料として利用するための媒体として使用される。
【0014】
国際公開第2012/019216号パンフレットは、熱可塑性材料と炭素含有材料とを含む複合製品の高温プロセス、例えばEAF炉プロセスにおける使用を記載している。炭素含有材料の代替品として、又は炭素含有材料に加えて、複合製品は金属含有材料を含んでもよい。実施例では、複合材料は、押出成形によって、約3kg程度の比較的高質量のブロックの形態に調製されている。ブロックは、スクラップ装入材に加えて、補助燃料として製鋼プロセスで使用することができる。あるいは、複合製品は、建築材料又は保護材料として使用することができる。
【0015】
イルシャド・マンスリらは、「炭素質産業廃棄物/商業廃棄物の鉄鋼生産における炭素資源としての再生利用(Recycling Carbonaceous Industrial/Commercial Waste as a Carbon Resource in Iron and Steelmaking)」、Steel Research Int.第87巻(2016年)第9999号(DOI:10.1002/srin.201600333)において、コンパクトディスク(ポリカーボネート)、炭素繊維強化ポリマー及びベークライトなどの廃棄プラスチックのEAF炉における再利用の可能性を分析した。この文献は、従来の化石系炭素供給源の代わりにバイオチャー由来の炭素を含有する一般的な複合材料の使用に言及しているが、複合材の正確な組成を特定していない。
【0016】
イルシャド・マンスリらが引用している、テリー・ノーゲートらによる「鉄鋼生産のための再生可能な炭素供給源としてのバイオマス(Biomass as a Source of Renewable Carbon for Iron and Steelmaking)」、ISIJ International、第52巻(2012年)、第8号、1472~1481頁には、統合サイクルプロセスにおける高炉原料としての、鉄鉱石及びバイオマスから形成された直接還元複合材料の使用が記載されている。EAF炉内のスラグのフォーミング工程における、化石系炭素供給源の代替としてのバイオマスの使用も記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記の最先端技術を踏まえ、本出願人は、電気アーク炉内でスラグを泡立たせる公知の方法に影響を及ぼしている上記欠点の1又は複数を克服するという問題に立ち向かった。特に、本出願人は、泡立ちスラグを効果的に生成すると同時に環境負荷を低減させる方法を提供することに着手した。さらなる目的は、泡立ちスラグを生成する方法であって、従来技術の方法よりも容易に達成可能であり、特に、バイオチャーの泡立ちスラグ形成剤としての使用に関連する従来技術の欠点を克服することを可能にする、方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本出願人は、上記及び他の目的(以下の説明でより詳細に説明される)が、鉄系合金の製造プロセス中にEAF炉内で泡立ちスラグを形成する方法によって達成可能であることを今や見出した。本方法において、スラグのフォーミングは、熱可塑性ポリマーと生物起源の炭素質材料とを含む顆粒状複合材料の注入によって行われ、熱可塑性ポリマーは、好ましくは、プラスチック素材の使用済廃棄物・製品又は産業廃棄物・製品の回収から得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、LDPEが主成分であるポリマー廃棄物の熱重量分析の結果を示した図である。
図2図2は、ガス化によって生成されたバイオチャーの熱重量分析の結果を示した図である。
図3図3は、図1のポリマー材料と図2のバイオチャーとを乾燥基準で40:60の質量比で含む本明細書記載の複合材料の熱重量分析の結果を示した図である。
図4図4は、LDPE及びHDPEを主成分とするポリマー廃棄物の熱重量分析の結果を示した図である。
図5図5は、熱分解によって生成されたバイオチャーの熱重量分析の結果を示した図である。
図6図6は、図4のポリマー材料と図5のバイオチャーとを乾燥基準で45:55の質量比で含む本明細書記載の複合材料の熱重量分析の結果を示した図である。
図7図7は、半炭化によって生成されたバイオチャーの熱重量分析の結果を示した図である。
図8図8は、図4のポリマー材料と図7のバイオチャーとを乾燥基準で50:50の質量比で含む本明細書記載の複合材料の熱重量分析の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述の複合材料は、その顆粒の密度が比較的高いため、個々の成分又はそれらの物理的混合物の混合注入材よりも容易に炉内に注入可能であり、したがってスラグ及び/又は溶融金属浴に深く浸透することができ、その結果、スラグ・フォーミング作用の効果が改善されることが観察された。
【0021】
さらに、顆粒状複合材料は、その成分を個々に又は強凝集していない形態で使用する場合と比較すると、炉回収システムに吸引される燃焼ヒューム流に混入しにくい。
【0022】
また、上述の顆粒状複合材料を使用すると、炭素含有量及び固定炭素(チャー)含有量が高い材料を、揮発性画分及び水素の含有量が高い材料(ポリマー材料、例えばポリオレフィン系ポリマー材料)と同時に、EAF炉に導入することが可能になり、このことは、揮発性画分が引き起こす激しい物質交換及び水素の高い反応性の両方に起因する、スラグへと向かう反応性、そして泡立ちスラグの構造に安定化効果を有する小さなガス泡の形成を促進する。また、2種類の材料(チャー及びポリマー)は、弱凝集の結果、相互に直接接触するため、化学的相互作用が促進される。この直接接触はまた、チャーの触媒効果によるチャー化水素(ポリマー鎖の切断によって生じる)の分解を促進し、その結果固体炭素が生成される。こうして、固体炭素は、チャー自体の表面に堆積することができ、チャーの表面粗さ、したがってチャーの濡れ性がスラグ及び液体金属と比較して増大する。また、これにより、バイオチャーの濡れ性の低さ、したがってスラグとの反応性の乏しさに関連する問題が克服される。
【0023】
さらに、熱可塑性材料及び生物由来炭素質材料を顆粒の凝集形態で使用することにより、生物由来炭素質材料の特徴である高い表面積及び高い空隙率を利用することが可能になり、固気界面で起こるガス化反応が促進される。最新技術において、実際、生物由来材料の空隙率を有効利用できないでいるのは、生物由来材料の密度が低いためであり、したがって炉内で発生する問題の一部は、この空隙率によって完全に左右されている。
【0024】
顆粒状複合材料を使用することで、表面/粒子体積比の制御及び最適化が可能となり、熱交換及び反応表面に作用することによって、炉内への注入プロセス中及びスラグ内での反応プロセス中に材料の酸化機構及び揮発機構に影響を及ぼす。
【0025】
したがって、スラグ・フォーミングプロセスにおける複合材料の有効性が向上するため、電気アーク炉における鉄系合金の製造プロセスの環境負荷を低減することができ、気候変動ガス、特に化石系炭素供給源からの二酸化炭素の排出量、並びに原料及びエネルギーの消費量を効果的に削減することができる。
【0026】
また、複合材料の緻密性、低吸湿性、及び顆粒状形態によって、微粒子状物質の作業環境中への著しい拡散放出を発生させずに、材料を移送したり貯蔵したりすることが可能になり、また貯蔵中の水分の取り込みのリスクが限定される。
【0027】
さらに、例えば熱可塑性材料及び生物由来炭素質材料を熱間押出することで、複合材料は、様々な形状及び広範なサイズ範囲の大きさを有する顆粒に調製できるため、化石炭又はバイオチャーの注入に一般的に使用される装置を用いて、炉に注入する上で最適な顆粒サイズに容易に調製することができ、また、機械的緻密性が向上した結果、上記材料の粉末の細かさに関連する上述の装置及び空気圧搬送システムの詰まりの問題も回避される。
【0028】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、鉄系合金の製造中に電気アーク溶解炉内で泡立ちスラグを形成する方法であって、
a.前記電気アーク炉内で金属装入材を溶融して、浮遊スラグ層を含む溶融金属浴を得る工程と、
b.泡立ちスラグ形成剤を前記炉内に導入して、前記浮遊スラグを泡立てる工程と、
を含み、前記剤が、少なくとも1種の熱可塑性ポリマー材料及び少なくとも1種の生物由来炭素質材料を含む顆粒状複合材料である、方法に関する。
【0029】
本発明によれば、泡立ちスラグ形成剤は、少なくとも1種の熱可塑性ポリマー材料と少なくとも1種の生物由来炭素質材料とを含む顆粒状複合材料である。
【0030】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的において、「複合材料」という用語は、少なくとも1種の熱可塑性ポリマー材料及び少なくとも1種の生物由来炭素質材料を含む弱凝集生成物を意味し、ここで熱可塑性ポリマー材料は、生物由来炭素質材料の結合剤として作用する。
【0031】
熱可塑性ポリマー材料は、室温で固体のポリマー材料であって、好ましくはハロゲン(特にフッ素及び塩素)を実質的に含まず、緻密な顆粒状複合材料を形成するように生物由来炭素質材料の結合剤として作用するのに適した任意のポリマー材料とすることができる。この目的上、ポリマー材料は、例えば100℃~300℃の範囲内、好ましくは150℃~250℃の範囲内の温度で加熱することによって流体ポリマー相に変化可能であることが必要である。
【0032】
好ましくは、熱可塑性ポリマー材料はポリオレフィン系ポリマーを含む。好ましくは、熱可塑性ポリマー材料として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)及びそれらの混合物が挙げられる。ポリエチレンは、低密度ポリエチレン(LDPE)又は高密度ポリエチレン(HDPE)のいずれかであり得る。
【0033】
熱可塑性ポリマー材料は、好ましくは、再生ポリマー材料、すなわち、熱可塑性ポリマー材料を含むそのライフサイクルの終わりに達した廃棄物(いわゆる使用済再生利用製品)又はポリマー材料製造プロセスからの廃棄物(いわゆる産業廃棄物再生利用製品)の回収から得られる。好ましくは、ポリマー材料は、少なくともその一部が再生可能資源、例えばバイオプラスチックから得られる材料である。
【0034】
本発明の目的に適したポリマー材料を得ることができる使用済再生利用製品の例は、都市廃棄物(例えば、食品フィルム及び包装、瓶、ボトル、容器等)の分別収集物又は農業用フィルム廃棄物及びスクラップから得られる製品である。産業廃棄物再生利用製品の例は、上述の製品の製造プロセスから出る廃棄物である。これらの製品は通常、冶金製造サイクルで使用する前に、選別、洗浄、断片化、篩分、圧縮及び押出などの1又は複数の前処理が施される。
【0035】
一実施形態において、熱可塑性ポリマー材料は、都市廃棄物の分別収集物から生じるプラスチックの処理及び分別のプロセスの終わりに残る材料の一部である。この一部は、プラスミックス(Plasmix)としても公知である。
【0036】
本発明の目的のためのプラスミックス(Plasmix)の使用は、特に有利である。これはその高い利用可能性と、最新技術では、プラスミックスは、主に焼却によるエネルギー回収及び埋立処分向けであるという事実のためである。
【0037】
顆粒状複合材料を調製するために使用される熱可塑性ポリマー材料は通常、非常に可変的な形状のフレーク、粉末又は顆粒の形態であり、最大サイズは、0.3mm~40mmの範囲内にある。
【0038】
熱可塑性ポリマー材料の炭素含有量は、好ましくは、熱可塑性ポリマー材料の重量に対して50重量%以上、より好ましくは65重量%以上である。好ましくは、炭素含有量は、熱可塑性ポリマー材料の重量に対して50%~90%、より好ましくは70%~90%の範囲内である。
【0039】
熱可塑性ポリマー材料の水素含有量は、好ましくは、熱可塑性ポリマー材料の重量に対して5重量%以上、より好ましくは10重量%以上である。好ましくは、水素含有量は、熱可塑性ポリマー材料の重量に対して5%~15%の範囲内にある。
【0040】
熱可塑性ポリマー材料、特に廃棄物の回収から得られるものは、不純物、例えば、ポリマー材料の製造に一般的に使用される、金属元素(例えばアルミニウム)、染料、顔料及び他の添加剤、又は他の性質の材料から形成された不純物(例えば砂)を含有することがある。
【0041】
複合材料中に存在する熱可塑性ポリマー材料の量は、広範囲にわたって変化する可能性があり、鉄系合金製造プロセスにおける使用の必要性に基づいて決定することができる。好ましくは、熱可塑性ポリマー材料は、複合材料の重量に対して10%~90重量%の範囲内、より好ましくは30%~70%の範囲内の量で存在する。
【0042】
本発明の目的において、生物由来炭素質材料(以下、「炭素質材料」とも称する)は、動物又は植物である生物から生成された有機炭素含有材料である。好ましくは、炭素質材料は、植物起源の有機材料である。より好ましくは、炭素質材料はチャーである。チャーは、酸素欠乏下でのバイオマスの熱化学的変換、例えば熱分解、半炭化、水蒸気爆発、ガス化又は水熱炭化プロセスによって得られる生成物である。これらの熱化学的変換でバイオマスを処理すると、未処理のバイオマスよりも、炭素含有量が高く、特に固定炭素含有量が高く、そして発熱量が高い生成物を得ることが可能になる。好ましくは、生物由来炭素質材料は、「バイオチャー」、すなわち、例えば森林資源の適切な管理から得られたバイオマスの処理からの廃棄物の利用を含む、環境的に持続可能であると考えられるプロセスによって生成されたチャーである。
【0043】
生物由来炭素質材料の炭素含有量は、炭素質材料の重量に対して、好ましくは50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは75重量%以上である。好ましくは、炭素含有量は、炭素質材料の重量に対して50%~95%の範囲内、より好ましくは60%~95%の範囲内、さらに好ましくは75%~90%の範囲内にある。
【0044】
チャー中に存在する他の元素は、主に水素、酸素及び硫黄である。
【0045】
好ましい実施形態によれば、チャーの化学組成は以下の通りである(チャー重量と呼ばれる乾燥基準での重量百分率):
75%~90%の炭素、
0.5%~4%の水素、
2%~8%の灰分、
5%~15%の酸素、
0%~3%の硫黄。
【0046】
チャーの有利な特徴は、化石起源の石炭及びコークスと比較して灰分含有量が比較的低いことである。実際、灰分は、反応物間の接触を妨げる液体界面又は固体界面を形成するため、酸化物還元機構を妨げる可能性がある。さらに、灰分はスラグの粘度を局所的に変化させる可能性があり、したがってスラグ自体がその内部にガス泡を保持して安定した泡を形成する能力を変化させる可能性がある。
【0047】
好ましい実施形態では、チャーは半炭化(torrefaction)又は水蒸気爆発プロセスによって得られる。好ましくは、半炭化プロセスは、出発有機材料を酸素欠乏状態において200℃~350℃の温度で熱処理することを含む。半炭化及び水蒸気爆発プロセスでは、有機材料の熱化学変換は、熱分解に比較すると、比較的低い温度で実施されるため、かかるプロセスのチャー生成収率は、熱分解又はガス化と比較すると著しく高い(半炭化では、出発乾燥材料1kg当たり最大0.5~0.9kgのチャーを生成することができる)。また、半炭化及び水蒸気爆発プロセスは、取り扱うガス状副生成物の量が比較的少ないため、実施がより容易である。
【0048】
熱分解又はガス化からのチャーと比較すると、半炭化及び水蒸気爆発からのチャーは、一般に、総炭素及び固定炭素含有量が低く、揮発性画分含有量が高く、発熱量が低い。好ましい実施形態では、チャーは、以下の特徴のうちの1又は複数を有する。
・総炭素(乾燥基準):50~70%;
・固定炭素(乾燥基準):18~65%;
・揮発性画分(乾燥基準):30~80%;
・発熱量:19~30MJ/kg。
【0049】
その特性により、半炭化又は水蒸気爆発から得られたチャーは、着火性が高いため、安全上の問題が大きく、鉄鋼産業において最新技術では実質的に使用されていない生物由来の材料である。しかしながら、本発明による複合材料に使用する場合、泡立ちスラグ形成剤として有利に利用することができる。したがって、本発明によって、今日利用可能な化石系炭素供給源に代替する炭素供給源の種類を拡大することが可能になる。
【0050】
一般に、生物由来炭素質材料は、例えば出発バイオマス及び調製プロセス(熱分解、半炭化等)に応じて、フレーク又は粉末又はペレットの形態である。生物由来炭素質材料はまた、ポリマーとのその後の弱凝集に適したサイズ及び含水量を得るために、例えば乾燥及び/又は粉砕によって加工されてもよい。
【0051】
一般に、生物由来炭素質材料を使用して、最大サイズが15mm以下である(a maximum size equal to the maximum of 15 mm)、より好ましくは10mm以下である(equal to the maximum of 10 mm)、さらにより好ましくは5mm以下である(equal to the maximum of 5 mm)、粉末又はフレーク又はペレットの形態の複合材料を調製する。好ましくは、粉末又はフレークの最大サイズは、1~10mmの範囲内、より好ましくは2~5mmの範囲内にある。
【0052】
半炭化又は水蒸気爆発によって得られる生物由来炭素質材料は、一般にペレット形態で市販されている。ペレットはそのまま使用して、本明細書による複合材料を調製することができる。好ましくは、ペレットの最大サイズは、50mm以下である(a maximum size equal to the maximum of 50 mm)、より好ましくは40mm以下である(equal to the maximum of 40 mm)、さらにより好ましくは20mm以下である(equal to the maximum of 20 mm)。好ましくは、ペレットの最大サイズは、1~50mmの範囲内にあり、より好ましくは1~40mmの範囲内にあり、さらにより好ましくは2~20mmの範囲内にある。
【0053】
複合材料中に存在する炭素質材料の量は、広範囲にわたって変化することができ、鉄系合金製造プロセスでの使用の必要性に基づいて選択することができる。好ましくは、炭素質材料は、複合材料の重量に対して10%~90重量%の範囲内、より好ましくは30%~70%の範囲内の量で存在する。
【0054】
好ましくは、生物由来炭素質材料対ポリマー材料の重量比(weight ratio of biogenic carbonaceous material to polymeric material)は、0.1~9の範囲内にあり、好ましくは0.4~2.4の範囲内にある。
【0055】
複合材料はまた、1又は複数の添加剤を含んでもよい。EAF炉に注入するための顆粒の性能を改善するため、及び/又は顆粒製造プロセスを改善するために、添加剤を複合材料に組み込むことができる。例えば、潤滑添加剤、例えばステアリン酸カルシウムを添加してポリマーの流動性を改善し、溶融ポリマーへのチャーの取り込みを促進することができる。生石灰などの鋼精錬添加剤を導入して、スラグの塩基性度を高めることができるし、又は(例えば、タイヤを粉砕することによって得られる)リサイクルゴム粉末を導入して、スラグ・フォーミングをさらに促進することができる。顔料、染料、可塑剤、酸化防止剤などのポリマー材料の製造に一般的に使用される添加剤を使用することも可能である。添加剤は、複合材料の重量に対して0~50重量%範囲内の量、好ましくは0.1%~10重量%の範囲内の量で複合材料中に存在しうる。
【0056】
本発明に係る複合材料は、顆粒状である。「顆粒状」という用語は、複合材料の成分同士が強凝集して細分化された単位(顆粒)を形成することを意味する。顆粒は、非常に変化に富んだ形状及びサイズでありうる。顆粒は、例えば、ペレット、圧縮体、円柱、球体又は他の形態の強凝集体、さらには不規則な形態であってもよい。
【0057】
好ましくは、顆粒の嵩密度は、200~1000kg/m(ASTM D1895B準拠)の範囲内、さらにより好ましくは300~900kg/mの範囲内にある。
【0058】
好ましくは、顆粒の最大サイズは、15mm以下であり(a maximum size equal to the maximum of 15 mm)、より好ましくは10mm以下であり(equal to the maximum of 10 mm)、さらにより好ましくは5mm以下である(equal to the maximum of 5 mm)。本発明の目的において、このことは、顆粒が、一辺15mmの正方形、好ましくは一辺10mmの正方形、より好ましくは一辺5mmの正方形のメッシュのふるいを通過できることを意味する。
【0059】
好ましくは、顆粒の最大サイズは、1mm以上であり(a maximum size equal to at least 1 mm)、より好ましくは2mm以上であり(equal to at least 2 mm)、さらにより好ましくは3mm以上であり(equal to at least 3 mm)、さらにより好ましくは1mm~15mmの範囲内にある。
【0060】
本発明の目的において、「最大サイズ」という用語は、その大きさが他のサイズに対して最大である顆粒の特徴的なサイズ、例えば直径、長さ、幅又は厚さを意味する。
【0061】
顆粒状複合材料は、当技術分野、例えばポリマー材料の顆粒及び弱凝集体の調製分野で公知の技術を使用して調製することができる。
【0062】
一般に、調製プロセスは、熱可塑性ポリマー材料をその溶融温度まで加熱し、次いでそれを炭素質材料と混合して流体均質複合材料を形成し、次いでこれを固化するまで冷却することを含む。
【0063】
あるいは、2つの材料の均質な混合物を固体状態で調製し、次いでポリマー材料が溶融するのに十分な高い温度にまで混合物を加熱し、次いで流体均質複合材料を形成し、次いでこれを固化するまで冷却することも可能である。
【0064】
好ましい実施形態では、2つの成分の加熱混合工程は押出機内で行われる。押出機では、2つの成分を物理的混合物として、又は別々に供給することができる。後者の場合、ポリマー材料は、最初に押出機本体内で加熱され、次いで、側面入口を通して押出機に導入することができる炭素質材料と混合される。次いで、混和された複合材料は、押出ダイの穴を通って押し出されるときに、所望の形状(例えば円筒形状)に形成され、その後(例えば、空気又は水で)冷却され、所望のサイズの顆粒に切り出される。
【0065】
あるいは、連続混合などの他の混合/押出技術も使用することができる。
【0066】
本発明によれば、顆粒状複合材料は、泡立ちスラグ形成剤として、電気アーク炉内で鉄系合金を製造するプロセスにおいて、不連続モード(金属装入材の不連続供給を伴う従来のプロセス)及び連続モード(例えば、予熱された金属装入材の連続供給によるプロセス)の両方で使用することができる。この目的に沿って、複合材料は、金属装入材の溶融段階の最中又は後に、浮遊スラグの存在下でEAFに導入される。浮遊スラグの形成は、生石灰、ドロマイト及びマグネサイトなどのスラグ形成化合物を炉に導入することによって誘発することができ、これらのスラグ形成化合物は溶融される金属装入材と共に装入してもよく、又はそれ以降に溶融中の炉に注入してもよい。装入材の溶融は、一般に、炉内への気体酸素の吹込みによってもサポートされる。
【0067】
泡立ちスラグ形成剤としての複合材料の導入は、当業者に公知の技術及び装置を用いて行うことができる。好ましくは、顆粒状複合材料は、1又は複数のランスを用いた注入によってEAF炉に導入される。ランスは通常、炉の側壁又は炉蓋の開口部を通って炉内に延伸している。ランスは一般に、ガス流(例えば圧縮空気)を使用して顆粒を搬送する。
【0068】
好ましくは、顆粒状複合材料は、浮遊スラグ層中及び/又は浮遊スラグ層近傍の溶融金属浴中に分散される。一般に、この操作は、金属装入材の溶融が進んだ段階にあるとき及び/又は溶融が終了したときに実行される。
【0069】
炉に注入されると、複合材料の顆粒はスラグと接触して、複数の化学反応を引き起こし、スラグを泡立てると同時に酸化鉄を液体金属鉄に還元する。スラグ中の複合材料の反応は2段階で起こる。第1段階では、ポリマー材料の一部が、酸化鉄を部分的に還元する炭化水素、固体炭素、一酸化炭素及び水素の一般的な生成を伴う吸熱分解プロセスをもたらし、次の第2段階では、生物由来の炭素の酸化が起こる。吸熱段階は、スラグを冷却し、その粘度を高め、泡の安定化を促進するのに役立つ。
【0070】
何れかの特定の理論に言及することを望むものではないが、炉への顆粒の導入後、ポリマー材料が非常に迅速に転化されて炭素質材料の粒子を放出する;そのため、ポリマー炭素質材料及び生物由来炭素質材料は、以下に示すように、様々な化学反応を惹起すると考えられる。
【0071】
一般に、スラグの泡立ちをもたらす炭素質材料とスラグとの間の化学反応は、主に以下の通りである。
【0072】
【数1】
【0073】
【数2】
【0074】
【数3】
【0075】
炭素質材料は、スラグと接触すると、酸化鉄を液体状態の金属鉄に還元し、同時にガス状一酸化炭素を生成する(反応1)。次いで、炭素質材料の粒子は、一酸化炭素のガス環境に包まれ、一酸化炭素がスラグの表面上で還元作用を継続し、それによって二酸化炭素及びさらに液体金属鉄を生成する(反応2)。二酸化炭素が生成すると、次いで、ガス状環境中を炭素質材料粒子に向かって拡散し、ガス化反応を引き起こして、一酸化炭素を生成する(反応3)。
【0076】
ポリマー材料、例えばポリオレフィンにあっては、代わりに以下の反応を考慮することができる。
【0077】
【数4】
【0078】
【数5】
【0079】
【数6】
【0080】
【数7】
【0081】
【数8】
【0082】
【数9】
【0083】
まず、ポリマー材料のポリマー鎖が切断され炭化水素及びより短い炭化水素鎖を形成する(反応4)。次いで、これらは分解して、反応5に従って固体状炭素及び水素ガスを生じる。それらはまた、二酸化炭素(反応6)又はスラグの酸化鉄(反応8)と反応して、一酸化炭素、水素を形成し、スラグと反応して金属鉄を生成することができる。
【0084】
反応5、反応6及び反応8では、反応生成物として水素が生成し、水素は次に還元剤として作用する。反応7に基づいて、水素は一酸化炭素よりも速い反応速度で酸化鉄を還元することができる。水素はまた、多数の小さなガス泡の形成に寄与し、結果として泡立ちスラグを安定化する効果を有する。この理由は、水素によってスラグ内部の気相の保持が促進するためである。また、反応7により水が生成され、水は、二酸化炭素と同様に、反応9に従って固体炭素をガス化し、水素及び一酸化炭素を生成することができる。
【0085】
半炭化によるバイオチャーの場合のように、生物由来炭素質材料の揮発性画分含有量が比較的高い場合、かなりの量のガス状化学種を放出し、この化学種もスラグ・フォーミング及び酸化鉄還元の機構に寄与する。
【0086】
浮遊スラグのフォーミング段階に前後して行われる鉄系合金製造プロセスの操作段階は、公知技術に従って行われる従来の操作である。
【0087】
最初に、例えば、溶融される金属装入材は、場合によっては溶融工程を途中に挟んで、1又は複数の装填操作によって炉に導入されうる。あるいは、当技術分野で知られているように、予熱後に金属装入材を連続モードで炉に供給してもよい。
【0088】
溶融金属浴の化学組成及びその温度が最適化されると、溶融鉄系合金金属が炉から取り出され、スラグから分離される。このようにして得られた鉄系合金は、その後、最終完成品に変換するためのさらなる処理に移送される。
【0089】
以下の実施例は、純粋に本発明の例示のみを目的として提供されており、添付の特許請求の範囲によって定められる保護範囲の限定と見なされるべきではない。
【0090】
実施例では、添付の図面も参照される。
【実施例
【0091】
実施例1
本発明による泡立ちスラグ形成剤を以下のように調製した。
二軸押出機内に以下を供給した:
・廃棄物に由来するポリマー材料(LDPE 90w/w%)60kg;
・バイオチャー40kg。
【0092】
ガス化によるバイオチャーは、炭素70%超、灰分6%未満、及び水分8%未満の組成を有していた。バイオチャーは、最大サイズが5mmであり、主に(少なくとも50重量%が)最大サイズが2mm未満である、フレーク又は粉末の形態であった。
【0093】
押出機の内部で、ポリマー材料を約190℃の温度で溶融し、続いて押出機の側壁に沿って順次配置した3点で供給されたバイオチャーと混合した。このようにしてバイオチャーの粉砕と水の蒸発を同時実施し、2つの材料を弱凝集させた。最後に、弱凝集体を直径4mmの円形断面のダイを通して押し出した。
【0094】
押し出された複合材料を冷却し、次いで、長さ3~4mmの円筒形の顆粒に切り出した。
【0095】
この顆粒状複合材料は、以下の特徴を有することが分かった。
・嵩密度:420kg/m
・重量含水率:1.2%。
顆粒はまた、良好な機械的緻密性を示した。
【0096】
顆粒状複合材料の有効性を熱重量分析(試料11.5グラム、25℃から750℃まで加熱、昇温速度:25℃/分)によって評価した。
【0097】
図1図3において、ポリマー材料(図1)、バイオチャー(図2)、顆粒状複合材料(図3)について記録された重量減少率(TG%)、放出熱(熱流)及び質量変化率(dTG)の曲線を報告する。
【0098】
図1図3を比較すると、複合材料(図3)の質量減少曲線が、ポリマー材料(図1)の曲線とバイオチャー(図2)の曲線との重ね合せによって近似的に得られることが分かる。
【0099】
図3では、300℃~400℃の区間で、-2%~-8%の重量減少がみられ、400℃~500℃の区間では、ポリマーが激しく分解し、約-48%に等しい重量減少に達しっている。500℃~550℃の区間では、揮発(volatilisation)は、弱凝集していないポリマー材料(図1)において起こったのと同様に減少した後、バイオチャー(図2)の場合と同様にほぼ直線的な増加に戻り進行する。750℃では、燃焼はまだ完了しておらず、初期質量の23%が依然として存在する。
【0100】
複合材料の熱流(図3)は、熱可塑性ポリマーの溶融(図1参照)に対応する約125℃の最初の吸熱ピークと、ポリマーの分解及びその揮発(図1参照)に帰属できる450℃~500℃の区間のさらなる吸熱ピークとを示す。図1の500~600℃の区間では、ポリマーの揮発によって生成されたガスの燃焼に帰属できる発熱ピークが観察され、これは複合材料に係る図3においても見ることができる。
【0101】
全体として、前記熱分析は、バイオチャーの酸化による熱エネルギーの放出が、ポリマーの吸熱分解によってどのように制限されるかを示す。この挙動は、複合材料の炉内への注入機構を促進し、強凝集していない純粋形態でバイオチャーを使用しようとするときに一般的に観察されるバイオチャーの燃焼及び揮発に起因する材料の損失を低減する。
【0102】
熱分析は、ポリマー画分が、溶融及び分解中にエネルギーを吸収してスラグを冷却し、その粘度を増加させることによって、結果的に、泡立ちに必要なガス泡を保持する能力を増加させることを示している。したがって、ポリマーが放出するガスは、主に400℃~500℃で、還元作用を効果的に行うことができる。さらに、ポリマーによって行われる初期の熱酸化保護の結果、バイオチャーの揮発性画分は、泡立ち形成及びスラグ中の酸化物の還元に寄与することができる。続いて、より高温では、約600℃の温度から観察することのできる熱流の安定化によって、熱分析においてその存在が証明される、残留固体炭素のかなりの画分も、還元剤又は復炭剤(recarburising agent)として作用することができる。還元及び復炭作用(recarburising action)はまた、複合材料の顆粒によるガスの実質的な放出に起因する激しい物質交換によって促進される。
【0103】
実施例2
本発明による第2の泡立ちスラグ形成剤を、以下の材料から出発して実施例1に記載されるように調製した。
・LDPE及びHDPEを含む使用済廃棄物からのポリマー材料(約82質量%;残部は異物)、
・木質バイオマスの熱分解によって得られる市販のバイオチャー。
【0104】
ポリマー材料は顆粒の形態であった。
【0105】
ペレット及び粉末の形態のバイオチャーは、以下の特徴を有していた。
・固定炭素(乾燥基準):>90%
・揮発性画分(乾燥基準):3%~7%
・灰分含有量(乾燥基準):<3%
・含水量:約1%
・発熱量:34MJ/kg
・嵩密度:約400kg/m3
【0106】
複合材料は、ポリマー材料及びバイオチャーを乾燥基準で45:55の質量比で用いて調製した。
【0107】
直径約5mm、最大厚さが約3.6mmに等しく、かつ嵩密度が約610kg/m3に等しい円筒レンズ豆の形をした顆粒に複合材料を押し出した。
【0108】
顆粒状複合材料は、以下の特徴を有していた。
・低位発熱量(乾量基準):37MJ/kg;
・重量含水率:<1%。
【0109】
顆粒状複合材料の有効性を熱重量分析(試料11.5グラム、25℃から750℃まで加熱、昇温速度:25℃/分)によって評価した。
【0110】
図4図6において、ポリマー材料(図4)、バイオチャー(図5)、顆粒状複合材料(図6)に対して記録された重量減少率(TG%)、放出熱(熱流)及び質量変化率(dTG)の各曲線を報告する。
【0111】
図6において、質量減少の傾向は、上述の複合材のそれと同様である(実施例1、図3)。最も急速な質量減少は、400℃から500℃への移行時に発生し、-1%から-25%に減少した。その後の緩慢な酸化機構は、750℃に達するときに46%の質量減少をもたらす。
【0112】
残留固形分は、図3の複合材料と比較するとかなり多い(54%対23%)が、これは、バイオチャーの含有量がより高く、かつポリマー画分の固形残渣がより多いことに起因する(図4)。
【0113】
図3の複合材の熱流と比較すると、この複合材の熱流は、400℃まで負の値を示すが、図3の場合、300℃を超えると正の値になった。同様の一連の吸熱反応が450℃付近で発生しているが、実施例2(図4)の複合体について強調されうるのは、480℃及び520℃付近の2つの重要なエネルギー放出ピークである。550℃を超える曲線の傾向は、むしろ、図2のガス化からのバイオチャー及び図1のポリマー材料を含有する実施例1の複合材の傾向と類似しているが、熱流の値は実施例1の値の半分に等しい。
【0114】
また、実施例2の複合材料を製鋼所で試験したところ、従来技術による熱可塑性ポリマー及びバイオチャーの個別使用と比べて優れているいくつかの利点が確認された。特に、本発明による複合材料は、EAF炉内の製鋼サイクルでスラグを泡立てるために使用される無煙炭に完全に取って代わった(置換重量比は複合材料:無煙炭=1:1)。複合材料を用いて得られた泡立ちスラグの品質は、無煙炭で得られるものと完全に同等であることが分かった(電気アークの優れた被覆率)。サイクル中、火炎の発生、ヒューム及び炉の冷却パネルに過度の温度上昇に関する異常は観察されなかった。
【0115】
CO排出量に関して、無煙炭の炭素含有量(92重量%)を考慮すると、使用無煙炭は1kg当たり3.37 COに等しいCO発生量である。
【0116】
無煙炭に代えて実施例2による複合材料を使用することで(1:1の置換比)、66%に等しいCO排出量の節約がもたらされた。
【0117】
実施例3
本発明による第3の泡立ちスラグ形成剤を、以下の材料から出発して、実施例1及び2に記載されるように調製した。
・LDPE及びHDPEを含む使用済廃棄物からのポリマー材料(約82質量%、残部は異物);
・木質バイオマスの半炭化によって得られる市販のバイオチャー。
【0118】
ポリマー材料は顆粒の形態であった。
【0119】
粉末の形態のバイオチャーは、以下の特徴を有していた。
・炭素含有量(無灰乾燥基準):60%~70%
・固定炭素(無灰乾燥基準):35%~45%
・揮発性画分(無灰乾燥基準):55%~65%
・灰分含有量:<4%
・含水量:<3%
・発熱量:21.5~23.5MJ/kg
・嵩密度:約225kg/m3。
【0120】
複合材料は、ポリマー材料及びバイオチャーを乾燥基準で50:50の質量比で用いて調製した。
【0121】
複合材料を押出成形し、直径約7mm、最大厚さが約4.5mmであり、かつ嵩密度が約420kg/m3である円筒レンズ豆の形をした顆粒にした。
【0122】
顆粒状複合材料は、以下の特徴を有していた。
・低位発熱量(乾量基準):32MJ/kg;
・重量含水率:約1%。
【0123】
顆粒状複合材料の有効性を熱重量分析(試料11.5グラム、25℃から750℃まで加熱、昇温速度:25℃/分)によって評価した。
【0124】
図4図7及び図8に、ポリマー材料(図4)、バイオチャー(図7)、顆粒状複合材料(図8)に対して記録した重量減少率(TG%)、放出熱(熱流)及び質量変化率(dTG)の各曲線を報告する。
【0125】
図8において、複合材料は複雑な挙動を示し、純粋な形態での半炭化によるバイオチャーについて強調されたこと(図7)を反映している。
【0126】
複合材料は、最初に約300℃まで質量増加している(+8%)。その後、質量減少があり、400℃で試料が-3%になる。400℃~500℃では、質量減少が顕著であるが、これは、ポリマー画分の分解並びにバイオチャーの分解蒸発及び酸化の両方に起因している。500℃では、残渣質量は63%である。最後に、750℃に達すると、存在する残留分率は47%である。試験中に燃焼は完結していない。
【0127】
熱流の傾向は、バイオチャーの酸化に関連する発熱作用がポリマー分解反応の吸熱性によって弱まっていることを示唆している。200℃~500℃では、複雑な挙動を示し、ピーク及び谷が連続しているが、実施例1及び2の複合材で見られたものほど顕著かつ局所的ではない(図3及び図6)。520℃を超えると、熱流は約620℃まで安定し、その後増加し、約700℃付近で安定化する傾向にある。
【0128】
また、実施例3の複合材料を製鋼所で試験したところ、熱可塑性ポリマー及びバイオチャーの従来技術に従った個別使用と比べて優れているいくつかの利点が確認された。特に、本発明による複合材料は、EAF炉内の製鋼サイクルでスラグを泡立てるために使用される無煙炭に完全に取って代わった(置換重量比は複合材料:無煙炭=1:1)。複合材料を用いて得られた泡立ちスラグの品質は、無煙炭で得られるものと完全に同等であることが分かった(電気アークの優れた被覆率)。サイクル中、火炎の発生、ヒューム及び炉の冷却パネルに過度の温度上昇に関する異常は観察されなかった。
【0129】
CO排出量に関して、無煙炭の炭素含有量(92重量%)を考慮すると、使用無煙炭は1kg当たり3.37 COに等しいCO発生量である。
【0130】
無煙炭の代わりに実施例3による複合材料を使用(1:1の置換比)することで、62%に等しいCO排出量の削減がもたらされた。
【0131】
全体として、実施例に記載の複合材料を用いて製鋼所で行われた試験により、本発明のいくつかの利点が確認された。
【0132】
・複合材料の密度は、無煙炭の密度(約900kg/m3)よりも低いが、粉末形態のバイオチャーの密度の最大3倍である。これは、製鋼所に材料を輸送するトラックの台数削減を意味し、物流に関連する汚染物質排出量及びコストを削減する。また、製鋼所は、受入材料の取扱いという点で混雑が緩和される。
【0133】
・バイオチャーとは異なり、複合材料には吸湿性の問題がないため、長期間の貯蔵が容易である。安全性の観点からは、バイオチャーとポリマー材料が弱凝集することで、機械的に一体化した顆粒となるため、バイオチャーの特徴である、着火性・爆発性の微粉が作業環境に多量に存在するという問題が解決される。例えば、サイロ内の大きなバッグから炉に注入するために材料を移送したが、はっきりとわかるほどの環境中への粉体の放出はなかった。これは、無煙炭に関する通常の慣行の改善にもなっている。弱凝集することで、空気に対するバイオチャーの反応性の問題が解決される。この反応性のために、バイオチャーは、長期間大量に貯蔵した場合に自己発火のリスクがあり、容易に発火する可能性がある材料である。したがって、ポリマーマトリックス内にバイオチャーを分散捕捉することにより、製鋼所におけるリスクが最小限に抑えられる。
【0134】
・複合材料の顆粒は、それらの物理的形態の結果、加圧タンクから炉内のインジェクションランスへの空気圧輸送に特に適している。顆粒は優れた流動性を示すので、正確な流量調節が可能である。この態様を注入プロセスの最適制御の可能性へと変換することで、結果としてエネルギー消費及び排出に関して良い影響が生じる。弱凝集の結果として、複合材料により、バイオチャーの傾向である様々な粒径の粉体画分を形成するという問題が解決される。実際、これらの粉体画分は、特にダクトに屈曲部又は狭窄部があると詰まる傾向があり、粉体供給の流量を制御することが困難になる。
【0135】
・純粋なバイオチャーの場合のように、無煙炭よりも嵩密度が低いことを考慮すると、本発明による複合材料の顆粒はまた、一般に、注入ランスを適合させることを必要とする。そのような修正は、傾注角に関するかもしれないし、又はスラグ材料の効果的な浸透を可能にする二次同伴流(例えば、酸素ジェット)の利用に関するかもしれないが、いずれの場合も当業者が容易に管理することができる。複合顆粒は、バイオチャーよりも密度が高いので、材料のスラグに浸透する能力に関連する問題を低減する。さらに、無煙炭及びバイオチャーの両方の特徴である粉末相が皆無といっていいほど存在しないことにより、これら微粉が浴から上昇するガス中に同伴されて材料が損失することが制限される。そのような粒子はその後、スラグに到達する前に酸化又は揮発する傾向があるために無駄になる可能性がある。この観点から、炉に注入中に顆粒が受ける熱交換機構と粒子の反応表面の両方に影響を与える、表面積対体積比の制御を、押出成形によって可能にする。したがって、顆粒のサイズを制御することにより、注入に関する材料の有効性を最適化することが可能であった。顆粒が細かすぎると、スラグへの浸透が困難になる可能性に加えて、揮発性画分の急速な放出又は急速な酸化を伴って急速に昇温する傾向がある。一方、顆粒が大きすぎると、スラグ上に浮遊する傾向を示し、酸化鉄還元及び泡立ちスラグ形成の機構に部分的にしか寄与しない。泡立ちスラグ形成剤である複合材料の顆粒で無煙炭を置き換えても炉内に異常が発生しなかったという事実に、理論的観点から予想される利点が実際の適用において実現されたことが示されていると見ることができる。特に、通常よりも高い火炎は生じず、冷却パネルの温度も排気ガスの温度も過去の範囲内にとどまった。熱分解によるバイオチャーを用いて生成された顆粒も半炭化によるバイオチャーを用いて生成された顆粒も両方が機能したという事実はまた、ポリマーが熱酸化においてバイオチャーを効果的に保護したことを示す。このようにして、驚くべきことに、半炭化によるバイオチャーもスラグに到達することができ、その内部にかなりの揮発性画分を放出し、これが還元作用を発揮した。
【0136】
・複合材料の顆粒は、バイオチャー及びポリマーの均一な組成を有する弱凝集体である。これは、既に完全に物理的に相互接触しているバイオチャー及びポリマーとスラグとの間の相互作用を最大化する。注入プロセスについて説明したようにバイオチャーに熱酸化保護を提供することに加えて、ポリマーは、生物由来炭素質材料に係るスラグとの反応性が低いという問題を解決する。実際、従来技術で使用されるバイオチャーの問題は、ナノメートル及びマイクロメートルのレベルで滑らかな表面が存在することに起因すると思われるが、この表面が安定したガス層形成を促進するため、スラグに対するバイオチャーの還元作用を阻害し兼ねない。そうではなく、多量の水素と、ポリマー画分に関連する激しい物質交換とによって、特に、バイオチャーによって提供される固体炭素等の固体炭素存在下で、還元プロセスのキネティクスが加速されると考えられる。さらに、ポリマー画分による炭化水素種が固体炭素と相互作用し、熱分解して固体炭素の表面に炭素堆積物を形成する可能性によって、バイオチャーに関連する問題解決のさらなる促進が可能となる。実施した試験において無煙炭を完全に複合材料の顆粒で置換できたという事実は、上記の機構の1又は複数が実際に起こったことを示唆している。また、複合材料は、泡立ちスラグの品質(優れたアーク被覆率)及び注入質量に関しても無煙炭の有効性と同様の有効性を示した。このことは、化学的・物理的挙動が化石炭とは異なるにもかかわらず、複合材料の存在下であっても、安定した泡立ちスラグを生成することができるガス泡が形成されることを示唆している。
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【国際調査報告】