(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】時計用ムーブメント及び時計
(51)【国際特許分類】
G04B 17/28 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
G04B17/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023581013
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2022067973
(87)【国際公開番号】W WO2023275184
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524003024
【氏名又は名称】テック エボーシュ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】クードレイ,エリック
(57)【要約】
本発明は、第1のエネルギー源(14)、及び少なくとも1つの時間表示部に運動学的に連携された歯車列(16)を含んだ、計数アセンブリ(10)と、制御部材(35)を含んだ制御アセンブリ(11)と、を備えた時計用ムーブメントに関する。この時計用ムーブメントは、歯車列(16)のための遮断部材(56);制御アセンブリ(11)を支持する可動ユニット(33);少なくとも1本のレール(30、32)を備えた、可動ユニット(33)のための誘導アセンブリ(12);可動ユニットを誘導アセンブリ(12)に沿って動かすよう配置された、可動ユニット(33)のための駆動機構;及び遮断部材(56)のための解放機構(13)、をさらに備えることを特徴とする。本発明は、このようなムーブメントを含んだ時計にも関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腕時計用ムーブメントであって、
第1のエネルギー源(14)、及び少なくとも1つの時間表示部に運動学的に接続された歯車列(16)を備え、かつ第1の運動学的連鎖部の一部を形成する、計数アセンブリ(10)と、
調整組織(35)、及び前記第1の運動学的連鎖部とは異なる第2の運動学的連鎖部の一部を形成する、調整アセンブリ(11)と、を備え
前記時計用ムーブメントは、
前記歯車列(16)のための係止部材(56)であって、前記係止部材(56)が作動されたときに、前記係止部材(56)は、前記第1の運動学的連鎖部の一部を形成し、かつ、第1の運動学的連鎖部及び第2の運動学的連鎖部を、接続又は接続解除するよう配置される、係止部材(56)と、
前記調整アセンブリ(11)を保持する可動アセンブリ(33)と、
少なくとも1本のレール(30、32)を備えた、前記可動アセンブリ(33)のための誘導アセンブリ(12)と、
前記可動アセンブリを前記誘導アセンブリ(12)に沿って動かすよう配置された、前記可動アセンブリ(33)のための駆動機構と、
前記係止部材(56)を解放するための機構(13)と、
をさらに備えることを特徴とする、腕時計用ムーブメント。
【請求項2】
前記誘導アセンブリ(12)は、ラック(31)が設けられた少なくとも1本の駆動レール(30)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項3】
前記誘導アセンブリ(12)は、少なくとも1本の誘導レール(32)を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項4】
前記可動アセンブリ(33)は、前記駆動レール(30)と前記誘導レール(32)との間で前記可動アセンブリ(33)を保持する、少なくとも1つのキャリッジ(49、51)を備えることを特徴とする、請求項3に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項5】
前記可動アセンブリ(33)の前記駆動機構は、前記駆動レール(30)の前記ラック(31)と噛合する駆動ホイール(44)を備え、前記駆動ホイール(44)は、前記調整組織(35)と運動学的に連携することを特徴とする、請求項2に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項6】
前記解放機構(13)は、前記可動アセンブリ(33)によって保持された可動部分(54)と、前記腕時計用ムーブメントのプレートによって保持された枢動部分(55)と、を備えることを特徴とする、請求項1に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項7】
前記計数アセンブリ(10)は、前記第1のエネルギー源(14)に運動学的に接続された少なくとも1つの伝達歯車(26)を備えること、及び前記係止部材(56)は、前記伝達歯車(26)に作用すること、を特徴とする、請求項1に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項8】
前記解放機構の前記枢動部分(55)は、プレートと一体化したホイップ軸(65)の周りに枢動するホイップ(64)と、解放アーム(57)と、を備えることを特徴とする、請求項6に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項9】
前記解放機構の前記係止部分(56)はレバー(59)を備え、前記レバー(59)は、伝達歯車(26)に作用し、かつ前記解放アーム(57)によって作動されることを特徴とする、請求項6~8の内いずれか一項に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項10】
前記ホイップ(64)は傾斜部(66)を備え、前記傾斜部(66)は、前記解放機構の前記可動部分(54)が前記傾斜部(66)に作用するときに、前記ホイップ(64)を前記ホイップ軸(65)の周りに枢動させるよう配置されることを特徴とする、請求項8に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項11】
前記解放機構の前記可動部分(54)は解放アーム(62)を備え、前記解放アーム(62)は、前記可動アセンブリ(33)が前記誘導アセンブリ(12)に沿って移動する間に、前記解放機構の前記枢動部分(55)の前記傾斜部(66)を作動させるよう配置されることを特徴とする、請求項10に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項12】
前記調整アセンブリ(11)は、第2のエネルギー源(34)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項13】
前記第2のエネルギー源(34)は、パドルホイール(38)に運動学的に接続された渦巻バネ(36)を備えることを特徴とする、請求項12に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項14】
エネルギーを、前記第1のエネルギー源(14)から前記第2のエネルギー源(34)に伝達するよう配置された、少なくとも2つのエネルギー伝達機構(26)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の腕時計用ムーブメント。
【請求項15】
請求項1~14の内いずれか一項に記載のムーブメントを備える、腕時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式腕時計を製造する分野に関する。より詳細には、本発明は可動調整機構を備えた時計のための、腕時計用ムーブメントに関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、第1のエネルギー源、及び少なくとも1つの時間表示部に運動学的に接続された歯車列を含み、かつ第1の運動学的連鎖部の一部である、計数アセンブリと、調整組織を備え、かつ第1の運動学的連鎖部とは別個である第2の運動学的連鎖部の一部である、調整アセンブリと、を備えた時計のためのムーブメントに関する。
【0003】
本発明は、このようなムーブメントを備えた時計にも関する。
【背景技術】
【0004】
長い間、腕時計用ムーブメントには、少なくとも1つのトゥールビヨン又はカルーセル式の調整機構が装備されてきた。これらの調整機構は、その位置に対してあまり影響を受けにくくすることによって、腕時計用ムーブメントの等時性を向上させるために設計された。より詳細には、調整機構は、てん輪の長期間の動きを生じさせ、それによって、てん輪は様々な位置を占有する。てん輪の位置に応じた、等時性誤差の平均は、原理上は、ムーブメントの所与の位置による等時性誤差よりもゼロに近い。
【0005】
トゥールビヨン又はカルーセル式の調整機構は、当初はポケット時計のために開発され、それらは一般的に垂直位置に維持される。このような調整機構は、装着者の動きによって位置が頻繁に変化する腕時計には、あまり関係がない。
【0006】
装着者の変化する動き、ならびに腕時計の位置及び向きを考慮するために、例えば直交する軸など、異なる軸に沿って動く2つ又は3つのトゥールビヨンを含んだ、様々な腕時計用ムーブメントが開発されている。これらの設計において、各トゥールビヨンはてん輪を有し、それらの軸の位置は、トゥールビヨンの動作中に固定される。
【0007】
非平行軸に沿って、てん輪を動かす調整機構によって支持された単一のてん輪を伴う、ムーブメントも存在する。てん輪の軸は、この原理に基づいた既知の設計のコーン形状に沿って動く。球面に沿って、てん輪の軸を動かす調整機構によって支持される、てん輪を備えた、腕時計用ムーブメントも存在する。
【0008】
全てのケースにおいて、てん輪の軸によって到達される位置の範囲は、非常に限定され、かつ幾何学的軌跡に対応する。その結果、この移動は自由に選択することができない。
【0009】
ムーブメントの設計者によって自由に選択された位置及び向きに、てん輪を動かすことを可能にする、腕時計用ムーブメントは存在しない。その結果、様々な調整機構は、比較的類似した外観を有する。
【0010】
したがって、これらのムーブメントが、直線、コーン形状、又は特に球の一部などの幾何学的軌跡に限定されることなく、ムーブメントの設計者によって選択された任意の位置に、てん輪を動かすことができる腕時計用ムーブメントを開発することは、興味深い。
【0011】
欧州特許第3543797号明細書は、トゥールビヨン式調整機構を伴う、時計用ムーブメントを開示している。このトゥールビヨンは、トゥールビヨンが動く面が常に互いに平行であるよう、直線的に動かすことができる。この腕時計用ムーブメントは、2つの異なる運動学的連鎖部を有する。第1の運動学的連鎖部は従来技術のものであり、時間を表示する役割を担う。第2の運動学的連鎖部は、調整システムを、腕時計用ムーブメントの一般的な面に対して垂直方向に動かす役割を担う。
【0012】
上記の特許に記載されたムーブメントは、てん輪の軸が自由に動くことを可能にしない。実際、てん輪の軸が取ることができる全ての位置は、互いに対して平行である。さらに、上記の特許に記載された2つの運動学的連鎖部は、常に離れており、いかなるときも、単一の運動学的連鎖部を形成するために結合しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ひげぜんまいが、多くの様々な位置及び向きに可動である、腕時計用ムーブメントを提案することであり、これらの位置及び向きは、幾何学的な決まりに従った拘束によって制限されることなく、ムーブメントの設計者によって選択される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、プリアンブルで定義された腕時計用ムーブメントのためのムーブメントに関し、このムーブメントは、
・歯車列のための係止部材であって、この係止部材が作動したときに、この係止部材は、第1の運動学的連鎖部の一部を形成し、かつ、第1の運動学的連鎖部及び第2の運動学的連鎖部を、接続又は接続解除するよう配置された、係止部材と;
・調整アセンブリを保持する可動アセンブリと;
・少なくとも1本のレールを備えた、可動アセンブリのための誘導アセンブリと;
・可動アセンブリを誘導アセンブリに沿って動かすよう配置された、可動アセンブリのための駆動機構と、
・係止部材を解放するための機構と、
をさらに備える。
【0016】
本発明は、上記で定義した腕時計用ムーブメントを備えた時計にも関する。
【0017】
機械式腕時計において、様々な組織が様々な機能を実施し、それらは基本的に、全てのムーブメントで同じである。これらの機能は、エネルギー蓄積、計数及び伝達、分配、調整、ならびに最後に時間表示、である。公知の腕時計において、これらの機能を実施する様々な構成要素は、腕時計用ムーブメントの動作を保証するために、互いに対して全て継続的かつ運動学的に連携する。
【0018】
本発明による腕時計用ムーブメントにおいて、これらの様々な機能を実施する構成要素は、常に運動学的に連携するわけではない。それによって、腕時計用ムーブメントの動作サイクルにおける特定の瞬間において、構成要素は2つの別個で独立した運動学的連鎖部を形成する。詳細には、運動全体の期間中に、他の運動学的連鎖部の要素と運動学的に連携する必要なく、運動学的連鎖部の内1つの構成要素を、任意の所望の位置まで動かすことを可能にする。それにも関わらず、時間表示及びその精度を保証することができる。
【0019】
本発明によると、直線、コーン形状又は球形などの、幾何学的軌跡の拘束によって制限されることなく、完全に自由に、てん輪の軸におけるムーブメントの形状を選択することが可能である。このように、てん輪の軸は、多くの様々な位置を想定することができ、時計の等時性の補正は、もはや時計の位置に依存しない。
【0020】
調整機構を、視認できるように腕時計の中に一体化させることができる。作動において特に独創的な方法は、顕著な美的外観を与え、それは公知の調整機構とは完全に異なる。
【0021】
本発明及びその利点は、添付の図面及び特定の実施形態の詳細な説明を参照すると、より良好に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明による腕時計用ムーブメントの全体図である。
【
図2】本発明による腕時計用ムーブメントの計数アセンブリを示す図である。
【
図3】
図1における腕時計用ムーブメントの調整アセンブリを示す図である。
【
図4】本発明による腕時計用ムーブメントの解放機構を例示する図である。
【
図5】本発明による腕時計用ムーブメントの一部を形成する、可動アセンブリの詳細図である。
【
図6】
図5における可動アセンブリの底面図である。
【
図7】
図5における可動アセンブリの一部の詳細図である。
【
図8】第1の位置にある
図2の調整アセンブリ、及び
図4の解放機構を示す図である。
【
図9】調整アセンブリ、及び第2の位置にある
図8における解放機構を示す図である。
【
図10】第1の位置にある解放機構を示す図である。
【
図11】第2の位置にある、
図10における解放機構を示す図である。
【
図12】第3の位置にある、
図10における解放機構を示す図である。
【
図13】第4の位置にある、
図10における解放機構の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図を参照すると、本発明のムーブメントは、ここでは計数アセンブリ10と称される、第1のアセンブリを備え、
図2に詳細に示される。この計数アセンブリは、エネルギー貯蔵、計数、及び伝達の機能を実施する。本発明のムーブメントは、ここでは調整アセンブリ11として称される、第2のアセンブリを備え、詳細には
図3に例示される。この調整アセンブリは、分配及び調整の機能を実施する。
【0024】
本発明による腕時計用ムーブメントは、
図1~
図4に詳細に示される誘導アセンブリ12と、
図4に詳細に示された解放機構13と、をさらに備え、それらの機能及び構造は、以下で詳細に説明する。
【0025】
図1及び
図2を詳細に参照すると、計数アセンブリ10は、第1のエネルギー源14を備え、それは有利には、従来のバレル15の形態、すなわちバレルバネを含み得る。計数アセンブリ10は、バレルバネによってエネルギーが供給される歯車列16も備える。この歯車列16は、中央ホイール18及び中央ピニオン19を備えた中央歯車17と、中間ホイール21及び中間ピニオン22を備えた中間歯車20と、によって形成され得る。歯車列16は、例えばキャノンピニオン25によって保持されたハンド部によって形成された、少なくとも1つの分表示部23をさらに備える。
【0026】
本発明による腕時計用ムーブメントの計数アセンブリ10は、接続ピニオン27によって形成された、エネルギー伝達歯車又は伝達歯車26を備え、それは、計数アセンブリ10の歯車列16との、詳細には
図2に示されるような中間ホイール21との、運動学的接続を形成する。伝達歯車26は、歯状伝達ホイール28をさらに備える。その機能は以下で説明する。伝達歯車26は、戻し歯状部29が設けられた伝達ピニオンをさらに備える。接続ピニオン27、戻し歯状部29、及び伝達ホイール28は、1つの回転が他の回転を生じさせるよう一体化される。
【0027】
計数アセンブリ10は、バレル15から伝達歯車26まで、本発明による腕時計用ムーブメントの第1の運動学的連鎖部を形成する。
【0028】
本発明による腕時計用ムーブメントの誘導アセンブリ12は、2本のレールを備える。レールの内一方は駆動レール30と呼ばれ、ラック31が設けられる。他方のレールは誘導レール32と呼ばれ、円滑である。好ましい実施形態において、これら2本のレールは任意の形状を有することができるが、以下で説明するように、常に特定の幾何学的関係になければならない。これらのレールは、腕時計用ムーブメントのプレートに固定して接続される。
【0029】
調整アセンブリ11は、
図3、
図5、及び
図6に詳細に例示された可動アセンブリ33を備える。この可動アセンブリ33は、第2のエネルギー源34及び調整組織35を保持する。例示された実施形態において、第2のエネルギー源34は、歯状リング37及びパドルホイール38と一体化した、渦巻バネ36を備える。パドルホイール38は、歯止め39によって、上向きで所定の位置に維持される。歯状リング37は、中間歯車41のピニオンと噛合する。中間歯車41の歯状ホイール42は、次に可動アセンブリ33における駆動ホイール44のピニオンと噛合する。この駆動ホイール44は、駆動ホイール44が回転したときに、可動アセンブリ33がレールに沿って動くのを保証するよう、駆動レール30のラック31と噛合する。これは、
図7に詳細に示される。これらのレールはムーブメントのプレートに対して固定されるので、駆動ホイール44の回転は、可動アセンブリ33をレールに沿って動かす。
【0030】
図6で詳細に確認できるように、駆動ホイール44は、「定荷重デバイス46」として知られている機構によって、ガンギ車45に接続される。このガンギ車45は、アンカー48によって、ひげぜんまい47と協働する。アンカー48及びひげぜんまい47は、特に可動アセンブリ33のムーブメントにおいて調整組織35として作用し、それによってこの可動アセンブリは連動して動き、その周波数は、特にひげぜんまい47の振動周波数によって調整される。可動アセンブリ33のムーブメントを調整することに加えて、アンカー48及びひげぜんまい47は、従来の機械式腕時計のムーブメントの、分配機能及び調整機能を実施する。
【0031】
上述のように、誘導アセンブリ12は、ラック31が設けられた駆動レール30、及び可動アセンブリ33が沿って動く誘導レール32、を備える。駆動ホイール44と駆動レール30との間の、一定した接触を保証するため、かつ可動アセンブリ33の予想可能な位置付けを保証するために、この可動アセンブリは第1のキャリッジ49を備える。第1のキャリッジ49には、ラック31の反対側における駆動レール30の部分に重みをかけるよう意図された、少なくとも1つのダブルローラ50が設けられる。この可動アセンブリ33は、第2のキャリッジ51も備える。第2のキャリッジ51には、やはり少なくとも1つのダブルローラ52が設けられ、誘導レール32に重みをかけるよう配置される。好ましい実施形態において、ダブルローラを備えたキャリッジの内一方は、可動アセンブリのブリッジ53で枢動するよう取り付けられ、その一方で他のキャリッジは、2つのダブルローラ50を備える。誘導アセンブリ12の2本のレール間における幾何学的関係は、レールに対するキャリッジ49,51の合計の遊びが、可動アセンブリのいかなる位置でも、及びいかなるレールの曲率でも、実質的に一定を保つものである。このように、可動アセンブリ33は、これらのキャリッジによって、駆動レール30と誘導レール32との間で一定に誘導されるよう保たれる。
【0032】
第2のエネルギー源34、ひげぜんまい47、駆動ホイール44、及びこれらに運動学的に接続される要素は、第1の運動学的連鎖部とは別個である、第2の運動学的連鎖部を形成する。これら2つの運動学的連鎖部は、以下で詳細に説明するように、特定の時間に協働し、他の時間では独立し得る。
【0033】
解放機構13は、部分的に可動アセンブリ33によって保持され、かつ部分的に腕時計用ムーブメントのプレートによって保持される。可動アセンブリ33によって保持された解放機構の部分は、解放機構の可動部分54と称される。プレートによって保持された解放機構の部分は、解放機構の枢動部分55と呼ばれる。
【0034】
この解放機構13は、計数アセンブリ10における歯車列16の制御できない回転を防止するよう配置された、歯車係止部材56を備える。この係止部材56は、ムーブメントの構造に依存して、この計数アセンブリの任意の動く部分に作用することができる。係止部材56は、プレート(図示せず)に接続された軸58の周りを枢動する、解放アーム57を備える。この係止部材56には、レバー59、戻しフィンガー60、及び安全制止部61が設けられる。
【0035】
解放機構の可動部分54は、
図5及び
図6に詳細に例示される。この可動部分54は解放アーム62を備え、それは可動アセンブリ33のブリッジ43と一体化される。この解放アーム62はレバー63を備え、その機能は以下で詳細に説明する。
【0036】
解放機構の枢動部分55は、
図8~
図13に詳細に例示される。この枢動部分55は、ホイップ軸65の周りに自由に枢動できるよう、ムーブメントプレートに取り付けられた、ホイップ64を備える。このホイップ64は傾斜部66を備え、その形状及び位置は、可動アセンブリ33がこの傾斜部66に近付いて通過するときに、解放アーム62のレバー63と協働することができるようなものである。ホイップ64は溝67も有し、そこにおいて係止部材56の解放アーム57は動くことができる。このホイップ64はさらに、係止部材56において安全制止部61と協働するよう意図された、安全肩部68と、ホイップ64を静止位置まで戻すよう意図された、戻しバネ69と、を有する。
【0037】
例えば衝撃の事象において、係止部材56が伝達機構26を予期せず解放することを防止するために、回転軸58周りの係止部材56の回転は、ホイップ64の安全肩部68に重みをかけることができる安全制止部61によって、制限される。係止部材56のレバー59は、伝達歯車26における第1の歯状部70の経路にとどまる。
【0038】
時計用ムーブメントが動作中、計数アセンブリ10は、解放機構13の係止部材56によって、初めは固定して保持される。
【0039】
係止部材56の解放アーム57の静止位置に対応した、係止位置として知られている位置において、この係止部材のレバー59は、伝達ホイール28の第1の歯状部70と接触して、伝達歯車26が、その回転軸周りに回転するのを防止する。第1の運動学的連鎖部を形成する要素は、固定されている。この位置は、
図12及び
図13に例示される。
【0040】
エネルギーは、調整アセンブリ11における第2のエネルギー源34の、渦巻バネ36に蓄積される。このエネルギーは、ひげぜんまい47及びアンカー48を、従来の方法で作動させる。
【0041】
エネルギーは、可動アセンブリ33の駆動ホイール44にも伝達される。このように、各交互運動において、アンカー48は、可動装置の歯車を係合解除し、駆動ホイール44が枢動するのを可能にして、可動アセンブリ33を、ラック31によって駆動レール30に沿って動かす。駆動レール30及び誘導レール32それぞれの位置、ならびにキャリッジ49、51の位置のため、可動アセンブリ33は、これらのレールによって画定された経路に沿って誘導される。可動アセンブリ33は、既知で一定、かつ所定の速度で動かされ、それは特にひげぜんまい47の振動周波数に依存する。
【0042】
可動アセンブリ33の運動におけるほとんどの間、解放機構の可動部分54は、この解放機構の枢動部分55とは協働しない。ホイップ64は静止し、戻しバネ69によってこの位置に保持される。
【0043】
可動アセンブリ33の運動中、可動アセンブリ33が、
図9に示されるように、その経路に沿って所定の位置に到達したとき、解放機構における可動部分54の解放アーム62は、ホイップ64の傾斜部66に接触することになる。この傾斜部66に、解放アーム62のレバー63が接触することで、ホイップ64を、その回転軸65の周りに枢動させる。係止部材56の解放アーム57は、ホイップ軸65の周りにおけるホイップの回転の影響下で、ホイップ64の溝67の中で摺動する。解放機構の枢動部分55は、完全に上向きにされる。
【0044】
図10に示される、可動アセンブリ33のさらなる運動中に、解放アーム62のレバー63は、ホイップ64の傾斜部66を離れる。戻しバネ69の作用下で、ホイップ64は、ホイップ軸65の周りに枢動することによって落下して戻り、その落下中に、静止位置を越えて動くよう、エネルギーを蓄える。係止部材56の解放アーム57は、溝67の縁部に接触することになる。次に係止部材56は、その回転軸58の周りで枢動する。これにより、係止部材56を、所謂開放位置に動かし、そこで解放アーム57は、そのレバー59がもはや伝達ホイール28の第1の歯70に重みをかけないよう動かされ、この伝達ホイールのために後方の角度を作り出す。戻りフィンガー60は、戻し歯状部29の2つの歯の間に位置付けられる。
【0045】
次に伝達歯車26は、歯車列16及び伝達ピニオン29を介して、バレル15から伝達された力の影響下で、その軸の周りを回転することができる。この位置は、
図11に示される。
【0046】
この回転中、バレル15によって伝達歯車26に供給されるエネルギーは、第2のエネルギー源34のパドルホイール38に伝達される。この目的のため、伝達ホイール28の第3の歯72は、第2のエネルギー源におけるパドルホイール38のパドル73と接触することになる。伝達歯車26の回転は、パドルホイール38を回転させ、第2のエネルギー源34の渦巻バネ36に負荷をかける。
【0047】
原理上、伝達ホイール28は、1つの歯に対応して回転する。この回転中、戻し歯状部29の第2の歯71は、係止部材56の戻しフィンガー60を押し込む。この係止部材は、その静止位置に戻るために、その軸58の周りを枢動する。同時に、係止部材の解放アーム57は、溝67の縁部に静止して、ホイップ64をその静止位置まで戻す。
【0048】
伝達歯車26の1つの歯に対応した、この回転の終わりにおいて、係止部材56は係止位置に戻る。この係止位置において、伝達ホイール28の第4の歯75が係止部材56のレバー59に重みをかけ、かつ戻り歯状部29の第2の歯71が戻しフィンガー60を押し込むことで、レバー59は、伝達ホイール28における第4の歯75の経路にくる。第4の歯75はレバー59を押圧し、係止部材56を軸58の周りに回転させ、それによって係止部材56は、係止部材の制止部76に対して静止することになる。解放アーム57が静止位置まで戻ることで、解放機構13からのいかなるストレスもなくなり、伝達歯車26が、さらに枢動するのを防止する。この位置は、
図12に示される。
【0049】
伝達ホイール28の第3の歯72は、パドル74の1つが歯止め39に係止するまで、パドル73を押し込む。
【0050】
伝達歯車26が回転したとき、第1のエネルギー源14に含まれたエネルギーは解放され、歯車列16、エネルギー伝達歯車26、及びパドルホイール38を介して、第2のエネルギー源34まで伝達される。このポイントにおいて、バレル15及び伝達歯車26を含んだ第1の運動学的連鎖部と、第2のエネルギー源34及び脱進機を含んだ第2の運動学的連鎖部と、は運動学的に接続される。
【0051】
第1のエネルギー源14から第2のエネルギー源34に伝達されたエネルギーは、可動アセンブリ33が、自らを次の位置まで、すなわちエネルギーが再び第1のエネルギー源から第2のエネルギー源に伝達される位置まで、至らせるため十分である。
【0052】
係止部材56の解除はさらに、歯車列16の解放と、可動アセンブリ33を動かすための時間に対応した時間のための、分表示部23の移動と、に関わる。
【0053】
第2のエネルギー源34は、脱進機を交互にすることによって、再チャージすることができる。この場合、可動アセンブリ33は、再チャージの間、固定されたままである。2回以上の脱進サイクルの間に、再チャージすることもできる。この場合、可動アセンブリ33は、再チャージ中に動く。
【0054】
第1のエネルギー源と第2のエネルギー源との間における、エネルギーの伝達が完了し、係止部材56が伝達歯車26の回転を防止する位置まで戻ったとき、2つの運動学的連鎖部は再び離されて、もはや相互作用しない。
【0055】
可動アセンブリ33は、その移動をレールに沿って継続し、その一方で計数アセンブリ10は、次に係止部材56が解放されるまで固定されたままとなる。
【0056】
ホイップ64、係止部材56、及び伝達歯車26を含んだアセンブリは、可動アセンブリ33がホイップに接触するときに、エネルギーが第2のエネルギー源34で再チャージされる、という点で、「再チャージステーション」として考慮することができる。
【0057】
例として、可動アセンブリ33が、1分間でレールを1回転完了するよう、かつ単一の再チャージステーションが設けられるよう、部品の寸法を決めることが可能である。この場合、係止部材56が解放されたとき、例えば分表示部23などの時間表示部は、1分に相当する角度を通して動かされる。
【0058】
公知の腕時計用ムーブメントとは対照的に、ここで説明するムーブメントにおいて、計数アセンブリ10及び調整アセンブリ11は、常に互いに協働するわけではない。実際、調整アセンブリ11は自律的であり、ホイップ64と協働するとき以外は、計数アセンブリ10が移動する全距離で、計数アセンブリ10とは独立している。この独立性は、調整アセンブリ11がレールによって画定された、実質的に全ての経路に沿って動くことができることを意味する。
【0059】
可動アセンブリ33の経路に沿った、特定のポイントにおいて、計数アセンブリ10及び調整アセンブリ11は、再び離れる前に、従来のムーブメントのように、単一の運動学的連鎖部を形成する。
【0060】
本発明を、特定の実施形態に従って説明した。しかし、多くの変更が考えられる。例示された実施形態において、単一の「チャージングステーション」が設けられている。しかし、可動アセンブリによってとられる経路に沿って、いくつかのステーション、例えば等間隔又は不規則な間隔で3つのステーションを設けることが可能である。この場合、分表示部は、20秒又は適切な時間の間に相当する位置から動かされ、各時間で計数アセンブリ及び分配アセンブリは、同じ運動学的連鎖部を形成する。
【0061】
説明した実施形態において、第2のエネルギー源は、第1のエネルギー源によって供給される。機械式又は電気式とし得る、第2の独立したエネルギー源を使用することも可能である。
【0062】
誘導部は、ローラキャリッジによって表わされる。しかし、これらのキャリッジは他の形態をとることができる。
【0063】
駆動ホイールの歯状部が、ラックの同じ側に位置された側面に常に接触することで、歯状部間の遊びを補うことを保証するために、拘束機構を設けることも可能である。
【0064】
原理上、各レールは閉回路を形成し、それによって可動装置は常に同じ方向に動く。しかし、可動装置が2つの反対方向に動くのを可能にする機構を設けることが可能である。この場合、これらのレールは開回路を形成することができる。
【0065】
説明した例において、可動性を伝達することによってエネルギーを伝達する機能、及び時間表示部を動かす機能は、連携して、可動装置が所与の位置にあるときに実施される。しかしこれら2つの機能を、独立して実施することができる。例えば、エネルギー伝達機能を、可動アセンブリの各回転について2回実施することができ、その一方で、時間表示部のムーブメント機能を、回転ごとに1回、又は回転ごとに3回実施することができる。
【国際調査報告】