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特表2024-524485造血幹・前駆細胞からの形質細胞様樹状細胞のCGMPに準拠した作製及び増殖
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】造血幹・前駆細胞からの形質細胞様樹状細胞のCGMPに準拠した作製及び増殖
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0784 20100101AFI20240628BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20240628BHJP
【FI】
C12N5/0784
C12N5/0789
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023581020
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 EP2022068023
(87)【国際公開番号】W WO2023275219
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】21183430.4
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「Ascorbic acid supports ex vivo generation of plasmacytoid dendritic cells from circulating hematopoietic stem cells」 ウェブサイトの掲載日:2021年9月2日 掲載アドレス:https://elifesciences.org/articles/65528 出力日:2023年12月19日
(71)【出願人】
【識別番号】524003286
【氏名又は名称】オーフス ユニヴェルジテイト
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローストセン,アンデルス
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブセン,マルティン,ロエルスガード
(72)【発明者】
【氏名】バック,ラスムス,オトケアル
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB32
4B065BD25
4B065BD39
4B065CA44
(57)【要約】
HSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)は、免疫系の極めて重要な部分を橋渡しする多面的な機能を持つ希少な免疫細胞の一種である。血液由来のHSPC-pDCの生物学的研究及び細胞ベースの免疫療法としての使用の可能性については、血液サンプルから抽出できるHSPC-pDCの量が少ないことが長い間の課題であった。本発明は、造血幹・前駆細胞(HSPC)のin vitroでの分化を含む、臨床応用可能なHSPC-pDC作製方法に関する。この最適化されたGMP準拠のプロトコールにより、10万個の臍帯血由来HSPCから平均4億6500万個のHSPC由来pDC(HSPC-pDC)を生成し、また、このプロトコールにより全血から抽出したHSPCから頑健なHSPC-pDCを生成できることを示す。作製された細胞はpDC表現型(Lin-/CD11c-/CD123+/CD303+)を示し、TLR7及びTLR9刺激により高レベルのI型インターフェロンを産生する能力を有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹・前駆細胞(HSPC)からHSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)を作製する方法であって、
a)造血幹・前駆細胞(HSPC)を準備するステップ、
b)前記HSPCを分化させて前駆体-HSPC-pDCを生成するステップ、及び
c)前記前駆体-HSPC-pDCをインターフェロンでプライミングして成熟HSPC-pDCを得るステップ
を含み、
ステップb)及びステップc)が、アスコルビン酸を含む無血清培地中で実施され、好ましくは無血清培地がCGMPに準拠した培地であり、
ステップc)が、
- プライミングの前に、生成された前駆体-HSPC-pDCを凍結、保存及び解凍するステップ、並びに/又は
- プライミングの後に、生成された前駆体-HSPC-pDCを凍結するステップ
をさらに含む、方法。
【請求項2】
凍結するステップが、凍結保存、例えば、-80℃~-196℃の範囲の温度まで温度を下げることによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
凍結するステップが、プライミングの前に行われる、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
凍結するステップが、プライミングの後に行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
d)成熟HSPC-pDCを活性化させて1つ以上のサイトカイン、例えばI型及び/又はIII型インターフェロンの分泌を誘導するステップをさらに含み、
ステップd)が、アスコルビン酸を含む無血清培地中で実施され、好ましくは無血清培地がCGMPに準拠した培地である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)において準備されたHSPCが、臍帯血(UCB)又は循環造血幹・前駆細胞(cHSPC)に由来し、好ましくはステップa)において、HSPCが、例えば末梢血中に見出される循環HSPC(cHSPC)から準備される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)が、
- b1)ステップa)において準備された造血幹・前駆細胞(HSPC)を0.1~0.5×106個の細胞/mLの濃度で開始して最大8日間事前増殖させるステップ、並びに
- b2)ステップb1)からの事前増殖させた細胞を分化させて前駆体-pDCを生成するステップ
を含むステップb1)及びステップb2)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
増殖ステップb1)において、細胞密度が、0.1~50×105個の細胞/mLの範囲、例えば0.5~20×105個の細胞/mLの範囲、好ましくは1~5×105個の細胞/mLの範囲、例えば5~50×105個の範囲に維持され、及び/又は
増殖ステップb2)において、細胞密度が、0.1~50×105個の細胞/mLの範囲、例えば0.5~20×105個の細胞/mLの範囲、好ましくは1~5×105個の細胞/mLの範囲、例えば5~50×105個の範囲に維持される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップb1)が、最大8日間、例えば最大6日間、例えば最大4日間、好ましくは4日間継続され、及び/又は
ステップb2)が、最大21日間の培養、例えば最大18日間、好ましくは最大16日間の培養の間実施される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
ステップb1)における造血幹・前駆細胞(HSPC)が、少なくとも10倍、例えば少なくとも15倍、例えば少なくとも20倍、又は例えば少なくとも25倍増殖する、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
プライミングステップc)において、前記プライミング培地が、I型及び/又はII型IFNを含み、例えばIFN-α及び/又はIFN-β及び/又はIFN-γのサブタイプを含み、好ましくはIFN-β及びIFN-γの両方を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
活性化ステップd)が、
- TLR7/8アゴニスト及び/若しくはTLR9アゴニスト、並びに/又はSTINGアゴニスト及び/若しくはRIG-Iアゴニスト、並びに/又はウイルスアゴニスト、例えばA型インフルエンザ、ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)、若しくは単純ヘルペスウイルス(HSV)の存在下の抗原、例えば腫瘍関連抗原若しくはウイルス抗原、好ましくはTLR7アゴニスト及びTLR9アゴニストの存在下の腫瘍関連抗原の存在下で、あるいは
- TLR7/8アゴニスト及び/若しくはTLR9アゴニスト、並びに/又はSTINGアゴニスト及び/若しくはRIG-Iアゴニスト、並びに/又はウイルスアゴニスト、例えばA型インフルエンザ、ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)、若しくは単純ヘルペスウイルス(HSV)、好ましくはTLR7/8アゴニスト及び/若しくはTLR9アゴニストの存在下で
実施される、請求項5~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップb)~c)が、10~200μg/mLのアスコルビン酸、例えば10~150μg/mLの範囲、例えば10~100μg/mLの範囲、好ましくは25~75μg/mLの範囲、より好ましくは35~65μg/mLの範囲、若しくは例えば約50μg/mLのアスコルビン酸の存在下で実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法、あるいは
ステップb)~d)が、10~200μg/mLのアスコルビン酸、例えば10~150μg/mLの範囲、例えば10~100μg/mLの範囲、好ましくは25~75μg/mLの範囲、より好ましくは35~65μg/mLの範囲、若しくは例えば約50μg/mLのアスコルビン酸の存在下で実施される、請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって得られた/得ることができるHSPC-pDCであって、凍結保存されるHSPC-pDC。
【請求項15】
前記HSPC-pDCが、
- AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- 血液から単離されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- アスコルビン酸の非存在下で、造血幹・前駆細胞(HSPC)から作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- ステップb)若しくはc)若しくはd)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、例えばステップb)~d)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現する、
請求項14に記載のHSPC-pDC。
【請求項16】
- AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- 血液から単離されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- アスコルビン酸の非存在下で、造血幹・前駆細胞(HSPC)から作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- ステップb)若しくはc)若しくはd)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、例えばステップb)~d)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現する、
単離されたHSPC-pDC細胞であって、凍結保存されるHSPC-pDC細胞。
【請求項17】
医薬として使用するための請求項14~16のいずれか一項に記載のHSPC-pDC。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血幹・前駆細胞(HSPC)からHSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)を作製及び増殖させる方法に関する。特に、本発明は、CGMPに準拠した条件下で実施されるそのような方法及びそのような方法から得られた細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
形質細胞様樹状細胞(pDC)は、特にウイルス感染の検出及び制御において中心的な役割を果たす、希少で特有の種類の免疫細胞を表す。従来の樹状細胞(cDC)機能に加えて、pDCは、Toll様受容体(TLR)7及びTLR9によって認識されるウイルス由来の核酸に曝露されると、高レベルのI型インターフェロン(IFN)を産生することができる[1]。活性化pDCによって分泌される特徴的なサイトカインはI型IFNであるが、pDCはまた、他の炎症性サイトカイン及びケモカイン、例えば、IL-1β、IL-6、IL-8、TNFα、並びにCXCR3に対するリガンド(CXCL9、CXCL10及びCXCL11)も効率的に産生する[2]。その結果、pDCは免疫系内の重要なエフェクター及び制御因子として浮上し、多くの疾患におけるそれらの関与及びそれらの潜在的な臨床応用が大きな関心のある主題となっている。いくつかの前臨床研究により、免疫系の多面的刺激を介するがんの治療のためのpDCの免疫療法の可能性が確認されている[3、4]。重要なことに、2つの臨床試験により、自己腫瘍抗原を負荷したpDCが、抗腫瘍反応を誘導し、黒色腫及び前立腺がん患者のそれぞれについて臨床転帰を顕著に改善することが示されている[5、6]。これらの試験の1つでは、pDC及びcDCの混合物が使用され、これらの2つの細胞型の追跡比較により、pDCが、CD8+ T細胞、γ/δ T細胞及びCD56+ NK細胞を黒色腫の部位に誘引する点でcDCよりも優れていることが示唆される[2]。全体として、これは、pDCベースの抗がん免疫療法が、現在のがん免疫療法の代替又は補足となる可能性があることを示している。pDCの使用を臨床免疫療法の設定に応用する試みがなされてきたが、それらの使用は、末梢血内でのそれらの希少性(PBMCの0.1%+/-0.07%)により大きく妨げられてきた[7]。それらの短いex vivoでの生存期間と相まって、それらは集団として研究及びモジュレートすることが非常に困難である[8]。この目的を達成するために、CD34+造血幹・前駆細胞(HSPC)の分化によってex vivoでpDCを生成するいくつかの試みがなされてきた[9]。これらの研究は、HSPC由来pDC(HSPC-pDC)が、臍帯血(CB)及び動員末梢血を含む、異なるHSPC源から生成され得ることを実証している。pDC生成の異なる方法においていくつかの改善が達成されているが、自己HSPC-pDCの養子移植療法は、低い細胞収量及び患者がG-CSFにより刺激されたHSPC動員を受ける必要性のために依然として困難である。最近、本発明者らは、HSPCから多数のpDCを生成するための新規のロバストなex vivoセットアップを報告した[10]。本発明者らは、増殖因子、サイトカイン及び小分子(Flt3-L、TPO、SCF、IL-3及びSR1)の組合せが、HSPCの増殖及び未成熟HSPC-pDCへの分化を支持していることを特定した。21日間の培養期間後、培養物の平均35%がHSPC-pDCであり、これは非pDCの免疫磁気枯渇を使用してほぼ純粋に濃縮することができた。最も重要なことに、本発明者らは、成熟及び機能的な表現型を生成するために、HSPC-pDC培養物が、I型及びII型IFNへの曝露によるプライミングを必要とすることを示した[10]。
【0003】
上記のセットアップを臨床に関連させるために、これは最新の適正製造プロセス(CGMP)基準に基づいて実施しなければならない。Thordardottirらは、造血幹細胞が形質細胞様樹状細胞に分化するCGMP設定にセットアップの一部を適用したが[9]、完全なCGMPプロトコールをセットアップすることはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、プロセス全体がCGMP設定で実施されるセットアップが有利なはずである。多量の活性及び成熟pDCを作製するCGMPに準拠した設定がより有利なはずである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、最新の適正製造プロセス(CGMP)基準下でHSPCの増殖を増加させ、生成されるHSPC-pDCの機能性及び数を促進する臨床関連ストラテジーが提示される。ピリミド-インドール誘導体UM171を用いたHSPCの事前増殖を低密度培養と組み合わせると、HSPC-pDCの増殖が高度に促進された。本発明者らは、市販のCGMP培地では、pDC機能性の特徴である、TLR7及びTLR9の活性化時に重要なサイトカイン、例えばI型IFNを産生する機能的能力を備えたHSPC-pDCを作製できないことを実証する。重要なことに、本発明者らは、アスコルビン酸の使用により培養条件を補うことでpDCの機能性が回復し、それによってアスコルビン酸がHSPC-pDCの作製に必須の培養及び分化成分として確立されることを発見した。最後に、本発明者らは、このような共同の取り組みにより、末梢血から得られた天然に循環するHSPC(cHSPC)からのHSPC-pDCの作製が可能になることを示す。まとめると、本発明者らは、G-CSF及びプレリキサホルのような動員レジメンを必要とせず、標準血液試料から得られたHSPCから、治療上関連する数のHSPC-pDCのCGMPに準拠した作製を可能にする新規プラットフォームを提示する。
【0006】
実施例2は、HSPCの低密度の増殖がpDCの収量を増加させることを示す。
実施例5は、TLR7又はTLR9アゴニストによる刺激時にI型IFNを産生するpDCの能力が、非CGMP培地と比較して、市販のCGMP培地で成長させた場合に大幅に低下することを示す。
実施例6は、CGMP培地にアスコルビン酸を補充することにより、細胞の増殖、分化及び活性化が非CGMP培地に匹敵するレベルまでどのように改善されるかを示す。
実施例8は、本発明の方法が、全体的に特有の発現プロファイルを有するHSPC-pDCを提供することを示す。
実施例9は、本発明に係るHSPC-pDCが、TLR7及びTLR9経路関連遺伝子についての特有の発現プロファイルも有することを示す。このような発現プロファイルの変化は、HSPC-pDCに特に関連すると考えられる。
実施例10は、HSPC-pDC細胞の成長、表現型及び機能性に対するSR1及びIL-3の効果を示す。
実施例11及び12は、驚くべきことに、分化したpDCが、新鮮なHSPC-pDCと比較して、それらの表現型及び機能性に大きな影響を与えることなく、長期保存のために分化後に凍結保存され、解凍され、プライミングされ得ることを示す。さらに、これらの実施例は、HSPC-pDCが、凍結保存前にプライミングされ、それらの表現型及びTLR刺激に応答する能力を維持しながら解凍され得ることを示す。
【0007】
プライミング後の凍結保存が可能であるという発見の利点は、効率的な「すぐに使用できる」(オフザシェルフ)製品の生産が可能であることである。したがって、HSPC-pDCは、専用の細胞産生施設で産生され、その後、使用場所、例えば病院に輸送(冷凍)され得る。
【0008】
したがって、本発明の目的は、上述の問題を解決する、造血幹・前駆細胞(HSPC)のex vivo分化による成熟及び機能的なHSPC-pDCの提供に関する。
【0009】
特に、本発明の目的は、臨床環境で使用されるpDCについて適正製造基準(GMP)下で造血幹・前駆細胞(HSPC)から分化した成熟及び機能的なHSPC-pDCを提供することである。
【0010】
さらに本発明の目的は、「すぐに使用できる」(オフザシェルフ)HSPC-pDC産生物の提供である。
【0011】
一態様では、本発明は、造血幹・前駆細胞(HSPC)からHSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)を作製する方法であって、
a)造血幹・前駆細胞(HSPC)を準備するステップ、
b)前記HSPCを分化させて前駆体-HSPC-pDCを生成するステップ、並びに
c)前記前駆体-HSPC-pDCをインターフェロンでプライミングして成熟HSPC-pDCを得るステップ
を含み、
ステップb)及びステップc)が、アスコルビン酸を含む無血清培地中で実施され、好ましくは無血清培地がCGMPに準拠した培地である、方法に関する。
【0012】
好ましい実施形態では、ステップc)は、
- プライミングの後に、生成された前駆体-HSPC-pDCを凍結するステップ、又は
- プライミングの前に、生成された前駆体-HSPC-pDCを凍結、保存及び解凍するステップ、又は
- プライミングの後に、生成された前駆体-HSPC-pDCを凍結、保存及び解凍するステップ
を含む。
【0013】
実施例11及び12に示されるように、凍結するステップ(凍結保存)は、機能を保持しながら、プライミングの前又は後に可能である。
【0014】
本発明の別の態様は、造血幹・前駆細胞(HSPC)からHSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)を作製する方法であって、
a)造血幹・前駆細胞(HSPC)を準備するステップ、
b)前記HSPCを分化させて前駆体-HSPC-pDCを生成するステップ、
c)前記前駆体-HSPC-pDCをインターフェロンでプライミングして成熟pDCを得るステップ、並びに
d)成熟pDCを活性化させてI型インターフェロンの分泌を誘導するステップ
を含み、
ステップb)~d)が、アスコルビン酸を含む無血清培地中で実施され、好ましくは無血清培地がCGMPに準拠した培地である、方法に関する。
【0015】
本発明のさらなる態様は、本発明に係る方法によって得られた/得ることができるHSPC-pDCに関する。
【0016】
なおさらなる態様は、
- AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- 血液から単離されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- アスコルビン酸の非存在下で、造血幹・前駆細胞(HSPC)から作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/あるいは
- ステップb)若しくはc)若しくはd)においてアスコルビン酸の非存在下で、好ましくはステップb)~d)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現する、
単離されたHSPC-pDC細胞に関する。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、HSPCの生存能力及び増殖を提供し、HSPC-pDCの発達及び機能性、例えば活性化後のI型IFNの分泌を促進する、CGMP無血清培地中のアスコルビン酸の使用に関する。
【0018】
したがって、一態様では、非活性化HSPC-pDCも商業用途を有する場合があるため、成熟HSPC-pDCを活性化させるステップは必須ではない。この態様の好ましい実施形態では、ステップb)は、HSPC-pDCの収量を増加させるためにHSPCの低密度の増殖を含む。実施例2は、HSPCの低密度の増殖がHSPC-pDCの収量を増加させることを示す。
【0019】
この態様の別の好ましい実施形態では、ステップb)~c)は、アスコルビン酸を含む無血清培地、好ましくは(無血清)CGMPに準拠した培地中で実施される。
好ましい実施形態では、本発明は、造血幹・前駆細胞(HSPC)からHSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)を作製する方法であって、
a)好ましくは、動員剤、例えばG-CSF又はプレリキサホルを投与されていない対象から得られた造血幹・前駆細胞(HSPC)を含むヒト末梢血試料を準備するステップ、
b1)ステップa)において準備された造血幹・前駆細胞(HSPC)を、好ましくはUM171及び/又はStemRegenin 1の存在下で、0.1~0.5×106個の細胞/mLの濃度で開始して最大8日間事前増殖させるステップ、
b2)ステップb1)からの事前増殖させた細胞を分化させて前駆体-pDCを生成するステップ、並びに
c)前記前駆体-HSPC-pDCをインターフェロンでプライミングして成熟HSPC-pDCを得るステップであって、好ましくはプライミング培地がP/S又はIL-3を含む、ステップ、
d)場合によりまた、好ましくはTLR7アゴニスト及び/又はTLR9アゴニストの存在下で、成熟HSPC-pDCを活性化させてI型インターフェロンの分泌を誘導するステップ
を含み、
ステップb1)、ステップb2)、ステップc)及び場合によるステップd)が、アスコルビン酸を含む無血清培地、好ましくは(無血清)CGMPに準拠した培地中で実施される、方法を提供する。
【0020】
さらなる好ましい実施形態では、本発明は、上記の方法によって得られたHSPC-pDC及び疾患、特定のがん又は自己免疫疾患を治療する際のそれらの使用を提供する。
【0021】
さらなる好ましい実施形態では、本発明は、治療組成物を調製する方法であって、
a)好ましくは、動員剤、例えばG-CSF又はプレリキサホルを投与されていない対象から得られた造血幹・前駆細胞(HSPC)を含むヒト末梢血試料を準備するステップ、
b1)ステップa)において準備された造血幹・前駆細胞(HSPC)を、好ましくはUM171及び/又はStemRegenin 1の存在下で、0.1~0.5×106個の細胞/mLの濃度で開始して最大8日間事前増殖させるステップ、
b2)ステップb1)からの事前増殖させた細胞を分化させて前駆体-pDCを生成するステップ、並びに
c)前記前駆体-HSPC-pDCをインターフェロンでプライミングして成熟HSPC-pDCを得るステップであって、好ましくはプライミング培地がP/S又はIL-3を含む、ステップ、
d)場合によりまた、好ましくはTLR7アゴニスト及び/又はTLR9アゴニストの存在下で、成熟HSPC-pDCを活性化させてI型インターフェロンの分泌を誘導するステップ、
e)場合により、成熟HSPC由来pDCに抗原、例えば腫瘍抗原を負荷するステップ、又は成熟HSPC由来pDCに外因性構築物、例えばCAR-T構築物を形質転換するステップ、並びに
f)前記成熟HSPC由来pDCを治療組成物に製剤化するステップ
を含み、
ステップb1)、ステップb2)、ステップc)及び場合によるステップd)が、アスコルビン酸を含む無血清培地、好ましくは(無血清)CGMPに準拠した培地中で実施される、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】より低いHSPC密度が、HSPC-pDC分化の間、HSPCの増殖を増加させることを示す図である。HSPCを解凍し、2×105個の細胞を、以前に記載された標準培養プロトコール(SCP)又は低密度プロトコール(LD)を使用して21日間培養した。a)pDC分化の間に細胞が分割した密度を示す表。
図1B-C】b)培地交換前のpDC分化の間の細胞の密度。c)単離されたHSPC-pDCの生存率。
図1D-E】d)pDC分化の間の細胞の生存率。e)培養の間の細胞の総累積数を測定した。培養形式を維持し、コストを最小限に抑えるために、継代中に培養物の一部を継続的に廃棄し、これは累積細胞数を計算するときに考慮に入れた。
図1F-G】f)免疫磁気陰性選択後に単離したHSPC-pDCの数を21日目に測定し、生成されたHSPC-pDCの総累積数を培養の間に廃棄した細胞の割合に基づいて計算した。g)単離日の全細胞集団に対するHSPC-pDCのパーセンテージ。
図1H】h)単離されたHSPC-pDCをI型IFNで3日間プライミングしたか、又はプライミングせずに放置し、その後それらをTLR7(R837)又はTLR9(CpG-A)に対する指向性を有するアゴニストで20時間刺激し、I型IFNを測定した。示したデータは、2人の臍帯血ドナーの平均値を表す。
図2A】無血清条件が、HSPCの増殖を改善し、より早い時点で単離されたHSPC-pDCが機能的表現型を保持していることを示す図である。HSPCを解凍し、1×105個の細胞を0.5~5×106個の細胞/mLの密度でRPMI又はSFEM II中で培養した。HSPC-pDCの単離は、16、18及び21日の培養後に実施し、凍結保存した。その後、HSPC-pDCを解凍し、3日間プライミングし、その後、表現型で解析した。a)細胞が新しい密度(0.5~5×106個の細胞の間)に分割した日を示す表。
図2B-C】b)培地交換前のHSPC-pDC分化の間のHSPCの細胞密度。c)培養の間のHSPCの計算した数。矢印は、HSPC-pDCを単離した日を示す。
図2D-E】d)単離したHSPC-pDCの数。e)単離日での細胞の総集団内のHSPC-pDCの割合。
図2F】f)単離したHSPC-pDCの生存率。
図2G】g~h)TLR7アゴニストR837(g)又はTLR9アゴニストCpG 2216(h)による活性化後のプライミングしていない又はプライミングしたHSPC-pDCのI型IFN反応。
図2H】g~h)TLR7アゴニストR837(g)又はTLR9アゴニストCpG 2216(h)による活性化後のプライミングしていない又はプライミングしたHSPC-pDCのI型IFN反応。
図2I-J】i~j)プライミングしていない又はプライミングしたHSPC-pDC(系統陰性、CD11c陰性細胞でゲーティングした)上でのCD123(i)及びCD303(j)の表面発現。示したデータは、3人のドナーの±SEMを表し、3人のドナーの各々を技術的トリプリケートで解析した。
図3A】HSPCの事前増殖がHSPC-pDCの収量を増加させることを示す図である。a)事前増殖したHSPCからのHSPC-pDCの生成を示す概略図。HSPCを、UM171を補充したSFEM II培地中で低密度(1~5×105個の細胞/mL)で4、6又は8日間事前増殖させ、次いで凍結保存した。次いで細胞を解凍し、CD34について表現型を決定し、HSPC-pDC生成のために1×105個のHSPCを播種した。16又は21日間の培養後、HSPC-pDCを単離し、表現型で解析した。
図3B-C】b)事前増殖の間のHSPC密度。矢印は、HSPCが凍結保存された時点を示す。c)事前増殖の間のHSPCの計算した数。矢印は、HSPCが凍結保存された時点を示す。
図3D-E】d)事前増殖係数を考慮せずに事前増殖したHSPCを使用したHSPC-pDC分化の間の細胞の計算した数(分化時の同じ開始細胞数)。e)細胞の総集団に対するHSPC-pDCのパーセンテージ。
図3F】f)事前増殖倍率を考慮した、16及び21日間の培養後に単離したHSPC-pDCの計算した数。
図3G-H】g~h)TLR7アゴニストR837(g)又はTLR9アゴニストCpG-2216(h)による刺激後のHSPC-pDCからのI型IFNのレベル。示したデータは、4人のドナーの±SEMを表し、4人のドナーの各々を技術的トリプリケートで解析した。
図4A-B】DC培地を用いて機能的HSPC-pDCを生成するためにアスコルビン酸が必要であることを示す図である。a~e)1×105個のHSPCを、SFEM II、CGMPに準拠したDC培地(GMP(DC))又はCGMPに準拠したSCGM(GMP(SCGM))で培養した。全ての条件について、細胞を、培養全体を通じて0.5~5×106個の細胞/mLの密度に保った。HSPC-pDCを、21日間の培養後に単離し、表現型及び機能的に解析した。a)HSPC-pDC分化の間の細胞の計算した数。b)HSPC-pDC分化の間の細胞の生存率。
図4C-D】c)21日間の培養後の計算した単離したHSPC-pDCの数。d)細胞の総集団に対するHSPC-pDCのパーセンテージ。
図4E】e)TLR7アゴニストR837又はTLR9アゴニストCpG-2216による刺激後のHSPC-pDCのI型IFN反応。
図5A-B】CGMPに準拠したDC培地を使用したHSPC-pDC生成にはアスコルビン酸の培地の補充が必要であることを示す図である。HSPCを解凍し、1×105個の細胞を、SFEM II、CGMPに準拠した培地のDC培地(GMP(DC))又はアスコルビン酸を補充したDC培地(GMP(DC)+AA)に播種した。全ての条件では、培養全体を通じて細胞を0.5~5×106個の細胞/mLの密度に保った。HSPC-pDCを16日間及び21日間の培養後に単離し、表現型で解析した。a)HSPC-pDC分化の間の総細胞の計算した数。b)16日間又は21日間の培養後に単離したHSPC-pDCの生存率。
図5C-D】c)16日間又は21日間の培養で単離した後のHSPC-pDCの計算した数。d)総細胞に対するHSPC-pDCのパーセンテージ。d)総細胞に対するHSPC-pDCのパーセンテージ。
図5E-F】e~f)TLR7アゴニストR837(e)又はTLR9アゴニストCpG-2216(f)による活性化後、16日間又は21日間の培養後に単離したHSPC-pDCのI型IFN反応。
図5G-H】g~h)プライミングしていない又はプライミングしたHSPC-pDC(系統陰性、CD11c陰性細胞でゲーティングした)上のCD123(g)及びCD303(h)の表面発現。示したデータは4人のドナーの±SEMを表し、4人のドナーの±SEMの各々を技術的トリプリケートで解析した。
図6A-B】最適化したCGMPに準拠した培地を使用した末梢全血由来のHSPCからのHSPC-pDCの生成を示す図である。HSPCを、UM171を補充したCGMPに準拠した培地(SCGM)で低密度(1~5×105個の細胞/mL)で4日間事前増殖させ、次いで凍結保存した。その後、細胞を解凍し、CD34について表現型を決定し、HSPC-pDC生成のために1×105個のHSPCを播種した。HSPC-pDCを16日間の培養後に単離し、表現型で解析した。a)事前増殖したHSPCを使用したHSPC-pDC分化の間の細胞の計算した数(事前増殖係数は考慮していない)。b)16日間の培養でのHSPC-pDCの単離時のHSPC-pDCの計算した数(事前増殖の倍率を考慮した)。
図6C】c)総細胞集団に対するHSPC-pDCのパーセンテージ。
図6D-E】d~e)TLR7アゴニストR837(d)又はTLR9アゴニストCpG-2216(e)によるHSPC-pDCの刺激でのI型IFNのレベル。
図6F-G】f)SFEM II培地、DC培地又はAAを補充したDC培地のいずれかを使用してcHSPCから生成したHSPC-pDCのI型IFN反応。HSPC-pDCは、TLR7アゴニストR837(f)又はTLR9アゴニストCpG-2216(g)のいずれかで活性化した。示したデータは4人のドナーの±SEMを表し(a~c)、4人のドナーの各々を技術的トリプリケートで解析し(d~e)、1人のドナーを技術的トリプリケートで解析した(f~g)。
図7】患者の血液試料から開始して治療目的のためにcHSPC-pDCを生成する集合的な手順を示す概略図である。CD34+ cHSPCを、最初に免疫磁気選択を使用して単離する。次いで、cHSPCを、自己再生を促進する小分子阻害剤を使用して低密度で事前増殖する。その後、事前増殖したcHSPCを、免疫療法目的のためにすぐに使用できるか、又は複数のワクチンレジメンを可能にするために凍結保存できるcHSPC-pDCに分化させる。
図8A】アスコルビン酸を用いて生成したHSPC-pDCのRNA-seqプロファイルを示す図である。(a)アスコルビン酸を用いずに生成したHSPC-pDCと比較して、アスコルビン酸を用いて生成したHSPC-pDCにおいて差次的に発現した遺伝子を示すボルケーノプロット。上方制御及び下方制御についての閾値を、破線によって示すように、|log2FC|>=1及びQ値<=0.05に設定した。
図8B】(b)アスコルビン酸を用いて生成したHSPC-pDCにおいて差次的に発現した遺伝子についての20個の最もエンリッチされた生物学的プロセスを表示する遺伝子オントロジーのバブルチャート。X軸はエンリッチメント比(リッチ比)を示し、これは、生物学的プロセス内で差次的に発現した遺伝子の数と、そのプロセスで注釈が付けられた総遺伝子の数との間の比である。バブルのサイズはプロセス内で差次的に発現した遺伝子の数を表し、色はエンリッチメントの統計的有意性を表す。
図9A-B】最後の3日間のHSPC-pDC分化の間のSR1及び/又はIL-3の除去が、細胞成長、表現型及び機能性に影響を与えることを示す図である。A)細胞からIL-3及び/又はSR1を除去した、14日目と17日目との間の培養物での細胞数の絶対変化。B)14日目と17日目の間の培養物での細胞数の倍率変化。
図9C-D】C)HSPC-pDC分化の間の細胞の生存率。D~E)HSPC-pDCをI型IFNで24時間プライミングしたか、又はプライミングせずに放置した。続いて、免疫表現型をフローサイトメトリーで評価した。HSPC-pDC上のCD123(D)及びCD303(E)の表面発現(系統陰性、CD11c陰性細胞でゲーティングした)。
図9E-F】D~E)HSPC-pDCをI型IFNで24時間プライミングしたか、又はプライミングせずに放置した。続いて、免疫表現型をフローサイトメトリーで評価した。HSPC-pDC上のCD123(D)及びCD303(E)の表面発現(系統陰性、CD11c陰性細胞でゲーティングした)。F)プライミングしたHSPC-pDCを、TLR7(R837+R848)又はTLR9(CpG-A)に対する指向性を有するアゴニストで20時間刺激し、培地中のIFNαをELISAで測定した。示したデータは2人の臍帯血ドナーの平均値を表し、各々は生物学的デュプリケートとして収集されるように収集した。示したデータは2人の臍帯血ドナーの平均値+SEM(エラーバー)を表す。
図10A-B】HSPC-pDCが、凍結保存後にそれらの表現型及び機能性を維持していることを示す図である。臍帯血HSPCを解凍し、1×105個の細胞を、アスコルビン酸を補充したCGMPに準拠した培地のDC培地に播種した。培養全体を通して細胞を0.5~3×106個の細胞/mLの密度に保った。16日間の培養後にバルクHSPC-pDCを採取し、表現型で解析したか、又は後の表現型解析のために凍結保存した。A)解凍後の凍結保存したHSPC-pDCの生存率及び回収率。N=11のドナー。B)新鮮対凍結保存(cryo)IFNプライミングした又はプライミングしていないHSPC-pDCの純度。純度は、IFNプライミングの24時間後にフローサイトメトリーによって測定した(生きている、系統neg(CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56)及びCD11cnegでゲーティングした)。N=5。
図10C-D】C)CD123、CD303又はCD304を発現するプライミングしていない又はプライミングした及び新鮮な又は凍結保存した(cryo)HSPC-pDCの頻度。免疫表現型はフローサイトメトリーによって決定した(生きている、系統Neg、CD11cNeg細胞でゲーティングした)。統計解析:Tukeyの多重比較検定を用いた二元配置分散分析(N=5)。D)CD123/CD303、CD123/CD304及びCD303/CD304に対する二重陽性のHSPC-pDCの頻度。C)に記載される条件。
図10E-F】E~H)未処理(E)又はTLR7アゴニストR837(F)、TLR7/8アゴニストR848(G)若しくはTLR9アゴニストCpG-2216(h)による活性化後の新鮮な又は凍結保存したHSPC-pDCのI型IFN反応。N=5。データは平均値+SDとして示される。
図10G-H】E~H)未処理(E)又はTLR7アゴニストR837(F)、TLR7/8アゴニストR848(G)若しくはTLR9アゴニストCpG-2216(h)による活性化後の新鮮な又は凍結保存したHSPC-pDCのI型IFN反応。N=5。データは平均値+SDとして示される。
図11A】HSPC-pDCのプライミング(凍結保存の前又は後)を比較する図である。A)未処理又はプライミングしたHSPC-pDCの生成及び凍結保存の概略図(上のパネル)。臍帯血HSPCを解凍し、1×105個の細胞を、アスコルビン酸を補充したCGMPに準拠した培地のDC培地に播種した。培養全体を通して細胞を0.5~3×106個の細胞/mLの密度に保った。15日目に、培養物のサブセットを分化培地中のIFNでプライミング(プレプライミング)する。バルクプレプライミング又はプライミングしていないHSPC-pDCを16日間の培養後に回収し、後の表現型解析のために凍結保存した。以下のパネルは、凍結保存の前(プレプライミングした)又は後(標準)にプライミングされたHSPC-pDCの表現型比較の概略図を示す。
図11B-C】B)HSPC-pDC分化の間の細胞の増殖倍率。15日目に培養物をプライミングした画分とプライミングしていない画分に分割したため、16日目の増殖は個々の条件の増殖に基づいて計算している(N=2のドナー)。C)解凍後の未処理の(UT)又はプレプライミングした凍結保存したHSPC-pDCの生存率及び回収率(3人のドナー)。
図11D】D)フローサイトメトリーによって決定された、プライミングした(凍結保存前)又はプライミングした(凍結保存後)HSPC-pDC上の免疫表現型マーカー発現の頻度。上のパネルは、CD123(pos)/CD304(pos)HSPC-pDCの頻度を示す(生きている、系統Neg、CD11cNeg細胞でゲーティングした)。下のパネルは、CD40、CD80及びCD85陽性HSPC-pDCの頻度を示す(生きている、系統Neg、CD11cNeg、CD304Pos細胞でゲーティングした)。N=2。
図11E-G】E)TLR7アゴニストR837(左上)、TLR7/8アゴニストR848(右上)又はTLR9アゴニストCpG-2216(下)による活性化後のプライミングした又はプレプライミングしたHSPC-pDCのI型IFN反応。N=3。データは平均値+SDとして示される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ここで本発明を以下により詳細に説明する。
【0024】
定義
本発明をさらに詳細に説明する前に、以下の用語及び慣例を最初に定義する。
【0025】
造血幹・前駆細胞(HSPC)
造血幹・前駆細胞は、リンパ系及び骨髄系を含む、あらゆる種類の血液細胞を生じさせることができる多能性幹細胞からなる。それらはまた、特定の血液系統内で異なる細胞を生じさせることができる前駆細胞も含む。リンパ系には、細胞型、例えば、NK細胞、Bが含まれる。
【0026】
HSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)
HSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)は、造血幹・前駆細胞(HSPC)に由来するpDCの一種である。pDCは従来の樹状細胞(cDC)のファミリーに属さない特有の自律細胞型である。pDCは、一連の表面マーカー、例えば、CD11cの欠如、並びにCD123、CD303、CD304及びHLA-DRの発現によってcDCとは異なる。pDCは主にTLR7又はTLR9を介して病原体を感知し、高レベルのI型IFN及び炎症促進因子の産生を引き起こす。pDCはまた、抗原をプロセシングして提示し、T細胞を活性化し、TRAILを介して直接的な細胞媒介性殺傷を誘導することもできる。
【0027】
成熟HSPC-pDC
成熟HSPC-pDCは、プライミングステップを経た前駆体HSPC-pDCであり、前駆体HSPC-pDCは、例えば、I型及びII型IFNが補充された培地中に播種され、細胞機能性の明確な成熟段階を導く。
【0028】
CGMP
CGMPは、FDAによって施行されている最新の適正製造基準規制を指す。CGMPは、製造プロセス及び設備の適切な設計、モニタリング及び制御を保証するシステムを提供する。CGMP規制の遵守により、医薬品の製造業者が製造業務を適切に管理することを要求することによって薬物製品の同一性、強度、品質及び純度が保証される。これは、強力な品質管理システムの確立、適切な品質の原材料の入手、ロバストな業務手順の確立、製品品質の逸脱の検出及び調査、並びに信頼できる検査室の維持を含む。製薬会社におけるこの正式な管理システムは、適切に実践されていれば、汚染、混同、逸脱、失敗及びエラーの発生を防ぐのに役立つ。これにより、薬物製品がそれらの品質基準を満たしていることが保証される。
【0029】
無血清
本文脈において、「無血清」という用語は、血清を含まない、例えばウシ胎仔血清(FBS)及びヒト血清を含まない組成物又は培地を指す。
【0030】
CGMPに準拠した培地
細胞培地に関して、CGMPは臨床応用に必須のステップである。異種血清(例えばFBS)及びヒト血清は、感染因子、例えばウイルス及びプリオンによる汚染のリスクを伴う。さらに、個々の血清バッチの組成及び活性はばらつきが大きい傾向がある。
【0031】
ある特定の実施形態では、本発明で使用する培地は、プライミング培地又は無血清培地である。ある特定のそのような実施形態では、培地は無菌であり、汚染物質がなく、規定された一連の成分からなる。このような培地は、CGMPに準拠した培地、CGMP培地及びCGMP無血清培地と同等であり得る。
【0032】
プライミング
本文脈において、「プライミング」という用語は、前駆体HSPC-pDCが「プライミングされ」て機能的に成熟したHSPC-pDCになる場合の、HSPC-pDC生成セットアップの特定の部分として理解されるべきである。機能的に活性なHSPC-pDCは、pDCマーカー、例えば、CD123、CD303、CD304及びHLA-DRを発現し、TLR7及びTLR9アゴニストに応答する。具体的には、前駆体HSPC-pDCは、特定の増殖因子、例えば、Flt3-L、SCF及びTPO及びSR1の非存在下で培地に播種される。増殖因子並びに分子IL-3、P/S及びアスコルビン酸は培地中に保持され、細胞は3日間I型及びII型IFNでプライミングされ、その結果として、それらの機能的成熟がもたらされる。
【0033】
活性化
本文脈において、「活性化」という用語は、受容体、例えば、TLR7、TLR9、RIG-I又はSTINGに対する指向性を有する特定のアゴニストによるHSPC-pDCの刺激として理解されるべきであり、HSPC-pDCの活性化をもたらす。下流のシグナル伝達はpDCの「活性化」を誘導し、これは、例えば、I型IFN及び炎症促進因子、例えば、IL-6及びTNF-αの分泌、並びに異なる表面受容体、例えば、CD40及びCD80の上方制御に反映される。活性化は、プライミングされていない及びプライミングされたpDCの両方で実施して、それらが活性であるかどうかを評価することができる。活性化はまた、HSPC-pDCが抗原を取り込み、T細胞を提示して活性化を誘導し、細胞媒介性殺傷を実施する能力を増加させるためにも実施することができる。
【0034】
凍結保存
「凍結保存」は、非常に低い温度(典型的には、固体二酸化炭素を使用して-80℃、液体窒素を使用して-196℃)に冷却することによって細胞を保存するプロセスである。
【0035】
HSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)を作製する方法
上記に概説したように、本発明は、適正製造手順に従う、造血幹・前駆細胞(HSPC)からの形質細胞様樹状細胞(pDC)の作製に関する。
【0036】
したがって、一態様では、本発明は、造血幹・前駆細胞(HSPC)からHSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)を作製する方法であって、
a)造血幹・前駆細胞(HSPC)を準備するステップ、
b)前記HSPCを分化させて前駆体-HSPC-pDCを生成するステップ、並びに
c)前記前駆体-HSPC-pDCをインターフェロンでプライミングして成熟HSPC-pDCを得るステップ
を含み、
ステップb)及びステップc)が、アスコルビン酸を含む無血清培地中で実施され、好ましくは無血清培地がCGMPに準拠した培地である、方法に関する。
【0037】
好ましい実施形態では、ステップc)は、
- プライミングの後に、生成された前駆体-HSPC-pDCを凍結するステップ、又は
- プライミングの前に、生成された前駆体HSPC-pDCを凍結、保存及び解凍するステップ、又は
- プライミングの後に、生成された前駆体HSPC-pDCを凍結、保存及び解凍するステップ
を含む。
【0038】
実施例11及び12に示されるように、凍結するステップ(凍結保存)は、機能を保持しながら、プライミングの前又は後に可能である。
【0039】
別の態様では、本発明は、造血幹・前駆細胞(HSPC)からHSPC由来形質細胞様樹状細胞(HSPC-pDC)を作製する方法であって、
a)造血幹・前駆細胞(HSPC)を準備するステップ、
b)前記HSPCを分化させて前駆体-HSPC-pDCを生成するステップ、
c)前記前駆体-HSPC-pDCをインターフェロンでプライミングして成熟HSPC-pDCを得るステップ、及び
d)成熟HSPC-pDCを活性化させて1つ以上のサイトカイン、例えば、I型及び/又はIII型インターフェロンの分泌を誘導するステップ
を含み、
ステップb)~d)が、アスコルビン酸を含む無血清培地中で実施され、好ましくは無血清培地がCGMPに準拠した培地である、方法に関する。
【0040】
好ましい実施形態では、方法は、
d)成熟HSPC-pDCを活性化させてI型インターフェロンの分泌を誘導するステップ
をさらに含み、ステップd)が、アスコルビン酸を含む無血清培地中で実施され、好ましくは無血清培地がCGMPに準拠した培地である。
【0041】
別の好ましい実施形態では、方法は、
d)成熟HSPC-pDCを活性化させて1つ以上のサイトカイン、例えば、I型及び/又はIII型インターフェロンの分泌を誘導するステップ
をさらに含み、ステップd)が、アスコルビン酸を含む無血清培地中で実施され、好ましくは無血清培地がCGMPに準拠した培地である。
【0042】
ステップb)~d)の間、当業者に知られている異なる種類の増殖培地を使用することができる。増殖培地の種類には、非CGMP培地、例えば、ウシ胎仔血清(FCS)若しくはヒト血清を補充したRPMI 1640、市販の無血清培地、例えば、StemSpan(商標)SFEM II、又はCGMPに準拠した培地、例えば、アスコルビン酸を補充した、StemSpan(商標)-ACF、CellGenix(登録商標)GMP SCGM、若しくはCellGenix(登録商標)GMP DC培地が挙げられる。好ましくは、アスコルビン酸を補充したCGMPに準拠した培地を使用するべきである。
【0043】
一実施形態では、培地は市販の無血清培地である。
別の実施形態では、培地は血清を補充した市販の増殖培地である。
【0044】
好ましい実施形態では、培地は無血清のCGMPに準拠した培地である。
【0045】
ステップa)HSPCの準備
HSPCは様々な供給源から供給され得る。細胞は、骨髄、末梢血又は臍帯血に見出される。
【0046】
したがって、一つの好ましい実施形態では、本発明に係る方法において、ステップa)では、HSPCが、例えば末梢血に見出される循環HSPC(cHSPC)から準備される。
【0047】
さらに、臍帯血は、出産後に胎盤及びそれに付属する臍帯中に残る血液である。
【0048】
したがって、別の好ましい実施形態では、ステップa)で準備されるHSPCは臍帯血(UCB)に由来する。
【0049】
さらなる実施形態では、ステップa)で準備されるHSPCは骨髄に由来する。
【0050】
同様に、ある特定の実施形態では、ステップa)は、造血幹・前駆細胞(HSPC)を含む末梢血試料又は臍帯血試料を準備することを含む。
【0051】
好ましい実施形態では、ステップa)は、対象から以前に得られたHSPC又はHSPCを含む試料を準備するステップを含む。ステップa)は、対象からHSPC又は試料を取得することを含まない。
【0052】
別の実施形態では、血液は、哺乳動物の血液、例えば、動物又はヒトの血液である。
【0053】
別の好ましい実施形態では、ステップa)で準備されるHSPCは、ドナーが、動員剤、例えば顆粒球コロニー刺激因子(GM-CSF)の注射によってHSPCの動員を経た場合の動員末梢血(mPB HSPC)に由来する。
【0054】
好ましい実施形態では、血液はヒトの血液である。
【0055】
さらに別の実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞、例えば動物細胞又はヒト細胞である。
【0056】
好ましい実施形態では、細胞はヒト細胞である。
【0057】
人体の異なる細胞型を区別できるようにするために、細胞は表面マーカーのそれらの発現によって特徴付けられる。CD34は造血細胞上に見出される。
【0058】
したがって、一実施形態では、ステップa)で準備されるHSPCはCD34+細胞である。
【0059】
HSPCが得られた後、それらを本発明による手順に新たに適用することもできるか、又は後の使用のために細胞を凍結保存することもできる。
【0060】
したがって、本発明による一実施形態では、ステップa)で準備されたHSPCは、新鮮な細胞又は凍結保存された細胞である。
【0061】
対象の体内の定常状態の間、ほとんどのHSPCは骨髄に存在するが、末梢血にはほとんど見出されない。G-CSF又はプレリキサホルによる処置は、末梢血へのHSPC動員を強化することができる。現在まで、G-CSF動員HSPCは移植に広く使用されているが、いくつかの制限、例えば、ドナーとレシピエントとの間でのHLAの一致の必要性がある。さらに、この方法は、通常、連続4日間にわたってG-CSFを複数回注射し、その後、アフェレーシス及び大規模なCD34免疫磁気選択を行うことを必要とする。したがって、この方法は時間がかかり、高価であり、高価な機器へのアクセスを必要とし、ドナーに不都合及び副作用、例えば骨痛を伴う。
【0062】
したがって、一実施形態では、ステップa)で準備されるHSPCは、例えば、G-CSF及び/又はプレリキサホルによる動員による、前記対象におけるHSPCの事前の動員レジメンを受けていない対象から準備される。
【0063】
別の実施形態では、ステップa)で準備されるHSPCは、例えば、G-CSFによる動員による、前記対象におけるHSPCの事前の動員レジメンを受けていない対象から準備される。
【0064】
さらに別の実施形態では、ステップa)で準備されるHSPCは、例えば、プレリキサホルによる動員による、前記対象におけるHSPCの事前の動員レジメンを受けていない対象から準備される。
【0065】
上述したように、欠点は対象におけるHSPCの動員レジメンに関連する。それにも関わらず、本発明に係る方法は、HSPCの動員レジメンに曝露された対象において依然として実施することができる。
【0066】
したがって、一実施形態では、ステップa)で準備されるHSPCは、HSPCの動員、例えば、G-CSF及び/又はプレリキサホルによる動員に曝露された対象から準備される。
【0067】
ステップb)分化
分化を開始する前に低密度培養条件でHSPCをex vivoで培養すると、HSPCの細胞周期への移行を刺激し、それによって増殖を支持する。
【0068】
実施例2に見られるように、細胞が5e+6個の細胞/ml未満の密度に保たれた場合、増殖速度は、低密度条件で培養されなかった細胞と比較して27倍を超えて高かった。さらに、低密度プロトコールにより、HSPC-pDCも同様に増加した。
【0069】
したがって、一実施形態では、本発明に係る方法のステップb)は、
- b1)ステップa)において準備された造血幹・前駆細胞(HSPC)を、0.1~0.5×106個の細胞/mLの濃度で開始して最大8日間事前増殖させるステップ、並びに
- b2)ステップb1)からの事前増殖させた細胞を分化させて前駆体-pDCを生成するステップ
を含むステップb1)及びステップb2)を含む。
【0070】
HSPCのex vivo培養に対する基本的な制限は、幹・前駆細胞の急速な分化であり、これにより次に幹細胞の自己再生を制限する抑制性フィードバックシグナルが生成される。HSPCのex vivo培養に小分子UM171及びSR1を供給すると、原始造血前駆細胞の自己再生が促進される。
【0071】
一実施形態では、ステップb)は、1つ以上の小分子阻害剤、例えばUM171及び/又はStemRegenin 1の存在下、好ましくはUM171及び/又はStemRegenin 1の存在下で実施される。
【0072】
別の実施形態では、StemRegenin 1の濃度は、0.05~5μM、例えば0.25~2μM、例えば0.5~1.5μM、又は例えば0.75~1.25μMの範囲にある。好ましい実施形態では、StemRegeningの濃度は約1μMである。
【0073】
別の実施形態では、UM171の濃度は、3~100nMの範囲、例えば10~70nMの範囲、例えば10~50nMの範囲、例えば20~40nMである。好ましい実施形態では、UM171の濃度は約35nMである。
【0074】
一実施形態では、ステップb)は、アリール炭化水素受容体アンタゴニスト、例えばSR1の存在下で実施される。
【0075】
別の実施形態では、ステップb)はIL-3の存在下で実施される。関連する実施形態では、IL-3の濃度は、1~200ng/mLの範囲、例えば1~100ng/mLの範囲、例えば1~50ng/mLの範囲、好ましくは10~20ng/mLの範囲、例えば20ng/mLのIL-3である。
【0076】
別の実施形態では、ステップb1)において、細胞密度は、0.1~50×105個の細胞/mLの範囲、例えば0.5~20×105個の細胞/mLの範囲、好ましくは1~5×105個の細胞/mLの範囲、例えば5~50×105個の範囲で維持される。
【0077】
好ましい実施形態では、ステップb1)において、細胞密度は、1~5×105個の細胞/mlの範囲、例えば5×105個の細胞/ml未満に維持される。
【0078】
さらなる実施形態では、ステップb2)において、細胞密度は、0.1~50×105個の細胞/mLの範囲、例えば0.5~20×105個の細胞/mLの範囲、好ましくは1~5×105個の細胞/mLの範囲、例えば5~50×105個の範囲に維持される。
【0079】
好ましい実施形態では、ステップb2)において、細胞密度は、5~50e+5個の細胞/mlの範囲、例えば50+e5個の細胞/ml未満に維持される。
【0080】
なおさらなる実施形態では、ステップb1)は、最大8日間、例えば最大6日間、例えば最大4日間、好ましくは4日間継続される。
【0081】
一実施形態では、ステップb2)は、最大21日間の培養、例えば最大18日間、好ましくは最大16日間の培養で実施される。
【0082】
2×105個のHSPCから開始する実施例2に見られるように、低密度プロトコールは、0,055×109個の総細胞にしか達しない従来のプロトコールと比較して、最大1,5×109個の総細胞の細胞増殖をもたらした。これは、標準条件と比較して27倍超の改善である(実施例2を参照のこと)。
【0083】
したがって、一実施形態では、ステップb1)における造血幹・前駆細胞(HSPC)は、少なくとも10倍、例えば少なくとも15倍、例えば少なくとも20倍、又は例えば少なくとも25倍増殖する。
【0084】
ステップc)HSPC-pDCのプライミング
単離されたHSPC-pDCが完全に機能するために、細胞は、培養培地に添加されたI型又はII型IFNによるプライミングを必要とする。培養培地には、微生物感染を避けるために、ペニシリン及びストレプトマイシン(P/S)をさらに補充してもよい。
【0085】
一実施形態では、プライミングステップc)において、プライミング培地はP/S又はIL-3を含む。
【0086】
別の実施形態では、ペニシリンの濃度は、2~100U/mlの範囲、例えば2~50U/mlの範囲、例えば5~30U/mlの範囲、例えば10~30U/mlの範囲、又は例えば15~25U/mlの範囲である。好ましい実施形態では、ペニシリンの濃度は約20U/mlである。
別の実施形態では、ストレプトマイシンの濃度は、2~100μg/mlの範囲、例えば2~50μg/mlの範囲、例えば5~30μg/mlの範囲、例えば10~30μg/mlの範囲、又は例えば15~15μg/mlの範囲である。好ましい実施形態では、ストレプトマイシンの濃度は約20μg/mlである。
【0087】
別の実施形態では、IL-3の濃度は、2~100ng/mlの範囲、例えば2~50ng/mlの範囲、例えば5~30ng/mlの範囲、例えば10~30ng/mlの範囲、又は例えば15~15ng/mlの範囲である。好ましい実施形態では、IL-3の濃度は約20ng/mlである。
【0088】
事前増殖(ステップb)の間、細胞を、小分子阻害剤SR1及びUM171と一緒に、増殖因子、例えば、Flt3-L、TPO及びSCFを補充した培地で培養した。
プライミングの間、培地は、pDCの成熟及びプライミングを促進するために、好ましくはこれらの因子を含むべきではない。
【0089】
したがって、一実施形態では、プライミングステップc)において、プライミング培地は、P/S及びIL-3とは異なる増殖因子を含まず、例えば、少なくともFlt3-L、TPO及びSCF、並びに小分子阻害剤SR1及びUM171を含まない。
【0090】
一実施形態では、プライミングステップc)において、前記プライミング培地は、I型及び/又はII型IFNを含み、例えば、IFN-α及び/又はIFN-β及び/又はIFN-γのサブタイプを含み、好ましくはIFN-β及びIFN-γの両方を含む。
【0091】
別の実施形態では、プライミングステップc)は、最大5日間、好ましくは最大3日間、例えば1~3日間又は2~3日間実施される。
【0092】
好ましい実施形態では、プライミングステップc)は3日間実施される。
【0093】
実施例11及び12で概説されるように、ステップc)における凍結保存は、プライミングの前又は後に可能である。したがって、好ましい実施形態では、ステップc)は、
- プライミングの後に、生成された前駆体-HSPC-pDCを凍結するステップ、又は
- プライミングの前に、生成された前駆体-HSPC-pDCを凍結、保存及び解凍するステップ、又は
- プライミングの後に、生成された前駆体HSPC-pDCを凍結、保存及び解凍するステップ
を含む。
【0094】
一実施形態では、凍結するステップは、凍結保存によって、例えば、温度を-80℃~-196℃の範囲の温度に下げることによって行われる。
【0095】
別の実施形態では、凍結するステップは、凍結保存培地、好ましくは無血清培地、好ましくは動物成分を含まない培地、好ましくはcGMPで製造された培地、例えばCryoStor CS10で行われる。
【0096】
さらに一実施形態では、保存は、-4℃未満、例えば-10℃未満、好ましくは-15℃未満、より好ましくは-20℃以下、例えば-70℃以下、例えば-80℃~-196℃の範囲の温度、又は例えば液体窒素中で行われる。
【0097】
関連する実施形態では、保存は、5時間から1年まで、例えば1日から6ヶ月まで、例えば7日から2ヶ月まで行われる。
【0098】
一実施形態では、解凍するステップは、無血清培地、例えば、CellGenix DC培地、CellGenix SCGM又はSFEM I若しくはII、好ましくはCellGenix DC培地を使用して行われる。
【0099】
一実施形態では、凍結するステップは、プライミングの前に行われる。
【0100】
別の好ましい実施形態では、凍結するステップは、プライミングの後に行われる。このような場合、「すぐに使用できる」製品が生産される。これにより、1つの専用施設での生産が可能になり、その後、使用場所、例えば病院施設への輸送が可能になる。
【0101】
ステップd)-活性化
HSPC-pDCが完全に機能的に活性化するために、細胞は、細胞の活性化をもたらす刺激分子に曝露される。
【0102】
したがって、本発明の一実施形態では、ステップd)は、アゴニスト、例えばTLR7/8アゴニスト及び/若しくはTLR9アゴニスト、並びに/又はSTINGアゴニスト及び/若しくはRIG-Iアゴニスト、並びに/又はウイルスアゴニスト、例えばA型インフルエンザ若しくは単純ヘルペスウイルス(HSV)の存在下、好ましくはTLR7/8アゴニスト及び/又はTLR9アゴニストの存在下で実施される。
【0103】
本発明の別の実施形態では、ステップd)は、TLR7アゴニスト及び/若しくはTLR9アゴニスト、並びに/又はSTINGアゴニスト及び/若しくはRIG-Iアゴニスト、並びに/又はウイルスアゴニスト、例えばA型インフルエンザ、ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)、若しくは単純ヘルペスウイルス(HSV)の存在下、好ましくはTLR7アゴニスト及びTLR9アゴニストの存在下の抗原、例えば腫瘍関連抗原又はウイルス抗原の存在下で実施される。
【0104】
好ましい実施形態では、ステップd)は、アゴニスト、例えばTLR7/8アゴニスト及び/又はTLR9アゴニストの存在下で実施される。
【0105】
さらに一実施形態では、ステップd)は、
- TLR7/8アゴニスト及び/若しくはTLR9アゴニスト、並びに/又はSTINGアゴニスト及び/若しくはRIG-Iアゴニスト、並びに/又はウイルスアゴニスト、例えばA型インフルエンザ、ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)、若しくは単純ヘルペスウイルス(HSV)の存在下の抗原、例えば腫瘍関連抗原若しくはウイルス抗原、好ましくはTLR7アゴニスト及びTLR9アゴニストの存在下の腫瘍関連抗原の存在下で、又は
- TLR7/8アゴニスト及び/若しくはTLR9アゴニスト、並びに/又はSTINGアゴニスト及び/若しくはRIG-Iアゴニスト、並びに/又はウイルスアゴニスト、例えばA型インフルエンザ、ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)、若しくは単純ヘルペスウイルス(HSV)、好ましくはTLR7/8アゴニスト及び/若しくはTLR9アゴニストの存在下で
実施される。
【0106】
別の実施形態では、活性化ステップd)において、前記活性化培地は、P/S及びIL-3とは異なる増殖因子を含まず、例えば、少なくともFlt3-L、TPO及びSCF、並びに小分子阻害剤SR1及びUM171を含まない。
【0107】
本発明のさらなる実施形態では、活性化ステップd)は、寛容原性改変化合物(tolerogenic modifying compound)、例えば、コルチコステロイドデキサメタゾン、シクロスポリン又はアセチルサリチル酸、IL-10又はTGF-ベータの存在下、好ましくはIL-10又はTGF-ベータの存在下で実施される。
【0108】
上述のように、アスコルビン酸は、本発明によるプロセスの間に増殖培地に添加される。アスコルビン酸(ビタミンC)は、免疫細胞機能及び造血を含む、細胞生物学において多面的機能を有することが知られているヒトの必須ビタミンである。さらに、アスコルビン酸はI型IFN免疫反応に関与している。
【0109】
一実施形態では、本発明の培地にはアスコルビン酸が補充される。
【0110】
さらに一実施形態では、ステップb)及びステップc)は、10~200μg/mLのアスコルビン酸、例えば10~150μg/mLの範囲、例えば10~100μg/mLの範囲、好ましくは25~75μg/mLの範囲、より好ましくは35~65μg/mLの範囲、又は例えば約50μg/mLのアスコルビン酸の存在下で実施される。
【0111】
別の実施形態では、ステップb)~ステップd)は、10~200μg/mLのアスコルビン酸、例えば10~150μg/mLの範囲、例えば10~100μg/mLの範囲、好ましくは25~75μg/mLの範囲、より好ましくは35~65μg/mLの範囲、又は例えば約50μg/mLのアスコルビン酸の存在下で実施される。
【0112】
別の実施形態では、アスコルビン酸は、10μg/ml、20μg/ml、30μg/ml、40μg/ml、50μg/ml、60μg/ml、70μg/ml、80μg/ml、90μg/ml又は100μg/mlの濃度で培地に添加される。好ましい実施形態では、アスコルビン酸は50μg/mlの濃度で培地に添加される。
【0113】
別の好ましい実施形態では、アスコルビン酸は生理学的濃度で培地に添加された。
【0114】
別の実施形態では、生理学的濃度はヒトの生理学的濃度である。
【0115】
本発明の方法により得られた/得ることができるHSPC-pDC
本発明の一態様は、本発明に係る方法によって得られた/得ることができるHSPC-pDCに関する。さらに、実施例8及び9に見られるように、本発明に係るHSPC-pDCは、当業者が細胞を他のpDCから区別できる特有で新規なRNA発現プロファイルを示す。
【0116】
好ましくは、HSPC-pDCは凍結保存されるか、又は例えば分化後に凍結保存されている。
【0117】
TLR7及びTLR9経路関連遺伝子は、その発現に特に関連している場合がある。したがって、一実施形態では、本発明に係るHSPC-pDCは、表3の遺伝子からなる群から選択される1つ以上の遺伝子を発現する(実施例9を参照のこと)。
【0118】
一実施形態では、HSPC-pDCは、上記又は表3に列挙した遺伝子のうちの少なくとも5個、例えば少なくとも10個、例えば少なくとも20個、例えば少なくとも30個、例えば少なくとも40個、又は例えば全てを発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。
【0119】
好ましい実施形態では、1つ以上の遺伝子は、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される。これらのTLR7及びTLR9経路関連遺伝子は、アスコルビン酸含有培地中でHSPC-pDCを生成すると、有意に差次的に発現される遺伝子である(全て上方制御される)(実施例9を参照のこと)。
【0120】
さらなる一実施形態では、本発明に係るHSPC-pDCは、
- AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- 血液から単離されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- アスコルビン酸の非存在下で、造血幹・前駆細胞(HSPC)から作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- ステップb)若しくはc)若しくはd)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、例えばステップb)~d)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現する。
【0121】
一実施形態では、HSPC-pDCは、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1の遺伝子のうちの少なくとも5個、例えば少なくとも7個、例えば少なくとも9個、例えば少なくとも11個、例えば少なくとも13個、又は例えば全てを発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。
【0122】
好ましい実施形態では、HSPC-pDCは、IRF7、IRF8、MYD88、NRP1、TLR7、TLR8、TLR9、及びUNC93B1のうちの少なくとも1つ、例えばIRF7、IRF8、MYD88、NRP1、TLR7、TLR8、TLR9、及びUNC93B1のうちの少なくとも3つ、例えば少なくとも5つ又は例えば全てを発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。
【0123】
以前に記載されるように、DCの異なるサブタイプが免疫系に存在する。従来のDC(cDC)が最も一般的であるのに対して、pDCはより稀少で特有の種類である。異なる種類の細胞を区別する1つの方法は表面マーカーの発現による。
cDCはCD11cの高発現を特徴とするのに対して、pDCはCD11cの低発現とCD123及びCD303の両方の高発現との組合せを特徴とする。さらに、cDC及びpDCの両方は、他の細胞系統(Lin-)、例えば、T細胞、単球、B細胞、マクロファージ、顆粒球などについてのマーカーの発現を欠くことを特徴とする。
【0124】
したがって、一実施形態では、本発明に係るpDCは、表現型Lin-/CD11c-/CD123+/CD303+を有する。
【0125】
本発明の特定の方法は、細胞の全体的な発現プロファイルにも影響を与える。したがって、一実施形態では、本発明に係るHSPC-pDCは、CD74、FTH1、HLA-DRB1、HLA-DPA1、IFITM3、FCER1G、S100A11、DEFA1、PSAP、DEFA4、CTSD、GRN、ITGB2、CD68、DEFA3、TYMP、CHI3L1、SERPING1、CTSZ、、RETN、HLA-DQA1、HLA-DPB1、IFI27、HLA-DRB3、C1QC、ALOX5AP、CTSB、BRI3、ANXA2、C1QB、CYBB、LGALS3BP、HLA-DMB、SOD2、CTSH、C1orf162、CTSS、EVI2B、CD81、C1QA、PRDX1、APP、GRINA、MX1、IL2RG、NCF1、FLNA、LGALS3、及びADA2からなる群から選択される1つ以上の遺伝子を発現する。これらの遺伝子は、本発明に係るpDCにおいて上方制御されることが特定されている(実施例8、表1を参照のこと)。
一実施形態では、HSPC-pDCは、上記又は表1に列挙された遺伝子のうちの少なくとも5個、例えば少なくとも10個、例えば少なくとも20個、例えば少なくとも30個、例えば少なくとも40個又は例えば全てを発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。
【0126】
さらなる一実施形態では、HSPC-pDCは、HLA-DRB1、HLA-DPA1、HLA-DQA1、HLA-DPB1、HLA-DRB3、及びHLA-DMBのうちの少なくとも1個、例えば、HLA-DRB1、HLA-DPA1、HLA-DQA1、HLA-DPB1、HLA-DRB3、及びHLA-DMBのうちの少なくとも3個、例えば少なくとも5個又は例えば全てを発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。それらはMHC-II遺伝子とみなされる。
【0127】
さらなる一実施形態では、本発明に係るHSPC-pDCは、
- 表1及び/若しくは表2及び/若しくは表3に列挙された遺伝子の群からの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- 血液から単離されたHSPC-pDCと比較して、表1及び/若しくは表2及び/若しくは表3に列挙された遺伝子の群からの増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- アスコルビン酸の非存在下で造血幹・前駆細胞(HSPC)から作製されたHSPC-pDCと比較して、表1及び/若しくは表2及び/若しくは表3に列挙された遺伝子の群からの増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- ステップb)若しくはc)若しくはd)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、例えば、ステップb)~d)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、表1及び/若しくは表2及び/若しくは表3に列挙された遺伝子の群からの増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現する。
【0128】
別の実施形態では、本発明に係るHSPC-pDCは、表2の遺伝子からなる群から選択される1つ以上の遺伝子を発現する(実施例8を参照のこと)。
【0129】
さらに一実施形態では、HSPC-pDCは、上記又は表2に列挙した遺伝子のうちの少なくとも5個、例えば少なくとも10個、例えば少なくとも20個、例えば少なくとも30個、例えば少なくとも40個、又は例えば全てを発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。
【0130】
好ましい実施形態では、HSPC-pDCは、AXL及びTLR7のうちの少なくとも1つ、又は少なくともAXL及びTLR7を発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。
【0131】
したがって、本発明に係る細胞は実際に、既知のHSPC-pDCと比較して、特有の細胞発現プロファイルを有する。
【0132】
本発明による活性化の後、HSPC-pDCはサイトカイン及びケモカインの産生を開始する。
【0133】
本発明の一実施形態では、活性化されたHSPC-pDCは、インターフェロン、例えばI型及び/若しくはII型及び/若しくはIII型インターフェロン、IL1-ベータ、IL-6、IL-8、TNF-アルファ、並びに/又はCXCR3、例えば、CXCR9、CXCL10及びCXCL11に対するリガンドを産生する。
【0134】
別の実施形態では、HSPC-pDCはインターフェロン(IFN)を産生する。
【0135】
好ましい実施形態では、HSPC-pDCは、活性化後にI型IFNを産生する。
【0136】
別の好ましい実施形態では、HSPC-pDCは、活性化後にII型IFNを産生する。
【0137】
活性化後に産生されたサイトカイン及びケモカイン、例えばIFNの量は、異なる要因に応じる。細胞が活性化前に本発明に係るI型及びII型インターフェロンでプライミングされる場合(ステップc)、pDCは、TLR7アゴニストによる刺激後に、500~4000U/mlの範囲でI型インターフェロンを産生する。TLR9アゴニストによる刺激は、プライミング後、1000~10.000U/mlのI型インターフェロン産生をもたらす。
【0138】
一実施形態では、HSPC-pDCは、細胞の活性化前に上述のサイトカイン及びケモカインを産生する。
【0139】
さらなる実施形態では、HSPC-pDCは、プライミングされずに上述のサイトカイン及びケモカインを産生する。
【0140】
さらなる実施形態では、本発明は、少なくとも170万個のpDC、例えば少なくとも200万個、500万個、1000万個、1500万個、2000万個、2500万個又は3000万個のpDCを含む、HSPC由来pDCの集団を提供する。
【0141】
HSPC-pDC
また、上記に概説したように、本発明に従って産生されたHSPC-pDCは、特有で新規なRNA発現プロファイルを示す(実施例8及び9を参照のこと)。特に、TLR7及びTLR9経路関連遺伝子は、その発現に特に関連している場合がある。したがって、本発明の一態様は、
- AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- 血液から単離されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- アスコルビン酸の非存在下で、造血幹・前駆細胞(HSPC)から作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- ステップb)若しくはc)若しくはd)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、例えばステップb)~d)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現する
単離されたHSPC-pDC細胞に関する。
【0142】
好ましくは、HSPC-pDCは凍結保存されているか、又は例えば分化後に凍結保存されている。
【0143】
関連する実施形態では、HSPC-pDCは、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1の遺伝子のうちの少なくとも5個、例えば少なくとも7個、例えば少なくとも9個、例えば少なくとも11個、例えば少なくとも13個、又は例えば全てを発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。再度、実施例9でも概説されるように、これらの遺伝子はTLR7及びTLR9経路関連遺伝子と考えられる。
【0144】
さらに一態様では、本発明に係るHSPC-pDCは、
- 表1及び/若しくは表2及び/若しくは表3に列挙された遺伝子の群からの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- 血液から単離されたHSPC-pDCと比較して、表1及び/若しくは表2及び/若しくは表3に列挙された遺伝子の群からの増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- アスコルビン酸の非存在下で造血幹・前駆細胞(HSPC)から作製されたHSPC-pDCと比較して、表1及び/若しくは表2及び/若しくは表3に列挙された遺伝子の群からの増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現し、並びに/又は
- ステップb)若しくはc)若しくはd)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、例えば、ステップb)~d)においてアスコルビン酸の非存在下で作製されたHSPC-pDCと比較して、表1及び/若しくは表2及び/若しくは表3に列挙された遺伝子の群からの増加したレベルの1つ以上の遺伝子を発現する。
【0145】
一実施形態では、HSPC-pDCは、上記又は表1、表2若しくは表3に列挙した遺伝子のうちの少なくとも5個、例えば少なくとも10個、例えば少なくとも20個、例えば少なくとも30個、例えば少なくとも40個、又は例えば全てを発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。
【0146】
好ましい実施形態では、HSPC-pDCは、AXL及びTLR7のうちの少なくとも1つ、又は少なくともAXL及びTLR7を発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。
【0147】
別の好ましい実施形態では、HSPC-pDCは、HLA-DRB1、HLA-DPA1、HLA-DQA1、HLA-DPB1、HLA-DRB3、及びHLA-DMBのうちの少なくとも1個、例えば、HLA-DRB1、HLA-DPA1、HLA-DQA1、HLA-DPB1、HLA-DRB3、及びHLA-DMBのうちの少なくとも3個、例えば少なくとも5個又は例えば全てを発現する(又はそれらの増加したレベルを発現する)。それらはMHC-II遺伝子とみなされる。
【0148】
再度、実施例8及び9に概説されるように(表1、2及び3も参照のこと)、本発明に従って作製された細胞は特有の発現プロファイルを有する。
【0149】
当然のことながら、態様からの実施形態は、本発明の他の態様と組み合わせることができることが理解されるべきである。したがって、例えば「本発明の方法によって得られた生成物(「プロダクト・バイ・プロセス」)」に関する実施形態は、本発明に係るHSPC-pDCに関する態様と組み合わせることもできる。
【0150】
医療用途
本発明に従って作製されたHSPC-pDCは、異なる疾患を治療する医薬として使用することができる。
【0151】
したがって、一実施形態では、本発明に係るHSPC-pDCは医薬として使用される。
【0152】
別の実施形態では、本発明に係るHSPC-pDCは、がんの治療又は緩和に使用するためのものである。
【0153】
さらに別の実施形態では、前記がんは、脳がん、神経膠芽腫、肺がん、結腸直腸がん、皮膚がん、悪性黒色腫、膵臓がん、膀胱がん、肝臓がん、乳がん、眼がん及び前立腺がんから選択される。
【0154】
さらに別の実施形態では、前記がんは、例えば、多発性骨髄腫、急性骨髄芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病及び慢性リンパ性白血病からなる群から選択される血液がんである。
【0155】
好ましい実施形態では、前記がんは、悪性黒色腫、乳がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、頭頸部がん、肝臓がん、肉腫又はB細胞リンパ腫である。
【0156】
がんの治療において本発明のHSPC-pDCを使用する非限定的な方法は、細胞への抗原負荷によるものである。HSPC-pDCは最も強力な抗原を表す細胞であり、一次免疫応答の開始に不可欠であるため、この方法が可能である。HSPC-pDCを目的の細胞に由来する抗原に曝露することにより、細胞は抗原を取り込み、周囲にその抗原を提示し始めることができる。これにより、ワクチンとして開始された場合、細胞は対象の免疫系を活性化する準備が完全に整っている。
【0157】
使用
本発明の別の態様は、HSPCの生存能力及び増殖を促進するため、並びにHSPC-pDCの発達及び機能性、例えば、活性化後のI型IFNの分泌を促進するための、CGMP無血清培地中のアスコルビン酸の使用に関する。
【0158】
本発明のさらなる態様は、HSPC-pDCにおけるサイトカイン及びケモカインの分泌を誘導するための、CGMP培地中のアスコルビン酸の使用に関する。
【0159】
一態様では、CGMP無血清培地中のアスコルビン酸の使用は、例えば、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N、及びUNC93B1からなる群から選択される、TLR7及びTLR9経路関連遺伝子の発現を誘導するためである。
【0160】
別の態様では、CGMP無血清培地中のアスコルビン酸の使用は、表1及び/又は表2及び/又は表3に列挙された遺伝子の1つ以上の発現を誘導するためである。
【0161】
本発明の態様のうちの一つの文脈において記載された実施形態及び特徴は、本発明の他の態様にも適用されることに留意されたい。
【0162】
別の実施形態では、本発明に係るHSPC-pDCは、自己免疫疾患及び移植拒絶反応の治療又は緩和に使用するためである。
【0163】
さらに別の実施形態では、前記自己免疫疾患は、セリアック病、炎症性腸疾患、バセドウ病、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ及び全身性エリテマトーデスである。
【0164】
好ましい実施形態では、前記自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性硬化症、及び乾癬である。
さらに別の実施形態では、前記移植拒絶反応には、軽度、中等度又は重度の移植片対宿主病が含まれる。
【0165】
好ましい実施形態では、前記移植拒絶反応は、軽度、中等度又は重度の移植片対宿主病である。
【0166】
自己免疫疾患又は移植拒絶反応の治療において、本発明のHSPC-pDCを使用する非限定的な方法は、細胞に抗原を負荷し、同時に寛容原性表現型を誘導することによるものである。この方法は、厳格な条件下でpDCを活性化させて、寛容原性表現型を得ることによって可能になる。寛容誘発性刺激剤、例えば、コルチコステロイドデキサメタゾン、シクロスポリン、アセチルサリチル酸、IL10又はTGF-ベータと組み合わせてHSPC-pDCを抗原に曝露することによって、寛容原性表現型がHSPC-pDCによって誘導される。HSPC-pDCは抗原を取り込み、周囲にその抗原を提示し始めることができる。これにより、ワクチンとして開始された場合、細胞は対象の免疫系を調節する準備が完全に整っている。
【0167】
別の実施形態では、本発明に係るHSPC-pDCは、感染症の治療又は緩和に使用するためである。
【0168】
さらに別の実施形態では、前記感染症には、コロナウイルス、例えば、SARS-CoV-2、エボラ、インフルエンザ、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肝炎及びジカウイルスが含まれる。
【0169】
好ましい実施形態では、前記感染症には、コロナウイルス、インフルエンザ及びHIVが含まれる。
【0170】
感染症の治療において、本発明のHSPC-pDCを使用する非限定的な方法は、細胞への抗原負荷によるものである。HSPC-pDCが最も強力な抗原を表す細胞であり、一次免疫反応の開始に不可欠であるため、この方法は可能である。HSPC-pDCを目的の細胞に由来する抗原に曝露することによって、細胞は抗原を取り込み、周囲にその抗原を提示し始めることができる。これにより、ワクチンとして開始された場合、細胞は対象の免疫系を活性化する準備が完全に整っている。
【0171】
治療組成物を調製する方法
本発明のさらなる実施形態では、治療組成物を調製する方法であって、
a)造血幹・前駆細胞(HSPC)を準備するステップ、
b)前記HSPCを分化させて前駆体-HSPC由来pDCを生成するステップ、
c)前記前駆体-HSPC由来pDCをインターフェロンでプライミングして、成熟HSPC由来pDCを得るステップ、
d)場合により、成熟HSPC由来pDCを活性化させてI型インターフェロンの分泌を誘導するステップ、
e)場合により、成熟HSPC由来pDCに抗原、例えば腫瘍抗原を負荷するステップ、又は成熟HSPC由来pDCに外因性構築物、例えばCAR-T構築物を形質転換するステップ、並びに
f)前記成熟HSPC由来pDCを治療組成物に製剤化するステップ
を含み、
ステップb)、c)及びd)が、アスコルビン酸を含む無血清培地中で実施され、好ましくは無血清培地はCGMPに準拠した培地である、方法を提供する。
【0172】
本出願において引用される全ての特許文献及び非特許文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0173】
ここで、本発明を以下の非限定的な実施例においてさらに詳細に説明する。
【0174】
[実施例]
[実施例1]
材料及び方法
CD34+ HSPCからのHSPC-pDCの生成
最適化レジメンに応じて、様々な供給源からの新鮮な又は凍結保存したHSPCを、異なる種類の培地を使用してHSPC-pDCに分化させた。STD及びLD/RPMI条件では、HSPCを、10%の熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)(HyClone(登録商標))、600μg/mLのL-グルタミン(Sigma)、200U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン(Gibco(登録商標)、Life Technologies)を補充したRPMI 1640(Lonza)で培養した。STD条件では、HSPCを、pDC分化の間、固定体積で培養したのに対して、LD条件では、0.5~5×106個の細胞/mLの固定密度で培養した。無血清(SFEM II)又はCGMP無血清培地(DC培地)条件では、HSPCを、低密度(0.5~5×106細の細胞/mL)でSFEM II又はDC培地で培養した。全ての条件では、サイトカイン及び増殖因子Flt3-L(100ng/mL)、SCG(100ng/mL)、TPO(50ng/mL)、IL-3(20ng/mL)を培地に補充した。本発明者らの以前のプロトコールとは対照的に、本発明者らはIL-7の添加を省略した。これがHSPC-pDC生成にプラスの影響を及ぼさなかったことを本発明者らが示したためである[10]。全てのサイトカインはPeprotech製である。さらに、小分子阻害剤であるStemRegenin 1(SR1、STEMCELL Technologies)を1μMの濃度で添加した。無血清培地条件では、20μg/mLのストレプトマイシン及び20U/mLのペニシリン(Gibco、Life Technologies)の濃度を添加した。さらに、CGMP DC培地条件では、50μg/mLのアスコルビン酸を添加した。細胞を、最適化に応じて、37℃、95%の湿度及び5%のCO2で最大21日間培養した。固定密度条件では、HSPCの成長に応じて2~4日ごとに培地を再補充した。HSPCの増殖及び分化の間の総細胞数を、TC20自動細胞カウンター(Bio-Rad)を使用して測定した。培養の最後に、製造業者の使用説明書(EasySepヒト形質細胞様樹状細胞濃縮キット、STEMCELL Technologies)に従って陰性選択キットを使用してHSPC-pDCを濃縮した。
【0175】
末梢血からのHSPCの単離
CD34+ HSPCを、製造業者の使用説明書(STEMCELL Technologies)に従って、ヒト全血CD34+細胞用のEasySep Complete Kitを使用して健康な献血者から精製した。簡潔に述べると、標準的なFicoll-Hypaque(GE Healthcare)密度勾配遠心分離の間、望ましくない細胞を標的とする二重特異性抗体を使用した場合にCD34+ HSPCの事前濃縮を実施した。続いて、抗CD34免疫磁気ビーズを使用してCD34+細胞を単離した(陽性選択)。CD34+ cHSPCは、新たに使用したか、又は使用するまで凍結保存した。
【0176】
臍帯血からのHSPCの単離
匿名化した臍帯血(UCB)試料を、Skejby University Hospitalの産婦人科で健康な乳児の予定された帝王切開による出産後に得た。同意は母親から得ていた。続いて、製造業者の使用説明書(STEMCELL Technologies)に従って、EasySepヒト臍帯血CD34陽性選択キットIIを使用して、CD34+臍帯血HSPC(CB-HSPC)を精製した。簡潔に述べると、標準的なFicoll-Hypaque(GE Healthcare)密度勾配遠心分離の間、望ましくない細胞を標的とする二重特異性抗体を使用した場合にCD34+細胞の事前濃縮を実施した。続いて、抗CD34免疫磁気ビーズを使用してCD34+細胞を単離した(陽性選択)。CD34+ CB HSPCは、新たに使用したか、又は使用するまで冷凍保存した。
【0177】
末梢血からのcHSPCの単離
軟膜試料を、Aarhus University Hospitalの血液バンクからの正常な健康なドナーから得た。続いて、製造業者の使用説明書(STEMCELL Technologies)に従って、ヒト全血CD34+細胞用のEasySep Complete Kitを使用してCD34+ cHSPCを精製した。簡潔に述べると、標準的なFicoll-Hypaque(GE Healthcare)密度勾配遠心分離の間、望ましくない細胞を標的とする二重特異性抗体を使用した場合にCD34+細胞の事前濃縮を実施した。続いて、抗CD34免疫磁気ビーズを使用してCD34+細胞を単離した(陽性選択)。CD34+ cHSPCは、使用するまで凍結保存した。
【0178】
CB-HSPC又はcHSPCの事前増殖
HSPCを事前増殖させるために、細胞を、SFEM II(STEMCELL Technologies)又はSCGM(CellGenix)中に低密度(1×105個の細胞/mL)で播種して、それぞれ非CGMP条件又はCGMP条件を可能にした。20μg/mLのストレプトマイシン及び20U/mLのペニシリン(Gibco、Life Technologies)、並びに100ng/mLの増殖因子Flt3-L、TPO及びSCF(Peprotech)を培地に補充した。さらに、小分子阻害剤であるStemRegenin 1(1μM、SR1 STEMCELL Technologies)及びUM171(35nM、STEMCELL Technologies)を培地に補充した。事前増殖の期間全体を通じて、細胞を低密度(1~5×105個の細胞/mL)に保ち、培地を少なくとも3日ごとに再補充した。細胞を最大8日間事前増殖させた後、CryoStor10(CS10、STEMCELL Technologies)を使用して凍結保存した。解凍してから、細胞をCD34発現について検証した。
【0179】
HSPC-pDCのプライミング
HSPC-pDCのプライミングを以前に記載されているように実施した[10]。単離したHSPC-pDCを、分化を行ったものと同じ培地(RPMI 1640、SFEM II又はDC培地のいずれか)でプライミングした。培地から増殖因子を枯渇させ、P/S又はIL-3(20ng/mL)のみを補充した。pDCを、250U/mLのIFN-β(PBL Assay Science)及び250U/mLのIFN-γ(Peprotech)でプライミングしたか、又はプライミングせずに放置した。DC培地中で分化したHSPC-pDCでは、50μg/mLのアスコルビン酸も培地に補充した。細胞を3日間プライミングした後、表現型又は機能的に特徴付けた。
【0180】
TLR7又はTLR9アゴニストの活性化
I型IFNを産生するHSPC-pDCの能力を解析するために、4×104個のpDCを、分化を行ったものと同じ培地(RPMI 1640、SFEM II又はDC培地のいずれか)入りの96ウェルプレートに播種した。培地には増殖因子が含まれず、P/S及びIL-3(20ng/mL)のみを補充した。続いて、2.5μg/mLの最終濃度でTLR7(R837、tlrl-imq、InvivoGen)又はTLR9(CpG-A 2216、tlrl-2216-1、InvivoGen)に対する指向性を有するアゴニストで細胞を刺激した。刺激から20時間後に上清を採取し、解析するまで-20℃で凍結保存した。
【0181】
機能的I型IFNの評価
機能的I型IFNを定量するために、製造業者の使用説明書(InvivoGen)に従って、レポーター細胞株HEK-blue IFN-α/βを利用した。細胞株を、10%の熱不活性化FCS、100μg/mLのストレプトマイシン及び200U/mLのペニシリン(Gibco、Life Technologies)、100μg/mLのノルモシン(InvivoGen)、30μg/mLのブラストサイジン(InvivoGen)及び100μg/mLのゼオシン(InvivoGen)を補充したDMEM+Glutamax-1(Gibco(登録商標)、Life Technologies)中に維持した。1×トリプシン(Gibco、Life Technologies)を使用して細胞を継代し、20回より多く継代しなかった。HEK-blue IFN-α/β細胞株を、IRF9及びSTAT2を発現するHEK293細胞の安定したトランスフェクションによって生成した。さらに、細胞株を、ISG54プロモーターの制御下で分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)をコードするレポーター遺伝子を発現するように改変した。SEAPの活性を、QUANTI-Blue(InvivoGen)を使用して評価した。色の変化を、SpectraMax iD3プレートリーダー(Molecular Devices)を使用して620nmの光学密度(OD)で測定した。標準曲線を作成するために、hIFNa2(PBL Assay Science)を使用し、これは2~500U/mLの範囲であった。
【0182】
フローサイトメトリーを使用した細胞の表現型解析
フローサイトメトリーを使用してpDCの免疫表現型を決定した。簡潔に述べると、細胞を遠心沈殿させ、100μLのPBSに再懸濁した。細胞を、Ghost Dye Red 780 Viability Dye(13-0865、Tonbo)で30分間染色し、その後、FACS緩衝液(2%のFCS及び1mMのEDTAを含むPBS)で洗浄した。その後、細胞を50μLのFACS緩衝液に再懸濁し、以下の抗体で染色した:FITC抗ヒトLineage Cocktail(CD3(UCHT1)、CD14(HCD14)、CD16(3G8)、CD19(HIB19)、CD20(2H7)及びCD56(HCD56)、348801、BioLegend)、APC抗ヒトCD11c(3.9、20-0116-T100、TonboBio)、PE抗ヒトCD123(6H6、12-1239-42、eBioscience)、PE-Cy7抗ヒトCD303(201a、25-9818-42、eBioscience)。細胞を30分間染色し、その後、FACS緩衝液で3回洗浄した。HSPC上のCD34+の発現を検証するために、細胞をPE-Cy7抗ヒトCD34(581、343516、BioLegend)で30分間染色し、FACS緩衝液で3回洗浄し、その後、FACS緩衝液に再懸濁した。PIを1:100の濃度で生存性染料として細胞に添加した(13-6990 Tonbo Bioscience)。4つのレーザー(405nm、488nm、561nm及び637nm)及び29個の光電子増倍管(PMT)検出器を備えたQuanteonフローサイトメーター、又は2つのレーザー(488nm及び561nm)及び12個のPMT検出器を備えたNovoCyteフローサイトメーター(ACEA Biosciences,Inc.)を使用して蛍光強度を測定した。FlowJo(バージョン10、Tree Star、Ashland、OR、USA)を使用してデータ解析を行った。個々のゲーティングストラテジーは補足図に示されており、図の凡例で概説されている。
【0183】
統計解析
Graphpad Prism 8.0(GraphPad Software、San Diego、CA.USA)を使用して全てのデータをプロットした。生物学的レプリケートの平均値+/-平均値の標準誤差(+/-SEM)としてデータを示す。一元配置又は二元配置分散分析、その後のボンフェローニ事後検定を使用して群間の統計的有意差を決定した。*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.0001。
【0184】
[実施例2]
低密度HSPC培養はpDCの増殖及び収量を改善する
研究の目的
収量に対するHSPCの低密度増殖の効果を決定すること。
【0185】
材料及び方法
実施例1を参照のこと。
【0186】
結果
HSPCからpDCへの分化について以前に公開されたプロトコールは、固定体積の培地を使用して固定日に培地交換に基づく高密度培養パラダイムを使用した。以前の研究により、低密度培養条件でのex vivoでのHSPCの培養が、HSPCの細胞周期への移行を刺激し、それによってHSPCの増殖を支持することが実証されている[11]。したがって、本発明者らは、本発明者らの標準培養プロトコール(SCP)を、細胞をより頻繁に分割し、培養の概観のためにどの時点でも5×106個の細胞/mLを超える密度に達することができなかった低密度(LD)プロトコールと比較した(培養の概要については図1A~Dを参照のこと)。21日の培養の間、本発明者らは、低密度のプロトコールが、標準的なプロトコールと比較してHSPCの著しく高い増殖がもたらされることを観察した(図1E)。2×105個のHSPCから開始すると、本発明者らは、標準条件での0.055×109個(±0.001×109個)と比較して1.5×109個(±0.7×109個)の平均数の総細胞を得ることができた(図1E)。
【0187】
次に、本発明者らは、非pDCの免疫磁気枯渇を使用してHSPC-pDCを単離した。重要なことに、本発明者らは、低密度培養プロトコールが、HSPC-pDC数を大幅に増加させることも見出した。2×105個のHSPCから開始すると、単離したHSPC-pDCの平均収量は201×106(±58.7×106)個であったのに対して、標準条件では10.4×106(±2.3×106)個のHSPC-pDCであった(図1F)。これは、単一のCD34+ HSPCあたり1005(±293)個のHSPC-pDCの平均収量であり、標準条件に対して平均19倍の向上である。培養密度は、21日の培養期間の間の細胞の生存率に影響を与えず(図1C)、21日で生成された総細胞のうちのHSPC-pDCの割合にも影響を与えなかった(図1G)。しかしながら、低密度培養から単離したHSPC-pDCの生存率のわずかな減少が検出された(図1D)。pDCは、TLR7又はTLR9に対する指向性を有するアゴニストに応答して非常に大量のI型IFNを分泌することが知られている[1]。以前に、本発明者らは、単離したHSPC-pDCが、機能的に活性になり、TLR7及びTLR9アゴニストに応答するために、培養培地にI型及びII型IFNを添加することによるプライミングを必要とすることを示した[10]。したがって、本発明者らは次に、単離したHSPC-pDCを3日間プライミングし、続いてTLR7及びTLR9アゴニストで細胞を刺激した。低密度条件下と標準条件下で生成したHSPC-pDCのI型IFN反応の評価により、TLR7アゴニストで刺激した場合に差は示されず、TLR9アゴニストで刺激した場合に低密度条件でわずかな改善が示された(図1H)。単離したHSPC-pDC(Lin-CD11c-CD123+CD303+)のフローサイトメトリーによるpDC表面マーカーの表現型解析により、2つの培養条件間に明らかな差は示されなかった(データは示さず)。
【0188】
結論
本実施例は、HSPCの低密度増殖がHSPC-pDCの収量を増加させることを示す。
【0189】
[実施例3]
無血清培地はHSPCの増殖を改善し、pDC収量を増加させる
研究の目的
従来の細胞培養培地は、血清の不明確で非常に変動しやすい性質のため治療的使用に依然として課題が存在している。本発明者らは、HSPC-pDCが無血清培地を使用して生成できることを以前に示したので、本発明者らは、市販の無血清培地(SFEM II培地)を本発明者らの新しく定義した低密度条件(実施例2を参照のこと)と組み合わせることにより、機能性及び収量が改善する可能性がある、より効率化したHSPC-pDC作製プロトコールが構成されることを理論的に説明した。
【0190】
さらに、本発明者らは、低密度培養でのHSPCのより高い増殖率により、機能的HSPC-pDCのより早い単離が可能になり、それによって潜在的な将来の臨床製品の製造コスト及び期間が削減されるかどうかを評価することを望んだ。
【0191】
材料及び方法
低密度プロトコール(実施例2)で得られた高収量により、開始細胞数を2×105個から1×105個のHSPCに減少させることを促しても、その後の解析のために十分な数のHSPC-pDCを依然として生成する。
【0192】
実施例1及び2も参照のこと。
【0193】
結果
次に本発明者らは、低密度条件でSFEM IIを従来の血清ベースの培養培地(RPMI)と比較した(培養の概要については図2A~Bを参照のこと)。細胞を21日間培養し、一方で、HSPC-pDCを16、18及び21日目に免疫磁気選択によって単離した。本発明者らは、血清を含むRPMIと比較して、SFEM IIがHSPCの増殖を有意に促進することを見出した(図2C)。1×105個のHSPCから開始して、SFEM IIでは21日目に平均2.4×109(±0.6×109)個の総細胞が生成されたのに対して、RPMIでは0.7×109(±0.4×109)個の総細胞であった(図2C)。また、SFEM IIを使用した高い増殖率により、3つ全ての単離時点で顕著に高い収量の単離したHSPC-pDCが得られ、SFEM IIを使用した21日間の培養後に最大で580×106個のHSPC-pDC(±123×106)HSPC-pDCが単離された(図2D)。16日間の分化後でも、わずか0.1×106個のHSPCから開始して100×106個(±22.2×106)のHSPC-pDCを単離できた。HSPC-pDCの同様のパーセンテージのように、細胞培養においてHSPC-pDCの割合に影響を与えなかったSFEM IIへの移行は、3つ全ての単離時点にわたって観察され、pDCが培養の間に継続的に分化することが示された(図2E)。重要なことに、どの時点又は条件でも、単離したHSPC-pDCの生存率に差は観察されなかった(図2F)。次に本発明者らは、作製したHSPC-pDCのTLR7及びTLR9活性化アッセイを実施し、これにより、SFEM IIを使用して生成した細胞が、I型IFNを産生する高い能力を提示することが示された(図2G~H)。興味深いことに、本発明者らは、より早い時点で単離したHSPC-pDCが、TLR9活性化時に著しく多くのI型IFNを産生することを観察し、HSPC-pDCの増殖能と免疫療法特性との間に平衡が存在することを示唆している。lin-CD11c-細胞上のpDC関連表面マーカーCD123及びCD303の表現型解析により、時点及び条件にわたる差は示されなかった(図2I~J)。
【0194】
結論
総合すると、これらのデータは、HSPCの増殖及び単離したHSPC-pDC生成の機能性が、血清を補充したRPMIと比較して、無血清培地SFEM IIを使用して改善されたことが示される。これにより、細胞の機能性を改善し、高い細胞収量を維持しながら、HSPC-pDCのより早い単離が可能になる。
【0195】
[実施例4]
ピリミド-インドール誘導体UM171を補充した低密度培養によりHSPCの事前増殖が可能になる
研究の目的
HSPC-pDCの収量をさらに増加させることを追求して、次に本発明者らは、pDC分化プロトコールを開始する前にHSPCの事前増殖を調査した。HSPCのex vivo培養の基本的な制限は、幹・前駆細胞の急速な分化であり、これにより次に幹細胞の自己再生を制限する抑制性フィードバックシグナルが生成される。最近の刊行物により、小分子UM171及びSR1と組み合わせた低密度でのHSPCのex vivo培養が、原始造血前駆細胞及び長期再定着造血幹細胞(LT-HSC)の自己再生を促進することが見出された[11、12]。これに基づいて、本発明者らは、事前増殖HSPCプロトコールをpDC分化前に実装でき、非常に限られた数のCD34+ HSPCが高収量のHSPC-pDCを産生できる可能性があるかどうかの試験を開始した。
【0196】
材料及び方法
実施例1~3を参照のこと。
【0197】
結果
HSPCを低密度濃度(0.1~0.5×106個の細胞/mL)で最大8日間培養し(図3A)、その間、細胞は顕著に増殖し、8日間の事前増殖の間、平均で78(±14)倍の増殖であった(図3B~C)。増殖したHSPCを、並行してpDC分化研究を開始できるように、増殖から4、6又は8日後に凍結保存した。解凍すると、増殖したHSPCは生存し、HSPC表面マーカーCD34+に対して陽性(>95%)のままであり、増殖していないHSPCと比較して差はなかった(データは示さず)。しかしながら、CD34の表面発現レベル(MFI)は、増殖の最初の開始4日間の間に増加し、その後、時間の経過とともに再び減少するようであった(データは示さず)。次に、確立された低密度SFEM II培養プロトコール(実施例2を参照のこと)を使用して、異なる事前増殖期間後に単離した同数のHSPC-pDCで並行pDC分化を開始した。本発明者らは、6日間及び8日間の事前増殖を受けたHSPCが、pDC分化の間の増殖の減少を示したが、分化全体にわたる生存率は全ての条件で高いままであったことを観察した(図3D及びデータは示さず)。成長の停滞は、pDC分化の後期の間の付着細胞数の増加と相関しており、これらの付着細胞は、cDC又はマクロファージを示す長い突起を有する形態を提示した(データは示さず)。これは、長期にわたる事前増殖が、造血前駆細胞の分化及び増殖能に影響を及ぼし、これが次にpDC分化に影響を与える場合があることを示す。したがって、同じ開始細胞数からHSPC-pDC分化を開始する場合、免疫磁気的に分離されたHSPC-pDCの収量が、特に21日間のpDC分化と組み合わせた場合、長期にわたる事前増殖で低下することが観察された(データは示さず)。細胞がより長い期間事前増殖されたので、総細胞集団に対するHSPC-pDCのパーセンテージの進行性の低下も観察された(図3E)。それにもかかわらず、事前増殖の倍率を考慮すると、事前増殖により非常に多くの数のpDCを生成することができた(図3F)。HSPCの4日間の事前増殖及び21日間のpDCの分化により、事前増殖を適用しなかった場合の0.9×109(±0.3×109)個のHSPC-pDCに対して、3.1×109(±1.2×109)個のHSPC-pDCを生成できた。同様に、16日目の早期のpDC単離では、4日間の事前増殖を適用した場合、平均で4.7×108(±1.1×108)個のHSPC-pDCが得られた(図3F)。
【0198】
次に、本発明者らが、生成したHSPC-pDCをプライミングし、細胞の表現型及び機能的パラメーターを評価する実験を本発明者らは設定した。興味深いことに、本発明者らは、TLR7又はTLR9アゴニストによる活性化時にI型IFNを分泌するHSPC-pDCの機能的能力が、細胞が長期間事前増殖された場合に大きく影響されることを見出した(図3G~H)。これは、TLR9媒介性I型IFN反応に対して特に顕著であり、6日間又は8日間の事前増殖を適用すると大幅に減少した。逆に、CD123及びCD303の表面発現は培養期間による影響を受けなかった(データは示さず)。
【0199】
結論
全体として、これらのデータは、培養時間が長くなるほど機能性が低下する傾向を示しており、これは、長期の細胞培養の間の一種の機能的枯渇を反映している可能性がある。まとめると、本発明者らはここで、長期にわたる事前増殖及び長期のpDC分化培養が、生成したHSPC-pDCの機能性に大幅に影響を与えることを示す。それにもかかわらず、4日間の限られた事前増殖期間を16日間のHSPC-pDCの早期単離と組み合わせると、高収量の機能的なHSPC-pDCを生成することができる。
【0200】
[実施例5]
CGMPに準拠した培地の使用により、TLRアゴニストに応答するHSPC-pDCの能力が無効になる
研究の目的
定義された培地及び合成により作製された培養基質の使用における最近の技術進歩により、幹細胞の成長及び分化の単純性及び予測可能性の両方が顕著に改善された。臨床データが免疫療法におけるpDCの有望性を強調しており、臨床細胞産物はCGMPに基づいて産生しなければならないため、本発明者らは、本発明者らの培養プロトコールにCGMPに準拠した培地を実装することを追求した。
【0201】
材料及び方法
実施例1~4を参照のこと。
【0202】
結果
本発明者らは、2つの市販のCGMPに準拠した無血清培地「SCGM」及び「DC培地」を使用してpDC分化実験を実施した。本発明者らは既に市販の無血清培地(SFEM II)を使用していたため、本発明者らは、複雑ではない移行であると想定した。
【0203】
興味深いことに、本発明者らは、HSPCをCGMP培地で培養した場合、pDC分化の間の細胞の増殖が大幅に減少することを見出した(図4A)。しかしながら細胞生存率は培養期間を通じて高いままであったが、培養から単離できたHSPC-pDCの数は増殖の低下に応じて減少した(図4B~C)。単離したHSPC-pDCの生存率及び総細胞集団に対するそれらの割合はほとんど影響を受けず(図4D及びデータは示さず)、それらの機能性が影響を受けないままであるという考えを本発明者らにもたらした。
【0204】
注目すべきことに、3つ全ての培養条件から単離したHSPC-pDCは、pDCマーカーであるCD123及びCD303を表現型的に同程度に発現したが、2つのCGMPに準拠した培地で培養した細胞は、TLR7又はTLR9アゴニスト活性化時にI型IFNを産生する能力を完全に欠如しているか、又は大幅に減少していることを見出した(図4E)。
【0205】
結論
これらのデータは、TLR7又はTLR9アゴニストの活性化時にI型IFNを産生する能力が大幅に減少するため、CGMP培地に切り替えるのは簡単なタスクではないことを示す。
【0206】
[実施例6]
アスコルビン酸はCGMP培地を使用して作製されたHSPC-pDCの機能を回復させる
研究の目的
ビタミンC(アスコルビン酸、AA)は、免疫細胞機能及び造血を含む、細胞生物学において多面的機能を有することが知られているヒトの必須ビタミンである。興味深いことに、AAはI型IFN免疫応答に関与することが示されている。ヒトとは異なり、マウスはAAを合成することができるが、興味深いことに、AAを合成する能力を欠くトランスジェニックマウスは、TLR活性化及びインフルエンザ感染時にI型IFNを産生する能力の低下を示し、AAがTLR活性又はpDC発生のいずれかにおいて役割を果たすことを示している。pDCの機能の発生における役割の確かな証拠を提供する報告はないが、ある研究では、AAの補充がHSPCからのex vivo分化の間にDC収量を増加させることができることが示されているが、pDCの機能性におけるその重要性は調査されていなかった[9]。造血及びIFN反応におけるAAの役割に関する証拠を考慮して、本発明者らは、本発明者らの培養培地へのAAの添加が、pDC分化の間のHSPCの増殖及び生存率を改善するという仮説を立てた。その目的を達成するために、本発明者らは、CGMPに準拠した「DC培地」に焦点を当てた培養系を検討し、本発明者らは、HSPC-pDC分化の間の生理学的濃度のAA(50μM)の添加を調査した[13]。
【0207】
材料及び方法
実施例1~5を参照のこと。
【0208】
結果
本発明者らは、AAを補充したDC培地が、HSPC-pDC分化の間の増殖をSFEM II培養条件と同様のレベルまで有意に促進することを見出した(DC培地+AAでは33,554倍(±11,664)の増殖に対して、DC培地のみでは13,456倍(±6,953)の増殖)(図5A)。さらに、AAの添加により、培養の間、特に培養の後期(12日目+)の間の増殖しているHSPCの生存率が顕著に改善した(図5B)。さらに、本発明者らは、21日目に単離したHSPC-pDCの生存率が、DC培地単独と比較してAA添加により顕著に増加することも見出した(92.0%±3.4%対72.8%±3.2%)(データは示さず)。したがって、HSPC-pDCの収量は、細胞の総集団のうちのHSPC-pDCのパーセンテージに影響を及ぼさずに(図5D)、21日目に単離したHSPC-pDCに対するAA補充により顕著に増加した(0.1×106個のCD34+ HSPCあたり、DC培地+AAでは1.0×109±0.4×109個のHSPC-pDCに対して、DC培地単独では0.5×109±0.3×109個)(図5C)。異なる条件について培養の16日目に単離したHSPC-pDCの収量に統計的に有意な差は観察されなかった。次に本発明者らは、合成TLR7及びTLR9アゴニストでプライミングされた及びプライミングされていないHSPC-pDCを刺激し、I型IFN反応を評価した。興味深いことに、本発明者らは、AA培養物から生成したHSPC-pDCが、16日目及び21日目の両方に単離した細胞についてDC培地単独とは対照的に、ロバストなI型IFN反応を一貫して誘発することを見出した(図5E~F)。この応答は、SFEM II培地を使用して生成したHSPC-pDCの応答を超えることさえ見出された。以前に観察されたように、培養の16日目に単離したHSPC-pDCは、21日目に単離した細胞と比較して、TLR7又はTLR9の活性化によりI型IFNを産生する能力の改善を提示した(図5E~F)。マーカーCD123及びCD303の表面発現の解析により、本発明者らは、16日目にAAを補充した培養物から単離したpDCが、より低いCD303発現レベルを提示したことを見出した。しかしながら、条件間でCD303を発現する細胞のパーセンテージに統計的有意性は観察されなかった(図5G~H)。注目すべきことに、CD123の高い表面発現を示すHSPC-pDCの小さな異なる集団がAA補充により観察された(データは示さず)。この集団はまた、同じ程度ではなく、解析した全てのドナーについてでもないが、SFEM II培養条件でも観察された。
【0209】
結論
まとめると、これらのデータは、CGMPに準拠した培地を使用した場合、HSPCの増殖の増加、増殖している細胞及び単離したHSPC-pDCの生存率の改善、並びに単離したHSPC-pDCの機能性の両方により、AAがHSPCからのpDCのex vivo分化に不可欠であることを実証する。
【0210】
[実施例7]
全血からのHSPC-pDCの生成
研究の目的
現在までに、2つの臨床試験により、細胞ベースのがん免疫療法としての自己末梢血由来pDCの使用が報告されている[5、6]。両方の試験において、pDCは、良好な耐容性を示しながら、抗腫瘍反応を効果的に促進することにより有益な抗腫瘍反応を誘導することが見出された。白血球除去療法の使用にもかかわらず、単離され得る少数の末梢血pDCが、依然として重要な制限要因となっている。対照的に、直接骨髄穿刺又は動員レジメンの投与後の血液白血球除去療法のいずれかによって単離された患者由来のHSPCの分化によって、多数のpDCを生成することができる。しかしながら、これらの処置は侵襲的で痛みを伴い、副作用を伴うか、又は動員薬を複数日投与する必要がある。研究目的のために、例えば、HSPC-pDCの機能及び自己記憶細胞に対する抗原提示を調査するために、これらの処置によって取得したHSPCは高価であり、入手するのが困難な可能性がある。HSPCについての代替の供給源は、限られた数の自然に循環するCD34+ HSPC(cHSPC)が見出され得る末梢全血である。しかしながら、これらの細胞の希少性により、今までのところ治療目的のためのそれらの使用は限られており、さらに、自己再生するそれらの能力及び分化能もHSPCの他の供給源よりもはるかに低いことも報告されている。本発明者らのデータに基づいて、本発明者らは、本発明者らの高収量分化プロトコールにより、治療上関連する数のHSPC-pDCをcHSPCから生成できると推論した。
【0211】
材料及び方法
実施例1を参照のこと。
【0212】
結果
本発明者らは、(約450mLの全血から)軟膜を取得し、CD34免疫磁気陽性選択を使用してCD34+ cHSPCを単離した。本発明者らは、以前の観察と一致して、1mLの血液あたり2457個のcHSPC(±1307個のcHSPC)に相当する1.1×106個のCD34+ cHSPC(±0.6×106個のcHSPC)の平均数を得た(データは示さず)。次に本発明者らは、cHSPCの事前増殖及びその後のpDC生成が実行可能であるかどうかを体系的に評価した。したがって、本発明者らは、事前増殖されていないか、又は4日間事前増殖され、その後凍結保存された同じドナーからの凍結保存したcHSPCの16日間のpDC分化培養を並行して開始した。完全にCGMPに準拠したプロトコールでは、CGMPに準拠したSCGM培地を使用して事前増殖を実施し、CGMPに準拠したDC培地+AAを使用してpDC分化を実施した。事前増殖の間、cHSPCは4.6倍(±1.5倍)に増殖し、CD34発現を保持した(データは示さず)。16日間のpDC分化の間、本発明者らは、事前増殖されていないcHSPCでは総細胞数の257倍(±91倍)の増殖に対して、4日間事前増殖されたcHSPCでは192倍(±126倍)の増殖を観察した(図6A)。1×105個のcHSPCから開始した場合、免疫磁気選択後のcHSPC-pDCの総収量は、事前増殖なしで3.5×106個のcHSPC-pDC(±2.9×106個)であった(図6B)。4日間の事前増殖を伴う最適化したセットアップを使用すると、8.0×106個のcHSPC-pDC(±4.5×106個)の平均収量を観察した(図6B)。事前増殖した条件では、これは単一のcHSPCあたりに生成される80個のcHSPC-pDCに相当する。生成した総細胞集団のうち、cHSPC-pDCは、事前増殖したcHSPCでは平均で23%を占めた(図6C)。予想通り、観察された事前増殖、分化能及び収量は、CB-HSPCと比較してcHSPCでは低かったが、得られたpDCの頻度は同様であった。重要なことに、cHSPC-pDCはTLR7又はTLR9刺激によりI型IFNを産生することができ、細胞はCB由来のHSPC-pDCと同様のpDC表面表現型を提示した(図6D~E、データは示さず)。本発明者らが以前に観察したように、AAはcHSPC-pDC TLR7及びTLR9媒介性I型IFN産生に必要であった(図6F~G)。
【0213】
結論
まとめると、本発明者らは、単純な血液試料から多数の機能的HSPC-pDCを生成でき、これにより、pDC生物学の基礎研究及び免疫療法目的のためのpDCを生成する手順が非常に単純化されることを実証する。
【0214】
[実施例8]
HSPC-pDCのRNA配列決定
研究の目的
アスコルビン酸(AA)の存在下又は非存在下で生成されたHSPC-pDC間の遺伝子発現プロファイルの差を決定すること。
【0215】
材料及び方法
HSPCを解凍し、アスコルビン酸(AA)を補充した又は補充していないDC培地に1×105個の細胞を播種した。培地中にAAを含む又は含まない16日間の分化後、非pDCの免疫磁気枯渇によってpDCを単離し、次いでHSPC-pDCをIFN-β/γで72時間プライミングした。
【0216】
プライミング後、DNase処理を必要とせずに効率的にゲノムDNAを除去する、RNeasy Plus Micro Kit(Qiagen)を使用して全RNAを抽出するまで、HSPC-pDCをRNAprotect Cell Reagent(Qiagen)中で-80℃にて保存した。全RNAを、RNA配列決定のためにBGI Europeに送った。ここでは、非鎖及びポリAで選択されたmRNAライブラリーを全RNAから調製し、BGISEQプラットフォームを使用してPE100配列決定に供した。試料を、試料あたり平均約4.84Gbの塩基で生成した。低品質のリードをフィルタリングし、残りのリードを、92.74%の参照ゲノムとの平均マッピング比、79.90%の平均遺伝子マッピング比でゲノムにマッピングした。合計18,412個の遺伝子を特定した。遺伝子発現をリードに基づいて計算し、差次的に発現した遺伝子及び遺伝子オントロジー解析を、BGIのソフトウェア解析プラットフォームDr.Tomで解析した。
【0217】
実施例1も参照のこと。
【0218】
結果
本発明者らは、上方制御遺伝子及び下方制御遺伝子に以下の閾値を適用した場合、AAを用いた条件において916個の上方制御遺伝子及び334個の下方制御遺伝子を得た:|log2FC|>=1(FC=倍率変化)及びQ値<=0.05(図8A)。
【0219】
アスコルビン酸を用いて生成したHSPC-pDCにおいて差次的に発現した遺伝子についての20の最もエンリッチされた生物学的プロセスは、主に免疫学的経路に関連していた(図(8B)。
【0220】
AAを用いて生成したHSPC-pDCにおいて50個の最も高度に発現した遺伝子のリストを作成した。このリストの組み入れ基準はさらに、観察された上方制御が統計的に有意であることであった。これらの遺伝子を表1に列挙する。
【0221】
【表1】
【0222】
したがって、表1は、アスコルビン酸を用いて生成したHSPC-pDCにおいて最も高度に発現され、アスコルビン酸を用いずに生成したHSPC-pDCと比較して有意に上方制御された、両方の上位50個の遺伝子を示す。
【0223】
AAを用いて作製したHSPC-pDCにおいて50個の最も上方制御した遺伝子のリストも作成した。このリストの組み入れ基準は、遺伝子が統計的に有意に上方制御したこと、及び遺伝子が+AA条件において10より高いFPKMリードカウント(100万キロベースあたりの断片;FPKM)を示すことであった。これらの50個の遺伝子を表2に列挙する。
【0224】
【表2】
【0225】
結論
結論として、本発明者らは、本発明に係る方法によって生成したHSPC-pDCが、培地中にアスコルビン酸(AA)を含めずに生成したHSPC-pDCと比較して、特有で新規な遺伝子プロファイルを発現することを示す。
【0226】
[実施例9]
HSPC-pDCのRNA配列決定
研究の目的
アスコルビン酸(AA)の存在下又は非存在下で生成したHSPC-pDC間のTLR7及びTLR9経路関連遺伝子の発現プロファイルの差を決定すること。
【0227】
材料及び方法
HSPCを解凍し、アスコルビン酸(AA)を補充した又は補充していないDC培地に1×105個の細胞を播種した。培地中にAAを含む又は含まない16日間の分化後、非pDCの免疫磁気枯渇によってpDCを単離し、次いでHSPC-pDCをIFN-β/γで72時間プライミングした。
【0228】
プライミング後、DNase処理を必要とせずに効率的にゲノムDNAを除去する、RNeasy Plus Micro Kit(Qiagen)を使用して全RNAを抽出するまで、HSPC-pDCをRNAprotect Cell Reagent(Qiagen)中で-80度にて保存した。全RNAを、RNA配列決定のためにBGI Europeに送った。ここでは、非鎖(non-stranded)及びポリAで選択されたmRNAライブラリーを全RNAから調製し、BGISEQプラットフォームを使用してPE100配列決定に供した。試料を、試料あたり平均約4.84Gbの塩基で生成した。低品質のリードをフィルタリングし、残りのリードを、92.74%の参照ゲノムとの平均マッピング比、79.90%の平均遺伝子マッピング比でゲノムにマッピングした。合計18,412個の遺伝子を特定した。遺伝子発現をリードに基づいて計算し、差次的に発現した遺伝子及び遺伝子オントロジー解析を、BGIのソフトウェア解析プラットフォームDr.Tomで解析した。
【0229】
実施例1も参照のこと。
【0230】
結果
本発明者らは、TLR7及びTLR9経路に関連する54個の遺伝子を選択し、培地中のAAを含めて又は含めずに生成したHSPC-pDCの遺伝子発現レベルを解析した(表3)。
【0231】
【表3】
【0232】
本発明者らは、17個の遺伝子が統計的に有意に発現したことを見出した(HSPC-pDC生成の間に培地にAAを含めると全てが上方制御した)。これらの遺伝子には、AP3S2、CLEC4C、FCER1G、IRF7、IRF8、LAMP5、LILRA4、MYD88、NRP1、PACSIN1、PLSCR1、TLR7、TLR8、TLR9、TRAF3、UBE2N及びUNC93B1が含まれる。
【0233】
結論
結論として、本発明者らは、HSPC-pDCが培地中にAAを含めて生成される場合、いくつかのTLR7及びTLR9経路関連遺伝子が有意に上方制御することを示す。これは、AAがTLR7及びTLR9経路遺伝子に直接影響を与えることを意味し、TLR7及びTLR9アゴニストに応答する機能的HSPC-pDCを生成するために培地中にAAが必要とされる理由の機構的な説明を提供する。
【0234】
[実施例10]
SR1/IL-3の効果
研究の目的
HSPC-pDC細胞の成長、表現型及び機能性に対するSR1及びIL-3の効果を判定すること。
【0235】
材料及び方法
CD34+ HSPCからのHSPC-pDCの生成
臍帯血由来のCD34+ HSPCを、サイトカイン及び増殖因子Flt3-L(100ng/mL)、SCG(100ng/mL)、TPO(50ng/mL)、IL-3(20ng/mL)(Peprotech)を補充したGMP DC培地(CellGenix(登録商標))で培養した。さらに、1μMの小分子阻害剤であるStemRegenin 1(SR1、STEMCELL Technologies)、20μg/mLのストレプトマイシン及び20U/mLのペニシリン(Gibco、Life Technologies)及び50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma Aldrich)を添加した。細胞を37℃、95%の湿度、及び5%のCO2で17日間培養し、培地を2~4日ごとに再補充した。最後の3日、すなわち14日~17日に、培養物を4つの等しい部分に分割した。1つは以前に記載されているものと同じ培地に維持され、1つはSR1を含まない培地に維持され、1つはIL-3を含まない培地に維持され、最後の1つはSR1及びIL-3の両方を含まない培地に維持された。HSPCの増殖及び分化の間の生存率及び総細胞数を、TC20自動セルカウンター(Bio-Rad)を使用して測定した。
【0236】
HSPC-pDCのプライミング
HSPC-pDCのプライミングを、以前に記載されているように実施した[Laustsen,A.ら 2018]。分化の最後の3日間に使用した培地に関係なく、17日間培養した後、HSPC-pDCを、20μg/mLのストレプトマイシン/20U/mLのペニシリン(Gibco、Life Technologies)、20ng/mLのIL-3(Peprotech)及び50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma Aldrich)を補充したGMP DC培地(CellGenix(登録商標))中でプライミングした。HSPC-pDCを、250U/mLのIFN-β(PBL Assay Science)及び250U/mLのIFN-γ(Peprotech)でプライミングしたか、又はプライミングせずに放置した。細胞を24時間プライミングし、その後、表現型及び機能的に特徴付けた。
【0237】
TLR7又はTLR9アゴニストの活性化
I型IFNを産生するHSPC-pDCの能力を解析するために、細胞のプライミングに使用したものと同じ培地入りの96ウェルプレートに4×104個のpDCを播種した。続いて、2.5μg/mLの最終濃度のTLR7(R837、tlrl-imq、InvivoGen)若しくはTLR9(CpG-A 2216、tlrl-2216-1、InvivoGen)、又は0.5μg/mLの最終濃度のTLR7/8(R484、tlrl-r848、InvivoGen)に対する指向性を有するアゴニストで細胞を刺激した。刺激から20時間後に上清を採取し、解析するまで-20℃で凍結保存した。
【0238】
IFNα放出の評価
細胞の機能性を定量するために、本発明者らは、ヒトIFNα ELISA(MabTech)を使用して細胞培養上清中のIFNαの濃度を測定する。アッセイは、MabTechによって提供されたプロトコールに従って実施した。1000pg/ml~3.9pg/mLの範囲の標準曲線を作成し、SpectraMax iD5プレートリーダー(Molecular Devices)を使用して450nmで光学密度(OD)を測定し、570nmでのODを差し引くことによって上清中のIFNα濃度を定量した。
【0239】
フローサイトメトリーを使用した細胞の表現型解析
フローサイトメトリーを使用してpDCの免疫表現型を決定した。簡潔に述べると、細胞を遠心沈殿させ、冷FACS緩衝液(2%のFCS及び1mMのEDTAを含むPBS)中で希釈した25μLのTruStain FcBlock(Biolegend)に再懸濁し、低温で15分間インキュベートした。続いて細胞を以下の抗体で25μL染色した:APC抗ヒトLineage Cocktail(CD3(UCHT1)、CD14(HCD14)、CD16(3G8)、CD19(HIB19)、CD20(2H7)及びCD56(HCD56)、348801、BioLegend)、FITC抗ヒトCD11c(3.9、301604、BioLegend)、BV421 CD14(HCD14、325628、BioLegend)、PE CD34(581、343506、BioLegend)、APC-eFluor780抗ヒトCD123(6H6、47-1239-42、eBioscience)、PE-Cy7抗ヒトCD303(201a、354214、BioLegend)。細胞を30分間染色した後、FACS緩衝液で2回洗浄し、最後に200μLのFACS緩衝液に再懸濁した。蛍光強度を、4つのレーザー(405nm、488nm、561nm及び638nm)を備えたAttune NxTフローサイトメーターを使用して測定した。データ解析を、FlowJo(バージョン10.8.1、Tree Star、Ashland、OR、USA)を使用して行った。
【0240】
結果
最新の適正製造プロセス(cGMP)下でHSPCから多数のpDCを生成するためのex vivoセットアップのためのロバストなプロトコールが以前に公開された。増殖因子、サイトカイン及び小分子(Flt3-L、TPO、SCF、IL-3、SR1及びL-AA)の組合せを使用すると、確実なHSPCの増殖及び未成熟HSPC-pDCへの分化が示され、なおさらに、成熟及び機能的な表現型を生成するために、HSPC-pDC培養がI型及びII型IFNへの曝露によるプライミングを必要とすることが示された[Laustsenら 2018;Laustsenら 2021]。
ここで、本発明者らは、細胞成長及び生存率(図9A~C)、並びに細胞の表現型(図9D~E)及び機能性(図9F)の両方に対する、HSPCからHSPC-pDCへの分化の最終段階におけるSR1及びIL-3の効果を解明することに着手した。
IL-3もSR1も、補充物から生成された培地で3日間培養した後の最終日での生存細胞の87%~94%の範囲の生存率に大きな影響を及ぼさなかった(図9C)。
IL-3を3日間培地から除去すると、本発明者らは、14日目と17日目と間の培養物中の細胞数の差が、培地にIL-3及びSR1の両方を補充した標準条件についての22.5×106個(±2.15×106個)の細胞と比較して、13.7×106個(±3.08×106個)の細胞であるため、細胞成長の減少を認識している。反対に、本発明者らは、培地からSR1を除去すると、細胞成長がわずかに増加し、25.3×106個(±3.12×106個)の細胞になることを認識している(図9A)。
これは、補充物除去下で3日間培養した後の培養物中の細胞数において、IL-3を除去した場合、1.85(±0.40)、SR1を除去した場合、2.38(±0.23)、及び標準条件下で2.31(±0.49)の倍率変化に相当する(図9B)。
pDCは、TLR7又はTLR9に対する指向性を有するアゴニストに応答して、非常に大量のI型IFNを分泌することが知られている[Swieckiら、2015]。以前に、本発明者らは、HSPC-pDCが、機能的に活性化し、TLR7及びTLR9アゴニストに応答するために、培養培地にI型及びII型IFNを添加することによるプライミングを必要とすることを示した[Laustsenら、2018]。したがって、本発明者らは、まずHSPC-pDCを24時間プライミングし、続いてTLR7及びTLR9アゴニストで細胞を20時間刺激した。プライミングした及びプライミングしていないHSPC-pDC(Lin-CD11c-)のフローサイトメトリーによるpDC表面マーカーの表現型解析により、4つ全ての異なる培養条件にわたってプライミング後のCD123発現の増加が示される。培地からSR1を除去すると、標準培養条件MFI 1938と比較して、CD123表面発現MFI 988(±391)の減少がもたらされる。(図9D)。しかしながら、CD303表面発現において明らかな差は観察されなかった(図9E)。TLR刺激後、3つの異なるTLRアゴニストに対するHSPC-pDCの応答性を、刺激した細胞からの上清についてIFNα ELISAを用いて測定する。3つ全てのTLRアゴニストにわたって、本発明者らは、SR1の除去により応答性が損なわれ、したがって上清中のINFαレベルが損なわれる傾向を観察する。TLR9アゴニストCpG-Aで刺激された細胞において最も顕著であり、標準的な培養条件下に保たれた細胞は2895.91(±534.17)pg/mLのIFNαを分泌するのに対して、SR1を欠いた細胞は1088.98(±422.58)pg/mLを分泌する。
【0241】
結論
本実施例は、SR1がHSPC-pDCの機能及び表現型に大きな影響を及ぼし、除去により、HSPC-pDCの機能の大幅な減少がもたらされることを示す。IL-3は細胞成長に大きな影響を及ぼし、除去により、細胞成長が損なわれる。
【0242】
[実施例11]
HSPC-pDCは凍結保存後に表現型及び機能性を維持する
研究の目的
免疫表現型及び機能性に対するHSPC-pDCの凍結保存及び解凍の効果を調査すること。
【0243】
材料及び方法
CD34+ HSPCからのHSPC-pDCの生成
臍帯血由来のCD34+ HSPCを、サイトカイン及び増殖因子Flt3-L(100ng/mL)、SCF(100ng/mL)、TPO(50ng/mL)、IL-3(20ng/mL)(Peprotech)を補充したGMP DC培地(CellGenix(登録商標))で培養した。さらに、1μMの小分子阻害剤であるStemRegenin 1(SR1、STEMCELL Technologies)、20μg/mLのストレプトマイシン及び20U/mLのペニシリン(Gibco、Life Technologies)及び50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma Aldrich)を添加した。細胞を37℃、95%の湿度、及び5%のCO2で16~17日間培養し、培地を2~3日ごとに再補充した。HSPCの増殖及び分化の間の総細胞数を、TC20自動セルカウンター(Bio-Rad)を使用して測定した。16~17日目に、細胞のサブセットをCryoStor CS10培地(StemCell Technologies)中で凍結保存した。HSPC-pDCを、低温(2~8℃)CryoStor CS10内で5e6~50e6個の細胞/mLの密度で凍結保存した。CS10の添加後、細胞を2~8℃で5分間プレインキュベートしたか、又はイソプロパノール冷凍容器若しくはMr.Frostyのいずれかを使用した、遅速性制御冷却プロトコール(約-1℃/分)を使用して直接冷凍保存した。次いで細胞を長期保存するために-150℃に移した。HSPC-pDCを解凍するために、37℃のウォーターバスを使用して細胞を急速に解凍した。続いて細胞を37℃に予熱したDC培地中で洗浄し、300×gで5分間遠心分離し、IL-3(20ng/mL)、20μg/mLのストレプトマイシン、20U/mLのペニシリン、及びアスコルビン酸(50μg/mL)を補充したDC培地に再懸濁した。2~24時間の静置後、次いでHSPC-pDCを洗浄し、直接プライミングした(次の節を参照のこと)。
【0244】
HSPC-pDCのプライミング
HSPC-pDCを、20μg/mLのストレプトマイシン/20U/mLのペニシリン(Gibco、Life Technologies)、20ng/mLのIL-3(Peprotech)及び50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma Aldrich)を補充したDC GMP DC培地(CellGenix(登録商標))で培養した。細胞を、500U/mLのIFN-β(PBL Assay Science)及び500U/mLのIFN-γ(Peprotech)を培地に補充することによってプライミングしたか、又はプライミングせずに放置した。細胞を24時間プライミングし、その後、表現型及び機能的に特徴付けた。凍結保存条件では、細胞を解凍し、プライミングの前に2~24時間培養した。
【0245】
TLRアゴニストの活性化
I型IFNを産生するHSPC-pDCの能力を解析するために、細胞のプライミングに使用したものと同じ培養培地入りの96ウェルプレートに4×104個のHSPC-pDCを播種した。続いて、2.5μg/mLの最終濃度のTLR7(R837、tlrl-imq、InvivoGen)若しくはTLR9(CpG-A 2216、tlrl-2216-1、InvivoGen)、又は0.5μg/mLの最終濃度のTLR7/8(R848、tlrl-r848、InvivoGen)に対する指向性を有するアゴニストで細胞を刺激した。刺激から20時間後に上清を採取し、解析するまで-20℃で保存した。
【0246】
IFNα放出の評価
機能的なI型IFNを定量するために、製造業者の使用説明書(InvivoGen)に従って、レポーター細胞株HEK-blue IFN-α/βを利用した。細胞株を、10%の熱不活性化FCS、100μg/mLのストレプトマイシン及び200U/mLのペニシリン(Gibco、Life Technologies)、100μg/mLのノルモシン(InvivoGen)、30μg/mLのブラストサイジン(InvivoGen)及び100μg/mLのゼオシン(InvivoGen)を補充したDMEM+Glutamax-1(Gibco(登録商標)、Life Technologies)中に維持した。細胞を1×トリプシン(Gibco、Life Technologies)を使用して継代し、20回より多く継代しなかった。HEK-blue IFN-α/β細胞株を、IRF9及びSTAT2を発現するHEK293細胞の安定したトランスフェクションによって生成した。さらに、細胞株を、ISG54プロモーターの制御下で分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)をコードするレポーター遺伝子を発現するように改変した。SEAPの活性を、QUANTI-Blue(InvivoGen)を使用して評価した。色の変化を、SpectraMax iD3プレートリーダー(Molecular Devices)を使用して620nmの光学密度(OD)で測定した。標準曲線の作成のために、hIFNa2(PBL Assay Science)を使用し、これは2~500U/mLの範囲であった。
【0247】
フローサイトメトリーを使用した細胞の表現型解析
フローサイトメトリーを使用してpDCの免疫表現型を決定した。簡潔に述べると、細胞を遠心沈殿させ、100μlの1:2000のGhost Dye Red 780(13-0865-T500、Tonbo Biosciences)で30分間(4℃、暗所)染色した。細胞を100μLの冷FACS緩衝液で洗浄し、遠心沈殿させた(350×g、3分、RT)。細胞を50μLの抗体カクテルに再懸濁した。抗体カクテルは以下のように調製した:FACS緩衝液(2%のFCS及び1mMのEDTAを含むPBS)中の1:20のFITC抗ヒトLineage Cocktail((CD3(UCHT1)、CD14(HCD14)、CD16(3G8)、CD19(HIB19)、CD20(2H7)及びCD56(HCD56))、348801、BioLegend)、1:50のAPC抗ヒトCD11c(3.9、301614、BioLegend)、1:20のBV650抗ヒトCD123(6H6、306020、BioLegend)、1:20のPE-Cy7抗ヒトCD303(201a、354214、BioLegend)、1:20のBV421抗ヒトCD304(12C2、354514、BioLegend)。細胞を30分間染色した後、FACS緩衝液で2回洗浄し、最後に200μLのFACS緩衝液に再懸濁した。蛍光強度を、CytoFlexフロー(Beckman Coulter)を使用して測定した。データ解析を、FlowJo(バージョン10、Tree Star、Ashland、OR、USA)を使用して行った。
【0248】
結果
本発明者らは、細胞の生存率、回収率、表現型及び機能性の観点から、分化後、HSPC-pDCを凍結保存する実現可能性を調査した。本発明者らは、凍結保存したHSPC-pDCが、長期保存のために凍結保存でき、71%の良好な平均細胞回収率及び92%の細胞生存率で解凍できることを見出した(図10A)。次に本発明者らは、新たに生成したHSPC-pDC及び解凍したHSPC-pDCのプライミング及び免疫表現型を比較した。図10Bは、解凍したHSPC-pDC(プライミングした/プライミングしていない)が、新たに生成したプライミングした/プライミングしていないHSPC-pDC(プライミングした/プライミングしていない)と同様の純度(系統-、CD11c-)を示すことを示す。さらに、解凍したプライミングした/プライミングしていないHSPC-pDCは、新たに生成したプライミング/プライミングしていないHSPC-pDCと比較して、同様又はより高い頻度でpDCマーカー(CD123、CD303及びCD304)を発現する(図10C~D)。
本発明者らは以前に、HSPC-pDCが、機能的に活性化し、TLR7、TLR8及びTLR9アゴニストに応答するために、培養培地にI型及びII型IFNを添加することによるプライミングを必要とすることを示した[Laustsenら、2018]。したがって、本発明者らは、TLR7、TLR8及びTLR9アゴニストで細胞を刺激して、それらの機能性を評価した。重要なことに、プライミングは、それ自体では、新鮮な又は解凍されたHSPC-pDCのいずれからもIFN反応を誘発しない(図10E)。新鮮な及び解凍されたHSPC-pDCの両方について、TLR7及び/又はTLR8刺激に対するIFN反応を誘導するためにプライミングが不可欠であった(図10F~G)。さらに、プライミングとTLR刺激により、新鮮な及び解凍されたHSPC-pDCから同様のIFN反応が引き起こされる(図10F~H)。
【0249】
結論
本実施例は、HSPC-pDCを、新鮮なHSPC-pDCと比較して、それらの表現型及び機能性に大きな影響を与えることなく、長期保存、解凍、及びプライミングのために凍結保存することができることを示す。
【0250】
[実施例12]
HSPC-pDCは凍結保存前にプライミングすることができる
研究の目的
この研究の目的は、すぐに使用できるオフザシェルフ製品を得るために、凍結保存前にHSPC-pDCをプライミングする実現可能性を試験することである。
【0251】
材料及び方法
HSPC-pDCの生成及びプライミング
臍帯血由来のCD34+ HSPCを、実施例11に記載されるように16日間、HSPC-pDCに分化させた。15日目に、プレプライミングのために、細胞培養物の画分に250U/mLのIFN-β(PBL Assay Science)及び250U/mLのIFN-γ(Peprotech)を24時間補充した。他の画分は未処理のままにした。16日目に、両方の条件を実施例11に記載されるように凍結保存した。凍結保存した細胞を解凍し、20μg/mLのストレプトマイシン/20U/mLのペニシリン(Gibco、Life Technologies)、20ng/mLのIL-3(Peprotech)及び50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma Aldrich)を補充したDC GMP DC培地(CellGenix(登録商標))で培養した。HSPC-pDC(標準)を解凍し、24時間培養し、培地に250U/mLのIFN-β(PBL Assay Science)及び250U/mLのIFN-γ(Peprotech)を補充することによってプライミングしたか、又はプライミングせずに放置した。細胞を24時間プライミングした後、表現型及び機能的に特徴付けた。プレプライミングした細胞を解凍し、24時間培養した後、表現型及び機能解析を行った。
【0252】
TLRアゴニストの活性化
実施例11の通り。
【0253】
IFNα放出の評価
実施例10の通り。
【0254】
フローサイトメトリーを使用した細胞の表現型解析
フローサイトメトリーを使用してpDCの免疫表現型を決定した。簡潔に述べると、細胞を遠心沈殿させ、冷FACS緩衝液(2%のFCS及び1mMのEDTAを含むPBS)中で希釈した1:20のTruStain FcBlock(Biolegend)に再懸濁し、低温で15分間インキュベートした。続いて細胞を以下の抗体で染色した:1:500のZombieRed(423110、Biolegend)、1:20のFITC抗ヒトLineage Cocktail(CD3(UCHT1)、CD14(HCD14)、CD16(3G8)、CD19(HIB19)、CD20(2H7)及びCD56(HCD56))(348801、BioLegend)、1:20のFITC抗ヒトCD11c(3.9、301604、BioLegend)、1:20のAPC-eFluor780抗ヒトCD123(6H6、47-1239-42、eBioscience)、1:20のPE-Cy7抗ヒトCD304(12C2、354508、BioLegend)、1:20のPE抗ヒトCD40(5C3、334308、BioLegend)、1:20のBV421抗ヒトCD80(2D10、305222、BioLegend)、1:20のBV650抗ヒトCD86(IT2.2、305428、BioLegend)。細胞を30分間染色した後、FACS緩衝液で2回洗浄し、最後に200μLの固定緩衝液(PBS中の0.9%のパラホルムアルデヒド)に再懸濁した。蛍光強度を、4つのレーザー(405nm、488nm、561nm及び638nm)を備えたAttune NxTフローサイトメーターを使用して測定した。データ解析を、FlowJo(バージョン10.8.1、Tree Star、Ashland、OR、USA)を使用して行った。
【0255】
結果
本発明者らは、細胞生存率、表現型及び機能性の観点から、未処理の凍結保存されたHSPC-pDCに対して、凍結保存前のHSPC-pDCをプライミングする実現可能性を調査した。臍帯血HSPCを、16日間かけてHSPC-pDCに分化させた。15日目に、培養物のサブセットを分化培地中のIFNでプライミング(プレプライミング)した。バルクプレプライミングした又はプライミングしていないHSPC-pDCを16日間の培養後に採取し、後の表現型解析のために凍結保存した(図11A)。分化培養の最終日の細胞のプレプライミングは、細胞増殖に負の影響を与えなかった(図11B)。解凍すると、本発明者らは、凍結保存前にプライミングされたHSPC-pDC(プレプライミング)は、未処理の凍結保存されたHSPC-pDCと同等の解凍時の生存率及び回収率を有することが見出された(図11C)。
図11Dはさらに、プレプライミングしたHSPC-pDCが、解凍後にプライミングされたHSPC-pDCと同様の免疫表現型を維持することを示す。したがって、プレプライミングしたHSPC-pDCは、pDCマーカー(CD123及びCD303)及び共刺激分子(CD40、CD80及びCD80)の高い発現を維持する(図11D)。本発明者らは以前に、HSPC-pDCが、機能的に活性化し、TLR7、TLR8及びTLR9アゴニストに応答するために、培養培地にI型及びII型IFNを添加することによるプライミングを必要とすることを示した[Laustsenら、2018]。したがって、本発明者らは、TLR7、TLR8及びTLR9アゴニストで細胞を刺激して、それらの機能を評価した。本発明者らは、TLR刺激によりプレプライミングしたHSPC-pDCが、IFN反応を誘発する能力を有することを見出した(図11E)。
【0256】
結論
本実施例は、HSPC-pDCが、凍結保存前にプライミングでき、それらの表現型及びTLR刺激に応答する能力を維持しながら解凍できることを示す。
【0257】
参考文献
Laustsen, A.ら、Interferon priming is essential for human CD34+ cell-derived plasmacytoid dendritic cell maturation and function. Nat Commun、2018. 9(1): p. 3525.
Laustsen, A.ら、Ascorbic acid supports ex vivo generation of plasmacytoid dendritic cells from circulating hematopoietic stem cells. eLife、2021. 10:e65528.
Swiecki, M.及びColonna, M.、The multifaceted biology of plasmacytoid dendritic cells. Nat Rev Immunol、2015. 15(8):p. 471-85.
【0258】
データの考察
ここで本発明者らは、CGMPに準拠した培地を使用して、非常に限られた数のHSPCから治療上関連する数のHSPC-pDCを生成するための、新しく、ロバストで、単純化された手順を開発した。本発明者らは、低密度でのHSPC-pDCの分化及びCGMP培地へのアスコルビン酸(AA)の補充が、多く、一貫した数の高度に機能的なHSPC-pDCを達成するための鍵であることを見出した。重要なことに、本発明者らは、全血からのHSPCを使用してHSPC-pDCをex vivoで生成できることを示した。まとめると、本発明者らの発見は、細胞免疫療法として使用するためのpDCのさらなる臨床研究の基礎を築いた。
【0259】
過去10年間で、免疫療法は複数の疾患を治療するための強力なストラテジーとして浮上してきた。この分野は大手製薬会社から大きな関心を集めているため、新しい方法及びストラテジーを開発する需要が高まっている。pDCは、免疫系におけるそれらの多面的な役割のために多くの注目を集めており、pDCを選択的に活性化する治療剤、例えばTLRアゴニストは、抗腫瘍療法に効果的であることが証明されている。しかしながら、療法のためにpDCを研究及びモジュレートすることの重要性がより明らかになっている一方で、血液から抽出できる細胞数が少ないことによっても進歩が妨げられている。これはまた、免疫療法でのpDCの使用を制限するが、重要なことに、自己pDCの養子移植を使用した2つの独立した臨床試験により、臨床上の利点が示された[5、6]。ある第I相臨床試験では、Telらは、黒色腫関連抗原であるgp100及びチロシナーゼに由来する腫瘍ペプチドを負荷した自己pDCを用いてステージIVの黒色腫患者にワクチン接種を行った。この療法により、全生存率が改善され、従来の化学療法で治療された適合された対照患者の10%と比較して、患者の45%が2年後も依然として生存していた[5]。同様に、Westdorpらは、第IIa相臨床試験において、腫瘍関連抗原であるNY-ESO-1、MAGE-C2及びMUC1を負荷したcDC及びpDCを組み合わせて使用したワクチン接種が、去勢抵抗性前立腺がんを有する患者の臨床転帰を改善することを見出した[6]。両方の臨床試験において、抗原を負荷したpDCは、患者においてB及びCD8+ T細胞の抗腫瘍特異的反応を効果的に誘導すると同時に、良好な耐容性を示し、安全であることを見出した(グレード1~2の毒性)。[5、6]。
【0260】
これらの研究でも強調された主な欠点は、ワクチン接種あたりわずか0.3~3×106個のpDCの実現可能な最大用量であり、隔週間隔で3回しかワクチン接種が実施されなかったことであった[5、6]。対照的に、単球由来cDC(moDC)を利用した臨床試験では、患者は、10~30×106個の細胞の範囲の事前に定義されたmoDC用量で、隔週間隔で4~8回のワクチンレジメンを受けた[14~16]。同様に、FDAにより承認された自己樹状細胞免疫療法であるProvenge(シプロイセル-T)は、各々最低5,000万個の樹状細胞の3回のワクチン接種で構成されており、一部の患者は13億個もの樹状細胞の用量で治療された[17]。
【0261】
その結果、多くのロバストな数のpDCを生成することを可能にする臨床製造プロトコールに対する満たされていないニーズが存在する。本発明者らは、本発明者らのプラットフォームが、複数のワクチンレジメンに使用でき、容易にアクセスできる全血から抽出できる、一貫して多数の自己HSPC-pDCの生成を可能にすることによってこのニーズを満たすと考えている。本発明者ら及び他のグループは、CB CD34+ HSPC又は動員末梢血CD34+ HSPC(mPB-HSPC)を使用してpDCを生成できることを以前に実証した[9、18~22]。CB HSPCは優れた幹細胞の可能性を有するが、大きな欠点はドナーとレシピエントとの間でHLAが一致する必要があることである。mPB-HSPCを取得するには、通常、連続4日間にわたって顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を複数回注射し、その後、アフェレーシス及び大規模なCD34免疫磁気選択を行うことを必要とする。したがって、この手順は時間がかかり、高価であり、高価な機器へのアクセスを必要とし、ドナーに不都合及び副作用、例えば骨痛を伴う。pDC生物学の調査研究にも、同じ課題が当てはまる。さらに、臍帯血及び動員された末梢血は、一般の研究室では容易に入手できない。末梢血からの天然pDCが使用されているが、軟膜から単離できる数は非常に少なく、ex vivoで培養した場合、細胞はわずか約24時間の半減期を有する[23]。本発明者らは以前に、生成したHSPC-pDCが末梢血由来pDCと比較して優れた生存率を示すことを示しており、HSPC-pDCが、改変、例えば抗原負荷及び活性化を受けるのにより適していることを示しており、これは臨床環境での免疫療法に必要とされる。Thordardottirらは、以前に、100,000個のmPB-HSPCから開始して160万個のHSPC-pDCを得たことを報告した[9]。
【0262】
事前増殖を含めずに、同じ開始細胞数及び同じpDC分化期間を使用すると、本発明者らは、出発材料がmPB-HSPC及び本発明者らのCB-HSPCであったにもかかわらず、191倍の向上に相当する、平均3億600万個のHSPC-pDCを生成した。
【0263】
重要なことに、本発明者らは、pDCを早期に単離すると、合成TLR7又はTLR9アゴニストによる刺激時にI型IFNを産生する能力が改善することを見出した。これは、長期のpDCの分化が、おそらくpDCの枯渇のためにI型IFN反応の機能不全を引き起こすことを示しているが、この表現型をさらに特徴付けるためには、さらなる研究を行う必要がある。本発明者らの短縮された16日間の分化プロトコールを使用し、HSPCの事前増殖を行わずに、本発明者らは、100,000個のCB-HSPCから最大1億5,200万個のHSPC-pDCを生成した。
本発明者らは、本発明者らの発見が、標準単位の全血から臨床的に関連する数の自己pDCをCGMPに準拠した製造のために使用できると考えている(図7)。本発明者らの事前増殖ストラテジーを使用すると、本発明者らは、100,000個のcHSPCから開始して平均800万個のHSPC-pDCを生成することができた。450mLの血液からの標準的な軟膜中の1.1×106個のcHSPCの平均数により、これは、患者に低侵襲である方法で平均8800万個のHSPC-pDCを生成することが可能になる。次にcHSPC-pDCは凍結保存でき、ワクチンレジメンを反復できる(図7)。これらの生成された細胞の数は、白血球除去療法を使用した場合でも、末梢血から得ることができる天然のpDCの数を大幅に超えている[5、6]。天然pDCに対するHSPC-pDCのさらなる利点は、HSPC-pDCが遺伝子改変を受けやすいことである。これにより、CRISPR/Cas遺伝子編集によりpDCの反応を増幅できるか、又は抑制性腫瘍シグナルに対する耐性を与えることができる可能性がある。
【0264】
CGMP培地を用いた実験では、本発明者らは、AAが、単離されたHSPC-pDCの生存率を高度に促進すること、並びにより重要なことには、TLR7及びTLR9アゴニストに対するI型IFN反応にはAAの補充が極めて重要であることを見出した。本発明者らの観察は、pDCの先天性免疫機能におけるこれまで説明されていないAAの重要な役割を示す。注目すべきことに、AAは従来のRPMIには含まれていないが、血清内に存在しており、ウシ胎仔血清を補充したRPMIを使用して生成したpDCが機能的なI型IFN反応を示した理由を説明している可能性がある。AAは、温度、大気中の酸素、光及びpHに敏感で非常に不安定であり、これがI型IFN反応で観察された変動の一部を説明している可能性がある[24]。
【0265】
また、AAの補充により、本発明者らのセットアップではHSPC-pDCの収量も増加したが、総細胞集団に対するHSPC-pDCの全体的なパーセンテージは増加せず、AAがpDCの分化を特異的に促進しないことを示す。
【0266】
まとめると、ここで本発明者らは、臨床的に適用可能な幹細胞分化手順を実証し、これにより、本発明者らは、pDC生物学の未解決の態様を解明するのに役立ち、また、新規のpDCベースの治療法の臨床免疫療法への応用を促進できると考えている。
【0267】
参考文献
図1A
図1B-C】
図1D-E】
図1F-G】
図1H
図2A
図2B-C】
図2D-E】
図2F
図2G
図2H
図2I-J】
図3A
図3B-C】
図3D-E】
図3F
図3G-H】
図4A-B】
図4C-D】
図4E
図5A-B】
図5C-D】
図5E-F】
図5G-H】
図6A-B】
図6C
図6D-E】
図6F-G】
図7
図8A
図8B
図9A-B】
図9C-D】
図9E-F】
図10A-B】
図10C-D】
図10E-F】
図10G-H】
図11A
図11B-C】
図11D
図11E-G】
【国際調査報告】