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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】修飾グルココルチコイド
(51)【国際特許分類】
   C07J 5/00 20060101AFI20240628BHJP
   A61K 31/57 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C07J5/00 CSP
A61K31/57
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P37/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023581022
(86)(22)【出願日】2022-06-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 US2022035055
(87)【国際公開番号】W WO2023278289
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】17/362,440
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(71)【出願人】
【識別番号】524003297
【氏名又は名称】スラガ トーマス ジェイ.
(71)【出願人】
【識別番号】524003301
【氏名又は名称】グレード ダニエル
(71)【出願人】
【識別番号】524003312
【氏名又は名称】ラミレス アンナ マンチャ
(71)【出願人】
【識別番号】524003323
【氏名又は名称】リャン ヒユン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】スラガ トーマス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】グレード ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ラミレス アンナ マンチャ
(72)【発明者】
【氏名】リャン ヒユン
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ リタ
【テーマコード(参考)】
4C086
4C091
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086DA10
4C086MA01
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA06
4C086ZA96
4C086ZB05
4C086ZB11
4C086ZB15
4C091AA01
4C091BB01
4C091BB05
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE07
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH01
4C091KK04
4C091LL01
4C091MM03
4C091NN01
4C091PA03
4C091PA05
4C091PA09
4C091PB02
4C091QQ01
4C091RR09
(57)【要約】
ある特定の態様は、(i)11のヒドロキシに対するハロゲンの置換ならびに/または(ii)A環の炭素4および炭素5の間の結合の還元、の一方または両方を有する、修飾グルココルチコイド化合物を対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
の構造を有する修飾グルココルチコイド化合物であって、
式中:
炭素1および炭素2の間の結合が、飽和であるか、または二重結合であり;
R1が、水素、ヒドロキシル、C1~C3アルキル、C1~C3アルコール、エステル、置換エステル、エーテル、置換エーテル、C1~C3カルボン酸、ケトン、置換ケトン、C1~C3アミド、またはC1~C3アルデヒド基より選択される。ある特定の局面では、前記置換が、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミドのものであり;
R2が、水素、ヒドロキシル、C1~C3アルキル、C1~C3アルコール、エステル、置換エステル、エーテル、置換エーテル、C1~C3カルボン酸、C3~C5ケトン、C3~C5置換ケトン、C1~C3アミド、またはC1~C3アルデヒド基より選択される。ある特定の局面では、前記置換が、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミドのものであり;
R3が、水素、ハロゲン、またはヒドロキシルより選択され;
R4が、水素、ハロゲン、またはヒドロキシルより選択され、R3およびR4が、5または6員のシクロアルキルまたはヘテロ環を任意で形成していてもよく;
R5およびR6が、水素、水酸化物、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素より独立して選択され;
Xが、ハロゲンである、
前記修飾グルココルチコイド化合物。
【請求項2】
Xがフッ素である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
R2がヒドロキシケトンである、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
R3およびR4がアセトニドを形成している、請求項1記載の化合物。
【請求項5】
式II:
の構造を有する修飾グルココルチコイド化合物であって、
式中:
炭素1および炭素2の間の結合が、飽和であるか、または二重結合であり;
R1が、水素、ヒドロキシル、C1~C3アルキル、C1~C3アルコール、エステル、置換エステル、エーテル、置換エーテル、C1~C3カルボン酸、ケトン、置換ケトン、C1~C3アミド、またはC1~C3アルデヒド基より選択される。ある特定の局面では、前記置換が、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミドのものであり;
R2が、水素、ヒドロキシル、C1~C3アルキル、C1~C3アルコール、エステル、置換エステル、エーテル、置換エーテル、C1~C3カルボン酸、ケトン、置換ケトン、C1~C3アミド、またはC1~C3アルデヒド基より選択される。ある特定の局面では、前記置換が、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミドのものであり;
R3が、水素、ハロゲン、またはヒドロキシルより選択され;
R4が、水素、ハロゲン、またはヒドロキシルより選択され、R3およびR4が、5または6員のシクロアルキルまたはヘテロ環を任意で形成していてもよく;
R5およびR6が、水素、水酸化物、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素より独立して選択され;
Xが、ハロゲンである、
前記修飾グルココルチコイド化合物。
【請求項6】
Xがフッ素である、請求項5記載の化合物。
【請求項7】
R2がヒドロキシケトンである、請求項5記載の化合物。
【請求項8】
R3およびR4がアセトニドを形成している、請求項5記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年6月29日出願の米国出願第17/362,440号に対する優先権を主張する国際出願であり、該出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究の記載
該当なし。
【背景技術】
【0003】
背景
炎症は、通常、傷害性の作用物質および損傷組織を破壊、希釈、または隔絶する、外傷または微生物侵入に対する局所的な保護応答である。炎症によって特徴付けられる疾患は、ヒトにおける病的状態および死亡の重大な原因である。炎症は、一般に、外来物質による宿主への侵入に対する防御応答として生じる一方で、それは、機械的外傷、毒素、および新生物に対する応答によっても引き起こされる。異物としての宿主組織の異常な認識によって生じる過度の炎症、または炎症プロセスの長期化は、糖尿病、喘息、アテローム性動脈硬化症、白内障、再灌流傷害、がんなどの炎症性疾患、感染性髄膜炎およびリウマチ熱などにおける感染後症候群、ならびに全身性エリテマトーデスおよび関節リウマチなどのリウマチ性疾患をもたらし得る。したがって、多くのそのような疾患における炎症を阻害する剤を生産することに対するニーズが存在する。
【0004】
グルココルチコイドは、視床下部、下垂体前葉、または副腎皮質における病変に起因する副腎不全を有する個体のための補充療法として治療的に使用される。グルココルチコイドは、多数の非内分泌疾患の処置にも使用される。補充療法または代替療法を受けている患者の場合を除き、グルココルチコイドは特異的でも治癒的でもない:それらは、その抗炎症特性および免疫抑制特性が理由で、症状の緩和を与える。グルココルチコイドは、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどのリウマチ性障害、ならびに結節性多発動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、および巨細胞性動脈炎などのさまざまな脈管炎疾患を処置するために使用される。非炎症性の変性関節疾患(例えば、変形性関節症)またはさまざまな局所疼痛症候群(例えば、腱炎もしくは滑液包炎)においては、グルココルチコイドは、突発性の疾患再燃の処置のために局所注射によって投与され得る。
【0005】
一方で、グルココルチコイドは有用ではあるが、それらは重篤な副作用を有する。グルココルチコイドの治療的使用から生じる毒性作用の2つのカテゴリー:グルココルチコイド治療の中止から生じるもの、および超生理学的用量の継続使用から生じるもの。グルココルチコイド処置の取り止めの最も重篤な合併症は急性副腎不全であり、これは、長期治療の後のグルココルチコイドの中止が急過ぎることで生じ、長期治療においては、視床下部/下垂体/副腎(HPA)軸が抑制されている。HPA系の抑制から生じる結果とは別に、体液および電解質の異常、高血圧、高血糖、感染に対する易罹患性の増加、白内障、成長停止、脂肪再分布、線条、斑状出血、ざ瘡、多毛症、ならびに胸腺萎縮を含む、長期的なグルココルチコイド治療から生じる合併症は他にもいくつか存在する。
【0006】
有害な副作用が弱められたグルココルチコイド分子に対するニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
概要
グルココルチコイドの有害な副作用に対処するために、本発明者らは、代表分子コルチゾールを用いて示されるように、(i)11のヒドロキシに対するハロゲンの置換、および/または(ii)A環の還元によってグルココルチコイド化合物を修飾した。第1に、11βHSD2の上方制御を回避するために11番目の炭素位置においてヒドロキシル基を除去し、ハロゲン、例えば、フッ素で置き換えた。第2に、2つの水素を付加して、糖新生を誘導するコルチゾール上の位置であるA環の炭素4および5の間の二重結合を飽和させる、5-α-還元を行った。デキサメタゾン、トリアムシノロン、フルオシノロンアセトニド、ブデソニド、プレドニゾン、および他のグルココルチコイド化合物において同様の修飾を施すことができる。
【0008】
ある特定の態様は、式Iまたは式IIの構造を有する化合物を含む修飾グルココルチコイドを対象とする。
【0009】
ある特定の態様は、式Iまたは式IIの化合物を対象とし、式中、以下のとおりである。
【0010】
炭素1および2の間の結合は、飽和であるか、または二重結合である。
【0011】
R1は、水素、ヒドロキシル、C1~C3アルキル、C1~C3アルコール、エステル、置換エステル、エーテル、置換エーテル、C1~C3カルボン酸、ケトン、置換ケトン、C1~C3アミド、またはC1~C3アルデヒド基より選択される。ある特定の局面では、置換は、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミドのものである。
【0012】
R2は、水素、ヒドロキシル、C1~C3アルキル、C1~C3アルコール、エステル、置換エステル、エーテル、置換エーテル、C1~C3カルボン酸、C3~C5ケトン、C3~C5置換ケトン、C1~C3アミド、またはC1~C3アルデヒド基より選択される。ある特定の局面では、置換は、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミドのものである。ある特定の局面では、R2は、C3~C5ヒドロキシケトン(例えば、ヒドロキシアセトン)である。
【0013】
R3は、水素、ハロゲン、またはヒドロキシルより選択される。
【0014】
R4は、水素、ハロゲン、またはヒドロキシルより選択される。
【0015】
ある特定の局面では、R3およびR4は、5または6員のシクロアルキルまたはヘテロ環を形成している。ある特定の局面では、ヘテロ環は、5員の、窒素または酸素ヘテロ環である。ある特定の局面では、R3およびR4は、置換または非置換のジオキソランを形成している。ある特定の局面では、置換ジオキソランは、アセトニドである。
【0016】
R5およびR6は、水素、水酸化物、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素より独立して選択される。
【0017】
Xは、ハロゲンである。ある特定の態様では、Xは、フッ素または塩素である。
【0018】
ある特定の態様は、ウルソール酸、レスベラトロール、またはウルソール酸およびレスベラトロールと組み合わせた、本明細書において記載される修飾グルココルチコイドの組み合わせを用いて、炎症、肥満、糖尿病、および/またはがんを処置するための方法および組成物を対象とする。
【0019】
ウルソール酸は、多種多様な食品および草本、特に、リンゴ、オリーブ、およびローズマリーに見られる植物栄養素である。ウルソール酸は慢性炎症を阻害し、インスリン抵抗性脂肪細胞へのグルコース取り込みに対するロシグリタゾンおよびメトホルミンなどの抗糖尿病薬の有効性を向上させる。
【0020】
レスベラトロールは、赤ブドウの皮および他の果実に見られる植物栄養素である。レスベラトロールは、カロリー制限および運動の効果を模倣および増強するその能力を介してその有益な効果の多くを発揮する。
【0021】
ある特定の態様は、有効量のウルソール酸および有効量のレスベラトロールと組み合わせて、本明細書において記載される有効量の修飾グルココルチコイドを、その必要のある対象に投与することを含む方法を対象とする。ある特定の局面では、修飾ステロイドが最初に投与され、次いでウルソール酸/レスベラトロールの組み合わせが投与される。修飾ステロイドは、副作用が低減されるように、その親化合物の場合で想定されるように使用される。ウルソール酸およびレスベラトロールとの組み合わせは、副作用をさらに低減または軽減する。グルココルチコイドは、炎症を低減し、免疫系を抑制する上で非常に有用な型のコルチコステロイドホルモンである。炎症は、有害な物質および外傷に対して我々の免疫系が応答する手段であり、我々の治癒プロセスの一部である。一方で、炎症のプロセスを止める通常の制御機構が適切に機能していない場合、それは弱まることなく継続し、我々の組織は損傷を受け得る。炎症を改善するために、グルココルチコイドを使用することができる。
【0022】
グルココルチコイドは、副腎不全において低用量で使用され得る。はるかにより高い用量においては、経口または吸入グルココルチコイドは、さまざまなアレルギー性、炎症性、および自己免疫性の障害を抑制するために使用される。吸入グルココルチコイドは、喘息のための二次処置である。それらは、急性移植片拒絶および移植片対宿主病を阻止するために移植後免疫抑制剤としても投与される。グルココルチコイドは、利尿薬およびナトリウム利尿ペプチドに対する腎臓応答性を向上させるために、心不全の処置において使用することができる。グルココルチコイドは、炎症状態における鎮痛に、歴史的に使用されている。
【0023】
正常なコルチゾール産生とほぼ同じグルココルチコイド効果をもたらす用量で任意のグルココルチコイドを与えることができ;これは、生理学的、補充、または維持投薬と称される。これは、およそ6~12 mg/m2/日のヒドロコルチゾンである(m2は、体表面積(BSA)を指し、かつ体サイズの尺度であり;平均男性BSAは1.9 m2である)。
【0024】
グルココルチコイドは免疫抑制を引き起こし、この効果の治療要素は、主に、B細胞およびT細胞の両方を含むリンパ球の、機能および数の減少である。この免疫抑制の主な機序は、活性化B細胞の核内因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)の阻害を介するものである。NF-κBは、免疫応答を促進する多くのメディエーター(すなわち、サイトカイン)およびタンパク質(すなわち、接着タンパク質)の合成に関与する極めて重要な転写因子である。この転写因子の阻害は、それ故に、応答を開始する免疫系の能力を鈍化させる。グルココルチコイドは、サイトカインIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8およびIFN-γをコードする遺伝子を阻害することによって細胞性免疫を抑制し、そのうちで最も重要なものはIL-2である。より少ないサイトカイン産生は、T細胞増殖を低減する。
【0025】
グルココルチコイドは液性免疫も抑制し、それによって液性免疫不全を引き起こす。グルココルチコイドは、B細胞に、より少ない量のIL-2およびIL-2受容体を発現させる。これは、B細胞クローン発現および抗体合成の両方を減少させる。減少量のIL-2は、活性化されるTリンパ球細胞をより少なくもさせる。
【0026】
グルココルチコイドは、炎症の原因にかかわらず、強力な抗炎症剤であり、それらの主要な抗炎症機序は、リポコルチン-1(アネキシン-1)合成である。リポコルチン-1は、ホスホリパーゼA2を抑制し、それによってエイコサノイド産生を遮断すること、およびさまざまな白血球炎症事象(上皮接着、遊出、走化性、食作用、呼吸バーストなど)を阻害することの両方を行う。換言すれば、グルココルチコイドは、免疫応答を抑制するだけでなく、炎症の2つの主要産物、プロスタグランジンおよびロイコトリエンも阻害する。グルココルチコイドは、ホスホリパーゼA2のレベル、ならびにシクロオキシゲナーゼ/PGEイソメラーゼ(COX-1およびCOX-2)のレベルにおいてプロスタグランジン合成を阻害し、後者の効果はNSAIDのものとよく似ており、したがって抗炎症効果を増強する。
【0027】
抗炎症剤として市販されているグルココルチコイドは、鼻炎用の鼻腔用スプレーおよび喘息用の吸入剤などの局所製剤であることが多い。これらの調製物は、標的領域のみに影響を与えそれによって副作用または潜在的相互作用を低減する、という利点を有する。この場合、使用される主な化合物は、ベクロメタゾン、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン、およびシクレソニドである。鼻炎では、スプレーが使用される。喘息向けには、グルココルチコイドは、用量が定まった吸入物または乾燥粉末吸入剤として投与される。稀な症例では、放射線誘導性甲状腺炎の症状は経口グルココルチコイドで処置されている。
【0028】
グルココルチコイドは、家族性高アルドステロン症1型の管理において使用することができる。それらは、一方で、2型状態における使用には有効ではない。
【0029】
本明細書において記載される修飾グルココルチコイドは、その間のすべての値および範囲を含む、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300 mg/日から、250、300、350、400、450、500、550、600 mg/日、の用量で投与される。ある特定の局面では、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、または600 mgの修飾グルココルチコイドが投与される。さらなる局面では、修飾グルココルチコイドの用量は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10分、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10時間、または0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10日にわたって、1用量または複数用量で投与される。
【0030】
ウルソール酸は、その間のすべての値および範囲を含む、50、100、150、200、250、300 mg/日から、250、300、350、400、450、500、550、600 mg/日、の用量で投与される。ある特定の局面では、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、または600 mgのウルソール酸が投与される。さらなる局面では、ウルソール酸の用量は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10分、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10時間、または0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10日にわたって、1用量または複数用量で投与される。
【0031】
レスベラトロールは、その間のすべての値および範囲を含む、50、100、150、200、250、300 mg/日から、250、300、350、400、450、500、550、600 mg/日、の用量で投与される。ある特定の局面では、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、または600 mgのレスベラトロールが投与される。さらなる局面では、レスベラトロールの用量は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10分、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10時間、または0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10日にわたって、1用量または複数用量で投与される。
【0032】
ある特定の局面では、ウルソール酸およびレスベラトロールは、その間のすべての値および範囲を含む、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、または1:4の比で投与される。ある特定の局面では、修飾グルココルチコイド、ウルソール酸、およびレスベラトロールは、個別に投与される。個別投与は、化合物が別々の製剤で製剤化されていることを指す。化合物は、個別に投与される場合、同時に、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10分、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10時間、もしくは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10日以内に、投与することができる。ある特定の局面では、修飾グルココルチコイド、ウルソール酸、および/またはレスベラトロールのうちの2つまたは3つは、同じ組成物中で製剤化される。成分のうちの2つまたは3つすべては、錠剤、カプセル、濃縮物、粉末、飲料、焼いた食品、チョコレート、カラメル、クッキー、バー、および/またはスナックとして製剤化することができる。ある特定の局面では、修飾グルココルチコイド、ウルソール酸、および/またはレスベラトロールのうちの1つまたは複数は、経口的に投与される。
【0033】
ある特定の態様は、有効量のウルソール酸およびレスベラトロールと組み合わせて、有効量の修飾グルココルチコイドまたは有効量の修飾グルココルチコイドを投与することを含む、ある特定のがんまたは皮膚がんを処置するための組成物および方法を対象とする。本明細書において記載される修飾グルココルチコイドは、その間のすべての値および範囲を含む、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300 mg/日から、250、300、350、400、450、500、550、600 mg/日、の用量で投与される。ある特定の局面では、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、または600 mgの修飾グルココルチコイドが投与される。さらなる局面では、修飾グルココルチコイドの用量は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10分、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10時間、または0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10日にわたって、1用量または複数用量で投与される。ある特定の局面では、ウルソール酸は、その間のすべての値および範囲を含む、50、100、150、200、250、300 mg/日から、250、300、350、400、450、500、550、600 mg/日、の用量で投与される。ある特定の局面では、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、または600 mgのウルソール酸が投与される。さらなる局面では、ウルソール酸の用量は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10分、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10時間、または0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10日にわたって、1用量または複数用量で投与される。ある特定の局面では、レスベラトロールは、その間のすべての値および範囲を含む、50、100、150、200、250、300 mg/日から、250、300、350、400、450、500、550、600 mg/日、の用量で投与される。ある特定の局面では、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、または600 mgのレスベラトロールが投与される。さらなる局面では、レスベラトロールの用量は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10分、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10時間、または0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10日にわたって、1用量または複数用量で投与される。ある特定の局面では、ウルソール酸およびレスベラトロールは、その間のすべての値および範囲を含む、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、または1:4の比で投与される。ある特定の局面では、ウルソール酸およびレスベラトロールは個別に投与される。個別投与は、化合物が別々の製剤で製剤化されていることを指す。化合物は、個別に投与される場合、同じ時刻または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10分、時間、もしくは日以内に投与することができる。ある特定の局面では、ウルソール酸およびレスベラトロールは、同じ組成物中で製剤化される。ウルソール酸および/またはレスベラトロールは、局所溶液(クリーム、軟膏、ゲルなど)、錠剤、カプセル、濃縮物、粉末、飲料、焼いた食品、チョコレート、カラメル、クッキー、バー、および/またはスナックとして製剤化することができる。ある特定の局面では、ウルソール酸および/またはレスベラトロールは、局所的に投与される。ある特定の局面では、ウルソール酸および/またはレスベラトロールは、経口的に投与される。
【0034】
本発明の他の態様は、本出願を通じて論じられる。本発明の一局面に関して論じられる任意の態様は本発明の他の局面にも適用され、逆もまた同じである。本明細書において記載される各態様は、本発明のすべての局面に適用可能な本発明の態様であることが理解されよう。本明細書において論じられる任意の態様を本発明の任意の方法または組成物に関して実施できることが企図され、逆もまた同じである。さらに、本発明の方法を達成するために、本発明の組成物およびキットを使用することができる。
【0035】
「1つの(a)」または「1つの(an)」という言葉の使用は、特許請求の範囲および/または本明細書において「含む」という用語と併せて使用される場合、「1つ」を意味し得るが、それは、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは1つ超」の意味とも一致する。
【0036】
本出願を通じて、「約」という用語は、値を決定するために用いられているデバイスまたは方法の誤差の標準偏差を値が含むことを示すために使用される。
【0037】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢のみを指すことまたは選択肢が相互に排他的であることが明確に示されない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、選択肢のみならびに「および/または」を指す定義を支持する。
【0038】
本明細書および請求項(複数可)において使用される場合、「含む(comprising)」という言葉(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの含む(comprising)の任意の形態)、「有する(having)」という言葉(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などの有する(having)の任意の形態)、「含む(including)」という言葉(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの含む(including)の任意の形態)、または「含む(containing)」という言葉(ならびに「含む(contains)」および「含む(contain)」などの含む(containing)の任意の形態)は包括的または非限定的であり、追加の、記載されない要素または方法工程を除外するものではない。
【0039】
本明細書において使用される場合、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(contains)」、「含む(containing)」、「によって特徴付けられる」という用語、またはそれらの任意の他の変形形態は、記載の成分の、別に明確に示される任意の限定の対象となる非排他的包含を包含することが意図される。例えば、要素(例えば、成分または特徴または工程)のリストを「含む(comprises)」化学的組成物および/または方法は、そうした要素(または成分もしくは特徴もしくは工程)のみに必ずしも限定されないが、明確に記載されない、あるいは化学的組成物および/または方法に固有の他の要素(または成分もしくは特徴もしくは工程)を含み得る。
【0040】
本明細書において使用される場合、「からなる(consists of)」および「からなる(consisting of)」という移行句は、特定されないいかなる要素、工程、または成分も除外する。例えば、請求項において使用される「からなる(consists of)」または「からなる(consisting of)」は、それに通常は付随する不純物(すなわち、所与の成分中の不純物)を除き、該請求項に具体的に記載される成分、材料、または工程に該請求項を限定することになる。「からなる(consists of)」または「からなる(consisting of)という語句が、前提部の直後ではなく、請求項の本体部の文節に現れる場合、「からなる(consists of)」または「からなる(consisting of)という語句は、その文節に示される要素(または成分もしくは工程)のみを限定し;他の要素(または成分)は、全体としての該請求項からは除外されない。
【0041】
本明細書において使用される場合、「から本質的になる(consists essentially of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句は、文字通り開示されるものに加えて、材料、工程、特徴、成分、または要素を含む化学的組成物および/または方法を定義するために使用されるが、但し、これらの追加の材料、工程、特徴、成分、または要素は、請求項にかかる発明の基本および新規の特性(複数可)に実質的に影響を与えない。「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、「含む(comprising)」と「からなる(consisting of)」との間の位置を占める。
【0042】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体例は、本発明の特定の態様を示す一方で、本発明の趣旨および範囲内のさまざまな変更および改変がこの詳細な説明から当業者に明らかになるであろうから、例示の目的でのみ与えられるものであることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明のある特定の局面をさらに実証するために含められる。本明細書において示される本明細書の態様の詳細な説明と組み合わせたこれらの図面のうちの1つまたは複数に対する参照により本発明の理解が深まり得る。
【0044】
図1】修飾グルココルチコイドの合成スキーム。
図2】細胞生存率のためのMTTアッセイ。
図3】IL-6 ELISA。
図4】HaCaT細胞において検出されたIL-6の濃度。対照:グルココルチコイド処理なし、LPSなし。LPS:グルココルチコイド処理なし、+LPS コルチゾール:コルチゾールでの処理、+LPS F-MOD:11-デオキシフルオロコルチゾールでの処理、+LPS
図5】LPS誘導性のIL-1β mRNAのqPCR分析。
【発明を実施するための形態】
【0045】
説明
下記の記載は、本発明のさまざまな態様を対象とする。「発明」という用語は、いずれかの特定の態様を指すことを意図するものではなく、またはその他の様式で本開示の範囲を限定することを意図するものではない。こうした態様のうちの1つまたは複数は好ましくあり得るが、開示の態様を、特許請求の範囲を含む本開示の範囲を限定するものとして解釈またはその他の様式で使用すべきではない。さらに、以下の説明は広い用途を有し、いかなる態様の記載も、その態様の例示のみを意図するものであり、特許請求の範囲を含む本開示の範囲をその態様に限定することを暗示することを意図するものではないことを当業者なら理解するであろう。
【0046】
グルココルチコイドは、依然として、皮膚がんおよび急性リンパ芽球性白血病の主要な処置の1つである。グルココルチコイドは、グルココルチコイド受容体に結合することによって細胞傷害効果を果たし、該グルココルチコイド受容体は核に移行し、グルココルチコイド応答エレメントに結合し、標的遺伝子の転写を調節し、最終的に、細胞周期停止およびアポトーシスの誘導を引き起こす。GCは、NF-κBおよびAP1シグナル伝達経路をトランス抑制して抗炎症機能も発揮する。慢性炎症は、腫瘍イニシエーションおよびプログレッションにおいて重要な役割を担う。
【0047】
2つの酵素、11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1型および2型(11β-HSD1および2)は、組織特異的な様式でグルココルチコイド受容体に利用可能な活性グルココルチコイドの量を調節する。11β-HSD1は、11番目の炭素におけるケトンをヒドロキシル基に変換することによる活性化を担い、11β-HSD2は逆を行う。インビトロモデルを使用することで、本発明者らは、非黒色腫皮膚がん細胞では正常対応物に対して11β-HSD2タンパク質発現の有意な量の上方制御がなされることを見出した。
【0048】
コルチゾールを代表的なグルココルチコイドとして使用して2つの修飾を施した。第1に、11β-HSD2の上方制御を回避するために11番目の炭素位置においてヒドロキシル基を除去し、ハロゲンで置き換えた。第2に、2つの水素を付加して、糖新生を誘導するコルチゾールの位置である炭素4および5の間の二重結合を飽和させる、5-α-還元を行った。デキサメタゾン、トリアムシノロン、フルオシノロンアセトニド、および他のグルココルチコイドにおいて同様の修飾を行うことができる。潜在的には、修飾グルココルチコイドは、骨髄腫、小児白血病、肺がん、および皮膚がんを阻止する上で、非修飾グルココルチコイドよりも有効なものになる。
【0049】
I.修飾グルココルチコイド
修飾グルココルチコイドには、式Iまたは式IIの構造を有する化合物が含まれる。
【0050】
ある特定の態様は、式Iまたは式IIの化合物を対象とし、式中、炭素1および2の間の結合は、飽和であるか、または二重結合である。
【0051】
R1は、水素、ヒドロキシル、C1~C3アルキル、C1~C3アルコール、エステル、置換エステル、エーテル、置換エーテル、C1~C3カルボン酸、ケトン、置換ケトン、C1~C3アミド、またはC1~C3アルデヒド基より選択される。ある特定の局面では、置換は、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミドのものである。
【0052】
R2は、水素、ヒドロキシル、C1~C3アルキル、C1~C3アルコール、エステル、置換エステル、エーテル、置換エーテル、C1~C3カルボン酸、C3~C5ケトン、C3~C5置換ケトン、C1~C3アミド、またはC1~C3アルデヒド基より選択される。ある特定の局面では、置換は、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミドのものである。ある特定の局面では、R2は、C3~C5ヒドロキシケトン(例えば、ヒドロキシアセトン)である。
【0053】
R3は、水素、ハロゲン、またはヒドロキシルより選択される。
【0054】
R4は、水素、ハロゲン、またはヒドロキシルより選択される。
【0055】
ある特定の局面では、R3およびR4は、ヘテロ環を形成している。ある特定の局面では、ヘテロ環は、5員の、窒素または酸素ヘテロ環である。ある特定の局面では、R3およびR4は、置換または非置換のジオキソランを形成している。置換ジオキソランは、アセトニドであり得る。
【0056】
R5およびR6は、水素、水酸化物、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素より独立して選択される。
【0057】
Xは、ハロゲンである。ある特定の態様では、Xは、フッ素または塩素である。
【0058】
本明細書において使用される場合、「圧倒的に1つのエナンチオマー」は、化合物が、1つのエナンチオマーを少なくとも85%、またはより好ましくは、1つのエナンチオマーを少なくとも90%、またはさらにより好ましくは、1つのエナンチオマーを少なくとも95%、または最も好ましくは、1つのエナンチオマーを少なくとも99%含むことを意味する。同様に、「他の光学異性体を実質的に含まない」という語句は、組成物が、別のエナンチオマーまたはジアステレオマーを最大で5%、より好ましくは、別のエナンチオマーまたはジアステレオマーを2%、最も好ましくは、別のエナンチオマーまたはジアステレオマーを1%含むことを意味する。
【0059】
本明細書において使用される場合、「水溶性」という用語は、化合物が少なくとも0.010モル/リットルの程度にまで水に溶解するか、または先行文献により可溶性と分類されることを意味する。
【0060】
本明細書において使用される場合、「ニトロ」という用語は-NO2を意味し;「ハロ」という用語は-F、-Cl、-Brまたは-Iを示し;「メルカプト」という用語は-SHを意味し;「シアノ」という用語は-CNを意味し;「アジド」という用語は-N3を意味し;「シリル」という用語は-SiH3を意味し、「ヒドロキシ」という用語は-OHを意味する。
【0061】
単独でのまたは別の置換基の一部としての「アルキル」という用語は、別段の記載がない限り、直鎖(すなわち、非分岐)または分岐炭素鎖を意味し、該炭素鎖は、完全飽和、一価または多価不飽和であり得る。不飽和アルキル基は、1つまたは複数の二重結合または三重結合を有するものである。飽和アルキル基には、1つまたは複数の炭素-炭素二重結合(アルケニル)を有するもの、および1つまたは複数の炭素-炭素三重結合(アルキニル)を有するものが含まれる。-CH3 (Me)、-CH2CH3 (Et)、-CH2CH2CH3 (n-Pr)、-CH(CH3)2 (イソ-Pr)、-CH2CH2CH2CH3 (n-Bu)、-CH(CH3)CH2CH3 (sec-ブチル)、-CH2CH(CH3)2 (イソ-ブチル)、-C(CH3)3 (tert-ブチル)、-CH2C(CH3)3 (ネオ-ペンチル)という基はすべて、アルキル基の非限定的な例である。
【0062】
単独でのまたは別の用語と併用される「ヘテロアルキル」という用語は、別段の記載がない限り、少なくとも1つの炭素原子、ならびにO、N、S、P、およびSiからなる群より選択される少なくとも1つのヘテロ原子を有する、直鎖または分岐鎖を意味する。ある特定の態様では、ヘテロ原子は、OおよびNからなる群より選択される。ヘテロ原子(複数可)は、ヘテロアルキル基の任意の内部位置、またはアルキル基が分子の残部に付加される位置に配置され得る。2つまでのヘテロ原子が連続し得る。下記の群はすべて、ヘテロアルキル基の非限定的な例である:トリフルオロメチル、-CH2 F、-CH2 Cl、-CH2 Br、-CH2 OH、-CH2 OCH3、-CH2 OCH2 CF3、-CH2OC(O)CH3、-CH2 NH2、-CH2 NHCH3、-CH2 N(CH3)2、-CH2CH2Cl、-CH2CH2OH、CH2CH2OC(O)CH3、-CH2CH2 NHCO2C(CH3)3、および-CH2 Si(CH3)3
【0063】
単独でのまたは他の用語と併用される「シクロアルキル」および「ヘテロシクリル」という用語は、それぞれ「アルキル」および「ヘテロアルキル」の環式バージョンを意味する。さらに、ヘテロシクリルについては、ヘテロ原子は、ヘテロ環が分子の残部に付加される位置を占有し得る。
【0064】
アリールという用語は、多価不飽和芳香族炭化水素置換基を意味する。アリール基は、単環式または多環式(例えば、一緒に縮合した、もしくは共有結合で連結された2~3環)であり得る。「ヘテロアリール」という用語は、N、O、およびSより選択される1~4つのヘテロ原子を含むアリール基を指す。ヘテロアリール基は、炭素またはヘテロ原子を介して分子の残部に付加され得る。アリールおよびヘテロアリール基の非限定的な例としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソオキサゾリル、4-イソオキサゾリル、5-イソオキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンゾイミダゾリル、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル、および6-キノリルが挙げられる。上記のアリールおよびヘテロアリール環系のそれぞれに対する置換基は、以下に記載の許容される置換基の群より選択される。
【0065】
さまざまな基が、置換または非置換(すなわち、置換されていてもよい)として本明細書において記載される。置換されていてもよい基には、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、メルカプト、ホルミル、カルボキシ、オキソ、カルバモイル、置換または非置換のアルキル、置換または非置換のヘテロアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、(アルキル)2アミノ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、置換または非置換のシクロアルキル、置換または非置換のヘテロシクリル、置換または非置換のアリール、および置換または非置換のヘテロアリールより独立して選択される1つまたは複数の置換基が含まれ得る。ある特定の局面では、任意の置換基は、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、メルカプト、ホルミル、カルボキシ、カルバモイル、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、(アルキル)2アミノ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクリル、非置換アリール、または非置換ヘテロアリールより独立して選択される1つまたは複数の置換基でさらに置換されていてよい。例示的な任意の置換基には、-OH、オキソ(=O)、-Cl、-F、Br、C1~4アルキル、フェニル、ベンジル、-NH2、-NH(C1~4アルキル)、-N(C1~4アルキル)2、-NO2、-S(C1~4アルキル)、-SO2(C1~4アルキル)、-CO2(C1~4アルキル)、および-O(C1~4アルキル)が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0066】
「アルコキシ」という用語は、構造 -OR'を有する基を意味し、式中、R'は、置換されていてもよいアルキルまたはシクロアルキル基である。「ヘテロアルコキシ」という用語は、同様に、構造 -ORを有する基を意味し、式中、Rは、ヘテロアルキルまたはヘテロシクリルである。
【0067】
「アミノ」という用語は、構造 -NR'R”を有する基を意味し、式中、R'およびR”は、独立して、水素、または置換されていてもよいアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、もしくはヘテロシクリル基である。「アミノ」という用語は、第一級、第二級、および第三級アミンを含む。
【0068】
「オキソ」という用語は、本明細書において使用される場合、炭素原子に二重結合した酸素を意味する。
【0069】
「アルキルスルホニル」という用語は、本明細書において使用される場合、式 -S(O2)-R'を有する部分を意味し、式中、R'は、アルキル基である。R'は、特定の数の炭素を有し得る(例えば、「C1~4アルキルスルホニル」)。
【0070】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書において使用される場合、生体に対して実質的に無毒な本発明の化合物の塩を指す。典型的な薬学的に許容される塩には、本発明の化合物上に存在する置換基に応じて、本発明の化合物と無機酸もしくは有機酸または有機塩基との反応によって調製される塩が含まれる。
【0071】
薬学的に許容される塩を調製するために使用され得る無機酸の非限定的な例としては、塩酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸、および同様のものが挙げられる。薬学的に許容される塩を調製するために使用され得る有機酸の例としては、脂肪族モノおよびジカルボン酸、例えばシュウ酸、炭酸、クエン酸、コハク酸、フェニルヘテロ原子置換アルカン酸、脂肪族および芳香族硫酸、ならびに同様のものが挙げられる。したがって、無機酸または有機酸から調製される薬学的に許容される塩には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、ヨウ化水素酸塩、フッ化水素、酢酸塩、プロピオン酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、マレイン酸塩、および同様のものが含まれる。
【0072】
適切な薬学的に許容される塩は、本発明の作用物質を、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン、オルニチン、および同様のものなどの有機塩基と反応させることによっても形成され得る。薬学的に許容される塩には、本発明の化合物のいくつかに見られるカルボン酸基またはスルホン酸基と、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、もしくはカルシウムなどの無機カチオン、またはイソプロピルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、およびイミダゾリウムなどの有機カチオンとの間で形成される塩が含まれる。
【0073】
塩が、全体として薬理学的に許容される限りにおいては、本発明のいずれかの塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンが重要であるわけではないことを認識されたい。
【0074】
薬学的に許容される塩ならびにそれらの調製および使用の方法の追加の例は、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use (2002)に示されており、これは、参照により本明細書に組み入れられる。
【0075】
第1の化合物の「異性体」は、各分子が第1の化合物と同じ構成原子を含むもののそれらの原子の三次元での配置が異なる、別の化合物である。別段の指定がない限り、本明細書において記載される化合物は、それらの異性体も包含することが意図される。「立体異性体」は、同じ原子が同じ他の原子に結合しているが、それらの原子の三次元での配置が異なる異性体である。「エナンチオマー」は、左手および右手のように、互いに鏡像である立体異性体である。「ジアステレオマー」は、エナンチオマーではない立体異性体である。
【0076】
II.併用療法
ウルソール酸およびレスベラトロールと組み合わせた修飾グルココルチコイドは、発がん物質、ウイルス、および細菌によって誘導される炎症を低減することによって、慢性炎症およびがん発症に対する相乗効果をもたらす。ウルソール酸およびレスベラトロールに修飾グルココルチコイドを加えた組み合わせは糖新生を弱める。
【0077】
ある特定の態様は、本明細書において記載される修飾グルココルチコイド、または本明細書において記載される修飾グルココルチコイド、ウルソール酸、およびレスベラトロールの組み合わせを用いて慢性炎症およびがんを処置することを対象とする。
【0078】
ウルソール酸は、慢性炎症を阻害する。糖尿病性ラットでは、食物由来のウルソール酸は安静時グルコースレベルを低減し、グルコース耐性およびインスリン感受性を改善する。
【0079】
レスベラトロールは、赤ブドウの皮および他の果実に見られる植物栄養素である。ウルソール酸のように、それもまた、カロリー制限および運動を模倣するその能力を介してその有益な効果の多くを発揮する。
【0080】
A.皮膚がん
毎年米国で診断される皮膚がんの新たな症例数は100万件を超える(Rogers et al. Arch. Dermatol. 2010, 146(3):283-287)。さらに、皮膚がんは、他の形態のがんのリスクが15~30%上昇することと関連している(Kahn et al. JAMA. 1998 280(10):910-912;Krueger et al. Can. J. Public Health. 2010, 101(4):123-27)。このことは、皮膚がんを阻止または処置するための機序の重要性を示す。皮膚がんは、主に、黒色腫、基底細胞癌、および扁平上皮癌からなる。皮膚がんは、UV曝露の増加に伴ってリスクが高まり(Boscoe and Schymura. BMC Cancer. 2006 6:264;Lea et al. Ann. Epidemiol. 2007, 17(6):447-453)、炎症性障害を有する個体では、有病率が高まる(Frentz and Olsen. Br. J. Dermatol. 1999, 140(2):237-242;Long et al. Clin. Gastroenterol. Hepatol. 2010, 8(3):268-274)。
【0081】
がんは、3つの段階:イニシエーション、プロモーション、およびプログレッション、を経て発症する。イニシエーションの間は、DNA変異が、がん遺伝子の活性化および腫瘍サプレッサー遺伝子の不活性化をもたらす。皮膚がんにおけるDNA変異は、UV曝露および多環芳香族炭化水素(PAH)などの環境刺激によって引き起こされる。PAHは煙中に存在し、代謝時にDNA付加物を形成し得る(Baird et al Eniron. Mol. Mutagen. 2005, 45(2-3):106-144;Boffetta et al, Cancer Causes Control. 1997 8(3):444-472)。腫瘍プロモーションにおいては、活性化がん遺伝子および不活性化腫瘍サプレッサー遺伝子が、腫瘍促進シグナル伝達経路の恒常的な活性化を引き起こす。こうした経路は、細胞増殖、細胞成長、アポトーシスに対する抵抗性、および血管新生のための因子を増加させる(Walaszek et al. Chest. 2004, 125(5 Suppl):128S-133S)。最終的に、追加の遺伝子変化が腫瘍細胞の血流への侵入および遠位臓器部位への転移を可能にすると、腫瘍プログレッションが生じる(Gialeli et al. FEBS J. 2011, 278(1):16-27)。
【0082】
腫瘍プロモーション段階は、核内因子カッパB(NFKB)経路を含む、多くのシグナル伝達経路の異常な活性によって特徴付けられる。NFKBは、p65およびp50サブユニットのヘテロ二量体として典型的には存在する転写因子である。UV光を含むいくつかの腫瘍促進因子(Kato et al. Mol Cell 2003, 12(4):829-839;Lee et al. Int J Mol Med 2009, 23(5):679-684)およびさまざまなタバコ構成物質(Rajendrasozhan et al. Pulm Pharmacol Ther 2010, 23(3):172-181;Tsurutani et al. Carcinogenesis 2005, 26(7):1182-1195)はNFKB経路を活性化する。これらの刺激は、NFKB阻害剤lKBaをリン酸化するキナーゼをリン酸化および活性化して、それをプロテアソームによる分解の標的とする。UV光(Laszlo and Wu. Photochem Photobiol 2008, 84(6):1564-1568)、煙(Rajendrasozhan et al. Pulm Pharmacol Ther 2010, 23(3):172-181)、または炎症性作用物質(Hsing et al. PLoS One 2011, 6(3):e17598)を含む刺激は、セリン536および/または276においてNFKBの活性p65サブユニットをリン酸化して、それがヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)を動員することも可能にする(Chen et al. Mol Cell Biol 2005, 25(18):7966-7975)。こうしたHATは、いくつかのリジン残基においてp65をアセチル化して、NFKBをその阻害剤であるIKBaからの解離をもたらす(Chen et al. EMBO J 2002, 21(23):6539-6548;Kiernan et al. J Biol Chem 2003, 278(4):2758-2766)。IKBaから遊離すると、NFKBは、細胞増殖、炎症、アポトーシスに対する抵抗性、血管新生、および転移のための因子をそれが転写する場所である核へと、移行し得る(Kundu and Surh. Mutat Res 2008, 659(1-2):15-30)。
【0083】
果実および野菜の中に存在するある特定の植物化学物質は、多くの実験モデルにおいてがんの形成および増殖を阻害し得る。また、疫学研究は、植物化学物質が豊富な果実および野菜の摂取は、皮膚がんを含む多くのがん型のリスクを低減することを示している(Ibiebele et al. Am J Clin Nutr 2007, 85(5):1401-1408;Kune et al. Nutr Cancer 1992, 18(3):237-244)。レスベラトロールは、皮膚のものを含む、動物モデルにおける多くの腫瘍型の形成を阻害する(Aziz et al. FASEB J 2005, 19(9):1193-1195;Kapadia et al. Pharmacol Res 2002, 45(6):499-505)。ウルソール酸(UA)もまた、化学的に誘導される皮膚がんを含む、いくつかのモデルにおける腫瘍形成を阻害する(Huang et al. Cancer Res 1994, 54(3):701-708;Tokuda et al. Cancer Lett 1986, 33(3):279-285)。レスベラトロールおよびUAは、NFKBシグナル伝達も阻害する。
【0084】
それらの抗がん効果に加えて、幅広い範囲の植物化学物質および植物抽出物が、インスリン抵抗性および糖尿病を含むメタボリックシンドロームを阻害することも示されている(Xia and Weng. J Diabetes 2010, 2(4):243-249;Graf et al. Curr Opin Investig Drugs 2010, 11(10):1107-1115;Cherniack. Nutrition 2011, 27(6):617-623;Leiherer et al. Vascul Pharmacol 2013, 58(1-2):3-20)。多くの場合、こうした効果はAMP活性化キナーゼ(AMPK)と関連しており、AMPKは、メトホルミンのような処方抗糖尿病薬の活性も媒介する(Hattori et al. Hypertension 2006, 47(6):1183-1188;Musi et al. Diabetes 2002, 51(7):2074-2081;Zhou et al. J Clin Invest 2001, 108(8):1167-1174;Hardie et al. Chem Biol 2012, 19(10):1222-1236)。AMPKは、スレオニン172のリン酸化の増加によって示された通り、ヒトおよび動物において運動によって活性化される(Birk and Wojtaszewski. J Physiol 2006, 577(Pt 3):1021-1032;Hoene et al. J Physiol 2009, 587(Pt 1):241-252;Koopman et al. Am J Physiol Endocrinol Metab 2006, 290(6):E1245-1252)。AMPKは、糖尿病を処置するために使用される異なる化合物によるNFKB阻害においても重要な役割を担う(Hattori et al. Hypertension 2006, 47(6):1183-1188;Tomizawa et al. Metabolism 2011,60(4):513-522)。
【0085】
レスベラトロールおよびUAは、動物およびヒトの両方においてメタボリックシンドロームの症状および糖尿病性症状を改善する(Baur et al. Nature 2006, 444(7117):337-342;Brasnyo et al. Br J Nutr 2011, 106(3):383-389;Jang et al. Int Immunopharmacol 2009, 9(1):113-119;Somova et al. Phytomedicine 2003, 10(2-3):115-121)。レスベラトロールは、ヒトを含む多くの生物においてAMPKを活性化し(Timmers et al. Cell Metab 2011, 14(5):612-622;Xu and Si. Nutr Res 2012,32(9):648-658)、メタボリックシンドロームに対するレスベラトロールの完全な効果はAMPK活性に依存する(Um et al. Diabetes 2010, 59(3):554-563)。異なるがん細胞株におけるUAの細胞傷害効果もまた、AMPK活性化に依存する(Son et al. Phytother Res 2013;Zheng et al. Biochem Biophys Res Commun 2012, 419(4):741-747)。最終的に、AMPK活性は、腫瘍易発性動物における腫瘍形成を抑制する(Huang et al. Biochem J 2008, 412(2):211-221;Faubert et al. Cell Metab 2013, 17(1):113-124)。これらの結果は、レスベラトロールおよびUAのような多くの天然化合物の抗がんおよび抗糖尿病性効果が、AMPK活性化によって媒介され得ることを示す。
【0086】
異なる植物化学物質の組み合わせには、多くの潜在的な相乗機序が存在する。一方の薬物がもう一方の代謝を調節するか(Kimura et al. Food Chem Toxicol 2010, 48(1):429-435;Taesotikul et al. Drug Metab Pharmacokinet 2011, 26(2):154-161)、または血流(Lu et al. J Nutr Biochem 2005, 16(1):23-30)もしくは細胞(Suganuma et al. Cancer Res 1999, 59(1):44-47)に入るその能力に影響を与え得る。薬物は、細胞調節系に対して異なる時点で一緒に働くことによって、互いの能力を増強して類似の下流効果を何度も誘導することもし得る(Khafif et al. Carcinogenesis 1998, 19(3):419-424;Saw et al. Biopharm Drug Dispos 2011, 32(5):289-300)。
【0087】
レスベラトロールは、異なる機序を介して腫瘍細胞増殖を相乗的に阻害することが示されている。レスベラトロールは、MCF-7乳がん細胞におけるドキソルビシンおよびドセタキセルの細胞傷害効果を強化すると共に、他のがん細胞株におけるドキソルビシン濃度を増強することが示されている(Al-Abd et al. Cell Prolif 2011;44(6):591-601)。レスベラトロールは、薬物抵抗性ヒト類表皮癌株KBv200におけるビンクリスチン、パクリタキセル、およびドキソルビシンの細胞傷害効果を増強することも示されている。レスベラトロールは、こうした化学療法抵抗性細胞における抗アポトーシス性bcl-2および薬物排出ポンプp-糖タンパク質の発現を低減することも示されている(Quan et al. Biomed Pharmacother 2008;62(9):622-629)。
【0088】
ウルソール酸は、いくつかの化学療法抵抗性がん細胞型の生存率を低減することが示されているが、UAのIC50は、親細胞ではさらに低かった(Shan et al. Chin J Integr Med 2011, 17(8):607-611)。親細胞は、より低いレベルのp-糖タンパク質を有する(Zhang et al. Int J Biochem Cell Biol 2012, 44(8):1244-1253;Shi et al. Eur J Pharmacol 2011;669(1-3):38-44)。本明細書において記載されるこれらの結果は、UAの効果が、伝統的な抵抗性表現型を破壊するレスベラトロールなどの化合物によって増強され得ることを示す。UAおよびレスベラトロールの効果を、この組み合わせが相乗効果を有するかどうかを決定するために、インビボマウス皮膚、ヒトケラチノサイト、および皮膚がん細胞株を含む、さまざまな皮膚関連の系において試験した。
【0089】
III.製剤および投与
本明細書において記載される修飾グルココルチコイド、ウルソール酸、および/またはレスベラトロールは、経口的、非経口的(例えば、静脈内、筋肉内、もしくは皮下)、腹腔内、または局所的(例えば、粉末、軟膏、もしくは滴剤)のいずれかで対象に投与することができる。ある特定の局面では、化合物は、栄養補助製剤または治療用製剤において提供される。
【0090】
栄養補助製剤は、任意の形態、例えば、液体、固体、ゲル、エマルション、粉末、錠剤、カプセル、またはゲルカプセル(例えば、ソフトもしくはハードゲルカプセル)のものであり得る。栄養補助製剤は、典型的には、(例えば、植物から)精製、単離、もしくは抽出されている、または合成されている1つまたは複数の組成物を含むことになり、これらは、食事において食品を補うために使用された場合、組み合わさって利点(例えば、栄養上の利点に加わる健康上の利点)を与える。
【0091】
非経口注射に適した組成物は、生理学的に許容される滅菌された水性もしくは非水性の溶液、分散液、懸濁液、もしくはエマルションを含み得るか、または滅菌注射用溶液もしくは分散液への再構成のための滅菌粉末を含み得る。適切な水性および非水性の担体、希釈剤、溶媒、または媒体の例としては、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、および同様のもの)、それらの適切な混合物、オリーブ油などの植物油を含むトリグリセリド、またはオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。適した流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合は必要粒度の維持によって、および/またはサーファクタントの使用によって維持できる。
【0092】
こうした組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および/または分散剤などの補助剤も含み得る。組成物の微生物汚染の阻止は、さまざまな抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、および同様のものの添加によって達成できる。等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウム、および同様のものを含めることも望ましくあり得る。注射用薬学的組成物の長期的吸収は、吸収を遅延させることが可能な剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよび/またはゼラチンの使用によってもたらされ得る。
【0093】
経口投与のための固体剤形には、カプセル、錠剤、粉末、および顆粒が含まれる。そのような固体剤形では、活性化合物は、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムなどの少なくとも1つの不活性な通例の賦形剤(または担体)、あるいは(a)例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはケイ酸といった嵩増剤または増量剤;(b)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、またはアカシアといった結合剤;(c)例えば、グリセロールといった保湿剤;(d)例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定の複合ケイ酸塩、または炭酸ナトリウムといった崩壊剤;(e)例えば、パラフィンといった溶液流動性低下剤;(f)例えば、第四級アンモニウム化合物といった吸収促進剤;(g)例えば、セチルアルコールまたはモノステアリン酸グリセロール湿潤剤;(h)例えば、カオリンまたはベントナイトといった吸着剤;および/あるいは(i)例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、またはそれらの混合物といった滑沢剤と混合される。カプセルおよび錠剤の場合、剤形は、緩衝剤も含み得る。
【0094】
ラクトースまたは乳糖などの賦形剤、および高分子量ポリエチレングリコール、ならびに同様のものを使用して、同様の型の固体組成物をソフトまたはハード充填ゼラチンカプセルにおける嵩増剤として使用してもよい。
【0095】
錠剤、カプセル、および顆粒などの固体剤形は、腸溶コーティングおよび当技術分野において周知の他のものなどのコーティングまたはシェルを用いて調製することができる。そうしたものは乳白剤も含み得、それが遅延様式で活性な化合物または複数の化合物を放出するような組成物のものでもあり得る。使用され得る包埋組成物の例は、ポリマー物質およびワックスである。活性化合物は、適切な場合には上述の賦形剤のうちの1つまたは複数を有する、マイクロカプセル化形態のものでもあり得る。
【0096】
経口投与のための液体剤形には、許容されるエマルション、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシル剤が含まれる。活性化合物に加えて、液体剤形は、水、または例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油、具体的には、綿実油、落花生油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、ゴマ種子油、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ソルビタンの脂肪酸エステル、もしくはこれらの物質の混合物、および同様のものなどの他の溶媒、可溶化剤、および乳化剤などの、当技術分野において一般に使用される不活性な希釈剤を含み得る。
【0097】
懸濁液は、活性化合物(複数可)に加えて、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールもしくはソルビタンエステル、結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、もしくはトラガカント、またはこれらの物質の混合物、および同様のものなどの懸濁剤を含み得る。
【0098】
本明細書において記載される修飾グルココルチコイド、ウルソール酸、および/またはレスベラトロールの局所投与のための剤形には、軟膏、粉末、スプレー、および吸入物が含まれる。化合物(複数可)は、生理学的に許容される担体、ならびに必要とされ得る任意の保存剤、緩衝剤、および/または噴霧剤と混合される。
【0099】
単独でのまたは補助組成物の一部としての本発明の化合物については、用量は、約1、100、200、300、400、500、600 mgから、500、600、700、800、900、1000 mg、であり、好ましくは、200~600 mgである。ある特定の局面では、ウルソール酸とレスベラトロールとの比は、約4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3から1:4で変わり得る。ある特定の局面では、化合物は、1日当たり1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回投与される。ある特定の局面では、化合物は、1、2、3、4、5、6、または7日ごとに1回投与される。
【0100】
「有効量」という用語は、所望の治療的または予防的結果を達成するために、必要な投与量および期間において有効な量を意味する。
【0101】
がん細胞増殖を低減することに関する「有効量」は、何らかのがんまたは腫瘍細胞の増殖をある程度にまで低減することが可能な量を意味する。該用語は、がんまたは腫瘍細胞の増殖阻害、細胞分裂抑制、および/もしくは細胞傷害効果、ならびに/またはアポトーシスを引き起こすことが可能な量を含む。有効用量は当業者によって容易に決定されることになり、疾患の重症度および経過、患者の健康および処置に対する応答、患者の年齢、体重、身長、性別、既往歴、ならびに処置に当たっている医師の判断に依存することになるであろう。
【0102】
「対象」と言う用語は、イヌ、ネコ、雌ウシ、ウマ、ヒツジ、ガチョウ、およびヒトなどの動物を意味する。特に好ましい患者は、両方の性別のヒトを含む哺乳動物である。
【0103】
「処置すること」、「処置する」、および/または「処置」という用語は、阻止的(例えば、予防的)および対症的処置を含む。
【実施例
【0104】
IV.実施例
以下の実施例および図は、本発明の好ましい態様を示すために含められている。実施例または図に開示される手法は、本発明の実施においてよく機能することが本発明者らによって発見された手法であり、したがって、その実施のための好ましい様式を構成するものと見なせることが当業者によって理解されよう。一方で、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示される特定の態様に多くの変更を施し、同様または類似の結果を依然として得ることができることを、本開示を踏まえれば、当業者なら理解するであろう。
【0105】
非黒色腫皮膚がん細胞では正常対応物に対して11βHSD2タンパク質発現の有意な量の上方制御がなされることを、インビトロモデルを使用して特定した。この知見は、グルココルチコイド構造に対する2つの修飾のきっかけとなっている(図1を参照のこと)。第1に、11βHSD2の上方制御を回避するために11番目の炭素位置においてヒドロキシル基を除去し、ハロゲンで置き換えた。第2に、2つの水素を付加して、糖新生を誘導するコルチゾールの位置である炭素4および5の間の二重結合を飽和させる、5-α-還元を行った。デキサメタゾン、トリアムシノロン、およびフルオシノロンアセトニドにおいて同様の修飾を行うことができる。
【0106】
図2に示されるMTTアッセイを使用して、一定範囲のコルチゾールおよび11-デオキシフルオロコルチゾール(F-MOD)濃度で処理した場合の各細胞株の生存率を測定した。細胞増殖に対するF-MODおよびコルチゾールの効果を比較した場合、通常のHaCaT細胞は、がん性PM1およびMet4細胞と比較して、グルココルチコイド処理に対して、より感受性であることが明らかになった。細胞増殖に対するF-MODの効力は、PM-1で見られたものほど強いとはいかないとしても、少なくともオリジナルのコルチゾールと同じくらい強力である。
【0107】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)分析を実施して(図3)、バイオマーカーであるIL-6を介して、最も遅延または阻止された炎症を示す修飾グルココルチコイドの理想濃度を特定した。本発明者らは、LPSを使用して炎症応答を模倣することで、3つのヒト皮膚細胞株:HaCaT、PM-1、およびMet4を試験した。HaCaT細胞においてIL-6の増加が認められた。図4は、エラーバー付きの、HaCaT細胞におけるIL-6の濃度およびその対応標準曲線を示す。
【0108】
qPCR分析を図5に示す。HaCat細胞におけるLPS誘導性の炎症は、炎症性サイトカインIL-1βのLPS誘導性の増加がコルチゾールおよびF-MODによって同様の程度にまで有意に抑制されることを示した。
【0109】
ウルソール酸およびレスベラトロールと組み合わせた修飾コルチゾールは、炎症およびがん発症に対する相乗効果をもたらす。ウルソール酸およびレスベラトロールに修飾コルチゾールを加えた組み合わせは、修飾コルチゾール単独よりも少ない副作用を有すると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】