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特表2024-524495CLDN18.2結合分子及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】CLDN18.2結合分子及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20240628BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240628BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240628BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240628BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/18
A61K39/395 T
A61K39/395 L
A61P35/00
A61K47/68
A61K45/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023581053
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2022105392
(87)【国際公開番号】W WO2023284769
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】202110795793.0
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524003932
【氏名又は名称】サンヨー バイオファーマシューティカルズ カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100227592
【弁理士】
【氏名又は名称】孔 詩麒
(72)【発明者】
【氏名】イェン シンティエン
(72)【発明者】
【氏名】ラン クオチュン
(72)【発明者】
【氏名】タン ヨンツォン
(72)【発明者】
【氏名】リウ チャンチュアン
(72)【発明者】
【氏名】コン チャオ
(72)【発明者】
【氏名】イェン ルン
(72)【発明者】
【氏名】リウ ヤールー
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ ティエネン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC752
4C085AA14
4C085AA16
4C085AA21
4C085BB01
4C085BB36
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、特異性CLDN18.2結合分子及び前記CLDN18.2結合分子を含有する免疫コンジュゲート、組成物に関する。本発明はさらに、前記CLDN18.2結合分子をコードする核酸、及びそれを含む宿主細胞、並びに前記CLDN18.2結合分子を調製する方法に関する。なお、本発明は、これらのCLDN18.2結合分子の治療的及び診断的用途に関する。特に、本発明は、これらのCLDN18.2結合分子と他の療法、例えば、治療方式又は治療剤との併用治療に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CLDN18.2結合分子であって、CLDN18.2に特異的に結合する少なくとも一つの単一ドメイン抗体(sdAb)部分を含み、前記sdAb部分は、三つの相補性決定領域を含み、それぞれCDR1、CDR2及びCDR3であり、ここで、
(a) CDR1は、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
(b) CDR2は、SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、及び
(c) CDR3は、SEQ ID NO: 3のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 3のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
ここで、前記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失又は保存的アミノ酸置換であり、好ましくは、前記sdAb部分は、ラクダ科動物VHH、部分的にヒト化又は完全にヒト化されたVHH、キメラVHHである、CLDN18.2結合分子。
【請求項2】
前記sdAb部分は、アミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含有するCDR1と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 2を含有するCDR2と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 3を含有するCDR3とを含む、請求項1に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項3】
前記sdAb部分は、
(i) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列、又は、
(ii) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項4】
前記sdAb部分は、N末端又はC末端で別のタンパク質ドメインに連結され、例えば、免疫グロブリンのFc領域に連結され、例えば、IgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4からのFc領域に連結され、又は、例えば、蛍光タンパク質に連結される、請求項1~3のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項5】
(1) CLDN18.2、例えば、ヒトCLDN18.2に高親和性で結合し、例えば、前記CLDN18.2結合分子と細胞表面CLDN18.2との間の結合のEC50が約0.1 μg/mL~約10 μg/mLであり、好ましくは、約0.1 μg/mL~約1 μg/mLであることと、
(2) CLDN18.2に特異的に結合し、CLDN18.1に結合しないことと、
(3) 抗体依存性細胞傷害及び/又は補体依存性細胞傷害作用によってCLDN18.2-陽性癌細胞を死滅させることとのうちの一つ又は複数の特性を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項6】
二重特異性又は多重特異性抗体であり、好ましくは、前記二重特異性抗体分子は、CLDN18.2分子及び第2の標的タンパク質に特異的に結合し、前記第2の標的タンパク質は、例えば、
(1) 腫瘍特異抗原又は腫瘍関連抗原、例えば、上皮成長因子受容体(EGFR1)、HER2/neu、CD20、インスリン様増殖因子受容体(IGF-1R)、癌胎児性抗原、前立腺特異性膜抗原(PSMA)、Mucin-1、CD30、CD33、CD137、cMet、又はアンジオポエチン-2(Ang-2)、
(2) 免疫細胞の免疫チェックポイント分子、例えば、PD1、CTLA-4、TIM-3、又はLAG-3、
(3) 免疫細胞の免疫共刺激分子、例えば、OX40、ICOS、TLR2又はCD27、
(4) サイトカイン、例えば、IL-1、IL-2、IL-7、IL-15又はIL-33から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子をコードする、単離された核酸。
【請求項8】
請求項7の核酸を含むベクターであって、好ましくは、前記ベクターは、発現ベクター、例えば、pcDNA3.3-TOPOベクターである、ベクター。
【請求項9】
請求項7の核酸又は請求項8のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞であり、さらに好ましくは、大腸菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞から選択され、最も好ましくは、前記宿主細胞はHEK293細胞又はCHO細胞である、宿主細胞。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子を調製する方法であって、前記方法は、請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子をコードする核酸の発現に適した条件で請求項9の宿主細胞を培養し、前記CLDN18.2結合分子を任意に単離させることを含み、任意選択的に、前記方法は、前記宿主細胞から前記CLDN18.2結合分子を回収することをさらに含む、方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子及び他の物質、例えば、細胞傷害性薬剤を含む、免疫コンジュゲート。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子又は請求項11の免疫コンジュゲート、及び任意選択的な薬用アジュバントを含む、薬物組成物。
【請求項13】
薬物組成物であって、請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子又は請求項11の免疫コンジュゲート、及び他の治療剤、並びに任意選択的な薬用アジュバントを含み、好ましくは、前記他の治療剤は、化学療法剤、他の抗体(例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体)、細胞傷害性薬剤から選択される、薬物組成物。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子又は請求項11の免疫コンジュゲート、及び一つ又は複数の他の治療剤、例えば、化学療法剤、細胞傷害性薬剤、他の抗体、例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体を含む、組み合わせ製品。
【請求項15】
CLDN18.2に関連する疾患を被験体において治療する方法であって、治療有効量の請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子、請求項11の免疫コンジュゲート、請求項12又は13の薬物組成物、又は請求項14の組み合わせ製品を被験体に投与することを含み、ここで、CLDN18.2に関連する前記疾患は、例えば、CLDN 18.2を発現又は過剰発現する癌、例えば、骨癌、血液癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、食道癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、性器及び生殖器の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)腫瘍、神経外胚葉癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫及び下垂体腺腫であり、好ましくは、前記癌は、胃癌、膵臓癌、食道癌、卵巣癌又は肺癌である、方法。
【請求項16】
試料におけるCLDN18.2を検出するキットであって、前記キットは、請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子を含み、
(a) 試料を請求項1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子と接触させるステップ、及び
(b) 前記CLDN18.2結合分子とCLDN18.2との間の複合体の形成を検出するステップを実施するためのものであり、任意選択的に、前記CLDN18.2結合分子は、検出可能に標識される、キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、特異性CLDN18.2結合分子及び前記CLDN18.2結合分子を含有する免疫コンジュゲート、組成物に関する。なお、本発明は、前記CLDN18.2結合分子をコードする核酸、及びそれを含む宿主細胞、並びに前記CLDN18.2結合分子を調製する方法に関する。本発明はさらに、これらのCLDN18.2結合分子の治療的及び診断的用途に関し、特に、本発明はさらに、これらのCLDN18.2結合分子と他の療法、例えば、治療方式又は治療剤との併用治療に関する。
【0002】
CLDN18は、Claudinsタンパク質ファミリーのメンバーに属し、Shoichiro Tsukitaらにより1998年に発見され、上皮細胞の緊密な連結を構成する重要な分子であり、上皮細胞の透過性を決定し、細胞膜表面タンパク質及び脂質の拡散を阻止する役割も果たしている(Gunzel, D.及びA. S. Yu (2013). 「Claudins and the modulation of tight junction permeability.」 Physiol Rev 93(2): 525-569) 。ヒトのCLDN18遺伝子は、二つの異なるエクソン1を有し、転写後に可変スプライシングを経て、最終的に、N末端のみに異なる配列を有する二つのタンパク質サブタイプCLDN18.1及びCLDN18.2が生成される。これらの二種類のCLDN18サブタイプタンパク質は、いずれも261個のアミノ酸で構成され、四つの膜貫通ドメインを有するが、両者は、異なる組織に分布しており、CLDN18.1は主に肺組織に発現し、CLDN18.2は分化した胃粘膜上皮細胞のみに発現し、胃幹細胞に発現しない(Sahin,Ugurら、「Claudin-18 splice variant 2 is a pan-cancer target suitable for therapeutic antibody development.」 ClinicalCancer Research14.23 (2008): 7624-7634)。
【0003】
CLDN18.2は、様々な腫瘍組織、例えば、非小細胞肺癌(25%)、胃癌(70%)、膵臓癌(50%)及び食道癌(30%)に高度に発現するが、正常組織にほとんど発現せず(Kumar, V.ら、(2018) 「Emerging Therapies in the Management of Advanced-Stage Gastric Cancer.」 Front Pharmacol 9: 404)、腫瘍細胞及び正常組織におけるその発現の差異のため、現在、抗腫瘍薬物の作用標的として非常に有望なものとなっている。
【0004】
今まで、CLDN18.2を標的とする薬物の中で最も進められているのは、ドイツのGanymed社により開発されたIMAB362であり、IMAB362は、CLDN18.2を特異的に標的化するヒトマウスキメラIgG1マブであり、腫瘍細胞に発現するCLDN18.2の1番目の細胞外領域に結合し、抗体依存性細胞傷害(ADCC) 及び補体依存性細胞傷害(CDC)により腫瘍細胞死を誘導する。IMAB362は、胃癌の第2相試験において、標準的な化学療法よりも患者の生存期間を有意に延長し(標準的な化学療法の生存期間は8.4ヶ月であるが、IMAB362治療の生存期間は13.2ヶ月である)、IMAB362の治療効果は、Claudin18.2高発現患者における優位性がより有意である。
【0005】
現在、CLDN18.2標的を標的とするモノクローナル抗体薬物が臨床的に研究されているが、モノクローナル抗体(150 kD)には、分子質量が大きく、組織を透過しにくいため、腫瘍領域の有効濃度が低く、治療効果が十分でないという問題があり、治療剤として、CLDN18.2標的を標的とする小分子抗体の開発し続けることが切望されている。
【0006】
単一ドメイン抗体(single domain antibody、sdAb)(例えば、ナノ抗体) は、現在最も小さい抗体分子であり、その分子量が一般的な抗体の1/10である。単一ドメイン抗体は、モノクローナル抗体の抗原反応性に加えて、いくつかの独特な機能的特性を有し、例えば、それらは、通常、高い溶解度、良好な熱安定性、組織透過性及びパパインなどによる分解に対する耐性を示し、なお、単一ドメイン抗体は、酵母、植物及び哺乳動物細胞などの様々な宿主細胞に発現することができ、発現量が高く、それによりコスト面での優位性が非常に高い。そのため、当分野では、より高い親和性を有する、CLDN18.2に結合する新規な単一ドメイン抗体(sdAb)の開発が望まれている。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、CLDN18.2を特異的に認識する単一ドメイン抗体(sdAb)部分を含むCLDN18.2結合分子を開発し、それは、
(1)CLDN18.2、例えば、ヒトCLDN18.2に高親和性で結合し、例えば、前記CLDN18.2結合分子と細胞表面CLDN18.2との間の結合のEC50が約0.1 μg/mL~約10 μg/mLであり、好ましくは、約0.1 μg/mL~約1 μg/mL であり、
(2)CLDN18.2に特異的に結合し、CLDN18.1に結合せず、
(3)抗体依存性細胞傷害及び/又は補体依存性細胞傷害作用によってCLDN18.2-陽性癌細胞を死滅させることができる。
【0008】
そのため、第1の態様では、本発明は、CLDN18.2結合分子を提供し、それは、CLDN18.2に特異的に結合する少なくとも一つの単一ドメイン抗体(sdAb)部分を含み、前記sdAb部分は、三つの相補性決定領域を含み、それぞれCDR1、CDR2及びCDR3であり、ここで、
(a) CDR1は、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
(b) CDR2は、SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、及び
(c) CDR3は、SEQ ID NO: 3のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 3のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
ここで、前記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失又は保存的アミノ酸置換であり、好ましくは、前記sdAb部分は、ラクダ科動物VHH、部分的にヒト化又は完全にヒト化されたVHH、キメラVHHである。
【0009】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子における前記sdAb部分は、アミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含有するCDR1と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 2を含有するCDR2と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 3を含有するCDR3とを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子における前記sdAb部分は、
(i) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列、又は、
(ii) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子はさらに、前記sdAb部分のN末端又はC末端で別のタンパク質ドメインに連結され、例えば、免疫グロブリンのFc領域に連結され、例えば、IgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4からのFc領域に連結され、又は、例えば、蛍光タンパク質に連結される。
【0012】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子は、二重特異性又は多重特異性抗体であり、好ましくは、前記二重特異性抗体分子は、CLDN18.2分子及び第2の標的タンパク質に特異的に結合し、前記第2の標的タンパク質は、例えば、
(1) 腫瘍特異抗原又は腫瘍関連抗原、例えば、上皮成長因子受容体(EGFR1)、HER2/neu、CD20、インスリン様増殖因子受容体(IGF-1R)、癌胎児性抗原、前立腺特異性膜抗原(PSMA)、Mucin-1、CD30、CD33、CD137、cMet又はアンジオポエチン-2(Ang-2)、
(2) 免疫細胞の免疫チェックポイント分子、例えば、PD1、CTLA-4、TIM-3又はLAG-3、
(3) 免疫細胞の免疫共刺激分子、例えば、OX40、ICOS、TLR2又はCD27、
(4) サイトカイン、例えば、IL-1、IL-2、IL-7、IL-15又はIL-33から選択される。
【0013】
第2の態様では、本発明は、本発明のCLDN18.2結合分子を調製する方法を提供し、前記方法は、本発明のCLDN18.2結合分子をコードする核酸の発現に適した条件下で、本発明のCLDN18.2結合分子をコードする核酸又は前記核酸を含む発現ベクターが導入された宿主細胞を培養し、前記CLDN18.2結合分子を単離させることを含み、任意選択的に、前記方法は、前記宿主細胞から前記CLDN18.2結合分子を回収することをさらに含む。
【0014】
第3の態様では、本発明は、本発明のCLDN18.2結合分子及び他の物質、例えば、細胞傷害性薬剤を含む免疫コンジュゲートを提供した。
【0015】
第4の態様では、本発明は、本発明のCLDN18.2結合分子又は免疫コンジュゲート、及び任意選択的な薬用アジュバントを含む薬物組成物を提供した。
【0016】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のCLDN18.2結合分子又は免疫コンジュゲート及び他の治療剤、並びに任意選択的な薬用アジュバントを含む薬物組成物を提供し、好ましくは、前記他の治療剤は、化学療法剤、他の抗体(例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体)、細胞傷害性薬剤から選択される。
【0017】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のCLDN18.2結合分子又は免疫コンジュゲート、及び一つ又は複数の他の治療剤、例えば、化学療法剤、細胞傷害性薬剤、他の抗体、例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体を含む組み合わせ製品を提供した。
【0018】
第5の態様では、本発明は、CLDN18.2に関連する疾患を被験体において治療する方法を提供し、治療有効量の本発明のCLDN18.2結合分子、免疫コンジュゲート、薬物組成物、又は組み合わせ製品を被験体に投与することを含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子、免疫コンジュゲート、薬物組成物、又は組み合わせ製品により治療される、CLDN18.2に関連する疾患は、例えば、CLDN 18.2を発現又は過剰発現する癌である。
【0020】
第6の態様では、本発明は、試料におけるCLDN18.2を検出するキットを提供し、前記キットは、本発明のCLDN18.2結合分子を含み、
(a)試料を本発明のCLDN18.2結合分子と接触させるステップ、及び
(b)前記CLDN18.2結合分子とCLDN18.2との間の複合体の形成を検出するステップを実施するためのものであり、任意選択的に、前記CLDN18.2結合分子は、検出可能に標識され、
これにより、被験体又は個体からの試料にはCLDN18.2発現レベルの上昇が存在するか否かを判断する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下に詳細に説明される本発明の好ましい実施形態は、以下の図面と併せて読むとより良く理解されるであろう。本発明を説明する目的のために、現在の好ましい実施形態が図に示されている。しかしながら、本発明は、図に示される実施形態の正確な配置及び手段に限定されないことが理解されるべきである。
図1】抗CLDN18.2重鎖抗体のSDS-PAGE図を示した図である。試料は、それぞれ、重鎖抗体NA3SH1-T4、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6、対照としての重鎖抗体NA3SH1、参考品IPI(イピリムマブ(Ipilimumab) ) である。レーンMarkerは、タンパク質分子量の指標である。
図2A】SEC-HPLCによる重鎖抗体NA3SH1-T4検出のモノマー検出プロファイルを示した図である。
図2B】SEC-HPLCによる重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6検出のモノマー検出プロファイルを示した図である。
図2C】SEC-HPLCによる対照としての重鎖抗体NA3SH1検出のモノマー検出プロファイルを示した図である。
図3】抗CLDN18.2重鎖抗体NA3SH1-T4、NA3SH1-T4-hVH6及び対照重鎖抗体NA3SH1のhCLDN18.2-HKE293細胞への結合曲線を示した図であり、MFIは平均蛍光強度を表す。
図4】抗CLDN18.2重鎖抗体NA3SH1-T4、NA3SH1-T4-hVH6及び対照重鎖抗体NA3SH1のhCLDN18.2-NUGC4細胞への結合曲線を示した図であり、MFIは平均蛍光強度を表す。
図5】抗CLDN18.2重鎖抗体NA3SH1-T4、NA3SH1-T4-hVH6及び対照重鎖抗体NA3SH1のhCLDN18.2-KATOIII細胞への結合曲線を示した図であり、MFIは平均蛍光強度を表す。
図6】高濃度(100 μg/mL)での、抗CLDN18.2重鎖抗体NA3SH1-T4、NA3SH1-T4-hVH6及び対照重鎖抗体NA3SH1のhCLDN18.1-HEK293細胞への結合陽性率を示した図である。
図7】抗CLDN18.2重鎖抗体NA3SH1-T4、NA3SH1-T4-hVH6及び対照重鎖抗体NA3SH1のhCLDN18.2-HEK293細胞への抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を示した図である。
図8】抗CLDN18.2重鎖抗体NA3SH1-T4、NA3SH1-T4-hVH6及び対照重鎖抗体NA3SH1のhCLDN18.2-KATOIII細胞への抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を示した図である。
図9】抗CLDN18.2重鎖抗体NA3SH1-T4、NA3SH1-T4-hVH6及び対照重鎖抗体NA3SH1のhCLDN18.2-NUGC4細胞への抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特に限定しない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書で言及された全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。なお、本明細書に記載の材料、方法及び例は、単に例示的なものであり、限定することを意図していない。本発明の他の特徴、目的及び利点は、本明細書及び図面、並びに添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
I. 定義
【0023】
本明細書を説明するために、以下の定義が使用され、且つ適切であれば、単数形で使用される用語は複数も含み、その逆も同様である。要理解、本明細書で使用される用語は、単に具体的実施形態を説明するためのものであり、且つ限定することを意図していないことを理解されたい。
【0024】
「約」という用語は、数字や数値と併用される場合、指定された数字や数値よりも5%小さい下限から指定された数字や数値よりも5%大きい上限までの範囲内の数字や数値をカバーすることを意味する。
【0025】
本明細書で使用されるように、「及び/又は」という用語は、選択肢のうちのいずれか一つ又は選択肢のうちの二つ以上を意味する。
【0026】
本明細書において、「包含」又は「含む」という用語が使用される場合、特に明記しない限り、述べられた要素、整数又はステップからなる場合もカバーされる。例えば、ある具体的な配列を「包含」する抗体可変領域を言及する場合、該具体的な配列からなる抗体可変領域をカバーすることも意図されている。
【0027】
「Claudins」という用語は、上皮と内皮との緊密な結合に存在するインテグリン膜タンパク質であり、緊密な連結の重要な構成要素であり、1998年にShoichiro Tsukitaらにより発見された。該ファミリーには、24個のメンバーがある。ヒトClaudin 18遺伝子には二つの選択可能なエクソン1があるため、Claudin 18.1(本明細書では「CLDN18.1」とも呼ばれる)及びClaudin 18.2(本明細書では「CLDN18.2」とも呼ばれる)の二つのタンパク質サブタイプが産生され、両者は、1番目の細胞外ドメインの約50個のアミノ酸の配列において、7個のみのアミノ酸残基が異なる。
【0028】
癌組織及び正常組織でのClaudin 18.2の発現に有意な差異があることは、正常組織においてClaudin 18.2プロモーター領域CREB結合部位のCpGが高度にメチル化されるが、細胞癌化の間にCpGメチル化レベルが低下し、そしてCREBがClaudin18.2の転写の活性化に関与することに起因する可能性がある。
【0029】
本明細書で使用される「CLDN18.2抗体」、「CLDN18.2に対する抗体」、「CLDN18.2に特異的に結合する抗体」、「CLDN18.2を特異的に標的とする抗体」、「CLDN18.2を特異的に認識する抗体」という用語は、交換可能に使用され、ClaudinタンパクCLDN18.2に特異的に結合できる抗体を意味する。特に、いくつかの具体的な実施形態において、ヒトCLDN18.2に特異的に結合する抗体、特にヒトCLDN18.2に特異的に結合するが、ヒトCLDN18.1に特異的に結合しない抗体を指す。
【0030】
「抗体」という用語は、本明細書において最も広い意味で使用され、抗原結合部位を含むタンパク質を指し、様々な構造の天然抗体及び人工抗体をカバーし、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体 (例えば、二重特異性抗体)、単鎖抗体、単一ドメイン抗体、完全抗体及び抗体断片を含むが、それらに限らない。好ましくは、本発明の抗体は、単一ドメイン抗体又は重鎖抗体である。
【0031】
「抗体断片」という用語は、完全抗体の一部を含み、完全抗体が結合する抗原に結合することができる、完全抗体と異なる分子を指す。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、線状抗体、単鎖抗体(例えば、scFv)、単一ドメイン抗体、二価もしくは二重特異性抗体又はそれらの断片、ラクダ科抗体(重鎖抗体)、及び抗体断片で形成された二重特異性抗体又は多重特異性抗体を含むが、それらに限らない。
【0032】
「相補性決定領域」又は「CDR領域」又は「CDR」という用語は、抗体可変ドメインにおいて、配列が高可変であり、且つ構造が確定されたループ (「超可変ループ」) が形成され、及び/又は抗原接触残基 (「抗原接触点」) を含有する領域である。CDRは、主に抗原エピトープとの結合を担当し、N-末端から順に番号が付けられ、順にCDR1、CDR2及びCDR3を含む。所与の重鎖可変領域アミノ酸配列において、各CDRの正確なアミノ酸配列境界は、いくつかの公知の抗体CDR割り当てシステムのいずれか一つ又はその組み合わせで確定することができ、前記割り当てシステムは、例えば、抗体の三次元構造及びCDRループのトポロジーに基づくChothia (Chothiaら. (1989) Nature 342: 877-883、Al-Lazikaniら, 「Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins」, Journal of Molecular Biology, 273, 927-948 (1997))、抗体配列可変性に基づくKabat (Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第4版, U.S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health (1987)), AbM (University of Bath)、Contact (University College London)、国際ImMunoGeneTics database(IMGT) (http://imgt.cines.fr/)、及び多数の結晶構造を利用する近接伝播クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDR定義を含む。
【0033】
特に断りのない限り、本発明において、「CDR」又は「CDR配列」という用語は、上記いずれか一つの方式で確定されたCDR配列をカバーする。
【0034】
CDRはまた、参照CDR配列 (例えば、本発明に例示されるCDRのいずれか一つの配列) と同じAbM番号付け位置を有することに基づいて確定されてもよい。一実施形態において、本発明の単一ドメイン抗体のCDRは、AbM番号付けプロトコルに基づいて位置が確定される。
【0035】
特に断りのない限り、本発明において、抗体可変領域及びCDRにおける残基位置 (重鎖可変領域残基を含む) が言及される場合、AbM番号付けシステムに基づく番号付け位置を指す。
【0036】
異なる特異性(即ち、異なる抗原に対する異なる結合部位)を有する抗体は、異なるCDRを有する。しかしながら、CDRは抗体間で異なるが、CDR内には限られた数のアミノ酸位置のみが抗原結合に直接関与している。Kabat、Chothia、AbM、IMGT及びContact方法のうちの少なくとも二つを用いて、最小重複領域を確定することによって、抗原結合用の「最小結合単位」を提供することができる。最小結合単位はCDRのサブパートであってもよい。当業者に明らかなように、抗体の構造とタンパク質の折りたたみによって、CDR配列の他の部分の残基を確定することができる。そのため、本発明は、本明細書に提示される任意のCDRの変異体も考慮する。例えば、一つのCDRの変異体において、最小結合単位のアミノ酸残基は、そのままであってもよいが、Kabat又はChothia又はAbM又はIMGT又はContactに基づいて定義された他のCDR残基は、保存アミノ酸残基に置換されてもよい。
【0037】
「単一ドメイン抗体」という用語は、通常、単一可変ドメイン(例えば、重鎖可変ドメイン(VH) 又は軽鎖可変ドメイン(VL)、ラクダ科重鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン、魚IgNARに由来するVH様単一ドメイン(v-NAR) ) だけで抗原結合を付与することができる抗体を指す。即ち、該単一可変ドメインは、標的抗原を認識するために、別の可変ドメインと相互作用する必要がない。単一ドメイン抗体の例としては、ラクダ科(ラマ及びラクダ) 及び軟骨魚(例えば、コモリザメ) からの単一ドメイン抗体(WO 2005/035572)が挙げられる。ラクダ科に由来する単一ドメイン抗体は、本出願においてVHHとも称され、一つの重鎖可変領域のみで構成され、C末端からN末端まで一本の鎖FR4-CDR3-FR3-CDR2-FR2-CDR1-FR1のみを含む抗体であり、「ナノ抗体(nanobody)」とも呼ばれる。単一ドメイン抗体は、目的抗原に結合できる現在既知の最小単位である。
【0038】
「重鎖抗体(heavy-chain antibody、hcAb) 」という用語は、軽鎖を有しない抗体を指し、N末端からC末端まで、VH-CH2-CH3を含むか、又はVH-CH1-CH2-CH3を含むか、又はVHH-CH2-CH3などを含んでもよく、ホモ二量体、例えば、軽鎖を有しない重鎖二量体抗体を構成することができる。重鎖抗体には、標準抗体からのVH又は単一ドメイン抗体からのVHHが含まれていてもよい。一実施形態において、本発明の重鎖抗体は、単一ドメイン抗体のVHHを含む。
【0039】
本明細書で使用されるように、「多重特異性抗体」という用語は、少なくとも二つの抗原結合部位を有する抗体を指し、前記少なくとも二つの抗原結合部位のうちの各抗原結合部位は、同じ抗原の異なるエピトープ又は異なる抗原の異なるエピトープに結合する。多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なる抗原エピトープに対して結合特異性を有する抗体である。一実施形態において、本明細書は、第1の抗原及び第2の抗原に対する結合特異性を有する、「二重特異性抗体」とも呼ばれる多重特異性抗体を提供する。
【0040】
「エフェクター機能」は、免疫グロブリンアイソタイプによって変動する、免疫グロブリンFc領域に起因する生物学的活性を指す。免疫グロブリンエフェクター機能の例としては、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合作用、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)、サイトカイン分泌、免疫複合体媒介性抗原提示細胞による抗原取り込み、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御及びB細胞の活性化が挙げられる。
【0041】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)」という用語は、いくつかの細胞傷害エフェクター細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞)が、標的細胞及び外来宿主細胞に対するキラーを媒介する主なメカニズムの一つである。抗体のFc領域を介して、例えば、NK細胞に発現するFc受容体FcγRIIIA(即ち、CD16a)に結合した後に、ADCC作用を果たすようにNK細胞を活性化する。CD16aは、免疫グロブリンスーパーファミリー膜貫通受容体メンバーに属し、そのN末端158位の対立遺伝子多型差異に応じて、CD16aには158位バリン又はフェニルアラニンが差次的に発現し、それにより、ヒト集団にはCD16a-158V/V(約15%を占め)、CD16a-158V/F(約25%を占め) 及びCD16a-158F/F(約60%を占め) サブタイプが存在する。
【0042】
「補体依存性細胞傷害作用(CDC)」という用語は、補体存在下の標的細胞の開裂を指す。古典的補体経路の活性化は、補体系の第1成分(C1q)とその同じ抗原に結合する抗体(適切なサブクラス)との結合によって開始される。補体活性化を評価するために、例えば、Gazzano-Santoroら,J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載の方法により、CDCアッセイを実施することができる。
【0043】
「キメラ抗体」という用語は、(a)定常領域又はその一部の改変、置き換え又は交換により、抗原結合部位が、異なるか又は改変されたクラス、エフェクター機能及び/又は種の定常領域又はキメラ抗体に新たな性能を付与する完全に異なる分子(例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子、薬物)などに連結され、又は(b)可変領域又はその一部を、異なるか又は改変された抗原特異性を有する可変領域で改変、置き換え又は交換する抗体分子である。例えば、ラクダ抗体は、その定常領域をヒト免疫グロブリンからの定常領域に変更することによって修飾され得る。ヒト定常領域に変更されるため、該キメラ抗体は、抗原認識における特異性を保持することができるとともに、元のラクダ抗体に比べて、ヒトにおける抗原性が低下している。
【0044】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒトCDRからのアミノ酸残基とヒトFRからのアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を指す。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体における全て又は実質的に全てのCDR(例えば、CDR)は、非ヒト抗体のそのものに対応し、且つ全て又は実質的に全てのFRは、ヒト抗体のそのものに対応する。ヒト化抗体は、任意選択的に、ヒト抗体に由来する少なくとも一部の抗体定常領域を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化形態」は、ヒト化された抗体を指す。
【0045】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト又はヒト細胞によって生成されるか又は非ヒト供給源に由来し、ヒト抗体ライブラリー又は他のヒト抗体コード配列を利用する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体を指す。ヒト抗体という定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外する。
【0046】
「Fc領域」という用語は、本明細書において免疫グロブリン重鎖のC末端区域を定義するためのものであり、前記領域は少なくとも一部の定常領域を含む。該用語は、天然配列Fc領域と変異体Fc領域とを含む。いくつかの実施形態において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226又はPro230から重鎖のカルボニル基末端まで延びる。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在しても又は存在しなくてもよい。Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、別段の説明がない限り、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに基づいて行われる。
【0047】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗体の抗原への結合に関与する抗体重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、通常、類似する構造を有し、ここで、各ドメインは、四つの保存的フレームワーク領域(FR)及び三つの相補性決定領域 (CDR)を含む。(例えば、KindtらKuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.ページ91(2007)を参照されたい)。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を与えるには十分である。
【0048】
本明細書で使用されるように、「結合」又は「特異的に結合」という用語は、結合作用が抗原に対して選択的であり、且つ望ましくないか又は非特異的相互作用と区別することができること意味する。抗体が特定の抗原に結合する能力は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、SPR又はバイオレイヤー干渉技術又は当分野で既知の他の一般的な結合アッセイによって測定され得る。
【0049】
「免疫チェックポイント分子」という用語は、末梢組織における免疫反応の持続性及び強度を調節することによって組織損傷を回避し、自己抗原に対する耐性の維持に関与する、免疫系に存在する抑制性シグナル分子を指す(Pardoll DM., The blockade of immune checkpoints in cancer immunotherapy. Nat Rev Cancer, 2012, 12(4): 252-264)。研究したところ、腫瘍細胞がインビボ免疫系から逃れて、制御不能になり増殖できる原因の一つは、免疫チェックポイント分子の抑制性シグナル経路を利用してTリンパ球活性を抑制し、それによりTリンパ球が腫瘍に対する殺傷効果を効果的に発揮することができなくなることであることが分かった(Yao S, Zhu Y及びChen L.,Advances in targeting cell surface signaling molecules for immune modulation. Nat Rev Drug Discov, 2013, 12(2):130-146)。免疫チェックポイント分子は、プログラム細胞死タンパク質1 (PD-1)、PD-L2、LAG-3、TIM-3を含むが、それらに限らない。
【0050】
「共刺激分子」という用語は、共刺激リガンドに特異的に結合することによって、T細胞の共刺激反応(例えば、限定されないが、増殖)を媒介する、T細胞における該当する結合パートナーを指す。共刺激分子は、抗原受容体又はそのリガンド以外の、有効な免疫応答に役立つ細胞表面分子を指す。共刺激分子は、MHCクラスI分子、TNF受容体タンパク質、免疫グロブリン様タンパク質、サイトカイン受容体、インテグリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAMタンパク質)、活性化NK細胞受容体、OX40、CD40、GITR、4-1BB(即ちCD137)、CD27及びCD28を含むが、それらに限らない。いくつかの実施形態において、「共刺激分子」は、CD28、OX40、GITR、4-1BB(即ちCD137)及び/又はCD27である。
【0051】
「サイトカイン」という用語は、一つの細胞群により放出され、細胞間媒体として別の細胞に作用するタンパク質の総称である。このようなサイトカインの例としては、IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12、IL-15のようなリンフォカイン、モノカイン、インターロイキン(IL)、TNF-α又はTNF-βのような腫瘍壊死因子、及びγ-インターフェロンを含む他のポリペプチド因子がある。
【0052】
「免疫コンジュゲート」という用語は、一つ又は複数の他の物質(細胞傷害性薬剤又は標識を含むが、それらに限らない)にコンジュゲートされた抗体を指す。
【0053】
「半有効濃度(EC50)」という用語は、特定の暴露時間後にベースラインと最大値の間の50%の応答を誘導する薬物、抗体又は毒剤の濃度を指す。本出願の文脈において、EC50の単位は「μg/mL」である。
【0054】
「治療有効量」という用語は、必要な用量で、かつ必要な期間にわたって、所望の予防結果を効果的に達成する量を指す。抗体もしくは抗体断片又はそれらのコンジュゲートもしくは組成物の治療有効量は、疾患状態、個体の年齢、性別及び体重並びに抗体又は抗体部分が個体において所望の応答を惹起する能力などの様々な要因に依存して変化し得る。治療有効量はまた、抗体もしくは抗体断片又はそれらのコンジュゲートもしくは組成物の任意の毒性又は有害作用が治療上の有益作用に及ばない量でもある。治療されていない対象に対して、「治療有効量」は、測定可能なパラメータ (例えば、腫瘍増殖率、腫瘍体積など) を、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、さらにより好ましくは少なくとも約50%、60%又は70%、なおさらに好ましくは少なくとも約80%又は90%抑制する。化合物が測定可能なパラメータ (例えば、癌)を抑制する能力は、ヒト腫瘍における有効性を予測する動物モデル系において評価され得る。
【0055】
「個体」又は「被験体」という用語は、交換可能に使用され、哺乳動物を含む。哺乳動物は、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類 (例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ及び齧歯類 (例えば、マウス及びラット) を含むが、それらに限定されない。特に、個体又は被験体は、ヒトである。
【0056】
「腫瘍」及び「癌」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、固形腫瘍及び液性腫瘍をカバーする。
【0057】
「癌」及び「癌性」という用語は、哺乳動物における、細胞増殖が制御できない生理学的疾患を指す。
【0058】
「腫瘍」という用語は、悪性又は良性を問わず、全ての腫瘍性(neoplastic)細胞成長及び増殖、並びに全ての前がん(pre-cancerous)及び癌性細胞及び組織を指す。「癌」、「癌性」及び「腫瘍」という用語は、本明細書で言及される場合、互いに排他的というわけではない。
【0059】
「単離されたCLDN18.2結合分子」という用語は、既にその天然環境の成分から単離されたものを指す。いくつかの実施形態において、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動 (IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC、SEC-HPLC)によって確定されたように、CLDN18.2結合分子を95%超又は99%の純度まで精製する。抗体純度を評価するための方法に関する概説は、例えば、Flatmanら、J.Chromatogr.B848:79-87(2007)を参照されたい。
【0060】
「サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC法)」という用語は、抗体標準化及び品質管理のための重要な方法である。該方法は、主に分子のサイズ大きさ又は流体力学的半径の差異に基づいて分子の単離を行う。SEC-HPLCにより、抗体は、高分子量形態(HMMS)、主ピーク(主に抗体モノマー)及び低分子量形態(LMMS)の三つの主な形態が単離され得る。抗体純度は、クロマトグラムにおける全てのピーク面積の合計に対する主ピーク面積の割合として算出することができる。SEC-HPLC法により、製剤製品における抗体モノマーの割合を測定して、可溶性凝集物及びせん断物の含有量の情報を与えることができる。
【0061】
「単離された核酸」という用語は、その天然環境の成分から分離された核酸分子を指す。単離された核酸は、該核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、該核酸分子は、染色体外又はその天然染色体位置と異なる染色体位置に存在する。「単離された、CLDN18.2結合分子をコードする核酸」は、CLDN18.2結合分子の鎖又はその断片をコードする一つ又は複数の核酸分子を指し、単一ベクター又は個別のベクターにおけるこのような核酸分子、及び宿主細胞のうちの一つ又は複数の位置に存在するこのような核酸分子を含む。
【0062】
配列間の配列同一性の計算は以下のように行われる。
【0063】
二つのアミノ酸配列又は二つの核酸配列の同一性の割合を確定するために、最適な比較を目的として前記配列をアラインメントする(例えば、最適なアラインメントのために第1及び第2のアミノ酸配列又は核酸配列の一方又は両方にギャップを導入するか又は比較するために非相同配列を棄却してもよい)。一好ましい実施形態において、比較するために、アラインメントされる参照配列の長さは、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、80%、90%、100%の参照配列長さである。その後に、対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較する。第1の配列における位置が、第2の配列中の対応する位置における同じアミノ酸残基又はヌクレオチドに占められている場合、前記分子はこの位置において同じである。
【0064】
二つの配列の間の配列比較及び同一性割合の計算は、数学的アルゴリズムを利用して実現され得る。一好ましい実施形態において、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれたNeedlema及びWunsch ((1970) J. Mol. Biol. 48:444-453)アルゴリズム(http://www.gcg.comから入手可能)、Blossum 62マトリックス又はPAM250マトリックス並びにギャップ重み16、14、12、10、8、6又は4及び長さ重み1、2、3、4、5又は6を使用して、二つのアミノ酸配列の間の同一性割合を確定する。さらに別の好ましい実施形態において、GCGソフトウェアパッケージにおけるGAPプログラム(http://www.gcg.comから入手可能)、NWSgapdna.CMPマトリックス並びにギャップ重み40、50、60、70又は80及び長さ重み1、2、3、4、5又は6を使用して、二つのヌクレオチド配列の間の同一性割合を確定する。特に好ましいパラメータセット(及び別段の説明がない限り使用されるべきパラメータセット)は、ギャップペナルティ12、ギャップ延長ペナルティ4、フレームシフトギャップペナルティ5を用いるBlossum 62スコアマトリックスである。
【0065】
さらに、PAM120重み付け余数表、ギャップ長さペナルティ12、ギャップペナルティ4)を用い、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組込まれたE. Meyers及びW. Millerアルゴリズム、( (1989) CABIOS, 4:11-17)を利用して、二つのアミノ酸配列又はヌクレオチド配列の間の同一性割合を確定することができる。
【0066】
追加的に又は代替的に、本明細書に記載の核酸配列及びタンパク質配列は、共通データベースに対して検索を実施して、例えば、他のファミリーメンバー配列又は関連する配列を同定するために、「照会配列」としてさらに使用されてもよい。
【0067】
「トランスフェクション」という用語は、核酸を真核細胞、特に哺乳動物細胞に導入するプロセスを指す。トランスフェクションに用いられる解決策及び技術は、リポフェクション、エレクトロポレーションなどの化学的及び物理的方法によるトランスフェクションを含むが、これらに限定されない。多くのトランスフェクション技術は当分野に周知のものであり、例えば、Grahamら,1973,Virology 52:456、Sambrookら,2001,Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Davisら,1986,Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier、Chuら,1981,Gene 13:197を参照されたい。
【0068】
「蛍光活性化細胞選別」又は「FACS」という用語は、特別なタイプのフローサイトメトリーを指す。それは、各細胞の特定の光散乱及び蛍光特徴に基づき、1回に1つの細胞、生物細胞の異種混合物を2つ以上の容器に選別する方法を提供する(FlowMetric.「Sorting Out Fluorescence Activated Cell Sorting」.2017-11-09)。FACSを行うための機器は、当業者に知られて一般に市販されているものである。このような機器の例は、Becton Dickinson(Foster City,CA)のFACS Star Plus、FACScan及びFACSort機器、Coulter Epics Division(Hialeah,FL)からのEpics C及びCytomation(Colorado Springs,Colorado)からのMoFloを含む。
【0069】
「CLDN18.2に関連する疾患」という用語は、CLDN18.2(例えば、ヒトCLDN18.2)の発現又は活性の増加により引き起こされる、悪化した又は他の形でそれに関連する任意の病症を指す。
【0070】
「薬物組成物」という用語は、それに含まれる活性成分の生物学的活性が有効であることを許容する形態で存在し、且つ前記組成物が投与される被験体に対して許容されない毒性を有する他の成分を含まない組成物を指す。
【0071】
「薬用アジュバント」という用語は、活物質と共に投与される希釈剤、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント(完全及び不完全))、キャリア(carrier)、賦形剤又は安定剤などを指す。
【0072】
本明細書に用いられる場合、「治療」は、既に存在する症状、病態、状態又は疾患の進行又は重症度を減速、中断、阻止、寛解、停止、低下、又は逆転することを指す。所望の治療効果は、疾患の発生又は再発の防止、症状の軽減、疾患の、任意の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮減、転移の予防、病状進行の速度の低下、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善を含むが、それらに限らない。いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は、疾患の進行を遅延させるか、又は疾患の進行を減速させることに用いられる。
【0073】
本明細書に記載の「治療剤」という用語は、腫瘍(例えば、癌)の治療に有効な任意の物質をカバーし、化学療法剤、細胞傷害性薬剤、他の抗体、低分子薬物又は免疫調節剤を含む。
【0074】
本明細書に使用される「化学療法剤」という用語は、癌の治療に役立つ化学化合物を含み、抗腫瘍剤、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗エストロゲン剤、抗アンドロゲン剤、並びに非ステロイド系抗アンドロゲン剤等を含むが、それらに限らない。化学療法剤の例は、WO2015/153513又はWO2016/028672又はWO2015/138920に開示されるものを参照されたい。
【0075】
本明細書で使用される「免疫調節剤」は、免疫応答を抑制又は調節する天然の又は合成される活性剤又は薬物を指す。免疫応答は、体液性応答又は細胞応答であってもよい。免疫調節剤は、免疫チェックポイント分子の阻害剤と、共刺激分子の活性化剤とを含む。
【0076】
本明細書で使用されるように、「細胞傷害性薬剤」という用語は、細胞機能を抑制又は阻止し、及び/又は細胞死又は細胞破壊を引き起こす物質を指す。細胞傷害性薬剤の例は、WO2015/153513、WO2016/028672又はWO2015/138920に開示されるものを参照されたい。
【0077】
「組み合わせ製品」という用語は、1つの投与量単位形態の固定又は非固定の組み合わせ又は組み合わせ投与のための部分のキットを指し、ここで、二つ以上の治療剤は、独立して、同じ時間で同時に投与されるか、又は一定の時間間隔内、特に、これらの時間間隔が、組み合わせされた各治療剤が協働、例えば、相乗効果を示すことを可能にする場合に、個別に投与され得る。「固定の組み合わせ」という用語は、本発明のCLDN18.2結合分子と組み合わせパートナー(例えば、他の治療剤、例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体)が、単一の実体又は投与量の形態で患者に同時に投与されることを指す。「非固定の組み合わせ」は、本発明のCLDN18.2結合分子と組み合わせパートナー(例えば、他の治療剤、例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体)が、個別の実体として、同時に、並行、又は連続して、特定の時間制限なしに患者に投与されることを意味し、ここで、このような投与は、患者の体における二つの治療剤の治療有効レベルを提供する。後者はまた、カクテル治療、例えば、三つ又はより多くの治療剤の投与に適用される。一好ましい実施形態において、薬物の組み合わせは非固定の組み合わせである。
【0078】
「組み合わせ療法」又は「併用療法」という用語は、本開示に記載される癌を治療するために二つ又はより多くの治療剤を投与することを指す。このような投与は、これらの治療剤を、例えば、一定の割合の活性成分を有する単一カプセルで、実質的に同時に、共同で投与することを含む。又は、このような投与は、複数の又は個別の容器(例えば、錠剤、カプセル、粉末及び液体)における各活性成分の共同投与、個別投与又は逐次投与を含む。粉末及び/又は液体は、投与前に所望の投与量に再構成又は希釈することができる。いくつかの実施形態において、投与は、各タイプの治療剤をほぼ同じ時間、又は異なる時間で順番に使用することをさらに含む。いずれの場合においても、治療レジメンは、本明細書に記載の病症又は病態の治療における薬物組み合わせの有益な効果を提供する。
【0079】
「ベクター(vector)」という用語は、本明細書で使用される場合、それと連結される別の核酸を増殖可能な核酸分子を指す。当該用語は、自己複製核酸構造としてのベクター及びそれを導入した宿主細胞のゲノムに結合するベクターを含む。いくつかのベクターは、それに有効に連結される核酸の発現を導くことができる。このようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0080】
「宿主細胞」という用語は、外因性ポリヌクレオチドがすでにそれに導入された細胞、及びこのような細胞の子孫を指す。宿主細胞は、継代数を考慮せず、一次形質転換された細胞及びそれに由来する子孫を含む「形質転換体」及び「形質転換された細胞」を含む。子孫は、核酸物質について親細胞と完全に同じではない場合があり、突然変異を含んでもよい。本明細書において、最初に形質転換された細胞からスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異体子孫を含む。宿主細胞は、本発明の抗体分子を産生することに用いられ得る任意のタイプの細胞系であり、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞と、原核細胞、例えば、大腸菌細胞とを含む。宿主細胞は、培養された細胞を含み、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物又は培養された植物組織もしくは動物組織内部の細胞も含む。
【0081】
「被験体/患者試料」という用語は、患者又は被験体から得た細胞、組織又は体液の集合を指す。組織又は細胞試料の供給源は、固形組織であってもよく、例えば、新鮮で、凍結及び/又は保存された器官又は組織試料もしくは生検試料もしくは穿刺試料からのもの、血液又は任意の血液成分、脳脊髄液、羊膜液 (羊水)、腹膜液 (腹水)、又は間質液のような体液、被験体からの妊娠中又は任意の発育段階の細胞である。組織試料は、防腐剤、抗凝固剤、緩衝剤、固定剤、栄養素、抗生物質などのような自然界において組織と天然に混合しない化合物を含み得る。本明細書において、腫瘍試料の例としては、腫瘍生検、微細針吸引物、気管支洗浄液、胸膜液 (胸水)、痰、尿、手術検体、循環中の腫瘍細胞、血清、血漿、循環中の血漿タンパク質、腹水、腫瘍に由来するか又は腫瘍様性質を示す初代細胞培養物又は細胞株、及びホルマリンで固定され、パラフィンに包埋される腫瘍試料又は凍結される腫瘍試料のような保存された腫瘍試料を含むが、それらに限らない。
【0082】
「包装インサート」という用語は、通常治療用製品の商業包装に含まれる取扱説明書を指し、このような治療用製品の応用に関連する適応症、使用方法、投与量、投与、併用療法、禁忌症及び/又は警告に関する情報を含む。
II. 本発明のCLDN18.2結合分子
【0083】
本発明のCLDN18.2結合分子は、CLDN18.2に特異的に結合するが、CLDN18.1に結合しないか又は実質的に結合しない少なくとも一つの単一ドメイン抗体(sdAb)部分を含み、前記sdAb部分は、N末端からC末端まで、三つの相補性決定領域を含み、それぞれCDR1、CDR2及びCDR3であり、ここで、
(a) CDR1は、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
(b) CDR2は、SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、及び
(c) CDR3は、SEQ ID NO: 3のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 3のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
ここで、前記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失又は保存的アミノ酸置換である。
【0084】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子は、哺乳動物CLDN18.2、例えば、ヒトCLDN18.2に結合する。例えば、本発明のCLDN18.2結合分子は、ヒトCLDN18.2の細胞外ドメイン1(ECD1)に特異的に結合する。
【0085】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子は、
(1)CLDN18.2、例えば、ヒトCLDN18.2に高親和性で結合し、例えば、前記CLDN18.2結合分子と細胞表面CLDN18.2との間の結合のEC50が約0.1 μg/mL~約10 μg/mLであり、好ましくは、約0.1 μg/mL~約1 μg/mLであることと、
(2)CLDN18.2に特異的に結合し、CLDN18.1に結合しないことと、
(3)抗体依存性細胞傷害及び/又は補体依存性細胞傷害作用によってCLDN18.2-陽性癌細胞を死滅させることとのうちの一つ又は複数の特性を有する。
【0086】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子における前記sdAb部分は、アミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含有するCDR1と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 2を含有するCDR2と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 3を含有するCDR3とを含む。
【0087】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子は、CLDN18.2に特異的に結合する少なくとも一つの単一ドメイン抗体(sdAb)部分を含み、前記sdAb部分はVHHである。いくつかの実施形態において、前記VHHは、
(i) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列、
(ii) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列、又は
(iii)SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列に比べて、1つ又は複数(好ましくは、10個以下であり、さらに好ましくは、6、5、4、3、2、1個以下) のアミノ酸変化(好ましくは、アミノ酸置換であり、さらに好ましくは、アミノ酸保存的置換) を有するアミノ酸配列を含むか又はそれらの配列で構成され、好ましくは、前記アミノ酸変化は、CDR領域に発生しない。
【0088】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子は、CLDN18.2に特異的に結合する少なくとも一つの単一ドメイン抗体(sdAb)部分を含み、前記sdAb部分は、部分的にヒト化又は完全にヒト化されたVHH、キメラVHHである。ラクダ科動物のVHHに比べて、本発明の部分的にヒト化又は完全にヒト化されたVHH、キメラVHHは、人体に対して減少したヒト抗ラクダ科抗体反応を有し、抗体応用の安全性を向上させ、親和性が成熟したVHHである。
【0089】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子は、そのsdAb部分のN末端又はC末端が免疫グロブリンのFc領域に連結され、任意選択的に、アミノ酸リンカーを介して連結され、例えば、長さが1~20個のアミノ酸のアミノ酸リンカーを介して連結される。いくつかの実施形態において、前記アミノ酸リンカーのうちの少なくとも90%は、グリシン及び/又はセリンアミノ酸である。いくつかの実施形態において、前記Fc領域は、IgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4からのものである。いくつかの実施形態において、前記Fc領域はIgG1からのものである。いくつかの実施形態において、前記Fc領域はヒトIgG1からのものである。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態において、本明細書に記載のアミノ酸変化は、アミノ酸の置換、插入又は欠失を含む。好ましくは、本明細書に記載のアミノ酸変化は、アミノ酸置換であり、好ましくは、保存的置換である。
【0091】
好ましい実施形態において、本発明に記載のアミノ酸変化は、CDRの外の領域(例えば、FR)で起こる。より好ましくは、本発明に記載のアミノ酸変化は、VHHの外の領域で起こる。いくつかの実施形態において、置換は保存的置換である。保存的置換は、一つのアミノ酸が同じクラス内の別のアミノ酸で置換され、例えば、一つの酸性アミノ酸が別の酸性アミノ酸で置換され、一つの塩基性アミノ酸が別の塩基性アミノ酸で置換され、又は一つの中性アミノ酸が別の中性アミノ酸で置換されることを指す。例示的置換は、以下の表1に示すとおりである。
【0092】
【表1】
【0093】
いくつかの実施形態において、本明細書によるCLDN18.2結合分子は、改変することによってそのグリコシル化程度を増加又は低下させる。CLDN18.2結合分子のグリコシル化部位への付加又は欠失は、一つ又は複数のグリコシル化部位を産生又は除去するようにアミノ酸配列を改変することによって容易に実現することができる。CLDN18.2結合分子がFc領域を含む場合、Fc領域に連結される糖類を変えることができる。いくつかの用途において、望ましくないグリコシル化部位修飾の除去は有用であり得、例えば、フコースモジュールの除去は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を向上させることができる(Shieldら(2002) JBC277:26733を参照されたい)。他の用途において、ガラクトシル化修飾を行って補体依存性細胞傷害 (CDC)を調節することができる 。いくつかの実施形態において、本明細書によるCLDN18.2結合分子のFc領域に一つ又は複数のアミノ酸修飾を導入して、Fc領域変異体を産生することにより、例えば、本発明のCLDN18.2結合分子の癌の治療における有効性を強化することができる。
【0094】
いくつかの実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子は、二重特異性又は多重特異性抗体分子の形態である。一実施形態において、二重特異性抗体分子は、CLDN18.2及びPD-1に結合する。多重特異性抗体分子は、例えば、三重特異性抗体分子であってもよく、CLDN18.2に対する第1の結合特異性と、PD-1、PD-L1、4-1BB、OX40又はLAG-3のうちの一つ又は複数の分子に対する第2及び第3の結合特異性とを含む。
III.免疫コンジュゲート
【0095】
本発明はさらに、他の物質とコンジュゲートするCLDN18.2結合分子(「免疫コンジュゲート」)に関する。いくつかの実施形態において、他の物質は、例えば、治療剤 (例えば、細胞傷害性薬剤) である。細胞傷害性薬剤は、細胞に有害な任意の薬剤を含む。免疫コンジュゲートを形成することに適した細胞傷害性薬剤 (例えば、化学療法剤) の例は、当分野において既知である。例えば、細胞傷害性薬剤は、放射性同位体、成長阻害剤、その断片及び/又は変異体を含む、低分子毒素又は細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素的活性毒素のような毒素、及び既知の様々な抗腫瘍剤又は抗癌剤を含むが、それらに限らない。
【0096】
免疫コンジュゲートの形成に適した細胞傷害性薬剤(例えば、化学療法剤) の例はさらに、例えば、WO2015/153513又はWO2015/138920などを参照されたい。
【0097】
本発明のCLDN18.2結合分子はまた、固相支持体に連結されてもよく、前記支持体は、特に免疫アッセイ又は標的抗原の精製に用いられ得る。このような固相支持体は、玻璃、セルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル又はポリプロピレンを含むが、それらに限らない。
【0098】
いくつかの実施形態において、前記免疫コンジュゲートは、腫瘍を治療するためのものである。いくつかの実施形態において、腫瘍は癌である。
IV. 本発明の核酸及びそれを含む宿主細胞
【0099】
一態様では、本発明は、以上の任意のCLDN18.2結合分子又はその断片又はそのいずれか一つの鎖をコードする核酸を提供する。一実施形態において、前記核酸を含むベクターが提供される。一実施形態において、ベクターは発現ベクターである。一実施形態において、前記核酸又は前記ベクターを含む宿主細胞を提供する。一実施形態において、宿主細胞は真核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞又は293細胞)又は抗体又はその抗原結合断片の調製に適した他の細胞から選択される。別の実施形態において、宿主細胞は原核細胞である。
【0100】
例えば、本発明の核酸は、SEQ ID NO: 4、5、8、9から選択されるいずれか一つに示すアミノ酸配列をコードする核酸、又はSEQ ID NO: 4、5、8、9から選択されるいずれか一つに示すアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸を含む。
【0101】
本発明はさらに、ストリンジェントな条件下で下記核酸とハイブリダイズする核酸、又は下記核酸に比べて一つ又は複数のアミノ酸置換 (例えば、保存的置換)、欠失又は挿入を有するポリペプチド配列をコードする核酸をカバーする:SEQ ID NO: 4、5、8、9から選択されるいずれか一つに示すアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸、又はSEQ ID NO: 4、5、8、9から選択されるいずれか一つに示すアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸。
【0102】
一実施形態において、前記核酸を含む一つ又は複数のベクターが提供される。一実施形態において、ベクターは、発現ベクター、例えば、真核発現ベクターである。ベクターは、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージ又は酵母人工染色体 (YAC) を含むが、それらに限らない。一実施形態において、ベクターは、pcDNA3.3-TOPOベクターである。
【0103】
発現するための発現ベクター又はDNA配列が製造されると、発現ベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクト又は導入してもよい。様々な技術、例えば、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム沈殿、エレクトロポレーション、逆転写ウイルスの形質導入、ウイルストランスフェクト、遺伝子ガン、リポフェクション又は他の一般的な技術は、この目的の実現に用いられ得る。プロトプラスト融合の場合に、培地中で細胞を培養し、適切な活性をスクリーニングする。産生されたトランスフェクト細胞を培養し、産生された抗体分子を回収するための方法及び条件は、当業者に既知であり、且つ本明細書及び従来技術に既知の方法に基づいて、使用される特定の発現ベクター及び哺乳動物宿主細胞に応じて変更又は最適化され得る。
【0104】
また、トランスフェクトされた宿主細胞の選択を可能にする一つ又は複数のマーカーを導入することによって、既にDNAをその染色体に安定的に組み込んだ細胞を選定することができる。マーカーは、例えば、栄養要求性宿主に原栄養株、殺生物耐性(例えば、抗生物質) 又は重金属 (例えば、銅) 耐性などを提供することができる。選択可能な標識遺伝子は、発現されるDNA配列と直接連結されるか又は同時形質転換によって同じ細胞に導入され得る。mRNAを最適に合成するために、追加のエレメントが必要になることもある。これらのエレメントは、スプライシングシグナル、転写プロモーター、エンハンサー及び終結シグナルを含んでもよい。
【0105】
一実施形態において、本発明のポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供される。いくつかの実施形態において、本発明の発現ベクターを含む宿主細胞が提供される。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞、又は抗体の製造に適した他の細胞から選択される。適切な宿主細胞は、大腸菌のような原核微生物を含む。宿主細胞はさらに、糸状菌もしくは酵母のような真核微生物、又は様々な真核細胞、例えば、昆虫細胞などであってもよい。また、脊椎動物細胞を宿主として用いてもよい。例えば、懸濁成長に適するように操作された哺乳動物細胞株を用いてもよい。有用な哺乳動物宿主細胞株の例としては、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7)、ヒト胎児腎臓株(HEK293又は293F細胞)、293細胞、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、ザル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(HepG2)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、CHO-S細胞、NSO細胞、Y0、NS0、P3X63及びSp2/0などのような骨髄腫細胞株が挙げられる。タンパク質の産生に適した哺乳動物宿主細胞株に関する概説は、例えば、Yazaki及びWu、Methods in Molecular Biology、第248巻(B.K.C. Loによる編集、Humana Press、Totowa、NJ)、ページ255~268(2003)を参照されたい。一好ましい実施形態において、前記宿主細胞はCHO細胞又はHEK293細胞である。
V. 本発明のCLDN18.2結合分子の生産及び精製
【0106】
一実施形態において、本発明は、CLDN18.2結合分子を調製する方法を提供し、ここで、前記方法は、前記CLDN18.2結合分子をコードする核酸の発現に適した条件下で、前記CLDN18.2結合分子をコードする核酸又は前記核酸の発現ベクターを含む宿主細胞を培養することと、前記CLDN18.2結合分子を任意に単離させることとを含む。ある実施形態において、前記方法は、前記宿主細胞 (又は宿主細胞培地) からCLDN18.2結合分子を回収することをさらに含む。
【0107】
本発明のCLDN18.2結合分子を組換え産生するために、まず本発明のCLDN18.2結合分子をコードする核酸を単離させ、宿主細胞においてさらにクローニング及び/又は発現を行うために、前記核酸をベクターに挿入する。このような核酸は、通常の規程で単離及び配列決定を行うことが容易であり、例えば、本発明のCLDN18.2結合分子をコードする核酸に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって行われる。
【0108】
本明細書に記載されるように調製された本発明のCLDN18.2結合分子は、既知の従来技術、例えば、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどによって精製され得る。特定のタンパク質を精製するための実際の条件はまた、正味の電荷、疎水性、親水性などの要素に依存し、且つこれらは当業者にとって明らかである。本発明のCLDN18.2結合分子の純度は、複数の周知の分析方法のうちのいずれか一つの方法によって確定することができ、前記周知の分析方法は、サイズ排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィーなどを含む。
VI. 本発明のCLDN18.2結合分子の活性測定法
【0109】
本明細書によるCLDN18.2結合分子は、当分野に既知の複数の測定法によって同定し、スクリーニングし、又はその物理的/化学的特性及び/又は生物学的活性を特徴づけることができる。一方、本発明のCLDN18.2結合分子に対してその抗原結合活性を試験し、例えば、FACS、ELISA又はWesternブロットなどの既知の方法によって行われる。CLDN18.2への結合は、当分野に既知の方法によって測定することができ、本明細書には例示的な方法が開示された。いくつかの実施形態において、FACSを用いて、細胞表面CLDN18.2 (例えば、ヒトCLDN18.2)への本発明のCLDN18.2結合分子の結合を測定する。
【0110】
本発明は、生物学的活性を有するCLDN18.2結合分子を同定するための測定法をさらに提供した。生物学的活性は、例えば、ADCC作用、CDC作用などを含んでもよい。
【0111】
任意の上記インビトロ測定法に用いられる細胞は、CLDN18.2を天然に発現するか又はCLDN18.2を発現するように操作される細胞株を含む。前記の、CLDN18.2を発現するように操作される細胞株は、正常にはCLDN18.2を発現せず、CLDN18.2をコードするDNAを細胞にトランスフェクトした後にCLDN18.2を発現する細胞株である。
【0112】
理解できるように、任意の上記測定法は、CLDN18.2結合分子の代わりに、本発明の免疫コンジュゲートを用いて行われ得る。
VII. 薬物組成物及び薬物製剤
【0113】
いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載の任意のCLDN18.2結合分子又はその免疫コンジュゲートを含む組成物を提供し、好ましくは、組成物は薬物組成物である。一実施形態において、前記組成物は、薬用アジュバントをさらに含む。一実施形態において、組成物(例えば、薬物組成物)は、本発明のCLDN18.2結合分子又はその免疫コンジュゲート、一つ又は複数の他の治療剤 (例えば、化学療法剤、細胞傷害性薬剤、他の抗体、低分子薬物又は免疫調節剤、例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体)の組み合わせを含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、腫瘍を治療するためのものである。いくつかの実施形態において、腫瘍は癌である。
【0115】
本発明は、CLDN18.2結合分子又はその免疫コンジュゲートを含む組成物(薬物組成物又は薬物製剤を含む)及び/又はCLDN18.2結合分子をコードするポリヌクレオチドを含む組成物(薬物組成物又は薬物製剤を含む)をさらに含む。これらの組成物は、当分野に既知の薬用ベクター、緩衝剤を含む薬用賦形剤のような適切な薬用アジュバントをさらに含んでもよい。
【0116】
本明細書で使用されるように、「薬用ベクター」は、生理学的に適合性の任意の全ての溶媒、分散媒体、等張剤及び吸収遅延剤などを含む。本発明に適する薬用ベクターは、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などのような、石油、動物、植物又は合成供給源のものを含む油及び水のような無菌の液体であってもよい。薬物組成物が静脈内投与される場合、水は好適なベクターである。また、生理食塩水、水性デキストロース及びグリセリン溶液を液体ベクター、特に注射用溶液として用いてもよい。適切な賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセリルモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、ジオール、水、エタノールなどを含む。賦形剤の使用及びその用途については、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」, 第五版, R.C.Rowe, P.J.Seskey 及びS.C.Owen, Pharmaceutical Press, London, Chicagoも参照されたい。所望であれば、前記組成物は、少量の湿潤剤又は乳化剤又はpH緩衝剤をさらに含有してもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳剤、錠剤、丸薬、カプセル剤、粉末、持続放出製剤などの形態をとることができる。
【0117】
本明細書に記載のCLDN18.2結合分子を含む薬物製剤は、所望の純度を有する本発明のCLDN18.2結合分子を、一つ又は複数の任意選択的な薬用アジュバント (Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16 版,Osol,A. による編集(1980)) と混合することによって、好ましくは、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で製造され得る。
【0118】
本発明の薬物組成物又は製剤は、治療される特定の適応症に必要とされる一つ超の活性成分をさらに含んでもよく、好ましくは、互いに悪影響を及ぼしない、相補的活性を有するそれらの活性成分を有する。例えば、他の抗癌活性成分、例えば、化学療法剤、細胞傷害性薬剤、他の抗体、低分子薬物又は免疫調節剤、例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体などをさらに提供することが望ましい。前記活性成分は、目的用途に有効な量で適切に組み合わせて存在する。
【0119】
持続放出製剤を製造することができる。持続放出製剤の好適な例としては、本発明のCLDN18.2結合分子の固体疎水性ポリマーを含有する半透過性マトリックスが挙げられ、前記マトリックスは、成形品、例えば、フィルム又はマイクロカプセルの形態を呈する。
VIII. 組み合わせ製品又はキット
【0120】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のCLDN18.2結合分子又はその抗原結合断片、又はその免疫コンジュゲート、及び一つ又は複数の他の治療剤 (例えば、化学療法剤、他の抗体、細胞傷害性薬剤、低分子薬物又は免疫調節剤など)を含む組み合わせ製品をさらに提供する。いくつかの実施形態において、他の抗体は、例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体である。
【0121】
いくつかの実施形態において、前記組み合わせ製品は、腫瘍を治療するためのものである。いくつかの実施形態において、腫瘍は癌などである。
【0122】
いくつかの形態において、前記組み合わせ製品のうちの二つ又は複数の成分は、被験体に順次、別々又は同時に併用投与され得る。
【0123】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のCLDN18.2結合分子、薬物組成物、免疫コンジュゲート又は組み合わせ製品を含むキット、及び投与を指示する任意選択的な包装インサートをさらに提供した。
【0124】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のCLDN18.2結合分子、薬物組成物、免疫コンジュゲート、組み合わせ製品を含む薬物製品をさらに提供し、任意選択的に、前記薬物製品は、投与を指示する包装インサートをさらに含む。
IX. 本発明のCLDN18.2結合分子の用途
【0125】
一態様では、本発明は、CLDN18.2に関連する疾患を被験体において治療する方法に関し、該方法は、治療有効量の本明細書に開示されたCLDN18.2結合分子又はそれを含む薬物組成物又は免疫コンジュゲート又は組み合わせ製品を対象に投与することを含む。
【0126】
いくつかの実施形態において、本発明は、CLDN 18.2を発現又は過剰発現する癌を被験体において治療する方法に関し、前記方法は、治療有効量の本明細書に開示されたCLDN18.2結合分子又はそれを含む薬物組成物又は免疫コンジュゲート又は組み合わせ製品を前記被験体に投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記CLDN 18.2を発現又は過剰発現する癌は、例えば、骨癌、血液癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、食道癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、性器及び生殖器の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)腫瘍、神経外胚葉癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫及び下垂体腺腫であり、好ましくは、前記癌は、胃癌、膵臓癌、食道癌、卵巣癌又は肺癌である。
【0127】
被験体は、哺乳動物、例えば、霊長類、好ましくは、高度な霊長類、例えば、ヒト (例えば、本明細書に記載の疾患に罹患しているか又は本明細書に記載の疾患に罹患するリスクのある患者)であり得る。一実施形態において、被験体は、本明細書に記載の疾患 (例えば、本明細書に記載の腫瘍)に罹患しているか又は本明細書に記載の疾患に罹患するリスクがある。いくつかの実施形態において、被験体は、他の治療、例えば、化学療法治療及び/又は放射線療法を受けるか又は既に受けた。
【0128】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の癌は、固形腫瘍、血液癌、軟部腫瘍及び転移病巣を含むが、それらに限らない。
【0129】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療方法は、本明細書に開示されたCLDN18.2結合分子又は薬物組成物又は免疫コンジュゲート又は組み合わせ製品、及び一つ又は複数の他の療法、例えば、治療方式及び/又は他の治療剤を前記被験体又は個体に併用投与することをさらに含む。
【0130】
いくつかの実施形態において、治療方式は、外科手術(例えば、腫瘍切除術)、放射線療法(例えば、それに照射領域が設計される三次元原体放射線療法に関する外粒子線療法)、局所照射(例えば、予め選択された標的又は器官に向けられた照射)又は集束照射)などを含む。集束照射は、定位的放射線手術、分割照射による定位的放射線手術及び強度変調放射線療法から選択され得る。集束照射は、WO 2012/177624において記述されているように、粒子線(プロトン)、コバルト-60(光子)及び線形加速器(X線)から選択される放射線源を有し得る。
【0131】
放射線療法は、いくつかの方法のうちの一つ又は方法の組み合わせによって投与することができ、前記方法は、外粒子線療法、内部放射線療法、インプラント照射、定位的放射線手術、全身放射線療法、放射線療法及び永続的又は一時的間質近接放射線療法を含むが、それらに限らない。
【0132】
いくつかの実施形態において、治療剤は、化学療法剤、細胞傷害性薬剤、他の抗体、低分子薬物又は免疫調節剤(例えば、共刺激分子の活性化剤又は免疫チェックポイント分子の阻害剤)から選択される。
【0133】
例示的な他の抗体は、免疫チェックポイント分子の阻害剤(例えば、抗PD-1、抗PD-L1、抗TIM-3、抗CEACAM又は抗LAG-3)、免疫細胞を刺激する抗体(例えば、アゴニストGITR抗体又はCD137抗体)などを含むが、それらに限らない。好ましくは、他の抗体は、抗PD-1抗体及び/又は抗PD-L1抗体から選択される。さらに好ましくは、前記抗PD-1抗体は、ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)社のニボルマブ (Nivolumab)、メルク(Merck)社のペムブロリズマブ(Pembrolizumab)であり、前記抗PD-L1抗体は、ロシュ(Roche)が開発したatezolizumab、ドイツのメルク(Merck KGaA)及び米国のファイザー(Pfizer) が共同開発したavelumab、アストラゼネカが開発したdurvalumabである。
【0134】
いくつかの実施形態において、免疫調節剤は、共刺激分子の活性化剤又はアゴニストである。一実施形態において、共刺激分子のアゴニストは、以下の分子のアゴニスト(例えば、アゴニスト抗体又はその抗原結合断片、又は可溶性融合物)から選択される:OX40、CD2、CD27、CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1 (CD11a/CD18)、ICOS (CD278)、4-1BB (CD137)、GITR、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、B7-H3又はCD83リガンド。
【0135】
本発明の併用療法は、併用投与(ここで、二つ又はそれ以上の治療剤が同一の製剤又は個別の製剤に含まれる)及び個別投与をカバーする。個別投与の場合に、本発明のCLDN18.2結合分子又は免疫コンジュゲートなどの投与は、他の療法の投与の前、同時及び/又は後に実施され得る。
【0136】
一実施形態において、CLDN18.2結合分子の投与と他の療法 (例えば、治療方式又は治療剤) の投与とは、互いに約一か月以内、又は約一、二もしくは三週間以内、又は約1、2、3、4、5又は6日以内に発生する。
【0137】
本発明のCLDN18.2結合分子(及びそれを含む薬物組成物又は免疫コンジュゲート)は、任意の適切な方法で投与されてもよく、非経口投与、肺内投与及び鼻内投与を含み、且つ、局所治療が必要であれば、病巣内投与される。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内又は皮下投与を含む。投薬が短期的であるか長期的であるかにある程度応じて、任意の適切な経路、例えば、静脈内注射または皮下注射などの注射によって投薬を行うことができる。本明細書は、様々な投薬ホライズンをカバーし、単回投与又は複数の時点での複数回投与、ボーラス注入投与及びパルス注入を含むが、それらに限らない。
【0138】
疾患を予防又は治療するために、本発明のCLDN18.2結合分子の適切な用量(単独で又は一つ又は複数の他の治療剤と組み合わせて使用される場合)は、治療される疾患のタイプ、CLDN18.2結合分子のタイプ、疾患の重症度及び進行、前記CLDN18.2結合分子が予防目的で投与されるか治療目的で投与されるか、以前の治療、患者の臨床病歴及び前記CLDN18.2結合分子に対する応答、並びに主治医の判断力に依存する。前記CLDN18.2結合分子は、一回の治療又は一連の治療によって患者に適切に投与される。CLDN18.2結合分子の用量及び治療計画は、当業者によって確定され得る。
【0139】
理解できるように、任意の上記予防又は治療は、CLDN18.2結合分子の代わりに、本発明の免疫コンジュゲート又は組成物又は組み合わせ製品を用いて行われ得る。
X. 診断及び検出のための方法及び組成物
【0140】
いくつかの実施形態において、本明細書による任意のCLDN18.2結合分子は、生物学的試料におけるCLDN18.2の存在の検出に用いることができる。「検出」という用語は、本明細書で使用される場合、定量又は定性検出を含み、例示的検出方法は、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー(例えば、FACS)、抗体分子と複合体化された磁気ビーズ、ELISA測定法に関してもよい。いくつかの実施形態において、生物試料は、血、血清又は生物由来の他の体液試料である。いくつかの実施形態において、生物試料は、細胞又は組織を含む。いくつかの実施形態において、生物試料は、過剰増殖性又は癌性病巣からのものである。
【0141】
一実施形態において、診断又は検出方法に用いられるCLDN18.2結合分子を提供した。別の態様では、CLDN18.2の生物学的試料での存在を検出する方法を提供した。いくつかの実施形態において、方法は、CLDN18.2タンパク質の生物学的試料での存在を検出することを含む。いくつかの実施形態において、CLDN18.2はヒトCLDN18.2である。いくつかの実施形態において、前記方法は、CLDN18.2結合分子とCLDN18.2との結合が許容される条件下で、生物学的試料を本明細書に記載のCLDN18.2結合分子と接触させ、CLDN18.2結合分子とCLDN18.2との間に複合体が形成されたか否かを検出することを含む。複合体の形成は、CLDN18.2が存在することを表す。該方法は、インビトロ又はインビボ方法であってもよい。一実施形態において、CLDN18.2結合分子は、CLDN18.2結合分子による治療に適した被験体を選択することに用いられ、例えば、ここで、CLDN18.2は、前記被験体を選択するための生物マーカーである。
【0142】
一実施形態において、本発明のCLDN18.2結合分子を用いて、癌又は腫瘍を診断することができ、例えば、対象における本明細書に記載の疾患(例えば、過剰増殖性又は癌性疾患)の治療又は進行、その診断及び/又はステージを評価(例えば、モニタリング)する。いくつかの実施形態において、標識されたCLDN18.2結合分子が提供される。標識は、直接検出された標識又は部分(例えば、蛍光標識、発色団標識、高電子密度標識、化学発光標識及び放射性標識)、及び例えば、酵素的反応又は分子相互作用によって、間接的に検出された部分、例えば、酵素又はリガンドを含むが、それらに限らない。例示的標識は、放射性同位体32P、14C、125I、H及び131I、希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体のような蛍光団、ローダミン及びその誘導体、ダンシル(dansyl)、ウンベリフェロン(umbelliferone)、ルシフェラーゼ(luceriferase)、例えば、蛍ルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、フルオレセイン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HR)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、溶解酵素、炭水化物オキシダーゼ、例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-リン酸脱水素酵素、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼのような複素環オキシダーゼ、並びにHRのような過酸化水素酸化染料前駆体を利用する酵素、ラクトパーオキシダーゼ、又はミクロペルオキシダーゼ(microperoxidase)、ビオチン/アビジン、スピン標識、ファージ標識、安定ラジカルなどを含むが、それらに限らない。
【0143】
本明細書による任意の発明のいくつかの実施形態において、試料は、CLDN18.2結合分子による治療前に得られた。いくつかの実施形態において、試料は、癌が既に転移した後に得られた。いくつかの実施形態において、試料は、ホルマリンで固定され、パラフィン(FFPE)に包埋される。いくつかの実施形態において、試料は、生検(例えば、コア生検)、手術検体(例えば、手術切除からの検体)、又は微細針吸引物である。
【0144】
いくつかの実施形態において、CLDN18.2は、治療前、例えば、治療開始前又は治療間隔後のある治療の前に検出される。
【0145】
いくつかの実施形態において、腫瘍を治療する方法を提供し、前記方法は、被験体(例えば、試料)(例えば、癌細胞を含む被験体試料)に対してCLDN18.2の存在を検査し、それによってCLDN18.2値を確定し、CLDN18.2値を対照値(例えば、健康な個体の試料におけるCLDN18.2の値)と比較し、且つCLDN18.2値が対照値より大きい場合、一つ又は複数の他の療法と任意に組み合わせるCLDN18.2結合分子(例えば、本明細書に記載のCLDN18.2結合分子)の治療有効量を被験体に投与し、それによって腫瘍を治療することを含む。
【0146】
理解できるように、本発明の各部分に記述されている各実施形態、例えば、疾患、治療剤、治療方式及び投与などは、本発明の他の部分の実施形態にも同様に適し、又は他の部分の実施形態と組み合わせることができる。本発明の各部分に記述されている、CLDN18.2結合分子に適した性質、用途及び方法などの実施形態は、CLDN18.2結合分子を含む組成物、コンジュゲート、組み合わせ製品及びキットなどにも同様に適する。
【0147】
実施例
【0148】
以下の実施例は、本発明を単に例示的に説明することを意図するため、いかなる方式で本発明を限定するものと見なされるべきではない。
【0149】
実施例1 過剰発現細胞株の構築及び同定
1.1 ヒトCLDN18.2を過剰発現するNUGC4細胞株の構築及び同定
【0150】
ヒトCLDN18.2を過剰発現する胃癌細胞株NUGC4細胞株(以下では、hCLDN18.2-NUGC4と略称される)は、レンチウイルストランスフェクションの方式で構築され、抗体IMAB362(ドイツGanymed社、CLDN18.2に特異的に結合する抗体である) によって同定された。
【0151】
具体的な方法は、以下の通りである。5×10個の状態が良好なヒト胃癌細胞(NUGC4細胞、BNCC菌種バンクから入手され、番号がBNCC341962である)を取り、30:1の感染多重度(MOI)で、ヒトCLDN18.2配列(SEQ ID NO: 10)を含有する、包装されたレンチウイルス(CN109485734B実施例3のレンチウイルス包装方法を参照)を加え、十分で均一混合し、そして5 μg/mLポリブレン(Polybrene、和元生物)を含有するIMDM完全培地(Gibico、2192731)を加え、均一に混合し、37℃で、CO濃度が5%である恒温インキュベータにおいて20時間インキュベートし、そして、培地を除去し、新鮮なIMDM完全培地に交換して24時間インキュベートし続け、次に、平均0.5個の細胞/ウェルの細胞密度でレンチウイルストランスフェクション後のNUGC4細胞を96ウェルプレートに接種し、最終濃度が2 μg/mLのピューロマイシンを加えて耐性加圧スクリーニングを行い、37℃で、CO濃度が5%である恒温インキュベータにおいて2~3週間培養し、クローンを選択し、抗体IMAB362を用いて同定し、最終的には、ヒトCLDN18.2を過剰発現するNUGC4細胞株の取得に成功し、本明細書では、「hCLDN18.2-NUGC4細胞株」とも呼ばれる。
1.2 ヒトCLDN18.2を過剰発現するHEK293細胞株の構築及び同定
【0152】
全長ヒトCLDN18.2(SEQ ID NO: 10)のDNA配列をpLVX-puroプラスミド(Clontech、Cat#632164)に構築した。そして、得られたプラスミドをHEK293細胞(ATCC(登録商標)CRL-1573TM)にエレクトロポレーションした。スクリーニングにより、実施例1.1を参照して細胞培養を行い、ピューロマイシンで耐性加圧スクリーニングを行い、抗体IMAB362を用いてクローンを同定し、最終的には、ヒトCLDN18.2を過剰発現するHEK293細胞株の取得に成功し、本明細書では、「hCLDN18.2-HEK293細胞株」とも呼ばれる。
1.3 CD16a(F158)-NF-AT-Jurkat細胞株の構築及び同定
【0153】
まず、NF-AT-Jurkat細胞株を構築する:NFAT応答エレメント(NFAT-RE) DNA配列を含むpGL4.30プラスミド(Promega、カタログ番号:E8481) を、エレクトロポレーター(Invitrogen、NeonTM Transfection System、MP922947)によりJurkat 細胞(ATCC(登録商標)TIB-152)にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、最終濃度が500 μg/mLであるハイグロマイシンB(源培、S160J7) を用いて、耐性加圧スクリーニングを行い、2~3週間程度で細胞株クローンの成長状況を観察し、クローンが形成された細胞株を選択して同定した。同定方法は、以下の通りである。一部のクローンを取って96ウェルのホワイト底板(Corning、3610)に移し、PMA(10 ng/mL)及びイオノマイシン(1 nM)刺激を行い、37℃で、5%COのインキュベータにおいて6h培養した後にBright glo(Vazyme、DD1204-01)を加え、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices:Spectramax i3x)によりシグナル値を読み取った後に異なるクローンNF-κBの発現レベルを評価して、NF-AT遺伝子を高発現するJurkat細胞株(NF-AT-Jurkat細胞株と略称される)を得た。
【0154】
NF-AT-Jurkat細胞株を取り、20:1の感染多重度(MOI)で、CD16a(F158)配列(UniProtKB - P08637、第158位のアミノ酸がFフェニルアラニンである) を含有する、包装されたレンチウイルスを加え、最終濃度が2 μg/mLであるピューロマイシンを添加して耐性加圧スクリーニングを行い、37℃で、CO濃度が5%である恒温インキュベータにおいて2~3週間培養し、クローンを選択して同定し(同定方法は本出願の実施例7を参照)、最終的には、CD16a(F158)-NF-AT-Jurkat細胞株の取得に成功した。
【0155】
実施例2 抗CLDN18.2ナノ抗体の親和性成熟改変
【0156】
ナノ抗体Nb-NA3S-H1とヒトCLDN18.2との特異的に結合を向上させるために、本実施例は、ナノ抗体Nb-NA3S-H1に対して親和性成熟改変を行った。
【0157】
ナノ抗体Nb-NA3S-H1のAbMで定義された三つのCDRのうちの各CDRに対して、単一部位又は連続した二つの部位の突然変異を行い、親和性が成熟したファージディスプレイライブラリーを構築し、ファージディスプレイ技術を利用して、親和性成熟後の分子をスクリーニングし、スクリーニング方法は、WO 2020238730A1における実施例3を参照されたい。
【0158】
親和性成熟改変により、候補ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4を得た。AbMでCDRを定義する方式により、候補ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4の相補性決定領域配列を確定し、前記CDRのアミノ酸配列は表2に示す通りである。
【0159】
【表2】
【0160】
実施例3 親和性が成熟したナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4のヒト化改変
【0161】
ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4の可変領域配列をヒト抗体生殖系列遺伝子(Germline)データベースとアライメントし、ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4との相同性が高い1~3本の生殖系列遺伝子を見つけ、それとともに生殖系列遺伝子の創薬可能性を考慮し、適切な生殖系列遺伝子Germlineテンプレートを選択してアライメントを行った。
【0162】
ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4に対して相同性モデリングを行い、相同性モデリングについて、PDBデータベース(http://www.rcsb.org/)のナノ抗体構造モデルを参照した。ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4の構造モデル及び非ヒト由来部位の状況を合わせて、組み合わせ復帰突然変異設計を行い、復帰突然変異設計により、潜在的な翻訳後修飾部位の導入を回避し、最終的には、ヒト化程度が96.67%に達する候補ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4-hVH6を設計した。
【0163】
候補ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4及びNb-NA3S-H1-T4-hVH6のアミノ酸配列(重鎖単一ドメイン可変領域)は表3に示す通りである。
【0164】
【表3】
【0165】
実施例4 抗CLDN18.2重鎖抗体の構築
【0166】
ナノ抗体Nb-NA3S-H1、ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4、ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4-hVH6アミノ酸配列のC末端を、それぞれヒトIgG1 Fc領域(SEQ ID NO: 6に示すアミノ酸配列)のN末端に連結して、抗CLDN18.2重鎖抗体NA3SH1、NA3SH1-T4及びNA3SH1-T4-hVH6を構築した。
【0167】
具体的には、PCR法による増幅でナノ抗体Nb-NA3S-H1、ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4、ナノ抗体Nb-NA3S-H1-T4-hVH6の遺伝子配列、及びhIgG1 Fc領域(SEQ ID NO: 6に示すアミノ酸配列)遺伝子配列をそれぞれ得て、重複伸長PCR法により、各ナノ抗体の遺伝子配列をhIgG1 Fc領域遺伝子配列に連結し、次に相同組換え方法により、改変された真核発現ベクタープラスミドpcDNA3.3-TOPO(Invitrogen、品番:K830001) にそれぞれ構築し、各抗CLDN18.2重鎖抗体が連結されている該遺伝子配列の発現ベクターを大腸菌SS320細胞に形質転換し、37℃で一晩培養した。エンドトキシンプラスミドのない抽出キット(OMEGA、D6950-01)を利用してプラスミド抽出を行い、真核発現用の、エンドトキシンのない抗CLDN18.2重鎖抗体プラスミドを得た。
【0168】
抗CLDN18.2重鎖抗体に対応するアミノ酸配列は表4に示す通りである。
【0169】
【表4】
【0170】
実施例5 抗CLDN18.2重鎖抗体の発現、精製及び物理化学的特性分析
5.1 抗CLDN18.2重鎖抗体の発現及び精製
【0171】
抗CLDN18.2重鎖抗体の発現は、ExpiCHO一過性発現システム(Thermo Fisher、A29133)を用いる。具体的な方法は、以下の通りである。トランスフェクション当日、ExpiCHO細胞密度を7×10~1×10個の活細胞/mL程度、細胞生存率を>98%にした。37℃に予熱された新鮮なExpiCHO発現培地を用いて、細胞を最終濃度が6×10個の細胞/mLになるように調整した。4℃に予冷されたOptiPROTM SFMで目的プラスミドを希釈し(1 mLの前記培地に実施例4で調製した抗CLDN18.2重鎖抗体プラスミドを1 μg加え)、それとともに、OptiPROTMSFMでExpiFectamineTMCHOを希釈し、両者を等体積混合して軽くピペッティングして均一に混合し、ExpiFectamineTMCHO/プラスミドDNA混合液を調製し、室温で1~5 minインキュベートし、用意したExpiCHO細胞懸濁液に徐々に加えながら軽く振とうし、最後に細胞培養シェーカーに置いて、37℃で、8% COの条件下で培養した。トランスフェクション後の18~22 hに、培養液にExpiCHOTMEnhancer及びExpiCHOTMFeedを添加し、振とうフラスコを32℃のシェーカー及び5% COの条件下で培養し続けた。トランスフェクション後の5日目に、同体積のExpiCHOTMFeedを添加し、徐々に加えながら細胞懸濁液を軽くて均一に混合した。トランスフェクションの7~15日後に、目的タンパク質が発現している細胞培養上清を15000 gで10 min高速遠心分離し、得られた上清に対してMabSelect SuRe LX(GE、17547403) で親和性精製を行い、そして100 mMの酢酸ナトリウム(pH3.0)で目的タンパク質を溶出させ、次に1 MのTris-HClで中和し、最後に限外濾過濃縮管(Millipore、UFC901096)によって、得られたタンパク質をPBS緩衝液に置き換えた。
5.2 抗CLDN18.2重鎖抗体のSDS-PAGE同定
【0172】
非還元溶液の調製:各重鎖抗体及び参考品イピリムマブ(Ipilimumab、IPIとも略称され、実施例5.1と類似する方法で調製された) 1 μgに5×SDSサンプリング緩衝液及び40 mMヨードアセトアミドを加え、75 ℃乾燥浴で10 min加熱し、室温まで冷却した後、12000 rpmで5 min遠心分離し、上清を取った。
【0173】
還元溶液の調製:各重鎖抗体及び参考品IPI 2 μgに5×SDSサンプリング緩衝液及び5 mM DTTを加え、100 ℃乾燥浴で10 min加熱し、室温まで冷却した後、12000 rpmで5 min遠心分離し、上清を取った。
【0174】
各上清をBis-tris 4-15%勾配ゲル(金斯瑞から購入)に加え、110 Vの定電圧で電気泳動し、クマシーブリリアントブルーがゲルの底部に移行した場合、運行を停止し、ゲルシートを取り出してクマシーブリリアントブルー染色液に1~2 h静置し、染色液を捨て、脱色液を加え、必要に応じて脱色液を2~3回変更し、ゲルの背景が透明になるまで脱色した後に脱イオン水中に保存した。脱色後に、EPSON V550カラースキャナーでスキャンし、ImageJによりピーク面積正規化法で還元及び非還元バンド純度を計算した。
【0175】
結果は図1に示す通りである。各重鎖抗体及び参考品IPI非還元ゲルのバンドは、いずれも予想される大きさに一致し、純度がいずれも90%以上であった。
5.3 抗CLDN18.2重鎖抗体のSEC-HPLCモノマーの純度同定
【0176】
材料の準備:1、移動相:150 mmol/Lリン酸緩衝液、pH 7.4、2、試料の調製:各抗CLDN18.2重鎖抗体をいずれも移動相溶液で0.5 mg/mLまで希釈した。Agilent HPLC 1100クロマトグラフィーカラム(XBridge BEH SEC 3.5 μm, 7.8 mm I.D.×30 cm、Waters)の流速を0.8 mL/minに設定し、試料注入体積が20 μLであり、VWD検出器の波長が280 nm及び214 nmであった。
【0177】
本実施例の抗CLDN18.2重鎖抗体のサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)結果は以下の通りである。面積正規化法で試料における高分子ポリマー、抗CLDN18.2重鎖抗体モノマー及び低分子物質の割合を計算し、結果が図2A~2C及び表5に示す通りである。
【0178】
図2A~2C及び表5から分かったように、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6の発現量は、重鎖抗体NA3SH1の3倍以上、重鎖抗体NA3SH1-T4のほぼ2倍であり、SEC-HPLC結果に示すように、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6モノマーの割合が最も高く、これはまた、生成物における可溶性凝集物及びせん断物の含有量が最も低いことを意味している。
【0179】
【表5】
【0180】
実施例6 抗CLDN18.2重鎖抗体の親和活性分析
6.1 抗CLDN18.2重鎖抗体のhCLDN18.2-HEK293細胞への結合能力
【0181】
指数増殖期のhCLDN18.2-HEK293細胞を収集し、300 gで遠心分離して上清を除去し、FACS緩衝液(1%BSAを含有するPBS)で細胞を再懸濁させ、計数し細胞懸濁液の密度を2×10個の細胞/mLに調整した。その後、hCLDN18.2-HEK293細胞を1ウェルあたり100 μLで96ウェル丸底プレートに加え、300 gで遠心分離して上清を除去した。対応するウェルに異なる濃度の重鎖抗体NA3SH1-T4、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6、対照としての重鎖抗体NA3SH1及びアイソタイプ対照としてのヒトIgG1アイソタイプ抗体を加え、細胞を再懸濁させた後に4℃に置いて1 hインキュベートした。インキュベート後の細胞混合液を3回洗浄した後に、PE標識抗ヒト-IgG-Fcフローサイトメトリー用抗体(Abcam、カタログ番号:98596)を加え、再懸濁させた後に4℃で30 minインキュベートした。インキュベート後の細胞混合液を3回洗浄した後に200 μLのFACS緩衝液を加えて細胞を再懸濁させ、最後にフローサイトメータ(Beckman、CytoFLEX AOO-1-1102)によってオンマシンで検出し分析した。PRISMTM(GraphPad Software、San Diego、CA)によってデータを分析し、且つEC50値を計算した。
【0182】
FACS結合アッセイの結果は図3に示す通りであり、重鎖抗体NA3SH1-T4及びNA3SH1-T4-hVH6は、いずれも対照としてのNA3SH1よりも有意に優れたCLDN18.2への結合能力を示し、ここで、NA3SH1-T4のEC50=0.2736 μg/mLであり、NA3SH1-T4-hVH6のEC50=0.3099 μg/mLであり、NA3SH1のEC50=0.5356 μg/mLであった。
6.2 抗CLDN18.2重鎖抗体のhCLDN18.2-NUGC4細胞への結合能力
【0183】
指数増殖期のhCLDN18.2-NUGC4細胞を収集し、300 gで遠心分離して上清を除去し、FACS緩衝液(1%BSAを含有するPBS)で細胞を再懸濁させ、計数し細胞懸濁液の密度を2×10個の細胞/mLに調整した。その後、hCLDN18.2-NUGC4細胞を1ウェルあたり100 μLで96ウェル丸底プレートに加え、300 gで遠心分離して上清を除去した。対応するウェルに異なる濃度の重鎖抗体NA3SH1-T4、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6、対照としての重鎖抗体NA3SH1及びアイソタイプ対照としてのヒトIgG1アイソタイプ抗体を加え、細胞を再懸濁させた後に4℃に置いて1 hインキュベートした。インキュベート後の細胞混合液を3回洗浄した後に、PE標識抗ヒト-IgG-Fcフローサイトメトリー用抗体(Abcam、カタログ番号:98596)を加え、再懸濁させた後に4℃で30 minインキュベートした。インキュベート後の細胞混合液を3回洗浄した後に200 μLのFACS緩衝液を加えて細胞を再懸濁させ、最後にフローサイトメータ(Beckman、CytoFLEX AOO-1-1102)によってオンマシンで検出し分析した。PRISMTM(GraphPad Software、San Diego、CA)によってデータを分析し、且つEC50値を計算した。
【0184】
FACS結合アッセイの結果は図4に示す通りであり、重鎖抗体NA3SH1-T4、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6は、いずれも対照としての重鎖抗体NA3SH1よりも有意に優れたCLDN18.2への結合能力を示し、ここで、NA3SH1-T4のEC50=0.4047 μg/mLであり、NA3SH1-T4-hVH6のEC50=0.8465 μg/mLであり、NA3SH1のEC50=2.147 μg/mLであった。
6.3 抗CLDN18.2重鎖抗体のhCLDN18.2-KATOIII細胞への結合能力
【0185】
hCLDN18.2-KATOIII細胞は自製であり、調製方法は、CN112480248Aの実施例1におけるヒトCLDN18.2-KATOIII腫瘍細胞株の構築を参照した。
【0186】
実施例6.1に記載の類似する方法を用い、hCLDN18.2-KATOIII細胞を用い、抗CLDN18.2重鎖抗体のhCLDN18.2-KATOIII細胞への結合能力を測定した。PRISMTM(GraphPad Software、San Diego、CA)によってデータを分析し、且つEC50値を計算した。
【0187】
FACS結合アッセイの結果は図5に示す通りであり、重鎖抗体NA3SH1-T4、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6は、いずれも対照としての重鎖抗体NA3SH1よりも有意に優れたCLDN18.2への結合能力を示し、ここで、NA3SH1-T4のEC50=0.3298 μg/mLであり、NA3SH1-T4-hVH6のEC50=0.3984 μg/mLであり、NA3SH1のEC50=0.6183 μg/mLであった。
6.4 抗CLDN18.2重鎖抗体のhCLDN18.1-HEK293細胞への結合能力
【0188】
100 μg/mLの重鎖抗体及び目的細胞hCLDN18.1-HEK293(自製、調製方法はCN112480248Aの実施例1の1.3.2を参照)を4℃で1 hインキュベートし、次に上記FACS緩衝液で三回リンスし、PE標識ヤギ抗ヒトIgG Fc抗体(Abcam、カタログ番号:ab98596)を 0.5 μg(0.5 mg/mL)加え、4℃で30 minインキュベートした。その後、FACS緩衝液で3回リンスし、細胞に200μLのFACS緩衝液を加えて細胞を再懸濁させ、最後にフローサイトメータ(Beckman,CytoFLEX AOO-1-1102)によって検出し、結合強度及び細胞結合陽性率を記録する。
【0189】
図6に示すように、100 μg/mLの高濃度下で、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6、重鎖抗体NA3SH1-T4、対照としての重鎖抗体NA3SH1とhCLDN18.1-HEK293細胞との結合陽性率は、ヒトIgG1アイソタイプ抗体とhCLDN18.1-HEK293細胞との結合陽性率に非常に近く、重鎖抗体NA3SH1-T4及びNA3SH1-T4-hVH6がいずれもhCLDN18.1タンパク質に結合しないことが示された。
【0190】
実施例7 抗CLDN18.2重鎖抗体のADCC効果
【0191】
抗CLDN18.2重鎖抗体のFc末端をJurkat細胞におけるCD16a(F158)又はCD16a(V158)に結合、VHH末端が細胞におけるCLDN18.2に結合した後、Jurkat細胞内部NF-ATタンパク質の発現を活性化し、NF-ATとNF-AT応答エレメントの結合により、その下流のルシフェラーゼ発現が誘発され、異なる濃度勾配の本発明の抗CLDN18.2重鎖抗体で刺激し、タンパク質濃度依存性を有する蛍光リードグラフを得て、それにより抗体のADCC活性を評価することができる。
7.1 抗CLDN18.2重鎖抗体のhCLDN18.2-HEK293細胞に対するADCC効果
【0192】
96ウェルの細胞培養プレートの各ウェルに、50 μLの、密度が4×10個の細胞/mLである標的細胞としてのhCLDN18.2-HEK293細胞及び4×10個の細胞/mLであるエフェクター細胞としてのCD16a(F158)-NF-AT-Jurkat細胞を加え、標的細胞とエフェクター細胞を1:1で混合した後に96ウェルの白色クリアボトム細胞培養プレートに加え、37℃のインキュベータに置いて一晩(16~20時間)培養した。それぞれ50 μLの階段希釈された重鎖抗体NA3SH1-T4、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6、対照としての重鎖抗体NA3SH1及びアイソタイプ対照としてのヒトIgG1アイソタイプ抗体を加え、37℃のインキュベータで6hインキュベートした。各ウェルに50 μLのBright-Life(vazyme、品番:DD1204-03)を加え、暗所で10minインキュベートし、蛍光シグナルを検出した。ADCC検出結果は、図7に示すとおりである。
【0193】
図7から分かったように、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6は、対照としての重鎖抗体NA3SH1によるhCLDN18.2-HEK293細胞に対するADCC殺傷効果よりも有意に強い効果を示し、重鎖抗体NA3SH1-T4は、対照としての重鎖抗体NA3SH1によるhCLDN18.2-HEK293細胞に対するADCC殺傷効果と同等の効果を示した。
7.2 抗CLDN18.2重鎖抗体のhCLDN18.2-KATOIII細胞に対するADCC効果
【0194】
hCLDN18.2-KATOIII細胞でのADCC効果の検出方法は、実施例7.1を参照されたい。ADCC検出結果は、図8に示すとおりである。
【0195】
図8から分かったように、対照としての重鎖抗体NA3SH1及び重鎖抗体NA3SH1-T4と比較して、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6は、hCLDN18.2-KATOIII細胞に対する最も優れたADCC殺傷効果を引き起こした。
7.3 抗CLDN18.2重鎖抗体のhCLDN18.2-NUGC4細胞に対するADCC効果
【0196】
hCLDN18.2-NUGC4細胞でのADCC効果の検出方法は、実施例7.1を参照されたい。ADCC検出結果は、図9に示すとおりである。
【0197】
図9から分かったように、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6は、対照としての重鎖抗体NA3SH1によるhCLDN18.2-NUGC4細胞に対するADCC殺傷効果よりも有意に強い効果を示し、重鎖抗体NA3SH1-T4は、対照としての重鎖抗体NA3SH1によるhCLDN18.2- NUGC4細胞に対するADCC殺傷効果と同等の効果を示した。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2024524495000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0197
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0197】
図9から分かったように、重鎖抗体NA3SH1-T4-hVH6は、対照としての重鎖抗体NA3SH1によるhCLDN18.2-NUGC4細胞に対するADCC殺傷効果よりも有意に強い効果を示し、重鎖抗体NA3SH1-T4は、対照としての重鎖抗体NA3SH1によるhCLDN18.2- NUGC4細胞に対するADCC殺傷効果と同等の効果を示した。
本発明は、下記の態様を含む:
〈態様1〉
CLDN18.2結合分子であって、CLDN18.2に特異的に結合する少なくとも一つの単一ドメイン抗体(sdAb)部分を含み、前記sdAb部分は、三つの相補性決定領域を含み、それぞれCDR1、CDR2及びCDR3であり、ここで、
(a) CDR1は、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
(b) CDR2は、SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、及び
(c) CDR3は、SEQ ID NO: 3のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 3のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
ここで、前記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失又は保存的アミノ酸置換であり、好ましくは、前記sdAb部分は、ラクダ科動物VHH、部分的にヒト化又は完全にヒト化されたVHH、キメラVHHである、CLDN18.2結合分子。
〈態様2〉
前記sdAb部分は、アミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含有するCDR1と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 2を含有するCDR2と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 3を含有するCDR3とを含む、態様1に記載のCLDN18.2結合分子。
〈態様3〉
前記sdAb部分は、
(i) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列、又は、
(ii) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、態様1又は2に記載のCLDN18.2結合分子。
〈態様4〉
前記sdAb部分は、N末端又はC末端で別のタンパク質ドメインに連結され、例えば、免疫グロブリンのFc領域に連結され、例えば、IgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4からのFc領域に連結され、又は、例えば、蛍光タンパク質に連結される、態様1~3のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子。
〈態様5〉
(1) CLDN18.2、例えば、ヒトCLDN18.2に高親和性で結合し、例えば、前記CLDN18.2結合分子と細胞表面CLDN18.2との間の結合のEC 50 が約0.1 μg/mL~約10 μg/mLであり、好ましくは、約0.1 μg/mL~約1 μg/mLであることと、
(2) CLDN18.2に特異的に結合し、CLDN18.1に結合しないことと、
(3) 抗体依存性細胞傷害及び/又は補体依存性細胞傷害作用によってCLDN18.2-陽性癌細胞を死滅させることとのうちの一つ又は複数の特性を有する、態様1~4のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子。
〈態様6〉
二重特異性又は多重特異性抗体であり、好ましくは、前記二重特異性抗体分子は、CLDN18.2分子及び第2の標的タンパク質に特異的に結合し、前記第2の標的タンパク質は、例えば、
(1) 腫瘍特異抗原又は腫瘍関連抗原、例えば、上皮成長因子受容体(EGFR1)、HER2/neu、CD20、インスリン様増殖因子受容体(IGF-1R)、癌胎児性抗原、前立腺特異性膜抗原(PSMA)、Mucin-1、CD30、CD33、CD137、cMet、又はアンジオポエチン-2(Ang-2)、
(2) 免疫細胞の免疫チェックポイント分子、例えば、PD1、CTLA-4、TIM-3、又はLAG-3、
(3) 免疫細胞の免疫共刺激分子、例えば、OX40、ICOS、TLR2又はCD27、
(4) サイトカイン、例えば、IL-1、IL-2、IL-7、IL-15又はIL-33から選択される、態様1~5のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子。
〈態様7〉
態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子をコードする、単離された核酸。
〈態様8〉
態様7の核酸を含むベクターであって、好ましくは、前記ベクターは、発現ベクター、例えば、pcDNA3.3-TOPOベクターである、ベクター。
〈態様9〉
態様7の核酸又は態様8のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞であり、さらに好ましくは、大腸菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞から選択され、最も好ましくは、前記宿主細胞はHEK293細胞又はCHO細胞である、宿主細胞。
〈態様1〉
態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子を調製する方法であって、前記方法は、態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子をコードする核酸の発現に適した条件で態様9の宿主細胞を培養し、前記CLDN18.2結合分子を任意に単離させることを含み、任意選択的に、前記方法は、前記宿主細胞から前記CLDN18.2結合分子を回収することをさらに含む、方法。
〈態様11〉
態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子及び他の物質、例えば、細胞傷害性薬剤を含む、免疫コンジュゲート。
〈態様12〉
態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子又は態様11の免疫コンジュゲート、及び任意選択的な薬用アジュバントを含む、薬物組成物。
〈態様13〉
薬物組成物であって、態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子又は態様11の免疫コンジュゲート、及び他の治療剤、並びに任意選択的な薬用アジュバントを含み、好ましくは、前記他の治療剤は、化学療法剤、他の抗体(例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体)、細胞傷害性薬剤から選択される、薬物組成物。
〈態様14〉
態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子又は態様11の免疫コンジュゲート、及び一つ又は複数の他の治療剤、例えば、化学療法剤、細胞傷害性薬剤、他の抗体、例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体を含む、組み合わせ製品。
〈態様15〉
CLDN18.2に関連する疾患を被験体において治療する方法であって、治療有効量の態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子、態様11の免疫コンジュゲート、態様12又は13の薬物組成物、又は態様14の組み合わせ製品を被験体に投与することを含み、ここで、CLDN18.2に関連する前記疾患は、例えば、CLDN 18.2を発現又は過剰発現する癌、例えば、骨癌、血液癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、食道癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、性器及び生殖器の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)腫瘍、神経外胚葉癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫及び下垂体腺腫であり、好ましくは、前記癌は、胃癌、膵臓癌、食道癌、卵巣癌又は肺癌である、方法。
〈態様16〉
試料におけるCLDN18.2を検出するキットであって、前記キットは、態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子を含み、
(a) 試料を態様1~6のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合分子と接触させるステップ、及び
(b) 前記CLDN18.2結合分子とCLDN18.2との間の複合体の形成を検出するステップを実施するためのものであり、任意選択的に、前記CLDN18.2結合分子は、検出可能に標識される、キット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CLDN18.2結合分子であって、CLDN18.2に特異的に結合する少なくとも一つの単一ドメイン抗体(sdAb)部分を含み、前記sdAb部分は、三つの相補性決定領域を含み、それぞれCDR1、CDR2及びCDR3であり、ここで、
(a) CDR1は、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
(b) CDR2は、SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 2のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、及び
(c) CDR3は、SEQ ID NO: 3のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 3のアミノ酸配列における1つ又は2つのアミノ酸変化の変異体を含み、
ここで、前記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失又は保存的アミノ酸置換であり、好ましくは、前記sdAb部分は、ラクダ科動物VHH、部分的にヒト化又は完全にヒト化されたVHH、キメラVHHである、CLDN18.2結合分子。
【請求項2】
前記sdAb部分は、アミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含有するCDR1と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 2を含有するCDR2と、アミノ酸配列SEQ ID NO: 3を含有するCDR3とを含む、請求項1に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項3】
前記sdAb部分は、
(i) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列、又は、
(ii) SEQ ID NO: 4又は5のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項4】
前記sdAb部分は、N末端又はC末端で別のタンパク質ドメインに連結され、例えば、免疫グロブリンのFc領域に連結され、例えば、IgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4からのFc領域に連結され、又は、例えば、蛍光タンパク質に連結される、請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項5】
(1) CLDN18.2、例えば、ヒトCLDN18.2に高親和性で結合し、例えば、前記CLDN18.2結合分子と細胞表面CLDN18.2との間の結合のEC50が約0.1 μg/mL~約10 μg/mLであり、好ましくは、約0.1 μg/mL~約1 μg/mLであることと、
(2) CLDN18.2に特異的に結合し、CLDN18.1に結合しないことと、
(3) 抗体依存性細胞傷害及び/又は補体依存性細胞傷害作用によってCLDN18.2-陽性癌細胞を死滅させることとのうちの一つ又は複数の特性を有する、請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項6】
二重特異性又は多重特異性抗体であり、好ましくは、前記二重特異性抗体分子は、CLDN18.2分子及び第2の標的タンパク質に特異的に結合し、前記第2の標的タンパク質は、例えば、
(1) 腫瘍特異抗原又は腫瘍関連抗原、例えば、上皮成長因子受容体(EGFR1)、HER2/neu、CD20、インスリン様増殖因子受容体(IGF-1R)、癌胎児性抗原、前立腺特異性膜抗原(PSMA)、Mucin-1、CD30、CD33、CD137、cMet、又はアンジオポエチン-2(Ang-2)、
(2) 免疫細胞の免疫チェックポイント分子、例えば、PD1、CTLA-4、TIM-3、又はLAG-3、
(3) 免疫細胞の免疫共刺激分子、例えば、OX40、ICOS、TLR2又はCD27、
(4) サイトカイン、例えば、IL-1、IL-2、IL-7、IL-15又はIL-33から選択される、請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子。
【請求項7】
請求項1に記載のCLDN18.2結合分子をコードする、単離された核酸。
【請求項8】
請求項7の核酸を含むベクターであって、好ましくは、前記ベクターは、発現ベクター、例えば、pcDNA3.3-TOPOベクターである、ベクター。
【請求項9】
請求項7の核酸又は請求項8のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞であり、さらに好ましくは、大腸菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞から選択され、最も好ましくは、前記宿主細胞はHEK293細胞又はCHO細胞である、宿主細胞。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子を調製する方法であって、前記方法は、請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子をコードする核酸の発現に適した条件で請求項9の宿主細胞を培養し、前記CLDN18.2結合分子を任意に単離させることを含み、任意選択的に、前記方法は、前記宿主細胞から前記CLDN18.2結合分子を回収することをさらに含む、方法。
【請求項11】
請求項1に記載のCLDN18.2結合分子及び他の物質、例えば、細胞傷害性薬剤を含む、免疫コンジュゲート。
【請求項12】
請求項1に記載のCLDN18.2結合分子又は請求項11の免疫コンジュゲート、及び任意選択的な薬用アジュバントを含む、薬物組成物。
【請求項13】
薬物組成物であって、請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子又は請求項11の免疫コンジュゲート、及び他の治療剤、並びに任意選択的な薬用アジュバントを含み、好ましくは、前記他の治療剤は、化学療法剤、他の抗体(例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体)、細胞傷害性薬剤から選択される、薬物組成物。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子又は請求項11の免疫コンジュゲート、及び一つ又は複数の他の治療剤、例えば、化学療法剤、細胞傷害性薬剤、他の抗体、例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体を含む、組み合わせ製品。
【請求項15】
求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子、請求項11の免疫コンジュゲートの、被験体におけるCLDN18.2に関連する疾患、例えば、CLDN 18.2を発現又は過剰発現する癌、例えば、骨癌、血液癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、食道癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、性器及び生殖器の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)腫瘍、神経外胚葉癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫及び下垂体腺腫であり、好ましくは、前記癌は、胃癌、膵臓癌、食道癌、卵巣癌又は肺癌であるの、を治療するための医薬品を調製するための使用
【請求項16】
試料におけるCLDN18.2を検出するキットであって、前記キットは、請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子を含み、
(a) 試料を請求項1又は2に記載のCLDN18.2結合分子と接触させるステップ、及び
(b) 前記CLDN18.2結合分子とCLDN18.2との間の複合体の形成を検出するステップを実施するためのものであり、任意選択的に、前記CLDN18.2結合分子は、検出可能に標識される、キット。
【国際調査報告】