(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】予測年齢差を使用する付随する臨床的認知症尺度とその将来の転帰とを評価する方法およびそのプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240628BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240628BHJP
G06T 7/10 20170101ALI20240628BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 382
G06T7/00 612
G06T7/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023581059
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 US2022021873
(87)【国際公開番号】W WO2023277980
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524004135
【氏名又は名称】アクロビズ・ユーエスエー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウェン-イー・ツェン
(72)【発明者】
【氏名】ユン-チン・スー
【テーマコード(参考)】
4C096
5L096
【Fターム(参考)】
4C096AA03
4C096AA17
4C096AD14
4C096DC19
4C096DC22
4C096DC33
4C096DC35
5L096AA13
5L096BA06
5L096FA02
(57)【要約】
個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、(1)T1強調(T1w)イメージングシーケンスと拡散テンソルイメージング(DTI)シーケンスとを使用して個人の脳のMRIデータを取得するステップと、(2)白質(WM)セグメントと灰白質(GM)セグメントとを取得するように、取得されたT1wデータを処理するステップと、(3)個人の脳の変形マップを取得するために、ステップ(2)において取得されたWMセグメントおよびGMセグメントをMNI空間に位置合わせするステップと、(4)DTIデータのアーティファクトを補正するステップと、(5)アーティファクト補正されたDTIデータに基づいて、ネイティブ空間における個人に関する異方性度(FA)マップおよび平均拡散率(MD)マップを取得するステップと、(6)ステップ(5)において取得されたFAマップおよびMDマップと、ステップ(3)において取得された変形マップとを使用して、個人の脳のWM領域のFA値およびMD値を抽出するステップと、(7)WMの抽出されたFAおよびMDを確立されたdMRI脳年齢モデルに入力することによってWM PADを計算するステップと、(8)CDR予測モデルを使用して、WM PADから個人のCDRおよびCDR変化を予測するステップとを含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記プロセスが、
(1)少なくとも1つの医用脳画像を取得するステップと、
(2)前記画像の少なくとも1つの特徴を取得するために、前記医用脳画像を処理するステップと、
(3)取得された前記少なくとも1つの特徴に基づいて、前記認知障害の状態を判定し、その将来の変化を予測するために、事前に確立された予測モデルを使用するステップと
を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項2】
前記少なくとも1つの画像がMRI画像である、
請求項1に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項3】
前記事前に確立された予測モデルが、少なくとも脳年齢モデルを含む、
請求項1または2に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項4】
前記認知障害の前記状態が、臨床的認知症尺度(CDR)を使用して臨床的に評価される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項5】
前記脳MRI画像が、少なくとも脳拡散強調MRIを含む、
請求項2に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項6】
前記医用脳画像を処理する前記ステップが、前記医用脳画像のアーティファクトを補正する少なくとも1つのステップを含む、
請求項1に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項7】
前記医用脳画像を処理する前記ステップが、空間正規化プロセスの少なくとも1つのステップをさらに含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項8】
前記医用画像を処理する前記ステップが、特徴定量化プロセスの少なくとも1つのステップをさらに含む、
請求項1から7のいずれか一項に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項9】
前記事前に確立された予測モデルが、前記認知障害の前記状態を判定するための第1の判定モデルと、
前記認知障害の前記状態の前記将来の変化を予測するための第2の予測モデルと
を含む、
請求項1に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項10】
個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを評価するための方法であって、
(1)T1強調(T1w)イメージングシーケンスと拡散テンソルイメージング(DTI)シーケンスとを使用して前記個人の脳のMRIデータを取得するように、スキャンデバイスを用いて前記個人の脳をスキャンするステップと、
(2)白質(WM)画像セグメントと灰白質(GM)画像セグメントとを取得するように、前記取得されたT1wデータを処理するステップと、
(3)前記個人の脳の変形マップを取得するために、前記ステップ(2)において取得された前記WM画像セグメントおよび前記GM画像セグメントをMNI空間に位置合わせするステップと、
(4)DTIデータのアーティファクトを補正するステップと、
(5)前記アーティファクト補正されたDTIデータに基づいて、ネイティブ空間における前記個人に関する異方性度(FA)マップおよび平均拡散率(MD)マップを取得するステップと、
(6)前記ステップ(5)において取得された前記FAマップおよび前記MDマップと、前記ステップ(3)において取得された前記変形マップとを使用して、前記個人の脳のWM領域のFA値およびMD値を抽出するステップと、
(7)WMの前記抽出されたFAおよびMDを確立されたdMRI脳年齢モデルに入力することによってWM PADを計算するステップと、
(8)CDR予測モデルとCDR変化予測モデルとを使用して、前記WM PADから前記個人の前記CDRおよびCDR変化を予測するステップと、
(9)認知障害の状態とその将来の変化とを出力端末において出力するステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記ステップ(2)が、(i)T1wデータのSI不均一性の補正と、
(ii)組織確率マップ(TPM)のセグメント化と、
(iii)WMセグメントおよびGMセグメントを取得するステップと
を含む、
請求項10に記載の、個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法。
【請求項12】
前記ステップ(2)が、
疑似b
0画像を合成するためにT1wコントラストを反転するステップをさらに含む、
請求項10または11に記載の、個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法。
【請求項13】
前記ステップ(4)が、
前記DTIデータのアーティファクトを補正するために、前記DTIデータを疑似b
0画像に位置合わせするステップを含む、
請求項10から12のいずれか一項に記載の、個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法。
【請求項14】
前記ステップ(5)が、
(i)前記アーティファクト補正されたDTIデータの各画像ピクセルにおける拡散テンソルを推定するステップと、
(ii)各ピクセルにおける前記推定された拡散テンソルから導出された拡散テンソルインデックスを使用して、各ピクセルにおけるFAおよびMDを計算するステップと、
(iii)各ピクセルにおける前記FAおよび前記MDを使用して、前記ネイティブ空間における前記FAマップおよび前記MDマップを生成するステップと
を含む、
請求項10に記載の、個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法。
【請求項15】
MD=(λ1+λ2+λ3)/3、
FA=[3(Δλ1
2+Δλ2
2+Δλ3
2)/2(λ1
2+λ2
2+λ3
2)]
1/2であり、
ここで、λ1、λ2、およびλ3が、それぞれ、前記拡散テンソルの第1、第2、および第3の固有値である、
請求項10から14のいずれか一項に記載の、個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法。
【請求項16】
前記ステップ(6)が、
(i)前記ステップ(3)における前記変形マップを使用して前記FAマップおよび前記MDマップを前記MNI空間に位置合わせするステップと、
(ii)前記位置合わせされたFAマップおよびMDマップをWMセグメントでマスクするステップと
を含む、
請求項10に記載の、個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法。
【請求項17】
前記dMRI脳年齢モデルが、ガウス過程回帰法を使用して、前記WM領域内のFA値およびMD値に対して2人以上の個人の暦年齢を回帰することによって構築される、
請求項10に記載の、個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法。
【請求項18】
前記個人の脳領域が白質領域で構成される、
請求項10に記載の、個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法。
【請求項19】
前記CDR変化が、MRIスキャンの日から次の2~3年間における前記個人の前記CDR変化である、
請求項10に記載の、個人の脳のMRIデータに基づいて、前記個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法。
【請求項20】
個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価する方法であって、
(1)少なくとも1つの医用脳画像を取得するように、スキャンデバイスを用いて前記個人の脳をスキャンするステップと、
(2)前記画像の少なくとも1つの特徴を取得するために、前記医用脳画像を処理するステップと、
(3)取得された前記少なくとも1つの特徴に基づいて、前記認知障害の状態を判定し、その将来の変化を予測するために、事前に確立された予測モデルを使用するステップと、
(4)前記認知障害の状態とその将来の変化とを出力端末において出力するステップと
を含む、方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの画像が脳MRI画像である、
請求項20に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価する方法。
【請求項22】
前記事前に確立された予測モデルが、少なくとも脳年齢モデルを含む、
請求項20または21に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価する方法。
【請求項23】
前記認知障害の前記状態が、臨床的認知症尺度(CDR)を使用して臨床的に評価される、
請求項20に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価する方法。
【請求項24】
前記脳MRI画像が、少なくとも脳拡散強調MRIを含む、
請求項21に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価する方法。
【請求項25】
前記医用脳画像を処理する前記ステップが、前記医用脳画像のアーティファクトを補正する少なくとも1つのステップを含む、
請求項20に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価する方法。
【請求項26】
前記医用脳画像を処理する前記ステップが、空間正規化プロセスの少なくとも1つのステップをさらに含む、
請求項20から25のいずれか一項に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価する方法。
【請求項27】
前記医用画像を処理する前記ステップが、特徴定量化プロセスの少なくとも1つのステップをさらに含む、
請求項20から26のいずれか一項に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価する方法。
【請求項28】
前記事前に確立された予測モデルが、前記認知障害の前記状態を判定するための第1の判定モデルと、
前記認知障害の前記状態の前記将来の変化を予測するための第2の予測モデルと
を含む、
請求項20に記載の、個人の脳の医用画像から認知障害とその将来の変化とを定量的に評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、2020年6月29日に出願した米国仮特許出願第63/216,028号の優先権および利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、補正された拡散MRIデータに基づいて予測年齢差(PAD)を評価し、現在および将来の付随する臨床的認知症尺度および関連プログラムを予測するためにPADを使用する技術分野、ならびに統合フレームワークおよびそのプログラムにおける拡散磁気共鳴画像法(MRI)データに関する歪み/アーティファクト補正に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書で提供する背景説明は、本発明の文脈を一般的に提示する目的のためのものである。背景技術の項において論じる主題は、単に背景技術の項におけるその言及の結果として、従来技術であるとみなされるべきではない。同様に、背景技術の項において言及した問題、または背景技術の項の主題に関連する問題は、従来技術において以前に認識されていたとみなされるべきではない。背景技術の項における主題は、単に様々な手法を表し、それ自体が発明である場合もある。
【0004】
臨床現場において、医師は、認知症による認知低下および/または障害を評価するために、様々な認知検査を使用する。認知検査は、認知症評価検査と神経心理学的検査とを含む。認知症評価検査は、臨床関連の認知症状に基づいて開発され、神経心理学的検査は、様々な心理的領域におけるパフォーマンスに基づいて開発される。広く使用されている認知症評価検査は、臨床的認知症尺度(CDR:Clinical Dementia Rating)、ミニメンタルステート検査(MMSE:Mini-Mental State Examination)、モントリオール認知評価(MoCA:Montreal Cognitive Assessment)、AD8、アルツハイマー病評価尺度-認知下位尺度(ADAS-cog:Alzheimer's Disease Assessment Scale-Cognitive Subscale)、軽度認知障害に対するアルツハイマー病共同研究ADL尺度(ADCS-ADL-MCI:Alzheimer's Disease Co-operative Study ADL Scale for Mild Cognitive Impairment)、および神経精神目録(NPI:Neuropsychiatric Inventory)を含む。典型的な神経心理学的評価は、人の一般的な知能、注意力および集中力、学習および記憶力、推論および問題解決、言語、視覚-空間技能(知覚)、運動技能および感覚技能、気分、ならびに行動を評価する。そのような評価の一例は、神経心理学的状態の評価のための繰り返し可能なバッテリー(RBANS:Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status)である。
【0005】
臨床的認知症尺度(CDR)は、アルツハイマー病(AD)(Hughesら、1982年)または非AD認知症(Kazuiら、2016年)における認知症の重症度を段階分けするために使用される半構造化面接中に推定されるスコアである。神経心理学的検査と比較して、CDRのための面接は、患者の日常の機能に焦点を当てており、したがって、認知症の標準的な診断基準に、より一致している(Limら、2007年)。
【0006】
CDR面接は、認定された医師または看護師によって行われ、患者および適切な情報提供者に対して実施される。面接は、6つの異なる領域、すなわち、記憶、見当識、判断および問題解決、地域社会の問題、家庭および趣味、ならびにパーソナルケアからなる。各領域の機能障害は、5段階評価システム、すなわち、なし=0、疑わしい=0.5、軽度=1、中度=2、重度=3によって等級付けされる。次いで、6つの領域にわたるスコアは、CDRのグローバルスコアに変換される。CDRスコアは、認知症を診断し、認知症の重症度を等級付けするのに信頼できることが検証されている(Morris、1993年)。現在までに、CDRは、世界中の専門学会によって認知症ケアおよび診断のガイドライン内に含められている(Petersenら、2018年)。
【0007】
しかしながら、現在のCDRは、2つの重要な制限を有する。CDRの第1の制限は、今後2~3年におけるCDRの将来の転帰を予測する能力のなさである。CDRは、認知症の重症度を等級付けするのに信頼できるが、認知症の進行を予測することができない。医療専門家は、患者の認知症の重症度を評価するだけでなく、数年後に認知症が悪化するかどうか、またどの程度の速度で悪化するかも知りたいので、CDRの将来の転帰は、臨床的に重要である。この制限は、特に、非常に軽度の認知症または疑わしい認知症、すなわち、CDR=0.5の患者に臨床的に関連する。これらの患者の転帰は、不均一であり、一部は、認知症(CDR=1以上)に進行する場合があり、一部は、正常な認知(CDR=0)に戻る場合があり、一部は、同じCDRに留まる場合がある(Dalyら、2000年)。この制限に対処するために、いくつかの研究は、6つの領域の合計スコア、すなわちボックスの合計(SOB)(O'Bryantら、2008年)、または見当識領域における下位尺度スコア(Kimら、2017年)、または追加の記憶検査とSOBとの組合せ(Leeら、2006年)が、認知症の進行を予測するのに有用な可能性があることを実証した。しかしながら、上記の尺度のすべては、面接に大きく依存しているので、臨床医の判断、情報提供者の信頼性、および文化の違いによって影響を受け(Limら、2007年)、これがCDRの第2の制限である。
【0008】
この第2の制限に関して、CDRは、面接を成功させるための厳しい条件を有する。CDRの正確性を保証するために、十分な訓練を受けた医療専門家と、信頼できる情報提供者の利用可能性とを必要とする。訓練を受けた専門家または信頼できる情報提供者は、開発またはサポートが遅れているエリアでは不足している場合があり、正確なCDRの利用可能性を損なっている。
【0009】
これらの制限に対処するために、Maillardらは、脳拡散MRIの後処理から得られる指標である自由水(FW)含有量を使用することによって、2つの制限に完全に対処した。彼らは、より高いベースラインFWが、より高いベースラインCDRと有意に関連し、後の面接において、より高いCDRスコアに変化する可能性がより高いことを報告した(Maillardら、2019年)。加えて、第2の制限に対処するために、Beheshtiらは、T1強調(T1w)MRIから抽出された脳の灰白質の個人の形態測定的特徴に基づいてPADを推定し、PADが、CDRを含む認知症のいくつかの臨床的評価のスコアに関連していることを発見した(Beheshtiら、2018年)。
【0010】
しかしながら、CDR制限に対処するためのすべての既存の方法/発見は、それら自体の制限および欠点を有する。例えば、Beheshtiらは、PADがCDRと関連していることを実証したが、PADがCDRの将来の転帰をどのように予測することができるかについて報告できない。O'Bryantら、Kimら、およびLeeらは、CDR転帰を予測するために面接から取得された情報を使用したが、彼らが測定したスコアのすべては、面接に依存しているので、臨床医の判断、情報提供者の信頼性、および文化の違いの影響を受ける。MaillardのFW指標は、ベースラインにおけるCDRと関連していることが示されており、後の訪問におけるCDRの変化を予測することもできる。しかしながら、FWは、脳脊髄液(CFS)の部分容積効果により、脳室および大脳溝に隣接するピクセルの脳萎縮によって混乱される場合がある。
【0011】
したがって、所与のCDRの認知症進行を予測することができ、これらの制限がない、個々の患者のMRIスキャンデータに基づく方法が緊急に必要とされる。
【0012】
この分野の別の態様において、拡散MRIは、個人の脳の形態測定的特徴を理解する際のツールとして広く使用されている。しかしながら、拡散MRI(dMRI)データ内に含まれる拡散強調画像(DWI)は、様々なアーティファクトの悪影響を受け、これは、医療専門家がPADを推定する際に障害となる。それらの中で、磁化率に起因する歪みのアーティファクトは、dMRI分析の性能を大きく低下させるので、最も悪名が高い。このアーティファクトは、通常、歪んでいない空間内の点が歪んだ空間に対してどのように変位するか(または歪み補正の文脈では歪むか)を表す「フィールドマップ」を測定または推定することによって、遡及的に補正される。DWIは、通常、低い取得帯域幅により、位相符号化(PE)方向に沿って歪むと想定されるので、フィールドマップは、3Dスカラーフィールドである。
【0013】
補正方法は、大まかに3つのカテゴリに分けられ得る。第1のカテゴリは、フィールドマップベースであり、この方法は、エコー時間(TE)を除く正確なスキャンパラメータを用いて2つの勾配エコー画像を取得することによって、フィールドマップを明示的に測定し、次いで、フィールドマップは、2つの画像間の位相差をTE値の差で割ったものである(Jezzardら、1998年)。第2のカテゴリは、逆勾配ベースであり(Anderssonら、2003年、Irfanogluら、2015年、Hedouinら、2017年)、ここで、逆PE勾配を有する2つのb0画像(または2つの完全なdMRIデータセット)が取得される。b値=0s/mm2である、すなわち、拡散磁化率勾配を適用していないDWIを指す。このカテゴリの背後にある基本的な考え方は、2つのb0画像(または2つのdMRIデータセット)が逆の歪みを有し、したがって、フィールドマップは、それらを、理論的には歪んでいない画像であるそれらの「中間点」画像に位置合わせすることによって推定されることが可能である。最後のカテゴリは、解剖学的画像ベースであり(Huangら、2008年)、このカテゴリでは、実際のb0画像が、T1強調(T1w)画像またはT2強調(T2w)画像などの解剖学的画像から構築された疑似b0画像に位置合わせされる。解剖学的画像には歪みがないので、位置合わせの推定される変位マップは、フィールドマップの代用としてみなされることが可能である。技術的には、逆勾配ベースの方法と解剖学的画像ベースの方法の両方は、位置合わせ計算を大きく含み、したがって、逆勾配ベースの方法において疑似b0画像を中間点画像とみなすことによってそれらを結合するいくつかの努力がなされてきており、この手法は、歪み補正の性能を改善することが示されている(Irfanogluら、2015年)。
【0014】
しかしながら、上記で特定された方法は、dMRIデータの精度を著しく制限する欠点の悪影響を受ける。
【0015】
特に、解剖学的画像ベースの方法は、補正を駆動するために参照画像として使用される疑似b0画像を構築するために、解剖学的画像(T1wまたはT2w)を使用する。このカテゴリにおける補正方法は、実際のb0画像(歪みあり)を疑似b0画像(歪みなし)と整列するように非線形に位置合わせすることによって、フィールドマップを推定する。画像が適切に整列されると、画像の不一致は、小さくなる。したがって、整列のよさは、通常、差分二乗和(SSD)(Huangら、2008年)、正規化相互情報量(NMI)(Bhushanら、2015年)、相関比(CR)(Bhushan ら、2015年)、または相互相関(CC)(Irfanogluら、2015年)などの類似性指標によって測定される。
【0016】
非線形位置合わせは、不良設定問題であるので、特に、画像が大きい不一致を有する場合、本質的に失敗しやすくなる。2つの主要な原因が画像の不一致に寄与し、一方は、磁化率に起因する歪みによる空間的不一致であり、他方は、実際のb0画像と疑似b0画像との間の強度バイアスであるコントラストの不一致である。従来の補正方法は、画像の不一致が完全に磁化率に起因する歪みによって引き起こされると仮定し、強度バイアスの寄与を無視する。この方法では、大きい強度バイアスを有する領域についてオーバーフィッティングの問題が大きくなり、誤ったポイントごとの対応、および誤ったフィールドマップにつながる場合がある。
【0017】
解決策の1つは、NMI、CR、またはCCなどの、コントラストの不一致に対する感度がより低いコスト関数を使用することである。しかしながら、これらのコスト関数を使用する推定は、極小値(または、コスト関数に応じて極大値)に捕らわれやすく、磁化率に起因する歪みに由来する、あまりよく補正されない空間的不一致をもたらす(Bhushan Cら、2015年)。別の解決策は、フィールドマップをより滑らかにし、結果として画像の不一致の感度を下げるために、補正方法のハイパーパラメータを調整することである。前の手法と同様に、より低い感度は、あまりよく補正されない実際の歪みにつながる。
【0018】
加えて、以前の研究の一部は、位置合わせを行うために、大変形微分同相計量マッピング(LDDMM:Large Deformation Diffeomorphic Metric Mapping)(Begら、2005年、Millerら、2006年)、および高度正規化ツール(ANT:Advanced Normalization Tools)(Avantsら、2008年)などの汎用3D位置合わせ補正方法を使用する。1D歪み補正問題を解決するために3D位置合わせ補正方法を用いることは、少なくとも2つの欠点を有する。第1に、計算された自由形状の変形は、PE方向に沿ってさらに拘束されなければならず(Irfanogluら、2015年)、不必要な計算につながる。より深刻な第2の欠点は、位置合わせ補正方法は、歪み問題自体よりも高い自由度を有するので、位置合わせの収束が、歪み補正の収束と必ずしも一致しない場合があることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、所与のCDRの認知症の進行を効率的に計算および予測するために、個人の脳のdMRIデータにおけるアーティファクトを補正および/または低減するための方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
従来技術における技術的制限に関して、本開示は、人の認知症の重症度を予測し、その後数年間における彼/彼女の認知症の転帰を予測するために使用される脳年齢スコアと、そのプログラムとを提供する。具体的には、脳年齢スコアは、PDAであり、患者の現在のCDRを評価するだけでなく、次の数年間における患者のCDRの変化を予測する。
【0021】
脳年齢は、脳画像ベースの機械学習方法(ColeおよびFranke、2017年)から導出された脳予測年齢の一種である。これは、健康な人々のグループからの大量の脳画像を、各個人の暦年齢と共に使用する脳年齢モデルのトレーニングを必要とする。典型的には、脳の構造または機能の特徴が、脳のMRIデータから抽出され、特徴は、機械学習アルゴリズムによってトレーニングされる。アルゴリズムは、個人の脳画像に基づいて、脳予測年齢と呼ばれる個人の暦年齢を予測する予測モデルを生成する。モデルがトレーニングされ、検証されると、個人の脳年齢を推定するために使用されることが可能になり、次いで、個人の脳年齢と暦年齢との間の差として定義されるPADが、脳の老化状態を示すために計算される。
【0022】
PADは、潜在的な認知老化マーカであることが示されている。これは、認知障害(Liemら、2017年)、流動性知能(Cole、2020年、Coleら、2018年)、および様々な認知能力(Boyleら、2020年、Richardら、2018年)に関連する。Beheshtiらは、T1w MRIから抽出された個人の形態測定的特徴を使用してPADを推定した(Beheshtiら、2018年)。彼らは、PADがCDRを含む認知症のいくつかの臨床評価のスコアに関連していることを発見した。Beheshtiの研究は、MRIスキャンの瞬間におけるCDRを予測する際のPADの能力を実証したが、その後数年間におけるCDRの変化におけるPADの予測を調査するための縦断的データを持っていなかった。
【0023】
オープンアクセスシリーズオブイメージングスタディーズ(OASIS:Open Access Series of Imaging Studies)は、MRIおよびPETデータ、神経心理学的検査、ならびに臨床データを収集するデータバンクである(https://www.oasis-brains.org/)。これは、健康的な老化およびADの影響を研究する目的で、科学界に公開されている。OASIS-3は、42歳から95歳までの年齢の1098人の参加者の縦断的データを含む、2019年にリリースされたデータセットである(LaMontagneら、2019年)。参加者は、(1)アルツハイマー病(AD)の家族歴の有無にかかわらず、一般に健康で認知的に正常な、すなわち、臨床的認知症尺度(CDR)=0の個人と、(2)疑わしい、軽度、中度、または重度の認知症、すなわち、それぞれ、CDR=0.5、1、2、または3の、それ以外は健康な個人とを含む。すべての参加者は、ワシントン大学医学部の治験審査委員会によって承認された手順に従ってインフォームドコンセントを与えた。
【0024】
その後数年間における人のCDRを予測することができることは、適切な介入および再診を個別に指示することが可能であるので、医療専門家および患者にとって大きな関心事である。したがって、本方法は、脳年齢モデルである事前に確立された予測モデルを構築するために、OASISデータ内の258人の認知的に正常な成人のシステムに基づき、ベースライン、すなわちMRIスキャンの時点における0、0.5、および1を包含する、異なるCDRを有する参加者にモデルを適用し、数年間の追跡調査におけるPADとCDRの変化との関係を調査した。
【0025】
具体的には、本発明は、3つの結論を確立する。第1に、PADは、ベースラインにおいて0、0.5、および1の異なるCDRスコアを有する参加者間で異なっていた。第2に、0.5の安定したCDRを有する参加者におけるPADは、ベースラインにおいて0.5であったが、追跡調査において0または1になったCDRを有する参加者におけるPADとは異なっていた。第3に、0の安定したCDRを有する参加者におけるPADは、そのベースラインCDRが0であったが、追跡調査期間中に0.5に変換された参加者におけるPADとは異なっていた。
【0026】
さらに、T1w MRIからの灰白質の形態測定的特徴(Beheshtiら、2018年)または拡散MRIからのFW内容(Maillardら、2019年)を使用する代わりに、本発明は、WM PADと呼ばれるPADを計算するために拡散テンソルイメージング(DTI)から抽出された脳の白質(WM)の微細構造的特徴を使用し、WM PADとCDRとを関連付ける方法を確立する。具体的には、個人のWM PADは、この人の付随するCDRに関連付けられる。加えて、人のCDRが与えられると、WM PADは、その後2~3年間におけるCDRの変化にも関連付けられる。WM PADとCDRとを関連付けるためのこの方法は、医療専門家が、CDRおよび今後数年間におけるその将来の転帰を予測するための代理マーカとしてWM PADを使用することを可能にする。
【0027】
本発明の一実施形態において、個人の特定の脳画像データを入力として読み取り、人の予測年齢差(PAD)を推定するように方法および関連するコンピュータベースのプログラムが設計され、PADの事前定義されたカットオフ値に従って、人が臨床的認知症尺度(CDR)によって評価された場合、人が認知的に正常である可能性が高いか/または可能性が低いかが判定される。方法およびプログラムは、データバンクOASIS-3のコホートに対する遡及研究のために使用され、結果を患者のCDRスコアと比較することによって、認知的に正常である(CDR=0)である可能性が高い/または可能性が低い患者を識別する際のPADの性能を評価した。
【0028】
一実施形態において、本発明は、個人の脳の医用画像から病状および/または病状変化の可能性を定量的に評価する方法に向けられ、方法は、(1)第1の医用画像と第2の医用画像とを取得するために元の医用画像を処理するステップと、(2)第1の医用画像の少なくとも1つの脳組織のセグメントを取得するために第1の医用画像を処理するステップと、(3)ステップ(2)において取得された少なくとも1つの脳組織のセグメントに基づいて個人の脳の変形マップを取得するステップと、(4)第2の医用画像のアーティファクトを補正するステップと、(5)ステップ(4)において取得されたアーティファクト補正された第2の医用画像とステップ(3)において第1の医用画像から取得された変形マップとを使用して、脳組織の少なくとも1つの拡散関連値を取得するステップと、(6)ステップ(5)において取得された抽出された拡散関連値を、確立された脳年齢予測モデルに入力することによって予測年齢差(PAD)を計算するステップと、(7)病状または病状変化予測モデルを使用してPADから病状または病状変化の尤度を予測するステップとを含む。
【0029】
本発明の一実施形態において、病状は、付随するCDRを指す。一実施形態において、病状変化は、2~3年中のCDR変化を指す。一実施形態において、拡散関連値は、異方性度(FA)値と平均拡散率(MD)値とを含む。
【0030】
本発明の別の態様において、個人の脳の医用画像から病状または病状変化の尤度を定量的に評価する方法であって、第1の画像が、T1強調(T1w)画像である。
【0031】
本発明の別の態様において、個人の脳の医用画像から病状または病状変化の尤度を定量的に評価する方法であって、第2の画像が、拡散テンソルイメージング(DTI)シーケンスから取得される。
【0032】
本発明の別の態様において、個人の脳の医用画像から病状または病状変化の尤度を定量的に評価する方法であって、少なくとも1つの脳組織が、白質(WM)、灰白質(GM)、またはその両方を含む。
【0033】
本発明の別の態様において、個人の脳の医用画像から病状または病状変化の尤度を定量的に評価する方法であって、ステップ(3)が、ステップ(2)において取得された少なくとも1つの脳組織のセグメントをMNI空間に位置合わせするステップを含む。
【0034】
本発明の別の態様において、個人の脳の医用画像から病状または病状変化の尤度を定量的に評価する方法であって、ステップ(4)が、疑似b0画像を合成するためにT1wコントラストを反転し、DTIデータのアーティファクトを補正するためにDTIを疑似b0画像に位置合わせするステップを含む。
【0035】
本発明の別の態様において、個人の脳の医用画像から病状または病状変化の尤度を定量的に評価する方法であって、ステップ(5)の脳組織がWMである。
【0036】
本発明の別の態様において、個人の脳の医用画像から病状または病状変化の尤度を定量的に評価する方法であって、ステップ(5)の拡散関連値が異方性度(FA)と平均拡散率(MD)とを含む。
【0037】
本発明の別の態様において、先行する請求項のいずれかによる、個人の脳の医用画像から病状または病状変化の尤度を定量的に評価する方法であって、病状が臨床的認知症尺度(CDR)である。
【0038】
本発明の別の態様において、本発明は、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを評価するための方法に向けられ、(1)T1強調(T1w)イメージングシーケンスと拡散テンソルイメージング(DTI)シーケンスとを使用して個人の脳のMRIデータを取得するステップと、(2)白質(WM)セグメントと灰白質(GM)セグメントとを取得するように、取得されたT1wを処理するステップと、(3)個人の脳の変形マップを取得するために、ステップ(2)において取得されたWMセグメントおよびGMセグメントをMNI空間に位置合わせするステップと、(4)DTIデータのアーティファクトを補正するステップと、(5)アーティファクト補正されたDTIデータに基づいて、ネイティブ空間における個人に関する異方性度(FA)マップおよび平均拡散率(MD)マップを取得するステップと、(6)ステップ(5)において取得されたFAマップおよびMDマップと、ステップ(3)において取得された変形マップとを使用して、個人の脳のWM領域のFA値およびMD値を抽出するステップと、(7)WMの抽出されたFAおよびMDを、確立された脳予測年齢モデルに入力することによってWM PADを計算するステップと、(8)CDR予測モデルとCDR変化予測モデルとを使用して、WM PADから個人のCDRおよびCDR変化を予測するステップとを含む。
【0039】
本発明の別の態様において、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、ステップ(2)が、(i)T1wデータのSI不均一性を補正するステップと、(ii)組織確率マップ(TPM)をセグメント化するステップと、(iii)WMセグメントとGMセグメントとを取得するステップとを含む。
【0040】
本発明の別の態様において、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、ステップ(2)が、疑似b0画像を合成するためにT1wコントラストを反転するステップをさらに含む。
【0041】
本発明の別の態様において、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、ステップ(4)が、DTIデータのアーティファクトを補正するために、DTIデータを疑似b0画像に位置合わせするステップを含む。
【0042】
本発明の別の態様において、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、ステップ(5)が、(i)アーティファクト補正されたDTIの各画像ピクセルにおける拡散テンソルを推定するステップと、(ii)各ピクセルにおける推定された拡散テンソルから導出された拡散テンソルインデックスを使用して、各ピクセルにおけるFAおよびMDを計算するステップと、(iii)各ピクセルにおけるFAおよびMDを使用して、ネイティブ空間におけるFAマップおよびMDマップを生成するステップとを含む。
【0043】
本発明の別の態様において、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、MD=(λ1+λ2+λ3)/3、FA=[3(Δλ12+Δλ22+Δλ32)/2(λ12+λ22+λ32)]1/2である。λ1、λ2、λ3が、それぞれ、拡散テンソルの第1、第2、第3の固有値を表す。
【0044】
本発明の別の態様において、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、ステップ(6)が、(i)ステップ(3)における変形マップを使用してFAマップおよびMDマップをMNI空間に位置合わせするステップと、(ii)位置合わせされたFAマップおよびMDマップをWMセグメントでマスクするステップとを含む。
【0045】
本発明の別の態様において、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、脳予測年齢モデルが、ガウス過程回帰法を使用して、WM領域内のFA値およびMD値に対して2人以上の個人の暦年齢を回帰することによって構築される。
【0046】
本発明の別の態様において、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、個人の脳が白質領域で構成される。
【0047】
本発明の別の態様において、個人の脳のMRIデータに基づいて、個人の臨床的認知症尺度(CDR)と、予測年齢差(PAD)からのCDRの将来の変化とを推定するための方法であって、CDR変化が、MRIスキャンの日から次の2~3年間における個人のCDRである。
【0048】
本発明の別の態様において、本発明は、個人の臨床的認知症尺度(CDR)とCDRの将来の変化とを予測するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体に向けられ、プロセスは、(1)第1の医用画像と第2の医用画像とを取得するために元の医用画像を処理するステップと、(2)第1の医用画像の少なくとも1つの脳組織のセグメントを取得するために第1の医用画像を処理するステップと、(3)ステップ(2)において取得された少なくとも1つの脳組織のセグメントに基づいて個人の脳の変形マップを取得するステップと、(4)第2の医用画像のアーティファクトを補正するステップと、(5)ステップ(4)において取得されたアーティファクト補正された第2の医用画像とステップ(3)において第1の医用画像から取得された変形マップとを使用して脳組織の異方性度(FA)値および平均拡散率(MD)値を取得するステップと、(6)ステップ(5)において取得された抽出されたFAおよびMDを、確立されたdMRI脳年齢モデルに入力することによって予測年齢差(PAD)を計算するステップと、(7)病状または病状変化予測モデルを使用してPADから病状または病状変化の尤度を予測するステップとを含む。
【0049】
本発明の別の態様において、個人の臨床的認知症尺度(CDR)とCDRの将来の変化とを予測するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、第1の画像がT1強調(T1w)画像であり、第2の画像が拡散テンソルイメージング(DTI)シーケンスである。
【0050】
本発明の別の態様において、個人の臨床的認知症尺度(CDR)とCDRの将来の変化とを予測するためのプロセスをコンピュータに実行させるプログラムを記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、少なくとも1つの脳組織が、白質(WM)、灰白質(GM)、またはその両方を含む。
【0051】
本発明の別の態様において、DWIは、dMRIデータ内のアーティファクトをより効率的に除去および/または低減するように、新規の方法および/またはコンピュータベースのプログラムを用いて補正される。
【0052】
第1に、空間的不一致について、磁化率に起因する歪みに特化した位置合わせ方法が開発される。一次導関数(分析的)および二次導関数(近似)が導出される。したがって、この方法は、非常に効率的なガウス-ニュートン最適化方式を使用してフィールドマップを推定することができる。第2に、実際のb0画像と疑似b0画像との間のコントラストの不一致をモデル化するために、「バイアスフィールド」と呼ばれる用語が導入される。このように、画像の不一致は、2つの要因、すなわち、フィールドマップによる磁化率に起因する歪みと、バイアスフィールドによる強度バイアスとによって説明される。位置合わせプロセス中、フィールドマップおよびバイアスフィールドは、同時に推定される。それらの値は、磁化率に起因する歪みの大きさと、強度バイアスのレベルとに従って、推定方法によって自動的に調整される。
【0053】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下の図面と併せて取りあげられる以下の好ましい実施形態の説明から明らかになるであろうが、それらにおける変形および変更は、本開示の新規の概念の要旨および範囲から逸脱することなく行われ得る。
【0054】
添付図面は、本発明の1つまたは複数の実施形態を示し、明細書と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。可能な限り、一実施形態の同じまたは同様の要素を参照するために、図面全体を通じて同じ参照番号が使用される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】WM PADからCDRを推定するためのプロセスのフローチャートである。
【
図2】T1wおよびDTIデータの取得のためのプロセスのフローチャートである。
【
図3】T1wの画像処理のためのプロセスのフローチャートである。
【
図4】GWおよびWMのMNI空間への位置合わせのためのプロセスのフローチャートである。
【
図5】DTIデータのアーティファクト補正のためのプロセスのフローチャートである。
【
図6】MDおよびFAの再構築のためのプロセスのフローチャートである。
【
図7】FAおよびMDの抽出のためのプロセスのフローチャートである。
【
図8】WM脳年齢およびPADの推定のためのプロセスのフローチャートである。
【
図9】CDRおよびCDRの変化の予測のためのプロセスのフローチャートである。
【
図10】例2のCN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]の間の比較を示す図である。
【
図11】例2の[D1]-to-CN、[nD1]、および[D1]-to-D2の間の比較を示す図である。
【
図12】例2のCN1-to-[CN2]、D1-to-[CN]、および[CN]-to-D1の間の比較を示す図である。
【
図14】参加者の脳がMRIスキャナによってスキャンされるプロセスを示す図である。
【
図15】解剖学的画像が疑似b
0画像に変換されるプロセスを示す図である。
【
図16】dMRIデータから実際のb
0画像を抽出するためのプロセスを示す図である。
【
図17】疑似b
0画像が実際のb
0画像に厳密に位置合わせされるプロセスを示す図である。
【
図19】βとvとを推定するためのアルゴリズムを示す図である。
【
図20】参加者のdMRIデータのアーティファクトを補正した結果を示す図である。
【
図21】実施例3のCN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]の間のPAD比較を示す図である。
【
図22】CDR=0とCDR>0とを区別する性能を評価するためのROC曲線分析を示す図である。
【
図23】6のカットオフPADを使用した結果の混合行列と、PADに関する2つの母集団(すなわち、CDR=0およびCDR>0)の分布とを示す図である。
【
図24】例示的な装置における異なる構成要素/手段間のデータフローを示す概念的なデータフロー図である。
【
図25】処理システムを用いる装置のためのハードウェア実装形態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明について、本発明の例示的実施形態が示される添付図面を参照して、以下により詳細に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態において具体化され得、本明細書に記載の実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が、徹底的かつ完全なものになり、当業者に本発明の範囲を完全に伝えるように提供される。全体を通して、同様の参照番号は、同様の要素を指す。
【0057】
本明細書において使用される用語は、一般に、当該技術分野における、本発明の文脈内の、および各用語が使用される特定の文脈におけるそれらの通常の意味を有する。本発明を説明するために使用される特定の用語は、本発明の説明に関して施術者に追加のガイダンスを提供するために、以下で、または本明細書の他の場所において論じられる。便宜上、特定の用語は、例えば、斜体および/または引用符を使用して、強調表示される場合がある。強調表示の使用は、用語の範囲および意味に影響を与えず、用語の範囲および意味は、強調表示されているかどうかに関係なく、同じ文脈内では同じである。同じことが2つ以上の方法において言えることが理解されるであろう。したがって、本明細書で論じる用語のうちの任意の1つまたは複数に対して、代替の言語および同義語が使用される場合があり、また、用語が本明細書で詳述されているかまたは論じられているかどうかに特別な重要性が置かれることもない。特定の用語の同義語が提供される。1つまたは複数の同義語の説明は、他の同義語の使用を排除しない。本明細書において論じる任意の用語の例を含む本明細書における任意の場所での例の使用は、例示に過ぎず、本発明または任意の例示した用語の範囲および意味を決して制限しない。同様に、本発明は、本明細書において与える様々な実施形態に限定されない。
【0058】
本明細書における説明において、および以下の特許請求の範囲全体を通して使用される「a」、「an」、および「the」の意味は、文脈が明確にそうでないことを指示しない限り、複数の参照を含むことが理解されるであろう。また、ある要素が別の要素の「上」にあると言及される場合、それは、他の要素の上に直接あることも可能であり、またはそれらの間に介在要素が存在する場合もあることが理解されるであろう。対照的に、ある要素が別の要素の「直接上」にあると言及される場合、介在する要素は存在しない。本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、関連する列挙した項目のうちの1つまたは複数の任意の、あらゆる組合せを含む。
【0059】
第1の、第2の、第3のなどの用語は、本明細書において様々な要素、構成要素、領域、層、および/またはセクションを説明するために使用される場合があるが、これらの要素、構成要素、領域、層、および/またはセクションは、これらの用語によって制限されるべきではないことが理解されるであろう。これらの用語は、1つの要素、構成要素、領域、層、またはセクションを別の要素、構成要素、領域、層、またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で論じる第1の要素、構成要素、領域、層、またはセクションは、本発明の教示から逸脱することなく、第2の要素、構成要素、領域、層、またはセクションと呼ばれることが可能である。
【0060】
さらに、本明細書において、図中に示すように、1つの要素の、別の要素との関係を説明するために、「下部」または「底部」、および「上部」または「頂部」などの相対的な用語が使用される場合がある。相対的な用語は、図中に示された向きに加えて、デバイスの異なる向きを包含することを意図していることが理解されるであろう。例えば、図のうちの1つにおけるデバイスがひっくり返された場合、他の要素の「下部」側にあると説明されている要素は、他の要素の「上部」側に向けられることになる。したがって、「下部」という例示的な用語は、図の特定の向きに応じて、「下部」と「上部」の両方の向きを包含することができる。同様に、図のうちの1つにおけるデバイスがひっくり返された場合、他の要素の「下」または「下方」として説明されている要素は、他の要素の「上」に向けられることになる。したがって、「下」または「下方」という例示的な用語は、上と下の両方の向きを包含することができる。
【0061】
「備える」および/もしくは「備えること」、または「含む」および/もしくは「含むこと」、または「有する」および/もしくは「有すること」、または「運ぶ」および/もしくは「運ぶこと」、または「含有する」および/もしくは「含有すること」、または「関与する」および/もしくは「関与すること」などの用語は、無制限、すなわち、含むが限定されないことを意味するものであることがさらに理解されるであろう。本開示において使用される場合、それらは、記載された特徴、領域、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、領域、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/もしくはそれらのグループの存在または追加を排除しない。
【0062】
別段の定義のない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。一般に使用される辞書において定義されているような用語は、関連技術および本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書で明確にそのように定義されていない限り、理想化された意味または過度に形式的な意味において解釈されないことがさらに理解されるであろう。
【0063】
本開示において使用される場合、「約」、「ほぼ」、「およそ」、または「実質的に」は、一般に、所与の値または範囲の20パーセント以内、好ましくは10パーセント以内、より好ましくは5パーセント以内を意味するものとする。本明細書で与えられる数量は、概算であり、明示的に記載されていない場合、「約」、「ほぼ」、「およそ」、または「実質的に」という用語が推論されることが可能であることを意味する。
【0064】
本開示において使用される場合、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」という語句は、非排他的論理和を使用して、論理的(AまたはBまたはC)を意味すると解釈されるべきである。本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、関連する列挙された項目のうちの1つまたは複数の任意の、あらゆる組合せを含む。
【0065】
本発明の実施形態について、添付図面を参照して以下に詳細に説明する。以下の説明は、本質的に単なる例示であり、本発明、その応用、または使用を制限することを決して意図していない。本発明の広範な教示は、様々な形態において実施されることが可能である。したがって、本発明は、特定の例を含むが、図面、明細書、および以下の特許請求の範囲を検討すれば、他の変更が明らかになるので、本発明の真の範囲は、そのように限定されるべきではない。明確にするために、同様の要素を識別するために、図面において同じ参照番号が使用される。本発明の原理を変更することなく、方法内の1つまたは複数のステップが異なる順序で(または同時に)実行され得ることが理解されるべきである。
【0066】
説明は、
図1~
図20における添付図面と併せて本発明の実施形態についてなされる。本明細書で具体化され、広く説明されるように、本発明の目的によれば、本発明は、一態様において、個人のWM PADのMRIデータに基づいてCDRを計算および予測するための方法および関連装置に関する。
【0067】
図1は、本発明の全体的なフローチャート、すなわち、プログラムによってCDRを評価し、CDR変化を予測するためにWM PADを使用するプロセスを示す。本発明は、T1wイメージングシーケンスと拡散強調イメージングシーケンスとを使用するMRIデータの取得で開始する(ステップ1)。同じWM構成要素が異なる脳から選択されることを保証するために、各個人のMRI画像のMNI空間内の標準テンプレートへの空間位置合わせが義務付けられる(ステップ2および3)。一実施形態において、ステップ2および/または3は、T1w画像などのMRI画像がセグメント化され、特定の脳組織のセグメントがMNI空間に位置合わせされる空間正規化プロセスである。したがって、空間正規化プロセス中に特定の脳組織の変形マップが取得される。拡散強調インデックス、すなわち異方性度(FA)および平均拡散率(MD)の正確な定量化を保証するために、拡散強調MRIデータ内のアーティファクトが補正され、その後、FAインデックスおよびMDインデックスの正確な推定が行われるべきである(ステップ4および5)。ネイティブ空間内のFAマップおよびMDマップ、ならびにネイティブ空間とMNI空間との間の変形行列を取得すると、FAマップおよびMDマップをMNI空間に変換し、WM構成要素内のFAインデックスとMDインデックスとを抽出することができる(ステップ6)。一実施形態において、ステップ5および/または6は、アーティファクト補正された拡散強調MRIデータに基づくFAマップおよびMDマップが取得され、特定の脳組織のFAインデックスおよびMDインデックスが抽出される、特徴定量化プロセスである。結果として生じるFA値およびMD値は、脳年齢とWM PADとを推定するために、確立されたdMRI脳年齢モデルへの入力として機能する(ステップ7)。最後のステップにおいて、WM PADは、CDRを決定し、プログラム内の事前に確立されたモデルを使用してCDRの将来の変化を予測するために使用される(ステップ8)。各ステップの詳細な説明は、以下に説明する。
【0068】
図2は、プログラムによるT1wおよびDTIデータの取得のプロセスを示す。
【0069】
ステップ1.1は、人の脳のMRIスキャンである。人は、位相配列マルチチャネルヘッドコイルを有する1.5テスラまたは3テスラのMRIシステムによってスキャンされる。MRIスキャンは、妊娠第1期以内の参加者、ペースメーカーもしくは除細動器を埋め込まれている参加者、または6ヶ月以内に血管クリッピングもしくはステント留置を受けている参加者には禁忌である。
【0070】
ステップ1.2は、T1wの取得である。T1wデータは、3次元磁化準備型高速グラディエントエコーシーケンスを使用して取得される。イメージングパラメータは、以下の、繰り返し時間(TR)=2400ms、エコー時間(TE)=3.16ms、反転時間(TI)=1000ms、視野(FOV)=256×256×176mm3、および行列サイズ=256×256×176のように詳述される。
【0071】
ステップ1.3は、DTIデータの取得である。DTIデータは、q空間内に均等に分散された24の異なる方向(bベクトル)に対応する24の異なる大きさの拡散感度(b値)を使用する拡散強調2次元シングルショットスピンエコー-エコー平面イメージングを使用して取得される。
【0072】
ステップ1.4は、T1wとDTIデータを取得することである。このようにして、1つのT1wデータおよび1つのDTIデータが、ステップ2および4における処理のために各参加者について取得された。
【0073】
図3は、空間正規化プロセス中のプログラムによるT1wの画像処理のステップを示す。
【0074】
ステップ2.1は、人のT1w画像である。T1w画像は、SPM12ソフトウェア(Wellcome Trust Centre for Neuroimaging、ユニバーシティカレッジロンドン、ロンドン、英国)におけるセグメントツールボックスを使用して処理される。
【0075】
ステップ2.2は、T1wにおけるSI不均一性の補正である。ツールボックスは、信号強度の不均一性を補正する。
【0076】
ステップ2.3は、SPM12におけるセグメントツールボックスを使用して組織確率マップ(TPM)をセグメント化する。SI不均一性を補正すると、ツールボックスは、T1w画像を、灰白質(GM)、白質(WM)、脳脊髄液(CSF)、骨、頭皮などを含む様々な組織セグメントにセグメント化する。
【0077】
ステップ2.4は、GMセグメントとWMセグメントとを取得することである。このようにして、6つのTPMが取得され、そこからステップ3における処理のためにGMセグメントとWMセグメントとが選択される。
【0078】
ステップ2.5は、T1wコントラストを反転することである。ステップ2.3および2.4と並行して、疑似b0画像を合成するために、信号強度の不均一性が補正された、T1w画像のコントラストが反転される。
【0079】
ステップ2.6は、疑似b0画像を取得することである。このようにして、ステップ4における処理のために、各人について疑似b0画像を取得する。
【0080】
図4は、空間正規化プロセス中のGMおよびWMのMNI空間への位置合わせのプロセスを示す。
【0081】
ステップ3.1は、人のGMセグメントおよびWMセグメントである。GMセグメントおよびWMセグメントは、MNI空間において定義されたICBM152テンプレートに位置合わせされる。
【0082】
ステップ3.2は、GMセグメントおよびWMセグメントをICBM152テンプレートに位置合わせすることである。位置合わせは、大変形微分同相計量マッピング(LDDMM)(Begら、2005年、Millerら、2006年)の変形であるプロセスを呼び出す。具体的には、ICBM152空間内に位置する初期速度は、この速度を時間次元に沿って個人のネイティブ空間に向かって発射することによって反復的に推定される。位置合わせにおいて、コースは、10個の均一な間隔に分割され、初期速度の滑らかさを保証するために、10mmの半値全幅(FWHM)を有する等方性ガウスフィルタが使用される。
【0083】
ステップ3.3は、人の変形マップを取得することである。収束の最終段階において、ICBM152テンプレート内のTPMと一致するように個人のTPMを変形させる変形マップが取得される。変形マップは、ステップ6における処理のために使用される。
【0084】
図5は、DTIデータのアーティファクト補正のプロセスを示す。
【0085】
ステップ4.1は、人のDTI画像である。生のDTIデータは、磁化率に起因する歪み、渦電流に起因する歪み、頭部の動き、および強度の不均一性を含む様々なアーティファクトの悪影響を受け、これらは、人によって異なり、MNI空間への正確な位置合わせを保証するために補正されるべきである。
【0086】
ステップ4.2は、DTIを疑似b0画像に位置合わせすることである。DTIデータは、統合フレームワークにおいてこれらのアーティファクトを補正する新規な位置合わせベースの方法を使用して処理される。位置合わせベースの方法は、人の生のDTIデータを、歪みおよび強度の不均一性のない参照画像として機能する、同じ人の疑似b0画像に位置合わせする。
【0087】
ステップ4.3は、一連のアーティファクトモデルを使用してアーティファクトを低減することである。統合フレームワーク内のアーティファクトモデルを呼び出すことによって、プロセスは、DTIデータのアーティファクトを低減することができる。
【0088】
ステップ4.4は、アーティファクト補正されたDTI画像を取得することである。このようにして、アーティファクト補正されたDTI画像が取得される。推定が収束を達成すると、補正されたDTIデータも、T1w画像と位置合わせされる。
【0089】
図6は、特徴定量化プロセス中のMDおよびFAの再構成のプロセスを示す。
【0090】
ステップ5.1は、アーティファクト補正されたDTIデータである。アーティファクト補正されたDTIデータは、拡散テンソルと、そこから導出された拡散テンソルインデックスとを推定するために処理される。
【0091】
ステップ5.2は、各画像ピクセルにおける拡散テンソルを推定することである。拡散テンソル推定は、(Koayら、2007年)によって提案された手法を使用して実行される。簡単に言えば、重み付き線形最小二乗法が最初に実行され、次いでその結果が、正定値であることが保証された(すなわち、拡散テンソルの固有値がすべて正である)拡散テンソルを取得するために制約付き非線形最小二乗法のための初期推定として用いられる。
【0092】
ステップ5.3は、各ピクセルにおけるFAとMDとを計算することである。拡散テンソルインデックス、すなわち異方性度(FA)および平均拡散率(MD)は、各ピクセルにおける推定された拡散テンソルから導出される。MD値およびFA値は、標準式、MD=(λ1+λ2+λ3)/3およびFA=[3(Δλ12+Δλ22+Δλ32)/2(λ12+λ22+λ32)]1/2を使用して決定され、ここで、λ1、λ2、およびλ3は、それぞれ拡散テンソルの第1、第2、および第3の固有値を示し、Δλ1、Δλ2、およびΔλ3は、それぞれλ1-MD、λ2-MD、およびλ3-MDを表す。
【0093】
ステップ5.4は、ネイティブ空間におけるFAマップとMDマップとを取得することである。このようにして、ネイティブ空間における各人についてのFAマップおよびMDマップが取得された。
【0094】
図7は、特徴定量化処理中のFAおよびMDの抽出のプロセスを示す。
【0095】
ステップ6.1は、ネイティブ空間における人のFAマップおよびMDマップである。ステップ5におけるFAマップおよびMDマップを取得すると、標準化されたWMセグメントからFA値とMD値とを抽出する必要がある。
【0096】
ステップ6.2は、FAマップおよびMDマップをMNI空間に位置合わせすることである。これを行うために、ネイティブ空間におけるFAマップおよびMDマップは、ステップ3において取得された変形マップを通じてMNI空間に正規化される。
【0097】
ステップ6.3は、位置合わせされたFAマップおよびMDマップをWMセグメントでマスクすることである。MNI空間に正規化されると、WM内のFA値およびMD値は、ICBM152テンプレートにおける標準化されたWMセグメントによってマスクされる。
【0098】
ステップ6.4は、WMのFA値とMD値とを取得することである。最終ステップにおいて、各人に関するWMのFA値およびMD値が取得された。結果は、ステップ7における処理のために使用される。
【0099】
図8は、WM脳年齢およびPADの推定のためのプロセスを示す。
【0100】
ステップ7.1は、WMにおける人のFAおよびMDである。人のFAおよびMDは、同じMRIスキャナから取得されたDTIデータを使用して、事前にトレーニングおよび検証された確立されたdMRI脳年齢モデルへの入力として使用される。
【0101】
ステップ7.2は、脳年齢を推定するために、確立されたdMRI脳年齢モデルにFA値とMD値とを入力することである。dMRI脳年齢モデルを構築するために、WM領域内のFA値およびMD値に対して参加者の暦年齢を回帰するために、ガウス過程回帰(GPR)法が使用された。モデルの出力は、人のFA値およびMD値とGPRモデルとに基づいて推定される、dMRI脳年齢と呼ばれる予測年齢である。モデルの性能は、dMRI脳年齢と暦年齢との間の平均絶対誤差(MAE)およびピアソンの相関係数(r)の観点から検定および定量化された。
【0102】
ステップ7.3は、人の推定脳年齢および暦年齢からWM PADを計算することである。dMRI脳年齢を取得すると、式、dMRI脳年齢-暦年齢によって、白質の予測年齢差(WM PAD)が計算される。
【0103】
ステップ7.4は、WM PADを取得することである。このようにして、CDRとCDR変化とを推定するためにWM PADが取得された。
【0104】
図9は、CDRの決定およびCDRの将来の変化の予測のためのプロセスを示す。
【0105】
ステップ8.1は、人のWM PADである。人のWM PADは、人のCDRを決定するためおよび/またはCDRの将来の変化を予測するために、確立された予測モデルの入力として使用される。
【0106】
ステップ8.2は、WM PADをCDRに関連付ける確立されたモデルからCDRを決定することである。WM PADからCDRの予測モデルを構築するために、WM PADおよび付随するCDRが事前に知られている人々のグループからのデータセットに線形回帰モデルが適用される。一実施形態において、WM PADおよび付随するCDRが事前に知られている人々のグループからのデータセットは、脳年齢モデルを確立するために使用される。
【0107】
ステップ8.3は、決定されたCDRを取得することである。確立されたCDRの回帰モデルおよび/または脳年齢モデルを使用して、人のCDRは、同じ人のWM PADから決定される。
【0108】
ステップ8.4は、WM PADをCDRの将来の変化に関連付ける確立されたモデルからCDRの将来の変化を予測することである。WM PADからCDRの将来の変化の予測モデルを構築するために、WM PADと、WM PAD測定の2~3年後のCDRの記録とが知られている人々のグループのデータセットに線形回帰モデルが適用される。一実施形態において、そのようなモデルは、脳年齢モデルである。CDR変化は、WM PAD測定と同時に測定されたCDRと、2~3年後に測定されたCDRとの間の差として定義される。
【0109】
ステップ8.5は、予測されたCDR変化を取得することである。確立されたCDR変化の回帰モデルを使用して、人のCDR変化は、同じ人のWM PADから予測される。
【0110】
一実施形態において、事前に確立された予測モデルは、ステップ7において、抽出されたFA値およびMD値からWM PADを計算する際に使用されるdMRI脳年齢モデルと、ステップ8においてWM PADをCDRおよびCDR変化に関連付けるモデルの両方を含む。
【0111】
一実施形態において、何人かの患者の医用脳画像は、各患者の少なくとも1つの特徴を抽出するために処理される。トレーニングデータのセットが与えられると、この事前に確立された予測モデルは、機械学習方法を使用して特徴を認知障害の状態に関連付けることによって構築される。独立したデータについて、モデルは、脳画像の特徴を入力することによって、認知障害の状態を予測するために使用されることが可能である。
【0112】
図24は、例示的な装置2400における異なる構成要素/手段間のデータフローを示す概念的なデータフロー図である。一実施形態において、1つまたは複数の画像取得デバイス(例えば、MRIスキャナ)が、患者の脳画像データを収集し、データをさらなる処理のために受信構成要素2402に送信する。次いで、受信構成要素2402は、画像データを画像処理構成要素2403に送信する。他の実施形態において、画像取得デバイスが、受信構成要素2402を使用することなく、画像データを画像処理構成要素2403に直接送信し得ることが留意されるべきである。
【0113】
画像処理構成要素2403は、疑似b0画像ならびにGMセグメント情報およびWMセグメント情報を取得するためにステップ2.1~2.6を処理する。次いで、変形マップを取得するために、ステップ3.1~3.3のためにGMセグメント情報およびWMセグメント情報を位置合わせ構成要素2406に送信する。並行して、疑似b0画像情報およびDTIデータは、ステップ4.1~4.4のためにアーティファクト補正構成要素2405に送信され、その間にアーティファクト補正されたDTI画像が取得される。
【0114】
一実施形態において、次いで、予測構成要素2407が、位置合わせ構成要素2406から変形マップを受信し、アーティファクト補正構成要素2405からアーティファクト補正されたDTIデータを受信する。次いで、予測構成要素2407は、ステップ5~8に進み得る。別の実施形態において、ステップ6.1~6.4は、WMのFA値およびMD値を取得するために位置合わせ構成要素2406において行われ得る。
【0115】
図25は、処理システム2400のためのハードウェア実装形態の一例を示す
図2500である。処理システム2500は、一般にバス2503によって表されるバスアーキテクチャを用いて実装され得る。バス2503は、処理システム2500の特定の用途および全体的な設計制約に応じて、任意の数の相互接続バスおよびブリッジを含み得る。バス2503は、1つまたは複数のプロセッサ2501、画像処理構成要素2403、アーティファクト補正構成要素2405、位置合わせ構成要素2406、予測構成要素2407、およびコンピュータ可読媒体/メモリ2502によって表される、1つまたは複数のプロセッサおよび/またはハードウェア構成要素を含む様々な回路を一緒にリンクする。バス2503は、タイミングソース、周辺機器、電圧レギュレータ、および電力管理回路などの様々な他の回路もリンクし得る。
【0116】
処理システム2500は、MRIスキャナまたは他の臨床画像取得デバイスであり得る画像取得デバイス2401に結合され得る。
【0117】
処理システム2500は、コンピュータ可読媒体/メモリ2502に結合された1つまたは複数のプロセッサ2501を含む。1つまたは複数のプロセッサ2501は、コンピュータ可読媒体/メモリ2502上に記憶されたソフトウェアの実行を含む、一般的な処理を担当する。ソフトウェアは、1つまたは複数のプロセッサ2501によって実行されると、処理システム2500に、任意の特定の装置について上記で説明した様々な機能を実行させる。コンピュータ可読媒体/メモリ2502は、ソフトウェアを実行するときに1つまたは複数のプロセッサ2501によって操作されるデータを記憶するためにも使用され得る。処理システム2500は、画像処理構成要素2403、アーティファクト補正構成要素2405、位置合わせ構成要素2406、予測構成要素2407のうちの少なくとも1つをさらに含む。構成要素は、1つもしくは複数のプロセッサ2501内で実行されるソフトウェア構成要素、コンピュータ可読媒体/メモリ2502内に常駐/記憶されるソフトウェア構成要素、1つもしくは複数のプロセッサ2501に結合された1つもしくは複数のハードウェア構成要素、またはそれらのいくつかの組合せであり得る。
【0118】
開示されたプロセス/フローチャート内のブロックの特定の順序または階層は、例示的な手法の例示であることが理解される。設計の好みに基づいて、プロセス/フローチャート内のブロックの特定の順序または階層は、再配置され得ることが理解される。さらに、いくつかのブロックは、結合または省略され得る。添付の、方法の請求項は、様々なブロックの要素をサンプル順序において提示しており、提示された特定の順序または階層に限定されることを意味していない。
【実施例1】
【0119】
このアーティファクト補正ステップ4.1~4.3および
図5は、
図14~
図20においてより詳細な方法で提示されている。
【0120】
特に、参加者の脳は、MRIスキャナによってスキャンされる。dMRIデータおよび解剖学的画像(T1wまたはT2w)が取得される(
図14)。解剖学的画像は、実際のb
0画像と同様の画像コントラストを有する疑似b
0画像に変換される(
図15)。実際のb
0画像は、dMRIデータから抽出される(
図16)。疑似b
0画像は、実際のb
0画像に厳密に位置合わせされる。この位置合わせされた画像は、
【0121】
【0122】
として示され、実際のb0b0画像は、
【0123】
【0124】
である。ここで、
【0125】
【0126】
は、画像領域を示す。f0f0の座標は、r∈Ωr∈Ωである。f1f1のPE方向は、
【0127】
【0128】
【0129】
バイアスフィールドは、乗法的であると仮定され、それをeβでモデル化し、ここで、
【0130】
【0131】
である。このようにして、
【0132】
【0133】
は、f
1と同様である。βフィールドの滑らかさは、微分演算子L
βによって達成され、βのノルムが||β||
2=<L
ββ|β>
2として定義される。
図18によれば、
【0134】
【0135】
は、フィールドマップを(Hzの単位において)示すために使用される。歪みマップとフィールドマップとの間の関係は、
φ(r)=r+k・ψ(r)・p、∀r∈Ω (1)
であり、ここで、k=τVであり、τは、有効エコー間隔時間であり、Vは、DW画像がPE方向にある場合の視野である。v=kψを初期速度とする。vの滑らかさは、微分演算子Lvによって達成され、vのノルムが||v||2=<Lvv|v>2として定義される。
【0136】
歪み補正された画像は、|Dφ|f
1○φであり、○は、関数合成を示す(
図18)。
【0137】
図19は、βとvとを推定するためのプロセスを示す。最小化されるべきコスト関数は、E
1=E
d+E
β+E
vであり、ここで、
【0138】
【0139】
である。
【0140】
実際のb0画像と疑似b0画像との間のデータマッチング(Ed)を定量化するために差分二乗和(SSD)を使用し、正則化は、非平滑バイアスフィールド(Eβ)と非平滑初期速度(Ev)とにペナルティを課す。パラメータσd、σβ、およびσvは、それぞれ、データマッチング項および正則化項の重み付けである。
【0141】
表記上の便宜のため、いくつかの補助関数を定義する。関数b=vec(A)は、フィールドを列ごとに連結することによって、3Dフィールド
【0142】
【0143】
をベクトル
【0144】
【0145】
に変換し、ここで、nxyzは、ボクセルの総数である。逆演算は、A=ivec(b)によって達成される。加えて、関数B=diag(b)は、bベクトルを対角行列Bに変換する。
【0146】
βの値を更新するために、ガウス-ニュートン手法が使用される。
gβ=|Dφ|-1eβf0(eβf0-|Dφ|f1○φ)、
Hβ=2|Dφ|-1(eβf0)2、ならびに
bβ=vec(β)、gβ=vec(gβ)、およびHβ=diag(vec(Hβ)) (3)
とする。降下偏差は、
δbβ=(σdHβ+Lβ)-1(σdgβ+σβLβbβ) (4)
によって計算され、または3Dフィールド形式δβ=ivec(δbβ)において、βフィールドは、
β(iter+1)=β(iter)-Υβ・δβ(iter) (5)
によって更新される。ここで、0<Υβ≦1は、降下サイズを制御する倍率である。微分演算子Lβは、
【0147】
【0148】
を介して実装され、ここで、積分における第1の項は、膜エネルギーであり、第2の項は、曲げエネルギーであり、λβ,1およびλβ,2は、それぞれ、正則化の強度を制御する。実際には、この微分演算子は、行列形式
【0149】
【0150】
において表現される。
【0151】
バイアスフィールドと同様に、初期速度フィールドvを更新するために、ガウス-ニュートン手法が使用される。
【0152】
【0153】
とする。ここで、∇pは、p方向に沿った勾配である。また、bv=vec(v)、gv=vec(gv)、Hv=diag(vec(Hv))とし、降下偏差は、
δdv=(σdHv+Lv)-1(σdgv+σvLvbv) (8)
によって計算され、または3Dフィールド形式δv=ivec(δbv)において、vフィールドは、
v(iter+1)=v(iter)-Υv・δv(iter) (9)
によって更新され、ここで、0<Υv≦1は、降下サイズを制御する。微分演算子Lvは、Lβと同じ形式で定義され、ここで、膜エネルギーの強度および曲げエネルギーの強度は、それぞれ、λv,1およびλv,2によって制御される。この微分演算子は、行列
【0154】
【0155】
において符号化される。
【0156】
既存の方法と比較して、本位置合わせ方法は、PE方向に沿った1D変形である磁化率に起因する歪みに特化している。一次導関数(gv)は、以前に示されているが、二次導関数の近似であるHessian(Hv)は、我々の発明である。したがって、この方法は、既存の方法と比較して、より効率的なガウス-ニュートン最適化方式を使用してフィールドマップを推定する。
【0157】
さらに、実際のb0画像と疑似b0画像との間のコントラストの不一致をモデル化するために、「バイアスフィールド」と呼ばれる用語が導入される。既存の解剖学的画像ベースの方法は、推定手順におけるコントラストの不一致を明示的に考慮しない。
【0158】
図20は、提案した方法を使用する例を示す。観察できるように、生のb
0画像(
図20(a))は、疑似b
0画像(
図20(e))を参照すると、前頭部の周囲で大きい歪みによる悪影響を受ける。アーティファクトモデルが強度バイアスを考慮しない場合、方法は、極小値に陥り、b
0画像(
図20(b))および異方性度(FA)マップ(
図20(c))において緑色の矢印によって示された領域など、適切に補正されない歪みをレンダリングする。一方、強度バイアスをモデル化するためにバイアスフィールド(
図20(i))を使用することは、適切な位置合わせを結果として生じることができ、したがって、b
0画像(
図20(f))およびFAマップ(
図20(g))が疑似b
0画像に非常に良好に整列される。強度バイアスを用いるモデルを使用して推定されたフィールドマップ(
図20(h))は、強度バイアスを用いないモデルを使用して推定されたフィールドマップ(
図20(d))よりもはるかに滑らかである。結果に対する説明は、実際のb
0画像と疑似b
0画像との間の局所的に大きい画像の不一致である。空間的不一致(磁化率に起因する歪みによる)およびコントラストの不一致(強度バイアスによる)の2つの主要な原因が画像の不一致に寄与することを思い出されたい。アルゴリズムが強度バイアスの寄与を無視する場合、アルゴリズムは、位置合わせされた画像を空間的に整列させることによってコスト関数(すなわち、SSD)を低減することを試みる。位置合わせ、特に非線形の位置合わせが不良設定問題であることはよく知られている。このように、大きい強度バイアスを有する領域を位置合わせすることは、誤ったポイントごとの対応、および誤ったフィールドマップを結果として生じやすい。
【0159】
結果は、(1)推定されたフィールドマップが磁化率に起因する歪みを適切に補正することができることと、(2)強度バイアスをモデル化することが磁化率に起因する歪みの補正を容易にすることができることとを明らかにする。
【実施例2】
【0160】
方法
1. 主題
OASIS-3における参加者は、Knight ADRCに関連する様々なプロジェクトによって登録された。参加者は、(1)ADの家族歴の有無にかかわらず、一般に健康で認知的に正常な(CDR=0)個人、および(2)CDR=0.5、1、または2を有する一般に健康な個人であった。除外基準は、縦断的な参加を妨げる医学的状態、例えば、透析を必要とする末期腎疾患、またはMRI検査の禁忌、例えば、ペースメーカーの埋め込みを含んでいた。すべての参加者は、ワシントン大学医学部の治験審査委員会によって承認された手順に従ってインフォームドコンセントを与えた。
【0161】
2. データ選択
OASIS-3における参加者は、2つのスキャナモデル、すなわちBiographとTIM Trioとを含む3つの3T MRIスキャナ(Siemens、エアランゲン、独国)において、脳MRIスキャンの1回から複数回のセッションを受けた。スキャナごとのばらつきを低減するために、T1wイメージングおよび拡散テンソルイメージング(DTI)について同じ取得方式を使用して同じスキャナモデル(TIM Trio)から取得されたMRIデータが分析のために選択された。分析は、T1wおよびDTIデータの許容可能な画像品質を必要としたので、画像がT1wにおけるモーションブラーリングまたはDTIにおける失敗したアーティファクト補正などの重度の画像アーティファクトを示した参加者は、除外された。その結果、575回のMRIスキャンセッションにおいて合計529人の参加者がその後の分析のために登録された。
【0162】
3. MRIデータ取得
図2および関連する説明において上記で提示したように、T1wデータは、3次元磁化準備型高速グラディエントエコーシーケンスを使用して取得された。イメージングパラメータは、以下の、繰り返し時間(TR)=2400ms、エコー時間(TE)=3.16ms、反転時間(TI)=1000ms、視野(FOV)=256×256×176mm
3、および行列サイズ=256×256×176のように詳述された。DTIデータは、24の異なる方向(bベクトル)に対応する24の異なる大きさの拡散感度(b値)を使用する拡散強調2次元シングルショットスピンエコー-エコー平面イメージングを使用して取得され、2回繰り返された。b値およびbベクトルは、補足ファイル1においてリストされている。イメージングパラメータは、以下の、TR=14500ms、TE=112ms、FOV=224×224mm
2、行列サイズ=112×112、スライス厚=2mmのように詳述された。単一のDTIデータセットを形成するために2つのDTI取得が連結されたので、各参加者に関する各MRセッションにおいて1つのT1wデータおよび1つのDTIデータが存在した。
【0163】
4. 画像処理
すべてのMRIデータは、以下に説明する手順に従って処理された。これは、組織セグメント化と、アーティファクト補正と、拡散テンソル推定と、画像位置合わせと、拡散インデックス抽出とを伴う。
【0164】
4.1
図3および関連する説明において提示するように、T1w画像における脳セグメント化について、T1w画像は、SPM12ソフトウェア(Wellcome Trust Centre for Neuroimaging、ユニバーシティカレッジロンドン、ロンドン、英国)内のセグメントツールボックスを使用して処理された。ツールボックスは、信号強度の不均一性を補正し、T1w画像を、灰白質(GM)、白質(WM)、脳脊髄液(CSF)、骨、頭皮およびその他を含む様々な組織構成要素にセグメント化した。セグメントツールボックスの出力は、各々が脳組織構成要素を表す6つのTPM、および強度の不均一性が補正されたT1w画像であった。補正されたT1w画像は、DTIデータに対する後続のアーティファクト補正において使用され、GMおよびWMのTPMは、MNI空間に対する画像の空間正規化のために使用された。
【0165】
4.2 DTIデータに対するアーティファクト補正:
図5および関連する説明において示すように、生のDTIデータは、磁化率に起因する歪み、渦電流に起因する歪み、頭部の動き、および強度の不均一性を含む様々なアーティファクトの悪影響を受ける。DTIデータは、統合フレームワークにおいてこれらのアーティファクトを補正する新奇な位置合わせベースのプロセスを使用して処理された。簡単に言えば、このプロセスは、生のDTIデータを、ステップ4.1において強度の不均一性が補正されたT1w画像のコントラストを反転することによって合成された疑似b
0画像に位置合わせした。このようにして、疑似b
0画像は、歪みおよび強度の不均一性がない参照画像として機能した。アーティファクトモデルを統合フレームワークに組み込むことによって、プロセスは、DTIデータのアーティファクトを低減することができた。一方、補正されたDTIデータは、推定が収束を達成すると、T1w画像の空間と容易に整列された。
【0166】
4.3 拡散テンソル推定:
図6によれば、アーティファクト補正されたDTIデータは、(Koayら、2007年)によって提案された手法を使用して拡散テンソルを推定するために処理された。簡単に言えば、重み付き線形最小二乗法が最初に実行され、次いでその結果が、正定値であることが保証された(すなわち、拡散テンソルの固有値がすべて正であった)拡散テンソルを取得するために制約付き非線形最小二乗法のための初期推定として用いられた。関連する異方性度(FA)および平均拡散率(MD)は、各ピクセルにおける推定された拡散テンソルから導出された。MD値およびFA値は、標準式、MD=(λ1+λ2+λ3)/3およびFA=[3(Δλ1
2+Δλ2
2+Δλ3
2)/2(λ1
2+λ2
2+λ3
2)]
1/2を使用して決定され、ここで、λ1、λ2、およびλ3は、それぞれ拡散テンソルの第1、第2、および第3の固有値を示し、Δλ1、Δλ2、およびΔλ3は、それぞれλ1-MD、λ2-MD、およびλ3-MDを表す。
【0167】
4.4 MNI空間に対する空間正規化:T1w画像からセグメント化されたGMおよびWMのTPMは、大変形微分同相計量マッピング(LDDMM)アルゴリズム(Hsuら、2012年、Hsuら、2015年、Begら、2005年、Millerら、2006年)の変形を使用して、(MNI空間において定義された)ICBM152テンプレートに位置合わせされた。具体的には、ICBM152空間内に位置する初期速度は、この速度を時間次元に沿って個人のネイティブ空間に向かって発射することによって反復的に推定された。収束すると、関連する変形マップは、個人のTPMをICBM152のTPMテンプレートと一致するように変形させることができた。位置合わせにおいて、コースは、10個の均一な間隔に分割され、初期速度の滑らかさを保証するために、10mmの半値全幅(FWHM)を有する等方性ガウスフィルタが使用された。
【0168】
4.5 拡散インデックス抽出:ネイティブ空間におけるFAマップおよびMDマップは、LDDMM位置合わせから導出された変形マップを通じてMNI空間に正規化された。WMピクセルにおけるFA値およびMD値は、ICBM152テンプレートのWM TPMから作成されたマスクを使用して抽出された。FAおよびMDは、白質の微細構造特性を表すDTIインデックスであるので、これらの値は、dMRI脳年齢をモデル化する際に特徴として使用された。
【0169】
すべての画像処理手順は、SPM12が使用されたT1w画像に対する脳セグメント化を除いて、MATLAB(登録商標)(The MathWorks, Inc、ネイティック、マサチューセッツ州、米国)における社内プログラムを使用して行われた。
【0170】
5. CDR実績によるグループ化
研究において登録された参加者は、参加者のCDR値の実績に従って9つのグループにグループ化された。9つのグループは、以下、[CN]-Modeling、[CN1]-to-CN2、CN1-to-[CN2]、[CN]-to-D1、D1-to-[CN]、[D1]-to-CN、[nD1]、[D1]-to-D2、および[nD2]のように名付けられた。すべてのグループは、それぞれ、第1および第2のMRIスキャンを受ける同じ参加者を募集した[CN1]-to-CN2およびCN1-to-[CN2]を除いて、相互に排他的であった。9つのグループの特徴について以下に説明した。グループ化後の分析には475人が含まれ、CN-Modelingグループには258人の参加者、残りのグループには217人の参加者が存在した。
【0171】
5.1 [CN]-Modeling
このグループは、認知的に正常な(CDR=0、略してCN)で安定した参加者で構成された。CDRは、すべての臨床記録において0であり、MRIスキャンの前後1年以内に少なくとも1つのそのような記録を有していた。このグループにおけるデータは、dMRI脳年齢モデルを構築するためのトレーニングデータとして機能した。[CN]は、MRスキャン時の前後でのCNの認知状態を示す。
【0172】
5.2 [CN1]-to-CN2
このグループは、認知的に正常で安定した46人の参加者で構成された。スクリーニング基準は、[CN]-Modelingグループと同じであった。このグループにおけるデータは、dMRI脳年齢モデル化のテストデータとして機能した。[CN1]は、参加者が第1のMRスキャン時の前後でCNであったことを示す。
【0173】
5.3 CN1-to-[CN2]
このグループにおける参加者(N=46)は、[CN1]-to-CN2における参加者と同じ参加者であった。上記で説明したように、このグループにおけるMRIスキャン日は、[CN1]-to-CN2におけるスキャン日よりも遅く、スキャン間の間隔は、2.91±0.67年であった。[CN2]は、参加者が第2のMRスキャン時の前後でCNであったことを示す。
【0174】
5.4 [CN]-to-D1
このグループにおける参加者(N=34)は、MRIスキャン日から±180日の間隔内では認知的に正常であったが、その間隔後に非常に軽度の症候性AD(CDR=0.5、略してD1)に移行した。
【0175】
5.5 D1-to-[CN]
このグループにおける参加者(N=15)は、MRIスキャン日から±180日の間隔内では認知的に正常であったが、その間隔の前にはD1であった。
【0176】
5.6 [D1]-to-CN
このグループにおける参加者(N=26)は、MRIスキャン日から±180日の間隔内ではD1であったが、その間隔後にCNに変化した。[D1]は、MRIスキャン時の前後のD1の認知状態を示す。
【0177】
5.7 [nD1]
このグループにおける参加者(N=34)は、MRIスキャン日から±180日の間隔内ではD1であった。その間隔後、19人の参加者は、D1段階に留まったことを示す少なくとも1つの臨床記録を有していたが、残りの参加者(N=15)は、利用可能なCDRのいかなる記録も持っていなかった。したがって、公称D1(略してnD1)がこのグループに名付けられた。[nD1]は、参加者がMRIスキャン時の前後で公称D1であったことを示す。
【0178】
5.8 [D1]-to-D2
このグループにおける参加者(N=28)は、MRIスキャン日から±180日の間隔内ではD1であったが、その間隔後に軽度の症候性AD(CDR=1、略してD2)に移行した。
【0179】
5.9 [nD2]
このグループにおける参加者(N=24)は、MRIスキャン日から±180日の間隔内ではD2であった。その間隔後、13人の参加者は、中度の症候性AD(CDR=2、略してD3)に移行し、6人の参加者は、変化しないままであったことを示す少なくとも1つの臨床記録を有し、5人の参加者は、いかなるCDR記録も持っていなかった。したがって、公称D2(略してnD2)がこのグループに名付けられた。[nD2]は、参加者がMRIスキャン時の前後で公称D2であったことを示す。
【0180】
【0181】
【0182】
6. dMRI脳年齢
CNモデル化グループにおけるデータは、dMRI脳年齢モデルをトレーニングするために使用された。WM領域内のFA値およびMD値に対して参加者の暦年齢を回帰するために、ガウス過程回帰法が使用された。トレーニングプロセスの後、このモデルは、dMRI脳年齢を推定するために、他のグループにおける各MRIデータに適用された。予測年齢差(PAD)は、dMRI脳年齢から暦年齢を引くことによって計算された。モデルの性能は、CN1グループにおいて検定され、平均絶対誤差(MAE)、およびdMRI脳年齢と暦年齢との間のピアソンの相関係数(r)とによって定量化された。
【0183】
7. 統計的推論
PAD値は、7つのグループ、すなわち、CN1-to-[CN2]、[CN]-to-D1、D1-to-[CN]、[D1]-to-CN、[nD1]、[D1]-to-D2、および[nD2]のうちの任意の2つの間で比較され、合計21対の比較になった。グループの各対について、2標本t検定が行われた。検定が統計的に有意であるとみなされたかどうかを判定するために、偽発見率(FDR)が0.05のBenjamini-Hochberg手順が使用された。
【0184】
結果
i. 異なるCDRレベル間の比較
図10は、異なるCDRレベルを有するグループ、すなわち、CN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]を示す。CN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]のPAD値の平均および標準偏差は、それぞれ、-0.75±5.53年、5.48±6.68年、および12.33±10.89年であった。3対のグループにおけるすべての比較は、統計的に有意な差を示した(Table 2(表2)、#4、#6、#20)。結果は、CDRレベルが高いほど、PAD値が高いことを示した。
【0185】
ii. 0.5のベースラインCDRを有する参加者内での比較
図11は、MRIスキャン時に0.5のCDRを有し、2~3年以内にCN([D1]-to-CN)に戻るか、比較的安定して([nD1])のままであるか、またはD2([D1]-to-D2)に移行した参加者を示す(
図11)。[D1]-to-CN、[nD1]、および[D1]-to-D2のPAD値の平均および標準偏差は、それぞれ、2.99±7.16、5.48±6.68、9.21±6.14年であった。[D1]-to-D2におけるPAD値は、[D1]-to-CNにおけるPAD値(調整されたp=0.0031)および[nD1]におけるPAD値(調整されたp=0.0406)よりも有意に高かった(Table 2(表2)、#17、#19)。[D1]-to-CNにおけるPAD値は、[nD1]におけるPAD値よりも低かったが、2つのグループ間の比較は、統計的有意に達しなかった(調整されたp=0.2227)(Table 2(表2)、#16)。
【0186】
iii. 0のベースラインCDRを有する参加者内での比較
図12は、MRIスキャン時にCNであったが、1~2年において比較的安定な状態(CN1-to-[CN2])または不安定な状態([CN]-to-D1およびD1-to-[CN])を示した参加者を示す。CN1-to-[CN2]、[CN]-to-D1、およびD1-to-[CN]のPAD値の平均および標準偏差は、それぞれ、-0.75±5.53、3.10±7.72、および2.90±7.19年であった。[CN]-to-D1(調整されたp=0.0213)とD1-to-[CN](調整されたp=0.0318)の両方のグループは、CN1-to-[CN2]グループよりも有意に高いPAD値を有していた(Table 2(表2)、#1、#2)。[CN]-to-D1グループとD1-to-[CN]グループとの間に有意な差はなかった(調整されたp=1.0000)(Table 2(表2)、#7)。
【0187】
iv. PADのスペクトル
図13は、平均PAD値によって分類された7つのグループを示し、以下のように5つのサブグループを観察することができる。第1のサブグループは、比較的安定した正常な認知を有する参加者で構成され(CN1-to-[CN2])、その平均PADは、約0年であった。第2のサブグループは、CNとD1との間の遷移(すなわち、[CN]-to-D1、D1-to-[CN]、および[D1]-to-CN)を示す参加者を含み、平均PADは、約3年であった。第3、第4、および第5のサブグループは、[nD1]、[D1]-to-D2、および[nD2]の参加者であり、それぞれ、5.48、9.21、および12.33年の平均PADであった。
【0188】
結論として、0、0.5、および1のCDRを有する高齢者について、DTI由来のPADは、CDRスコアに対応し、PADは、比較的安定したCDRを有する人と、数年のうちに、より高いスコアに変化したCDRを有する人との間で異なる。本発明によってもたらされた結果は、PADが、認知症重症度を等級付けし、数年における重症度の変化を予測するのに不可欠であることを示唆している。PADの能力は、信頼できない情報提供者から取得される不正確な情報、および数年後のCDRの変化を予測することができないことの影響下にあるCDRの現在の制限を解決することができる。したがって、本発明における解決策は、付随するCDRの代替マーカとなり得、さらに、ベースラインから2~3年のCDR変化の予測マーカとなり得る。
【0189】
PADと、認知症の低~中程度の重症度との関連性
本発明において、DTIのFAおよびMDによって示される白質の微細構造特性に由来するPADは、0、0.5、および1のCDRに関連したことが実証される(
図10)。
【0190】
0.5のベースラインCDRを有する患者におけるPADは、1~2年間におけるCDRの変化に関連する
0.5のCDRを有する患者において、患者は、約1~2年において異なる転帰を示した(
図11)。本発明は、これらの患者間のPADが著しく異なったことを実証した。約2年間にCDRが0.5から1に変化した患者は、9.21年の平均PADを有し、0.5の一定のCDRを有する患者(平均PAD=5.48年、調整されたp=0.0406)、または0.5のベースラインCDRを有しているが、約1.5年間で0になった患者(平均PAD=2.99年、調整されたp=0.0031)よりも有意に高かった。結果は、臨床的な意味を有する。現在、運動および認知のトレーニングが、MCIの患者に対して推奨される介入であり(Petersenら、2018年)であり、その患者のCDRは、ほとんど0.5である。しかしながら、各患者の認知低下を予測するための利用可能な情報はなく、したがって、介入は、認知低下のリスクに従って各患者個人に対してさらに調整することは不可能である。本発明における知見は、PADがMCIの患者を高リスクグループ(CDRが0.5から1に変化した)および低リスクグループ(0.5の一定のCDR、または0.5から0に変化したCDR)に層別化するのに有用であり得ることを示唆している。次いで、異なるリスクグループに対して適切な介入が設計されることが可能である。
【0191】
0のベースラインCDRを有する患者におけるPADは、2~3年間におけるCDRの変化に関連する
本発明は、0の一定のCDRを有する参加者が、0のベースラインCDRを有していたが約2.5年間で0.5に変わった参加者とは有意に異なるPADを有していたことも示した(平均PAD:-0.75年対3.10年、調整されたp=0.0213、
図12)。結果は、認知的に正常な人々においても、PADのばらつきが存在することを示す。認知的に正常な人々に対する複数の脳年齢研究が、PADが身体運動、アルコールおよびタバコの消費、および対人関係などのライフスタイル要因、ならびに血圧、糖尿病、および肥満度指数などの心血管リスクに関連していることを実証している(Cole、2020年、Hattonら、2018年、Kolbeinssonら、2020年、Ningら、2020年、Ronanら、2016年、Steffenerら、2016年)。これらの研究は、PADの変動が各個人の健康関連のリスク因子からある程度生じ、リスク因子が多いほどPAD値が高くなることを示唆している。さらに、多くの疫学的研究が、悪い健康関連リスク因子が、後年に認知症にかかる、より高いリスクを有することを示している(Akbaralyら、2019年、Cationsら、2016年、Fayosseら、2020年、Kivipeltoら、2006年、Mukadamら、2019年、WHO、2019年)。要約すると、過去の研究が、PADとライフスタイルリスク要因との間の関連、およびライフスタイル要因と認知症との間の関係を報告している。本研究は、60歳を超える認知的に健康な人々(Table 1(表1)におけるほぼ平均-SD=69.10-7.86年、CN1-to-[CN2])について、10年を超えるPADを有する人々(Table 2(表2)におけるほぼ平均+SD=3.10+7.72年、[CN]-to-D1)が、-6年未満のPADを有する人々(Table 2(表2)におけるほぼ平均-SD=-0.75-5.53年、CN1-to-[CN2])よりも3年以内に認知障害(CDR=0.5)になる可能性が高い場合があったことをさらに示唆する。
【0192】
PADと安定CDR状態および準安定CDR状態との対応
本発明は、研究対象集団内のグループの一部、すなわちCN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]が、2~3年間において比較的安定したCDRスコアを示したが、一部のグループ、すなわち[CN]-to-D1、D1-to-[CN]、[D1]-to-CN、および[D1]-to-D2が、CDRの比較的急速な遷移を示したことを発見した(Table (表2))。特に、各グループをPADでラベル付けすると、比較的安定したグループと準安定なグループにわたってPADの連続性が明らかになった(
図13)。PADは、認知的に正常なグループ(CN、-0.75年)において最も小さく、次いで3つの準安定なグループ(それぞれ、3.10、2.90、および2.99年を提示する[CN]-to-D1、D1-to-[CN]、および[D1]-to-CN)、CDR=0.5([nD1]、5.48年)の比較的安定したグループ、別の準安定なグループ([D1]-to-D2、9.21年)、およびCDR=1以上の比較的安定したグループ([nD2]、12.33年)で最大であった。CDRの安定状態および準安定状態に対応するPDAのスペクトルは、高齢者におけるCDRに新しい視点を提供する。個人の0、0.5、または1のCDRスコアが与えられると、数年のうちに認知的に正常(CDR=0)に留まるか、または異なるCDR段階(CDR=0.5または1)に遷移する可能性を予測するためにPDAを使用することができる。
【実施例3】
【0193】
本発明の別の例は、提案するデバイスの意図した使用をサポートする概念の証明を提供する。コンピュータベースのプログラムは、個人の指定された脳画像データを入力として読み取り、その人のPADを推定し、PADの事前定義されたカットオフ値に従って、プログラムは、その人がCDRによって評価された場合、その人が認知的に正常である可能性が高いか/または可能性が低いかを判定する。
【0194】
データバンクOASIS-3のコホートに対する遡及研究が本発明を用いて実行され、この研究は、結果を患者のCDRスコアと比較することによって、認知的に正常(CDR=0)である可能性が高い/または可能性が低い患者を識別する際のPADの性能を評価した。
【0195】
PADの様々なカットオフ値において、陽性適中率(PPV)、陰性適中率(NPV)、感度、特異度、オッズ比(OR)、およびCDR>0とCDR=1とを区別する精度を取得する。
【0196】
データ選択
実施例3と同様に、実施例3のOASIS-3における参加者は、2つのスキャナモデル、すなわちBiographおよびTIM Trioを含む3つの3T MRIスキャナ(Siemens、エアランゲン、独国)において、脳MRIスキャンの1回から複数回のセッションを受けた。スキャナごとのばらつきを低減するために、T1強調(T1w)イメージングおよび拡散テンソルイメージング(DTI)について同じ取得方式を使用して同じスキャナモデル(TIM Trio)から取得されたMRIデータが、分析のために選択された。分析は、T1wおよびDTIデータの許容可能な画像品質を必要としたので、画像がT1wにおけるモーションブラーリングまたはDTIにおける失敗したアーティファクト補正などの重度の画像アーティファクトを示した参加者は、除外された。選択基準を満たした575回のMRIスキャンセッションにおける合計529人の参加者がその後の分析のために登録された。
【0197】
CDRによるグループ化
研究において登録された参加者は、参加者のCDR値の実績に従って5つのグループにグループ化された。5つのグループは、以下の、[CN]-Modeling、[CN1]-to-CN2、CN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]のように名付けられた。すべてのグループは、それぞれ、第1および第2のMRIスキャンを受ける同じ参加者を募集した[CN1]-to-CN2およびCN1-to-[CN2]を除いて、相互に排他的であった。5つのグループの特徴について以下に説明した。
【0198】
i) [CN]-Modeling:このグループは、認知的に正常な(CDR=0、略してCN)で安定した258人の参加者で構成された。CDRは、すべての臨床記録において0であり、MRIスキャンの前後1年以内に少なくとも1つのそのような記録を有していた。このグループにおけるデータは、dMRI脳年齢モデルを構築するためのトレーニングデータとして機能した。[CN]は、MRスキャンの前後でのCNの認知状態を示す。
【0199】
ii) [CN1]-to-CN2:このグループは、認知的に正常で安定した46人の参加者で構成された。スクリーニング基準は、[CN]-Modelingグループと同じであった。このグループにおけるデータは、dMRI脳年齢モデル化のテストデータとして機能した。[CN1]は、参加者が第1のMRスキャンの前後でCNであったことを示す。
【0200】
iii) CN1-to-[CN2]:このグループにおける参加者(N=46)は、[CN1]-to-CN2における参加者と同じ参加者であった。上記で説明したように、このグループにおけるMRIスキャン日は、[CN1]-to-CN2におけるスキャン日よりも遅く、スキャン間の間隔は、2.91±0.67年であった。[CN2]は、参加者が第2のMRスキャンの前後でCNであったことを示す。
【0201】
iv) [nD1]:このグループにおける参加者(N=34)は、MRIスキャン日から±180日の間隔内ではD1であった。その間隔後、19人の参加者は、D1段階に留まったことを示す少なくとも1つの臨床記録を有していたが、残りの参加者(N=15)は、利用可能なCDRのいかなる記録も有していなかった。したがって、公称D1(略してnD1)がこのグループに名付けられた。[nD1]は、参加者がMRIスキャン時の前後で公称D1であったことを示す。
【0202】
v) [nD2]:このグループにおける参加者(N=24)は、MRIスキャン日から±180日の間隔内ではD2であった。その間隔後、13人の参加者は、中度の症候性AD(CDR=2、略してD3)に移行し、6人の参加者は、変化しないままであったことを示す少なくとも1つの臨床記録を有し、5人の参加者は、いかなるCDR記録も有していなかった。したがって、公称D2(略してnD2)がこのグループに名付けられた。[nD2]は、参加者がMRIスキャン時の前後において公称D2であったことを示す。
【0203】
分析および統計
脳年齢モデル化:dMRI脳年齢モデルをトレーニングするために、[CN]-Modelingグループにおけるデータが使用された。脳のDTIインデックスに対して参加者の暦年齢を回帰するために、ガウス過程回帰法が使用された。トレーニングプロセスの後、モデルは、dMRI脳年齢を推定するために、他のグループにおける各MRIデータに適用された。予測年齢差(PAD)は、dMRI脳年齢から暦年齢を引くことによって計算された。モデルの性能は、[CN1]-to-CN2グループにおいて検定され、dMRI脳年齢と暦年齢との間の平均絶対誤差(MAE)およびピアソンの相関係数(r)によって定量化された。
【0204】
グループ比較:PAD値は、3つのグループ、すなわちCN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]のうちの任意の2つの間で比較され、3つの対ごとの比較になった。グループの各対について、2標本t検定が行われた。検定が統計的に有意であるとみなされたかどうかを判定するために、偽発見率(FDR)が0.05のBenjamini-Hochberg手順が使用された。
【0205】
意図した使用の性能:認知的に正常な状態を除外する際のPADの性能を評価するために、意図した使用によって除外されるべきCDR>0のグループを表す新しいグループ([nD1]+[nD2]と名付ける)を形成するために、[nD1]グループと[nD2]グループとをプールした。CDR=0とCDR>0とを区別する際のPADの精度を評価するために、受信者動作特性(ROC:receiver operating characteristic)曲線分析が実行された。PADの様々なカットオフ値において、CDR>0とCDR=1とを区別する陽性適中率(PPV)、陰性適中率(NPV)、感度、特異度、およびオッズ比(OR)が評価された。
【0206】
結果
人口統計:Table 3(表3)は、[CN]-Modeling(トレーニングデータ)、[CN1]-to-CN2(テストデータ)、ならびに3つの比較グループ、すなわちCN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]を含む5つのグループの人口統計をまとめている。定性的には、CN1-to-[CN2]、[nD1]から[nD2]に向かって、CDRおよびPADの増加、ならびにMMSEの減少の傾向が見られる場合がある。
【0207】
【0208】
脳年齢予測の性能: [CN1]-to-CN2グループ(テストデータ)において検定されたモデル性能は、MAE=4.35±3.39年およびr=0.77(p値=3.64×10-10)であった。
【0209】
グループ比較:
図21は、異なるCDRレベルを有するグループ、すなわち、CN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]を示す。CN1-to-[CN2]、[nD1]、および[nD2]のPAD値の平均および標準偏差は、それぞれ、-0.75±5.53、5.48±6.68、および12.33±10.89年であった。グループの3つの対におけるすべての比較は、統計的に有意な差を示した。結果は、CDRレベルが高いほど、PAD値が高いことを示した。
【0210】
ROC曲線分析:
図22は、ROC曲線分析の結果を示す。曲線下面積(AUC)は、0.82であった。Table 4(表4)は、PADの異なるカットオフ値におけるCDR=0とCDR>0とを区別する性能をリストしている。PADの最良のカットオフ値は、3年であることがわかった。PAD=3をカットオフ値として使用すると、CDR=0とCDR>0とを区別する性能は、感度=0.79、特異度=0.74、PPV=0.79、NPV=0.74、OR=10.86、および精度=0.77を示した。
【0211】
【0212】
略語:PAD=予測年齢差、TP=真陽性、FP=偽陽性、FN=偽陰性、TN=真陰性、OR=オッズ比、ACC=精度、PPV=陽性適中率、NPV=陰性適中率、Sens.=感度、Spec.=特異度、AUC=曲線下面積。
【0213】
結論
本発明は、CDR=0とCDR>0とを区別するためのPADの最良のカットオフ値が3年であり、結果として、感度=0.79、特異度=0.74、PPV=0.79、NPV=0.74、OR=10.86、および精度=0.77を生じたことを示す。しかしながら、意図した使用は、認知症であることが疑われる患者におけるCDR=0を除外することである。この意図した使用では、感度および精度よりも、PPV、特異度、およびORの性能が主要な関心事の終点になる。この場合、PAD=6年が、最良のカットオフ値であるように見え、PPV=0.89、特異度=0.91、およびOR=13.86となる。
図23は、6のカットオフPADを使用した結果の混同行列と、PADに関する2つの集団(すなわち、CDR=0およびCDR>0)の分布とを示す。結果は、PAD≧6年の人について、その89%が認知的に正常ではなく(すなわち、CDR>0)、認知的に正常(すなわち、CDR=0)な人について、その91%がPAD<6年を有することを意味する。(TP×TN)/(FP×FN)として定義された13.86のORは、偽の転帰(FPおよびFN)に対する真の転帰(TPおよびTN)の比率が10倍を超えることを意味する。一方、PAD=6年をカットオフ値として使用すると、感度=0.57およびNPV=0.63となる。結果は、認知的に正常でない(すなわち、CDR>0)人について、その57%がPAD≧6年を有し、PAD<6年を有する人について、63%が認知的に正常(すなわち、CDR=0)であることを意味する。要約すると、PAD=6年をカットオフ値として使用することは、認知的に正常である可能性が非常に低い患者を識別するために十分な性能を有するが、認知的に正常な患者を識別するためには十分に機能しない。したがって、PPVおよびORの十分な性能は、提案するデバイスの意図した使用をサポートすると結論付ける。
【0214】
重要なことには、本発明は、少なくとも3つの態様に関してCDR推定および予測の分野において先駆的であることが留意されるべきである。第1に、本発明によって構築される脳年齢モデルは、dMRI脳年齢と名付けられた白質微細構造指標と、結果として得られるWM PADとに基づく。第2に、WM PADが行うことは、人のCDRの付随する測定値を予測することである。第3に、加えて、WM PADは、dMRI脳年齢が測定されたときから2~3年の、同じ人のCDR変化も予測する。
【0215】
本発明とは対照的に、CDRを推定するための既存の方法は、T1M MRIから得られた灰白質の形態測定的特徴に基づく脳年齢モデルを構築し、GM脳年齢および結果として生じるGM PADを名付け、GM PADとCDRの付随する測定値との間の関連を見出したか(Beheshtiら、2018年)、または拡散MRIからFW含有量を計算し、FWがCDRの付随する測定値とCDRの将来の状態とに関連することを見出した(Maillardら、2019年)。
【0216】
この分野における他の研究および発明は、MRI指標と、検証されたツールによって測定された認知能力全体との間の関連を精査している。それらの結果において、特定のMRI指標が特定の認知尺度に関連付けられていることが報告されている。しかしながら、本発明は、WM PADと付随するCDRとの間の固有の対応関係を確立し、WM PADとCDRとの間の対応関係は、ベースラインから2~3年後に変化する。dMRI脳年齢とCDRとの間のそのような特定の対応関係は、これまでに報告されていないので、現代の発明者にとって明らかではない。
【0217】
WM PADは、(1)GM脳年齢よりもCDRに対して感度が高く、(2)FW尺度よりも脳脊髄液(CSF)の部分容積効果に対する感受性が低いので、従来の解決策に勝る利点を有する。
【0218】
第1に、WM PADは、CDRスコアを区別することにおいてGM脳年齢よりも感度が高い。Beheshtiらの論文において、彼らは、GM脳年齢と(0、0.5から1までの)CDRスコアとの間の相関関係のみを示している。彼らは、おそらくCDRスコア間の顕著な重複による無効な結果のため(Beheshtiの論文における
図7b)、脳年齢とCDRとの間の比較の結果を示さなかった。
【0219】
一方、dMRI脳年齢は、FW尺度よりも脳萎縮によって引き起こされるCSFの部分体積効果の影響を受けにくい可能性がある。仮説として、FW含有量は、主に、脳室および大脳溝に隣接する白質におけるCSFの部分体積効果に起因する。FW含有量は、脳が年齢と共に委縮するにつれて増加する可能性がある。言い換えれば、FW含有量は、脳萎縮によって混乱される。対照的に、WM PADは、脳全体の白質におけるFAおよびMDから導出される。FA値およびMD値は、脳室および大脳溝に隣接する白質ピクセルにおいて変化する可能性があるが、部分体積効果を有するピクセル数は、脳全体の白質ピクセルと比較して実質的に小さいので、影響は無視できる程度である。
【0220】
本発明の例示的な実施形態の上記の説明は、例示および説明ためにのみ提示されており、網羅的であること、または開示された正確な形態に本発明を限定することを意図していない。上記の教示に照らして、多くの変更および変形が可能である。
【0221】
本発明のいくつかの代替実施形態が示されているが、特許請求の範囲および図面を含めて上記または下記で開示および記載される本発明の基礎となる範囲から逸脱することなく、当業者には知られているように特定の変更がなされ得ることが理解されるべきである。さらに、上記で説明した実施形態および下記の特許請求の範囲は、本発明の原理を例示することのみを意図しており、本発明の範囲を、開示された要素に限定することを意図していない。
【0222】
特許、特許出願、および様々な刊行物を含み得る、本出願において引用する参考文献は、本発明の説明において引用および議論される。そのような参考文献の引用および/または議論は、単に本発明の説明を明確にするために提供され、任意のそのような参考文献が本明細書で説明する本発明の「先行技術」であることの承認ではない。本発明の説明において引用および議論したすべての参考文献は、その全体において、各参考文献が参照により個別に組み込まれた場合と同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0223】
2400 装置、処理システム
2401 画像取得デバイス
2402 受信構成要素
2403 画像処理構成要素
2405 アーティファクト補正構成要素
2406 位置合わせ構成要素
2407 予測構成要素
2500 図、処理システム
2501 プロセッサ
2502 コンピュータ可読媒体/メモリ
2503 バス
【国際調査報告】