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特表2024-524500NMMOの精製方法、システムおよび得られたNMMO水和物結晶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】NMMOの精製方法、システムおよび得られたNMMO水和物結晶
(51)【国際特許分類】
   C07D 295/24 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
C07D295/24
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023581069
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2022100871
(87)【国際公開番号】W WO2023274037
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】202110748233.X
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202210034607.6
(32)【優先日】2022-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524004652
【氏名又は名称】ビー-エフシーティーエル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】ル, ワンリ
(72)【発明者】
【氏名】マ, ジエ
(57)【要約】
本発明は、NMMOの精製方法、精製システム、および得られたNMMO水和物結晶を開示し、精製方法は、セルロース製品の凝固浴中のNMMOの精製に適用され、セルロース製品の凝固浴のNMMO溶液から、糖類不純物を含むほぼすべての不純物を除去し、高純度のNMMO水和物結晶を得ることができる。精製方法は、セルロース製品の凝固浴を-20℃~78℃の間で冷却晶析させ、NMMO水和物結晶を得るステップを含む。本発明のセルロース製品の凝固浴NMMOの精製回収方法によれば、イオン交換樹脂を使用することなく、樹脂再生のための酸とアルカリも必要とせず、高塩分廃水を生成せず、「3つの廃棄物」の排出がほとんどなく、イオン交換樹脂の再生で発生する高塩分・高COD廃水および廃棄イオン交換樹脂に起因する環境保護の問題を解決し、セルロース製品の製造工程を低コストのグリーン製造工程に変え、より広い範囲のセルロース製品の製造分野に適用することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース製品の凝固浴中のNMMOの精製に用いられるNMMOの精製方法であって、
前記NMMOを含む前記セルロース製品の凝固浴を、前記NMMOの質量濃度が56.5~84.5%になるように濃縮し、次いで-20℃~78℃の間で冷却晶析を行うことにより、NMMO水和物結晶を得るステップを含み、
そのうち、前記セルロース製品の凝固浴中の前記NMMOの質量濃度は、1~50%の範囲であることを特徴とする、NMMOの精製方法。
【請求項2】
前記セルロース製品の凝固浴は、セルロースがNMMO溶液で前記セルロース製品を形成した後に残る混合物であり、
前記セルロース製品は、リヨセル短繊維、リヨセルフィラメント、セルロース膜、セルロース不織布、セルロースフィルム、セルロースたばこフィルタ材およびセルローススポンジのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項3】
前記セルロース製品の凝固浴を濃縮する前に、前記セルロース製品の凝固浴を膜処理によって精製することを更に含み、
前記膜処理は、精密ろ過処理、限外ろ過処理、ナノろ過処理および逆浸透処理のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項4】
前記濃縮により、前記セルロース製品の凝固浴中の前記NMMOの質量濃度を56.5~72%にし、冷却晶析の温度が-20~39℃であり、
前記冷却晶析を行う際に、冷却速度が1~4℃/時間であり、
および/または、得られた結晶の純度を向上させるために、前記冷却晶析時に、前記セルロース製品の凝固浴中のNMMO重量の0.1%以上となるように、NMMO水和物結晶種を添加する、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項5】
前記冷却晶析は、少なくとも第1段階の冷却晶析を含み、
該第1段階の冷却晶析により、NMMO水和物結晶および結晶母液が得られ、該結晶母液は、引き続き前記冷却晶析が行われる、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項6】
前記セルロース製品の凝固浴は、凝集沈降を経てまたは経ずに精密ろ過処理および限外ろ過処理に供され、前記精密ろ過処理のろ過孔径が0.1~100μmであり、
前記精密ろ過処理によって得られた精密ろ過濾液は、前記限外ろ過処理に供され、前記限外ろ過処理の分子量カットオフが1100~100000ダルトンの範囲であり、限外ろ過清澄液を得る、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項7】
前記限外ろ過清澄液をナノろ過処理に供してナノろ過濾液を取得し、
前記ナノろ過処理の分画分子量が150~1000ダルトンの範囲であり、前記ナノろ過濾液に前記NMMOが存在する、請求項6に記載のNMMOの精製方法。
【請求項8】
前記ナノろ過清澄液を高圧逆浸透処理に供して予め濃縮を行い、前記高圧逆浸透処理の作業圧力は、50~83barの範囲である、請求項7に記載のNMMOの精製方法。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の精製方法により得られたNMMO水和物結晶。
【請求項10】
セルロース製品の凝固浴からNMMOを精製するために用いられるNMMOの精製システムであって、
精密ろ過装置、限外ろ過処理装置およびナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つと、
前記精密ろ過装置、前記限外ろ過処理装置および前記ナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つに連通される晶析装置と、
該晶析装置に接続され、該晶析装置における晶析条件を制御する制御装置とを備え、
前記セルロース製品の凝固浴を、前記精密ろ過装置、前記限外ろ過処理装置および前記ナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つに供することによりNMMOろ液を取得し、
該NMMOろ液を、前記晶析装置に供して晶析処理を行うことを特徴とする、NMMOの精製システム。
【請求項11】
前記精密ろ過装置、前記限外ろ過処理装置および前記ナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つおよび前記晶析装置に連通される高圧逆浸透装置を更に備え、
前記NMMOろ液を、前記高圧逆浸透装置に供して濃縮した後、前記晶析装置に供して晶析させる、請求項10に記載のNMMOの精製システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)の精製方法、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)の精製システム、および上記方法およびシステムを用いて得られたN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは自然界に広く存在する再生可能な資源であり、セルロースパルプを85%以上のNMMO水溶液に直接溶解し、化学反応させることなくそのまま紡糸することで、いわゆるリヨセル(lyocell)と呼ばれる再生セルロース繊維を得ることができる。リヨセル繊維は性能に優れ、製造プロセスが簡便であり、並びに使用するNMMO溶剤が無毒で、製造がクローズドサイクルになっており、NMMO溶剤を回収して再利用することができ、かつ製品の廃棄物が生体分解性を持ち、環境を汚染する恐れがないため、「21世紀に良好な発展の将来性を持つグリーン繊維」と呼ばれている。リヨセル繊維はまた、セルロースを原料としてセルロース製品を製造する最も成功した応用例の1つでもある。
【0003】
リヨセル繊維の製造工程は、主に2つの部分に分けられ、第1部分はセルロースをNMMOに溶解して紡糸を行う工程であり、第2部分はリヨセル紡糸後の凝固浴溶液でNMMOを精製して回収する工程である。まず、90~110℃の条件下でセルロースパルプと没食子酸プロピル(PG)などの他の添加剤を13.3%の水を含むNMMOに溶解し、均一なセルロース繊維のNMMO溶液(リヨセル繊維の製造では「紡糸溶剤」と呼ばれる)を形成し、その後、湿式法および乾式法により紡糸が行われる。紡糸に際しては、紡糸ノズルから吐出されたフィラメントを、まずエアギャップ(乾式吐出)を通過させてから低濃度のNNMO水溶液である凝固浴溶液に搬送し、このときのNMMO濃度が一般に5~25%の範囲にあり、凝固浴溶液を希釈することでリヨセルセルロース繊維が凝固成形される。低濃度のNMMOを含むリヨセル凝固浴溶液は、精製工程(現在、一般にイオン交換樹脂法で精製が行われる)を経て精製され、通常の減圧下で加熱蒸発させることにより所望の濃度まで濃縮され、再利用される。
【0004】
リヨセル繊維に加えて、先行技術としては他のNMMO法セルロース製品の製造にも関わり、例えば、押出し二軸延伸(ブローフィルム)法によるチューブ状セルロースフィルムの製造(▼ハク▲艶萍,NMMO法による二軸延伸セルロースフィルムの製造工程およびその構造研究,修士学位論文(2007)、US2003/0183976A1、US2002/0022100A1、US2004/0146668A1、US5597587)、押出し延伸法によるロール状のセルロースフラットフィルムの製造(CN1224435A、US6833187B2)、流延ドクターブレード法によるセルロースフラットフィルムの製造、包装材料や分離膜への応用(張耀輝,NMMO法によるセルロースフィルムとその成形メカニズムの研究,博士学位論文(2002))、セルロースNMMO溶液(膜の製造工程では「キャスティング溶液」と呼ばれる)にキトサン、チモール、グルコン酸などの静菌剤を添加することで滅菌機能を有するセルロースフィルムを製造することができ(楊玲玲,天然セルロース系滅菌フィルムの調製とその放出制御性能の研究,修士学位論文(2013)、袁衡森,食品包装用セルロースフィルムの調製と性能研究,修士学位論文(2012))、セルローススポンジの調製(賈向娟, NMMO/H2O溶液法による高吸着性再生セルロース材料の調製,修士学位論文(2016)、劉暁輝,NMMO溶媒法によるセルローススポンジの調製,修士学位論文(2013))、セルロース不織布(US20170107644、US8420004)、セルロースフィルム(US7938993)、セルロースたばこフィルタ材(US10306919)などのセルロース製品の製造が挙げられる。これらのセルロース製品は、NMMO溶媒法を利用して製造することができるが、凝固浴からNMMO溶媒を精製および回収することについては、上記いずれの先行技術にも記載がない。
【0005】
リヨセル繊維の製造と同様に、上記で報告された他のセルロース製品もセルロースをNMMOに溶解する方法によって製造される。セルロース膜の製造を例にとると、第1部分では、まず、セルロースパルプおよびその他の必要な添加剤(PGなど)を90~110℃のNMMO溶液に溶解し、褐色で均一且つ透明なセルロース溶液(セルロース膜の製造では「キャスティング溶液」と呼ばれる)を形成し、次に、様々な製造需要に応じて異なる成膜法を利用してセルロース溶液を成膜させ、例えば、流延ドクターブレード法、押出し延伸法、押出し二軸延伸法(ブローフィルム)などにより成膜させる。第2部分では、成膜したセルロース溶液がエアギャップを経由して凝固浴に搬送され、凝固浴でセルロースを凝固析出させてセルロース膜を形成した後、水洗、後処理(グリセリン可塑剤処理)、乾燥などの工程を経て最終的なセルロースフィルム製品となる。凝固浴中のNMMO溶媒は、その中に含まれるあらゆる種類の不純物を除去するための精製および回収が行われ、後に濃縮されて再利用される。成膜プロセスの需要により、凝固浴中のNMMO濃度は大きく異なり、その中に含まれる不純物の種類および含有量も大きく異なる。例えば、透明性および機械的特性が良好な包装用フィルムの製造において、凝固浴中のNMMO濃度は低いほど好ましく、時にはNMMO濃度が5%未満よりも更に低いことが求められ、経済性および環境保護への配慮の観点から、凝固浴中のNMMOは、精製してから所望の濃度まで濃縮(例えば、減圧下で加熱して濃縮)されて再利用される。
【0006】
セルローススポンジ、セルロース不織布、セルロースたばこフィルタ、セルロースフィルム、セルロース容器などの他のセルロース製品は、リヨセル繊維やセルロース膜のように、まずセルロースパルプと他の添加剤(PGなど)を90~110℃の条件下で濃度85~88%のNMMO水溶液に溶解してセルロース溶液を形成する必要があり、その後、製品が成形されて低濃度のNMMOを含む凝固浴水溶液に投入され、セルロースを凝固させて溶液から析出させ、対応するセルロース製品を形成するが、このとき、凝固浴中のNMMOも上記の場合と同様に精製、回収して再利用する必要がある。
【0007】
NMMO法によるセルロース製品の製造は、凝固浴中のNMMOを精製、回収する面で技術的に困難であるため、産業化に成功したリヨセル繊維を除き、他のセルロース製品の産業製造にNMMOを溶媒として使用することはほとんど見られない。現在市販されているセルロース製品は、基本的にビスコース法と銅アンモニア法で製造され、例えばガラスペーパー(商品名:セロハン)は主にビスコース法で製造され、透析膜および分離膜は銅アンモニア法で製造される。これらの製造プロセスはいずれも技術が複雑であり、製造ステップが多く、製造サイクルが長く、製造コストが高く、「3つの廃棄物」による汚染が深刻であり、得られたセルロース膜が有毒・有害物質を含むなどといった多くの問題を抱えている。
【0008】
リヨセル繊維の製造については、全世界に亘って学界や産業で既に多くの研究を行われ、90~110℃の比較的高い温度でセルロースパルプがNMMOに溶解する際に、加熱状態のNMMO分子とセルロース分子との間で複雑な化学分解反応(例えば、フリーラジカル反応)が起こることにより様々な不純物が生成し、NMMOを再利用するために凝固浴のNMMO溶液に含まれるあらゆる種類の不純物を除去する必要があることが示されている。研究報告によれば、NMMOは、90~110℃でN-メチルモルホリン、モルホリン、ホルムアルデヒド、およびフェノール類、キノリン類などの大きなπ結合共役構造を有する化合物などの不純物に分解される恐れがあり、かつその分解過程で反応性の高いラジカルが発生する可能性があり、その結果、セルロースの酸化やセルロース鎖の切断分解を引き起こし、セルロース溶液中の銅イオンや鉄イオンなどの金属イオンが触媒となってNMMOの分解とセルロースの切断を促進させ、セルロース溶液の色を濃くする。セルロースの分解生成物には二糖以上のオリゴ糖や単糖が含まれており、同時に糖類物質が分解して糖ケトン、糖酸、フラン類、フルフラール類、フェノール類などの十数種類の不純物を生成する。また、これらの分解生成物が更に互いに反応し、20種類以上の発色団を含む有機不純物を生成することのできることが報告されている(RosenuaT.,PotthastA.,MilacherW.,AdorjanI.,HofingerA.and KosmaP.,Discoloration of cellulose solutions in N-methylmorpholine-N-oxide(Lyocell).Part 2: Isolation and identification of chromophores.Celulose,12:197-208(2005)、鄭玉成,リヨセル繊維製造における色変化の原因分析〔J〕,合成繊維,2018,47(8):17-23)。凝固浴中のNMMOがこれらの不純物を効果的に除去できずに再利用された場合、時間の経過とともに不純物が蓄積し続け、リヨセル繊維に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、NMMOの分解およびセルロースの切断を防止するために、NMMOにセルロースを溶解する際に酸化防止剤として没食子酸プロピル(PG)およびヒドロキシルアミンなどを含む多種の複合化安定剤を添加する必要があり、これらの安定剤および没食子酸プロピル(PG)がラジカルを中和して酸化された生成物、およびPGとホルムアルデヒドとが反応して生成された縮合生成物などはいずれも濃い色をしており、溶液中にこれらの発色団が過剰に残されると、セルロース最終製品の色が濃くなる結果につながる。なお、凝固浴のNMMO中に残留する懸濁物質を除去して溶液の濁度を低減するために、リヨセル繊維の製造において凝集剤としてポリアクリルアミド(PAM)を一定量で添加することにより凝集、沈降を促し、そして精密ろ過により除去することも行われている。しかしながら、ヘミセルロース、オリゴ糖などを全部除去することは困難であり、同時に少量のPAMが凝固浴のNMMO溶液に残るため、凝固浴中の不純物成分が複雑になってしまい、そのNMMO溶媒を回収して再利用した場合、凝固浴のNMMO溶媒中に溶解する上記の不純物を精製により除去する必要がある。
【0009】
リヨセル繊維の製造と同様に、セルロースフィルムのような他のセルロース製品の製造において、最初の段階はセルロースパルプを濃度85~87%のNMMO水溶液に約100℃の温度で溶解し、均質なセルロース溶液を形成する工程であるが、このような高温溶解工程においても様々な不純物が生成し、これらの不純物も凝固浴のNMMO水溶液に溶解してしまう。そして、キャスティング溶液のレオロジー特性や成膜後の膜の気孔率などを調整するために、静菌剤や細孔形成剤などの添加剤を別途で添加する必要があり、これらの添加剤を凝固浴の精製過程で適時に除去しないと、その後のキャスティング溶液に蓄積され、高濃度のこれらの添加剤が製造されたセルロース膜の表面に欠陥を残す可能性があり、膜の機械的特性に影響を与えるだけでなく、膜の選択性や分離特性にも大きな影響を与える。したがって、セルロース膜の製造工程に用いられる凝固浴のNMMOは、必要な精製方法を用いてその中に含まれる様々な不純物を完全に除去してから再利用する必要がある。
【0010】
他のセルロース製品の製造工程は、リヨセル繊維の製造やセルロース膜の場合と同様であり、第1部分でセルロースのNMMO溶液を調製し、第2部分でセルロース溶液を成形してから低濃度のNMMO水溶液の凝固浴に搬送し、凝固浴においてセルロースを析出させて成形することが行われる。異なるセルロース製品を製造する際、対応する添加剤を欠かさずに添加する場合があり、例えば、セルロース系のスポンジ製品に細孔形成剤として大量の無水硫酸ナトリウム固形物を添加する必要があり、入浴用のセルロースシャワー(loofah)にも細孔形成剤として大量の塩化カルシウムを添加する必要があるため、その凝固浴のNMMO溶液にリヨセル繊維の凝固浴よりも種類が多く且つ濃度の高い不純物が含まれ、NMMO溶媒の再利用を実現するためには、必要な精製方法を利用してこれらの不純物を除去する必要がある。
【0011】
現在、リヨセル繊維の製造工程に用いられる凝固浴のNMMOを精製して回収する工程では、主に陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂との組み合わせで精製が行われるが(韓増強ら,リヨセル繊維の紡糸溶剤NMMOおよび回収プロセスの研究〔J〕,山東紡織科学技術,(3):7-9(2007)、岳文涛ら,イオン交換樹脂法によるリヨセル繊維の紡糸溶剤NMMOの精製および回収〔J〕,合成繊維,31(2):28-30(2002))、イオン交換樹脂を用いる精製回収工程は、以下で述べたようにかなり多くの問題が存在する。つまり、1)回収精製されたNMMOは依然として不純物を多く含み、純度が低い。凝固浴のNMMOに含まれる多くの不純物として、例えば、没食子酸プロピル(PG)とその反応生成物、糖類および分解生成物とNMMOの熱分解生成物などの不純物は、酸およびアルカリの存在下でイオンを形成することができず、イオン交換樹脂で完全に除去することができない。本出願人は、既知の中国リヨセル製造業者のイオン交換樹脂法による精製前後のリヨセル凝固浴溶液について、液体クロマトグラフィーを用いて検出(図1図2参照)および総糖量の解析を行ったところ、凝固浴のNMMO中に含まれる糖類不純物などの十数種類の不純物がイオン交換樹脂処理では精製除去できず、単にイオン交換樹脂で精製処理を実行した場合、凝固浴のNMMO純度が高くないことを見出した。なお、イオン交換樹脂では凝固浴から糖類を除去できないため、リヨセル製造業者からすれば、リヨセル繊維の原料として、ヘミセルロースを多く含む安価で入手しやすい広葉樹パルプではなく、ヘミセルロース(β-セルロース)の含有量が極めて少ない針葉樹パルプを使用せざるを得ない。ヘミセルロースは、リヨセル製造時においてα-セルロースよりも切断・分解しやすく、多くの糖類不純物を生成し、これらの糖類不純物を適時に除去しないと、精製回収されたNMMOに持続的に蓄積し、最終的にリヨセル繊維の安定化製造に影響を及ぼす。2)高塩分・高COD廃水の発生量が多く、「3つの廃棄物」による汚染問題がある。活性を失ったイオン交換樹脂を再生化する必要があり、陽イオン交換樹脂は樹脂体積4~6倍の4~6%濃度の塩酸水溶液で再生化する必要があり、陰イオン交換樹脂は樹脂体積4~6倍の4~6%濃度のNaOH水溶液で再生化する必要があり、樹脂再生でできた廃液には塩分を多く含むだけでなく、有機不純物も多く含むため、処理コストが高く、通常、1トンのリヨセル繊維を製造するのに約10~15トンの樹脂再生廃液が発生する。3)製造コストが高い。リヨセル繊維の凝固浴NMMOの精製処理に適したイオン交換樹脂は、高価に加えて寿命がわずか1~2年しかなく、リヨセル繊維1トン当たりのコストが約500元に達し、失効して廃棄されたイオン交換樹脂は国家危険廃棄物分類リストに基づき危険廃棄物に分類され、資質のある環境保護企業に引き渡して処分しなければならず、処分に莫大な費用がかかる。
【0012】
セルロース製品、特にセルロース膜の製造において、NMMO純度に対する要求はリヨセル繊維よりも高く、しかもセルロース製品の凝固浴のNMMOに含まれる不純物の種類がより多く、不純物濃度もより高くなる場合がある。例えば、セルロース膜には、多くの場合、幾つかの静菌剤(例えば、グルコン酸、チモール、キトサンなど)が添加され、その精製方法として凝固浴のNMMOに含まれる糖類物質や、水に溶けやすい他の不純物を完全に除去できることが求められ、除去できなかった場合、キャスティング溶液が成膜して凝固浴に搬送されると、膜表面が稀NMMO水溶液に含まれるオリゴ糖分子を含む不純物に溶けやすくなり、その結果、凝固浴のNMMO水溶液に再び溶解し、凝固析出したセルロースフィルムの表面に欠陥が生じ、深刻な場合には膜の破損につながる。現在、イオン交換樹脂に基づく精製法がリヨセル繊維の製造に用いられるが、かかる精製法では凝固浴中の糖類不純物を含む多くの種類の不純物を効果的に除去することができず、凝固浴中のNMMOの高純度精製および回収を必要とするセルロース製品の製造に適用しない問題が存在する。さらに、セルロース製品によっては凝固浴溶液中の無機塩類不純物の含有量が非常に高い場合があり、例えば、セルローススポンジ製品の凝固浴溶液や入浴用セルロースバスフラワーの凝固浴溶液では、細孔形成剤として硫酸ナトリウムや塩化カルシウムの無機塩の含有量が非常に高く、NMMOの濃度に比べて4~5倍上回り、このような高濃度の無機塩分はイオン交換樹脂法によって完全に除去することができない。
【0013】
したがって、産業上でセルロース製品を経済的かつ安定的に製造するためには、凝固浴のNMMO溶液に含まれる不純物を除去できる適切な精製・回収方法を見つける必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来において各種のセルロース製品を製造する際に凝固浴中のNMMOの精製および回収コストが高く、精製および回収方法が環境保護への配慮が少なく、並びに精製および回収さられたNMMOの純度が低く再利用が困難であるという欠点を克服するために、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)の精製方法、システムおよび得られたN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、セルロース製品の凝固浴からNMMOを精製するためのNMMOの精製方法を提供し、該精製方法は、前記NMMOを含む前記セルロース製品の凝固浴を、前記NMMOの質量濃度が56.5%~84.5%となるように濃縮する工程と、次いで、-20℃~78℃の間で冷却晶析を行うことによりNMMO水和物結晶を得る工程と、を含む。
【0016】
そのうち、前記セルロース製品の凝固浴における前記NMMOの質量濃度は、1~50%の範囲である。
【0017】
本発明に係るNMMOの精製方法において、前記セルロース製品の凝固浴は、セルロースがNMMO溶液中で前記セルロース製品を形成した後に残る混合物であり、前記セルロース製品は、リヨセル短繊維、リヨセルフィラメント、セルロース膜、セルロース不織布、セルロースフィルム、セルロースたばこフィルタ材およびセルローススポンジのうちの少なくとも1つを含む。
【0018】
本発明に係るNMMOの精製方法において、前記セルロース製品の凝固浴を濃縮する前に、前記セルロース製品の凝固浴を膜処理によって精製することを更に含み、前記膜処理は、精密ろ過処理、限外ろ過処理、ナノろ過処理および逆浸透処理のうちの少なくとも1つを含む。
【0019】
本発明に係るNMMOの精製方法において、前記濃縮処理により前記セルロース製品の凝固浴中の前記NMMOの質量濃度を56.5~72%にし、冷却晶析の温度が-20~39℃であり、前記冷却晶析の過程において、冷却速度が1~4℃/時間であり、および/または、得られた結晶の純度を向上させるために、前記冷却晶析の過程において、前記セルロース製品の凝固浴中のNMMO重量の0.1%以上となるようにNMMO水和物の種結晶を添加する。
【0020】
本発明に係るNMMOの精製方法において、前記冷却晶析は、少なくとも第1段階の冷却晶析を含み、該第1段階の冷却晶析によりNMMO水和物結晶および結晶母液が得られ、該結晶母液は、前記冷却晶析を引き続き受けることができる。
【0021】
本発明に係るNMMOの精製方法において、前記セルロース製品の凝固浴を、凝集沈降を経てまたは経ずに精密ろ過処理および限外ろ過処理に付し、前記精密ろ過処理でのろ過孔径が0.1~100μmであり、前記精密ろ過処理によって得られた精密ろ過清澄液は、前記限外ろ過処理に供sれ、前記限外ろ過処理の分子量カットオフが1100~100000ダルトンの範囲であり、限外ろ過清澄液を得る。
【0022】
本発明に係るNMMOの精製方法において、前記限外ろ過清澄液をナノろ過処理に供してナノろ過清澄液を取得し、前記ナノろ過処理の分子量カットオフが150~1000ダルトンの範囲であり、前記ナノろ過清澄液中に前記NMMOが存在する。
【0023】
本発明に係るNMMOの精製方法において、前記ナノろ過清澄液を高圧逆浸透処理に供して予め濃縮を行い、前記高圧逆浸透処理の操作圧力は、50~83barの範囲である。
【0024】
上記目的を達成するために、本発明は、さらに、上記の精製方法によって得られたNMMO水和物結晶を提供する。
【0025】
上記目的を達成するために、本発明は、さらに、セルロース製品の凝固浴からNMMOを精製するためのNMMOの精製システムを提供し、該精製システムは、精密ろ過装置、限外ろ過処理装置およびナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つ、並びに晶析装置および制御装置を備え、前記セルロース製品の凝固浴を、前記精密ろ過装置、前記限外ろ過処理装置および前記ナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つに通して処理することによりNMMOろ液を取得し、前記晶析装置は、前記精密ろ過装置、前記限外ろ過処理装置および前記ナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つに連通され、前記NMMOろ液を前記晶析装置に通して晶析処理を行い、
前記制御装置は、前記晶析装置に接続され、前記晶析装置における晶析条件を制御する。
【0026】
本発明に係るNMMOの精製システムにおいて、前記精密ろ過装置、前記限外ろ過処理装置およびナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つおよび前記晶析装置に連通される高圧逆浸透装置を更に備え、前記NMMOろ液を、前記高圧逆浸透装置に通して濃縮した後、前記晶析装置に通して晶析させる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、あらゆるセルロース製品の凝固浴に適用されうるNMMOの精製・回収方法を提案し、晶析プロセス、または膜処理と晶析の複合プロセスを採用することで、回収されたNMMOの純度が高く、あらゆる種類のセルロース製品の製造におけるNMMO純度の要求を満たし、かつNMMOの回収率が高く、ロスもほとんどないため、産業化製造に適している。
【0028】
なお、本発明によれば、精製プロセスが簡便であり、回収・精製プロセスにおいて「3つの廃棄物」がほとんど発生せず、精製および回収コストが低く、グリーンNMMO精製および回収のための効率的で簡便な低コスト方法である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】リヨセル製造業者が実施したイオン交換樹脂法による精製前後のリヨセル凝固浴溶液のHPLCスペクトルの比較結果を示し、そのうち、1はイオン交換樹脂法で精製した後のリヨセル凝固浴溶液のスペクトルを示し、2はイオン交換樹脂法で精製する前のリヨセル凝固浴溶液のスペクトルを示す。
図2図1の局部拡大図である。
図3】本発明の実施例1の連続製造7日目の、イオン交換樹脂による精製前後の混合凝固浴溶液のHPLC分析スペクトルの比較結果を示し、そのうち、1はイオン交換樹脂で精製した後の混合凝固浴溶液のスペクトルを示し、2は未精製の混合凝固浴溶液のスペクトルを示す。
図4図3の局部拡大図である。
図5】本発明の実施例2の連続製造7日目の、未精製の混合凝固浴溶液と晶析精製後のNMMOのHPLC分析スペクトルの比較結果を示し、そのうち、1は晶析精製後のNMMOスペクトルを示し、2は未精製の混合凝固浴溶液のスペクトルを示す。
図6図5の局部拡大図である。
図7】本発明の実施例4の連続製造7日目の膜処理・晶析精製後のNMMOと、実施例1の連続製造7日目のイオン交換樹脂による精製後の混合凝固浴のHPLC分析スペクトルの比較結果を示し、そのうち、1は実施例4の膜処理および晶析精製により得られたNMMOのHPLC分析スペクトルを示し、2は実施例1のイオン交換樹脂による精製後の混合凝固浴溶液のHPLC分析スペクトルを示す。
図8図7の局部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態は、本発明の技術案を前提として実施され、以下において詳細な実施態様および工程が示される。ただし、本発明の保護範囲は下記の実施形態に限定されず、以下の実施形態において、具体的な条件について明示がない試験方法は、通常、汎用の条件に従って実行される。以下で言う百分率「%」は、特に説明がない限り何れも質量%である。
【0031】
本発明は、セルロース製品の凝固浴からNMMOを精製するためのNMMOの精製方法を提供し、該精製方法は、セルロース製品の凝固浴を濃縮するステップと、次いで、-20℃~78℃の間で冷却晶析を実施することによりNMMOの水和物結晶を得るステップとを含む。
【0032】
そのうち、セルロース製品の凝固浴中のNMMOの質量濃度は、1~80%の範囲であり、1~50%の範囲であることが好ましく、1~40%の範囲であることがより好ましく、1~25%の範囲であることが更に好ましい。
【0033】
NMMO法によって製造される様々なセルロース製品は、何れもNMMO溶液へのセルロースの溶解、および成形されたセルロース製品の凝固浴におけるNMMO溶媒の精製という2つの部分を含む。セルロース製品の凝固浴としては、セルロース製品の製造時に、セルロースをまず高濃度のNMMO(85重量%以上)水溶液に溶解し、形成されたセルロースのNMMO溶液を成形した後、低濃度のNMMO水溶液に搬送することにより、セルロースが低濃度のNMMO水溶液中で凝固沈降して成形され、対応するセルロース製品を形成し、このとき、残りの低濃度のNMMO水溶液がいわゆる前記セルロース製品の凝固浴である。つまり、セルロース製品の凝固浴は、セルロースが低濃度のNMMO溶液中でセルロース製品を形成した後に残る混合物である。セルロースがNMMOに溶解し、セルロースのNMMO溶液が成形される際に酸化分解反応が起こるため、セルロース製品の凝固浴には、ある程度の不純物が含まれる。そこで、本発明は、あらゆるセルロース製品の凝固浴に適用されるNMMOの精製回収方法を提案し、すなわち冷却晶析法を採用することによりNMMOおよび水の特定の水和物結晶に形成させ、よって、他の不純物と分離する目的を達成するものである。
【0034】
本発明において、セルロース製品としては、リヨセル短繊維、リヨセルフィラメント、セルロース膜、セルロース不織布、セルロースフィルム、セルロースたばこフィルタ材、セルローススポンジなどに限らず、そのうちセルロース膜としては、セロハン、セルロース系自己粘着テープ、セルロース系ラップフィルム、セルロース系包装フィルム、セルロースフィルム、セルロース系ビニール袋、セルロース系ロープおよび編み袋、セルロース分離膜などの各種のセルロース被膜材料が挙げられる。また、本発明のセルロース製品は、NMMO法により製造されるものであれば、成形法に制限されるものではなく、例えば、セルロースフィルムは、流延ドクターブレード法、押出し延伸成膜法、押出し二軸延伸(ブローフィルム)成膜法などにより成膜して製造することができる。
【0035】
本発明によれば、晶析精製によって回収されたセルロース製品の凝固浴中のNMMO水和物の固形物は、純度が高く、NMMOの回収率が高く、セルロース製品の製造に必要な要求を完全に満たし、NMMOを精製回収する目的を達成することができ、精製回収されたNMMO水和物の固形物は、必要な濃度の水溶液に調製してセルロース製品の製造に再利用することができる。
【0036】
セルロース製品の凝固浴は、晶析方法によってNMMOを直接精製回収することができるが、セルロース製品の種類によって凝固浴中の不純物の種類が異なり、かつ一般的に糖類物質が存在するため、晶析液の粘度が上昇し、NMMO水和物の晶析およびNMMO水和物結晶の分離に影響を及ぼす可能性があり、高純度、高収率でNMMO水和物結晶を得ることが困難である。さらに、これらの不純物、特に糖類化合物は、結晶母液にほぼ全部残留し、結晶母液の粘度を増加させ、母液の流動を困難にし、結晶母液の再結晶化に影響を及ぼす可能性があり、結晶母液の再結晶化は、その中のNMMOを更に回収することができる。そのため、本発明の一好適な実施形態として、凝固浴中のオリゴ糖などの糖類不純物の含有量が高すぎると、凝固浴中のNMMOを晶析させて精製する前に、膜技術を用いて糖類不純物などの高分子不純物の大部分を予め除去することができる。
【0037】
本発明の1つの実施形態では、まずセルロース製品の凝固浴から糖類物質を除去すると同時に、セルロース凝固浴から分子量の大きい不純物分子などを全部または一部除去し、その後に冷却・晶析処理を行う。本発明の別の実施形態では、膜処理(精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過および逆浸透のうちの少なくとも1つ)を用いてセルロース凝固浴からセルロース、ヘミセルロース、オリゴ糖、二糖および二糖以上の多糖、並びに一部の単糖などの不純物を除去する。同時に、この膜処理方法は、セルロース製品の凝固浴に含まれる可能性のある凝集剤PAMや、PGとホルムアルデヒドの縮合物のような分子量の大きい低分子、2価および2価以上の無機塩などの不純物を除去することもできる。膜処理済みのセルロース製品の凝固浴は、加熱蒸発により56.5%~84.5%まで濃縮した後、-20℃~78℃の間で冷却結晶を行うことにより、セルロース凝固浴中の糖類物質と他の不純物が結晶化に与える影響を回避し、NMMO水和物結晶の純度および収率を更に向上させることができる。
【0038】
本発明の1つの実施形態では、セルロース製品の凝固浴は、まず精密ろ過処理に供され、固形物をろ過して精密ろ過清澄液を得る。精密ろ過清澄液は、次に限外ろ過処理に供され、限外ろ過濁液および限外ろ過清澄液を得る。本発明の別の実施形態では、精密ろ過処理は0.1~100μmのろ過精度を有し、限外ろ過処理の分子量カットオフは、1100~100000ダルトンの範囲である。このように、精密ろ過処理で混合液中の固形物を除去し、限外ろ過処理で混合液中の高分子可溶性物質を除去することができ、段階的に処理を行うことで不純物の除去効率を向上させ、限外ろ過処理の負荷を低減することができる。
【0039】
本発明の限外ろ過濁液および限外ろ過清澄液中のNMMOの含有量は、ほぼ同じであり、例えば150~250g/Lである。NMMOの回収効率を向上させるため、本発明の1つの実施形態において、限外ろ過濁液はセルロース製品の凝固浴に戻され、再び精密ろ過などの処理に供される。
【0040】
本発明の1つの実施形態では、限外ろ過清澄液をナノろ過処理に供してナノろ過濁液およびナノろ過清澄液が得られ、ナノろ過清澄液中にNMMOが存在する。
【0041】
そのうち、ナノろ過濁液およびナノろ過清澄液中のNMMOの含有量がほぼ同じであり、例えば150~250g/Lである。
【0042】
NMMOの回収効率を向上させ、処理時のNMMOの無駄を無くすために、ナノろ過処理は、水を用いてナノろ過濁液を透析してナノろ過透析液を得ることを更に含み、このとき、透析処理の回数は、少なくとも1回であり、例えば2回、4回、6回、8回などであってもよい。透析処理の回数は、主に透析後のナノろ過濁液中のNMMOの含有量に基づいて決められ、透析後のナノろ過濁液中のNMMOの含有量が許容範囲まで減少した場合、例えば、ナノろ過濁液を透析処理した後のNMMOの含有量が0~10g/Lである場合、透析処理を停止してナノろ過濁液を外部に排出することができる。このとき、得られたナノろ過透析液を全部混ぜ合わせた場合、そのNMMOの含有量は一般的に10~100g/Lである。
【0043】
本発明の1つの実施形態では、ナノろ過処理によって得られたナノろ過清澄液またはナノろ過透析液中に、PG、PG酸化物を含む様々な低分子量不純物が依然として存在し、HPLC分析によれば、ナノろ過清澄液またはナノろ過透析液中に、PGおよびPG酸化生成物などの不純物、並びに十数種の他の未確認不純物が依然として相当の量で存在し、セルロースの製造により良く使用するためには、これらの不純物を更に精製処理する必要がある。したがって、本発明のナノろ過清澄液は、さらなる晶析処理が必要である。
【0044】
本発明は、晶析処理を行う前に、セルロース製品の凝固浴を精密ろ過処理、限外ろ過処理、ナノろ過処理および逆浸透処理の全ての処理に供することを特に限定するものではない。例えば、セルロース製品の凝固浴を精密ろ過処理に供し、精密ろ過清澄液を冷却晶析させてもよく、セルロース製品の凝固浴を精密ろ過処理および限外ろ過処理に供し、限外ろ過清澄液を冷却晶析させてもよく、セルロース製品の凝固浴を精密ろ過処理、限外ろ過処理およびナノろ過処理に供し、ナノろ過清澄液を冷却晶析させてもよく、また、セルロース製品の凝固浴を精密ろ過処理、限外ろ過処理、ナノろ過処理および透析処理に供し、ナノろ過清澄液とナノろ過透析液を混合して冷却晶析させてもよい。
【0045】
本発明の1つの実施形態では、冷却晶析を行う前に、晶析対象液体(例えば、セルロース製品の凝固浴、精密ろ過清澄液、限外ろ過清澄液、ナノろ過清澄液、またはナノろ過清澄液とナノろ過透析液の混合液)に対して逆浸透処理、または逆浸透処理と濃縮処理の組み合わせを実施し、逆浸透処理により晶析対象液体中のNMMOの質量濃度を23%以上(75~80気圧の圧力)に到達させることができ、蒸発濃縮処理により晶析対象液体中のNMMOの質量濃度を56.5%~84.5%に到達させることができ、よって、晶析効率を向上させることができる。別の実施形態において、かかる濃縮処理は、例えば真空蒸発、減圧蒸発、大気圧蒸発などによって遂行される。
【0046】
本発明の1つの実施形態では、晶析対象液体を濃縮処理に供し、得られた濃縮液中のNMMOの質量含有率が56.5%~72.2%であるとき、濃縮液を-20~39℃の間で冷却晶析させ、このようにして得られたNMMO水和物結晶は、いわゆる2NMMO・5H2O(NMMO・2.5H2O)である。得られた濃縮物中NMMOの質量含有率が72.2%~84.5%(72.2%を含まない)であるとき、濃縮液を39℃~78℃(39℃を含まない)の間で冷却晶析させ、このようにして得られたNMMO結晶は、いわゆるNMMO・H2Oである。言い換えれば、濃縮液中のNMMO濃度が異なれば、晶析温度も次第に異なり、その結果、異なるNMMO水和物結晶が得られる。
【0047】
本発明の1つの実施形態では、産業的精製のコストおよび操作の利便さを考慮して、晶析対象液体をNMMOの質量濃度が66.5~72%になるまで濃縮し、濃縮液を25~40℃または25~36℃の範囲の室温に近い温度で冷却晶析させる(晶析終了温度は25℃以上である)。この最適な晶析条件において、第1段階の晶析で70%以上の結晶化収率を持つ高純度の2NMMO・5H2O結晶が得られ、晶析前の液体中におけるNMMOの濃度が高いほど、晶析終了温度が低くなり、得られるNMMOの晶析率が高くなる。
【0048】
最適な晶析条件を用いて晶析を行うとき、例えば、晶析率、冷却速度、種結晶の添加などの晶析プロセスの条件の違いは、晶析過程の準安定状態の過飽和度に影響を与えるため、結晶中のNMMOの純度に影響を与える。
【0049】
本発明の1つの実施形態では、晶析過程で少量のNMMO種結晶を添加してもよく、種結晶の添加量は、晶析対象液体中のNMMO重量に対して0.01%以上、好ましくは0.1~0.3%である。冷却晶析を行う際、晶析を促すための種結晶の添加は、溶液中におけるNMMOの過飽和度を非常に効果的に低下させ、NMMOの純度がより高い結晶を得ることができる。
【0050】
本発明の1つの実施形態では、本発明で添加される種結晶は、破砕によって粒子径をできるだけ均一化にした小粒子高純度の結晶であり、その粒子径は、例えば0.01~0.1mmの範囲である。種結晶の粒子径が大きいか、または添加量が少なすぎると、NMMO結晶の純度が低下し、最終的に得られるNMMO結晶の粒子径分布が不均一になり、種結晶が多すぎると、得られる結晶の粒子径が小さくなる。なお、種結晶を添加する時期が早すぎると、溶液温度が高くなりすぎ、溶液中のNMMO水和物の濃度がその対応する溶解度よりも低くなり、結晶が溶解して種結晶を添加する意味がなくなる。一方、種結晶を添加する時期が遅すぎると、溶液温度が低くなりすぎ、この時点で既に溶液の過飽和度が高くなりすぎ、種結晶を添加する実際の効果が低下する。種結晶を添加するタイミングは、一般に、晶析対象液体中のNMMOの含有量と初期冷却温度とに応じて決められる。本発明の1つの実施形態では、溶液が30~37℃の温度まで冷却された時点で種結晶を添加する。
【0051】
本発明の1つの実施形態では、本発明の種結晶は、晶析効果を向上させ、晶析系で析出する結晶が均一な大きさになるように、晶析系に添加する前に、高純度のNMMO飽和溶液に少なくとも1時間浸漬する。
【0052】
本発明の1つの実施形態では、冷却晶析の過程において、冷却速度を1~4℃/時間の範囲に制御する。別の実施形態では、冷却晶析の過程において、晶析系に結晶が現れ始めてから晶析系の温度が30℃に下がるまで、冷却速度を1~2℃/時間の範囲に制御し、晶析系の温度が30℃より低くなった後(例えば、-20~30℃)、冷却速度を3~4℃/時間の範囲に制御することができる。これにより、結晶の純度を確保することができる。これは、冷却晶析時において、冷却速度が晶析速度を直接決めるからである。晶析系が比較的高い温度範囲にある場合、NMMO水和物の溶解度曲線が大きく変化するため、晶析開始後の晶析初期段階において溶液系の冷却速度を速くしすぎず、結晶の成長速度を制限する必要があり、そうしないと、溶液の過飽和度が高くなりすぎて結晶の純度に影響を与える。
【0053】
本発明の1つの実施形態では、晶析系を冷却して晶析終了温度に到達させた後、晶析溶液を急速に吸引ろ過することで結晶と結晶母液を取得し、結晶を濃度59.5%の高純度NMMOの水溶液で洗浄してNMMO結晶を取得し、秤量して含有量を分析する。
【0054】
第1段階の晶析により、非常に純度の高いNMMO水和物結晶を得ることができる。第1段階の晶析により得られた結晶を液体クロマトグラフィーで検出して解析を行った結果、元のセルロース凝固浴中に存在するあらゆる種類の有機不純物はNMMO結晶からほとんど検出されず、水を加えて23質量%のNMMO水溶液を調製すると、その電気伝導率が10.2μs/cm以下に低下したことから、晶析により凝固浴中の無機塩類の不純物を効果的に除去できることが確認できる。また、結晶母液の全糖含有量を分析した結果、糖類物質の含有量が非常に低いことが判明され、セルロース製品の凝固浴が膜処理後に大部分の糖類不純物を除去できることが確認できる。
【0055】
セルロース製品の凝固浴を膜処理に供することで、凝固浴の粘度に影響するオリゴ糖などの高分子不純物が除去され、結晶母液の粘度が大幅に低下し、結晶母液の多段階濃縮・晶析が可能となり、NMMO結晶の回収率を向上させることができる。本発明の実施例において、第1段階の晶析で生成される母液を真空加熱によりNMMOの質量濃度が69~72%になるまで蒸発させた後、冷却して晶析させ、第2段階の晶析で得られた結晶は、第1段階の晶析より純度がやや低く、凝固浴の原料に戻して溶解させることができ、第1段階の晶析と第2段階の晶析でNMMOの総回収率は最大96%に達し、第2段階の晶析の母液は粘度がさほど高くないため、引き続き濃縮して晶析することができ、それによってNMMOの総回収率を更に向上させることができる。多段階の晶析で得られる不純物の濃度が比較的高い少量の結晶母液は、有機焼却(TO)によって直接焼却することができ、高塩分・高COD廃水などの「3つの廃棄物」を発生させることはない。
【0056】
本発明は、さらに、セルロース製品の凝固浴でNMMOを精製するためのNMMOの精製システムを提供し、該精製システムは、セルロース製品の凝固浴で晶析処理を行う晶析装置、および晶析装置に接続され、晶析装置における晶析条件を制御する制御装置を備える
【0057】
本発明の1つの実施形態では、NMMOの精製システムは、さらに、精密ろ過装置、限外ろ過処理装置およびナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つを備え、かかる精密ろ過装置、限外ろ過処理装置およびナノろ過処理装置は、晶析装置および制御装置に連通され、セルロース製品の凝固浴を精密ろ過装置、限外ろ過処理装置およびナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つに搬送して処理することにより、ろ液が得られ、ろ液を晶析装置に投入して晶析処理を行う。
【0058】
本発明の別の実施形態では、NMMOの精製システムは、さらに、セルロース製品の凝固浴を精密ろ過装置に搬送して固形物をろ過することにより、精密ろ過清澄液を取得し、限外ろ過処理装置が精密ろ過装置に連通され、精密ろ過清澄液を限外ろ過処理装置に通して限外ろ過処理を行うことにより、限外ろ過濁液と限外ろ過清澄液を取得し、ナノろ過処理装置は、限外ろ過処理装置および晶析装置にそれぞれ連通され、限外ろ過清澄液をナノろ過処理装置に通してナノろ過処理を行うことにより、ナノろ過濁液およびナノろ過清澄液を取得し、ナノろ過清澄液中にNMMOが存在し、ナノろ過清澄液を晶析装置に投入して晶析処理を行うことを含む。
【0059】
本発明のもう1つの実施形態において、NMMOの精製システムは、高圧逆浸透装置を更に備え、かかる高圧逆浸透装置は、精密ろ過装置、限外ろ過処理装置およびナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つおよび晶析装置に連通され、NMMOろ液は、高圧逆浸透装置に搬送されて濃縮され、次いで晶析装置に搬送されて晶析が行われる。
【0060】
本発明の方法によれば、全てのセルロース製品の凝固浴に含まれるNMMO溶媒を精製回収することができ、回収されたNMMOは高純度であり(ほぼNMMOの新品レベルに達する)、回収率が高く、凝固浴を回収する全過程で廃水の排出がほとんどなく、しかもセルロースを溶解する際に生成されるオリゴ糖などの水溶性の良い糖類不純物を適時に除去することができるため、高価な針葉樹パルプおよび綿パルプだけではなく、安価な高濃度のヘミセルロースを含む広葉樹パルプを原料として使用することができ、大幅にセルロース製品の製造コストを削減することができる。なお、回収されたNMMOの純度が高いため、回収されたNMMOから調製されるセルロース溶液の純度もセルロース溶液の純度も高く、製造されるセルロース製品の品質も向上する。
【0061】
以下、具体的な実施形態を挙げて、押出し延伸法によるロール状のセルロースフラットフィルム(セロハン)の製造、押出し二軸延伸(ブローフィルム)法によるセルロース系チューブ状フィルムの製造、およびセルローススポンジの製造などの様々なセルロース製品の製造時に発生するセルロース凝固浴からNMMOを精製および回収するプロセスについて詳述する。以下の実施形態は、本発明で開示される方法がこれらのセルロース製品の凝固浴のNMMO溶液からほとんどすべての不純物を効果的に除去し、NMMOの精製および回収を良好に達成できることを示す。さらに、本発明で開示される精製方法は、NMMO法で製造される他のセルロース製品の製造工程(例えば、ドクターブレード法で製造されるセルロースフラットフィルム、セルロース包装膜、セルロース不織布、セルロースたばこフィルタ、セルロースフィルム、入浴用のセルロースシャワー(loofah)、セルローススポンジなど)にも適用することができ、これらのセルロース製品の製造時には必要な有機および無機機能性材料(例えば、無機塩類細孔形成剤、難燃剤、静菌剤、光沢剤、電気伝導性・熱伝導性物質など)を添加する場合があり、本発明の方法によれば、その凝固浴のNMMOから糖類を含む各種の有機と無機不純物を効率的かつ適時に除去することができ、NMMOを精製および回収する目的を達成することができる。
【0062】
本発明の第1の実施形態は、押出し延伸法によるロール状のセルロースフラットフィルム(セロハン)の製造に関する。
【0063】
セルロース溶液の調製方法に従ってセルロースの質量濃度が9%であるキャスティング溶液を調製し、そのPGの質量濃度が0.01%であり、静菌剤としてグルコン酸の質量濃度が0.1%である。押出し延伸フィルム製造装置を用いてセルロースフィルムを製造し、その一次凝固浴におけるNMMOの濃度が55~65%であり、二次凝固浴におけるNMMOの濃度が5%であり、両凝固浴を混合した後のNMMOの濃度は23%程度(以下、「混合凝固浴」と称する)である。混合凝固浴溶液には、上記不純物や静菌剤であるグルコン酸を含む種々の不純物が含まれており、陰イオンおよび陽イオン交換樹脂法により混合凝固浴からNMMOを精製回収し、回収されたNMMOを引き続き製造に使用し、3日目まで連続製造を実行する。このとき、膜表面に凹凸現象が発生し、7日目から膜に穴が開き始め、膜の成形率が大幅に低下することが確認できる。7日目の混合凝固浴のNMMO溶液を検出したところ、284ppmの糖が含まれ、イオン交換樹脂で処理した後のNMMO溶液に含まれる糖が依然として258ppmに達することから、イオン交換樹脂では凝固浴のNMMO溶液から糖類不純物を効果的に除去できないことが判明された。また、イオン交換樹脂による処理前後の混合凝固浴のNMMO溶液のHPLC分析スペクトルを比較すると、イオン交換樹脂で除去できない不純物が他にも10種類以上存在し、その結果、凝固浴溶液に溶けやすい低分子糖類を含む不純物がキャスティング溶液に蓄積され続け、膜を凝固浴に搬送すると、膜表面に存在する糖類などの不純物が再び凝固浴溶液に溶解することにより、膜の破損を引き起こし、同時に糖類不純物以外の除去できない不純物が蓄積され続け、セルロース膜の他の性能にも損害を与える可能性があることが判明された。
【0064】
上記連続製造7日目の混合凝固浴のNMMO溶液について、その中のNMMOを晶析法により直接精製して回収し、回収したNMMOの純度をHPLCクロマトグラフィーで検出したところ、NMMOの新製品とほぼ同様で糖類不純物などの凝固浴のNMMO溶液中の不純物をほとんど含まない分析結果が得られたが(図5および図6)、これらの不純物、特に糖類化合物のほとんどが結晶母液に残るため、結晶母液の粘度が高く、流動性が悪く、複数回の晶析ができなくない、NMMOの総回収率が低くなる。
【0065】
上記の方法に従ってロール状のセルロースフラットフィルムを作製し、凝固浴のNMMO溶液を晶析精製により精製した場合、製造初期に凝固浴溶液中の糖類不純物の含有量が低く、晶析により糖類不純物を含むほぼすべての不純物を適時に除去されるため、全製造期間を通じて凝固浴溶液中の糖類不純物の含有量を非常に低いレベルに維持することができ、晶析精製法のみを用いても高い回収率でNMMOを得ることができ、晶析精製による効果は良好であった。7日間の連続製造では、製造されたセルロース膜に凹みや破損現象が見られず、晶析精製法がイオン交換樹脂による精製法より明らかに優れていた。
【0066】
上記の方法に従ってロール状のセルロースフラットフィルムを作製し、混合凝固浴のNMMO溶液を膜処理と晶析を組み合わせた精製法により精製し、膜処理(精密ろ過膜、限外ろ過膜およびナノろ過膜)によってその中のオリゴ糖、二糖、二糖以上の多糖および一部の単糖などの糖類不純物、PGとホルムアルデヒドの縮合生成物、2価および2価以上の無機塩などの不純物を除去した場合、静菌剤、単糖、PG、PG酸化物を含む10種類以上の他の不明不純物や低分子量の不純物が膜で完全に分離できず、不純物の大部分が依然として凝固浴溶液に残るという分析結果が得られた。その後、さらに減圧下で加熱蒸発させてNMMO質量濃度70.2%まで濃縮し、25~40℃で冷却して結晶させたところ、非常に純度の高い2NMMO・5H2Oを得ることができ、膜の組み合わせで分離できなかった不純物も晶析法により全て効果的に除去することができ、さらに、イオン交換樹脂単独や晶析処理単独の場合に比べて結晶母液の粘度が著しく低下し、母液の晶析を数回繰り返すことによりその中のNMMOを回収することができた。膜の組み合わせと晶析技術を用いて混合凝固浴中のNMMOを精製して回収し、168時間(7日間)連続して製造した場合、混合凝固浴のNMMO中の不純物含有量が開始時とほぼ同じく、精製回収したNMMOの純度がNMMOの新製品の場合ほぼ同様であり、得られたNMMO結晶を水で溶解してNMMO質量濃度23%の水溶液に調製すると、その電気伝導率が2.8μs/cmであった。また、製造されたセルロース膜を1日目に製造したセルロース膜と比較したところ、膜の引張強さ、伸び率などの機械的特性および膜の透湿率などの特性は基本的に変化していなかったことから、7日間の運行を経ても不純物の濃度が凝固浴溶液中で非常に低いレベルに維持され、不純物濃度の蓄積が見られず、そしてセルロース膜の製造や品質に影響を与えないことが判明された。精製処理前の1日目の混合凝固浴のNMMO溶液を調べたところ、その糖含有量が9ppmであり、さらに、7日目の混合凝固浴のNMMO溶液の糖含有量も9ppmに維持されていることから、凝固浴の精製により効果的かつ適時に糖類物質を除去できることが判明された。また、上述のイオン交換樹脂単独で処理した7日目の混合凝固浴溶液、および膜処理と晶析の組み合わせで処理した製造7日目のセルロース膜の混合凝固浴溶液についてHPLC測定を行ったところ(図7および図8)、膜の組み合わせと晶析の組み合わせによる精製法で精製した凝固浴溶液は、上記イオン交換樹脂精製法の場合よりも不純物の含有量が顕著に大幅に低下し、かつ総糖量も上記イオン交換樹脂精製法の場合に比べて顕著に低下していることが確認できた(9ppm対258ppm)。
【0067】
本発明の第2の実施形態は、押出し二軸延伸(ブローフィルム)法によるセルロース管状膜の製造に関する。
【0068】
本実施形態に係るセルロース管状膜は、押出し二軸延伸(ブローフィルム)装置を用いて、以下のブローフィルムプロセス条件で作製した。つまり、キャスティング溶液は、セルロース質量濃度9%のNMMO溶液(セルロース溶液の調製方法によって調製する)であり、膜の組み合わせと晶析を組み合わせた精製法を用いて凝固浴溶液中のNMMOを精製回収し、膜の組み合わせ(限外ろ過膜およびナノろ過膜を含む)の限外ろ過膜およびナノろ過膜装置により、凝固浴NMMOに溶解した二糖以上の糖類物質、PGとホルムアルデヒドの縮合生成物、2価の無機塩などの不純物を除去する。逆浸透膜装置よってNMMO質量濃度5%の凝固浴溶液を25.7%まで濃縮することができ、さらに、減圧加熱によりNMMOの質量濃度が69.8%になるまで濃縮した後、25~40℃で冷却して晶析させ、凝固浴中のNMMOを精製および回収する。回収されたNMMOは、純度が非常に高く、無色透明で不純物をほとんど含まず、結晶母液の粘度が非常に低いため、母液の晶析を数回繰り返すことによりその中のNMMOを最大限に回収することができる。ブローフィルム装置は168時間(7日間)連続して作動され、製造されたセルロース膜の縦方向引張強さ、伸び率などの機械的特性および膜の透湿率(水フラックス)は、1日目と7日目を比較した場合にほぼ変化がなかったことから、凝固浴に不純物が蓄積せず、かつチューブ状のセルロースフィルムの製造に影響を与えないことが確認できた。
【0069】
本発明の第3の実施形態は、セルローススポンジの製造に関する。
【0070】
セルローススポンジを製造する際、通常、固形細孔形成剤としてセルロースNMMO溶液の約3倍重量の無水Na2SO4を添加する必要があり、そのため、凝固浴のNMMO水溶液中には非常に高濃度のNa2SO4が含まれる。本実施形態において、セルローススポンジの凝固浴は、質量濃度2%のNMMO水溶液であり、該凝固浴中のNa2SO4の質量濃度が約8.5%であり、膜の組み合わせ(精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜および逆浸透膜)におけるナノろ過膜装置によってその中のNa2SO4を捕獲して除去することができ、ナノろ過膜の残液に含まれるNa2SO4は、従来のボウ硝晶析精製法により硫酸ナトリウム十水和物として得られ、その後、加熱脱水して無水硫酸ナトリウムの固形物を得ることができる(再利用)。ナノろ過清澄液は、NMMO質量濃度が約2%のNMMO水溶液であり、引き続き逆浸透膜装置を用いてNMMO質量濃度23.1%まで濃縮することができ、その後、減圧下で加熱蒸発させて質量濃度69.9%まで濃縮し、25~40℃で晶析させて精製した。得られた2NMMO・5H2O結晶をHPLCクロマトグラフィーで検出したところ、純度が非常に高いことが確認でき、結晶に水を加えて質量濃度23%のNMMO水溶液を調製し、その電気伝導率は8.2μs/cmであった。
【0071】
本実施形態によれば、高濃度の硫酸ナトリウム無機塩を含むセルローススポンジ製品の凝固浴に対して、本発明で開示の精製方法がその中のNMMO溶媒を精製および回収することができるという結果が示された。
【0072】
本発明の1つの具体的な実施形態では、本発明の膜の組み合わせと晶析を組み合わせた精製方法は、以下のステップを含む。
【0073】
つまり、セルロース凝固浴を膜の組み合わせにより予め処理し、かかる膜の組み合わせは、精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過および逆浸透で構成される。
【0074】
セルロース凝固浴は、凝集と沈降の有無にかかわらず、精密ろ過システムを利用して機械的不純物を除去した後、限外ろ過システムに供されて高分子不純物とコロイドを除去する。限外ろ過膜の分子量カットオフが5000~100000であり、透析ステップを経てから限外ろ過濁液に含まれるNMMOの質量濃度が1%未満である場合、廃液として排出され、限外ろ過清澄液は、分子量カットオフが150~1000のナノろ過ユニットに搬送されてオリゴ糖、金属錯体を主とする可溶性不純物を除去し、このとき、単糖も部分的に除去され、かつ透析法を用いてNMMOの収率を向上させる。透析後のナノろ過濁液に含まれるNMMOの質量濃度が1%未満である場合、廃液として排出される。ナノろ過後のナノろ過清澄液に含まれるNMMOの質量濃度は15%未満であり、逆浸透膜を用いてナノろ過清澄液のNMMO質量濃度を20%以上に濃縮し、その後、濃縮液を熱蒸発ユニットに搬送する。NMMOを含まない蒸発液は、清澄水と見なされ、透析液または凝固浴の補水としてナノろ過および限外ろ過処理に戻される。
【0075】
膜の組み合わせで予め処理したNMMO質量濃度が20%以上の凝固浴溶液を、さらに減圧下で加熱蒸発させてNMMO質量濃度66.5~72%まで濃縮する。
【0076】
最適な晶析条件下で晶析精製を行い、温度が約40℃であり且つNMMOの質量濃度が66.5~72%であるセルロース製品の凝固浴溶液を、種結晶を添加しても溶解しない温度(この時の温度を「晶析開始温度」と呼ぶ)に冷却させた後、少量の種結晶を添加する。この種結晶としては、予め高純度NMMOの飽和溶液に浸漬された2NMMO・5H2O破砕結晶の微粒子であることが好ましく、これら微粒子状の破砕結晶は、NMMOの飽和溶液に少なくとも1時間浸漬され、種結晶の添加量は、凝固浴中のNMMOの重量に対して0~1.0%、好ましくは0.1~0.3%であり、種結晶を添加した後、温度をゆっくりと下げ続け、晶析開始温度から30℃まで冷却速度を1~2℃/時間に制御する。温度が30℃を下回ると、冷却速度を3~4℃/時間に適宜加速することができ、晶析終了温度は25℃である。この晶析条件では、粒径分布が均一で不純物の含有量が低い大きな結晶粒子が得られる。この結晶溶液を高温に維持したまま速やかにろ過し、ろ過後の母液を回収して秤量した後、質量濃度59%の高純度のNMMO水溶液で結晶を3回洗浄し、結晶を回収して秤量し、結晶の純度を分析する。結晶に水を加えてNMMO質量濃度23%の水溶液を調製し、この水溶液に含まれる総糖量、不純物の総量、電気伝導率、銅金属イオンおよび鉄金属イオンの含有量などを検出した。
【0077】
結晶母液は、減圧下で加熱してNMMOの質量濃度が70%になるまで濃縮することにより、再び晶析させる。得られた結晶母液は、その中のNMMOを最大限に回収できるように、複数回濃縮して晶析させることができ、通常であれば、3回の晶析でセルロース凝固浴中のNMMOの99%以上を回収することができる。
【0078】
晶析による分離は、間欠晶析法または連続晶析法によって行われてもよく、連続晶析法の場合、晶析操作は、例えばOSLO連続晶析装置、DTB連続晶析装置などの異なる形態の連続晶析装置を用いて実施することができ、連続晶析法は種結晶を添加する必要がなく、高いの一次晶析度(95%以上)を容易に得ることができるため、操作が簡便であり、大規模な産業化製造においてセルロース凝固浴からのNMMOの精および製回収により適している。
【0079】
本発明の実施形態で使用するセルロースパルプは、国産広葉樹パルプ(溶解パルプ)であり、重合度(DP)が584(銅アンモニア法)であり、α-セルロース質量分率が90.5%である。
【0080】
本発明の実施形態において、セルロース溶液は、下記通りの方法で調製される。つまり、木材パルプを粉砕し、粉砕した木材パルプおよび2NMMO・5H2O結晶(NMMO質量濃度が72.2%である)を所望の重量で秤量し、10リットルの反応器に入れ、75~80℃に加熱し、一定温度で1時間かけて放置した後(パルプが十分に膨潤した状態)、さらに溶液重量の0.1%に相当する没食子酸プロピル(PG)とその他の特定の添加剤(例えば、静菌剤としてグルコン酸)を加え、そして95~100℃に加熱し、0.1MPaの真空条件下で撹拌し、褐色透明であり且つ粘稠なセルロース/NMMO/H2Oになるまで蒸発濃縮し、得られたセルロース溶液を0.1MPaの真空条件下で1時間静置して脱泡することにより、膜の製造に使用可能なセルロース溶液が得られる。
【0081】
本発明の実施形態において、押出し延伸法によるセルロースフラットフィルムの製造は、以下の通りに行われる。つまり、本発明の実施形態に係るキャスティング溶液は、セルロース質量濃度が9%のNMMO溶液であり、スクリューポンプで液圧を加えることにより、キャスティング溶液を自製の膜延伸装置の紡糸ノズルに送入し、キャスティング溶液の押出し流量が80mL/分であり、紡糸ダイヘッドに帯状のノズルが設けられ、ノズルギャップの長さが200mmであり、紡糸ギャップの間隔が0.1~0.4mmの範囲で調整可能であり、かかる間隔は、本発明の実施形態において0.2mmに設定される。キャスティング溶液は、押出しによりノズルから押し出されて膜を形成し、押し出された膜は、100mmのエアギャップを通過して第1段階の凝固浴に搬送され、第1段階の凝固浴のNMMO質量濃度が55~65%であり、第1段階の凝固浴の温度が30℃である。第1段階の凝固浴において、膜両側の牽引チェーンに設けられるクランプで膜シートを300mmの幅に横方向に引き伸ばし、膜をロールで牽引しながら2.5メートル/分間の牽引速度で前進させた後、第2段階の凝固浴に搬送し、第2段階の凝固浴のNMMO質量濃度は5%であり、第2段階の凝固浴の温度は20℃に制御され、そしてロールによって引き出されたセルロース膜は、水洗浴、可塑剤浴(グリセリン水溶液)、乾燥室に順に搬送される。各部分における膜の走行距離を調整することで各部分での滞留時間を変化させ、例えば、膜は第1段階の凝固浴で3分間、第2段階の凝固浴で3分間、水洗浴で5分間、可塑剤浴で10分間滞留することができ、可塑剤浴のグリセリン水溶液の質量濃度が18~20%であり、水洗浴の温度および可塑剤浴の温度を共に25℃に制御し、セルロースフラットフィルムは、乾燥室において50℃で20分間、70℃で20分間、90℃で20分間の3つの温度区間で乾燥され、各区間における膜の走行距離を調整することで各区間での滞留時間を変化させることができる。第1段階の凝固浴と第2段階の凝固浴の溶液を混合して得られた混合凝固浴は、NMMOの質量濃度が約23%であり、この混合凝固浴は、精製および回収を経て濃縮されて再利用される。
【0082】
本発明の実施形態において、押出し二軸延伸(ブローフィルム)法によるセルロース管状膜の製造は、以下の通り行われる。つまり、本発明の実施形態に係るキャスティング溶液は、セルロース質量濃度9%のNMMO溶液であり、スクリューポンプで液圧を加えることにより、キャスティング溶液を自製のブローフィルム装置の紡糸ノズルに送入し、紡糸ダイヘッドに直径200mmの紡糸リングが設けられ、紡糸リングの間隔は0.2~1.5mmの範囲で調整でき、本発明の実施形態において、例えば0.5mmに設定される。紡糸リングの中央部分に1つの通気口および2つの液体案内管が設けられ、圧縮空気が通気口から管状膜の内腔に入ることができ、空気圧によってブローアップ比が調節され、そのうち一方の液体案内管は、凝固浴(本実施形態では脱イオン水)を連続的に導入するために用いられ、他方の導流管は、管状膜の内腔から凝固浴を絶えずに排出するために用いられる(負圧によって吸引することができる)。本発明の実施形態において、キャスティング溶液の押出し流量は30mL/分間であり、キャスティング溶液が紡糸リングのギャップから押し出されて閉じた膜を形成し、紡糸リングから凝固浴の液面までのエアギャップ距離は100mmであり、管状膜の外側にある凝固浴のNMMO質量濃度は5%に制御され、管状膜内の凝固浴のNMMO質量濃度も5%に制御され、凝固浴の温度は20℃に制御される。また、膜はロールで牽引され、膜の牽引速度は1.8メートル/分間であり、ブローアップ比は1.25に制御される(圧縮空気を制御して膜内のガス圧を調節する)。セルロース膜は、ロールで牽引されて凝固浴、水洗浴、可塑剤浴(グリセリン水溶液)、乾燥室の順に搬送され、各部分での膜の滞留時間は、各部分における膜の走行距離を調整することにより変化させ、例えば、膜は凝固浴で3分間、水洗浴で5分間、可塑剤浴で10分間滞留することができ、可塑剤浴のグリセリン水溶液の質量濃度は18~20%であり、凝固浴の温度、水洗浴の温度および可塑剤浴の温度は共に25℃に制御され、管状膜は、乾燥室において50℃で20分間、70℃で20分間および90℃で20分間の3つの温度区間で乾燥される。膜内外にある凝固浴溶液を混合した後、合わせて精製を行い、精製されたNMMOは再利用される。
【0083】
本発明の実施形態において、セルローススポンジの製造は、以下の通り行われる。つまり、以上で述べたセルロース溶液の調製方法に従って7%のセルロースNMMO溶液を調製し、次いで80℃でスポンジ補強剤として重合度1000以上のちぎった脱脂綿を添加し、添加量はパルプ粕の重量の50%であり、1時間攪拌して均一に混ぜ合わせた後、セルロース溶液の3倍重量の無色の硫酸ナトリウム固形粒子を加える。硫酸ナトリウムは、添加する前にふるい分けして粗大粒子(40メッシュを超える)および過小粒子(200メッシュ未満)を取り除き、かつ90℃に予め加熱する。硫酸ナトリウムを細孔形成剤とし、硫酸ナトリウムおよびセルロース溶液を均一になるまで攪拌した後、30mm×50mm×100mmの長方形の型に流し込み、室温になるまで1時間放置した後、凝固浴に浸漬して2時間放置する。凝固浴中のNMMOの質量濃度は2.2%であり、成形されたセルローススポンジを凝固浴から取り出し、水切りしてから水浴に戻すことで残留するNMMOと無機塩を洗浄する。セルローススポンジは、水切りした後に80℃、減圧下で24時間乾燥させ、凝固浴を精製してその中のNMMOを回収して再利用する。
【0084】
本発明の実施形態において、晶析は、以下の方法に従って行われる。つまり、温度が約40℃であり、NMMOの質量濃度が68.5~72%であるセルロース製品の凝固浴溶液を、種結晶を添加しても溶解しない温度(この温度を「晶析開始温度」と呼ぶ)まで冷却した後、少量の種結晶を添加する。種結晶は、予め高純度NMMOの飽和溶液に浸漬された2NMMO・5H2O破砕結晶の小粒子であることが好ましく、これらの破砕結晶は、NMMOの飽和溶液に少なくとも1時間浸漬され、種結晶の添加量は、凝固浴中のNMMO重量の0~1.0%、好ましくは0.1~0.3%である。種結晶を添加した後、ゆっくりと温度を下げ続け、冷却速度は、晶析開始温度から30℃までの範囲で1~2℃/時間に制御され、温度が30℃以下に下がると、冷却速度を3~4℃/時間に適宜加速することができ、晶析終了温度は25℃である。この晶析条件では、粒子が大きく、粒径分布が均一であり、不純物の含有量が低い結晶が得られる。結晶溶液を高温に維持したまま速やかくに吸引ろ過し、ろ過後の母液を回収して秤量し、質量濃度が59%である高純度NMMOの水溶液で結晶を3回洗浄し、結晶を集めて秤量し、結晶純度を分析する。
【0085】
本発明の実施形態において、鉄イオンおよび銅イオンの含有量は、Thermo Fisher社製のICP-MSを用いて測定する。
【0086】
本発明の実施形態において、総糖量は、東華大学陳慧茹の博士学位論文「安価で高ヘミセルロース含有量のパルプを用いて紡績したリヨセル繊維の研究」で報告されている総糖量分析法を用いて測定する。
【0087】
本発明の実施形態において、凝固浴溶液に含まれる有機不純物は、液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析し、このとき、カラムはAichromBond-1、C18、5μm4.6×150mmであり、移動相は0.2%のリン酸緩衝液、pH=2.9であり、移動相の流速が1mL/分間であり、カラム温度が35℃であり、200nmおよび220nmのUV検出波長でそれぞれ検出を行い、試料注入量が20μLであり、検出時間が30分間である。
【0088】
本発明の実施形態において、膜特性は、以下の試験方法に従って測定する。
試験装置:上海新繊維機器有限会社製の繊維強度伸長測定器
膜の強度試験:乾燥済の膜を、縦方向と横方向に沿って90mm×5mmサイズの小さな試料ストリップにカットし、繊維強度伸長測定器を用い、国家標準GB/T14337-2008短繊維強度試験方法に従って測定し、引張り速度は100mm/分間であり、試験クランプの距離は10mmであり、各試料ごとに5回測定を行い、平均値を取る。
膜の厚さ:プラスチックフィルム厚さ計を用い、フィルム試料表面の任意の10点で厚さを測定し、平均値を取る。
セルロース膜の透湿度(水フラックス)の試験方法:国家標準GB1037-88(プラスチックフィルムおよびシート材料の水蒸気透過性試験方法-カップ法)の要求に従って測定する。
【0089】
本発明の実施形態において、全ての試料は、上記のように分析・測定される。
実施例1
【0090】
本実施例では、主にイオン交換樹脂法を用いてセルロース膜の凝固浴からNMMOを精製および回収する際の有効性を検証した。
【0091】
セルロース膜は、上記の押出し延伸法によりロール状のフラットフィルムを製造するときの方法に従って作製し、セルロース溶液の質量濃度は9%であり、PGの質量濃度は0.1%であり、静菌剤であるチモールの質量濃度は0.1%であり、第1段階の凝固浴のNMMO質量濃度は55~65%の範囲であり、第2段階の凝固浴のNMMO質量濃度は5%であり、第1段階と第1段階の凝固浴溶液を混ぜ合わせて精製および回収し、混合した凝固浴の質量濃度は約23%である(以下、「混合凝固浴」と呼ぶ)。混合凝固浴からNMMOを精製および回収する方法は、現在、リヨセル繊維の製造に用いられるイオン交換樹脂法であり、すなわち凝固浴のNMMO溶液を陰イオン交換カラムと陽イオン交換カラムに順次通し、陰イオン交換カラムには大孔径の強アルカリ性樹脂が充填され、陽イオン交換カラムには大孔径の弱酸性樹脂が充填され、陰イオン交換カラムと陽イオン交換カラムを通過した後の凝固浴溶液の電気伝導率が≧20μS/cmとなった時点でイオン交換樹脂が活性を失ったと判定することができる。活性を失ったイオン交換樹脂を再生化する際、陽イオン交換樹脂は樹脂体積の6倍であり且つ質量濃度が4~6%の塩酸水溶液でカラムを洗浄し、陰イオン交換樹脂は樹脂体積の6倍であり且つ質量濃度が4~6%のNaOH水溶液でカラムを洗浄することにより行われ、酸またはアルカリ洗浄が終了すると、さらに高純度の水でカラムを洗浄し、カラムから出る水のpHが6~8となった時点で洗浄・再生化が完了したと判断し、再生化されたイオン交換樹脂は、凝固浴溶液の処理に再び利用することができる。精製および回収されたNMMOの希溶液は、通常の減圧蒸発装置を用いてNMMO質量濃度が約72%の水溶液に濃縮され、セルロース溶液の調製に再利用される(前述のセルロース溶液の調製方法に従う)。
【0092】
イオン交換樹脂法を用いて混合凝固浴からNMMOを精製および回収し、押出し延伸法を用いてロール状のセルロースフラットフィルムを作製し、7日間連続してセルロース膜を製造したところ、3日目において製造されたフラットフィルムの膜表面に凹みや厚みムラの現象が観察され、かつ連続製造時間が長くなるにつれて、膜表面の凹みと厚みムラの現象が顕著になり、7日目から膜が次々と破断・裂け始め、膜形成率が著しく低下した。1日目、3日目、5日目、7日目の混合凝固浴の試料を取って溶液に含まれる総糖量をそれぞれ測定し、また、7日目のイオン交換樹脂により精製された混合凝固浴のNMMO溶液を取って溶液の総糖量を測定し、結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示すように、イオン交換樹脂で精製してから7日目に、混合凝固浴のNMMO溶液の総糖量は精製前より若干減少したが、大部分の糖類物質は除去できないまま溶液に残り、その結果、セルロースやヘミセルロースの分解による糖類物質が膜形成システムに持続的に蓄積される。セルロースを高温で溶解してキャスティング溶液を形成する際、ヘミセルロースやセルロースが低分子の可溶性オリゴ糖を含む様々な有機不純物に分解し、これらの不純物を精製過程で適時に除去しないと、凝固浴に糖類などの有機不純物が蓄積し続けることになる。7日目の混合凝固浴をイオン交換樹脂で処理した前後のHPLC分析スペクトルを比較すると、イオン交換樹脂では凝固浴中の多くの有機不純物を除去できないことが分かり(図3および図4を参照)、表1からも、連続製造日数の増加に伴って凝固浴溶液中の総糖量が高くなり、セルロース膜が凝固浴溶液に搬送された場合、膜組織中における糖類などの凝固浴溶液に溶解可能な有機不純物が膜から再び溶け出され、その結果、膜表面に欠陥が生じることは避けられず、その深刻さは膜の破損につながる可能性があることが確認できた。
実施例2
【0095】
本実施例では、主に膜の組み合わせによる前処理を行わずに、凝固浴を従来の通りに減圧下で加熱蒸発させて濃縮した後に直接晶析させて精製した場合の効果を検証した。
【0096】
実施例1における7日目の混合凝固浴溶液(NMMOの質量濃度が約23%)を用い、かかる溶液の電気伝導率が82μs/cmであり、溶液中の総糖量が284ppmであり、減圧下で通常の通りに加熱蒸発させてNMMOの質量濃度が70.1%となるように濃縮することで晶析を行い、このとき82%の晶析率が得られた。得られたNMMO結晶を高純度の水に溶解し、NMMOの質量濃度が23%になるように希釈した結果、溶液の電気伝導率が2.8μs/cmであり、溶液の総糖量が<1.0ppmであり、また、HPLC液体クロマトグラフィーで測定を行ったところ、有機不純物の存在は検出されなかった(図5および図6を参照)。
【0097】
晶析後の結晶母液は、粘度が大きく、結晶母液を再び減圧下で加熱蒸発させてNMMOの質量濃度が68.0となるように濃縮することで晶析を行い、このとき64%の晶析率が得られた。しかし、第2段階の結晶母液の粘度が非常に高く、流動しにくいため、再び濃縮して晶析させることができず、第2段階の結晶母液中の総糖量を測定したところ、5.2%であった。得られた結晶を高純度の水に溶解し、NMMOの濃度が23%になるように希釈した結果、電気伝導率が3.4μs/cmであり、溶液の総糖量が3.5ppmであり、また、HPLC液体クロマトグラフィーで測定を行ったところ、結晶溶液の純度が非常に高く、有機不純物の存在はほとんど検出されなかった。
【0098】
以上のことから、晶析方法で押出し延伸法によるフラットフィルムを製造するときの混合凝固浴中のNMMO溶媒を精製および回収することにより、混合凝固浴中の糖類を含む有機不純物を効果的に除去でき、同時に混合凝固浴中の無機塩類不純物も除去でき、精製後に電気伝導率が大幅に低下することが分かる。本実施例において、混合凝固浴溶液に対して晶析を2段階に分けて行ったところ、晶析収率は合計93.5%に達し、結晶母液に高濃度の糖類物質が存在するため、晶析によってNMMOの晶析収率を更に向上させることは実現できず、少量のNMMOが損失するという結果となった。
実施例3
【0099】
本実施例では、主に凝固浴溶液中の糖類不純物の含有量が低い場合に、晶析精製法のみで凝固浴からNMMOを精製および回収する効果を検証した。
【0100】
実施例1と同様にしてセルロースフラットフィルムを作製し、晶析精製法を用いて凝固浴からNMMO溶媒を精製して回収した。通常、製造初期ではセルロース分解による糖類不純物の含有量が低く、このとき凝固浴中のNMMO溶媒を晶析精製法のみで処理すると、糖類不純物がNMMO結晶の回収に与える影響が少ないことが知られている。本実施例では、実施例1の押出し延伸法と同じ条件でロール状のセルロースフラットフィルムを作製し、NMMO溶媒は晶析精製法のみで凝固浴から精製して回収し、7日間連続して製造し、その間、1日目、3日目、5日目、7日目に凝固浴溶液の試料を取って溶液中の総糖量を分析した(表2を参照)。製造7日目の混合凝固浴溶液の晶析精製を例にとると、NMMO質量濃度が23%である混合凝固浴溶液を、減圧下で加熱蒸発させて70.1%まで濃縮することで晶析を行い、このとき83%の晶析率が得られた。第1段階の晶析母液については、再び減圧下で加熱蒸発させてNMMOの質量濃度が70%になるまで濃縮した後、第2段階の晶析を行った結果、80%の晶析率が得られた。第2段階の晶析母液は、粘度がさほど高くなく、再び減圧下でNMMOの質量濃度が69.8%になるまで加熱蒸発させることで晶析を行い、このときの晶析率が77%であり、3回晶析の総晶析率は99.2%(三次晶析の合計)であった。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示すように、広葉樹パルプをセルロース膜の原料とし、押出し延伸法でセルロースフラットフィルムを作製し、晶析精製法のみで混合凝固浴中のNMMO溶媒を精製および回収し、連続して製造を7日間行った場合、凝固浴溶液中の糖含有量は非常に低く、かつ安定したレベルを維持することができ、製造されたセルロースフィルムが均一な膜表面と安定した製品品質を持つことが確認できる。本実施例のセルロース膜の製造初期において、凝固浴溶液中の糖類不純物の含有量が低く、晶析精製法のみで混合凝固浴溶液からNMMO溶媒を精製および回収した場合、NMMO結晶の総回収率が99.2%に達していることから、晶析精製法単独でも低濃度の糖類不純物を含む凝固浴溶液からNMMOを精製および回収する需要に応えられることが判明された。
実施例4
【0103】
本実施例では、主に膜の組み合わせと晶析技術の組み合わせにより、セルロース膜の凝固浴からNMMO溶媒を精製および回収する際の有効性を検証した。
【0104】
本実施例は、実施例1でロール状のフラットフィルムを製造する押出し延伸法と同様の方法を採用するが、混合凝固浴中のNMMOの精製回収方法は、膜の組み合わせと晶析技術の組み合わせによるものであり、すなわち膜の組み合わせで混合凝固浴溶液を予め処理することにより、主にその中の糖類不純物を除去し、その後、晶析方法によって混合凝固浴中のNMMO溶媒を更に精製して回収した。膜の組み合わせは、精密ろ過膜、限外ろ過膜およびナノろ過膜で構成され、精密ろ過は、ダストや機械的粒子状物質を除去するためであり、限外ろ過とナノろ過は、主に溶液の濃度に大きな影響を与える糖類不純物を除去することを目的とし、そして、膜で予め処理した混合凝固浴溶液を減圧下で加熱蒸発により濃縮し、晶析精製して2NMMO・5H2O結晶が得られた。本実施例において、先に説明したセルロース溶液の調製方法に従ってキャスティング溶液を調製し、晶析精製によって得られたNMMO結晶をそのままセルロース溶液の調製に使用した。本実施例のキャスティング溶液は、セルロース溶液の質量濃度が9%であり、PGの質量濃度が0.1%であり、チモールの質量濃度が0.1%であり、混合凝固浴溶液中のNMMO質量濃度が約23%であった。
【0105】
本実施例でセルロース膜を連続して製造する際に、膜を連続して製造する時間が長くなるにつれて膜表面の厚みムラや破損の現象が見られず、7日間連続して膜を製造したが、膜の品質と破損率はいずれも実施例1より大幅に向上した。1日目、3日目、5日目および7日目の混合凝固浴からそれぞれ試料を取り、試料溶液の総糖量および電気伝導率を測定した(結果を表3に示す)。
【0106】
7日目の混合凝固浴を膜で予め処理した後、さらに減圧下で加熱蒸発させてNMMO質量濃度70.1%まで濃縮して晶析させたところ、晶析率が83%であり、結晶母液を再び減圧下で加熱蒸発させてNMMO質量濃度69.9%まで濃縮して晶析させたところ、晶析率が80%であった。第2段階の晶析処理の母液は、粘度がさほど高くなく、再び減圧下で加熱蒸発させてNMMO濃度69.0%まで濃縮したところ、晶析率が73%であり、NMMO晶析率は、晶析を3回経て合計で99.1%であった。
【0107】
1日目、3日目、5日目および7日目の膜製品をそれぞれ取り、前述の方法に従って膜縦方向の強度、引張強さおよび透湿率をそれぞれ測定した。
【0108】
【表3】
【0109】
表3に示すように、膜の組み合わせと晶析を組み合わせた精製方法は、混合凝固浴溶液から糖類不純物を含むあらゆる種類の不純物を効果的に除去することができ、混合凝固浴溶液中の各不純物の含有量は、対応する実施例1のイオン交換樹脂を用いる精製方法の場合よりも顕著に低下し、膜の機械的特性や透湿率などの品質指標は、7日間の連続製造後もほぼ安定しており、実際の製膜工程における膜質と破損率は、実施例1のイオン交換樹脂を用いる精製方法よりも明らかに優れていた。また、実施例1の7日目のセルロースフィルムの混合凝固浴のHPLC分析スペクトルと、本実施例4の7日目のセルロースフィルムの混合凝固浴のHPLC分析スペクトルを比較すると、膜の組み合わせと晶析を組み合わせた精製方法は、実施例1のイオン交換樹脂を用いる精製方法よりも明らかに優れ、凝固浴中の有機不純物の含有量が著しく低下されていることが確認できた(図7および図8を参照)。
実施例5
【0110】
本実施例では、主に膜の組み合わせと晶析を組み合わせた精製方法により、押出し二軸延伸(ブローフィルム)によるセルロース管状膜の作製に使用される凝固浴からNMMO溶媒を精製および回収する際の有効性を検証した。
【0111】
本実施例に係る押出し二軸延伸(ブローフィルム)法で作製されたセルロース管状膜の凝固浴溶液中のNMMO溶媒を、実施例4と同様の膜の組み合わせと晶析を組み合わせた方法を用いて精製して回収した。上記の押出し二軸延伸(ブローフィルム)処理条件に従ってセルロース管状膜を製造し、製造は7日間連続して行われた。セルロース膜の表面に明らかな凹みや不均一な現象が見られず、製造された膜の各特性が安定し、膜の破損現象が発生しなかった。本実施例では、膜の組み合わせで凝固浴溶液を予め処理し、かかる膜の組み合わせは、精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過に加えて逆浸透膜をも含み、逆浸透処理では、NMMO質量濃度が5%の凝固浴溶液を25.7%まで濃縮し、後に行われる濃縮に必要なエネルギー消耗を大幅に削減することができる。
【0112】
1日目、3日目、5日目および7日目の凝固浴溶液試料および膜製品試料をそれぞれ取り、凝固浴溶液の総糖量、電気伝導率および膜処理の膜縦方向強度、引張強さ、透湿度(水フラックス)をそれぞれ測定した。
【0113】
【表4】
【0114】
表4に示すように、膜の組み合わせと晶析の組み合わせで凝固浴溶液を精製する方法は、凝固浴のNMMO溶液から糖類を含む様々な不純物を効率的かつ適時に除去することができ、連続7日間製造された膜は、機械的特性および水フラックス(透湿特性)の点で安定していた。
実施例6
【0115】
本実施例では、膜の組み合わせと晶析を組み合わせた精製方法により、セルローススポンジ製品の凝固浴溶液からNMMO溶媒を精製および回収するときの有効性を検証した。
【0116】
本実施例では、前述したセルローススポンジの製造方法に従ってセルローススポンジ製品を製造するが、セルローススポンジの製造時に細孔形成剤としてセルロース溶液重量の3倍の無水硫酸ナトリウムを添加する必要があるため、無機塩の添加量が非常に多くなり、凝固浴には大量の水を加えて希釈しなければならず、故に凝固浴溶液中の無機塩である硫酸ナトリウムの含有量が非常に高くなり、一方で凝固浴中のNMMO濃度が非常に低くなる。また、本実施例に係る凝固浴液中のNMMO濃度が2.2%であり、硫酸ナトリウム濃度が8.5%であり、このような高濃度の無機塩をイオン交換樹脂法で除去することは不可能である。
【0117】
本実施例において、凝固浴溶液は、まず膜の組み合わせによる前処理が行われ、ナノろ過膜が2価以上の無機塩を阻止でき、一方でNMMOが通過できるという特性を利用して、NMMOから硫酸ナトリウムの効果的な分離を達成する。ナノろ過膜を通過したNMMO溶液は、逆浸透膜によって更に濃縮され、本実施例において膜の組み合わせで予め処理された凝固浴溶液は、NMMO質量濃度が最大で23.1%に達し、電気伝導率が1841μs/cmであった。このことから、本発明の膜の組み合わせが、凝固浴中の糖類不純物を効果的に除去できるだけでなく、その中の高濃度の高原子価無機塩も効果的に除去でき、かつ低濃度のNMMO凝固浴溶液を低コストでNMMOの質量濃度23%以上に濃縮できることが分かる。ナノろ過膜の残液は、高濃度の硫酸ナトリウム溶液であり、それに含まれる硫酸ナトリウムは、従来のボウ硝精製・晶析法によって精製および回収することができる。
【0118】
膜の組み合わせで予め処理した凝固浴を、通常の減圧下で加熱蒸発によりNMMO質量濃度70.1%まで濃縮し、凝固浴中のNMMOを晶析精製して回収したところ、晶析率が81.5%であった。さらに、得られたNMMO結晶を高純度の水でNMMO質量濃度23%の水溶液に希釈し、得られた水溶液の電気伝導率が8.2μs/cmであり、結晶母液を69.8%の質量濃度に濃縮した後に再び晶析させ、晶析率が78.6%に達し、第1段階の晶析と第2段階の晶析の合計で96%の総晶析率が得られた。第2段階の結晶を水で希釈してNMMO質量濃度が23%の水溶液に調製し、得られた水溶液の電気伝導率が10.2μs/cmであり、第2段階の結晶母液の粘度がさほど高くないので、引き続き濃縮して晶析させることにより、NMMO結晶の回収率を更に向上させることもできる。両段階で得られた結晶は、どちらもセルロース溶液の調製に再利用することができる。
【産業上の実用性】
【0119】
以上で述べたように、本発明は、セルロース製品の凝固浴溶液からNMMOを精製および回収する方法を提供し、セルロース製品の凝固浴溶液の状況に応じて、膜処理による前処理と晶析精製を組み合わせることによって、または晶析精製のみで実施することができる。膜処理による前処理と晶析精製を組み合わせた精製方法では、まずセルロース凝固浴液を膜の組み合わせで予め処理し、溶液の粘度に影響を与える凝固浴中の糖類不純物や2価以上の無機塩不純物を除去した後、晶析により凝固浴NMMO溶液中のほとんどの有機不純物と無機不純物を除去し、高純度のNMMO結晶を水和状態で得る。結晶に水を加えて質量濃度23%のNMMO水溶液を調製し、電気伝導率は2.8~10.2μs/cmであり、結晶中のNMMO質量含有率は72.2%であり、これをそのまま膨潤法によるセルロース溶液の調製に使用することができ、また、NMMO結晶母液を繰り返して晶析処理に供することにより、NMMO回収率を99%以上にすることができ、最後に、多くの不純物を含む結晶母液の少量の残液は、有機廃液焼却法(TO)で焼却して処理することができ、すべての処理工程で「3つの廃棄物」を発生することはない。本発明に係る方法は、NMMO溶媒法でセルロース製品を製造するときに用いられるあらゆる凝固浴中のNMMOの精製および回収に適用することができ、しかもイオン交換樹脂を使用しないため、イオン交換樹脂の再生時に発生する廃水や廃棄イオン交換樹脂などの環境問題を完全に解決することができ、また、凝固浴中のNMMO濃度が低い場合に膜の組み合わせに逆浸透膜を追加することにより、逆浸透膜で低濃度の凝固浴NMMO溶液を低コストで質量濃度23%以上に濃縮することができ、その後に行われる濃縮処理のエネルギー消耗を大幅に削減することができる。本発明に係る精製方法は、製造コストが低く、産業化作業が簡単であり、適用範囲が広いという利点を有する。
【0120】
もちろん、本発明は他の様々な実施形態を有することができ、本発明の主旨およびその実質から逸脱しない前提で、当分野に精通した当業者は、本発明に従って様々な変更や変形を実行することができるが、これらの対応する変更および変形は、すべて本発明の特許請求の範囲に属するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース製品の凝固浴中のNMMOの精製に用いられるNMMOの精製方法であって、
前記NMMOを含む前記セルロース製品の凝固浴を、前記NMMOの質量濃度が56.5~84.5%になるように濃縮し、次いで-20℃~39℃の間で冷却晶析を行うことにより、NMMO水和物結晶を得るステップを含み、
そのうち、前記セルロース製品の凝固浴中の前記NMMOの質量濃度は、1~50%の範囲であり、前記NMMO水和物結晶は、2NMMO・5H Oであることを特徴とする、NMMOの精製方法。
【請求項2】
前記セルロース製品の凝固浴は、セルロースがNMMO溶液で前記セルロース製品を形成した後に残る混合物であり、
前記セルロース製品は、リヨセル短繊維、リヨセルフィラメント、セルロース膜、セルロース不織布、セルロースフィルム、セルロースたばこフィルタ材およびセルローススポンジのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項3】
前記セルロース製品の凝固浴を濃縮する前に、前記セルロース製品の凝固浴を膜処理によって精製することを更に含み、
前記膜処理は、精密ろ過処理、限外ろ過処理、ナノろ過処理および逆浸透処理のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項4】
前記濃縮により、前記セルロース製品の凝固浴中の前記NMMOの質量濃度を56.5~72%にし、
前記冷却晶析を行う際に、冷却速度が1~4℃/時間であり、
および/または、得られた結晶の純度を向上させるために、前記冷却晶析時に、前記セルロース製品の凝固浴中のNMMO重量の0.1%以上となるように、NMMO水和物結晶種を添加する、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項5】
前記冷却晶析は、少なくとも第1段階の冷却晶析を含み、
該第1段階の冷却晶析により、NMMO水和物結晶および結晶母液が得られ、該結晶母液は、引き続き前記冷却晶析が行われる、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項6】
前記セルロース製品の凝固浴は、凝集沈降を経てまたは経ずに精密ろ過処理および限外ろ過処理に供され、前記精密ろ過処理のろ過孔径が0.1~100μmであり、
前記精密ろ過処理によって得られた精密ろ過濾液は、前記限外ろ過処理に供され、前記限外ろ過処理の分子量カットオフが1100~100000ダルトンの範囲であり、限外ろ過清澄液を得る、請求項1に記載のNMMOの精製方法。
【請求項7】
前記限外ろ過清澄液をナノろ過処理に供してナノろ過濾液を取得し、
前記ナノろ過処理の分画分子量が150~1000ダルトンの範囲であり、前記ナノろ過濾液に前記NMMOが存在する、請求項6に記載のNMMOの精製方法。
【請求項8】
前記ナノろ過清澄液を高圧逆浸透処理に供して予め濃縮を行い、前記高圧逆浸透処理の作業圧力は、50~83barの範囲である、請求項7に記載のNMMOの精製方法。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の精製方法により得られたNMMO水和物結晶。
【請求項10】
セルロース製品の凝固浴からNMMOを精製するために用いられるNMMOの精製システムであって、
精密ろ過装置、限外ろ過処理装置およびナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つと、
前記精密ろ過装置、前記限外ろ過処理装置および前記ナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つに連通される晶析装置と、
該晶析装置に接続され、該晶析装置における晶析条件を制御する制御装置とを備え、
前記セルロース製品の凝固浴を、前記精密ろ過装置、前記限外ろ過処理装置および前記ナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つに供することによりNMMOろ液を取得し、
該NMMOろ液を-20℃~39℃の間で冷却晶析を行うことにより、2NMMO・5H OというNMMO水和物結晶を得ることを特徴とする、NMMOの精製システム。
【請求項11】
前記精密ろ過装置、前記限外ろ過処理装置および前記ナノろ過処理装置のうちの少なくとも1つおよび前記晶析装置に連通される高圧逆浸透装置を更に備え、
前記NMMOろ液を、前記高圧逆浸透装置に供して濃縮した後、前記晶析装置に供して晶析させる、請求項10に記載のNMMOの精製システム。
【国際調査報告】