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  • 特表-肺サーファクタントを調製する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】肺サーファクタントを調製する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/42 20150101AFI20240628BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 31/685 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K35/42
A61P11/00
A61K9/72
A61K31/685
A61K38/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500025
(86)(22)【出願日】2022-07-04
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2022068366
(87)【国際公開番号】W WO2023280737
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】21183790.1
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591095465
【氏名又は名称】キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】グイディ,トマーゾ
(72)【発明者】
【氏名】リッツォ,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ボッキ,モニカ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC15
4C076FF68
4C084BA03
4C084BA46
4C084CA21
4C086DA42
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA05
4C087BB55
4C087MA13
4C087NA14
4C087ZA59
(57)【要約】
肺サーファクタントを調製する方法
本発明は、外因性肺サーファクタント、特に修飾天然サーファクタントまたは再構成サーファクタントを調製する方法であって、最終濾過工程が塩素系溶媒を使用せずに行われる方法に関する。本発明はまた、前記方法によって得られる生成物および対応する医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾天然サーファクタントまたは再構成合成サーファクタントから選択される外因性肺サーファクタントを調製する方法であって、
i)哺乳動物の肺から前記修飾天然サーファクタントを乾燥ペーストの形態で抽出するか、前記再構成合成サーファクタントの乾燥成分を混合する工程;
ii)得られたペーストまたは混合物を精製する工程;
iii)工程ii)の精製は、以下の工程によって行われる:
iv)前記修飾天然サーファクタントのペーストまたは前記再構成サーファクタントの成分を、2-メチル-2-プロパノールを含む有機溶媒に溶解する工程、
v)得られた溶液を濾過による滅菌にかける工程;および
vi)乾燥工程、
を含む方法。
【請求項2】
有機溶媒が、2-メチル-2-プロパノールのみからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶解工程i)が、30℃~40℃の温度で攪拌しながら行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記攪拌が、300~400rpmの速度で15~30分間行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程1におけるサーファクタントと有機溶媒との比が6~20%w/vである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記再構成サーファクタントが、ルシナクタントまたはエリファクタントである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記修飾天然サーファクタントが、ポラクタントアルファおよびそのバイオシミラー、ベラクタント、カルファクタントおよびボバクタントからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記修飾天然サーファクタントがポラクタントアルファである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
以下の工程を含む、請求項6に記載の方法:
i)適当なブレンダーでブタの肺を切り刻む工程;
ii)切り刻んだ肺を生理学的溶液で抽出し、次に、濾過し、混合物を遠心分離にかける工程;
iii)上清を有機溶媒またはその混合物で抽出し、次に、有機相を蒸発乾固させる工程;
iv)極性脂質および疎水性タンパク質SP-CおよびSP-Bを含有する画分を分離する工程;
v)前記画分を集めてプーリングし、次に、有機溶液を蒸発乾固させることで、サーファクタントを乾燥ペーストの形態で得る工程;
vi)前記修飾天然サーファクタントのペーストを、2-メチル-2-プロパノールを含む有機溶媒に溶解する工程;
vii)得られた溶液を濾過による滅菌にかける工程;および
viii)乾燥工程。
【請求項10】
工程iv)の分離が、サイズ排除液体-ゲルクロマトグラフィーにより行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程iv)の分離が、塩素系溶媒を使用せずに行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
工程iv)の分離が、超臨界液を使用することによって行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
以下の工程をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法:
ix)前記乾燥生成物を、室温で攪拌しながら無菌生理学的塩化ナトリウム水溶液に再懸濁する工程;
x)場合により、懸濁液のpHを所望の値に調整する工程;および
xi)懸濁液を無菌条件下で適当な単回使用バイアルに充填する工程。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって得られる外因性肺サーファクタント。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって得られる外因性肺サーファクタントを含む医薬製剤。
【請求項16】
肺サーファクタントの欠乏または機能不全に起因または関連するさまざまな肺障害、異常状態および疾患の予防または処置に使用するための、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって得られる外因性肺サーファクタント。
【請求項17】
新生児呼吸促迫症候群(RDS)の処置に使用するための、請求項16に記載の外因性肺サーファクタント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾天然サーファクタントを調製する方法に関する。本発明はまた、前記方法によって得られる生成物、対応する医薬組成物およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肺サーファクタントは、肺胞の内側を覆う脂質-タンパク質混合物である。肺胞内の気液界面に単層として脂質が存在すると、表面張力が低下する。それにより、呼気中に肺胞が虚脱する傾向が低下し、おそらく気腔への液体の浸出も減少する。
【0003】
内因性肺サーファクタントは、約80重量%のリン脂質、10重量%のタンパク質および10重量%のトリグリセリドなどの中性脂質、ならびにさらなる微量成分を含む。
【0004】
リン脂質の中でも、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)は、吸気段階で気液界面に単分子膜を形成することで、肺胞システムを安定化させるため、最も重要な役割を担っている。
【0005】
天然肺サーファクタントには通常、少なくともSP-A、SP-B、SP-CおよびSP-Dといった4種類のタンパク質が存在する。これらの4種類のうち、SP-BとSP-Cは、異なる低分子量の疎水性タンパク質であり、おそらくバルク相のラメラ組織から気水界面への脂質の移動を促進し、また呼気中の脂質単分子膜を安定化することによってサーファクタントリン脂質混合物の表面活性特性を高めることが示されている(Hawgood S et al Biochim Biophys Acta. 1998 Nov 19;1408(2-3) pp 150-160; Johansson J Biochim Biophys Acta. 1998 Nov 19;1408(2-3) pp 161-72参照)。
【0006】
肺サーファクタントの欠乏または機能不全は、呼吸困難と名づけられた重度呼吸器疾患を引き起こし、これは、特に早産児や重度肺動脈弁閉鎖不全を伴うさまざまな病態に罹患した成人において、高い罹患率と死亡率の原因となっている。
【0007】
さまざまな外因性サーファクタントによる置換療法は、実験的研究でも臨床研究でも有益であることが証明されている。
【0008】
特に、哺乳動物の肺から抽出された修飾天然サーファクタントは、置換療法として広く使用されている。
【0009】
広く利用されている修飾天然サーファクタントは、Curosurf(登録商標)(Chiesi Farmaceutici SpA, Italy)の商標で販売されているブタ肺由来のポラクタントアルファ(poractant alfa)、ウシ肺由来のベラクタント(beractant)(Survanta(登録商標), AbbVie Inc, USA)およびボバクタント(bovactant)(Alveofact(登録商標) Lyomark Pharma GmbH, Germany)、および子ウシ肺由来のカルファクタント(calfactant)(Infasurf(登録商標), Ony Biotech, USA)である。
【0010】
一般的には、哺乳動物の肺の気道から表面活性物質をさまざまな方法で取り出し、次に、有機溶媒で抽出し、乾燥させる。
【0011】
以下、乾燥して得られた原料をペーストと定義する。
【0012】
例えば、US6,129,934には、カルファクタントを得る方法であって、気管支肺胞洗浄のプロセスによって子ウシの肺の気道から表面活性物質を取り出す、方法が開示されている。気管支肺胞洗浄によって集められた液体を遠心分離し、表面活性物質の濃縮された沈殿物を集める。次に、該表面活性物質の沈殿物を生理食塩水などの水溶液を添加することによって所望の量にする。
【0013】
水性懸濁液からの表面活性物質の抽出は、クロロホルム、ベンゼン、クロロホルムおよびメタノールの混合物、エーテルおよびエタノールの混合物、ならびにヘキサンおよびエタノールの混合物、を含むがこれらに限定されないさまざまな有機溶媒を用いて実施され得る。好ましい実施態様において、クロロホルムおよびメタノールの混合物が使用される。
【0014】
代わりにベラクタントを得る方法は、US4,397,839に開示されており、(a)哺乳動物の切り刻んだ肺組織を電解液に接触させることで抽出物を得る工程;(b)前記抽出物を遠心分離することで粗沈殿物を集める工程;(c)塩化ナトリウムを添加することにより前記粗沈殿物の水性懸濁液の比重を調整し、該調整された懸濁液を遠心分離して乳化したスカム層を含む最上層を単離する工程;(d)前記最上層の水性懸濁液を透析し、該透析された懸濁液を凍結乾燥して粗乾燥物を得る工程;(e)前記粗乾燥物を酢酸エステルに接触させることで酢酸エステルに不溶性の物質を集め、次に、前記不溶性の物質を有機溶媒混合物に接触させることで精製濾液を得る工程;および(f)前記精製濾液を濃縮して固体残留物を得る工程、を含む。
【0015】
ポラクタントアルファを調製する方法はEP286,011に開示されており、以下の工程を含む:i)動物の肺を切り刻み、食塩水溶液で洗浄する工程;ii)その後の濾過、遠心分離、クロロホルムとメタノール2:1(v/v)の混合溶媒による抽出によってサーファクタントを分離する工程;iii)溶媒を蒸発乾固させることを介して生脂質画分を回収する工程;iv)後者を、溶出剤として1,2-ジクロロエタン:メタノール=1:4(v/v)を用い、樹脂Lipidex(登録商標)-5000を用いた逆相クロマトグラフィーで精製する工程、を含む。
【0016】
クロマトグラフィーカラムによる精製工程は、明確に定義された再現性のある組成を有する修飾天然サーファクタントを確保するために重要であると考えられ、生物活性の原因と考えられる成分、すなわち極性脂質、主にリン脂質、疎水性タンパク質SP-CおよびSP-Bが豊富であり、必須でない成分、すなわち炭水化物、中性脂質、例えばトリグリセリド、コレステロールおよび遊離脂肪酸を実質的に除去した表面活性物質を得るために最適化されている。
【0017】
サーファクタントの調製を改善する必要性から、修飾天然サーファクタントの組成を模倣した合成サーファクタントが開発されてきた。当該合成サーファクタントは、再構成サーファクタントとして知られている。
【0018】
再構成サーファクタントの例としては、限定されるものではないが、WO2010/139442の9ページおよび10ページを要約した段落に開示されている組成を有し、実験コードCHF 5633の当技術分野で知られている生成物である、ルチナクタント(SurfaxinTM, Windtree Therapeutics, Inc., Warrington, Pa.)およびエリファクタント(elifactant)が挙げられる。
【0019】
サーファクタントの種類に関係なく、修飾天然サーファクタントのペーストまたは再構成サーファクタントの成分は、一般的に溶解され、滅菌濾過によるさらなる精製工程を経る。
【0020】
例えば、EP 286,011によれば、濾過前のペーストは98:2のクロロホルム/メチルアルコール(V/V)に溶解することができる。
【0021】
ただし、クロロホルムなどの特定の溶媒の使用は、製造方法の残りの工程と生成物の品質の両方に潜在的に影響を与えることがある。例えば:
i)配管およびフィルターの両方は通常、化学的ストレスにさらされており、使用できる材料の範囲が減少する可能性がある;
ii)結果として、生成物への抽出可能な成分のレベルが、追加処理を必要とすることがある;
iii)溶媒蒸発工程のプロセスでは、残留する化学成分を除去するために、ある程度の時間または複数回の繰り返しを要することがある。
【0022】
したがって、上記のリスクを低減または軽減し、同時に生成物のすべての品質特性を保証するためには、異なる溶媒が関与する代替工程が望ましい。
【0023】
他方で、リン脂質の疎水性構造のため、水性媒体中で溶解相の検証を行うことは非常に困難である。したがって、新しい候補は、以下のようないくつかの定義された基準を満たす有機溶媒でなければならない:
i)クロロホルムに置換可能であること;
ii)タンパク質などの温度に敏感な成分が存在し、体温の周囲で表面活性物質を溶解できること。
iii)溶解段階において同程度の割合の問題となる体積を許容すること;
iv)蒸発段階に適していること、すなわち適切な物理的性質(沸点、蒸気圧など)を有すること;
v)市場において、段階的廃止のリスクが低下、または全くなく、容易に入手可能であること。
【0024】
この問題は本発明によって解決される。
【発明の概要】
【0025】
第一の実施態様において、本発明は、修飾天然サーファクタントまたは再構成合成サーファクタントから選択される外因性肺サーファクタントを調製する方法であって、
i)哺乳動物の肺から前記修飾天然サーファクタントを乾燥ペーストの形態で抽出するか、前記再構成合成サーファクタントの乾燥成分を混合する工程;
ii)得られたペーストまたは混合物を精製する工程;
ここで、工程ii)の精製は、以下の工程によって行われる:
iii)前記修飾天然サーファクタントのペーストまたは前記再構成サーファクタントの成分を、2-メチル-2-プロパノールを含む有機溶媒に溶解する工程、
iv)得られた溶液を濾過による滅菌にかける工程;および
v)乾燥工程、
を含む方法。
【0026】
有利には、修飾天然サーファクタントの乾燥ペーストは、洗浄またはカラム溶出によって哺乳動物の肺から得ることができる。
【0027】
好ましくは、修飾天然サーファクタントは、ポラクタントアルファである。
【0028】
従って、好ましい実施態様において、本発明は、以下の工程を含む、ポラクタントアルファを調製する方法を提供する:
i)ブレンダーでブタの肺を切り刻む工程;
ii)切り刻んだ肺を生理学的溶液で抽出し、次に、濾過し、混合物を遠心分離にかける工程;
iii)上清を有機溶媒またはその混合物で抽出し、次に、有機相を蒸発乾固させる工程;
iv)極性脂質および疎水性タンパク質SP-CおよびSP-Bを含有する画分を分離する工程;
v)前記画分を集めてプーリングし、次に、有機溶液を蒸発乾固さることで、サーファクタントを乾燥ペーストの形態で得る工程;
vi)得られたペーストを、2-メチル-2-プロパノールを含む有機溶媒に溶解する工程;
vii)得られた溶液を滅菌にかける工程;および
viii)乾燥工程。
【0029】
本発明はまた、本発明の方法によって得られる外因性肺サーファクタントに関する。
【0030】
別の態様において、本発明は、本発明の方法によって得られる外因性肺サーファクタントを活性成分として含む医薬製剤に関する。
【0031】
また、本発明は、肺サーファクタントの欠乏または機能不全に起因または関連するさまざまな肺障害、異常状態および疾患の予防または処置に使用するための、本発明の方法によって得られる外因性肺サーファクタントに関する。
【0032】
さらなる態様において、本発明は、肺サーファクタントの欠乏または機能不全に起因または関連する種々の肺障害、異常状態および疾患を予防または処置するための医薬の製造における、本発明の方法によって得られる外因性肺サーファクタントの使用に関する。
【0033】
さらに、本発明は、肺サーファクタントの欠乏または機能不全に起因または関連する種々の肺障害、異常な状態および疾患を予防または処置する方法であって、そのような処置を必要とする患者に、本発明の方法よって得られる外因性肺サーファクタントの治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の方法によって得られたCurosurf(登録商標)の時間/圧力の関数としての一回呼吸量(ml/kg)を、Curosurf(登録商標)対照および未処理動物と比較した結果を示す。
【0035】
定義
用語「サーファクタント」および「表面活性物質」は、同義語として使用される。
【0036】
さまざまな種類の外因性肺サーファクタントの包括的な定義については、Wilson D. Expert Opin Pharmacother 2001, 2, 1479-1493を参照のこと。
【0037】
用語「修飾天然サーファクタント」とは、製造方法で使用される脂質抽出工程により、親水性タンパク質SP-AおよびSP-Dが除去され、疎水性タンパク質SP-BおよびSP-Cが一定量含有されている、切り刻んだ哺乳動物の肺の脂質抽出物を意味する。抽出方法によっては、異なる量のリン脂質、非サーファクタント脂質、およびその他の微量成分が含まれることがある。
【0038】
用語「人工サーファクタント」とは、天然サーファクタントの脂質組成と性状を模倣するように配合されるが、サーファクタントタンパク質を含まない、合成化合物、主にリン脂質およびその他の脂質の単純な混合物を意味する。
【0039】
用語「再構成」肺サーファクタントとは、動物から単離される肺サーファクタントタンパク質/ペプチド、または組換え技術により製造されるタンパク質/ペプチドが添加された人工肺サーファクタントを意味する。
【0040】
用語「乾燥」とは、有機溶媒の蒸発後に得られるサーファクタント物質を意味する。水を含む残留溶媒の量は限られた量で含まれる。
【0041】
アルコール2-メチル-2-プロパノールはtert-ブタノールとしても知られている。
【0042】
用語「極性脂質」には、主にリン脂質のほか、プラスマロゲン、糖脂質、カルジオリピンおよびリゾリン脂質などの微量成分が含まれる。
【0043】
用語「リン脂質」とは、非極性疎水性尾部、グリセロールまたはスフィンゴシン部分、および極性頭部からなる脂質を意味する。非極性疎水性尾部は通常、飽和(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸およびステアリン酸)、一価不飽和(例えばオレイン酸)または多価不飽和(例えば、リノール酸やアラキドン酸)の長鎖脂肪酸である。
【0044】
極性頭部は窒素含有塩基に結合したリン酸基を有する。
【0045】
サーファクタント中のリン脂質画分は主にホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)およびスフィンゴミエリン(SM)を含む。
【0046】
用語「中性脂肪」は、トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドを含む。
【0047】
用語「サイズ排除液体-ゲルクロマトグラフィー」とは、固定相が分子サイズに従って分離される物質を保持するゲルであるクロマトグラフィーシステムを意味する。
【0048】
用語「ポラクタントアルファのバイオシミラー」とは、同一の安全性プロファイルを有し、治療的に同等であり、少なくとも80%(特にリン脂質およびサーファクタント蛋白質SP-BおよびSP-Cに関して)の定性-定量組成の類似性を有し、80/mg/mlの濃度で水溶液中に懸濁させたときに室温で15mPas(cP)以下の粘度を有する修飾天然肺サーファクタントを意味する。粘度は既知の方法に従って決定することができる。
【0049】
用語「ブレンダー」とは、有機物質を混合し、粉砕し、切り刻むために使用される、典型的にはステンレス鋼の装置を意味する。一般的には、下部に回転する金属製のブレードが付いた容器で構成され、電気モーターで駆動される。
【0050】
用語「無菌」は、欧州薬局方(Ph. Eur. 1998, Chapters 2.6.1 and 5.1.1)による無菌の基準を満たす生成物を意味する。最終生成物の無菌性に関する更なる規制には、米国薬局方23/NF18, 1995, pp. 1686-1690および1963-1975が含まれる。
【0051】
サーファクタント調剤の「サーファクタント活性」は、表面張力を低下させる能力と定義される。
【0052】
外因性サーファクタント調剤のインビトロ有効性は、Wilhelmy BalanceやCaptive Bubble Surfactometerのような適切な装置を用いて表面張力を低下させる能力を測定することにより試験されるのが一般的である。
【0053】
外因性サーファクタント調剤のインビボでの有効性は、一般に2つのパラメータを測定することによって試験される:
i)肺コンプライアンスの指標である一回呼吸量、および
ii)呼気終了時の肺胞気膨張または開存性の指標であり、したがって呼気終了時に肺胞内に安定なリン脂質膜を形成する能力である肺ガス容量。
【0054】
本発明の詳細な説明
本発明の方法、得られた生成物および対応する医薬組成物の特徴は以下の詳細な説明に記載される。
【0055】
第一の実施態様において、本発明は、修飾天然サーファクタントまたは再構成合成サーファクタントから選択される外因性肺サーファクタントを調製する方法であって、
i)哺乳動物の肺から前記修飾天然サーファクタントを乾燥ペーストの形態で抽出するか、前記再構成合成サーファクタントの乾燥成分を混合する工程;
ii)得られたペーストまたは混合物を精製する工程;
iii)ここで、工程ii)の精製は以下の工程によって行われる:
iv)前記修飾天然サーファクタントのペーストまたは再構成サーファクタントの成分を、2-メチル-2-プロパノールを含む有機溶媒に溶解する工程;
v)得られた溶液を濾過による滅菌にかける工程;および
vi)乾燥工程、
を含む方法を提供する。
【0056】
有利には、修飾天然サーファクタントのペーストは、当該技術分野で報告されている方法、例えばクロマトグラフィーカラム上の溶出または気管支肺胞洗浄に基づく方法に従って調製することができる。
【0057】
好ましくは、有機溶媒は2-メチル-2-プロパノールを含み、2-メチル-2-プロパノールのみからなる溶媒がさらに好ましい。さらに好ましい実施態様において、溶媒は、純度が99.5%より高い無水2-メチル-2-プロパノールである。
【0058】
本発明の方法の工程iii)の溶解は、通常、穏やかな加温、すなわち30℃~40℃の温度、好ましくは35℃±1℃で攪拌しながら行われる。
【0059】
当業者は攪拌の速度と時間を決定しなければならないが、これは通常300~400rpmで15~30分間である。
【0060】
当業者は、サーファクタントと有機溶媒との間の比を決定しなければならない。本発明の好ましい実施態様において、前記比は5%w/wより高い。より低い割合では完全な溶解が得られないことが実際に見出されている。
【0061】
好ましくは、6~20%w/v、より好ましくは8~12%w/vを含む。
【0062】
本発明の方法の工程iv)の濾過による滅菌は、当業者の知識に基づいて行うことができる。
【0063】
場合により、溶液は、0.45ミクロンの孔径の膜フィルターを介して浄化工程にかけ;その後、例えば0.22および0.1ミクロンの孔径のフィルターを用いた濾過によって滅菌される。
【0064】
本発明の方法の工程v)において、溶媒は、当業者に公知の方法、例えば、窒素下での透析または蒸発および/または真空への曝露、または凍結乾燥などの他の適切な技術によって除去することができる。
【0065】
本発明の溶媒としての2-メチル-2-プロパノールの化学的性質および物理的性質から、接線流濾過などのより迅速な乾燥技術を有利に適用することができる。
【0066】
注目すべきことに、本工程によれば、乾燥工程の終わりにおける残留2-メチル-2-プロパノールの量は、3000ppm以下、好ましくは1500rpm以下である。
【0067】
任意の外因性修飾天然肺サーファクタントまたは再構成肺サーファクタントを使用することができる。有利には、再構成サーファクタントは、ルシナクタント(SurfaxinTM, Windtree Therapeutics, Inc., Warrington, Pa)およびCHF 5633として当該技術分野で引用されているサーファクタント(Chiesi Farmaceutici SpA, Italy)から選択され、修飾天然サーファクタントは、ポラクタントアルファ(Curosurf(登録商標),Chiesi Farmaceutici SpA, Italy)およびそのバイオシミラー、ベラクタント (Survanta(登録商標), AbbVie Inc, USA)およびボバクタント(Alveofact(登録商標), Lyomark Pharma GmbH, Germany)、カルファクタント(Infasurf(登録商標), Ony Biotech, USA)、Bles(登録商標)(Bles Biochemicals Inc, Canada)、KeLiSu(Double Crane, China)、サーファクタントTA(Surfaten(登録商標), Mitsubishi Tanabe Pharma Corporation, Tokyo)および他のSurfacen(登録商標)、Beraksurf(登録商標)、Newfactan(登録商標)、サーファクタントGray(登録商標)およびサーファクタントBL(登録商標)から選択される。好ましい修飾天然サーファクタントはポラクタントアルファである。
【0068】
従って、好ましい実施態様において、本発明は、ポラクタントアルファを調製する方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
i)適当なブレンダーでブタの肺を切り刻む工程;
ii)切り刻んだ肺を生理学的溶液で抽出し、次に、濾過し、混合物を遠心分離にかける工程;
iii)上清を有機溶媒で抽出し、次に、有機相を蒸発乾固させる工程;
iv)極性脂質および疎水性タンパク質SP-CおよびSP-Bを含有する画分を分離する工程;
v)前記画分を集めてプーリングし、次に、有機溶液を蒸発乾固させることで、サーファクタントを乾燥ペーストの形態で得る工程;
vi)前記修飾天然サーファクタントのペーストを、2-メチル-2-プロパノールを含む有機溶媒に溶解する工程;
vii)得られた溶液を濾過による滅菌にかける工程;および
viii)乾燥工程。
【0069】
好ましくは、有機溶媒は2-メチル-2-プロパノールのみからなる。
【0070】
実施例3および4を参照して以下の実験部分でさらに詳細に説明するように、2-メチル-2-プロパノールを使用することにより、同じ定性-定量組成を示し、ポラクタントアルファ対照バッチと同様の一回呼吸量を示す生成物を得ることができる。
【0071】
工程i)は、当業者の知識に従って実施することができる。
【0072】
上記の工程ii)において、切り刻んだ肺を生理学的溶液で抽出する。混合物をストレーナーで濾過し、有利には20℃で1,000×g、30分未満、好ましくは15分間遠心分離にかけることで、細胞デブリを除去する。
【0073】
4℃に2時間冷却した後、上清をさらに3,000×gで、有利には2時間以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは15分間再遠心分離する。
【0074】
上記工程iii)において、ペレット状の生固体サーファクタントを取り出し、EP 286,011に開示されるハロゲン炭化水素および短鎖脂肪族アルコールの混合物で抽出する。
【0075】
得られた溶液を濾過し、水で洗浄し、次に、当業者に周知の装置を用いて真空下で蒸発乾固させる。
【0076】
工程iv)によれば、生物活性の原因となる成分(極性脂質、主にリン脂質、疎水性タンパク質SP-C、SP-B)を含む画分を抽出によって他の画分から分離することは、当該技術分野で公知の方法に従って行うことができる(Saini R K et al Int J Molecular Sci 2021, 22, 1-19)。
【0077】
ポラクタントアルファの場合、有利には、生物活性の原因となる成分(極性脂質、主にリン脂質、疎水性タンパク質SP-C、SP-B)を含む画分を他の画分から分離する(工程iv)は、EP 286,011で報告されているように、固定相として親油性Sephadex誘導体、および溶出剤としてハロゲン炭化水素および短鎖脂肪族アルコールの混合物を使用するサイズ排除ゲルクロマトグラフィーによって行われる。
【0078】
より有利には、クロマトグラフカラムに充填するのに使用される固定相は、Sigma CoやPackard Insなどの異なる供給者からLipidex(登録商標)-5000の商標で販売されているSephadex(登録商標)で構成される。
【0079】
あるいは、工程iv)は、クロロホルムなどの塩素系溶媒を使用しない方法を用いて行うことができる。
【0080】
例えば、工程iv)は、EP 670846に記載されているように、超臨界液を用いて実施することができる。不活性支持体、超臨界液の圧力および温度、ならびに共溶媒の種類および量の更なる調整は、当業者がその知識に従って行うことができる。
【0081】
そうでなければ、前記工程は、まず、当該技術分野で知られている方法(C. Allegre et al. / Journal of Membrane Science 269 (2006) 109-117)に従って、ナノ濾過および限外濾過によって、コレステロールならびにモノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドなどの成分を除去し、次に、イオン交換クロマトグラフィーならびに溶出剤としてのt-ブタノールと水の混合物によって、生物活性の原因となる成分を得ることによって実施することができる(Separation of lipid mixtures, 1972. Lab. Tech. Biochem. Mol. Biol. 3, 393-469)。
【0082】
前記工程v)において、極性脂質および疎水性タンパク質SP-BおよびSP-Cを含む画分を集めてプーリングし、次に、有機溶液を50℃未満、好ましくは40℃未満の温度で蒸発乾固させる。
【0083】
上記に開示されたように実施される上記工程vi)~viii)は、ポラクタントアルファにとって特に重要である。
【0084】
前記修飾天然サーファクタントは、現在利用可能な他のものと比較して、粘度の点で確かに特異な性質を有する。
【0085】
従来技術によれば、これは、ポラクタントアルファが生物活性に関与すると考えられる成分、すなわち極性脂質および疎水性タンパク質SP-CおよびSP-Bから本質的に構成されていること、ならびに、リン脂質画分が2つの成分、すなわちプラスマロゲンとPLを含む多価不飽和脂肪酸が豊富であることに起因する(Rudiger M et al. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2005, 288, 379-383を参照のこと)。
【0086】
したがって、選択される溶媒および条件は、次の工程vi)およびvii)のサーファクタントの組成が変化しないことを保証すべきである。
【0087】
工程viii)の終わりのポラクタントアルファのペーストは、次の組成を有する(すべての値は、サーファクタントの乾燥質量の総重量に対するパーセンテージで示される):
総リン含有量(P):3.6~4.2%;
疎水性タンパク質SP-CおよびSP-B:0.5~2.2%;
中性脂質:0.5%以下;
コレステロール:0.5%以下;
遊離脂肪酸(FFA):1.5%以下、好ましくは1.0%未満;
残留溶媒:6.0%以下;
【0088】
ホスファチジルコリン種に関する限り、サーファクタントは総リン含有量に基づいて以下の百分組成を有する:
ホスファチジルコリン(PC)含有量:66~77%;
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)含有量:28%超、好ましくは33~45%;
リゾフスパチジルコリン(lysophspatidylcholine, LPC)含有量:2.0%以下
【0089】
場合により、乾燥ペーストは、中性脂質、コレステロール、遊離脂肪酸、炭水化物および残留溶媒などの生物活性に必須でない成分を少量含み得る。
【0090】
有利には、前記必須でない成分の総量は、サーファクタントの乾燥質量の総重量に対して算出して5%未満、好ましくは3.5%未満、より好ましくは2.5%未満、さらに好ましくは1%未満である。
【0091】
肺サーファクタントのさまざまな成分は、当該技術分野で報告されている方法に従って決定することができる。
【0092】
例えば、総リン含有量は、Barlett GR J Biol Chem, 1959, 234, 406-408の方法に基づく比色操作に従って推定することができる。
【0093】
PCおよびLPCの含有量は以下の操作で推定できる。
【0094】
まず、サーファクタントのリン脂質クラスを、Poorthius BJH et al.J Lipid Res 1976, 17, 433-436に従って次元の薄層クロマトグラフィー(TLC)によって最初に分離する。
【0095】
PCおよびLPCのスポットに対応するシリカ(参照標準物質との比較により同定)を、TLCプレートから適切な刃物で回収し、試験管に移す。
【0096】
試料の無機化は、総リン含有量の測定のために報告された手順に従って、各試験管内で実施される(上述)。
【0097】
DDPCの含有量は、Mason RJ J Lipid Res 1976, 17, 281-284に報告された方法に従ってOsO4で推定できる。
【0098】
DPPCに関連するリン含有量は、総リン含有量に対して決定される。
【0099】
遊離脂肪酸、中性脂質(トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリド)およびコレステロール(分画遊離コレステロールおよびコレステロールエステル)の含有量は、当技術分野で公知の方法によるHPLC分析によって推定することができる。
【0100】
疎水性タンパク質SP-CおよびSP-Bの含有量は、市販のキット「BCAタンパク質定量試薬」を用いて以下の操作に従って測定することができる。そうでなければ、当該技術分野で報告されているHPLCまたはキャピラリー電気泳動法に従って測定することができる。
【0101】
炭水化物は、Dubois et al Anal Chem 1956, 28, 350-356に記載の方法に従って定量することができ、グルコースで示すことができる。
【0102】
それぞれ残留溶媒および残留水含有量は、当業者に周知の方法に従って、ガスクロマトグラフィおよびカールフィッシャー法により推定する。
【0103】
本発明はまた、本発明の方法によって得られるまたは得ることができる、哺乳動物の肺からペーストの形態で抽出される修飾天然サーファクタント、または再構成サーファクタントに関する。
【0104】
本発明はまた、本発明の方法により得られるまたは得ることができる、哺乳動物の肺からペーストの形態で抽出される修飾天然サーファクタント、または再構成サーファクタント、を含む医薬組成物に関する。
【0105】
前記組成物は、有利には、溶液、分散液、懸濁液または乾燥粉末の形態で投与される。好ましくは、前記組成物は、肺サーファクタントが適当な溶媒または再懸濁媒体、典型的には生理的塩化ナトリウム水溶液中に懸濁された無菌製剤の形態である。
【0106】
したがって、懸濁液の形態で無菌製剤を調製するために、本発明の方法は、場合により以下の工程を含んでいてもよい:
-ix)乾燥生成物を、室温で攪拌しながら無菌生理的塩化ナトリウム水溶液に再懸濁させる工程:
-x)場合により、懸濁液のpHを所望の値に調整する工程、および
-xi)懸濁液を、無菌条件下で適当な単回使用バイアル(single-use vial)に充填する工程。
【0107】
工程ix)は、当技術分野では薄膜水和として知られており、機械的攪拌または超音波処理によって達成することができ、場合により、次いで押出加工を行う。
【0108】
有利には、肺サーファクタントの濃度は、1ml当たり約2mg~約160mgのサーファクタント、好ましくは10mg/ml~から100mg/ml、より好ましくは20mg/ml~80mg/mlの範囲である。ポラクタントアルファ使用する場合、好ましい濃度は80mg/mlである。
【0109】
本発明の方法によって得られる肺サーファクタントを含む無菌製剤は、当業者に公知の方法、好ましくは気管内設置(注入またはボーラス)またはネブライザーによって投与され、肺サーファクタントの欠乏または機能不全に起因または関連する種々の肺障害、異常状態および疾患の処置または予防に有用である。例として、硝子膜疾患、乳児および成人の呼吸窮迫症候群(IRDSおよびARDS)、急性肺傷害(オゾンの吸入、煙の吸入または吸引の近くに起因するものなど)、容量損傷および気圧性外傷により誘発されるサーファクタント不活化の状態、胎便吸引症候群、毛細管漏出症候群、細菌性肺炎およびウイルス性肺炎および気管支肺異形成症などがある。
【0110】
また、肺炎、気管支炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息および嚢胞性線維症などの他の呼吸器障害の処置または予防、漿液性中耳炎(グルー耳)の処置にも有用である。
【0111】
以下の実施例では、本発明を詳細に例示する。
【実施例
【0112】
実施例1-ポラクタントアルファの乾燥ペーストの調製
ブタ肺約180kgをブレンダーで粉砕し、組織断片を生理的溶液で洗浄する。混合物をストレーナーで濾過し、1000×g、20℃で15分間予備遠心分離にかけ、細胞デブリを除去する。次に、上清液を3000×g、4℃で2時間再遠心分離する。生サーファクタントを取り出し、クロロホルム:メタノール2:1(v/v)で抽出し、濾過し、水で洗浄し、有機相を蒸発させて、生脂質抽出物を得る。脂質画分抽出物(約500g)を約4リットルのクロロホルム:メタノール1:4(v/v)で回収し、0.2~0.4気圧で窒素を充満させた2.5ミクロンの膜フィルターを介して濾過し、次に、溶出剤としてクロロホルム:メタノール1:4(v/v)を有するLipidex(登録商標)-5000包装材料2を充填したカラムを用いて逆相クロマトグラフィーによって分離する。
【0113】
乾燥物質として約200gの精製ポラクタントアルファを得て、上記で報告した分析法を用いて試験した。
【0114】
精製ポラクタントアルファ乾燥物質は、以下の組成を有する(すべての値は、乾燥質量の総重量に対する百分率で示される):
総リン含量:3.8%;
ホスファチジルコリン(PC)含有量:68%;
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)含有量:40%;
リゾフスパチジルコリン(LPC)含有量:1.0%
疎水性タンパク質SP-CおよびSP-B:1.6%;
遊離脂肪酸:0.9%;
中性脂質:検出不能;
コレステロール: 検出不能;
炭水化物:検出不能。
【0115】
実施例2-濾過による滅菌に適した溶媒の決定
アルコール化学基、すなわちエタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよび2-メチル-2-プロパノール(tert-ブタノール)についての評価を含む。
【0116】
最初のスクリーニング試験として、同量のポラクタンアルファペースト(約10g)を希釈し、各アルコール100mLと混合した。いずれの場合も、若干の加熱(35℃)を行うことで、溶解を促進し、析出現象を回避した。
【0117】
次に、関連する外観を視覚的に評価し、クロロホルム中のポラクタントアルファの参照溶液と比較した。試験したアルコールの中でtert-ブタノールのみがクロロホルムの参照と同様に透明な溶液を提供した。他のアルコールでは、乳白色または非常に混濁した不均一な溶液を得た。
【0118】
tert-ブタノールを代替溶媒として定義した後、ユニット操作中の生成物の性状(behavior)を理解するために、濾過工程に移行することが決定された。
【0119】
次の濾過システムを使用した:
-孔径0.45μm、濾過面約17cm2のガラス繊維プレフィルター。
-孔径0.22μm、濾過面約17cm2のPVDFバイオバーデン低減フィルター。
-孔径0.1μm、濾過面約17cm2のPVDF殺菌フィルター。
【0120】
濾過を蠕動運動と一定圧力モニタリングによって行い、膜の上流側と下流側の間のΔPを計算した。
【0121】
比較のために、t-ブタノールとクロロホルム溶液の両方について同じ試験を行った。
【0122】
プロセス中で臨界は観察されなかった。
【0123】
得られた溶液を以下のパラメータに従う回転蒸発器(Rotavapor(登録商標))を用いて乾燥させた:
-温浴温度:35℃
-冷却器温度:15~17℃
-真空:45~50mbar
-回転:100rpm
【0124】
固体ペーストを集め、水に0.9%w/vの塩化ナトリウムの無菌溶液で再懸濁させた。最終懸濁液をバイアルに充填し、2~8℃で保存した。
【0125】
実施例3-生成物の特徴づけ
上記のプロセスに基づいて、一般的な生成物の実現可能性と、Curosurf(登録商標)の主要な重要品質特性の作用を評価するパイロットバッチを作成した。
【0126】
乾燥ペーストを滅菌生理学的塩化ナトリウム水溶液中に再懸濁させ、Rotavapor(登録商標)中で混合した。
【0127】
このようにして得られた懸濁液を、生理学的塩化ナトリウム水溶液1ml当たりサーファクタント80mgの濃度で使用するバイアルに分配した。
【0128】
バイアルについて分析試験を行うことで、製造プロセスに修正が適用されたにもかかわらず、生成物の現在の仕様が依然として満たされているかどうかを確認した。
【0129】
結果はすべての仕様基準を満たしていた。
【0130】
また、このバッチを、粒子特性評価のための形態学的イメージングについて試験し、標準的な条件、すなわちプロセス溶媒としてクロロホルムを使用する現在の方法で製造された参照バッチと比較した。
【0131】
本発明の方法によって得られたCurosurf(登録商標)が、ミセル寸法およびミセル形状の点でCurosurf(登録商標)対照バッチと非常に類似していることが判明された。
【0132】
実施例4-インビボでの特徴づけ
サーファクタント活性を測定するため、本発明の方法で得られたバッチを気管内投与した場合の一回呼吸量への影響を、早産新生のウサギを用いたインビボ試験で評価した。
【0133】
Curosurf(登録商標)対照バッチを使用した。
【0134】
サーファクタント調剤を2.5ml/kgの標準用量で投与した。
【0135】
未熟な新生ウサギを、標準化された一連のピーク吹送圧力と並行して人工呼吸した。肺を開くために、まず圧力を35cmH2Oで1分間設定する。このリクルートメント手技(recruitment manoeuvre)の後、圧力を25cmH2Oに15分間下げ、さらに20cmH2Oと15cmH2Oに下げる。
【0136】
最後に、圧力を25cmH2Oまで5分間かけて再び上げ、その後、肺を窒素でさらに5分間人工呼吸する。
【0137】
ml/kgで示される一回呼吸量を測定し、中央値として示される結果を図1に報告する。
【0138】
本発明の方法によって得られたCurosurf(登録商標)で処理した動物は、Curosurf(登録商標)対照バッチで得られたものと同様の一回呼吸量を示すことが理解できる。
図1
【国際調査報告】