(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】がん治療において神経疼痛の消失または軽減をもたらす腫瘍関連抗原に結合する多重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240628BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240628BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240628BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240628BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240628BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61P35/00
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500088
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2022068634
(87)【国際公開番号】W WO2023280880
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520423770
【氏名又は名称】トリオン リサーチ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】TRION RESEARCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Zeppelinstrasse 4,82178 Puchheim (DE)
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】リンドホーファー、ホルスト
(72)【発明者】
【氏名】ルフ、ペーター
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085BB31
4C085BB36
4C085CC22
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA22
(57)【要約】
本発明はインタクトな全IgG二重特異性抗体であって、以下の特性:a)T細胞への結合;b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原への結合;c)腫瘍関連抗原に対する二重特異性抗体の親和性がKD=10-5~10-8Mの範囲であること、を含む、インタクトな全IgG二重特異性抗体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インタクトな全IgG二重特異性抗体であって、以下の特性:
a)T細胞への結合;
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原への結合;
c)<500ng/mlの抗体濃度で補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであり、その結果、神経疼痛が回避される、および/または
前記腫瘍関連抗原に対する前記二重特異性抗体の親和性が、K
D=10
-5~10
-8Mの範囲内である、
を含むインタクトな全IgG二重特異性抗体。
【請求項2】
前記二重特異性抗体が一価抗体である、請求項1に記載のインタクトな二重特異性抗体。
【請求項3】
前記抗体が三機能性二重特異性抗体である、請求項1または請求項2に記載のインタクトな二重特異性抗体。
【請求項4】
前記腫瘍関連抗原が、腫瘍関連スフィンゴ脂質およびスフィンゴイド分子、ガングリオシドまたはグルコスフィンゴ脂質、例えば、GD2、GD3、GM1、GM2、GM3、フコシル-GM1、グロボ-H、S1P、Cer、およびGg3などからなる群から選択され、好ましくは、腫瘍関連抗原が神経芽腫関連抗原GD2である、請求項1~3のいずれか一項に記載のインタクトな二重特異性抗体。
【請求項5】
前記インタクトな二重特異性抗体が、T細胞表面抗原を介してT細胞に結合し、前記T細胞表面抗原が、CD2、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40LおよびCD44からなる群から選択され、好ましくは前記T細胞表面抗原がCD3である、請求項1~4のいずれか一項記載のインタクトな二重特異性抗体。
【請求項6】
前記抗体が、Fc部分であって、前記Fc部分内の補体結合アミノ酸が置換、挿入および欠失のうちの1つによって改変されているFc部分を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のインタクトな二重特異性抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のインタクトな二重特異性抗体を含む医薬組成物。
【請求項8】
薬学的に適切な担体をさらに含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
医薬として使用するためのインタクトな二重特異性抗体であって、前記二重特異性抗体が、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体である、インタクトな二重特異性抗体。
【請求項10】
神経芽腫または肉腫、黒色腫、神経膠腫、小細胞肺がん、乳がん、トリプルネガティブ乳がん、より好ましくは神経芽腫、乳がんまたはトリプルネガティブ乳がんの治療において使用するためのインタクトな二重特異性抗体であって、前記二重特異性抗体は請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体である、インタクトな二重特異性抗体。
【請求項11】
前記抗体が対象に対して使用され、前記対象がヒトであり、好ましくは前記抗体が前記対象に投与されるものである、請求項9または10に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体であって、前記抗体が、神経の疼痛を引き起こすことなく、医薬として使用されるか、または治療において使用される、インタクトな二重特異性抗体。
【請求項13】
前記抗体が、がん幹細胞またはがん幹様細胞に結合する、請求項9~12のいずれか一項に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【請求項14】
前記抗体が、乳がん幹細胞または乳がん幹様細胞に結合する、請求項9~13のいずれか一項に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【請求項15】
前記抗体が、腫瘍、がん、がん幹細胞、またはがん幹様細胞の表面上に発現されるGD2に結合する、請求項9~14のいずれか一項に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【請求項16】
前記二重特異性抗体が、抗GD2×抗CD3抗体である、請求項9~15のいずれか一項に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【請求項17】
前記インタクトな二重特異性抗体が、1回の投与で、10μg/m
2体表面~10mg/m
2体表面の量で投与される、請求項9~16のいずれか一項に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【請求項18】
前記二重特異性抗体が、1治療サイクルの間2~12回、好ましくは1治療サイクル間4~10回、より好ましくは1治療サイクルの間6~8回投与される、請求項9~17のいずれか一項に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【請求項19】
前記二重特異性抗体が、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、皮下注射、または腫瘍への直接注射によって投与される、請求項9~18のいずれか一項に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【請求項20】
前記二重特異性抗体の2回の隣接する投与が3~4日の間隔を有する、請求項9~19のいずれか一項に記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療において神経疼痛を引き起こさないか、または神経疼痛の軽減をもたらす腫瘍関連抗原に結合する多重特異性抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
補体系は、先天性免疫応答と適応免疫応答との間の相互作用において重要な役割を果たしており、それによってがん細胞にダメージを与える効果を達成する。補体系の過剰活性化の抑制を達成するために体内で発現される、例えばCD55、CD46およびCD59を含む膜結合補体調節タンパク質(mCRP)がある。しかしながら、他方では、mCRPは補体系を過剰調節する可能性もあり、したがってがん性細胞をもはや破壊することができなくなる。多くのがんタイプにおいて、mCRPが悪性形質転換のバイオマーカーとして機能し得ることが研究されており、したがって、それは、がんの治療において考慮されるべきである。
【0003】
腫瘍関連ガングリオシドGD2は、免疫療法の魅力的な標的である。正常組織でのその発現は、中枢神経系および末梢神経に限られているが[1,2]、神経芽腫(NB)および大部分の黒色腫病変では強く検出可能である[3,4]。さらに、それは、肉腫、神経膠腫、および小細胞肺がん(SCLC)の約50%~100%において見出され、そこでは、増強された細胞増殖および浸潤活性と関連する[5~7]。正常組織でのその限定された発現のために、神経芽腫細胞上で発現されるGD2ジシアロガングロシド(disialogangloside)は、原理的に、mAb療法のための優れた候補となる。
【0004】
神経芽腫で過剰発現している多くの抗原は、末梢神経および/または他の神経組織においてはより低いレベルで存在することが多いので[8-10]、抗GD2抗体の開発における重要な考慮事項は、腫瘍外毒性、オンターゲット毒性の可能性である。抗GD2モノクローナル抗体は、末梢神経との相互作用および補体系の可能な関与[15]に起因して、鎮痛のために麻酔薬の持続注入を必要とする疼痛を引き起こす[11-14]。
【0005】
承認されている抗体であるジヌツキシマブ(17.5mg/m2/日)は、GM-CSF、IL-2およびRAと組み合わせて投与された場合、有意な、比較的管理可能な毒性プロファイルを有する。ジヌツキシマブ17.5mg/m2/日、GM-CSF、IL-2(3×106または4.5×106IU/m2/日)、およびRAを標準療法(RA)と比較したピボタル第III相試験(COG ANBL0032)では、ジヌツキシマブを投与された137人の患者の90%超が治療関連有害事象を経験した[16]。
【0006】
標準治療群の患者と比較して、ジヌツキシマブを投与された患者においてより多くみられたグレード3または4の毒性は、疼痛(52%対6%)、過敏性反応(25%対1%)、毛細血管漏出症候群(23%対0%)、および血圧低下(16%対0%)であった(12,26)。ジヌツキシマブ投与に伴う疼痛は、多くの場合神経障害性であり、腹部部位に影響を及ぼすことが最も多く、サイクル1で最も頻繁に起こり、その後のサイクル中に頻度が減少する傾向があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、腫瘍またはがんの治療中に神経の疼痛を軽減させるか、さらには神経の疼痛を取り除くことがますます望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の議論は、本発明を説明し、その好ましい実施形態を例示する目的で含まれる。
別段の説明がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数の指示対象を含む。同様に、「または(or)」という語は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、「および(and)」を含むことが意図される。本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料を本開示の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。用語「含む(comprises)」は、「含む(includes)」を意味する。本明細書に記載されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により援用される。矛盾がある場合には、用語の説明を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法および実施例は、単なる例示であり、限定することを意図するものではない。
【0009】
本発明は以下のものに関する:
(1)以下の特性を含むインタクトな(intact)全IgG二重特異性抗体:
a)T細胞への結合;
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原への結合;
c)<500ng/mlの抗体濃度にて補体依存性細胞傷害はないか、またはごくわずか(only marginal)であり、神経疼痛の回避をもたらすこと。好ましくは、濃度は、対象の血液中の抗体の濃度を指し、および/または
腫瘍関連抗原に対する前記二重特異性抗体の親和性が、KD=10-5~10-8Mの範囲内である。
【0010】
(2)二重特異性抗体が、各標的抗原に対する一価抗体である、(1)のインタクトな二重特異性抗体。
(3)前記抗体が二重特異性抗体、好ましくは三機能性二重特異性抗体である、(1)または(2)のインタクトな二重特異性抗体。
【0011】
(4)好ましくは、腫瘍関連抗原が、腫瘍関連スフィンゴ脂質およびスフィンゴイド分子、ガングリオシドまたはグルコスフィンゴ脂質等、例えば、GD2、GD3、GM1、GM2、GM3、フコシルGM1、グロボ(globo)-H、S1P、CerおよびGg3からなる群から選択され、好ましくは、腫瘍関連抗原が神経芽腫関連抗原GD2である、(1)~(3)のいずれか1つに記載のインタクトな二重特異性抗体。
【0012】
(5)好ましくは、前記インタクトな二重特異性抗体が、T細胞表面抗原を介してT細胞に結合し、T細胞表面抗原が、CD2、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40LおよびCD44からなる群から選択され、好ましくは、T細胞表面抗原がCD3である、(1)~(4)のいずれか1つに記載のインタクトな二重特異性抗体。
【0013】
(6)好ましくは、前記抗体が、Fc部分内の補体結合アミノ酸が置換、挿入および欠失のうちの1つによって改変されているFc部分を含む、(1)~(5)のいずれか1つに記載のインタクトな二重特異性抗体。
【0014】
(7)(1)から(6)のいずれか1つに記載のインタクトな二重特異性抗体を含む医薬組成物。
(8)好ましくは、薬学的に適切な担体をさらに含む、(7)の医薬組成物。
【0015】
(9)医薬として使用するためのインタクトな二重特異性抗体であって、前記二重特異性抗体が(1)~(8)のいずれか1つに記載の抗体である、インタクトな二重特異性抗体。
【0016】
(10)神経芽腫または肉腫、黒色腫、神経膠腫、小細胞肺がん、乳がん、トリプルネガティブ乳がん、より好ましくは神経芽腫、乳がんまたはトリプルネガティブ乳がんの治療に使用するためのインタクトな二重特異性抗体であって、前記二重特異性抗体が請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体である、インタクトな二重特異性抗体。
【0017】
(11)抗体が対象のために使用され、対象がヒトであり、好ましくは抗体が対象に投与される、(9)または(10)の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
(12)神経の疼痛を引き起こすことなく、抗体が医薬として使用されるかまたは治療において使用される、(9)~(11)のいずれか1つに記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【0018】
(13)好ましくは、抗体ががん幹細胞またはがん幹様細胞に結合する、(9)~(12)のいずれか1つに記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
(14)好ましくは、抗体が乳がん幹細胞または乳がん幹様細胞に結合する、(9)~(13)のいずれか1つに記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【0019】
(15)好ましくは、前記抗体は、腫瘍、がん、がん幹細胞、またはがん幹様細胞の表面上に発現されるGD2に結合する、(9)~(14)のいずれか1つに記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【0020】
(16)好ましくは、前記二重特異性抗体が抗GD2×抗CD3抗体である、(9)~(15)のいずれか1つに記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
(17)好ましくは、前記インタクトな二重特異性抗体は、1回の投与で10μg/m2体表面~10mg/m2体表面の量で投与される、(9)~(16)のいずれか1つに記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【0021】
(18)好ましくは、前記二重特異性抗体は、1治療サイクルに対して2~12回、より好ましくは1治療サイクルに対して4~10回、さらにより好ましくは1治療サイクルに対して6~8回投与される、(9)~(17)のいずれか1つに記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【0022】
(19)好ましくは、前記二重特異性抗体が、静脈内注入、腹腔内注入、筋肉内注射、皮下注射、または腫瘍への直接注射によって投与される、(9)~(18)のいずれか1つに記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【0023】
(20)前記二重特異性抗体の2回の隣接する投与(adjacent administrations)が3~4日の間隔を有する、(9)~(19)のいずれか1つに記載の使用のためのインタクトな二重特異性抗体。
【0024】
好ましくは、上記で開示されたインタクトな二重特異性抗体は、三機能性二重特異性抗体(trifunctional bispecific antibody)である。
好ましくは、上記で開示されたインタクトな二重特異性抗体は、一価、二価、三価、四価または多価であり得る。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0025】
好ましくは、上記で開示されたインタクトな二重特異性抗体は、一価または二価であり得る。前記一価結合特性は、<100ng/mlの抗体濃度、より好ましくは<500ng/mlの抗体濃度にて補体依存性細胞傷害はないか、またはごくわずかであることに関するより良好な効果、および神経疼痛の回避の改善と関連し得る。腫瘍関連抗原に対して前記一価抗体と同様の結合親和性を示す二価抗体も、上述の改善された所望の効果と関連付けることができる。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0026】
好ましくは、本発明の一価の二重特異性抗体は、従来の二価抗体、例えば、従来の二価GD2特異性抗体よりも40~70倍弱い抗原に対する親和性を示すか、または従来の二価、三価、四価もしくは多価抗体よりも70~100倍弱い抗原に対する親和性を示す。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。これに関して、「一価」という用語は、腫瘍関連抗原への結合に関する。
【0027】
本発明において、「腫瘍細胞」という用語は、絶え間なく分裂して固形腫瘍を形成するか、または血液を異常細胞で溢れさせることができる任意の細胞を指す。好ましくは、本発明において、腫瘍細胞は、上皮腫瘍、血液腫瘍または神経外胚葉性腫瘍に由来し得る。
【0028】
本発明に含まれる腫瘍の例(ただし、これらに限定されない)は、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫および他の肉腫を含む肉腫および癌腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、リンパ性悪性腫瘍、膵臓がん、乳がん(基底乳がん、乳管がん、小葉乳がん、ならびにトリプルネガティブ乳がんおよびGD2発現乳がん幹様細胞を含む)、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、肝細胞癌腫、扁平上皮細胞癌腫、基底細胞癌腫、腺癌腫、汗腺癌腫、甲状腺髄様がん、甲状腺乳頭がん、褐色細胞腫皮脂腺癌腫、乳頭癌腫、乳頭腺がん、髄様がん、気管支原性癌腫、腎細胞癌腫、肝がん、胆管がん、絨毛がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸部がん、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱がんおよび中枢神経系腫瘍(例えば神経膠腫、星細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経鞘腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫および網膜芽腫)を含む。さらなる例としては、上皮腫瘍、血液腫瘍、GD2発現がん幹細胞および神経外胚葉腫瘍が挙げられる。
【0029】
好ましくは、本発明における腫瘍は神経芽腫である。
好ましくは、本発明において、前記腫瘍細胞は、上皮、血液、GD2発現がん幹細胞または神経外胚葉性腫瘍由来である。
【0030】
本発明において、「免疫細胞」には、T細胞およびFc受容体陽性細胞が含まれる。本発明において、「Fc受容体細胞」とは、細胞表面にFc受容体が存在する細胞を指す。好ましくは、「Fc受容体陽性細胞」は、単球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球および好酸球細胞(eoshinophilic cell)のうちの1つ以上を指す。
【0031】
本発明において、前記インタクトな二重特異性抗体は、前記抗体および前記腫瘍細胞の3次元ネットワークを形成することが可能であり得る。本発明の更なる特に好ましい実施形態において、前記抗体はまた、抗体および腫瘍細胞および任意選択で免疫細胞およびさらに任意選択で追加の腫瘍細胞の三次元ネットワークを形成するために、2つ以上の腫瘍細胞および/または免疫細胞に結合することができる。
【0032】
したがって、本発明は、好ましくは、抗体特異的相互作用ならびにT細胞および/またはFc受容体陽性免疫細胞が関与する免疫学的効果による前記腫瘍細胞の破壊による、腫瘍関連抗原を担持する腫瘍細胞の枯渇に焦点を当てる。本発明は、好ましくは、本発明の場合には腫瘍細胞またはその断片上に位置する抗原を架橋することができる抗体の能力について利益を得ることができる。
【0033】
好ましくは、本開示の抗体は、腫瘍関連抗原に対して低~中程度の親和性、より好ましくはKD=10-5~10-8Mの範囲の親和性を示す。この好ましい実施形態は、抗体濃度<100ng/mlで、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlで、補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関するより良好な効果、および神経疼痛の回避の改善と関連付けることができる。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0034】
本発明において、抗体と腫瘍関連抗原との親和性は、GD2との結合の測定において、ラフ(Ruf)らによって記載された方法(Journal of Translational Medicine,2012,10:219)と同じ方法で測定される。
【0035】
好ましくは、本開示の抗体は、GD2抗原に対して低~中程度の親和性を示し、より好ましくは、KD=10-5~10-8Mの範囲のGD2抗原に対する親和性を示す。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0036】
好ましくは、本明細書に開示される抗体は、一価であり、腫瘍関連抗原に対して低~中程度の親和性、より好ましくはKD=10-5~10-8Mの範囲の親和性を示す。この好ましい実施形態は、抗体濃度<100ng/mlで、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlで、補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関する更なる改善された効果、および神経疼痛の回避の改善と関連付けることができる。さらにより好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。これに関して、「一価(monovalent)」という用語は、腫瘍関連抗原への結合に関する。
【0037】
本発明は、本発明の制限の範囲内で、インタクトな二重特異性抗体に関して本明細書に記載および特許請求され、二重特異性抗体抗CD3×抗GD2(EKTOMUN)に関して例示される。前記抗CD3×抗GD2二重特異性抗体は、腫瘍関連抗原GD2に対して指向性を有し、さらに、T細胞表面抗原であるCD3に、そしてそのFc部分によってFc受容体陽性細胞に結合する。
【0038】
本発明は、本発明の制限の範囲内で、インタクトな二重特異性抗体に関して本明細書に記載および特許請求され、二重特異性抗体である抗CD3×抗EpCAM(カツマキソマブ)に関して例示される。前記抗CD3×抗EpCAM二重特異性抗体は、腫瘍関連抗原EpCAMに対して指向性を有し、T細胞表面抗原であるCD3に、そしてそのFc部分によってFc受容体陽性細胞に結合する。
【0039】
実施例に記載される特定の実施形態は、本発明の実現可能性の証拠を提供する例示的な実施形態として理解されなければならない。この証拠が提供されると、当業者は、本発明によって包含される限り、三次元ネットワークを提供するために前記腫瘍細胞および任意選択で前記免疫細胞と相互作用することができる他の腫瘍および他の抗体に概念を拡張する可能性を必然的に有するであろう。
【0040】
本発明の抗体は、二重特異性抗体である。しかしながら、三重特異性抗体、四重特異性抗体及び多重特異性抗体も同一の特性又は効果を示す場合、前記二重特異性抗体は、本明細書で使用されるものとして、三重特異性抗体、四重特異性抗体及び多重特異性抗体を指すこともできる。
【0041】
本発明の抗体は、好ましくは、三機能性(trifunctional)抗体から選択される。以下に開示される三機能性抗体は、三機能性二重特異性抗体を指す。しかしながら、三重特異性抗体、四重特異性抗体及び多重特異性抗体も同じ特性又は効果を示す場合、前記三機能性抗体はまた、本明細書で使用されるものとして、三機能性の三重特異性抗体、四重特異性抗体及び多重特異性抗体を指すこともできる。
【0042】
一般に、二重特異性抗体は、好ましくはその可変領域を介して2つの異なる種類の抗原に結合することができる抗体として定義され;三重特異性抗体は、好ましくはその可変領域を介して3つの異なる種類の抗原に結合することによって特徴付けられ;四重特異性抗体は、好ましくはその可変領域を介して4つの異なる種類の抗原に結合することによって特徴付けられ、一方、多重特異性抗体は、好ましくはその可変領域を介して複数の異なる種類の抗原に結合することができるとして定義される。1つの具体例として、三機能性二重特異性抗体である抗CD3×抗EpCAMは、一方で腫瘍関連抗原EpCAMに結合し、他方でT細胞表面抗原CD3に結合することによって、ならびにそのFc部分によってアクセサリー細胞に結合することによって定義される。別の具体例として、三機能性二重特異性抗体である抗CD3×抗GD2は、一方で腫瘍関連抗原GD2に結合し、他方でT細胞表面抗原CD3に結合することによって、ならびにそのFc部分によってアクセサリー細胞に結合することによって定義される。
【0043】
一般に、上記した二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体および多重特異性抗体は、一価、二価、三価、四価または多価であってもよい。
一価結合特性を有する抗体は、1つの腫瘍関連抗原に結合することができる抗体として定義される。二価モノクローナル抗体は、2つの腫瘍関連抗原、または1つの腫瘍関連抗原および1つの免疫細胞関連抗原、に結合することができる抗体として定義される。三価モノクローナル抗体は、3つの異なる腫瘍関連抗原、または2つの腫瘍関連抗原および1つの免疫細胞関連抗原、または1つの腫瘍関連抗原および2つの免疫細胞関連抗原、に結合することができる抗体として定義される。四価モノクローナル抗体は、4つの異なる腫瘍関連抗原、または2つの異なる腫瘍関連抗原(各々が2つの同一の抗原結合アームを有する)、または2つ/3つの腫瘍関連抗原および1つの免疫細胞関連抗原、または2つの腫瘍関連抗原および2つの免疫細胞関連抗原、に結合することができる抗体として定義される。多価モノクローナル抗体は、1つ以上の腫瘍関連抗原および/または1つ以上の免疫細胞関連抗原に結合することができる抗体として定義される。「腫瘍関連抗原への結合」という用語は、腫瘍細胞上の前記腫瘍関連抗原のエピトープへの結合として定義される。
【0044】
二機能性または三機能性抗体の一般的な説明は、コンテルマン(Kontermann)R E(編),Springer Heidelberg Dordrecht London New York,pp.1-28(2011)に記載されており、1つの腫瘍関連抗原および白血球(すなわち、免疫系の細胞)の1つ以上の表面抗原に対する二重特異性または三重特異性(二価、三価および四価を有する三機能性形式)結合特性を有することは、本特許出願にとって重要である。
【0045】
・二価抗原結合特徴を有する二重特異性抗体フォーマット:
例えば、scFv(例えば、BiTEクラス)、Db、sCDb、dsDb、DART、dAb2/VHH2、ノブ・イントゥ・ホール(knob-into-holes)誘導体、SEED-IgG、ヘテロFc-scfv、Fab-scFv、クロスマブ(CrossMabs)
・三価抗原結合特徴を有する二重(三重)特異性抗体フォーマット:
例えば、三重体(triple body)、DNL-F(ab)3、scFv2-CH1/CL、dAb3、Fab-scFv2、IgG-scFab
・四価抗原結合特徴を有する二重(三重)特異性抗体フォーマット:
例えば、IgG-scFv、scFv-IgG、scFv-Fc、F(ab’)2-scFv2、SDb-Fc、scDb-CH3、Db-Fc、scFv2-H/L、DVD-Ig、tandAb、scFv-dhlx-scFv、dAb2-IgG、ツー・イン・ワン(two-in-one)mAb、mAb2、dAb-IgG、dAb-Fc-dAb。
【0046】
本発明に従って使用されるさらなる抗体は、以下の参考文献に記載されている:
ミュラー(Mueller)DおよびRE コンテルマン(Kontermann)、Bispecific Antibodies(二重特異性抗体)、コンテルマン RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York,pp.83-100(2011)。
【0047】
scFv(BiTE)
バウアリー(Baeuerle) PA、ツークマイヤー(Zugmaier)GおよびD ルッティンガー(Ruettinger)、Bispecific Antibodies(二重特異性抗体)、コンテルマン RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York,pp.273-288(2011)。
【0048】
DVD-Ig
タルクサ(Tarcsa)E、フラウンホーファー(Fraunhofer)W、ガイユール(Ghayur)T、サルフェルド(Salfeld)JおよびJ グ(Gu)、Bispecific Antibodies(二重特異性抗体)、コンテルマン RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York,pp.171-186(2011)
DNL誘導体
チャン(Chang)C-H、ロッシ(Rossi)EA、シャーキー(Sharkey)RM、DM ゴールデンベルグ(Goldenberg)、Bispecific Antibodies(二重特異性抗体)、コンテルマン RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York,pp.199-216(2011)
ツー・イン・ワン抗体
コーイング(Koeing)PおよびG Fuh(フー)、Bispecific Antibodies(二重特異性抗体)、コンテルマン RE(編)、Springer Heidelberg Dordrecht London New York,pp.187-198(2011)。
【0049】
クロスマブ(CrossMab)
シェファー(Schaefer)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、108:11187(2011)。
【0050】
本発明において、少なくとも1つの二重特異性抗体、好ましくは三機能性二重特異性抗体が使用される。好ましくは、腫瘍細胞と免疫細胞との会合(associates)を媒介するために、異なる特異性を有する2つ以上の前記二重特異性抗体を組み合わせることができる。
【0051】
好ましくは、本発明における二重特異性抗体は、がんの治療において使用するためのものであり、前記抗体は、がん幹細胞またはがん幹様細胞に結合する。これに関して、がん幹細胞は、正常な幹細胞に関連する特徴、具体的には、特定のがん試料において見出される全ての細胞型を生じさせる能力を示すがん細胞を指す。加えて、がん幹様細胞は、上昇した腫瘍開始(tumor-initiating)またはがん開始(cancer-initiating)能を有する腫瘍またはがん細胞の亜集団を指す。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0052】
好ましくは、本発明における二重特異性抗体は、神経芽腫、乳がんまたはトリプルネガティブ乳がんの治療に使用するためのものである。この点に関して、トリプルネガティブ乳がんは、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、および過剰発現されたHER2タンパク質に対して陰性であるがんを指す。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0053】
好ましくは、本発明における二重特異性抗体は、乳がんまたはトリプルネガティブ乳がんの治療に使用するためのものであり、前記抗体は乳がん幹細胞またはがん幹様細胞に結合する。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0054】
好ましくは、GD2は、上記がん幹細胞またはがん幹様細胞において発現される。
好ましくは、GD2は、上記の乳がん幹細胞または乳がん幹様細胞において発現される。
【0055】
好ましくは、本発明における二重特異性抗体は、1回の投与につき10μg/m2体表面(body surface)~10mg/m2体表面、1回の投与につき10μg/m2体表面~800μg/m2体表面、1回の投与につき10μg/m2体表面~500μg/m2体表面、1回の投与につき10μg/m2体表面~200μg/m2体表面、1回の投与につき10μg/m2体表面~100μg/m2体表面、1回の投与につき10μg/m2体表面~50μg/m2体表面、1回の投与につき800μg/m2体表面~1mg/m2体表面、1回の投与につき1mg/m2体表面~2mg/m2体表面、1回の投与につき2mg/m2体表面~4mg/m2体表面、1回の投与につき4mg/m2体表面~6mg/m2体表面、1回の投与につき6mg/m2体表面~8mg/m2体表面、または1回の投与につき8mg/m2体表面~10mg/m2体表面の量で使用される。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0056】
本発明において、前記二重特異性抗体を前記範囲で使用することにより、さらに優れた抗がん効果を達成することができる。
本発明において、上記の範囲で前記二重特異性抗体を使用することによって、抗体濃度<100ng/ml、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlで補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果を達成することができ、神経疼痛の回避の改善を達成することができる。
【0057】
好ましくは、患者の血液中の抗体濃度は、<100ng/mlの範囲、より好ましくは<500ng/mlの範囲に制御されるべきである。さらにより好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0058】
好ましくは、患者の血液中の抗体濃度は、40~80ng/ml、40~120ng/ml、40~160ng/ml、40~200ng/ml、40~240ng/ml、80~240ng/ml、120ng/ml~240ng/ml、160ng/ml~240ng/ml、200ng/ml~240ng/ml、80ng/ml~200ng/ml、または120ng/ml~160ng/mlの範囲で制御されるべきである。この少量の抗体が使用され、抗体濃度が患者の血液中で測定されると、減少した量の抗体が標的細胞に結合して、例えばC1qを細胞結合抗体に結合させることによって、補体カスケードを開始することができる。より好ましくは、前記抗体は、三機能性二重特異性抗体である。
【0059】
本発明において、前記二重特異性抗体を前記範囲で使用することにより、さらに優れた抗がん効果を達成することができる。
本発明において、上記の範囲で前記二重特異性抗体を使用することによって、抗体濃度<100ng/ml、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlで補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果を達成することができ、神経疼痛の回避の改善を達成することができる。これは、前記範囲が、低減された抗体(reduced antibodies)が標的細胞に結合し、それによって補体カスケードが開始されないという結果をもたらすという事実に起因し得る。
【0060】
好ましくは、本発明の使用のための二重特異性抗体において、前記二重特異性抗体は、1治療サイクルにつき2~12回、より好ましくは1治療サイクルにつき4~10回、さらにより好ましくは1治療サイクルにつき6~8回、患者に投与される。前記抗体は、三機能性二重特異性抗体であり得る。これに関して、副作用を引き起こすことなく治療効果を達成することができる。
【0061】
好ましくは、前記二重特異性抗体の2回の隣接する投与(adjacent administrations)は、3~4日の間隔を有する。前記間隔は、改善された治療効果と関連することが実証される。前記抗体は、三機能性二重特異性抗体であり得る。これに関して、副作用を引き起こすことなく治療効果を達成することができる。
【0062】
本発明によれば、治療は2回以上の治療サイクルで行われる。1治療サイクルは、一連のその後の投与として定義される。本明細書で使用される「治療サイクル」という用語は、薬物の2回の連続する投与の間の期間が好ましくは3~4日である、一連の連続投与(少なくとも2回)も包含することが理解される。これらの後続の投与は、1つの治療サイクル内の2つの後続の投与の間の期間よりもかなり長い期間によって次の治療サイクルから分離される治療サイクルを形成する。
【0063】
2つの治療サイクルは、好ましくは1~6ヶ月、より好ましくは1~3ヶ月の期間、互いに間隔があけられる。
好ましくは、前記二重特異性抗体は、1~10の治療サイクル、好ましくは1~6の治療サイクル、より好ましくは1~4の治療サイクル、さらにより好ましくは2~4の治療サイクルの間、患者に投与される。
【0064】
好ましくは、本開示の抗体は、Fc部分内の補体結合アミノ酸が欠失している改変された(engineered)Fc部分を含み、これは、抗体濃度<1000ng/ml、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlでの補体依存性細胞傷害はないか、またはごくわずかであることに関するより良好な効果、および神経疼痛の回避の改善と関連付けられ得る。
【0065】
本発明による二重特異性抗体は、CD2、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40LおよびCD44からなる群より選択されるT細胞表面抗原を介してT細胞に結合し得る。これは、本発明に係る使用のための抗体が、好ましくは、CD2、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40LおよびCD44からなる群から選択されるT細胞表面抗原のエピトープを認識して結合することができるパラトープを含むことを意味する。この特異性は、好ましくはT細胞の動員を促進する。
【0066】
好ましくは、T細胞表面抗原はCD3である。これは、本発明による使用のための抗体が、さらに好ましくは、CD3のエピトープを認識して結合することができるパラトープを含むことを意味する。
【0067】
カツマキソマブ(二重特異性抗体の一例)は、その2つの特異的結合部位を介してEpCAM陽性腫瘍細胞およびCD3陽性T細胞に結合する。カツマキソマブはまた、そのインタクトな結晶化可能断片(Fc)領域の結合を介してFcγRのI、IIaおよびIII型陽性アクセサリー細胞を動員し、三機能性的作用機序をもたらす。本発明において使用される場合のカツマキソマブの作用様式以外に、二重特異性三機能性抗体によって誘導される腫瘍細胞破壊のいくつかの機構が記載されている。
【0068】
以下に列挙するツァイデラー(Zeidler)ら[53]、[54]、[55]およびリーケルマン(Riechelmann)ら[36]は、BiUII(カツマキソマブに対するバリアント抗体である)およびカツマキソマブによる、インビトロでのT細胞およびアクセサリー細胞の活性化、ならびに腫瘍細胞死滅へのそれらの寄与を解明した。末梢血単核球細胞(PBMC)と共にこの三機能性抗体を使用して、彼らは、アクセサリー細胞の活性化が抗腫瘍活性に重要な寄与をしていることを示した。T細胞およびアクセサリー細胞の活性化は、サイトカイン(インターロイキン[IL]-1β、IL-2、IL-6、IL-12、TNF-α、インターフェロン-γ[IFN-γ]およびケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド18[CCL18])の産生をもたらした。注目すべきことに、リーケルマン(Riechelmann)らは、IFN-γが5時間以内に、TNF-αが24時間以内にピーク値に達することを実証した。彼らはまた、樹状細胞およびNK細胞上の活性化マーカーのアップレギュレーションを実証した。カツマキソマブはBリンパ球に結合しなかったが、FcγR陽性アクセサリー細胞を刺激して、直接食作用によって腫瘍細胞を排除した。
【0069】
[53]ツァイデラー(Zeidler)R、メイヤー(Mayer)A、ジレス(Gires)Oら、TNF-alpha contributes to the anti-tumor activity of a bispecific,trifunctional antibody(TNF-αは、二重特異性三機能性抗体の抗腫瘍活性に寄与する)、Anticancer Res.、2001;21(5):3499-3503。
【0070】
[54]ツァイデラー(Zeidler)R、ミスリヴィーツ(Mysliwietz)J、サナディ(Csanady)Mら、The Fc-region of a new class of intact bi-specific antibody mediates activation of accessory cells and NK cells and induces direct phagocytosis of tumor cells(インタクトな二重特異性抗体の新しいクラスのFc領域は、アクセサリー細胞およびNK細胞の活性化を媒介し、腫瘍細胞の直接的な食作用を誘導する)、Br J Cancer.、2000;83(2):261-266。
【0071】
[55]ツァイデラー(Zeidler)R、ライスバッハ(Reisbach)G、ウォーレンベルク(Wolenberg)Bら、Simultaneous activation of T-cells and accessory cells by a new class of intact bi- specific antibody results in efficient tumor cell killing(新しいクラスのインタクトな二重特異性抗体によるT細胞およびアクセサリー細胞の同時活性化は、効率的な腫瘍細胞死滅をもたらす)、J Immunol、1999;163(3):1246-1252。
【0072】
[36]リーケルマン(Riechelmann)H、ヴィースネス(Wiesneth)M、シャウベッカー(Schauwecker)Pら、Adoptive therapy of head and neck squamous cell carcinoma with antibody coated immune cells:a pilot clinical trial(抗体でコートした免疫細胞による頭頸部扁平上皮癌の養子縁組療法:パイロット臨床試験)、Cancer Immunol Immunother.、2007;56(9):1397-1406。
【0073】
[1]アッバス(Abbas)AK、リヒトマン(Lichtman)AH、General properties of cytokines(サイトカインの一般的特性)、Cellular and Molecular Immunology(細胞および分子免疫学)、第5版、ペンシルバニア州フィラデルフィア:Saunders、Elsevierのインプリント;2003:セクションIV。
【0074】
好ましい実施形態において、本発明において使用される抗体はモノクローナル抗体である。これは、本明細書に詳細に開示される二重特異性抗体に特に当てはまる。
相対的に規定された三次元構造を有するタンパク質は、一般的にタンパク質足場(protein scaffolds)と称される。これらのタンパク質足場は、人工的に操作された抗体の設計のための試薬として使用することができる。これらの足場は、典型的には、特異的またはランダムな配列変化を受けやすい1つ以上の領域を含有し、そのような配列ランダム化は、所望の抗体足場が選択され得るタンパク質のライブラリーを産生するために行われることが多い。そのような足場は、抗体設計の分野において特に有用である。
【0075】
これらの抗体足場は、例えば腫瘍細胞および免疫細胞に対するその結合活性に関してモノクローナル抗体の特性を模倣する非免疫グロブリンタンパク質である。足場は、多くの場合、前記抗体足場の結合側を形成するループまたはドメインを含む。これらの抗体模倣物は、実質的に任意の目的の化合物に結合することができるタンパク質を設計する目的のために利用され得る。この方向づけられた進化アプローチ(directed evolution approach)により、目的の抗原に対して高い親和性を有する抗体様分子が産生される。さらに、これらの足場は、そのような導入ループに結合する分子の進化を方向付けるために、定義された露出ループ(例えば、抗原結合に基づいてあらかじめランダム化され、選択されたループ)を表示するために使用することができる。抗体様足場タンパク質を得る方法は、当技術分野において公知である。以下は、抗体様足場タンパク質を得るための1つの可能なアプローチを記載する。
【0076】
目的のランダム化または変異タンパク質の単離または同定に有用な第1のスクリーニング方法は、以下を含む:(a)目的の化合物を候補タンパク質と接触させる工程であって、候補タンパク質は、免疫グロブリン様フォールドを有するドメインを含む誘導体非抗体タンパク質であり、この非抗体タンパク質は、変異したアミノ酸配列を有することによって参照タンパク質から誘導され、この非抗体タンパク質は、参照タンパク質によってそれほど強固に結合されない化合物に対して、少なくとも1μMのKdで強固に結合する、工程(ここで、接触させる工程は、化合物-タンパク質複合体形成を可能にする条件下で実施される);および(b)複合体から、化合物に結合する誘導体タンパク質を得る工程。
【0077】
第2のスクリーニング方法は、目的の腫瘍関連タンパク質に結合する化合物を単離または同定するためのものである。この方法は、免疫グロブリン様フォールドを有し、変異したアミノ酸配列を有することによって参照タンパク質から誘導されるドメインを含む非抗体タンパク質から開始され、ここで、非抗体タンパク質は、参照タンパク質によってそれほど強固に結合されない化合物に対して、少なくとも1μMのKdで強固に結合する。次いで、この誘導体タンパク質を候補化合物(腫瘍関連抗原またはそのエピトープ)と接触させ、ここで、接触させることは、化合物-タンパク質複合体形成を可能にする条件下で行われ、誘導体タンパク質に結合する化合物が複合体から得られる。ここでも、この一般的な技術は、任意のタンパク質を用いて実施され得る。
【0078】
目的の化合物(腫瘍関連抗原またはそのエピトープ)に結合する非抗体タンパク質を得るさらなる方法を、以下に記載する。そのような方法の一つは(a)免疫グロブリン様フォールドを含む非抗体足場タンパク質を提供する工程であって、該足場タンパク質は1μMのKdで化合物と結合しない、工程;(b)該非抗体足場タンパク質の変異誘導体を作製し、それにより変異タンパク質のライブラリーを作製する工程(c)ライブラリーを化合物と接触させる工程;(d)ライブラリーから、少なくとも1μMのKdで化合物と結合する少なくとも1つの誘導体タンパク質を選択する工程;および(e)任意に、ステップ(b)~(d)を繰り返し、繰り返しステップ(b)の非抗体足場タンパク質の代わりに、前のステップ(d)からの生成物を使用する工程。ここでも、この一般的な技術は、任意のタンパク質を用いて実施され得る。
【0079】
このように産生された足場タンパク質は、上記および下記に開示されるような抗体の機能を模倣し、免疫グロブリンベースの抗体の代わりに、またはそれと組み合わせて使用することができる。
【0080】
好ましくは、本発明のFc部分は、補体因子への実質的に低い補体結合を示すかまたは補体結合を示さず、これは、抗体濃度<1000ng/ml、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlでの補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関するより良好な効果、および神経疼痛の回避の改善と関連し得る。
【0081】
好ましくは、上記補体因子は、Fc受容体または補体タンパク質成分1q(C1q)であり得る。
一般に、抗体は、I型、II型およびIII型のFcγ受容体を介してFc受容体陽性細胞に結合することができるFc部分を含むことができ、前記Fc部分は、前記I型、II型および/またはIII型Fcγ受容体に対する少なくとも1つの結合部位を含むことができる。
【0082】
好ましくは、本発明において使用される抗体は、Fcタンパク質中の補体結合アミノ酸が、アミノ酸の置換、挿入もしくは欠失またはそれらの組合せのうちの1つによって改変されているFc部分を含む。これに関して、<100ng/mlの抗体濃度、より好ましくは<500ng/mlの抗体濃度で、補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果を達成することができ、神経疼痛の回避の改善を達成することができる。
【0083】
好ましくは、上記Fc部分の補体結合アミノ酸は、ELLGGPモチーフ(配列番号1)、より好ましくはE233 L234 L235 G236 G237 P238モチーフ、EFLGGPモチーフ(配列番号2)、より好ましくはE233 F234 L235 G236 G237 P238モチーフ、またはPVAGGPモチーフ(配列番号3)、より好ましくはP233 V234 A235 G236 G237 P238モチーフを含む。前記モチーフ配列E233 L234 L235 G236 G237 P238、E233 F234 L235 G236 G237 P238およびP233 V234 A235 G236 G237 P238は、ジョン D.アイサック(John D.Issacs)ら(J Immunol、1998、161、3862-3869頁)によって開示されており、前記配列に関する本質的な情報は、ジョン D.アイサックらの前記刊行物を参照されたい。
【0084】
好ましくは、上記Fc部分のELLGGPモチーフ、より好ましくはE233 L234 L235 G236 G237 P238モチーフは、アミノ酸の置換、挿入もしくは欠失またはそれらの組み合わせのうちの1つによって改変され、前記Fc部分を含む抗体は、好ましくはヒトIgG1またはIgG3抗体である。これに関して、<100ng/mlの抗体濃度、より好ましくは<500ng/mlの抗体濃度で、補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果を達成することができ、神経疼痛の回避の改善を達成することができる。
【0085】
好ましくは、上記Fc部分のEFLGGPモチーフ、より好ましくは上記Fc部分のE233 F234 L235 G236 G237 P238モチーフは、アミノ酸の置換、挿入もしくは欠失またはそれらの組み合わせのうちの1つによって改変され、前記Fc部分を含む抗体は、好ましくはヒトIgG4抗体である。これに関して、<100ng/mlの抗体濃度、より好ましくは<500ng/mlの抗体濃度で、補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果を達成することができ、神経疼痛の回避の改善を達成することができる。
【0086】
好ましくは、上記Fc部分のPVAGGPモチーフ、より好ましくは上記Fc部分のP233 V234 A235 G236 G237 P238モチーフは、アミノ酸の置換、挿入もしくは欠失またはそれらの組み合わせのうちの1つによって改変され、前記Fc部分を含む抗体は、好ましくはヒトIgG2抗体である。これに関して、抗体濃度<100ng/ml、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlにて、補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果を達成することができ、神経疼痛の回避の改善を達成することができる。
【0087】
好ましくは、上記の改変Fc部分を含む抗体は、マウスIgG1-IgG4またはヒトIgG1-IgG4抗体である。これに関して、<100ng/mlの抗体濃度、より好ましくは<500ng/mlの抗体濃度で、補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果を達成することができ、神経疼痛の回避の改善を達成することができる。
【0088】
好ましくは、Fc部分の上記配列番号1または配列番号2のモチーフのELLまたはEFL、より好ましくは上記モチーフのE233 L234 L235またはE233 F234 L235は、置換によって改変され、置換されたモチーフは、好ましくはPVA(配列番号4)であり、より好ましくは置換されたモチーフはE233P L234V L235AまたはE233P F234V L235Aである。これに関して、<100ng/mlの抗体濃度、より好ましくは<500ng/mlの抗体濃度で、補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果を達成することができ、神経疼痛の回避の改善を達成することができる。
【0089】
好ましくは、本発明において使用される抗体は、C1qへの実質的に低い補体結合を示すかまたは補体結合を示さないFc部分を含み、これは、抗体濃度<100ng/ml、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlでの補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果、および神経疼痛の回避の改善と関連し得る。
【0090】
好ましくは、本発明で使用される抗体は、位置P329での置換もしくは欠失、または前記P329に隣接する挿入を含むことができ、これは、抗体濃度<100ng/ml、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlでの補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関するより良好な効果、および神経疼痛の回避の改善と関連付けることができる。前記P329位は、ティルマン シュロトハウザー(Tilman Schlothauer)ら(Protein Engineering,Design&Selection、2016、第29巻、第10号、457-466頁)によって開示されており、前記P329に関する本質的な情報は、前記ティルマン シュロトハウザーらの刊行物を参照されたい。
【0091】
好ましくは、本発明において使用される抗体は、位置P329での置換もしくは欠失、または前記P329に隣接する挿入を含んでもよく、これは、抗体のFc部分がC1qへの補体結合を実質的に低く示すか、または全く示さないようにし得る。
【0092】
好ましくは、本発明において使用される抗体は、置換P329AまたはP329G、より好ましくはP329Gを含んでいてもよく、これは、抗体濃度<100ng/ml、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlで補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してのより良好な効果、および神経疼痛の回避の改善と関連し得る。
【0093】
好ましくは、本発明において使用される抗体は、置換P329AまたはP329G、より好ましくはP329Gを含んでもよく、これは、抗体のFc部分がC1qに対して実質的に低い補体結合を示すかまたは補体結合を示さないようにし得る。
【0094】
好ましくは、位置P329における前記置換もしくは欠失、または前記P329に隣接する前記挿入は、上記のELLGGP、EFLGGP、またはPVAGGPモチーフと組み合わせて存在し、より好ましくは、上記のE233 L234 L235 G236 G237 P238モチーフ、E233 F234 L235 G236 G237 P238モチーフ、またはP233 V234 A235 G236 G237 P238モチーフと組み合わせて存在する。
【0095】
好ましくは、位置P329における前記置換もしくは欠失、または前記P329に隣接する前記挿入は、上記のE233 L234 L235またはE233 F234 L235置換と組み合わせて存在する。
【0096】
好ましくは、位置P329での前記置換もしくは欠失、または前記P329に隣接する前記挿入は、L234A L235A置換と組み合わせて存在する。
好ましくは、上記置換P329AまたはP329G、より好ましくはP329Gは、ELLGGP、EFLGGP、またはPVAGGPモチーフと組み合わせて存在し、より好ましくは上記E233 L234 L235 G236 G237 P238モチーフ、E233 F234 L235 G236 G237 P238モチーフ、またはP233 V234 A235 G236 G237 P238モチーフと組み合わせて存在する。
【0097】
好ましくは、上記置換P329AまたはP329G、より好ましくはP329Gは、上記E233 L234 L235またはE233 F234 L235置換と組み合わせて存在する。
【0098】
好ましくは、上記置換P329AまたはP329G、より好ましくはP329Gは、L234A L235A置換と組み合わせて存在する。
好ましくは、一価である本開示の抗体は、腫瘍関連抗原に対して低~中程度の親和性、より好ましくはKD=10-5~10-8Mの範囲の親和性を示し、上記で開示した改変のいずれか1つを有するFcタンパク質を含む。この好ましい実施形態は、抗体濃度<100ng/ml、より好ましくは抗体濃度<500ng/mlでの補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してよりさらに改善された効果、および神経疼痛の回避の改善と関連付けることができる。
【0099】
好ましくは、本発明に従って使用される抗体は、Fc受容体陽性細胞である単球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球および/または好酸球に結合することができる。
【0100】
本発明において、腫瘍関連抗原とは、腫瘍細胞において産生される抗原性物質であって、腫瘍細胞の表面に発現するものを指す。
好ましくは、二重特異性抗体が結合する腫瘍関連抗原は、腫瘍関連スフィンゴ脂質およびスフィンゴイド分子、ガングリオシド、またはグルコスフィンゴ脂質(glucosphingolipids)など(例えばGD2、GD3、GM1、GM2、GM3、フコシル-GM1、グロボ-H、S1P、Cer、およびGg3)からなる群から選択され、好ましくは腫瘍関連抗原は神経芽腫関連抗原GD2である。
【0101】
好ましくは、二重特異性抗体が結合する腫瘍関連抗原は、GD2、GD3、GM1、GM2、GM3、フコシル-GM1、グロボ-H、S1P、Cer、およびGg3のような、腫瘍関連スフィンゴ脂質およびスフィンゴイド分子、ガングリオシド、またはグルコスフィンゴ脂質からなる群から選択され、好ましくは、腫瘍関連抗原は神経芽腫関連抗原GD2である。
【0102】
好ましくは、二重特異性抗体は、腫瘍関連抗原スフィンゴ脂質及びスフィンゴイド分子など(例えば、ガングリオシド)に結合し、これは、がんの治療において神経疼痛を引き起こさないか又は低減させる。
【0103】
好ましくは、二重特異性抗体は、ガングリオシドのような腫瘍関連抗原スフィンゴ脂質およびスフィンゴイド分子に結合し、これは、がんの治療において神経疼痛を引き起こさないかまたは低減させる。
【0104】
好ましくは、腫瘍関連抗原は神経芽腫関連抗原GD2であり、これは<100ng/mlの抗体濃度、より好ましくは<500ng/mlの抗体濃度で補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してのより良好な効果、および神経疼痛の回避の改善と関連している。これは、本開示の抗体とGD2結合部位との一価結合に起因し得る。
【0105】
好ましくは、本発明の二重特異性抗体は、1つのT細胞表面抗原および1つの腫瘍関連抗原に対して指向されるものであり、CD2、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40LおよびCD44からなる群から選択されるT細胞表面抗原は、腫瘍関連スフィンゴ脂質およびスフィンゴイド分子、ガングリオシドまたはグルコスフィンゴ脂質など(例えばGD2、GD3、GM1、GM2、GM3、フコシル-GM1、グロボ-H、S1P、CerおよびGg3)からなる群から選択される任意の腫瘍関連抗原と組み合わせることができ、好ましくは、腫瘍関連抗原は神経芽腫関連抗原GD2である。
【0106】
好ましくは、本発明の二重特異性抗体は、1つのT細胞表面抗原および1つの腫瘍関連抗原に対して指向されるものであり、CD2、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40LおよびCD44からなる群から選択されるT細胞表面抗原は、GD2、GD3、GM1、GM2、GM3、フコシル-GM1、グロボ-H、S1P、CerおよびGg3のような腫瘍関連スフィンゴ脂質およびスフィンゴイド分子、ガングリオシドまたはグルコスフィンゴ脂質からなる群から選択される任意の腫瘍関連抗原と組み合わせることができ、好ましくは、腫瘍関連抗原は神経芽腫関連抗原GD2である。
【0107】
好ましくは、本発明の二重特異性抗体は、CD3である1つのT細胞表面抗原およびGD2である1つの腫瘍関連抗原に対して指向されるものである。
好ましい抗体は、以下のアイソタイプの組み合わせの1つ以上から選択される異種二重特異性抗体、好ましくはモノクローナル抗体である:
・ラット-IgG2b/マウス-IgG2a、
・ラット-IgG2b/マウス-IgG2b、
・ラット-IgG2b/マウス-IgG3;
・ラット-IgG2b/ヒト-IgG1、
・ラット-IgG2b/ヒト-IgG2、
・ラット-IgG2b/ヒト-IgG3[オリエンタルアロタイプG3m(st)=プロテインAへの結合]、
・ラット-IgG2b/ヒト-IgG4;
・ラット-IgG2b/ラット-IgG2c;
・マウス-IgG2a/ヒト-IgG3[コーカサスアロタイプG3m(b+g)=プロテインAに結合せず、以下*で示す]
・マウス-IgG2a/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
・マウス-IgG2a/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
・マウス-IgG2a/ヒト-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
・マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒトIgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒトIgG1-[ヒンジ領域]-ヒトIgG3*-[CH2-CH3]
・マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒトIgG4/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒトIgG4-[ヒンジ領域]-ヒトIgG4[CH2のN-末端領域]-ヒト-IgG3*[CH2のC-末端領域:>アミノ酸位置251]-ヒトIgG3*[CH3]
・アット(at)-IgG2b/マウス-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域-CH2-CH3]
・ラット-IgG2b/マウス-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG2-[ヒンジ領域-CH2-CH3]
・ラット-IgG2b/マウス-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG3-[ヒンジ領域-CH2-CH3、オリエンタルアロタイプ]
・ラット-IgG2b/マウス-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG4-[ヒンジ領域-CH2-CH3]
・ヒト-IgG1/ヒト-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
・ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG4[CH2のN-末端領域]-ヒト-IgG3*[CH2のC-末端領域:>アミノ酸位置251]-ヒト-IgG3*[CH3]
・ヒト-IgG1/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG4[CH2のN-末端領域]-ヒト-IgG3*[CH2のC-末端領域:>アミノ酸位置251]-ヒト-IgG3*[CH3]
・ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG2[CH2のN-末端領域]-ヒト-IgG3*[CH2のC-末端領域:>アミノ酸位置251]-ヒト-IgG3*[CH3]
ヒト-IgG1/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG2[CH2のN-末端領域]-ヒト-IgG3*[CH2のC-末端領域:>アミノ酸位置251]-ヒト-IgG3*[CH3]
・ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
・ヒト-IgG1/マウス-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
・ヒト-IgG2/ヒト-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG2-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
・ヒト-IgG4/ヒト-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG4-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
・ヒト-IgG4/ヒト-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG4-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG4[CH2のN-末端領域]-ヒト-IgG3*[CH2のC-末端領域:>アミノ酸位置251]-ヒト-IgG3*[CH3]
・マウス-IgG2b/ラット-[VH-CH1、VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]。
【0108】
・マウス-IgG2b/ヒト-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
・マウス-IgG2b/マウス-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]
本発明による1つの特に好ましい実施形態において使用される、好ましくは一価または二価の結合特異性を有する二重特異性抗体は、以下の特性を有する。
【0109】
以下の特性を含むインタクトな全IgG二重特異性抗体:
a)T細胞への結合;
b)腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原への結合;
c)そのFc部分を介したFc受容体陽性細胞への結合、
d)<500ng/mlの抗体濃度で補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであり、神経疼痛の回避をもたらし、ここで、二重特異性抗体は、以下のアイソタイプの組み合わせを有する抗体の群からさらに選択される、:
・ラット-IgG2b/マウス-IgG2a、
・ラット-IgG2b/マウス-IgG2b、
・ラット-IgG2b/ヒト-IgG1、
・マウス-[VH-CH1;VL-CL]-ヒト-IgG1/ラット-[VH-CH1,VL-CL]-ヒト-IgG1-[ヒンジ領域]-ヒト-IgG3*-[CH2-CH3]。
【0110】
[*=コーカサスアロタイプG3m(b+g)=プロテインAに結合しない]。この好ましい抗体は、<500ng/mlの抗体濃度で補体依存性細胞傷害がないか、またはごくわずかであることに関してより良好な効果、および神経の痛みの回避の改善と関連付けることができる。これは、本開示の抗体とGD2結合部位との一価結合に起因し得る。
【0111】
特に好ましいのは、アイソタイプ組み合わせラット-IgG2b/マウス-IgG2aを有する、GD2およびCD3に対して指向する抗体、好ましくは二重特異性抗体および/または足場タンパク質である。前記二重特異性抗体の好ましい例は、抗CD3×抗GD2抗体である。好ましくは、前記抗体はモノクローナルである。
【0112】
好ましくは、本発明に従う抗体は、例えばFv、Fab、scFv、またはF(ab)2断片を有するモノクローナル抗体、キメラ抗体、組換え抗体、合成抗体、半合成抗体、または化学的に修飾されたインタクトな抗体である。
【0113】
本発明の方法において、ヒト起源の抗体または誘導体もしくは断片、またはヒトにおける使用に適するように改変された抗体(いわゆる「ヒト化抗体」)も使用することができる(例えば、シャラビ(Shalaby)ら、J.Exp.Med.175(1992),217;モシカット(Mocikat)ら、Transplantation 57(1994),405を参照のこと)。
【0114】
上記の異なるタイプの抗体および抗体断片の調製は、当業者には明らかである。好ましくは哺乳動物起源、例えばヒト、ラット、マウス、ウサギまたはヤギのモノクローナル抗体の調製は、例えばケーラー(Koehler)およびミルシュタイン(Milstein)(Nature 256(1975),495)、ハーロ-(Harlow)およびレーン(Lane)(Antibodies,A Laboratory Manual(1988),Cold Spring Harbor)またはガルフリー(Galfre)(Meth.Enzymol.、73(1981)、3)に記載されているような従来の方法を用いて実施され得る。
【0115】
当業者に明らかな技術に従って組換えDNA技術によって記載される抗体を調製することがさらに可能である(クルツ(Kurucz)ら、J.Immunol.154(1995),4576;ホリンガー(Hollinger)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993),6444)。
【0116】
2つの異なる特異性を有する抗体、いわゆる二重特異性抗体の調製は、例えば、組換えDNA技術を使用して行うことができるが、いわゆるハイブリッドハイブリドーマ融合技術によっても行うことができる(例えば、ミルシュタイン(Milstein)ら、Nature 305(1983),537を参照)。この技術は、各々が所望の特異性の1つを有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を融合する工程、ならびに両方の特異性を有する抗体を産生する組換え細胞株を同定および単離する工程を含む。
【0117】
本発明の基礎を形成する課題は、本明細書中に記載されるような特性および効果を示す場合、好ましい実施形態において、二重特異性抗体または三重特異性抗体のいずれかを使用することによって克服され得る。本発明は、特に、二重特異性抗体によって記載される。しかしながら、同様の効果を示す以下の三重特異性抗体も包含することが理解される。上記では、「抗体」または「足場タンパク質」という用語は二重特異性抗体を指す場合があるが、同様の効果を示す以下の三重特異性抗体も包含し得ることが理解される。
【0118】
3つの特異性を示す抗体、いわゆる三重特異性抗体の調製は、本発明の課題を解決するのにも適しており、例えば、さらなる特異性を有する第3の抗原結合部位を、例えば「一本鎖可変断片」(scFv)の形態で、二重特異性抗体のIgG重鎖の1つに結合させることによって実施することができる。さらに、組換え技術(例えば、タンパク質合成またはオリゴヌクレオチド合成のためのベクターベースの方法)が使用されてもよい。
【0119】
同様に、三重特異性F(ab)2構築物は、二重特異性抗体の1つの特異性の重鎖のCH2-CH3領域を、第3の特異性を有するscFvによって置換することによって調製され得るが、他方の特異性を有する重鎖のCH2-CH3領域は、例えば、コード遺伝子への終止コドンの挿入(「ヒンジ」5領域の末端における)によって、例えば、相同組換えによって除去され得る。
【0120】
3つの異なる特異性を表す3つのVH-VL領域が連続して配置されている三重特異性scFv構築物を調製することも可能である。
インタクトな二重特異性抗体は、各々が特異性を示す2つの抗体半分子(各々がHおよびL免疫グロブリン鎖を有する)から構成され、さらに、周知のエフェクター機能を行うFc部分を有する正常抗体と同様である。それらは、好ましくはクアドローマ技術を用いて調製される。この製造方法はドイツ国特許出願公開第4419399号明細書に例示されている。完全な開示のために、この文書は、二重特異性抗体の定義に関しても参照によりその全体が組み込まれる。他の調製方法もまた、それらが本発明に従って必要とされる上記定義に従うインタクトな二重特異性抗体をもたらす場合に有用であることが理解されるべきである。
【0121】
例えば、インタクトな二重特異性抗体は、新たに開発された調製方法を使用して十分な量で産生され得る(リンドホファー(Lindhofer)ら、J.Immunology、155:219(1995))。乳腺癌細胞上の2つの異なる腫瘍関連抗原(例えば、GA-733-2=C215のようなc-erb-B2、EpCAM)に対して指向する2つの二重特異性抗体の組み合わせは、抗原の一方のみを発現する腫瘍細胞が同定されないまま残るリスクを最小化する。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【
図1】FADU及びKATO III細胞によるmCRP発現のフローサイトメトリー分析。FADU細胞及びKATO III細胞を、mCRP(CD46、CD55、CD59)に対するFITCコンジュゲート抗体又はアイソタイプコントロールで染色した。ヒストグラムは、フローサイトメトリーによって測定されたFITC蛍光強度を示す。
【
図2】31.08.05、ドナーI由来のカツマキソマブによって媒介される補体依存性細胞傷害の分析。KATO III細胞を、50ng/ml、500ng/mlまたは1μg/mlのカツマキソマブ、および10%正常血清(hum.血清)、10%不活性化血清(inact.血清)または血清を含まない、のいずれかでインキュベートした。腫瘍細胞生存は、カツマキソマブを含まない対照(control)のパーセントとして示される。w/o=なし。
【
図3】31.08.05、ドナーII由来のカツマキソマブによって媒介される補体依存性細胞傷害の分析。KATO III細胞を、50ng/ml、500ng/mlまたは1μg/mlのカツマキソマブおよび10%正常血清(hum.血清)、10%不活性化血清(inact.血清)または血清を含まない、のいずれかでインキュベートした。腫瘍細胞生存は、カツマキソマブを含まない対照のパーセントとして示される。w/o=なし。
【
図4】24.08.05、ドナーIII由来のカツマキソマブによって媒介される補体依存性細胞傷害の分析。KATO III細胞を、50ng/ml、500ng/mlまたは1μg/mlのカツマキソマブおよび10%正常血清(hum.血清)、10%不活性化血清(inact.血清)または血清を含まない、のいずれかでインキュベートした。腫瘍細胞生存は、カツマキソマブを含まない対照のパーセントとして示される。w/o=なし。
【
図5】20.07.05、ドナーIV由来のカツマキソマブによって媒介される補体依存性細胞傷害の分析。KATO III細胞を、50ng/ml、500ng/mlまたは1μg/mlのカツマキソマブおよび10%正常血清(hum.血清)、10%不活性化血清(inact.血清)または血清を含まない、のいずれかでインキュベートした。腫瘍細胞生存は、カツマキソマブを含まない対照のパーセントとして示される。w/o=なし。
【
図6】20.07.05、ドナーIV由来のカツマキソマブによって媒介される補体依存性細胞傷害の分析。FADU細胞を、50ng/ml、500ng/ml又は1μg/mlのカツマキソマブおよび10%正常血清(hum.血清)、10%不活性化血清(inact.血清)または血清を含まない、のいずれかでインキュベートした。腫瘍細胞生存は、カツマキソマブを含まない対照のパーセントとして示される。w/o=なし。
【
図7】31.08.05、ドナーI由来のHO-3によって媒介される補体依存性細胞傷害性の分析。KATO III細胞を、50ng/ml、500ng/mlまたは1μg/mlのカツマキソマブおよび10%正常血清(hum.血清)、10%不活性化血清(inact.血清)または血清を含まない、のいずれかでインキュベートした。腫瘍細胞生存は、HO-3なしの対照のパーセントとして示される。w/o=なし。
【
図8】31.08.05、ドナーII由来のHO-3によって媒介される補体依存性細胞傷害性の分析。KATO III細胞を、50ng/ml、500ng/mlまたは1μg/mlのカツマキソマブおよび10%正常血清(hum.血清)、10%不活性化血清(inact.血清)または血清を含まない、のいずれかでインキュベートした。腫瘍細胞生存は、HO-3なしの対照のパーセントとして示される。w/o=なし。
【
図9】24.08.05、ドナーIII由来のHO-3によって媒介される補体依存性細胞傷害性の分析。KATO III細胞を、50ng/ml、500ng/mlまたは1μg/mlのカツマキソマブおよび10%正常血清(hum.血清)、10%不活性化血清(inact.血清)または血清を含まない、のいずれかでインキュベートした。腫瘍細胞生存は、HO-3なしの対照のパーセントとして示される。w/o=なし。
【
図10】骨に転移したグレードIVの神経芽腫患者1を、2サイクルの漸増量の二重特異性抗体EKTOMUNで治療した。薬物動態分析は、患者1および別の患者2について、循環する抗体の量の増加に伴う用量直線性を明らかにする。(A)患者1に対する第1の治療サイクル;(B)患者1に対する第2の治療サイクル;(C)患者2に対する第1の治療サイクル。
【発明を実施するための形態】
【0123】
以下では、本発明を実施するための1つの例示的な実施例を説明する。このアプローチに従う当業者は、必然的に、特許請求される利益を得ることになる。この例に従って、本発明から逸脱することなく様々な修正を行うことができる。以下の実施例は、単に上記の開示を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【実施例】
【0124】
実施例1
親抗体である抗EpCAM抗体HO-3(アイソタイプマウスIgG2a)と二重特異性抗体カツマキソマブ(抗EpCAM×抗CD3)およびアイソタイプの組み合わせマウスIgG2a×ラットIgG2bの補体結合活性を比較するため、同一のFc領域を有し、したがって補体結合特性を有するEktomunおよび関連する親抗体Me361をモデル系として、補体を介する細胞傷害性を評価する実験を行った。さらに、カツマキソマブおよびEktomunのCD3結合アームは同一である。
【0125】
最初に、前提条件として、腫瘍標的細胞株KATO IIIおよびFADUの表面上の膜結合補体調節タンパク質(mCRP)の発現をフローサイトメトリーで測定した(
図1)。
【0126】
CD46、CD55、CD59などの膜結合型補体制御タンパク質(mCRP)は、補体系の過剰活性化を防ぐために全身に発現している。しかしながら、これらのmCRPは諸刃の剣として作用し、がん細胞を排除する効果がなくなる程度にまで補体系を過剰に制御することがある、(ゲラー(Geller)Aおよびヤン(Yan)J(2019)腫瘍発生およびがん免疫療法における膜結合補体調節タンパク質の役割(The Role of Membrane Bound Complement Regulatory Proteins in Tumor Development and Cancer Immunotherapy)、Front.Immunol.10:1074、doi:10.3389/fimmu.2019.01074)。
【0127】
したがって、さらなる一連の実験において測定された試験抗体の補体依存性細胞傷害性をよりよく理解するために、mCRPSの発現を評価した。
次に、抗体カツマキソマブの補体依存性細胞傷害を、4人の異なる補体ドナーを用いてKATO IIIで、および1人の補体ドナーを使用してFADUで分析した(
図2~6)。
【0128】
親抗EpCAM抗体HO-3によって媒介される補体依存性細胞傷害も、上記で説明したのと同様の方法に基づいて評価した(
図7~9)。
実施例2
二重特異性抗体EKTOMUN(抗GD2×抗CD3)による指定された患者ベースでの神経芽腫患者の治療は、神経疼痛を引き起こさなかった。骨に転移したグレードIVの神経芽腫患者1を、漸増量のbsAb EKTOMUNの2サイクルで治療した(
図10A~B)。薬物動態分析は、患者1ならびに別の患者2について、循環する抗体の量の増加に伴う用量直線性を明らかにする(
図10A~C)。患者1については、最初の治療サイクルで、全ての有害事象が詳細に記録された(以下の表1~3を参照)。予想された抗体関連有害事象は、発熱、悪寒およびインフルエンザ様症状であった。しかしながら、抗体関連の神経疼痛は観察されなかった。個人的な情報から、第2の治療サイクルの間および後にも、神経疼痛が生じなかったことが知られている。
【0129】
EKTOMUN(i.v.)で治療した神経芽腫患者の傷害性評価。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
概要および結論
補体依存性細胞傷害の結果は、二重特異性抗体カツマキソマブよりも親抗EpCAM抗体HO-3による腫瘍細胞の有意に良好な破壊を実証する。HO-3は、全ての抗体濃度にわたって、50ng/mlであっても、補体依存性細胞傷害を示したが、カツマキソマブは、<500ng/mlの抗体濃度で再現性よくかつ定量的に細胞を溶解することができなかった。
【0137】
この観察は、二重特異性抗体の腫瘍関連抗原への一価結合が寄与し得る。二価結合抗体は、より高いアビディティで腫瘍標的に結合することができ、したがって、より低い抗体濃度でも、効率的な補体依存性腫瘍細胞溶解を媒介することができる。
【0138】
本開示の二重特異性抗体の以下の特徴は、補体結合に関連する神経の疼痛を重大でないレベルまたは存在しないレベルまでさらに低減または緩和することに関連し得る:本開示の抗体、好ましくはGD2に結合する抗体の親和性は、腫瘍関連抗原に対して低~中程度の親和性、好ましくはKD=10-5~10-8Mの範囲の親和性を示し、その結果、結合した抗体、例えば抗GD2抗体または抗GD2×抗CD3二重特異性抗体のアビディティを十分な結合レベルまで増加させる関与するFc-γ受容体陽性細胞またはT細胞によってのみ、標的細胞、例えばGD2陽性腫瘍または健常組織のオプソニン化が起こり得る。
【0139】
本開示の抗体の場合における低い補体結合の理由は、おそらく、腫瘍関連抗原(例えば、GD2)への一価結合の低い親和性に起因する。すなわち、本開示の抗体は、最初にT細胞に結合し、次いで、オプソニン化されたT細胞上の例えば数百のtrAk分子の増大したアビディティを介して腫瘍細胞(例えば、Ektomunの場合にはGD2陽性腫瘍細胞)に結合してそれを破壊することができ、ここで、T細胞はその表面上にいくつかの補体阻害抗原を発現するので、補体はここでは関与しない可能性がある。
【0140】
背景技術の部分に対する参照文献
【0141】
【0142】
【配列表】
【国際調査報告】