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特表2024-524528コンデンセート中の重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体及びその調製方法
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  • 特表-コンデンセート中の重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体及びその調製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】コンデンセート中の重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/00 20060101AFI20240628BHJP
   C07C 63/28 20060101ALI20240628BHJP
   C07C 63/307 20060101ALI20240628BHJP
   C07C 57/13 20060101ALI20240628BHJP
   C07C 51/41 20060101ALI20240628BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20240628BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20240628BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240628BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240628BHJP
   C07C 57/145 20060101ALN20240628BHJP
   C07C 57/15 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C07F7/00 A CSP
C07C63/28
C07C63/307
C07C57/13
C07C51/41
B01J20/22 B
B01J20/26 B
B01J20/30
B01D15/00 J
C07C57/145
C07C57/15
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500098
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 IB2022056061
(87)【国際公開番号】W WO2023275787
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】2101003971
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521111157
【氏名又は名称】ピーティーティー・エクスプロレイション・アンド プロダクション・パブリック・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アラヤチュキート、スナツダ
(72)【発明者】
【氏名】ピロムチャート、タラドン
(72)【発明者】
【氏名】コンパットパニチ、カノクァン
(72)【発明者】
【氏名】ソムチット、ヴェティガ
(72)【発明者】
【氏名】ピラ、タウェーサク
(72)【発明者】
【氏名】タンセルムヴィット、ヴィットサルト
(72)【発明者】
【氏名】ピヤケーラティクル、パンチャニット
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4H006
4H049
【Fターム(参考)】
4D017AA04
4D017BA13
4D017CA11
4D017CA13
4D017DA01
4G066AA13D
4G066AB07B
4G066AB24B
4G066AC11B
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA31
4G066BA36
4G066CA46
4G066CA47
4G066DA09
4G066FA03
4G066FA11
4G066FA21
4G066FA33
4G066FA34
4G066FA36
4G066FA37
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB80
4H006AB90
4H006AB99
4H006AC47
4H006AD30
4H006BB20
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC16
4H006BC19
4H006BC31
4H006BE10
4H006BJ50
4H006BS30
4H006BS70
4H049VN06
4H049VP10
4H049VR44
4H049VS12
4H049VS32
4H049VU25
4H049VU31
4H049VV12
4H049VV20
(57)【要約】
本発明は、4価のジルコニウムイオン(Zr4+)と、前記4価のジルコニウムイオン(Zr4+)を結合する二座又は三座連結配位子と、を少なくとも含むジルコニウム系金属有機構造体に関する。さらに、本発明は、(a)溶媒中で、ジルコニウム化合物、連結配位子、及び任意に調節剤を含む反応混合物を調製する工程と、(b)工程(a)で得られた反応混合物を加熱する工程と、(c)工程(b)で得られた反応生成物を溶媒で洗浄し、前記反応生成物を乾燥させる工程と、を含むジルコニウム系金属有機構造体の調製方法にも関する。本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体は、コンデンセート中で重金属を除去するプロセス、特にコンデンセート中のヒ素及び水銀含有物の吸着、除去、又は低減において使用するのに適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4価のジルコニウムイオン(Zr4+)と、前記4価のジルコニウムイオン(Zr4+)を結合する二座又は三座連結配位子と、を少なくとも含む、コンデンセート中で重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項2】
アルカリ金属水酸化物溶液で表面処理されている、請求項1に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項3】
前記アルカリ金属水酸化物溶液のpHが7~12の範囲、好ましくは7~8の範囲に制御される、請求項2に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項4】
前記アルカリ金属水酸化物溶液による表面処理が、周囲温度で12~36時間行われる、請求項2又は3に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項5】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項2~4のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項6】
前記連結配位子が、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ブタ-2-エン二酸、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項7】
前記4価のジルコニウムイオン(Zr4+)が、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム八水和物、二酸化ジルコニウム、四水酸化ジルコニウム、又はそれらの混合物のいずれかに由来する、請求項1に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項8】
6個のジルコニウム原子のクラスターノード(Zrクラスターノード)と、前記連結配位子に部分的に連結された8個の酸素原子と、を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項9】
前記4価のジルコニウムイオン(Zr4+)の前記連結配位子に対するモル比が、1:1~3の範囲である、請求項1~8のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項10】
平均BET表面積が300~1000m/gの範囲である、請求項1~9のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項11】
平均細孔容積が0.2~1.2cm/gの範囲である、請求項1~9のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項12】
平均細孔直径が3~5nmの範囲である、請求項1~9のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項13】
I型又はIV型の窒素吸脱着等温線を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項14】
コンデンセート中のヒ素吸着剤として使用するための、請求項1~13のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項15】
コンデンセート中の水銀吸着剤として使用するための、請求項1~13のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体を含む吸着剤。
【請求項17】
(a)溶媒中で、ジルコニウム化合物、連結配位子、及び任意に調節剤を含む反応混合物を調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた反応混合物を80~150℃の範囲の温度で6~48時間加熱する工程と、
(c)工程(b)で得られた反応生成物を溶媒で洗浄し、前記反応生成物を80~150℃の範囲の温度で6~15時間乾燥させる工程と、
を含む、コンデンセート中で重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体の調製方法。
【請求項18】
工程(c)で得られた反応生成物を、アルカリ金属水酸化物水溶液と周囲温度で12~36時間接触させる工程(d)をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(d)において、前記アルカリ金属水酸化物水溶液のpHが7~12の範囲、好ましくは7~8の範囲に制御される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工程(d)において、前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
工程(d)で得られた生成物を溶媒で洗浄し、前記生成物を80~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥させる工程(e)をさらに含む、請求項18~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
工程(e)において、前記溶媒が水である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
工程(a)における、前記ジルコニウム化合物の前記連結配位子に対するモル比が、1:1~3の範囲内である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
工程(a)における、前記ジルコニウム化合物の前記調節剤に対するモル比が、1:4~6の範囲内である、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
工程(a)における、前記ジルコニウム化合物の前記調節剤に対するモル比が、1:300~400の範囲内である、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
(a)溶媒中で前記ジルコニウム化合物及び前記連結配位子を含む反応混合物を調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた前記反応混合物を100~150℃の範囲の温度で12~36時間加熱する工程と、
(c)工程(b)で得られた前記反応生成物を溶媒で洗浄し、前記反応生成物を100~150℃の範囲の温度で6~15時間乾燥させる工程と、
(d)工程(c)で得られた反応生成物を、pHが7~12の範囲に制御されたアルカリ金属水酸化物水溶液と周囲温度で12~36時間接触させる工程と、
(e)工程(d)で得られた生成物を溶媒で洗浄し、前記生成物を80~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥する工程と、を含み、
工程(a)における、前記ジルコニウム化合物の前記連結配位子に対するモル比が、1:1~3の範囲である、請求項17~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
(a)溶媒中で、前記ジルコニウム化合物、前記連結配位子、及び前記調節剤を含む前記反応混合物を調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた前記反応混合物を80~150℃の範囲の温度で24~48時間加熱する工程と、
(c)工程(b)で得られた前記反応生成物を溶媒で洗浄し、前記反応生成物を100~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥させる工程と、
(d)工程(c)で得られた前記反応生成物を、7~12の範囲に制御されたpHを有するアルカリ金属水酸化物の水溶液と周囲温度で12~36時間接触させる工程と、
(e)工程(d)で得られた生成物を溶媒で洗浄し、前記生成物を80~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥する工程と、を含み、
工程(a)における、前記ジルコニウム化合物の前記連結配位子に対するモル比が、1:1~3の範囲であり、
工程(a)における、前記ジルコニウム化合物の前記調節剤に対するモル比が、1:300~400の範囲である、
請求項16~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
(a)溶媒中で、前記ジルコニウム化合物、前記連結配位子、及び前記調節剤を含む前記反応混合物を調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた前記反応混合物を90~110℃の範囲の温度で4~8時間加熱する工程と、
(c)工程(b)で得られた前記反応生成物を溶媒で洗浄し、前記反応生成物を80~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥させる工程と、を含み、
工程(a)における、前記ジルコニウム化合物の前記連結配位子に対するモル比が、1:1~3の範囲であり、
工程(a)における、前記ジルコニウム化合物の前記調節剤に対するモル比が、1:4~6の範囲である、
請求項16~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ジルコニウム化合物が、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム八水和物、二酸化ジルコニウム、四水酸化ジルコニウム、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項17~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記連結配位子が、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ブタ-2-エン二酸、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項17~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記調節剤が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項17~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
工程(a)において、前記溶媒が、ジメチルホルムアミド、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノール、エタノール、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項17~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
工程(c)において、前記溶媒が、ジメチルホルムアミド、アセトン、メタノール、エタノール、水、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項17~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
コンデンセートを、請求項1~15のいずれか1項に記載のジルコニウム系金属有機構造体を含む吸着剤と接触させることを含む、コンデンセート中の重金属の除去方法。
【請求項35】
前記コンデンセートの前記吸着剤との接触が、18~80℃の範囲の温度及び1~30バールの範囲の圧力で行われる、請求項34に記載の重金属の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コンデンセート中の重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体及びその調製方法に関する化学。
【背景技術】
【0002】
石油の探査及び生産産業では、一般に、原油、天然ガス、及び天然ガス液(NGL)(コンデンセート又は天然ガスコンデンセートとも呼ばれる)などの、生産プロセスから得られる天然炭化水素化合物である石油製品には、ヒ素(As)や水銀(Hg)等の重金属汚染物質が含まれている。重金属汚染物質は、毒性及び腐食性の点で不利益の原因となり、例えば石油化学産業において、石油製品、特にコンデンセートを出発原料として使用する次工程を実施する際に問題となる。コンデンセートに含まれるヒ素や水銀は、硫化水銀(HgS)、酸化水銀(HgO)、硫ヒ鉄鉱(AsFeS)など、様々な化合物の形態をとっている。
【0003】
したがって、重金属汚染物質、特にコンデンセート中に含まれるヒ素及び水銀化合物を低減又は除去する必要性を満たすために、これらの汚染物質の吸着に使用するための方法及び材料を開発する試みがなされている。
【0004】
金属クラスターと有機連結配位子からなる構造を有する金属有機構造体は、非常に注目される新規な多孔質材料と考えられており、ガス貯蔵、ガス分離、化学センサー、不均一系触媒などの様々な用途に応用されている。産業的には、金属有機構造体は、選択された金属クラスターと連結配位子の種類に応じて調整可能な構造や空隙率に応じて、必要な吸着特性を備えた吸着剤として使用するためのもう1つの興味深い選択肢である。
【0005】
汚染物質吸着剤として使用するための金属有機構造体の開発に関する発明の例を以下に示す。
【0006】
国際公開第2020/130953号には、石油から二酸化炭素(CO)、並びに水銀、ヒ素、及び硫化水素(HS)等の他の汚染物質を除去する際に使用するための銅系金属有機構造体が開示されている。前記銅系金属有機構造体は、銅(II)(Cu(II))塩と、2,5-ジブロモベンゼン-1,4-ジカルボン酸、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びメタノールとを混合し、この混合物を加熱し、生成物を回収することを含む方法によって得られる。
【0007】
国際公開第2020/130954号には、石油から二酸化炭素(CO)、並びにHg、As、及び硫化水素(HS)等の他の汚染物質を除去する際に使用する銅系金属有機構造体が開示されている。前記銅系金属有機構造体は、銅(II)(Cu(II))塩、1,2,4,5-テトラブロモベンゼンジカルボン酸、メタノール、及び水を一緒に混合する工程と、この混合物を加熱する工程と、生成物を回収する工程と、を含む方法によって得られる。
【0008】
米国特許第10,260,148号明細書には、電子ガスを精製し、炭化水素流から水銀を除去するための、金属有機構造体及び多孔質有機ポリマーを含む多孔質材料が開示されている。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の態様は、4価のジルコニウムイオン(Zr4+)と、前記4価のジルコニウムイオン(Zr4+)を結合する二座又は三座連結配位子と、を少なくとも含む、コンデンセート中で重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体(zirconium-based metal organic framework)に関し、ここで、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体は、コンデンセート中の重金属の吸着効率を改善又は増強するために、アルカリ金属水酸化物の溶液による表面処理に供してもよい。
【0010】
本発明の第2の態様は、
(a)溶媒中で、ジルコニウム化合物、連結配位子、及び任意に調節剤を含む反応混合物を調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた反応混合物を80~150℃の範囲の温度で6~48時間加熱する工程と、
(c)工程(b)で得られた反応生成物を溶媒で洗浄し、前記反応生成物を80~150℃の範囲の温度で6~15時間乾燥させる工程と、
を含む、コンデンセート中で重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体の調製方法に関する。
【0011】
任意に、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体の調製方法は、工程(c)で得られた反応生成物をアルカリ金属水酸化物水溶液と周囲温度で12~36時間接触させる工程(d)をさらに含んでもよい。
【0012】
本発明の第3の態様は、コンデンセートを、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体を含む吸着剤と接触させることを含む、コンデンセート中の重金属の除去方法に関する。
【0013】
本発明の目的は、重金属化合物である汚染物質、特に、コンデンセート中にこれらの重金属を含む化合物として存在し得るヒ素(As)及び水銀(Hg)などを吸着、除去、又は低減する能力を有するジルコニウム系金属有機構造体を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、コンデンセート中で前述の汚染物質吸着剤として使用するための構造体の特性を最適化できる、ジルコニウム系金属有機構造体の調製方法を提供することである。
【0015】
また、本発明は、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体である吸着剤、又は、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体を含む吸着剤を用いて、コンデンセートから上記汚染物質を除去する方法を提供することも目的とする。
【0016】
本発明に従って調製され特徴付けられたジルコニウム系金属有機構造体は、コンデンセート中の重金属化合物、特にヒ素及び水銀の吸着において優れた効率を示した。これは、コンデンセート中のヒ素化合物の最大約85%を除去でき、コンデンセート中の水銀化合物の最大約99%を除去できる。さらに、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体は、一般に入手可能な他の種類の金属有機構造体よりも、コンデンセート中のヒ素化合物及び水銀化合物の除去率(%)が顕著に高いことも見出された。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体の実施例である、実施例1(図1(a))、実施例2(図1(b))、及び実施例3(図1(c))の粉末X線回折パターンである。
図2】本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体の実施例である、実施例1(図1(a))、実施例2(図1(b))、及び実施例3(図1(c))の窒素吸脱着等温線である。
図3】本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体の実施例である実施例1、並びに比較例A及び比較例Bの窒素吸脱着等温線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に示されるあらゆる態様は、別段の記載がない限り、本発明の他の態様への適用も同様に包含するものとする。
本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、別段の指定がない限り、当業者によって理解される意味を有する。
本発明全体を通して、「約」との語は、本明細書に現れる又は示される任意の値が変動又は逸脱を有する可能性があることを示すために使用される。このような変動(variation)又は逸脱(deviation)は、機器の誤差、又は値の決定に用いられる方法に起因し得る。
「からなる(consist(s) of)」、「含む(comprise(s))」、「含む(contain(s))」、及び「含む(include(s))」との語はオープンエンドの動詞である。例えば、1つの構成要素若しくは複数の構成要素、又は1つの工程又は複数の工程「からなる(consist(s) of)」、これを「含む(comprise(s))」、これを「含む(contain(s))」、又はこれを「含む(include(s))」方法は、1つの構成要素若しくは1つの工程、又は複数の工程若しくは複数の構成要素のみに限定されず、特定されていない構成要素や工程も包含される。
本明細書で言及されるツール、装置、方法、材料、又は化学物質は、別段の指定がない限り、当業者によって一般に使用又は実施されるツール、装置、方法、材料、又は化学物質を意味する。
本発明で開示され特許請求されているすべての構成要素及び/又は方法は、特許請求の範囲に具体的に記載されていなくても、本発明とは実質的に異なる実験を必要とせず当業者の判断に従う本願発明の態様の特性及び有用性を与え同じ効果を提供する、任意の要素の行為、実践、改変、又は変更から得られる本発明の態様を包含することを意図している。したがって、本発明の態様の置換又は類似物、及び当業者には明らかなわずかな修正又は変更も同様に本発明の精神、範囲、及び概念内にあるとみなされる。
本発明に係る「コンデンセート」との語は、当技術分野で一般的に使用される「コンデンセート油」又は「天然ガス液(NGL)」又は「天然ガスコンデンセート」を包含するものとする。一例として、「コンデンセート」との語は、1~14個の炭素原子、好ましくは3~14個の炭素原子を含む炭化水素の範囲の分子量を有する液体炭化水素の混合物を包含する。
以下に、本発明の態様をより詳細に説明する。
【0019】
ジルコニウム系金属有機構造体
本発明の第1の態様は、4価のジルコニウムイオン(Zr4+)と、前記4価のジルコニウムイオン(Zr4+)を結合する二座又は三座連結配位子と、を少なくとも含む、コンデンセート中で重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体に関する。
【0020】
代替の実施形態では、前記ジルコニウム系金属有機構造体は、アルカリ金属水酸化物溶液による表面処理に供され、特に、pHが7~12、好ましくは7~8の範囲に制御されたアルカリ金属水酸化物溶液による表面処理に供される。
【0021】
一例として、このようなアルカリ金属水酸化物溶液による表面処理は、周囲温度で12~36時間行ってもよい。
【0022】
本発明による表面処理に適したアルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びそれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0023】
好ましくは、このようなアルカリ金属水酸化物溶液は、水酸化ナトリウム水溶液である。
【0024】
連結配位子は、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ブタ-2-エン二酸、及びそれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0025】
より具体的な実施形態では、4価のジルコニウムイオン(Zr4+)は、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム八水和物、二酸化ジルコニウム、四水酸化ジルコニウム、又はそれらの混合物のいずれかに由来する。
【0026】
好ましくは、4価のジルコニウムイオン(Zr4+)は、四塩化ジルコニウム又はオキシ塩化ジルコニウム八水和物に由来する。
【0027】
本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体は、6個のジルコニウム原子のクラスターノード(Zrクラスターノード)と、連結配位子に部分的に連結された8個の酸素原子と、を含む。
【0028】
好ましくは、ジルコニウム系金属有機構造体は、4価のジルコニウムイオン(Zr4+)の連結配位子に対するモル比が1:1~3の範囲である。
【0029】
さらに、ジルコニウム系金属有機構造体は、300~1000m /gの範囲の平均BET表面積を有する。
【0030】
好ましくは、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体は、0.2~1.2cm /gの範囲の平均細孔容積を有し、3~5nmの範囲の平均細孔直径を有する。
【0031】
また、好ましくは、ジルコニウム系金属有機構造体は、I型又はIV型の窒素吸脱着等温線を有する。
【0032】
本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体は、コンデンセート中のヒ素及び/又は水銀の吸着剤として使用するのに特に適している。
【0033】
さらに、本発明は、本発明に係る上述の特徴を有するジルコニウム系金属有機構造体を含む吸着剤にも関する。
【0034】
本発明の第2の態様は、コンデンセート中の重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体の調製方法に関する。
【0035】
本発明に係る、コンデンセート中の重金属吸着剤として使用するためのジルコニウム系金属有機構造体の調製方法は、
(a)溶媒中で、ジルコニウム化合物、連結配位子、及び任意に調節剤を含む反応混合物を調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた反応混合物を80~150℃の範囲の温度で6~48時間加熱する工程と、
(c)工程(b)で得られた反応生成物を溶媒で洗浄し、前記反応生成物を80~150℃の範囲の温度で6~15時間乾燥させる工程と、
を含む。
【0036】
本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体を製造する方法は、工程(c)で得られた反応生成物をアルカリ金属水酸化物水溶液と周囲温度で12~36時間接触させる工程(d)をさらに含んでもよい。
【0037】
好ましくは、工程(d)において、アルカリ金属水酸化物水溶液のpHは、7~12の範囲、好ましくは7~8の範囲に制御される。
【0038】
工程(d)で使用されるこのようなアルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びそれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0039】
好ましくは、本発明の方法によるアルカリ金属水酸化物水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液である。
【0040】
さらなる態様では、ジルコニウム系金属有機構造体の調製方法は、工程(d)で得られた生成物を溶媒で洗浄し、前記生成物を80~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥させる工程(e)をさらに含む。
【0041】
好ましくは、工程(e)において、溶媒は水である。
【0042】
特定の実施形態では、工程(a)におけるジルコニウム化合物の連結配位子に対するモル比は1:1~3の範囲である。
【0043】
あるいは、工程(a)におけるジルコニウム化合物の調節剤に対するモル比は、1:4~6の範囲内である。
【0044】
任意に、工程(a)におけるジルコニウム化合物の調節剤に対するモル比は、1:300~400の範囲内である。
【0045】
本発明の特定の実施形態では、ジルコニウム系金属有機構造体の調製方法は、
(a)溶媒中でジルコニウム化合物及び連結配位子を含む反応混合物を調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた反応混合物を100~150℃の範囲の温度で12~36時間加熱する工程と、
(c)工程(b)で得られた反応生成物を溶媒で洗浄し、反応生成物を100~150℃の範囲の温度で6~15時間乾燥させる工程と、
(d)工程(c)で得られた反応生成物を、pHが7~12の範囲に制御されたアルカリ金属水酸化物水溶液と周囲温度で12~36時間接触させる工程と、
(e)工程(d)で得られた生成物を溶媒で洗浄し、生成物を80~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥する工程と、を含み、
工程(a)における、ジルコニウム化合物の連結配位子に対するモル比が、1:1~3の範囲である。
【0046】
本発明のより具体的な実施形態では、ジルコニウム系金属有機構造体の調製方法は、
(a)溶媒中で、ジルコニウム化合物、連結配位子、及び調節剤を含む反応混合物を調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた反応混合物を80~150℃の範囲の温度で24~48時間加熱する工程と、
(c)工程(b)で得られた反応生成物を溶媒で洗浄し、反応生成物を100~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥させる工程と、
(d)工程(c)で得られた反応生成物を、7~12の範囲に制御されたpHを有するアルカリ金属水酸化物水溶液と周囲温度で12~36時間接触させる工程と、
(e)工程(d)で得られた生成物を溶媒で洗浄し、生成物を80~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥する工程と、を含み、
工程(a)における、ジルコニウム化合物の連結配位子に対するモル比が、1:1~3の範囲であり、
工程(a)における、ジルコニウム化合物の調節剤に対するモル比が、1:300~400の範囲である。
【0047】
本発明の別の特定の実施形態では、ジルコニウム系金属有機構造体の調製方法は、
(a)溶媒中で、ジルコニウム化合物、連結配位子、及び調節剤を含む反応混合物を調製する工程と、
(b)工程(a)で得られた反応混合物を90~110℃の範囲の温度で4~8時間加熱する工程と、
(c)工程(b)で得られた反応生成物を溶媒で洗浄し、反応生成物を80~150℃の範囲の温度で6~12時間乾燥させる工程と、を含み、
工程(a)における、ジルコニウム化合物の連結配位子に対するモル比が、1:1~3の範囲であり、
工程(a)における、ジルコニウム化合物の調節剤に対するモル比が、1:4~6の範囲である。
【0048】
本発明の方法による好ましいジルコニウム化合物は、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム八水和物、二酸化ジルコニウム、四水酸化ジルコニウム、及びそれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0049】
より好ましくは、ジルコニウム化合物はオキシ塩化ジルコニウム八水和物又は四塩化ジルコニウムである。
【0050】
本発明の方法による好ましい連結配位子は、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ブタ-2-エン二酸、及びそれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0051】
本発明の方法による好ましい調節剤は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、及びそれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0052】
さらにより好ましくは、調節剤はギ酸又は酢酸である。
【0053】
本発明の方法によれば、工程(a)及び(c)で使用可能な溶媒は、水及び/又は有機溶媒、例えば、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノール、エタノール等のアルコール(アルコール)であり得る。
【0054】
具体的には、工程(a)において、溶媒は、ジメチルホルムアミド、水、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、及びそれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0055】
好ましくは、工程(a)において、溶媒はジメチルホルムアミド又は水である。
【0056】
具体的には、工程(c)において、溶媒は、ジメチルホルムアミド、アセトン、メタノール、エタノール、水、及びそれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0057】
本発明の第3の態様は、本発明に従って特徴付けられた、又は本発明の方法に従って調製されたジルコニウム系金属有機構造体を含む吸着剤とコンデンセートとを接触させることを含む、コンデンセート中の重金属の除去方法に関する。
【0058】
特定の実施形態では、本発明に係る重金属除去プロセスは、18~80℃の範囲の温度及び1~30バールの範囲の圧力で行われる、コンデンセートと吸着剤との接触を含む。
【実施例
【0059】
以下、実験例及び添付図面を参照して本発明をより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものとみなすべきではない。
【0060】
1.ジルコニウム系金属有機構造体例の調製
以下の化学物質、方法、及び条件を使用して、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体例(実施例1~3)を調製する。
【0061】
<実施例1>
ZrOCl・8HO及び1,4-ベンゼンジカルボン酸(ZrOCl・8HOの1,4-ベンゼンジカルボン酸に対するモル比は約1:1に等しい)をDMFに溶解した。得られた混合溶液(すなわち、反応混合物)を1分間超音波処理した。次に、この混合溶液を温度120℃のオーブン中で24時間加熱して反応させた。完了後、得られた固体生成物を遠心分離により収集した。生成物をDMF(3回)及びアセトン(3回)で洗浄し、次いで真空下150℃の温度で12時間乾燥させた。次いで、乾燥した生成物の表面をNaOH水溶液中で24時間撹拌することにより処理した。完了後、脱イオン水(DI)で洗浄し(3回)、真空下150℃の温度で12時間乾燥させて、最終生成物を白色固体として得た。
【0062】
<実施例2>
ZrOCl・8HO及びブタ-2-エン二酸(ZrOCl ・8HOのブタ-2-エン二酸に対するモル比は約1:1に等しい)を、水とギ酸との混合物(ZrOCl・8HOのギ酸に対するモル比は約1:6に等しい)に溶解した。得られた混合溶液(すなわち、反応混合物)を5分間超音波処理した。次に、この混合溶液を温度100℃のオーブン中で6時間加熱して反応させた。完了後、得られた固体生成物を遠心分離により収集した。生成物を脱イオン水(3回)及びエタノール(3回)で洗浄し、次いで真空下150℃の温度で12時間乾燥させて、最終生成物を白色固体として得た。
【0063】
<実施例3>
ZrClと1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(ZrClの1,3,5-ベンゼントリカルボン酸に対するモル比は約1:3)をDMFとギ酸の混合物(ZrClのギ酸に対するモル比は約1:358)に溶解した。混合溶液を20分間超音波処理した。次に、この混合溶液を温度130℃のオーブン中で48時間加熱して反応させた。完了後、得られた固体生成物を遠心分離により収集した。生成物をDMF(3回)及びエタノール(3回)で洗浄し、次いで真空下150℃の温度で12時間乾燥させた。次いで、この乾燥した生成物の表面をNaOH水溶液中で24時間撹拌することにより処理した。完了後、脱イオン水で洗浄し(3回)、真空下、120℃の温度で12時間乾燥させて、最終生成物を白色固体として得た。
【0064】
2.ジルコニウム系金属有機構造体例の特性評価
上記のように調製された異なる種類の連結配位子を有するジルコニウム系金属有機構造体例(実施例1~3)を、合成されたジルコニウム系金属有機構造体の構造を確認するために粉末X線回折法(XRD)を使用し、これらの例の多孔性、平均BET表面積、及び細孔容積を特徴付けるために窒素吸着測定法(N吸着)を使用して、さらに特徴付けた。
【0065】
2.1. 粉末X線回折法による分析結果
図1(a)は、材料のナノ粒子からなる生成物のゲルの形態である2つの別個のバッチの調製で得られた実施例1のXRDパターンを示す。ゲル状であることは、通常微粒子結晶や粉末として合成される一般的な金属有機構造体とは異なる重要な特徴の一つである。図1(a)により、幅広のピークから材料のゲル形態が観察できる。
【0066】
材料がゲルの形態であることは、安定性が高く粘性の高い液体であることから、利点の1つである。これにより、使用前に顆粒等に成形する必要がある粉末状の材料に比べて、簡便に使用することができる。
【0067】
また、実施例1の金属有機構造体の構造の欠陥部位からの回折ピークである2θ=6.5°にも小さなピークが見られた。この位置のピークは、理想的なUiO-66結晶のシミュレーションパターンでは見られないものである。
【0068】
図1(b)及び図1(c)は、それぞれ2つの別個のバッチの調製から得られた実施例2及び実施例3のXRDパターンを示す。実施例3では、構造の欠陥部位からの3つの追加のピークが2θ=約7°で見出されたことが観察でき、実施例3のZrノードには多くの構造欠陥があることが示唆される。
【0069】
さらに、3つの例のXRDパターンから、6個のジルコニウム原子クラスター(Zrクラスター)の回折面(111)及び(200)に対応する2θ=約7°~9°にピークが見出された。このことは、実施例1、実施例2、及び実施例3の構造中の4価のジルコニウムイオン(Zr4+)が6個のジルコニウム原子クラスターの形態であることを示している。
【0070】
2.2. 窒素吸着法による分析結果
図2(a)は、材料のゲル形態に起因するメソ細孔を有する微多孔性材料として評価された実施例1のIV型の窒素吸脱着等温線を示す。IV型の窒素吸脱着等温線の特性は、ヒ素化合物、特にヒ酸塩(As(V)、通常は吸着剤内部でより大きな面積を必要とする大きなHAsO等の酸化化合物の形態である)の吸着にプラスの効果をもたらす。
【0071】
図2(b)及び図2(c)は、それぞれ実施例2及び実施例3のI型の窒素吸脱着等温線を示す。実施例2は、実施例2の構造中の連結配位子のサイズがより小さい結果として、実施例1と比較して少ないガス吸着を示す。
【0072】
図3は、ジルコニウム系金属有機構造体であり同じ種類の連結配位子を有する比較例A及び比較例Bとは異なる、実施例1の窒素吸脱着等温線を示す。比較例については以下に詳述する通りである。
【0073】
実施例1~3及び比較例の平均BET表面積及び細孔容積の分析結果は表1に示す通りである。ただし、比較例A及び比較例Bは以下の通りである。
1.比較例Aは、市販のジルコニウム系金属有機構造体(UiO-66)であり、
2.比較例Bは、pHを7~12の範囲に制御した水酸化ナトリウム水溶液で24時間表面処理した市販のジルコニウム系金属有機構造体(UiO-66)である。
【0074】
【表1】
【0075】
3.水酸化ナトリウム水溶液のpHの影響に関する研究
本発明によれば、材料の表面をアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液で処理して、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体の表面上のヒドロキシ基(-OH)の量を増加させることにより、ヒ素(As)及び水銀(Hg)の化合物の吸着効率が改善又は向上している。このようにヒドロキシ基の量が増加すると、酸素原子と結合を形成しやすいヒ素の親酸素性により、ヒ素特異的活性部位が増加する。
【0076】
本実験は、本発明の方法による表面処理工程において、pH7、8、9、10の異なるpHの水酸化ナトリウム水溶液を用いて得られたジルコニウム系金属有機構造体例のヒ素化合物の吸着効率を比較することで、本発明の方法によるジルコニウム系金属有機構造体の表面処理工程で使用される水酸化ナトリウム水溶液のpHの影響をさらに研究するために行われた。実験では、工程(c)の乾燥したジルコニウム系金属有機構造体例に添加する前の水酸化ナトリウム水溶液のpH(本明細書では処理前のpHNaOH aqと表す)及び表面処理中の水酸化ナトリウム水溶液の一部(本明細書では処理中のpHNaOH aqと表す)のpHを測定した。表面処理は周囲温度で24時間行われる。
【0077】
異なるpHの水酸化ナトリウム水溶液を使用することにより得られたジルコニウム系金属有機構造体の例を使用して、水中のヒ素化合物の初期除去を試験した。詳細は以下の通りである。
【0078】
試験方法
1.本発明に係る試験用のジルコニウム系金属有機構造体例を、真空下で150℃の温度で24時間加熱することにより活性化した。
2.活性化した金属有機構造体2mgを20mlフラスコに加えた。
3.As(III)又はAs(V)のいずれかを含む水溶液10mlをこのフラスコに添加し、1時間放置した。
4.12,000rpmで5分間遠心分離して、ジルコニウム系金属有機構造体例を抽出した。
5.黒鉛炉原子吸光法(GFAAS)を用いて水溶液中に残存するヒ素化合物の濃度を測定し、水銀分析装置(Hg Analyzer)を用いて水溶液中に残存する水銀化合物の濃度を測定した。
6.ジルコニウム系金属有機構造体例による吸着前後のAs(III)又はAs(V)の量を比較することによりヒ素化合物の除去率(%)を計算し、使用した吸着剤の量(g)に対する吸着されたヒ素化合物の量(mg)であるヒ素化合物吸着能を決定した。
実験結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2の実験結果は、pH7~10の水酸化ナトリウム水溶液で処理することにより調製されたジルコニウム系金属有機構造体例が、ヒ素化合物、すなわちAs(III)及びAs(V)に対して良好な除去能力を有することを示している。pH7及び8の水酸化ナトリウム水溶液で処理することにより調製されたジルコニウム系金属有機構造体例は、ヒ素の除去能力が最も高かった。
【0081】
さらに、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体の実施例と比較例の水中でのヒ素化合物、すなわちAs(III)及びAs(V)の初期吸着効率を上記の試験方法に従って比較した。実験結果は以下の表3に示す通りである。
【0082】
実験で使用した金属有機構造体例の説明
1.実施例1は、本発明の方法に従って調製された、配位子として1,4-ベンゼンジカルボン酸を有するジルコニウム系金属有機構造体である。
2.実施例2は、本発明の方法に従って調製された、配位子としてブタ-2-エン二酸を有するジルコニウム系金属有機構造体である。
3.比較例Aは、市販の連結配位子として1,4-ベンゼンジカルボン酸を有するジルコニウム系金属有機構造体(UiO-66)である。
4.比較例Bは、市販の連結配位子として1,4-ベンゼンジカルボン酸を有するジルコニウム系金属有機構造体(UiO-66)であり、pHを7~12の範囲に制御した水酸化ナトリウム水溶液でさらに24時間表面処理を行ったものである。
5.比較例Cは、市販の連結配位子としてビフェニル-4,4’-ジカルボン酸を有するジルコニウム系金属有機構造体(UiO-67)である。
【0083】
【表3】
【0084】
実験結果から、同じ種類の金属中心及び連結配位子を有する構造間で比較すると、pH7~12の水酸化ナトリウム水溶液による表面処理(実施例1~3及び比較例B)が、表面処理を施さない例(比較例A)と比較して、ジルコニウム系金属有機構造体のヒ素化合物、特にAs(III)の吸着能力を大幅に改善又は向上することができることがわかった。しかしながら、本発明の方法による化学物質、比率、及び特定の工程を使用して調製された実施例1及び実施例2は、ヒ素化合物の除去率(%)がより高く、実施例1においてAs(III)及びAs(V)の除去率(%)が最も高かった。
【0085】
4.コンデンセート中のヒ素及び水銀化合物の吸着効率に関する試験
2つの異なる供給源から得られたコンデンセート例におけるヒ素化合物及び水銀化合物の吸着効率を、吸着剤、すなわち、本発明の方法に従って調製したジルコニウム系金属有機構造体例(実施例1~3)、及び異なる種類の金属中心及び連結配位子を含む金属有機構造体である比較例A~Gを使用して試験した。詳細は以下の通りである。
【0086】
実験で使用した金属有機構造体例の説明
1.実施例1は、本発明の方法に従って調製された、配位子として1,4-ベンゼンジカルボン酸を有するジルコニウム系金属有機構造体である。
2.実施例2は、本発明の方法に従って調製された、配位子としてブタ-2-エン二酸を有するジルコニウム系金属有機構造体である。
3.実施例3は、本発明の方法に従って調製された、配位子として1,3,5-ベンゼントリカルボン酸を有するジルコニウム系金属有機構造体である。
4.比較例Aは、市販の連結配位子として1,4-ベンゼンジカルボン酸を有するジルコニウム系金属有機構造体(UiO-66)である。
5.比較例Cは、市販の連結配位子としてビフェニル-4,4’-ジカルボン酸を有するジルコニウム系金属有機構造体(UiO-67)である。
6.比較例Dは、連結配位子として2,5-ジオキシド-1,4-ベンゼンジカルボキシレートを有するマンガン系金属有機構造体(Mn-MOF)である。
7.比較例Eは、pHが8~12の範囲に制御された水酸化ナトリウム水溶液により24時間表面処理に供される、連結配位子として1,3,5-ベンゼントリカルボン酸を有する鉄系金属有機構造体である。
【0087】
試験方法
1.試験用の金属有機構造体例(前述の実施例1~3及び比較例)を、真空下で150℃の温度で24時間加熱することにより活性化した。
2.活性化した金属有機構造体例50mgを100mlフラスコに加えた。
3.37mlのコンデンセートをこのフラスコに添加し、1時間放置した。
4.12,000rpmで5分間遠心分離して、ジルコニウム系金属有機構造体例を抽出した。
5.黒鉛炉原子吸光法(GFAAS)を用いてコンデンセート中に残留するヒ素化合物の濃度を測定し、水銀分析装置(Hg Analyzer)を用いて水溶液中に残留する水銀化合物の濃度を測定した。
6.使用した吸着剤の量(g)に対する吸着されたヒ素化合物又は水銀化合物の量(mg)から、ヒ素化合物及び水銀化合物の吸着能を計算した。
7.ジルコニウム系金属有機構造体例による吸着前後のヒ素化合物及び水銀化合物の量を比較することにより、ヒ素化合物及び水銀化合物の除去率(%)を計算した。
【0088】
試験結果
吸着剤として異なる種類の金属有機構造体(前述の実施例1~3及び比較例)を使用した、供給源1及び2から得られるコンデンセート例におけるヒ素化合物及び水銀化合物の吸着効率に関する試験結果を表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
上記の実験結果から、ジルコニウム系金属有機構造体(すなわち、実施例1~3及び比較例A、C)間を比較すると、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体は、比較例よりも、(供給源1及び2両方からの)コンデンセート中のヒ素化合物の顕著に優れた吸着効率を示すことが見出された。すなわち、同じ種類の連結配位子を有する構造を検討する場合、実施例1では、供給源1からのコンデンセート中のヒ素化合物の除去率(%)が最大約85%であり、供給源2からのコンデンセート中では最大約71%であったが、一方、比較例Aでは、供給源1からのコンデンセート中のヒ素化合物の除去率(%)は約52%であり、供給源2からのコンデンセート中では約54%であることがわかった。このような結果から、本発明の方法に係るジルコニウム系金属有機構造体の調製方法がヒ素化合物の吸着効率を顕著に改善することができることが明らかである。
【0091】
異なる種類の連結配位子を有する構造を検討すると、比較例Cでは、供給源1からのコンデンセート中のヒ素化合物の除去率(%)が約48%であり、供給源2からでは約36%であるのに対し、実施例1~3では、供給源1からのコンデンセート中のヒ素化合物の除去率(%)は約85%(実施例1)、約73%(実施例2)、及び約71%(実施例3)であり、供給源2からのコンデンセート中では約72%(実施例1)、約61%(例2)、及び約67%(例3)であった。
【0092】
さらに、異なる種類の金属中心及び/又は連結配位子を有する金属有機構造体(すなわち、実施例1~3及び比較例D、E)を比較すると、本発明に係るジルコニウム系金属有機構造体(実施例1~3)では、比較例よりも、供給源1及び2の両方からのコンデンセート中のヒ素化合物の除去率(%)が顕著に高いことがわかった。
【0093】
例えば、同じ種類の連結配位子を有するが、異なる種類の金属中心を有する構造を検討する場合、実施例3(金属中心はジルコニウム)では供給源2からのコンデンセート中のヒ素化合物の除去率(%)が約67%であった一方、比較例E(金属中心は鉄)では供給源2からのコンデンセート中のヒ素化合物の除去率(%)は約45%であることがわかった。このような結果から、本発明に係るジルコニウム金属中心を有する金属有機構造体は、他の種類の金属中心を有する金属有機構造体と比較して、顕著に優れるヒ素化合物の吸着効率を有することが明らかに示される。
【0094】
本発明の最良の形態
本発明の最良の形態は発明の詳細な説明に記載の通りである。
図1
図2
図3
【国際調査報告】