IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
  • 特表-水疱性口内炎ウイルスのレスキュー 図1
  • 特表-水疱性口内炎ウイルスのレスキュー 図2
  • 特表-水疱性口内炎ウイルスのレスキュー 図3
  • 特表-水疱性口内炎ウイルスのレスキュー 図4A
  • 特表-水疱性口内炎ウイルスのレスキュー 図4B
  • 特表-水疱性口内炎ウイルスのレスキュー 図5A
  • 特表-水疱性口内炎ウイルスのレスキュー 図5B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】水疱性口内炎ウイルスのレスキュー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20240628BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240628BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240628BHJP
   C12N 15/47 20060101ALN20240628BHJP
   C12N 15/37 20060101ALN20240628BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C12N15/10 Z ZNA
C12N7/00
C12N5/10
C12N15/09 Z
C12N15/63 Z
C12N15/47
C12N15/37
C12N15/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500141
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 EP2022069046
(87)【国際公開番号】W WO2023281047
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】21184742.1
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ノルデン,トビアス
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA23
4B065CA45
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、(a)HEK293細胞株又は細胞培養液中における懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株から細胞を提供する工程、(b)少なくとも1つのプラスミドを用いて上記細胞をトランスフェクトする工程(ここでの少なくとも1つのプラスミドは、(i)水疱性口内炎ウイルス(VSV)ゲノムcDNAを含む発現カセット;(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット;及び(iii)SV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含む);(c)トランスフェクトされた細胞を培養する工程;及び(d)レスキューされたVSVを含む細胞培養上清を回収する工程を含む、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株におけるDNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキュー法に関する。水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのためのHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株の使用、あるいは一過性トランスフェクションを用いたHEK293細胞株又はHEK293-F細胞の懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株における水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのためのSV40ラージT抗原をコードしているプラスミドの使用も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)HEK293細胞株又は細胞培養液中における懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株から細胞を提供する工程、
(b)少なくとも1つのプラスミドを用いて上記細胞をトランスフェクトする工程、ここで、上記少なくとも1つのプラスミドは、
(i)水疱性口内炎ウイルス(VSV)ゲノムcDNAを含む発現カセット;
(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット;及び
(iii)SV40ラージT抗原をコードしている発現カセット
を含む;
(c)トランスフェクトされた細胞を培養する工程;並びに
(d)レスキューされたVSVを含む細胞培養上清を回収する工程
を含む、
HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株におけるDNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキュー法。
【請求項2】
上記回収された細胞培養上清が感染性水疱性口内炎ウイルスを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(i)上記細胞が、接着細胞として提供され、トランスフェクトされ、そして培養され;
(ii)上記細胞が工程(b)において一過性にトランスフェクトされ;及び/又は
(iii)工程(b)における細胞のトランスフェクションが、化学反応に基づいたトランスフェクション剤の使用を含み、好ましくは上記化学反応に基づいたトランスフェクション剤は、リポフェクション、ポリエチレンイミン、又はリン酸カルシウムから選択される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
工程(b)における細胞がさらに、RNAポリメラーゼII依存性プロモーターの制御下にあるバクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしている発現カセットを含むプラスミド又はヘルパーウイルスを用いてトランスフェクト又は形質導入され;そして、上記水疱性口内炎ウイルスゲノムcDNAを含む発現カセットは、T7プロモーター配列及びT7転写終結配列の制御下にあるVSVゲノムcDNAを含み;そして
場合により、上記VSV核タンパク質、VSVリン酸化タンパク質、及びVSVラージタンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットは、プロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSV核タンパク質、リン酸化タンパク質及び/又はラージタンパク質を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
上記方法がヘルパーウイルスを含まない方法であり、工程(b)の細胞は、RNAポリメラーゼII依存性プロモーターの制御下にあるバクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしている発現カセットを含むプラスミドを用いてトランスフェクトされる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
(a)上記バクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしているヌクレオチド配列が、コドン最適化され;及び/又は
(b)上記バクテリオファージT7RNAポリメラーゼが、配列番号4のアミノ酸配列を有するか、又は配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項4又は5の方法。
【請求項7】
VSVリン酸化タンパク質、VSV核タンパク質、及びVSVラージタンパク質をコードしている上記少なくとも1つの発現カセットが、1つ以上のヘルパープラスミドとしてトランスフェクトされる、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
上記1つ以上のヘルパープラスミドが、
(i)プロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSV核タンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む第一のヘルパープラスミド;
(ii)プロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVリン酸化タンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む第二のヘルパープラスミド;及び
(iii)プロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVラージタンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む第三のヘルパープラスミド;及び場合により
(iv)VSV糖タンパク質(G)をコードしている配列を含む発現カセット及び/又はVSVマトリックス(M)タンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む、少なくとも1つのさらなるヘルパープラスミド
を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
SV40ラージT抗原をコードしている上記発現カセットが、
(a)SV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含むプラスミドとしてトランスフェクトされ;及び/又は
(b)プロモーターの制御下にあるSV40ラージT抗原をコードしている核酸配列を含み、そしてさらに、転写終結配列を含み、好ましくは強力なRNAポリメラーゼII依存性プロモーターの制御下にあり;
(c)配列番号5のアミノ酸配列を有するか、又は配列番号5のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、SV40ラージT抗原をコードしている核酸配列を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
上記HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株が、HEK293、HEK293-F、HEK-293-H、Expi293F、及びフリースタイルHEK293-Fからなる群より選択され、好ましくは上記細胞が、懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株に由来し、より好ましくはHEK293-F、HEK-293-H及びフリースタイルHEK293-Fからなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
上記細胞がHEK293-F細胞である、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
上記VSVゲノムcDNAが、ウイルス完全長ゲノムcDNA又は改変されたウイルスゲノムcDNAである、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
上記VSVゲノムcDNAが、改変されたGタンパク質をコードしている改変されたウイルスゲノムcDNAである、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
上記VSVゲノムcDNAにおいて糖タンパク質Gをコードしている遺伝子が、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPをコードしている遺伝子によって置換され;好ましくは、糖タンパク質GPが、配列番号7に示されるアミノ酸配列又は配列番号7と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一である機能的変異体を含む、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
(e)HEK293細胞株又は懸濁液中の懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株に由来する細胞を、工程(d)で得られたVSVを用いて形質導入する工程;及び場合により
(f)大規模の、好ましくは50Lを超える懸濁培養液中の工程(e)の細胞中でVSVを産生する工程
をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット、並びに(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット、並びにSV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含む、少なくとも1つのプラスミドの一過性トランスフェクションを用いた、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのためのHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株の使用。
【請求項17】
(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット、並びに(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットを含む、少なくとも1つのプラスミドを用いた一過性コトランスフェクションを用いた、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株における、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのための、SV40ラージT抗原をコードしているプラスミドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、(a)HEK293細胞株又は細胞培養液中における懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株から細胞を提供する工程、(b)少なくとも1つのプラスミドを用いて上記細胞をトランスフェクトする工程(ここでの少なくとも1つのプラスミドは、(i)水疱性口内炎ウイルス(VSV)ゲノムcDNAを含む発現カセット;(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット;及び(iii)SV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含む);(c)トランスフェクトされた細胞を培養する工程;及び(d)レスキューされたVSVを含む細胞培養上清を回収する工程を含む、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株におけるDNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキュー法に関する。水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのためのHEK293細胞株若しくは懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株の使用、又は、一過性トランスフェクションを用いた、HEK293細胞株若しくは懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株における水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのためのSV40ラージT抗原をコードしているプラスミドの使用も提供される。
【0002】
発明の背景
水疱性口内炎ウイルス(VSV)は、狂犬病ウイルスと同様にラブドウイルス科に属する、モノネガウイルス目のマイナス鎖一本鎖RNA(ssRNA)ウイルスである。マイナス鎖ウイルスRNAはmRNAに相補的であり、翻訳前にRNA依存性RNAポリメラーゼによってプラス方向RNAへと変換されなければならない。したがって、マイナス鎖RNAの精製されたRNAは感染性ではない。なぜならそれはまず転写される必要があり、これには、ウイルス粒子(ビリオン)に含まれるRNA依存性RNAポリメラーゼを必要とするからである。
【0003】
クローニングされたcDNAからの完全なマイナス鎖RNAウイルスの回収は、1990年代のRNAウイルス学において最も刺激的な打開策の1つである。なぜならそれはウイルスゲノムの直接的な工学操作への門戸を開いたからである。したがって、クローニングされたcDNAからの完全なマイナス鎖RNAウイルスの回収は、例えば遺伝子療法のための又は腫瘍溶解性ウイルスとしての、臨床現場におけるVSVのような組換えウイルスの使用のための必要条件である。それは、VSVが貨物を運ぶように、又はウイルスタンパク質を改変するように、例えば糖タンパク質を、指向性若しくは免疫回避が変化するように工学操作することを可能とする。
【0004】
Schnell et al.は、何年間もその領域を避けていた、セグメント化されていないマイナスRNAウイルスの回収への鍵を発見した(Roberts & Rose, Virology, 1998, 247, 1-6; Schnell et al., EMBO J., 1994, 13(18), 4195-4203)。彼らが記載した方法は、以下の通りである:ウイルス核タンパク質(N)及びポリメラーゼサブユニット(L及びP)をコードしているプラスミドを、T7ポリメラーゼタンパク質(vTF7-3)を発現している組換えワクシニアウイルスに事前に感染させた細胞へとトランスフェクトした。これらのプラスミドに加えて、5’末端におけるT7プロモーター及び3’末端における自己切断リボザイムの制御下にある完全長アンチゲノムウイルスRNAをコードしているプラスミドも、細胞にトランスフェクトされた。T7プロモーターからのRNAの転写及びコードされたタンパク質の翻訳後、核タンパク質はアンチゲノムRNAの周囲で構築され、そしてポリメラーゼタンパク質はその後、これらのリボ核タンパク質(RNP)を複製して、ゲノムRNAを含有しているRNPを形成した。ゲノムRNPからのmRNAの転写及び翻訳後、感染性ウイルスが構築される。この手順により、組換え狂犬病ウイルスの成功裏な回収がもたらされた。1995年には、非常に類似した戦略を使用して、cDNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)の最初の成功裏の回収が報告された(Lawson et al., 1995, Proc. Natl., Acad. Sci, USA 92(10), 4477-4481; Whelan et al., 1995, Proc. Natl., Acad. Sci, USA 92(18), 8388-8392)。
【0005】
BHK細胞におけるT7ポリメラーゼタンパク質の安定な発現、又は強力なプロモーターの制御下にあるT7ポリメラーゼタンパク質をコードしているプラスミドのコトランスフェクションなどの、このシステムへの小さな適応しか近年実施されていない。しかしながら、VSVは通常、VSV Gによって付与される広範な指向性を有するが、cDNAからのVSVの成功裏な回収は、BHK細胞及びHEK293T細胞を含む非常に僅かな細胞株に限定されている。
【0006】
高い力価のVSVが臨床用途のために産生される必要があり、これは懸濁培養液中での産生を必要とする。本発明の発明者らは、cDNAからのVSV回収を受け易くない懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株が、SV40ラージT抗原をコードしているプラスミドの一過性コトランスフェクションによって、VSVの回収を受け易くさせることができることを発見した。これは、VSVの大規模生産のために使用されたのと同じ細胞株からのVSVのレスキューを可能とする。
【0007】
発明の要約
本発明は、(a)HEK293細胞株、又は細胞培養液中における懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株から細胞を提供する工程、(b)少なくとも1つのプラスミドを用いて上記細胞をトランスフェクトする工程(ここでの少なくとも1つのプラスミドは、(i)水疱性口内炎ウイルス(VSV)ゲノムcDNAを含む発現カセット;(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット;及び(iii)SV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含む);(c)トランスフェクトされた細胞を培養する工程;及び(d)レスキューされたVSVを含む細胞培養上清を回収する工程を含む、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株におけるDNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキュー法に関する。好ましくは、回収された細胞培養上清は、感染性VSVを含む。特定の実施態様では、上記方法は、HEK293細胞株又は懸濁液中の懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株に由来する細胞を、工程(d)で得られたVSVを用いて形質導入することを含む工程(e);及び場合により、大規模の、好ましくは50Lを超える懸濁培養液中の工程(e)の細胞中でVSVを産生することを含む工程(f)をさらに含み得る。好ましくは、工程(e)に記載のHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株は、工程(a)に記載のHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株と同じ細胞株である。
【0008】
特定の実施態様では、(i)細胞が、接着細胞として提供され、トランスフェクトされ、そして培養され;(ii)細胞が工程(b)において一過性にトランスフェクトされ;(iii)工程(b)における細胞のトランスフェクションが、化学反応に基づいたトランスフェクション剤の使用を含み、好ましくはここでの化学反応に基づいたトランスフェクション剤は、リポフェクション、ポリエチレンイミン、又はリン酸カルシウムから選択されるか;又は、(i)、(ii)若しくは(iii)の任意の組合せである。
【0009】
特定の実施態様では、工程(b)の細胞はさらに、RNAポリメラーゼII依存性プロモーターの制御下にあるバクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしている発現カセットを含むプラスミド又はヘルパーウイルスを用いてトランスフェクト又は形質導入され;そしてここでは、VSVゲノムcDNAを含む発現カセットは、T7プロモーター配列及びT7転写終結配列の制御下にあるVSVゲノムcDNAを含み;そして、場合によりここではVSV核タンパク質、VSVリン酸化タンパク質及びVSVラージタンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットは、プロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSV核タンパク質、リン酸化タンパク質及び/又はラージタンパク質を含む。好ましい実施態様では、上記方法は、ヘルパーウイルス非含有方法であり、ここでの工程(b)の細胞は、RNAポリメラーゼII依存性プロモーターの制御下にあるバクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしている発現カセットを含むプラスミドを用いてトランスフェクトされる。特定の実施態様では、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼは、配列番号4のアミノ酸配列又は配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する。特定の代替的な又は追加の実施態様では、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしているヌクレオチド配列は、コドンが最適化されている。
【0010】
VSV核タンパク質、VSVリン酸化タンパク質及びVSVラージタンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットは、1つ以上のヘルパープラスミドとしてトランスフェクトされ得る。例えば、1つ以上のヘルパープラスミドは、(i)VSV核タンパク質をコードしている配列を含む、好ましくはプロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSV核タンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む第一のヘルパープラスミド;(ii)VSVリン酸化タンパク質をコードしている配列を含む、好ましくはプロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVリン酸化タンパク質をコードしている配列を含む、発現カセットを含む第二のヘルパープラスミド;及び(iii)VSVラージタンパク質をコードしている配列を含む、好ましくはプロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVラージタンパク質をコードしている配列を含む、発現カセットを含む第三のヘルパープラスミド、及び(iv)場合によりVSV糖タンパク質(G)をコードしている配列を含む発現カセット及び/又は、好ましくはプロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVマトリックス(M)タンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む、少なくとも1つのさらなるヘルパープラスミドを含む。
【0011】
本発明の方法に記載のSV40ラージT抗原をコードしている発現カセットは、SV40ラージT抗原をコードしている上記発現カセットを含むプラスミドとしてトランスフェクトされ、及び/又は、プロモーターの制御下にあるSV40ラージT抗原をコードしている核酸配列を含み、そしてさらに、好ましくは強力なRNAポリメラーゼII依存性プロモーター、より好ましくはカリフラワーモザイクウイルスプロモーター又はCAGプロモーターの制御下にある転写終結配列を含む。特定の実施態様では、発現カセットは、配列番号5のアミノ酸配列、又は配列番号5のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するSV40ラージT抗原をコードしている核酸配列を含む。
【0012】
HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株(それらに限定されない)は、HEK293、HEK293-F、HEK-293-H、Expi293F細胞、及びフリースタイルHEK293-Fからなる群より選択され得る。好ましくは、上記細胞は、懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株に由来し、より好ましくは、上記細胞は、HEK293-F、HEK-293-H、Expi293F、及びフリースタイルHEK293-Fからなる群より選択された懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株に由来する。さらにより好ましくは、上記細胞はHEK293-F細胞である。
【0013】
本発明の方法に記載のVSVゲノムcDNAは、ウイルス完全長ゲノムcDNA又は改変されたウイルスゲノムcDNAである。特定の実施態様では、VSVゲノムcDNAは、改変されたGタンパク質をコードしている改変されたウイルスゲノムcDNAである。特定の実施態様では、VSVゲノムcDNAは、改変されたGタンパク質をコードしている改変されたウイルスゲノムcDNAであり、ここでのVSVゲノムcDNA内の糖タンパク質Gをコードしている遺伝子は、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPをコードしている遺伝子によって置換され;好ましくは、糖タンパク質GPは、配列番号7に示されるアミノ酸配列、又は配列番号7に対して少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一である機能的変異体を含む。
【0014】
特定の実施態様では、本発明に記載の方法において発現カセットによってコードされるSV40ラージT抗原は、配列番号5のアミノ酸配列を有するか、又は、配列番号5のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0015】
別の態様では、本発明は、(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット、並びに(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット、並びにSV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含む、少なくとも1つのプラスミドの一過性トランスフェクションを用いた、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのための、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株の使用に関する。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット、並びに(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットを含む、少なくとも1つのプラスミドを用いての一過性コトランスフェクションを用いた、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株における、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのための、SV40ラージT抗原をコードしているプラスミドの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】HEK293-F細胞におけるVSVレスキューの図式的概観。
図2】VSVのレスキュー及び増幅のプロセスのフロー図。
図3】抗Pタンパク質ポリクローナル抗体(上)又はVSVに対する一般的な血清(下)を用いて染色されたウェスタンブロットにおける、HEK293T細胞(レーン1~3)及びHEK293-F細胞(レーン4~6)におけるトランスフェクション後のウイルスタンパク質の発現。陽性対照として、2.36×1010TCID50(50%組織培養感染量)/mlの精製VSV-GPビリオン(D-106-442)の調製物が、それぞれレーン7及び9に1.0μl及び0.2μlで示されている。P、N及びP/Mは、Pタンパク質、Nタンパク質、及びPタンパク質とMタンパク質とを含む混合バンドの予想される位置をそれぞれ示す。NPL-ヘルパーは一般的に、プラスミドpCAG VSV-N、pCAG VSV-P、及びpCAG VSV-Lを指し、T7-Polは、プラスミドpCAGGS T7-RNAP IRES Puroを指し、VSV-GPは、VSV-GPのVSVゲノムcDNAを含むプラスミドを指す。
図4A】HEK293-F細胞における、VSVレスキューのための、SV40ラージT抗原の一過性トランスフェクション+/-での一過性トランスフェクション。HEK293T細胞及びHEK293-F細胞に、プラスミドpVSV-LCMV GP(VSV-GP)、pCAG VSV-N、pCAG VSV-P及びpCAG VSV-L(VSV-N、-P、-L)、並びにpCAGGS T7-RNAP IRES Puroを用いて、プラスミドpCAG SV40ラージTのコトランスフェクションを伴い(1μg又は5μgのSV40ラージT)又は伴うことなく(SV40ラージTは皆無)、トランスフェクトした。(A)トランスフェクションから4時間後の代表的な明視野顕微鏡画像が示され(4h p.t.、上の列)、トランスフェクションから48時間後(48h p.t.、中央の列)及びトランスフェクションから72時間後(72h p.t.、下の列)の代表的な暗視野顕微鏡画像が示されている。左手側には、トランスフェクトされていないHEK293T細胞(上)及びHEK293-F細胞(下)が暗視野画像として、比較のための左上隅にある明視野画像と共に示されている。
図4B】HEK293-F細胞における、VSVレスキューのための、SV40ラージT抗原の一過性トランスフェクション+/-での一過性トランスフェクション。HEK293T細胞及びHEK293-F細胞に、プラスミドpVSV-LCMV GP(VSV-GP)、pCAG VSV-N、pCAG VSV-P及びpCAG VSV-L(VSV-N、-P、-L)、並びにpCAGGS T7-RNAP IRES Puroを用いて、プラスミドpCAG SV40ラージTのコトランスフェクションを伴い(1μg又は5μgのSV40ラージT)又は伴うことなく(SV40ラージTは皆無)、トランスフェクトした。(B)トランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後のHEK293-F細胞及びHEK293T細胞の回収物の上清の継代をさらに、BHK21Cl.13細胞についての感染について分析した。上記の(A)の回収物の上清を用いた、又は陰性対照としての新鮮な培地を用いた感染から48時間後の代表的な暗視野顕微鏡画像が示されている(左手の列)。列の下にある(-)の記号は、VSVレスキューが皆無であることを示し、列の下にある(+)の記号は、成功裏なVSVレスキューを示す。SV40ラージT抗原を用いて一過性にトランスフェクトされたHEK293T細胞及びHEK293-F細胞に由来する、トランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後の回収物の上清を用いて感染させたBHK21Cl.13細胞において、明瞭な細胞変性作用(CPE)を見ることができたが、一方、SV40ラージT抗原の非存在下においてHEK293-F細胞に由来するトランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後の回収物の上清を用いた感染後には、細胞変性作用は全く観察されなかった。
図5A】独立した実験で実施されたHEK293-F細胞における、VSVレスキューのための、SV40ラージT抗原の一過性トランスフェクション+/-での一過性トランスフェクション。HEK293-F細胞に、プラスミドpVSV-LCMV GP(VSV-GP)、pCAG VSV-N、pCAG VSV-P及びpCAG VSV-L(VSV-N、-P、-L)、並びにpCAGGS T7-RNAP IRES Puroを、プラスミドpCAG SV40ラージTのコトランスフェクションを伴い(1μg又は5μgのSV40ラージT)又は伴うことなく(SV40ラージTは皆無)、トランスフェクトした。(A)トランスフェクションから4時間後(上の列)、トランスフェクションから48時間後(中央の列)及びトランスフェクションから72時間後(下)における代表的な暗視野顕微鏡画像、並びにそれぞれの明視野画像が、左手上の隅に示されている。
図5B】独立した実験で実施されたHEK293-F細胞における、VSVレスキューのための、SV40ラージT抗原の一過性トランスフェクション+/-での一過性トランスフェクション。HEK293-F細胞に、プラスミドpVSV-LCMV GP(VSV-GP)、pCAG VSV-N、pCAG VSV-P及びpCAG VSV-L(VSV-N、-P、-L)、並びにpCAGGS T7-RNAP IRES Puroを、プラスミドpCAG SV40ラージTのコトランスフェクションを伴い(1μg又は5μgのSV40ラージT)又は伴うことなく(SV40ラージTは皆無)、トランスフェクトした。(B)トランスフェクションから4時間後(上の列)、トランスフェクションから48時間後(中央の列)及びトランスフェクションから72時間後(下)におけるHEK293-F細胞の回収物の上清の継代をさらに、接着HEK293-F細胞における感染について分析した。暗視野画像としてトランスフェクションから4時間後(上の列)、トランスフェクションから48時間後(中央の列)の回収物の上清を用いた、及び明視野画像としてトランスフェクションから72時間後(下の列)における回収物の上清を用いた感染から24時間後(p.i.)の代表的な顕微鏡画像が示されている。列の下にある(-)の記号は、VSVレスキューが皆無であることを示し、列の下にある(+)の記号は、成功裏なVSVレスキューを示す。5μgのSV40ラージT抗原を用いて一過性にトランスフェクトされたHEK293-F細胞に由来する、トランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後の回収物の上清を用いて感染させたHEK293-F細胞において、明瞭な細胞変性作用(CPE)を見ることができたが、一方、1μgのSV40ラージT抗原を用いて又はSV40ラージT抗原の非存在下において一過性にトランスフェクションされたHEK293-F細胞に由来するトランスフェクションから48時間後及びトランスフェクトから72時間後の回収物の上清を用いた感染後には、細胞変性作用は全く観察されなかった。HEK293-F陰性対照細胞の暗視野画像が、左手側に示されている。
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、HEK293細胞又は懸濁に適応させたHEK293細胞のトランスフェクション(例えばCaPOにより媒介されるトランスフェクション)を使用した、cDNAからの、水疱性口内炎ウイルス(VSV)又はその遺伝子的に改変された形のレスキュー、及び、ウイルスレスキュー後のウイルスシードストックの作成に関する。
【0019】
一般的な実施態様「含む」又は「含んだ」は、「からなる」というより具体的な実施態様を包含する。さらに、単数形及び複数形は、限定的な意味で使用されない。本明細書において使用する単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、単数形のみを示すと明記されない限り、単数形と複数形の両方を示す。
【0020】
「タンパク質」という用語は、「アミノ酸配列」又は「ポリペプチド」の同義語として使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。これらの用語はまた、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、糖化、又はタンパク質プロセシングを含むがこれらに限定されない反応を通して翻訳後修飾されたタンパク質も含む。修飾及び変化、例えばアミノ酸配列の置換、欠失又は挿入は、ポリペプチドの構造内に行なわれ得るが、上記分子は、その生物学的な機能的な活性を維持する。例えば、特定のアミノ酸配列の置換が、ポリペプチド又はその基礎にある核酸コード配列に行なわれ得、同じ特性を有するタンパク質を得ることができる。
【0021】
水疱性口内炎ウイルス(VSV)は、狂犬病ウイルスと一緒にラブドウイルス科に属する、モノネガウイルス目のマイナス鎖一本鎖RNA(ssRNA)ウイルスである。マイナス鎖ウイルスRNAはmRNAに相補的であり、翻訳前にRNA依存性RNAポリメラーゼによってプラス方向RNAへと変換されなければならない。したがって、マイナス鎖RNAの精製されたRNAは感染性ではない。なぜならそれはまず転写されることが必要とされ、これは、ウイルス粒子(ビリオン)に含まれるRNA依存性RNAポリメラーゼを必要とするからである。RNA配列はシークエンスのために逆転写されるので、組換えRNAウイルスの配列は、一般的にcDNA配列として提供される。
【0022】
VSVのマイナス鎖ssRNAゲノムは、3'から5’に向かって、Nタンパク質、Pタンパク質、Mタンパク質、Gタンパク質及びLタンパク質をコードしている5つのオープンリーディングフレームを含有している。核タンパク質(Nタンパク質)は、ヌクレオカプシドの主成分であり、ゲノム合成の開始に必要とされる。ラージタンパク質(Lタンパク質)はRNA依存性RNAポリメラーゼであり、リン酸化タンパク質(Pタンパク質)と結合して、mRNAの複製を触媒する。マトリックスタンパク質(Mタンパク質)は、ウイルス膜の内側に会合し、糖タンパク質(Gタンパク質)は、ウイルス膜内に局在するグリコシル化された膜貫通タンパク質であり、宿主細胞へのウイルスの侵入を可能とする。
【0023】
本発明は、大規模なウイルスの産生のために、例えば治療用途のために典型的には使用される、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株における、DNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューに関する。VSV血清型が存在するが、最もよく特徴が分かっていて治療に使用されるVSV血清型は、VSVインディアナ(VSIV)である。本明細書において開示及び使用される全ての配列は、VSIVに由来する。VSVインディアナはRNAウイルスであるので、入手可能ないくつかの完全なゲノムヌクレオチド配列が存在し、一例が、配列番号6のcDNA配列(GenBankアクセッション番号MH919398.1)である。VSV Nタンパク質、Pタンパク質、又はLタンパク質は好ましくは、例えば、それぞれ配列番号1、2、若しくは3のアミノ酸配列を有するVSIV、又はそれに対して少なくとも80%、85%、90%若しくはより好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する配列である。
【0024】
本明細書において使用する「VSVレスキュー」という用語は、プラスミドDNAなどのDNAからの、マイナス鎖RNAウイルスの回収を指す。目的は、分析又は大規模な産生のために細胞を形質導入するために使用することのできる、感染性VSVを産生することである。本明細書において使用する「感染性VSV」という用語は、BHK細胞又はHEK293細胞又はその誘導体などの、VSV感染に罹り易い細胞に感染するVSV粒子を指す。感染性ウイルスの産生を確認するために、トランスフェクション後(例えばトランスフェクションから48時間後又は72時間後(p.i.))の回収物の上清の継代が、VSV感受性細胞(シードストック感染、P0感染とも呼ばれる)に加えられ、細胞変性作用(CPE)について感染から48時間後に(p.i.)顕微鏡で分析される。
【0025】
本明細書において使用する「ゲノムRNA」という用語は、RNAウイルスの遺伝性の遺伝子情報を指す。当業者は、RNAウイルスゲノムは、プラスミドなどのベクター内のDNA配列として提供されてもよいことを理解するだろう。本発明の脈絡において、VSVゲノムは、「VSVゲノムcDNA」として提供される。これは、それがプラスミドなどのベクター内のDNA配列として提供されることを意味する。その後、RNAゲノムは、転写を介して、宿主細胞のトランスフェクション後に宿主細胞内で生成される。典型的には、ベクターは、プロモーターの制御下においてVSVゲノムcDNAを含みそしてさらに少なくとも1つの転写終結配列を含む、発現カセットを含む。さらに、VSVゲノムcDNAは典型的には、インサイツでVSVアンチゲノムRNA((+)鎖RNA)へと転写される、ゲノムのマイナス鎖をコードしている。好ましくはVSVゲノムcDNAは、T7プロモーターの制御下にあり、さらにT7転写終結配列を含む。相補的DNA(cDNA)は、一本鎖RNAから合成されるDNAである。VSVゲノムcDNAの場合、cDNAは、VSVのゲノムRNAから合成される。
【0026】
本明細書において使用する「遺伝子」という用語は、機能的産物として発現されることによって、又は遺伝子発現の調節によって、生物の特質に影響を及ぼす、遺伝性のゲノム配列のDNA遺伝子座又はRNA遺伝子座を指す。遺伝子及びポリヌクレオチドは、ゲノム配列内のようなイントロン及びエキソンを、又はcDNAのようにコード配列だけ、例えば、開始コドン(メチオニンコドン)と翻訳停止コドンを含むオープンリーディングフレーム(ORF)を含み得る。遺伝子及びポリヌクレオチドはまた、転写の開始、翻訳、及び転写の終結などの、その発現を調節する領域も含み得る。したがって、プロモーター配列及び転写終結配列などの調節配列も含まれる。
【0027】
本明細書において使用する「核酸」、「ヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」という用語は同義語として使用され、5′末端から3′末端へと読まれるデオキシリボヌクレオチド塩基又はリボヌクレオチド塩基の一本鎖又は二本鎖のポリマーを指し、これは二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ssDNA)、一本鎖RNA(ssRNA、マイナス鎖及びプラス方向)、二本鎖RNA(dsRNA)、ゲノムDNA、cDNA、cRNA、組換えDNA、又は組換えRNA及びその誘導体、例えば修飾された骨格を含有しているものを含む。
【0028】
本明細書において使用する「リボ核酸」、「RNA」又は「RNAオリゴヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチド配列からなる分子を表わし、これは核酸塩基、リボース糖、及びリン酸基から構築される。RNAは通常、一本鎖分子であり、様々な機能を発揮することができる。リボ核酸という用語は具体的には、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)及びマイクロRNA(miRNA)を含み、その各々は、生物学的細胞において特定の役割を果たす。それは小さなノンコーディングRNA、例えばマイクロRNA(miRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、及びPiwi相互作用RNA(piRNA)を含む。「ノンコーディング」という用語は、RNA分子がアミノ酸配列へと翻訳されないことを意味する。「コーディング」という用語は、RNA分子がアミノ酸配列へと翻訳されることを意味する。
【0029】
「コーディング鎖」又は「プラス方向鎖」という用語は、タンパク質をコードしているRNA鎖を指す。
【0030】
「ノンコーディング鎖」、「アンチセンス鎖」又は「マイナス方向鎖」又は「マイナス鎖」という用語は、RNA依存性RNAポリメラーゼによって、翻訳前にプラス鎖RNAへと転写される必要のあるRNA鎖を指す。
【0031】
「ベクター」は、異種ポリヌクレオチドを細胞内へと導入するために使用することのできる、核酸である。ある種類のベクターは「プラスミド」であり、これは鎖状又は環状の二本鎖DNA分子を指し、その中に追加の核酸セグメントをライゲートさせることができる。別の種類のベクター(例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、VSV、及びMeV複製欠陥形又は活動形)では、追加のDNA又はRNAセグメントをウイルスゲノムに導入することができる。核酸の導入は一般的には、トランスフェクションと称されるが、ウイルス感染を介した核酸の導入は一般的に形質導入と称される。
【0032】
「コードする」及び「をコードする」という用語は広義には、ポリマー巨大分子内の情報を使用して、第一の分子とは異なる第二の分子の生成を指令するための任意のプロセスを指す。第二の分子は、第一の分子の化学的性質とは異なる化学構造を有し得る。例えば、「コードする」という用語は、半保存的DNA複製プロセスを表わし、二本鎖DNA分子の一方の鎖は、DNA依存性DNAポリメラーゼによって新規に合成される相補的姉妹鎖をコードするための鋳型として使用される。さらに、DNA分子は、RNA分子(例えばDNA依存性RNAポリメラーゼの使用による)をコードし得るか、又はRNA分子(マイナス鎖)は、RNA分子(プラス鎖)(例えばRNA依存性RNAポリメラーゼの使用による)をコードし得る。また、RNA分子(プラス鎖)は、翻訳プロセスのようにポリペプチドをコードし得る。翻訳プロセスを記載するために使用される場合、「コードする」という用語はまた、アミノ酸をコードするトリプレットコドンまで拡大解釈される。RNA分子はまた、DNA分子を、例えばRNA依存性DNAポリメラーゼを使用した逆転写プロセスによってコードし得る。ポリペプチドをコードしているDNA分子に言及する場合、転写及び翻訳のプロセスが言及される。
【0033】
本明細書において使用する「発現」という用語は、宿主細胞内の(異種)核酸配列の転写及び/又は翻訳を指す。宿主細胞内の関心対象の遺伝子産物の発現レベルは、細胞内に存在する対応するmRNA(又はプラス鎖RNA)の量、又は、選択された配列によってコードされるポリペプチドの量のいずれかに基づいて決定され得る。例えば、選択された配列から転写されたRNAは、ノザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞内RNAに対するインサイツハイブリダイゼーションによって、又はPCR、例えば定量PCRによって定量され得る。選択された配列によってコードされるタンパク質は、様々な方法によって、例えばELISAによって、ウェスタンブロットによって、ラジオイムノアッセイによって、免疫沈降法によって、タンパク質の生物学的活性についてアッセイすることによって、タンパク質の免疫染色後のFACS分析によって、又は均一時間分解蛍光(HTRF)アッセイによって定量され得る。異種核酸配列によってコードされる関心対象の産物はまた、ノンコーディングRNAでもあり得る。miRNA、siRNA、又はshRNAなどのノンコーディングRNAの発現レベルは、PCR、例えば定量PCRによって定量され得る。
【0034】
本明細書において使用する「発現カセット」という用語は、RNA合成に関与するDNA分子の個別の成分を指し、これは発現される予定の配列及び調節配列、典型的には少なくともプロモーター配列及び転写終結配列を含む。最終産物がタンパク質である場合、発現される予定の配列は、タンパク質をコードしているオープンリーディングフレームを含む。本発明によると、発現カセットは、1つ以上のタンパク質又はVSVゲノムcDNAをコードしている。発現カセットは典型的には、ベクターの一部、例えばプラスミド又はウイルスベクターである。
【0035】
「遺伝子産物」という用語は、遺伝子又はDNAポリヌクレオチドによってコードされる、mRNAポリヌクレオチド及びポリペプチドの両方を指す。
【0036】
本明細書において使用する「HEK293細胞株」という用語は、ヒト胚性腎臓を起源とし、1973年に第19番染色体のE1A遺伝子及びE1B遺伝子を含む、4kbpのアデノウイルス5(ad5)ゲノム断片の組み込みによって最初に不死化された、接着性ヒト細胞株を指す(Graham et al., J. Gen. Virol. (1977) 36: 59-72; Malm et al., Nature research, Scientific Reports (220) 10:18996)。この細胞株は例えば、ATCC及びDSMZから得ることができる(ATCC-CRL-1573; DSMZ No: ACC305; RRID:CVCL_0045)。この細胞株はまた、親HEK293細胞株又は親HEK293細胞系統とも称され得る。当業者は、本明細書において使用するHEK293細胞株という用語は、そのサブクローンを含むことを理解するだろう。「懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株」という用語は、無血清培地中で高密度の懸濁増殖に適応させた、親HEK293細胞株にクローン的に由来し、バイオリアクター中で治療用タンパク質又はウイルスの大規模な培養及び生物学的産生を可能とする、細胞株を指す。これらは、工業的に妥当な懸濁細胞株のHEK293-F細胞、HEK293-H細胞及びスタイルフリーHEK293-F細胞を含むがこれらに限定されない。フリースタイルHEK293-F細胞は、フリースタイル(商標)293発現培地中での懸濁培養に適応し、これは例えば、サーモフィッシャー社(R79007;RRID:CVCL_D603)から得ることができる。HEK293-F細胞及びHEK293-H細胞は、無血清培地(SFM)中での迅速な増殖、優れたトランスフェクション効率、及び高いレベルのタンパク質発現のために、HEK293細胞からのクローン選択によって調製され、これは例えばサーモフィッシャー社(HEK293-F: 11625019, RRID:CVCL_6642; HEK293-H: 11631017, RRID:CVCL_6643)から得ることができる。HEK293-H株は変異体であり、これは血清の補充された培地中で増殖させた場合、単層培養液中でのより良好な接着、並びに、プラークアッセイ及び他の足場依存性の応用のための使用し易さを実証する。HEK293-F細胞及びHEK-293-H細胞は、ギブコ社(登録商標)CD293培地に適用させて提供される。細胞培養液中での懸濁増殖に適応させた他のHEK293細胞株は、例えばHEK293.2sus(ATCC CRL-1573.3)、HEK293-SF-3F6(ATCC CRL-12585;RRID:CVCL_4V94)、Expi293F(サーモフィッシャー社A14527/A14528/100044202(cGMP banked);RRID:CVCL_D615)及びHEK293-S(Ximbio154155;RRID:CVCL_A784)であるがこれらに限定されない。懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株はまた「無血清培地に適応させた、293細胞」と称されてもよい。
【0037】
本発明は、(a)HEK293細胞株又は細胞培養において懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株から細胞を提供する工程、(b)上記細胞を少なくとも1つのプラスミドを用いてトランスフェクトする工程(ここでの少なくとも1つのプラスミドは、(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット;(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット;及び(iii)SV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含む);(c)トランスフェクトされた細胞を培養する工程;及び(d)レスキューされたVSVを含む細胞培養上清を回収する工程を含む、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株におけるDNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのための方法に関する。細胞培養上清は、トランスフェクション後の任意の時点で回収され得、好ましくはそれは、トランスフェクションから24時間後から96時間後に、より好ましくはトランスフェクションから48時間後から72時間後に回収される。細胞培養液中に準備される細胞は、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株から選択される。好ましくは、細胞培養液中に準備される細胞は、懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株である。HEK293細胞株は、典型的には血清の非存在下において、懸濁液中で効率的に増殖するように適応し、親HEK293細胞株と同等な高いウイルス産生能力(例えば細胞の比生産性)を維持している、任意の親HEK293細胞株であり得る。懸濁増殖に適応させた適したHEK293細胞株は、HEK293-F細胞、HEK293-H細胞、フリースタイルHEK293-F細胞、HEK293-SF-3F6細胞、Expi293F細胞、HEK293.2sus細胞、及びHEK293-S細胞であるがそれらに限定されない。本発明の脈絡において懸濁増殖に適応させた好ましいHEK293細胞株は、HEK293-F細胞、HEK293-H細胞、フリースタイルHEK293-F細胞、及びExpi293F細胞、より好ましくはHEK293-F細胞又はExpi293F細胞、さらにより好ましくはHEK293-F細胞である。好ましい実施態様では、回収された細胞培養上清は、感染性VSVを含む。感染性粒子は、VSV感染に罹り易い細胞、例えばBHK細胞又はHEK293細胞又はその誘導体に、上記の回収された細胞培養上清を加えることによって決定され得る。VSV感染に罹り易い細胞としては、本明細書に記載のHEK293細胞株及び懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株、並びに、HEK293T細胞及びHEK293E細胞を含むがこれらに限定されない他のHEK293誘導体が挙げられる。適切なBHK細胞としては、BHK-21Cl.13細胞が挙げられるがこれらに限定されない(ATCC CCL-10;RRID:CVCL_1915)。感染性ウイルスは、細胞変性作用(CPE)について感染から約48時間後に顕微鏡で検出される。したがって、特定の実施態様では、感染性粒子は、ビリオンの継代によって決定され、ここで(i)回収された細胞培養上清は、VSV感染に罹り易い細胞、好ましくはBHK21細胞、例えばBHK-21Cl.13細胞又はHEK293-F細胞に加えられ、(ii)感染性ウイルスは、細胞変性作用について感染から48時間後に顕微鏡で検出される。
【0038】
VSVゲノムcDNAを含む発現カセットは、典型的には逆方向の配向でVSVゲノムをコードし、さらにプロモーター配列及び転写終結配列を含む。VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットは、VSV核タンパク質、リン酸化タンパク質及び/又はラージタンパク質をコードしている配列を含み、さらにプロモーター配列及び転写終結配列を含む。本明細書において使用する「少なくとも1つの発現カセット」という用語は、核タンパク質、VSVリン酸化タンパク質、及びラージタンパク質が同じ発現カセット内の配列によってコードされていても、又は別の発現カセット若しくはその組合せによってコードされていてもよいことを示す。1つを超えるタンパク質が発現カセットによってコードされている場合、1つを超えるタンパク質をコードしている配列は、キャップ独立的に、翻訳の開始を可能とする配列、例えば内部リボソーム進入部位(IRES)によって連結されている。さらに、核タンパク質、リン酸化タンパク質、又はラージタンパク質が別々の、すなわち3つの発現カセットによって、又は少なくとも1つを超える発現カセットによってコードされている場合、発現カセットは同じプラスミド上及び/又は別々のプラスミド上に存在し得る。SV40ラージT抗原をコードしている発現カセットは、SV40ラージT抗原をコードしている配列並びにプロモーター配列及び転写終結配列を含む。(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット、(ii)核タンパク質、リン酸化タンパク質、及びラージタンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット、及び(iii)SV40ラージT抗原を含む発現カセットは、1、2、3、4又は5つのプラスミド上に存在してもよい。好ましくは、発現カセット(i)、少なくとも1つの発現カセット(ii)及び発現カセット(iii)は、別々のプラスミド上にある。より好ましくは、少なくとも1つの発現カセット(ii)は、少なくとも3つの発現カセット、すなわち核タンパク質をコードしている第一の発現カセット、リン酸化タンパク質をコードしている第二の発現カセット、及びラージタンパク質をコードしている第三の発現カセットである。第一、第二及び第三の発現カセットは、1つのプラスミド上に、又は3つの別々のプラスミド上に、又は2つのプラスミド上(一方のプラスミドは上記発現カセットの中の2つを含み、他方のプラスミドは、上記発現カセットの中の1つを含む)に存在し得る。別のプラスミドは、同じプラスミドに由来していても、又は異なるプラスミドに由来していてもよい。
【0039】
特定の実施態様では、核タンパク質、リン酸化タンパク質、及びラージタンパク質は、VSVインディアナ(VSIV)に由来する。特定の好ましい実施態様では、核タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列、若しくはそれに対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を有し、リン酸化タンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列若しくはそれに対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を有し、及び/又は、ラージタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列、若しくはそれに対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を有する。当業者は、特定のタンパク質の列挙された配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するタンパク質が、特定のタンパク質の機能的相同体であることを理解するだろう。例えば、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む核タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有する核タンパク質の機能的相同体である。したがって、相同タンパク質はさらに、元来の配列と同じ又は類似したタンパク質活性を示す。
【0040】
特定の実施態様では、本発明に記載の方法はさらに、HEK293細胞株又は懸濁液中の懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株に由来する細胞を、工程(d)で得られたVSVを用いて形質導入する工程を含む工程(e);及び場合により大規模で、好ましくは50Lを超える懸濁培養液中で工程(e)の細胞中でVSVを産生する工程を含む工程(f)を含む。好ましくは、工程(e)に記載のHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株は、工程(a)に記載のHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株と同じ細胞株である。VSVは、接着HEK293細胞において産生され得るが、ウイルス産生は典型的には、特に大規模での培養液中では、より高い細胞密度により、懸濁液中でより効率的であり、さらに、血清の非存在下におけるウイルスの産生を可能とする。好ましくは、工程(e)及び工程(a)に記載のHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株は、HEK293-F細胞、HEK293-H細胞、フリースタイルHEK293-F細胞、及びExpi293F細胞からなる群より選択され、より好ましくは工程(e)及び工程(a)に記載のHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株は、HEK293-F細胞又はExpi293F細胞であり、さらにより好ましくはHEK293-F細胞である。本明細書において使用する「大規模」という用語は、5Lを超える、好ましくは10Lを超える、より好ましくは25Lを超える、さらにより好ましくは50Lを超える、培養容量を指す。
【0041】
トランスフェクションは、接着細胞において又は懸濁液中で実施され得るが、典型的にはより高いトランスフェクション効率のために接着細胞において実施される。特定の実施態様では、工程(a)の細胞は、接着細胞として提供され、トランスフェクトされ、そして培養される。懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株は、培養培地の1~12%、好ましくは3~10%、より好ましくは5~10%(v/v)の範囲内のウシ胎仔血清(FCS)の添加によって接着させ得る。典型的には、一過性トランスフェクションは、懸濁細胞よりも接着細胞においてより効率的である。特定の実施態様では、細胞は、工程(b)において一過性にトランスフェクトされ、好ましくは、接着細胞は、工程(b)において一過性にトランスフェクトされる。工程(b)における細胞のトランスフェクションは、化学反応に基づいたトランスフェクション剤、例えばリポフェクション(脂質トランスフェクション)、ポリエチレンイミン(PEI)、DEAEデキストラン、又はリン酸カルシウムトランスフェクション、好ましくはリン酸カルシウムトランスフェクションの使用を含み得る。細胞は好ましくは、化学反応に基づいたトランスフェクション剤を使用して一過性にトランスフェクトされ、より好ましくは、接着細胞は、化学反応に基づいたトランスフェクション剤を使用して一過性にトランスフェクトされる。
【0042】
特定の実施態様では、工程(b)の細胞はさらに、RNAポリメラーゼII依存性プロモーターの制御下にあるバクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしている発現カセットを含むプラスミド又はヘルパーウイルスを用いてトランスフェクト又は形質導入され、VSVゲノムcDNAを含む発現カセットは、T7プロモーター配列及びT7転写終結配列の制御下にあるVSVゲノムcDNAを含み、場合により、VSV核タンパク質、VSVリン酸化タンパク質、及びVSVラージタンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットは、プロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSV核タンパク質、リン酸化タンパク質及び/又はラージタンパク質をコードしている配列を含む。バクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしている発現カセット内のRNAポリメラーゼII依存性プロモーターは好ましくは、強力なプロモーター、例えばカリフラワーモザイクウイルスプロモーター又はCAGプロモーターである。CAGプロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサー配列(C)、ニワトリβ-アクチン遺伝子のプロモーター、第一エキソン及び第一イントロン(A)、並びにウサギβ-グロビン遺伝子のスプライスアクセプター(G)を含む(Niwa H et al., (1991) Gene 108(2): 193-9)。「T7転写終結配列」という用語はまた、1つを超えるT7転写終結配列、例えば2つ又は3つのT7転写終結配列、好ましくは2つのT7転写終結配列を含み得る。発現カセットはさらに、転写終結配列、及び場合によりIRES配列によって隔てられたマーカー遺伝子を含む。バクテリオファージT7RNAポリメラーゼの発現のために使用される典型的なヘルパーウイルスは、例えばワクシニアウイルスであるがこれらに限定されない。好ましい実施態様では、上記方法はヘルパーウイルスを含まない方法であり、ここでは工程(b)の細胞は、RNAポリメラーゼII依存性プロモーターの制御下にあるバクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしている発現カセットを含むプラスミドを用いてトランスフェクトされる。特定の実施態様では、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼは、配列番号4のアミノ酸配列を有するか、又は、配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する。特定の代替的又は追加の実施態様では、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしているヌクレオチド配列は、コドンが最適化されている。
【0043】
VSV核タンパク質、VSVリン酸化タンパク質、及びVSVラージタンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットは、1つ以上のヘルパープラスミドとしてトランスフェクトされ得る。例えば、1つ以上のヘルパープラスミドは、(i)VSV核タンパク質をコードしている配列を含む、好ましくはプロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSV核タンパク質をコードしている配列を含む、発現カセットを含む、第一のヘルパープラスミド;(ii)VSVリン酸化タンパク質をコードしている配列を含む、好ましくはプロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVリン酸化タンパク質をコードしている配列を含む、発現カセットを含む、第二のヘルパープラスミド;及び(iii)VSVラージタンパク質をコードしている配列を含む、好ましくはプロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVラージタンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む第三のヘルパープラスミド、及び(iv)場合により、VSV糖タンパク質(G)をコードしている配列を含む発現カセット、及び/又は、好ましくはプロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVマトリックス(M)タンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む、少なくとも1つのさらなるヘルパープラスミドを含む。VSV-N、-P、-L、G及び/又はMをコードしている配列を含む発現カセットに適したプロモーターは、強力なプロモーター、好ましくは強力なRNAポリメラーゼII依存性プロモーター、例えばCMV又はCAGである。
【0044】
本発明の方法に記載のSV40ラージT抗原をコードしている発現カセットは、SV40ラージT抗原をコードしている上記発現カセットを含むプラスミドとしてトランスフェクトされる。発現カセットは、プロモーターの制御下にあるSV40ラージT抗原をコードしている配列を含み、さらに、好ましくは強力なRNAポリメラーゼII依存性プロモーター、より好ましくはCMVプロモーター又はCAGプロモーターの制御下にある、転写終結配列を含む。特定の実施態様では、本発明に記載の方法において発現カセットによってコードされるSV40ラージT抗原は、配列番号5のアミノ酸配列を有するか、又は、配列番号5のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する。したがって、特定の実施態様では、発現カセットは、配列番号5のアミノ酸配列を有するか、又は配列番号5のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、SV40ラージT抗原をコードしている核酸配列を含む。
【0045】
HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株はそれらに限定されないが、HEK293、HEK293-F、HEK-293-H、Expi293F、及びフリースタイルHEK293-Fからなる群より選択され得る。好ましくは、上記細胞は、懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株に由来し、より好ましくは、上記細胞は、HEK293-F、HEK-293-H、Expi293F及びフリースタイルHEK293-Fからなる群より選択された懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株に由来する。さらにより好ましくは、懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株は、HEK293-F細胞である。HEK293、特に懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株を使用する利点は、同じ細胞株を、VSVゲノムcDNAからのVSVのレスキューのために(典型的には接着細胞を使用して実施される)、及び懸濁細胞培養液中でのVSVの産生のために使用することができることである。これは、全産生プロセスを、単一の細胞株において実施することを可能とし、これは規制当局の承認を簡単にする。
【0046】
本発明の方法に記載のVSVゲノムcDNAは、ウイルス完全長ゲノムcDNA又は修飾されたウイルスゲノムcDNAである。ウイルス完全長ゲノムcDNAは、VSVインディアナなどの野生型ウイルスを提供する。VSVゲノムcDNAはまた、修飾されたウイルスゲノムcDNAであり得る。例えば、糖タンパク質(G)は、異なる(異種)ウイルスに由来する糖タンパク質、例えばリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)に由来する糖タンパク質で置換され得る。糖タンパク質の置換は、ウイルスの指向性、並びにウイルスの他の特徴を変化させ得、例えば野生型ウイルスに伴う神経炎症又はその免疫原性を回避し得る。LCMVの糖タンパク質を含むVSVは、VSV-GPとも称され得る。特定の実施態様では、本発明の方法に記載のVSVゲノムcDNAは、修飾されたウイルスゲノムcDNA(修飾されたVSVゲノムcDNA)である。修飾されたVSVゲノムcDNAは、VSVゲノムcDNAを含むがこれらに限定されず、ここでのGタンパク質をコードしている遺伝子は、別のウイルス受容体、例えばリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GP、ダンデノン(Dandenong)ウイルス(DANDV)又はモペイア(Mopeia)ウイルス(MOPV)の糖タンパク質(国際公開公報第2020/104694号により詳述されているような)、又はアレナウイルスの糖タンパク質で置換されている。好ましい実施態様では、VSVゲノムcDNA内の糖タンパク質Gは、好ましくはWE-HPI株に由来する、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPで置換されている。このようなVSVは例えば、国際公開公報第2010/040526号に記載され、VSV-GPと命名されている。リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPは、GP1又はGP2であり得るが、また異なるLCMV株に由来する糖タンパク質も含み得る。特に、LCMV-GPは、LCMV野生型又はLCMV株のLCMV-WE、LCMV-WE-HPI、LCMV-WE-HPI optに由来し得る。好ましい実施態様では、LCMVの糖タンパク質GPをコードしている遺伝子は、配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号7のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードしているが、配列番号7に示されるようなアミノ酸配列をコードしている糖タンパク質GPを含むVSVの機能的特性は、維持されている。
【0047】
さらに、修飾されたウイルスゲノムcDNAは、例えばゲノムcDNAの遺伝子間遺伝子座において、追加の遺伝子を含み得る。追加の遺伝子は好ましくは、異種タンパク質をコードしている異種遺伝子である。したがって、1つの実施態様では、VSVゲノムcDNAはさらに、少なくとも1つの異種タンパク質、例えば治療用タンパク質、及び抗原、例えば腫瘍特異的抗原若しくは腫瘍随伴抗原又はレポーター遺伝子をコードしている。
【0048】
本明細書において使用する「異種ポリペプチド」又は「異種タンパク質」という用語は、レシピエントに由来する異なる生物又は異なる種に由来するタンパク質、すなわちRNAウイルス、例えばVSVを指す。本発明の脈絡において、当業者は、それが、VSVによって天然に発現されないタンパク質を指すことを理解するだろう。タンパク質の部分に言及して使用される場合の「異種」という用語はまた、上記タンパク質が、天然には互いに同じ関係では見られない、2つ以上のアミノ酸配列を含むことも示し得る。本発明の脈絡では、それは典型的には、治療用タンパク質、抗原、例えば腫瘍特異的抗原又は腫瘍随伴抗原、又はレポーター(例えばルシフェラーゼ又は蛍光タンパク質)である。異種ポリペプチドは、異種核酸配列又は遺伝子によってコードされている。
【0049】
「治療用タンパク質」という用語は、ヒト及び/又は動物の医学的処置に使用され得るタンパク質を指す。これらには、抗体、増殖因子、血液凝固因子、サイトカイン、例えばインターフェロン及びインターロイキン、ケモカイン及びホルモン、好ましくは増殖因子、サイトカイン、ケモカイン及び抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0050】
「サイトカイン」という用語は、細胞によって放出され、例えば分泌細胞の周囲にある細胞の行動に影響を及ぼしている細胞内メディエーターとして作用する、小型タンパク質を指す。サイトカインは、免疫細胞又は他の細胞、例えばT細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、及びマクロファージによって分泌され得る。サイトカインは、細胞内シグナル伝達事象、例えば自己分泌シグナル伝達、傍分泌シグナル伝達及び内分泌シグナル伝達に関与し得る。それらは、免疫、炎症、及び造血を含むがこれらに限定されない、一連の生物学的プロセスを媒介し得る。サイトカインは、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、又は腫瘍壊死因子であり得る。
【0051】
本明細書において使用する「増殖因子」は、細胞増殖を刺激することのできる、タンパク質又はポリペプチドを指す。
【0052】
本明細書において使用する「レポーター遺伝子」は、レポータータンパク質すなわち容易に検出及び定量され得る「レポーター」をコードしているポリヌクレオチドである。したがって、レポーターの発現レベルの測定は典型的には、転写及び/又は翻訳レベルの指標である。レポーターをコードしている遺伝子は、レポーター遺伝子である。例えば、レポーター遺伝子は、レポーター、例えばその活性を定量することのできる酵素、例えばアルカリホスファターゼ(AP)(例えば分泌された胚性アルカリホスファターゼ)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ウミホタル、ガウシア、又はホタルルシフェラーゼタンパク質(群)をコードし得る。レポーターはまた、蛍光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)又はGFPの任意の組換え変異体(増強GFP(EGFP)を含む)、青色蛍光タンパク質(BFP及び他の誘導体)、シアン蛍光タンパク質(CFP及び他の誘導体)、黄色蛍光タンパク質(YFP及び他の誘導体)、及び赤色蛍光タンパク質(RFP及び他の誘導体)、又は他の蛍光タンパク質、例えばmCherry及びmWasabiも含む。
【0053】
異種という用語は、ウイルスに感染した宿主又は患者ではなくむしろ、RNAウイルスを指し、それ故、真核生物タンパク質、特にヒトタンパク質を明確に包含する。異種タンパク質は、レシピエントに由来する異なる生物又は異なる種に由来するタンパク質、すなわちRNAウイルスVSVである。本発明に記載のRNAウイルスによってコードされる少なくとも1つの異種タンパク質は、治療用タンパク質、レポーター、又は腫瘍抗原であり得る。好ましくは、少なくとも1つの異種タンパク質は、好ましくはサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、及び抗体からなる群より選択された、免疫調節機能又は細胞死調節機能を有する、治療用タンパク質である。治療用タンパク質はまた、膜結合タンパク質であり得るか、又は、好ましくはリンカーを介して連結された、異種タンパク質への、CD4の膜貫通ドメインなどの膜貫通ドメインとの融合によって膜に結合され得る。治療用タンパク質はまた、自殺遺伝子をコードしていてもよい。代替的には又はそれに加えて、少なくとも1つの異種タンパク質は、腫瘍抗原(腫瘍特異的抗原及び/又は腫瘍随伴抗原を含む)、例えば系統抗原、新生抗原、精巣抗原、及びオンコウイルス抗原である。「腫瘍特異的抗原」という用語は、腫瘍細胞において専ら発現され、生物のいずれかの他の組織には発現されない抗原を指す。「腫瘍随伴抗原」という用語は、生物内の他の組織と比較して腫瘍細胞において過剰発現される、すなわちより高いレベルで発現される抗原を指す。腫瘍抗原はまた、新生抗原又は新生抗原群であってもよい。新生抗原群は、腫瘍体細胞突然変異から生じる新規に形成された抗原である。当業者は、患者から新生抗原をどのように検出し決定するかを知っているだろう。別の実施態様では、異種タンパク質はレポータータンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、mCherry又はmWasabiである。特に治療目的のための異種タンパク質は好ましくは、免疫調節機能又は細胞死滅調節機能を有する治療用タンパク質又は腫瘍抗原である。
【0054】
当業者は、本発明の方法は、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株におけるDNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのために例示されているが、それは、モノネガウイルス目、オルトミクソウイルス目、ブニヤウイルス目、及び/又はアレナウイルス目、特にモノネガウイルス目などの他のマイナス鎖RNAウイルスにも容易に適応され得ることを理解しているだろう。したがって、別の態様では、(a)HEK293細胞株又は細胞培養液中での懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株から細胞を提供する工程、(b)上記細胞を少なくとも1つのプラスミドを用いてトランスフェクトする工程(ここでの少なくとも1つのプラスミドは、(i)マイナス鎖RNAウイルスゲノムcDNAを含む発現カセット;(ii)マイナス鎖RNAウイルスのタンパク質、例えばヌクレオカプシドのタンパク質(例えばモノネガウイルス、特にラブドウイルス、パラミクソウイルス、フィロウイルス、及びボルナウイルスの核タンパク質(N/NP)タンパク質、リン酸化タンパク質(P)タンパク質、及びラージ(L)タンパク質)をコードしている少なくとも1つの発現カセット;及び(iii)SV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含む);(c)トランスフェクトされた細胞を培養する工程;及び(d)レスキューされたマイナス鎖RNAウイルスを含む、細胞培養上清を回収する工程を含む、マイナス鎖RNAウイルスのレスキューのための方法。好ましい実施態様では、回収された細胞培養上清は、感染性のマイナス鎖RNAウイルスを含む。本明細書におけるVSVについて例示されたさらなる実施態様及び態様は、他のマイナス鎖RNAウイルスにも適用される。
【0055】
別の態様では、本発明は、(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット、及び(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット、並びにSV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含む、少なくとも1つのプラスミドの一過性トランスフェクションを用いた、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのための、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株の使用に関する。本発明に記載の方法に関する実施態様及び詳細な説明は、本発明に記載の水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのためのHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株の使用にも同様に適用される。したがって、本発明はまた、本発明に記載のDNAから水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキュー法における、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株の使用にも関する。本発明に記載のHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株の使用の特定の実施態様では、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株は、好ましくはHEK293-F、HEK-293-H、Expi293F、及びフリースタイルHEK293-Fからなる群より選択された、懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株であり、より好ましくは懸濁増殖に適応HEK293細胞株は、HEK293-F細胞である。
【0056】
さらに別の態様では、本発明は、(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット、及び(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットを含む、少なくとも1つのプラスミドを用いた一過性コトランスフェクションを用いた、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株における水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのためのSV40ラージT抗原をコードしているプラスミドの使用に関する。本発明に記載の方法に関する実施態様及び詳細な説明は、本発明に記載のHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株における水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのための、SV40ラージT抗原をコードしているプラスミドの使用にも適用される。したがって、本発明はまた、本発明に記載のDNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキュー法における、SV40ラージT抗原をコードしているプラスミドの使用にも関する。本発明に記載のSV40ラージTをコードしているプラスミドの使用の特定の実施態様では、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株は、好ましくはHEK293-F、HEK-293-H、Expi293F及びフリースタイルHEK293-Fからなる群より選択された、懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株であり、より好ましくは懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株は、HEK293-F細胞である。
【0057】
実施例
一過性トランスフェクションを使用したプラスミドからのヘルパーウイルス非含有VSVレスキューのために、細胞を、少なくとも5つのプラスミド、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしているRNAポリメラーゼII依存性ベクター、CAGプロモーター(pCAG VSV-N、pCAG VSV-P、及びpCAG VSV-Lプラスミド)の制御下にあるウイルスタンパク質N、P又はLをコードしている3つの別々のプラスミド、及び組換え水疱性口内炎ウイルスのcDNAクローンをコードしているプラスミド(ここでのVSV糖タンパク質Gのコード配列はLCMV-GPによって交換されている)を用いてトランスフェクトした。ウイルスゲノムは、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼによってプラスミドから転写され得、VSVゲノムに相補的な完全長プラス鎖RNAを生じ得る。cDNAから結果として生じたウイルスは、VSV-LCMV-GPと称される。プロセスの略図は、図1に実証されている。T7RNAポリメラーゼは、VSVゲノムをコードしているDNAを、センス鎖配向を有するウイルスRNAへと転写する。核タンパク質N並びに2つのポリメラーゼサブユニットP及びLも発現している、細胞内におけるこのRNAの発現は、VSVリボ核タンパク質の産生をもたらし、これは続いて、VSV-LCMV-GPビリオンへとパッケージングされ、萌芽によって細胞から放出される。
【0058】
材料
キット
リン酸カルシウムトランスフェクションキット
キットは、以下を含有している:
・5mlの2.5MのCaCl
・25mlの2×HEPES緩衝化食塩水
・25mlの分子生物学的等級の水。
【0059】
化学物質、培地、及び緩衝液
・クロロキン二リン酸塩
・完全DMEM(cDMEM):
・500mlのDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、高グルコース、グルタミン非含有)
・50mlのウシ胎仔血清(FBS)、熱で失活させたもの
・10mlのCTS(商標)グルタミン(商標)-I補充物質
・TrypLE(商標)選択酵素(1×)、フェノールレッド非含有
・PBS-1×油中水型、カルシウム、マグネシウム
・プラスミド、動物成分非含有、及び品質管理検査済:
1.pCAG VSV-Nプラスミド
2.pCAG VSV-Pプラスミド
3.pCAG VSV-Mプラスミド(任意選択)
4.pCAG VSV-Gプラスミド(任意選択)
5.pCAG VSV-Lプラスミドを含む
6.pCAG SV40ラージT
7.pCAGGS T7-RNAP IRES Puro
8.pVSV-LCMV GP(ウイルスcDNA、「VSV-GP」とも称される)。
【0060】
ヘルパープラスミドpCAG VSV-N、pCAG VSV-P、及びpCAG VSV-Lは、核タンパク質(配列番号1)、リン酸化タンパク質(配列番号2)及びラージタンパク質(配列番号3)を含む、RNPの構築、転写及び複製に必要とされる、ウイルストランス作用タンパク質をコードしている。マトリックス(M)タンパク質及びウイルス糖タンパク質(G)タンパク質の追加の発現はさらに、ウイルスのレスキューを増強し得る。プラスミドpCAG VSV-N、pCAG VSV-P、pCAG VSV-M、pCAG VSV-G、pCAG VSV-L及びpCAG SV40ラージTは、アンピシリン耐性遺伝子を含むpSF-CAG_AMPバックグラウンドベクター(シグマアルドリッチ社、製造番号:OGS504)から作製され、これはCAGプロモーターの制御下のVSV-N、-P、-M、-G、-Lタンパク質をコードしている。VSV N、P、M、G及びLは、インディアナ血清型ゲノムcDNAクローンに由来していた(Lawson et al., 1995)。コザック共通配列が開始コドンの5′に含まれることにより、翻訳のための最適な配列前後関係を提供した。RNAポリメラーゼII依存性ベクターpCAGGS T7-RNAP IRES puroは、pCAGGSバックグラウンドベクターに最初は由来し(Niwa H et al., (1991) Gene 108(2): 193-9)、アンピシリン耐性遺伝子、SV40ori及びpBR322oriを含み、そして、CAGプロモーターの制御下にありそしてIRES配列を介してピューロマイシンコード配列に連結された、コドン最適化されたT7ポリメラーゼ(配列番号4)をコードしている。プラスミドpVSV-LCMV GPは、完全長のウイルスゲノムcDNAをコードし、Gタンパク質をコードしている遺伝子は、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)(配列番号7)に由来するGPタンパク質をコードしている遺伝子によって置換されることにより、VSV-GPを生成する。SV40ラージT抗原(配列番号5)は、CMVプロモーターの制御下にある。5’末端のT7RNAPプロモーターは、転写がファージT7転写終結配列によって終結される前に、プラス方向ゲノム転写物の合成を指令し、プラスミドは、pBR322ori及びアンピシリン耐性遺伝子を含む。
【0061】
トランスフェクション培地
・500mlのDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、高グルコース
グルタミン非含有)
・10mlのCTS(商標)グルタミン(商標)-I補充物質
【0062】
試料及び細胞株
・HEK293-F(サーモフィッシャー社、製造番号:11625-019)
・HEK293T(EUFETS GmbH/BioNTech IMFSによって提供)
・BHK21Cl.13(Cell line services (CLS)製造番号:603126)
【0063】
接着HEK293-F細胞培養液の作製
ウイルス回収のために、HEK293-F懸濁細胞培養液を、トランスフェクションより少なくとも1継代前に接着細胞液へと形質転換した。HEK293-F懸濁細胞は、均衡のとれたCD(登録商標)HEK293培地(富士フィルム)から、完全に補充されたcDMEM(10%ウシ胎仔血清、2%CTS(商標)グルタミン(商標)-I補充物質)へと細胞培養条件を変更することによって形質転換された。細胞は、Nucleo counter NC-200装置(ケモメテック社)を使用して計数され、30mlのcDMEM中でT175細胞培養フラスコの細胞あたり2.0×10個の細胞で播種された。細胞を、37℃、6%二酸化炭素、及び95%湿度で2~3日間培養した。接着HEK293-F細胞は、一過性トランスフェクションのためだけでなく、より重要なことには、クローン性ウイルスを得るためのその後のプラークの精製にとっても必要とされる。
【0064】
プラスミドDNAを用いたHEK293-F細胞又はHEK293T細胞のトランスフェクション
細胞を、トランスフェクションから1日前に(d-1)10cmの皿中の10mlのcDMEM中に、5×10個のHEK293-F細胞又はHEK293T細胞で播種し、37℃のインキュベーター中で16~24時間培養した。細胞は、トランスフェクション日に80%の集密度であった。
【0065】
トランスフェクション日(d0)に、プラスミドを、10cmの皿あたり以下の量で混合した:
10.0μgのウイルスcDNA(例えばpVSV-LCMV GP)
2.4μgのpCAG VSV-Nプラスミド
1.8μgのpCAG VSV-Pプラスミド
0.6μgのpCAG VSV-Lプラスミド
10.0μgのpCAGGS T7-RNAP IRES Puro
1.0~5.0μgのpCAG SV40ラージT(任意選択)
【0066】
本発明の実験には添加されていないが、プラスミドpCAG VSV-M及びpCAG VSV-Gは、各々1μgで混合物に添加され得る。
【0067】
トランスフェクションの1時間前に、細胞を、5mlの予め加温したトランスフェクション培地(グルタミンを含むDMEM)で注意深く洗浄し、8mlの予め加温したトランスフェクション培地を、細胞層を攪乱することなく細胞に注意深く加え、インキュベーター中で1時間インキュベートした。その間に、DNAマスター混液を、リン酸カルシウム沈降法を用いたトランスフェクションのために、1.5mlの反応チューブ中で調製し、チューブを揺らすことによって混合し、続いて迅速に回転し沈降させた。
【0068】
各レスキューのために、無菌の細胞培養等級の水を含むチューブを調製して、少なくとも450μlの容量(DNA混合物を含む)の最終総容量を提供した。ウイルスcDNA及び/又はpCAG SV40ラージTの具体的な量をそれぞれのチューブに加え、ピペットを上下させることによって混合し、さらにDNA-マスター混液を加え、チューブを揺らすことによって混合し迅速に回転し沈降させた。50.0μlの2.5MのCaCl(使用まで氷上に保つ)を各チューブに加え、ピペットを上下させることによって混合し、DNA/CaCl混合物を、正確に5分間4℃でインキュベートした。
【0069】
各レスキューのために、500μlの2×HEPES緩衝液(シグマ社)を、15mlの反応チューブにピペットで入れ、ボルテックスミキサー上に置き、DNA/CaCl混合物を、激しくボルテックスにかけながら約30秒間かけて1000μlのマイクロタイターピペットを使用してゆっくりと滴下して加え、さらに30秒間ボルテックスにかけた。混合物を、室温で計20分間インキュベートし、さらに混合することなく、リン酸カルシウム-DNA沈降物の形成を可能とした。
【0070】
2mlのトランスフェクション培地を、10μlの25mMのクロロキンストック溶液と混合し、血清用ピペットを使用して、80%の集密率の細胞を含む10cmの組織培養皿に注意深く加えた。皿を穏やかに動かして混合し(皿中の全容量:10ml、最終濃度は25μMのクロロキン)、細胞を、20分間のインキュベーションの残りにはインキュベーターに戻した。トランスフェクション混液は、1000μlのマイクロタイターピペットを用いて、細胞層の異なる領域に滴下して添加され、皿を、リン酸カルシウム-DNA複合体の均一な分布のために穏やかに動かした。細胞を、37℃のインキュベーター中でインキュベートし、クロロキンを含む培地を、5mlのcDMEMで細胞を1回洗浄した後、10mlの予め加温したcDMEMと4時間後に交換し、指示されているように培養した。培地の50%を、必要であれば、2日間毎に交換して培地が酸性になるのを防いだ。
【0071】
レスキューの回収
トランスフェクション後の指定された時点で、10cm皿の上清を回収し、15mlのチューブに移した。チューブを、300rcfで4分間遠心分離にかけた。上清を、0.20μmのフィルターを使用してろ過し、1mlのアリコート(レスキュー上清)を使用して、6×1.5mlのチューブに移した。チューブを、さらなる処理まで-80℃で凍結させたか、又はビリオンの継代がレスキュー回収と同じ日に実施された場合には4℃で保存された。
【0072】
感染性ビリオンの継代
HEK293-F細胞又はBHK21Cl.13細胞を、10cmの皿あたり5×10個で、感染の1日前(d-1)に10mlのcDMEM中に、又は10cmの皿あたり1×10個の細胞で、37℃のインキュベーター中で培養されたトランスフェクションの朝(d0)に播種した。細胞は、レスキュー上清を用いた感染日において約80%の集密率であった。
【0073】
1mlのレスキュー上清(使用まで4℃で保存したか又は感染前に約30分間かけて解凍した)を、細胞層を攪乱することなく、各プレートに滴下して加えた。培養容器を前後左右に穏やかに振動させて、上清を均一に分布させ、細胞を37℃のインキュベーター中で24時間から48時間インキュベートした。陰性対照として、培地を1枚の皿に添加してもよい。
【0074】
ウイルスシードストックの回収
24~48時間後、ウイルスシードストックを、明瞭な細胞変性作用(CPE)が可視化できる場合に回収した。上清を、各皿から取り出し、15mlのチューブに移した。チューブを、300rcfで4分間遠心分離にかけた。上清を、0.20μmのフィルターを使用してろ過し、0.6mlを、1mlのアリコート(レスキュー上清)を使用して、1.5mlのチューブに移した。チューブを、プラークの精製まで-80℃で凍結した。
【0075】
一般化されたプロセスの概略が、図2に図で提供されている。
【0076】
実施例1
HEK293-F細胞が、ワクチン又は遺伝子療法としての臨床用途のための、VSV又は組換えVSV(rVSV、例えば遺伝子改変された糖タンパク質を含む)のための懸濁産生細胞株として頻繁に使用される。規制の理由のために、一過性トランスフェクションを使用した、プラスミドからのヘルパーウイルス非含有VSV又はrVSVレスキューためにも、懸濁産生細胞株を使用することが有利である。しかしながら、本発明者らは、VSV又はrVSVが、HEK293-F細胞において一過性トランスフェクションを使用して効率的にレスキューされなかったことを観察した。容易にトランスフェクトされかつ実験室の状況で頻繁にウイルス産生のために使用されることが知られている関連した細胞株であるHEK293T細胞は、他方で、VSVレスキューのための効率的な細胞株であることが示された。
【0077】
HEK293-F細胞におけるVSVレスキューを最適化するために、ウイルスタンパク質発現を、トランスフェクション後にHEK293-F細胞及びHEK293T細胞において分析した。HEK293-F細胞及びHEK293T細胞は、上記のような、10μgのpVSV-LCMV GP、2.4μgのpCAG VSV-Nプラスミド、1.8μgのpCAG VSV-Pプラスミド、0.6μgのpCAG VSV-Lプラスミド、及び10μgのpCAGGS T7-RNAP IRES Puroを使用して接着細胞として一過性にトランスフェクトされた。場合により、1μgのpCAG VSV-GPプラスミドをトランスフェクションのためにDNA-混合物に加えたか、又は、全てのNPL-ヘルパープラスミド(pCAG VSV-N、pCAG VSV-P及びpCAG VSV-L)が、図3に示されるように、陰性対照として省略された。
【0078】
細胞溶解液は、Pタンパク質に対するポリクローナル抗体(図3、上のパネル)並びに少なくともN、P及びMタンパク質を認識するVSVタンパク質に対する一般的な抗体(図3、下のパネル)を使用して、SDS page及びウェスタンブロットによって分析された。Pタンパク質及びMタンパク質は、1本のバンドとして泳動するので、それらは、この血清を使用して区別することができない。陽性対照として、陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)によって精製されかつタンジェンシャルフローろ過によって2.36×1010のTCID50/ml(D-106-442)まで濃縮されたVSV-GPウイルスを、別々のレーンで1μl及び0.2μlで使用した。HEK293T細胞及びHEK293-F細胞におけるPタンパク質及びNタンパク質の発現における明瞭な差は観察されなかった(図3、レーン1及び4)。T7RNAポリメラーゼ発現は、直接検出されなかった。Pタンパク質及びNタンパク質の発現はT7RNAポリメラーゼ依存性ではないので、データは、少なくともPタンパク質及びNタンパク質のトランスフェクション効率及び発現の全体的な相違は、HEK293-F細胞及びHEK293T細胞においてVSVレスキューについて観察された相違を説明できないことを示唆する。
【0079】
実施例2
SV40ラージT抗原がHEK293-F細胞においてVSVレスキューを支持することができるかどうかを分析するために、HEK293-F細胞を、SV40ラージT抗原の非存在下又は存在下において、2つの異なる量のプラスミド(1μg及び5μg)を用いて、上記のようなVSVレスキューのための5つのプラスミドを使用してトランスフェクトした。HEK293-F細胞は接着細胞として培養され、10μgのpVSV-LCMV GP、2.4μgのpCAG VSV-Nプラスミド、1.8μgのpCAG VSV-Pプラスミド、0.6μgのpCAG VSV-Lプラスミド、及び10μgのpCAGGS T7-RNAP IRES Puroを使用して、上記のようなプラスミドpCAG SV40ラージTを用いて(1μg又は5μg)又は用いずに一過性にトランスフェクトされた。HEK293T細胞は、対照として、プラスミドpCAG SV40ラージTのコトランスフェクションを行なうことなく、同じようにトランスフェクトされた。様々な時点における代表的な写真が、図4Aに提供される。
【0080】
HEK293-F細胞及びHEK293T細胞における感染性ウイルスの産生を確認するために、トランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後のHEK293-F細胞及びHEK293T細胞の回収物の上清の継代を、BHK21Cl.13細胞に加え、感染から48時間後(p.i.)に細胞変性作用(CPE)について顕微鏡で分析した。驚くべきことには、SV40ラージT抗原を用いてのHEK293-F細胞の一過性トランスフェクションが、VSV又はrVSVのレスキューを可能としたことが判明した。明瞭な細胞変性作用が、SV40ラージT抗原を用いて一過性にトランスフェクトされたHEK293T細胞及びHEK293-F細胞に由来する、トランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後の回収物の上清を用いて感染させたBHK21Cl.13細胞において可視化できたが、一方、SV40ラージT抗原の非存在下におけるHEK293-F細胞に由来するトランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後の回収物の上清を用いての感染後に細胞変性作用は全く観察されなかった(図4B)。感染から48時間後、SV40ラージT抗原の非存在下におけるHEK293-F細胞に由来するトランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後の回収物の上清を用いての、BHK21Cl.13細胞の感染は、陰性対照としての回収物の上清の代わりに、培地と共にインキュベートされたBHK21Cl.13細胞とは識別不可能であった。それ故、T抗原の存在が、HEK293-F細胞における感染性ウイルスに必要とされると結論付けられ得る。
【0081】
実施例3
以前の実験は、VSVの成功裏なレスキューを確認するために、感染性ビリオンの継代について、HEK293-F細胞を使用して独立して反復された。HEK293-F細胞を、プラスミドpVSV-LCMV GP(VSV-GP)、pCAG VSV-N、pCAG VSV-P及びpCAG VSV-L(VSV-N、-P、L)及びpCAGGS T7-RNAP IRES Puroを用いて、プラスミドpCAG SV40ラージTのコトランスフェクションを伴い(1μg又は5μg)又は伴うことなく(SV40ラージTは皆無)トランスフェクトした。様々な時点における代表的な写真が図5Aに提供されている。HEK293-F細胞における感染性ウイルスの産生を確認するために、トランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後のHEK293-F細胞の回収物の上清を、80%の集密率の接着HEK293-F細胞に加え、感染から24時間後(p.i.)に細胞変性作用(CPE)について顕微鏡で分析した。HEK293-F細胞を使用したこのより早期な時点で、明瞭な細胞変性作用(CPE)が、5μgのSV40ラージT抗原を用いて一過性にトランスフェクトされたHEK293-F細胞に由来するトランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後の回収物の上清を用いて感染させたHEK293-F細胞において可視できたが、1μgのSV40ラージT抗原を用いて又はSV40ラージT抗原の非存在下において一過性にトランスフェクトされたHEK293-F細胞に由来するトランスフェクションから48時間後及びトランスフェクションから72時間後の回収物の上清を用いた感染後に細胞変性作用は全く観察されなかった(図5B)。
【0082】
実施例4
ラージT抗原の存在は、SV40oriを含有しているベクターの増加した増幅に関連していた。SV40oriを含むVSVレスキューのために使用されるプラスミドのみが、T7-RNAP(pCAGGS T7-RNAP IRES Puro)をコードしているプラスミドである。対応するpCAGベクターからのウイルスタンパク質N、P及びLの発現は、人工CAGプロモーターによって駆動され、Tポリメラーゼの存在に依存しないので、ウイルスタンパク質レベルの差は、HEK293-F細胞と比較して、HEK293T細胞において観察されたウイルスの回収率の差を説明しない(図3)。しかしながら、本発明者らは、プラスミドのトランスフェクション後の初期工程におけるVSV-GPゲノムRNAのT7ポリメラーゼ依存性の一次転写が、様々な細胞株におけるウイルスの回復に影響を及ぼすことを排除できない。
【0083】
T7-RNAポリメラーゼの存在下において、HEK293-F細胞におけるVSVレスキューにおけるSV40oriの効果を分析するために、本発明者らは、T7-RNAポリメラーゼの発現のためのSV40oriを含んでいない異なるベクターを使用して、HEK293-F細胞においてVSVレスキューを反復した。それ故、プラスミドpCAGGS T7-RNAP IRES Puroに由来するT7-RNAポリメラーゼをコードしている発現カセットを、VSV Pタンパク質、Nタンパク質、及びLタンパク質の発現のために使用されるpCAGプラスミドにクローニングした。効率は一般的に、pCAGGS T7-RNAポリメラーゼ IRES Puroと比較して低かったが、ラージT抗原依存性VSVレスキューは依然として、T7-RNAポリメラーゼの発現のためのSV40oriを欠失しているプラスミドを使用して観察された。ここでもVSVのレスキューは、HEK293-F細胞においてラージT抗原の存在下においてのみ観察された。
【0084】
配列表
配列番号1(水疱性口内炎インディアナウイルス、VSV-N):
【化1】
【0085】
配列番号2(水疱性口内炎インディアナウイルス、VSV-P):
【化2】
【0086】
配列番号3(水疱性口内炎インディアナウイルス、VSV-L):
【化3】
【0087】
配列番号4(T7RNAポリメラーゼ):
【化4】
【0088】
配列番号5(サルウイルス40、SV40ラージT抗原):
【化5】
【0089】
配列番号6(水疱性口内炎インディアナウイルス株T1026R1完全配列):
【化6】


【0090】
配列番号7(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、LCMV GP):
【化7】
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
【配列表】
2024524535000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)HEK293細胞株又は細胞培養液中における懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株から細胞を提供する工程、
(b)少なくとも1つのプラスミドを用いて上記細胞をトランスフェクトする工程、ここで、上記少なくとも1つのプラスミドは、
(i)水疱性口内炎ウイルス(VSV)ゲノムcDNAを含む発現カセット;
(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット;及び
(iii)SV40ラージT抗原をコードしている発現カセット
を含む;
(c)トランスフェクトされた細胞を培養する工程;並びに
(d)レスキューされたVSVを含む細胞培養上清を回収する工程
を含む、
HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株におけるDNAからの水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキュー法。
【請求項2】
上記回収された細胞培養上清が感染性水疱性口内炎ウイルスを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(i)上記細胞が、接着細胞として提供され、トランスフェクトされ、そして培養され;
(ii)上記細胞が工程(b)において一過性にトランスフェクトされ
iii)工程(b)における細胞のトランスフェクションが、化学反応に基づいたトランスフェクション剤の使用を含み、及び/又は
(iv)工程(b)における細胞のトランスフェクションが、リポフェクション、ポリエチレンイミン、又はリン酸カルシウムから選択される、上記化学反応に基づいたトランスフェクション剤の使用を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
工程(b)における細胞がさらに、RNAポリメラーゼII依存性プロモーターの制御下にあるバクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしている発現カセットを含むプラスミド又はヘルパーウイルスを用いてトランスフェクト又は形質導入され;そして、上記水疱性口内炎ウイルスゲノムcDNAを含む発現カセットは、T7プロモーター配列及びT7転写終結配列の制御下にあるVSVゲノムcDNAを含、請求項1記載の方法。
【請求項5】
上記方法がヘルパーウイルスを含まない方法であり、工程(b)の細胞は、RNAポリメラーゼII依存性プロモーターの制御下にあるバクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしている発現カセットを含むプラスミドを用いてトランスフェクトされる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
(a)上記バクテリオファージT7RNAポリメラーゼをコードしているヌクレオチド配列が、コドン最適化され;及び/又は
(b)上記バクテリオファージT7RNAポリメラーゼが、配列番号4のアミノ酸配列を有するか、又は配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項4又は5の方法。
【請求項7】
VSVリン酸化タンパク質、VSV核タンパク質、及びVSVラージタンパク質をコードしている上記少なくとも1つの発現カセットが、1つ以上のヘルパープラスミドとしてトランスフェクトされる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
上記1つ以上のヘルパープラスミドが、
(i)プロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSV核タンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む第一のヘルパープラスミド;
(ii)プロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVリン酸化タンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む第二のヘルパープラスミド;及び
(iii)プロモーター配列及び転写終結配列の制御下にあるVSVラージタンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む第三のヘルパープラスミ
含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
SV40ラージT抗原をコードしている上記発現カセットが、
(a)SV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含むプラスミドとしてトランスフェクトされ;及び/又は
(b)プロモーターの制御下にあるSV40ラージT抗原をコードしている核酸配列を含み、そしてさらに、転写終結配列を含み;
(c)配列番号5のアミノ酸配列を有するか、又は配列番号5のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する、SV40ラージT抗原をコードしている核酸配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
上記HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株が、HEK293、HEK293-F、HEK-293-H、Expi293F、及びフリースタイルHEK293-Fからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
上記細胞がHEK293-F細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
上記VSVゲノムcDNAが、ウイルス完全長ゲノムcDNA又は改変されたウイルスゲノムcDNAである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
上記VSVゲノムcDNAが、改変されたGタンパク質をコードしている改変されたウイルスゲノムcDNAである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
上記VSVゲノムcDNAにおいて糖タンパク質Gをコードしている遺伝子が、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPをコードしている遺伝子によって置換されている、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
(e)HEK293細胞株又は懸濁液中の懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株に由来する細胞を、工程(d)で得られたVSVを用いて形質導入する工
さらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット、並びに(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセット、並びにSV40ラージT抗原をコードしている発現カセットを含む、少なくとも1つのプラスミドの一過性トランスフェクションを用いた、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのためのHEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株の使用。
【請求項17】
(i)VSVゲノムcDNAを含む発現カセット、並びに(ii)VSV核(N)タンパク質、VSVリン酸化(P)タンパク質、及びVSVラージ(L)タンパク質をコードしている少なくとも1つの発現カセットを含む、少なくとも1つのプラスミドを用いた一過性コトランスフェクションを用いた、HEK293細胞株又は懸濁増殖に適応させたHEK293細胞株における、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のレスキューのための、SV40ラージT抗原をコードしているプラスミドの使用。
【請求項18】
上記1つ以上のヘルパープラスミドが、
VSV糖タンパク質(G)をコードしている配列を含む発現カセット及び/又はVSVマトリックス(M)タンパク質をコードしている配列を含む発現カセットを含む、少なくとも1つのさらなるヘルパープラスミドを含む、
請求項8記載の方法。
【請求項19】
さらに(f)大規模の懸濁培養液中の、工程(e)の細胞中でVSVを産生する工程
を含む、
請求項15記載の方法。
【国際調査報告】