(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】高腫大循環癌関連マクロファージ様細胞(CAML)を有する対象における多臓器転移性疾患及び全生存期間及び無増悪生存期間を予測する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
G01N33/48 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500243
(86)(22)【出願日】2022-07-06
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 US2022036253
(87)【国際公開番号】W WO2023283264
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518362775
【氏名又は名称】クリエイティブ マイクロテック インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】CREATV MICROTECH, INC.
【住所又は居所原語表記】11609 Lake Potomac Drive,Potomac, Maryland 20854, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】アダムス, ダニエル エル.
(72)【発明者】
【氏名】タン, チャ-メイ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA01
2G045AA24
2G045AA26
2G045BB04
2G045BB39
2G045CA25
2G045CB01
2G045CB03
2G045FA34
2G045FA36
2G045FA37
2G045FB03
(57)【要約】
(i)多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患、並びに(ii)癌に罹患している対象の全生存期間(OS)及び無増悪生存期間(PFS)を予測するための手段を開示し、この予測は、対象の血液等の生体サンプル中に見出される循環癌関連マクロファージ様細胞(CAML)の数及びサイズに基づいている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患を診断する方法であって、前記方法は、癌に罹患している対象等の対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、前記サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、前記対象は、多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患を有すると診断する、前記方法。
【請求項2】
対象における多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患の発症を予測する方法であって、前記方法は、癌に罹患している対象等の対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、前記サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、前記対象は、多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患を発症すると予測する、前記方法。
【請求項3】
癌に罹患している対象の全生存期間(OS)及び/又は無増悪生存期間(PFS)を予測する方法であって、前記方法は、癌に罹患している対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、前記サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、前記対象は、同じ癌又は類似の癌に罹患しているが対応するサンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上であるということを充足しない対象よりも、OSが短く及び/又はPFSが短いと予測する、前記方法。
【請求項4】
癌に罹患している対象のOS及び/又はPFSを予測する方法であって、前記方法は、癌に罹患している対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、前記サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、前記対象のOS及び/又はPFSは、癌に罹患しているがサイズが約100μm以上のCAMLがない対象よりも、少ない又は短いと予測する、前記方法。
【請求項5】
前記OS及び/又はPFSは、少なくとも12箇月である、請求項3又は請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記OS及び/又はPFSは、少なくとも24箇月である、請求項3又は請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記生体サンプルのサイズが5~15mLである、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記CAMLは、
(a)約14~64μmの大きな非定型倍数体核又は単一細胞内の複数の核
(b)約20~300μmの細胞サイズ
(c)紡錘形、オタマジャクシ形、円形、長円形、2本脚、2本脚以上、細い脚、及び無定形からなる群から選択される形態学的形状
の特徴を有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記CAMLは、
(d)CD14陽性表現型
(e)CD45発現
(f)EpCAM発現
(g)ビメンチン発現
(h)PD-L1発現
(i)単球性CD11Cマーカー発現
(j)内皮CD146マーカー発現
(k)内皮CD202bマーカー発現
(l)内皮CD31マーカー発現
のうちの一つ以上の特徴を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生体サンプルの供給源は、末梢血、血液、リンパ節、骨髄、脳脊髄液、組織、及び尿のうちの1つ又は複数である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生体サンプルは、肘正中静脈血、下大静脈血、大腿静脈血、門脈血、又は頸静脈血である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記癌は、固形腫瘍、ステージI癌、ステージII癌、ステージIII癌、ステージIV癌、癌腫、肉腫、神経芽細胞腫、黒色腫、上皮細胞癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、膵臓癌、大腸癌、腎癌、肝臓癌、頭頸部癌、腎臓癌、卵巣癌、食道癌、又は他の固形腫瘍癌である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記CAMLは、サイズ排除法、免疫捕捉、赤血球溶解、白血球枯渇、FICOLL、電気泳動、誘電泳動、フローサイトメトリー、磁気浮遊、及び各種マイクロ流体チップ、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される1つ又は複数の手段を用いて、前記判定ステップのために前記生体サンプルから単離される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記CAMLは、マイクロフィルターを用いるサイズ排除法を用いて生体サンプルから単離される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロフィルターは、約5μmから約20μmの範囲の孔径を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記マイクロフィルターの孔は、円形、レーストラック形、楕円形、正方形、及び長方形の孔形状を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マイクロフィルターは、精密な孔形状と均一な孔分布を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記CAMLは、物理的サイズに基づく選別、流体力学的サイズに基づく選別、グループ化、トラッピング、免疫捕捉、大きな細胞の濃縮、又はサイズに基づく小さな細胞の排除を介するマイクロ流体チップを使用して単離される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記CAMLは、CellSieve(登録商標)低圧精密濾過アッセイを用いて、前記判定ステップのために前記生体サンプルから単離される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には、癌に関する診断、並びに多巣転移性疾患(multifocal metastatic disease)等の癌に罹患している対象における全生存期間及び無増悪生存期間に関する予測を行うための、血液及び他の体液中のバイオマーカーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞は、原発性固形腫瘍から離脱すると、血液やリンパ液循環に浸透し、最終的には、血流を離れて臓器や組織に入り、転移する。癌に関連する死亡の90%は、転移プロセスによるものである。最も一般的な転移部位は、肺、肝臓、骨、脳である。循環中に発見される腫瘍細胞は、循環腫瘍細胞(circulating tumor cell:CTC)と呼ばれる。多くの研究発表や臨床試験は、(i)血流中のCTCを列挙(enumeration)することにより、予後の生存や癌の再発に関する情報が提供され、及び(ii)タンパク質の発現レベル、CTC中の遺伝子変異や転座の発生を調べることにより、治療に関する情報が提供されるとい点において、CTCが臨床的に有用であることを示している。しかしながら、ステージIVの癌患者であっても、CTCと、対象の癌の発症及び/又は存在との関連性に一貫性があるわけではない。CTCは、小細胞肺癌や乳癌、前立腺癌、大腸癌(colorectal cancer)のステージIVで最も頻繁に発見されるが、これらの癌の早期ステージでは、稀である。また、CTCは、他の癌でも稀である。
【0003】
循環癌関連マクロファージ様細胞(circulating cancer associated macrophage-like cell:CAML)は、癌に罹患している対象の血液中に認められる他の癌関連細胞である。CAMLは、検査された全ての固形腫瘍及び全ての病期の癌と関連している。CAMLは、倍数体であり、サイズは約25μmから300μm以上と非常に大きい。これらの倍数体細胞は、CD45(-)又はCD45(+)であり、CD11c、CD14、CD31を発現することがあり、骨髄系であることが確認されている。これらの細胞は、CTCや細胞残屑を飲み込む過程で発見されることが多い[1,7]。
【0004】
精密腫瘍学の分野では、進行性転移と非進行性転移を区別できる予測バイオマーカーを同定することは、依然として困難である[11]。多臓器転移に伴って生存期間が著しく短くなるため、これらの患者集団を予測できるバイオマーカーが必要とされている[10,11]。CAMLに関する先行研究は、複数の固形悪性腫瘍における普遍的で侵襲の少ない血液ベースの予後予測バイオマーカーとして、これらの細胞を使用できることを示唆している[1,9]。
【0005】
血液及び他の体液中のCAML等のバイオマーカーの同定及び特性判定に関連するアッセイは、予後情報を提供するために使用できる。本発明は、このようなツールを臨床医および他の重要な目的に対して提供することに係るものである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、癌腫、肉腫、神経芽細胞腫、黒色腫等の固形腫瘍を有する対象の血液中に見出される、特異的な特徴を有する細胞の一種を使用する方法に係る。これらの循環細胞は「癌関連マクロファージ様細胞」(Cancer Associated Macrophage-like cell:CAML)と呼ばれ、癌に罹患している対象の固形腫瘍の存在と関連することが判明している。これまで、CAMLに関連する5つの形態が特徴付けられ、記述されている[1,2]。CAMLは、循環間質細胞のサブタイプであり、孔径が精密なマイクロフィルターを用いたサイズ排除に基づく精密濾過によって、ステージIからステージIVの固形腫瘍を有する対象の末梢血から一貫して検出されている[1]。
【0007】
CAMLに関連する医療用途としては、以下に限定されるものではないが、癌の早期発見や診断、特に癌の再発や再燃の早期発見や診断、癌変異の判定を行うためのバイオマーカーとしての細胞の使用が挙げられる。また、CAMLは、病気の進行や患者の生存を予測するバイオマーカーとしても臨床的に有用であることが明らかになっている。
【0008】
多臓器転移を有する患者は、単臓器転移を有する患者よりも予後が悪く、腫瘍の負担が大きい[1]。50μm以上のサイズのCAMLは、予後不良を予測することが多くの研究で示されているが、これらの研究のメタアナリシスは、高腫大(又は極度に肥大した)CAML(hyper-engorged CAML:heCAML)、すなわち、100μm以上のサイズの細胞が、多巣転移性疾患及び非転移性疾患、並びに更に悪い予後に関連することを示唆している[9]。ここに提示する実験的証拠に示されるように、癌患者におけるheCAMLの存在は、多臓器転移、並びに無増悪生存期間(PFS)及び全生存期間(OS)の短縮と相関する。
【0009】
第1の実施形態において、本発明は、対象における多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患を診断する方法に係る。この方法は、癌に罹患している対象等の対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、当該対象は、多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患を有すると診断される。
【0010】
第2の実施形態において、本発明は、対象における多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患の発症を予測する方法に係る。この方法は、癌に罹患している対象等の対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、当該対象は、多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患を発症すると予測する。
【0011】
第3の実施形態において、本発明は、CAML細胞サイズに基づいて、癌に罹患している対象の全生存期間(OS)及び/又は無増悪生存期間(PFS)を予測する方法を提供する。この方法は、癌に罹患している対象等の対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、当該対象は、同じ癌又は類似の癌に罹患しているが対応するサンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上でない対象よりも、OSが短く及び/又はPFSが短いと予測する。すなわち、より大きなサイズのCAMLを有する対象のOS及び/又はPFSは、より小さなサイズのCAMLを有する対象のOS及び/又はPFSよりも少ない又は短いと予測する。いくつかの局面において、癌は、多臓器転移又は多巣転移性疾患である。
【0012】
一局面において、本方法は、癌に罹患している対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、当該対象のOS及び/又はPFSは、癌に罹患しているがサイズが約100μm以上のCAMLがない対象よりも、少ない又は短いと予測する。
【0013】
本発明の実施形態のいくつかの局面において、OS若しくはPFS又はその両方は、少なくとも12箇月である。本発明の実施形態の他の態様において、OS若しくはPFS又はその両方は、少なくとも24箇月である。
【0014】
本発明の実施形態のいくつかの局面において、生体サンプルのサイズは、5~15mLである。
【0015】
本発明の実施形態及び局面のそれぞれにおいて、CAMLは、以下の特徴のそれぞれを有するものとして定義できる。
(a)約14~64μmの大きな非定型倍数体核(atypical polyploid nucleus)又は単一細胞内の複数の核
(b)約20~300μmの細胞サイズ
(c)紡錘形、オタマジャクシ形、円形、長円形、2本脚、2本脚以上、細い脚、及び無定形からなる群から選択される形態学的形状
【0016】
本発明の実施形態のいくつかの局面において、CAMLは、更に、以下の付加的な特徴の1つ又は複数を有するものとして定義できる。
(d)CD14陽性表現型
(e)CD45発現
(f)EpCAM発現
(g)ビメンチン発現
(h)PD-L1発現
(i)単球性CD11Cマーカー発現
(j)内皮CD146マーカー発現
(k)内皮CD202bマーカー発現
(l)内皮CD31マーカー発現
【0017】
本発明の各局面及び実施形態において、約100μmより大きいCAMLを「高腫大(又は極度に肥大した)癌関連マクロファージ様細胞(hyper-engorged Cancer Associated Macrophage-like cell)」又はheCAMLと称する。
【0018】
本発明の実施形態において、生体サンプルの供給源は、以下に限定されるものではないが、末梢血、血液、リンパ節、骨髄、脳脊髄液、組織、及び尿のうちの1つ又は複数であってもよい。生体サンプルが血液である場合、血液は、例えば、肘正中静脈血、下大静脈血、大腿静脈血、門脈血、又は頸静脈血であってもよい。サンプルは、新鮮なサンプルであってもよく、適切に調製された凍結保存サンプルを解凍したものであってもよい。
【0019】
本発明の実施形態のいくつかの局面において、癌は、固形腫瘍、ステージI癌、ステージII癌、ステージIII癌、ステージIV癌、癌腫、肉腫、神経芽腫、黒色腫、上皮細胞癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、膵臓癌、大腸癌、腎癌、肝臓癌、頭頸部癌、腎臓癌、卵巣癌、食道癌、又は他の固形腫瘍癌である。
【0020】
本発明の実施形態のいくつかの局面において、循環細胞は、サイズ排除法、免疫捕捉、赤血球溶解、白血球枯渇、FICOLL、電気泳動、誘電泳動、フローサイトメトリー、磁気浮上、及び様々なマイクロ流体チップ、又はこれらの組み合わせから選択される1つ又は複数の手段を用いて、判定ステップのために生体サンプルから単離される。
【0021】
本発明の1つの局面において、循環細胞は、マイクロフィルターを使用することからなるサイズ排除法を用いて生体サンプルから単離される。マイクロフィルターは、約5μmから約20μmの範囲の孔径を有していてもよい。マイクロフィルターの孔は、円形、レーストラック形状、楕円形、正方形及び/又は長方形の孔形状を有していてもよい。マイクロフィルターは、精密な孔形状及び/又は均一な孔分布を有していてもよい。
【0022】
本発明の他の局面において、循環細胞は、物理的サイズに基づく選別、流体力学的サイズに基づく選別、グループ化、トラッピング、免疫捕捉、大きな細胞の濃縮、又はサイズに基づく小さな細胞の排除を介するマイクロ流体チップを使用して生体サンプルから単離される。
【0023】
本発明の更なる態様ではCellSieve(登録商標)低圧精密濾過アッセイを用いて、生体サンプルから循環細胞を単離する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】CAMLの同定とサブタイプ分類に用いられる細胞分化マーカーの強度を示す図である。
【0025】
【
図2】(A)単臓器転移及び(B)多臓器転移患者からの生体サンプルにおけるheCAMLの分布を、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎癌の4つの癌タイプ別に示す図である。
【0026】
【
図3】
図2の転移を有する患者におけるheCAMLの存在のカプランマイヤー(Kaplan-Meier)比較を示す図である。
【0027】
【
図4】n=275の癌患者からの非転移性癌、単臓器転移及び多臓器転移を有する対象からの初回採血の血液中のheCAMLの数を示す図である。
【0028】
【
図5】
図4に示す癌患者の様々なステージにおけるheCAMLの数及び/又は存在を示す図である。
【0029】
【
図6A】転移病変を有する患者におけるheCAMLの存在に関するカプランマイヤー比較(A)を示す図である。
【
図6B】異なるサイズのCAMLを有する対象における進行及び死亡率の増加(B)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
本明細書で定義される詳細な構成及び要素等の事項は、本発明の包括的な理解を補助するために提示しているに過ぎない。したがって、本発明の範囲及び思想から逸脱することなく、本明細書に記載された実施形態を様々に変更及び修正できることは、当業者にとって明らかである。
【0031】
癌は、世界で最も恐れられている病気の1つであり、あらゆる国のあらゆる人口及び民族構成に影響を及ぼしている。男女ともに約40%が一生のうちに癌を発症する。米国のみでも、常時1,200万人以上の癌患者がおり、2018年には、新たに170万人の癌患者が発生し、60万人以上が死亡すると推定されている。世界の癌死亡者数は、年間約800万人と推定され、そのうち300万人は、患者が治療を受けられる先進国で発生している。
【0032】
癌が存在するかどうか及び/又は癌が転移しているかどうかを迅速に判定でき、治療タイプの選択及び選択した治療が効いているかどうかの判定に使用でき、生存の予後診断に使用できる診断法が存在することが理想的である。
【0033】
本開示では、ステージI~IVの固形腫瘍患者の血液中に、他のどの癌関連細胞よりも一貫して見出される細胞型を提示する。これらの循環細胞は、原発腫瘍と同じ腫瘍マーカーを含むマクロファージ様細胞であり、ここでは、循環癌関連マクロファージ様細胞(circulating Cancer Associated Macrophage-like cell:CAML)と称する。
【0034】
癌に罹患している患者からの生体サンプル中に存在するCAMLは、循環腫瘍細胞(circulating tumor cell:CTC)とともに、例えば、精密濾過法を含むサイズ排除法の使用によって単離し、特徴付けることができる。マイクロフィルターは、CTCやCAML等の大きな細胞を保持しながら、赤血球や大部分の白血球を通過させるのに十分なサイズの孔を持つように形成できる。採取された細胞は、フィルター上で直接、あるいは、他の手段によって、特性解析できる。
【0035】
CAMLは、単独で使用される場合、多くの臨床的有用性を有する。更に、生体サンプル中のCAMLの特性解析は、CTC、無細胞DNA、血液中の遊離タンパク質等の他のマーカーのアッセイと組み合わせることで、診断技術の感度と特異性を更に向上させることができる。CAML及びCTCは、同じ手段で同時に単離及び同定できるため、上記の特徴は、特に、CAML及びCTCに当てはまる。
【0036】
循環腫瘍細胞
本明細書で定義するように、癌腫に関連するCTCは、多くのサイトケラチン(cytokeratin:CK)を発現する。CK8、CK18、及びCK19は、CTCによって最も一般的に発現され、診断において使用されるサイトケラチンであるが、調査は、これらのマーカーのみに限定する必要はない。固形腫瘍CTCの表面は、通常、上皮細胞接着分子(epithelial cell adhesion molecule:EpCAM)を発現する。しかしながら、この発現は、一様ではなく、一貫しているわけでもない。CTCは、CD45を発現しないが、これは、CD45が白血球マーカーであるためである。CTCやCAML等の腫瘍関連細胞を同定するアッセイでは、CK8、CK18、及びCK19等の固形腫瘍に関連するマーカーに対する抗体、あるいは、CD45やDAPIに対する抗体を用いれば十分である。染色技術を形態学と組み合わせることによって、病理学的に定義可能なCTC(pathologically-definable CTC:PDCTC)、アポトーシスCTC、CAMLを同定できる[3]。
【0037】
癌腫に関連するPDCTCは、CK8、CK18、CK19を発現し、以下の特徴によって同定及び定義される。
・DAPIで染色された「癌様」核。核は、通常大きく、ドットパターンを有する。ただし、細胞分裂中は、例外である。核が凝縮していることもある。
・CK8、CK18、及びCK19の1つ又は複数の発現。上皮癌からのCTCは、通常、少なくともCK8、CK18、CK19を発現する。サイトケラチンは、糸状パターンを有する。
・CD45の発現の欠如。
【0038】
肉腫に関連するPDCTCは、CK8、CK18、及びCK19の代わりに、ビメンチンを発現する。
【0039】
黒色腫に関連するPDCTCは、CK8、CK18、及びCK19の代わりに、CD146、CD31、及び/又はCD34を発現する。
【0040】
神経芽腫に関連するPDCTCは、CK8、CK18、及びCK19の代わりに、GD2及び/又はビメンチンを発現する。
【0041】
癌腫に関連するアポトーシスCTCは、CK8、CK18、CK19を発現し、以下の特徴により同定及び定義される:
・劣化した核。
・CK8、CK18、CK19の1つ又は複数の発現。全てのサイトケラチンのパターンが糸状ではなく、一部又は全体が斑点状に断片化されている。
・CD45発現の欠如。
【0042】
循環癌関連マクロファージ様細胞(CAML)
本明細書で定義するように、本発明の方法で使用される循環細胞は「CAML」と称することができる。「循環細胞」への各言及は、CAMLと同義であり、「CAML」への各言及は、循環細胞と同義である。CAMLと呼ぶ場合も「循環細胞」と称する場合も、これらの細胞は、以下の特徴の1つ又は複数を有する。
・CAMLは、大きな非定型倍数体核又は複数の個別核を有し、多くの場合、細胞内に散在しているが、拡大した融合核小体(enlarged fused nucleoli)が共通している。CAMLの核のサイズは、一般的に直径約10μm~約70μm、より一般的には、直径約14μm~約64μmである。
・多くの癌において、CAMLはその疾患の癌マーカーを発現する。例えば、上皮性癌に関連するCAMLは、CK8、CK18又はCK19、ビメンチン等を発現する。マーカーは、通常、拡散しているか、液胞及び/又は摂取物質と関連している。どのマーカーの染色パターンも細胞全体に略均一に拡散している。肉腫、神経芽細胞腫、黒色腫の場合、CK8、CK18、CK19の代わりに、癌に関連する他のマーカーを使用できる。
・CAMLは、CD45陽性又はCD45陰性でありえ、本発明は、両方のタイプのCAMLの使用を包含する。
・CAMLは、大きく、長径が約20μmから約300μmである。
・CAMLは、紡錘形、オタマジャクシ形、円形、長円形、2本脚、2本脚以上、細い脚、または無定形等、多数の異なる形態学的形状で見出される。
・癌腫由来のCAMLは、通常、拡散したサイトケラチンを有する。
・CAMLがEpCAMを発現している場合、EpCAMは、通常、細胞全体に拡散しているか、液胞及び/又は摂取物質と関連しており、細胞全体に亘って略均一であるが、腫瘍によっては、EpCAMの発現が非常に低いか全くないため、全てのCAMLがEpCAMを発現するわけではない。
・CAMLがマーカーを発現している場合、そのマーカーは、通常、細胞全体に拡散しているか、液胞及び/又は摂取物質と関連しており、細胞全体に略均一であるが、全てのCAMLが同じマーカーを同じ強度で発現するわけではない。
・CAMLは、しばしば腫瘍由来のマーカーと関連するマーカーを発現し、例えば、腫瘍が前立腺癌由来でPSMAを発現する場合、そのような患者からのCAMLもPSMAを発現する。別の例として、原発腫瘍が膵臓由来でPDX-1を発現する場合、そのような患者からのCAMLもPDX-1を発現する。更なる例として、癌由来の原発腫瘍又はCTCがCXCR-4を発現している場合、そのような患者からのCAMLもCXCR-4を発現する。
・癌由来の原発腫瘍又はCTCが薬物標的のバイオマーカーを発現している場合、そのような患者からのCAMLも薬物標的のバイオマーカーを発現する。このような免疫療法のバイオマーカーの例は、PD-L1である。
・CAMLは、単球マーカー(例えば、CD11c、CD14)や内皮マーカー(例えば、CD146、CD202b、CD31)を発現する。
・CAMLは、Fc断片を結合する能力を有する。
【0043】
約100μm以上のCAMLを「高腫大(又は極度に肥大した)循環癌関連マクロファージ様細胞(hyper-engorged Cancer Associated Macrophage-like cell)」又はheCAMLと称する。
【0044】
CAMLでの発現について広範なマーカーを評価した。その結果を
図1に示す。本発明の1つの局面において、本発明のCAMLは、
図1に示したマーカーの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又は21個全てを発現する。これらのマーカーは、異なる癌に罹患する93人の患者から得られた1118個のCAMLに対するスクリーニングによって得られたものである。最初にCAMLを単離し、DAPI、サイトケラチン、及びCD45で同定し、その後、骨髄性/マクロファージ、白血球、巨核球、上皮、内皮、前駆/幹細胞、運動性マーカーを含む合計27のマーカーで順次再染色した。
図1からわかるように、マーカーの発現は、0%から96%の範囲である。略全てのCAMLが何らかのレベルのCD31を発現すると共に、サイトケラチン、CD14、CXCR4、ビメンチン、及びその他のマーカーを共通して発現していることがわかった。しかし、CAMLは、明らかな骨髄系統マーカー(CD14)を含む一方で、CD31マーカーの発現が96%とより多かった。
【0045】
また、CAMLは、従来の細胞分化の理解とは一致しないと思われる多くの表現型(CD45[白血球]とサイトケラチン[上皮]、CD11c[マクロファージ]とCD41[巨核球]、CD146[内皮]とCD41/CD61[巨核球]、CD41/CD61[巨核球]とCD68/CD163[スカベンジャーマクロファージ]の共発現等)を示している。マーカーの多くは、複数の細胞型に現れる。これらのデータを総合すると、CAMLは、分化の初期段階にある骨髄由来細胞であり、幹細胞や血管新生能に関連する多くの表現型的属性を有していることがわかる。
【0046】
CAMLは、
図1に示すように、H&E等の比色染色、あるいは、特定のマーカーの蛍光染色によって可視化できる。細胞質については、CD31が最も陽性の表現型である。CD31単独、又は
図1の他の陽性マーカー、あるいは、腫瘍に関連する癌マーカーとの併用が推奨される。
【0047】
本発明の様々な実施形態及び局面において、CAMLは、以下の各特徴を有する細胞として定義できる。(a)約14~64μmの大きな非定型倍数体核、又は単一細胞内に複数の核を有する。(b)約20~300μmの細胞サイズ。(c)紡錘形、オタマジャクシ形、円形、長円形、2本脚、2本脚以上、細い脚、及び無定形からなる群から選択される形態学的形状。更なる実施形態において、CAMLは、以下の付加的な特性の1つ又は複数をも有するものとして定義できる。(d)CD14陽性表現型。(e)CD45発現。(f)EpCAM発現。(g)ビメンチン発現。(h)PD-L1発現。(i)単球性CD11Cマーカー発現。(j)内皮CD146マーカー発現。(k)内皮CD202bマーカー発現。(l)内皮CD31マーカー発現。
【0048】
上記に示唆したように、本明細書に開示するCAML及びCTCのユニークな特徴は、癌等の疾患のスクリーニング及び診断、治療のモニタリング、疾患の進行及び再発のモニタリングの方法を含む臨床用途での使用に適している。
【0049】
多臓器転移の予測及び診断
発明の概要において示唆したように、本発明は、対象における多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患の発症を予測又は診断する方法に係る。当該方法は、癌に罹患している対象等の対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、対象は、多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患を発症すると予測する。
【0050】
細胞サイズを用いたOS及びPFSの予測
また、本発明は、CAML細胞サイズに基づいて、癌に罹患している対象の全生存期間(OS)及び/又は無増悪生存期間(PFS)を予測する方法に係る。この方法は、癌に罹患している対象等の対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、当該対象は、同じ癌又は類似の癌に罹患しているが対応するサンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上でない対象よりも、OSが短く及び/又はPFSが短いと予測する。このように、より大きなサイズのCAMLを有する対象のOS及び/又はPFSは、より小さなサイズのCAMLを有する対象のOS及び/又はPFSよりも少ない又は短いと予測する。いくつかの局面において、癌は、多臓器転移又は多巣転移性疾患である。
【0051】
本発明の好ましい局面において、方法は、癌に罹患している対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズが約100μm以上である場合、当該対象のOS及びPFSは、癌に罹患しているが約100μm以上のサイズのCAMLがない対象よりも少ない又は短いと予測する。
【0052】
100μmの値は、本方法のカットオフ値とみなすことができる。本方法の関わる局面において、カットオフ値は、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、又は110μm以上のいずれか1つであってもよい。
【0053】
本発明の1つの局面において、本発明の方法は、癌に罹患している対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、サンプル中の少なくとも1つの細胞のサイズが約100μm以上である場合、当該対象のOS及び/又はPFSは、癌に罹患しているが細胞のサイズが約100μm以上でない対象よりも少ない又は短いと予測する。
【0054】
この方法に関して、特定のCAMLのサイズは、細胞の状態や形態、サイズが判定される状況、サイズを判定する方法によって変化し得ることを認識することが重要である。循環細胞が採用する形態の種類には、紡錘形、オタマジャクシ形、円形、長円形、2本脚等(本書で更に定義されている)が含まれるため、測定用に選択された細胞上の2点によってサイズも変化し得る。なお、細胞のサイズは、通常、細胞体上の最も離れた2点間で測定される。したがって、形状が丸い場合は、細胞の直径が測定される。形状が紡錘形であれば、セルの軸方向の長さに沿った両端間の距離を測定できる。
【0055】
本発明の各方法において、全生存期間(OS)若しくは無増悪生存期間(PFS)、又はその両方は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30箇月、又はこれ以上の期間である。本発明の1つの局面において、OS若しくはPFS、又はその両方は、少なくとも約12箇月、又は少なくとも約24箇月である。
【0056】
ここで用いられる、全生存期間(OS)とは、診断日、治療開始日、及び癌の進行を評価するために血液を採取した日等の選択された日から、癌に罹患している対象が生存している期間の長さを意味する。
【0057】
ここで用いられる、無増悪生存期間(PFS)とは、治療を開始した日又は癌の進行を評価するために採血した日等の選択された日から、癌に罹患している対象が生存し、癌が悪化又は進行していない期間の長さを意味する。
【0058】
本発明の各方法において、循環細胞(CAML)がアッセイされる生体サンプルの量は、様々であり得ることは明らかである。しかしながら、細胞のサイズを判定することに基づく方法の場合、関連する細胞数を得るためには、生体サンプルは、少なくとも約2.5mLであるべきである。また、生体サンプルの量は、少なくとも約3、4、5、6、7、7.5、8、9、10、11、12、12.5、13、14、15、16、17、17.5、18、19、20、21、22、22.5、23、24、25、26、27、27.5、28、29、30mL、又はこれ以上であってもよい。また、生体サンプルの量は、約2.5~20mL、約5~15mL、又は約5~10mLであってもよい。本発明の1つの局面では、生体サンプルは、約7.5mLである。
【0059】
本発明の実施形態及び局面のそれぞれにおいて、循環細胞(CAML)は、以下の特徴のそれぞれを有するものとして定義できる。
(a)約14~64μmの大きな非定型倍数体核又は単一細胞内の複数の核
(b)約20~300μmの細胞サイズ
(c)紡錘形、オタマジャクシ形、円形、長円形、2本脚、2本脚以上、細い脚、及び無定形からなる群から選択される形態学的形状
【0060】
本発明の実施形態のいくつかの局面において、循環細胞(CAML)は、以下の付加的な特徴の1つ又は複数を有するものとして更に定義できる。
(d)CD14陽性表現型
(e)CD45発現
(f)EpCAM発現
(g)ビメンチン発現
(h)PD-L1発現
(i)単球性CD11Cマーカー発現
(j)内皮CD146マーカー発現
(k)内皮CD202bマーカー発現
(l)内皮CD31マーカー発現
【0061】
本発明の実施形態および局面のそれぞれにおいて、生体サンプルの供給源は、以下に限定されるものではないが、末梢血、血液、リンパ節、骨髄、脳脊髄液、組織、及び尿のうちの1つ又は複数であってもよい。生体サンプルが血液である場合、血液は、例えば、肘正中静脈血、下大静脈血、大腿静脈血、門脈血、又は頸静脈血であってもよい。サンプルは、新鮮なサンプルであってもよく、凍結保存したものを解凍したものでもよい[8]。
【0062】
癌に罹患する2人の対象の間で循環細胞(CAML)サイズを比較する場合、対象が同じ種類の癌に罹患していることが望ましい。しかしながら、癌の種類、癌の病期、癌の進行速度、治療歴、癌の寛解歴及び/又は再発歴等、他の要因の観点から、2人の対象を完全に一致させることが困難な場合がある。したがって、本発明の方法において比較される2つの対象の癌における特性には、多少のばらつきがあり得ることが理解されるべきである。
【0063】
本発明の実施形態及び局面のそれぞれにおいて、癌は、固形腫瘍、ステージI癌、ステージII癌、ステージIII癌、ステージIV癌、癌腫、肉腫、神経芽細胞腫、黒色腫、上皮細胞癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、膵臓癌、大腸癌、腎癌、肝臓癌、頭頸部癌、腎臓癌、卵巣癌、食道癌、又は他の固形腫瘍癌である。本発明の方法は、特定の形態又は種類の癌に限定されず、多種多様な癌に関連して実施されうることは当業者にとって明らかである。
【0064】
本発明の実施形態及び局面のそれぞれにおいて、循環細胞(CAML)は、サイズ排除法、免疫捕捉、赤血球溶解、白血球枯渇、FICOLL、電気泳動、誘電泳動、フローサイトメトリー、磁気浮上、及び様々なマイクロ流体チップ、又はこれらの組み合わせから選択される1つ又は複数の手段を用いて、判定ステップのために生体サンプルから単離される。特定の態様において、サイズ排除法は、マイクロフィルターの使用を含む。
【0065】
本発明の1つの局面において、循環細胞(CAML)は、マイクロフィルターを使用することを含むサイズ排除法を用いて生体サンプルから単離される。適切なマイクロフィルターは、様々な孔径及び形状を有することができる。マイクロフィルターは、約5μmから約20μmの範囲の孔径を有していてもよい。本発明のいくつかの局面では、孔径は、約5μmから約10μmであり、他の局面では、孔径は、約7μmから8μmである。孔径が大きいと、フィルター上のWBC汚染のほとんどが除去される。マイクロフィルターの孔は、円形、レーストラック形状、楕円形、正方形及び/又は長方形の孔形状を有していてもよい。マイクロフィルターは、精密な孔形状及び/又は均一な孔分布を有していてもよい。
【0066】
本発明の他の局面において、循環細胞(CAML)は、物理的サイズに基づく選別、流体力学的サイズに基づく選別、グループ化、トラッピング、免疫捕捉、大きな細胞の濃縮、又はサイズに基づく小さな細胞の排除を介する、マイクロ流体チップを使用して生体サンプルから単離される。循環細胞(CAML)の捕捉効率は、採取方法によって異なり得る。また、異なるプラットフォームで捕捉できる循環細胞(CAML)サイズも異なり得る。循環細胞サイズを予後や生存の判定に用いる原理は同じであっても、統計が異なることもある。CellSieve(登録商標)マイクロフィルターを用いた循環細胞の採取は、100%の捕捉効率と高品質の細胞を提供する。
【0067】
本発明の他の局面は、採血管である。CellSave採血管(カリフォルニア州サンディエゴ、Menarini Silicon Biosystems社)は、安定した細胞の形態とサイズを提供する。他の採血管では、細胞の安定性が得られない。他のほとんどの採血管では、細胞が増大し、破裂して採取されることさえある。
【0068】
本発明の他の局面は、細胞自体をCAML細胞として特異的に同定することに代えて、シンプルに細胞質と核のサイズに基づいて細胞を同定し、サンプル中の大きな細胞を同定することである。この局面で使用されうる技術の例としては、H&E染色等のカラー計量染色を使用すること又は単にCK(+)細胞を見ること等が含まれる。
【0069】
本発明の更なる局面では、Creatv MicroTech CellSieve(登録商標)低圧精密濾過アッセイを用いて、生体サンプルから循環細胞(CAML)を単離する。サイズ排除法は、血流からCAMLを単離するのに理想的である。Creatv MicroTech社のCellSieve(登録商標)マイクロフィルターは、丈夫で低自己蛍光性を有する厚さ10μmのポリマーの直径9mmの領域内に18万個の直径7.5μmの細孔が均一に分布するサイズ排除デバイスである。サイズによる濾過は、CTCとCAMLの両方を含む血液中の複数種類の腫瘍関連細胞を一貫して捕捉するのに適した方法である。濾過は、シリンジポンプや真空ポンプを用いて低圧下で行うことができる。
【0070】
例えば、全血をCellSave保存チューブに採取する。7.5mLの全血を7.5mLの前置緩衝液に前置する。3分をかけて、15mLのサンプルをCellSieve(登録商標)マイクロフィルターで濾過する。マイクロフィルターにより、全ての赤血球と99.9%の白血球が除去される。アッセイ後、フィルターに捕捉された細胞を固定、透過、蛍光染色する。その後、マイクロフィルターをスライドグラスにマウントし、蛍光顕微鏡で画像化する。
【0071】
実験
実験#1
方法. 転移性(m)の、m乳癌(n=58)、m肺癌(n=34)、m前立腺癌(n=39)、m腎癌(n=20)の患者151人をプロスペクティブに集めた。末梢血は、転移性癌に対する新たな治療を開始する前に採取した。7.5mLの血液から標準的なCellSieve技術に従ってCAMLを単離した後、ZenBlueを用いて画像化/測定した。多臓器転移は、2つ以上の遠隔臓器への転移又は脳への転移と定義した。単因子分散解析(analysis of variance:ANOVA)を用いて、多臓器転移患者と単臓器転移患者におけるheCAMLの存在を比較した。単変量解析及び多変量解析を行い、heCAMLに対するPFS及びOS、並びに既知の全ての臨床パラメータを評価した。
【0072】
結果. 多臓器転移は、患者の55%(n=83/150)に認めらた(表1)。heCAMLは、多臓器転移患者の59%(n=49/83)に認められたが(
図2B)、heCAMLは、単臓器転移患者の16%(n=11/67)にしか認められなかった(
図2A)。heCAMLの存在は、m乳癌(82%対52%、p=0.006)、m肺癌(71%対26%、p=0.025)、m前立腺癌(75%対37%、p=0.029)、m腎癌(88%対36%、p=0.025)の患者における多臓器転移を示唆すると考えられる(
図2B)。更に、全患者n=150において、24箇月PFSのPFS中央値が4.5箇月対7.2箇月(HR=1.67、95% CI=1.13~2.45、p=0.013)と有意に短く、24箇月OAのOS中央値が13.1箇月対20.4箇月(HR=2.05、95% CI=1.24~3.39、p=0.008)と有意に短いことを予測した(
図3)。
【表1】
【0073】
結論. 一回の採血から、少なくとも1つのheCAMLを有する患者は多臓器転移を有する可能性が高いことが識別された。heCAMLの存在は、PFS(HR=1.67)とOS(HR=2.05)の有意な短縮を予測した。新たな治療を開始する前にheCAMLが存在すると、多臓器転移が予測され、したがって、より積極的な治療レジームが必要となる可能性がある。
【0074】
実験#2
方法. ステージI(n=19)、ステージII(n=31)、ステージIII(n=65)、ステージIV(n=160)を含む乳癌(n=58)、肺癌(n=47)、前立腺癌(n=47)、膵癌(n=29)、食道癌(n=28)、腎癌(n=20)、大腸癌(n=15)、肝臓癌(n=9)、肉腫(n=22)の患者275人をプロスペクティブに集めた。末梢血は、新規治療開始前に採取した。7.5mLの血液から標準的なCellSieve(登録商標)技術に従って細胞を単離した後、ZenBlueを用いて画像化及び測定した。多臓器転移は、2つ以上の遠隔臓器への転移又は脳への転移と定義した。単因子ANOVAを行って、多臓器転移患者と単臓器転移患者におけるheCAMLの存在を比較した。単変量解析及び多変量解析を行い、heCAMLに対するPFS及びOS、並びに既知の全ての臨床パラメータを評価した。
【0075】
結果. 275の生存サンプルが得られた。多臓器転移は、初回採血時に転移病変を有する患者の57%(n=91/160)に認められた(表2)。heCAMLは、初期の多臓器転移患者の73%(n=66/91)に認められたが、非転移コホートでは、19%(n=22/115)にしか認められず(p<0.001)(
図4)、したがって、HeCAMLは、多臓器転移及び単臓器転移に共通し、臨床的に診断された非転移病変では稀である。
【0076】
初回採血時にHeCAMLを認めた非転移性患者n=22/115のうち、73%(n=16/22)が採血後2年以内に多臓器転移に進行した(
図5)。heCAMLは、肉腫を含む様々な固形癌の全ての病期で同定され、標準的な臨床的又は病理学的方法によって病期分類された。2年以内に、最初の病期分類でheCAMLであった患者は、多臓器転移で進行する可能性が高く、その内訳は、I期患者の80%、II期患者の60%、III期患者の83%、ステージIV患者の94%であった。これとは対照的に、最初の病期分類でHeCAMLを認めなかった患者では、2年以内に多臓器転移が進行する可能性は低く、その内訳は、I期患者の0%、II期患者の4%、III期患者の9%、ステージIV患者の23%であった。
【0077】
n=275の全患者において、heCAMLの存在は、24箇月PFSの有意な短縮(HR=2.71、95%CI=1.92-3.81、p<0.0001)を予測し、24箇月OSの有意な短縮(HR=2.02、95%CI=1.32-3.08、p=0.0015)を予測した(
図6A)。
図6Bは、表2のn=275の固形癌患者の概要である。50μm未満のCAMLは、侵攻性が低く、進行又は死亡する可能性が低いようである。50μm以上100μm未満のCAMLを有する患者は、進行のリスクが140%増加し、2年以内の死亡のリスクが170%増加し、ほとんどの患者は、単臓器転移のみを有する。100μm以上のCAMLを有する患者では、2年以内の進行リスクは、205%、死亡リスクは、1100%増加し、ほとんどの患者は、多臓器転移を有する。
【0078】
結論. 非侵襲的な血液ベースの予後判定法を開発し、多臓器転移との関係及び幾つかの固形癌における予後判定能を検討した。これらの結果から、heCAMLを有する患者では、多臓器転移率が高く、PFSとOSの短縮が予測されることが判明した。
【表2】
【0079】
引用
1. Adams, D., et al., Circulating giant macrophages as a potential biomarker of solid tumors. PNAS 2014, 111(9):3514-3519.
2. International Patent Application Publication No. WO 2013/181532, dated December 5, 2013.
3. Adams, D. L., et al., Cytometric characterization of Circulating Tumor Cells captured by microfiltration and their correlation to the CellSearchR CTC test. Cytometry Part A 2015; 87A:137-144.
4. Adams DL, et al. The systematic study of circulating tumor cell isolation using lithographic microfilters. RSC Adv 2014, 4:4334-4342.
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6. International Patent Application Publication No. WO 2013/078409, dated May 30, 2013.
7. International Patent Application Publication No. WO 2016/33103, dated March 3, 2016.
8. Zhu P, et al., Detection of Tumor-Associated Cells in Cryopreserved Peripheral Blood Mononuclear Cell Samples for Retrospective Analysis, J of Translational Medicine, 2016, 14:198. DOI: 10.1186/s12967-016-0953-2.
9. Adams, D. et al. Cancer-Associated Macrophage-Like Cells as Prognostic Indicators of Overall Survival in a Variety of Solid Malignancies. J. Clin. Onco. 35, 11503 (2017).
10. Steeg, P. et al. Tumor Metastasis: Mechanistic Insights and Clinical Challenges. Nature Medicine. 12 (2006).
11. Valastyan, S. et al. Tumor Metastasis: Molecular Insights and Evolving Paradigms. Cell 147 (2011).
【手続補正書】
【提出日】2024-06-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体サンプルをアッセイする方法であって、前記方法は、癌に罹患してい
る対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、前記サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズ
が100μm以上である場合、前記対象は、多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患を有する
可能性が高いと識別する、前記方法。
【請求項2】
対象における多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患の発症を予測する
ための情報を提供する方法であって、前記方法は、癌に罹患してい
る対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、前記サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズ
が100μm以上である場合、前記対象は、多臓器転移及び/又は多巣転移性疾患を発症すると予測する
情報を提供する、前記方法。
【請求項3】
癌に罹患している対象の全生存期間(OS)及び/又は無増悪生存期間(PFS)を予測する
ための情報を提供する方法であって、前記方法は、癌に罹患している対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、前記サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズ
が100μm以上である場合、前記対象は、同じ癌又は類似の癌に罹患しているが対応するサンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズ
が100μm以上であるということを充足しない対象よりも、OSが短く及び/又はPFSが短いと予測する
情報を提供する、前記方法。
【請求項4】
癌に罹患している対象のOS及び/又はPFSを予測する
ための情報を提供する方法であって、前記方法は、癌に罹患している対象からの生体サンプル中のCAMLのサイズを判定することを含み、前記サンプル中の少なくとも1つのCAMLのサイズ
が100μm以上である場合、前記対象のOS及び/又はPFSは、癌に罹患しているがサイズ
が100μm以上のCAMLがない対象よりも、少ない又は短いと予測する
情報を提供する、前記方法。
【請求項5】
前記OS及び/又はPFSは、少なくとも12箇月である、請求項3又は請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記OS及び/又はPFSは、少なくとも24箇月である、請求項3又は請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記生体サンプルのサイズが5~15mLである、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記CAMLは、
(
a)14~64μmの大きな非定型倍数体核又は単一細胞内の複数の核
(
b)20~300μmの細胞サイズ
(c)紡錘形、オタマジャクシ形、円形、長円形、2本脚、2本脚以上、細い脚、及び無定形からなる群から選択される形態学的形状
の特徴を有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記CAMLは、
(d)CD14陽性表現型
(e)CD45発現
(f)EpCAM発現
(g)ビメンチン発現
(h)PD-L1発現
(i)単球性CD11Cマーカー発現
(j)内皮CD146マーカー発現
(k)内皮CD202bマーカー発現
(l)内皮CD31マーカー発現
のうちの一つ以上の特徴を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生体サンプルの供給源は、末梢血、血液、リンパ節、骨髄、脳脊髄液、組織、及び尿のうちの1つ又は複数である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生体サンプルは、肘正中静脈血、下大静脈血、大腿静脈血、門脈血、又は頸静脈血である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記癌は、固形腫瘍、ステージI癌、ステージII癌、ステージIII癌、ステージIV癌、癌腫、肉腫、神経芽細胞腫、黒色腫、上皮細胞癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、膵臓癌、大腸癌、腎癌、肝臓癌、頭頸部癌、腎臓癌、卵巣癌、食道癌、又は他の固形腫瘍癌である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記CAMLは、サイズ排除法、免疫捕捉、赤血球溶解、白血球枯渇、FICOLL、電気泳動、誘電泳動、フローサイトメトリー、磁気浮遊、及び各種マイクロ流体チップ、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される1つ又は複数の手段を用いて、前記判定ステップのために前記生体サンプルから単離される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記CAMLは、マイクロフィルターを用いるサイズ排除法を用いて生体サンプルから単離される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロフィルターは
、5μmか
ら20μmの範囲の孔径を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記マイクロフィルターの孔は、円形、レーストラック形、楕円形、正方形、及び長方形の孔形状を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マイクロフィルターは、精密な孔形状と均一な孔分布を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記CAMLは、物理的サイズに基づく選別、流体力学的サイズに基づく選別、グループ化、トラッピング、免疫捕捉、大きな細胞の濃縮、又はサイズに基づく小さな細胞の排除を介するマイクロ流体チップを使用して単離される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記CAMLは、CellSieve(登録商標)低圧精密濾過アッセイを用いて、前記判定ステップのために前記生体サンプルから単離される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】