(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞分化のための胚様体の2次元培養法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20240628BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20240628BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240628BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20240628BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N5/0735
C12N5/10
C12N5/077
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500531
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 TR2022050684
(87)【国際公開番号】W WO2023282877
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512081166
【氏名又は名称】イェディテペ・ウニヴェルシテシ
【氏名又は名称原語表記】YEDITEPE UNIVERSITESI
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ドガン アイセグル
(72)【発明者】
【氏名】サグラク デルヤ
(72)【発明者】
【氏名】センカル セリネイ
(72)【発明者】
【氏名】ハヤル タハ バルトゥ
(72)【発明者】
【氏名】サヒン フィクレッティン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB40
4B065BC46
(57)【要約】
本発明は、ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を分化させる方法、特に胚様体を3次元培養から2次元培養に適応させる工程を含む方法に関する。本発明は、3次元培養から2次元培養に移行することによって、中胚葉細胞と間葉系幹細胞の迅速な形質転換を可能にすることを含む。また、本発明は、この方法を使用して、臨床応用において使用可能な間葉系幹細胞を取得することに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を製造する方法であって、
ヒト多能性幹細胞から胚様体を形成する工程a)と、
前記胚様体を被覆表面に付着させて、3次元培養から2次元培養への移行を可能にする工程b)と、
前記胚様体を誘導して、間葉系幹細胞に分化させる工程c)と、
前記間葉系幹細胞の存在を維持しながら、前記間葉系幹細胞の連続増殖培養を実行する工程d)とを含む、間葉系幹細胞を製造する方法。
【請求項2】
前記工程a)では、まず前記ヒト多能性幹細胞をN2B27、ROCKi及びbFGF培地中で200×gで5分間沈殿させ、37℃で2日間培養して、前記胚様体を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞を製造する方法。
【請求項3】
前記工程b)の前記被覆表面は、マトリゲル-ゼラチン(1:200、70μg/mlのマトリゲル-0.1%のゼラチン)で被覆されて、3次元の胚様体を2次元の形態で培養することで上皮間葉移行のプロセスを加速する表面である、ことを特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞を製造する方法。
【請求項4】
前記工程a)のプロセスの2日間後に前記工程b)を行う、ことを特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞を製造する方法。
【請求項5】
前記工程a)で取得された前記胚様体を前記工程c)で2日間保持し、N2B27培地及び3μMのCHIRの存在下で、マトリゲル-ゼラチン混合物で被覆された表面に移し、中胚葉分化のためにCHIRの存在下で培養する、ことを特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞を製造する方法。
【請求項6】
前記工程d)では、中胚葉細胞を、マトリゲル-ゼラチンで被覆された表面を含む皿でDMEM(1g/Lのグルコース)、10%のFBS、1%のPSA及び5ng/mlのbFGF中で培養する、ことを特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞を製造する方法。
【請求項7】
10日目の初期間葉系幹細胞の形成、及び24日目の成体間葉系幹細胞の形成を特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞を製造する方法。
【請求項8】
取得された間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、神経細胞及び心筋細胞からなる細胞群のいずれかに分化する、ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の間葉系幹細胞を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を分化させる方法、特に胚様体の2次元培養工程を含む方法に関する。更に、本発明は、この方法を使用して、臨床応用において使用可能な間葉系幹細胞を取得することに関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、有機体の組織を構成する様々な細胞に分化できる万能細胞であり、他の細胞に形質転換する前に未分化細胞と呼ばれることが多い。間葉系幹細胞は、成体幹細胞の1種である。成体幹細胞は、分化能に応じて多分化能幹細胞、少能性幹細胞及び単分化能幹細胞に分類され得る。成体幹細胞は、間葉系幹細胞(MSC)又は造血幹細胞(HSC)として利用可能である。多能性幹細胞は、胚性幹細胞と人工多能性幹細胞に分類され、多能性の特性により多くの種類の細胞に分化できる。任意の細胞に分化できる多能性ヒト幹細胞を幹細胞療法製品として使用する試みがいくつか行われている。
【0003】
多能性幹細胞の取得、特性評価、培養及び分化は、幹細胞研究にとって極めて重要である。臨床的に応用できるプロトコルの開発は、幹細胞療法に基づく応用の基礎を構成する。培養中の多能性幹細胞の非効率的な分化は、臨床的に関連する最終分化細胞の誘導を妨げる。
【0004】
間葉系幹細胞は、軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、筋芽細胞などの中胚葉由来の細胞に分化できることが知られている。間葉系幹細胞は、特に、それらが存在する組織を構成する細胞に分化する能力とそれらの独特の自己複製能力とがあるため、臨床応用における細胞に基づく療法のための潜在的な細胞源となる。
【0005】
文献では、間葉系幹細胞を培養する方法の課題を解決するために、一般的にヒト多能性幹細胞を使用して間葉系幹細胞を製造することが知られている。ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞への分化には、一般的に誘導手順が必要とされる。また、これらの方法で製造される間葉系幹細胞が基本的な状態を保ち、製造効率が低いなどの課題がある。このような理由から、間葉系幹細胞を再生医学及び細胞療法の分野で理想的な細胞療法製品として使用することには限界がある。
【0006】
十分な数の間葉系幹細胞を取得できないこと、幹細胞に到達するための侵襲的方法の使用、異なる組織及び個体の健康状態、年齢などの要因により観察される不均質性、培養における増殖中の急速な老化、並びに同種異系療法で観察される組織の不適合性は、間葉系幹細胞の培養及び療法で観察される課題である。
【0007】
多能性幹細胞由来間葉系幹細胞を取得すれば、これらの課題を解決することができる。多能性幹細胞由来間葉系幹細胞を取得するためのプロトコルには最適化が必要とされる。療法に応用できる細胞を取得するためには、培養において多能性幹細胞由来間葉系幹細胞を取得するプロセスを短時間かつ安価な技術で実行することは解決すべき課題である。このため、多能性幹細胞由来間葉系幹細胞を取得し、取得された細胞を、その幹細胞の性質を維持して培養し続けるプロトコルの確立は、治療プロトコルに対して重要かつ必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述した課題を全て解決し、関連する技術分野に更なる利点をもたらす、間葉系幹細胞を分化させる方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の主な目的は、臨床使用に安全な多能性幹細胞から細胞を取得する効果的な分化方法に関する。
【0010】
本発明は、費用対効果が高くて効率的な方法で多能性幹細胞から3次元胚様体を形成する工程を含む、間葉系幹細胞を分化させる方法に関する。
【0011】
本発明の目的は、細胞の胚発生段階及び間葉系幹細胞の培養条件を模倣することにより3次元培養から2次元培養に移行させて細胞を分化させることである。したがって、効果的な間葉系幹細胞の分化が達成される。
【0012】
本発明は、3次元培養から2次元培養への移行及び分化のための最適な表面を見つけるための研究も含む。したがって、多能性幹細胞から効果的に分化させる方法が確立されている。
【0013】
本発明では、3次元培養から2次元培養への移行プロセスを実行することにより、間葉系幹細胞を取得するための時間を短縮し、培地コストを削減する。
【0014】
本発明では、多能性幹細胞から、信頼できる間葉系幹細胞を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の目的を達成するために実行された「間葉系幹細胞分化のための胚様体の2次元培養法」を添付図面に示す。
【0016】
【
図1】胚様体を形成するための技術を示す。ポリプロピレンプラスチック材料で作られた96ウェルPCRプレートを使用して、胚様体を形成した。胚様体を2日目の終わりに取得した。
【
図2】胚様体の形成に適切な細胞数の決定に関する研究を示す。胚様体の形成と面積/サイズの決定を、異なる細胞数で実行した。分析の最後に、適切な細胞数を4000細胞/ウェルとして決定した。((a)1×10
3個の細胞を使用して取得された胚様体の形態学的外観であり、(b)2×10
3個の細胞を使用して取得された胚様体の形態学的外観であり、(c)3×10
3個の細胞を使用して取得された胚様体の形態学的外観であり、(d)4×10
3個の細胞を使用して取得された胚様体の形態学的外観であり、(e)異なる細胞数(1×10
3/2×10
3/3×10
3/4×10
3)を使用して取得された胚様体の面積計算であり、(f)異なる細胞数(1×10
3/2×10
3/3×10
3/4×10
3)を使用して取得された胚様体の直径計算である)。
【
図3】胚様体が移行していく適切な表面の決定に関する研究を示す。胚様体の直径及び面積の分析により、最適な付着、増殖及び移動のために胚様体はマトリゲル-ゼラチン混合物を好むことが判明した。((a)3日目と6日目の4つの異なる表面(ゼラチン、ラミニン、マトリゲル、マトリゲル-ゼラチン)上の胚様体の挙動の形態学的分析であり、(b)3日目から6日目の表面付着及び細胞移動に基づく胚様体の直径測定であり、(c)3日目から6日目の表面付着及び細胞移動に基づく胚様体の表面積である)。
【
図4】本発明の方法の工程を示す時間に依存した図である。3次元胚様体の取得と培養、及び2次元培養における分化プロトコルである。
【
図5】胚様体の中胚葉分化及び中胚葉マーカー分析を示す図である。(A)は、マトリゲル-ゼラチン混合物上の胚様体の培養であり、(B)は、時間に依存した細胞移動分析((i)は、色温度スケールを使用して胚様体の総領域、コア領域及び移動領域の面積及び強度の測定を示す図であり、(ii)は、移動面積測定のグラフであり、(iii)は、移動強度測定のグラフである)であり、(C)は、中胚葉マーカータンパク質の解析である。
【
図6】24日目の本発明の工程の終わりに取得された間葉系幹細胞とその特徴評価を示す。(A)は、線維芽細胞様の形態であり、(B)は、コロニー形成能であり、(C)は、骨の分化であり、(D)は、軟骨の分化である。
【0017】
図に示されている構成要素には、以下のようにそれぞれ参照番号が付けられている。
PCR-P:96ウェルPCRプレート
Centrf:4000細胞/ウェル N2B27+bBFG+ROCKi遠心分離機
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
TCD:150mmの組織培養皿
N2B27+CHIR:N2B27培地とCHIR
DMEM+bBFG+ROCKi:完全DMEM+bBFG+ROCKi
DMEM:完全DMEM
Migr:移動分析と中胚葉分化分析
Trnsf:10cmの組織培養皿に移す
Trnsf-1M:100万細胞/皿を10cmの組織培養皿に移す
E-MSC-s:初期のMSC状態
MSC-s:MSC状態
EBT:胚様体移行
CsfEB:胚様体から拡散する細胞
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の範囲内で、多能性幹細胞は、3次元培養から2次元培養に移行することによって中胚葉幹細胞と間葉系幹細胞に効果的に分化する。これにより、真の胚発生を模倣するプロトコルとして効果的な細胞分化が可能になる。
【0019】
更に、本発明の範囲内で、既知のもの以外のいかなる装置又は機器及び追加の補助物質も必要としない、効果的な方法による分化プロトコルを確立することを目的とする。幹細胞療法の研究にとって極めて重要であるこの方法は、幹細胞療法が臨床で使用されるための優先事項となる。
【0020】
本発明は、この方法で製造される間葉系幹細胞、間葉系幹細胞を含む細胞療法製品、及びヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を製造するための臨床応用で使用できる標準化され最適化された培養プロトコルを含む。
【0021】
本明細書において使用される場合、「幹細胞」という用語は、組織及び器官の細胞を形成するために無制限に更新され得る万能細胞を指す。幹細胞は、全能性細胞、多分化能細胞、多能性細胞、少能性細胞又は単分化能細胞である。
【0022】
本明細書において使用される場合、「多能性幹細胞」という用語は、生体を構成する3つの胚葉全てに分化できる多能性幹細胞を指し、例えば、胚性幹細胞、人工多能性幹(iPS)細胞が挙げられる。
【0023】
本明細書において使用される場合、「分化」という用語は、胚発生又は成体個体において細胞の分裂、増殖及び成長中に構造又は機能に関して細胞が特殊化するプロセスを指す。
【0024】
本明細書において使用される場合、「間葉系幹細胞」という用語は、成体個体の異なる組織に存在する成体幹細胞、及び多能性幹細胞を使用して中胚葉胚葉から分化した間葉系幹細胞を指す。
【0025】
本明細書において使用される場合、「胚様体」という用語は、多能性幹細胞の分化を誘導することによって形成される凝集体を指す。胚様体は、多能性幹細胞を無血清培地中で懸濁液として培養すると形成され、3つの胚葉に分化できる3次元構造である。
【0026】
本発明は、ヒト多能性幹細胞から胚様体を形成する工程と、これらの胚様体から間葉系幹細胞を形成する工程を含む。
【0027】
本発明の範囲内で開発された方法では、インビトロ条件下での2次元培養における3次元胚様体の細胞移動をモデル化し、インビトロ分化プロトコルを確立することを目的とする。
【0028】
本発明は、ヒト多能性幹細胞を使用して間葉系幹細胞を製造する方法に関し、この方法は、
ヒト多能性幹細胞から胚様体を形成する工程a)と、
胚様体を表面に付着させて、3次元培養から2次元培養への移行を可能にする工程b)と、
胚様体を誘導して、間葉系幹細胞に分化させる工程c)と、
間葉系幹細胞にその存在を維持しながら、その特性及び継続的増殖の能力を保たせる工程d)とを含む。
【0029】
本発明の方法の工程(a)では、胚様体をヒト多能性幹細胞から形成する。この段階では、ヒト多能性幹細胞を胚様体の形成に適した条件下で培養する。上記胚様体を形成するために、まずヒト多能性幹細胞を胚様体形成培地中の懸濁液として沈殿させ(200×g、5分間)、37℃で2日間培養する。上記発明において、胚様体形成培地と呼ばれる培地は、N2B27(DMEM/F12/Neurobasal(ニューロバサル)培地(1:1)、ウシ血清アルブミン(BSA)、N2サプリメント、B27サプリメント、ペニシリン(10.000U/ml))-ストレプトマイシン(10.000μg/ml)、L-グルタミン)、ROCKi(Rho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)阻害剤)及びbFGF(塩基性繊維芽細胞増殖因子)物質を含む。ROCKiの使用が胚様体の形成にプラスの影響を与え、PBSを加えることにより環境に湿度が提供され、蒸発が遅くなる。このようにして、胚様体の取得に成功する。これにより、既存の胚様体形成技術とは異なる方法が開発された。
【0030】
本発明の方法の工程(b)では、胚様体を表面に付着させる。この工程により、胚様体を3次元培養から2次元培養に移行させることができる。上記胚様体を表面に付着させるプロセスに関して、細胞が移動できる適切な表面、及び細胞数が決定された。本発明の好ましい実施形態では、使用される表面は、マトリゲル-ゼラチン(1:200、70μg/mlのマトリゲル-0.1%のゼラチン)で被覆された表面である。胚様体を被覆表面に置く。これらの胚様体を被覆表面に置き、細胞の移動を分析したところ、胚様体の最良の付着と移動性能がマトリゲル-ゼラチン混合物の表面で得られることが示された。マトリゲル-ゼラチン(1:200、70μg/mlのマトリゲル-0.1%のゼラチン)混合物は、3次元培養から2次元培養への胚様体の移行に最も適した表面として決定された。したがって、3次元の胚様体を2次元の形態で培養することにより、上皮間葉移行のプロセスを加速した後は、プラスチック表面に付着する間葉系幹細胞の取得が確実に加速される。
【0031】
上記工程(b)では、胚様体を表面に付着させるプロセスを2日目の終わりに行う。
【0032】
本発明の方法の工程(c)では、中胚葉細胞を誘導して、胚様体から間葉系幹細胞への分化を可能にする。2日間保持した後、工程(a)で取得された胚様体を、N2B27培地及び3μMのCHIR(間葉系幹細胞の分化能を増加させる刺激剤であるCHIR99021)の存在下で、マトリゲル-ゼラチン混合物で被覆された表面(培養皿)に移す。3日目に、胚様体に対して中胚葉マーカー(Aplnr、Flk-1、PDGFRα)分析を実行し、それらの中胚葉層タンパク質の発現を観察する。細胞をCHIRの存在下で培養し、中胚葉分化を完了させる。
【0033】
本発明の方法の工程(d)では、間葉系幹細胞の存在を維持しながら、間葉系幹細胞の連続増殖培養を実行することができる。この段階では、間葉系幹細胞の分化と培養を間葉系幹細胞に特異的な培地の存在下で実行して、ほぼ均一な間葉系幹細胞の集団を形成する。6日目の時点で、細胞を、マトリゲル-ゼラチンで被覆された表面を含む皿でDMEM(1g/Lのグルコース)、10%のFBS、1%のPSA及び5ng/mlのbFGF中で培養する。細胞は、10日目に初期間葉系幹細胞段階を示し、24日目に成体間葉系幹細胞段階を示す。
【0034】
本発明の方法で製造された間葉系幹細胞は、療法に直接的に使用できる。
【0035】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法で製造された間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、上皮細胞、内皮細胞、筋細胞、神経細胞及び心筋細胞に分化することができる。
【0036】
更に、本発明は、本発明の方法で取得された間葉系幹細胞の細胞療法製品における使用を含む。具体的には、上記細胞療法製品は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、神経細胞及び心筋細胞の形成、並びに環境に応じた様々な細胞への分化に使用することができる。
【0037】
以下の実施例は、本発明の主題をより良く説明するためのものであり、本発明の主題は、これらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0038】
実施例1 ― 胚様体の形成
1. この研究では、胚様体を形成するための適切な細胞数を決定するために、多能性幹細胞を、96ウェルプレート内の胚様体形成培地(N2B27+Rocki(10μM)+12ng/mlのbFGF)中で1000、2000、3000及び4000細胞/ウェルで調製した。
【0039】
2. 細胞を滅菌したポリプロピレンプラスチックウェルPCRプレートに置き、UV光に30分間曝露し、200×gで5分間沈殿させた後、37℃で2日間インキュベートした(
図1)。
【0040】
実施例2 ― 3次元培養から2次元培養への胚様体の移行に適した表面の分析
1. 3日目に、胚様体を12ウェル培養皿に移し、毎日写真を撮影した。形成された胚様体の面積及び直径を測定することにより、4000細胞/ウェルの群で適切な胚様体の形成が観察されたため、この細胞数を残りの実験に使用した(
図2)。
【0041】
2. 細胞が移動できる適切な表面を決定するために、胚様体を、ゼラチン(0.1%)、20μg/mlのラミニン、70μg/mlのマトリゲル及びマトリゲル-ゼラチン(1:200、70μg/mlのマトリゲル-0.1%mのゼラチン)で被覆された表面に置き、適切な表面測定分析を実行した。12ng/mlのbFGFをN2B27培地(DMEMF12/Neurobasal培地(1:1)、ウシ血清アルブミン(BSA)、N2サプリメント、B27サプリメント、ペニシリン(10.000U/ml)-ストレプトマイシン(10.000μg/ml)、L-グルタミン)中で4000細胞/ウェルで加え、96ウェルPCRプレートを使用して胚様体を形成した。これらの胚様体を異なる被覆表面に置き、細胞の移動を分析した(
図3)。結果によれば、胚様体の最良の付着と移動性能がマトリゲル-ゼラチン混合物の表面で得られた。
【0042】
3. マトリゲル-ゼラチン(1:200、70μg/mlのマトリゲル-0.1%のゼラチン)混合物は、3次元培養から2次元培養への胚様体の移行に適した表面の分析に最も適した表面として決定された。このようにして、多能性幹細胞からの新しい分化プロトコルを確立するために適切な被覆表面が決定された。
【0043】
4. マトリゲル-ゼラチン(1:200、70μg/mlのマトリゲル-0.1%のゼラチン)による被覆は、(最終マトリゲル濃度が70μg/mlのマトリゲルになるように)PBS中で調製した0.1%ゼラチン溶液に1:200の比率でマトリゲルを加えること、及びこの溶液を培養皿に放置し、37℃で1時間保持することによって実行した。調製した上記溶液を被覆した培養皿を、4℃で2週間保存し、安定して使用できる。被覆され直ぐに使用できる培養皿は、37℃で1週間保存しても使用可能である。
【0044】
実施例3 ― 細胞移動の分析
適切な細胞数と表面を決定した後、胚様体を使用して細胞移動モデル化と分化プロトコルを確立した。
【0045】
1. 12ng/mlのbFGFをN2B27培地(DMEMF12/Neurobasal培地(1:1)、ウシ血清アルブミン(BSA)、N2サプリメント、B27サプリメント、ペニシリン(10.000U/ml)-ストレプトマイシン(10.000μg/ml)、L-グルタミン)中で4000細胞/ウェルで加え、96ウェルPCRプレートを使用して胚様体を形成した。このプロセスは、プラスチックウェル培養皿に置いた後、細胞を200×gで5分間沈殿させ、その後、37℃で2日間インキュベートすることによって達成した。
【0046】
2. 2日目の終わりに取得した胚様体を、N2B27培地(DMEMF12/Neurobasal培地(1:1)、ウシ血清アルブミン(BSA)、N2サプリメント、B27サプリメント、ペニシリン(10.000U/ml)-ストレプトマイシン(10.000μg/ml)、L-グルタミン)及び3μMのCHIRの存在下で、マトリゲル-ゼラチン(1:200、70μg/mlのマトリゲル-0.1%のゼラチン)混合物で被覆された12ウェル培養皿に移し、3日目と6日目に細胞移動分析を実行し、3日目に中胚葉マーカー分析を実行した(
図4)。
【0047】
3. 3日目に胚様体に対して中胚葉マーカー分析を実行し、中胚葉層タンパク質の発現を観察した(
図5)。
【0048】
実施例4 ― 中胚葉細胞及び間葉系幹細胞の分化
1. 細胞をCHIRの存在下で2日目から6日目まで培養し、中胚葉分化を完了させた。
【0049】
2. 6日目の時点で、培地をDMEM(1g/Lのグルコース)に置き換えた。10%のFBS、1%のPSA及び5ng/mlのbFGFをDMEMに加え、8日目まで培養を続けた。このプロセスは、マトリゲル-ゼラチン(1:200、70μg/mlのマトリゲル-0.1%のゼラチン)混合物で被覆した10cm培養皿中で6日目に実行した。その後の全ての分化実験は、マトリゲル-ゼラチン(1:200、70μg/mlのマトリゲル-0.1%のゼラチン)混合物で被覆した10cm培養皿で24日目まで実行した。
【0050】
3. 8日目の時点で、細胞をDMEM(1g/Fのグルコース)培地中で24日目まで保持した。10%のFBS及び1%のPSAをDMEMに加えた。細胞は、10日目に初期間葉系幹細胞段階を示し、24日目に成体間葉系幹細胞段階を示す(
図4)。
【国際調査報告】