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特表2024-524600桿体光受容体における遺伝子の特異的発現のためのプロモーター
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  • 特表-桿体光受容体における遺伝子の特異的発現のためのプロモーター 図1A
  • 特表-桿体光受容体における遺伝子の特異的発現のためのプロモーター 図1B
  • 特表-桿体光受容体における遺伝子の特異的発現のためのプロモーター 図2
  • 特表-桿体光受容体における遺伝子の特異的発現のためのプロモーター 図3
  • 特表-桿体光受容体における遺伝子の特異的発現のためのプロモーター 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】桿体光受容体における遺伝子の特異的発現のためのプロモーター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20240628BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240628BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240628BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/86 Z
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C12N15/864 100Z
C12N7/01
A61P27/02
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/12
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500621
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(85)【翻訳文提出日】2024-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2021068653
(87)【国際公開番号】W WO2023280388
(87)【国際公開日】2023-01-12
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524008432
【氏名又は名称】インスティテュート オブ モレキュラー アンド クリニカル オフサルモロジー バーゼル
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ロスカ, ボトンド
(72)【発明者】
【氏名】ショル, ヘンドリック ペー.エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】ユトナー, ヨゼフィーネ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA23
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA03
4C084CA53
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZB211
4C084ZB212
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC83
4C087MA58
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZB21
(57)【要約】
桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのプロモーター活性を有する第1の核酸配列と、該プロモーターに作動可能に連結されている外因性遺伝子をコードする少なくとも1つのさらなる核酸配列とを含む単離された核酸分子であって、該第1の核酸配列が、配列番号1、または配列番号1に対して少なくとも80%の配列同一性を有するその機能的等価配列バリアントを含むかまたはそれからなる、単離された核酸分子。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのプロモーター活性を有する第1の核酸配列と、
-前記プロモーターに作動可能に連結されている前記外因性遺伝子をコードする少なくとも1つのさらなる核酸配列と、
を含むかまたはこれらからなる単離された核酸分子であって、
前記第1の核酸配列が、配列番号1、または配列番号1に対して少なくとも80%の配列同一性を有するその機能的等価配列バリアントを含むかまたはそれからなり、かつ前記さらなる核酸配列に作動可能に連結されている、前記単離された核酸分子。
【請求項2】
前記第1の核酸及び前記さらなる核酸が異種である、請求項1に記載の単離された核酸。
【請求項3】
前記第1の核酸配列が、800~1000塩基対の配列長を有する、請求項1または2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記少なくとも1つのさらなる核酸配列が、治療上有効なタンパク質、ペプチドもしくは核酸、またはレポーター分子の1つ以上をコードする、先行請求項のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項5】
先行請求項のいずれか1項に記載の核酸分子を含むかまたはそれからなる、桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のための発現カセット。
【請求項6】
請求項5に記載の発現カセットを含む、桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのウイルスベクター。
【請求項7】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはAVV由来ハイブリッドベクターである、請求項6に記載のウイルスベクター。
【請求項8】
AVV由来キャプシド及び請求項7に記載のAAVベクターを含む、ウイルス粒子。
【請求項9】
請求項5に記載の発現カセットで形質転換された宿主細胞。
【請求項10】
-請求項5に記載の発現カセット、請求項6~7のいずれか1項に記載のベクター、請求項8に記載のウイルス粒子、または請求項8に記載の形質転換細胞と、
-薬学的に許容される担体または賦形剤と、
を含む医薬組成物。
【請求項11】
ヒトまたは動物における眼疾患の治療または予防に使用するための、請求項5に記載の発現カセット、請求項6~7のいずれか1項に記載のベクター、請求項8に記載のウイルス粒子、請求項9に記載の形質転換細胞、または請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記眼疾患が、桿体光受容細胞変性に関連する疾患であり、加齢黄斑変性、レーベル遺伝性視神経症、桿体錐体ジストロフィー、桿体機能不全、レーベル先天黒内症、スターガルト病、糖尿病網膜症、ベスト病、網膜色素変性症、コロイデレミア、または壁板網膜変性から選択される、請求項11に記載の使用のための発現カセット、ベクター、細胞、ウイルス粒子、または医薬組成物。
【請求項13】
桿体光受容細胞での治療上有効なタンパク質、ペプチドもしくは核酸、またはレポーター分子の特異的発現のための、プロモーター活性を有し、請求項1または2または3に規定される核酸分子の使用。
【請求項14】
治療上有効なタンパク質、ペプチドもしくは核酸、またはレポーター分子による桿体光受容細胞の特異的形質転換のための方法であって、前記方法が、
-請求項5に記載の発現カセット、
-請求項6~7のいずれか1項に記載のベクター、
-請求項8に記載のウイルス粒子、
-請求項9に記載の形質転換細胞、もしくは
-請求項10に記載の医薬組成物
と前記桿体光受容細胞をインキュベートするステップ、または前記桿体光受容細胞においてそれらを導入するステップを含む、前記方法。
【請求項15】
請求項1に記載の単離された核酸分子を含む、桿体光受容体において遺伝子を発現するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光受容細胞変性に関連する眼疾患の治療及び予防の分野に関する。本発明は、ヒトまたは動物の網膜の桿体光受容細胞において特異的に目的の治療遺伝子を発現させるためのプロモーター活性を有する核酸配列を提供する。
【背景技術】
【0002】
失明は世界中で何百万人もの人々を不自由にし、健康上の大きな問題となっている。失明の最も一般的な原因の1つは、網膜、特に光受容細胞の機能不全である。網膜失明の最も一般的な形態は、網膜色素変性症(RP)及び黄斑変性症(AMD)であり、とりわけ、光受容細胞の変性、及びその結果として生じる光感度の喪失が引き起こされる。光受容体のこのような変性またはその光感度の喪失に関連する問題を回避できるようにする必要がある。これは、好ましくは、治療用分子、特にポリペプチド、キニン、栄養因子、チャネル、オプシンもしくは受容体、または核酸分子を、桿体光受容細胞において特異的に発現させることによって行うことができる。
【0003】
発現のため、組換え遺伝子または外因性もしくは異種遺伝子は、通常、標的細胞、細胞集団、または組織中に、典型的には異種遺伝子の転写を可能とする活性発現カセットの環境下のcDNA構築物としてトランスフェクトされる。DNA構築物は、シス調節エレメント、例として、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター及びプロモーター(本明細書においてまとめて「調節エレメント」と称される)における多くのトランス作用性転写因子(TF)の活性を含むプロセスにおいて細胞転写機構により認識される。遺伝子プロモーターは、これらの調節レベルの全てに関与しており、DNA配列、転写因子結合、及びエピジェネティックな特徴の影響を組み込むことによって遺伝子転写における決定因子として機能する。これらは、例えば導入遺伝子発現の強度、及び該導入遺伝子が発現される細胞タイプ(複数可)を決定する。
【0004】
哺乳動物細胞における異種遺伝子発現を駆動するために使用される共通のプロモーターは、ヒト及びマウスのサイトメガロウイルス(CMV)主要最初期プロモーターである。これらは強力な発現をもたらし、いくつかの細胞タイプでロバストであることが判明している。他のウイルスプロモーター、例えばSV40最初期プロモーター及びラウス肉腫ウイルス(RSV)長末端反復(LTR)プロモーターも発現カセットで高頻度で使用される。ウイルスプロモーターの代わりに、細胞プロモーターを使用することもできる。公知のプロモーターの中には、ベータ-アクチン、伸長因子1アルファ(EF-1アルファ)、またはユビキチンなどの大量に転写される細胞転写産物をコードするハウスキーピング遺伝子由来のプロモーターがある。ウイルスプロモーターと比較して、真核遺伝子の発現は、より複雑であり、多くの異なる因子の正確な協調を必要とする。
【0005】
導入遺伝子発現のための内因性調節エレメントの使用に関して懸念される態様は、安定なmRNAの生成と、発現が、それに応じてトランス作用性転写因子が提供される宿主細胞の天然環境において行うことができることが挙げられる。真核生物遺伝子の発現は、シス及びトランス作用性調節エレメントの複雑な機構により制御されるため、ほとんどの細胞プロモーターは、広範な機能的特性が欠けている。真核生物プロモーターの部分は、通常、その転写される配列のすぐ上流に位置し、転写開始点として機能する。コアプロモーターは、転写機構により認識されるのに十分である転写開始部位(TSS)を直接囲む。近位プロモーターは、コアプロモーターの上流の領域を含み、TSS及び転写調節のために必要とされる他の配列特徴を含有する。転写因子は、プロモーター及びエンハンサー配列中の調節モチーフに結合することにより配列特異的に作用する。
【0006】
いくつかのプロモーターは、細胞特異的様式で作用することができ、特定のタイプの細胞内または特定のサブセットの細胞内での導入遺伝子の発現に使用することができる。
【0007】
本発明の1つの目的は、哺乳動物(ヒトまたは動物)細胞において高発現レベルで1つ以上の所望の遺伝子を発現させるために組換え構築物での使用に適した、新規なプロモーター配列と、これらのプロモーター配列を含む遺伝子ツールとを得ることである。特に、桿体光受容細胞特異的様式で所望の遺伝子を高レベルで発現することができ、かつ桿体光受容体の変性を特徴とする障害を含む眼障害の治療及び/または予防に使用するための新規なプロモーターを提供することが目的である。桿体特異的プロモーターは、例えば、神経変性障害、視力回復、創薬、及び桿体光受容体の変性に関連する障害の診断を研究するための系を開発するためのリサーチツールとしての使用にも望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様では、本発明は、桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのプロモーター活性を有する核酸分子を提供する。1つの特定の核酸分子の核酸配列は以下である:AACCCAAGAAATTACAGGCTGAAACCAGAAAAGAACACATTAAAGCACCAAGAGAAAGTTGGAGTGGGTTGAAGGGAAACAGATTTTTAAAGTTAAGGCTCTGTGAAATGGGTAGAATTAACTACAGGTTAAAAATAAAATGTTAACTAAAGGTTGCCTCTGAGTAACAGGATTATGGGTGATTTTAATTGTCTTCTTTGTGTATGTTCAACAGTGACTATAATATGTATTACTTTTGGAATAAAGGAAAACCTGAAAGGTGTGTTGTTTTATAAGGGCCCTTAGGTTGCCAAAATTAGAGTCATTGAAATCTAAAGCTGATAAAAACTTTAGTGCAAAGATTGTGACATGGGAGACTACACATACCAGATCCATAATGTACATGAGGACAGTAGGCCGAGGGGCCCTGCACATTGAAAGCCCACATGGGAGAAGCCCTTGGGAAGGGGAGTGGAAGGATGAGGCAAGGGGCCGGGGGGATGCAGAGGCTGGCAGGCAGTCATTTCTCAGCTTCAGCCATTCCCGCCATGGGGGAATGTGGACAGAGAAGCCAAACAAATCTCCTAAACAGTAAATGTCAGTCTTCTGTGTCAGATATTTAAGAAAACTAACAGAGGTCAGAGAAGACACACCTACAGCAAGTAGACTGTCCCTGTGCTGCCTTTTTGCAACCCCTGCTTTGGCAGTGCTCAAGCCCACCTCCTGCTCTGTGCAGACATCTCTTCTTTGCTCTTACTAGACCAAGGTGAAAGAAAACTCTCACCTTCTCCCATCTGGCCCCACAGCATCTGGAACACACTGATCCTCATAATCCTTGTTCTTGAGAAATATTAATGACTTAATCTCCCAAGCTTGCTCCCTCTCCTGTGCAGGCCATCTCAGTATGTTTTGCAGACAAGACCCAGAGAAGTCCAGACTGGACTTGTTGCAGACTGCAAAACTGCCATTGGAAGGCCTCCGTCCCAGTCCTTCTACAGAGTAGCCAGTGGGATTCCCAGCC(配列番号1)。
【0009】
プロモーター配列である配列番号1は、特にウイルスベクターまたは他の発現系に組み込まれた場合、マウス、オルガノイド及びヒトの桿体光受容体において特異的かつ効率的な遺伝子発現を駆動する。このことは、in vivoマウス網膜及びin vitroヒト網膜オルガノイドのような経済的モデル系における桿体光受容体の基礎的及び前臨床的研究に特異的な操作が、網膜疾患メカニズムを発見し、新たな遺伝子治療アプローチを開発することを可能にする。同じウイルスベクターをヒト網膜上で使用できることは、これらの結果を直接的に反映させることを可能とし、したがって臨床における新規な遺伝子治療の適用が加速されることになる。
【0010】
したがって、本発明は、桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのプロモーター活性を付与する核酸分子を提供し、該核酸分子は、配列番号1、または配列番号1に対して少なくとも80%の配列同一性を有するその機能的等価配列バリアントを含むかまたはこれらからなり、該機能的等価配列バリアントは、桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのプロモーター活性を有する。好ましくは、プロモーター活性を付与する核酸は、異種である外因性遺伝子に作動可能に連結されている。
【0011】
一実施形態では、本発明の機能的バリアントは、配列番号1に対して80%を上回る配列同一性を有する。好ましい実施形態では、機能的バリアントは、配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。別の好ましい実施形態では、機能的バリアントは、配列番号1に対して少なくとも95%の配列同一性を有する。別の好ましい実施形態では、機能的バリアントは、配列番号1に対して少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%の配列同一性を有する。
【0012】
配列バリアントは、配列中の1つ以上の塩基の欠失または挿入または置換により配列番号1の配列に由来し得る。好ましくは、本発明の配列バリアントは、1~200塩基対、または1~100塩基対、または1~50塩基対、または1~20塩基対の欠失、挿入及び/または置換により配列番号1の配列に由来する。
【0013】
いくつかの実施形態では、桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのプロモーター活性を有する核酸配列は、配列番号1の配列に対して、少なくとも400塩基対、または少なくとも500塩基対、または少なくとも600塩基対、または少なくとも700塩基対、または少なくとも800塩基対、または少なくとも900塩基対の配列長(連続ヌクレオチド)にわたって配列同一性を共有する。
【0014】
いくつかの実施形態では、桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのプロモーター活性を有する核酸配列は、少なくとも800塩基対、少なくとも900塩基対、少なくとも950塩基対、少なくとも880塩基対である。その好ましいバリアントでは、配列は、1200塩基対以下、または1100塩基対以下、または1050塩基対以下、または1020塩基対以下である。いくつかの実施形態では、該核酸配列は、800~1200塩基対、好ましくは800~1000塩基対の配列長を有する。
【0015】
一実施形態では、本発明のプロモーターは、以下:
-配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有する配列、
-配列番号1の少なくとも100個の連続したヌクレオチドを含む配列、及び
-低、中または高ストリンジェンシー条件下で配列番号1の核酸配列またはその相補鎖とハイブリダイズすることができる配列
からなる群から選択される配列番号1の機能的バリアントを含むかまたはそれからなる。
【0016】
特定の実施形態では、本発明のプロモーターは、配列番号1に対して、好ましくは配列番号1の配列全体にわたって少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有する機能的バリアントを含むかまたはそれからなる。本発明のプロモーターは、配列番号1のポリヌクレオチドとは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15の置換、欠失及び/または挿入によって異なり得る。
【0017】
特定の実施形態では、本発明のプロモーターは、配列番号1の少なくとも100、200、300、400、500、600、700、800、900個の連続ヌクレオチドを含む配列を有する機能的バリアントを含むかまたはそれからなる。好ましくは、それは、配列番号1の少なくとも500個の連続したヌクレオチドを含む配列を有する機能的バリアントを含むかまたはそれからなる。
【0018】
さらなる特定の実施形態では、本発明のプロモーターは、配列番号1の核酸配列またはその相補鎖と、低、中または高ストリンジェンシー条件下で、好ましくは中ストリンジェンシー条件下で、より好ましくは高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすることができる配列を有する機能的バリアントを含むかまたはそれからなる。
【0019】
中ストリンジェントな条件下で上記の本発明の単離された核酸分子またはその相補鎖にハイブリダイズする配列を含む単離された核酸分子もまた提供される。高ストリンジェントな条件下で上記の本発明の単離された核酸分子またはその相補鎖にハイブリダイズする配列を含む単離された核酸分子もまた提供される。
【0020】
本発明の1つの特定の実施形態は、配列番号1、またはその機能的等価配列バリアントを含むかまたはそれからなる、桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのプロモーター活性を付与する第1の核酸配列と、桿体光受容体特異的プロモーターに作動可能に連結されている、外因性遺伝子をコードする少なくとも1つのさらなる核酸配列と、を含むかまたはそれからなる単離された核酸分子である。好ましくは、プロモーター活性を付与する核酸は、異種である外因性遺伝子に作動可能に連結されている。
【0021】
したがって、本発明の第2の態様では、遺伝子発現カセットに特に類似する核酸分子が提供される。本発明の発現カセットは、本発明のプロモーターに作動可能に連結されている1つ以上の核酸を含み得る。少なくとも1つのさらなる核酸配列は、治療上有効なタンパク質、ペプチドもしくは核酸、またはレポーター分子の1つ以上をコードする。例えば、プロモーターは、1つ以上の治療用遺伝子、及びレポータータンパク質をコードする核酸に、または治療用遺伝子、及び光遺伝学的アクチュエーターに作動可能に連結され得る。典型的には、発現カセットは、プロモーターに異種の少なくとも1つの核酸を含む。特に、治療用タンパク質は、MT-ND4、MT-ND1、MT-ND6、MT-CYB、MT-C03、MT-ND5、MT-ND2、MT-COI、MT-ATP6、MT-ND4L、OPA1、OPA3、OPA7、及びAC02からなる群から選択される。
【0022】
特に、治療用タンパク質は神経栄養因子であり、好ましくはGDNF、VEGF、CNTF、FGF2、BDNF、及びEPOからなる群から選択される。
【0023】
特に、治療用タンパク質は抗アポトーシス性タンパク質であり、好ましくはBCL2及びBCL2L1からなる群から選択される。
【0024】
特に、治療用タンパク質は抗血管新生因子であり、好ましくはエンドスタチン、アンジオスタチン、及びsFltからなる群から選択される。
【0025】
特に、治療用タンパク質は抗炎症因子であり、好ましくはIL10、IL1R1、TGFBI、及びIL4からなる群から選択される。
【0026】
特に、治療用タンパク質は桿体由来錐体生存因子(RdCVF)である。
【0027】
特に、治療用タンパク質は光遺伝学的活性化因子、好ましくはロドプシン、フォトプシン、メラノプシン、ピノプシン、パラピノプシン、VAオプシン、ペロプシン、ニューロプシン、エンセファロプシン、レチノクロム、RGRオプシン、レッドシフトしたスペクトル特性を有する微生物オプシン、例えばReaChR、Chrimson、またはChrimsonR、Gi/0シグナル伝達を動員できる脊椎動物オプシン、例えば短波長脊椎動物オプシンまたは長波長脊椎動物オプシン、Chlamydomonas属の微細藻類由来のチャネルロドプシン、例えばチャネルロドプシン-1及びチャネルロドプシン-2(Chlamydomonas reinhardtii由来)、ならびにそれらのバリアントからなる群から選択される光遺伝学的活性化因子である。
【0028】
特に、治療用タンパク質は、光遺伝学的阻害因子、好ましくは、ハロロドプシン、例えばハロロドプシン(NpHR)、増強型ハロロドプシン(eNpHR2.0及びeNpHR3.0)及びレッドシフトしたハロロドプシンHalo57、アーキロドプシン-3(AR-3)、アーキロドプシン(Arch)、バクテリオロドプシン、例えば増強型バクテリオロドプシン(eBR)、プロテオロドプシン、キサントロドプシン、Leptosphaeria maculans真菌オプシン(Mac)、クラックスハロロドプシンJaws、ならびにそれらのバリアントからなる群から選択される光遺伝学的阻害因子である。
【0029】
特に、治療用核酸は、好ましくはsiRNA、shRNA、RNAi、miRNA、アンチセンスRNA、リボザイム及びDNAザイムからなる群から選択される。
【0030】
特に、レポータータンパク質は、好ましくは蛍光タンパク質、カルシウムインジケーター、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-ラクタマーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、及びそれらのバリアントからなる群から選択される。好ましいレポータータグは、mCitrine、EYFP及びtdTomatoから選択される。
【0031】
さらなる態様では、本発明は、桿体光受容細胞での外因性遺伝子の特異的発現のためのウイルスベクターに関する。ベクターは、本発明の発現カセットを含む。より好ましくは、ベクターは、レトロウイルスベクター、特にレンチウイルスベクターまたは非病原性パルボウイルスである。別の実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはAAV由来ハイブリッドベクターであり、ポリペプチドをコードする核酸または目的の核酸に隣接する2つのITRを含み得る。
【0032】
さらなる態様では、本発明は、ウイルス粒子、特にAVV由来キャプシド及び本発明のAAVベクターを含むウイルス粒子に関する。好ましい実施形態では、AAV由来キャプシドは、AAV-2、AAV-5、AAV-7m8(AAV2-7m8)、AAV-BP21、AAV-PHP.B、AAV-PHP.eB、AAV-44.9、AAV-NHP26(LB26)、AAV9-7m8、AAV5、AAV8、及びAAV9血清型キャプシドからなる群から選択される。
【0033】
さらなる態様では、本発明は、細胞または宿主細胞、好ましくは本発明の発現カセットにより、本発明のベクターまたはウイルス粒子により形質転換された桿体光受容細胞に関する。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、本発明の発現カセットと、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む、医薬組成物に関する。
【0035】
その一実施形態では、医薬組成物は、本発明のベクターと、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む。
【0036】
そのさらなる実施形態では、医薬組成物は、本発明のウイルス粒子と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む。
【0037】
そのさらなる実施形態では、医薬組成物は、本発明の形質転換細胞と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む。
【0038】
別の態様では、本発明は、ヒトまたは哺乳動物における眼疾患の治療または予防に使用するための、本発明の発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、または宿主細胞に関する。好ましくは、眼疾患は、加齢黄斑変性、桿体錐体ジストロフィー、桿体機能不全、レーベル先天黒内症、スターガルト病、糖尿病網膜症、ベスト病、網膜色素変性症、コロイデレミア、または壁板網膜変性などの、光受容細胞の変性もしくは喪失または光感度の喪失に関連する疾患から選択される。
【0039】
さらなる態様では、本発明は、桿体光受容細胞での治療上有効なタンパク質、ペプチドもしくは核酸、またはレポーター分子の発現のための本発明の核酸、発現カセット、ベクター、またはウイルス粒子の使用に関する。
【0040】
さらなる態様では、本発明は、治療上有効なタンパク質、ペプチドもしくは核酸、またはレポーター分子を桿体光受容細胞において発現させる方法、好ましくは、治療上有効なタンパク質、ペプチドもしくは核酸、またはレポーター分子による桿体光受容細胞の特異的形質転換方法に関し、桿体光受容細胞を、本発明の発現カセット、本発明のベクター、本発明のウイルス粒子、本発明の形質転換細胞、または本発明の医薬組成物とインキュベートする、またはそれらと接触させるステップを含む。
【0041】
代替的または付加的に、本発明の方法は、桿体光受容細胞に、本発明の発現カセット、本発明のベクター、本発明のウイルス粒子、本発明の形質転換細胞、または本発明の医薬組成物を導入するステップを含む。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、光受容体の変性もしくは喪失または光感度の喪失に関連する眼疾患を予防または治療するための治療方法であって、治療を必要とするヒト個体または動物に、治療上有効な量の本発明の医薬組成物を投与するステップを含む、治療方法に関する。好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、治療される眼の硝子体に投与される。別の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、治療される眼の前眼房に投与される。別の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、治療される眼の前眼房に投与される。別の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、治療される眼の網膜の網膜下腔に投与される。
【0043】
さらなる態様では、本発明は、本発明による単離された核酸分子を含む、桿体光受容体において遺伝子を発現するためのキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1A】AAV作製のために構築されたプラスミド:pAAV-配列番号1-CatCh-GFPの配列マップである。
図1B】ヒト網膜オルガノイドで発現するためのAAV作製のために構築されたプラスミド:pAAV-配列番号1-GFPの配列マップである。
図2】AAV-配列番号1-Catch-GFP及びAAV-配列番号1-GFPでそれぞれ感染させたヒト網膜、網膜オルガノイド及びホールマウントマウス網膜の断面のスピニングディスク共焦点顕微鏡画像である。左:CatCh-GFP/GFP(緑色)、中央左:錐体マーカーCARを用いた免疫染色(マゼンタ)、中央右:CatCh-GFP/GFP及び錐体マーカー、右:CatCh-GFP/GFP及び錐体マーカー及び核染色(Hoechst、白色)。
図3】AAV感染したヒト及びマウス網膜(上面図)及び全ヒト網膜オルガノイドの断面の共焦点画像(CatCh-GFP/GFP(黒色))である。
図4】ヒト網膜(上段)、ヒト網膜オルガノイド(中段)、及びマウス網膜(下段)における発現の定量プロットであり:左列:桿体光受容体密度に占めるCatCh-GFP/GFP+細胞密度の割合を定量化したもの;値はn=12共焦点画像からの平均±標準誤差である;右列:CatCh-GFP/GFPを発現する細胞の中での主要な細胞タイプまたはクラス(黒色)及びマイナーな細胞タイプまたはクラス(灰色)の割合(%)として示されたAAV標的特異性を定量化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
桿体光受容体、桿体細胞、または桿体は、眼の網膜にある光受容細胞であり、他の種類の視覚光受容体である錐体細胞よりも強度の低い光で機能することができる。桿体は、網膜の外縁部に集中しており、周辺視野で使用される。平均すると、ヒト網膜には約9000万個の桿体細胞が存在する。錐体細胞よりも感度が高く、桿体細胞は、夜間視力のほとんど全てを担っている。しかしながら、ヒト錐体細胞が3種類の感光色素を有するのに対し、桿体細胞は1種類の感光色素しか有さないため、桿体は、色覚にほとんど役割を果たさない。
【0046】
本発明の核酸分子は、桿体光受容細胞における外因性遺伝子の非常に特異的な発現を可能にするが、桿体光受容細胞ではない他の細胞では可能にしないプロモーター活性を付与する。特に、本発明の核酸分子は、単離されたヒト細胞から再構成されたオルガノイド細胞培養物のヒト桿体光受容細胞に対して高い細胞特異性で有意なプロモーター活性を有するが、このオルガノイド細胞培養物の他の全ての細胞においてプロモーター活性を有しない。さらに、本発明の核酸分子は、単離されたヒト網膜外植片におけるヒト桿体光受容細胞に対して高い細胞特異性で有意なプロモーター活性を有するが、この網膜外植片の他の全ての細胞においてプロモーター活性を有しない。本発明の核酸分子は、有利には、網膜細胞、特に桿体光受容細胞における遺伝子欠陥を代償するために導入遺伝子または他の医薬化合物をスクリーニングする特異的スクリーニングツールの提供を可能にし、最終的に、そのような遺伝子欠陥に関連する網膜変性または失明から保護する、それらを改善する、または治癒するための1つ以上の治療上有効な化合物を提供及び確立する。
【0047】
本発明のプロモーターを使用する方法はまた、視力回復のin vitro試験にも使用することができ、該方法は、本発明のプロモーターの制御下で1つ以上の導入遺伝子を発現する桿体光受容体を薬剤と接触させるステップと、該薬剤との接触後に得られた少なくとも1つの出力を該薬剤との接触前に得られた同じ出力と比較するステップとを含む。本発明の核酸配列を使用する方法は、神経障害または桿体光受容体が関与する網膜の障害の治療のための治療剤を同定するために使用することができ、該方法は、本発明のプロモーター下で1つ以上の導入遺伝子を発現する桿体光受容体を試験化合物と接触させるステップと、試験化合物の存在下で得られた桿体光受容体の少なくとも1つの出力を該試験化合物の非存在下で得られた同じ出力と比較するステップとを含む。
【0048】
さらに、本発明の核酸分子は、患者におけるヒト網膜の桿体光受容細胞において、外因性遺伝子、特に治療的に活性なエフェクターをコードする外因性遺伝子を非常に特異的に発現するためのプロモーター活性を付与する。同時に、本発明の核酸分子は、桿体光受容細胞以外の網膜細胞において外因性遺伝子またはエフェクターの発現が起こらないようにする。本発明の核酸分子は、有利には、桿体光受容細胞における遺伝子欠陥もしくは障害、または桿体光受容細胞、特に網膜色素上皮(RPE)細胞に機能的に関連する細胞における遺伝子欠陥もしくは障害に関連する網膜変性もしくは失明から保護する、それらを改善する、または治癒するためのヒト眼における治療用エフェクターの特異的発現の提供を可能にする。
【0049】
外因性遺伝子の「特異的発現」とは、「特定のタイプの細胞でのみ発現」とも呼ばれ、目的の遺伝子を発現する細胞の少なくとも75%超が、指定されたタイプ、すなわち、この場合には桿体光受容体のものであることを意味する。
【0050】
本発明の合成プロモーターは、ヒト網膜のヒト桿体光受容体における目的の外因性遺伝子の発現を、高特異性で、すなわち80%超、好ましくは85.0%超または86.0%超の発現特異性で駆動し得る。同時に、本発明の合成プロモーターは、マウス網膜のマウス桿体光受容体における目的の外因性遺伝子の発現を、高特異性で、すなわち90%超、好ましくは95%超の発現特異性で駆動し得る。さらに、本発明の合成プロモーターは、ヒト網膜オルガノイドの桿体光受容体における目的の外因性遺伝子の発現を、高特異性で、すなわち90%超、好ましくは98.0%超の発現特異性で駆動し得る。本明細書及び以下では、発現特異性は、目的の遺伝子の細胞集団発現全体における目的の遺伝子の桿体光受容体発現の割合を決定することによって定量化される。
【0051】
より具体的には、本発明の合成プロモーターは、ヒト桿体光受容体における目的の外因性遺伝子の発現を高い率で、すなわち25.0%超、好ましくは30.0%超の発現密度で駆動し得る。さらに、本発明の合成プロモーターは、マウス桿体光受容体における目的の外因性遺伝子の発現を、35.0%超、好ましくは40.0%超の発現密度で駆動し得る。本明細書及び以下では、発現密度は、それぞれ公表されているヒト網膜(Jonas,J.B.et al.Count and density of human retinal photoreceptors.Graefes Arch.Clin.Exp.Ophthalmol.230,505-510(1992))及びマウス網膜における桿体光受容体の平均密度(細胞/mm2)に対する、目的の外因性遺伝子を発現する桿体光受容体の密度の割合(%)として定義されている。合成プロモーター配列番号1は、全ヒト桿体光受容体の30.4%及び全マウス桿体光受容体の41.2%において発現を駆動した。
【0052】
さらに、本発明の合成プロモーターは、単離されたヒト細胞から得られた網膜オルガノイドにおいてヒト桿体光受容体における目的の外因性遺伝子の発現を、30%超、好ましくは34%超の発現密度で駆動し得る。
【0053】
本発明のプロモーター配列の主な利点の1つは、そのサイズが小さいことである。実際に、本発明のプロモーターは、1.2kb未満の長さを有するため、DNAペイロードが厳しく制限されているAAVベクターでの使用に特に適している。
【0054】
いくつかの実施形態では、本発明のプロモーターは、SNCG遺伝子、特にヒトSNCG遺伝子に作動可能に連結されない。いくつかの他の実施形態では、本発明のプロモーターは、レポータータンパク質をコードする遺伝子、特にルシフェラーゼをコードする遺伝子に作動可能に連結されない。好ましくは、本発明のプロモーターは、SNCG遺伝子またはルシフェラーゼをコードする遺伝子に作動可能に連結されない。第2の態様では、本発明は、目的の核酸に作動可能に連結されている本発明のプロモーターを含む発現カセットに関する。
【0055】
本発明のプロモーターに作動可能に連結されている核酸は、目的のポリペプチドまたは目的の核酸をコードし得る。
【0056】
好ましくは、本発明のプロモーターは、異種核酸に作動可能に連結されている。本明細書で使用される場合、「異種」という用語は、プロモーターが天然に存在するゲノムにおいて作動可能に連結されている核酸以外の核酸を意味する。ある実施形態では、本発明のプロモーターに作動可能に連結されている核酸は、目的のポリペプチドをコードする。目的のポリペプチドは、桿体光受容細胞での発現が望まれる任意のポリペプチドであり得る。特に、目的のポリペプチドは、治療用ポリペプチド、レポータータンパク質、または光遺伝学的アクチュエーターであり得る。ある実施形態では、本発明のプロモーターに作動可能に連結されている核酸は、治療用遺伝子であり、すなわち、治療用ポリペプチドをコードする。
【0057】
治療用遺伝子の例としては、MT-ND4(遺伝子ID:4538)、MT-ND1(遺伝子ID:4535)、MT-ND6(遺伝子ID:4541)、MT-CYB(遺伝子ID:4519)、MT-C03(遺伝子ID:4514)、MT-ND5(遺伝子ID:4540)、MT-ND2(遺伝子ID:4536)、MT-COI(遺伝子ID:4512)、MT-ATP6(遺伝子ID:4508)、MT-ND4L(遺伝子ID:4539)、OPA1(遺伝子ID:4976)、OPA3(遺伝子ID:80207)、OPA7(遺伝子ID:84233)、及びAC02(遺伝子ID:50)などの網膜疾患を引き起こすことが知られている欠損または変異遺伝子を置換するための核酸が挙げられるが、これらに限定されない。治療用遺伝子はまた、GDNF(遺伝子ID:2668)、CNTF(遺伝子ID:1270)、FGF2(遺伝子ID:2247)、BDNF(遺伝子ID:627)及びEPO(遺伝子ID:2056)などの神経栄養因子、BCL2(遺伝子ID:596)及びBCL2L1(遺伝子ID:598)などの抗アポトーシス性遺伝子、エンドスタチン、アンジオスタチン及びsFltなどの抗血管新生因子、IL10(遺伝子ID:3586)、IL1R1(遺伝子ID:3554)、TGFBI(遺伝子ID;7045)及びIL4(遺伝子ID:3565)などの抗炎症因子、または桿体由来錐体生存因子(RdCVF)(遺伝子ID:115861)をコードし得る。
【0058】
さらなるシグナルペプチドを治療用タンパク質に追加し、特に、特定のオルガネラ(例えばミトコンドリア)内にそれらを取り込む、細胞からそれらを分泌する、または細胞膜にそれらを挿入することを可能にしてもよい。
【0059】
別の実施形態では、目的のポリペプチドは、その発色団としてビタミンAまたはそのアイソフォームを使用する光化学反応性ポリペプチドである光遺伝学的アクチュエーターである。光遺伝学的アクチュエーターは特に、光を吸収して光によって活性化する光開閉性イオンポンプまたはチャネルである。光遺伝学的アクチュエーターは、原核生物または真核生物由来であり得る。特に、これは微生物オプシンまたは脊椎動物オプシンであり得る。光遺伝学的アクチュエーターは、光遺伝学的活性化因子または光遺伝学的阻害因子であり得る。
【0060】
光遺伝学的活性化因子は、光に曝露されると細胞を脱分極させる。光遺伝学的活性化因子の例としては、ロドプシン、フォトプシン、メラノプシン、ピノプシン、パラピノプシン、VAオプシン、ペロプシン、ニューロプシン、エンセファロプシン、レチノクロム、RGRオプシン、レッドシフトしたスペクトル特性を有する微生物オプシン、例えばReaChR、Chrimson、またはChrimsonR、Gi/0シグナル伝達を動員できる脊椎動物オプシン、例えば短波長脊椎動物オプシンまたは長波長脊椎動物オプシン、Chlamydomonas属の微細藻類由来のチャネルロドプシン、例えばチャネルロドプシン-1及びチャネルロドプシン-2(Chlamydomonas reinhardtii由来)、ならびにそれらの最適化されたまたは機能的に改良されたバリアント(例えば、コドン最適化バリアント、変異体、キメラ)が挙げられる。
【0061】
より具体的な好ましい実施形態では、光遺伝学的アクチュエーターは、好ましくはチャネルロドプシン、ChrimsonR及びそれらのバリアントから選択される、より好ましくはhChR2(L132C)-hCatCh及びChrimsonR-tdTomatoから選択される、光遺伝学的活性化因子である。
【0062】
より具体的な好ましい実施形態では、光遺伝学的アクチュエーターは、好ましくはチャネルロドプシン及びそのバリアントから選択される、より好ましくはhChR2(L132C)-hCatChである、光遺伝学的活性化因子である。
【0063】
光遺伝学的阻害因子は、光に曝露されると細胞を過分極させる。光遺伝学的阻害因子の例としては、ハロロドプシン、例えばハロロドプシン(NpHR)、増強型ハロロドプシン(eNpHR2.0及びeNpHR3.0)及びレッドシフトしたハロロドプシンHalo57、アーキロドプシン-3(AR-3)、アーキロドプシン(Arch)、バクテリオロドプシン、例えば増強型バクテリオロドプシン(eBR)、プロテオロドプシン、キサントロドプシン、Leptosphaeria maculans真菌オプシン(Mac)、クラックスハロロドプシンJaws、ならびにそれらの最適化されたまたは機能的に改良されたバリアント(例えば、コドン最適化バリアント、変異体、キメラ)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
さらなる実施形態では、本発明のプロモーターに作動可能に連結されている核酸は、レポータータンパク質をコードする。好ましくは、レポータータンパク質は、生きている桿体光受容細胞内で検出可能である。本発明のプロモーターの制御下でレポータータンパク質を発現させることによって、桿体光受容細胞を特異的に検出または同定することができる。レポータータンパク質は、例えば、蛍光タンパク質(例えばGFP)、カルシウムインジケーター(例えばGCamP)、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-ラクタマーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、及びそれらのバリアントであり得る。特定の実施形態では、レポータータンパク質は、蛍光タンパク質、カルシウムインジケーター、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-ラクタマーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、及びそれらのバリアントからなる群から選択される。
【0065】
別の実施形態では、本発明のプロモーターに作動可能に連結されている核酸は、目的の核酸をコードする。目的の核酸は、桿体光受容細胞での発現が望まれる任意の核酸であり得る。特に、目的の核酸は治療用核酸であり得る。核酸は、例えば、siRNA、shRNA、RNAi、miRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、またはDNAザイムであり得る。特定の実施形態では、核酸は、本発明のプロモーターに作動可能に連結されている核酸から転写された場合に、障害に関連する異常なまたは過剰なタンパク質の翻訳または転写を妨げることによって眼疾患を治療または予防することができるRNAをコードする。例えば、目的の核酸は、異常な及び/または過剰なタンパク質をコードするmRNAの高度に特異的な除去または低減により疾患を治療するRNAをコードし得る。
【0066】
好ましくは、本発明のベクターは、遺伝子療法または細胞療法での使用に適したベクターであり、特に桿体光受容細胞を標的とするのに適している。
【0067】
本発明のベクターは、好ましくは、宿主細胞において目的のポリペプチドの発現を確立するために必要とされる任意のエレメント、例えば、プロモーター、例えば本発明のプロモーター、ITR、リボソーム結合エレメント、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカー、イントロン、ポリAシグナル、及び/または複製起点を含むウイルスゲノムベクターである。
【0068】
いくつかの実施形態では、ベクターは、ウイルスベクター、例えば、モロニーマウス白血病ウイルスベクター(MoMLV)、MSCV、SFFV、MPSVまたはSNV由来のベクター、レンチウイルスベクター(例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)またはウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)に由来する)、アデノウイルス(Ad)ベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、シミアンウイルス40(SV-40)ベクター、ウシパピローマウイルスベクター、エプスタイン・バーウイルス、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳腺腫瘍ウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルスベクターに由来するベクターである。
【0069】
特定の実施形態では、ベクターは、レトロウイルスベクター、好ましくはレンチウイルスベクターまたは非病原性パルボウイルスである。当該技術分野で知られているように、使用を検討している特定のウイルスベクターに応じて、機能的なウイルスベクターを得るために本発明のベクターに適切な配列、例えばAAVベクターの場合はAAV ITR、またはレンチウイルスベクターの場合はLTRを導入すべきである。
【0070】
本明細書で使用される場合、「AAVベクター」という用語は、少なくとも1つのAAV逆位末端反復配列(ITR)、好ましくは2つのITRに隣接する1つ以上の異種配列(すなわち、AAV起源ではない核酸配列)を含むポリヌクレオチドベクターを指す。このようなAAVベクターは、適切なヘルパーウイルスに感染し(または適切なヘルパー機能を発現する)、AAV rep及びcap遺伝子産物(すなわちAAV Rep及びCapタンパク質)を発現する宿主細胞中に存在する場合に、複製して感染性ウイルス粒子にパッケージングされ得る。
【0071】
「逆位末端反復」または「ITR」配列は、当該技術分野で十分に理解されている用語であり、逆向きでウイルスゲノムの末端に見られる比較的短い配列を指す。「AAV逆位末端反復(ITR)」配列は、天然の一本鎖AAVゲノムの両端に存在する約145のヌクレオチド配列である。ITRの最も外側の125ヌクレオチドは2つの別の方向のいずれかで存在することができ、異なるAAVゲノム間に及び単一のAAVゲノムの2つの末端間に異質性をもたらす。最も外側の125ヌクレオチドはまた、自己相補性のいくつかの短い領域(A、A’、B、B’、C、C、及びD領域と呼ばれる)を含んでおり、これらの領域がITRのこの部分内での鎖内塩基対合の発生を可能にする。本発明のベクターで使用するためのAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有してもよく、または挿入、欠失、もしくは置換によって改変されてもよい。AAVベクターの逆位末端反復(ITR)の血清型は、任意の既知のヒトまたは非ヒトAAV血清型から選択され得る。
【0072】
AAVベクターがより大きなポリヌクレオチドに(例えば、染色体中、またはクローニングもしくはトランスフェクションに使用されるプラスミドなどの別のベクター中)組み込まれる場合、AAVベクターは「プロベクター」と呼ばれ、AAVパッケージング機能及び適切なヘルパー機能の存在下で複製及びキャプシド化(すなわち、キャプシド内でのウイルス核酸の封入)によって「レスキュー」され得る。本発明のAAVベクターは、プラスミド、直鎖状人工染色体、脂質と複合体化、リポソーム内にカプセル封入、及びウイルス粒子、例えばAAV粒子中にキャプシド化を含むが、これらに限定されない多数の形態のいずれであってもよい。本発明のプロモーターまたは発現カセットは、当業者に知られている任意の方法によってベクターに導入することができる。
【0073】
ベクターは、栄養要求性マーカー(例えば、LEU2、URA3、TRP1またはHIS3)などの選択可能なマーカー、蛍光もしくは発光タンパク質(例えば、GFP、eGFP、DsRed、CFP)などの検出可能な標識、または化学的/毒性化合物に対する耐性を付与するタンパク質(例えば、テモゾロミドに対する耐性を付与するMGMT遺伝子)をコードする1つ以上の核酸配列をさらに含み得る。これらのマーカーは、ベクターを含む宿主細胞を選択または検出するために使用することができ、当業者は宿主細胞に応じて容易に選択することができる。
【0074】
本発明のプロモーター及び発現カセットの全ての実施形態はまた、この態様においても企図される。本発明のベクターは、「ウイルス粒子」を作製するために、ウイルスキャプシド中にパッケージングされ得る。したがって、さらなる態様では、本発明はまた、本発明のベクターを含むウイルス粒子に関する。特定の実施形態では、ベクターは、AAVベクターであり、AAV由来キャプシドにパッケージングされて「アデノ随伴ウイルス粒子」または「AAV粒子」を作製する。したがって、本明細書で使用される場合、「AAV粒子」という用語は、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質とキャプシド化されたAAVベクターゲノムとから構成されるウイルス粒子を指す。
【0075】
キャプシド血清型はAAV粒子の指向性範囲を決定する。現在、12のヒト血清型、及び非ヒト霊長類に由来する100を超える血清型を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)の複数の血清型が同定されている(Howarth al.,2010,Cell Biol Toxicol 26:1-10)。これらの血清型の中で、ヒト血清型2は遺伝子輸送ベクターとして開発された最初のAAVであった。現在使用されている他のAAV血清型としては、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh8、AAV9、AAV10、AAVrhlO、AAV11、AAV 12、AAVrh74及びAAVdjなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、非天然の操作されたバリアント及びキメラAAVも有用となり得る。特に、キャプシドタンパク質は、形質導入効率を高める1つ以上のアミノ酸置換を含むバリアントであり得る。
【0076】
種々のAAV血清型は、特定の標的細胞の形質導入を最適化するために、または特定の標的組織内の特定の細胞型(例えば、桿体光受容細胞)を標的とするために使用される。AAV粒子は、同じ血清型またはAAVの任意の天然もしくは人工配列バリアントのウイルスタンパク質及びウイルス核酸を含むことができる。例えば、AAV粒子は、AAV2キャプシドタンパク質と、少なくとも1つの、好ましくは2つのAAV2 ITRとを含み得る。AAV粒子の産生のためのAAV血清型の任意の組み合わせは、各組み合わせが本明細書に明示的に記載されているかのように本明細書で提供される。好ましい実施形態では、AAV粒子は、AAV2、AAV-5、AAV-7m8(AAV2-7m8、Dalkara et al.Sci Transl Med(2013),5,189ra76)、AAV9またはAAV8キャプシドからなる群から選択されるAAV由来キャプシドを含む。AAVウイルスは、従来の分子生物学的技術を用いて操作してよく、これにより、核酸配列の細胞特異的送達、免疫原性の最小化、安定性及び粒子の寿命の調整、効率的な分解、核への正確な送達のために、これらの粒子を最適化することができる。
【0077】
AAV天然血清型を使用する代わりに、天然に存在しないキャプシドタンパク質を有するAAVを含むがこれらに限定されない人工AAV血清型を本発明の文脈で使用してもよい。このような人工キャプシドは、選択されたAAV配列(例えば、VP1キャプシドタンパク質の断片)を、選択された異なるAAV血清型から、同じAAV血清型の非連続的部分から、非AAVウイルス源から、または非ウイルス源から得られ得る異種配列と組み合わせて使用して、任意の適切な技術によって作製され得る。人工AAV血清型は、非限定的に、キメラAAVキャプシドまたは変異型AAVキャプシドであり得る。キメラキャプシドは、少なくとも2つの異なるAAV血清型由来のVPキャプシドタンパク質を含む、または少なくとも2つのAAV血清型由来のVPタンパク質領域もしくはドメインを組み合わせた少なくとも1つのキメラVPタンパク質を含む。
【0078】
キャプシドタンパク質はまた、特に形質導入効率を高めるために変異したものであってもよい。変異型AAVキャプシドは、エラープローンPCRによって挿入したキャプシド改変及び/またはペプチド挿入から、または1つもしくは複数のアミノ酸置換を含むことにより、得られ得る。特に、天然または非天然のキャプシドタンパク質(例えばVP1、VP2またはVP3)のチロシン残基のいずれか1つ以上で突異を生じさせることができる。好ましくは、変異した残基は、表面に露出したチロシン残基である。例示的な変異は、Y252F、Y272F、Y444F、Y500F、Y700F、Y704F、Y730F、Y275F、Y281F、Y508F、Y576F、Y612G、Y673F、及びY720Fなどのチロシンからフェニルアラニンへの置換を含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、AAV粒子はAAV2由来キャプシドを含む。本実施形態では、キャプシドは、1つ以上のチロシンからフェニルアラニンへの置換を含んでよく、好ましくはY444F置換を含む。
【0079】
さらに、AAV粒子のゲノムベクター(すなわち、本発明のベクター)は、一本鎖ゲノムまたは自己相補性二本鎖ゲノムのいずれかであり得る。自己相補性二本鎖AAVベクターは、AAV末端反復のうちの1つから末端分離部位(trs)を欠失することによって作製される。これらの改変ベクターは、その複製ゲノムが野生型AAVゲノムの半分の長さであり、DNA二量体をパッケージングする傾向を有する。好ましい実施形態では、本発明の実践において用いられるAAV粒子は、一本鎖ゲノムを有する。
【0080】
AAVウイルス粒子産生のためのAAV産生培養は全て、以下:1)適切な宿主細胞、例えば、HeLa、A549またはHEK293細胞などのヒト由来細胞株、2)野生型もしくは変異型アデノウイルス、例えば温度感受性アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはヘルパー機能を提供するプラスミド構築物により提供される適切なヘルパーウイルス機能、3)AAV rep及びcap遺伝子ならびに遺伝子産生物、4)少なくとも1つのAAV ITR配列が隣接する目的の核酸、例えば本発明のベクター、ならびに5)当該技術分野において周知のAAV産生をサポートする適切な培地及び培地成分を必要とする。AAV粒子を産生するための宿主細胞としては、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、微生物、及び酵母を含む。宿主細胞はまた、AAV rep及びcap遺伝子が宿主細胞内に安定的に維持されるパッケージング細胞、またはAAVベクターゲノムが安定的に維持されるプロデューサー細胞であり得る。例示的なパッケージング細胞及びプロデューサー細胞は、HEK293、A549またはHeLa細胞由来である。
【0081】
別の態様では、本発明はまた、本発明の発現カセット、ベクター、またはウイルス粒子により形質転換またはトランスフェクトされた単離された宿主細胞に関する。宿主細胞は、任意の動物細胞、植物細胞、細菌細胞または酵母であり得る。好ましくは、宿主細胞は哺乳動物細胞または昆虫細胞である。より好ましくは、宿主細胞はヒト細胞である。好ましい実施形態では、宿主細胞は、網膜神経節細胞、特にヒト桿体光受容細胞である。本発明の発現カセットまたは発現ベクターは、ウイルス感染を含む任意の既知の技術を使用して宿主細胞に輸送され得、宿主細胞に異所的に維持されてもゲノムに組み込まれてもよい。好ましい実施形態では、本発明の発現カセットまたはベクターは、好ましくは本発明のウイルス粒子を使用して、より好ましくは本発明のAAV粒子を使用して、ウイルス感染によって宿主細胞に輸送される。
【0082】
動物モデルまたはヒトにおける網膜へのベクターの主な送達経路は、硝子体内注射及び網膜下外科的送達である。硝子体内注射は、眼へのベクター投与のための確立された安全な経路である。本明細書では、ベクターは硝子体内に直接注入される。網膜下注射により、ベクターは外科的処置において網膜色素上皮(RPE)と光受容体層との間の局所的な網膜下ブレブ内に送達される。これは、経毛様体扁平部硝子体切除術の際の実用的なアプローチで達成される。網膜下投与は、光受容体及びRPEへの最も直接的なアクセスを提供する。第3のアプローチは、前眼部、特に眼の前眼房へのベクターの送達である。
【0083】
単離された網膜を用いて作業する場合、神経節細胞側を下向きに載置し、その結果、網膜の光受容体側が露出し、したがってより良好にトランスフェクションできるようにすることで、網膜細胞に対する最適なウイルス送達を達成することができる。別の技術は、例えばカミソリの刃で網膜の内境界膜を薄切することにより、送達ウイルスが内部の膜を透過できるようにすることである。さらなる方法は、網膜を寒天に包埋し、網膜を薄切し、その薄切片の面から送達ウイルスを適用することである。
【0084】
網膜細胞の任意の供給源を、本発明に用いることができる。本発明のいくつかの実施形態では、網膜細胞は、ヒト網膜に由来するか、またはヒト網膜の中にある。他の実施形態では、網膜は、動物由来、例えばげっ歯類起源である。ヒト網膜は角膜バンクから容易に入手することができ、そこでは網膜は角膜の解剖後に通常処分される。成人網膜は大きい表面積(約1100mm)を有し、したがって、いくつかの実験的部分領域に簡単に分けることができる。
【0085】
本発明はまた、本発明の発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、または細胞を含む医薬組成物に関する。そのような組成物は、治療上有効な量の治療剤(本発明の発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、または細胞)と、薬学的に許容される賦形剤とを含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」という用語は、動物及び/またはヒトでの使用について、規制当局、または欧州薬局方などの公認薬局方によって承認されていることを意味する。「賦形剤」という用語は、治療剤と共に投与される希釈剤、アジュバント、担体、またはビヒクルを指す。
【0086】
当該技術分野で周知であるように、薬学的に許容される賦形剤は、薬理学的に有効な物質の投与を容易にする相対的に不活性な物質であり、液状の溶液もしくは懸濁液として、エマルションとして、または使用前に液体に溶解もしくは懸濁させるのに適した固体形態として供給することができる。例えば、賦形剤は、形状もしくは稠度を与えたり、または希釈剤として作用したりすることができる。適切な賦形剤としては、安定剤、湿潤剤及び乳化剤、浸透圧を変化させるための塩、カプセル化剤、pH緩衝物質、ならびに緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。そのような賦形剤には、眼への直接送達に適し、過度の毒性を伴わずに投与され得る任意の医薬が含まれる。薬学的に許容される賦形剤には、ソルビトール、種々のtween化合物のいずれか、ならびに液体、例えば水、生理食塩水、グリセロール、及びエタノールが挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容される塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、及び酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸塩をその中に含んでもよい。最も好ましくは、組成物は、生理食塩水、リンガー平衡塩類溶液(pH7.4)などと組み合わされる。
【0087】
組成物は、眼に投与されるように、特に眼内注射によって、例えば網膜下及び/または硝子体内投与によって投与されるように製剤化される。硝子体内送達の場合、本発明の医薬組成物は硝子体内に直接注射される。網膜下送達の場合、本発明の医薬組成物は、外科的処置において網膜色素上皮(RPE)と光受容体層との間の局所的な網膜下ブレブ内に送達される。これは、経毛様体扁平部硝子体切除術(ppV)の際の実用的なアプローチで達成される。網膜下投与は、光受容体及びRPEへの最も直接的なアクセスを提供する。第3のアプローチは、眼の前眼部、特に前眼房への医薬組成物の送達である。
【0088】
投与される医薬組成物の量は、当業者に周知の標準的な手順によって決定することができる。適切な投与量を決定するために、患者の生理学的データ(例えば、年齢、サイズ、及び重量)、ならびに治療される疾患の種類及び重症度を考慮する必要がある。
【0089】
医薬組成物の化合物は、注射による、例えば網膜下または硝子体内注射による投与のために製剤化され得る。注射用の製剤は、単位剤形で、例えばアンプルでまたは多回投与容器で提供され得る。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、またはエマルションなどの形態をとることができ、懸濁剤、安定剤、及び/または分散剤などの調合剤(formulatory agents)を含有してもよい。あるいは、有効成分は、使用前に適切なビヒクル、例えば、滅菌パイロジェンフリー水で構成するための粉末形態であってもよい。
【0090】
先に記載した製剤に加えて、医薬組成物の化合物はまた、デポー製剤として、または埋め込み型送達システムで使用するために製剤化することもできる。そのような長時間作用型製剤は、埋め込み(例えば眼内)または眼内注射により投与することができる。化合物はまた、埋め込み型薬物送達システムまたはデバイスで使用するために、特に埋め込み型薬物送達システムまたはデバイスのリザーバーを繰り返し補充するためにデポー製剤として製剤化されてもよい。したがって、化合物は、適切なポリマーもしくは疎水性材料(例えば、許容される油中のエマルションとして)またはイオン交換樹脂と共に、または微溶性誘導体として、例えば微溶性塩として製剤化され得る。
【0091】
医薬組成物は、必要に応じて、有効成分を含有する1つ以上の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサーデバイス中で提供されてもよい。例えば、このパックは、ブリスターパックなどの金属またはプラスチック箔を含むことができる。このパックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書を添付することができる。
【0092】
ある実施形態では、医薬組成物は、本発明のベクターまたはウイルス粒子、より好ましくはAAVベクターまたは粒子を含む。別の実施形態では、医薬組成物は、本発明の宿主細胞、好ましくは本発明のヒト宿主細胞、すなわち本発明の発現カセット、ベクターまたはウイルス粒子により、好ましくはAAV粒子により形質転換またはトランスフェクションされたものを含む。任意選択で、宿主細胞を含む組成物は、その細胞の保存に適する任意の温度で保存するために凍結されてもよい。特定の実施形態では、組成物は本発明のウイルス粒子を含み、各単位用量は10E+8~10E+13のウイルス粒子を含む。
【0093】
医薬組成物は、コルチコステロイド、抗生物質、鎮痛剤、免疫抑制剤、栄養因子、またはそれらの任意の組み合わせなどの1つまたは複数の追加の活性化合物をさらに含み得る。
【0094】
本発明はまた、本発明の治療レジメンを行うためのキットを提供する。そのようなキットは、1つ以上の容器に治療的または予防的に有効な量の組成物を薬学的に許容される形で含む。
【0095】
キットのバイアル中の組成物は、例えば滅菌生理食塩水、デキストロース溶液、もしくは緩衝溶液、または他の薬学的に許容される滅菌流体と組み合わせた、薬学的に許容される溶液の形態であってよい。あるいは、複合体は凍結乾燥または乾燥させることができ、この場合、キットは任意選択で、複合体を再構成して注射用溶液を形成するための、好ましくは滅菌した、薬学的に許容される溶液(例えば、生理食塩水、デキストロース溶液など)を容器にさらに含む。
【0096】
別の実施形態では、キットは、複合体を注射するための、好ましくは滅菌形態で包装された針またはシリンジ、及び/または包装されたアルコールパッドをさらに含む。臨床医または患者による組成物の投与についての使用説明書が、任意選択で含まれる。
【0097】
本発明の方法はまた、少なくとも1つの追加の治療剤を対象に投与することをさらに含み得る。特に、治療剤は、コルチコステロイド、抗生物質、鎮痛剤、免疫抑制剤、または栄養因子、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。
【0098】
本発明の組成物は、疾患が症状を示す前または後に、例えば、部分的もしくは完全な桿体光受容細胞もしくは光受容細胞の変性の前もしくは後に、及び/または部分的もしくは完全な視力喪失の前もしくは後に投与され得る。
【0099】
したがって、別の態様では、本発明はまた、本発明の発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、または宿主細胞を含む非ヒト動物モデルに関する。
【0100】
このような動物モデルは、桿体光受容細胞機能のin vivo研究に使用することができる。本発明のプロモーター、カセット、ベクター、またはウイルス粒子を使用すると、例えばレポータータンパク質または電圧またはカルシウム感受性タンパク質の発現を通じて、桿体光受容細胞を同定もしくは追跡すること、またはそれらの活性を監視することが可能である。この非ヒト動物モデルはまた、桿体光受容細胞に作用する薬剤を同定または選択するためのスクリーニング方法に使用することもできる。好ましくは、非ヒト動物モデルは哺乳動物、より好ましくは霊長類、げっ歯類、ウサギ、またはミニブタである。
【0101】
プロモーター、発現カセット、またはベクターは、このモデルの細胞内でエピソーム形態で維持されてよく、またはそのゲノムに組み込まれてもよい。動物細胞をトランスフェクトもしくは形質転換するための、または選択されたプロモーター、すなわち本発明のプロモーターの制御下で目的の核酸配列を発現するトランスジェニック動物を産生するための方法は、当業者に周知であり、細胞及び動物に応じて容易に適合させることができる。
【0102】
定義
本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、一般に遺伝子の上流に(5’領域に向かって)位置し、かつRNAポリメラーゼによる遺伝子の転写が開始される場所を規定する、シス調節エレメントを指す。RNAポリメラーゼ及び必要な転写因子は、プロモーターに結合し、遺伝子の転写を開始する。本発明の文脈では、プロモーターは、それらに作動可能に連結されている遺伝子の桿体光受容体における特異的発現をもたらす。
【0103】
本明細書で使用される場合、「プロモーター活性」という用語は、それが作動可能に連結されている核酸の転写を開始するためのプロモーターの能力を指す。プロモーター活性は、当該技術分野で公知の、または実施例に記載される手順を使用して測定することができる。例えば、プロモーター活性は、例えばノーザンブロッティングまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用することによって転写されたmRNAの量として測定することができる。あるいは、プロモーター活性は、翻訳されたタンパク質産物の量として、例えばウェスタンブロッティング、ELISA、比色アッセイ、及び様々な活性アッセイ、例えばレポーター遺伝子アッセイ、及び当該技術分野で公知の、または実施例に記載される他の手順によって測定することができる。
【0104】
「作動可能に連結」という用語は、本明細書で使用される場合、一方の機能が他方の機能によって影響されるような単一の核酸分子上の核酸配列の会合を指す。例えば、プロモーターは、コード配列の発現に影響を与えることができる場合、すなわち、コード配列がプロモーターの転写制御下にある場合、コード配列に作動可能に連結されている。
【0105】
本明細書で使用される場合、「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのいずれかである任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。したがって、この用語には、一本鎖、二本鎖または多本鎖DNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、またはプリン塩基及びピリミジン塩基もしくは他の天然、化学的もしくは生化学的に修飾された、非天然、もしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーが含まれるが、これらに限定されない。「ポリヌクレオチド」は、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、ならびに一本鎖及び二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖もしくはより典型的には二本鎖または一本鎖及び二本鎖領域の混合物であり得るDNA及びRNAを含むハイブリッド分子で構成され得る。加えて、ポリヌクレオチドは、RNAもしくはDNA、またはRNA及びDNAの両方を含む三本鎖領域で構成され得る。ポリヌクレオチドの骨格は、糖及びリン酸基(典型的にRNAまたはDNAに見られ得るように)、または修飾もしくは置換された糖もしくはリン酸基を含み得る。あるいは、ポリヌクレオチドの骨格は、ホスホロアミダートなどの合成サブユニットのポリマーを含んでもよく、したがってオリゴデオキシヌクレオシドホスホロアミダート(P-NH2)、またはホスホロアミダート-ホスホジエステルオリゴマー混合物であってもよい。本発明の核酸は、化学的合成、組換え及び突然変異誘発を含む当業者に公知の任意の方法により調製され得る。好ましい実施形態では、本発明の核酸は、DNA分子、好ましくは当業者に周知の組換え方法により合成されたDNA分子である。ポリヌクレオチドはまた、1つ以上の修飾塩基、または安定性もしくは他の理由のために修飾されたDNAもしくはRNA骨格を含んでもよい。「修飾」塩基には、例えば、トリチル化塩基、及びイノシンなどの通常とは異なる塩基が含まれる。DNA及びRNAには様々な修飾がなされることができ、したがって「ポリヌクレオチド」は、化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態を包含する。
【0106】
本明細書で使用される場合、「単離された核酸」という用語は、その天然環境の構成成分から同定及び分離及び/または回収された核酸分子を指す。特に、この用語は、核酸の天然の供給源に存在する他の核酸分子から分離された核酸分子を指す。例えば、ゲノムDNAに関して、「単離された」という用語は、ゲノムDNAが天然に会合している染色体から分離された核酸分子を含む。好ましくは、「単離された」核酸分子は、核酸分子が由来する生物のゲノムDNA中の核酸分子に天然に隣接する配列を含まない。
【0107】
本発明では、「単離された」とは、その本来の環境(例えば、それが天然に存在する場合には天然の環境)から取り出された材料を指し、したがってその天然状態から「人工的に」改変されている。例えば、単離されたポリヌクレオチドは、ベクター、もしくは問題の組成物の一部であり得るか、または細胞内に含まれ得るが、それでもなお「単離」されており、それは、そのベクター、問題の組成物、または特定の細胞がポリヌクレオチドの本来の環境ではないためである。「単離された」という用語は、ゲノムまたはcDNAライブラリー、全細胞トータルまたはmRNA調製物、ゲノムDNA調製物(電気泳動により分離され、ブロット上に転写されたものを含む)、剪断された全細胞ゲノムDNA調製物、または当該技術分野により本発明のポリヌクレオチド/配列の際立った特色が実証されていない他の組成物を指さない。単離されたDNA分子のさらなる例としては、異種宿主細胞において維持された組換えDNA分子、または溶液中の(部分的にまたは実質的に)精製されたDNA分子が挙げられる。単離されたRNA分子は、本発明のDNA分子のin vivoまたはin vitroでのRNA転写産物を含む。しかしながら、ライブラリー(例えば、ゲノムまたはcDNAライブラリー)の他のメンバーから単離されていないライブラリーのメンバーであるクローンに含有される核酸(例えば、クローン及びライブラリーの他のメンバーを含有する均質な溶液の形態で)、または細胞もしくは細胞ライセートから取り出された染色体(例えば、核型におけるような「染色体スプレッド」)、またはランダムに剪断されたゲノムDNAの調製物もしくは1つ以上の制限酵素で切断されたゲノムDNAの調製物は、本発明の目的では「単離」されていない。本明細書でさらに論じられるように、本発明による単離された核酸分子は、天然に、組換え的に、または合成的に産生され得る。
【0108】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために互換的に使用され、最小の長さに限定されない。このようなアミノ酸残基のポリマーは、天然または非天然アミノ酸残基を含んでもよく、アミノ酸残基のペプチド、オリゴペプチド、二量体、三量体及び多量体を含むが、これらに限定されない。全長タンパク質及びその断片の両方が、本定義に包含される。
【0109】
本明細書で使用される場合、「バリアント」という用語は、元の配列とは異なるが、その本質的な特性を保持しているヌクレオチド配列を指す。一般的に、バリアントは全体として非常に類似しており、多くの領域で元のポリヌクレオチドと同一である。バリアントの配列は、配列内の1つ以上のヌクレオチドのヌクレオチド置換、欠失、または挿入によって異なっていてよく、これはプロモーター活性を損なわない。バリアントは、元の配列と同じ長さを有してもよく、またはより短くてもより長くてもよい。
【0110】
「機能的バリアント」という用語は、配列番号1のプロモーター活性を示す、すなわち桿体光受容細胞に特異的なプロモーター活性を示す、配列番号1のバリアントを指す。
【0111】
本明細書で使用される場合、「配列同一性」または「同一性」という用語は、2つのポリヌクレオチド配列のアラインメントからの位置における一致(同一の核酸残基)の数(%)を指す。配列同一性は、配列ギャップを最小限に抑えながら、重なり及び同一性を最大化するようにアラインメントされた際の配列を比較することによって決定される。特に、配列同一性は、2つの配列の長さに応じて、任意のいくつかの数学的グローバルまたはローカルアラインメントアルゴリズムを使用して決定され得る。同様の長さの配列は、好ましくは、全長にわたって配列を最適にアラインメントするグローバルアラインメントアルゴリズム(例えばNeedleman and Wunschアルゴリズム;Needleman and Wunsch,1970)を使用してアラインメントされ、一方で、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、ローカルアラインメントアルゴリズム(例えばSmith and Watermanアルゴリズム(Smith and Waterman,1981)またはAltschulアルゴリズム(Altschul et al.,1997;Altschul et al.,2005))を使用してアラインメントされる。核酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、例えばhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/またはhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/などのインターネットウェブサイトで入手できる公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを用いて、当該技術分野の技術範囲内にある種々の方式で達成され得る。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。本明細書の目的では、核酸配列同一性(%)の値は、Needleman-Wunschアルゴリズムを用いて2つの配列の最適なグローバルアラインメントを生成するペアワイズ配列アライメントプログラムであるEMBOSS Needleを用いて生成された値を指し、全てのサーチパラメータは初期値、すなわち、スコアリングマトリックス=BLOSUM62、ギャップオープン=10、ギャップ伸長=0.5、エンドギャップペナルティ=false、エンドギャップオープン=10、及びエンドギャップ伸長=0.5に設定した。
【0112】
グローバル配列アラインメントとも称される、クエリ配列(本発明の配列)と対象配列との間の最良の全体的な一致を決定するための好ましい方法は、Brutlagら(Comp.App.Blosci.(1990)6:237-245)のアルゴリズムに基づくFASTDBコンピュータプログラムを使用して決定することができる。配列アラインメントでは、クエリ配列及び対象配列は、両方ともDNA配列である。RNA配列は、UをTに変換することによって比較することができる。上記のグローバルな配列アラインメントの結果は、パーセント同一性である。パーセント同一性を計算するためのDNA配列のFASTDBアラインメントに使用される好ましいパラメータは、行列=ユニタリー、k-タプル=4、ミスマッチペナルティー1、結合ペナルティー30、ランダム化グループ長=0、カットオフスコア=1、ギャップペナルティー5、ギャップサイズペナルティ0.05、ウィンドウサイズ=500または対象ヌクレオチド配列の長さのいずれか短い方である。対象配列が、内部欠失のためではなく、5’または3’欠失のために、クエリ配列より短い場合には、結果を手動で補正する必要がある。これは、パーセント同一性を計算する場合、FASTDBプログラムは対象配列の5’または3’切断を考慮しないためである。クエリ配列に対して5’または3’末端で切断された対象配列の場合、一致/アラインメントしていない対象配列の5’及び3’であるクエリ配列の塩基数を、クエリ配列の全塩基に対する割合として計算することによりパーセント同一性を補正する。ヌクレオチドが一致/アラインメントしているかどうかは、FASTDB配列アラインメントの結果によって決定される。次いで、このパーセンテージは、指定されたパラメータを用いて上記のFASTDBプログラムによって計算されたパーセント同一性から差し引かれ、最終パーセント同一性スコアに到達する。この補正されたスコアは、本発明の目的のために使用されるものである。FASTDBアラインメントによって表示されるように、クエリ配列と一致/アラインメントしていない、対象配列の5’及び3’塩基以外の塩基のみが、パーセント同一性スコアを手動で調整する目的のために計算される。例えば、90塩基の対象配列が、100塩基のクエリ配列にアラインメントされ、パーセント同一性が決定される。欠失は対象配列の5’末端で起こり、したがってFASTDBアラインメントは、5’末端の最初の10塩基の一致/アラインメントを示さない。10個の不対塩基は、配列の10%(一致しない5’及び3’末端の塩基数/クエリ配列中の塩基の総数)に相当し、FASTDBプログラムによって計算されたパーセント同一性スコアから10%が差し引かれる。残りの90塩基が完全に一致した場合、最終のパーセント同一性は90%となり得る。別の例では、90塩基の対象配列を100塩基のクエリ配列と比較する。今回は、欠失は内部欠失であるため、クエリと一致/アラインメントしていない対象配列の5’または3’上の塩基は存在しない。この場合、FASTDBにより計算されたパーセント同一性は手動で補正されない。再び、クエリ配列と一致/アラインメントしていない対象配列の5’及び3’末端の塩基のみが手動で補正される。
【0113】
本明細書で使用される場合、「低ストリンジェンシー条件」という用語は、少なくとも100ヌクレオチド長のプローブに対して、5×SSPE、0.3%のSDS、200マイクログラム/mLの断片化した変性サケ精子DNA、及び25%ホルムアミド中で、標準的なサザンブロッティング手順に従って42度でプレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションを12~24時間行うことを意味する。最後に、担体材料を、50℃で2×SSC、0.2%SDSを用いて、それぞれ3回、15分間洗浄する。
【0114】
「中ストリンジェンシー条件」という用語は、少なくとも100ヌクレオチド長のプローブに対して、5×SSPE、0.3%のSDS、200マイクログラム/mLの断片化した変性サケ精子DNA、及び35%ホルムアミド中で、標準的なサザンブロッティング手順に従って42度でプレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションを12~24時間行うことを意味する。最後に、担体材料を、55℃で2×SSC、0.2%SDSを用いて、それぞれ3回、15分間洗浄する。
【0115】
「高ストリンジェンシー条件」という用語は、少なくとも100ヌクレオチド長のプローブに対して、5×SSPE、0.3%のSDS、200マイクログラム/mLの断片化した変性サケ精子DNA、及び50%ホルムアミド中で、標準的なサザンブロッティング手順に従って42度でプレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションを12~24時間行うことを意味する。最後に、担体材料を、65℃で2×SSC、0.2%SDSを用いて、それぞれ3回、15分間洗浄する。
【0116】
「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」における「をコードする」という表現は、そのポリペプチドについてのコード配列のみを含むポリヌクレオチド、ならびに追加のコード配列及び/または非コード配列を含むポリヌクレオチドを包含する。
【0117】
本明細書で使用される場合、「発現カセット」という用語は、コード配列と、該コード配列の発現に必要な1つ以上の制御配列とを含む核酸構築物を指す。特に、これらの制御配列の1つは本発明のプロモーターである。一般的に、発現カセットは、コード配列と、コード配列の前(5’非コード配列)及び後(3’非コード配列)に選択された遺伝子産物の発現に必要な調節配列とを含む。したがって、発現カセットは、典型的にはプロモーター配列、コード配列、ならびに通常はポリアデニル化部位及び/または転写ターミネーターを含む3’非翻訳領域を含む。発現カセットはまた、例えば、エンハンサー配列、ベクター内でのDNA断片の挿入を容易にするポリリンカー配列及び/またはスプライシングシグナル配列などの追加の調節エレメントを含んでもよい。発現カセットは、通常、クローニング及び形質転換を容易にするためにベクター内に含まれる。
【0118】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAのセグメントを意味し、コード領域の前後の領域「リーダー及びトレーラー」と、個々のコードセグメント(エキソン)の間にある介在配列(イントロン)とを含む。
【0119】
本明細書で使用される場合、「治療用遺伝子」という用語は、病態の治療に有用な治療用タンパク質をコードする遺伝子を指す。治療用遺伝子は、発現される場合、それが存在する細胞もしくは組織、または該遺伝子が発現する患者に有益な効果を与える。有益な効果の例としては、状態もしくは疾患の徴候もしくは症状の改善、状態もしくは疾患の予防もしくは抑制、または所望の特性の付与が挙げられる。治療用遺伝子には、患者の遺伝子欠陥を部分的または完全に修正する遺伝子が含まれる。特に、治療用遺伝子は、対象の細胞または組織におけるタンパク質の不足、欠陥、または最適以下のレベルにより引き起こされる欠陥を緩和するための遺伝子治療に有用なタンパク質をコードする核酸配列であり得るが、これに限定されない。治療用ポリペプチドは、例えば、桿体光受容細胞に存在しないか、欠陥を有するか、または最適以下のレベルで存在するポリペプチド及び/または酵素活性を供給し得、桿体光受容細胞の不均衡を間接的に中和するポリペプチド及び/または酵素活性を供給し得る。治療用ポリペプチドは、例えばドミナントネガティブポリペプチドとして作用することにより、ポリペプチドの活性を低下させるために使用することもできる。好ましくは、治療用ポリペプチドは、桿体光受容細胞に存在しない、欠陥を有する、または最適以下のレベルで存在するポリペプチド及び/または酵素活性、より好ましくは桿体光受容細胞に存在しない、または欠陥を有するポリペプチド及び/または酵素活性を供給する。
【0120】
「ウイルス」は、宿主細胞外では増殖または複製することができない超顕微鏡的感染性物質である。各ウイルス粒子またはビリオンは、キャプシドと呼ばれる保護的なタンパク質被覆内の遺伝物質、DNAまたはRNAからなる。キャプシド形状は、単純ならせん状及び正二十面体(多面体または略球体)形態から、尾部またはエンベロープを有するより複雑な構造まで様々である。ウイルスは、細胞生命体に感染し、感染した宿主の種類に応じて動物型、植物型、及び細菌型に分類される。
【0121】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、in vitroまたはin vivoのいずれかにおいて、遺伝子材料を輸送するための、特に核酸を宿主細胞に送達するための媒体として使用される核酸分子を指す。ベクターとしては、プラスミド、ファスミド、コスミド、転移因子、ウイルス、及び人工染色体(例えばYAC)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療する」、または「治療すること」という用語は、疾患の治療、防止、予防、及び遅延などの患者の健康状態を改善することを意図するあらゆる行為を指す。特定の実施形態では、このような用語は、疾患または疾患に関連する症状の改善または根絶を指す。他の実施形態では、この用語は、そのような疾患を罹患する対象に1つ以上の治療剤を投与した結果、その疾患の蔓延または悪化を最小限に抑えることを指す。特に、「眼疾患の治療」という用語は、視力の向上を提供する、全盲への疾患の進行を防止する、損傷を受けていない眼細胞への損傷の拡大を防止する、損傷した眼細胞の損傷を改善する、網膜損傷の発生を防止する、または軽度もしくは進行した疾患を有する眼を救済するための治療を指し得る。いくつかの実施形態では、この用語は、患者の遺伝子欠陥を修正する治療用タンパク質を提供することにより、桿体光受容細胞の変性を防止、低減、または停止するための治療を指す。いくつかの他の実施形態では、この用語は、光遺伝学を用いて、網膜を復活させるまたは視力を回復するための治療を指す。
【0123】
「治療上有効な量」は、眼疾患の上記で定義した治療を構成するのに十分である、対象に投与される本発明の医薬組成物の量を意図する。
【実施例
【0124】
ベクター構築物及び産生
配列番号1の配列を有する核酸分子をGenScript Inc.によって化学合成し、最適化されたKozak配列(GCCACC)及びChR2-GFP(図1A)(ヒト網膜オルガノイドにおける発現のための実施形態においてはGFPコード配列のみ(図1B))の翻訳開始コドンの前でそれぞれpAAVプラスミドに挿入し、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)及びSV40ポリアデニル化部位が続いた。
【0125】
AAVは、Grieger,J.C.et al.Production and characterization of adeno-associated viral vectors.Nat.Protoc.1(2006):1412-1428に記載されているように作製した。
【0126】
ゲノムコピー(GC)数タイトレーションを、リアルタイムPCR(Applied Biosystems,TaqMan reagents)を用いて実施した。ヒト網膜外植片及びマウス網膜を、5.15E+13GC/mLの力価を有するAAV血清型BP2を使用して標的化した。網膜オルガノイドには、4.5E+13GC/mLの力価を有する血清型PHP.eBを適用した。
【0127】
ヒト網膜オルガノイドの調製及びAAV感染
網膜オルガノイドは、Zhong et al.Generation of three-dimensional retinal tissue with functional photoreceptors from human iPSCs.Nat.Commun.5(2014):4047に記載されているように単離されたヒト人工多能性幹細胞(iPSC)から作製した。簡潔に言えば、分化の0日目に、iPSCコロニーを解離させることによって、浮遊胚様体(EB)を作製した。10μmol/LのATPase阻害剤ブレビスタチン(Sigma、#B0560-5MG)を添加したmTesR1培地中でEBを懸濁培養した。
【0128】
1日目及び2日目に、培地の3分の1を、DMEM/F12(GIBCO、#31331-028)、1×N2サプリメント(GIBCO、#17502-048)、1%NEAA溶液(Sigma、#M7145)、及び2μg/mLヘパリン(Sigma、#H3149-50KU)を含有する「神経誘導培地」(NIM)と交換した。
【0129】
3日目に、死細胞及びデブリを除去するために、EBを重力で沈降させ、NIMで洗浄し、3.5cmの未処理ペトリ皿(Corning、#351008)内でNIM中で培養した。NIMの半分を毎日交換した。7日目に、1枚の3.5cm皿のEBを、成長因子低減マトリゲル(Corning、#356230)で被覆された6cm皿(Corning、#430166)にプレーティングし、次いで、毎日NIMを交換して維持した。
【0130】
網膜オルガノイドを、26週目に、10E+11GC/オルガノイドの本発明による構築物:AAV-s1000-GFP(血清型PhP.eB)で感染させ、増強されたGFPの発現を、新規の合成プロモーター配列番号1の制御下で誘導した。
【0131】
個々のオルガノイドを超低接着U底96ウェルプレート(Corning、#7007)の単一のウェルに入れ、10E+11GCのAAVを含む30μLの培養培地中、5%CO2で37℃で維持した。5時間後、70μLの新鮮な培地を各ウェルに加えた。1日後、100μLの新鮮な培地を各ウェルに加えた。24時間後、その後48時間ごとに、溶液を新鮮な培地と完全に交換した。感染したオルガノイドを、20%のHam’sF12栄養素混合物(GIBCO、#31765-027)、10%の非働化ウシ胎児血清(Millipore、#es-009-b)、1%のN2サプリメント(GIBCO、#17502-048)、1%のNEAA溶液(Sigma、#M7145)、100μmol/Lのタウリン(Sigma、#T0625)、及び1μmol/Lのレチノイン酸(Sigma、#R2625)を添加したDMEM(GIBCO、#10569-010)中で4週間培養した。
【0132】
オルガノイドを、PBS中4%のPFAで4℃で4時間固定した。固定後、試料をPBSで3×30分間洗浄し、PBS中30%スクロースで4℃で一晩凍結保存した。試料は、使用するまで-80℃で保存した。クライオスタット(MICROM International、#HM560)を用いて、O.C.T.コンパウンド(VWR、#25608-930)に包埋したオルガノイド上で凍結切片(20~40μm)を作製した。切片をスライドガラス上に載置し、室温で4~16時間乾燥させ、使用するまで-80℃で保存した。凍結切片を免疫染色するために、スライドをまず室温で30分間乾燥させ、次いでPBS中で5~10分間再水和させた。次に、スライドを、室温で1時間、PBS中10%の正常ロバ血清(Sigma、#S30-100ML)、1%(wt/vol)のウシ血清アルブミン(BSA;Sigma、#05482-25G)、PBS中0.5%のTriton(登録商標)X-100(Sigma、#T9284-500ML)、及び0.02%のアジ化ナトリウム(Sigma、#S2002-25G)でブロックした。
【0133】
第二に、切片を恒湿チャンバー内で、一次抗体(ウサギ抗GFP抗体(Invitrogen;1:200)、マウスモノクローナル抗ヒト錐体アレスチン7G6(CAR,Zhang,H.et al.Identification and Light-Dependent Translocation of a Cone-Specific Antigen,Cone Arrestin,Recognized by Monoclonal Antibody 7G6. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.44(2003):2858-2867)、及びポリクローナルヤギ抗ChAT(Millipore:1:200))と共にインキュベートした。スライドごとに、一次抗体を、3%の正常ロバ血清、1%のBSA、PBS中0.5%のTriton X-100、及び0.02%のアジ化ナトリウムを添加した100μLのPBS中に室温で一晩希釈した。0.1%のTween(登録商標) 20(Sigma、#P9416-100ML)を含むPBS中で3×15分間洗浄した後、スライドを1:200に希釈した二次抗体(Thermo Fisher Scientific、Alexa Fluor 488、568、または647にコンジュゲートしたロバ二次抗体)及びHoechst(1:1000)と共に暗所で室温で2時間インキュベートした。切片を、0.1%のTweenを含むPBS中で2×15分間洗浄し、PBSで1度15分間洗浄し、ProLong Gold(Thermo Fisher Scientific、#P36934)でマウントした。スピニングディスク顕微鏡(Olympus IXplore Spin共焦点スピニングディスク顕微鏡システム)を用いて画像を取得した。細胞タイプの形態は、0.85μmのzステップのzスタックでの1024×1024ピクセル画像から評価した。画像は、Imarisソフトウェア(v.9.0.2,Bitplane)及びImageJを使用して処理した。
【0134】
図2の中段は、AAV-配列番号1-Catch-GFP及びAAV-配列番号1-GFPでそれぞれ感染させたヒトオルガノイドの調製物のスピニングディスク共焦点顕微鏡画像を示す。一番左の列は解剖した組織の組織学的構造の概略図を表す;2列目は全てCatCh-GFP/GFPによりトランスフェクトされた桿体光受容体におけるGFPによってもたらされた典型的な緑色蛍光を示す;3列目は同じ組織を錐体マーカーCAR(マゼンタ蛍光)で免疫染色した結果を示す;4列目はCatCh-GFP/GFPによるトランスフェクション及び錐体マーカーCAR染色の結果を示し、CatCh-GFP/GFPの緑色蛍光は錐体マーカーCAR染色を示す細胞では見られない;5列目(一番右)は、CatCh-GFP/GFPによるトランスフェクション及び錐体マーカーCAR染色右:CatCh-GFP/GFP及び錐体マーカーCAR染色及びHoechstによる核染色(白色)の結果を示す。
【0135】
図3はCatCh-GFP/GFP-AAV感染した全ヒト網膜オルガノイドの断面の共焦点画像を示し、GFP蛍光が黒色染色として表されている。
【0136】
ヒト網膜のウイルストランスフェクション及び組織調製
ヒト器官型培養のために、網膜片を冷DMEM/F12培地中で単離し、24mmの培養皿に挿入した0.4μm孔のポリカーボネート膜(Corning)上に神経節細胞側を上にして入れ、5%CO2で37℃で、1mLの培養培地:0.1%BSA、10μmol/LのO-アセチル-L-カルニチン塩酸塩、1mmol/Lのフマル酸、0.5mmol/Lのガラクトース、1mmol/Lのグルコース、0.5mmol/Lのグリシン、10mmol/LのHEPES、0.05mmol/Lのマンノース、13mmol/Lの重炭酸ナトリウム、3mmol/Lのタウリン、0.1mmol/Lのプトレシン二塩酸塩、0.35μmol/Lのレチノール、0.3μmol/Lの酢酸レチノール、0.2μmol/Lの(+)-α-トコフェロール、0.5mmol/Lのアスコルビン酸、0.05μmol/Lの亜セレン酸ナトリウム、0.02μmol/Lのヒドロコルチゾン、0.02μmol/Lのプロゲステロン、1μmol/Lのインスリン、0.003μmol/Lの3,3’,5-トリヨード-L-チロニン、2,000Uのペニシリン、及び2mgのストレプトマイシンを添加したDMEM/F12中で維持した。
【0137】
AAV感染のため、網膜片ごとに本発明による構築物AAVBP2-s1000-GFP20μLを適用した。
【0138】
AAVにより誘導された導入遺伝子発現を、ウイルス投与の5週間後に調べた。網膜片をPBS中4%のPFAで30分間固定し、続いて4CのPBS中で洗浄ステップを行い、PBS中10%の正常ロバ血清(NDS)、1%のBSA、0.5%のTriton X-100により室温で1時間処理した。PBS中3%のNDS、1%のBSA、0.5%のTriton X-100中でのモノクローナルウサギ抗GFP抗体(Invitrogen;1:200)、マウスモノクローナル抗ヒトCAR7G6(Zhang,H.et al. Identification and Light-Dependent Translocation of a Cone-Specific Antigen,Cone Arrestin,Recognized by Monoclonal Antibody 7G6. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.44(2003):2858-2867)、及びポリクローナルヤギ抗ChAT(Millipore:1:200)による処理を、室温で5日間実施した。二次ロバ抗ウサギAlexa Fluor-488抗体(Invitrogen;1:200)、抗ヤギAlexa Fluor-633、及びHoechst(1:1000)による処理を2時間行った。切片を洗浄し、ProLong Gold褪色防止試薬(Thermo Fisher Scientific、#P36934)を用いてスライドガラス上にマウントし、Olympus IXplore SpinSR共焦点顕微鏡(Olympus Corp.)を用いて撮像した。細胞タイプの形態は、0.85μmのzステップのzスタックでの512×512ピクセル画像から評価した。画像は、Imarisソフトウェア(v.9.0.2,Bitplane)及びImageJを使用して処理した。
【0139】
図2の上段は、AAV-配列番号1-Catch-GFP及びAAV-配列番号1-GFPでそれぞれ感染させたヒト網膜のスピニングディスク共焦点顕微鏡画像を示す。一番左の列は解剖した組織の組織学的構造の概略図を表す;2列目は全てCatCh-GFP/GFPによりトランスフェクトされた桿体光受容体におけるGFPによってもたらされた典型的な緑色蛍光を示す;3列目は同じ組織を錐体マーカーCAR(マゼンタ蛍光)で免疫染色した結果を示す;4列目はCatCh-GFP/GFPによるトランスフェクション及び錐体マーカーCAR染色の結果を示し、CatCh-GFP/GFPの緑色蛍光は錐体マーカーCAR染色を示す細胞では見られない;5列目(一番右)は、CatCh-GFP/GFPによるトランスフェクション及び錐体マーカーCAR染色右:CatCh-GFP/GFP及び錐体マーカーCAR染色及びHoechstによる核染色(白色)の結果を示す。
【0140】
図3はCatCh-GFP/GFP AAV感染したヒト網膜(上面図)の共焦点画像を示し、GFP蛍光が黒色染色として表されている。
【0141】
マウス網膜のAAV投与及び組織調製
2.5%イソフルランで麻酔した8週齢の野生型C57BL/6Jマウスに対して、眼注射を行った。鋭利な30ゲージの針で水晶体近くの強膜に小さな切開部を作製し、この切開部から網膜下/硝子体内腔に、マイクロマニピュレーターに保持された鈍い5μLのハミルトンシリンジを用いて、2μLのAAVBP2-s1000-Catch-GFP懸濁液を注射した。
【0142】
AAV注射3週間後に網膜を眼杯(eyecup)から切り離し、PBS中4%(wt/vol)パラホルムアルデヒドで30分間固定し、PBSで4℃で24時間洗浄した。抗体の浸透を向上させるために、網膜を30%(wt/vol)スクロースでの凍結保護後、凍結/融解サイクルに供した。PBS中で洗浄後、網膜のホールマウントを、PBS中10%(vol/vol)の正常ロバ血清(Chemicon)、1%(wt/vol)のウシ血清アルブミン(BSA)、0.5%(vol/vol)のTritonX-100、及び0.01%のアジ化ナトリウム(Sigma)を含有するブロッキング緩衝液中で2時間インキュベートした。1:200に希釈した、ラットモノクローナル抗GFP(Nacalai、RRID:AB_2313654)、ウサギポリクローナル抗マウスCAR(Millipore、RRID:AB_1163387)、ヤギポリクローナル抗ChAT(Millipore、RRID:AB_2079751)による一次抗体処理を、PBS中3%(vol/vol)NDS、1%(wt/vol)BSA、0.01%(wt/vol)アジ化ナトリウム、及び0.5%TritonX-100を含有する緩衝液中で室温で5日間行った。Alexa Fluor 568ロバ抗ウサギIgG(H+L,RRID:AB_2534017)、Alexa Fluor 488ロバ抗ラットIgG(H+L,RRID:AB_141709)、Alexa Fluor 568ロバ抗ヤギIgG(H+L,RRID:AB_142581)による二次抗体インキュベーションを、Hoechst 33342(10μg/mL)を添加した緩衝液中で室温で2時間行った。PBS中で洗浄した後、網膜をProlong Gold褪色防止剤(Thermo Fisher Scientific、#P36934)に包埋した。スピニングディスク顕微鏡(Olympus IXplore Spin共焦点スピニングディスク顕微鏡システム)を用いて画像を取得した。細胞タイプの形態は、0.85μmのzステップのzスタックでの1024×1024ピクセル画像から評価した。画像は、Imarisソフトウェア(v.9.0.2,Bitplane)及びImageJを使用して処理した。
【0143】
図2の下の段は、AAV-配列番号1-Catch-GFP及びAAV-配列番号1-GFPでそれぞれ感染させたホールマウントマウス網膜の断面のスピニングディスク共焦点顕微鏡画像を示す。一番左の列は解剖した組織の組織学的構造の概略図を表す;2列目は全てCatCh-GFP/GFPによりトランスフェクトされた桿体光受容体におけるGFPによってもたらされた典型的な緑色蛍光を示す;3列目は同じ組織を錐体マーカーCAR(マゼンタ蛍光)で免疫染色した結果を示す;4列目はCatCh-GFP/GFPによるトランスフェクション及び錐体マーカーCAR染色の結果を示し、CatCh-GFP/GFPの緑色蛍光は錐体マーカーCAR染色を示す細胞では見られない;5列目(一番右)は、CatCh-GFP/GFPによるトランスフェクション及び錐体マーカーCAR染色右:CatCh-GFP/GFP及び錐体マーカーCAR染色及びHoechstによる核染色(白色)の結果を示す。
【0144】
さらに、図3は、CatCh-GFP/GFP(黒色染色)と共にAAV感染したマウス網膜の共焦点画像(上面図)を示す。
【0145】
分析
発現密度は、公表されているヒト網膜(Jonas,J.B.et al.Count and density of human retinal photoreceptors.Graefes Arch.Clin.Exp.Ophthalmol.230(1992):505-510)及びマウス網膜(Jeon,C.J.et al.The Major Cell Populations of the Mouse Retina.J.Neurosci.18(1998):8936-8946)における桿体光受容体の平均密度(細胞/mm)に対する、標識された桿体光受容体の密度の割合(%)として定義した。
【0146】
図4は、ヒト網膜(上段)、ヒト網膜オルガノイド(中段)、及びマウス網膜(下段)における発現の定量プロットを示し、左列:桿体光受容体密度に占めるCatCh-GFP/GFP+細胞密度の割合を定量化したもの;値はn=12共焦点画像からの平均±標準誤差である;右列:CatCh-GFP/GFPを発現する細胞の中での主要な細胞タイプまたはクラス(黒色)及びマイナーな細胞タイプまたはクラス(灰色)の割合(%)として示されたAAV標的特異性を定量化したものである。
【0147】
合成プロモーター配列番号1は、全ヒト桿体光受容体の30.4%及び全マウス桿体光受容体の41.2%において発現を駆動した。網膜オルガノイドにおいて、桿体マーカーNRLで染色された凍結切片におけるmmあたりの桿体光受容体の総数を定量化し、配列番号1が網膜オルガノイドにおいてNRL+細胞の34.6%で発現を駆動したことを算出した(図4、左列)。
【0148】
発現特異性は、AAVにより示されたGFP+細胞集団全体における桿体光受容体の割合(%)を決定することにより定量化した。桿体光受容体における発現は、網膜外顆粒層における細胞体の位置及び錐体アレスチン(CAR)マーカー発現の欠如により同定した(Zhu,Mol Vis 8(2002):462-471.http://www.molvis.org/molvis/v8/a56/)。
【0149】
ヒト網膜及びヒト網膜オルガノイドでは、それぞれ桿体光受容体の86.9%及び100%でGFP発現が観察された。マウス網膜では、観察されたCatch-GFP+細胞の98.4%が桿体光受容体であった(図4、右列)。
【0150】
AAVに組み込まれたプロモーター配列の配列番号1は、マウス、オルガノイド、及びヒトの桿体光受容体において特異的かつ効率的な遺伝子発現を駆動する。このことは、in vivoマウス網膜及びin vitroヒト網膜オルガノイドのような経済的モデル系における桿体光受容体の基礎的及び前臨床的研究に特異的な操作が、網膜疾患メカニズムを発見し、新たな遺伝子治療アプローチを開発することを可能にする。同じウイルスベクターをヒト網膜上で使用できることは、これらの結果を直接的に反映させることを可能とし、したがって臨床における新規な遺伝子治療の適用が加速されることになる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
【配列表】
2024524600000001.app
【国際調査報告】