(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】舌下神経刺激に対する応答レベルを定量するための方法および推定する方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/08 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
A61B5/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501117
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2022069421
(87)【国際公開番号】W WO2023285441
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517022061
【氏名又は名称】ニクソア エス.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コーン, サラ
(72)【発明者】
【氏名】カツィール, ドロン
(72)【発明者】
【氏名】ツクラン, ロイ
(72)【発明者】
【氏名】トバーマン, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】リキテンスタット, アッサフ
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン, ドワイト
(72)【発明者】
【氏名】ロー, ギヨーム
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SS04
4C038SS09
4C038ST04
4C038SV03
4C038SX07
(57)【要約】
本開示の目的のうちの1つは、先行技術の欠点に応じることおよび神経刺激で処置した睡眠時無呼吸患者の生理学的データの短時間分析を可能にして、異なる刺激形状において適用される治療の有効性および/または患者状態を定量する方法を提供することである。そのようにするために、本明細書で示される方法は、特に、コンピューター実行方法であり得る。この方法は、d)上記生理学的データの規定の時間セグメントにおいてON時点およびOFF時点を検出する工程であって、ここで各ON時点は、上記被験体が刺激された瞬間に対応し、各OFF時点は、上記被験体が刺激されなかった瞬間に対応する工程; e)少なくとも1回の呼吸周期を検出する工程を含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経刺激に対する応答レベルを定量するためのコンピューター実行方法であって、前記方法は、以下の工程:
a)刺激パラメーターデータをデータ処理ユニットに移す工程;
b)少なくとも、被験体に対応する生理学的データのサブグループを前記データ処理ユニットに移す工程;
c)前記被験体の気道確保に対する治療の影響に対応する前記生理学的データの少なくとも1つの生理学的シグナルを特定する工程;
d)前記生理学的データの規定の時間セグメントにおいてON時点およびOFF時点を検出する工程であって、ここで各ON時点は、前記被験体が刺激された瞬間に対応し、各OFF時点は、前記被験体が刺激されなかった瞬間に対応する工程;
e)少なくとも1回の呼吸周期を検出する工程;
f)検出された各呼吸周期に関して、気流セグメントを分析し、それがON時点とまたはOFF時点と同期化したか否かをチェックする工程;
g)各気流セグメントを、ON/OFF時点とのそのそれぞれチェックした同期化に基づいて2つのグループのうちの1つにソートする工程であって、前記2つのグループは、ON時点と同期化される気流シグナルを含むONグループおよびOFF時点と同期化される気流シグナルを含むOFFグループである工程;
h)前記2つのグループの各々に関して、各それぞれのグループの全ての気流セグメントからの気流曲線を別個に決定する工程;
i)前記2つの気流の各々に関して、空気容積を計算する工程;
j)前記2つの気流の可視化および/または前記2つの容積の比に基づいて、刺激の影響を決定する工程、
を包含する方法。
【請求項2】
前記生理学的データはPSGデータを含むという点で特徴づけられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、以下の工程:
c’)前記移した生理学的データおよび前記移した刺激パラメーターデータを、互いに重ね合わせる工程であって、ここで工程c’)は、好ましくは、工程c)の前に行われる工程、
をさらに包含するという点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、以下の工程:
c’’)両方の移したデータ内の少なくとも1つの時間セグメントを規定する工程であって、ここで工程c’’)は、好ましくは、工程c’)の前に行われる工程、
をさらに包含するという点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、以下の工程:
d’)前記規定の時間セグメントにおける呼吸周期内で全ての検出した呼吸周期を一緒に並べる工程.
をさらに包含する点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
検出される前記ON時点および前記OFF時点は、前記生理学的データのEMGシグナルに基づいて各々検出されるという点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの呼吸周期は、前記生理学的データの呼吸バンドシグナルに基づいて検出されるという点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程i)における前記ONグループの前記決定された平均気流は、神経刺激によって誘導される平均気流(A)に対応し、工程i)におけるOFFグループの前記決定された平均気流は、神経の刺激なしの平均気流(B)に対応するという点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ベースラインは、工程1)において決定され、前記ベースラインは、前記OFFグループ内で決定された平均気流に対応するという点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、以下の工程:
k)神経刺激で吸気された空気容積および前記神経の刺激なしの平均気流を計算する工程、
をさらに包含するという点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
神経刺激で吸気された空気容積の前記計算は、神経刺激によって誘導された気流(A)のグラフ化された吸気部分下の面積に基づき;
神経の刺激なしの平均気流の前記計算は、神経の刺激なしの気流(B)のグラフ化された吸気部分下の面積に基づく、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、刺激ヒット率の計算をさらに包含するという点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
刺激ヒット率の前記計算は、以下の工程:
l)各呼吸周期に関して、前記神経刺激で同期化した吸気相のパーセンテージを決定し、所望の閾値を予め規定する工程;
m)前記予め規定された閾値未満の呼吸周期と比較して、前記神経刺激と同期化したそれらの吸気相の前記予め規定された閾値を上回る呼吸周期のパーセンテージとして全体ヒット率を計算する工程、
を包含するという点で特徴づけられる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記神経刺激と同期化した吸気相のパーセンテージは、前記検出されたON時点および/またはOFF時点に基づいて決定されるという点で特徴づけられる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
以下の中間結果および/または最終結果のうちの少なくとも1つは、
刺激ON/OFF時点
呼吸周期
気流シグナル
平均気流
平均空気容積
刺激の影響
気流の吸気部分
神経刺激で吸気された空気容積
神経の刺激なしで吸気された空気容積
ヒット率
平均呼吸数
がグラフ化して示される、という点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記刺激パラメーターデータおよび/または前記生理学的データは、リアルタイムで連続して得られるという点で特徴づけられる、前述の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記方法は、以下の工程:
k)神経刺激プロトコールは、工程j)において決定された刺激の影響に基づいて手動でまたは自動的に調節される工程、
をさらに包含するという点で特徴づけられる、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本明細書以降に記載される本開示の主題は、神経刺激に対する応答レベルを定量する方法に言及する。特に、上記主題は、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の処置における神経刺激に対する応答レベルを定量するための方法に言及する。
【背景技術】
【0002】
背景
神経調整、例えば、神経の電気刺激は、医療処置の信頼性のあるかつ効果的なタイプとして先行技術において公知である。それは、身体自体の自然な神経プロセスと相互作用することによって、多くの生理学的状態および障害に取り組む機会を提示する。神経調整は、中枢神経系、末梢神経系、または自律神経系における活動(電気的または化学的)の阻害(例えば、遮断)、刺激、改変、調節、または治療的変更を含む。神経系の活動を調整することによって、いくつかの異なる目的が達成され得る。例えば、運動ニューロンは、筋収縮を引き起こすために適切な時間で刺激され得る。さらに、感覚ニューロンは、疼痛を軽減するために遮断され得るか、または被験体にシグナルを提供するために刺激され得る。さらに他の例では、自律神経系の調整は、種々の不随意の生理学的パラメーター(例えば、心拍数および血圧)を調節するために使用され得る。神経調整は、いくつかの疾患または生理学的状態を処置する機会を提供し得る。種々のデバイスおよび技術が,目的の組織の最適な刺激を提供しようとする試みにおいて使用されている。
【0003】
本開示の意味の中で、用語「刺激(stimulation)」、「調整(modulation)」、「神経刺激(neurostimulation)」および「神経調整(neuromodulation)」とは、何か他のものが任意の所定の文脈から明らかにならなければ、同義語的に使用される。
【0004】
代表的には、神経刺激因子は、電気パルスの形態にある治療を送達し、標的位置(例えば、特定の神経またはそのセクション)に近接して1またはこれより多くの電極を含む。電気刺激は、種々のパラメーター(例えば、電極の極性、電圧、電流振幅、パルス周波数、パルス幅などを通じて、プログラム可能であり、調節可能である。なぜならこれらは、治療の必要性のあるユーザーに送達されるべき電気刺激治療を規定するからである。このようなパラメーターは、刺激治療から望まれる所望の刺激および最終結果を送達するために、プログラムされ得るかまたはプログラム可能であり得る。
【0005】
神経調整が適用され得る状態のうちの1つは、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、すなわち、睡眠中の上気道の部分的または完全な閉塞の再発エピソードによって特徴づけられる呼吸障害である。OSAの原因のうちの1つは、舌筋が睡眠に関連する筋緊張喪失に起因する咽頭における吸気陰圧に耐えることができないことである。舌が後方に引っ張られるにつれて舌は上気道を閉塞し、換気が減少し、肺および血中酸素レベルが低下する。例えば、舌下神経および/または頚神経ワナの刺激は、舌筋、例えば、頤舌筋を収縮させ、それによって、気道を開放して、閉塞しないように維持する。なぜなら頤舌筋は、舌の前方への動きおよび咽頭前壁の硬化を担っているからである。
【0006】
睡眠時無呼吸事象の発生を検出、モニターおよび試験するために、ならびに睡眠時無呼吸の処置の方法として、神経刺激、および特に舌下神経刺激または頚神経ワナの神経刺激(HGNSおよびACS)の有効性を試験するために、睡眠ポリグラフィー(PSG)が規則的に実行される。PSGは、多くの身体機能、例えば、脳活動(EEG)、眼球運動(EOG)、筋活動または骨格筋活性化(EMG)、熱電対、酸素飽和度および心リズム(ECG)などのモニタリングを可能にする。さらに、本開示によれば、PSGデータは、気流データおよび呼吸バンドシグナルをさらに含む。前述のデータは、任意の標準的なPSGベースの方法の間に規則的に捕捉され得る。
【0007】
先行技術
睡眠時無呼吸処置の有効性に関する研究、または「身体機能評価(Functional capacity evaluations)」(FSE)は、先行技術において公知である。それらはしばしば、治療有効性の指数として、無呼吸低呼吸指数(AHI)または酸素飽和度低下指数(ODI)の低減に依拠する。しかし、これらの技術は、長期間のPSGデータ収集を必要とする(ここで長期間とは、二晩より長い睡眠試験を意味し得る。一晩はベースラインとしての治療前のもの、もう一晩は、処置後のもの)。長期間のPSGデータをいったん収集すると、上記AHI/ODIスコア付けを比較して、上記治療の有効性を評価する。しかし、この方法で得られる結果は、夜間/治療の開始時に治療応答の用量設定または推測をガイドするために使用することはできない。さらに、その結果は、変動性が高い傾向にある。
【0008】
HGNS治療の有効性を測定するための別の周知の方法は、HGNS誘導性気道確保を反映し得る舌の突出または任意の他の解剖学的変化の視覚的観察に依拠する。これらの方法は、定量的であるよりむしろ定性的であり、従って、信頼性を欠くという欠点を有する。
【0009】
他の試験は、薬物誘導性睡眠時内視鏡検査(drug-induced sleep endoscopy)(DISE)のような手順を含む侵襲性の性質のものであり得る。この方法は、用量設定をガイドし、治療的HGNSおよび/またはACS設定を特定するために、治療の開始時に使用される。しかし、この方法の欠点は多い:それは、呼吸の遮断もしくは停止およびアレルギー反応のリスクに伴って、非常に侵襲的である。第2に、それは薬物誘導性であることから、その結果は、通常の睡眠条件において必要とされる実際の治療レベルを反映しないこともある。最後に、自然な睡眠が、特に、身体の体位(これは、治療応答に顕著に影響し得る)に関しては正確に再現されない。
【0010】
先行技術から公知のさらなるアプローチとしては、超音波技術(Korotunら, 2020, https://doi.org/10.1093/sleep/zsaa056.645; Al-Sherifら, 2020, doi: 10.21037/jtd-cus-2020-001)、断層撮影技術(Xiaoら, 2020, doi: 10.1177/0194599820901499)またはベースライン終夜試験(baseline overnight sleep studies)(Schwartzら, 2011, doi: 10.1164/rccm.201109-1614OC)が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Korotunら, 2020, https://doi.org/10.1093/sleep/zsaa056.645
【非特許文献2】Al-Sherifら, 2020, doi: 10.21037/jtd-cus-2020-001
【非特許文献3】Xiaoら, 2020, doi: 10.1177/0194599820901499
【非特許文献4】Schwartzら, 2011, doi: 10.1164/rccm.201109-1614OC
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要旨
本開示の目的のうちの1つは、先行技術の欠点に応じることおよび神経刺激で処置した睡眠時無呼吸患者の生理学的データの短時間分析を可能にして、異なる刺激形状において適用される治療の有効性および/または患者状態を定量する方法を提供することである。そのようにするために、本明細書で示される方法は、特に、コンピューター実行方法であり得る。
【0013】
本開示の1つの局面によれば、神経刺激に対する応答レベルを定量するためのコンピューター実行方法であって、上記方法は、以下の工程:
a)刺激パラメーターデータをデータ処理ユニットに移す工程;
b)少なくとも、被験体に対応する生理学的データのサブグループを上記データ処理ユニットに移す工程;
c)上記被験体の気道確保に対する治療の影響に対応する上記生理学的データの少なくとも1つの生理学的シグナル、例えば、気流シグナルを特定する工程;
d)上記生理学的データの規定の時間セグメントにおいてON時点およびOFF時点を検出する工程であって、ここで各ON時点は、上記被験体が刺激された瞬間に対応し、各OFF時点は、上記被験体が刺激されなかった瞬間に対応する工程;
e)少なくとも1回の呼吸周期(本開示では「呼吸サイクル(respiratory cycle)」ともいわれる)を検出する工程;
f)検出された各呼吸周期に関して、気流セグメントを分析し、それがON時点とまたはOFF時点と同期化したか否かをチェックする工程;
g)各気流セグメントを、ON/OFF時点とのそのそれぞれチェックした同期化に基づいて2つのグループのうちの1つにソートする工程であって、上記2つのグループは、ON時点と同期化される気流シグナルを含むONグループおよびOFF時点と同期化される気流シグナルを含むOFFグループである工程;
h)上記2つのグループの各々に関して、上記呼吸周期内でのそれらの相対的発生について各それぞれのグループの全ての気流の時点からの気流曲線を別個に決定する工程;
i)上記2つの気流の各々に関して、空気容積を計算する工程;
j)上記2つの容積の比に基づいて、刺激の影響を決定する工程、
を包含する方法が提供される。
【0014】
本開示に従う神経刺激は、特に、閉塞性睡眠時無呼吸の処置のために、被験体または患者の上気道に対応する神経または複数の神経の、すなわち、頤舌筋に対して効果を有する神経または複数の神経の刺激または調整を含み得る。この点において、神経刺激は、舌下神経または頚神経ワナの神経の刺激に、特に言及し得る。
【0015】
有利なことには、生理学的データのサブグループのみが、本開示の方法を行うために必要とされる。サブグループは、例えば、被験体に対応する生理学的データの1またはこれより多くのサブセット、例えば、PSGのみまたはさらには上記PSGデータの特異的軌跡のみを含み得る。上記生理学的データのこのサブグループは、次いで、処理ユニットに移され得る。
【0016】
工程c)の生理学的シグナルは、電気シグナルまたは非電気シグナルのうちの任意のタイプであり得る。好ましくは、上記生理学的シグナルは、PSGシグナルを含む。しかし、上記生理学的シグナルはまた、ライブイメージまたは音であり得る。
【0017】
工程h)において決定される気流曲線は、好ましくは、平均気流曲線であり得る。しかし、平均気流曲線、最大気流曲線または最小気流曲線が決定されることも可能である。同様に、工程i)において計算される空気容積は、好ましくは、平均空気容積であり得る。しかし、平均空気容積、最大空気容積または最小空気容積が計算されることも可能である。
【0018】
さらに、上記方法は、以下の工程:
k)上記規定の時間セグメント内で、ON時点と同期化した呼吸吸気(またはその一部)のパーセンテージに基づいて治療「ヒット率(hit rate)」を決定する工程;
l)上記規定の時間セグメント内での被験体平均呼吸数を決定する工程、
を包含し得る。
【0019】
評価されるべき上記神経刺激の全ての関連するパラメーターは、例えば、データファイル(例えば、xlsタイプのデータファイル(より一般的には、Excelシートといわれる)として保存され得る。示されたコンピューター実行方法で使用されるデータ処理ユニットは、次いで、上記xlsデータファイルから、目的のそれぞれのパラメーターを自動的に検索するようにプログラムされ得る。これらのパラメーターとしては、例えば、パルス周波数、パルス持続時間、振幅、トレイン持続時間内の傾斜、トレインの長さ、刺激のトレイン間隔などが挙げられ得る。さらに、刺激パラメーターデータは、上記被験体の生理学的パラメーターおよび上記被験体の身体/頭部の位置および/または睡眠ステージが挙げられ得る。
【0020】
上記生理学的データは、好ましくは、PSGデータであり得る。ここでPSGデータは、例えば、脳活動(EEG)、眼球運動(EOG)、筋活動または骨格筋活性化(EMG)、熱電対、酸素飽和度、心リズム(ECG)、気流 データおよび呼吸バンドシグナルを含み得る。上記生理学的データおよび/または上記PSGデータは、edfタイプのデータファイルとして保存される。刺激パラメーター入力ファイルの場合のように、上記データ処理ユニットは、上記PSGデータの垢に含まれる目的のそれぞれのシグナルを自動的に検索するようにプログラムされ得る。
【0021】
有益な実施形態によれば、上記方法は、以下の工程:
b’)上記移した生理学的データおよび上記移した刺激パラメーターデータを互いに重ね合わせる工程、
を包含し得る。これは、ユーザーが、上記生理学的データを、固定された刺激形状および被験体の状態の時間セグメントへと分割することを可能にする。
【0022】
上記データ処理ユニットは、本明細書で示される方法の全ての論理的工程を行うように構成されたプロセッサーの部分であり得る。従って、上記プロセッサーは、少なくとも1つの入力変数に対して論理的操作を行うように構成され得る任意の電子回路を含み得る。上記プロセッサーとしては、1またはこれより多くの集積回路、マイクロチップ、マイクロコントローラー、およびマイクロプロセッサーが挙げられ得、これらは、命令を実行するかまたは論理的操作を行うために適切であり得る、中央演算処理ユニット(CPU)、デジタル信号処理ユニット(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、または当業者に公知の任意の他の回路の全てまたは一部であり得る。好ましい実施形態によれば、上記プロセッサーは、コンピューターまたは携行式コンピューティングデバイスの一部である。
【0023】
上記ON時点およびOFF時点は、それぞれ、刺激のオンまたはオフである、上記PSGデータのEMGシグナル内のタイミングとして規定される。この工程は、舌下神経または頚神経ワナの神経刺激への応答レベルの定量を可能にするという利点を有する。
【0024】
上記示される方法は、好ましくは、神経刺激治療の有効性を分析および測定するために使用される技術者/FCEツールとともに行われ得る。それは特に、EMGシグナルに基づいて、上記被験体の神経刺激の実際の周期の検出を可能にする。上記EMGシグナルを使用して、気流シグナルは、とりわけ、HGNSおよび/またはACSなしのベースライン気流、HGNSおよび/またはACSをと同期化した気流、ならびに引き続いて、適用される治療の結果として上記被験体の気流における実際の相対的変化を定量するために、呼吸ごとに分析され得る。
【0025】
上記に対してさらに、上記示される方法は、刺激事象と同期化したか、またはより正確には、先に行われた刺激の間の刺激事象と同期化した呼吸数および/または吸気数(または吸気の平均部分)を定量することを可能にする。規定の時間セグメント内で、全呼吸数(すなわち、HGNSと同期化した呼吸数および/または吸気数、これに加えて、HGNSと同期化した状態にない呼吸数および/または吸気数)に対するHGNSおよび/またはACSと同期化した呼吸数および/または吸気数の割合は、「ヒット率」といわれる。上記のデータの組み合わせは、所定のHGNSおよび/またはACS治療の有効性を決定するために、信頼性のある方法を提供する。従って、上記方法は、適用されるHGNSおよび/またはACS治療に対する応答の推定のために非常に有用であり、従って、刺激設定のより良好かつより正確な用量設定を可能にする。
【0026】
さらに、上記提示される方法は、EMGシグナル、気流シグナルおよび呼吸バンドシグナル(これらは、PSGデータから全て得られ得る)の非侵襲的受動的データ収集のみに基づいて、移植後一晩から、睡眠の任意の部分、およびより正確には短時間セグメントに関してHGNSおよび/またはACS応答評価を可能にする。これは、迅速な結果をもたらす。
【0027】
さらに、上記分析される治療の有効性は、睡眠時無呼吸関連症状(例えば、AHI、ODIなど)の潜在的な低減の定量を間接的にのみ通じてというよりむしろ、上記被験体の気流に対する上記治療の影響に直接的に基づいて評価され得る。
【0028】
本明細書で開示される神経刺激に対する応答レベルを定量するためのコンピューター実行方法の好ましい実施形態によれば、上記方法は、以下の工程:
c’’)両方の移したデータの少なくとも1つの時間セグメントを規定する工程であって、ここで工程c‘’)は、好ましくは、工程c’)の前に行われる工程、
をさらに包含し得る。
【0029】
従って、上記方法は、被験体からのPSGデータの所望の時間範囲内でのHGNSおよび/またはACSの有効性の正確な定量を可能にする。この範囲は、非常に小さいものであるように選択され得、従って、従来のPSGベースの方法を超える明確な時間的な利点を上記方法に与える。
【0030】
結果として、上記FSEは、非常に主観的であり得る睡眠時無呼吸症状の視覚的なスコア付けよりむしろ、治療パラメーターの客観的で定量的、かつ信頼性のある測定に基づき得る。
【0031】
上記方法は、検出されるON時点およびOFF時点が各々、上記PSGデータのEMGシグナルに基づいて検出されるという点でさらに特徴づけられ得る。さらに、上記少なくとも1つの呼吸周期はまた、上記PSGデータの呼吸バンドシグナルに基づいて検出され得る。具体的な実施形態によれば、少なくとも70の呼吸周期が、上記生理学的データの呼吸バンドシグナルに基づいて検出され得る。呼吸周期の検出が、上記生理学的データの他のシグナル、例えば、運動センサまたは音波センサによって得られるシグナルに基づき得ることがまた、可能である。
【0032】
工程g)におけるONグループの決定された平均気流は、特に、神経刺激によって、例えば、舌下神経または頚神経ワナの神経の刺激によって誘導される平均気流に対応し得る。さらに、工程g)におけるOFFグループの決定された平均気流は、神経の刺激なしの平均気流に対応し得る。
【0033】
工程h)において決定されるベースラインが提供され得、上記ベースラインが上記OFFグループ内で決定された平均気流に対応することはまた、可能である。上記ベースラインとして上記OFFグループを使用することは有益である。なぜならそれは、刺激処置前のベースラインPSGの必要性なしに、上記治療の影響の決定を可能にするからである。
【0034】
さらに、神経刺激と同期化して吸気される平均空気容積の計算は、神経刺激によって誘導される平均気流(A)のグラフ化された吸気部分下の面積に基づき得る。よって、上記神経の刺激なしの平均気流の計算はまた、それぞれの神経の刺激なしの平均気流(B)のグラフ化された吸気部分下の面積に基づき得る。
【0035】
好ましい実施形態において、上記方法は、刺激ヒット率の計算をさらに含み得る。上記刺激ヒット率は、特に、以下の工程:
l)呼吸周期に関して、上記それぞれの神経刺激と同期化した吸気相のパーセンテージを決定する工程、
m)上記それぞれの神経刺激と同期化したそれらの吸気相の予め規定された閾値より大きい呼吸周期と、上記予め規定された閾値より小さい呼吸周期とを比較したパーセンテージとして、全体ヒット率を計算する工程、
を包含し得る。
【0036】
例えば、上記ヒット率=80%である場合、これは、ある特定の呼吸量の80%が、HGNSおよび/またはACSと同期化したそれらの吸気相の予め規定された閾値より高いことを意味する.同様に、20%は、HGNSおよび/またはACSと同期化したそれらの吸気相の予め規定された閾値より低かった。
【0037】
好ましくは、上記それぞれの神経刺激と同期化した吸気相のパーセンテージは、検出されるON時点および/またはOFF時点に基づいて決定され得る。
【0038】
上記方法の有益な実施形態によれば、以下の中間結果および/または最終結果のうちの少なくとも1つが、グラフ化して示され得る:
-刺激ON/OFF時点
-呼吸周期
-気流シグナル
-気流
-空気容積
-刺激の影響
-平均気流の吸気部分
-それぞれの神経刺激で吸気された空気容積
-それぞれの神経の刺激なしで吸気された空気容積
-それぞれの神経刺激と同期化した吸気相のパーセンテージ
-平均呼吸数
-ヒット率。
【0039】
工程h)において決定される気流曲線は、好ましくは、平均気流曲線であり得る。しかし、平均気流曲線、最大気流曲線または最小気流曲線が決定されることはまた、可能である。同様に、工程i)において計算される空気容積は、好ましくは、平均空気容積であり得る。しかし、平均空気容積、最大空気容積または最小空気容積崖違算されることはまた、可能である。
【0040】
特に、上記の結果は、コンピューターまたは携行式電子デバイス(例えば、スマートフォン)のスクリーン上にディスプレイされ得る。好ましい実施形態において、上記結果は、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を含む特定のプログラムを使用してディスプレイされ得る。
【0041】
上記コンピューター実行方法の好ましい実施形態によれば、上記刺激パラメーターデータおよび/または上記生理学的データは、上記方法の間にリアルタイムで連続して得られ得る。特に、上記方法は、リアルタイムデータ(すなわち、現在行われている刺激処置の間に得られるデータ)が使用されるか、または保存したデータ(すなわち、過去の刺激治療の間に得られたデータ)が使用されるかのいずれかを選択することを可能にする。
【0042】
上記に加えてさらに、上記方法は、以下の工程:
k)神経刺激プロトコールは、工程j)において決定された刺激の影響に基づいて調節される工程、
をさらに包含し得る。
【0043】
上記刺激プロトコールの調節は、手動でまたは自動で行われ得る。このようにして、上記方法はまた、閉鎖ループ様式で使用され得、ここで上記方法に伴って得られる結果は、上記被験体の刺激を調節するために直接使用される。従って、インテリジェントまたはインタラクティブ方法が、本開示に従って示され得る。
【0044】
本明細書で示される方法は、例えば、HGNSおよび/またはACS設定の用量設定を促進するために、HGNSおよび/またはACS治療の初期段階において使用され得る。さらに、上記方法は、用量設定の間に部位での治療応答を推定するために使用され得る。代わりに、または上記に加えて、上記方法は、HGNSおよび/またはACS患者から記録した任意のPSGデータを(例えば、研究活動のために)遡及的に使用し得る。
【0045】
本発明は、本明細書で記載される実施形態の1つに限定されるのではなく、多くの他の方法において改変され得る。
【0046】
特許請求の範囲、明細書および図面によって開示される全ての特徴、ならびに全ての利点(構成的な事項、空間配置および方法論の工程を含む)は、それら自体で、または互いとの種々の組み合わせによって、いずれかで本発明に必須であり得る。
【0047】
例示的な実施形態の簡単な説明
添付の図面(これは、本明細書の中に組み込まれかつ一部として構成される)は、本開示の主題のいくつかの例を図示する。図面は、以下を示す:
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1a】好ましい実施形態に従う方法の工程を含むフローチャート;
【
図1b】別の実施形態に従う方法の工程を含むフローチャート;
【発明を実施するための形態】
【0049】
例示的な実施形態の詳細な説明
図1aは、好ましい実施形態に従う方法の工程S1~S7を含むフローチャートを示す。
図1aに示される方法は、第1の工程S1を含む: 被験体に対応する生理学的データ(
図1aに示される実施形態の場合には、PSGデータ)および刺激パラメーターデータを、データ処理ユニット(例えば、コンピューター)に移す。上記パラメーターデータは、好ましくは、.xlsファイルとして保存され得る。次いで、上記示されるコンピューター実行方法で使用されるデータ処理ユニットは、上記データファイルから目的のそれぞれのパラメーターを自動的に検索するようにプログラムされ得る。上記生理学的データは、好ましくは、.edfファイルとして保存され得る。Edfファイルは、任意のPSG試験の標準化デジタルフォーマットである。同様に、上記データ処理ユニットは、上記生理学的データに含まれる目的のそれぞれのシグナルを自動的に検索するようにプログラムされ得る。
【0050】
両方のデータが、上記データ処理ユニットに移された後、プロセッサーは、第2の工程S2に従って、上記移したデータにおける刺激トレイン(すなわち、上記ON/OFF時点)および呼吸周期を自動的に検出する。このようにして、上記生理学的データ内のON時点およびOFF時点が検出される。上記ON時点およびOFF時点は、上記刺激が、それぞれオンまたはオフである上記PSGデータのEMGシグナル内のタイミングとして規定される。
【0051】
図1aおよび
図2に示されるように、S2の後に、第3の工程S3が続き得る。工程S3によれば、上記検出される刺激トレイン(すなわち、上記ON/OFF時点)は、上記生理学的データから検索された気流シグナルの上に重ね合わせられる。好ましくは、この工程はまた、そこで実行される方法を行うために使用されるコンピューターのプロセッサーによって自動的に行われる。刺激トレインを気流シグナル上に重ね合わせた後に、その重ね合わせデータは、
図2に示されるように、改善された可視化のためにカラーコード化され得る。
【0052】
S3の後に、第4の工程S4が行われる: 規定された時間セグメントにおける呼吸周期内の全ての検出された呼吸を一緒に並べる。
【0053】
ON時点およびOFF時点が検出され、その検出された呼吸が一緒に並べられた後、工程S5が続く: 呼吸ごとに、気流セグメントの一部をONグループまたはOFFグループのいずれかへと分離し、ここで上記ONグループは、ON時点と同期化されている気流シグナルを含み、上記OFFグループは、OFF時点と同期化されている気流シグナルを含む。
【0054】
上記2つのグループに基づいて、工程S6が行われ、その工程の間に、平均気流曲線は、その2つのグループの各々に関して別個に計算される。これらの曲線は、ON時点またはOFF時点(上記ONグループまたは上記OFFグループのいずれかに関して計算されている曲線に依存する)と同期化されている平均単一呼吸周期の気流シグナルいずれかに対応し、吸気部分1a、1bを含む(
図2を参照のこと)。平均気流曲線1a、1bの各々の吸気部分下の面積に基づいて、神経刺激と同期化したかまたは神経刺激と同期化していないかのいずれかで吸気されたそれぞれの平均空気容積が計算され得る。
【0055】
最後に、工程S7が行われ得る: 神経刺激と同期化した呼吸吸気の、検出された呼吸に対するパーセンテージ(ヒット率)を決定する。
【0056】
図1bの方法は、
図1bが閉鎖ループ法を記載するという点で
図1aの方法とは異なる。特に、
図1bの方法に使用される移したデータは、リアルタイムで、すなわち、被験体セッションまたは患者の刺激中またはその間に得られる(工程S1を参照のこと)。
【0057】
上記方法がいったん、例えば、ヒット率の形態で結果を生じたら、被験体の刺激に使用される刺激パラメーターは、それらの結果に基づいて調節され得る。これは、手動でまたは自動的のいずれかで起こり得る。
【0058】
図2および
図3は、好ましくは、適切なデバイス上にディスプレイされるように、中間結果(
図2)および最終結果(
図3)を示す。
【0059】
参照数字のリスト
Sn Step n