(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】電磁的または電気的に制御された自発呼吸のための刺激方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240628BHJP
A61N 1/40 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501175
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2022053800
(87)【国際公開番号】W WO2022175317
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】102021103734.4
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021110445.9
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523473202
【氏名又は名称】スティミット アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】レイモンドス,コンスタンティノス
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ21
4C053LL12
(57)【要約】
本発明は、生物の1つまたは複数の神経および/または筋肉を電気信号で刺激するための電気刺激器具であって、
a)電気刺激器具は少なくとも1つの信号出力デバイスを有し、それによって生成された電気刺激信号が、少なくとも1つの神経および/または1つの筋肉に供給され得る、
b)電気刺激器具は少なくとも1つの制御デバイスを有し、少なくとも1つの制御デバイスは、少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号が生物の筋収縮を生成することができ、それによって、生物の呼吸が目標指向的に影響を及ぼされ得るようなやり方で少なくとも1つの信号出力デバイスを活性化するように構成されている
といった特徴を有する電気刺激器具に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的、電磁的、および/または磁気的に生成される刺激信号を用いて生物の1つまたは複数の神経および/または筋肉を刺激するための電気刺激器具であって、
a)前記電気刺激器具は少なくとも1つの信号出力デバイスを有し、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって、電気的、電磁的、および/または磁気的に生成された刺激信号が、少なくとも1つの神経および/または1つの筋肉に供給され得る、
b)前記電気刺激器具は少なくとも1つの制御デバイスを有し、前記制御デバイスは、前記少なくとも1つの信号出力デバイスを活性化して、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号が前記生物における筋収縮を生成し得、これによって、前記生物の呼吸に目標指向的に影響を及ぼすことができるように構成されている、
といった特徴を有する、電気刺激器具。
【請求項2】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号の強度を、前記生物の呼吸サイクルにわたって、数段階で、および/または一様に変更するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1に記載の電気刺激器具。
【請求項3】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号の前記強度を、前記生物の呼気相中に増加したレベルに保つように構成されており、このレベルでは、刺激信号によって生成される前記筋収縮は、ゼロよりも大きいが、少なくとも、呼気の終わりにおいて、予備吸気量の最大75%、まだ肺に存在する程度である、ことを特徴とする、請求項1または2に記載の電気刺激器具。
【請求項4】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記生物の前記呼吸を、呼吸深度の所定の値、値範囲および/または時間的変化に制御または調整するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項5】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記生物の前記呼吸を、40呼吸サイクル/分よりも高い呼吸頻度に制御または調整するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項6】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記生物の前記呼吸を、制限された期間にわたって、前記生物の生命を維持するガス交換のためには低すぎる呼吸深度へと制御または調整するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項7】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力装置によって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記生物の呼気相の期間を吸気相の期間の0.2~1.3倍にすることによって、完全な呼気を防止するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項8】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記呼吸サイクルの特性を、前記呼吸サイクルの所定のターゲット特性へと制御するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項9】
前記生物の前記呼吸サイクルの特性の現在の測定値が、少なくとも1つのセンサによって連続的に判定されて前記制御デバイスに供給され、前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記呼吸サイクルの前記特性を、前記測定値に応じて、前記呼吸サイクルの所定のターゲット特性へと調整するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項10】
自発呼吸インパルスの現在の測定値が、前記生物の自発呼吸インパルスを検知することができる少なくとも1つの自発呼吸インパルスセンサによって連続的に判定されて前記制御デバイスに供給され、前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを、自発呼吸インパルスの前記測定値に応じて、特に自発呼吸インパルスと同期したやり方で変更するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項11】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記生物の腹腔内圧力を、所定の値、値範囲および/または時間的変化に制御または調整するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項12】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、呼吸神経および/または呼吸中枢の目標指向的な励起を実行するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項13】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、多数の呼吸サイクルにわたって、前記呼吸サイクルの前記特性を、前記呼吸サイクルの所定のターゲット特性へと制御または調整し、その後、多数の呼吸サイクルにわたって前記生物の前記呼吸サイクルに影響がなく、その後、多数の呼吸サイクルにわたって、前記呼吸サイクルの前記特性を、前記呼吸サイクルの所定の目標特性に再び制御または調整するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項14】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、多数の呼吸サイクルにわたって、前記生物の前記呼吸によって実行される前記ガス交換に必要ではない前記生物の呼吸筋の筋収縮を励起し、したがって筋力トレーニングを生成するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項15】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、呼吸状態を、増加した値に制御または調整し、および/または前記呼吸状態を前記吸気相に移行させるように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項16】
前記呼吸深度の現在の測定値が、前記生物の前記呼吸深度の測定値を検知することができる少なくとも1つの呼吸深度センサによって連続的に判定されて前記制御デバイスに供給され、前記制御デバイスが、前記呼吸深度の前記測定値に基づいて、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記生物の前記呼吸を、前記呼吸深度の所定の値、値範囲および/または時間的変化に調整するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項17】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記呼吸深度および/または前記吸気相における体積流量を所定の最大値に制限するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項18】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記呼気相における体積流量を、所定の最大値に制限し、および/または前記呼気相における前記生物の平均的な固有の体積流量と比較して低減するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項19】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、前記呼気相の期間を、前記生物の前記呼気相の平均的な固有の期間と比較して短縮するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項20】
前記制御デバイスが、呼吸サイクルにわたって、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号の前記強度を、前記吸気相において増加し、前記呼気相において再び減少するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項21】
前記生物の呼吸器系に空気圧でおよび/または電気的に結合され、前記生物の空気の流入および/または流出の体積流量を調節可能な貫通流制御アクチュエータを、前記貫通流制御アクチュエータによって前記吸気相におけるおよび/または前記呼気相における体積流量が少なくとも一時的に制限または低減するようなやり方で、呼吸サイクルにわたって可変的に活性化するように、前記制御デバイスが構成されている、ことを特徴とする、請求項1から20のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項22】
前記自発呼吸インパルスセンサが、前記生物の前記呼吸を制御する前記生物の神経インパルス信号を検知することができる神経インパルスセンサとして設計されている、ことを特徴とする、請求項1から21のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項23】
前記制御デバイスが、可変の陽圧および/または陰圧を生成することによって前記生物を換気するように構成された換気装置に、インターフェースを介して接続可能であり、前記換気装置の制御デバイスとデータ交換するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から22のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項24】
前記制御デバイスが、前記生物の1つまたは複数の呼吸サイクルのそれぞれを定量的に特徴付ける特性を記憶するように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から23のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項25】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号の前記強度を適切に適合させることにより、前記呼吸サイクルにおいて、深い吸気を最初にもたらすように構成されている、ことを特徴とする、請求項1から24のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【請求項26】
前記制御デバイスが、前記深い吸気の後に、および前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、平均的な呼気と比較して、前記刺激信号の呼気期間の短縮および/または強度の増加を伴う1つまたは複数の部分的な呼気をもたらすように構成されている、ことを特徴とする、請求項25に記載の電気刺激器具。
【請求項27】
前記制御デバイスが、前記少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される前記刺激信号のパラメータを設定することにより、分泌物の移動を刺激して、その後、深い吸気をもたらすように構成されている、ことを特徴とする、請求項25または26に記載の電気刺激器具。
【請求項28】
前記制御デバイスが、前記出力される刺激信号に基づいて、純粋な胸式呼吸、純粋な腹式呼吸またはそれらの組合せを交互に刺激するように構成されており、前記腹式呼吸の刺激の強度と前記胸式呼吸の刺激の強度とが、互いに独立して適合可能であり得る、ことを特徴とする、請求項1から27のいずれか一項に記載の電気刺激器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁的または電気的に制御された自発呼吸のための刺激方法に関する。
【背景技術】
【0002】
換気の原理
呼吸は、ガス交換を維持するために行われ、すなわち生命を維持するために酸素供給と二酸化炭素の排出とが同時に行われる。
【0003】
換気療法は、疾患の性質および重症度に依拠して、支援的な吸気から完全に機械的な吸気、そして呼気の防止まで行われる。呼吸ポンプの疲労が生じた場合には、吸気中に呼吸筋が弛緩され、またはガス交換の障害が生じた場合には、呼気を防止することにより、ガス交換表面のさらなる損失が防止される。肺障害の重症度が増すにつれて、呼気を防止するための圧力だけでなく、吸気時の酸素分率も増加される。
【0004】
疾患の経過中に、呼気が十分かつ適時に防止されなければ、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の広範な肺障害の状況で、非常に顕著なガス交換障害が生じる。その後、必要な呼吸作業が大幅に増加して、最終的には呼吸筋による補償が不可能になる。疲労が増すと、呼吸不全が進行して、呼吸は、速く、浅くなる。このとき、吸気に加えて呼気も、換気によって一緒に処置されなければならない。
【0005】
換気は、自発呼吸を同期的に支援することができるか、または自律呼吸とは独立して制御的に行うことができる。制御された換気の場合には、呼吸頻度、一回呼吸量または換気圧が制御され、吸気と呼気の間の呼吸時間比も事前に定義される。加えて、換気の形態には、換気とは独立して自律呼吸を可能にするものや、多くの混合形態がある。特別な形態の呼吸療法として、高流量酸素療法と呼ばれるものがあり、これでは、ガス混合物が、鼻カニュラまたはマスクを通して高流量で使用される。
【0006】
気道の管理方法に依拠して、侵襲性換気または非侵襲性換気という用語が採用される。気道が気管内チューブによって管理されかつ換気される場合には、侵襲性換気と称される。換気がチューブなしで実行される場合には、非侵襲性換気すなわちNIVと称される。陰圧換気では、NIVは気道アクセスなしで行われ得るが、陽圧換気の場合には気道アクセスが常に必要である。陽圧を用いるNIVは、換気ヘルメットを介して、または顔全体、口および鼻、もしくは鼻だけを密封するマスクを用いて行うことができる。
気道確保の原理
たとえば麻酔または昏睡の状態といった、防衛反射が存在しない場合には、気道は、チューブを使用して管理される。このとき、気道は、吸引、すなわち同様にARDSを引き起こす可能性がある、気管に胃の内容物が入ることに対して、保護されることが意図されている。患者がNIVにこれ以上耐えられない場合や、NIVが成功しない場合にも、挿管が行われる。肺障害が拡大して高い換気圧および高い酸素分率が必要になると、直ちに、陽圧換気を用いるNIVは、安全でなくなり、ある特定の限界を超えると、非常に危険にさえなる。マスクの滑り落ち、ヘルメットの取外し、または現行技術による挿管のためのNIVにおいて必要な中断さえ、生命を脅かす酸素不足を伴う不適切なガス交換をもたらす可能性がある。
【0007】
気道確保の中間段階は、麻酔または緊急時に何百万回も使用されてきた喉頭マスクなどの、声門上気道すなわちSGAと称されるものを包含している。ここでは、ホースが声門を通して気管に挿入されることはなく、代わりに、喉頭は外側から囲まれて密閉され、換気が実行され得る。胃液は、喉頭に組み込まれたホースを通って排出され得る。気道確保に関するすべてのガイドラインは、挿管が失敗し、マスクを通じた陽圧換気も不可能になった場合には、直ちにSGAを挿入することを推奨している。しかしながら、気管内のチューブと比較して、SGAを用いて提供される気道確保の程度は低く、高い換気圧および高い酸素分率では限界に達する。気道は、声門によって部分的に閉鎖される可能性、または喉頭の屋根、もしくはSGAのずれによって完全に閉じる可能性があり、その結果として、特に酸素必要量が大きい場合には、患者の生命も同様に深刻な、危険にさらされる。
肺障害の原理
広範な肺障害またはARDSの場合、呼気が特に重要であり、その理由は、ARDSは、肺領域の崩壊によりガス交換表面が失われ、毛細血管と肺胞との間の透過性が増し、および/または肺細胞のウイルス感染により、呼気中に、表面有効成分または界面活性物質が、もはや肺胞を安定させることができない、といった病理変化を必然的に伴うためである。しかしながら、血液は、崩壊した、換気されていない肺領域を通って循環し続け、酸素の取り込みが減少し、酸素投与にもかかわらず、生命を脅かす酸素不足が進行する。これはARDSを最初に記述した人々によって早くも1967年に認識され、彼らは、換気を提供することによって、呼気時の崩壊を相殺できることも認識していた。それ以来、損傷した肺領域の崩壊を防止しようとするために、呼気時の陽圧換気が使用されてきた。これは呼吸終末陽圧すなわちPEEPと称される。PEEPが高いほど、呼気が防止され、維持されるレベルも高くなる。したがって、呼吸の状態も吸気に移行し、その結果、予備呼気量(ERV)が増加し、予備吸気量(IRV)が減少する(
図3~
図5)。
現在位置および発明が解決しようとする課題
治療方法の侵襲性が増すと、治療に関連した悪影響および合併症が増加し、そのため、現在のところ、肺、呼吸および他の臓器系自体が、療法自体によってさらに損傷を受ける。その上、現代の治療的処置は、ますます複雑化してエラーの影響を受けやすくなっており、したがって、高度に専門化した人員がますます必要とされている。このため、特に、集中治療医療は今日の医療制度において最も費用がかかる分野であり、いくつかの国において、このことが、集中治療能力の低下と、治療施設の利用可能性の低下とをもたらしている。明らかに、換気されている患者の死亡リスクは、国によって大幅に異なる。
【0008】
ヨーロッパ諸国を比較すると、ドイツが人口当たりの集中治療用ベッドの数は最も多いが、治療の質はかなり異なる。ドイツでさえ、換気されている患者の生存率には、種々のレベルの病院治療の間で著しい差があり、広範な肺障害(ARDS)の場合、差はさらに大きく、今から50年以上前から、専門センター以外の換気では、ARDS患者の少なくとも50%が生き延びていない。ARDSなしで換気されている患者の死亡率は、非大学病院では31%であり、これは大学病院よりも50%高い。換気されているARDS患者の場合、大学病院と比較して、非大学病院では、死亡率が2倍であるだけでなく、死亡率の差も2倍である。ARDSの独立した死亡リスクは、さらに3倍高い(文献1)。
【0009】
主要な問題の1つは、気管内チューブによる侵襲性の陽圧換気である。いわゆる肺保護換気でさえ、既に損傷した肺や呼吸筋だけでなく、他の臓器系もさらに損傷する。なおまた、気管内チューブによる侵襲性の陽圧換気は、命にかかわる合併症の全体の連鎖反応を引き起こす。主に、チューブのために、侵襲性換気を施されている患者の最大50%に、肺の炎症がさらに進行し、肺だけでなく他の臓器系のさらなる障害が生じる。気管内チューブが顕著な防衛反射をさらに活性化するため、結果として、遮蔽および減衰のために鎮痛鎮静が必要になる。これには多くの副作用があり、さらに深刻な合併症をもたらす。このように、大抵の場合オーバーハングが生じ、換気の期間が延び、したがって換気に関連する合併症を頻繁に引き起こす。加えて、特に陽圧換気と組み合わせると、鎮静が循環機能をかなり損なう可能性があり、そのため、循環を支援する薬剤を継続的に投与する必要がある。これらの、いわゆるカテコールアミンは、結果として臓器における血液循環を弱めて、いくつかの臓器系の機能不全を加速する可能性がある。非常に広範な肺障害があって換気されている患者は、しばしば腹臥位で治療され、その結果、特に深い鎮静が必要になる。
【0010】
換気は、チューブなしでも実行され得る。しかしながら、肺領域の崩壊および呼吸不全の増加を回避するために、このいわゆる非侵襲性換気を肺障害の重症度に十分効率的に適合させるのは、困難であろう。その後に起こる呼吸駆動の増加により、呼吸が強められ、より深くなって、同様に、さらなる肺の障害を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の目的
本発明の目的は、前述の問題が少なくとも軽減され得るデバイス、方法およびコンピュータプログラムを利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の説明
人は、自発呼吸を、もっぱら自分で、慎重に、または潜在意識的に制御する。しかしながら、自律呼吸は、自発呼吸とは対照的に、電磁刺激または電気刺激によって制御され得る。電磁刺激によって十分な換気を実現することができるように、呼吸筋が、無痛のやり方で非侵襲的に制御され得る(文献2)。横隔神経も、埋込電極によって直接刺激され得る。しかしながら、電磁刺激とは対照的に、埋込電極なしで、外部から、皮膚を介して非侵襲的に実行される電気刺激は、現代の技術を使用すると痛みを伴う。無痛の電気刺激のための新規技術は開発中である。したがって、従来、電磁刺激は、自律呼吸が非侵襲的に苦痛なく直接制御され得る唯一の方法である。
【0013】
したがって、本発明者によって開発されたこの換気方法は、非侵襲性人工換気の最も自然な形態を表すものである。陰圧や陽圧の換気のすべての形態とは対照的に、電磁的に制御される自律性換気は、患者が胸や腹における自然な圧力変動によって換気され得る換気の唯一の形態である。換気のこの新規形態によれば、電磁的呼吸の下で肺および横隔膜が効果的かつ穏やかに換気され得るので、肺保護換気と横隔膜保護換気との間の既存の対立が解消され得る。自律呼吸を個別に制御することにより、不適切かつ過大な呼吸努力と、これらに関連する合併症との両方を回避することができる。
【0014】
電磁的または電気的な換気は、自発呼吸の有無にかかわらず自発呼吸とは独立して、あるいは自発呼吸と同期して、行うことができる。自律呼吸が、疾患および呼吸障害に応じて、3つのグループに分類される、7つの異なる電磁的または電気的な刺激パターンによって適切に変更され、制御され、および/または監視され得る。
【0015】
刺激は、頸部における横隔神経の電磁的または電気的な刺激に加えて、より高いところまたはより周辺に位置する神経構造にも与えられ得る。これによって、腹式呼吸および胸式呼吸を目標とする制御が可能になる。
【0016】
本発明の明示された目的は、請求項1に記載の電気刺激器具によって達成される。この目的は、電気的、電磁的、および/または磁気的に生成された刺激信号を用いて、生物の1つまたは複数の神経および/または筋肉を刺激するための方法によって付加的に達成され、これらの刺激信号が、生物の少なくとも1つの神経および/または1つの筋肉に供給され、このようにして、生物の筋収縮が目標指向的に生成され、これらの筋収縮は、生物の呼吸に、目標指向的に影響を及ぼす。この目的は、そのような方法を実行するように構成されたプログラム符号化手段を用いてコンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されたとき、さらに達成される。
【0017】
特に、電気刺激器具および/または方法のステップの、以下の機能のうち、1つ、いくつか、またはすべてがここで提供される。
【0018】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号の強度は、生物の呼吸サイクルにわたって、数段階で、および/または一様に変更され得る。これに関連して、下記で、刺激方法1のセクションにおいてさらに説明がなされる。この場合、刺激信号は、特に、生物の肺の組織および横隔膜の組織へのエネルギー入力を最小化することを目的として決定され得る。
【0019】
呼気を少なくとも部分的に防止するために、少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号の強度が、生物の呼気時に高いレベルで維持され得、このレベルでは、刺激信号によって生成される筋収縮は、ゼロよりも大きいが、少なくとも、呼気の終わりにおいて、予備吸気量の最大75%がまだ肺に存在する程度である。これに関連して、下記で、刺激方法2のセクションにおいてさらに説明がなされる。
【0020】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、生物の呼吸が、呼吸深度の所定の値、値範囲および/または時間的変化に、制御または調整され得る。これに関連して、下記で、刺激方法3のセクションにおいてさらに説明がなされる。
【0021】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、生物の呼吸が、40呼吸サイクル/分よりも高い呼吸頻度に制御または調整され得る。このようにして、分泌物の移動の刺激が実行され得る。これに関連して、下記で、刺激方法4、分泌物の移動の刺激のセクションにおいてさらに説明がなされる。この機能では、特に、60呼吸サイクル/分よりも高く制御または調整することが可能である。たとえば、低振幅の筋肉刺激で200~300呼吸サイクル/分が可能である。
【0022】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、生物の呼吸が、制限された期間にわたって、生物の生命を維持するガス交換のためには低すぎる呼吸深度へと制御または調整され得る。このようにして、生物の呼吸運動も、十分な呼吸なしで実行され、すなわち、肺に流入する、および肺から流出する空気の体積は不十分になる。このようにして、たとえば、分泌物の移動が刺激され得、または呼吸筋が訓練され得る。
【0023】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定して、生物の呼気期間(呼気相の期間)を吸気期間(吸気相の期間)の0.2~1.3倍にすることにより、完全な呼気が防止され得る。加えて、呼気中に最高の体積流量を生成するために、刺激信号の強度が、通常の呼吸サイクルと比較して増加され得る。このようにして、呼気が強制もしくは加速され得、または咳刺激が実行され得る。これに関連して、下記で、刺激方法4、咳刺激のセクションにおいてさらに説明がなされる。この目的のために参照として使用される吸気相の期間は、たとえば同一の呼吸サイクルの吸気相の期間、いくつかの以前の吸気相の期間の平均、またはそれぞれの生物に関して判定された吸気相の期間の標準値であり得る。
【0024】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、呼吸サイクルの特性が、呼吸サイクルの所定のターゲット特性へと制御され得る。これに関連して、下記で、刺激方法4のセクションにおいてさらに説明がなされる。
【0025】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、呼吸サイクルの特性を、たとえば少なくとも1つのセンサによって連続的に判定される生物の呼吸サイクルの現在の特性の測定値に応じて、呼吸サイクルの所定の目標特性に調整することが可能である。これに関連して、下記で、刺激方法4のセクションにおいてさらに説明がなされる。
【0026】
前述の両方の機能について、目標特性は、特に肺に対する損傷を回避する特性であり得る。特に、生物の自己破壊的な呼吸パターンが、このようにして回避され得る。制御デバイスは、刺激信号を用いて、呼吸の体積流量、呼吸運動および/または肺圧差を所定の最大値に制限するようにも構成され得る。
【0027】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータは、生物の自発的な呼吸パルスの現在の測定値に応じて、特に自発的な呼吸パルスと同期したやり方で変更され得る。このようにして、生物の自発的な呼吸パルスは、阻止または変更され得る。測定値は、生物の自発的な呼吸インパルスを検知することができる少なくとも1つの自発的な呼吸インパルスのセンサによって連続的に測定され得る。これに関連して、下記で、刺激方法5のセクションにおいてさらに説明がなされる。自発的な呼吸インパルスのセンサは、生物の呼吸を制御する生物の神経インパルス信号を検知することができる神経インパルスセンサとして、設計され得る。たとえば電磁刺激の場合には、刺激信号を出力するための信号出力デバイスが、神経インパルスセンサを同時に形成することも可能である。たとえば、そのような信号出力デバイスは、コイルまたはコイル配列として設計され得る。神経インパルスも、コイルまたはコイル配列で検知され得る。
【0028】
腹腔内圧力は、生物の腹腔内の圧力である。
【0029】
腹腔内の圧力(腹腔内圧力、IAP)は、吸気によって上昇し、呼気によって低下する。したがって、自発呼吸では、胸腔と腹腔との間に圧力差が生じる。呼吸筋は、腹腔内で、わずかながらも強い圧力変動を引き起こす可能性がある。これらの圧力変動は、腹部臓器の機能に影響を及ぼす。
【0030】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、生物の腹腔内圧力を、所定の値、値範囲および/または時間的変化に制御または調整することが可能である。このようにして、腹腔内圧力は目標指向的に影響を及ぼされ得る。たとえば、この手段によって、ある特定の臓器における血液循環が改善され得る。たとえば、腹部臓器に対する肯定的な影響が達成され得る。自発呼吸と同様に、刺激により、胸腔と腹腔との間に自然な圧力差が生じ、腹腔内に、自然ながらも強い圧力変動も引き起こされ得て、たとえば腸運動や他の腸の機能、臓器の血液供給、またはリンパの排出といった、腹部臓器の機能に好影響を及ぼす。これは、予後の改善に決定的に寄与することができる。たとえば、横隔膜の収縮によって達成される既存の腹腔内圧力に依拠して、吸気の深さおよび期間だけでなく、呼気のレベルおよび期間も、目標指向的に制御され得る。
【0031】
したがって、刺激は、呼吸の影響を受ける既存の腹腔内圧力に応じて、吸気の深さおよび期間だけでなく、呼気のレベルおよび期間も目標指向的に制御することができる。たとえば腹腔内高血圧(IAP>1200Pa(12mbar))において、腹腔内圧力が上昇して腹部臓器の血液循環が損なわれる場合には、それに応じて、吸気だけでなく呼気においても、刺激が弱められ得る。
【0032】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、呼吸神経および/または呼吸中枢の目標指向的な励起が実行され得る。このようにして、呼吸筋に顕著な影響を及ぼすことなく、呼吸神経および/または呼吸中枢が目標指向的にのみ活性化される。特に、これは、生物の生命を維持するガス交換に十分な呼吸筋の刺激を引き起こすことがない。これは、たとえば刺激信号の強度が低くて筋収縮がほぼ行われなければ、達成され得る。このようにして、呼吸神経および呼吸中枢は、それでも活性化され得、および/または活動が維持され得る。
【0033】
換気は、呼吸筋の呼吸作業を弱める。呼吸運動は、換気において受動的に行われ、呼吸神経の活動が減退し、さらには完全に消滅することがある。このことは、筋肉を活性化する遠心性の運動ニューロンと、筋収縮の程度および速度ならびに対応する位置変化を検知して、これをフィードバックのために呼吸中枢に報告する、求心性の知覚神経経路との両方に当てはまる。
【0034】
遠心性神経経路および求心性神経経路の活動に加えて、脳幹領域内の呼吸中枢におけるニューロンの活動も、それに応じて換気中に低下する。呼吸中枢の活動は、わずか数分の換気時間の後に弱まる。換気が停止した後、呼吸中枢を、意識的に、すなわち大脳皮質によって活性化することは可能であるが、このとき、呼吸は、たとえ実際にはそうではなくても困難に感じられる。換気が停止して短時間の後に、健康な生物において自発呼吸が完全に回復されると、自然な自律の自発呼吸が回復し、呼吸中枢によって制御される。
【0035】
呼吸神経および呼吸反射の活動を活性化し、および/または維持するためのこの刺激方法を用いて、脳幹領域における呼吸中枢のニューロンを伴う、遠心性ニューロンすなわち運動神経経路および求心性ニューロンすなわち知覚神経経路が、活性化され、および/または活動を維持するように意図されている。分泌物の移動および咳の調整、訓練などの場合と同様に、この刺激方法では、ガス交換を維持するための十分な呼吸は必要ではない。
【0036】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、呼吸サイクルの特性が、多数の呼吸サイクルにわたって呼吸サイクルの所定の目標特性に制御または調整され得、その後、多数の呼吸サイクルにわたって生物の呼吸サイクルに影響がなく、その後、多数の呼吸サイクルにわたって、呼吸サイクルの特性が、呼吸サイクルの所定の目標特性に再び制御または調整され得る。これに関連して、下記で、刺激方法6のセクションにおいてさらに説明がなされる。
【0037】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、多数の呼吸サイクルにわたって、生物の呼吸によって実行されるガス交換に必要ではない生物の呼吸筋の筋収縮を励起することが可能になり、したがって追加の筋力トレーニングを生成する。このようにして、呼吸筋の目標指向的な筋力トレーニングが実行され得る。これに関連して、さらなる説明が、以下の刺激方法のセクション7、特に7.1、7.5および7.6で示される。この種の刺激では、実際の呼吸深度への影響は、ないか、生物の生命を維持するためのガス交換にとっては小さすぎるものになる。この刺激の目的は呼吸筋の訓練であり、この訓練は、呼吸器を損なうことなく、特に肺組織や横隔膜筋力は損なわない。
【0038】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、呼吸状態を、増加した値に制御もしくは調整すること、および/または呼吸状態を吸気相に移行することが可能である。これに関連して、下記で、刺激方法7.2のセクションにおいてさらに説明がなされる。
【0039】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、生物の呼吸を、呼吸深度の現在の測定値に基づいて、呼吸深度の、所定の値、値範囲および/または時間的変化に調整することができる。この目的のために、生物の呼吸深度の測定値を連続的に検知する呼吸深度センサが使用され得る。これに関連して、下記で、刺激方法3および7.3のセクションにおいてさらに説明がなされる。
【0040】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、呼吸深度および/または吸気相における体積流量を所定の最大値に制限することができる。これに関連して、下記で、刺激方法4および7.4のセクションにおいてさらに説明がなされる。
【0041】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、呼気相における体積流量を、所定の最大値に制限すること、および/または呼気相における生物の平均的な固有の体積流量と比較して低減することができる。
【0042】
少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、呼気相の期間を、生物の呼気相の平均的な固有の期間と比較して短縮することができる。特に、生物の完全な呼気が刺激信号によって防止され得、すなわち、少なくとも空気のある特定の残差量が肺の中に保存され得る。
【0043】
呼吸サイクルにわたって、少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号の強度は、吸気相において増加され、呼気相において再び減少され得る。このようにして、生物の組織に入力されるエネルギーが最小化され得る。
【0044】
生物の呼吸器系に空気圧でおよび/または電気的に結合され、生物の空気の流入および/または流出の体積流量を調節可能な貫通流制御アクチュエータは、貫通流制御アクチュエータによって吸気相におけるおよび/または呼気相における体積流量が少なくとも一時的に制限または低減するようなやり方で、呼吸サイクルにわたって可変的に活性化され得る。貫通流制御アクチュエータは、たとえば、呼吸マスクまたは呼吸ホースの中に、電気的に作動可能な弁を有し得る。貫通流制御アクチュエータは、生物の喉頭を、たとえば電磁気の喉頭刺激によって刺激することができる電気的アクチュエータであり得る。このようにして、たとえば呼気中に、呼気の気流に対する定義された所望の抵抗が生成され得、これによって気道および肺胞が開いた状態に保たれる。
【0045】
制御デバイスは、可変の陽圧および/または陰圧を生成することによって生物を換気するように構成された換気装置に、インターフェースを介して接続可能であり、換気装置の制御デバイスとデータ交換するように構成されている。これは、電気刺激器具の制御デバイスが、データ、特に、たとえば体積流量、呼吸深度などの測定値といった、換気装置に伴って存在する測定値を使用することができるという利点を有する。したがって、電気刺激器具において、そのようなセンサが不要になる。
【0046】
少なくとも1つの刺激デバイスによって出力される刺激信号の強度を適切に適合させることにより、呼吸サイクルの最初に深い吸気をもたらすことができる。これは、刺激方法2の場合には、たとえば、最初の深い吸気によって肺を開き、それに応じて漸増刺激を実行するために有利である。咳刺激の場合には、呼吸サイクルの最初に深い吸気をもたらすと、呼気における大きな体積流量を生成するために大量の空気を利用できるので、たとえば肺の中の空気の最大のボリュームを得て咳刺激を促進するために有利であり得る。
【0047】
たとえば、少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号の強度を適切に適合させることによって、呼吸サイクルの最初に深い吸気がもたらされる場合、咳刺激を実行することが可能であり、深い吸気の後に、少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することによって、たとえば完全な呼気が防止されることにより、または、たとえば呼気期間が吸気期間の0.2~1.3倍になることにより、平均的な呼気と比較して、呼気期間が短縮され、および/または刺激信号の強度が増加した状態で、1つまたは複数の部分的な呼気がもたらされる。加えて、呼気中に最高の体積流量を生成するために、刺激信号の強度が、通常の呼吸サイクルと比較して増加され得る。特に、深い吸気の後に、少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号の強度を適切に適合させることにより、その間に吸気が生成されることなく、いくつかのそのような呼気を呼気期間を短縮して、および/または最大の体積流量で生成することができる。
【0048】
分泌物の移動を刺激した直後に、そのような咳刺激を実行することはさらに有利である。前述のように、生物の呼吸を40呼吸サイクル/分よりも高い呼吸頻度に制御または調整するために、少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号のパラメータを設定することにより、分泌物の移動が刺激され得る。
【0049】
出力される刺激信号に基づいて、純粋な胸式呼吸、純粋な腹式呼吸またはそれらの組合せを交互に刺激することができる。腹式呼吸の刺激の強度と胸式呼吸の刺激の強度とは、互いに独立して適合可能であり得る。このようにして、胸式呼吸と腹式呼吸とが、互いに独立して刺激され得る。したがって、胸部の活性化が向上し、呼吸状態が吸気に移行して、呼気を継続的に防止することにより、呼吸サイクルの全体にわたって横隔膜の全断面積を大幅に増加することができる。このようにして、胸式呼吸とは無関係に、呼吸が、ここで、はるかに少ない呼吸運動で、したがって肺および横隔膜に対するストレスもはるかに小さく、はるかに効果的に実行され得る。
【0050】
電気的、電磁的、および/または磁気的に生成された刺激信号が、ここで、信号出力デバイスによって、少なくとも1つの神経および/または1つの筋肉に供給され得る。刺激信号の強度は、たとえば電圧または電流の大きさ、電力、磁気的変数の大きさ、ならびに/あるいは、1つまたは複数のそのような変数の短期平均値によって定義され得る。たとえば、刺激信号を生成するために信号出力デバイスに供給される信号は、交流電圧もしくは交流電流の信号、または他のパルス状の信号列であり得る。
【0051】
信号出力デバイスは、原理的に、任意の希望の信号出力デバイスまたはいくつかの信号出力デバイスの組合せであり得、これによって、そのような電気刺激信号が、少なくとも1つの神経および/または1つの筋肉に供給され得る。このように、信号出力デバイスによって、筋肉が、電気信号によって直接収縮に興奮され得、および/または筋収縮を興奮させることができる対応する神経の電気刺激によって間接的に興奮され得る。たとえば、信号出力デバイスは埋込電極を有することができ、これは生物の身体の適切な位置に埋め込まれて、身体に刺激信号を直接供給する。
【0052】
有利な実施形態では、信号出力デバイスは信号出力素子を有し、これは生物の外部に配置され得、したがって埋め込む必要はない。このようにして、侵襲性のステップが回避され得る。たとえば、信号出力素子は、1つまたは複数の電気コイルを有し得、これによって、電気信号が、少なくとも1つの神経および/または1つの筋肉に誘導的に供給され得る。そのようなコイルによって生物に磁界が供給され、身体内部に誘導電流が生じて、少なくとも1つの神経および/または1つの筋肉に所望の電気刺激信号を生成することができる。この目的のために、たとえばWO 2019/154837 A1またはWO 2020/079266 A1に従ってコイルまたはコイル配列を使用することができる。
【0053】
信号出力素子は、たとえば生物の皮膚に固定されて身体上に配置され、身体に電気信号を直流的に結合し得る電極も備えることができる。さらに可能なこととして、信号素子は容量性電極を有し得、これを通して容量結合によって、すなわち生物との直流的な接触なしで、生物に電気刺激信号を供給することができる。
【0054】
電気刺激器具は、原理的に、あらゆる所望の神経を刺激するように構成され得て、生物の呼吸に目標指向的に影響を及ぼすことができる。これは、頸部領域の呼吸筋の刺激だけでなく、神経根、さらには、たとえば脳幹および/または小脳といった脳領域における神経の刺激も含む。たとえば、電気刺激器具は、横隔神経、1つまたは複数の肋間神経、第1、第2、第3の運動ニューロンといった神経のうち1つまたは複数を、呼吸運動を起動することができるものに限って刺激するように設計され得る。
【0055】
刺激信号による生物の呼吸の所望の影響のために、信号出力デバイスまたはその信号出力素子は、生物の適切な位置に、適切かつ安全に配置され得るように設計されており、たとえば、横隔膜を刺激するためには頭部の近くの横隔神経の領域に配置され、および/または、胸式呼吸を刺激するためには1つまたは複数の肋間神経の領域に配置される。この目的のために、信号出力素子は、形状および性質に関して、生物におけるこの適切な配置に適合される。
【0056】
制御デバイスは、たとえば生物の1つまたは複数の呼吸の特性を記憶するためのパラメータメモリを有して、これに、そのような生物の代表的特性または治療対象の個々の生物の特性をあらかじめ記憶するように構成され得る。この場合、電気刺激器具はまた、測定器具なしで、特に、制御回路の意味における測定信号のフィードバックなしで、設計され得る。
【0057】
電気刺激器具は、1つまたは複数のセンサを伴う測定器具も有することができ、それによって、生物の呼吸サイクルの特性が、ある特定の時間において、または連続的に検知され、制御デバイスに供給される。この場合、特性は、少なくとも一時的に、制御デバイスに記憶され得る。なおまた、制御デバイスにおいてあらかじめ定義された、呼吸サイクルのさらなる特性が、上記で説明されたようにパラメータメモリに記憶され得る。
【0058】
制御デバイスは、特に、電気刺激器具の個々の機能を制御するコンピュータを有する電子制御デバイスとして設計され得る。制御デバイスには、コンピュータがコンピュータプログラムを実行するように、対応する機能をプログラムしたコンピュータプログラムが記憶され得る。
【0059】
コンピュータが言及される場合、対応する機能は、たとえばソフトウェアの意味におけるコンピュータプログラムを実行するように構成され得る。コンピュータは、たとえばPC、ラップトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットもしくはスマートフォンといった従来のコンピュータとして、またはマイクロプロセッサ、マイクロコントローラもしくはFPGAとして、またはそのような要素の組合せとして設計され得る。
【0060】
調整が言及される場合、調整は、測定値または内部値のフィードバックを包含し、それによって調整の生成される出力値が閉ループ制御回路の意味において影響を受けるという意味で、制御とは異なる。制御の場合には、変数が、そのようなフィードバックなしで純粋に制御される。
【0061】
「呼吸深度」という表現が使用される場合、この表現は、実際の呼吸深度および生物の見かけの呼吸深度も含む。実際の呼吸深度は、呼気中に、環境と実際に交換される一回呼吸量の大きさによって定義される。一回呼吸量は、吸入され、吐出される空気の量、すなわち1回の呼吸について換気される空気の量である。見かけの呼吸深度は、呼吸が妨げられずに実行され得たとき、呼吸筋の動きによって生じると期待される一回呼吸量の大きさによって定義される。多くの場合、見かけの呼吸深度は実際の呼吸深度に相当するはずである。しかしながら、たとえば気道が全面的もしくは部分的に閉塞している場合、および/または肺が病理変化を示す場合には、実際の呼吸深度が見かけの呼吸深度からかなり逸脱する可能性もある。
【0062】
生物の実際の呼吸深度は、たとえば一回呼吸量および/または肺圧差(TPP)の大きさといった種々の変数に基づいて検知され得る。一回呼吸量のレベルは肺圧差のレベルに依拠する。肺圧差は、肺の、空気で満たされた空間の圧力と、2つの胸膜間の肺の外縁部における圧力との間の圧力差である。したがって、肺圧差は、肺内圧と胸内圧との間の差であり、または、言い換えると、肺胞内圧と胸腔内圧との間の差である。肺胞内圧は、気道または換気システムにおける測定によって間接的に検知することしかできない。胸腔内圧は、ほぼ食道における圧力に相当する。肺圧差は、たとえば、換気システムや生物の食道における圧力を測定することによって決定され得る。そこで、肺圧差は、換気圧力と食道の圧力との差である。
【0063】
見かけの呼吸深度は、種々の変数に基づいて検知され得、たとえば、筋収縮によって引き起こされた胸部および/または腹部の動きといった生物の動きを検知することによって検知され得る。見かけの呼吸深度を検知するかまたは特徴付ける別の可能性には、生物の呼吸運動を生成して呼吸の体積流量を生成するために必要な電気的および/または力学的なエネルギーまたは力を決定するものがある。したがって、見かけの呼吸深度は、少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号の強度に基づいて、少なくとも近似的に決定され得る。
【0064】
呼吸の体積流量は、生物が単位時間で実際に吸入または吐出する空気の量を指示する。呼吸サイクルは、吸気相(略して吸気または吸息とも称される)およびその直後の呼気相(略して呼気または呼息とも称される)を含む。安静時の吸気の最後に、引き続き吸入可能な肺容量である予備吸気量(IRV)がある。安静時の呼気の最後に、引き続き吐出可能な肺容量である予備呼気量(ERV)がある。したがって、安静時の呼吸は、予備吸気量と予備呼気量(
図3と
図4)との間で定義された呼吸の状態で行われる。
【0065】
安静時の呼吸中に、各呼吸サイクルにおいて、呼気が少なくとも部分的に防止されると、呼吸状態は吸気に移行する。ここで、予備呼気量が増加し、予備吸気量が減少する(
図5)。呼吸状態のそのような移行は、1.呼気中の呼吸の流れを低速化すること、2.呼気を定義されたレベルに維持すること、および/または3.呼気時間を短縮することによって、呼気を防止して行われる。
【0066】
以下で説明される機能は、制御デバイスによって実行され、たとえばコンピュータプログラム(複数可)またはコンピュータプログラムモジュールの機能として設計され得る。機能が制御デバイスによって実行される場合には、制御デバイスは対応する機能を自動的に実行することができる。電気刺激器具の多数の機能はまた、ユーザによって、手動で、設定および/または制御され得る。これは、制御デバイスによって任意選択で実行され得る機能も含む。
【0067】
したがって、本発明はまた、そのような電気刺激器具によって電気的、電磁的、および/または磁気的に生成された刺激信号を用いて、生物の1つまたは複数の神経および/または筋肉を刺激するための方法であって、たとえば少なくとも1つの信号出力デバイスによって出力される刺激信号の強度の変調といった、明示された機能が手動で実行される方法と、そのような方法を実行するためのコンピュータプログラムとに関する。
【0068】
呼吸の監視、フィードバック、および制御については、以下のことがさらに提供され得る。
【0069】
刺激を制御するために、様々な監視パラメータおよびフィードバック機構が使用され得る。この目的のために、従来の換気と同様に、生物の、酸素摂取および二酸化炭素放出などのガス交換のパラメータと、呼吸インパルス、呼吸頻度、一回呼吸量、呼吸の速度、呼気および吸気のレベルなどの呼吸パラメータとのうち、1つ、いくつか、またはすべてを検知することができる。この監視は、胸式呼吸と腹式呼吸とを区別して別個に検知することもできる。
【0070】
刺激中の調整と、刺激の後に達成される効果との両方において、特定の役割を果たすのは、強化された呼吸と緩和された呼吸との間の遷移を指示し、したがって呼吸駆動の増加を指示するパラメータである。これらは、たとえば、呼吸頻度と一回呼吸量の商(RSBすなわち急速表在呼吸指数)、P0.1値、呼吸流れの強度(一回呼吸量と吸息時間の商)および、たとえば400~800Pa(4~8mbar)の定義された範囲内の食道の圧力変動、または横隔膜にわたる圧力変動の程度を含む。
【0071】
加えて、横隔神経の自発的電気活動も、たとえば同様に電磁的に、電気神経図(ENG)を用いて検知されて、フィードバックに使用され得る。横隔神経の電気的自発活動は、中央神経の呼吸活動の直接的な測定を表し、たとえば、一呼吸当たりのインパルス数、吸気のピーク流量中のインパルス頻度、または0.1秒間の平均活動によって検知され得、フィードバックおよび刺激の制御に使用され得る。
【0072】
ある特定の筋電図パターンも、疲労の発現を指示することができる。横隔膜の筋電図信号を、電磁的または電気的な呼吸のフィードバックおよび制御のための電気的筋肉活動の直接的尺度として使用することができるように、刺激の間の休止期間に自発的活動の筋電図検査が行われ得る。対照的に、電磁的刺激によってもたらされた人為結果が、測定を困難に、または不可能にすることがある。ここで、特別な刺激アルゴリズムにより、筋肉活動が、人為結果なしで、一定間隔で検知され得、次いで、さらなる刺激を制御するために使用され得る。この制御は、自発的活動が、たとえば最大活動の8%を超過しないといった、低すぎることも高すぎることもないという事実を考慮に入れるものである。その上、互いに直接結合された器具は、電磁気信号のフィルタリングを可能にすることもできる。たとえば、実現された筋肉活動の筋電図監視は、刺激中にも可能であり、それによって直接フィードバックが可能になる。
【0073】
電気刺激と、結果の機械的筋肉活動との間の関係は、力対長さの比と力対速度の比とに依拠し、したがって、胸郭の容積および形状や病理的経過にも依拠する。たとえば、疾患の経過中には、電気的筋刺激が増加しても横隔膜の力が減少することがある。したがって、横隔膜の力を監視することは、訓練刺激を制御するためのフィードバック用に特に有利である。RSBやP0.1値などの間接的なパラメータに加えて、横隔膜の動きおよび肥厚の超音波測定は、横隔膜の力の間接的な指標をもたらすことができる。長年にわたって使用されてきた標準方法では、横隔膜の力は、胸腔と腹腔との間の圧力変動によって間接的に検知される。横隔神経が電磁的な標準刺激を用いて刺激され、結果の横隔膜内外圧差変動は、食道および胃におけるバルーン付きカテーテルによって測定される。これから、横隔膜の力が決定され得る。
【0074】
さらに有利な機能および方法のステップが、下記で詳細に説明される。
グループ1:肺依存の刺激
1.低エネルギー伝達のための肺温存刺激
2.崩壊した肺領域を開き、開いた領域を維持するための漸増および安定化の刺激
3.一回呼吸量を制御するための肺保護刺激
グループ2:呼吸関連の刺激
4.有害な自律呼吸を制御するための制御刺激
5.自発呼吸を調節するための変調刺激
グループ3:調整および訓練の刺激
6.改善された呼吸パターンを実施するための調整刺激
7.呼吸筋を訓練するための訓練刺激
グループ1:肺依存の刺激
肺温存刺激-刺激方法1
穏やかな、特に低エネルギーの呼吸は、吸気中にはインパルスの刺激強度が段階的に増加して呼気中にはインパルスの刺激強度が減少するパターンによって実現される。このようにして突然の呼吸運動が回避され、それによって、呼吸自体によってもたらされる肺組織へのエネルギー伝達および肺損傷が最小化される。この原理は、新たに開発された流量制御換気(FCV)(文献3)の呼吸パターンに基づくものである(PCT/EP2017/052001も参照されたい)。
【0075】
この流量制御型の換気では、FCV中に自発呼吸が可能であってはならないので、肺温存換気と横隔膜温存換気との間の葛藤は非常に顕著である。しかしながら、刺激方法1はFCVと同期され得る。電磁的または電気的な刺激とFCVとの間のそのような同期は、同時に自律呼吸を促進し、したがってFCVにおける呼吸筋およびそれらの筋力の保存を可能にする。
【0076】
自然な自発呼吸中は、呼気中に横隔膜も活動状態である。呼気抑制と称されるこの活動により、呼気が抑制されて肺が安定化される。呼気抵抗が増加するとき、呼気中の横隔膜のこの自然な活動は低下する。この肺温存刺激により、呼気相中に、強度が減少する刺激が同様にもたらされる。完全な呼気は、非常に短いか、またはすべて回避される(刺激方法2による安定化刺激を参照されたい)。これは、肺組織の崩壊に対抗する。このようにして、ガス交換の障害だけでなく、呼吸駆動の増加および有害な自発呼吸パターンによる呼吸不全の増加も防止することができる。
【0077】
加えて、この形式の刺激の調整効果の結果として、この穏やかな呼吸パターンが訓練される(刺激方法6による調整刺激を参照されたい)。なおまた、呼吸筋の筋力と筋肉量との両方が維持され、かつ訓練され、このことは、特に従来の換気中、特に流量制御換気(FCV)中に非常に重要である(刺激方法7.1による訓練刺激を参照されたい)。
漸増および安定化の刺激-刺激方法2
刺激方法2は、呼気の防止および/または低速化(上記を参照されたい)と組み合わせた、時折の深い吐息をもたらす。この刺激方法は、崩壊した肺領域を補強し、呼気の防止および/または遅延によって肺を安定させる。このようにして崩壊の更新が防止される。
【0078】
漸増刺激では、吸気の深さだけでなく、吸気相や呼気相の期間を設定することも可能である。したがって、漸増刺激における効率を向上するために、呼吸の時間比が変化され得、最大吸気の時間が延長され、呼気の時間が短縮され得る。
【0079】
安定化刺激では、要求に応じて、呼吸筋を直接刺激することにより、呼気の終わりが種々のレベルに保持され得る(呼気保持)。刺激方法1で説明されているように、たとえば呼気中の刺激インパルスの強度を減少することによって、前述の自然な呼気抑制と同様に、呼気の速度をさらに遅くすることができる。同様に、呼吸時間比を変化させることにより、肺領域の崩壊がさらに防止され得る。安定化刺激において刺激時間を変化させることにより、漸増安定化に関して上記で説明されたように、吸気時間を延長して呼気相を短縮することが可能である。呼気相において、刺激が不可能であるか、可能な刺激の程度が不十分な場合には、吸気の電磁的または電気的刺激をより早期に開始することにより、完全な呼気も防止することができる(呼気の切り詰め)。ここで、前述のように、呼吸を、特に呼吸状態を精密に監視すると、吸気のための正確な時間を精密に確立することができるために有利である。
【0080】
加えて、安定化刺激は、任意選択で、動的に適合された呼気抵抗の増加とも組み合わされ得、結果として、呼気もさらに遅くなり、したがって、呼気相において肺がさらに安定化され得る。このことは、呼気中に、刺激と組み合わせて、同期して行われ得る。自発的な呼気中には、吸気中に再び開く声帯ひだによって、呼気抵抗の増加がごく自然に達成される。呼気抵抗が増加することによって、呼気抑制のために、横隔膜の自然な活動が弱まる。
【0081】
この刺激方法2は、肺虚脱の増加によってもたらされる呼吸作業および呼吸駆動の増加にも対抗し、自己破壊的な自発呼吸による、関連するさらなる肺損傷を防止する(次頁の制御刺激も参照されたい)。したがって、漸増および安定化の刺激は、呼吸作業および有害な呼吸努力の増加ばかりでなく、大きい一回呼吸量での換気も、間接的に低減するか、さらには防止することができる。
肺保護刺激-刺激方法3
呼吸深度は、吸気中の刺激を用いて、たとえば6ml/kgの理想重量といった穏やかな一回呼吸量が呼吸され、および/または500Pa(5mbar)の肺圧差を超過しないように調整される。この目的のために、刺激が、実現された一回呼吸量および/または肺圧差に適合され得るように、一回呼吸量の測定値、肺圧差の測定値、またはそれらに対応する相関値の測定値と刺激強度との間にフィードバックが行われ得る。そこで、これは、後続の呼吸のために行われるだけでなく、監視およびフィードバックによって、既に進行中の刺激を直接制御することができる。したがって、進行中の刺激強度が減衰され得、および/または刺激期間が短縮され得、そのため、たとえば理想体重に対して定義された6ml/kgの一回呼吸量および/または500Pa(5mbar)の肺圧差を超過することはない。これは、自発呼吸中に特に重要なことである(制御および変調の刺激、刺激方法4および5を参照されたい)。
【0082】
その上、高レベルの二酸化炭素の呼気を伴う病的状態でも、十分な換気を確保する必要がある。これは、ガス交換表面および一回呼吸量のレベルの漸増および維持に加えて、適切に適合された呼吸頻度によって実現される。呼吸頻度は、刺激の発生だけでなく、前述の吸気と呼気との間の比(対応する刺激時間によって設定され得る呼吸時間比)によって定義される。
グループ2:呼吸関連の刺激
制御刺激-刺激方法4
この電磁的または電気的な刺激方法は、自発呼吸が、全く異なる、場合により有害なパターンに従っていても、自発呼吸と無関係に、肺に対してより穏やかな制御された自律呼吸を実現するものである。したがって、たとえば過度の呼吸作業および疲労の増加によって呼吸駆動および呼吸努力が増加する場合、刺激は、目標指向的な対抗制御を提供することができる。ここで、強化され、速く、深い呼吸が、既に傷ついた肺に障害を引き起こし、また既に弱まり、同様に以前に傷ついた呼吸筋も損傷させる。この肺の障害の増加だけでなく、自己損傷的な自発呼吸の結果としての横隔膜損傷は、患者自身による肺損傷(P-SILI)と称される。
【0083】
この刺激方法で、呼吸筋の過負荷およびP-SILIが低減され、さらには防止され得るように、自律呼吸が制御され得る。これまでのところ、電磁的または電気的な刺激は、自律呼吸を、自発呼吸や患者の意思と無関係に、非侵襲的に薬物なしで制御してさらには最適化し得る唯一の方法である。
【0084】
この刺激方法を制御するために、自発呼吸および/または刺激とともに最終的に行われる自律呼吸の重要な特徴も考慮に入れるフィードバック機構が使用され得る。ここで、一回呼吸量、肺圧差、呼吸頻度、呼吸状態および呼吸駆動の間接的な特性は、刺激を個々に柔軟に適合させ得るために特に重要である。
制御刺激の特別な形態:分泌物の移動および咳
これら2つの呼吸筋刺激方法もまた、自発呼吸とは無関係に行われ、呼吸に依存しない特別な機能を満たす。これによって、分泌物は、末梢気道から中心気道へ移動し、さらに咳によって移動して、最終的に気道から除去されるように意図されている。
分泌物の移動刺激:この刺激方法を用いて、分泌物は、たとえば高頻度の短く速い強制的な呼気によって、末梢気道から中心気道へ移動され得る。
咳刺激:この刺激方法は、分泌物の移動の直後に行われ得て、移動した分泌物をさらに効果的に移動させ、何よりも「咳出す」ことができるようにする。この目的のために、かなり長い吸気の後に、短い咳または一連の短い咳がある。強制的な呼気は、自然な咳の場合のように、増加した気道抵抗に抗して呼気の開始が行われ、したがって肺の圧力を増加させることができる場合には、より効果的である。この短い、同期した呼気抵抗の増加は、同期した人工抵抗および/または喉頭神経の刺激によってもたらされる声帯ひだの狭窄によって実現され得る。
変調刺激-刺激方法5
制御刺激(上記の刺激方法4を参照されたい)とは対照的に、変調刺激は、自発呼吸から独立することなく、自発呼吸インパルスの機能として行われる。自律呼吸は、自発呼吸から完全に独立して制御されるのではなく、したがって自然な自発呼吸の部分的または完全な制御が行われ、その際には、呼吸インパルスが弱いかまたは存在しなくても、自発呼吸インパルスが常に考慮に入れられる。
同期の形態
したがって、自発呼吸インパルスは、それに同期した電磁的または電気的な刺激が行われ得るように検知されなければならない。変調刺激は、空気流の圧力、流量、もしくは温度の変動またはGrasebyカプセルなどの身体センサもしくは筋肉活動センサといった、自発呼吸パルスの標準的な検知方法の支援を伴って、同期され得る。しかしながら、自発的な吸気の開始に先立つ実際の神経インパルスとの同期の方がはるかに正確であり、神経インパルスと同期した換気は、神経補助または神経調整換気補助(NAVA)と称される。ここで、神経インパルスは、横隔膜の近傍の食道においてセンサによって検知される(文献4)。
【0085】
しかしながら、実際の神経インパルスも、非侵襲性の電磁的手段によって検知され得る。これは、周辺的に、首の刺激部位の直上で、または中心的に、脳幹領域の神経インパルスの起点部位で、行うことができる。
呼気レベルの変調
次いで、自発的な呼吸は、前述の刺激方法1~3のように、変調刺激と同期して変化され得る。これは、より穏やかな自発呼吸を実現するために、肺温存刺激のような呼吸サイクルの全体にわたる刺激によって行われ得る。疾患および自発呼吸パターンに依拠して、刺激方法2に説明されている変調刺激は、呼気の防止および/または呼気の遅延によって、肺を異なるレベルにおいて安定させるために、呼気相でのみ行われることも可能である。
一回呼吸量の変調
しかしながら、要求に応じて、刺激方法2で説明されたように、崩壊した肺領域が、断続的な非常に深い持続的な呼吸によって再度開かれ得るように、刺激を、吸気相の間のみ同期して供給することも可能である。なおまた、不十分な、表在呼吸の事例では、自発的な吸気中の刺激が、対応する一回呼吸量で呼吸の十分な深さを可能にすることもできる。この目的のために、肺保護刺激(上記の刺激方法3を参照されたい)でも説明されているように呼吸パルスを検知することに加えて、呼吸量および/または肺圧差へのフィードバックもここでは有利である。
【0086】
なおまた、自発的な神経インパルスを「引き継ぐ」かまたは抑制することにより、肺を損傷する過度な一回呼吸量による深すぎる呼吸を防止することが可能である。自然なインパルスが神経の絶対不応期中には伝達され得ず、相対不応期中には減衰した形でしか伝達され得ないように、そのような引き継ぎは、自然な神経インパルスの直前に、横隔神経を目標とした刺激によって達成され得る。
【0087】
前述のように、呼吸状態を吸気に移行させて呼気を防止することにより、自発的な一回呼吸量が過大になるのを間接的に回避することもできる。肺保護刺激(刺激方法3)において上記で説明されたように、一回呼吸量の測定を用いるフィードバック機構が、ここでも同様に使用される。
呼吸頻度の変調
変調刺激の以前の刺激方式では、自発呼吸の頻度は変化されなかった。しかしながら、自発呼吸の頻度が速すぎるかまたは遅すぎると、これは電磁的または電気的な刺激によって、直接的および/または間接的に影響を及ぼされ、かつ制御され得る。結果の、制御された自律呼吸への円滑な遷移は、自発呼吸の頻度の検知と対応するフィードバック機構とによって調整される。
【0088】
したがって、刺激の程度および出現率は、自発呼吸の深さおよび出現率に応じて個々に適合され得る。自発呼吸の頻度は、速すぎると、吸気相および/または呼気相が長くされることによって間接的に低速にされ、最終的に、より低い頻度が重ね合わされ得る。呼吸頻度はまた、活性化された呼吸反射による個々の深い呼吸によって間接的に低速にされ得る。
【0089】
従来のバックアップ換気と同様に、呼吸が遅すぎるかまたは停止している場合、呼吸頻度は電磁的または電気的に制御された自律呼吸を用いて直接増加される。たとえば昏睡の深度が増すにつれて、呼吸がゆっくりと減少する場合、間欠呼吸による酸素不足の不十分なガス交換が生じる以前にも、対応する刺激頻度によって、十分な呼吸頻度が早期に実現され得る。
腹腔内の圧力に依拠する変調
腹腔内の圧力(腹腔内圧力、IAP)は、吸気によって上昇し、呼気によって低下する。したがって、自発呼吸の場合のように、胸腔と腹腔との間に自然の圧力差が生じる。呼吸筋を刺激すると、腹腔に、自然なだけでなく強化された圧力変動ももたらすことができて、たとえば腸運動、臓器血液供給またはリンパ液の排出といった腹部器官の機能に影響を及ぼし、換気された患者の予後に決定的に寄与する。
【0090】
したがって、刺激は、呼吸の影響を受ける既存の腹腔内圧力に応じて、吸気の深さおよび期間だけでなく、呼気のレベルおよび期間も目標指向的に制御することができる。たとえば腹腔内高血圧(IAP>1200Pa(12mbar))において、腹腔内圧力が上昇して腹部臓器の血液循環が損なわれる場合には、それに応じて、特に呼気において刺激が弱められ得る。
グループ3:調整および訓練の刺激
調整刺激-刺激方法6
前述の5つの刺激方法のすべてが、もっぱら改善された自発呼吸の調整としても使用され得る。ここでは、刺激の持続時間が変化する間欠刺激が行われ、数回の呼吸だけでも十分であり得る。調整刺激は、自発的な自律呼吸の変調を用いて、または前述の刺激方法1~5を用いて制御される自律呼吸として、定義された自発呼吸パターンを訓練する。
【0091】
調整刺激は、直接フィードバックによって制御され、かつ強化され得る。フィードバックは、検知された自律呼吸の測定値に基づいて行われる。呼吸の性質、呼気のレベル、吸気の深度、一回呼吸量および呼吸頻度が測定され、それに応じて、適合した調整刺激が実行される。
【0092】
それによって、呼吸筋の領域への陽圧換気のときに生じる呼吸活動の再分配が防止される。呼吸筋からの対応する求心性インパルスを伴う末梢神経活動が刺激によって維持され得るので、従来の換気での自律的な呼吸活動の疲労や低下も回避される。
【0093】
調整刺激のない「休止期間」では、自発呼吸は通常通りに行われ得る。しかしながら、従来の換気も提供され得、あるいは、電磁的または電気的な刺激によって支援される自発呼吸が可能であり、繰返しになるが、上記で説明されたように、調整刺激とは対照的に自律呼吸が変調され得る。これらの休止期間には、調整刺激の、自発的な自律呼吸に対する影響の有無や、その程度および特には期間を確認するための検査が行われる。達成された変化に応じて、フィードバック機構を介して、調整刺激の性質、出現率、期間、およびとりわけ間隔を個々に適合させることができる。
【0094】
調整刺激によって達成される調整呼吸は、以下で説明される訓練刺激と同様に、特定の要件(下記を参照されたい)を満たす必要がある。
訓練刺激-刺激方法7
陽圧換気中、わずか数時間後に筋肉の劣化が始まり、筋力はそれよりも早く、非常に急速に低下する。したがって、換気後わずか2時間で採取された筋生検では、孤立した筋繊維の強度が約35%低下したことが示された(文献5)。
【0095】
筋肉劣化および筋力の弱体化は、重症疾患の経過により、特に炎症によって、さらに悪化する。換気によって、筋肉の弱体化が不十分にしか緩和されなければ、呼吸駆動が増加し、大きい呼吸努力が、最終的には過度な呼吸努力が生じて、既に損傷している肺だけでなく、筋肉もさらに弱体化して損傷する。高レベルの呼吸努力は、横隔膜の筋肉に対する損傷の最も重要な要因を表す。呼吸努力のレベルが低すぎることと高すぎることとの間の度合いが非常に狭いことがあり、個人の間で、また個人の内部でも大いに異なることがある。強度低下および筋肉劣化の結果として、弱体化した呼吸筋は、最終的に、もはや十分な自律呼吸を確保することができない。上記に既に説明されている呼吸パターンに伴って、呼吸不全が進行する。呼吸が、速く、浅く、しかも強くなって、既に損傷した肺だけでなく呼吸筋にもさらなる損傷をもたらす。したがって、全体の換気期間の最大部分を占める換気停止は、必要な筋肉量の再構築とともに十分な自発呼吸のための適切な筋力の回復によって、慎重に決定される。
【0096】
以下で説明される電磁的または電気的に刺激する訓練方法は、筋肉を増強することができるように、また既存の筋肉の強度低下や筋肉劣化を防止することができるように、呼吸筋を強化することを意図するものである。ここで、肺および呼吸筋に対するさらなる損傷は、可能な限り最小化されるかまたは回避されるべきである。
訓練の、治療的、予防的かつ先制的な形態
呼吸筋は、電磁的または電気的な刺激によって、1.劣化した呼吸筋が再び増強されるか、もしくは弱体化した筋肉が再び強化され、2.筋肉劣化もしくは筋肉弱体化が防止され、および/または3.筋肉が、予期された劣化以前に増強されるか、もしくは予期された強化低下以前に強化されるように、訓練され得る。
【0097】
したがって、訓練は、以下のように、治療的、予防的かつ/または先制的なものであり得る。
1.従来の換気および疾患処置による呼吸筋の劣化および/または弱体化の後に、筋肉を再構築し、および/または筋力を回復するために、治療的訓練刺激が行われる。
2.従来の換気および疾患処置中の筋肉劣化および/または強度低下は、予防の訓練刺激によって防止される。
3.予期される、従来の換気または疾患処置による負荷増加および/または呼吸筋の劣化もしくは弱体化の前に、呼吸筋および/または筋力が、先制の訓練刺激によって増強される。
訓練刺激の強度
電磁的または電気的な刺激が十分な換気をもたらす(文献1)ので、吸気におけるこの刺激強度は、通常の自発呼吸が筋肉劣化や強度喪失も防止するのと同様に、筋肉劣化を防止するのにも適すると想定される。多くの場合、より低い刺激強度は、たとえば従来の換気中に適切な頻度で使用されるなら、筋肉劣化を防止するのにも適する。より強い刺激を用いると、それに応じて呼吸筋および/または筋力が増強され得、あるいは筋肉劣化および/または強度喪失は、少ない刺激でも、より効果的に防止され得る。
【0098】
高い刺激強度を用いる訓練については、呼気中の刺激が特に重視される(下記を参照されたい)。
訓練刺激パターンの円滑な遷移
訓練刺激では、以下の6つの遷移は円滑に行われる。
1.少数の非常に強い訓練刺激と、多数の非常に弱い訓練刺激の間の遷移。
2.部分的な刺激と、全体の呼吸サイクルにわたる刺激の間の遷移。
3.自発呼吸と同期した刺激と、自発呼吸から独立した刺激の間の遷移。
4.筋肉劣化または筋力強度の低下を防止する刺激と、筋肉増加または筋力強度を向上する刺激の間の遷移。
5.訓練刺激と、調整刺激の間の遷移。
6.訓練刺激と、換気刺激の間の遷移。
訓練呼吸の要件
訓練刺激は、対応する訓練呼吸をもたらす。したがって、訓練パターンは、同様に、前述の刺激方法1~4に的を絞り、これらで言及されている関係を考慮に入れる。それに応じて、訓練刺激において達成される呼吸も、以下の4つの要件を満たすように意図される。
【0099】
訓練呼吸は、
1.肺および呼吸筋にさらなる損傷を与えず、またはさらなる損傷を最小限にして、むしろ好影響を及ぼすべきである。
【0100】
2.たとえば過換気といったさらなる悪影響を及ぼすべきではない。
【0101】
3.自発呼吸に悪影響を及ぼさず、むしろ、可能な限り好影響を及ぼすべきである。
【0102】
4.不快感は、なくすか、または可能な限り軽微なものにするべきである。
電磁的または電気的な訓練方法
したがって、前述の刺激方法1~6によれば、有害な呼吸なしで強い訓練刺激も可能にする、以下の6つの訓練刺激の形態がある。
【0103】
7.1.肺温存訓練刺激
7.2.強い訓練刺激
7.3.肺保護訓練刺激
7.4.自己損傷を回避する訓練刺激(P-SILI)
7.5.訓練刺激の変調
7.6.訓練刺激の調整
7.1.肺温存訓練刺激
刺激方法1で説明された、肺組織への低エネルギー伝達による穏やかな呼吸の原理は、かなり長い間隔を置いてから、たまにしか行われない場合でも、訓練刺激にも適用される。この刺激方法により、吸気中の刺激インパルスの段階的な増加および呼気中の刺激インパルスの段階的な減少によって、上記で説明されたような、突然の、可能性として有害な呼吸運動が回避される。これは、特に、強く頻繁な訓練刺激のために大変重要である(下記の7.2を参照されたい)。
7.2.強い訓練刺激
この方法により、筋肉の急速な増強または強度の増加が実現され得、および/または、少数の強い刺激のみで、筋肉劣化および強度喪失が効果的に防止され得る。この刺激形式の決定的な態様は、呼吸筋の強い筋肉活動にもかかわらず、呼吸がほとんどないことである。刺激方法2で上述したように、これは、呼吸状態を吸気へ移行させ、呼気を防止することによって実現される。詳細には、呼気を定義されたレベルに保持すること(呼気の保持)は、筋肉努力の増加を必要とする。したがって、非常に強い訓練刺激は、強い呼吸をもたらすことなく、吸気相と呼気相との両方において、呼吸筋の明白な収縮と同時に行われ得る。
【0104】
ここで、吸気相と呼気相との両方における「呼吸の保持」は、それぞれの呼吸サイクルにおける刺激時間を適切に延長することによって強化され得る。同時に、上記の刺激方法2で説明されたように、二次的効果として、崩壊した肺領域が開かれ、換気された肺領域が安定する。
【0105】
この訓練方法により、わずかな副作用で、肺の保護を伴う、呼吸筋の非常に強い訓練刺激が可能になる。筋肉活動が明白であっても、自己損傷を回避する(下記の7.3~7.5を参照されたい)だけでなく、低炭酸症などの対応する副作用を伴う過換気と、結果としての危険なpH移行とを回避することも可能である。
【0106】
呼気相における刺激が不可能であるか、または可能であっても不適切な場合には、フィードバックによって制御され得る休止期間によって、過換気に関連する副作用も疲労も回避され得る。加えて、深い呼吸は、ストラップおよび/または重りだけでなく、気道抵抗の増加によっても機械的に制限され得、結果として、訓練効果がさらに強化され得る。
【0107】
強い訓練刺激の結果として、器具は、患者1人当たりの利用期間が大幅に短縮され得、結果として、短い間隔で数人の患者に利用可能になり得る。
【0108】
この強い訓練の重要な態様は、呼吸筋の強い収縮に対応する顕著な刺激にもかかわらず、急な呼吸運動を伴う深い呼吸(上記の7.1を参照されたい)、大きな一回呼吸量(下記の7.3を参照されたい)、および/または高い肺圧差をもたらさないことである。
7.3.肺保護訓練刺激
上記の刺激方法3で説明されたように、吸気中の呼吸深度は、訓練のこの形態でも、穏やかな一回呼吸量が呼吸され、および/または穏やかな肺圧差をかけられるように調整される。このことは、特に、頻繁な訓練刺激の場合には非常に重要である。前述の、一回呼吸量の測定と刺激強度との間のフィードバックによって、呼吸状態に対するフィードバックが上記で説明されたようにさらに行われ得る(上記の7.2を参照されたい)。
【0109】
したがって、刺激強度が増加され得、同時に、強い訓練刺激であっても、理想体重に対するたとえば6ml/kgの肺保護的な一回呼吸量、および/または500Pa(5mbar)の肺圧差は、超過されない。したがって、上記の7.2で説明されたように、呼吸状態と一回呼吸量との間の相互作用によって、有害な呼吸なしで、強い訓練刺激を実現することができる。
【0110】
加えて、呼気抵抗を増加することで、呼吸状態を吸気に移行することによって一回呼吸量を制限することも限定的に可能である。このことは、呼気中に、刺激と組み合わせて、同期して行われ得る。
【0111】
しかしながら、刺激強度が低くても、大きい一回呼吸量が実現され得る。肺保護刺激はまた、呼吸状態から独立して、刺激強度が低くても、大きな一回呼吸量で有害な呼吸がもたらされる状況を防ぎ、これは、特に頻繁な刺激の場合に、訓練刺激自体が肺を損傷する可能性を排除する。これは、特に自発呼吸において重要であり、というのは、この場合、自発呼吸に加えて小さい訓練刺激であっても、その後もたらされる自律呼吸をかなり強化することができるためである(下記の7.4.~7.5を参照されたい)。
7.4.自己損傷を回避する訓練刺激(P-SILI)
訓練中に達成される換気によるさらなる損傷を最小化するかまたは防止するように意図された前述の3つの訓練刺激パターンに加えて、この訓練パターンは、自発呼吸が存在する場合の損傷を回避するかまたは最小化するように意図されている。
【0112】
追加の訓練刺激が深い吸気および/または突然の吸気をもたらさないように、自発呼吸が考慮に入れられる。これは、特に頻繁な繰返しの場合には重要であり、様々なやり方で実現され得る。吸気中には、刺激がないか、刺激があっても定義された一回呼吸量が超過しないようなものであるか、または吸気がそれに応じて変調される。
【0113】
さらなるパターンでは、刺激方法2および項目7.2で説明されているように、この訓練では、呼気中に、自発的な呼吸の深度が制限され、したがって自己傷害的な呼吸も制限されるように呼気を防止することにより、呼吸状態が吸気に移行され得る。
【0114】
したがって、刺激が個々に柔軟に適合され得るように、また、必要に応じて自発呼吸が変調され得るように、刺激によって引き起こされたり変化したりする自発呼吸および/または自律呼吸を検知する必要がある(下記の7.5を参照されたい)。
7.5.訓練刺激の変調
最終的に、上記の刺激方法5で説明されたように、訓練刺激と変調刺激との間の種々の組合せの状況で円滑な遷移が存在する。したがって、刺激は、疾患および疾患の重症度を考慮に入れて、自律呼吸の要件およびまた所望の訓練効果を満たすことができるように、個々に適合され得る。
【0115】
変調する訓練刺激は、常に自発呼吸を考慮に入れ、したがって自発呼吸も変化させる。ここで、刺激は全体の呼吸サイクルにわたって、または部分的にのみ実行される。部分的な刺激の場合には、訓練が達成されるのは、吸気相においてのみ、呼気中のみ、またはこれらの呼吸の相の一部においてである。ここで、上記で数回説明されたように、強い訓練を提供可能にするとともに、制御された自律呼吸が深くなりすぎるのを回避し、訓練中の深すぎる自発呼吸も回避するように、呼気は特定の重要性を想定する。浅く急速な呼吸とともに呼吸筋が疲労している状況でさえ、変調刺激は同時に訓練を提供し、また上記の刺激方法5で説明されたように、呼吸パターンを改善することができる。疲労が増すにつれて、疲労した呼吸筋を救援するために、できるだけ早く介入が求められるべきである。極度の疲労の場合には、換気による呼吸筋の救援が必要となることがあり、予防的な訓練刺激によって、筋肉劣化を早期に制限するか、さらには防止することができる。
7.6.訓練刺激の調整
上記の刺激方法6で説明された調整刺激は、訓練刺激の形態も表す。しかしながら、調整刺激の主な目的は、呼吸筋の訓練ではなく、定義された呼吸パターンの「実践」または調整である。したがって、呼吸筋の訓練の補足として、定義された呼吸パターンの調整がさらに意図される場合には、調整訓練刺激が行われる。
刺激機能の組合せ
訓練刺激は、疾患の重症度、肺損傷、および呼吸障害に応じて、適切に適合した換気の要件も満たすことができるように、最終的に、調整刺激と組み合わされ得る。たとえば、ARDSの状況で低酸素血の肺損傷の場合、呼気性の保持、抑制および切り詰めた刺激パターン(上記および下記を参照されたい)の支援を伴う呼気中の刺激は、肺を安定させ、過大な一回呼吸量から肺を保護し、呼気の「保持」を調整し、同時に呼吸筋の強い訓練をもたらすことができる(呼気刺激の概要を参照されたい)。
呼気刺激の概要
呼気中の刺激は、1.肺安定化と、2.肺保護と、3.自発呼吸の調整と、4.呼吸筋の、強い、その一方で穏やかな訓練とのために中心的な重要性を有する。
1.肺安定化
安定化刺激は、対応するガス交換障害を伴う肺の崩壊を防止し、さらに、有害な崩壊漸増換気、換気された肺の高度拡張、呼吸作業の増加、呼吸努力、P-SILI、そして最終的には疲労も防止する。安定化刺激は、1.呼気の保持、2.呼気の抑制、および3.呼気の切り詰め、といった3つの異なる方法によって行われ得、これらは組合せも可能である。
1.呼気の保持:呼気を保持することによる完全な吐出の防止。
2.呼気の抑制:刺激強度を低下することによる呼気の減速。
3.呼気の切り詰め:呼気期間の短縮。
【0116】
最終的に、呼気レベルは、特には呼気の保持によって、しかしまた抑制の性質、および間接的に呼気時間の短縮によっても決定される。陽圧換気とは対照的に、ここでは肺における不自然な圧力上昇はないが、陰圧換気の場合と同様に、腹腔における不自然な血圧低下もない。
2.肺保護
呼気に空気を多く保持するほど、呼吸状態は吸気に移行して深い呼吸でなくなり、再び吸い込むことができる。呼吸状態の移行が、深い呼吸が不可能であることを意味する場合には、高く、したがって、有害な一回呼吸量は、純粋に機械的には実現され得ない。このことは、1.自発呼吸、2.電磁的または電気的に制御される自律呼吸、3.電磁的訓練または電気的訓練の呼吸、だけでなく4.従来の換気にも影響を及ぼす。したがって、呼気自体の刺激さえも、有害な自発呼吸を制限することが可能であり、有害な電磁的または電気的な換気だけでなく、大きな一回呼吸量を伴う従来の換気も制限することが可能である。
3.調整
調整刺激は、様々な呼気の練習を目標指向的に支援し、それによって、後続の自発呼吸のための定義された呼気技術をより効果的に学習できる。
4.訓練
呼気における刺激は、呼吸状態を移行して吸気を制限することにより、呼吸筋の強い訓練を可能にする。これは、呼吸筋の強い筋肉活動にもかかわらず、軽微な呼吸しかないので、吸気相と呼気相との両方において、呼吸筋の顕著な収縮を伴う非常に強い訓練刺激を可能にする。このようにして、広範な訓練呼吸を回避することが可能であり、また、訓練中の有害な自発呼吸、ならびに関連する悪影響および合併症も回避することができる。
例示の実施形態
本発明は、例示の実施形態を基に、図を参照しながら以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【
図1】
図1は、生物に対する電気刺激器具の使用を示す図である。
【
図2】
図2は、生物に対する陽圧換気に関連する電気刺激器具の使用を示す図である。
【
図3】
図3は、呼吸状態のタイムチャートを示す図である。
【
図4】
図4は、呼吸状態のタイムチャートを示す図である。
【
図5】
図5は、呼吸状態のタイムチャートを示す図である。
【
図6】
図6は、呼吸サイクルにおける肺の中の空気量の経時的変化を示す図である。
【
図7】
図7は、呼吸サイクルにおける肺圧差の経時的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0118】
図1は、臥位における生物1を示す。明瞭にするために、生物1における横隔神経2および肋間神経3の有利な刺激位置が示されている。現在の例示的実施形態では、横隔神経2が電磁的刺激によって刺激されることが意図されていると想定される。
【0119】
図1が示す電気刺激器具4は、生物1に磁界を供給するための、たとえばコイルといった信号出力素子10に、電線路によって接続されている。電気刺激器具は、信号出力素子10によって、生物に刺激信号を生成することができ、刺激信号が生成し得る筋収縮によって、生物1の呼吸に目標指向的な影響が及び得る。
【0120】
電気刺激器具4は、たとえばコンピュータ制御の電気刺激器具として設計され得る。電気刺激器具4は、コンピュータ5、刺激信号生成器6、メモリ7および操作要素8を有する。運用データを表示するための表示デバイスが、付加的に存在し得る。電気刺激器具4の機能のうちいくつかまたはすべてが、メモリ7に記憶されているコンピュータプログラムによって実行され得る。コンピュータ5は、メモリ7のコンピュータプログラムを実行する。このようにして、刺激信号生成器6は、所望の磁界を生成する信号出力デバイス10に、対応する刺激信号を出力する。刺激信号による、生物1の換気のための前述の機能、またはユーザによって実行される処置は、ユーザが、操作要素8を介してたとえば呼吸サイクルのパラメータを設定することによって、影響を及ぼされ得る。
【0121】
生物1の、電気刺激による人工呼吸は、説明された要素によって制御され得る。ある特定のパラメータも調整される場合には、電気刺激器具4に、生物1の呼吸サイクルの特性の1つまたは複数の測定値が供給されなければならない。たとえば、生物1によって吸入された体積流量および吐出された体積流量を検知するのが好都合であり得る。これは、たとえば流量センサを配置された顔マスク13によって達成され得る。顔マスク13または流量センサは、呼吸の流量に対して、実質的に影響を及ぼさない。しかしながら、体積流量を特徴付ける量的変数が、検知されて、電気刺激器具4に供給され得る。センサ信号は、たとえばコンピュータ5によって評価され得る。
【0122】
電気刺激器具4は、たとえば他の器具とのデータ交換のために、他の器具に接続するためのインターフェース9を付加的に有し得る。このようにして、電気刺激器具4がそれ自体のセンサを装備する必要はなく、さらなる測定値が電気刺激器具4に供給され得る。
【0123】
図2は、陽圧換気装置11に関連した、生物1に対する電気刺激器具4の使用を示す。換気装置11が有する空気配送ユニット18によって、環境から、空気が、ポート19を通って吸引され得、呼吸マスク13によって、空気ライン12を通って生物1の気道に供給され得る。呼吸マスク13または空気ライン12は、定義された漏れ14を有し得る。換気装置11の内部で、圧力センサ16と、たとえば呼吸流量計といった体積流量センサ17とが、空気ライン12に接続されている。換気装置11は、それ自体の制御ユニット15を有し、これにセンサ16、17が接続されている。制御ユニット15は、所定のアルゴリズムに従って空気配送ユニット18を作動させ、このようにして、呼吸マスク13を介して、生物1の呼吸器における所望の体積流量曲線および/または圧力曲線を生成する。
【0124】
電気刺激器具4が、そのインターフェース9を介して換気装置11に接続されていることが理解されよう。インターフェース9によって、対応する測定値と、換気装置11の内部で計算された生物の呼吸サイクルの特性に関する任意選択のさらなる値とが、電気刺激器具4に供給される。このようにして、電気刺激器具4は、たとえば生物1の呼吸サイクルの圧力および体積流量の現在の測定値を受け取る。
【0125】
図3~
図5は、それぞれが時間tに対してプロットされた様々な呼吸状態のいくつかの呼吸サイクルを示す。それぞれの場合における肺の中の空気量Vが、縦座標にプロットされている。
【0126】
図3は、安静時の呼吸中の一回呼吸量(AZV)および可能な最大の呼気を伴う呼吸状態を示すものであり、これによって、安静時の、呼吸中の通常の呼吸状態および最終予備呼気量(ERV)を示すことが意図されている。予備吸気量(IRV)も、ここで特徴付けられ、
図4では可能な最大の吸気によって示されている。最後に、
図5は、呼吸状態の、安静時の呼吸から吸気への移行を示しており、安静時の呼吸の一回呼吸量が、増加したERVおよび減少したIRVにあることによって特徴付けられる。
【0127】
図3~
図5に示される呼吸プロファイルは、本発明による電気刺激器具4および本発明による方法によって適切に制御または調整され得、すなわち、電気刺激器具によって、生物1の少なくとも1つの神経および/または1つの筋肉に、対応する刺激信号が供給され、その結果、呼吸筋の対応する筋収縮が生成され、最終的に図示の呼吸サイクルをもたらす。
【0128】
図6および
図7は、呼吸サイクルの拡大図を示す。呼吸サイクルは吸気相Iおよび呼気相Eから成る。
図6は空気量Vを経時的に示し、
図7は肺圧差TPPを経時的に示す。
図6によれば、吸気相Iは、下部の頂点で始まり、上部の頂点で終わることが理解されよう。呼気相Eは、曲線の上部の頂点で始まり、後続の下部の頂点で終わる。圧力TPPのプロファイルは、空気量Vのプロファイルに対して位相シフトされている。
【0129】
電気刺激器具4は、たとえば、
図6および
図7に示された呼吸サイクルのプロファイルを生成することができる。吸気相の期間および/または呼気相の期間は、選択された機能に応じて別個に影響される。空気量プロファイルおよび/または圧力プロファイルの振幅も、曲線プロファイルの最大値や最小値のそれぞれの位置も、別個に影響される。
文献
1.Raymondos K、Dirks T、Quintel M、Molitoris U、Ahrens J、Dieck T、Johanning K、Henzler D、Rossaint R、Putensen C、Wrigge H、Wittich R、Ragaller M、Bein T、Beiderlinden M、Sanmann M、Rabe C、Schlechtweg J、Holler M、Frutos-Vivar F、Esteban A、Hecker H、Rosseau S、von Dossow V、Spies C、Welte T、Piepenbrock S、Weber-Carstens。ドイツの大学病院および非大学病院における急性呼吸不全症候群の結果。Crit Care 2017;21(1):122。
【0130】
2.Sander BH、Dieck T、Homrighausen F、Tschan CA、Steffens J、Raymondos K。Electromagnetic ventilation:first evaluation of a new method for artificial ventilation in humans。Muscle Nerve 2010;42(3):305-10。
【0131】
3.Schmidt J、Wenzel C、Spassov S、Borgmann S、Lin Z、Wollborn J、Weber J、Haberstroh J、Meckel S、Eiden S、Wirth S、Schumann S。Flow-Controlled Ventilation Attenuates Lung Injury in a Porcine Model of Acute Respiratory Distress Syndrome:A Preclinical Randomized Controlled Study。Crit Care Med 2020;48(3):e241-e248。
【0132】
4.Sinderby C、Navalesi P、Beck J、Skrobik Y、Comtois N、Friberg S、Gottfried SB、Lindstrom L。Neural Control of Mechanical Ventilation in Respiratory Failure。Nat Med 1999;5(12):1433-6。
【0133】
5.Welvaart WN、Paul MA、Stienen GJ、van Hees HW、Loer SA、Bouwman R、Niessen H、de Man FS、Witt CC、Granzier H、Vonk-Noordegraaf A、Ottenheijm CA。Selective diaphragm muscle weakness after contractile inactivity during thoracic surgery. Ann Surg. 2011; 254(6):1044-9。
【国際調査報告】