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特表2024-524636ジアスコルビン酸アムシパトリシン(AMCIPATRICIN)の製造方法、及び従来の抗真菌剤に耐性のある侵襲性真菌感染症の処置のためのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ジアスコルビン酸アムシパトリシン(AMCIPATRICIN)の製造方法、及び従来の抗真菌剤に耐性のある侵襲性真菌感染症の処置のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   C07H 17/08 20060101AFI20240628BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C07H17/08 K
A61P31/10
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/7048
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501563
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2022069172
(87)【国際公開番号】W WO2023285323
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/220,598
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521495585
【氏名又は名称】バイオセウティカ・べー・フェー
【氏名又は名称原語表記】BIOSEUTICA B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ,ヴァレリオ・マリア
(72)【発明者】
【氏名】バッジョ,マリア・カーラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィジランテ,マリオ
(72)【発明者】
【氏名】カリーツィ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ブルゼーゼ,ティベリオ
(72)【発明者】
【氏名】グリセンティ,パリーデ
【テーマコード(参考)】
4C057
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C057AA17
4C057AA18
4C057CC03
4C057DD02
4C057KK24
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA13
4C084MA35
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA56
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA612
4C084ZB322
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC202
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086EA15
4C086GA14
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA35
4C086MA43
4C086MA44
4C086MA52
4C086MA56
4C086MA58
4C086MA59
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB35
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、ジアスコルビン酸アムシパトリシンの製造方法、及び従来の抗真菌剤に対する耐性の証明/蔓延を有する侵襲性真菌感染症の改善された治療のためのその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアスコルビン酸アムシパトリシンの製造方法であって、次の工程:
a)N,N-ジメチルグリシン、ペンタフルオロフェノール及びカップリング剤からのN,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステルの調製;
b)工程a)で得られたN,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステルとパルトリシンAとを反応させて中間体1を得ること;
c)中間体1を含有する反応混合物にカップリング剤を添加して中間体2を得ること;
d)中間体2を含有する反応混合物へのN,N’-ジメチルアミノエチルアミンの添加;
e)水での希釈、濾過及び乾燥による、工程d)からの沈殿物の単離;
f)工程e)からの反応混合物を順相クロマトグラフィーにより精製して、粗アムシパトリシンを得ること;
g)工程f)からの粗アムシパトリシンを逆相クロマトグラフィーにより精製して、精製アムシパトリシンを得ること;
h)工程g)からのアムシパトリシンの水溶液にL-アスコルビン酸を添加して、ジアスコルビン酸アムシパトリシンを得ること;
i)凍結乾燥又は噴霧乾燥による固体ジアスコルビン酸アムシパトリシンの単離
を含む方法。
【請求項2】
工程a)及びc)のカップリング剤が、ヘキサフルオロホスフェートアザベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム(HATU)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)又はN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)においてペンタフルオロフェノール/N,N-ジメチルグリシン/カップリング剤のモル比が、1.0/1.0÷1.2/1.0÷1.4である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
N,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステルとパルトリシンAが、工程bにおいて、1.0/0.8と1.2の間に含まれるモル比で、15~30℃の温度範囲で、-0.6~-1.2の間に含まれるlogPを有する非プロトン性有機溶媒を用いて使用される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
非プロトン性有機溶媒が、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド若しくはジメチルスルホキシド又はこれらの混合物である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程d)のパルトリシンAとN,N’-ジメチルアミノエチルアミンとのモル比が、1/3~1/4の範囲に含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
工程f)の固定相が、35~230メッシュの間に含まれる粒度分布を有するシリカゲルであり、そして移動相が、83/15/2 v/v/vの体積比の非プロトン性有機溶媒、極性有機溶媒及び塩基性水溶液から構成されている、請求項1記載の方法。
【請求項8】
非プロトン性有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン又は酢酸エチルであり;極性有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール又はn-プロパノールであり;塩基性水溶液が、10~30% w/vアンモニア水溶液を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
工程g)の固定相が、逆相シリカゲルRP18(40~63μm)又は均等物であり;粗アムシパトリシンと固定相との重量比が、1/40÷70の範囲に含まれ;溶出が、アセトニトリルと緩衝液との相対比を5:10÷95:90から30:40÷70:60の範囲まで増加させながら、1カラム床体積/5分の流量で実施される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
緩衝液が、L-アスコルビン酸又はギ酸緩衝液であり:アセトニトリルと水性緩衝液との体積比が、5:10/95:90の範囲に含まれ;酸の濃度が、10~100mMの範囲に含まれ;緩衝液の最終pH値が、3.0から5.0の範囲に含まれる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
工程h)の塩形成が、20~40℃の範囲の温度で0.10~0.20mol/lの間に含まれるアムシパトリシンの濃度で働く水溶液中のL-アスコルビン酸2~3当量を用いて達成される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
工程i)のジアスコルビン酸アムシパトリシンの単離が、入口温度130~150℃で働く1~20%水溶液から噴霧乾燥機を用いて達成される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
得られた粒度分布DL90が、5μm未満である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
式1:
【化5】

で示される、化合物2-(ジメチルアミノ)-N-((2R,3S,4S,5S,6R)-2-(((1R,3S,5S,7R,9R,13R,18S,19E,21E,23Z,25Z,27E,29E,31E,33R,36R,37S)-36-(ヒドロペルオキシ-12-メチル)-1,3,5,7,9,13,37-ヘプタヒドロキシ-17-((2S,5R)-5-ヒドロキシ-7-(4-(メチルアミノ)フェニル)-7-オキソヘプタン-2-イル)-18-メチル-11,15-ジオキソ-16,39-ジオキサビシクロ[33.3.1]ノナトリアコンタ-19,21,23,25,27,29,31-ヘプタエン-33-イル)オキシ)-3,5-ジヒドロキシ-6-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アセトアミド。
【請求項15】
式2:
【化6】

で示される、化合物ペルフルオロフェニル(1R,3S,5S,7R,9R,13R,18S,19E,21E,23Z,25Z,27E,29E,31E,33R,36R,37S)-33-(((2R,3S,4S,5S,6R)-4-(2-(ジメチルアミノ)アセトアミド)-3,5-ジヒドロキシ-6-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)-1,3,5,7,9,13,37-ヘプタヒドロキシ-17-((2S,5R)-5-ヒドロキシ-7-(4-(メチルアミノ)フェニル)-7-オキソヘプタン-2-イル)-18-メチル-11,15-ジオキソ-16,39-ジオキサビシクロ[33.3.1]ノナトリアコンタ-19,21,23,25,27,29,31-ヘプタエン-36-カルボキシラート。
【請求項16】
様々な病因を有する、カンジダ・アウリス(C. auris)によって、並びに/又はムーコル・シルシネロイデス(Mucor circinelloides)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)及び/又はリゾプス・ミクロスポレス(Rhizopus microspores)などのケカビ(Mucorales)目の真菌病原体によって引き起こされる感染症の処置方法であって、有効量のジアスコルビン酸アムシパトリシンを必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項17】
有効量のアムシパトリシン又はジアコルビン酸アムシパトリシンを、単独で又は他の治療剤と組合せて含み、経口、皮膚/皮下、バッカル、耳介、吸入、心臓内、鼻腔内、眼内、腟内又は注射/輸液投与に適した担体及び/又は賦形剤で製剤化された、医薬組成物。
【請求項18】
他の治療剤が、抗生物質、気管支拡張剤、ステロイド、ホスホジエステラーゼ-4(PDE-4)阻害剤から選択される、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
噴霧乾燥によって調製された、DL90≦5μmである乳糖一水和物を有するジアスコルビン酸アムシパトリシンの固体製剤としての、請求項17記載の組成物。
【請求項20】
ドライパウダー吸入器(DPI)製剤の形態である、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
液体定量吸入器(MDI)の形態である、請求項17記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の概要
本発明は、ジアスコルビン酸アムシパトリシン(amcipatricin diascorbate)の製造方法、及び従来の抗真菌剤に対する耐性の証拠/蔓延を有する侵襲性真菌感染症の処置の改善のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
侵襲性真菌性疾患は公衆衛生上の脅威であり、現在も罹患率及び死亡率の重要な原因のままである。真菌性疾患により170万人以上が死亡し、10億人以上が罹患している。重篤な真菌感染症は、喘息、エイズ、癌、臓器移植及びコルチコステロイド療法を含む様々な健康問題の結果として発症する。過去には、有効な治療選択肢が限られていたため、多くの侵襲性真菌感染症は予後不良を伴っていた。新たな作用機序を備えた新たな治療活性のある抗真菌剤の発見により、利用可能な薬剤の数が拡大して従来の治療選択肢を上回り、臨床医に治療法の選択肢が提供されてきた。
【0003】
アムホテリシンBは、1950年代に発売されて以来、全身抗真菌療法の至適基準となっている(Gallis et al. Rev Infect Dis 1990; 12:308-29)。この物質はナイスタチンをも含むポリエン系薬物の分類に属すが、ナイスタチンはアムホテリシンBと比較すると毒性がより強い。ポリエン剤は、真菌の細胞膜内のエルゴステロールに結合することによってその抗真菌活性を発揮する。この相互作用により細胞透過性が破壊され、急速な細胞死が引き起こされる。アムホテリシンB及びグリセオフルビンは、真菌細胞におけるDNA及びタンパク質合成を阻害するピリミジン類似体であるフルシトシンが承認された1970年代初頭まで、侵襲性真菌性疾患に対する比類のない全身療法選択肢であり続けた。単独療法として使用した場合のグリセオフルビンの毒性と耐性の急速な発現とにより、侵襲性真菌感染症の処置のためのその日常的な使用は制限されてきた。1978年に、最初の全身性アゾール広域スペクトル抗真菌剤であるケトコナゾールが発見された。アゾール剤は、ラノステロールの脱メチル化を遮断することによってその抗真菌活性を発揮し、それによってエルゴステロール合成を阻害する。ケトコナゾールの後から年代順にイトラコナゾール(1980年)、フルコナゾール(1982年)、ボリコナゾール(1991年)及びポサコナゾール(1995年)が続いた。拡張スペクトルのトリアゾール類には、広範囲のカビに対する殺真菌活性だけでなく、カンジダ(Candida)属及び他の酵母菌に対する活性が備わっている。エキノカンジン類は新しい種類の抗真菌薬である。カスポファンギンがこの分類に属し、1994年に発見され、続いてアニデュラファンギン(1993年)及びミカファンギン(1996年)が発見された。エキノカンジン類の作用機序は、真菌細胞壁の必須成分である(1→3)-β-D-グルカンの産生の阻害である。
【0004】
侵襲性真菌感染症の処置に利用できる上記の薬剤全てに、長所と短所がある。アムホテリシンBは、真菌感染症の処置や、ブラストミセス(Blastomyces)属、カンジダ属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属及びヒストプラズマ(Histoplasma)属によって引き起こされる重篤な播種性の二形性真菌感染症及び酵母感染症に今なお最も広く使用されている薬剤である。アムホテリシンBは腎毒性、腎血流の減少、吐き気、嘔吐及び食欲不振を引き起こすことが報告されており、更にアムホテリシンBの水溶性は非常に低い(蒸留水中<0.001mg/ml)。ナイスタチンは毒性が強すぎて全身には使用できないが、粘膜カンジダ症の症例では使用される。グリセオフルビンは、表皮糸状菌(Epidermophyton)、小胞子菌(Microsporum)及び白癬菌(Trichophyton)属によって引き起こされる特定の皮膚糸状菌感染症の処置に使用されるが、肝毒性及び胃腸障害を引き起こす可能性がある。アゾール類の主な欠点は、肝壊死及び腹部痙攣を含む毒性が頻繁に発生することである。その結果、アゾール類は主としてカンジダ症、コクシジウム髄膜炎、皮膚糸状菌及びヒストプラズマ症の処置に局所的に使用される。更に、これらの薬剤は多数の薬剤と相互作用し、肝毒性をもたらすことが知られている。アゾール類の別の潜在的限界は、フルコナゾールに耐性のあるカンジダ属の出現である。カスポファンギンは、アスペルギルス(Aspergillus)属及びカンジダ属に対する活性が実証されており、忍容性は良好であるが、発熱、静脈炎、頭痛及び発疹を含む、一般的な副作用がある。これらの入手可能な抗真菌性抗生物質の全てに限界があるため、新規で安全な広域スペクトルの抗真菌性抗生物質の探索が推進されている。
【0005】
これらの薬剤の治療的使用により、その使用に伴う抗生物質耐性についての認識を高める必要性が確認された。そのため、例えば、カンジダ・アウリス(Candida auris)のような真菌のタイプは、上記の種類のポリエン剤に対する、エキノカンジン類に対する、並びにピリミジン及びアゾール誘導体に対する耐性を示す可能性があり、真菌感染症を処置するのが困難になる(Lee, Wee Gyo et al., Journal of Clinical Microbiology (2011), 49(9), 3139-3142)。
【0006】
2009年に初めて検出されたカンジダ・アウリスは、酵母として増殖するカンジダ属の子嚢菌の一種である。ほとんどのカンジダ・アウリス感染症はエキノカンジン類で処置可能である。ただし、一部のカンジダ・アウリス感染症は、主な種類の抗真菌薬剤に耐性がある(Chowdhary, Anuradha; et al, Emerging Infectious Diseases (2013), 19(10), 1670-1673. Kean, Ryan et al., mSphere (2019), 4(4), e00458-19/1-e00458-19/10)。この状況では、この感染症を処置するために高用量の複数の種類の抗真菌薬を必要とするかもしれないが、侵襲性感染症の処置後であっても、通常患者には、長期間カンジダ・アウリスが定着し続ける。カンジダ・アウリスは、カンジダ感染症の処置に一般的に使用される複数の抗真菌薬剤に耐性があるだけでなく、標準的な検査室の手法で同定するのが難しいため(誤同定は不適切な管理につながる可能性がある)、今日では世界的に深刻な健康上の脅威をもたらす真菌であり、それは医療現場で大流行を引き起こしている(Ben-Ami, Ronen et al Emerging Infectious Diseases (2017), 23(2), 195-203)。
【0007】
真菌感染症の中でも、接合真菌症又は黒色真菌症(black fungus)としても知られるムコール菌症は、もう一つの重篤であるがまれな真菌感染症であり、通常、免疫抑制された対象、コントロール不良の糖尿病、及び高用量コルチコステロイド処置を受けている対象に生じる。この真菌感染症は、ケカビ(Mucorales)目の真菌に起因する。場合によっては、この感染症は致死性になる可能性があり、クモノスカビ属(Rhizopus)の真菌(最も一般的)、ケカビ(Mucor)、Lichterman、Apophysomyces、クスダマカビ(Cunninghamella)、モルチエレラ(Mortierella)、及びサクセネア(Saksenaea)の侵入が原因である。これらの真菌の胞子は環境(例えば、カビの生えたパンや果物上など)中に一般に存在し、しばしば息で吸い込まれるが、病気を引き起こすのは一部の人だけである。
【0008】
ムコール菌症の薬物療法には、アムホテリシンBの使用であって、最初は静脈内にゆっくりと投与され、その後2週間毎日投与されるか、代わりにアゾール類(イサブコナゾール又はポサコナゾール)が投与される使用が含まれる。次いで「真菌球」の外科的除去の必要が示される。
【0009】
2021年初めに、インドでは約1万2000症例の「黒色真菌症」が報告されており、そのほとんどが新型コロナウイルス感染症(Covid-19)から回復中の患者で、おそらく新型コロナウイルス感染症患者の処置に使用されるステロイドの過剰処方が原因と考えられる。実際、ステロイドは、コロナウイルスによる感染を止めることなく体を傷つける過剰な炎症反応(いわゆる「サイトカインストーム」)を防ぐために処方されている。最も感染率が高かったのはインドとパキスタンで、年間感染者数は100万人あたり約140症例であった。
【0010】
ムコール菌症は、しばしば生命を脅かす感染症である。発表されたムコール菌症例の総説では、全体で全死因死亡率の54%であることが分かった(Roden MM et al., Clin Infect Dis. 2005 Sep 1;41(5):634-53)。専門家らは、新型コロナウイルス感染症の処置にステロイドを多量に投与すると、二次感染や従来使用されてきた抗真菌剤に対する抗生物質耐性を引き起こす可能性があると考えているため、「黒色真菌症」の処置用の更に活性の高い抗真菌剤が必要であることが、この分野の薬理学的研究を刺激した。
【0011】
ジアスコルビン酸アムシパトリシン(化学名:カンジシジンD(Candicidin D)、18-デカルボキシ-40-デメチル-3,7-ジデオキソ-N’-[(ジメチルアミノ)アセチル]-18-[[[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ]カルボニル]-3,7-ジヒドロキシ-N47-メチル-5-オキソ-、環状15,19-ヘミアセタール、L-アスコルビン酸との化合物(1:2);登録番号 202748-83-2;SPK-843、SPA-843又はSPA-S-843としてもコード化される;別名SPK-843;SPA-843、SPA-S-843;図1)は1992年から知られている(EP 489308)。
【0012】
【化1】

ジアスコルビン酸アムシパトリシンの構造式
【0013】
この化合物は、パルトリシンA(partricin A)(化学名:カンジシジンD、40-デメチル-3,7-ジデオキソ-3,7-ジヒドロキシ-N47-メチル-5-オキソ-、環状15,19-ヘミアセタール;登録番号 76551-64-9で識別される化合物;図2)の合成アミド誘導体であり、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)に対する殺菌最小阻止濃度は7.5ng/mLであり、ラット赤血球に対する溶血最小濃度は18mg/mLである(Bruzzese, T. et al European Journal of Medicinal Chemistry (1996), 31(12), 965-972)。
【0014】
【化2】

パルトリシンAの構造式
【0015】
ジアスコルビン酸アムシパトリシンの抗菌スペクトルは、数種の酵母菌に対して、また、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、及びカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)を含む様々な種のカンジダ属に対しても更に確認されている(Rimaroli et al; Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 42, 11, 3012-3013, 1998; US 5908834)。ジアスコルビン酸アムシパトリシンの毒性は、様々な哺乳動物細胞株及び骨髄系前駆細胞で評価された。この結果は、ジアスコルビン酸アムシパトリシンが細胞培養物中の酵母汚染を防ぐ予防薬として考えられ、また真菌に感染した細胞培養物を治せることを示している。13株のアスペルギルス属菌、4株のケカビ属菌、4株のリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)、2株のペシロミセス・バリオッティ(Paecilomyces variotii)、5株のペニシリウム属菌(Penicillium spp.)、1株のスポロトリックス・シェンキイ(Sporothrix schenkii)、7株のトリコフィトン属菌(Trichophyton spp.)、及び2株のミクロスポルム属菌(Microsporum spp)に対する、化学的関連化合物であるアムホテリシンB(図3)の活性と比較したジアスコルビン酸アムシパトリシンの活性は、ジアスコルビン酸アムシパトリシンがケカビ属及びペシロミセス・バリオッティに対して最も殺菌力があることを示した。ジアスコルビン酸アムシパトリシン及びアムホテリシンBは、アスペルギルス属菌(最小殺菌濃度の幾何平均 12.53μg/mL)、ペニシリウム属菌(約12μg/mL)及びスポロトリックス・シェンキイ(MFC 19.2μg/mL)に対して同じ殺菌活性を示した。アムホテリシンBは、リゾプス・オリゼ、ミクロスポルム属菌及びトリコフィトン属菌に対してジアスコルビン酸アムシパトリシンのものよりも低い最小殺菌濃度値の幾何平均値を呈する。
【0016】
【化3】

アムホテリシンBの構造式
【0017】
酵母から菌糸形へのカンジダ属菌の変換を阻害するジアスコルビン酸アムシパトリシンの能力は、薬物濃度0.25~0.62mg/Lと明らかである(Strippoli, et al. Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 45, 2, 235-237, 2000)。ジアスコルビン酸アムシパトリシンのインビトロ殺真菌活性及び静真菌活性を、臨床的に重要なカンジダ属菌(n=109)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)(n=49)及びアスペルギルス属菌(n=36)分離株に対してアンホテリシンBの活性と比較した(Kantarcioglu, et al. Journal of Chemotherapy Volume: 15, 3, 296-298, 2003)。ジアスコルビン酸アムシパトリシンの血清及び組織濃度を評価するために、ラットにおける単回及び複数回投与試験が実施された(Bruzzese et al., Chemotherapy, 47, 2, 77-85, 2001)。単回投与試験と複数回投与試験の両方に、静脈内経路による1.25mg/kgの用量を使用した。単回投与試験は、1mg/kgの静脈内用量でアムホテリシンBと比較して実施された。血漿試料は、注射後15分から96時間の間隔で採取された。ジアスコルビン酸アムシパトリシンとアンホテリシンBではそれぞれ、排出半減期は22.15時間と18.15時間、無限大までの曲線下面積(AUC(0-∞))値は35.52μg時ml-1と10.33μg時ml-1であった。両薬物は広範な組織分布を示し、ジアスコルビン酸アムシパトリシンについては腎臓による取り込みが多く、次に肝臓、脾臓及び肺であり、アムホテリシンBについては脾臓による取り込みが多く、次いで肺、肝臓及び腎臓であった。複数回投与試験(1.25mg/kg/日を7日間)では血清及び組織濃度が持続した。7日目に、投与後5分から96時間の間隔でラットから採血した。血清排出半減期及びAUC(0-∞)値は、単回投与試験のおよそ2倍であった(それぞれ41.4時間及び72.1μg時ml-1)。また、組織の半減期とAUC(0-∞)は、単回投与試験よりも大きかった。
【0018】
全身真菌感染症の見込みある処置法としてのジアスコルビン酸アムシパトリシンに関する総説が2005年に発表された(Kasanah et al. Current Opinion in Investigational Drugs (Thomson Scientific), 6, 8, 845-853, 2005)。
【0019】
ジアスコルビン酸アムシパトリシンについて実施された有望な予備的インビトロ及びインビボ試験では、アムホテリシンBと少なくとも同等の広範囲の抗真菌活性が確認され、毒性は低かったにもかかわらず、この化合物は、化学的、技術的理由及びアムホテリシンBに対してジアスコルビン酸アムシパトリシンの抗真菌スペクトルをより適切に定義する必要性を含む、幾つかの理由で治療に使用されるに至らない。
【0020】
元の製造プロセスをスケールアップする際の化学的及び技術的困難には、総収率の低さ、純度の低さ、製造コストの高さ、猛毒で爆発性の試薬の使用、そして最終生成物が数回のクロマトグラフィー精製を経なければ単離できず非晶質でのみ存在する(結晶質ではない)という事実が含まれる。
【0021】
Bruzzeseらによって開示された元の製造プロセス(Eur J Med Chem, 1996, 31, 965-972)は、出発物質としてパルトリシンAを使用して2段階合成でSPK-843塩基(アムシパトリシン)の合成を実施した。この合成アプローチは、これをスケールアップするには幾つかの欠点を示した:低いモル収率、得られた生成物の低いクロマトグラフィー純度(著者らはHPLCで95%を超える純度の生成物を得ることができなかった)、幾つかのクロマトグラフィー精製法の使用(3つの異なるクロマトグラフィー精製法が記載されている)、及び有毒で爆発性の試薬(ジフェニルホスホリルアジド;登録番号 26386-88-9で識別される化合物)の使用。特に、上述のHPLCプロフィールを有するアムシパトリシン塩基は、Bruzzeseらによって開示された同じ実験条件で更なるクロマトグラフィー精製に付した場合、クロマトグラフィープロフィールが変化せずに回収された;更に、結晶化によってアムシパトリシン塩基又はジアスコルビン酸アムシパトリシンを精製する試みは失敗し、クロマトグラフィープロフィールが修正されない生成物が得られた。これらの問題を解決するには、クロマトグラフィー純度が向上し、原薬としての使用に適し、有毒で危険な試薬の使用を回避して生成物を提供できる、より着実な代替プロセスを開発する必要があることは明らかであった。
【0022】
カンジダ・アウリスなどの既知の抗生物質耐性カンジダ株及びケカビ属の真菌に対するジアスコルビン酸アムシパトリシンの抗真菌効果は、アムホテリシンBと比較した場合、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・クルセイ、カンジダ・フラブス(C. flavus)及びカンジダ・ニガー(C. niger)に対する抗真菌活性が優れており、忍容性が高く(毒性が低く)そして水溶性が良好という観点から更に評価されている。
【0023】
実際、ジアスコルビン酸アムシパトリシンの優れた水溶性(100mg/ml)により、生理的pH値では実質的に水不溶性であり、そのため胃腸吸収率が低いアムホテリシンBに比べて、耐性カンジダ・アウリス感染症及び黒色真菌感染症の有効な処置のためのインビボの最適薬物動態パラメータを定義することができる。調査では、薬剤担体としてのリポソームがアンホテリシンBの毒性及び副作用を大幅に軽減できることが示されているが、リポソーム製剤の抗菌活性はアンホテリシンBの抗菌活性よりも低く、よって有効治療用量を増やす必要があるため、この代替製剤はまだ十分に満足のいくものではない。
【0024】
最後に、ジアスコルビン酸アムシパトリシンの優れた水溶性により、ネブライザー溶液、液体製剤及び/又は吸入使用を目的としたネブライザー溶液用の粉末(連続作動ネブライザー若しくは定量ネブライザーによってエアロゾルに変換される溶液、又は加圧吸入溶液)、ネブライザー溶液用粉末及び固体形態(カプセル若しくは錠剤、又は定量剤形で事前に分注された他の定量剤形のいずれかの吸入粉末)などの水性媒体中でのポリエン誘導体の幾つかの未開の投与経路を試験することができる。この最後のアプローチでは、噴霧乾燥法を使用して、粒度分布の90%が5μm以下(吸入で肺に浸透できる粒度)であるドライパウダーを水溶液から得ることが可能であり、気道の真菌感染症を処置することができる。この粒度は、ジアスコルビン酸アムシパトリシンの凍結乾燥した粉末を加工して得られるものではない(なぜなら、この生成物は流動性が低く吸湿性が高いため、微粉化工程には適さないからである)。
【発明の概要】
【0025】
本発明は、パルトリシンAからジアスコルビン酸アムシパトリシンを調製するための改良法を提供する。本発明の方法は、ワンポット法で全収率22%、97%を超えるHPLCクロマトグラフィー純度で、そして有毒で爆発性の試薬の使用を回避しながら所望の化合物を提供する。
【0026】
この化合物は、カンジダ・アウリスによって、並びにムーコル・シルシネロイデス(Mucor circinelloides)、リゾプス・オリゼ及びリゾプス・ミクロスポレス(Rhizopus microspores)などのケカビ目の真菌病原体によって引き起こされる感染症の処置用の、フルコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール、アムホテリシンB及びミカファンギンに匹敵する抗真菌活性を示すため、ジアスコルビン酸アムシパトリシンも黒色真菌感染症の処置に同様に作用する可能性がある。更に、ジアスコルビン酸アムシパトリシンの優れた水溶性により、噴霧乾燥法を使用して、粒度分布の90%が5μm以下(D90≦5μm))であるドライパウダーを得ることが可能であり、よって肺真菌感染症の処置用の固体吸入製剤(許容し得る呼吸性を得るために粒度を下げる必要がある)、更には噴霧される液体製剤の開発が可能になる。
【0027】
詳細な説明
アムシパトリシンの調製
ジアスコルビン酸アムシパトリシンの調製プロセスは、次の工程を含む:
a)N,N-ジメチルグリシン、ペンタフルオロフェノール及びカップリング剤からのN,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステルの調製;
b)工程a)で得られたN,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステルとパルトリシンAとを反応させて中間体1を得ること;
c)中間体1を含有する反応混合物にカップリング剤を添加して中間体2を得ること;
d)中間体2を含有する反応混合物へのN,N’-ジメチルアミノエチルアミンの添加;
e)水での希釈、濾過及び乾燥による、工程d)からの沈殿物の単離;
f)工程e)からの反応混合物を順相(direct phase)クロマトグラフィーにより精製して、粗アムシパトリシンを得ること;
g)工程f)からの粗アムシパトリシンを逆相クロマトグラフィーにより精製して、精製アムシパトリシンを得ること;
h)工程g)からのアムシパトリシンの水溶液にL-アスコルビン酸を添加して、ジアスコルビン酸アムシパトリシンを得ること;
i)凍結乾燥又は噴霧乾燥による固体ジアスコルビン酸アムシパトリシンの単離。
本発明のプロセスの合成スキームをスキーム1に報告する。
【0028】
【化4】
【0029】
N,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステルの調製は、ジクロロメタン溶液中のペンタフルオロフェノールとN,N-ジメチルグリシンとを、カップリング剤、好ましくはヘキサフルオロホスフェートアザベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム(HATU)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、更に好ましくはN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドを使用して、15~30℃、好ましくは20~25℃の温度範囲で、10~34時間の範囲の時間、好ましくは24時間、反応させることによって行われる。ペンタフルオロフェノール/N,N-ジメチルグリシン/N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドのモル比は、0.5~2.0mol/lの範囲にペンタフルオロフェノールの濃度(好ましくは0.78mol/l)で働く、1.0/1.0÷1.2/1.0÷1.4、好ましくは1.0/1.0/1.3である。
【0030】
粗アムシパトリシンの調製は、N,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステルとパルトリシンAとを1.0÷0.8と1.2÷1の間に含まれる分子比で、15~30℃の温度範囲、好ましくは25℃で、-0.6~-1.2の間に含まれるlogPを有する非プロトン性有機溶媒、好ましくはN,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド又はジメチルスルホキシドを用いて、0.15~0.5モル濃度の間に含まれるパルトリシンA濃度(好ましくは0.17モル濃度)で、10~60分間の範囲の時間(好ましくは20分間)反応させることにより行われた。中間体1(2-(ジメチルアミノ)-N-((2R,3S,4S,5S,6R)-2-(((1R,3S,5S,7R,9R,13R,18S,19E,21E,23Z,25Z,27E,29E,31E,33R,36R,37S)-36-(ヒドロペルオキシ-12-メチル)-1,3,5,7,9,13,37-ヘプタヒドロキシ-17-((2S,5R)-5-ヒドロキシ-7-(4-(メチルアミノ)フェニル)-7-オキソヘプタン-2-イル)-18-メチル-11,15-ジオキソ-16,39-ジオキサビシクロ[33.3.1]ノナトリアコンタ-19,21,23,25,27,29,31-ヘプタエン-33-イル)オキシ)-3,5-ジヒドロキシ-6-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アセトアミド)を含有する反応混合物を次に、ヘキサフルオロホスフェートアザベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム(HATU)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)から選択される縮合剤(好ましくはN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド)で直接処理して、対応するペンタフルオロエステル中間体(中間体2;ペルフルオロフェニル(1R,3S,5S,7R,9R,13R,18S,19E,21E,23Z,25Z,27E,29E,31E,33R,36R,37S)-33-(((2R,3S,4S,5S,6R)-4-(2-(ジメチルアミノ)アセトアミド)-3,5-ジヒドロキシ-6-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)-1,3,5,7,9,13,37-ヘプタヒドロキシ-17-((2S,5R)-5-ヒドロキシ-7-(4-(メチルアミノ)フェニル)-7-オキソヘプタン-2-イル)-18-メチル-11,15-ジオキソ-16,39-ジオキサビシクロ[33.3.1]ノナトリアコンタ-19,21,23,25,27,29,31-ヘプタエン-36-カルボキシラート)が得られる。使用されるカップリング剤とパルトリシンAの初期量とのモル比は、1/1.5÷2.0の範囲に含まれ、好ましくは1/1.65である。N,N’-ジメチルアミノエチルアミンを、15~40℃の範囲の温度、好ましくは20~25℃でこの反応混合物に添加する。パルトリシンAとN,N’-ジメチルアミノエチルアミンとのモル比は、1/4の範囲に含まれ、好ましくは1/3である。
【0031】
反応混合物を冷水で希釈して粗アムシパトリシンを直接沈殿させ、これを吸引により回収する。この工程で使用される冷水の量は、使用される非プロトン性有機溶媒の初期量に対して3~4倍、好ましくは3.6倍であり、水温は0~15℃、好ましくは10℃である。
【0032】
次に得られた粗生成物(76~80g)を、最初に順相シリカゲルクロマトグラフィーによって、次いで逆相シリカゲルクロマトグラフィーによって精製する。
【0033】
この精製工程で使用される順相シリカゲルとパルトリシンAの初期量との重量比は1:20である。この工程で使用される適切な固定相は、35~230メッシュ、好ましくは70~230メッシュの間に含まれる粒度分布を有するシリカゲルである;この工程で使用される移動相は、83/15/2 v/v/vの体積比の非プロトン性有機溶媒/極性有機溶媒/塩基性水溶液の3成分で構成されている。移動相の成分として使用するための非プロトン性有機溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン及び酢酸エチルが含まれ、好ましくはジクロロメタンである。移動相の成分として使用するための極性有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノールが含まれ、好ましくはメタノールである。移動相の成分として使用できる適切な塩基性水溶液には、10~30% w/vアンモニア水溶液、好ましくは25% w/v溶液が含まれる。
【0034】
溶出画分をHPLCで分析し、選択した画分を最高35℃で減圧下で初期体積の約10~20%まで濃縮して沈殿を得て、これを吸引により回収し、最高35℃で真空下で乾燥して、粗アムシパトリシン塩基(18-デカルボキシ-40-デメチル-3,7-ジデオキソ-N’-[(ジメチルアミノ)アセチル]-18-[[[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ]カルボニル]-3,7-ジヒドロキシ-N47-メチル-5-オキソ-、環状15,19-ヘミアセタール)13.1gを得る。
【0035】
粗アムシパトリシンは逆相クロマトグラフィーによって最終的に精製される。使用される固定相は、逆相シリカゲルRP18(40~63μm)であってよい。粗生成物と固定相との重量比は、1/40÷70の範囲に含まれ、好ましくは1/65である。粗生成物は、L-アスコルビン酸を含有する水溶液にしてカラムにロードされる:粗アムシパトリシンとL-アスコルビン酸とのモル比は、1/1÷7の範囲に含まれ、好ましくは1/7であり、そしてカラムにロードされる水溶液の濃度は、粗アムシパトリシンのモル数に対して、1.2~2.0mol/lの範囲に含まれる。カラムはアセトニトリル/L-アスコルビン酸水溶液又はギ酸緩衝液でコンディショニングされる:アセトニトリルと水性緩衝液との体積比は、5÷10/95÷90の範囲に含まれ、好ましくは5/95であり、そして酸の濃度は、10~100mMの範囲に含まれ、好ましくは50mMである。緩衝液の最終pH値は3.0から5.0の範囲に含まれ、好ましくは4.1である。
【0036】
カラムは、アセトニトリルと緩衝液との比を5÷10/95÷90から30÷40/70÷60まで徐々に増加させながら、1カラム床体積(bed volume、BV)/5分の流量で溶出する。
【0037】
溶出画分をHPLCで分析し、選択した画分を5℃で撹拌しながら5~10%アンモニア溶液25% v/vで塩基性化する。アンモニア溶液25% v/vの添加後の選択した画分の最終pH値は、8.0~12.0の範囲に含まれ、好ましくは12.0である。得られた溶液を撹拌下、0~15℃、好ましくは5℃で12~18時間維持し、沈殿した固体を吸引により回収し、最高温度35℃で16~24時間真空乾燥させて、HPLC純度>97%のアムシパトリシン 4.3gを得る。
【0038】
ジアスコルビン酸アムシパトリシンは、カンジシジンD、18-デカルボキシ-40-デメチル-3,7-ジデオキソ-N’-[(ジメチルアミノ)アセチル]-18-[[[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ]カルボニル]-3,7-ジヒドロキシ-N47-メチル-5-オキソ-、環状15,19-ヘミアセタールから、0.10~0.20mol/lに含まれる、好ましくは0.13mol/lのアムシパトリシン濃度の水溶液中で、20~40℃の範囲の温度、好ましくは30℃で、L-アスコルビン酸2~3当量との塩形成によって調製される。固体のジアスコルビン酸アムシパトリシンは、得られた溶液から凍結乾燥又は噴霧乾燥法のいずれかを使用して、アムシパトリシンからの重量収率>130%で単離することができる。
【0039】
乳糖一水和物を有するジアスコルビン酸アムシパトリシンの製剤の調製
本発明の乳糖一水和物を有するジアスコビン酸アムシパトリシンの固体製剤は、ジアスコルビン酸アムシパトリシンの水溶液から噴霧乾燥法を用いて調製されるが、ここで、水中のジアスコルビン酸アムシパトリシンの濃度は0.5~20% w/vの範囲に含まれ、好ましくは2%とした。撹拌下、不活性雰囲気下で、0~10℃の範囲の温度で冷却しながら維持したこの溶液に、乳糖一水和物を添加する。ジアスコルビン酸アムシパトリシンと乳糖一水和物との重量比は、1/1÷3の範囲に含まれ、好ましくは1/2.3である。得られた透明な生成物を濾過し、濾液を噴霧乾燥機(入口温度130~150℃)で1時間以内に処理して、D90粒度分布が5μm未満である乳糖一水和物を有するジアスコルビン酸アムシパトリシンの製剤を得る。
【0040】
実験の項
凡例
MIC:最小阻止濃度(MIC)は、静菌性のある抗菌成分の最低濃度として定義される。
D90:粉末中の、規定値未満の直径を持つ粒子の割合(90%)。
呼吸性:呼吸可能な性質又は状態;通常、固体粉末吸入器が作動ごと又は用量ごとに、吸入中に肺に浸透することが可能な粒度(約5μm以下)に関連している。
【0041】
N,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステルの調製
丸底フラスコに塩化メチレン(140mL)及びペンタフルオロフェノール(20.1g)を加えた。この混合物を20~25℃で撹拌しながら維持して均一溶液を得て、次にN,N-ジメチルグリシン(11.2g)及びN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(28.1g)を順次加えた。反応混合物を撹拌しながら20~25℃で24時間維持し、次いで得られた不均一混合物を真空濾過した。濾液を減圧下で蒸発乾固させて、N,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステル 36.8gを得て、これを更に精製することなく次の工程で使用した。
【0042】
パルトリシンAからの粗カンジシジンD、18-デカルボキシ-40-デメチル-3,7-ジデオキソ-N’-[(ジメチルアミノ)アセチル]-18-[[[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ]カルボニル]-3,7-ジヒドロキシ-N47-メチル-5-オキソ-、環状15,19-ヘミアセタール(粗アムシパトリシン)の調製
丸底フラスコに、窒素流下20~25℃で撹拌しながら、N,N’-ジメチルホルムアミド(250mL)及びN,N-ジメチルグリシルペンタフルオロフェニルエステル(13.8g)を順次加えた。得られた混合物を撹拌しながら10℃に冷却し、パルトリシンA(50g)を何回かに分けて加えた。この溶液には中間体1が含まれており、これを中間体として単離することも、又は次の工程で直接使用することも可能である;この最後のオプションを受けて、得られた混合物を撹拌しながら10℃で20分間維持し、次いでN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(15g)を添加した。得られた反応混合物を窒素下で24時間撹拌すると、反応温度は自然に20~25℃に上昇した。この溶液には中間体2が含まれており、これを中間体として単離することも、次の工程で直接使用することも可能である;この第2のオプションを受けて、N,N’-ジメチルアミノエチルアミン(15mL)を、20~25℃で撹拌しながら反応混合物に60分かけて滴下した。60分後、反応混合物を撹拌しながら10℃の温度の水(900mL)に加え、得られた沈殿物を吸引により回収し、フィルター上で水(100mL)及びメタノール(100mL)で洗浄した。生成物を真空下+35~40℃で乾燥器で乾燥させて固体を得て、これを丸底フラスコ内で20~25℃で撹拌しながらメタノール(0.56L)に懸濁した。得られた懸濁液に25%アンモニア水溶液(56mL)を滴下した。次いで、塩化メチレン(2.24L)を加え、混合物を撹拌しながら60分間維持した。この後、塩化メチレン(2.8L)及び25%アンモニア水溶液(56mL)を順次加え、不均一混合物を吸引濾過した。濾液を、ジクロロメタン/メタノール 9/1 v/v混合物で予め調整したシリカゲルカラム(70~230メッシュ;1000g)上にロードした。カラムをジクロロメタン/メタノール/25%アンモニア水溶液(83/15/2 v/v/v)8床体積で溶出した。溶出画分をHPLCで分析し、選択した画分を減圧下最高35℃で初期体積の約20%まで濃縮した。
【0043】
次に、得られた不均一混合物を吸引濾過し、得られた湿った固体を最高35℃で12時間、真空乾燥して、粗アムシパトリシン 13gを得た。
【0044】
中間体1の単離。2-(ジメチルアミノ)-N-((2R,3S,4S,5S,6R)-2-(((1R,3S,5S,7R,9R,13R,18S,19E,21E,23Z,25Z,27E,29E,31E,33R,36R,37S)-36-(ヒドロペルオキシ-12-メチル)-1,3,5,7,9,13,37-ヘプタヒドロキシ-17-((2S,5R)-5-ヒドロキシ-7-(4-(メチルアミノ)フェニル)-7-オキソヘプタン-2-イル)-18-メチル-11,15-ジオキソ-16,39-ジオキサビシクロ[33.3.1]ノナトリアコンタ-19,21,23,25,27,29,31-ヘプタエン-33-イル)オキシ)-3,5-ジヒドロキシ-6-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アセトアミド。
この化合物は、これを含有する反応混合物のクロマトグラフィー精製によって単離された。中間体1を含有する反応混合物を減圧下で蒸発させた後、得られた残渣とシリカゲルとの重量比1/10を用いてシリカゲルクロマトグラフィー(70~230メッシュ)により精製した。ジクロロメタン/メタノールによる勾配溶離後、選択した画分を35℃で真空下で蒸発させることにより純粋な中間体1を単離した。
629020の算出された元素分析:理論値:C、62.19;H、7.58;N、3.51;O、26.72;実測値:C、62.17;H、7.50;N、3.49;O、26.68。
【0045】
中間体2の単離。ペルフルオロフェニル(1R,3S,5S,7R,9R,13R,18S,19E,21E,23Z,25Z,27E,29E,31E,33R,36R,37S)-33-(((2R,3S,4S,5S,6R)-4-(2-(ジメチルアミノ)アセトアミド)-3,5-ジヒドロキシ-6-メチルテトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)-1,3,5,7,9,13,37-ヘプタヒドロキシ-17-((2S,5R)-5-ヒドロキシ-7-(4-(メチルアミノ)フェニル)-7-オキソヘプタン-2-イル)-18-メチル-11,15-ジオキソ-16,39-ジオキサビシクロ[33.3.1]ノナトリアコンタ-19,21,23,25,27,29,31-ヘプタエン-36-カルボキシラート
この化合物は、これを含有する反応混合物のクロマトグラフィー精製によって単離された。中間体2を含有する反応混合物を35℃未満の温度で減圧下で蒸発させた後、得られた残渣とシリカゲルとの重量比2/10を用いてシリカゲルクロマトグラフィー(70~230メッシュ)により精製した。ジクロロメタン/アセトンによる勾配溶離後、選択した画分を35℃で真空下で蒸発させることにより純粋な中間体2を得た。
699220の算出された元素分析:理論値:C、60.12;H、6.73;F、6.89;N、3.05;O、23.21;実測値:C、60.08;H、6.69;F、6.82;N、3.08;O、23.16。
【0046】
粗カンジシジンD、18-デカルボキシ-40-デメチル-3,7-ジデオキソ-N’-[(ジメチルアミノ)アセチル]-18-[[[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ]カルボニル]-3,7-ジヒドロキシ-N47-メチル-5-オキソ-、環状15,19-ヘミアセタール(粗アムシパトリシン)の精製。
丸底フラスコ中で、L-アスコルビン酸(7.7g)を水(50mL)に溶解し、次いで、前工程で得られた粗アムシパトリシン(7.7g)を加えた。得られた溶液を、アセトニトリル/L-アスコルビン酸緩衝液(pH4.1の50mM水溶液)5/95 v/v混合物で予め調整した逆相シリカゲルRP18(40~63μm;500g)を充填したカラムにロードした。溶離液としてアセトニトリル/L-アスコルビン酸緩衝液(pH4.1の50mM水溶液)5/95 v/v混合物からアセトニトリル/L-アスコルビン酸緩衝液(pH4.1の50mM水溶液)30/70 v/v混合物を用いて、カラムを流量100ml/分で溶出した。溶出画分をHPLCで分析し、選択した画分を5℃で撹拌しながら5~10%アンモニア溶液25% v/vで塩基性化した。得られた混合物をこの温度で撹拌しながら12~18時間維持し、沈殿した固体を吸引により回収し、最高35℃で18時間、真空乾燥して、HPLC純度>97%のアムシパトリシン塩基 4.3gを得た。
【0047】
カンジシジンDのジアスコルビン酸塩、18-デカルボキシ-40-デメチル-3,7-ジデオキソ-N’-[(ジメチルアミノ)アセチル]-18-[[[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ]カルボニル]-3,7-ジヒドロキシ-N47-メチル-5-オキソ-、環状15,19-ヘミアセタール(ジアスコルビン酸アムシパトリシン)の調製。
丸底フラスコ反応器に脱塩水(480mL)を入れ、次いで窒素を30℃の温度で撹拌しながら30分間バブリングし、懸濁液を激しく撹拌し続けながらL-アスコルビン酸(24.2g)及びアムシパトリシン(80g)を順次添加して透明な溶液を得た。この溶液を0.45μmフィルターで濾過し、濾液を凍結乾燥して、ジアスコルビン酸アムシパトリシン 104gを得た。
あるいは、ジアスコルビン酸アムシパトリシンは、上記の溶液(約20% w/v溶液)により、0.45μmフィルターで濾過した後、そのまま、又は1% w/v濃度が得られるまで水で希釈した後、入口温度130:150℃での噴霧乾燥法を用いて単離することもできる。
得られた生成物の物理化学的性質は、公開されている文献データと一致した。
【0048】
乳糖一水和物を有するジアスコルビン酸アムシパトリシンの製剤の調製
丸底フラスコに、0℃で撹拌しながら窒素雰囲気下、ジアスコルビン酸アムシパトリシン(2g)及び水(200ml)を入れる。この混合物を撹拌しながら0℃で10分間維持し、次いで乳糖一水和物(4.6g)を何回かに分けて加え、この混合物を更に10分間撹拌する。得られた溶液を噴霧乾燥機(入口温度130~150℃)で3~4ml/分の供給速度で1時間以内に処理して、D90粒度分布が5μm未満である乳糖一水和物を有するジアスコルビン酸アムシパトリシン 30/70 w/wの製剤(5.28g)を得る。
【0049】
臨床的に分離されたカンジダ・アウリスの様々な菌株におけるジアスコルビン酸アムシパトリシンのMIC測定
臨床検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute)のプロトコール(CLSI, doc M27, 4th edition)により最小阻止濃度(MIC)を定義するために、真菌病原体カンジダ・アウリスの臨床分離株22株に対する化合物ジアスコルビン酸アムシパトリシンの抗真菌活性の試験が実施された。試験は分離株ごとに三重反復測定で実施された。得られた結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
ケカビ目の真菌病原体の様々なATCC及び臨床分離株に対するジアスコルビン酸アムシパトリシンのMIC測定
最小阻止濃度(MIC)の測定による、真菌感染症のムコール菌症の原因となるケカビ目(ATCC及び臨床分離株)の真菌病原体の様々なATCC及び臨床分離株に対するジアスコルビン酸アムシパトリシンの抗真菌活性の試験が、臨床検査標準協会のプロトコール(CLSI, doc M27, 4th edition)により実施された。試験は分離株ごとに三重反復測定で実施された。
得られた結果を表2にまとめた。
【0052】
【表2】
【国際調査報告】