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特表2024-524662単一細胞分析のための分散型ワークフロー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】単一細胞分析のための分散型ワークフロー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20240628BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20240628BHJP
   C12Q 1/6841 20180101ALI20240628BHJP
   C12Q 1/6848 20180101ALI20240628BHJP
   C12Q 1/6834 20180101ALI20240628BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6841 Z
C12Q1/6848 Z
C12Q1/6834 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501749
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 US2022037129
(87)【国際公開番号】W WO2023287980
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/222,213
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523436964
【氏名又は名称】フルーエント バイオサイエンシーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】キアニ, セファー
(72)【発明者】
【氏名】サンタナム, ラム
(72)【発明者】
【氏名】メルツァー, ロバート
(72)【発明者】
【氏名】フォンタネス, クリスティーナ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本開示は、単一細胞遺伝子発現を分析するための分散型ワークフローを提供する。ワークフローは、細胞を別々のコンパートメントに隔離するために予め鋳型化された即時パーティションを使用して、大規模平行単一チューブ形式で単一細胞からRNAを個別に捕捉し、バーコード化する。ワークフローは、配列決定のために単一細胞からRNAをプロセシングするためのステップを含む。分散型ワークフローの別々の部分は、研究室およびコア施設によって実施され、プロトコールステップの時間および場所における柔軟性の増大を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一細胞分析のための分散型方法であって、
(a)槽容器の内部で、同時に、複数のパーティションを生成するために、混合物をパーティション化するステップであって、前記パーティションが、
水性溶液;
バーコード化されたオリゴを含む鋳型粒子;
細胞;および

を含む前記混合物から単離された、単一細胞および鋳型粒子を含有する、ステップ;
(b)前記パーティション内部の前記細胞を溶解し、前記鋳型粒子のバーコード化されたオリゴを用いて単一細胞のmRNAを捕捉するステップ;
(c)前記単一細胞の前記mRNAを、バーコード化されたcDNAにコピーするステップ;
(d)前記バーコード化されたcDNAを増幅してアンプリコンを作出するステップ;
(e)前記アンプリコンから配列決定ライブラリーを調製するステップ;
(f)前記ライブラリーを配列決定して、単一細胞遺伝子発現データを生産するステップ
を含み、ステップ(a)が研究所で実施され、ステップ(f)がコア施設で実施される、方法。
【請求項2】
ステップ(e)および(f)が、前記コア施設で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(d)、(e)、および(f)が、前記コア施設で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(c)、(d)、(e)および(f)が、前記コア施設で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)、(c)、(d)、(e)および(f)が、前記コア施設で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
パーティション化するステップが、前記混合物をボルテックスして、前記水性溶液を、前記油によって取り囲まれた液滴に剪断することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記液滴が、前記鋳型粒子の周囲に形成される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記油が、前記パーティションを安定化する界面活性剤を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記パーティションを含む前記容器を、プロセシングのために前記コア施設に郵送するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記cDNAが、前記バーコード化されたオリゴを介して前記鋳型粒子に連結される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記cDNAが、前記コア施設に郵送される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記研究所によってPCRステップが実施されない、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記研究所によって前記アンプリコンが生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記アンプリコンが、前記コア施設に郵送される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップの少なくとも1つが、遠隔地の研究所によって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、感染性因子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記コア施設ではなく、前記研究所が、前記感染性因子を取り扱う資格を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
任意の細胞材料が前記コア施設に移される前に、前記感染性因子が前記研究所によって中和される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記研究所および前記コア施設が、第三者によって提供される試薬および使用説明書を含む試料調製キットを用いて前記方法ステップを実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記キットが、前記研究所およびコア施設で実施される前記ステップに特異的である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、単一細胞RNA配列決定のための方法および試薬を提供する。
【背景技術】
【0002】
背景
RNA配列決定による単一細胞の転写分析は、複雑な細胞集団を理解するための絶対的基準としてますます認識されている。単一細胞RNA配列決定は、単一細胞の遺伝子発現プロファイルを提供し、異なる細胞表現型の試料内に隠された不均一性を明らかにすることができる。そのため、単一細胞RNA配列決定の方法は、複雑な病理学的細胞集団、例えば、腫瘍を定義し、患者の診断および処置のためにそれらの病因を特徴付けるために臨床実務に組み込まれている。
【0003】
RNA配列決定を使用する診療所については、示差的に発現される遺伝子の正確かつ時宜を得た同定が、患者の健康状態および処置モニタリングに関する情報を提供するのに重要である。単一細胞RNA配列決定はこれらのサービスを提供する能力を有するが、ワークフローの複雑性、特殊なデバイスの高い費用、および高度な技能を有する技術者の不足が、最先端の実験室の外部でのその幅広い使用に対する障壁である。
【0004】
典型的な単一細胞RNA配列決定ワークフローは、試料収集、調製ステップ、核酸抽出、cDNAライブラリー調製、PCR増幅、配列決定、およびデータ分析を必要とする。特殊なデバイスおよび/または技能を有する作業者がなければ、ワークフローの部分は非効率的であり、多大の労力を要し、間違いを起こしやすい。単一細胞RNA配列決定が、比較的高価な仕事であり、その結果が患者の生命に対して多大な影響を有し得ることを考慮すると、患者がオーダーメイド処置を待っているときに支払うには価格が高すぎる場合がある、再実行および遅延を回避するために、細心の注意を払わなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
要旨
本発明は、単一細胞RNA配列決定のための試料プロセシングステップのタイミングおよび場所における柔軟性を可能にする分散型方法を提供する。方法は、個別のワークフローステップ間の試料材料を、プロセシングのために異なる場所に輸送するために最適化された試薬およびプロトコールを用いるハイスループットの多ステップワークフローを含む。したがって、これらの方法は、単一細胞RNA配列決定を、よりアクセスしやすく、かつ手頃なものにするために、資源、技術的熟練、および異なる施設に由来する特殊な機器類を活用するのに有用である。
【0006】
本発明の方法は、容易に輸送することができる単一チューブ形式でバルク試料(多くの細胞)から単一細胞を単離するために予め鋳型化された即時パーティションを使用する多ステッププロセスを含む。予め鋳型化された即時パーティションは、いかなる高価な機器類(例えば、マイクロ流体デバイス)も用いずに、多数の細胞を単一細胞区画に迅速に隔離するのに有用である。そのため、単一細胞RNA配列決定のための試料を、屋外研究施設または遠隔実験室などの、ほぼ任意の場所で最初に調製することができる。パーティションは、配列決定および/または輸送のためにRNAが調製される安定な「反応チャンバー」中でのパーティションの形成を鋳型化するヒドロゲルの周囲で形成される。方法は、施設間の試料輸送を容易にするための試薬を含む。例えば、一部の試薬は、輸送中のパーティションの安定性を増強するために提供される。パーティションは、単一細胞を、試料プロセシングまで個々の区画の内部に制限する。
【0007】
多ステップワークフローは、パーティションの内部でバーコード化されたオリゴを用いた捕捉のために単一細胞からRNAを放出させることをさらに含む。バーコード化されたオリゴは、RNAが放出された単一細胞に対応する配列情報を含むRNAをタグ付けするのに有用である。有利には、バーコード化されたオリゴを、切断性リンカーによってヒドロゲルに付着させ、かくして、下流のプロセス中の細胞特異的配列の容易な分離をも可能にしながら、それらをパーティション中に輸送するための信頼できるビヒクルとして役立ち得る鋳型粒子を提供することができる。
【0008】
本発明の方法は、RNAを、RNAよりも安定であり、かくして、輸送が容易であるcDNAにコピーするのに有用である。本発明の方法は、第1鎖cDNA合成を開始するためにヒドロゲルに付着したバーコード化されたオリゴを使用することができる。方法は、バーコード化されたオリゴの3’末端にアニーリングされたRNAからのcDNAの重合を含んでもよい。したがって、RNAをcDNAにコピーすることにより、RNAからの情報を、オリゴのバーコードと同時に関連付けながら、その情報を保持することができる。
【0009】
mRNAの情報がバーコード化されたcDNA中に保持される例では、本発明の方法は、全て単一の容器内の多数の単一細胞の遺伝子発現をコードする核酸を調製し、輸送するのに有用である。有利には、これらの核酸を作製することは、いかなる高価な機器類も必要としない。事実、バーコード化されたcDNAを作製することは、サーモサイクラーさえ必要としない。しかし、好ましい実施形態では、cDNAは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応によって、より安全な輸送のために様々な条件下でより有効に保存することができる複数の安定なDNAアンプリコンに増幅される。
【0010】
一態様では、本開示は、単一細胞分析のための分散型方法を提供する。方法は、(a)槽容器の内部で、同時に、複数のパーティションを生成する混合物をパーティション化するステップであって、パーティションが、混合物から単離された単一細胞および鋳型粒子を含有するステップから開始する、多ステップワークフロー(ステップ(a)~(f))を含む。混合物は、水性溶液、バーコード化されたオリゴを含む鋳型粒子、細胞、および油を含む。次のステップは、(b)パーティション内部の細胞を溶解し、鋳型粒子のバーコード化されたオリゴを用いて単一細胞のmRNAを捕捉するステップを含む。溶解後、方法は、(c)単一細胞のmRNAを、バーコード化されたcDNAにコピーするステップ;次いで、(d)バーコード化されたcDNAを増幅して、アンプリコンを作出するステップを含む。アンプリコンは、(f)配列決定して単一細胞遺伝子発現データを生産するステップのために使用される、(e)配列決定ライブラリーを調製するステップにとって有用である。方法は、試料が収集される場所とは異なる場所に位置する資源を利用するために分散化される。すなわち、全多ステップワークフローは、同じ場所で行われない。方法により、研究者は、高品質の配列決定データを生成するためのスキルセットを有する技術者などの、特殊なコア施設装備および資源を利用することができる。また、それにより、ある特定の試料型、例えば、生体有害物質を取り扱う資格を有してもよい研究者は、ほとんどの配列決定施設では実施することができない初期のプロセシングステップを実施することができる。したがって、ステップ(a)は、研究所によって実施されるが、ステップ(f)は、コア施設で実施される。
【0011】
パーティションは、一般に、水性溶液(例えば、培地)中で細胞の混合物をボルテックスすることによって生成される。ボルテックスすることにより、各鋳型粒子の周囲で水性溶液がパーティションに剪断され、単一細胞分析のためにヒドロゲルと共に液滴内部に単一細胞が封入される。一部の実施形態では、パーティション化後、単一細胞の試料は、ステップ(b)、(c)、(d)、(e)、および(f)を実施するための資源を有するコア施設に輸送される。RNA配列決定分析のための単一細胞を調製することはいかなる特殊なデバイスも必要としないため、実質的に任意の場所で研究所から、研究所による安定な輸送のために、RNA配列決定のための試料を収集および調製することができ、これは実地調査を行うのに有用であり得る。一般に、輸送は、発泡スチロール容器などの容器中に試料を包装すること、および容器をコア施設に郵送することを含む。有利には、細胞の試料を、単一の容器内で単一細胞形式に調製することができるため、コア施設への輸送のために試料を調製することと関連する負担は最小限であり、安価である。
【0012】
単一細胞の内部に含有されるRNAは、ヒドロゲルに連結されたバーコード化されたオリゴを含む個々のパーティションの内部で放出および捕捉される。本発明の一部の実施形態によれば、研究所がRNA捕捉ステップを実施した後、方法ステップ(c)、(d)、(e)、および(f)は、コア施設で実施される。そのため、研究所が加熱ブロック(細胞溶解のため)への直接アクセスしか有しない場合であっても、研究所はRNA配列決定分析のための試料を調製することができる。cDNAはRNAよりも安定であるため、好ましい実施形態は、研究所でのcDNA合成を含む。cDNA合成後、方法ステップ(d)、(e)、および(f)は、コア施設で実施される。有利には、cDNA合成を、いかなる高価な研究デバイスもなしに、研究施設で実施することができ、事実、cDNA合成はサーモサイクラーさえ必要としない。したがって、本発明の方法は、バイオアナライザー、サーモサイクラー、シーケンサー、qPCR機器などの全ての高価な分析機器類を中央に集中配置し、研究所へのアクセス可能性の障壁を最小化する。
【0013】
好ましい実施形態では、多ステップワークフローは、cDNA増幅の初めから終わりまで研究所で実施される。cDNA増幅後、安定なcDNAを、例えば、郵送によって、ステップ(e)および(f)が実施される、コア施設に容易に輸送することができる。このワークフロー形式は、ほとんどの中程度の装備を有する研究所およびコア施設で一般的に利用可能な機器類および資源とよく一致するため、望ましいものであり得る。
【0014】
本発明の方法は、試料を得る間の時間を劇的に減少させることができる。RNAを配列決定することは高価である。そのため、異なる試料は、単一の多重配列決定反応中に一緒にプールされることが多い。しかしながら、プールされた配列決定反応のために十分な試料を調製するのを待つことは、調査者が任務の重要な時間枠内に結果を得るのを妨げ得る。コア施設は、多くの異なる研究室を支援することが多く、そのため、試料をプールし、多重配列決定反応を行うためにはるかにより効率的である。単一細胞RNA配列決定に対して分散化された手法を提供することにより、これらの方法は、多重配列決定を容易にし、試料から結果までのターンアラウンド時間を短縮する。
【0015】
一部の例では、単一分析のために調製される細胞は、感染性因子を含有し得る。感染性因子を含有する細胞の単一細胞RNA配列決定は、様々な宿主細胞型と、ウイルスまたは病原性細菌などの感染性因子との複雑な相互作用の調査を可能にすることができる。これらの調査は、病原性感染を診断する、および/または患者の処置をモニタリングするのに有用であり得る。感染性因子を含有する細胞を含む試料調製は一般に、容易に伝染される病原体に関する作業および研究のための実験室設定で実行される。これらの実験室は、病原体の伝染を防止する、非常に特殊な道具および装備、例えば、防護服および密閉されたキャビネットを必要とする。一部の例では、これらの実験室を、配列決定デバイスへのアクセスなしに、遠隔地に、例えば、感染性活動の現場に設定することができる。一般に、配列決定デバイスを有するコア施設は、感染性因子を取り扱う装備がないことが多い。しかしながら、本発明の方法を実装することにより、単一細胞配列決定データを生産することができ、その場合、コア施設ではなく、研究所が感染性因子を取り扱う資格がある。方法は、任意の細胞材料がコア施設に輸送される前に研究所で感染性因子を中和することを含んでもよい。感染性因子が中和されたら、方法は、感染性因子の試料材料を、配列決定のためにコア施設に輸送することを含む。
【0016】
本発明の方法はまた、ある特定のワークフローステップを実施するために有用な試薬も提供する。一部の試薬は、輸送中の試料の完全性を改善するのに有用である。試薬は、使用のための使用説明書と共に包装されたキットとして第三者によって提供され得る。キットは、研究所またはコア施設で実施されるワークフローステップに特異的なものであってよい。様々なキットを提供することにより、調査者は、アッセイ特異的供給物を購入し、それによって、ワークフロー全体を実行するためのキットと関連する費用および廃棄物を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、例示的な分散型多ステップワークフローを示す。
図2図2は、鋳型粒子を用いて捕捉されたRNAのcDNA合成を示す。
図3図3は、本発明のキットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
細胞は、生物学の基本単位であるが、単独で存在することは稀である。大抵の場合、生物システムは、いくらか異なる表現型を有する数百万個または数兆個の細胞から構成される。バルク試料の分析は亜集団の重要性を隠すことがあるため、この複雑性は疾患の検出を難しくすることがある。RNA-seqを用いた転写分析は、RNA発現のゲノムワイド特性評価を提供するため、細胞状態を理解するのに有用である。単一細胞に適用された場合、トランスクリプトーム分析は、組織の機能特性、疾患の調節不全の遺伝子発現、ならびに宿主内の微生物の検出および/または特性評価を含む、多くの生物学的表現型の分子基盤を同定することができる。
【0019】
しかしながら、数百万個の細胞上での単一細胞トランスクリプトーム配列決定は現在、法外に高価であり、最も認識された方法は、たった数千個の細胞を分析することしかできない。近年、マイクロ流体技術は、単一細胞中の特定のRNA配列を検出することが示された。マイクロ流体技術は、高効率であると考えられ、数千個(チャンバー、ウェル)から数百万個(微小液滴)の単一細胞を分析することができる。不幸なことに、マイクロ流体デバイスは、使用するには高価であり、高価な消耗品を必要とし、高効率実地調査におけるその適用を制限する。マイクロ流体デバイスはまた、操作が難しく、継続的な機能のためには頻繁なメンテナンスを必要とする。したがって、マイクロ流体デバイスは、遠隔の、高効率単一細胞適用には適さない。
【0020】
本開示は、油などの非混和性液体の内部の小さい体積の水性液滴中に単一細胞を単離するための予め鋳型化された即時パーティションを使用するロバストな単一細胞RNA配列決定戦略を提供する。予め鋳型化されたパーティションは、単一のチューブ内で数百万個から数十億個の「ナノ研究室」を形成して、大規模平行形式の高効率単一細胞プロセシングに対応する。パーティションは、配列決定のために単一細胞を捕捉する、プロセシングする、および輸送するのに有用である。パーティションの利点は、単一細胞の材料が個々の区画内に制限され、試料プロセシングまでその希釈または拡散を防止することである。
【0021】
単一細胞RNA配列決定は、ワークフローを得るための効率的な試料を提供する分散型方法によって達成される。分散型方法は、単一細胞RNA配列決定プロトコールステップを実施するためのタイミングおよび場所の柔軟性の増加を可能にするであろう。この柔軟性は、研究所およびコア施設での研究者間の協調、ならびに/または感染因子の不活化後の高度封じ込め実験室から標準的な研究室への試料の移動を容易にすることによって、新しい調査機会を可能にする。
【0022】
本発明の方法は、単一細胞RNA配列決定のためのワークフローステップを、異なる地理にわたって分布させる。したがって、本発明の方法は、基礎実験室デバイス、例えば、サーモサイクラーにさえアクセスできないこともある遠隔地から、RNA配列決定による検査のための生体試料を収集するのに有用である。これらの方法は、試料が感染性因子を含有する適用において特に有用であり得る。例えば、配列決定デバイスが利用できない、疾患大流行の現場の遠隔地に疫学者を配備することができる。本発明の方法は、これらの疫学者が、標準的な次世代シーケンサーなどの必要なデバイスを装備した様々な場所で単一細胞分析のために試料を迅速にプロセシングすることを可能にするであろう。そのため、これらの方法は、感染性因子の調査者が、限られた資源を有する場所から、ウイルス進化を追跡する、監視を実施する、パンデミックを管理する、および/または将来のウイルス大流行をモニタリングするのに有用である。
【0023】
本発明の分散型方法は、単一細胞RNAプロセシングワークフローのいくつかの異なる段階での試料材料の移動を可能にする。方法は、生体有害物質を含む試料材料を、それらが収集される場所から、それらを分析することができる場所に、安全に、時宜を得て、および効率的に輸送することを可能にする。方法は、感染の危険性から輸送に従事する者を保護しながら、試料の完全性を保護するような方法で、試料材料、例えば、細胞、RNA、またはcDNAを包装および輸送することを含む。
【0024】
図1は、例示的な分散型多ステップワークフロー121、123、127、131を示す。分散型ワークフロー121、123、127、131は、単一の反応チューブ中で、例えば、100個の細胞、1,000個の細胞、10,000個の細胞、100,000,000個の、1,000,000個の細胞、または少なくとも2,000,000個の細胞の、多数の単一細胞分析のライブラリーを調製するのに有用な多ステップ方法101に基づく。
【0025】
第1のステップ、パーティション化すること103は、混合物をパーティション化し103、個々の平行プロセスを行うための区画の内部に単一細胞を単離する予め鋳型化された即時パーティションを含む。予め鋳型化されたパーティションは、水性溶液の混合物の内部で油と混合し、ボルテックスまたは剪断した場合に油中水エマルジョン液滴を形成させる、鋳型として機能する、一般的にはヒドロゲル粒子である鋳型粒子を含む。鋳型粒子を、チューブの内部で水性溶液(例えば、食塩水、栄養ブロス、水)中で提供するか、または使用時に再水和するために乾燥することができる。細胞を含む試料を、例えば、細胞培養皿からの試料収集時に、または細胞を遠心分離するおよび緩衝食塩水溶液中に細胞を再懸濁するなどの一部の最小限の試料調製ステップ後に直接的にチューブ中に添加してもよい。好ましくは、油をチューブに添加する(典型的には、最初は水性混合物を覆う)。
【0026】
例えば、水性媒体(例えば、水、食塩水、緩衝剤、栄養ブロスなど)中に鋳型粒子および細胞を含む反応チューブ中で、水性混合物を調製することができる。細胞は、RNAを含有する任意の細胞型であってもよい。細胞を、対象から採取した細胞組織から取得することができる。例えば、細胞は、採血によって対象から採取された細胞であってもよい。対象は、接触伝染性の病原体を担持すると疑われてもよい。あるいは、細胞は、組織培養細胞であってもよい。細胞は、非接着性または接着性細胞、例えば、HeLa細胞であってもよい。細胞は、一次細胞、幹細胞、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、またはニューロンであってもよい。
【0027】
チューブの内部で細胞を鋳型粒子と合わせた後、油をチューブに添加し、チューブを撹拌する(例えば、ボルテクサー、別名ボルテックスミキサー上で)。粒子は、油によって取り囲まれた、水性液滴中に1個の粒子をそれぞれ含有する単分散液滴の形成における鋳型として作用する。予め鋳型化された即時パーティションは、いかなる高価な機器類(例えば、マイクロ流体デバイス)も用いずに、多数の細胞を単一細胞区画に迅速に隔離するのに有用である。そのため、単一細胞RNA配列決定のための試料を、現地または遠隔地の実験室などの、ほぼ全ての場所で最初に調製することができる。パーティションはヒドロゲルの周囲に形成され、宅配便業者によって輸送することができる、および/または配列決定のためにRNAが調製される安定な反応チャンバーを提供する。
【0028】
好ましくは、パーティション化すること103は、ボルテックスすることを含む。ボルテックスすることは、均一なサイズ分布のパーティションを確実に生成するその能力のため好ましい。パーティションの均一性は、各「反応チャンバー」に実質的に等量の試薬が確実に提供されるのに役立ち得る。ボルテックスすることはまた、容易に制御され(例えば、時間およびボルテックス速度を制御することによって)、かくして、より容易に再現可能であるデータをもたらす。ボルテックスすることを、参照により組み込まれる共同所有の米国特許出願第17/146,768号に記載された、標準的なベンチトップ型ボルテクサーまたはボルテックスするデバイスを用いて実施することができる。
【0029】
しかしながら、試料を、ボルテクサーへのアクセスなしに遠隔地でプロセシングする適用については、パーティション化すること103は、振とう、ピペッティング、ポンピング、タッピングなどの、制御された、または制御されていない撹拌の任意の他の方法を使用して、混合物を含有するチューブを撹拌することを含んでもよい。撹拌した(例えば、ボルテックスした)後、複数(例えば、数千個、数万個、数十万個、100万個、200万個、1000万個、またはそれより多い)の水性パーティションがチューブに内部で本質的に同時に形成される。ボルテックスすることは、液体を複数の単分散液滴中に分配させる。液滴の実質的部分は、単一の鋳型粒子および単一細胞を含有する。1個よりも多い鋳型粒子もしくは標的細胞を含有する、または鋳型粒子も標的細胞も含有しない液滴を除去するか、破壊するか、またはそうでなければ無視することができる。
【0030】
方法101の次のステップは、パーティション内部の単一細胞を溶解すること120および放出されたRNAを捕捉することを含む。細胞溶解を、例えば、溶解試薬、洗剤、または酵素などの刺激によって誘導することができる。細胞溶解を誘導する試薬を、内部区画から鋳型粒子によって放出させることができる。一部の実施形態では、溶解することは、単分散液滴中に鋳型粒子の内部に含有された溶解試薬を放出するのに十分な温度に液滴を加熱することを含む。一部の実施形態では、溶解することは、パーティション中にヒドロゲルの内部に含有される二価カチオンなどの溶解試薬を放出するのに十分な温度にパーティションを加熱することを含んでもよい。溶解することを、機械的、化学的、または酵素的手段、熱の付加、二価カチオン(例えば、Mn2+および/もしくはMg2+)、またはそれらの任意の組合せを使用して達成することができる。
【0031】
細胞溶解時に、RNAおよび他の細胞内容物(例えば、DNA)は、提供される鋳型粒子に付着されたバーコード化されたオリゴを用いた捕捉のために、細胞からパーティション中に放出される。オリゴは、各鋳型粒子に特異的な独自のバーコードを含む。したがって、捕捉、すなわち、RNAの、相補的塩基対の、オリゴのそれぞれの相補的部分(例えば、ポリT配列)とのハイブリダイゼーションの際に、単一細胞のRNAは、共通のバーコード配列によって有効に連結される。各パーティションはただ1つの単一細胞および1つの鋳型粒子を含むため、いずれか1つの鋳型粒子の独自のバーコード配列は、RNAを、それが導出された単一細胞と関連付ける情報と共にインデックスを付けるのに有用である。
【0032】
細胞溶解およびRNA捕捉が実施されたら120、方法101は、第1鎖cDNA合成を含む。バックグラウンドの概説については、一般的に、両方とも参照により組み込まれる、Gubler, 1983, A simple and very efficient method for generating cDNA libraries, Gene 25(2- 3):263-9およびFigueiredo, 2007, Cost effective method for construction of high quality cDNA libraries, Biomolecular Eng 24 :419-421を参照されたい。
【0033】
好ましい実施形態では、バーコード化されたオリゴは、第1鎖cDNA合成を開始させるために使用される。すなわち、cDNAの第1鎖の重合を、バーコード化されたオリゴの遊離末端から開始させ、それによって、捕捉されたRNAによってコードされている全ての単一細胞情報を補捉する鋳型粒子に連結された、cDNA分子を生産することができる。さらに、RNAの情報がバーコード化されたcDNA中に保持されるため、本発明の方法は、全て単一の容器内の多数の単一細胞の遺伝子発現をコードする核酸を調製し、輸送するのに有用である。有利には、これらの核酸を作製することは、いかなる高価な機器類も必要としない。事実、バーコード化されたcDNAを作製することは、サーモサイクラーさえ必要としない。しかし、一部の好ましい実施形態では、cDNAは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応によって、より安全な輸送のために様々な条件下でより有効に保存することができる複数の安定なDNAアンプリコンに増幅される。
【0034】
好ましくは、1つまたは複数のパーティションはそれぞれ、パーティション化すること103によって液滴中に分配された複数の対応するRNAのための液滴特異的オリゴヌクレオチドバーコードを含む複数のcDNAを有する。cDNAを形成することは、増幅プライマー結合部位(cDNAの末端の第1および第2のユニバーサルプライミング配列など)を付着させることを含んでもよく、方法101は、必要に応じて、cDNAを、保存するか、輸送するか、または配列決定ライブラリーにさらにプロセシングすることができるアンプリコンに増幅すること(移動前に)を含む。例えば、アンプリコンを、次世代配列決定(NGS)機器などのシーケンサーを使用する配列決定のためにプロセシングすることができる。
【0035】
次に、バーコード化されたcDNAを、鋳型粒子から分離し、増幅109して、配列決定分析のためのアンプリコンを生産する。第1鎖cDNA合成の間に、逆転写酵素が結合し、ワトソン-クリックの塩基対合によって、共有結合によらずに鋳型粒子に接続されているRNAのcDNAの合成を開始させる。合成されるcDNAは、逆転写酵素によって形成されるホスホジエステル結合のおかげで粒子に共有結合により連結される。増幅の前に、鋳型粒子を、合成されたcDNAから分離する。
【0036】
cDNAは、共有結合により連結されているオリゴと一緒に、USER酵素を使用する制御された様式で鋳型粒子から放出され得る。USER酵素の添加は、オリゴ-鋳型粒子リンカーの組み込まれたウラシル塩基を切断し、それによって、cDNAを放出させるのに役立つ。放出されたcDNA分子を、第2鎖合成のために異なる施設に移すことができる。
【0037】
cDNA分子は、好ましくは、単一細胞の全体的なトランスクリプトーム活性を包括的に特性評価するのに有用である、全トランスクリプトーム増幅によって増幅される109。有利には、全トランスクリプトーム増幅は、少ない出発材料を前にしても、および/または不十分な保存に起因して試料が重度に分解される場合であっても、トランスクリプトームを増幅させる。
【0038】
全トランスクリプトーム増幅の試薬およびプロトコールは、Sigmaによって商標名Rapid Amplification of Total RNAの下で販売されているRNA増幅キットなどの市販のキットから取得することができる。全トランスクリプトーム増幅反応に由来するアンプリコン産物を、2つのサイズ特異的集団に分割し、そこから配列決定ライブラリーを調製する。
【0039】
一部の実施形態は、単一プライマー等温増幅(SPIA)法を用いて、cDNAを増幅することができる。次いで、増幅されたcDNAを、カラムを使用して、例えば、製造業者のプロトコールに従って、商標名MinElute Reaction Cleanup Kit(Qiagen;Valencia、CA、USA)の下で販売されている精製キットなどを用いて精製することができる。全トランスクリプトーム増幅の方法に関するさらなる考察については、参照により組み込まれる、Faherty, 2015, Evaluating whole transcriptome amplification for gene profiling experiments using RNA-Seq, BMC Biotechnology 15(65)を参照されたい。あるいは、配列決定費用を低減させるために、本発明の方法は、目的の特定の遺伝子と関連するRNAの選択的増幅を含んでもよい。目的の遺伝子を、遺伝子特異的プライマーを使用するPCR増幅によって増幅することができる。標的増幅のための遺伝子を選択するために、調査者は、National Center for Biotechnology Informationによるウェブ上で自由に利用可能である既存の遺伝子発現データベース、例えば、Gene、またはGene Expression Omnibusデータベースを研究して、目的の疾患または状態と関連する遺伝子を同定することができる。プライマーを作製することを、当技術分野で公知の方法を使用して研究室で実施することができるか、またはプライマーを第三者から購入することができる。
【0040】
次に、方法は、配列決定ライブラリーを調製すること111を含む。ライブラリーは、好ましくは、コア施設で調製される。配列決定アダプター、例えば、Illuminaの配列決定機器と適合するアダプターを提供するプライマーを使用して、アンプリコンを得られるPCR産物に増幅することによって、配列決定ライブラリーを調製することができる。考察のために、参照により組み込まれる、Head, 2018, Library construction for next-generation sequencing: Overviews and challenges, Biotechnique 56(2)を参照されたい。P5配列、P7配列、およびインデックスセグメントは、商標ILLUMINAの下で販売され、参照により組み込まれるBowman, 2013, Multiplexed Illumina sequencing libraries from picogram quantities of DNA, BMC Genomics 14:466に記載されたNGS機器上で実施されるなどのNGSインデックス付き配列における配列使用であってもよいことが企図される。ヘキサマープライミング法を使用することができる。ヘキサマーセグメントは、ランダムヘキサマーまたは選択的ヘキサマー(別名非完全ランダムヘキサマー)であってもよい。一部の実施形態は、非完全ランダム(NSR)オリゴマー(NSRO)を使用してもよい。参照により組み込まれる、Armour, 2009, Digital transcriptome profiling using selective hexamer priming for cDNA synthesis, Nat Meth 6(9):647-650を参照されたい。好ましくは、粒子は、オプションの下流の増幅するステップ(PCRまたは架橋増幅など)において使用することができるPCRプライマーと同種の1つまたは複数のプライマー結合配列P5、P7を含む捕捉オリゴに連結される。
【0041】
次いで、好ましくは、次世代シーケンサーを使用して、配列決定ライブラリーを配列決定する113。しかし、ライブラリーを配列決定すること113は、当技術分野で公知の方法によって実施することができる。例えば、一般的には、Quail, et al., 2012, A tale of three next generation sequencing platforms: comparison of Ion Torrent, Pacific Biosciences and Illumina MiSeq sequencers, BMC Genomics 13:341を参照されたい。核酸分子の配列決定技術としては、標識されたターミネーターもしくはプライマーを使用する古典的なジデオキシ配列決定反応(Sanger法)およびスラブもしくはキャピラリー中でのゲル分離、または好ましくは、次世代配列決定法が挙げられる。例えば、配列決定を、それぞれ参照により組み込まれる、米国特許出願公開第2011/0009278号、米国特許出願公開第2007/0114362号、米国特許出願公開第2006/0024681号、米国特許出願公開第2006/0292611号、米国特許第7,960,120号、米国特許第7,835,871号、米国特許第7,232,656号、米国特許第7,598,035号、米国特許第6,306,597号、米国特許第6,210,891号、米国特許第6,828,100号、米国特許第6,833,246号、および米国特許第6,911,345号に記載された技術に従って実施することができる。配列決定後、配列決定データを、続いて分析のためにプロセシングすることができる。
【0042】
方法101は、細胞捕捉の後、細胞溶解およびmRNA捕捉の後、第1鎖cDNA合成の後、および全トランスクリプトームcDNA増幅(WTA)の後などの、様々なステップで有利に中断することができる多ステッププロセスを含む。したがって、方法101は、第1の場所(例えば、研究所)でライブラリーを調製し、次いで、ライブラリーの調製および配列決定プロセスを完了するために試料を別の施設(例えば、コア施設)に移動させるための研究者にとっての有用な形式を提供する。この分割ワークフロー構成にはいくつかの利点があり、例えば、下準備プロセスは、任意の細胞または分子生物学研究室で実施することができるが、下流のプロセスは、設備の整ったコア施設で実施される。これは、エンドポイントユーザーの現場での時間を低減させながら、安定なトランスクリプトーム捕捉のために細胞単離のタイミングを最適化するのに有用である。さらに、これらの方法はまた、収集地点での材料の購入および保存を最小化するのにも有用であり、コア施設が、例えば、収集地点で、効率的なライブラリープロセシングのために、複数のユーザーから複数の試料を束ねることを可能にする。したがって、一部の実施形態は、配列決定ライブラリーの調製および定量化に関する経験のある操作者が、アッセイ性能の低下のリスクを最小化する中心施設での容易な試料プール化を可能にする、大きいパネルの独自のオリゴインデックスを提供する。
【0043】
方法101によって提供される多ステップワークフローを、第1の場所で、例えば、研究所によって開始し、第2の場所、例えば、コア施設で完了することができる。研究所は、科学的または技術的研究、実験、および測定を実施することができる制御された条件を提供する施設サイトであってもよい。研究所は、ボルテクサー、加熱浴、加熱ブロック、サーモサイクラーなどの基本的な分子生物学の装備へのアクセスを有してもよい。研究所は、地理的な場所によって制限されない。研究所は、医師の事務所、診療所、病院などにあってもよい。研究所は、屋外研究サイトであってもよい。例えば、研究所は、天然の環境を理解するか、または病原性伝染をモニタリングするのに有用な定量的データを生産するために試料を収集する、実地調査に関与してもよい。
【0044】
コア施設は、専門知識、サービス、および先端機器へのアクセスによって科学研究者を支援するように設計された機関を包含する。一般的には、コア施設は、専用スペース、特殊な科学装備、および専門職員からなる。コア施設の背後にある基本理念は、献身的な専門の科学者、経営者、および管理者の努力によって、共有の研究プラットフォームが、より効率的な資源利用、ならびに専門家の指導、支援、および管理を確保するということである。かくして、コア施設は、共有の研究装備の個別の部品から、大きな多構成要素の研究センターまでの多くの形態を取ってもよい。全ての種類の研究機関および大学、ならびに製薬企業およびバイオテクノロジー企業は、効率的かつ費用対効果のある方法としてコア施設の概念を組み込んで、研究の専門知識および特殊な機器類を利用し、適切な技術的および運営の監視を確保することができる。コア施設の職員は一般に、データの獲得および分析の側面で技術のある科学者である。コア施設は、研究所によって効率的に用いられるにはあまりにも高価である先端または特殊機器類(例えば、シーケンサー)を含むという点で研究所とは異なる。
【0045】
一実施形態によれば、分散型ワークフロー121は、細胞の試料をパーティション化すること103および全トランスクリプトーム増幅109によって試料をプロセシングすることによって研究所で方法101を開始させることを含む。配列決定ライブラリーの調製111および配列決定113は、コア施設で実施される。有利には、この実施形態は、研究所およびコア施設で見られることが多い材料およびスキルセットに、試料プロセシングステップを合致させる。例えば、研究所は一般に、細胞試料をパーティション化103するためにボルテクサーへのアクセスを有する。研究所は一般に、細胞を溶解105し、RNAを鋳型粒子上に捕捉するのに有用である加熱ブロックへのアクセスを有する。研究所は一般に、cDNA合成および全トランスクリプトーム増幅のためのサーモサイクラーへのアクセスを有する。さらに、生成物または全トランスクリプトーム増幅(DNA)は、非常に安定である。コア施設へのこれらの生成物の移動を比較的容易にする。例えば、DNAは、室温でも移動させることができ、費用対効果のあり、容易である。例えば、増幅された試料を、紙マトリックス上で直接乾燥することができる。紙マトリックスの選択肢としては、様々な未処理のマトリックス(例えば、GuthrieまたはWhatman 903カード)および化学処理されたマトリックス(すなわち、Whatman FTA技術)が挙げられる。あるいは、試料を、水または食塩水の溶液中、Eppendorfチューブなどのチューブ中で出荷することができる。EDTAなどの安定化剤を溶液に添加して、輸送中の核酸の安定性を増強することができる。
【0046】
試料(例えば、細胞、RNA、cDNA)を、宅配便業者または郵送によって研究所とコア施設との間で移動させることができる。例えば、試料を、ドライシッパー中で冷蔵して出荷することができる。これらのものは、シッパー内の多孔性フィルター中に完全に吸収された冷蔵された液体窒素を含有する絶縁パッケージである。試料を、ドライアイスを含有する漏れ防止容器、例えば、発泡スチロール箱中に包装されたEppendorfチューブに入れて出荷することができる。試料を、郵便サービスによって郵送することができる。
【0047】
異なる実施形態によれば、分散型ワークフロー123は、研究室でRNA配列決定のための試料を調製し、第1鎖cDNA合成107をすることを含む。第1鎖cDNA合成の後、鋳型粒子に結合することができる安定なDNA転写物を、全トランスクリプトーム配列決定が実施されるコア施設に移動させることができる。有利には、この方法は、研究所でのサーモサイクラーの必要性を取り除く。cDNAを、ドライアイス上の試料調製チューブに入れてコア施設に移動させることができる。cDNAを、EDTAを含む溶液中で保存することができる。
【0048】
他の実施形態では、分散型ワークフロー127は、研究所での細胞パーティション化103、細胞溶解105およびRNA捕捉のための方法ステップを含む。RNA捕捉後、試料は、cDNA合成107、増幅109、ライブラリー調製111および配列決定113のためにコア施設に輸送される。有利には、この実施形態は、研究所の非常に少ない材料しか必要とせず、例えば、サーモサイクラー、シーケンサーなどを必要としない。さらに、一部の実施形態は、捕捉されたRNAのコア施設への移動を容易にする本発明の試薬を使用することができる。例えば、試薬は、細胞を溶解するために細胞溶解105の間に使用することができる細胞溶解緩衝剤を含む。細胞溶解緩衝剤は、輸送中のRNAの完全性を保持するための複数のモダリティのDNAseおよびRNAseの不活化を含んでもよい。試薬は、タンパク質を消化し、夾雑物を除去するプロテアーゼKの組込みによってタンパク質分解活性を防止することができる。方法は、ジチオトレイトールDTTの添加によってジスルフィド結合の加水分解を防止することができる。
【0049】
異なる実施形態では、分散型ワークフロー131は、研究施設で細胞の試料をパーティション化すること103を含む。次いで、パーティション化された試料を含有するチューブを、さらなるプロセシング(すなわち、ステップ105~111を実施する)およびその後の配列決定すること113のためにコア施設に輸送する。研究所でRNA配列決定分析のために単一細胞を調製するこの実施形態は、いかなる特殊なデバイスも必要としないため、実地調査を行うのに有用であり得る、実質的に任意の場所からの、研究所による安定な輸送のために、RNA配列決定のための試料を収集および調製することができる。一般に、輸送は、発泡スチロール容器などの容器中に単一細胞パーティションのチューブを包装すること、および容器をコア施設に郵送することを含む。輸送を容易にするために、本発明の方法は、以下に考察される界面活性剤を、上記のパーティション化する103ステップの間に使用される油混合物に添加することを含んでもよい。界面活性剤は、輸送中にパーティションを安定化するのに有用であり、それにより、単一細胞を分離して保持することを確保する。有利には、細胞の試料を、単一の容器内で単一細胞形式に調製することができるため、コア施設への輸送のための試料の包装と関連する負担は最小限であり、安価である。好ましくは、チューブを氷上に置いて、任意のさらなる細胞活動、例えば、転写が試料収集後に起こるのを防止する。
【0050】
図2は、鋳型粒子201を用いて捕捉されたRNAのcDNA合成を示す。RNA(mRNA)は、バーコード化されたオリゴ205とのハイブリダイゼーションによって鋳型粒子201によって捕捉される。簡単にするために、単一のバーコード化されたオリゴ205のみが示されている。実際には、任意数のバーコード化されたオリゴを付着させることができる。例えば、鋳型粒子201を、数百万個または数十億個またはそれより多いオリゴで飾ることができる。
【0051】
RNAの捕捉は、本明細書に記載の単一細胞の溶解後、予め鋳型化された即時パーティション(示さず)の内部で起こる。鋳型粒子201およびオリゴ205を、切断性結合、例えば、プロテアーゼ切断性ペプチドによって連結することができる。オリゴ205は、5’から3’に向かって、PCRプライマー結合部位215、バーコード配列217、独自の分子識別子(UMI)219、および捕捉配列221を含んでもよい。
【0052】
捕捉(すなわち、オリゴ-RNAハイブリダイゼーション)後、捕捉されたRNAのcDNA合成を、逆転写酵素235を用いて実施することができる。cDNA合成中に、逆転写酵素235は、合成されたホスホジエステル結合を経由してバーコードに共有結合により付着されたcDNA中にRNA分子のコピーを作出する。バーコード配列217は、鋳型粒子201にとって独自のものであるヌクレオチドの配列をコードする。各単一細胞は異なる鋳型粒子と共に捕捉されるため、バーコード配列217は、単一の共通の細胞の全てのRNA配列読み取りデータを一緒にグループ化することができる。そのため、鋳型粒子によって捕捉されたRNAの配列読み取りデータは、単一細胞の発現をまとめて分析するのに有用である。
【0053】
本発明の方法は、単一細胞のRNAを試験するのに有用である。本発明の方法は、最良のライブラリープロトコールに関する決定を行う前にRNA配列決定実験の主目的を考慮する必要があるいくつかの異なる戦略を含む。例えば、目的が複雑かつ全体的な転写事象の探索である場合、ライブラリーは、できるだけ高い完全性で、コード、非コード、アンチセンスおよび遺伝子間RNAを含む、トランスクリプトーム全体を捕捉するべきである。しかしながら、他の実施形態では、目的は、ポリT捕捉オリゴを用いて捕捉することができる、タンパク質に翻訳されるコードmRNA転写物のみの試験であってもよい。しかし、実施形態は、低分子RNA、最も一般的には、miRNAだけでなく、核小体低分子RNA(snoRNA)、piwi相互作用RNA(piRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、および転移RNA(tRNA)も試験するためのRNA配列決定ライブラリーの調製を含んでもよい。有利には、本発明の方法は、ライブラリー調製のために遠隔地に輸送することができる、安定な予め鋳型化された即時パーティションの内部で、単一細胞を、その対応するRNA種の全てと一緒に捕捉するのに有用である。パーティションの利点は、単一細胞の材料が個々の区画内に制限され、試料プロセシングまでその希釈または拡散を防止することである。
【0054】
本発明の方法は、単一細胞に由来するRNAを配列決定するのに有用である。RNA配列決定データは単一細胞トランスクリプトームに関する情報を提供し、その発現は細胞形質と良好に相関し、細胞状態を変化させる。例えば、任意の瞬間に、各細胞は、それが担持するほんのわずかの遺伝子からmRNAを作製する。遺伝子がmRNAを産生するために使用される場合、それは「オン」と考えられるが、そうでなければ、それは「オフ」と考えられる。遺伝子発現プロファイリングは、2つまたはそれより多い条件で発現されたmRNAの相対量を測定することを含んでもよい。例えば、遺伝子中で「オン」スイッチをもたらすと考えられるRNAガイド、遺伝子中で「オフ」スイッチをもたらすと考えられるRNAガイド、および遺伝子の変化をもたらさないと考えられるRNAガイドによって、細胞を改変することができる。遺伝子発現プロファイルは、DNA中のガイドRNAによって行われた変化が、実際に細胞中の表現型に何をもたらすのかに関する情報を提供する。遺伝子発現プロファイリングはまた、例えば、同じ「オン」スイッチを標的とする複数のRNAガイドが、様々なレベルの遺伝子発現レベル変化を評価するために並行して分析される場合、RNAガイドの編集能力として情報も提供することができる。
【0055】
したがって、本発明の方法は、単一細胞RNA配列決定データの発現プロファイルを生成することを含んでもよい。一部の実施形態では、遺伝子発現プロファイルを、自由に利用可能な分析ツールを使用して作製することができ、例えば、TopHat2(Johns Hopkins University for Computational Biology)、Cufflinks(University of Washington, Cole Trapnell Lab)、およびDESeq2(参照により本明細書に組み込まれる、Love MI, Huber W and Anders S, 2014, Moderated estimation of fold change and dispersion for RNA-seq data with DESeq2, Genome Biology, 15, pp. 550を参照されたい)を使用して、RNA配列を整列させること、および発現レベルを決定し、細胞型と対応する示差的発現を同定することができる。発現レベルを、ハウスキーピング遺伝子または試料中で測定される他の対照の発現レベルに対して正規化することができる。例えば、正規化された発現レベルを、既知の細胞状態の単一細胞に由来する閾値発現レベルと比較することができる。
【0056】
図3は、本発明のキット301を示す。キット301は、本明細書に記載の方法を実施するための試薬を含んでもよい。キット301を、上記の方法101の特定のステップのワークフローステップを達成するために設計することができる。例えば、図1を参照すると、キット301を、研究所またはコア施設で実施される分散型ワークフロー(すなわち、121、123、127、131)のいずれか1つを達成するために設計することができる。様々なキットを提供することにより、調査者は、アッセイ特異的供給物を購入し、それによって、ワークフロー全体を実行するためのキットと関連する費用および廃棄物を低減させることができる。例えば、キット301は、鋳型粒子を含有するチューブ305を含んでもよい。鋳型粒子を、水性媒体(例えば、食塩水、栄養ブロス、水)中で提供するか、または使用時に再水和するために乾燥することができる。好ましくは、鋳型粒子は、RNA(例えば、mRNA)の捕捉のためのオリゴで飾られる。オリゴを、mRNAのポリA尾部との安定かつ特異的なアニーリングを促進するように設計することができる。好ましくは、オリゴは、UMIを含む。UMIを、mRNAへの非特異的結合を阻止する独自の配列を用いて設計することができる。例えば、UMIを、チミンレベルが低く、好ましくは、反復チミンヌクレオチドが少ないように設計することができる。キットは、ワークフローステップを実行するための使用説明書309を含有してもよい。キット301は、施設(例えば、研究所およびコア施設)間の試料材料の輸送を容易にする試薬を含んでもよい。例えば、キット301は、移動中の核酸を安定化するための試薬を含んでもよい。キット301は、エマルジョンを安定化するか、または熱安定性を増強する試薬を含んでもよい。例えば、キット301は、油と水性溶液との間の境界面に集合して、液体が分離するのを防止する、ある特定の界面活性剤分子、例えば、ポリマー、タンパク質、または粒子を含んでもよい。
【0057】
好適な界面活性剤は、例えば、Ranまたはイオン性Krytoxを含んでもよい。界面活性剤は、例えば、参照により組み込まれるHatori, 2018, Particle-templated emulsification for microfluidics-free digital biology, Anal Chem 90:9813-9820にて論じられたような、PEG-PFPE両親媒性ブロックコポリマー界面活性剤であってもよい。
【0058】
一部の実施形態では、キット301は、受注生産である。例えば、調査者は、例えば、オンラインツールを使用して、上記の分散型ワークフロー(すなわち、121、123、127、131)の一覧から選択することができる。調査者は、オンライン検索ツールを使用して、キットが研究所またはコア施設での使用のためのものであるかどうかを同定することができる。ワークフローを実施するまで様々なキットを作製することができる。例えば、一部のキット301は、試料をパーティション化するための試薬のみを含む。キット301は、鋳型粒子、細胞懸濁緩衝剤、細胞希釈緩衝剤、およびパーティション化試薬を含んでもよい。パーティション化試薬は、油および界面活性剤を含んでもよい。油は、好ましくは、フッ素化された油である。
【0059】
一部の例では、キット301は、細胞溶解およびRNA捕捉のための試薬も含む。キット301は、破壊緩衝剤、洗浄緩衝剤、および脱パーティション化試薬を含んでもよい。キットは、参照により組み込まれる米国特許第6,777,210号に記載されたものなどのリボヌクレアーゼを不活化するための試薬を含んでもよい。キット301はまた、cDNAの第1鎖を作製するための試薬を含んでもよい。例えば、キット301は、逆転写酵素、およびdNTPを含んでもよい。キットは、cDNA増幅のための試薬を含んでもよい。キットは、USER酵素を含んでもよい。一部の例では、キット301は、配列決定ライブラリーを生成するための試薬を含む。例えば、キット301は、試料多重化のためのインデックスを含んでもよい。
【0060】
鋳型粒子は、標的捕捉およびポリアデニル化されたRNAのバーコード化のためのオリゴヌクレオチドを提供することができる。各鋳型粒子に特異的なバーコードは、群内の他のバーコードから識別可能であるヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド配列の任意の群であってもよい。したがって、鋳型粒子および単一細胞を封入するパーティションは、単一細胞から放出された各核酸分子に、バーコードの群に由来する同じバーコードを提供する。鋳型粒子によって提供されたバーコードは、その鋳型粒子にとって独自のものであり、他の全ての鋳型粒子によって核酸分子に提供されたバーコードと識別可能である。配列決定されたら、バーコード配列を使用することにより、単一細胞が一緒に分配された鋳型粒子によって提供されたバーコードに基づいて、核酸分子を単一細胞にさかのぼらせることができる。バーコードは、バーコードを、他のバーコードと識別するのに十分な任意の好適な長さのものであってよい。例えば、バーコードは4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25ヌクレオチドの、またはそれより多い長さを有してもよい。
【0061】
各鋳型粒子にとって独自のバーコードは、予め規定された、縮重性の、および/または無作為に選択されたものであってよい。核酸分子をバーコードで「タグ付け」することによって、バーコードを核酸分子に付加することができる。タグ付けを、バーコード付加のための任意の公知の方法、例えば、各核酸分子の1つまたは複数の末端へのバーコードの直接ライゲーションを使用して実施することができる。核酸分子は、例えば、バーコードの直接ライゲーションまたは平滑末端化ライゲーションを可能にするために末端修復されてもよい。また、例えば、本明細書の以下に記載されるような、捕捉用プローブを使用する、第1鎖または第2鎖合成によって、バーコードを核酸分子に付加することもできる。
【0062】
本発明の一部の方法では、インデックスまたはバーコード配列は、独自の分子識別子(UMI)を含んでもよい。UMIは、そのバーコードと共に、各核酸分子を独自のものに、またはほぼ独自のものにするために試料に提供することができるバーコードの種類である。1つまたは複数のUMIを、本発明の1つまたは複数の捕捉用プローブに付加することによって、これを達成することができる。適切な数のUMIを選択することにより、試料中の全ての核酸分子が、そのUMIと共に、独自またはほぼ独自のものになる。
【0063】
UMIは、それらを使用して、増幅の偏り、または増幅中の不正確な塩基対合などの、増幅中に作出されるエラーを補正することができるという点で有利である。例えば、UMIを使用する場合、試料中の全ての核酸分子が、そのUMI(単数または複数)と共に、独自またはほぼ独自のものであるため、増幅および配列決定後、同一の配列を有する分子は、同じ出発核酸分子を指し、それによって増幅の偏りを低減させると考えることができる。UMIを使用したエラー補正のための方法は、参照により本明細書に組み込まれる、Karlsson et al., 2016, Counting Molecules in cell-free DNA and single cells RNA", Karolinska Institutet, Stockholm Swedenに記載されている。
【0064】
鋳型粒子の一部の実施形態では、鋳型粒子の直径または最大寸法の変動は、鋳型粒子の少なくとも50%もしくはそれより多く、例えば、60%もしくはそれより多く、70%もしくはそれより多く、80%もしくはそれより多く、90%もしくはそれより多く、95%もしくはそれより多く、または99%もしくはそれより多くが、10未満の倍数、例えば、5未満の倍数、4未満の倍数、3未満の倍数、2未満の倍数、1.5未満の倍数、1.4未満の倍数、1.3未満の倍数、1.2未満の倍数、1.1未満の倍数、1.05未満の倍数、または1.01未満の倍数で直径または最大寸法において変化するようなものである。
【0065】
鋳型粒子は、多孔性または非多孔性であってもよい。本明細書の任意の好適な実施形態では、鋳型粒子は、追加の成分および/または試薬、例えば、本明細書に記載の単分散液滴中に放出可能であり得る追加の成分および/または試薬を含有してもよい、微小区画(本明細書では「内部区画」とも称される)を含んでもよい。鋳型粒子は、ポリマー、例えば、ヒドロゲルを含んでもよい。鋳型粒子は一般に、直径または大きい方の寸法で約0.1~約1000μmの範囲である。一部の実施形態では、鋳型粒子は、約1.0μm~1000μm(両端を含む)、例えば、1.0μm~750μm、1.0μm~500μm、1.0μm~250μm、1.0μm~200μm、1.0μm~150μm、1.0μm~100μm、1.0μm~10μm、または1.0μm~5μm(両端を含む)の直径または最大寸法を有する。一部の実施形態では、鋳型粒子は、約10μm~約200μm、例えば、約10μm~約150μm、約10μm~約125μm、または約10μm~約100μmの直径または最大寸法を有する。
【0066】
本明細書に記載の方法の実施において、鋳型粒子の組成および性質は変化してもよい。例えば、ある特定の態様では、鋳型粒子は、マイクロメートル規模のゲルマトリックスの球体である、ミクロゲル粒子であってもよい。一部の実施形態では、ミクロゲルは、アルギネートまたはアガロースを含む、水溶性である親水性ポリマーから構成される。他の実施形態では、ミクロゲルは、親油性ミクロゲルから構成される。他の態様では、鋳型粒子は、ヒドロゲルであってもよい。ある特定の実施形態では、ヒドロゲルは、天然由来の材料、合成由来の材料およびその組合せから選択される。ヒドロゲルの例としては、限定されるものではないが、コラーゲン、ヒアルロナン、キトサン、フィブリン、ゼラチン、アルギネート、アガロース、硫酸コンドロイチン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリルアミド/ビスアクリルアミドコポリマーマトリックス、ポリアクリルアミド/ポリ(アクリル酸)(PAA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、およびポリ無水物、ポリ(プロピレンフマレート)(PPF)が挙げられる。
【0067】
一部の実施形態では、ここで開示される鋳型粒子は、正の表面電荷、または増加した正の表面電荷を有する鋳型粒子を提供する材料をさらに含む。そのような材料は、限定されず、ポリ-リシンまたはポリエチレンイミン、またはその組合せであってもよい。これは、鋳型粒子と、例えば、一般に、多くは負に荷電した膜を有する細胞との間の会合の機会を増加させ得る。
【0068】
特定の鋳型粒子形状の作出を含む、他の戦略を使用して、鋳型粒子-標的細胞会合の機会を増加させることができる。例えば、一部の実施形態では、鋳型粒子は、一般的な球体の形を有してもよいが、形は、球体の形における平坦な表面、クレーター、溝、突出部、および他の不規則性などの特性を含有してもよい。
【0069】
上に記載された戦略および方法、またはその組合せのいずれか1つを、ここで開示される鋳型粒子およびその標的ライブラリー調製のための方法の実施において使用することができる。鋳型粒子の生成、および鋳型粒子に基づく封入のための方法は、参照により本明細書に組み込まれる、国際特許出願公開WO2019/139650に記載された。
参照による組込み
特許、特許出願、特許公開、雑誌、書籍などの他の文献に対する参照および引用が、本開示を通して行われている。全てのそのような文献は、ここにあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
等価物
本発明および多くのさらなるその実施形態の種々の改変は、本明細書に示され、記載されたものに加えて、本明細書で引用される科学文献および特許文献に対する参照を含む、本文献の全内容から当業者には明らかとなるであろう。本明細書の主題は、その様々な実施形態および等価物において本発明の実施に適合させることができる重要な情報、例示および指針を含有する。
図1
図2
図3
【国際調査報告】