(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】カルシウム-マグネシウム-アルミニウム-ケイ酸塩耐性オーバーレイコーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20240628BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C23C14/08
C23C14/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501827
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2022000062
(87)【国際公開番号】W WO2023284994
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コールハウザー,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】シェーヒ,ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】ビドリッヒ,ベノ
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ユルゲン
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029BA02
4K029BA03
4K029BA07
4K029BA35
4K029BA43
4K029BA44
4K029BC01
4K029CA03
4K029DD06
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのCMAS耐性層を含むCMAS耐性オーバーレイコーティング(240)に関し、オーバーレイコーティング(240)は、i.CMAS腐食を受けやすい材料を含む基材(10a)の表面(11a)上に配置され、またはCMAS腐食を受けやすい材料からなる基材(10a)の表面(11a)上に配置され、ii.金属酸化物マトリックスを含み、iii.少なくとも部分的に垂直柱状構造を有する。さらに、アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはアルミニウムおよびクロムからなる金属成分からなる群から選択される少なくとも1つの酸化されていない金属成分が、金属酸化物マトリックスに埋め込まれる。さらに、本発明は、CMAS腐食を受けやすい材料の表面(231)上に問題となっているCMAS耐性オーバーレイコーティング(240)を有する基材(10a)に関する。本発明はまた、CMAS腐食を受けやすい材料の表面(231)上にそのようなCMAS耐性オーバーレイコーティング(240)を形成するためのCAEプロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのCMAS耐性層を含むカルシウム-マグネシウム-アルミニウム-ケイ酸塩(CMAS)耐性オーバーレイコーティング(240)であって、前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)が、
i.CMAS腐食を受けやすい材料を含む基材(10a、10b)の表面(101、211、221、231)上に配置され、またはCMAS腐食を受けやすい材料からなる基材(10a、10b)の表面(101、211、221、231)上に配置され、
ii.金属酸化物マトリックスであって、
アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含む金属成分またはアルミニウムおよびクロムからなる金属成分からなる群から選択される少なくとも1つの酸化されていない金属成分が前記金属酸化物マトリックスに埋め込まれている、金属酸化物マトリックスを含み、
iii.少なくとも部分的に垂直柱状構造を有する、
カルシウム-マグネシウム-アルミニウム-ケイ酸塩(CMAS)耐性オーバーレイコーティング(240)。
【請求項2】
前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)が、希土類金属を含まない、請求項1に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項3】
前記金属酸化物マトリックスが、アルミニウムおよび/またはクロムを含有する少なくとも1つの酸化種を含む、請求項1または2に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項4】
前記金属酸化物マトリックスが、Al-O種、Cr-O種およびAl-Cr-O種、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項5】
前記金属酸化物マトリックスが、非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的酸素欠乏酸化クロム、および非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化クロム(Cr
2O
3)および酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)
2O
3、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項6】
前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)が、下部ゾーンおよび上部ゾーンを備え、
i.前記下部ゾーンが、非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的酸素欠乏酸化クロムおよび非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含み、
ii.前記上部ゾーンが、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化クロム(Cr
2O
3)および酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)
2O
3、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される化学量論的酸化種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項7】
アルミニウムおよびクロムを含む前記金属成分またはアルミニウムおよびクロムからなる前記金属成分が、互いに独立して、合金、金属間化合物または固溶体の形態である、請求項1~6のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項8】
アルミニウムおよびクロムを含む前記金属成分またはアルミニウムおよびクロムからなる前記金属成分が、Al
1Cr
2もしくはAl
8Cr
5、またはそれらの組合せもしくは混合物を含むかまたはAl
1Cr
2およびAl
8Cr
5からなる、請求項1~7のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項9】
酸化されていないアルミニウムおよび/または酸化されていないクロムおよび/または酸化されていないアルミニウムクロムが金属液滴の形態である、請求項1~8のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項10】
前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)が、1.000℃~1.600℃の範囲の温度で元素アルミニウムおよび/または元素クロムおよび/またはアルミニウムクロムを提供することができる、請求項1~9のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項11】
前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)の前記垂直柱状構造が、
-前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)の厚さ(T)を部分的に、または前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)の本質的に全体もしくは全体の厚さ(T)を貫通して延在し、および/あるいは
-前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)の幅にわたって(W)を部分的に、または前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)の本質的に全体もしくは全体の幅(W)にわたって延在する、請求項1~10のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項12】
前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)が、5μm~300μmの範囲の層厚(T)を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項13】
前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)が、従来の遮熱コーティングの上の最上層として機能する、請求項1~12のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項14】
前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)が、
i.50μm~300μmの範囲の層厚(T)を有し、
ii.遮熱コーティングおよび最上層の両方として機能する、
請求項1~12のいずれか1項に記載のオーバーレイコーティング(240)。
【請求項15】
CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはCMAS腐食を受けやすい材料からなる基材(10a、10b)であって、前記基材(10a、10b)が、
i.CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはCMAS腐食を受けやすい材料からなる少なくとも1つの基材層(100、210、220、230)を含むかまたはCMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはCMAS腐食を受けやすい材料からなる少なくとも1つの基材層(100、210、220、230)からなり、
ii.前記基材層(100、210、220、230)の少なくとも1つの表面(101、211、221、231)上に、請求項1~14のいずれか1項に記載のCMAS耐性オーバーレイコーティング(240)を有する、基材(10a、10b)。
【請求項16】
前記CMAS腐食を受けやすい材料が、金属、超合金、セラミック材料およびセラミックマトリックス複合材(CMC)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項15に記載の基材(10a、10b)。
【請求項17】
前記基材層(100、210、220、230)の少なくとも一方が、SiCベースのCMCを含むかまたはSiCベースのCMCからなるCMCを含むか、またはSiCベースのCMCを含むかまたはSiCベースのCMCからなるCMCからなる、請求項15または16に記載の基材(10a、10b)。
【請求項18】
i.前記基材(10a)が、
-ベース層(100)と、
-熱成長酸化物(TGO)層(220)上に配置されたYSZベースの遮熱コーティング(230)を含む遮熱コーティング(TBC)系(20)と、を含むかもしくは前記ベース層(100)と前記遮熱コーティング(TBC)系(20)とからなり、または
ii.前記基材(10b)が、
-ベース層(100)と、
-ボンドコート(BC)層(210)およびTGO層(220)であって、前記BC層(210)が前記ベース層(100)と前記TGO層(220)との間に配置される、ボンドコート(BC)層(210)およびTGO層(220)と、を含むかもしくは前記ベース層(100)と前記ボンドコート(BC)層(210)およびTGO層(220)とからなる、
請求項15~17のいずれか1項に記載の基材(10a、10b)。
【請求項19】
前記ベース層(100)が、タービン、特にガスタービンの一部である、請求項18に記載の基材(10a、10b)。
【請求項20】
前記TBC系(20)が、前記ベース層(100)と前記TGO層(220)との間に配置されたボンドコート(BC)層(210)を含む、請求項18または19に記載の基材(10a)。
【請求項21】
前記BC層(210)が、NiCoCrAlY、Pt修飾拡散アルミナイドおよびガラスセラミックからなる群から選択される材料を含むか、またはNiCoCrAlY、Pt修飾拡散アルミナイドおよびガラスセラミックからなる、請求項18~20のいずれか1項に記載の基材(10a、10b)。
【請求項22】
CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはCMAS腐食を受けやすい材料からなる基材(10a、10b)の表面(101、211、221、231)上にCMAS耐性オーバーレイコーティング(240)を形成するための陰極アーク蒸着(CAE)プロセスであって、前記オーバーレイコーティング(240)が、少なくとも1つのCMAS耐性層を含み、前記プロセスが、
A.陰極材料として使用するためのターゲットを提供する工程であって、ターゲット材料が、アルミニウムおよび/またはクロムを含むか、またはアルミニウムおよび/またはクロムからなる、ターゲットを提供する工程、
B.酸素を含むかまたは酸素からなるプロセスガスを提供する工程、
C.工程Aで提供された前記ターゲット材料からアルミニウムおよび/またはクロムを蒸発させる工程、
D.工程Cで蒸発させた前記蒸発アルミニウムおよび/またはクロムを工程Bで供給された前記プロセスガスと反応させる工程、ならびに
E.CMAS腐食を受けやすい材料を含む基材(10a、10b)の表面(101、211、221、231)上、またはCMAS腐食を受けやすい材料からなる基材(10a、10b)の表面(101、211、221、231)上に、CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)として工程Dの反応生成物を堆積させる工程、を含む、陰極アーク蒸着(CAE)プロセス。
【請求項23】
前記CMAS耐性オーバーレイコーティング(240)が、請求項1~14のいずれか1項に記載のものである、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記基材(10a、10b)が、請求項15~21のいずれか1項に記載のものである、請求項22または23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記ターゲット材料が、アルミニウムおよび/またはクロムを含むか、またはアルミニウムおよび/またはクロムからなり、クロムが少なくとも15原子百分率の量で含まれる、請求項22~24のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項26】
前記ターゲット材料が、
i.アルミニウムおよびクロムから本質的になるか、または
ii.完全にアルミニウムおよびクロムからなる、
請求項22~25のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項27】
酸素分圧が、0.001Pa~10Paの範囲である、請求項22~26のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム-マグネシウム-アルミニウム-ケイ酸塩(CMAS)耐性オーバーレイコーティング、およびCMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上にそのようなCMAS耐性オーバーレイコーティングを形成するための陰極アーク蒸着(CAE)プロセスに関する。さらに、本発明は、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなり、少なくとも1つの基材層の表面上に問題となっているCMAS耐性オーバーレイコーティングを有する基材に関し、基材は、特に上述のプロセスによって得られるかまたは得ることができる。
【背景技術】
【0002】
固定式および航空用ガスタービンの動作温度を上昇させ、それによってタービン効率を高めるために、タービンブレード用の複雑な冷却系が必要とされている。そのような系は、通常、内部冷却チャネル、ブレード表面に冷却ガスの膜を生成するための冷却孔、およびコーティング表面からコーティングとブレードとの界面までの温度勾配を最大にするために低い熱伝導率を示すセラミック上部コーティングを含む遮熱コーティング(TBC)系によって実現される。
【0003】
断熱のため、従来のTBC系は、一般に遮熱コーティングとも呼ばれる多孔質または歪み耐性セラミック上部コーティングを含む。典型的には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)ベースの遮熱コーティングは、熱成長酸化物(TGO)層上に配置される。後者は、次に、ボンドコート(BC)層上に配置される。従来の遮熱コーティング組成物の2つの非限定的な例は、7重量%イットリア安定化ジルコニア(7YSZ)および8重量%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)である。YSZベースの遮熱コーティングは、その高い靱性および高温までの低い熱伝導率を特徴とする。それらは、通常、大気圧プラズマ溶射(APS)または電子ビーム物理蒸着(EB-PVD)によって堆積される。APSは、高密度の垂直または水平亀裂構造をもたらすが、EB-PVDは、金属ブレードとセラミックコーティングとの間の熱膨張の著しい不一致に耐えることができる柱状構造をもたらす。このため、製造コストが比較的高いにもかかわらず、柱状構造は航空エンジン用途に好まれる。
【0004】
吸気によって摂取され、ガスタービンの高温ガス経路内の表面に付着した大気ダストに由来するカルシウム-マグネシウム-アルミニウム-ケイ酸塩(CMAS)に基づく溶融堆積物は、従来の遮熱コーティングの耐久性に影響を及ぼす重要な要因として認識されている。さらに、これらは、ガスタービン技術の分野における進歩に対する基本的な障壁である。その理由は以下の通りである:ほとんどのCMAS堆積物は1.200℃前後またはそれを超える温度で溶融する。結果として、エンジン動作温度(例えば航空機の離陸または着陸)が上昇すると、CMASに基づくガラス状溶融物が形成され、これは典型的にはYSZ層である遮熱コーティングを攻撃する。溶融物は、遮熱コーティングを化学的に溶解することができ、通常、その後に新しい相が析出して遮熱コーティングの柱状または羽状構造を効果的に破壊する。代替または追加として、CMAS溶融物は、遮熱コーティングの多孔質または柱状構造、すなわち金属基材との歪み不適合性を収容する空隙空間に浸透し、エンジンの停止時に固化することができる。結果として、タービンブレードの熱膨張に対する遮熱コーティングの寛容性が大幅に低下し、遮熱コーティングの亀裂および層間剥離をもたらす。CMAS溶融物の浸透はBC層にも及ぶ可能性があり、それによって溶融物はTGO層と化学的に相互作用する。その結果、TGO層に沿って剥離し、潜在的にBC層内のクリープキャビテーションが促進され、剥離亀裂経路はセラミック層ではなく金属内を伝播する。(例えば、C.G.Levi,J.W.Hutchinson,M.-H.Vidal-Setif,C.A.Johnson,MRS Bulletin 2012,37,932-941を参照)。
【0005】
CMAS誘発分解および腐食をそれぞれ緩和するための様々な戦略が開発されている。これまでの最も有望な戦略は、CMAS反応性遮熱コーティングを適用することによって、遮熱コーティングとCMAS溶融物との間の反応性を高めることを試みる。これにより、溶融物が消費される一方で、結晶性反応生成物は緻密層を形成し、更なる溶融浸透のための経路を遮断する。言い換えれば、結晶性反応生成物は、CMAS耐性層を形成する。
【0006】
従来技術から知られているCMAS反応性遮熱コーティングのほとんどは、主に希土類元素ガドリニウム(Gd)、イッテルビウム(Yb)またはサマリウム(Sm)を含む希土類ジルコン酸塩に基づく。不利なことに、これらのCMAS反応性遮熱コーティングは、典型的には、YSZ組成物に基づく従来の遮熱コーティングよりも靭性が低い。したがって、CMAS反応性遮熱コーティングは、従来の遮熱コーティングに加えて、すなわちYSZベースのまたは低k遮熱コーティングの上の最上層としてのみ提供される。そのようなCMAS反応性遮熱コーティングを形成するために、各々の場合において下にある遮熱コーティング、すなわちAPSまたはEB-PVDの堆積と同じ技術が適用される。
【0007】
しかしながら、この手法は、材料費がかなり高いという欠点を有する。この主な理由は、2つの希土類金属含有層が必要であり、希土類金属の分離および単離が複雑で時間がかかるためである。さらに、そのようなCMAS反応性最上層を形成するプロセスはまた、比較的コストがかかる。
【0008】
要約すると、経済的および生態学的観点から、先に知られたCMAS反応性遮熱コーティング組成物、それに基づくCMAS耐性最上層、ならびにそのようなCMAS耐性最上層を形成する方法は、比較的不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、最新技術の上記および他の欠点を克服し、表面特性、特に表面テクスチャに関係なく、比較的安価で汎用性があり、耐久性があるCMAS耐性オーバーレイコーティングを提供することである。特に、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、特に1.600℃までの熱サイクル下で、良好な機械的安定性およびそれぞれの下にある層への接着性を示すものとする。さらに、本発明は、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなり、表面上の熱サイクル下で、特に1.600℃までで、下にあるそれぞれの層に対する良好な機械的安定性および接着性を示すCMAS耐性オーバーレイコーティングを有する基材に関する。本発明の別の目的は、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上にそのようなCMAS耐性オーバーレイコーティングを形成するプロセスである。このプロセスは、表面特性、特に表面テクスチャに関して比較的汎用性があり、簡単で、比較的費用効率が高く、省エネルギーであり、工業用途に容易に拡張可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の主な特徴は、特許請求の範囲に示されている。
本発明の第1の態様によれば、上記課題は、少なくとも1つのCMAS耐性層を含むカルシウム-マグネシウム-アルミニウム-ケイ酸塩(CMAS)耐性オーバーレイコーティングであって、前記CMAS耐性オーバーレイコーティングが、
i.CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上に配置され、
ii.金属酸化物マトリックスであって、
アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分からなる群から選択される少なくとも1つの酸化されていない金属成分が前記金属酸化物マトリックスに埋め込まれている、金属酸化物マトリックスを含み、
iii.少なくとも部分的に垂直柱状構造を有する、
カルシウム-マグネシウム-アルミニウム-ケイ酸塩(CMAS)耐性オーバーレイコーティングによって解決される。
【0011】
本発明の範囲内で、「CMAS耐性オーバーレイコーティング」および「オーバーレイコーティング」および「保護層」という用語は同義的に使用される。
【0012】
「表面」という用語は、表面特性に関係なく、特に表面テクスチャに関係なく、任意の表面積を指す。さらに、「基材の表面」という用語は、単層基材の任意の表面または多層基材の任意の表面を指す。特に、「基材の表面」という用語は、単層材料の最上面、多層基材の最上面、および多層基材に含まれる任意の層の最上面を指す。これにより、積層基材の最上面と、積層基材の最上面の基材層の最上面とが同一となる。多層基材の最上部の基材層の最上面および多層基材の最上面にそれぞれ配置されたCMAS耐性オーバーレイコーティングもまた、下にある基材層の上に配置される。
【0013】
「CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材」は、CMAS腐食を受けやすい1つ以上の材料を含むかまたはそれからなる単層基材であり得る。多層基材は、ベース層、例えば超合金、および従来の遮熱コーティング(TBC)系からなってもよい。
【0014】
本明細書に記載の本発明の文脈で使用される、TBC系と略される「遮熱コーティング系」という用語は、一般に遮熱コーティングとも呼ばれる多孔質または歪み耐性セラミック上部コーティング、熱成長酸化物(TGO)層およびボンドコート(BC)層を含むかまたはそれらからなる多層材料を指し、セラミック上部コーティングは、TGO層上に配置され、BC層は、基材、例えばガスタービンブレードとTGO層との間に配置される。特に、BC層は、基材の最上層、例えばガスタービンブレードの最上層とTGO層との間に配置される。以下では、このタイプのTBC系は、従来の遮熱コーティング系とも呼ばれる。さらに、このタイプのTBC系に含まれ、典型的にはYSZベースであるセラミック上部コーティングは、従来の遮熱コーティングとも呼ばれる。
【0015】
本発明の範囲内で、「層」という用語は、「フィルム」という用語と同義であり、層厚またはフィルムの厚さに関する情報を提供しない。さらに、層は必ずしも均一な厚さを有するとは限らない。しかしながら、層厚が指定される場合、この層厚は、それぞれの層の少なくとも一部に、すなわちその最大厚みとして存在するものとする。
【0016】
本発明によれば、「CMAS腐食を受けやすい材料」は、例えば、金属、超合金、セラミック材料もしくはセラミックマトリックス複合材(CMC)、またはそれらの組合せである。CMCは、例えば、SiCベースのCMCを含むかまたはそれからなり得る。
【0017】
金属酸化物マトリックスは、1つ以上の化学量論的な金属酸化物および/または1つ以上の非化学量論的な、特に酸素欠乏金属酸化物を含み得る。
【0018】
驚くべきことに、本発明者らは、熱サイクル下で、本発明の第一の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティングは、1.500℃以上、特に1.600℃までの温度が適用されても、非常に良好な機械的安定性およびすぐ下にある材料表面への優れた接着性を示すことを見出した。これは、特に、以下に記載されるように、CMAS耐性オーバーレイコーティングからオーバーレイコーティングとその上にある溶融CMAS材料との間の界面に拡散する酸化されていない金属成分が関与する不透過性バリア層の熱誘起形成に起因する:
本発明の第一の態様によるオーバーレイコーティングは、高温で、すなわち約1.000℃以上の高温で加熱すると、含まれた酸化されていない金属成分、すなわち、金属酸化物マトリックス中に埋め込まれたアルミニウムおよび/もしくはクロムおよび/またはアルミニウムおよびクロムを含むもしくはアルミニウムおよびクロムからなる1つ以上の金属成分を放出することができる。次いで、簡単に言えば、酸化されていない金属成分は、CMAS耐性オーバーレイコーティングの最上面および液体CMAS層の最下面にそれぞれ拡散し、CMAS材料の元素および/または構成成分、例えばカルシウム、マグネシウム、酸化マグネシウムおよびケイ素と反応する。それにより、CMAS材料よりも高い溶融温度を有する不透過性バリア層が形成され、したがって、液体CMAS材料が、例えばTBC系を含み得るそれぞれの下にある基材に浸透すること、および/または例えばガスタービンの動作中にそれぞれの下にある1つ以上の基材層の構成成分と反応することを効果的に阻害する。
【0019】
本明細書に提示されるCMAS耐性オーバーレイコーティングの形成、高温挙動、およびそのようなオーバーレイコーティングの適用に関連するマニホールドの利点は、特に従来のTBC系の例によって以下で説明される。しかしながら、以下の説明は、従来の遮熱コーティングがなく、例えばCMAS耐性オーバーレイコーティングでコーティングされたTGO層がある場合にも同様に適用される。
【0020】
一般に、本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティングは、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上に物理蒸着プロセスによって配置してもよい。特に、オーバーレイコーティングは、従来のTBC系の最上層、すなわち典型的にはYSZベースの遮熱コーティングの最上面に配置される。本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングがTGO層の最上面に配置される場合、従来の遮熱コーティングは、通常、特にオーバーレイコーティングの層厚に依存して省略され得る。
【0021】
陰極アーク蒸着(CAE)プロセスを反応性PVDプロセスとして実施し、それによって薄膜堆積または薄膜コーティングをそれぞれ反応性ガスプラズマと組み合わせることは、本明細書に記載の本発明の第1の態様による保護層を形成および堆積させるための最良の手法、すなわち最も汎用的で、簡単で、費用効率が高く、省エネのプロセスであることが判明した。一般に、ターゲット材料、特にその材料組成、ならびにガス流量制御器およびアーク電流によって制御および/または影響を受ける酸素分圧に応じて、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、i.Al-O種もしくはCr-O種もしくはAl-Cr-O種、またはそれらの混合物を含む金属酸化物マトリックスと、ii.金属酸化物マトリックスに埋め込まれ、アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分からなる群から選択される少なくとも1つの酸化されていない金属成分と、を含む。特に、CMAS耐性オーバーレイコーティングの金属酸化物マトリックス内の酸化されていない金属成分の形成は、ターゲット材料組成によって特に影響および/または制御され得、-ある程度まで-ガス流コントローラおよびアーク電流によって制御および/または影響される酸素分圧によって影響および/または制御され得る。したがって、必要に応じて、例えば、アルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属間化合物の形成を促進することができる。堆積後および高温への曝露前に、本明細書に提示されるCMAS耐性オーバーレイコーティングは、酸化されていない金属成分、すなわちアルミニウムおよび/もしくはクロムならびに/またはアルミニウムおよびクロムを含むもしくはそれらからなる構成成分を含み、これはX線回折(XRD)分析によって証明することができる。
【0022】
典型的には1.000℃前後またはそれを超える、より典型的には1.200℃前後またはそれを超える、特に1.300℃前後またはそれを超える高温で加熱すると、CMAS耐性オーバーレイコーティングの金属酸化物マトリックスに、特にオーバーレイコーティングの下部ゾーンに埋め込まれ、アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分からなる群から選択される酸化されていない金属成分の液滴は、上にあるCMAS層と接触しているオーバーレイコーティングの最上面に拡散する。アルミニウムおよびクロムからなる金属成分、例えばAl8Cr5は、それらの元素に分解し、それによってそれらの少なくとも一部は、1つ以上Al-O化合物および/またはCr-O化合物に酸化され得る。クロムおよび/またはアルミニウムの拡散は、以下の結果をもたらす。
【0023】
1.アルミニウムまたは非化学量論的Al-O種の自己制限酸化はそれぞれ、オーバーレイコーティングの下部ゾーン、特に従来の遮熱コーティングの最上部領域とCMAS耐性オーバーレイコーティングの最下部領域との間の界面および/またはその近くにコランダム(Al2O3)層の形成をもたらす。有利には、コランダム層の形成により、特に従来の遮熱コーティングの最上部領域とCMAS耐性オーバーレイコーティングの最下部領域との間の界面および/またはその近くで、体積の増加、したがってオーバーレイコーティングの下部ゾーン内の粒界の高密度化および閉鎖が観察される。
【0024】
2.堆積前および加熱後に存在する保護層の少なくとも部分的に垂直柱状構造の、加熱時の多孔質の垂直柱状構造への変形。有益なことに、これは、特に下地の従来のYSZベースの遮熱コーティングの最上面および/またはその近くで、本明細書に提示されるオーバーレイコーティングの歪み耐性特性および挙動をそれぞれもたらす。多孔質および垂直柱状構造の開発の主な利点は、熱サイクル下で、非常に良好な歪み寛容性、したがってCMAS耐性オーバーレイコーティングの機械的安定性が観察されるだけでなく、すぐ下にある従来の遮熱コーティングへのオーバーレイコーティングの優れた接着も観察されることである。
【0025】
3.オーバーレイコーティングがその融点を超える温度、例えば約1.200~約1.300℃に加熱されたCMAS材料と接触しているとき、反応ゾーン、すなわちオーバーレイコーティングの最上部領域とCMAS材料の最下部領域との間の領域で化学反応が起こる。実際、CMAS耐性オーバーレイコーティングによって放出されたアルミニウム(Al)および/またはクロム(Cr)および/またはアルミニウムクロム(Al-Cr)と、CMAS材料の元素および/または構成成分、特にマグネシウム(Mg)および/または酸化マグネシウム(MgO)との間で化学反応が起こる。これにより、Al-Mg-O種および/またはCr-Mg-O種および/またはAl-Cr-Mg-O種を含む不透過性バリア層が得られる。バリア層は、MgAlO4および/またはMgCrO4を含んでいてもよい。有益なことに、反応ゾーン内に形成された、または反応ゾーンと本質的に同一もしくは同一であるバリア層は、CMAS材料よりも高い溶融温度を示す材料または材料混合物からなる少なくとも1つの層を含む。したがって、バリア層は、CMAS層に含まれる元素および/または構成成分による浸透および/または劣化に対するTBC系の効率的な拡散バリアとして機能する。
【0026】
酸素欠乏のレベルおよび酸化されていない金属成分の量は、それぞれ、CAEプロセス中の酸素流量を調整することによって簡単に決定することができる。結果として、アルミニウムおよび/またはクロムの酸化は、酸素ガスが利用可能である限り酸化が可能であるという意味で「自己制限的」である。次いで、酸素量は、前述のように決定可能である。
【0027】
下部ゾーンおよび上部ゾーンは、定義された界面によって厳密に分離された2つの領域としてではなく、2つの併合領域として形成され得ることを言及する価値がある。
【0028】
さらに、CMAS耐性オーバーレイコーティングから拡散したクロムの一部がCMAS溶融物の元素および/または構成成分との化学反応を受けない場合、クロムは所与の高温で揮発性である1つ以上のCr-O化合物に酸化され得ることに留意されたい。
【0029】
本明細書に開示されるCMAS耐性オーバーレイコーティングの別の主な利点は、従来の遮熱コーティングの代替物として機能する、すなわち、典型的にはYSZに基づく従来の遮熱コーティングの非存在下でTGO層の最上面に直接配置されるのに適していることである。さらに、本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティングは、保護最上層として機能する。これは、約50μmの最小層厚、有利には約50μm~約300μmの範囲の層厚を有する本発明の第一の態様によるオーバーレイコーティングに特に当てはまる。
【0030】
上記を考慮して、本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングは、表面特性、特に表面テクスチャに関係なく、比較的安価で、汎用性があり、耐久性があると言える。
【0031】
本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングの好ましい実施形態によれば、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、希土類金属を含まないことが提供される。
【0032】
これに関連して、「希土類金属を含まない」という用語は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが、最大で10原子百分率、好ましくは10原子百分率未満、より好ましくは9原子百分率未満、最も好ましくは8原子百分率未満の量の希土類金属を含むことを意味する。
【0033】
「原子百分率」は以下、at.%と略記され、これは、原子の総数に対する、オーバーレイコーティング組成物に含まれる全ての希土類金属原子の割合の尺度である。
【0034】
本明細書に提示されるオーバーレイコーティングの更なる実施形態は、金属酸化物マトリックスが、アルミニウムおよび/またはクロムを含有する少なくとも1つの酸化種を含むことを提供する。本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングの別の実施形態では、金属酸化物マトリックスは、Al-O種、Cr-O種およびAl-Cr-O種、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む。有利には、金属酸化物マトリックスは、非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的、酸素欠乏酸化クロム、および非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化クロム(Cr2O3)および酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)2O3、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む。
【0035】
非化学量論的酸素種は、アルミニウムおよび/またはクロムと酸素との間の非化学量論比を示す。言い換えれば、非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムは、酸化アルミニウム(Al2O3)とアルミニウムとの組合せ、すなわちアルミニウムの余剰分を含む。これは、非化学量論的酸素欠乏酸化クロムにも同様に当てはまる。非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロムの場合、酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)2O3とクロムおよび/またはアルミニウムとの組合せが存在する。
【0036】
酸素欠乏のレベルおよび酸化されていない金属成分の量は、それぞれ、CAEプロセス中の酸素流量を調整することによって簡単に決定することができる。
【0037】
本明細書に記載の本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングの更なる実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが下部ゾーンおよび上部ゾーンを含むことを提供する。この場合、下部ゾーンは、非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的酸素欠乏酸化クロムおよび非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む。また、上部ゾーンは、通常、非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的、酸素欠乏酸化クロムおよび非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化物種に加えて、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化クロム(Cr2O3)および酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)2O3、およびそれらの混合物からなる群から選択される化学量論的酸化物種、または前述の非化学量論的酸化物の少なくとも1つと前述の化学量論的酸化物の少なくとも1つとの混合物を含む。
【0038】
本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングの別の実施形態によれば、アルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分は、互いに独立して、合金、金属間化合物または固溶体の形態である。有利には、アルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分は、Al1Cr2もしくはAl8Cr5、またはそれらの組合せもしくは混合物を含むかまたはそれらからなることが提供される。
【0039】
本明細書に提示されるオーバーレイコーティングの別の好ましい実施形態は、酸化されていないアルミニウムおよび/または酸化されていないクロムおよび/または酸化されていないアルミニウムクロムが金属液滴の形態であることを提供する。
【0040】
本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングの更なる実施形態では、オーバーレイコーティングは、1.000℃~1.600℃の範囲、有利には1.100℃~1.500℃の範囲、より有利には1.150℃~1.450℃の範囲の温度で元素アルミニウムおよび/または元素クロムおよび/またはアルミニウムクロムを提供することができる。
【0041】
本明細書に記載の本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングの別の重要な実施形態によれば、CMAS耐性オーバーレイコーティングの垂直柱状構造は、
-部分的にCMAS耐性オーバーレイコーティングの厚さ、有利には厚さの約50%以上、またはCMAS耐性オーバーレイコーティングの本質的に全体もしくは全体の厚さを通って延在し、および/あるいは
-CMAS耐性オーバーレイコーティングの幅にわたって部分的に、またはCMAS耐性オーバーレイコーティングの本質的に全体もしくは全体の幅にわたって延在する。
【0042】
垂直柱状構造がCMAS耐性オーバーレイコーティングの厚さを部分的にのみ通って延在する場合、垂直構造は、少なくとも部分的に、垂直方向に中断され得る。垂直柱状構造がCMAS耐性オーバーレイコーティングの幅にわたって部分的にのみ延在する場合、垂直構造は、少なくとも部分的に、水平方向に中断され得る。
【0043】
本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングの別の実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが、5μm~300μmの範囲、有利には10μm~250μmの範囲、より有利には15μm~150μmの範囲、特に20μm~100μmの範囲の層厚を有することを提供する。
【0044】
本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングの更なる実施形態では、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、従来の、特にYSZベースの遮熱コーティング上の最上層として機能する。次いで、約5μmのオーバーレイコーティングの最小層厚が必要とされる。有利には、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、5μm~49μmの範囲、より有利には5μm~45μmの範囲、好ましくは5μm~40μmの範囲の層厚を有する。例えば、オーバーレイコーティングは、10μm~35μmの範囲または15μm~30μmの範囲の層厚を有する。オーバーレイコーティングはまた、6μmまたは7μmまたは8μmまたは9μmまたは11μmまたは12μmまたは13μmまたは14μmまたは16μmまたは17μmまたは18μmまたは19μmまたは20μmまたは21μmまたは22μmまたは23μmまたは24μmまたは25μmまたは26μmまたは27μmまたは28μmまたは29μmまたは31μmまたは32μmまたは33μmまたは34μmまたは36μmまたは37μmまたは38μmまたは39μmまたは41μmまたは42μmまたは43μmまたは44μmまたは46μmまたは47μmまたは48μmの層厚を有し得る。
【0045】
本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングの別の重要な実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが、i.50μm~300μmの範囲の層厚を有し、ii.遮熱コーティングおよび最上層の両方として機能することを提供する。
【0046】
有益なことに、本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティングのこの実施形態は、オーバーレイコーティングが従来の、典型的にはYSZベースの遮熱コーティングの代替として、更に保護最上層として使用されることを提供する。したがって、オーバーレイコーティングは、従来の遮熱コーティングの非存在下で、すなわち下にある従来の遮熱コーティングなしで適用されるが、通常は下にあるTGO層を用いて適用される。有利には、層厚が50μm~300μmの範囲であっても、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、コスト集約的な希土類金属の代わりに比較的安価なアルミニウムおよび/またはクロムのみが必要とされるため、非常にコスト効率が高い。従来技術に対する別の主な利点は、オーバーレイコーティングが、1.500℃以上、特に1.600℃までの温度が適用された場合でも、熱サイクル下で非常に良好な機械的安定性および通常はTGO層である下にある層への優れた接着性を示すことである。
【0047】
オーバーレイコーティングの別の実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが遮熱コーティングおよび最上層の両方として機能し、50μm~295μmの範囲、より有利には50μm~150μmの範囲、好ましくは50μm~100μmの範囲の層厚を有することを提供する。例えば、オーバーレイコーティングは、55μm~95μmの範囲または60μm~90μmの範囲の層厚を有する。オーバーレイコーティングはまた、65μmまたは70μmまたは75μmまたは80μmまたは85μmまたは105μmまたは110μmまたは115μmまたは120μmまたは125μmまたは130μmまたは135μmまたは140μmまたは145μmまたは155μmまたは160μmまたは165μmまたは170μmまたは175μmまたは180μmまたは185μmまたは190μmまたは200μmまたは205μmまたは210μmまたは215μmまたは220μmまたは225μmまたは230μmまたは235μmまたは240μmまたは245μmまたは250μmまたは255μmまたは260μmまたは265μmまたは270μmまたは275μmまたは280μmまたは285μmまたは290μmの層厚さを有してもよい。
【0048】
本発明の第2の態様によれば、上記課題は、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材によって解決され、基材は、
i.CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる少なくとも1つの基材層を含むかまたはそれからなり、
ii.基材層の少なくとも1つの表面上にCMAS耐性オーバーレイコーティングを有する。
【0049】
特に、オーバーレイコーティングの少なくとも1つは、本発明の第1の態様の文脈において、上述の実施形態の1つ以上によるCMAS耐性オーバーレイコーティングである。2つ以上のオーバーレイコーティングが提供される場合、好ましくはそれらの全てが上述の実施形態のうちの1つ以上によるCMAS耐性オーバーレイコーティングである。それにより、各々のオーバーレイコーティングは、以下に記載される本発明の第3の態様によるプロセスを適用することによって、特にそれぞれ形成および堆積される。
【0050】
オーバーレイコーティングが以下に記載されるプロセスの1つ以上の実施形態によるプロセスによってそれぞれ形成および堆積されるか否かにかかわらず、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、
i.金属酸化物マトリックスであって、
アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分からなる群から選択される少なくとも1つの酸化されていない金属成分が金属酸化物マトリックスに埋め込まれている、金属酸化物マトリックスを含み、
ii.少なくとも部分的に垂直柱状構造を有する。
【0051】
本発明の範囲内で、「CMAS耐性オーバーレイコーティング」および「オーバーレイコーティング」および「保護層」という用語は同義的に使用される。
【0052】
「表面」、「層」および「遮熱コーティング系」という用語は、本発明の第1の態様に関連して上で定義した通りである。
【0053】
「CMAS腐食を受けやすい材料」は、本発明の第1の態様の文脈において、上で定義した通りである。
【0054】
金属酸化物マトリックスは、1つ以上の化学量論的な金属酸化物および/または1つ以上の非化学量論的な、特に酸素欠乏金属酸化物を含み得る。
【0055】
本明細書に記載の基材の少なくとも1つの層の表面に配置されたCMAS耐性オーバーレイコーティングの形成および高温挙動に関する詳細、ならびに特に上述の実施形態の1つ以上による、そのようなオーバーレイコーティングの適用に関連するマニホールドの利点に関する詳細は、本発明の第1の態様の文脈において上で詳述され、本発明の第3の態様に関連して以下で詳述される。
【0056】
驚くべきことに、熱サイクル下で、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面、すなわち基材層の少なくとも一方の表面に配置された、特に本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティングは、1.500℃以上、特に1.600℃までの温度が適用された場合でも、非常に良好な機械的安定性およびすぐ下にある材料表面への優れた接着性を示す。これは、以下に説明するように、CMAS耐性オーバーレイコーティングからオーバーレイコーティングとすぐ上にある溶融CMAS材料との間の界面に拡散した酸化されていない金属成分が関与する不透過性バリア層の形成に特に起因する。
【0057】
オーバーレイコーティングは、高温で、すなわち約1.000℃以上の高温で加熱すると、含まれた酸化されていない金属成分、すなわちアルミニウムおよび/もしくはクロムならびに/または金属酸化物マトリックスに埋め込まれたアルミニウムおよびクロムを含むもしくはそれらからなる金属成分を放出することができる。次いで、簡単に言えば、酸化されていない金属成分は、CMAS耐性オーバーレイコーティングの最上面および液体CMAS層の最下面にそれぞれ拡散し、CMAS材料の元素および/または構成成分、例えばカルシウム、マグネシウム、酸化マグネシウムおよびケイ素と反応する。それにより、CMAS材料よりも高い溶融温度を有する不透過性バリア層が形成され、したがって、液体CMAS材料がそれぞれの下にある基材層、例えばTBC系に浸透すること、および/または例えばガスタービンの動作中にそれぞれの下にある基材層の構成成分と反応することを効果的に阻害する。
【0058】
本発明の第2の態様による基材の重要な実施形態では、CMAS腐食を受けやすい材料は、金属、超合金、セラミック材料およびセラミックマトリックス複合材(CMC)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。代替的にまたは相補的に、基材層の少なくとも1つは、SiCベースのCMCを含むかまたはそれからなるCMCを含むかまたはそれからなる。
【0059】
本明細書に記載の本発明の第2の態様による基材の別の実施形態によれば、基材は、
-ベース層、特に金属または金属合金、例えば超合金と、
-熱成長酸化物(TGO)層上に配置されたYSZベースの遮熱コーティングを含む遮熱コーティング(TBC)系と
を含むかまたはそれからなる。
【0060】
基材の相補的な実施形態では、TBC系は、ベース層とTGO層との間に配置されたボンドコート(BC)層を含む。
【0061】
代替的な実施形態は、基材が、
-ベース層、特に金属または金属合金、例えば超合金と、
-ボンドコート(BC)層およびTGO層であって、前記BC層が前記ベース層と前記TGO層との間に配置される、BC層およびTGO層と
を含むかまたはそれらからなることを提供する。
【0062】
本発明の第2の態様による基材の更なる実施形態は、ベース層が、タービン、特にガスタービン、例えばタービンブレード、燃焼室、特に高圧タービンのタービン入口の一部であることを提供する。
【0063】
本明細書に記載の本発明の第2の態様による基材の更に別の実施形態は、BC層が、NiCoCrAlY、Pt修飾拡散アルミナイドおよびガラスセラミックからなる群から選択される材料を含むかまたはそれからなることを提供する。あるいは、BC層は、NiCoCrAlYおよびPt修飾拡散アルミナイドからなる群から選択される材料を含むものとし得る。
【0064】
本明細書に開示される基材の好ましい実施形態によれば、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、希土類金属を含まないことが提供される。これは、CMAS耐性オーバーレイコーティングが、最大で10原子百分率、好ましくは10原子百分率未満、より好ましくは9原子百分率未満、最も好ましくは8原子百分率未満の量の希土類金属を含むことを意味する。
【0065】
「原子百分率」という用語は上記で定義したとおりである。
本明細書に記載の本発明の第2の態様による基材の別の実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングに含まれる金属酸化物マトリックスが、アルミニウムおよび/またはクロムを含有する少なくとも1つの酸化物種を含むことを提供する。基材の別の実施形態では、金属酸化物マトリックスは、Al-O種、Cr-O種およびAl-Cr-O種、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む。有利には、金属酸化物マトリックスは、非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的、酸素欠乏酸化クロム、および非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化クロム(Cr2O3)および酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)2O3、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む。
【0066】
非化学量論的酸素種は、アルミニウムおよび/またはクロムと酸素との間の非化学量論比を示す。言い換えれば、非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムは、酸化アルミニウム(Al2O3)とアルミニウムとの組合せ、すなわちアルミニウムの余剰分を含む。これは、非化学量論的酸素欠乏酸化クロムにも同様に当てはまる。非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロムの場合、酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)2O3とクロムおよび/またはアルミニウムとの組合せが存在する。
【0067】
酸素欠乏のレベルおよび酸化されていない金属成分の量は、それぞれ、CAEプロセス中の酸素流量を調整することによって簡単に決定することができる。
【0068】
本発明の第2の態様による基材の更に別の実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが下部ゾーンおよび上部ゾーンを含むことを提供する。この場合、下部ゾーンは、非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的酸素欠乏酸化クロムおよび非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む。また、上部ゾーンは、通常、非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的、酸素欠乏酸化クロムおよび非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化物種に加えて、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化クロム(Cr2O3)および酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)2O3、およびそれらの混合物からなる群から選択される化学量論的酸化物種、または前述の非化学量論的酸化物の少なくとも1つと前述の化学量論的酸化物の少なくとも1つとの混合物を含む。
【0069】
下部ゾーンおよび上部ゾーンは、画定された界面によって厳密に分離された2つの領域としてではなく、2つの併合領域として形成されてもよい。
【0070】
本明細書に提示される本発明の第2の態様による基材の更なる実施形態によれば、アルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分は、互いに独立して、合金、金属間化合物または固溶体の形態である。有利な実施形態では、CMAS耐性オーバーレイコーティングの金属酸化物マトリックスに埋め込まれたアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる酸化されていない金属成分が、Al1Cr2もしくはAl8Cr5、またはそれらの組合せもしくは混合物を含むかまたはそれらからなることが提供される。
【0071】
本明細書に開示される基材の別の好ましい実施形態は、酸化されていないアルミニウムおよび/または酸化されていないクロムおよび/または酸化されていないアルミニウムクロムが金属液滴の形態であることを提供する。
【0072】
本発明の第2の態様による基材の別の実施形態では、オーバーレイコーティングは、1.000℃~1.600℃の範囲、有利には1.100℃~1.500℃の範囲、より有利には1.150℃~1.450℃の範囲の温度で元素アルミニウムおよび/または元素クロムおよび/またはアルミニウムクロムを提供することができる。
【0073】
本明細書に記載の本発明の第2の態様による基材の別の重要な実施形態によれば、CMAS耐性オーバーレイコーティングの垂直柱状構造は、
-CMAS耐性オーバーレイコーティングの厚さを部分的に、有利には厚さの約50%以上、またはCMAS耐性オーバーレイコーティングの本質的に全体もしくは全体の厚さを貫通して延在し、および/あるいは
-CMAS耐性オーバーレイコーティングの幅にわたって部分的に、またはCMAS耐性オーバーレイコーティングの本質的に全体もしくは全体の幅にわたって延在する。
【0074】
垂直柱状構造がCMAS耐性オーバーレイコーティングの厚さを部分的にのみ通って延在する場合、垂直構造は、少なくとも部分的に、垂直方向に中断され得る。垂直柱状構造がCMAS耐性オーバーレイコーティングの幅にわたって部分的にのみ延在する場合、垂直構造は、少なくとも部分的に、水平方向に中断され得る。
【0075】
本発明の第2の態様による基材の別の実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが、5μm~300μmの範囲、有利には10μm~250μmの範囲、より有利には15μm~150μmの範囲、特に20μm~100μmの範囲の層厚を有することを提供する。
【0076】
本発明の第2の態様による基材の更なる実施形態では、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、従来の、特にYSZベースの遮熱コーティング上の最上層として機能する。次いで、約5μmのオーバーレイコーティングの最小層厚が必要とされる。有利には、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、5μm~49μmの範囲、より有利には5μm~45μmの範囲、好ましくは5μm~40μmの範囲の層厚を有する。例えば、オーバーレイコーティングは、10μm~35μmの範囲または15μm~30μmの範囲の層厚を有する。オーバーレイコーティングはまた、6μmまたは7μmまたは8μmまたは9μmまたは11μmまたは12μmまたは13μmまたは14μmまたは16μmまたは17μmまたは18μmまたは19μmまたは20μmまたは21μmまたは22μmまたは23μmまたは24μmまたは25μmまたは26μmまたは27μmまたは28μmまたは29μmまたは31μmまたは32μmまたは33μmまたは34μmまたは36μmまたは37μmまたは38μmまたは39μmまたは41μmまたは42μmまたは43μmまたは44μmまたは46μmまたは47μmまたは48μmの層厚を有し得る。
【0077】
本発明の第2の態様による基材の別の重要な実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが、i.50μm~300μmの範囲の層厚を有し、ii.遮熱コーティングおよび最上層の両方として機能することを提供する。
【0078】
有益なことに、本発明の第2の態様による基材のこの実施形態は、オーバーレイコーティングが従来の、典型的にはYSZベースの遮熱コーティングの代替として、更に保護最上層として使用されることを提供する。したがって、オーバーレイコーティングは、従来の遮熱コーティングがない状態で、すなわち、基礎となる従来の遮熱コーティングがない状態で適用される。有利には、層厚が50μm~300μmの範囲であっても、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、コスト集約的な希土類金属の代わりに比較的安価なアルミニウムおよび/またはクロムのみが必要とされるため、非常にコスト効率が高い。従来技術に対する別の主な利点は、オーバーレイコーティングが、1.500℃以上、特に1.600℃までの温度が適用された場合でも、熱サイクル下で非常に良好な機械的安定性および典型的にはTGO層である下にある層への優れた接着性を示すことである。
【0079】
本発明の第2の態様による基材の別の実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが遮熱コーティングおよび最上層の両方として機能し、50μm~295μmの範囲、より有利には50μm~150μmの範囲、好ましくは50μm~100μmの範囲の層厚を有することを提供する。例えば、オーバーレイコーティングは、55μm~95μmの範囲または60μm~90μmの範囲の層厚を有する。オーバーレイコーティングはまた、65μmまたは70μmまたは75μmまたは80μmまたは85μmまたは105μmまたは110μmまたは115μmまたは120μmまたは125μmまたは130μmまたは135μmまたは140μmまたは145μmまたは155μmまたは160μmまたは165μmまたは170μmまたは175μmまたは180μmまたは185μmまたは190μmまたは200μmまたは205μmまたは210μmまたは215μmまたは220μmまたは225μmまたは230μmまたは235μmまたは240μmまたは245μmまたは250μmまたは255μmまたは260μmまたは265μmまたは270μmまたは275μmまたは280μmまたは285μmまたは290μmの層厚さを有してもよい。
【0080】
全体として、本明細書に開示される基材は、表面、特にその最上面にCMAS耐性オーバーレイコーティングを有するので、特に耐久性があると言える。高温でのオーバーレイコーティングの挙動は、TBC系を含むそれぞれの下にある基材を、例えば液体CMAS材料による浸透および/または劣化から効率的に保護する不透過性バリア層の形成をもたらす。したがって、有利には上述の実施形態の1つ以上によるCMAS耐性オーバーレイコーティングの適用は、経済的および生態学的観点の両方から特に有益である。
【0081】
本発明の第3の態様によれば、上記課題は、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上にCMAS耐性オーバーレイコーティングを形成するための陰極アーク蒸着(CAE)プロセスによって解決され、オーバーレイコーティングは、少なくとも1つのCMAS耐性層を含む。本プロセスは、
A.陰極材料として使用するためのターゲットを提供する工程であって、ターゲット材料がアルミニウムおよび/またはクロムを含むかまたはそれらからなる、ターゲットを提供する工程、
B.酸素を含むかまたは酸素からなるプロセスガスを提供する工程、
C.工程Aで提供されたターゲット材料からアルミニウムおよび/またはクロムを蒸発させる工程、
D.工程Cで蒸発させた蒸発アルミニウムおよび/またはクロムを工程Bで供給されたプロセスガスと反応させる工程、ならびに
E.CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上、すなわち少なくとも1つの基材層の表面上に、特にCMAS耐性オーバーレイコーティングが所望の層厚を有するまで、CMAS耐性オーバーレイコーティングとして工程Dの反応生成物を堆積させる工程
を含む。
【0082】
「CMAS耐性オーバーレイコーティング」および「オーバーレイコーティング」および「保護層」という用語は、同義的に使用される。
【0083】
「表面」、「CMAS腐食を受けやすい材料」および「CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材」という用語は、上に定義される通りである。
【0084】
本発明の範囲内で、「層」という用語は、「フィルム」という用語と同義であり、層厚またはフィルムの厚さに関する情報を提供しない。さらに、層は必ずしも均一な厚さを有するとは限らない。しかしながら、層厚が指定される場合、この層厚は、それぞれの層の少なくとも一部に、すなわちその最大厚みとして存在するものとする。
【0085】
本発明の第3の態様によるプロセスは、CMAS耐性オーバーレイコーティング、特に本発明の第1の態様による1つ以上の実施形態によるオーバーレイコーティングの形成および堆積が、それぞれCAE法によって行われることを提供する。後者は、それぞれ薄膜堆積または薄膜コーティングをアーク蒸発装置内の反応性ガスプラズマと組み合わせる反応性物理蒸着(PVD)プロセスとして実行される。後者は、通常、アーク蒸発中に陰極として動作可能なターゲット材料を含む。さらに、アーク蒸発装置はまた、アーク蒸発中に陽極として動作可能な少なくとも1つの電極を備えてもよい。アーク蒸発装置は、コーティング装置の真空チャンバ内に配置される。CAEプロセスを実行するためには、通常、大電流放電を点火し、プラズマを確立し、ターゲットの表面を横切って移動するスポットを有するアークを形成し、それによってターゲット材料から、より正確にはターゲット材料の表面から電子を引き裂く手段が使用される。スポットで生成された熱により、ターゲット材料はそれぞれ蒸発および霧化され、この目的のために設けられた表面上に堆積される。したがって、アーク蒸発装置は、コーティング源またはプラズマ源とも呼ばれる。「蒸発装置」、「コーティング源」、および「プラズマ源」という用語は、同義語として一般的に使用される。
【0086】
本発明の第3の態様によるプロセスを適用する場合、本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティングに含まれる金属酸化物マトリックスの形成は、反応性PVDプロセスとしてCAEを実行することによって達成される。このプロセスの工程Cでは、金属成分、すなわちアルミニウムおよび/またはクロムは、アルミニウムもしくはクロムからなる単一の元素ターゲット材料から、または工程Aで提供されたアルミニウムおよびクロムを含むもしくはそれらからなる複数の元素ターゲット材料から蒸発される。工程Dは、蒸発したアルミニウムおよび/またはクロムが、工程Dにおいてコーティングチャンバに導入される酸素を含むまたは酸素からなるプロセスガスと反応することを提供する。その結果、工程Eにおいて、工程Dの反応生成物であるセラミック酸化物材料は、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上、特に基材の最上面上にCMAS耐性オーバーレイコーティングとして堆積される。
【0087】
工程Bおよび工程Cは、別個の工程として実施される必要はなく、代わりに工程Dに含まれてもよいことに留意されたい。しかしながら、工程Bおよび工程Cが2工程で実行される場合、記載された順序は必須ではない。さらに、本明細書に記載のCAEプロセスのまさにその性質から、所望の層厚を有するオーバーレイコーティングが、基材のそれぞれの表面上に、すなわち、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材層の少なくとも1つの表面上に形成されるまで、工程B、工程C、工程Dおよび工程Eが繰り返されるべきであることは明らかである。特に工程Bおよび工程Cを含む工程Dの反応生成物は、工程Eに従って堆積させることがされ得、同時に工程Dによる反応を再び行ってもよいことが明らかである。
【0088】
要するに、1.000℃~1.600℃の範囲、有利には1.100℃~1.500℃の範囲、より有利には1.150℃~1.550℃の範囲の温度で元素アルミニウムおよび/または元素クロムおよび/またはアルミニウムクロムを提供することができるCMAS耐性オーバーレイコーティングが得られることが、本発明の第三の態様によるプロセスの主な利点である。
【0089】
一般に、ターゲット材料、特にその材料組成、ならびにガス流量制御器およびアーク電流によって制御および/または影響を受ける酸素分圧に応じて、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、i.特に、アルミニウムおよび/またはクロムを含む少なくとも1つの酸化種、より詳細には、Al-O種および/またはCr-O種および/またはAl-Cr-O種からなる群から選択される酸化種を含む金属酸化物マトリックスと、ii.金属酸化物マトリックスに埋め込まれ、アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分からなる群から選択される少なくとも1つの酸化されていない金属成分と、を含む。
【0090】
特に、金属酸化物マトリックスは、非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的、酸素欠乏酸化クロム、および非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化クロム(Cr2O3)および酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)2O3、またはそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む。
【0091】
それにより、非化学量論的酸素種は、アルミニウムおよび/またはクロムと酸素との間の非化学量論比を示す。言い換えれば、非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムは、酸化アルミニウムとアルミニウムとの組合せ、すなわちアルミニウムの余剰分を含む。これは、非化学量論的酸素欠乏酸化クロムにも同様に当てはまる。非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロムの場合、酸化アルミニウムクロムとクロムおよび/またはアルミニウムとの組合せが存在する。
【0092】
工程Eで堆積されたCMAS耐性層内では、アルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる酸化されていない金属成分は、互いに独立して、合金、金属間化合物または固溶体の形態である。特に、酸化されていないアルミニウム、酸化されていないクロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる酸化されていない金属成分は、金属液滴の形態である。有利には、アルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる酸化されていない金属成分は、Al1Cr2もしくはAl8Cr5、またはそれらの組合せもしくは混合物を含むかまたはそれらからなる。
【0093】
有利には、工程Eで堆積されるCMAS耐性オーバーレイコーティングは、通常、下部ゾーンおよび上部ゾーンを含む。次いで、下部ゾーンは、非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的酸素欠乏酸化クロムおよび非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む。また、上部ゾーンは、通常、非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的、酸素欠乏酸化クロムおよび非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化物種に加えて、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化クロム(Cr2O3)および酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)2O3の群から選択される化学量論的酸化物種、または前述の非化学量論的酸化物の少なくとも1つと前述の化学量論的酸化物の少なくとも1つとの混合物を含む。
【0094】
上述の金属間化合物または固溶体は、Al-Cr相図に従って得られ、その組成はそれぞれのターゲット材料に依存する。例えば、ターゲット材料Al70Cr30(70at.%Alおよび30at.%Cr)の場合、Al8Cr5の金属液滴をCMAS耐性オーバーレイコーティングで検出することができ、これはAl-Cr二元状態図によれば、約1.300℃で液相への転移を示す。代替的にまたは補足として、特にAl50Cr50(50at.%Alおよび50at.%Cr)のターゲット組成が選択される場合、より高いクロム含有量、したがってより高い液相への転移温度、例えばAl1Cr2を有する金属液滴を、その堆積後にCMAS耐性オーバーレイコーティング中で、すなわちXRD分析によって検出することができる。約1.300℃の高温で、上述の組成のうちの1つを有するアルミニウムクロム金属成分は、例えば、その元素に分解し始め、それによってそれらの少なくとも一部は、酸化されて1つ以上のAl-O化合物および/またはCr-O化合物になり得る。これは、純粋なアルミニウム液滴またはクロムよりも実質的に大きな原子百分率のアルミニウムを含有する金属液滴と比較して大きな違いである。後者は、前述の温度でより高い熱安定性を示す。アルミニウムクロム構成成分の分解は、CMAS耐性オーバーレイコーティングの最上面に向かうクロムの拡散に伴う。クロムの一部が、CMAS耐性オーバーレイコーティングと接触しているCMAS材料に含まれる構成成分および/または元素と反応しない場合、クロムは、高温で揮発性である1つ以上のCr-O化合物に酸化され得る。
【0095】
本発明の第3の態様によるプロセスの一実施形態は、ターゲット材料がアルミニウムおよび/またはクロムを含むかまたはそれらからなり、クロムが少なくとも15原子百分率の量、有利には少なくとも20原子百分率の量、特に少なくとも25原子百分率の量で含まれることを提供する。
【0096】
本発明の第3の態様によるプロセスの更なる実施形態は、ターゲット材料が、
i.アルミニウムおよびクロムから本質的になるか、または
ii.完全にアルミニウムおよびクロムからなる
ことを提供する。
【0097】
「原子百分率」は、at.%と略記され、例えばターゲット材料が完全にアルミニウムおよびクロムからなる場合、原子の総数、すなわちアルミニウムおよびクロムに対する1種類の原子、ここではクロムの割合の尺度である。ターゲット材料がアルミニウムおよびクロムから本質的になる場合、これらの2つの元素は少なくとも97at.%の量、好ましくは少なくとも98at.%の量%、より好ましくは少なくとも99at.%の量でターゲット材料に含まれる。
【0098】
好ましくは、ターゲット材料は、ターゲット材料中に微量の希土類金属のみが存在し得るという意味で、希土類金属を含まない。「微量」という用語は、関連する分析方法、例えば誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)の閾値を下回る量を意味する。
【0099】
本発明の第3の態様によるプロセスの更なる実施形態では、酸素分圧は0.001Pa~10Paの範囲内である。
【0100】
有利には、本発明の第3の態様によるCAEプロセス中の酸素流量を調整するだけで、工程Eで堆積されるCMAS耐性オーバーレイコーティングに含まれる、非化学量論的酸素欠乏金属酸化物、特に非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムおよび/または非化学量論的酸素欠乏酸化クロムおよび/または非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロムの酸素欠乏レベル、ならびに酸化されていない金属成分の量をそれぞれ決定することができる。
【0101】
本発明の第3の態様によるプロセスの好ましい実施形態では、本発明の第1の態様の1つ以上の実施形態によるCMAS耐性オーバーレイコーティングが、工程Eにおいて、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面に堆積される。それにより、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、好ましくは、本発明の第2の態様による1つ以上の実施形態による基材上に堆積される。
【0102】
特に、本明細書に記載のプロセスの工程Eで堆積されるCMAS耐性オーバーレイコーティングは、
i.少なくとも1つのCMAS耐性層を含み、
ii.金属酸化物マトリックスであって、
アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分からなる群から選択される少なくとも1つの酸化されていない金属成分が金属酸化物マトリックスに埋め込まれている、金属酸化マトリックスを含み、
iii.少なくとも部分的に垂直柱状構造を有する。
【0103】
有利には、工程Eで堆積されるCMAS耐性オーバーレイコーティングの垂直柱状構造は、通常、
-部分的にCMAS耐性オーバーレイコーティングの厚さ、有利には厚さの約50%以上、またはCMAS耐性オーバーレイコーティングの本質的に全体もしくは全体の厚さを通って延在する、および/あるいは
-CMAS耐性オーバーレイコーティングの幅にわたって部分的に、またはCMAS耐性オーバーレイコーティングの本質的に全体もしくは全体の幅にわたって延在する。
【0104】
垂直柱状構造がCMAS耐性オーバーレイコーティングの厚さを部分的にのみ通って延在する場合、垂直構造は、少なくとも部分的に、垂直方向に中断され得る。垂直柱状構造がCMAS耐性オーバーレイコーティングの幅にわたって部分的にのみ延在する場合、垂直構造は、少なくとも部分的に、水平方向に中断され得る。
【0105】
本発明の第3の態様によるプロセスの別の実施形態では、工程Eは、CMAS耐性オーバーレイコーティングが5μm~300μmの範囲、有利には10μm~250μmの範囲、より有利には15μm~150μmの範囲、特に20μm~100μmの範囲の層厚を有するまで行われる。
【0106】
本発明の第3の態様によるプロセスの更なる実施形態では、工程Eにおいて、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、そのような遮熱コーティング上の最上層として機能するために、特に従来の、特にYSZベースの遮熱コーティングの表面に堆積される。特に、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、遮熱コーティングの最上面に堆積される。前述の場合、工程Eは、CMAS耐性オーバーレイコーティングが約5μmの層厚を有するまで行われる。有利には、工程Eは、CMAS耐性オーバーレイコーティングが5μm~49μmの範囲、より有利には5μm~45μmの範囲、好ましくは5μm~40μmの範囲の層厚を有するまで行われる。例えば、工程Eは、オーバーレイコーティングが10μm~35μmの範囲または15μm~30μmの範囲の層厚を有するまで行われる。オーバーレイコーティングはまた、6μmまたは7μmまたは8μmまたは9μmまたは11μmまたは12μmまたは13μmまたは14μmまたは16μmまたは17μmまたは18μmまたは19μmまたは20μmまたは21μmまたは22μmまたは23μmまたは24μmまたは25μmまたは26μmまたは27μmまたは28μmまたは29μmまたは31μmまたは32μmまたは33μmまたは34μmまたは36μmまたは37μmまたは38μmまたは39μmまたは41μmまたは42μmまたは43μmまたは44μmまたは46μmまたは47μmまたは48μmの層厚を有し得る。
【0107】
本発明の第3の態様によるプロセスの別の代替的または相補的な実施形態は、工程Eにおいて、CMAS耐性オーバーレイコーティングが熱成長酸化物層の表面に堆積され、50μm~300μmの範囲の層厚を有することを提供する。特に、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、TGO層の最上面に堆積される。前述の場合、工程Eにおいて、CMAS耐性オーバーレイコーティングは、遮熱コーティングおよび保護最上層の両方として機能する。有益なことに、オーバーレイコーティングは、従来の、典型的にはYSZベースの遮熱コーティングの代替として、更に保護最上層として使用される。したがって、オーバーレイコーティングは、従来の遮熱コーティングがない状態で、すなわち、基礎となる従来の遮熱コーティングがない状態で適用される。有利には、層厚が50μm~300μmの範囲であっても、本明細書に記載の直接的で、比較的費用効率が高く、省エネプロセスの1つ以上の実施形態によって得られるCMAS耐性オーバーレイコーティングは、コストがかかる希土類金属の代わりに比較的安価なアルミニウムおよび/またはクロムのみが必要とされるため、非常に費用効率が高い。従来技術に対する別の主な利点は、オーバーレイコーティングが、1.500℃以上、特に1.600℃までの温度が適用された場合でも、熱サイクル下で非常に良好な機械的安定性および通常はTGO層である下にある層への優れた接着性を示すことである。
【0108】
プロセスの別の実施形態は、CMAS耐性オーバーレイコーティングが50μm~250μmの範囲、より有利には50μm~150μmの範囲、好ましくは50μm~100μmの範囲の層厚を有するまで工程Eが行われることを提供する。例えば、工程Eは、オーバーレイコーティングが55μm~95μmの範囲または60μm~90μmの範囲の層厚を有するまで行われる。オーバーレイコーティングはまた、65μmまたは70μmまたは75μmまたは80μmまたは85μmまたは105μmまたは110μmまたは115μmまたは120μmまたは125μmまたは130μmまたは135μmまたは140μmまたは145μmまたは155μmまたは160μmまたは165μmまたは170μmまたは175μmまたは180μmまたは185μmまたは190μmまたは200μmまたは205μmまたは210μmまたは215μmまたは220μmまたは225μmまたは230μmまたは235μmまたは240μmまたは245μmまたは260μmまたは265μmまたは270μmまたは275μmまたは280μmまたは285μmまたは290μmまたは295μmの層厚さを有してもよい。
【0109】
本発明の第3の態様によるプロセスの別の実施形態によれば、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材は、少なくとも1つの基材層を含むかまたはそれからなる。それにより、基材層の少なくとも1つは、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる。典型的には、CMAS腐食を受けやすい材料は、金属、超合金、セラミック材料およびセラミックマトリックス複合材(CMC)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。代替的にまたは相補的に、基材層の少なくとも1つは、SiCベースのCMCを含むかまたはそれからなるCMCを含むかまたはそれからなる。
【0110】
本発明の第3の態様によるプロセスの更なる実施形態は、基材が、
-ベース層と、
-熱成長酸化物(TGO)層上に配置されたYSZベースの遮熱コーティングを含む遮熱コーティング(TBC)系と
を含むかまたはそれからなることを提供する。
【0111】
プロセスの相補的な実施形態では、基材に含まれるTBC系は、ベース層とTGO層との間に配置されたボンドコート(BC)層を含む。
【0112】
本発明の第3の態様によるプロセスの別の実施形態は、基材が、
-ベース層と、
-ボンドコート(BC)層およびTGO層であって、前記BC層が前記ベース層と前記TGO層との間に配置される、BC層およびTGO層と
を含むかまたはそれらからなることを提供する。
【0113】
本発明の第3の態様によるプロセスの更なる実施形態は、基材のベース層が、タービン、特にガスタービン、例えばタービンブレード、燃焼室、特に高圧タービンのタービン入口の一部であることを提供する。
【0114】
本明細書に記載の本発明の第3の態様によるプロセスの更に別の実施形態は、BC層が、NiCoCrAlY、Pt修飾拡散アルミナイドおよびガラスセラミックからなる群から選択される材料を含むかまたはそれからなることを提供する。あるいは、BC層は、NiCoCrAlYおよびPt修飾拡散アルミナイドからなる群から選択される材料を含むものとし得る。
【0115】
要約すると、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上にCMAS耐性オーバーレイコーティング、特に本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングを形成するための本発明の第3の態様によるプロセスは、表面特性、特に表面テクスチャに関して汎用性があり、簡単で、比較的費用効率が高く、省エネルギーであり、工業用途に容易に拡張可能である。
【0116】
ここで、本発明を、例示的であると考えられる以下の図および実施例によってより詳細に説明する。実施例は、本発明も特許請求の範囲も限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【
図1】基材の概略図であって、a)TBC系およびオーバーレイコーティングと、b)TBC系およびオーバーレイコーティングがCMAS層と接触していることと、c)TBC系およびオーバーレイコーティングが、その融点を超える温度に曝されたCMAS層と接触していることと、d)最上面にオーバーレイコーティングを有する最上面基材層としてのTGO層とを含む、基材の概略図。
【
図2】約1.300℃の温度で数時間CMAS材料にオーバーレイコーティングを曝露し、室温に冷却した後に得られた、本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティングを有する従来の遮熱コーティングの上部領域の断面走査型電子顕微鏡(X-SEM)画像である。
【
図3】
図2による従来の遮熱コーティングの最上部領域およびオーバーレイコーティングの最下部領域を示す、
図2の拡大断面図である。
【
図4】オーバーレイコーティングの上部領域と、オーバーレイコーティングの最上部領域とCMAS材料の最下部領域との間に位置する反応ゾーンとを示す、
図2の拡大断面図である。
【
図5】エネルギー分散型X線分光法(EDS)ライン走査分析によって検査されたゾーンがマークされている、
図4の拡大断面図である。
【
図6】
図5によるゾーン内で行われたライン走査分析の結果としてのEDSスペクトルのオーバーレイ。
【
図7】EDSライン走査分析によって検査されたゾーンがマークされている、
図5の画像。
【
図8】
図7によるゾーン内で行われたライン走査分析の結果としてのEDSスペクトルのオーバーレイ。
【発明を実施するための形態】
【0118】
図1の左側は、ベース層100、特に金属または金属合金、およびTBC系20からなる多層基材10aの概略図を示す。TBC系は、BC層210、TGO層220、通常はYSZ材料からなる従来の遮熱コーティング230からなり、CMAS耐性オーバーレイコーティング240が最上層として機能し、例えば、本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティングが最上層として機能する。例えば、本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティング240は、
図1aに示すように最上層として機能する場合、約5μm~約49μmの範囲の層厚を有する。しかしながら、本明細書に提示される発明によるCMAS耐性オーバーレイコーティング240のその層厚Tに応じて、遮熱コーティングおよび最上層(
図1d)の両方として機能し得る。特に、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の層厚Tが約50μm~約300μmの範囲にある場合、それは従来の遮熱コーティングの代替物として、および保護最上層としての両方の役割を果たすことができる。希土類金属を省いてもよいため、これは特に有益である。
【0119】
最上面11aを有し、4つの基材層100、210、220、230、すなわち最上面101を有するベース層100と、最上面21を有するTBC系20とからなる基材10aは、CMAS腐食を受けやすいいくつかの材料を含むかまたはそれらからなる最も顕著な多層基材である。
図1aに示すTBC系20は、3つの基材層210、220、230、すなわち最上面211を有するBC層210、最上面221を有するTGO層220、および最上面231を有する遮熱コーティング230からなる。これにより、最上面11a、21および231は同一となる。
図1aによれば、CMAS耐性オーバーレイコーティング240は、基材10a上、すなわち従来の遮熱コーティング230の最上面231上の最上層として機能する。しかしながら、本発明の第一の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティング240は、他の種類の多層基材、またはCMAS腐食を受けやすく、高温に曝され、したがってCMAS腐食に対する保護を必要とする1つ以上の材料を含むかまたはそれからなる単層基材にも使用され得る。CMAS腐食を受けやすい材料の例は、金属、超合金、特にニッケルベースの合金、コバルトベースの合金およびチタンベースの合金、セラミック材料、セラミックマトリックス複合材(CMC)、例えばSiCベースのCMC、およびそれらの組合せである。
【0120】
図1dには、最上面11bを有する別の多層基材10bの一例が示されている。基材10bは、3つの基材層100、210、220、すなわち最上面101を有するベース層100、最上面211を有するBC層210、および最上面221を有するTGO層220のみからなる。これにより、最上面11bおよび221は同一となる。
図1aに示すような従来の遮熱コーティング230は存在しない。代わりに、
図1aに示すTBC系240に含まれるものと比較して、より大きな層厚Tを有するCMAS耐性オーバーレイコーティング240が提供される。したがって、
図1dの場合、オーバーレイコーティング240は、遮熱コーティングおよび保護層の両方として機能する。言い換えれば、オーバーレイコーティング240は、従来の、典型的にはYSZベースの遮熱コーティングの代替として、更に保護最上層として使用される。有利には、
図1dに示すようなオーバーレイコーティング240の層厚Tが好ましくは約50μm~約300μmの範囲であっても、CMAS耐性オーバーレイコーティング240は、コスト集約的な希土類金属の代わりに比較的安価なアルミニウムおよび/またはクロムのみが必要とされるため、非常にコスト効率が高い。
【0121】
本発明の第一の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティング240は、希土類金属を含まない金属酸化物マトリックスを含む。アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分からなる群から選択される少なくとも1つの酸化されていない金属成分が、金属酸化物マトリックスに埋め込まれる。CMAS耐性オーバーレイコーティング240の金属酸化物は、Al-O種、Cr-O種およびAl-Cr-O種、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含み得る。特に、その形成直後に、CMAS耐性オーバーレイコーティング240は、下部ゾーンおよび上部ゾーンを含み、下部ゾーンは、通常、非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウム、非化学量論的、酸素欠乏酸化クロムおよび非化学量論的、酸素欠乏酸化アルミニウムクロム、またはそれらの混合物からなる群から選択される酸化種を含む。また、上部ゾーンは、通常、非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムおよび/または非化学量論的酸素欠乏酸化クロムおよび/または非化学量論的酸素欠乏酸化アルミニウムクロムに加えて、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化クロム(Cr
2O
3)および酸化アルミニウムクロム(Al,Cr)
2O
3の群から選択される少なくとも1つの酸化種、または前述の非化学量論的酸化物の少なくとも1つと前述の化学量論的酸化物の少なくとも1つとの混合物を含む。さらに、CMAS耐性オーバーレイコーティング240は、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の厚さTを部分的に、有利には厚さTの約50%以上を通って、またはCMAS耐性オーバーレイコーティング240の本質的に全体もしくは全体の厚さTを通って延在する垂直柱状構造を有する。代替的または相補的な柱状構造として、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の幅Wにわたって部分的に、またはCMAS耐性オーバーレイコーティング240の本質的に全体的または全体的な幅Wにわたって延在する。さらに、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の層厚Tは、5μm以上300μm以下であってもよい。有利には、それは10μm~250μmの範囲、より有利には15μm~150μmの範囲、特に20μm~100μmの範囲である。その層厚とは無関係に、オーバーレイコーティング240は、1.000℃~1.600℃の範囲、有利には1.100℃~1.500℃の範囲、より有利には1.150℃~1.450℃の範囲の温度で元素アルミニウムおよび/または元素クロムおよび/またはアルミニウムクロムを提供することができる。約50μm~約300μmの範囲の層厚Tを有する本発明の第一の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティング240は、遮熱コーティングおよび最上層、有利には1.600℃までの両方として機能することができる。本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティング240が、例えば熱サイクル下で、1.500℃以上、特に1.600℃までの温度が適用された場合でも、非常に良好な機械的安定性およびそれぞれの下にある層、すなわち従来の遮熱コーティング230(
図1a)またはTGO層220(
図1d)への優れた接着性を示すことは、従来技術を超える大きな利点である。
【0122】
CMAS耐性オーバーレイコーティング240の金属酸化物マトリックス内の酸化されていない金属成分の形成は、ターゲット材料組成によって特に影響および/または制御され得、-ある程度まで-ガス流コントローラおよびアーク電流によって制御および/または影響される酸素分圧によって影響および/または制御され得る。したがって、必要に応じて、アルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属間化合物の形成を促進することができる。堆積後および高温への曝露前に、本明細書に提示されるCMAS耐性オーバーレイコーティング240は、酸化されていない金属成分、すなわちアルミニウムおよび/もしくはクロムならびに/またはアルミニウムおよびクロムを含むもしくはそれらからなる構成成分を含み、これはX線回折(XRD)によって証明することができる。
【0123】
図1bおよび
図1cでは、CMAS耐性オーバーレイコーティング240は、特に空中浮遊ダストおよび/または砂を含むCMAS層30と接触している。
図1a、
図1bおよび
図1dの保護層240は、それぞれ高温、すなわち摂氏数百度以上の温度にさらされていないが、
図1cのCMAS耐性オーバーレイコーティング240は、CMAS層30の融点を超える温度、典型的には約1.200℃前後またはそれを超える温度にさらされている。
【0124】
図1a、
図1bおよび
図1cのTBC系20の最上面21上に配置され、
図1dのTGO層220の最上面221上にそれぞれ配置されたオーバーレイコーティング240が、本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティング240であると仮定すると、典型的には1.000℃前後またはそれを超える、より典型的には1.200℃前後またはそれを超える、特に1.300℃前後またはそれを超える高温で加熱すると、以下が起こる:特にオーバーレイコーティング240の下部ゾーンにおいて、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の金属酸化物マトリックス中に埋め込まれ、アルミニウム、クロム、およびアルミニウムおよびクロムを含むまたはアルミニウムおよびクロムからなる金属成分からなる群から選択される酸化されていない金属成分の液滴が、オーバーレイコーティング240の最上面241に拡散する。アルミニウムおよびクロムからなる酸化されていない金属成分、例えばAl
8Cr
5は、それらの元素に分解し、それによってそれらの少なくとも一部は、1つ以上Al-O化合物および/またはCr-O化合物に酸化され得る。クロムおよび/またはアルミニウムの拡散は、以下の結果をもたらす。
【0125】
1.アルミニウムまたは非化学量論的Al-O種のそれぞれの自己制限酸化は、オーバーレイコーティング240の下部ゾーン、特に、それぞれ従来の遮熱コーティング230の最上部領域(
図1a)とTGO層220の最上部領域(
図1d)との間の界面および/またはその付近、ならびにCMAS耐性オーバーレイコーティング240の最下部領域にコランダム(Al
2O
3)層の形成をもたらす。
【0126】
コランダム層の形成の利点として、特に、それぞれ、従来の遮熱コーティング230の最上部領域とTGO層220の最上部領域との間の界面、ならびにCMAS耐性オーバーレイコーティング240の最下部領域においておよび/またはその付近において、体積の増加、したがってオーバーレイコーティング240の下部ゾーン内の粒界の緻密化および閉鎖が観察される。
【0127】
2.オーバーレイコーティング240における垂直柱状構造の多孔質垂直柱状構造への変更。
【0128】
これは、それぞれ、特に下にある従来の遮熱コーティング230の最上面231および下にあるTGO層220の最上面221および/またはその近くで、オーバーレイコーティング240の歪み耐性特性および挙動をそれぞれもたらす。
【0129】
有利には、多孔質および垂直柱状構造により、熱サイクル下で、非常に良好な歪み寛容性、したがってCMAS耐性オーバーレイコーティング240の機械的安定性が得られるだけでなく、オーバーレイコーティング240のすぐ下にある従来の遮熱コーティング230およびすぐ下にあるTGO層220への優れた接着もそれぞれ達成される。
【0130】
3.オーバーレイコーティング240が、その融点より高い温度、例えば約1.200~約1.300℃に加熱されたCMAS層30の1つ以上の材料と接触している場合、反応ゾーン40、すなわちオーバーレイコーティング240の最上部領域とCMAS層30の最下部領域との間の領域で化学反応が起こる。より正確には、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の最上面241に向かって拡散したアルミニウム(Al)および/またはクロム(Cr)および/またはアルミニウムクロム(Al-Cr)と、CMAS層30の元素および/または構成成分、特にマグネシウム(Mg)および/または酸化マグネシウム(MgO)との間で化学反応が起こる。これにより、Al-Mg-O種および/またはCr-Mg-O種および/またはAl-Cr-Mg-O種を含むバリア層が得られる。バリア層は、MgAlO4および/またはMgCrO4を含んでいてもよい。
【0131】
有益なことに、反応ゾーン40内に形成された、または反応ゾーン40と本質的に同一もしくは同一であるバリア層は、CMAS層30の材料よりも高い溶融温度を示す材料または材料混合物からなる少なくとも1つの層を含む。したがって、バリア層は、CMAS層30に含まれる元素および/または構成成分による浸透および/または劣化に対して、それぞれ基材10aまたは10bおよび含まれる層(基材10a:210、220、230;基材10b:210、220)の拡散バリアとして機能する。
【0132】
クロムの一部が、CMAS耐性オーバーレイコーティング240と接触しているCMAS層30の元素および/または構成成分と化学反応を起こさない場合、クロムは、所与の高温で揮発性である1つ以上のCr-O化合物に酸化され得る。
【0133】
上記から、高温で元素のAlおよび/またはCrを含まないようにすることができる他のオーバーレイコーティングも、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材を保護するために適用できることが明らかになる。
【0134】
本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティング240の上記の挙動および利点を、例によって以下に提示する。実施例の文脈で言及される層は、必ずしも均一な厚さを有するとは限らないことに留意されたい。しかしながら、層厚が指定される場合、この層厚は、少なくとも層の部分に、すなわち最大厚みとして存在する。
【0135】
図2~
図8は、本発明の第3の態様による陰極アーク蒸着(CAE)プロセスによってそれぞれ形成および堆積された、本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティング240の一例を示し、
図1aに示すように、多層基材上の最上層である。後者は、ベース層100および従来のTBC系20からなり、TBC系20は、BC層210、TGO層220および従来の遮熱コーティング230からなる。次の工程では、CMAS耐性オーバーレイコーティング240をCMAS層30に約1.300℃の温度で数時間曝露した。溶融CMAS材料30を室温に冷却した後、TBC系20の上部領域、すなわち従来の遮熱コーティング230の最上部領域、ならびにオーバーレイコーティング240の最上部領域とCMAS層30の最下部領域との間に位置する反応ゾーン40を調査した。断面走査型電子顕微鏡法(X-SEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDS)ラインスキャン分析等の標準的な方法を適用した。結果を
図2~
図8に示す。従来の遮熱コーティング230が、7重量%イットリア安定化ジルコニア(7YSZ)または8重量%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)からなるかどうかに違いはないことに留意されたい。
【0136】
図2の下半分は、従来の遮熱コーティング230の上部領域のX-SEM画像を示す。従来の遮熱コーティング230の最上面231は、約20μmの層厚Tを有する本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティング240でコーティングされていることが認識され得る。
図2のX-SEM画像から分かるように、従来の遮熱コーティング230の上部領域は、EB-PVDによって形成された従来の遮熱コーティング230に特徴的な柱状の羽状構造を依然として示す。CMAS耐性オーバーレイコーティング240は、それぞれ多孔質の垂直柱状構造および形態を有する。SEM画像の左側領域では、CMAS耐性オーバーレイコーティング240内の比較的大きな空洞が見え、これは熱サイクル中の拡散によって消失したより大きな金属液滴に起因する。しかしながら、オーバーレイコーティング240の多孔質構造の開発における決定的な要因は、従来の遮熱コーティング230の最上面231上への堆積後に既に存在するオーバーレイコーティング240の柱状構造に加えて、約1.300℃の温度で加熱したときのはるかに小さな金属液滴の外側への拡散である。後者は、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の比較的微細な多孔質構造をもたらす。X-SEM画像の最上部領域において、反応ゾーン40は、約1.300℃から室温まで冷却した後に見ることができる。
【0137】
図3は、
図2の拡大断面、より正確には、従来の遮熱コーティング230の最上部領域および本発明の第1の態様によるオーバーレイコーティング240の最下部領域を示す。従来の遮熱コーティング230に対するCMAS耐性オーバーレイコーティング240の非常に良好な接着が示されている。さらに、従来の遮熱コーティング230の最上面231上への堆積後に既に存在するオーバーレイコーティング240の240個の柱状構造に加えて、約1.300℃の温度で加熱するとより小さい金属液滴が外側に拡散するため、オーバーレイコーティング240の多孔質構造の発達が見られる。後者は、オーバーレイコーティング240の歪み耐性特性、したがって機械的安定性を達成するために不可欠である。
【0138】
図4は、
図2の拡大断面、より正確にはオーバーレイコーティング240の上部領域、ならびにオーバーレイコーティング240の最上部領域とCMAS層30の最下部領域との間に位置する反応ゾーン40(
図4には示されていない)を示す。CMAS耐性オーバーレイコーティング240の上部領域は、オーバーレイコーティング240の上述の上部ゾーンと必ずしも同一ではないことに留意されたい。しかしながら、オーバーレイコーティング240の上側領域と上部ゾーンとの間に重なりがあってもよい。反応ゾーン40は、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の最上面241に向かって拡散したアルミニウム(Al)および/またはクロム(Cr)および/またはアルミニウムクロム(Al-Cr)と、CMAS層30の元素および/または構成成分、特にマグネシウム(Mg)および/または酸化マグネシウム(MgO)との間の化学反応中に形成される。これにより、Al-Mg-O種および/またはCr-Mg-O種および/またはAl-Cr-Mg-O種、ならびに場合によってはMgAlO
4および/またはMgCrO
4を含むバリア層が得られる。反応ゾーン40を、エネルギー分散型X線分光法(EDS)ライン走査分析(
図7および
図8を参照)によって調べた。
【0139】
図5には、
図4の拡大断面が示されており、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の上部領域から反応ゾーン40の最下部領域までほぼ垂直な軸に沿って延在するゾーンがマークされている。マークされたゾーンの化学組成を、EDSライン走査分析によって決定された。
図6では、主要元素、すなわちAl、Cr、O、Mg、SiおよびCaについて得られたEDSスペクトルの重ね合わせが示されており、走査ゾーンの化学組成を示している。x軸は、マークされたゾーン内のそれぞれの元素、すなわちAl、Cr、O、Mg、SiおよびCaの位置(μm)を表し、0μmは、それぞれ走査ゾーンの底部およびライン走査の開始点に関連し、12μm(番号12は、
図6には示されていない)は、それぞれ走査ゾーンの上部およびライン走査の終了点に関連する。走査ゾーン内のそれぞれの位置における元素の原子百分率をy軸上にプロットする。走査ゾーンの最初のセクション(0μm~約6μm)内で、CMAS耐性オーバーレイコーティング240に含まれる元素が検出された。第1のセクションに直接隣接する第2のセクション(約6μm~約9μm)において、この場合には約3μmの厚さを有する反応ゾーン40に典型的な元素Al、Cr、OおよびMgが特定された。第2のセクションに直接隣接する第3のセクション(約9μm~約12μm)では、CMAS層30に含まれる元素、すなわち、特にCa、SiおよびO、ならびにCrが検出された。反応ゾーン40の組成に関して、CMAS層30に由来するAlとCMAS耐性オーバーレイコーティング240から拡散したAlとを区別できないことは言及に値する。しかしながら、反応ゾーン40は、検出されたCrによって明確に決定することができた。
【0140】
図7は、CMAS耐性オーバーレイコーティング240の最上面241に本質的に平行な軸に沿って延在するゾーンがマークされている、
図5の画像を示す。反応ゾーン40内にあるマークされたゾーンの化学組成は、EDSライン走査分析によって決定された。
図8では、主要元素、すなわちAl、Cr、O、Mg、SiおよびCaについて得られたEDSスペクトルの重ね合わせが示されており、走査ゾーンの化学組成を示している。x軸は、マークされたゾーン内のそれぞれの元素、すなわちAl、Cr、O、Mg、SiおよびCaの位置(μm)を表し、0μmは、それぞれ走査ゾーンの左限界およびライン走査の開始点に関連し、16μmは、それぞれ走査ゾーンの右限界およびライン走査の終了点に関連する。走査ゾーン内のそれぞれの位置における元素の原子百分率をy軸上にプロットする。
図8から、Cr強度とMg強度との間に相関関係が存在することが分かり、少なくともこれら2つの元素の間で化学反応が起こることを示している。
【0141】
要約すると、この実施例は、本発明の第1の態様による良好に接着し、耐歪み性のCMAS耐性オーバーレイコーティング240、それぞれその高温特性および挙動、ならびに高温でCMAS層30の元素および/または構成成分と接触しているときの利点を説明し、1.000℃~1.600℃の範囲の温度、例えば約1.300℃の温度で、オーバーレイコーティング240は、それぞれ元素アルミニウムおよび/または元素クロムおよび/またはアルミニウムクロムを提供および放出することができる。元素アルミニウムおよび元素クロムは液滴の形態であるが、アルミニウムおよびクロムからなる酸化されていない金属成分は、合金、金属間化合物または固溶体の形態で互いに独立していてもよい。反応ゾーン40、すなわちオーバーレイコーティング240の最上部領域とCMAS層30の最下部領域との間の領域では、提供されたアルミニウムおよび/またはクロムは、CMAS層30の元素および/または構成成分、特にマグネシウム(Mg)および/または酸化マグネシウム(MgO)と化学反応する。これにより、Al-Mg-O種および/またはCr-Mg-O種および/またはAl-Cr-Mg-O種を含むバリア層が得られる。バリア層は、MgAlO4および/またはMgCrO4を含んでいてもよい。有益なことに、反応ゾーン40内に形成された、または反応ゾーン40と本質的に同一もしくは同一であるバリア層は、CMAS層30に含まれる材料よりも高い溶融温度を示す材料または材料混合物からなる少なくとも1つの層を含む。したがって、バリア層は、TBC系20を含む下にある基材10aへのCMAS層30の元素および/または構成成分の更なる浸透を防止する。
【実施例】
【0142】
方法および材料
陰極アーク蒸着(CAE)
CAEは、Oerlikon Balzers Coating AGのINNOVAバッチ式コーティング系を用いて行った。当業者は、その方法を知っている。特許請求の範囲から逸脱することなく、この知識を適用することができる。
【0143】
断面走査型電子顕微鏡法(X-SEM)
Zeiss LEO 1530走査型電子顕微鏡(SEM)で分析した断面を、イオンミリングによって得た。
【0144】
エネルギー分散型X線分光法(EDS)
SEMによって分析された断面の元素組成を、Zeiss LEO 1530 SEMのエネルギー分散型X線分光法(EDS)によって決定した。
【0145】
実施例1:本明細書に記載の本発明の第3の態様によるプロセスによる、従来の遮熱コーティング上への本発明の第1の態様による約20μmの厚さのCMAS耐性オーバーレイコーティングの形成
反応性ガスとしての酸素と共に、陰極アーク蒸着装置の真空チャンバ内でアルミニウムクロムターゲット(70at.%Al、30at.%Cr)を動作させ、チャンバ内の酸素ガスの分圧は1.0Paであった。ターゲット材料の蒸発は、陰極アークの点火によって開始された。蒸発したターゲット材料は酸素ガスと反応し、TBC系の最上層であるYSZベースの遮熱コーティングの最上面にCMAS耐性オーバーレイコーティングを形成した。
【0146】
実施例2:実施例1によるCMAS耐性オーバーレイコーティングを含むバリア層の形成
CMAS灰粉末を、実施例1に従って形成されたCMAS耐性コーティング層上に分散させた。続いて、実施例1で得られた基材を空気中、温度1.300℃で1時間加熱することにより、バリア層の形成を行った。
【0147】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0148】
見て分かるように、本発明は、少なくとも1つのCMAS耐性層を含む良好に接着した耐歪み性CMAS耐性オーバーレイコーティングに関し、オーバーレイコーティングは、i.CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上、すなわち、基材層の少なくとも1つの表面上に配置され、ii.金属酸化物マトリックスを含み、iii.少なくとも部分的に垂直柱状構造を有する。さらに、アルミニウム、クロム、ならびにアルミニウムおよびクロムを含むかまたはそれらからなる金属成分からなる群から選択される少なくとも1つの酸化されていない金属成分が、金属酸化物マトリックスに埋め込まれる。さらに、本発明は、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上に問題となっているCMAS耐性オーバーレイコーティングを有する基材に関する。本発明はまた、CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上にそのようなCMAS耐性オーバーレイコーティングを形成するためのCAEプロセスに関する。
【0149】
有利には、本発明の第1の態様によるCMAS耐性オーバーレイコーティングは、例えば、1.000℃~1.600℃の範囲、有利には1.100℃~1.500℃の範囲、より有利には1.150℃~1.450℃の範囲の温度で、上にあるCMAS材料層が溶融する高温で元素アルミニウムおよび/または元素クロムおよび/またはアルミニウムクロムを放出することができる。
【0150】
簡潔には、下にある基材および下にある基材の層への、特に基材に含まれるTBC系の少なくとも1つの層へのCMAS汚染物質の更なる浸透を防止するバリア層は、以下によって形成される:
1.CMAS腐食を受けやすい材料を含むかまたはそれからなる基材の表面上へのCMAS耐性オーバーレイコーティングの堆積であって、オーバーレイコーティングが金属酸化物マトリックスを含み、少なくとも部分的に垂直柱状構造を有し、アルミニウムおよび/もしくはクロムならびに/またはアルミニウムとクロムを含むかまたはそれからなる金属成分が金属酸化物マトリックスに埋め込まれている、CMAS耐性オーバーレイコーティングの堆積;
2.上にあるCMAS材料層と接触しているオーバーレイコーティングの最上面への酸化されていない金属成分の外方拡散;
3.放出されたアルミニウムおよび/またはクロムとCMAS材料の元素および/または構成成分、特にマグネシウム(Mg)および/または酸化マグネシウム(MgO)との化学反応。
【0151】
設計の詳細、空間的配置および手順工程を含む、特許請求の範囲、明細書および図面から生じる全ての特徴および利点は、個別にまたは様々な組合せで本発明に不可欠であり得る。
【符号の説明】
【0152】
10a,10b 基材
11a,11b 最上面
100 ベース層
101 最上面
20 TBC系
21 最上面
210 BC層
211 最上面
220 TGO層
221 最上面
230 遮熱コーティング
231 最上面
240 オーバーレイコーティング
241 最上面
30 CMAS層;CMAS材料
40 反応ゾーン
T オーバーレイコーティングの厚さ
W オーバーレイコーティングの幅
【国際調査報告】