(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】アルツハイマー病の処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/661 20060101AFI20240628BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K31/661
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501860
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 US2022034386
(87)【国際公開番号】W WO2023287556
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】PCT/US2021/042071
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518426332
【氏名又は名称】アティラ・ファーマ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Athira Pharma, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メビウス ハンス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ホア シュエ
(72)【発明者】
【氏名】チャーチ ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】カワス リーン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086DA34
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
(57)【要約】
本開示は、軽度~中等度のアルツハイマー病を処置する方法に関し、方法は、アルツハイマー病に罹患している対象に、ATH-1017を投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の認知力の低下を遅らせるか、または認知力を改善する方法であって、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化1】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
軽度~中等度のADと診断された患者の日常生活活動を行う能力及び言語流暢性の低下を遅らせるか、または日常生活活動を行う能力及び言語流暢性を改善する方法であって、前記患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化2】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
軽度~中等度のADと診断された患者の機能的または認知能力の低下を遅らせる方法であって、前記患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化3】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項4】
軽度~中等度のADと診断された患者の臨床的低下を遅らせる方法であって、軽度~中等度のADと診断された患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化4】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項5】
軽度~中等度のADと診断された患者の実行記憶機能を改善する方法であって、軽度~中等度のADと診断された患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化5】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項6】
前記患者が、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与されていない、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が、過去にAChEIを投与されており、好ましくは、前記化合物の投与の少なくとも4週間前にAChEI療法を中止した、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ADAS-Cog11の低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
処置開始後26週間までに、ADAS-Cog11の低下率を低減させるか、または安定化させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記患者が、前記式A19の化合物による前記処置開始前の少なくとも14、14~24、15~24、16~24、17~24、18~24、19~24、20~24、21~24、22~24、23~24のミニメンタルステート検査(MMSE)スコアを有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記患者が、軽度のADと診断されている、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記式A19の化合物による前記処置開始前に、前記患者が、20~24のMMSEスコアを有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が、中等度のADと診断されている、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記式A19の化合物による前記処置開始前に、前記患者が、14~19または16~24のMMSEスコアを有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記患者が、前記式A19の化合物による前記処置開始前に、臨床的認知症評価(CDR)スケールの全般的スコア1または2を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記患者が、55歳~85歳である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩が、皮下注射により投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、2mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、または90mgの用量で投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、40mgまたは70mgの用量で投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、40mgの用量で投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、70mgの用量で投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、26週間以上投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記患者の機能的または認知能力の低下を遅らせる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記患者の認知力の低下を遅らせる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記患者の認知力を改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記患者の日常生活活動を行う能力及び言語流暢性の低下を遅らせる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記患者の日常生活活動を行う能力及び言語流暢性を改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記低下の減速または前記改善が、前記処置を少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間投与した後に決定される、請求項23~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
認知能力が、11項目のアルツハイマー病評価スケール-認知サブスケール(ADAS-Cog11)を使用して、前記式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩の投与前後の前記患者のスコアを決定することにより評価される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
認知能力が、前記処置開始前と、前記処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に評価される、請求項23~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Clinical Global Impression of Change(ADCS-CGIC)の低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記低下率の低減、安定化、または改善が、前記処置開始前と、前記処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に前記患者のスコアを決定することにより評価される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ADAS-Cog11及び/またはADCS-CGICに対する効果の発生が、前記処置開始後6週間までに、または8週間までに、または10週間までに、または12週間までに、または14週間までに、または16週間までに、または18週間までに、または20週間までに、または22週間までに、または24週間までに、または26週間までに開始する、請求項29~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
ADAS-Cog11及び/またはADCS-CGICに対する前記効果が、前記処置終了後の少なくとも2週間または少なくとも4週間維持される、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
神経精神目録(NPI)の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、または少なくとも10のサブドメインの低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
NPIスコア、Alzheimer’s disease cooperative study-日常生活活動、23項目バージョン(ADCS-ADL23)スコア、及び/または統制発語連合検査(COWAT)スコアの低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記低下率の低減、安定化、または改善が、前記処置開始後少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間までに生じる、請求項35または請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記低下率の低減、安定化、または改善が、前記処置開始前と、前記処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に前記患者のスコアを決定することにより評価される、請求項35~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
認知症ライトバージョンのリソース利用(RUD-lite)スケール、EQ-5D-5Lスコア、及び/またはZarit介護負担スケール(ZBI)スコアの低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記低下率の低減、安定化、または改善が、前記処置開始後少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間までに生じる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記低下率の低減、安定化、または改善が、前記処置開始前と、前記処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に前記患者のスコアを決定することにより評価される、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項42】
P300値の迅速な改善または正規化を提供する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
EPR P300潜時値の迅速な改善または正規化を提供する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
処置中止の4週間後に効果をある程度維持しながら、ERP P300潜時値の迅速な改善または正常化をもたらす、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
ERP P300潜時値の迅速な改善または正常化を提供し、治療中止の4週間後に維持される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
事象関連電位(ERP)P300潜時を改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記改善または正常化が、前記処置開始後少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間までに生じる、請求項42~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
定量的EEG(qEEG)を改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記処置開始後少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に、qEEGを改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
血清NFL及び/またはニューグラニンレベルを改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
血清NFL及び/またはニューグラニンレベル、ならびにホスホタウ、Aβ1-42、及び/またはYLK41レベルのうちの少なくとも1つを改善する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
許容可能な安全性及び忍容性プロファイルを有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
一般に安全で忍容性が良好である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記式A19の化合物のナトリウム塩を投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記式A19の化合物の一ナトリウム塩を投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
ATH-1017を投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2021年7月16日に出願された国際出願第PCT/US2021/042071号(全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれる)の優先権の利益を主張する。
【0002】
分野
本開示は、軽度~中等度のアルツハイマー病を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー型の認知症(以後、ADと呼ばれる)は、認知症の最も一般的な形態であり、神経学における最大の満たされていない医学的ニーズである。ADは、さらに、発症年齢及び遺伝的リスクに基づいて分類することができる。65歳未満の個人は、若年性ADを患っており、この多くは、優性遺伝子変異を有する(すなわち、以下の遺伝子:アミロイド前駆体タンパク質、プレセニリン-1、及びプレセニリン-2、に既知の変異がある家族性AD)。晩発性AD患者は、発症年齢が65歳以上であり、通常、優勢な遺伝的リスクを有さず(すなわち、散発性AD)、疾患の発症が、加齢、アポリポタンパク質E(ApoE)-ε4遺伝子型、環境、及びライフスタイルの危険因子の複雑な相互作用を含む。晩発性散発性症例は、AD集団全体の約95%を占める。年齢が最大の危険因子であるが、ADは、通常の加齢の一部ではない。
【0004】
ADのような複雑なCNS障害が、単一の病理経路により引き起こされる可能性が低いことを示唆する証拠が増えており;それらは、遺伝学、年齢、及び環境に関連する多因子相互作用の結果である可能性が高い。重要な神経栄養因子系(肝細胞増殖因子、HGF/MET)の薬理学的刺激は、神経変性を停止し、神経再生を促進し得る。神経栄養因子系は、AD及び他の認知症の処置にとって有望な治療標的であり、これらの系を刺激する薬物は、神経変性に対処して、既存のニューロンを保護し、結合を促進し、神経再生機序を誘導し、(炎症を軽減し、脳血流を改善することにより)様々な態様のAD病状を対処することにより、認知力を改善する可能性がある(Funabashi、2011)。神経変性障害における神経栄養因子の治療の将来性は、脳への効率的且つ非侵襲的な送達の欠如により妨げられている。主に、アデノ随伴ウイルスベクターを使用した遺伝子治療方策が開発されており、AD及びパーキンソン病患者の治療可能性について臨床的に評価されている。これらの方策は、限られた脳の曝露、長期処置にわたる制御不能な投与、及び潜在的な免疫合併症を含む遺伝子送達及び形質導入に関連する課題により大きく妨げられている(Piguet、2017)。
【0005】
従って、血液脳関門を通過して脳の全ての領域に侵入することが可能な小分子アプローチは、神経栄養因子を標的として神経変性障害を処置するための優れた治療方策を提示する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、いくつかの実施形態では、軽度~中等度のアルツハイマー病を処置する方法を提供する。
実施形態1.軽度~中等度のアルツハイマー病(AD)を処置する方法であって、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化1】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
実施形態2.軽度のADを処置する方法であって、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化2】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
実施形態3.中等度のADを処置する方法であって、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化3】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
実施形態4.患者の認知力の低下を遅らせるか、または認知力を改善する方法であって、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化4】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
実施形態5.軽度~中等度のADと診断された患者の日常生活活動を行う能力及び言語流暢性の低下を遅らせるか、または日常生活活動を行う能力及び言語流暢性を改善する方法であって、患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化5】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
実施形態6.軽度~中等度のADと診断された患者の機能的または認知能力の低下を遅らせる方法であって、患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化6】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
実施形態7.軽度~中等度のADと診断された患者の臨床的低下を遅らせる方法であって、軽度~中等度のADと診断された患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化7】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
実施形態8.軽度~中等度のADと診断された患者の実行記憶機能を改善する方法であって、軽度~中等度のADと診断された患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物
【化8】
またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
実施形態9.患者が、式A19の化合物による処置開始前に、少なくとも14、14~24、15~24、16~24、17~24、18~24、19~24、20~24、21~24、22~24、23~24のミニメンタルステート検査(MMSE)スコアを有する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態10.患者が、軽度のADと診断されている、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態11.式A19の化合物による処置の開始前に、患者が、20~24のMMSEスコアを有する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態12.患者が、中等度のADと診断されている、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態13.式A19の化合物による処置の開始前に、患者が、14~19のMMSEスコアを有する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態14.患者が、式A19の化合物による処置開始前に、臨床的認知症評価(CDR)スケールの全般的スコア1または2を有する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態15.患者が、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与されていないか、もしくは過去にAChEIを投与されているか、または過去にAChEIを受けており、化合物の投与の少なくとも4週間前に中止されている、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態16.患者が、55歳~85歳である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態17.式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩が、皮下注射により投与される、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態18.式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、2mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、または90mgの用量で投与することを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態19.式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、40mgまたは70mgの用量で投与することを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態20.式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、40mgの用量で投与することを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態21.式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、70mgの用量で投与することを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態22.式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩を、26週間以上投与することを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態23.患者の機能的または認知能力の低下を遅らせる、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態24.患者の認知力の低下を遅らせる、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態25.患者の認知力を改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態26.患者の日常生活活動を行う能力及び言語流暢性の低下を遅らせる、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態27.患者の日常生活活動を行う能力及び言語流暢性を改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態28.低下の減速または改善が、処置を少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間投与した後に決定される、実施形態23~27のいずれか1つに記載の方法。
実施形態29.認知能力が、11項目のアルツハイマー病評価スケール-認知サブスケール(ADAS-Cog11)を使用して、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩の投与前後の患者のスコアを決定することにより評価される、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態30.認知能力が、処置開始前と、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に評価される、実施形態23に記載の方法。
実施形態31.ADAS-Cog11の低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態32.Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Clinical Global Impression of Change(ADCS-CGIC)の低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態33.低下率の低減、安定化、または改善が、処置開始前と、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に、患者のスコアを決定することにより評価される、実施形態31または実施形態32に記載の方法。
実施形態34.ADAS-Cog11及び/またはADCS-CGICに対する効果の発生が、処置開始後6週間までに、または8週間までに、または10週間までに、または12週間までに、または14週間までに、または16週間までに、または18週間までに、または20週間までに、または22週間までに、または24週間までに、または26週間までに開始する、実施形態29~33のいずれか1つに記載の方法。
実施形態35.ADAS-Cog11及び/またはADCS-CGICに対する効果が、処置終了後の少なくとも2週間または少なくとも4週間維持される、実施形態29~34のいずれか1つに記載の方法。
実施形態36.神経精神目録(NPI)の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、または少なくとも10のサブドメインの低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態37.NPIスコア、日常生活活動のAlzheimer’s Disease Cooperative Study、23項目バージョン(ADCS-ADL23)スコア、及び/または統制発語連合検査(COWAT)スコアの低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態38.低下率の低減、安定化、または改善が、処置開始後少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間までに生じる、実施形態37に記載の方法。
実施形態39.低下率の低減、安定化、または改善が、処置開始前と、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に、患者のスコアを決定することにより評価される、実施形態36~38のいずれか1つに記載の方法。
実施形態40.認知症ライトバージョンのリソース利用(RUD-lite)スケール、EQ-5D-5Lスコア、及び/またはZarit介護負担スケール(ZBI)スコアの低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態41.低下率の低減、安定化、または改善が、処置開始後少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間までに生じる、実施形態40に記載の方法。
実施形態42.低下率の低減、安定化、または改善が、処置開始前と、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に、患者のスコアを決定することにより評価される、実施形態40または実施形態41に記載の方法。
実施形態43.P300値の迅速な改善または正規化を提供する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態44.EPR P300潜時値の迅速な改善または正規化を提供する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態45.処置中止の4週間後に効果をある程度維持しながら、ERP P300潜時値の迅速な改善または正常化をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態46.ERP P300潜時値の迅速な改善または正常化を提供し、治療中止の4週間後に維持される、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態47.事象関連電位(ERP)P300潜時を改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態48.改善または正常化が、処置開始後少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間までに生じる、実施形態43~47のいずれか1つに記載の方法。
実施形態49.定量的EEG(qEEG)を改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態50.処置開始後少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間までに生じる、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態51.血清NFL及び/またはニューグラニンレベルを改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態52.血清NFL及び/またはニューグラニンレベル、ならびにホスホタウ、Aβ1-42、及び/またはYLK41レベルのうちの少なくとも1つを改善する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態53.許容可能な安全性及び忍容性プロファイルを有する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態54.一般に安全で忍容性が良好である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態55.式A19の化合物のナトリウム塩を投与することを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態56.式A19の化合物の一ナトリウム塩を投与することを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
実施形態57.ATH-1017を投与することを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】AChEI療法あり及びなしでプラセボを投与されている患者と、AChEI療法あり及びなしでフォスゴニメトン(ATH-1017)を投与されている患者毎に分類された、研究集団におけるP300潜時のベースラインからの変化を示す。
【
図1B】AChEI療法と共にプラセボを投与されている患者と、AChEI療法と共にフォスゴニメトン(ATH-1017)を投与されている患者毎に分類された研究集団の一部におけるP300潜時のベースラインからの変化を示す。
【
図1C】AChEI療法なしでプラセボを投与されている患者と、AChEI療法なしでフォスゴニメトン(ATH-1017)を投与されている患者毎に分類された研究集団の一部におけるP300潜時のベースラインからの変化を示す。
【
図2A】AChEI療法あり及びなしでプラセボを投与されている患者と、AChEI療法あり及びなしでフォスゴニメトン(ATH-1017)を投与されている患者毎に分類された研究集団におけるADAS-Cogスコアのベースラインからの変化を示す。
【
図2B】AChEI療法と共にプラセボを投与されている患者と、AChEI療法と共にフォスゴニメトン(ATH-1017)を投与されている患者毎に分類された研究集団の一部におけるベースラインからのADAS-Cogスコア変化を示す。
【
図2C】は、AChEI治療を受けずにプラセボを受けている患者と、AChEI治療を受けずにフォスゴニメトン(ATH-1017)を受けている患者毎に分類された研究集団の一部におけるベースラインからのADAS-Cogスコアの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ATH-1017は、実験的なアルツハイマー病(AD)処置であり、皮下(SC)注射用の滅菌溶液として製剤化されている。ATH-1017は、プロドラッグであり、SC注射後の血漿中で活性薬物ATH-1001(Dihexa;US2014/0094413を参照)に急速に変換される。ATH-1017は、水性ビヒクルでのSC投与を可能にするATH-1001の水溶性プロドラッグとして開発された。活性薬物ATH-1001は、肝細胞増殖因子(HGF)受容体及びそのチロシンキナーゼMETのアゴニストとして作用する。中枢神経系(CNS)のMET発現は、健常成人の脳を維持するために不可欠であり(Hawrylycz、2015)、ADでは、特に、海馬で低減している(Hamasaki、2014)。HGF/MET系は、ADにおける神経変性を処置し、認知機能を回復するための治療標的を提示する。
【0009】
定義及び一般パラメータ
本明細書で使用される場合、以下の用語及び語句は、一般に、以下に記載の意味を有するものとする。但し、それらが使用される文脈が、別の意味を示す場合を除く。
【0010】
【0011】
本明細書における「約」値またはパラメータへの言及は、その値またはパラメータ自体に対する実施形態を含む(及び記載する)。特定の実施形態では、「約」という用語は、表示量±10%を含む。他の実施形態では、「約」という用語は、表示量±5%を含む。特定の他の実施形態では、「約」という用語は、表示量±1%を含む。また、「約X」という用語は、「X」の記載を含む。また、単数形「a」及び「the」は、文脈に別途明示のない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「化合物(the compound)」への言及は、複数のそのような化合物を含み、「アッセイ(the assay)」への言及は、当業者らに既知の1つ以上のアッセイ及びその等価物への言及を含む。
【0012】
本明細書に例示的に記載された本開示は、本明細書に具体的に開示されていない、任意の要素(複数可)、制限(複数可)の不存在下で適切に実施され得る。従って、例えば、「含むこと(comprising)」、「含むこと(including)」、「含有すること(containing)」などの用語は、制限なく拡大的に解釈されるものとする。さらに、本明細書で用いられる用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、示され記載された特徴またはその一部のいずれかの同等物を除外する、そのような用語及び表現の使用において意図はないが、特許請求された本開示の範囲内で様々な修正が可能であることが認識される。
【0013】
いくつかの実施形態では、本開示の化合物は、「プロドラッグ」の形態をとり得る。「プロドラッグ」という用語は、医薬品分野では、人体に投与される時、何らかの化学的または酵素的経路に従って生物学的に活性な親薬物に変換される、薬物の生物学的に不活性な誘導体として定義される。プロドラッグの例としては、エステル化されたカルボン酸が挙げられる。
【0014】
本開示の化合物は、薬学的に許容される塩の形態をとり得る。「薬学的に許容される塩」という用語は、薬学的に許容される非毒性の塩基または酸、例えば、無機塩基または酸と、有機塩基または酸、から調製される塩を指す。本開示の化合物が1つ以上の酸性基または塩基性基を含む場合、本開示は、それらの対応する薬学的または毒物学的に許容される塩、特に、それらの薬学的に利用可能な塩も含む。従って、酸性基を含有する本開示の化合物は、これらの基上に存在する可能性があり、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、またはアンモニウム塩として、本開示に従って使用することができる。そのような塩のより正確な例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、またはアンモニアもしくは有機アミン、例えば、エチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノ酸、または当業者らに既知の他の塩基との塩が挙げられる。1つ以上の塩基性基、すなわち、プロトン化することができる基、を含有する本開示の化合物は、無機酸または有機酸との付加塩の形態で存在する可能性があり、本開示に従って使用することができる。
【0015】
本開示は、活性成分として本開示の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を、薬学的に許容される担体と共に含む医薬組成物を提供する。
【0016】
「医薬組成物」は、1つ以上の活性成分、及び担体を構成する1つ以上の不活性成分、ならびに、任意の2つ以上の成分の組み合わせ、複合体形成、もしくは凝集から、または成分のうちの1つ以上の解離から、または成分のうちの1つ以上の他のタイプの反応もしくは相互作用から、直接または間接的に生じる任意の製品を意味する。従って、本開示の医薬組成物は、本開示の少なくとも1つの化合物及び薬学的に許容される担体を混合することにより作成される任意の組成物を包含し得る。
【0017】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、開示された化合物またはその使用に有害ではない賦形剤または薬剤、例えば、溶媒、希釈剤、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質の組成物を調製する、そのような担体及び薬剤の使用は、当該技術分野で周知である(例えば、以下を参照:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mace Publishing Co.,Philadelphia,PA 17th Ed.(1985);及びModern Pharmaceutics,Marcel Dekker,Inc.3rd Ed.(G.S.Banker & C.T.Rhodes,Eds.)。
【0018】
「治療有効量」及び「有効量」という用語は、互換的に使用され、1回以上の用量で、そのような処置を必要とする患者(例えば、ヒト)に投与される場合、本明細書で定義される処置を行うのに十分な化合物の量を指す。治療有効量は、患者、処置される疾患、患者の体重及び/または年齢、疾患の重症度、または資格のある処方者もしくは介護者により決定される投与方法に応じて変動する。
【0019】
「処置」または「処置すること」という用語は、以下の目的で化合物またはその薬学的に許容される塩を投与することを意味する:(i)疾患の発症を遅らせること、つまり、疾患の臨床症状を発症させないこと、もしくはその発症を遅延させること;(ii)疾患を阻害すること、つまり、臨床症状の発症を阻止すること;及び/または、(iii)疾患を軽減すること、つまり、臨床症状またはその重症度の退行を引き起こすこと。
【0020】
ATH-1017及び関連化合物
ATH-1017は、A19の式を有する化合物の薬学的に許容される塩である:
【化9】
【0021】
本明細書で使用される場合、及びATH-1017の特定の薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物への具体的な言及がない場合、任意の投薬量は、例えば、ミリグラムで表されるか、または重量%で表されるかに関わらず、ATH-1017の量、すなわち、以下の量、を指すものとして解釈されるべきである:
【化10】
【0022】
従って、例えば、「40mgのATH-1017またはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物」への言及は、A19遊離酸と同じ量のATH-1017を提供するATH-1017またはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物の量を意味する。
【0023】
A19の非限定例の薬学的に許容される塩としては、以下が挙げられる:
【化11】
及び
【化12】
【0024】
別途指示のない限り、ATH-1017は、以下に示される、A19の一ナトリウム塩を指す:
【化13】
【0025】
A19の化合物及びその薬学的に許容される塩、例えば、ATH-1017は、PCT公開第WO2017/210489A1号に記載されているような、当業者らに既知の方法を使用して合成及び特性評価され得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、ATH-1017は、皮下投与用に製剤化される。そのようないくつかの実施形態では、ATH-1017は、40mg/mLのATH-1017または70mg/mLのATH-1017を1mL含有するプレフィルドシリンジで提供される。いくつかの実施形態では、ATH-1017は、10mMのリン酸ナトリウムを含む溶液中にある。
【0027】
アルツハイマー病の処置方法
軽度~中等度のアルツハイマー病(AD)を処置する方法が本明細書で提供され、方法は、患者に、治療有効量のATH-1017を投与することを含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、軽度~中等度のAD患者は、14~24のミニメンタルステート検査(MMSE)スコアを有する患者として定義される。いくつかの実施形態では、中等度のAD患者は、14~19のMMSEスコアを有する患者として定義される。いくつかの実施形態では、軽度のAD患者は、20~24のMMSEスコアを有する患者として定義される。
【0029】
いくつかの実施形態では、軽度~中等度のADを処置する方法が提供され、方法は、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物またはその医薬的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017、を投与することを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、軽度のADを処置する方法が提供され、方法は、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物またはその医薬的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017、を投与することを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、中等度のADを処置する方法が提供され、方法は、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物またはその医薬的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017、を投与することを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、患者の認知力の低下を遅らせるか、または認知力を改善する方法が提供され、方法は、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017を投与することを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、軽度~中等度のADと診断された患者の日常生活活動を行う能力及び言語流暢性の低下を遅らせるか、または日常生活活動を行う能力及び言語流暢性を改善する方法が提供され、方法は、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017、を投与することを含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、軽度~中等度のADと診断された患者における機能的または認知能力の低下を遅らせる方法が提供され、方法は、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物またはその医薬的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017、を投与することを含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、軽度~中等度のADと診断された患者の臨床的低下を遅らせる方法が提供され、方法は、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物またはその医薬的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017、を投与することを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、軽度~中等度のADと診断された患者の実行記憶機能を改善する方法が提供され、方法は、それを必要とする患者に、1日当たり2~90mgの式A19の化合物またはその医薬的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017、を投与することを含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、患者は、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017による処置の開始前に、少なくとも14、14~24、15~24、16~24、17~24、18~24、19~24、20~24、21~24、22~24、23~24のミニメンタルステート検査(MMSE)スコアを有する。いくつかの実施形態では、患者は、軽度のADと診断されている。いくつかの実施形態では、患者は、式A19の化合物による処置の開始前に20~24のMMSEスコアを有する。いくつかの実施形態では、患者は、中等度のADと診断されている。いくつかの実施形態では、患者は、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017による処置の開始前に、14~19のMMSEスコアを有する。
【0038】
いくつかの実施形態では、患者は、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017による処置の開始前に、臨床的認知症評価(CDR)スケールの全般的スコア1または2を有する。いくつかの実施形態では、患者は、55~85歳である。
【0039】
いくつかの実施形態では、患者は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を投与されていない。いくつかの実施形態では、患者は、過去にAChEIを投与された。いくつかの実施形態では、患者は、化合物の投与の少なくとも4週間前にAChEI療法を中止した。
【0040】
いくつかの実施形態では、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017は、皮下注射で投与される。
【0041】
いくつかの実施形態では、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩は、2mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、または90mgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩は、40mgまたは70mgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017は、40mgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017は、70mgの用量で投与される。
【0042】
いくつかの実施形態では、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩、例えば、式A19の化合物のナトリウム塩、例えば、式A19の化合物の一ナトリウム塩、例えば、ATH-1017は、26週間以上投与される。
【0043】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の処置方法は、患者の機能的または認知能力の低下を遅らせるか、または改善する。いくつかの実施形態では、処置方法は、患者の認知力の低下を遅らせるか、または改善する。いくつかの実施形態では、処置方法は、患者の日常生活活動を行う能力及び言語流暢性の低下を遅らせるか、または改善する。
【0044】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の処置方法は、患者の認知力を改善する。いくつかの実施形態では、処置方法は、患者の日常生活活動を行う能力及び言語流暢性を改善する。
【0045】
いくつかの実施形態では、低下の減速または改善が、処置を少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間投与した後に決定される。
【0046】
患者の認知能力を評価するには、様々な方法が有用である。
【0047】
いくつかの実施形態では、認知能力は、11項目のアルツハイマー病評価スケール-認知サブスケール(ADAS-Cog11)を使用して、式A19の化合物またはその薬学的に許容される塩の投与前後の患者のスコアを決定することにより評価される。いくつかの実施形態では、認知能力が、処置開始前と、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に評価される。いくつかの実施形態では、処置方法は、ADAS-Cog11において低下率を低減させるか、安定化させるか、もしくは改善するか、またはADAS-Cog11を改善する。
【0048】
いくつかの実施形態では、処置方法は、Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Clinical Global Impression of Change(ADCS-CGIC)の低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する。
【0049】
いくつかの実施形態では、処置方法は、ADAS-Cog11及びADCS-CGICを組み合わせたグローバル統計検定(GST)で測定される認知力の低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する。
【0050】
いくつかの実施形態では、低下率の低減、安定化、または改善が、処置開始前と、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に、患者のスコアを決定することにより評価される。
【0051】
いくつかの実施形態では、ADAS-Cog11及び/またはADCS-CGICに対する効果の発生が、処置開始後6週間までに、または8週間までに、または10週間までに、または12週間までに、または14週間までに、または16週間までに、または18週間までに、または20週間までに、または22週間までに、または24週間までに、または26週間までに開始する。
【0052】
いくつかの実施形態では、ADAS-Cog11及び/またはADCS-CGICに対する効果は、処置終了後少なくとも2週間または少なくとも4週間維持される。
【0053】
いくつかの実施形態では、処置方法は、神経精神目録(NPI)スコアの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、または少なくとも10のサブドメインの低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する。いくつかの実施形態では、処置方法は、NPIスコア、Alzheimer’s Disease Cooperative Study-日常生活活動、23項目バージョン(ADCS-ADL23)スコア、及び/または統制発語連合検査(COWAT)スコアの低下率を低減させるか、安定させるか、または改善する。いくつかの実施形態では、処置方法が、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に、NPIスコア、ADCS-ADL23スコア、及び/またはCOWATスコアの低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する。
【0054】
いくつかの実施形態では、処置開始後26週目のNPIスコアが、処置開始前のNPIスコアよりも低いか、または、処置開始後26週目のNPIスコア及び処置開始前のNPIスコア間の差が、統計的に有意である。
【0055】
いくつかの実施形態では、ADCS-ADL23スコアは、少なくとも2ポイントまたは少なくとも1ポイント改善される。
【0056】
いくつかの実施形態では、処置開始後26週目のCOWATスコアが、治療開始前のCOWATスコアよりも高いか、または、処置開始後26週目のCOWATスコア及び治療開始前のCOWATスコア間の差が、統計的に有意である。
【0057】
いくつかの実施形態では、処置方法は、認知症ライトバージョンのリソース利用(RUD-lite)スケール、EQ-5D-5Lスコア、及び/またはZarit介護負担スケール(ZBI)スコアにおいて低下率を低減させるか、安定させるか、または改善する。いくつかの実施形態では、処置方法が、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に、RUD-liteスケール、EQ-5D-5Lスコア、及び/またはZBIスコアの低下率を低減させるか、安定化させるか、または改善する。
【0058】
いくつかの実施形態では、RUD-liteスケール、EQ-5D-5Lスコア、及び/またはZarit介護負担スケールスコアは、処置開始後26週目に統計的に有意な量改善する。
【0059】
いくつかの実施形態では、処置方法は、P300値またはERP P300潜時値の迅速な改善または正常化を提供する。いくつかの実施形態では、処置方法は、処置中止の4週間後に、効果をある程度維持しながら、P300値またはERP P300潜時値の迅速な改善または正常化を提供する。
【0060】
いくつかの実施形態では、処置方法は、事象関連電位(ERP)P300潜時を改善する。いくつかの実施形態では、処置方法は、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に、ERP P300潜時を改善する。
【0061】
いくつかの実施形態では、ERP P300潜時は、少なくとも40ミリ秒、または少なくとも30ミリ秒、または少なくとも20ミリ秒改善する。
【0062】
いくつかの実施形態では、処置方法は、定量的EEG(qEEG)を改善する。いくつかの実施形態では、処置方法は、処置開始の少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも18週間、少なくとも20週間、少なくとも22週間、少なくとも24週間、または少なくとも26週間後に、qEEGを改善する。
【0063】
いくつかの実施形態では、処置方法は、血清NFL及び/またはニューグラニンレベルを改善する。いくつかの実施形態では、処置方法は、NFL及び/またはニューグラニンレベル、ならびにホスホタウ、Aβ1-42、及び/またはYLK41レベルのうちの少なくとも1つを改善する。
【0064】
いくつかの実施形態では、処置方法は、許容可能な安全性及び忍容性プロファイルを有する。いくつかの実施形態では、処置方法は、一般に安全であり、忍容性が良好である。
【0065】
P300潜時及びγパワー
事象関連電位(ERP)P300潜時は、認知力と高度に相関する作業記憶処理速度及び実行機能の機能的尺度である。いくつかの実施形態では、AD対象におけるATH-1017の投与は、P300潜時を有意に改善する。いくつかの実施形態では、ATH-1017の単回投与後、AD対象は、P300潜時を改善している。いくつかの実施形態では、8日間の処置サイクルの終わりまでに、AD処置群全体の平均ERP P300潜時は、プラセボ群と比較して73ミリ秒改善する。いくつかの実施形態では、この改善は、プラセボ群と比較して統計的に有意な変化である。これらの結果は、ATH-1017がAD対象のシナプス接続を大幅に改善し、その結果として脳機能を改善する可能性があることを示唆する。
【0066】
γパワーは、通常、学習、記憶、及び認知機能に関連している。いくつかの実施形態では、ATH-1017の投与は、AD対象における高周波γパワー活動を増加させる。
【0067】
医薬組成物
いくつかの実施形態では、方法は、皮下注射によりATH-1017を投与することを含む。
【0068】
本明細書で提供される薬物の医薬組成物は、投与経路に適した形態であってよい。製剤は、単位剤形で都合よく提供することができ、薬学の技術分野で周知の方法のいずれかで調製され得る。手法及び製剤化は、一般に、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co.、ペンシルバニア州イーストン)に記載されている。
【0069】
本開示の医薬組成物は、例えば、滅菌注射用水性または油性懸濁液などの滅菌注射用調製物の形態をとってもよい。この懸濁液は、上述している好適な分散剤または湿潤剤及び懸濁剤を使用して、既知の技術に従って製剤化され得る。滅菌注射用調製物はまた、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液または懸濁液であってよい。用いられ得る許容可能なビヒクル及び溶媒の中には、水、リンガー液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、滅菌不揮発性油は、従来、溶媒または懸濁媒体として用いられ得る。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の刺激の少ない不揮発性油が用いられ得る。さらに、例えば、オレイン酸などの脂肪酸は、同様に、注射可能薬物の調製に使用され得る。
【0070】
非経口投与に適した製剤には、水性及び非水性の滅菌注射液が含まれ、これは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び製剤を目的のレシピエントの血液と等張にする溶質;ならびに、懸濁剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の滅菌懸濁液を含有してもよい。
【0071】
製剤は、単位用量または複数回用量の容器、例えば、密封されたアンプル及びバイアルで提供することができ、使用直前に、滅菌液体担体、例えば、注射用水の添加のみを必要とする凍結乾燥(凍結乾燥)状態で保存され得る。即時の注射液及び懸濁液は、上述の種類の滅菌粉末、顆粒、及び錠剤から調製される。好ましい単位用量製剤は、本明細書で上に列挙されるような1日用量もしくは単位1日部分用量(sub-dose)、またはその適切な部分の活性成分を含有するものである。
【0072】
単一剤形を生成するために担体物質と組み合わされ得る活性成分の量は、処置される宿主及び皮下注射などの特定の投与様式に応じて変動するであろう。医薬組成物は、投与のために容易に測定可能な量を提供するように調製することができる。例えば、いくつかの実施形態では、ATH-1017は、皮下投与用に製剤化され、40mg/mLのATH-1017または70mg/mLのATH-1017を1mL含有するプレフィルドシリンジで提供される。いくつかの実施形態では、ATH-1017は、10mMのリン酸ナトリウムを含む溶液中にある。
【実施例】
【0073】
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態を示すために含まれる。次に続く実施例で開示される手法は、本開示の実施において良好に機能する手法を表し、従って、その実施のための特定の様式を構成すると考えられ得ることを、当業者らは理解すべきである。しかし、本開示に照らして、これらの例が、例示的なものであり、網羅的なものではないことを、当業者らは理解すべきである。開示される特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、依然として、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を得る。
【0074】
実施例1:軽度~中等度のアルツハイマー病に罹患している対象におけるATH-1017を評価する臨床研究
A.研究設計の概要
ATH-1017のヒト臨床研究では、健常若年対象に、2、6、20、40、60、及び90mgを単回SC投与すること、ならびに、健常高齢対象に、20、40、60、及び80mgを(SC、OD、連続9日間以上)複数回投与すること、ならびに、AD対象に、40mg(SC、OD、連続9日間以上)を複数回投与することは、安全で忍容性が高かった。注射部位の反応は、疼痛、そう痒症、及び/または紅斑を含み、本質的には軽度であり、特別な治療なしで治癒した。非臨床研究で特定された肝毒性の潜在的なリスクは、ヒト研究では観察されていないが、この研究では厳密に監視される。現在までに、CNSに特有の有害事象は、ヒトでは観察されていない。
【0075】
これは、McKhann 2011に従った「予想される」レベルで診断された軽度~中等度のアルツハイマー病(AD)の診断を有する対象において、40mg/日のATH-1017及び70mg/日のATH-1017をプラセボと比較する、第2/3相多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群用量範囲探索研究である。この研究は、米国(及び、任意に、オーストラリア)の合計約55のセンターで実施される。対象及びその介護者は、インフォームドコンセントフォーム(ICF)に署名する必要があり、スクリーニング期間中に選択/除外基準に照らして評価される。全ての選択/除外基準を満たす者は、1:1:1の比率で、3つの並行群、積極的処置(40mg/日のATH-1017もしくは70mg/日のATH-1017)またはプラセボのいずれかに無作為化される。無作為化中、対象は、ミニメンタルステート検査(MMSE)の重症度をスクリーニングすることにより層別化される:軽度(MMSE:20~24)対中等度(MMSE:14~19)。全ての適格な対象は、アポリポタンパク質E(ApoE)遺伝子型について検査される。
【0076】
研究薬は、好ましくは、日中に1日1回(OD)皮下(SC)注射により投与される。治験薬の最初のSC注射は、現場で、監督下で実施される。対象は、その後の来院日に治験薬の投与を控えるべきであり;研究薬の投与は、これらの来院時に施設スタッフの監督下、現場で行われる。各対象は、監督するか、または、必要に応じて、全てのプロトコール要件に従って、治験薬を投与し、及び研究全体を通して対象の状態を評価する責任を自発的に受け入れる主要介護者を有する必要がある。
【0077】
研究は、最長28日間のスクリーニング(-28日目~-1日目)、それに続く、26週間の二重盲検処置及び4週間の安全性追跡からなる。二重盲検処置期間中、来院は、1日目以降の2、6、12、16、20、及び26週目に行われ、安全性の追跡来院は、30週目の二重盲検期間の完了の4週間後に予定されている。最初の投与の完了後の1日目に、対象は、処置後の臨床観察のため現場に2時間留まる。認知能力の顕著な日内変動が、ADで観察されている(Hilt、2015)ので、ADAS-Cog11及びCOWATの評価は、最初のベースライン評価中に実施されたのとほぼ同じ時間(午前中)の来院時に生じるものである。同様に、ADCS-CGIC評価は、個々のADASCog11及びCOWATの評価時間に隣接して編成される。対象は、継続的な介護なしで、自宅、高齢者向け住宅環境、または施設環境で生活し得、生活条件の変化(例えば、施設への収容、別の都市への引っ越しなど)または試用期間への参加中に主要介護者の変更を経験する可能性が低いようにするべきである。研究の終了は、安全性追跡来院日、来院9/30週目として定義される。来院8より前に終了した対象は、来院8/早期終了(ET)と同じ評価を完了することになる。
【0078】
ATH-1017及びATH-1001の血漿濃度を分析するために、予定された来院時(1日目、12週目、及び26週目)に採血が行われる。
【0079】
独立したデータ安全性監視委員会は、研究対象の安全を確保するために、研究全体を通して非盲検安全性データ(AE、臨床、ECGなど)の定期的なレビュー及び評価を実施する。
【0080】
任意の26週間の非盲検継続研究は、26週間のランダム化研究を完了する対象に対して参加施設で提供される。
【0081】
B.対象集団
研究は、主要評価項目の分析に合計約240人の評価可能な対象を含むために、最大約300人の対象をATH-1017 40mg群、ATH-1017 70mg群、及びプラセボ群に1:1:1の比で無作為化する。
【0082】
選択基準
研究に参加する対象は、以下の選択基準を全て満たさなければならない。
1)インフォームドコンセントへの署名時点で55~85歳(端点を含む)。
2)軽度~中等度のAD認知症の対象。
a)スクリーニング時のMMSEスコア14~24(端点を含む)
b)スクリーニング時の臨床的認知症評価(CDR)スケールの全般的スコア1または2
3)改訂されたNational Institute on Aging-Alzheimer’s Association基準による、認知症(おそらくADによる)の臨床診断(McKhann 2011):
a)スクリーニング前12ヶ月以内に実施された核磁気共鳴画像法(MRI)またはコンピューター断層撮影法(CT)スキャン(医療監視の承認のある、MRIが安全ではない心臓ペースメーカーを装着しているか、または他の関連する医学的理由がある対象の場合)(他の任意の重大な併存する中枢神経系の病変を伴わないADによる認知症の診断と一致している所見がある)そのようなスキャンが利用できないか、または12ヶ月以上経過している場合、無作為化前に診断を確認するためにスキャンを繰り返さなければならない。
b)スクリーニング前の12ヶ月以内に記録された臨床症状の低下、及びスクリーニングの少なくとも12ヶ月前の症状の発症(好ましくは、対象の医療記録;例を含む介護者の報告書は許容される)。
4)8年以上の正式な教育(研究者の判断時に教育期間が8年未満の教育のある対象のために、例外が行われ得る)
5)スクリーニング時の肥満度指数(BMI)が18kg/m2以上且つ35kg/m2以下(BMI許容範囲外で、16kg/m2以上且つ37kg/m2以下のBMIを有する対象は、スポンサーの事前の同意がある場合にのみ登録し得る)。
6)男性対象及びそのパートナーは、パートナーが妊娠の可能性がない場合を除き、追跡期間を含む研究中、二重障壁の避妊方法を使用することに同意しなければならない。妊娠の可能性のない女性対象(すなわち、永久不妊、閉経後)のみに、参加資格がある
7)処置を監督するか、または、必要に応じて、全てのプロトコール要件に従って、治験薬を投与し、及び研究全体を通して対象の状態を評価する責任を自発的に受け入れる信頼でき有能な支援者/介護者。支援者/介護者は、用量投与及び/または観察のために少なくとも1日1回対象と面会し、少なくとも4日間/週に、対象と約4~6時間の日中の接触を有する。
8)以下のように定義される、処置なし、または安定したアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)処置を受けている:
a)処置されていない、または
b)AChEIとの併用療法は、用量がスクリーニング前の3ヶ月間安定していて(EC#23bを参照)、研究中に変更が計画されていない限り許容される、または
c)過去にAChEIを投与され、スクリーニングの4週間前に中止した対象。
9)ICF及びこのプロトコールに記載されている要件及び制限への準拠を含む、署名されたインフォームドコンセントを与えることが可能な対象。対象が研究者の判断でインフォームドコンセントを与えることが不可能な場合、法定代理人により同意が与えられ得る。
10)a)対象または法定代理人、及び、b)研究の適格性を評価する手順を開始する前を含む、研究関連手順の前に得られている介護者/支援者、からの書面によるインフォームドコンセント。
11)書面による文書は、該当する場合、関連する国及び地域のプライバシー要件に従って取得されている(例えば、健康及び調査研究情報の使用及び公開に関する書面による許可)。
12)対象及び介護者/支援者は、研究者に評価される場合、自主的に研究の指示に従うことが可能であり、必要な研究来院を全て完了する可能性が高い。
13)対象は、病歴及び身体的/神経学的検査、バイタルサイン、ECG、及び標準的な臨床検査から研究者に評価される場合、一般に良好な健康状態にある必要がある。
【0083】
除外基準
以下の基準のいずれかを満たす対象は、研究から除外される:
1)認知力に影響を与えるか、または認知症の発症と同時に生じ得る、AD以外の重大な神経疾患の病歴。
2)対象は、病歴から知られている場合、非定型亜型症状のAD、特に、非健忘型ADを患っている。
3)限定されないが、多発性(10を超える)微小出血、重度の白質高信号域、1cm3を超える単一の以前の出血の病歴または証拠、多発性(3を超える)ラクナ梗塞または1cm3を超える単一の以前の梗塞の証拠、脳挫傷、脳軟化症、動脈瘤、血管奇形、硬膜下血腫、または空間占有性病変(例えば、脳腫瘍)の証拠を含む他の任意の重大な以上を示す脳MRIスキャンの病歴。既知の髄膜腫が1年超安定しており、対象に、いかなる種類の痙攣の病歴もない場合、医療監視との相談の後、これが許容され得る。注記:スキャンがスクリーニングの12ヶ月超前に実施された場合、新たなMRIスキャンが必要であり;過去12ヶ月以内に対象の臨床症状に何らかの変化があった場合、反復MRIスキャンが必要である。CTスキャンは、MRI安全でない心臓ペースメーカーを装着している対象、または他の関連する医学的理由により、医療監視の承認があれば許容される。
4)精神病的特徴がなくても、現在の重度の大うつ病性障害の症状があるとの診断。形式的な妄想または幻覚を伴ういかなる対象も除外される。
5)スクリーニング時の7を超えるGDSスコア(15項目スケール)。医療監視との協議では、GDSスコアが8~10(端点を含む)の対象は、スコアの増加が、大うつ病ではなく、パンデミック及びその制限に関連する特定の領域により引き起こされている場合、研究への参加を考慮することができる。
6)過去12ヶ月以内のスクリーニング時及び1日目のC-SSRSに基づいた自殺念慮で定義される重大な自殺リスク(すなわち、質問4もしくは5に対する「はい」の回答、または任意の特定の行動)。
7)スクリーニングから2年以内の病歴、または精神病(米国精神医学会2000年)または中等度の薬物乱用障害(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,Fifth Editionによる)の現在の診断。
8)研究者の判断で臨床的に関連がある場合、ビタミンB12または葉酸欠乏症、甲状腺機能低下症、糖尿病、低血圧、または高血圧を含む未処置の状態。処置される場合、スクリーニング前の少なくとも6ヶ月間、処置が安定し、症状がなくなっていなければならない。
9)臨床的に重要な血清電解質(カリウム、ナトリウム、マグネシウム)の異常。処置される場合、スクリーニング前の少なくとも30日間、安定した処置をされなければならない。
10)あらゆる種類の活動性、急性、または慢性の感染症。
11)過去6ヶ月以内の心筋梗塞もしくは不安定狭心症、またはスクリーニング前5年以内の複数の心筋梗塞の病歴。
12)臨床的に重大な(研究者の判断で)不整脈(心房細動を含む)、心筋症、または心臓伝導障害(注記:ペースメーカーは許容される)。
13)研究者の判断で、対象は、高血圧症(仰臥位拡張期血圧が95mmHgを超える)、または症候性低血圧症のいずれかを患っている。
14)限定されないが、男性の場合450ミリ秒以上、女性の場合470ミリ秒以上である、フリデリシアの式(QTcF)値を使用して確認された修正QT間隔を含む、スクリーニング時の臨床的に重大なECG異常。QTcF読み値が境界線にあるか、または例えば、分岐脚ブロックの存在、により解釈が困難であるか、またはT波及びU波が重畳もしくは接続されている場合、医療監視と協議して、適格性を決定するために、同じECGデバイスを使用した手動の局所読み値を考慮する必要がある。QRS値が120ミリ秒の対象では、QTcF値が500ミリ秒未満の対象は、医療監視との協議後に、適格となり得る。
15)B型肝炎(B型肝炎表面抗原)、C型肝炎(抗C型肝炎ウイルス抗体)またはヒト免疫不全ウイルス(抗体1型及び2型)の病歴、またはその血清学スクリーニングの陽性結果。
16)腎不全(2.0mg/dLを超える血清クレアチニン)。
17)正常上限の2倍を超えるか、またはチャイルドピュークラスB及びCのアラニンアミノトランスフェラーゼまたはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼによる肝障害。
18)研究者の判断で安定している以下の状態を除く、スクリーニング前3年以内の悪性腫瘍:
a)適切に処置された扁平上皮癌及び基底細胞癌、または上皮内扁平上皮癌及び基底細胞癌
b)上皮内前立腺癌。
19)スクリーニングから12ヶ月以内の(研究者の判断による)臨床的に重大な意図的でない体重減少。
20)グレープフルーツまたはグレープフルーツ含有製品の摂取は、治験薬の初回投与(1日目)の最初の7日前から及び研究期間中に禁止されている。
21)Axona及び中鎖トリグリセリドなどの、認知力に影響を与える可能性のある栄養補助食品及び栄養補助食品は、治験薬の初回投与(1日目)の7日前から及び研究期間中に禁止されている。
22)テトラヒドロカンナビノール(THC)は、治験薬の初回投与(1日目)の4週間前から及び研究期間中に禁止されている。THCを含まないカンナビジオール(CBD)は、許容されるが、局所適用を除いて、来院日には許可されていない。CBDの使用は、併用薬として記録されるべきである。
23)スクリーニング前の4週間以内に禁止されている事前の薬及び併用薬は除外される。許可された全ての薬剤は、依然として、研究全体を通して安定していなければならない;認知力に影響を与える薬剤の場合、別途記載のない限り、スクリーニング前の少なくとも4週間及び研究全体にわたって、用量は安定していなければならない。(これは、完全なリストではない;特定の薬剤の許容性に疑問がある場合は、無作為化前に、医療監視に問い合わされたい):
a)あらゆる形態、組み合わせ、または投薬量のメマンチン
b)23mgの経口投与のドネペジル
c)抗精神病薬;低用量の抗精神病薬(研究者の判断による)は、睡眠障害、興奮、及び/または攻撃性のために投与される場合にのみ、ならびに、対象がスクリーニング前の少なくとも3ヶ月間継続投与を受けている場合にのみ許容される。これらの治療薬は、PRNベースで摂取する場合、任意の認知機能検査の前夜に摂取すべきではない。
d)三環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、及びS-ケタミン:他の全ての抗うつ薬は、対象がスクリーニング前の少なくとも3ヶ月間継続投与を受けている場合にのみ許容される。
e)高用量の抗不安薬;低用量のベンゾジアゼピンは、研究者の判断で許容されるが、任意の認知評価の前夜には許容されない。
f)鎮静催眠薬;ゾルピデムは、許容される。
g)バルビツール酸塩(良性振戦のために低用量で投与しない限り)
h)ニコチン療法(パッチを含む)、バレニクリン(Chantix)、または類似の治療薬
i)コリン作動性神経伝達に影響を与える末梢作用薬。ソリフェナシンは、対象がスクリーニング前に少なくとも3ヶ月間継続投与を受けている場合に許容される。
j)研究者の判断で、臨床的に免疫抑制用量を摂取する場合の全身免疫抑制剤(注記:アレルギーまたは他の炎症に対する免疫抑制剤の使用、例えば、吸入ステロイド、耳用薬、眼科薬、スキンクリーム、及び関節内注射は許容される)
k)発作を管理するために摂取する場合の抗てんかん薬。他の用途、例えば、神経障害及びむずむず脚が許容される。
l)オピオイド含有鎮痛薬の慢性摂取;PRNの使用は、許容される(但し、認知評価前の72時間以内は許容されない)
m)鎮静性H1抗ヒスタミン薬;非鎮静性H1抗ヒスタミン薬は、許容され、好ましい。
n)全身性の中等度~強度のシトクロムP450 3A4阻害薬または誘導薬;局所適用は許容される。
24)治験薬もしくはデバイスの研究に現在登録している、またはスクリーニングから4週間以内、または5半減期のいずれか長い方、またはAD治験薬の場合は、スクリーニングから6ヶ月以内に、治験薬を用いる別の臨床試験に参加したことがある。
25)対象は、いずれかの時点で能動アミロイドもしくはタウ免疫(すなわち、アルツハイマー病のワクチン接種)、またはスクリーニングから6ヶ月以内に受動免疫(すなわち、アルツハイマー病のモノクローナル抗体)を受けている。FDAが承認した他の適応症のワクチン接種またはモノクローナル抗体は、許容される。
26)対象が、治験薬のいずれかの成分に対して既知のアレルギーを有する。
27)対象は、研究者の意見で、対象を重大な危険にさらし得るか、研究結果を混乱させ得るか、または対象の服薬遵守もしくは研究への参加を著しく妨げ得る状態または状況にある。
【0084】
C.医薬品
40mgのATH-1017のプレフィルドシリンジは、10mMのリン酸ナトリウム及び0.5%のNaClの溶液中の40mg/mLのATH-1017 1.0mLを含有する。70mgのATH-1017のプレフィルドシリンジは、10mMのリン酸ナトリウム溶液中の70mg/mLのATH-1017 1.0mLを含有する。プラセボのプレフィルドシリンジはそれぞれ、10mMのリン酸ナトリウム及び1.1%のNaClの溶液1.0mLを含有する。全ての溶液は、約7.6のpHに調整される。
【0085】
ATH-1017及びプラセボは、皮下投与される。
【0086】
D.評価項目
この研究の主要目的及び評価項目は、以下である:
【0087】
【0088】
この研究の探索的目的及び評価項目は、以下を含む行動変化の評価及び記憶機能の評価を含む。
【0089】
E.スクリーニング評価
1.ミニメンタルステート検査(MMSE)
ミニメンタルステート検査(MMSE)(Folstein、1975)は、短い一連の検査で、記憶、見当識、及び実践を評価する全体的な認知機能の広く使用される検査である。スコアは、0~30であり、30が可能な限り最高のスコア、0が可能な限り最悪のスコアである。MMSEは、対象適格性に関して14~24(端点を含む)のスコアを有するスクリーニング時及びベースライン時に行われる。
【0090】
2.臨床的認知症評価スケール(CDR)
臨床的認知症評価スケール(Hughes、1982)は、6つのカテゴリー:記憶、見当識、判断力及び問題解決、地域社会の事情、家庭及び趣味、ならびにパーソナルケアで評価されたAD対象の機能の全般的評価である。それは、対象及び介護者に対して行われた半構造化面接に基づいている。各カテゴリーは、0(症状なし)~3(重篤)のスコアを有し、これから、全体的なCDRグローバルスコアが導出される。CDRは、スクリーニング来院時に投与され、対象の適格性には、1または2のスコアが必要である。
【0091】
有効性の変数
各評価スケールで指定されているように、資格を持ち、訓練を受け、認定された評価者が、研究対象及び/または専任の支援者/介護者に質問表を実施する。評価者のトレーニング及び認定(該当する場合)が、標準化された方法で、行われ、必要に応じて、繰り返されるであろう。
【0092】
ADAS-Cog11及びCOWATの評価は、全ての来院時、午前中に同じ時間枠で行わなければならない。
【0093】
1.認知変数
アルツハイマー病評価スケール-認知サブスケール(ADAS-Cog11)
ADAS-Cog11は、ADに罹患する対象の認知症状の変化を測定するように設計される(Rosen、1984)。標準的な11項目は、単語の想起、命令、構成の練習、物体及び指の名前の付け方、観念の練習、見当識、単語の認識、話し言葉の能力、話し言葉の理解、喚語困難、ならびに検査指示の記憶である。検査は、7つのパフォーマンス項目及び4つの臨床医評価項目を含み、合計スコアは、0(機能障害なし)~70(重度の機能障害)の範囲である。従って、スコアが高いほど、より重度の認知障害を示す。
【0094】
認知能力の既知の日内変動のために(Hilt、2015)、ADAS-Cog11は、全ての適切な来院のベースライン評価とほぼ同じ時間(午前中)に評価される。
【0095】
ADAS-Cog11評価は、投与前の来院2(ベースライン/1日目)、及び投与後約1時間(±30分)の来院3(2週目)、来院4(6週目)、来院5(12週目)、来院7(20週目)、来院8/ET(26週目)、及び来院9(安全性追跡;投与なし)で実施される。
【0096】
統制発語連合検査(COWAT)
統制発語連合検査(COWAT)は、対象が所与の文字で始まる考えられ得る全単語を言うことにより、対象がアルファベットの様々な文字を口頭で連想することを要求される口頭言語流暢性検査である。個体は、1分間が与えられ、文字のそれぞれで始まる可能な限りの多くの単語を挙げる。次に、残りの2文字に対して手順が繰り返される(Benton、1994;Strauss、2006)。検査スコアは、3文字全てに対して生成された異なる単語の合計数である。
【0097】
COWATは、ADAS-Cog11評価に隣接して、すなわち、来院2(ベースライン/1日目)の投与前、ならびに来院3(2週目)、来院4(6週目)、来院5(12週目)、来院7(20週目)、来院8/ET(26週目)、及び来院9(安全性追跡;投与なし)の投与後約1時間(±30分)に実施される。
【0098】
MMSE
スクリーニング及びベースラインに加えて、MMSE評価は、来院7(20週目)及び来院8/ET(26週目)の投与後約30分(±15分)に実施される。
【0099】
2.病状
Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Clinical Global Impression of Change(ADCS-CGIC)
Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Clinical Global Impression of Change(ADCS-CGIC)スケールは、臨床医に、介入開始時のベースライン状態と比較した、対象の病気がどれだけ改善または悪化したかの評価を要求し、以下の査定をされる7段階スケールである:1、著しく改善;2、中等度に改善;3、最小限の改善;4、変化なし;5、最小限に悪化:6、中等度に悪化;または7、著しく悪化。ADCS-CGICは、3つの部分からなる:対象及び介護者/支援者に実施されるガイド付きベースライン面接、対象及び介護者/支援者に実施される追跡面接、ならびに臨床医の評価レビュー(Schneider、1997)。研究の開始時に、ADCS-CGICベースラインフォームをガイドラインとして使用して、ADCS-CGIC評価者は、対象の状態の総合的な臨床印象を取得し、自らの裁量で正式な検査を適用し、対象の状態に関する個人的な記録をとることができ;これらは、将来の変更評価の参考として機能する。ADCS-CGICは、依然として、対象の安全性、認知的及び機能的結果とは無関係であり、この研究のために訓練及び認定された熟練した臨床医により投与される。ADCS-CGIC評価者は、理想的には、依然として、全てのADCS-CGIC評価に対して同じ者である。
【0100】
ADCS-CGIC評価は、ADAS-Cog11及びCOWAT評価に隣接して、来院2(ベースライン/1日目)の投与前、来院5(12週目)の投与後、及び来院8/ET(26週目)の投与後に実施される。
【0101】
Alzheimer’s Disease Cooperative Study-日常生活活動、23項目バージョン(ADCS-ADL23)
ADCS-ADL23(Galasko、1997)は、支援者/介護者に実施される日常生活活動に関する機能障害の23項目の評価である。それは、日常生活を表す項目にわたる対象の関与及びパフォーマンスのレベルに関する23の質問を含む。質問は、基本的~実践的日常生活活動に及ぶ。各項目は、最高レベルの独立したパフォーマンスから完全な損失まで評価される。合計スコアの範囲は、0~78であり、低いスコアは、大きい機能障害を示す。ADCS-ADL23評価は、来院2で投与前(ベースライン/1日目)、来院5で投与後(12週目)、及び来院8/ET(26週目)で投与後に実施される。
【0102】
神経精神目録(NPI)
NPIは、認知症に関連する精神及び行動障害の、面接に基づいた評価スケールである(Cummings、1994)。支援者/介護者は、12の症状、例えば、妄想、幻覚、興奮/攻撃性、抑うつ/不快感、不安、高揚感/多幸感、無関心/無関心、脱抑制、過敏性/不安定性、異常な運動行動、睡眠及び夜間の行動障害、ならびに食欲及び摂食障害の有無について資格のあるNPI評価者により面接される。存在する症状に関して、支援者/介護者は、各症状の頻度、重症度、及び苦痛を評価する。合計スコア及び介護者の苦痛スコアが計算される。高いスコアは、より重篤な精神病理学を示す。
【0103】
NPI評価は、来院2(ベースライン/1日目)の投与前、来院5(12週目)の投与後、及び来院8/ET(26週目)で投与後に実施される。
【0104】
3.健康関連の生活の質
EuroQol群5次元5レベル質問票(EQ-5D-5L)
EQ-5D-5L健康質問票(The EuroQol Group、1990)は、0~100の垂直視覚アナログスケール(VAS)で現在の健康状態の自己評価を取得するための簡単な方法を提供する標準化された手段である(Kind、1996年)。VASの高いスコアは、良好な健康状態を示す。
【0105】
EQ-5D-5L健康質問票(プロキシバージョン1)は、来院2(ベースライン/1日目)の投与前及び来院8/ET(26週目)の投与後に完了する。
【0106】
4.介護者の負担/リソース利用/薬経済的変数
Zarit介護負担スケール(ZBI)
ZBIは、認知症に罹患する対象の介護者が経験するストレスを反映するように特別に設計された22項目の質問票である(Zarit、1980)。支援者/介護者は、対象の障害が生活に与える影響に関する質問に答える。個々の項目のスコアは、0~4の範囲であり(まったくない、めったにない、時々、かなり頻繁に、及びほぼ常に)、合計スコアは、0~88の範囲であり;高いスコアは、より高い程度の介護者が感じる負担またはストレスを反映する。
【0107】
ZBI評価は、来院2(ベースライン/1日目)の投与前及び来院8/ET(26週目)の投与後に実施される。
【0108】
認知症におけるリソース利用(RUD-Lite(登録商標))
RUD機器は、介護者の負担を評価し、ADに関連する薬経済学的データを提供するように設計される(Wimo、1998)。この研究で使用されたRUD-Lite(登録商標)は、ベースライン質問及び追跡質問を含む。介護者関連の質問は、介護者の説明(人口統計情報)及び対象の介護に費やした時間及び勤務状況の変化を含む。対象関連質問は、居住状況及び健康管理リソースの利用を含む。RUDに含まれる医療リソースの介護者関連の使用は、RUD-Lite(登録商標)の一部ではないことに留意すべきである。
【0109】
RUD-Lite(登録商標)評価は、来院2(ベースライン/1日目)の投与前及び来院8/ET(26週目)の投与後に実施される。
【0110】
F.評価のスケジュール及び順序
研究は、最長28日間のスクリーニング(-28日目~-1日目)、それに続く、26週間の二重盲検処置及び4週間の安全性追跡からなる。注記:28日がスクリーニング期間を完了するのに不十分である場合は、継続の可能性は、医療監視と協議することができる。
【0111】
対象の認知状態を評価する臨床転帰評価では、一般的な順序に従わなければならない:
(1)MMSE
(2)ADAS-Cog11
(3)COWAT
(4)ADCS-CGIC
【0112】
ベースライン/1日目(来院2)では、投与前に他の全ての評価前に、MMSEを最初に行わなければならない。
【0113】
MMSE評価は、20週目(来院7)及び26週目(来院8)の投与後約30分(±15分)で、他の全ての臨床転帰評価の前に最初に実施される。
【0114】
ADAS-Cog11及びCOWATの評価は、最初のベースライン/1日目の評価中に実施されたのとほぼ同じ時間(午前中)の来院時に生じるものである。ADAS-Cog11及びCOWATの評価は、ベースライン/1日目(来院2)の投与前、ならびに、2週目(来院3)、6週目(来院4)、12週目(来院5)、20週目(来院7)、及び26週目(来院8)の投与後約1時間(±30分);ならびに、追加で、安全性追跡(来院9;投与なし)で実施される。
【0115】
ADCS-CGIC評価は、ベースライン/1日目(来院2)、投与後12週目(来院5)、及び26週目(来院8)の個別のADAS-Cog11及びCOWAT評価時間の隣接時間で編成される。
【0116】
PK血漿試料は、ベースライン/1日目(来院2)の投与後;12週目(来院5)及び26週目(来院8)の投与前及び投与後に収集される。投与前のPK試料は、投与前のいつでも収集される。投与後のPK試料は、現実的には、投与後30分間~120分間のいつでも収集される。実際の投与時間及びPKサンプリング時間が記録される。
【0117】
他の全ての評価項目の評価の順序は、フレキシブルである。
【0118】
G.統計的方法
統計分析計画(SAP)が発行され、これは、以下に概説される分析の詳細な方法を提供する。
【0119】
分析の集団
MITT集団
修正包括解析(mITT)集団は、治験薬を少なくとも1つの用量を摂取し、少なくとも1回のベースライン前来院中にADAS-Cog11及びADCS-CGICの両方の評価を完了した全ての無作為化対象を含む。対象は、無作為化された用量に従って分析される。
【0120】
プロトコール毎の集団
プロトコール毎の集団は、26週間の処置中に割り当てられた治療薬を摂取し、少なくとも1回のベースライン後来院中に、ADAS-Cog11及びADCS-CGICの両方の評価を完了し、任意の主要なプロトコールからの逸脱がなかった全てのmITT対象を含む。対象は、実際に受けた処置に基づいて分析される。
【0121】
安全性集団
安全性集団は、治験薬を少なくとも1つの用量を摂取した全ての無作為化された対象を含む。対象は、実際に受けた処置に基づいて分析される。
【0122】
一般的な考慮事項
連続変数の記述統計は、別途記載のない限り、対象数(n)、相加平均、標準偏差、中央値、最小値、最大値、ならびに第1四分位数及び第3四分位数の制限を含む。カテゴリー変数の頻度及びパーセンテージが計算される。
【0123】
ベースラインからの変化は、その後の任意の来院時の観察値からベースラインスコアを減算することにより計算される。安全性の概要では、最後の無作為化前の測定値は、ベースライン値として定義される。有効性測定値の場合、ベースラインは、最後の無作為化前の測定値として定義される。
【0124】
パーセンテージは、AE要約表の所定の集団における各処置群の対象数、さらに、病歴、事前の薬及び併用薬の全体に基づいている。他の全ての表では、パーセンテージは、各処置群及び所与の集団全体における欠損データのない対象の数に基づいている。
【0125】
有効性分析
主要有効性分析-GST
主要有効性仮説は、ATH-1017による処置が、mITT集団における26週目のプラセボ群と比較した、(ADAS-Cog11スコア及びADCS-CGICスコアを組み合わせる)グローバル統計検定スコア(GST;O’Brien、1984)のベースラインからの変化の統計的に有意な低減をもたらすことである。主要分析は、プラセボと2つの処置群(40mgのATH-1017及び70mgのATH-1017)のそれぞれの間に差がないという統計的仮説を検証する。
【0126】
主要分析は、GSTスコアにおける積極的処置とプラセボ間の推定されたベースラインからの変化を比較するために、反復測定混合モデル(MMRM)を使用する。この分析は、MMRMモデルの最小二乗平均推定値を使用して、26週間の処置群とプラセボ間で推定GST値に違いがあるかどうかを評価し、モデルにおいて、ベースライン、時間によるベースライン交互作用、及び時間による処置によるベースライン交互作用の項目を含む。ApoE遺伝子型、部位(グループ化された小さな部位を含む)、年齢、及びMMSEスコアに関する追加の用語が含まれる。最小二乗平均及び標準誤差は、26週目にMMRMモデルから推定される。主要分析に関するさらなる詳細は、SAPに記載されている。
【0127】
副次有効性分析-ADAS-Cog11及びADCS-CGIC
ADAS-Cog11及びADCS-CGICの個別の重要な副次有効性評価項目は、主要評価項目の分析に使用されたのと同じMMRMモデルを使用して分析される。ADCS-CGICが、既にベースラインとの比較であるので、計算されたベースラインからの変化の代わりに、絶対スコアが分析に使用される。
【0128】
共通主要評価項目及び複数回投与間の家族毎のα誤差を、両側レベル0.05で保持するゲートキーパー方策が使用される。Hochberg手順後のGSTの主要分析で所定の用量について有意性が0.05で得られる場合、その用量でのADAS-Cog11及びADCS-CGICの副次有効性評価項目(0.05で共通の主要評価項目でもある)について検査を進行し得る。両方の用量が、主要分析で有意性を達成する場合、用量は、順番に分析され、その結果、順番の最初の用量が有意性を達成する場合、順番の2番目の用量が有意であると単に宣言することができる。並び順は、主要分析で達成された有意水準で決定される。すなわち、GSTの検査が副次分析の並びの最初にある場合、用量は、p値が低い。
【0129】
ADAS-Cog11及びADCS-CGICの両方が、分析された最初の用量についてαレベル0.05で有意である場合、研究は、共通の主要評価項目を有する重要な研究と考えられる。次に、他の用量は、検査される最初の用量で使用されるものと同じ方策を使用して、両方の共主要評価項目についてプラセボと比較される。さらに、プールされた積極的処置をプラセボと比較する探索的分析が実施される。
【0130】
追加の評価項目は、以下の順序で、階層(ゲーティングされた)アプローチで検査される:ADCS-ADL23、NPI、MMSE、COWAT、EQ-5D-5L、ZBI、及びRUD-Lite(登録商標)。
【0131】
米国以外の目的の場合、日常生活活動の評価項目(ADCS-ADL23についてプラセボと比較した26週目のベースラインからの変化)は、ADCS-CGICの代わりに重要な副次評価項目として機能し得る。
【0132】
サブグループ分析
サブグループ分析(例えば、性別、年齢、MMSEスコア、ApoE遺伝子型)は、mITT集団で実施される。
【0133】
H.結果
ATH-1017による処置は、許容可能な安全性及び忍容性を有しながら、主要、副次、または探索的評価項目のうちの1つ以上を達成する。
【0134】
実施例2:軽度~中等度のアルツハイマー病に罹患する対象におけるATH-1017を評価するトランスレーショナル研究
A.研究設計の概要
ATH-1017のヒト臨床研究では、健常若年対象に、2、6、20、40、60、及び90mgを単回SC投与すること、ならびに、健常高齢対象に、20、40、60、及び80mgを(SC、OD、連続9日間以上)複数回投与すること、ならびに、AD対象に、40mg(SC、OD、連続9日間以上)を複数回投与することは、安全で忍容性が高かった。注射部位の反応は、疼痛、そう痒症、及び/または紅斑を含み、本質的には軽度であり、特別な治療なしで治癒した。非臨床研究で特定された肝毒性の潜在的なリスクは、ヒト研究では観察されていないが、この研究では厳密に監視される。現在までに、CNSに特有の有害事象は、ヒトでは観察されていない。
【0135】
これは、McKhann、2011に従った「予想される」レベルで診断された軽度~中等度のADの臨床診断を有する対象において、40mg/日のATH-1017及び70mg/日のATH-1017をプラセボと比較する、第2相多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群用量範囲探索研究である。研究は、オーストラリア及び米国の合計約14のセンターで実施される。対象及びその介護者は、インフォームドコンセントフォーム(ICF)に署名する必要があり、スクリーニング期間中に選択/除外基準に照らして評価され;全ての適格な対象は、ApoE遺伝子型について検査される。全ての選択/除外基準を満たす対象は、2回の別々のベースライン来院時にベースラインEEG評価(ERP P300及びqEEG)を受ける。最初のベースライン来院(来院2a、ベースライン前、-5日目~-3日目)時に、ミニメンタルステート検査(MMSE)が最初に実施され、続いて、約2時間離れた2つの別々の時点でEEG評価(ERP P300及びqEEG)が実施される(投与なし)。EEGデータは、プレベースライン来院(来院2a)の完了直後に品質チェックのためにアップロードしなければならない。2回目のベースライン来院(来院2b、ベースライン、1日目)時、ベースライン前来院後6日以内に、対象は、1:1:1の比で、3つの並行群、積極的処置(40mg/日のATH-1017もしくは70mg/日のATH-1017)またはプラセボのいずれかに無作為化される。無作為化中に、対象は、MMSE重症度:軽度(MMSE:20~24)対中等度(MMSE:14~19)のスクリーニングにより層別化される。このベースライン来院(来院2b)時に、対象は、投与前のベースライン及び投与後のEEG評価(ERP P300及びqEEG)を受ける。
【0136】
治験薬は、好ましくは、日中までにSC注射ODにより投与される。8時間以内に複数用量を摂取してはならない。治験薬の最初のSC注射は、現場で、監督下で行われる。対象は、その後の来院日に治験薬の投与を控えるべきであり;研究薬の投与は、これらの来院時に施設スタッフの監督下、現場で行われる。各対象は、監督するか、または、必要に応じて、全てのプロトコール要件に従って、治験薬を投与し、及び研究全体を通して対象の状態を評価する責任を自発的に受け入れる主要介護者を有する必要がある。二重盲検処置期間中、来院は、1日目以降の2、6、12、16、20、及び26週目に行われ、安全性の追跡来院は、30週目の二重盲検期間の完了の4週間後に予定されている。対象は、26週目まで各ベースライン後来院(投与前及び投与後の時点)ならびに30週目の安全性追跡来院時に、EEG評価(ERP P300及びqEEG)を受ける。最初の投与の完了後の1日目に、対象は、処置後の安全性観察のため現場に2時間留まる。認知能力の顕著な日内変動が、ADで観察されている(Hilt、2015)ので、ADAS-Cog11及びCOWATの評価は、最初のベースライン評価中に実施されたのとほぼ同じ時間(午前中)の来院時に生じるものである。同様に、ADCS-CGIC評価は、個々のEEG評価時間の隣接時間で編成される。対象は、継続的な介護の必要なく、自宅、高齢者向け住宅環境、または施設環境で生活し得、生活条件の変化(例えば、施設への収容、別の都市への引っ越しなど)または試用期間への参加中に主要介護者の変更を経験する可能性が低いようにするべきである。研究の終了は、安全性追跡来院日、来院9/30週目として定義される。来院8より前に終了した対象は、来院8/早期終了(ET)と同じ評価を完了することになる。
【0137】
独立したデータ安全性監視委員会は、研究対象の安全を確保するために、研究全体を通して非盲検安全性データ(AE、臨床、ECGなど)の定期的なレビュー及び評価を実施する。
【0138】
ATH-1017及びATH-1001の血漿濃度を分析するために、予定された来院時(1日目、12週目、及び26週目)に採血が行われる。
【0139】
参加施設では、26週間の非盲検継続が提供される。
【0140】
B.対象集団
研究は、主要評価項目の分析に合計約60人の評価可能な対象を含むために、約75人の対象を、1:1:1の比で40mgのATH-1017群、70mgのATH-1017群、及びプラセボ群の対象に無作為化した。
【0141】
選択基準
研究に参加する対象は、以下の選択基準を全て満たさなければならない。
1)インフォームドコンセントへの署名時点で55~85歳(端点を含む)。
2)軽度~中等度のAD認知症の対象。
a)スクリーニング時のMMSEスコア14~24(端点を含む)
b)スクリーニング時の臨床的認知症評価(CDR)スケールの全般的スコア1または2
3)改訂されたNational Institute on Aging-Alzheimer’s Association基準による、認知症(おそらくADによる)の臨床診断(McKhann 2011):
a)スクリーニング前12ヶ月以内に実施された核磁気共鳴画像法(MRI)またはコンピューター断層撮影法(CT)スキャン(医療監視の承認のある、MRIが安全ではない心臓ペースメーカーを装着しているか、または他の関連する医学的理由がある対象の場合)(他の任意の重大な併存する中枢神経系の病変を伴わないADによる認知症の診断と一致している所見がある)そのようなスキャンが利用できないか、または12ヶ月以上経過している場合、無作為化前に診断を確認するためにスキャンを繰り返さなければならない。
b)スクリーニング前の12ヶ月以内に記録された臨床症状の低下、及びスクリーニングの少なくとも12ヶ月前の症状の発症(好ましくは、対象の医療記録;例を含む介護者の報告書は許容される)。
4)8年以上の正式な教育(研究者の判断時に教育期間が8年未満の教育のある対象のために、例外が行われ得る)
5)スクリーニング時の肥満度指数(BMI)が18kg/m2以上且つ35kg/m2以下(BMI許容範囲外で、16kg/m2以上且つ37kg/m2以下のBMIを有する対象は、スポンサーの事前の同意がある場合にのみ登録し得る)。
6)男性対象及びそのパートナーは、パートナーが妊娠の可能性がない場合を除き、追跡期間を含む研究中、二重障壁の避妊方法を使用することに同意しなければならない。妊娠の可能性のない女性対象(すなわち、永久不妊、閉経後)のみに、参加資格がある
7)処置を監督するか、または、必要に応じて、全てのプロトコール要件に従って、治験薬を投与し、及び研究全体を通して対象の状態を評価する責任を自発的に受け入れる信頼でき有能な支援者/介護者。支援者/介護者は、用量投与及び/または観察のために少なくとも1日1回対象と面会し、少なくとも4日間/週に、対象と約4~6時間の日中の接触を有する。
8)以下のように定義される、処置なし、または安定したアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)処置を受けている:
a)処置されていない、または
b)AChEIとの併用療法は、用量がスクリーニング前の3ヶ月間安定していて(EC#25bを参照)、研究中に変更が計画されていない限り許容される、または
c)過去にAChEIを受け、スクリーニングの少なくとも4週間前に中止した対象。
9)ICF及びこのプロトコールに記載されている要件及び制限への準拠を含む、署名されたインフォームドコンセントを与えることが可能な対象。対象が研究者の判断でインフォームドコンセントを与えることが不可能な場合、法定代理人により同意が与えられ得る。
10)a)対象または法定代理人、及び、b)研究の適格性を評価する手順を開始する前を含む、研究関連手順の前に得られている介護者/支援者、からの書面によるインフォームドコンセント。
11)書面による文書は、該当する場合、関連する国及び地域のプライバシー要件に従って取得されている(例えば、健康及び研究研究情報の使用及び公開に関する書面による許可)。
12)対象及び介護者/支援者は、研究者に評価される場合、自主的に研究の指示に従うことが可能であり、必要な研究来院を全て完了する可能性が高い。
13)対象は、病歴及び身体的/神経学的検査、バイタルサイン、ECG、及び標準的な臨床検査から研究者に評価される場合、一般に良好な健康状態にある必要がある。
【0142】
除外基準
以下の基準のいずれかを満たす対象は、研究から除外される:
1)認知力に影響を与えるか、または認知症の発症と同時に生じ得る、AD以外の重大な神経疾患の病歴。
2)原因不明の意識喪失及びてんかん発作(発熱性でない限り)の病歴。
3)対象は、病歴から知られている場合、非定型亜型症状のAD、特に、非健忘型ADを患っている。
4)限定されないが、多発性(10を超える)微小出血、重度の白質高信号域、1cm3を超える単一の以前の出血の病歴または証拠、多発性(3を超える)ラクナ梗塞または1cm3を超える単一の以前の梗塞の証拠、脳挫傷、脳軟化症、動脈瘤、血管奇形、硬膜下血腫、または空間占有性病変(例えば、脳腫瘍)の証拠を含む他の任意の重大な以上を示す脳MRIスキャンの病歴。既知の髄膜腫が1年超安定しており、対象は、いかなる種類の痙攣の病歴もない場合、医療監視との相談の後、これが許容され得る。注記:スキャンがスクリーニングの12ヶ月超前に実施された場合、新たなMRIスキャンが必要であり;過去12ヶ月以内に対象の臨床症状に何らかの変化があった場合、反復MRIスキャンが必要である。CTスキャンは、MRI安全でない心臓ペースメーカーを装着している対象、または他の関連する医学的理由により、医療監視の承認があれば許容される。
5)中央で提供されたEEG装置を使用して、聴覚ERP P300の評価に必要な2つの異なる音を聞くことも、区別することもできない;補聴器は、スクリーニング聴力検査中及び脳波記録中は取り外す必要がある。
6)精神病的特徴がなくても、現在の重度の大うつ病性障害の症状があるとの診断。形式的な妄想または幻覚を伴ういかなる対象も除外される。
7)スクリーニング時の7を超える老年期うつ病スケール(GDS)スコア(15項目スケール)。医療監視との協議では、GDSスコアが8~10(端点を含む)の対象は、スコアの増加が、大うつ病ではなく、パンデミック及びその制限に関連する特定の領域により引き起こされている場合、研究への参加を考慮することができる。
8)過去12ヶ月以内のコロンビア州の自殺重症度評価スケール(C-SSRS)に基づいた自殺念慮で定義される重大な自殺リスク、スクリーニング時及び1日目(すなわち、質問4または5に対する「はい」の回答、または特定の行動)。
9)スクリーニングから2年以内の病歴、または精神病(米国精神医学会2000年)または中等度の薬物乱用障害(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,Fifth Editionによる)の現在の診断。
10)研究者の判断で臨床的に関連がある場合、ビタミンB12または葉酸欠乏症、甲状腺機能低下症、糖尿病、低血圧、または高血圧を含む未処置の状態。処置される場合、スクリーニング前の少なくとも6ヶ月間、処置が安定し、症状がなくなっていなければならない。
11)臨床的に重要な血清電解質(カリウム、ナトリウム、マグネシウム)の異常。処置される場合、スクリーニング前の少なくとも30日間、安定した処置されなければならない。
12)あらゆる種類の活動性、急性、または慢性の感染症。
13)過去6ヶ月以内の心筋梗塞もしくは不安定狭心症、またはスクリーニング前5年以内の複数の心筋梗塞の病歴。
14)臨床的に重大な(研究者の判断で)不整脈(心房細動を含む)、心筋症、または心臓伝導障害(注記:ペースメーカーは許容される)。
15)研究者の判断で、対象は、高血圧症(仰臥位拡張期血圧が95mmHgを超える)、または症候性低血圧症のいずれかを患っている。
16)限定されないが、男性の場合450ミリ秒以上、女性の場合470ミリ秒以上である、フリデリシアの式(QTcF)値を使用して確認された修正QT間隔を含む、スクリーニング時の臨床的に重大なECG異常。QTcF読み値が境界線にあるか、または例えば、分岐脚ブロックの存在、により解釈が困難であるか、またはT波及びU波が重畳もしくは接続されている場合、医療監視と協議して、適格性を決定するために、同じECGデバイスを使用した手動の局所読み値を考慮する必要がある。QRS値が120ミリ秒超の対象では、QTcF値が500ミリ秒未満の対象は、医療監視との協議後に、適格となり得る。
17)B型肝炎(B型肝炎表面抗原[HBsAg])、C型肝炎(抗C型肝炎ウイルス[HCV]抗体)またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)(抗体1型及び2型)の病歴、またはその血清学スクリーニングの陽性結果。
18)腎不全(2.0mg/dLを超える血清クレアチニン)。
19)正常上限の2倍を超えるか、またはチャイルドピュークラスB及びCのアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)による肝障害。
20)研究者の判断で安定している以下の状態を除く、スクリーニング前3年以内の悪性腫瘍:
a)適切に処置された扁平上皮癌及び基底細胞癌、または上皮内扁平上皮癌及び基底細胞癌
b)上皮内前立腺癌。
21)スクリーニングから12ヶ月以内の(研究者の判断による)臨床的に重大な意図的でない体重減少。
22)グレープフルーツまたはグレープフルーツ含有製品の摂取は、治験薬の初回投与(1日目)の最初の7日前から及び研究期間中に禁止されている。
23)Axona及び中鎖トリグリセリド(MCT)などの、認知力に影響を与える可能性のある栄養補助食品及び栄養補助食品は、治験薬の初回投与(1日目)の7日前から及び研究期間中に禁止されている。
24)テトラヒドロカンナビノール(THC)は、治験薬の初回投与(1日目)の4週間前から及び研究期間中に禁止されている。THCを含まないカンナビジオール(CBD)は、許容されるが、局所適用を除いて、来院日には許可されていない。CBDの使用は、併用薬として記録されるべきである。
25)スクリーニング前の4週間以内に禁止されている事前の薬及び併用薬は除外される。許可された全ての薬剤は、依然として、研究全体を通して安定していなければならない;認知力に影響を与える薬剤の場合、別途記載のない限り、スクリーニング前の少なくとも4週間及び研究全体にわたって、用量は安定していなければならない。(これは、完全なリストではない;特定の薬剤の許容性に疑問がある場合は、無作為化前に、医療監視に問い合わされたい):
a)あらゆる形態、組み合わせ、または投薬量のメマンチン
b)23mgの経口投与のドネペジル
c)抗精神病薬;低用量の抗精神病薬(研究者の判断による)は、睡眠障害、興奮、及び/または攻撃性のために投与される場合にのみ、ならびに、対象がスクリーニング前の少なくとも3ヶ月間継続投与を受けている場合にのみ許容される。これらの治療薬は、PRNベースで摂取する場合、任意の認知機能検査の前夜に摂取すべきではない。
d)三環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、及びS-ケタミン:他の全ての抗うつ薬は、対象がスクリーニング前の少なくとも3ヶ月間継続投与を受けている場合にのみ許容される。
e)高用量の抗不安薬;低用量のベンゾジアゼピンは、研究者の判断で許容されるが、任意の認知評価の前夜には許容されない。
f)鎮静催眠薬;ゾルピデムは、許容される。
g)バルビツール酸塩(良性振戦のために低用量で投与しない限り)
h)ニコチン療法(パッチを含む)、バレニクリン(Chantix)、または類似の治療薬
i)コリン作動性神経伝達に影響を与える末梢作用薬。ソリフェナシンは、対象がスクリーニング前に少なくとも3ヶ月間継続投与を受けている場合に許容される。
j)研究者の判断で、臨床的に免疫抑制用量を摂取する場合の全身免疫抑制剤(注記:アレルギーまたは他の炎症に対する免疫抑制剤の使用、例えば、吸入ステロイド、耳用薬、眼科薬、スキンクリーム、及び関節内注射は許容される)
k)抗てんかん薬物療法
l)オピオイド含有鎮痛薬の慢性摂取;PRNの使用は、許容される(但し、認知評価前の72時間以内は許容されない)
m)鎮静性H1抗ヒスタミン薬;非鎮静性H1抗ヒスタミン薬は、許容され、好ましい。
n)全身性の中等度~強度のシトクロムP450 3A4(CYP3A4)阻害薬または誘導薬;局所適用は許容される。
26)治験薬もしくはデバイスの研究に現在登録している、またはスクリーニングから4週間以内、または5半減期のいずれか長い方、またはAD治験薬の場合は、スクリーニングから6ヶ月以内に、治験薬を用いる別の臨床試験に参加したことがある。
27)対象は、能動アミロイドもしくはタウ免疫(すなわち、アルツハイマー病のワクチン接種)、またはスクリーニングから6ヶ月以内に受動免疫(すなわち、アルツハイマー病のモノクローナル抗体)を受けている。FDAが承認した他の適応症のワクチン接種またはモノクローナル抗体は、許容される。
28)対象は、ATH-1017のいずれかの構成成分に対して既知のアレルギーを有する。
29)対象は、研究者の意見で、対象を重大な危険にさらし得るか、研究結果を混乱させ得るか、または対象の服薬遵守もしくは研究への参加を著しく妨げ得る状態または状況にある。
【0143】
最初の研究集団は、軽度~中等度のアルツハイマー病認知症を有する77人の対象を含んでいた。対象の年齢は、55~85歳の範囲に及んでおり、CDRスケールのグローバルコアが1または2であり、MMSEスコアが14~24である。ベースライン患者背景が下表に示される。
【0144】
C.医薬品
40mgのATH-1017のプレフィルドシリンジは、10mMのリン酸ナトリウム及び0.5%のNaClの溶液中の40mg/mLのATH-1017 1.0mLを含有する。70mgのATH-1017のプレフィルドシリンジは、10mMのリン酸ナトリウム溶液中の70mg/mLのATH-1017 1.0mLを含有する。プラセボのプレフィルドシリンジはそれぞれ、10mMのリン酸ナトリウム及び1.1%のNaClの溶液1.0mLを含有する。全ての溶液は、約7.6のpHに調整される。
【0145】
ATH-1017及びプラセボは、皮下投与される。
【0146】
D.評価項目
この研究の主要目的及び評価項目は、以下である:
【0147】
【0148】
【0149】
E.スクリーニング評価
1.ミニメンタルステート検査(MMSE)
ミニメンタルステート検査(MMSE)(Folstein、1975)は、短い一連の検査で、記憶、見当識、及び実践を評価する全体的な認知機能の広く使用される検査である。スコアは、0~30であり、30が可能な限り最高のスコア、0が可能な限り最悪のスコアである。MMSEは、対象適格性に関して14~24(端点を含む)のスコアを有するスクリーニング時及びベースライン前の来院時(来院2a、-5日目~-3日目)に行われる。ベースライン前来院(来院2a、-5日目~-3日目)では、他の全ての評価の前に、MMSEを最初に行わなければならない。
【0150】
2.臨床的認知症評価スケール(CDR)
臨床的認知症評価スケール(Hughes、1982)は、6つのカテゴリー:記憶、見当識、判断力及び問題解決、地域社会の事情、家庭及び趣味、ならびにパーソナルケアで評価されたAD対象の機能の全般的評価である。それは、対象及び介護者に対して行われた半構造化面接に基づいている。各カテゴリーは、0(症状なし)~3(重篤)のスコアを有し、これから、全体的なCDRグローバルスコアが導出される。CDRは、スクリーニング来院時に投与され、対象の適格性には、1または2のスコアが必要である。
【0151】
3.音声スクリーニング
簡単な聴力検査は、対象が、中央で提供されたEEG装置を使用して、聴覚ERP P300手順に参加するのに十分な聴力、すなわち、2つの異なる音を聞いて識別する能力、を有することを文書化する目的で、スクリーニング来院時に実施され;補聴器は、スクリーニング聴力検査中及び脳波記録中は取り外す必要がある。
【0152】
薬力学的変数
薬力学的変数は、約20分間にわたって実施されるERP評価(ERP P300及びqEEG)からなり、ERP P300がqEEGの前に実施される。
【0153】
ベースライン前来院(来院2a、-5日目~-3日目、投薬なし)では、EEG評価(ERP P300及びqEEG)が約2時間間隔で2回実施される。EEGデータは、プレベースライン来院(来院2a)の完了直後に品質チェックのためにアップロードしなければならない。
【0154】
ベースライン/1日目(来院2b)では、EEG評価(ERP P300及びqEEG)は、クリニックで、ADAS-Cog11及びCOWATのベースライン評価の完了後且つADCS-CGIC評価前の投与前(投与の最大1.5時間前)に実施される。EEGは、投与後(ATH-1017投与の約2(±1)時間後)に評価される。
【0155】
来院3、来院4、来院5、来院6、来院7、及び来院8では、EEG評価(ERP P300及びqEEG)がクリニックで投与前(投与から最大1時間前)に実施される。EEGは、ADAS-Cog11及びCOWAT評価の完了後且つADCS-CGIC評価の前の投与後(ATH-1017投与の約2(±1)時間後)に評価される。
【0156】
安全性追跡(来院9、投与なし)では、ADAS-Cog11及びCOWATの完了後に、EEG評価(ERP P300及びqEEG)が実施される。
【0157】
1.ERP P300
ERP P300は、外部刺激、例えば、奇妙な聴覚刺激、により引き起こされる脳活動を記録する方法であり、特に、作業記憶アクセスの十分に確立された機能的バイオマーカーである(Ally、2006)。ERP P300は、カウントされるべきそれぞれの不自然な口調の後に発生する定型的な一連の電圧偏向を特徴とし、初期の特徴(<100ミリ秒)は、無意識の感覚伝達(聴覚皮質、N100)に対応し、腹側注意ネットワークにおける認知処理により生じる後の特徴、すなわち、P300は、健康な成人(若者または高齢者)における約300ミリ秒の大きな正の偏向を指す。P300潜時は、AD患者及び他の認知症の認知機能低下に関連するシナプス伝達の低減の検出に敏感である(Olichney、2011)。
【0158】
P300波(潜時及び振幅)を評価するために、対象は、聴覚刺激に関連するタスクを実施しなければならない。刺激は、2つの音刺激による奇妙なパラダイムから構成される。刺激は、ヘッドフォンを通して提示され、P300の聴覚刺激は、最大10分間の録音で評価される。
【0159】
2.qEEG
薬理学的薬剤によるEEGサインの変調は、CNS浸透を示し、標的の関与を示唆する。qEEGは、前臨床研究から臨床研究までの非侵襲性トランスレーショナルバイオマーカーとして機能することが示されている(Leiser、2011)。
【0160】
qEEG手順は、対象が静かな環境で、半座位(安静状態)で実施される。各時点では、自発EEGは、5分間「目を閉じて」次に5分間「目を開けて」、記録される。0.5~58.0Hzの0.5Hz帯域の絶対振幅及び/または相対振幅のスペクトル分析が実施される。結果は、脳マップ表現を使用してグラフで提示される。
【0161】
他の変数
各評価スケールで指定されているように、資格を持ち、訓練を受け、認定された評価者が、研究対象及び/または専任の支援者/介護者に質問表を実施する。評価者のトレーニング及び認定(該当する場合)が、標準化された方法で行われ、必要に応じて、繰り返される。
【0162】
ADAS-Cog11及びCOWATの評価は、最初のベースライン/1日目の評価中に実施されたのとほぼ同じ時間(午前中)の来院時に生じるものである。
【0163】
1.認知変数
アルツハイマー病評価スケール-認知サブスケール(ADAS-Cog11)
ADAS-Cog11は、ADに罹患する対象の認知症状の変化を測定するように設計される(Rosen、1984)。標準的な11項目は、単語の想起、命令、構成の練習、物体及び指の名前の付け方、観念の練習、見当識、単語の認識、話し言葉の能力、話し言葉の理解、喚語困難、ならびに検査指示の記憶である。検査は、7つのパフォーマンス項目及び4つの臨床医評価項目を含み、合計スコアは、0(機能障害なし)~70(重度の機能障害)の範囲である。従って、スコアが高いほど、より重度の認知障害を示す。
【0164】
認知能力の既知の日内変動のために(Hilt、2015)、ADAS-Cog11は、全ての適切な来院のベースライン評価とほぼ同じ時間(午前中)に評価される。
【0165】
ADAS-Cog11評価は、投与前の来院2b(ベースライン/1日目)、及び投与後約1時間(±30分)の来院3(2週目)、来院4(6週目)、来院5(12週目)、来院7(20週目)、来院8/ET(26週目)、及び来院9(安全性追跡;投与なし)で実施される。
【0166】
統制発語連合検査(COWAT)
統制発語連合検査(COWAT)は、対象が所与の文字で始まる考えられ得る全単語を言うことにより、対象がアルファベットの様々な文字を口頭で連想することを要求される口頭言語流暢性検査である。個体は、1分間が与えられ、文字のそれぞれで始まる可能な限りの多くの単語を挙げる。次に、残りの2文字に対して手順が繰り返される(Benton、1994;Strauss、2006)。検査スコアは、3文字全てに対して生成された異なる単語の合計数である。
【0167】
COWATは、ADAS-Cog11評価に隣接して、すなわち、来院2(ベースライン/1日目)の投与前、ならびに来院3(2週目)、来院4(6週目)、来院5(12週目)、来院7(20週目)、来院8/ET(26週目)、及び来院9(安全性追跡;投与なし)の投与後約1時間(±30分)に実施される。
【0168】
2.病状
Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Clinical Global Impression of Change(ADCS-CGIC)
Alzheimer’s Disease Cooperative Study-状態に(ADCS-CGIC)スケールは、臨床医に、介入開始時のベースライン状態と比較した、対象の病気がどれだけ改善または悪化したかの評価を要求し、以下の査定をされる7段階スケールである:1、著しく改善;2、中等度に改善;3、最小限の改善;4、変化なし;5、最小限に悪化:6、中等度に悪化;または7、著しく悪化。ADCS-CGICは、3つの部分からなる:対象及び介護者/支援者に実施されるガイド付きベースライン面接、対象及び介護者/支援者に実施される追跡面接、ならびに臨床医の評価レビュー(Schneider、1997)。研究の開始時に、ADCS-CGICベースラインフォームをガイドラインとして使用して、ADCS-CGIC評価者は、対象の状態の総合的な臨床印象を取得し、自らの裁量で正式な検査を適用し、対象の状態に関する個人的な記録をとることができ;これらは、将来の変更評価の参考として機能する。ADCS-CGICは、依然として、対象の安全性、認知的及び機能的結果とは無関係であり、この研究のために訓練及び認定された熟練した臨床医により投与される。ADCS-CGIC評価者は、理想的には、依然として、全てのADCS-CGIC評価に対して同じ者である。
【0169】
ADCS-CGIC評価は、ADAS-Cog11及びCOWAT評価に隣接して、来院2b(ベースライン/1日目)の投与前、来院5(12週目)の投与後、及び来院8/ET(26週目)の投与後に実施される。
【0170】
Alzheimer’s Disease Cooperative Study-日常生活活動、23項目バージョン(ADCS-ADL23)
ADCS-ADL23(Galasko、1997)は、支援者/介護者に実施される日常生活活動に関する機能障害の23項目の評価である。それは、日常生活を表す項目にわたる対象の関与及びパフォーマンスのレベルに関する23の質問を含む。質問は、基本的~実践的日常生活活動に及ぶ。各項目は、最高レベルの独立したパフォーマンスから完全な損失まで評価される。合計スコアの範囲は、0~78であり、低いスコアは、大きい機能障害を示す。ADCS-ADL23評価は、来院2bで投与前(ベースライン/1日目)、来院5で投与後(12週)、及び来院8/ET(第26週)で投与後に行われる。
【0171】
神経精神目録(NPI)
NPIは、認知症に関連する精神及び行動障害の、面接に基づいた評価スケールである(Cummings、1994)。支援者/介護者は、12の症状、例えば、妄想、幻覚、興奮/攻撃性、抑うつ/不快感、不安、高揚感/多幸感、無関心/無関心、脱抑制、過敏性/不安定性、異常な運動行動、睡眠及び夜間の行動障害、ならびに食欲及び摂食障害の有無について資格のあるNPI評価者により面接される。存在する症状に関して、支援者/介護者は、各症状の頻度、重症度、及び苦痛を評価する。合計スコア及び介護者の苦痛スコアが計算される。高いスコアは、より重篤な精神病理学を示す。
【0172】
NPI評価は、来院2b(ベースライン/1日目)の投与前、来院5(12週目)の投与後、及び来院8/ET(26週目)で投与後に実施される。
【0173】
3.健康関連の生活の質
EuroQol群5次元5レベル質問票(EQ-5D-5L)
EQ-5D-5L健康質問票(The EuroQol Group、1990)は、0~100の垂直視覚アナログスケール(VAS)で現在の健康状態の自己評価を取得するための簡単な方法を提供する標準化された手段である(Kind、1996年)。VASの高いスコアは、良好な健康状態を示す。
【0174】
EQ-5D-5L健康質問票(プロキシバージョン1)は、来院2b(ベースライン/1日目)の投与前及び来院8/ET(26週目)の投与後に完了する。
【0175】
4.介護者の負担/リソース利用/薬経済的変数
Zarit介護負担スケール(ZBI)
ZBIは、認知症に罹患する対象の介護者が経験するストレスを反映するように特別に設計された22項目の質問票である(Zarit、1980)。支援者/介護者は、対象の障害が生活に与える影響に関する質問に答える。個々の項目のスコアは、0~4の範囲であり(まったくない、めったにない、時々、かなり頻繁に、及びほぼ常に)、合計スコアは、0~88の範囲であり;高いスコアは、より高い程度の介護者が感じる負担またはストレスを反映する。
【0176】
ZBI評価は、来院2b(ベースライン/1日目)の投与前及び来院8/ET(26週目)の投与後に実施される。
【0177】
認知症におけるリソース利用(RUD-Lite(登録商標))
RUD機器は、介護者の負担を評価し、ADに関連する薬経済学的データを提供するように設計される(Wimo、1998)。この研究で使用されたRUD-Lite(登録商標)は、ベースライン質問及び追跡質問を含む。介護者関連の質問は、介護者の説明(人口統計情報)及び対象の介護に費やした時間及び勤務状況の変化を含む。対象関連質問は、居住状況及び健康管理リソースの利用を含む。RUDに含まれる医療リソースの介護者関連の使用は、RUD-Lite(登録商標)の一部ではないことに留意すべきである。
【0178】
RUD-Lite(登録商標)評価は、来院2b(ベースライン/1日目)の投与前及び来院8/ET(26週目)の投与後に実施される。
【0179】
F.評価のスケジュール及び順序
研究は、最大28日間のスクリーニング(-28日目~-6日目)、ベースライン前来院(来院2a、-5日目~-3日目)(この間に、対象は、MMSE評価及び2回のベースラインEEG評価(ERP P300及びqEEG)を約2時間間隔で受ける)、ベースライン(来院2b、1日目、無作為化)、それに続く、26週間の二重盲検処置、及び4週間の安全性追跡からなる。注記:28日がスクリーニング期間を完了するのに不十分である場合は、継続の可能性は、医療監視と協議することができる。
【0180】
重要な評価項目については、投与後の一般的な順序に従うべきである:
(1)ADAS-Cog11
(2)COWAT
(3)EEG評価(ERP P300及びqEEG)
(4)ADCS-CGIC
【0181】
ベースライン前来院(来院2a、-5日目~-3日目)では、他の全ての評価の前に、MMSEを最初に行わなければならない。
【0182】
ADAS-Cog11及びCOWATの評価は、最初のベースライン/1日目の評価中に実施されたのとほぼ同じ時間(午前中)の来院時に生じるものである。ADAS-Cog11及びCOWATの評価は、ベースライン/1日目(来院2b)の投与前、ならびに、2週目(来院3)、6週目(来院4)、12週目(来院5)、20週目(来院7)、及び26週目(来院8)の投与後約1時間(±30分);ならびに、追加で、安全性追跡(来院9;投与なし)で実施される。
【0183】
EEG評価は、ADAS-Cog11及びCOWAT評価の完了直後且つ適切な来院時のADCS-CGIC評価の前に行われるものとする。EEG評価は、ベースライン前(来院2a)、ベースライン/1日目(来院2b)、2週目(来院3)、6週目(来院4)、12週目(来院5)、16週目(来院6)、20週目(来院7)、26週目(来院8)、及び安全性追跡(来院9、投与なし)で実施される。
【0184】
ADCS-CGIC評価は、ベースライン/1日目(来院2)、及び投与後12週目(来院5)、及び26週目(来院8)の個別のEEG評価時間の隣接時間で編成される。
【0185】
PK血漿試料は、ベースライン/1日目(来院2)の投与後;12週目(来院5)及び26週目(来院8)の投与前及び投与後に収集される。投与前のPK試料は、投与前のいつでも収集される。投与後のPK試料は、現実的には、投与後30分間~120分間のいつでも収集される。実際の投与時間及びPKサンプリング時間が記録される。
【0186】
他の全ての評価項目の評価の順序は、フレキシブルである。
【0187】
G.統計的方法
統計分析計画は下記である。
【0188】
分析の集団
MITT集団
修正包括解析(mITT)集団は、治験薬を少なくとも1つの用量を摂取し、少なくとも1回のERP P300ベースライン評価及び1回のベースライン前ERP P300評価を完了した無作為化された全対象を含む。対象は、無作為化された用量に従って分析される。
【0189】
プロトコール毎の集団
プロトコール毎の集団は、26週間の処置中に割り当てられた治療薬を摂取し、少なくとも1回のERP P300+ADAS-Cog11及び/またはCOWATベースライン後評価を完了し、任意の主要なプロトコールからの逸脱はなかった全てのmITT対象を含む。対象は、実際に受けた処置に基づいて分析される。
【0190】
安全性集団
安全性集団は、治験薬を少なくとも1つの用量を摂取した全ての無作為化された対象を含む。対象は、実際に受けた処置に基づいて分析される。
【0191】
一般的な考慮事項
連続変数の記述統計は、別途記載のない限り、対象数(n)、相加平均、標準偏差、中央値、最小値、最大値、ならびに第1四分位数及び第3四分位数の制限を含む。カテゴリー変数の頻度及びパーセンテージが計算される。
【0192】
ベースラインからの変化は、その後の任意の来院時の観察値からベースラインスコアを減算することにより計算される。安全性の概要では、最後の無作為化前の測定値は、ベースライン値として定義される。ERP P300の主要変数では、ベースライン前及びベースライン来院評価がベースライン比較からの変化に使用される。他の測定値の場合、ベースラインは、最後の無作為化前の測定値として定義される。
【0193】
パーセンテージは、AE要約表の所定の集団における各処置群の対象数、さらに、病歴、事前の薬及び併用薬の全体に基づいている。他の全ての表では、パーセンテージは、各処置群及び所与の集団全体における欠損データのない対象の数に基づいている。
【0194】
分析
主要分析-ERP P300潜時
主要分析は、ERP P300潜時における積極的処置とプラセボ間の推定変化を比較するために、反復測定混合モデル(MMRM)を使用する。これらの分析は、2、6、12、16、20、及び26週目に処置群とプラセボ間で推定変化に差があるかどうかを評価する。
【0195】
副次分析
ERP P300のADAS-Cog11及びCOWATとの相関関係
副次分析には、ERP P300潜時と認知力/実行記憶機能の相関関係の評価、ならびにグローバル統計検定(GST)、ADAS-Cog11、ADCS-CGIC、及びADCS-ADL23の処置及びプラセボの比較を含む。
【0196】
探索的分析
探索的評価項目は、主要分析について記載されている同様の統計的方法を使用して検査される。
【0197】
サブグループ分析
サブグループ分析(例えば、性別、年齢、MMSEスコア、AChEIの同時投与、ApoE遺伝子型)がmITT集団で実施される。
【0198】
H.結果
この研究では、処置に関連した重篤な有害事象は、観察されなかった。40mg/日のATH-1017処置群では23人及び70mg/日のATH-1017処置群では24人と比較して、8名の対象が、プラセボ処置群では処置に関連した有害事象を発症した。最も頻度の高い有害事象は、注射部位反応(場合により、好酸球絶対数の一時的且つ無症候性の増加を伴う)であった。77名中11名の対象が早期に終了した(14%)。
【0199】
ACT-AD研究は、40mg及び70mgの用量群のプールされた分析の26週間に、プラセボと比較した場合、混合モデル反復測定(MMRM)分析による修正包括解析(mITT)集団のERP P300潜時における統計的に有意な変化の主要評価項目を満たしていなかった。ADAS-Cog11、ADCS-CGIC、及びADCS-ADL23を含む副次評価項目は、プラセボと比較して処置された対象では有意ではなかった。しかし、驚くべきことに、修正包括解析集団に基づいた事後分析の予備結果は、ATH-1017がAChEI療法と併用するよりも単独療法としてより効果的であることを示唆する。同時のAChEI療法を受けていない患者では、表1に示されるように、ATH-1017による処置は、EPR P300潜時(ミリ秒単位)を安定化または改善した(ベースラインからのP300潜時の減少は、改善を示す)。
【0200】
図1Aは、AChEI療法あり及びなしでプラセボを投与されている患者と、AChEI療法あり及びなしでフォスゴニメトン(ATH-1017)を投与されている患者毎に分類された、研究集団におけるP300潜時のベースラインからの変化を示す。
図1B及び
図1Cは、患者を、同時にAChEI療法を受けている患者及び受けていない患者に分けている。プラセボ+AChEI群(
図1B)は、プラセボ単独(
図1C)と比較して、P300潜時を定性的に安定化させた。フォスゴニメトン(ATH-1017)単独群も、プラセボと比較してP300潜時を定性的に安定化または改善した(
図1C)。
【0201】
同様に、表2に示されるように、ATH-1017による処置は、同時のAChEI療法を受けていない患者のADAS-Cog11スコアを定性的に安定化または改善した(ベースラインからのADAS-Cog11の増加は、悪化を示す)。
【0202】
図2Aは、AChEI療法あり及びなしでプラセボを投与されている患者と、AChEI療法あり及びなしでATH-1017を投与されている患者毎に分類された研究集団におけるADAS-Cogスコアのベースラインからの変化を示す。
図2B及び
図2Cは、患者を、同時にAChEI療法を受けている患者及び受けていない患者に分けている。
【0203】
要約すれば、フォスゴニメトン(ATH-1017)単独療法の修正包括解析集団に基づいた、この事後分析は、26週間(-28ミリ秒)でプラセボと比較してERP P300に潜在的に有益な変化を、26週間でプラセボと比較して認知の改善(ADAS-Cog11(-3.3ポイント)で測定)を示した。
【0204】
この予備分析では、ATH-1017は、AChEIによる単独療法と同様に機能したが、AChEIに関連する重大な有害事象は発生しなかった。これは、ATH-1017が、患者に、AChEIに伴う副作用を軽減させるAChEIの代替療法となり得、これは、高率の有害事象及び低い忍容性を伴うことを示唆する。
【0205】
実施例3:例1及び例2の研究の非盲検継続
A.研究設計の概要
これは、無作為化されたプラセボ対照の二重盲検研究ATH-1017-AD-0201(実施例1に記載)及びATH-1017-AD-0202(実施例2に記載)において26週間の処置を完了した、軽度~中等度のアルツハイマー病(AD)の臨床診断のある対象における、ATH-1017処置の多施設共同非盲検継続(OLEX)研究である(以降「親研究」と呼ばれる)。研究は、米国(US)及びオーストラリア全体で合計約65のセンターで実施される。適格な対象は、親研究から直接ロールオーバーされ、その結果、この研究の来院1(0日目)は、2つの親研究のいずれかからの26週目の来院である。2つの親研究のいずれかの26週目の来院を完了し、この研究の選択/除外基準を満たす全ての対象は、親研究の来院7で得られた安全性結果が別のことを示唆しない限り、70mg/日の用量のATH-1017による非盲検の積極的処置に割り当てられる。この場合には、対象は、このOLEX研究に適格でない。このOLEX期間中はいつでも、非盲検研究処置ATH-1017 70mg/日を許容せず、中止基準を満たさない対象は、ATH-1017の用量を40mg/日に調整することが許容され;医療監視の事前承認が必要とされる。ATH-1017 70mg/日またはATH-1017 40mg/日のいずれにも耐えられない及び/または中止基準を満たす対象は、研究から除外される。
【0206】
研究薬は、好ましくは、日中に、1日1回(OD)皮下(SC)注射で投与される。対象は、親研究の来院8/182日目に施設スタッフの監督下で、施設内で盲検ATH-1017(ATH-1017-AD-0201研究またはATH-1017-AD-0202研究の対象に割り当てられた)の最後の用量を摂取する(すなわち、このOLEX研究の来院1/0日目)。この研究の非盲検ATH-1017の最初の用量は、翌日(来院2/1日目)にクリニックで対象または介護者により投与され、その後、投与後1時間(±15分)の安全性観察ウィンドウがある。対象は、前回の投与から8時間以内に複数用量を摂取してはならない。対象は、来院日に治験薬の投与を控えるべきであり;研究薬の投与は、これらの来院時に施設スタッフの監督下、現場で行われる。各対象は、監督するか、または、必要に応じて、全てのプロトコール要件に従って、治験薬を投与する責任を自発的に受け入れる主要介護者を有する必要がある。非盲検処置期間中、来院は、0日目以降、1日目、2週目、6週目、12週目、18週目、22週目、及び26週目に行われ、電話来院は、1週目(7日目)及び4週目(28日目)に予定されている。安全性追跡来院は、28週目の非盲検期間の完了の2週間後に予定されている。対象は、継続的な介護を必要とせずに、自宅、高齢者向け住宅環境、または施設環境で生活し得る。研究の終了は、安全性追跡来院日、来院11/28週目として定義される。来院10より前に終了した対象は、ET日から2週間以内の来院10/早期終了(ET)と同じ評価を完了することになる。
【0207】
独立したデータ安全性監視委員会は、研究対象の安全を確保するために、研究全体を通して安全性データ(AE、臨床、ECGなど)の定期的なレビュー及び評価を実施する。
【0208】
B.対象集団
対象は、このOLEX研究の処置に無作為化されない。2つの親研究のいずれかの26週目の来院を完了し、研究ATH-1017-AD-0203の選択/除外基準を満たし、2つの親研究のいずれかの来院7で得られた結果から安全性の懸念がない全ての対象は、70mg/日の用量のATH-1017による非盲検の積極的処置に割り当てられる。この研究中に70mg/日のATH-1017を許容しない対象は、用量を40mg/日に調整することが許容されており:医療監視の事前承認が必要となる。
【0209】
最大約300人の対象がこのOLEX研究に参加すると推定されており;対象は、ATH-1017-0201研究及びATH-1017-AD-0202(親研究)からロールオーバーされるであろう。
【0210】
全ての対象は、全ての選択基準を満たさなければならず、除外基準のいずれも満たしてはならない。
【0211】
登録基準に関連するプロトコールの免除は、IRB/IECからの文書化された合意に裏付けられた事前の研究者及びスポンサーの承認がある場合にのみ許容されている。
【0212】
2つの親研究のいずれかの来院7からの安全性臨床データの評価は、対象の適格性の評価のために許容されている。2つの親研究のいずれかの来院7で安全性または忍容性に問題があると研究者がみなした対象は、ATH-1017-AD-0201研究またはATH-1017-AD-0202研究の最終研究来院(すなわち、この研究の来院1、ATH-1017-AD-0203)で、このOLEX研究への移行を慎重に再検討しなければならない。最初の研究の来院7からの安全性臨床データは、この研究の来院1からの安全性臨床データで確認されるべきである。その後、来院1の安全性臨床データに基づいて不適格であることが判明した対象は中止される。
選択基準
1)対象は、2つの親研究のいずれかの26週目の来院を完了している。
2)男性対象及びそのパートナーは、パートナーが妊娠の可能性がない場合を除き、追跡期間を含む研究中、二重障壁の避妊方法を使用継続することに同意しなければならない。妊娠の可能性のない女性対象(すなわち、永久不妊、閉経後)のみに、参加資格がある
3)処置を監督するか、または、必要に応じて、全てのプロトコール要件に従って、治験薬を投与する責任を自発的に受け入れる信頼でき有能な支援者/介護者。支援者/介護者は、用量の投与を管理または監督するために、対象を少なくとも1日1回は観察しなければならない。
4)インフォームドコンセントフォーム及びこのプロトコールに記載されている要件及び制限への準拠を含む、署名されたインフォームドコンセントを与えることが可能な対象。対象が研究者の判断でインフォームドコンセントを与えることが不可能な場合、法定代理人により同意が与えられ得る。
5)a)対象または法定代理人、及び、b)研究の適格性を評価する手順を開始する前を含む、研究関連手順の前に得られている介護者/支援者、からの書面によるインフォームドコンセント。
6)書面による文書は、該当する場合、関連する国及び地域のプライバシー要件に従って取得されている(例えば、健康及び調査研究情報の使用及び公開に関する書面による許可)。
7)対象及び介護者/支援者は、研究者に評価される場合、自主的に研究の指示に従うことが可能であり、必要な研究来院を全て完了する可能性が高い。
8)対象は、病歴及び身体的/神経学的検査、バイタルサイン、ECG、及び標準的な臨床検査から研究者に評価される場合、一般に良好な健康状態にある必要がある。
除外基準
1)対象は、2つの親研究のいずれかで重篤な処置関連AEを経験しており、研究者の意見において、これは、医療監視との協議で、OLEX研究中に対象に安全性リスクの増加をもたらし得る。
2)精神病的特徴がなくても、重度の大うつ病性障害の症状があるとの新しい診断。形式的な妄想または幻覚を伴ういかなる対象も除外される。
3)来院1のC-SSRSに基づく自殺念慮により定義される重大な自殺リスク(すなわち、質問4もしくは5に対する「はい」の回答または任意の特定の行動)。
4)研究者の判断で安定している以下の状態を除き、新たに診断された悪性腫瘍:
a)適切に処置された扁平上皮癌及び基底細胞癌、または上皮内扁平上皮癌及び基底細胞癌
b)上皮内前立腺癌。
5)対象は、研究者の意見で、対象を重大な危険にさらし得るか、研究結果を混乱させ得るか、または対象の服薬遵守もしくは研究への参加を著しく妨げ得る状態または状況にある。
【0213】
C.医薬品
40mgのATH-1017のプレフィルドシリンジは、10mMのリン酸ナトリウム及び0.5%のNaClの溶液中の40mg/mLのATH-1017 1.0mLを含有する。70mgのATH-1017のプレフィルドシリンジは、10mMのリン酸ナトリウム溶液中の70mg/mLのATH-1017 1.0mLを含有する。プラセボのプレフィルドシリンジはそれぞれ、10mMのリン酸ナトリウム及び1.1%のNaClの溶液1.0mLを含有する。全ての溶液は、約7.6のpHに調整される。
【0214】
ATH-1017及びプラセボは、皮下投与される。
【0215】
D.用量の変更
このOLEX研究では、処置の割り当ては、盲検化されていない;全ての対象は、非盲検ATH-1017を70mg/日の用量で投与される。ATH-1017の用量を40mg/日まで低減させる選択肢が利用可能である。
【0216】
E.評価項目
この研究の目的は、ATH-1017-AD-0201研究またはATH-1017-AD-0202研究で26週間の無作為化処置を完了した軽度~中等度のADに罹患する対象におけるATH-1017の安全性及び忍容性の詳細な決定である。
【0217】
安全性及び忍容性が、有害事象(AE)(注射部位のAEを含む)の分析;以下の変数(バイタルサイン、12誘導心電図(ECG)、及び臨床検査(化学、血液学、尿検査)のベースラインからの変化;併用薬の評価、身体検査及び神経学的検査、ならびにコロンビア州の自殺重症度評価スケール(C-SSRS)で評価される。
【0218】
F.評価のスケジュール及び順序
インフォームドコンセント及び来院1での適格性の確認後に、研究は、26週間の非盲検処置及び2週間の安全性追跡からなる。
【0219】
G.統計的方法
統計分析計画(SAP)が発行される。
【0220】
H.結果
本明細書のATH-1017による処置は、許容可能な安全性及び忍容性を有しながら、主要、副次、または探索的評価項目のうちの1つ以上を達成する。
【0221】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0222】
従って、本開示は、好ましい実施形態及び任意の特徴により具体的に開示されているが、本明細書で開示のそこで具体化される本開示の修正、改良、及び変形が当業者らに用いられ得ること、ならびに、そのような修正、改良、及び変形が、本開示の範囲内にあると考えられることを理解すべきである。本明細書で提供される材料、方法、及び実施例は、好ましい実施形態を代表し、例示であり、本開示の範囲を限定するものではない。
【0223】
本開示が上記の実施形態に関連して説明しているが、上述の説明及び実施例は、例示を目的とするものであり、本開示の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。本開示の範囲内の他の態様、利点、及び修正は、本開示が関係する当業者らには明らかである。
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