IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フォーシャン・ハイ・ティエン(ガオミン)フレイバリング・アンド・フード・カンパニー,リミテッドの特許一覧 ▶ フォーシャン・ハイティエン・フレイバリング・アンド・フード・カンパニー・リミテッドの特許一覧 ▶ グァンドン・ハイティエン・イノベーション・テクノロジー・カンパニー,リミテッドの特許一覧

特表2024-524724ニホンコウジカビの菌株ZA205とその利用
<>
  • 特表-ニホンコウジカビの菌株ZA205とその利用 図1
  • 特表-ニホンコウジカビの菌株ZA205とその利用 図2
  • 特表-ニホンコウジカビの菌株ZA205とその利用 図3
  • 特表-ニホンコウジカビの菌株ZA205とその利用 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ニホンコウジカビの菌株ZA205とその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20240628BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240628BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240628BHJP
   A23L 27/50 20160101ALI20240628BHJP
【FI】
C12N1/14 A
C12N1/00 G
C12Q1/02
A23L27/50 101D
A23L27/50 102
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502450
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 CN2021106797
(87)【国際公開番号】W WO2023283937
(87)【国際公開日】2023-01-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524019209
【氏名又は名称】フォーシャン・ハイ・ティエン(ガオミン)フレイバリング・アンド・フード・カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】FOSHAN HAI TIAN(GAOMING) FLAVOURING&FOOD CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】EASTERN PARK,CANGJIANG INDUSTRIAL PARK,GAOMING DISTRICT,FOSHAN,GUANGDONG 528500,CHINA
(71)【出願人】
【識別番号】524019210
【氏名又は名称】フォーシャン・ハイティエン・フレイバリング・アンド・フード・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】FOSHAN HAITIAN FLAVOURING & FOOD COMPANY LIMITED
【住所又は居所原語表記】NO.16 WEN SHA ROAD,FOSHAN,GUANGDONG 528000,CHINA
(71)【出願人】
【識別番号】524019221
【氏名又は名称】グァンドン・ハイティエン・イノベーション・テクノロジー・カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GUANGDONG HAITIAN INNOVATION TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】6TH FLOOR, BLOCK 18, CENTRAL DISTRICT, NO.16 WENSHA ROAD, CHANCHENG DISTRICT, FOSHAN, GUANGDONG 528000, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ、ビン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ、チーヤン
(72)【発明者】
【氏名】トン、シン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジン
【テーマコード(参考)】
4B039
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B039LB01
4B039LB10
4B039LB20
4B039LC06
4B039LG23
4B039LQ14
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ07
4B063QR41
4B063QR76
4B063QS31
4B065AA60X
4B065AC14
4B065BA21
4B065BB03
4B065BB12
4B065CA42
(57)【要約】
本発明は、ニホンコウジカビ(麹菌)ZA205の菌株及びその利用に関する。ニホンコウジカビZA205は、(1)著しく増加したグルタミナーゼ活性;(2)著しく改善されたグルタミナーゼ耐塩性;(3)より中性に近いpHを持つ麹材;(4)より高い中性プロテアーゼ活性を同時に示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2021年5月18日に中国広州市先烈中路100号大院59号楼の広東省微生物培養収集センターに受託番号GDMCC NO:61669で寄託された、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205の菌株。
【請求項2】
製麹における請求項1に記載のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205の菌株の使用。
【請求項3】
前記製麹により得た麹を醤油の製造に使用する、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
発酵食品の製造における請求項1に記載のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205の菌株の使用であって、
好ましくは、前記発酵食品は、豆及び/又は穀物を含む原料を発酵させることによって得られる発酵食品であり;
好ましくは、前記発酵食品はペースト又は醤油である、使用。
【請求項5】
請求項1に記載のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205の菌株から製造された麹であって、
好ましくは、豆及び/又は穀物を含む原料を前記ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205の菌株と混合して製麹することによって得られる、麹。
【請求項6】
請求項5に記載の麹から調製された発酵食品であって、
好ましくは、前記発酵食品は、タンパク質原料及び/又はデンプン質原料を発酵させることによって得られる発酵食品であり;
好ましくは、前記発酵食品はペースト又は醤油である、発酵食品。
【請求項7】
請求項1に記載のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205の菌株を、タンパク質原料及び/又はデンプン質原料に播種し、培養することを含む、麹の製造方法。
【請求項8】
製麹及び発酵工程を含む、醤油又はペーストの製造方法であって、前記製麹が、請求項1に記載の菌株であるニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205を、タンパク質原料及び/又はデンプン質原料に播種し、培養することを含む、方法。
【請求項9】
前記発酵が、高塩希釈状態発酵のための方法によって行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
L-グルタミン;
酸塩基指示薬(例.フェノールレッド);及び
NaCl
を含む、菌株をスクリーニングするための培地であって、
必要に応じて、菌株の生育に必要な栄養素を更に含む、培地。
【請求項11】
前記L-グルタミンの含有率が0.5%~2%である;
前記酸塩基指示薬の含有率が0.01‰~0.5‰である;
前記NaClの含有率が2%~5%である
のうちの1つ以上を特徴とする、請求項10に記載の培地。
【請求項12】
- 請求項10に記載の培地にニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)菌株を接種すること;
- 前記ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)菌株の近傍の培地の変色の程度及び/又は速度を比較すること;
- 比較結果に基づいてニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)の菌株を選抜すること
を含む、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)の菌株のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品加工及び微生物発酵の技術分野に関する。具体的には、本発明は、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)の菌株並びに醤油及びペーストの醸造におけるその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)は、伝統的な醸造食品業界における中核菌株である。ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)は、発酵中にタンパク質分解酵素及び炭水化物加水分解酵素を分泌できる。これらの酵素は、原料(例.ダイズ及びコムギ)を、低分子(例.短いペプチド、アミノ酸、オリゴ糖及び単糖)に分解する。これらの低分子が製品の風味の源となる。
【0003】
醤油及びペースト製品にとって、うま味は重要な風味成分である。うま味は、主にダイズ及びコムギタンパク質の酵素加水分解の後に形成されるアミノ酸及びペプチドに由来する。グルタミン酸はうま味を担う主要なアミノ酸である。ダイズタンパク質は約16%のグルタミン酸を含み、グルタミン酸の約46%はグルタミンの形で存在している。グルタミン自体はうま味を示さない。グルタミナーゼによって酵素的にグルタミン酸に変換されたときのみ、うま味機能を最大限に発揮できる。
【0004】
調味料業界で最も広く使用されている菌株は、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)フーニアン(Huniang)3.042(ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)As3.951としても知られる)である。この菌株の主な特徴は、生育が早く、汚染微生物に対する耐性が良好であり、胞子形成が豊富であり、かつ製麹時に分泌される主要な酵素である中性プロテアーゼの活性が高いが、製麹時のpHが低く、グルタミナーゼ活性が低いことである。グルタミナーゼの欠乏は主に、分泌が不十分な点、耐塩性が弱い点に反映される。
【0005】
関連技術において、例えば、改善されたグルタミナーゼ活性を有する改良されたニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)菌株が報告されている。しかし、グルタミナーゼ活性が改善されている一方、菌株の他の特性は著しくは改善されておらず、それどころか著しく低下していることもある。
【発明の概要】
【0006】
発明者らは、耐塩性が、高塩分発酵食品においてグルタミナーゼの役割を十分に発揮できるかどうかに影響を与える重要な因子であることを認識している。したがって、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)由来のグルタミナーゼの耐塩性を改善することは、醤油及び発酵ソースのグルタミン酸含有量を高めるのに大いに役立つ。
【0007】
発明者らは、グルタミナーゼが原料中のグルタミンをグルタミン酸とアンモニアに分解できることも認識している;アンモニアが多いほど、製麹時のpHは高くなる。同時に、製麹時のpHが高いほど、多くのグルタミナーゼの分泌が促進される可能性がある。したがって、グルタミナーゼと製麹時のpHには強い相関関係がある。
【0008】
発明者らは、醤油の酸味は、主に柔らかい風味を有する有機酸によってもたらされることも認識している。醤油もろみ中で乳酸菌が増殖すると、糖類が有機酸に変換され、同時に原料中の有機酸が他の有機酸に変換されるが、その中でも乳酸は柔らかい風味を有する有機酸の代表格であり、醤油の強い塩味を和らげる風味成分であるだけでなく、醤油の香りの要因ともなっている。しかし、過剰なクエン酸含量は醤油の刺激味の重要な原因となる。乳酸菌がクエン酸を変換する環境の最適なpHは7程度である。したがって、麹のpHが中性であるほど、乳酸菌が酸性で刺激味のあるクエン酸を有機酸、例えばまろやかな風味の乳酸に変換し、醤油の風味を更に高めることにつながる。
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の有益な特性を同時に有するニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205を提供する:
(1)著しく改善されたグルタミナーゼ耐塩性;
(2)著しく改善されたグルタミナーゼ活性;
(3)より中性に近い麹のpH;
(4)より高い中性プロテアーゼ活性。
【0010】
本発明のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)は、上記の有益な特性の幾つかを同時に有し、これらの有益な特性が相乗的に作用するため、このニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)に基づいて得られる発酵食品は著しく改善された物理的及び化学的指標並びに著しく向上した官能評価を有する。
【0011】
ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205は、出発菌株であるニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)As3.951(フーニアン(Huniang)3.042)からの変異誘発及び選抜育種により得られる。製麹時の高pH、高収率及び耐塩性グルタミナーゼを有する菌株をスクリーニングするために、グルタミナーゼの分解基質としてL-グルタミンをスクリーニング培地に添加し、酸塩基指示薬としてフェノールレッドを使用し、4%NaClを耐塩性のスクリーニングのためのふるいとして使用する。グルタミナーゼは基質であるL-グルタミンを分解して、培地のpHを上昇させることが可能なアルカリ性のアンモニアを生産するか、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)自体の性質が変化してアルカリ性物質を増加させたり、培地のpHを上昇させたりする;フェノールレッドはpHの変化を感知し、pHがアルカリ性になるほどフェノールレッドの色は暗くなる。同時に分泌されたグルタミナーゼの耐塩性が高いほど、フェノールレッドの色の変化が速くなる。フェノールレッドの変色速度及び濃さにより、耐塩性で、グルタミナーゼを高生産する菌株を選別できる。
【0012】
いくつかの側面において、本開示は、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205を提供する。この菌株は、2021年5月18日に中国広州市先烈中路100号大院59号楼の広東省微生物培養収集センターに受託番号GDMCC NO:61669で寄託された。
【0013】
いくつかの側面において、本開示は、製麹におけるニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205の使用を提供する。
【0014】
いくつかの態様において、上記使用のために、製麹により得られた麹は、醤油の製造に使用される。
【0015】
いくつかの側面において、本開示は、発酵食品の製造におけるニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205の使用を提供する。
【0016】
いくつかの態様において、発酵食品は、豆及び/又は穀物を含む原料を発酵させることによって得られる発酵食品である。
【0017】
いくつかの態様において、発酵食品はペースト又は醤油である。
【0018】
いくつかの側面において、本開示は、上記ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205から調製された麹を提供する。
【0019】
いくつかの態様において、麹は、タンパク質原料及び/又はデンプン質原料をニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205と混合して製麹することによって得られる。
【0020】
いくつかの態様において、タンパク質原料は、ダイズ、クロマメ、ソラマメ等からなる群から選択される1つ以上を含む。ある態様において、ダイズは、学名:グリシン・マックス(リンネ)メリル)(Glycine max (Linn.)Merr.)のダイズである。ある態様において、ダイズは、脱脂大豆、大豆粕等からなる群から選択される1つ以上である。いくつかの態様において、デンプン質原料は、コムギ、小麦粉、小麦ふすま等からなる群から選択される1つ以上を含む。
【0021】
いくつかの側面において、本開示は、上記の麹のいずれか1つから調製された発酵食品を提供する。
【0022】
いくつかの態様において、発酵食品は、豆及び/又は穀物を含む原料を発酵させることによって得られる発酵食品である。
【0023】
いくつかの態様において、発酵食品はペースト又は醤油である。
【0024】
いくつかの側面において、本開示は、上記ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205を、豆及び/又は穀物を含む原料に播種し、培養することを含む、麹の製造方法を提供する。
【0025】
いくつかの側面において、本開示は、製麹及び発酵の工程を含む、醤油又はペーストの製造方法であって、製麹が、上記ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205を、豆及び/又は穀物を含む原料に播種し、培養することを含む、方法を提供する。
【0026】
いくつかの態様において、発酵は、高塩希釈状態発酵のための方法によって行われる。
【0027】
いくつかの側面において、本開示は、
L-グルタミン;
酸塩基指示薬(例.フェノールレッド);及び
NaCl
を含む、菌株をスクリーニングするための培地であって、
必要に応じて、菌株の生育に必要な栄養素を更に含む、培地を提供する。
【0028】
いくつかの態様において、菌株の生育に必要な栄養素は、例えば、窒素源、炭素源、リン源、菌株の生育に必要な微量元素及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0029】
いくつかの態様において、L-グルタミンの含有量は0.5%~2%である。
【0030】
いくつかの態様において、酸塩基指示薬の含有量は0.01‰~0.5‰である。
【0031】
いくつかの態様において、NaClの含有量は2%~5%である。
【0032】
いくつかの側面において、本開示は、
- 請求項10に記載の培地に複数のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)菌株を接種すること;
- 複数のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)菌株の近傍の培地の変色の程度及び/又は速度を比較すること;
- 比較結果に基づいてニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)菌株を選抜すること
を含む、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)のスクリーニング方法を提供する。
【0033】
用語注釈
麹とは、数日間培養した、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)を混合した豆又は穀物を含む原料の生成物を指す。豆を含む原料の表面は、希釈状態のもろみの発酵及び熟成過程を大幅に促進するさまざまな酵素を含むニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)で覆われている。
【0034】
「高塩希釈状態発酵」は、例えば、Technological regulations soy sauce with process high-Salt-diluted state fermentation, SB/T 10312-1999を参照することができる。
【0035】
「醤油」は、例えば、GB 2717-2018, National Food Safety Standard, Soy Sauce」又は「GB/T 18186-2000, Fermented soy sauceを参照することができる。
【0036】
「ペースト」は、ダイズペースト又はコムギペーストであってもよく、それらは、例えば、GB/T 24399-2009, Soybean paste又はSB/T 10296-2009, Wheat pasteを参照することができる。
【0037】
「無水ベース」:麹を105℃のオーブンで水分が一定になるまで乾燥させる。
【0038】
別段の定めがある場合を除き、%は重量%を指す。
【0039】
どのような態様においても、「含む(comprising、including、containing)」は、ゼロより大きい量を意味してもよく、例えば1%以上、例えば10%以上、例えば20%以上、例えば30%以上、例えば40%以上、例えば50%以上、例えば60%以上、例えば70%以上、例えば80%以上、例えば90%以上、例えば100%を意味してもよい。含有量が100%である場合、「含む(comprising、including、containing」の意味は「からなる」と同等である。
【0040】
有益な効果
本開示の1つ以上の技術的解決策は、以下の有益な効果のうちの1つ以上を有する:
(1)著しく改善されたグルタミナーゼ耐塩性;
(2)著しく改善されたグルタミナーゼ活性;
(3)より中性に近い麹のpH;
(4)より高い中性プロテアーゼ活性。
【0041】
生物学的材料の寄託に関する説明
本発明は、広東省微生物培養収集センターに寄託された以下の生物学的材料に関する:
ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205。この菌株は2021年5月18日に中国広州市先烈中路100号大院59号楼の広東省微生物培養収集センターに受託番号GDMCC NO:61669で寄託された。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205を豆乳培地で96時間培養した後のコロニー特性を表す。
図2図2は、5%NaCl溶液中のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205、As3.951及びGM195のグルタミナーゼ活性の経時相対的残存率曲線を表す。
図3図3は、10%NaCl溶液中のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205、As3.951及びGM195のグルタミナーゼ活性の経時相対的残存率曲線を表す。
図4図4は、17%NaCl溶液中のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205、As3.951及びGM195のグルタミナーゼ活性の経時相対的残存率曲線を表す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、実施例を参照して本発明の態様を詳細に説明するが、当業者であれば、以下の実施例は本発明を説明するためにのみ使用されるものであり、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではないことを理解するであろう。実施例で具体的な条件が特定されていない場合は、条件は従来の条件又は製造業者の推奨する条件によって行われるものとする。使用した試薬や機器の製造業者が記載されていない場合は、全て市販されている従来品である。
【0044】
以下の実施例で使用したフーニアン(Huniang)3.042(ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)As3.951としても知られる)はHaitian Companyによって寄託された。
【0045】
以下の実施例において使用したL-グルタミン:純度>99%、Sigma-Aldrich, USA製;使用したグルタミン酸検出キット:R-Biopharm, Germany製;その他の使用した試薬は、全て分析グレードであり、脱イオン水で調製された。
【0046】
以下の実施例において、プロテアーゼ活性はSB/T 10317-1999の方法に従って測定した。
【0047】
以下の実施例において、グルタミナーゼ活性を測定する方法は次のとおりであった:40℃及びpH7.2の条件下で、醤油麹1g中のグルタミナーゼがL-グルタミン分解を触媒して1分ごとに1μmolのL-グルタミン酸を生成したが、これをU/gで表される1ユニットの酵素活性とした。L-グルタミン酸はR-Biopharm, Germanyから得たグルタミン酸検出キットを用いて検出した。
【0048】
以下の実施例において、全窒素は、GB/T 5009.5-2003, Determination of protein in foodsを参照して測定した;アミノ酸窒素(アミノ窒素又はAANと呼ばれる)及び総酸は、GB/T 5009.39-2003, Method for analysis of hygienic standard of soybean sauceの電位差滴定法を用いて測定した。
【0049】
図1は、豆乳培地で96時間培養した後の本発明のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205のコロニーの写真を表す。コロニー特性は以下のとおりであった:最大58mmのコロニー直径、豊富な菌糸、豊富な胞子及び黄緑色。
【0050】
本発明のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205菌株の突然変異育種法は次のとおりであった:
1.1 初回スクリーニング及び再スクリーニング
ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)As3.951を出発菌株とし、常圧室温プラズマ(ARTP)により変異を誘導した。変異誘発条件は以下のとおりであった:変異誘発電力:120W、通気量:10L/分及び変異誘発時間:120秒。変異させた胞子を高塩分フェノールレッド発色培地(L-グルタミン10g、酵母エキス5g、KHPO 1g、KHPO 0.1g、MgSO 0.5g、フェノールレッド0.015g、NaCl 40g及び寒天20gを脱イオン水に加えて溶解し、1000mLに達するように調整し、115℃で20分間滅菌した)に均一に広げた。2~3日間培養後、生育が早く、変色が早く、濃い色のコロニーを予備スクリーニング菌株として選択した。二次スクリーニングのために予備スクリーニング菌株をフェノールレッド発色平板培地に播種し、6つの二次スクリーニング菌株、すなわち、GM191、GM192、GM193、GM194、GM195及びZA205を得た。得られたこれらの二次スクリーニング菌株を豆乳斜面培地(KHPO 1g、MgSO 0.5g、(NHSO 0.5g、可溶性デンプン20g、寒天20g及び大豆汁1000mLを混合し、115℃で20分間滅菌した)に播種し、成熟後、通例のとおり保存した。
【0051】
1.2 三角フラスコ内の麹の酵素活性分析
非GMOダイズ及びコムギの混合物(ダイズ:コムギ=1:1、質量比)を用意し、1.2倍の水で湿らせてよく混ぜ、三角フラスコに充填し、121℃で30分間滅菌して三角フラスコ内に発酵培地を調製した。1.1のニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)菌株の胞子の輪を1つ採取し、三角フラスコ内の発酵培地に播種し、32℃で96時間培養して三角フラスコ内で麹を調製した。
【0052】
三角フラスコ内の麹のpH、グルタミナーゼ及び中性プロテアーゼを測定し、その結果を以下の表に示した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1のとおり、三角フラスコ内の麹GM195及びZA205が、pHが7に近く、かつグルタミナーゼ活性がより高く、pH及びグルタミナーゼ活性において明らかな利点を示した。三角フラスコ内の麹ZA205はより高い中性プロテアーゼ活性も示した。
【0055】
1.3 三角フラスコ内の麹の耐塩性分析
非GMOダイズ及びコムギの混合物(質量比、ダイズ:コムギ=1:1)を用意し、1.2倍の水で湿らせてよく混ぜ、三角フラスコに充填し、121℃で30分間滅菌して発酵培地を調製した。ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)菌株GM195、ZA205及びAs3.951の胞子の輪を1つ採取し、三角フラスコ内の発酵培地に播種し、32℃で96時間培養して麹を調製した。
【0056】
麹のグルタミナーゼの耐塩安定性を測定した。具体的な測定方法は以下のとおり:適量の麹を採取し、2倍量のpH7.2のリン酸緩衝液を加えて麹を浸漬し、4℃の冷蔵庫で一晩保存して酵素抽出液を得た。得られた酵素抽出液にNaCl濃度が0%、5%、10%及び17%となるようにNaClを添加し、4℃で0、1、3、5及び8時間静置し、グルタミナーゼの相対的残存酵素活性を測定した。結果を表2に示した。図2図3及び図4はそれぞれ、さまざまな濃度のNaCl溶液中の菌株ZA205、As3.951及びGM195のグルタミナーゼ活性の耐塩安定性を示す。
【0057】
【表2】
【0058】
結果は、さまざまなNaCl濃度において、ZA205のグルタミナーゼの相対的残存酵素活性がAs3.951及びGM195の活性よりも著しく高く、かつ菌株の保持時間もAs3.951及びGM195のものよりも著しく長いことを示した。ZA205のグルタミナーゼの耐塩安定性は予測の範囲を超える程度にまで改善された。
【0059】
1.4 小規模製麹実験及び発酵実験
ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205、GM195及びAs3.951を、順次、斜面培地に播種して活性化し、三角フラスコで拡大培養し、次いで小規模で製麹及び発酵実験を行った(製麹培地は原料(例.ダイズ、コムギ等)から調製し、原料の割合、加湿用の水、仕込み及び発酵のパラメータは全てSoy Sauce Science and Brewing Technologyを参考にした)。
【0060】
小規模製麹実験では、0.4トンの麹を調製し、麹の水分、pH、中性プロテアーゼ及びグルタミナーゼを測定し、結果を表3に示した。
【0061】
小規模発酵実験では、0.6トンの発酵粗醤油を調製し、発酵粗醤油の総酸、アミノ窒素、グルタミン酸、グルコース及び他の指標を測定し、結果を表4に示した。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
これらの結果が示すように、ZA205の小規模製麹の物理的及び化学的指標はAs3.951の指標よりも著しく良好であり、特にpHはより中性に近かった。ZA205の発酵粗醤油の物理的及び化学的指標はAs3.951及びGM195の指標よりも著しく良好であった。
【0065】
1.5 アフラトキシンの検出
スクリーニングにより得られた新規菌株ZA205をアフラトキシンについて測定した。アフラトキシンは検出されなかった。
【0066】
1.6 継代実験
ZA205については同時に10世代継代実験を行い、継代菌株を小規模醤油麹生産実験で検証した。その結果、発酵アミノ窒素及びグルタミン酸についての指標が安定していることが示され、ZA205の遺伝的性能が安定していることが示された。
【0067】
【表5】
【0068】
1.7 大規模生産
新規菌株ZA205と出発菌株As3.951を用い、同時に大規模醤油生産及び使用に着手した。大規模生産では製麹規模が20トンで、製造した粗醤油の規模が30トンであった。
【0069】
製麹完了後、大規模生産における麹の物理的及び化学的指標をサンプリングにより測定し、結果を表6に示した。発酵後、大規模生産における粗醤油の物理的及び化学的指標を測定し、結果を表7に示した。後処理(例.加熱及び滅菌)の後、大規模生産した粗醤油を官能評価し、結果を表8に示した。
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
表6~8に示すように、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205を大規模生産に使用した場合、麹の物理的及び化学的指標、醤油の物理的及び化学的指標並びに醤油の官能分析は、全てニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)As3.951よりも優れていた。
【0074】
表6に示すように、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205で調製した麹は、グルタミナーゼ活性が著しく改善されており、pHが7に近く、かつ中性プロテアーゼ活性がより高かった。
【0075】
表7に示すように、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205で調製した醤油は、アミノ酸窒素含有量、グルタミン酸含有量及びグルコース含有量が著しく増加していた;さらに、乳酸含有量が高く、クエン酸含有量が低かった。
【0076】
表8に示すように、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)ZA205で調製した醤油は、色、香り及びうま味が著しく向上しており、全体的な味が著しく向上していた。
【0077】
本発明の特定の態様を詳細に説明してきたが、当業者であれば、開示されたすべての教示に基づいて詳細にさまざまな修正及び変更を加えることができることを理解し、これらの変更は本発明の保護の範囲内にある。本発明の全範囲は、特許請求の範囲及びその均等物によっても与えられる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】