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特表2024-524769組織モデル培養のための積み重ね式プレート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】組織モデル培養のための積み重ね式プレート
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240628BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240628BHJP
   C12M 1/22 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 C
C12M1/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523378
(86)(22)【出願日】2022-06-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 US2022035041
(87)【国際公開番号】W WO2023278285
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】63/215,892
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/215,895
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523488387
【氏名又は名称】マットテック コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クラウスナー,ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】アイフニー,セヨウム
(72)【発明者】
【氏名】カーニー,ポール
(72)【発明者】
【氏名】アルメント,アレックス
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC10
4B029GA03
4B029GA06
4B029GB01
4B029GB02
4B029GB03
4B029GB04
4B029GB05
4B029GB09
(57)【要約】
膜底部を有する積み重ね式マルチウェルプレートなどの積み重ね式組織培養支持体が提供され、これにより、近接している複数の生理学的組織の同時培養が可能になり、高スループット分析のために使用される。生分解性膜が含まれていてもよく、これにより、膜が分解するにつれて、異なる細胞型/生理学的組織間の細胞間の接触が可能になる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂部から底部に向かって:
(a)頂部カバーと;
(b)複数のウェルを有する培養支持プレートと;
(c)液体リザーバープレートと;を備える、
積み重ね式組織培養支持体であって、
ここで、前記ウェルは、前記頂部で開放しており、
前記ウェルの各々の底部の少なくとも一部が、組織培養細胞の播種に好適である微多孔質生分解性膜を含み、
前記リザーバープレートは、前記培養支持プレートの前記ウェルが、前記リザーバープレートの前記ウェル内に入れ子状に収容されるように構成された個別のウェルを備えるか、または、前記リザーバープレートは、前記培養支持プレートの全てのウェルの底部にある前記膜がアクセス可能である液体を保持するための共通領域を含む、
前記積み重ね式組織培養支持体。
【請求項2】
(b)の前記培養支持プレートの上方及び(a)の前記頂部カバーの下方に積み重ねられた1つ以上の追加の培養支持プレートをさらに備える、請求項1に記載の積み重ね式組織培養支持体であって、
前記1つ以上の追加の培養支持プレートは、それぞれ、(b)の前記培養支持プレートと同じ数及び配置のウェルを含み、各追加の培養支持プレートの前記ウェルは、真下にある前記培養支持プレートの前記ウェル内に入れ子状に収容されるように構成され、
各追加培養支持プレートの前記ウェルは、それぞれ、前記頂部で開放しており、各追加の培養支持プレートの前記ウェルのそれぞれの底部の少なくとも一部は、組織培養細胞の播種に好適である微多孔膜を含む、前記積み重ね式組織培養支持体。
【請求項3】
頂部から底部に向かって、
(a)頂部カバーと;
(b)2つ以上の積み重ねられた培養支持プレートと;
(c)液体リザーバープレートと、
を備える、積み重ね式組織培養支持体であって、
ここで、前記積み重ねられた培養支持プレートのそれぞれは、積み重ねた他の培養支持プレートのそれぞれと同じ数および配置のウェルを含み、各培養支持プレートの前記ウェルは、真下にある前記培養支持プレートの前記ウェル内に入れ子状に収容されるように構成され、
各培養支持プレートは、複数のウェルを含み、前記ウェルは、前記頂部で開放しており、前記ウェルのそれぞれの底部の少なくとも一部は、組織培養細胞の播種に好適である微多孔膜を含み、
前記リザーバープレートは、前記リザーバープレートの真上にある前記培養支持プレートの前記ウェルが、前記リザーバープレートの前記ウェル内に入れ子状に収容されるように構成された個別のウェルを備えるか、または前記リザーバープレートは、前記リザーバープレートの真上にある前記培養支持プレートの全てのウェルの底部にある前記膜がアクセス可能である液体を保持するための共通領域を含む、前記積み重ね式組織培養支持体。
【請求項4】
前記培養支持プレート(複数可)の各ウェルが、前記ウェルの底部の周りに下部隆起部を有し、前記下部隆起部は、前記プレートを反転させたときに、前記膜の側底部面に細胞を播種するための制限された領域を提供し、それによって、細胞及び培地を含む筐体を提供し、
かつ、前記下部隆起部は、各ウェルの下方に別々に取り付けられるか、または前記下部隆起部は、前記プレートの前記ウェルの下に相互連結されたマトリックスとして提供され、各ウェルの下方には、下部隆起部が取り付けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の積み重ね式組織培養支持体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の培養支持プレートの前記ウェルの形状に適合する開口を有する取り外し可能なプレートであって、
前記開口は、前記培養支持プレートを反転させたときに前記微多孔膜の側底部側に嵌入するように先細り状である穴を含み、先細り状の前記開口は、前記膜の側底部面に細胞を播種するための導管を提供し、かつ細胞及び培地を収容するための筐体を提供し、
前記穴には、前記取り外し可能なプレートの各開口と前記培養支持プレートの対応する微多孔膜との間に密閉をもたらす柔軟なエラストマー材料が取り付けられており、これにより、細胞が前記膜の下面に播種されるときの培地の漏れが防止される、前記プレート。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の培養支持プレートの前記ウェルの形状に適合する開口を有する取り外し可能なプレートであって、
前記取り外し可能なプレートが反転された培養支持プレートの頂部に配置されているときに、oリングが、前記膜の側底部面に細胞を播種するためのガイドを提供し、かつ細胞及び培地を収容するための筐体を提供するように、前記oリングが、前記穴に埋め込まれている、前記プレート。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の積み重ね式組織培養支持体であって、培養支持プレートと前記液体リザーバープレート及び/または積み重ねられた培養支持プレートとの間に上昇部をさらに有し、
ここで、前記上昇部は、前記プレートを、所望の高さで分離するのに十分な材料を含み、前記上昇部は、前記培養支持プレート及び前記液体リザーバープレートの外縁の長さに対応する長さを有し、
前記上昇部は、前記プレート間の外縁の外周に沿って伸長し、これにより、前記プレートを所望の高さで分離させる、前記積み重ね式組織培養支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年6月28日に出願の米国仮特許出願第63/215,892号及び2021年6月28日に出願の米国仮特許出願第63/215,895号の利益を主張し、これらの両方は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、生理学的システム間のクロストークを可能にする、相互連結された積み重ね式の複数の二次元または三次元組織培養モデルを共培養するための入れ子式支持プレートに関する。
【背景技術】
【0003】
In vitro組織モデルシステム、すなわち「組織等価物」は、様々な細胞の型に対する様々な剤の効果を研究するために使用され得る。例えば、in vitroでの皮膚等価物は、皮膚への適用から生じ得る潜在的な毒性、刺激または炎症について、化粧品または医薬品などの物質の効果または光及び熱などの作用物質の効果を試験するために使用され得る。このような組織モデルシステムにより、ヒト対象を使用したin vivo動物モデルまたは実験と比較して、再現性、試験速度、及びコスト削減の点で、実質的な利点がもたらされる。
【0004】
複数の臓器系が関与する用途、例えば、病態のモデル化または薬物候補のスクリーニングにおいては、in vivo多臓器環境を模倣した系での試験が望ましい。互いに相互作用可能な複数の生理学的システムを含む組織モデルの構築が可能なデバイスが所望されている。
【発明の概要】
【0005】
高スループットのマルチウェル組織培養プレートなど、積み重ね式組織培養支持体のシステムが提供される。本明細書に記載のシステムにより、培養培地を保持するように構成されたウェルの底部にそれぞれ位置する1つ以上の微多孔膜(複数可)が、複数、例えば、2つまたはそれ以上の二次元または三次元の生理学的組織モデル(臓器型またはオルガノイド)、これらに限定されないが、腸-肝免疫細胞、肺-肝免疫細胞、または腸-肝-腎臓などの培養を支持できるようになる。積み重ね式支持体により、生理学的組織系間のクロストーク(細胞間通信/代謝産物のシグナル伝達または交換)が可能になる。本明細書に記載の積み重ね式支持システムは、薬物の安全性及び有効性、ナノ粒子の毒性、線維化などを評価するために使用することができる。本明細書に記載の組織培養適合膜を有する積み重ね式高スループットプレートは、複数の種類の組織モデルを高スループット形式で培養するために使用され得る。
【0006】
いくつかの実施形態では、隆起部が、組織培養支持体のウェルの下面に設けられている。隆起部は、培養培地を保持するように構成されており、膜の下面に成長させるように細胞を播種することができ、細胞の成長のための細胞及び培養培地を保持するために十分に反転させる(逆さにする)。細胞が膜の底面に接着した後、ウェルをひっくり返し(正しい方を上にする)、他の細胞を膜の頂面に播種してもよい。他の実施形態では、エラストマー材料(例えば、これに限定されないが、熱可塑性ポリウレタン(TPU)及び適切なショア・デュロメータの熱可塑性エラストマー(TPE)など)が取り付けられた穴を有する取り外し可能なシーリングプレート、または埋め込まれたOリングを有する穴を有する取り外し可能なプレートが、細胞を播種し、組織培養支持体のウェル内の膜の下面(側底部側)に細胞及び培地を収容するためのガイド及び筐体として使用される。これらの実施形態では、細胞/培地混合物は、膜の下面に播種され、次いで、細胞が膜に付着して約2~約24時間後に除去される。
【0007】
本明細書では、異なる生理学的/病理学的システムに由来する組織/細胞懸濁液、例えば、これらに限定されないが、正常免疫細胞または修飾免疫細胞及びがん細胞などを積み重ね式の相互連結形式で培養するための方法も提供される。
【0008】
本明細書に記載の積み重ね式組織培養支持体システムでは、膜は、(a)ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの不活性な微多孔質非生分解性膜、(b)生分解性、例えばエレクトロスパンナノファイバー、例えば、ポリ乳酸-コ-グリコール酸(PLGA)、ポリ(2-シアノアクリレート)(PCA)もしくはポリカプロラクトン(PCL)の膜;または(c)コラーゲン、キトサンまたはグリコサミノグリカン(GAG)などの生物学的膜であり得る。
【0009】
一態様では、積み重ね式組織培養プラットフォームが提供され、ここで、プラットフォームは、頂部から底部に向かって;(a)頂部カバーと、(b)複数のウェルを有する培養支持プレートと、(c)液体リザーバープレートと、を備え、ここで、ウェルは、頂部が開放しており、ウェルの各々の底部の少なくとも一部が、組織培養細胞の播種に好適である微多孔質生分解性膜を含み、リザーバープレートは、培養支持プレートのウェルが、リザーバープレートのウェル内に入れ子状に収容されるように構成された個別のウェルを備えるか、または、リザーバープレートは、培養支持プレートの全てのウェルの底部にある膜がアクセス可能である液体を保持するための共通領域を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、積み重ね式組織培養支持体は、(b)の培養支持プレートの上方及び(a)の頂部カバーの下方に積み重ねられた1つ以上の追加の培養支持プレートをさらに備え、1つ以上の追加の培養支持プレートは、それぞれ、(b)の培養支持プレートと同じ数及び配置のウェルを含み、各追加の培養支持プレートのウェルは、真下にある培養支持プレートのウェル内に入れ子状に収容されるように構成され、各追加培養支持プレートのウェルは、それぞれ、頂部が開放しており、各追加の培養支持プレートのウェルのそれぞれの底部の少なくとも一部は、組織培養細胞の播種に好適である微多孔膜を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、積み重ね式組織培養支持体は、頂部から底部に向かって、(a)頂部カバーと;(b)2つ以上の積み重ねられた培養支持プレートと;(c)液体リザーバープレートと、を備え、ここで、積み重ねられた培養支持プレートのそれぞれは、積み重ねた他の培養支持プレートのそれぞれと同じ数及び配置のウェルを含み、各培養支持プレートのウェルは、真下にある培養支持プレートのウェル内に入れ子状に収容されるように構成され、各培養支持プレートは、複数のウェルを含み、ウェルは、頂部が開放しており、ウェルのそれぞれの底部の少なくとも一部は、組織培養細胞の播種に好適である微多孔膜を含み、リザーバープレートは、リザーバープレートの真上にある培養支持プレートのウェルが、リザーバープレートのウェル内に入れ子状に収容されるように構成された個別のウェルを備えるか、またはリザーバープレートは、リザーバープレートの真上にある培養支持プレートの全てのウェルの底部にある膜がアクセスできる、液体を保持するための共通領域を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、培養支持プレート(複数可)の各ウェルは、ウェルの底部の周りに下部隆起部を有し、この下部隆起部は、プレートを反転させたときに、膜の側底部面に細胞を播種するための制限された領域を提供し、それによって、細胞及び培地を含む筐体を提供し、かつ、下部隆起部は、各ウェルの下方に別々に取り付けられるか、または下部隆起部は、プレートのウェルの下に相互連結されたマトリックスとして提供され、各ウェルの下方には、下部隆起部が取り付けられている。
【0013】
別の態様では、本明細書に記載の組織培養支持プレートのウェルの形状に適合する開口を有する取り外し可能なプレートが提供され、これらの開口は、培養支持プレートを反転させたときに微多孔膜の側底部側に嵌入するように先細り状である穴を含み、これらの先細り状の開口は、膜の側底部面に細胞を播種するための導管を提供し、細胞及び培地を収容するための筐体を提供し、穴には、取り外し可能なプレートの各開口と培養支持プレートの対応する微多孔膜との間に密閉をもたらす柔軟なエラストマー材料が取り付けられており、これにより、細胞が膜の下面に播種されるときの培地の漏れが防止される。
【0014】
別の態様では、本明細書に記載の組織培養支持プレートのウェルの形状に適合する開口を有する取り外し可能なプレートが提供され、この場合、取り外し可能なプレートが反転された培養支持プレートの頂部に配置されているときに、oリングが、膜の側底部面に細胞を播種するためのガイドを提供し、かつ細胞及び培地を収容するための筐体を提供するように、oリングは、穴に埋め込まれる。
【0015】
別の態様では、本明細書に記載された積み重ね式組織培養支持体は、培養支持プレートと液体リザーバープレート及び/または積み重ねられた培養支持プレートとの間に上昇部をさらに有し、ここで、上昇部は、プレートを、所望の高さで分離するのに十分な材料を含み、上昇部は、培養支持プレート及び液体リザーバープレートの外縁の長さに対応する長さを有し、上昇部は、プレート間の外縁の外周に沿って伸長し、これにより、プレートを所望の高さで分離させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】Aは、0日目(1A)に37℃でPBS中に貯蔵後のPLGAエレクトロスパン膜の生分解を示す。Bは、28日目に37℃でPBS中に貯蔵後のPLGAエレクトロスパン膜の生分解を示す。28日目までに、サンプルのサイズが大幅に増加し、膜はほぼ透明になった。
図2】PLGAエレクトロスパン膜及び下部隆起部(高さ=0.9mm)を含む、製造されたシングルウェルの細胞培養インサート(CCI)を示し、これは、膜の下面に細胞を播種するために使用することができる。Aは、4つのインサートの上面図を示す。Bは、16個のインサートを下面図(反転させたもの)であり、下部隆起部を示す。
図3】Aは、コーティングされていないPLGA膜で構成されたシングルウェル細胞培養インサート(CCI)で培養されたEpiIntestinal(商標)組織モデル(MatTek Corporation)のH&E染色された断面を示す。Bは、PET、コラーゲンコーティング膜で構成されたシングルウェル細胞培養インサート(CCI)で培養されたEpiIntestinal(商標)組織モデル(MatTek Corporation)のH&E染色された断面を示す。Cは、ヒト外植性小腸組織で構成されたシングルウェル細胞培養インサート(CCI)で培養されたEpiIntestinal(商標)組織モデル(MatTek Corporation)のH&E染色された断面を示す。
図4】Aは、13日間にわたって、PLGA膜を用いて構築された下部隆起部を有する、シングルウェル細胞培養インサート(CCI)で培養されたEpiIntestina(商標)組織モデル(MatTek Corporation)のH&E染色された断面を示す。Bは、17日間にわたって、PLGA膜を用いて構築された下部隆起部を有する、シングルウェル細胞培養インサート(CCI)で培養されたEpiIntestinal(商標)組織モデル(MatTek Corporation)のH&E染色された断面を示す。
図5】Aは、13日間にわたって、PLGA膜を用いて構築された下部隆起部を有する、シングルウェル細胞培養インサート(CCI)で培養されたEpiIntestinal(商標)組織モデルのH&E染色された断面を示す。Bは、21日間にわたって、PLGA膜を用いて構築された下部隆起部を有する、シングルウェル細胞培養インサート(CCI)で培養されたEpiIntestinal(商標)組織モデルのH&E染色された断面を示す。
図6】PLGA膜を取り付ける前の、成形された96ウェル細胞培養インサートプレート(CCIP)を示す。Aは、ウェルの底部を示す反転図である。Bは、上面図である。
図7】Aは、PLGA膜(7A)の長方形シート(82x124mm)を取り付けた後の成形された96ウェルCCIPの反転図を示す。Bは、ウェル間の過剰膜をトリミング後の成形された96ウェルCCIPの反転図を示す。
図8】Aは、下部リングのメッシュを取り付けた後の、PLGA膜を有する96ウェルセルCCIPの反転図である。Bは、下部リング間の相互連結片のトリミング後の、PLGA膜を有する96ウェルセルCIPの反転図である。
図9】積み重ね式マルチウェル培養プレートアセンブリの例を示す。Aは、頂部カバーを示す。Bは、ウェルの底部に微多孔支持膜91を有する培養プレートを示す。Cは、個々のウェルに液体リザーバーを備えた底部リザーバープレートを示す。Dは、培養プレートの全てのウェルによりアクセス可能な共通の液体リザーバーを示す。
図10】頂部カバー101と、入れ子式に収容されたウェルが積み重ねられた2つの培養細胞プレート102、103と、個々の液体リザーバーウェルを有する底部リザーバープレート104とを有する、積み重ね式マルチウェル培養プレートアセンブリの一例の断面図を示す。
図11】積み重ね式マルチウェル培養プレートアセンブリにおいて、膜の底部(側底部)側に細胞を播種するための下部隆起部の例を示す。Aは、個々の隆起部リングを示す。Bは、相互連結された下部隆起部リングを示す。Cは、相互連結された下部隆起部が取り付けられている反転させた96ウェルプレートを示す。Dは、下部隆起部間の相互連結を外した96ウェルプレートを示す。
図12】積み重ね式マルチウェル培養プレートアセンブリの一例の断面図を示す。このアセンブリは、頂部カバー121と、入れ子式に収容されているウェルが積み重ねられている2つの培養細胞プレート122、123と、各ウェルの底部(側底部側)の下部隆起部125と、各液体リザーバーウェルを有する底部リザーバープレート124とを備える。
図13】積み重ね式マルチウェル培養プレートアセンブリのウェル内の膜の底面に細胞を播種するための密閉リングプレートの一例を示す図である。エラストマー材料が、マルチウェル培養プレートのウェルに対応する穴の内側に位置する。Aは、マルチウェルプレートの各ウェル内の膜の側底部側に接触するように構成されたプレートの上面図である。Bは、プレートの下面図であり、膜の下面(側底部側)に細胞を播種するための導管として機能する先細状の穴を示す。Cは、穴の内側にエラストマー材料132を有する、プレート131の断面を示す。反転させた96ウェル培養プレート133は、エラストマー材料にぴったりと嵌合し、反転させたときに96ウェル培養プレートの膜134の下面に細胞を播種することができる。
図14】積み重ね式マルチウェル培養プレートアセンブリのウェル内の膜の底面に細胞を播種するためのOリングが埋め込まれたプレートの例を示す図である。Aは、マルチウェルプレートの各ウェル内の膜の側底部側に接触するように構成されたプレートの上面図である。Bは、膜の下面(側底部側)に細胞を播種するための筐体を形成する埋め込まれたoリングを示す断面図である。Cは、反転させた96ウェル培養プレート143の頂面に、埋め込まれたOリング142を有するプレート141の下面図である。このデバイスによって、反転させたときに96ウェル培養プレートの膜144の下面に細胞を播種することができる。
図15】底部リザーバープレートとマルチウェル組織培養プレートとの間に嵌合するように構成された上昇部の一例を示す図である。Aは、リザーバープレートのフランジと組織培養プレートのフランジとの間に嵌合するように構成された「1型」上昇部である。Bは、培養プレート151と液体リザーバープレート153との間の上昇部152を示す。
図16】底部リザーバープレートとマルチウェル組織培養プレートとの間に嵌合するように構成された上昇部の一例を示す図である。Aは、「2型」上昇部を示し、フランジが延在部に載置されるように構成された上部延在部を有し、上部延在部は、上昇部の側壁の延在部として機能する。Bは、培養プレート161と液体リザーバー基部プレート163との間の上昇部162を示す。
図17】上昇部を有する場合と有しない場合との、積み重ね式マルチウェル培養プレートアセンブリの側面図の比較を示す図である。Aは、上昇部を有しない場合を示す。Bは、1型上昇部を有する場合を示す。Cは、2型上昇部を有する場合を示す。
図18A】実施例7に記載の腸組織モデルを示す。Aは、上皮層、線維芽細胞層/コラーゲン層、及び内皮層を含む3D腸組織の異なる層を示す。
図18B】実施例7に記載の腸組織モデルを示す。Bは、腸上皮層に発現する刷子縁のマーカーであるビリンの免疫組織化学的染色を示す。
図18C】実施例7に記載の腸組織モデルを示す。Cは、線維芽細胞のマーカーであるビメンチンの免疫組織化学的染色を示す。
図18D】実施例7に記載の腸組織モデルを示す。Dは、内皮細胞のマーカーであるフォン・ヴィレブランド因子の免疫組織化学的染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、組織培養細胞の成長及び複数の細胞型を有する二次元または三次元組織モデルの共培養のための、積み重ね式または入れ子式組織培養支持システムを提供する。高スループット積み重ね式マルチウェルプレートも提供される。積み重ね式プレートは、各ウェルの底部に、生分解性膜等の微多孔膜を含む少なくとも1つの培養支持プレートを含む。いくつかの実施形態では、頂部プレートのウェルは、微多孔膜も含む第2の/中間プレートに嵌合するように構成されている(すなわち、頂部組織培養支持プレートのウェルは、頂部組織培養プレートの下方に位置する第2の組織培養プレートのウェル内に入れ子状に嵌合するように、例えば、ウェル内に嵌合するように先細り状になるように構成されている)。いくつかの実施形態では、複数(例えば、2つ、3つ、またはそれ以上)の積み重ね式組織培養プレートがそれぞれ、その真下のプレート内に入れ子状に嵌合するウェルを有するように構成されており、各組織培養プレートのウェルは、ウェルの底部に微多孔膜を含む。複数の積み重ね式プレートが利用されている実施形態における組織培養支持プレートのウェルまたは最下部の組織培養支持プレートのウェルは、底部液体リザーバープレートの内部に嵌合するように構成されている。液体リザーバープレートは、個々のウェル内に保持するか、リザーバープレートの真上にある組織培養支持プレートの全てのウェルによりアクセス可能である共通液体リザーバーとして、液体培地を保持するように構成されており、組織培養プレートのウェルの底部と、個々のウェルを含む液体リザーバープレートのウェルの底部、または共通の液体リザーバーを含む液体リザーバープレートの底部との間に空間を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、2つ以上の組織培養支持プレートが含まれ、すぐ下のプレートのウェル内に入れ子式に収容される(積み重ねる)ように構成されたウェルを有し、各プレートのウェルの多孔膜底部間に空間を有し、最下部の組織培養支持プレートのウェルは、底部液体リザーバープレートのウェル内に入れ子式に収容されるように構成され、最下部の組織培養支持プレートのウェルの多孔膜底部と液体リザーバープレートのウェルの底部、個々のウェルを含む液体リザーバープレート、または共通の液体リザーバーを含む液体リザーバープレートの底部との間に空間を有する。また、本明細書に記載の積み重ね式組織培養支持体上で成長させた二次元または三次元の組織モデルも提供される。
【0019】
本明細書において別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。Singleton,et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology,second ed.,John Wiley and Sons,New York(1994)及びHale&Markham,The Harper Collins Dictionary of Biology,Harper Perennial,NY(1991)では、本発明で使用される多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法及び材料を、本発明の実施または試験において使用できる。
【0020】
本明細書で提供される数値範囲は、範囲を定義する数字を含む。ある範囲の値が提供されている場合、その範囲の上限と下限との間の各介在値、及びその述べられた範囲内の任意の他の述べられた値または介在値は、本発明に含まれることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、より小さい範囲に含め得、述べられる範囲内で特に除外される任意の制限に従って、本発明の範囲内にも包含される。表示範囲が1つまたは両方の限界値を含む場合、それらの含まれる限定値の片方または両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0021】
I.定義
文脈による明確な別段の定めがない限り、「A」、「an」、及び「the」には複数の指示対象が含まれる。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及は、1つ以上の細胞への言及を含み、「システム(the system)」への言及は、当業者に知られている同等のステップ、方法、及びデバイスなどへの言及が含まれる。さらに、本明細書で使用され得る「左」、「右」、「頂部」、「底部」、「前」、「後部」、「側部」、「高さ」、「幅」、「上部」、「下部」、「内部」、「外部」、「内側」、「外側」などの用語は、単に基準点を示すものであり、必ずしも本開示の実施形態を特定の配向または構成に限定するものではないことが理解されるべきである。さらに、「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、本明細書に開示された複数の部分、構成要素、ステップ、操作、機能、及び/または参照ポイントのうちの1つを単に識別するものであり、同様に、本開示の実施形態を任意の特定の構成または配向に必ずしも限定するものではない。
【0022】
本明細書及び特許請求の範囲において、本明細書で使用される「及び/または」という句は、そのように結合されている要素(すなわち、ある場合には結合して存在し、他の場合には分離して存在する要素)の「いずれかまたは両方」を意味することを理解するものとする。「及び/または」句によって具体的に識別される要素以外の他の要素が、明確に反対に示されない限り、具体的に識別される要素に関連するか否かにかかわらず、任意により存在し得る。したがって、非限定的な例として、「A及び/またはB」への言及は、「含む(comprising)」などのオープンエンド言語と組み合わせて使用される場合、一実施形態では、Aを含みBを含まない(任意により、B以外の要素を含む);別の実施形態では、Bを含みAを含まない(任意により、A以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、A及びBの両方(任意により、他の要素を含む)などを指すことができる。
【0023】
膜の「頂上」表面は、外部、例えば、気相、環境、例えば空気に面する表面であり、例えば、液体培養培地に面する底面とは反対側の膜の頂面である。
【0024】
膜の「側底部」面は、液体培養培地に面する表面、例えば、空気などの外部環境、例えば気相に面する頂面の反対側にある膜の底面である。
【0025】
「生分解性」とは、天然または合成由来であり、かつin vivoまたはin vitroで、酵素または非酵素のいずれかまたは両方で分解されて、生体適合性で毒性的に安全であり、副生成物を生成する生体材料を指し、これらは、細胞の通常の代謝経路によってさらに排除される(例えば、Makadia HK,Siegel SJ.Poly Lactic-co-Glycolic Acid(PLGA)as Biodegradable Controlled Drug Delivery Carrier.Polymers(Basel).2011;3(3):1377-1397.doi:10.3390/polym3031377)。
【0026】
本明細書で使用される場合、「共培養」という用語及びその変形は、一般に(必須ではないが)気液界面において互いに直接的または間接的に接触している2つ以上の細胞型または臓器系の成長及び/または分化を明示するために使用される。
【0027】
本明細書では、「分化培地」という用語は、気液界面においてまたは深部培養(例えば、スフェロイド、オルガノイド)において、細胞の成長に使用される培地、例えば、培養培地を指すのに使用される。この培地の目的は、細胞を誘導して、構築、分化、及び分極させて、構造及び機能においてin vivo組織を模倣する三次元in vitro組織を再生させることである。分化培地はまた、組織を長期間にわたり分化状態に維持するのに使用され得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、「腸組織培養モデル」または「腸組織等価物」は、ヒトの初代または非初代ヒト上皮細胞と、線維芽細胞及び任意により免疫細胞(例えばマクロファージ、樹状細胞)とから構成されているヒト腸組織モデルを指す。腸細胞という用語には、エンテロサイト、パネート細胞、杯細胞及び腸管内分泌細胞が含まれる。
【0029】
特に明記しない限り、本明細書で使用される「培地」という用語は、血清含有培地及び無血清培地の両方を指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、「微多孔」膜とは、開放形態の孔径、例えば、正確に制御された孔径、典型的には、直径(例えば、平均孔直径)0.03μm(マイクロメートル)~10μmまたは約0.4μm~約8μmの範囲の孔径を有する薄壁構造である膜を指す。孔は、膜を通る材料を選択的に継代させることができる直線チャネル孔または蛇行経路孔であり得る。膜の形状に関しては、典型的には、3種類の微多孔膜:フラットシート、中空繊維、及び管状膜が使用される。いくつかの実施形態では、微多孔膜は、フラットシート形状を含む。他の実施形態では、膜は、中空繊維または管状形状を含む。いくつかの実施形態では、微多孔膜(例えば、PETまたはPC)は、直線チャネル孔を有する。他の実施形態では、微多孔膜は、蛇行経路孔(例えば、PTFE)を含む。
【0031】
本明細書では、「増殖培地」または「成長培地」という用語は、深部培養において細胞を成長させるために使用される培地、例えば培養培地を指すために使用される。本明細書で使用される用語増殖培地または成長培地は、深部培養における細胞の分化を誘導または支持する補充物を含んでも含まなくてもよく、したがって、この用語の使用は、いずれのレベルの細胞の分化もない細胞の増殖に使用することに制限されない。
【0032】
本明細書で使用される場合、「呼吸組織培養モデル」、「呼吸組織等価物」、「肺胞または気道組織培養モデル」または「肺胞または気道組織等価物」は、互換的に使用され、線維芽細胞、及び任意により免疫細胞(例えばマクロファージ)と共に、初代または非初代ヒト上皮細胞から構成されるヒト気管もしくは気管支の気道または肺胞組織モデルを指す。肺胞細胞という用語は、2つのサブタイプの肺胞上皮細胞(肺細胞):I型(主流)及びII型肺胞細胞を含む。I型肺胞細胞は、典型的には肺と血液との間のガス交換プロセスに関与する極めて薄い扁平細胞である。呼吸器組織培養モデルは、サイトケラチンについて陽性に染色する初代ヒト鼻上皮細胞(HNEpC)などの鼻細胞を含むことができる。HNEpC細胞は、粘液を産生することができ、上皮細胞の毛様体運動によって、典型的には咽頭に輸送され得る粒子を結合する。HNEpCは、これらのプロセスのin vitro試験に有用である。
【0033】
本明細書で使用される場合、「隆起」または「下部隆起部」という用語は、支持体が直立(反転していない)位置にあるときに、培地リザーバーに面する膜の側で、本明細書に記載の組織培養支持体のウェルの底部から突出し、かつウェルの底部を取り囲む、すなわち、多孔支持膜を取り囲む、例えば、支持膜の外周を取り囲む、構造の持ち上がっている部分(例えば、持ち上がっている最上部)を指す。
【0034】
「無血清培地」とは、血清またはその分画部分を含まない培養培地を指す。無血清培地の全ての成分及び量は、それらの化学組成に関して、従来技術の組織培養基準によって規定されており、かつ比較的純粋である。
【0035】
本明細書で使用される場合、「組織培養モデル」、「組織培養等価物」または「組織等価物」とは、細胞を成長させ、周囲の細胞外骨格と三次元で相互作用して、臓器様構造を作製することが可能になる組織培養容器内で細胞を成長させることによって再生された、十分に分化及び分極された組織を指す。これは、プレート上の平坦な単層内で細胞が成長する、従来の二次元細胞培養とは対照的である。
【0036】
II.入れ子式組織培養支持体
A.積み重ね式支持体
二次元または三次元組織モデルなど、組織培養の成長のための積み重ね式または入れ子式組織培養支持デバイスが提供される。積み重ね式支持デバイスは、(a)頂部カバーと;(b)組織培養細胞を成長させるための第1のウェルと;任意により同じく微多孔膜を含む第2/中間ウェルと;(c)液体、例えば液体組織培養分化培地または成長培地を保持するように構成された底部液体リザーバーと、を備え、ここで、第1のウェルの底部の少なくとも一部は、微多孔性の、例えば生分解性膜材料によって形成されており、かつ第1のウェルの頂部は開放しており;第1のウェルは、第1のウェルの膜底部と第2のウェルの膜底部との間に空間を有して、第2のウェルの内側に嵌入することができ、液体リザーバーは、組織培養支持ウェルの底部に、微多孔膜材料の下に位置する底部を有する。液体リザーバーは、第1のウェルまたは任意により第2のウェルが中に入れ子状に収まり、組織培養支持ウェルの底部とリザーバーの底部との間に空間を有するように構成されたウェル(例えば、図9C)を含むことができるか、または組織培養支持ウェルよりも大きい寸法を有し、かつ組織培養支持ウェル中に積み重ね状(入れ子状)に構成されていないプレート(例えば、図9D)とすることができる。いくつかの実施形態では、第1のウェルは、第2のウェル内に入れ子状に収容されるように、すなわち、その中に嵌入し、第1のウェルの膜底部と第2のウェルとの間に空間を有するように構成され、これにより、第1のウェルは、第1の組織モデルまたは臓器モデルを保持することができ、任意により、第2のウェルは、第2の組織モデルまたは臓器モデルを深部状態で保持することができ、第1ウェル、または存在する場合は第2ウェルは、液体または「リンパ節」などの三次臓器モデルを含む底部ウェルまたはプレートに嵌入し、液体リザーバーとしても機能するようになる。特定の実施形態では、1つ以上の追加の積み重ね式ウェル(例えば、第3、第4など)を含めてもよい。
【0037】
各ウェルは、真下に、入れ子状のウェルの底部の間に所望の空間を有する、例えば、所望の量の液体及び/または培養細胞をウェルの底部間の空間に保持できるように構成された、ウェル内に嵌入するように先細り状にさせ得る。代替的または付加的に、ウェル間に空間を設けて、底部液体リザーバープレートの真下のウェルの上の所望の高さで、または底部液体リザーバープレート上の所望の高さでウェルを支持してもよい。例えば、所望の高さの外周リングを使用して、ウェルの膜底部と、ウェルと底部液体リザーバープレートの真下またはその間にあるウェルの底部との間を分離して、空間を設けてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、2つ以上の積み重ね式組織培養支持体が提供される。例えば、2つの組織培養ウェルを互いの頂部に積み重ねてもよく、それぞれのウェルは、微多孔膜の底部を有する。組織培養支持ウェルが積み重ねられ、そのそれぞれが、真下のウェルの内部に入れ子式に収容され、積み重ねた各ウェルの底部の間に空間を有し、最下部の組織培養支持ウェルは、底部液体リザーバーウェルの内側に積み重ねられ、入れ子式に収容され、最下部の組織培養支持ウェルの底部と液体リザーバーウェルの底部との間に空間を有するか、または最下部の組織培養サポートウェルが、液体リザーバープレート内にあり、最下部の組織培養サポートウェルの底部と液体リザーバープレートの底部との間に空間を有する。
【0039】
いくつかの実施形態では、生分解性膜は、組織培養支持ウェルの底部に設けられる。異なる細胞型を、組織培養支持ウェルの生分解性膜の頂部及び底部に、及び/または積み重ねている複数の組織培養支持ウェルの異なる膜上に播種してもよい。生分解性膜により、複数の細胞型を有する組織モデルの臓器内で、または積み重ねた異なるウェル内の臓器間で、細胞と細胞とが接触し、生理学的システム間での細胞間のコミュニケーションが可能になる。
【0040】
ウェルの側部(及びマルチウェルプレートの実施形態ではウェル間の材料)は、例えばポリスチレン、ポリカーボネート、コポリエステル、ポリプロピレン、または他の生体適合性プラスチックから構築させ得る。
【0041】
典型的には、本明細書に記載のとおり、積み重ね式組織培養デバイスは、頂部カバーまたはプレートの蓋を備える。
【0042】
B.支持膜
多孔性基材または支持膜により、発育中の組織の下から培地を継代できるようにする必要がある。支持体の多孔性は、培地の継代が可能になるように十分なサイズである必要があり、かつ当業者によって容易に決定され得る。いくつかの実施形態では、孔径(平均直径)は、約0.4μm~約10μmである。
【0043】
支持膜は、不活性(例えば、非生分解性)材料、例えばポリカーボネート、PET、もしくはポリテトラフルオロエチレン、生分解性材料(例えば、エレクトロスパンナノファイバー材料)、例えばPLGA、PCA、もしくはPCL、または生物学的材料、例えばコラーゲン、キトサン、またはグリコサミノグリカン(GAG)またはそれらの組み合わせから構成され得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、多孔性基材は、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、または他の培養適合性の多孔性膜、例えば、細胞を培養することができる底部に取り付けられたコラーゲン、湿潤性フルオロポリマー、セルロース、ガラス繊維もしくはナイロン製の膜など、の膜状基材であり得る。他の好適な支持体の例としては、これらに限定されないが、人工膜、細胞外マトリックス成分、コラーゲンゲル、混合物または格子、in vivo由来結合組織、混合コラーゲン線維芽細胞格子、混合細胞外マトリックス線維芽細胞格子、プラスチック及びコラーゲンスポンジが挙げられる(米国特許第6,051,425号)。
【0045】
C.下部隆起部
いくつかの実施形態では、ウェルの底部及び膜の底部の周囲に、下部隆起部、例えば、格納インサートまたはリングが設けられ、これは、膜の底面上に細胞を播種することができる容量を提供するように構成されている。支持デバイスを反転させて、膜の底面へ細胞を播種できるようにし、次いで正しい方を上にして膜の頂面へ細胞を播種できるようにする。下部隆起部の例を、図12及び図13に示す。
【0046】
いくつかの実施形態では、下部隆起部は、ウェルの底部(ウェル底部と実質的に同じ形状及び寸法)に嵌入するようなサイズにされたリングまたは他の形状として、3D印刷または別の手法で構築され、次いで膜の底面側に、例えばウェル頂部開口に面する膜側とは反対の膜側に固定される。
【0047】
下部隆起部は、例えば、高さが約0.4mm~約2.5mmまたは約0.9mmであり得る。
【0048】
下部隆起部は、例えば、PET、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリ乳酸(PLA)、ポリスチレン(PS)または他の押出可能もしくは3D印刷可能なポリマー材料から構築されていてもよい。
【0049】
D.取り外し可能なプレート
いくつかの実施形態では、取り外し可能なプレートは、微多孔膜の下面(側底部側)に細胞を播種するための、及び本明細書に記載された積み重ね式組織培養支持体における膜の側底部側に細胞及び培地を収容するためのガイドとして使用される。取り外し可能なプレートは、開口を含み、この開口は、先細り状になっており、これにより、本明細書に記載のとおり、反転型積み重ね式組織培養支持体のウェルの底部において、微多孔膜の形状及び寸法と、実質的に同じ形状及び寸法であるかそれらを上回る、または小さい寸法となるように、開口部の底部が適合するようになる。先細り状の開口は、組織培養支持ウェルを反転させたときに、微多孔膜の底面に細胞及び培地を導入するための導管として使用され得る。膜の反転された底部と接触する開口は、細胞及び培地を収容するための筐体を提供する要素を含み得る。膜の下面に細胞を播種するための取り外し可能なプレートの例を図14A~14C、図15A~15Cに示す。
【0050】
一実施形態では、取り外し可能なプレートの開口部には、取り外し可能なプレートの開口部と微多孔膜との間に緊密な接触または密閉を提供する柔軟性のエラストマー材料が取り付けられており、それによって膜の下面に細胞を播種する際の液体培地の漏出を防止する。
【0051】
別の実施形態では、取り外し可能なプレートにおける開口は、微多孔膜と実質的に同じレベルである埋め込まれたoリングを含む。Oリングは、細胞の播種のためのガイド、ならびに細胞及び培地を収容する筐体となる。
【0052】
E.高スループットデバイス
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の積み重ね式組織培養支持体は、例えば、高スループット分析のために、複数の入れ子ウェル(例えば、マルチウェルプレート)で構成されている。例えば、マルチウェルプレートは、6個、12個、24個、48個、96個または384個の入れ子式に収容されたウェルのいずれかを含み得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、各ウェルは、本明細書に記載のとおり、下部隆起部を含む。
【0053】
例えば、マルチウェル高スループット形式を使用して、生理学的組織モデルにおいて、薬物の安全性及び/または有効性、環境毒性、疾患治療、臓器間相互作用、または2つ以上の臓器系が関与する炎症の試験を行うことができる。
【0054】
F.上昇部
いくつかの実施形態では、培養支持体の間及び/または培養支持体と底部液体リザーバーとの間に上昇部が設けられる。上昇部の例は、図15A~15B及び図16A~16Bに示す。上昇部は、マルチウェルプレート間に空間を提供するための、周囲に嵌合しかつその支持を提供する外周リングの形態であってもよい。例えば、図15A~15Bに示されているとおり、上昇部は、2つのマルチウェルプレートの周囲のフランジ(複数可)間に、及び/またはマルチウェルプレートと液体リザーバープレートとの間に嵌合し得る。プレート間に付加的な空間を創出するために、図16A~16Bに示したとおり、付加的な上側延在部が設けられてよく、これは、延在部に上部プレートのフランジが載置されるように構成されている。
【0055】
III.三次元組織モデル
本明細書に記載の積み重ね式組織培養支持体上に組織培養細胞を播種及び成長させるための方法が提供され、これにより、積み重ね式支持体内の1つ以上の微多孔培養支持膜(複数可)上に二次元及び/または三次元組織等価物を生成する。いくつかの実施形態では、複数の細胞型が生分解性膜(複数可)上に播種され、膜(複数可)が分解するにつれて、生理学的システムが互いに接触する。本明細書に記載されているとおり、積み重ね式組織培養支持体において成長した組織等価物も提供される。
【0056】
A.細胞
一実施形態では、本明細書に記載の組織培養支持体上に播種して成長させた細胞は、本明細書において初代細胞と称されるin vivo組織から直接誘導される。細胞は、培養中に継代した初代細胞であってもよく、本明細書では、継代初代細胞と称する。継代した初代細胞は、好ましくは、最初に単離した初代細胞と区別がつかないままであり、成長パラメータ及び阻害、細胞表面マーカー、生化学的応答及び培養における有限の寿命など、本来の特徴を維持する。当業者は、悪性組織に由来する初代細胞が、成長阻害の特性または有限の寿命の特徴を有し得ないことを認識するであろう。
【0057】
初代細胞は、正常組織または病理学的組織のいずれかから得ることができる。病理学的組織としては、これらに限定されないが、存在する細胞型のうちの1つ以上が病原体に感染している組織、臨床的に定義された疾患状態を有するドナーに由来し、正常な細胞と比較して異常を呈する細胞、または後天性もしくは遺伝性の遺伝的欠陥を有する、または何らかの他の形式で疾患である細胞が挙げられる。
【0058】
初代細胞または継代された初代細胞の使用に代わるものは、不死化または形質転換された細胞の使用である。当該技術分野で知られているように、不死化細胞は、老化を受けることなく細胞培養で多回継代が可能であることを特徴とする。形質転換細胞は、不死化の特徴を共有し、さらに接触阻害を受けない。当業者であれば、不死化細胞は、必ずしも形質転換細胞ではないことが認識されるであろう。当該技術分野で公知のとおり、形質転換されていない非不死化細胞は、細胞培養において、有限の数の継代のみを受けることができ、その最後に細胞は、老化を受け、これは、生存能力の損失として特徴付けられ、培養において、細胞を伝播させる能力の完全な損失となる。初代細胞、継代細胞、形質転換細胞及び不死化細胞の任意の組み合わせを使用して、組織等価物を生成することができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、提供される細胞は、最初に初代細胞として単離され、その後、播種の前に、培養中、所望の表現型に分化させられる。例えば、このアプローチは、組織等価物の産生に使用するための免疫細胞の生成に特に有用であり得る。
【0060】
本明細書に記載の組織培養支持体上の組織等価物の産生に使用され得る細胞の非限定的な例としては、上皮(例えば、腸または気道(例えば、肺胞))細胞、線維芽細胞及び免疫細胞(例えば、マクロファージ)ならびにそれらの共培養が挙げられる。
【0061】
B.播種
細胞は、気液界面で培養に適した条件下で播種する。これには、気液界面での細胞の成長を促す支持体上へ細胞を播種することを含む。支持体の1つの要件は、下方から細胞へと培地が継代できるのに十分な多孔性であることである。
【0062】
気液界面で培養する前に行われる播種は、標準方法で行う。これには一般に、所望の比及び量の細胞を液体培地中に懸濁させること、及び細胞含有培地を支持体に沈着させることを含み。本明細書に記載のとおり、細胞は、ウェル内に沈着させ得るか、または下部隆起部を有する反転したウェルに沈着させ得る。細胞は、ウェルの底部または反転させたウェルの多孔性支持膜上に沈降する。播種後の支持膜上への細胞の沈降は、典型的には重力によるものであり、数分から数時間要する。当業者は、細胞を支持体上に沈着させる任意の数の他の方法を考案することができ、これらは全て、本明細書の開示に包含されることが意図されている。一実施形態では、播種される細胞の量(数)は、約1x10~約1x10細胞/cmである。別の実施形態では、細胞の量(数)は、約1x10~約1x10細胞/cmである。
【0063】
細胞が沈着されると、支持体は、播種された細胞を気液界面まで上昇させながら、培養培地が培養物の下面にアクセスできるように構成される。
【0064】
多孔性支持体への細胞の播種後のあらゆる中間時点で、さらなる細胞を、支持体に、または支持体上に既に存在する成長/分化細胞のいずれか上にさらに播種してもよい。例えば、気液界面で培養または共培養中に、分化組織培養上に添加する細胞を含む培地を上から少量添加することにより、さらなる播種を行ってもよい。一実施形態では、免疫細胞は、分化組織培養物に添加される。
【0065】
多孔性支持体に播種する前に、細胞を操作してもよい。一実施形態では、線維芽細胞は、多孔性支持体に播種する前に操作される。
【0066】
一実施形態では、細胞、例えば上皮細胞は、多孔性支持体への播種の前に、細胞の増殖に適した条件下で、成長培地中にさらに深部培養される。この培養期間の間、それらは、分化に適した条件下で任意に深部培養され得る。
【0067】
細胞は、任意により、多孔性支持体の下面に、すなわち、支持デバイスが上向きの構成である場合に液体培地に面する支持膜の側に播種され、次いで、多孔性支持体の頂面に播種する前に反転され得る。インサートを上下反転させ、細胞を多孔性支持体の下面に播種してもよい。いくつかの実施形態では、多孔性支持膜の下面に播種する前に細胞を操作する。一実施形態では、細胞は、細胞成長培地に懸濁され、膜の下面に添加され、膜に付着することができ、これは典型的には約1~約24時間を要する。細胞を培養するために添加される培地の容量は、約20ml~約500mlであってよい。この培養期間の間、細胞は、任意により、特定の細胞型、例えば内皮細胞に適した条件で、深部培養してもよい。
【0068】
C.気液界面での培養
支持体上に播種した後、分化した組織等価物への分化に適した条件下で、培養のために細胞を気液界面まで上昇させる。気液界面で細胞を増殖及び分化させる方法は、当技術分野において周知である。培養物は、例えば標準的な組織培養インキュベータ中、標準条件下でインキュベートすることができる。組織等価物への分化に適した条件としては、培養物をインキュベートする温度及び大気の内容物、培地含量、及び任意により、発育中の組織への追加の細胞のさらなる播種が挙げられる。典型的には、温度及び大気条件は、約5%CO中で約37℃であるが、わずかな変動は許容され得る。
【0069】
気液界面での培養期間は、約1~約120日に及び得るが、場合によってはより長い期間が許容可能であり得る。気液界面共培養の典型的な期間は、約4~約14日である。
【0070】
使用される培地の量は、いかなる上限なく、約0.1ml/cmほど少なくし得る。いくつかの実施形態では、約2.0~約10.0ml/cmの培地が、1日おきに、発育中の組織等価物に供給される。気液界面で成長させるためのフロースルー供給を用いることもできる。フロースルー供給速度は、培養組織1cmあたり0.05ml/日、または培養組織1cmあたり約1.0ml/日~約5.0ml/日少なくすることができる。
【0071】
D.培養培地
本発明の組織等価物への細胞の増殖及び分化に使用される培地は、最終的な組織等価産物の特性に影響を及ぼす。
【0072】
当該技術分野で公知の様々な細胞培養培地は、細胞の分化培地培養として使用、すなわち、気液界面での1つの細胞型の培養または複数の細胞型の共培養に好適であり、その測定は、当業者の平均的な能力のうちの1つ内である。いくつかの実施形態では、分化培地は、レチノイド、例えばレチノイン酸、レチノール、酢酸レチニル、13-シスレチノイン酸、または9-シスレチノイン酸を含む。一実施形態では、培地は、約10-5~約10-13Mのレチノイド(例えば、約5x10-10Mのレチノイン酸などのレチノイド)を含む。いくつかの実施形態では、レチノイドの濃度は、共培養の期間にわたって漸増的に低下してよい。例えば、レチノイン酸のレベルは、気液界面培養期間の経過にわたって、約5x10-9M~約5x10-13Mまで低下され得る。
【0073】
いくつかの実施形態では、分化培地は、以下の補充物のうちの1つ以上を含む:アデニン、β-線維芽細胞成長因子、ウシ下垂体抽出物、ウシ血清アルブミン、塩化カルシウム、ウシ血清、カルニチン、コレラ毒素、アデノシン一リン酸、エンドセリン-1、EGF(上皮成長因子)、エピネフリン、エストラジオール、エストロゲン、エタノールアミン、ウシ胎児血清、FLT-3(Fms様キナーゼ3)、グルカゴン、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子、肝細胞成長因子、ウマ血清、ヒト血清、ヒドロコルチゾン、インスリン、インスリン様成長因子1、インスリン様成長因子2、イソプロテレノール、ケラチノサイト成長因子、リノール酸、新生児ウシ血清、ノル-エピネフリン、オレイン酸、パルミチン酸、ホスホエタノールアミン、プロゲステロン、幹細胞因子、トランスフェリン、形質転換成長因子-β1、トリイドチロニン、腫瘍壊死因子α、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、及びビタミンE。
【0074】
一実施形態では、分化培地は、以下を含む:DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)及びハムF12培地を、3:1~1:1などの比率で、約10%のウシ胎児血清、約10ng/mlの上皮成長因子、約0.4μg/mlのヒドロコルチゾン、約1x10-6Mイソプロテレノール、約5μg/mlのトランスフェリン、約2x10-9Mトリヨードチロニン、約1.8x10-4Mアデニン、約5μg/mlインスリン、約1x10-6Mレチノイン酸。
【0075】
別の実施形態では、分化培地は、無血清である。無血清培地は、当該技術分野で公知の塩基性培地または成分(例えば、DMEM、LHC9(\Part #12680013,ThermoFisher,Inc.)、ハムF12培地、MEM(改変必須培地)、マッコイ5A培地、MCDB153(Molecular Cell and Developmental Biology153培地)KGM(角化細胞増殖培地、Biowhittaker)EpiLife(Cascade Biologics,Inc.)、または(正常ヒト気道上皮細胞増殖培地NHBE-GM)を使用して作製され得る。一実施形態では、無血清培地は、DMEM:F12の約3:1比であり、レチノイン酸などの付加的な定義された(非血清)成分、または本明細書に記載の任意の他の定義された成分のいずれかを補充する。
【0076】
一実施形態では、無血清分化培地は、約3:1比のDMEM:F12、約5x10-10Mのレチノイン酸、約0.3ng/mlの角化細胞成長因子、約5ng/mlのEGF、約0.4μg/mlのヒドロコルチゾン、及び約5μg/mlのインスリンを含む。別の実施形態では、無血清分化培地は、レチノイン酸(RA)を含むDMEM:F12(約3:1比)、約5x10-9M、角化細胞成長因子(KGF)、約0.1nM、約0.4μg/ml ヒドロコルチゾン、約5μg/mlインスリン、SCF(約2.5ng/ml)、GM-CSF(約20U/ml)、TNF-α(約0.25ng/ml)、及びFLT-3(約2ng/ml)である。
【0077】
当技術分野で知られている様々な細胞培養培地は、深部培地中での細胞の培養または共培養のための成長培地としての使用に好適である。そのような培地の例としては、これらに限定されないが、DMEM、NHBE-GM、SFEM(無血清膨張培地)、MEM、培地199、KGM、EpiLife、MCDB153及びマッコイ5Aが挙げられる。いくつかの実施形態では、深部培地中の細胞の培養または共培養のための成長培地は、血清を含まない。使用することができる無血清成長培地の一例は、SCF(約25ng/ml)、GM-CSF(約200U/ml)、TNF-α(約2.5ng/ml)及びFLT-3(約20ng/ml)を含むNHBE-GMである。
【0078】
成長培地または分化培地として使用するための本明細書に記載の定義された培地成分または補充物の有用な濃度及び組合せの決定は、追加の補充物または培地成分の特定と同様に、わずかに日常的な実験よりも平均的な当業者の能力の範囲内である。
【0079】
実施例
以下の実施例は、本発明を説明することを意図しているが、これに限定されない。
【0080】
実施例1.組織培養モデルで使用するための生分解性膜の生成
エレクトロスピニングは、電気力を使用して、ポリマー溶液またはポリマー溶融物の荷電糸を数百ナノメートル桁の繊維直径まで引き出す繊維の製造方法である。エレクトロスパンポリ(乳酸-コ-グリコリド)(PLGA)膜を、1μm未満の孔径及び10μm未満の厚さを有し、かつ2~6週間以内で生分解性となるように製造した。膜厚及び平均孔径は、それぞれ9.33μm及び0.73μmであると決定された。膜の生分解性を特徴付け、重量及び引張強度の測定によって決定されるように、21~28日で膜の生分解が起こると決定した。
【0081】
簡潔に言えば、生分解実験は、米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials;ASTM)の試験法F1635-111、表題:Standard Test Method for In Vitro Degradation Testing of Hydrolytically Degradable Polymer Resins and Fabricated Forms for Surgical Implantsに準拠して設計した。膜の引張特性を評価することにより、膜の生分解を観測した。
【0082】
使用した試験プロトコルの概要は、以下のとおりである:
【0083】
1.PLGAエレクトロスパンサンプルを長方形片(約12mmx59mm)に切断し、引張強度実験に使用されるクランプに取り付ける。クランプ間のサンプルの初期長さ(L)及びサンプルの幅を、デジタルキャリパーを使用して±0.5mmまで測定する。
【0084】
2.引張強度測定は、内部で展開させた引張強度計を使用して行う。サンプルを一定速度17.8mm/分で引っ張り、その力測定を0.237秒毎に行う(252回/分の測定)。
【0085】
3.引張強度測定を、元の(生分解の前の)膜サンプル(n=4、時間=0日)に対して行い、次いで、追加の長方形の試験サンプルを、生理学的溶液(PBS、pH7.4±0.2)中に完全に浸漬し、37±2℃で貯蔵する。
【0086】
4.PBS溶液中で7日、14日、21日、28日、及び35日の生分解後、長方形の膜サンプル(n=4)を除去する。各期間で、サンプルを除去し、十分な蒸留水で穏やかに洗い流して、膜サンプルの表面上の残留生理食塩水(PBS)を除去する。
【0087】
5.サンプルを室温で48時間乾燥させて、その後、サンプルを適所にクランプし、引張測定を行う。
【0088】
実施例2エレクトロスパンPLGA生分解性膜の生分解プロファイル
0日目、7日目、14日目、21日目、及び28日目の生分解データを収集した。28日目のサンプルが、正確な引張強度測定を行うことができない点まで分解されたため、実験は、28日目に終了した。
【0089】
引張強度実験では、破断時のひずみは、2週間の生分解後に元のサンプルの約25%まで減少し、21日目に同様にそのままであった。すなわち、14日目及び21日目のPLGA膜は、(破断前に)元のサンプルよりもかなり小さく伸張させることができた。加えて、膜材料は、3週間の期間にわたって、破断がより困難(引張強度の増加)になり、可撓性が低くなった(ヤング率の増加)。28日目に、膜サンプルは、4つのサンプルのうちの1つのみが、引張強度測定のために、取り付けられ得る程度まで分解した。他のサンプルは、2つのクランプの間に取り付ける間に離れるかまたは割れた(その脆弱な外観のために特に注意していたにもかかわらず)。この1つのサンプルの引張強度、破断時の最大歪み、及びヤング率は、それぞれ元の(分解していない)膜の16.5%、15.1%及び18.0%まで低下した。したがって、28日目のサンプルは、サンプルの何らかの物理的処理のためにそれらを離れさせる時点まで分解していた。したがって、PLGA膜は、37℃において、PBS中、21~28日の間に分解したようであった。
【0090】
実施例3.PLGA膜及び下部隆起部を有するシングルウェル細胞培養インサート(CCI)の産生
シングルウェル細胞培養インサート(CCI)は、PLGAエレクトロスパン膜を用いて産生され、膜の下面に細胞を播種するための下部隆起部を含めた。上面図は、図2Aに示し、下面図は、CCIを反転させて、図2Bに示す。ウェルの壁は、コポリエステルで構築されており、ウェルの底部には、実施例1及び2に記載のPLGA膜を含めた。
【0091】
PLGA膜を、シングルウェル細胞培養インサート(CCI)に取り付けた。下部隆起部(厚さ=0.9mm、外径(OD)=13mm、内径(ID=8.8mm)は、ABS材料から3D印刷した。これらの下部隆起部は、個々の細胞培養インサート(CCI)の下面に取り付けるように設計した。生体適合性接着剤を使用して、下部隆起部をCCIの底部に取り付けた。微多孔PLGA膜の下部隆起部及び底面をCCIに取り付けて、高さ0.9mm、幅8.8mmのウェルを形成し、これを使用して微多孔膜の下面に細胞を播種し、膜の頂面及び底面に細胞が成長する仕組みを提供した。
【0092】
実施例4.生分解性膜及び下部隆起部を有する96ウェルプレート
金型を製造し、図6A~6Bに示すとおり、ウェルの底部に先細り状のウェル及び開口を有する96ウェルプレートを射出成形(ポリスチレン)した。プレートの製造は、次のように進めた:
【0093】
PLGA膜のシート(82×124mm)を、生体適合性接着剤を使用して成形部品に取り付けた(図7A)。
【0094】
Kkmoon(NEJE Master 2)20Wのレーザー彫刻機、5.5W出力を使用して、ウェル間の過剰膜を除去した(図7B)。
【0095】
高さ0.9mmの下部隆起部の相互連結シート(マトリックス)を3D印刷(ABS)し、生体適合性接着剤を用いてCCIPの下面に取り付けた(図8A)。
【0096】
下部隆起部間の相互連結は、メスを用いて手動により除去した(図8B)。相互接続の厚さの最適化により、レーザー彫刻機を使用して、過剰膜及び相互連結の両方を除去することが可能となるものとする。
【0097】
実施例5 30日間の培養期間にわたる生分解性PLGA膜を有する96ウェルプレートの利用
生体適合性実験を、腸細胞及び線維芽細胞を用いて、実施例3に記載のとおりに構築されたCCI及び実施例4に記載のとおりに構築されたCCIPにおいて、市販のEpiIntestinal(商標)(MatTek Corporation;SMI-200-FT)組織モデルを培養することにより行った。標準プロトコルを使用して、全厚のEpiElectron(商標)組織モデルを産生した。また、比較のために、市販のSMI-200-FTモデルを、非生分解性0.4μmポリエチレンテレフタレート(PET)微多孔膜を有するCCIを用いて培養した。組織を市販の細胞培養培地(MatTek Corporation;SMI-100-MM)で培養した。PLGA CCI上でSMI-200-FT組織の培養に使用した全ての方法は、以下に記載する以外は、PET CCIに使用した方法と同一であった。
【0098】
PLGA膜を用いたシングルウェルCCI及び96ウェルCCIPでのEpiIntestinal(商標)組織モデルの成長
【0099】
PLGA及びPET CCI及びCCIPにおける組織モデルの成長の手順は、以下のとおりであった:
【0100】
PLGA CCI及び96ウェルCCIPを細胞外マトリックスコーティングなしで使用した。標準的PET CCIは、標準生産手順に従って、コラーゲンコーティングを行った。
【0101】
下部隆起部を有するPLGA CCIを反転させ、150μLのプレーティング培地において、75,000個の内皮細胞をPLGA膜の底部側に播種した(膜の底面への播種は、下部隆起部によって可能になった)。PET CCIについては、CCIは直立のままであり、75,000個の内皮細胞をCCI内の膜の上向き側に播種した。下部隆起部を有するPLGA 96ウェルCCIPを反転させ、30μLのプレーティング培地中の15,000個の内皮細胞を、PLGA膜の底面に播種した。
【0102】
内皮細胞を播種したPLGA及びPET CCIを、「標準培養条件」(37℃、5%CO)下で2時間インキュベートした。
【0103】
2時間後、内皮細胞を含むPLGAインサートを、直立位置に入れた。プレーティング培地中の腸線維芽細胞と上皮細胞との400μLの播種混合物を、PLGA及びPET CCIの両方に添加した。
【0104】
CCI及びCCIPを、標準培養条件下で、(CCIの側底部側(膜下)にプレーティング培地500μLを用いて及び膜上側に播種混合物400μLを用いて、一晩深部培養した。96ウェルCCIPでは、膜の上側に80μLの播種混合物を加えた。
【0105】
積み重ね式96ウェルCCIPを、標準培養条件下で、プレートの側底部側(膜下)に300μLのプレーティング培地/ウェルを用いて、膜の上側に80μLの播種混合物を用いて、一晩深部培養した。
【0106】
深部条件下で一晩培養後、基底上層培地を穏やかに吸引し、組織の基底上層表面をインキュベータ内の雰囲気に曝露した。CCIには5.0mlのSMI-100-MM培地を、積み重ね式CCIPには275ul/ウェルを使用して、組織を側底部側からのみ供給した。この方法は、気液界面(ALI)での培養と称する。
【0107】
組織は、気液界面(ALI)において、標準培養条件下で合計12日間培養した。この期間の間、SMI-100-MM培地は、隔日、5.0mLまたは275μlの新しいSMI-100-MM培地と交換した。
【0108】
培養期間の13日目(1日目は、深部培養させ、12日目はALI)に、組織は、10%ホルマリンを用いて固定し、組織のヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色された断面を生じさせるために標準組織学的手法を使用した。
【0109】
結果
ヒト小腸外植片と共に、生分解性PLGA及び非生分解性PET膜上で培養されたEpiIntestinal(商標)組織の組織学を図3A~3Cに示す。下部隆起部を有するエレクトロスパンPLGA膜CCIを使用して、十分に発達した絨毛を有する十分に分化した層状腸組織が観察された(図3A)。13日の培養期間後、三次元組織は、ヒトの外植体組織と同様に、基底上層組織表面に大量の絨毛を伴う腸管構造を呈した(図3C)。したがって、この13日間の実験では、PLGA膜で構築されたCCIインサート及び下部隆起部は、生体適合性である。PET CCI(図3B)では、絨毛長は短く、組織構造は、小さかった。
【0110】
13日より長い培養実験では、H&E染色された断面において、PLGA膜の分解が顕微鏡下で観察された。図4A~4Bに示す実験では、培養期間の13日目(図4A)に、連続的で小さい膜が観察された。しかし、17日目(図4B)では、膜は、明確には画定されず、伸張/拡張されるように見え、13日目よりも空胞を含んでいた。図5A~5Bに示す実験では、13日目(図5A)に、膜は連続的であったが、図4Aの13日目に示した膜よりも明確には画定されていなかった。しかし、21日目(図5B)には、膜は、隔離された領域でのみ観察され、ある領域では、基底組織層の下方でのみ細胞が観察される程度まで分解された。21日を超えて拡張された培養では、PLGA含有CCI中では、組織はいずれも損傷を受けないままであった。これらの培養結果は、実施例2に記載のとおり、引張強度実験におけるこれまでの観察に近似するものであるが、培養条件下では、膜の分解は、わずかに速いと考えられる。
【0111】
膜の分解が始まると、膜の頂上に播種した表面細胞と、膜の底部に播種した底部細胞とが接触した。
【0112】
実施例6 PLGA膜で構築されたCCI及びCCIPの蛍光色素適合性
一般的に使用されている蛍光色素を用いて、実施例3に記載のとおり、PGLA膜と組み立てられたCCI及びCCIPの適合性を調査するために実験を行った。標準プロトコルを用いて、全層厚の腸組織であるSMI-200-FTを作製した(詳細な方法については実施例4を参照)。組織を7日間、13日間及び17日間培養した。組織を固定し、切片化し、H&Eで染色して、組織の形態を観察した。
【0113】
切片を、脱パラフィンし、以下の蛍光標識抗体で染色した:a)サイトケラチン(CK-19)に対するフルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲート抗体、小腸組織の上皮マーカー(緑色)、b)ビメンチンに対するAlexa Fluor555コンジュゲート抗体、線維芽細胞のマーカー(赤);及びc)核染色4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)、DNA内のアデニン-チミンリッチ領域に強く結合する蛍光染色(青)。
【0114】
組み立てられたCCI及びCCIPと一般的に使用されている蛍光プローブとの適合性は、免疫染色により実証された。全ての画像は、Olympus FV1000共焦点顕微鏡で10倍対物レンズを使用して収集した。励起波長は以下のとおりである:DAPI:405nm、FITC:473nm、及びAlexa Fluor 555、561nm。PLGA膜からの自家蛍光/干渉は観察されなかった。したがって、標準免疫染色技術では、PLGA膜を使用して産生された組織を使用することができる。
【0115】
H&E染色された断面と免疫染色された断面との比較により、興味深い観察結果が得られた。13日目の培養に対して、17日目のH&E染色された断面に基づくと、絨毛は、分解されたかまたは喪失したように見えた。しかし、免疫染色した断面では、サイトケラチンが存在する絨毛が、17日目でもまだ非常に多いことが示された。
【0116】
実施例7ポリカーボネート(PC)膜を用いた96ウェルインサートプレート上での、腸内皮細胞、線維芽細胞、及び上皮細胞を含む腸組織モデルの成長
腸組織モデルを以下のように調製した:
【0117】
1.細胞外マトリックスコーティングなしでPC96ウェルインサートプレートを使用した。
【0118】
2.75,000個の内皮細胞を含む150μLのプレーティング培地を、PC96ウェルインサートプレートのウェルに播種した(すなわち、細胞を頂部膜表面上に播種した)。
【0119】
3.内皮細胞を播種した96ウェルのPCインサートプレートを、標準培養条件(37℃、5%CO)下で2時間インキュベートした。
【0120】
4.2時間後、プレーティング培地中の腸管線維芽細胞と上皮細胞との400μLの播種混合物を、PC96ウェルインサートプレートのウェルに添加した。
【0121】
5.PC96ウェルインサートプレートを、標準培養条件下で一晩深部培養した(膜の側底部側にプレーティング培地300μLを用い、膜の頂面に播種混合物150μLを用いた)。
【0122】
6.深部培養条件下で一晩培養後、頂部培地を穏やかに吸引した。この組織を側底部側から、300μLのSMI-100-MM(MatTek Corporation)を用いて、かつ膜の頂面に20μLのSMI-100-MMを供給した。この方法は、気液界面(ALI)での培養と呼ばれる。
【0123】
7.組織をALIで標準培養条件下で合計13日間培養した。この期間にわたって、SMI-100-MM培地を、膜の側底部側及び頂面にそれぞれ、300μL及び20μLのSMI-100-MMの新鮮培地と隔日で交換した。
【0124】
8.培養期間の14日目(1日目は、深部培養させ、13日目はALI)に、組織は、10%ホルマリンを用いて固定し、組織のヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色された断面を生じさせるために標準組織学的手法を使用した。
【0125】
結果を図18A~18Dに示す。
【0126】
理解の明瞭化ために図示及び実施例を用いてある程度詳しく前述の発明を記載しているが、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、特定の範囲及び改変をそれに対してなし得ることが、当業者には容易に明らかであろう。したがって、この説明は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0127】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、あらゆる目的のため、また個々の刊行物、特許、または特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
図1A-1B】
図2
図3
図4
図5
図6A-6B】
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C-9D】
図10
図11A-11B】
図11C-11D】
図12
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
【国際調査報告】