(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】CRISPRを用いたプログラム可能なRNA編集
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240628BHJP
C12N 7/04 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N7/04 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524974
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2024-03-06
(86)【国際出願番号】 US2022073538
(87)【国際公開番号】W WO2023283622
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524012141
【氏名又は名称】モンタナ ステート ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】MONTANA STATE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】Culbertson Hall, 100 Bozeman, MT 59717 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】ブレイク エー,ヴィーデンヘフト
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ イー,ニコルス
(72)【発明者】
【氏名】アンナ エー,ネムドライア
(72)【発明者】
【氏名】アルテム エー,ネムドリイ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065BA02
4B065CA43
4B065CA44
(57)【要約】
CRISPR RNA誘導ヌクレアーゼは、DNAの配列特異的操作に日常的に用いられている。CRISPRを用いたDNA編集は日常的に行われるようになったが、RNA編集の類似手法はまだ確立されていない。ここでは、SARS-CoV-2ゲノムの配列特異的切断のために、III-A型CRISPR RNA誘導ヌクレアーゼを再利用する。III型切断反応は、精製ウイルスRNAを用いてインビトロで行われ、6、12、18あるいは24ヌクレオチドの配列特異的切断をもたらす。切断された配列部分のライゲーションは切断を橋渡しするDNAスプリントによって促進され、哺乳動物細胞へのトランスフェクションの前に、RNAリガーゼを用いてRNA生成物を連結する。SARS-CoV-2 RNAは感染性があり、ウイルスクローンを回収するために標準的なプラーク法が用いられる。本研究成果は、SARS-CoV-2を含むRNAウイルスの配列特異的編集およびより一般的な遺伝子治療に、III型CRISPRシステムを再利用できることを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボ核酸(RNA)分子を編集する方法であって、
前記RNA分子からターゲット部分を切除するために、遺伝子工学的に操作されたIII型CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)複合体を用いて前記RNA分子を切断する工程を備え、
前記操作されたIII型CRISPR複合体は、
前記RNA分子のターゲット配列に相補的であるようにプログラムされたCRISPR RNA(crRNA)配列と、
前記操作されたIII型CRISPR複合体が前記RNA分子に結合している時に、前記ターゲット部分で前記RNA分子を特異的に切断するcrRNA誘導ヌクレアーゼとを有し、
前記方法は、前記切断されたターゲット部分を挟む前記RNA分子の切断末端をライゲーションする工程をさらに備え、
前記RNA分子は、前記切断されたターゲット部分および前記ライゲーションされた切断末端に基づいてプログラム編集される、方法。
【請求項2】
前記RNA分子の前記切断された末端をライゲーションする工程は、両末端間に0個の付加的ヌクレオチドを挿入すること、および、前記RNA分子の両末端をライゲーションして前記ターゲット部分を欠失させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RNA分子の前記切断された末端をライゲーションする工程は、両末端間に1つ以上の付加的ヌクレオチドを挿入すること、および、前記1つ以上の付加的ヌクレオチドと前記RNA分子の前記両末端とをライゲーションして、前記ターゲット部分を前記1つ以上の付加的なヌクレオチドで置換することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記RNA分子の前記切断された末端をライゲーションする工程は、前記RNA分子の両末端を橋渡しする核酸スプリントを使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸スプリントはデオキシリボ核酸(DNA)スプリントを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記RNA分子の前記切断された末端をライゲーションする工程は、
両末端間に1つ以上の付加的ヌクレオチドを挿入し、前記1つ以上の付加的ヌクレオチドと前記RNA分子の前記両末端とを一緒にライゲーションして、前記ターゲット部分を前記1つ以上の付加的なヌクレオチドで置換することを含み、
前記核酸スプリントは、前記1つ以上の付加的ヌクレオチドの配列に相補的な配列を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記操作されたIII型CRISPR複合体はCsm複合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記crRNA誘導ヌクレアーゼは、前記RNA分子を、1以上のヌクレオチドの間隔で特異的に切断する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記1以上のヌクレオチドの間隔は、6ヌクレオチドの間隔である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記間隔の数は前記crRNA配列の長さに依存する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記crRNA配列の長さは36ヌクレオチドであり、前記1以上のヌクレオチドの間隔は6ヌクレオチドの間隔であり、前記間隔の数は3から4の間である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記RNA分子はウイルスであり、編集された前記RNA分子は編集されたビリオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスはSARS-CoV-2ウイルスである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記切断はインビトロで行われ、
前記方法は更に、
前記編集されたビリオンを回収する工程と、
回収された前記編集されたビリオンを宿主へと導入する工程と、を備える、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記III型CRISPR複合体を遺伝子工学的に操作するまたはプログラムする工程をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
リボ核酸(RNA)を編集するための、遺伝子工学的に操作されたIII型CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)複合体を生成する方法であって、
複数の発現ベクターを生成する工程を備え、
前記複数の発現ベクターは、
(i)CRISPR RNA(crRNA)転写物およびcrRNA転写物を成熟RNAガイドに転写するCRISPRサブユニットを有するCRISPRアレイと、
(ii)前記III型CRISPR複合体の複数のタンパク質サブユニットと、を含み、
前記方法は更に、
前記複数の発現ベクターを宿主に共導入する工程と、
前記宿主において前記複数の発現ベクターの発現を誘導する工程と、
発現した前記複数の発現ベクターを前記宿主から精製する工程と、を備える方法。
【請求項17】
前記crRNAガイドの予想されるサイズに基づいて精製物を選択する工程をさらに備える、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記予想されるサイズは46ヌクレオチドである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の発現ベクターは、
前記CRISPRアレイを含む第1の発現ベクターと、
Cas10サブユニットおよびCsm2サブユニットを含む第2の発現ベクターと、
Csm3サブユニット、Csm4サブユニットおよびCsm5サブユニットを含む第3の発現ベクターと、を含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許仮出願第63/219,722号(出願日:2021年7月8日)に基づく優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2の出現と蔓延は世界的大流行を引き起こした。この新型コロナウイルスの全ゲノム配列が判明し、翌年発表された。その1年以上後、SARS-CoV-2の最初の遺伝子系が発表されたが、ウイルスのRNAに部位特異的操作を行うための現在の方法は、時間がかかり、エラーを起こしやすい煩雑な多段階プロセスを含んでいた。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、III型CRISPR複合体を用いたプログラム可能なRNA編集に関する。例えば、III型CRISPR-Cas複合体は、RNAを編集するよう遺伝子操作することができる。III型CRISPR-Cas複合体は、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)由来のIII-A型Csm複合体(SthCsm)であってもよい。遺伝子操作済のCRISPR-Cas複合体を、RNAに対して配列特異的改変を行うために使用することができる。「配列特異的改変」という用語は、ターゲットとする位置においてRNAをRNAの特定の配列へと変化させることを指す場合がある。改変とは、RNAからターゲット部分を除去する欠失、ターゲット部分を除去して合成RNAで置換する置換、塩基修飾および/またはRNAに対するその他の変化が含まれる。
【0004】
III型CRISPR複合体は、6塩基間隔で相補的RNAを特異的に切断するCRISPR RNA(crRNA)誘導ヌクレアーゼに依存している。III型CRISPR複合体を作成するには、III型CRISPR複合体のRNA切断活性を遺伝子工学的に操作して、ターゲットRNAの配列特異的領域を切除するか、配列特異的切断を導入する。RNAのターゲット部分のターゲット欠損については、スプリントライゲーションを使ってRNAを修復する。このような修復はインビトロでも可能である。その結果、ターゲット部分が除去された編集済RNAが得られる。ターゲット部分の置換には、ライゲーションに先立ち合成RNA相補体をスプリントし、ターゲット部分を合成RNAで置換する。
【0005】
試験と検証のために、本明細書の実施例では、SARS-CoV-2ゲノムの配列特異的切断のためにIII-A型CRISPR RNA誘導ヌクレアーゼの改変について記載する。III型切断反応は精製ウイルスRNAを用いてインビトロで行われ、6、12、18または24ヌクレオチドの1つの位置での配列特異的切断または切除をもたらす。切断された配列部分のライゲーションは切断を橋渡しするDNAスプリントによって促進され、哺乳動物細胞へのトランスフェクションの前に、RNAリガーゼを用いてRNA産物を連結する。SARS-CoV-2 RNAは感染性があり、ウイルスクローンを回収するために標準的なプラーク法が用いられる。しかしながら、ゲノムRNAであれその他のタイプのRNAであれ、III型CRISPR-Cas複合体は、本明細書の開示に基づいて、他のRNAターゲットに対して部位特異的改変を行うように設計され得ることに留意すべきである。本明細書の開示は、RNAの配列特異的編集に使用することができ、これは、RNAウイルスおよび遺伝子治療一般に適用することができる。
【0006】
いくつかの例において、本明細書に記載される技術は、リボ核酸(RNA)分子を編集する方法に関し、当該方法は、RNA分子からターゲット部分を切除するために、遺伝子工学的操作によって作られたIII型CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)複合体でRNA分子を切断することを含む。III型CRISPR複合体は、RNA分子のターゲット配列に相補的であるようにプログラムされたCRISPR RNA(crRNA)配列および遺伝子操作により作られたIII型CRISPR複合体がRNA分子に結合している時にターゲット部分でRNA分子を特異的に切断するcrRNA誘導ヌクレアーゼを有する。方法は更に、切断されたターゲット部分に隣り合うRNA分子の切断末端をライゲーションすることを含む。RNA分子は、切除されたターゲット部分とライゲーションされた切断末端に基づいてプログラムされた態様で編集される。
【0007】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、RNA分子の切断された末端をライゲーションすることは、両末端間に0個の付加的ヌクレオチドを挿入すること、および、前記RNA分子の両末端をライゲーションして前記ターゲット部分を欠失させることを含む。
【0008】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、RNA分子の切断された末端をライゲーションすることは、両末端間に1以上の付加的に修飾ヌクレオチドまたは非修飾ヌクレオチドを挿入すること、および、1以上の付加的なヌクレオチドとRNA分子の両末端とを一緒にライゲーションしてターゲット部分を1以上の付加的なヌクレオチドで置換することを含む。
【0009】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記RNA分子の前記切断された末端をライゲーションする工程は、前記RNA分子の両末端を橋渡しする核酸スプリントを使用することを含む。
【0010】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記核酸スプリントはデオキシリボ核酸(DNA)スプリントを含む。
【0011】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記RNA分子の前記切断された末端をライゲーションする工程は、両末端間に1つ以上の付加的ヌクレオチドを挿入すること、および、前記1つ以上の付加的ヌクレオチドと前記RNA分子の前記両末端とをライゲーションして、前記ターゲット部分を前記1つ以上の付加的なヌクレオチドで置換することを含み、前記核酸スプリントは、前記1つ以上の付加的ヌクレオチドの配列に相補的な配列を含む。
【0012】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記操作されたIII型CRISPR複合体はCsm複合体を含む。
【0013】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記crRNA誘導ヌクレアーゼは、前記RNA分子を、1以上のヌクレオチドの間隔で特異的に切断する。
【0014】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記1以上のヌクレオチドの間隔は、6ヌクレオチドの間隔である、
【0015】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記間隔の数は前記crRNA配列の長さに依存する。
【0016】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記crRNA配列の長さは40ヌクレオチドであり、前記1以上のヌクレオチドの間隔は6ヌクレオチドの間隔であり、前記間隔の数は3から4の間である。
【0017】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記RNA分子はウイルスゲノムを含み、編集された前記RNA分子は編集されたビリオンを含む。
【0018】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記ウイルスはSARS-CoV-2ウイルスである。
【0019】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記切断はインビトロで行われ、前記方法は、前記編集されたビリオンを回収する工程と、回収された前記編集されたビリオンを宿主へと導入する工程と、を備える。
【0020】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記方法は、前記III型CRISPR複合体を遺伝子工学的に操作するまたはプログラムする工程を備える。
【0021】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は、リボ核酸(RNA)を編集するための、遺伝子工学的に操作されたIII型CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)複合体を生成する方法であって、複数の発現ベクターを生成する工程を備え、
前記複数の発現ベクターは、(i)天然または遺伝子工学的操作されたCRISPR RNA(crRNA)転写物およびプレCRISPR転写物を、成熟crRNAガイド(すなわち、Cas6またはCas7-11)へとプロセシングするCasサブユニットを有するCRISPRアレイ、および(ii)III型CRISPR複合体の複数のタンパク質サブユニットを備え、前記方法は更に、前記複数の発現ベクターを宿主に共導入する工程と、前記宿主において前記複数の発現ベクターの発現を誘導する工程と、発現した前記複数の発現ベクターを前記宿主から精製する工程と、を備える。
【0022】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記crRNAガイドの予想されるサイズに基づいて精製物を選択する工程を更に備える。
【0023】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記予想されるサイズは46ヌクレオチドである、
【0024】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記複数の発現ベクターは、前記CRISPRアレイを含む第1の発現ベクターと、Cas10サブユニットおよびCsm2サブユニットを含む第2の発現ベクターと、Csm3サブユニット、Csm4サブユニットおよびCsm5サブユニットを含む第3の発現ベクターと、を含む。
【0025】
いくつかの例において、本明細書に記載の技術は方法に関し、前記複数の発現ベクターは、前記CRISPRアレイを含む第1の発現ベクターと、Cas7-11遺伝子を含む第2の発現ベクターと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本開示の特徴は、以下の図(同様の数字は同様の要素を示す)に例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【
図1】一実施態様に係る、III型に基づくRNA編集の概略を示す。
【0028】
【
図2A】一実施態様に係る、ストレプトコッカス・サーモフィラス(SthCsm)複合体の精製の一例を示す。
【0029】
【
図2B】一実施態様に係る、SthCsmのSECプロファイルを示す。
【0030】
【
図3A】一実施態様に係る、CsmによるRNA中のターゲット部分のプログラム可能で特異的な切断を示す。
【0031】
【
図3B】一実施態様に係る、Csmによるプログラム可能な切断による分離物を示す尿素-PAGEの一例を示す。
【0032】
【
図4A】一実施態様に係る、RNA中のターゲット部分のプログラム可能な欠失を示す。
【0033】
【
図4B】一実施態様に係る、RNA中のターゲット部分を合成RNA分子でプログラム可能な置換を示す。
【0034】
【
図5A】一実施態様に係る、配列決定に基づくターゲット部分欠失の検証を示す。
【0035】
【
図5B】一実施態様に係る、PCR増幅産物に基づいたターゲット部分欠失の検証を示す。
【0036】
【
図6A】一実施態様に係る、大腸菌から精製されたDesulfonema ishimotonii Cas7-11タンパク質のSECプロファイルを示す。
【0037】
【
図6B】一実施態様に係る、大腸菌から精製されたSEC精製Desulfonema ishimotonii Cas7-11タンパク質のSDS-PAGEを示す。
【0038】
【
図6C】一実施態様に係る、精製されたDesulfonema ishimotonii Cas7-11タンパク質による配列特異的ターゲットRNA切断の尿素-PAGEを示す。
【0039】
【
図6D】一実施態様に係る、精製されたDesulfonema ishimotonii Cas7-11タンパク質による配列特異的ターゲットRNA切断の定量化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本開示は、遺伝子操作により作られたIII型CRISPR複合体を用いたRNA編集に関する。多くのCRISPR RNA誘導ヌクレアーゼは、DNAの配列特異的操作に日常的に用いられている。しかしながら、RNAを編集するための類似の方法はまだ確立されていない。RNAを編集するためのCRISPRシステムの使用は、特定の配列を意図的に欠失させたり挿入したりすることができないインビボを基本とするエディタに限られている。したがって、必要とされているのは、SARS-CoV-2およびその他のウイルス性RNA病原体に対処するための特異的なRNA編集を可能にするRNA編集システムであり、より一般的には、遺伝子治療やその他の目的のためにあらゆるRNAをプログラム可能に編集できるシステムである。
【0041】
「RNA編集」、「RNAを編集する」および類似の用語は、RNAを意図的に改変することを指し得る。例えば、RNA編集は、RNAの取り除きたい一部分を欠失させること、RNAの置換したい一部分を合成RNA配列で置換すること、編集されたRNAが置換されることなく合成RNAを含むように合成RNAを追加すること(いくつかの例では、RNAを取り除いた後に取り除いたRNAを再び追加する場合もある)、合成RNAを追加すると共にRNAの一部分を欠失させること、および/または、そうでなければ意図的な方法でRNAを改変することを含み得る。いくつかの例では、RNA編集は、III-E型CRISPR Cas7-11複合体を介して実施され得る。RNA編集はインビトロで行われてもよく、その場合、編集されたRNAは宿主に導入されてもよい。RNAは、ゲノムRNA(ウイルスゲノムRNAなど)および/またはその他のRNA分子を含み得る。
【0042】
「遺伝子工学的に操作された(engineered)」および類似の用語は、自然界に存在しない系を意図的に生成することを指し得る。遺伝子工学的操作には、遺伝子配列に1つ以上の変異を導入すること、遺伝子配列を設計すること、タンパク質、検出成分等の成分を組み合わせて自然界には存在しない組み合わせを生成すること、および/または、RNA等の核酸を編集するために自然界には存在しない系を生成することが含まれる。
【0043】
遺伝子工学的操作により作られたIII型CRISPR複合体は、プログラム可能であり得るCRISPR RNA(crRNA)配列によって誘導される特定の部位でRNAを切断するヌクレアーゼを含んでもよい。「プログラムされた」、「プログラム可能な」等の用語は、遺伝子工学的操作によって作成されたIII型CRISPR複合体をRNA編集を実行するように設計することを指し得る。特に、プログラム可能なcrRNA配列とは、遺伝子工学的操作によって作成されたIII型CRISPR複合体をRNA中の目的の特定のターゲット部分に誘導するように設計されることを指す。例えば、crRNAの配列特異的なターゲティングは、合成スペーサー配列を設計することによって行うことができる。合成スペーサー配列は、繰り返し配列を分離する20~60ヌクレオチドの長さであってもよいし、自己切断リボザイムで終端してもよく、crRNAが短い(20~100nt)crRNAへと処理され、1つ以上のCasタンパク質のアセンブリに組み込まれ、これらが一緒になって、ガイド(スペーサー)配列に相補的なRNAに安定的に結合し切断するリボ核タンパク質複合体を形成する。スペーサー配列はターゲット配列に相補的であるように設計されており、その他の「非ターゲット」RNAとの相補性を避けるように意図的に設計されている。いくつかの例では、crRNAガイドは、結合、切断または環状ヌクレオチド合成を促進するプロトスペーサーフランキング配列(PFS)を含むように設計されている。他の例では、PFSはcrRNAの5’リピート配列に相補的でない任意の配列である。したがって、プログラム可能なcrRNA配列は、1つ以上の特定の部位におけるRNAの特異的切断を促進し、プログラム可能なRNA編集を可能にする。使用され得る遺伝子工学操作で作成されるIII型CRISPR複合体の一例は、RNアーゼ活性を有するIII-A型CRISPR複合体であるCsm複合体である。Csm複合体は、S.サーモフィラス由来のSthCsmであってもよい。
【0044】
本明細書に記載される様々な例は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のRNAゲノム等のウイルスRNAゲノムの編集について記載する。しかしながら、本明細書に開示されるIII型CRISPR複合体および方法を用いて、任意のRNA分子を編集することができる。
【0045】
図1は、一実施態様による、遺伝子工学的操作により作成されるIII型CRISPR複合体を用いたRNA編集の概略を示す。
複数のRNA分子が編集されることは理解されるであろうが、編集されるRNAは、ターゲットRNAまたはRNA分子とも称され得る。RNA編集を行うために、ターゲットRNAを精製してもよい。例えば、野生型ウイルスRNAを、SARS-CoV-2に感染した哺乳動物細胞培養物から精製することができる。
【0046】
精製されたターゲットRNAを、遺伝子工学的操作により作成されたIII型CRISPR複合体と共にインキュベートすることができる。プログラム可能なcrRNA配列をターゲットRNAにハイブリダイズし、遺伝子工学的操作により作成されたIII型CRISPRをターゲットRNAに結合させることができる。crRNA配列によって誘導されるターゲット部位でターゲットRNAを切断するcrRNA誘導ヌクレアーゼを用いて、結合したIII型CRISPR複合体はインビトロでRNAを切断することができる。ターゲット部位において、crRNA誘導ヌクレアーゼはターゲットRNAをNヌクレオチド単位で切断することができる。特に、crRNA誘導ヌクレアーゼは、ターゲットRNAを1つの位置でまたは6ヌクレオチドの単位で切断することができる。切断の単位数は、crRNAの長さ、複合体中のCasタンパク質の組成または化学量論に依存する。典型的には、必ずしもそうではないが、合計18から24ヌクレオチドが切除されるように、ヌクレアーゼ活性サブユニット数は3から4である。
【0047】
切断後、切断末端を修復するためのRNAリガーゼに適合させるためにRNA断片は処理される。例えば、RNA断片をT4 PNKで処理して、切断末端をT4 RNAリガーゼ1と生化学的に適合させることができる。
【0048】
処理されたRNA断片は核酸オリゴヌクレオチドにアニーリングされ、2つのRNA断片を橋渡しする核酸スプリントとして機能する。核酸オリゴヌクレオチドは、RNAオリゴヌクレオチドおよび/またはデオキシリボ核酸(DNA)オリゴヌクレオチドであってもよい。この場合、核酸スプリントは、RNAスプリントおよび/またはDNAスプリントであってもよい。スプリントされた構造(処理されたRNA断片およびアニーリングされたRNAスプリントおよび/またはDNAスプリント)は、次に、二本鎖構造を認識し、切断された末端を修復するリガーゼで処理される。例えば、リガーゼはT4 RNAリガーゼ1であってもよく、これはスプリント構造の二本鎖構造を認識し、切断されたゲノム断片間にホスホジエステル結合を形成し、それによって末端をライゲーションする。このようなライゲーションにより、目的の遺伝子座が欠失するか(その例が
図4Aに示されている)または遺伝子座が合成配列で置換される(その例が(
図4B)に示されている)ことに留意すべきである。ライゲーション後、編集されたRNAを哺乳動物細胞などの宿主に導入することができる。編集されたビリオンは、標準的なプラーク精製技術を用いて精製される。
【0049】
いくつかのIII型システム(III-A型やIII-B型など)では、ヌクレアーゼはcrRNAに沿って集合する複合体の1つのサブユニットの一部であることに注意すべきである。従って、crRNAが長ければ長いほど、ヌクレアーゼのサブユニットが多くなり、切断イベントの数も多くなる。全ての切断イベントが同時に起こるわけではないため、切断は不均一になる可能性がある(すなわち、crRNA誘導複合体の中にはターゲットを4回切断するものもあれば、2回切断するものもある)。核酸スプリントは、特定の切断産物の両側に特定の配列を隣接させることにより、特定の切断イベントを強化するように設計されている。いくつかのIII型システム(III-E型)は単一のポリペプチドからなる。これらのシステムは一般に6ヌクレオチド離れた2つの位置でターゲットを切断するが、他のIII型システムと同様に、リボヌクレアーゼ活性部位を変異させ、ターゲットRNAを結合するが切断しない切断不全複合体を作製することもできるし、III-E型複合体は2つの活性部位の一方を変異させ、ターゲットRNAを特定の1箇所で切断するように設計することもできる。
【0050】
図2Aは、実施態様に係るSthCsm複合体の精製の一例を示す。SthCsm複合体は、Csm複合体の構成要素を発現する3つのクローニングベクターと、プログラム可能な誘導体およびCas6をコードするCRISPRアレイとを共導入することによって大腸菌で発現され、Cas6はcrRNA転写物(特異的に設計されたcrRNA配列を有する)を成熟ガイドRNA(crRNA配列とも呼ばれる)へとプロセシングする。発現ベクターの誘導後、これらの細胞を溶解し、これに限定されないが、溶解液をアフィニティーカラム(すなわち、ストレップカラム)にかけ次いでサイズ排除クロマトグラフィーを行うといった標準的な方法を用いてCsm複合体を精製する。
【0051】
SARS-CoV-2をターゲットとするように設計された誘導体を持つIII-A型Csm複合体を精製するために、合成CRISPRが作製された。この合成CRISPRは、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)のCRISPRリピートに挟まれた4つの同一の36ヌクレオチド「スペーサー」を含む。このCRISPRアレイはT7誘導的プロモータの制御下にある。このクローニングベクターには、Cas6用のS.thermophilus遺伝子が含まれており、あるIII型CRISPRシステムにおいてcrRNA転写物を成熟crRNAへとプロセシングする。Csm複合体のタンパク質サブユニットは、2つの発現ベクターに分割されることもある。Cas10とCsm2はpACYC-duetベクター上にあり、Csm3、Csm4、Csm5はpRSF-1bベクター上にある。Csm3遺伝子にはN末端のStrep-2タグが含まれており、Strepカラムクロマトグラフィーに使用される。これら3つのクローニングベクターは大腸菌BL21(DE3)細胞に共導入される。これらの遺伝子の発現はT7プロモータの制御下にあり、イソプロピルβ-d-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて誘導される。発現ベクターの増殖と誘導後、ストレップカラムクロマトグラフィーに続いてサイズ排除クロマトグラフィーにより、これらの細胞からCsm複合体を精製した。
【0052】
図2Bは、実施態様に係るSthCsmのSECプロファイルを示す。サイズ排除クロマトグラム(SEC)、精製タンパク質のSDS-PAGE、および、Csm複合体の精製成功を示す関連crRNAの尿素-PAGEを
図2Bに示す。SthCsmのSECプロファイルは、SthCsm複合体のSDS-PAGEおよびSthCsm複合体に関連する核酸の変性尿素アクリルアミドゲルと一緒に示されている。全長crRNAガイドは40ヌクレオチドであると予想される。しかし、その他の長さ(より短い、または長い)の場合もあり得る。例えば、crRNAの混合物は、6ヌクレオチド刻みで変化するcrRNA種の群として作成することができる。crRNAの長さは、crRNAプロセシングの効率によって、または、リボザイムをcrRNAの3’末端に組み込むことによって決定される(例えば、HD自己切断リボザイム)。細胞内でのcrRNAの自然なプロセシングは非効率的なプロセスであり、その結果、典型的には28から72ヌクレオチドの範囲の6ヌクレオチド単位で様々なcrRNAのライブラリが得られるが、その他の範囲も予想される。
【0053】
図3Aは、一実施態様に係る、RNA中のターゲット部分のCsmによるプログラム可能で特異的な切断を示す。Csmによる切断はプログラム可能で特異的である。ここで、インビトロ転写(IVT)された1.5kb RNA分子は、IVT RNA内のターゲット配列を認識するようにプログラムされたSthCsmによって切断される。
【0054】
遺伝子工学的操作により作成されたIII型CRISPR III-A型Csm複合体(本明細書では「Csm複合体」とも呼ぶ)によるRNAターゲティングは、crRNAガイドとの相補性に厳密に依存し、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に依存しないため、ガイド設計が簡素化され、PAM分布による制約がなくなる。従って、Csm複合体はRNAを、ゲノム内の6、12、18または24ヌクレオチド配列を切除するように誘導することができる。その他の長さのヌクレオチド配列も同様に切除できる。ガイド配列は、ターゲットRNAに相補的な36ヌクレオチドを持つように設計されている。転写後、新生crRNA転写物はCas6および/またはその他のヌクレアーゼによってプロセシングされ、成熟crRNAとなる。主要な種は、20ヌクレオチド誘導体とCRISPRのリピートに由来する8ヌクレオチドの5’配列からなる28ヌクレオチドのcrRNAである。このプロセシングには不均一性があり、その結果、サイズの異なる成熟crRNAが混在する。Csm複合体は成熟crRNAに沿って集合するため、crRNAが小さければ、小さい複合体が集まる。このシステムでは、ほとんどのCsm複合体がターゲット領域で12から24ヌクレオチドを切断する。
【0055】
ターゲットRNAの切断は、精製したCsm複合体をインビトロでターゲットRNAとインキュベートすることによって行われる。20mMのHEPES(pH7.5)、50mMのKCl、0.1mg/mlのBSA、10mMの酢酸マグネシウム、および、1U/uLのマウスRNAse阻害剤からなる緩衝液中で、2:1の複合体対ゲノムモル比で、SARS-CoV-2ゲノムをターゲットとするSthCsm複合体を精製ウイルスゲノムと37℃で30分間インキュベートした。Csm複合体に結合しているcrRNAに依存して、この切断によりターゲット配列の6、12、18または24ヌクレオチドが切断される。切断後、Monarch RNAクリーンナップ(NEB)を用いてゲノム断片を精製する。
【0056】
図3Bは、一実施態様に係る、Csmによるプログラム可能な切断による分離物を示す尿素-PAGEの一例を示す。この切断により、1.0kbと0.5kbのサイズの切断物が得られることが尿素-PAGEにより証明された。このプログラム可能な切断がRNA編集の基本である。
【0057】
図4Aは、一実施態様に係る、RNA中のターゲット部分のプログラム可能な欠失を示す。ターゲットRNA(RNAゲノムのような)のターゲット領域を欠失させるために、Csm切断が行われ、次いでスプリントライゲーションが行われる。スプリントは、ライゲーションされる切断物の末端に15-25ヌクレオチドの相補性を有するように設計される。PNK処理後、切断されたターゲットRNA断片は、ターゲットRNA対スプリント比1:1でスプリントと混合される。その後、サーモサイクラーで混合物を95℃まで短時間加熱し、45分かけて温度を4℃まで下げることにより、スプリントはターゲットRNA断片から利用可能なものにアニーリングされる。このRNA:DNA複合体をRNAリガーゼ1(New England Biolabs(登録商標)から入手可能)で処理し、ターゲット欠失を持つ編集されたターゲットRNAを得る。
【0058】
Csmによる切断後、ゲノム断片をT4 PNK(New England Biolabs(登録商標)から入手可能)で処理する。Csmは金属依存性ヌクレアーゼであり、3’切断物に2’-3’環状リン酸を残し、5’末端に水酸基を残す。切断されたゲノム断片を1X PNK緩衝液中、37℃で40分間T4 PNKで処理することにより、2’-3’環状リン酸を2’ヒドロキシル基および3’ヒドロキシル基に置換する。反応液にATPを1mMまで添加し、さらに37℃で40分間インキュベートして、5’ヒドロキシル基を5’一リン酸基に置換する。PNK処理後、MONARCH RNA クリーンナップキット(New England Biolabs(登録商標)から入手可能)を用いてゲノム断片を精製する。
【0059】
スプリントライゲーションでは、まずRNA断片をDNAオリゴヌクレオチドにアニーリングさせ、2つの切断物に塩基対を形成させて切断領域を橋渡しする。このスプリントされたRNA-DNAハイブリッドはT4 RNAリガーゼ1で処理され、2つの切断物をホスホジエステル結合でつなぐ。
【0060】
DNAオリゴヌクレオチドスプリントは、1X T4 RNAリガーゼ緩衝液中で、PNK処理したゲノム断片と1:1のスプリント対ゲノムモル比で混合される。断片をスプリントとアニーリングさせるために、混合物を95℃で2分間加熱し、その後サーモサイクラーで45分間かけて4℃までゆっくりと降温する。 切断されたゲノム断片にスプリントがアニーリングした後、RNA:DNAハイブリッドを、10%のPEG 8000と1U/ulのマウスRNAse阻害剤を添加した1Xリガーゼ緩衝液中で、製造者のプロトコールに従ってT4 RNAリガーゼ1(New England Biolabs(登録商標)から入手可能)で処理する。反応は25℃で1時間インキュベートする。反応物を1uLのTURBO DNase(ThermoFisher Scientific製)で処理し、37℃で15分間インキュベートしてDNAスプリントを除去する。その後、MONARCH RNAクリーンナップキット(New England Biolabs(登録商標)から入手可能)を用いてRNAを精製する。この結果、ターゲットRNAが除去された編集済みRNAゲノムが得られる。
【0061】
RNA編集のためのこのような切断とスプリントライゲーションの手法は、ウイルスRNAゲノムの領域を目的の合成RNA配列で置き換えるために、さらに応用することもできる。これを達成するために、多重化されたガイドを持つCsm複合体(すなわち、ゲノム中の2つの部位を認識するガイドを持つ2つのCsm複合体)を用いて、置換したい領域を挟む2つの部位でRNAゲノムを切断する。得られた切断物は、上記のようにT4 PNKで処理され、合成RNA分子と混合される。ゲノム断片と合成RNAにハイブリダイズするように設計された2つのDNAスプリントが、次にRNA分子にアニーリングされる。この構造体をT4 RNAリガーゼ1で処理すると、ゲノム断片と合成RNAの間の切れ目が封鎖され、その結果、合成RNAがウイルスゲノムに直接組み込まれる。RNA編集のこの手法の概要を
図4Bに示す。
【0062】
図4Bは、一実施態様に係る、ターゲットRNA(RNAゲノム等)中のターゲット部分を合成RNA分子でプログラム可能に置換を示す図である。ターゲットRNAの領域を合成RNA分子で置換するために、1つ以上のCsm複合体を用いてターゲットRNAを切断する。切断物をPNK処理し、目的の合成RNAを切断物にターゲットRNA対合成RNAの比1:1で加える。次に、切断されたターゲットRNA末端と合成RNAにハイブリダイズするように設計された2つのスプリントを混合物に加え、上記のようにゲノムと合成RNAにアニーリングさせる。このRNA:DNA複合体をRNAリガーゼ1(New England Biolabs(登録商標)から入手可能)で処理すると、合成RNAがRNAターゲットに組み込まれる。
【0063】
図5Aは、一実施態様に係る、配列決定に基づくターゲット部分欠失の検証を示す。SthCsmによる切断とスプリントライゲーション後、RNAを逆転写し、PCR増幅し、Oxford Nanoporeシークエンシングで塩基配列を決定した。配列決定の結果、ターゲット部位の配列深度が低下していることが示された。これは目的の18ヌクレオチド欠失を示している。
【0064】
本手法を検証するために、我々は、SARS-CoV-2のORF7a遺伝子をターゲットとするように設計された、ストレプトコッカス・サーモフィラス由来のIII型A Csm複合体の合成CRISPRを作成した。切断効率は、切断部位を挟むプライマー対を用いたRT-qPCRによって測定される。この手法により、我々は日常的に標的RNAの98%以上を切断している。切断後、生成物はスプリントライゲーションにより再接続される。ライゲーションの効率は、同じRT-qPCRアッセイを用いて測定する。我々は日常的に25%程度のライゲーション効率を達成している。この手法により期待される欠失をもたらすことを確認するために、RNAの編集領域全体のディープシークエンシングを行った。シークエンシングデータから、一次生成物が目的の18ヌクレオチド欠失を含むRNAであることが明らかになった(
図5A)。このことは、
図5Bに示すように、編集後のRT-PCR生成物がより小さくなることでさらに確認された。
【0065】
図5Bは、一実施態様に係る、PCR増幅産物に基づいたターゲット部分欠失の検証を示す。編集された領域をPCRで増幅すると、編集した産物のサイズが減少していることがわかる。編集によって18ヌクレオチドが切除されるので、このサイズの変化は予想されたものである。
【0066】
このRNA編集手順のもう一つの可能性は、哺乳類細胞によってコードされた宿主RNAリガーゼに依存する。具体的には、RNA編集は哺乳類のtRNAリガーゼ複合体によって媒介される可能性がある。このことから、Csmを介したRNA編集はインビボでも可能であり、哺乳類tRNAリガーゼ複合体によって、PNK処理、スプリントアニーリングおよびインビトロライゲーション工程への依存性を排除できる可能性がある。
【0067】
これらの結果を総合すると、CsmによるRNA編集とそれに続くスプリントライゲーションは、期待通りの編集物をもたらす効果的な手順であることが実証された。Csmによる切断はプログラム可能であり、PAMに完全に依存しないことから、このRNA編集技術はあらゆるRNA分子に汎用可能であり、主な応用例としてはRNAウイルスの簡便な編集が期待される。この手法はユニークであり、インビトロでRNA分子のプログラム可能な切断とライゲーションによってRNAの編集を達成する方法は他に報告されていない。ヌクレアーゼ欠損III型複合体は、塩基編集酵素やその他のRNA修飾酵素を特定のRNA配列に標的化するプラットフォームとしても機能し、切断を伴わない遺伝的・エピジェネティックな編集が可能になると期待される。
【0068】
crRNA配列は、RNAターゲット等の核酸の遺伝子座に相補的となるように操作されたCRISPRガイド配列であってもよい。crRNA配列は、ターゲット核酸またはその他の関心領域の1つ以上の保存領域に基づいて選択されてもよい。例えば、SARS-CoV-2ウイルス(またはその他のRNAターゲット)の異なる複数のゲノムを互いにアラインメントして、保存領域を同定することができる。一般的に言えば、アライメントが少ない領域よりもアライメントが多い(塩基対の違いが少なく、アライメント長が長い)領域の方が、CRISPRガイド配列として使用する相補的配列を生成するためのより良い候補となる。
【0069】
crRNA配列は、SARS-CoV-2の様々なサンプル、SARS-CoV-2の様々な株および/またはSARS-CoV-2について利用可能なその他のサンプルにわたる保存領域に基づいて設計されてもよい。このような保存配列は、配列アライメントに基づいて決定することができる。ペアワイズマッチのアラインメント品質が、2つの配列のアライメントされた部分が、SARS-CoV-2(またはその他のターゲット)のゲノム全体の配列中のヌクレオチドの保存を表すと決定するのに十分である場合に、ペアワイズマッチが考慮され得る。アライメント品質は、少なくとも約1塩基、約2塩基、約4塩基、約5塩基、約10塩基、約15塩基、約40塩基、約25塩基、約40塩基、約45塩基、約50塩基、約55塩基、約60塩基、約65塩基、約70塩基、約75塩基、約80塩基、約85塩基、約90塩基、約95塩基、または約100塩基の最小重複を有するものとして規定され得る。これに代えてまたは加えて、アライメント品質は、少なくとも約5%、10%、15%、40%、25%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上の最小アライメント一致率に基づいてもよい。場合によっては、少なくとも約70%の一致率を持つ、少なくとも25ntの重複が基準として要求されることもある。
【0070】
本実施例では、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)遺伝子およびORF7a遺伝子をコードする配列決定が、CRISPRガイド配列を生成するための基礎として機能するように選択された。CRISPRガイド配列の例としては、SEQ ID NO.1〜SEQ ID NO.4が挙げられる。
[配列表]
【0071】
本願には、「065869-0570003_PCT_SEQUENCE_LISTING.xml」(2022年7月7日作成、4.66バイト)XML形式の配列表が添付されている。当該配列表は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
【0073】
図6Aは、一実施態様に係る、大腸菌から精製されたDesulfonema ishimotonii Cas7-11タンパク質のSECプロファイルを示す。DisCas7-11複合体は、単一ポリペプチドを発現する1つのクローニングベクターの共導入により大腸菌で発現される。発現ベクターの誘導後、これらの細胞を溶解し、これに限定されないが、溶解液をアフィニティーカラム(すなわち、ストレップカラム)にかけ、次いでサイズ排除クロマトグラフィーを行うといった標準的な方法を用いてIII-E型複合体ポリタンパク質を精製する。
【0074】
この複合体は精製後、CRISPR遺伝子座からのダイレクトリピート(35nt)の全配列と、ターゲット配列に逆相補的な31ntのスペーサー配列を含む1.2倍濃度の未成熟crRNA(66nt)と混合される。次に、Cas7-11ポリタンパク質を、20mMのHEPES(pH7.5)、50mMのKCl、0.1mg/mlのBSA、10mMの酢酸マグネシウムおよび1U/uLのマウスRNAse阻害剤からなる緩衝液中で、37℃で30分間、未成熟crRNAとインキュベートする。この反応により、Cas7-11タンパク質とcrRNAの複合化が促進され、15ntの5’-タグを残してダイレクトリピート配列をトリミングするcrRNAプロセシングが行われる。
【0075】
図6Bは、一実施態様に係る、大腸菌から精製されたSEC精製Desulfonema ishimotonii Cas7-11タンパク質のSDS-PAGEを示す。
【0076】
図6Cは、一実施態様に係る、精製されたDesulfonema ishimotonii Cas7-11タンパク質による配列特異的ターゲットRNA切断の尿素-PAGEを示す。この切断により、0.9kbと0.25kbのサイズの切断物が得られ、このことが尿素-PAGEで証明された。ターゲットRNAの切断は、精製したDisCas7-11複合体をインビトロでターゲットRNAとインキュベートすることにより行われる。20mMのHEPES(pH7.5)、50mMのKCl、0.1mg/mlのBSA、10mMの酢酸マグネシウムおよび1U/uLのマウスRNAse阻害剤からなる緩衝液中で、GFP遺伝子のDisCas7-11複合体ターゲット配列を、複合体対ゲノムの合成インビトロ転写RNA断片(SINV-GFP)と5:1のモル比で、37℃で60分間インキュベートした。この切断は、Csm複合体に結合しているcrRNAに依存し、ターゲット配列の6ヌクレオチドを切除する。切断後、RNA断片をフェノール-クロロホルム抽出法でタンパク質から精製し、Urea-PAGEで分離した。
【0077】
図6Dは、一実施態様に係る、精製されたDesulfonema ishimotonii Cas7-11タンパク質による配列特異的ターゲットRNA切断の定量化を示す。RNA切断物をLunaScript RT SuperMix Kit(New England Biolabs)で逆転写し、切断部位に隣接するプライマーを用いたリアルタイムPCRで定量化した。データはcrRNAを含まないコントロール反応に対して正規化し、切断効率は(1-RNAの相対量)*100%として計算した。反応はテクニカルデュプリケートで行い、データは平均値±1標準偏差でプロットした。
【0078】
ターゲットRNAは被験体から得ることができる。例えば、ターゲットRNAは、宿主生物に感染する生物のRNAであってもよい。特に、ターゲットRNAは、被験体に感染したウイルスのRNAゲノムであってもよい。別の例では、ターゲットRNAは被験体のRNAであってもよい。被験体とは、哺乳動物種(好ましくはヒト)、鳥類(例えば鳥類)などの動物または植物等のその他の生物を指す場合がある。より具体的には、被験体は脊椎動物、例えば、マウス等の哺乳類、霊長類、類人猿またはヒトであり得る。動物には、家畜、スポーツ動物、ペット等が含まれる。被験体は、健康な個体、症状もしくは徴候を有する個体、または疾患もしくは疾患の素因を有することが疑われる個体、または、治療が必要な個体もしくは治療が必要であることが疑われる個体であり得る。
【0079】
遺伝子組換えシステムにおける遺伝子組換えまたは突然変異とは、核酸の変化、変異または多型のことであり、その結果、対応するタンパク質の機能が変化または無効になる可能性がある。参照ゲノム、被験体またはその他の個体に関して、このような変化、変異または多型があり得る。変異には、1つ以上の一塩基変異(SNV)、挿入、欠失、反復、小挿入、小欠失、小反復、構造変異接合、可変長タンデム反復および/またはフランキング配列、CNV、転座、遺伝子融合およびその他の転位もまた、遺伝的変異の形態とみなされ得る。変異は、塩基変化、挿入、欠失、反復、コピー数変異、転座またはそれらの組み合わせであり得る。
【0080】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」、「核酸分子」または「オリゴヌクレオチド」はそれぞれ、ヌクレオシド間連結によって結合したヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシドまたはそれらの類似体を含む)のポリマーを指すことがある。典型的には、ポリヌクレオチドは少なくとも3つのヌクレオシドからなる。オリゴヌクレオチドの大きさは、数個の単量体単位、例えば、3-4個から数百個の単量体単位までであることが多い。ポリヌクレオチドが「AUGCCUG」のような文字の配列で表される場合はいつでも、ヌクレオチドは左から右へ5’から3’の順序であり、特に断りのない限り、「A」はアデノシン、「C」はシチジン、「G」はグアノシン、「U」はウラシルを示すことが理解されるであろう。文字A、C、G、およびU(またはDNA中のチミンを示す「T」)は、当技術分野で標準的であるように、塩基自体、ヌクレオシドまたは塩基を構成するヌクレオチドを指すのに使用され得る。
【0081】
上述または以下に引用された全ての特許出願、ウェブサイト、その他の刊行物、配列リスト、文献番号等は、個々の項目が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度まで、あらゆる目的のためにその全体が参照により組み込まれる。
【0082】
ある配列の異なるバージョンが異なる時点で文献番号と関連付けられている場合、本出願の有効出願日において文献番号と関連付けられているバージョンを意味する。有効出願日とは、実際の出願日または該当する場合には文献番号に言及する優先権出願の出願日のいずれか早い方を意味する。同様に、出版物、ウェブサイト等の異なるバージョンが異なる時期に発行された場合、特に断りのない限り、本出願の有効出願日に発行された最新のバージョンを意味する。本開示の任意の特徴、ステップ、要素、実施形態または態様は、特に別段の指示がない限り、他のものと組み合わせて使用することができる。本開示は、明瞭性および理解を高める目的で、例示および実施例によってある程度詳細に説明されてきたが、添付の特許請求の範囲の範囲内で特定の変更および修正が実施され得ることは明らかであろう。
【配列表】
【国際調査報告】