(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】微生物における飽和脂肪の製造
(51)【国際特許分類】
C12P 7/6463 20220101AFI20240702BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20240702BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240702BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20240702BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20240702BHJP
A23K 10/10 20160101ALI20240702BHJP
【FI】
C12P7/6463
A23L33/115 ZNA
C12N1/19
C12N15/52 Z
A23K20/158
A23K10/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575910
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 AU2022050580
(87)【国際公開番号】W WO2022256882
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523334154
【氏名又は名称】ナリシュ イングリーディエンツ プロプライアタリー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】アナ エル ターチー
(72)【発明者】
【氏名】ダワー フセイン
(72)【発明者】
【氏名】ペイ トン
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ジョン ダムスデイ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート チャールズ デ フェイター
(72)【発明者】
【氏名】スリンダー パル シン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ロバートソン ペトリー
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、抽出された微生物の脂質、前記脂質を含む微生物細胞、及びこれらの抽出物に関する。本発明はまた、食物、飼料、及び飲料におけるこれらの脂質、細胞、及び抽出物の使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和脂肪酸(SFA)の総飽和脂肪酸含有量と、一価不飽和脂肪酸(MUFA)の総一価不飽和脂肪酸含有量とを含む総脂肪酸含有量を含む抽出された微生物脂質であって、SFAの少なくとも一部とMUFAの少なくとも一部とを含む総脂肪酸含有量の少なくとも一部がトリアシルグリセロール(TAG)の形態でエステル化されており、従って前記抽出された微生物脂質は総TAG含有量を有し、そして、ここで、
(i)前記抽出された微生物脂質の総SFA含有量は、ステアリン酸(C18:0)、パルミチン酸(C16:0)、ミリスチン酸(C14:0)、アラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)、及びリグノセリン酸(C24:0)を含み、従って、前記抽出された微生物脂質の総脂肪酸含有量の脂肪酸の少なくとも50重量%はSFAであり、
(ii)前記総脂肪酸含有量の20重量%~85重量%はステアリン酸であり、
(iii)前記抽出された微生物脂質の総MUFA含有量は、オレイン酸(C18:1Δ9)及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9)、並びに任意選択的にC16:1Δ7及び/又はC17:1を含み、
(iv)前記抽出された微生物脂質の前記総脂肪酸(TFA)含有量は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)が欠如しているか、又はリノール酸(C18:2Δ9,12)を含むPUFA含有量を含み、ここで、前記PUFA含有量は前記総脂肪酸含有量の5重量未満であり、
(v)前記抽出された微生物脂質は、リン脂質を含む極性脂質を含むか、又は極性脂質が欠如しているかのいずれかであり、
(vi)前記抽出された微生物脂質は25℃で固体であり、そして
(vii)前記抽出された微生物脂質は微生物細胞から得られ、ここで前記微生物細胞は酵母細胞である、前記微生物脂質。
【請求項2】
飽和脂肪酸(SFA)の総飽和脂肪酸含有量と、一価不飽和脂肪酸(MUFA)の総一価不飽和脂肪酸含有量とを含む総脂肪酸含有量を含む抽出された微生物脂質であって、SFAの少なくとも一部とMUFAの少なくとも一部とを含む総脂肪酸含有量の少なくとも一部がトリアシルグリセロール(TAG)の形態でエステル化されており、従って前記抽出された微生物脂質は総TAG含有量を有し、そして、ここで、
(i)前記抽出された微生物脂質の総SFA含有量は、ステアリン酸(C18:0)、パルミチン酸(C16:0)、ミリスチン酸(C14:0)、アラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)、及びリグノセリン酸(C24:0)を含み、従って、前記抽出された微生物脂質の総脂肪酸含有量の脂肪酸の少なくとも50重量%はSFAであり、
(ii)前記総脂肪酸含有量の20重量%~85重量%はステアリン酸であり、
(iii)前記抽出された微生物脂質の総MUFA含有量は、オレイン酸(C18:1Δ9)及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9)、並びに任意選択的にC16:1Δ7及び/又はC17:1を含み、
(iv)前記抽出された微生物脂質の前記総脂肪酸(TFA)含有量は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)が欠如しているか、又はリノール酸(C18:2Δ9,12)を含むPUFA含有量を含み、ここで、前記PUFA含有量は前記総脂肪酸含有量の5重量未満であり、
(v)前記抽出された微生物脂質は、リン脂質を含む極性脂質を含むか、又は極性脂質が欠如しているかのいずれかであり、そして
(vi)前記抽出された微生物脂質は25℃で固体である、前記微生物脂質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抽出された微生物脂質であって、前記脂質の若しくは前記TAG含有量のTFA含有量又は両方が、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、若しくは0.2%未満、又は0.2%~5%、0.2%~4%、0.2%~3%、0.2%~2%、0.5%~5%、0.5%~4%、0.5%~3%、0.5%~2重量%のリノール酸(LA)を含むか、又はLAは、前記脂質の及び/又は前記TAG含有量のTFA含有量には本質的に存在しない、前記微生物脂質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、前記脂質の若しくは前記TAG含有量のTFA含有量又は両方が、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、若しくは0.2%未満、又は0.2%~5%、0.2%~4%、0.2%~3%、0.2%~2%、0.5%~5%、0.5%~4%、0.5%~3%、0.5%~2重量%のPUFAを含むか、又はPUFAは、前記脂質の及び/又は前記TAG含有量のTFA含有量には本質的に存在しない、前記微生物脂質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、前記脂質のTFA含有量及び/又は前記TAGのTFA含有量が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、10%~50%、10%~40%、10%~35%、10%~30%、又は20%~35重量%のオレイン酸を含む、前記微生物脂質。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された微生物脂質と比較して、前記脂質のTFA含有量及び/又はTAG含有量中に、より多量の、総SFA含有量、C18:0含有量、C20:0含有量、及びC22:0含有量の1つ又はそれ以上を含む、前記微生物脂質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、前記脂質のTFA含有量及び/又はTAG含有量が、30重量%~90重量%、30重量%~80重量%、30重量%~70重量%、30重量%~60重量%、又は30重量%~50重量%のSFAを含む、前記微生物脂質。
【請求項8】
請求項7に記載の抽出された微生物脂質であって、前記総SFA含有量が、前記脂質の脂質のTFA含有量及び/又は前記TAGのTFA含有量の少なくとも60重量%である場合、ステアリン酸含有量が少なくとも40重量%である、前記微生物脂質。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、前記脂質のTFA含有量又は前記脂質のTAG含有量又は両方の、18個以上の炭素を含む総飽和脂肪酸と16個以下の炭素を含む総飽和脂肪酸との比(L/S-SFA比)が、少なくとも約1.5である、少なくとも約2である、少なくとも約2.5である、少なくとも約3である、少なくとも約4である、少なくとも約5である、少なくとも約6である、少なくとも約7である、少なくとも約8である、少なくとも約9である、少なくとも約10である、又は約3~約10である、前記微生物脂質。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、前記脂質は、少なくとも1つの遺伝子改変を含む微生物から抽出され、及び前記脂質のTFA含有量又はTAG含有量又は両方のL/S-SFA比が、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された微生物脂質と比較して、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約7倍、少なくとも約8倍、少なくとも約9倍、少なくとも約10倍、又は約3~約10倍大きい、前記微生物脂質。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、C20:0脂肪酸の含有量が、前記抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、又は少なくとも約3重量%であり、C22:0脂肪酸の含有量が、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、少なくとも約3重量%、又は少なくとも約3.5重量%であり、及び/又はC24:0脂肪酸の含有量が、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、少なくとも約3重量%、少なくとも約3.5重量%、又は少なくとも4重量%である、前記微生物脂質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、C20:0、C22:0、及びC24:0脂肪酸が、前記抽出され脂質のTFA含有量又は前記脂質のTAGのTFA含有量又は両方の、少なくとも95%、少なくとも97%、又は少なくとも99重量%を含み、これらは少なくとも炭素数20以上である、前記微生物脂質。
【請求項13】
極性脂質を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、前記極性脂質のTFA含有量が、前記抽出された脂質のTFA含有量又はTAG含有量について、請求項2~11に定義される1つ又はそれ以上の特徴を有する、前記微生物脂質。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、TAGが、前記抽出した脂質の総脂質含有量の、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも96重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、又は100重量%を含む、前記微生物脂質。
【請求項15】
ステロール及び/又はステロールエステル、好ましくはエルゴステロール及び/又はエルゴステロールエステルを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項16】
含水率が20重量%未満である、請求項1~15のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項17】
揮発性溶媒含有量が10重量%未満である、請求項1~16のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、ここで、前記脂質が、それらのsn-2位でエステル化されたMUFA、好ましくはオレイン酸を含むTAG分子を含み、ここで、前記抽出された脂質中の、前記sn-2位でエステル化されたMUFAを含むTAG分子の数の比と、それらのsn-2位でエステル化されたMUFA以外の脂肪酸を含むTAG分子の数の比(sn-2におけるMUFA:他のFA比)が、約0.50、約0.30未満、約0.20未満、約0.10未満、約0.05未満、約0.04未満、約0.03未満、又は約0.02未満である、前記微生物脂質。
【請求項19】
少なくとも1つの遺伝子改変を含む微生物から抽出され、かつリン脂質を含む極性脂質を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、ここで、前記抽出された脂質中のホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、及びホスファチジルセリン(PS)の少なくとも2つ、好ましくは3つ、又は4つすべてが、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された脂質よりも多量のSFAを有する、前記微生物脂質。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質であって、前記脂質が、
(a)FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチド、
(b)少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする、少なくとも1つの外因性ポリヌクレオチド、及び
(c)内因性Δ12デサチュラーゼの発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子改変、より好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異、最も好ましくはFAD2遺伝子のヌル変異、
を含む遺伝子改変を含む微生物から抽出されたものであり、
ここで、各ポリヌクレオチドは、前記微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている、前記微生物脂質。
【請求項21】
請求項20に記載の抽出された微生物脂質であって、ここで、前記少なくとも1つのDGATが、配列番号144~154のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号144~154のいずれか1つ又はそれ以上と、少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含み、及び/又は、ここで、前記FATA脂肪アシルチオエステラーゼが、配列番号84又は86のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号84又は86のいずれか1つ以上と、少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む、前記微生物脂質。
【請求項22】
前記微生物がさらに以下を含む、請求項20又は21に記載の抽出された微生物脂質:
アシル-CoAシンセターゼ(ACS)をコードする外因性ポリヌクレオチドであって、任意選択的に、ACSは、配列番号88~89のいずれか1つとして示される配列を、又は配列番号88~89のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む、前記ポリヌクレオチド;又は
リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)をコードする外因性ポリヌクレオチドであって、任意選択的に、LPAATは配列番号91のいずれか1つとして示される配列を、又は配列番号91のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む、前記ポリヌクレオチド。
【請求項23】
真核細胞、真菌細胞、細菌細胞、若しくは藻類細胞、生きた微生物細胞、死んだ微生物細胞、又はこれらの任意の混合物を含むか又はこれらからなる微生物細胞から得られる、請求項2~22のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項24】
前記微生物細胞が、(i)発酵に適したもの、(ii)油性細胞、(iii)非油性細胞、好ましくは遺伝子改変による油性細胞に由来する非油性細胞、及び(iv)従属栄養細胞の、1つ若しくはそれ以上又はすべてである、請求項23に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項25】
前記微生物細胞が酵母細胞である、請求項23又は請求項24に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項26】
前記酵母細胞が、サッカロミセス・セレビッシェ、ヤローウィア・リポリティカ、ピキア・パストリス、及びこれらの任意の混合物からなる群から選択される、請求項2又は25に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項27】
前記酵母細胞がヤローウィア・リポリティカである、請求項26に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項28】
少なくとも5g、少なくとも10g、少なくとも50g、又は少なくとも100gの重量を有する、請求項1~27のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項29】
5g/l未満、2g/l未満、1g/l未満のステアリン酸塩の存在下で培養されたか、又は培地にステアリン酸が添加されずに培養された微生物細胞から得られる、請求項1~28のいずれか1項に記載の抽出された微生物脂質。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか1項で定義される脂質を含む微生物細胞。
【請求項31】
少なくとも1つの遺伝子改変を有する微生物細胞であって、ここで、前記微生物細胞は、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如しており、同じ条件下で培養された対応する微生物細胞と比較した場合、各場合に、(i)前記微生物細胞の総脂肪酸(TFA)含有量、又は前記微生物細胞中のTAGのTFA含有量、又は両方において、飽和脂肪酸(SFA)含有量の増加、少なくとも18個の炭素を有するSFA含有量の増加、ステアリン酸含有量の増加、C20:0及びC22:0脂肪酸含有量の増加、C24:0脂肪酸含有量の増加、L/S-SFA比の増加、又はこれらの任意の組み合わせ、及び(ii)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積、又は両方の増加を有する、前記微生物細胞。
【請求項32】
前記細胞のTFA含有量、又は前記細胞のTAG含有量、又は両方が、前記抽出された脂質のTFA含有量又は前記TAGについて、請求項3~12に定義された1つ又はそれ以上の特徴を有する、請求項31に記載の微生物細胞。
【請求項33】
請求項30~32のいずれか1項に記載の微生物細胞であって、ここで、前記細胞のTFA含有量、前記細胞のTAG含有量、又は前記細胞の極性脂質、又はこれらの任意の組み合わせが、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如しており、同じ条件下で培養された対応する微生物細胞と比較した場合、増加したL/S-SFAを有し、好ましくはここで、L/S-SFA比が、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如しており、同じ条件下で培養された対応する微生物細胞のTFA含有量、TAG含有量、又は極性脂質におけるよりも、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約7倍、少なくとも約8倍、少なくとも約9倍、少なくとも約10倍、又は約3~約10倍大きい、前記微生物細胞。
【請求項34】
a)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ、
b)少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)、又は
c)FATA及び少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともDGATを、コードする外因性ポリヌクレオチドである少なくとも1つの遺伝子改変を含む、請求項30~33のいずれか1項に記載の微生物細胞であって、
ここで、各ポリヌクレオチドは、前記微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている、前記微生物細胞。
【請求項35】
リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、前記ポリヌクレオチドが、前記微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている、請求項34に記載の微生物細胞。
【請求項36】
少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともDGATが、パルミトイル-CoAと比較して、基質としてのステロイル-CoA分子に対して少なくとも同等以上の活性を有する、請求項34又は請求項35に記載の微生物細胞。
【請求項37】
前記DGATが、配列番号81に記載の配列を、又は配列番号81と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を、有するアミノ酸を含む、請求項34~36のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項38】
前記DGATが酵母DGA1である、請求項34~37のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項39】
前記DGA1が、配列番号53に記載の配列を、又は配列番号53と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を、有するアミノ酸を含む、請求項38に記載の微生物細胞。
【請求項40】
前記FATAが、配列番号83若しくは配列番号85に記載の配列を、又は配列番号83及び配列番号85の一方又は両方と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を、有するアミノ酸を含む、請求項34~39のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項41】
内因性Δ12デサチュラーゼの発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子改変、より好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル遺伝子改変を含む、請求項30~40のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項42】
前記遺伝子改変が、内因性Δ12デサチュラーゼをコードする遺伝子における変異、好ましくはFAD2遺伝子のヌル変異である、請求項41に記載の微生物細胞。
【請求項43】
基質として、ステアロイル-CoAと比較してPUFA-CoAに対して優先性を有するか、又はステアロイル-CoAと比較してパルミトイル-CoAに対して優先性を有するか、又は両方である、DGATをコードする内因性遺伝子、好ましくはDGA2遺伝子の、発現又は活性又は両方の低下をもたらす遺伝子改変を含む、請求項30~42のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項44】
以下を有する、請求項30~43のいずれか1項に記載の微生物細胞:
1)FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
2)脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
3)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ及び脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
4)FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
5)脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
6)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ及び脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
7)FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチド、内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
8)脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、又は
9)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ及び脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
ここで、各ポリヌクレオチドは、前記微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている。
【請求項45】
FATA脂肪アシルチオエステラーゼ、脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくは内因性Δ12デサチュラーゼをコードする遺伝子の変異、より好ましくはFAD2遺伝子のヌル変異を含む、請求項30~44のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項46】
請求項45に記載の微生物細胞であって、前記DGATが、配列番号144~154のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号144~154のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含み、及び/又は前記FATA脂肪アシルチオエステラーゼが、配列番号84又は86のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号84又は86のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む、前記微生物細胞。
【請求項47】
アシル-CoAシンセターゼ(ACS)をコードする外因性ポリヌクレオチドを、又はリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)をコードする外因性ポリヌクレオチドを、さらに含む請求項45又は46に記載の微生物細胞であって、
任意選択的に、前記ACSが配列番号88~89のいずれか1つに記載の配列を、又は、配列番号88~89のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含み、
任意選択的に、前記LPAATが配列番号91に記載の配列を、又は配列番号91に記載の配列と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一である有するヌクレオチド配列を有するヌクレオチドを含む、前記微生物細胞。
【請求項48】
真核細胞、真菌細胞、細菌細胞、若しくは藻類細胞、生きた微生物細胞、死んだ微生物細胞、又はこれらの任意の混合物を含む、又はこれらからなる、請求項30~47のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項49】
(i)発酵に適したもの、(ii)油性細胞、(iii)非油性細胞、好ましくは遺伝子改変による油性細胞に由来する非油性細胞、及び(iv)従属栄養細胞の、1つ若しくはそれ以上又はすべてである、請求項30~48のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項50】
酵母細胞である、請求項30~49のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項51】
前記酵母細胞が、サッカロミセス・セレビッシェ、ヤローウィア・リポリティカ、ピキア・パストリス、及びこれらの任意の混合物からなる群から選択される、請求項50に記載の微生物細胞。
【請求項52】
酵母細胞がヤローウィア・リポリティカである、請求項51に記載の微生物細胞。
【請求項53】
約5g/l未満、約2g/l未満、約1g/l未満のステアリン酸塩を有するか、又はステアリン酸塩が添加されていない培地中の、又は前記培地で培養された、請求項30~52のいずれか1項に記載の微生物細胞。
【請求項54】
請求項1~29のいずれか1項に記載の脂質を含むか、又は請求項30~53のいずれか1項に記載の微生物細胞から生成される、微生物細胞抽出物。
【請求項55】
好ましくは微生物細胞のゲノムに組み込まれた、請求項34~40のいずれか1項に記載の酵素の1つ又はそれ以上をコードする、DNA構築体又はDNA構築体の組み合わせ。
【請求項56】
(a)請求項30~53のいずれか1項に記載の微生物細胞を得る工程、及び
(b)前記微生物細胞から脂質を抽出する工程を含み、
それにより抽出された脂質を生成する、抽出された脂質の生成プロセス。
【請求項57】
前記微生物細胞を培養する工程、又は工程(b)の前に前記細胞を酸で処理する工程をさらに含む、請求項56に記載のプロセス。
【請求項58】
細胞が、5g/l未満、2g/l未満、1g/l未満のステアリン酸塩を有するか、又はステアリン酸が存在しない培地中で培養されている、請求項57に記載のプロセス。
【請求項59】
脂質を抽出する工程が、前記細胞を有機溶媒に曝露する工程、細胞をプレスする工程、又は細胞をマイクロ波照射、超音波処理、高速ホモジナイゼーション、高圧ホモジナイゼーション、ビーズ叩解、オートクレーブ滅菌、熱分解、又はこれらの任意の組み合わせによって処理する工程を含む、請求項56~58のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項60】
前記方法が、抽出後の前記脂質を改変又は精製することをさらに含む、請求項56~59のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項61】
以下の工程を含む、微生物細胞を培養するプロセス:
(a)請求項30~53のいずれか1項に記載の微生物細胞を取得する工程、及び
(b)適切な培地中で前記細胞を培養することにより、細胞の数を増やす工程。
【請求項62】
請求項34~47のいずれか1項に記載の1つ又はそれ以上の遺伝子改変及び/又は外因性ポリヌクレオチドを前駆微生物細胞に導入する工程を含む、請求項1~29のいずれか1項に記載の脂質を産生する微生物細胞を製造するプロセス。
【請求項63】
以下の1つ又はそれ以上の工程を含む、請求項62に記載のプロセス:
(i)導入された前記遺伝子改変及び/又は前記外因性ポリヌクレオチドを含む細胞から子孫細胞を生成する工程、
(ii)前駆細胞集団の突然変異誘発、
(iii)1つ又はそれ以上の外因性ポリヌクレオチドを導入して、それにより外因性ポリヌクレオチドが前記微生物細胞のゲノムに、好ましくは所定の位置に組み込まれる工程、
(iv)前記細胞又はその子孫細胞の脂肪酸組成を決定する工程、及び
(v)請求項1~29のいずれか1項に記載の脂質を含む子孫細胞を選択する工程。
【請求項64】
請求項1~29のいずれか1項に記載の脂質の1つ又はそれ以上又はすべてを含む組成物、請求項30~53のいずれか1項に記載の微生物細胞、又は請求項54に記載の微生物細胞抽出物。
【請求項65】
別の食物、飼料、又は飲料成分を含む含む、請求項64に記載の組成物。
【請求項66】
抽出された微生物脂質、細胞、又は抽出物以外の供給源に由来する、エステル化された又はエステル化されていない1つ又はそれ以上の脂肪酸をさらに含む、請求項64又は請求項65に記載の組成物。
【請求項67】
請求項1~29のいずれか1項に記載の脂質、請求項30~53のいずれか1項に記載の微生物細胞、請求項54に記載の微生物細胞抽出物、又は請求項64~66のいずれか1項に記載の組成物、及び少なくとも1つの他の食物、飼料、又は飲料成分の1つ又はそれ以上又はすべてである成分を含む食物、飼料、又は飲料。
【請求項68】
動物から得られる成分が欠如している、請求項67に記載の食物、飼料、又は飲料。
【請求項69】
前記食物、飼料、又は飲料が肉代替品である、請求項67又は請求項68に記載の食物、飼料、又は飲料。
【請求項70】
請求項1~29のいずれか1項に記載の脂質、請求項30~53のいずれか1項に記載の微生物細胞、請求項54に記載の細胞抽出物、又は請求項64~66のいずれか1項に記載の組成物の1つ又はそれ以上又はすべてを、少なくとも1つの他の食物、飼料、又は飲料成分と組み合わせる工程を含む、食物、飼料、又は飲料を製造する方法。
【請求項71】
食物、飼料、若しくは飲料成分、又は食物、飼料、若しくは飲料を製造するための、請求項1~29のいずれか1項に記載の脂質、請求項30~53のいずれか1項に記載の微生物細胞、請求項54に記載の微生物細胞抽出物、又は請求項64~66の組成物の1つ又はそれ以上又はすべての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抽出された微生物の脂質、前記脂質を含む微生物細胞、及びこれらの抽出物に関する。本発明はまた、食物、飼料、及び飲料におけるこれらの脂質、細胞、及び抽出物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
飽和脂肪酸は、末端のメチル基とカルボン酸基の間にあるメチレン(CH2)基からなる炭素原子の直鎖である。食物中の最も一般的な飽和脂肪酸は、ラウリン酸(C12)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)である。
特定の飽和脂肪酸を高レベルで摂取すると健康上の懸念があるにもかかわらず、これらは一部の食物、及びその製造プロセスの重要な部分を形成している。
ココナツオイルは、最も飽和度の高い天然脂肪である(典型的には、約94%飽和)。他の「飽和」脂肪には、パーム核油(典型的には、82%飽和)、カカオ脂(典型的には、60~64%飽和)、及びパーム油(典型的には、51%飽和)がある。ラードと牛脂も、典型的にはそれぞれ40%と37%の飽和脂肪しか含まないにもかかわらず、しばしばこの飽和脂肪のカテゴリーに属すると考えられている(Talbot, 2011)。
食物、及び食物製造プロセスで使用できる、特に非動物源からの飽和脂肪酸の代替供給源の必要性が高まっている。
【発明の概要】
【0003】
本発明者らは、高レベルの飽和脂肪酸と低レベルの多価不飽和脂肪酸を含む新たな抽出された微生物脂質を生成した。
【0004】
すなわち、第1の態様において、本発明は、飽和脂肪酸(SFA)の総飽和脂肪酸含有量と、一価不飽和脂肪酸(MUFA)の総一価不飽和脂肪酸含有量とを含む総脂肪酸含有量を含む抽出された微生物脂質を提供し、ここで、SFAの少なくとも一部とMUFAの少なくとも一部とを含む総脂肪酸含有量の少なくとも一部がトリアシルグリセロール(TAG)の形態でエステル化されており、従って前記抽出された微生物脂質は総TAG含有量を有し、そして、ここで、
(i)抽出された微生物脂質の総SFA含有量は、ステアリン酸(C18:0)、パルミチン酸(C16:0)、ミリスチン酸(C14:0)、アラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)、及びリグノセリン酸(C24:0)を含み、従って、前記抽出された微生物脂質の総脂肪酸含有量の脂肪酸の少なくとも50重量%はSFAであり、
(ii)前記総脂肪酸含有量の20重量%~85重量%はステアリン酸であり、
(iii)前記抽出された微生物脂質の総MUFA含有量は、オレイン酸(C18:1Δ9)及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9)、並びに任意選択的にC16:1Δ7及び/又はC17:1を含み、
(iv)前記抽出された微生物脂質の前記総脂肪酸(TFA)含有量は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)が欠如しているか、又はリノール酸(C18:2Δ9,12)を含むPUFA含有量を含み、ここで、前記PUFA含有量は前記総脂肪酸含有量の5重量未満であり、
(v)前記抽出された微生物脂質は、リン脂質を含む極性脂質を含むか、又は極性脂質が欠如しているかのいずれかであり、そして
(vi)前記抽出された微生物脂質は25℃で固体である。
【0005】
1つの実施態様において、脂質は、30℃、35℃、40℃、45℃、又は50℃のうちの1つ又はそれ以上又はすべてで固体である。
【0006】
1つの実施態様において、脂質のTFA含有量、又はTAG含有量のTFA含有量、又は両方の20重量%~80重量%、20重量%~75重量%、20重量%~70重量%、20重量%~65重量%、20重量%~60重量%、20重量%~55重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、25重量%~80重量%、25重量%~75重量%、25重量%~70重量%、25重量%~65重量%、25重量%~60重量%、25重量%~55重量%、25重量%~50重量%、又は25重量%~45重量%はステアリン酸である。この実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出された ヤロウィア(Yarrowia)
脂質、例えばワイ・リポリティカ(Y. liplytica)脂質である。
【0007】
1つの実施態様において、脂質のTFA含有量、又はTAG含有量のTFA含有量、又は両方は、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、若しくは0.2重量%未満、又は0.2重量%~5重量%、0.2重量%~4重量%、0.2重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~4重量%、0.5重量%~3重量%、0.5重量%~2重量%のリノール酸(LA)を含むか、又はLAは、脂質のTFA含有量及び/又はTAG含有量のTFA含有量には本質的に存在しない。この実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0008】
1つの実施態様において、脂質の又はTAG含有量のTFA含有量、又は両方は、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、若しくは0.2重量%未満、又は0.2重量%~5重量%、0.2重量%~4重量%、0.2重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~4重量%、0.5重量%~3重量%、0.5重量%~2重量%のPUFAを含むか、又はPUFAは、脂質の及び/又はTAG含有量のTFA含有量には本質的に存在しない。この実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0009】
1つの実施態様において、脂質の及び/又はTAGのTFA含有量は、少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%のオレイン酸を含む。この実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0010】
1つの実施態様において、脂質のTFA含有量及び/又はTAGのTFA含有量は、少なくとも5%、少なくとも8%、少なくとも10%、又は少なくとも12%のパルミチン酸を含む。実施態様において、パルミチン酸含有量は、5%~25%、8%~25%、10%~25%、又は12%~25%である。
【0011】
1つの実施態様において、脂質は、少なくとも1つの遺伝子改変を含み、及び少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された微生物脂質と比較して、脂質のTFA含有量及び/又はTAG含有量中に、より多量の、総SFA含有量、C18:0含有量、C20:0含有量、及びC22:0含有量の1つ又はそれ以上又はすべてを有する微生物から抽出された。例示的な遺伝子改変は本明細書で論じられる。この実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0012】
1つの実施態様において、脂質のTFA含有量及び/又はTAG含有量は、30重量%~90重量%、30重量%~85重量%、30重量%~80重量%、30重量%~75重量%、30重量%~70重量%、30重量%~65重量%、30重量%~60重量%、30重量%~55重量%、30重量%~50重量%、30重量%~45重量%、30重量%~40重量%、35重量%~90重量%、35重量%~85重量%、35重量%~80重量%、35重量%~75重量%、35重量%~70重量%、35重量%~65重量%、35重量%~60重量%、35重量%~55重量%、35重量%~50重量%、35重量%~45重量%、35重量%~40重量%、40重量%~90重量%、40重量%~85重量%、40重量%~80重量%、40重量%~75重量%、40重量%~70重量%、40重量%~65重量%、40重量%~60重量%、40重量%~55重量%、40重量%~50重量%、40重量%~45重量%、45重量%~90重量%、45重量%~85重量%、45重量%~80重量%、45重量%~75重量%、45重量%~70重量%、45重量%~65重量%、45重量%~60重量%、45重量%~55重量%、45重量%~50重量%、50重量%~90重量%、50重量%~85重量%、50重量%~80重量%、50重量%~75重量%、50重量%~70重量%、50重量%~65重量%、50重量%~60重量%、55重量%~90重量%、55重量%~85重量%、55重量%~80重量%、55重量%~75重量%、55重量%~70重量%、55重量%~65重量%、55重量%~60重量%、60重量%~90重量%、60重量%~85重量%、60重量%~80重量%、60重量%~75重量%、又は60重量%~70重量%のSFAを含む。この実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0013】
1つの実施態様において、総SFA含有量が、脂質のTFA含有量及び/又はTAGのTFA含有量の少なくとも60重量%である場合、ステアリン酸含有量は少なくとも40重量%である。
【0014】
1つの実施態様において、脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方の、18個以上の炭素を含む総飽和脂肪酸と16個以下の炭素を含む総飽和脂肪酸との比(L/S-SFA比)は、少なくとも約1.5であり、少なくとも約2であり、少なくとも約2.5であり、少なくとも約3であり、少なくとも約4であり、少なくとも約5であり、少なくとも約6であり、少なくとも約7であり、少なくとも約8であり、少なくとも約9であり、少なくとも約10であり、又は約3~約10である。1つの実施態様において、脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、2.5~4である。これらの実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0015】
1つの実施態様において、脂質は、少なくとも1つの遺伝子改変を含む微生物から抽出され、脂質のTFA含有量又はTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された微生物脂質と比較して、少なくとも約1.5、少なくとも約2、少なくとも約2.5、少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8、少なくとも約9、少なくとも約10倍、又は3~10倍大きい。1つの実施態様において、脂質は、少なくとも1つの遺伝子改変を含む微生物から抽出され、そして脂質のTFA含有量又はTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された微生物脂質と比較して、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、又は2.5~4倍上昇している。これらの実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。例示的な遺伝子改変は本明細書で論じられる。
【0016】
1つの実施態様において、C20:0、C22:0、及びC24:0脂肪酸の含有量の合計は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、5重量%~25重量%、5重量%~20重量%、5重量%~18重量%、5重量%~16重量%、5重量%~15重量%、5重量%~14重量%、5重量%~13重量%、5重量%~12重量%、5重量%~10重量%、6重量%~25重量%、6重量%~20重量%、6重量%~18重量%、6重量%~16重量%、6重量%~15重量%、6重量%~14重量%、6重量%~13重量%、6重量%~12重量%、6重量%~10重量%、7重量%~25重量%、7重量%~20重量%、7重量%~18重量%、7重量%~16重量%、7重量%~15重量%、7重量%~14重量%、7重量%~13重量%、7重量%~12重量%、又は7重量%~10重量%である。この実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0017】
1つの実施態様において、C20:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約1重量%~約3重量%、約2重量%~約5重量%、約2重量%~約4重量%、約2重量%~約3重量%である。
【0018】
1つの実施態様において、C22:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約2重量%~約5重量%、又は約2重量%~約4重量%である。
【0019】
1つの実施態様において、C24:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、約1重量%~約6重量%、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約2重量%~約6重量%、約2重量%~約5重量%、又は約2重量%~約4重量%である。
【0020】
別の実施態様において、C20:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、又は少なくとも約3重量%であり、C22:0脂肪酸の含有量は、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、少なくとも約3重量%、又は少なくとも約3.5重量%であり、及び/又はC24:0脂肪酸の含有量は、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、少なくとも約3重量%、少なくとも約3.5重量%、又は少なくとも4重量%である。
【0021】
1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~55重量%はステアリン酸であり、そして(ii)4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、若しくは0.2重量%未満、又は0.2重量%~5重量%、0.2重量%~4重量%、0.2重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~4重量%、0.5重量%~3重量%、0.5重量%~2重量%は、リノール酸(LA)若しくは総PUFA若しくは両方であるか、又はLA若しくはPUFA若しくは両方は、脂質の及び/又はTAG含有量のTFAから本質的に欠如している。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~50重量%はステアリン酸であり、そして(ii)4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、若しくは0.2重量%未満、又は0.2重量%~5重量%、0.2重量%~4重量%、0.2重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~4重量%、0.5重量%~3重量%、0.5重量%~2重量%は、リノール酸(LA)若しくは総PUFA若しくは両方であり、又はLA若しくはPUFA若しくは両方は、脂質の及び/又はTAG含有量のTFAから本質的に欠如している。1つの実施態様において、(i)脂質のTFA含有量、又はTAG含有量のTFA含有量、又は両方の20重量%~45重量%はステアリン酸であり、そして(ii)4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、若しくは0.2重量%未満、又は0.2重量%~5重量%、0.2重量%~4重量%、0.2重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~4重量%、0.5重量%~3重量%、0.5重量%~2重量%は、リノール酸(LA)若しくは総PUFA若しくは両方であり、又はLA若しくはPUFA若しくは両方は、脂質の及び/又はTAG含有量のTFAから本質的に欠如している。これらの実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0022】
1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~55重量%はステアリン酸であり、そして(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%はオレイン酸である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~50重量%はステアリン酸であり、そして(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%はオレイン酸である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~45重量%はステアリン酸であり、そして(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%はオレイン酸である。これらの実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0023】
1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20%~55重量%はステアリン酸であり、そして(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、2.5~4である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20%~50重量%はステアリン酸であり、そして(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、2.5~4である。1つの実施態様において、(i)脂質の又は脂質のTAG含有量又は両方の20%~45重量%はステアリン酸であり、そして(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、2.5~4である。これらの実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0024】
1つの実施態様において、脂質は、少なくとも1つの遺伝子改変を含む微生物から抽出され、そして(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~55重量%はステアリン酸であり、及び(ii)脂質は、前記少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された微生物脂質と比較して、TFA含有量及び/又はTAG含有量において、総SFA含有量、C18:0含有量、C20:0含有量、及びC22:0含有量のうちの1つ又はそれ以上又はすべてを、より多量に有する。1つの実施態様において、脂質は、少なくとも1つの遺伝子改変を含む微生物から抽出され、そして(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~50量%はステアリン酸であり、及び(ii)脂質は、前記少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された微生物脂質と比較して、TFA含有量及び/又はTAG含有量において、総SFA含有量、C18:0含有量、C20:0含有量、及びC22:0含有量のうちの1つ又はそれ以上又はすべてを、より多量に有する。1つの実施態様において、脂質は、少なくとも1つの遺伝子改変を含む微生物から抽出され、そして(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~45重量%はステアリン酸であり、及び(ii)脂質は、前記少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された微生物脂質と比較して、TFA含有量及び/又はTAG含有量において、総SFA含有量、C18:0含有量、C20:0含有量、及びC22:0含有量のうちの1つ又はそれ以上又はすべてを、より多量に有する。これらの実施態様において、前記抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0025】
1つの実施態様において、
(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~55重量%はステアリン酸であり、及び(ii)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方のC24:0脂肪酸の含有量は、約1重量%~約6重量%、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約2重量%~約6重量%、約2重量%~約5重量%、又は約2重量%~約4重量%である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~50重量%はステアリン酸であり、及び(ii)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方のC24:0脂肪酸の含有量は、約1重量%~約6重量%、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約2重量%~約6重量%、約2重量%~約5重量%、又は約2重量%~約4重量%である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~45重量%はステアリン酸であり、及び(ii)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方のC24:0脂肪酸の含有量は、約1重量%~約6重量%、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約2重量%~約6重量%、約2重量%~約5重量%、又は約2重量%~約4重量%である。これらの実施態様において、前記抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0026】
1つの実施態様において、
(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の4重量%未満はリノール酸(LA)であり、及び(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%はオレイン酸である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の3重量%未満はリノール酸(LA)であり、及び(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%はオレイン酸である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の2重量%未満はリノール酸(LA)であり、及び(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%はオレイン酸である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の0.2重量%未満はリノール酸(LA)であるか、又はLAは、脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方から欠如しており、及び(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%はオレイン酸である。これらの実施態様において、前記抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質であり、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0027】
1つの実施態様において、
(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の4重量%未満はリノール酸(LA)であり、及び(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、及び2.5~4である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の3重量%未満はリノール酸(LA)であり、及び(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、及び2.5~4である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の2重量%未満はリノール酸(LA)であり、及び(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、及び2.5~4である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の0.2重量%未満はリノール酸(LA)であり、及び(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、及び2.5~4である。これらの実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0028】
1つの実施態様において、
(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の4重量%未満はPUFAであり、及び(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%は、オレイン酸である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の3重量%未満はPUFAであり、及び(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%は、オレイン酸である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の2重量%未満はPUFAであり、及び(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%は、オレイン酸である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の0.2重量%未満はPUFAであるか、又はPUFAは、脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方から欠如しており、及び(ii)少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%は、オレイン酸である。これらの実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0029】
1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の4重量%未満はPUFAであり、及び(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、及び2.5~4である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の3重量%未満はPUFAであり、及び(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、及び2.5~4である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の2重量%未満はPUFAであり、及び(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、及び2.5~4である。1つの実施態様において、(i)脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の0.2重量%未満はPUFAであるか、又はPUFAは、脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方から欠如しており、及び(ii)脂質のTFA含有量又は脂質のTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、及び2.5~4である。これらの実施態様において、抽出された微生物脂質は、好ましくは抽出された酵母脂質、より好ましくは抽出されたヤロウィア脂質、例えばワイ・リポリティカ脂質である。
【0030】
1つの実施態様において、C20:0、C22:0、及びC24:0脂肪酸は、抽出された脂質のTFA含有量又は脂質のTAGのTFA含有量又は両方の脂肪酸の少なくとも95重量%、少なくとも97重量%、又は少なくとも99重量%を含み、これらは少なくとも炭素数20又はそれ以上である。
【0031】
好ましい実施態様において、上記実施態様の抽出された微生物脂質の総MUFA含有量又は抽出された微生物脂質中のTAG含有量は、(i)オレイン酸(C18:1Δ9)、パルミトレイン酸(C16:1Δ9)、及びC16:1Δ7、又は(ii)オレイン酸(C18:1Δ9)、パルミトレイン酸(C16:1Δ9)、C16:1Δ7、及びC17:1を含む。
【0032】
好ましい実施態様において、抽出された微生物脂質又は抽出された微生物脂質中のTAG含有量はシクロプロパン脂肪酸が欠如している。
1つの実施態様において、脂質は極性脂質を含み、ここで、極性脂質のTFA含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又はTAG含有量について本明細書で定義される1つ又はそれ以上の特徴を有する。
【0033】
1つの実施態様において、TAGは、抽出された脂質の総脂質含有量の少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも96重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、又は100重量%を含む。
【0034】
1つの実施態様において、脂質は、ステロール及び/又はステロールエステル、好ましくはエルゴステロール及び/又はエルゴステロールエステルを含む。1つの実施態様において、抽出された微生物脂質は、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、又は少なくとも3重量%のエルゴステロール及び/又はエルゴステロールエステルを含む。1つの実施態様において、抽出された微生物脂質は、1重量%~10重量%、2重量%~10重量%、又は3重量%~10重量%のエルゴステロール及び/又はエルゴステロールエステルを含む。
【0035】
1つの実施態様において、脂質は20重量%未満の水分含有量を有する。
1つの実施態様において、脂質は、10重量%未満、7.5重量%未満、又は5重量%未満の揮発性溶媒含有量を有する。
【0036】
1つの実施態様において、脂質は、それらのsn-2位でエステル化されたMUFA、好ましくはオレイン酸を含むTAG分子を含み、ここで、sn-2位でエステル化されたMUFAを含むTAG分子の数と、抽出された脂質中のそれらのsn-2位でエステル化されたMUFA以外の脂肪酸を含むTAG分子との比(sn-2における、MUFA:他のFAの比)は、約0.50未満、約0.30未満、約0.20未満、約0.10未満、約0.05未満、約0.04未満、約0.03未満、又は約0.02未満である。
【0037】
1つの実施態様において、脂質は、少なくとも1つの遺伝子改変を含み、リン脂質を含む極性脂質を含む微生物から抽出され、ここで、抽出された脂質中のホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、及びホスファチジルセリン(PS)の少なくとも2つ、好ましくは3つ、又は4つすべてが、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された脂質よりも多量のSFAを有する。例示的な遺伝子改変が本明細書で論じられる。
【0038】
1つの実施態様において、脂質は、
(a)FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチド、
(b)少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする、少なくとも1つの外因性ポリヌクレオチド、及び
(c)内因性Δ12デサチュラーゼの発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子改変、より好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異、最も好ましくはFAD2遺伝子のヌル変異、
を含む遺伝子改変を含む微生物から抽出されたものであり、
ここで、各ポリヌクレオチドは、微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている。
【0039】
1つの実施態様において、少なくとも1つのDGATは、配列番号144~154のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号144~154のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0040】
1つの実施態様において、FATA脂肪アシルチオエステラーゼは、配列番号84又は86のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号84又は86のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0041】
1つの実施態様において、微生物は、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られる対応する抽出された微生物脂質と比較して、脂質のTFA含有量及び/又はTAG含有量において、総SFA含有量、C20:0含有量、C22:0含有量、及びC24:0含有量のうちの1つ又はそれ以上又はすべてをより多く有する。1つの実施態様において、C20:0含有量は少なくとも1%、1.5%、又は2%であり、C22:0含有量は少なくとも1%、1.5%、又は2%であり、及びC24:0含有量は少なくとも1.5%、2%又は2.5%である。1つの実施態様において、C20:0含有量は約1.0%~4%であり、C22:0含有量は約1.0%~4%であり、及びC24:0含有量は約2%~5%である。別の実施態様において、C20:0含有量、C22:0含有量、及びC24:0含有量には、上記の量が含まれる。
【0042】
1つの実施態様において、微生物は、アシル-CoAシンセターゼ(ACS)をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、任意選択的に、ACSは、配列番号88~89のいずれか1つとして示される配列を、又は配列番号88~89のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0043】
別の実施態様において、微生物は、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、任意選択的に、LPAATは、配列番号91に記載の配列を、又は配列番号91と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0044】
1つの実施態様において、抽出された微生物脂質は、真核細胞、真菌細胞、細菌細胞、又は藻類細胞、生きた微生物細胞、死んだ微生物細胞、又はこれらの任意の混合物を含むか又はからなる微生物細胞から得られる。
【0045】
1つの実施態様において、微生物細胞は、(i)発酵に適したもの、(ii)油性細胞、(iii)非油性細胞、好ましくは遺伝子改変による油性細胞に由来する非油性細胞、及び(iv)従属栄養細胞の1つ若しくはそれ以上又はすべてである。
【0046】
1つの実施態様において、微生物細胞は酵母細胞である。適切な酵母細胞の例には、限定されるものではないが、サッカロミセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、及びこれらの任意の混合物が挙げられる。
1つの実施態様において、酵母細胞はヤロウィア・リポリティカである。
【0047】
1つの実施態様において、脂質は少なくとも5g、少なくとも10g、少なくとも50g、又は少なくとも100gの重量を有する。
1つの実施態様において、脂質は5g/l未満、2g/l未満、1g/l未満のステアリン酸塩の存在下で培養されたか、又は培地に添加されたステアリン酸塩の非存在下で培養された微生物細胞から得られた。
また、本明細書に定義される脂質を含む微生物細胞も提供される。
【0048】
さらなる態様において、本発明は、少なくとも1つの遺伝子改変を有する微生物細胞、好ましくは酵母細胞を提供し、ここで、前記微生物細胞は、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如しており、同じ条件下で培養された対応する微生物細胞と比較した各場合に、(i)前記微生物細胞の総脂肪酸(TFA)含有量、又は前記微生物細胞中のTAGのTFA含有量、又は両方において、飽和脂肪酸(SFA)含有量の増加、少なくとも18個の炭素を有するSFA含有量の増加、ステアリン酸含有量の増加、C20:0及びC22:0脂肪酸含有量の増加、C24:0脂肪酸含有量の増加、L/S-SFA比の増加、又はこれらの任意の組み合わせ、及び(ii)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積、又は両方の増加を有する。好ましい実施態様において、細胞は、(a)飽和脂肪酸(SFA)含有量の増加、及び(b)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積の増加、又は両方、又は(a)少なくとも18個の炭素を有するSFA含有量の増加、及び(b)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積の増加、又は両方、又は
(a)ステアリン酸塩含有量の増加、及び(b)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積の増加、又は両方、又は(a)C20:0及びC22:0脂肪酸の含有量の増加、及び(b)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積の増加、又は両方、又は(a)C24:0脂肪酸の含有量の増加、及び(b)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積の増加、又は両方、又は(a)L/S-SFA比の増加、及び(b)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積の増加、又は両方を有する。より好ましい実施態様において、細胞は、(a)飽和脂肪酸(SFA)含有量の増加、(b)ステアリン酸塩含有量の増加、及び(c)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積の増加、又は両方、又は(a)飽和脂肪酸(SFA)含有量の増加、(b)C20:0及びC22:0含有量の増加、及び(c)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積の増加、又は両方、又は(a)飽和脂肪酸(SFA)含有量の増加、(b)ステアリン酸塩、C20:0、及びC22:0含有量の増加、及び(c)トリアシルグリセロール(TAG)産生若しくは蓄積の増加、又は両方を有する。それぞれのより好ましい実施態様において、細胞の脂質含有量はまた、L/S-SFA比の増加も含み得る。1つの実施態様において、C20:0含有量は少なくとも1%、1.5%、又は2%であり、C22:0含有量は少なくとも1%、1.5%、又は2%であり、及びC24:0含有量は少なくとも1.5%、2%、又は2.5%である。1つの実施態様において、C20:0含有量は1.0%~4%であり、C22:0含有量は1.0%~4%であり、及びC24:0含有量は2%~5%である。別の実施態様において、C20:0含有量、C22:0含有量、及びC24:0含有量には、上記の量が含まれる。
【0049】
1つの実施態様において、細胞のTFA含有量若しくは細胞のTAG含有量、又は両方は、抽出された脂質のTFA含有量又はTAG含有量について、本発明の脂質について本明細書で定義される1つ又はそれ以上の特徴を有する。
【0050】
1つの実施態様において、細胞の脂質の又はTAG含有量のTFA含有量又は両方の
20重量%~80重量%、20重量%~75重量%、20重量%~70重量%、20重量%~65重量%、20重量%~60重量%、20重量%~55重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、25重量%~80重量%、25重量%~75重量%、25重量%~70重量%、25重量%~65重量%、25重量%~60重量%、25重量%~55重量%、25重量%~50重量%、又は25重量%~45重量%は、ステアリン酸である。この実施態様において、細胞は好ましくは酵母細胞であり、より好ましくはワイ・リポリティカ細胞などのヤロウィア細胞である。
【0051】
1つの実施態様において、細胞の脂質の又はTAG含有量のTFA含有量又は両方は、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、若しくは0.2重量%、又は0.2重量%~5重量%、0.2重量%~4重量%、0.2重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~4重量%、0.5重量%~3重量%、0.5重量%~2重量%のリノール酸(LA)を含むか、又はLAは、本質的に細胞の脂質の及び/又はTAG含有量のTFAから欠如している。1つの実施態様において、細胞の脂質の及び/又はTAG含有量のTFA含有量は、
4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、若しくは0.2重量%、又は0.2重量%~5重量%、0.2重量%~4重量%、0.2重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~4重量%、0.5重量%~3重量%、0.5重量%~2重量%のPUFAを含むか、又はPUFAは、本質的に細胞の脂質の及び/又はTAG含有量のTFAから欠如している。これらの実施態様において、細胞は好ましくは酵母細胞であり、より好ましくはワイ・リポリティカ細胞などのヤロウィア細胞である。
【0052】
1つの実施態様において、細胞の脂質のTFA含有量、及び/又は細胞のTAGのTFA含有量は、少なくとも10%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%のオレイン酸を含む。この実施態様において、細胞は好ましくは酵母細胞であり、より好ましくはヤロウィア細胞、例えばワイ・リポリティカ細胞である。
【0053】
1つの実施態様において、細胞のTFA含有量、細胞のTAG含有量、若しくは細胞の極性脂質、又はこれらの任意の組み合わせは、少なくとも遺伝子組み換えが欠如しており、同じ条件下で培養された対応する微生物細胞と比較して、L/S-SFA比が増加している。1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTFA含有量又はTAG含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、2.5~4である。これらの実施態様において、細胞は、好ましくは酵母細胞、より好ましくはヤロウィア細胞、例えばワイ・リポリティカ細胞である。
【0054】
1つの実施態様において、L/S-SFA比は、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如しており、同じ条件下で培養された対応する微生物細胞のTFA含有量、TAG含有量、又は極性脂質中よりも、少なくとも約1.5、少なくとも約2、少なくとも約2.5、少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8、少なくとも約9、少なくとも約10、又は約3~約10倍高い。
【0055】
1つの実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、
(a)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ、
(b)少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)、又は
(c)FATA、及び少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともDGATをコードする外因性ポリヌクレオチドである少なくとも1つの遺伝子改変を含み、
ここで、各ポリヌクレオチドは、微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている。
【0056】
さらなる態様において、本発明は、
(a)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ、
(b)少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)、又は
(c)FATA、及び少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともDGAT、及び
(d)任意選択的に、内因性Δ12デサチュラーゼの発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子改変、より好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異を、コードする少なくとも1つの外因性ポリヌクレオチドである少なくとも1つの遺伝子改変を含む微生物細胞、好ましくは酵母細胞を提供し、
ここで、各ポリヌクレオチドは、微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている。
【0057】
1つの実施態様において、遺伝子改変は、1つ又はそれ以上のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)、グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)、若しくはリン脂質:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(PDAT)ポリペプチド、又はこれらの任意の組み合わせをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む。1つ又はそれ以上のDGATを含む実施態様において、DGATをコードする細胞中の少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号144~154のいずれか1つに記載の配列を有するヌクレオチド、又は配列番号144~154のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、細胞内のDGATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号115~125の1つ又はそれ以上に記載の配列をコードし、コドン縮重のみによって配列番号144~154の1つと異なる。
【0058】
1つの実施態様において、本発明の微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、それぞれがGPATをコードする1つ又はそれ以上の外因性ポリヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、GPATの少なくとも1つ又はGPATのすべては、配列番号126~138のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号126~138のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0059】
1つの実施態様において、GPATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号155~167のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号155~167のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、GPATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号126~138の1つ又はそれ以上に記載の配列をコードし、コドン縮重のみによって配列番号155~167の1つと異なる。
【0060】
1つの実施態様において、本発明の微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、それぞれがリン脂質:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(PDAT)をコードする1つ又はそれ以上の外因性ポリヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、PDATの少なくとも1つ又はPDATのすべては、配列番号139~143のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号139~143のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0061】
1つの実施態様において、PDATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号168~172のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号168~172のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるであるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、PDATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号139~143の1つ又はそれ以上に記載の配列をコードし、コドン縮重のみによって配列番号168~172の1つと異なる。
【0062】
1つの実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、DGATをコードする外因性ポリヌクレオチドと、GPAT、2つ以上のDGATと1つのGPAT、2つ以上のGPATと1つのDGAT、又は2つ以上のDGATと2つ以上のGPATをコードする外因性ポリヌクレオチドとを含み、ここで、DGATの少なくとも1つ及び/又はGPATの少なくとも1つは、上記で定義したとおりである。
【0063】
1つの実施態様において、細胞は、DGATをコードする外因性ポリヌクレオチドと、PDAT、2つ以上のDGATと1つのPDAT、2つ以上のPDATと1つのDGAT、又は2つ以上のDGATと2つ以上のPDATをコードする外因性ポリヌクレオチドとを含み、ここで、DGATの少なくとも1つ及び/又はPDATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
【0064】
1つの実施態様において、細胞は、GPATをコードする外因性ポリヌクレオチドと、PDAT、2つ以上のGPATと1つのPDAT、2つ以上のPDATと1つのGPAT、又は2つ以上のGPATと2つ以上のPDATをコードする外因性ポリヌクレオチドとを含み、ここで、GPATの少なくとも1つ及び/又はPDATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
【0065】
1つの実施態様において、細胞は、DGATをコードする外因性ポリヌクレオチド、GPATをコードする外因性ポリヌクレオチド、及びPDATをコードする外因性ポリヌクレオチド、又はこれらの1つ又はそれ以上の複数のメンバーを含む。
【0066】
1つの実施態様において、細胞は、2つ又はそれ以上のDGATをコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、ここで、DGATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
1つの実施態様において、細胞は、2つ又はそれ以上のGPATをコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、ここで、GPATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
1つの実施態様において、細胞は、2つ又はそれ以上のPDATをコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、ここで、PDATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
【0067】
さらなる態様において、本発明は、脂質と、以下をコードする少なくとも1つの外因性ポリヌクレオチドである少なくとも1つの遺伝子改変とを含む、微生物細胞、好ましくは酵母細胞を提供する:
(a)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ、
(b)少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)、又は
(c)FATA及び少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともDGAT、
ここで、各ポリヌクレオチドは、微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されており、及びここで、
(d)任意選択的に、内因性Δ12デサチュラーゼの発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子改変、より好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異、最も好ましくはFAD2遺伝子のヌル変異、及び
(e)細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20%~80重量%、20重量%~75重量%、20重量%~70重量%、20重量%~65重量%、20重量%~60重量%、20重量%~55重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、25重量%~80重量%、25重量%~75重量%、25重量%~70重量%、25重量%~65重量%、25重量%~60重量%、25重量%~55重量%、25重量%~50重量%、又は25重量%~45重量%はステアリン酸である。
【0068】
この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方は、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、若しくは0.2重量%未満、又は0.2重量%~5重量%、0.2重量%~4重量%、0.2重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~4重量%、0.5重量%~3重量%、0.5重量%~2重量%のリノール酸(LA)を含むか、又はLAは、細胞の脂質の及び/又はTAG含有量のTFAが本質的に欠如している。この態様の別の実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量含有量又は両方は、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、若しくは0.2重量%未満、又は0.2重量%~5重量%、0.2重量%~4重量%、0.2重量%~3重量%、0.2重量%~2重量%、0.5重量%~5重量%、0.5重量%~4重量%、0.5重量%~3重量%、0.5重量%~2重量%のPUFAを含むか、又はPUFAは、細胞の脂質の及び/又はTAG含有量のTFAが本質的に欠如している。この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~55重量%はステアリン酸である。この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~50重量%はステアリン酸である。この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくは細胞のTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~45重量%はステアリン酸である。
【0069】
さらなる態様において、本発明は、脂質と、以下をコードする少なくとも1つの外因性ポリヌクレオチドである少なくとも1つの遺伝子改変とを含む微生物細胞、好ましくは酵母細胞を提供する:
(a)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ、
(b)少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)、又は
(c)FATA、及び少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともDGAT、
ここで、各ポリヌクレオチドは、微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されており、及びここで、
(d)任意選択的に、内因性Δ12デサチュラーゼの発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子改変、より好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異、好ましくはFAD2遺伝子のヌル変異、及び
(e)細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方のL/S-SFA比は、1.5~10、1.5~9、1.5~8、1.5~7、1.5~6、1.5~5、1.5~4、1.75~10、1.75~9、1.75~8、1.75~7、1.75~6、1.75~5、1.75~4、2~10、2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、2~4、2.5~10、2.5~9、2.5~8、2.5~7、2.5~6、2.5~5、2.5~4である。この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~55重量%はステアリン酸である。この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~50重量%はステアリン酸である。この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~45重量%はステアリン酸である。
【0070】
さらなる態様において、本発明は、脂質と、以下をコードする少なくとも1つの外因性ポリヌクレオチドである少なくとも1つの遺伝子改変とを含む微生物細胞、好ましくは酵母細胞を提供する:
(a)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ、
(b)少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)、又は
(c)FATA、及び少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともDGAT、
ここで、各ポリヌクレオチドは、微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されており、及びここで
(d)任意選択的に、内因性Δ12デサチュラーゼの発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子改変、より好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異、最も好ましくはFAD2遺伝子のヌル変異、及び
(e)細胞の脂質のTFA含有量若しくはTAG含有量又は両方におけるC20:0、C22:0、及びC24:0脂肪酸の含有量の合計は、5重量%~25重量%、5重量%~20重量%、5重量%~18重量%、5重量%~16重量%、5重量%~15重量%、5重量%~14重量%、5重量%~13重量%、5重量%~12重量%、5重量%~10重量%、6重量%~25重量%、6重量%~20重量%、6重量%~18重量%、6重量%~16重量%、6重量%~15重量%、6重量%~14重量%、6重量%~13重量%、6重量%~12重量%、6重量%~10重量%、7重量%~25重量%、7重量%~20重量%、7重量%~18重量%、7重量%~16重量%、7重量%~15重量%、7重量%~14重量%、7重量%~13重量%、7重量%~12重量%、又は7重量%~10重量%である、又は
(f)C20:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約1重量%~約3重量%、約2重量%~約5重量%、約2重量%~約4重量%、約2重量%~約3重量%である、
(g)C22:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約2重量%~約5重量%、約2重量%~約4重量%である、及び
(h)C24:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、約1重量%~約6重量%、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約2重量%~約6重量%、約2重量%~約5重量%、又は約2重量%~約4重量%であるか、又は
(i)C20:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、又は少なくとも約3重量%であり、C22:0脂肪酸の含有量は、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、少なくとも約3重量%、又は少なくとも約3.5重量%であり、そしてC24:0脂肪酸の含有量は、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%、少なくとも約3重量%、少なくとも約3.5重量%、又は少なくとも4重量%である。
【0071】
この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~55重量%はステアリン酸である。この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~50重量%はステアリン酸である。この態様の1つの実施態様において、細胞の脂質の若しくはTAG含有量のTFA含有量又は両方の20重量%~45重量%はステアリン酸である。
【0072】
上記態様の実施態様において、細胞の脂質のTFA含有量、及び/又は細胞のTAGのTFA含有量はさらに、少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、10重量%~50重量%、10重量%~45重量%、10重量%~40重量%、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~50重量%、15重量%~45重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%、15重量%~30重量%、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%、20重量%~40重量%、20重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%のオレイン酸を含む。
【0073】
上記態様の実施態様において、前記少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともDGATは、パルミトイル-CoAと比較して、基質としてのステロイル-CoA分子に対して少なくとも同等以上の活性を有する。細胞は、この特性を2つ以上のDGATを含み得る。
【0074】
上記態様の実施態様において、外因性DGATの1つ又はそれ以上又はすべては、配列番号81、又は配列番号115~125のいずれか1つに記載の配列を、あるいは配列番号81又は配列番号115~125のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるアミノ酸配列を、有するアミノ酸を含む。
【0075】
上記態様の実施態様において、DGATの少なくとも1つは酵母DGA1である。1つの実施態様において、少なくとも1つのDGA1は、配列番号53に記載の配列を、又は配列番号53と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を、有するアミノ酸を含む。
【0076】
上記態様の実施態様において、FATAは、配列番号83若しくは配列番号85に記載の配列を、又は配列番号83及び配列番号85の一方又は両方と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を、有するアミノ酸を含む。
【0077】
DGATを列挙する上記実施態様において、DGATをコードする細胞内の少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号144~154のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号144~154のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含むことができる。1つの実施態様において、細胞内のDGATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号115~125の1つ又はそれ以上に記載の配列をコードし、コドン縮重のみによって配列番号144~154の1つと異なる。
【0078】
1つの実施態様において、本発明の微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、それぞれがGPATをコードする1つ又はそれ以上の外因性ポリヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、GPATの少なくとも1つ又はGPATのすべては、配列番号126~138のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号126~138のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を、有するアミノ酸を含む。
【0079】
1つの実施態様において、GPATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号155~167のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号155~167のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、GPATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号126~138の1つ又はそれ以上に記載の配列をコードし、及びコドン縮重のみによって配列番号155~167の1つと異なる。
【0080】
1つの実施態様において、本発明の微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、それぞれがPDATをコードする1つ又はそれ以上の外因性ポリヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、PDATの少なくとも1つ又はPDATのすべては、配列番号139~143のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号139~143のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0081】
1つの実施態様において、PDATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号168~172のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号168~172のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、PDATをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド又はすべてのポリヌクレオチドは、配列番号139~143の1つ又はそれ以上に記載の配列をコードし、及びコドン縮重のみによって配列番号168~172の1つと異なる。
【0082】
1つの実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチドと、グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)、2つ以上のDGATと1つのgPAT、2つ以上のGPATと1つのDGAT、又は2つ以上のDGATと2つ以上のGPATをコードする外因性ポリヌクレオチドとを含み、ここで、DGATの少なくとも1つ及び/又はGPATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
【0083】
1つの実施態様において、細胞は、DGATをコードする外因性ポリヌクレオチドと、PDAT、2つ以上のDGATと1つのPDAT、2つ以上のPDATと1つのDGAT、又は2つ以上のDGATと2つ以上のPDATをコードする外因性ポリヌクレオチドとを含み、ここで、DGATの少なくとも1つ及び/又はPDATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
【0084】
1つの実施態様において、細胞は、GPATをコードする外因性ポリヌクレオチドと、PDAT、2つ以上のGPATと1つのPDAT、2つ以上のPDATと1つのGPAT、又は2つ以上のGPATと2つ以上のPDATをコードする外因性ポリヌクレオチドとを含み、ここで、GPATの少なくとも1つ及び/又はPDATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
【0085】
1つの実施態様において、細胞は、DGATをコードする外因性ポリヌクレオチド、GPATをコードする外因性ポリヌクレオチド、及びPDATをコードする外因性ポリヌクレオチド、又はこれらの1つ又はそれ以上の複数のメンバーを含む。
【0086】
1つの実施態様において、細胞は、2つ又はそれ以上のDGATをコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、ここで、DGATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
【0087】
1つの実施態様において、細胞は、2つ又はそれ以上のGPATをコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、ここで、GPATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
【0088】
1つの実施態様において、細胞は、2つ又はそれ以上のPDATをコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、ここで、PDATの少なくとも1つは上記で定義したとおりである。
【0089】
上記態様の実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、ここで、ポリヌクレオチドは、微生物細胞内でポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている。1つの実施態様において、LPAATは、配列番号90に記載の配列を、又は配列番号90と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0090】
上記態様の実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、リゾホスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼ(LPCAT)、モノアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(MGAT)、ホスホリパーゼA2(PLA2)、ホスホリパーゼC(PLC)、ホスホリパーゼD(PLD)、CDP-コリンジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ(CPT)、ホスファチジルコリン:ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ(PDCT)、アシル-CoAシンターゼ(ACS)、脂肪酸デサチュラーゼ、又はこれらの2つ又はそれ以上の任意の組み合わせをコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含む。
【0091】
上記態様の実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞、より好ましくはワイ・リポリティカ細胞は、内因性Δ12デサチュラーゼ若しくはΔ9デサチュラーゼの発現及び/又は活性、又はΔ12デサチュラーゼとΔ9デサチュラーゼの両方の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくはΔ12デサチュラーゼ若しくはΔ9デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子改変、より好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異、又はΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異とヌル変異ではないΔ9デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子の変異を含む。上記態様の実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、脂肪酸デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性を低下させるサイレンシングRNA分子をコードする外因性ポリヌクレオチドを、及び/又はデサチュラーゼ遺伝子、好ましくはΔ9デサチュラーゼ遺伝子又はΔ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性を低下させる脂肪酸デサチュラーゼ遺伝子の変異を、さらに含む。好ましい実施態様において、Δ9デサチュラーゼ遺伝子の変異はヌル変異ではない。好ましい実施態様において、Δ12デサチュラーゼ遺伝子の変異はヌル変異である。1つの実施態様において、細胞は、内因性DGAT、GPAT、又はPDAT遺伝子の発現及び/又は活性を低下させるサイレンシングRNA分子コードする外因性ポリヌクレオチドを、及び/又はデサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性を低下させる内因性DGAT、GPAT、又はPDAT遺伝子の変異を、さらに含む。
【0092】
上記態様の好ましい実施態様において、遺伝子改変は、内因性Δ12デサチュラーゼをコードする遺伝子における変異、好ましくはFAD2遺伝子のヌル変異である。
【0093】
上記態様の実施態様において、内因性Δ12デサチュラーゼは、配列番号1に記載の配列を、又は配列番号1と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を、有するアミノ酸を含む。
【0094】
従って、1つの実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、
(a)FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチド、
(b)少なくとも1つの脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくは少なくともジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする少なくとも1つの外因性ポリヌクレオチド、及び
(c)内因性Δ12デサチュラーゼの発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子の遺伝子改変、より好ましくはΔ12デサチュラーゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異、最も好ましくはFAD2遺伝子のヌル変異を含む遺伝子改変を含み、
ここで、各ポリヌクレオチドは、微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている。
【0095】
1つの実施態様において、少なくとも1つのDGATは、配列番号144~154のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号144~154のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0096】
1つの実施態様において、FATA脂肪アシルチオエステラーゼは、配列番号84又は86のいずれか1つに記載の配列を、又は配列番号84又は86のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0097】
1つの実施態様において、微生物細胞は、少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物から得られた対応する抽出された微生物脂質と比較して、脂質のTFA含有量及び/又はTAG含有量中に、総SFA含有量、C20:0含有量、C22:0含有量、及びC24:0含有量の1つ又はそれ以上又はすべてをより多量に有する。
【0098】
1つの実施態様において、C20:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、約1重量%~約3重量%、約2重量%~約5重量%、約2重量%~約4重量%、約2重量%~約3重量%である、
【0099】
1つの実施態様において、C22:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、約1%~約5%、約1%~約4%、約2%~約5%、又は約2%~約4重量%である。
【0100】
1つの実施態様において、C24:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、約1%~約6%、約1%~約5%、約1%~約4%、約2%~約6%、約2%~約5%、又は約2%~約4重量%である。
【0101】
別の実施態様において、C20:0脂肪酸の含有量は、抽出された脂質のTFA含有量又は抽出された脂質のTAG含有量又は両方の、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、少なくとも約2%、少なくとも約2.5%、又は少なくとも約3%であり、C22:0脂肪酸の含有量は、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、少なくとも約2%、少なくとも約2.5%、少なくとも約3%、又は少なくとも約3.5%であり、及びC24:0脂肪酸の含有量は、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、少なくとも約2%、少なくとも約2.5%、少なくとも約3%、少なくとも約3.5%、又は少なくとも4重量%である。
【0102】
別の実施態様において、C20:0含有量は1.0%~4%であり、C22:0含有量は1.0%~4%であり、及びC24:0含有量は2%~5%である。
【0103】
1つの実施態様において、微生物は、アシル-CoAシンセターゼ(ACS)をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、任意選択的に、ACSは、配列番号88~89のいずれか1つとして示される配列を、又は配列番号88~89のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0104】
別の実施態様において、微生物は、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、任意選択的に、LPAATは、配列番号91に記載の配列を、又は配列番号91と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0105】
上記態様の実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、ステアロイル-CoAと比較して、基質としてPUFA-CoAに対する優先性を、又はステアロイル-CoAと比較して、パルミトイル-CoAに対する優先性を、又は両方を有するDGATをコードする内因性遺伝子、好ましくはDGA2遺伝子の、遺伝子発現若しくは活性又は両方の低下をもたらす遺伝子改変を含む。
【0106】
上記態様の実施態様において、内因性DGA2は、配列番号55に記載の配列を、又は配列番号55と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を、有するアミノ酸を含む。
【0107】
上記態様の実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、以下を有する:
1)FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
2)脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
3)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ及び脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
4)FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
5)脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
6)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ及び脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
7)FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチド、内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
8)脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、又は
9)FATA脂肪アシルチオエステラーゼ及び脂肪酸アシルトランスフェラーゼ、好ましくはジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)をコードする外因性ポリヌクレオチド、内因性Δ12デサチュラーゼ遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、及び内因性DGA2遺伝子の発現及び/又は活性の低下をもたらす遺伝子改変、
ここで、各ポリヌクレオチドは、前記微生物細胞内で前記ポリヌクレオチドの発現を指令することができる1つ又はそれ以上のプロモーターに作動可能に連結されている。
【0108】
上記態様の実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、真核細胞、真菌細胞、細菌細胞、若しくは藻類細胞、生きた微生物細胞、死んだ微生物細胞、又はこれらの任意の混合物を含むか若しくはこれらからなる。
上記態様の実施態様において、微生物細胞、好ましくは酵母細胞は、(i)発酵に適した細胞、(ii)油性細胞、(iii)非油性細胞、好ましくは遺伝子組み換えによる油性細胞由来の非油性細胞、及び(iv)従属栄養細胞のうちの1つ又はそれ以上又はすべてである。
【0109】
上記態様の実施態様において、微生物細胞は酵母細胞である。適切な酵母細胞の例には、限定されるものではないが、サッカロミセス・セレビッシェ、ヤローウィア・リポリティカ、ピキア・パストリス、及びこれらの任意の混合物が含まれる。
上記態様の実施態様において、酵母細胞は ヤローウィア・リポリティカである。
【0110】
上記態様の実施態様において、微生物細胞は、約5g/l未満、約2g/l未満、約1g/l未満のステアリン酸塩を有するか、又はステアリン酸塩が添加されていない培地中に存在するか、又は前記培地で培養されたものである。
【0111】
別の態様において、本発明は、本明細書に定義される脂質を含むか、又は本発明の微生物細胞から産生される微生物細胞抽出物、好ましくは酵母細胞抽出物を提供する。
【0112】
別の態様において、本発明は、本明細書で定義される酵素の1つ又はそれ以上をコードし、好ましくは微生物細胞、例えば酵母細胞のゲノムに組み込まれた、DNA構築体又はDNA構築体の組み合わせを提供する。
【0113】
1つの実施態様において、DGATをコードする細胞内の少なくとも1つのDNA構築体又はすべてのDNA構築体は、配列番号144~154のいずれか1つに記載の配列を、又は、配列番号144~154のいずれか1つ又はそれ以上と、少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。1つの実施態様において、細胞内のDGATをコードする少なくとも1つのDNA構築体又はすべてのDNA構築体は、配列番号115~125の1つ又はそれ以上に記載の配列をコードし、及びコドン縮重のみによって配列番号144~154の1つと異なる。
【0114】
別の実施態様において、FATA脂肪アシルチオエステラーゼをコードする細胞内の少なくとも1つのDNA構築体又はすべてのDNA構築体は、配列番号84又は86のいずれか1つに記載の配列を、配列番号84又は86のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0115】
別の実施態様において、アシル-CoAシンセターゼ(ACS)をコードする細胞内の少なくとも1つのDNA構築体又はすべてのDNA構築体は、配列番号88~89のいずれか1つに記載の配列を、配列番号88~89のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0116】
別の実施態様において、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)をコードする細胞内の少なくとも1つのDNA構築体又はすべてのDNA構築体は、配列番号91に記載の配列を、又は配列番号91と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも97%同一であるヌクレオチド配列を、有するヌクレオチドを含む。
【0117】
別の態様において、本発明は、
(a)本発明の微生物細胞を取得すること、及び
(b)微生物細胞から脂質を抽出すること、を含む、抽出された脂質を産生するプロセスを提供し、それにより抽出された脂質を産生する。従って、本明細書に記載される微生物細胞の実施態様のそれぞれは、抽出された脂質を産生するためのプロセスにおいて使用され得る。
【0118】
1つの実施態様において、このプロセスは、微生物細胞を培養する工程、又は工程(b)の前に細胞を酸で処理する工程をさらに含む。
1つの実施態様において、このプロセスは、微生物細胞を培養する工程、又は抽出工程を改善するために、培養後であるが抽出工程の前に細胞を処理する工程、例えば工程(b)の前に細胞を酸で処理する工程をさらに含む。
【0119】
1つの実施態様において、細胞は、5g/l未満、2g/l未満、1g/l未満のステアリン酸塩を有する培地中で、又はステアリン酸塩を含まない培地中で培養される。あるいは、細胞は、少なくとも1g/l、少なくとも2g/l、又は少なくとも5g/lのステアリン酸塩を含む培地中で培養される。
【0120】
1つの実施態様において、脂質を抽出する工程は、細胞を有機溶媒に曝露すること、細胞をプレスすること、又はマイクロ波照射、超音波処理、高速ホモジナイズ、高圧ホモジナイズ、ビーズ叩解、オートクレーブ滅菌、熱分解、又はこれらの任意の組み合わせによって細胞を処理することを含む。
1つの実施態様において、この方法は、抽出後に脂質を改変又は精製することをさらに含む。
【0121】
別の態様において、本発明は微生物細胞を培養する方法を提供し、この方法は、
(a)本発明の微生物細胞を取得すること、及び
(b)適切な培地中で細胞を培養することにより細胞の数を増加させることを含む。
従って、本明細書に記載される微生物細胞の実施態様のそれぞれは、微生物細胞を培養するプロセスにおいて使用され得る。
【0122】
別の態様において、本発明は、本発明の脂質を産生する微生物細胞を産生するプロセスを提供し、このプロセスは、本明細書に定義される1つ又はそれ以上の遺伝子改変及び/又は外因性ポリヌクレオチドを前駆微生物細胞に導入する工程を含む。このプロセスは、本明細書に記載される本発明の微生物細胞の実施態様のそれぞれを生成するために使用され得る。
【0123】
1つの実施態様において、プロセスは、
(i)導入された遺伝子改変及び/又は外因性ポリヌクレオチドを含む細胞から子孫細胞を生成する工程、
(ii)前駆細胞集団の突然変異誘発、
(iii)1つ又はそれ以上の外因性ポリヌクレオチドの導入、それにより外因性ポリヌクレオチドが微生物細胞のゲノム、好ましくは所定の位置に組み込まれる工程、
(iv)細胞又はその子孫細胞の脂肪酸組成を決定する工程、及び
(v)本発明の脂質を含む子孫細胞を選択する工程、の1つ又はそれ以上の工程を含む。
【0124】
別の態様において、本発明は、本発明の脂質、本発明の微生物細胞、又は本発明の微生物細胞抽出物の1つ又はそれ以上又はすべてを含む組成物を提供する。従って、本明細書に記載される微生物細胞及び抽出された脂質の各実施態様は、組成物を製造するために使用することができる。組成物は、食物又は飲料を製造するための成分として使用することができる。
【0125】
1つの実施態様において、組成物は、本発明の脂質に加えて、食物、飼料、又は飲料成分を含む。本発明の脂質又は組成物は、医薬品、化粧品、及びトイレタリーなどのパーソナルケア製品に使用することができる。
【0126】
1つの実施態様において、組成物は、抽出された微生物の脂質、細胞、又は抽出物以外の供給源からの、エステル化された又はエステル化されていない1つ又はそれ以上の脂肪酸を含む。
【0127】
別の態様において、本発明は、本発明の脂質、本発明の微生物細胞、本発明の微生物細胞抽出物、又は本発明の組成物の1つ又はそれ以上又はすべてである成分、及び少なくとも1つの他の食物、飼料、又は飲料成分を含む食物、飼料、又は飲料を提供する。従って、本明細書に記載される微生物細胞及び抽出された脂質の実施態様のそれぞれは、食物、飼料、又は飲料の食物、飼料、又は飲料成分を製造するために使用することができる。
【0128】
1つの実施態様において、食物、飼料、又は飲料には、動物から得られる成分が欠如している。
【0129】
1つの実施態様において、本発明の食物、飼料、若しくは飲料成分、又は食物、飼料、若しくは飲料は、肉代替品、脂肪、油、若しくはドレッシング、スープ、麺製品、シチュー、ストック、ブロス、ソース、グレービーソース、パスタソース、トマト製品、乾燥調味料ミックス、パン、パン代替品、ペストリー、クロワッサン、ビスケット、クラッカー、ケーキ、ピザ生地、パイ生地、乾燥ベーカリーミックス、ベーカリー生地、ドーナツ、混合材料料理、スナック、例えば甘いスナック、風味豊かな食物若しくは塩辛いスナック、肉代替品又は類似品、乳製品代替品又は類似品、又は別の食物である。
【0130】
別の態様において、本発明は、食物、飼料、又は飲料を製造する方法を提供し、この方法は、本発明の脂質、本発明の微生物細胞、本発明の微生物細胞抽出物、又は本発明の組成物を、少なくとも1つの他の食物、飼料、又は飲料成分と一緒にすることを含む。従って、本明細書に記載される微生物細胞及び抽出された脂質の実施態様のそれぞれは、本方法において使用することができる。
【0131】
また、食物、飼料、若しくは飲料成分、又は食物、飼料、若しくは飲料を製造するための、本発明の脂質、本発明の微生物細胞、本発明の微生物細胞抽出物、又は本発明の組成物の1つ若しくはそれ以上又はすべての使用も提供される。
【0132】
本明細書のいずれの実施態様も、特に明記しない限り、他の実施態様に準用して適用されるものとする。
本発明は、本明細書に記載される特定の実施態様によって範囲が限定されるものではなく、例示のみを目的としている。機能的に同等の製品、組成物、及び方法は、本明細書に記載されるように、明らかに本発明の範囲内である。
本明細書全体を介して、特に別段の記載がない限り、又は文脈上別段の必要がない限り、単一の工程、組成物、工程の群又は組成物の群への言及は、これらの工程、組成物、工程の群、又は組成物の群のうちの1つ及び複数(すなわち、1つ又はそれ以上)を包含するものと理解すべきである。
【0133】
以下、本発明を、以下の非限定的な実施例により、及び添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【
図1】
図1:YPD培地で最長7日間培養したエス・セレビッシェ(S. cerevisiae)の増殖曲線。
【
図2】
図2:微生物FAD2やURA3などの目的の遺伝子に不活性化欠失を導入する遺伝子構築体を作成するための概略図。パネルA.これらの2つの領域間のSacII部位と結合された目的の遺伝子の1,000bpの5'上流領域と1,000bpの3'下流領域を有する2kb断片のDNA合成。制限部位とlox部位の位置は縦線で示されている。CDS:目的の遺伝子のタンパク質コード領域。B.SacII部位に適合したプライマーを使用するヒグロマイシン(Hph)又はヌルセオスリシン(Nat1)抗生物質耐性遺伝子の増幅。C.AのDNA断片にSacII末端抗生物質耐性遺伝子カセットを挿入することによる遺伝子構築体の構築。縮尺通りではない。
【
図3】
図3:微生物に遺伝子欠失を導入するための遺伝子構築体の構築の概略図。パネルA.目的の遺伝子の5'上流領域及び3'下流領域のPCR増幅と連結による2kb断片の作成。オリゴヌクレオチドプライマーは小さな横矢印で示され、制限酵素部位とlox部位は縦線で示されている。CDS:目的の遺伝子のタンパク質コード領域。B.フランキングAsiSI部位に適合したプライマーを使用するヒグロマイシン(Hph)又はヌルセオスリシン(Nat1)耐性遺伝子の増幅。C.ワイ・リポリティカなどの微生物に導入するための遺伝子構築体の組み立て。
【
図4】
図4:リン脂質の概略構造。ヒドロキシルの1つは、コリン、セリン、イノシトールなどのさまざまな頭部基で置き換えることができる。
【
図5】
図5:ワイ・リポリティカにおける候補PDATの組み合わせの発現のための遺伝子構築体の概略図。各PDATは、pTEFプロモーターとLIP2遺伝子転写ターミネーターの制御下にある。
【
図6】
図6:候補アシルトランスフェラーゼ遺伝子をワイ・リポリティカに導入するためのクローニングベクターの概略図。pNIz0hyg[dga2]の配列は配列番号173として提供される。pNIz0ura[fad2]の配列は配列番号174として提供される。pNIz0nat[lro1]の配列は配列番号175として提供される。pNIz0hyg[pox2]の配列は配列番号176として提供される。
【
図7】
図7:(A)ワイ・リポリティカW29株細胞の光学顕微鏡写真、(B)規定培地(M1)で培養して脂質を蓄積した後の形質転換されたワイ・リポリティカyNI0056株細胞。
【0135】
配列表のキー
配列番号1。ワイ・リポリティカW29株FAD2ポリペプチドのアミノ酸配列、登録番号XP_500707.1。
【0136】
配列番号2。上流領域と下流領域を含むワイ・リポリティカW29株のFAD2遺伝子のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~1000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1001~2260はΔ12デサチュラーゼのタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド2261~3260は3'下流領域に対応する。
【0137】
配列番号3。ヒグロマイシン耐性選択マーカー遺伝子(pTEF-Hyg-tLip2)の塩基配列。ヌクレオチド1~417は、TEFプロモーター(Mulleretal., 1998;登録番号AF054508)に対応し、ヌクレオチド418~1443は、ヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(Hph)酵素のタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド1444~1620は、登録番号HM486900(Darvishi et al., 2011)由来のワイ・リポリティカ U6株リパーゼ2遺伝子由来のポリアデニル化領域/転写ターミネーターに対応する。ヌクレオチド20~53はloxP部位に対応し、ヌクレオチド1569~1598はloxR部位に対応する。
【0138】
配列番号4。pTEF-Hyg-tLip2によってコードされるヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(Hph)のアミノ酸配列。
【0139】
配列番号5。GGE368(登録番号AIC06992、Calvey et al.(2014))由来のヌルセオスリシン耐性選択マーカー遺伝子(pTEF-Nat1-tLip2)のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~418はTEFプロモーターに対応し、ヌクレオチド419~988は、ヌルセオスリシンアセチルトランスフェラーゼ(Nat1)酵素のタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド989~1165は、Lip2遺伝子のポリアデニル化領域/転写ターミネーターに対応する。ヌクレオチド20~53はloxP部位に対応し、及びヌクレオチド1114~1143はloxR部位に対応する。1165nt。
【0140】
配列番号6。pTEF-Nat1-tLip2遺伝子によってコードされるヌルセオスリシンアセチルトランスフェラーゼ(Nat1)のアミノ酸配列。
配列番号7。ワイ・リポリティカTEFプロモーターのヌクレオチド配列(Muller et al., 1998;登録番号AF054508)。
配列番号8~49。オリゴヌクレオチドプライマー(表13を参照)
配列番号50。ワイ・リポリティカURA3株ポリペプチドのアミノ酸配列、GenBank登録番号Q12724;286aa。
【0141】
配列番号51。上流領域と下流領域とを含むワイ・リポリティカのURA3遺伝子のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~1,861はオロチジン-5'-リン酸デカルボキシラーゼのタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド1,862~2,861は3'下流領域に対応する。
【0142】
配列番号52。ワイ・リポリティカW29株の染色体EのDGA1遺伝子(YALI0E32769p)のヌクレオチド配列、登録番号CR382131.1のヌクレオチド3885857~3889401(DGA1遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~2,545はDGA1ポリペプチドのタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド2,546~3,545は3'下流領域に対応する;3,545nt。
【0143】
配列番号53。YALI0E32769p遺伝子によってコードされるワイ・リポリティカW29株由来のDGA1ポリペプチドのアミノ酸配列(GenBank登録番号.XP_504700.1;514aa)。
【0144】
配列番号54。ワイ・リポリティカW29株の染色体DのDGA2遺伝子(YALI0D07986p)のヌクレオチド配列、登録番号CP017556.1のヌクレオチド1025413~1028993(DGA2遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~2,581はDGA2ポリペプチドのタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド2,582~3,581は3'下流領域に対応する;3,581nt。
【0145】
配列番号55。ワイ・リポリティカW29株DGA2ポリペプチドのアミノ酸配列、GenBank登録番号XP_502557;526aa。
【0146】
配列番号56。ワイ・リポリティカCLIB122株の染色体EのLRO1遺伝子(YALI0E16797p)のヌクレオチド配列、登録番号CR382131.1のヌクレオチド1989950~1993896(LRO1遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~2,947はPDATのタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド2,948~3,947は3'下流領域に対応する;3,947nt。
【0147】
配列番号57。LRO1遺伝子(YALI0E16797p)によってコードされるワイ・リポリティカCLIB122株由来のPDATのアミノ酸配列、GenBank登録番号XP_504038;648aa。
【0148】
配列番号58。ワイ・リポリティカW29株の染色体FのARE1遺伝子(YALI0F06578p)のヌクレオチド配列、登録番号CP028453.1のヌクレオチド957751~961382(ARE1遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~2,632はASATのタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド2,633~3,632は3'下流領域に対応する;3,632nt。
【0149】
配列番号59。ARE1遺伝子(YALI0F06578p)によってコードされるワイ・リポリティカW29株由来のASATのアミノ酸配列、GenBank登録番号XP_505086;543aa。
【0150】
配列番号60。ワイ・リポリティカCLIB122株の染色体EのPOX1遺伝子(YALI0E32835g)のヌクレオチド配列、登録番号CR382131.1のヌクレオチド3897102~3899135(POX1遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~3,103はPOX1のタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド3,104~4,103は3'下流領域に対応する;4,103nt。
【0151】
配列番号61。YALI0E32835pによってコードされるワイ・リポリティカCLIB122株由来のPOX1のアミノ酸配列、GenBank登録番号XP_504703.1;677aa。
【0152】
配列番号62。ワイ・リポリティカCLIB122株の染色体FのPOX2遺伝子(YALI0F10857g)のヌクレオチド配列、登録番号CR382132.1のヌクレオチド1449289~1451391(POX2遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~3,103はPOX2のタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド3,104~4,103は3'下流領域に対応する;4,103nt。
【0153】
配列番号63。YALI0F10857pによってコードされるワイ・リポリティカCLIB122株由来のPOX2遺伝子のアミノ酸配列、GenBank登録番号_XP_505264.1;700aa。
【0154】
配列番号64。ワイ・リポリティカCLIB122株の染色体DのPOX3遺伝子(YALI0D24750g)のヌクレオチド配列、登録番号CR382130.1のヌクレオチド3291579~3293681(POX3遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~3,103はPOX3のタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド3,104~4,103は3'下流領域に対応する;4,103nt。
【0155】
配列番号65。YALI0D24750pによってコードされるワイ・リポリティカCLIB122株のPOX3のアミノ酸配列、GenBank登録番号XP_503244;700aa。
【0156】
配列番号66。ワイ・リポリティカCLIB122株の染色体EのMFE1遺伝子(YALI0E15378g)のヌクレオチド配列、登録番号CR382131.1のヌクレオチド1829460~1832239(MFE1遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~3,706はPDATのタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド3,706~4,706は3'下流領域に対応する;4,706nt。
【0157】
配列番号67。YALI0E15378pによってコードされるワイ・リポリティカCLIB122株のMFE1のアミノ酸配列、GenBank登録番号XP_503980。901aa。
【0158】
配列番号68。ワイ・リポリティカCLIB122株の染色体CのPEX10遺伝子(YALI0C01023g)のヌクレオチド配列、登録番号CR382129.1のヌクレオチド139718~140851(PEX10遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~2,134はPEX10のタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド2,135~3,134は3'下流領域に対応する;3,134nt。
【0159】
配列番号69。YALI0C01023pにコードされるワイ・リポリティカCLIB122株由来のPEX10アミノ酸配列、GenBank登録番号XP_501311;377aa。
【0160】
配列番号70。ワイ・リポリティカCLIB122株由来の染色体DのSNF1遺伝子(YALI0D02101g)のヌクレオチド配列、登録番号CR382130.1のヌクレオチド236133~237872(SNF1遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~2,740はSNF1のタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド2,741~3,740は3'下流領域に対応する;3,740nt。
【0161】
配列番号71。YALI0D02101pにコードされるワイ・リポリティカCLIB122株由来のSNF1のアミノ酸配列、GenBank登録番号XP_502312;579aa。
【0162】
配列番号72。ワイ・リポリティカCLIB122株の染色体EのSPO14遺伝子(YALI0E18898g)のヌクレオチド配列、登録番号CR382131.1のヌクレオチド2251884~2257373(SPO14遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~6,490はSPO14のタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド6,491~7,490は3'下流領域に対応する;7,490nt。
【0163】
配列番号73。YALI0E18898pにコードされるワイ・リポリティカCLIB122株由来のSPO14のアミノ酸配列、GenBank登録番号XP_504124;1829aa。
【0164】
配列番号74。ワイ・リポリティカCLIB122株の染色体EのOPI1遺伝子(YALI0C14784g)のヌクレオチド配列、登録番号CR382129.1のヌクレオチド2251884~237872(OPI1遺伝子の上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~2,863はOPI1のタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド2,864~3,863は3'下流領域に対応する;3,863nt。
【0165】
配列番号75。YALI0C14784pにコードされるワイ・リポリティカCLIB122株由来のOPI1のアミノ酸配列、GenBank登録番号XP_501843;620aa。
【0166】
配列番号76。エス・セレビッシェのPOX1遺伝子(YGL205W;chrVII:108158~110404)のヌクレオチド配列(上流領域と下流領域を含む)。ヌクレオチド1~1,000は5'上流配列に対応し、ヌクレオチド1,001~3,247はアシルCoAオキシダーゼのタンパク質コード領域に対応し、そしてヌクレオチド3,248~4,247は3'下流領域に対応する。
【0167】
配列番号77。エス・セレビッシェS288C株のPOX1遺伝子産物のアミノ酸配列(登録番号NP_011310.1);748aa。
【0168】
配列番号78。ワイ・リポリティカ由来のFBAINプロモーターのヌクレオチド配列(米国特許第8,815,566号);973nt。翻訳開始ATGはヌクレオチド803~805にあり、イントロンはヌクレオチド866~967である。
【0169】
配列番号79。改変されたワイ・リポリティカFBAIN遺伝子プロモーターのヌクレオチド配列(FBAINm);927nt。FBAINプロモーター(配列番号78)のヌクレオチド805~857に対応する領域を欠失させてFBAINmを作製した。プロモーターもまた改変して、FBAINから野生型ATGを除去して、ATG開始コドンのすぐ上流に、任意選択的な翻訳コンセンサス配列(CACA;Gasmi et al, 2011)を提供した、ヌクレオチド925~927。
【0170】
配列番号80。ワイ・リポリティカのGPD遺伝子プロモーターのヌクレオチド配列(米国特許第8,815,566号);971nt。翻訳開始コドンATGはヌクレオチド969~971にある。
【0171】
配列番号81。エム・テトラフィラ(M. tetraphylla)(マカダミア)由来のDGAT1のアミノ酸配列、NCBI登録番号KT736302.1;535aa。
【0172】
配列番号82。BsaI部位に隣接した、エム・テトラフィラ由来のMtDGAT1をコードするpAT117にクローニングされたタンパク質コード領域のヌクレオチド配列;1634nt。
【0173】
配列番号83。ジー・マンゴスタナ(G. mangostana)(マンゴスチン)由来のGmFATA1のアミノ酸配列、NCBI登録番号U92876.1;352aa。
【0174】
配列番号84。BsaIサイトに隣接した、ジー・マンゴスタナ由来のFATA1タンパク質をコードするpAT066にクローニングされたタンパク質コード領域のヌクレオチド配列。開始コドンATGはヌクレオチド9~11にあり、終止コドンはヌクレオチド1068~107にある;1081nt。
【0175】
配列番号85。ジー・マンゴスタナ(マンゴスチン)由来のGmFATA2のアミノ酸配列、NCBI登録番号U92877.1;355aa。
【0176】
配列番号86。ジー・マンゴスタナ由来のFATA2をコードするpAT067にクローニングされたタンパク質コード領域のヌクレオチド配列。開始コドンATGはヌクレオチド9~11にあり、終止コドンはヌクレオチド1077~1079にある;1090nt。
【0177】
配列番号87。ピー・クロロラフィス(P. chlororaphis)由来のPcACS-X1のアミノ酸配列、NCBI登録番号BAD90933;545aa。
【0178】
配列番号88。BsaI部位に隣接している、ピー・クロロラフィス由来のpAT136(PcACS-X1)にクローニングされたタンパク質コード領域のヌクレオチド配列。開始コドンATGはヌクレオチド12~14にあり、終止コドンはヌクレオチド1647~1649にある;1660nt。
【0179】
配列番号89。BsaI部位に隣接している、ピー・クロロラフィス由来のpAT138(PcACS-X2)にクローニングされたタンパク質コード領域のヌクレオチド配列;1660nt。
【0180】
配列番号90。モルティエラ・アルピナ(クサレケカビ)由来のMaLPAATのアミノ酸配列、NCBI登録番号;314aa。
【0181】
配列番号91。クサレケカビ(M. alpina)由来のMtLPAATのタンパク質コード領域のヌクレオチド配列;945nt。
【0182】
配列番号92。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT207のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び9096~9103、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~308、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド1903~2261、3960~4318、及び6595~6967、pTEFプロモーター;ヌクレオチド1644~1902、3483~3959、及び6118~6594、エンハンサー配列;ヌクレオチド2269~3330、GmFATA1のタンパク質コード領域;ヌクレオチド4329~5966、PcACS-X1のタンパク質コード領域;ヌクレオチド6968~8575、MtDGAT1のタンパク質コード領域;3331~3482、5971~6117、及び8580~8696、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド8701~9095、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0183】
配列番号93。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT208のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び9096~9103、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~308、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド1903~2261、3960~4318、及び6595~6967、pTEFプロモーター。ヌクレオチド1644~1902、3483~3959、及び6118~6594、エンハンサー配列;ヌクレオチド2269~3330、GmFATA1のタンパク質コード領域;ヌクレオチド4329~5966、PcACS-X2のタンパク質コード領域;ヌクレオチド6968~8575、MtDGAT1のタンパク質コード領域;3331~3482、5971~6117、及び8580~8696、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド8701~9095、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0184】
配列番号94。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT209のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び9105~9112、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~308、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド1903~2261、3969~4327、及び6604~6976、pTEFプロモーター。ヌクレオチド1644~1902、3492~3968、及び6127~6603、エンハンサー配列;ヌクレオチド2269~3330、GmFATA2のタンパク質コード領域;ヌクレオチド4338~5975、PcACS-X1のタンパク質コード領域;ヌクレオチド6977~8584、MtDGAT1のタンパク質コード領域;3340~3491、5980~6126、及び8589~8705、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド8710~9104、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0185】
配列番号95。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT210のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び9105~9112、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~308、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド1903~2261、3969~4327、及び6604~6976、pTEFプロモーター。ヌクレオチド1644~1902、3492~3968、及び6127~6603、エンハンサー配列;ヌクレオチド2269~3330、GmFATA2のタンパク質コード領域;ヌクレオチド4338~5975、PcACS-X2のタンパク質コード領域;ヌクレオチド6977~8584、MtDGAT1のタンパク質コード領域;3340~3491、5980~6126、及び8589~8705、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド8710~9104、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0186】
配列番号96。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT211のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び8410~8417、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~308、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド1903~2261、3960~4318、及び5909~6267、pTEFプロモーター。ヌクレオチド1644~1902、3483~3959、及び5432~5908、エンハンサー配列;ヌクレオチド2269~3330、GmFATA1のタンパク質コード領域;ヌクレオチド4333~5280、MaLPAATのタンパク質コード領域;ヌクレオチド6282~7889、MtDGAT1のタンパク質コード領域;3331~3482、5281~5431、及び7890~8010、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド8015~8409、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0187】
配列番号97。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT212のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び8419~8426、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~308、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド1903~2261、3960~4318、及び5909~6267、pTEFプロモーター;ヌクレオチド1644~1902、3483~3959、及び5432~5908、エンハンサー配列;ヌクレオチド2272~3339、GmFATA2のタンパク質コード領域;ヌクレオチド4342~5289、MaLPAATのタンパク質コード領域;ヌクレオチド6291~7898、MtDGAT1のタンパク質コード領域;3340~3491、5290~5490、及び7899~8019、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド8024~8418、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0188】
配列番号98。オリゴヌクレオチドプライマーat001
配列番号99。オリゴヌクレオチドプライマーat002。
配列番号100。オリゴヌクレオチドプライマーat085。
配列番号101。オリゴヌクレオチドプライマーat086。
配列番号102。オリゴヌクレオチドプライマーat274。
配列番号103。オリゴヌクレオチドプライマーat275。
配列番号104。オリゴヌクレオチドプライマーat297。
配列番号105。オリゴヌクレオチドプライマーat298。
配列番号106。オリゴヌクレオチドプライマーat299。
配列番号107。オリゴヌクレオチドプライマーat300。
【0189】
配列番号108。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT091のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び4648~4655、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~311、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド2080~2479、pTEFプロモーター;ヌクレオチド1644~2079、エンハンサー配列;ヌクレオチド2487~4127、PcACS-X1のタンパク質コード領域;4128~4248、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド4254~4647、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0190】
配列番号109。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT108のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び4078~4085、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~311、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド2080~2479、pTEFプロモーター;ヌクレオチド1644~2079、エンハンサー配列;ヌクレオチド2487~3557、GmFATA2のタンパク質コード領域;3558~3682、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド3683~4077、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0191】
配列番号110。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT135のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び4622~4629、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~311、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド2080~2479、pTEFプロモーター;ヌクレオチド1644~2079、エンハンサー配列;ヌクレオチド2494~4101、MtDGAT1のタンパク質コード領域;4102~4226、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド4227~4621、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0192】
配列番号111。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT213のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び6714~6721、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~311、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド2080~2479及び4146~4546、pTEFプロモーター;ヌクレオチド1644~2079及び3710~4145、エンハンサー配列;ヌクレオチド2487~3557、GmFATA2のタンパク質コード領域;ヌクレオチド4556~6193、PcACS-X1のタンパク質コード領域;3558~3709及び6194~6318、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド6319~6713、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0193】
配列番号112。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT214のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び6688~6695、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~311、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド2080~2479及び4146~4546、pTEFプロモーター;ヌクレオチド1644~2079及び3710~4145、エンハンサー配列;ヌクレオチド2487~3557、GmFATA2のタンパク質コード領域;ヌクレオチド4560~6167、MtDGAT1のタンパク質コード領域;3558~3709及び6168~6292、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド6293~6687、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0194】
配列番号113。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT215のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び7258~7265、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~311、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド2080~2479及び4716~5116、pTEFプロモーター;ヌクレオチド1644~2079及び4280~4715、エンハンサー配列;ヌクレオチド2487~4127、PcACS-X1のタンパク質コード領域;ヌクレオチド5130~6737、MtDGAT1のタンパク質コード領域;4128~4279及び6738~6862、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド6863~7257、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0195】
配列番号114。ワイ・リポリティカ細胞を形質転換するために使用されたpAT216のNotI DNA断片のヌクレオチド配列。ヌクレオチド1~8及び9260~9267、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド9~311、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド365~1643、ヌクレオチド1398~1621にURA3遺伝子のプロモーターを含む逆配向のワイ・リポリティカURA3遺伝子;ヌクレオチド2080~2479、4146~4545、及び6781~7181、pTEFプロモーター;ヌクレオチド1644~2079、3710~4145、及び6345~6780、エンハンサー配列;ヌクレオチド2487~3557、GmFATA2のタンパク質コード領域;ヌクレオチド4556~6193、PcACS-X1のタンパク質コード領域;ヌクレオチド7195~8739、YIDGA1のタンパク質コード領域;3558~3709、6194~6344、及び8740~8864、lip2転写ターミネーター;及び、ヌクレオチド8865~9259、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。
【0196】
配列番号115-ティー・カカオ(T. cacao)由来のTcDGAT1のアミノ酸配列。
配列番号116-ティー・カカオ由来のTcDGAT2のアミノ酸配列。
配列番号117-ティー・カカオ由来のTcDGAT3のアミノ酸配列。
配列番号118-ティー・カカオ由来のTcDGAT4のアミノ酸配列。
配列番号119-ティー・カカオ由来のTcDGAT5のアミノ酸配列。
配列番号120-ティー・カカオ由来のTcDGAT6のアミノ酸配列。
配列番号121-ティー・カカオ由来のTcDGAT7のアミノ酸配列。
配列番号122-ティー・カカオ由来のTcDGAT8のアミノ酸配列。
配列番号123-ティー・カカオ由来のTcDGAT9のアミノ酸配列。
配列番号124-ティー・カカオ由来のTcDGAT10のアミノ酸配列。
配列番号125-ティー・カカオ由来のTcDGAT11のアミノ酸配列。
配列番号126-ティー・カカオ由来のTcGPAT1のアミノ酸配列。
配列番号127-ティー・カカオ由来のTcGPAT2のアミノ酸配列。
配列番号128-ティー・カカオ由来のTcGPAT3のアミノ酸配列。
配列番号129-ティー・カカオ由来のTcGPAT4のアミノ酸配列。
配列番号130-ティー・カカオ由来のTcGPAT5のアミノ酸配列。
配列番号131-ティー・カカオ由来のTcGPAT6のアミノ酸配列。
配列番号132-ティー・カカオ由来のTcGPAT7のアミノ酸配列。
配列番号133-ティー・カカオ由来のTcGPAT8のアミノ酸配列。
配列番号134-ティー・カカオ由来のTcGPAT9のアミノ酸配列。
配列番号135-ティー・カカオ由来のTcGPAT10のアミノ酸配列。
配列番号136-ティー・カカオ由来のTcGPAT11のアミノ酸配列。
配列番号137-ティー・カカオ由来のTcGPAT12のアミノ酸配列。
配列番号138-ティー・カカオ由来のTcGPAT13のアミノ酸配列。
配列番号139-ティー・カカオ由来のTcPDAT1のアミノ酸配列。
配列番号140-ティー・カカオ由来のTcPDAT2のアミノ酸配列。
配列番号141-ティー・カカオ由来のTcPDAT4のアミノ酸配列。
配列番号142-ティー・カカオ由来のTcPDAT5のアミノ酸配列。
配列番号143-ティー・カカオ由来のTcPDAT6のアミノ酸配列。
【0197】
配列番号144-ティー・カカオ由来のTcDGAT1をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号145-ティー・カカオ由来のTcDGAT2をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号146-ティー・カカオ由来のTcDGAT3をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号147-ティー・カカオのTcDGAT4をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号148-ティー・カカオのTcDGAT5をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号149-ティー・カカオのTcDGAT6をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号150-ティー・カカオのTcDGAT7をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号151-ティー・カカオのTcDGAT8をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号152-ティー・カカオ由来のTcDGAT9をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号153-ティー・カカオ由来のTcDGAT10をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号154-ティー・カカオ由来のTcDGAT11をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号155-ティー・カカオ由来のTcGPAT1をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号156-ティー・カカオ由来のTcGPAT2をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号157-ティー・カカオ由来のTcGPAT3をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号158-ティー・カカオ由来のTcGPAT4をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号159-ティー・カカオ由来のTcGPAT5をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号160-ティー・カカオ由来のTcGPAT6をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号161-ティー・カカオ由来のTcGPAT7をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号162-ティー・カカオ由来のTcGPAT8をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号163-ティー・カカオ由来のTcGPAT9をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号164-ティー・カカオ由来のTcGPAT10をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号165-ティー・カカオ由来のTcGPAT11をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号166-ティー・カカオ由来のTcGPAT12をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号167-ティー・カカオ由来のTcGPAT13をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号168-ティー・カカオ由来のTcPDAT1をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号169-ティー・カカオ由来のTcPDAT2をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号170-ティー・カカオ由来のTcPDAT4をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号171-ティー・カカオ由来のTcPDAT5をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
配列番号172-ティー・カカオ由来のTcPDAT6をコードするコドン最適化されたオープンリーディングフレーム。
【0198】
配列番号173-ワイ・リポリティカ細胞の形質転換のための遺伝子の挿入に使用されたクローニングベクターpNIz0hyg[dga2]のヌクレオチド配列。ヌクレオチド416~423及び6134~6141、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド424~736、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド737~742及び5733~5738、BsaI制限酵素部位;ヌクレオチド743~1742、ワイ・リポリティカDGA2遺伝子由来の5'上流配列;ヌクレオチド1743~1755、SfiI制限酵素部位;ヌクレオチド1784~1811及び4699~4732、loxPsym組換え部位;ヌクレオチド1829~2245及び3460~3858、pTEFプロモーター;ヌクレオチド2246~3271、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(HygR)のタンパク質コード領域;ヌクレオチド3859~4581、fuGFPポリペプチドのタンパク質コード領域;ヌクレオチド3272~3453及び4582~4698、lip2ポリアデニル化/転写ターミネーター;ヌクレオチド4733~5732、ワイ・リポリティカDGA2遺伝子由来の3'下流配列;ヌクレオチド5739~6141、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分;8397nt。
【0199】
配列番号174-ワイ・リポリティカ細胞の形質転換のための遺伝子の挿入に使用されたクローニングベクターpNIz0ura[fad2]のヌクレオチド配列。ヌクレオチド416~423及び5737~5744、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド424~736、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド737~742及び5320~5325、BsaI制限酵素部位;ヌクレオチド743~1742、ワイ・リポリティカFAD2遺伝子由来の5'上流配列;ヌクレオチド1743~1755、SfiI制限酵素部位;ヌクレオチド1784~1817及び4286~4319、loxPsym組換え部位;ヌクレオチド1818~3037、URA3選択マーカー遺伝子(逆配向)、URA3のタンパク質コード領域の相補体であるヌクレオチド1999~2859を含む;ヌクレオチド3038~3445、pTEFプロモーター;ヌクレオチド3446~4168、fuGFPポリペプチドのタンパク質コード領域;ヌクレオチド4169~4285、lip2ポリアデニル化/転写ターミネーター;ヌクレオチド4320~5319、ワイ・リポリティカFAD2遺伝子由来の3'下流配列;ヌクレオチド5326~5728、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分;7984nt。
【0200】
配列番号175-ワイ・リポリティカ細胞の形質転換のための遺伝子の挿入に使用されたクローニングベクターpNIz0nat[Iro1]のヌクレオチド配列。ヌクレオチド416~423及び5679~5686、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド424~736、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド737~742及び5320~5325、BsaI制限酵素部位。ヌクレオチド743~1742、ワイ・リポリティカFAD2遺伝子由来の5'上流配列;ヌクレオチド1743~1755、SfiI制限酵素部位;ヌクレオチド1784~1817及び4244~4277、loxPsym組換え部位;ヌクレオチド1818~3037、URA3選択マーカー遺伝子(逆配向)、URA3のタンパク質コード領域の相補体であるヌクレオチド1999~2859を含む;ヌクレオチド1883~2246及び3005~3403、pTEFプロモーター;ヌクレオチド3404~4126、fuGFPポリペプチドのタンパク質コード領域;ヌクレオチド2817~2998及び4127~4243、lip2ポリアデニル化/転写ターミネーター;ヌクレオチド4278~5277、ワイ・リポリティカのFAD2遺伝子由来の3'下流配列;ヌクレオチド5284~5678、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分。7942nt。
【0201】
配列番号176~ワイ・リポリティカ細胞の形質転換のための遺伝子の挿入に使用されたクローニングベクターpNIz0hyg[pox2]のヌクレオチド配列。ヌクレオチド416~423及び6134~6141、NotI制限酵素部位;ヌクレオチド424~736、ワイ・リポリティカゼータ配列の5'部分;ヌクレオチド737~742及び5733~5738、BsaI制限酵素部位;ヌクレオチド743~1742、ワイ・リポリティカPOX2遺伝子由来の5'上流配列;ヌクレオチド1743~1755、SfiI制限酵素部位;ヌクレオチド1784~1811及び4699~4732、loxPsym組換え部位;ヌクレオチド1882~2245及び3460~3858、pTEFプロモーター;ヌクレオチド2246~3271、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼのタンパク質コード領域(HygR;配列番号4);ヌクレオチド3859~4581、fuGFPポリペプチドのタンパク質コード領域;ヌクレオチド3272~3453及び4582~4698、lip2ポリアデニル化/転写ターミネーター;ヌクレオチド4733~5732、ワイ・リポリティカPOX2遺伝子由来の3'下流配列;ヌクレオチド5739~6141、ワイ・リポリティカゼータ配列の3'部分;8397nt。
【発明を実施するための形態】
【0202】
発明の詳細な説明
略語
アセチル-CoA及びマロニル-CoA:アセチル-補酵素A及びマロニル-補酵素A、
ACCase:アセチル-CoAカルボキシラーゼ、
FAS:脂肪酸シンターゼ複合体、
KASII:ケトアシル-ACPシンターゼII(EC2.3.1.41)、
PAP:PAホスホリラーゼ(EC3.1.3.4)、
G3P:グリセロール-3-リン酸、
LPA:リゾホスファチジン酸、
PA:ホスファチジン酸、
MAG:モノアシルグリセロール
DAG:ジアシルグリセロール、
TAG:トリアシルグリセロール、
アシル-CoA:アシル-補酵素A、
PC:ホスファチジルコリン、
GPAT:グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ、
LPAAT:リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.51)、
LPCAT:アシル-CoA:リゾホスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼ、又は同義語である1-アシルグリセロホスホコリンO-アシルトランスフェラーゼ、アシル-CoA:1-アシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンO-アシルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.23)、
CPT:CDP-コリン:ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ、又は同義語である1-アルキル-2-アセチルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ、アルキルアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ、コリンホスホトランスフェラーゼ、ホスホリルコリン-グリセリドトランスフェラーゼ(EC2.7.8.2)、
PDCT:ホスファチジルコリン:ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ、
PLC:ホスホリパーゼC(EC3.1.4.3)、
PLD:ホスホリパーゼD、コリンホスファターゼ、レシチナーゼD、リポホスホジエステラーゼII(EC3.1.4.4)、
PDAT:リン脂質:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ、又は同義語であるリン脂質:1,2-ジアシル-sn-グリセロールO-アシルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.158)、
FAD2:脂肪酸Δ12-デサチュラーゼ、
FAD3、脂肪酸Δ15-デサチュラーゼ、
UDP-Gal:ウリジン二リン酸ガラクトース。
【0203】
一般的技術と定義
特に別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当該分野(例えば、細胞培養、発酵、分子遺伝学、タンパク質化学、肉以外の食物、及び生化学において)の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有するものと解釈されるものとする。
【0204】
他に指示がない限り、本発明で利用される組換えタンパク質、細胞培養、及び免疫学的技術は、当業者に公知の標準的な操作である。このような技術は、以下のような文献に記載及び説明されている:J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984), J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989), T.A. Brown (editor), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991), D.M. Glover and B.D. Hames (editor), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996), 及び F.M. Ausubel et al. (editor), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988, 現在までのすべての更新を含む), Ed Harlow and David Lane (editor) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988), 及び J.E. Coligan et al. (editor) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons(現在までのすべての更新を含む)。
【0205】
用語「及び/又は」、例えば「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解され、両方の意味又はいずれかの意味を明示的に支持すると解釈されるものとする。
本明細書で使用される用語「約」は、別段の記載がない限り、指定された値の±10%、より好ましくは±5%、より好ましくは±1%を指す。
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」という単語、又は「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」などの変形は、記載された要素、整数、若しくは工程、又は要素、整数、若しくは工程のグループの包含を意味するものと理解されるが、他の要素、整数、工程、あるいは要素、整数、工程のグループを除外するものではない。
【0206】
選択された定義
本明細書で使用される場合、「脂質」は、エステル化されていてもエステル化されていなくてもよい脂肪酸、又はそれらの誘導体であり、水には不溶であるが、有機溶媒、例えばクロロホルムには可溶である、脂肪酸であるか又はそれらを含む有機化合物のクラスのいずれかである。本明細書で使用される脂質には、非極性脂質、例えばトリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、及びモノアシルグリセロール(MAG)、並びにワックス、ワックスエステル、ステロールエステルが含まれ、及び極性脂質、例えば遊離脂肪酸(FFA)、リン脂質、ガラクト脂質、セラミド、及び他のスフィンゴ脂質が含まれる。脂質は、主に炭素(C)と水素(H)及び若干の酸素(O)で構成され、リン(P)、窒素(N)、硫黄(S)も含まれる場合がある。本明細書で使用される用語「抽出された脂質」は、微生物細胞から抽出された脂質組成物を指す。抽出された脂質は、例えば、細胞を溶解することによって得られる比較的粗製の組成物でも、細胞由来の水、核酸、タンパク質、及び炭水化物の1つ又はそれ以上の又はそれぞれの、すべてではなくても、ほとんどが取り除かれているより精製された組成物であってもよい。精製方法の例を以下に記載する。1つの実施態様において、抽出された脂質は、組成物の重量の少なくとも約10%(w/w)、少なくとも約20%(w/w)、少なくとも約30%(w/w)、少なくとも約40%(w/w)、少なくとも約50%(w/w)、少なくとも約60%(w/w)、少なくとも約70%(w/w)、少なくとも約80%(w/w)、少なくとも約90%(w/w)、又は少なくとも約95%(w/w)の脂質を含む。実施態様において、抽出された脂質は、約10重量%~95重量%の脂質、例えば約10重量%~約50重量%、又は約50重量%~95重量%の脂質を含む。脂質は室温(25℃)で固体又は液体、又はその2つの混合物でもよく、液体の場合は油と見なされ、固体の場合は脂肪と見なされる。1つの実施態様において、本発明の抽出された脂質は、別の供給源から生成された別の脂質、例えば動物脂質と混合されていない。あるいは、抽出された脂質を別の脂質とブレンドされていてもよい。
【0207】
本明細書で使用される用語「極性脂質」は、親水性の頭部基と1つ又はそれ以上の炭化水素鎖の疎水性尾部、例えば1つ又はそれ以上の脂肪アシル基、とを有する両新媒性脂質分子を指し、リン脂質(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール)、ガラクト脂質、セファリン、スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリン及びスフィンゴ糖脂質)、ホスファチジン酸、カルジオリピン、及びグリコグリセロ脂質を含む。親水性頭部基は、生理的pHでは荷電又は非荷電の極性基であり、これらの脂質に両親媒性の性質を与える。極性脂質は、イオン化する能力及び/又は親水性頭部基を介して水分子と水素結合を形成する能力を有しており、これにより非極性脂質と比較して水溶解度が増加する。リン脂質は、脂肪酸、グリセロール、リン酸の主要な構造単位で構成されており、アミノアルコールを含む場合がある。これらは主に細胞内で構造脂質として機能し、植物、微生物、動物の膜の構造において重要な役割を果たしていると考えられている。極性脂質はその化学構造により双極性を示し、極性溶媒と非極性溶媒の両方に溶解性又は部分溶解性を示す。
【0208】
本明細書で使用される用語「リン脂質」は、炭化水素鎖の親水性の頭部基と、1つ(リゾホスファチジン酸の場合)又は2つの疎水性尾部とを有る脂肪酸を含む両親媒性分子であって、リン酸塩含有「頭部」基にエステル化されたグリセロール骨格と、疎水性尾部を提供する脂肪酸とを有する両親媒性分子を指す。リン酸基は、コリン、エタノールアミン、又はセリンなどの単純な有機分子と共有結合することができる。中性pHでは頭部基が帯電しているため、リン脂質は極性脂質であり、クロロホルムなどの溶媒に加えてエタノールなどの溶媒にもある程度の溶解性を有する。リン脂質はすべての細胞膜の重要な構成要素である。これらは両親媒性の特徴により、脂質二重層を形成することができる。よく知られているリン脂質には、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、及びカルジオリピンが含まれる。
【0209】
本明細書で使用される用語「非極性脂質」は、1つ又はそれ以上の炭化水素基、例えば1つ又はそれ以上のアシル鎖の疎水性「尾部」を有するが、両親媒性分子ではなく、極性脂質が有する親水性の頭部基が欠如している脂質を指す。非極性脂質の脂肪酸はエステル化された形になっており、遊離(非エステル化)脂肪酸はここでは極性脂質と見なされる。エステル化された形態の例には、限定されるものではないが、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、及びモノアシルグリセロール(MAG)が含まれる。非極性脂質にはまた、ステロールエステルやワックスエステルも含まれる。非極性脂質は、生理学的pHでは本質的に帯電していないため、「中性脂質」としても知られている。TAGやステロールエステルなどの非極性脂質は、空気-水、油-水界面で単分子層(単層)を形成しないため、水溶液には本質的に不溶である。対照的に、極性脂質は空気-水又は油-水界面で単層を形成することができ、水相ではミセル又は二重層を形成することができる。非極性脂質は、室温で液体であるか、又は非極性脂質中の脂肪酸の不飽和度に応じて固体の場合もある。典型的には、脂肪酸含有量の飽和度が高くなるほど、脂質の融解温度は高くなる。室温で液体である抽出された脂質を本明細書では「油」と呼ぶのに対し、室温で固体である抽出された脂質を本明細書では「脂肪」と呼ぶ。
【0210】
本明細書で使用される用語「脂肪酸」は、脂肪族炭化水素鎖と末端カルボキシル基とからなるカルボン酸を指す。炭化水素鎖は飽和でも不飽和でもよい。不飽和脂肪酸には、炭素-炭素二重結合を1つだけ有する一価不飽和脂肪酸と、少なくとも2つの炭素-炭素二重結合、典型的にはは2~6個の炭素-炭素二重結合を有する多価不飽和脂肪酸(PUFA)が含まれる。脂肪酸は、遊離脂肪酸(FFA)であってもよく、又はグリセロール若しくはグリセロールリン酸分子、CoA分子、若しくは当技術分野で知られている他の頭部基にエステル化されていてもよく、好ましくはリン脂質などの極性脂質の一部としてエステル化されている。
【0211】
本明細書で使用される用語「総脂肪酸(TFA)含有量」又はその変形は、例えば抽出された脂質又は細胞中の重量ベースの脂肪酸の総量を指す。一例において、総脂肪酸含有量には、飽和脂肪酸(SFA)の総飽和脂肪酸含有量、及び一価不飽和脂肪酸(MUFA)の総一価不飽和脂肪酸含有量が含まれる。TFAは、細胞又は他の画分の重量の百分率として、例えば、極性脂質の百分率として表すことができる。他に明記されない限り、細胞重量に関する重量は乾燥電池重量(DCW)である。1つの実施態様において、TFA含有量は、脂肪酸を脂肪酸メチルエステル(FAME)若しくは脂肪酸ブチルエステル(FABE)に変換し、FAME若しくはFABEの量をGCによって測定することにより測定され、GCでは、定量標準物質として既知量の独特の脂肪酸標準物質の添加が使用される。典型的には、C10~C24の範囲の脂肪酸のみを含む脂質の量及び脂肪酸組成がFAMEへの変換によって決定され、一方、C4~C10の範囲の脂肪酸を含む脂質はFABEへの変換によって決定される。従って、TFAは脂肪酸だけの重量を表し、脂質内の脂肪酸とそれに結合した部分の重量を表すのではない。
【0212】
「飽和脂肪酸」は、アシル鎖に沿った二重結合や他の官能基を含まない。用語「飽和された」は、すべての炭素(カルボン酸[-COOH]基を除く)に可能な限り多くの水素が含まれている水素を指す。本発明の脂質における飽和脂肪酸の例には、ステアリン酸(C18:0)、パルミチン酸(C16:0)、ミリスチン酸(C14:0)、アラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)、及びリグノセリン酸(C24:0)が含まれる。
【0213】
「不飽和脂肪酸」は、飽和脂肪酸と同様の形態をしているが、鎖に沿って1つ又はそれ以上のアルケン官能基が存在し、各アルケンが鎖の単結合「-CH2-CH2-」部分を二重結合した「-CH=CH-」部分(すなわち、別の炭素に二重結合した炭素)で置換されている点を除く。二重結合のどちらかの側に結合している鎖内の隣の2つの炭素原子は、シス又はトランス配置で存在することができるが、シス配置が好ましい。
【0214】
本明細書で使用される用語「一価不飽和脂肪酸」は、その炭素鎖中に少なくとも12個の炭素原子と、鎖中に1つだけのアルケン基(炭素-炭素二重結合)を含む脂肪酸を指す。一価不飽和脂肪酸には、C12:1Δ9、C14:1Δ9、C16:1Δ9(パルミトレイン酸)、C18:1Δ9(オレイン酸)、及びC18:1Δ11(バクセン酸)が含まれる。
【0215】
本明細書で使用される用語「多価不飽和脂肪酸」又は「PUFA」は、その炭素鎖に少なくとも12個の炭素原子と、少なくとも2つのアルケン基(炭素-炭素二重結合)とを含む脂肪酸を指す。通常、脂肪酸の炭素鎖中の炭素原子の数は、分岐していない炭素鎖を指す。特に他に言及しない限りは、炭素鎖が分岐している場合、炭素原子数には側基の炭素原子は含まれない。本発明の極性脂質、例えば本発明の抽出物又は細胞は、脂肪酸のメチル末端から6番目の炭素-炭素結合に不飽和(炭素-炭素二重結合)を有する少なくとも1つのω6脂肪酸を含む。ω6脂肪酸の例には、限定されるものではないが、アラキドン酸(ARA、C20:4Δ5,8,11,14;ω6)、ジホモガンマリノレン酸(DGLA、C20:3Δ8,11,14;ω6)、エイコサジエン酸(EDA、C20:2Δ11,14;ω6)、ドコサテトラエン酸(DTA、C22:4Δ7,10,13,16;ω6)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6、C22:5Δ4,7,10,13,16;ω6)、γ-リノレン酸(GLA、C18:3Δ6,9,12;ω6)、及びリノール酸(LA、C18:2Δ9,12;ω6)が含まれる。いくつかの実施態様において、本発明の極性脂質、例えば本発明の抽出物又は細胞は、脂肪酸のメチル末端から3番目の炭素-炭素結合に不飽和(炭素-炭素二重結合)を有する少なくとも1つのω3脂肪酸を含む。いくつかの実施態様において、本発明の極性脂質、例えば本発明の抽出物又は細胞は、C16:3ω3、ALA、EPA、及びDHAのうちの1つ又はそれ以上などの特定のω3脂肪酸を含まないか、又はいずれのω3脂肪酸も含まない。ω3脂肪酸の例には、限定されるものではないが、α-リノレン酸(ALA、C18:3Δ9,12,15;ω3)、ヘキサデカトリエン酸(C16:3ω3)、エイコサペンタエン酸(EPA、C20:5Δ5,8,11,14,17;ω3)、ドコサペンタエン酸(DPA、C22:5Δ7,10,13,16,19,ω3)、ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6Δ4,7,10,13,16,19、ω3)、エイコサテトラエン酸(ETA、C20:4Δ8,11,14,17;ω3)、及びエイコサトリエン酸(ETrA、C20:3Δ11,14,17;ω3)が含まれる。いくつかの実施態様において、本発明の極性脂質、例えば本発明の抽出物又は細胞は、以下のω3脂肪酸のうちの1つ又はそれ以上又はすべてを含まない:C16:3ω3、EPA、及びDHA。
【0216】
本明細書において使用される用語「L/S-SFA比」は、18個以上の炭素を有する飽和脂肪酸(例えば、ステアリン酸(C18:0)、アラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)、及びリグノセリン酸(C24:0))の総量を、16個以下の炭素を有する飽和脂肪酸(例えば、パルミチン酸(C16:0)、ミリスチン酸(C14:0)、ラリン酸(C:12:0))の総量で割った値を指す。
【0217】
本明細書で使用される「C12:0」はラウリン酸を指す。
本明細書で使用される「C14:0」はミリスチン酸を指す。
本明細書で使用される「C15:0」はn-ペンタデカン酸を指す。
本明細書で使用される「C16:0」はパルミチン酸を指す。
本明細書で使用される「C17:Δ1」はヘプタデセン酸を指す。
本明細書で使用される「C16:1Δ9」とは、パルミトレイン酸又は-ヘキサデカ-9-エン酸を指す。
本明細書で使用される「C18:0」はステアリン酸を指す。
本明細書で使用される「C18:1Δ9」(時に「C18:1」と略して呼ばれる)はオレイン酸を指す。
本明細書で使用される「C18:1Δ11」はバクセン酸を指す。
本明細書で使用される「C20:0」はアラキジン酸としても知られているエイコサン酸を指す。
本明細書で使用される「C20:1」はエイソコセン酸を指す。
本明細書で使用される「C22:0」はベヘン酸としても知られているドコサン酸を指す。
本明細書で使用される「C22:1」はエルカ酸を指す。
本明細書で使用される「C24:0」はリグノセリン酸としても知られているテトラコサン酸を指す。
【0218】
「トリアシルグリセリド」又は「TAG」は、グリセロールが、同じ(例えばトリオレインの場合のように)か又はより一般的には異なる3つの脂肪酸でエステル化されたグリセリドである。3つの脂肪酸がすべて異なる場合もあれば、2つの脂肪酸が同じで3番目が異なる場合もある。TAG合成のケネディ経路では、以下に説明するようにDAGが生成され、次に、ジグリセリドアシルトランスフェラーゼ(DGAT)の活性によって3番目のアシル基がグリセロール骨格にエステル化される。TAGは非極性脂質の一種である。TAG分子内でエステル化された3つのアシル基は、TAG分子のグリセロール主鎖内の位置を指し、sn-1、sn-2、及びsn-3の位置でエステル化されていると呼ばれる。sn-1とsn-3の位置は化学的には同一であるが、生化学的にはsn-1とsn-3の位置でエステル化されたアシル基は、別個の異なるアシルトランスフェラーゼ酵素がエステル化を触媒するという点で異なる。
【0219】
「ジアシルグリセリド」又は「DAG」は、グリセロールが、同じか又は好ましくは異なる2つの脂肪酸でエステル化されたグリセリドである。本明細書で使用される場合、DAGは、sn-1、3又はsn-2位にヒドロキシル基を含むため、DAGには、PA又はPCなどのリン酸化グリセロ脂質分子は含まれない。DAG合成のケネディ経路では、sn-1位でグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)によって触媒される最初の反応で、前駆体sn-グリセロール-3-リン酸(G3P)が2つのアシル基(それぞれ脂肪酸補酵素Aエステルに由来する)にエステル化されてLysoPAを生成され、続いてリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)によって触媒されるsn-2位の2回目のアシル化によってホスファチジン酸(PA)を生成される。次に、この中間体はPAPによって脱リン酸化されてDAGが生成される。
【0220】
本明細書で使用される「油」は、主に脂質を含み、室温で液体である組成物である。
【0221】
本明細書で使用される「油性」細胞又は微生物は、乾燥重量ベースでその細胞質量の少なくとも20%、例えば20%~70%の脂質を貯蔵できるものである。当技術分野で知られているように、脂質含有量は培養条件に依存することがある。微生物が少なくとも1つの設定の培養条件下で、乾燥細胞重量基準で少なくとも20%の脂質を合成し蓄積することができる限り、たとえ異なる条件下で脂質の蓄積が20%未満でも、その微生物は油性細胞と見なされると理解される。本明細書で使用される「油性微生物に由来する微生物」は、1つ又はそれ以上の遺伝子改変によって前駆体油性微生物に由来する微生物である。油性微生物に由来する微生物は、それ自体が油性微生物であるか、又は20%未満の脂質を産生し、油性微生物ではない可能性がある。遺伝子改変の少なくとも1つがヒトの介入によって導入されたものである限り、遺伝子改変はヒトの介入によって導入されたものであっても、自然に発生したものであってもよい。1つの実施態様において、誘導微生物を産生するための遺伝子改変は、TAGの合成及び/又は蓄積の減少をもたらす1つ又はそれ以上の遺伝子改変を含む。
【0222】
本明細書で使用される「従属栄養性」細胞は、代謝及び増殖のための炭素源として有機材料を利用できる細胞である。従属栄養生物もまた、適切な条件下で独立栄養的に増殖できる可能性がある。
【0223】
本明細書で使用される「発酵」とは、酸素が欠乏しているか、又は空気と比較して酸素レベルが低下している条件下で、細胞内の酵素の作用を介して有機分子に化学変化を引き起こす代謝プロセスを指す。
【0224】
本明細書で使用される用語「揮発性溶媒」は、容易に蒸発して、微生物細胞を破壊し分散させるために使用できる気体なる液体を指し、従って本発明の抽出された脂質中に存在する可能性がある。本発明の抽出された脂質中に存在し得る揮発性溶媒の例とには、限定されるものではないが、ヘキサン及び他のアルカン類、クロロホルム、エーテル、メタノール、エタノール、プロパノール、及びこれらのいずれか1つ又はそれ以上の混合物が挙げられる。
【0225】
本明細書で使用される用語「少なくとも1つの遺伝子改変が欠如した対応する微生物に由来する対応する抽出された微生物脂質」は、少なくとも1つの遺伝子改変を有する細胞から産生される脂質と同じ培養条件下で産生された脂質を指す。
【0226】
脂肪酸生合成
本発明は、飽和脂肪酸の産生を増加させるため、特に炭素数18以上の長さの飽和脂肪酸の産生を増加させるための微生物細胞の遺伝子改変に関する。外因性ポリヌクレオチドの発現又は内因性遺伝子の改変のいずれかによって改変され得る遺伝子の詳細については、以下で論じられる。
【0227】
本明細書で使用される用語「脂肪酸アシルアシルトランスフェラーゼ」は、アシル-CoA、PC、又はアシル-ACP、好ましくはアシル-CoA又はPC由来のアシル基を、アシル基が転移される基質分子上に転移して、共有結合によってアシル基を基質分子に連結して、エステル結合を形成することができるタンパク質を指す。好ましい基質分子は、3-ホスホグリセロール、リゾホスファチジン酸、又はジアシルグリセロールであり、それぞれMAG、DAG、又はTAGを生成する。これらのアシルトランスフェラーゼには、DGAT、PDAT、MGAT、GPAT、LPAAT、及びLPCATが含まれる。
【0228】
ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)
アシル-CoA:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.20)としても知られている本明細書で使用される用語「ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ」(DGAT)は、脂肪アシル基をアシル-CoAからDAG基質に転移してTAGを生成する。従って、用語「ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ活性」は、TAGを生成するためのアシル-CoAからDAGへのアシル基の転移を指す。DGATはまた、モノアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(MGAT)活性も有するすることができるが、主にDGATとして機能し、すなわち、酵素活性を生成物のnmol/分/タンパク質mgの単位で表すと、MGATよりもDGATとしての触媒活性が高くなる(例えば、Yen et al., 2005参照)。DGATはアシルCoA基質をアシル供与体として使用し、それをDAGのsn-3位に転移してTAGを生成する。この酵素は、細胞の小胞体(ER)内、又は可溶性DGAT3の場合は細胞質内で、天然の状態で機能する。
【0229】
DGATには、DGAT1、DGAT2、及びDGAT3と呼ばれる3つの既知のタイプがある。DGATの種類の多様性と関係は、Lung and Weselake (2006)及びTurchetto-Zolet et al. (2011 and 2016)の総説がある。DGAT1ポリペプチドは、多くの場合10個の膜貫通ドメインを有する膜タンパク質であるが、6~9個の膜貫通ドメインしか持たない場合もある。これらはステロール:アシル-CoAアシルトランスフェラーゼ(ACAT;EC2.3.1.26)と配列相同性を示す。どちらの酵素も、膜結合型O-アシルトランスフェラーゼ(MBOAT)タンパク質の大きなファミリーに属する。モルティエレラ・ラマニアナ(Mortierella rammanniana)(Lardizabal et al., 2001)で最初に同定されたDGAT2ポリペプチドも膜タンパク質であるが、1個又は2個の膜貫通ドメインを有し、一方、DGAT3ポリペプチドは典型的には膜貫通ドメインを持たず、細胞質に可溶性であると考えられている。植物、動物、及び微生物源由来のDGAT1ポリペプチドは、典型的には510~550個のアミノ酸残基を有し、一方、植物及び動物由来のDGAT2ポリペプチドは、典型的には約310~330残基を有する。DGAT2は、酵母サッカロミセス・セレビシエなどのほとんどの微生物細胞においてDAGからTAGの生成に関与する主要な酵素であると考えられている。DGAT2ポリペプチドは、アミノ酸配列において、アシル-CoA:モノアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(MGAT、EC2.3.1.22)、及びアシル-CoAワックス-アルコールアシルトランスフェラーゼ(AWAT、EC2.3.1.75)に関連している、Turchetto-Zolet et al. (2011)。
【0230】
植物のDGAT1とDGAT2は、トリアシルグリセロール生合成において重複しない機能を有するようである。DGAT1は、種子発育中のTAG合成を担う主要な酵素である。DGAT1ポリペプチドの例には、 YALI0D07986g遺伝子(DGA2遺伝子としても知られている、配列番号55)によってコードされるヤローウィア・リポリティカ、モルティエレラ・アルピナ(クサレケカビ)(AQX34626.1)、アスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)(XP_755172.1)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(CAB44774.1)、トウゴマ(Ricinus communis)(AAR11479.1)、シナアブラギリ(Vernicia fordii)(ABC94472.1)、ベロニア・ガラメンシス(Vernonia galamensis)(ABV21945.1、及びABV21946.1)、ニシキギ(Euonymus alatus)(AAV31083.1)、ナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)(Zienkiewicz et al., 2017)、サッカロミセス・セレビッシェ(Zulu et al., 2017)、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(AAF82410.1)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)(NP_445889.1)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)(NP_036211.2)由来のDGAT1タンパク質、並びにこれらの変種及び/又は変異体が含まれる。DGAT2ポリペプチドの例には、シロイヌナズナ(NP_566952.1)、トウゴマ(AAY16324.1)、シナアブラギリ(ABC94474.1)、モルティエレラ・ラマニアナ(Mortierella ramanniana)(AAK84179.1)、ホモ・サピエンス(Q96PD7.2;Q58HT5.1)、ボス・タウルス(Bos taurus)(Q70VZ8.1)、ハツカネズミ(Mus musculus)(AAK84175.1)由来のDGAT2遺伝子によってコードされるタンパク質、並びにこれらの変種及び/又は変異体が含まれる。DGAT1及びDGAT2のアミノ酸配列は、これらのアミノ酸配列においてほとんど相同性を示さない(Turchetto-Zolet et al., 2011, Turchetto-Zolet et al., 2016)。例えば、シロイヌナズナ(A. thaliana)のDGAT2は、シロイヌナズナのDGAT1と比較して、一価不飽和オレオイル-CoAよりも、アシル供与体として多価不飽和リノレオイル-CoA、及びリノレノイル-CoAに対する優先性を有する。
【0231】
DGAT3ポリペプチドの例には、ピーナツ(Arachis hypogaea, Saha, et al., 2006)由来のDGAT3遺伝子、並びにその変種及び/又は変異体によってコードされるタンパク質が挙げられる。DGATは、検出可能なMGAT活性をほとんど又は全く持たず、例えば300pmol/分/mgタンパク質未満、好ましくは200pmol/分/mgタンパク質未満、より好ましくは100pmol/分/mgタンパク質未満である。
【0232】
1つの実施態様において、DGATをコードする外因性ポリヌクレオチドは、以下の1つ又はそれ以上を含む:
i)その配列が配列番号53、55、又は115~125のいずれか1つに記載されているアミノ酸を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド、
ii)配列番号53、55、又は115~125のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも30%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド、
iii)配列番号52、54、又は144~154のいずれか1つに記載の配列を有するヌクレオチド、
iv)配列番号52、54、又は144~154の1つ又はそれ以上と少なくとも30%同一である配列を有するヌクレオチド、又は
v)厳密性条件下で、i)~iv)のいずれか1つ又はそれ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0233】
1つの実施態様において、DGAT1をコードする本発明の外因性ポリヌクレオチドは、以下の1つ又はそれ以上を含む:
i)その配列が配列番号55に記載されているアミノ酸を含むポリペプチド、若しくはその生物学的に活性な断片を、又はそのアミノ酸配列が配列番号55と少なくとも30%同一であるポリペプチドを、コードするヌクレオチド、
ii)その配列が、i)と少なくとも30%同一、少なくとも40%同一、又は少なくとも95%同一であるヌクレオチド、及び
iii)厳密性条件下でi)又はii)の一方又は両方にハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0234】
1つの実施態様において、DGAT2をコードする本発明の外因性ポリヌクレオチドは、以下の1つ又はそれ以上を含む:
i)その配列が配列番号53に記載されているアミノ酸を含むポリペプチド、若しくはその生物学的に活性な断片を、又はそのアミノ酸配列が配列番号53と少なくとも30%同一、少なくとも40%同一、又は少なくとも95%同一であるポリペプチドを、コードするヌクレオチド、
ii)その配列がi)と少なくとも30%同一であるヌクレオチド、及び
iii)厳密性条件下でi)又はii)の一方又は両方にハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0235】
1つの実施態様において、DGATは、配列番号115又は配列番号116に提供される配列を有するアミノ酸を含まない。
【0236】
TcDGAT1ポリペプチド(配列番号115)は、DGAT1クラス(PLN02401)であり、www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM/ から入手可能なソフトウェアによって9個の膜貫通ドメインを有すると予測される。これは、アミノ酸266~489にMBOATドメイン(pfam03062)を有する。TcDGAT2ポリペプチド(配列番号116)はDGAT2クラス(PLN02783)であり、2個の膜貫通ドメインを有することがソフトウェアによって予測される。これは、アミノ酸74~318にDAGATドメイン(pfam03982)を有する。TcDGAT3~8はすべて、同様にアシルトランスフェラーゼでもあるワックスエステルシンターゼ(WES、pfam03007)と相同性を有する。TcDGAT3(配列番号117)は、膜貫通ドメインを持たないと予測されるが、アミノ酸64~268にWESドメインを有する。TcDGAT4(配列番号118)は、1個の膜貫通ドメインを有すると予測され、アミノ酸128~276にWESドメインを有する。TcDGAT5(配列番号119)は、1個の膜貫通ドメインを有すると予測され、アミノ酸146~303にWESドメインを有する。TcDGAT6(配列番号120)は、1個の膜貫通ドメインを有すると予測され、アミノ酸102~291にWESドメインを有する。TcDGAT7(配列番号121)は、膜貫通ドメインを有さないと予測され、同定されたWESドメインを持たない。TcDGAT8(配列番号122)は、1個の膜貫通ドメインを有すると予測され、アミノ酸36~177にWES縮合ドメイン(cd19533)を有すると予測される。TcDGAT9~11はすべて、PDATファミリーの酵母LRO1(PLN02517)と相同性を有する。TcDGAT9(配列番号123)は、1個の膜貫通ドメインを有すると予測され、アミノ酸134~630にLCATドメイン(pfam02450)を有する。TcDGAT10(配列番号124)は、膜貫通ドメインを持たないと予測されるが、アミノ酸148~651にLCATドメイン(pfam02450)を有する。TcDGAT11(配列番号125)は、1個の膜貫通ドメインを有すると予測され、アミノ酸150~645にLCATドメイン(pfam02450)を有する。
【0237】
本明細書で使用される「DGA1ポリペプチド」は、ワイ・リポリティカDGA1ポリペプチドのアミノ酸配列である配列番号53の全長に沿って少なくとも30%の配列同一性を有するポリペプチドである。本明細書で使用される機能的DGA1ポリペプチドは、DAGとアシル-CoAからTAGを生成することができるDGA1ポリペプチドである。多数のDGA1ポリペプチドが報告されており、配列はデータベースで入手可能であり、例えば、登録番号NC_001147.6(794076..795332、相補体)、サッカロミセス・セレビッシェ 染色体XV、遺伝子YOR245C;登録番号KABA2_02S14982、カタクスタニア・バルネッティ(Kazachstania barnettii);登録番号NC_030983.1染色体VIII(552596..553852、相補体)、サッカロミセス・ユーバヤヌス(Saccharomyces eubayanus);登録番号NC_005784.3染色体III(594117..595502、相補体)、エレモテシウム・ゴシッピ(Eremothecium gossypii)などがある。本明細書で使用される「Yarrowia DGA1ポリペプチド」は、配列番号53の全長に沿って少なくとも95%の配列同一性を有し、DGAT活性を有するポリペプチドである。配列番号53の他に、ヤロウィアDGA1ポリペプチド配列の例には、登録番号:QNQ00885.1(513/514同一);KAG5365696.1(496/514同一)、及びKAG5357621.1(494/514同一)が含まれる。
【0238】
本明細書で使用される「DGA2ポリペプチド」は、ワイ・リポリティカDGA2ポリペプチドのアミノ酸配列である配列番号55の全長に沿って少なくとも30%の配列同一性を有するポリペプチドである。本明細書で使用される機能的DGA2ポリペプチドは、DAGとアシル-CoAからTAGを生成することができるDGA2ポリペプチドである。多数のDGA2ポリペプチドが報告されており、配列はデータベースで入手可能である。本明細書で使用される「ヤロウィアDGA2ポリペプチド」は、配列番号55の全長に沿って少なくとも95%の配列同一性を有し、DGAT活性を有するポリペプチドである。配列番号55の他に、Yarrowia DGA2ポリペプチド配列の例には、登録番号:RDW42020.1(525/526同一);RDW42020.1(525/526同一);KAG5361387.1(495/526同一)、及びKAG5358063.1(494/526同一)が含まれる。
【0239】
リン脂質:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(PDAT)
本明細書で使用される用語「リン脂質:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ」(PDAT;EC2.3.1.158)又はその同義語「リン脂質:1,2-ジアシル-sn-グリセロールO-アシルトランスフェラーゼ」は、リン脂質から、典型的にはPCのsn-2位からDAGのsn-3位までアシル基を転移して、TAGとリゾホスホコリン(LPC)を生成する。この反応はDGATとは異なり、アシル供与体としてリン脂質を使用する。本発明の細胞にとって外因性又は内因性であり得るPDAT1などのPDATの発現の増加は、PCからのTAGの産生を増加させる。酵素LPCATはLPCを再アシル化してより多くのPCを生成し、PDATによるTAGの継続的な生成を可能にする。植物細胞には、PDAT1、PDAT2、又はPDAT3などのいくつかの形態のPDATが存在する(Ghosal et al., 2007)。
【0240】
1つの実施態様において、PDATをコードする外因性ポリヌクレオチドは、以下の1つ又はそれ以上を含む:
i)その配列が配列番号57又は139~143のいずれか1つに記載されているアミノ酸を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド、
ii)配列番号57又は139~143のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも30%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド、
iii)配列番号56又は168~172のいずれか1つに記載の配列を有するヌクレオチド、
iv)配列番号56又は168~172の1つ又はそれ以上と少なくとも30%同一である配列を有するヌクレオチド、又は
v)厳密性条件下で、i)~iv)のいずれか1つ又はそれ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0241】
ただし、任意のPDATコード遺伝子を使用することができる。微生物又は植物、真菌又は藻類の種に由来するPDATの相同体及び天然に存在する変種は、本発明において容易に同定することができ使用することができる。1つの実施態様において、相同体又は変種は、列挙された配列番号又は登録番号のアミノ酸配列と少なくとも95%同一、好ましくは少なくとも99%同一である。PDATは、本発明の微生物にとって外因性であっても内因性であってもよい。
【0242】
モノアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(MGAT)
本明細書で使用される用語「モノアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ」又は「MGAT」は、脂肪アシル基をアシル-CoAからMAG基質、例えばsn-2MAGに転移してDAGを生成するタンパク質を指す。従って用語「モノアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ活性」は、少なくとも、DAGを生成するためのアシル-CoAからMAGへのアシル基の転移を指す。本明細書で使用される用語「MGAT」は、sn-1/3MAG及び/又はsn-2MAG基質に作用して、それぞれsn-1,3DAG及び/又はsn-1,2/2,3-DAGを生成する酵素を含む。好ましい実施態様において、MGATはsn-1MAGと比較してsn-2MAG基質に対する優先性を有するか、又は実質的にsn-2MAGのみを基質として使用する。本明細書で使用されるMGATは、MAGと比較してアシル基を優先的にLysoPAに転移する酵素は含まず、そのような酵素はLPAATとして知られる。すなわちMGATは、LysoPAに対する触媒活性が低い場合でも、非リン酸化モノアシル基質を優先的に使用する。好ましいMGATは、LysoPAのアシル化において検出可能な活性を有さない。MGATはまた、DGAT機能も有する可能性があるが、主にMGATとして機能し、すなわち、これは、酵素活性が生成物モル数/分/mgタンパク質の単位で表される場合、DGATよりもMGATとしての触媒活性が高くなる(Yene et al. 2002も参照)。MGATには3つの既知のクラスがあり、それぞれMGAT1、MGAT2、及びMGAT3と呼ばれる。MGAT1、MGAT2、及びMGAT3ポリペプチドの例は、WO2013/096993に記載されている。
【0243】
sn-グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)
ACP又はCoAにエステル化された脂肪酸からのグリセロ脂質合成における重要な構成要素の1つは、酵素sn-グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)であり、これは非極性脂質の生合成に関与するポリペプチドの1つである。この酵素は次の反応を触媒する:G3P+脂肪アシルACP又は-CoA→LPA+遊離-ACP又は-CoA。GPAT酵素には少なくとも3つの異なるタイプがあり、1つは天然のアシル基質としてアシル-ACPを使用する色素体間質に局在する可溶型、及びアシル-CoAとアシル-ACPをそれぞれ天然のアシル供与体として使用する、ER及びミトコンドリアに局在する2つの膜結合型である(Chen et al., 2011)。
【0244】
本明細書で使用される用語「グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ」(GPAT;EC2.3.1.15)、及びその同義語「グリセロール-3-リン酸O-アシルトランスフェラーゼ」は、グリセロール-3-リン酸(G-3)をアシル化してLysoPA及び/又はMAGを生成するタンパク質を指し、後者の生成物は、GPATがLysoPAに対するホスファターゼ活性も有する場合に生成される。GPATがER型GPAT(「アシルCoA:sn-グリセロール-3-リン酸1-O-アシルトランスフェラーゼ」、「ミクロソームGPAT」とも呼ばれる)である場合、転移されるアシル基はアシルCoAからのものでありるか。又は、GPATが色素体型GPATの場合はアシルACPからのものである。従って用語「グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ活性」は、LysoPA及び/又はMAGを生成するためのG-3-Pのアシル化を指す。用語「GPAT」は、G-3-Pをアシル化してsn-1LPA及び/又はsn-2LPAを生成する酵素を包含する。好ましくは細胞内で過剰発現され得るGPATは、細胞のER内で機能する膜結合GPATであり、より好ましくはGPAT9である。
【0245】
GPATファミリーは大きく、既知のメンバーはすべて、2つの保存されたドメインであるplsCアシルトランスフェラーゼドメイン(PF01553)及びHAD様ヒドロラーゼ(PF12710)スーパーファミリードメインとその変種を含む。これに加えて、少なくともシロイヌナズナでは、サブクラスGPAT4~GPAT8のGPATはいずれもホスホセリンホスファターゼドメイン(PF00702)と相同的なN末端領域を含み、生成物としてMAGを産生するGPATは、このような相同領域の存在により同定することができる。
【0246】
シロイヌナズナ属GPAT4(登録番号NP_171667.1)及びGPAT6(NP_181346.1)のホモログには、AAF02784.1(シロイヌナズナ)、AAL32544.1(シロイヌナズナ)、AAP03413.1(イネ(Oryza sativa))、ABK25381.1(Picea sitchensis)、ACN34546.1(トウモロコシ(Zea mays))、BAF00762.1(シロイヌナズナ)、BAH00933.1(イネ)、EAY84189.1(イネ)、EAY98245.1(イネ)、EAZ21484.1(イネ)、EEC71826.1(イネ)、EEC76137.1(イネ)、EEE59882.1(イネ)、EFJ08963.1(Selaginella moellendorffii)、EFJ11200.1(Selaginella moellendorffii)、NP_001044839.1(イネ)、NP_001045668.1(イネ)、NP_001147442.1(トウモロコシ)、NP_001149307.1(トウモロコシ)、NP_001168351.1(トウモロコシ)、AFH02724.1(セイヨウアブラナ(Brassica napus))、NP191950.2(シロイヌナズナ)、XP_001765001.1(ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens))、XP_001769671.1(ヒメツリガネゴケ)、(ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera))、XP_002275348.1(ヨーロッパブドウ)、XP_002276032.1(Vitis vinifera)、XP_002279091.1(ヨーロッパブドウ)、XP_002309124.1(コットンウッド)、XP_002309276.1(コットンウッド)、XP_002322752.1(コットンウッド)、XP_002323563.1(コットンウッド)、XP_002439887.1(モロコシ(Sorghum bicolor))、XP_002458786.1(モロコシ)、XP_002463916.1(モロコシ)、XP_002464630.1(モロコシ)、XP_002511873.1(トウゴマ)、XP_002517438.1(トウゴマ)、XP_002520171.1(トウゴマ)、ACT32032.1(シナアブラギリ(Vernicia fordii))、NP_001051189.1(イネ)、AFH02725.1(セイヨウアブラナ(Brassica napus))、XP_002320138.1(コットンウッド)、XP_002451377.1(モロコシ)、XP_002531350.1(トウゴマ)、及びXP_002889361.1(ミヤマハタザオ(Arabidopsis lyrata))が含まれる。
【0247】
可溶性色素体GPATが精製され、これらをコードする遺伝子が、いくつかの植物種から、例えば大豆(Pisum sativum、登録番号:P30706.1)、ホウレンソウ(Spinacia oleracea、登録番号:Q43869.1)、カボチャ(Cucurbita moschate、登録番号:P10349.1)、キュウリ(Cucumis sativus、登録番号:Q39639.1)、シロイヌナズナ(登録番号:Q43307.2)からクローニングされている。
【0248】
1つの実施態様において、GPATをコードする外因性ポリヌクレオチドは、以下の1つ又はそれ以上を含む:
i)配列番号126~138のいずれか1つに記載の配列を有するアミノ酸を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド、
ii)配列番号126~138のいずれか1つ又はそれ以上と少なくとも30%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド、
iii)配列番号155~167のいずれか1つに記載の配列を有するヌクレオチド、
iv)配列番号155~167の1つ又はそれ以上と少なくとも30%同一である配列を有するヌクレオチド、又は
v)厳密性条件下で、i)~iv)のいずれか1つ又はそれ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0249】
1-アシル-sn-グリセロリン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)
本明細書で使用される用語「リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ」(LPAAT;EC2.3.1.51)及びその同義語「1-アシル-グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ」、「アシル-CoA:1-アシル-sn-グリセロール-3-リン酸2-O-アシルトランスフェラーゼ」、及び「1-アシルグリセロール-3-リン酸O-アシルトランスフェラーゼ」は、リゾホスファチジン酸(LPA)をアシル化してホスファチジン酸(PA)を生成するタンパク質を指す。転移されるアシル基は、LPAATがER型LPAATである場合にはアシル-CoAから、又はLPAATが色素体型LPAATである場合にはアシル-ACPからのものである。従って、用語「リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ活性」は、LPAをアシル化してPAを生成することを指す。
【0250】
アシル-ACPチオエステラーゼ
本明細書で使用される用語「アシル-ACPチオエステラーゼ」は、アシル-アシルキャリアータンパク質(ACP)基質(EC3.1.2.14)のチオエステル結合を加水分解する酵素を指す。これらは、植物や他の真核生物の核遺伝子によってコードされる色素体を標的とする可溶性酵素である。アシル-ACPチオエステラーゼはACP由来のアシル基を切断し、それにより脂肪酸合成が起きる色素体中の脂肪酸シンターゼ(FAS)による脂肪酸合成におけるアシル鎖伸長活性が停止する。この最終工程では、色素体内の遊離脂肪酸が放出され、続いて色素体から細胞質及び小胞体へ輸送されるアシル-CoAチオエステルに変換され、TAG、他の中性脂質、及びリン脂質が生成される。脂肪アシルACPチオエステラーゼは、アミノ酸の整列(Martins-Noguerol et al. 2020)と活性に基づいて、2つの異なるが密接に関連しているクラスに分類され、すなわち、主にC16及びより短いSFAに対して特異性を有するFATBアシル-ACPチオエステラーゼと、C16-ACP基質よりもC18-ACP基質に対してより活性があり、特にオレオイル-ACPなどのMUFA-ACP基質に対してより活性であるが、ステアロイル-ACPに対しても活性を有する可能性があるFATAアシル-ACPチオエステラーゼである(Jones et al., 1995; Salas and Ohlrogge, 2002)。Hawkins and Kridl (1998) は、FATAクラスとFATBクラスの両方の酵素のステアロイルACPに対する活性は限定的であるが、いずれもオレオイルACPと比較してその基質を優先しないことを報告した。しかし、より最近の報告(Ghosh et al., 2007)では、オレオイル-及びパルミトイル-ACPよりもステアロイル-ACPに対して特異性を有する マフア(mahua)(マフア・ラティフォリア(Madhuca latifolia)、登録番号AAX51637)及び ナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)(Dani et al., 2011; 登録番号ACT09366)由来のFATBチオエステラーゼが同定された。本明細書で使用される「FATAポリペプチド」又は「FATAチオエステラーゼ」は、FATAクラスのアシル-ACPチオエステラーゼを指し、「FATBポリペプチド」又は「FATBチオエステラーゼ」は、FATBクラスのアシル-ACPチオエステラーゼを指す。
【0251】
トランスジェニック植物におけるFATAポリペプチドの過剰発現は、場合によっては種子油中のステアリン酸レベルを増加させるが、他の場合には増加させない(Hawkins and Kridl, 1998)。
【0252】
Bhattacharjee et al., (2011) は、マンゴー(Mangifera indica)からのFATAチオエステラーゼを同定し、これは、オレオイル-ACP、ステアロイル-ACP、パルミトイル-ACPに対してそれぞれ100:35:1.8の相対基質特異性を有した。本明細書に記載されるように、本発明者らは、熱帯植物マンゴスチン(Garcinia mangostana)から、GarmFATA1(登録番号U92876)及びGarmFATA2(Hawkins and Kridl, 1998)と命名される2つの関連するFATAアシル-ACPチオエステラーゼを選択した。どちらのタンパク質も、タンパク質を色素体に導くように機能するN末端輸送ペプチド配列(TPS)を有する。前者のポリペプチドはTPSを含めて352個のアミノ酸を有し、一方、後者のポリペプチドはTPSを含めて355個のアミノ酸を有する。GarmFATA1とGarmFATA2のアミノ酸配列は、GarmFATA1の全長に沿って73%同一である。GarmFATA1はC18:1-ACPに対して最大の活性を示し、C18:0-ACPに対しては約7分の1の活性があり、C16:0-ACPに対しては再び活性が低く、オレオイル、ステアロイル-ACP及びパルミトイル-ACPに対してそれぞれ100:15:6の相対活性を示した。対照的に、GarmFATA2は、C18:1-ACPと比較してC18:0-ACPに対して50分の1の活性を有した。従って、両方の酵素は、MUFA、C18:1-ACPに対して主要な活性を有した。GarmFATA1及びGarmFATA2のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号83及び配列番号85として提供される。
【0253】
デサチュラーゼ
本明細書で使用される用語「デサチュラーゼ」は、典型的には例えばアシル-CoAエステルなどのエステル化された形態である脂肪酸基質のアシル基に、炭素-炭素二重結合を導入することができる酵素を指す。アシル基は、ホスファチジルコリン(PC)などのリン脂質、又はアシルキャリアータンパク質(ACP)、又は好ましくはCoAにエステル化されてもよい。従って、これに応じてデサチュラーゼは一般に3つのグループに分類できる。1つの実施態様において、デサチュラーゼはフロントエンドデサチュラーゼである。
【0254】
本明細書で使用される用語「フロントエンドデサチュラーゼ」は、カルボキシル基と脂質のアシル鎖の既存の不飽和部分との間に二重結合を導入する酵素のクラスのメンバーを指し、これらは、3つの高度に保存されたヒスチジンボックスを含む典型的な脂肪酸デサチュラーゼドメインとともに、N末端シトクロムb5ドメインの存在により、構造的に特徴付けられる(Napier et al., 1997)。
【0255】
本明細書で使用される「Δ12-デサチュラーゼ」とは、脂肪酸基質のカルボキシル末端から1第2の炭素-炭素結合に炭素-炭素二重結合を導入するデサチュラーゼ反応を実行できるタンパク質を指す。Δ12-デサチュラーゼは典型的には、オレオイル-ホスファチジルコリン又はオレオイル-CoAを、それぞれリノレオイル-ホスファチジルコリン(C18:1-PC)又はリノレオイル-CoA(C18:1-CoA)に変換する。PC結合基質を使用するサブクラスはリン脂質依存性Δ12-デサチュラーゼと呼ばれ、後者のサブクラスはアシルCoA依存性Δ12-デサチュラーゼと呼ばれる。植物及び真菌のΔ12-デサチュラーゼは一般に前者のサブクラスに属するが、動物のΔ12-デサチュラーゼは、シー・エレガンス(C. elegans)などの下等動物のΔ12-デサチュラーゼを除いて、一般に後者のサブクラスに属し、例えば、Zhou et al. (2008) によって昆虫からクローニングされた遺伝子によってコードされるΔ12-デサチュラーゼである。他の多くのΔ12-デサチュラーゼ配列は、配列データベースを検索することで簡単に特定できる。多数のデサチュラーゼをコードする遺伝子が真菌源から単離されている。米国特許第7,211,656号には、サプロレグニア・ジクリナ(Saprolegnia diclina)由来の12デサチュラーゼが記載されている。WO2009016202は、ヘロブデラ・ロブスタ(Helobdella robusta)、ラッカリア・ビカラー(Laccaria bicolor)、ナスビカサガイ(Lottia gigantea)、ミクロコレウス・クトノプラステス(Microcoleus chthonoplastes)、モノシガ・ブレビコリス(Monosiga brevicollis)、黒シガトカ病病原菌(Mycosphaerella fijiensis)、コムギ葉枯病菌(Mycospaerella graminicola)、ナエブレリア・グルベン(Naegleria gruben)、ピーマン立枯病菌(Nectria haematococca)、ネマステラ・ベクテンシス(Nematostella vectensis)、ヒゲカビ(Phycomyces blakesleeanus)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma resii)、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)、ポスチア・プラセンタ(Postia placenta)、イヌカタヒバ(Selaginella moellendorffii) 及びミクロドキュウム・ニバレ(Microdochium nivale)由来の真菌デサチュラーゼを記載している。WO2005/012316には、タラシオシラ・シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)、及び他の真菌由来の12-デサチュラーゼが記載されている。WO2003/099216には、アカパンカビ(Neurospora crassa)、アスペルギルス・ニデュランス((Aspergillus nidulans)、ボトリティス菌(Botrytis cinerea)及びモルティエラ・アルピナ(クサレケカビ)から単離された真菌の12-デサチュラーゼをコードする遺伝子が記載されている。
【0256】
他の遺伝子
上記酵素の発現の操作に加えて、微生物細胞の脂質における飽和脂肪酸の産生は、微生物の脂肪酸生合成、異化、及び調節に関与する1つ又はそれ以上の内因性遺伝子の発現を調節する遺伝子改変によって増強することができる。このような例示的な微生物遺伝子は表1に示される。
【0257】
いくつかの実施態様において、脂質中の飽和脂肪酸の産生を増加させる遺伝子改変は、表1の1つ又はそれ以上の遺伝子の発現及び/又は活性の増加をもたらす。いくつかの実施態様において、遺伝子改変は、脂肪酸合成遺伝子の発現及び/又は活性の増加をもたらす(例については表1を参照)。いくつかの実施態様において、遺伝子改変は、リン脂質合成遺伝子の発現及び/又は活性の増加をもたらす(例については表1を参照)。いくつかの実施態様において、遺伝子改変は、脂質合成調節遺伝子の発現及び/又は活性の増加をもたらす(例については表1を参照)。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【0258】
いくつかの実施態様において、脂質中の飽和脂肪酸の産生を増加させる遺伝子改変は、表1の1つ又はそれ以上の遺伝子の発現及び/又は活性を低減又は妨害する。いくつかの実施態様において、前記遺伝子改変は、脂質異化遺伝子の発現及び/又は活性を低減又は妨害する。(例については表1を参照)。
【0259】
微生物におけるリン脂質の合成
リン脂質は生体膜の主要な構造成分として、細胞の形態及び細胞小器官の機能において重要な役割を果たしており、一部は二次メッセンジャーとしても機能する。リン脂質は、リン酸頭部基と2つの脂肪酸にエステル化されたグリセロール主鎖を有する両親媒性分子である(
図4)。中性pHでは頭部基が帯電しているため、これらは極性脂質であり、クロロホルムなどの溶媒に加えてエタノールなどの溶媒にもある程度の溶解性を示す。エス・セレビッシェなどの真核微生物のリン脂質のグリセロリン酸主鎖にエステル化されている最も一般的な脂肪酸には、パルミチン酸(C16:0)、パルミトレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)、及びオレイン酸(C18:0)がある(Carman and Gil-Soo, 2011)。エス・セレビッシェの全細胞抽出物に含まれる主要なリン脂質は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、及びホスファチジルセリン(PS)である。ホスファチジルグリセロール(PG)とカルジオリピン(CL)は、エス・セレビッシェ細胞抽出物全体では少量のリン脂質であるが、ミトコンドリア脂質の主要なリン脂質である(Zhang et al., 2014)。ワイ・リポリティカやシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などの他の酵母も同様のリン脂質構成を有する(Fernandez et al., 1986, Fakas 2017)。対照的に、大腸菌(Escherichia coli)などの原核生物のリン脂質組成は主にPE、PG、及びCLで構成されており、これらのリン脂質は主に脂肪酸16:0、16:1、18:1Δ11を含んでいる(De Siervo,1969)。大腸菌(E. coli)や他の多くの細菌はPCが欠如している。
【0260】
微生物のリン脂質の合成に関与する酵素と対応する遺伝子は表1に示される。酵母のリン脂質の合成に関与する酵素と遺伝子は、エス・セレビッシェで詳細に特性解析されている(Carman and Zeimetz, 1996)。リン脂質の特異的な合成は、リン脂質ホスファチジン酸(PA)の合成から始まり、PAは、アシルトランスフェラーゼ及びリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼによって触媒される脂肪アシル補酵素A(CoA)依存性反応の後、グリセロール-3-リン酸又はジヒドロキシアセトンリン酸から生成される(Athenstaedt and Daum, 1997; Athenstaedt et al., 1999; Zheng and Zou 2001)。エス・セレビッシェのすべての主要なリン脂質クラスは、共通の前駆体であるシチジン二リン酸ジアシルグリセロール(CDP-DAG)から合成される。CDP-DAGはCDP-DAGシンターゼによって触媒される反応で合成され、これは、CDP供与体としてシチジン三リン酸(CTP)を使用してPAをCDP-DAGに変換する(Carter and Kennedy, 1966; Shen et al., 1996)。CDP-DAGは、他のすべての酵母と同様に、エス・セレビッシェの主要な及び少量のリン脂質すべてを合成するための重要な中間体である。ある反応では、CDP-DAGはそのホスファチジル部分をイノシトールに供与して、PIシンターゼによって触媒される反応でPIを生成する(Nikawa and Yamashita, 1984)。この反応で使用されるイノシトールは、イノシトール-3-リン酸シンターゼ(Klig and Henry, 1984; Dean-Johnson and Henry, 1989)及びイノシトール-3-リン酸ホスファターゼ(Murray and Greenberg, 2000)によって触媒される反応を介して、グルコース-6-リン酸から誘導することができる。PIの合成に使用されるイノシトールは、イノシトール透過酵素によって培地中に外部から供給されたイノシトールからも利用できる。CDP-DAGはまた、そのホスファチジル部分をグリセロール-3-リン酸に供与して、PGPシンターゼによって触媒される反応においてホスファチジルグリセロリン酸(PGP)を生成することもできる(Chang et al., 1998a)。次に、PGPはPGPホスファターゼによってに脱リン酸化されてPGになる(Osman et al., 2010)。カルジオリピン(CL)シンターゼは、PGとCDP-DAGの別の分子の反応を触媒してCLを生成する(Chang et al., 1998b)。CDP-DAGを利用する最後の酵素はPSシンターゼ(Letts et al., 1983)であり、これは、CDP-DAGからCMPをセリンで置換することによってPSの生成を触媒する(Kanfer and Kennedy, 1964)。次にPSはPSデカルボキシラーゼ酵素(Trotter et al., 1993)によって脱炭酸されてPEになる。次にPEは3工程のS-アデノシルメチオニン(AdoMet)依存性メチル化反応によってPCに変換され、ここで、最初のメチル化反応はPEメチルトランスフェラーゼによって触媒され、そして最後の2つのメチル化反応は、リン脂質メチルトランスフェラーゼによって触媒される(Kodaki and Yamashita 1987)。
【0261】
PE及びPCはまた、ケネディ経路のCDP-エタノールアミン及びCDP-コリン分岐によって、外部から供給されたエタノールアミン及びコリンから合成することもできる。外部から供給されたエタノールアミンとコリンは、エタノールアミンキナーゼとコリンキナーゼによりATPを用いてリン酸化され、それぞれホスホエタノールアミンとホスホコリンを生成する(Kim et al., 1999; Hosaka et al., 1989)。次に、これらの中間体はCTPで活性化され、ホスホエタノールアミンシチジリルトランスフェラーゼ、及びホスホコリンシチジリルトランスフェラーゼによって、それぞれCDP-エタノールアミン及びCDP-コリンを生成する(Min-Seok et al., 1996; Tsukagoshi et al., 1987)。次に、エタノールアミンホスホトランスフェラーゼとコリンホスホトランスフェラーゼは、DAGとの反応でCDP-エタノールアミンとCDP-コリンを変換し、PEとPCを生成する(Hjelmstad and Bell 1988; Hjelmstad and Bell, 1991)。CDP-DAG、CDP-エタノールアミン、及びCDP-コリンの合成に必要なCTPは、CTPシンセターゼ酵素の作用によってUTPから誘導される。ケネディ経路を介するPE及びPCの合成に使用されるDAGは、PAH1にコードされたPAホスファターゼによるPAに由来する(Han et al., 2006)。PAホスファターゼ反応で生成されたDAGは、DAGキナーゼによってPAに戻されるか(Han et al., 2008a; Han et al., 2008b)、又はDGA1及びLRO1によってコードされるアシルトランスフェラーゼ酵素による中性脂質TAGの合成に使用される可能性がある。さらに、エルゴステロールエステルの合成に関与する追加のアシルトランスフェラーゼ酵素も、DAGをアシル化してTAGを生成する可能性がある。
【0262】
ケネディ経路は、CDP-DAG経路の酵素が機能しないか欠損している場合、PE及びPCの合成において極めて重要な役割を果たす(Carman and Henry, 1999; Greenberg and Lopes, 1996)。例えば、PEの3工程のメチル化が欠損した変異体は、成長のためにコリンの補給を必要とし、ケネディ経路のCDPコリン分岐を介してPCを合成する。PS又はPEの合成が欠損している変異体は、それぞれエタノールアミン又はコリンが補充されるとPCを合成することができる。エタノールアミンは、ケネディ経路のCDP-エタノールアミン分岐を介してPEに取り込まれ、続いてPEがメチル化されてPCが生成される。CDP-DAG経路に欠陥のある変異体でも、短いアシル鎖を有するlysoPE、lysoPC、又はPCが補充されると、PE又はPCを合成することができる。細胞に輸送されたLysoPE及びlysoPCは、同じくlysoPAを基質としても利用するリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼによって、それぞれPE及びPCにアシル化される。さらに、CDP-コリン及びCDP-エタノールアミン分岐の両方に欠陥のあるケネディ経路変異体は、CDP-DAG経路によってのみPCを合成することができる。しかし、CDP-DAG経路変異体とは異なり、ケネディ経路変異体は栄養要求性を示さず、本質的に正常なリン脂質の相補体を有する。
【0263】
エタノールアミンとコリンの非存在下で細胞を増殖させる場合、CDP-DAG経路が主にPEとPCの合成に関与することを、証拠が裏付けている(Carman and Henry 1989)。しかしケネディ経路は、PE及びPCの前駆体が培地中に補充されていない場合、これらの合成に寄与する可能性がある。例えば、CDP-DAG経路によって合成されたPCは、ホスホリパーゼDによって常にコリンとPAに加水分解される。次に、コリンはケネディ経路のCDPコリン分岐を介してPCに戻され、そしてPAは中間体CDP-DAG及びDAGを介して他のリン脂質に変換される。
【0264】
エス・セレビッシェのリン脂質合成、及び関与する遺伝子と酵素について上に示した詳細は、油性酵母ヤローウィア・リポリティカにも当てはまることが判明した。別の一般的な酵母であるエス・ポンベ(S. pombe)は、エス・セレビッシェの経路と非常によく似たPL生合成経路を使用する。しかしながら、エス・ポンベとエス・セレビッシェには1つの大きな違いがある。エス・ポンベは天然のイノシトール栄養要求性物質であり、これは前駆体グルコース6-リン酸からL-ミオイノシトール3-リン酸を生成できないため、イノシトールの非存在下では増殖できない。その結果、エス・ポンベ細胞のPI含有量は、増殖培地中のイノシトールの濃度に強く依存する。エス・ポンベのイノシトール要求性は、エス・セレビッシェ中のINO1遺伝子によってコードされるイノシトール-3-リン酸シンターゼの欠如によるものであり、これは、エス・ポンベ中のピキア・パストリスのイノシトール-3-リン酸シンターゼの発現が、この天然のイノシトール栄養要求性物質をイノシトール原栄養物質に変換するという観察によって証明される。
【0265】
大腸菌やその他のグラム陰性菌のリン脂質は、内膜と外膜の構築に使用される。大腸菌はその膜に主要なリン脂質種を3つだけ保有しており、それは、リン脂質の大部分(75%)を占めるPEと、残りのそれぞれ15~20%及び5~10%を占めるPG及びCLである。細菌のリン脂質合成は、グリセロール3-リン酸(G3P)のアシル化から始まり、リゾホスファチジン酸(lysoPA)が生成される。この界面活性剤のような中間体は2回目のアシル化を受け、細菌のリン脂質の重要な前駆体であるホスファチジン酸(PA)を生成する。大腸菌の主要なPLは、エス・セレビッシェについて記載したように、CDP-DAG経路の酵素によってPAから合成される。要約すると、アシル転移モジュールはPAを膜に沈着させ、そこでCDP-DAGシンターゼによって活性化されてCDP-DAGになる。この中間体は、PSシンターゼとPSデカルボキシラーゼ(Psd)によるPE合成の両方に使用される。PGは、PGPシンターゼによって同じ中間体から生成され、リン酸化された中間体はPGPホスファターゼによって脱リン酸化される。最後に、CLシンターゼによる2つのPG分子の縮合によってCLが生成される。
【0266】
微生物細胞
本発明では、多種多様な異なる微生物細胞を使用することができる。1つの実施態様において、微生物細胞は単細胞生物として存在するが、そのような細胞は凝集する可能性がある。本発明の微生物細胞の例には、細菌細胞、及び真核細胞や藻類細胞などの真菌細胞が含まれる。真核微生物は細菌(原核)微生物よりも好ましい。本明細書において使用される用語「微生物細胞」、「微生物(microbe)」、及び「微生物(microorganism)」は同じものを意味する。
【0267】
1つの実施態様において、微生物細胞は発酵に適しているが、これらは周囲酸素濃度下で培養することもできる。別の実施態様において、微生物細胞は油性細胞、好ましくは油性真核微生物、又は好ましくは前駆体真核油性微生物などの前駆体油性微生物に由来する。別の実施態様において、微生物細胞は従属栄養性細胞、好ましくは従属栄養性真核微生物である。微生物細胞は、これらの特徴のうち少なくとも2つを有することが好ましく、より好ましくは、これらの特徴のすべてによって特徴づけられる。
【0268】
1つの実施態様において、本発明の細胞は酵母細胞である。本発明に有用な酵母細胞の例には、限定されるものではないが、Saccharomyces属、例えばサッカロミセス・セレビッシェ、Yarrowia属、例えばヤロウィア・リポリティカ、ピキア属、例えばピキア・パストリス、カンジダ(Candida)属、例えばカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、例えばクリプトコッカス・クルバトゥス(Cryptococcus curvatus)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、例えばロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、ロドトルラ(Rhodotorula)属、例えばロドトルラ・グルティニス(Rhodotorula glutinis)、及びトリコスポロン(Trichosporon)属、例えばトリコスポロン・ファーメンタンス(Trichosporon fermentans)が含まれる。
【0269】
1つの実施態様において、真菌細胞はカビ細胞である。本発明に有用なカビ細胞の例には、限定されるものではないが、クニンガメラ(Cunninghamella)属、例えばクニンガメラ・エチヌレート(Cunninghamella echinulate)、モルチエレラ(Mortierella)属、例えばモルチエレラ・イサベリナ(Mortierella isabellina)又はモルチエレラ・アルピナ(クサレケカビ)、ムコラーレス(Mucorales)属、例えばムコラーレス・フンギ(Mucorales fungi)、及びトリコデルマ(Trichoderma)属、例えばトリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)が含まれる。
【0270】
1つの実施態様において、細胞は細菌細胞である。本発明に有用な細菌細胞の例には、アシネトバクター(Acinetobacter)、例えばアシネトバクター・ベイリィ(Acinetobacter Baylyi)、アルカニボラクス(Alcanivorax)属、例えばアルカニボラクス・ボルクメンシス(Alcanivorax borkumensis)、タイワンツバキ(Gordonia)属、例えばDG、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、例えば結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、ノカルジア(Nocardia)属、例えばノカルジア・グロベルラ(Nocardia globerula)、ロドコッカス(Rhodococcus)属、例えばロドコッカス・オパクス(Rhodococcus opacus)、及びストレプトミセス(Streptomyces)属、例えばストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)が含まれる。
【0271】
1つの実施態様において、細胞は、微細藻類又は珪藻類(Bacillariophyceae)細胞などの藻類細胞である。本発明に有用な藻類細胞の例には、限定されるものではないが、以下が含まれる:プロトテカ(Prototheca)属、例えばプロトテカ・モリフォルミス(Prototheca moriformis)、スラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、クロレラ(Chlorella)属。クロレラ・プロトセコイデス(Chlorella protothecoides)、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)又はクロレラ・エリプソイデア(Chlorella ellipsoidea)、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、例えばシゾキトリウム(Schizochytrium)FCC-1324株、ドナリエラ(Dunaliella)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、例えばヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)、ネオクロリス(Neochloris)属、例えばネオクロリス・オレブンダンス(Neochloris oleabundans)、例えばUTEX#1185株、シュードクロロコッカム(Pseudochlorococcum)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、例えばセネデスムス・オブリキュス(Scenedesmus obliquus)、テトラセルミス(Tetraselmis)属、テトラセルミス・シュイ(Tetraselmis chui)又はテトラセルミス・テトラテレ(Tetraselmis tetrathele)、チェトセロス(Chaetoceros)属、例えばチェトセロス・カルシトランス(Chaetoceros calcitrans)、チェトセロス・グラシリス(Chaetoceros gracilis)又はチェトセロス・ムエレリ(Chaetoceros muelleri)、ニチェア(Nitzschia)属、例えばニチェアcf.プシラ(Nitzschia cf. pusilla)、ファエオダクチルム(Phaeodactylum)属、例えばファエオダクチルム・トリコルヌツム(Phaeodactylum tricornutum)、スケルトネマ(Skeletonema)属、例えばCS252株、タラシオシラ(Thalassiosira)属、例えばタラシオシラ・シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)、クリプテコディニウム(Crypthecodinium)属、例えばクリプテコディニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)、イソクリシス(Isochrysis)属、例えばイソクリシス・ジャンジャンゲンシス(Isochrysis zhangjiangensis)、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、ナンノクロロプシス・オキュラタ(Nannochloropsis oculata)、例えばNCTU-3株、パブロバ(Pavlova)属、例えばパブロバ・サリナ(Pavlova salina)、ロドモナス(Rhodomonas)属、及びタラシオシラ(Thalassiosira)属、例えばタラシオシラ・ヴァイスフロギ(Thalassiosira weissflogii)。
【0272】
ポリペプチド
用語「ポリペプチド」と「タンパク質」は、一般的に同じ意味で使用される。
ポリペプチド又はポリペプチドのクラスは、参照アミノ酸配列に対するそのアミノ酸配列の同一性の程度(同一性%)によって、又は別の参照アミノ酸配列よりも、ある参照アミノ酸配列に対して高い同一性%を有することによって定義され得る。参照アミノ酸配列に対するポリペプチドの同一性%は、典型的には、GAP分析(Needleman and Wunsch, 1970;GCGプログラム)によって、ギャップ生成ペナルティ=5、及びギャップエクステンションペナルティ=0.3のパラメーターを用いて決定される。クエリ配列は少なくとも100アミノ酸の長さであり、GAP分析では少なくとも100アミノ酸の領域にわたって2つの配列が整列される。さらにより好ましくはクエリ配列は少なくとも250アミノ酸の長さであり、GAP分析は少なくとも250アミノ酸の領域にわたって2つの配列が整列される。さらにより好ましくはGAP分析は、参照アミノ酸配列の全長にわたって2つの配列が整列される。ポリペプチド又はポリペプチドのクラスは、参照ポリペプチドと同じ酵素活性を有していてもよく、又は参照ポリペプチドとは異なる活性を有していてもよく、又は参照ポリペプチドの活性が欠如していてもよい。好ましくはポリペプチドは、参照ポリペプチドの活性の少なくとも10%、少なくとも50%、少なくとも75%、又は少なくとも90%の酵素活性を有する。
【0273】
本明細書で定義されるポリヌクレオチドは、アシルトランスフェラーゼ又はチオエステラーゼなどの酵素の生物学的に活性な断片をコードし得る。本明細書で使用される「生物学的に活性な」断片は、全長参照ポリペプチドの規定の活性、例えばアシルトランスフェラーゼ又はチオエステラーゼ活性又は他の酵素活性を保持する、本明細書で規定されるポリペプチドの一部である。本明細書で使用される生物学的に活性な断片には、全長ポリペプチドは含まれない。生物学的に活性な断片は、定義された活性を維持する限り、任意の大きさの部分であり得る。好ましくは、生物学的に活性な断片は全長タンパク質の活性の少なくとも10%、少なくとも50%、少なくとも75%、又は少なくとも90%を維持する。
【0274】
定義されたポリペプチド又は酵素に関して、本明細書で提供されるものよりも高い同一性%の数値が好ましい実施態様を包含することが理解されるであろう。従って、該当する場合、最小の同一性%数値を考慮すると、ポリペプチド/酵素は、関連する指名された配列番号と、少なくとも35%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも45%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも76%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは99.1%以上、より好ましくは99.2%以上、より好ましくは99.3%以上%、より好ましくは少なくとも99.4%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、さらにより好ましくは少なくとも99.9%同一であることが好ましい。1つの実施態様において、上に列挙した範囲のそれぞれについて、同一性%は100%を含まず、すなわち、アミノ酸配列は指定された配列番号と異なる。
【0275】
本明細書で定義されるポリペプチドのアミノ酸配列変種/変異体は、本明細書で定義される核酸に適切なヌクレオチド変化を導入することによって、又は所望のポリペプチドのインビトロ合成によって調製され得る。このような変種/変異体には、例えば、アミノ酸配列内の残基の欠失、挿入、又は置換が含まれる。最終的なペプチド生成物が所望の酵素活性を有することを条件として、欠失、挿入、及び置換を組み合わせて最終構築体を得ることができる。
【0276】
変異体(改変された)ペプチドは、当技術分野で知られている任意の技術を使用して調製することができる。例えば、本明細書で定義されるポリヌクレオチドは、Harayama (1998)によって広く記載されているように、インビトロ突然変異誘発又はDNAシャフリング技術に供され得る。変異/改変されたDNAに由来する生成物は、本明細書に記載の技術を使用して容易にスクリーニングして、これらが、例えばアシルトランスフェラーゼ又はチオエステラーゼ活性を有するかどうかを決定することができる。
【0277】
アミノ酸配列変異体の設計において、変異部位の位置及び変異の性質は、改変される特性に依存する。変異の部位は、個別に又は連続して改変することができる。例えば、(1)最初に保存的アミノ酸の選択により、次に達成された結果に応じてより根本的な選択により置換する、(2)標的残基を削除する、又は(3)特定された部位に隣接して他の残基を挿入する。
【0278】
アミノ酸配列の欠失は、一般に約1~15残基、より好ましくは約1~10残基、典型的には約1~5の連続残基の範囲である。
【0279】
置換変異体は、ポリペプチド分子内の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、その位置に別の残基が挿入される。置換突然変異誘発にとって最も重要な部位には、アシルトランスフェラーゼやチオエステラーゼなどの天然タンパク質内に保存されていない部位が含まれる。これらの部位は、酵素活性を維持するために比較的保存的な方法で置換されることが好ましい。このような保存的置換は表2の「例示的な置換」の見出しの下に示される。
【0280】
好ましい実施態様において、変異体/変種ポリペプチドは、天然に存在するポリペプチドと比較した場合、1つ又は2つ又は3つ又は4つだけ、又はそれ以下の保存的アミノ酸変化を有する。保存的アミノ酸変化の詳細は表2に示される。当業者であれば理解されるように、このような小さな変化は、組換え細胞で発現させた場合にポリペプチドの活性を変化させないことは合理的に予測することができる。
【表2】
【0281】
ポリヌクレオチド
本発明はまた、例えば遺伝子、単離されたポリヌクレオチド又はキメラDNAなどのキメラ遺伝子構築体であり得るポリヌクレオチドの使用を提供する。これは、ゲノム起源又は合成起源の、二本鎖又は一本鎖のDNA又はRNAであってもよく、本明細書で定義される特定の活性を実行するために炭水化物、脂質、タンパク質、又は他の物質と組み合わされてもよい。用語「ポリヌクレオチド」は、本明細書では用語「核酸分子」と互換的に使用される。
【0282】
1つの実施態様において、ポリヌクレオチドは天然には存在しない。天然に存在しないポリヌクレオチドの例には、限定されるものではないが、微生物細胞での発現のためにコドンが最適化されたもの、例えば本明細書に記載の方法を使用することにより変異されたもの、及びタンパク質をコードするオープンリーディングフレームが天然には結合していないプロモーター、すなわちオープンリーディングフレームに関して異種であるプロモーターに作動可能に連結されているポリヌクレオチドが含まれる。
【0283】
本明細書で使用される「キメラDNA」又は「キメラ遺伝子構築体」又は同様のものは、その本来の位置において本来のDNA分子ではない任意のDNA分子を指し、本明細書では「DNA構築体」とも呼ばれる。典型的には、キメラDNA又はキメラ遺伝子は、自然界では作動可能に結合して見出されない、すなわち互いに異種である調節配列及び転写配列又はタンパク質コード配列を含む。従って、キメラDNA又はキメラ遺伝子は、異なる供給源に由来する制御配列及びコード配列、又は同じ供給源に由来するが自然界に見られるものとは異なる様式で配置された制御配列及びコード配列を含み得る。
【0284】
「内因性遺伝子」とは、生物のゲノム内の自然な位置にある天然遺伝子を指す。本明細書で使用される「組換え核酸分子」、「組換えポリヌクレオチド」、又はこれらの変形は、組換えDNA技術によって構築又は改変された核酸分子を指す。用語「外来ポリヌクレオチド」又は「外因性ポリヌクレオチド」又は「異種ポリヌクレオチド」などは、実験操作によって細胞のゲノムに導入された任意の核酸を指す。外来遺伝子又は外因性遺伝子は、非天然生物に挿入される遺伝子、天然宿主内の新しい位置に導入される天然遺伝子、又はキメラ遺伝子であり得る。「トランス遺伝子」は、形質変換操作によってゲノムに導入された遺伝子である。用語「遺伝子改変」、「遺伝子変形」、「トランスジェニック」、及びこれらの変形には、形質転換又は形質導入による細胞への遺伝子の導入、細胞内の遺伝子の変異、遺伝子の欠失、及びこれらの行為が行われた細胞又は生物、又はその子孫のゲノム内の遺伝的変化による遺伝子の制御の改変又は調節が含まれる。本明細書で使用される「ゲノム領域」とは、トランス遺伝子又はトランス遺伝子のグループ(本明細書ではクラスターとも呼ばれる)が細胞又はその祖先に挿入されたゲノム内の位置を指す。このような領域は、本明細書に記載の方法などのヒトの介入によって組み込まれたヌクレオチドのみを含む。
【0285】
ポリヌクレオチドの文脈における用語「外因性」は、本来の状態と比較して変化した量で細胞内に存在するときのポリヌクレオチドを指す。1つの実施態様において、細胞は、天然にはポリヌクレオチドを含まない細胞である。しかしながら、細胞は、コードされたポリペプチドの産生量の変化をもたらす非内因性ポリヌクレオチドを含む細胞であってもよい。外因性ポリヌクレオチドには、それが存在するトランスジェニック(組換え)細胞又は無細胞発現系の他の成分から分離されていないポリヌクレオチド、及びそのような細胞又は無細胞系で生成され、次に、少なくとも他の成分から精製され除去されるポリヌクレオチドが含まれる。外因性ポリヌクレオチド(核酸)は、自然界に存在するヌクレオチドの連続したストレッチであってもよいし、異なる供給源(天然、及び/又は合成)からのヌクレオチドの2つ以上の連続したストレッチを結合して単一のポリヌクレオチドを生成してもよい。典型的には、そのようなキメラポリヌクレオチドは、目的の細胞においてオープンリーディングフレームの転写を駆動するのに適したプロモーターに作動可能に連結されたポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを少なくとも含む。
【0286】
定義されたポリヌクレオチドに関して、上記で提供されたものよりも高い同一性%の数値が好ましい実施態様を包含することが理解されるであろう。すなわち、該当する場合、最小の同一性%数値を考慮すると、ポリヌクレオチドは、指定された配列番号と少なくとも35%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも45%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.1%、より好ましくは少なくとも99.2%、より好ましくは少なくとも99.3%、より好ましくは少なくとも99.4%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、さらにより好ましくは少なくとも99.9%同一であるのポリヌクレオチド配列を含むことが好ましい。1つの実施態様において、上に列挙した範囲のそれぞれについて、同一性%は100%を含まず、すなわち、ヌクレオチド配列は指定された配列番号と異なる。
【0287】
ポリヌクレオチドは、天然に存在する分子と比較した場合、ヌクレオチド残基の欠失、挿入、又は置換である1つ又はそれ以上の変異を有する場合がある。参照配列と比較して変異を有するポリヌクレオチドは、天然に存在するもの(すなわち、天然源から単離されたもの)、又は合成されたもの(例えば、上記のように核酸に対して部位特異的突然変異誘発又はDNAシャフリングを行うことによって)のいずれかであり得る。すなわち、ポリヌクレオチドが天然源由来のものであっても、組換え由来のものであってもよいことは明らかである。好ましいポリヌクレオチドは、当技術分野で知られているように、微生物細胞における翻訳のためにコドンが最適化されたコード領域を有するものである。
【0288】
組換えベクター
組換え発現を使用して、本発明の遺伝子改変微生物を産生することができる。組換えベクターは、異種ポリヌクレオチド配列、すなわち、好ましくはポリヌクレオチド分子が由来する種以外の種に由来する、本明細書で定義されるポリヌクレオチド分子に隣接して天然では見出されないポリヌクレオチド配列を含む。ベクターはRNA又はDNAのいずれでもよく、典型的にははプラスミドである。プラスミドベクターには、典型的には、原核細胞における発現カセットの容易な選択、増幅、及び形質転換を可能にする追加の核酸配列、例えば、pYES由来ベクター、pUC由来ベクター、pSK由来ベクター、pGEM由来ベクター、pSP由来ベクター、又はpBS由来ベクターが含まれる。適切な酵母発現ベクターには、pPICシリーズのベクター、酵母組み込みプラスミド(YIp)、酵母複製プラスミド(YRp)、酵母セントロメアプラスミド(YCp)、及び酵母エピソーマルプラスミド(YEp)が含まれる。追加の核酸配列には、ベクターの自律複製を提供する複製開始点、好ましくは抗生物質又は除草剤耐性をコードする選択マーカー遺伝子、核酸構築体にコードされる核酸配列又は遺伝子を挿入するための複数の部位を提供する固有のマルチクローニング部位、及び微生物細胞の形質転換を促進する配列が含まれる。組換えベクターは、本明細書で定義される2つ以上のポリヌクレオチド、例えば本明細書で定義される3、4、5、又は6個のポリヌクレオチドの組み合わせ、好ましくは本明細書に記載のキメラ遺伝子構築体を含んでもよく、各ポリヌクレオチドは細胞内で作動可能な発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0289】
本明細書で使用される「作動可能に連結された」とは、2つ以上の核酸(例えば、DNA)セグメント間の機能的関係を指す。典型的には、それは転写調節要素(プロモーター)と転写された配列との機能的関係を指す。例えば、プロモーターは、適切な細胞におけるコード配列の転写を刺激又は調節する場合、本明細書で定義されるポリヌクレオチドなどのコード配列に作動可能に連結されている。一般に、転写配列に作動可能に連結されたプロモーター転写調節要素は、転写配列に物理的に隣接しており、すなわち、これらはシス作用性である。しかし、エンハンサーなどの一部の転写調節要素は、転写を増強するコード配列に物理的に隣接していることも、近接して配置されていることも必要ではない。例えば、5'UTR配列内のイントロン、又はタンパク質コード領域の5'末端付近のイントロンには、発現レベルの増加をもたらす転写エンハンサー、例えばFBAINプロモーター領域が含まれる場合がある。
【0290】
形質転換体の同定を容易にするために、核酸構築体は、外来又は外因性ポリヌクレオチドとして、又はそれに加えて、選択可能な又はスクリーニング可能なマーカー遺伝子を含むことが望ましい。「マーカー遺伝子」とは、マーカー遺伝子を発現する細胞に異なる表現型を与え、従ってそのような形質転換細胞をマーカーを持たない細胞から区別できるようにする遺伝子を意味する。選択可能なマーカー遺伝子は、選択薬剤(例えば、除草剤、抗生物質、放射線、熱、又は非形質転換細胞に損傷を与える他の処理)に対する耐性に基づいて「選択」できる形質を与える。スクリーニング可能なマーカー遺伝子(又はレポーター遺伝子)は、(例えば、非形質転換細胞には存在しないβ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、GFP又は他の酵素活性を)観察又は試験、すなわち「スクリーニング」することによって同定できる形質を与える。マーカー遺伝子と目的の塩基配列は連結されている必要はない。選択した細胞と組み合わせてマーカーが機能する(すなわち選択的)限り、実際のマーカーの選択は重要ではない。
【0291】
選択可能なマーカーの例は、抗生物質耐性、例えばヒグロマイシン、ヌルセオスリシン、アンピシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、又はテトラサイクリン耐性を、好ましくはヒグロマイシン又はカナマイシン耐性を、与えるマーカーである。
【0292】
本発明の組換え酵母は、ガラクトシダーゼ又は選択可能な増殖マーカーのいずれかをコードするレポーター遺伝子を含み得る。
【0293】
「ガラクトシダーゼ」は、様々な基質から末端ガラクトース残基を切断し、また基質を切断して検出可能なシグナルを生成することができる任意の酵素であり得る。1つの実施態様において、ガラクトシダーゼは、細菌性(例えば大腸菌由来)LacZなどのβ-ガラクトシダーゼである。別の実施態様において、ガラクトシダーゼは、酵母(例えばエス・セレビッシェ)Mel-1などのβ-ガラクトシダーゼである。β-ガラクトシダーゼ活性は、切断後に濃い青色の生成物を生成するX-gal(5-ブロモ-4-クロロインドリル-β-D-ガラクトピラノシド)、切断後に約420nmで最大吸光度を有する水溶性黄色色素を生成するONPG(o-ニトロフェニルガラクトシド)、及び切断後に分光測光法で測定可能な水溶性赤色生成物を生成するCPRG(クロロフェノールレッド-β-D-ガラクトピラノシド)などの酵素の基質を使用して検出することができる。α-ガラクトシダーゼ活性は、切断後にインジゴ色素を生成するo-ニトロフェニル-D-ガラクトピラノシドや、切断後に分光光度法で測定可能な赤色の水溶性生成物を生成するクロロフェノールレッド-α-D-ガラクトピラノシドなどの、酵素の基質を使用して検出することができる。酵母におけるガラクトシダーゼ発現を検出するためのキットは市販されており、例えば、Thermo Scientificのβ-ガラクトシダーゼ(LacZ)発現キットがある。
【0294】
好ましくは選択可能な増殖マーカーは、栄養マーカー又は抗生物質耐性マーカーである。
【0295】
典型的な酵母選択可能な栄養マーカーには、限定されるものではないが、LEU2、TRP1、HIS3、HIS4、URA3、URA5、SFA1、ADE2、MET15、LYS5、LYS2、ILV2、FBA1、PSE1、PDI1、及びPGK1が含まれる。当業者であれば、染色体の欠失又は不活性化により宿主が生存できなくなる任意の遺伝子、いわゆる必須遺伝子は、pgk1酵母株のPGK1について証明されているように、機能的遺伝子が例えばプラスミド上に提供されている場合、選択マーカーとして使用できることを理解するであろう。適切な必須遺伝子は、スタンフォードゲノムデータベース(Stanford Genome Database:SGD)(http:://db.yeastgenome.org)内で見つけることができる。欠失又は不活性化されている場合、栄養(生合成)要求性をもたらさない必須遺伝子産物(例えば、PDI1、PSE1、PGK1、又はFBA1)は、プラスミドの非存在下では、遺伝子産物を産生して、特定の選択条件下で細胞を培養する必要があるという欠点を伴うことなくプラスミドの安定性を向上することができない酵母宿主細胞中のプラスミド上の選択マーカーとして使用することができる。「栄養要求性(生合成)要件」には、増殖培地への添加又は改変によって補うことができる欠乏が含まれる。
【0296】
発現
発現ベクターは、微生物細胞における遺伝子発現を指令することができる。本明細書で使用される発現ベクターは、宿主細胞を形質転換することができ、1つ又はそれ以上の特定のポリヌクレオチド分子の発現をもたらすことができるベクターである。本発明に有用な発現ベクターは、転写制御配列、翻訳制御配列、複製開始点などの制御配列、及び組換え細胞と適合し、本発明のポリヌクレオチド分子の発現を制御する他の制御配列を含む。特に、本発明に有用なポリヌクレオチド又はベクターには、転写制御配列が含まれる。転写制御配列とは、転写の開始、伸長、終止を制御する配列である。特に重要な転写制御配列は、プロモーター配列やエンハンサー配列などの転写開始を制御する配列である。適切な転写制御配列には、本発明の組換え細胞の少なくとも1つにおいて機能し得る任意の転写制御配列が含まれる。使用される調節配列の選択は、標的微生物細胞に応じて異なる。様々なそのような転写制御配列が当業者に知られている。
【0297】
酵母細胞は、典型的には化学的方法によって形質転換される(例えば、Rose et al., 1990, Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. , 及び Kawai et al., 2010 に記載されている)。典型的には、細胞は酢酸リチウムで処理されて、約104 コロニー形成単位(形質転換細胞)/μg DNAの形質転換効率を達成する。酵母を形質転換するためのその他の標準操作には、i)名前が示唆するように、酵母スフェロプラストの生成に依存するスフェロプラスト法、ii)DNAでコーティングされた金属微粒子を細胞内に打ち込む銃弾法、及びiii)ガラスビーズと細胞に送達されるDNAとによる酵母細胞の撹拌に依存しているガラスビーズ法が含まれる。もちろん、酵母細胞に核酸を導入する任意の適切な手段を使用することができる。
【0298】
酵母などの生物を外因性プラスミドで形質転換すると、コピー数やその他の要因の違いにより、形質転換された遺伝子の浸透度にクローンの違いが生じる可能性があることはよく知られている。従って、各形質転換受容体について2つ以上の独立したクローン分離株をスクリーニングして、スクリーニング中に適切な受容体=リガンド対を同定する可能性を最大化することが推奨される。異なるクローン分離株を個別にスクリーニングすることも、スクリーニング用に単一のウェルに組み合わせてスクリーニングすることもできる。後者のオプションは、比色レポーターではなく栄養レポーターが使用される場合に特に便利である。
【0299】
「構成的プロモーター」とは、特定の増殖条件によって誘導される必要性なしで、細胞内で作動可能に連結された転写配列の発現を指令するプロモーターを指す。本発明の酵母細胞に有用な構成的プロモーターの例には、限定されるものではないが、酵母PGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)プロモーター、酵母ADH-1(アルコール脱水素酵素)プロモーター、酵母ENO(エノラーゼ)プロモーター、酵母グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素プロモーター(GPD)プロモーター、酵母PYK-1(ピルビン酸キナーゼ)プロモーター、酵母翻訳-伸長因子1-アルファプロモーター(TEF)プロモーター、及び酵母CYC-1(サイトクロームc-オキシダーゼプロモーター)プロモーターが含まれる。好ましい実施態様において、酵母プロモーターはエス・セレビッシェプロモーターである。別の実施態様において、構成的プロモーターは酵母に由来していなくてもよい。本発明に有用なそのようなプロモーターの例には、限定されるものではないが、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、糖質コルチコイド応答要素、及びアンドロゲン応答要素が含まれる。構成的プロモーターは、天然に存在する分子、又は例えばプロモーター機能を消失させない(好ましくは増強しない)1、2、又は3個のヌクレオチド置換を含むその変種であり得る。
【0300】
組換えDNA技術は、例えば、宿主細胞内のポリヌクレオチド分子のコピー数、これらのポリヌクレオチド分子が転写される効率、得られる転写物が翻訳される効率、及び翻訳後改変の効率を操作することによって、形質転換されたポリヌクレオチド分子の発現を改善するために使用することができる。本明細書で定義されるポリヌクレオチド分子の発現を増加させるために有用な組換え技術には、限定されるものではないが、1つ又はそれ以上の宿主細胞染色体へのポリヌクレオチド分子の組み込み、mRNAへの安定性配列の付加、転写制御シグナル(例えば、プロモーター、オペレーター、エンハンサー)の置換又は改変、翻訳制御シグナル(例えば、リボソーム結合部位、シャインダルガルノ配列)の置換又は改変、宿主細胞のコドン使用に対応するポリヌクレオチド分子の改変、及び転写物を不安定化する配列の欠失が含まれる。
【0301】
その他の遺伝子改変技術
核酸分子を微生物細胞に導入するのに、任意の方法を使用することができ、多くのそのような方法がよく知られている。例えば、形質転換及び電気穿孔法は、酵母細胞に核酸を導入するための一般的な方法である(例えば、Gietz et al., 1992; Ito et al., 1983; Becker et al., 1991を参照)。
【0302】
1つの実施態様において、微生物細胞内の特定の染色体部位への目的の遺伝子の組み込みは、相同組換えを介して起きる。この実施態様によれば、少なくとも1つのマーカー遺伝子及び/又は組み込まれる遺伝子を含むモジュール(内部モジュール)を含む組み込みカセットは、標的組み込み部位(組換え誘導配列)の末端のDNA断片と相同的なDNA断片によって両側に隣接される。適切な方法によりカセットを用いて微生物細胞を形質転換した後、組換え誘導配列間の相同組換えにより、組込みカセットの組換え配列に対応するゲノムの2つの部位間の染色体領域が内部モジュールで置換される可能性がある(Orr-Weaver et al., 1981)。
【0303】
1つの実施態様において、微生物細胞への目的遺伝子の組込みのための組込みカセットは、微生物細胞染色体への異種遺伝子の組込みのための組換え誘導配列が隣接する選択マーカーとともに、適切なプロモーターの制御下にある異種遺伝子を含む。1つの実施態様において、異種遺伝子には、本明細書に記載の脂肪酸生合成遺伝子のいずれかが含まれる。
【0304】
内因性遺伝子の欠失が望ましい場合、組込みカセットは、欠失の標的とされる内因性遺伝子の末端(及び/又は隣接する配列)のDNA断片と相同的なDNA断片が隣接する選択マーカー(他の異種遺伝子配列を含まない)を含むことができる。内因性遺伝子の欠失又は変異に適した他の方法(例えば、部位特異的ヌクレアーゼ又はRNA誘導性ヌクレアーゼを使用して)を以下に記載する。
選択可能なマーカー遺伝子は、微生物細胞で使用される任意のマーカー遺伝子であり得、限定されるものではないが、HIS3、TRP1、LEU2、URA3、bar、ble、hph、及びkanを含む。組換え配列は、所望の用途に適した所望の組み込み部位に応じて、自由に選択することができる。
【0305】
別の実施態様において、微生物細胞の染色体への遺伝子の組み込みは、ランダムな組み込みを介して起こり得る(Kooistra et al., 2004)。
さらに、1つの実施態様において、特定の導入されたマーカー遺伝子は、当業者に公知の技術を使用してゲノムから除去される。例えば、URA3マーカーの消失は、URA3含有細胞をFOA(5-フルオロオロチン酸)含有培地にプレーティングし、FOA耐性コロニーを選択することによって得ることができる(Boeke et al., 1984)。
【0306】
本開示の微生物細胞内に含まれる外因性核酸分子は、その細胞内で任意の形態で維持され得る。例えば、外因性核酸分子は、細胞のゲノムに組み込まれることも、娘細胞に安定して受け継がれる(「遺伝」する)ことができるエピソーム状態に維持されることもできる。このような染色体外遺伝要素(例えば、プラスミド、ミトコンドリアゲノム)は、娘細胞におけるそのような遺伝要素の存在を保証する選択マーカーをさらに含む場合がある。さらに、微生物細胞は安定的に形質転換することも、一過性に形質転換することもできる。さらに、本明細書に記載の微生物細胞は、上記のような特定の外因性核酸分子の単一コピー又は複数コピーを含むことができる。
【0307】
部位特異的ヌクレアーゼを使用するゲノム編集
ゲノム編集は、非特異的DNA切断モジュールに融合した配列特異的DNA結合ドメインで構成される人工ヌクレアーゼを使用する。これらのキメラヌクレアーゼは、細胞の内因性細胞DNA修復機構を刺激する標的DNA二本鎖切断を誘導して、誘導された切断を修復することにより、効率的かつ正確な遺伝子改変(欠失、変異、挿入を含む)を可能にする。このような機構には、例えば、誤りが起こりやすい非相同末端結合(NHEJ)及び相同性指向修復(HDR)が含まれる。
【0308】
伸長された相同性アームを有するドナープラスミドの存在下で、HDRは、既存の遺伝子を修正又は置換する単一又は複数のトランス遺伝子の導入をもたらすことができる。ドナープラスミドが存在しない場合、NHEJ媒介修復により、遺伝子破壊を引き起こす標的の小さな挿入又は欠失変異が生じる。
【0309】
本発明の方法において有用な人工ヌクレアーゼには、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)及び転写活性化因子様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)が含まれる。
【0310】
典型的には、ヌクレアーゼにコードされた遺伝子は、プラスミドDNA、ウイルスベクター、又はインビトロで転写されたmRNAによって細胞に送達される。蛍光代替レポーターベクターの使用により、ZFN、及びTALEN改変細胞の濃縮も可能になる。ZFN遺伝子送達システムの代替として、細胞膜を通過して内因性遺伝子破壊を誘導できる精製ZFNタンパク質と細胞を接触させることができる。
【0311】
亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、DNA結合ドメインとDNA切断ドメインを含み、DNA結合ドメインは少なくとも1つの亜鉛フィンガーからなり、DNA切断ドメインに作動可能に連結されている。亜鉛フィンガーDNA結合ドメインはタンパク質のN末端に位置し、DNA切断ドメインは前記タンパク質のC末端に位置する。
【0312】
ZFNには少なくとも1つの亜鉛フィンガーが必要である。好ましい実施態様において、ZFNは、宿主細胞における標的遺伝子組換えに有用な十分な特異性を有するために、少なくとも3つの亜鉛フィンガーを有するであろう。一般に、3つを超える亜鉛フィンガーを有するZFNは、1つの亜鉛フィンガーが追加されるたびに、特異性が徐々に大きくなるであろう。
【0313】
亜鉛フィンガードメインは、任意のクラス又はタイプの亜鉛フィンガーに由来することができる。特定の実施態様において、亜鉛フィンガードメインは、例えば亜鉛フィンガー転写因子TFIIIA又はSp1によって非常に一般的に表される亜鉛フィンガーのCis2His2タイプを含む。好ましい実施態様において、亜鉛フィンガードメインは、3つのCis2His2型亜鉛フィンガーを含む。ZFNのDNA認識及び/又は結合特異性は、細胞DNAの任意の選択された部位で標的遺伝子組換えを達成するために変更することができる。そのような改変は、既知の分子生物学及び/又は化学合成技術を使用して達成することができる。(例えば、Bibikova et al., 2002を参照)。
【0314】
ZFN DNA切断ドメインは、非特異的DNA切断ドメインのクラス、例えばFokIなどのII型制限酵素のDNA切断ドメインに由来する(Kim et al., 1996)。他の有用なエンドヌクレアーゼとしては、例えば、HhaI、HindIII、Nod、BbvCI、EcoRI、BglI、及びAlwIが挙げられる。
【0315】
本発明の好ましい実施態様に従って遺伝子組換え又は変異を標的とするためには、宿主微生物細胞DNA内で2つの9bp亜鉛フィンガーDNA認識配列を同定しなければならない。これらの認識部位は互いに逆向きであり、約6bpのDNAによって分離されている。次に、ZFNは、標的遺伝子座でDNAに特異的に結合する亜鉛フィンガーの組み合わせを設計及び作製し、亜鉛フィンガーをDNA切断ドメインに連結することによって生成される。
【0316】
ZFN活性は、ヌクレアーゼ発現レベルを増加させるための一時的な低体温培養条件の使用(Doyon et al., 2010)、及びDNA末端プロセシング酵素と部位特異的ヌクレアーゼの同時送達(Certo et al., 2012)を使用して改善することができる。ZFN媒介ゲノム編集の特異性は、エラーが起こりやすいNHE-J修復経路を活性化することなくHDRを刺激する亜鉛フィンガーニッカーゼ(ZFNickase)を使用することで改善することができる(Kim et al., 2012; Wang et al., 2012; Ramirez et al., 2012; McConnell Smith et al., 2009)。
【0317】
転写活性化因子様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、TALエフェクターDNA結合ドメインとエンドヌクレアーゼドメインとを含む。
【0318】
TALエフェクターは、病原体によって植物細胞に注入される植物病原性細菌のタンパク質であり、そこで、これらは核に移動し、転写因子として機能して、特定の植物遺伝子をオンにする。TALエフェクターの一次アミノ酸配列は、それが結合するヌクレオチド配列を決定する。従って、TALエフェクターの標的部位を予測することができ、特定のヌクレオチド配列に結合する目的で、TALエフェクターを工学作成及び生成することができる。
【0319】
ヌクレアーゼ又はヌクレアーゼの一部、典型的にはFokIなどのII型制限エンドヌクレアーゼ由来の非特異的切断ドメインをコードする配列が、TALエフェクターをコードする核酸配列に融合される(Kim et al., 1996)。他の有用なエンドヌクレアーゼは、例えば、HhaI、HindIII、Nod、BbvCI、EcoRI、BglI、及びAlwIを含むことができる。一部のエンドヌクレアーゼ(例えば、FokI)が二量体としてのみ機能するという事実を利用して、TALエフェクターの標的特異性を高めることができる。例えば、場合によっては、各FokIモノマーを、異なるDNA標的配列を認識するTALエフェクター配列に融合させることができ、2つの認識部位が近接している場合にのみ、不活性なモノマーが結合して機能的な酵素が生成される。ヌクレアーゼを活性化するためにDNA結合を必要とすることにより、高度に部位特異的な制限酵素を作成することができる。
【0320】
配列特異的なTALENは、細胞内に存在するあらかじめ選択された標的ヌクレオチド配列内の特定の配列を認識することができる。従って、いくつかの実施態様において、ヌクレアーゼ認識部位について標的ヌクレオチド配列をスキャンすることができ、標的配列に基づいて特定のヌクレアーゼを選択することができる。他の場合には、特定の細胞配列を標的とするようにTALENを工学作成することができる。
【0321】
プログラム可能なRNA誘導DNAエンドヌクレアーゼを使用するゲノム編集
上述した部位特異的ヌクレアーゼとは異なり、クラスター化され規則的に間隔が空いた短い回文構造の反復配列(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)(CRISPR)/Casシステムは、標的遺伝子変化を誘導するためのZFN及びTALENの代替手段を提供する。細菌では、CRISPRシステムは、RNA誘導性のDNA切断を介して、侵入する外来DNAに対して獲得免疫を提供する。
【0322】
CRISPRシステムは、侵入する外来DNAを配列特異的にサイレンシングするために、CRISPR RNA(crRNA)とトランス活性化キメラRNA(tracrRNA)に依存している。CRISPR/Casシステムには3つのタイプが存在する。タイプIIシステムでは、Cas9は、crRNA-tracrRNA標的の認識時にDNAを切断するRNA誘導性DNAエンドヌクレアーゼとして機能する。CRISPR RNAはtracrRNAと対合して、Cas9エンドヌクレアーゼを相補的なDNA部位に誘導して切断する2つのRNA構造を形成する。
【0323】
大腸菌で最初に認識された散在した短い配列反復配列(SSR)の別個のクラスである(Ishino et al., 1987; Nakata et al., 1989)。同様の散在SSRが、ハロフェラックス・メディテラネイ(Haloferax mediterranei)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、アナベナ(Anabaena)、及び結核菌(Mycobacterium tuberculosis)でも同定されている(Groenen et al., 1993; Hoe et al., 1999; Masepohl et al., 1996; Mojica et al., 1995)。
【0324】
CRISPR遺伝子座は、反復の構造によって他のSSRとは異なり、これは短い規則的間隔反復配列(SRSR)と呼ばれている(Janssen et al., 2002; Mojica et al., 2000)。この反復配列はクラスター内に発生する短い要素であり、常に一定の長さの固有の介在配列によって規則的に配置されている(Mojica et al., 2000)。反復配列は株間で高度に保存されているが、散在する反復配列の数とスペーサー領域の配列は株ごとに異なる(van Embden et al., 2000)。
【0325】
CRISPR遺伝子座の共通の構造的特徴は、Jansen et al. (2002) に、(i)所定の遺伝子座内で配列変化がまったくないか又はほとんどない、複数の短い直接反復配列の存在、(ii)同様のサイズの反復配列間の非反復スペーサー配列の存在、(iii)複数のCRISPR遺伝子座を有するほとんどの種における、数百塩基対の共通のリーダー配列の存在、(iv)遺伝子座内の長いオープンリーディングフレームの欠如、及び(v)1つ又はそれ以上のcas遺伝子の存在、として記載されている。
【0326】
CRISPRは典型的には、最大11bpの内部及び末端の逆配向反復配列を含む24~40bpの短い部分回文配列である。分離された要素が検出されているが、これらは一般に、独特の介在20~58bp配列によって間隔の空いた反復単位のクラスター(ゲノムあたり最大約20以上)に配置されている。CRISPRは一般に、特定のゲノム内で均一であり、そのほとんどが同一である。しかし、例えば古細菌(Archaea)には異質性の例がある(Mojica et al., 2000)。
【0327】
本明細書で使用される用語「cas遺伝子」は、一般に、隣接するCRISPR遺伝子座に関連して、又は隣接して、又はその近傍に結合している1つ又はそれ以上のcas遺伝子を指す。Casタンパク質ファミリーの包括的な総説は、Haft et al. (2005) に記載されている。特定のCRISPR遺伝子座におけるcas遺伝子の数は、種によって異なる。
【0328】
細胞培養
効果的な培養条件は当業者に公知であり、限定されるものではないが、脂質生成を可能にする適切な培地、バイオリアクター、温度、pH、及び酸素条件が含まれる。適切な培地とは、本明細書で定義される脂質を産生するために細胞が培養される任意の培地を指す。このような培地は典型的には、同化可能な炭素、窒素、及びリン酸源、並びに適切な塩、ミネラル、金属、及びビタミンなどの他の栄養素を有する水性培地を含む。本明細書で定義される細胞は、従来の発酵バイオリアクター、振盪フラスコ、試験管、マイクロタイターディッシュ、及びシャーレで培養することができる。培養は、組換え細胞に適した温度、pH、及び酸素含有量で行うことができる。このような培養条件は、当業者の専門知識の範囲内である。
【0329】
脂質抽出
本発明の微生物細胞からの脂質の抽出は、例えば Patel et al. (2018) に記載されているように、油性微生物から脂質を抽出するための当該分野で公知の方法と同様の方法を使用する。1つの実施態様において、抽出は、有機溶媒(例えば、ヘキサン、又はヘキサンとエタノールの混合物)が少なくともバイオマスと混合される溶媒抽出によって、好ましくはバイオマスが乾燥され粉砕された後に行われるが、これはまた濡れた状態でも行われる。溶媒は細胞内の脂質を溶解し、次にこの溶液は物理的作用(例えば、超音波処理)によってバイオマスから分離される。超音波処理は、微生物細胞の細胞の完全性を破壊するために最も広く使用されている前処理方法の1つである。他の前処理方法には、硫酸などの酸による処理、マイクロ波照射、高速ホモジナイゼーション、高圧ホモジナイゼーション、ビーズ叩解、オートクレーブ、及び熱分解が含まれ得る。例えば、2%硫酸による処理は60℃で5分間行われる。次に、有機溶媒を非極性脂質から分離することができる(例えば、蒸留によって)。この2回目の分離工程により細胞から非極性脂質が得られ、従来の蒸気回収を使用すれば再利用可能な溶媒を得ることができる。
【0330】
溶媒抽出では、有機溶媒(例えば、ヘキサン、又はヘキサンとエタノールの混合物)が、好ましくはバイオマスが乾燥、及び粉砕された後に、少なくとも微生物細胞のバイオマスと混合される。溶媒は、バイオマスなどの中の脂質を溶解し、次に、この溶液は、機械的作用(例えば、上記のプロセスによる)によってバイオマスから分離される。この分離工程はまた、濾過(例えば、フィルタープレス又は同様の装置を用いて)又は遠心分離などによって行うこともできる。次に、有機溶媒を非極性脂質から分離することができる(例えば、蒸留によって)。この2回目の分離工程では微生物細胞から非極性脂質が得られ、従来の蒸気回収を使用すれば再利用可能な溶媒を得ることができる。
【0331】
本発明の微生物細胞から抽出された脂質は、通常の油処理操作に供され得る。本明細書で使用される用語「精製された」は、本発明の脂質に関して使用される場合、典型的には、抽出された脂質が脂質成分の純度を高めるための1つ又はそれ以上の処理工程に曝されていることを意味する。例えば、精製工程は、抽出された油の脱ガム、脱臭、脱色、乾燥、及び/又は分画からなる群のうちの1つ又はそれ以上又はすべてを含んでもよい。しかしながら、本明細書で使用される用語「精製された」は、総脂肪酸含有量の脂肪酸組成を変えるために本発明の脂質又は油の脂肪酸組成を変えるエステル交換プロセス又は他のプロセスを含まない。換言すると、好ましい実施態様において、精製された脂質の脂肪酸組成は、本質的に未精製脂質の脂肪酸組成と同じである。
【0332】
脱ガム
脱ガムは液体形態の脂質(油)の精製の初期段階であり、その主な目的は、抽出された脂質全体の約1~2%として存在し得るリン脂質の大部分を油から分離することである。典型的にはリン酸を含む約2%の水を原油に70~80℃で添加すると、微量金属や色素を伴うリン脂質の大部分が分離される。除去される不溶性物質は主にリン脂質の混合物であり、レシチンとしても知られている。脱ガムは、粗抽出された脂質に濃リン酸を添加して、非水和性リン脂質を水和性形態に変換し、存在する微量金属をキレート化することによって実行することができる。ガムは遠心分離によって油から分離される。LA単独以外のω6脂肪酸を含む回収ガムも本発明に包含される。
【0333】
アルカリ精製
アルカリ精製は、油の形で脂質を処理する精製プロセスの1つであり、中和とも呼ばれる場合がある。これは通常、脱ガムの後で漂白の前に行われる。脱ガム後、油は充分量のアルカリ溶液の添加により処理して、すべての脂肪酸とリン酸を力価測定し、生成された石鹸を除去する。適切なアルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化アンモニウムが含まれる。このプロセスは典型的には室温で行われ、遊離脂肪酸画分が除去される。石鹸は遠心分離又は石鹸用の溶媒への抽出によって除去され、中和された油は水で洗浄される。必要に応じて、油中の過剰なアルカリは塩酸や硫酸などの適切な酸で中和することができる。
【0334】
漂白
漂白は、漂白土(0.2~2.0%)の存在下、酸素の非存在下で、窒素又は蒸気を使用するか真空中で操作することにより、油を90~120℃で10~30分間加熱する精製プロセスである。油処理におけるこの工程は、不要な顔料を除去するように設計されており、このプロセスでは酸化生成物、微量金属、硫黄化合物、及び少量の石鹸も除去される。
【0335】
消臭
脱臭は、高温(200~260℃)かつ低圧(0.1~1mmHg)で油脂を処理することである。これは典型的には、油100mlあたり約0.1ml/分の速度で油に蒸気を導入することによって達成される。約30分間のスパージング後、油は真空下で冷却される。典型的には、油はガラス容器に移され、アルゴンでフラッシュされてから冷蔵保存される。この処理により、油の色が改善され、残留する遊離脂肪酸、モノアシルグリセロール、酸化生成物などの揮発性物質や臭気化合物の大部分が除去される。
【0336】
エステル化とエステル交換
本明細書で使用される「エステル化」は、脂肪酸とアルコールとのエステル化反応を介して少なくとも1つの脂肪酸エステルを生成する化学反応を指す。脂肪酸エステル(FAE)は、脂肪酸とアルコールの組み合わせから生じるエステルの一種である。アルコール成分がグリセロールである場合、生成される脂肪酸エステルには、モノグリセリド、ジグリセリド、又はトリグリセリドが含まれ得る。
【0337】
本明細書で使用される「エステル交換」は、TAG内及びTAG間で脂肪酸を交換する(エステル交換)か、又は脂肪酸を別のアルコールに転移してエステルを生成するプロセスを意味する。これには、最初に遊離脂肪酸としてTAGから脂肪酸を放出することが含まれる場合もあれば、脂肪酸エステル、好ましくは脂肪酸メチルエステル又はエチルエステルを直接生成する場合もある。メタノールやエタノールなどのアルコールによるTAGのエステル交換反応では、アルコールのアルキル基がTAGのアシル基(SCFAを含む)とエステル結合を形成する。
【0338】
食物、飼料、飲料、及び組成物
本発明は、ヒトが消費するための食物若しくは飲料、又は動物が消費するための飼料、好ましくは少なくともヒトが消費する食物、あるいは食物又は飲料を調製するために使用できる食物若しくは飲料の成分として使用することができる脂質及び組成物を含む。組成物を食物、飲料、又は飼料に添加して、食物、飲料、又は飼料の食感、外観、香り、及び/又は風味のうちの1つ又はそれ以上を改善することもできる。脂質は、生地の稠度若しくは加工能力を改善するために、又は室温以上に温めたときの食物の稠度、食感、若しくは味を高めるために使用され得る。本発明の目的上、食物、飲料、又は飼料は、体内に摂取されると、(a)組織に栄養を与え、組織を構築し、又はエネルギーを供給する働きをする、及び/又は(b)適切な栄養状態又は代謝機能を維持、回復、又は支持する、ヒト又は動物の消費のための調製物である。
【0339】
適切な食物/飼料には、肉代替品、スープベース、シチューベース、スナック食物、ブイヨンパウダー、ブイヨンキューブ、フレーバーパック、又は冷凍食物が含まれる。肉代替品は、例えばホットドッグ、ハンバーガー、ひき肉、ソーセージ、ステーキ、フィレ、ロースト、胸肉、もも、手羽先、ミートボール、ミートローフ、ベーコン、ストリップ、フィンガー、ナゲット、カツレツ、又はキューブとして配合することができる。
【0340】
本発明の脂質は、脂肪として食物成分として、又は油、及びドレッシングにおいて、又はバター、粉末バター、マーガリン、マヨネーズ若しくはサラダドレッシングなどの製品において使用することができる。これは、例えば、缶入りスープ又はインスタントスープ、ヌードルボウル又はヌードルカップ製品、シチュー、ストック、スープ、缶詰野菜、乾燥野菜などのスープに使用することができる。それは、ソースやグレービーソース、パスタソース、トマト製品、乾燥調味料ミックス、調味料キューブなどに使用できる。これは、例えば、パン、パン代替品、ペストリー、クロワッサン、ビスケット、セイボリービスケット、クラッカー、ケーキ、ピザ生地、パイペストリー、ドライベーカリーミックス、ベーカリー生地などのベーカリー製品に使用することができる。具体例な例には、例えば、マフィン(例えば、イングリッシュマフィン)、クラッカー(例えば、塩クラッカー、焼きクラッカー、グラハムクラッカーなど)、ロール(例えば、ソフトロール、ディナーロール、クレセントロール)、ビスケット(例えば、バターミルクビスケット、コブラービスケット)、パイ生地、パン(例えば、フォカッチャ、ブルスケッタ、サワードウブレッド、ソーダブレッド、ブレッドスティック、コーンブレッド)、ピザ生地、ベーグルが含まれる。甘い生地は、ブラウニー、クッキー、マフィン、ターンオーバー、ドーナツ、ケーキ、ペストリー、パイ、スコーンなどを作るために使用することができる。これは冷凍食物や缶詰食物などの混合料理に使用できる。例えば、これは、甘いスナック、風味豊かな食物、又は塩味のスナックに、例えば、ポテトチップス、パリパリした菓子、ナッツ、トルティーヤトスターダ、プレッツェル、チーズスナック、コーンスナック、ポテトスナック、インスタントポップコーン、電子レンジ対応ポップコーン、豚の皮、ナッツ、クラッカー、クラッカースナック、朝食用シリアル、肉、塩漬け肉、昼食/朝食用の肉、ピーナッツバターに使用することができる。これは、乳製品の代替品や類似品、例えば、アイスクリーム、アイスクリームデザート、フローズンヨーグルト、牛乳、生/低温殺菌牛乳、全脂肪生/低温殺菌牛乳、半脱脂生/低温殺菌牛乳、ロングライフミルク/UHT牛乳、全脂肪ロングライフ/UHT牛乳、半脱脂ロングライフ/UHT牛乳、無脂肪ロングライフ/UHT牛乳、ヤギ乳、練乳/無糖乳、プレーン練乳/無糖練乳、フレーバー練乳、機能性練乳、その他の練乳、フレーバーミルクドリンク、乳製品のみのフレーバーミルクドリンク、豆乳、サワーミルクドリンク、発酵乳飲料、コーヒークリーマー/ホワイトナー、粉ミルク、フレーバーパウダーミルクドリンク、クリーム、ヨーグルト、プレーン/ナチュラルヨーグルト、フレーバーヨーグルト、フルーツヨーグルト、プロバイオティクスヨーグルト、ヨーグルトドリンク、その他の乳製品ベースのデザートに使用することができる。これは、他の食物、例えば朝食用シリアル、シリアルフレーク、ミューズリー、子供用朝食用シリアル及びホットシリアルにも使用することができる。
【0341】
本発明の食物、飲料、又は飼料は、例えば、本発明の抽出された脂質、本発明の微生物細胞、本発明の微生物細胞抽出物又は組成物を含む。食物は固体又は液体のいずれかの形態であってよい。さらに、組成物は、特定の用途に望ましい量の食用主要栄養素、タンパク質、炭水化物、ビタミン、及び/又はミネラルを含んでもよい。これらの成分の量は、組成物が正常な個人への使用を意図しているのか、それとも代謝障害などに苦しむ個人などの特殊なニーズを有する個人への使用を意図しているのかに応じて変化するであろう。
【0342】
栄養価のある適切な成分の例には、限定されるものではないが、食用脂肪、炭水化物、タンパク質などの主要栄養素が含まれる。本発明の脂質以外のこのような食用脂肪の例には、限定されるものではないが、ココナッツ油、ルリチシャ油、真菌油、ブラックカラントオイル、大豆油、モノグリセリド、及びジグリセリドが含まれる。このような炭水化物の例には(限定されるものではないが)、グルコース、食用乳糖、加水分解デンプンが含まれる。さらに、本発明の栄養組成物に利用できるタンパク質の例には(限定されるものではないが)、大豆タンパク質、電気透析ホエー、電気透析スキムミルク、ミルクホエー、又はこれらのタンパク質の加水分解物が含まれる。
【0343】
ビタミン、及びミネラルに関しては、以下のものを本発明の食物、飲料、又は飼料に添加してもよい:カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、塩化物、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、セレン、ヨウ素、ビタミンA、E、D、C、及びB複合体。他のそのようなビタミンやミネラルも添加することができる。
【0344】
追加の成分には、食物グレードの油、例えばキャノーラ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、大豆油、オリーブ油、ココナッツ油、調味料、例えば食用塩(例えば、塩化ナトリウムや塩化カリウムなど)、又はハーブ(例えば、ローズマリー、タイム、バジル、セージ、又はミント)、香味剤、タンパク質(例えば、大豆タンパク質分離物、小麦グルチン、エンドウ豆ビシリン、及び/又はエンドウ豆レグミン)、タンパク質濃縮物(例えば、大豆タンパク質濃縮物)、乳化剤(例えば、レシチン)、ゲル化剤(例えば、K-カラギーナン又はゼラチン)、繊維(例えば、竹充填剤(bamboo filer)又はイヌリン)、又はミネラル(例えば、ヨウ素、亜鉛、及び/又はカルシウム)が含まれる。
【0345】
本明細書に記載される食物及び飼料は、天然着色料、例えばターメリック又はビートジュース、又は人工着色料、例えばアゾ染料、トリフェニルメタン、キサンテン、キニーネ、インジゴイド、二酸化チタン、赤色3号、赤色40号、青色1号、又は黄色5号を含むことができる。
【0346】
本明細書に記載される食物及び飼料は、肉の保存期限延長剤、例えば一酸化炭素、亜硝酸塩、メタ重亜硫酸ナトリウム、ボムバル、ビタミンE、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物、カテキン、及び他の抗酸化物質を含むことができる。
【0347】
本発明の食物、飲料、又は飼料で利用される成分は、半精製又は精製起源のものであり得る。半精製又は精製されたものとは、天然材料の精製又は新規合成によって調製された材料を意味する。
【0348】
1つの実施態様において、食物、飲料、又は飼料は動物由来の成分を含まない。すなわち、好ましい実施態様において、少なくとも一部の成分は植物材料又は植物由来の材料である。いくつかの実施態様において、食物、飲料、又は飼料は、大豆不使用、小麦不使用、酵母不使用、MSG不使用、及び/又はタンパク質加水分解生成物不使用であり得、肉のような風味があり、非常に風味が良く、異臭や異様な風味がないもの、又はそれらのレベルの低下しているものでもよい。
【0349】
さらに、本発明の組成物は、他の食物(例えば、肉レプリカ、肉代替品、豆腐、モックダック、又は他のグルテンベースの野菜製品、テクスチャード植物性タンパク質、例えばテクスチャード大豆タンパク質、豚肉、魚、子羊肉、又は家禽製品、例えば鶏肉や七面鳥製品)の味、食感、外観、口当たり、及び/又は香りプロフィールを調節するために使用することができ、調理前又は調理中に他の食物に適用することができる。
【0350】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の組成物は、組成物を加熱する際にメイラード反応を引き起こすのに必要な成分を含む。例えば、組成物は、(i)糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び(ii)アミノ酸又はその誘導体の一方又は両方を含んでもよい。
【0351】
適切な糖、糖アルコール、糖酸、及び糖誘導体には、グルコース、フルクトース、リボース、スクロース、アラビノース、グルコース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース1,6-二リン酸、イノシトール、マルトース、糖蜜、マルトデキストリン、グリコーゲン、ガラクトース、ラクトース、リビトール、グルコン酸、及びグルクロン酸、アミロース、アミロペクチン、又はキシロースが含まれる。
【0352】
適切なアミノ酸及びその誘導体には、システイン、シスチン、システインスルホキシド、アリシン、セレノシステイン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、5-ヒドロキシトリプトファン、バリン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、及びチロシンが含まれる。
【0353】
組成物はまた、別の1つ又はそれ以上の風味前駆体を含む油(例えば、植物油)、遊離脂肪酸、α-ヒドロキシ酸、ジカルボン酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ビタミン、ペプチド、タンパク質加水分解物、抽出物、リン脂質、レシチン、及び有機分子も含むことができる。
【0354】
本明細書に記載される食物、飼料、飲料、及び組成物は、調理前又は調理中に組成物を食物の上に振りかけるか又は広げることができるように、個々のパケット又はシェーカー内に密封することを含む様々な方法で包装することができる。
【0355】
本明細書に記載される食物、飲料、及び飼料は、熟練のパネリストを使用して、食感、外観、口当たり、風味、及び香りについて評価することができる。評価には、食物、飲料、又は飼料の製品の外観、色、完全性、食感、風味、口当たりなどを判断するために、製品を目で見て、感じて、咀嚼し、匂いを嗅ぎ、味わうことが含まれ得る。パネリストには、赤色光又は白色光の下で試料を提供することができる。スケールを使用して、食物の全体的な許容性や品質、あるいは肉感、食感、風味などの特定の品質特性を評価することができる。
【0356】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の食物、飲料、又は飼料を、嗅覚計の測定値に基づいて別の製品(例えば、肉又は肉代替品)と比較することができる。様々な実施態様において、嗅覚計は、臭気濃度、及び臭気閾値、参照ガスと比較した臭気閾値超過値、鑑賞の程度を決定するための快楽スケールスコア、又は臭気の相対強度を評価するために使用され得る。
【0357】
いくつかの実施態様において、GCMSを使用して特定された揮発性化学物質を評価することができる。例えば、ヒトは、特定のピークの原因となる化学物質の匂いを嗅いだ経験を評価することができる。この情報は、本発明の組成物によって生成されるフレーバー及び芳香化合物のプロフィールをさらに改良するために使用することができる。
【0358】
特徴的なフレーバーや香りの成分は、主に調理プロセス中に、植物や肉に含まれるアミノ酸、脂肪、糖などの化学反応分子によって生成される。従って、いくつかの実施態様において、食物、飲料、又は飼料は、調理中又は調理後に肉との類似性について試験される。いくつかの実施態様において、食物又は飼料の嗅覚マップを作成するために、ヒトによる格付け、ヒトによる評価、嗅覚計の測定値、若しくはGC-MS測定値、又はこれらの組み合わせが使用される。同様に、食物、飲料、又は飼料、例えば肉の模造品の嗅覚マップを作成することができる。これらのマップを比較して、調理済みの食物又は飼料が肉にどの程度似ているかを評価することができる。
【0359】
パーソナルケア製品
本発明の脂質は、医薬品、化粧品、トイレタリーなどのパーソナルケア製品に使用することができる。例には、アフターシェーブローション、ベビーローション、オイル、パウダー及びクリーム、ベビーシャンプー、ベースコート及びアンダーコート、バスカプセル、バスオイル、タブレット及びソルト、バスソープ及び洗剤、ひげ柔軟剤、頬紅、ボディ及びハンドプレパレーション、泡風呂、クリーニング製品、コロン及びトイレ用水、キューティクル柔軟剤、歯磨き剤、デオドラント、脱毛剤、潅水剤、ドレッシング、アイローション、アイメイクアップ各種製剤、アイメイクアップリムーバー、アイシャドウ、アイブロウペンシル、アイライナー、フェイスアンドネックプレパレーション、フェイスパウダー、女性用衛生用品消臭剤、フットパウダー及びスプレー、ファンデーション、芳香剤、ヘアブリーチ剤、ヘアカラースプレー、ヘアカラー各種製剤、ヘアコンディショナー、ヘアダイ及びカラー、カラー付きヘアライトナー、ヘア剤、ヘアリンス、ヘアシャンプー、ヘアスプレー、ヘアティント、ヘアウェーブセット、ヘアグルーミング補助具、室内日焼け剤、レッグアンドボディペイント、口紅、トローチ、化粧下地、メイク固定剤、メイクアップ剤、マニキュア剤、マスカラ、保湿剤、うがい薬及び口臭清涼剤、ネイルクリーム及びローション、爪延長剤、マニキュア及びエナメル、ナイトスキンケア剤、オーラルケア製品、口腔衛生製品、ペーストマスク、香水、個人用清潔製品、プレシェーブローション、ルージュ、サシェ、シャンプー、シェービングクリーム、シェービング剤、シェービングソープ、スキンケア各種製剤、皮膚清涼剤、日焼けジェル、クリーム及びリキッド、日焼け剤、歯磨き粉、歯磨きジェル、歯のホワイトニング製品、及びトニックが含まれる。
【実施例】
【0360】
実施例1.材料と方法
培地
YPD培地は、10g/L酵母エキス(Sigma Aldrich, カタログ番号Y1625)、20g/Lペプトン(Sigma Aldrich, カタログ番号P0556)、及び20g/Lグルコース(Sigma Aldrich, カタログ番号G7021)を含むリッチ培地である。YPDプレートにはさらに20g/Lの寒天が含まれている。SD-Ura培地には、酵母合成ドロップアウト培地(Sigma カタログ番号Y1501)が含まれていた。この培地には、必要に応じてウラシルを添加した。
【0361】
大規模培養用の培地
特に明記しない限り、大規模培養(2L以上)用の種培養物を調製するために使用した培地は、10.64g/Lのオルトリン酸二水素カリウム(KH2PO4)、4.0g/Lのオルトリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)、及び1.7g/Lのクエン酸(一水和物)を含む基本培地(BM)を有する規定培地(DM-Gluc)であった。これらの成分を、逆浸透により精製した必要量の約70%の水に溶解し、2M NaOHでpH6.0に調整し、精製水を使用して必要量に調製した。BMを121℃で20分間滅菌し、室温まで冷却した。次に、以下の成分を別々に添加した:30ml/Lの660g/Lグルコース(オートクレーブ処理済み)を最終濃度20g/Lまで、10ml/Lの1M硫酸マグネシウム七水和物(オートクレーブ処理済み)、10ml/Lの微量金属溶液(下記参照、フィルター滅菌済み)、10ml/Lの15g/Lチアミン塩酸塩(フィルター滅菌済み)、3ml/Lの10%(v/v)Sigma 消泡剤204(オートクレーブ滅菌済み)。
【0362】
2L及び10L培養用の発酵培地(FM)も基本培地としてBMを使用した。必要な量をバイオリアクターに加え、121℃で、オートクレーブ可能なバイオリアクターの場合は60分間の流体サイクルで滅菌し、定置蒸気バイオリアクターの場合は30分間滅菌し、そして31℃まで冷却した。以下の成分を基本培地1リットル当たり添加した:121ml/Lの660g/Lグルコース(オートクレーブ滅菌済み)を最終濃度80g/Lまで、5ml/Lの1M硫酸マグネシウム七水和物(オートクレーブ滅菌済み)、5ml/Lの微量金属溶液(下記参照、フィルター滅菌済み)、5ml/Lの15g/Lチアミン塩酸塩(フィルター滅菌済み)、及び50ml/Lの200g/L塩化アンモニウム(フィルター滅菌済み)。グルコース、マグネシウム、微量金属溶液、及びチアミン溶液を混合し、一緒にバイオリアクターに加えた。培地を配合した後、pHをチェックし、典型的には6.0よりわずかに低い値であった。pHコントローラーを使用してアンモニア溶液を培地に添加し、pHを6.0にした。
【0363】
小規模(50ml)培養及び2L以上の大規模培養も、より多くのTAG合成を誘導するために、8%(w/v)のグリセロールを含み、より低い窒素含有量を有する規定培地(DM-Glyc-LowN)で増殖させた。この培地はDM-Glucと同じであったが、但し、炭素源としてグルコースが80g/Lグリセロール(最終濃度)に置換され、(NH4)2HPO4含有量が0.5g/Lに減少された。より大きな培養物については、種培養物を、必要に応じてウラシル及び任意のアミノ酸を添加して、SD-Ura培地中で24~48時間増殖させた。種培養物の試料を遠心分離し、細胞をより大きな培養物に接種するために使用した。これらの培養物を48~96時間インキュベートし、特に明記しない限りpHを6.0に維持した。
【0364】
代替培地は、DM-Glyc-LowNと同じであったが、炭素源としてグルコース又はグリセロールを8%(w/v)で含み、低窒素レベルを得るために(NH4)2HPO4を最終濃度0.5g/Lの(NH4)2SO4で置換し、酵母抽出物を1g/Lで添加し、MgSO4及びクエン酸を省略した。これらの培地は、本明細書ではそれぞれDM-Gluc-LowN-LowMg及びDM-Glyc-LowN-LowMgと呼ばれる。
【0365】
上記の培地で使用した微量金属溶液(TM)は、1リットルあたり以下を含有した:2.0gのCuSO4・5H2O、0.08gのNaI、3.0gのMnSO4・H2O、0.2gのNaMoO4・2H2O、0.02gのH3BO3、0.5gのCoCl2・6H2O、7.0gのZnCl2、22.0gのFeSO4・7H2O、0.50gのCaSO4・2H2O、及び1mlの硫酸。試薬は記載された順序で加えられた。硫酸を添加すると、硫酸カルシウムが溶解した。微量金属溶液を0.2μmフィルターで濾過滅菌し、アルミホイルで包んだ瓶に入れて2~8℃で保存した。
【0366】
1つのpH制御試薬は、118mLの85%H3PO4を882mLの精製水に添加することによって調製されたリン酸溶液(10%w/v)であった。この溶液はオートクレーブ滅菌された。
【0367】
もう1つは、330mlの30%アンモニア溶液を670mlの精製水に添加することによって調製されたアンモニア溶液(10%v/v)であった。この溶液は自己滅菌性であると考えられた。100mlのSigma 消泡剤204を900mlの精製水と混合することにより10%の濃度を提供して、消泡剤溶液を調製した。混合物をオートクレーブ滅菌した。
【0368】
濾過滅菌した134mlの200g/L塩化アンモニウムを1Lの660g/Lグルコースに添加し、オートクレーブ滅菌して供給溶液を調製した。
【0369】
微生物株とクローニングベクター
エス・セレビッシェINVSc1株(ThermoFisher, カタログ番号C81000)及びD5A(ATCC200062)を、リン脂質を含む脂質の生成に関する実験の宿主株として使用した。トランス遺伝子の添加によって酵母におけるさまざまな脂質改変遺伝子を試験する場合、遺伝子導入のためのベースベクターとしてpYES2プラスミドを使用した。INVSc1及びpYES2は、Invitrogen (カタログ番号V825-20)から入手した。INVSc1の遺伝子型は、MATa his3Δ1 leu2 trp1-289 ura3-52/MATα his3Δ1 leu2 trp1-289 ura3-52であり、その表現型はHis-、Leu-、Trp-、及びUra-であった。pYES2ベクターは、本明細書に記載されるような様々なタンパク質をコードするDNA断片の挿入に使用されるユニークなHindIII及びXhoI制限酵素部位を有していた。pYES2発現ベクターは、Ura-である酵母株に導入するための選択マーカー遺伝子としてURA3遺伝子を、高コピー維持のための2μ複製開始点を、及び酵母におけるタンパク質コード領域の発現のための誘導性Gal1プロモーターを含んでいた。このプラスミドはまた、クローニング実験中に大腸菌で選択するためのアンピシリン耐性遺伝子も含有していた。
【0370】
ヤローウィア・リポリティカのいくつかの株はアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(Manassas VA, USA)から入手した:遺伝子型leu2-35 lys5-12 ura3-18 xpr2::LYS5Bを有するJM23株(ATCC90812)、leu2-35 lys5-12 ura3-18 xpr2::LYS5Bを有するIFP29株(ATCC20460)、及び野生型W29株(Casaregola et al., 2000)。
大腸菌DH5α株及びBL21株は、ThermoFisher Scientific から入手した(カタログ番号18265017、EC0114)。
【0371】
脂質分析のためのエス・セレビッシェとワイ・リポリティカ培養物の増殖
脂肪酸の生成、抽出、及び分析のための培養物に接種菌を提供するために、ワイ・リポリティカ又はエス・セレビッシェの小規模培養物を、5mlのYPD培地中で29℃で24時間増殖させた。実験のために、接種菌培養物を、例えば50~2000mlの容量を有する増殖培地中に、600nmの光学密度(OD600)が0.1になるまで希釈した。培養物は、10mlの培養物についてはポリプロピレンチューブ中で増殖させ、又はより大容量の場合にはガラスフラスコ中で増殖させ、この容器は培養物容量より少なくとも5倍大きい容量を有した。容器を3Mマイクロポア外科用テープ(カタログ番号1530-1)で密封し、特に指定のない限り29℃の規定温度で通気のために200rpmで、シェーカー内でインキュベートした。
【0372】
SD-Ura培地を使用した場合、2%グリセロール又はラフィノース(w/v)(MP Chemicals, USA、カタログ番号4010022)などの炭素源を使用した。培養物を、通気のために振盪しながら28℃で一晩インキュベートした。接種菌培養物を、2%(w/v)グリセロール又はラフィノースを含有する10mlのSD-Ura培地、又は指定された他の容量で希釈して、0.1の初期OD600を得た。50mlチューブ又は250mlフラスコ内の培養物を、通気のために28℃、200rpmの振盪機内でインキュベートした。OD600を15分又は30分の時間間隔でチェックした。OD600が0.3に達したとき、必要に応じて、GAL1プロモーターからトランス遺伝子を誘導するために、潜在的な基質(存在する場合)として外因性化合物を2%ガラクトースとともに添加した。
【0373】
pYES2誘導体などの形質転換体のために、3L容量のエス・セレビッシェ細胞の大規模培養物を増殖させた。これらはグリセロールストックから接種された。種培養物を、2%(w/v)ラフィノースを含む10mlのSD-Ura培地で最大48時間増殖させた。細胞を、2%(w/v)ラフィノースを含む3LのSD-Ura培地にOD600が0.1になるまで移し、28℃、200rpmで振盪しながら増殖させた。OD600を15分及び30分の時間間隔でチェックした。OD600が0.3に達したとき、トランス遺伝子を誘導するためにガラクトースを最終濃度2%(w/v)まで添加した。所望の場合、特に明記しない限り、酪酸ナトリウムを最終濃度2mg/mlになるように培養物に添加するか、又はステアリン酸ナトリウムを0.5mg/Lになるように添加した。次に、フラスコを滅菌アルミニウム箔で緩く閉じた。培養物をインキュベーター内で48時間増殖させた後、遠心分離によって細胞を採取した。
【0374】
大腸菌の培養物をグリセロールストックから5mlのLB培地中で24時間増殖させて、接種菌を得た。培養物をポリプロピレンチューブ又はガラスフラスコ中のLB培地でOD600が0.1になるまで希釈し、特に指定しない限り、通気のために37℃、200rpmで振盪機中でインキュベートした。
【0375】
細胞への脂質基質の供給
基質供給実験では、酵母と細菌接種菌培養物の両方を、1%テルギトール(Sigma-Aldrich カタログ番号NP40S)を含むそれぞれの増殖培地に0.1のOD600で希釈し、一定期間(典型的にはは2時間)振盪しながらインキュベートした。次に、脂肪酸、油、又は油加水分解物などの脂質基質を培地に添加し、培養物をさらに異なる期間インキュベートした。脂肪酸基質をエタノールに溶解し、最終濃度0.5mg/mlで培養物に加えるか、又は脂肪酸のナトリウム塩を水溶液として加えた。
【0376】
潜在的な炭素源又は基質として化合物を培地に添加する場合(供給アッセイ)、以下の化合物をSigma-Aldrich から入手した:エタノールアミン(カタログ番号110167)、塩化コリン(C7017)、ミオ-イノシトール(13011)、酪酸(B103500)、酪酸ナトリウム(B5887)、トリブチリン(W222305)、又はパルミチン酸(76119)。
【0377】
2L発酵のパラメーター
以下のパラメーターは、最大作業容量が2L培養物である3L(総容量)のSartorius Biostat B オートクレーブ可能バイオリアクターに使用された。開始時の培地容量は1Lであった。初期温度設定値は31℃で、プロセス中は変更されなかった。温度コントローラーの構成は、最小:-100%;最大:100%;XP:4%;TI:300秒;TD:75秒;デッド:0.0%;溶存酸素コントローラーを使用したカスケード制御;最小撹拌速度:500rpm;最大撹拌速度:1200rpm;pH制御設定値:6.0;pHコントローラー構成:最小:-100%、最大:100%、XP:30%、TI:30秒、TD:0秒、デッド:0.2%(0.02pH単位に相当)であった。自動pH制御に使用した酸と塩基は、10%H3PO4と10%アンモニア溶液であった。
【0378】
初期の溶存酸素設定値は30%であった。溶存酸素(DO)電極は、滅菌後及び媒体温度が31℃で安定した後に較正された。0%飽和は、純窒素、スターラー速度100rpm、及び窒素流量0.1L/分を使用して較正し、飽和は、スターラー速度は500rpm、空気流量は0.5L/分に設定して確立した。カスケード制御では、2工程のカスケードでスターラーを使用し、続いてガス混合を使用して空気流の酸素富化を得た。酵母細胞は泡の上に浮く傾向があるため、酸素富化を使用して空気流量を減らし、それにより、プロセスに悪影響を及ぼす可能性のある泡立ちを軽減した。空気流量は0.5L/分で一定であり、最小酸素富化率は0%、そして最大酸素富化率は50%であった。溶存酸素コントローラーの構成は、デッド:0%、最小:0%(510rpm)、最大:100%(1425rpm)、XP:90%、TI:50秒、TD:0秒に設定された。
【0379】
泡制御については、10% Sigma 消泡剤204を使用し、接種前に10%(v/v)Sigma 消泡剤204を10ml添加し、接種後7時間に20mlを添加し、接種後31時間に30mlを添加して、自動化学泡制御を実現した。泡コントローラーの構成は、サイクル:10秒、パルス:5秒、感度:04であった。
【0380】
目標接種OD600は0.20であり、これは二次種培養物を使用して、基本培地の開始容量に基づいて計算された。流加バッチモードでは、供給溶液の供給を、供給流速20ml/hで接種後14時間に開始した。各プロセスの完了時に、容器から水を抜き、遠心分離によって細胞を採取した。
【0381】
10L発酵のパラメーター
同じパラメーターが、最大作業容量10L培養の15Lの Sartorius Biostat C10 定置蒸気バイオリアクターに使用されたが、以下の違いがある。溶存酸素(DO)電極を較正するために、0%飽和は、スターラー速度100rpm、窒素流量1L/分で純窒素を使用して較正し、飽和は、スターラー速度500rpm及び空気流量を3L/分に設定して確立した。カスケード制御については、空気流量は3.0L/分で一定であった。溶存酸素コントローラーの構成は次のように設定された:HTimeスターラー:0分、デッド:0.5%、最小:510rpmで34%、最大:1425rpmで95%、XP:150%、TI:100秒、TD:0秒、HTime GasMix:0分、デッド:0.5%、最小:0%(酸素補給なし)、最大:50%、XP:5%、TI:200秒、TD:0秒。
【0382】
2L発酵に関しては、二次種培養物を使用した場合の目標接種物OD600は0.20であった。流加バッチモードでは、供給溶液による供給は、接種後14時間に供給流速100ml/hで開始した。各プロセスの完了時に、特に明記しない限り、接種から24時間後、培養物を105℃で5分間熱不活性化し、次に31℃に冷却した後、遠心分離によって細胞を採取した。
【0383】
大規模培養物のための種培養
一次種培養では、酵母菌株の凍結グリセロールストックを使用して、通気キャップ付きのプラスチックバッフル付き1L三角フラスコ内の100mLのDMに接種した。これを、通気のために200rpmで振盪しながら28℃で24±2時間インキュベートした。インキュベーションの終了時に、600nmの光学密度(OD600)を測定した。二次種培養物は、一次種子培養物を使用して、通気キャップ付きのプラスチックバッフル付き2L三角フラスコ中の500mLのDMに、開始OD600が0.04になるまで接種することによって調製した。第2の種培養物を、28℃、200rpmで振盪しながら16±2時間インキュベートした。OD600はインキュベーションの終了時に測定された。この培養物を大規模発酵に接種するために使用した。
【0384】
細胞の採取、洗浄、及び凍結乾燥
小規模培養物から細胞を、例えば50mlチューブ中で4600gで15分間の遠心分離によって採取し、10mlの MilliQ 水で2回洗浄し、最後に1mlの MilliQ 水で洗浄した。最終洗浄では、乾燥細胞重量を測定するため、細胞懸濁液をあらかじめ秤量した2mlエッペンドルフチューブに移し、遠心分離し、細胞ペレットを凍結乾燥(VirTisベンチトップ凍結乾燥機、SP Scientific)した後、秤量し脂質抽出を行った。ARA、DGLA、γ-リノレン酸(GLA)、酪酸塩、又はパルミチン酸塩などの脂質基質を増殖培地に添加した場合、細胞ペレットは1mlの1%テルギトール(v/v)、1mlの0.5%テルギトールで連続的に洗浄され、1mlの水で最終洗浄して、細胞の外側から残りの基質を除去し、上記のように凍結乾燥した。油を増殖培地に添加した場合、細胞は上記と同様に遠心分離によって採取したが、細胞ペレットは5mlの10%テルギトール(v/v)、5mlの5%テルギトール、5mlの1%テルギトール、5mlの0.5%テルギトールで連続的に洗浄し、及び5mlの水で最終洗浄して、細胞の外側から残っている油を除去した。場合によっては、Bodipyで染色した後の顕微鏡観察により、細胞壁に油汚れが付いていないことを確認した。最後の洗浄により、ペレットを予め秤量した2mlエッペンドルフチューブに移し、凍結乾燥した後、秤量して脂質抽出を行った。
【0385】
酵母細胞からの脂質抽出
Bligh and Dyer (1959) を改変した方法を使用して、総細胞脂質をエス・セレビッシェ又はワイ・リポリティカなどの酵母細胞から抽出した。約50mgの凍結乾燥細胞を、2mlエッペンドルフチューブ中の0.5gの酸化ジルコニウムビーズ(カタログ番号ZROB05、Next Advance, Inc., USA)を含むクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)の混合物0.6mlを用いて、ブレットブレンダーブルー(Bullet Blender Blue)(Next Advance, Inc. USA)を速度6で5分間使用してホモジナイズした。次に、混合物を超音波処理水浴中で5分間超音波処理し、0.3mlの0.1M KClを加えた。混合物を10分間振盪し、10,000gで5分間遠心分離した。脂質を含む下層の有機相をガラスバイアルに移し、細胞破片を含む上層を0.4mlのクロロホルムと20分間混合し遠心分離することによって残りの脂質を抽出した。下相を収集し、ガラスバイアル内の最初の抽出物と合わせた。窒素ガス流下で脂質試料から溶媒を蒸発させ、抽出した脂質を測定量のクロロホルムに再懸濁した。必要に応じて、脂質試料をさらなる分析まで-20℃で保存した。
【0386】
より大きなバイオマスからの脂質抽出
より大きなバイオマスから総脂質を抽出するために、特に明記しない限り、より大量の溶媒を使用して、異なる細胞ホモジナイゼーション方法を使用した。6個の50ml Cellstarポリプロピレンチューブ(6×チューブA)(カタログ番号227261、Greiner bio-one)に分配した約1.5gの凍結乾燥細胞を、チューブ当たり9mlのクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)で Ultra-Turrax T25ホモジナイザー(IKA Labortechnik Staufen, Germany)を使用して3分間ホモジナイズした。各チューブに3mlの1M KClを加えた後、さらに2分間ホモジナイゼーションを行った。各チューブを6,000gで3分間遠心分離した。下相を新しいチューブ(チューブB)に移し、溶媒を室温で窒素流下で蒸発させた。上相を1gのガラスビーズと、Vibramax ミキサー中で10分間、そして1分間激しくボルテックスしながら混合した。6mlのクロロホルムを各チューブに加え、再度3分間混合した。遠心分離後、下相をチューブBに移し、室温で窒素ガス流下で溶媒を蒸発させた。残りの脂質を抽出するために、チューブAの上相をさらに6mlのクロロホルムと混合し、3分間混合した。遠心分離後、下相を再びチューブBに移した。3mlのメタノール及び3mlの0.1M KClをチューブBに加え、3分間混合した。下相をファルコンチューブに移し、窒素ガス流下、室温で溶媒を蒸発させた。抽出した脂質をクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)に溶解し、-20℃で保存した。
【0387】
薄層クロマトグラフィーによる脂質分画
TAG、DAG、遊離脂肪酸、及び極性脂質、例えばリン脂質(PL)などのさまざまなタイプの脂質を分離するために、総脂質を薄層クロマトグラフィー(TLC)プレート(シリカゲル60、カタログ番号1.05626.0001、MERCK, Darmstadt, Germany)により、溶媒系としてヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸(70/30/1v/v/v)を使用して分画した。TAG、DAG、FFA、及びMAGを含む18-6A(Nu-Chek Prep Inc, USA)などの脂質標準物質の試料を隣接するレーンで流して、さまざまな脂質スポットを同定した。短鎖脂肪酸(SCFA)を含むさまざまなTAGを区別する場合、トリヘプタデカノインを含む標準物質(Nu-Chek USA、カタログ番号T-155)、等量のトリアセチンを含むトリグリセリド混合物C2~C10(TAG6:0)、トリブチリン(TAG12:0)、トリカプリリン(TAG18:0)、及びトリデカノイン(TAG30:0)(Sigma-Aldrich 、カタログ番号17810-1AMP-S)を隣接するレーンで流して、TAG脂質スポットを同定した。クロマトグラフィーの後、プレートにアセトン:水(80/20v/v)中5mg/100mlの濃度で調製したプリムリン(カタログ番号206865、Sigma, Taufkirchen, Germany)溶液をスプレーし、脂質バンドを紫外線の下で視覚化した。各スポットから脂質を含むシリカを削り取り、チューブに移した。脂質画分は、メチル化、プロピル化、又はブチル化のいずれかを使用して、誘導体化するためにシリカから抽出された。
【0388】
総脂質からのPLとAGの大規模分画
8枚のTLCプレート(シリカゲル60;カタログ番号1.05626.0001、MERCK, Darmstadt, Germany)のそれぞれの18cmライン上に脂質をロードすることによって、PL及びTAGが総脂質約100mgから分画され、ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70:30:1、v:v:v)からなる溶媒混合物を用いてクロマトグラフィーにかけられた。TAG、DAG、FFA、及びMAGを含む脂質標準物質(18-6A;NuChek Inc, USA)のアリコートを並行して分析して、脂質バンドの同定の助けとした。プレートをプリムリンで染色し、UV光下で可視化した後、起点に位置するPLバンド及びTAG標準物質と同じ移動度を有するTAGバンドを収集し、ファルコンチューブに移した。脂質/シリカ試料をクロロホルム6mlとメタノール3mlの混合物で抽出し、5分間激しく混合し、次に3mlの水を加えて、さらに5分間混合した。3,000gで5分間遠心分離した後、下部の有機相を新しいチューブに移した。3000rcfで5分間遠心分離した後、下相をファルコンチューブに移した。上相を5mlのクロロホルムと5分間混合して、残っている脂質を抽出した。遠心分離後、下相を最初の抽出物と合わせた。窒素ガス流下で溶媒を蒸発させた。抽出した脂質(TAG又はPL)を少量のクロロホルムに溶解し、0.2μmマイクロスピンフィルター(Chromservis, EU、カタログ番号CINY-02)で濾過して全ての微粒子を除去した。各PL及びTAG画分の脂肪酸組成及び量は、FAMEの調製及びGC分析によって決定された。このような調製物は、例えば、PC、PE、PI、及びPSなどの異なる極性脂質クラスの分離、又は芳香試験や反応生成物としての揮発性化合物の検出のためのメイラード反応に使用された。
【0389】
脂肪酸メチルエステル(FAME)への脂質の誘導体化
GCによる分析のために、脂肪酸メチルエステル(FAME)を、PTTEで裏打ちされたスクリューキャップを備えた2mlのガラス中の0.7mlの1Nメタノール性HCl(Sigma-Aldrich 、カタログ番号90964)で80℃で2時間処理することにより、総抽出脂質又は精製TAG若しくはPL画分から調製した。トルエンに溶解された既知量のヘプタデカノイン(Nu-Chek Prep, Inc.、カタログ番号N-7-A、Waterville, MN, USA)を各試料に添加した後、定量のための内部標準物質として処理した。バイアルを冷却後、0.3mlの0.9%NaCl(w/v)及び0.1mlのヘキサンを加え、混合物を5分間ボルテックス混合した。混合物を1700gで5分間遠心分離し、FAMEを含む上層のヘキサン相をGCで分析した。
【0390】
GCによるFAMEの分析と定量
個々のFAMEを、30mのSGE-BPX70カラム(70%シアノプロピルポリシルフェニレンシロキサン、内径0.25mm、膜厚0.25μm)、スプリット/スプリットレスインジェクター、及びAgilent Technologies 7693シリーズオートサンプラーとインジェクター、及び水素炎イオン化検出器(FID)を備えた Agilent 7890A GC(Palo Alto, California, USA)を用いて、GCにより同定及び定量した。試料は、オーブン温度150℃でスプリットモード(比率50:1)で注入された。カラム温度は、150℃で1分間、3℃/分で210℃まで上昇、2分間保持して、50℃/分で240℃に到達し、次に240℃で0.4分間保持するようにプログラムされた。インジェクターの温度は240℃、検出器の温度は280℃に設定された。ヘリウムをキャリアガスとして1.0ml/分の一定流量で使用した。FAMEピークは、FAME標準物質(GLC-411、GLC-674、Nu-Chek Inc., USA)の保持時間に基づいて同定された。ピークは、既知量の外部標準物質GLC-411(NuChek)とC17:0-ME内部標準物質の応答に基づいて、Agilent Technologies ChemStation ソフトウェア (Rev B.04.03 (16), Palo Alto, California, USA) を用いて積分された。得られたデータは、脂肪酸組成を重量ベースで示し、総脂肪酸含有量100%中の各脂肪酸の割合(重量%)を示す。これらの重量ベースの割合は、各脂肪酸の既知の分子量に基づいて、モルベースの割合(モル%)に容易に変換することができる。
【0391】
トリアシルグリセロールのけん化
遊離脂肪酸は、1mgのTAGを0.2mlの3M KOH中で80℃で3分間インキュベートすることによってTAGから放出された。試料を室温まで冷却した後、100μlのヘキサンを混合物に添加した。混合物を5分間ボルテックス混合し、1700gで5分間遠心分離し、上部有機相をGC分析のために収集した。
【0392】
エチルエステル又はプロピルエステルへの脂質の誘導体化
TAG内の脂肪酸を脂肪酸エチルエステル(FAEE)に変換するために、2mgのTAGを1N HCl/エタノール溶液中で80℃で2時間インキュベートした。試料を室温まで冷却した後、100μlのヘキサンを混合物に加えた。混合物を5分間ボルテックス混合し、1700gで5分間遠心分離し、上部有機相をGC分析のために収集した。TAG内の脂肪酸を脂肪酸プロピルエステルに変換するために、2mgのTAGを1N HCl/エタノールではなく1N HCl/プロパノール中でインキュベートし、その他は同様に処理した。
【0393】
GC-MSによるピーク本体
GC-FIDクロマトグラム内の未知の又は不確実なピークの本体は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)によって確認された。試料を70eVの電子イオン化モードで動作するGC-MSで分析して、ピークの同一性を確認し、可能性のある汚染、分解生成物、又は試薬シグナルに対応する可能性のある余分なピークを特定した。HTX-Pal液体オートサンプラーに接続されたShimadzu GC-MS QP2010 Plus(Shimadzu Corporation, Japan)システムを次のパラメーターを用いて使用した:250℃の温度で15:1分割のスプリット/スプリットレス注入口を使用する1又は2μlの注入量。使用したオーブン温度プログラムはGC-FIDの場合と同じであった。MSイオン源とインターフェースの温度は、それぞれ200℃と250℃であった。データは、スキャン速度1000、スキャン範囲40~500m/zで収集された。ピーク分離は、キャリアガスとしてHeを30cm/秒で使用する Stabilwax 又は Stabilwax-DA(Restek/Shimadzu)キャピラリーカラム(30mx×径0.25mm、膜厚0.25μm)によって行った。質量スペクトルの相関付けは、NISTライブラリ、保持指数、及び利用可能な標準物質の一致する保持時間を使用して実行された。特定されたSCFAは、S/N比が10:1を超える場合に存在すると設定された。器具ブランク及び操作ブランクは、品質管理の目的で実行された。
【0394】
組換えDNA法
エス・セレビッシェで試験するために挿入された単一遺伝子を有するpYES2の誘導体を、必要に応じてプラスミド内の特有のHindIIIとXhoI部位又は他の制限酵素部位にタンパク質コード領域を、標準的なクローニング法により挿入することによって作製した。大腸菌DH5α株を、標準的な方法に従ってクローニング及びプラスミド増殖及びDNA調製で使用した。
【0395】
Golden Gate(GG)法(Larroude et al., 2018)は、単一ベクター内の複数の発現カセットの迅速かつ効率的なコンビナトリアルアセンブリを可能にするため、エス・セレビッシェ又はワイ・リポリティカで試験するための多重遺伝子構築体の作成に使用した。GG DNA部分とドナーベクター(L0ベクターとも呼ばれる)を、Celinska et al. (2017) とLarroude et al. (2018)に従って、Addgene, USAから入手した。DNA部分にはプロモーター(GGE146、GGE151、及びGGE294)、ターミネーター(GGE014、GGE015、GGE080、GGE020、及びGGE021)が含まれ、バックボーンアセンブリベクター(目的地ベクター)はGGE114であった。
【0396】
GGアセンブリによるベクターへの挿入のためのタンパク質コード領域は、Twist Bioscience and GeneArt オンラインソフトウェア (Twist Bioscience: www.twistbioscience.com/products/genes; ThermoFisher/GeneArt: www.thermofisher.com/au/en/home/life-science/cloning/gene-synthesis/geneart-gene-synthesis.html) を使用して、エス・セレビッシェ又はワイ・リポリティカについてコドン最適化され、Twist Bioscience 又は GeneArt (ThermoFisher, USA)で、又は研究室で合成された。BsaI部位はGGアセンブリ法で使用されたため、タンパク質コード領域のコドン最適化ヌクレオチド配列では、内部BsaI制限酵素部位は回避された。NotIはワイ・リポリティカの形質転換のための遺伝子構築体を線形化するために使用されたため、ヌクレオチド配列内ではNotI制限酵素部位も回避された。1つ、2つ、又は3つの遺伝子を1つのベクターに挿入する場合、個々の成分は、各翻訳開始コドン(ATG)の5'、及び翻訳終止コドンの3'のすぐ近くの4ヌクレオチドのオーバーハング、バックボーンベクターGGE114内の成分の位置に依存する各4ヌクレオチドのオーバーハングを用いて、表3に従って、個々の成分が設計された。適切な4ntオーバーハングを有する外部BsaI部位を、各DNA鎖の5'末端に付加した。連続成分間で使用される4ntオーバーハング配列は、当技術分野で知られているように、各部位で任意の4ヌクレオチド配列を使用して、連続成分間の結合を可能にするように変えることができる。
【0397】
アンピシリン選択マーカー遺伝子を有するGGバックボーンベクターGGE114を用いてGG反応を行う際の偽陽性を避けるために、タンパク質コード領域をカナマイシン選択マーカー遺伝子を有するクローニングベクター内で合成した。標準的な方法に従って、大腸菌DH5α株株をクローニング及びプラスミド増殖に使用した。形質転換細胞を選択するために抗生物質を適宜使用し、例えば、アンピシリン選択マーカー遺伝子を有する構築体の選択のためにアンピシリンを100μg/mLで添加した。
【0398】
デスティネーションベクターGGE114には赤色蛍光タンパク質(RFP)発色団が含まれており、これは、Larroude et al. (2018)が記載しているように、大腸菌でのネガティブクローニングのカラーベースの視覚マーカーとして機能する。ベクターGGE114はいわゆるデスティネーションベクターであり、細菌レプリコンに加えて、ワイ・リポリティカゲノムへのより効率的な組み込みのためのZETA配列とURA3選択マーカー遺伝子を含み、これは、この組み合わせを使用して、高コピー維持のための2μ起点を含むバックボーンベクターpYES2に組み立てるべき断片の数を減らすことを目的としている。この場合、RFPはURA3マーカー遺伝子とZETAdownの間にあった。BsaI酵素の存在下では、RFPが放出され、1、2、又は3つの転写単位(TU;プロモーター-タンパク質コード領域-ターミネーター)が挿入された。
【表3】
【0399】
GGアセンブリ反応ミックスは、0.75μlの10×T4リガーゼ緩衝液、0.75μlの10×BSA(ウシ血清アルブミン)、0.75μlのBsaI HF-V2(NEB)、0.5μlのT4リガーゼ(NEB)を加えることにより、最終容量7.5μl中に等モル量(50ng)のGGE114などのGGバックボーンベクター、及び他のDNA成分(ドナーベクター)を含有した。反応混合物を、37℃で3分間、続いて16℃で4分間を25サイクル、次に50℃で5分間及び80℃で5分間を1サイクルでインキュベートした。2~3μlの試料を、標準的な方法により大腸菌DH5α株のコンピテント細胞に導入した。RFPが欠如したコロニーは、適切なプライマーを用いるコロニーPCRによって所望の遺伝子挿入体を含むことが確認され、制限消化物で証明された。グリセロールストックを作成し、-80℃で保存した。
【0400】
エス・セレビッシェの形質転換
コンピテント細胞を使用しない、pYES2に基づく遺伝子構築体のエス・セレビッシェへの導入には迅速な方法が使用された。白金耳一杯のエス・セレビッシェ細胞を新しいプレートからこすり取り、細胞を100μlの形質転換緩衝液(Sigma-Aldrich 、カタログ番号T0809)に再懸濁した。使用前に5分間煮沸した10μlの10mg/mlサケ精巣DNAを含む約1μgのプラスミドDNAを、600μlのプレート緩衝液(Sigma-Aldrich 、カタログ番号P8966)とともに細胞懸濁液に添加し、よく混合した。混合物を室温でローターホイール内で最低速度で16時間インキュベートした。次に、混合物に42℃で15分間熱ショックを与え、3500rpmで3分間遠心分離し、細胞のペレットを200μlの滅菌水に再懸濁した。形質転換体の選択のために、最大100μlのアリコートを、ウラシルが欠如した合成ドロップアウト選択培地(SD-URA、Sigma-Aldrich 、カタログ番号Y1501)上にプレーティングした。プレートを28℃で3日間又はコロニーが出現するまで、インキュベートした。各プレートから2つ以上のコロニーを取り上げ、コロニーPCRによって遺伝子構築体の存在を検査して、形質転換体を同定した。
【0401】
発現カセットの組み込みのためのワイ・リポリティカの形質転換
相同組換えによるワイ・リポリティカへの挿入のための発現カセット(転写単位)を含む遺伝子構築体のDNAを、NotI又は他の適切な制限酵素で消化して発現カセットを放出させた。線状化DNAを、Frozen-EZ Yeast Transformation II キット(Zymo Research, California, USA)を使用して調製した、選択したUra-ワイ・リポリティカ株又は所望の他の受容体株のコンピテント細胞に導入した。簡単に説明すると、NotIで消化し直線化した発現ベクター5μl(2μg)を、50μlコンピテント細胞及びキットの500μlのEZ3溶液と混合し、完全に混合した。陰性対照の形質転換は、遺伝子構築体のいかなるDNAも含まないコンピテント細胞を含有した。混合物を28℃で2時間インキュベートし、次に100μlをSD-Uraプレートに、又は必要に応じて他の選択プレート、例えば抗生物質含有培地上に広げた。プレートを28℃で2日間インキュベートした。受容体株が機能的URA3遺伝子が欠如した栄養要求株である場合、URA遺伝子を有するベクターを受け取った形質転換体のみがこれらのプレート上で増殖した。ワイ・リポリティカ形質転換では多くのコロニーが得られた。Ura+又は抗生物質耐性コロニーを選択プレートから取り上げ、導入された遺伝子構築体及び目的の遺伝子改変に対応する表現型について、コロニーPCRによって形質転換されたことを確認した。
【0402】
遺伝子発現解析
トランス遺伝子の発現は、細胞からRNAを精製するためのDNase RQ1 キット(Promega カタログ番号M6101)とQiagenカラム(Qiagen RNAse-free DNAse)、及び標準的な方法を使用する逆転写用のオリゴdTプライマー(200~500ng)、dNTP(10mM)、Superscript III 逆転写酵素、及び0.1M DTTを使用して分析した。
【0403】
実施例2.微生物からの脂質の抽出
エス・セレビッシェやワイ・リポリティカなどの酵母からの脂質抽出は、これらの微生物の細胞壁が硬いため、より困難になる。酵母からの細胞破壊及び脂質抽出については、機械的、酵素的、化学的、浸透圧ショック、及びマイクロ波による細胞破壊法を含む様々な方法が文献に記載されている(Hein and Hayen, 2012)。Chisti and Moo-Young (1986) は、微生物細胞の破壊の機械的、化学的、酵素的方法、並びに浸透圧ショックによる細胞溶解をレビューした。Hegel et al. (2011) は、超臨界二酸化炭素を使用する酵母からの脂質抽出について記載した。Peter et al. (2017) は、酸化ジルコニウムビーズ、ブレットブレンダー、及び水浴超音波処理器を使用して、水/メタノール溶媒混合物中でシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)細胞の細胞破壊とホモジナイゼーションを報告した。
【0404】
以下の実施例に記載の試験を実施するには、簡単で高処理能力かつ小規模な脂質抽出法が所望された。従って本発明者らは、エス・セレビッシェ及びワイ・リポリティカから脂質を抽出するためのいくつかの方法及び変法を試験し、特に脂質を抽出し抽出効率を試験するための有機溶媒による細胞物質の細胞壁破壊及びホモジナイゼーションのためのいくつかの方法を試験した。
【0405】
実験1-エス・セレビッシェからの脂質の抽出
KCl溶液又はメタノールの存在下で、細胞破壊のために超音波処理を使用して酵母細胞からの脂質抽出効率を試験することを目的とする最初の実験で、エス・セレビッシェINVSc1株を5mlのYPD培地で3日間増殖させた。細胞を遠心分離によって採取し、実施例1に記載のように水で洗浄し凍結乾燥した。2mlチューブ中の約25mgの同一の乾燥細胞ペレットを4つの方法で処理した:
【0406】
1A.KCl溶液中でホモジナイゼーション、クロロホルム/メタノールを使用して脂質抽出。
1B.KCl溶液中でホモジナイゼーション、5分間の超音波処理、クロロホルム/メタノールを使用して脂質抽出。
2A.メタノール中でホモジナイゼーション、クロロホルム/メタノール/KClを使用して脂質抽出。
2B.メタノール中でホモジナイゼーション、5分間の超音波処理、クロロホルム/メタノール/KClを使用して脂質抽出。
【0407】
方法1Aでは、0.3mlの1M KClをチューブに加え、ジルコニウムビーズ(カタログ番号ZROB05、Next Advance, Inc., USA)とブレットブレンダーブルー(Next Advance, Inc., USA)を使用して速度8で3分間撹拌し、続いて0.4mlのメタノールと0.8mlのクロロホルムを添加して、細胞を破壊した。混合物を5分間振盪し、10,000gで5分間遠心分離した。脂質を含む下相をガラスバイアルに移した。方法1Bの唯一の違いは、メタノールの添加後でクロロホルムの添加前に、水浴超音波処理装置(Bransonic M2800H-E, Branson Ultrasonic Corporation, USA)を5分間使用して、混合物を超音波処理する追加の工程であった。方法2Aでは、酵母細胞及びジルコニウムビーズを含むチューブに0.3mlのメタノールを添加し、ブレットブレンダーでホモジナイズし、続いて0.3mlの1M KCl、0.1mlのメタノール、及び0.8mlのクロロホルムを添加した。混合物を振盪し、遠心分離し、前と同様に下相を収集した。方法2Bは、ブレットブレンダーで細胞を破壊した後に超音波処理を行ったことを除いて、2Aと同じであった。
【0408】
各試料について、窒素ガス流下で脂質試料から溶媒を蒸発させ、抽出された脂質を測定量のクロロホルムに溶解させた。各試料中の抽出された脂質の量を測定するために、クロロホルム中の脂質の測定アリコートを、PTTEで裏打ちされたスクリューキャップを備えたGCバイアルに移した。窒素ガス下でクロロホルムを蒸発させた後、既知量のトリヘプタデカノイン(Nu-Chek Prep, Inc.、カタログ番号T-155、Waterville, MN, USA)をバイアルに添加した。各脂質試料中の脂肪酸を、実施例1に記載したように、FAMEに変換しGCによって測定した。ピーク面積を積分し、既知量のヘプタデカノインと比較して、抽出された脂質中の脂肪酸の重量を算出した。
【0409】
抽出前に細胞内に存在する脂質の総量を測定するための対照として、二重の同一の細胞ペレット中のすべての脂質を、メタノール性HClとトリヘプタデカノインによる直接メチル化によってFAMEに変換し、GCで分析した。2つの対照の平均は、細胞脂肪酸含有量の100%と見なされる総脂肪酸含有量を与えた。抽出された脂質中の総脂肪酸含有量と細胞脂肪酸含有量の比較により、試験した4つの方法の抽出効率が得られた。
【0410】
表4はこの実験のデータを提供する。この実験で試験した4つの方法のうち、方法2Bが凍結乾燥エス・セレビッシェ細胞から最も効率的な脂質抽出を提供し、全細胞脂肪酸含有量の62.4%の収率を示した。方法2Bには、ジルコニウムビーズとブレットブレンダーを使用するメタノール中での細胞の破壊と、次の超音波処理が含まれた。一方、方法1Bでは、KCl溶液中でのホモジナイゼーションと超音波処理による細胞破壊により、26.2%の脂質抽出効率が得られた。方法1A及び2Aでは超音波処理が使用されなかったため、脂質抽出効率が低かった。
【0411】
実験2
より大きな細胞試料を用いて脂質抽出効率を推定し、細胞をクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)の混合液中で破壊する方法と比較するために、別の実験を実施した。約47mgの乾燥細胞ペレットと0.5gのジルコニウムビーズを2mlのエッペンドルフチューブに移した。方法3Aでは、超音波処理を使用して脂質抽出効率を試験した。このために、0.4mlのメタノールをチューブに加え、混合物を水浴中で40℃で10分間超音波処理した。次に、0.3mlの1M KClと0.8mlのクロロホルムをチューブに添加し、混合物を5分間ボルテックス混合し、続いて10,000gで5分間遠心分離した。下相をガラスバイアルに集めた。0.8mlのクロロホルムを添加し、混合物を5分間ボルテックス混合し、続いて遠心分離して下相を収集することにより2回目の抽出を行って、これをガラスバイアル中の最初の抽出物と合わせた。方法3Bでは、ジルコニウムビーズとブレットブレンダーの両方を速度8で5分間使用し、0.4mlのメタノール中で細胞を破壊するために10分間超音波処理したが、それ以外は方法3Bと同じであった。方法4では、メタノールではなくクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)の混合物中で細胞破壊を試験した。抽出された脂質は実験1と同様に処理され定量された。実験1と同様に、細胞試料中の脂肪酸の直接メチル化により、総脂肪酸含有量が得られ、100%と見なした。
【0412】
データは表4に示される。細胞をメタノール中で超音波処理により破壊した場合(方法3A)、総脂質含有量の27%が細胞から抽出された。ブレットブレンダーを使用し、さらに超音波処理によりメタノール中で細胞を破壊すると、総脂質の46.4%が得られた。一方、クロロホルム/メタノール(2/1、v/v)の混合物中で細胞を破壊し、続いて超音波処理すると、エス・セレビッシェから抽出された脂質が最低レベルとなった。
【0413】
実験3
3回目の実験では、メタノール中で細胞をホモジナイゼーションするために、ガラスビーズ、ジルコニウムビーズ、又は金属ボールを使用し、及びビーズビーター又はボルテックス混合を使用して、エス・セレビッシェ 細胞からの脂質抽出効率を比較した。前の実験と同様に10mlの培養物から細胞を取得し、同一の細胞ペレットを処理した。ガラスビーズ、ジルコニウムビーズ、又は金属ボールをチューブに加え、以下のようにボルテックス混合するか、ブレットブレンダーを使用して混合した。
【0414】
方法5:0.3mlのメタノール、0.5gのガラスビーズ(カタログ番号G8772、Sigma)、及び2つの1mm金属ボールを、細胞ペレットを含むチューブに加え、Vibramaxを使用して10分間ボルテックス混合した。
【0415】
方法6:0.3mlのメタノール、0.5gのジルコニウムビーズ(カタログ番号ZROB05、Next Advance, Inc., USA)、及び2つの1mm金属ボールを、細胞を含む第2のチューブに加え、10分間ボルテックス混合した。
【0416】
方法7:0.3mlのメタノール及び0.5gのジルコニウムビーズを、細胞ペレットを含む第3のチューブに加え、10分間ボルテックス混合した。
【0417】
方法8:0.3mlのメタノール及び0.5gのジルコニウムビーズを、細胞ペレットを含む第4のチューブに加え、TissueLyser II(Qiagen Inc., Germantown, MD, USA)中で25rpm/秒で3分間振盪した。
【0418】
ホモジナイゼーション後、0.4mlの1M KCl、0.1mlのメタノール、及び0.8mlのクロロホルムを各チューブに加え、混合物をさらに5分間ボルテックス混合した。混合物を10,000gで5分間遠心分離し、下層のクロロホルム相をガラスバイアルに移した。前の実験と同様に、抽出された脂質試料を乾燥させ、脂肪酸をFAMEに変換し、GCで定量した。
【0419】
脂質抽出プロセス中、混合物の遠心分離後の界面に細胞破片が蓄積した。細胞破片に残っている脂質を測定して、総脂質含有量を決定するために、細胞破片を凍結乾燥機で乾燥させた。既知量のトリヘプタデカノインを加え、0.7mlのメタノール性HClを使用して80℃で2時間インキュベートすることにより脂肪酸をFAMEに変換した。FAMEは、以前と同様にGCにより定量された。
【0420】
データは表4に示される。最も効率的な抽出は、ジルコニウムビーズをビーズビーターと共に使用する方法8であり、総脂肪酸含有量の66.5%が抽出された。方法5~7では、方法8より抽出された脂質の量が少なかった(表4)。ビーズビーターを使用する脂質抽出の効率(方法8)は、ブレットブレンダーと超音波処理とを使用する細胞破壊を含む方法2B及び3Bと同様であった。最初の抽出後に細胞破片中に残存する脂質の脂肪酸組成は、抽出された脂質の脂肪酸組成と同じであった。
【表4】
【0421】
実験4.ワイ・リポリティカからの脂質の抽出
主な目的が細胞の脂肪酸組成を決定することであり、最大の抽出効率は必要なかったワイ・リポリティカにおける多くの分析について、本発明者らは、試料の高処理能力に適しているが十分な抽出脂質を提供する、より簡単な方法を日常的に使用することにした。この結論は、抽出された脂質の脂肪酸組成が細胞破片中に残っている残留脂質の組成と同じであり(表4)、従って細胞の脂肪酸含有量を代表するという上記の実験で得られた観察を考慮したものであった。簡単に説明すると、実施例1に記載したこの方法では、乾燥細胞ペレットをホモジナイズし、ジルコニウムビーズを含むクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)溶液中の細胞をブレットブレンダーを使用して破壊し、続いて水浴超音波処理器内で超音波処理し、20分間混合した。KCl溶液の添加後、混合物を10分間ボルテックス混合し、遠心分離して相を分離した。下相を収集した。上相に残っている脂質を別量のクロロホルムを使用して抽出し、抽出物を合わせて乾燥させた。
【0422】
培養物を遠心分離により採取した直後、ワイ・リポリティカ細胞を105℃で5分間熱処理して、細胞を死滅させ、細胞内又は細胞から全てのリパーゼを不活性化できるかどうかを調べるために、別の実験を実施した。さらに、細胞のアリコートは、脂質抽出前に凍結乾燥されたか、又は凍結乾燥されなかった。野生型W29細胞からの脂質抽出物をTLCで分析したところ、乾燥させずに加熱処理した細胞は、乾燥させていた細胞よりも遊離脂肪酸(FFA)の生成が少ないことが観察され、加熱処理が効果的であることが示唆された。熱処理自体は細胞の脂質含有量や脂肪酸含有量に影響を与えなかった。乾燥させていない細胞からの脂質の抽出は、凍結乾燥させた細胞からの抽出と少なくとも同程度の効率であった。
【0423】
実施例3.微生物由来の脂質の含有量と組成
本発明者らは、ベースラインとしてトリアシルグリセロール(TAG)と極性脂質を含む、様々な微生物からの総脂質含有物の含有量と組成を決定した後に、脂質含有量と組成を改変するための微生物の遺伝子改変を実施したいと考えた。
【0424】
微生物の増殖と脂質の抽出
増殖サイクル中の微生物細胞内の極性脂質とTAGを含む総脂質の量及び脂肪酸組成を決定するために、3つの異なる種の5つの広く使用されている菌株が選択された。これらは、大腸菌DH5α株及びBL21株、油性野生型ワイ・リポリティカW29株、及びエス・セレビッシェINVSc1株とD5A株であった。これらの種は、遺伝子工学のための遺伝的ツールとプロセスが利用可能であること、及びこれらの種における脂質合成と代謝に関する情報の深さにより選択された。D5A株は、エス・セレビッシェの油性株として選択された(He et al., 2018)。これらの微生物は、さまざまな時点で試料を取り出して分析しながら、最大7日間培養された。接種菌培養物は、大腸菌の場合はLB培地、又は酵母の場合はYPD若しくはSD+Ura培地中で、細胞を一晩増殖させることによって調製した。これらの培養物の試料を、1Lのボトル中の同じ増殖培地200mlで希釈して、初期OD600を0.1にした。各ボトルの口を微細孔テープで覆い、培養物を振盪して通気した。大腸菌細胞は、振盪機中で、37℃、250rpmでインキュベートした。酵母細胞は、2%グルコースを炭素源として含むYPD培地中で増殖させ、28℃で200rpmで振盪しながらインキュベートした。各培養物から10mlの試料を、18時間、24時間、2日、3日、4日、5日、6日、及び7日の時点で採取した。3,400gで10分間遠心分離して培養物から細胞を回収し、各回3mlの脱イオン水で2回洗浄し、1.5mlの脱イオン水で1回洗浄した。細胞を予め秤量した2mlチューブに移し、24時間凍結乾燥した。次に、チューブの重量を再度測定し、乾燥細胞重量を計算した後、脂質を抽出した。
【0425】
実施例1に記載のように、0.6mlのクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)を抽出溶媒として、ジルコニウムビーズの存在下で、ブレットブレンダーを使用して総細胞脂質を抽出し、続いて40℃の水浴中で超音波処理した。ホモジネートを0.3mlの0.1M KClと10分間混合した後、混合物を10,000gで5分間遠心分離した。脂質を含む下相をガラスバイアルに移した。残りの脂質を、細胞破片を含む上相から0.6mlのクロロホルムで20分間抽出し、前と同様に、遠心分離し、下相を収集した。合わせた下相から溶媒を窒素ガス流下で蒸発させ、抽出した脂質を所定量のクロロホルムに再懸濁した。乾燥細胞重量20mgから抽出した脂質のアリコートを、ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70/30/1、v/v/v)の混合溶媒を使用してTLCプレート上で分画し、実施例1に記載したように、TAG脂質と極性脂質を分離した。再度、実施例1に記載のように、TAGからの脂質及び極性脂質スポットの脂肪酸組成を、脂質から生成されたFAMEのGCによって決定した。
【0426】
エス・セレビッシェを用いた最初の実験
最初の実験では、YPD、及びSD+Ura培地で1、2、3、又は4日間増殖させた後、エス・セレビッシェINVSc1株の培養細胞から脂質を抽出した。抽出された脂質収量を乾燥細胞重量(dcw)の割合として含むデータは表5に示される。TLC分画におけるTAG及び極性脂質の回収効率は測定されなかった。INVSc1細胞によって産生されたTAGの量は、YPD培地で培養した場合には少なく、SD+Ura培地では多かったことが注目された。極性脂質の収率は乾燥細胞重量ベースで0.63%~1.15%であったが、この方法は効率的な抽出のための最大化はされなかった。脂肪酸組成に関して、両方の画分に最も多く存在する脂肪酸としてC16:1Δ9が47~67%含まれていた。オレイン酸(C18:1Δ9)とパルミチン酸(C16:0)は、低レベルのステアリン酸(C18:0)と同様に、存在する他の主要な脂肪酸であり、リノール酸(LA、C18:2Δ9,12)は存在しなかった。これらのデータは、40~55%のC16:1、30~35%のC18:1Δ9、及び少量のC16:0とC18:0の存在を報告した公表された報告書(例えば、Itoh and Kaneko, 1974; Stukey et al., 1989; Kamisaka et al., 2015)と一致していた。これら4つの脂肪酸は、多くの野生型エス・セレビッシェ株の脂肪酸含有量のほぼすべてを構成する。INVSc1などの野生型株は、一価不飽和パルミトレイン酸とオレイン酸を生成するOLE1遺伝子によってコードされるΔ9-デサチュラーゼである、1つのみの脂肪酸デサチュラーゼを含む(Stukey et al., 1989)。
【0427】
エス・セレビッシェと同様に、野生型分裂酵母エス・ポンベは、LA及び他の多価不飽和脂肪酸を合成することができない(Ratledge and Evans 1989; Holic et al., 2012)。対照的に、エス・クルイベリ(S. kluyveri)やケー・ラクチス(K. lactis)などの他の野生型酵母は、Δ12-及びΔ15-デサチュラーゼを有し、LA及びALAを産生することができる。
【0428】
最長7日間増殖後の大腸菌、ワイ・リポリティカ、及びエス・セレビッシェにおける脂肪酸組成
大腸菌、エス・セレビッシェ、及びワイ・リポリティカを用いて実験を行い、最長7日間毎日、培養物をサンプリングした。2つのエス・セレビッシェ株の増殖曲線は
図1に示され、これは、7日間の培養にわたるOD600と乾燥細胞重量を示している。脂質の量及び脂肪酸組成は、各時点における各菌株の極性脂質とTAG画分の両方について決定された。データは、2つの大腸菌株については表6に、ワイ・リポリティカW29株については表7に、エス・セレビッシェINVSc1株とD5A株については表8に示されている。脂肪酸C15:0(ペンタデカン酸)の本体はGC-MSによって確認された。
【0429】
大腸菌BL21株の極性脂質の脂肪酸組成は、Kanemasa et al. (1967) 、及び他の野生型大腸菌株についてはMarr and Ingraham (1962)が報告したものと同様であった。他の多くの細菌と同様に、大腸菌の極性脂質は4種類の脂肪酸を含む:C12:0、C14:0、C15:0、C16:0を含む直鎖飽和脂肪酸、C16:1Δ9(シス-パルミトレイン酸)及びC18:1Δ11(シス-バクセン酸)を含む直鎖一価不飽和脂肪酸、分枝鎖脂肪酸、及びC17:0c*(シス-9,10-メチレンヘキサデセン酸)及びC19:0c*(シス-11,12-メチレンオクタデセン酸)を含むシクロプロパン脂肪酸(Hildebrand and Law, 1964)。C16:0、C16:1、C18:0、及びC18:1Δ11の存在は、Oldham et al. (2001)によって大腸菌BL21株で報告された。野生型大腸菌に見られる不飽和脂肪酸はすべてシスコンフォメーションのモノエンであるが、オレイン酸は含まない(Cronan and Vagelos, 1972)。4種類の脂肪酸はすべて、BL21から抽出された脂質で観察され、これは、約31~36%のC18:1Δ11と約7~10%のC16:1Δ9、並びに30~35%の飽和脂肪酸C16:0(パルミチン酸)、10~20%のシクロプロパン脂肪酸C17:0c*、及び1~5%のC19:0c*を有した。これら後者の2つの脂肪酸は細菌の脂質に特有のものであり、動物性脂肪や酵母の脂質でまれに見られる。これらは、対応するモノエンC16:1Δ9及びC18:1Δ11から、シクロプロパン脂肪酸シンターゼ(CPFAS)の活性によって生成される。動物性脂肪で観察されたもう1つの違いは、LAなどの多価不飽和脂肪酸が野生型大腸菌脂質には存在せず、これはBL21及びDH5αで観察された。さらに、オレイン酸(C18:1Δ9)は大腸菌の極性脂質では観察されなかったが、動物及び植物の脂質にはかなりのレベルで存在する。
【0430】
DH5α株は、その極性脂質中のいくつかの脂肪酸の量の点で、BL21とは著しく異なる脂肪酸組成を示し、C18:1Δ11が約3~8%でかなり少なく、C16:1Δ9が少ないが、C16:0が多く、C15:0及びシクロプロパン脂肪酸はかなり多い。DH5αでは、総脂肪酸含有量のほぼ半分がパルミチン酸であり、これはほぼ独占的にリン脂質のsn-1位に位置していることが報告された(Cronan and Vagelos, 1972)。Hildebrand and Law (1964) は、大腸菌におけるシクロプロパン脂肪酸の存在を報告しており、これらはここDH5αでも観察された。表9に示すように、ペンタデカン酸、ノナデカン酸(C19:0)、及びシクロプロパン脂肪酸が極性脂質画分中で観察された。C16:1及びC18:1Δ11のレベルがBL21と比較してDH5αで低下していることは、C14:0、C15:0、C16:0、及びシクロプロパン脂肪酸の量の増加を伴っていた。両方の大腸菌株では、脂質中に含まれるステアリン酸(C18:0)は2%未満であった。極性脂質の最大量は、培養2日目に約2.7%のDCWで観察された。
【0431】
ワイ・リポリティカの脂肪酸組成(表7)は、大腸菌及びエス・セレビッシェの脂肪酸組成とはかなり異なっていた。ワイ・リポリティカの脂質では、例えば、LAなどの多価不飽和脂肪酸や、より長鎖の炭素数20、22、又は24の飽和脂肪酸、C20:0、C22:0、及びC24:0(VLC-SFA)など、より広範囲の脂肪酸が観察され、これらはすべてTAG画分に存在していた。C24:0は、ほとんどの時点で3%~9%のレベルでTAG画分に存在していた。GCクロマトグラムにおけるこの脂肪酸のピークはC24:0標準物質と同じ位置にあり、GC-MSによってもピークの本体がC24:0であることが確認された。C24:0は一般的に存在し、C20:0やC22:0は、重量基準で存在しないか、極性脂質画分の低レベル(<0.5%)の総脂肪酸含有量に存在していた。ワイ・リポリティカは油性微生物であるが、富裕なYPD培地を使用したこの実験の増殖条件は高レベルのTAG産生に有利ではなかったため、乾燥細胞重量ベースで約1%未満のTAG産生であった。TAGは7日間にわたってその低レベルで蓄積し続けた。極性脂質の最高レベルは培養2日目に観察された。パルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、及びリノール酸は、ワイ・リポリティカの主要な脂肪酸であった。極性脂質にはまた、ペンタデカン酸やヘプタデセン酸などの奇数鎖脂肪酸とともに、低レベルの短鎖、中鎖、長鎖の飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸も含んでいた(表7)。ペンタデカン酸のピークの本体はGC-MSによっても確認された。脂肪酸組成は、Carsanba et al., (2020)によって報告されたものと同様であった。しかし、本発明者らは、ここで観察されたレベルでワイ・リポリティカのTAGにC24:0が存在するという以前の報告を知らなかった。
【0432】
ワイ・リポリティカの極性脂質とTAG画分は、一部の脂肪酸の量が大きく異なることを示した。一般に、極性脂質にはTAGよりも高いレベルのLA及びパルミトレイン酸(C16:1)が含まれており、一方でTAGはパルミチン酸、ステアリン酸、及びリグノセリン酸(C24:0)が豊富であった。特に、TAGは、極性脂質の1%未満と比較して、飽和脂肪酸ステアリン酸のレベルが約4~12%~はるかに多く、並びに飽和C20、C22、及びC24脂肪酸も多量に含んでいた。ワイ・リポリティカ極性脂質は大腸菌脂質と容易に区別でき、例えば前者は主な一価不飽和脂肪酸としてC18:1Δ11(バクセン酸)ではなくC18:1Δ9(オレイン酸)を有していた。上で述べたように、大腸菌脂質にはオレイン酸が欠如していた。
【0433】
エス・セレビッシェINVSc1株及びD5Aの極性脂質とTAG画分には、主に4つの脂肪酸、一価不飽和脂肪酸のパルミトレイン酸(C16:1Δ9)とオレイン酸(C18:1Δ9)、及び飽和脂肪酸のパルミチン酸(C16:0)とステアリン酸(C18:0)が含まれていた。これらのデータは、公開された報告と一致していた(He et al., 2018)。極性脂質画分は、TAG画分と比較して、飽和脂肪酸がわずかに多く、一価不飽和脂肪酸が低かった。
【0434】
ワイ・リポリティカ株のスクリーニング
CSIRO微生物コレクションからの他の5つのワイ・リポリティカ株を、脂質産生と脂肪酸組成についてスクリーニングした。これらの株を種培養物としてSD-Ura培地で48時間増殖させた。種培養物の試料を遠心分離し、細胞ペレットをDM-Gluc培地に再懸濁し、これを使用して、炭素源として8%(w/v)グルコースと主な窒素源として4g/lオルトリン酸水素二アンモニウムを含有するDM-Gluc培地中の培養物に接種した(実施例1)。48時間後に細胞を採取し、脂質を抽出し、TLCで分画した。TAG及び極性脂質画分を、実施例1に記載したようにFAMEのGCによって分析した。4つの株のデータは表9に示される。これらの株はすべて、野生型W29株と同様の脂肪酸プロフィールを有するTAGを産生した。これらの培養条件下で生成されたTAG画分の主な脂肪酸は、重量ベースでオレイン酸(30~45%)、パルミチン酸(10~17%)、ステアリン酸(12~24%)、及びリノール酸(4~7%)であった。特に、蓄積されたTAGは、2.6~5.5%のC24:0を含み、そしてC20:0とC22:0もそれぞれ約1~2%で存在した。
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【0435】
実施例4.微生物における脂質の大規模産生
バイオ発酵槽での大規模な、具体的には少なくとも25Lの容量でのワイ・リポリティカの培養を調べるために、一連の実験を行った。最初の実験では、野生型ワイ・リポリティカW29株を使用し、脂質は有機溶剤を使用して採取した細胞塊から抽出した。
【0436】
実験1(B001)
25Lスケールの最初の実験では、野生型ワイ・リポリティカW29株を25L発酵槽で増殖させて、より大規模なバッチ培養からのバイオマス生産、回収と乾燥、及び脂質抽出プロセスを試験した。この培養のさまざまな時点で、脂質の蓄積もモニタリングされた。増殖培地は、Hahn-Hagerdal et al. (2005)による総説の表1のDM欄、第5頁に記載されている通りであり、以下の調整が加えられた:チアミンを除くすべてのビタミンが除がれた。リン酸二水素カリウムを10g/Lで添加し、硫酸アンモニウムを10g/Lのリン酸二アンモニウムで置き換え、クエン酸を2g/Lで添加した。微量元素のCuSO4、NaMoO4、MnCl2、CoCl2、H3BO3、及びZnSO4は、量を3倍から30倍で変化させて、公開されているレシピに対して低い濃度で存在し、CaCl2は8倍増加した。追加のS、N、及びPは無機酸として供給された。培養培地を発酵槽内でオートクレーブ滅菌し、熱処理後にチアミンを無菌的に添加して、200g/Lの滅菌濾過チアミンストック溶液を使用して最終濃度0.15g/Lにした。増殖培地は、炭素源として40g/kgのグリセロールを有し、培養の開始時にpH6.0であった。この培地の利点の1つは、これはオートクレーブ滅菌後にチアミンのみを添加することで、全体としてオートクレーブ滅菌できることである。
【0437】
発酵槽培養用のW29株接種菌を、フラスコ中で29℃、180rpmで24時間振盪しながら、YPD培地中の400ml培養物として増殖させた。接種菌を発酵槽に添加し、混合物をサンプリングして時間ゼロ試料を得た。接種後、培養物のOD600は0.132であった。培養条件は、温度29℃、pH設定値6.0、空気流量約33L/分、スターラー約200RPMであった。次のパラメーターがモニターされた:溶存酸素(DO)濃度とpH。温度とpH値をそれぞれの設定値に制御した。47時間の時点(接種後)で培養物のpH値を6.0から8.0に変更して、脂質の蓄積を刺激した。酵母の増殖は、600nmでOD(OD600)を測定することによってモニターされた。野生型ワイ・リポリティカは炭素源としてグリセロールで増殖中にクエン酸を分泌するため、培地中のクエン酸レベルもモニターした。培養中にDOは10ppmから48時間で約2ppmに減少した。クエン酸と一致するHPLC保持時間を有する代謝物が培養物中で生成され、徐々に蓄積され、60時間で約40g/Lに達したが、90時間で約33g/Lに減少した。グリセロールの濃度は、40時間でほぼゼロまで徐々に減少し、その時点で、次の8時間にわたって4.5Lの400g/kgグリセロールを使用してグリセロール供給物を培養物に供給した。これにより、培地中のグリセロール濃度が約20g/kgに増加し、次に、グリセロール濃度は60時間の時点でゼロまで低下した。90時間の時点で、細胞密度は約30g/kg(DCW)に達し、その時点で培養を停止し、細胞を遠心分離によって採取した。バイオマスを2倍量の冷水で洗浄し、固形分17%を有する3.2kgの酵母クリームを得た。バイオマスの半分を、入口温度160℃、出口温度78℃で噴霧乾燥し、156gの乾燥粉末を得た。固形分20%を有する残りの1.7kgを冷凍した。この材料の少量を凍結乾燥し、22gの乾燥細胞を回収した。
【0438】
試料は、培養中の42、62、及び68時間の時点、及び細胞の採取の90時間の時点で取り出された。試料を噴霧乾燥又は凍結乾燥し、溶媒としてエタノール/ヘキサン(60/40;v/v)を使用して、脂質を20時間抽出することにより脂質含有量を分析した。抽出した脂質の溶媒を真空下50℃で蒸発させ、脂質をCO2流下で乾燥させた。乾燥した脂質を秤量した。40時間~90時間までの各時点で、回収された脂質の量は、乾燥細胞重量ベースで17~25%であった。組成を分析するために、抽出した脂質の試料を2mlのエタノール/ヘキサン(6/4v/v)又は1mlのクロロホルムに溶解し、2×5μlアリコートをヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70/30/1;v/v/v)を使用して、TLCプレート(シリカゲル60 F254、25cmx25cm)上でクロマトグラフィーにかけた。プレートをヨウ素蒸気で30分間染色して、脂質の種類を観察した。TLCプレートの起点で極性脂質のバンドが観察され、移動度の上昇に伴ってDAG、遊離脂肪酸(FFA)、及びTAGのバンドが観察され、TAGバンドが最も強かった。
【0439】
この実験では、接種後約40時間でグリセロールの枯渇によって決定されるように、最初のバッチ段階が終了した後、2.8kgのグリセロールを培養物に供給した。接種後90時間の実験終了までに、ほぼ同量のクエン酸とバイオマスが産生された。興味深いことに、細胞乾燥物1グラムあたりの抽出された脂質の最高レベルは、接種後61.5時間で栄養供給物からのグリセロールが使い果たされた時点で発生した。この時点から実験が終了する90時間までに、さらなる脂質生成は観察されなかった。この発酵では、2Lスケールで経験したよりも低い細胞密度が生成されたが、乾燥細胞重量ベースで約30%対5%で有意に高いTAG蓄積があった。90時間にわたるこの実験は、窒素制限が達成された後の大量のTAG生成のために設計された。おそらくは、窒素濃度とグリセロール濃度のバランスを取ることにより、良好なTAG産生を維持しながら細胞密度を増加させる改善が検討された。クエン酸の濃度は発酵の後半で減少し、グリセロールが使い果たされたときにクエン酸が炭素源として使用できることを示唆している。
【0440】
遠心分離によって酵母細胞をうまく採取でき、細胞ペレットを冷水に再懸濁し、次に細胞を再遠心分離してペーストにすることで、培養ブロスを細胞から除去できることが実証された。また、バイオマスを冷凍ペーストから凍結乾燥したり、固形分20%の酵母クリームから噴霧乾燥したりできることも実証された。TLC分析から、細胞からの溶媒抽出物の少なくとも30%がTAGであり、残りの脂質質量はDAG>FFA及び極性脂質の順に多くなったと結論付けられた。
【0441】
実験2及び3(B003、B004)
25Lスケールのさらなる実験で、炭素源として40g/L又は70g/Lグリセロールを使用する培地で、野生型ワイ・リポリティカW29株を増殖させて、さまざまなC/N比率でバイオマス産生と脂質産生を評価した。実験B003では、実験B001と比較して、最初の培地は40g/Lのグリセロール、0.15g/Lのチアミン、pH6.0を有し、クエン酸は添加されなかった。窒素源として、バッチ段階でバイオマスの成長を促進するために、リン酸二アンモニウム(DAP)が10g/Lで存在した。従って、初期のC:N比は6:1であった。W29細胞の1L接種菌を添加した後の初期細胞密度(OD600)は0.22で、pHは6.22であった。バイオマスは、17時間で15.7g/Lのdcwに達した。接種の20時間後、グリセロールとDAPを含む供給物(5L)を1時間あたり0.5Lで開始して、C:N比20:1を得た。バイオマスは指数期に増殖を続け、24時間で供給量の半分に相当する30.51g/Lに達し、これは、20時間でバッチ培地中に窒素が残っていることを示している。次に、バイオマスは定常期に達し、重要な栄養素が制限されていることを示唆した。24時間培養試料には過剰なグリセロールとクエン酸が含まれていたため、制限栄養素は窒素である可能性があった。24時間の時点から、クエン酸濃度は最大14g/Lまで増加したが、グリセロールは着実に消費され、供給培地が消費された30時間の時点までに、最小値0.46g/Lになった。45時間の発酵実験の終了時点で、DCWは34.3g/L、クエン酸濃度は7.69g/Lであった。実験B001とは対照的に、採取バイオマスDCWは29.6g/Lから34.3g/Lに増加し、採取上清中のクエン酸濃度は33.45g/Lから7.69g/Lに減少した。ただし、エタノール/ヘキサン抽出可能な脂質含有量は、B001の28%からB003の8%に低下した。回収した細胞を2倍量の冷1%NaCl(w/v)で洗浄し、噴霧乾燥した。結論として、30Lの発酵培養ブロスから671gの洗浄酵母粉末が生成された。栄養物質は実験B001よりも効率的にバイオマスに変換されたが、脂質の蓄積は少なくなった。発酵を延長すると、脂質収量が増加すると予測された。
【0442】
実験B004では、初期培地を70g/Lグリセロールに変更して、グリセロール供給開始の24~30時間前に、より早い窒素制限を行った。供給物には、唯一の窒素源として、いくらかの窒素を含む無機塩混合物が含まれていた。C:N比を20:1から約100:1に高めるために、供給物からDAPを省略した。酸素消費量又はグリセロール枯渇の変化をモニターして、供給物の開始を知らせた。32時間の時点で50.1g/Lのバイオマスが達成された。供給1の終了時点で、残留グリセロール及びクエン酸はそれぞれ18g/L及び15g/Lであった。供給1後のバッチ発酵を47時間継続した。7Lのブロスを採取し、濃縮し、洗浄して冷凍した。供給1の後にpH6で長時間培養した後、細胞の50%がメチレンブルーで染色されたことが注目された。溶存酸素レベルは劇的に上昇し、培養物が代謝的に不活性であることを示しており、これはおそらく窒素枯渇によるものである。
【0443】
かなりの数の生細胞が存在したため、2回目の供給は供給1と同じ組成で開始したが、残りの生細胞に脂質が貯蔵される可能性があるかどうかを調べるために、pHを8に調整した。2回目の供給後、バイオマスは43g/Lから47g/Lにわずかに増加した。残留グリセロール及びクエン酸は、2回目の供給中にそれぞれ23g/L及び25g/Lまで継続的に増加した。供給2の終了後さらに16時間、バッチ発酵を継続した。実験の終了までに、クエン酸は40g/Lに増加し、残留グリセロールは9g/Lに減少していた。発酵を77時間で停止した。熱処理前に培養液7Lを採取した。バイオマスは、乾燥重量41g/L、中性脂質含有量18%w/wを有し、グリセロール及びクエン酸はそれぞれ9g/L及び40g/Lであった。残りの培養物を105℃で5分間加熱して細胞を死滅させた。
【0444】
これらの実験から、大規模発酵により適切なバイオマスと脂質産生を備えた酵母細胞を産生できることが結論付けられた。
【0445】
実施例5.脂質の抽出と分画-大規模
発酵槽中で少なくとも2L又は8Lの容量で増殖させたワイ・リポリティカ細胞から、大規模に、脂質の抽出、及びTAG及びリン脂質を含む脂質の精製/分画を試験するために、以下の実験を実行した。
【0446】
実験1
本発明者らは、エタノール:ヘキサンの溶媒混合物を使用することにより、ワイ・リポリティカなどの微生物細胞から脂質を抽出し、同時にTAGと極性脂質を分離できると考えた。この方法は、Sun et al. (2019) に基づいている。湿重量約100gのワイ・リポリティカ細胞を使用し、TAGと極性脂質を細胞から効果的に抽出し、それぞれヘキサン相とエタノール-水相に分配できるかどうかを試験した。この実験では、細胞の湿重量102.12g(細胞の乾燥重量20.42g、すなわち水分約80%と固形分20%に相当)を500mlのエタノール/ヘキサン(4/6、v/v)と、1Lのビーカー中で一晩撹拌して混合した。これにより、細胞の湿重量に基づいて1/5(w/v)、又は細胞の乾燥重量に基づいて1/25(w/v)の試料/溶媒比が得られた。一晩混合した後、混合物は2相に分離し、界面に細胞物質が凝集した。上部のヘキサン相は淡黄色であり、下部のエタノール相は淡緑色であった。混合物をデカントし、ガラス真空濾過装置を使用してガラス繊維フィルター(1.2μm、MicroAnalytix Pty Ltd、カタログ番号WH1822-090)で濾過して、凝集した細胞物質を除去し、残渣を100mlのエタノール/ヘキサン(4/6v/v)溶媒ですすぎ、濾液を合わせた。濾液を分液漏斗で2相に分離した:TAGの大部分が含まれることが期待された上部のヘキサン相と、PLを含む極性脂質の大部分が含まれることが期待された下部のエタノール相。2つの相を1L丸底フラスコに別々に集め、ロータリーエバポレーターを使用して乾燥させた。乾燥抽出物を秤量し、ヘキサン相から抽出された脂質0.513g(乾燥細胞重量20.42gの2.51%)、及びエタノール相から抽出された脂質3.69g(18.06% w/dcw)を得た。両方の画分をクロロホルムで洗浄して痕跡量の水を除去し、クロロホルムを加えた後、ロータリーエバポレーションロータリーエバポレーターで蒸発させ、クロロホルムの添加により透明な水を含まない抽出物が得られるまで、この工程を繰り返した。これにより、上相から0.51gの脂質が回収され、エタノール相から3.43gの脂質が回収された。
【0447】
抽出された脂質を輸送に適したチューブに移すために、極性脂質抽出物を26mlのクロロホルムに溶解し、50mlのプラスチック遠心分離チューブに移し、Savant SC250EXP SpeedVac濃縮器を使用して45℃で一晩溶媒を蒸発させた。
【0448】
抽出された脂質画分の試料をTLCプレートに適用し、クロマトグラフィーを行って、さまざまな脂質クラスを分離した。FAMEの定量によって決定されるように、上層のヘキサン相からの抽出物は24.9%の脂質を含有し、その60%はTAGであったが、脂質の40%にかなりの極性脂質も含有していた。下部のエタノール相からの抽出物は9.5%の脂質が含有し、その95%は極性脂質であり、その画分ではTAGは検出されなかった。
【0449】
確立された方法を使用して、同じ条件下で増殖させたワイ・リポリティカ細胞から抽出可能な総脂質の量を決定し、エタノール/ヘキサン抽出が十分に効率的であるかどうかを試験するために、Bligh and Dyer (1959)に基づく標準的操作を使用して同様の量の細胞から脂質を抽出した。簡単に説明すると、約20%の全固形分を有する103.08gの凍結湿潤細胞ペレットを1Lガラスビーカーに入れた。166.7mlのクロロホルム、266.3mlのメタノール、及び53.4mlの水を含むクロロホルム/メタノール/水溶媒を添加した。凍結ペレットを溶媒中でスプーンを使用して細かく砕いた。ビーカーをアルミホイルで覆い、混合物をマグネティックスターラーを用いて室温で一晩撹拌した。次に、混合物をガラス繊維フィルターを通して真空濾過し、細胞物質の残留物を131mlのクロロホルム及び103mlの水ですすぎ、再度濾過した。全濾液を1Lの分液漏斗に移し、穏やかに振盪し、相分離が起きるまで数時間放置した。抽出された脂質を含む底部のクロロホルム層を250mlの丸底フラスコに排出し、回転真空蒸発により溶媒を除去した。フラスコ内の総脂質抽出物を重量収量決定のために秤量した:湿った酵母細胞ペレットの水分含有量が80%であると仮定すると、乾燥細胞重量ベースで2.06gの脂質収量は9.97%であった。総脂質抽出物を26mlのクロロホルムに溶解し、試料をFAMEに変換し、実施例1に記載したようにGCにより定量した。
【0450】
Bligh-Dyer法で抽出した脂質の試料もTLCプレートに適用し、クロマトグラフ処理して、さまざまな脂質クラスを分離した。既知の脂質クラスの標準物質を隣接するレーンに適用して、脂質スポットを同定した。これにより、Bligh-Dyer 抽出物中の極性脂質とTAG画分が同定され、それらの定量が可能になった。Bligh-Dyer 抽出物には総脂質が28.3%含まれており、そのうち7%がTAG、そしてそのうち93%が極性脂質であった。エタノール/ヘキサン法を使用した抽出は、Bligh-Dyer 法とほぼ同じ効率であり、エタノール/ヘキサンが溶剤系が有用であることを示していた。
【0451】
上相(ヘキサン)及び下相(エタノール)からの抽出物について、実施例1に記載したように、FAMEへの変換及びGC分析により、各画分の試料を脂肪酸組成について分析した。TLCプレート上で分離された極性脂質とTAG画分について、脂肪酸組成も個別に測定された。データは表10に示される。実験1では、下層(エタノール)相で抽出された脂質は、主に(95%)極性脂質を含み、これは、上層(ヘキサン)相で抽出されたTAGよりも、飽和脂肪酸C18:0、C22:0、及びC24:0がはるかに低い脂肪酸組成を有した。対照的に、C16:0のレベルは、同じ上相からの極性脂質とTAG画分の両方で16~18%で同様であった。
【0452】
この実験からの1つの結論は、下部のエタノール相から抽出された脂質はほぼ完全に極性脂質であり、本質的にTAGが欠如しているということであった。ただし、この方法では利用可能な極性脂質のすべてが抽出されておらず、上部のヘキサン相にかなりの極性脂質が残っている。残った極性脂質は、脱ガム操作によって回収することができる。エタノール相から抽出された物質は重量でわずか9.5重量%の脂質であり、タンパク質と炭水化物はクロロホルムに溶けないため、残りの90%の物質(おそらく一部のタンパク質や炭水化物などのエタノール可溶性物質)は脂質をクロロホルムに抽出することである程度除去することができる。
【表10】
【0453】
実験2
使用する溶媒を変更した以外は実験1と同じ第2の実験を行った。今回は、湿重量99.8gの細胞の抽出に、最初に500mlの、エタノール:ヘキサン(4/6v/v)ではなく(6/4v/v)を使用し、次に(4:6v/v)に調整した。実験1では、おそらく細胞試料中の水分の量が原因で、抽出の開始時でも相が分離する傾向があったために、この変更を行った。この第2の実験では、室温で一晩撹拌することにより、細胞をエタノール/ヘキサン(6/4v/v)と混合した。次に、溶媒混合物がエタノール/ヘキサン(4/6v/v)となるように250mlのヘキサンを加え、さらに5分間混合した。残りの操作は実験1と同じであった。生成物は、最初に上部のヘキサン相から1.23g(6.16%w/dcw)、下部のエタノール相から4.05g(20.29%w/dcw)回収した。抽出物をクロロホルムで洗浄し乾燥した後、回収量はそれぞれ6.16gと19.89gであった。
【0454】
これらの実験と以下の実験から、この溶媒抽出法は、一晩の抽出中に混合物が適切に撹拌されている限り、非常にうまく機能すると結論づけられた。最適化のために条件を変更し、例えば、溶媒の量、比率、抽出時間、温度などの条件を変更し、湿潤細胞と乾燥細胞から始めた。乾燥細胞から高温で抽出すると、総脂質、TAG、及び極性脂質画分の収量が増加すると予測された。
【0455】
実験3
実験1と2のバッチ抽出では、細胞の湿重量100gあたり約500mlの回収脂質量に対して大量の溶媒が使用されたため、ソックスレー装置を使用して抽出を試験することが決定された(De Castro et al., 2010)。この実験では実験2と同じ溶媒組成を使用し、エタノール/ヘキサン(6/4、v/v)から開始し、次にヘキサンを加えて比率を(4/6、v/v)に調整した。4gの細胞乾燥重量を有する20g(湿重量)の細胞試料をソックスレーカップに加えた。抽出にはフラスコ内で300mlのエタノール/ヘキサン(6/4、v/v)を使用し、マントルヒーターを使用して溶媒を3時間加熱し、水道水で冷却器を冷却した。3時間の抽出後、フラスコを150mlのヘキサンですすぎ、それにより溶媒比をエタノール/ヘキサン(4/6、v/v)に調整した。残りの操作は実験1と同じで、上部のヘキサン相と下部のエタノール相から脂質を回収した。上相からの脂質回収率は5.4%(w/dcw)、そして下相からは17%(w/dcw)であり、従って、実験1、2と比較して、より短時間でほぼ同等の極性脂質収率が得られた。この方法には、より大きな1kg又は5kgのソックスレー装置又はさらに大規模なパイロットスケール抽出を使用することでスケールアップできる可能性があると考えられた。
【0456】
実験4
実験2と同様の溶媒系を使用し、エタノール/ヘキサンの初期比6/4(v/v)、次にエタノール/ヘキサン4/6(v/v)を使用して、900g(湿重量)の細胞のバッチ抽出を行った。抽出は3つの2Lフラスコで実施された。上相からの脂質の回収量は10.89gでほとんどがTAGであり、下相からの回収量は32.45gでほとんどが極性脂質であった。これは、抽出された極性脂質の収率18%(dcwベースのw/w)は示した。極性脂質画分は非常に粘稠であったが、50℃に温めることで蒸発フラスコから移すことができた。
【0457】
実験5
室温で行われた以前の実験と比較して、50℃の暖かい温度で6/4(v/v)のエタノール/ヘキサンを使用して、湿ったワイ・リポリティカ細胞からの脂質抽出効率を粉末状の凍結乾燥細胞と比較する実験を実施した。抽出は3時間行うか、同じ溶媒を使用してソックスレー装置で3時間行った。抽出が完了した後、さらにヘキサンを加えてエタノール/ヘキサンの比を4/6(v/v)に調整した。ワイ・リポリティカW29株細胞は、極性脂質にω6脂肪酸を組み込むためにARAの存在下で増殖させておいた。溶媒と乾燥細胞の混合物は単相となったが、湿潤細胞からの対応する混合物は水分含有量により2相になった。従って、前の混合物の半分に少量の水を加え、混合すると、2つの相が分離した。混合物を濾過して細胞破片を除去し、各相から脂質を回収した。結果は表11に示される。乾燥細胞については、脂質を単相抽出物から回収し、少量の水を加えた後の2相から別々に回収した。
【0458】
実験6.有機溶媒による大規模な脂質の抽出
fad2及びura3変異を有し(以下の実施例7)、Ura3遺伝子を含む3つの遺伝子を有する遺伝子構築体を含むワイ・リポリティカ株を、10L発酵槽内で、8%グリセロール(w/v)を炭素源として含み、より低い窒素含有量を有する8Lの培養容量(DM-Glyc-LowN培地、実施例1)で増殖させて、TAG生成を誘導した。その培地中で48時間後の培養物のOD600は139であり、乾燥細胞収量は約52g/Lであった。48時間の培養後、培養物全体を105℃で5分間熱処理して細胞を死滅させた。遠心分離により細胞を採取し、乾燥細胞重量含有量が約26%である細胞ペースト約1.6kg(湿重量)を得た。採取した細胞を試料に分割し、以下のようにさまざまな抽出方法を比較した。
【表11】
【0459】
溶媒としてエタノール/ヘキサンを使用する最初の方法では、381gの細胞ペーストを、エタノール/ヘキサン(60/40v/v)を用いて、約5:1(v/w)の溶媒:湿細胞重量比(これは、乾燥重量ベースで約20:1(v/w)に等しい)を使用して抽出した。これには、1144mlのエタノールと762mlのヘキサンを使用した。抽出を室温で一晩継続的に撹拌しながら実施し、次に、混合物を濾過して細胞破片を除去した。ヘキサン950mlを加えて、液体のエタノール/ヘキサン比を40/60(v/v)に調整し、抽出したペレットを洗浄した。再度濾過して残留固体を除去した後、液相をプールして混合し、分液漏斗で相を分離させた。上(ヘキサン)層を収集し、40℃、25mbarで30分間ロータリーエバポレーターで蒸発させてヘキサンを除去し、2.15gの抽出脂質試料を得た。これは、乾燥細胞重量に基づいて2.16%の抽出収率を示した。実施例1に記載したように、抽出した物質のアリコートをTLCで分析して脂質クラスを分離し、FAMEのGCで定量した。この物質の脂肪酸含有量は39.2重量%であり、これには22.6重量%のTAGと10.8重量%の極性脂質が含まれていた。これは室温では固体であったため、油ではなく抽出された脂肪と見なされた。
【0460】
湿潤細胞ペーストの脱水後のヘキサン抽出を使用する第2の方法では、381gの湿潤細胞ペーストを760mlのエタノールに再懸濁し、濾過して細胞を回収した。2回目の760mlのエタノールの細胞への再懸濁を行い、再び濾過して回収した。この処理は、細胞ペーストからほとんどすべての水を除去することを目的とした。次に、細胞をヘキサン(1.9L)を用いて、ヘキサン:湿細胞比5:1(v/w)、乾燥細胞重量ベースで約25:1を使用して抽出し、混合液を室温で一晩撹拌した。上層(全容量の約95%)を収集し、ロータリーエバポレーターで蒸発させて、7.60gの抽出脂質試料を得た。これは、乾燥細胞重量に基づいて7.67%の抽出収率を示した。実施例1に記載したように、抽出した物質のアリコートをTLCで分析して脂質クラスを分離し、FAMEのGCで定量した。この試料の総脂肪酸含有量は37.1重量%であり、これには24重量%のTAGと、11.5重量%の極性脂質が含まれていた。これは室温では固体であったため、油ではなく抽出された脂肪と見なされた。
【0461】
エタノール/ヘキサンではなくDMSO/ヘキサン溶媒を使用する第3の方法では、最初の方法と同様であるが、エタノール/ヘキサンの代わりにDMSO/ヘキサンを使用し、60.1gの湿潤細胞ペーストを20mlのDMSO及び300mlのヘキサンと混合し、室温で一晩撹拌した。以下の工程は、最初の方法と本質的に同じであった。この方法では、乾燥細胞重量ベースで約0.5%という比較的低い脂質収率が得られた。実施例1に記載したように、抽出された物質のアリコートをTLCで分析して脂質の種類を分離し、FAMEのGCで定量した。この試料の脂肪酸含有量は43.5重量%であり、これには19.9重量%のTAGと17.1重量%の極性脂質が含まれていた。この方法は明らかに他の2つの方法よりも脂質、特にTAGの抽出量が少ないため、好ましくなかった。
【0462】
試験した方法の中で 第2の方法はより効率的であり、ヘキサンを用いる抽出が、ワイ・リポリティカを含む酵母細胞などの1kg以上(湿重量又は乾燥重量)の微生物細胞の抽出に適しており、細胞塊の水分含有量は十分に低いと結論付けられた。
【0463】
第1及び第2の方法からの抽出脂質試料を、脂質をヘキサンに溶解し、混合物をチューブに移し、窒素流下でヘキサンを蒸発させることにより、10mlのガラスチューブに移した。抽出された脂質は窒素でフラッシュし、酸化を防ぐために密封した後、室温で保管した。水分又は残留溶媒の存在を試験するために、試料を一晩凍結乾燥した。前後の試料の重量を測定することにより、最初の抽出物には14.5%の水又は溶媒が含まれているのに対し、第2の抽出物には23.7%の水又は溶媒が含まれていることが判明した。これらを除去すると、最初の抽出物の脂肪酸含有量は重量ベースで46%であり、第2の抽出物の脂肪酸含有量は49%であった。
【0464】
少なくとも一部の非脂質化合物を除去することによって第1及び第2の抽出物中の脂質をさらに精製するために、抽出された脂質をある容量のクロロホルムに溶解し、次に半分の容量のメタノールを添加し、続いて0.8倍容量の0.1M KCl水溶液を添加した。これは、Bligh and Dyer (1959)の溶媒混合物に従った。各溶液を完全に混合し、2つの相を分離させた。下層(クロロホルム)を回収した。2回目の抽出で、別量のクロロホルム/メタノールを上相に加え、クロロホルム相を合わせた。各クロロホルム溶液から溶媒を蒸発させた。得られた脂質生成物は、FAMEのGC分析により測定したところ、第1の試料では78重量%、そして第2の試料では70重量%の総脂肪酸含有量を有していた。これらの生成物は、有機溶媒であるクロロホルム及びヘキサンに可溶であったため、純粋な脂質であると考えられた。精製工程によって除去された物質は、クロロホルムよりもメタノール/水相に溶解しやすい物質であると考えられ、おそらくいくつかのタンパク質が含まれていたと考えられる。精製、抽出された脂質には、TAG及び極性脂質以外の脂質、例えばステロール、ステロールエステル、一部の色素などが含まれていると考えられた。TAGはまた、TLCによる分画によってこれらの試料から精製された。
【0465】
アセトンからの沈殿による極性脂質と非極性脂質の分画
規定の温度で有機溶媒から沈殿させることにより、飽和及び不飽和脂肪酸を含む脂質が飽和脂肪酸含有量を濃縮できるかどうかを試験するための実験が実施された。これを実施するために、97mgのカカオ脂(Societe Africaine De Cacao)と、ARAの存在下で培養されたワイ・リポリティカ細胞から抽出された約2mgの極性脂質(総脂肪酸含有量中約16.4%のARAを有する)とを、15mlのチューブ中で50℃で混合した。混合物を40℃の水浴中で5分間超音波処理し、次に37℃で15分間混合することにより、脂質を5mlのアセトンに溶解した。飽和脂肪酸が豊富に含まれるため、カカオ脂を使用した。アセトン中の脂質混合物を、混合しながら20℃で24時間インキュベートした。この温度では沈殿物は明確には観察されなかった。しかし、混合物を4,600gで15分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移し、これを15℃で24時間インキュベートした。最初のチューブは、観察された小さなペレットの脂質分析のために-20℃で保管された。前と同様に混合物を遠心分離した後、15℃の上清を新しいチューブに移し、12.5℃で24時間インキュベートした後、かなりの沈殿が観察された。混合物を再度遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。ペレットを2mlの冷(12.5℃)アセトンで穏やかに混合して洗浄し、上清を以前の上清と合わせ、これを10℃で3日間インキュベートした。遠心分離後、上清を再び新しいチューブに移し、ペレットを2mlの冷アセトンで洗浄し、上清を以前の上清と合わせ、これを4℃で24時間インキュベートした。遠心分離後、上清を再度新しいチューブに回収し、ペレットを2mlの冷アセトンで洗浄し、上清を4℃の上清と合わせた。すべてのペレット及び上清からアセトンを室温で窒素流下で蒸発させ、乾燥して、回収した脂質をクロロホルムに溶解した。沈殿物及び上清画分のTAG及び極性脂質クラスを、ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70/30/1)を使用するTLCクロマトグラフィーによって分離し、FAMEのGCによって脂肪酸組成を定量及び分析した。
【0466】
データは表12に示される。TAG及び極性脂質は、試験したすべての温度、すなわち20℃、15℃、12.5℃、10℃、及び4℃で沈殿した。最大量のTAGは12.5℃で沈殿し(41%)、続いて4℃で21.9%が沈殿し、一方、20℃では極性脂質の30.7%が沈殿した。極性脂質の大部分(60.9%)は4℃で上清に残り、極性脂質の総脂肪酸含有量の16.4%から24.8%のARAレベルに濃縮された。4℃の上清にも、総TAGの27.4%が含まれていた。20℃と15℃で沈殿した極性脂質は、C18:1とC18:2が豊富であったが、一方、12.5℃、10℃、及び4℃で沈殿した極性脂質はC16:0とC18:0が多く、ARAの含有率は低かった。一方、より高い温度で沈殿したTAGには高レベルのC18:0が含まれていたのに対し、より低い温度で沈殿したTAGにはC16:0、C18:1、及びC18:2が豊富に含まれていた。従って、アセトン又は同様の溶媒からの沈殿を使用して、SFA脂肪酸含有量を増加させ、抽出された脂質中の極性脂質/非極性脂質(TAG)比を減少させることができる。PUFAと一部のMUFAを除去してSFAを濃縮することにより、抽出された脂質のSFA含有量を増やすために使用することができる。混合物にTAG結晶の接種することにより、さらなる最適化作業を行って、TAGの沈殿と低温の適用を増強することができる。
【0467】
実施例6.多価不飽和脂肪酸を減らすための微生物の改変
多くの酵母は、リノール酸(LA、C18:2Δ9,12)やα-リノレン酸(ALA、C18:3Δ9,12,15)などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を産生し、これらはTAGを含む油に、及びリン脂質などのこれらの膜脂質に取り込まれる。LA及びLA由来の他のPUFAの産生には、FAD2遺伝子によってコードされるΔ12デサチュラーゼの活性が必要であるが、LAからALAを産生するための3番目の二重結合の取り込みには、さらにΔ15デサチュラーゼが必要である。添加された脂肪酸が欠如した富裕培地で培養すると、野生型ワイ・リポリティカW29株はω6脂肪酸LAを産生した(実施例3、表7)。いくつかの試料では、W29株はまた、微量のω6脂肪酸C20:2Δ11,14も産生し、これは、LAの2炭素伸長生成物であった。ALAはTAG及びリン脂質に存在しないため、W29株はΔ15デサチュラーゼが欠如しているように見えた。FAD2遺伝子は、Yadav and Zhang (WO2004/104167) 及び Tezaki et al. (2017)によって、ワイ・リポリティカからクローニングされ、Δ12デサチュラーゼをコードすることが示された。彼らはまた、LAを産生しない欠失変異体(fad2)も作製した。この変異体は、増殖培地にLAが添加されていない場合、12℃での増殖が損なわれた。
【表12】
【0468】
ワイ・リポリティカΔ12デサチュラーゼ(配列番号1)は、419個のアミノ酸残基のタンパク質である。このタンパク質には、脂肪酸デサチュラーゼに典型的な3つのヒスチジンモチーフが、アミノ酸位置121~125、157~161、及び343~347に含まれている。これらのヒスチジンモチーフは、すべてのFAD2ホモログ間で高度に保存されている。ワイ・リポリティカΔ12デサチュラーゼを他の微生物デサチュラーゼと比較した場合、このタンパク質は、子嚢菌酵母であるエス・クルイベリ(登録番号Q765N3)、ケー・パストリス(Q5BU99)、ケー・ラクチス(Q6CKY7)、シー・アルビカンス(C. albicans)(Q59WT3)、シー・パラプシロシス(C. parapsilosis)(C3W956)、及びオー・ポリモルファ(O. Polymorpha)(E5DCJ6)(Tezakietal.,2017)に関連しているが、系統学的には異なっていた。FAD2ホモログの多重配列アラインメントにより、真菌ホモログが、配列番号1の位置102~375のアミノ酸領域にわたる脂肪酸デサチュラーゼドメイン(PF00487)内で少なくとも46%の配列相同性を示すことが明らかになった。
【0469】
ワイ・リポリティカにFAD2遺伝子欠失を導入するための遺伝子構築体
本発明者らは、内因性Δ12デサチュラーゼがオレイン酸をLAに変換する能力を低下させ、それによりワイ・リポリティカ中のPUFAの量を低下させたいと考えた。FAD2遺伝子のタンパク質コード配列をワイ・リポリティカのゲノムから欠失させ、それにより遺伝子を完全に不活性化し、ヌル変異を提供するために、Fickers et al. (2003)の一般的な戦略を、以下のように異なる制限酵素部位を使用するための改変を加えて使用した。この戦略の概略図は
図2に示される。この戦略には、目的の遺伝子のタンパク質コード領域が選択マーカー遺伝子で置換され、5'上流及び3'下流の配列(これらは、内因性遺伝子への組換えによる遺伝子カセットの組み込みを提供し、それによりタンパク質コード領域を削除する)が隣接する遺伝子カセットの構築が含まれた。遺伝子構築体は、抗生物質であるヒグロマイシン又はヌルセオスリシンに対する耐性を提供する選択マーカー遺伝子を使用し、状況に適した選択肢を提供した。それぞれ1,000塩基対の5'上流及び3'下流の配列は標的遺伝子と相同であり、各領域での組換えを可能にした。
【0470】
ワイ・リポリティカW29株のFAD2遺伝子のヌクレオチド配列、及びその上流配列及び下流配列を、KEGGヤロウィアデータベース(www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=yli)から、既知のアミノ酸配列をクエリとして使用して、遺伝子YALI0B10153p(登録番号XP_500707)として抽出した。本明細書の配列番号2は、おそらくFAD2プロモーターを含むタンパク質コード配列の上流の1,000ヌクレオチドと、それに続くタンパク質コード配列とタンパク質コード配列の下流の1,000ヌクレオチドとを含む、FAD2遺伝子のヌクレオチド配列を提供する。
【0471】
SacII制限酵素部位を介して1,000塩基対の3'下流配列に結合した1,000塩基対の5'上流配列に対応するDNA断片を、GeneArt(Thermofisher, USA)により合成した。このDNA断片は、隣接するAscI及びNotI制限部位を有しており、これらを使用してこの断片をpMKベクターに挿入し、構築体pAT042が形成された。クローニングされた挿入体の塩基配列を確認した。FAD2タンパク質コード配列を介さずに5'上流配列を3'下流配列に結合することにより、この配置は、1,260塩基対のFAD2タンパク質コード配列(Δfad2)を効果的に欠失させた。
【0472】
選択可能なマーカー遺伝子
Larroude et al. (2018)によって記載されている抗生物質ヒグロマイシン(Hyg)又はヌルセオスリシン(Nat1)に対する耐性を提供するための遺伝子カセットは、Addgene(Watertown, MA. USA)から入手し、それぞれHyg(配列番号:4)及びNat1(配列番号:6)ポリペプチドをコードしている。各遺伝子は、ワイ・リポリティカの強力な構成的プロモーターであるワイ・リポリティカ(配列番号7;Muller et al., 1998)由来の翻訳伸長因子-1α(pTEF)遺伝子からのプロモーターと、ワイ・リポリティカU6株リパーゼ2遺伝子ポリアデニル化領域/転写ターミネーター(tLip2;Darvishi et al., 2011;;登録番号HM486900)の制御下にあった。これらのヌクレオチド配列は、配列番号3及び配列番号5として提供される。GGE367及びGGE368からのHyg及びNat1転写単位を含むDNA断片をPCRによって改変し、オリゴヌクレオチドプライマーat003及びat004を使用して各末端にSacII制限部位を付加した(表13)。改変されたDNA断片をベクターpCR Zero Blunt TOPO(Thermofisher USA;カタログ番号450245)に連結し、クローニング断片のヌクレオチド配列を確認した。Hyg配列及びNat1配列を含む得られた遺伝子構築体を、それぞれpAT121及びpAT122と名付けた(表14)。一対の類似した改変において、Hyg及びNat1転写単位を含むDNA断片を、プライマーat229及びat230(表13)を使用して改変し、隣接するAsiSI部位を追加し、pAT123及びpAT124を生成した。
【0473】
隣接するSacII制限部位を追加するために使用されるプロセスでは、プライマーの設計は、TEFプロモーターの5'末端のloxP部位とLip2ターミネーターの3'末端のloxR部位の保持を提供し(
図2)、従ってHyg及びNat1耐性遺伝子カセットに隣接している。これらの組換え部位は保持されたため、耐性遺伝子は微生物ゲノムに組み込まれた後、Cre/lox組換えによって切除することができる。以下でさらに説明するように、この設計により、複数回の遺伝子欠失において同じ選択マーカー遺伝子を再利用することが可能となった。
【0474】
pAT121のDNA試料をSacIIで消化し、アガロースゲルで電気泳動し、ゲル抽出キット(Qiagen, USA、カタログ番号28704)を使用して、ヒグロマイシン耐性遺伝子を含む断片をゲルから精製した。次に、このDNA断片を、SacIIで消化され、子ウシ腸アルカリホスファターゼ(New England Biolabs, USA)で処理されたpAT042に連結した。連結ミックスを、標準的な形質転換法により大腸菌DH5αコンピテント細胞に導入した。カナマイシン耐性コロニーを選択した。5個のコロニーからDNAを調製し、制限酵素XmaI、AscI、NotIによる消化とアガロースゲル電気泳動によってスクリーニングし、Hyg耐性カセットが、FAD2配列の5'上流及び3'下流間のSacII部位に正しく挿入されていることを同定し確認した。FAD2からの5'上流配列及び3'下流配列が隣接するHyg抗生物質耐性遺伝子配列を有する得られた構築体は保持され、pAT259と命名した。ヌルセオスリシン耐性遺伝子カセット(Nat1)を使用する同様の構築により、pAT260と命名された遺伝子構築体が生成された(表14と
図2)。
【0475】
ワイ・リポリティカへのFAD2欠失構築体の導入
ヒグロマイシン耐性遺伝子を含むpAT259内の遺伝子構築体をワイ・リポリティカに導入し、形質転換により遺伝子改変された細胞を同定するために、以下のプロトコールに従った。形質転換されるワイ・リポリティカW29株の細胞をYPD寒天プレート上に画線塗布し、28℃で16時間インキュベートした。白金耳一杯分の新たに増殖させた細胞を寒天表面からこすり落とした。細胞を1mLのTE緩衝液(10mMトリス-HCl、1mM EDTA、pH8.0)で洗浄し、15,800gで室温で1分間遠心分離することによってペレット化した。細胞を600μLの0.1M酢酸リチウム(LiAc)溶液に再懸濁し、28℃で1時間インキュベートしてコンピテント細胞を生成した。次に、細胞懸濁液を室温で400gで2分間遠心分離し、細胞を60μLの0.1M LiAc溶液中に穏やかに再懸濁した。40μLのコンピテント細胞を2mLチューブに移し、3~10μL(約500~1,000ng DNA)のAscI/NotI線状化DNAベクター及び3μLのキャリアDNA(5mg/mL)と穏やかに混合した。混合物を28℃で15分間インキュベートした。350μLのPEG4000溶液を各形質転換に添加し、穏やかに混合した。混合物を28℃で1時間インキュベートし、続いて39℃で10分間熱ショックを与えた。600μLのLiAc 0.1M溶液を加え、穏やかに混合した。
【0476】
各形質転換ミックスを5mLの非選択培地(YPD)で24時間培養して、形質転換体の回収を行った。次に細胞を希釈し、ヒグロマイシン(250μg/mL)を含む選択YPD培地にプレーティングし、プレートを28℃で2日間インキュベートして、プレートあたり50~100個のコロニーを得た。ヌルセオスリシンを選択剤として、同様の構成のNat1遺伝子の導入と組合わせて使用した場合、この抗生物質は400μg/mLの濃度で使用された。
【0477】
ワイ・リポリティカ形質転換由来のヒグロマイシン耐性コロニーを、オリゴヌクレオチドプライマーat239及びat240を使用してFAD2遺伝子挿入についてPCRによってスクリーニングし、Hygの遺伝子欠失/挿入について陽性であるコロニーを選択した。表現型を検査し、FAD2欠失変異を確認するために、4つのヒグロマイシン耐性コロニーをYPD培地中で28℃で増殖させ、細胞から抽出した総脂質の脂肪酸組成をFAMEのGC定量によって決定した。結果(表15)は、4つの形質転換体すべてからの脂質がLAが欠如していることを示し、各単離株においてFAD2遺伝子が不活性化され、同時にオレイン酸レベルが総脂肪酸含有量の約76%まで増加したことが確認された。FAD2に関して野生型であり、対照として含まれる株を、同じ条件下で増殖させた。これらは、約18%のLAと56%のオレイン酸を有する脂質を含んでいた。fad2変異体において観察された脂質の脂肪酸組成は、WO2004/104167で報告されたものと同様であり、オレイン酸が74%であり、LAは検出されなかった。
【0478】
株中にLA以外のPUFAが欠如していることを確認するために、ワイ・リポリティカ形質転換体をYPD培地中で最大3日間増殖させた。一部の試料では、細胞由来の極性脂質又はTAGのいずれかに微量のLA(0.1%)が観察された以外、多価不飽和脂肪酸は観察されなかった(表16)。
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【0479】
実施例7.ウラシル栄養要求性を生成するためのワイ・リポリティカの改変
ワイ・リポリティカのURA3遺伝子は、酵素オロチジン-5'-リン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.23;GenBank登録番号Q12724)をコードし、登録番号AJ306421.1として変種配列を有する(Mauersberger et al., 2001)。この酵素は微生物におけるウラシルの合成に必要であるため、URA3遺伝子のヌル変異体は、増殖するために培地にウラシルを添加する必要がある。このような栄養要求性変異体は、ウラシルが欠如した規定培地上でのURA3変異の相補性を選択する選択マーカー遺伝子として機能性URA3遺伝子を含む遺伝子構築体とともに使用されている(Mauersberger et al., 2001)。従って、野生型W29株から出発して、ワイ・リポリティカにおいてURA3遺伝子欠失変異体が作製された。使用した戦略は、fad2KO1変異体に対する戦略と同様であった(実施例6、
図2)。
【0480】
URA3遺伝子欠失をワイ・リポリティカに導入するための遺伝子構築体
ワイ・リポリティカW29株のURA3遺伝子の上流領域及び下流領域のヌクレオチド配列(それぞれ1,000塩基対)は、クエリーとしてU40564.1(www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/U40564.1/)の配列を使用して、NCBIデータベースから抽出された。染色体Eの配列は、より広範囲の上流配列及び下流配列を提供するために、100%の同一性パラメーターと位置3150692~3154401に設定された変更領域オプションを使用して選択された。URA3遺伝子のヌクレオチド配列は、本明細書においてタンパク質コード配列の上流の1,000ヌクレオチドと下流の1,000ヌクレオチドを含む配列番号51として提供される。ワイ・リポリティカ由来のコードされたオロチジン-5'-リン酸デカルボキシラーゼポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号50として提供される。
【0481】
SacII制限酵素部位を介して1,000塩基対の3'下流配列に結合した1,000塩基対の5'上流配列に対応するDNA断片を、GeneArt(Thermofisher, USA)によって、最初はベクターpMK-T内で合成して、pAT069を生成した。このDNA断片は、隣接するAscI及びNotI制限部位を有しており、これらを使用して断片をpMK-RQベクターに挿入し、構築体pAT070を生成した(表14、実施例6)。クローニングされた挿入体のヌクレオチド配列を確認した。URA3タンパク質コード配列を介さずに、5'上流配列を3'下流配列に結合すると、この配置により861塩基対のURA3タンパク質コード配列(ΔURA3)が効果的に欠失された。
【0482】
ヒグロマイシン耐性遺伝子を含むpAT121のDNAとヌルセオスリシン耐性遺伝子を含むpAT122(実施例6)のDNAをSacIIで消化し、これらの遺伝子にかかる断片をゲル抽出キット(Qiagen, USA)を使用して精製した。このDNA断片を、SacIIで消化し、子ウシ腸アルカリホスファターゼで処理されたpAT070と別々に連結した。連結混合物を大腸菌DH5αコンピテント細胞に形質転換した。各連結について5個のコロニーからDNAを調製し、コロニーからのDNA試料を数個の制限酵素による消化とアガロースゲル電気泳動によりスクリーニングして、5'上流配列及び3'下流配列の間に正しい挿入が起きていることを同定及び確認した。URA3由来の5'上流配列及び3'下流配列が隣接するHyg又はNat1抗生物質耐性遺伝子配列を有する得られた構築体を、それぞれpAT257及びpAT258と命名した(表14)。
【0483】
URA3欠失構築体の導入
ヒグロマイシン耐性遺伝子を含む遺伝子構築体pAT257をワイ・リポリティカに導入し、形質転換により遺伝子改変されたUra-栄養要求性細胞を同定するために、実施例6に記載の形質転換プロトコールに従った。形質転換された細胞は、250μg/mLヒグロマイシンを含むYPDプレート上で選択された。抗生物質耐性コロニーを、URA3遺伝子挿入及びウラシル栄養要求性について、PCRによってスクリーニングした。ウラシル栄養要求性については、ヒグロマイシン耐性コロニーを、それぞれヒグロマイシンを含むYPDプレート及びSD-Uraプレート上でスクリーニングした。YPDプレートとSD-Uraプレートの両方で増殖したコロニーは、遺伝子欠失陰性として廃棄されたが、YPDプレートでは増殖したがSD-Uraプレートでは増殖しなかったコロニーは、ura遺伝子欠失を有するものとして選択された。陽性コロニーを、Phire DNA PCRキット(ThermoFisher)を用いて、プライマーat270及びat272(表13、実施例6)を使用するPCRによってスクリーニングした。初期変性は98℃で5分間であり、続いて、1kbあたり、98℃で5秒、60℃で5秒、72℃で20秒を40サイクル行い、最終伸長は72℃で4分間であった。いくつかの陽性コロニーを、TaqポリメラーゼをThermoPol緩衝液(NEB Biolabs, USA、カタログ番号M0267)と共に用いて再試験して、遺伝子欠失の妥当性を確認した。
【0484】
形質転換細胞株の1つはワイ・リポリティカ ura3欠失変異体として保持され、ワイ・リポリティカura3KO27株と命名された。この株は、さまざまな単一遺伝子(Ura3遺伝子に加えて)、及び複数遺伝子の遺伝子構築体の導入に使用され、Ura+表現型の選択を可能にした。
【0485】
二重欠失変異体fad2-ura3の生成
実施例6に記載のワイ・リポリティカのfad2KO1変異体を第2ラウンドの形質転換で改変して、URA3遺伝子欠失を導入した。これは、上記の形質転換プロトコールを使用したが、抗生物質を含むYPD培地上でヌルセオスリシンに対する耐性を提供するNat1選択マーカー遺伝子を有するpAT258を使用した。濃度400μg/mLのヌルセオスリシンを含むプレート上で増殖したコロニーは、ura3欠失変異を有することが確認された:ura3KO27株について上記したように、抗生物質耐性コロニーをURA3遺伝子挿入及びウラシル栄養要求性についてPCRによってスクリーニングした。1つの二重変異株が保持され、fad2KO1-ura3KO27と命名された。この株は、さまざまな単一遺伝子及び複数遺伝子の遺伝子構築体の導入に使用され、fad2変異体バックグラウンドでUra+表現型の選択を可能にした。
【0486】
実施例8.トリアシルグリセロール合成を低下させるための微生物の改変-単一遺伝子変異体
エス・セレビッシェやワイ・リポリティカなどの酵母におけるトリアシルグリセロール(TAG)合成は、一連の酵素の活性によって行われ、主にケネディ経路を介して行われる。ケネディ経路では、最初に遊離脂肪酸が補酵素A(CoA)に結合してアシルCoA分子が生成される。次に、3つのアシルCoAからのアシル基が段階的にエステル化されてグリセロール骨格となり、TAGが合成される。最初の工程では、グリセロール-3-リン酸(G3P)が、エス・セレビッシェのSCT1及びGPT2遺伝子とワイ・リポリティカのYALI0C00209g遺伝子によってコードされるグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT;EC2.3.1.15)によってアシル化されて、リゾホスファチジン酸(LPA)を生成される。次に、LPAは、エス・セレビッシェのSLC1遺伝子及びワイ・リポリティカのYALI0E18964g遺伝子によってコードされるリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT;EC2.3.1.51;1-アシル-sn-G3Pアシルトランスフェラーゼとも呼ばれる)によってアシル化されて、ホスファチジン酸(PA)が生成される。続いて、酵素ホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼ(PAP)によるPAの脱リン酸化が行われて、ジアシルグリセロール(DAG)が生成される。最終工程では、DAGは、2つのジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.20)であるDGA1又はDGA2のいずれかによって、アシル供与体としてアシルCoAを使用して、アシル化される。DGA1は、エス・セレビッシェではDGA1遺伝子、ワイ・リポリティカではYALI0E32769g遺伝子によってコードされる。TAGもまた、DAGから、エス・セレビッシェのLRO1遺伝子及びワイ・リポリティカのYALI0E16797g遺伝子にコードされるリン脂質:ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(PDAT、リン脂質:1,2-ジアシル-sn-グリセロールO-アシルトランスフェラーゼ;EC2.3.1.158としても知られている)によって合成され、これは、グリセロリン脂質をアシル供与体として使用してTAGを生成する。2つの異なるアシル-CoA:ステロールアシルトランスフェラーゼ(ASAT、EC2.3.1.26)もまた、エス・セレビッシェ中でARE1及びARE2遺伝子によりコードされ、ワイ・リポリティカ中で単一のARE遺伝子YALI0F06578gによってコードされる、TAGを合成することができる。
【0487】
ワイ・リポリティカは、窒素が制限された増殖条件下で20重量%を超える脂質(乾燥細胞重量)を、いくつかの株では少なくとも30%までのTAGを産生できるため、油性酵母であると考えられている。特定の遺伝子改変を行うことで、ワイ・リポリティカ株は、重量で最大77%あるいはそれ以上の脂質を産生するように工学操作することができる。他の酵母を含む他の多くの既知の油性真菌が存在する。対照的に、エス・セレビッシェのほとんどの株は、多量のTAGを生成せず、D5Aなどの少数の株を除いて、油性酵母とは見なされない(He et al., 2018)。
【0488】
本発明者らは、増加した量のLC及びVLC飽和脂肪酸を含む脂質が、より多くのTAG及び/又は改変された脂肪酸組成を有するTAGを産生するように遺伝子改変された酵母株において産生され得ると考えた。従って、まず第1に、ワイ・リポリティカにおけるDGA1、DGA2、LRO1、及びARE1遺伝子を含むTAG合成遺伝子を不活性化し、これらの機能を試験する実験が計画された。
【0489】
DGA1遺伝子欠失をワイ・リポリティカに導入するための遺伝子構築体
ワイ・リポリティカのゲノムからDGA1遺伝子及び他のTAG合成遺伝子のタンパク質コード配列を欠失させ、それによりヌル変異を提供するために、FAD2について
図2に記載した一般的な戦略をいくつかの態様で改変した。改変された戦略の概略は
図3に示される。前と同様に、遺伝子欠失を導入するための遺伝子カセットは、内因性遺伝子への組換えにより遺伝子カセットの組み込みを提供する5'上流配列及び3'下流配列が隣接する選択マーカー遺伝子で置換された目的の遺伝子のタンパク質コード領域を有した。ただし今回は、1,000塩基対の5'上流配列及び3'下流配列は社内でPCRによって産生された。また、増幅に使用したプライマー、及び選択マーカー遺伝子は、SacII部位ではなくAsiSI制限酵素部位を有した。
【0490】
ワイ・リポリティカW29株のDGA1遺伝子のヌクレオチド配列とその上流配列及び下流配列は、KEGGヤロウィアデータベース(www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=yli)から、公開されているYALI遺伝子識別子を使用して、遺伝子YALI0E32769p、染色体Eのヌクレオチド3885857~3889401(登録番号CR382131.1)として抽出された。DGA1遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号52として本明細書に提供され、タンパク質コード配列の上流の1,000ヌクレオチド、それに続くタンパク質コード配列、及びタンパク質コード配列の下流の1,000ヌクレオチドを含む。
【0491】
コードされたDGA1ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号53として提供される。ワイ・リポリティカDGA1は、514個のアミノ酸残基のタンパク質であり、動物、及び植物のDGAT2酵素のホモログであるため、DGAT2ポリペプチドであると考えられている。これらはすべてMBOATタンパク質ファミリーのメンバーである(Wang et al., 2013)。
【0492】
DGA1タンパク質コード領域に隣接する5'上流領域及び3'下流領域は、ワイ・リポリティカW29株のゲノムDNAから増幅された。各増幅反応は、TaqDNAポリメラーゼをThermoPol緩衝液及び一対のオリゴヌクレオチドプライマーとともに使用した(実施例6の表13)。この手段により、5'上流断片は、5'末端にAscIの制限酵素部位及び3'末端にAsiSIの制限酵素部位を追加することによって適合された。同様に、3'下流断片は、製造業者の指示に従って、その5'末端にAsiSIの制限酵素部位及びその3'末端にNotIの制限酵素部位を追加することによって適合された。(Phusion高忠実度DNAポリメラーゼ, Thermofisher, US)。増幅されたDNA断片を標準プロトコールを用いて、AsiSIで消化し、T4DNAリガーゼで連結し、そしてベクターpCR Zero Blunt TOPOにベクターに挿入してpAT253を生成した(実施例6の表14)。クローニングされた挿入体のヌクレオチド配列を確認した。
【0493】
ヒグロマイシン耐性遺伝子を含むpAT123、及びヌルセオスリシン耐性遺伝子を含むpAT124(実施例6)のDNAをAsiSIで消化し、これらの遺伝子にかかる断片をゲル抽出キット(Qiagen, USA)を使用して精製した。DNA断片を、AsiSIで消化し、子ウシ腸アルカリホスファターゼで処理したpAT253 DNAと別々に連結した。連結混合物を大腸菌DH5αコンピテント細胞に形質転換した。各連結について少なくとも5個のコロニーからDNAを調製し、コロニーのDNA試料を制限酵素による消化とアガロースゲル電気泳動によってスクリーニングして、5'上流配列及び3'下流配列に正しい挿入が起きていることを同定及び確認した。DGA1からの5'上流配列及び3'下流配列が隣接するHyg又はNat1抗生物質耐性遺伝子配列を有する得られた構築体を、それぞれpAT265及びpAT266と命名した(実施例6の表14)。
【0494】
DGA1欠失構築体のワイ・リポリティカへの導入
Hyg耐性遺伝子を含む遺伝子構築体pAT265及びNat1耐性遺伝子を含む遺伝子構築体pAT266を導入して、ワイ・リポリティカのDGA1タンパク質コード領域を置換し、形質転換により遺伝子改変されたΔdga1細胞を同定するために、実施例6に記載の形質転換プロトコールに従った。形質転換細胞は、選択マーカー遺伝子に従って、250μg/mlヒグロマイシン又は400μg/mlヌルセオスリシンを含むYPDプレート上で選択された。抗生物質耐性コロニーを、DGA1遺伝子挿入についてPCRによってスクリーニングした。5'上流領域に位置する1つのオリゴヌクレオチドプライマー(at245)とDGA1タンパク質コード領域内に位置する第2のプライマー(at247)をPCR反応で使用して、抗生物質耐性コロニーのゲノムDNAに欠失変異が導入されていることを確認した。PCR反応は、TaqDNAポリメラーゼをThermoPol緩衝液(NEB, USA)と共に用いて標準条件下で実施した。増幅産物の欠如は、欠失変異の存在を示した。W29からのゲノムDNAをPCRの陽性対照として並行して使用した。オリゴヌクレオチドプライマーat245特にat248(後者はDGA1の3'領域に位置する)を使用する2回目のPCR試験でも、欠失/挿入変異の存在が確認され、欠失の存在下では1.3kbの増幅産物が生成され、野生型の変異していないDGA1では1.6kbの産物が生成された。プライマー対at246とat248も使用された。Nat1遺伝子について試験したコロニー10個のうち7個で、DGA1タンパク質コード領域の欠如が確認された。
【0495】
各形質転換からの形質転換細胞株の1つが選択され、ワイ・リポリティカDGa1欠失変異体として保持され、dga1KO1(Hyg)株及びdga1KO1(Nat1)株と命名された。
【0496】
dga1KO1株を、TAG合成を誘導する高グルコース/低窒素培地中での増殖により、対応する野生型株と比較し、TAG合成能力の低下を決定した。後者の培地中、29℃で96時間培養した後のdga1KO1変異体では、TAGレベルの50%の低下が観察される。驚くべきことに、VLC-SFA、特にC24:0の量が、dga1変異体において大きく低下していることが観察された(実施例11を参照)。実際、総脂肪酸含有量の割合としてのTAG中のC24:0のレベルは83%低下した。C18:0のレベルも大きく低下し、総飽和脂肪酸の割合は、野生型W29株の約55%からdga1変異体の約35%まで低下した。DGA1タンパク質が、ワイ・リポリティカのTAGへのVLC-SFA、特にC24:0及びC18:0の取り込みの大部分に関与していると結論づけられた。dga1KO1株もYPDなどの富裕培地で増殖する。
【0497】
DGA2遺伝子欠失をワイ・リポリティカに導入するための遺伝子構築体
ワイ・リポリティカのゲノムからDGA2遺伝子のタンパク質コード配列を欠失させるために、DGA1欠失の場合と同じ戦略が使用された(
図3)。ワイ・リポリティカW29株のDGA2遺伝子のヌクレオチド配列とその上流配列及び下流配列は、KEGGヤロウィアデータベース(www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=yli)から、公開されているYALI遺伝子識別子を使用して、遺伝子YALI0B10153p(登録番号XP_500707)として抽出された。DGA2遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号54として提供され、タンパク質コード配列の上流の1,000ヌクレオチド、それに続くタンパク質コード配列、及びタンパク質コード配列の下流の1,000ヌクレオチドを含む。
【0498】
コードされたDGA2ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号55として提供される。ワイ・リポリティカDGA2は、526個のアミノ酸残基のタンパク質である。このタンパク質は、膜結合型O-アシルトランスフェラーゼファミリードメイン含有(MBOAT)タンパク質のメンバーであり、複数の膜貫通領域(典型的には8~10個のそのような領域)を有し、これはアシル基を膜内の基質(この場合はDAG)に転移する。ワイ・リポリティカDGA2タンパク質は、植物や動物のDGAT1タンパク質とより密接に関連しており、子嚢菌酵母であるエル・クルイベリ、ケー・パストリス、ケー・ラクチス、シー・アルビカンス、シー・パラプシロシス、及び オー・ポリモルファのDGAT2とは系統学的に異なる。従って、これはDGAT1であると見なされる。DGA2ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号55)は、BLASTプログラムで比較した場合、DGA1ポリペプチド(配列番号53)のアミノ酸配列と有意な同一性を示さない。
【0499】
5'上流領域及び3'下流領域は、ワイ・リポリティカW29株由来のゲノムDNAから増幅された(
図3)。各増幅反応には、Phusion高忠実度DNAポリメラーゼ(NEB, USA)及び一対のオリゴヌクレオチドプライマーを使用した(表13)。DGA1の増幅に関しては、5'上流断片は、その5'末端にAscIの制限酵素部位を有し、その3'末端にAsiSIの制限酵素部位を有していた。同様に、3'下流断片は、その5'末端にAsiSIの部位があり、その3'末端にNotIの部位があった。増幅されたDNA断片をAsiSIで消化し、T4DNAリガーゼで連結し、ベクターpCR Zero Blunt TOPOに挿入して、pAT254を生成した(実施例6の表14)。クローニングされた挿入体のヌクレオチド配列を確認した。
【0500】
ヒグロマイシン耐性遺伝子を含むpAT123及びヌルセオスリシン耐性遺伝子を含むpAT124(実施例6)のDNAをAsiSIで消化し、これらの遺伝子にかかる断片をゲル抽出キットを使用して精製した。これらを、AsiSIで消化したpAT254に連結し、連結混合物を大腸菌DH5αコンピテント細胞に導入した。各連結について5個のコロニーからDNAを調製し、制限酵素による消化によってスクリーニングした。アガロースゲル電気泳動により正しい構築体が同定され、意図した挿入が5'上流配列と3'下流配列の間に起きていることが確認された。DGA2からの5'上流配列及び3'下流配列が隣接するHyg又はNat1抗生物質耐性遺伝子配列を有する得られた構築体を、それぞれpAT267及びpAT268と命名した(実施例6の表14)。
【0501】
ワイ・リポリティカへのDGA2欠失構築体の導入
ヒグロマイシン耐性遺伝子を含む遺伝子構築体pAT267をワイ・リポリティカに導入するために、実施例6に記載の形質転換プロトコールに従った。形質転換細胞は、250μg/mLヒグロマイシンを含むYPDプレート上で選択された。抗生物質耐性コロニーをDGA2遺伝子挿入についてPCRによってスクリーニングし、形質転換により遺伝子改変されたΔdga2細胞を同定した。DGA2タンパク質コード領域内部のオリゴヌクレオチドプライマー対at249とat251をPCR反応に使用して、ヒグロマイシン耐性コロニーのゲノムDNAに欠失変異が導入されたことを確認した。PCR反応は、TaqDNAポリメラーゼをThermoPol緩衝液(NEB, USA)と共に用いて標準条件下で実施した。増幅産物の欠如は、欠失変異の存在を示した。W29からのゲノムDNAをPCRの陽性対照として並行して使用した。オリゴヌクレオチドプライマー対at250とat252(後者はDGA2の3'領域に位置する)を使用する2回目のPCR試験でも、欠失/挿入変異の存在が確認された。Hyg遺伝子で選択された6個のコロニーのうち5個で、DGA2タンパク質コード領域の欠如が確認された。
【0502】
形質転換細胞株の1つはワイ・リポリティカDGa2欠失変異体として保持され、ワイ・リポリティカDGa2KO1(Hyg)株と命名された。
【0503】
TAG合成を誘導する高グルコース/低窒素培地(DM-Glyc-LowN)での増殖により、dga2KO1(Hyg)株を対応する野生型株と比較し、TAG合成能力の低下を測定した。野生型DGA2株と比較してdga2KO1変異体では、TAGレベルの約46%の低下が観察された。驚くべきことに、C24:0の量が野生型対照と比較してdga2変異体において増加していることが観察された(実施例11を参照)。実際、総脂肪酸含有量の割合としてTAGのC24:0のレベルは約20%増加した。この観察は、DGA1タンパク質がワイ・リポリティカのTAG中のC24:0の大部分の挿入に関与しているのに対し、DGA2ポリペプチドはSFAよりも不飽和脂肪酸に対してより活性であるという上記の結論を支持した。同時に、総飽和脂肪酸の割合は野生型W29株の約55%からdga2変異体では約43%まで低下した。
【0504】
LRO1遺伝子欠失をワイ・リポリティカに導入するための遺伝子構築体
ワイ・リポリティカのゲノムからLRO1遺伝子のタンパク質コード配列を欠失させるために、DGA1欠失の場合と同じ戦略が使用された(
図3)。ワイ・リポリティカW29株のLRO1遺伝子のヌクレオチド配列とその上流配列及び下流配列は、KEGGヤロウィアデータベース(www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=yli)から、公開されているYALI遺伝子識別子を使用して、遺伝子YALI0E16797p(登録番号CR382131.1)として抽出された。LRO1遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号56として提供され、タンパク質コード配列の上流の1,000ヌクレオチド、それに続くタンパク質コード配列、及びタンパク質コード配列の下流の1,000ヌクレオチドを含む。
【0505】
コードされたPDATポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号57として提供される。LRO1遺伝子によりコードされるワイ・リポリティカタンパク質は、PDAT活性を有する648個のアミノ酸残基のタンパク質である。
【0506】
LRO1タンパク質コード領域に隣接する5'上流領域及び3'下流領域は、Phusion高忠実度DNAポリメラーゼ(NEB, USA)及び一対のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、ワイ・リポリティカW29株由来のゲノムDNAから増幅された(実施例6の表13)。DGA1の増幅に関しては、5'上流断片は、その5'末端にAscIの制限酵素部位を有し、その3'末端にAsiSIの制限酵素部位を有していた。同様に、3'下流断片は、その5'末端にAsiSIの部位があり、その3'末端にNotIの部位があった。増幅されたDNA断片をAsiSIで消化し、T4DNAリガーゼで連結し、ベクターpCRZero Blunt TOPOに挿入して、pAT256を生成した(実施例6の表14)。クローニングされた挿入体のヌクレオチド配列を確認した。
【0507】
ヒグロマイシン耐性遺伝子を含むpAT123及びヌルセオスリシン耐性遺伝子を含むpAT124(実施例6)のDNAをAsiSIで消化し、これらの遺伝子にかかる断片をゲル抽出キットを使用して精製した。これらを、AsiSIで消化したpAT256に連結し、連結混合物を大腸菌DH5αコンピテント細胞に導入した。各連結について5個のコロニーからDNAを調製し、制限酵素による消化によってスクリーニングした。アガロースゲル電気泳動により正しい構築体が同定され、意図した挿入が5'上流配列と3'下流配列の間に起きていることが確認された。LRO1からの5'上流配列及び3'下流配列が隣接するHyg又はNat1抗生物質耐性遺伝子配列を有する得られた構築体を、それぞれpAT271及びpAT272と命名した(実施例6の表14)。
【0508】
ワイ・リポリティカへのLRO1欠失構築体の導入
ヌルセオスリシン耐性遺伝子を含む遺伝子構築体pAT272をワイ・リポリティカに導入するために、実施例6に記載の形質転換プロトコールに従った。形質転換細胞は、400μg/mLのヌルセオスリシンを含むYPDプレート上で選択された。抗生物質耐性コロニーをLRO1遺伝子挿入についてPCRによってスクリーニングし、形質転換により遺伝子改変されたΔlro1細胞を同定した。LRO1の5'上流領域に位置する1つのオリゴヌクレオチドプライマー(at257)と3'下流領域に位置する第2のプライマー(at260)をPCR反応に使用して、抗生物質耐性コロニーのゲノムDNAに欠失変異が導入されていることを確認した。PCR反応は、TaqDNAポリメラーゼをThermoPol緩衝液(NEB, USA)と共に用いて標準条件下で実施した。W29からのDNAをPCRの陽性対照として並行して使用した。2.2kb増幅産物の欠如及び1.4kb産物の存在は、欠失変異の存在を示した。プライマーat258及びat260を使用して、確認的なPCR反応を実行した。試験した10個のコロニーのうち4個で、LRO1タンパク質コード領域が存在しないことが確認された。
【0509】
5'上流領域に位置する1つのオリゴヌクレオチドプライマー(at245)とLRO1タンパク質コード領域内に位置する第2のプライマー(at247)をPCR反応に使用して、抗生物質耐性コロニーのゲノムDNAに欠失変異が導入されていることを確認した。PCR反応は、TaqDNAポリメラーゼをThermoPol緩衝液(NEB, USA)と共に用いて標準条件下で実施した。増幅産物の欠如は、欠失変異の存在を示した。W29からのゲノムDNAをPCRの陽性対照として並行して使用した。オリゴヌクレオチドプライマーat245及びat248(後者はLRO1の3'領域に位置する)を使用する2回目のPCR試験でも、欠失/挿入変異の存在が確認され、欠失の存在下では1.3kbの増幅産物が、野生型の変異していないDGA1遺伝子では1.6kbの産物が生成された。Nat1遺伝子について試験した10個のコロニーのうち4個で、LRO1タンパク質コード領域が存在しないことが確認された。
【0510】
形質転換細胞株の1つはワイ・リポリティカlro1欠失変異体として保持され、ワイ・リポリティカlro1KO1株と命名された。
【0511】
TAG合成を誘導する高グルコース/低窒素培地(DM-Glyc-LowN)での増殖により、lro1KO1株を対応する野生型株と比較し、TAG合成能力の低下を測定した。lro1KO1変異体ではTAGレベルの約30%の低下が観察された。総飽和脂肪酸の割合は、野生型W29株の約55%からlro1変異体では約50%まで低下したため、dga1及びdga2変異体よりも変化が小さらった。
【0512】
ARE1遺伝子欠失をワイ・リポリティカに導入するための遺伝子構築体
エス・セレビッシェを含む真菌の遺伝子ARE1とARE2は、TAGを合成することもできる酵素アシル-CoA:ステロールアシルトランスフェラーゼ(ASAT、EC2.3.1.26)をコードする。ワイ・リポリティカは単一のARE遺伝子、すなわちARE1を有するようである。ワイ・リポリティカゲノムからARE1遺伝子のタンパク質コード配列を欠失させるために、DGA1欠失の場合と同じ戦略が使用された(
図3)。ワイ・リポリティカW29株のARE1遺伝子のヌクレオチド配列とその上流配列及び下流配列は、KEGGヤロウィアデータベース(www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=yli)から、公開されているYALI遺伝子識別子を使用して、遺伝子YALI0F06578g(登録番号CR382131.1)として抽出された。ARE1遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号58として提供され、タンパク質コード配列の上流の1,000ヌクレオチド、それに続くタンパク質コード配列、及びタンパク質コード配列の下流の1,000ヌクレオチドを含む。
【0513】
コードされたASATポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号59として提供される。ワイ・リポリティカASATは、543個のアミノ酸残基からなるタンパク質である。
【0514】
ASATタンパク質コード領域に隣接する5'上流領域及び3'下流領域は、ワイ・リポリティカW29株のゲノムDNAから増幅された(
図3)。各増幅反応は、Phusion高忠実度DNAポリメラーゼ(NEB, USA)及び一対のオリゴヌクレオチドプライマーを使用した(実施例6の表13)。DGA1の増幅に関しては、5'上流断片は、その5'末端にAscIの制限酵素部位を有し、その3'末端にAsiSIの制限酵素部位を有していた。同様に、3'下流断片は、その5'末端にAsiSIの部位があり、その3'末端にNotIの部位があった。増幅されたDNA断片をAsiSIで消化し、T4DNAリガーゼで連結し、ベクターpCR Zero Blunt TOPOに挿入して、pAT251を生成した(実施例6の表14)。クローニングされた挿入体のヌクレオチド配列を確認した。
【0515】
ヒグロマイシン耐性遺伝子を含むpAT123及びヌルセオスリシン耐性遺伝子を含むpAT124(実施例6)のDNAをAsiSIで消化し、これらの遺伝子にかかる断片をゲル抽出キットを使用して精製した。これらを、AsiSIで消化したpAT251に連結し、連結混合物を大腸菌DH5αコンピテント細胞に導入した。各連結について5個のコロニーからDNAを調製し、制限酵素による消化によってスクリーニングした。アガロースゲル電気泳動により正しい構築体が同定され、意図した挿入が5'上流配列と3'下流配列の間に起きていることが確認された。LRO1からの5'上流配列及び3'下流配列が隣接するHyg又はNat1抗生物質耐性遺伝子配列を有する得られた構築体を、それぞれpAT261及びpAT262と命名した(実施例6の表14)。
【0516】
ワイ・リポリティカへのARE1欠失構築体の導入
遺伝子構築体pAT261及びpAT262をワイ・リポリティカに導入するために、実施例6に記載の形質転換プロトコールに従った。形質転換細胞は、適切な抗生物質を含むYPDプレート上で選択された。抗生物質耐性コロニーをARE1遺伝子挿入についてPCRによってスクリーニングし、形質転換により遺伝子改変されたΔare1細胞を同定した。W29からのDNAをPCRの陽性対照として並行して使用した。それぞれ5'上流領域及び3'下流領域に位置するプライマー対at241とat244をPCR反応に使用して、抗生物質耐性コロニーのゲノムDNAに欠失変異が導入されていることを確認した。タンパク質コード領域内部のプライマー対at242とat243、及びat242とat244を用いる追加のPCR反応により、欠失/挿入変異の存在が確認された。ARE1タンパク質コード領域の欠如は、ヒグロマイシンに耐性のある6個のコロニーのうち3個、及びヌルセオスリシンに耐性のある4個のコロニーのうち3個で確認された。形質転換細胞株のそれぞれ1つをワイ・リポリティカ are1欠失変異体として保持し、そしてワイ・リポリティカ株はare1KO1(Hyg)及びare1KO1(Nat1)と命名された。
【0517】
TAG合成を誘導する高グルコース/低窒素培地(DM-Glyc-LowN)での増殖により、are1KO1株を対応する野生型株と比較し、TAG合成能力の低下を測定する。are1KO1変異体のTAGレベルは約20%低下しており、これはdga1、dga2、及びlro1の低下よりも小さかった。Are1タンパク質は、この実施例で試験した4個の酵素のうちで、ワイ・リポリティカにおけるTAGの合成において最も活性が低いと結論づけられた。
【0518】
実施例9.トリアシルグリセロール合成を低下させるための微生物の改変-複数遺伝子変異体
実施例8に記載したように、TAG生合成のための4個の遺伝子、すなわちDGA1、DGA2、LRO1、及びARE1のいずれか1つに欠失を有する単一遺伝子変異体をワイ・リポリティカで生成した。本発明者らは、複数の遺伝子欠失を有する変異体を作製し、内因性TAG合成をさらに低下させ、そして異種DGAT及び/又は他の酵素を過剰発現する1つ又はそれ以上の遺伝子を追加して、例えば脂肪アシルチオエステラーゼ又はアシルCoAシンセターゼなどの脂肪酸組成を改変することを目的とした。これには、まず抗生物質耐性マーカー遺伝子、例えばヌルセオスリシン耐性遺伝子を除去して、次の形質転換でマーカー遺伝子を再利用を可能にすることが含まれた。
【0519】
選択可能なマーカー遺伝子のCre-Lox切除
ヒグロマイシン耐性遺伝子以外の選択マーカー遺伝子がlox部位に隣接している場合、プラスミドpUB4-CREが使用される。このベクターは、2つのlox部位間のDNAを切除できるCreリコンビナーゼタンパク質をコードしている。JME547株由来の複製ベクターであるpUB4-CREは、フランスのINRAEから入手した(Fickers et al., 2003)。改変されるエス・セレビッシェ又はワイ・リポリティカ株は、以下に記載するようにプラスミドpUB4-CREで形質転換され、ヒグロマイシン耐性について選択される。コロニーをヌルセオスリシンを含む培地と含まない培地にプレーティングして、選択マーカー遺伝子の損失をスクリーニングする。抗生物質に感受性のあるコロニーが選択され、フランキングプライマーと内部プライマーの組み合わせを用いたPCR及び欠失領域の配列決定によって、ヌルセオスリシン遺伝子の消失が確認される。選択されたコロニーを、ヒグロマイシンの非存在下、すなわち選択圧力なしでYPD培地中で増殖させ、プレーティングして、pUB4-CREを消失したコロニーを同定する(Fickers et al., 2003)。このようなコロニーは、ヌルセオスリシン選択マーカー遺伝子が切除された株として選択される。
【0520】
ヒグロマイシン耐性遺伝子以外の選択マーカー遺伝子を有するpUB4-CREの誘導体を使用して、ヒグロマイシン耐性選択マーカー遺伝子を切除するために、同様の操作に従う。
【0521】
Frozen-EZ Yeast Transformation IIキット(Zymo Research, USA)を使用する、pUB4-CREを導入するための形質転換操作は、以下のとおりである。Zymo Researchからの指示に従って調製した50μlのUra-KO21コンピテント細胞を、5~10μl容量中の0.5~1gのDNAで形質転換する。次に、500μlのEZ3溶液を添加し、細胞懸濁液と完全に混合する。混合物を、時折穏やかに混合しながら、30℃で45分~2時間インキュベートする。50~150μlの形質転換混合物を、ヒグロマイシンを含みヌルセオスリシンを含まないYPDプレート上に広げる。プレートを30℃で2~4日間インキュベートして、形質転換体を増殖させる。
【0522】
複数の不活性化変異を有する変異体の作製
ヒグロマイシン又はノルセオスリシン耐性マーカー遺伝子が変異遺伝子(例えばDGA1遺伝子)から切除され、pUB4-CRE切除プラスミドが細胞から失われると、ヒグロマイシン又はノルセオスリシン選択マーカー遺伝子は、第2の遺伝子を不活性化する突然変異誘発の2回目のラウンドで再び使用することができる。マーカー切除のプロセスを繰り返すことができ、3番目の遺伝子に対して3回目の突然変異誘発を実行し、続いて4回目の突然変異誘発を実行する。この戦略では、4つのTAG合成遺伝子のすべての組み合わせに対して、二重、三重、そして最終的には四重の変異体が生成される。
【0523】
DGA1、LRO1、ARE1、及びARE2から選択される複数の遺伝子を不活性化するために、エス・セレビッシェ D5A株を用いて同様の戦略が実行される
【0524】
実施例10.脂肪酸異化作用を低下させるための微生物の改変
ワイ・リポリティカは、乾燥細胞重量で20%を超える脂質を産生できるため、油性酵母であると考えられている。ワイ・リポリティカなどの微生物のペルオキシソームで起きるβ酸化経路によって、脂質の分解と再動員が引き起こされる。この経路を介して、アシルCoAはアシルCoAオキシダーゼの活性によって異化され、アシル鎖は最終的にアセチルCoA分子に分解され、これらはペルオキシソームから放出される。ペルオキシソームの脂肪酸のβ酸化は、エス・セレビッシェ中の単一のPOX1遺伝子、及びワイ・リポリティカ中の6個の異なるPOX遺伝子(POX1~POX6)によってコードされるアシルCoAオキシダーゼの活性によって開始される。本発明者らは、アシル-CoAの分解を制限することにより、飽和脂肪酸含有量が増加した脂質の産生と蓄積のために、アシル鎖を利用できると考えた。
【0525】
従って、POX1~3及び5、及びMFE1を含む最も活性なアシルCoAオキシダーゼ遺伝子をコードする1つ又はそれ以上の遺伝子の不活性化を介して脂質異化作用を低下させ、また、ワイ・リポリティカ中のPEX10遺伝子の不活性化を介してペルオキシソームの生合成を妨害するように、実験を計画した。
【0526】
POX1遺伝子欠失をワイ・リポリティカに導入するための遺伝子構築体
脂肪酸のβ酸化に関与するPOX1遺伝子及び他の遺伝子のタンパク質コード配列をワイ・リポリティカゲノムから欠失させ、それによりヌル変異を提供するために、実施例8(
図3)に記載されているような一般的戦略に従う。以前と同様に、遺伝子欠失を導入するための遺伝子カセットには、目的の遺伝子のタンパク質コード領域が、1,000塩基対の5'上流配列及び3'下流配列が隣接している選択マーカー遺伝子で置換されおり、これにより、内因性遺伝子への組換えにより遺伝子カセットの組み込みが可能になった。選択マーカー遺伝子の増幅に使用されたプライマーは、SacII部位ではなくAsiSI制限酵素部位を有した。
【0527】
ワイ・リポリティカのPOX1遺伝子のヌクレオチド配列、並びにその上流配列及び下流配列は、KEGGヤロウィアデータベース(www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=yli)から、公開されているYARLI遺伝子識別子を使用して、遺伝子YALI0E32835g、染色体Eのヌクレオチド3897102~3899135(登録番号CR382131.1)として抽出された。POX1遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号60として本明細書に提供され、タンパク質コード配列の上流の1,000ヌクレオチド、それに続くタンパク質コード配列、及びタンパク質コード配列の下流の1,000ヌクレオチドを含む。
【0528】
コードされたPOX1ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号61として提供される。ワイ・リポリティカPOX1は、677個のアミノ酸残基からなるタンパク質である。
【0529】
POX1タンパク質コード領域に隣接する5'上流領域及び3'下流領域は、ワイ・リポリティカW29株のゲノムDNAから増幅された(
図3)。各増幅反応では、TaqDNAポリメラーゼをThermoPol緩衝液及び一対のオリゴヌクレオチドプライマーと共に使用した。この手段により、5'上流断片は、5'末端にAscI及び3'末端にAsiSIの制限酵素部位を追加することによって適合された。同様に、3'下流断片は、その5'末端にAsiSIの制限酵素部位及びその3'末端にNotIの制限酵素部位を追加することによって適合された。増幅されたDNA断片をAsiSIで消化し、標準プロトコールを使用してT4DNAリガーゼで連結し、そしてベクターpCR Zero Blunt TOPOに挿入した。クローニングされた挿入体のヌクレオチド配列を確認した。
【0530】
ヒグロマイシン耐性遺伝子を含むpAT123及びヌルセオスリシン耐性遺伝子を含むpAT124(実施例6)のDNAをAsiSIで消化し、これらの遺伝子にかかる断片をゲル抽出キット(Qiagen, USA)を使用して精製した。DNA断片は、AsiSIで消化され、子ウシ腸アルカリホスファターゼで処理される増幅された5'領域及び3'領域と別々に連結される。連結混合物は大腸菌DH5αコンピテント細胞に形質転換される。各連結について少なくとも5個のコロニーからDNAを調製し、コロニーからのDNA試料を制限酵素による消化とアガロースゲル電気泳動によってスクリーニングして、5'上流配列と3'下流配列の間に正しい挿入が行われたことを同定及び確認する。POX1からの5'上流配列及び3'下流配列が隣接するHyg又はNat1抗生物質耐性遺伝子配列を有する得られた構築体が選択され保持される。
【0531】
POX1欠失構築体のワイ・リポリティカへの導入
POX1タンパク質コード領域を置換するヒグロマイシン耐性遺伝子を含む遺伝子構築体をワイ・リポリティカに導入し、形質転換により遺伝子改変Δpox1細胞を同定するために、実施例6に記載の形質転換プロトコールに従う。形質転換細胞は、250μg/mLヒグロマイシンを含むYPDプレート上で選択される。抗生物質耐性コロニーは、POX1遺伝子挿入についてPCRによってスクリーニングされる。形質転換細胞株の1つが選択され、ワイ・リポリティカPOX2欠失変異体として保持され、及びpox1KO1株と命名される。
【0532】
ポックス1KO1株を、富裕培地であるYPDでの増殖、及びTAG合成を誘導する高グルコース/低窒素培地での増殖により、対応する野生型株と比較し、TAG蓄積の増加を決定する。脂質の量及び脂肪酸組成も評価される。SFA含有量が増加したTAG蓄積が増加させるために、DGATをコードする遺伝子構築体が導入される。
【0533】
同じアプローチを使用して、配列番号77をコードするエス・セレビッシェのPOX1遺伝子(配列番号76)を欠失させる。
【0534】
POX2遺伝子欠失をワイ・リポリティカに導入するための遺伝子構築体
ワイ・リポリティカゲノムからPOX2遺伝子のタンパク質コード配列を欠失させるために、POX1欠失の場合と同じ戦略が使用される。ワイ・リポリティカのPOX2遺伝子のヌクレオチド配列とその上流配列及び下流配列は、KEGGヤロウィアデータベース(www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=yli)から、公開されているYARLI遺伝子識別子を使用して、遺伝子YALI0F10857g、染色体Fのヌクレオチド1449289~1451391(登録番号CR382132.1)として抽出された。POX2遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号62として提供され、タンパク質コード配列の上流及び下流の1,000ヌクレオチドを含む。コードされたPOX2ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号63として提供される。ワイ・リポリティカPOX2は、700個のアミノ酸残基からなるタンパク質である。
【0535】
他の標的遺伝子欠失をワイ・リポリティカに導入するための遺伝子構築体
同様のプロセスに従って、脂質の異化に関与するアシル-CoAオキシダーゼでもあるPOX3タンパク質(配列番号65)をコードするワイ・リポリティカのPOX3遺伝子(配列番号64)のコード領域を欠失させる。
【0536】
両方ともペルオキシソーム機能に関与し、従って脂肪酸の異化を媒介するMFE1(配列番号66)及びPEX10(配列番号68)のタンパク質コード配列を欠失させるために、同じアプローチが使用される。脂肪酸合成を調節する調節遺伝子であるSNF1(配列番号70)、SPO14(配列番号72)、及びOPI1(配列番号74)のタンパク質コード配列、及びワイ・リポリティカゲノム由来の他の目的の遺伝子のタンパク質コード配列を欠失させるために、上記のPOX1の欠失と同じ戦略が使用される。タンパク質コード配列の上流及び下流の1,000ヌクレオチドを含むヌクレオチド配列、及び標的遺伝子のコードされたポリペプチド配列が提供されており(本明細書では配列番号67、69、71、73、75、及び77)、これらは、公開されているYARLI遺伝子識別子を使用して、KEGGヤロウィアデータベース(www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=yli)から抽出された。
【0537】
実施例11.単一遺伝子TAG変異体の脂肪酸組成
実施例8に記載したように生成されたワイ・リポリティカ単一遺伝子変異体のそれぞれを、8%(w/v)グリセロール含有量と低窒素含有量を有するDM-Glyc-LowN培地中で増殖させて、TAG産生を誘導した。培養物を28℃で4日間増殖させた。細胞を遠心分離によって採取し、milliQ水で2回洗浄し、予め秤量したエッペンドルフチューブに移し、-80℃で20分間凍結し、そして一晩凍結乾燥した。脂質を抽出し、分画して、TAGを極性脂質及び他の脂質クラスから分離した。TAG及び極性脂質画分の脂肪酸組成は、実施例1に記載したようにFAMEのGCによって決定した。
【0538】
各株の二重培養の平均に関するデータは表17に示される。いくつかの重要な特徴が注目された。この実験では、野生型W29株は6.3%のTFA含有量を蓄積した。単一遺伝子lro1変異体は、わずかに少ない総脂質を蓄積した。単一遺伝子dga1及びdga2変異体は、より少ないTAG、従ってより少ない総脂質を蓄積した。これは、極性脂質含有量と組成の場合には当てはまらず、これらは、dga1変異体の極性脂質におけるSFA含有量のわずかな増加を除いて、野生型株と比較して単一遺伝子変異体のそれぞれでほとんど同じであった。しかしながら、TAG画分の脂肪酸含有量と組成には、さらに大きな違いが見られた。TAG含有量はdga1及びdga2変異体で顕著に低下し、lro1変異体でも低下したが、それほどではなく、これが各株の総脂質の低下の原因であった。最も重要なことは、長鎖飽和脂肪酸の割合が、dga1変異体、すなわちC18:0、C20:0、C22:0、そして何よりもC24:0で顕著に低下したことである。TAGのC18:0含有量は、野生型の23.1%からdga1変異体では10.7%に低下し、C24:0は7.5%から1.3%に低下し、相対的に83%低下した。対照的に、C16:0の割合はdga2変異体で低下した。同じパターンがC18:0及びより長いSFAとC16:0及びより短いSFAとの比(L/S-SFA比)にも見られ、これは、野生型の1.51からdga1変異体の0.63まで低下したが、dga2変異体では1.97に上昇した。
【0539】
本発明者らは、ワイ・リポリティカの異なるTAG産生酵素はそれらの脂肪酸基質特異性が異なると結論づけた。すなわち、DGA1タンパク質は、より長いSFAの大部分をTAGに挿入するのに活性であり、特にC24:0のほとんどがTAGに蓄積されたため、この酵素はより長いSFAに対して著しく高い特異性を有していたのに対し、DGA2タンパク質はC16:0に対してより高い特異性を有していた。これはまた、ワイ・リポリティカのTAG分子においてエステル化されたC24:0のほとんどが、TAG分子のsn-3位でエステル化されていることを意味した。GCトレース上のピークのC24:0の本体はGC-MSによって確認された。
【表17】
【0540】
実施例12.ワイ・リポリティカDGA1の過剰発現
実施例11に記載のデータを考慮し、データから導かれた結論に基づいて、本発明者らは、酵母細胞においてワイ・リポリティカDGA1酵素を過剰発現する遺伝子構築体を設計した。ワイ・リポリティカの場合、この構築体は、TEFプロモーター(配列番号7)、FBAInプロモーター(配列番号78又は配列番号79)、又はPDKプロモーター(配列番号80)などの強力なプロモーターの制御下で、DGA1タンパク質のコード領域を組み込むように特別に設計された。異種DGA1遺伝子は、組み込みのためのDGA2遺伝子(実施例8)からの隣接配列を有しており、その結果DGA2遺伝子の不活性化をもたらした。この構築体は、2つの遺伝子改変、すなわちワイ・リポリティカにおけるDGA1ポリペプチドの過剰発現とDGA2遺伝子の不活性化の両方を同時に提供し、いずれかの遺伝子改変単独よりもSFA含有量をさらに増加させるように、設計された。DGA2遺伝子に構築体が組み込まれた形質転換株は、TAG合成を誘導する培地中で増殖される。これらの培養物から抽出された脂質は、非形質転換親株と比較してSFA含有量が大幅に増加しており、抽出された脂質の総脂肪酸含有量中のC20:0、C22:0、及びC24:0が大幅に増加している。
【0541】
実施例13.飽和脂肪酸含有量を増加させるための微生物の改変
多くの酵母は、リノール酸(LA、C18:2Δ9,12)や、一部の種ではα-リノレン酸(ALA、C18:3Δ9,12,15)などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を生成し、これらは、TAGを含む脂質に組み込まれる。例えば上記実施例3を参照。本発明者らは、抽出された脂質の融点を上昇させるために、ステアリン酸(C18:0)を含む飽和脂肪酸のレベルを上昇させ、ω6脂肪酸LAを含む多価不飽和脂肪酸(PUFA)を減少させたいと考えた。炭素源としてグルコースを有し、脂肪酸の補充が欠如した富裕培地で培養した場合、野生型ワイ・リポリティカW29株は、それぞれ細胞の総脂肪酸含有量の割合として、比較的少量の約4~7%のステアリン酸及び約6~15%のLAを生成した(表7、実施例3)。より多くのTAG合成を誘導するために、低窒素レベル及び炭素源としてグリセロールを有する培地中でfad2変異株を培養すると、ステアリン酸レベルは18%(表16、実施例6)に増加し、他の実験では20%以上に増加した。W29株は、TAGにALAが存在せず、リン脂質が細胞から抽出されたため、活性Δ15デサチュラーゼが欠如していた。実施例6に記載のように、変異によるワイ・リポリティカのFAD2遺伝子の不活性化は、PUFA、特にLA及び他のω6脂肪酸の生成を消失させた。
【0542】
TAGの生成と蓄積を増加させるために、炭素:窒素比が高い規定培地(DM-Glyc-LowN、実施例1)中で、野生型W29株、fad2変異体、及びfad2-ura3二重変異体を培養する実験を実施した。種培養物をSD-Ura培地で増殖させ、DM-Glyc-LowNで培養物を接種するために使用した。これらの培養物を96時間増殖させた。pHを毎日測定し、24時間と48時間にNaOHでpH6.0に調整し、次にpHは安定し、それ以上の調整は必要なかった。細胞を96時間に採取し、洗浄した。細胞試料中の総脂肪酸含有量は、実施例1に記載したように細胞を直接メチル化することによって測定し、脂質を残りの細胞から抽出し、TLCによって分画した。実施例1に記載したように、TAG画分をGCで分析した。使用した培養条件下で、以前の実験との比較で、W29株由来のTAGは、ステアリン酸含有量が約31~33%まで増加し、LA含有量が約4~5%で低かった(表18)。総飽和脂肪酸含有量は総脂肪酸含有量の52~55%であり、これまでに見られたよりも高かった。パルミチン酸は、TFA含有量の16~20重量%で存在した。すべての試料はまた、C20:0、C22:0、及びC24:0も含んでいた。fad2及びfad2-ura3変異体由来のTAGは、LA及び他のPUFAが欠如し、FAD2遺伝子によってコードされるΔ12デサチュラーゼの主要基質であるオレイン酸の量が増加していた。これらの変異体はまた、ステアリン酸もTFA含有量の27~30%でわずかに少なかったが、パルミチン酸レベルはTFA含有量の15~19%でほぼ同じであった。これらの増殖条件下でのTFA含有量は、乾燥細胞重量の約6%に達した。本発明者らは、抽出された脂質の総脂肪酸含有量におけるステアリン酸及び他の長鎖SFAの割合が、使用される培地及び増殖条件によって大きく影響される可能性があると結論付けた。ura3-pAT207及びura3-pAT208変異体のTAG画分の予測融点は約40℃である。fad2-ura3二重変異体(ura3fad2 pAT207及びura3fad2 pAT208)のTAG画分の予測融点は約44℃である。
【表18】
【0543】
飽和脂肪酸含有量を増やすための遺伝子改変
本発明者らは、特にワイ・リポリティカなどの酵母における微生物脂質中の総SFAのレベルをさらに上昇させたいと考えた。実施例11及び12及び本実施例に記載されているように、本発明者らは、特にDGATが、ステアロイル-CoA、C20:0-CoA、C22:0-CoA、及び特にC24:0-CoAなどのより長いSFA-CoA基質に対して、C16:0-CoAと比較して、少なくとも同じ活性、好ましくはより高い活性を有する場合、SFAをTAGに移入する活性を有するDGATの微生物細胞における発現を増加させる方法を着想した。すなわち、他のDGATと比較して、少なくともC18を有するSFAに対してより高い特異性を有するDGATである。実施例11及び12に記載されるように、そのようなDGATの1つはワイ・リポリティカDGA1タンパク質であり、これは、アミノ酸配列がDGAT1タンパク質よりも動物及び植物のDGAT2により関連していたにもかかわらず、DGA2タンパク質よりもステアリン酸及びより長いSFAに対してより高い活性を有していた。この実施例に記載されているように、一価不飽和脂肪酸(MUFA)に対してより高い特異性を有することが知られており、従ってSFAの割合を増加させることは期待されなかった他のDGAT酵素は、驚くべきことに、ワイ・リポリティカなどの微生物の抽出された脂質におけるステアリン酸及び総SFAの割合を実質的に増加させること、並びにTAG産生に有利な条件下で増殖させた場合の細胞の総脂質含有量も増加することができた。これらの実験の一部では、微生物細胞に導入された遺伝子構築体は、ステアロイル-ACPに対して活性を有する脂肪アシルチオエステラーゼ、例えばマンゴスチンチオエステラーゼをコードする第2の遺伝子を有していた。
【0544】
本発明者らは、Arroyo-Caro et al. (2015) によって報告された、MtDGAT1と称されるマカダミアであるマカダミア・テトラフィラ(Macadamia tetraphylla)からのDGAT1酵素が、PUFAよりもMUFAに対して基質特異性を有することを特定した。マカダミアは種子油中に異常に高い割合のMUFAを蓄積することができ、総脂肪酸含有量の約60%のオレイン酸と20%のパルミトレイン酸を含む。本発明者らは、ワイ・リポリティカにおけるMUFA産生の増加について試験する目的でMtDGAT1を選択したが、それがSFAを増加させ、MUFA含有量を低下させる可能性があるとは考えていなかった。MtDGAT1のアミノ酸配列(NCBI登録番号KT736302)は、配列番号81として本明細書に提供される。これは535個のアミノ酸を有し、基質としてアシルCoA及びDAGに結合するためのドメイン、9又は10個の予測される膜貫通ドメイン、及びC末端近くのER保持モチーフを有する(Arroyo-Caroetal., 2015)。TAG合成に欠陥のあるエス・セレビッシェ細胞でMtDGAT1を過剰発現させると、MUFA、特にオレイン酸のレベルが増加した脂質が生成されたが、SFA(C16:0及びC18:0)のレベルは、エス・セレビッシェの同じ株におけるエー・タリアーナ(A. thaliana)DGAT1及びエキウム・ピガルディイ(Echium pigardii)DGAT1の過剰発現によって生成されたものと同様であった(Arroyo-Caro et al., 2015)。著者らは、酵母細胞におけるSFAの増強については報告しておらず、また予測もしていなかった。さらに、植物DGAT1酵素を用いた他の研究では、C16:0及びC18:0の増加無しで、一価不飽和オレオイルCoAに対する基質特異性が示された(Zhou et al., 2013)。
【0545】
本発明者らはまた、マンゴスチン(Garcinia mangostana)から、GarmFATA1及びGarmFATA2と呼ばれる2つの関連するアシル-アシル-キャリアー-タンパク質(ACP)チオエステラーゼを選択した(Hawkins and Kridl, 1998)。どちらのタンパク質も、タンパク質を色素体に導くように機能するN末端輸送ペプチド配列(TPS)を有する。そのTPSを含む前者のポリペプチドは352個のアミノ酸を有し、一方、そのTPSを含む後者のポリペプチドは355個のアミノ酸を有する。GarmFATA1とGarmFATA2のアミノ酸配列は、GarmFATA1の全長に沿って73%同一である。アシル-ACPチオエステラーゼは、ACPからアシル基を切断し、それにより脂肪酸シンターゼ(FAS)による脂肪酸合成におけるアシル鎖伸長活性を停止させる。脂肪アシルACPチオエステラーゼは、配列相同性と活性に基づいて2つの異なるが関連するグループに分類され、すなわち、主にC16以下のSFAに対して特異性を有するFATBチオエステラーゼと、C16-ACP基質よりもC18-ACP基質、特にMUFA-ACP基質に対してより活性が高いFATAチオエステラーゼである。GarmFATA1は、C18:1-ACPに対して最大の活性を示し、C18:0-ACPに対しては約8倍低い活性があり、C16:0-ACPに対しても活性が低い。対照的に、GarmFATA2は、C18:1-ACPと比較してC18:0-ACPに対して活性が約50倍低かった。従って、両方の酵素は、MUFA、C18:1-ACPに対して主要な活性を有した。アブラナ属種子におけるGarmFATA1の異種発現により、ある例では種子油中に22%のステアリン酸が蓄積した(Hawkins and Kridl, 1998)。GarmFATA1及びGarmFATA2のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号83及び配列番号85として提供される。
【0546】
別のプロジェクトについて、本発明者らは、短鎖脂肪酸(SCFA)に対して活性を有するシュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)由来のアシルCoAシンセターゼ(ACS)を選択した(Hashimoto et al., 2005)。アシル-CoAシンセターゼは、補因子A(CoA)分子への脂肪酸の共有結合を触媒し、ATP依存性反応でアシル-CoAチオールエステルを生成する。この酵素は長鎖脂肪酸に対して不活性であることが報告されており(Hashimoto et al., 2005)、長鎖SFAには影響を与えると予測されなかったにもかかわらず、以下に記載する構築体に含まれていた。PcACSのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号87として提供される。
【0547】
本発明者らはまた、2つの構築体に含まれる、PUFAに対する基質特異性を有すると考えられるクサレケカビPAAT(MaLPAAT)を、やはり異なる目的のために選択した。MaLPAATのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号90として提供される。
【0548】
pAT207~pAT212の構築
GoldenGate戦略を使用して、実施例1に記載したように複数遺伝子構築体を生成した。最初の工程として、所望のポリペプチドのコード領域を含む中間遺伝子構築体を作製し、各構築体はクローニングベクターに単一の遺伝子挿入を有する。各タンパク質コード領域は、ワイ・リポリティカでの発現用にコドンが最適化され、GoldenGateアセンブリを可能にするために隣接するBsaI制限部位(GGTCTC)を使用して合成された。マカダミアDGAT1のタンパク質コード領域を有する最初の遺伝子構築体pAT117が合成された。1588個のヌクレオチドのタンパク質コード領域のコドン最適化ヌクレオチド配列(配列番号82)は、NCBI登録番号KT736302.1の天然マカダミア配列と75%同一であり、すなわち、ヌクレオチドの25%がコドン最適化によって変更された。それぞれGmFATA1ポリペプチド及びGmFATA2ポリペプチドをコードするタンパク質コード領域を有する第2及び第3の遺伝子構築体pAT066とpAT067が合成された。タンパク質コード領域のコドン最適化ヌクレオチド配列は、天然マンゴスチン配列と74%同一であった。pAT066及びpAT067におけるタンパク質コード領域のヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号84及び配列番号86として提供される。同じPcACSポリペプチド(配列番号87)をコードするがヌクレオチド配列が異なるタンパク質コード領域を有する第4及び第5の遺伝子構築体(pAT136及びpAT138)を合成した。タンパク質コード領域のコドン最適化ヌクレオチド配列は、天然シュードモナス(Pseudomonas)配列と65%同一であった。pAT136及びpAT138におけるタンパク質コード領域のヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号88及び配列番号89として提供される。
【0549】
これらの中間体ベクターを、pTEFプロモーター配列及び各異種遺伝子のLip2遺伝子転写ターミネーター/ポリアデニル化領域とともにGoldenGateアセンブリ反応に使用して、それぞれが選択マーカー遺伝子としてUra3遺伝子を含む4つの遺伝子を含む一連の遺伝子構築体を生成した。Ura3遺伝子はデスティネーションベクターGGE114に存在していた。例えば、pAT207のDNA部分は、GGE146、GGE151、及びGGE294(pTEFプロモーター)、GGE014、GGE015、GGE080、GGE020、及びGGE021(ターミネーター)由来であり、バックボーンアセンブリベクター(デスティネーションベクター)は、pAT066、pAT136、及びpAT117からのコード領域に加えて、GGE114であった。URA3遺伝子以外の各遺伝子を駆動するために使用されるpTEFプロモーターは、それぞれ長さ109ヌクレオチドの4つの連結された上流活性化配列(UAS)を含み、これらは一緒になって遺伝子の転写を増加させるエンハンサー要素として機能した。他の構築体も同様の方法で組み立てられた。各構築体中の遺伝子は表19に列挙される。各4遺伝子クラスターは、NotIを有するDNA断片の切除を可能にするために、NotI制限酵素部位に隣接していた。また、4遺伝子クラスターには、5'NotI部位のすぐ内側にあるワイ・リポリティカのゼータ配列の5'部分が隣接し、3'NotI部位のすぐ内側にあるワイ・リポリティカのゼータ配列の3'部分が隣接しており、ワイ・リポリティカのゲノムへのより効率的な組み込みを提供した。6つの構築体のヌクレオチド配列は、配列番号92~97として提供される。
【表19】
【0550】
ワイ・リポリティカの形質転換と形質転換体により産生される脂質の分析
最初の実験では、pAT207~210からのNotI DNA断片を使用して、実施例7に記載されるように産生されたワイ・リポリティカのura3KO27変異株を形質転換した。形質転換体を、SD-Uraプレート上でウラシル原栄養性について選択した。コロニーをスクリーニングし、陽性の形質転換コロニーを同定した。各形質転換からの5つの形質転換体をDM-Glyc-LowN培地で96時間培養し、脂質を抽出し、TLCプレート上で分画した。脂肪酸組成とTAG及び極性脂質画分の含有量をFAMEのGCによって分析した。pAT207からpAT210までの選択された形質転換体のデータを表20及び21に示し、各形質転換体の三重培養のデータを示す。他の形質転換体は、対照株と比較して同様の脂肪酸組成を有するか、表現型が中間であり、導入されたトランス遺伝子の発現レベルが低いか、発現しないと推定された。この観察は、ゲノム内の多くの可能な部位のいずれかに挿入できるゼータ配列を介して宿主ゲノムに挿入する構築体について予測されたものである。
【0551】
いくつかの観察は重要であった。第1に、構築体pAT207、208、及び209のそれぞれは、細胞のTAG含有量及び極性脂質含有量の両方における総脂肪酸含有量の割合として、ステアリン酸含有量が著しく増加した形質転換体を提供した。形質転換体pAT209-5におけるステアリン酸含有量は、対照株ura3KO27におけるTAG中の約20%及び極性脂質中の約3%と比較して、TAG中の総脂肪酸含有量の37.9%及び極性脂質中の35.5%であった。さらに、一部の形質転換体では、非形質転換対照株と比較して、TAG含有量が2倍以上であった。これらの形質転換体がTAG合成に最適な条件下で増殖されなかったことを考慮すると(以下を参照)、TAGの増加の程度は最大ではなかった。これらのデータから、本発明者らは、形質転換体中で産生されたステアリン酸の量が実質的に増加し、及びTAGと極性脂質の両方への取り込みも増加したと結論づけた。生成されたステアリン酸の量は、絶対量でも他の脂肪酸と比較しても、増加していると考えられる。これは、pAT207、208、及び209の遺伝子から生成されたアシル-ACPチオエステラーゼ及びDGAT1酵素の両方が、ステアリン酸の生成及び細胞脂質への取り込みを増加させるように機能していることを示唆した。TAGへのステアリン酸の取り込みの増加は、MtDGAT1の活性を示していた。本発明者らは、これらの構築体中のPcACSが、SCFA以外の脂肪酸に対する活性の欠如が既知であることを考慮すると、ステアリン酸レベルの増加に何の役割も持たないであろうと考えた。
【0552】
本発明者らはまた、ステアリン酸の増加に加えて、形質転換体からのTAGにおいて、VLC-SFA、C20:0、及びC22:0が最大約4倍まで増加していることも観察した。C20:0はまた、形質転換体からの極性脂質においても増加していた。これは、ステアリン酸の増加に伴い、形質転換体におけるVLC-SFAの生成及び細胞脂質への取り込みが増加したことを示した。さらなる観察は、極性脂質含有量ではなくTAG含有量が、形質転換されていない対照株と比較して、形質転換体において実質的に増加していることであった。これは、非形質転換細胞と比較して増加した量のステアリン酸塩及びより長いSFAをTAGに取り込むことを含めて、TAGレベルを増加させると予測されないチオエステラーゼ酵素の活性がなくても、DGAT遺伝子が単独でも形質転換体中で活性であることを示した。さらに、形質転換体からのTAG中のC18:1Δ9及びC16:1Δ9などの一価不飽和脂肪酸の割合が大幅に減少した。これは、MtDGAT1がこれらのMUFAに対して主要な活性を有することが報告されているため(Arroyo-Caro et al., 2015)、MtDGAT1を発現する構築体にとって驚くべき結果であり、実際、これは本発明者らの予測とは逆の結果であった。形質転換体からの極性脂質でも、MUFA含有量の同様の減少が観察された。
【0553】
さらに、形質転換体由来のTAG中の総SFA含有量は50%未満から60%超に増加し、L/S-SFA比は1.5未満から3.0超に増加した。これもまた、報告されているMtDGAT1酵素のMUFAに対する主要な活性を考慮すると、予想外の結果であった。
【0554】
fad2変異体の形質転換と形質転換体に産生された脂質の分析
pAT207~pAT212のNotI DNA断片もまた、実施例7に記載されたように産生されたワイ・リポリティカのfad2KO1-uraKO27二重変異株を形質転換するために使用された。 形質転換操作はChen et al. (1997) により記載されたように実施し、推定形質転換体のコロニーを、SD-uraプレート上で30℃で3日間インキュベートして選択した。この操作を、pAT207、pAT208、pAT210、pAT211、及びpAT212については2回、そしてpAT209プラスミドについては3回行った。Looke et al. (2011)によって記載されたように、ゲノムDNAを推定形質転換体から抽出し、そしてゲノムに組み込まれたpAT207~212プラスミドの存在は、オリゴヌクレオチドプライマー対at001(配列番号98)とat002(配列番号99)を使用するPCR増幅によって確認された。最初の形質転換セットでは、確認された形質転換コロニーの数は次のとおりであった:pAT207、4;pAT208、10;pAT209、8;pAT210、9;pAT211,10、及びpAT212,7。第2のセットでは、選択されたコロニーの数は次のとおりであった:pAT207、8;pAT208、3;pAT209、33;pAT210、10;pAT211,5、及びpAT212,10。これらをSD-uraプレート上に再度画線塗布した。確認された各形質転換株から単一のコロニーを選択し、SD-ura培地中で一晩培養して種培養物を生成した。種培養物を使用して、50mlファルコンチューブに10mlのDM-Glyc-LowN培地をOD600が0.2になるまで接種し、滅菌AeraSeal(登録商標)フィルム(Sigma, A9224)で覆い、通気のために200rpmで振盪しながら30℃で96時間培養した。
【0555】
脂質を細胞培養物から抽出し、実施例1に記載したように脂質を抽出し分析した。総脂肪酸(TFA)、TAG、及び極性脂質画分の脂肪酸含有量及び組成を、FAMEのGCによって分析した。pAT207からpAT212までの選択された形質転換体のデータは表22~24に示される。
【0556】
多くの形質転換体では非形質転換対照と比較して、総脂肪酸含有量が大幅に増加していることがすぐに明らかであった。重量ベースで10~13%のTFAを生成する非形質転換細胞と比較して、一部の形質転換体は重量ベース(乾燥細胞重量)で最大約33%の総脂肪酸含有量を有していた。これは、減少したPUFA、特に減少したLA(これは、検出されなかったか又は総脂肪酸含有量の0.2%以下、例えば0.1重量%の少量で存在した)と組み合わせられたものである。他の形質転換体では、TFA含有量が増加していないか、この表現型では中間的であり、異なる形質転換体に対するトランス遺伝子活性の範囲が示されている。FAD2野生型株を用いた以前の実験と同様に、ステアリン酸、C20:0、及びC22:0含有量の大幅な増加が、非形質転換対照株と比較して、脂肪酸の絶対量(増加した脂質含有量を考慮して)と他の脂肪酸と比較した量の両方で観察された。一部の形質転換体では、ステアリン酸含有量がほぼ40%に達した。一部の形質転換体では、C20:0の量が重量ベースでC24:0の量を超え、TFA含有量の少なくとも1.0%であり、一部の形質転換体では、重量ベースでTAGのTFA含有量と脂肪酸含有量の両方が3.0%を超えた。別の形質転換体では、抽出された脂質及び脂質中のTAGは12%のC24:0を有していたため、C24:0の量はC20:0及びC22:0の量よりも実質的に多かった。総SFA含有量は、TFA含有量の最大約70重量%まで増加した。L/S-SFA比もまた、対照細胞における約1.2~1.4から、いくつかの例(例えばコロニーpAT208-5)では3.0を超えるまで有意に増加した。これらのデータは再度、いくつかのトランスジェニック株におけるDGAT及びFATA酵素の両方の活性を示した。一部の形質転換体ではパルミチン酸含有量も増加し、総SFAの増加に寄与した。それぞれの場合において、LA含有量及び総PUFA含有量の両方とも0.2%以下であったため、fad2変異及び他のΔ12デサチュラーゼの欠如により、LAは存在しないか、重量ベースで0.2%未満しか存在しなかった。オレイン酸の量は、TFA含有量の百分率としての重量ベースで、非形質転換細胞の約55~60%から形質転換細胞の25%~55%まで低下した。興味深いことに、非形質転換細胞と比較して形質転換体細胞では、TFA及びTAG中のC24:0含有量は増加しなかったが、C20:0及びC22:0含有量が大幅に増加し、これは、C22:0をC24:0に伸長するエロンガーゼがこれらのワイ・リポリティカ細胞では活性が増加しなかったことを示している。C24:0は、主に膜機能のためのスフィンゴ脂質含有量としてワイ・リポリティカ細胞によって使用されるが、一部のC24:0はこれらの細胞内でTAGの形でエステル化されていた。
【0557】
また、一部の形質転換体ではTAG含有量が増加したが、ステアリン酸含有量は実質的に増加せず、一方、他の形質転換体ではステアリン酸含有量が増加したが、TAG含有量はそれほど増加していないことも観察された。これは、2つの外因性酵素DGAT及びFATAの一方が他方よりも活性が高いためであると考えられ、すなわち、DGATはTAG含有量の増加に関与しており、FATAチオエステラーゼは他の脂肪族酵素と比較してステアリン酸の増加に関与している。また、一部の形質転換体は、野生型、例えばコロニーpAT212-1及び212-4と比較して、ステアリン酸含有量が減少していることも観察された(表22)。これは、内因性チオエステラーゼ活性の低下に起因する可能性がある。これらの結論を確認するために、これらのトランス遺伝子及び内因性遺伝子について、さまざまな形質転換体中のmRNAレベルのRT-PCRアッセイを実行される。
【0558】
pAT211及びpAT212からの形質転換体は、得られた形質転換体の数の割合として、他の4つの構築体よりもステアリン酸含有量及びSFA含有量が実質的に増加した形質転換体をより多く提供するようであった。これは、これらの遺伝子構築体に対するLPAATをコードする遺伝子の何らかの活性を示している可能性がある。これら2つの構築体には、シュードモナスのアシルCoAシンセターゼ(ACS)をコードする遺伝子が含まれていないことが注目された-PcACSは、少なくともC18を有する脂肪酸に影響を与えることは予測されなかった。
【0559】
形質転換体由来の極性脂質の分析のデータ(表22)は、上記の結論を裏付けるものであったが、いくつかの驚くべき観察結果も明らかにした。第1に、極性脂質含有量は、非形質転換細胞の2%~3%から、一部の形質転換体では少なくとも8%まで大幅に増加した。これは、LPAATを発現する遺伝子を含む形質転換体ではLPAATを発現しなかった形質転換体よりも多く観察され、ここから、LPAATが極性脂質含有量の増加に役割を果たしていると結論づけられた。第2に、一部の形質転換体ではステアリン酸含有量だけでなくパルミチン酸含有量も大幅に増加しており、極性脂質中のSFA含有量が60重量%を超えていた。驚くべきことに、一部の形質転換体における極性脂質中の総脂肪酸の割合としてのSFA含有量は、TAG含有量におけるSFA含有量を超えていた。これは、非形質転換細胞のTAGにおける約40%のSFA含有量と比較して、非形質転換細胞の極性脂質における約11%というはるかに低いSFA含有量を考慮すると、最も驚くべきことであった。形質転換細胞の極性脂質におけるパルミチン酸の増加は、同じ細胞におけるTAGのわずかな減少を考慮すると予測されなかった。極性脂質におけるSFAの増加が、SFAの供給を増加させる外因性FATAチオエステラーゼ活性による可能性が高いと結論付けられた。
【表20】
【表21】
【表22-1】
【表22-2】
【表23-1】
【表23-2】
【表24-1】
【表24-2】
【0560】
ステアリン酸存在下での形質転換体の培養
形質転換体pAT209-5を含むワイ・リポリティカura3変異株、及び形質転換体pAT211-03及びpAT211-09を含むura3-fad2二重変異体バックグラウンド中の選択された形質転換体を、10g/Lのステアリン酸ナトリウムを補充した低窒素含有量の規定培地で培養する。ある実験では、培地のpHは8.0に調整される。4日間の培養後、細胞を培養物から回収し、脂質を抽出する。脂質の分析により、ステアリン酸の量が、抽出された脂質の並びに脂質のTAG画分の総脂肪酸含有量の最大75重量%又は85重量%に達していることが示されている。ステアリン酸レベルがTFA含有量の75重量%までである場合、オレイン酸の量はTFA含有量の少なくとも10重量%である。C16:1Δ7及びC17:1のように、C20:0、C22:0、及びC24:0も存在する。ura3-fad2株中の形質転換体からの脂質では、PUFAは存在しないか、又は0.2%未満のレベルで存在する。抽出された脂質にはまた、トランス遺伝子が欠如した対応するワイ・リポリティカ株から産生された脂質と比較して、SFA量が増加したリン脂質も含まれる。抽出された脂質は25℃で固体である。これらの脂質は、高オレイン酸大豆油などの油とブレンドされる。
【0561】
実施例14. 飽和脂肪酸含有量を増加させるための微生物のさらなる改変
遺伝子構築体pAT207~212を用いた実施例13に記載の実験を考慮して、本発明者らは、DGAT1及びFATA酵素の活性、並びこれらの構築体によってコード化されるピー・クロロラフィス(P. chlororaphis)ACS酵素活性の推定される欠如を、単一及び二重の遺伝子構築体を作成することにより確認したいと考えた。これらの構築体は、ワイ・リポリティカにおけるSFA含有量とTFA含有量を増加させる能力について、三重遺伝子構築体pAT209と比較される。
【0562】
GoldenGate戦略を使用して、それぞれが選択可能なマーカー遺伝子としてURA3遺伝子も有する6つの構築体(表26)を生成した。各構築体は、最初に、必要に応じて、隣接するBsaI制限部位を有する実施例13からの3つの個々の遺伝子の5'上流配列又は3'下流配列を改変して作製することにより、URA+ベクターへのクローニングを可能にした。例えば、MtDGAT1コード領域を有するpAT120は、pAT117からプライマーat274及びat275を使用するPCRによって作製され、pAT161は、pAT117からプライマーat297及びat298を使用するPCRによって作製された。デスティネーションベクターへの組み立ては、pAT207~212の構築と同様の方法で行った。PcACS-X1タンパク質をコードする構築体pAT091は、成分GG114、GG020、GG146、及びpAT021からのタンパク質コード配列から組み立てられた。GmFATA2タンパク質をコードする構築体pAT108は、成分GG114、GG020、GG146、及びpAT067からのタンパク質コード配列から組み立てられた。MtDGAT1タンパク質をコードする構築体pAT135は、成分GG114、GG020、GG146、及びpAT120からのタンパク質コード配列から組み立てられた。GmFATA2及びPcACS-X1タンパク質をコードする構築体pAT213は、成分GG114、GG146、GG151、GG014、GG021、及びpAT067とpAT136からのタンパク質コード配列から組み立てられた。GmFATA2タンパク質及びMtDGAT1タンパク質をコードする構築体pAT214は、成分GG114、GG146、GG151、GG014、GG021、及びpAT067とpAT161からのタンパク質コード配列から組み立てられた。PcACS-X1及びMtDGAT1タンパク質をコードする構築体pAT215は、成分GG114、GG146、GG151、GG014、GG021、及びpAT021とpAT161からのタンパク質コード配列から組み立てられた。バックボーンベクターGG114中の各遺伝子構築体には、NotIによるDNAカセットの切除を可能にするNotI制限酵素部位が隣接していた。これら6つの構築体のNotI DNA断片のヌクレオチド配列は配列番号108~113として提供され、オリゴヌクレオチドプライマーのヌクレオチド配列は配列番号100~107として提供される(表25)。
【0563】
GmFATA2、PcACS-X1、及びワイ・リポリティカDGA1タンパク質をコードする3つの遺伝子と、URA3選択マーカー遺伝子である4番目の遺伝子を有する7番目の遺伝子構築体(pAT216)を、GoldenGate戦略によって組み立てた。従って、この構築体は、マカダミアMtDGAT1のコード領域がワイ・リポリティカDGA1コード領域で置換されたことを除いて、pAT209と同一であった。これは、実施例11に記載したように、YlDGA1タンパク質がSFAに対して特異的な活性を有すると推定され、従って、たとえYlDGA1がDGAT2ファミリーに属していても、MtDGAT1を置換できると考えられたため、作製された。従って、この構築体pAT216は、FATAチオエステラーゼタンパク質の共発現に関連して2つのDGAT酵素の比較を可能にした。pAT216を作製するために、Y1DGA1コード領域を有する第1の構築体pAT162を、PCRによってプライマーat299及びat300(表25)、及びワイ・リポリティカ由来のタンパク質コード配列を使用して作製した。pAT216は、GG114、GG146、GG151、GG294、GG014、GG015、GG080からの成分と、pAT067、pAT136、及びpAT162からのタンパク質コード領域を使用して組み立てられた。pAT216からのNotI DNA断片のヌクレオチド配列は、配列番号114として提供される。遺伝子構築体とこれらの関連成分の遺伝子を表26に示す。
【表25】
【表26】
【0564】
ワイ・リポリティカの形質転換と形質転換体が産生する脂質の分析
これらの遺伝子構築体からのNotI DNA断片を使用して、他の構築体について上述したように、ワイ・リポリティカのfad2KO1-ura3KO27二重変異株を形質転換し、30℃で3日間インキュベートしてSD-uraプレート上の形質転換体コロニーを選択する。推定上の形質転換体からゲノムDNAを抽出し、ゲノムに組み込まれた遺伝子構築体の存在をPCR増幅によって確認する。各形質転換から少なくとも6つの確認された形質転換体コロニーを選択し、SD-ura培地で一晩培養して種培養物を生成する。種培養物を使用して、50mlファルコンチューブ内の10mlのDM-Glyc-LowN培地に、OD600が0.2になるまで接種し、通気のために200rpmで振盪しながら30℃で96時間培養する。採取した細胞から脂質を抽出し、実施例1に記載のように分析する。総脂肪酸(TFA)の脂肪酸含有量と組成、TAG、及び極性脂質画分をFAMEのGCにより分析する。
【0565】
実施例15.他のアシルトランスフェラーゼ遺伝子
他の脂肪酸アシルアシルトランスフェラーゼは、微生物の飽和脂肪酸含有量を増加させる、特にステアリン酸及び少なくとも20個の炭素を有する飽和脂肪酸であるアラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)、及びリグノセリン酸(C24:0)を増加させる可能性のある酵素として考えられていた。熱帯植物種テオブロマ・カカオ(Theobroma cacao)の種子は、カカオ脂として知られる脂質源であり、ステアリン酸が豊富なTAG分子を構造化しており、例えばチョコレートや化粧品などに使用されている。テオブロマ・カカオのゲノム中に、11種類のDGAT遺伝子が同定されている(Wei et al., 2017)。11種類のDGAT酵素のうち2種類、すなわちTcDGAT1とTcDGAT2が、エス・セレビッシェでカカオ脂様TAGを生成する能力について試験されたが、効果はほとんどなかった(Wei et al., 2017)。DGATのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号115~125として提供される。ティー・カカオはまた、本明細書においてTcGPAT1~13と称される、GPAT酵素に対して相同性を有するポリペプチドをコードする複数の遺伝子、及び本明細書においてTcPDAT1、2、及び4~6と称される、PDATに対して相同性を有するポリペプチドをコードする複数の遺伝子を有する。GPATのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号126~138として提供され、PDATのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号139~143として提供される。
【0566】
本発明者らは、TcDGAT9~TcDGAT11アミノ酸配列が、ティー・カカオ由来の他のDGAT配列よりも、PDAT酵素であるエス・セレビッシェLRO1遺伝子産物とより関連していることに注目した。従って、候補DGAT酵素のうち、TcDGAT9、10、及び11酵素が特に興味深いものであった。
【0567】
コドン最適化ヌクレオチド配列は、単独で、又はFATA酵素、例えばパルミトイル-ACPよりもステアロイル-ACPに対して活性が高いGmFATA酵素と組み合わせて、ワイ・リポリティカにおいて候補DGAT、GPAT、及びPDAT酵素を発現するように設計された。ヌクレオチド配列は、DGATについては配列番号144~154、GPATについては配列番号155~167、及び候補PDATについては配列番号168~172として本明細書に提供される。TcDGAT、TcGPAT、及びTcPDATタンパク質コード配列は、ワイ・リポリティカでの発現用にコドン最適化された。いずれの場合も、コドン最適化配列は、配列の全長に沿ってティー・カカオ由来の天然タンパク質コード配列と73%~77%同一であり、すなわちヌクレオチドの23%~27%がコドン最適化によって置換されていた。
【0568】
MtDGAT配列をティー・カカオ配列で置換することを除き、pAT214について実施例14に記載したアプローチを使用して、それぞれがGmFATA酵素とともにTcDGAT酵素の1つを発現する11の遺伝子構築体を設計した。13個の構築体がGPAT用に、そして5個の構築体がPDAT用に、同様に設計されている。DGATとGPAT、DGATとPDAT、及びGPATとPDATの組み合わせも設計されている。構築体は、上記及び実施例1に記載の他の構築体と同様の方法でGoldenGate戦略によって合成される。各構築体は、ワイ・リポリティカのura3KO27-fad2KO1変異株に導入される。確認された形質転換体は低窒素培地で培養され、細胞から脂質が抽出され、そしてTFA、TAG、及び極性脂質画分が含有量と脂肪酸組成について分析される。脂肪酸アシルアシルトランスフェラーゼの少なくとも一部は、細胞内のTAG含有量と抽出された脂質内のSFA含有量の両方を増加させると予測される。所望の脂肪酸プロフィールを有する形質転換体が選択される。
【0569】
コドン最適化ヌクレオチド配列もまた、単独で、又はFATA酵素、DGAT酵素、又はFATA酵素とDGAT酵素の両方と組み合わせて、ワイ・リポリティカにおいて候補のGPAT及びPDAT酵素を発現するように設計された。構築体はまた、ワイ・リポリティカにおいて2つ又は3つの候補PDAT酵素を発現するように設計された。
【0570】
複数遺伝子ベクターの設計
3つのティー・カカオPDAT遺伝子、ガルシニア・マンゴスタナ(Garcinia mangostana)由来のアシル-ACPチオエステラーゼ(GmFATA1)、及びクサレケカビ由来のLPAAT(表27)のオープンリーディングフレーム(ORF)のDNA配列を、ワイ・リポリティカにおける発現用にコドン最適化され、そして遺伝子構築体は多重遺伝子発現カセットとして化学的に合成された(
図5)。各発現カセットは、酵母組み込みベクターへの挿入を提供にするために、隣接するSfiI制限酵素部位を使用して設計された。各遺伝子は、構成的ワイ・リポリティカTEF1プロモーターに作動可能に連結されており、ワイ・リポリティカLIP2遺伝子の3'転写終結/ポリアデニル化領域によって終結されている。受容体組込みベクターは
図6に概略的に示される。これらの組込みベクターはそれぞれ、ワイ・リポリティカにおける形質転換体の選択のためのヒグロマイシン耐性遺伝子、ヌルセオスリシン耐性遺伝子、又はURA3遺伝子である選択マーカー遺伝子を含んでいた。これらはまた、形質転換体を容易な検出のためのレポーター遺伝子としてGFP発現カセット、必要に応じてセミランダム挿入用の5'及び3'ゼータ配列、及びワイ・リポリティカのゲノムへの標的組み込みのためのそれぞれ約1,000ヌクレオチドのDGA2、FAD2、LRO1、又はPOX2遺伝子からの5'上流配列及び3'下流配列も含んでいた。従って、カセットをこれらの遺伝子のいずれかに組み込むと、これらの遺伝子に組み込まれたときに、YlDGA2、YlFAD2、YlLRO1、又はYlPOX2遺伝子のいずれかが同時に破壊される。ベクターと挿入体の組み合わせを表28に示す。
【0571】
各構築体は、ワイ・リポリティカのura3KO27-fad2KO1変異株及びFAD2野生型株に導入される。確認された形質転換体は低窒素培地で培養され、細胞から脂質が抽出され、TFA、TAG、及び極性脂質画分は、含有量と脂肪酸組成について分析される。脂肪アシルアシルトランスフェラーゼの少なくとも一部は、細胞内のTAG含有量と抽出された脂質内のSFA含有量の両方を増加させると予測される。所望の脂肪酸プロフィールを有する形質転換体が選択される。
【表27】
【表28】
【0572】
実施例16.固体脂肪を生成するための大規模な脂質抽出
大規模なバッチ培養で増殖させたトランスジェニック酵母細胞からのバイオマス産生、回収、及び脂質抽出プロセスを試験するために、以下のように、25L発酵槽で増殖させた後、形質転換ワイ・リポリティカ株yNI0056から脂質を抽出した。yNI0056と称する株は、GmFATA1、PcACS-X1、及びMtDGAT1ポリペプチドをコードする遺伝子を含むpAT207(実施例13)のDNAを使用して、ワイ・リポリティカyNI0142株(ura3-fad2)の形質転換体から選択し、URA+形質転換体を選択した。yNI0056株は、pAT207を有する形質転換体を50mlファルコンチューブ中の10mlのYPD培地中で48時間増殖させた後に選択され、そこで21.6%のステアリン酸、11.8%のパルミチン酸、2.4%のC20:0、4.7%のC22:0、及び11.6%のC24:0、L/S-SFA比3.3を含む52.5%のSFAを有する4.3%(w/乾燥重量)のTAGを生成した。
【0573】
20L培養の接種菌を2工程のプロセスで調製した。最初の工程では、yNI0056の単一コロニーを10mlのYPD培地に接種し、培養物を250rpmで振盪しながら30℃で16時間培養した。次に、10mlの培養物を2.5Lフラスコ中の1LのYPD培地に接種し、200rpmで振盪しながら30℃で24時間培養して、接種菌を生成した。この第2工程後の細胞密度を測定し、ODは25であった。試料を光学顕微鏡で調べて汚染をチェックした。Sartorius Stedim Biostat C Plus 自動発酵槽を4%のNaOH溶液で洗浄して容器とチューブを洗浄し、次に水道水で洗浄した。温度及びpHプローブを較正した。炭素源として80g/Lのグリセロールを含む20リットルのDM-Glyc-LowN培地(実施例1)を発酵槽に添加し、121℃で20分間加熱することによってその場で滅菌し、次に接種のために30℃に冷却した。1Lの接種菌を追加して、VVM=0.5で通気を制御し、400rpmで24時間撹拌することにより、高溶存酸素(DO)下でバイオマス増殖の第1段階の発酵を行った。本明細書で使用されるVVMは、1分当たりの培地の単位容量当たりの容量流量である。24時間培養した後、空気流量をVVM=0.05(1L/分)に下げ、180rpmで撹拌して脂質合成を増加させ、さらに27時間培養した。発酵槽冷却システムを使用して温度を30℃に維持した。シリコーンベースの消泡剤溶液を最終濃度0.075g/Lまで添加することによって、発泡を制御した。
【0574】
培養物は、約25時間の培養で最大OD及び細胞乾燥重量に達していた(表29)。この時点で、培地のpHは4.53に低下しており、その時点で2M NaOHを少量添加した。この添加後、pHは5.70に上昇した。望ましいpHは6.0であったが、発酵槽のpHメーターが適切に作動していなかった。4,000rpmで5分間の遠心分離により、培養物から細胞を回収し、上清を除去した。細胞ペレットを水で2回洗浄し、毎回遠心分離により細胞を回収し、総湿重量453gを得て、これは乾燥重量114gに相当し、すなわち固形分25%に相当した。この実験におけるグリセロールからバイオマスへの変換率は13.1%であり、最適値よりも低かった。
【0575】
細胞から脂質を抽出するために、450gの細胞バイオマス(湿重量)を2Lの水に再懸濁し、懸濁液をEmulsiflex C5ホモジナイザーに通した。処理した懸濁液のアリコートを光学顕微鏡で観察すると、細胞全体と細胞破片の両方が見え、多くの細胞が少なくとも損傷を受けていることが示された。処理した懸濁液を、VX22G高速冷却遠心機で4,730rcf、4℃で20分間遠心分離した。細胞ペレットを1Lのビーカーに移し、10分間撹拌しながら600mLのエタノールに再懸濁して、細胞物質を脱水した。混合物を4,730rcf、4℃で20分間遠心分離した。エタノール上清を収集した。細胞ペレットは、粘稠度がチョーキー/粘土状であった。これらを2Lのボトルに移し、1.5Lのヘキサンと120rpmで一晩振盪しながら混合して、ヘキサン可溶性脂質を抽出した。混合物をブフナー漏斗を使用して真空濾過した。ヘキサン上清を丸底フラスコに集め、ロータリーエバポレーターを使用して浴温35℃、真空を300ミリバールに設定して、蒸発させた。抽出された脂質は室温で粘稠な液体であり、黄色がかった半透明であった。抽出された物質の重量は合計6.3gであった。
【表29】
【0576】
この試料を-20℃まで冷却し、これはその温度では凍結固体であるが、次に4℃に移してゆっくり解凍する。これにより、より大きく、より飽和したTAG分子が結晶化し、SFA含有量、特にステアリン酸、並びにC20:0、C22:0、及びC24:0が増加した固体脂肪画分が得られる。あるいは、抽出された脂質をシリカカラムで分画して、SFA含有量が増加したTAG画分を得ることができる。
【0577】
大規模培養を用いるさらなる実験(B014)
20Lスケールの以下の実験では、培養条件を変更した。同じワイ・リポリティカ yNI0056株及び培地を使用したが、培養物のpHは6.0に良好に制御され、温度は28℃に維持された。接種菌は、500mLフラスコ中の4つの200mL培養物として規定培地(DM-Glyc-LowN)で調製し、OD600が1.5~2.5になるまで24時間培養し、過圧によって発酵槽に導入した。接種時に測定された培養密度(OD600)は0.026であった。培養は接種後92時間まで継続した。ステージ1(0~48時間)では、空気流量0.5~0.6VVMで撹拌(stirring)/撹拌(agitation)を300~400rpmに上昇させ、溶存酸素(DO)が1ppmを下回った場合は背圧によって、少なくとも1ppm(20%飽和)のDOを維持した。ステージ2(48時間~92時間)では、任意の時点での残留グリセロールが5g/L未満であれば、さらにグリセロールを培地中に約60g/Lまで添加した。ステージ1の発酵中は、気圧は5~10PSIに維持され、空気流量は10~13L/分に維持され、DOは18.8ppmから4.0ppmO2に低下した。ステージ2の発酵(48~92時間)中は、圧力は約10PSIに維持され、撹拌/撹拌は100~150rpm、空気流量は約5L/分、DOは採取時に4.0から0.9に低下し、すなわち、ステージ2ではTAG生合成を増加させるためにDOを制限した。試料を1日2回取り出して、HPLC及び屈折率によるOD600、グルコース及びクエン酸レベル、乾燥重量細胞産生、及び顕微鏡観察、ケルダール無機窒素検査による窒素レベル、リン酸塩反射率検査ストリップ、及び比色試験ストリップにより硫酸塩を評価した。この後、培養物を熱処理して酵母細胞を不活性化し、冷却し、遠心分離により細胞を収集した。
【0578】
ODは24時間の5.1から72時間の7.3に増加し、96時間では6.9に低下した。72時間後の増殖の減少は、培地中の窒素レベルが低いことに起因すると考えられる。リン酸塩及び硫酸塩は、96時間でも培地中でまだ利用可能であった。クエン酸塩濃度は24時間で著しく低下していて、増殖期中のクエン酸塩の同化を示唆しており、次に、接種時の1.7g/Lから接種後96時間の4.228g/Lに増加し、より多くのTAG合成への切り替えと一致した。DCW、OD600、及びグリセロール消費量(42.7%)が示すように、酵母の増殖の大部分は培養の最初の30時間の細胞分裂によって起こり、次に、おそらく過剰の炭素から脂質への変換により、30時間から96時間にかけて緩やかな蓄積が起きた。DCWは、熱処理後、24時間の5.5g/Lから72時間の7.0g/Lに増加し、熱処理後96時間の時点で6.5g/Lに低下した。
【0579】
細胞を遠心分離によって採取し、20.3gの乾燥バイオマスを得た。これは、培養容量からのバイオマスの最適収量よりもはるかに少ないと考えられた。Ultraturraxを最大速度で10分間使用して細胞を破壊しながら、細胞から脂質を40mlのヘキサン中に抽出した。途中で撹拌しながら、破壊工程をさらに2回繰り返した。混合物を一晩撹拌し、次に遠心分離し、ヘキサン上清を回収した。ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を除去し、1gの乾燥され抽出された脂質を得た。これをヘキサンに溶解してエバポレーターフラスコから取り出した。ヘキサンを一晩かけて部分的に蒸発させた。物質を遠心分離すると、液体上清と、クロロホルムに可溶性の固体物質が得られた。TLCで分析すると、両方の画分にかなりのTAGが含まれていた。この抽出された脂質はアセトンで分画され、飽和脂肪酸含有量が増加している。
【0580】
大規模培養を用いるさらなる実験(B016)
実験B014の細胞収量は、B001と比較して最適ではなかった。これは、培養中の増殖培地中の窒素の枯渇が早すぎたことが原因である可能性がある。従って、実験B016では、細胞増殖期中に窒素濃度を0.5g/Lではなく2g/Lのリン酸アンモニウムに増やすことで培地を調整し、窒素制限とさらなるTAG合成の誘導の前にバイオマスを増そうとした。窒素供給により増殖が制限され始めた時点(65時間)で、60g/Lグリセロール、そして硫酸マグネシウム、塩酸チアミン、及び最初の20L培養物と同レベルの微量元素を含む供給物を培養物に添加した。接種時に測定された培養密度(OD600)は0.097であった。バイオマスの乾燥重量、OD、及びグリセロール消費量によって示されるように、酵母の増殖のほとんどは細胞分裂による培養の最初の40.5時間以内に起こり、次に、おそらく過剰な炭素の脂肪への変換により、40.5時間から88.4時間にかけてゆっくりとした蓄積が起きたことが、脂肪酸含有量と窒素の枯渇を測定することで確認される。65時間でグリセロールをさらに添加しても、バイオマスの乾燥重量及びOD600はさらに増加しなかったが、これは窒素が制限されている場合に炭素が脂質に変換されたためである可能性がある。最終的なOD600は20.6、DWは16.5g/Lであった。HPLC用の試料は0.22μmフィルターでろ過された。クエン酸濃度は、接種時の1.7g/Lから接種後88.4時間の8.7g/Lに増加した。以前の実験では、クエン酸の蓄積は、脂質、特にTAGの蓄積に対応していた。硫酸塩は実験全体を介してかなり過剰に存在した。窒素と同様に、リン酸塩は着実に消費され、発酵終了時には残っていたのは20%であった。DAP濃度を0.5g/Lから2.0g/Lに増加させることによる実験開始時の窒素とリン酸塩の増加により、最初の24時間でバイオマスが、実験B014での5.5g/Lと比較して、約16g/Lに増加した。培養物の初期ODも、この実験ではB014(0.05)よりも高かった(0.097)が、B001(0.132)よりは低かった。初期ODが増加すると、増殖期のバイオマスが増加し、第2ステージの発酵で脂質が増加すると考えられる。
【0581】
細胞培養物を47.5時間、65.2時間、及び88.4時間の培養終了時点でサンプリングした。このとき、培養物を105℃で15分間加熱処理して細胞を死滅させ、冷却し、遠心分離によって細胞を採取した。熱処理した培養物のアリコートをプレーティングすることによって得られた生細胞数は、すべての細胞が死滅したわけではなく、1ml当たり105個の生細胞が残っており、すなわち99.9%死滅していることを示した。培養により、凍結乾燥後の乾燥重量が220.9gである1000gの細胞ペーストが得られた。
【0582】
以前と同様に、Ultraturrax を使用して細胞を破壊して、180gの細胞から400mlのヘキサン中に脂質を抽出した。ヘキサンを蒸発させた後、8.1gの固体脂質を回収した。脂質を少量のヘキサンに溶解して、これをエバポレーターフラスコから取り出し、50℃に温めた後、チューブに回収した。遠心分離後、2つの層があるように見えた。両方の層を回収して別々に分析した。両方の試料からヘキサンを蒸発させ、室温で固体の2つの脂質試料を得た。これらを冷エタノールで3回洗浄し、乾燥させた。これにより、第1及び第2の試料においてそれぞれ7.3g及び0.8gの抽出された脂質が得られた。TLCによって分析されたアリコートは、大部分がTAGの存在を示し、少量の極性脂質も存在することを示した。
【0583】
最初のヘキサン抽出で残った細胞破片もさらに抽出して、残留脂質を得た。この脂質も分画し、この「細胞破片」脂質からの極性画分とTAG画分の両方の脂肪酸組成を決定した(表30)。
【0584】
GCによる脂肪酸分析は、抽出された脂質の飽和脂肪酸含有量が、総脂肪酸含有量の割合として重量ベースで36%であり、主に約18%がパルミチン酸塩で約12%がステアリン酸塩で構成されていることが示されが、C20:0、C22:0、及びC24:0の3つすべても含まれており、C24:0は約4%であった。野生型W29株の対応するデータと比較して、SFA含有量とステアリン酸レベルは増加していた。抽出された脂質は、アセトンを用いた沈殿によって分画されて、飽和脂肪酸含有量が増加した。
【0585】
表30では、抽出された脂質には検出可能な量のC8:0、C10:0、C12:0、C14:1、C15:1、C18:1Δ11、C18:2ω6(LA)、C18:3ω3(ALA)、及び他のPUFAも含んでいなかった。
【表30】
【0586】
大規模培養を用いるさらなる実験(B019)
実験B016の細胞収量はB0014と比較してはるかに優れていたが、熱処理は、培養終了時にすべての細胞を死滅させるのに完全には効果的ではなかった。従って、実験B0019はB0016と同様の条件を使用して実行されたが、1つの違いは、培養物を105℃ではなく120℃で3分間加熱処理したことである。窒素濃度をさらに50%増加させて3.0g/LのDAPとし、グリセロールを含む供給物(窒素を除く)を24時間からスタートして発酵槽に徐々に導入した。培養物を24時間、40時間、及び48時間の時点でサンプリングし、60時間の時点で120℃で熱処理した。培養物を発酵槽内でその場で10℃に冷却した後、かなりの脂肪が培地の表面と撹拌機のバッフルの一部に堆積していることがわかった。この沈殿物を培地の表面及びバッフルからすくい取ることによって回収し、3.6gのクリーム状の脂肪を得た。熱処理により多くの酵母細胞が破壊され、培地への脂質の放出が引き起こされたと結論付けられた。
【0587】
細胞試料を光学顕微鏡で検査し、初期増殖期後及び熱処理前の培養終了時の両方で、その形態を観察した。大部分の細胞は酵母に典型的な楕円形というより、細長いように見えたが、他の細胞は楕円形又は中間の形であった。
【0588】
別の実験では、野生型ワイ・リポリティカW29株及び形質転換したyNI0056株を同様の条件下で培養し、細胞を光学顕微鏡で観察した。形質転換された細胞の多くは菌糸の形をしており、形状が非常に細長く、その他の細胞は楕円形かやや細長い形であった。対照的に、野生型W29細胞はいずれも細長い形態も菌糸の形態も示さなかった(
図7A及び7B)。形質転換細胞のこのような細胞形態は、特に培養中の比較的低い溶存酸素レベルで引き起こされる、細胞のストレス状態の指標であると考えられた。
【0589】
実施例17.脂質分画
粗脂質調製物を有機溶媒で分画して、より純粋な極性脂質、又はTAGを含むほとんど中性(非極性)脂質を有する画分を得ることができる(例えば、米国特許第7,550,616号)。例えば、報告されているいくつかの方法は、エタノールやアセトンなどの有機溶媒における中性脂質と極性脂質の溶解度の違いを利用している。これらの方法のいくつかを試験するために、モデル系として、卵黄脂質及びオキアミ脂質を含む、実質的に中性及び極性脂質の混合物を有するいくつかの脂質の分画が試みた。
【0590】
鶏卵の脂質はほとんどが卵黄部分に存在し、重量で約33%の脂質を構成する。卵黄中のタンパク質と密接に関連する脂質は、大部分がTAG(66重量%)であり、リン脂質(PL、28%)、及びコレステロール及びそのエステル(6%)が少量存在する(Belitz et al., 2009)。PLは、少量のω3及びω6脂肪酸を含む(Gladkowski et al., 2011)。Palacios and Wang (2005) の方法に基づいて、Gladkowski et al., (2012) は、エタノールを用いて卵黄からPLを抽出し、PLを冷アセトンで沈殿させることにより中性脂質を取り出し、次にPLを精製した。
【0591】
新鮮な卵黄(17g)、卵レシチン粉末(20.4g)、及び市販のオキアミ油カプセル(Bioglan Red Krill Oil; Natural Bio Pty Ltd, Warriewood, NSW, Australia)から得たナンキョクオキアミ(Euphausia superba)のオキアミ油(17.7g)を、それぞれ60mlのエタノールと混合し、室温で30分間撹拌した。混合物を遠心分離し、エタノール上清を収集した。沈殿物をさらに2回、各回60mlのエタノールで抽出した。抽出混合物を再度遠心分離し、エタノール上清を合わせた。各沈殿物は中性脂質の抽出のために保持された。合わせた上清からのエタノールを、SR-100ロータリーエバポレーター(Buchi, Switzerlandス)を使用し、400rpmで15mbarの真空で操作して、冷却器を-16℃で水浴を37℃に設定して蒸発させた。これにより、17gの新鮮な卵黄から3.2gのPL濃縮脂質抽出物、20.4gの卵レシチン粉末から5.86g、オキアミ油から回収した17.83gの濃縮PLが得られた。オキアミ油から回収された脂質には、おそらくまだ少量の溶媒が含まれていた。それにもかかわらず、実質的に100%の回収率は、カプセルからのオキアミ油がそもそもPLが高度に濃縮されていることを示した。
【0592】
回収した脂質のアリコートを、溶媒としてヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸(70:30:1;v/v/v)を使用して、実施例1に記載したようにTLCにより分析した。新鮮な卵黄からのエタノール抽出物と卵黄レシチン粉末は、かなりの量の極性脂質並びに少量のTAGを含むことが観察されたが、オキアミ油抽出物にはTAGは検出されなかった。
【0593】
新鮮な卵黄から極性脂質をさらに精製するために、乾燥抽出物を30mlのヘキサンに溶解し、溶液を氷浴中で0℃に冷却した。次に60mlの冷アセトン(-20℃)を溶液に添加して、少なくとも20分間PLを沈殿させた。他の実験では、混合物を0℃で一晩維持すると、より多くの沈殿が形成されることが示された。沈殿物を収集し、真空下で乾燥させた。脂質の試料をクロロホルムに溶解し、TLCで分析して極性脂質とTAG含有量を推定した。最初の沈殿物は、ほとんどが極性脂質であり、少量のTAGを含むことが示された。極性脂質をさらに精製するために、沈殿物を20ml分の冷アセトン(-20℃)で5回洗浄して、より多くのTAG及び他の中性脂質を取り出した。室温で10時間ロータリーエバポレーションして、残留溶媒を沈殿物から除去した。脂質収量を重量測定し、少量のアリコートを、FAMEのGC定量による脂肪酸組成の分析に使用した。17gの新鮮な卵黄の最初の投入から、1.1グラムの精製極性脂質が回収された。この抽出された脂質のアリコートをTLCで分析したところ、中性脂質が本質的に含まれておらず、TAGを含むことが観察された。これらの観察は、抽出物が96%純粋なPLであることを発見したGladkowski et al., (2012) によって報告された観察結果と一致していた。
【0594】
卵黄及び卵黄粉末のエタノール抽出後の沈殿から、沈殿物をヘキサン50mlで2回抽出することにより、中性脂質を抽出した。中性脂質を含む合わせたヘキサン溶液を、各回50mlの90%エタノールで4回洗浄した。次に、ヘキサンを減圧下で蒸発させて、卵黄から精製された中性脂質を得た。
【0595】
抽出された脂質の脂肪酸組成を決定するために、実施例1に記載のように、アリコート中の総脂肪酸をGC分析用のFAMEに変換した。これには、エタノール抽出後であるがヘキサン/アセトン沈殿前の試料(第1ppt)、並びに、ヘキサン/アセトン沈殿後の試料(第2ppt)が含まれた。データを表31に示す。新鮮な卵黄から単離したエタノール可溶性脂質及びそこから精製されたアセトン沈殿脂質には、主要な飽和脂肪酸としてC16:0及びC18:0が含まれていた。新鮮な卵黄からの第1の脂質沈殿物は、24.7%(C16:0)と15.6%(C18:0)を含み、一方、より精製された極性脂質は、27%(C16:0)と16%(C18:0)を含んだ。第2沈殿物中のLAの量は、第1の沈殿物よりもわずかに多かった。LAは、TAG中よりもPL中に多量に存在する。新鮮な卵黄とより純粋な極性脂質調製物の両方には、ω6及びω3 LC-PUFAも含まれていた。例えば、新鮮な卵黄の第1沈殿物には5.3%のC20:4(ARA)、2.3%のC20:5(EPA)、及び5%のC22:6(DHA)が含まれていたが、より精製された極性脂質調製物には5.3%のARA及び4%のDHAが含まれていた。オキアミ油からの第1沈殿物と、オキアミ油からのより精製された極性脂質は、主要な飽和脂肪酸としてC16:0を有した。オキアミ油の第1沈殿物及びより精製された極性脂質にはまた、第1沈殿物中にかなりの量のω3 LC-PUFA、すなわち1.1%のARA、34.7%のEPA、及び19.0%のDHAが含まれていたが、より精製された極性脂質には1.1%のARA、48.1%のEPA、及び25.7%のDHAが含まれていた。卵黄レシチン粉末からの沈殿した脂質は、17%のC16:0及び4%のC18:0を有していたが、LC-PUFA EPA及びDHA中では少なかった。レシチン粉末のLC-PUFA含有量が低いのは、おそらく製造又は保存中にこれらの多価不飽和脂肪酸が酸化分解されたためであると考えられた。
【0596】
全脂質調製物から分画により極性脂質を精製する別の方法は、例えばSPEカラム(HyperSep aminopropyl, ThermoFisher, UK)などのシリカベースのカラムクロマトグラフィーを使用することである。
【表31】
【0597】
本出願は、2021年6月11日に出願されたAU2021901766及び2021年10月1日に出願されたAU2021903160に対する優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0598】
広く説明した本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、具体的な実施態様に示される本発明に多くの変更態様及び/又は修正を加え得ることが当業者には理解されよう。従って、本実施態様はあらゆる点で例示的なものであり、限定的なものではないと考えられるべきである。
【0599】
本明細書で議論及び/又は参照されるすべての刊行物は、その全体が本明細書に組み込まれる。
本明細書に含まれる文書、行為、材料、装置、物品などに関するいかなる議論も、単に本発明の文脈を提供することを目的とするものである。これらの事項のいずれか又はすべてが、先行技術上記基盤の一部を形成しているものとして、又は本出願の各請求項の優先日以前に存在していても本発明に関連する分野における一般常識であったことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0600】
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【配列表】
【国際調査報告】