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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】IDH変異体阻害剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20240702BHJP
   C07D 519/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C07D487/04 144
C07D487/04 CSP
C07D519/00 311
A61K31/52
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577688
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 CN2022099018
(87)【国際公開番号】W WO2022262784
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】202110661394.5
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519416819
【氏名又は名称】ウィゲン・バイオメディシン・テクノロジー・(シャンハイ)・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】WIGEN BIOMEDICINE TECHNOLOGY (SHANGHAI) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】BUILDING 11, LIBING ROAD 67, ZHANGJIANG HI‐TECH PARK, SHANGHAI 201203, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】シエ,ユリ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ホウシン
(72)【発明者】
【氏名】チエン,リフゥイ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB07
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明では、あるクラスのIDH変異体阻害剤およびその使用が開示される。特に、本発明は、一般式(1)の化合物のクラス、その調製方法、および、抗腫瘍薬の調製におけるIDH変異体の不可逆的阻害剤としての、一般式(1)の化合物またはその光学異性体、結晶形もしくは薬学的に許容される塩の使用に関する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)の化合物、またはその異性体、結晶形、薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物。
【化1】
(一般式(1)中、
Lは、
【化2】
であり、ここで、「」は、カルボニル基に結合する部位を示し、
Xは、NHまたはNMeであり、
は、Me、Et、-CHCHCH、-CH(CH
【化3】
であり、
およびRは、それぞれ独立して、H、MeまたはEtであるか、あるいは、RおよびRは、それらに結合している炭素原子とともに、
【化4】
を形成し、
およびRは、それぞれ独立して、H、Me、Et、-CHCHCH、-CH(CH、-CHCH(CH
【化5】
であるか、あるいは、RおよびRは、それらに結合している炭素原子とともに、C3~C7シクロアルキルを形成し、ここで、前記C3~C7シクロアルキルは、ハロゲンまたはC1~C3アルキルで置換されていてもよい。)
【請求項2】
一般式(1)中、RおよびRが、独立して、H、またはMeであるか、あるいは、RおよびRが、それらに結合している炭素原子とともに、
【化6】
を形成する、請求項1に記載の化合物、またはその異性体、結晶形、薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項3】
一般式(1)中、RおよびRが、独立して、H、Me、Et、-CHCHCH、-CH(CH、-CHCH(CH
【化7】
であるか、あるいは、RおよびRが、それらに結合している炭素原子とともに、
【化8】
を形成する、請求項1に記載の化合物、またはその異性体、結晶形、薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項4】
前記化合物が、以下の構造:
【化9】
のうちの1つを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物、またはその異性体、結晶形、薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項5】
薬学的に許容される賦形剤または担体と、有効成分として請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物、またはその異性体、結晶形、薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物と、を含有する医薬組成物。
【請求項6】
IDH変異タンパク質により介在される関連疾患を処置するための医薬の調製における、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物、またはその異性体、結晶形、薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物、または請求項5に記載の医薬組成物、の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その全体が参照により本明細書中で援用される、2021年6月15日に出願された中国出願第202110661394.5号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、医薬化学の分野に関し、特に、新規なクラスのIDH変異体阻害剤、その調製方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(isocitrate dehydrogenase、IDH)は、トリカルボン酸サイクルに関与する重要な酵素である。トリカルボン酸サイクルの律速段階であるイソクエン酸からα-ケトグルタル酸(α-ketoglutarate、α-KG)への変換を触媒する。ヒトには、IDH1、IDH2、IDH3という3つの異なるイソクエン酸デヒドロゲナーゼが存在する。IDH1は主に細胞質とペルオキシソームに局在し、IDH2およびIDH3は主にミトコンドリアに分布している。
【0004】
IDH1およびIDH2は、ヒト癌遺伝子変異の同定において最も一般的な代謝遺伝子であり、IDH変異は、低悪性度神経膠腫、続発性悪性神経膠腫、黒色腫、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes、MDS)、および急性骨髄球性白血病(acute myelocytic leukemia、AML)で認められる。腫瘍細胞におけるIDH変異部位は、IDH1 Arg132(R132)、IDH2 Arg172(R172)またはIDH2 Arg140(R140)である。これらの変異により、野生型IDHタンパク質の機能が失われ、代わりにα-KGを腫瘍原性代謝物D-2-ヒドロキシグルタル酸(D-2-hydroxyglutarate、D-2HG)に変換する能力が得られる。腫瘍原性代謝物2-HGは、DNAまたはヒストンの脱メチル化酵素を阻害し、DNAやヒストンの過剰メチル化をもたらし、がんの発生を促進する。IDH阻害剤は、IDH1/R132、IDH2/R172またはIDH2/R140変異を有するタンパク質の活性を阻害することにより、in vivoでの腫瘍原性代謝物D-2HGを減少させ、ヒストンH3K9me3の脱メチル化を誘導し、腫瘍の発生を抑制する効果を得ることができる。したがって、変異体IDH1およびIDH2(mIDH1およびmIDH2)を標的とすることは、がん治療の有望なアプローチとなり得る。
【0005】
これまでのところ、いくつかのIDH低分子阻害剤が市販されており、例えばAgios Pharmaceuticals Inc.が開発したエナシデニブ(Enasidenib)およびイボシデニブ(Ivosidenib)はいずれも非共有結合阻害剤である。IDHの共有結合阻害剤は、Eli Lilly and Companyによって国際公開第2017019429号、国際公開第2017213910号および国際公開第2018111707号で報告されており、野生型IDH1およびIDH2と比較して変異体IDH1およびIDH2に対してより優れた選択性を有している。しかし、臨床段階に入ったIDH共有結合阻害剤はないため、より優れた活性と創薬可能性とを備えたIDH共有結合阻害剤を研究し探索する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017019429号
【特許文献2】国際公開第2017213910号
【特許文献3】国際公開第2018111707号
【発明の概要】
【0007】
本発明は、一般式(1)の化合物、またはその異性体、結晶形、薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物を提供する。
【化1】
(一般式(1)中、
Lは、
【化2】
であり、ここで、「」は、カルボニル基に結合する部位を示し、
Xは、NHまたはNMeであり、
は、Me、Et、-CHCHCH、-CH(CH
【化3】
であり、
およびRは、独立して、H、MeまたはEtであるか、あるいは、RおよびRは、それらに結合している炭素原子とともに、
【化4】
を形成し、
およびRは、独立して、H、Me、Et、-CHCHCH、-CH(CH、-CHCH(CH
【化5】
であるか、あるいは、RおよびRは、それらに結合している炭素原子とともに、C3~C7シクロアルキルを形成し、ここで、前記C3~C7シクロアルキルは、ハロゲンまたはC1~C3アルキルで置換されていてもよい。)
【0008】
別の好ましい実施形態において、一般式(1)中、RおよびRは、独立して、H、またはMeであるか、あるいは、RおよびRは、それらに結合している炭素原子とともに、
【化6】
を形成する。
【0009】
別の好ましい実施形態において、一般式(1)中、RおよびRは、独立して、H、Me、Et、-CHCHCH、-CH(CH、-CHCH(CH
【化7】
であるか、あるいは、RおよびRは、それらに結合している炭素原子とともに、
【化8】
を形成する。
【0010】
本発明の別の具体的な実施形態では、一般式(1)の化合物は、以下の構造:
【化9】
のうちの1つを有する。
【0011】
本発明の別の目的は、薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤と、有効成分として本発明の一般式(1)の化合物またはその異性体、結晶形、薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物と、を含有する医薬組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、IDH変異タンパク質に関連する疾患を処置、調節または予防するための医薬の調製における、本発明の一般式(1)の化合物、またはその異性体、結晶形、薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物、または上記医薬組成物の使用を提供することを意図している。
【0013】
本発明の前述の一般的説明および以下の詳細な説明は、どちらも例示的かつ説明的なものであり、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することを意図するものと理解されたい。
【0014】
化合物の合成
【0015】
本発明の一般式(1)の化合物の調製方法を以下に具体的に記載するが、これらの具体的な方法は本発明を何ら限定しない。
【0016】
上記の式(1)の化合物は、本明細書に記載の方法と組み合わせた標準的な合成技術、または周知の技術を使用して、合成され得る。さらに、本明細書に記載される溶媒、温度および他の反応条件は異なっていてもよい。化合物の合成のための出発物質は、合成的にまたは商業的に入手することができる。本明細書に記載の化合物および異なる置換基を有する他の関連化合物は、March,ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY,4th Ed.,(Wiley 1992);CareyおよびSundberg,ADVANCED ORGANICCHEMISTRY,4th Ed.,Vols.AおよびB(Plenum 2000、2001)、ならびにGreenおよびWuts、PROTECTIVE GROUPS IN ORGANICSYNTHESIS,3rd Ed.,(Wiley 1999)に見出される方法を含む、周知の技術および出発物質を用いて合成され得る。化合物を調製するための一般的な方法は、本明細書で提供される分子式に様々な基を導入するための適切な試薬および条件を使用することによって、変更され得る。
【0017】
1つの態様において、本明細書に記載された化合物は、当該技術分野で周知の方法に従って調製される。ただし、反応物、溶媒、塩基、使用する化合物の量、反応温度、反応に要する時間などの方法の条件は、以下の記載に限定されない。また、本発明の化合物は、本明細書に記載のまたは当技術分野で公知の種々の合成方法を任意に組み合わせて簡便に調製され得、このような組み合わせは、本発明が関連する当業者によって容易に決められ得る。1つの態様において、本発明は、下記の一般反応スキーム1によって調製される、一般式(1)の化合物の調製方法をさらに提供する。
【0018】
一般的な反応スキーム1
【化10】
【0019】
PGはアミン基の保護基を表し、R、R、R、R、RおよびLは上記で定義した通りである。一般的な反応スキーム1に示すように、出発物質A1を置換反応に付して化合物A2を得て;化合物A2および化合物A3を塩基性条件下で反応させて、化合物A4を得て;化合物A4をニトロ基において還元して化合物A5を得て;化合物A5を環化して化合物A6を得て;化合物A6の保護基PG(例えば、Boc)を除去して化合物A7を得て;化合物A7を塩化アクリロイルと反応させて目的化合物A8を得る。
【0020】
化合物のさらなる形態
【0021】
本明細書において「薬学的に許容される」とは、担体や希釈剤など、化合物の生物学的活性または特性の消失を引き起こさない、比較的無毒の物質を指す。例えば、個体に、ある物質を投与する場合、その物質は、望ましくない生物学的作用、またはその含有成分のいずれかとの有害な相互作用を、引き起こさない。
【0022】
用語「薬学的に許容される塩」は、投与を受ける生物体に著しい刺激を与えず、かつ、化合物の生物学的活性および特性を排除しない化合物の形態を指す。ある特定の態様において、前記薬学的に許容される塩は、一般式(1)の化合物を、酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、およびp-トルエンスルホン酸などの有機酸、アスパラギン酸、およびグルタミン酸などの酸性アミノ酸、と反応させることによって得られる。
【0023】
薬学的に許容可能な塩は、溶媒付加形態または結晶形態、特に溶媒和物または多形体を含むことを理解されたい。溶媒和物は、化学量論的または非化学量論的量の溶媒を含み、水およびエタノールなどの薬学的に許容可能な溶媒における結晶化の際に選択的に形成される。溶媒が水の場合は水和物が、溶媒がエタノールの場合はアルコラートが形成される。一般式(1)の化合物の溶媒和物は、本明細書に記載の方法に従って好都合に調製または形成される。例えば、一般式(1)の化合物の水和物は、水/有機溶媒の混合溶媒における再結晶によって好都合に調製され、使用される有機溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノールまたはメタノールを含むが、これらに限定されない。さらに、本明細書に記載の化合物は、非溶媒和形態または溶媒和形態のいずれかで存在し得る。一般に、溶媒和形態は、本明細書で提供される化合物および方法の目的のために、非溶媒和形態と同等であると考えられる。
【0024】
他の特定の例では、一般式(1)の化合物は、非晶質、粉砕、およびナノ粒子形態を含むが、これらに限定されない異なる形態で調製される。さらに、式(1)の化合物は、結晶形態を含み、多形体であってもよい。多形体は、化合物の同じ元素の異なる格子配列を含む。前記多形体は、一般に、異なるX線回折スペクトル、赤外スペクトル、融点、密度、硬度、結晶形態、光学的特性、電気的特性、安定性、および溶解性を有する。再結晶溶媒、結晶化速度、および保存温度などの様々な要因により、単一の優勢な結晶系になる場合がある。
【0025】
別の態様では、一般式(1)の化合物は、キラル中心および/または軸不斉を有し得、したがって、ラセミ体、ラセミ混合物、単一エナンチオマー、ジアステレオマー化合物、単一ジアステレオマーおよびシス-トランス異性体の形態で存在し得る。各キラル中心または軸不斉は、独立して2つの光学異性体を生成し、すべての可能な光学異性体、ジアステレオマー混合物および純粋または部分的に純粋な化合物が、本発明の範囲に含まれる。本発明は、これらの化合物のすべてのそのような異性体を含むことを意味する。
【0026】
本発明の化合物は、このような化合物を構成する原子の1つ以上において、不自然な割合の原子同位体を含んでいてもよい。例えば、前記化合物は、トリチウム(H)、ヨウ素-125(125I)およびC-14(14C)などの放射性同位体で標識され得る。他の例として、重水素を用いて水素原子を置換して重水素化化合物を形成することができる。重水素と炭素とによって形成される結合は、一般的な水素と炭素とによって形成される結合よりも強い。重水素化されていない医薬と比較して、一般に、重水素化医薬は、毒性作用および副作用の低減、医薬的安定性の向上、効力の増強、医薬的in vivo半減期の延長などの利点を有している。本発明の化合物のすべての同位体バリエーションは、放射性であるか否かにかかわらず、本発明の範囲に包含される。
【0027】
用語の説明
【0028】
特に明記しない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される用語は、以下のように定義される。本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形の「1つの(a)」および「1つの(an)」は文脈において特に明記しない限り、複数の意味を含むことに留意されたい。特に明記しない限り、質量分析法、核磁気共鳴分光法、HPLC、タンパク質化学、生化学、組換えDNA技術および薬理学のような従来の方法が用いられる。本明細書において、「または」または「および」は、特に明記しない限り、「および/または」を意味する。
【0029】
特に指定しない限り、「アルキル」は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状および分岐状の基を含む飽和脂肪族炭化水素基を意味する。メチル、エチル、プロピル、2-プロピル、n-ブチル、イソブチルまたはtert-ブチルなどの、1~4個の炭素原子を有する低級アルキル基が好ましい。本明細書で使用される場合、「アルキル」は、非置換および置換アルキル、特に1つ以上のハロゲンで置換されたアルキルを含む。好ましいアルキルは、CH、CHCH、CF、CHF、CFCH、CF(CH)CH、Pr、Pr、Bu、BuまたはBuから選択される。
【0030】
特に指定しない限り、「シクロアルキル」は、非芳香族炭化水素環系(単環式、二環式、または多環式)を指し、部分的に不飽和のシクロアルキルは、炭素環が少なくとも1つの二重結合を含む場合、「シクロアルケニル」、または炭素環が少なくとも1つの三重結合を含む場合、「シクロアルキニル」と呼ばれることがある。シクロアルキルは、単環式基または多環式基(例えば、2、3、または4個の縮合環を有する)、およびスピロ環を含み得る。いくつかの実施形態において、シクロアルキルは単環式である。いくつかの実施形態において、シクロアルキルは、単環式または二環式である。シクロアルキルの環炭素原子は、任意に、酸化されてオキソ基またはスルフィド基を形成し得る。シクロアルキルは、シクロアルキレンをさらに含む。いくつかの実施形態において、シクロアルキルは、0、1または2個の二重結合を含む。いくつかの実施形態において、シクロアルキルは、1または2個の二重結合を含む(部分不飽和シクロアルキル)。いくつかの実施形態において、シクロアルキルは、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、およびヘテロシクロアルキルと縮合していてもよい。いくつかの実施形態において、シクロアルキルは、アリール、シクロアルキル、およびヘテロシクロアルキルと縮合していてもよい。いくつかの実施形態において、シクロアルキルは、アリールおよびヘテロシクロアルキルと縮合していてもよい。いくつかの実施形態において、シクロアルキルは、アリールおよびシクロアルキルと縮合していてもよい。シクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタトリエニル、ノルカンファニル、ノルピナニル、ノルカラニル、ビシクロ[1.1.1]ペンチル、ビシクロ[2.1.1]ヘキシルなどが挙げられる。
【0031】
特に指定しない限り、「ハロゲン」(またはハロ)は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を指す。基名の前の用語「ハロ」(または「ハロゲン化」)は、その基が部分的または完全にハロゲン化されていること、すなわち、F、Cl、BrまたはI、好ましくはFまたはClによって任意の組み合わせで置換されていることを示す。
【0032】
「任意の」または「任意に」は、その後に記載される事象または状況が生じる可能性があるが、必ずしも生じないことを意味し、その記載には、その事象または状況が生じる例およびその事象または状況が生じない例が含まれる。
【0033】
置換基「-O-CH-O-」は、置換基中の2個の酸素原子が、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリール中の2個の隣接する炭素原子に結合していることを意味し、例えば、以下のとおりである。
【化11】
【0034】
リンカー基の番号が-(CH-のように0である場合、そのリンカー基が単結合であることを意味する。
【0035】
変数の1つが化学結合から選択される場合、この変数によってリンクされる2つの基が直接リンクされることを意味する。例えば、X-L-YのLが化学結合を表す場合、実際にはX-Yの構造であることを意味する。
【0036】
用語「員環」は、任意の環状構造を含む。用語「員」は、環を形成する主鎖原子の数を指すことが意図される。例えば、シクロヘキシル、ピリジニル、ピラニルおよびチオピラニルは、6員環であり、シクロペンチル、ピロリル、フラニルおよびチエニルは、5員環である。
【0037】
用語「部分」は、分子の特定の部分または官能基を指す。化学部分は、一般に、分子に含まれる、または分子に結合する化学物質を指すとみなされる。
【0038】
【0039】
具体的な医薬品・医療用語
【0040】
本明細書で使用される「許容可能な」という用語は、処方成分または活性成分が、一般的な治療対象の健康に過度にかつ有害な作用を及ぼさないことを意味する。
【0041】
本明細書で使用される用語「処置」、「処置経過」、および「治療」は、疾患の症状または状態を緩和、阻害、または改善すること、合併症の発生を阻害すること、根底となるメタボリック症候群を改善または予防すること、疾患または状態の発生を阻害すること(例えば、疾患または状態の進行を制御すること)、疾患または症状を緩和すること、疾患または症状を退行させること、および疾患または症状によって引き起こされる合併症を緩和すること、または疾患もしくは症状によって引き起こされる兆候を予防もしくは処置することを含む。本明細書で使用される場合、化合物または医薬組成物は、投与されると、疾患、症状、または状態を改善することができ、特に、疾患の重症度を改善させる、発症を遅らせる、進行を遅らせる、または持続期間を短縮することができる。固定投与もしくは一時投与、または継続投与もしくは間欠投与は、投与に起因するか、または投与に関連し得る。
【0042】
「有効成分」とは、一般式(1)の化合物、および一般式(1)の化合物の薬学的に許容可能な無機塩または有機塩を指す。本発明の化合物は、1つ以上の不斉中心(キラル中心または軸不斉)を含んでいてもよく、したがって、ラセミ体、ラセミ混合物、単一エナンチオマー、ジアステレオマー化合物、および単一ジアステレオマーの形態で存在し得る。存在し得る不斉中心は、分子上の様々な置換基の特性に依存する。このような不斉中心はそれぞれ独立して2つの光学異性体を生成し、すべての可能な光学異性体、ジアステレオマー混合物および純粋または部分的に純粋な化合物が、本発明の範囲に含まれる。本発明は、これらの化合物のすべてのそのような異性体形態を含むことを意味する。
【0043】
本明細書では、「化合物」、「組成物」、「薬剤」または「医薬または医薬品」などの用語は、互換的に用いられ、いずれも、個体(ヒトまたは動物)に投与されると、局所および/または全身作用により所望の薬理的および/または生理学的反応を誘発することができる化合物または組成物を指す。
【0044】
「投与される、投与する、または投与」という用語は、本明細書では化合物もしくは組成物の直接投与、または活性化合物のプロドラッグ、誘導体、アナログ等の投与を指す。
【0045】
本発明の広い範囲を定義する数値範囲およびパラメータは近似値であるが、特定の実施形態に示される関連する値は、可能な限り正確に本明細書に示されている。しかし、どのような数値も本質的に、ある種の試験方法から必然的に生じる標準偏差を含んでいる。ここで、「約」とは、一般に、実際の値が特定の値または範囲±10%、5%、1%、または0.5%以内であることを意味する。あるいは、「約」という用語は、当業者が考えるように、実際の数値が平均値の許容できる標準誤差の範囲内にあることを示す。実験例を除きまたは特に明記されない限り、本明細書で使用されるすべての範囲、量、値および百分率(例えば、材料の量、時間の長さ、温度、運転条件、量の割合などを記載するために)は、用語「約」によって修正されことが理解される。したがって、特に明記されない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、すべて所望により変化し得る近似値である。少なくとも、これらの数値パラメータは、示された有効数字または従来の丸め規則を使用して得られた数値と解釈されるべきである。
【0046】
本明細書で使用される科学技術用語は、本明細書で別途定義されない限り、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。さらに、本明細書で使用される単数形の名詞は、文脈と矛盾しない限り、それらの複数形を包含し、使用される複数形の名詞は、それらの単数形も包含する。
【0047】
治療用途
【0048】
本発明は、構造一般式(1)の化合物または本発明の医薬組成物を用いて、IDH変異タンパク質に関連する状態(例えば、癌)を含むがこれらに限定されない疾患を処置する方法を提供する。
【0049】
いくつかの実施形態において、癌を処置する方法が提供され、該方法は、構造一般式(1)の化合物を含む有効量の任意の前述の医薬組成物を、必要とする個体に投与することを含む。いくつかの実施形態において、癌は、IDH変異タンパク質によって介在される。他の実施形態では、癌は、白血病、乳癌、肺癌、膵臓癌、結腸癌、膀胱癌、脳腫瘍、尿路上皮癌、前立腺癌、肝臓癌、卵巣癌、頭頸部癌、胃癌、中皮腫または全ての癌転移を含むがこれらに限定されない、血液癌および固形腫瘍である。
【0050】
投与経路
【0051】
本発明の化合物およびその薬学的に許容可能な塩は、安全かつ有効な量の、本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩と、薬学的に許容可能な賦形剤または担体とを含む種々の製剤に調製することができ、ここで「安全かつ有効な量」とは、重篤な有害作用を引き起こすことなく状態を著しく改善するのに充分な化合物の量を意味している。化合物の安全かつ有効な量は、処置される対象の年齢、状態、処置の経過、および他の特定の状態に従って決定される。
【0052】
「薬学的に許容可能な賦形剤または担体」とは、ヒトでの使用に適し、かつ、充分な純度および低毒性を有していなければならない、1つ以上の適合性のある固体または液体の充填剤またはゲル物質を指す。本明細書において「適合性」とは、組成物の成分が、化合物の医薬的効力を著しく低下させることなく、本発明の化合物と相互混合することが可能であることを意味する。薬学的に許容可能な賦形剤または担体の例としては、セルロースおよびその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースナトリウムまたは酢酸セルロース)、ゼラチン、タルク、固体潤滑剤(例えば、ステアリン酸またはステアリン酸マグネシウム)、硫酸カルシウム、植物油(例えば、大豆油、ゴマ油、落花生油、オリーブ油など)、ポリオール(例えば、プロピレングリコール、グリセロール、マンニトール、ソルビトールなど)、乳化剤(Tween(登録商標)など)、湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)、着色剤、香料、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、発熱物質を含まない水などが挙げられる。
【0053】
本発明の化合物を投与する場合、経口、直腸、非経口(静脈内、筋肉内、もしくは皮下)または局所的に投与することができる。
【0054】
経口投与のための固形剤形には、カプセル、錠剤、丸剤、散剤(pulvises)および顆粒が含まれる。これらの固形剤形において、前記活性化合物は、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムなどの少なくとも1つの従来の不活性賦形剤(または担体)、または以下の成分:(a)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトールおよびケイ酸などの充填剤または増量剤;(b)ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよびアラビアガムなどの結合剤;(c)グリセロールなどの保湿剤;(d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種の複合ケイ酸塩、および炭酸ナトリウムなどの崩壊剤;(e)パラフィンなどの溶液遅延剤;(f)第四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤;(g)セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤;(h)カオリンなどの吸着剤;および(i)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコールおよびラウリル硫酸ナトリウムなどの潤滑剤、またはこれらの混合物と混合される。カプセル、錠剤および丸剤の場合、前記剤形は、緩衝剤を更に含んでもよい。
【0055】
錠剤、糖衣錠、カプセル、丸剤および顆粒などの固体剤形は、腸溶性コーティングおよび当技術分野で周知の他の材料などのコーティングおよびシェルを用いて、調製され得る。これらは不透明化剤を含んでもよく、そのような組成物中の活性化合物または化合物は、消化管の特定の部分で遅延して放出され得る。使用され得る埋め込み成分の例としては、高分子物質およびワックス系物質が挙げられる。必要に応じて、前記活性化合物は、1つ以上の上記賦形剤と共にマイクロカプセルを形成し得る。
【0056】
経口投与のための液体剤形には、薬学的に許容可能なエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシルなどが含まれる。活性化合物に加えて、前記液体剤形は、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えば、エタノール、イソプロパノール、炭酸エチル、酢酸エチル、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジメチルホルムアミド、および油、特に綿実油、落花生油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油、またはこれらの物質の混合物などの、当該技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤を含み得る。
【0057】
このような不活性希釈剤に加えて、前記組成物は更に、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、甘味剤、香味剤、および香料などのアジュバントを含み得る。
【0058】
活性化合物に加えて、懸濁液は、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶セルロース、アルミニウムメチラート、ならびに寒天、またはこれらの物質の混合物などの、懸濁剤を含み得る。
【0059】
非経口注射用組成物は、生理学的に許容可能な滅菌水溶液または非水性溶液、分散液、懸濁液またはエマルジョン、および滅菌注射用溶液または分散液に再構成するための滅菌粉末を含み得る。適切な水性および非水性担体、希釈剤、溶媒または賦形剤には、水、エタノール、ポリオール、およびそれらの適切な混合物が含まれる。
【0060】
本発明の化合物を局所投与するための剤形としては、軟膏、散剤、パッチ、スプレー、および吸入剤などが挙げられる。前記有効成分は、生理学的に許容可能な担体および任意の保存剤、緩衝剤、または必要に応じて要求され得る噴霧剤と無菌条件下で混合される。
【0061】
本発明の化合物は、単独で、または他の薬学的に許容可能な化合物と組み合わせて投与され得る。本発明の医薬組成物が使用される場合、処置対象となる哺乳動物(ヒトなど)に対して、安全かつ有効な量の本発明の化合物が投与され、ここで、投与量は、薬学的に有効な用量である。60kgのヒトの場合、1日の投与量は、通常1~2000mg、好ましくは50~1000mgである。なお、具体的な投与量の決定にあたっては、投与経路、患者の健康状態等も考慮されるが、これらは当業者には周知である。
【0062】
本発明で述べた上記の特徴、または実施形態において上述した特徴は、任意に組み合わせることができる。本明細書に開示される全ての特徴は、任意の組成物の形態で使用することができ、本明細書に開示される様々な特徴は、同一、同等または類似の目的を提供する任意の代替の特徴で置き換えることができる。従って、特に指定しない限り、本明細書で開示された特徴は、同等または類似の特徴の一般的な例に過ぎない。
【発明を実施するための形態】
【0063】
上記の化合物、方法および医薬組成物の様々な特定の態様、特徴および利点は、以下のように詳細に記載され、これにより本発明の内容が非常に明確になるであろう。以下の詳細な説明および実施例は、参考のために特定の実施例を記述していることを理解されたい。本発明の説明を読んだ後、当業者は、本発明に対して様々な変更または修正を加えることができ、そのような均等物も、本明細書で定義される本出願の範囲内に入る。
【0064】
すべての実施例において、H-NMRスペクトルをVarian Mercury400核磁気共鳴装置で記録し、化学シフトをδ(ppm)で表した;分離用シリカゲルは特に指定がなければ200~300メッシュのシリカゲルを使用し、溶離液の比率は体積比であった。
【0065】
本発明では、以下の略号を使用する:CDClは重水素化クロロホルムを表し、DCMはジクロロメタンを表し、ジオキサンは1,4-ジオキサンを表し、DIPEAはジイソプロピルエチルアミンを表し、DMSOはジメチルスルホキシドを表し、EAは酢酸エチルを表し、EtOHはエタノールを表し、hは時間を表し、Hは水素を表し、KOHは水酸化カリウムを表し、LC-MSは液体クロマトグラフィー質量分析を表し、minは分を表し、mLはミリリットルを表し、MSは質量分析を表し、n-BuLiはn-ブチルアルミニウムを表し、NaBH(OAc)はトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムを表し、NHClは塩化アンモニウムを表し、NMRは核磁気共鳴を表し、Pd/Cはパラジウム炭素を表し、PEは石油エーテルを表し、THFはテトラヒドロフランを表し、Ti(O-Pr)はチタンテトライソプロポキシドを表す。
【0066】
調製例1:2-クロロ-N-エチル-5-ニトロピリミジン-4-アミン
【化12】
【0067】
2,4-ジクロロ-5-ニトロピリミジン(2g、10.31mmol)をTHF(30mL)に溶解した。アルゴン雰囲気下、エチルアミン水溶液(1.33g、70%)を-70℃で滴下した。滴下後、混合溶液を室温まで温め、約0.5時間反応させた。LC-MSにより反応終了を確認した後、水(50mL)を加え、混合溶液をEA(30mL×2)で2回抽出した。有機相を合わせて濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、黄色固体生成物A2-1(1.763g、収率84%)を得た。ESI-MS m/z: 203 [M+H]+
【0068】
中間体A2-1の合成法に従って、異なる出発物質を用いて目的の中間体A2-2~A2-6を得た。
【表1】
【0069】
調製例2:tert-ブチル4-(1-(4-((S)-1-アミノエチル)フェニル)-2-シクロプロピルエチル)ピペラジン-1-カルボキシレート(A3-1)の合成
【化13】
【0070】
(S)-N-(1-(4-(2-シクロプロピルアセチル)フェニル)エチル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミドの合成
【0071】
(S)-N-(1-(4-ブロモフェニル)エチル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(10.7g、36.2mmol)を無水THF(100mL)に溶解し、n-BuLi(2.5M、30mL、72.3mmol)をアルゴン雰囲気下、-78℃で滴下添加した。添加終了後、混合溶液を-78℃から-60℃で約1時間インキュベートして反応させた後、無水THF(50mL)中の2-シクロプロピル-N-メトキシ-N-メチルアセトアミド(5.7g、39.8mmol)の溶液をゆっくりと滴下した。滴下後、混合溶液を一定温度でさらに0.5時間インキュベートして反応させた。LC-MSにより反応の完了が検出された後、混合溶液を飽和NHCl水溶液(100mL)でクエンチし、EA(50mL×2)で2回抽出した。有機相を濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、白色固体生成物(6.06g、収率56%)を得た。ESI-MS m/z: 300 [M+H]+
【0072】
tert-ブチル4-(2-シクロプロピル-1-(4-((S)-1-(2,2,2-トリフルオロアセチルアミノ)エチル)フェニル)エチル)ピペラジン-1-カルボキシレートの合成
【0073】
(S)-N-(1-(4-(2-シクロプロピルアセチル)フェニル)エチル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(3.068g、10.25mmol)およびtert-ブチルピペラジン-1-カルボキシレート(3.82g、20.5mmol)を無水THF(50mL)に溶解し、Ti(i-PrO)(15mL、51.25mmol)をアルゴン雰囲気下で滴下した。混合溶液を60℃で一晩反応させた後、室温まで冷却した。MeOH(20mL)およびNaBH(OAc)(1.288g、20.5mmol)を加えた。混合物を室温で10時間反応させた。少量の出発物質が残っていることが、LC-MSにより検出された。混合溶液を水(100mL)でクエンチし、EA(50mL×2)で抽出した。有機相を濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製して、未反応の出発物質(2.2g)を回収する一方、白色固体生成物(957mg、収率20%)を得た。ESI-MS m/z: 470 [M+H]+
【0074】
tert-ブチル4-(1-(4-((S)-1-アミノエチル)フェニル)-2-シクロプロピルエチル)ピペラジン-1-カルボキシレート(A3-1)の合成
【0075】
tert-ブチル4-(2-シクロプロピル-1-(4-((S)-1-(2,2,2-トリフルオロアセチルアミノ)エチル)フェニル)エチル)ピペラジン-1-カルボキシレート(3.74g、7.97mmol)をEtOH/HO(100mL/20mL)に溶解し、KOH(2.24g、39.87mmol)を氷浴中で数回に分けて添加し、混合溶液をアルゴン雰囲気下で50℃に加熱し、3時間反応させた。LC-MSにより反応の完了を確認した後、混合溶液を減圧下で濃縮し、約30mLを残した。残りの混合物を水(50mL)で希釈し、DCM(50mL×2)で抽出した。有機相を合わせ、飽和塩化ナトリウム水溶液(50mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮して、目的の化合物A3-1(3.854g、収率100%)を得た。ESI-MS m/z: 374 [M+H]+
【0076】
中間体A3-1の合成法に従い、異なる出発原料を用いて目的の中間体A3-2~A3-20を得た。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例1:2-(((1S)-1-(4-(1-(4-アクリロイルピペラジン-1-イル)-2-シクロプロピルエチル)フェニル)エチル)アミノ)-9-エチル-7,9-ジヒドロ-8H-プリン-8-オン(化合物1)の合成
【化14】
【0079】
ステップ1:化合物A4-1の合成
化合物A3-1(200mg、0.535mmol)および化合物A2-1(130mg、0.642mmol)をDMSO(5mL)に溶解した。DIPEA(207mg、1.605mmol)を加えた。80℃で約3時間反応した。LC-MSにより反応の完了を確認した後、水(30mL)を加え、混合溶液をEA(20mL×2)で抽出した。有機相を合わせ、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、黄色固体生成物A4-1(290mg、収率91%)を得た。ESI-MS m/z: 540 [M+H]+
【0080】
ステップ2:化合物A5-1の合成
化合物A4-1(290mg、0.537mmol)をMeOH(10mL)に溶解し、Pd/C(40mg、10%)を加えた。混合溶液を水素でパージした後、室温で一晩反応させた。LC-MSにより反応の完了を確認した後、混合溶液を濾過し、濃縮して、紫色固体A5-1(236mg、収率86%)を得た。ESI-MS m/z: 510 [M+H]+
【0081】
ステップ3:化合物A6-1の合成
化合物A5-1(236mg、0.463mmol)をDCM(10mL)に溶解し、CDI(150mg、0.926mmol)を加えた。混合溶液を室温で一晩反応させた。LC-MSにより反応の完了を確認した後、混合溶液を減圧下で濃縮した。残渣をフラッシュ(Flash)によって精製し、暗紫色固体A6-1(151mg、61%収率)を得た。ESI-MS m/z: 536 [M+H]+
【0082】
ステップ4:化合物A7-1の合成
化合物A6-1(151mg、0.282mmol)をDCM(5mL)に溶解し、4M HCl/Diox(1mL、4mmol)を加え、混合溶液を室温で約3時間撹拌反応させた。LC-MSにより反応の完了を確認した後、混合溶液を減圧下で濃縮し、黄色固体生成物A7-1(170mg、収率100%)を得た。ESI-MS m/z: 436 [M+H]+
【0083】
ステップ5:化合物1の合成
化合物A7-1(170mg、0.282mmol)およびDIPEA(183mg、1.41mmol)をDCM(5mL)に溶解した。混合溶液をアルゴン雰囲気下、氷浴中で0℃まで冷却した。DCM(3mL)中の塩化アクリロイル(23mg、0.254mmol)の溶液を滴下して加えた。混合溶液を氷浴中で約10分間反応させた。LC-MSにより反応終了を確認した後、水(10mL)を添加し、続いて撹拌および液分離し、水相をDCM(10mL)で抽出した。有機相を合わせた。濃縮残渣をpre-TLCで精製し、淡黄色固体生成物(100mg、収率72%)を得た。
【0084】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 7.81 (s, 1H), 7.32 (d, J = 7.9 Hz, 2H), 7.18 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.49 (dd, J = 16.9, 10.5 Hz, 1H), 6.23 (dd, J = 16.8, 1.9 Hz, 1H), 5.64 (dd, J = 10.5, 1.9 Hz, 1H), 5.26 (s, 1H), 5.10 (p, J = 6.9 Hz, 1H), 3.86 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 3.63 (m, 2H), 3.49 (m, 2H), 3.44-3.36 (m, 1H), 2.38 (m, 4H), 1.89-1.79 (m, 1H), 1.65 (m, 2H), 1.55 (d, J = 6.8 Hz, 3H), 1.29-1.25 (m, 3H), 0.40 (q, J = 6.4, 4.8 Hz, 1H), 0.36-0.24 (m, 2H), -0.01-0.09 (m, 2H); ESI-MS m/z: 490 [M+H]+
【0085】
実施例2~40:化合物2~40の合成
【0086】
化合物1の合成と同様の手順により、出発物質として異なる中間体を用いて、表3における目的化合物2~40を得ることができる。
【表3】
【0087】
実施例41:本発明の化合物のキラル異性体の調製
【0088】
本発明の化合物は、1つ以上のキラル中心を含む。本発明の化合物の様々な光学的に純粋な異性体は、出発物質として光学的に純粋な中間体を使用することにより調製され得る。あるいは、本発明の化合物の光学的に純粋な異性体は、キラルHPLCまたはアキラルHPLCを使用して調製され得る。
【0089】
本発明の化合物1は、上記の方法を用いることにより、化合物1の2つの光学的に純粋な異性体1-1および1-2として得ることができる:
【化15】
【0090】
化合物3、4、5、12、29、30、33および34を同じ合成法または調製法でキラル分割し、キラル異性体対3-1/3-2、4-1/4-2、5-1/5-2、12-1/12-2、29-1/29-2、30-1/30-2、33-1/33-2および34-1/34-2をそれぞれ得た:
【化16】
【0091】
本発明の他の化合物も、同様の合成方法または調製方法によって調製して、対応するキラル異性体を得ることができる。
【0092】
【表4】
【表4-2】
【0093】
実施例42:U87-IDH1 R132H細胞の上清におけるの2-HGの検出
【0094】
mIDH1 R132H変異を過剰発現するU87MG細胞、またはIDH1 R132Cを有するHT1080細胞をそれぞれ、50,000細胞数/ウェルおよび10,000細胞数/ウェルで、48ウェルプレートおよび96ウェルプレートに播種した。細胞を一晩インキュベートして接着させた後、上清を除去した。段階希釈した化合物を含む細胞培養培地を加え、細胞を72時間インキュベートした。72時間後、培地を採取し、水でそれぞれ10倍、20倍に希釈した。アセトニトリルを加えて代謝物を抽出した。培養培地中の2-HG含量を、LC-MS-MSによって分析した。上清における2-HGに対する化合物の阻害率およびIC50を、対照群と比較して算出した。
【表5】
【0095】
Aは阻害率が90%を超えることを示す。
Bは阻害率が60%を超え、90%以下であることを示す。
Cは阻害率が30%を超え、60%以下であることを示す。
Dは阻害率が30%以下であることを示す。
【0096】
【表6】
【0097】
実施例43:ヒト肝ミクロソームおよびマウス肝ミクロソームの安定性試験
【0098】
1μMの化合物を、500μg/mlのヒトまたはマウス肝ミクロソームおよびNADPH Regeneration Systemと、それぞれ異なる時間で、37℃でインキュベートした後、LC-MS-MSを用いて化合物の残存量を分析し、T1/2を算出した。
【0099】
【表7】
【0100】
実施例44:腫瘍組織における2-HGの検出
【0101】
ヌードマウスに1×10個のHT1080細胞を皮下接種した。腫瘍体積が100~150mmに達した時点でマウスを、溶媒対照群と、20mg/kgの化合物1、3、29、33またはLY-3410738投与群とに無作為に群分けした。連続投与の3日後および7日後に腫瘍を採取し、重量を測定した後、消化液で消化し、次いでホモジナイズした。腫瘍組織中の2-HG濃度はLC-MS-MSで測定した。腫瘍組織中の2-HGに対する化合物の阻害率を対照群と比較して算出した。
【表8】
【0102】
表5~8の活性データにより、本発明の一般式(1)の化合物が、市販のIDH阻害剤であるイボシデニブ(Ivosidenib)と比較して、U87-IDH R132H細胞およびHT1080細胞の上清ならびに腫瘍組織における2-HGのレベルに対して、より強い阻害活性を有することが実証され、このことから、これらの化合物がIDH1 R132HおよびIDH1 R132C変異タンパク質を阻害する能力がより強いことが、示される。一方、これらの化合物は、LY-3410738(国際公開第2018111707号の化合物2)と比較して、同等またはより強い活性を有する。
【0103】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明したが、これらの実施形態は単なる例示であり、本発明の原理および趣旨から逸脱することなく、これらの実施形態に多くの変更または修正を加えることができることが当業者には理解されよう。したがって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって定められる。
【国際調査報告】