(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ボイスコイルのオフセット又は温度を決定するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
H04R3/00 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578811
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 US2022072933
(87)【国際公開番号】W WO2022272221
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ランディ・マイケル・カーボ
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA21
(57)【要約】
スピーカのボイスコイルの変位オフセットを決定するための方法であって、プログラムコンテンツ信号及びテスト信号からなる駆動信号をスピーカのボイスコイルに提供することと、ボイスコイル電圧及びボイスコイル電流に従って、ボイスコイルのインピーダンスを表す少なくとも1つの値を決定することであって、ボイスコイル電圧及びボイスコイル電流は、少なくともテスト信号から生じる、決定することと、少なくとも1つの値が、ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット距離を超えることを示すかどうかを決定することと、少なくとも1つの値が、ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット閾値を超えることを示す場合、ボイスコイルに提供される駆動信号の大きさを低減することと、を含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカのボイスコイルの変位オフセットを決定する方法であって、
プログラムコンテンツ信号及びテスト信号からなる駆動信号を前記スピーカの前記ボイスコイルに提供することと、
ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値を決定することであって、前記ボイスコイル電圧及び前記ボイスコイル電流は、少なくともテスト信号から生じる、決定することと、
前記少なくとも1つの値が、前記ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット距離を超えることを示すかどうかを決定することと、
前記少なくとも1つの値が、前記ボイスコイルの前記オフセット変位が前記所定のオフセット距離を超えることを示す場合、前記ボイスコイルに提供される前記駆動信号の大きさを低減することと、を含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの値は、前記ボイスコイル電圧と前記ボイスコイル電流とを関連付ける多項式の複数の係数である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の係数が、適応フィルタに従って決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの値は、前記複数の係数のうちの少なくとも1つが係数閾値を超える場合、前記ボイスコイルの前記オフセット変位が前記所定のオフセット距離を超えることを示す、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの値は、前記ボイスコイル電圧と前記ボイスコイル電流との比である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの値は、前記ボイスコイルのインピーダンスの大きさ及び位相である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記大きさ及び位相は、位相ロックループを用いて決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記大きさ及び位相は、ロックイン増幅器を用いて決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記テスト信号の大きさは、前記ボイスコイルに提供される少なくとも1つのプログラムコンテンツ信号の大きさ又は平均の大きさに関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの値が、前記ボイスコイルの温度が所定の温度閾値を超えたことを示すかどうかを決定する工程と、
前記少なくとも1つの値が、前記ボイスコイルの前記温度が前記所定の温度閾値を超えたことを示す場合、前記ボイスコイルに提供される駆動信号の大きさを低減する工程と、
を更に備える、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
プログラムコードを備える非一時的記憶媒体であって、前記プログラムコードが、プロセッサによって実行されたときに、
ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値を決定する工程であって、前記ボイスコイル電圧及び前記ボイスコイル電流は、少なくとも、スピーカのボイスコイルに印加されるテスト信号から生じる、工程と、
前記少なくとも1つの値が、前記ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット距離を超えることを示すかどうかを決定する工程と、
前記少なくとも1つの値が、前記ボイスコイルの前記オフセット変位が前記所定のオフセット距離を超えることを示す場合、前記ボイスコイルに提供される駆動信号の大きさを低減する工程であって、前記駆動信号が前記テスト信号を含む、工程と、を含む方法を実行する、非一時的記憶媒体。
【請求項12】
前記少なくとも1つの値が、前記ボイスコイル電圧と前記ボイスコイル電流とを関連付ける多項式の複数の係数である、請求項11に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項13】
前記複数の係数は、適応フィルタに従って決定される、請求項12に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項14】
前記少なくとも1つの値は、前記複数の係数のうちの少なくとも1つが係数閾値を超える場合、前記ボイスコイルの前記オフセット変位が前記所定のオフセット距離を超えることを示す、請求項12に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項15】
前記少なくとも1つの値は、前記ボイスコイル電圧と前記ボイスコイル電流との比である、請求項11に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項16】
前記少なくとも1つの値は、前記ボイスコイルのインピーダンスの大きさ及び位相である、請求項11に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項17】
前記大きさ及び位相は、位相ロックループを用いて決定される、請求項16に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項18】
前記大きさ及び位相は、ロックイン増幅器を用いて決定される、請求項16に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項19】
前記テスト信号の大きさは、前記ボイスコイルに提供される少なくとも1つのプログラムコンテンツ信号の大きさ又は平均の大きさに関連する、請求項11に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項20】
前記プロセッサによって実行される前記方法は、
前記少なくとも1つの値が、前記ボイスコイルの温度が所定の温度閾値を超えたことを示すかどうかを決定する工程と、
前記少なくとも1つの値が、前記ボイスコイルの前記温度が前記所定の温度閾値を超えたことを示す場合、前記ボイスコイルに提供される駆動信号の大きさを低減する工程と、を更に備える、請求項11に記載の非一時的記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月22日に出願され、「System and Method for Determining Voice Coil Offset or Temperature」と題された米国特許出願第17/354,590号の優先権を主張し、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本開示は、概して、ボイスコイルのオフセット又は温度を決定するためのシステム及び方法に関する。
【発明の概要】
【0003】
下記で言及される全ての実施例及び特徴は、任意の技術的に可能な方式で組み合わせることができる。
【0004】
一態様によれば、スピーカのボイスコイルの変位オフセットを決定するための方法は、プログラムコンテンツ信号及びテスト信号からなる駆動信号をスピーカのボイスコイルに提供することと、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値を決定することであって、ボイスコイル電圧及びボイスコイル電流は、少なくともテスト信号から生じる、決定することと、少なくとも1つの値が、ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット距離を超えることを示すかどうかを決定することと、少なくとも1つの値が、ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット距離を超えることを示す場合、ボイスコイルに提供される駆動信号の大きさを低減することと、を含む。
【0005】
一例では、少なくとも1つの値は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流とを関連付ける多項式の複数の係数である。
【0006】
一例では、複数の係数は、適応フィルタに従って決定される。
【0007】
一例では、少なくとも1つの値は、複数の係数のうちの少なくとも1つが係数閾値を超える場合、ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット距離を超えることを示す。
【0008】
一例では、少なくとも1つの値は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との比である。
【0009】
一例では、少なくとも1つの値は、ボイスコイルのインピーダンスの大きさ及び位相である。
【0010】
一例では、大きさ及び位相は、位相ロックループを用いて決定される。
【0011】
一例では、大きさ及び位相は、ロックイン増幅器を用いて決定される。
【0012】
一例では、テスト信号の大きさは、ボイスコイルに提供される少なくとも1つのプログラムコンテンツ信号の大きさ又は平均の大きさに関連する。
【0013】
一例では、方法は、少なくとも1つの値が、ボイスコイルの温度が所定の温度閾値を超えたことを示すかどうかを決定する工程と、少なくとも1つの値が、ボイスコイルの温度が所定の温度閾値を超えたことを示す場合、ボイスコイルに提供される駆動信号の大きさを低減する工程と、を更に含む。
【0014】
別の態様によれば、プログラムコードを備える非一時的記憶媒体であって、プログラムコードが、プロセッサによって実行されたときに、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値を決定する工程であって、ボイスコイル電圧及びボイスコイル電流は、少なくとも、スピーカのボイスコイルに印加されるテスト信号から生じる、工程と少なくとも1つの値が、ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット距離を超えることを示すかどうかを決定する工程と、少なくとも1つの値が、ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット距離を超えることを示す場合、ボイスコイルに提供される駆動信号の大きさを低減する工程であって、駆動信号がテスト信号を含む、工程と、を含む方法を実行する、非一時的記憶媒体。
【0015】
一例では、少なくとも1つの値は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流とを関連付ける多項式の複数の係数である。
【0016】
一例では、複数の係数は、適応フィルタに従って決定される。
【0017】
一例では、少なくとも1つの値は、複数の係数のうちの少なくとも1つが係数閾値を超える場合、ボイスコイルのオフセット変位が所定のオフセット距離を超えることを示す。
【0018】
一例では、少なくとも1つの値は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との比である。
【0019】
一例では、少なくとも1つの値は、ボイスコイルのインピーダンスの大きさ及び位相である。
【0020】
一例では、大きさ及び位相は、位相ロックループを用いて決定される。
【0021】
一例では、大きさ及び位相は、ロックイン増幅器を用いて決定される。
【0022】
一例では、テスト信号の大きさは、ボイスコイルに提供される少なくとも1つのプログラムコンテンツ信号の大きさ又は平均の大きさに関連する。
【0023】
一例では、方法は、少なくとも1つの値が、ボイスコイルの温度が所定の温度閾値を超えたことを示すかどうかを決定する工程と、少なくとも1つの値が、ボイスコイルの温度が所定の温度閾値を超えたことを示す場合、ボイスコイルに提供される駆動信号の大きさを低減する工程と、を更に含む。
【0024】
更に別の態様によれば、スピーカのボイスコイルの変位オフセットを決定するための方法であって、プログラムコンテンツ信号及びテスト信号からなる駆動信号をスピーカのボイスコイルに提供することと、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値を決定することであって、ボイスコイル電圧及びボイスコイル電流は、少なくともテスト信号から生じる、決定することと、少なくとも1つの値が、ボイスコイルの温度が所定の温度閾値を超えたことを示すかどうかを決定することと、少なくとも1つの値が、ボイスコイルの温度が所定の温度閾値を超えたことを示す場合、ボイスコイルに提供される駆動信号の大きさを低減することと、を更に含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図面では、同じ参照符号は、一般に、異なる図を通して同じ部分を指す。また、図面は、必ずしも縮尺通りではなく、むしろ、一般に、様々な態様の原理を例解することに重点が置かれている。
【
図1A】一例によるスピーカのボイスコイル及び磁石構造の断面図を示す。
【
図1B】一例によるスピーカのボイスコイル及び磁石構造の断面図を示す。
【
図2A】一例による、周波数にわたる、様々な直径及び様々な圧力におけるボイスコイルのインピーダンスのプロットを示す。
【
図2B】一例による、周波数にわたる、様々な直径及び様々な圧力におけるボイスコイルのインピーダンスのプロットを示す。
【
図3】一例による、オフセット/温度検出器を有するオーディオシステムの概略図を示す。
【
図4A】一例によるオフセット/温度検出器を示す。
【
図4D】一例によるオフセット/温度検出器を示す。
【
図6A】一例による、ボイスコイルのオフセット又は温度を決定するための方法のフローチャートを示す。
【
図6B】一例による、ボイスコイルのオフセット又は温度を決定するための方法のフローチャートを示す。
【
図6C】一例による、ボイスコイルのオフセット又は温度を決定するための方法のフローチャートを示す。
【
図6D】一例による、ボイスコイルのオフセット又は温度を決定するための方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
窓を開けたまま高速で運転される車両は、車室内が高圧になる可能性がある。高圧は、車室内に配置されたスピーカのボイスコイルをスピーカの後部に向かって押しやる可能性がある。ボイスコイルがこの位置にあるときにスピーカを動作させると、スピーカを損傷する可能性がある。したがって、当該技術分野では、スピーカを動作させることがスピーカに損傷をもたらす可能性があるようにボイスコイルが位置付けられたときを識別し、そのような損傷を回避するための予防措置を講じる必要がある。
【0027】
スピーカ100のボイスコイル102及び磁石構造104の簡略化された断面概略図が、
図1A及び
図1Bに示されている(シャーシ、コーン、サラウンドなどのスピーカ100の他の構造は、明確にするために省略されている)。スピーカ100の通常動作中に、ボイスコイル102は、磁界を誘導する時変信号を受信する。ボイスコイル102の磁界と磁気構造104の磁界との間の相互作用は、ボイスコイルを移動させる。ボイスコイル102の変位は、それが接続されるスピーカ100の振動板を移動させ、次に、周囲空気を押して音波を発生させる。
【0028】
上述したように、高速で走行する車両の車室内の圧力は、ボイスコイルをスピーカの後部に向かって押しやる可能性がある。これは、車室内の圧力の結果としてボイスコイル102が距離dだけ移動したことを示す
図1Bに示されている。車室内の圧力の結果としてボイスコイルが移動する距離dは、本開示ではオフセット又はオフセット変位と呼ばれる。オフセットは、ボイスコイルの瞬間的な位置を指すのではなく、その平均位置、すなわち、時変入力信号を変換するときにボイスコイルが振動する位置を指すことが理解されよう。
【0029】
更に、使用中に、スピーカのボイスコイルは、大きな、特に歪んだ音楽を再生するときに過熱する可能性がある。したがって、当該技術分野では、スピーカのボイスコイルが過熱しているときを識別し、スピーカの損傷を回避するための予防措置を講じる必要がある。
【0030】
図2A及び
図2Bは、車室内の様々な直径及び様々な圧力のスピーカの周波数にわたるインピーダンスを示す。図示されるように、スピーカは、
図2Aにおいて202として示される抵抗成分及び大きな誘導成分を含む傾向がある。更に、
図2A及び
図2Bに示されるように、インピーダンスは、スピーカに対する圧力が増加するにつれて増加する傾向がある。言い換えれば、インピーダンスは、ボイスコイルのオフセットとともに増加する傾向がある。同様に、ボイスコイルのインピーダンスは温度とともに増加する傾向がある。
【0031】
より具体的には、本明細書の態様及び例は、ボイスコイルの抵抗成分(Re)及びボイスコイルの誘導成分(Le)の各々がオフセット及び温度とともに変化し得ることを認識している。特に、ボイスコイルの誘導成分(Le)は、オフセットに基づいて変化し得、ボイスコイルの抵抗成分(Re)は、温度とともに変化し得、その各々は、ボイスコイルにおける電流に対する電圧の関係を変更する。したがって、本明細書の様々な例によれば、ボイスコイル内の電圧と電流との間の関係の変化が検出され得、オフセット変位及び/又は温度の変化を示すと決定され得る。
【0032】
当業者によって理解されるように、インピーダンスは、電流に対する電圧の複素比である。特定の例は、インピーダンスを電圧と電流との間の線形関係として扱うが、この関係は必ずしも線形ではないことを理解されたい。実際に、
図2A及び
図2Bによって実証されるように、音響トランスデューサは、非線形システムであると認識される。例えば、磁場は、可動コイルの全ての位置にわたって一定ではなく、サスペンション(例えば、サラウンド、スパイダなど)の機械抵抗は、特に、例えば、
図1A及び
図1Bに示されるように、機械的移動の限界に近づくオフセットにおいて、オフセットに線形に関連しない。したがって、インピーダンスは、任意の所与の時間における電流に対する電圧の比であり、大きさ及び位相又は抵抗部分及び無効部分の両方を有すると理解することができるが、必ずしも線形関係であるとは限らない。本明細書で説明する態様及び例は、1つ以上の例がインピーダンスを単純な線形関係として扱うように見える場合があるが、複雑な非線形システムに適用可能である。
【0033】
図3は、オフセット検出及び/又は温度検出を伴う例示的なオーディオシステム300の簡略化された概略図を示す。オーディオシステム300の様々な特徴は、図示されるように、単に例として提供される。本明細書で説明されるオフセット検出及び温度検出システム並びに方法は、任意の好適なオーディオシステムと併せて使用され得ることを理解されたい。高次では、オーディオシステム300のオフセット/温度検出は、少なくとも1つのスピーカのボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値を監視して、オフセットがある所定の距離を超えたかどうか、又は温度がある所定の値を超えたかどうかを決定する。それに基づいて、スピーカに提供される駆動信号の大きさが、スピーカへの損傷を防止するために低減される。特定の例では、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値は、スピーカに提供されるテスト信号から生じるボイスコイル電圧及びボイスコイル電流から決定される。
【0034】
図3に示すように、プログラムコンテンツ信号u及びテスト信号sからなる駆動信号dがスピーカ302に提供される。プログラムコンテンツ信号uは、音楽、ナビゲーション、音声など、又はそれらの何らかの組み合わせなど、スピーカ302から再生される任意の信号を含むことができる。当業者であれば、プログラムコンテンツ信号uは、等化、アップミキシング、ダウンミキシング、ルーティングなど、
図3に示されていないプロセスの結果であり得ることを理解するであろう。
【0035】
テスト信号sは、発振器304又は任意の適切な信号発生器によって生成されるトーン、すなわち正弦波形であり得る。テスト信号の周波数は、スピーカのボイスコイルの抵抗がインダクタンスから容易に区別できるように、利用可能な最高周波数(すなわち、ナイキスト周波数の近く)になるように選択することができる。テスト信号は、人間の可聴範囲を超える周波数で出力することができ、その結果、テスト信号は、ユーザには検出不能である。代替例では、複数の周波数を含むより複雑な信号を使用することができる。いずれの場合も、トーンであろうと、より複雑な信号であろうと、テスト信号は、オフセットが確実に推定され得るスピーカ302周波数スペクトルの未使用部分に配置することができる。例えば、スピーカ302がウーファーである場合、テスト信号は、ウーファースペクトルの未使用部分におけるプログラムコンテンツ信号の一部、例えば、ツイーターとともに通常使用されるプログラムコンテンツ信号の一部とすることができ、その結果、ユーザは、テスト信号を、車室内に既に提供されているプログラムコンテンツ信号と区別しない。しかしながら、代替例では、テスト信号は、スピーカ302に既に提供されたプログラムコンテンツ信号の一部とすることができる(この場合、テスト信号は、それ自体の別個の信号ではなく、プログラムコンテンツ信号の一部として包含され、スピーカへのプログラムコンテンツ信号の提供は、プログラムコンテンツ信号及びテスト信号の両方の提供と見なされ得る)。
【0036】
図3に示すように、駆動信号dを生成するために、プログラムコンテンツ信号uは、加算ブロック306においてテスト信号sと加算される(この工程は、テスト信号がプログラムコンテンツ信号に既に含まれている場合には省略される)。図示の例では、加算された信号は増幅器308によって増幅され、駆動信号dとしてスピーカ310に提供される。
【0037】
オフセット/温度検出器310は、ボイスコイルのオフセットが所定の距離を超えているか、又はボイスコイルの温度が所定の値を超えているかを決定する。より詳細には、スピーカ302のボイスコイルへのテスト信号の印加から生じる電圧及び電流に基づいて、オフセット/温度検出器310は、スピーカ302のボイスコイルのオフセットが所定の距離を超えているか、又は温度が所定の値を超えているかを決定し、この所定の値において、駆動信号dは、スピーカ302の損傷を回避するために先制的に低減される。オフセット/温度検出器310は、少なくとも、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値に従ってスピーカ302のボイスコイルのオフセット/温度を決定するが、これは、上述したように、ボイスコイルのインピーダンスがオフセット変位及び温度とともに単調に変化し、したがってボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を変化させるからである。オフセット/温度検出器310は、ボイスコイルのオフセット及び温度の両方を監視するように構成されるものとして説明されているが、様々な例では、これらの条件のうちの1つのみ(例えば、オフセットのみ)を監視することを理解されたい。
【0038】
ボイスコイルのインピーダンスを表す値は、駆動信号dを受信する電流センサ312によって測定される測定電流i、及び駆動信号dを受信する電圧センサ314によって測定される測定電圧vから決定することができる。電流センサ及び電圧センサは広く知られており、任意のそのようなセンサは、本開示で説明されるスピーカのオフセットを決定するための方法によって要求される精度内で電流及び電圧を測定するのに適している。車両オーディオシステムに使用される増幅器は、多くの場合、内部電圧及び電流センサを含み、スピーカに提供される電圧及び電流を測定するために使用されることができる。更に、電流センサ312及び電圧センサ314の出力をフィルタリングして、テスト信号から生じるこれらの出力の成分を分離することができる。したがって、例えば、電流センサ312及び電圧センサ314の出力はそれぞれ、それぞれのバンドパスフィルタを用いてフィルタリングすることができ、そのカットオフ周波数は、プログラムコンテンツ信号からのテスト信号から生じる電圧及び電流を分離するように選択される。
【0039】
以下でより詳細に説明するように、様々な代替例では、ボイス電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値(複数可)は、ボイスコイル電圧vとボイスコイル電流iとの比、ボイスコイルのインピーダンスの大きさ及び位相、ボイスコイルのインピーダンスの抵抗部分及び無効部分、ボイスコイル電圧vとボイスコイル電流iとを関連付ける多項式の係数のセット、又はニューラルネットワークによって決定されるような関係、のうちの少なくとも1つであり得る。これらはインピーダンスを表す値の例として提供されているにすぎず、他の例では他の適切な値を使用することができることを理解されたい。様々な例では、以下で説明されるように、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値(複数可)は、適応フィルタによって、位相ロックループ、ロックイン増幅器、又はニューラルネットワークによって部分的に決定され得る。
【0040】
オフセット/温度検出器310の第1の例が、オフセット/温度検出器310Aとして
図4Aに示されている。この例では、オフセット/温度検出器310Aは、ボイス電圧vとボイスコイル電流iとの比に従って、オフセット又は温度を計算する。ボイスコイルのインピーダンスである、ボイスコイル電流iに対するボイスコイル電圧vの比Zは、除算ブロック402で計算される。様々な例では、ボイスコイル電圧vとボイスコイル電流iとの比Zは、ボイスコイル電圧v又はボイスコイル電流iのRMS、ピークツーピーク、又は平均の比であり得る。ボイスコイル電圧vとボイスコイル電流iとの比Zは、比Zを基準値t(すなわち、所定の閾値)と比較し、比較に基づいて出力oを生成する閾値比較ブロック404において、閾値と比較されることができる。
【0041】
基準値t(この例及び以下で説明する例において)は、駆動信号の利得の低減がなければスピーカ302への損傷が生じるような、オフセット変位又は温度に相関するように選択することができる。しかしながら、これは厳密に必要というわけではない。代替例では、所定の閾値tは、スピーカへの損傷が生じるオフセット又は温度よりも低い何らかの値に設定されて、検出前に生じ得るオフセット又は温度の潜在的な急速な変化からの損傷を回避する予防バッファを提供することができる。
【0042】
ボイスコイルのインピーダンスの大きさの変化は、オフセット又は温度のいずれかの増加から生じ得るので、ボイスコイル電圧vとボイスコイル電流iとの比Zは曖昧であり、したがって、大きなオフセット変位と過熱ボイスコイルとを区別するために使用することができない。したがって、オフセット/温度検出器310の代替例が
図4B及び
図4Cに示されている。より詳細には、
図4Bは、ボイスコイルのオフセットの変化を検出するように構成されたオフセット検出器310Bを示し、
図4Cは、ボイスコイルの温度の変化を検出するように構成された温度検出器310Cを示す。以下に説明するように、オフセット検出器310B及び温度検出器310Cは、インピーダンスの位相を考慮することによって、オフセットによるインピーダンスの変化と温度によるインピーダンスの変化とを区別する。
【0043】
図4Bのオフセット検出器310Bに示すように、大きさ/位相検出器408は、ボイスコイル電圧v及びボイスコイル電流iを受信し、ボイスコイル電圧の大きさv
mag、ボイスコイル電圧の位相v
phase、ボイスコイル電流の大きさi
mag、及びボイスコイル電流の位相i
phaseを検出する。各大きさ/位相検出器408は、入力信号の大きさ及び位相を決定するための任意の適切なデバイスであり得る。様々な例では、各大きさ/位相検出器408は、当該技術分野で知られているように、位相ロックループ又はロックイン増幅器のうちの1つであり得、入力信号の大きさ及び位相を決定するために使用され得る。
【0044】
図4Bに示すように、インピーダンスの大きさZ
magは、分周器ブロック402に従って決定されるように、ボイスコイル電圧の大きさv
magとボイスコイル電流の大きさi
magとの比から決定することができる。インピーダンスの位相Z
phaseは、差分ブロック410に従って、ボイスコイル電圧の位相v
phaseとボイスコイル電流の位相i
phaseとの間の差から決定することができる。インピーダンスの大きさZ
magは、ボイスコイル電流の大きさi
mag又はボイスコイル電圧の大きさv
magのRMS、ピークツーピーク、又は平均を用いて求めることができる。
【0045】
この例では、インピーダンスの位相Z
phaseは、インピーダンスの大きさがスケーリングされる値として動作する。より具体的には、インピーダンスの大きさZ
magは、乗算器414において、正弦ブロック412によって求められるインピーダンスの位相Z
phaseの正弦(すなわち、正弦(Z
phase-))によって乗算される。したがって、インピーダンスの位相Z
phaseが90°である場合、インピーダンスの大きさZ
magは、事実上1の値によって乗算される(したがって、不変のままである)。一方、インピーダンスの位相Z
phaseが0°である場合、乗算器414の出力は事実上0である。別の言い方をすれば、インピーダンスの大きさZ
magは、sine(Z
phase-)によって重み付けされる。したがって、インピーダンスの位相Z
phaseの値が90°に近づくにつれて、本開示においてオフセットメトリックZ
offsetと呼ばれる乗算器414の出力はZ
magに近づき、インピーダンスの位相Z
phaseが0°に近づくにつれて、オフセットメトリックZ
offsetは0に近づく。このようにして、Z
phaseの値が(約90°の位相シフトの存在によって)インダクタンスの存在を明らかにし、したがって大きなオフセットの存在を暗示する場合、インピーダンスの大きさZ
magは、
図4Aで説明したのと同じ方法で、比較ブロック404において基準tと比較される。しかし、Z
phaseの値がインダクタンスの存在を明らかにせず、大きなオフセットではなく高いボイスコイル温度の存在を暗示する場合、出力oが大きなオフセットの存在を示さないように、インピーダンスの大きさZ
magのスケーリングされたバージョンが基準信号tと比較される。
【0046】
代替例では、インピーダンスの大きさZ
magにインピーダンスの位相Z
phaseの正弦を乗算するのではなく、決定木を使用して(以下で
図5に関連して説明する決定木と同様に)、インピーダンスの大きさZ
mag及びインピーダンスの位相Z
phaseの値が所定の距離より大きいオフセットを表すかどうかを決定することができる。例えば、決定木は、90°とインピーダンスの位相Z
phaseとの間の差が所定の位相閾値(例えば、30°)を超えるかどうかを決定することができる。差が位相閾値を超える場合、位相は大きな誘導成分を示さないので、オフセットが所定の距離を超えていないと決定することができる。しかしながら、位相が閾値を超えない場合、インピーダンスの大きさZ
magを所定の閾値と比較して、インピーダンスが所定の距離よりも大きいオフセットを表すかどうかを決定することができる。
【0047】
図4Cを参照すると、温度検出器310Cは、オフセット検出器310Bの例に従うが、インピーダンスの大きさZ
magにインピーダンスの位相Z
phaseの余弦(すなわち、cos(Z
phase))を乗算するように修正される。したがって、インピーダンスの位相Z
phaseが0°に近づくにつれて、インピーダンスの大きさZ
magは1で乗算される(すなわち、不変のままである)が、インピーダンスの位相Z
phaseが90°に近づくにつれて、インピーダンスの大きさZ
magは0にスケーリングされる。したがって、温度検出器310Cは、インピーダンスが大きな誘導部分を示す場合、インピーダンスの大きさZ
magを最小化するように機能するが、インピーダンスが大きな抵抗部分を示す場合、Z
magを最大化するように機能する(インピーダンスの大きさがボイスコイルの温度を表すことを示唆する)。このスケーリングされたインピーダンスの大きさZ
mag(
図4Dにおいて温度メトリックZ
tempとして示される)は、ボイスコイルの温度が所定の温度を超えたかどうかを決定するために、比較ブロック404において、基準信号tと比較することができる。(
図4A、
図4B、及び
図4Cで使用される基準信号tは、異なる値が測定されているので、各例において必ずしも同じ値ではないことを理解されたい)
【0048】
この場合も、インピーダンスの大きさZmagにインピーダンス相Zphaseの余弦を乗算するのではなく、決定木を使用して、インピーダンスの大きさZmag及びインピーダンスの位相Zphaseの値が所定の値より高い温度を表すかどうかを決定することができる。例えば、決定木は、0°とインピーダンスの位相Zphaseとの間の差が所定の位相閾値(例えば、30°)を超えるかどうかを決定することができる。差が位相閾値を超える場合、インピーダンスに対して大きな抵抗成分が検出されないため、オフセットが閾値温度を超えていないと決定することができる。しかしながら、位相が閾値を超えない場合、インピーダンスの大きさZmagを所定の閾値と比較して、インピーダンスが所定の値よりも高い温度を表すかどうかを決定することができる。
【0049】
代替例では、
図4Dに示されるように、オフセット/温度検出器310Dが、ボイスコイルのオフセットが所定の距離を超えるか、又はボイスコイルの温度が所定の値を超えるかを決定する、ボイスコイル電圧vとボイスコイル電流iとの間の関係を表す少なくとも1つの値は、ボイスコイル電圧vをボイスコイル電流iに関連付ける多項式の係数である。例えば、ボイスコイルの電圧は以下のように近似することができる。
【0050】
【数1】
ここで、R
eはボイスコイルの抵抗成分であり、L
eは誘導成分である。式(1)の誘導項に現れるような、ボイスコイル電流の導関数は、後方差分近似によって、式(2)のように書き直すことができる。
【0051】
【数2】
ここで、hは、オーディオシステム300の連続するサンプル間の時間差である。したがって、式(1)のボイスコイル電圧vは、式(3)のように近似することができる。
【0052】
【数3】
したがって、離散時間領域では、ボイスコイル電圧vは、式(4)のように近似することができる。
【0053】
【0054】
係数x0、x1は、測定されたボイスコイル電圧vとボイスコイル電流iとを最もよく関連付けるものであり、ボイスコイルのオフセットが所定の距離を超えるかどうかを決定するために使用することができるボイスコイルのインピーダンスを表す値として使用することができる。更に、代替例では、追加の係数を使用することができる(x0、x1、x2)。これは、式(4)を追加の前のサンプル(i[n]、i[n-1]、i[n-2])に逆方向に拡張することができるからである。
【0055】
代替例では、式(4)は、ボイスコイル電流iを連続ボイスコイル電圧サンプルに関して書くために置き換えることができる。この例では、ボイスコイル電圧サンプルの係数を、ボイスコイルのインピーダンスを表す値として使用して、ボイスコイルのオフセットが所定の距離を超えるかどうかを決定することができる。更に、式(4)は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を記述する多項式の一例として提供されているにすぎない。代替例は、式(4)の非線形変形を用いて電流に対する電圧の関係をモデル化することができる。これは、更なる非線形分析及び/又は経験的方法によって決定することができる。
【0056】
係数がボイスコイル電流のサンプルをボイスコイル電圧に関連付けるか、ボイスコイル電圧のサンプルをボイスコイル電流に関連付けるかにかかわらず、係数は、電流センサ312及び電圧センサ314によって求められるように、係数のどの値がボイスコイル電圧vとボイスコイル電流iとを最もよく関連付けるかを決定するように構成された最小平均二乗(Least Means Square、LMS)フィルタ又は再帰的最小二乗(Recursive Least Squares、RLS)フィルタなどの適応フィルタを使用して求めることができる。(代替例では、適応フィルタを使用することに加えて、係数値を決定する他の方法を使用することができる。実際、多項式の係数を決定するための様々な数学的方法が当該技術分野で理解されており、適応フィルタの代わりに使用することができる)
【0057】
適応フィルタの出力、すなわち係数の値(
図4Cでは係数信号cとして表されている)は、決定木420に入力することができ、その一例が
図5では方法500としてフローチャートとして表されている。
図5に示すように、決定木420は、求められた係数を様々な閾値と比較して、ボイスコイルのオフセット又は温度が所定の値を超えたかどうかを決定する。どの係数値が様々な工程でどの閾値と比較されるかを含む決定木の性質は、経験的に、理論的に、又は機械学習アルゴリズムに従って決定することができる。例えば、式(4)の係数値x
0、x
1が所定の閾値を超えるボイスコイルのオフセットを表すときを決定するために使用される機械学習プロセスは、
図5の例示的な決定木となった。工程502に示されるように、第1及び第2の係数値(x
0、x
1)が受信される。工程504において、第2の係数x
1が第1の閾値(例えば、0.164304)と比較される。第2の係数が第1の閾値未満である場合、工程506において、第1の係数値x
0は第2の閾値と比較される。(例えば、-0.923162)第1の係数値が第2の閾値未満である場合、ボイスコイルのオフセットが所定の距離より大きいと決定される。工程510において、変位が所定の距離より大きいことを示す信号が出力される。工程506において、第1の係数値が第2の閾値よりも大きいと決定される場合、オフセットが所定の距離未満と決定され、工程512において、出力信号は、オフセットが所定の距離未満であることを示す。
【0058】
工程504に戻り、第2の係数が第1の閾値より大きい場合、工程508において、第2の係数は第3の閾値(例えば、0.17927)と比較される。第2の係数値が第3の閾値未満である場合、オフセットが所定の距離未満であると決定され、工程512において、出力信号は、オフセットが所定の距離未満であることを示す。工程508において、第1の係数値が第2の閾値より大きいと決定された場合、ボイスコイルのオフセットが所定の距離より大きいと決定される。工程510において、出力信号は、変位が所定の距離よりも大きいことを示す。
【0059】
代わりに、様々な工程においてどの係数がどの閾値と比較されるかを調整することによって、決定木は、ボイスコイルの温度が所定の値を超えるときを推定するように構成することができる。更に別の例では、決定木420は、オフセットが所定の距離を超えたとき、又は温度が所定の値を超えたときを検出するように構成することができる。
【0060】
更に、どの係数値がどの閾値と比較されるかを含む、
図5に関連して説明される決定木は、係数値が所定の距離を超えるボイスコイルのオフセットを表すときを決定するための適切な決定木の一例にすぎないことを理解されたい。実際に、所定の距離を超えるオフセット又は所定の値を超える温度を示す係数値は、特定のスピーカ並びに選択される所定の距離又は値に依存する。更に、追加の分岐を特徴とする高次決定木を使用して、精度を高めることができる。加えて、異なる数の係数が、決定木への入力として使用されることができ(例えば、x
0、x
1、x
2)、これによって、使用される分岐及び閾値の数が変更される。更に、決定木の性質は、係数が、ボイスコイル電圧測定値をボイスコイル電流に関連付ける多項式であるか、又はボイスコイル電流測定値をボイスコイル電圧に関連付ける多項式であるかに依存する。
【0061】
更に、上述したインピーダンスを表す値に加えて、他の適切な値を使用してボイスコイルのオフセットを推定することができることを理解されたい。例えば、ボイスコイルのインピーダンスは、抵抗部分及び無効部分を含む複素値として表すことができると考えられる。
図4A~
図4Dの例のような抵抗部分及び無効部分は、ボイスコイルのオフセットが所定の距離よりも大きいか、又はボイスコイルの温度が所定の値よりも大きいかを推定するために、例えば決定木において、閾値と比較され得る。
【0062】
更に、上記の例は、インピーダンスを表す値に従ってオフセット又は温度を推定するが、実際のオフセット距離を決定する追加の工程を含まない。換言すれば、上記の例は、ボイスコイルのインピーダンスを表す値が、オフセットが所定の距離よりも大きいこと、又は温度が所定の値を超えることを示すときを決定するが、距離又は温度が何であるかを実際に計算しない。代わりに、これらの例は、ボイスコイルのインピーダンスを表す値からオフセット変位又は温度を計算し、計算されたオフセット又は温度を所定の距離又は値と比較して、それが所定の距離又は値を超えているかどうかを決定するように修正することができる。しかし、一般的に、この工程は必要とされないので、上記のより経済的なアプローチのために除外することができる。
【0063】
ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値(複数可)が、所定の距離よりも大きいオフセット又は所定の値よりも高い温度を示すと決定することに応答して、駆動信号の大きさは、スピーカの損傷を回避するために低減することができる。これは、増幅器308の利得を低減することによって実施することができる。しかしながら、増幅器308の出力を選択的に減衰させることができる何らかの可変減衰器を含めるなど、駆動信号の大きさを低減するための他の方法を使用することができる。
【0064】
更に、駆動信号の大きさに対する低減量は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値(複数可)に関連付けることができる。換言すれば、オフセット又は温度が増加するにつれて、駆動信号の駆動信号大きさの低減を増加させることができる。これは、上記の例において複数の閾値を利用することによって達成することができ、各閾値は、駆動信号の大きさの様々な低減度合いに対応する。したがって、
図4Aに関連して説明した例は、比Zを複数の閾値と比較するように修正することができ、連続的に大きくなる閾値はそれぞれ、駆動信号の大きさの低減度合いが連続的に大きくなることに対応し、したがって、比Zが最大閾値を超える場合、より大きな低減が行われる。同様に、
図4Bに関連して説明した例は、スケーリングされた比Zを、大きさの低減度合いが次第に大きくなることに対応する複数の閾値と比較するように修正することができる。同様に、
図4C~
図5の例の決定は、決定された多項式係数に従ってどの程度の大きさの低減をもたらすかを決定するように修正することができる。
【0065】
代替例では、オフセットは、テスト信号のみを使用して検出することができる(すなわち、駆動信号は、追加のプログラムコンテンツ信号を含まない)。この例では、駆動信号の大きさを低減するのではなく、スピーカ302への最大電位出力を、オフセットが解決されるまで制限することができる。したがって、例えば、オフセットが検出された場合、スピーカ302に提供される最大利得は、プログラムコンテンツのソースをオンにしているユーザがスピーカが生成する最大音量を制限されるように、所定の制限内に管理され得る。
【0066】
更に、テスト信号の大きさは、プログラムコンテンツ信号の大きさに依存し得る。したがって、プログラムコンテンツ信号の大きさが増大するにつれて、より大きなテスト信号を導入することができる。同様に、より大きなテスト信号はより大きなボイスコイル電圧及びボイスコイル電流を誘導する傾向があるので、様々な例で使用される閾値の値は、使用されるテスト信号の大きさに依存し得る。
【0067】
更に別の例では、オフセット/温度検出器310は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を検出し、この関係を表す値がボイスコイルのオフセット又は温度が所定の閾値を超えたことを示すときを決定するように訓練されたニューラルネットワークとして実装することができる。例えば、そのようなニューラルネットワークは、ボイスコイル電圧及びボイスコイル電流並びにボイスコイルの関連するオフセット/温度のデータの履歴セットを用いて訓練されることができる。このデータから、ニューラルネットワークは、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の数学的関係を特徴付けることができ、この関係のある値が、オフセット又は温度がある所定の閾値を超えたことを示すときを識別することができる。
【0068】
一例では、
図4A~
図4Dに関連してより詳細に説明されるオフセット/温度検出器310の機能及び例は、非一時的記憶媒体に記憶され、1つ以上のプロセッサによって実行されることができる。更に、機能の全部又は一部は、任意の関連ハードウェアとともに、専用論理回路、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field-Programmable Gate Array、FPGA)及び/又は特定用途向け集積回路(Application-Specific Integrated Circuit、ASIC)として、又はプロセッサ、専用論理回路、及び関連ハードウェアの何らかの組み合わせによって実装され得る。
【0069】
図6は、所定のボイスコイルのオフセット又は温度を検出し、そのようなオフセット又は温度が検出されたときにスピーカへの損傷を防止するためにボイスコイルへの駆動信号を低減する方法600を示す。方法600の工程は、オフセット/温度検出器310などのオフセット/温度検出器を含むオーディオシステム300などのオーディオシステムによって実施することができる。しかしながら、任意の適切なオーディオシステムを使用することができる。この方法の工程は、車両に配置されたオーディオシステムに関連して説明されてきたが、この方法は、ボイスコイルのオフセット及び温度に関連するので、スピーカ駆動信号が、検出されたボイスコイルのインピーダンスに基づいて調整される任意の状況において適用可能である。方法600の工程の全部又は一部は、非一時的記憶媒体に記憶され、1つ以上のプロセッサによって実行されることができる。更に、工程の全部又は一部は、任意の関連ハードウェアとともに、専用論理回路、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)及び/又は特定用途向け集積回路(ASIC)として、又はプロセッサ、専用論理回路、及び関連ハードウェアの何らかの組み合わせによって実装され得る。更に、いくつかの例では、方法600は、所定のオフセット若しくは温度のいずれか、又はオフセット若しくは温度のうちの1つのみを検出することができることを理解されたい。
【0070】
工程602において、プログラムコンテンツ信号及びテスト信号からなる駆動信号がスピーカのボイスコイルに提供される。プログラムコンテンツ信号は、音楽、ナビゲーション、音声など、又はそれらの何らかの組み合わせなど、スピーカ302から再生される任意の信号を含むことができる。当業者であれば、プログラムコンテンツ信号は、等化、アップミキシング、ダウンミキシング、ルーティングなどの処理の結果であり得ることを理解するであろう。テスト信号sは、発振器又は任意の適切な信号発生器によって生成されるトーン、すなわち正弦波形とすることができる。テスト信号の周波数は、スピーカのボイスコイルの抵抗がインダクタンスから容易に区別できるように、利用可能な最高周波数(すなわち、ナイキスト周波数の近く)になるように選択することができる。テスト信号は、人間の可聴範囲を超える周波数で出力することができ、その結果、テスト信号は、ユーザには検出不能である。代替例では、複数の周波数を含むより複雑な信号を使用することができる。いずれの場合も、トーンであろうと、より複雑な信号であろうと、テスト信号は、オフセットが確実に推定され得るスピーカ周波数スペクトルの未使用部分に配置されることができる。例えば、スピーカがウーファーである場合、テスト信号は、ウーファースペクトルの未使用部分におけるプログラムコンテンツ信号の一部、例えば、ツイーターとともに通常使用されるプログラムコンテンツ信号の一部とすることができ、その結果、ユーザは、テスト信号を、客室内に既に提供されているプログラムコンテンツ信号と区別しない。しかしながら、代替例では、テスト信号は、スピーカに既に提供されたプログラムコンテンツ信号の一部とすることができる(この場合、テスト信号は、それ自体の別個の信号ではなく、プログラムコンテンツ信号の一部として包含され、スピーカへのプログラムコンテンツ信号の提供は、プログラムコンテンツ信号及びテスト信号の両方の提供と見なされ得る)。
【0071】
工程604において、テスト信号から得られるボイスコイル電圧及びボイスコイル電流に従って、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値を決定する。
図6B~
図6Dに関連して説明したように、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値は、様々な非限定的な例では、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との比、ボイスコイルのインピーダンスの大きさ及び位相、ボイスコイルのインピーダンスの抵抗部分及び無効部分、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流とを関連付ける多項式の係数、又はニューラルネットワークによって決定される値である。
【0072】
ボイスコイル電流は、駆動信号を受信する電流センサによって決定することができ、ボイスコイル電圧は、駆動信号を受信する電圧センサによって決定することができる。電流センサ及び電圧センサは広く知られており、任意のそのようなセンサは、本開示で説明されるスピーカのオフセットを決定するための方法によって要求される精度内で電流及び電圧を測定するのに適している。車両オーディオシステムに使用される増幅器は、多くの場合、内部電圧及び電流センサを含み、スピーカに提供される電圧及び電流を測定するために使用されることができる。更に、電流センサ及び電圧センサの出力をフィルタリングして、テスト信号から生じるこれらの出力の成分を分離することができる。例えば、電流センサ及び電圧センサの出力はそれぞれ、それぞれのバンドパスフィルタでフィルタリングすることができ、そのカットオフ周波数は、プログラムコンテンツ信号からのテスト信号から生じる電圧及び電流を分離するように選択される。
【0073】
工程606において、少なくとも1つの値が、ボイスコイルのオフセット変位又は温度が所定の閾値(すなわち、所定のオフセット距離又は所定の温度値)を超えることを示すかどうかが決定される。様々な例では、以下で説明するように、この工程は、ボイス電圧とボイスコイル電流との比を閾値と比較すること(
図6Bに関連して説明するように)、ボイスコイルのオフセット変位又は温度が所定の閾値を超えることをボイスインピーダンスの位相及び大きさが示すかどうかを決定すること(
図6Cに関連して説明するように)、及びボイスコイル電圧をボイスコイル電流に関連付ける多項式の複数の係数のうちの少なくとも1つの係数を閾値と比較すること(
図6Dに関連して説明するように)を含むことができる。
【0074】
図6B~
図6Dは、工程604及び606の様々な代替例を示す。まず
図6Bの工程604Aを参照する。ボイスコイルのインピーダンスである、ボイスコイル電流に対するボイスコイル電圧の比が計算される。様々な例では、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との比は、ボイスコイル電圧又はボイスコイル電流のRMS、ピークツーピーク、又は平均の比であり得る。
【0075】
工程606Aにおいて、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との比が閾値と比較される。閾値は、駆動信号の利得の低減がなければスピーカ302への損傷が生じるような、オフセット変位又は温度に相関するように選択することができる。しかしながら、これは厳密に必要というわけではない。代替例では、所定の閾値は、スピーカへの損傷が発生するオフセット又は温度よりも低い何らかの値に設定されて、検出前に発生し得るオフセット又は温度の潜在的な急速な変化による損傷を回避する予防バッファを提供することができる。ボイスコイルのインピーダンスの大きさの変化は、オフセット又は温度のいずれかの増加から生じ得るので、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との比は曖昧であり、したがって、大きなオフセット変位と過熱ボイスコイルとを区別するために使用することができない。
【0076】
図6Cを参照すると、インピーダンスの位相を考慮することによって、オフセットによるインピーダンスの変化と温度によるインピーダンスの変化とを区別することができる工程604及び606の例が示されている。
図6Cに示すように、工程604Bにおいて、ボイスコイルのインピーダンスの大きさ及びインピーダンスの位相が、ボイスコイル電圧及びボイスコイル電流から決定される。一例では、インピーダンスの大きさ及びインピーダンスの位相は、位相ロックループ又はロックイン増幅器などの大きさ位相検出器によって出力される、ボイスコイル電圧の位相、ボイスコイル電流の大きさ、及びボイスコイル電流の位相から決定することができる。より詳細には、インピーダンスの大きさは、ボイスコイル電圧の大きさとボイスコイル電流の大きさとの比から決定することができる。インピーダンスの位相は、ボイスコイル電圧の位相とボイスコイル電流の位相との間の差から決定することができる。更に、インピーダンスの大きさは、ボイスコイル電圧の大きさ又はボイスコイル電流の大きさのRMS、ピークツーピーク、又は平均を使用して求めることができることを理解されたい。
【0077】
工程606Bにおいて、インピーダンスの大きさ及びインピーダンスの位相が、ボイスコイルのオフセット変位又は温度が所定の閾値を超えることを示すかどうかが決定される。以下で説明するように、この工程は、インピーダンスの位相の正弦又は余弦によって重み付けされたインピーダンスの大きさを比較することによって、又は決定木によってなど、いくつかの方法で達成することができる。
【0078】
第1のそのような例では、インピーダンスの位相は、インピーダンスの大きさがスケーリングされる値として動作する。例えば、ボイスコイルのオフセット変位が所定の閾値を超えるか否かを決定するために、インピーダンスの大きさにインピーダンスの位相の正弦を乗じる。したがって、インピーダンスの位相が90°である場合、インピーダンスの大きさは、事実上1の値によって乗算される(したがって、不変のままである)。一方、インピーダンスの位相が0°である場合、インピーダンスの大きさは、事実上0に重み付けされる。したがって、インピーダンスの位相の値が90°に近づくにつれて、インピーダンスの大きさはインピーダンスの大きさの値に近づき、インピーダンスの位相が0°に近づくにつれて、重み付けされたインピーダンスの大きさは0に近づく。このようにして、インピーダンスの大きさの値が(約90°の位相シフトの存在によって)インダクタンスの存在を明らかにし、したがって大きなオフセットの存在を暗示する場合、インピーダンスの大きさは、オフセットが所定の距離を超えるかどうかを決定するために、
図6Cの例と同様に、単に閾値と比較される。しかし、インピーダンスの位相の値がインダクタンスの存在を明らかにせず、大きなオフセットではなく高いボイスコイル温度の存在を暗示する場合、インピーダンスの大きさのスケーリングされたバージョンが閾値と比較される。
【0079】
代替例では、インピーダンスの大きさにインピーダンスの位相の正弦を乗算するのではなく、決定木を使用して(
図5に関連して説明した決定木と同様に)、インピーダンスの大きさ及びインピーダンスの位相の値が所定の距離より大きいオフセットを表すかどうかを決定することができる。例えば、決定木は、90°とインピーダンスの位相との間の差が所定の位相閾値(例えば、30°)を超えるかどうかを決定することができる。差が位相閾値を超える場合、位相は大きな誘導成分を示さないので、オフセットが所定の距離を超えていないと決定することができる。しかしながら、位相が閾値を超えない場合、インピーダンスの大きさを所定の閾値と比較して、インピーダンスが所定の距離よりも大きいオフセットを表すかどうかを決定することができる。
【0080】
代わりに、ボイスコイルの温度が閾値を超えるかどうかを決定するために、上記の例は、インピーダンスの大きさにインピーダンスの位相の余弦を乗算するように修正される。したがって、インピーダンスの位相が0°に近づくにつれて、インピーダンスの大きさは1で乗算される(すなわち、不変のままである)が、インピーダンスの位相が90°に近づくにつれて、インピーダンスの大きさは0にスケーリングされる。これは、インピーダンスが大きな誘導部分を示す場合、インピーダンスの大きさを最小化するように機能するが、インピーダンスが大きな抵抗部分を示す場合、最大化するように機能する(インピーダンスの大きさがボイスコイルの温度を表すことを示唆する)。このスケーリングされたインピーダンスの大きさを閾値と比較して、ボイスコイルの温度が所定の温度を超えたかどうかを決定することができる。(方法600の様々な例において説明される閾値は、必ずしも同じではないことを理解されたい。代わりに、閾値は、スピーカの性質、及びオフセット又は温度が測定されるかどうかを含む、種々の要因に従って調整される)
【0081】
更に、インピーダンスの大きさにインピーダンスの位相の余弦を乗算するのではなく、決定木を使用して、インピーダンスの大きさ及びインピーダンスの位相の値が所定の値より高い温度を表すかどうかを決定することができる。例えば、決定木は、0°とインピーダンスの位相Zphaseとの間の差が所定の位相閾値(例えば、30°)を超えるかどうかを決定することができる。差が位相閾値を超える場合、インピーダンスに対して大きな抵抗成分が検出されないため、オフセットが閾値温度を超えていないと決定することができる。しかしながら、位相が閾値を超えない場合、インピーダンスの大きさを所定の閾値と比較して、インピーダンスが所定の値よりも高い温度を表すかどうかを決定することができる。
【0082】
図6Dを参照すると、工程604Cにおいて、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す少なくとも1つの値は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流とを関連付ける多項式の係数である。例えば、ボイスコイルの電圧は、ボイスコイル電圧をボイスコイル電流に関連付ける式(4)の多項式に従うか、又は、ボイスコイル電流をボイスコイル電圧に関連付ける式(4)の転置に従って近似することができる。更に、式(4)又はその転置が使用される場合、任意の数の係数を使用することができる。なぜなら、これらの式は、追加のサンプルに拡張して時間的に戻すことができるからである。
【0083】
更に、係数がボイスコイル電流のサンプルをボイスコイル電圧に関連付けるか、ボイスコイル電圧のサンプルをボイスコイル電流に関連付けるかにかかわらず、係数は、係数のどの値がボイスコイル電圧とボイスコイル電流とを最もよく関連付けるかを決定するように構成された最小二乗平均(LMS)フィルタ又は再帰的最小二乗(RLS)フィルタなどの適応フィルタを使用して決定されることができる。(代替例では、適応フィルタを使用することに加えて、係数値を決定する他の方法を使用することができる。実際、多項式の係数を決定するための様々な数学的方法が当該技術分野で理解されており、適応フィルタの代わりに使用することができる)
【0084】
工程606Cにおいて、複数の係数のうちの少なくとも1つが閾値と比較されて、係数が閾値を超えるかどうかが決定される。この例は、係数が様々な閾値と比較される
図5の決定木に関連して説明される。
図5の決定木のような決定木を使用して、多項式の係数(複数可)が、ボイスコイルのオフセット又は変位が所定の閾値を超えることを示すかどうかを決定することができる。どの係数値が様々な工程でどの閾値と比較されるかを含む決定木の性質は、経験的に、理論的に、又は機械学習アルゴリズムに従って決定することができる。
【0085】
更に、どの係数値がどの閾値と比較されるかを含む、
図5に関連して説明される決定木は、係数値が所定の距離を超えるボイスコイルのオフセットを表すときを決定するための適切な決定木の一例にすぎないことを理解されたい。実際に、所定の距離を超えるオフセット又は所定の値を超える温度を示す係数値は、特定のスピーカ並びに選択される所定の距離又は値に依存する。更に、追加の分岐を特徴とする高次決定木を使用して、精度を高めることができる。加えて、異なる数の係数が、決定木への入力として使用されることができ(例えば、x
0、x
1、x
2)、これによって、使用される分岐及び閾値の数が変更される。更に、決定木の性質は、係数が、ボイスコイル電圧測定値をボイスコイル電流に関連付ける多項式であるか、又はボイスコイル電流測定値をボイスコイル電圧に関連付ける多項式であるかに依存する。
【0086】
更に、上述したボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値に加えて、他の適切な値を使用してボイスコイルのオフセットを推定することができることを理解されたい。例えば、ボイスコイルのインピーダンスは、抵抗部分及び無効部分を含む複素値として表すことができると考えられる。
図6B~
図6Dの例のような抵抗部分及び無効部分は、ボイスコイルのオフセットが所定の距離よりも大きいか、又はボイスコイルの温度が所定の値よりも高いかを推定するために、例えば決定木において、閾値と比較されることができる。
【0087】
更に別の例では、工程604及び606は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を検出し、この関係を表す値がボイスコイルのオフセット又は温度が所定の閾値を超えたことを示すときを決定するように訓練されたニューラルネットワークを用いて実装することができる。例えば、そのようなニューラルネットワークは、ボイスコイル電圧及びボイスコイル電流並びにボイスコイルの関連するオフセット/温度のデータの履歴セットを用いて訓練されることができる。このデータから、ニューラルネットワークは、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の数学的関係を特徴付けることができ、この関係のある値が、オフセット又は温度がある所定の閾値を超えたことを示すときを識別することができる。
【0088】
更に、上記の例は、インピーダンスを表す値に従ってオフセット又は温度を推定するが、実際のオフセット距離を決定する追加の工程を含まない。換言すれば、上記の例は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値が、オフセットが所定の距離よりも大きいこと、又は温度が所定の値を超えることを示すときを決定するが、距離又は温度が何であるかを実際に計算しない。代わりに、これらの例は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値からオフセット変位又は温度を計算し、計算されたオフセット又は温度を所定の距離又は値と比較して、それが所定の距離又は値を超えているかどうかを決定するように修正することができる。しかし、一般的に、この工程は必要とされないので、上記のより経済的なアプローチのために除外することができる。
【0089】
ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値(複数可)が、所定の距離よりも大きいオフセット又は所定の値よりも高い温度を示すと決定することに応答して、駆動信号の大きさは、スピーカの損傷を回避するために低減することができる。これは、増幅器の利得を低減することによって実施することができる。しかしながら、増幅器の出力を選択的に減衰させることができる何らかの可変減衰器を含めるなど、駆動信号の大きさを低減するための他の方法を使用することができる。
【0090】
更に、駆動信号の大きさに対する低減量は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値(複数可)に関連付けることができる。換言すれば、オフセット又は温度が増加するにつれて、駆動信号の駆動信号大きさの低減を増加させることができる。これは、上記の例において複数の閾値を利用することによって達成することができ、各閾値は、駆動信号の大きさの様々な低減度合いに対応する。したがって、
図4Aに関連して説明した例は、比Zを複数の閾値と比較するように修正することができ、連続的に大きくなる閾値はそれぞれ、駆動信号の大きさの低減度合いが連続的に大きくなることに対応し、したがって、比Zが最大閾値を超える場合、より大きな低減が行われる。同様に、
図4Bに関連して説明した例は、スケーリングされた比Zを、大きさの低減度合いが次第に大きくなることに対応する複数の閾値と比較するように修正することができる。同様に、
図4C~
図5の例の決定は、決定された多項式係数に従ってどの程度の大きさの低減をもたらすかを決定するように修正することができる。
【0091】
工程608において、上記の工程が、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値(複数可)が、所定の距離よりも大きいオフセット又は所定の値よりも高い温度を示すと決定した場合、駆動信号の大きさは、スピーカの損傷を回避するために低減することができる。これは、増幅器の利得を低減することによって実施することができる。しかしながら、増幅器の出力を選択的に減衰させることができる何らかの可変減衰器を含めるなど、駆動信号の大きさを低減するための他の方法を使用することができる。
【0092】
更に、駆動信号の大きさに対する低減量は、ボイスコイル電圧とボイスコイル電流との間の関係を表す値(複数可)に関連付けることができる。換言すれば、オフセット又は温度が増加するにつれて、駆動信号の駆動信号大きさの低減を増加させることができる。これは、上記の例において複数の閾値を利用することによって達成することができ、各閾値は、駆動信号の大きさの様々な低減度合いに対応する。したがって、
図6Bに関連して説明した例は、比を複数の閾値と比較するように修正することができ、連続的に大きくなる閾値はそれぞれ、駆動信号の大きさの低減度合いが連続的に大きくなることに対応し、したがって、比が最大閾値を超える場合、より大きな低減が行われる。同様に、
図6Cに関連して説明した例は、スケーリングされた比を、大きさの低減度合いが次第に大きくなることに対応する複数の閾値と比較するように修正することができる。同様に、
図6C~
図Dの例の決定木は、決定されたインピーダンスの大きさ及び位相又は多項式係数に従ってどの程度の大きさの低減をもたらすかを決定するように修正することができる。
【0093】
代替例では、オフセットは、テスト信号のみを使用して検出することができる(すなわち、駆動信号は、追加のプログラムコンテンツ信号を含まない)。この例では、駆動信号の大きさを低減するのではなく、スピーカへの最大電位出力を、オフセットが解決されるまで制限することができる。したがって、例えば、オフセットが検出された場合、スピーカに提供される最大利得は、プログラムコンテンツのソースをオンにしているユーザがスピーカが生成する最大音量を制限されるように、所定の制限内に管理され得る。
【0094】
更に、テスト信号の大きさは、プログラムコンテンツ信号の大きさに依存し得る。したがって、プログラムコンテンツ信号の大きさが増大するにつれて、より大きなテスト信号を導入することができる。同様に、より大きなテスト信号はより大きなボイスコイル電圧及びボイスコイル電流を誘導する傾向があるので、様々な例で使用される閾値の値は、使用されるテスト信号の大きさに依存し得る。
【0095】
本開示において提供される数式は、本発明の態様の原理を例示する目的のためだけに簡略化されており、決して排他的又は限定的なものと見なされるべきではない。更に、数式の変形が考えられ、本開示の趣旨及び範囲内である。
【0096】
本明細書における記号の使用に関し、大文字、例えばHは、概して、周波数領域又はスペクトル領域における項、信号、又は量を表し、小文字、例えばhは、概して、時間領域における項、信号、又は量を表す。時間領域と周波数領域との間の関係は、一般に周知であり、少なくともフーリエ数学又はフーリエ分析の分野で説明されており、したがって本明細書では提示しない。加えて、本明細書で記号によって表される信号、伝達関数、又は他の項若しくは量は、アナログ形式又は離散形式で演算、考慮、又は分析され得る。時間領域の項又は量の場合、アナログ時間インデックス、例えばt、及び/又は離散サンプルインデックス、例えばnは、様々な場合に交換又は省略可能である。同様に、周波数領域では、アナログ周波数インデックス、例えばf、及び離散周波数インデックス、例えばkは、ほとんどの場合省略される。更に、本明細書で開示される関係及び計算は、一般に、当業者によって理解されるように、時間領域又は周波数領域のいずれか、及びアナログ領域又は離散領域のいずれかにおいて、存在し得るか又は実行され得る。したがって、時間領域又は周波数領域、及びアナログ領域又は離散領域における全ての可能な変動を例解するための様々な例は、本明細書では提示されない。
【0097】
本明細書に説明される機能又はその部分、及びその様々な修正(以下「機能」)は、少なくとも部分的に、コンピュータプログラム製品(例えば、1つ以上のデータ処理装置、例えば、プログラム可能プロセッサ、コンピュータ、複数のコンピュータ、及び/若しくはプログラム可能論理構成要素による実行のための、又はその動作を制御するための、1つ以上の非一時的機械可読媒体又は記憶デバイスなどの情報キャリアにおいて有形に具現化されたコンピュータプログラム)を介して実装され得る。
【0098】
コンピュータプログラムは、コンパイル型言語又はインタプリタ型言語を含む任意の形態のプログラム言語で書き得るが、それは、独立型プログラムとして、又はコンピューティング環境での使用に好適なモジュール、構成要素、サブルーチン若しくは他のユニットとして含む任意の形態で配設され得る。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上で、若しくは1つの設置先における複数のコンピュータ上で実行されるように配設され得るか、又は複数の設置先にわたって配信されて、ネットワークによって相互接続され得る。
【0099】
機能の全部又は一部を実装することに関連付けられた動作は、オフセット又は温度が所定の閾値を超えるかどうかを決定する機能、及び駆動信号の大きさを低減するための機能を実行するために、1つ以上のコンピュータプログラムを実行する1つ以上のプログラム可能なプロセッサによって実施され得る。機能の全部又は一部は、特殊目的論理回路、例えば、FPGA及び/又はASIC(application-specific integrated circuit)(特定用途向け集積回路)として実装され得る。
【0100】
コンピュータプログラムの実行に好適なプロセッサとしては、例として、汎用マイクロプロセッサ及び特殊目的マイクロプロセッサの両方並びに任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つ以上のプロセッサが挙げられる。一般的に、プロセッサは、読取り専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、又はその両方から命令及びデータを受信することになる。コンピュータの構成要素は、命令を実行するためのプロセッサ並びに命令及びデータを記憶するための1つ以上のメモリデバイスを含む。
【0101】
本明細書において、いくつかの本発明の実施形態について説明及び例解してきたが、当業者であれば、様々な他の手段及び/若しくは機能の実行及び/若しくは結果を得るための構造、並びに/又は本明細書に説明される1つ以上の利点を容易に想起し、こうした変更形態及び/又は修正の各々は、本明細書に説明される本発明の実施形態の範囲内にあると見なされる。より一般的には、当業者であれば、本明細書に説明されるパラメータ、寸法、材料及び構成の全てが例示的であること、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が、具体的な用途又は本発明の教示が使用される用途に依存するであろうことを、容易に理解するであろう。当業者であれば、本明細書に説明される具体的な本発明の実施形態に対する多くの同等物を、通常の実験のみを使用して認識するか、又は確認することができるであろう。したがって、前述の実施形態は、単なる例として提示されたものであり、添付の特許請求の範囲及びその等価物の範囲内で、具体的に記載及び特許請求されるものとは別様に本発明の実施形態を実践することができるということを理解されたい。本開示の本発明の実施形態は、本明細書に説明される各個々の特徴、システム、物品、材料、及び/又は方法に関する。更に、2つ以上のこうした特徴、システム、物品、材料及び/又は方法のいかなる組み合わせも、こうした特徴、システム、物品、材料及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
100 スピーカ
102 ボイスコイル
104 磁石構造
300 オーディオシステム
302 スピーカ
304 発振器
306 加算ブロック
308 増幅器
310 温度検出器
312 電流センサ
314 電圧センサ
402 除算ブロック
404 比較ブロック
408 位相検出器
410 差分ブロック
412 正弦ブロック
414 乗算器
420 決定木
【国際調査報告】