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▶ イーライ リリー アンド カンパニーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】閉塞性睡眠時無呼吸を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20240702BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K38/22
A61P11/00
A61P3/10
A61P3/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579084
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 US2022034212
(87)【国際公開番号】W WO2022271611
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】63/214,975
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100103182
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 真美
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【弁理士】
【氏名又は名称】吉光 真紀
(72)【発明者】
【氏名】バンク,マティス クリスティアーン マイケル
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA59
4C084DB36
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZA70
4C084ZC35
(57)【要約】
本発明は、閉塞性睡眠時無呼吸に関連する障害を治療、予防又は遅延するための方法に関する。本発明は、閉塞性睡眠時無呼吸を治療、予防又は遅延する方法に関する。閉塞性睡眠時無呼吸の治療方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞性睡眠時無呼吸の発症を治療、防止、又は遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を、必要とする患者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記睡眠時無呼吸が閉塞性睡眠時無呼吸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
患者の睡眠時無呼吸を防止又は遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項4】
前記患者が、2型糖尿病を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記患者の体重を改善する必要のある、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記患者の体重が肥満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
肥満体重を有する患者における体重管理を改善し、閉塞性睡眠時無呼吸を防止又は遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項8】
前記方法が、前記患者が閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクの低下を生じる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、前記患者が閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクの低下を生じる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記患者の、以下の転帰:閉塞性睡眠時無呼吸、一過性脳虚血発作、又は死亡の複合的な発生のリスクが低下される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
チルゼパチドの前記治療有効量が、約5.0mg、約10.0mg、及び約15.0mgからなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
チルゼパチドの前記治療有効量が、約15.0mgである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
チルゼパチドの前記治療有効量が、約10.0mgである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
チルゼパチドの前記治療有効量が、約5.0mgである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
チルゼパチドの週1回の投与が、少なくとも2年間継続される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
睡眠時無呼吸の治療を必要とする前記患者が、診断確定された心血管疾患に罹患しておらず複数の心血管危険因子を有するか、又は診断確定された心血管疾患に罹患しているかのいずれかである、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記睡眠時無呼吸が閉塞性睡眠時無呼吸である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記患者の体重が肥満である、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記患者の体重が肥満ではない、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
2型糖尿病を有する患者における患者における体重管理を改善し、睡眠時無呼吸を防止又は遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項21】
前記方法が、心筋梗塞による入院のリスクの低下を提供する、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
チルゼパチドを薬学的に許容される塩として投与する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
治療有効量のチルゼパチドを、かかる治療を必要とする前記患者に投与することを含む、睡眠時無呼吸の治療で使用するためのチルゼパチド又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項24】
前記睡眠時無呼吸が閉塞性睡眠時無呼吸である、請求項23に記載のチルゼパチド又はその薬学的に許容可能な塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に関する。提供されるのは、閉塞性睡眠時無呼吸を治療、防止、又は遅延させることに関する方法である。提供されるのは、閉塞性睡眠時無呼吸に関連する障害を治療、防止、又は遅延させることに関する方法である。閉塞性睡眠時無呼吸の治療に関する方法。
【背景技術】
【0002】
閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive sleep apnea、OSA)は、有意な併存疾患及び死亡率が付随する呼吸障害である。閉塞性睡眠時無呼吸は、成人アメリカ人の約29%に存在する。閉塞性睡眠時無呼吸は、肥満、すなわち30kg/mを超える肥満度指数を有する人々において更に蔓延している。閉塞性睡眠時無呼吸における再発性呼吸中断は、多くの場合、深く、回復させる睡眠段階に到達する患者の能力を損なう。閉塞性睡眠時無呼吸では、喉の奥の筋肉が弛緩することが多く、軟口蓋が虚脱して狭窄した気道を形成する可能性がある。患者は、気道を開こうとして、鼻を鳴らしたり、息詰まったり、息切れしたりすることがある。閉塞性睡眠時無呼吸を有する患者は、心血管罹患率及び死亡率のリスクが高い。
【0003】
現在利用可能な治療アプローチは、OSAの臨床徴候及び症状(すなわち、いびき及び日中の過剰な眠気)の治療において中程度の成功を示しているが、疾患の根底にある病態生理学、より重要なことには、OSAに付随する心血管(CV)罹患率及び死亡率に対処できない。閉塞性睡眠時無呼吸に対する典型的な治療は、睡眠中に開いた気道を維持するのを助けるように穏やかな空気圧を加える空気ポンプ及びフェースマスクを使用する持続的気道陽圧(CPAP)である。気道陽圧(PAP)は、閉塞性睡眠時無呼吸のための一般に受け入れられている治療である。しかしながら、最近の臨床試験では、PAPが心筋梗塞、脳卒中、及び死亡率に対して有意な効果を生じない可能性があることを示唆している。
【0004】
多くの患者は、マスクの不快感、鼻の乾燥、眼球充血、及び鼻づまりのために、CPAP機械の使用を停止する。更に、機械からの振動ノイズは、患者の睡眠及び近くで寝ている他者にとって迷惑になり得る。
【0005】
現在、睡眠時無呼吸を治療する業界のための食品医薬品局によるガイダンスはない。現在承認されている薬剤治療は、ナルコレプシー及び閉塞性睡眠時無呼吸における過剰な眠気の治療に適応される。しかしながら、現在、閉塞性睡眠時無呼吸の根本的な病態生理学の治療に承認されているものはない。
【0006】
睡眠時無呼吸の薬理学的治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、閉塞性睡眠時無呼吸を治療、予防又は遅延する方法を提供する。
【0008】
したがって、本発明は、患者の睡眠時無呼吸の発症を治療、防止、又は遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドを患者に投与することを含む、方法を提供する。一実施形態では、チルゼパチドは、閉塞性睡眠時無呼吸の治療を必要とする患者に週1回投与される。一実施形態では、チルゼパチドは、少なくとも4週間にわたって、患者に週1回投与される。一実施形態では、チルゼパチドは、少なくとも12週間にわたって、患者に週1回投与される。一実施形態では、チルゼパチドは、少なくとも20週間にわたって、患者に週1回投与される。一実施形態では、チルゼパチドは、少なくとも52週間にわたって、患者に週1回投与される。一実施形態では、チルゼパチドは2年間にわたって患者に投与される。
【0009】
別の態様では、本発明は、患者の閉塞性睡眠時無呼吸を予防又は遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドを患者に投与することを含む、方法を提供する。一実施形態では、チルゼパチドは、閉塞性睡眠時無呼吸の治療を必要とする患者に週1回投与される。一実施形態では、チルゼパチドは、閉塞性睡眠時無呼吸症患者に週1回、少なくとも4週間投与される。一実施形態では、チルゼパチドは、閉塞性睡眠時無呼吸症患者に週1回、少なくとも12週間投与される。一実施形態では、チルゼパチドは、閉塞性睡眠時無呼吸症患者に週1回、少なくとも20週間投与される。一実施形態では、チルゼパチドは、閉塞性睡眠時無呼吸症患者に週1回、少なくとも52週間投与される。一実施形態では、チルゼパチドは、閉塞性睡眠時無呼吸症患者に2年間投与される。
【0010】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有する患者及び/又は2型糖尿病を有さない患者における血糖制御を改善し、閉塞性睡眠時無呼吸を治療、防止、又は遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0011】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有し、かつ閉塞性睡眠時無呼吸の危険性がある患者における血糖制御を改善する方法であって、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含み、方法が、患者が閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクの低下を提供する、方法を提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、患者の閉塞性睡眠時無呼吸の発症を治療、防止、又は遅延させるのに使用するためのチルゼパチドを提供する。
【0013】
別の態様では、本発明は、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、患者の認知障害の発症を治療、防止、又は遅延させるための医薬品を調製するためのチルゼパチドの使用を提供する。
【0014】
本発明は、閉塞性睡眠時無呼吸を治療、防止、又は遅延させるための方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を、かかる治療を必要とする患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0015】
したがって、本発明は、患者の閉塞性睡眠時無呼吸の発症を治療、防止、又は遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む方法を提供する。
【0016】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有する患者における患者における血糖制御を改善し、閉塞性睡眠時無呼吸を治療、防止、又は遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有する患者における患者における血糖制御を改善し、閉塞性睡眠時無呼吸を治療、防止、又は遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む方法を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、肥満体重を有し、かつ閉塞性睡眠時無呼吸の危険性がある患者における血糖制御を改善する方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、方法が、患者が閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクの低下を提供する、方法を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、肥満体重を有し、かつ閉塞性睡眠時無呼吸の危険性がある患者における血糖制御を改善する方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、方法が、患者が閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクの低下を提供する、方法を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、肥満を有し、かつ閉塞性睡眠時無呼吸の危険性がある患者における体重管理を改善する方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、方法が、患者が閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクの低下を提供する、方法を提供する。
【0021】
別の態様では、本発明は、閉塞性睡眠時無呼吸のリスクのある患者において閉塞性睡眠時無呼吸を治療するための方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、患者の体重が、患者の正常体重範囲内である、方法を提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、肥満を有し、かつ閉塞性睡眠時無呼吸のリスクがある患者における体重管理を改善する方法であって、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、方法が、患者が閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクの低下を提供する、方法を提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、患者の閉塞性睡眠時無呼吸の発症を治療、防止、又は遅延させるのに使用するためのチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、治療有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含む、患者の閉塞性睡眠時無呼吸の発症を治療、防止、又は遅延させるための医薬品を調製するためのチルゼパチドの使用を提供する。
【0025】
米国特許第9474780号は、チルゼパチドについて記載及び特許請求する。本明細書で使用される場合、「チルゼパチド」という用語は、配列番号1のアミノ酸配列を有するいずれかのGIP/GLP-1受容体アゴニストを指し、
当該タンパク質の承認を求める当事者が、実際にそのタンパク質をチルゼパチドとして同定しているか、又はいくつかの他の用語を使用しているかにかかわらず、Eli Lilly and Companyによって規制当局に提出されたチルゼパチドに関する全体的又は部分的なデータに依拠する、GIP/GLP-1受容体アゴニスト製品の承認を求める規制提出書類の対象である任意のタンパク質を含む。チルゼパチドは、GIP/GLP-1受容体に作用し、インスリンの合成及び分泌の刺激を生じさせ、T2DM患者における血糖制御の改善を提供することが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書で提供される方法は、閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクが比較的高い患者に最も有効であり得る。ある特定の実施形態では、かかる患者は、T2DM、高血圧、高いコレステロール及び/又は肥満のうちの1つ以上を有する患者である。
【0027】
ある特定の実施形態では、かかる患者は、診断確定された心血管疾患に罹患している、及び/又は主要な心血管有害事象のうちの1つ以上の危険因子を有する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「主要な心血管有害事象」という用語は、心血管死、致命的ではない心筋梗塞、及び致命的ではない脳卒中を指す。これらの事象はまた、MACE又はMACE-3事象と称されることがある。これらの事象のうちのいずれかで最初に発生するのは、心血管転帰試験で頻繁に使用される複合エンドポイントである。
【0029】
主要な心血管有害事象に関して本明細書で使用される場合、「危険因子」という用語は、主要な心血管有害事象のリスクを増加させると理解されている患者の特徴を指す。かかる危険因子には、特に以下のいずれか:現在のタバコ使用(任意の形態のタバコ);少なくとも1つの承認された脂質修飾療法(例えば、アトルバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、若しくはピタバスタチンなどのスタチン;エボロクマブ、アリロクマブなどのPCSK9阻害剤;エゼチミブ)の使用(高コレステロール血症を治療するため)、又は過去6ヶ月以内の3.4mmol/L(130mg/dL)以上の未治療の低密度リポタンパク質コレステロール(low-density lipoprotein cholesterol、LDL-C)の報告;過去6ヶ月以内の、男性の場合1.0mmol/L(40mg/dL)未満、女性の場合1.3mmol/L(50mg/dL)未満の治療した又は未治療の高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)若しくはトリグリセリド2.3mmol/L(150mg/dL)以上の報告;高血圧を治療するための少なくとも1つの血圧薬(例えば、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)、サイアザイドなどの利尿薬、及びジヒドロピリジンカルシウムチャネル遮断薬)の使用、又は未治療の140mmHg以上の収縮期血圧(systolic blood pressure、SBP)若しくは95mmHg以上の拡張期血圧(diastolic blood pressure、DBP);測定したウエスト対ヒップ比が男性で1.0超過、女性で0.8超過、が含まれる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「改善された体重管理」は、患者の体重が、患者の臨床的に定義される正常な体重範囲内であるか又はそれに近いことを意味する。特定の患者の「正常体重」は、熟練の臨床医に周知である適用可能な考慮事項を考慮して、臨床医によって決定され得る。典型的には、改善された体重管理は、患者が体重を減らして、患者にとって望ましい体重範囲内であるか又はそれに近い体重に到達することを意味する。本明細書で使用される場合、「正常な体重範囲」は、熟練の臨床医が特定の患者の正常体重であると決定する体重でなければならない。正常な体重範囲は、患者の身長、及び体重評価において熟練の臨床医によって考慮される他の要因に基づいて変動してもよい。本明細書で使用される場合、「肥満体重」は、患者が30kg/m以上の肥満度指数(body mass index、BMI)を有することを意味する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療する」、「治療すること」などの用語は、疾患、状態、又は障害の進行を遅延又は減弱させることを含むことを意味する。これらの用語は、障害又は状態が実際に排除されていない場合であっても、また障害又は状態の進行自体が遅延又は反転されない場合であっても、障害又は状態の1つ以上の症状を緩和、寛解、減衰、排除、又は軽減することも含む。本明細書で使用される場合、「予防する」、「予防すること」、「予防」などの用語は、疾患、状態、障害、又は症状の発症の回避を含むことを意味する。本明細書で使用される場合、「遅延させる」、「遅延させること」などの用語は、疾患、状態、障害、又は症状の発症までの発生する期間を増加させることを含むことを意味する。
【0032】
複数の転帰に関連して本明細書で使用される場合、「複合」という用語は、転帰のうちのいずれかのうちの最初のものが発生することを指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「ハザード比」という用語は、対照群と比較した、エンドポイントに対する相対的な進行速度の尺度を指す。転帰に基づく臨床試験では、対照と比較した試験部門についてのハザード比の低減は、試験部門で使用される療法が、エンドポイント、すなわち本明細書に記載の研究の場合、主要な心血管有害事象のリスクを低下することを示している。
【0034】
「治療有効量」は、研究者、医師、又は他の臨床医によって求められている患者の生物学的若しくは医学的応答又は患者において所望の治療効果を誘発するであろう、本発明の方法又は使用への本発明又はチルゼパチドを含む薬学的組成物の方法及び使用でのチルゼパチドの量を意味する。チルゼパチドの有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体における所望の応答を誘発するチルゼパチドの能力などの要因に応じて変動し得る。有効量はまた、治療的に有益な影響が、あらゆる毒性又は有害な影響を上回る量である。ある特定の実施形態では、本明細書に記載の方法で使用するためのチルゼパチドの治療有効量は、5、10、及び15mgからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、チルゼパチドの治療有効量は、5.0mgである。ある特定の実施形態では、チルゼパチドの治療有効量は、10.0mgである。好ましい実施形態では、チルゼパチドの治療有効量は、15.0mgである。一実施形態では、チルゼパチドは薬学的に許容される塩として投与される。
【0035】
本発明の追加の実施形態を以下に説明する。
【0036】
一実施形態では、患者の閉塞性睡眠時無呼吸を治療、予防又はその発症を遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む。一実施形態では、睡眠時無呼吸は閉塞性睡眠時無呼吸である。
【0037】
一実施形態では、患者の閉塞性睡眠時無呼吸を予防又は遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む。
【0038】
一実施形態では、2型糖尿病を有する患者における患者における血糖制御を改善し、閉塞性睡眠時無呼吸を治療、防止、又は遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含む、方法。
【0039】
一実施形態では、本方法により、患者が閉塞性睡眠時無呼吸になるリスクの低下がもたらされる。一実施形態では、本方法により、患者が閉塞性睡眠時無呼吸になるリスクの低下がもたらされる。
【0040】
一実施形態では、2型糖尿病を有する患者における血糖制御を改善する方法であって、治療有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含み、方法が、患者が閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクの低下を生じる、方法。
【0041】
患者が、2型真性糖尿病を有する、上記の実施形態のうちのいずれかに記載の方法。患者が、肥満体重を有する、上記の実施形態のうちのいずれかに記載の方法。
【0042】
閉塞性睡眠時無呼吸の患者が、T2DM及び肥満体重のうち1つ以上を有する、上記の実施形態のうちのいずれかに記載の方法。
【0043】
一実施形態では、閉塞性睡眠時無呼吸の患者は、他の代謝障害を伴う肥満体重、又は他の代謝異常を伴わない肥満体重のいずれかを有する。
【0044】
一実施形態では、閉塞性睡眠時無呼吸の患者は、肥満体重を有するが、他の代謝異常を有さない。
【0045】
一実施形態では、心血管疾患の危険因子は、現在のタバコの使用(任意の形態のタバコ);過去6ヶ月以内の、高コレステロール血症を治療するための少なくとも1つの承認された脂質修飾療法の使用又は3.4mmol/L(130mg/dL)以上の未治療の低密度リポタンパク質コレステロール(low-density lipoprotein cholesterol、LDL-C)の報告;過去6ヶ月以内の、男性の場合1.0mmol/L(40mg/dL)未満、女性の場合1.3mmol/L(50mg/dL)未満の治療した又は未治療の高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)又はトリグリセリド2.3mmol/L(150mg/dL)以上の報告;高血圧を治療するための少なくとも1つの血圧薬の使用又は未治療の140mmHg以上の収縮期血圧(SBP)若しくは95mmHg以上の拡張期血圧(DBP);測定したウエスト対ヒップ比が男性で1.0超過、女性で0.8超過、からなる群から選択される。
【0046】
一実施形態では、閉塞性睡眠時無呼吸の患者のKansas City Cardiomyopathy Questionnaire Clinical Summary Score(KCCQ-CSS)がチルゼパチドによる治療で改善する。一実施形態では、改善されたKCCQ-CSSは、正味の臨床的利益と相関する。
【0047】
一実施形態では、以下の転帰:閉塞性睡眠時無呼吸による入院又は死亡の複合の発生のリスクが低下する。
【0048】
一実施形態では、睡眠時無呼吸に関する状態による死亡又は入院のリスクは、有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩で治療された患者において低下される。
【0049】
一実施形態では、以下の転帰:2型糖尿病及び閉塞性睡眠時無呼吸の複合の発生のリスクが低下する。
【0050】
一実施形態では、以下の転帰:閉塞性睡眠時無呼吸、心筋梗塞、又は死亡の複合の発生のリスクが低下する。
【0051】
一実施形態では、以下の転帰:閉塞性睡眠時無呼吸、心筋梗塞、又は死亡の複合の発生のリスクが低下する。
【0052】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約5.0mg、約10.0mg、及び約15.0mgからなる群から選択される。
【0053】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約5.0mgである。
【0054】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約10.0mgである。
【0055】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約15.0mgである。
【0056】
一実施形態では、患者は50歳未満である。一実施形態では、患者は30歳以下である。
【0057】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも4週間継続される。一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも12週間継続される。一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも20週間継続される。一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも52週間継続される。
【0058】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも2年間継続される。
【0059】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも3年間継続される。
【0060】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも4年間継続される。
【0061】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、およそ5年間継続される。
【0062】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも5.5年間継続される。
【0063】
一実施形態では、チルゼパチド又はその薬学的に許容される塩は、用量漸増プロトコルを使用して投与される。
【0064】
一実施形態では、患者はまた、主要な心血管有害事象のリスクを低下するための標準治療を施される。
【0065】
一実施形態では、患者はまた、睡眠時無呼吸と併存する状態の症状を治療するための標準治療を施される。
【0066】
一実施形態では、患者はまた、ベータ遮断薬を投与される。
【0067】
一実施形態では、患者はまた、カルシウムチャネル遮断薬を投与される。
【0068】
一実施形態では、患者はまた、利尿剤を投与される。
【0069】
一実施形態では、患者はまた、抗血栓剤を投与される。
【0070】
一実施形態では、患者はまた、アスピリンを投与される。
【0071】
上の実施形態のいずれかで使用するためのチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩。
【0072】
上の実施形態のうちのいずれかのための医薬品の調製におけるチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩の使用。
【0073】
更なる実施形態が以下の実施例に記載されており、これらは限定的であると解釈されるものではない。
【実施例
【0074】
在宅睡眠試験(HSS)又は睡眠ポリグラフ(PGS)によって診断された中等度から重度のOSAを有する患者、及び現在PAP療法で治療されている肥満の患者における、最大耐用量(MTD)のチルゼパチド(10mg又は15mg)の無作為化二重盲検プラセボ対照試験。
【0075】
HSS又はPGSによって診断される中等度から重度のOSA、及び現在PAP療法で治療されていない肥満を有する患者における、MTDチルゼパチド(10mg又は15mg)の無作為化二重盲検プラセボ対照試験。
【0076】
以下の表1に記載される登録基準は、睡眠診療及び/又は主要症例医師のオフィスで見られ、肥満であり、閉塞性睡眠時無呼吸と診断された患者に類似する参加者を含むように設計される。
【0077】
【表1】
【0078】
試験は、スクリーニングの来院と後続の治療期間からなるように設計される。患者をチルゼパチド5mg、10mg、若しくは15mg(漸増用量プロトコルを使用して投薬)又はプラセボに無作為化し、およそ4週間間隔で追跡する。試験手順は、登録前に完了した診断的睡眠試験からの無呼吸-低呼吸指数(AHI)の変化を測定するための夜間調査睡眠試験、すなわち睡眠ポリグラフ(PSG)、又は必要に応じてベースライン調査睡眠試験を含む。
【0079】
【表2】
【0080】
分析には、AHIによって測定される睡眠時無呼吸に対するチルゼパチドの影響の評価が含まれる。日中の眠気は質問票を用いて評価する。
【0081】
統計分析は、SASソフトウェアを使用して完了する。
【0082】
実施例2
ベースラインからの無呼吸-低呼吸指数(AHI)の変化。この試験では、試験終了時のベースラインから睡眠1時間当たりの無呼吸+低呼吸事象の数の変化を測定する。試験では、閉塞性睡眠時無呼吸と診断された患者を評価する。治療群は、担当医師によって処方された閉塞性睡眠時無呼吸に対する標準治療を受け続けるプラセボ群と比較される。各参加者は、少なくとも3回の試験来院を行い、少なくとも2回の夜間睡眠試験を受ける。試験は、日中の眠気を評価するための質問票を伴う定期的な電話診療を含む。試験は、ベースラインからの無呼吸低呼吸指数の変化を測定する。
【0083】
実施例3
この無作為化二重盲検試験では、肥満体重及び中等度の閉塞性睡眠時無呼吸(1時間当たりAHIが15~29.9の事象)又は重度の閉塞性睡眠時無呼吸(1時間当たりAHIが30超の事象)を有し、CPAP療法を使用する意思がない/使用できない正常血糖の参加者を、用量増加レジメンを使用して、チルゼパチド5mg、10mg、又は15mg、及びプラセボに52週間無作為化する。ベースライン特性は群間で類似している。
【0084】
実施例4
バスケット設計下で行われた52週間の治療期間を有する多施設、無作為化、並行群、二重盲検、プラセボ対照、第3相試験は、中等度から重度のOSA及び肥満を有する参加者において、プラセボと比較して、最大耐用量(MTD)(10mg又は15mg)で毎週(QW)チルゼパチドによる治療の効果を調査する。
【0085】
臨床試験、第1群の患者群は、PAP療法を使用する意思がないか、又は使用できない参加者を含む。
【0086】
臨床試験、第2群患者群は、スクリーニング時に少なくとも3ヶ月間PAP療法を受けており、試験中にPAP療法を継続する計画を立てている参加者を含む。
【0087】
参加者は、自身の現在のPAP使用を反映してグループに割り当てられる。次いで、参加者を治療又はプラセボに1:1で無作為に割り当てる。
【0088】
およそ412人の参加者を、マスタープロトコル全体にわたる試験介入へ無作為に割り当て、約206人の参加者を、各治験サブグループにおける試験介入へ無作為に割り当てた。
【0089】
男性参加者の約70%の登録上限で、女性参加者の十分に大きなサンプルを保証する。
【0090】
試験介入は以下の通りである。
・MTDでのチルゼパチド(10mg又は15mg)SC QW、又は
・プラセボ。
【0091】
スクリーニングと治療後のフォローアップ期間を含む、各参加者の試験参加の予測合計期間は、以下の試験期間にわたり60週間である。
・スクリーニング:4週間
・血用:52週間
・治療後のフォローアップ:4週間
最大治療期間は52週間である。
【0092】
睡眠質問票の機能的転帰(FOSQ)を使用して、治療の効果を評価する。被験者は、FOSQ-10、FOSQ-30(覚醒ドメインスコア)、及びFOSQ-30(活動レベルドメインスコア)を使用して測定される。更に、各参加者は、無呼吸低呼吸指数を使用して評価され、寛解又は軽度の無症候性OSAについて評価される。
【0093】
配列
配列番号:1
チルゼパチド
YXEGTFTSDYSIXLDKIAQKAFVQWLIAGGPSSGAPPPS
が、Aibであり、Xが、Aibであり、20位のKは、(2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル)-(γGlu)-CO-(CH18-COHでのK側鎖のイプシロン-アミノ基へのコンジュゲーションを通じて化学的に修飾され、C末端アミノ酸は、C末端第一級アミドとしてアミド化されている。
【配列表】
2024524984000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-12-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を含む、患者の睡眠時無呼吸の発症を治療、防止、又は遅延させるための医薬組成物
【請求項2】
前記睡眠時無呼吸が閉塞性睡眠時無呼吸である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を含む、患者の睡眠時無呼吸を防止又は遅延させるための週1回投与用医薬組成物
【請求項4】
前記患者が、2型糖尿病を有する、請求項1又は3に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記患者の体重を改善する必要のある、請求項1又は3に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記患者は肥満体重である、請求項1又は3に記載の医薬組成物
【請求項7】
効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を含む、肥満体重を有する患者における体重管理を改善し、閉塞性睡眠時無呼吸を防止又は遅延させる週1回投与用医薬組成物
【請求項8】
前記医薬組成物が、前記患者が睡眠時無呼吸を経験するリスクを低下させる、請求項1、3及び7のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記リスクが、閉塞性睡眠時無呼吸を経験するリスクである、請求項8に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記患者の、閉塞性睡眠時無呼吸、一過性脳虚血発作、又は死亡の転帰の複合的な発生のリスクが低下される、請求項1、3及び7のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項11】
チルゼパチドの前記有効量が、5.0mg、10.0mg、及び15.0mgからなる群から選択される、請求項3及び7のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項12】
チルゼパチドの前記有効量が、15.0mgである、請求項11に記載の医薬組成物
【請求項13】
チルゼパチドの前記有効量が、10.0mgである、請求項11に記載の医薬組成物
【請求項14】
チルゼパチドの前記有効量が、5.0mgである、請求項11に記載の医薬組成物
【請求項15】
前記組成物、少なくとも2年間の投与用である、請求項1、3及び7のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項16】
記患者が、診断確定された心血管疾患に罹患しておらず複数の心血管危険因子を有するか、又は診断確定された心血管疾患に罹患しているかのいずれかである、請求項3及び7のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項17】
前記患者が閉塞性睡眠時無呼吸である、請求項16に記載の医薬組成物
【請求項18】
前記患者の体重が肥満である、請求項12~14及び17のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項19】
前記患者の体重が肥満ではない、請求項12~14及び17のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項20】
効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容される塩を含む、2型糖尿病を有する患者における体重管理を改善し、睡眠時無呼吸を防止又は遅延させる週1回投与用医薬組成物
【請求項21】
前記医薬組成物が、心筋梗塞による入院のリスクの低下を提供する、請求項1、3、7及び20のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項22】
チルゼパチド薬学的に許容される塩である、請求項1、3、7及び20のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項23】
眠時無呼吸の治療に用いられる、治療有効量のチルゼパチド又はその薬学的に許容可能な塩を含む医薬
【請求項24】
前記睡眠時無呼吸が閉塞性睡眠時無呼吸である、請求項23に記載の医薬

【国際調査報告】