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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】パーキンソン病のNAD増強療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/706 20060101AFI20240702BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P25/16
A61K45/00
A61K9/48
A61K47/38
A61K47/12
A61K31/137
A61K31/198
A61K31/165
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023579260
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2022067412
(87)【国際公開番号】W WO2022269066
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】2109138.4
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2200883.3
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】20220100277
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521443117
【氏名又は名称】ヴェストランデッツ イノバスジョンセルズカップ エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】ツォウリス,ハラランポス
(72)【発明者】
【氏名】ドーレ,クリスチャン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC01
4C076DD41
4C076EE31
4C076EE32
4C084AA23
4C084MA02
4C084MA37
4C084MA52
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA02
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA02
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA09
4C206FA53
4C206HA03
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA57
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA02
(57)【要約】
本発明は、ヒト被験者におけるパーキンソン病(PD)の治療方法で用いるためのニコチンアミドリボシド、当該方法で用いるための医薬組成物、ニコチンアミドリボシドを含む組成物;当該方法で用いるための剤形であって、ここで、当該剤形がニコチンアミドリボシド又はニコチンアミドリボシドを含む医薬組成物;並びに、ニコチンアミドリボシド、ドーパミン作動薬及びMAO-B阻害剤を含む医薬配合物、を提供する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験者におけるパーキンソン病(PD)の治療方法で用いるためのニコチンアミドリボシドを含む組成物。
【請求項2】
a)治療方法は、ヒト被験者へのニコチンアミドリボシドの経口投与を含む;
b)前記治療方法は、パーキンソン病の予防、減少及び/又は進行を遅らせるためである;
c)前記治療方法は神経保護療法である;
d)前記パーキンソン病は早期パーキンソン病である;
e)前記パーキンソン病は特発性(IPD)である;及び/又は前記ヒト被験者がSNCA、LRRK2、VPS35、PRKN、PINK1などの単一遺伝子パーキンソン病に関連する遺伝子に病原性変異がない;
f)前記ヒト被験者には黒質線条体変性若しくは神経脱離がある、及び/又は前記治療方法が黒質線条体変性若しくは神経脱離及び臨床的疾患進行を遅延させる;
g)前記治療の開始前2年以内に前記パーキンソン病と診断されていた;
h)前記治療の開始時にHoehn及びYahrスコアが3未満であった;
i)前記治療の開始時の年齢が35歳以上、65歳以上、35歳以上85歳未満、40歳以上80歳未満、55歳以上75歳未満、60歳以上75歳未満、若しくは65歳以上75歳未満であった;及び/又は
j)前記治療の期間は少なくとも1、2、6、12ヵ月、又は2週間である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
a)ヒト被験者の脳NADレベルは、ニコチンアミドリボシドの投与により増加する;
b)前記ヒト被験者の脳NAD/ATP-αモル比は、ニコチンアミドリボシドの投与後30日以内に、以下の:
(i)前記投与前のベースラインと比較して10%以上、又は
(ii)0.01以上、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.07以上、
増加する;
c)前記ニコチンアミドリボシドの投与により前記ヒト被験者の脳内NADレベルの増加が後頭葉皮質で起こる;
d)前記ニコチンアミドリボシドの投与により前記ヒト被験者の脳内NADレベル又は31P-MRSにより測定されたNAD/ATP-αモル比が増加する;
e)治療前のベースラインと比較して、PBMCの平均総NADレベルが増加する;
f)前記治療前のベースラインと比較して、27~33日以内、又は30日以内のPBMCの平均総NADレベルが増加する;
g)前記治療はミトコンドリア経路、ミトコンドリアリボソーム、RNA代謝及び/又は酸化ストレス防御に影響を及ぼす遺伝子発現変化を惹起する;
h)前記治療前のベースラインの各々のスコアと比較して、MDS-UPDRSの1つ以上の部分(パートI、II、III及び/又はIV)に基づくスコア、又はそのパートI~IV若しくはパートI~IIIに基づく合計スコアが、前記治療前のベースラインの各々のスコアと比較して改善されるか、あるいは、1つ以上の部分(パートI、II、III及び/又はIV)に基づくスコア、あるいは、パートI~IV又はパートI~IIIに基づく合計MDS-UPDRSスコアの平均変化が、少なくとも1ポイント、好ましくは少なくとも2ポイントである;
i)前記治療前のベースラインと比較して、fMRI測定におけるデフォルトの再表示状態ネットワークの差が得られるか、又は、前記治療前のベースラインと比較してfMRI測定におけるデフォルトの再表示状態ネットワークの差が観察される;及び/又は
j)PD認知症(PDD)及び/又はレビー小体型認知症(DLB)に対する神経保護的疾患修飾療法として作用する、
請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
a)運動、非運動及び/又は認知症状の改善のための;
b)運動、非運動及び/又は認知症状の予防のための;
c)MDS-UPDRSのパートI、II、III又はIVによって測定されるスコアの改善のための;
d)MDS-UPDRSのパートI、II、III及びIVによって測定される合計スコアの改善のための;
e)非運動症状質問票(NMSQ)、パーキンソン病非運動症状尺度(NMSS)、Hoehn及びYahrスケール、MoCA及び/又はEQ-5Lにより測定されたスコアの差の改善のための;
f)黒質線条体変性又は神経除去の遅延、及び/又はDaTscanにより測定されるドーパミン輸送体密度の改善のための;
g)MRI容積測定により測定される脳萎縮(全体的又は局所的)を遅延させるための;
h)MRIによる皮質厚により測定される皮質萎縮を低下させるための;
i)患者の生物試料及び脳(31)P-MRSにおけるマルチオミクスにより測定されるNAD代謝及び/又はミトコンドリア機能を是正するための;
j)患者の生物試料におけるマルチオミクスにより測定された異常なヒストンアセチル化及び遺伝子発現プロファイルを補正するための;
k)fMRIにより測定された脳の時空間機能的及び/又は構造的結合性を改善するための;
l)患者血清中のニューロフィラメント軽鎖により測定されたニューロン喪失の進行を遅延させるための;及び/又は
m)MDS 非運動評価尺度(MDS-NMS)によるスコアを改善するための;
請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
一日当たり200~2000mg、500~2000mg、若しくは、800~1200mgの総投与量で;又は
400~80mgを1日2回、500mgを1日2回、若しくは、2×250mgを1日2回投与する、
請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ニコチンアミドリボシドが単独療法として、又はドーパミン作動薬+MAO-B阻害剤と併用して投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ニコチンアミドリボシドがドーパミン作動薬+MAO-B阻害剤と併用投与される、請求項1に記載の組成物であって、ここで、
a)前記MAO-B阻害剤は、セレギリンであるか、若しくはセレギリンを含む;及び/又は
b)前記ドーパミン作動薬は、レボドパであるか、若しくはレボドパを含み、かつ、エンタカポン又はトルカポンのようなCOMT阻害剤の添加の有無にかかわらず、カルビドパ若しくはベンセラジドのような脱炭酸酵素阻害剤と併用され、;及び/又は、前記ドーパミン作動薬は、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、ブロモクリプチン又はペルゴリドのような前記ドーパミン作動薬であるか、又はそれらを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
a)ヒト被験者に、1日当たり8~12mg又は10mgのセレギリン;及び、1日当たり150~800mg又は300~450mgのレボドパ、かつ、1日当たり37.5~200mg又は75~112.5mgのカルビドパが投与される;
b)前記ヒト被験者に、1日当たりセレギリン10mg、並びに、レボドパ100mg及びカルビドパ25mgが1日3回投与される;
c)前記ヒト被験者に、1日当たりセレギリンを8~12mg又は10mg、かつ、1日当たりレボドパが150~800mg又は300~450mg、かつ、1日当たりベンセラジドが37.5~200mg又は75~112.5mg投与される;又は
d)前記ヒト被験者に、1日当たりセレギリン10mg、並びに、レボドパ100mg及びベンセラジド25mgが1日3回投与される、
請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
ニコチンアミドリボシドが、薬学的に許容される塩、溶媒和物及び/又はその水和物として投与され、ここで、前記塩がフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、ギ酸塩、酢酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、酪酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、カルバミン酸塩、ギ酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、臭化メチル、硫酸メチル、硝酸塩、リン酸塩、プロピオン酸塩、二リン酸塩、コハク酸塩、スルホン酸塩、酒石酸水素塩、リンゴ酸水素塩、トリフルオロ酢酸塩、トリブロモメタンスルホン酸塩、トリクロロメタンスルホン酸塩、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
ニコチンアミドリボシドが塩化ニコチンアミドリボシドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
ニコチンアミドリボシド又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物及び/又は水和物、及び場合によっては、以下の:
a)さらに、薬学的に許容される賦形剤を含むか、又は
b)ニコチンアミドリボシドを単独有効成分として、又はドーパミン作動薬及びMAO-B阻害剤の1つ以上と併用する、
請求項1に記載の治療方法で用いるための医薬組成物。
【請求項12】
ニコチンアミドリボシド、若しくはその医薬上許容される塩、溶媒和物及び/若しくは水和物、又は、ニコチンアミドリボシドの医薬組成物、若しくはその医薬上許容される塩、溶媒和物及び/若しくは水和物を含む、請求項1に記載の治療方法で用いるための剤形。
【請求項13】
以下の:
a)経口剤形若しくはカプセルであり;
b)100,250又は300mgのニコチンアミドリボシド活性成分を含む;及び/又は
c)塩化ニコチンアミドリボシド、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを含むか、又はそれらからなる経口カプセルである、
請求項12に記載の剤形。
【請求項14】
ニコチンアミドリボシド、ドーパミン作動薬及びMAO-B阻害剤を含む、医薬配合物。
【請求項15】
a)MAO-B阻害剤は、セレギリンを含む;
b)ドーパミン作動薬は、レボドパ、カルビドパ及び/若しくはベンセラジドを含む;
c)ニコチンアミドリボシド、レボドパ及びカルビドパを含むか、若しくは、ニコチンアミドリボシド、レボドパ及びベンセラジドを含む;並びに/又は
d)1、2若しくは3つの有効成分が剤形中に同時に存在する;
請求項14に記載の医薬配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ヒトにおけるパーキンソン病の治療に関する。より具体的には、ヒト被験者におけるパーキンソン病の治療方法で用いるための化合物;パーキンソン病の治療において、又はパーキンソン病の治療として用いるための医薬組成物、医薬配合物、及び剤形に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(PD)は死亡及び障害の主要原因であり、世界的な社会経済的影響がある。PDの根底にある病因及び分子病因は不明である。疾患の開始及び進行の根底にあるプロセスが理解されてないため、過去に有効な治療法を開発することはできなかった。したがって、患者は、せいぜい対症療法として治療され、その後、進行性障害に至り、かつ、早死にする。
PDの病因は不明であるが、ミトコンドリア機能不全が重要な役割を果たすことを示唆する証拠が増えている。PDに見られるものと同様の黒質緻密部の重度の変性は、ミトコンドリア複合体Iを阻害する物質及びミトコンドリアの維持、動力学及び/又は品質管理を破壊する遺伝子変異によって惹起されることが示されている。
体細胞性ミトコンドリアDNA(mtDNA)損傷及びミトコンドリア呼吸鎖(MRC)機能障害は、散発性PDで見出されている。異常なミトコンドリア質制御は、α-シヌクレイン、LRRK2,PINK1,Parkin及びDJ-1をコードする遺伝子の変異に起因するものを含め、家族性PDと関連する。ニューロンmtDNAコピー数の調節障害は、ある部分は多遺伝子遺伝性リスクによって媒介され、PDにおけるドーパミン作動性ニューロンの損失の潜在的説明を提供する。さらに、ミトコンドリア呼吸複合体I(CI)に優先的に影響するMRC欠損は、PD患者の脳全体のニューロンに影響し、ATP欠損及びヒト細胞における生体エネルギー変換及びシグナル伝達に最も必須な分子の1つであるミトコンドリアNADH酸化速度の低下を含む、ニューロン代謝及び生存に重大な影響を及ぼすと予測される。
【0003】
PD症状を治療するための方法が確立されているが、既存の方法は症状のみを標的とし、PDの根本原因を標的としないという欠点がある。
さらに、現在、PDの病因及び/又は分子病態生理を再現する動物モデルはない。発明者らの知る限り、PDはヒト以外の動物では自然に発生せず、正確な動物モデルを作成することはできない。すなわち、動物表現型に関する結果がPDの症状と類似していても、その病態は一般にPDとは比較できない。この点で、PDは動物モデルがはるかに有用で正確な他の疾患とは大きく異なる。したがって、動物モデルからはPDにおけるヒトの状態及び/又は反応を予測できない。
PD動物モデルからヒトの治療に有望な治療を移す複数の試みがあるが、これらの試みはことごとく失敗している。現在、神経損失と疾患進行に有意な影響を与えるPDの神経保護療法はない。前臨床モデルで有望な結果を示す全ての化合物はヒト試験で失敗した(非特許文献1)。いくつかの具体的な例は、STEADY-PD臨床試験、動物モデルで有望な結果を示したCa2+チャンネルブロッカー、イスラディピンを含むものの、a-シヌクレイン抗体薬のシンパネマブは、概念実証が達成されず、一次エンドポイントと二次エンドポイントを逃した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Athauda D,Foltynie T.The ongoing pursuit of neuroprotective therapies in Parkinson disease.Nat Rev Neurol 2015;11(1):25-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、疾患症状を緩和するためだけでなく、ヒトにおけるPDの生理学的原因を治療するための効率的で安全な方法が必要である。より具体的には、ヒト脳におけるNADレベルを効果的に増加させることができる化合物、及び/又はヒト患者のPD進行を阻害するための神経保護治療として用いることができる化合物が必要である。特に、ヒト血液脳関門を通過することができ、ヒトにおいて脳NADレベルを増加させることができ、かつ、ヒト脳代謝に影響を及ぼす経口投与される化合物を特定する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明の目的は、既知の方法における上記欠点を軽減し、及び/又はパーキンソン病の既知の治療を改善することである。
【0007】
その解決策として、本発明は、(1)ヒト被験者におけるパーキンソン病(PD)の治療方法で用いるためのニコチンアミドリボシド;(2)当該方法で用いるための医薬組成物、ニコチンアミドリボシドを含む組成物;(3)当該方法で用いるための剤形であって、その剤形がニコチンアミドリボシド又はニコチンアミドリボシドを含む医薬組成物;及び(4)ニコチンアミドリボシド、ドーパミン作動薬及びMAO-B阻害剤を含む医薬配合物に関する。
【0008】
現在、以下の3つの主要なプロセス:(i)ミトコンドリア機能不全;(ii)プロテスタシス不全(リソソーム及びプロテアソーム);(iii)炎症;がPDの病因に関連していると考えられている。さらに、PD患者における(iv)DNA損傷の増加、及びエピゲノム調節不全、特にヒストンハイパーアセチル化の証拠がある。本発明の基礎となる概念は、適当な薬物を介して神経NADレベルが増加すると、(i)ミトコンドリア機能が改善され、サーチュイン活性及びヒストンアセチル化状態が回復され、PDにおける神経機能障害及び死亡から救済される可能性があることである。そして、NAD前駆体ニコチンアミドリボシドの投与、特に経口投与により、PDにおける神経NAD欠損及びミトコンドリア機能障害が改善される可能性があることである。これらの分子欠損を補正することにより、神経代謝が是正され、神経変性が抑制される可能性がある。これらの効果は、臨床症状の改善とPD進行の遅延をもたらす可能性がある。本発明の基礎となる更なる概念は、(ii)プロテオスタシスの改善である。及び/又は(iii)炎症の減少は、臨床症状に有益に影響し、及び/又はPD進行を遅らせることができる。さらに、(iv)NAD補充により、(修復を促進することによって)DNA損傷とヒストンハイパーアセチル化(脱アセチル化酵素、サーチュインを促進することで)をともに改善する可能性がある。
【0009】
本発明者らは現在、意外にも、上記の概念の根底にある効果を達成するのに適した薬物としてニコチンアミドリボシドを同定した。
それらをヒトPD被験者に投与した場合、意外にも、ニコチンアミドリボシドが血液脳関門を効果的に通過し、脳NADレベルが有意に増加することを発見した。したがって、ニコチンアミドリボシドは、特にNAD欠損を補正し、PDにおける代謝障害を是正し、神経保護効果を提供し、及び/又はPD進行を阻害することにより、ヒトPDの治療における使用に非常に適していると考えられる。
【0010】
NADは、細胞代謝における中心酸化還元補酵素であり、呼吸鎖に対するエネルギー当量の重要な供給源である。サーチュインとして知られる脱アセチル化酵素の活性を調節することにより、NADはヒストンアセチル化を含むいくつかの基本的な細胞イベントを調節し、その延長として遺伝子発現を調節する。ヒト細胞におけるNADのシグナル伝達ターンオーバーは著しく高く、全細胞NADプールは少なくとも1日1回更新される。この迅速なターンオーバーは、NAD合成の低下がPD脳で起こることを示唆し、これはATP欠損、遺伝子発現の変化、神経機能及び生存の低下を含む神経代謝に重大かつ即時の影響を及ぼす可能性がある。ヒトでは、NADはトリプトファンから新規に産生されるか、NAD前駆体化合物からのサルベージ経路を介して産生される。
【0011】
ニコチンアミドリボシド(NR)はNAD合成を効果的に上昇させ、サーチュイン活性を増加させ、動物及びヒトに対して非毒性である前駆体である。ニコチンアミドリボシドはヒトにおいて良好な経口バイオアベイラビリティがある(TrammellsA,et al.Nat Commun 2016;7:12948)。それは食品への使用について「一般に安全と認められている」(GRAS)である。さらに、ニコチンアミドリボシドは酵母において寿命を延長し(Belenky P,et al.Cell 2007;129(3):473-84)、動物において強い神経保護作用を有し(TrammellsA,et al.Sci Rep 2016;6:26933;Brown KD,et al.Cell Metab 2014;20(6):1059-68;Vaur P,et al.FASEB J.2017 Dec;31(12):5440-5452;Gong Bet al.Neurobiol Aging 2013;34(6):1581-8)、ALS患者において実質的な臨床改善を達成することが示されている(de la Rubia JE,et al.Amyotroph Lateralscler Frontotemporal Degener 2019:1-8)。モデル証拠は、NRがマウスにおいて神経保護作用があることを支持しており(Xie,X.et al.Metab Brain Dis 34,353-366(2019)、ショウジョウバエモデルにおいてミトコンドリア欠損及び加齢に伴うドーパミン作動性神経損失を救済する(Schoendorf,D.C.et al.Cell Rep 23,2976-2988(2018))。
【0012】
理論に縛られることを望まず、NR補充の一側面は、それがヒト患者のPDにおけるミトコンドリア機能障害を逆転させるNAD補充につながると信じられている。図1(A)に示すように、複合体I欠損(1)はPD(Floenes IH et al.Acta Neuropathol.2018 Mar;135(3):409-425)におけるグローバルなニューロン現象である。これはATP合成の低下をもたらし、次いでピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)を刺激し、アセチル基(2)の主要ドナーであるアセチルCoAの蓄積を引き起こす。これにより、細胞内のアセチル化電位を上昇させることができる。加えて、複合体I欠損症は、ミトコンドリアNADH酸化の低下と、サーチュイン(4)として知られる脱アセチル化酵素の必須補因子であるNAD(3)の枯渇をもたらす可能性がある。増加した基礎アセチル化(2)と減少した脱アセチル化(4)のこの組み合わせは、脳内のニューロン及び潜在的に他の細胞集団に対して重大な生物学的効果を伴う高アセチル化状態をもたらす可能性がある。図1(B)に示すように、NR補充(1)を介したNAD補充は、サーチュイン活性(2)を高め、核(3)及びミトコンドリア(4)におけるアセチル化の正常化をもたらす。したがって、NRは、神経代謝を改善し、PDにおける神経変性を停止又は遅延させる可能性があると考えられる。
ニコチンアミドリボシド(NR)の補給を介したニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の補給は、健康な老化及びパーキンソン病(PD)を含む神経変性疾患モデルにおいて神経保護効果を与えることが示されている。
【0013】
それにもかかわらず、発明者らの知る限りでは、先行技術は、ヒト患者におけるPDの治療で用いるためのNRの適合性を可能にする開示を提供していない。そして、上述のように、現在、PDの病因及び/又は分子病態生理を再現する動物モデルは存在しない。したがって、いかなるモデル証拠に基づいても、ヒト患者におけるPD治療に対するNRの有効性を推測又は予測することはできない。
さらに、研究コミュニティの専門家によって、特に癌の立場から、体内のNADレベルの上昇の結果について繰り返し懸念が提起されており、NADレベルの上昇が、例えば、Lucena-Cacace,Antonio et al.Oncotarget vol.8,59 99514-99530.28 Aug.2017,doi:10.18632/oncotarget.20577,PMID:29245920;Gujar,Amit D et al.Proceedings of the National Academy ofsciences of the Unitedstates of America vol.113,51(2016):E8247-E8256.doi:10.1073/pnas.1610921114,PMID:27930300のような特定のタイプの脳腫瘍(特に、神経膠腫)のリスクを増加させる可能性があることを示唆する。
【0014】
総じて、先行技術は、ヒト患者におけるPDの治療にNRを用いることの安全性、忍容性及び有効性を示す十分な証拠を提供していない。
ヒト患者におけるPDにおけるNR療法の安全性、忍容性及び脳浸透性を評価するために、二重盲検無作為化プラセボ対照第I相試験を実施した。新たに診断されたドーパミン作動薬治療未経験のPD患者30人を、1000mgの経口投与NR又はプラセボに無作為に割り付け、臨床的、神経画像及び分子測定の組み合わせを用いて、ベースライン時及び曝露30日後に評価した。
NR治療は、脳脊髄液中の関連代謝物と同様に、31リン磁気共鳴スペクトロスコピーによって測定された脳NADレベルの有意な増加をもたらした。脳NADレベルの増加を示すNRレシピエントは、18F-フルオロ-デオキシグルコース陽電子放出断層撮影によって測定された脳代謝の変化を示し、PD関連空間共分散パターン(PDRP)の重要な要素と重なる特定の治療関連代謝ネットワークを誘導し、MDS-UPDRSによって測定された軽度の臨床改善と関連した。加えて、NRはNADメタボロームを実質的に増加させ、ミトコンドリア呼吸、酸化ストレスからの保護、血球及び骨格筋におけるリソソーム及びプロテアソーム機能に関連するプロセスの転写アップレギュレーションを誘導した。さらに、NRは血清及び脳脊髄液中の複数の炎症性サイトカインのレベルを低下させた。NRは良好に忍容され、関連する有害事象はなかった。
【0015】
発明者らは、経口NR療法がPD患者の脳NADレベルを増加させ、脳代謝に影響を及ぼすことを示す。さらに、発明者らの知見は、NRが疾患の病態生理に関与する複数のプロセスを標的とすることにより、神経保護能がある可能性があることを示唆する。まとめると、結果は、PDに対する潜在的な神経保護療法としてNRの使用を支持する。本発明による使用のためのニコチンアミドリボシドは、驚くべき忍容性と脳バイオアベイラビリティを提供する。本発明によるニコチンアミドリボシドによるNAD補給治療を臨床試験で検討したところ、この治療は有害作用なしで忍容性が良好であり、脳内のNADレベル及びCSF及び末梢組織における関連代謝物を増加させることが示された。驚くべきことに、プラセボ群と比較してNR群におけるNADレベルの非常に有意な増加が認められた。脳NADレベルの増加を示すNRレシピエントは脳代謝の変化を示し、PD関連空間共分散パターン(又はPD関連神経代謝パターンの改善)の重要な要素と重なる特異的な治療関連代謝ネットワークを誘導し、臨床的改善と関連した。
【0016】
PDに対する神経保護療法としてのNRをさらに試験し、特に早期PD患者における黒質線条体変性又は神経除去の遅延及び臨床疾患進行におけるNRを評価するために、早期PD患者におけるNRとプラセボを比較する多施設第II相ランダム化二重盲検臨床試験を実施する。試験を完了し、ベースライン時及び52週目に脳MRIスキャンを実施した患者において、これらの患者の間で神経膠腫又は他の脳新生物の症例はなかった。したがって、この治療法は、治療期間中の神経膠腫有病率の増加とは関連しないと考えることができる。
これらの結果は、NRがPDにおける安全で忍容性の高い治療法であり、疾患の標的臓器である脳における実質的なNAD補給につながることを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ニコチンアミドリボシド補充を介したNAD補充がPDにおけるミトコンドリア機能障害を逆転させることができることを示す概略図である。
図2】PDにおけるニコチンアミドリボシドによるNAD補充療法の忍容性及び脳バイオアベイラビリティの臨床試験からの31P-MRS結果を示すグラフである。
図3】31P-MRS分析が脳NADのNR媒介性増加を明らかにすることを示すグラフ等である。
図4】NR処理に関連する代謝脳ネットワークトポグラフィーを示すグラフ等である。
図5】NRがPD患者のCSF及び末梢組織においてNADメタボローム増加を誘導することを示すグラフ等である。
図6】NR治療によって影響を受ける血清学的マーカーを示すグラフ等である。
図7】実施例2に示す試験のCONSORTフロー図を示す概略図である。
図8】NRで治療されたMRS応答者におけるNRRP発現の変化を示すグラフである。
図9】FDG PETにおけるNRRP及びPDRP脳ネットワークトポグラフィーの全脳表示を示す写真である。
図10】筋肉(図5に関連する)におけるメタボロミクス分析を示すグラフである。
図11】PBMC(図5に関連する)におけるメタボロミクス分析を示すグラフである。
図12】PBMC画分の細胞組成がNR処理によって影響を受けないことを示すグラフである。
図13】NR及びプラセボ処理参加者(図6に関連する)におけるサイトカインレベルを示すグラフである。
図14】スクリーニング及び治療期間中のドーパミン作動薬治療のフローチャートを示す概略図である。
図15】実施例4に記載されているように、2回目と1回目の検査(Δ=scan2-scan1)の間の後被殻におけるDATスキャントレーサー取り込みの変化(Δ)を示すボックスプロットを示すグラフである。
図16】NR処理はPBMCにおける総NADレベルを増加させることを示すグラフである。
図17】sNCA、LRRK2、VPS35、PRKN,及びPINK1における例示的な病原性(すなわち、確実に、おそらく、もしかしたら病原性である)変異を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
パーキンソン病(PD)は、65歳以上の人口の1~2%が罹患しており、死亡や障害の主な原因であり、世界的な社会経済的影響が急速に拡大している。現在のPD治療は、運動症状を中心に部分的な症状緩和が可能だが、疾患の進行には何らの影響はない。いくつかの神経保護療法の候補は、前臨床試験で有望な結果を示しているが、臨床試験で疾患修飾効果を示すことができない。
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の細胞レベルの増加が、健康な老化と神経変性の両方で神経保護効果を与える可能性があることを支持する証拠が増えている。NADは酸化(NAD「+」)状態と還元(NADH)状態の間でシャッフルすることができ、ミトコンドリア呼吸を含む代謝酸化還元反応の必須補因子を構成する。さらに、NAD+は、DNA修復、ヒストン及び他のタンパク質の脱アセチル化、及びセカンドメッセンジャーの生成に関与する重要なシグナル伝達反応の基質である。これらの反応は、NAD+を高い速度で消費し、NAD生合成を介した一定の補充が必要である。NADレベルは加齢とともに低下することが示されており、これは加齢関連疾患に寄与すると考えられている。逆に、前駆体の補充及び/又はNAD「+」/NADH比(例えば、カロリー制限を介して)の増強を介したNAD補充率が高まると、複数のモデル系における寿命及び健康寿命が有益な効果を示し、神経変性及び他の加齢関連疾患の動物モデルにおける神経保護の証拠を示す。
NAD補充は、ミトコンドリア呼吸機能障害、神経炎症、エピゲノム調節不全及びニューロンDNA損傷の増加を含む、PDの病因に関与するある主要プロセスを改善するのに有利でありうる。
【0019】
NADは、ビタミンB3分子及びNADの生合成前駆体であるニコチンアミドリボシド(NR)の補充を介して補充されうる。NRは広範な前臨床試験が実施されており、成人ヒトの忍容性は良好であり、少なくとも1日2000mgまでの用量で毒性の証拠は示されていない。健康な個人を対象とした試験では、1日1000mgのNRの経口摂取が、血液及び筋肉中のNAD及び関連代謝物の総レベルを実質的に上昇させ、ミトコンドリアの生体エネルギーを高め、循環炎症性サイトカイン(TramellsA,et al.Nat Commun 2016;7:12948)を減少させることが示されている。さらに、細胞及び動物研究からの証拠は、NR補充が健康寿命を促進し、Cockayne症候群、騒音誘発性損傷、筋萎縮性側索硬化症、Alzheimer病及びPD(例えば、Brown KD,Maqsoods,Huang JY,Pan Y,Harkcom W,Li W et al.Cell Metab 2014;20:1059-68;Xie X,et al.Metab Brain Dis 2019;34:353-366;Schoendorf DC,et al.Cell Rep 2018;23:2976-2988)のモデルにおいて神経保護効果があることを示唆している。まとめると、この証拠は、NRがPDの潜在的な神経保護剤として有望であることを示唆している。
【0020】
しかし、いくつかの重要な知識ギャップが先行技術ではまだ扱われておらず、具体的には、NRが良好な忍容性を有し、脳NADレベルを増強し、PDのヒト患者の脳代謝に影響を及ぼすかどうかを確立する必要がある。これらの疑問を解決するために、発明者らは、PDにおけるNR療法の忍容性、脳バイオアベイラビリティ及び分子効果を評価するために、ドーパミン作動性療法未経験の新規診断PD患者を対象に、二重盲検無作為化プラセボ対照第I相試験を実施した。新規診断された薬剤未経験PDの合計30人を、例1、2及び4に記載されているように、30日間のNR 500mg×2/日又はプラセボに無作為に割り付けた。NR補充は有害作用なく忍容性が良好であることが見出された。治療は脳NADレベル及びCSFと末梢組織における関連代謝物を増加させた。個人レベルでは、脳NADの増加は、データが利用可能な10/13のNRレシピエントで特に明らかであった。脳NADレベルの増加を示したNRレシピエントは、変化した脳代謝を示し、PD関連空間共分散パターン(PDRP)の重要な要素と重なる特異的な治療関連代謝ネットワークを誘導した。NRは臨床的改善と関連した。要約すると、NRの使用は複数の有望な利点を示すことができる:1)NRは忍容性が高い;2)NRは脳への浸透を達成する;3)NRはPDの臨床的改善と関連する;4)NRは脳代謝に大きな影響を与える;及び/又は5)NRは広範な代謝及び調節効果がある。本知見は、NRがヒト患者のPDにおける神経保護療法として有用であることを示唆する。
【0021】
さらに、NRの効果は研究集団全体で不均一であり、個別化された用量依存性応答の問題を提起することも観察した。1000mgを超える用量では、安全であるが、疾患ではこれまで試験されていない。また、2000mg/日までのNR用量はヒトで試験されており、毒性の徴候はないが、2000mgを超える用量ではヒトでこれまで試験されていない。このように、PD薬に向けてNRをさらに発展させるために、先行技術ではいくつかのさらなる知識ギャップに対処しておらず、その治療可能性を最大限に活用しつつ、(1)PDにおけるNRの至適生物学的用量(OBD)とは何か;及び(2)PD及び健常者において安全な高NR用量、という臨床的利益と影響を最大化する。
【0022】
発明者らは、NRのOBDを、PDにおける最適な神経代謝反応、すなわち、毒性がない場合の最大脳NAD増加及び脳代謝パターンの最適変化を達成するために必要な用量と定義する。この用量は、特定の患者に対して均一又は個別化される。前述の第I相試験は、脳NADレベルのNR媒介性増加及びそれに伴う代謝反応及び臨床反応が、個人によって異なる可能性があることを示した。すべてのNR受容体が血液、筋肉及びCSFにおいて頑強な代謝反応を示したという事実は、脳NAD反応のばらつきが脳NAD代謝(すなわち、NAD合成又は消費の速度の変動)における個人間のばらつきを反映している可能性を示唆している。このような違いは、基質濃度(すなわち、NRの摂取量)を変化させることによって調整できる可能性が高い。この課題は重要であり、NR療法が適当に投与され、最適な神経代謝反応を達成するために個々の患者に合わせて調整される。PDにおけるNRの用量を最適化できるようにするために、実施例5に記載されているように、PD患者における3000mgまでのNRの経口用量の安全性と忍容性を評価するための単一施設ランダム化二重盲検安全性試験を実施することによって、安全なNR用量の範囲を確立することを目的とした。
本発明は、以下の態様及び実施形態を提供する。
【0023】
PDの治療で用いるためのニコチンアミドリボシド
本発明は、第1の態様において、ヒト被験者におけるパーキンソン病(PD)の治療方法で用いるためのニコチンアミドリボシドに関する。本発明の文脈では、用語「治療」は、人体のあらゆる種類の治療的治療を包含することを意図する。用語「治療」及び「治療法」は、疾患を治療する予防的方法、疾患を治療する治癒的方法、及び/又は疾患の症状を緩和する方法を包含する。用語「予防的治療(prophylactic treatment)」、「予防的治療(preventive treatment)」及び「予防」は同じ意味であり、そうでなければ生じる悪影響を予防して健康を維持することを目的とする治療を意味する。ニコチンアミドリボシドのすべての塩形態は、本発明の範囲によって包含されることを意図している。
一実施形態では、治療はPDの進行を防止、減少及び/又は遅延させるためのものである。
一実施形態では、治療は神経保護療法である。本発明の文脈では、用語「神経保護療法」は、ニューロンを変性(すなわち、機能障害及び/又は死)から保護し、それらの機能の回復及び回復を可能にする治療を意味する。より具体的には、PDで影響を受けるドーパミン作動性ニューロン及び他のニューロン集団及び/又は中枢神経系、末梢神経系及び/又は自律神経系の細胞死を遅延又は防止し、したがって、疾患の進行を遅延又は停止させ、及び/又は疾患の開始を防止するいかなる介入をもさす。ドーパミン作動性ニューロンはPDで影響を受ける細胞型であるが、PDは中枢神経系及び自律神経系/末梢神経系全体の他の多くの異なるニューロン集団にも影響を及ぼす。したがって、本明細書で使用される神経保護は、一般に、中枢神経系及び自律神経系/末梢神経系全体のドーパミン作動性ニューロン及び/又はPDによって影響を受ける他のニューロン集団の死を防止することに関連する。
【0024】
一実施形態では、PDは初期PDである。
本発明の文脈では、PDは、そのプレモータ又はモータ相中であり得る。そのプレモータ相中のPDは、振戦、硬直及び運動緩慢の古典的なモータ特徴が明らかになる前の時間を参照し得る。
プレモータ相PDは、疾患の臨床的、生理学的又はリスクマーカーの存在に基づいて、顕性PDに至る段階に分けることができる。UK Brain Bankのような一般的な基準に基づいて診断可能な認識可能なPDから逆算すると、これらの段階には、1)診断前段階、2)プレモータ相、3)プレ臨床段階、及び4)プレ生理学的段階が含まれる。これらの段階の診断基準及び定義は、Siderowf,A.Mov Disord.2012 April 15;27(5):608-616に記載されている。好ましい実施形態では、PDには、診断前段階、運動前段階、臨床前段階又は生理学前段階がある。理論に拘束されることを望まずに、治療される患者は、より大きな治療的成功を達成する観点から、好ましくは初期の運動前段階、又はより好ましくは症状前(診断前)段階にある。
あるいは、本発明の文脈におけるPDは、Bargiotas P,et al.Current Opinion in Neurology.2016 Dec;29(6):763-772に定義されているように、第I相(リスク段階)、第II相(運動前段階)、第III相(初期運動段階)及び第IV相(進行PD)であり得る。好ましい実施形態では、PDはフェーズI(リスク段階)、フェーズII(運動前段階)又はフェーズIII(初期運動段階)にある。
【0025】
PDは、65歳以上のすべての人のうちの2%まで、かつ、85歳以上のすべての人の4%までに影響する。NRは無毒であるため、予防薬としてNRを用いることは、例えば、一般的な高齢者集団において、(すなわち、PDと診断されたり、症状が現れる前であっても)PDを予防するために60歳以上の被験者に用いることが望ましい。
本発明の文脈では、PDは、特に、特発性(IDP)、若年性(小児期又は青年期に始まるパーキンソニズム;早発性パーキンソニズム(21歳から40歳の間に発症するものは、若年性又は早発性パーキンソン病という場合がある);続発性パーキンソニズム(基底核ドーパミン作動性遮断によって特徴づけられ、パーキンソン病に似ているが、パーキンソン病以外の何かに惹起される脳機能障害(例、薬物、脳血管疾患、外傷、脳炎後の変化));非定型パーキンソニズム(パーキンソン病に似た特徴があるが、いくつかの異なる臨床的特徴、より悪い予後、レボドパに対する中等度の反応又は無反応、及び異なる病理(例、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症、皮質基底核神経節変性などの神経変性疾患)がある神経変性疾患のグループ);血管性パーキンソニズム(動脈硬化性パーキンソニズムとしても知られ、脳への血液供給が制限されている人にみられる);薬物性パーキンソニズム(脳内のドーパミンの作用を阻害する薬剤、例えば神経遮断薬(統合失調症やその他の精神病性疾患の治療に用いられる)によって生じるパーキンソニズム);多系統萎縮症(MSA);進行性核上性麻痺(PSP(Steel-Richardson-Olszewski症候群を含む));及び/又は単遺伝子性PD/パーキンソン症候群、例えば遺伝子の変異:LRRK2、SNCA、PRKN、PINK1、DJ-1、VPS35である。すなわち、PDは、以下にさらに記載されるように、被験者が遺伝子SNCA、LRRK2、VPS35、PRKN、及び/又はPINK1の単遺伝子性PDにリンクされた遺伝子に1つ以上の変異、好ましくは、確実に、又はおそらく病原性変異;より好ましくは、確実に病原性変異、がある単遺伝子性PDであり得る。
【0026】
好ましくは、被験者は単一遺伝子PDに関連する遺伝子に変異がない;より好ましくは、被験者は遺伝子SNCA、LRRK2、VPS35、PRKN及び/又はPINK1に病原性変異がなく、さらに好ましくは病原性変異がない。例えば、治療を意図する被験者は、血液細胞(PBMC)及び/又は筋肉からのRNA配列決定データを用いて遺伝的に特徴づけることができる。このデータを用いて、患者は、単一遺伝子PDに関連するすべての遺伝子、例えば、SNCA(配列番号1、6)、LRRK2(配列番号2、7)、VPS35(配列番号3、8)、PRKN(配列番号4、9)、PINK1(配列番号5、10)において、既知又は新規に確立された、又は潜在的に病原性のある突然変異について評価することができる。これらのタンパク質の標準配列を配列番号1から5に示し、対応するcDNA配列を配列番号6から10に各々示す。典型的な病原性突然変異を図17に示す。このような突然変異の存在は、例えば、全血、筋生検組織及び/又はPBMCホモジネートからのDNA試料において、サンガー配列決定、SNP-チップ、rtPCR、又は、例えば実施例に記載されているような当該技術分野で公知の他の方法によって検出することができる。例えば、早期PDがある被験者は、治療開始の1、2、3、4又は5年以内、好ましくは2年以内にPDと診断され得る。診断は、例えば、上述のパーキンソン病のMDS臨床診断基準に従って実施され得る。被験者の最初のPD症状が観察されたのは、治療開始の50ヶ月以内、好ましくは45ヶ月以内、より好ましくは40ヶ月以内、より好ましくは30ヶ月以内、より好ましくは35ヶ月以内、より好ましくは25ヶ月以内、より好ましくは20ヶ月以内、より好ましくは15ヶ月以内、より好ましくは10ヶ月以内、最も好ましくは5ヶ月以内であることが好ましい。
【0027】
一実施形態では、対象は、治療開始の2年前に、好ましくはPD、1、2、3、4又は5と新たに診断される。被験者の最初のPD症状が観察されてから50ヶ月以内、好ましくは45ヶ月以内、より好ましくは40ヶ月以内、より好ましくは30ヶ月以内、より好ましくは35ヶ月以内、より好ましくは25ヶ月以内、より好ましくは20ヶ月以内、より好ましくは15ヶ月以内、より好ましくは10ヶ月以内、最も好ましくは最初のPD症状から5ヶ月以内)であることが好ましい。好ましくは、被験者はドーパミン作動薬治療に関する薬剤が未使用である;及び/又はPDに関する運動障害学会臨床診断基準に基づく特発性PDの臨床診断がされている。好ましくは、被験者の[123I]FP-CIT単光子放出CT(DaTscan)は、黒質線条体神経除去を確認する;及び/又は磁気共鳴画像法(MRI)は、非定型パーキンソニズムを示唆しない;及び/又は被験者がベースライン時に認知症又は他の神経障害がない;及び/又は被験者がベースライン時に代謝性、腫瘍性、又はその他の身体的又は精神的に衰弱する障害がない。
好ましくは、被験者が治療開始時に認知症又はその他の:非定型パーキンソニズム、特にPSP、MSA、皮質基底核変性症CBD);又は血管性パーキンソニズム;コンプライアンスを妨げる精神疾患;個人がコンプライアンスを守れなくなるような重度の身体疾患;治療開始時の代謝性、腫瘍性、又は他の身体的又は精神的に衰弱させる障害;及び/又は遺伝的に確認されたミトコンドリア病の神経変性障害と診断されていないか、又はこれらの疾患がない。場合によっては、被験者は治療開始前30日以内にビタミンB3補給、例えば高用量補給を行っていない。好ましい一実施形態では、PDは特発性(IPD)である。本発明の文脈では、特発性PDがある被験者は、Postuma RB,Berg D,Stern M,et al.MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease.Mov Disord 2015;30(12):1591-601(特にその中の表1を参照する;臨床診断には以下が必要である:1.絶対的除外基準の欠如;2.少なくとも2つの支持基準及び3.危険信号なし)のMDS臨床診断基準に詳述されているように、パーキンソン病のMDS臨床診断基準に従って臨床診断を受けることができる。別の好ましい実施形態では、PDは二次性パーキンソニズム又は薬物誘発パーキンソニズムである。
一実施形態では、被験者は黒質線条体変性又は神経除去がある。これは、陽性の[123I]FP-CIT単一光子放出CT(DaTscan)によって確認することができる。
【0028】
一実施形態では、被験者は治療開始時にHoehn及びYahrスコア<3がある。Hoehn及びYahrスコアはMDS-UPDRS(MDSが後援する統一パーキンソン病評価尺度の改訂版。International Parkinson and Movement Disordersociety(2008)、最終更新日2019年8月13日;https://www.movementdisorders.org/MDS-Files1/PDFs/Rating-Scales/MDS-UPDRS_English_FINAL_Updated_August2019.pdf)のHoehn及びYahr段階によって評価される。したがって、Hoehn及びYahr段階は0:無症候性、1:片側性のみの関与、2:平衡障害のない両側性関与、3:軽度から中等度の関与、いくつかの姿勢不安定性があるが、身体的には独立している;プルテストから回復するために支援が必要である、4:重度の障害;まだ介助なしで歩いたり立ったりすることができる、5:介助なしでは車椅子生活又は寝たきりである、である。好ましくは、対象者は治療開始前少なくとも1か月間、調整が必要ない最適な対症療法を受けている。
【0029】
一実施形態では、治療は対象者の脳NADレベルの増加を含む。NADは細胞代謝における中心酸化還元補酵素であり、呼吸鎖に対するエネルギー等価物の重要な供給源である。サーチュインとして知られる脱アセチル化酵素の活性を調節することにより、NADはヒストンアセチル化及びその延長として遺伝子発現を含むいくつかの基本的な細胞事象を調節する。ヒト細胞におけるNADのシグナル伝達ターンオーバーは著しく高く、細胞内NADプール全体が少なくとも1日1回更新される。この迅速なターンオーバーは、発明者らの知見がPD脳で起こることを示唆しているように、NAD合成の低下が、ATP欠損、遺伝子発現の変化、神経機能及び生存の低下を含む神経代謝に重大かつ即時の影響を及ぼす可能性があることを意味する。本発明者らは、脳/神経NADの増加が、PDにおけるミトコンドリア機能を改善し、サーチュイン活性及びヒストンアセチル化状態を回復し、神経機能障害及び死亡を救済することができると考えている。驚くべきことに、本発明による使用のためのニコチンアミドリボシドは、血液脳関門を通過することができ、脳NADレベルを効果的に増加させることができる。
【0030】
本発明によるニコチンアミドリボシドによるNAD補充療法を臨床試験で研究した。脳NADのインビボレベルはリン磁気共鳴スペクトロスコピー31P-MRS取得(31P-MRS)を用いて測定できる。本研究は優れたコンプライアンス、忍容性及び毒性又は有害副作用の徴候を示さなかった。驚くべきことに、脳の31P-MRSは、プラセボ群と比較してNR群でNADレベルの非常に有意な増加を示した(図2)。これらの結果は、NRがPDにおける安全で忍容性の高い治療法であり、疾患の標的臓器である脳における実質的なNAD補給につながることを示唆する。被験者の脳NADレベルの増加は、治療群とプラセボ群の間の平均NAD/α-ATPモル比、例えば31P-MRSで測定した場合の差として定義できる。後頭皮質における;及び/又は少なくとも30日間以上。好ましくは、0.01から0.03、より好ましくは0.01、0.02又は0.03以上の増加が起こる。さらに好ましくは、31P-MRSで測定したNAD/α-ATPモル比が0.03以上、より好ましくは0.07以上増加し、さらに好ましくは、30日間にわたって被験者の後頭皮質で増加する。あるいは、ベースラインレベルに対するNAD/α-ATPモル比の増加を考慮すると、この相対的変化はベースラインレベルの10%を超えることが好ましい。
【0031】
一実施形態では、治療対象は、ニコチンアミドリボシド投与時に31P-MRSによって測定される脳NAD応答に基づいてサブグループに分類することができる。脳NADレベルの増加を示す被験者(例:ニコチンアミドリボシド投与4週間後)は「MRS応答者」といい、脳NADレベルの増加を示さない被験者は「MRS非応答者」という。MRS応答者サブグループに属する被験者は、ニコチンアミドリボシドの投与によりNADレベルの増加だけでなく、PDの特に有意な臨床的改善を示す可能性がある。被験者の脳NADレベルの増加がベースラインからニコチンアミドリボシド投与の4週間までに10%を超える場合、臨床的改善はさらに促進されうる。
例えば、4週間にわたる脳NADレベルの変化を測定することにより、好ましい患者サブグループを特定することが可能である。このサブグループは、例えばMDS-UPDRSの変化のような症状効果に関して、治療から特に利益を得られうる。
【0032】
一実施形態では、治療は、実施例2に記載されているように、神経画像測定(FDG-PET、31P-MRS)に基づいて、PD患者の神経代謝プロファイルに影響を与える。
一実施形態では、治療は、治療前のベースラインと比較して、PBMCにおける平均総NADレベルを増加させる。好ましくは、27~33日、好ましくは30日以内のPBMCにおける平均総NADレベルは、治療前のベースラインと比較して増加させる。本明細書中で使用される平均総NADレベルは、患者/被験者のグループ内のグループ平均を参照することが好ましく、例えば、HPLC/MSのようなメタボロミクス手法及び/又は31P-MRSのような分光学的手法によって測定することができる。一実施形態では、この治療は、実施例2に記載されるように、MDS-UPDRSを用いて測定される臨床症状を改善し、及び/又はPD患者の末梢組織におけるNADメタボロームを増強する。これらの効果は、ニコチンアミドリボシド投与の4週間後に脳NADレベルの増加を示す被験者で観察されることが好ましい。
一実施形態では、治療は、FDG-PETによって測定されるように、尾状突起及び被殻における両側性の代謝減少を含み、隣接する淡蒼球及び視床に及ぶ。好ましくは、これらの変化は、楔前部(BA 7)、内側前頭皮質(BA 9、10)、前部帯状回領域(BA 24、32)、及び後部帯状回(BA 31)を含む半球の内側壁に沿った局所的な皮質減少とも関連する。
【0033】
一実施形態では、治療は、実施例2に記載されるように、決定されたNRRP被験者スコアの増加を含む。これは、UPDRSモータ定格を改善する効果があることができる。
一実施形態では、治療は、例えば、実施例2に記載され、図10及び図11に示されるように、好ましくは骨格筋及びPBMCにおけるメタボローム分析によって、PD患者の末梢組織におけるNADメタボロームを増強することを含む。
一実施形態では、治療は、例えば、実施例2に記載されるように、PBMC及び筋組織におけるアウトRNA-seq分析により測定され、ミトコンドリア、抗酸化及びプロテオスタティックプロセスの発現を誘導する。これは、リボソーム、プロテアソーム、リソソーム及びミトコンドリア機能(酸化的リン酸化)を含む複数の生物学的プロセスのアップレギュレーションの効果がありうる。
【0034】
動物モデルに基づいて、26S/20S機能の遺伝的又は環境的低下がある患者又は個人における長期NR治療には有害作用がありうるという仮説が立てられているが、これは本発明の治療には適用されない。現在、ヒトにおいてPDを引き起こす確立された単一遺伝子変異又はプロテアソームを直接破壊する環境因子は知られていない。例えば、実施例2及び4の研究からの現在の証拠では、NRがPD患者のDA代謝に悪影響を及ぼす可能性があるという仮説を支持していない。また、いかなる実施形態でも、治療対象は、プロテアソーム26S/20S機能に影響を及ぼすことが知られている遺伝的条件又は環境リスクがない。
一実施形態では、治療は、血清及びCSF中のいくつかの炎症性サイトカインのレベルを低下させることを含む。
【0035】
一実施形態では、総スコアパートI、II、III及びIV、又は統一パーキンソン病評価尺度(MDS-UPDRS;上記を参照のこと)の運動障害学会改訂によるパートI、II及びIIIの総スコアが改善される。MDS-UPDRSは、パートI(日常生活の非運動経験)、パートII(日常生活の運動経験)、パートIII(運動検査)及びパートIV(運動合併症)の4つのパートから構成される。好ましくは、改善は、治療前のベースラインと比較した治療後の総スコアの平均差の改善である。好ましくは、パートI、-IVによるMDS-UPDRS総スコアの改善;又はパートI~IIIによるMDS-UPDRS総スコアの改善;又は個々のパートのいずれかが少なくとも1ポイント、より好ましくは2ポイントである。
一実施形態では、治療前のベースラインと比較して、fMRI測定におけるデフォルト再表示状態ネットワークの差が観察される。
【0036】
一実施形態では、上記実施形態のいずれか又はそれらの組合せの方法で用いるためのニコチンアミドリボシドが提供され、その方法は、a)運動、非運動及び/又は認知症状を改善するためのもの;b)運動、非運動及び/又は認知症状を予防する;c)MDS-UPDRSのパートI、II、III又はIVで測定されるスコアを改善する;d)MDS-UPDRSのパートI、II、III及びIVで測定される合計スコアを改善する;e)非運動症状質問票(NMSQ)、パーキンソン病非運動症状尺度(NMSS)、Hoehn及びYahrスケール、MoCA及び/又はEQ-5Lで測定されるスコアを改善する;f)黒質線条体変性又は神経除去を遅らせる、及び/又はDaTscanで測定されるドーパミン輸送体密度を改善する;g)MRI容積測定で測定される脳萎縮(全体的又は局所的)を遅らせる;h)MRIで皮質厚により測定される皮質萎縮を低下させる;i)患者生物試料及び脳(31)P-MRSでマルチオミクスにより測定されるNAD代謝及び/又はミトコンドリア機能を補正する;j)患者生物試料でマルチオミクスにより測定される異常なヒストンアセチル化及び遺伝子発現プロファイルを補正する;k)fMRIにより測定される脳の時空間機能的及び/又は構造的結合性を改善する;l)患者血清中のニューロフィラメント軽鎖により測定されるニューロン喪失の進行を遅らせる;及び/又はm)MDS非運動評価尺度(MDS-NMS)によるスコアの改善する;である。
【0037】
好ましくは、改善又は予防された運動症状、非運動症状及び/又は認知症状は、以下のMDS-UPDRSによる症状/基準の1つ以上である:
第一編 -認知障害;幻覚や精神病;抑うつ気分;不安な気分;無気力;ドーパミン調節不全症候群(DDS)の特徴;睡眠障害;日中の眠気;痛みやその他の感覚;排尿障害;便秘障害;立ちくらみ;疲労;
第二編 -スピーチ;唾液とよだれ;咀嚼と嚥下;食べる作業;ドレッシング;衛生;手書き;趣味やその他の活動をすること;寝返りを打つこと;振戦;ベッドから出ること;歩行とバランス;凍結;患者は薬を服用しているか;患者の臨床状態(OFF:メディエーションを受けているにもかかわらず反応が不良な場合の典型的な機能状態、又はパーキンソニズムの治療を受けていない場合の典型的な機能反応;ON:患者が薬物療法を受けていて反応が良好な場合の典型的な機能状態);患者はレボドパを服用しているか;服用している場合は、前回の服用から何分経過したか;
第三編 -スピーチ;顔の表情;硬直-首;硬直-RUE;硬直-LUE;硬直-RLE;硬直-LLE;フィンガータッピング-右手;フィンガータッピング-左手;手の動き-右手;手の動き-左手;回内-回外運動-右手;回内-回外運動-左手;つま先たたき-右足;つま先たたき-左足;脚の俊敏性-右足;脚の俊敏性-左足;椅子から生じる;歩行;歩行の凍結;姿勢安定性;姿勢;運動の全体的自発性;姿勢振戦-右手;姿勢振戦-左手;運動性振戦-右手;運動性振戦-左手;安静時振戦振幅-RUE;安静時振戦振幅-LUE;安静時振戦振幅-RLE;安静時振戦振幅-LLE;安静時振戦振幅-唇/顎;安静時振戦の恒常性;ジスキネジアがあったか?;これらの動きは視聴率の妨げになったのか?;ヘーンとヤール段階;
第四編 -ジスキネジアに費やした時間;ジスキネジアの機能的影響;OFF状態で過ごす時間;変動の機能的影響;運動変動の複雑さ;痛みを伴うOFF状態のジストニア。
好ましくは、改善又は予防された運動症状は、MDS-UPDRSのパートII、III及びIVに従った症状/基準のより多くに従った症状/基準の1つ又は複数である。好ましくは、非運動症状及び/又は認知症状は、パートI MDS-UPDRSに従った症状/基準の1つ又は複数である。
【0038】
好ましくは、改善又は予防された非運動症状は、非運動症状質問票(NMSQ:PD NMS QUESTIONNAIRE、International PD Non Motorgroup(2006),International Parkinson and Movement Disordersociety、https://www.movementdisorders.org/MDS-Files1/Education/Rating-Scales/NMSQ.pdf)に従った以下の症状/基準:日中の唾液の滴下;味覚又は嗅覚の喪失又は変化;飲食物の嚥下困難又はむせの問題;嘔吐又は気分の悪さ(吐き気);便秘(排便が週3回未満)又は便(便)を出すためにいきまなければならない;腸(便)失禁;トイレに行っても残便感がある;尿意切迫感でトイレに駆け込む;夜中に定期的に起きて排尿する;原因不明の痛み(関節炎などの既知の病気によるものではない);原因不明の体重の変化(食事の変化によるものではない);最近起こったことを覚えていられない、又は物事を忘れてしまう;対象の周りで起こっていることや物事に対する興味の喪失;対象が知っていることや言われていないことを見たり聞いたりする;集中力や集中力の持続が困難;悲しくなったり、気分が落ち込んだり、ブルーになったりする;不安、恐怖、パニックを感じる;性への関心が薄れる、又は性への関心が高まる;セックスをしようとすると難しいと感じる;頭がふらつく、めまいがする、立ちくらみがする;座ったり横になったりして;落ちる;仕事、運転、食事などの活動中に起きていることが難しいと感じる;夜に眠りにつくことや夜に眠り続けることが難しい;強く鮮明な夢又は恐ろしい夢;対象が夢の中で「行動」しているかのように、寝ている間に話したり動き回ったりすること;夜の足の不快な感覚や;休んでいる間に、動かないといけないような感覚が;被験者の足のむくみ;大量発汗;複視;他の人が真実ではないと言っていることが対象に起こっていると信じること)の1つ又は複数である。
【0039】
好ましくは、改善又は予防された非運動症状は、パーキンソン病の非運動症状スケール(NMSS:International Parkinson’s Disease Non-Motorgroup(2007)が開発したパーキンソン病の非運動症状評価スケール)に従った症状/基準の一つ以上である。International Parkinson and Movement Disordersociety(https://www.movementdisorders.org/MDS-Files1/PDFs/Rating-Scales/NMSS.pdf)とは:
領域1:転倒を含む心血管-ふらつき、めまい、座位又は横位からの立位の筋力低下;失神又は失神による転倒;
領域2:睡眠/疲労-日中の活動中に意図せず居眠りをしたり眠ってしまう;疲労(疲労)又はエネルギー不足(遅さではない)が患者の日中の活動を制限する;入眠又は睡眠を維持することが困難である;脚を動かしたいという衝動又は脚の落ち着きのなさで、彼/彼女が不活発に座っているか横になっているときに、動きによって改善する;領域3:気分/認知-彼/彼女の周囲への興味の喪失;何かをすることへの興味の喪失又は新しい活動を始める意欲の欠如;明らかな理由もなく緊張する、心配する、又は恐れる;悲しんでいる、落ち込んでいるように見える、又は彼/彼女が当該感情を報告したことがある;通常の「ハイ」と「ロー」のない平坦な気分があるさま;彼らの通常の活動から喜びを経験することが困難である、又は彼らが喜びを欠いていると報告する;
領域4:知覚の問題/幻覚-被験者は、彼/彼女がそこにないものを見ていることを示す;彼/彼女が真実ではないと知っている信念を持っている被験者;複視(2つの別々の本物の物体とぼやけた視覚ではない);
領域5:注意/記憶-活動中の集中力の維持に問題がある;少し前に言われたことやここ数日の出来事を忘れる;物事を忘れる;
領域6:消化管-日中に唾液を滴らせる;飲み込むのが困難であるさま;便秘(排便が週3回未満)に苦しむさま;
領域7:排尿-尿を我慢するのが難しい(緊急性);最後の排尿から2時間以内に排尿しなければならない(頻度);排尿のために夜定期的に起きなければならない(夜間頻尿);
領域8:性機能-性への関心の変化;(大幅な増減、下線を引いてください);セックスに問題がある;
領域9:その他-他の既知の状態では説明できない痛みに苦しむ;味や匂いを感じる能力の変化を報告する;最近の体重の変化を報告する(ダイエットとは関係ない);過度の発汗(暑い気候とは関係ない)。
【0040】
Hoehn及びYahrスケールのスコア改善は、MDS-UPDRSに示されているHoehn及びYahr段階、すなわち、0:無症候性、1:片側性のみ、2:平衡障害のない両側性、3:軽度から中等度、いくつかの姿勢不安定性があるが、身体的には独立している;プルテストから回復するために支援が必要である、4:重度の障害;まだ介助なしで歩いたり立ったりすることができる、5:介助なしでは車椅子生活又は寝たきりである;の関与により評価するのが望ましい。
【0041】
より好ましくは、改善又は予防された非運動症状がMDS非運動性評価尺度(MDS-NMS,.Ray Chaudhuri,Anetteschrag、Daniel Weintraub,Alexandra Rizos,Carmen Rodriguez-Blazquez,Eugenia Mamikonyan and Pablo Martinez-Martin(2019):The International Parkinson and Movement Disordersociety-Non-Motor Ratingscale,https://www.movementdisorders.org/MDS-Files1/PDFs/Rating-Scales/MDS-NMS_FINAL.pdf accessed on June 22,2021、参照によりその全体が本明細書に援用される)による症状/基準の1つ以上である。さらに好ましくは、非運動症状の改善又は予防は、MDS-NMS非運動変動総スコアの改善又は悪化の予防をいう。
【0042】
好ましくは、認知症状は、モントリオール認知評価(MoCA;Z.Nasreddine MD Version November 7,2004,https://www.parkinsons.va.gov/resources/MOCA-Test-English.pdf accessed on June 22,2021、参照によりその全体が本明細書に援用される)による症状/基準の1つ以上である。
【0043】
好ましくは、EQ-5D-5L質問票に従って評価された被験者の生活の質が改善される。EQ-5D-5Lは、Herdman M,Gudex C,Lloyd A,et al.Qual Life Res.2011;20(10):1727-1736によって記述されているように、EQ-5Dの五段階バージョンである。Sample UK English EQ-5D-5Lを用いることが好ましい(2021年6月22日にアクセスされたhttps://euroqol.org/eq-5d-instruments/sample-demo/、:https://euroqol.org/wp-content/uploads/2020/09/Sample_UK-English-EQ-5D-5L-Paper-Self-Complete-v1.2-ID-24700.pdf,は、参照によりその全体が本明細書に援用される)。
【0044】
ゲノムワイド異常なヒストンハイパーアセチル化に変化した転写調節がPD患者の脳で起こる。被験者の異常なヒストンアセチル化は、PDに罹患していない対照被験者と比較して、ヒストンH2B、H3及びH4、より好ましくはH3K27ハイパーアセチル化(H3K27ac)上の複数部位のアセチル化の増加によって特徴づけられる。好ましくは、異常な遺伝子発現プロファイルは、PDに罹患していない対照被験者と比較して、脳におけるSIRT1及びSIRT3タンパク質のレベルの増加によって特徴づけられる。理論に縛られることを望まずに、NRはヒストンアセチル化を調節することによって、PDにおけるエピゲノム調節不全を緩和する可能性がある。神経NADレベルの増加は、サーチュインファミリーのNAD依存性ヒストンデアセチラーゼの活性を高め、PDにおけるヒストンハイパーアセチル化を改善する可能性がある。
【0045】
一実施形態では、この治療は、PD認知症(PDD)及び/又はレビー小体型認知症(DLB)に対する神経保護的疾患修飾療法として作用する。PDD及びDLBは、皮質及び皮質下領域の両方における広範な神経細胞死を特徴とする。神経細胞の喪失は、患者が診断されてから数年にわたって発生し、進行する。したがって、NR介入が可能な限り早期に開始されれば、かなりの神経プールが救済される可能性がある。今回の知見に基づいて、NRがPDD及びDLBの神経保護的疾患修飾療法として適しているという十分な技術的根拠がある。今回の研究結果及びNR媒介神経保護の前臨床証拠に基づき、理論に縛られることを望まずに、NRは、ミトコンドリア呼吸機能障害、フリーラジカル損傷、異常リソソーム及び/又はプロテアソーム機能、神経炎症、a-シヌクレイン、タウ、TDP-43及びβ-アミロイドのような病理学的タンパク質凝集を含むがそれに限定されない、細胞ストレスに直面した際の神経回復力を増加させる可能性があると考えられる。神経回復力の増加、ひいては生存により、NRは神経保護作用を発揮し、ニューロンの死を遅延及び/又は防止する。一実施形態では、被験者は治療開始時に35歳以上である;好ましくは65歳以上、より好ましくは35歳以上85歳未満、より好ましくは40歳以上80歳未満、より好ましくは55歳以上75歳未満、より好ましくは60歳以上75歳未満、最も好ましくは65歳以上75歳未満である。
【0046】
一実施形態では、治療は神経膠腫及び/又は他の脳新生物の罹患率の増加と関連しない。好ましくは、治療期間中、患者は神経膠腫及び/又は他の脳新生物を発症しない。
【0047】
一実施形態では、NR投与の好ましい経路は経口である。あるいは又はさらに、ニコチンアミドリボシドを他の適当な経路により投与することができる。
一実施形態では、ニコチンアミドリボシドは、200から2000又は500から2000、好ましくは800から1200mg/日、より好ましくは1000mg/日の総投与量で被験者に投与される。このような総投与量は、ヒト集団で用いるために承認された範囲内である。NRの忍容性は良好であり、成人では1日2000mgまでの用量で毒性の証拠はない。
一実施形態では、ニコチンアミドリボシドは、1日2000mg以上3000mgまで、好ましくは1日3000mgの用量で被験者に投与される。理論に縛られることを望まずに、1日3000mgまでの用量のNAD前駆体NRの経口投与は、生化学的及び生理学的に測定されるような中等度又は重度の副作用を引き起こす可能性は低いと考える(例えば、4週間の短期投与の場合)。また、治療された個人に重大な忍容性の問題が生じる可能性は低いと考える。
一実施形態では、ニコチンアミドリボシドは、一日当たり、200から3000、好ましくは500から3000mg、より好ましくは800から3000mg、さらに好ましくは1000から3000mg、最も好ましくは1000又は3000mgの総投与量で被験者に投与される。
一実施形態では、ニコチンアミドリボシドは、一日当たり、200から3000mg、好ましくは500から3000mg、より好ましくは1200から3000mg、さらに好ましくは1000から3000mg、最も好ましくは1000又は3000mgの総投与量で被験者に投与される。
好ましくは、ニコチンアミドリボシドは、一日当たり、400から800mg、好ましくは500mg、より好ましくは2×250mgの用量で被験者に投与される。より好ましくは、ニコチンアミドリボシドは、1日を通して安定したバイオアベイラビリティ用量を確保するために、一日2回、例えば、一日2回500mg、又は、一日2回2×250mg投与することができる。あるいは、ニコチンアミドリボシドは、一日当たり、1000mg超及び1500mgまでの用量で一日2回、好ましくは一日2回1500mg、より好ましくは一日2回6×250mg被験者に投与される。
本発明の文脈では、「ニコチンアミドリボシド」又は「ニコチンアミドリボシド活性成分」は、一般に、いかなる適当な対イオンがある塩形態で存在するそのカチオン形態、すなわちC11155+をいう。好ましくは、又は別段の指定がない限り、質量は、塩化ニコチンアミドリボシド、すなわちC1115Cl(M=290.7g/mol)として表される。塩化物以外の対イオンXが存在する場合は、C1115XとC1115Clのモル質量比に基づいて各々のNR質量を再計算する。
【0048】
一実施形態では、ニコチンアミドリボシドは、ドーパミン作動薬及び/又はMAO-B阻害剤と併用投与される。好ましくは、MAO-B阻害剤はセレギリンを含むか、又はセレギリンである。好ましくは、ドーパミン作動薬は、レボドパを含むか、エンタカポン又はトルカポンのようなCOMT阻害剤の添加の有無にかかわらず、又はレボドパとカルビドパ又はベンセラジドのようなデカルボキシラーゼ阻害剤と併用される。あるいは又はさらに、ドーパミン作動薬は、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、ブロモクリプチン又はペルゴリドのようなドーパミン作動薬であり得る。本実施形態の好ましい態様の一つでは、8~12mg、好ましくは10mgのセレギリンを1日当たり被験者に投与する;150~800mg、好ましくは300~450mgのレボドパ、及び37.5~200mg、好ましくは75~112.5mgのカルビドパを1日当たり被験者に投与する;より好ましくは、セレギリン10mgを1日1回被験者に投与する;及びレボドパ100mg及びカルビドパ25mgを1日3回被験者に投与する。
【0049】
ドーパミン作動薬の治療効果には、運動症状の改善(症候性)が含まれる。
MAO-B阻害薬の治療効果には、軽度の運動症状の改善+非常に軽度の神経保護作用が含まれる。MAO-B阻害薬は、疾患の進行を最小限に遅らせることができることが示されている。
ドーパミン作動薬とMAO-B阻害薬の併用に関連する治療効果には、運動症状のコントロール+疾患進行に対する非常に軽度の効果が含まれる。
理論に縛られることを望まずに、NRは単独でも、ドーパミン作動薬及び/又はMAO-B阻害剤との併用でも、ヒトにおいて治療効果を発揮すると信じられている。
NR単独では、神経保護を達成し、疾患進行を遅らせると信じられている。しかし、ドーパミン作動薬+MAO-Bを患者に投与せずにPDにおける新規薬剤の試験を行うことは非倫理的であるため、これらの薬剤は臨床試験で追加投与されなければならない。
NRは、患者に適当な運動症状コントロールを提供するために、ドーパミン作動薬療法と併用することができる。すなわち、NRは疾患を遅延/改善する。ドーパミン作動薬療法は、既存の症状をコントロールする。すなわち、NRは疾患進行を遅延/停止させ、さらには症状を改善すると考えられているが、ドーパミン作動薬は運動症状のコントロールを提供することによって利益を追加する。一方、患者が症状発現前又は運動前の段階で開始し、NRがさらに進行を停止させる場合、ドーパミン作動薬による治療は必要ない可能性がある。
NRはMAO-B阻害薬と併用して、患者に複合的な利益、すなわち疾患進行をさらに遅らせることができる可能性がある。
繰り返しになるが、理論に縛られることを望まず、NR+ドーパミン作動薬+MAO-Bの併用は、(a)NRによる神経保護及び疾患進行に対する実質的な効果の提供、(b)MAO-Bの軽度ではあるが確実な効果によるこの効果の増強、及び(c)ドーパミン作動薬による運動症状の制御の観点から、特に有利であると考えられている。
【0050】
一実施形態では、治療期間は、少なくとも1、2、6又は12ヶ月、好ましくは52週間である。治療の最大期間は特に制限されず、患者の残存寿命全体であり得る。
一実施形態では、ニコチンアミドリボシドは、単独療法として、又はドーパミン作動薬+MAO-B阻害剤と併用投与される。一実施形態では、ニコチンアミドリボシドは、薬学的に許容される塩、溶媒和物及び/又はそれらの水和物として投与される。
【0051】
本発明の文脈では、用語「薬学的に許容される」とは、医薬及びヘルスケアでの使用が許容される化合物、成分又はイオンをいう。医薬に用いるのに適した塩、水和物及び溶媒和物は、対イオン又は関連溶媒が薬学的に許容される。しかしながら、非薬学的に許容される対イオン又は関連溶媒がある塩、水和物及び溶媒和物は、例えば、他の化合物及びその薬学的に許容される塩、水和物及び溶媒和物の調製における中間体として用いるために、本発明の範囲内にある。本発明による適当な塩としては、有機酸及び無機酸又は塩基のいずれかで形成されたものがあげられる。
好ましくは、塩は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、ギ酸塩、酢酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、酪酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、カルバミン酸塩、ギ酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、臭化メチル、硫酸メチル、硝酸塩、リン酸塩、プロピオン酸塩、二リン酸塩、コハク酸塩、スルホン酸塩、酒石酸水素塩、リンゴ酸水素塩、トリフルオロ酢酸塩、トリブロモメタンスルホン酸塩、トリクロロメタンスルホン酸塩、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩から選択される。好ましくは、塩はハロゲン化物である。より好ましくは、塩は塩化物である。あるいは、塩は酒石酸又はリンゴ酸の酸性NR+塩、例えば酒石酸NR D-水素塩、酒石酸NR L-水素塩、酒石酸NR L-水素塩、酒石酸NR D-水素塩であってもよい。
最も好ましくは、ニコチンアミドリボシドは、塩化ニコチンアミドリボシドである。
【0052】
医薬組成物
本発明は、第2の態様において、上記実施形態のいずれかで定義されるニコチンアミドリボシドを含む医薬組成物に関する。この組成物は、上記実施形態のいずれか又はその組み合わせによる治療方法で用いることができる。
本発明の文脈では、用語「医薬組成物」は、治療上有効な量のクレーム化合物を含む製品、ならびにクレームされた化合物の組み合わせから直接的又は間接的に生じるあらゆる製品を包含することを意図する。ニコチンアミドリボシドは、賦形剤とともに又は賦形剤なしで組み込まれ、カプセル、錠剤、粉末、顆粒、サシェ、トローチ、錠剤、ウエハー、ゲルキャップ、エリキシル、懸濁液、シロップ、滴、スプレー、吸入器、座薬、溶液、注射液、クリーム、軟膏、ローション、ゲル、パッチ、デポ剤などの形態で用いられてよい。
【0053】
好ましくは、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。本発明の文脈では、用語「賦形剤」は、担体、結合剤、崩壊剤及び/又は懸濁液、エリキシル剤及び溶液のような液体経口製剤のための、例えば、ガレン製剤のためのさらなる適当な添加剤及び/又は粉末、カプセル、ゲルキャップ及び錠剤のような固形経口製剤を意味する。混合物に添加することができる担体は、適当な懸濁剤、潤滑剤、香料、甘味料、防腐剤、コーティング剤、造粒剤、染料及び着色剤を含むが、これらに限定されない、必要な不活性な医薬賦形剤を含む。
好ましくは、賦形剤は、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びステアリン酸マグネシウムの1つ以上、より好ましくは各々を含む。
好ましくは、医薬組成物は、塩化ニコチンアミドリボシド、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを含むか、好ましくはからなる。
好ましくは、医薬組成物は、ニコチンアミドリボシドを約0.001%~100%質量、より好ましくは約0.01%~約50%質量、より好ましくは0.1%~約10%質量で含む。
好ましくは、ニコチンアミドリボシドは共に投与されず、医薬組成物及び剤形は、エピガロカテキンガラート(EGCG);ギンセノシドRg3又はその薬学的に許容される塩;アセチルL-カルニチンHCL;R-αリポ酸;ロディオラ・ロゼ;古代泥炭とリンゴ抽出物;デノシネトリリン酸二ナトリウム;プテロスチルベン;ウロリチン;プテロスチルベン;N-アセチルシステイン、酒石酸L-カルニチン、セリン;PARP阻害剤;とミトコンドリアのアンカプラー;の1つ以上、より好ましくはいずれも含まない。
一実施形態では、組成物は、単独活性成分として、又はドーパミン作動薬及びMAO-B阻害剤の1つ以上と併用する単独活性成分として、ニコチンアミドリボシドを含む。
【0054】
剤形
本発明は、第3の態様において、ニコチンアミドリボシドを含む剤形、又は上記実施形態のいずれか1つ又はそれらの組み合わせで定義される医薬組成物に関する。そして、上記で定義される治療方法のいずれか1つ又はそれらの組み合わせで用いることができる。
剤形は、好ましくは経口剤形である。
剤形は、好ましくはカプセルである。あるいは、錠剤、頬錠、錠剤、粉末、顆粒、サシェ、トローチ、トローチ、ウエハー、ゲルキャップ、懸濁液、シロップ、エリキシル、滴、スプレー、ゲル、パッチ及びデポ剤のような、さらに適当な剤形を用いることができる。
好ましくは、剤形は50から2000mgを含む。より好ましくは100から1000mg;より好ましくは100,125,250,300,500から1000mg;最も好ましくは単位当たり250mgのニコチンアミドリボシド有効成分、及び/又はニコチンアミドリボシドを約0.001%から100%質量、より好ましくは約0.01%から約50%質量、より好ましくは約0.1%から約10%質量含有する。
一実施形態では、剤形は、好ましくは塩化ニコチンアミドリボシド、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びステアリン酸マグネシウムからなる経口カプセルである。
【0055】
医薬配合物
本発明は、第3の態様において、ニコチン酸アミドリボシド、ドーパミン作動薬及びMAO-B阻害剤を含む医薬配合物に関する。
MAO-B阻害剤は、好ましくはセレギリンを含むか又はセレギリンである。ドーパミン作動薬は、好ましくはカルビドパのようなデカルボキシラーゼ阻害剤、又はエンタカポン又はトルカポンのようなCOMT阻害剤の添加の有無にかかわらずベンセラジドと組み合わせたレボドパを含むか又はである。あるいは又はさらに、ドーパミン作動薬は、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、ブロモクリプチン又はペルゴリドのようなドーパミン作動薬であり得る。
上記でさらに詳細に記載されているように、ドーパミン作動薬の機能又は効果は、運動症状制御を達成することを含む。
上記で更に詳細に記載されているように、MAO-B阻害剤の機能又は効果は、軽度の神経保護効果を提供し、それによって疾患進行を遅らせることを含む。理論に縛られることを望まずに、NRをa)剤とb)サーチュイン活性化剤(特にSIRT1とSIRT3);c)メチル化等価物の補充が可能な薬剤、例えばNRと葉酸を組み合わせることにより;及び/又はd)抗酸化処理
一実施形態では、医薬配合物は、ニコチンアミドリボシド、レボドパ及びカルビドパを含む;又はニコチンアミドリボシド、レボドパ及びベンセラジドを含むものとを併用することで、NADの利用可能性を更に高めることにより、さらなる改善が期待される。
【0056】
1つの実施形態では、ニコチンアミドリボシド、ドーパミン作動薬及びMAO-B阻害剤は、同一の剤形(「固定用量配合剤」)内に同時に存在する。あるいは、各有効成分は別々の剤形で提供されるが、それにもかかわらず、それらは、例えば、共通の容器、筐体又は箱の中に、組み合わせて提供される(「セット」又は「部品のキット」)、及び/又は、上記で説明したように、個々の有効成分の好ましい用量が被験者に提供されるような方法で投与されることを意図している。あるいは、少なくとも1つの有効成分が別々の剤形で提供され、残りの2つ以上の有効成分が同じ剤形内に提供される;好ましくは、ニコチンアミドリボシド及びMAO-B阻害剤は別々の剤形として提供され得るが、併用されるドーパミン作動薬は、例えばレボドパ100mg+カルビドパ25mg/単位のような固定用量の組合せとして提供され得る;又はレボドパ100mg+ベンセラジド25mg/単位であるが、それにもかかわらず、剤形は、例えば共通の容器、筐体又は箱の中に、組合せ(「セット」又は「部品のキット」)として提供され、及び/又は上記で説明したように、個々の有効成分の好ましい用量が被験者に提供されるような方法で投与されることを意図している。
一実施形態では、医薬配合物は、各有効成分のための別個の単位剤形、及びMAO-B阻害剤、好ましくはセレギリン、より好ましくは10mg単位剤形;かつ、及びドーパミン作動薬、好ましくはレボドパ、カルビドパ及び/又はベンセラジド、より好ましくはレボドパ100mg単位剤形、カルビドパ25mg単位剤形及び/又はベンセラジド25mg単位剤形を、1日1回投与するための指示を含むことができる。
【0057】
好ましくは、医薬配合物は以下の:
(a)ニコチンアミドリボシド、好ましくは塩化ニコチンアミドリボシド、50から1200を含む剤形(s);より好ましくは100から1000;より好ましくは100,125,250,300,500又は1000mg;最も好ましくは単位当たり250mgの有効成分;
(b)MAO-B阻害剤、5から20を含む剤形(s);より好ましくは8から12;最も好ましくは単位当たり10mgのセレギリン;及び
(c)以下を含む、剤形ドーパミン作動薬
(i)単位当たり80~500mg、好ましくは100~300mg、より好ましくは100mgレボドパ;単位当たり20~130mg、好ましくは20~75mg、より好ましくは25mgカルビドパ;又は
(ii)レボドパ80~500mg、好ましくは100~300mg、より好ましくは100mg/単位;及びベンセラジド20~130mg、好ましくは20~75mg、より好ましくは25mg/単位
を含む。
【0058】
用語の略語及び定義
【0059】
【表1】
[実施例]
パーキンソン病(PD)治療におけるニコチンアミドリボシドの忍容性及び脳バイオアベイラビリティ、有効性、安全性及び特異的効果を以下に示す。
【実施例1】
【0060】
PDにおけるNRによるNAD補充療法の忍容性及び脳バイオアベイラビリティ
PD患者における塩化ニコチンアミドリボシド(Niagen(登録商標)Chromadex)の形で提供されるニコチンアミドリボシド(NR)によるNAD補充療法の忍容性及び脳バイオアベイラビリティの試験を完了した。試験では、新たに診断された薬剤未使用のPD患者30名をランダム化し、NR 500mg×2/日又はプラセボを30日間投与した。31P-MRSをベースライン時(訪問1)及び治療最終日(訪問2)に実施した。27人のスキャンは両訪問で品質管理に合格した。
図2のY軸はα-ATPで正規化したNADの測定レベルを示す。各被験者のデータをベースラインと30日間の変化を示す線で結ぶ。太字の点と線は、各グループの平均を示している。NRグループは灰色(正方形)で、プラセボは黒(ドット)で示されている。治療群は脳NADレベルの非常に有意な増加(n=13、対t検定p=0.016)を示すが、プラセボ群では差が観察されなかった(n=14、対t検定p=0.75)。
本研究により、優れたコンプライアンス、忍容性を示し、かつ、毒性や有害な副作用の徴候がないことが示された。興味深いことに、脳の31P-MRSは、プラセボ群と比較してNR群でNADレベルの非常に有意な増加を示した(図2)。これらの結果は、NRがPDにおける安全で忍容性の高い治療法であり、疾患の標的臓器である脳における実質的なNAD補給につながることを示唆する。
【実施例2】
【0061】
パーキンソン病におけるニコチンアミドリボシド補充のランダム化第I相試験
1.方法
1.1 参加者と試験計画
PDと新たに診断された患者における経口NR補充の単施設二重盲検ランダム化プラセボ対照第I相試験が実施された。適格患者は、運動障害学会臨床診断基準(Postuma RB,Berg D,Stern M,Poewe W,Olanow CW,Oertel W et al.MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease.Movement disorders:official journal of the Movement Disordersociety 2015;30:1591-601)によるPDの新規臨床診断、3以下のHoehn及びYahrスケール,病理学的123I-Ioflupaneドーパミン輸送体画像スキャン(DaTscan)による黒質線条体除神経の確認、抗パーキンソン病薬の使用歴なし、登録時に認知症、代謝性、腫瘍性、又は他の身体的又は神経学的障害の臨床的及び/又は生化学的徴候なし、磁気共鳴画像(MRI)検査による非定型パーキンソン病又は他の神経学的疾患の徴候なしであった。新規診断患者のコホートで50歳未満の患者は2人のみであり、このうちの1人の参加者は40歳未満で発症した。この早期発症のため、この患者は、PINK1及びPRKNスクリーニングを含むPD関連遺伝子の病原性変異を除外した全エクソーム配列決定及びSNPチップに基づくゲノムワイドコピー数変動分析による遺伝子検査を受けた。患者募集、包含及び追跡は、GCP認定研究者によって実施された。包含及び除外基準の完全なリストを表3に示す。30人の参加者の試料サイズを、これまで報告された脳代謝ネットワーク分析に基づいて選択した。
研究対象からのRNAseqを用いて、PD(LRRK2、SNCA、VPS35、PRKN、PINK1)の単一遺伝子型、劣性型又は優性型に関連する遺伝子の配列変異を評価した。特に、これまで報告され(Kasten、M.et al.Mov Disord 33,730-741(2018);Trinh、J.et al.Mov Disord 33、1857-1870(2018))、www.mdsgene.orgデータベースにまとめられているように、これらの遺伝子における確実かつおそらく病原性変異のデータを評価した。これらの分析は病原性変異を示さなかった。
【0062】
1.2 無作為化とマスキング
30人のPD患者を、電子症例報告書(Viedoc.com)を用いて、塩化ニコチンアミドリボシド(Niagen(登録商標)Chromadex)の形で提供される500mg NR又はプラセボに、1日2回、12時間間隔で無作為に割り付けた(ブロックサイズ6、割り当て1:1)。薬剤の容器には、独立した第三者によって順次マークが付けられた。NR(Niagen(登録商標))及びプラセボは、ChromaDex社(米国)から提供された。各NRカプセルには250mgのNRが含まれていた。プラセボのカプセルには微結晶セルロースが含まれていた。NRとプラセボを含むバイアルとカプセルは、形状、色、及び匂いが同一であった。試験薬のコンプライアンスは、返送された試験用カプセルの数を数え、自己申告により算出された。参加者、診察医、医療関係者及び研究関係者は、試験期間中盲検化された。試料サイズは、主目的に関して過去の文献を比較して決定した。
【0063】
1.3 手順
試験参加のためのスクリーニングで、候補者は身体検査、神経学的検査、脳MRI及びDaTscanを受けた。試験に参加した適格な患者は、ベースライン時(訪問1、V1)及びNR又はプラセボを4週間投与した後(訪問2、V2)に評価された。両来院時に、患者は、運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度セクションI~IV(MDS-UPDRS)による評価を含む身体診察と神経学的診察及び生物学的サンプリングをを受けた。MR-PETは来院前1週間以内と来院時2週間に実施した。全参加者は試験期間中、抗パーキンソン病薬未投与のままであった。すべての臨床評価は盲検化された運動障害の専門家によって行われた。各患者は両診察で同じ神経科医によって診察された。各手順に関する方法論的な詳細は以下の通りである。安全性は定期的な血液検査と有害事象の登録によりモニターされた。有害事象(AE)は治験責任医師によって記録され、スコア化された。重症度は、有害事象共通用語基準v5.0(CTCAE)で定義された重症度分類に従い、(1)軽度、(2)中等度、(3)重度、(4)致死的又は(5)死亡として定義された重症度分類に従ってスコア化された。治験薬とのAE関連は、(1)無関係、(2)可能性が低い、(3)可能性がある、(4)可能性がある、又は(5)確実であるとしてスコア化された。
【0064】
1.3.1. 生物学的サンプリング
生物学的試料は両訪問とも最低6時間の絶食後、訪問2では試験薬摂取後6時間以内に採取された。サンプリングには全血、血清、末梢血単核球(PBMC)、脳脊髄液(CSF)、筋生検が含まれた。腰椎穿刺は標準的な臨床手順に従って行われ、10mlのCSFが採取された。外側広筋の針生検は、Bard Magnum生検銃(BD(登録商標)、米国)と12Gx10cmの生検針を用いて行った。筋生検は直ちに剥離し、筋以外の組織(脂肪や筋膜など)を取り除き、液体窒素でスナップ凍結した。
【0065】
1.3.2. 磁気共鳴イメージング及び分光法(MRI/S)
MRI/Sは3T BiographmmR MR-PETスキャナー(シーメンス・ヘルスケア(ドイツ))で実施した。リンMRS(31P-MRS)は二重共鳴送受信1H/31Pボリュームヘッドコイル(Rapid Biomedical(ドイツ))で実施した。
31P分光データは、WALTZ4 1Hデカップリングと連続波核オーバーハウザー効果(NOE)増強(Peeters THら31P受信アレイを用いた3 Tにおけるヒト脳の3D 31P MR分光イメージング:1Hデカップリング、T1緩和時間、1H-31P核Overhauser効果及びNADの評価。生物医学におけるNMR。2019;e4169)による3D化学シフトイメージング(CSI)FIDシーケンスを用いて取得した。8×8マトリックスと公称ボクセルサイズ30×30×80mm 1024試料、読み出し長=512ms、1000Hz帯域幅、視野(FOV)=240×240×80mm、TE/TR=2.3ms/3.0s、10平均、フリップ角=90°、全取得時間14.5分のCSIグリッド。長さ10msの矩形NOEパルス、パルス間遅延1ms,前10列長及びWALTZ4デカップリング(2msパルス、180°フリップ角)を、各々31P励起前及び取得ウィンドウの前半に適用した。FOVは脳正中線を中心とし、前後交連に平行に配列した。
31Pイメージングスラブの位置決めを補助するために、次の配列パラメータがある解剖学的T1強調画像を取得した:MPRAGE 3D T1強調矢状体積、TE/TR/TI=1.96ms/1.5s/900ms,取得マトリックス=128×128×176、FOV=256×256mm、200Hz/px読み出し帯域幅、フリップ角=8度、総取得時間3.1分、;又はMPRAGE 3D T1強調矢状体積、TE/TR/TI=2.26ms/2.4s/900ms,取得マトリックス=256×256×192、FOV=256×256×192mm、200Hz/px読み出し帯域幅、フリップ角=8度、総取得時間5.6分。
【0066】
後頭領域からのスペクトルは、大部分の脳外ボクセルを除去するためにSNRの閾値化(>=3)を条件として、Gannet 3.0からのスペクトル登録実装の適応を用いて整列した。ボクセルは、一次位相補正とAMARESとのフィッティングを利用するOXSAツールボックスを用いてMatlab(登録商標) 9.5(マサチューセッツ州ナティックのMathWorks)で処理する前に平均化した。カスタム事前情報は、膜リン脂質(MP)、グリセロホスホコリン(GPC)、グリセロホスホエタノールアミン(GPE)、無機リン酸(Pi)、ホスホコリン(PC)、ホスホエタノールアミン(PE)、ならびにホスホクレアチン(PCr)ピークに関連するアデノシン三リン酸(ATP-α、-β、-γ)のα-、β-及びγ共鳴に関する文献値に基づいて作成した。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の特性に関する追加情報は、酸化及び還元NAD(NAD+及びNADH)に対する電界強度依存化学シフト差、相対振幅及び周波数分離を計算することにより、Luら(Lu M,et al.Magn Reson Med 2014;71:1959-1972)によって開発されたフレームワークに基づいて追加した。線幅はNAD、NADH及びATP-αに対して等しいように固定した。3T及び通常モード比吸収率(SAR)制限に従うために、NAD及びNADHに対するピーク分離は制限され、したがって、全NAD(NAD及びNADHを合わせた)の複合値のみが報告される。
1.3.3.陽電子放出断層撮影(PET)
PET-MRI画像は、3Tsiemens BiographmmRスキャナー、ソフトウェアバージョンVE11P-SP03で実施した。被験者にはスキャナー内に配置する前に200MBqの18Fフルオロデオキシグルコース(FDG)を投与した。31P-MRSスペクトルを取得した後、8チャンネルSiemensmmRヘッドコイルを用いて更なるMRイメージングを行い、FDG PETと同時に行った。全ての被験者において、PET取得はFDG注射の25~30分後に開始し、30分持続した。得られた発光データは、2.3×2.3×5.0mmのボクセルサイズで、Siemens HiRes Brain MRACによるSiemens HD-PETアルゴリズムを用いて再構成した。PET画像は匿名化され、344×344×127のマトリックスサイズと2.09×2.09×2.03mmの等方性ボクセルサイズのDICOMファイルとしてアーカイブされた。
FDG-PETスキャンは、Feinstein Institutes for Medical Research(米国ニューヨーク州マンハッタン)の神経科学センターに電子的に転送され、社内スキャン分析及び可視化(ScAnVP)ソフトウェア(http://feinsteinneuroscience.orgで入手可能)を用いてMATLAB(登録商標) 7.5(MathWorks、Natick、マサチューセッツ州)に実装された自動計算パイプラインを用いて分析された。画像は、最初に統計パラメトリックマッピング(SPM8)ソフトウェア(http://fil.ion.ucl.ac.uk/spm; Welcome Centre for Human Neuroimaging、London、UK)を用いて前処理された。30人の参加者のうち、一人のNR被験者のベースラインスキャンは技術的な理由で除外された。残りの被験者では、来院1と来院2で取得したFDG-PETスキャンを、各時点からの個々のスキャンと共に標準モントリオール神経研究所(MNI)解剖学的空間で空間的に正規化した平均画像を生成するために整列させた。その後、正規化画像を三次元で10mmgaussフィルタで平滑化し、信号対雑音比を増強した。
PET分析では、NR群の被験者を31P-MRSで測定した脳NAD応答に基づいて分類し、来院2で脳NADレベルが増加した被験者を「MRS応答者」、脳NADレベルが増加しなかった被験者を「MRS非応答者」とした。
NR関連代謝パターン(NRRP)を同定するために、主成分分析(PCA)(Habeck C,Krakauer JW,Ghez C,Sackeim HA,Eidelberg D,Stern Y et al.A new approach to spatial covariance modeling of functional brain imaging data:ordinal trend analysis.Neural computation 2005;17:1602-1645)の教師付き形式である序数傾向/標準変異分析(OrT/CVA)を用いて、NR群(ATPベータ;NAD合計;ATP-α;ATPガンマ;PCr(ホスホクレアチン);MP(膜リン脂質);GPC(グリセロホスホコリン);GPE(グリセロホスホエタノールアミン);Pi(無機リン酸塩);PC(ホスホコリン);PE(ホスホエタノールアミン);NAD/PCr合計;NAD/ATP-α合計)の10人のMRS応答者からの対代謝スキャンデータを分析した。
この多変量アプローチは、全又は大部分の被験者((Niethammer M,Tang CC,Vo A,Nguyen N,Spetsieris P,Dhawan V et al.Gene therapy reduces Parkinson’s disease symptoms by reorganizing functional brain connectivity.Science translational medicine 2018;10;KoJH,Feigin A,Mattis PJ,Tang CC,Ma Y,Dhawan V et al.Network modulation following sham surgery in Parkinson’s disease.The Journal of clinical investigation 2014;124:3656-3666)において、発現値(すなわち、科目スコア)が治療により増加又は減少する地域共分散パターン(すなわち代謝ネットワーク)を検出し、定量化するように設計されている。得られたOrT/CVAトポグラフィーの有意性は、ノンパラメトリック検定、すなわち、観察された序数傾向が偶然に生じなかったことを示す被験者スコアの順列検定を用いて評価した。同様に、得られたネットワークトポグラフィー上のボクセル負荷(すなわち、リージョンウェイト)の信頼性は、ブートストラップ再サンプリング手順(Mure H,Hirano S,Tang CC,Isaias IU,Antonini A,Ma Y et al.Parkinson’s disease tremor-related metabolic network:characterization,progression,and treatment effects. Neuroimage 2011;54:1244-1253;Habeck C,Stern Y.Multivariate data analysis for neuroimaging data:overview and application to Alzheimer’s disease.Cell biochemistry and biophysics 2010;58:53-67)を用いて評価した。
【0067】
本研究では、分析を上位6つのPCパターンに限定し、これらは、縦方向データにおける被験者×ボクセル分散の75%以上を占めた。これらのPCの発現値を、個々の被験者データにおける有意な単調傾向、すなわち、違反があったとしてもほとんどない(p<0.05;順列テスト、1000回反復)被験者間のパターン発現の一貫した増加(又は減少)を同定するために、単一及びすべての可能な線形組合せで入力した。得られた係数を、NR関連トポグラフィーを構築するために、対応するPCパターンに適用した。NRRPが有意であるために、ボクセル質量が低分散(逆変動係数(ICV)|z|>1.96、p<0.05;ブートストラップ再サンプリング(1,000回の反復)。地域の負荷が外れ値によって駆動されていないことを示す。)であることが必要であった。FDG-PETスキャンによって定義された集団灰白質脳マスク内で電流分析を行った。NRRP被験者スコアを標準化するために、Feinstein Institutesでスキャンした22人の健康なボランティア(11M/11F;62.9±8.6歳)の年齢を一致させたグループにおけるこのパターンの発現値を計算した。全試験参加者(NR及びプラセボ)の値を、これらのスキャンに関して標準化した(Spetsieris P,Ma Y,Peng S,Ko JH,Dhawan V,Tang CC et al.Identification of disease-related spatial covariance patterns using neuroimaging data.Journal of visualized experiments:JoVE 2013;Peng S,Ma Y,Spetsieris PG,Mattis P,Feigin A,Dhawan V et al.Characterization of disease-related covariance topographies with SSMPCA toolbox:Effects of spatial normalization and PET scanners.Wiley Online Library,2014)。
代謝ネットワーク組織に対するNR療法の効果をさらに検討するために、NRRPを、以前の研究で広く検証されている特定のPD関連代謝パターン(PDRP)と比較した(Schindlbeck KA,et al.Network imaging biomarkers:insights and clinical applications in Parkinson’s disease.The Lancet Neurology 2018;17:629-640)。PDRP発現レベル(被験者スコア)を全試験参加者で計算した。これらの値は各条件における対応するNRRP被験者スコア及びUPDRS運動評価と相関した。2群におけるこれらの測定値の変化間の相関も同様に計算した。
【0068】
1.4. RNA配列決定
両来院時の全被験者について、製造業者のプロトコルに従ってオンカラムDNase処理を施したRNeasyプラスミニキット(Qiagen)を用いて、全RNAを筋生検組織及びPBMCホモジネートから抽出した。最終溶出は45 ulのdHOで行った。総RNAの濃度と完全性は、各々リボグリーンアッセイ(Thermo Fisherscientific)とフラグメントアナライザー(Advanced Analytical)によって推定し、製造業者の推奨プロトコルに従ってSMARTerstranded Total RNA-Seq Kit v2-Pico Inputほ乳類キット(イルミナタカラバイオUSA、Inc.、Mountian View、CA)を用いて、10 ngの総RNAを下流のRNA-seq応用に用いた。ライブラリ量はPicogreen Assay(Thermo Fisherscientific)によって評価し、ライブラリ品質はキャリパーGx(Perkin Elmer)上のDNAハイセンスチップを用いて推定した。シークエンシング応用のための最終ライブラリの正確な定量はqPCRベースのKAPAバイオシステムライブラリー定量キット(カパバイオシステムズ)を用いて決定した。各ライブラリはクラスタリングの前に等モルをプールした。100 bpのペアエンドシークエンシングをIllumina NovaSeqs4シーケンサ(イルミナ)で行った。2人の被験者をPBMC試料から、2人を筋肉試料から、不十分な組織量、参加者の脱落/試料不足、又は発現異常のいずれかのために廃棄した。RNA完全性数(RIN)で測定したRNA品質は満足できるものであり(PBMC試料の平均値=7.6±1.1、範囲=3.1~9.1;平均=9.1±1.3、範囲=5~10)、来院又は治療と有意な関連はなかった(PBMC治療~RIN、p=0.47;PBMCは~RINを訪問、p=0.37;筋治療~RIN、p=0.21;筋肉訪問~RIN、p=0.99、F検定)。
FASTQファイルはfastQCバージョン0.11.9を用いて評価した。転写物レベルでの定量は、全ゲノムをおとり配列としてGENCODEバージョン35に対するフラグメントレベルGCバイアス補正を伴うSalmonバージョン1.3.0を用いて計算した。転写物レベルの定量は、tximport Rパッケージバージョン1.8.0を用いて遺伝子レベルに分解した。ミトコンドリアゲノムによってコードされる非標準染色体及び足場及び転写物中の遺伝子を、非タンパク質コード遺伝子と共にフィルタリングした。低発現遺伝子も同様に下流分析から除去した(試料の75%で10読み取り以下の発現)。PBMCと筋肉データセットを独立に分析した。PBMC試料については、ABISを用いて細胞型組成を評価した。異なる遺伝子発現は、DESeq2 Rパッケージバージョン1.22.2を用いて行った。一般化線形モデル式は、被験者間の個人間変動と実験の正常経過(各被験者のベースラインと時間経過のベースライン)の両方を説明した。多重仮説試験は、デフォルトのDESeq2の自動フィルタリングとそれに続くBenjamini-Hochberg手順による偽発見率(FDR)計算により実施した。過剰発現遺伝子と過小発現遺伝子の両方の機能的エンリッチメントを、それらのp値(変化の方向を考慮)に従って遺伝子をランク付けし、各データセットのための上方及び下方制御経路のリストを得るために、完全な遺伝子オントロジー(GO)データベース注釈があるermineJのRラッパーパッケージであるermineRパッケージバージョン1.0.1に実装された遺伝子スコアレサンプリング法を採用することにより実施した。
【0069】
1.5.メタボローム分析
筋及びPBMCメタボローム分析
【0070】
すべての標的化合物の標準物質を用いて標準溶液を調製し、これらの溶液を混合して希釈し、0.0002~20nmol/mLの濃度範囲の11の同位体標識化合物(NAD-13C5、NADH-d5、ニコチンアミドリボシド-d4、ニコチン酸-d4、ニコチン酸-d4リボシド、AMP-15N5、ATP-13C10、ニコチンアミド-d4、1-メチルニコチンアミド-d3、アデノシン-13C5及びGTP-13C10)を含む内部標準溶液中で連続希釈標準溶液を調製した。筋組織を原料2.5μL/mgの水で添加し、MM 400ミキサーミルで2回1分間均質化した。次に原料7.5μL/mgのメタノールを添加し、試料を3回1分間均質化した。試料を遠心分離前に-20℃で2時間置いた。上清20μLを内部標準溶液180μLと混合した。試料を5℃で1時間置き、21,000gで5分間遠心分離した。透明上清をLC-MS分析に用いた。PBMCのメタボロミクス分析のために、1試料の数アリコートを氷上で解凍し、遠心分離(10分、350xg、4℃)し、氷冷PBSに再懸濁し、計数II細胞カウンターで計数した。同量の10 Mio生細胞を新しいチューブに移し、遠心分離(10分、350xg、4℃)し、上清を除去し、ペレットをドライアイス上で直ちに凍結した。各PBMC試料を1 Mio細胞当たり50μLの濃度で75%メタノールにした。MM 400ミキサーミルで2回1分間細胞溶解後、試料を遠心分離した。透明上清20μLを内部標準溶液180μLと混合し、LC-MS分析に用いた。
【0071】
UPLC-MRM/MSのために、各標準溶液及び各試料溶液の10μL分を注入し、(-)イオン検出又はESIがあるSciex QTRAP 6500 Plus質量分析計に結合したWaters Acquity UPLC又は(+)イオン検出があるAgilent 6495B QQQ質量分析計に結合したAgilent 1290 UHPLCシステム上でLCMRM/MSを実行した。UPLC-(-)MRM/MSのために、逆相C18 LCカラム(2.1*100mm、1.8μm)をLC分離のために使用し、トリブチルアミン-酢酸アンモニウム緩衝液(溶媒A)及びアセトニトリル(溶媒B)を移動相として使用し、50℃及び0.25mL/分での勾配溶出を行った。UPLC-(+)MRM/MSのために、逆相C18カラム(2.1*150mm、1.8μm)をLC分離のために使用し、肝フルオロ酪酸緩衝液(溶媒A)及びメタノール(溶媒B)を移動相として使用し、50℃及び0.3mL/分での勾配溶出を行った。各試料で検出された個々の代謝物の濃度は、LC-MSランの各セットにおける標準溶液の分析物対内部標準ピーク面積比(As/Ai)で個々の代謝物の線形回帰曲線を構築し、次いで、各化合物の適当な濃度範囲の試料溶液の注入から測定されたas/Ai値で検量線を補間することにより計算した。試料調製とメタボロミクス分析を、米国、NYのCreative Proteomicsで実施した。
【0072】
CSFメタボロミクス
【0073】
CSF試料からの代謝物の抽出を以下のように行った:各試料400μlを氷冷UHPLCグレードメタノール1600μlと混合した。試料を16,000xgで20分間遠心分離する前に10秒間ボルテックスした。1800μlの透明上清を新鮮なチューブに移し、冷蔵蒸気トラップと連結したSpeedVac(Thermoscientific)中で-105℃で凍結乾燥した。残渣を50 pg/mlの濃度でスルファジメトキシンをスパイクした40μlのアセトニトリル中で再構成した。試料を16,000xgで10分間遠心分離し、澄明な上清をLC-MS分析に用いた。いくつかの関連ヌクレオチドについて回収率を試験し、ヌクレオチドに依存して93~96%と決定した。
【0074】
エレクトロスプレイイオン化(ESI)QExactive質量分析計(Thermoscientific)と組み合わせたDionex UltiMate 3000器具を用いて代謝物分析を行った。代謝物の分離はZIC-cHILCカラム(50x2.1mm、3μm、メルク)上で達成され、分析中40℃に保たれた。注入量は5μlで、流量は0.3mL/分に保たれた。移動相は10mm炭酸アンモニウムpH 8.0、3%アセトニトリル(溶媒A)と10mm炭酸アンモニウムpH 8.0、90%アセトニトリル(溶媒B)からなった。印加勾配は0.5分間85% B、0.1分間70% Bに減少、1分間70% Bで一定、4.3分間60% Bに減少した。その後、B濃度は0.1分間40%に減少し、ウォッシュアウトとして0.7分間40% Bで維持し、0.1分間85% Bに戻り、次のランの前に平衡化のため85% Bで1.2分間維持した。総ラン時間は8分であった。電子噴霧イオン化は3.5 kVの噴霧電圧で正イオン極性モードで作動した。シース流量ガス流量は48単位で、補助ガス流量は11単位、掃引ガス流量は2単位であった。質量スペクトルは、5×105の目標と300msの最大蓄積時間に設定した自動利得制御により、10 m/zの分離窓がある標的単一イオンモニタリングを用いて記録した。データ分析は、自動処理法を用いてThermo Xcaliburソフトウェア(Thermoscientific)で行った。絶対濃度は、純粋な標準を用いて外部検量線により計算した。
【0075】
1.6.NF-L、GDF15、FGF21及びサイトカイン検出
CSF及び血清試料中のニューロフィラメント軽鎖(Nf-L)測定を、製造業者の推奨に従ってSimoa NF-light Advantage(SR-X)キット(Quanterix)を用いて重複して実施し、SimoasR-X装置(Quanterix)で分析した。GDF15及びFGF21検出は、製造業者の推奨に従ってBioVendorのELISAキットGDF-15/MIC-1ヒトELISA(RD191135200R)及び線維芽細胞成長因子21ヒトELISA(RD191108200R)を用いて実施した。GDF15のCSF分析のために、CSFを希釈緩衝液で1:2に希釈した。全試料を重複して2回分析した。炎症性サイトカインスクリーニングをヒトサイトカインマグネット35plexパネル(Invitrogen)を用いて行い、FGF-Basic、IL-1β、G-CSF、IL-10、IL-13、IL-6、IL-12、RANTES、Eotaxin、IL-17A、MIP-1α、GM-CSF、MIP-1β、MCP-1、IL-15、EGF、IL-5、HGF、VEGF、IL-1α、IFN-γ、IL-17F、IFN-α、IL-9、IL-1RA、TNF-α、IL-3、IL-2、IL-7、IP-10、IL-2R、IL-22、MIG、IL-4、IL-8を検出した。CSFと血清試料をメーカーの推奨に従って分析し、BioPlex200測定器(BioRad)で測定した。
1.7. 結果
【0076】
本研究の主な目的は、神経画像測定(FDG-PET、31P-MRS)に基づいて、経口NR治療が脳NADを増加させ、PD患者の神経代謝プロファイルに影響するかどうかを決定することにより、標的関与を評価することであった。第二の目的は、NRがMDS-UPDRSを用いて測定した臨床症状を改善するかどうか、及びそれがPD患者の末梢組織におけるNADメタボロームを増加させるかどうかを決定することであった。追加の副次的評価項目には、有害事象の頻度、バイタルサインの変化及び臨床検査値が含まれた。探索的評価項目は、PBMC及び筋肉における遺伝子発現(RNA-seq)、神経損傷の血液及びCSFバイオマーカー、ミトコンドリア機能及び炎症に対するNRの効果を評価した。
【0077】
1.8.統計分析
MDS-UPDRS(I~III節の合計;及び個々のサブセクションI、II、III)における訪問変化([訪問2]~[訪問1])間を、独立Student t検定を用いてNR群とプラセボ群で比較した。加えて、NR群、MRS応答者群及びプラセボ群におけるMDS-UPDRS(全体及びサブセクション)の訪問変化間を、対Student t検定で評価した。31P-MRS分析では、訪問1と訪問2の間の測定代謝物の変化を、対Student t検定を用いてプラセボ群及びNR群で評価した。さらに、NAD/ATP-αの訪問間の変化を、独立Student t検定によってNR群とプラセボ群の間で比較した。PET分析では、治療によるネットワークスコアの変化を、対Student t検定又は順列検定を用いて各群で別々に評価した。ネットワーク値、NADレベル及びMDS-UPDRS運動評価の間、又はこれらの変数における治療関連変化の間の関係を、ピアソンの積率相関を用いて評価した。変数の非正規分布について、Spearman順位相関係数を計算した。これらの統計的検定は、SPSS(SPSS Inc.、Chicago,イリノイ州シカゴ)を用いて行った。p≦0.05(両側)で有意と考えられた。代謝物定量データNf-L;GDF15、FGF21及びサイトカインデータは、GraphPad Prism v 6.07を用いた対試料Wilcoxon試験により分析した。
2.結果
【0078】
計36例がスクリーニングされ、適格患者30例が登録され、全員が試験を完了した(図7)。NR群とプラセボ群の間に有意な人口統計学的差異はなかった(表1)。有害事象は、NR群7例、プラセボ群3例に認められ、いずれも軽微であり、NRとは無関係と考えられた(表4)。返却されたバイアル中の残存カプセル数に基づき、NR群及びプラセボ群の平均治験薬遵守率は98%と推定された。治験薬の平均服用期間はNR群で32.5日(±2.7日)、プラセボ群で32.4日(±2.53日)であった。被験者4名(NR群2名、プラセボ群2名)はいずれのカプセルも返却しなかったが、薬剤に適合していると報告した。
2.1. NRは脳のNADレベルを上昇させる
【0079】
31P-MRSにより複数のリン酸化化合物(図3A~C)の同定と定量が可能になった。ATP-αに標準化したNADレベルは、NR群で有意な増加を示したが(対t検定:p=0.016)、プラセボ群では示さなかった(図3D)。群間の直接比較は、NAD/ATP-α比における来院間変化(来院2/来院1)が、プラセボ群と比較してNR群で有意に高いことを示した(t検定:p=0.025)。他の検出された代謝物は、来院間でNR群又はプラセボ群のいずれにおいても有意な変化を示さなかった。個人レベルでは、脳NAD応答は不均一であり、10/13の患者のみが増加を示し、そのうちの9人はベースラインレベルの10%を超える変化を示した。今後、MRS応答者として脳NADレベルの増加を示した10人のNRレシピエントのサブグループを参照する。この変動性は不均一な治療効果の可能性を高めたので、下流の神経代謝及び臨床分析を層別化することを選択した。
2.2.NRは新しい治療関連代謝ネットワークを誘導する
次に、NRレシピエントのFDG PETデータを質問し、脳NADレベルの治療関連増加が有意な代謝脳ネットワークと関連するかどうかを決定した。この目的のために、脳NADレベルが治療と同時に増加したNR参加者(n=10)からのペアスキャンデータに教師ありPCAアルゴリズム(OrT/CVA)を適用した。分析は、ペアデータの分散の20.6%を占める第一主成分(PC1)で表される有意な序数傾向パターンを明らかにした。このNR関連代謝パターン(NRRP、図4A)は尾状突起及び被殻における両側性の代謝低下を特徴とし、隣接する淡蒼球及び視床にまで及んでいた(表5)。ネットワークの一部として、これらの変化は、楔前部(BA 7)、内側前頭皮質(BA 9、10)、前部帯状回領域(BA 24、32)及び後部帯状回(BA 31)を含む半球の内側壁に沿った局所的な皮質低下とも関連していた。これらの領域の信頼性は、ブートストラップ反復[ICV z=-3.83、-2.58、p<0.005;1000回の反復]によって示された。相対的な代謝増加を伴う領域は、この地形に有意には寄与しなかった。
個々の被験者レベル(図8)では、NRRP発現の有意な序数傾向が、パターン同定群の10人のNRレシピエントで観察された(p<0.018;順列テスト、1000回反復)(図4B)。黒い線は、MRS分析で陽性NAD応答がある個人を示す。灰色の線は、MRSでNAD応答を示さなかった(n=2)、又はMRSデータが利用できなかった(n=2)残りの4人を示す。MRSでNAD応答を示さなかった、又はMRSデータが利用できなかった(図4(b)、灰色線)残りの4人のNRレシピエントでは、パターン発現における類似のNR媒介性増加は見られなかったが、序数傾向はNR群全体で有意であった(p=0.027)。とはいえ、NRRP発現の一貫した変化はプラセボ群では有意ではなかった(p=0.497)。いずれの試験群においても、脳NADレベルの治療関連変化とNRRP発現の間に有意な相関は認められなかった(p>0.10)。
【0080】
NR群におけるNRRP発現の変化は、PET時に記録されたUPDRS運動評価の変化と有意に相関した(r=0.59、p=0.026)(図4C)。したがって、最大のNRRP増加は運動評価の最大の改善を伴うNR被験者で観察された。類似の相関はプラセボ群では見られなかった(p=0.79)。ある種のNRRP領域がこれまで検証されたPDRPトポグラフィー(図4D上)があるNRRP間で共有されていることに注目した。特に、尾状突起及び被殻における活性低下領域は、隣接する淡蒼球に広がり、PDRPにおける過剰活性の対応領域と重複した(図4D、底部、ホットボクセル、図9)。同様に、2つのパターンについて、前頭皮質及び頭頂皮質における低活性領域の間に空間的重複が観察された(図4D、下部、紫ボクセル、図9)。実際に、試験集団全体でベースラインPDRPとNRRP発現値の間に有意な相関が観察された(r=0.56、p=0.002;図4E)。PD集団で典型的に見られるように、ベースラインでのPDRP発現値はUPDRS運動評価と相関した(両群ともr=0.374、p=0.046;図4F)。NRによるパターン発現の変化が臨床改善と相関したNRRPとは対照的に(図4C)、PDRP変化では転帰との相関は観察されなかった(p=0.73)。
2.3.脳NADのNR誘発性増加はPDの臨床改善と関連する
MDS-UPDRSの減少傾向はMRS-responderサブグループ(平均減少1.9±2.78、対t検定:p=0.071)で見られ、脳NADレベルが>10%増加した9人のみを考慮すると、これは統計的有意に達した(平均減少2.33±2.35;対t検定:p=0.017)。この効果は主にMDS-UPDRSのサブセクションI及びIIIによって駆動されるようであった。
2.4.NR補充はPD患者の末梢組織におけるNADメタボロームを増強する
骨格筋及びPBMCにおいてメタボローム分析を行い、NR摂取を確認し、関連代謝経路における潜在的変化を検討した。筋組織において、ニコチン酸アミド(Nam)分解産物Nam N-オキシド、メチル-Nam(Me-Nam)、メチルピリドンMe-2-PY及びMe-4-PYを含むいくつかのNAD関連代謝産物、ならびにNADの酸型、NADは、すべてのNR受容体でNR処理後に強く上昇した(図5)。NAD、NADH、NMN、NAD及びMe-Namを含む他の関連代謝産物は、CSFにおける検出限界以下であった。この知見は、31P-MRSデータによって示されるように、経口NR治療が血液脳関門を越えて脳NADレベルを増加させることをさらに裏付けた。中枢神経系に対するNR治療の直接的効果は、CSFにおけるMe-2-PY増加のロバスト検出によって明らかにされる。全てのNRレシピエントはCSF Me-2-PYレベルの増加を示した。これは中枢神経系浸透が普遍的であることを示唆する。
筋組織において、Nam分解産物Nam N-オキシド、メチル-Nam(Me-Nam)、メチルピリドンMe-2-PY及びMe-4-PYを含むいくつかのNAD関連代謝産物、ならびにNADの酸型、NADはNR処理後に強く上昇した。NAD自体(酸化NAD及び還元NADHの両方)及びNAD前駆体及び中間体の定常状態レベルは、ヒトにおける以前の試験の報告と同様に、NR処理によって有意に変化しなかった(図10)。PBMCは、より広範な変化を示し、NAD及びMe-Nam(図5図11)の増加を再現した。アセチルCoA及びCoA,メチルドナーS-アデノシルメチオニン(SAM)及びその代謝産物、及びATPのようなエネルギー化合物を含む、NADメタボロームの変化によって影響を受ける可能性のある追加代謝産物を調べた。これらはPBMC又は筋肉に有意な変化を示さなかった(図10、11)。注目すべきことに、31P-MRSにおける脳NAD応答に関係なく、実質的な代謝変化がNR群全体で見られた。
これらの分析に加えて、異なるアプローチ(NADMed法)を用いて患者PBMCのNADレベルを測定した。このデータはNRでNADの増加を示したが、プラセボ群では示さなかった。この増加は、データのばらつきが大きいことと試料サイズが小さいことから、対t検定では統計的有意に達しなかった。しかし、この傾向は明らかで説得力があった。さらに、NADレベルの訪問間変化の群間比較は、プラセボと比較してNR群で有意に高い増加を示した(図16)。
2.5.NR療法はミトコンドリア、抗酸化及びタンパク質静止過程の発現を誘導する
【0081】
遺伝子発現に対するNR療法の効果を検討するために、全研究参加者のPBMC及び筋組織でRNA-seq分析を行い、プラセボ群と比較してNR群の来院間差を評価した。筋組織では、NR補充は58遺伝子の発現差と有意に関連していた(FDR<0.05)。これらには、脂肪生成低下と関連するKLF2の実質的な上方制御と、PDに関連する酸化的損傷に対する保護に重要な役割がある転写因子である核因子赤血球2関連因子2(Nrf2)の誘導が含まれていた。また、ADPリボシル化(PARP15)のようなNAD分解に関連する遺伝子と、グリシン切断系(AMT)のようなNAD依存性酸化還元過程、ミトコンドリア翻訳と呼吸複合体集合(FAR 2、TMEM242)の上方制御にも注目した。遺伝子セット濃縮分析は、プロテアソーム機能とRNA輸送と安定性を含む生物学的過程のNR誘導アップレギュレーションを明らかにした。PBMCでは、リソソーム生合成と輸送に関与するBLOC-1複合体の成分であるBLOC1S2のアップレギュレーションを含む合計13遺伝子がNR補充と有意に関連していた。機能的濃縮は、リボソマル、プロテアソマル、リソソマル及びミトコンドリア(酸化的リン酸化)経路を含む複数の生物学的過程の非常に有意なアップレギュレーションを明らかにした。NRをNMNに変換するニコチンアミドリボシドキナーゼ1をコードするNMRK1を含む既知NAD生合成をコードする遺伝子に有意な変化は見られなかった。最後に、NR処理はPBMC試料における推定細胞型比率と有意な関連を示さなかった(p>0.5、来院:治療相互作用項、線形混合モデル、ウェルシュ・サタースウェイトのt検定<0.05;図12)。
【0082】
下表に示すように、NR処理は、本研究で得られたPBMCにおける遺伝子発現差の結果について、MitoCarta v3.0に対する経路濃縮分析を要約した下の表に示すように、ミトコンドリア経路の範囲に影響する遺伝子発現変化を惹起し、主にオクスフォスに関連するが、ミトコンドリアリボソーム、RNA代謝及びoxストレス防御にも影響を及ぼした。
【表2】
【0083】
2.6.NRは炎症及びミトコンドリア機能障害のバイオマーカーを調節する
ミトコンドリア機能障害及び炎症はPDの病態生理と関連しているため、発明者らは患者の血清及びCSFにおける関連バイオマーカーにおけるNR誘発性変化の同定を試みた。発明者らはミトコンドリア機能障害と関連している成長因子FGF21及びGDF15のレベル、及び35種類の炎症性サイトカインのパネルを評価した。成長因子分析は、CSFではなく、血清中のGDF15レベルの軽度であるが有意な減少を明らかにした。FGF21は血清中では変化せず、CSFでは検出限界以下であった。NR処理は血清とCSF中のいくつかの炎症性サイトカインのレベルを低下させた(図6図13)。NR処理群の血清及び/又はCSF中のいくつかの炎症性サイトカインは血清とCSF中のいくつかの炎症性サイトカインのレベルを低下させた。特に、いくつかの血清サイトカインはプラセボ群でも有意な低下を示した。これらのサイトカインのフォールド変化を群間で比較すると、有意差はなかった。しかし、群内減少(対t検定)はなお有意であった。加えて、神経損傷を示すニューロフィラメント軽鎖(Nf-L)のレベルを評価した。これらは血清とCSFの両方でNR処理によって変化しなかった。CSFのサイトカイン減少は神経炎症に対する効果を示唆するため、依然として有意であり、関連性が高い。
2.7.考察
【0084】
PDにおける最初のNR試験の結果を提示する。本研究は、標的関与を評価するという主要な結果を充足し、経口投与NRが脳NADの増加をもたらし、PD患者の脳代謝に影響することを立証した。脳NADレベルの有意な増加は、この効果が普遍的でなくても、NR群で31P-MRSにより検出された。3人の患者は、明らかな末梢代謝反応にもかかわらず、脳NAD増加の証拠を示さず、治療コンプライアンスと血液と筋肉のNADメタボロームに対する影響を確認した。末梢効果と中枢効果の間の不一致は、脳透過性及び/又は脳におけるNRの下流代謝の個人差に起因するか、又は31P-MRSによるNAD測定の限られた感度を反映している可能性があり、この可変反応の根底にあるメカニズムに関係なく、脳NADレベルの評価は、脳の健康と疾患のためのNR補充を評価する臨床試験の重要なモニタリングパラメータである可能性があることを、発明者らの知見は示す。患者脳で達成されたNAD増加の変動は、NR療法に対する不均一な生物学的及び潜在的に臨床的反応の可能性を高める。脳NADレベルの増加は、実際に、発明者らの患者における神経代謝及び臨床的反応の両方と関連していた。
FDG-PET分析は、盲検条件下で、プラセボではなくNRを受けたPD試験参加者に誘導された新しいネットワークトポグラフィーであるNRRPを同定した。その特徴的な序数傾向とは別に、NRによるパターン発現の変化はMDS-UPDRS評価の低下により測定した臨床改善と相関した。NRRPは主に基底核と新皮質領域におけるグルコース取り込みの低下からなっていた。これはより効率的な生体エネルギー状態を反映し、必要なATP産生を維持するためのグルコース消費がより少なくてよい。NADレベルの増加は脂肪酸β酸化を促進し、それにより解糖とは無関係に呼吸鎖への還元等価物(すなわち、NADH、FADH2)の供給を増加させる。NRRPの組織はシステムレベルでは不明のままであるが、ネットワークはPDRPと多くのトポグラフィー加算を共有し、PD治療におけるNRの潜在的役割を支持する。後部被殻と淡蒼球における代謝活性PDRP領域とNRRPにおける治療関連代謝減少領域との間の重複は特に重要である。PDRP組織の最近のグラフ理論研究において、これらの領域が重複ネットワーク活性を駆動する離散コアゾーンを構成することを見出した。コアノードの代謝減少は、レボドパ投与や視床下深部脳刺激などの症候性PD治療で観察されている。NRによる同様の変化の存在は、これらの領域もこの治療によって調節される可能性を示唆する。いずれにしても、NR群の臨床転帰はPDRP活性の調節よりもNRRPの誘導に関連しており、視床下遺伝子療法と同様の状況である。
PBMCと筋肉のメタボローム分析では、治療群でNR摂取が確認され、プラセボ群ではこれが除外された。特に、NAD及びMe-NamのようなNR媒介NAD生合成の確立されたマーカーの非常に有意な増加が、NR群のすべての患者で見られたNADメタボロームの増加したフラックスは、発明者らの患者のPBMCと筋肉の両方で検出され、NR群でより高いNAD利用可能性が示された。
【0085】
NADメタボロームに加えて、NAD代謝及びシグナル伝達に機能的に関連し、NR治療によって影響を受ける可能性のある他の代謝産物を検討した。NR補給によって大幅に増加したMe-Namの合成には、メチルドナーSAMが必要である。これは、次に、DNAやヒストンメチル化のような他の必須メチル化反応や、ドーパミンを含む神経伝達物質合成に対するSAMの利用可能性を制限する可能性がある。発明者らは、SAM又はその関連代謝産物SAH及びホモシステインに有意な変化を見出さず、NR補充が他の重要な反応に対するSAMの利用可能性を制限しないことを示した。
関心のあるもう一つの代謝産物は、ヒストンアセチル化を含むアセチル化反応のためのアセチル基のドナーであるアセチルCoAであった。より高いNAD利用率は、グルコースと脂肪酸の異化を促進することによってアセチルCoA合成を増加させる可能性がある。これは、PD脳で観察されるヒストン高アセチル化状態を悪化させ、遺伝子発現をさらに調節不全にする可能性がある。筆者らの分析では、NR補充時のアセチルCoA又はCoAレベルの有意な変化は検出されなかった。最後に、ATP、ADP、AMP及びGTPとGDPのようなエネルギー代謝物をモニターした。これらのいずれもNR補充で有意な変化を示さなかった。
NR処置の下流代謝影響はPBMCと筋肉におけるトランスクリプトーム分析によって支持され、複数の疾患関連経路における効果が明らかになった。特に、NRはミトコンドリア呼吸、抗酸化応答、及びプロテアソームとリソソームを含むタンパク質分解に関与する遺伝子のアップレギュレーションと関連していた。量的及び機能的呼吸不全(Floenes IH, et al.Acta Neuropathol 2018;135:409-425)、酸化的損傷の増加(Jenner P.Ann Neurol 2003;53 Suppl 3:S26-36;discussion S36-38;Dias V,et al.J Parkinsons Dis 2013;3:461-491)、及びプロテアソームとリソソームの機能障害(Lehtonen S,et al.Front Neurosci 2019;13.doi:10.3389/fnins.2019.00457)はすべてPDの病態生理に強く関与している。したがって、これらの所見はPDにおけるNRの潜在的な神経保護効果を奨励し、支持する。さらに、発明者らの結果は、NRが末梢だけでなく中枢神経系においても抗炎症作用がある可能性を示す。発明者らの患者におけるNR治療は、血清及びCSFにおけるいくつかの炎症性サイトカインのレベル低下と関連していた。神経炎症はPDの病因に関与しており、神経保護(Rocha NP、et al.BioMed Research International 2015;2015:e628192)の潜在的標的と考えられている。
【0086】
ミトコンドリアバイオマーカー分析は、NRレシピエントのCSFではなく、血清中のGDF15の軽度であるが有意な減少を明らかにした。これは、ミトコンドリア遺伝子の観察されたトランスクリプトーム上方調節と一致し、発明者らの患者におけるミトコンドリア機能の改善を示す。Nf-Lレベルは、血清又はCSFにおけるNR処理によって有意に影響されなかった。しかし、Nf-Lは、健常対照と比較して、PD(特に疾患の初期段階)において軽度に上昇するだけであり、経時的な疾患進行のモニタリングのためのバイオマーカーとしてより適している。
本研究は、試料サイズにもかかわらず、一次及びほとんどの二次及び三次アウトカムを強固に支持する十分なパワーを有していた。脳NADレベルが増加したNRレシピエントの間で観察された臨床的改善の傾向は、被験者数が少なく、観察時間が短く、MDS-UPDRSスコアの個人間変動が大きいため、慎重な解釈が必要であるとしても、有望である。31P-MRSにより全脳NADレベルを自信を持って検出し測定することができたが、分析は、酸化型(NAD)と還元型(NADH)を自信を持って識別することができない通常モードSARレベルに固執するだけでなく、本研究で使用した磁石の強度によって制限された。より高い磁場強度又はSAR沈着限界の増加によるより効果的なデカップリングは、識別を可能にするかもしれない。NR処理時の脳におけるNAD/NADH酸化還元比のより詳細な分析は、脳におけるNRの代謝影響に関する知識を改善するであろう。
2.8. 結論
発明者らの知見は、PDにおけるNR治療に対する標的関与の強固な証拠を提供し、疾患の病態生理に関与する複数のプロセスを標的とすることにより、それが神経保護能がある可能性を示唆する。これらは、ミトコンドリア呼吸機能障害、酸化的損傷、リソソーム及びプロテアソーム障害、及び神経炎症を含む。加えて、NRはヒストンアセチル化を調節することにより、PDにおけるエピゲノム調節不全を緩和する可能性がある。ゲノムワイドなヒストンアセチル化と変化した転写調節は、PD患者の脳で起こる。ニューロンNADレベルの増加は、サーチュインファミリーのNAD依存性ヒストンデアセチラーゼの活性を高め、PDにおけるヒストンアセチル化を改善する可能性がある。まとめると、発明者らの知見は、PDに対する潜在的神経保護剤としてNRの使用を支持する。
【0087】
表1 人口統計及び過去ログ情報
【0088】
【表3】
【0089】
表2 MDS-UPDRSは臨床スコアを意味する
【0090】
【表4】
【0091】
表3 実施例2の試験の組み入れ基準及び除外基準
【0092】
【表5】
表4 有害事象
【表6】
表5:FDG-PET;NRRPネットワークの一部として代謝活性が低下した脳領域
【表7】
図形の凡例
図3:31P-MRS分析はNR媒介性の脳NADの増加を明らかにする(A-C)1被験者からの典型的なデータ:(A)後頭皮質における分光学的ボクセル位置。各格子位置についてスペクトルを取得した。(B)黒におけるいくつかの後頭葉ボクセルからの平均処理スペクトル。データのモデル適合を赤で示す。モデル適合は、(C)に示す実験データに適合したシミュレートされたデータセットのすべてのスペクトル寄与の畳み込みで構成される。NAD+/NADHの位置を示す。(C)ホスホクレアチン(PCr)を0ppmの化学シフト基準として選択した。他の検出されたリン代謝産物を示す。(D)来院1及び2での相対的全NADレベルはATPαに標準化された。データポイントは個々の測定値(灰色)及び平均値(黒色)を示す。*:p-value=0.0105(ウィルコクソン検定)。
図4:NR治療に関連した代謝脳ネットワークトポグラフィー。(A)負の負荷(青色)を伴うMRS応答者においてFDG PETで同定されたNR関連代謝パターン(NRRP)。領域質量の値はZ値-1.5で閾値であった。(B)プラセボ群と比較してNR群でNRRP発現の増加を示す来院間の変化。赤線は治療前後の平均値を示す。黒線はMRS分析でNAD反応陽性者を示す。灰色線は残りの個体(すなわち、MRSでNAD反応を示さなかった4人(n=2)、又はMRSデータが入手できなかった4人(n=2))を示す。脳NADレベルが増加した10人のNR被験者におけるNRRPの同定に関連する序数傾向の表現については図8を参照のこと(すなわち、MRS応答者)。*:p=0.027(順列テスト、1000回反復)。(C)UPDRS運動評価とNRRP発現のNR関連変化はMRS応答者(充満円)とその他(開放円)を含むNR群(r=-0.590、p=0.026)で相関した。相関はグラフの左上隅でUPDRS運動スコアの最大増加を伴うデータ点を除外した後も有意であった(r=-0.556、p=0.048)。(D)上:米国の患者集団において以前FDG PETで同定された陽性(ホット)及び陰性(パープル)負荷を伴うPD関連代謝パターン(PDRP)32、49。下:NRRP(ブルー)とPDRP(ホット又はパープル)の間の被殻及び淡蒼球又は前頭前野及び楔前部における重複を示す複合画像表示。(E-F)ベースライン時のNRRP及びPDRP発現スコア(r=0.546、p=0.002)及びベースライン時の対応するUPDRSモータ定格及びPDRP発現の相関(r=0.374、p=0.046)。
図5:NRはPD患者のCSF及び末梢組織におけるNADメタボロームを増強する。グラフは前駆体、中間体及び異化最終産物を含むNAD生合成及び分解経路を示す。ボックスプロットは、筋肉、PBMC及びCSFで治療により有意に変化した検出可能な代謝産物について、来院1及び来院2でのプラセボ及びNR治療患者の濃度を示す。NR治療により有意に変化した代謝産物は緑色で強調し、下線を引いた。データポイントは個々の測定値(灰色)と平均値(黒色)を示した。NA:ニコチン酸、NAR:ニコチン酸リボシド、Nam:ニコチンアミド、NR:ニコチンアミドリボシド、NAMN:ニコチン酸モノヌクレオチド、NMN:ニコチンアミドモノヌクレオチド、NAAD:ニコチン酸アデニンジヌクレオチド、NAD:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、1-Me-Nam:メチルニコチンアミド、Nam-N-オキシド:ニコチンアミドN-オキシド、Me-2-PY:N-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド、Me-2-PY:N-メチル-4-ピリドン-5-カルボキサミド。*p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001(ウィルコクソン検定)。
図6:NR治療により影響を受ける血清学的マーカー。(A~C)プラセボ(PL)及びNR治療(NR)群のPD患者の血清及びCSF中の血清学的マーカーの(V1)治療前及び(V2)治療後分析。データポイントには、個々の測定値(グレー)と平均値(黒)が表示される。血清(A)とCSF(B)のGDF15レベル、及びFGF21(C)の血清レベルが表示される。(D-E)血清とCSFのニューロフィラメント軽鎖(Nf-L)レベル、(F-O)血清(F-K)とCSF(L-O)のサイトカイン分析。プロットはNR群でのみ変化したサイトカイン、又はより強い有意性を示した。*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001(ウィルコクソン検定)。
図7:CONSORTフロー図。36名のPD患者を組み入れスクリーニングした。4名の被験者は本研究の組み入れ基準を満たさなかった。2名の被験者はドーパミン作動薬治療の開始を希望したため本研究への参加を辞退した。対象とした無作為化参加者はいずれも本研究から離脱しなかった。
図8:NRで処理したMRS応答者におけるNRRP発現の変化。NRRP発現は10人中8人(p=0.018、順列検定、1000回反復)で増加し、後頭NADレベルの上昇を示した。個人(灰色の線)と平均値(黒の線)を示した。
図9:FDG PETにおけるNRRPとPDRP脳ネットワークトポグラフィーの全脳表示。上:負負荷のMRS応答者で同定されたNR関連代謝パターン(NRRP)(青)。中:これまで米国患者集団で同定され、検証された正(ホット)及び負(パープル)負荷のPD関連代謝パターン(PDRP)。下:NRRP(ブルー)とPDRP(ホット又はパープル)の被殻と淡蒼球又は前頭前野と楔前部の重複を示す複合オーバーレイ。すべてのパターンは標準化されたMRI脳テンプレート上に表示され、ブートストラップ分析(p<0.005、1000反復)に基づいて信頼性の高いZ値で閾値化された。
図10:筋肉におけるメタボローム分析。図5関連。ボックスプロットは、来院時1(v1)及び来院時2(v2)におけるプラセボ(PL)及びNR治療(NR)患者由来の筋組織中のすべての検査及び検出可能な代謝物の濃度を示す。NR治療で有意に変化した代謝物のプロットは、緑色及び下線で強調され、図5にも示されている。NA:ニコチン酸、NAR:ニコチン酸リボシド、Nam:ニコチンアミド、NR:ニコチンアミドリボシド、NAMN:ニコチン酸モノヌクレオチド、NMN:ニコチンアミドモノヌクレオチド、NAAD:ニコチン酸アデニンジヌクレオチド、NAADP:ニコチン酸アデニンジヌクレオチドリン酸、NAD(P)+:酸化ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(リン酸)、NAD(P)H:還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(リン酸)、1-Me-Nam:メチルニコチンアミド、Nam-N-オキシド:ニコチンアミドN-オキシド、Me-2-PY:N-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド、Me-2-PY:N-メチル-4-ピリドン-5-カルボキサミド。SAM:S-アデノシルメチオニン、SAH:S-アデノシルホモシステイン、HCy:ホモシステイン。AMP:アデノシン一リン酸、ADP:アデノシン二リン酸、ATP:アデノシン三リン酸、GTP;グアノシン三リン酸、GDP:グアノシン二リン酸、CoA:補酵素A、アセチルCoA:アセチル補酵素A。
図11:PBMCにおけるメタボローム分析。図5関連。ボックスプロットは、訪問1(v1)及び訪問2(v2)におけるプラセボ(PL)及びNR処置(NR)の個人からのPBMC中のすべての検査及び検出可能な代謝物の濃度を示す。NR処置で有意に変化した代謝物のプロットは、緑色及び下線で強調し、図5にも示す。筋肉と同様に、NADレベルはこれまで報告された濃度より低かった(Elhassanら、2019年;Martensら、2018年;Trammellら、2016年)。NA:ニコチン酸、Nam:ニコチンアミド、NR:ニコチンアミドリボシド、NAMN:ニコチン酸モノヌクレオチド、NMN:ニコチンアミドモノヌクレオチド、NAAD:ニコチン酸アデニンジヌクレオチド、NAADP:ニコチン酸アデニンジヌクレオチドリン酸、NAD(P)+:酸化ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(リン酸)、NAD(P)H:還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(リン酸)、1-Me-Nam又はMe-Nam:メチルニコチンアミド、SAM:S-アデノシルメチオニン、SAH:S-アデノシルホモシステイン、HCy:ホモシステイン。AMP:アデノシン一リン酸、ADP:アデノシン二リン酸、ATP:アデノシン三リン酸、GTP;グアノシン三リン酸、GDP:グアノシン二リン酸、CoA:補酵素A、アセチルCoA:アセチル補酵素A。
図12:PBMC画分の細胞組成はNR処理の影響を受けない。(A)すべてのRNA-seq PBMC試料に対するABISを用いた免疫細胞型のデコンボリューション。試料は治療(プラセボ:左パネル、NR:右パネル)と訪問(V1:赤、V2:青(*))により層別化する。(B)細胞型比率の最初の2つの主成分で表される試料当たりの細胞密度を要約した。同じ被験者(V1とV2)に属するペア試料をセグメントで結合した。各成分によって説明される分散の割合を示す。
図13:NR及びプラセボ投与被験者におけるサイトカイン濃度。図6関連。(A)プラセボ群とNR群の両方で血清に有意な変化を示したサイトカインの折り畳み変化の比較。(B-C)。訪問1(v1)及び訪問2(v2)におけるプラセボ(PL)及びNR治療(NR)患者の血清(B)及びCSF(C)中の濃度は、図6に示されていない検出可能なサイトカインについて示されている。データポイントは、個々の測定値(灰色)及び平均値(黒色)を示す。*:p<0.05、**:p<0.01、**:p<0.001。
図16:NADMed法を用いた研究コホートからのPBMCにおけるNAD測定。NR処理はPBMCにおける総NADレベルを増加させるが、増加は統計的有意性に達しない。グループレベルでは、NR群における増加はプラセボ群と有意に異なっていた(p=0.0256)。
【実施例3】
【0093】
PDに対する神経保護療法としてのNRの試験
PDに対する神経保護療法としてのNRをさらに試験し、特に早期PD患者における黒質線条体変性又は神経除去の遅延、及び臨床疾患進行におけるNRを評価するために、早期PD患者におけるNRとプラセボを比較する多施設ランダム化第II相二重盲検臨床試験が実施される。
1.試験目的及び関連エンドポイント
主な目的は、52週間の追跡調査後のMDS-UPDRS(パートI~IV)スコアの総変化におけるNR群とプラセボ群の差によって測定した、NRがPDの疾患進行を遅延させるかどうかを明らかにすることである。第二の目的は、NRが以下に該当するかどうかを明らかにすることである。
-MDS-UPDRS(例えばMDS-UPDRSパートI、II、III及びIV)の個々のサブセクションによって測定されるPDにおける特定の運動症状、非運動症状及び認知症状を改善及び/又は予防し、NMSQ、NMSS、Hoehn及びYahr、MoCA及びEQ-5Dによって測定されるスコア差と同様に、PDにおける患者の生活の質を改善する。
-DaTscanによって測定される黒質線条体変性又は神経除去の遅延
-MRI容積測定によって測定される脳萎縮(全体的又は局所的)の遅延
-患者生物試料及び脳(31)P-MRSにおいてマルチオミクスによって測定されるNAD代謝及びミトコンドリア機能の是正
-患者生物試料においてマルチオミクスによって測定される異常なヒストンアセチル化及び遺伝子発現プロファイルの是正
-fMRIによって測定される脳の時空間機能的及び構造的連結性の改善
-患者血清中のニューロフィラメント軽鎖によって測定されるニューロン喪失の進行を遅らせる。
主要評価項目は、52週間の治療後のMDS-UPDRS(パートI~IV)スコアの総変化の群間差であり、活性NR群とプラセボ群を比較する。副次的評価項目は以下のNR群とプラセボ群の差である。
-MDS-UPDRSの個々のサブセクション(例えば、MDS-UPDRSパートI、II、III及びIV)、ならびにNMSQ、NMSS、Hoehn及びYahr、MoCA及びEQ-5Dにより測定されたスコア差
-DaTscanにより測定されたドーパミン輸送体密度
-MRIにより測定された脳容積(全及び領域特異的)
-MRI及びfMRIを用いた脳の時空間機能的及び構造的結合性測定
-fMRIを用いて測定したデフォルト安静状態
【0094】
-質量分析により測定したNAD代謝物(LC-MS/MS Q-Exactive HF)
-エピゲノムプロファイル:選択したマーカーのためのヒストンアセチローム(ChIP-Seq)
-トランスクリプトーム(RNA-seq)
-プロテオーム(LC-MS)又は
-血漿中で測定したニューロフィラメント軽鎖差
2.試験集団
この試験には400人の患者が含まれる。
2.1.組み入れ基準
治験薬が投与される前のスクリーニング時に、以下の条件が全て該当すること。
【0095】
-MDSの基準に従って特発性PDと臨床診断されていること。
-[123I]FP-CITシングルフォトンエミッションCT(DAT-scan)陽性、黒質線条体変性又は神経除去を確認
【0096】
-登録から2年以内にPDと診断された
-登録時のHoehn及びYahrスコア<3
-調整を必要としない最適な対症療法、少なくとも1カ月間
-加入時の年齢が35歳以上であること。
-本研究は特発性PDのみを対象とする。プロテアソーム26S/20S機能に影響を及ぼすことが知られている遺伝的条件又は環境リスクがある個人は含まれない。
2.2.除外基準
以下の基準のいずれかに該当する患者は本試験から除外する。
-ベースライン時の認知症又はその他の神経変性疾患
-非定型パーキンソニズム(PSP、MSA、CBD)又は血管性パーキンソニズムと診断される
-試験の遵守を妨げる精神疾患。
-試験の遵守と参加を妨げる重度の身体疾患。
-登録後30日以内の高用量ビタミンB3補充の使用。
-ベースライン受診時の代謝性、腫瘍性、又はその他の身体的又は精神的衰弱性疾患。
-遺伝的に確認されたミトコンドリア病。
3.治療
NR(クロマデックスから提供される塩化ニコチンアミドリボシド、ナイアジェン(登録商標))は治験薬(IP)として定義される。IMPには実薬とプラセボも含まれる。NR(Niagen(登録商標)Chromadex)とプラセボはChromadexから製造・提供される。NRとプラセボは同一のカプセルとして調製される。NRとプラセボは共に25℃未満の室温で保存される。
3.1.用法・用量
本品は1カプセル中に250mgを含有する。試験期間中(52週間)、1日2回2カプセル(各250mg)(1日合計1000mg)を経口投与する。プラセボカプセルも同様に投与する(2カプセルを1日2回)。治験薬は、治験受診前や画像検査前を含め、治療期間中毎日服用する。
3.2.治療期間
本試験の治療期間は最大52週間である。
3.3.スクリーニング及びIP治療期間中のドーパミン作動性療法
【0097】
適格で同意のあるPDの男女には、ドーパミン作動性療法に加え、最適な臨床効果が得られるように調節されたMAO-B阻害剤を投与する。その後、治療レジメンを凍結し、試験期間(52週間)は変更しない。新たに診断された患者及び/又は治療未経験の患者には、最初のスクリーニング受診時にセレギリン10mg/日PO及びシネメット(登録商標)(レボドパ100mg+カルビドパ25mg)又はマドパール(登録商標)(レボドパ100mg+ベンセラジド25mg)100/25mg×3を1日3回投与する。治療効果は、1ヵ月毎の再検査で評価する。十分な症状緩和が得られない場合は、ドーパミン作動薬療法を至適効果が得られるまで、又はシネメット(登録商標)/マドパール(登録商標)200mg×3の最大用量までレボドパ150mg×3に増量してもよい。この用量で十分な症状緩和が得られない場合は、患者を除外し、通常の外来診療でさらにフォローアップする。最適な効果が得られたら(すなわち、少なくとも1か月間安定した治療を行い、試験期間(52週間)の間、レジメンを凍結する。図14参照。登録後にドーパミン作動薬による有害作用が生じた場合、治療は良好な臨床慣行に従って調整される。研究訪問の終わり(52週目)に、医師は患者が現在のドーパミン作動薬によるパーキンソニズムの治療がまだ十分に行われているかどうか(はい/いいえ)を判定する。
【0098】
3.4.併用薬
その他の薬の使用制限はない。すべての患者は、本研究への登録前に処方された薬を使用すべきである。患者に必要な新しい薬を開始することに関して制限はない。患者は試験期間中、ビタミンB3サプリメントを服用してはならない。患者が使用したすべての併用薬(ビタミン(例外ビタミンB3、漢方製剤その他の一般用医薬品)を含む)は、患者ファイル及びCRFに記録される。
【0099】
4.試験手順
4.1. フローチャート
表6 試行フローチャート
【表8】
1:患者が安定したドーパミン作動性治療を受けていること。患者が安定したドーパミン作動性治療を受けている場合、スクリーニングは終了し、患者は試験に参加することができる。ドーパミン作動性治療とそのフローチャートは3.3項に記載されている。
2:DatScanおよびMRIは、試験来院前2週間以内に実施する。
3:一般神経学的検査。
4:3.3項参照。
5:既往歴には以下が含まれる:神経疾患の家族歴、喫煙歴、最初の臨床的PD症状からの既往歴の月数、レム睡眠障害症状の発現と期間、嗅覚消失の発現と期間。
6:血圧、脈拍、体重。
7:CRP、ALAT、ASAT、GT、ビリルビン、ALP、クレアチニン、尿素、RBC、Hb、WBC(鑑別付)、血小板、CK、FT4、TSH、B12、葉酸、ホモシステイン、メチルマロン酸、ナトリウム、カリウム、カルシウム(イオン化)。バイオバンク:詳細はラボマニュアルを参照のこと。8:身長(ベースライン時測定)
4.2.訪問別
【0100】
4.2.1.訪問スクリーニング/治験薬(IP)投与開始前
最初の訪問スクリーニングは、患者が試験に組み入れられる資格があるかどうかを判定することを目的とする。完全な身体診察及び病歴聴取を行う。患者が選択/除外基準を満たし、インフォームドコンセントを行った場合、患者は3種類のドーパミン作動薬治療のいずれかを受ける。3.3項のドーパミン作動薬治療フローチャートを参照のこと。
最終スクリーニング:その後、患者は1か月後に再度スクリーニングのために来院する。PD患者が最適な治療を受けた場合、このドーパミン作動薬治療は試験の残りの期間凍結される。その後、患者はDatScan及びMRI検査に回される。その後、患者はベースライン検査受診(第0週検査受診)に呼ばれる。ベースライン検査受診は、データスキャン実施後2週間以内に行うべきである。スクリーニング時に、組み入れ基準を満たすために、いかなるVit B3サプリメントの使用も中止するよう患者に助言すべきである。
ベースライン/0週目:最初の試験来院時に、治験責任医師は試験に関するインフォームドコンセントを確認し、生物学的材料の保管及び分析に関するインフォームドコンセントに署名するよう被験者に申し出る必要がある。スクリーニング時には既往情報を収集し、現在の薬物使用及び病歴を確認する。包含及び除外基準の充足を確認する。被験者が登録されている(包含/除外基準を満たしている)場合、被験者はCRFにおける薬物療法の研究にランダム化される。患者は残りの研究期間中、毎日治験薬を服用するよう指示される。治験薬は2カプセルを1日2回(2カプセル×2)、朝夕に服用する。服用時間の指定はないが、可能であれば12時間程度の間隔をあけて服用しなければならない。服用を忘れた場合は、忘れた時間が次の服用予定時間より短ければ、忘れた分を服用できる。他の薬との併用や食事との併用に制限はない。
4.2.2.治療中
各受診時に臨床検査を実施するフローチャート(4.1項)参照。
4.3.MRIプロトコル
装置:スキャナー:Siemens BiographmmR(PET/MR);ソフトウェア:E11P;コイル:SiemensmmRヘッド/ネックコイル及びマルチコアコイル31P 1Hヘッドコイル(ラピッド)。
プロトコル:位置決め:ローカライザ;可能であれば自動整列する。MRI撮影:3D T1(矢状面、1x1x1mm);3D T2 FLAIR(矢状面、1x1x1mm);2D T2 axial(4mmのスライス厚、ビンクルはCC/ACPCまで保持);2D DTI(軸方向、2x2x2mm、ビンクルi forhold til CC/ACPC);(DWI med 3 retninger dersom ikke DTI mulig)。
拡張プロトコルBergen:2D fMRI静止状態(2.4x 2.4x 3mm、軸方向スライス、CC/ACPCに対する角度);MRS記録:CSI(15分)、マルチコアコイル。総記録時間:CSIを含めて60分。
コメント:fMRI撮影のため閉眼。
【0101】
5.安全性及び忍容性評価
満たすべき安全性要件は、生化学的評価(ルーチンの血液分析による)に基づくものであることが望ましい。バイタルサイン(脈拍、血圧);及び/又は有害事象の登録。臨床試験中の様々な時点で、以下の生物学的試料が標準的な操作手順に基づいて収集、処理及び保存される:全血、血清、血漿、PBMC、血球。
6.統計的方法及びデータ分析
6.1.試料サイズの決定;ランダム化;分析用母集団
【0102】
出力分析は、西ノルウェーのパーキンソン病患者の前向き縦断コホート研究であるParkWest及びPDにおけるセレギリンの神経保護効果を試験したDATATOP研究に基づいた。組み入れ時にドーパミン作動薬治療に対して薬剤未使用であったParkWestコホートから150人のPD患者を選択し、ドーパミン作動薬治療開始後52週間の平均UPDRS変化を計算した。これは最適ドーパミン作動薬治療下でのPDの自然進化を反映するので、本研究ではこの進行率がプラセボ群を代表すると考えた。52週後のUPDRSの平均増加量は7.6±6.3単位であった。DATATOP試験は、L-デプレニル(セレギリン)をトコフェロールと比較して使用したPD患者の運動低下の50%減少を示した。したがって、発明者らの研究に対する控えめな推定値は、52週間の間に、プラセボと比較してNR使用者の間で2 MDS-UPDRSポイントの減少である。
【0103】
6.2.分析
6.2.1.一次分析
Intention-to-treat原則の下では、全てのランダム化患者が一次分析に含まれる。MDS-UPDRSは反復測定依存変数であるため、モデルに個人内ランダム効果を加えた線形混合モデルを実施する。反復研究訪問中のMDS-UPDRSの平均変化を比較する。一次分析は共変量に対して未調整である。欠落データは、ランダムに欠落(MAR)又はランダムに完全に欠落(MCAR)であると仮定される。
6.2.2.感度分析
一次分析のロバスト性を評価するために、いくつかの感度分析を行う。特に指定がない限り、線形混合モデルを用いて分析を行う。特に指定がない限り、NR群とプラセボ群を比較する。
-異常値の有無による分析を行う。異常値はボックスプロット評価により定義する。
-共変量による分析を行う:年齢、Hohn&Yahr段階、共変量としての性別(固定効果)
-共変量を用いた分析、及び分析と共に中心調整を行った場合と行っていない場合
-初期MDS-UPDRSスコア、初期Hoeh及びYahr段階、及びレボドパ投与量などのベースライン特性の調整を行った場合と行っていない場合の分析は、試験中に行われる
-処理したままの分析が行われる。試験を完了し(52週目に試験を完了)、かつ服薬遵守率が90%を超える被験者のみ。これは未調整で、共変量及びサイト共変量と同様に行われる。
-薬物コンプライアンスが90%を超える完全症例のみが分析される。これは未調整で、共変量及び部位共変量と同様に行われる。
-欠落したデータは複数の代入法を用いて帰属させ、前述の分析をやり直する。欠落したデータはMARと仮定する。モデルベースの多重補完は、使用される補完の数が10から欠落値の割合*100の間の最大値である場合に使用される。
-非正規性がある場合は、ログ及びロジット変換が上記の分析に適用される。
-また、反復測定ANOVA、線形回帰及びANCOVAを用いて、ベースラインと52週後のMDS-UPDRSスコアの平均差を比較して分析を行う。
6.2.3.二次分析
-線形混合モデルを使用したMDS-UPDRSパートI~IIIごとの平均差。個別内ランダム効果をモデルに追加した。未調整及び調整分析は、一次感度分析に記載されている共変量を使用して実行される。
-モデルに個人内ランダム効果を追加した線形混合モデルを使用したNMSQ合計スコアの平均差。未調整及び調整分析は、一次感度分析に記載されている共変量を使用して実行される。
-モデルに個人内ランダム効果を追加した線形混合モデルを使用したNMSS合計スコア間の平均差。未調整及び調整分析は、一次感度分析に記載された共変量を用いて行う。
-NR群とプラセボ群の間の総MOCAスコアの平均差についての対t検定。
-NR群とプラセボ群の間の5Q-5L質問票スコアについての対t検定。
-分類依存変数としてHohn&Yahr段階を用いた一般化推定式。これは未調整及び調整で行われる。
-イベントがHohn&Yahr段階の1ポイント増加として定義されるKaplan Meyer及びCox回帰モデル。Cox回帰モデルには、一次分析の感度分析で述べられている共変量が含まれる。
【0104】
-NR群とプラセボ群の間の黒質線条体代謝の平均差に関して、ベースラインと52週DatScanを比較する。
-NR群とプラセボ群を比較する脳の関心領域における皮質及び基底核の体積変化に関して、ベースラインと52週MRI画像の間で体積分析を行う。
-χ二乗検定を用いたNR群とプラセボ群の間で報告された有害事象の比較。
-単一及びマルチオミクス分析を行った。
6.2.4.サブグループ分析
-NR群とプラセボ群のMDS-UPDRSの平均変化の一次分析を層別化するために、NR群とプラセボ群の振戦優勢サブグループとPIGD優勢サブグループ(MDS-UPDRSで定義)を比較する層別分析を実施する。モデルに個人内ランダム効果を加えた線形混合モデルを用いる。
-該当する場合:ベースラインと比較して52週データスキャンで改善されたNRのサブ集団による一次分析の層別化。
-該当する場合:メタボローム因子、エピゲノム因子及びトランスクリプトーム因子の単一又は組み合わせに基づくNRサブ集団の後付層別化。
【0105】
-fMRIを実施した被験者を比較し、NR群とプラセボ群を比較してデフォルトの安静時状態ネットワークに変化があるかどうかを確認する。
6.3. 統計分析
【0106】
表7 統計分析
【表9】
6.4成果
主要評価項目:52週間のフォローアップ後のMDS-UPDRS(NR vsプラセボ)の総変化量の群間差。
主要副次的評価項目:NR群とプラセボ群の差:
●治療の長期安全性及び忍容性。
●MDS-UPDRSの個々のサブセクション(例えばMDS-UPDRSパートI、II、III及びIV)、ならびにNMSQ、NMSS、Hoehn及びYahr、MoCA及びEQ-5Dによって測定されたスコア差。
●臨床検査値。
●DaTscanで測定したドーパミン輸送体密度
●MRIで測定した脳容積(全及び領域特異的)。
●fMRIで測定したデフォルトの安静状態。
●MRIとfMRIを用いた脳の時空間機能的及び構造的結合性測定。
●二重同調MRS獲得([H]/31P)を用いた脳NAD及び他の神経化学化合物のインビボレベル。
●質量分析により測定したNADメタボローム(LC-MS/MS Q-Exactive HF)
●エピゲノムプロファイリング:ヒストンアセチローム(ChIP-Seq)
●トランスクリプトーム(RNA-seq)
●プロテオーム(LC-MS)
●トランスクリプトーム(RNAシークエンシング)
●血清中で測定されたニューロフィラメント軽鎖差
●MDS-UPDRSに関してNR群とプラセボ群を比較した層別分析。代謝又は放射線学的パラメータに基づく変数の層別化。
【0107】
本研究はランダム化二重盲検第II相試験であり、PD患者合計400名に52週間1000mg NR又はプラセボを投与した。脳MRIを含む広範な医学的検査及びスクリーニングが、ベースライン時と研究終了時の両方で実施される(すなわち、52週間の暴露後)。研究を完了し、ベースライン時及び52週目に脳MRIスキャンを実施した80人のうち、神経膠腫又はその他の脳新生物の症例はなかった。したがって、この治療法は、治療期間中の神経膠腫又は脳新生物の有病率の増加と関連しないと考えられる。
【実施例4】
【0108】
データ喪失の進行の違いの追跡調査
現在の証拠;例えば、例2から、NRがPD患者のDA代謝に悪影響を及ぼす可能性があるという仮説は支持されない。
実施例2の試験では、PD患者30名をNR 1000mg/日(n=15)又はプラセボ(n=15)に無作為に割り付け、1ヵ月間追跡した。すべての検査及び生物学的サンプリング及び分析は、ベースライン時及び治療1ヵ月後に実施した。
NAD-PARKコホート(n=30)からの末梢血単核細胞(PBMC)及び骨格筋生検におけるメタボローム分析は、SAM又はその関連代謝産物SAH及びホモシステインに有意な変化を示さず、NR補充は他の生命反応に対するSAMの利用可能性を制限しないことを示した。
NRを受けたPD患者は、DA枯渇時に予想されるような運動症状の悪化を示さず、UPDRSスケールで測定されるように、むしろ軽度の臨床的改善を示した。
今回の実施例4の試験では、実施例2の試験参加者のうち21名(プラセボを受けた9名及びNRを受けた11名)が、試験終了後1~1.5年後に実施例3の試験に参加するために2回目のDATスキャンで検査された。1回目及び2回目のDATスキャンを比較すると、NR群とプラセボ群の間でDAT喪失の進行に有意差は認められなかった(すなわち、黒質線条体変性又は神経脱離)。実際、NR群は、2つの検査の差が小さいことから明らかなように、進行の減少に対して有意ではない傾向を示した(図15)。
これをさらに調査するために、実施例2コホートの脳脊髄液(CSF)中のDAメタボロームを測定し、来院間で比較することができる。実施例3の第II相試験では、ベースライン時及び治療1年後に、臨床的測定、生化学的測定(上述のメタボロミクス)及びDATスキャンによるこのイベントの制御を行う。
図15は、2回目と1回目の検査の間の被殻後部におけるDATスキャントレーサー取り込みの変化(Δ)を示すボックスプロットを示す(Δ=scan2-scan1)。NR群は黒質線条体除神経の進行が減少する傾向を示したが、この差は有意ではなかった(t検定、p=0.35)。データは正常に分布した(Shapiro-Wilk正常性試験)。
【実施例5】
【0109】
パーキンソン病における高用量ニコチンアミドリボシド(NR)による治療を検討する安全性試験
ニコチンアミドリボシド(NR)はヒトへの使用が完全に承認されており、毒性の証拠は見つかっていない。NRは広範な前臨床試験を受けており、米国食品医薬品局及び欧州食品安全機関によって食品への使用について一般に安全(GRAS)と認められている。NRは忍容性が良好であり、1日2000mg以上の用量で成人ヒトにおける毒性の証拠はない。したがって、3000mgまでの用量は毒性の証拠を引き起こす可能性が極めて低いことを提案する。実薬カプセル剤はNR(塩化物として)250mgを含有する。プラセボは微結晶セルロースを含有し、外観及び味は同一である。
3000mg/日までのNAD前駆体NR(ナイアジェン(登録商標)、クロマデックス)の経口投与は、4週間の短期投与の場合、生化学的及び生理学的に測定した中等度又は重度の副作用を引き起こす可能性は低いと提案する。治療された個人に対する有意な忍容性の問題がある可能性は低いと提案する。NRの最適生物学的用量の推定を可能にするために、単一施設、無作為化二重盲検安全性試験を実施する。
1.プロトコルの概要
【表10】
2.試験の目的及び関連エンドポイント
2.1.主目的
パーキンソン病(PD)患者におけるNR 3000mg/日の4週間経口投与の安全性を検討する。安全性は、NR関連の中等度又は重度の有害事象(AE)がないことと定義される。
2.2.副次的目的
1)NR 3000mg/日の経口投与が軽度AEと関連するかどうかを判定する。
2)NR 3000mg/日の経口投与が血液及び尿中のNADメタボロームに及ぼす影響を評価する。
3)UPDRSで測定したPDの臨床的重症度に対するNR 3000mg/日の経口投与の影響を評価する。
2.3.探索目的
1)血清ホモシステイン濃度に対するNR 3000mg/日の経口投与の影響を評価する。
2)空腹時血糖及び血清インシュリン濃度に対するNR 3000mg/日の経口投与の影響を評価する。
2.4.主要転帰
治療関連中等度及び重度AEベースラインにおける群間差(NR vsプラセボ)。
【0110】
2.5.二次転帰
1)治療に関連する軽度AEの群間差。
【0111】
2)質量分析(LC-MS/MS Q-Exactive HF)により測定した血液及び尿中のNADメタボロームの変化における群間差。
3)UPDRSで測定したPDの臨床的重症度の変化の群間差。
2.6探索的転帰
1)血清ホモシステイン濃度の変化における群間差。
2)空腹時血糖と血清インシュリン濃度の変化における群間差。
3.全体の試験デザイン
本試験は、単一施設、第I相二重盲検無作為化プラセボ対照薬剤安全性試験である。
4.試験集団
4.1.患者数
【0112】
本研究には20人の患者が含まれており、10人が3000mgの経口NRを、10人がプラセボを受けた。
4.2.組み入れ基準
治験薬が投与される前のスクリーニング時に、以下の条件が予定患者に適用されなければならない。
登録時の年齢が35歳以上100歳未満であること。
パーキンソン病のMDS臨床診断基準(Postuma RB,Berg D,Stern M,et al.MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease.Mov Disord 2015;30(12):1591-601;Postuma RB,Berg D.The New Diagnostic Criteria for Parkinson’s Disease.Int Rev Neurobiol 2017;132:55-78)により特発性PDと臨床診断されていること。
登録時のHoehn及びYahrスコアが4未満であること。
4.3.除外基準
以下の基準のいずれかに該当する患者は本試験から除外する。
●ベースライン時の来院時に認知症又は他の神経変性疾患がある。
●試験のコンプライアンスを妨げる精神疾患。
●試験のコンプライアンスを守れず、試験に参加できない重度の身体疾患。
●登録後30日以内の高用量ビタミンB3補充の使用
●ベースライン受診時の代謝性疾患、腫瘍性疾患、又はその他の身体的又は精神的衰弱性疾患。
5.治療
本試験では、NR(ナイアジェン(登録商標)、クロマデックス)を治験薬(IP)と定義する。IPには、実薬とプラセボも含まれる。
【0113】
5.1.医薬品ID、供給及び保管
NR及びプラセボは同一のカプセルとして調製される。NR及びプラセボの使用期限は1年間である。NR及びプラセボは共に25℃未満の室温で保存する。
5.2.用法・用量
本品は1カプセル中にNRを250mg含有する。試験期間中(4週間)、6カプセル(1500mg)を1日2回(1日合計3000mg)経口投与する。プラセボカプセルも同様に投与する(6カプセルを1日2回)。治験薬は、治験の受診前を含め、治療期間中毎日服用する。
5.3.治療期間
本試験の治療期間は4週間である。
5.4.スクリーニング及びIP治療期間中のドーパミン作動性療法
スクリーニング及びIP治療期間中、ドーパミン作動性療法に変更は加えない。
5.5.併用薬
その他の薬の使用制限はない。すべての患者は、本研究への登録前に処方された薬を使用すべきである。患者にとって必要な新しい薬を始めることに関して制限はない。患者は、試験期間中はビタミンB3サプリメントを服用してはならない。
5.6.被験者コンプライアンス
患者コンプライアンスは、試験受診時の自己申告に基づいて決定される。残薬の錠剤数は、新たな試験薬を投与する際及び試験終了時に実施される。
6.試験手順
【0114】
6.1.フローチャート
表8 試行フローチャート
【表11】
1.一般健康診断(胸部・肺の聴診、腹部の触診・打診、末梢浮腫の検査)
2.血圧、脈拍、体重、心電図(EKG)
3.身長(ベースライン時に測定)
4.CRP、ALAT、ASAT、GT,ビリルビン、ALP,クレアチニン、尿素、赤血球、ヘモグロビン、白血球分画、血小板、CK、FT4、TSH、B12,葉酸、ホモシステイン、メチルマロン酸、ナトリウム、カリウム、空腹時血糖、インシュリン、hCG(ベースライン時のみ)
5.EDTA血液、スナップ凍結EDTA、PAXgene,血清
6.必要に応じて補充する。
7.AE及びSAEの記録はベースライン後(0週目)に開始し、最終受診日(35日目)の7日後までの試験期間を通して監視及び登録を継続する。
6.2.受診別
6.2.1.受診スクリーニング/治験薬(IP)投与開始前
最初の受診は、患者が試験に組み入れられる資格があるかどうかを判定することを目的とする。完全な身体診察及び病歴聴取を行う。患者が組み入れ/除外基準を満たし、インフォームドコンセントが得られた場合、患者は試験に組み入れられ、ベースライン時の来院が予定される。スクリーニング時に、組み入れ基準を満たすために、いかなるVit B3サプリメントの使用も中止するよう患者に助言すべきである。最終スクリーニングからベースライン受診までの期間は3ヵ月以内とすべきである。
スクリーニングのチェックリスト:
●インフォームドコンセント
●一般健康診断(胸部・肺の聴診、腹部の触診・打診、末梢浮腫の検査)
●現在の薬の使用状況を記録する。vit B3サプリメントの使用を中止するよう助言する。
●病歴。
ベースライン/投与0週
●最初の研究訪問時に、研究者は研究のためのインフォームドコンセントを確認し、生物学的材料の保管と分析のためのインフォームドコンセントに署名するよう被験者に申し出る必要がある。
●スクリーニング時に収集された既往情報、現在の薬物使用及び病歴を確認する。
●包含及び除外基準の充足を確認する。
●表8に示す臨床検査及びバイオサンプリング。
【0115】
●被験者が登録されている(組み入れ/除外基準を満たしている)場合は、治験看護師が被験者を訪問した際に治験薬を調剤する。
●患者には、残りの治験期間中毎日治験薬を服用するよう指示する。治験薬は、1日2回6カプセル(6カプセル×2)を服用する。カプセルは、朝夕に服用する。服用時間の指定はないが、可能であれば12時間程度の間隔をあけて服用する。飲み忘れた場合は、次の服用時間より短い時間であれば、気がついた時点で服用することができる。他の医薬品や食品との併用に制限はない。
●可能であれば、治験薬は治験に行く前に服用しなければならない。
6.3患者の中止基準
患者はいつでも治験の治療及び評価を中止することができる。中止及び中止理由(治験の中止)を登録する。本試験の中止に至った具体的な理由は以下のとおりである。
●本試験への参加をいつでも自由に中止することができ、その後の治療を妨げることのない患者の自発的な中止。
●治験責任医師が判断した安全性の理由。
●不適当な登録、すなわち、患者が試験に必要な組み入れ/除外基準を満たしていない。
●治験責任医師が治験薬の投与中止を正当化すると考える患者の状態の悪化(AEとして記録するか、治験責任医師の裁量に基づく)。
【0116】
6.4.廃止手続
6.4.1.患者廃止
治療開始前に試験を中止した患者は補充する。中止した患者はフォローアップしない。
6.4.2.試験中止
以下のいずれかに該当する場合には、PI又は治験依頼者の判断により、試験全体を中止することができる。これまでにその性質、重症度及び持続期間について不明な有害事象の発生。試験の継続に影響を及ぼす医学的又は倫理的理由。患者の募集の困難。
6.5.臨床検査
関連する臨床検査及びバイオサンプリングを以下に示す。
表9 安全実験室パラメータ
【表12】
すべての安全性検査パラメータは、フローチャートに示された時点で収集され、表9に詳述されているように、血液学、肝酵素/パラメータ、臨床化学、甲状腺状態、空腹時血糖及びインシュリンが含まれる。試料は、各試験施設の現地検査室で再分析された。
7.評価
7.1.安全性・耐容性評価
安全性については、以下に示す評価と、訪問時の有害事象の収集によりモニタリングする。評価スケジュールについては、表8の試験フローチャートを参照のこと。
8.安全性のモニタリング及び報告
各患者は、重篤と思われる徴候又は症状が現れた場合には、直ちに治験責任医師に連絡するよう指示される。安全性データの収集方法は以下のとおりである。
8.1.定義
8.1.1.有害事象(AE)
【0117】
AEとは、医薬品を投与された患者に生じた有害事象のうち、必ずしも本剤と因果関係のないものをいう。したがって、有害事象(AE)とは、治験薬に関連するか否かを問わず、治験薬の使用に一時的に関連した好ましくない、意図しない徴候(臨床検査値の異常を含む)、症状、疾患のことである。AEという用語は、重篤な有害事象と重篤でない有害事象の両方を含むために使用される。臨床検査値/バイタルサインの異常が臨床徴候及び症状と関連している場合、その徴候/症状はAEとして報告され、関連する臨床検査値/バイタルサインは収集すべき追加情報とみなされる。強度2及び3のみがAEとして登録される。AEが強度2又は3になるには、日常生活に支障をきたす必要がある。
8.1.3.重篤な有害事象(SAE)
【0118】
いずれかの用量で以下のような有害な医学的事象が発生した場合:
●死亡の結果
●直ちに生命を脅かす
●入院又は既存の入院期間の延長が必要
●持続的又は重大な障害又は機能不全の結果
●先天異常又は先天異常
対象者を危険にさらす可能性のある重要な医学的事象であるか、又は上記の結果のいずれかを防ぐために医学的介入を必要とする可能性がある。事件の重大性を決定するには、医学的及び科学的判断が行われる。重要な医学的事象は、直ちに生命を脅かすものではなく、死亡又は入院をもたらすものではないが、対象者を危険にさらすものであるか、又は上記の定義に列挙された結果のいずれかを防止するために介入を必要とするものである。このような状況又は疑わしい症例では、症例は重篤であると考えるべきである。管理上の理由(観察又は社会的理由)による入院は、治験責任医師の裁量で認められ、入院を正当化する関連有害事象がない限り、重篤とはみなされない。
8.2.AE及びSAEの報告期間
AE及びSAEの記録はベースライン(第0週)後に開始され、最終受診日の7日後までの試験期間を通して監視され、登録される。試験期間中、全てのAE及びSAEは各患者について積極的に追跡される。治験責任医師は、その事象が基礎疾患により消失する可能性が低いと判断した場合を除き、消失まで追跡すべきである。中止/試験終了後も事象が継続する場合であっても、全ての事象が消失するようにあらゆる努力を払うべきである。
8.3.有害事象の記録
有害事象が発現した場合には、以下の情報を記録する。
●治験責任医師は、事象の性質を正確な標準医学用語(すなわち、必ずしも患者が用いる正確な言葉ではない)で説明する。
●事象の持続期間は、事象発現日及び事象終了データで説明する。
●有害事象の強度:強度2及び3のみAEとして登録する。
【表13】
治験薬との因果関係は以下のいずれかと評価する。
関連なし:治験薬投与との間に時間的な関連(早すぎる、遅すぎる、治験薬が服用されていない)が認められない、又は治験薬以外の製剤、併存疾患又は状況とAEとの間に合理的な因果関係が認められる。
考えにくい:治験薬投与との間に時間的な関連は認められるが、治験薬とAEとの間に合理的な因果関係が認められない。
考えられる:治験薬とAEとの間に合理的な因果関係が認められる。デチャレンジングに関する情報が不足又は不明確である。
考えられる:治験薬とAEとの間に合理的な因果関係が認められる。本事象はデチャレンジに反応する。再チャレンジは不要。
確定:治験薬とAEとの間に合理的な因果関係が認められる。
有害事象の結果、実施した処置、事象が収束したか継続しているかを記録する。重篤な有害事象と重度の有害事象を区別することが重要である。重症度は強度の尺度であり、重症度は上記の基準によって定義される。重症度のAEは必ずしも重症とみなす必要はない。例えば、数時間続く吐き気は重症の吐き気と考えられるが、SAEではない。一方、障害の程度が限定的な脳卒中は軽度の脳卒中と考えられるが、SAEである。
9.統計的方法とデータ分析
9.1.試料サイズの決定
NRは一般に無毒とみなされる。それは広範な前臨床試験を経ており、米国食品医薬品局及び欧州食品安全機関により食品への使用について一般に安全と認められている(GRAS)。NRはヒトでは1日2000mgまでの用量で安全であり、ラットでは5000mg/kgまでの経口用量で非致死性であることが示されている。したがって、3000mgの用量で重篤な有害作用が生じる可能性は極めて低いと考える。これを確認するために、各治療群とプラセボ群の被験者10人の試料サイズを選択した。発明者らの以前の試験(例3)では、NRに対する代謝反応は患者間で均一であることが認められたため、この試料サイズは3000mg NRの経口投与の短期安全性を評価するのに十分であると仮定する。
9.2.無作為化
無作為化は試験登録時にe-CRFにより行う。
9.3.分析対象集団
Intention-to-treat原則の下では、ランダム化された全患者が一次分析に含まれる。
9.4.分析と統計的アプローチ
一次分析
帰無仮説(H0)は、NR 3000mgが安全であることである(すなわち、中等度又は重度の強さのAEを伴わない)。主要分析では、AEを記述統計を用いて重症度(軽度、中等度、重度)と群(NR,プラセボ)で要約した。NRとの可能性、可能性、又は明確な因果関係がある中等度又は重度の強度のAEの存在はHを拒絶する。事後分析では、フィッシャー(又はカイ二乗)検定を用いて、NR群とプラセボ群の間で中等度及び重度のAEの総頻度及びSAEの頻度を比較した。
二次分析
-フィッシャー検定を用いたNR群とプラセボ群の軽度AE頻度の比較。
-血液と尿中のNAD代謝産物の来院間の平均変化を比較するための対t検定。ベースラインと最終来院間のNAD代謝産物の平均変化(Δ)の群間差(NR対プラセボ)を比較するためのt検定。
-プラセボ群及びNR群における総UPDRS及びサブパートI~IVの平均変化についての対t検定。
-ベースライン時と最終来院時の総UPDRS及びサブパートI~IVの平均変化(Δ)の群間差(NR対プラセボ)を比較するt検定。
探索的分析
-血清ホモシステイン濃度の来院間の平均変化を比較するための対t検定。ベースラインと最終来院間の平均変化(Δ)血清ホモシステイン濃度の群間差(NR vsプラセボ)を比較するためのt検定。
-来院時の空腹時血糖値と血清インシュリン値の平均変化を比較するための対t検定。ベースライン時と最終来院時の空腹時血糖値と血清インシュリン値の平均変化(Δ)の群間差(NR vsプラセボ)を比較するためのt検定。
試験期間を通して、重篤な有害事象又は医学的に重要な有害事象は報告されなかった。したがって、1日3000mgのNR用量は安全であると結論できる。
考察及び結論
したがって、本明細書中で上述したように、ニコチンアミドリボシドは、安全で忍容性の高い治療及びPD進行抑制のための神経保護治療として用いることができる脳内NADレベルを効果的に高めることができる化合物である。したがって、本発明は、単に疾患症状を軽減するためではなく、ヒトにおけるPDの生理学的原因に対処するPDの改善された、効率的で安全な治療を提供することができる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2024524991000001.app
【国際調査報告】