(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】超音波イメージング用の金属複合物とその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 49/22 20060101AFI20240702BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240702BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240702BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240702BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240702BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K49/22
A61K9/10
A61K47/24
A61K47/34
A61K47/02
A61K33/26
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580864
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2022121437
(87)【国際公開番号】W WO2023036347
(87)【国際公開日】2023-03-16
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522394546
【氏名又は名称】原創生医股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ORIGINAL BIOMEDICALS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】2F.-1, No. 9, Nanke 2nd Rd., Xinshi Dist., Tainan City 744, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】陳 嘉隆
(72)【発明者】
【氏名】廖 偉全
(72)【発明者】
【氏名】孫 子恵
(72)【発明者】
【氏名】陳 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】王 朝暉
(72)【発明者】
【氏名】顔 暁宝
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076BB13
4C076CC50
4C076DD63
4C076EE23
4C076EE26
4C076EE49
4C085HH09
4C085JJ03
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4C085KB08
4C085LL03
4C085LL05
4C085LL07
4C085LL09
4C085LL11
4C085LL12
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA10
4C086HA11
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA21
4C086MA66
4C086NA20
4C086ZC80
(57)【要約】
【要約】
【課題】超音波イメージング用の金属複合物とその用途を提供する。
【解決手段】本発明は、超音波イメージングに使用される金属複合材料を掲示し、これは金属ナノ構造であり、イメージングコア及びそれを被覆するシェル配位子を備えている。前記イメージングコアは金属イオンを含み、前記シェル配位子はキレート基を有するポリマーを含む。キレート基はルイス塩基が金属イオンとの配位共有結合を形成し、安定した金属ナノ構造を形成している。金属イオンは超音波のエコーを効果的に発生させ、画像の輝度及びコントラスト強度を高めている。また、ルイス酸塩基によりキレート化する形式は金属ナノ構造を安定させるのに寄与し、人体内を循環しても瓦解しにくく、長時間の造影を行う需要を満たす。
【選択図】
図9D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体超音波イメージングに用いられる金属複合物であって、
金属イオンを含むイメージングコアと、
キレート基を有するポリマーを含み、前記キレート基はルイス塩基と前記金属イオンとが配位結合により結合し、ナノミセル構造を形成するシェル配位子(shell ligand)と、を備えていることを特徴とする金属複合物。
【請求項2】
前記イメージングコアは、ルイス塩基を有していると共に前記金属イオンと配位結合により結合しているイメージング配位子を備え、前記イメージング配位子のルイス塩基は、π結合を有している一次炭素、二次炭素、第16族元素、一次アミン、二次アミン、三次アミンのうちの何れか1つまたはそれらの2つ以上の組み合わせを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属複合物。
【請求項3】
前記イメージング配位子は下記式(1)の化学構造を有していることを特徴とする請求項2に記載の金属複合物。
(式中、R
1は、水素ラジカル、水酸化物、カルボン酸(carboxylic acids)、アルコール(alcohols)、ケトン(ketones)、フラン(furans)、アミン(amines)、アニリン(anilines)、ピロール(pyrroles)、エステル(esters)、アミド(amides)、イミン(imines)、ピリジン(pyridines)、ピリミジン(pyrimidins)、イミダゾール(imidazoles) 、ピラゾール(pyrazols)、ホスホン酸(phosphonic acids)、硫化物(sulfide)、二硫化物(disulfide)からなる群から選択され、R
2は、水素ラジカル、水酸化物、カルボン酸(carboxylic acids)、アルコール(alcohols)、ケトン(ketones)、フラン(furans)、アミン(amines)、アニリン(anilines)、ピロール(pyrroles)、チオール(thiols)、エステル(esters)、アミド(amides)、イミン(imines)、ピリジン (pyridines)、ピリミジン(pyrimidins)、イミダゾール(imidazoles)、ピラゾール(pyrazols)、スルホンアミド(sulfonamides)、ホスホン酸(phosphonic acids)からなる群から選択され、R
3は、水素ラジカル、水酸化物、カルボン酸からなる群から選択されている。)
【請求項4】
前記イメージング配位子は、アミフォスチン(Amifostine)、amifostine thiol (WR-1065)、amifostine disulfide (WR-33278)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、ドセタキセル(Docetaxel)、エピルビシン(Epirubicin)、アムホテリシン(Amphotericin)、シプロフロキサシン(Ciprofloxacin)、またはそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択されていることを特徴とする請求項2に記載の金属複合物。
【請求項5】
前記金属イオンは、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、ランタン(La)、金(Au)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、テクネチウム(Tc)、セシウム(Cs)、ラジウム(Ra)、イリジウム(Ir)、ガリウム(Ga)、及びそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の金属複合物。
【請求項6】
前記キレート基は、ポリアスパラギン酸[Poly(aspartic acid)]、ポリグルタミン酸[Poly(glutamic acid)]、ポリリジン(Polylysine)、ポリアクリル酸[Poly(acrylic acid)]、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)、ポリメタクリル酸[Poly(methacrylic acid)]、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)[Poly(N-isopropyl acrylamide)]、ポリ乳酸[poly(lactic acid)]、ポリブチレンサクシネート[poly(butylenesuccinate)]、またはそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の金属複合物
【請求項7】
前記ポリマーは、ポリエチレングリコール[Poly(ethylene glycol)]、キトサン(chitosan)、コラーゲン(collagen)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)[Poly(N-isopropyl acrylamide)]、アミロース(amylose)、セルロース(cellulose)、ヒドロキシ酪酸[poly(hydroxybutyrate)]、ポリカプロラクトン[poly(caprolactone)]、カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)、デキストラン(dextran)、シクロデキストラン(cyclodextrin)、またはそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択されている分散体を更に有していることを特徴とする請求項6に記載の金属複合物。
【請求項8】
有効量の生体イメージング組成物を必要とする部位の脈管系(vasculature)に投与することを含み、前記生体イメージング組成物は請求項1に記載の金属複合物を備えていることを特徴とする生体イメージング組成物の製造に用いる金属複合物。
【請求項9】
前記金属複合物は、ルイス塩基を有していると共に前記金属イオンと配位結合により結合するイメージング配位子を備え、前記イメージング配位子のルイス塩基は、π結合を有している一次炭素、二次炭素、第16族元素、一次アミン、二次アミン、三次アミンのうちの何れか1つまたはそれらの2つ以上の組み合わせを含むことを特徴とする請求項8に記載の生体イメージング組成物の製造に用いる金属複合物。
【請求項10】
必要とする部位として、人体の心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、膵臓、食道、胃、小腸、大腸、リンパ系、または生殖器系を含むことを特徴とする請求項8または9に記載の生体イメージング組成物の製造に用いる金属複合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属複合物に関し、更に詳しくは、ルイス酸塩基により構造主体を形成する金属複合物、及びそれを生体の臓器または組織に用いる超音波イメージングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
市場で使用されている超音波イメージング剤(Ultrasound Contrast Agents)はサイズがマイクロメートル範囲内にあるマイクロバブル(microbubble)であり、例えば、SonoVue、Definity、Luminity、Sonazoid等がある。市販の金属複合物は主に不溶性ガス(パーフルオロカーボンまたは六フッ化硫黄)及びカプセル殻(脂質、タンパク質、或いはポリマー)で構成されている。過去数十年間、これらの金属複合物は臨床において器官や組織の結像に用いられてきた。空洞化したマイクロバブル構造を超音波診断及び治療に応用する中で、より重要な作用を発揮するようになっている。また、マイクロバブルを薬物及び遺伝子を輸送するベクター或いは増強剤とすることに大きな注目が集まっている。異なる周波数の超音波の作用により、画像のコントラストを増強する効果を有する以外、超音波によりマイクロバブル構造を破壊して薬物を放出し、正確に投与する効果を達成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の商用マイクロバブルはサイズが大きく(2~10μm)、滞留時間が短く(1分未満)、上述の条件では標的群の組織中まで浸透さえることができなかった。例えば、腫瘍組織は、内皮の孔径が通常400~800nmの間であり、マイクロバブルの標的機能が低下した。また、商用マイクロバブル造影剤は超音波が照射されるとすぐに破裂するため、人体内で循環に耐えらえる時間が短く(半減期が短い)、気泡が破裂するとキャビテーション効果と同時に組織の炎症を引き起こした。また、気泡の造影剤の濃度が高すぎると、凝血メカニズムを誘発し、或いは、気泡が外殻に影響を及ぼし、血管塞栓を引き起こしやすくなるというリスクがあった。このため、用量には上限があるという問題が存在し、マイクロバブル造影剤を長時間の超音波診断や監視等に応用することは大きく制限されている。
【0004】
上述したマイクロバブル超音波イメージング剤のサイズ及び循環に耐えられる時間等の技術的制限を克服するため、本発明は具体的に金属ナノ構造を利用して、ルイス酸をコアとし、孤立電子対を有するルイス塩基型配位子を吸引し、キレート化形式で金属ナノ構造を安定させ、サイズが小さく、滞留時間が長いマイクロバブル型金属複合物を提供することを含む。或いは、ナノ金属の組み合わせ構造を直接使用して超音波の吸収、反射、及び伝動を改変するナノスケール超音波コントラスト造影剤とする。また、前金属薬物は主にCTスキャン(computed tomography、CT)または核磁気共鳴画像法(Magnetic resonance imaging、MRI)に応用され、金属ナノミセルを含み、超音波照射における生体内での吸収及び伝導率を改変し、例えば、超音波の反射、屈折、回折等を改変する。こうすることで、金属ナノ構造を利用して超音波コントラスト画像を強化し、非常に大きな潜在的発展性を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様である金属複合物は、生体超音波イメージングに用いられ、金属イオンを含むイメージングコアと、キレート基を有するポリマーを含むシェル配位子と、を備えている。前記キレート基はルイス塩基と前記金属イオンとが配位結合により結合し、金属ナノ構造を形成している。
【0006】
また、本発明に係る金属複合物において、前記イメージングコアは、ルイス塩基を有していると共に前記金属イオンと配位結合により結合しているイメージング配位子を備えている。前記イメージング配位子のルイス塩基は、π結合を有している一次炭素、二次炭素、第16族元素、一次アミン、二次アミン、三次アミンのうちの何れか1つまたはそれらの2つ以上の組み合わせを含む。
【0007】
また、本発明に係る金属複合物において、前記イメージング配位子は下記式(1)の化学構造を有している。
式中、R
1は、水素ラジカル、水酸化物、カルボン酸(carboxylic acids)、アルコール(alcohols)、ケトン(ketones)、フラン(furans)、アミン(amines)、アニリン(anilines)、ピロール(pyrroles)、エステル(esters)、アミド(amides)、イミン(imines)、ピリジン(pyridines)、ピリミジン(pyrimidins)、イミダゾール(imidazoles)、ピラゾール(pyrazols)、ホスホン酸(phosphonic acids)、硫化物(sulfide)、二硫化物(disulfide)からなる群から選択されている。R
2は、水素ラジカル、水酸化物、カルボン酸(carboxylic acids)、アルコール(alcohols)、ケトン(ketones)、フラン(furans)、アミン(amines)、アニリン(anilines)、ピロール(pyrroles)、チオール(thiols)、エステル(esters)、アミド(amides)、イミン(imines)、ピリジン(pyridines)、ピリミジン(pyrimidins)、イミダゾール(imidazoles)、ピラゾール(pyrazols)、スルホンアミド(sulfonamides)、ホスホン酸(phosphonic acids)からなる群から選択されている。R
3は、水素ラジカル、水酸化物、カルボン酸からなる群から選択されている。
【0008】
また、本発明に係る金属複合物において、前記金属イオンは、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti 、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg) 、ベリリウム(Be)、ランタン(La)、金(Au) 、銀(Ag) 、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、テクネチウム(Tc)、セシウム(Cs)、ラジウム(Ra)、イリジウム(Ir)、ガリウム(Ga)、及びそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択されている。
【0009】
また、本発明に係る金属複合物において、前記キレート基は、ポリアスパラギン酸[Poly(aspartic acid)]、ポリグルタミン酸[Poly(glutamic acid)] 、ポリリジン(Polylysine)、ポリアクリル酸[Poly(acrylic acid)] 、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)、ポリメタクリル酸[Poly(methacrylic acid)] 、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)[Poly(N-isopropyl acrylamide)] 、ポリ乳酸[poly(lactic acid)] 、ポリブチレンサクシネート[poly(butylenesuccinate)]、またはそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択されている。
【0010】
また、本発明に係る金属複合物において、前記ポリマーは、ポリエチレングリコール[Poly(ethylene glycol)]、キトサン(chitosan)、コラーゲン(collagen)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)[Poly(N-isopropyl acrylamide)] 、アミロース(amylose)、セルロース(cellulose)、ヒドロキシ酪酸[poly(hydroxybutyrate)] 、ポリカプロラクトン[poly(caprolactone)] 、カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)、デキストラン(dextran)、シクロデキストラン(cyclodextrin)、またはそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択されている分散体を更に有している。
【0011】
また、本発明の別の態様である生体イメージング組成物の製造に用いる金属複合物は、有効量の生体イメージング組成物を必要とする部位の脈管系(vasculature)に投与することを含む。前記生体イメージング組成物は前述したような金属複合物を含む。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明の金属複合物によれば、以下の優れた効果を有し、臨床医学のイメージングの応用に寄与する。
一、従来の気泡造影剤は超音波を照射すると破裂し易かったが、本発明に係る金属複合物はサイズが小さく、構造が安定しており、生物流体中でより長い循環時間(circulation time)に耐えられ、生体中の特定の器官の組織を長時間コントラストを増強するというイメージングの需要を満たす。ナノスケールサイズは特定の器官の組織内部に深く進入するほか、滅菌処理について、造影剤を生体に使用することで微生物に感染するリスクを低下させている。
二、本発明に係る金属複合物は複数の器官の組織に適用でき、例えば、心臓弁膜、心膜、肝臓、或いは腫瘍組織等の全身の血液が流通する組織器官に適用でき、且つ超音波を反射するエコー効果に優れ、コントラスト増強レベルが高く、造影された結像は高輝度、高画素、高解像度であり、滞留時間が長くなるため高解像度で長時間観察及び監視が行える。
【0013】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例に係る金属複合物の製造方法を示す説明図である。
【
図2A】本発明の一実施例に係るアミホスチン(Amifostine)およびその誘導体の構造を示す図である。
【
図2B】本発明の一実施例に係るアミホスチン(Amifostine)およびその誘導体の構造を示す図である。
【
図3】ポリエチレングリコール・ポリグルタミン酸(PEG-b-PGA)の構造式を示す。
【
図4】本発明が提供される金属複合物の具体的な構造式を示す概略図である。
【
図5】本発明の一実施例に係るポリエチレングリコール・ポリグルタミン酸共役共重合体PEG-b-PGAのゲルクロマトグラフィー分析結果を示す。
【
図6】本発明の一実施例に係るPEG-b-PGAのプロトン核磁気共鳴スペクトル(Proton Nuclear Magnetic Resonance,1H-NMR) を示す。
【
図7】本発明の一実施例に係る提供される金属複合物の粒径分析を示す。
【
図8A】本発明の実験例1におけるラット心臓の収縮期および拡張期の超音波スキャン画像である。
【
図8B】本発明の実験例1におけるラット心臓の収縮期および拡張期の超音波スキャン画像である。
【
図9A】本発明の実験例2におけるラット心臓の収縮期および拡張期の超音波スキャン画像である。
【
図9B】本発明の実験例2におけるラット心臓の収縮期および拡張期の超音波スキャン画像である。
【
図9C】本発明が提供される金属複合物の連続超音波スキャン画像である。
【
図9D】本発明の実験例2における心臓超音波イメージング輝度および強度データ解析結果である。
【
図9E】本発明の実験例2における心臓超音波イメージング輝度および強度データ解析結果である。
【
図10A】本発明の実験例3におけるラットの心膜の収縮期および拡張期の超音波スキャン画像である。
【
図10B】心臓弁イメージングの輝度と強度のデータ解析結果を説明する。
【
図10C】心臓弁イメージングの輝度と強度のデータ解析結果を説明する。
【
図10D】心膜イメージングデータ解析におけるサンプリング領域の境界を説明する。
【
図10E】本発明の実験例3における心膜外膜イメージング輝度および強度データ解析結果である。
【
図10F】本発明の実験例3における心膜外膜イメージング輝度および強度データ解析結果である。
【
図11】本発明の実験例4におけるラット肝臓の超音波スキャン画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0016】
本発明の一態様である金属複合物は、生体超音波イメージングに用いられ、金属イオンを含むイメージングコアと、キレート基を有するポリマーを含むシェル配位子と、を備えている。前記キレート基はルイス塩基と前記金属イオンとが配位結合により結合し、金属ナノ構造を形成する。配位結合とは、配位共有結合とも呼び、共有結合の一種である。共有結合において共有の電子対が何れか1つの原子から独自に供給される場合、配位結合と呼ばれる。配位結合を形成するには空の電子軌道を有する中心原子またはイオンにより配位子からの孤立電子対を受け取る必要がある。一例を挙げると、ルイス酸塩基対の間に配位共有結合を形成することで化合物が生成される。ちなみに、ルイス塩基は孤立電子対を有し、ルイス酸に供給することで配位結合を形成し、配位化合物を生成する。これらの配位子化合物において、電気陰性度が低い元素の原子は電気陰性度が高い元素の原子が供給する孤立電子対を受け取る。前者(電気陰性度が低い原子)は孤立電子対を供給するため、正原子価と表示する。相対的に、後者は孤立電子対を受け取るため、負原子価と表示する。形成された配位結合は共有結合に属するため、その安定性は高く、金属ナノ構造が瓦解しにくく、イメージング過程で長時間滞留する効果を達成する。
【0017】
具体的には、前記イメージングコアを形成する金属イオンは、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ガドリニウム(Gd)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、ランタン(La)、金(Au)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、テクネチウム(Tc)、セシウム(Cs)、ラジウム(Ra)、イリジウム(Ir)、ガリウム(Ga)、及びそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択されている。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態において、前記イメージングコアは、ルイス塩基を有していると共に前記金属イオンと配位結合により結合しているイメージング配位子を備えている。具体的には、孤立電子対を供給する造影配位子が有するルイス塩基は、π結合を有している一次炭素、二次炭素、第16族元素、一次アミン、二次アミン、三次アミンのうちの何れか1つまたはそれらの2つ以上の組み合わせを含む。ちなみに、これら前記基は、高い電気陰性度を有しているか、または、電子軌道中で配位子が金属イオンに供給し、配位共有結合を形成してイメージングコアを安定化させるための1対の孤立電子対を有し、具体的には、前記イメージング配位子は1つのルイス塩基を含むが、本発明はこれに限られず、1つまたは複数のルイス塩基を含んでもよい。また、上述した含窒素基のほか、部分的な実施例では、前記ルイス塩基は含硫基、含リン基等の高い電気陰性度を有する元素の原子の基でもよい。
【0019】
好ましくは、前記イメージング配位子は下記式(1)の化学構造を有している。
式中、R
1として、水素ラジカル、水酸化物、カルボン酸(carboxylic acids)、アルコール(alcohols)、ケトン(ketones)、フラン(furans)、アミン(amines)、アニリン(anilines)、ピロール(pyrroles)、エステル(esters)、アミド(amides)、イミン(imines)、ピリジン(pyridines)、ピリミジン(pyrimidins)、イミダゾール(imidazoles) 、ピラゾール(pyrazols)、ホスホン酸(phosphonic acids)、硫化物(sulfide)、二硫化物(disulfide)が挙げられる。R
2として、水素ラジカル、水酸化物、カルボン酸(carboxylic acids)、アルコール(alcohols) 、ケトン(ketones)、フラン(furans)、アミン(amines)、アニリン(anilines)、ピロール(pyrroles)、チオール(thiols)、エステル(esters)、アミド(amides)、イミン(imines)、ピリジン(pyridines)、ピリミジン(pyrimidins)、イミダゾール(imidazoles)、ピラゾール(pyrazols)、スルホンアミド(sulfonamides)、ホスホン酸(phosphonic acids)が挙げられる。R
3として、水素ラジカル、水酸化物、カルボン酸が挙げられる。具体的には、R
3がカルボン酸である場合、前記イメージング配位子はアミノ酸派生物であり、その間には親水性及びルイス塩基を有し、イメージングコアと配位共有結合を形成するのみならず、生物流体において、アミノ酸構造がその生体適合性を高め、且つ腫瘍標的性を有するベクターの設計に有利である。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記イメージング配位子として、アミフォスチン(Amifostine)、amifostine thiol(WR-1065)、amifostine disulfide(WR-33278)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、ドセタキセル(Docetaxel)、エピルビシン(Epirubicin)、アムホテリシン(Amphotericin)、シプロフロキサシン(Ciprofloxacin)、またはそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。或いは、その派生物として、例えば、アミフォスチンAmifostineのようなイメージング配位子があり、これは電子対を供給する5個の箇所を有し、2個の-OH、-P=O、NH、及び-NH2にそれぞれ位置している。また、amifostine thiol(WR-1065)は電子対を供給する3個の箇所を有し、-SH、-NH、及び-NH2にそれぞれ位置している。なお、amifostine disulfide(WR-33278)は、電子対を供給する6個の箇所を有し、-SH、-NH、及び-NH2にそれぞれ位置している。上述したイメージング配位子は全て電子対を供給する複数の箇所を有し、金属イオン配位子とキレート化することで金属ナノ構造を安定させる効果を達成している。
【0021】
上記実施形態では、前記ポリマーは具体的に複数のキレート基及び複数の分散体で形成され、これはルイス塩基であり、前記イメージングコアを被覆する際に金属イオンと配位共有結合を形成する。その具体的な形態として、unidentate ligands(単座配位子)、bidentate ligands(二座配位子)、tridentate ligands(三座配位子)、hexadentate ligands(六座配位子)、polydentate ligands(多座配位子)が挙げられ、且つその分子量は約1,000~100,000Da(Dalton)である。これら前記キレート基及び分散体が千鳥嵌合形式で共重合することで前記ポリマーを形成し、すなわち、ブロック共重合体である。
【0022】
いくつかの好ましい実施形態において、ルイス塩基とするキレート基として、ポリアスパラギン酸[Poly(aspartic acid)]、ポリグルタミン酸[Poly(glutamic acid)] 、ポリリジン(Polylysine)、ポリアクリル酸[Poly(acrylic acid)] 、ポリエチレンイミン(Polyethyleneimine)、ポリメタクリル酸[Poly(methacrylic acid)] 、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)[Poly(N-isopropyl acrylamide)] 、ポリ乳酸[poly(lactic acid)] 、ポリブチレンサクシネート[poly(butylenesuccinate)]、またはそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0023】
前記金属複合物能を安定させると共に生物流体中に好適に分散させるため、前記分散体は具体には、ポリエチレングリコール[Poly(ethylene glycol)]、キトサン(chitosan)、コラーゲン(collagen)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)[Poly(N-isopropyl acrylamide)] 、アミロース(amylose)、セルロース(cellulose)、ヒドロキシ酪酸[poly(hydroxybutyrate)] 、ポリカプロラクトン[poly(caprolactone)] 、カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)、デキストラン(dextran)、シクロデキストラン(cyclodextrin)、またはそれらの2つ以上の組み合わせから選択されている。
【0024】
全体的には、前記ブロック共重合体が前記イメージングコアを被覆して金属ナノ構造を形成する際に、キレート化能力を有しない分散体が金属ナノ構造の外側に延伸され、これが供給する親水性基と分散溶剤または生体の体液とが交互作用を起こすことで、その分散性が強化される。また、ポリマーは複数のキレート基を有し、同時に複数の座配位子を有し、これら前記配位子と金属イオンとが複数の配位子共有結合を形成し、造影配位子と金属イオンとが共同で安定した金属ナノ構造を形成し、生体中に安定的に長時間滞留可能になっている。また、生分解性材料であり、且つ流体の分散性が高いため、生体の器官の組織で長時間イメージングを行ったり、或いは、薬物の放出を遅らせる等の臨床応用に適用可能である。
【0025】
さらに、前述の金属複合物は超音波結像に使用可能であるほか、その金属イオンは核磁気共鳴画像法(MRI)、単一光子放射断層撮影、ポジトロンCT、体内放射線療法、或いは白血球造影等の応用を実現可能である。一例を挙げると、MRI核磁気共鳴画像法に臨む場合はガドリニウム(Gd)を選択し、単一光子放射断層撮影に臨む場合はテクネチウム(99mTc)を選択し、ポジトロンCTに臨む場合はガリウム(68Ga)を選択し、体内放射線療法に応用する場合はレニウム(188Re)を選択し、白血球造影に応用する場合はインジウム(111In)を選択する。本発明の上述した配位共有結合原理で構成された金属ナノ構造を応用するものは、全て本発明の保護範囲に含まれる。
【0026】
いくつかの例示的な実施形態において、前記金属複合物は、金属イオン及びイメージング配位子を含むイメージングコアであって、前記イメージング配位子はルイス塩基を有していると共に前記金属イオンと配位結合により結合しているイメージングコアと、キレート基を有するポリマーを含むシェル配位子と、を備えている。前記キレート基はルイス塩基と前記金属イオンとが配位結合により結合し、金属ナノ構造を形成している。前記金属イオンは、二価鉄イオン、三価鉄イオン、及び三価ガドリニウムイオンからなる群から選択され、且つ前記イメージング配位子は、アミフォスチン(Amifostine)、amifostine thiol(WR-1065)、amifostine disulfide(WR-33278)であり、ポリマーはポリエチレングリコール-ポリグルタミン酸ポリマー(Poly(ethylene glycol)-b-Poly(glutamic acid)である。前記キレート基はポリグルタミン酸であり、前記分散体はポリエチレングリコールである。上述したポリマーはキレート基と鉄イオンまたはガドリニウムイオンとを結合し、且つ分散体により前記金属複合物が生物流体に安定的且つ好適に分散され、生体の循環系または局部に拡散する等の方式で造影標的部位に到達し易くなっている。より具体的には、上述したポリエチレングリコール・ポリグルタミン酸共役共重合体は高い生体適合性を有しているポリグルタミン酸をキレート基(カルボキシ基、-COO-)とし、鉄イオンまたはガドリニウムイオンと配位結合し、同時に高い親水性を有するポリエチレングリコールを分散体とすることで、金属複合物全体が安定して生物流体に好適に分散される。ちなみに、上述した良好な分散性を達成するために、具体的な実施においては、ポリエチレングリコール自体には配位を有する官能基が無いため、変性することで配位基を有するようにしている。すなわち、本発明のキレート基は、金属との配位結合を形成して分散性が高いポリエチレングリコールと鉄イオンとを連結させるほか、ポリグルタミン酸を生分解性ポリマーの天然物質とすることで、本発明に係る金属複合物の生体適合性を確保している。
【0027】
上記目的を達成するため、本発明の別の態様である金属複合物の製造方法は、下記ステップを含む。
ステップS1:アミフォスチン(Amifostine)と、ポリエチレングリコール-ポリグルタミン酸ポリマー(PEG-b-PGA)と、塩化第一鉄(FeCl2)とを含む原料を供給する。
ステップS2:前記原料を適合する緩衝液に注入して均相攪拌プログラムを実行し、前記アミフォスチン(Amifostine)と前記亞鉄イオン(Fe2+)とをキレート化してイメージングコアを形成し、更に、均相攪拌プログラム継続中に、前記ポリエチレングリコール-ポリグルタミン酸ポリマーをキレート基により前記イメージングコア表面にキレート化し、自己集合(self-assembly)反応を完了し、金属複合物を獲得する。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記原料は、0.1~10mgのアミフォスチン(Amifostine)、0.1~100mgのポリエチレングリコール-ポリグルタミン酸ポリマー(PEG-b-PGA)及び0.01~50mgの塩化第一鉄(FeCl2)を含む。より具体的には、緩衝液において、前記アミフォスチン(Amifostine)の濃度は0.01~10mg/mLの間の範囲であり、前記緩衝液はHEPES[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinee-thanesulfonic acid)]であり、そのpH 値は6.5~7.5の間の範囲である。前記均相攪拌プログラムは4~40℃で自己集合反応が完了するまで持続的に実行する。
【0029】
また、本発明のさらなる他の態様である生体イメージング組成物の製造に用いる金属複合物は、有効量の生体イメージング組成物を必要とする部位の脈管系(vasculature)に投与することを含み、前記生体イメージング組成物は前述したような金属複合物を含む。
【0030】
上述の用途において、必要とする部位はあらゆる生体の器官の組織でもよく、例えば、人体の縦隔(mediastinum)の組織や腹腔内(abdominal)の組織でもよく、本発明はこれらに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、前記生体イメージング組成物は、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、膵臓、食道、胃、小腸、大腸、リンパ系、或いは生殖器系等の人体の器官組織に到達し、超音波画像を増強する効果を達成する。または、前記生体イメージング組成物は腫瘍組織のイメージングに用いられ、標定腫瘍組織の輪郭を画定するか、或いは、腫瘍組織内部に深く入り込む。
【0031】
上述の用途において、前記生体イメージング組成物は、薬用可能な前記ベクターを前記金属複合物に混合して調製することで獲得し、且つ必要とする部位に投与する。主な投与方式は静脈注射であるが、本発明はこれに限定されるものではない。本明細書の所謂「有効量」とは、主に投与する金属複合物の重量と個体の体重との比率に基づいており、mg/kgを単位として表示する。いくつかの実施形態において、8週齢のSDラットへの前記金属複合物の生体イメージング組成物の投与量は1~100mg/kgの間の範囲であり、好ましくは、5~40mg/kgである。人体への用量換算はアメリカ食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration、FDA)のヒト等価用量(Human equivalent dose、HED)に基づいて計算し、成人の場合、換算した投与量は0.1~16.0mg/kgであり、好ましい投与量は0.80~6.50mg/kgである。
【0032】
本発明がここで探求する方向は超音波イメージング機能であり、本発明について徹底的な理解を促すため、以下の説明では詳細な構造及びその部材と方法のステップを提供する。明らかに、本発明の実施は超音波イメージングの技術者が熟知する特殊な仔細に限定されない。一方、周知の構造及びその部材については仔細の中では説明せず、本発明に不要な制限を設けない。また、更に明確な説明を提供し、前述した技術を熟知する者に本発明の内容への理解を促すために、図面内の各部分は相対的なサイズに基づいて描画しているのではなく、あるサイズと他の関連するスケールとの比率を突出させるために誇張しており、関連しない仔細部分については完全には描画しておらず、図面を簡潔に示している。本発明の好ましい実施例の詳細な説明は以下の通りであるが、しかしながら、これらの詳細な説明以外、本発明は他の実施例にも広く実施可能であり、且つ本発明の範囲は限定されず、後述する特許請求の範囲を基準とする。
【0033】
よって、いくつかの好ましい実施例を列挙して本発明に係る金属複合物の調製、具体的な構造、及びその安定性試験について説明する。
図1に示す如く、金属複合物(100)の製造方法は以下の通りである。0.1~10mgの細胞保護剤アミフォスチン(Amifostine)(110)、0.1~100mgのポリエチレングリコール・ポリグルタミン酸共役共重合体(PEG-b-PGA)(120)、及び0.01~50mgの塩化第一鉄(FeCl
2)(130)を準備した後、上述の混合原料を1~10mLの緩衝液に注入し、4~40℃で0~48時間均相攪拌プログラムを実行し、粒径約20~50nmの間の範囲の金属複合物100を形成する。上述した緩衝液は0.05MのHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethane-sulfonic acid)であり、そのpH値は6.5~7.5の間の範囲である。
【0034】
図2A乃至
図2Bは本発明の一実施例に係るアミホスチン(Amifostine)およびその誘導体の構造を示す図である。
図3はポリエチレングリコール・ポリグルタミン酸(PEG-b-PGA)の構造式を示す。
図4は上記実施形態で作製した金属複合物の具体的な構造式を示す。
図5は本発明の一実施例に係るポリエチレングリコール・ポリグルタミン酸共役共重合体PEG-b-PGAのゲルクロマトグラフィー分析結果を示す。上述した実施例において、ポリエチレングリコールPEGを開始剤としてポリエチレングリコール-ポリグルタミン酸共役共重合体PEG-b-PGAを合成し、その重量平均分子量はMw5700であり、数平均分子量Mnは4900であり、分布係数はPdI 1.16である。
図6には、PEG-b-PGAのプロトン核磁気共鳴(Proton Nuclear Magnetic Resonance,1H-NMR)により対応する官能基の化学シフトを表示する。
図7には、金属複合物の粒径の解析を示し、その平均粒径は31.61nmである。
【0035】
<実施例1>
5mgのアミフォスチン(Amifostine)、20mg のPEG-b-PGA(分子量5700Dalton)、及び1.25~10mgのFeCl2を重量比(1:4:0.25~1:4:2)で準備する。その後、上述した原料を5mLの緩衝液に注入して25℃で24時間の均相攪拌プログラムを実行し、分子量3500の透析膜に投入して金属複合物の集合効果を検視する。具体的には、緩衝液は0.05Mの HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)であり、そのpH値は約7.0である。
【0036】
<実施例2>
5mgのアミフォスチン(Amifostine)、20mg のPEG-b-PGA(分子量5700Dalton)、及び10mg FeCl2を準備する。その後、上述した原料を5mLの緩衝液に注入して25℃で均相攪拌プログラムを実行する。均相攪拌プログラムの時間の長さは相違し、それぞれ1、3、6、及び24時間である。攪拌プログラム完了後に、調製して得られた金属複合物を分子量3500の透析膜に投入して金属複合物の集合効果を検視する。具体的には、上述の緩衝液は0.05MのHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)であり、そのpH値は約7.0である。
【0037】
以下、複数の実験例により、本発明に係る金属複合物と市販品とを心膜及び肝臓の結像に用いた際の解像度、コントラストの増強程度、及び滞留時間を比較する。
・実験動物及びパラメーター
表1は、下述する実験例に関する実験動物の条件及び実験に使用した数量を詳細に列挙している。系統はSprague Dawleyのオスのラットであり、8至12週齢の間であり、2組のグループに分け、それぞれ健康グループ及び心膜炎グループとし、且つ前記2グループに静脈注射により10mg/kg及び20mg/kgの金属複合物(A01)をそれぞれ投与し、対照群には緩衝液を投与し、比較群には市販のマイクロバブル造影剤SonoVue(登録商標)を投与した。
<表1>
【0038】
表2は、下述の実験例において、ラットの心臓に対して超音波スキャンを行った際のパラメーター設定について説明する。これら前記実験例では、リニア超音波スキャナー(linear ultrasonic scanner)を採用して実施し、その周波数は7.1MHzに設定し、スキャン深度は2.4cmであり、ゲイン値(Gain value)は60に設定し、画像増強値は3に設定し、スキャン領域の面積は36平方cmである。金属複合物(A01)を投与した後に、0、10、30、60、及び120分後それぞれスキャンを行うと共に画像をキャプチャした。
<表2>
【0039】
実験例1:異なる時間点において金属複合物A01の心臓超音波スキャンを行う。
図8A乃至
図8Bは本発明の実験例1におけるラット心臓の収縮期および拡張期の超音波スキャン画像である。実施例1で調製した金属複合物を投与する前後にそれぞれ心臓超音波スキャンを行った。5及び10mg/kgの投与量では、心臓超音波イメージングが60分後も維持され、20及び40mg/kgの投与量では、更に長く120分後も維持された。
【0040】
【0041】
表3を参照し、10及び20mg/kgの投与量では、超音波画像の輝度が投与から10分後に最高点に達し、投与から120分後にピーク値の33~61%まで低下した。5及び40mg/kgの投与量では、画像の輝度が投与から30分後に最初のピーク値に達し、低投与量5mg/kgの投与量では、投与から120分後にピーク値の21%まで低下し、高投与量40mg/kgの投与量では、投与から120分後にピーク値の111%に上昇した。
【0042】
また、表4を参照し、10及び20mg/kgの投与量では、超音波画像強度は共に投与から10分後に最高点に達し、投与から120分後にピーク値の33~60%まで低下した。5及び40mg/kgの投与量では、画像強度が投与から30分後に最初のピーク値に達した。5mg/kgの投与量では、投与から120分後にピーク値の21%まで低下し、40mg/kgの投与量では、投与から120分後にピーク値の112%に上昇した。
【0043】
【0044】
実験例2:市販の造影剤SonoVueと心臓超音波連続スキャンについて比較する。
図9A乃至
図9Bは本発明の実験例2におけるラット心臓の収縮期および拡張期の超音波スキャン画像である。本実験例では、実施例1で調製した金属複合物A01及び市販の造影剤SonoVueをそれぞれ投与した後の心臓超音波イメージングの持続時間の長さを平行比較する。A01は20mg/kgの投与量において、30秒毎に超音波イメージングを行い、330秒後に心臓弁膜の画像を明晰に観察可能であった。しかしながら、SonoVueを投与したグループは、約270秒後に心臓弁膜の画像が徐々に観察出来なくなった。一方、
図11Cを参照し、20mg/kgの金属複合物A01を投与した後に心臓超音波イメージングを行い、SonoVueと比較すると、そのイメージング効果が90分後も維持された。
【0045】
図9D乃至
図9Eは本発明の心臓超音波イメージング輝度および強度データ解析結果であって、金属複合物A01及びSonoVueの投与後の各時間点における輝度及び強度のトレンドを示す。表5を併せて参照し、ImageJ画像解析ソフトウェアにより獲得した心臓超音波イメージングの輝度及び強度のデータを解析し、A01の投与後330秒以内の各時点で獲得した画像の輝度及び画像の強度値を示し、その平均値はSonoVueを1.00とする条件で、平均輝度及び強度がSonoVueの5.34及び5.29倍にそれぞれ達した。これは、心臓超音波イメージングにより生成した輝度またはコントラスト強度についてはSonoVueよりも遥かに優れていることを示す。
【0046】
【0047】
実験例3:市販の造影剤SonoVueでラットの心膜を超音波連続スキャンして造影したものと比較する。
実験例3において、針でラットの心臓を穿刺して急性心膜炎(acute pericarditis)を誘導し、心臓超音波イメージングを行って金属複合物A01により心膜外膜を造影し、結像が明晰かどうか観察した。
図10Aを参照すると、心臓の収縮期及び拡張期の超音波画像をそれぞれ表示し、投与量10mg/kg及び20mg/kgの金属複合物A01、及び市販のSonoVueの造影効果を平行比較する。白色矢印で指し示す箇所では、投与から10分後に心臓弁膜を明晰に識別可能になり、20mg/kgの用量では投与から30分後に心膜外膜の輪郭を観察可能になった(左上隅の白色矢印の箇所)。投与から60分後には、低投与量か高投与量かによらず、心臓弁膜及び心膜外膜の輪郭が鮮明に観察可能になり、且つ投与から120分後も持続された。市販のSonoVueでは、投与から60分を過ぎると、心臓弁膜及び心膜外膜の輪郭が不鮮明になった。
【0048】
【0049】
表6と
図10Bと
図10Cを参照し、ImageJ画像解析ソフトウェアにより急性心膜炎の心臓弁膜を造影して獲得した画像の輝度及び強度データについてそれぞれ説明する。造影剤A01を投与後に各時点で獲得した画像の輝度及び画像強度値の平均を計算して処理した後、そ平均値は対照群を1.00とする条件において、心臓造影の平均輝度及び強度が平均値の6.42、6.32倍(10mg/kgのグループ)及び13.58、13.38倍(20mg/kgのグループ)にそれぞれ達した。低投与量であれ高投与量であれ、急性心膜炎を罹患した状況において、共に心臓造影画像の輝度及びコントラスト強度を増強することが示された。また、
図13B~
図13Cに示す如く、SonoVueでは投与から60分後の画像の輝度及び強度は悪くはなかったが、120分後には維持できなくなり、120分後の時間点において輝度及び強度が共に観察不能にまで減衰した。
【0050】
図10C乃至
図10Eと表7を併せて参照し、ImageJ画像解析ソフトウェアにより心膜外膜造影で獲得した画像の輝度及び強度データについて解析したものをそれぞれ説明し、データのソースでは、
図10Dに示す赤色の破線で囲った箇所が心膜外膜の境界である。造影剤A01を投与した後の各時点において獲得した画像の輝度及び画像強度値の平均を計算して処理した後、そ平均値は対照群を1.00とした条件において、平均輝度及び強度が平均値の15.36、15.13倍(10mg/kgのグループ)及び14.36、14.50倍(20mg/kgのグループ)にそれぞれ達した。高投与量であれ低投与量であれ、共に心膜外膜のイメージングに非常に有効であり、且つ輝度または強度が共にSonoVueの2~3倍に達することが示された。同様に、
図10E~
図10Fに示す如く、SonoVueは投与後60分以内に心膜外膜の造影が出来たが、輝度または強度が共に金属複合物A01には及ばず、画像は120分後には共に観察不能にまで減衰した。
【0051】
【0052】
実験例4:市販の造影剤SonoVueとの肝臓の超音波連続スキャンについて比較する。
図11は本発明のラットの肝臓の超音波スキャン画像である。本実験例では、実施例1で調製した金属複合物A01及び市販の造影剤SonoVueをそれぞれ投与した後、肝臓の超音波イメージングを行い、持続時間の長さを平行比較した。A01は10mg/kg及び20mg/kgの投与量において、投与から10、30、60、及び120分後に共に超音波イメージングの結像が鮮明に観察可能になり、SonoVueを投与した場合は60分後に肝臓の超音波画像が観察不能になった。
【0053】
【0054】
また、表8は肝臓超音波イメージング輝度と強度データの解析結果であって、金属複合物A01及びSonoVueを投与後の各時間点における輝度及び強度データを解析している。A01を投与後120分以内の各時点で獲得した画像の輝度及び画像強度値は、その平均値はSonoVueを1.00とする条件において、平均輝度及び強度がSonoVueの2.02、1.84倍(10mg/kgのグループ)及び1.64、1.51倍(20mg/kgのグループ)にそれぞれ達している。これは肝臓超音波イメージングの輝度またはコントラスト強度の面でSonoVueよりも優れていることを示す。
【0055】
一般的な金属複合物はマイクロバブル(microbubble)であり、その構造は超音波の作用で容易に瓦解して分散するように設計されている。薬剤の標的ベクターとすることが可能であるが、超音波イメージングを利用して器官の組織の変化を長時間観測する例では、従来のマイクロバブル型金属複合物は個体に投与した後に造影効果を長時間維持出来なかった。
【0056】
本発明に係る金属複合物は、金属ナノミセル(nano-metal micelle)構造で設計されており、配位共有結合の法則により、金属イオンをルイス酸としてキレート化し、ルイス塩基を含むイメージング配位子及びポリマーのシェル配位子により、形成されたキレート型金属ナノミセルがキレート剤と同様の構造を有し、器官の組織における金属複合物の半減期を相当程度延長させた。本発明は高い生体適合性を有する材料により金属複合物を調製することで、人体で代謝され、毒性もない。
【0057】
また、金属イオン自体が沈殿物を生成し易いため、本発明は金属複合物の流動性を改善するため、良好な流体分散性を有しているPEGをシェル配位子の分散体とし、且つPGAにより変性することでキレート基を形成して金属イオンと配位子共有結合を形成し、金属ナノミセルを流体中に均一に分散させ、金属イオンによる沈殿現象を防止し、保存期限を延長すると共に体内で循環する際に金属複合物構造の完全性を維持させ、超音波イメージングを更に長時間維持可能にしている。
【0058】
また、上述したシェル配位子の高い分散性により、本発明に係る金属複合物の調製方法が簡単になり、流体中で温度を維持しながら均相攪拌プログラムを実行する。配位子間のキレート作用により、自己集合反応(self-assembly reaction)を達成し、量産が容易になっている。
【0059】
さらに、本発明に係る金属複合物を複数の器官の組織に使用可能か検証すると、市販のマイクロバブル型金属複合物と比べて、心臓、肝臓の造影等の面では何れも画像の輝度及び画像強度がより高いことが示された。画像のコントラストの増強では、市販のマイクロバブル型金属複合物よりも遥かに優れ、且つ投与後に数倍~数十倍の造影時間を維持する。遠くない将来、ハンドヘルド型超音波イメージングデバイスが徐々に普及し、家庭におけるイメージングでは熟練度が低いユーザーが長時間操作することになる。本発明に係る金属複合物を組み合わせることで、熟練度が低いユーザーでも従来の造影剤による時間制限を受けずに、本発明により長時間のイメージング効果を達成できる。また、画像をキャプチャするために短時間に造影剤を何度も投与する必要が無く、超音波イメージングのコストを低下させ、普及を促進する。
【0060】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである
【符号の説明】
【0061】
100 金属複合物
110 アミフォスチン
120 ポリエチレングリコール・ポリグルタミン酸共役共重合体
130 塩化第一鉄
【国際調査報告】