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特表2024-525061RFIDタグリーダのための自己干渉キャンセル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(54)【発明の名称】RFIDタグリーダのための自己干渉キャンセル
(51)【国際特許分類】
   G06K 7/10 20060101AFI20240702BHJP
   H04B 1/59 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G06K7/10 176
H04B1/59
G06K7/10 104
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500030
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 US2022035646
(87)【国際公開番号】W WO2023278652
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】63/217,218
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519348060
【氏名又は名称】オートマトン, インク.
【氏名又は名称原語表記】AUTOMATON, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】ミュエラー ジョー
(72)【発明者】
【氏名】ブレア アダム
(72)【発明者】
【氏名】グース ジェフ
(57)【要約】
無線周波数識別(RFID)タグリーダは、タグに信号を送信し、次いでタグから同じキャリア周波数においてはるかに弱い返信を検出することによって、パッシブ型RFIDタグに問い合わせる。残念ながら、リーダ内の信号漏洩又はリーダのアンテナ素子間のクロストークによって引き起こされる自己干渉は、返信の検出をより困難にし、リーダがタグを感知できる範囲を制限する可能性がある。リーダ内の自己干渉キャンセル回路は、信号漏洩及びクロストークの影響を低減又は抑制し、弱いタグ返信の検出を可能にする。自己干渉キャンセル回路は、良好な性能を確保するために、各送信前にそれ自体を較正することができる。これにより、リーダの感度が向上し、リーダの範囲が増大し、リーダの電力消費量が低減され、及び/又は受信したタグ返信をデジタル化するアナログデジタル変換器(ADC)の必要とされる最小ダイナミックレンジが低減される。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線周波数識別(RFID)タグリーダであって、
問い合わせ信号を生成するための信号発生器と、
前記問い合わせ信号をRFIDタグに送信し、かつ前記RFIDタグから前記問い合わせ信号に対する返信を受信するためのアンテナと、
前記信号発生器に動作可能に接続されて前記問い合わせ信号を受信する第1のポート、前記アンテナに動作可能に接続されて前記問い合わせ信号を前記アンテナに接続し、かつ前記アンテナから前記返信を受信する第2のポート、及び前記問い合わせ信号に対する前記返信を発する第3のポートを有する、サーキュレータと、
自己干渉キャンセル回路であって、前記信号発生器及び前記サーキュレータの前記第3のポートに動作可能に接続され、(i)前記サーキュレータの前記第1のポートから前記サーキュレータの前記第3のポートへの前記問い合わせ信号の漏洩、及び/又は(ii)複素ゲインによって前記問い合わせ信号の一部分を増幅し、前記問い合わせ信号に対する前記返信に前記問い合わせ信号の前記一部分を追加することによって、前記アンテナ内のアンテナ素子間のクロストークによって引き起こされる干渉をキャンセルする、自己干渉キャンセル回路と、
前記自己干渉キャンセル回路に動作可能に接続されて、前記自己干渉回路の複素ゲインを較正するプロセッサと
を備える、無線周波数識別(RFID)タグリーダ。
【請求項2】
前記プロセッサが、
第1の複素ゲイン設定G(n)において、前記自己干渉キャンセル回路による自己干渉キャンセルの測定y(n)を実施することと、
第2の複素ゲイン設定G(n)GΔにおいて、前記自己干渉キャンセル回路による自己干渉キャンセルの測定y(n)を実施することと、
前記測定y(n)、前記第1の複素ゲイン設定G(n)、前記測定y(n)、及び前記第2の複素ゲイン設定G(n)GΔに基づいて、前記複素ゲインを調整することと
によって、前記複素ゲインを較正するように構成されている、請求項1に記載のRFIDタグリーダ。
【請求項3】
前記プロセッサが、
前記測定y(n)及び前記測定y(n)を実施するための積分器と、
前記積分器に動作可能に接続されて、y(n)GΔ-y(n)の大きさ及び位相を計算し、かつy(n)-y(n)の大きさ及び位相を計算する、少なくとも1つの座標回転デジタルコンピュータ(CORDIC)と
を備える、請求項2に記載のRFIDタグリーダ。
【請求項4】
前記積分器が、前記問い合わせ信号のキャリア周波数のサイクル数の整数倍に等しいサイクル数を取得することによって、前記測定y(n)及び前記測定y(n)を実施するように構成されている、請求項3に記載のRFIDタグリーダ。
【請求項5】
前記サイクル数が、前記問い合わせ信号のチャネルに隣接するチャネルのキャリア周波数のサイクル数の整数倍に等しい、請求項4に記載のRFIDタグリーダ。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記アンテナによる前記RFIDタグへの各送信の開始時に、前記自己干渉キャンセル回路を較正するように構成されている、請求項1に記載のRFIDタグリーダ。
【請求項7】
前記自己干渉回路が、
前記複素ゲインの位相成分を提供するための調整可能な位相補償器と、
前記調整可能な位相補償器及び前記プロセッサに動作可能に接続されて、前記プロセッサからのフィードバックに基づいて、前記複素ゲインの前記位相成分を調整する、第1のデジタルアナログ変換器(DAC)と、
前記複素ゲインのゲイン成分を提供するための調整可能なゲイン補償器と、
前記調整可能なゲイン補償器及び前記プロセッサに動作可能に接続されて、前記プロセッサからのフィードバックに基づいて、前記複素ゲインの前記ゲイン成分を調整する、第2のDACと
を備える、請求項1に記載のRFIDタグリーダ。
【請求項8】
前記RFIDタグリーダが、前記RFIDタグリーダが問い合わせ信号を送信し、前記問い合わせ信号に対する返信を受信するインテロゲータモードと、前記RFIDタグリーダが他のRFIDタグリーダから問い合わせ信号を受信し、前記他のRFIDタグリーダからの前記問い合わせ信号に返信するリスナモードとの間で切り替えられるように構成されている、請求項1に記載のRFIDタグリーダ。
【請求項9】
前記RFIDタグリーダがリスナモードにあるときに、前記自己干渉キャンセル回路が無効化される、請求項8に記載のRFIDタグリーダ。
【請求項10】
自己干渉キャンセル回路を備えるRFIDタグリーダを用いて、無線周波数識別(RFID)タグに問い合わせる方法であって、
前記RFIDタグリーダを用いて、連続波(CW)信号を生成することと、
第1の受信機ゲインレベルにおける前記CW信号の自己干渉キャンセルの反復測定に基づいて、前記自己干渉キャンセル回路の複素キャンセルゲインを較正することと、
前記複素キャンセルゲインを較正した後、問い合わせ信号を前記RFIDタグに送信することと、
前記第1の受信機ゲインレベルよりも高い第2の受信機ゲインレベルにおいて、前記RFIDタグから前記問い合わせ信号に対する返信を受信することと、
前記自己干渉キャンセル回路を用いて、前記返信からの自己干渉をキャンセルすることと
を含む、方法。
【請求項11】
前記複素キャンセルゲインを較正することが、
前記自己干渉キャンセル回路の第1の複素ゲイン設定G(n)において、前記自己干渉キャンセル回路による自己干渉キャンセルの測定y(n)を実施することと、
前記自己干渉キャンセル回路の第2の複素ゲイン設定G(n)GΔにおいて、前記自己干渉キャンセル回路による自己干渉キャンセルの測定y(n)を実施することと、
前記測定y(n)、前記第1の複素ゲイン設定G(n)、前記測定y(n)、及び前記第2の複素ゲイン設定G(n)GΔに基づいて、前記自己干渉キャンセル回路の前記複素キャンセルゲインを調整することと
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記複素キャンセルゲインを調整することが、
(n)GΔ-y(n)の大きさ及び位相を計算することと、
(n)-y(n)の大きさ及び位相を計算することと
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記測定y(n)を実施することが、前記問い合わせ信号のキャリア周波数のサイクル数の整数倍に等しいサイクル数を取得することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記サイクル数が、前記問い合わせ信号のチャネルに隣接するチャネルのキャリア周波数のサイクル数の整数倍に等しい、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記複素キャンセルゲインを較正することが、
調整可能な位相補償器を用いて前記複素キャンセルゲインの位相成分を調整することと、
調整可能なゲイン補償器を用いて前記複素キャンセルゲインのゲイン成分を調整することと
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記RFIDタグリーダが、前記RFIDタグリーダが問い合わせ信号を送信し、前記問い合わせ信号に対する返信を受信するインテロゲータモードと、前記RFIDタグリーダが他のRFIDタグリーダから問い合わせ信号を受信し、前記他のRFIDタグリーダからの前記問い合わせ信号に返信するリスナモードとの間で切り替えられるように構成されており、
前記RFIDタグリーダがリスナモードであるときに、前記自己干渉キャンセル回路を無効化することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
無線周波数識別(RFID)タグリーダを較正する方法であって、
自己干渉キャンセル回路の第1の複素ゲインにおいて、前記RFIDタグリーダの前記自己干渉キャンセル回路による自己干渉キャンセルの第1の測定を実施することと、
前記第1の複素ゲインとは異なる前記自己干渉キャンセル回路の第2の複素ゲインにおいて、前記RFIDタグリーダの自己干渉キャンセル回路による自己干渉キャンセルの第2の測定を実施することと、
前記第1の測定、前記第1の複素ゲイン、前記第2の測定、及び前記第2の複素ゲインに基づいて、前記自己干渉キャンセル回路の複素ゲインを調整することと
を含む、方法。
【請求項18】
前記第1の測定を実施することが、前記RFIDタグリーダのアナログデジタル変換器(ADC)のダイナミックレンジに基づいて前記第1の複素ゲインを選択することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の複素ゲインが、前記第1の複素ゲインよりも大きい、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記複素ゲインを調整した後、
前記RFIDタグリーダを用いてRFIDタグに問い合わせることを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記RFIDタグに問い合わせることが、
前記RFIDタグリーダによって、連続波(CW)信号を前記RFIDタグに送信することと、
前記CW信号を送信している間に、前記自己干渉キャンセル回路の前記複素ゲインを再較正することと、
前記複素ゲインを再較正した後、前記RFIDタグリーダによって、RFIDタグに信号を送信することと、
前記RFIDタグリーダによって、前記RFIDタグリーダからの信号に対する返信を前記RFIDタグリーダから受信することと、
前記自己干渉キャンセル回路を用いて、前記返信からの自己干渉をキャンセルすることと
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記自己干渉キャンセル回路の前記複素ゲインを再較正することが、
前記自己干渉キャンセル回路による前記自己干渉キャンセルの一対の測定を実施することと、
前記一対の測定に基づいて前記複素ゲインを調整することと
を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記一対の測定を実施することが、前記RFIDタグリーダによって前記RFIDタグに送信される前記信号のチャネルに隣接するチャネルからの干渉を抑制することを含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月30日出願の米国特許出願第63/217,218号の米国特許法119条(e)の下での優先権利益を主張し、それは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
無線周波数識別(RFID)タグリーダは、RFIDタグインテロゲータ、リーダ、又はセンサとも呼ばれ、RFIDタグと通信するデバイスである。パッシブ型RFIDタグは、リーダによって送信される信号によって電力供給される。リーダは、無変調の連続波(CW)無線周波数(RF)信号をパッシブ型タグに送信することにより、パッシブ型タグに問い合わせする。このRF信号は、パッシブ型RFIDタグの回路に電力供給する。回路がオンになると、パッシブ型RFIDタグは、リーダからのコマンド又はクエリで変調されたRF信号を受信及び処理することができる。パッシブ型RFIDタグは、リーダからリーダに戻るRF信号を変調し、再び発することによって、コマンド又はクエリに応答する。パッシブ型RFIDタグを充電する、パッシブ型RFIDタグに命令する、又は問い合わせる、及びパッシブ型RFIDタグの応答を受信するこのシーケンス全体は、ホップと呼ばれる。
【0003】
リーダのアンテナとパッシブ型RFIDタグとの間の最大距離又は範囲は、リーダによってRFIDタグに向けて送信されるRF信号の最大電力、RFIDタグの最小ターンオン電力又は感度、タグの返信の最大電力、リーダとRFIDタグとの間の通信チャネルの損失、ノイズ、干渉、及びリーダの感度に依存する。リーダからのRF信号の最大電力は、通常、他の無線デバイスとの干渉を防止するために、政府規制当局によって制限される。米国では、連邦通信委員会(FCC)は、RFIDタグリーダによって送信されるRF信号の最大電力を約30dBm(1W)に制限する。パッシブ型RFIDタグは典型的に、その返信としてリーダからのRF信号内の入射電力の約10%を反射又は後方散乱する。この効率は、約10dBの損失につながる。散乱、反射、及び/又は減衰によるラウンドトリップチャネル損失が80dBである場合、リーダに到達する信号電力は約-60dBm(1nW)である。ノイズ及び干渉を無視すると、リーダの感度が-70dBmであり、かつ所望の信号対雑音比(SNR)が10dBである場合、リーダはRFIDタグの返信を検出し、復号することができるはずである。
【0004】
ラウンドトリップチャネル損失は、概して範囲とともに増加するため、リーダの範囲を増大させることは、概して、送信信号電力を増加させること、タグ後方散乱効率及び感度を増加させること、ノイズ及び干渉を減少させること、並びにリーダ感度を改善することの何らかの組み合わせを伴う。残念ながら、FCCはタグに送信される最大信号電力(したがって、タグの返信に利用可能な電力の量)を制限し、熱ノイズは基本的にリーダ感度を制限する。一部の従来的なシステムでは、最大送信電力及び経路損失に関するFCC規制は、リーダからパッシブ型RFIDタグまでの最大達成可能範囲を約15メートルに制限する。
【0005】
自己干渉又は送信機の漏洩も範囲を制限する。自己干渉は、リーダからの送信の一部分がタグの応答と時間的に重なり、例えば、リーダ内の経路を通じて、又は局所的な反射から、受信機によって検出されるときに発生する。この望ましくない信号は、タグの応答を不明瞭にし、受信機において追加のノイズを生成し得る。残念なことに、自己干渉は、タグの応答と同じ周波数であるため、フィルタリングすることはできない。ホップ(送信及び応答サイクル)の間、リーダはタグに電力供給するために連続的に送信し、そのためタグの応答は常にリーダの送信と重なる。その結果、自己干渉は、全てのホップに影響を及ぼす。加えて、同時に送信及び受信する複数のアンテナ素子を有するリーダでは、各アンテナ素子からの送信は、アンテナ素子と局所的な反射との間のクロストークを介して、他のアンテナ素子によって収集された受信ストリーム内に漏れる可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
リーダからの送信の自己干渉キャンセルは、典型的には、漏洩信号と局所的な反射をキャンセルし、増幅器、ミキサ、及び他の送信機構成要素の非線形性によって生成される高調波及びノイズを補償することを伴う。RFIDシステムの範囲は、自己干渉キャンセルを改善することによって、かつ任意選択的にインテロゲータモードとリスナモードとの間で切り替えることができるRFIDタグリーダを使用することによって、増加させることができる。自己干渉キャンセルを改善することにより、リーダの受信機部分内のアナログデジタル変換器(ADC)に接続された信号のダイナミックレンジが低減される。これにより、ADCのダイナミックレンジ要件が低減され、これにより、コストが削減され、かつ/又はタグ返信がADCのダイナミックレンジの大部分を消費するにつれて、タグ返信対量子化ノイズ比が低減される。
【0007】
(例えば、任意選択のインテロゲータモードで)RFIDタグに問い合わせるとき、リーダは、コマンド又はクエリを送信し、RFIDタグ応答を受信する。代替的に、処理ロジック400は、他の技法を使用して(例えば、信号の同相成分及び直交成分に基づいて)大きさ及び位相を計算することができる。リーダは、受信信号から反射された送信信号を減算するアナログ自己干渉キャンセル回路を有し、潜在的にはるかに弱いタグ返信を検出することを容易にする。これは、各送信前に自己キャンセル回路の複素ゲインを較正して、受信機の温度及び経時変化を補償し、かつRFIDタグに対するチャネルの遅い変化(すなわち、ホップ持続時間の疑似静止)を考慮することができる。(任意選択の)リスナモードでは、リーダは、いずれのコマンド又はクエリも送信せず、代わりに、他のリーダからのコマンド及びクエリ、並びにそれらのコマンド及びクエリに対するタグ応答をリッスンする。リーダはリスナモードで信号を送信しないため、キャンセルするためのいずれの漏洩又は関連ノイズも有しておらず、したがって、(例えば、より遠く離れている/より長距離にあるタグからの)より弱い応答を潜在的に検出することができる。
【0008】
例示的なRFIDタグリーダは、信号発生器、アンテナアレイ、3ポートサーキュレータ、自己干渉キャンセル回路、及びプロセッサを含むことができる。動作中、信号発生器は問い合わせ信号を生成する。アンテナアレイは、この問い合わせ信号をRFIDタグに送信し、RFIDタグから問い合わせ信号に対する返信を受信する。サーキュレータの第1のポートは、信号発生器に動作可能に接続され、問い合わせ信号を受信し、その第2のポートは、アンテナアレイに動作可能に接続され、問い合わせ信号をアンテナアレイに接続し、アンテナアレイから返信を受信し、その第3のポートは、問い合わせ信号に対する返信を発する。自己干渉キャンセル回路は、信号生成器及びサーキュレータの第3のポートに動作可能に接続される。これは、(i)サーキュレータの第1のポートからサーキュレータの第3のポートへの問い合わせ信号の漏洩、及び/又は(ii)アンテナアレイ内のアンテナ素子間のクロストークによって引き起こされる干渉をキャンセルする。また、自己干渉キャンセル回路に動作可能に接続されるプロセッサは、自己干渉回路の複素(キャンセル)ゲインを較正する。
【0009】
複素ゲインを較正するために、自己干渉キャンセル回路は、それぞれ、第1及び第2の複素ゲイン設定G(n)及びG(n)GΔにおいて、自己干渉キャンセルの測定y(n)及びy(n)を実施することができる。プロセッサは、測定y(n)、第1の複素ゲイン設定G(n)、測定y(n)、及び第2の複素ゲイン設定G(n)GΔに基づいて複素ゲインを調整する。この場合、プロセッサは、積分器と、積分器に動作可能に接続されて複素ゲインを較正する、1つ又は2つの座標回転デジタルコンピュータ(CORDIC)と、を含み得る。自己干渉キャンセル回路内の積分器は、測定y(n)及びy(n)を実施することができる。例えば、積分器は、問い合わせ信号のキャリア周波数のサイクル数の整数倍に等しいサイクル数を取得することによって、測定y(n)及びy(n)を実施することができる。同時に、サイクル数はまた、問い合わせ信号のチャネルに隣接するチャネルのキャリア周波数のサイクル数の整数倍に等しくあり得る。CORDICは、y(n)GΔ-y(n)の大きさ及び位相、並びに測定y(n)-y(n)間の差の大きさ及び位相を計算する。
【0010】
自己干渉回路は、調整可能な位相補償器、第1及び第2のデジタルアナログ変換器(DAC)、及び調整可能なゲイン補償器を含み得る。調整可能な位相及びゲイン補償器は、それぞれ、複素ゲインの位相及びゲイン成分を提供する。第1のDACは、調整可能な位相補償器及びプロセッサに動作可能に接続され、プロセッサからのフィードバックに基づいて、複素ゲインの位相成分を調整する。第2のDACは、調整可能な位相補償器及びプロセッサに動作可能に接続され、プロセッサからのフィードバックに基づいて、複素ゲインの位相成分を調整する。
【0011】
RFIDタグリーダは、RFIDタグリーダが問い合わせ信号を送信し、問い合わせ信号に対する返信を受信するインテロゲータモードと、RFIDタグリーダが他のRFIDタグリーダから問い合わせ信号を受信し、他のRFIDタグリーダからの問い合わせ信号にRFIDタグから返信するリスナモードとの間で切り替えることができる。RFIDタグリーダがリスナモードにある場合、自己干渉キャンセル回路を無効化することができる。
【0012】
RFIDタグリーダは、以下のようにRFIDタグに問い合わせることができる。最初に、RFIDタグリーダは、連続波(CW)信号を生成する。これは、第1の受信機ゲインレベルにおけるCW信号の自己干渉キャンセルの反復測定に基づいて、自己干渉キャンセル回路の複素キャンセルゲインを較正する。複素キャンセルゲインが較正された後、RFIDタグリーダは、問い合わせ信号をRFIDタグに送信し、第1の受信機ゲインレベルよりも高い第2の受信機ゲインレベルにおいてRFIDタグから問い合わせ信号に対する返信を受信する。これは、自己干渉キャンセル回路を用いて、返信からの自己干渉をキャンセルする。
【0013】
RFIDタグリーダは、それぞれ、自己干渉キャンセル回路の第1及び第2の複素ゲインにおいて、RFIDタグリーダの自己干渉キャンセル回路による自己干渉キャンセルの第1及び第2の測定を実施することによって、較正することができる。自己干渉キャンセル回路の複素ゲインは、第1の測定、第1の複素ゲイン、第2の測定、及び第2の複素ゲインに基づいて調整することができる。第1の測定を実施することは、RFIDタグリーダのアナログデジタル変換器(ADC)のダイナミックレンジに基づいて、第1の複素ゲイン(及び自己干渉キャンセル後にタグ返信に適用される受信機ゲイン)を選択することを含み得る。第2の複素ゲインは、第1の複素ゲインよりも大きくあり得る。
【0014】
複素ゲインが調整された後、RFIDタグリーダは、例えば、連続波(CW)信号をRFIDタグに送信することによって、RFIDタグに問い合わせることができる。CW信号を送信している間、RFIDタグリーダは、例えば、自己干渉キャンセル回路による自己干渉キャンセルの一対の測定を実施し、一対の測定に基づいて複素ゲインを調整することによって、自己干渉キャンセル回路の複素ゲインを再較正する。一対の測定を実施することは、RFIDタグリーダによってRFIDタグに送信される信号のチャネルに隣接するチャネルからの干渉を抑制することを含み得る。複素ゲインを再較正した後、RFIDタグリーダは、信号をRFIDタグに送信し、信号に対する返信を受信する。RFIDタグリーダはまた、自己干渉キャンセル回路を用いて、返信からの自己干渉をキャンセルする。
【0015】
前述の概念、及び以下でより詳細に論じる追加的概念の全ての組み合わせは(このような概念が相互に矛盾していないという前提で)、本明細書に開示する本発明の主題の一部であると企図される。本開示の最後に現れる、特許請求の範囲に記載する主題の全ての組み合わせは、本明細書に開示する発明主題の一部であると企図される。参照により本明細書に組み込まれる、あらゆる開示においても明示的に採用される用語は、本明細書に開示される概念と最も一致する意味を与える必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
当業者であれば、図面が主として例示的な目的であり、本明細書に記載の本発明の主題の範囲を制限することを意図していないことを理解するであろう。図面は必ずしも一定の比率ではなく、いくつかの例では、本明細書に開示する本発明の主題の様々な態様は、異なる特徴の理解を容易にするために、図面内で誇張又は拡大されて示される場合がある。図面では、同様の参照文字は概して、同様の特徴(例えば、機能的に類似した及び/又は構造的に類似した要素)を意味する。
【0017】
図1A】RFIDタグセンサのセットに接続された中央コントローラを有するRFIDタグ場所特定システムを示し、その各々は、イーサネットローカルエリアネットワーク(LAN)を介して、インテロゲータモードとリスナモードとの間で切り替えることができる。
図1B】インテロゲータモード及びリスナモードにおいて、いかにしてセンサがパッシブ型RFIDタグからの返信をトリガ及び検出するかを例解する。
図1C】インテロゲータモードの1つのセンサ及びリスナモードの他のセンサを用いて行われた到来角(AOA)測定を例解する。
図2】インテロゲータモードとリスナモードとの間で切り替えることができるRFIDタグセンサを示す。
図3A図2のRFIDタグセンサのアナログフロントエンドでの使用に好適な自己干渉キャンセル回路を示す。
図3B図3Aの自己キャンセル回路のモデルを示す。
図4】自己干渉キャンセル回路での複素(キャンセル)ゲインを較正するために使用される処理ロジックのブロック図である。
図5A】自己干渉キャンセル回路での複素キャンセルゲインのゲイン成分をスケーリングするデジタルアナログ変換器(DAC)の応答のプロットである。
図5B】自己干渉キャンセル回路での複素キャンセルゲインのゲイン成分をスケーリングするデジタルアナログ変換器(DAC)の応答のプロットである。
図6A】インテロゲータモードでのリーダのためのホップの開始時の自己干渉キャンセル回路の較正を例解するタイミング図である。
図6B】リスナモードでのリーダのホップの開始時の周波数推定及び追跡を例解するタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1A図1Cは、いくつかのRFIDタグリーダ120a~120d(集合的に、リーダ120)を有する1つ以上のRFIDタグ130を位置特定するRFIDタグ位置特定システム100を例解する。各リーダ120は、以下に詳細に説明されるアナログフロントエンドを含み、これは自己干渉キャンセルを実施することができる。この自己干渉キャンセルは、ノイズを低減し、所与の範囲でRFIDタグ130を読み取るためのリーダの受信機のダイナミックレンジを増加させることによって、リーダの範囲を増加させる。各リーダ120が、(例えば、5メートルの代わりに10メートルの範囲において)更に離れているRFIDタグ130を検出することができる場合、リーダ120は、互いに、更に間隔を離すことができ、かつ/又はより低い電力レベルにおいて信号をRFIDタグ130に送信することができる。これにより、所与の空間内のRFIDタグ130を位置特定及び監視するために必要なリーダ120の数を削減する。また、総じて、リーダ120によって消費される電力の量を削減することもできる。
【0019】
図1A図1Cの各リーダ120はまた、リーダ120が問い合わせ信号を送信し、それらの問い合わせ信号に対するタグ応答を受信する問い合わせモードと、リーダ120が他のリーダ120から問い合わせ信号と、それらの他の問い合わせ信号に対するタグ応答との両方を受信するが、問い合わせ信号を送信しないリスナ又は受信専用モードとの間で切り替えることができる。典型的には、他方のリーダ120がリスナモードにある間に、1つのリーダ120のみがある時点でインテロゲータモードにある。インテロゲータモードにあるリーダ120は、タグ130に問い合わせ、そのリーダ120及び範囲内のリスナモードにあるリーダ120は、タグの返信を受信する。N個のリーダ120について、これは、1つのリーダ120のみがある時点で問い合わせメッセージを送信し得るにもかかわらず、タグの返信のN個の測定を同時に行うことを意味する。同時測定の数のこのN倍の増加は、システム100によって実施されるRFIDタグ位置特定の速度(例えば、N倍)、忠実度(例えば、非干渉性平均化による√N倍)、又は速度及び忠実度を増加させるために使用することができる。リーダ120は、ラウンドロビン様式でより同時測定を行ってもよく、各リーダ120は次に、インテロゲータとして機能し、一方で他のリーダ120は、リスナとして機能し、測定速度及び/又は忠実度を更に増加させる。リスナはタグに電力供給していないため、自己干渉などに悩まされないため、はるかに大きな範囲でタグ応答を検出することができ、従来のシステムでは単に不可能である距離/場所(location)から測定を行うことが可能となる。インテロゲータモード及びリスナモードに関する詳細については、あらゆる目的のために参照によりその全体で本明細書に組み込まれる、国際特許出願第PCT/US2022/026198号を参照されたい。
【0020】
リーダ120は、図1Aに示すように、それぞれのイーサネット接続112又は他の好適な(例えば、有線若しくは無線)接続を介してシステムコントローラ110に接続される。イーサネット接続112は、リーダ120も互いに接続し得る。システムコントローラ110は、ネットワーク時間に対して同期されたクロックを有し、そのクロックを使用して、イーサネット接続112を介してリーダ120を同期させる。リーダ120は、異なるリーダ120が同時に送信された同じタグ130から受信した返信をタイムスタンプするとき、システムコントローラ110が、検出された返信を一緒にグループ化及び処理することができるように、十分に同期化されるべきである。同期化はまた、ホップ間の過剰なガード時間を防止するのに十分良好でなければならない(例えば、最低1ミリ秒のホップ間間隔を許容する)。
【0021】
この同期化は、イーサネット接続112のうちの1つ以上の待ち時間、及び/又はイーサネット接続112間の待ち時間の変動が、RFIDタグ130がリーダ120からの問い合わせ信号又はコマンド121に応答するための割り当てられたウィンドウ又はガード時間を超えることを明らかにし得、リーダ120が、有線接続112を介したスケジューリングについて互いに通信することを実行不可能にする。これらの待ち時間が、割り当てられたタグ返信ウィンドウ/ガード時間よりも大きい場合、リーダ120は、有線接続112を介してコマンド121に関する別個の信号を互いに感知する代わりに、単にブロードキャストコマンド121を検出し得る。リーダ120はまた、イーサネット接続112によって提供されるローカルエリアネットワークを介する代わりに、リーダ固有のコマンドを使用して、(例えば、タグ130と通信するために使用される同じRFチャネルを介して)互いに無線で通信することができる。例えば、リーダ固有のコマンドは、モバイルリーダを調整及び制御することができる(以下で説明する)。
【0022】
システムコントローラ110はまた、RFIDタグ130に問い合わせるためのスケジュール113を生成するプロセッサを含む。スケジュールは、各リーダ120がインテロゲータモード及びリスナモードにあると考えられる時間を列挙する。すなわち、スケジュール113は、各リーダ120が、クエリ及び他のインテロゲータコマンドを含む質問信号121を発すると考えられるときを列挙する。スケジュール113はまた、各リーダ120が、他のリーダ120からの問い合わせ信号121及びそれらの問い合わせ信号121によって促されるタグ返信を受信することを予期すべきであるときに、ウィンドウを列挙し得る。システムコントローラ110は、イーサネット接続112を介してこのスケジュール113をRFIDタグリーダ120に送信する。これは、スケジュール113をプロセッサに接続されたローカルメモリに格納する。システムコントローラ110は、RFIDタグリーダ120から受信時間、周波数、電力、及びタグ場所情報を含む、タグ返信データ123を受信し、このデータ123を後の処理のためにメモリに格納する。
【0023】
リーダ120は、各リーダ120がインテロゲータモード又はリスナモードのいずれかにある状態で、スケジュール113に従って問い合わせ信号121をブロードキャストする。再度、1つのリーダ120が、ある時点でインテロゲータモードにあり、他のリーダ120は、リスナモードにある。インテロゲータモードのリーダ120が、問い合わせ信号121をブロードキャストするとき、タグ130は、システム100が展開される店舗、倉庫、工場、又は他の環境を通して、無線のマルチパスチャネル122を介して問い合わせ信号121を受信する。タグ130のうちの少なくとも1つは、問い合わせ信号121の後の所定の時間ウィンドウ内で、問い合わせモードでリーダ120に到達するタグ返信131で問い合わせ信号121に応答する。問い合わせ/返信シーケンス全体はホップと呼ばれ、以下でより詳細に説明される。リスナモードのリーダ120は、同じ無線のマルチパスチャネル122を介して問い合わせ信号121及びタグ返信131を検出する。異なるリーダ120によって検出されるタグ返信131は、従来のRFIDタグ位置特定システムで可能なよりも速く、かつ/又はより正確にタグ130を位置特定するために使用することができる。
【0024】
図1B及び図1Cは、RFIDタグシステム100を使用して、より高速かつ/又はより正確なタグ場所測定のために、単一のタグ返信131の複数の到達角(AOA)、範囲、及び/又はマルチパスシグネチャ測定を同時に行う方法を例解する。この場合、リーダ120は、小売店又は倉庫内の部屋などの部屋の天井上に配列される。環境内には、数十~数百のリーダ120が存在し得、各リーダ120は、その最も近い隣接体から最大120メートル(例えば、5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、110、又は120メートル)分離され、イーサネット又は他の有線若しくは無線接続を介してコントローラ(図示せず)に接続されている。リーダ120の各対を分離する距離は、タグ130に電力供給するための最大範囲に基づき得、例えば、タグ130に電力供給するための最大範囲が10メートルである場合、リーダ120は、互いに20メートル離れ得る。実際には、リーダ120は、多様性を提供するために5~10m離隔され得る(すなわち、タグ130が1つのセンサ120に対して不良に配向されるか、又は影になった場合でさえも、別のセンサ120が依然としてタグ130を読み取ることができることを確実にするために)。各リーダ120は、そのアンテナが、RFエネルギーが横向きに伝搬するのを少なくして、主に床に向かって問い合わせ信号121を発するように配向される。
【0025】
この実施例では、リーダ120aはインテロゲータモードにあり、リーダ120b~120dはリスナモードにある。リーダ120aは、1つ以上の反射を含み得る自由空間チャネル122を介して問い合わせ信号121をRFIDタグ130に送信する。リーダ120aは、問い合わせ信号121が検出可能な返信131を作成するのに十分にタグ130に電力供給又は充電するために、パッシブ型であるタグ130に十分に近接しているべきである。最大電力、チャネル損失、及びタグ後方散乱効率に対する制約を考慮すると、自己干渉キャンセルの無いRFIDタグ130とリーダ120aとの間の距離は、約20メートル以下(例えば、15、10、又は5メートル)であり得る。効果的な自己干渉キャンセルは、ノイズフロアを低減し、必要なADCダイナミックレンジを低減し、リーダ120aからRFIDタグ130までの範囲を拡張する(例えば、ノイズフロアの6dBの低減に対して2倍)。
【0026】
他のリーダ120b~120dは、タグ130に電力供給又は充電しないため、タグ130から遠く(例えば、最大25、50、75、又は100m)離れ得るため、自己干渉/送信信号漏洩の心配がない。結果として、それらは、応答131を検出するために、自己干渉キャンセルを実施する必要はない。他のリーダ120b~120dとタグ130との間の最大距離は、返信131の振幅、チャネル損失、及びリーダ120の感度に依存し、正しい受信機、アンテナ、及び経路損失条件で最大500メートルであり得る。(タグ返信応答の振幅は、概して、そのターンオン電力より10dB低く、これは典型的には、-17dBm前後である(かつ半導体電力効率が向上するにつれて経時的に減少する)。チャネル損失は、1メートルで32dB前後であり、距離の2倍ごとに約6dB増加する。合理的なRFID受信機の感度は-80dBmである。)リーダ120は、全てのリーダ120が全てのタグ130からの返信を検出できるべきであるように、又は全てのリーダ120が部屋の形状及びサイズに部分的に応じて、全てのタグ130からの返信を検出できるわけではないように、部屋内に配列され得る。
【0027】
タグ130は、返信131をドーナツ形状のパターンで発するダイポールアンテナを有し得る。リーダ120はタグ130に対して異なる場所にあるため、このRFフィールドは、図1Cの上部及び底部にそれぞれ示されるように、異なる方位角及び/又は仰角から各リーダ120に入射する。各リーダ120は、対応する方位角及び仰角AOAを計算し、各タグ130について計算されたAOAをコントローラ110に送信することができる。各リーダ120はまた、例えば、受信信号強度表示(RSSI)又は受信された返信131の電力の他の測定に基づいて、各タグ130の範囲を計算することができる。代替的に、又は加えて、各リーダ120は、AOA(空間角度)の関数として受信信号強度(振幅又は電力レベル)の変動として表すことができる、マルチパスプロファイル又はシグネチャを判定することができる。AOA、範囲、及び/又はマルチパスプロファイルはまた、リーダ120によって受信された返信に基づいて、コントローラ110によって計算、推定、又は判定することができる。
【0028】
コントローラ110は、異なるリーダ120からのAOA、範囲、及び/又はマルチパスプロファイルを集約し、それらを使用して、例えば、三辺測量又は三角測量によって、タグの場所を推定し得る。単一の問い合わせ信号131は、システム100内のリーダ120の最大全てによる複数の同時AOA、範囲、及び/又はマルチパスプロファイル測定をもたらすため、コントローラ110は、二次元又は三次元でタグ130を位置特定するのに多くのホップを必要とし得る従来のRFIDシステムとは異なり、ただ1ホップ後にRFIDタグ130の場所を導出又は推定することができる。より多くの測定により、コントローラは、リーダ120に対するタグの場所をより正確に推定することができる。リーダの場所が既知である場合、コントローラ110は、それらを使用してタグの絶対的場所も推定することができる。
【0029】
リーダ120b~120dはまた、タグ返信131を検出する前に、リーダ120aからの問い合わせ信号121を検出する。リーダ120がリスナモードにあるとき、リーダ120は、関連するRFID通信帯域(例えば、米国では902~928MHz、又は欧州では865~868MHz)内の多くのチャネル(例えば、20又は50チャネル)のうちの1つでブロードキャストされ得る問い合わせ信号121について、その帯域をスキャンする。リスナモードのリーダ120が特定のチャネル上の問い合わせ信号121を検出すると、問い合わせ信号121の終了の所定の又は事前設定された時間ウィンドウ内で、同じチャネル上の返信131をリッスンする。時間ウィンドウが閉じた後、リーダ120は、問い合わせ信号についてチャネルをスキャンすることを再開するか、又はインテロゲータモードに入ることができる。リーダ120はまた、問い合わせ信号121を復調又は復号し、復号された問い合わせ信号121を使用して、タグ130からの返信131を解釈し得る。
【0030】
問い合わせ号121は、どのように応答するか(すなわち、返信123の変調、プリアンブルタイプ、及びビットレート)をタグ130に伝える。リスナモードのリーダ120は、コマンド121をリッスンして、タグ130がコマンド121にどのように応答すべきかを知る。リスナモードのリーダ120はまた、コマンド121の終了時間を判定して、タグの返信123に課せられたタイミング制約に基づいて、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、EPC(登録商標)Radio-Frequency Identity Protocols Generation-2 UHF RFID Standard:Specification for RFID Air Interface Protocol for Communications at 860 MHz-960 MHz,Version 2.0.0によって、タグ返信123をいつ予期するかを知る。
【0031】
リーダ120が天井に取り付けられ、問い合わせ信号131を下向きに(タグ130に向かって)ブロードキャストする場合、それらは、非見通し線(NLOS)経路を介して他のリーダ120からの問い合わせ信号131を検出し得る。図1B及び図1Cでは、例えば、リーダ120aは、問い合わせ信号131を下向きに発し、信号131の少なくとも一部分を床、棚、及び/又は他の物体に反射又は散乱させる。他のリーダ120b~120dは、別の表面を散乱又は反射することなく、場合によってはリーダ120aから直接伝搬するエネルギーを検出する代わりに、又はそれに加えて、この反射エネルギー又は散乱エネルギーを検出した。NLOS経路に沿った減衰を考慮するとしても、検出された問い合わせ信号131は、通常、リスナモードのリーダ120b~120dによって高い忠実度(例えば、SNR>10dB)で検出されるのに十分な振幅を有する。
【0032】
RFIDタグ位置特定システム100はまた、手持ち式リーダ、車両若しくはカート搭載型リーダ、又は有線接続を介してシステムコントローラ110に接続されていない他のリーダを含むか、又はそれらと相互作用することができる。これらのリーダは、インテロゲータモードとリスナモードとの間で切り替え可能であり得る。それらはまた、独占的にインテロゲータとして、すなわち、他のリーダからの問い合わせ信号を検出又は処理することなく、問い合わせ信号を送信し、タグ返信を受信することによって動作する、従来のリーダであり得る。いずれの場合も、手持ち式又はモバイルリーダが問い合わせ信号を送信するとき、リスナモード及び範囲内の両方にあるリーダは、その問い合わせ信号及び任意のタグ返信の両方を検出する。これらのリーダは、タグ返信の推定されたAOA、範囲、及び/又はマルチパスプロファイル、及びタグ返信からの応答するタグの場所を計算し、更なる処理のために場所、AOA、範囲、マルチパスプロファイル、及び/又はタグ返信パラメータ(例えば、大きさ、位相、到着時間)をシステムコントローラに報告し得る。
【0033】
静的リスナはまた、受信した問い合わせ信号に基づいて、手持ち式又はモバイルリーダに関連付けられたAOA、範囲、及び/又はマルチパスプロファイルを測定することができる。これは、手持ち式又はモバイルリーダの場所が正確に知られていない場合に特に有用であり得る。
【0034】
必要に応じて、手持ち式リーダは、問い合わせ信号を送信する前に、リーダをリスナモードに切り替えるコマンドをリーダにブロードキャストし得る。代替的に、リーダは、送信していないとき、手持ち式リーダのRFIDチャネルをスキャンすることができる。又はリーダ(手持ち式リーダを含む)は、自己同期PNシーケンスを使用して周波数ホッピングを駆動することができ、その結果、全てのリーダ(固定及び/又は手持ち式)はホッピングパターンに同期することができる。
【0035】
RFIDタグリーダアーキテクチャ
図2は、リーダ120がインテロゲータモード又はリスナモードにある場合に有効化又は無効化することができる構成要素を含む、リーダ120をより詳細に例解する。リーダ120は、RFアンテナ及びフロントエンド210、プロセッサ212、RF較正及び同調ブロック214、ホップ発生器220、並びにホップ受信機230を含む。RFアンテナ及びフロントエンド210は、RFID問い合わせ信号121を送信し、タグ返信131及びRFID問い合わせ信号121を他のリーダから受信するための1つ以上のアンテナ素子、増幅器、フィルタ、及び/又は他のアナログRF構成要素を含み得る。プロセッサ212は、マイクロコントローラ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、又は他の好適なデバイスに実装され得、リーダ120の動作を制御する。これは、メモリ(図示せず)に情報を格納し、メモリから情報を取得し、イーサネット又はWiFi接続などのネットワーク接続(図示せず)を介してシステムコントローラと通信する。また、プロセッサ212は、インテロゲータモードとリスナモードとの間でリーダ120を切り替え、ホップ発生器220は、リスナモードで無効化されるか、又はオフにされ、インテロゲータモードで有効化されるか、又はオンにされ、ホップ受信機230は、両方のモードで有効化されるか、又はオンにされる。RF較正及び同調ブロック214は、RF較正及び同調機能を実施する。
【0036】
ホップ発生器220は、リーダ120がRFIDタグ130及び他のリーダ120に送信する問い合わせ信号121を生成する(図1A図1C)。これはまた、例えば、専用リーダ通信チャネル上、又は特定のプリアンブル若しくはペイロードで、他のリーダ120を意図したコマンド又は通信信号を生成し得る。これは、問い合わせ信号121によって伝達されるデジタルクエリ、コマンド、及び/又は他の情報を生成するデジタルコマンド発生器222と、コマンド発生器222からのデジタル信号をアンテナ210による送信に好適なアナログ信号に変換するためのRF電子機器224とを含む。RF電子機器224は、デジタル信号をベースバンドアナログ信号に変換するデジタルアナログ変換器(DAC)と、ベースバンドアナログ信号を中間周波数まで混合するためのミキサ及びローカル発振器と、サイドバンド及び/又はスパーを除去するためのフィルタ及び/又はパルスシェーパとを含み得る。
【0037】
ホップ受信機230は、コマンド復調器234及びタグ返信復調器236に接続された受信機フロントエンド232を含む。概して、受信機フロントエンド232は、アンテナによって検出されたRF信号の位相をデジタル化、ダウンコンバート、及び推定する。これはまた、問い合わせモードにおいて、例えば、受信機内の漏洩に起因して、問い合わせ信号121によって引き起こされる任意の自己干渉をキャンセルする。アンテナが、送信及び受信に使用されるアンテナアレイである場合、アンテナ素子が隣接するアンテナ素子によって発せられる問い合わせ信号を「受信」するときに、自己干渉も生成され得る。リーダ120がリスナモードにあるとき、受信機フロントエンド232は、問い合わせ信号を送信せず、また自己干渉キャンセルも実施しない。リスナモードでは、リーダ120は、他のリーダ120が問い合わせ信号121を送信するチャネルを検出し、それらの他の問い合わせ信号121の周波数を推定する。
【0038】
受信機フロントエンド232を構成する種々の方法があり、この実施例では、これは、以下により詳細に説明されるように、40MHzでアナログ同相及び直交(I/Q)信号を受信し、それらをベースバンド(5MHz)でデジタルI/Qサンプルに変換する。コマンド復調器234は、リーダ120がリスナモードにあり、ベースバンドコマンドI/Qサンプルを復調して、コマンドビットレート(例えば、40kbp~160kbp)でインテロゲータ信号231を作成するときに有効化される。コマンド復調器234は、コマンドペイロードを使用して、インテロゲータモードのリーダ120がタグ130について尋ねているもの(例えば、変調、プリアンブルタイプ、予想される返信タイプなど)を判定する。例えば、インテロゲータモードのリーダ120は、標準プリアンブルを用いて320kHzの後方散乱リンク周波数(BLF)におけるMiller-2変調を使用して、タグ130に、その電子製品コード(EPC)の最初の64ビットを送信するように要求し得る。リスナモードのリーダ120は、その情報を使用してタグ返信131を復号する。コマンド復調器234は、リーダ120がインテロゲータモードにあるときに無効化される。タグ返信復調器236は、インテロゲータモード及びリスナモードの両方で有効化され、ベースバンドタグ返信I/Qサンプルを復調して、タグ返信ビットレートにおいてタグ返信信号233を作成する。
【0039】
受信機フロントエンドの自己干渉キャンセル回路
図3Aは、受信機フロントエンドでの使用に好適な自己キャンセル回路300のブロック図である。制御層212(図2)は、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)として実装することができ、ホップ発生器220からのベースバンドにおけるデジタルコマンドを、ベースバンドにおけるアナログコマンドに変換するデジタルアナログ変換器(DAC)302に接続される。DAC302及びローカルオシレータ(LO)304に接続された第1のミキサ306は、関連するRFID通信帯域(例えば、米国では902~928MHz、又は欧州では865~868MHz)までベースバンドにおけるアナログコマンドを混合する。ミキサ出力の一部は、複素ゲインGを有するキャンセル経路にタップされ、残りは、3ポートサーキュレータ310に接続された電力増幅器308によって増幅され、これは、増幅されたコマンドをアンテナアレイ(図示せず)に送信し、アンテナアレイによって収集された信号を受信する。代替的に、電力増幅器308は、ミキサ出力を増幅し、その出力の一部分がキャンセル経路にタップされるように、ミキサ出力とキャンセル経路のタップ点との間に位置することができる。
【0040】
自己干渉は、種々の供給源から生じ得る。インテロゲータモードで動作するとき、送信された信号の一部分は、サーキュレータ310の第1のポートから第3のポートに漏れ得る。送信された信号の別の部分は、アンテナによって送信される代わりに、サーキュレータ310の中へアンテナから反射することができる。1つのアンテナ素子によって送信される電力を検出し、他のアンテナ素子によって受信機内に再び接続させ、アンテナ素子間にクロストークを生成することができる。場合によっては、サーキュレータは、15~25dBのアイソレーションを提供するが、クロストークは、有効アイソレーションを約11dBに低減し得る。更に、クロストーク及びアイソレーションは、ビームステアリング角の関数として変化し、ビームステアリングは、隣接するアンテナによって送信される信号間の位相差を変化させ、これがひいては、隣接するアンテナ素子間の接続を変化させる。まとめると、この望ましくない漏洩、反射電力、及びクロストークは、受信機内に強いループバック信号を作り出すことができ、これが比較的弱い傾向にある任意のタグ返信をかき消し得る。(受信機ノイズ及び望ましくない後方散乱はまた、タグ返信を不明瞭にし得る。)
【0041】
キャンセル回路300は、受信した信号からこのループバック信号を減算しようと試みる。そのために、増幅器312、プログラム可能な位相シフタ(位相補償器)314、プログラム可能な減衰器(ゲイン補償器)316を用いて、第1のミキサ306の出力からタップオフされたコマンドの部分を増幅、位相シフト、及び/又は減衰させることにより、キャンセル信号を生成する。プログラム可能な減衰器316は、より微細な制御のために、同一又は異なる値を有する連結されたプログラム可能な減衰器のセットとして実装することができる。この実施例では、プログラム可能な位相シフタ314は、プログラム可能な減衰器316の前にあるが、プログラム可能な減衰器316は、代わりにプログラム可能な位相シフタ314の前にあり得るが、又はプログラム可能な位相シフタ314は、異なるプログラム可能な減衰器316の間にあり得る。プログラム可能な位相シフタ314及びプログラム可能な減衰器316は、以下に説明するように、それぞれのDAC320及び322を介してFPGA212によって制御される。電力コンバイナ318は、キャンセル信号をアンテナアレイからの未加工信号と組み合わせて、自己干渉がほとんどキャンセルされている、処理された信号を生成する。
【0042】
この信号は、低ノイズ増幅器(LNA)324で増幅され、次いで第2のミキサ326でベースバンドに混合され、FPGA212に接続されたアナログデジタル変換器(ADC)328でデジタル化される。LNA324は、受信機ゲインを提供し、自己干渉キャンセル回路の初期較正のために(例えば、以下で論じるADC328のダイナミックレンジに基づいて)より低いゲインに、通常のホップのために、及び自己干渉キャンセル回路の保守較正のために、より高いゲインに設定することができる。実際には、LNA324は、有効化モード又はバイパスモードで動作し、多くの小さなゲイン調整(例えば、各々1dBの約40ゲイン調整)を許容する微細ゲインプログラム可能ゲインブロックに直列に接続することができる。
【0043】
送信された信号の振幅は、受信したタグ返信の振幅よりも最大90dB大きくあり得る。非常に良好なサーキュレータは、受信機内への漏洩を25dB低減することができ、漏洩と受信したタグ返信との間の約65dBの残留拡散を含意する。それ故、ADC328の飽和を避けるために、ADC328は、完全な自己干渉キャンセルよりも、自己干渉キャンセル無しの場合の方が、約65dB又は約10ビット多いヘッドルームを有するべきである。
【0044】
正しいゲイン及び位相設定では、キャンセル回路300は、送信された信号からの漏洩をキャンセル又は抑制する。ゲイン及び位相設定は、位相補償器314及びゲイン補償器316に対する2つの別個の設定のセットを用いて、低電力連続波(CW)較正信号を2回送信及びキャンセルし、ADC328において受信した電力を測定し、ゲイン及び位相設定の各セットにおいて測定された電力を使用して、ゲイン及び位相の推定値を導出することによって較正又は推定される。この低電力CW較正信号の電力レベルは、ADC328の飽和を防止するように選択される。この較正プロセスは、ゲイン及び位相設定がADC328に現れる送信信号を十分に抑制する値に収束するまで繰り返すことができ、較正信号の低電力レベルにおいて、較正プロセスは、わずか2回の測定に収束することができる。
【0045】
概して、送信された信号は、タグ返信の存在下であっても、ADC328を飽和させないときに十分に抑制される。(タグは、リーダからのCW放射を吸収することと反射することとを交互に行うため、電力を反射するとき、受信信号電力を較正中に受信した電力よりも高め得ることを想起されたい。)より良好な自己干渉キャンセルは、タグ返信電力の抑制されたCW電力に対する比が大きくなるにつれて、タグ返信に必要なADCヘッドルーム又はダイナミックレンジを低減する。
【0046】
ADCヘッドルームが増加する理由を理解するために、自己干渉のキャンセルが完璧であって、タグ返信だけが受信機に残る場合に起こることを検討されたい。この場合、タグ返信電力のCW電力に対する比は無限であるため、任意の受信機ゲインを加えたタグ返信が、ADC328のダイナミックレンジを決定する。それ故、自己キャンセル回路は、任意のキャンセルされていない漏洩電力を加えて可能な限り強力な増幅されたタグ信号がADC328を飽和することを防止するのに十分な漏洩電力をキャンセルするべきである。自己キャンセル回路が20dBの自己干渉をキャンセルする場合、増幅されたタグ返信は依然としてADC328への入力の一部に過ぎないため、ゲインはほぼ20dB上昇することができる。一方、自己キャンセル回路が50dBの自己干渉をキャンセルする場合、増幅されたタグ返信は、所望の動作条件であるADC328への入力を支配し、理想的には、ADC328への唯一の信号入力は、タグ返信である。
【0047】
自己干渉キャンセル回路の動作
図3Bは、キャンセル回路300がどのように自己干渉キャンセルを実施するかのモデルを示す。入力xは、ホップ生成器220によって生成されるコマンドを表し、出力yは、キャンセル回路300によってホップ受信機230に返される信号を表し、zは、自己干渉キャンセル回路300によって生成されるキャンセル信号である。入力xは、2つの経路に分割され、その各々が、信号振幅を変化させる。右側の経路は、ループバック又は反射経路を表し、GLBとして表される複素ループバックゲインを有する。左側の経路又はキャンセル経路は、複素ループバックをオフセット又はキャンセルするように設定又は較正することができる、複素キャンセルゲインG(自己干渉キャンセル回路の複素ゲインとも呼ばれる)を有する。タグ返信がない場合、信号及びキャンセルパスの出力を組み合わせると、出力yが得られる。
y=x(G+GLB
【0048】
キャンセルが完全である場合(すなわち、G=-GLBの場合)、タグ返信がない場合にy=0である。言い換えれば、複素キャンセルゲインGは、ループバックゲインGLBと完全に合致するため、キャンセル回路300は、サーキュレータ310を通した漏洩、アンテナコネクタからの反射、及びアンテナ素子、次いで、CW信号をリーダに戻して反射するローカルリフレクタ(タグを含む)にわたる漏洩を完全にキャンセルする。タグが返信する場合、タグは反射する方法を変える(主にCW放射を吸収するものから、主にCW放射を反射するものに切り替わる)ことによって返信するため、タグが返信していないとき、リーダは複素キャンセルゲインを選択し、較正する。
【0049】
非限定的な実施例として、アンテナアレイによって発せられる総電力に対するFCC制限である、30dBmの電力増幅器出力を検討されたい。4つのアンテナ素子を有するアンテナアレイについては、これはアンテナ素子当たり24dBmとなる。電力増幅器が15dBのゲインを提供する場合、入力電力は、x=15dBm、又は4つのアンテナ素子に対してアンテナ素子当たり9dBmである。上記のモデルでは、複素ループバックゲインGLBは、サーキュレータからの損失を加えた電力増幅器からのゲイン、並びにアンテナ素子の漏洩及びリターンロスを含む。サーキュレータが15dBのアイソレーションを提供する場合、複素ループバックゲインGLBは0dBである。キャンセル信号の電力zは、複素ループバックゲインGLBによって増幅された入力電力x、すなわち、z=x+GLB=15dBm+0dB(4つのアンテナ素子に対してアンテナ素子当たり9dBm+0dB)と一致するべきである。xとzとの間の差は、複素キャンセルゲインGであり、この場合、0dBである。
【0050】
較正中、受信機は周波数推定ロジック(後述)の一部分を再使用又は再利用して、yを測定し(例えば、後述するようにホップの初期CW部分の120個の5MHzサンプルを積分することによって)、かつyから複素キャンセルゲインを導出する。複素キャンセルゲインのゲイン部分は、プログラム可能な減衰器316の設定を提供し、位相部分は、プログラム可能な位相シフタ314の設定を提供する。実際には、プログラム可能な減衰器設定を変更すると、小さな位相シフトが導入され、プログラム可能な位相シフタ設定を変更すると、減衰が変化する。適切な較正は、所望の複素キャンセルゲインに到達するために、可能性のある減衰及び位相シフトを反復することを伴う。
【0051】
キャンセル回路が飽和状態で動作していない場合、2~20回の反復で所望の複素キャンセルゲインに収束することができる。yが2回測定される場合、1回目は複素ゲインGX,1で、2回目は複素ゲインGX,2で、2つの異なる出力が得られる。
=x(GX,1+GLB
=x(GX,2+GLB
【0052】
これは、送信機及び受信機が共通周波数基準を共有し、信号のCW部分が較正期間全体にわたって一定であるループバック信号であるため、位相及び周波数はロックされ、x=x=xとなる。これで、2つの方程式及び2つの未知数である、xとGLBが残る。単純な代数を使用して、2つの未知数を以下のように計算することができる。
【数1】
【0053】
図3Bのモデル及び上記の式から、G=-GLBであるときに完全なキャンセルが発生する。それ故、両方の測定値から、完全なキャンセルを達成するための所望のゲインは、以下の通りである。
【数2】
【0054】
複素ループバックゲインが完全に線形に変化する場合、プロセッサ又は処理ロジック(例えば、図4に示され、かつ以下に記載される)は、ゲインGX,1及びGX,2に対して2つの異なるゲインを選択し、次いで対応する受信信号y及びyの測定値を取得することによって、キャンセルゲインを推定することができる。実際には、RFゲイン及び位相補償器の非線形性、並びにADC328における潜在的な受信信号飽和は、この測定プロセスを複数回繰り返すことが、所望のゲインのより正確な推定につながることを意味する。処理ロジックは、最後の最もよく知られているキャンセルゲインを使用して、収束を許容可能なゲイン推定値まで加速することができる。実用的なレベルでは、処理ロジックは、GX,2を最良の推測値(及びそれからのGX,1オフセット)に設定することができ、その結果、送信信号がGX,2を与えられて依然として十分に抑制される場合、Gへの調整は必要とされない。しかしながら、その場合、Gは、次のホップにとって最良の推測値となる。
【0055】
処理ロジックは、キャンセルゲインをデシベル及び度数の単位でキャンセルDAC320及び322に書き込み、y項は、複素同相(I)及び直交(Q)値である。したがって、所望のキャンセルゲインGを計算することは、デシベルから線形振幅への変換、極座標から矩形座標への変換、除算、次いで、再び極座標及びデシベルに戻す変換を伴う。これらは、レジスタ転送レベル(RTL)では非常に費用のかかる動作である。
【0056】
幸いなことに、測定回数を増やす代償として、処理ロジックを大幅に簡略化することができる(例えば、N+1から2Nであり、ここでNは反復回数であり、定常状態でのNの期待値は2である)。まず、GX,1=GΔX,2であるように、固定複素ゲインオフセットGΔを定義する。このゲインオフセットは、複素(IQ)形式でRTLに格納される。複素キャンセルゲインは、次のようになる(反復回数のインデックスnを加える)。
【数3】
式中、分子と分母の計算は、より簡単な複素数値演算である。次に、分子項を
【数4】
として定義し、分母項を
【数5】
として定義する。複素数から極数への変換は、受信機がリスナモードで問い合わせ信号の周波数及び位相を推定するために使用する、同じ座標回転デジタルコンピュータ(CORDIC)によって実施することができる。複素キャンセルゲインの式は、次のようになる。
【数6】
これは、現在のキャンセルゲインG(n)及び調整項を含む。20log10 A項は、シフタ及びルックアップテーブルを使用して、RTLにおいてかなりコスト効率的に計算することができる。
【0057】
最後に、キャンセルDAC320及び322は、デシベル及び度数単位の複素キャンセルゲインG(n)を消費するため、複素ゲイン調整は、デシベル及び度数の関するべきである。幸いなことに、これは、ゲイン及び位相の計算を以下のように単純化する。
【数7】
【0058】
これらの式のこれらの結果は、それぞれ、図3Aのゲイン補償器316及び位相補償器314に対するデシベル及び度数単位の設定である。
【0059】
上記の分析は、単一のストリームの複素キャンセルゲインに適用される。多素子アンテナアレイを有するリーダについては、アンテナ素子当たり最大1つの送信ストリーム及び1つの受信ストリームが存在し得る。複数の送信及び受信ストリームでは、送信ストリームは、他のストリーム内にクロストークを生成し得る。このクロストークは、1つのアンテナ素子が別のアンテナ素子から直接送信を受信するとき、並びに他のアンテナ素子からの反射(例えば、マルチパス)送信を受信するときに発生する。
【0060】
このクロストークを分析するために、一対のアンテナ素子から、各々が一意的な振幅及び位相を有する2つのストリームを検討されたい。各アンテナ素子は、同じ周波数において送信する。興味深いのは、これら2つのストリームの合計であり、第2のストリームは第1のストリームにクロストークをもたらす。
x(t)=Asin(ωt)+Asin(ωt+θ)、
式中、A及びAは、それぞれ、第1及び第2のストリームの振幅であり、θは、第1及び第2のストリーム間の位相差である。この合計は、同じ周波数であるが、異なる振幅及び位相を有する正弦波として以下のように表すことができる。
x(t)=AXTsin(ωt+θXT)、
式中、
【数8】
及びθXT=atan2(sinθXT,cosθXT)であり、sinθXT=(Asinθ)/AXT及びcosθXT=(A+Acosθ)/AXTである。(関数atan2(y,x)=atan(y/x)は、正のx軸と原点から点x,yへの光線と間のユークリッド平面内の角、若しくは同等に、複素数x+iyの位相又は角度として定義される。)それ故、クロストークは、第1のストリームの振幅及び位相をシフトさせるが、第1のストリームの周波数を変化させない。クロストークは、キャンセルされる信号の正弦の性質を変化させないため、キャンセル回路210は、クロストークもキャンセルすることができる。
【0061】
図4は、複素キャンセルゲインを設定及び較正するために使用されるリーダでの処理ロジック400を例解する。この処理ロジック400は、リーダがリスナモードにあるときにホップ周波数を推定するために使用することができる、積分器410並びに2つのCORDIC420a及び420bを含む。積分器410は、未加工入力信号から測定値y及びyを生成するフィルタとして機能する。より具体的には、積分器410によって積分されたサンプルの数は、隣接するチャネル(又は少なくともフィルタリングされたタグ返信帯域幅内に入るチャネル)のキャリアサイクルの整数の数に対応する。言い換えれば、積分器410によって積分されたサンプルの数は、送信された信号をキャンセルし、かつそれらが自己干渉キャンセルに干渉しないように、隣接するチャネル内の潜在的な干渉要因を除去するために選択される。キャンセルゲインを推定するために、ウィンドウサイズ(サンプル数)は、任意の長さであり得、ウィンドウが大きいほど(サンプル数が多いほど)、較正に多くの時間を要するという代償を払ってより多くの平均化が提供される。
【0062】
産業、科学、及び医療(ISM)帯域では、例えば、500kHz、1MHz、1.5MHzなどのチャネルがあり得る。所望のローパスフィルタ帯域幅が2.5MHzである場合、正弦波サイクル当たりのサンプル数は、500kHzにおける第1の隣接チャネルに対してf/fch=5MHz/500kHz=10であり、1MHzにおける第2の隣接チャネルに対して5MHz/1MHz=5であり、1.5MHz隣接チャネルに対して10/3であり、2MHz隣接チャネルに対して5/2であり、2.5MHz隣接チャネルに対して2である。それ故、積分ウィンドウサイズWは、W×[10,5,10/3,5/2,2]が全整数アレイ(ウィンドウサイズ内の整数の数を含意する)をもたらすように選択されるべきである。この場合、W=30である場合、30サンプル積分ウィンドウ内に30×[10,5,10/3,5/2,2]=[300,150,100,75,60]サイクルのチャンネルが存在することになる。この場合、30個を超えるサンプルを積分すると、隣接するチャンネルはキャンセルされる(すなわち、正弦波の1周期内の全てのサンプルの合計は0である)。サンプルの数を、例えば、60個又は120個のサンプルのような30の整数倍に増加させると、追加のノイズ平均化が提供される。
【0063】
信号は重み付けされ、組み合わせられ、次いでCORDIC420a及び420bに供給される。(CORDIC420は、FPGA及び他のタイプの処理ロジック400における実装に良好に適している。)上部CORDIC420aは、y(n)GΔ-y(n)の大きさ及び位相を計算し、下部CORDIC420bは、y(n)-y(n)の大きさ及び位相を計算する。2つのCORDIC420の代わりに、単一のCORDICは、y(n)GΔ~y(n)の大きさ及び位相、並びに測定y(n)-y(n)間の差の大きさ及び位相を連続して計算することができる。連続計算は、ロジック(ハードウェア)の量を低減し、大きさ及び位相計算が特に時間制約されないため、実行可能である。代替的に、処理ロジック400は、他の技法を使用して(例えば、信号の同相成分及び直交成分に基づいて)大きさ及び位相を計算することができる。位相は、位相補償器314(図3A)のための推定位相キャンセル設定を作成するために組み合わせられ、スケーリングされ、大きさは、ゲイン補償器316(図3A)のための推定ゲインキャンセル設定を作成するために組み合わせられ、スケーリングされる。
【0064】
複素スカラGΔ図4のデルタIQ)は、複素キャンセルゲインの2つの推測値又は推定値間のゲインの変化である。これらの推測値が離れすぎている場合、非線形性が結果を劣化させ得る(すなわち、ゲインが非線形的に変化する場合、線形補間又は外挿は実際のゲインから逸脱する)。これらの推測値がともに近すぎる場合、ノイズが任意の測定された変化以上に測定値を変化させ得る。言い換えれば、スケーリングGΔは、位相補償器314及びゲイン補償器316での非線形性を回避するために可能な限り小さいが、ノイズの影響を低減又は回避するためには十分に大きくなるべきである。ゲイン補正器316が40dBのダイナミックレンジを有する場合、ゲインスケーリングは約0.1dBであり得る。同様に、位相補償器314は、分解能が1.0°ほども微細であり得る位相スケーリングで約360°のダイナミックレンジを有する(例えば、約0.1°のより微細なスケーリング分解能も可能である)。
【0065】
図5A及び図5Bは、それぞれ、組み合わせられたCORDICの大きさ及び位相出力に対するゲイン及び位相スケーリング(図4のgainScale及びphaseScale)を設定する、DAC322及び320(図3A)のモデル化された応答を示す。(実際には、DAC322及び320の応答は完全な線形でも、更には区分線形でもない場合がある。)図5Aは、log推定値を20log10推定値に変換する、20log10 2を乗じた動作範囲内のゲイン曲線の傾きを反映する。図5Bは、位相曲線の傾きを示す。より良い性能を得るためには、キャンセル回路はゲインカーブの非飽和領域で動作し、位相ラッピングによる不連続を避けるために位相カーブの最も低い360°部分で動作すべきである。
【0066】
各反復によるゲイン及び位相の変化は、複素キャンセルゲインG(n)の最良の推測値に合計される。ゲイン曲線については、これにより、自己干渉(漏洩信号)が非常に強い場合、合計G(n)+Δgain図5Aのゲイン曲線の左端の非線形領域に入らず、それ故、TXC較正が収束する可能性が増加することが確実となる。これは、自己干渉が非常に弱い場合、G(n)+Δgainがゲイン曲線の右端の非線形領域に入り得ることを意味するが、自己干渉信号が弱い場合、これはあまり重要ではない。同様に、相は、0°~360°+Δphaseの範囲に限定することができ、式中、Δphaseは、相の変化である。位相変化が図5Bのマージン以下であることを前提として、位相ラッピングが発生すべきではないため、位相ラッピングによるいかなる位相不連続性も存在しないはずである。これは、最良の推測値G(n)の位相が、360°においてラッピングされるべきであること(又は360°に対応するDAC設定においてラッピングされるDAC-1設定)を含意する。
【0067】
概して、ゲイン及び位相の変化は、ノイズが項y(n)-y(n)を支配するのを防止するのに十分に大きく、曲線の微分非直線性が無視できるほど十分に小さくあるべきである。微分非直線性(DNL)は、ゲイン又は位相変化によって分離された任意の2つの点と実際のゲイン/位相差との間の予想されるゲイン/位相差の間の誤差である。DNLを作り出すゲイン/位相応答にはリップルが存在し、それ故、これらのリップルによる誤差が較正結果に無視できる程度の影響を与えるように、ゲイン及び位相の変化を選択すべきである。
【0068】
処理ロジック400はまた、第2の測定値|y(n)|の大きさを計算して、TX補償が収束したかどうかを判定する。これは、各ストリーム(アンテナ素子)に対してこの大きさを計算し、(a)各ストリームの大きさが閾値(例えば、|y(n)|)未満に低下するか、又は(b)リーダが所定の反復回数に達するときのいずれかに、ゲイン及び位相にわたって反復することを停止する。
【0069】
キャンセル回路300は、初期較正及びメンテナンス較正の2つの自己較正モードで動作することができる。初期較正中、所望の複素キャンセルゲインは開始時には未知であり、それ故、ADC328内への100%の漏洩があり得る。ADC328の飽和を回避するために、受信機ゲインは開始時には比較的低くあるべきである。キャンセル回路300が(例えば、上述のように)少なくともあるレベルの較正を完了すると、受信機ゲインを、例えば、所望のゲインまで増加させることができ、性能向上のために較正を繰り返すことができる(ゲインが高いほど、キャンセルがより良好であり得る)。保守較正は、較正回路300を所望の/より高い複素キャンセルゲインに設定した状態で動作中に行われ、経時的に漏洩信号電力のドリフトを追跡して補正する。保守較正は、ホップの開始時に行われ、ホップごとに実施することができる。
【0070】
実施例として、残留CW信号の閾値が、タグ返信を受信するために受信機が通常の動作ゲイン設定であるときのADCのフルスケールの半分であることを検討されたい。キャンセル回路300は、キャンセルがないと仮定して、飽和を回避するのに十分に低い初期受信機ゲインGinitialで初期較正を実施する。(受信機ゲインは、送信キャンセル信号が取り消された後に、受信機によって、例えば、LNA324又は電力コンバイナ318とADC324との間の別の増幅器によって、タグ返信に適用されるゲインである。)それ故、第1の目標閾値は、
【数9】
であるべきである。例えば、通常の受信機ゲインがGinitialを20dB下回る場合、初期自己干渉キャンセルは、CW信号をADCダイナミックレンジの<0.5/10=1/20に抑制するべきである。キャンセル回路300がこのレベルの自己干渉キャンセルを達成した場合、受信機ゲインを所望の動作ゲインまで増加させることにより、残留CW信号の振幅が増加するが、ADCのダイナミックレンジの半分未満まで増加する。受信機ゲインが設定されると、キャンセル回路300は、そのホップに対する目標受信機ゲインにおける各ホップの開始時に保守較正を実行することができる。
【0071】
ホップ及び自己キャンセル較正
図6A及び図6Bは、それぞれ、インテロゲータモード及びリスナモードのリーダに対するホップ(送信及びタグ返信)の送信信号及びタイムラインを例解する。開始遅延は、インテロゲータモード及びリスナモードの両方に共通する。この遅延により、リーダのRF構成要素をオンにすることに関連する任意の過渡が、較正開始前に落ち着くことが可能になる。概して、開始遅延は、各ホップの開始時の1.5ミリ秒のCW期間のごく一部、例えば、0.1ミリ秒であるべきである。
【0072】
図6Aに示すインテロゲータモードでは、キャンセル回路300は、各ホップ(送信)の開始時に、かつコマンドを調節する前に、それ自体を較正して、温度及び経時変化によるプリアンプ308の変動を補償し、並びにチャネルの変動を考慮する。図6Aでは、リーダは、送信機キャンセル(TXC)較正期間に対するホップの開始の一部としてCW音を送信し、その間、リーダはRFIDタグを「充電」する。最終的に、リーダはCW音の振幅を変調して、問い合わせ信号を作成する。インテロゲータは、ホップ中のコマンド送信をいつでも一時停止して、範囲外にドリフトした場合、送信機のキャンセルを再調整することができる。
【0073】
TXC較正期間中、リーダは、異なる複素キャンセルゲイン設定である、第1の複素キャンセルゲインG(n)+Δに対するy(n)、及び第2の複素キャンセルゲインG(n)に対するy(n)で2つの測定を行い、これは最良の推測値である。第2の測定後、リーダは、新しい複素キャンセルゲインG(n+1)を計算する。複素キャンセルゲインに関連付けられたエラーが所定の閾値(例えば、|y(n)|)を下回る場合、リーダは、複素キャンセルゲインとしてG(n)を使用し続ける。そうでなければ、リーダは、新しい複素キャンセルゲインG(n+1)を初期推測値として用いて、測定及び計算を繰り返す。リーダは、誤差が閾値を下回るか、又はリーダが許容される反復の最大数に達するまで、このプロセスを繰り返すことができる。
【0074】
送信電力は、TXC収束の関数として変化せず、最大電力に設定され得る。むしろ、リーダは、飽和を避けるために、リーダがTXC設定に対する初期推測値を有するかどうかに応じて、較正中に低ノイズ増幅器(LNA)ゲインを変化させる。リーダは、TXCが収束すると、LNA設定を低ゲイン設定から高ゲイン設定に変更し、次いで、TXCを再び較正して、LNAゲインの変更が設定を変化させていないことを確実にすることができる。例えば、LNAゲインが20dB増加して弱いRFIDタグ返信を増幅する場合、初期較正中、キャンセルされた干渉信号は飽和レベルを少なくとも20dB下回るべきである。保守較正中、LNAゲインがすでに設定されているため、リーダは、RFIDタグ信号自体を考慮するのに十分なヘッドルームを残しつつ、ADCの飽和を防止するのに十分な干渉をキャンセルすべきである。
【0075】
TXC較正が終了すると、リーダはアンテナによって受信された信号の受信、積分、及び処理を開始する。これは、各積分期間中にN個のサンプルを積分し、積分間のデッドタイムはNin+NFBサンプル期間となり、式中、Ninサンプル期間はフィルタ整定時間を説明し、NFBサンプル期間は積分されたサンプルからの位相推定値を計算する時間を説明している。TXC較正前の開始遅延は、TXC較正又は周波数追跡のいずれかの最初の反復の前に廃棄されるサンプルの数を表す。
【0076】
図6Bに示すリスナモードでは、自己干渉キャンセルは無効化され、それ故、リーダはTXC較正を実施しない。代わりに、ホップの周波数と位相を推定及び追跡する。(インテロゲータモードでは、センサは送信しているので、位相追跡のみがある。リスナモードでは、センサは送信しておらず、それ故、周波数及び位相追跡を実施する)。インテロゲータモードでは、センサが残留CW信号の位相を推定するため、TXCキャンセルは、開始位相追跡の前に完了されるべきである。この位相推定値を考慮すると、任意の残留CW信号をデジタルに減算することが可能である。代替的に、センサは、位相推定を省略し、ノッチフィルタを使用して、任意の残留CW信号をフィルタリングすることができる。
【0077】
リスナモードでは、センサは送信しないため、RF TXCを実施する必要はない。しかし、センサは依然として、(a)結果として生じるタグ返信を復号化できるように、インテロゲータモードでセンサからのコマンドを復号化し、(b)タグ返信信号(変調され、反射されたCW放射)の周波数位相を効果的に追跡するように、CW信号の周波数/位相ドリフトを追跡し、(c)CW信号を除去して、タグ復調器内へのダイナミックレンジを低減するべきである。センサは、周波数/位相追跡を連続的に実施し、以前の周波数/位相推定値が適用されるのを待ち、次いで新しい周波数/位相推定値を推定する。図6Bは、この周波数/位相追跡を第1及び第2の反復として示し、各反復はサンプリング期間に続いて測定期間で始まる。インテロゲータモードでの位相追跡と同様に、センサは各積分期間中にN個のサンプルを積分し、積分間のデッドタイムはNin+NFBサンプル期間となる。反復は、ホップの終了まで繰り返すことができる。
【0078】
結論
発明に関する様々な実施形態を本明細書に記述し、かつ例解してきたが、当業者は、本明細書に記載の機能を実施するための、並びに/又は結果及び/若しくは利点のうちの1つ以上を得るための、種々の他の手段及び/又は構造を容易に想定し、こうした変形及び/又は修正の各々は、本明細書に記載の発明に関する実施形態の範囲内であるものと見なされる。より一般的に、当業者は、本明細書に記載の全てのパラメータ、寸法、材料、及び構成が例示であることを意味することと、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が、本発明の教示が使用される1つ以上の特定の用途に依存することとを容易に理解するであろう。当業者は、本明細書に記載の特定の発明に関する実施形態の多くの同等物を、単に通常の実験を使用して認識し、又は確認することができるであろう。従って、前述の実施形態は、例としてのみ提示されていて、添付の特許請求の範囲及びその同等物の範囲内で、発明に関する実施形態は、具体的に記述及び特許請求される以外の形で実践され得ることが理解される。本開示の発明に関する実施形態は、本明細書に記載の各個々の特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法を対象とする。加えて、2つ以上のこうした特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法の任意の組み合わせは、こうした特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0079】
また、様々な発明に関する概念が、1つ以上の方法として具現化されてもよく、その実施例を提供してきた。方法の一部として実施される行為は、任意の好適なやり方で順序付けられ得る。その結果、行為が例解するものとは異なる順序で実施される実施形態を構築し得、それは、例解的な実施形態に連続する行為として示されている場合であってさえも、一部の行為を同時に実施することを含み得る。
【0080】
本明細書で定義及び使用される全ての定義は、辞書による定義、参照により組み込まれる文書中の定義、及び/又は定義された用語の通常の意味を統制するものと理解されるべきである。
【0081】
本明細書及び特許請求の範囲で使用する不定冠詞「a」及び「an」は、明確にそうでないと示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0082】
本明細書及び特許請求の範囲で使用する「及び/又は」という語句は、等位接続された要素の「いずれか又は両方」を意味し、すなわち一部の場合において接続的に存在し、他の場合において離接的に存在する要素を意味すると理解されるべきである。「及び/又は」で挙げられる複数の要素は、同じ様式、すなわち等位接続された要素のうちの「1つ以上」と解釈されるべきである。具体的に識別される要素に関連するか又は関連しないかにかかわらず、「及び/又は」節によって具体的に識別される要素以外に、他の要素が任意選択的に存在し得る。それ故、非限定的な実施例として、「A及び/又はB」への言及は、「含む」などの制限のない語法と連動して使われる時に、一実施形態においてAのみ(任意選択的にB以外の要素を含む)、別の実施形態においてBのみ(任意選択的にA以外の要素を含む)、更に別の実施形態においてAとBの両方(任意選択的に他の要素を含む)などを指すことができる。
【0083】
本明細書及び特許請求の範囲において使用する場合、「又は」は、上で定義した「及び/又は」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内の項目を分離する時、「又は」又は「及び/又は」は包括的なもの、すなわち多数の要素又は要素のリスト、及び任意選択的にリストに無い追加の項目のうちの少なくとも1つを含むが、2つ以上も含むと解釈されるものとする。それとは反対であると明確に指示される用語、例えば「のうちの1つのみ」若しくは「のうちのまさに1つ」、又は特許請求の範囲において使用するときの「から成る」などの用語のみ、多数の要素又は要素のリストうちのまさに1つの要素を包含することを指す。概して、本明細書で使用する「又は」という用語は、「いずれか」、「のうちの1つ」、「のうちの1つのみ」、又は「のうちのまさに1つ」など、排他的な用語が先行する時に、排他的な選択肢(すなわち「両方ではなく一方又は他方」)を示すとのみ解釈されるものとする。「から基本的に成る」は、特許請求の範囲で使用する場合、特許法の分野において使用される通常の意味を有するものとする。
【0084】
本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合、1つ以上の要素のリストに関連する「少なくとも1つ」という語句は、要素のリストの中の要素のいずれか1つ以上から選択される、少なくとも1つの要素を意味するが、要素のリスト内で具体的に列挙した各要素及びあらゆる要素のうちの、少なくとも1つを必ずしも含むわけではなく、要素のリストのいかなる要素の組み合せも除外するものではないと理解されるべきである。またこの定義によって、「少なくとも1つ」という語句が指す、要素のリスト内で具体的に識別される要素以外が、具体的に識別される要素に関連するか又は関連しないかにかかわらず、任意選択的に存在し得ることも許容される。それ故、非限定的な実施例として、「A及びBのうちの少なくとも1つ」(又は等価的に「A又はBのうちの少なくとも1つ」、若しくは等価的に「A及び/又はBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態において、Bは存在せず、任意選択的に2つ以上のAを含む、少なくとも1つのA(任意選択的にB以外の要素を含む)、別の実施形態において、Aは存在せず、任意選択的に2つ以上のBを含む、少なくとも1つのB(任意選択的にA以外の要素を含む)、また別の実施形態において、任意選択的に2つ以上のAを含む、少なくとも1つのA、及び任意選択的に2つ以上のBを含む、少なくとも1つのB(任意選択的に他の要素を含む)を指すことなどができる。
【0085】
特許請求の範囲、並びに上記の明細書において、全ての移行句、例えば「含む(comprising)」、「含む(including)」、「持つ(carrying)」、「有する(having)」、「包含する(containing)」、「伴う(involving)」、「保つ(holding)」、「から構成される(composed of)」、及びこれに類するものは制限がないと理解され、すなわち含むがそれに限定はされないということを意味する。「からなる(consisting of)」及び「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句のみが、米国特許審査手続便覧、セクション2111.03に記載される、それぞれ閉鎖的又は半閉鎖的な移行句であるものとする。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
【国際調査報告】